<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?><FictionBook xmlns="http://www.gribuser.ru/xml/fictionbook/2.0" xmlns:l="http://www.w3.org/1999/xlink"><description><title-info><genre>antique</genre><author><first-name>WARAU</first-name><last-name>Yakan</last-name></author><book-title>w</book-title><lang>ru</lang></title-info><document-info><author><first-name>WARAU</first-name><last-name>Yakan</last-name></author><program-used>calibre 8.4.0, fb2cut 2.5.4, fb2cut 2.6.2</program-used><date>20.7.2025</date><id>8603bb04-8e27-421b-b161-8a069003c0ca</id><version>1.0</version></document-info><publish-info><year>0101</year></publish-info></description><body><section><p>Warau Yakan</p><p>魔王の始め方</p><p>人間不信の魔術師Olが使い魔リルと共に、広大なダンジョンを作り魔王を目指す物語。地中を掘り、罠を仕掛け、魔物を配置し、村を襲い、徐々にその勢力を広げていくダークファンタジー。ハーレム、陵辱、暴力的・残虐的なシーン、催眠等の表現を含みます。</p><p>登場人物</p><p>作中に登場する主な人物を紹介しています。</p><p>若干のネタバレを含みますので、あれ？ これ誰だっけ？と</p><p>思った時などに読み返す用です。最初に読む必要はありません。</p><p>このページのイラストは全て新堂アラタ先生、小宮利公先生、tocoda先生から頂いたものです。</p><p>無断転載等はご遠慮ください。</p><p>※年齢等は登場時点での数字です。身長等はイメージであり、実際とは異なる可能性があります。</p><p>Ol</p><p>魔王。83歳。琥珀色の髪に茶色の瞳の老魔術師。魔術で若返っている為、見た目は20前後に見える。中肉中背、整ってはいるが美形と言うわけではない顔立ち。特に際立った特徴はないのだが、眼光だけは鋭くやけに威圧感がある。</p><p>用心深く慎重な性格をしており、他人を信用しようとはしない。が、手駒はそれなりに大切に扱うので優しいと誤解される事も多い。徹底した合理主義者で、無駄を嫌う。様々な魔術に精通しており、特に魔力自体の取り扱いは世界でも五指に入る腕前。反面、戦闘経験はそれほどなく、戦闘能力はさほど高くはない。</p><p>魔力の色は琥珀色。身長は169くらい。</p><p>リル</p><p>女悪魔。年齢不詳。透けるように白い肌と闇の様に黒い髪、満月の様な金の瞳を持つ。胸は綺麗な三角錐型で、圧倒的な質量を持ちつつもツンと上を向いている。腰は折れそうなほど細く、尻から太股は細すぎず太すぎずの境界上で絶妙なバランスを保っている。髪はそのまま伸ばしているが、猫っ毛で油断するとすぐはねる。</p><p>気まぐれで適当なフリをしているが、本質的には律儀で面倒見が良く、何かと貧乏くじを引きやすい。悪魔にしては気さくな性格をしている。魅了、生命吸収、変身などの特殊能力と簡単な魔術、爪を剣の様に伸ばしての白兵戦などバランスよく色々出来はするが、地力そのものは大した事がないため戦闘力はあまり高くない。</p><p>魔力の色は黄褐色。胸は推定Gカップ。身長は167くらい。</p><p>ユニス</p><p>英雄。16歳。ポニーテールにした赤い髪に、緑の瞳の少女。身長は低く膨らみにも乏しい為、一見少年の様にも見える。少し太めの眉に、意志の強さを感じさせる幼くも凛々しい顔付き。手足は細くしなやかで、野生の獣を思い起こさせる。表情豊かでよく笑い、よく怒る。肌は黄色人種系で少しだけ浅黒い。</p><p>単純一途、思い込んだら一直線の英雄少女。思い込みが強く、正義感も非常に強い。底抜けに明るく常に楽観的で、多少向こう見ずながらも物事を完遂する強靭な精神力とそれを実現する身体能力を併せ持つ。一流の剣の腕と魔術の技を持ち、向かう所に敵は殆どいない。</p><p>魔力の色は赤。胸は推定Bカップ。身長は152くらい。</p><p>スピナ</p><p>魔女。21歳。絹糸の様に細く滑らかな漆黒の髪に、同じく真っ黒な瞳。髪は腰くらいまで伸ばしている。これ以上ないほどストレート。表情に乏しく、人形の様な整った顔立ち。体型は均整が取れていて、手足はやはり人形の様に細い。肌も病的に白い為、一見幽霊の様に見える。</p><p>寡黙で冷酷。目的の為には手段を一切選ばず、自分自身に被害を被る事であろうと全く躊躇せず行うほどの凄まじい胆力を誇る。魔法生物の創造、特にスライムの開発に並外れたセンスと発想を持つ天才。魔術自体はそれほど扱えないが、スライムの開発に限れば師であるOlを既に越えかねないほどの腕前を持つ。</p><p>魔力の色は黒。胸は推定Cカップ。身長は163くらい。</p><p>マリー</p><p>幼女。5歳。肩を少し過ぎる程度に伸ばしたふわふわくるくるの金髪に、サファイアの様な青い瞳。まつげパッチリで頬はバラの様に赤い。スピナとは別の意味で、人形の様な愛らしい童女。いつも眠そうにしている。</p><p>子供特有の無邪気さも相まって、Olの迷宮一の傍若無人さを発揮するある意味最強マスコット。Olやスピナ、悪魔のローガン相手にも一切物怖じせず、自由気ままに暮らしている。戦闘力は皆無。</p><p>魔力はなし、胸はAAA。身長は100ちょい。</p><p>エレン</p><p>黒アールヴ。年齢不詳。褐色の肌に黒髪、深い緑の瞳。凛々しい系の美女で、いつも自信に満ち溢れた表情を浮かべている。程よく筋肉のついた健康的な肢体に、胸と尻がどんと突き出している。髪は普段は下ろしているが、戦闘時は邪魔にならないように後ろや側頭部で一つに縛って纏める。</p><p>豪胆で快活、竹を割ったような姐御肌。長としての自尊心は高いが、己が認めた相手には気さくに接する度量も併せ持つ。常軌を逸した速射と命中精度を誇る弓の腕を持ち、森の中であればかなり高度な魔術も使用でき、部下4人との連携もかなりの物。</p><p>魔力は深緑。胸は推定Dカップ。身長は172くらい。</p><p>ミオ</p><p>獣使い。16歳。小麦色の髪に青い瞳。素朴なつくりの顔の少女。美人、と言うほどではないが、ちょっと可愛いね、と言ってもらえるくらいには可愛い。隠れ巨乳。髪は結構長く、ゆるく編んだ三つ編みが腰くらいまである。</p><p>引っ込み思案で大人しい性格だが、家畜の事になると人が変わったように厳しくなる。動物全般を愛しており、いずれ食肉になる動物にでも惜しみなく愛情を注ぐ懐の深さと、それを食べる事も受け入れる強さを併せ持つ。本人に戦闘能力はないが、世話をしている魔獣達を統率し、操る力は騎士の一軍にも勝る。</p><p>魔力はなし。胸は推定C～D。身長は160くらい。</p><p>ローガン</p><p>下級悪魔。年齢不詳。赤銅色の肌に筋骨隆々な肉体、四本の腕に山羊の様な頭を持つ。ロリコン。</p><p>悪魔らしいシビアな視点は持っているものの、基本的にはノリで生きている。炎を自在に操り、低空であれば空中も自由に飛ぶことが出来る。膂力も見た目に相応しく人間の数倍を誇り、下級悪魔と言う名とは裏腹に相当強い。</p><p>ナジャ</p><p>剣士。23歳。赤銅色の髪に緑の瞳、褐色の肌。肌の濃さはエレン＞ナジャ＞ユニス。全身に筋肉のついた逞しい、まさに戦士と言う身体をしているが、出るところはしっかりと出ている。美女と言うよりハンサム。元は髪を長く伸ばしていたが、切ってからはショートヘア。</p><p>実直で生真面目、良くも悪くも不器用な性格。判断力、決断力に優れ、勘が良い。普段の言動や見かけは男勝りだが、その実内面は誰よりもナイーブで女らしいことに憧れを持っている。体格も性格も女性らしいウィキアに密かに嫉妬にも似た憧れを持っている。剣士としては一流だが、剣を振るう事しか出来ないので空を飛ぶ相手や対魔術に極端に弱いのが欠点。</p><p>魔力はなし。胸は推定Eカップ。身長は171くらい。</p><p>Shal</p><p>白アールヴの僧侶。年齢不詳。エメラルドグリーンの髪にサファイアブルーの瞳。ショートボブの髪から長い耳がぴょこんとはみ出している。肌は絹の様に白いく滑らか。人間で言うと12、3歳にしか見えないが、一応成人している。大きくぱっちりとした瞳に、いかにも人の良さそうなあどけない顔立ち。いつもニコニコと笑みを浮かべている。</p><p>温和で人当たりがよく、誰にでも親切にしてしまうお人よし。しかし根は頑固で、一度こうと決めた事は絶対に曲げず、それが原因で失敗することもしばしば。種族的な特徴もあるが、豊満なナジャの肉体を羨ましく思っている。支援特化系の僧侶で、回復・防御・支援の腕は一流。ただし殆ど攻撃能力を持っておらず、一人では何も出来ないのが欠点。</p><p>魔力の色は白。胸は推定Aカップ。身長は148くらい。</p><p>ウィキア</p><p>魔術師。17歳。青銀の髪を肩でキッチリそろえて前髪パッツン。瞳は灰に近い青。やや釣り目でキツそうな印象の美少女。手足はすらりと細く長いが、出るべきところはそれなりに出ている。</p><p>性格は冷静沈着、寡黙でクールを、装ってはいるが、その実内面は人一倍感情の起伏が激しく、情に厚い。少し自己犠牲的なところがある。自分を素直に表現できるShalのことを羨んでいる。魔術の腕は一流なのだが、性格的に若干判断力に欠けるところがあり、特に焦ると途端に弱くなるのが欠点。</p><p>魔力の色は青銀。胸は推定Cカップ。身長は157くらい。</p><p>アラン</p><p>魔法剣士。21歳。スラリとした長身痩躯、長い手足を持つ金髪碧眼の美男子。剣士にしては細身で華奢に見えるが鍛え上げられた筋肉は極限まで引き絞られ、無駄を削った結果。</p><p>剣も魔術も罠の解除も出来るオールラウンダー。ただしどの技術も専門家には一歩も二歩も及ばない。その能力は多芸というよりは優柔不断さの表れであり、一つの物事に絞り切れない詰めの甘さでもある。</p><p>身長は175くらい。</p><p>キャス</p><p>軍師。28歳。きっちりと揃えた白銀の髪に、青い瞳。男性的な印象を抱かせるが、同時にどこか色香も漂わせる女性。</p><p>性格は論理的で冷酷。天性のサディストで相手を甚振り過ぎるところがある。自分が女であることに強いコンプレックスを抱きつつも、必要であればそれを武器として使うことに躊躇はしない。</p><p>魔力はなし。胸は推定Cカップ。身長は164くらい。</p><p>Faro</p><p>盗賊。34歳(人間換算で20前後)。ハーフリングなどとも呼ばれる小人族、クドゥクの少女。ふわふわした金に近い茶色の髪に緑の瞳。身長自体は子供の様に低く頭身も小さいが、体付きその物は成熟した女性の様に丸く凹凸を持つ。</p><p>どちらかと言うと保守的で平穏を好むクドゥクの中では人一倍好奇心が強く、気紛れで飽きっぽい。瞬間的な集中力は非常に高く、観察力や手先の器用さは一流の盗賊と言っていいが、多少思考力や推理能力に難がある。戦闘は盗賊にしてはそこそここなせるものの、遊撃や牽制を得意とする。</p><p>魔力はなし、胸は推定AAカップ（ただし比率的にはC相当）。身長は88くらい。</p><p>ノーム</p><p>商人。23歳。赤毛に金の瞳。髪は肩を少し過ぎるくらいの長さで、その日の気分によって髪型を変える。側頭部で一つにまとめる、いわゆるサイドポニーやツインテールのような幼さを強調する髪形にする事が多い。見た目は10代前半にしか見えないが、その胸は外見に似合わぬ凶悪な大きさを誇る。</p><p>何よりも利と理に重きを置く合理主義者だが守銭奴と言うわけではなく、長期的な得の為には一時的に損をする事も厭わない。あらゆる物を鑑定し、その本質を見抜く真実の瞳という能力を持っており、人や道具の能力を一目で見抜く。魔術も武器も扱えないが、呪具の扱いには習熟しており魔法の杖を使ってある程度戦闘は可能。</p><p>魔力はなし、胸は推定Fカップ。身長は147くらい。</p><p>ザイトリード</p><p>鉛の英雄。24歳。ユニスの兄。厳つく険しい顔立ちに、筋骨隆々、並外れた体躯を誇る偉丈夫。赤い髪に緑の瞳の色だけがユニスとそっくり。いつも眉間に皺が寄っている。</p><p>実直で生真面目だが、真面目が過ぎて頑迷といわれるレベルなのが玉に瑕。生まれ付き魔術の才能が皆無であり、代わりにその身体能力は歴代の英雄の中でも1,2を争うほどの高さを誇る。余りの膂力の強さに本気で振るえば壊れぬ武器はなく、結局その拳が最強の武器となる。魔術を否定した結果鉛の呪いがかかっており、魔術を使えない代わりにあらゆる魔術を無効化する。</p><p>ウォルフ</p><p>英雄王。55歳。ユニスの父にして王。白髪交じりの赤い髪に逞しい体躯、獅子のたてがみの如く胸元を覆う豊かな髭に、歴戦の勇士特有の鋭い眼光。威厳を持った王の中の王。</p><p>その心根は豪胆かつ快活、慈悲深く勇敢を旨とするが、王としての責務から厳しく慎重な態度をとることが多い。本来は魔術も剣も使用する事も出来る万能型の英雄だが、息子が生まれてからは剣のみに絞り魔術を使わなくなった。が、それでも並みの英雄とは比べ物にならないほど強い。純粋な身体能力、戦闘能力ではザイトリードに一歩劣るものの、豊かな経験と折れぬ心で総合的には作中最強の男。</p><p>セレス</p><p>白アールヴの姫。年齢不詳。黄金をそのまま糸にしたかのような金髪に、蒼玉を嵌めこんだかのように煌く碧眼。手足はすらりと長くたおやかで気品に溢れ、スレンダーな白アールヴにしては破格の、人間に比べてもかなりの巨乳。美形揃いの白アールヴの中でも美女の中の美女。</p><p>高潔で理知的、慎み深く我慢強い、誇り高き白アールヴ達の長。黒アールヴの長エレンが剛であるならば彼女は柔。機智に富み柔軟な発想と物腰で、しかしけして折れずしなやかにスマートに物事を運ぶ事を好む。エレン同様優れた弓と魔術の使い手で、弓の腕ではほんの僅かエレンに劣るものの、魔術の腕では逆に彼女を凌駕する。</p><p>魔力は新緑の色。胸は推定Dカップ。身長は168くらい。</p><p>メリザンド</p><p>大聖女。年齢不詳。足首まである白い髪に、赤い瞳。見た目は5,6歳にしか見えないが、表情も口調も大人びており子供にはない威厳と威圧感を持っている。</p><p>用心深く慎重、狡猾。他人を信用しようとはせず、不死身を除いて他の部下の前に姿を現す事も無い。徹底した合理主義者で、無駄を嫌う。世界で殆ど唯一の法術の使い手であり、無数の天使と最大7人の英霊を使役する。肉体的に成長できないため、身体能力は5歳児相当で戦闘能力は低い。</p><p>魔力はなく、純白の理力。胸はAAA。身長は100ちょい。</p><p>不死身</p><p>英霊。年齢不詳。20歳前後の軽薄な青年。見た目通りに言動は軽く、思慮も浅い。</p><p>極めて楽天的で不真面目、物事を深く考えない性格だが英霊としての能力そのものは一流。その二つ名の通りどんなダメージを負っても瞬時に再生する能力を持っているが、不死身であるがゆえに自分の防御というものを全く考慮しないため、付け入る隙は無数にある。</p><p>身長は169くらい。</p><p>魔弾</p><p>英霊。年齢不詳。一発射れば矢は百の弾に分かれ、どんな小さな的だろうと確実に命中させる能力を持つ。</p><p>無明</p><p>英霊。年齢不詳。あらゆる幻を看破し、どのような障壁も透視する千里眼の能力を持つ。</p><p>跳ね駒</p><p>英霊。年齢不詳。距離も結界も何もかも無視し、どのような場所にでも自由自在に転移する能力を持つ。</p><p>炎髪</p><p>英霊。年齢不詳。本来燃えないものや、魂といった形のないものまで、どのようなものでも燃やし尽くす能力を持つ。</p><p>鉛</p><p>英霊。年齢不詳。どのような魔術も打ち消し、無効化する能力を持つ。</p><p>竜殺し</p><p>英霊。年齢不詳。距離や数に関係なく、どのような竜であれ一撃で殺す能力を持つ。</p><p>ラズ</p><p>Olの師。故人。享年22歳。琥珀色の髪に茶の瞳、伸ばすと腰くらいまでの髪をひっつめにしている。見た目はクールビューティ。</p><p>その実はかなりズボラで適当。興味の無いことにはとことん無頓着だが、興味のあることには究極まで拘る学者肌。部屋が汚いのには耐えられないが、掃除をするのは大嫌いと言う困った性格。</p><p>魔力の色は黄褐色。胸は推定Cカップ。身長は163くらい。</p><p>身長比較</p><p>書籍版</p><p>コミカライズ版</p><p>プロローグ</p><p>暗く深い、日の光など射しようもない地の底で、男はつるはしを振るっていた。</p><p>それは狭く暗い地下道に相応しい、みすぼらしい男だった。</p><p>齢は相当な高齢らしく、顔はしわに覆われていない箇所はなく、背は曲がりに曲がっている。身に着けているのもボロボロの灰色のローブで、それも狭い地下道の埃と土にまみれ、その惨めな様相をいっそうみすぼらしくしている。腰につけたランタンもかなりの年代物で、辛うじて男とその周囲を照らしている。</p><p>全身は汗にまみれ、つるはしを振るう腕にはもはや力は無い。</p><p>息も絶え絶えで、いつ絶命してもおかしくないほど男は疲弊しきっていた。</p><p>見た目も中身も疲れきり、磨耗しきったその男の中で、目だけがぎらぎらと強い光を放っていた。</p><p>男は何かに取り憑かれたかのように、必死につるはしを振るう。振るう。振るう。</p><p>そして、ついに。</p><p>不意にごとりと音がして、土壁の一部が崩れた。</p><p>男は目を見開き、その向こうを見る。</p><p>ふハハッ、アハハハハハ！</p><p>そして、今までにも勝る熱心さで腕を振るい始めた。</p><p>土壁は見る見るその亀裂を増していき、やがて人が通れるほどの大きさになる。</p><p>男はつるはしを放り投げると、哄笑と共にその中に踊りこんだ。</p><p>ハハハハハ！ やった、ついにやったぞ！ この、味わいさえ感じるほどの芳醇な魔力の香り！ついに見つけ出したのだ！</p><p>男は自身の胸元を探ると、首にかけていた首飾りを強引に引きちぎった。乞食よりもみすぼらしい男が身に着けていた唯一の装飾品であるそれには、小指の先ほどの大きさのガラスで出来た瓶がつながれていた。</p><p>その瓶を男は地下道の先にあった空洞の中心に掲げる。すると辺りの空気が渦巻き、ゆっくりと瓶に集中していく。それと同時に、瓶の中には琥珀色の液体が湧き出てきた。</p><p>視認さえ出来る高濃度の魔力の結晶！素晴らしい、これだけあれば！</p><p>男は瓶を地面に置くと、低い声で呪文を唱え始める。半刻（1時間）ほどもそうしていただろうか。</p><p>長い長い呪文は徐々に熱を帯び、弱弱しく呟くように紡がれていたそれはいつの間にか朗々と、力強い声によって唱えられる。</p><p>最後には半ば叫ぶようにして呪文は終わりを告げ、それと同時に男の身体は強い光に包まれた。</p><p>力が、溢れてくるこれが若い肉体と言う物か！</p><p>光が消えた後には、若く逞しい青年が立っていた。</p><p>腰が曲がり、皺に覆われた老人の面影は微塵もない。真っ直ぐ剣の様に伸びた長身に端正な顔立ち。四肢は力に溢れ、肌は絹の様に滑らか。ただ一つ、ぎらぎらと光る双眸だけが元の老人と共通していた。</p><p>おっと、もう一杯になるか</p><p>瓶になみなみと湧き出てきた液体は、早くも瓶の9割ほどを満たしていた。</p><p>男が若返ったときに僅かにその量を減じさせたものの、溜まる速度の方が圧倒的に早い。</p><p>男は呪文を紡ぎながら腕を振るう。その指先から琥珀色の魔力が溢れ、瓶を貫く。</p><p>瓶は見る間に大きく膨れ上がり、ひと一人が入れるほどの大きさになった。</p><p>これで当分は持つだろう。さて</p><p>男は短く呪文を呟き魔法の光を灯し、次いで少し長めの呪文を唱えた。男の指先が放った光を浴びて、天然の空洞だった洞窟は見る間に煉瓦で造られた殺風景な地下の一室へと姿を変える。</p><p>そして指の先に歯を突きたて、石畳の床に血で魔法陣を書き始める。</p><p>書きあがった魔法陣を軽く撫でてその出来を確かめると、男は更に呪文を唱え始めた。</p><p>若返ったときよりも更に長く、複雑な呪文だ。</p><p>男の額には珠のような汗が噴出し、苦痛に顔が歪んだ。</p><p>空気が震え、部屋の外に置いてあったままのランタンの炎がふっと掻き消えた。</p><p>それまで静寂を保っていた空間に、弓の弦を絞るような音がギリギリと鳴る。</p><p>炎の消えた空間を支配していた闇が、まるで意思を持つかのように蠢き、ゆっくりと形をとり始める。</p><p>その影は明かり一つ無い暗闇の中でなお暗く、はっきりとした輪郭をとり</p><p>そして、鈴の音の様な声をあげた。</p><p>わたしを呼んだのは、あなた？</p><p>男の前に現れたのは、申し訳程度の衣服に身を包んだ妖艶な美女だった。</p><p>黒々とした髪は長く艶やかで、白い肌を包むように伸びている。</p><p>ほっそりとした手足はすらりと伸び、しかし出る所はしっかりとその存在を主張していた。</p><p>そうだ</p><p>女の問いに、男は頷く。</p><p>そうじゃあ、呼んでくれた御礼にとびきりの夢を見せてあげる。この魔法陣を消してもらえる？ このままじゃ、その素敵な唇にキスする事もできないわ</p><p>すがるような弱弱しさで、女は甘い声を出した。それを男は冷笑する。</p><p>それはできないな。その魔法陣を消してしまえば、お前は自由に行動することができる。お前はすぐさま俺の魂を奪って魔界に戻るだろう。魔法陣を消すのは、契約を結んでからだ</p><p>男がそういった瞬間、女の表情が一変する。</p><p>哀れみを誘う弱弱しい少女のものから、ふてぶてしく経験豊富な娼婦のそれへと。</p><p>つまんないの、ちょっとした冗談じゃない。これだけの魔力を用意できる魔術師がそんな初歩的な失敗をするわけがないんだから</p><p>女悪魔は空中に椅子でもあるかのように虚空に腰掛け、足を組む。</p><p>意識するとしないとに関わらず、その動作は扇情的で艶かしい。</p><p>で？ 私は何をすればいいわけ？ 愚かな男達から精を吸い上げる？それとも、あなたの敵に無限の悪夢を見せてやる？あなた自身に最高の夜を見せてあげるのもいいけど</p><p>うむ。お前にはダンジョンを作ってもらいたい</p><p>はあ！？</p><p>男の言葉に、思わず女悪魔は見えない椅子から転げ落ちた。</p><p>淫魔の癖に色気のない転び方をするな。そんな下着みたいな格好で脚を広げられても、かえって興ざめするというかだな</p><p>そんな事はどうでもいいっ！今、なんかダンジョンを作れって聞こえた気がしたんだけど？</p><p>ああ、そう言った</p><p>男は頷き、両腕を一杯に広げ地下室をぐるりと見渡す。</p><p>いまだかつて誰も見た事の無いような、深く、広く、凶悪な迷宮を。無数の罠と、怪物どもと、財宝が待ち受ける大迷宮を。地下の世界を統べるかのような、途方も無いダンジョンを作って欲しい</p><p>女悪魔は思わず頭を抑えた。病気などとは無縁の身だ。</p><p>直接的な打撃以外で頭痛を覚えることなど初めてのことだった。</p><p>あのね百歩譲って、そのダンジョンの守衛として召喚されるならまだわかる。そういう条件で呼ばれた事もなくは無いしね。でも、ダンジョンを作れってどういう事よ！？そんな事はゴブリンかゴーレムにでも任せなさいよ！</p><p>無論、穴を掘る作業はそういったものどもに任せる。だがそれ以外の膨大な作業を手伝う者がいるのだ。ダンジョンの通路は、部屋はどのように配する？罠と怪物どもは？ 守衛となる魔物も生き物なら、餌がいる。その調達は如何にする？ 我が迷宮が大きくなれば、それを脅かそうとする不届き者も出るだろう。そのような輩への対処は？考えるべきこと、すべき事は無数にある。それを、貴様に手伝ってもらいたい</p><p>それは分かったけど、何で私なわけ？</p><p>ようやく体勢を直し問い掛ける女悪魔に、男は指を三本突き出してみせる。</p><p>理由は三つだ。まず第一に、俺は人間を信じておらん。人は必ず裏切る。妖魔や亜人の類もそれは同じだ。お前達悪魔は隙あらば人を陥れようとするが、契約を破る事は絶対に出来ない。だから、人間ではなく、悪魔を選んだ。第二に、通常悪魔は高位になればなるほど高い力と知恵を持つが、その分だけ契約や維持に大量の魔力が必要となる。お前達淫魔は人間の欲望に密接に関わり、精を吸い取る事を生業としている変り種だ。さほど強くはない代わりに、必要な魔力に対して賢く、人間の感情の機微にも聡い。だから、淫魔を選んだ。第三に</p><p>男はそこで言葉を切り、女悪魔の身体を眺めてニヤリと笑みを見せた。</p><p>どうせ傍に置くなら、見てくれだけでも美しく若い女が良い。だからお前を選んだ</p><p>女悪魔は、一瞬ぽかんとして男を見た後、くすりと笑った。</p><p>なるほどね。いいわ、その仕事、手伝ってあげる</p><p>では、この契約に名を持って同意してくれ</p><p>男は懐から紙を取り出し、女悪魔に見せる。相も変らぬ暗闇の中だが、闇の眷属たる悪魔にそんな事は関係あるはずも無い。</p><p>契約内容を用意してあるの？ 準備がいいのねって細かっ！？ 一体何条あるのよコレ！？</p><p>魔法陣越しに提示された羊皮紙には、細かい字でびっしりと条文が書かれていた。</p><p>言っただろう、お前達悪魔は隙あらば人間を陥れようとする、と。それを防ぐ為の条文だ。極端にお前の不利になるような不平等な条文は無いから安心しろと言っても信用はできんだろうからな。好きなだけ読むがいい</p><p>そんなことしなくったって裏切ったりしないって、もうあーもう字が細かすぎるのよ</p><p>ぶつぶつと文句を言いながら目を細めつつ、条文に目を走らせる。</p><p>ん、とりあえずはいいわこれ、目に見えないくらい細かい文字とか、特殊なインクで普通には見えない文字とかで書いた条文が隠されたりしてないでしょうね。あったら契約自体無効だからね</p><p>疑いの眼差しを向ける女悪魔に、男は心外そうに眉をひそめる。</p><p>そちらの不利になるような文は無いと言っているだろうが。疑い深い奴だな</p><p>お前が言うなっ！まあいいわ。じゃあ、契約するよ</p><p>ああ。汝、サキュバスよ。この契約に従い、名を持って我が力となるか？</p><p>名前は、魔術師や悪魔といった魔に関わる者たちにとって重大な意味を持つ。</p><p>ある程度以上の力を持つものであれば、相手の名前を知るだけで呪いをかけ、その魂を支配することさえ出来る。</p><p>悪魔との契約はそれを利用したものであり、名前を持って結んだ契約はお互いにいかなる事があっても破る事は出来ない。</p><p>我が名、リルシャーナにかけて誓う。契約に従い、あなたに力を貸しましょう</p><p>ならば、我が名アイン・ソフ・Olにおいて、この契約を守る事を誓おう</p><p>宣誓の言葉に応じ、契約書が光り輝く。そして、炎に包まれると一瞬にして燃え尽きた。</p><p>契約内容は二人の魂に刻み込まれ、追記も改変もけして出来ない存在となったのだ。</p><p>では、これからよろしく頼むぞ。俺の事はOlと呼べ</p><p>はいはい。私はリルでいいわよろしくね、Ol</p><p>変なのと関わっちゃった気もするけど。</p><p>その言葉を、リルは辛うじて飲み込んだ。</p><p>魔法陣を越えて、互いの手が握られる。</p><p>こうして、二人の迷宮作りの日々が始まった。</p><p>第1話まずは魔力を溜めましょう</p><p>それでさっきから気になってたんだけど</p><p>狭い魔法陣を抜け出し、手足と翼をぐっと伸ばしながらリルは背後を振り返る。</p><p>コレ、何？</p><p>その視線の先に佇んでいるのは、巨大なガラスの瓶。</p><p>リルを呼ぶ前にOlが設置したものだ。</p><p>それはそうだな。ダンジョンコアとでも呼ぼうか。これからのダンジョン作りにおいて核となるものだ</p><p>説明しながら、Olは短く呪を唱えて掌に小さな炎を灯し、部屋の四隅に浮かべて明かりにする。</p><p>魔力とは何かわかるか？</p><p>問うOlに、リルは頬を膨らませて答える。</p><p>馬鹿にしないでよね、これでも私は悪魔よ？ 魔力は全ての魔に関わるものの根源。魔法も、魔物もそして勿論、私達悪魔もそれを源にしてる。創造主が作り上げたこの世界を僅かでも捻じ曲げ、汚し、作り変えるもの。それが魔であり、魔力であり、悪魔ってわけよ</p><p>リルの言葉に納得した様子で、Olは頷く。</p><p>ではこれは知っているか？ 魔力と言うのは、土や大気、水、生き物ありとあらゆるものの中に内在しているが、その大部分は地中に存在する。地中の魔力は一つところに留まっている訳ではなく、道や河の様に流れている。この魔力の道を龍脈という</p><p>で、それとこれと何の関係があるわけ？</p><p>説明を理解できたのか出来てないのか良くわからない表情で、ペタペタとダンジョンコアを触りながらリルは問う。</p><p>今いるここは、その龍脈の真っ只中だ。そして、このダンジョンコアはその龍脈の魔力を吸い上げることが出来る</p><p>炎の明かりに照らされ琥珀色に輝きながら揺れる液体を、リルは目を丸くして見つめた。</p><p>え、もしかしてこの水魔力、とか？</p><p>嘘でしょお！？</p><p>頷くOlに、リルは素っ頓狂な声をあげる。</p><p>液体状になるくらいの濃度の魔力なんて、並みの魔術師じゃ振り絞っても一滴、二滴がいい所じゃない！こんな量、人間の魔術師が扱える量を遥かに越えてるわよそれに、こんなに近くにあるのに全然魔力の匂いがしないってどういう事？ちょっとしたマジックアイテムだって匂いですぐわかるのに、こんな量の魔力が傍にあって匂いがしないなんてあるわけないじゃない</p><p>匂いでわかるのか？ 悪魔というのも便利だな。簡単な話だ。この瓶は完全に内部に魔力を閉じ込められるようになっている。全く外に魔力が出なければ、匂いもするわけはない。これだけの魔力を人の身に宿そうものなら瞬時に正気を失うだろうが、瓶に入れて必要な分だけ使うのならば何の問題もない</p><p>リルは思わず、Olの顔とダンジョンコアを交互に見比べる。</p><p>完全に魔力を遮断って凄い技術ね。そんな事が本当に可能なの？</p><p>ああ。我が70年に及ぶ研究の集大成だ。ようやく、ここまで漕ぎ着けた</p><p>感慨深そうに言うOlに、リルは感心したものか呆れたものかしばし悩み、やがて後者を選んだ。</p><p>70年て、あんた本当は何歳よまあいいわ。大体納得した。こんな濃度の魔力を無尽蔵に得られるなら、それこそ世界を統べる事も可能かもしれない。この瓶を守らなきゃいけないから、ダンジョンを作るのも。で、ダンジョン作りってまずは何から始めるの？</p><p>そうだなまずは後ろを向け。そして、手をそこの壁についてくれ</p><p>？ こう？</p><p>リルは言われるままにOlに背を向け、壁に両手をつく。</p><p>ねえ、この体勢ってまるであっ！？</p><p>言いかけ、リルは己を貫いた感覚に高く声をあげた。</p><p>後ろから、Olがリルの服をずらし、そのままリルの秘部を貫いてきたのだ。</p><p>なんだ？ まさか生娘だったなどとはいわんだろうな</p><p>な訳ないでしょ！ もうっ、するんならするってちゃんと言ってよね</p><p>言葉こそ批難がましいが、声は既に甘くとろけている。</p><p>何もせずに突っ込んだのに、随分濡れているな</p><p>そりゃ、んっ淫魔、だからねっあ、そこ、いぃっ</p><p>リルのそこは、何時間も愛撫したかのようにぐっしょりと濡れそぼっていた。</p><p>快楽を感じているからでは、ない。それが淫魔だからだ。</p><p>いつでも性交を行い、どんな男でも満足させるように身体自体が出来ている。</p><p>でも、意外ねんっ、私を、呼びつけては、ぁいきなり、ダンジョン作れなんていうからこういう事、興味ないのかと思った</p><p>それは誤解だ。確かに、今交わっているのはダンジョン作りの一環ではあるが、それはそれとして俺はセックスに興味がない訳ではない。いや、むしろ大いに興味があるぞ。折角迷宮を作り、力を手に入れても富も女も求めないでは何の意味もないだろう？</p><p>なにそれふふ、は、ぁエッチしたいからんっダンジョン、作るって訳？</p><p>喘ぎ声をあげながらクスクスと笑うという技を見せながら、リルはくるりと身体を回転させた。脚を大きく広げ、正常位のような格好になる。身体を支えるものがないのに空中でこのような格好が出来るのは悪魔ならではだ。</p><p>でもいいわそういう事ならんふたっぷりとサービスしてあげる</p><p>申し訳程度に肌を覆っていた服を脱ぎ捨て、その豊満な双丘をOlの顔に押し付ける。</p><p>それと同時に、奥までOlの一物を咥え込んだ膣内を蠢かせる。</p><p>く、ぅ淫魔と交わるのは初めてだが流石に凄いな。魂まで搾り取られそうだ</p><p>んふふありがと。あなたのも大きくて硬くてとっても素敵んっ、契約さえなければ、このままカラカラになるまで、搾り取っちゃうところなんだけどね</p><p>空中で腰を上下させながら、文字通り搾り取るようにリルは膣を蠢かせる。</p><p>男の精を搾り取ることをその生業とするサキュバスにとって、そこは身体の中で最も自由に動かせる器官と言っていい。若返らせた肉体の影響もあいまって、Olの限界はすぐそこまで近づいていた。</p><p>随分と、余裕だな</p><p>そりゃ、サキュバスですからぁんもっと、泣き叫んで嫌がる方がお好みだった？</p><p>淫魔にとって性交は食事に等しい。勿論それは彼女にとっても快楽ではあるのだが、人間のそれと違い、完全に制御できるものだ。その快楽に流されて我を失ったり、気をやってしまうような事はありえない。</p><p>そんな白々しい演技は要らんくっ、行くぞ！</p><p>うん、来て！ 中に、あなたの中に出してっ！？え、ちょっと、嘘！ 何これあっ、あああぁぁぁぁああああっ！！</p><p>リルの中でOlは精を放つ。それに一瞬遅れ、リルは声をあげながら身体を震わせた。</p><p>今までの作り物めいた嬌声ではない。</p><p>な、何、今の？</p><p>悪魔の実体は、常にこちらの世界とは隔絶された魔界にあるらしいな</p><p>いまだ繋がったまま、おもむろにOlはリルの胸をもみしだく。</p><p>え、あ、ちょ、何、なんなのこれえ</p><p>初めての感覚に戸惑いながらリルは身を捩じらせるが、Olの片腕は彼女の腰をしっかりと抱いて離さない。</p><p>意識や自我はこちらの世界にきてはいるが、身体は魔力で作られた仮初のもの。だから、必要以上の苦痛は感じないし、仮に粉々に破壊されても元の魔界に戻るだけ、と。実に便利な事だが、魔力で作られているという事は、魔力で干渉し、作り変えることも出来るという事だ</p><p>え、あ、あ、あ、駄目、待って、ん、あ、あ、あ、ああっ！</p><p>射精した後もOlの物は硬度を失わず、ゆっくりと抽送を再開する。</p><p>と言うわけで、お前も人並みに快楽を感じ、乱れ、気をやれるようにしてみた。ああ、害になるようなことはしていないから安心してくれ。ただ、こうして</p><p>Olはずん、と腰を突き出す。</p><p>あああああああああぁぁぁっ！</p><p>一緒に楽しめるようにしただけだ</p><p>ま、待ってぇ、ちょっと、待っんうっ！</p><p>息も絶え絶え、といった様子で停止を求めるリルの口を、Olは自らの口で塞いだ。</p><p>その動作の間にも、片手で胸を揉みしだき、もう片方の腕で腰を抱き寄せ、剛直を激しく出し入れしている。</p><p>人間の女ならあまりの激しさに快楽よりも苦痛を味わうところだろうが、そこは淫魔の身体である。全ての動作が余すことなく快楽へと結びつき、更に貪欲に快楽を求めていた。</p><p>さっきまでより断然いいぞああ、最高だ出すぞっ！</p><p>駄目、もう、ああっ、もっと、いや、あ、あ、あああああっ！</p><p>自らの中に入り込んでくる精液の感覚に、リルは身体を仰け反らせびくびくと震える。</p><p>もはや彼女にとって、Olの精液は強力な媚薬に等しい。身体に触れるだけで強烈な快感が身を貫き、胎内に出されればそれが絶え間なく襲い掛かってくるのだ。その上、Olは出しても出しても全く萎えることなく、更に抽送を繰り返すのだ。</p><p>ま、待って、おか、しおかし、く、なっちゃ</p><p>犯して欲しい？ 是非もない、契約した記念だ。今晩は一晩中可愛がってやろう</p><p>ちが、あ、んっ！ ちがぁ、う、あぁんっ！</p><p>そうして、一日目の夜は更けていった。</p><p>第1.5話ダンジョン解説</p><p>第1話終了時点でのダンジョン。</p><p>階層数：１階層</p><p>瘴気：0</p><p>悪名：0</p><p>貯蓄魔力：5（単位：万/日）</p><p>消費魔力：0.1（単位：万/日）</p><p>新しい施設：</p><p>ダンジョンコアLV2</p><p>人間大にまで巨大化させたダンジョンコア。</p><p>魔力を100万程度まで貯蔵することが出来る。</p><p>ちなみにプロローグでOlが首から下げていた状態がLV1である。</p><p>新しい戦力：</p><p>リル（サキュバス）</p><p>戦力：2消費魔力：0.1最大貯蓄魔力：10</p><p>女性型の淫魔。幻惑、変身、魅了、精気吸収等の特殊能力を持ち、簡単なものであれば魔術も使用できる。頭はいいがあまり強くはない。</p><p>Ol</p><p>戦力：3最大貯蓄魔力：0.3</p><p>老いた魔術師。魔術によって20歳前後くらいまで若返っている。かなり高度な魔術を操り、特に魔力制御は世界でも有数の腕を持つが、戦闘に関しては素人同然であるため戦力LVはさほど高くない。</p><p>現状のダンジョン</p><p>施設はダンジョンコアのある部屋のみ。ダンジョンというより、洞穴と言った方が近い。</p><p>防衛設備は一切なく、ダンジョンを見つけさえすれば簡単に踏破出来るだろう。</p><p>ただし、現時点でその位置を知るものはOl以外にいない。</p><p>第2話近隣の村を襲撃しましょう-1</p><p>ううう、死ぬかと思った</p><p>体中精液にまみれ地面に突っ伏しながら、リルはOlに恨みがましい視線を向けた。</p><p>馬鹿を言うな、情交で死ぬ淫魔などと言うものがいる訳がないだろう</p><p>それに対し、Olは何十回と精を放ったにも関わらず疲れた様子もない。</p><p>あなた、化け物？ 一体何回出したのよ</p><p>良かっただろう？</p><p>ニヤリと笑みを浮かべるOlに、ぷいとリルは目を背ける。初めて味わう快感に腰砕けになり、力も入らないリルをOlは一晩中犯し続けた。膣は勿論、口や尻の穴にも幾度となく精を注ぎ込み、リルが動く体力もなくなってからは体中に精を放ち汚した。</p><p>行為自体に不満は全くない。そもそも契約自体に好きな時にリルを抱く事は入っていたし、そうでなくとも性愛を生業とする淫魔である。むしろ、今まで感じたこともない快楽を味わえた事は彼女にとって非常に大きな感動であり、喜びであった。</p><p>しかし、魔力で無理やり感じさせられた上に、人間にいいように身体を弄ばれたというのはリルの淫魔としての自尊心を傷つけた事は確かであり、素直に良かったと認める気にはなれない。</p><p>まあそう拗ねるな。何も無為にお前を弄んで楽しんだという訳ではない。これも大きな目で見ればダンジョン作りの一環だ</p><p>なんでこんなのがダンジョン作りの一環になるのよ</p><p>ようやく体力が少しは回復し、リルは上半身を起こす。</p><p>ダンジョンコアは龍脈から魔力を汲み取る。溜まっている量も汲み取る速度もまだ大した量ではないが、体力を回復させる程度の術であれば無制限に使える程度ではある。魔力で体力を補いながらならば、半永久的にお前とまぐわっていることも可能だ</p><p>Olは自身の異常な体力の種明かしをした。肉体の状態を数刻前に戻し、体力を回復する。衰えれば、再び数刻前に戻す。そうすることで、無限の精力を得ていたのだ。大量の魔力を消費する術ではあるが、若返ることに比べれば造作もない。</p><p>が、それもこの迷宮内、ダンジョンコアのすぐ傍でだけの事だ。およそ30フィート以内。その距離にいなければ俺はコアから魔力をとり出す事は出来ん。そこで、だ</p><p>Olはリルの頭にぽんと手を置き、短く呪文を唱える。すると、魔力がリルの体内からOlへと吸い込まれ、次に瞬く間にリルの身体に活力が戻り、ついでに身体に付着した精液が吹き飛んだ。</p><p>このようにお前の身体に俺の魔力を精と共に仕込んだ。お前は悪魔だから、並みの魔術師の数倍は魔力を溜めておけるな。移動できる小型のダンジョンコアのようなものだ</p><p>ピクリ、とリルのこめかみが引きつるように動くのに、しかしOlは気付かない。</p><p>今後、ずっとダンジョンに篭っているわけにもいかん。が、俺の魔力だけではどうしようもないからな。しかし流石悪魔だな、許容量一杯まで魔力を溜めるのに一晩かかった。まあこれだけ溜めれば当分は大丈夫だろうが</p><p>ふざけるなあっ！！</p><p>Olの言葉を遮り、リルは叫ぶと拳を振り上げた。</p><p>あーもうこの馬鹿殴りたい！契約で危害加えられないから殴れないけど、すっごい殴りたい！</p><p>な、何故怒る！？</p><p>Olとしては必然性を説く事でフォローしたつもりだったのだが、その説明は火に油を注ぐものでしかなかった。ちょっと拗ねた、程度だったリルの感情は完全に怒りに燃えている。</p><p>男を誘惑し、情を交わすことが種としての存在意義と言ってもいい淫魔に対し、一方的に身体を蹂躙した挙句、ただ魔力タンクとして必要だったから、などと言い放ったのだ。リルにしてみれば存在自体を全否定されたに等しい。</p><p>煩い、このイ○ポやろー！ あんたなんかゴブリンでも犯してなさいよ！このダンジョン馬鹿、若作り爺！</p><p>リルはひたすらに罵詈雑言をわめき散らした。契約で悪態は制限されていなかったからだ。</p><p>人間に対してこんなに怒りを抱くのも、悪魔として生まれて初めてのことだった。</p><p>第2話近隣の村を襲撃しましょう-2</p><p>と言うわけで、これからあの村を襲撃する。いい加減機嫌を直さないか？</p><p>Olにとっては数ヶ月ぶり、リルにとっては前回人間に召喚されたときから数えて数十年ぶりの、地上。遠くに見える小さな村を指差し、Olは相変わらずへそを曲げたままのリルにそういった。</p><p>別に機嫌悪くなんてない</p><p>明らかに機嫌の悪い声色で答えるリルに、Olは内心ため息をつく。</p><p>流石にOlも自分の行為ではなく発言が悪かったのだろうとは気付いていたが、だからといって機嫌を直すような気の利いた言葉は思い浮かばなかったし、盛りのついた若い男じゃあるまいし、小娘の機嫌を取るのも馬鹿馬鹿しいのであまり気にしないことにした。</p><p>見た目も言動も若い娘とは言え悪魔は悪魔だ。機嫌で仕事の質を左右されるようなことはあるまい。</p><p>では、改めて確認をしよう。俺はある程度魔術を修めてはいるが、その研究の大半はダンジョンコアに費やされたものだ。魔力の取り扱いについては世界でも有数である自負はあるが、戦闘経験は殆どないし荒事には向いていない。ただの村人に負けるようなことはなかろうが、ある程度の腕を持った剣士でも出てくれば少々辛い。つまり、お前だけが戦力という事だ。頼んだぞ</p><p>いいわ、皆殺しにしてやる！</p><p>凶悪な目つきをしながら唸るようにリルは答える。八つ当たりされる村人達に若干の同情をしつつ、Olは彼女を伴い、村への入り口へと向かう。</p><p>村の入り口には魔除け代わりの怪物の石像と、村娘らしき女がいた。</p><p>よし、じゃあまず一人目ってけふっ！</p><p>Olは早速襲い掛かろうとするリルの首根っこを掴み制止する。</p><p>なにすんのよ！と抗議するリルを無視し、村娘に伝える。</p><p>そこな娘よ。ここに長を連れて来い。邪悪なる魔術師、Olが貢物を要求しに来たとな。逆らえば死のみが待っていると知れ</p><p>はあ？</p><p>いきなりの尊大な物言いに、娘は怪訝な表情を浮かべる。</p><p>まるきり気の触れた人間を見るような目だ。</p><p>Olは短く呪文を唱えると、炎の球を掌に浮かべ、村を囲む柵に向けてはなった。</p><p>炸裂音が響き、粗末な木製の柵が粉々に飛び散る。そのまま別の柵に燃え移り、もうもうと黒い煙を吐き出した。</p><p>二度は言わぬ。村全てを灰塵に帰したくなければ急げ</p><p>Olが低い声で言うと、女は飛び上がるようにして村の奥に駆けて行く。</p><p>めんどくさいなー。問答無用で皆殺しにしちゃえばいいんじゃないの？</p><p>リルが不服そうに物騒なことを言う。</p><p>殺さない方が使えるからな。とは言え、逆らうなら容赦はせん。そしてこの村は、逆らうだろうな</p><p>何でそんな事わかるの？</p><p>まあ見ていろ</p><p>ニヤリと笑うOlに、リルはなにやら嫌な予感を覚える。</p><p>暫くして、村長と思しき壮年の男が杖をついてやってきた。</p><p>年齢は40過ぎ半ば。茶色い髪のガッシリとした体格の男だ。</p><p>お待たせしました、Ol様。何でも、貢物をご所望との話ですが</p><p>ああそうだ。こちらの要求を呑めばよし、呑まぬならばこの村には灰になってもらう事になる</p><p>それはそれは恐ろしい勿論、おさめさせて頂きます</p><p>村長は頭を深々と下げ、祈りを捧げるように杖を両手で掲げた。</p><p>鉄の剣で良ければなッ！</p><p>その杖が半ばから二つに分かたれ、中から現れた白刃が煌めいた。仕込み杖だ。</p><p>杖を引きぬくと同時に流れるように間合いを詰め、村長はOlの首を狙う。</p><p>完全に虚をついた、必殺の一撃。しかし、それをOlは難なくかわした。</p><p>チッ、かわしたか</p><p>リル、俺を守れ</p><p>契約に基づいた命により、リルはOlを庇うように前に出る。それとほぼ同時に、村長の背後にも民家の影からわらわらと武器を持った男達が出てくる。</p><p>ちょっと！ どういう事よ！？</p><p>端からこちらに従う気などなかった、と言うことだ。とは言え、芝居が下手だな。お前の様な50にもならん男が杖をついて歩いては、折角の暗器がバレバレだろうが</p><p>前半はリルに、後半は村長に向けOlが言う。</p><p>ご忠言痛み入る。次からは気をつけるさアンタを殺した後でな！</p><p>村長が剣を振るい、リルに襲い掛かる。リルは爪を剣の様に長く伸ばし、それを辛うじて受け止めた。</p><p>Ol、こいつ強い！ あたしじゃ敵わない、逃げよう！</p><p>駄目だ</p><p>何とか剣を爪でいなしながら、リルはOlにだけ聞こえる声で囁くが、返ってきたのは拒否の言葉だった。</p><p>今は何とか凌いでいるが、村長の背後から走ってくる男達が加勢に加わればリルでは防ぎきれない。そもそもサキュバスは戦闘向きの悪魔ではないのだ。</p><p>それでも中位程度の格はあるからちょっと剣をたしなんだ程度の敵なら相手できるが、この村長は明らかに手だれといっていい腕だ。</p><p>キィン、と澄んだ音が鳴り響き、リルの爪が半ばから両断される。</p><p>じゃあな、悪魔の嬢ちゃん。恨むなら馬鹿な主人を恨みな。すぐに同じところに向かわせてやるからよ</p><p>村長が剣を振りかぶる。</p><p>今だ、殺せ</p><p>そして、灰色の腕がその胸から生えた。</p><p>え？</p><p>リルが呆けたように声を出す。その場にいた誰もが状況を把握できず、呆然と動きを止めた。</p><p>生えたのではない。村の入り口に合った守護像が動き出し、村長の胸をその腕で貫いたのだ。</p><p>村長は声をあげる暇もなく絶命し、地に倒れる。</p><p>後は戦闘の訓練も積んでない有象無象だ。任せたぞ、リル、ガーゴイル</p><p>呆然とする人々を置いてOlはその場を立ち去る。</p><p>その後は、一方的な虐殺が始まった。</p><p>ねえ、いつの間にガーゴイルなんか置いたの？</p><p>数十分後。動く者のいなくなった村いや、村の跡地で、リルはOlに尋ねた。</p><p>石像を魔力で動かしたのかと思ったら、あれ本物のガーゴイルなのね。びっくりしたわ</p><p>ガーゴイルとは、ある意味で最も有名な悪魔の一種だ。翼を持った見るからに悪魔然とした醜悪な外見を持つ悪魔だが、最も特徴的なのは動いてないと石像と区別がつかない、と言うところにある。</p><p>その為、ガーゴイルを模した石像が多数作られ、盗賊への脅しや魔除けの像として扱われている。もし本物だったらどうしようと思うだけで、ある程度の抑止効果があるのだ。だがまさか、村長も自らの村を守っているはずの像に殺されるとは思っても見なかっただろう。</p><p>あれを置いたのは大体30年前だな</p><p>は？</p><p>思ってもみなかった答えに、リルは思わずあんぐりと口を開く。</p><p>この近辺に龍脈があることは50年も前には気付いていたから、足掛かりにする為に行商のフリをして売りつけた。なんと精巧なガーゴイル像なんだ！と喜んで買っていったよ。当然だ、本物なのだからな。そして、そのガーゴイルを通じて今の村長の実力や気風は知っていた。あいつは元冒険者で、昔はそこそこ名の知れた剣士だったそうだ。素直に従う訳がないから、殲滅し易いように集まってもらった訳だ</p><p>なるほどね本当、あんた嫌になるくらい周到で狡猾ね</p><p>誉め言葉と受け取っておこう</p><p>笑みを返しながら、Olは魔術の準備を終える。それは巨大な魔法陣だった。</p><p>村の中央に描かれた円形の陣の上に、村人達の死体が累々と積み上げられている。</p><p>さて、始めるか。この数は少々億劫だ。魔力を貰うぞ</p><p>言うや否や、強引にリルを抱き寄せ唇を奪う。リルは少し嫌そうにするが、抵抗はしない。</p><p>一応いっておくが、魔力を取り返すなら手を握るだけでもいいからな</p><p>あーそーですかー</p><p>どうでも良さそうに言葉を返すが、視線をこちらに寄越さないという事はまんざらでもなかったのだろう。</p><p>ようやく多少は機嫌が直ったか。面倒な事だと内心思うが、Olにとって意外な事に、それは思ったほど不快な事でもなかった。</p><p>Olは口付けが最も効率よく魔力を取り返せる、という説明はしないことにして、魔法陣に向き直り、居住まいを正すと、長い呪文の詠唱を始めたのだった。</p><p>第3話定期収入を手に入れましょう</p><p>さて、これで一応の戦力が整ったな</p><p>目の前に立つ老若男女を見、Olは頷く。年齢も性別もバラバラなその集団は、やはりバラバラに剣だの棒切れだの農具だの、武器になりそうなものを手にしている。</p><p>共通しているのは唯一つ、皆死体であることだけだ。</p><p>彼らはいわゆる動く死体(リビングデッド)であり、Olの魔力で仮初の命を吹き込まれた生ける屍である。</p><p>あなた、本当に他人を信用してないのね</p><p>周りを見渡し、リルは呟く。ガーゴイルは契約によってOlに完全服従を強いられている。命令されたことだけを忠実にこなし、命令されていない事はけして出来ない。中級以下の悪魔と契約する時には良くある種類の契約だ。</p><p>死体達はそもそも自我さえ存在しない。Olの魔力によって動いているだけの操り人形だ。</p><p>唯一自由意志を持っており、ある程度自分の意思で動けるリルも、やたらに細かい契約によって出来る事は限られている。</p><p>その徹底した対応に、過去に何かあったのだろうとリルは当たりをつけたが、それに対して詮索はしない。</p><p>Olの事を慮ったのではない。契約に過去を詮索しないという条項があったからだ。</p><p>では、次の村に行くか</p><p>リルの呟きが聞こえなかったのか、それとも聞こえたが無視しているのか。</p><p>Olは呟きに答えることなくそういった。</p><p>次？ まだ村を襲うの？</p><p>この村にあった食料や金品はそれぞれもてるだけ死者達に持たせてある。それほど豊かな村ではないとは言え、冬が近いせいか膨大な量だ。リルは食事はできるものの必要ではないし、Ol一人なら十分すぎる量がある。</p><p>いいや、むしろここからが本番だ</p><p>ニヤリと笑みを見せるOlに、リルは額に手を当てる。まだ丸一日程度の付き合いだが、この笑みを見せる時のOlは大体ロクでもない事を考えている時だとわかってきたからだ。</p><p>ピシャアアアアッ！！</p><p>空間自体が破裂するかのような独特の轟音と共に、稲妻が地面を焦がす。</p><p>天気は雲一つない晴天。雷どころか雨さえ降りようのない状態で落ちた稲妻は、Olの魔術によるものである。</p><p>魔力を食う割には攻撃範囲も狭く、威力もそれほど高い訳ではない。生物を殺すには十分であるが、石や岩といった無生物には殆ど効果がないのだ。そんな使い勝手の悪い魔術であるが、相手をただ脅すのにはかなり有効な術だった。</p><p>突然の雷鳴に驚き、村人達が何事かと家から出てくる。そこで目の当たりにしたのは、真っ黒なローブに身を包んだ怪しい男と、申し訳程度の衣装に身を包んだ女、そして、血だらけの軍勢だった。</p><p>良く聞け。我が名は邪悪なる魔術師、Ol</p><p>さっきも思ったんだけど、邪悪なる魔術師って自分で自称するのはどうなの？</p><p>うるさい。こういうのはわかりやすい方がいいんだ</p><p>小声で突っ込みを入れるリルに、やはり小声で言い返す。</p><p>今日は貴様らに取引を持ちかけに来た</p><p>とりあえずOlは、すぐ目の前にいる一番年かさの男に向けて話を進める。</p><p>と、取引ですか？</p><p>先ほどの村に比べ、こちらの村はかなり及び腰だ。前の村の村長の様な手だれがいない事もあるが、Olの背後に控えるアンデッド達の存在も大きい。</p><p>そうだ。我に月に一度食料を、そして年に一度美しく清らかな乙女を捧げよ。さすれば、我が祝福を汝らに与えよう。作物は凶作に見舞われる事なく、狼も小鬼も盗賊も汝らを脅かす事はなくなるだろう</p><p>リルが意外そうな顔をするが、それは無視する。</p><p>そのもし、取引に応じなかったら？</p><p>恐る恐る尋ねる村人に、Olは軽く手をあげる。その合図と共に、背後の死者達が数歩前に出た。</p><p>この者たちは、取引に応じなかった愚か者どもだ</p><p>ゲオルグさん！</p><p>中でも村長だったものの顔を見て、村人たちの何人かが声をあげる。</p><p>あのオッサン有名人だったんだね</p><p>あの程度の規模の村にしては破格の腕だ。さもあろう</p><p>Olはリルの呟きに答えてやる。</p><p>我に敵対するならば、待つのは死などと言う生ぬるいものではない。果て無き永遠の苦役だ。しかし、取引に応じるならば汝らは百年の豊穣を得よう。差し出す食料よりも豊かな実りを。差し出す娘よりも多くの身の安全を約束しよう。さて、汝らが長は賢き者か？ それとも愚かなる者か？</p><p>村人達は顔を見合わせたが、答えは大体決まっているのだろう。</p><p>さほど揉めた様子もなく、彼らはOlに恭順を誓った。</p><p>良いだろう。ならば村の中央に祭壇を作り、毎月一の日に供物を捧げよ。供物は牛を一頭、豚を二頭、鶏を五頭。作物はその月に取れた種類全てを、五分ずつ捧げよ。娘も同様に、竜の月の一の日に祭壇に待たせよ。良いか、娘は美しく、男をまだ知らぬ清らかな乙女でなくてはならん</p><p>ほんっと細かいなあ</p><p>ぼそりとリルが呟くが、これはまた無視。</p><p>その後、監視と護衛の為にガーゴイルを村の中央に置き、田畑に豊潤の呪いをかけ、祭壇の作り方について簡単に指示を残すと、Olは死者達とリルを連れて村を後にした。</p><p>ふうここに戻ると落ち着くな</p><p>その後数日をかけて近隣の村をいくつか回り、同様の契約を結んだ後Ol達はダンジョンへと戻ってきていた。</p><p>結局最初の村以外は抵抗するものもなく、全部で6つの村と契約した。多少遠い村もあるが、ダンジョンコアの魔力を用いて転移の術を使えば問題ない。村人たちに作らせた祭壇は転移の術の目印でもあった。</p><p>滅ぼした村から持ち込んだ家具で殺風景だった一室も随分落ち着いた空間となり、Olはソファにゆったりと身を沈めた。</p><p>でも、ちょっと意外だったな。てっきり全部滅ぼして奪いつくすのかと思ってたから。逆に魔力を分け与えて、生活を保障してあげるなんてね</p><p>実際そうしたところで良心の呵責を覚える訳ではないが、ある程度村人たちの事も気遣ってやるのはリルにとっても好ましい事だった。悪魔といえども、別に破壊と殺戮の化身と言う訳ではない。</p><p>そんな事をすれば幾つ村があっても足らんからな。人間が家畜の世話をしてやるのと同じだ。奴らが飢えて死に、生活も出来なくなれば、こちらにも実入りがなくなる</p><p>ああ、なるほどね</p><p>家畜と同じ、という説明はリルにとってはしっくり来た。悪魔から見た人間はちょうどそんな感じの存在だからだ。自分にとって益になる存在だから無闇に殺すのは気が進まないし、無抵抗のものを殺すのには若干の抵抗を覚えるが、自分に牙を剥くものであれば殺す事に何のためらいもない。</p><p>Ol、あなた本当に悪魔以上に悪魔みたいね</p><p>誉め言葉と受け取っておこう</p><p>多少憮然とした表情でOlはソファから腰を上げ、ベッドへと移動する。</p><p>まだまだやらねばならん事は山積しているが、とりあえずは一仕事終わったな。今日はそろそろ休むとしよう。来い</p><p>当分は必要ないんじゃなかったの？ それにどうせ、すぐ若い娘が来るんでしょ</p><p>そういいつつも、命令は聞かない訳にはいかないのでリルはベッドに近づく。</p><p>やれやれ、まだ臍を曲げているのかと、Olは内心嘆息するが、表情には出さない。</p><p>最初の娘が来るのは2週間後だな。まあ、抱く為だけに処女を要求した訳でもないが</p><p>ベッドに横たわったまま腕を強引に引っ張り、Olはリルを腕の中に収めた。</p><p>契約した村は6つ、それぞれ娘を捧げる月をずらしたので、2ヶ月に一度は新しい娘が届く事になっている。</p><p>お前に溜まっている魔力はまだ十分だがな、こちらにも溜まったものはある。それに情交の為にだけ存在するお前達夢魔より抱き心地のいい人間など、いる訳がないだろう</p><p>慣れないリップサービスを口にすると、リルがニヤニヤしながらOlの顔を見ていた。</p><p>リップサービスと言っても事実ではあるが、言わなくていい事を一々言わされているというのはOlにとっては若干の屈辱でもある。</p><p>それに、魔力で出来ているお前の身体は、魔力を注げば僅かずつだが容量も増える。そもそも容量自体が人間とは段違いなのだ。これからも頻繁に相手をしてもらうから、覚悟しておけ</p><p>はぁい、ご・主・人・様</p><p>耳元でくすぐる様に囁くリルを押し倒しながら、Olはもう一度心中で嘆息した。</p><p>全く、面倒な悪魔をパートナーに選んでしまったものだ。</p><p>リルも、似たような感想をOlに対して抱いている事には気付かないまま。</p><p>第4話迎撃準備を整えましょう</p><p>はぁ気持ちよかった</p><p>まるでひだまりの中でまどろむ猫の様に弛緩しきった表情で、リルはごろんとベッドに横になった。股間の穴からはごぽりと白濁した液が零れ落ち、前回よりも更に全身精液にまみれているが、前回と違って身体が動かない程疲労はしていないようだった。</p><p>随分と余裕そうだな。魔力が効かなかったか？</p><p>そういうわけじゃないよ。何回もイカされたし</p><p>言いつつも、リルは体勢を変えると綺麗にするねーと呟き、Olのものを口にくわえる。</p><p>ただ、下手に抵抗せず受け入れたら大分楽だったかなそれに、前と違ってベッドの上だったから体勢とか気にしなくて良かったし</p><p>舌を伸ばしてOlの一物を舐めあげながらも、リルの言葉は明瞭にOlの耳へと伝わる。サキュバスにとって舌や口は発音器官ではなく、口淫の為に存在するものなのだそうだ。</p><p>あは、おっきくなってきたえっと、それにOlが精と一緒に魔力を私の中に入れてるでしょ？生気は許可がなきゃ吸っちゃ駄目って契約にあるから吸ってないけど、魔力はちょっとだけ吸っちゃったんだ。それで大分体力楽かも</p><p>なんだと？</p><p>横たわったままリルの奉仕に身を任せていたOlだが、その言葉に思わず上半身を起こす。</p><p>ちょ、ちょっとだけだよ！？ 契約にないからってその辺はちゃんとわきまえて</p><p>慌ててリルは弁明する。そうしつつもOlの股間から口を離さないのはさすが淫魔といったところか。</p><p>普通、他人の魔力と言うのは悪魔でもそう簡単には吸えん。魔力、魔力と一括りに言ってはいるが、大気や地面に散らばるマナと、生物の持つオドでは性質がまるで違う。ダンジョンコアで集めているのも、お前の中に放っているのも俺専用のオドだ。俺以外がそれを扱うには、一度マナまで戻してから、自分専用のオドにせねばならんはずだが</p><p>あー、なるほどね。なんか私とOlの魔力って性質近いみたいで、そのまま吸えたよ。こういうの、相性いいって言うのかな？</p><p>事も無げに言いながら、リルは仕上げとばかりに喉の奥までOlの一物を飲み込み、舌を絡ませる。</p><p>俺の魔力は琥珀色だぞ？ 普通、悪魔の魔力は黒とか紫とかだろうがく、出すぞ！</p><p>ん、美味しいOlって性格は悪いけど、精はすごく美味しいよね</p><p>こくこくと喉を鳴らして精液を飲み下し、更にストローの様に吸い上げながらリルは満足そうな声をあげる。</p><p>余計なお世話だ。まあ魔力を共用出来るなら、それはそれで使えるな。お前に注ぎ込んだ魔力のうち、1割程度なら自分の物にしていい</p><p>Olは汗や精液、愛液に塗れたベッドから身を起こすと、軽く濡れた布で身体を拭い、服を着込む。</p><p>そのうち湯殿なんかも用意せんとな。が、今は先にやらねばならん事がいくつかある</p><p>Olはリルを呼んだ時と同様に血で魔法陣をいくつか描く。と言ってもリルを呼んだそれとは違い、かなりシンプルなものだ。</p><p>一応ダンジョンが出来て、家具も揃って、定期的に食料とかも手に入って他に何かやる事あるの？</p><p>とりあえずベッドのシーツを剥ぎ取り、予備の物に交換しながらリルが尋ねる。</p><p>馬鹿を言うな、やる事はまだまだ無数にある。これだけでいいなら、わざわざお前を呼んだりはしない。いでよ、インプどもよ！</p><p>Olが一喝すると、魔法陣から小さな悪魔が数匹湧くように現れた。人間の赤ん坊くらいの大きさしかないその悪魔は、しかし赤ん坊の持つ可愛らしさとは無縁の生き物だった。全身はつるりとして毛は全くなく、背中にはコウモリを思わせる翼が生えている。耳は禍々しくとがり、顔は醜悪で邪な笑みを浮かべていた。</p><p>最も位の低い悪魔の一種だが、それでも悪魔は悪魔。簡単な魔術くらいなら使用し、人並みの知能も備えているので魔術師に使い魔としてよく使用される。</p><p>まず、このダンジョンを大きく拡張せねばならん。インプどもよ、この地図の通りにダンジョンを掘るのだ</p><p>Olはあらかじめ用意しておいた地図をインプたちに渡して指示する。インプたちはすぐさま作業に取り掛かった。</p><p>ダンジョンの拡張には二つの意味がある。侵入者対策と、収集する魔力量の増大だ</p><p>汚れたシーツのやり場に困っているリルからシーツを奪い、代わりに地図の写しを押し付け、Olは説明する。</p><p>今、このダンジョンは地上への穴からこのコアのある部屋までほぼ直通の道が通じている。ここを掘り当てる為に、俺が真っ直ぐ掘ったからな。これでは侵入者がいた場合、すぐにこの部屋を攻められる事になるが、これは非常にまずい。ダンジョンコアが壊されればすべては終わりだ。そう簡単に辿りつけぬ様に、ダンジョンは複雑な迷宮にしてやる必要がある</p><p>そもそもこの部屋にはいれないように、壁で囲っちゃえばいいんじゃない？</p><p>素朴な疑問を口にするリルに、Olが首を横に振る。</p><p>それが出来んのが二つ目の理由だ。このダンジョンは龍脈の真っ只中に存在しているが、そこにコアを置けば勝手に魔力が溜まるという訳ではない。ダンジョンの通路に魔術的な彫刻を施し、周辺の魔力を通路を通してコアへと流し込むようになっている。ちょうど、植物が根を伸ばし、地中の養分を取り込む事に似ている。ダンジョンを広げれば広げるほど、大量の魔力がコアへと流れるというわけだ。コアを隔離すればそれも適わん</p><p>あー、なるほどね。ダンジョン自体が立体的な魔法陣みたいになってるんだ</p><p>飲み込みが早いな。みたいなではない。実際、これは魔法陣なのだ</p><p>図や模様には意味があり、意味には力がある。</p><p>魔法陣とは、模様の意味を利用する魔術の一種だ。例えば、円には内と外の区別という意味があり、円だけで進入を拒む最小の魔法陣となる。</p><p>Olが作ろうとしているのは、それを途方もなく発展させたものだった。壁に魔法陣を掘りこみ、さらにその壁自体も全体を見渡せば魔法陣となる。</p><p>更に、通常の魔法陣とは違い平面的なものではなく、地下のダンジョンで作る事で立体的な魔法陣を構築するのだ。</p><p>へー器用な事考えるのね</p><p>何を他人事の様に言っている？</p><p>地図を見て感心するリルに、Olは呆れてため息をつく。</p><p>お前を呼んだのは性欲の捌け口の為だけではないぞ。この設計も、お前にやってもらうのだ</p><p>はあ！？ 無理無理無理無理、絶対無理！ これってあれでしょ？魔力を澱まない様にちゃんとコアに届けつつ、侵入者には予測できないような迷宮にしなきゃいけないんでしょ！？</p><p>ついでに、迷宮全体に防衛効果を持たせたり、魔物どもが暮らし易い様、部屋の数や大きさにも気を配る必要があるな</p><p>更に難易度上がってるじゃないの！？ 絶対無理だってば！</p><p>心配せずとも、一朝一夕にやれとも一人で全てこなせとも言わん。俺の元で学び、小さい単位から徐々に仕事を学んでもらう</p><p>地図を改めて見返し、リルは眉根を寄せる。悪魔は人間と違って理論に従って魔術を使っている訳ではない。しかし、基礎的な魔法陣の意味くらいは読み取れる。</p><p>Olが設計したそれの緻密さは、彼女の目から見ても途方もないものだった。</p><p>まさか魔術の勉強をさせられるとはねそりゃまあ契約だからやるけどさ、あんまり期待はしないでよね？</p><p>これを見て困難さを理解できているなら、問題ないだろう。知とは何を知っているかより、何を知らぬかを理解している事の方が肝要なのだ。お前ならいずれ出来るだろう</p><p>真っ直ぐ見つめて言うOlに、思わずリルは視線をそらす。</p><p>まあ、やるだけはやってあげるわよ、使い魔だし</p><p>Olは頷き、ニヤリと笑みを浮かべるとぽんとリルの両肩に手を置く。</p><p>では、まず簡単な練習から始めようか</p><p>この笑みはと、リルが気付いた頃には、もう遅かった。</p><p>うう、臭い</p><p>リルは壮大に顔をしかめながら、ごりごりと小刀を動かす。</p><p>ぐにゃりとした嫌な感触と、べとべととした血や脂が手を汚し、全身酷い有様になっている。</p><p>彼女は動くしかばねとなった元村人達から、肉を剥ぎ取る作業の真っ最中だ。</p><p>あまり骨を傷つけるなよ。肉はしっかりと取り除け、つけばつくだけ邪魔になるからな</p><p>こんなの燃やしちゃえばいいんじゃないの！？</p><p>駄目だ。燃やせば骨も脆くなって使い物にならん。良質なスケルトンを作りたければ、やはり手で肉を取り除くしかない</p><p>リルに課した勉強のその一は、スケルトンの作成だった。</p><p>リビングデッドは死体さえあれば簡単に作れるが、動きは鈍くあまり強くない。</p><p>幾らダンジョンを複雑な迷宮にしても、そこを守るのがこれでは何の意味もない。</p><p>肉を全て取り除き、骨に呪文をかけた動く骨であるスケルトンもそれほど強い訳ではないのだが、それでもリビングデッドよりはかなり動きが早い。</p><p>死体の筋肉は機能しない為、ついていてもただの重りにしかならないのだ。勿論、防具の役割はするのでリビングデッドに比べれば耐久性に若干の難はあるのだが、そもそもリビングデッド自体たいして耐久力があるわけではない。</p><p>人間並みの速度で動けるスケルトンの方が防衛に向いているのは明白だった。</p><p>肉を取り除いたら、骨に魔法陣を彫り、動くようにしろ。関節部分に魔力を流す様に掘るのだ。擬似知覚をつけるのを忘れるなよ、めくらのスケルトンを作っても仕方ないからな</p><p>死体の肉を綺麗に剥ぎ取って骨だけにし、魔法陣を彫り、次の死体に取り掛かる</p><p>死体は小さな村だったとは言え数百体はいる。</p><p>では、俺は別の仕事に取り掛かるからな。サボらず作業を続けておけよ</p><p>ちょっ、待っちょっとくらい手伝いなさいよこの馬鹿主人ーーーーーっ！</p><p>暗い洞窟に、リルの叫び声が響いた。</p><p>第4.5話ダンジョン解説</p><p>第4話終了時点でのダンジョン。</p><p>階層数：1階層</p><p>瘴気：1</p><p>悪名：1</p><p>貯蓄魔力：7（単位：万/日）</p><p>消費魔力：2（単位：万/日）</p><p>寝室LV1</p><p>村から強奪してきた家具で一応寝室としての体裁を整えた部屋。</p><p>セックスしても身体が痛くならない。</p><p>キッチンLV1</p><p>村から強奪してきた食器や調理器具で一応台所としての体裁を整えた部屋。</p><p>料理は主にOlが作る。</p><p>水洗トイレ</p><p>邪悪なる魔術師といえども食事をすれば出すものは出す。地下水脈を発見したので、それを利用して水洗トイレを作った。流れる、というか流れっぱなし。落ちると生命が危うい。</p><p>ガーゴイル</p><p>戦力：5消費魔力：0.1</p><p>石像のような姿をした悪魔。悪魔としては下級から中級程度に分類されるが並みの魔物よりはよほど強い。頑強な肉体と自由に宙を飛びまわる羽、鋭い爪で戦う。魔術は使えない。</p><p>動く死体(リビングデッド)</p><p>戦力：2</p><p>村人の死体に魔術をかけ、動かしているもの。10体程度単位でこの戦力。雑魚といっていい。</p><p>インプ</p><p>戦力：1消費魔力：0.01</p><p>悪魔の中でも下級中の下級。契約とか深く考えずに魔力で幾らでも従えられるのだけが強み。ごく簡単な魔術を使えるが、ぼんやり歩いている人間を転ばせる、とか馬を驚かせる、程度の悪戯レベルでしかないので、戦力には数えられない。</p><p>ダンジョンコア周辺にいくつか部屋が出来たが、まだ防衛設備は殆どない。リビングデッドは一部が入り口付近で見張りをしているものの、大半はリルが突貫作業でスケルトンに改造中である。</p><p>第5話愚かな侵入者を捕えましょう</p><p>オ～ウ～ル～</p><p>地獄の底から響くような声をあげ、よろよろとリルが姿を現す。</p><p>その身体は全身血塗れで、凄まじい異臭を放っていた。</p><p>どうした。仕事は終わったのか？</p><p>終わったわよっ！ ああもう体中どろどろで気持ち悪いったら！</p><p>振り向きもせず問うOlに怒鳴り返すリル。すると、Olは意外そうにリルに視線を向けた。</p><p>もう終わったのか。思ったより早かったな</p><p>Olがリルにスケルトン作りを命じてから、既に三日が経っていた。</p><p>数百体はある死体の肉を削ぎ、骨に魔法陣を彫ってスケルトン化する作業だ。</p><p>途中で作ったスケルトンに手伝わせる事に気付いたとしても、一週間はかかるだろうとOlは見ていた。</p><p>なんかゴブリンが沢山迷い込んできたから、魅了して手伝わせたの。それよりこれ何とかしてよ</p><p>リルは血と脂でどろどろになった身体を示していった。</p><p>ゴブリンと言うのは、身長4,50cmほどの小さな鬼の一種だ。見かけは醜悪で力も弱いが、大勢で群れるし手先は器用なのでそういった手伝いには確かに最適だろう。</p><p>そちらも思ったより早いな。いいだろう、こっちについてこい</p><p>いつもみたいに魔力で吹き飛ばしてくれればいいんだけどって、何これ！？</p><p>ぶちぶち言いつつもOlの後をついていくリルは、眼前に広がった光景に目を見開いた。</p><p>10m四方ほどの大きな部屋の中央には大きな穴が掘られ、そこにはなみなみと水が満たされていたのだ。</p><p>地下水脈を見つけてな。ここに引いてみた。少し待ってろゴーレム！ 岩を水の中に入れろ！</p><p>Olが命じると、部屋の片隅に鎮座していた石の像がゆっくりと立ち上がる。</p><p>ガーゴイルに似ているが、存在としてはむしろリビングデッドの方が近い。Olの魔力によって仮初の命を与えられた岩の人形、ゴーレムである。</p><p>ゴーレムは部屋の隅で盛大に焚かれていた炎の中に手を差し込むと、赤く焼けた大きな岩を取り出した。人間であれば重篤な火傷は免れ得ないところだが、岩で出来たゴーレムには何の影響もない。</p><p>そして、そのまま赤く焼けた岩を人工の泉の中に放り込む。じゅわっ！ と音がして湯気を立てながら、岩は泉の底に沈んでいく。2,3放りこむと、泉の水はちょうど良い温度になった。</p><p>赤く焼けた岩はそうそう冷たくなる事はない。が、泉の水は少しずつ水源から流れて来る水と徐々に入れ替えられるので熱くなりすぎる事もない。ここ数日でOlが調整し作った自慢の湯殿だった。</p><p>お風呂作ってくれたんだ</p><p>胸の前で手を組み、リルは感激に目を輝かせた。Olは別にお前の為じゃないという言葉を飲み込む。実際、リルが仕事を終えるのはもっと後になるだろうと思っていたのだから、リルのためであろうハズが無いが、一々いう事でもない。</p><p>まあな。ゴーレム、新しい岩を焼いておけ。さて、では入るとするか。先に桶で身体を洗い流せよ</p><p>あれ？ Olも入るの？</p><p>桶を受け取りながら、リルは尋ねる。</p><p>ああ。悪魔とは言え、三日も飲まず食わずで疲れただろう？</p><p>Olの意味する所を理解し、リルもにっこりと笑う。</p><p>じゃあお湯とお食事、頂きまーす</p><p>数分後、大きな部屋に嬌声が響き渡った。</p><p>はー気持ちいー</p><p>ゆったりと湯につかりながら、満足そうにリルは呟く。</p><p>彼女は汚れを湯で洗い流した後、Olからたっぷりと精を注がれ、今はのんびりと湯の温度を楽しんでいた。</p><p>そういえばゴブリンが来たと言っていたな。仕事を手伝わせた後はどうした？</p><p>湯に入ってリラックスしているのか、こちらもいつもよりほぐれた表情でOlが尋ねる。</p><p>そういえば、会った頃からどこかギラギラとした、張り詰めた表情だったな、とリルは思う。焦っているというわけではないだろうが、Olは意識していかめしい表情を作っていた気がする。</p><p>湯につかり、リラックスしているOlはどこにでもいる若者の様に見えた。</p><p>と言っても、中身は70を遥かに越える老人なのだが。</p><p>リル？</p><p>あ、うん、えっと、魅了が解けたらなんか入り口の方に巣みたいの作ってたからそのままにしといたよ</p><p>訝しげに名を呼ぶOlに、リルは慌てて答える。</p><p>そうか、ならばそれでいい今後も、このダンジョンが持つ瘴気や魔力に誘われて、妖魔や魔獣の類が迷い込んでくる事はあるだろうが、基本的に放置して構わん。コストのかからぬ外敵への供えになる</p><p>結構あることなの？</p><p>リルの問いにOlは頷く。</p><p>元々ゴブリンは、洞窟の様な暗い場所を好んで巣を作る。ゴブリン以外にも、妖魔には闇を好む者が多い。血が流れれば瘴気も溜まる。屋外と違って風や雨で散らんからな。瘴気が溜まれば、魔に属する者にとっては居心地のいい場所になる。そうすれば魔獣の類もよってくるし、高位の悪魔も呼び出せるようになる</p><p>あー言われてみれば、ちょっと身体が軽くなってるかも</p><p>死体を大量に切り刻んだからな。もっと瘴気が濃くなれば、怨霊の類も発生するし、死者が勝手に動き出す事すらある。これだけのダンジョンを用意してやれば、労せずともある程度の守衛は手に入るのだ</p><p>なるほどねえ</p><p>内心、リルは苦笑する。先ほどまで弛緩していたOlの表情はすっかり元に戻り、口元には僅かながら笑みが浮かんでいる。ダンジョンの仕組みを語る時の彼の表情はいつもこうだ。</p><p>更に</p><p>Olが言葉を続けようとしたその時。</p><p>聞き覚えのない、ジリリリリリ！というけたたましい音が鳴り響いた。</p><p>何これ！？</p><p>侵入者だな</p><p>Olの表情が、更に引き締められた。</p><p>侵入者ってどういう事！？</p><p>急いで身支度を整え、ダンジョンコアへと向かいながらリルはOlに問う。</p><p>恐らく、冒険者だろう。契約をした村のどれかから依頼され、俺を殺しに来たのだろうな。それが警報の罠に引っかかったんだ</p><p>迷宮の入り口には、Olの魔力で罠が張られていた。</p><p>スケルトンの配置は？</p><p>この前渡された地図に、骨のマークがあったからそこに平等に割り振っておいたけど</p><p>よし、上出来だ</p><p>ぽんぽん、とOlはリルの頭を軽く叩く。初めて受けるストレートな誉め言葉に、リルは思わず頬を赤くした。</p><p>今この迷宮にいる守衛は、ゴブリンとスケルトンの他には、ヘルハウンド4匹、ゴーレム2体、インプ382匹だ。インプは戦いの数に数えられんが、初級から中級の冒険者なら十分撃退できるはずだ</p><p>リルの様子は気にもせず、Olはダンジョンコアに辿りつくと魔力を取り出す。そして、コアに流れ込む魔力を通じて、ダンジョン全体に感覚を広げていく。そうする事で、Olはダンジョン全体の様子を手に取るように見る事が出来た。</p><p>中級の冒険者ってどのくらい？</p><p>この前の村長が、中級の中でも上位くらいだ</p><p>Olの言葉に、リルは少し青ざめる。中級一人で防戦一方、奇襲で何とか倒したのだ。中級が数人いたり、上級の相手だったらどうにもならない。</p><p>いた！ スケルトンと戦闘中かしかし、これはなんだと！？</p><p>Olが珍しく焦りの色を滲ませる。彼の見ている光景が見えないリルは余計に不安に駆られた。</p><p>ど、どうしたの？</p><p>スケルトン10体が一撃だ。しかも、相手はたった一人。コイツは上級だな</p><p>ダンジョンコアから手を離し、Olは壁に立てかけてあった杖を手に取り、浴室のゴーレムを呼び寄せる。</p><p>恐らくヘルハウンドも相手にならんだろう。ここで相手をする事になる。相手は魔法剣士だ。ゴーレムとお前で抑えている間に、俺が魔術を叩き込む</p><p>わかった</p><p>神妙に、リルは頷く。リルは一刀の元に屠られるだろうが、どうせこっちの身体は仮初のものだ。死んでも魔界に戻るだけだから問題ない。</p><p>もし勝てたらさ、また呼んでよね。まだまだやる事は山積してるんでしょ？</p><p>勿論だ。来るぞ！</p><p>Olの声に応えるように、通路から一人の女が姿を現す。赤い髪をポニーテールにした、16,7の少女だ。とてもそんな凄腕には見えなかったが、纏う迫力は間違いなく彼女が相当の実力者であると語っていた。</p><p>君が、邪悪なる魔術師Ol？</p><p>ゴーレムとリルの奥に控えるOlに剣を向け、少女が問う。Olは答えず、呪文の詠唱を始めた。</p><p>沈黙は肯定、っと。いくよ！</p><p>小さく呟いた刹那、少女は凄まじい速度で駆けた。迎撃しようとリルが爪を長く伸ばし、ゴーレムが腕を振り上げる。が、少女の動きに対して、それはあまりに遅すぎた。少女は疾風の様にゴーレムとリルの間をすり抜け、一瞬にしてOlの前に迫る。</p><p>しまっ！</p><p>振り向いたリルがみたのは、少女の剣によって刎ねられ、宙を舞うOlの首だった。</p><p>首の切れ目から鮮血がほとばしり、首が地面に落ち、ごろごろと転がる。</p><p>一瞬遅れ、身体の方も地面へと倒れこんだ。</p><p>それと同時に、Olの魔力を失ったゴーレムが腕を振り上げた体勢のまま地面に倒れる。</p><p>君は人間じゃ、ないよね。羽生えてるし。ご主人サマの敵討ちとか考えるタイプ？</p><p>少女がリルに向き直り、油断なく剣を構える。リルは両手をあげて降伏の意を伝えた。</p><p>まさか。私は契約で縛られてるだけだからね。主人が死ねば、契約も無効。とっとと魔界に戻るわよ</p><p>そうなんだ？ じゃあ聞くけど、今あたしが殺した人がOlで合ってるんだよね？</p><p>少女は剣の血を払うと、鞘に収めた。とは言え、不用意にリルの近くに寄ったりはしない。</p><p>リルが彼女に襲い掛かれば、すぐさま剣を抜き放ち両断できるのは明らかだった。</p><p>うん、あってるあってる。すんごい性格悪くて、人使いって言うか悪魔使いも荒いし、実年齢70以上の癖に滅茶苦茶エロいし、ダンジョンの事ばっか考えてるダンジョン馬鹿</p><p>あはは、悪魔さんも結構苦労してたんだ</p><p>朗らかに少女が笑う。</p><p>でもね、そんなに嫌な奴でもないんだよ、うちのご主人様は</p><p>リルの言葉に、少女は僅かな違和感を感じる。その原因を探ろうとする間もなく、リルは爪を伸ばして少女を切り裂こうと腕を振るう。</p><p>わっ！ 敵討ちなんてしないって言ったのに、嘘吐き！</p><p>少女はそれを難なくかわすと、剣を鞘から抜き放った。</p><p>嘘なんてついてないよ。敵討ちなんてしないって</p><p>その言葉に、はっと気付いた時にはもう遅かった。少女に杖を向けたOlが、一言呟く。</p><p>眠れ</p><p>薄れいく意識の中で、少女は違和感の正体に気付く。</p><p>主人の事を評する言葉が、どれ一つとして過去形ではなかったのだ。</p><p>よく気付いたな</p><p>崩れ落ちる少女を抱きとめつつ、Olはリルの頭をぽんと叩いた。</p><p>子供じゃないんだけどと言いつつ、リルは答える。</p><p>言ったでしょ。主人が死んだらとっとと魔界に帰るって。帰ってないんだから、死んでないに決まってるじゃないの</p><p>魔界に帰るのはリルの意思ではない。契約の内容だ。Olはここまで計算して契約内容を考えたのかと、改めてリルは彼の慎重さを思い知った。</p><p>所でどうなってんの、それ</p><p>既にぴったりとくっ付き、血の跡すらないOlの首を指差す。</p><p>若返ったり、体力を戻したり出来るくらいだから傷を治せるのはわかるのだが、流石に死んだのを生き返せるとは思えない。しかも、それが他人ではなく自分自身であれば尚更だ。</p><p>大して珍しい術でもないんだがな。命を別の場所においているから、この身体はどれだけ壊されても死なん。代わりに、身体には傷一つなくても、命の方が壊されたら死ぬが</p><p>ああなるほどね</p><p>何に命を保管しているかは言うまでもない。</p><p>Olが最も大事にしているものつまり、ダンジョンコアだ。</p><p>それで、その子はどうするの？</p><p>リルはOlが抱きかかえる少女を示した。死んだ訳ではなく、ただ眠らせただけらしい。少女は規則正しくすーすーと寝息を立てていた。</p><p>そうだなどうやらコイツは、英雄の星の元に生まれているようだ</p><p>英雄の星？</p><p>鸚鵡返しに問うリルに、Olは頷いてみせる。</p><p>ごく稀にいるんだ。何らかの宿命の元に生まれる人間が。そういった人間は大抵、幼い頃から他の人間とは段違いの能力を持ち、成人すればその道で一流以上の達人となる。が、その人生そのものも平坦なものではなく、必ず大きな不運や幸運を呼び寄せる事となる</p><p>へーもしかして、Olも魔王の星の元に生まれてたり？</p><p>そんなわけないだろう。そうであれば、この齢になる前にダンジョンを完成させるか、野垂れ死んでる</p><p>Olは自身を、才も非才もない、ただ努力した年月の分だけの能力を持つと評した。唯一の僥倖は、寿命までにダンジョンコアを完成させ、龍脈を見つけ出した事だ。</p><p>で、結局その子は？</p><p>再びリルが問うと、Olが表情を曇らせる。</p><p>英雄の星に生まれた者だ。殺そうとしてもそう簡単には死なん。かといって、洗脳魅了の術の類も効き目は薄い。ここぞと言う場面で解けるだろうな</p><p>ぐっすりと寝ているのだから殺してしまえばいいとリルは思ったが、仮にも英雄となるべく生まれた者。殺そうとすれば何らかの奇跡が起こって命を拾うらしい。死ぬのは晩年、力が衰えたとき。それも、惨たらしい死に方をする。それが英雄に生まれついた者の常なのだそうだ。</p><p>じゃあどうすんの？ ずっと寝かせておく訳にもいかないでしょ？</p><p>仕方ない、成功率があまり高くないからやりたくはないが、他に方法もない</p><p>苦渋の表情で、Olは決断した。</p><p>調教するか</p><p>第6話哀れな虜囚を調教しましょう-1</p><p>ユニスが目を覚ますと、そこは暗い石造りの部屋の中だった。</p><p>ぼんやりとした頭で必死に状況の把握に努める。身体を動かそうとすると、右腕につながれた鎖がじゃらりと音を立てた。</p><p>右腕だけではない。両手両足は鎖によって壁につなぎとめられ、大の字の状態から殆ど動かせない。更に身体自体もベッドに鋼の輪の様なもので拘束されていた。</p><p>身に着けていたはずの武器や防具は全て外されており、少なくとも視界の範囲には見当たらない。</p><p>僅かな灯りを灯すランプと、ユニス自身を拘束するベッド、そして鎖。それだけがこの部屋を構成する要素だった。</p><p>入り口には扉すらなく、どこかへと続く通路が闇の中に沈んでいた。</p><p>目を覚ましたか</p><p>その通路から、一組の男女が姿を現した。</p><p>琥珀色の髪に灰色のローブを着た、中肉中背の20歳前後の男。そして、コウモリの翼を生やし、漆黒の髪を持つ、みている方が恥ずかしくなるような服（と言うか、下着？）を纏った美女。</p><p>それをみて、ぼんやりとしていたユニスの意識ははっきりと覚醒した。</p><p>邪悪なる魔術師Olと、その使い魔この二人に、自分は負けたのだ。どうやら殺される事はなかったようだが、果たしてそれは幸運だったのか。かなり怪しいところだ、とユニスは思った。</p><p>一応名乗っておこう。我が名はOl。聞き及んでいるようだが邪悪なる魔術師だ。こちらは我が助手にして女悪魔のリル。お前の名は？</p><p>ユニスは必死に思考をめぐらせる。絶体絶命のこの状況を、どうやったら乗り越えられる？ 武器はない、動く事もできない、生殺与奪権は完全に握られている。</p><p>ユニス。冒険者だよ</p><p>フルネームは教えず、愛称だけを名乗る。力のある魔術師は相手の名前を知るだけで支配する事もできると、以前知り合いの魔術師に聞いた覚えがあったからだ。</p><p>なるほど。ではユニス、一つ教えてもらいたい事があるのだが、お前にここに来るよう頼んだのはどの村の誰だ？</p><p>別に誰に頼まれた訳でもないよ。邪悪な魔術師の噂を聞いて、成敗しようとやってきただけだから</p><p>自分でも厳しい言い訳だとわかっていながら、ユニスはそう言った。何の罪もない、純真な村人達に迷惑をかけるわけには行かない。それに、半分は嘘ではないのだ。魔術師の話を聞いて、自分が倒してくる、と戸惑う村人達を半ば振り切るようにして出てきたのだから。</p><p>ほうでは、その噂をお前に教えてくれたのは？</p><p>ぐ、とユニスは言葉に詰まる。言い方を間違えた事に気がついた。</p><p>か</p><p>か？</p><p>風の噂で</p><p>リルが心底呆れたような表情をする。ユニスは言った事を自分で後悔した。</p><p>風の噂かそれならば仕方ないな</p><p>ところが、Olはそんな苦し紛れの言葉に納得するかのような態度を見せた。</p><p>そ、そうそう！ あたし頭悪いから、どこで聞いたかなんてすっかり忘れちゃってさ！</p><p>ば、馬鹿！</p><p>ユニスの言葉に、何故かリルが慌てて言う。</p><p>それも、Olに対してではなく、ユニスに対してだ。</p><p>覚えてないなら仕方ない。全ての村を焼き払うしかないな</p><p>何気ない様子で続けたOlの言葉に、ユニスは表情を凍りつかせた。</p><p>害意も無い村を焼き払う事は残念だが、仕方ない。他に替えが無いでもなし</p><p>やめて！</p><p>Olの言葉を遮り、ユニスは叫ぶ。</p><p>村の人は何も悪くない！ あたしが、あたしが勝手にやった事なの！だから、お願い、村の人達だけは</p><p>ガチャガチャと鎖を鳴らし、ユニスは懇願する。</p><p>この状態では、頭を下げる事も、すがりつく事もできない。</p><p>では、悪いのは全てお前である、と言うのか？</p><p>そうだよ！ 村の人は何も悪くない、止めるのを振り切ってあたしが勝手に！</p><p>では、咎を受け入れ、全ての罰をその身に受ける事を誓うか？</p><p>誓う。誓うから、村の人達には、絶対に手を出さないで</p><p>人聞きの悪い事を言うな</p><p>Olは噛んで含めるように、言葉を綴る。</p><p>村人を殺されたくなくば、いう事を聞け等と、お前を脅しているのではない。罪の在り処を問うているのだ。邪悪と自称するこの身なれど、罪無き者を無為に殺すような真似はせん。以前滅ぼした村とて、我に楯突き刃を抜いた故の事。罪がお前にのみあると言うのなら、他の者を罰する道理など無い</p><p>わかった。罪は、あたしにだけある。だから、罰もあたしにだけ与えて</p><p>ユニスはOlを真っ直ぐ見つめ、そういった。これから自分がどのような目にあうかは、おおよそ予想がついている。しかしそれでも、村人達に迷惑をかけることだけは避けたかった。正義感の強い、英雄となる運命を持った少女の最後の意地だ。</p><p>わかった。ならば、お前に罰を与えよう</p><p>Olは懐から短剣を取り出し、その刃を動けないユニスの胸に当てた。</p><p>鋭い痛みを覚悟し、ぐっと目を瞑るユニスの予想とは裏腹に、短剣はユニスに傷一つつけず滑らかに胸元から腰にかけて走った。それに沿って、彼女の着ていた服がスッパリと両断される。</p><p>それは、ユニスが予想していた展開の中でもっとも可能性が高く、もっとも起こって欲しくないものだった。</p><p>しかし、肌を露にしたユニスに近づいてきたのは、案に相違しOlではなくリルだった。</p><p>彼女は女のユニスでも惑わされるような妖艶な笑みを浮かべながら、透けるように白い指先をユニスの胸元に滑らせる。</p><p>ふぁっ</p><p>声をあげた後、ユニスは自分から甘い声があがった事に驚愕した。</p><p>ふふ、可愛い。敏感なのね</p><p>ん、ぅ</p><p>つぅ、とリルは指先をユニスの胸から臍の方に滑らせる。今度は声を出さないようにと構えていたにも関わらず、なんともいえないぞくぞくとした感覚が背筋を駆け抜け、ユニスは声を漏らす。</p><p>リルが触れた場所がじんわりと熱を帯び、ユニスの身体の奥の方が疼く。今まで感じた事のない快楽に、ユニスは完全に翻弄されていた。同性相手とは言え淫魔の手管は凄まじく、軽く触れていくだけでユニスはどんどん高まっていく。</p><p>そろそろここも弄ってあげましょうか</p><p>不意に、リルがユニスの股間に指を這わせる。</p><p>ふふ、もうぐしょぐしょね</p><p>クスクスと笑いながら、リルはわざと音を立ててユニスの陰部をまさぐった。くちゅくちゅと音を立てられ、ユニスの顔は羞恥に赤く染まる。</p><p>ここはどうかしら？</p><p>ひあっ！！</p><p>リルの指がユニスの最も敏感な部分淫核をかすめ、ユニスは思わず高く声をあげた。</p><p>いい反応ね。処女だけど、オナニーはちゃんとしてたんだ？</p><p>そ、そんな事ふぁっ！</p><p>言い返そうとした瞬間にリルが陰核をすりあげ、またもユニスは声をあげる。</p><p>そんな事、何？ そんな事大好き？</p><p>そうよね、ここをこんなに尖らせてよがってるんだもの</p><p>ふ、ぁぁぁっ！ そ、んにゃぁあっ！ い、やめっ、駄目ぇっ！</p><p>脇腹をくすぐり、乳首に舌を這わせ、かと思えば股間を指でさすりあげる。リルは完全にユニスの反応を掌握し、虚を突いてはその身体を翻弄していた。</p><p>さて、そろそろいいわよ</p><p>そんな言葉と共に、ぐいと両脚が押し開かれる感覚にユニスは我に返った。ここしばらくの記憶が無い。どうやらいつの間にか意識を失っていたようだった。</p><p>覚えている限りで、リルはユニスを一刻（2時間）は嬲っていただろうか。その人ならざる愛撫にユニスは何度も声を上げ、許しを乞い、よがり狂った。</p><p>汗と愛液でベッドのシーツはぐちゃぐちゃに濡れ、尻の下は失禁でもしたのかと言うくらいぬるい水が溜まっていた。恐ろしいのは、そこまでしてなおユニスを絶頂には至らせないリルの指の技だ。</p><p>恐らくその気になればほんの一撫でで気をやらせる事も可能なほど昂ぶらせておきながら、けしてオーガズムには至らせず、一刻もの間ユニスを嬲り続けたのだ。</p><p>そういえば、脚は鎖で繋がれて曲げる事もできないのに、何で広げられているんだろうと、ぼんやりと考えていたユニスの意識を、股を裂く様な鋭い痛みが覚醒させた。</p><p>う、あぁぁっ！？</p><p>痛みに視線を向けると、いつの間にかOlが両脚の間に身体を割り込ませ、そのいきり立った物をユニスの秘部に突き入れていた。</p><p>内臓を素手で掴まれている様な、重く鋭い痛みがじんわりとユニスに襲い掛かる。それと同時に、純潔を失ったどうしようもない喪失感が彼女を襲った。</p><p>冒険者として魔物や盗賊達を相手にし、普通の娘の様な恋愛が出来ると思っていた訳ではない。しかし、それでも彼女は人並みに初体験と言うものに夢を抱いていたし、大切にもしていた。それが今、見も知らぬ男によって踏み躙られたのだ。知らず、ユニスの頬を涙が伝った。</p><p>そんな彼女の頭に、Olは優しく手を置く。すると、じんわりとした暖かさがその手から伝わり、痛みがすうっと引いていく。</p><p>大丈夫だ。痛みはきえただろう？</p><p>ユニスはこくりと頷いた。</p><p>耳元で囁かれた優しげな声は、ユニスの胸にあいた喪失感にスコンと収まった。頭では、今目の前にいる男こそが自身の純潔を奪い、汚したのだと理解している。</p><p>しかし、ユニスの心は失ったそれを目の前にいる男が癒し、埋めてくれると感じていた。感じてしまっていた。</p><p>動くぞ</p><p>ゆっくりと、Olが抽送を始める。その動きはユニスを気遣うように優しいものだった。破瓜の痛みはOlがユニスの頭を撫でる度に和らぎ、代わりにOlのペニスがユニスの奥を突くたびに、身体と心を甘い疼きが満たしていった。</p><p>ぐ、う！</p><p>ユニスは歯を食いしばり、それに必死に耐えた。これは、罰だ。罪を犯したものへの当然の罰。だから、ユニスは耐えなければならない。</p><p>しかし、それは唐突に中止された。Olは動きを止め、じっとユニスの顔を見つめている。ユニスも、困惑した表情で彼を見つめ返した。</p><p>どうかしたか？</p><p>Olは尋ねるが。そう問いたいのはユニスの方だった。何故、動きを止めてしまうのかそう言おうとして、ユニスは口をつぐんだ。そんな事を思うなんて、どうかしている。</p><p>思う事があるならば、素直に述べてみろ</p><p>しかし、Olはそれを見透かしたようにささやいた。</p><p>思った事を言うのは罪ではない。自然に、あるがままに振舞う事が何故罪となる？何も耐える必要などなく、そのまま受け入れれば良いのだ。それが正しい事だろう？</p><p>嬲られ、焦らされ、熱に浮かされたように理性と忘我の狭間で揺れるユニスの中に、その言葉は染み込むように響いた。</p><p>として</p><p>どうした？</p><p>我知らずユニスの口から出た呟きに、Olが彼女の耳元で囁くように問う。</p><p>もっともっとして！</p><p>とうとう、ユニスは叫ぶように求めた。</p><p>こうか？</p><p>うんっ！ それぇっ！ それが気持ちいいのぉっ！</p><p>奥まで突き入れると、ユニスは嬌声をあげてそれを迎える。拘束され殆ど動かない身体を懸命に揺らし、少しでも快楽を貪ろうとする。</p><p>いいぞ。ユニス、最高だ</p><p>んんっ、はぁっ、いぃ、いいよぅ</p><p>既にユニスの表情は快楽に溶け、目には理性の光はない。ただ貪欲に快楽を求め、全身でOlを受け入れていた。</p><p>Olはユニスの奥に突き入れながら、彼女の拘束を一部解く。</p><p>ユニスはすぐさま腕をOlの首に回すと、ぎゅっと抱きつきながら激しく腰を動かした。</p><p>ああっ、すごい、すごいよぉ！ いいっ、もっと、もっとしてぇ！</p><p>Olはユニスにキスをしながら、円を描くように腰を動かす。同時に、愛液でぐちゃぐちゃに濡れている淫核を指でなぞり、摘みあげた。</p><p>ああああっ！ それ、それいいっ、いいのぉっ！ いっイ、ちゃっうぅっ！</p><p>途端、ユニスの声色が一段高くなる。</p><p>そうだ、イけっ！ 思いっきりっ！</p><p>あああああああっ！！</p><p>ユニスは身体を仰け反らせ、身体を震わせる。一瞬遅れ、Olはその奥に白濁を吐き出した。</p><p>英雄よ、明星の如く輝け</p><p>Olがキーワードを囁くと、快楽に溶けていたユニスの表情が途端に失われ、瞳は焦点を失った。</p><p>よし、後催眠も上手く効いているな</p><p>瞳を覗いたり、身体を触ったりしてOlは催眠の効き方を確かめる。</p><p>さっきもそれやってたけど、何なの？ 洗脳系の魔術？</p><p>Olがユニスを抱き始めてからは暇そうに部屋の隅で推移を見守ってたリルが尋ねる。</p><p>いや、これはただの催眠術だ。おきているが、意識は無い状態。それを催眠状態と呼ぶ。さっきお前が愛撫した後にかけた時は魔術と単調な刺激でこの状態にしたが、後催眠を刷り込んだ今ならキーワード一つでこの状態に出来る</p><p>起きてるのに意識が夢を見てる状態ってこと？</p><p>いや、むしろ逆だな。夢を見ているときは、寝ているが意識はある。催眠状態になると意識がないから、判断力や思考力は殆どゼロになる。この状態で教え込んだ事はかなり素直に聞いてしまうし、暗示をかけて無意識に行動を制御したりも出来る。初めてのセックスで、しかも無理やり犯されているのにあんなに乱れたのも、さっきかけた暗示のおかげだな</p><p>Olの説明に、リルは興味深げにユニスの顔を覗きこむ。目は開いているし、おきてはいるようなのだが、目の前にいてもリルを見ている様子は全く無い。</p><p>じゃあ、これでずっとOlに仕えろーって言えば、奴隷になるの？</p><p>リルの問いに、Olは首を横に振って否定する。</p><p>いや、催眠術はそんなに万能じゃない。と言うより、出来る事は殆ど無い。本人が嫌がる事はさせられないし、無理にそんな暗示をかければすぐに催眠術は解ける。まあ、だからこそ英雄の星に生まれたこいつにもかけられるわけだが。強制の呪いなんてかけようとすれば一発で弾き返される。英雄の道を阻む者は必ず排除される運命だからな</p><p>これは道を阻んでる事にはならないの？</p><p>ユニスを拘束していた鎖や拘束具を示し、リル。</p><p>勿論なる。だから、この方法で拘束すればそのうち何らかの方法で抜け出すだろうな</p><p>魔術で小さな炎を出し、ユニスの前で点滅させながらOlは答える。単純な光の明滅を繰り返す事で、解けかけていた催眠状態を更に深くしていく。</p><p>さぁユニス、お勉強の時間だ。優しくしてくれる人はどんな人だ？</p><p>優しくしてくれる人はいい人です</p><p>抑揚の無い声でユニスが答える。</p><p>傷を癒してくれる人どんな人だ？</p><p>傷を癒してくれる人は優しい人です</p><p>しっかり覚えているようだな。偉いぞ</p><p>ここまでは、抱く前にユニスにかけた暗示の再確認だ。</p><p>さっきも思ったんだけど、それって当たり前の事じゃないの？</p><p>リルの問いに、Olは頷く。</p><p>そうだ。当たり前だから、当たり前に受け取る。当たり前でない事を受け入れさせるのは難しい。だが、受け入れてしまった事は比較的無条件に刷り込まれる。たとえ相手が自分を強姦している憎い男であろうとも、少しでも優しくされればいい人だと無意識に思ってしまうんだ</p><p>この暗示をかけていたから、ユニスはあそこまで善がったのだ。</p><p>じゃあ毎回その暗示をかけておけば、後はちょっと優しくしておけばその子はOlに懐くの？</p><p>再び、Olは首を横に振る。</p><p>そう簡単じゃない。さっき上手くいったのは、お前の愛撫で冷静な判断力を失ってたからだ。落ち着いて、時間が経てば自分がおかしかった事に気付く。俺への好感は残るだろうが、論理的な思考で俺を敵と思う事は変わらない。まあ、多少手心を加えてくれる事はあるかも知れんが</p><p>その前に、手を打たないとな。</p><p>そう呟き、Olは更にユニスに暗示を加えていった。</p><p>第6話哀れな虜囚を調教しましょう-2</p><p>ユニスが再び目を覚ますと、そこはやはり暗い石造りの部屋で、彼女はベッドの上に寝かされていた。</p><p>汗やその他体液でべとべとに汚れたはずのシーツはさらさらした真新しいものに取り替えられており、一瞬あれは夢だったのだろうか、とユニスは考えた。</p><p>しかし、秘部を穿たれて大声で善がった記憶と、僅かに残る身体の火照りが夢などではなかったと訴えており、彼女は悔恨と羞恥に頭を抱え</p><p>自分の頭を抱えられる事に、気付いた。</p><p>相変わらず武器や防具の類は見当たらないし、魔術も封じられているようではあったが、身体を拘束するものは何も無い。部屋には扉もついておらず、そのまま通路に通じているところも元のままだ。</p><p>今なら、逃げられる？</p><p>そんなユニスの考えを読んだかのように、通路の奥からOlが姿を現した。</p><p>思わずユニスは身構え、ベッドから離れる。</p><p>そう警戒するな。もう危害は加えん</p><p>Olが指をパチンと鳴らすと、部屋の中央の床がぐにゃりと歪み、意思を持っているかのように動くと簡素なテーブルと椅子の形をとってまた石に戻った。</p><p>丸一日寝ていたんだ。腹も減っただろう</p><p>そういってOlは手に持っていた皿をテーブルの上に乗せた。</p><p>毒でも入ってるの？</p><p>起きている時にわざわざそんな事をするんなら、寝てる間に殺してるだろう</p><p>訝しげに見るユニスを尻目に、Olはさっさと席について皿を手に取る。Ol自身も食事を取るつもりらしく、料理の盛られた皿は二つあった。</p><p>それもそっか</p><p>納得して、ユニスはOlの向かいに座る。皿に盛られていたのは小麦粉を練って細長くしたものを茹で、ひき肉のソースをかけたものだった。</p><p>これってパスタ？ 珍しいね</p><p>知ってるのか</p><p>こくりとユニスは頷く。この辺りの地方では、小麦粉はパンにして食べる事が多く、あまり麺類には加工しない。文化が根付いていないという事もあるが、この辺りで作られている小麦があまり麺類には向いていないというのもある。普通に作ると、どうしても口当たりがボソボソとしてしまうのだ。</p><p>ん、でも美味しい。これってディングラードの方の料理でしょ？このソースははじめて見るけどよく合うね。小麦を取り寄せたの？</p><p>いや、小麦はこの辺りのものだ。つなぎに一工夫を凝らして食感を良くしてある。ソースも一応俺のオリジナルだな</p><p>ふーんって、ええっ！？</p><p>急に叫ぶな。驚くだろう</p><p>全く驚いた様子の無い表情で抗議するOlに、ユニスは身を乗り出す。</p><p>え、これ、君が作ったの！？</p><p>そうだが、悪いか</p><p>憮然とした表情でOlがぼやく。</p><p>え、だって、邪悪な魔術師が料理とか</p><p>邪悪だろうが魔術師だろうが腹は空く。リルは悪魔だから人間の食べ物など食わんし、食わない物を作れる訳もない。人手不足で他に作るものもいないから、俺が作るしかないだろう。それに、料理は魔術実験に似ている。中々上手いものだろう？</p><p>心外そうに眉をひそめ、自作の料理を口に運びながら言うOl。</p><p>うん、美味しい</p><p>パスタをフォークに絡めて口へと運び、ユニスは素直に認める。少なくとも旅の間食べていた携帯食や、野生の動物を狩って火で炙っただけのものよりも数倍美味しかった。</p><p>さて</p><p>食事を終え、立ち上がるOlにユニスは再び身構える。そんな彼女に、Olは呆れたようにため息をついた。</p><p>そう身構えるな。もう危害は加えないといっただろう。昨日のアレは俺の命を狙った罰だ。もうこれ以上罰を与える気はない</p><p>あそ、そうなんだ</p><p>ユニスは自分の心に戸惑う。Olの言葉に感じたのは、大きな安堵。</p><p>しかし、その奥にほんの少しだけ、残念に思う気持ちがあった。</p><p>困惑するユニスに、Olが言葉を付け足す。</p><p>ただし、俺になお刃向おうというなら話は別だが</p><p>鋭い目で見据えるOlに、ユニスは答えを返せず押し黙った。</p><p>俺の邪魔をしないと言うなら、このままこの迷宮を出て行っていい。武具も返すし、封呪も解いてやる。だが飽くまで敵対するというなら、容赦はせんぞ</p><p>どうして？</p><p>ユニスは瞳に困惑の光を浮かべ、Olを見つめた。</p><p>君は邪悪なる魔術師とか言ってるけど、そんなに悪い人じゃない気がするそりゃ、あたしも酷い事されたけど、先に首刎ねちゃったのはこっちだし、罰を受けるのは仕方ないでも、どうして何の罪も無い村の人たちを一方的に脅して搾取したりするの？</p><p>ユニスの訴えにOlは考え込むように口元に手をやり、ふむと唸った。</p><p>どうやら、少し誤解があるようだな</p><p>誤解？</p><p>ユニスの心はOlを信じる方に傾きかけてきていた。</p><p>口元にやった手の向こうで、口が笑みの形に曲がるのに気付かぬまま。</p><p>Ol様！ 申し訳ありません、供物の準備はまだ整っておりませんで明日の夜までには必ず用意いたしますので！</p><p>良い、気にするな。元々供物は1の日という約束だ。約束の通りに用意してくれれば良い</p><p>村に着くなり、走りよって平伏する村人にOlは鷹揚に答えた。その隣には、ユニスを伴っている。武具はまだ返していないが、拘束具の類もつけていない。</p><p>では、本日はどのような</p><p>うむ。田畑の様子を見に来た。それと少し気になる事があってな</p><p>田畑？</p><p>意外な言葉にユニスは目をパチパチと瞬かせる。</p><p>そうですか！ ではどうぞこちらへ、粗末な村の畑ではごぜぇますが、Ol様のお力でみるみる育ち、もう冬も近いってのに今年一番の豊作でさぁ！</p><p>村人に案内された先には、様々な作物が豊かな実りを見せていた。どれも一般に流通しているものより遥かに巨大で瑞々しい。</p><p>一週間でここまでになるとは驚きでさぁ。これで余裕を持って冬を越せます。入り口においていただいたガーゴイルのおかげか、ゴブリンどもや野犬も全然手を出してこねぇし、Ol様にはほんに感謝しとります</p><p>うむ。それは何よりだ。冬の間はカブを植えよ。カブは冬でも良く育つし、滋養もあり、家畜の餌にもなる。冬でも安定して餌を作れるから、冬に入る前に絞めてハムや腸詰にする必要もない</p><p>わかりました！ 早速村の者達にも広めます</p><p>うむ。それと、さっきから気になっていたが、顔色が優れぬな。体調が悪いのか？</p><p>ええ最近ちょっと風邪を引いたみたいでして。何、2,3日もすれば治りまさぁ</p><p>ぐっと腕に力を込めてみせる村人に、Olは掌から琥珀色の魔力を光らせながら触れる。</p><p>いや。これは性質の悪い流行り病だな。最近、大規模な死相がこの辺りを覆っていたが、やはりそういう事か</p><p>Olはローブの中からごそごそと瓶を取り出すと、村人に手渡す。</p><p>とりあえずはこれを渡しておこう。体力を底上げする薬だ。体調を崩したものが出たら、この中の液体を一匙、水に混ぜて飲め。病気が治るわけではないが、命を落とすのは免れるだろう。近いうちに病気の治療薬も調合して持ってきてやる</p><p>村人は目を見開くと、ぷるぷると震える手で瓶を受け取り、その場で土下座せんばかりに平伏した。</p><p>あありがとうごぜぇます！ Ol様はこの村の恩人です！</p><p>そう畏まらんで良い。お前達が俺に報いる限り、俺もお前達を守ってやる</p><p>Olの言葉に更に頭を低くする村人に別れを告げ、Olはユニスと共にダンジョンへと帰還した。</p><p>ごめん、あたしOlの事誤解してた！</p><p>ダンジョンに戻るなり、ユニスはOlに頭を下げた。</p><p>力で無理やり村人達を脅して、不正に搾取してるんだと思ってたでも、村人のOlを見る目はまるで善政を敷く領主でも見るみたいだった。ううん。どんな領主も税をとるけど、あんな小さな村を魔物から守ったり、作物を増やす助けなんてしない。やっぱり、Olは邪悪なんかじゃなかった</p><p>そこまで買いかぶられるとこちらも少々辛いのだがな。無意味に殺したりはしないが、楯突くものは容赦なく殺すのだから邪悪である事にはかわりない</p><p>これは半分以上は本音だ。しかし、ユニスは首を横に振った。</p><p>それは悪いことをしたら罰を与えるのが当たり前だし。それに、Olはあたしの事は殺さなかったでしょう？</p><p>悪いことをしたら罰を与えるのが当たり前と言うのは、催眠で刷り込んだものだ。元々正義感が強いユニスはそれを殆ど抵抗なく飲み込んだ。</p><p>それなんだがな本当に罪があったのはお前なのか？</p><p>それはそう、だよ。昨日そう言ったでしょう？</p><p>だが、お前は俺が村と取引している事を知らなかった。お前に俺を殺させて生贄を渡すことなく、田畑への祝福や魔物からの守護だけを受け取ろうとしたのではないのか？</p><p>それはその、多分、あたしが慌てて飛び出したから説明する暇がなかったんじゃ</p><p>ユニスは村人を庇おうとするが、昨日感じたほどの強い決意はないようだった。</p><p>では、確かめにいくか</p><p>ここからが本番だ。Olは、内心そう呟いた。</p><p>それから、三日ほどたった後。Olは剣を携えたユニスを連れ、彼女がOl討伐を頼まれたという村を訪れていた。</p><p>初めはOlに村の場所を教える事を拒んだユニスだったが、彼女の同意なく村を害しはしないと約束し、もし約束を破ればそれは悪であり、好きにしていい、と言って剣を渡すと、渋々納得した。</p><p>さて。俺はここで待とう。その目と耳で確認してくるがいい</p><p>村の外れで、Olはユニスの背中を押す。</p><p>ユニスは不安を抑えながら、村長の家へと向かう。村人達が自分を騙したなどとは思いたくない。しかし、Olの事も信じたい。何か、不幸な行き違いがあったのではないか</p><p>そう信じ、村に足を踏み入れた彼女に向けられたのは無数の殺気だった。</p><p>こいつどの面下げて戻ってきやがったんだ！</p><p>え？</p><p>自分が何をしたのかわかってるのか！？</p><p>村人の罵声に、他の村人達も集まってくる。</p><p>お前がOl様を殺したせいで田畑は枯れ、妖魔どもが家畜を殺していった！</p><p>流行り病が溢れ、子供たちが死んでいった！</p><p>お前のせいで！ お前が正義の味方気取りで余計な事をしたせいで！</p><p>村中の人々がユニスの前に集まり、口々に罵声を浴びせる。</p><p>どういう事？</p><p>ユニスが想像していたのは、村人がOlの事を誤解しているか最悪でも、Olが言った通り、ユニスを利用した、という事だった。予想外の状況に彼女は戸惑い、思わず数歩後ずさる。</p><p>逃げる気か！？ ふざけるな！</p><p>村人の一人が、足元にあった石を拾い、ユニスに向かって投げる。それは当たらなかったが、触発されたのか村人達は次々にユニスに向かって石を投げ始めた。</p><p>畑を返せ！ 俺の牛を返せ！</p><p>あたしの子供を返して！</p><p>Ol様を返せ！ この殺戮者め！</p><p>Olは死んでない、さっきまで一緒に</p><p>ユニスは必死に弁明しようとするが、怒りに燃える村人達には通じない。</p><p>これでも喰らえっ！</p><p>最初に石を投げ始めた男が、こぶし大の岩をユニスに向かって投げつける。避ける事は容易かったが、そうすれば更に村人達の怒りに油を注ぐことになる。そう思い、ユニスが痛みを覚悟して目を瞑る。</p><p>何をしている</p><p>しかし、痛みの代わりに降り注いだのは、Olの声だった。</p><p>Ol様！ 生きてらしたのですか！？</p><p>ユニスを庇うように立つOlの姿に村人達は投石をやめる。</p><p>Olどうして？</p><p>ユニスは一体どういう状況なのか理解できず、Olに尋ねた。</p><p>お前に聞くまでもなく、この村がお前をけしかけた事はわかっていた。入り口のガーゴイルは村を守る為に置いたものだが、同時に村を監視する為のものでもある。しかし、この村人達はそんな事さえお前には伝えなかった</p><p>ユニスが呆然と見上げると、Olの腕から一筋、血が流れた。ユニスを庇って腕に投石を受けたのだ。</p><p>罪は全てお前が被った故、村人達に危害は一切加えていない。だが、贄の代償として畑に与えていた魔力は止め、ガーゴイルの制御もなくし、他の村には配った流行り病の薬もこの村には与えなかった。それを、村人達はお前が俺を殺した故の事だと思ったらしいがな</p><p>オOl様！ 我々には、あなた様に危害を加える気は一切ございません！</p><p>全ては、そこの女の独断です！</p><p>Ol様、どうかお慈悲を！ 我々は止めたにも関わらず、その女が勝手に！</p><p>口々に叫ぶ村人たち。ユニスを良い様に利用し、都合が悪くなれば掌を返し、あまつさえ罪を擦り付けて売り渡す。</p><p>ユニス。これが、お前が必死に、純潔を賭してまで庇った者達だ</p><p>あははあはははははははは！</p><p>おかしくて仕方がなかった。こみ上げてくる笑いを躊躇なく解放し、ユニスは剣を抜き放つ。</p><p>ごめんね、ありがとう、Olあたしが、間違ってた。あの罪には、罰を与えなきゃいけない！</p><p>ユニスは村人に向かい、つむじ風の様に走る。彼女がその気になれば、投石も敵の数も何の問題にもならない。訓練もろくに積んでいない村人達など、瞬く間に切り殺せる。</p><p>が。</p><p>彼女の振るう白刃が村人の身体を捕える前に、村人達は一人残らず立ち上った炎に包まれ、声をあげることさえ出来ず一瞬にして絶命した。</p><p>いきなり鼻先で立ち上った炎に気勢をそがれ、ユニスはOlに振り向く。</p><p>相手に罪があるからといって、それで殺してしまうのは邪悪な者のすることだ。ユニス、お前はそのまま真っ直ぐでいろ。お前を害する者は俺が全て排除してやる。だから、お前は正義のままでいろ</p><p>Olぅ</p><p>ユニスがぽろぽろと涙をこぼし、Olに駆け寄って抱きつく。</p><p>俺は、俺だけはけしてお前を害さない。だから、お前も俺を害さないと誓えるか？</p><p>Olの言葉に、ユニスは泣きじゃくりながらこくこくと頷く。</p><p>では、我が名、アイン・ソフ・Olにおいて、けしてお前を害さぬと誓おう</p><p>ユニスフィニア・メレディス・ル・エラ・グランディエラの名において、</p><p>けしてOlを害さず、愛し続けることを誓うよ！</p><p>なんだって？</p><p>Olの間抜けな声が響いたのは、二人を琥珀色の光が取り巻き始めた後の事だった。</p><p>お疲れ様。これでとりあえず一段落？</p><p>ダンジョンの奥。今度は罰ではなく、誓いの証として抱いて欲しい。</p><p>そんな事を言い出し、三度ほどOlの精を受け止めたユニスがすっかり妻の様な態度で眠りこけた所で、リルはOlに声をかけた。</p><p>ああ、まあ、一応はなこれでユニスの英雄の星は堕ちたる英雄に変化した。悪徳をなし、魔を好む闇の英雄だ。そうそう俺に歯向かう事はないだろう</p><p>強大な力を持つ英雄の星に危害を加えないという制約を結ばせ、更にその力を手にしたものの、Olの表情は冴えない。</p><p>厄介ごとは一気に増えたがな</p><p>ユニスが愛まで誓う事は完全に計算外だった。信用を得る為にある程度Olに依存させたのは狙い通りだったが、まさかそこまで深く依存するとは思わなかったのだ。だが、それだけならまだいい。</p><p>まさかこのなりで王族だったとはな</p><p>ユニスが名乗った名前は、グランディエラ国の直系を示す名だった。こんな所を冒険者として一人でフラフラしているからには王位継承権は殆どない末席なのだろうが、それでも火種の元になるのは明らかだ。ユニス一人に突破されるような迷宮だ。王国軍に攻め入られても防げるほどのダンジョンにはまだまだ程遠い。</p><p>外に放り出して縁を切ってしまいたいところだが、そういう訳にもいかない。ユニス本人が嫌がるだろうし、嫌がる事を無理やり強制するのは危害のうちに入るからだ。</p><p>まあ、それは後で考えるとして今回、私結構頑張ったと思うんですけど？</p><p>ニコニコ笑いながらリルが言う。しかし、目は笑っていない。</p><p>今回リルがOlに同行しなかったのは、裏で走り回っていたからだ。サキュバスには魔術とは違う、生まれ持った能力がいくつかある。</p><p>例えば、最初にユニスを連れて行った村。そこの村人がOlに対して異常に友好的だったのは、リルが男が持つ理想の女性像に変身する能力を応用してOlの姿で何度も村に赴き、村人達と友好的な関係を築いていたため。</p><p>ユニスにOl退治を依頼した村の村人達がユニスに石を投げたのは、リルが魅了能力で村人達を操り、けしかけたからだ。英雄の星を魅了し操るような事は出来ないが、ただの村人であれば村一つ丸ごと操る程度造作もない。</p><p>そして、本人の同意さえあれば強制の呪いであってもかけることが出来る。望まれる呪いとは、すなわち祝福の事だからだ。ちょうど、結婚を誓う男女がお互いを誓い合うのに似ている。</p><p>だからご褒美欲しいなー、ご主人様</p><p>わかったわかった。こい</p><p>ユニスに召喚した魔獣やゴーレムを壊され、更にユニスの洗脳の為に大量の魔力を消費した。強制の呪いも、出来る限り強力な物をかけたからその消費量たるや凄まじいものだ。</p><p>大分目減りしたダンジョンコアの魔力を横目で見ながら、Olはリルを抱き寄せる。体力回復の魔力も残っていないから、後は自前の体力で何とかするしかない。</p><p>最低4回はしてくれないと駄目だからね</p><p>何を張り合ってるんだ</p><p>予期しない厄介ごとが更に増えた予感をひしひしと感じながら、Olはため息をついた。</p><p>第6.5話ダンジョン解説</p><p>第6話終了時点でのダンジョン。</p><p>階層数：2階層</p><p>瘴気：2</p><p>貯蓄魔力：15（単位：万/日）</p><p>消費魔力：3（単位：万/日）</p><p>非支配層</p><p>第一階層に出来た層。Olが直接支配せず、野生の獣や妖魔が自然に住み着くに任せている階層。作成する部屋の形によってさまざまな魔物がやってくる。現在はゴブリンが住み着いている。</p><p>迷宮LV1</p><p>いくつもの行き止まりや分かれ道による迷路。ちゃんと地図を書きさえすれば迷うことはまずないだろう。</p><p>湯殿</p><p>地下水脈の水を引く事で貯めた池。焼けた岩を放り込む事で湯を沸かす。底冷えする迷宮の中で安らぎのひと時を送ることが出来る。</p><p>ゴブリン</p><p>戦力：1</p><p>雑魚の代名詞。小さな身体と醜い容貌を持つ妖魔の一種。戦力としては全く期待できないが、手先は器用で狡猾な為、ダンジョン中に勝手に簡単な罠を仕掛ける。また、繁殖力が凄まじく、男女の番が1組いれば1月後には数が10倍になっている。他の妖魔の餌としても重要。</p><p>スケルトン</p><p>戦力：3</p><p>リビングデッドから丁寧に肉を取り除き、骨に魔方陣を掘り込む事で作り上げた逸品。丁寧な仕事により戦力が2.5から3くらいには上がっている。が、ユニスに纏めて破壊された。</p><p>ヘルハウンド</p><p>戦力：5消費魔力：0.2</p><p>地獄の猟犬。姿形も行動も犬そのものだが、一応悪魔に分類される。忠実で俊敏。鋭い牙や爪、そして口から吹く炎はかなりの攻撃力を誇る。反面、防御力は普通の犬とそう大差ないためにやられる時は簡単にやられる。勿論ユニスにはあっさり殺された。</p><p>クレイゴーレム</p><p>土に魔力をかけた生ける人形。動きは遅く、素材が土であるため脆いために殆ど戦力にはならない。が、身体が大きく怪力を持っている為、単純な力仕事や壁としては有用。ユニスには破壊すらされず無視された。</p><p>ユニス（英雄）</p><p>戦力：10最大貯蓄魔力：5</p><p>英雄の星の下に生まれた少女。堕ちたる英雄となってもその戦闘能力は健在。回復、攻撃、防御の魔術をバランスよく使いこなし、剣の腕も一流以上。一撃の重さよりスピード重視の戦闘スタイルだが、十分重い一撃を凄まじい速度で放ってくる。</p><p>クレイゴーレムに運ばせ、ダンジョンコアは第二階層に移動した。主な防衛設備はゴブリンの罠とヘルハウンド、簡単な迷宮。ユニスには凄まじくあっさり突破されたが、英雄補正で迷宮も最短距離で突破してきたため、設備の悪さというよりは相手が悪かった。</p><p>第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-1</p><p>日の光が一切差さぬ迷宮の奥で、時間を知ることは容易ではない。入り口付近ならまだしも、奥ともなると地上の暖まった空気すら流れ込んでくる事はなく、時間どころか季節すら感じる事はできない。</p><p>日時計など使えるわけも無いし、時間を伝える教会の鐘の音もない。機械式時計と言うのも考案されたらしいが、それも塔の上に取り付ける巨大なもので、狭いダンジョンの中に設置できるようなものではない。</p><p>そういうわけでダンジョン内での時間を知らせるのは、リルの重要な仕事の一つとなっていた。闇に包まれた魔界で暮らしていた彼女にとっては、今の時間を知る事は呼吸をするのと同じくらい容易い。</p><p>ごっしゅじんっさまー！ 朝ですよー！</p><p>リルは機嫌よくOlの布団を剥ぐ。その途端、にこやかだった表情は怒りに引きつった。</p><p>何でアンタがここにいるのっ！？</p><p>布団の下にはOlに肢体を絡ませるユニスの姿があったからだ。しかも、一糸纏わぬ姿である。</p><p>んんおはよーリル</p><p>おはよーじゃない！ アンタの部屋はちゃんと用意したでしょ？何でOlのベッドに潜り込んでんの！？</p><p>寝ぼけ眼を擦りながら身体を伸ばすユニスにリルは怒鳴る。</p><p>ユニスはぼんやりした表情で小首を傾げ、ぽんと手を打った。</p><p>あー、ダンジョンって底冷えするからついフラフラと暖かそうなベッドに</p><p>ならなんで全裸になってるのよッ！！</p><p>怒髪天を衝く、といった形相で叫ぶリルに、眉をしかめながらOlが身体を起こす。</p><p>やかましい。朝から騒ぐんじゃない</p><p>納得いかないーっ</p><p>Olに用意した着替えを渡しながら、リルは歯噛みした。</p><p>私は朝から着替えの準備に部屋の掃除、洗濯、ダンジョンの見回り、魔物の管理とか、色々忙しくやってるのよ！？ なのに一日中働きもせずぐーたらしてるユニスの方がOlと沢山セックスしてるのはどういう事！？</p><p>お前とはそういう契約だから仕方ないだろう。ユニスに任せようにも、あまり役に立たんしな</p><p>Olの歯に衣着せぬ物言いが、ユニスの心に突き刺さる。元は王族であり、冒険者として根無し草の生活を続けていた彼女は基本的な家事は殆ど出来なかった。</p><p>（それに、ユニスにあまりダンジョン構造を知られても困る。寝返る可能性もあるのだからな）</p><p>（英雄の星の宿命はOlと契約する事で堕ちた英雄に変わったから、強制の呪いはまず解けないんじゃなかったの？）</p><p>（まず、であって100%ではない。また何かのきっかけで英雄に戻る可能性も僅かだが残っている。それがある限り、俺はユニスを完全に信頼する気はない）</p><p>契約を通した念話で、Olとリルはやり取りを交わす。遠回しに自分は信頼されているのか、と解釈しリルは笑顔になった。</p><p>うう、Ol、やっぱりあたしもリルの仕事手伝うよ</p><p>そんな思惑を露知らず、提案するユニスにOlは首を横に振る。</p><p>いや、お前はいざと言う時の剣として役に立ってくれれば良い。それに、リルの仕事も今日からは少しは軽くなるはずだ</p><p>ん？ 手伝いのゴーレムでも作ってくれるの？</p><p>首を傾げるリルに、Olはため息をつく。</p><p>忘れたのか？今日は初めて、生贄の娘が届く日だ</p><p>第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-2</p><p>では始めるぞ</p><p>現在Olが作っているダンジョンの奥の奥、最深部といえる場所に、その部屋はあった。</p><p>便宜上召喚の間と呼んでいるその部屋は10m四方ほどの大きさで、扉は一つだけ。地面には複雑な魔法陣が地面に直接彫り込まれていた。</p><p>Olのダンジョンの大部分には、転移魔術防止の結界が張られている。直接転移魔術でOlの寝室やダンジョンコアを襲撃される事への対策で、この結界の範囲内に転移を試みても元いた場所に跳ね返されてしまう。これは原理的なものなので、術を試すのがどのような存在であれ、覆す事は出来ない。</p><p>しかし、この結界はOl自身にも適用される為、外出や帰還が非常に面倒なものになる。それを回避する為に作られた、ダンジョン内唯一の穴がこの召喚の間だった。</p><p>この部屋にだけは外部から転移する事ができるのだ。当然、この部屋の座標は秘中の秘であり、読心の魔術や記憶を盗まれたりしても外部に情報が漏れないよう、リルやユニスには勿論、Ol自身にも念入りに呪いがかけられている。</p><p>剣を鞘から抜いてはいないものの緊張した面持ちのユニスと、同じく真剣な表情で魔法陣を見つめるリルを左右にはべらせ、Olはゆっくりと呪文を唱える。</p><p>部屋の中の空気がゆっくりと渦巻き、魔法陣が淡い光を放ちだす。Olの唱える呪文がうねり、機織りの様に振るわれる指先から描かれるルーンが輝く軌跡となって魔法陣を取り巻く。</p><p>渦巻く空気はやがて突風の様に吹きすさび、どんどんと力強さを増して竜巻の様にごうごうと音を立てる。</p><p>出でよ！</p><p>Olの叫び声と共に竜巻は一層激しさを増し、ルーンが強烈な発光と共にOl達の目を焼く。</p><p>は？</p><p>Olは思わず間抜けな声を上げる。</p><p>竜巻が過ぎ去り光が収まった後、魔法陣の上に現れていたのは、5羽の鶏と2頭の豚、1頭の牛と</p><p>その上で眠りこける、幼い少女だった。</p><p>子供？</p><p>ユニスが怪訝そうに呟く。</p><p>年齢は5,6歳だろうか。細い金色の髪をこめかみの上で二つ結びにして、貧しい村で調達できる中では最大限上等な服を着て来たようだ。綿で出来た質素なものではあるが、フリルのついた可愛らしいドレスに身を包んでいた。</p><p>そんな少女が、牛の背に抱きつくようにして眠っている。牛の方も時折尻尾をパタパタと振るだけで、少女の存在に頓着する様子はなかった。</p><p>娘よ、起きよ</p><p>Olが声をかけてみるが、少女は全くおきる気配もない。</p><p>叩き起こしたい所だが、こちらから足を踏み入れれば途端に魔法陣はその効力をなくす。逆に、こちらから踏み入らなければ、魔法陣の中から外に出る事は不可能だ。</p><p>村人達が生贄に戦力を仕込んで送る可能性も当然Olは予測し、対策している。その対策を自ら台無しにする訳には行かない。Olは油断なく、もう一度娘に声をかける事にした。</p><p>起きよ。お前は何者だ？</p><p>二度目の声も、少女には届いた気配は無い。器用にも牛の背の上で寝返りを打ち、Olから顔を背けさえした。</p><p>爆睡だね</p><p>リルが呆れたような、感心したような良くわからない表情で呟く。夢を操る夢魔でもある彼女には、少女が完全に熟睡している事が見て取れた。</p><p>起きよ！</p><p>苛立ち半分のOlの声が、まるで雷鳴の様に部屋の中に轟いた。魔術まで併用した怒声に、さすがに少女も身体をびくりと震わせて牛の背から転げ落ちる。</p><p>ふ、ぅぇ？</p><p>落下ダメージはさほどなかったのか、少女はすぐにひょこりと顔を上げると、戸惑ったように辺りを見回した。</p><p>娘よ。お前は何者だ？</p><p>地獄の底から響くような低い声でOlが尋ねると、少女はびくりと身体を震わせ、同じように震える声で自己紹介を始めた。</p><p>え、あ、ぅご、ごきげんうわるしゅう、おうるさま、わ、わたし、は、マリーベルともうし、ます。え、と、い、いご、どうぞおそばにええと、おそばに</p><p>丸暗記させられたのが見え見えの文句を、マリーベルと名乗った少女はたどたどしく綴る。</p><p>魔力は殆ど持ってないよ。少なくとも、大人が魔術で化けたりしてるワケじゃない。見たままの子供</p><p>武器とか使えるわけでもなさそう。フツーの子供じゃないかな</p><p>リルとユニスが、それぞれマリーベルの能力を分析する。Olの所見も彼女達と同様のものだった。</p><p>若くて清らかな娘を寄越せ、とは言ったがな</p><p>幾らなんでも若すぎる。Olはため息をつくと、軽く手で払って魔法陣を打ち破る。</p><p>村に行く。ユニス、共をしろ。リルはその娘の相手をしていてくれ</p><p>また留守番、しかも子守～？</p><p>Olはあたしが守るからねー</p><p>不満を漏らすリルと、嬉しそうにOlの腕に抱きつくユニス。どうしてこう、忠実な部下が手に入らないのだろう、と悩みながら、Olは転移の術の準備を始めた。</p><p>第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-3</p><p>Olはユニスを伴い、マリーベルの村へと転移した。転移先は村の中央の祭壇ではなく、村から少し離れた場所だ。今回の件について、Olは三通りの予測を立てていた。そのうち二つは、こうしてOlが村を訪れる事を見越したものだ。</p><p>一つ目。抗議に来たOlに奇襲を仕掛け、倒す為の罠。</p><p>二つ目。抗議に来たOlが留守の間にダンジョンを攻める為の罠。</p><p>前者は転移先を村から離れた場所にする事で奇襲を避け、ユニスを伴うことで戦力的にも問題ない。後者はダンジョンにリルを残しているから、侵入者があればすぐにわかるはずだ。</p><p>問題は、三つ目だった場合。そして困った事に、その三つ目である可能性がもっとも高い。</p><p>村を訪れるとすぐさま平伏した村人達を見て、Olは自分の嫌な予感が当たった事を悟った。</p><p>つまり、マリーベル以外に清らかな若い女はいない、と、そういう事だな？</p><p>はい、その通りでございます。今、この村には若い娘が殆どおりませんで僅かにいた若い娘も、Ol様がいらっしゃる前に嫁いだもので、男を知らぬ中ではマリーが一番の年嵩なんでございます</p><p>さすがに生贄がOlの望んでいるものでなかった事は理解しているのだろう。村長は身を最大限小さくして、地面に額をつけんばかりに頭を下げた。</p><p>三つ目の予測。それは、村人が最大限誠実に取引を行った結果がこれである、と言うものだった。それは非常に困る。Olは今、切実に人手を必要としているのだ。</p><p>本来なら二ヶ月前に一人生贄が手に入る予定だったのだが、その村はユニスを手に入れる際に丸ごと灰にしてしまった。</p><p>骨も残さず燃やした為、リビングデッドやスケルトンさえ手に入らなかったのだ。</p><p>その言葉に嘘はないな？</p><p>猛禽の様に鋭い目で、Olは村長を射抜く。重圧に耐えかね、村長は震えながら答えた。</p><p>そ、その、一人、おるにはおるのですがとてもOl様に捧げられるような器量の娘ではなく</p><p>良い。その娘を連れて来い</p><p>もとより、Olは村娘の外見には殆ど期待していなかった。所詮田舎の村にそれほど美しい娘がいるとも思えない。処女を要求したのも、性処理ではなく魔術的な価値を重視しての話だ。</p><p>しかし</p><p>二度は言わんぞ</p><p>躊躇する村長に睨みを聞かせると、村長は逃げるように屋敷を飛び出していく。何故そんなに躊躇うのか、という疑問は、連れられて来た娘を見て氷解した。</p><p>長い黒髪に白い肌、均整の取れた体付きに、整った容貌。</p><p>そして、それら全てを台無しにする醜い傷跡が、顔の左半分を覆った娘だった。</p><p>Olの隣で、ユニスが僅かに息を呑む気配を感じる。</p><p>なるほど、醜いな</p><p>Olは率直にそういった。</p><p>幼い頃に重度の火傷を負ったのだろう。半分だけ焼け爛れた肌は、もう半分の美しさと対比されそのおぞましさをいや増していた。長い袖の服から顔を出している指先を見るに、顔だけでなく左半身の殆どが傷を負っているのだろう。この娘を抱こうなどと考える男は皆無であったに違いない。</p><p>ええ、ですから、Ol様のお目に入れるも見苦しく、候補から外した次第でして</p><p>Olの言葉に少し安心したらしく、村長は僅かに緊張のほぐれた表情で言った。</p><p>娘。名は何と言う</p><p>ソフィアと申します</p><p>それに対し、娘は全く臆した様子もなくそう答えた。Olに醜いと蔑まれた時も、眉一つ動かさなかった。その瞳は氷の様に冷たく、表情と同様に何の感情も読み取れない。</p><p>面白い</p><p>Olはニヤリと笑みを浮かべた。</p><p>姿かたちは若返っているとは言え、Olは熟練の魔術師である。その視線を真っ向から受けて、表情一つ変えない者など滅多にいない。</p><p>村長よ。俺はこの娘が気に入った。貰っていくぞ</p><p>は、はぁ、それは構いませんがその、マリーは</p><p>驚きつつも頷き、村長は探るような視線をOlに送る。</p><p>悪いが、マリーベルというあの娘を帰す訳にはいかん</p><p>Olの迷宮のほんの一端とは言え知った者を外に出す気はなかった。</p><p>が、契約は一年につき一人娘を差し出せ、と言う内容だ。無闇にその約定を破る訳にはいかん。10年。今から10年の間、娘を差し出すのを取りやめてよい</p><p>あありがとうございます！</p><p>マリーベルの、と言うよりは来年以降の事を心配していたのだろう。</p><p>Olがそういうと、村長は露骨に安堵の表情を見せた。</p><p>Olとしても、来年から赤子の様な娘を差し出されても困る。</p><p>良いだろう。では10年後の娘と、月々の作物を忘れぬようにせよ</p><p>そう言い残し、Olはユニスとソフィアを抱きかかえるようにして転移の呪文を唱える。</p><p>邪悪な魔術師が姿を消した後、村長は息をついて長椅子に深々と腰掛けた。</p><p>凄まじい圧力を放つ魔術師と、村中で忌み嫌われていた娘が村を去った事に、心の底から安堵しながら。</p><p>第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-4</p><p>召喚の間に戻ると、マリーベルとリルの姿はなかった。マリーベルと一緒にやってきたはずの家畜も姿を消している。リルがちゃんと家畜小屋の方に連れて行ったのだろう。</p><p>こっちだ</p><p>召喚の間唯一の扉を見ていたソフィアに声をかけ、Olは部屋の隅の壁へと手招きする。Olが壁に触れると、その腕は何の抵抗もなく壁の中にもぐりこんだ。壁に見えるのはただの幻影で、外への通路はここにある。当然、扉の方は罠で、開いて出ようとすると底に槍衾を仕込んだ落とし穴が待ち受けるようになっている。</p><p>万が一、転移先を発見された時の予防策だ。</p><p>ソフィアはそんな仕掛けを不思議そうな目で見る事もなく、黙ってOlの後をついてくる。その仕草はまるで何の感情もない人形のようだった。</p><p>ね、Ol、あの子なんだかちょっと変じゃない？</p><p>Olの隣を歩きながら、ユニスが小声で尋ねる。</p><p>何がだ？</p><p>対して、Olは声を抑える気もない。</p><p>わかんないけどあの傷がどうこうとかじゃなくて</p><p>ユニスは違和感の正体に気付いていないのか、言葉を濁す。</p><p>Olは、リルであればどう評するだろうかと少し気になったが、構わず自室にソフィアを連れて行くと、後ろを振り返りおもむろに命じた。</p><p>脱げ</p><p>端的に命じると、言葉もなくソフィアは着ていた衣服を脱ぐ。その動きはよどみなく、恐怖も羞恥心も見て取れなかった。</p><p>Olの鋭い視線の先でソフィアは衣服を全て脱ぎ捨て、下着も取り去って一糸纏わぬ姿になった。</p><p>ユニスが憐憫に眉を寄せ、目を伏せる。ソフィアの傷はそれほど惨たらしいものだった。</p><p>火傷は額から顔の左半分を多い、首から左腕、左乳房から腰までを満遍なく覆っていた。</p><p>こんな傷を受けてよく死ななかったものだ、とOlは感心しさえした。</p><p>そのような裸身を晒しているにも関わらず、ソフィアは全く表情を変えず、身体を隠す素振りも見せなかった。微動だにせず立っている姿を見ると、趣味の悪い人形を見ているかのような錯覚を覚えた。</p><p>しかし、それが彼女の本質でない事をOlは見抜いていた。</p><p>美しいな</p><p>Olが呟くと、僅かにソフィアの頬が震える。</p><p>確かに、ソフィアは右半身に限ればこの上ないほど美しかった。長く艶やかな黒い髪に、黒曜石の様な切れ長の瞳。肌の白さは陶磁器の様に艶やかで、手足はほっそりと長く、しかし出るべきところはその存在感をしっかりと主張している。精巧な人形を思わせる美しさだ。</p><p>そして、まるでその美しさは全て醜い左半身の為にあるかのようだった。髪は生えることなく頭皮は月の表面の様にボコボコとした肌を露出させ、瞼は焼け落ち窪んだ眼窩がぎょろりと目を覗かせる。頬は薄い皮膚の裏に筋肉の線を覗かせ、唇は裏返り血を吸ったヒルの様にぶよぶよとしていた。</p><p>肌は赤黒く焼け滑らかな場所はどこにもなく、老いさらばえた牛の膝の様に筋張っていた。左胸の先端にあるべきものはなく、僅かに名残らしき色素の沈着が見て取れるだけで、まるで煮えたぎるマグマを固めたようなボコボコとした傷痕を晒していた。</p><p>面積としては、傷痕の方がそうでない箇所の方よりよほど狭い。しかし、この傷こそが彼女の本質であると、美しさは醜さを際立たせる為だけにあるのだと主張しているかのようであった。</p><p>その傷はどのようについたものだ？</p><p>ユニスが不安げにOlを見る。何故そのような事を聞くのか、と抗議する意思がその瞳に映っていた。</p><p>幼い頃、焼けた油を被りました</p><p>それに対して、ソフィアの瞳は揺らぎもしない。</p><p>それは何故だ？</p><p>盗賊に襲われぬ為に、自分で被りました</p><p>ユニスが驚きに目を見開いた。</p><p>お前と同年代の娘が殆どいないのは、その盗賊のせいか</p><p>はい。少しでも見目の良い娘は盗賊に捕まり、犯され、殺されました。村に残ったのは醜い娘と、それよりも醜い私だけです</p><p>Olは薄く笑みを浮かべる。ソフィアは相変わらず表情を変えなかったが、その奥にある感情は言葉の端々に溢れ出て来ていた。</p><p>あの村はお前の犠牲で、もう盗賊に襲われる事はない。村を狙う不届き者は、ガーゴイルが皆殺しにするであろう</p><p>はい</p><p>無感情に、ソフィアはこくりと頷いた。心底どうでも良い、といった風情だ。実際どうでも良いことなのだろう。</p><p>マリーベルという娘は知っているな？ お前の前に生贄としてきた、4,5歳の金髪の娘だ</p><p>それは恐らく真名でしょう。村では単にマリーと呼ばれています</p><p>ソフィアが初めて、僅かに言い澱む。ユニスは単に、ソフィアがマリーの真名を知らなかったからだと考えたが、Olは別の感想を抱いた。</p><p>あれはまだ幼いが、生贄に選ばれるだけあって美しいな。肌は絹のようで、髪は太陽の光を刈り取ってきたかのようだ。もう10年もすれば、誰もが手に入れたいと思うような美女に育つだろう</p><p>はい</p><p>誰もがあの娘を愛しく思うだろう。雨は避け、日の光は柔らかに降り注ぎ、大地は暖かく抱きとめる。病も獣もあの娘を傷つける事は敵わず、もっとも飢えた盗賊さえあの娘を慈しみ育てるだろう</p><p>Olほどの魔術師が唱えるそれは、もはや予言だ。そしてそれは同時に、呪いでもある。</p><p>マリーベルはこれから、Olの庇護の下すくすくと育つ事だろう。</p><p>羨ましいか？</p><p>唐突にOlはソフィアの目を覗き込んだ。その問いに、初めてソフィアは言葉に詰まる。</p><p>お前は呪われた子、忌み嫌われた子だ。誰もがお前を避け、遠ざける。飢えた盗賊でさえ、だ。お前の踏んだ大地からは稲は芽吹かず、土は冷え霜に覆われて固まり、風は止み太陽は雲に覆われる。世界がお前を憎んでいるからだ。醜いお前を、闇に棲む恐ろしい獣を、恐れているからだ</p><p>ソフィアはOlの瞳をじっと見つめ返す。しかし、その目には先ほどまでとは違い、しっかり感情の色を宿していた。</p><p>村の人間はお前を恐れただろう。それはお前の姿が醜いからではない。身を守る為に焼けた油を被る娘が恐ろしかったからだ。身体の半分を焼かれながらも生き延びるお前が恐ろしかったからだ。人の姿をしながら、人ではないお前が恐ろしかったからだ</p><p>ソフィアは初めて、表情を歪めた。人形の様に端整で、悪夢の様に醜い顔が、ぐにゃりと歪む。</p><p>憎いんだろう？</p><p>それは怒りでも、悲しみでも、憤りでもなく</p><p>ええ、憎い。何もかもが</p><p>深い、深い笑みだった。</p><p>第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-5</p><p>ユニスには今目の前にいる女性が、ただの村娘である事が信じられなかった。</p><p>腕にも脚にも、ろくに筋肉はついていない。立ち居振る舞いも、実戦はおろか訓練すら受けていないただの一般人のそれだ。魔力は感じない。ユニスはリルほど魔力に敏感な訳ではないが、それでも相手が魔術師であるかどうかぐらいの判断は出来る。</p><p>つまり、ユニスの知識も経験も、目の前の女性が全く戦闘手段を持っていないと結論付けていた。その気になれば一刀の元に斬り捨てられるだろう。戦いが起こりすらしない、ユニスにとっては動かぬ杭を斬り捨てるも同じだ。</p><p>にもかかわらず、ユニスの心はソフィアに恐怖を抱いていた。外見ではない。何か果てしのない、説明できない感覚が、彼女が危険であると全力で警鐘を鳴らしていた。</p><p>Olに会う前の自分であれば、剣を抜き放ち斬りかかっていたかも知れない。しかし、その場合地面に横たわる死体は一つではないだろう。倒せない事はないだろうが、自分もただではすまない。英雄を持ってしてそんな予感を抱かせる力が、ソフィアの笑顔にはあった。</p><p>ユニス、部屋に戻っていろ</p><p>ユニスは心配そうにOlを見る。しかし、その目は問題ないと語っていた。ユニスは素直に頷き、部屋を出て行く。彼女は、ソフィアに感じる圧力と同じ種類のものを感じた事がある。</p><p>その持ち主が、他ならぬOlだったからだ。</p><p>美しいな</p><p>ユニスが部屋を出て行った後、もう一度Olはその言葉を口にした。</p><p>Ol様にあらせられては、ご慧眼、感服いたします</p><p>その言葉を皮肉だと取ったのだろう。ソフィアも慇懃に皮肉で返す。</p><p>俺が美しいといったのはソフィア、お前のその心根だ。全てを憎む真っ黒な憎悪だ。人を憎み、世界を憎み、自分自身をも呪っている。それは魔術師として稀有な才能だ。お前には、俺より優れた魔術師になる素質がある。ただの村娘にしておくのは惜しい</p><p>Olはソフィアの顎を掴み、上を向かせた。そして、唇が触れ合いそうなほどの距離で目を見つめながら、低い声で呪文を唱えるかのように囁く。</p><p>選ぶがいい。そのまま醜い者として老いさらばえ、朽ち果てるか。邪悪の限りを尽くし、屍の上に立ち、呪われ、血塗られた道を歩くか</p><p>Olの魂まで見透かすような視線に、ソフィアは身体を震わせた。</p><p>それは、歓喜だった。</p><p>誰もが目を背け、表面すら見ようとしなかったソフィアの事を、Olはずっと奥まで見通していた。</p><p>火傷の傷より何倍も醜い呪いと憎しみを覗き込み、それを美しいと評したのだ。</p><p>ああ</p><p>ソフィアは悦びの声を上げた。自らの幸福を噛み締める声ではない。女が自らを男に捧げるときの声だった。</p><p>Ol様私が進みたい道は、あなた様の道です。屍の上を歩くなら、私がそれを殺しましょう。呪われ血塗れているならば、私がそれをすすりましょう。我が名、ソフィリシアに誓って</p><p>良かろう。ならば、お前は今から俺の弟子だ。これからお前はソフィリシアの名を捨て、スピナと名乗れ。ネリス・ビア・スピナ。それが今日からお前の名だ。そして、師からの最初の教えを聞け</p><p>ソフィア改めスピナはOlの足元に跪き、邪悪な洗礼を受けた。</p><p>人としてのソフィアは死に、これから邪悪なる魔術師スピナの生が始まるのだ。</p><p>自分以外、この世の誰も信用するな。間違っても真名など教えるな。全てのものは利用する為にだけある</p><p>Olにとってもそうなのだろうか、とスピナは考えた。</p><p>肝に銘じておきます</p><p>考えるまでもない。Olにとってスピナは利用する為の駒だ。そして、誰よりも優秀な駒になる事を、スピナは望んでいるのだ。スピナは跪きながら、深く頭を下げ、Olの足に口付け忠誠を誓った。</p><p>リル、いるかって何をやっているんだ</p><p>粗末な木製の扉を開け、目に入ってきた光景にOlは呆れた声を出した。</p><p>何って、Olが世話してろって言ったんじゃない</p><p>リルの傍らでは、マリーが蕩けた表情で棒状の物に小さな舌を這わせていた。黒檀を彫って作られたと思しきそれは、なにやら妙に見覚えのある形をしていた。</p><p>ほら、まだ小さいから下の方使うと裂けちゃうでしょ？ だから口だけでも使える様に教育しておこうと思って。これよく出来てるでしょ？ Olの形の張り形</p><p>淫魔らしいといえば淫魔らしい発想だが、年端も行かない童女に何を教えているんだ、とOlは傷む頭を軽く抑える。</p><p>そんな事より、家事が出来るように仕込んでくれ。こいつにもだ</p><p>Olは背後の女に、リルに挨拶するよう示した。軽く頷き、スピナはリルの前に進み出て頭を下げる。</p><p>本日よりOl様の弟子となりました、スピナと申します。よろしくお願いします</p><p>リルは目を丸くしてスピナを見る。その容姿が醜かったからでは、ない。</p><p>あまりに、美しかったからだ。</p><p>え、何、どっから連れてきたのこんな子</p><p>スピナの傷痕はOlの魔術により消され、彼女が本来持っていた美しさが完璧に取り戻されていた。相変わらず表情はないが、それがかえってその人形めいた神秘的な美しさを際立たせている。</p><p>どこでもいいだろう。とにかく、当分はリルについて雑事を覚えろ。ダンジョンの見回り、清掃、魔物や罠の管理、死体処理、食料の管理、シーツの取替えに料理もだ</p><p>やっとそういった仕事から解放されるのね！ やった！スピナって言ったっけ、しっかり仕事覚えなさいよー</p><p>喜ぶリルに、スピナは表情を微塵も変えず答えた。</p><p>私が従うのはお師匠様だけです。使い魔ごときに命令される謂れはありませんので勘違いなさらないで下さい</p><p>ぴしり、とリルの笑顔が凍りつく。そして、スピナを指差しOlに抗議の声を上げた。</p><p>Ol！ この子凄い性格悪い！</p><p>そうだ、だから弟子にした</p><p>ああっこっちも性格悪いんだった！</p><p>まるでOlが二人に増えたかのような錯覚を覚え、リルは頭を抱えるのだった。</p><p>第7.5話ダンジョン解説</p><p>第7話終了時点でのダンジョン。</p><p>悪名：2</p><p>貯蓄魔力：16（単位：万/日）</p><p>消費魔力：3.5（単位：万/日）</p><p>召喚の間</p><p>最深部に出来た部屋。Olの迷宮の中で、唯一直接転移が可能となっている。ここに転移してきたものは魔法陣の中に捕らえられ、迷宮内に元々いたものの許可がなければ魔法陣から出ることが出来ない。</p><p>転移魔術防止結界</p><p>Olの迷宮全体にはられている結界。この結界内には原理的に転移魔術で転移することは出来ない。大きな街や王都にも張られているメジャーな結界で、暗殺者や盗賊の侵入を防ぐ為に用いられる。</p><p>リルの寝室</p><p>リル専用の部屋。何処から持ってきたのか、花やぬいぐるみなんかが飾ってあって意外とファンシー。</p><p>ユニスの寝室</p><p>ユニス専用の部屋。最低限の家具と武具が飾ってあるだけの殺風景な部屋。部屋の主は基本的にOlの部屋に入り浸っている。</p><p>汎用寝室</p><p>生け贄として送られてくる予定の娘達のための部屋。折角だから、と10部屋くらい作ったのだが、ユニスのごたごたのせいで娘の到着が2ヶ月ほど遅れ、長く日の目を見ていなかった。</p><p>マリー（子供）</p><p>戦力：0</p><p>5歳児。戦力を期待するも愚か、足手纏いにしかなりようがないが、元々持っていた気質に加えOlがかけた健やかに育つ呪いのせいで大人になるまでは凄まじく運がいい。</p><p>スピナ（魔術師見習い）</p><p>Olの弟子にはなったものの、まだ見習いであるため魔術らしい魔術は使うことが出来ない。しかし、恐ろしく豪胆で自らの死の危険性があるような事でも必要なら全く躊躇なく実行することが出来る。ある意味もっとも敵に回してはいけない人物。</p><p>ジャイアントスパイダー</p><p>洞窟や森の奥深くなど、薄く瘴気の漂う場所に巣を張る巨大な蜘蛛。Olの迷宮の一角に巣を張っている。基本的には巣にさえ近づかなければ無害だが、糸は非常に細く見つけにくい。しばしばゴブリンが巣にかかって餌になっている。</p><p>オーク</p><p>2mほどの体躯を持つ妖魔の一種。ゴブリンに比べればかなり期待できる戦闘能力を持ってはいるものの、数頼みの雑魚には違いない。争いごとや血生臭いことが好きでしょっちゅうゴブリンを血祭りにあげている。</p><p>非支配層に魔物が増えたものの、Olの配下としては余り戦力は増えていない。また、Olの技術ではそろそろダンジョンの拡張に限界がきており、迷宮の一部が崩落しては修復を繰り返している。</p><p>第8話邪悪なる下僕どもを揃えましょう-1</p><p>そうマリーがそっちで</p><p>では私は</p><p>あ、私空飛べるから</p><p>じゃあ、あたしは</p><p>なにやらひそひそと交わされる言葉に、目を開いたOlの視界に映ったのは白く伸びる足だった。</p><p>それを辿って根元の方を見れば、彼の股間に群がるように寄り添う四つの顔があった。</p><p>何をしている</p><p>あ、ご主人様おはよー</p><p>おはようございます、お師匠様</p><p>おっはよーOlー！</p><p>おはよ、ございます、おうるさま</p><p>低く唸るように問うと、4種類の挨拶が返ってきた。</p><p>4人とも一糸纏わぬ裸身で、それぞれいきり立つOlの一物に舌を這わせていた。</p><p>Olの両足の間にマリーが小さな頭を突っ込み、裏筋の辺りを懸命に舐めあげる。</p><p>左手にはユニスが陣取り、舌を長く伸ばして玉を撫でる様に愛撫する。</p><p>右手にはスピナが首をかしげ、横笛でも吹くかのように竿を軽く食んでいる。</p><p>そしてOlの身体と互い違いになるようにリルが翼を広げ、空中からOlの鈴口に舌を這わせていた。</p><p>目の前で浮いているので、むっちりとした太ももからそれに挟まれた秘裂、たっぷりとしたボリュームのある乳房まで全部丸見えだ。</p><p>あはっ、おっきくなった。やっぱり意識があると反応が違うね。どう、ご主人様？ 愛妾4人によるお目覚めフェラは</p><p>男なら誰もが羨むであろう体勢ではあるが、複数人による口淫という物はその見た目ほど良いものではない。口淫、というその字句とは裏腹に、実際に快楽を与えるのは手の動きが主なものであり、数人がかりの口淫では手による愛撫はほぼ不可能になるからだ。</p><p>が、それは尋常な女によるものの話だ。淫靡を知り尽くし、性技を極めた淫魔の取り仕切るこの宴では少々わけが違った。</p><p>ふりふりと形のいい尻と共に振られる尻尾によって4人の身体の動きはまるで一つの生き物のように統制され、Olの肉棒をその4つの唇でしごき、舐め上げ、吸い、むさぼっていた。</p><p>くああ、そのまま続けろ</p><p>Olは腕を伸ばし、ユニスとスピナの胸を鷲掴みにする。二人はOlが胸を揉み易いように身動ぎして体勢を変えると、リルの指揮の元、一気に攻勢にかかった。</p><p>四つの舌がまるで手の指のように協力して動き、Olの肉棒を挟んでしごき上げる。</p><p>悪魔のような、というより正に悪魔の技巧によってOlはあっという間に絶頂に導かれた。</p><p>抵抗する事無く欲望を解き放ち、四人の娘の顔を白い欲望が汚していく。</p><p>で、どうしてこんな事になったんだ</p><p>えーとぉ、それぞれがOlを起こそうとしてて</p><p>誰がご主人様を起こすかとか、ちゃんと決まってなかったでしょ？</p><p>全員が自分が、と主張した結果、リルが全員で起こそう、と提案しまして</p><p>みんなで、おこし、ました！</p><p>いつの間にそんなに仲が良くなったのか、Olの言葉に少女達は口々に答えた。</p><p>はあ、とOlはため息をつき、言った。</p><p>では、今日はそれぞれの仕事を割り振るとするか</p><p>とりあえず、現在の急務は戦力の確保だ</p><p>全員に顔を洗わせ、スピナの作った朝食を胃の中に収めた後、Olは全員を集めてそういった。</p><p>過去、魔術協会で講師をしていた時期を思い返しながら、Olは黒板に白墨で文字を書いていく。</p><p>最低限の人手と、生活基盤が成り立ったからな。次は、領土を広げる為の戦力を確保せねばならん</p><p>以前ユニスがスケルトンやゴブリンの大半を殲滅してしまった上に、魔力も大量に使ってしまったので、現在のOlの迷宮には戦力と呼べるような存在が殆どいなかった。</p><p>防衛はユニスがいれば殆ど問題はないだろうが、攻め入るとなると話は別だった。</p><p>戦力確保の手段は大きく分けて次の四種類だ。自然発生。契約雇用。魔術創造。悪魔召喚。細かく説明していくぞ</p><p>既にこっくりこっくり船を漕ぎ始めているマリーを無視して、Olは続けた。</p><p>というか、何でマリーまで集まってるんだ。</p><p>まず、自然発生だ。以前リルには軽く説明したが、悪鬼妖魔の類はダンジョンを用意しておくだけで勝手に集まってくる。入り口すぐの所に巣を作ってるゴブリンなんかが良い例だな。こいつらは基本的に、敵ではないが味方でもない。不用意に巣に近づけば襲い掛かってくる。我々の居住区には魔除けの結界が張ってあるからそうそう入ってくることはないが、誤って踏み入れないように気をつけろ。特に、マリーがふらふらしないように見張っていろよ、スピナ</p><p>名前を呼ばれ、びくりとマリーが目を覚まし、辺りをきょときょとと見回す。</p><p>この自然発生する魔物を管理するのはリルの役目だ。魔物は基本的に悪魔を攻撃しない。その身が肉じゃなく魔力の塊で、餌にはならん事を本能的に知ってるからな。新しい魔物が巣を作りにきたら報告しろ</p><p>はーい</p><p>やる気があるのかないのか、リルは手を挙げて返事をする。</p><p>自然発生の要因となるのは、瘴気と深度、そして部屋の形だ。瘴気が濃ければ濃いほど、深度が深ければ深いほど強力な妖魔が惹きつけられる。部屋の形は好み次第だから、いろんな形の部屋を作っておけ。狭い部屋を好む妖魔もいれば、広い部屋を好むもの、天井の高い部屋を好むもの、水辺を好むもの、さまざまだ</p><p>瘴気と深度とは何ですか？</p><p>Olの説明が一段落したところでスピナが手を上げ、質問する。</p><p>弟子の出来のよさに感心しながら、Olは説明した。</p><p>瘴気とは、有体に言えば空気に含まれる魔の濃度の事だ。生き物が死んだり、悪魔が滞在したりしているとこれが濃くなる。瘴気があまりにも濃いと勝手に悪霊が生まれたりするがこれも自然発生の範疇に入るな。深度はそのまま、ダンジョンの深さの事だ。浅い層は瘴気の濃さに限界がある。深ければ深いほど、瘴気は濃くなっていく。今このダンジョンは全3階層まだまだ深くする予定だ</p><p>なるほど、と頷くスピナの横で、ユニスが難しい顔をする。どうにか、Olの説明を咀嚼している所らしい。彼女が何とか折り合いをつけた様子なのをみて、Olは次の説明に入った。</p><p>二つ目、契約雇用は比較的わかりやすいだろう</p><p>というか、わかってもらわないと困る。</p><p>自然発生で迷宮に巣を作る妖魔や、迷宮を訪れる者の中には条件次第ではこちらに協力しても良いと考えるものもいる。まあ、ある程度以上の知能を持つものでないと無理だろうが。そういったもの達を、金銭や食料などを対価に味方につける事ができる。大抵の物は金があれば用意できるから、実質金銭だな。これが契約雇用だ</p><p>おー、わかりやすい</p><p>今度は理解できたようで、ユニスが声を上げた。</p><p>まあ、ある意味でユニス自身がこれに近いわけだが。対価は裏切らない事だ。</p><p>これは基本的には俺が担当するが、ユニスにも協力をしてもらう。契約を結ぶにも、こちらにある程度の戦力がなければ足元を見られるからな。交渉自体は俺が行うが、傍にいて睨みを利かせてくれればいい</p><p>了解！</p><p>ユニスは元気よく答えた。今まで何もすることがなかったので嬉しいのだろう。</p><p>妖魔の種類によっては、互いに諍いを起こす事もあるだろう。そういった場合の鎮圧もユニスの仕事だ。いわば治安維持だな。リル、そういった騒ぎを見かけたら、俺とユニスに知らせるようにしてくれ</p><p>ん、わかった</p><p>そういうのは得意だから、任せといて！</p><p>頷く二人に満足し、Olは更に説明を続ける。</p><p>魔術創造はスピナ、お前の仕事だ。これは、魔術でゴーレムやスケルトンといった擬似生命を作るものだ。はっきり言って、魔法生物は戦闘においては大した役には立たん。さほど強くないし、判断力もないに等しい。が、創造主には絶対忠実だし疲れも知らんから、単純な作業や雑事の手助けにはピッタリだ。餌も要らんから契約雇用の様にコストもかからん</p><p>こくり、とスピナは頷く。説明を聞く態度を見るに、彼女はかなり聡明そうだ。</p><p>魔法生物の作成に限れば、一ヶ月もあればそれなりのものを作り出し、一年か二年程度で一端の魔術師には育つだろう、とOlは睨んだ。</p><p>最後の悪魔召喚は、まあ現物がそこにいるから大体わかるだろう。全面的に俺が請け負うから理解する必要もさほどないが、一応説明しておく</p><p>Olはリルを見ながら言葉をつづる。</p><p>悪魔召喚は、まあ聞いて字の如く、悪魔を異界から召喚し、使役する方法だ。酷く手間がかかるし、呼び出すのにも維持するのにも大量の魔力を食う。他の三種に比べ圧倒的にコストがかかる。が、その能力は折り紙つきだ。リルは淫魔だから戦闘力は大したことはないが、普通の悪魔はそこらの妖魔とは比べ物にならんほどの強さを持っている。切り札というか、奥の手に当たるわけだ</p><p>なるほどー</p><p>まあ、本当の切り札は今頷いているお前なんだがな、と、Olはユニスを見て胸中でつぶやく。彼女が、仮にも中級悪魔に属するヘルハウンドを一刀の元に切り捨てたのは記憶に新しい。</p><p>まとめるぞ。自然発生はコストはかからないが、戦力は安定しない。担当はリル。契約雇用は戦力は期待できるが、金が必要。担当はユニス。魔術創造はわずかな魔力で作れるが、戦闘の役にはあまり立たない。担当はスピナ。悪魔召喚は膨大な魔力を必要とするが、戦力は随一。担当は俺だ</p><p>はーい。そんじゃ、また迷宮の見回りいってくるかなー</p><p>ん、何とかわかった！</p><p>かしこまりました、お師匠様。具体的な魔術の手ほどきをお願いいたします</p><p>三者三様に答える部下達に頷くと、Olの服の袖がくいくいと引っ張られた。</p><p>そちらをみると、マリーが何やら期待に目を輝かせ、Olを見上げていた。</p><p>わたしの、たんとう、は？</p><p>五歳児に何を期待しろというんだ。そんな言葉を飲み込み、Olは声を絞り出すように答えた。</p><p>飯の時間になったら俺を呼びに来い</p><p>あい！</p><p>とてもいい笑顔で、マリーは返事をした。</p><p>第8話邪悪なる下僕どもを揃えましょう-2</p><p>ご主人様、第一階層にコボルトが巣をはったよ</p><p>おお、ついにか！</p><p>リルの報告に、Olは思わず表情をほころばせた。</p><p>珍しい彼の喜びの表情に、リルは首を傾げる。</p><p>コボルトってそんなに強い妖魔でもないんじゃなかったっけ？ゴブリンよりちょい強いくらいでしょ</p><p>ああ、その通りだ。が、奴らは元々鉱山に住む土の妖精の出身でな。鉄を腐らせるから嫌われて闇に落ちはしたが、石の細工や坑道掘りは抜群に上手い。今までは俺の素人に毛が生えた程度の技術と、インプどもの魔力で何とかダンジョンを拡げてきたが、これで一気に拡張できるぞ</p><p>そういえば、この所ダンジョンの規模は殆ど変わっておらず、インプも崩れた場所を補修するくらいで殆ど見かけなくなっていた、とリルは思い出した。</p><p>いいか、絶対に逃すな。貯蓄している食料から、1割なら分け与えてよい。懐かせ、味方に引き入れろ。魅了の術を使っても構わん。オークとは天敵だから巣を離しておき、絶対に鉢合わせしないように配慮しろ。戦いになったら勝つのはオークだからな。いざとなったらオークどもを皆殺しにしてでもコボルトを守れ。いいな</p><p>熱心に説明するOlに気圧され、たじろぎながらもリルはこくこくと頷いた。</p><p>後、Olに面会したいって言うアールヴの一団が来てるんだけど、どうする？一応ユニスも呼ぶ？</p><p>アールヴだと？</p><p>ふむ、とOlは少し考え、首を横に振った。</p><p>いや、ユニスはいい。俺とお前で対応しよう</p><p>アールヴと言うのは、森に住む妖精の一種だ。地方によってはエルフなどと呼ばれる事もある。</p><p>男女共に総じて美形で、弓や魔術の扱いに長け、長命で老いを知らない。</p><p>迷宮の第二階層にある応接室でOlの前に現れたのは、褐色の肌を持つ美女たち5人だった。</p><p>皆一様に黒い髪を持ち、アーモンド形の深緑の瞳をしていた。</p><p>褐色の肌を持つ彼女たちは、アールヴの中でも黒アールヴ、もしくはデックアールヴといわれる氏族だ。白い肌のリョースアールヴに比べ、闇に近く好戦的なことで知られる。</p><p>面会の機会を与えて頂き、ありがとうございます。私は黒の氏族の長、エレンと申します</p><p>先頭に立った女がそう切り出した。</p><p>Olだ。用件を聞こう</p><p>Olは椅子に深々と腰掛けたまま、努めて横柄な態度で答えた。</p><p>単刀直入に申しませば、我らを保護していただきたいのです。あの憎き白アールヴどもに、我ら黒の氏族は殆どが殺され、残ったものも散り散りになりました。ここに逃れてこれたのは、私を含めましてこの僅か5名のみ。他の仲間はどうなったのかすらわかりません</p><p>白アールヴは人間と手を組んだか</p><p>Olがそういうと、エレンはぎくりと身を震わせた。</p><p>さすがは、偉大なる迷宮の王、Ol殿。そこまで見抜いておられましたか</p><p>好戦的な黒アールヴに比べ、白アールヴは本質的に平穏と停滞を好む種族だ。</p><p>戦いになれば、白アールヴが敵う訳はない。</p><p>となれば、黒アールヴ側が戦争を仕掛け、人間と手を組んだ白アールヴがそれを返り討ちにしたという辺りが実際のところなのだろう。</p><p>白アールヴも人間に対し友好的と言うほどではないが、はっきりと敵対している黒アールヴに比べればその関係は良好だ。人間側も、黒アールヴの事は悪魔の使いと信じている。</p><p>人間に殺され、人間の俺に頼るか</p><p>Olが危惧しているのは、エレン達が人間に恨みを持ち、その範囲にOl自身も含んでいる事だ。</p><p>Ol殿は人を超えたお方。庇護を下さるならば、間違っても刃向かおうなどとは思いませぬ</p><p>じっと二人は見つめあい、腹の内を探り合う。</p><p>良かろう。対価は何だ？ まさか、刃向かわぬ事、などと言うわけではなかろうな</p><p>とりあえず嘘はなさそうだ、と判断し、Olはそう問うた。</p><p>勿論です。僅か5つの手勢なれど、ここにいるものは全て一騎当千の精鋭。憎き白アールヴを平らげるその日まで、その身全てをOl殿に捧げましょう</p><p>黒アールヴの精鋭となれば、5人といえどこれは中々の戦力だ。運が良ければ仲間を見つけて手勢を増やす事もできるだろう。期限付きだが、気の長いアールヴの事だ、最低でも100年単位の話だろう。</p><p>いいだろう、念のために服従の呪いはかけさせてもらうが、構わぬな？</p><p>勿論です</p><p>それと、少し契約内容を変えさせてもらおう。白アールヴは殺さず、なるべく生け捕りにせよ。男は殺しても構わんが、女は必ずだ</p><p>生け捕りですか</p><p>この提案には、エレンは難色を示した。生け捕りとなれば殺すよりも難しい。</p><p>その分、自分たちの損害が増えるだろう。何より、Olに白アールヴを保護する意図があるのではないか、とエレンは疑った。</p><p>ただ殺すより、陵辱され汚される白アールヴを見たくはないか？気が狂うまで犯され、辱められ、死ぬ事もできずに責め苦を味わう白アールヴを見たいとは思わないか？</p><p>飛び切り邪悪な笑みを見せるOlに、エレンは少し安堵して笑い返した。</p><p>無論、その分の対価は払う。汝らに呪の篭った弓と矢を与え、戦力となる妖魔や悪魔も貸し与えよう。汝らが一騎当千の兵とは言え、僅かに5000。白アールヴとそれに組する人間どもを相手取るには少々心もとなかろう</p><p>御意にございます。その条件で、我らはOl殿に従いましょう</p><p>エレン以下、5人全員が跪く。満足げに頷き、Olは傍らのリルに視線を向けた。</p><p>リル、部屋を用意してやれ。どこかいい空き部屋はあったか？</p><p>えーっと、第二階層の南東がいいかな？ ドヴェ</p><p>そこは駄目だ</p><p>リルの言葉を遮り、Olは言った。</p><p>第三階層の北東にしろ</p><p>えでも、第三階層だと外に出にくいし、居住区にも近いし、あんまり</p><p>いい部屋残ってないよ</p><p>困惑の表情を浮かべ、リルはOlの耳に口を近づけ、小声で囁く。</p><p>その声が聞こえたのか、ピクリとエレンは眉をひそめた。その目は如実に語っている。Ol殿は我らを冷遇する気かと。</p><p>居住区で構わん。汝らにあてがう予定の部屋の傍には地下水脈が流れていてな。最近では地熱を利用して、常時沸く湯殿を用意してある</p><p>ほう、湯殿！</p><p>エレンは驚き、表情をほころばせた。</p><p>アールヴの美姫となれば、他の妖魔と同じ扱いは出来ぬ。ただでさえ冷たく暗い石造りの箱の中、その美しさが損なわれるような事があってはならん。食事も我々が食べているものと同等のものを用意させていただこう</p><p>確かに、我らは土に転がり泥にまみれ喜ぶドヴェルグどもとは違います。格別の配慮、痛み入ります</p><p>エレンは、深々と頭を下げた。</p><p>Olって、美人に甘いよね</p><p>頬を膨らませ、リルがぼやく。最近はご主人様で定着しつつあった呼び方が、Olに戻っていた。</p><p>おろかもの。あれはお前のせいだぞ。アールヴの前でドヴェルグの名前など出すんじゃない</p><p>リルはドヴェルグの隣の部屋が空いている、と言おうとしていた。エレンは鋭くそれを察知し、眉を吊り上げたのだ。</p><p>白も黒も、アールヴはドヴェルグとは伝統的に仲が悪い。その隣の部屋を用意する等と言い出せば、最悪両方ともこのダンジョンから出て行くと言いかねんぞ。そのくらい奴らは仲が悪いんだ。覚えておけ</p><p>うご、ごめん</p><p>Olはため息をつき、リルの腰を抱き寄せた。</p><p>えーとここでするの？</p><p>困惑しながらも、リルはOlがしやすいように姿勢を整える。</p><p>お前達淫魔が一番集中できるのは、セックスの時だろう</p><p>Olはズボンを下ろすと、リルの殆ど下着に近い服をずらして一気に突き入れた。</p><p>魔物達の敵対関係は、お前がもっとも頭に叩き込んでおくべき事柄だ。全部覚えるまで攻め続けるからな</p><p>えっ、ちょ、待って、そういう、事、するならっ、この快楽、切って、よぉ！</p><p>駄目だ。まずは最重要事項。コボルトの天敵は何か覚えているか？</p><p>いきなり激しく抽送を繰り返しながら、Olは耳元でリルに問う。</p><p>オーク、ぅぅ！ あっ、駄目、それ、やぁあ！</p><p>ごりごりと中を擦りあげてやると、リルは背筋を反らして高い声で鳴いた。人間の娘相手にいきなりこんな事をすれば痛みしか与えないが、淫魔のリルにとっては快楽でしかない。</p><p>では、ジャイアントスパイダーと一緒にしてはいけないのは？</p><p>んっ、え、っと、ぉあっ、や、あぁん！ あ、そう、フ、フライ！ジャイ、アント、フライッ！</p><p>正解だ</p><p>人間さえも頭から食べてしまうほど巨大な蜘蛛、ジャイアントスパイダーは特にジャイアントフライがお気に入りだ。見かければ巣にかかってなくても襲い、食べてしまう。</p><p>では、ヴァンパイアと一緒にしてはいけないのは？</p><p>ええっ！？ な、あぁん、わか、んっ、ない、よっ、ぉ！あい、つ、天敵とかんんっ、いた、っけ？</p><p>正解は聖職者だ。弱点だろ</p><p>中を抉るように、奥まで突き上げる。</p><p>ああぁぁぁあっ！ な、何っ、それ、ずるああああっ！ 駄目、駄目ぇ！おか、しくなちゃうぅ</p><p>それは困る。まだまだ覚えるべき事は幾つもあるぞ。ファイアドレイクと一緒にしちゃ駄目なのは何だ？</p><p>ドレりゅ、ああっ、竜に、ああんっ、だ、めぇぇ天敵、なんか、あぁっ！</p><p>いる、ワケ</p><p>正解は大量のフロストジャイアントだ。寒くてドレイクが冬眠してしまうからな</p><p>もおぉっ、絶対それ、タダのイジメでしょっ、このドS変態ジジイーーーーっ！</p><p>その日、Olの迷宮の第二階層の一角に、悲鳴と嬌声、そして罵倒の声が長い事響き渡っていた。</p><p>第8話邪悪なる下僕どもを揃えましょう-3</p><p>わははははっ！</p><p>第二階層。別の用事でそこを歩いていたOlは、奥の部屋から聞こえてきた陽気な笑い声に、そちらに足を向けた。</p><p>いやー、嬢ちゃん人間にしておくのは惜しいな！強くて勇敢で酒も飲める！この際人間でもいいや、俺んとこに嫁にこねえか！？</p><p>あはは、駄目だよー、あたしOlんだもん</p><p>あー、魔術師さんの嫁だったか。そりゃあ仕方ねえなあー！</p><p>Olが部屋の中を覗くと、数人のドヴェルグたちとユニスが酒盛りをしていた。既にかなり出来上がっているらしく、皆顔を真赤にしている。</p><p>ドヴェルグは鉱山出身の、鉄と火の妖精だ。ドワーフ等と呼ばれる事もある。背は低く屈強で、生まれた時から老人の様に醜く皺に覆われた顔を持ち、立ったままでも地面につくほど長い腕を持つ。</p><p>醜く偏屈ではあるが、陽気で酒好きな妖精であり、気に入られれば中々に付き合いやすい相手ではある。また、手先が非常に器用で、魔力の篭った武具や道具を巧みに作り上げる。</p><p>あ、Olー。どしたの？</p><p>ユニスがOlに気付き、手を振る。すると、ドヴェルグたちも鷹揚に手を振った。</p><p>いや、ちょっと立ち寄っただけだ。随分仲良くなったようだな</p><p>Olが集まりの輪に加わって腰を下ろすと、ドヴェルグが長い腕を伸ばしてその肩を抱き、酒を煽った。ろくに水も浴びないドヴェルグの大衆と酒臭さが入り混じった、何ともいえない悪臭にOlは顔をしかめた。</p><p>そりゃあ、人間の娘っ子でこんなに酒が呑めるのも珍しいからなぁ！どうよ、魔術師さんも一杯！</p><p>では、頂こう</p><p>注がれた酒を飲むふりをして、Olは魔術でそれをただの水に変える。ドヴェルグ謹製の酒など、普通の人間がのめばその強さにたちまち酔いつぶれる。がぶがぶ飲めるユニスがどうかしているのだ。</p><p>しっかし勿体ねえなあ！ユニスちゃんも、もうちょい美人だったら、魔術師さんに喧嘩売ってでも</p><p>嫁にもらったかもしんねえのによ！</p><p>あっはっは、多分負けるからやめた方がいいよー</p><p>酔っ払いの戯言に、ユニスは生真面目に付き合う。それがまた、ドヴェルグ達には面白いのだろう。</p><p>ほんとなあ、背はまあちょっと高いがいいとして、もうちょい鼻が潰れてて、腹が出てて、足が短けりゃあ美人なのになあ！</p><p>ドヴェルグの美的感覚は人のそれとは随分違う。それを聞いてユニスは少々落ち込んだ。</p><p>Olぅ、Olも、鼻が潰れてお腹が出て、足が短いあたしがいいの？</p><p>いや、ユニスはそのままでそのままがいい</p><p>はっはっは！ 流石魔術師さんは度量が深ぇな！</p><p>バンバンと背を叩かれ、Olは水を気管に入れてしまい、むせた。</p><p>所で、頼んでいたものは出来たか？</p><p>げほごほと咳き込みながら、話題を強引に変える。</p><p>ああ、扉と箱なら出来てるぞ</p><p>ドヴェルグが指差す方に、扉と大きな箱がいくつか積まれていた。乱雑に積み上げられてはいるが、その出来は非常に精巧で頑丈そうだ。</p><p>わかった。後でインプを寄越して、取り付けさせる</p><p>あー、駄目だ、駄目だ。アイツはちっこくて役にたたねえ。取り付けもやってやるよ、案内だけさせとくれ</p><p>今まで扉は、滅ぼした村の家屋から引っぺがしてきたり、インプに作らせたりして使っていたのだが、いずれもただの木の板に取っ手をつけただけのもので、通路の大きさにもあっておらず、隙間が空いていた。</p><p>耐久性にも問題があり、斧でも入れようものなら一撃でバラバラになり、そうでなくても使っているうちに壊れる事さえあった。ドヴェルグの手による扉なら、熟練の冒険者の攻撃でも十数分は時間を稼いでくれる事だろう。</p><p>箱の方は、いわゆる宝箱と言う奴だ。これに金貨や魔法のかかった道具なんかを入れ、罠を仕掛け、迷宮のあちこちにおいておく。欲に目が眩んだ冒険者達への餌であり、命を奪ったり捕縛したりする罠でもある。</p><p>それは助かる。後、弓を五張ほど作って欲しいんだが</p><p>弓ぃ？</p><p>Olがそう切り出すと、ドヴェルグは難色を示した。弓はアールヴの象徴の様な武器だ。男は近接武器で戦ってこそ、と言う気風もあいまって、ドヴェルグは弓にあまり良い印象を持っていない。</p><p>報酬は今年できたばかりの麦酒、10樽</p><p>よおし、乗った！</p><p>が、無骨でさっぱりしたドヴェルグは、アールヴほど彼らを嫌っている訳ではない。報酬をたっぷり用意してやると、二つ返事で了承した。</p><p>あー気持ちいー</p><p>Olの背で揺られながら、ユニスはそう呟いた。</p><p>流石に酔いつぶれ、眠ってしまった所を放っておく訳にも行かず、ドヴェルグ達に囃し立てられながらOlは彼女を背負っていった。</p><p>起きたか</p><p>目を覚ましたなら自分で歩いてもらおう、とユニスを下ろそうとするOlの気配を察知し、ユニスは彼にしがみついた。微細な筋肉の動きから相手の行動を察知し、先手を打つ。英雄として生まれたユニスの天性の戦闘センスが今、彼女が生まれてからもっとも無駄に使われた。</p><p>おい、どういうつもりだ</p><p>えへへ、Ol、久々に二人っきりだね</p><p>Olの言葉を無視し、ユニスは彼の背中に頬を擦り付けた。彼らがその主人であるとは言え、今やそこは多くの妖魔蔓延るダンジョンである。足元を小さなインプが走り、遠くからは魔獣の吼える声が響く。</p><p>しかし、ユニスはまるで恋人同士が静かな森の中でいるような面持ちだった。</p><p>ねぇ、あたしが今のままでいいって本当？ もっと足短くなくていいの？</p><p>首筋から耳元に舌を這わせ、熱に浮かされたようにユニスは問うた。</p><p>それはドヴェルグの価値観だろうが。人間から見れば、お前は十分美しい</p><p>反吐を吐きそうな表情でOlは言った。</p><p>えへへへー、嬉しいなー</p><p>ユニスはぎゅっとOlを抱きしめる。</p><p>ねーOl、して？</p><p>容赦はしないぞ</p><p>Olは嘆息し、手頃な空き部屋を見繕って結界を張り、ユニスを地面に転がした。</p><p>手早く服を脱がしてそれを布団代わりに下に敷き、ユニスの股間に手をあてがう。</p><p>愛撫は必要なさそうだな</p><p>ん、でもキスはして</p><p>はい、と両手を伸ばすユニスを抱きしめ、唇を交わし舌を絡める。</p><p>そのまま、Olはユニスを貫いた。既にたっぷりと潤いを含んでいたそこは、何の抵抗もなくOlの物を飲み込む。</p><p>随分いやらしい身体になったもんだな</p><p>そうしたのは、Olでしょ～</p><p>無駄口を叩くな、とでも言わんばかりにユニスはOlの首を引き寄せ、唇を奪う。</p><p>そのままガッチリと腕は固定され、とてもOlの力では外せそうにない。仕方なく、Olは魔術師らしく搦め手で攻める事にした。</p><p>んっ、んんっ</p><p>恥骨を擦り付ける様にしてぐりぐりと円を描くように腰を動かす。こうするとクリが刺激され、快感が煽られるものの、中は殆ど動かない為に欲求ばかりが高まる。</p><p>しばらくそれを続けながら、更にユニスの胸に手を這わせた。形の良いそれは、大きくもなく、さりとて小さすぎる訳でもなく、Olの掌にすっぽりと包み込める程度の豊かさを持っていた。</p><p>もう、駄目ぇっ！</p><p>とうとうユニスも音をあげ、腕からOlを解放して叫んだ。艱難辛苦に耐えうる英雄の鉄の精神も、愛しい男から受ける快楽の前にはガラス細工の様なものだった。</p><p>あっ、ん、ねぇ、Ol。んんそれ、もっと、おっきい方がいい？</p><p>やわやわと胸をもみしだくOlに、ユニスは問い掛けた。</p><p>大きかろうと小さかろうと関係ない。お前は美しいと言ったろう</p><p>言うのが屈辱のきわみである、と言わんばかりの表情で、Olはそう答えた。最初は単に嫌々誉めているのだろう、と思っていたが、今ではユニスはそれが彼なりの照れ隠しであると考えるようになっていた。本人にそんな事を言えば、確実に否定されるだろうが。</p><p>ん、嬉しいね、もっと奥まで突いて、滅茶苦茶にして</p><p>今度は何も答えず、Olはその要望にたっぷりとこたえてやった。</p><p>第8話邪悪なる下僕どもを揃えましょう-4</p><p>調子はどうだ</p><p>Olが声をかけたとき、スピナは小刀で熱心に木に紋様を彫っているところだった。</p><p>ウッド・ゴーレム。様々な生き人形の中でも、もっとも基本的、かつ簡単なゴーレム。それを彼女は作っていた。</p><p>もう少しで完成です</p><p>入り口のOlをちらりと一瞥し、彼女は再び作業に戻る。既に両手足と胴体のパーツには紋様を彫り終え、今彼女が紋様を刻んでいるのは小さく丸い、頭のパーツだった。</p><p>ふむ、中々良い出来だ</p><p>Olは腕のパーツを取り上げ、出来をチェックする。まだ多少線がガタついてはいるが、動かない事はなさそうだった。初めてにしては上出来だ。</p><p>お師匠様が仰っていた、スライムに関しても造っては見たのですが</p><p>不意に、スピナは部屋の奥へと視線を向けた。奥の一角には女の部屋には似つかわしくない、フラスコやビーカーと言った器具が並んでいる。</p><p>魔法生物の作成には、二つのアプローチの仕方がある。一つ目が、ゴーレムやスケルトン作りと言った、素材を人型にして魔力を吹き込む事で仮初の命を与える、魔力付与(エンチャント)。</p><p>もう一つは、素材そのものを薬品や秘術によって作り出し、仮初ではあるものの魔力に由来しない、言わば偽の命を作り出す錬金術(アルケミー)。</p><p>スライムと言うのは、錬金術の過程で人工生命に失敗した際に出来上がる、出来損ないの命だ。ゲル状のぶよぶよとした核のない身体を持ち、何でも取り込んで消化しては大きくなる。ある程度の大きさになると二つにわかれ増えていく、という、何とも不気味な生き物だ。</p><p>動きは遅く、知性と呼べるようなものもない為戦力として数える事など出来ないが、放置された死骸なんかを食べて迷宮をある程度清潔に保ってくれる上、剣や槍では突いても斬っても倒せない為ある程度の障害にはなる。</p><p>と言うわけで、スピナに作成を命じていたのだった。失敗作とは言え、意図的に作れば金属だけを食べる騎士殺しのスライムだとか魔力を食う対魔術師用のスライムなんかも作れる上に、失敗作ではない人工生命(ホムンクルス)を作る練習にもなる。</p><p>どうやら失敗してしまったようで、生き物を食べないようなんです</p><p>スピナの視線の先では、フラスコの中でなにやら桃色の液体が蠢いていた。</p><p>まあ、失敗は成功の元とも言う。お前に魔術を手ほどきし始め、まだ一月も経たん。あまり気にするな</p><p>素直にスピナは頷いた。彼女は表情が殆ど変わらないため、何を思っているのかはその顔からはうかがい知れない。</p><p>時に</p><p>カリカリとゴーレムの頭を掘り込みながら、何気なくスピナは切り出した。</p><p>昨日はユニス、その前はリルと随分お楽しみだったようですね</p><p>む、とOlは呻く。スピナの口調に咎めるような色はなく、実際ただの弟子なのだから咎められる謂れもないのだが、それでも他の女との関係に触れられれば何とも居心地悪く感じてしまうのは男の性だ。</p><p>私にはご寵愛を頂けないのですか？</p><p>直截にスピナは問うた。口や手、胸での奉仕はしていたが、Olはスピナを抱こうとはせず、彼女はいまだ清らかな身のままだった。</p><p>魔術に携わるなら、純潔を保ったままの方がいい。処女である事は、様々に役立つ</p><p>美しいもの、清らかなものと言うのはそれだけで魔術的な意味合を持つ。簡単に穢れるにも拘らず、美しさを保っているものとなればその力は更に強まる。</p><p>けして錆びず、輝きを失わない金よりも、手入れを怠ればすぐに錆びてしまう銀の方が魔術的な性質が優れているのはそのためだ。</p><p>乙女も、特にそれが美しい乙女であれば処女であると言うだけで力を持つ。Olが村に処女を要求したのもそのためだ。悪魔への生贄に捧げてよし、魔術の媒体に使ってよし、最終的には自分で抱いて味わってもよしと、無駄がない。</p><p>そうですか</p><p>不満か？</p><p>いいえ</p><p>スピナは首を横に振った。相変わらず、表情は変わらない。</p><p>私は敬愛するお師匠様の仰るとおりに従います。不満などあろうはずもございません</p><p>本気で言っているのか皮肉なのか、Olは判断に苦しんだ。弟子にしてから、加速度的にこの女は読めなくなった。後継者候補としては頼もしい限りではあるが、厄介な事に変わりはない。</p><p>できました</p><p>ふっと息を吹きかけて削りカスを飛ばし、スピナはゴーレムの頭を持ち上げた。</p><p>うむ、では動かしてみろ</p><p>スピナはパーツをそれぞれ人の形になるように並べておくと、すっと息を吸い込み、呪文を紡ぎだす。闇より黒い漆黒の魔力がじわりと空間を犯し、ゴーレムの表面に彫られた紋様にインクの様に染み渡っていく。</p><p>眼窩の様に穿たれたゴーレムの顔の穴に、瞳の様に光がともる。黒い光、という矛盾したそれは額を中心にして紋様の溝を走ると、各パーツがお互いに引き合い、繋がりあった。</p><p>ぎこちない動きで、下手な道化師に操られる操り人形の様にゴーレムは立ち上がる。しかし、直立したところでよろけ、スピナを巻き込んで倒れこんだ。</p><p>衝撃で繋がりが解け、小さなゴーレムの頭がからからと勢いよく転がっていく。</p><p>大丈夫か？</p><p>カラカラに乾いた木で作った人形だ。大した重さもないし、スピナに怪我は無さそうだった。しかし、遠くでパリンと音がした。そちらに視線をやると、フラスコに入っていた桃色のスライムがスピナに向かって這いずり寄ってきていた。</p><p>ちっ、スピナ、こいつの弱点は何だ！</p><p>下手に触ればOlごと食べられかねない。普通のスライムの一番簡単な対処方法は炎で焼き払う事だが、それを見越して耐炎・食炎能力を持ったスライムも存在する。そんな相手に火を放てば事態は悪化する一方だ。</p><p>大丈夫です、この子は生き物を食べません</p><p>スピナの腕に張り付いたスライムは、じわじわと蠕動しながら彼女の肘の方へと移動した。確かに彼女の肌には傷一つついてないが、その割にスライムは徐々に大きくなってきている。何かを食べている証拠だ。</p><p>この子が食べるのは金属や一部の植物、死んだ動物の皮など要するに、衣服だけです</p><p>スライムが移動した後には、スピナの着ていた袖の長いワンピースが跡形もなく消えていた。不透明なスライムの身体越しに彼女の白い肌が透けて見える。服を食べ、拳大だったスライムはいつの間にやらスピナの全身を覆わんばかりに大きく広がっていた。</p><p>ちなみに、媚薬も混ぜたのでこうして包まれると発情効果もあります</p><p>お前は何を作ってるんだ！？</p><p>思わずOlは叫んだ。これがただの事故だとか偶然でない事は、薄々わかってきていた。</p><p>んっ、んん私の中に入ろうと、していますね</p><p>スライムがにゅるりと這いずり、スピナの下腹部の方へと向かう。彼女の衣服はもう殆ど原型を留めておらず、官能的な痴態を晒していた。</p><p>よくもまあそんなものを作ったもんだおい、これは俺にも襲い掛かるのか？</p><p>媚薬の効果で頬を紅潮させながら、スピナは首を横に振った。</p><p>男性は嫌いなので、触れようとすれば逃げます。精液をかけてくだされば特に</p><p>お前は天才か！？</p><p>Olは頭を抱えた。厄介極まりない。その凄まじい才能で、最初に作ったものがこれと言うのか。ゴーレムがよろけたのも計算なのか？</p><p>あの、早くしてくださらないと、私の初めての相手がスライムという事に</p><p>わかった、急かすな！ 全く</p><p>出来の良すぎる弟子に空恐ろしいものを感じつつ、Olは彼女の脚を掴むとその間にぐっと突き入れた。</p><p>媚薬の効果かそれ以外の要因によるものか、そこは既にびっしょりと濡れそぼっていた。</p><p>Olの肌に触れるのを嫌がるように、桃色のスライムは蠢いて離れる。</p><p>抱きしめていただけませんと、スライムが取れません</p><p>注文の多い奴だ</p><p>Olはスピナに肌を密着させ、口を塞ぎ、手を背中に回した。全身をなでさすってやると、スライムは完全にスピナの身体から撤退する。その時にはもう、彼女の衣服は全て溶け落ちていた。</p><p>離れたぞ</p><p>身体を離そうとすると、スピナが腕と脚をOlに絡ませ、甘い吐息を吐く。</p><p>いけません媚薬の影響で、抱いて貰わねば気が狂ってしまいそうです</p><p>何から何まで計算づくか！</p><p>そもそも現状を冷静に説明できる時点で気が狂うも何もないとは思ったが、Olとしても今更引く気はない。身体を離そうとしたのは単にこのままやられっ放しなのが不満だったが故のポーズだ。</p><p>抱かれたいなら、初めから素直にそういえ。こんな回りくどい手を取らんでも、何度でも抱いてやる</p><p>そ、そのような事、言えません</p><p>視線を逸らし、スピナは頬を赤らめた。その赤みは媚薬によるものではないだろう。</p><p>厄介な女だ、と思いつつも、Olは抽送を開始した。どんなに策謀を巡らしていたとしても、ただOlに抱いて欲しいだけだったと思えば多少は可愛く思えなくもない。</p><p>んふ</p><p>Olに貫かれ、スピナは鼻から声を漏らした。</p><p>普段はピクリとも動かない鉄面皮が快楽に溶け、切なげに眉が引き締められる様は征服欲をしっかりと満たす。</p><p>人形の様に端整な顔立ちをした彼女が、声が出ないように目を閉じて必死で耐える様は、Olの心からすっかりしてやられた敗北感を取り上げ、かわりに嗜虐心を煽った。</p><p>どうだ。お前の中がひくひくと蠢いてるぞ？これで犯されたかったのだろう。どうだ、お前の処女を奪った肉の味は</p><p>っ、くっ</p><p>必死に唇を噛み締め、声を押し殺すスピナ。彼女の膣内をゆっくり擦るように突き入れると、びくんと身体を震わせた。</p><p>ここがクリトリス淫核だ。知っているか？ ここが、何の役に立っているか。何のために女の身体についているのか？</p><p>抽送を繰り返しながら、秘核に指を当てて問うOlに、スピナは健気に首を横に振った。</p><p>答えは、性的な快感を得るためだ</p><p>ひぁっ！</p><p>そこを擦りあげると、流石にたまらずスピナは声をあげた。</p><p>わかるか？ 他の何の役にも立たず、ただ快楽を得る為だけに存在するんだ。卑しく、浅ましい事だとは思わぬか</p><p>あっ、あぁっ、ひ、ぁぁんっ！</p><p>一度堤防が決壊してしまえば、もう我慢は出来なかった。後から後からわきあがる快楽に、スピナは翻弄されるままに声をあげる。</p><p>んんーっ、ん、ふ、あ、ひぃっ！</p><p>口内を舌で蹂躙し、淫核を指で擦り上げ、膣内を肉棒で陵辱する。その一つ一つにスピナは高く鳴き、身体を震わせ、首を振り善がった。</p><p>媚薬と思慕によって高められた興奮は彼女の感覚を最大限まで敏感にし、肌に触れる掌にすら快楽を感じる。もう何度も絶頂に達し、朦朧とした意識の中でスピナはただただOlを求めた。</p><p>行くぞ受け止めろ、スピナ！</p><p>ひぁぁぁっ！ ああぁぁっ、あっ、あっ、ふああああああぁぁぁぁっ！！</p><p>どくどくと膣内に出されたOlの精液が膣壁に当たり、その感覚にスピナは盛大に気をやった。口からはだらしなく涎が流れ、股間からは潮を吹き、双眸からは涙が溢れていた。</p><p>白目を向いてイったスピナを見て、Olは抱かなければ気が狂うと言っていたのも本当なのかもしれない、と考えた。処女だったスピナがここまで善がり狂うとは、一体どんな媚薬を混ぜたのやら。</p><p>実際は媚薬の効果だけではなく、スピナのOlに対する狂おしいまでの愛情も大いに関係するところではあったのだが、彼は気付かない。</p><p>侵入者が女であれば、撃退や拷問に使えるかもしれないなと思考を巡らせた所で、Olは部屋の中にスライムが見当たらない事に気づいた。</p><p>数分後、遠くからユニスの悲鳴が聞こえた気がしたが、意識を失いながらも幸せそうにOlを抱きしめるスピナのせいで、助けに行くのはかなり遅れそうだった。</p><p>第8話邪悪なる下僕どもを揃えましょう-5</p><p>召喚術と言うのは難しい。</p><p>まず、異世界と次元をつなぎ、望んだ相手を呼び出すというだけでかなりの実力を必要とする。腕の悪い魔術師は狙った場所に開けず、とんでもないものを呼び出す事だってある。</p><p>次に、呼べたとしても呼んだ相手から身を守る方法が必要となる。呼ばれた悪魔は問答無用でこちらに従う、などと言うことはないのだ。それどころか、いつでも人間の魂を奪う事を狙っている。</p><p>魔の眷属が外に出られない魔法陣を描き、その中に悪魔を召喚するのが定石となるが、位の高い悪魔だと生半可な結界など簡単に破ってしまう。また、魔法陣にちょっとでも不備があれば、それは結界として成立しない。しかも、ちゃんと効果を発揮できるかどうかは悪魔を呼ぶまでわからない。</p><p>更に、無事召喚に成功し、魔法陣に閉じ込めたとしてもそれで終わりではない。</p><p>呼んだ悪魔と交渉し、契約しなければならない。召喚された悪魔は、自分の力が必要とされている事を良く知っている。だから、大抵は足元を見て過分な要求を突きつけてくる。</p><p>また、言葉巧みに魔法陣を消させようとしたり、有利な条件で契約しようとするから、嘘や脅しに屈しない知恵と精神も必要だ。</p><p>それらを経て、ようやく一匹の悪魔を従えるにいたる。インプの様な弱い悪魔であれば数分で済む簡単な仕事だが、中級以上の悪魔となればその手間は大幅に増大し、上級悪魔ともなれば準備に年単位の時間をかけなければならない事もざらとなる。</p><p>そんなわけで、Olはここ一ヶ月の間にコツコツと作り上げた魔法陣の最終確認を行っていた。複雑な紋様を描く魔法陣の表面を、舐めるように琥珀色の魔力が滑っていく。それを三度試し、途切れることなく滑らかに魔力が流れる事を確認してようやくOlは納得した。</p><p>娘、来い</p><p>手招かれ、Olから少しはなれたところに立っていた少女が、少し慌てた様子で駆け寄る。栗色の髪を三つ編みにした素朴な顔立ちのその少女は、今日新しく迷宮にやってきたばかりの生贄の乙女だ。</p><p>美人、と言うほど整ってはいないが愛嬌のある顔立ちで、田舎の娘らしく化粧気のない素朴な少女だ。名をミオと言う。</p><p>左腕を出せ</p><p>緊張した面持ちで、逆らうことなく腕を差し出すミオの手首に、Olは短剣を走らせた。痛みはなく、冷たい刃の感覚だけがすっと残る。薄く裂かれた手首からぽたぽたと血を垂らすと、Olは左手で印を組んで手首に触れた。途端に、血は止まり傷は跡形もなく消える。</p><p>よし。下がっていろ</p><p>命じられるままに下がるミオを尻目に、Olは呪文の詠唱を始めた。ミオの垂らした血が赤く輝き、ふっと掻き消える。</p><p>次いで、魔法陣の中央から炎が噴出した。炎は魔法陣の縁まで膨れ上がると、まるでそこに壁があるかのように止まり、とぐろを巻く蛇の様に渦巻きながら天井へと燃え上がっていく。</p><p>魔法陣の中一杯に炎が燃え広がったかと思った瞬間。</p><p>雷鳴の様な炸裂音が轟き、同時に一瞬にして炎が掻き消えた。</p><p>我ヲ 呼ビ出シタノハ 汝カ</p><p>代わりに、そこには醜悪な悪魔が立っていた。Olの後ろで、ミオがはっと息を飲み込む。悲鳴を上げなかったのは上等といっていい。恐れを見せれば見せるほど、悪魔はそこにつけこむ。</p><p>そうだ。対価として魔力と処女の血を払う。我に仕え、その力を貸せ</p><p>話ニ ナラン</p><p>まるで金属の板を爪で引っかくかのような不愉快な声で、悪魔は答えた。悪魔は全身赤黒く、その肌に体毛はない。筋肉は赤銅の様に輝き、四本の腕を持っていた。その腕は一本一本がOlの腰と同じくらい太く、指の先には鋼も引き裂けそうな鉤爪がついている。</p><p>頭は、狼の様に突き出た口に、山羊の様にねじくれた角が生え、松明の火の様な橙の瞳が爛々とOlを見据えていた。</p><p>血デハナク 魂ヲ 寄越セ。穢レノ ナイ 娘十人分ノ 魂デナラ 考エテヤロウ</p><p>傲然と言い放つ悪魔に、ミオは恐怖に身を震わせた。</p><p>しかし、Olは些かもたじろいだ様子もなく答える。</p><p>それこそ話にならん。貴様如き下級悪魔(レッサーデーモン)にそこまで支払う気にはなれんな。条件は変わらぬ。呑めぬと言うなら直々に魔界へ送り返してやる</p><p>ムウ、と呻いて悪魔は4つの腕を組んだ。レッサーデーモンと言う呼称は彼程度の力を持つ悪魔を人間が呼ぶときの総称だが、その名の響きに反して悪魔としての位はそれなりに高い。</p><p>勿論、最上位であるアークデーモンやグレーターデーモンに比べれば劣る事は否めないが、そんなものを使役出来るのは神代に存在した伝説の魔道王くらいのもの。現代の魔術師が召喚できる悪魔の中では、レッサーデーモンはむしろ最高位に近いほどの実力を持っていた。</p><p>しかし、そんな彼の前でOlの不敵な態度に、レッサーデーモンはただならぬ物を感じたのだ。</p><p>所詮小悪魔か。わからぬのか、666の悪魔を従える、この我の魔力が</p><p>Olの身体から、炎の様に琥珀色の魔力が迸る。糸状ではなく、身体全体を覆うように吹き出す魔力は人間の持ちえる量ではない。</p><p>666ダト</p><p>現実的な数字ではない。普通の魔術師なら、悪魔を10も従えれば干乾びる。しかし、先ほどの魔力を見ればそれも不可能ではないように思えた。何より、666の悪魔を従えていると言うのは嘘ではない。</p><p>ある程度以上の実力を持つ悪魔にとって、人間の嘘など見破るのは容易い。勿論、嘘を隠す為の魔術もあるが、今度はその魔術自体の臭いを悪魔の鼻は嗅ぎ付ける。</p><p>レッサーデーモンは、目の前の魔術師が嘘をついていないことを確信した。</p><p>であれば、強気な態度も納得できる。つまり、彼程度の格の悪魔を呼び出す事など大した苦労とは思っておらず、条件を呑めないなら魔界に送り返す、と言うのもハッタリではない。</p><p>これほどの魔術師と巡りあうのは、そうそうあることではない。</p><p>分カッタ、一ツデ イイ。乙女ノ魂一ツダ、ソレデ 力ヲ 貸シテヤル</p><p>大幅な譲歩だ。要求を減らし、文言も考えてやるから力を貸すに変えた。幾らなんでも元々突きつけられた要求は呑めない。しかし、これなら相手も喜んで受け入れるはずだ。悪魔はそう考えた。</p><p>駄目だ。魔力と処女の血、それで我に仕え、力を貸せ。命によって殺した相手の魂くらいなら、くれてやろう</p><p>が、Olは殆ど譲る気はなかった。こんな魔術師の敵対者の魂など、どいつも穢れきったものに決まっている。乙女である事さえまずないだろう。</p><p>ナラバ、交渉ハ、決裂ダ！</p><p>炎が噴出し、魔法陣を満たす。幾ら相手が稀代の魔術師だろうと、そんな薄給で仕えるなどありえない話だ。力を貸すくらいならまだいい。仕えるとなると、命令に拒否権はないし、いつまで経っても働かないといけない。そんな馬鹿げた話はない。</p><p>魔法陣は良くできているが、レッサーデーモンがその気になれば数分で破壊できそうだった。どうせ契約も出来ずに殺されるなら、一か八かにかけて襲い掛かったほうがマシだ。</p><p>そう覚悟を決め、悪魔が魔法陣を破ろうと力を込めたその時。</p><p>おうる、さま。ごはんの、じかん、だよ</p><p>新調したばかりの扉をぎぃ、とあけて、幼い少女が部屋に入ってきた。</p><p>ナ</p><p>燃え上がった炎は一瞬にして立ち消え、ぷすんと音を立て黒い煙になった。悪魔は驚愕に目を見開き、少女を見つめる。</p><p>処女の血って、その子の事か</p><p>貴様が望むなら、それでもいいが</p><p>悪魔が問うと、Olは少し戸惑ったように答えた。</p><p>分かった、する、契約する！ お嬢ちゃん、名前を教えてくれないか</p><p>？ わたし、は、マリーむぐ</p><p>危うく真名を名乗ろうとした少女の口を、Olが塞ぐ。</p><p>マリー、ああ、マリー。悪魔は四本の腕をかき抱くようにして口の中で呟いた。</p><p>真名ではないようだったが、そんな事は関係ない。</p><p>極上。ああ、極上の乙女だ。こんな人間、今まで見たこともない。</p><p>黄金の様に波打つ髪。宝石の様に輝く無垢な瞳。ふっくらとした頬は薔薇の花の蕾の様に赤く、柔らかく暖かそうな身体。おまけに、なにやら強力な魔術の祝福までかかっている。</p><p>お、おい、お前口調が変わってるけどいいのか</p><p>熟練の魔術師をして、急変した悪魔の態度に若干引きながらOlは尋ねた。</p><p>乙女としてはそれほど価値の高くないミオを見せておいて、譲歩を引き出したところでマリーを見せ、一気に契約させる。元々予定していた通りの手だが、ここまで劇的に態度が変わるとは思わなかった。</p><p>ああ、あんなもん人間ビビらせる為にやってるだけだ、別にいいだろ。それよりとっとと契約しろよ！</p><p>まさかロリコンだったとは。</p><p>口に出さず呟き、Olは懐からリルと契約した時と似たような条文を突き出す。悪魔はマリーに釘付けになりながら、よく見もせずに契約に同意した。</p><p>おいてめえ、騙しやがったな！？</p><p>ローガンと名乗った悪魔はOlの襟首に掴みかからんばかりに詰め寄った。</p><p>契約でOlに対する暴力が禁止されていなければそうしていただろう。</p><p>嘘はついてないだろう</p><p>666の悪魔とか言いやがって、600匹以上インプじゃねえか！</p><p>正確には650匹だな。他は10匹ガーゴイル、5匹ヘルハウンド、1匹サキュバスだ</p><p>普通の魔術師は、インプなんて悪魔の数に数えたりしない。あんなものは下級も下級、最下級の存在だからだ。そもそも2,3匹呼べば事足りるような仕事しか出来ない悪魔を何百も呼び出す意味など普通はない。</p><p>それに処女の血！ そりゃあ、マリーの血は滅茶苦茶美味かったけど週に1滴2滴ってどういうことだ！？</p><p>契約書にはちゃんと書いたはずだがな。見なかったのはお前だ</p><p>普通、悪魔に血を捧げるといえば生贄の血全部だ。つまり、魂は渡さないが、肉体一個丸々といっていい。</p><p>あああああ！ 騙されたあああ！</p><p>時既に遅し。ガチガチに縛られた契約によって、ローガンはOlや女たちを襲う事さえ出来ない。</p><p>Olって本当、男には容赦ないよね私女で良かった</p><p>自分が辿る可能性もあった道を横目で見ながら、リルはほっと胸を撫で下ろしたのだった。</p><p>閑話部下と交流しましょう-1</p><p>いやぁ～、マリーは本当に可愛いな。影の中まで心地良いぜ</p><p>声をあげるな変態</p><p>Olは頭を抑えながら、傍らを歩くマリーに言った。彼女の影の中にはローガンが潜んでいる。</p><p>とりあえず戦闘以外に使う気のないこの悪魔を、Olはマリーの影の中に潜ませておく事にした。それなりに分別のあるスピナやユニスと違い、幼い彼女はフラフラとどこに行くかわからない。</p><p>その護衛兼お目付け役と言う意味もあるし、マリーの影に入っていれば不満を口にしないので、煩いローガンの口を封じるためと言う意味もある。</p><p>いいか、週に一度の血以外に絶対に手を出すなよ</p><p>分かってるって、旦那。俺だってこんな極上の人間を失いたくはないしな。イエスロリータ、ノータッチ！</p><p>のー、たっち！</p><p>その馬鹿の真似をするな、マリー</p><p>意外とマリーとの仲は良好なようだったが、用済みにになったら消し炭にして魔界に返してやる、とOlは心に誓った。</p><p>ミオ、調子はどうだ</p><p>あ、Olさん。はい、今ブラッシングが終わったところです</p><p>家畜部屋を覗くと、毛足の長いブラシを片手にミオが牛の背をぽんぽんと叩いた。</p><p>食料にする為の家畜だが、食料が余ってきた為に最近はすぐに締めるのではなく、しばらく生かすようになっていた。その世話を自ら買って出たのがミオだ。</p><p>元々村では牧場主の娘であった彼女は、Olたちの杜撰な管理に眉を吊り上げ怒った。自身を生贄として差し出されても、Olに悪魔の餌にされそうになっても怒らなかった彼女がいきなり怒鳴りだしたのにはOlも驚いたが、それ以来彼女は甲斐甲斐しく家畜達の世話をしている。</p><p>普段は自分の食べ物も慎ましい態度で受け取るのに、家畜の世話に必要なものは遠慮なくぽんぽんと要求してくる。お陰で家畜部屋はどんどん広くなり、施設や備品も充実の一途を辿っていた。</p><p>今から風呂にいくところだ。お前も来るか</p><p>あ、いいんですか？ じゃあ、お言葉に甘えて</p><p>あまり見た目に頓着しないミオだったが、やはり女なので衛生には気を使った。家畜の世話をしていればどうしても身体も獣臭くなるし、汗もかく。自分からは言い出せなかったので、Olの申し出は嬉しかった。</p><p>風呂は常に沸いているから、入るのに許可は要らん。好きな時に浴びるがいい</p><p>は、はい</p><p>家畜小屋を離れると、ミオは緊張した面持ちで頷いた。家畜が関係しない事だと彼女は酷く気弱で控えめな少女になる。</p><p>ぶべ！？</p><p>並んで廊下を歩いていると、突然ローガンがくぐもった声をあげた。そのまま歩くマリーの影から、べりべりと引き剥がされるように実体化する。</p><p>お前は風呂など必要なかろう。結界を壊すなよ</p><p>Olがあらかじめ張って置いた悪魔よけの結界だ。と言っても、リルは影響を受けないので実質ローガン除けといっていい。</p><p>なっ！？ふざけんな、テメェマリーの柔肌を独り占めする気かぁ！？</p><p>お前と一緒にするな</p><p>とは言うものの、リルが仕込んだ口での奉仕は何度も受けているのでOlもあまり人の事はいえない。</p><p>あ、あの、Olさん、ちょっと可哀想じゃ？</p><p>結界に阻まれ叫ぶローガンが、屠殺場に連れて行かれる家畜たちに重なってミオは思わずOlに声をかけた。</p><p>おおっ、いい事言うなそこのババア！</p><p>気のせいでした、いきましょう</p><p>が、返ってきた言葉にすぐさま踵を返す。このダンジョンに何故か沢山いる美女たちに比べれば数段劣るとは言え、齢十六花盛り。ミオにも乙女心と呼べるような物はあるのだ。</p><p>おぉ、先に失礼しているぞ、主殿</p><p>扉の先に広がっていた光景に、驚くと共にミオは落ち込んだ。気持ち良さそうに湯に漬かっていたのはエレン達黒アールヴだ。リルやユニス、スピナといった美女達と並んだ時も惨めな気持ちになるのに、褐色の美女が五人も揃うと迫力が違う。</p><p>って、混浴なんですカッ！？</p><p>躊躇わず服を脱いで備え付けの籠に放り込むOlに、思わずミオの声は裏返った。</p><p>それはそうだ。今の所居住区に男は俺しかおらんしな。常時湯を沸かせるのにそれなりに魔力も使っておる。わざわざ別にする事もなかろう</p><p>Olは自然にローガンの存在を無視した。</p><p>綿密な計算の元でダンジョンの通路を引き、龍脈の形を整え、地熱を運ぶ事で作り上げたこの湯殿はOl自慢の一室だ。</p><p>部屋にはモザイクタイルが敷き詰められ、微妙に傾斜があって濡らしても自然と水がはけるようになっている。浴槽は床の上に設置するタイプではなく、床を掘り下げて湯を溜めてある。以前の様に焼けた石を放り込むまでもなく水は常に適温に温められ、好きな時に入る事ができる。いわば人工の温泉だ。</p><p>主殿、この前頂いた弓を試してみたのだが、あれは素晴らしいな！灰色熊を一撃だ。後で毛皮と肉は進呈差し上げる</p><p>エレンは湯殿の中から、若干砕けた口調でOlに笑いかけた。</p><p>堅苦しいのは相変わらずだが、以前の様な余所余所しさはない。どうやらこちらが地の様だ。</p><p>ドヴェルグが作り、Olが呪を封じ込めた弓は一級品の魔弓に仕上がった。</p><p>驚くほど軽く引くことが出来るのに、その強さは石弓以上。狙った場所でピタリと止まり、空に放てば地平線の彼方まで矢を飛ばす事ができた。これにアールヴ達の腕が加われば百発百中、5人で放てば矢は雨の様に降り注ぐ。</p><p>うむ、それは何よりだ。早く仲間が見つかると良いな</p><p>Olはマリーを抱えて、アールヴ達の輪の中に腰を下ろした。湯船はまだ幼いマリーの背には少し深い為、こうして抱えてやらないとおぼれてしまう。</p><p>ミオ、お前もさっさと入れ</p><p>入り口で顔を赤くしたり青くしたりと忙しなかったミオも、Olに促されて渋々服を脱ぎ、湯船の端の方におずおずと身を埋める。じんわりとした暖かさが身体を包み、その心地良さにミオは思わず息を吐いた。</p><p>それでな、主殿</p><p>ごほん、と咳払いをし、エレンは改まった様子で切り出した。</p><p>あのような素晴らしい物を賜り、我ら一同、ますます主殿への忠誠を確かにした。ついては、その名目だけでなく、実際にも主殿の物にして欲しいのだが</p><p>エレンはちらりとミオに目をやった。</p><p>ああ、あれの事なら気にしなくていい。ここで構わんか？</p><p>主様が望まれるのであれば、いつどこででも</p><p>するりとエレンはOlに擦り寄り、胸を押し付けた。スレンダーでほっそりとした白アールヴに比べれば、黒アールヴの身体はいくらか肉感的だ。</p><p>ミオ、抱えてろ</p><p>Olはミオに猫の子でも渡すかのようにマリーを任せると、エレンに湯船の縁に手をつけ、尻を突き出すように指示した。そのまま後ろから突き入れると、アールヴ達がOlの周りに集まり、しなだれかかる。</p><p>はぁぁさすがはOl殿、こちらの固さも素晴らしいな</p><p>そちらも、黒の氏族の抱き心地の良さを教えてくれるのだろう？</p><p>両腕にそれぞれアールヴを抱き、腰だけでエレンを突きながらOlはそう囁く。</p><p>ああっ勿論、だともっ</p><p>エレンはきゅうっと膣を締め付けると、激しく腰を振ってOlの物を飲み込んだ。</p><p>肉と肉がぶつかり合う音が浴室にパンパンと響き、淫らな雌の匂いが充満する。</p><p>なるほど、これは悪魔の使いといわれるわけだ。まさに魔性の快楽だな</p><p>リル殿にも負けぬ良さだろう？ 存分に味わってくれ</p><p>弓を引く為に鍛えられた筋力はOlの一物を柔らかな肉で締め上げ、耳元で感じられるお付のアールヴ達の甘い吐息や、すべすべした肌の感触が否が応にも興奮を高めていく。単純な技術の腕はともかく、この連携の取れた包囲網は淫魔にも為せない愉悦の坩堝だ。</p><p>だが、やられっぱなしと言うのも性に合わんな</p><p>Olはエレンの腰を掴むと、いきなり奥深くまで突き入れた。</p><p>ふ、あぁぁっ</p><p>強引な抽送にペースを乱され、エレンは背筋を反らせる。</p><p>その隙を突くように、Olは腹側の膣壁を擦りあげた、</p><p>ふあっ、ああぁぁっ！</p><p>ガクガクと震えるエレンの膝を支えるように腹に手を回すと、腰を密着させてぐりぐりと刺し貫く。後ろからこうすると、他の体位よりずっと奥まで届く。</p><p>あ、あ、あ、あ、あ！</p><p>一声ごとにエレンの声が余裕をなくし、高く上がる。</p><p>そ、れ、だ、め、ぇっ！ いくっ！</p><p>エレンは固く浴槽の縁を掴み、ピンと背筋を反らしてぶるぶると震えた。膣内がぎゅっと窄まり、Olの物を締め付ける。</p><p>行くぞっ！</p><p>Olは一旦腰を引くと、一気に二度、三度奥まで突き入れた。</p><p>あっ、あっ、ああああっ！</p><p>そして、ぐっと腰を押し付けながら、最奥で大量の欲望を吐き出す。</p><p>～～～～～～～～～っ！</p><p>胎内を蹂躙される感覚に、声もなく、息すら出来ず、エレンは絶頂に達する。</p><p>一物を差し込んでいるのに溢れ出るほどの量を注がれ、更に搾り出すように何度か中を往復し、Olが一息ついて離れるのを待って彼女も固く張り詰めた身体を弛緩させた。</p><p>よろよろと浴槽の縁に身を預け、脱力する。あまりの快感に、全身から力が抜け立つ事さえままならない。</p><p>一度でそうなっていては、まだまだリルには敵わんな</p><p>意地の悪い笑みを見せるOlの一物を、二人のアールヴが競うように舌を這わせ、清めていく。残りの二人が彼にしな垂れかかり、耳元で囁く。</p><p>まだ4人残っています。勿論、私達もご寵愛頂けるのですよね？</p><p>ああ、勿論だ</p><p>Olはアールヴの美姫達を抱きしめ、ニヤリと笑みを見せた。一人一回で限界に達するとしても5回。さて、リルが気絶するまで耐えた最高記録は何回だったかな、と思い返しながら、Olは次の得物を見定めた。</p><p>閑話部下と交流しましょう-2</p><p>あーっ！ あーっ！ あぁーーーーーっ！</p><p>まるで断末魔の悲鳴の様に叫び、果てるアールヴの膣内にたっぷりと注ぎ込む。Olがペニスを引き抜くと、彼女は他の四人と同じように股間から白濁の液を滴らせながら浴槽の縁にもたれかかった。五人とも、一度の絶頂でぐったりと力を失っていた。アールヴは絶頂が深いのかもしれない。</p><p>そんな事を考えながら、Olはくるりと後ろを振り向いた。</p><p>ひっ</p><p>その股間にそそり立つ、全く硬度を失わぬ肉剣を見てミオは息を呑んだ。</p><p>自分で慰めていたのか？</p><p>Ol達の痴態を見て興奮したのだろう。ミオは左腕でマリーを抱きながら、右手の指は股間にあてがわれていた。慌ててミオは手を隠すように背の後ろにやった。</p><p>隠さずとも良い。お前を抱く気はなかったが家畜の世話の腕は買っている。褒美をくれてやるとしよう</p><p>ざぶざぶと湯をかきわけながら近づいてくるOlから逃げようと、ミオはじりじりと後ずさりしようとするが、元々浴槽の端に座っていたのでそれもかなわない。</p><p>マリー、お前は先に上がっていろ。ちゃんと身体を拭いて、服を着るんだ。出来るな？</p><p>あい</p><p>元気よく頷き、部屋の隅へ乾いた布を取りに行くマリーを見送り、Olはミオの両腕を掴んだ。</p><p>あ、あの、Olさん、私、ほら、アールヴの皆さんみたいに美人じゃないし、その、あの</p><p>自分で言って、ミオは自分で落ち込んだ。そう、彼はただ、たまにはちょっと変わった娘を味わいたいと思っただけだ。毎日高級で美味しいものばかり食べてるから、たまには大衆食堂で定食でも食べてみるかな、みたいな。</p><p>卑下するな。確かにお前は美しいとは言えんが、醜いわけでもない</p><p>そんな事を思っていたものだから、その言葉はミオの心の奥底に楔の様に突き刺さった。</p><p>Olはミオの顎を掴むと、至近距離でその瞳を見つめる。</p><p>素材はそれほど悪くない。磨けば光るだろう。どうだ、俺に磨かれてみるか？</p><p>Olの深い茶の瞳が、ミオを覗き込む。その瞳は、魂の奥底までも見通すようだった。</p><p>駄目だ。頷いちゃ駄目だ。ミオの心は、全力で警鐘を鳴らした。頷いたらもう戻れない。二度と家族に会う事もできないし、二度と何も知らなかった呑気な牧場の娘にも戻れない。本能的に、ミオはそれを悟った。</p><p>目の前の、昨日までは気難しいけど意外と気さくな魔術師さんと思っていた男は、炎をまとって現れた悪魔よりも邪悪な存在であると、心の奥底から理解した。</p><p>だが。</p><p>はい</p><p>こくん、とミオは頷いた。その提案は何よりも甘美で、抗いがたい魅力を放っていた。美しくなりたい訳ではない。賛美を得たい訳でもない。</p><p>ただ、目の前の男の目に留まり、関心を持ってもらえるというただそれだけの事が、ミオの心を裏切り、身体を突き動かした。</p><p>んんっ</p><p>Olが頷いたミオを抱き寄せ、口付ける。そこに優しさや労わりは存在しない。自分が所有する物を扱うだけの、無慈悲で無遠慮な態度でOlの舌は彼女の口内を蹂躙した。</p><p>んっ、む、ぅぅっ！！</p><p>それだけでミオは軽く達し、身体を震わせる。</p><p>Olはミオの脇に手を差し入れると、身体を持ち上げて浴槽の縁に腰掛けさせた。そして両脚に手をかけると、ぐいと押し開く。</p><p>このまま入れるぞ</p><p>ミオが答える間もなく、Olは彼女の処女を貫いた。そこはアールヴ達の痴態と自慰によって明らかに湯とは別の、粘性を帯びた液体でしとどに濡れていた。</p><p>ふあぁぁぁぁぁっ！！</p><p>男を知らぬ胎内を蹂躙される感覚に、ミオは激しい痛みと、それ以上の快感を味わって再び達し、びゅっ、びゅっと音を立てて潮を吹いた。</p><p>もはや彼女の魂はOlの手の中に堕ち、与えられるものは痛みですら愉悦となっていた。首を寄越せと言われれば、迷わず剣の刃を自分の喉に突きたてるだろう。ただ平凡に生きてきた哀れな少女は、齢経た邪悪な魔術師によって完全に魅入られていた。</p><p>ふぁっ、ふっ、ふぁぁっ、あああっ、ふぁぁぁっ！</p><p>奥を突かれる度に稲妻の様に全身を走る絶頂の波に、ミオは高く鳴く以外何も出来ない。思考はとうの昔に飛び、膣内をOlの肉塊が往復するたびに、彼女の心から大切だった何かが零れ落ちていく。</p><p>随分楽しそうだな。私も混ぜてもらえるか？</p><p>ようやく体力が回復したのか、エレン達がいつの間にか忍び寄り、Ol達に絡みついた。</p><p>人間は好かぬが、Ol殿と、その寵愛を受ける者は別だ</p><p>エレンがOlに抱きついてその唇を吸い、もう一人が彼の首筋に舌を這わせる。</p><p>残りの三人はミオの両胸と唇にそれぞれ吸い付いた。</p><p>んんっ、んんんんんっ！！</p><p>口を塞がれ、声すら出せなくなったミオは絶頂の余り真っ白に染まる視界の中、自分自身が空っぽになるのを感じた。両親も、家畜達の記憶も、今はもう遠くどこかに飛んでいってしまった。ミオという人間は失われ、快楽さえもはや届かない。ただふわふわとした曖昧な意識と、蹂躙される肉の塊だけが存在する。</p><p>行くぞ！</p><p>そんな空っぽの器に、Olの精が注ぎ込まれた。バチン、と音さえ立てそうな濃厚なイメージで火花が飛び散り、意識が覚醒する。それと同時に、彼女を今までにない、凄まじい快楽が襲った。それは彼女の体の隅々まで迸り、満たしていく。</p><p>何もかもなくした彼女の存在全てを、Olと言う存在が埋めた。</p><p>最後に残った涙が一滴、ミオの頬を、流れた。</p><p>ヘルハウンドですか？</p><p>連れて来られた五頭の黒犬を見て、ミオは目を丸くした。</p><p>ああ。これでも一応悪魔の一種だが、世話は普通の犬と大して変わらん。身体は少しばかり大きいがお前を襲う事はないから安心しろ</p><p>わかりました。一生懸命、お世話させていただきます！</p><p>雄牛ほどもある巨大な犬を、ミオは以前と変わらない屈託のない笑みで撫でた。</p><p>しかし、その容貌には以前にはなかった色気が溢れ、自信に満ちている。</p><p>彼女の魂は完全に闇に堕ち、悪魔が放つ瘴気も何の苦にもしない。それどころか、その方が体調がいいほどだ。</p><p>では、頼んだぞ</p><p>はい。Ol様のご命令とあれば、何なりと聞いちゃいますよ！</p><p>今のミオなら、Olに命じられれば親兄弟にでも嬉々としてヘルハウンドをけしかけるだろう。本来なら、適当に抱くなり血を使うなりした後は村に返してやるつもりだったのだが、Olのほんの気まぐれと、家畜を扱う腕の良さによって、彼女は一生を闇に囚われる事となった。</p><p>どちらがミオにとって幸せだったかは、永遠に知られる事はない。</p><p>第8.5話ダンジョン解説</p><p>第8話終了時点でのダンジョン。</p><p>階層数：3階層</p><p>瘴気：4</p><p>貯蓄魔力：20（単位：万/日）</p><p>消費魔力：7（単位：万/日）</p><p>扉LV2</p><p>ドヴェルグによって作られた頑丈な扉。作られた時点である程度の魔力を備えており、対物理、対魔法双方に対してそれなりの強度を持つ。</p><p>扉LV3</p><p>ドヴェルグによって作られ、Olが魔術をかけて作った強固な扉。各階層間を守り、滅多な事では破壊できない。この扉をくぐる為には各階層のボスを倒す必要があるが、8話終了時点でボスは未実装である。</p><p>宝箱</p><p>罠のかかった宝箱。非常に重く、簡単には持って帰ることは出来ない。無理に開けたり破壊しようとすると罠が発動し、中の物を奪おうとする不心得者に罰を与える。実は簡易転送陣が仕込んであり、破壊さえしなければ罠の種類と中身をOlが自在にかえることが出来る。</p><p>工房</p><p>ドヴェルグの工房。武具から家具まで何でも作れるように出来ている。各種罠や宝箱に入れるための餌となる武具、迷宮の住人達の部屋に入れる家具などは主に酒や食料と引き換えにここで作成される。</p><p>アールヴの部屋</p><p>湯殿の傍にあった部屋を急遽改装し、アールヴの為に用意された。5部屋あり、エレンの部屋だけ一回り大きい。</p><p>家畜部屋</p><p>牛や豚、鶏などを飼育している部屋。元は家畜達を種別関係なく押し込め、地面に餌をばら撒いているだけだったが、ミオの要求により一新。湯殿の傍に以前の3.5倍の大きさで作られ、家畜たちは柵によって区切られ、世話の為の様々な器具が置かれている。なお、魔獣などの世話も一手に任されるようになり、専門となるインプも部下に与えられて家畜部屋は日々増築の一途を辿っている。</p><p>湯殿・改</p><p>龍脈の魔力を利用して無理やり地熱を引き込む事で、焼けた岩をいれずとも常に温かい湯が利用できるようになった。地面もモザイクタイルを敷き詰め水はけを良くし、片隅には脱衣所にいつでも清潔な布が豊富に用意されている。混浴。（※男悪魔を除く）</p><p>コボルト</p><p>鉱山の妖精が堕落した結果生まれた妖魔。鉄を腐らせる能力を持つ。強さはさほどでもないが、その能力によって戦士には非常に嫌われる。元鉱山の妖精だけあって坑道掘りを得意としており、自在に迷宮を拡張強化する事が出来る。</p><p>エレン(黒アールヴ)</p><p>戦力：8最大貯蓄魔力：4</p><p>森の妖精アールヴのうち、森の持つ暗い面をつかさどる黒の氏族の長。黒アールヴ達の中でも特に抜きん出た能力を持ち、百発百中の弓の腕と卓越した魔術の知識を持つ。魔力貯蔵量もかなり高い。</p><p>黒アールヴ</p><p>戦力：7最大貯蓄魔力：3</p><p>エレン配下の黒アールヴ達。エレンには一歩劣るものの、いずれも鍛え抜かれた精鋭中の精鋭。4人揃って戦えば、ユニスと互角程度の勝負に持ち込む程度の戦闘力を持つ。ちなみに名前はそれぞれアレット、ベティ、クロエ、デルフィナと言うが、作中で言及される事は恐らくない。</p><p>ドヴェルグ</p><p>戦力：6</p><p>卓越した鍛冶の腕と醜い容貌を持つ小人。火と鉄の妖精であり、森の妖精であるアールヴとは折り合いが悪い。一応彼らも黒ドヴェルグと呼ばれる事もあるが、アールヴの様に氏族で分かれているわけではなく、報酬の為なら闇の眷属にも力を貸す奴らと言うような意味合いである。戦力以上に鍛冶の腕が有用な為前線に出す事はないが、個々が一流の戦士でもある。</p><p>ジャイアントフライ</p><p>巨大なハエ。と言っても30cmほどで、戦闘力は殆どない。ゴブリンと互角の戦いを繰り広げられる稀有な存在。ただし、暗い迷宮でも関係なく空を飛ぶその機動力にだけは特筆すべきものがあり、侵入者があった場合真っ先に気がつき警戒音で辺りに危険を知らせる厄介な存在。なお、警戒音によって引き寄せられたジャイアントスパイダーに捕食される事も迷宮内ではよく見られる展開である。</p><p>オーガ</p><p>戦力：5</p><p>人食い鬼とも呼ばれる、身の丈3ｍを超える大型の妖魔。人に限らず、動くものなら悪魔以外は何でも殺して食べる。群れを作らず、気ままに動く為に数をそろえるのは難しいが、妖魔の中ではかなり強い力を持っている種族であり、戦力として十分に期待できる。Olの迷宮での主食はゴブリン。</p><p>媚薬スライム</p><p>生物は一切傷つけず身につけた衣服だけを消化し、媚薬効果で発情させると言うエロ小説の為だけに生まれたかのような存在。エロファンタジーではお馴染みだが実際に作ろうと思うと、技術は必要ないが天才的なバランス感覚と発想を要求される。なお、その後Olに回収、封印された。</p><p>ミオ</p><p>戦力：0最大貯蓄魔力：0.1</p><p>普通の村娘だったが、Olに魂を闇に落とされ、ダークミオとして転生。元々持っていたスキル家畜の扱いがギフト獣の理解者として成り代わった。これは魔獣・幻獣を含む獣と意思疎通をし、ある程度自分に従わせる事が出来る能力で、本人自身には戦闘能力はない物の、Ol配下の獣であれば自在に操ることが出来る。</p><p>ローガン（レッサーデーモン）</p><p>戦力：9消費魔力：3</p><p>レッサーという名とは裏腹に、ユニスに次ぐ戦闘能力を誇る強大な悪魔。でもロリコン。レッサーとは、神代に神にはむかった悪魔の中では下級、という意味であり、人間が扱えるものの中ではむしろ最上級に近い能力を持つ。でもロリコン。</p><p>あとロリコン。</p><p>非支配領域、支配領域共に戦力が充実し、またドヴェルグ、コボルトの協力によって大幅に防衛能力が増強した。初級～中級程度の冒険者ではOlの下に辿り付く事さえ出来なくなり、同時に多くの冒険者を引き寄せる下地が出来上がっている。</p><p>第9話街を蹂躙しましょう-1</p><p>Olのダンジョンは現在、全三階層である。</p><p>三階層と言っても、地下三階の迷宮という訳ではない。一つの階層は階段や坂などで簡単に行き来できる幾つかの階で構成されており、一階当たりおおよそ10mほどの高さを持つ。一階層につき3,4階分の幅を持つので、Olの迷宮はおよそ100mから120mほどの深さを持つ大迷宮だ。</p><p>階層間には道が一本しかなく、堅牢な扉が備え付けられており、Olを含むごく一部のみがそこを素通りできる鍵を持っている。この扉は魔力で強化されており、ユニスやローガンの力を持ってしても破壊には少々手間取るほどの頑強さを誇っている。</p><p>階層ごとに住むものは別れており、第一階層には勝手に住み込んだ野生の魔物や魔獣が、第二階層には契約を結んだ妖魔たちが。そして三階層にはOlとその愛人たちが住む居住区となっている。</p><p>その第三階層の更に奥、巨大な卓の置かれた部屋に、Ol達は集まっていた。</p><p>いよいよ、街へと侵攻する</p><p>重々しく告げるOlに、全員が注目する。卓を囲うのはリル、ユニス、スピナ、エレンといった顔ぶれだ。</p><p>こちらの戦力も大分整ってはいるが、村と契約したときの様に簡単にはいかん。村と街の違いは何かわかるか？</p><p>えーと人が沢山いる？</p><p>反射的に、リルがそう答える。当たり前すぎる答えを、Olは黙殺した。</p><p>人間の事を問われてもないや、待て。数の多い集落と少ない集落の違いか。多い方は武装している人間が多く、物見櫓や備え付けの弓なんかがあったな</p><p>エレンの答えに、今度はOlは頷いた。</p><p>ただ多いだけでなく、訓練を積んだ戦力と備えがある。その通りだ。</p><p>他にはあるか？</p><p>戦力って言えば、兵士だけじゃなくって冒険者もいるよね。街になればギルドだってあるし</p><p>自身が冒険者家業をやっていた時のことを思い返し、ユニスが言う。</p><p>しかし、欲しい答えではなかったらしく、他には？とOlは再度問うた。</p><p>多様性</p><p>ぽつり、とスピナが声をあげた。</p><p>街には、多様な人間がいます。街の人間だけでなく、冒険者や行商人、旅人、役人</p><p>Olはゆっくり頷いた。</p><p>村には村人しかいないと言っていい。村長の意思が村人の総意だ。長が取引に同意すれば、個々の感情はどうあれ村全体がそれに同意する。だが、街は違う</p><p>人間ではないリルとエレンにはピンとこなかったが、ユニスはああそっかと声をあげた。</p><p>気に食わなければその街を出て行ける旅人や商人が多すぎる。何かを要求すれば、町長はそれを税で補填しようとするだろう。そんな街に留まりたいと思うものは少ない。無理に要求すれば、その街はすぐに衰退し、やがては滅びる。略奪するのとそう大差はない</p><p>村に対してやったみたいに、街も得をするような条件をつけられないの？</p><p>街でも農作業は多少しているだろうが、村ほど自給率は高くない。お互いに得にはならんな。護衛も同様だ。十分自立出来ているからこそ発展し、街の規模になっているのだ。こちらが出来る事は、そう多くない</p><p>ユニスは悲しげに目を伏せ、言った。</p><p>じゃあ無理やり攻め込んで、略奪するの？</p><p>そんな事を続ければ世界が滅ぶだろう。そうなってはこちらにも益などない</p><p>Olは彼女を安心させるように、やや優しい口調で答えた。</p><p>決めさせるだけだ。どちらにつくのが得策かをな</p><p>第9話街を蹂躙しましょう-2</p><p>その日は雲一つない快晴だった。</p><p>さんさんと照りつける太陽の光と、頬をなでる風が心地良い。絵に描いたような小春日和に、ジェイクはふああ、と間の抜けた声をあげて欠伸をした。</p><p>最近不穏な噂が聞こえてくる事もあるが、国の外れのこの街は嫌になるほど平和だ。しかし、そんな街が彼はこの上なく気に入っていた。</p><p>よう、ジェイク。調子はどうだ？</p><p>同僚のマックが物見櫓を上りながら声をかける。</p><p>いつも通りさ。天気は快晴、気分は上々、本日も異常なし</p><p>だろうな</p><p>マックはジェイクの向かいにどっかりと腰を下ろすと、懐からカードを取り出した。</p><p>ポーカーでもやるかい</p><p>いいね</p><p>見張りの仕事はとかく暇だ。マックは簡単にカードを切ると、五枚ずつ配った。</p><p>たまにはゴブリンくらい襲ってくればいいのにな</p><p>そうだな</p><p>マックは懐から銅貨を一枚置きながらそういった。</p><p>マックに相槌を返し、同じように銅貨を一枚置きながら、ジェイクは内心平和を願った。騒動なんて真っ平だ。本音を言えば、植物の様に平和な日々を送りたい。</p><p>3枚変えるぞ</p><p>マックは場に三枚カードを捨て、山から三枚カードを引いた。</p><p>という事は、元々の手は良くてワンペア。交換で良くなっていても、精々がスリーカードだろう。手元の札を見て、ジェイクはにやりと笑みを浮かべた。手元には既にフラッシュが揃っている。</p><p>交換はいらない</p><p>ほう、強気だな。レイズだ</p><p>マックがテーブルに更に銅貨を一枚置く。</p><p>レイズ</p><p>ジェイクが銅貨を二枚足すと、マックの表情が変わった。</p><p>レイズだ</p><p>マックは一気に銅貨を三枚増やした。そんなにいい手が入ったのか？ ジェイクはマックの表情を伺った。ジェイクの手はフラッシュで、一番高いカードはキングだ。これに勝つとなると、フルハウスかフォーカード、ストレートフラッシュしかない。3枚交換してそれらの手が出るなんて、まずありえない。</p><p>いいぜ、コールだ</p><p>ジェイクは銅貨を二枚足すと、カードを一枚一枚開いていく。</p><p>クイーンのフラッシュだ。どうだ？</p><p>マックが驚愕に目を見開く。</p><p>おい、嘘だろ</p><p>搾り出すような絶望の声が搾り出された。その手から、ぽろりとカードが零れ落ちる。</p><p>おいおい、カードで負けたくらいでそんな顔するなよ。そんなに懐が厳しかったのか？</p><p>ジェイクの声が聞こえていないのか、マックは目を見開いている。ジェイクはマックのカードに目をやった。</p><p>何だって、フルハウスだと！？</p><p>マックが落としたカードはエースが2枚、8が3枚のフルハウスだった。ジェイクのフラッシュより上の役だ。担がれてぬか喜びさせられたのかと、顔を上げると、マックは立ち上がり、外を凝視していた。</p><p>なんだ、ありゃ</p><p>その視線を追って、ジェイクは思わず呟く。マックの視線の先、遥か彼方では、地平線の少し手前に数百匹の魔物達が列を成して陣取っていた。</p><p>けたたましい音で早鐘が鳴らされ、あたりに怒声が響き渡る。</p><p>魔物だ！ 何百匹っていう魔物が攻めてきやがる！</p><p>鐘の音に、櫓の下に集まってきた兵士達にマックは叫び声を上げた。</p><p>魔物だと？ 何だ、ゴブリンか？</p><p>余り緊迫感のない声で問い返す兵士に、ジェイクが声を荒げた。</p><p>ゴブリンにオーク、オーガまで編隊を組んでいやがる！宿で寝こけてる冒険者どももたたき起こして来い、街が滅ぶぞ！</p><p>見間違いじゃないのか？ ゴブリンとオーガが仲良くお散歩なんて聞いた事ねーぞ</p><p>オーガは獰猛で残忍な人食い鬼だ。人に限らず、動くものなら何でも襲って食べてしまう。ゴブリンなど、彼らにとっては気の利いたデザートくらいにしか映らないだろう。オークにしたって、他の種族と協力して人間を襲ったりしない。</p><p>ゴブリンとオーガを見間違えるか！ 想定外の事が起こってるんだから、兵士じゃ太刀打ちできないって言ってんだ！ いいからさっさとあのごくつぶしどもを叩き起こしてきやがれ！</p><p>毎日の様に死線を潜る日々に嫌気がさして堅気の職についたが、ジェイクは昔冒険者をしていた。その時に、オークもオーガも見た事があるし、最近多少衰えてきたとは言え目の良さにも自信がある。元冒険者の勘が、全力で警報を鳴らしていた。</p><p>現役時代、この勘に従って失敗した事は一度もない。今回もジェイクはそれを信じた。</p><p>なんだありゃあ</p><p>マックの呟きにジェイクが振り返ると、小さな悪魔がパタパタと羽ばたき、こっちへと飛んできていた。それにも見覚えがある。インプだ。そいつが何やら旗の様なものをはためかせているのを見て、ジェイクは最悪の勘が当たった事を悟った。</p><p>待て、撃ち落すな！</p><p>即座に弓を構える兵士達を制止し、インプから旗のようなものを受け取る。それは思ったとおり手紙だった。インプ自身に敵対する意思はないようで、ジェイクにそれを渡すと魔物達が陣取っている方へと帰っていった。</p><p>町長を呼べ。それと兵士長もついでに商人ギルドの長もだ</p><p>物見櫓を飛び降り、ジェイクは叫んだ。かなりの高さを持つ櫓だが、身の軽さと手先の器用さだけで世界を渡ってきたジェイクにとってはその程度の高さはなんでもない。</p><p>魔術師Olが、宣戦布告を仕掛けてきた</p><p>第9話街を蹂躙しましょう-3</p><p>我々は断固として戦うべきだ！</p><p>机を叩き、兵士長が怒鳴る。</p><p>その場合、我々の損害は計り知れません。ここは歩み寄るべきなのでは？</p><p>商人ギルドの長は冷静にそう返す。</p><p>むぅ</p><p>長い髭をしごきながら、町長は唸った。</p><p>我に従い、税を払うならよし。さもなくば力づくで従わせる。一刻（ニ時間）以内に決断し、従うならば門を開けて迎えよ</p><p>Olから送られてきた文書には、概ねそのような内容が書かれていた。ジェイクは宣戦布告だと怒鳴ったが、どちらかと言うと最後通牒に近い。とにかく二時間以内に、戦うのか、受け入れるのかを決断せねばならない、と、町長の応接間で町長、兵士長、商人ギルド長、そして何故か冒険者の代表としてジェイクが顔を突き合わせていた。</p><p>そして、兵士長は徹底抗戦、商人ギルド長は服従と意見は真っ二つに別れていた。町長はどちらにも決めかね、ジェイクはあまり興味がない、と言うわけで中立を保っている。</p><p>邪悪な魔術師に屈すると言うのか！？ この恥知らずめ！それに、これは我がフィグリア王国に弓引く所業だぞ！</p><p>ではお聞きしますが、あなた方はあの魔物の軍勢に勝てるのですかな？</p><p>兵士達は、王国から派遣されている者たちだ。国の頂点に王がおり、その下に王国の各地域を治める領主がいる。そして更にその下に各町や村の町長、村長がおり、下から上へと税は吸い上げられていく。</p><p>Olの要望は、その税を自分に寄越せつまりは、所属している国を変えろ、と言うにも等しいものだった。しかも厄介な事に、Olが要求している額は、王国から要求されているそれより随分安い。</p><p>国に属す兵士が断固として拒否し、利のみを求める商人が受け入れる姿勢なのも、それが原因だ。町長はと言えば、その狭間で迷っていた。それは、Olの文書に書かれている一文。</p><p>従う場合、フィグリア王国に税を納める事を禁止する</p><p>という物のせいだ。武力を楯に禁止されていると言えば、この街が王国を敵に回す事はなく、税の支出を抑える事ができる。それはつまり、この街が潤うと言う事だ。</p><p>街としては嫌々Olに従っており、従来通り税を支払って欲しいなら先にOlを討伐してくれ、というポーズをとる事が出来る。町長の頭の中にあるのは、商人とは真逆の思考。Olは国に敵対してどこまで戦えるのか？と言うことだ。</p><p>冒険者どもがいるだろう！ 魔物を相手にするなら、あの無法者達が打ってつけだ！</p><p>まあ、そうかもしんねぇけどよ。あいつらは報酬がないと動かんぜ。誰がその金を出すんだ？</p><p>兵士長の言葉に、沈黙を守っていたジェイクが口を挟んだ。</p><p>貴様らと言う奴は！ この期に及んでそんな事を抜かすか！？敵は悪の魔術師！ これは侵略戦争だ！ 正義は我らにあり、戦うのに理由など</p><p>ですが、先方は略奪をしに来た訳ではない。譲歩すればむしろこちらに利すらある。それにも拘らず、無償で命を張れと？</p><p>と言うか、俺はもう冒険者じゃないんだからそんなこと言われてもなあいつらは絶対そういうぜ、って言いたかっただけだ</p><p>兵士長が怒鳴り、商人が冷静に言い返し、ジェイクが混ぜ返す。</p><p>少し、黙りなさい！</p><p>紛糾を極めたその場を、町長は怒鳴り、収めた。</p><p>ジェイクと言ったか。君は、敵を直接見てきたと言ったな</p><p>そして、一つの決意を胸に静かに尋ねる。</p><p>率直に言ってくれ。この街の兵士と冒険者、全ての戦力を持って戦ったとして敵は、倒せるのかね？</p><p>良いか、者ども、良く聞け！</p><p>居並んだ兵士、そして冒険者達の前で、兵士長は声を張り上げた。</p><p>敵は邪悪なる魔術師Ol、そしてその配下の悪鬼妖魔ども！その魔力は計り知れず、数は300を優に越える！対して我らは、僅か200の手勢に過ぎない！だが、しかし！ 我らフィグリア王国兵士団と、勇猛なる冒険者諸君が力を合わせれば、ゴブリンやオーク如き、物の数ではない！</p><p>町長が選んだ道は、抗戦だった。</p><p>勝てる。が、甚大な被害が出る。そう答えた、ジェイクの言葉を信じた。</p><p>利よりも勇を取り、悪に屈してはならない、そう決断したのだ。</p><p>しかしその決断の裏には、冒険者達が甚大な被害を受けるならその分払う額も減る。そんな打算もあった。</p><p>剣を取れ、槍を掲げよ！ 正義は我らにあり、邪悪なる者は光の前に必ず滅びる！往くぞ！ 我らが愛するこの街の為に！</p><p>応、と男達は声を張り上げた。敵対的とは言わないまでも、お互い反目しあっていた兵士と冒険者が、共通の敵を前に手を携え戦う。その敵は、醜悪な怪物を従えた邪悪なる魔術師。Olの要求を知らされていない兵士と冒険者達はそのシチュエーションに血を沸かせ、正義の心を燃え上がらせた。</p><p>剣を持つものならば、誰でも英雄願望を持っている。それを湧き上がらせるのには格好の状況だった。</p><p>配置につけ！ ゴブリンは前衛に任せ、オーガを優先的に狙え！敵は狙いやすいデカブツだ、ぐっと引き付けて射殺してしまえ！</p><p>弓を得意とする者たちが櫓に登り、狙撃の準備をする。</p><p>門の前には槍を構えた戦士達が集い、その後方に魔術を得意とする冒険者達が構える。</p><p>相手は三種類もの魔物を操ってる。何人魔術師がいるのか知らないが、魔力は殆ど残ってないはずだ。たとえ火球を放ってきても、俺の魔術でしっかり守ってやるから安心してゴブリン共を駆逐してくれよ、兵士さん</p><p>まさかお前達に背を任せる日が来ようとはなだが、こんなに頼もしい味方は他にいない！</p><p>冒険者の魔術師が兵士に声をかけ、兵士がニヤリと笑みを返す。</p><p>勝てる。兵士長はそう確信した。</p><p>たとえこの身が朽ちようとも、後続の勇者達が必ず邪悪なる魔術師を討ち滅ぼしてくれる。全身に力が漲り、鎧が軽く感じる。</p><p>こんな気持ちで戦うのは初めてだった。</p><p>もう、恐れるものは、何もない。</p><p>往くぞ、勇者たちよ！</p><p>パンッ。</p><p>そんな、軽い音を立てて。</p><p>兵士長の上半身は消滅した。</p><p>第9話街を蹂躙しましょう-4</p><p>あ、しまった</p><p>ふと漏らしたエレンの声に視線を向けると、彼女は申し訳なさそうにOlを上目遣いで見た。</p><p>その、すまん、主殿。敵の最前列に、なんかやたらと調子に乗った感じのポーズを取っている男がいたのでつい射殺してしまった</p><p>うっかりカップを割ってしまった、位の口調で彼女は謝る。</p><p>Olの目には、門の前に集まっている者達の見分けなどつかない。</p><p>空を見上げると、布陣した頃には中天に差し掛かっていた太陽は、やや西に傾いていた。</p><p>まあ良いだろう。そろそろ一刻経つし、あの布陣が何よりの答えだ。そろそろ始めるか</p><p>Ol側の戦力は、ゴブリン200、オーク70、オーガ30。</p><p>そしてOl、黒アールヴ達、スピナ、リルだ。ユニスとローガンは迷宮を守らせている。</p><p>ミオとマリーは元々戦力外だ。戦力にならないという意味ではスピナも対して変わらないが、今後の為に見学に来ている形になる。</p><p>アールヴ達は櫓の上の弓兵を射殺せ。俺が合図したら、一気に突撃するぞ。リル、スピナ、来い</p><p>アールヴ達は弓を構え、次々に矢を放った。櫓という高さのハンデがあって尚、街側の弓とは射程がまるで違う。あちらの弓が届きすらしない範囲から、アールヴ達は次々に射手を殺していった。</p><p>灰色熊を一撃で屠る剛弓だ。この距離からでも、人に当たれば半身が丸ごと吹き飛ぶ。すぐさま、敵方は大混乱に陥ったようだった。</p><p>Olは左右にリルとスピナを侍らせながら、朗々と呪文を唱え始める。Olが持っている分ではとても魔力が足りないが、かといってリルから魔力を一気に吸い上げるとOlの身体が破裂してしまう。多すぎる魔力と言うのは、人の身には毒なのだ。</p><p>ゆえに、二人を傍に置いて魔力を魔術に変換すると同時に、二人から魔力を吸い上げる。理論上、魔力を仕込んだ女を大量に用意する事で、Olはどのような大魔術でも使うことが出来る。</p><p>さて、いくぞ</p><p>術の構成を整え、Olはリルに口付け魔力を補給する。一息ついて、印を組んだ腕を振り下ろす。</p><p>爆ぜよ</p><p>街の門が、大爆発を起こして粉々に砕け散った。</p><p>なんだ！？ 一体何が起こってるんだ！？</p><p>腕が俺の腕がねぇぇぇ！ どこに行ったんだぁぁぁ！？</p><p>弓兵の連中は何してるんだ！？</p><p>リーシャ君に最後に会いたかった</p><p>そんな奴らとっくに全滅してるよ！</p><p>来る、来るぞ、やつらが来る！</p><p>嫌だ、死にたくない、こんなところにこれ以上いられるか！</p><p>戦場は、混乱の局地にあった。兵士長を初めとして、櫓の上の弓兵達が次々に弾け飛んで死んでいく。街の中に立てこもるべきだという意見と、討って出て敵の魔術師を殺すべきだ、という意見が錯綜する。長を欠いた集団の意見は定まらず、結果として彼らは何もせずにその場に留まると言う最大の愚を犯した。</p><p>そこに、門の大爆発である。木製とはいえ、街を守る為の大事な門だ。その強度はかなり高く、魔術で補強もしてある為に破城槌でもおいそれと壊す事などできない。それが、木っ端微塵に吹き飛んだのだ。</p><p>爆発に巻き込まれ、何人かの兵士と冒険者も犠牲になった所に敵が進軍を始めたのを見られ、混乱は最高潮を極めた。</p><p>わ、我々は街を死守する！ 敵は貴様ら冒険者が迎え撃て！</p><p>なんだと！？ ふざけんじゃねえ、あんな化け物相手に出来るか！</p><p>金を払ったんだから、その分働け！ 大体、敵の魔術は防ぐといっていたのは貴様らだろうが！大口を叩いただけの仕事はしろ！</p><p>あんなモン、防げる奴はこの世にいねえよ！ 超長距離からの攻城級魔術だと！？人間技じゃねえ！ 金なんかいらねえ、降りさせてもらうぜ</p><p>先ほどまで笑みを交し合った兵士と冒険者が諍いを始める。</p><p>いざとなったら冒険者を盾にせよ</p><p>兵士達は、町長からそう通達を受けていた。そうすれば、支払いも減ると。</p><p>ならん！ 逃げるというなら貴様らも、逆賊としてこの場で処分する！</p><p>目を血走らせ、兵士は冒険者達に槍を突きつけた。前方には魔物の集団、後方には槍を構えた兵士。冒険者達は、互いに視線を交わすと覚悟を決めた。</p><p>わかったよ。やってやろうじゃねえか！</p><p>そして、魔物達に向かって突進していく。</p><p>後ろで街に入っていく兵士達を見て、冒険者の一人が唾を吐いてつぶやく。</p><p>馬鹿め。門も射手もいないってのに、街に立てこもってどうする気だってんだ。民間人もろともなぶり殺しにされるだけじゃねえか</p><p>彼らはもちろん、勇敢に敵に立ち向かったりなどしない。Ol軍に接敵する前に進路を変え、さっさと逃げ出す。敵の狙いは街なのだ。ちょいと横にどいてやれば、それで戦う必要なんかなくなる。冒険者達が選んだのは、この負け戦からさっさと逃げ出す事だった。</p><p>愚か者め。そんな事をしても鴨撃ちにされるだけだ</p><p>そんな冒険者達を見て、兵士の一人が吐き捨てる。</p><p>射手を皆殺しにした攻撃方法があるのだ。戦線を離脱すれば、それを狙って殺されるに決まってる。</p><p>しかし、案に相違して冒険者達は狙い撃たれる事なく、無事に戦場を脱した。</p><p>撃たなくて良いのか、主殿</p><p>逃げ出していく冒険者を見ながら弓を構えるエレンに、Olは頷いた。</p><p>彼らにはこの戦争の事を伝えてもらわなければならない。</p><p>大勢は決まったようだな</p><p>間も無く魔物達が街に雪崩れ込む。そうしたら、街をゴブリンが破壊しつくす前に、奴らを止めなければならない。オークはOlが、オーガはリルが完全に操っているが、ゴブリンは別に操られているわけではない。ただ単に、オークやオーガを恐れて逃げているだけだ。</p><p>しかし、やはり人間は愚かだな。この大事に、お互いに争い、足を引っ張り合う。醜いものだ</p><p>エレンの言葉に、同意するようにスピナが頷く。しかし、Olは首を横に振った。</p><p>それは違う。人間と言うのはな、多様な生き物なのだ。恐らくあの人間共は、最初は奮起し正義の為に心を燃やした事だろう。それそのものは、別に嘘でも偽りでもない。しかし、同時に裏で打算や醜い欲望も渦巻いている。それもまた嘘ではない。どちらかのみを持てる人間などおらぬ。人は常に善と悪の狭間で揺れ動く。その多様性は時には恐ろしい矛となり、時には自分を殺す毒となる。今回は毒として機能するよう働きかけたのが上手くいった。しかし、だからといって人間を侮れば足元をすくわれるぞ</p><p>むう、と呻いてエレンは表情を引き締める。</p><p>確かに、たかが人間風情と侮った先にあったのは、黒の氏族の壊滅だった。</p><p>今回は辺境の田舎町、勝てて当然の相手だ。練習だと思え</p><p>とはいえ、初陣としては上々か。兵士達を蹂躙している魔物達を見て、Olは心の中でそう呟いた。</p><p>では、そろそろ行くか</p><p>戦えなくなった街で、もう一度突き付けてやるのだ。</p><p>隷属か、死か</p><p>多様な意見を持つ街であるが故に、個の意見によって意向が決まることはない。圧倒的な力を見せ付けた今、徹底抗戦を唱える人間がいても、同じ人間によって潰されるだろう。</p><p>その日、Olは街を一つ手に入れた。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-1</p><p>グオオオアアアアアアァァァッ！</p><p>唸りを上げて振るわれるオーガの豪腕を、アランは軽く身体を傾けてかわす。それと同時に懐に入って剣をひらめかせる。鉄の様に硬いオーガの皮膚に、瞬く間に無数の裂傷が走った。</p><p>グウガァァァッ！</p><p>全身を切り裂かれながらもさほど怯んだ様子もなく、オーガはアランを叩き潰そうと、丸太のような太い腕を振り上げる。そこに、ウィキアの放った火炎弾が炸裂した。</p><p>全身を炎に包まれ、流石のオーガもよろけ、片膝を突く。そこにすかさずナジャが斬り込み、横薙ぎに剣を振るうとオーガの身体は腰で上半身と下半身にわかれた。</p><p>ふぅっ</p><p>剣についた血糊を払い、鞘に収めるとShalがとたた、とアランに駆け寄ってその腕に触れる。彼女が短く呪文を唱えると、暖かい光がアランの傷を包み、一瞬にして綺麗に回復させる。</p><p>うむ、素晴らしい威力だな。真っ二つの剣《ソード・スラッシュイング》、とでも呼ぼうか</p><p>今オーガを両断した剣を見つめ、嬉しそうに言うのは戦士のナジャ。ゆるくウェーブする赤銅のような赤毛を長く伸ばした、長身の美女だ。南国グランディエラ出身で、豪胆でサッパリとした気性の女性だ。</p><p>ロングソード+1とかで良いんじゃないの</p><p>ぼそりと突っ込みを入れるのは、魔術師のウィキア。サラサラの青銀の髪をまっすぐ伸ばした美少女で、表情に乏しく寡黙だがその実誰よりも情に厚く心優しい。</p><p>あ、あたしは素敵な名前だと思いますよ</p><p>慌てたように二人の間に割ってはいるのは、僧侶のShal。エメラルドの様な緑の髪をボブカットにした小柄な少女だ。かなり幼く見えるが、見た目に反して白アールヴの彼女は最年長だ。パーティで諍いが起こった時も、にこにこと微笑んで心を和ませてくれる。</p><p>じゃあ俺の剣は切り裂きの剣(ソード・スライシング)って所か</p><p>そして、腰の剣をぽんと叩きそう答えたのがパーティ唯一の男性にしてリーダー、剣士のアランだ。金髪碧眼の美男子で、剣の腕のみならず魔術に罠の解除もこなす、オールラウンダー。恐れを知らぬ勇猛さと、冷静な判断力を併せ持つ凄腕の冒険者である。</p><p>彼らはたった四人で、凶悪と噂される邪悪なる魔術師Olの迷宮に挑み、既に地下4階まで足を踏み入れていた。ゴブリンやオーク、オーガにスケルトン、ドラゴン・フライにジャイアントスラッグさまざまな怪物が彼らの行く手を阻んだが、どれも敵ではなかった。</p><p>むしろ、時折怪物が落としていく宝箱からは強力な魔法の品や金貨などが手に入り、彼らの戦力はますますあがるばかり。アランとナジャが手に入れた剣もその一つだ。</p><p>それより、アランあそこ</p><p>くいとアランの袖を引っ張り、ウィキアが曲がり角の奥を指差した。アランがそちらを覗き込むと、通路の奥に、なにやら大きな扉が見えた。今まで見たのとは違う、両開きのしっかりした作りの扉だ。</p><p>いかにも何かある、と言わんばかりのその扉に、アランはごくりと唾を飲み込んだ。</p><p>どうする？</p><p>魔力は十分に余っているわ</p><p>あたしも大丈夫です</p><p>疲れもない。私も問題ないぞ</p><p>その一言でメンバーは彼の意図を正確に把握し、体調を報告した。</p><p>よし、じゃあ行くぞ</p><p>こくりと頷き、アランは扉を軽く調べる。鍵穴はなく、鍵もかかっていないようだ。もう一度メンバーを見渡し、声を出さず手でタイミングを合図する。</p><p>３，２，１</p><p>０と同時に、アランは扉を蹴り開けた。その隣をナジャがすり抜け、次にアランが扉の中に飛び込み、Shalとウィキアが中に入って扉を閉める。その動作は殆ど一瞬にして行われた。</p><p>Shalとウィキアが扉を閉めている間に、アランとナジャは剣を抜き放って前方に駆ける。扉の向こうは大きなホールになっていて、中央に巨大な怪物が座り込んでいた。3mほどの隆々とした体躯に、牛の頭を持つ怪物。ミノタウロスだ。</p><p>アランとナジャはミノタウロスが立ち上がる前に怪物へと接近すると、左右から同時にきりつけた。ミノタウロスは座った体勢のまま巨大な斧を持ち上げると、その剣戟をいともたやすく防ぐ。</p><p>舌打ちし、反撃を恐れて距離をとる二人の前でミノタウロスはのっそりと立ち上がった。</p><p>人間ならば二人がかりでようやく持ち運べそうな大斧を、片手で軽々と持ち上げ、ぶんと振るう。</p><p>巨大な体躯と斧の柄の長さもあいまって、その射程は生半可なものではない。アランはかろうじてそれをバックステップでかわしたが、ナジャは避けきれず吹き飛ばされた。</p><p>大丈夫ですか？</p><p>しかし、胴体を両断されても良いほどの衝撃にもかかわらず、彼女には大した傷はない。Shalの唱えた魔術がメンバー全員の身体を淡く包み込み、ダメージを軽減させていた。</p><p>ああ、助かった。しかし、アレはちょっと迂闊に近寄れないな</p><p>広い場所で大斧を振るうミノタウロス。アランはかろうじてそれをかわすものの、激しく地面を打ち付ける斧は床の一部を破壊して飛ばし、アランに細かい傷を無数につける。更に、足場が破壊される事でアランの素早いステップが殺され、よけるのが徐々に困難になっていく。</p><p>動きを止めてみる。あんまり長くは持たないから</p><p>そういい、ウィキアが長い呪文を唱え始める。ナジャは頷くと、ミノタウロスに向かって突進した。</p><p>新たに向かってくる彼女に向け、ミノタウロスは斧を横薙ぎに振るう。</p><p>うおおおおおお！</p><p>吼え、ナジャは床に剣を思いっきり突き刺した。直後、凄まじい衝撃が彼女を襲うが、大斧の一撃は床に刺さった剣を折ることはかなわず、ナジャの手前で止まる。凄まじい衝撃がナジャを襲い、剣を抑えた左腕に刃が食い込むが、戦闘不能に至るほどの傷ではない。</p><p>そこで、ミノタウロスの両脇に石の壁が立ち上った。ウィキアの魔術だ。本来防御に使うためのものだが、生半可な呪いでは動きを止められないミノタウロスの動きを強引に制限した。</p><p>ナジャ、続けッ！</p><p>好機と見て、アランがミノタウロスに向かって突っ込む。ミノタウロスは素早く大斧を手元に引き戻すと、アランに向かって思いっきり振り下ろした。</p><p>しかし、アランはそれを軽くかわす。両脇の石壁のおかげで大斧は振り回せず、振り下ろす事しかできない。それだけで、攻撃の避け易さは段違いになる。そして、アランが誘発した攻撃によって前傾姿勢となったミノタウロスの手首を蹴り、ナジャが跳んだ。</p><p>階段を駆け上がるようにしてその太い腕を駆け上り、両手で構えた剣を横薙ぎに振るう。狙い済ましたその一撃は、ミノタウロスの首に突き刺さった。</p><p>だが、オーガの胴体をも両断する鋭さを持って尚、ミノタウロスの太い首を刎ねるには至らない。剣は30cmほど食い込んだところで止まった。</p><p>くっ、しまった！</p><p>慌てて剣を引き抜こうとするが、それもかなわない。</p><p>危ないっ！</p><p>ナジャを衝撃が襲った。しかし、それはミノタウロスの攻撃ではない。彼女を突き飛ばした、アランの腕の柔らかな衝撃。そして、その後ミノタウロスの豪腕によって殴り飛ばされ、宙を舞うアランを目の当たりにした心の衝撃だった。</p><p>アランッ！？</p><p>普段冷静なウィキアが悲鳴を上げる。</p><p>だいじょうぶ、だ！</p><p>口から血を吹きながらも、アランはくぐもった声で答えた。</p><p>や、れ！ とどめだShal、ウィキア、ナジャ！</p><p>アランが、指示する。三人の娘達は、彼の意図を一瞬で掴み取った。</p><p>ミノタウロスが腕を振るい、石の壁を殴りつける。魔力で作った仮初の壁はミノタウロスの腕力の前に耐え切れず、轟音を立てて崩れた。</p><p>ブオオオオオオオオッ！</p><p>傷をつけられ、怒りを露わにミノタウロスは突進する。狙いはナジャだ。</p><p>神よ、光を！</p><p>その瞬間、Shalが魔術で光を放つ。悪霊や夜の生き物達を討ち滅ぼす、神の光だ。ミノタウロスには毛の先ほどの傷をつけることも出来ないが、その目をくらませるのには十分だった。</p><p>強烈な光に一瞬視力を失い、よろけるミノタウロス。突進姿勢で低く下げたその首に向かって、ナジャは再び跳躍した。何も持たないその手に、アランが投げた剣が収まる。殆ど同時に、ウィキアの魔術がその剣に纏わりつき、光り輝いた。</p><p>うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！！</p><p>渾身の力を込めて、ナジャはまっすぐ剣を振り下ろす。左側に刺さったナジャの剣と挟み込むようにして放たれたその一撃は、今度こそミノタウロスの首を両断した。巨体がぐらりと揺れ、ずんと音を立て床に沈む。</p><p>大丈夫か、アラン！</p><p>今、傷を治しますね</p><p>無茶を、しないで</p><p>勝利の感慨にふける間も無く、娘達はアランの下へと駆け寄る。早口でShalが回復魔術を唱え、アランの腹に手を当てる。</p><p>助かったよ、Shal</p><p>やがて傷が癒え、アランはShalの頭をなでた。嬉しそうに目を細める彼女の両脇で、ナジャとウィキアが不平を口にする。</p><p>とどめを刺したのは私なのに、私にはなしか？</p><p>私も色々活躍したと思うんだけど</p><p>わかってる、ナジャもウィキアもありがとな</p><p>二人を撫でてやると、ナジャはにこっと笑い、ウィキアは二人同時ってと形のいい唇を尖らせながらも頬を染めた。三人から好意を持たれているのには、アランは気付いている。が、その中から誰か一人を選ぶ事はずっと出来ないでいた。</p><p>初めてここまで来るものがいると思えば、これはとんだ色男だな</p><p>唐突に、地獄の底から響くかのような低い声が聞こえた。慌てて声の方に目を向けると、そこには琥珀色の髪の男が、ミノタウロスの死体に腰掛けるようにして座り、値踏みするかのようにアラン達に目を向けていた。</p><p>奇妙な仮面を身につけている為顔はわからないが、武器も防具も身につけていない普通の人間の男に見える。しかし、声をかけられるまで誰も気付かなかったその異常性に、アラン達は武器を構えた。</p><p>あなたはまさか。邪悪なる魔術師、Ol？</p><p>いかにも</p><p>ウィキアの問いに、Olは頷く。予期せぬ迷宮の主の登場に、アラン達に緊張が走った。</p><p>ふん、国中を騒がせている魔術師がこんな若い男だったとはな。それも護衛もつけずにノコノコと現れるとは、運がいい</p><p>ナジャが剣に手をかける。剣は剣士の命。アランに駆け寄る際にもしっかり回収していたのだ。そうでなければ危うく手詰まりになるところだった。</p><p>合図もなく、同時にナジャとアランは駆け出した。魔術師相手の戦いは速攻がセオリーだ。いかに強大な魔術を操ろうと、その肉体は脆弱で鈍い。魔術の一撃を受ける前に殺してしまえばいい。</p><p>アランは首、ナジャは胴。挟み込むように放たれた一撃は、しかし、Olの身体を傷つけることは出来なかった。</p><p>身の軽そうな男の剣士が陽動、女の剣士の一撃が本命。僧侶が不測の事態に備えて回復の準備をし、魔術師は後方から援護射撃か。一瞬でよくもまあこれだけ連携の取れた動きをしたものだ</p><p>目の前でぴたりと止まった二人の姿を観察し、しみじみとOlは言った。二人だけではない。後衛の二人も、口をパクパクと動かすが声が出ず、魔術も発動できない。</p><p>しかしそんなパーティでさえ、このような単純なトラップに引っかかるのだな。少しはおかしいと思わなかったのか？</p><p>その言葉にウィキアがはっとして指輪を外そうとするが、もちろん外れるような事はない。</p><p>呪われて、いたのだ。ウィキアの指輪もShalの杖も、アランとナジャの剣も、この迷宮で手に入れたものは全部。</p><p>素晴らしい力を持ちながら、迷宮の主にだけは逆らえない。そんな呪いが。</p><p>さて、剣士は動けず魔術師は魔術を使えない。そんな状態でコイツを相手にしてもらおうか</p><p>首を失ったミノタウロスの死体が、ゆっくりと起き上がった。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-2</p><p>目を覚ますと、ナジャは見覚えのない部屋にいた。</p><p>部屋の中には簡素なベッドと便所代わりの壷が置いてあるのみで、三方を壁に囲まれ、残りの一方は鉄格子。どう見ても牢獄だ。ナジャは頭を振り、ぼんやりする頭を叩き起こそうとした。しかし、思考には霞がかかったように考えが纏まらない。とにかく、彼女は何が自分の身に起こったのかを考えた。</p><p>だんだん、記憶が戻り、意識がハッキリしてくる。思い出したのは、動かない身体と、迫る首のない大男の腕。ああ、ミノタウロスだ、とナジャは嘆息した。動き出したミノタウロスの死体に動けぬ剣士がかなう訳もなく、アランたちはなす術なく捕らえられた。</p><p>殺されなかったのは幸いだが、あまり状況はいいとはいえない。武器も防具も奪われ、彼女が身に着けているのは粗末な服だけだ。ワンピースのような作りの服だが、少し丈が短く彼女の太ももは中ほどから露出していた。</p><p>武器そう考え、ナジャはほぞをかんだ。あんな呪いの剣に舞い上がり、長年使い込んだ愛剣は手放してしまった。愛剣を使ってさえいれば、Olを倒せたかもしれないのに。</p><p>しばらく自分の不覚を悔いると、彼女はすぐに思考を切り替えた。現実的な戦士の思考は、いつまでも過去を思い悩んだりしない。大事なのは現在、そして未来だ。</p><p>彼女の気がかりは、やはりアランだった。もちろんShalとウィキアの安否も気にかかるが、迷宮の主Olは支配下の村で若く美しい娘を集めているという。貞操の心配はあるが、こうしてナジャが生きている以上他の二人も無事だろう。少なくとも、しばらくの間は。</p><p>しかし、アランはそうはいかない。確かに女に見間違われるほど見目麗しい美青年だが、彼は男だ。実は女でした、などという落ちもない。Olが彼を生かしておく意味はあるのだろうか。</p><p>考えても仕方ない思考に彼女が頭を悩ませたとき、その答えは唐突にもたらされた。</p><p>さっさと歩け！</p><p>黒アールヴに槍を突きつけられながらナジャの牢の方に歩いてきたのは、見間違うはずもない。ナジャが想いを寄せるアランの姿だった。</p><p>アラン！</p><p>思わず鉄格子を掴んで近寄ると、黒アールヴの女がナジャに槍を向けた。</p><p>奥の壁に手をつけ。早くしろ！</p><p>ぎり、と奥歯をかみ締めつつも、ナジャは言われる通りに奥の壁に手をつき、目を閉じた。がちゃりと音がし、牢獄の扉が開けられる。その瞬間を狙って反転し、扉から飛び出そうとしたナジャの身体に覆いかぶさるようにアランの身体が牢の中に蹴り入れられる。</p><p>無駄な事はするな。貴様らにはまだ二人仲間がいる事を忘れるなよ</p><p>冷たく吐き捨て、黒アールヴは牢獄に鍵をかけ、去っていった。残り二人の無事もとりあえずは確認でき、安心してナジャはアランを抱きしめた。</p><p>アラン、良かった。無事だったか</p><p>ああナジャも元気そうで良かった</p><p>一体何があったんだ？</p><p>全員捕らえられたのはわかっているが、それにしてはアランとナジャだけが同じ牢に入れられるのもよくわからない。二人ずつ入れられているにしても、アランが後から牢に運ばれてきたのも意味がわからなかった。</p><p>呪いだよ</p><p>よろよろとした動作で、アランはベッドに腰掛けた。</p><p>魔封じの呪いをかけられた。魔術を使おうとすれば、全身に激痛が走ってとても行使できない。Shalとウィキアも同じだ。ナジャだけは、魔力を感じないからって先に牢に入れられたんだ</p><p>そうなのか</p><p>とりあえず、ナジャも座ったら？</p><p>アランはベッドの端によって、隣をぽんぽんと叩いた。</p><p>あ、ああ</p><p>ナジャはぎこちなく隣に座った。今の服装を思い出したのだ。薄く粗末な衣服はナジャの身体の線をはっきりと示し、しかも太ももは露出している。その上、下着を着けていないのが感覚でわかった。</p><p>しかし、呪いと言うのは厄介だな。魔封じの呪具とかなら、破壊できれば効果を消せるだろうが呪いとなるとな</p><p>Shalなら呪いを解く事も可能かもしれないが、彼女自身も魔封じの呪いを受けているならそれも期待できない。神の力を借りる僧侶の奇跡も、魔術の一種である事には変わりないからだ。</p><p>ナジャ</p><p>思い悩むナジャの名を呼ぶアラン。</p><p>こんな時に言うのもいや、こんな時だからこそ、言っておきたい</p><p>視線を向けると、彼はじっとナジャを見つめていた。</p><p>好きだ、ナジャ。君を、愛している</p><p>3秒。彼の言っている言葉の意味を解釈するのに、歴戦の戦士をしてそれだけの時間がかかった。きっかり三秒後、一瞬にしてナジャの顔は真っ赤に染まる。</p><p>え、な、えほ、本当に？</p><p>アランはこくりと頷いた。</p><p>でも、Shalとウィキアは</p><p>二人の事はもちろん大切に思ってる。けど、愛してるのはナジャ。君だけだ</p><p>そんなアラン。ありがとう、嬉しい</p><p>他の二人に対する罪悪感がナジャの心をよぎる。しかし、アランが選んだ事なのだ。仮に他の二人のどちらかが選ばれたとしても、ナジャはそれを受け入れ祝福しただろう。そう結論付けて、彼女は素直に彼の好意を受け入れた。</p><p>その、はしたない女と思わないで欲しいんだが</p><p>今しかない。そう思い、ナジャは率直に言った。</p><p>私をその、抱いて、くれないか？</p><p>いいのか？</p><p>目を見開くアランに、ナジャは頷く。</p><p>この後、Olに無理やりされる可能性もある。そうでなくとも、無事帰れるかどうかもわからない。こんな稼業だ、覚悟はある。それでも、初めてくらいは、好きな男に抱いて欲しい</p><p>わかった</p><p>アランはゆっくりと、優しくナジャを抱きしめ、そっと唇をかわす。そのまま首筋に唇を這わせながら、ベッドに押し倒していく。</p><p>ナジャ</p><p>レオナと呼んで</p><p>普段の男勝りな態度とは打って変わった、弱弱しい口調でナジャはそう囁いた。</p><p>私の真名は、レオナというんだ。レオナ・ジャーヴィス。それが、私の本当の名だ</p><p>ざ。</p><p>綺麗な名前だ。レオナ</p><p>あっ</p><p>アランはナジャの服を捲り上げる。その豊かな胸元から、赤い茂みを備えた秘所までが丸見えになった。</p><p>あ、あまり見ないでくれ恥ずかしい</p><p>どこも恥ずかしい所なんてないさ。綺麗だよ、レオナ</p><p>んんっ</p><p>胸に舌を這わせるアランに、ナジャはぴくんと身体を震わせた。戦いに明け暮れた剣士の体だが、その肌には傷は殆どない。ナジャ自身の剣士としての腕の高さや癒し手のShalの技量ももちろんあるが、何よりもそれはアランが守った肌だ。</p><p>出会ったその時からアランは常に誰よりも前面に出、攻撃をひきつけた。そして体勢を崩した敵を屠るのがナジャの役割だった。</p><p>最初は線の細い頼りない男だと思ったものだったが、その評価はすぐに覆った。そして、それが信頼に変わり、やがて愛情に変ずるのはそれほど時間はかからなかった。</p><p>唇は胸からゆっくりと下り、腹を通って脚の間の茂みの奥へと辿り付く。</p><p>レオナ、脚を開いて</p><p>そっと脚を押すと、ナジャは顔を真っ赤にしつつもそれに従って両脚を開き、誰にも見せたことのないそこを晒した。</p><p>駄目だ、アラン、こんなの恥ずかしすぎる</p><p>両手で顔を多い、ナジャは情けない声を上げる。</p><p>可愛いよ。レオナ</p><p>言って、アランはそこに舌を差し入れた。</p><p>あぁっ</p><p>初めて気恥ずかしさからではなく、確かな快楽にナジャは高く声を上げる。アランの舌は縦横無尽にそこを蹂躙し、その度にナジャは波に翻弄される小船のように身体をよじり、声を上げた。</p><p>ア、アラン、私、もう大丈夫だと、思う、からっ</p><p>このままでは、わけもわからぬまま我を失いかねない。ナジャが声をかけると、彼女を怯えさせないようアランはゆっくりと彼女に覆いかぶさり、目を見つめた。</p><p>じゃあいくよ</p><p>アランは不思議そうにナジャを見つめた。それで、ナジャは一瞬自分の目がかすれたようになったことに気付く。目をぱちぱちと瞬かせるが、特に異常は見られない。</p><p>い、いや、なんでもないその、一思いにやってくれ</p><p>言って自分で情緒の無さに情けなくなるが、アランは優しく笑みを浮かべ、ナジャを抱きしめた。途端、ずぶりと貫かれる感覚がナジャの背筋を駆ける。じんわりとした痛みと共に、彼女は女としての幸せに包まれた。</p><p>大丈夫だ、これしきの痛みなんとも無い</p><p>心配そうに見るアランに、ナジャは微笑みかけて見せた。内臓を抉られる様な痛みは辛かったが、アランに与えられていると思えばそれも不思議な満足感を彼女に与えてくれた。</p><p>ただ、そのぎゅっとしてくれ</p><p>アランは頷き、ナジャを抱きしめるとゆっくりと抽送を始めた。</p><p>んっ、ん</p><p>しばらくそうしていると、最初は苦痛に声を押し殺していたナジャの声に、だんだんと甘いものが混じってくる。</p><p>突き入れながらアランが彼女の胸の先端に口をつけると、喉を反らせるようにしてナジャは鳴き声を上げた。</p><p>ああっ、あ、あ、あぁっ、アラン、アランっ</p><p>こんなにも甘くいやらしい声が自分から出るのか、とナジャは驚いた。アランの頭をかき抱く様にして、ナジャは快楽に身を任せる。</p><p>レオナ愛してるっ！</p><p>あぁ、アランっ、もっと、もっとして、もっと激しくああっ、アラン！</p><p>いつの間にか抽送は激しさを増し、水気を帯びた肉のぶつかり合う音が牢獄に響く。</p><p>レオナ、イくイくぞっ！</p><p>アランっ、中に中に、出してえぇぇっ！！</p><p>ざざ。</p><p>叫んだ瞬間、再びナジャの視界がブレた。</p><p>しかしそれがなんなのか考えるまでも無く、ナジャの一番奥までアランの物が突き入れられる。まるで鈍器で頭を殴られた時のように火花が散り、ナジャは身体を大きく反らせた。</p><p>～～～～～～～～～ああああああああ！！</p><p>自分が叫んでいた事にすら気付かず、絶頂するナジャの奥深くにアランはたっぷりと精を吐き出す。満足いくまで射精の快感を堪能し、アランがナジャの秘部からペニスを引き抜く時には、彼女はぐったりと気を失っていた。</p><p>アランはベッドを降りると、彼女の頭を軽くなでて囁く。</p><p>中々良かったぞ、ナジャとやら</p><p>その顔からは先ほどまでの優しい表情は消え、代わりにニヤリとした邪悪な笑みが浮かんでいた。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-3</p><p>あっ、ああっ、アラン、アランッ！</p><p>ベッドに横たわったアランの上で、ナジャは一心不乱に腰を振っていた。あれから幾度も肌を重ね、痛みを感じる事は全くなくなっていた。二人とも遠慮なくお互いの身体を貪り、愛欲にふける。</p><p>初めて肌を重ねた日、意識を失ったナジャが目を覚ますとアランの姿はなくなっていた。ナジャがおきてしばらくすると朝餉が黒アールヴによって差し入れられ、それから半日後、夕餉が届けられると共にアランが戻ってくる。</p><p>別々の間何をしていたのか問うと、アランは言葉を濁した。言いたくない事であれば無理には聞くまい、とナジャは彼を心配しつつも、問いただすのをやめた。</p><p>共に夕餉を摂ると、どちらからともなく手を絡ませ、再び睦みあう。情交の疲れで眠りにつき、目を覚ますとまたアランがいない。そんな生活の繰り返しが、ここ数日ずっと続いていた。</p><p>囚人生活はとにかく暇の一言だった。狭い監獄の中で、出来る事は何もない。とりあえず身体が鈍ってしまわない様に腕立てや腹筋などの筋力トレーニングを行うが、器具も訓練用の武器もない狭い室内では限界がある。食器を使って何とか脱走できないかと、壁を掘ろうとしてみたり、錠前を壊そうとしてみたりといった努力は全て徒労に終わった。</p><p>恐らく魔術で補強がかけてあるのであろう。壁や錠前は傷一つつかず、逆にスプーンやフォークなどの食器はすぐにぐにゃりと曲がって使い物にならなくなった。</p><p>食事を運ぶ黒アールヴに次に壊してみろ、焼けたスープを素手で飲ませてやると脅されてから、そういった努力は諦めた。</p><p>暇である事を除けば、囚人生活はそれなりに快適だった。運ばれてくる料理は質素なものだったが、それなりの量と味があり、メニューも毎日変わる。</p><p>朝食が終わると、食器が回収されると共に湯の入った桶と布が渡され、身を清める事も出来た。普段は滅多に湯になど浸からずたまに水を浴びる程度の生活だったが、アランと肌を重ねる時にはやはり汚れも気になる。たっぷりと時間をかけ、彼女は身体の隅々まで磨いた。</p><p>排泄物も毎日二度回収され、綺麗な壷と取り替えられる。いずれもアランのいない時間帯に、女のアールヴによって取り替えられるのが地味に嬉しかった。やはり、そういったものを男に見られるのは勘弁願いたい。想いを寄せる相手であれば尚更だ。</p><p>食事以外に時間を知るすべもない生活に、いつしかナジャは何年も牢に入れられている気分になった。楽しかったはずのアラン達との冒険の日々は遠く霞み、色彩を失って現実感がない。</p><p>そんな中、アランだけが彼女の心に安らぎを与えてくれた。彼女は縋る様に彼に抱かれ、精を求めた。彼の腕に抱かれていると心から安心し、このままの生活がずっと続けばいい、そんな気持ちになった。</p><p>ざ。ざざざ。</p><p>そんな生活に影を落とすのが、ナジャの視界を揺らすこのチラつきだった。ふとした瞬間に視界がぶれ、異音が耳を突く。アランにはこの症状は出ていないようだった。病気か、それとも何かの呪いか。最初は気のせいかと思う程度だったそれは、次第に頻度を増やし、今では拭いがたい違和感としてナジャの頭にこびりついていた。</p><p>ア、アラン</p><p>助けを求めるようにアランの頬に手をそえ、顔を近づける。</p><p>ざざざざっ。</p><p>口付けようとしたその瞬間、再び視界がブレた。ナジャは慌てて顔を上げ、首を振る。</p><p>いきそうなのか？ 俺もっいくぞ！</p><p>胎内に流し込まれる暖かい感触を感じながら、ナジャは今見たものの事を思い返す。</p><p>ブレた視界の先で見えた、アランの顔。</p><p>それは、全く別の男の顔だった。</p><p>深夜。日の光など届かない、時間の流れもロクにわからない地下の中ではあるが、食事の時間から換算して恐らく深夜だろう。ベッドに横たわるナジャの横で、むくりとアランは身を起こした。</p><p>ナジャを起こさぬようにそっと牢獄の扉を開け、外に出て行く。</p><p>薄く開けた目でそれを確認して、ナジャはぱちりと両目を開いた。いつもの様に愛し合った後、気を失ったフリをしたナジャは、今までアランだと思っていた男が、全くの別人であると確信した。</p><p>恐らく、幻術の類でもかけていたのだろう。時折起こるチラつきは、思えばアランと一緒にいる時だけ起こっていた。異常ではなく、正常。魔術が綻ぶ瞬間だったのだ。</p><p>ナジャは猫の様にしなやかな動きで監獄の扉に張り付くと、そっと押した。鍵はかかってない。後で黒アールヴが閉めに来るのだろう。ナジャは隠し持っておいたナイフを服の袖から取り出すと、長い髪をぐっと握り締め、根元の方から切り取った。武器にはなりそうもない食器のナイフだが、髪を切る事ぐらいは容易い。</p><p>ショートカットになったナジャは、掛け布団を丸めて中に人が入っているかのように偽装すると、その端から髪を覗かせるようにしておいた。これで、遠目にはナジャが寝ているように見えるはずだ。</p><p>ナジャはそっと牢を出、足音を忍ばせながら迷宮の廊下を歩いていく。ナジャ達が冒険していた階層は、そこかしこに死骸が転がり腐臭に塗れていたが、この辺りはまるで王宮の廊下の様に清潔感が溢れ、塵一つない。</p><p>牢獄にいた頃はあまり気にしていなかったが、壁面も淡く光を放っていて、薄暗くはあったが明かりがなくても先を見通す事ができた。それに、薄暗いのはナジャにとっては都合がいい。</p><p>勘に任せて迷宮の中を進んでいると、光の洩れている扉を見つけ、ナジャは忍び寄って中を覗いた。そこには、大きな椅子にくすんだ金色の髪の男が座っていた。眠っているのか、目を閉じ、椅子に座ったまま微動だにしない。</p><p>こいつだ、とナジャは内心を怒りに燃やした。幻術の向こうで見えた男の顔は、間違いなく椅子に座っている男のものだった。アイツがアランのフリをして、何度もナジャを抱き、精を胎内に注ぎ込んだのだ。</p><p>ナジャの心は嫌悪感で満たされ、今すぐにでも部屋に入っていって殺してやりたい衝動に駆られるが、彼女は鋼の意思でそれを抑えた。今すべき事は、本物のアランを探し出し、助け出す事だ。</p><p>ナジャは扉をそっと離れ、探索を再開する。今夜は何故か勘が冴え渡っている。誰にも見つかることなく廊下を進み、ナジャは槍を持ってぼうっと立っているゴブリンを見つけた。</p><p>ゴブリンの背には木で出来た粗末な扉があり、ゴブリンの腰には鍵束がぶら下がっている。</p><p>あそこだ、とナジャは直感的に思った。風の様にゴブリンに駆け寄ると、その小さな首を掴んで思いっきり横に曲げる。首の骨をおられ、声をあげる間もなくゴブリンはあっという間に絶命した。</p><p>その腰から鍵束を剥ぎ取ると、扉につけられている錠前に鍵を突っ込む。一度、二度は失敗したが、三本目で鍵はカチリと音を立てて開いた。</p><p>小さな部屋の中で、彼は粗末な椅子に腰掛けぐったりとしていた。その腕を縛っている縄を解き、もう一度呼びかけると彼は辛そうにゆっくりと顔を上げた。</p><p>ナジャ？</p><p>ああ、アラン！</p><p>ナジャは彼をぎゅっと胸に抱きしめた。ナジャの様にいい扱いをされていなかったのか、髪の色は艶やかさを失い、身体もやや痩せてしまっているが、間違いなく彼こそが本物だ。</p><p>さあ、逃げよう。一旦逃げて、体勢を立て直すんだ。丸腰で逃げるのは難しいかもしれないが、私とアランなら何とかなる。運が良ければ装備やShal達も見つかるかもしれない</p><p>その必要は、ない</p><p>意外な言葉に顔を上げると、彼の瞳がナジャを見つめていた。深い茶の瞳に見つめられ、一瞬、全てを忘れナジャはその瞳を見つめ返す。</p><p>俺はこの迷宮の主。そして、お前の主だ。身分を隠して冒険者の一行に紛れ込む任。よく頑張ったな、レオナ</p><p>優しく髪を撫でる彼の手つきに、ナジャは全てを思い出した。</p><p>ああOl様</p><p>目の前にいるのは、アランじゃない。Olだ。ずっと恋を抱き、牢獄の中でナジャを抱き続けた顔、そのままの姿が今ナジャの目の前にあった。</p><p>美しい髪を、俺の為に犠牲にしてしまったな。しかし、短い髪のお前もまた美しい。後できちんと整えさせよう</p><p>ゆっくりとナジャをかき抱くOlの腕の中で、安心したようにナジャは目を閉じた。そのまま、すやすやと寝息を立て始める。</p><p>終わりましたか</p><p>それを見計らい、エレンと黒アールヴの娘が一人入ってきた。</p><p>ああ。今度は寝室に連れて行け。後で一応呪いはかけるが、もう抵抗する事はないだろう</p><p>黒アールヴの娘にナジャの身体をわたし、Olは答えた。ふむ、とエレンは眉根を寄せ、少し考えてからOlに率直に尋ねた。</p><p>主殿、私には良くわからんのだが、結局あの娘は元々主殿の配下だったのか？</p><p>そんなわけないだろう</p><p>エレンの問いに、Olは薄く笑う。</p><p>剣士と言うのは全く魔術を使わないが、あれで中々厄介でな。精神力の強さだけなら魔術師を凌ぐ事が多い</p><p>椅子に腰掛け、Olは種明かしを始めた。粗末な椅子に見えていたそれは、あっという間に巨大化し、肘掛つきの大きな椅子に変じてOlの身体を支える。</p><p>だから反抗できないよう呪いで制限をかけても、とかく扱いづらい。呪いで全身に激痛が走ろうと、構わず数秒程度なら戦い続けたりも平気でする連中だ。反面、目晦ましの類は効き易いから、今回は絡め手で攻めてみた。それがこの顔だ</p><p>Olは呪文を一節口ずさむと、その顔がぐにゃりと歪んだ。輝くような金の髪、女と見紛うばかりの細面。それは、アランの顔だった。</p><p>あの男に化けて、娘を犯したのはわかっているのですが</p><p>唐突に槍で突きながら俺を牢に連れて行け、などと言われた時には、エレンは長い地下生活で主の気が触れたのかと思った。</p><p>よく見てろよ</p><p>んんんん？</p><p>エレンはOlの顔に違和感を覚える。しかし、それが何であるかがわからない。</p><p>どうだ？</p><p>あ、あれ！？</p><p>気付いた時には、Olは元の顔に戻っていた。琥珀色の髪に茶色の瞳。整ってはいるが、男性的な顔付き。どう見てもいつものOlだ。</p><p>が、いつもとに戻ったのか、エレンにはさっぱりわからなかった。</p><p>ゆっくり、ゆっくりと顔を変化させたのだ。人間アールヴもそうだが、生き物の認識と言う奴は中々面白くてな。ゆっくりとした変化には中々気付けんようになっている</p><p>いつの間にかOlの顔は、再びアランのそれへと変化している。</p><p>まあ、金と琥珀色で、髪の色が比較的似ていたのが幸いしたな。流石に髪の様な目立つ場所の色が大幅に変わると気付かれる</p><p>そういえば、とエレンがOlの目に注目すると、確かに碧眼がゆっくりと茶の瞳に変化していた。</p><p>これを数日がかりでやりながら、夜毎に暗示をかけ、記憶を潜在的に植え込んだ。実は自分はOlの手先で、冒険者の仲間のフリをしているだけとな。偽の記憶と変化する顔、後は時折わざと見せてやるアラン本人の顔のせいで、奴はすっかりアランの顔が敵で、俺の顔が味方だと信じこんだ</p><p>ナジャが扉の隙間からのぞき見た、大きな椅子に座っていた男はアラン本人だった。そこでそれに気付けば、ナジャは或いは彼を助け出せたかもしれない。しかし、記憶を曖昧にされ、Olの顔をアランだと信じていた彼女にとっては、憎き敵の顔にしか見えなかった。</p><p>人間と言う奴はな、どんなに疑い深い者でも相手の裏をかいたと思った瞬間は酷く心が無防備になる。その瞬間を利用し、敵と味方の顔が入れ替わったのを支点にして植え込んだ記憶を一気に表面化させ、奴の今までの人生の本当と嘘をすげかえ、俺の味方であると信じ込ませた。信じ込む、と言うのは怖いぞ。疑いすらしない事は防ぎようがない</p><p>怖いのはあなただ、と思ったが、エレンは口には出さない。主人として頼れるという思いもあり、やはり恐ろしくもある。</p><p>だがまあ、実験はうまくいったがこの方法は手間がかかりすぎるな。成功したのも半分以上は運みたいなものだし、次はもう少しスマートに済ませるか</p><p>娘は後二人、別々のアプローチで堕とすつもりだ。</p><p>邪悪な思考を巡らせながら、Olは次の犠牲者の下へと足を向けるのだった。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-4</p><p>話は数日さかのぼる。</p><p>ナジャが牢獄で目を覚ましたその日、つまりアラン一行がOlに破れ捕えられた翌日。僧侶のShalもまた、牢獄で目を覚ましていた。</p><p>ベッドの上で半身を起こしたShalは、同じ部屋の中で椅子に脚を組んで座る男を見て反射的に身構えた。仮面をつけていたから顔には見覚えがないが、背格好と琥珀色の髪ですぐにわかる。この男こそ、邪悪なる魔術師Olだ。</p><p>慌てるな。別にお前を害する気はない。その気ならとっくに殺している</p><p>Olは慌てた様子もなくそういった。その言葉を信じた訳ではないが、Shalは身体の緊張を少しだけ解く。そもそも、反抗する事自体が無駄だというのはわかっていた。</p><p>彼女の右手人差し指にはまっているのは封魔の呪具だ（余談だが、Olがナジャにした説明は大嘘で、いちいち魔封じの呪いなどかけていない）。</p><p>これがある限り魔術は使えないし、自分で外す事も出来ない。白アールヴである彼女は人間より力が弱く体格も小さいので、魔術師といえど人間の男であるOlに腕力で敵う気もしない。</p><p>何が望みですか</p><p>話が早いな</p><p>酷薄な笑みを浮かべ、Olは足を組み替えた。彼は少し考えるように手を顎にやり</p><p>では、身体でも捧げて貰おうか</p><p>まるで酒場で酒の注文でもするかのようにそう言った。まだ経験のないShalだったが、その意味が判らぬほど子供でもない。真っ白な肌を真赤に染めてOlを睨んだ。</p><p>ふざけないで下さい。あなたの様な邪悪で下卑た男に汚されるくらいなら、あたしはこの舌を噛んで死にます</p><p>命を賭けるほど嫌か</p><p>当然です</p><p>即答するShalに、なるほど、とOlは頷いた。</p><p>ではその命が仲間の物でも、同じことが言えるかな？</p><p>Shalの顔色が、赤から一気に蒼白へと変わる。</p><p>お前の仲間は三人とも無事だ。今は、な</p><p>この、恥知らず</p><p>可愛らしい表情を憎悪に歪め、ぎりりと奥歯を噛み締めShalはOlを睨んだ。しかし、視線に刃がついていればOlをバラバラに出来そうな瞳も、邪悪な魔術師の面の皮の前では全くの無力だった。</p><p>たっぷりと逡巡した後、のろのろとした動作でShalはベッドに身体を横たえ、ぎゅっと目を閉じた。</p><p>好きにしなさい</p><p>白アールヴは、人間の何倍もの時間を生きる。そして、その時間の大半を、たった一人の相手を緩やかに愛する事に使う。白アールヴにとって愛とは至高のものであり、その証明になりうる純潔は何よりも大切にするべきものだ。</p><p>それを、仲間の為に捨てる事を決意した彼女の覚悟は、いかばかりのものか。愛するアランは勿論、ナジャやウィキアも種族は違えどShalにとってはかけがえのない友人であり、仲間だ。これから自分に降り注ぐ残酷な運命に身を震わせ、Shalは歯を食いしばった。この男の前でけして涙を見せたりしない。そう、誓った。</p><p>どうやらお前は何か思い違いをしているようだな</p><p>そんな、小さな少女の悲壮な覚悟を</p><p>俺はお前の身体などどうでもいい。乞い願うのはお前の方だ。お願いですOl様、どうかこの身を犯してください、とな</p><p>Olは、土足で踏み躙った。</p><p>あまりの屈辱に、あまりの怒りに、Shalは言葉どころか呼吸さえままならない。元々平穏を好む白アールヴであることに加え、彼女は神に仕える僧侶を目指した身の上だ。慈愛に満ち、怒りなどとは無縁であると仲間達は思っていたし、Shal自身もそう思っていた。</p><p>それがこの、身を貫くような憎しみ。生まれて初めて味わう感情に、Shalは我を失った。</p><p>ああああああっ！！</p><p>ベッドから跳ね起きると、拳を振り上げてOlに突進する。激情のままに振り抜かれた細腕は、しかし軽々とOlによって受け止められた。</p><p>なるほど、貴様の要求は良くわかった</p><p>憎らしいほど落ち着き払った態度でOlはそういうと、Shalの腕を離してくるりと背を向けた。</p><p>まずは右腕だ</p><p>Olの言葉の意味をはかりかねながらも、不吉な気配を感じ取ってShalの鼓動がどきりと高鳴る。</p><p>次に左腕、右足、左足。その後は耳を削ぎ、目を抉り、舌を切り取る。安心しろ、回復魔術をかけながら少しずつ進めてやるから死にはせん。何も出来ぬ肉の塊になったところで、会わせてやろう。お前の愛しい男にな</p><p>待って！</p><p>ShalはOlに縋りついた。怒りも憎しみも即座に消し飛び、代わりに恐怖が完全に彼女の心を支配している。</p><p>お願い、やめてお願い、します。なんでも、しますから</p><p>彼女の両目からは涙が溢れていた。少女の脆弱な誓いなど、老獪な魔術師の前ではないも同然だった。</p><p>ほう。ならば言う事があるのではないか？</p><p>ぐ、とShalは言葉に詰まった。だが、躊躇しているとOlは彼女から興味を失ってしまう。つまらない羽虫でも観察する子供の様な表情で、OlはShalを見ていた。角を持つ甲虫や蝶の様に見ていて面白いものではないが、懸命に飛んでいる間だけなら目を向ける気にはなるそんな感じの表情だ。</p><p>おお願いです、Ol様。どうかどう、か、この身をっうう犯して、ください！</p><p>ついに、貞淑な白アールヴの僧侶は屈した。</p><p>ふむまあいいだろう。ベッドに横たわり、服をたくし上げて脚を開け</p><p>特に感慨を見せるでもなく、Olは命じた。おずおずとした動作でShalはベッドに身体を横たえ、震える手で服をたくし上げた。</p><p>全部見せろ</p><p>下半身だけを露出するように服を上げたShalに、Olは文句をつける。Shalは目の端に涙を浮かべながら、言われた通りにした。脇で引っかかる場所まで服をたくし上げ、彼女の素肌が殆どあらわとなる。</p><p>肉感的な黒アールヴの身体に比べ、白アールヴの身体は凹凸に乏しい。ささやかなふくらみと、子供のように毛もひだも無いシンプルなスリットがOlの無遠慮な視線に晒され、Shalはきゅっと身体を縮めた。</p><p>Olは言葉も発さずに彼女にのしかかると、濡れてもいない秘裂に己の物を強引に突き入れた。</p><p>あああああっ！！</p><p>文字通り身を裂く痛みに、Shalは悲鳴を上げた。あまりの痛みに、目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。喪失感など感じる暇さえ無かった。</p><p>痛みに身をよじり、苦しむShalに構う事無くOlは抽送を繰り返す。</p><p>うっ！ く、ああ！ ぃっ、う、ぐぅぅぅっ！</p><p>ベッドのシーツを手の色がなくなるほど強く掴みぼろぼろと涙を流しながら、Shalはそれでもやめてだとか嫌といった言葉を口にしなかった。彼女の口から漏れるのは、ただ苦痛の声のみ。少しでも拒否の姿勢を見せれば、仲間に累が及ぶ事を懸念しているに違いなかった。</p><p>口にも表情にも出さないが、その意志の強さにOlは少しだけ感心した。まあ、頃合か。そう胸中で呟き、Shalの悲鳴に紛れさせて小さく呪文を唱える。最初に畏怖を与えるのが目的であって、壊してしまうのは本意ではない。</p><p>う、あぁぁあ？</p><p>少しずつ痛みが和らぎ、Shalは戸惑ったように目を瞬かせた。</p><p>大分濡れてきたな。どんなに嫌がろうと、所詮女はこんなものだ</p><p>そんな、わけ</p><p>ではこれはなんだ？</p><p>Olはわざと音が鳴るように、ぐちゅぐちゅとShalの中をかき混ぜて見せた。</p><p>Shalの表情が、絶望に染まる。無理やり穢されるのは死よりも辛く耐え難い事だが、仲間の為を思えば耐えられる。しかし、心を穢されるのは、彼女の許容量を越えていた。</p><p>この表情は流石にまずい、とOlは方向転換する。</p><p>恥じる事はない。これは自然な事、神が定めた当然の摂理だ</p><p>神が？</p><p>ああ、とOlは頷く。</p><p>俺はお前達四人を一人で倒した。計略は用いはしたが、それでも俺がお前達より強い事は確かな事実だ。そして、女は強い男に惹かれるように身体ができている。心はどうあれ、肉体は嘘をつけぬ。天より与えられたものならば、神がそう定めたと言う他あるまい</p><p>勿論、そんなものは大嘘だ。</p><p>Shalの秘部が濡れているのは、単に強引な抽送から身を守る為の防御反応に過ぎない。前戯もなしに無理やり貫かれて感じる女などいるわけもなく、ただ強い男に女が惹かれるならば、世の中の男達は苦労しない。</p><p>しかし初めて男を知り、事実股間を濡らし痛みも消えているShalにはそれを疑う事は出来なかった。疑えば、自身の心が穢された事を認める事になる。そんな事には耐えられない。だから、ShalはOlのその嘘に縋りついた。</p><p>すぐにもっと良くなる</p><p>OlはShalに突き入れながら、隠し持った媚薬を彼女の秘核にぬりつけた。いつぞやの、スピナ製作のスライムに原材料として使われたものを、更にOlが改良を加えたものだ。皮膚に塗っても経口でも効果を発揮し、じわじわとその性感と興奮を盛り上げる。</p><p>んふ、ぁ</p><p>程なくして、Shalは甘い声をあげはじめた。</p><p>いや、こんな嘘嘘です</p><p>自分の身体を走る感覚に戸惑い、必死に否定する。</p><p>嘘ではない。言っただろう、お前の身体は俺に惹かれ、既に受け入れているのだ。だが、心まで許せとは言わん</p><p>意外な言葉に、Shalは思わずOlの顔を見上げた。</p><p>心はお前のものだ。差し出すのは身体だけで良い。神の御業をたっぷりと味わうがいい</p><p>そう言うと、OlはShalの淫核を攻めながら奥を突いた。傷はすっかり癒え、媚薬で火照った彼女の身体はその快楽を従順に受け入れた。</p><p>ふぁぁあぁぁぁっ！ ふぁ、はぁぁんっ</p><p>心は許さなくていい。その言葉に、Shalの苦痛は大分減じた。</p><p>認識と言うものは、変化に過敏だ。それは何も五感に限った話ではない。</p><p>ナジャはゆっくりとした変化で視覚と記憶を騙したが、Shalは逆に感情を一気に底まで落とし、そこから快楽と許しでじわじわと上げる事により、まるでOlが彼女に幸福を与えているかのような錯覚を得ていた。</p><p>さぁ、行くぞ。強い男の精を子宮で受け止める事は、女としての何よりの喜びだ。全身を喜びと快感が突きぬけ、お前を幸福へと導くだろう。出すぞっ！</p><p>奥までずぶりとShalを貫き、Olは奥で精を解き放つ。同時に、先ほど使ったのとは別の媚薬を彼女の秘部に塗りこんだ。今度のは即効性はあるが持続力の短い物だ。</p><p>あああ、ああっ、あああああああああーーーーっ！！</p><p>Shalはあらん限りの力でシーツを握り締め、橋の様に体を反らせて絶叫した。目の前でバチバチと火花が散り、視界が明滅する。今までの穏やかな人生の中で、一度も感じたことのない激しい快楽だった。</p><p>気をやり、意識を失うShalの表情は、すっかり快楽へと溶けていた。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-5</p><p>それから、数日が過ぎた。朝食と共にOlはShalの牢を訪れると、彼女を抱いて出て行く。そんな生活が続いていた。Shalを抱いた後は、Olは顔をアランの物に変化させてナジャの牢へと向かうのだが、それはShalの関知する所ではない。</p><p>しかし、牢の中で退屈を持て余していたナジャとは違い、幸か不幸かShalには時間をたっぷり使って悩まなければならないことがあった。</p><p>それは、どうやってOlを誘うか、と言う事だ。</p><p>とは言っても別に快楽に屈し、Olの手に堕ちたわけではない。それは強制された事だった。毎回別の言葉で、Olの寵愛をねだり、精を求めなければならない。</p><p>どのような言葉を選び、どのように言うかは自分で考えろ。ただしその内容が気に入らなかった場合、お前を抱く事はない。</p><p>二回目に牢を訪れた際、OlはShalにそう告げた。</p><p>それから、Shalの試行錯誤の日々が始まった。二回目はどうかあたしを犯してくださいと言って駄目だと拒否され、考えあぐねた挙句出たのはあたしを愛して、どうかお情けを下さいませだった。</p><p>もし、もし自分が選ばれるような事があれば、アランに告げようと思っていた言葉だ。少女の淡い恋心は、その言葉と共に白濁の液で穢された。</p><p>三回目からは、淫語を織り交ぜる事を強制された。淫語とは何ですか？と尋ねると、Olは呆れたような表情を見せ、その日の午後から食事の運搬係が人形の様な黒髪の娘から、女悪魔に変わった。</p><p>Shalとは対極の豊かな乳房を持つその女悪魔は様々な淫語をShalに教え込み、アドバイスを送った。悪魔と言うのはもっと恐ろしいものだと思っていたShalは、まるで歳の近い友人の様に気さくに話しかけてくる女悪魔とすぐに打ち解け、熱心にその教えを学んだ。</p><p>四回目、ベッドに寝そべり自ら指で秘裂を押し広げ、ShalのおまんこにOl様の逞しいペニスを突き入れてくださいとねだると、Olは驚きの表情をみせ、良く出来たとShalを誉めそやした。</p><p>こんな屈辱的で恥かしい事を強制され、誉められても全く嬉しくない。Shalはそう思ったが、心の奥に何か不思議な疼きの様なものが残った。</p><p>その日以来、Shalは一日の大半をOlを誘う言葉を考える時間に当てるようになった。彼女がOlを悦ばせるほど、仲間達の安全が確保される。ならば、それに全力を尽くすだけだ。</p><p>食事の度に牢獄を訪れる女悪魔の助けを借りながら、Shalは思考を巡らせる。女悪魔はShalの足りない語彙を補強し、アドバイスをくれはするが、直接どういえばいいかは教えてはくれない。飽くまで文面自体はShal自身が考えなければならなかった。</p><p>最近では誘う時だけではなく、Olが射精する直前やした直後、更には行為の最中にも彼を興奮させるような言葉を言うようになった。女悪魔から貰ったアドバイスだ。そうするようになって以来、Olの対応も最初より柔らかいものになった気がする。邪悪な魔術師といえど、こちらが誠意を持って接すればその真心は伝わるのだ、とShalは感じた。</p><p>そして今日も、彼女はOlに抱かれる。</p><p>Ol様ぁOl様の立派なおちんちんで、Shalのおまんこの奥まで犯して、中にたっぷりザーメン出して孕ませてくださいぃ</p><p>Shalはベッドの上で四つん這いになり、ふりふりと尻を振りながらそうねだった。その秘裂からは何もしていないのに愛液がとろりと溢れ出している。口先でねだるだけでなく、本当に相手を悦ばせるならちゃんと身体の準備もしておかなければならない。女悪魔が教えてくれた助言に、Shalはあっさり納得し、軽く感動さえした。</p><p>相手の事を第一に考え、細かな気配りを巡らせるのが持て成しの心と言うものだ。</p><p>随分ねだるのが上手くなったな。いいぞ、Shal</p><p>誉めながらOlは彼女の腰をがっしりと掴むと、一気に奥まで突き入れた。</p><p>はぁぁんOl様の、大きいのが入ってきてるぅ</p><p>しとどに塗れたそこへの挿入に、初日の様な抵抗や痛みは一切ない。全身がうずくような緩やかな快楽がShalの身体を包み込んだ。</p><p>もっと突いてShalのおまんこ、たっぷり味わってくださいぃ</p><p>Olの抽送に合わせて、途中で抜けてしまわないように気を払いながらもShalは腰を振る。相手の動きに合わせる事で抽送距離が倍になり、快感も倍になる。</p><p>相手を気遣う事は大事だが、性交は一人でするものではない。相手の心を知る事など出来ないのだから、自分の感覚を基準にして考えるしかない。つまり、自分が気持ちよくなれる動きなら、大概は相手も気持ちよくなってると思っていい。</p><p>そんな女悪魔のアドバイスの通り、Shalは自分から腰を振って快楽を貪った。</p><p>くぅっ、いいぞ、Shal</p><p>Olが呻くようにそう言った。声色は苦しげだが、そんな時は男が気持ち良くなっている証拠だ。男は女の様に高く喘いだりしないのだ。</p><p>いいですっ、Ol様、あたしも、気持ちいいっ、もっと、もっと突いてくださいっ！おまんこのなか、ごりごりしてくださいぃっ！</p><p>代わりにShalは高く鳴いた。善がる言葉は自分の言葉で。演技などしなくて良い、感じた事を感じたまま率直に述べれば良い。大丈夫、Olならちゃんと気持ち良くしてくれるから。</p><p>女悪魔の言葉を一つ一つ思い返しながら、Shalはそれを丁寧に実践する。その度にOlのペニスが胎内でビクビクと脈打つのがわかり、Shalは嬉しくなった。</p><p>ああっ、いい、イく、イく！ イっちゃうぅっ！ Ol様のおちんぽに突かれてあたしイっちゃいますぅぅっ！ 出して、白いのっ！ Ol様の精液、沢山あたしの中に出してくださいぃぃっ！！</p><p>Shalは背筋を逸らし、全身を包む快楽に備えてぐっと腰に力を入れた。しかし、いつまで経っても、いつもの押し寄せるような快楽の波はやってこない。Olが、腰の動きを止めていたからだ。</p><p>Ol様？</p><p>不思議そうな表情で、Shalは自分の肩越しにOlに視線を向けた。</p><p>イかせて欲しいか？</p><p>はい、イかせて欲しいですお願いです、イかせてくださいぃ</p><p>Shalは懸命に腰を振る。しかし、四つん這いと言う体勢では思うように身体は動かず、それはかえって快楽への渇望を促すだけだった。</p><p>では、お前の真名を教えろ</p><p>そそれは</p><p>人間よりずっと精霊に近く、より根源的であるアールヴにとって、真名は魔術師のそれ以上に重大なものだ。魂を掌握されるどころの話ではない。真名は彼女そのものであり、それを教えるという事はShalという存在全てを掌握するに等しい。</p><p>その証拠に、Olに絶対の忠誠を誓った黒アールヴのエレンでさえ、真名を明かしてはいない。</p><p>イかせて欲しいんだろう？</p><p>あぁっ、はい、イかせて欲しいですぅ</p><p>ゆるゆると抽送を再開し、Shalは甘い声を上げた。しかし、速度が全然足りない。Olの動きはゆっくりとしたもので、Shalの情欲の炎を更に煽るばかりだ。</p><p>Ol様ぁ、お願いします、許してくださいっ！ 真名は、真名だけはああぁ、もっと、もっと激しくっああ、駄目、やめないでくださいぃっ</p><p>ともすれば止まってしまいそうなOlの動きに、Shalは翻弄された。絶頂に達するには到底足らない緩やかな刺激を与えつつも、Shalの熱が冷めず、それどころかいや増す様な絶妙な動きだ。</p><p>Ol様、駄目、駄目ですぅうもっと、犯して、Shalを滅茶苦茶にしてくださいぃ！ああっ、駄目なのぉ、もっと奥、奥にぃ、やめちゃやです、くださいぃっ、Ol様の固くて逞しいおちんぽでShalのどろどろのおまんこ奥まで突いてぐちゅぐちゅに犯してくださいぃっ！</p><p>首を振りながら、Shalは激しく腰をOlに押し付ける。その腰をガッシリと手で掴み、Olは低い声で囁いた。</p><p>では、真名は言わずとも良い。その代わり、全てを我に捧げよ。求められればいつでも身体を開き、どんな命にも従う性奴となる事を誓えば望み通りにしてやろう</p><p>逃げ道を与えられ、すぐさまShalは叫んだ。</p><p>なるっ、なりますぅっ！ ShalはOl様の性奴ですっ、Ol様専用の肉奴隷にしてくださいぃっ！！</p><p>そんな風に言えばOlはきっと喜ぶよ、でも取って置きだからね？</p><p>にこやかに笑いながらそんな事を言ったのが誰だったのかすら、今のShalの頭からは抜け落ちていた。しかし、単体ではただの淫猥な台詞も、Olの問いの前にはあまりにも浅はかな答えだった。</p><p>よしっ、では今からお前は俺の性奴隷だ。身体も心も全て俺に捧げ、いつでも股を開け。俺の命には絶対に逆らえず、喜んでその身に精を受けるのだっ！</p><p>あああああああっ、来る、来るぅっ！ イく、イっちゃいますっ！Ol様の精液っ、来たよぉっ、あああああああああああああああああっ！！</p><p>一気に突きいれ、噴出する精液にShalは獣の様に叫び声をあげた。</p><p>清めろ</p><p>精を放出したばかりのペニスを突き出すと、Shalは嬉しそうにそれに舌を這わせた。慎み深く、敬虔な僧侶の白アールヴはもはやいない。自ら呪いを受け入れ誓約を行った今、彼女は快楽を貪るOlの性奴でしかなかった。</p><p>お前の真名は？</p><p>シャーリー・サザーランドです、Ol様</p><p>うっとりと美味しそうにOlの物にむしゃぶりつきながら、Shalは素直に答えた。真名を聞くまでもない。状況がどうだろうと、全てを捧げよとOlはいい、Shalはそれに同意した。彼女はもはや、魂まで全て売り渡したのだ。</p><p>うむ。ではシャーリー。しばし休むが良い</p><p>OlがShalの頭に指を触れると、彼女はこてんとベッドに横になって寝息を立て始めた。</p><p>お疲れ様～</p><p>迷宮の暗がりの中から染み出すようにリルが姿を現し、Olを労う。</p><p>ああ、流石に少し疲れた。お前にも手間を取らせたな</p><p>昨日、ナジャを堕としたばかりだ。午前中はShalを相手にし、午後はナジャを相手にする。その合間合間にダンジョンの管理業務もある。ここの所のOlは多忙を極めていた。</p><p>いーよいーよ。初心な子にエロいの教え込むのもまあまあ楽しかったしね</p><p>淫魔らしく下品な笑みを浮かべながら、リルはOlの肩を揉みほぐす。</p><p>にしてもご主人様ってああいうのが趣味なの？ 私もあんな風におねだりした方が良い？ご主人様ぁ、リルのオマンコご主人様の逞しいおちんちんでズボズボしてぇ、って</p><p>そうしながら同時にOlの背に胸を押し付け耳元で囁くリルに、Olは大体彼女の意図を察したが好きにさせた。</p><p>別にあれは俺の趣味じゃない。言霊と言ってな、言葉と言うのは力を持つ。それが自分のものであれば尚更だ。嘘だとわかっていても言葉は繰り返すうちに真実を帯びていき、終いには本当なのか嘘なのかもわからなくなる。あの娘の様に一本気な性格なら尚更だ。心は差し出さなくていいといったが、ああいう一途な娘にはそんな事は不可能だ。相手は選ぶが、まあスタンダードな堕落のさせ方だな</p><p>とは言え、残る一人、魔術師の娘にはこの方法は効かないだろうな、とOlは考えた。</p><p>ふーん。私の事もその方法で堕落させちゃう？ 私をOlにメロメロにしてみる？</p><p>後ろからぎゅうと抱きしめ、リルはOlにくすぐるように囁いた。</p><p>お前の様に二枚舌を使い分けられるような相手には効かん。善がっている演技をされたらそれまでだからな。それに、悪魔なんてものは存在自体が端から堕落しきっているものだろうが</p><p>あーそうね、そんな事されなくても私Olの事結構好きだしね</p><p>そうか</p><p>気のない素振りで答えるOlの背に、リルはそっと頬をくっ付けた。</p><p>ほんと、だよ？</p><p>Olはそれに答えず、すっと立ち上がる。そして振り向くと、リルと視線は合わさずに言った。</p><p>それより、腹が減ったんだろう。褒美だ、相手してやるから寝室まで行くぞ</p><p>ん。やったーっ、ひっさしぶりのごっはんー！</p><p>努めて明るい声を出し、リルは諸手を挙げて喜んだ。いつかは心を開いてくれる事を願いつつ、こんなの悪魔らしくないな、と思いながら。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-6</p><p>やっと来たの</p><p>牢獄に姿を見せたOlに、青銀の髪の魔術師ウィキアは冷たくそう言い放った。</p><p>彼女は既に数日をここで過ごしている。朝晩の食事を届けに来る娘以外に牢を訪れるものも無く、その冷静な口ぶりとは裏腹に彼女はかなり焦っていた。</p><p>もう、ナジャとShalは何らかの形で処分されてしまった可能性は高い。対処されるなら自分が最後であろう事は大体予測していた。ナジャとShalを篭絡した後でなら、彼女達がウィキアに対しての切り札になりえるからだ。</p><p>安心しろ。お前の仲間達は皆生きている</p><p>そんな言葉で安心できるとでも思っているなら、あなたは大間抜け</p><p>ウィキアはにべも無く言い放つ。大体、生きているなんて何の保証にもならない。例え何も出来ない肉達磨にされてようと、意識があるならそれは生きているんだから。</p><p>そうだな。では言い直そう。大きな怪我もないし、精神を壊すような事もしていない。今すぐ地上に戻せば、冒険者として復帰できる。三人ともだ</p><p>何が言いたいの</p><p>そんな情報には何の意味も無い、と言わんばかりの態度でウィキアは核心を促した。事実、そんな情報に何の意味も無い。嘘など幾らでもつける。</p><p>情緒の無い奴だなまあいい。お前とは手っ取り早く賭けをしにきた</p><p>賭け？</p><p>鉄格子越しに怪訝な表情で問い返す彼女に、Olはうなずいた。</p><p>ちょっとした、簡単なゲームで俺と勝負をしてもらう。お前が勝てば、仲間全員を無事に地上に帰してやる。俺が勝てば、お前自身を貰い受ける。条件は3対1だ。お前に有利だろう</p><p>馬鹿な事を言わないで。そんなものに乗るわけが無いでしょう</p><p>提案に飛び付きたくなる衝動を微塵も見せず、ウィキアはそう答えた。現状は完全に手詰まりだ。ウィキアの能力では、魔術を封じられた状態で逃げ出す事など出来ない。</p><p>まあそういうと思ってな。公正な審判役も用意した</p><p>Olが言うや否や、暗闇に炎が立ち上り、全身赤銅色の巨大な悪魔が姿を現した。</p><p>もし俺がゲームでイカサマをすれば、この悪魔に魂を捧げてお前の勝ちとする。対等な勝負だ。受けるか？</p><p>ウィキアはじっと考えた。勿論、この悪魔はOlの配下だろうが、悪魔というのは本質的に人間の絶対的な味方にはならない存在だ。これほどの大悪魔となれば尚更。魂を賭けているとなれば、悪魔は容赦なくそれを取り立てるだろう。性格にもよるが、場合によってはウィキアの味方に回ってくれさえするかもしれない。</p><p>いいでしょう。話を聞くくらいの気分にはなったわ。説明してみなさい</p><p>牢の中でベッドに座って足を組み、魔術師の少女はそう言い放った。</p><p>ゲームの内容は実に単純だ。まず、ウィキアとOlは攻撃側と防御側に分かれ、それぞれ身体の部位を相手に見えないように隠しながら書く。</p><p>書けるのは両手足と頭、胸、腹、腰の8箇所。攻撃側と防御側の書いた部位が同じであれば防御成功で、攻守交替。違った場合は攻撃側に防御側のその部位の所有権が渡り、やはり攻守交替する。</p><p>所有権を取られた部位は呪いによって相手の手に渡り、自由に動かすことは出来なくなる。ただし、生命維持に必要な内臓の活動や、視覚、聴覚などの五感、思考能力や意思、発言する為の口や喉などは所有権を取られても自由に動かすことが出来る。実質、四肢の動きを制限するものと考えていい。</p><p>イカサマについては、多岐に渡る。読心術、遠隔視、未来視、使い魔等の利用による相手の手を読む全ての行為や、暴力や呪いなどによるゲーム終了以外の方法によるゲームの停止や手の強制、妨害、幻術等による手の偽装、約束の反故などは全てイカサマとみなされ、発覚次第悪魔によって魂を奪われ、ウィキアの勝ちとなる。</p><p>例外は両腕の所有権を奪われてゲームが続行できなくなった場合で、これは反則には含まれない。と言ってもゲームの続行は出来なくなるから、実質敗北となる。ウィキアがそこを指摘すると、Olはお前には口も脚もあるだろう？と答えた。</p><p>意外な事にウィキア側は反則はない。といっても、魔力を封じられ道具もない状態では反則しようにも出来ないのだが。</p><p>勝敗は、相手に自分の持つ肉体の所有権が一箇所を残して全て奪われた時点で敗北となる。残り一箇所になれば負けようがないのだから当然だ。</p><p>勝敗がつけばお互いの取得した所有権が元に戻った上で、ウィキアが敗北した場合は彼女の全身の所有権がOlのものとなり、Olが敗北した場合はウィキアを含め、仲間4人を無事に地上に送り届けてもらえる。</p><p>既に仲間が無事でない場合は、約束の反故に違反するのですぐさまウィキアの勝ちとなる。Olの魂を奪い去った後、責任を持って悪魔が彼女達を地上に送ることになる。</p><p>無事の定義は、悩んだ結果地上に戻った後、元と完全に同じように戦える心身状態であることとした。本当はOlと戦えるくらいにしたかったが、恐らく最低でも逆らえなくなる呪いくらいはかけられているだろう。まずは勝負の場にOlを引きずり出さない事にはどうしようもない、とウィキアは仕方なく妥協した。</p><p>では始めるとするか。先攻はお前でいい</p><p>Olは椅子にゆったり腰を下ろし、鉄格子をはさんでウィキアに向かい合った。間には無言で炎を纏った悪魔が立ち、四本の腕を組んで両者を睨みつけている。片手でも札を隠してかけるように、譜面台の様な台と筆が用意された。</p><p>このゲームはいうまでもなく先攻が有利だ。相手の所有する肉体を残り1個にした時点で勝ちとなるのだから。ウィキアはゆっくりと思考を重ねた。このゲームに時間制限は特に指定されていない。</p><p>お互いがランダムに場所を指定するなら、攻撃が失敗する可能性は1/8だ。終盤はともかく、序盤の攻撃はあまり深く考えずともいい。だが、だからこそウィキアは深く考え込んだ。</p><p>8種の部位の価値は対等ではない。それが、このゲームを単なる運の勝負から、読み合いが必要な複雑なものへと変化させていた。攻撃が成功すればその部位は一時的にとはいえ相手のものになる。</p><p>腕をとられれば手で文字を書けなくなる。つまり、その時点でウィキアは敗北する。いざとなれば口や足で書くことも可能だろうが、出来ればそんな屈辱的な事はしたくないし、やりたくても腹や腰では無理だ。腕は最優先で守らなければならない。</p><p>逆に、Olはそういった事情は多少有利だ。例え両手足を縛られても、口さえ動くのなら魔術で文字を書くことなど造作もない。対等といいながら、勝負以前の部分でウィキアは不利になっているのだ。</p><p>しかし、そこにこそ付け入る隙がある、と彼女は内心で呟いた。</p><p>書けたわ</p><p>随分長い事考えたな。まあ良い</p><p>ウィキアが部位を書いた札を差出し、Olもまた札を差し出す。長考したウィキアに対し、Olは殆ど悩む事無く札に答えを書いていた。</p><p>悪魔が互いの札を改め、金属のすりあうような不愉快な声で言った。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位左腕。防御側、Ol。指定部位頭。攻撃ハ成功、Ol ノ 左腕ハ ウィキア ノ モノ トナル</p><p>Olの左腕が銀に輝き、ダン！ という音ともに光り輝く楔が打たれた。</p><p>ふむ。では次は俺の攻撃だな</p><p>Olは気にした様子もなく、再び迷わずに札に文字を書いて伏せた。ウィキアは、まずOlの防御札に考えを巡らせた。Olがまず守ったのは頭だ。守るなら四肢、特に利き腕である右腕がもっとも可能性が高いと思ったが、その予測は外れた。</p><p>頭をとられて何か弊害があるのだろうか？ 確かに頭は重要な部位だが、五感や口の動き、意志などは取られないからそれほど害があるとは思えない。</p><p>魔術も行動も通常通り出来るし、目を閉じさせたりしてゲームの妨害をするのは禁止事項だ。そもそも所有しているだけで神経が繋がっているわけではないのだから、ウィキアにOlの身体を動かせる訳でもない。</p><p>ウィキアは悩んだ末、札に部位を書くと悪魔に差し出した。先ほどと同じように悪魔が双方の札を見て、キイキイと声をあげる。</p><p>攻撃側、Ol。指定部位胸。防御側、ウィキア。指定部位右腕。攻撃ハ成功、ウィキア ノ 胸ハ Ol ノ モノ トナル</p><p>ウィキアの胸部が光り輝き、琥珀色の鎖がじゃらじゃらと伸びて締め付ける。</p><p>しかし、特に苦しい感じはしなかった。最初に定めた通り、心臓も肺も生命維持に必要な部分は問題なく動いているようだ。</p><p>しかし胸とは、とウィキアは内心驚きを隠せなかった。最初は間違いなく四肢を取りに来ると思ったのだ。Olからしてみれば四肢に頭を封じれば勝てる勝負なのだから、胸を取りに行く必要はない。しかし、だからこそ取りに行ったのかもしれない。優先順位を鑑みて論理的に予想を張るウィキアに対し、その裏を突いている、という事か。</p><p>次は私の攻撃ね</p><p>ウィキアはそういって、札を差し出した。今度はそれほど悩まずに差し出す。Olは相変わらず、殆ど間をおかずに札を出した。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位右脚。防御側、Ol。指定部位右腕。攻撃ハ成功、Ol ノ 右脚ハ ウィキア ノ モノ トナル</p><p>ほう</p><p>Olの右脚に銀の楔が突き刺さり、Olは少し感心したように声をあげた。四肢を取りに行くというウィキアの戦略は読まれている。しかし、Olにそれほどの危機感はないはずだ。彼にとっては、腕も他の部位もさして価値に差はないのだから。</p><p>だが、そここそが付け入る隙だ。</p><p>宙をたゆたう銀と琥珀色の魔力を視界に収めながら、ウィキアはうっすらと笑みを浮かべた。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-7</p><p>ギフト、と呼ばれる先天的な才能がある。</p><p>それは魔術よりも一段高い運命の領域にある能力で、ごく一部の人間だけが持って産まれてくる。</p><p>英雄の星もそれに当たり、ギフトの中でも特に高い効果を持つものの一つだ。</p><p>ウィキアの持つ魔力の瞳はそれに比べれば随分とおとなしい。このギフトを持つものは、本来目に見えない魔力の流れを肉眼で見ることが出来た。彼女にとって他の魔術師は、盲目の剣士の様なものだ。魔力の流れも見えぬのによくもまあ器用に魔術を扱うものだ、とは思うが、彼女の目にはその様子は酷く危なっかしく映る。</p><p>Olは熟練の魔術師であり、全身に魔力を漲らせている怪物ではあったが、やはり盲目である事には変わりが無かった。悪魔に頼るまでも無く、Olが魔術を使えばそれは容易に知れる。単純なものであれば、それがどのような魔術であるかも解析できる。</p><p>つまり、両腕を封じてOlが魔術で筆を扱うようになれば、ウィキアは魔力の流れからOlの文字を当てられる自信があった。</p><p>ギフトは魔術とは違う。使うのに呪文も印も要らないし、魔力すら使うことは無い。封魔の呪具をつけられていても何の問題も無く使うことが出来るし、使っている事は悪魔にすら気取られることは無い。そもそもウィキアには反則は適用されない。万が一バレても何の問題も無い。</p><p>次は私の攻撃ね</p><p>ゲームは既に、4巡目へと突入していた。今の所、お互いに防御は成功しておらず、ウィキアはOlの腹を、Olはウィキアの左腕と腰を手に入れていた。</p><p>しかし腰とは、相変わらず妙な場所ばかり持っていく。ウィキアが腹を狙ったのは四肢からOlの意識を逸らす為だが、Olはまるで左腕を狙うことで別の部分から彼女の意識を逸らそうとしている様に見える。</p><p>ひあっ！？</p><p>そう思った瞬間、背筋を走る感覚に思わずウィキアは悲鳴を上げた。感覚の発生源に目を向けると、彼女の左腕は勝手に動き、自身の股間を淫猥に擦り上げていた。いつの間にか服はたくし上げられ、Olの目の前に秘部をさらけ出している。</p><p>目を凝らすと、Olから伸びた魔力がウィキアに纏わりつく鎖を通じ、ウィキアの身体を操っていた。</p><p>これは、妨害行為じゃないの！？</p><p>妨害デハナイ。文字ハ 書ケルダロウ</p><p>叫ぶウィキアに、悪魔は冷静にそう答えた。思考や行動の妨げになるような行為ならともかく、ウィキアの左手はゆっくりとスリットをなぞっているだけだ。気は散るものの、ゲームを妨害していると言う程ではない。</p><p>所有物を使って、所有物を嬲っているだけだ。何の問題がある？</p><p>続けるわ</p><p>ウィキアはまだ動く脚をきゅっと締めて股間をOlの目から隠すと、札に部位を書いて伏せた。次の狙いは、今度こそ右腕と見せかけて、左脚だ。Olの頭にあるのは今、右腕か、その他の部位か、と言った所だろう。その思考の隙間を突く。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位左脚。防御側、Ol。指定部位左脚。攻撃ハ失敗</p><p>しかし、その思考が読まれていたのか、Olに防がれた。</p><p>有利だった先攻が一転、ウィキアが不利となる。</p><p>焦ったな。股間を弄られて呆けたか？</p><p>いやらしい笑みを浮かべながら、Olが嘲った。</p><p>言ってなさい</p><p>恥辱に顔をしかめながらも、ウィキアは札を出した。</p><p>攻撃側、Ol。指定部位右腕。防御側、ウィキア。指定部位右腕。攻撃ハ失敗</p><p>あなたこそ、色ボケのせいで血迷ったようね</p><p>言いながら、ウィキアは内心安堵した。これで先ほどの失敗は帳消しになった。それだけでなく、狙われた右腕を守れたのは大きい。文字を書く生命線であるだけでなく、両腕を操られて身体を辱められるなどぞっとしない。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位右腕。防御側、Ol。指定部位腰。攻撃ハ成功、Ol ノ 右腕ハ ウィキア ノ モノ トナル</p><p>次に出した札で、ウィキアは喜びの表情を抑えるのに苦労した。Olの右腕に楔が突き刺さり、Olの両腕がついに封殺される。しかし、その思考の片隅で、Olの防御部位が気にかかった。何故、腰なんかを守ったのか？</p><p>いや、そんなことはもはやどうでもいいことだ。それよりも、Olの魔力の流れを解析せねばならない。ウィキアはぐっと目を凝らし、彼を見つめた。そんな彼女の視線の先で、驚きの光景が繰り広げられた。</p><p>Olは何の魔術も使わず、何事も無かったかのように腕を動かすと筆を取って札に部位を描いたのだ。</p><p>何で、所有権の無い部位を動かせるの！？</p><p>逆に聞こうか</p><p>ウィキアが言い咎めると、Olはニヤリと笑みを浮かべて言った。</p><p>所有権があるとはいえお前の身体を自在に動かせるのに、たかが所有権を持たぬ程度で何故自分の身体を動かせぬ、などと思ったのだ？</p><p>その言葉に、ウィキアは完全に自分の目論見がOlに露見していた事を悟った。</p><p>これは、反則じゃないの？</p><p>何故ダ？</p><p>悪魔にも問い返される。考えるまでも無い。相手に奪われたものを、魔術で動かしてはならないなどという規約は無い。ゲームの妨害をしているわけではないからだ。Olがウィキアの身体を所有しているからといって、その身体を使っての妨害は無いという事でもあるが、当てが外れてウィキアは落胆した。</p><p>筆を魔術で操るなら、魔力の流れを見ることは出来る。が、直接Olの身体を動かしてはそれはかなわない。魔力は空中ではなく彼の身体の中を流れ、外からは窺い知る事は出来ないからだ。</p><p>どうした。次は俺の攻撃の番だ。防御部位を提出しないか</p><p>悩んだ末、ウィキアは札を伏せる。</p><p>攻撃側、Ol。指定部位左脚。防御側、ウィキア。指定部位右脚。攻撃ハ成功、ウィキア ノ 左脚ハ Ol ノ モノ トナル</p><p>左脚に絡まる鎖を忌々しく見つめ、ウィキアは舌打ちした。ゲームが始まってから、ウィキアは右腕しか守っていない。右腕を最優先で守らなければならないという理由もあるが、右腕しか守らないという印象をOlにつけるためでもある。</p><p>今回、脚を狙われるという読みは当たったものの、左右を間違えたという形だ。</p><p>気持ちを、切り替えなければ。ウィキアは息を大きく吸い、目を閉じた。変わらず股間をまさぐる指も意識から外し、ゆっくりと精神を統一する。</p><p>んはぁっ！</p><p>すると、鼻から甘い声が抜けた。気付けば、いつの間にかウィキアの左腕は股間から離れ、彼女の胸をまさぐっていた。胸。最初にとられた部位だ。ふっくらと盛り上がった双丘の先端は痛いほどに硬く張り詰め、濡れた指によってくりくりと刺激されてウィキアの脳髄を刺激していた。</p><p>その上、裾の短いワンピース状の服は腕によってたくし上げられ、全身がOlから丸見えになっている。その様子を、Olはニヤニヤしながら見つめていた。</p><p>悪魔を見るが、全く関知する様子が見られない。それを見て、ウィキアはようやく自分の失策に気付いた。人間の感情の機微や、性的な事情などこの悪魔には推し量れないのだ。飽くまで、物理的、魔術的な妨害がある事しか判断できない。つまり、審判としてまったくあてにならないというわけだ。</p><p>そこで唐突に、彼女はOlの意図に気づいた。同時に、下種め、と心の中で吐き捨てる。所有権を取られても身体を動かせるOlに、特定の部位を守る意味は無い。意識的な動きは魔力で動かし、無意識的な動きは規約によって保障される。</p><p>だが、生命維持に関係ない、しかしあまり意識的とはいえないような活動は、所有権が無ければ動かせないのではないだろうか。だからOlはさっき、腰を守った。生理的な欲求による、半分意識的で、半分無意識的な、腰の動きつまりは、そういう事だ。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位腰。防御側、Ol。指定部位腰。攻撃ハ失敗</p><p>嫌悪感に突き動かされて伏せた札は、あっさりとOlに看破された。</p><p>くっぅう</p><p>ウィキアの左腕が蠢き、再び股間へと戻る。彼女は必死で漏れ出そうになる声を押し殺した。胸を弄られてそこは火照りを帯び、ぬめりを増していた。更に、先ほど奪われた左脚が彼女の意思に反して大きく広げられ、脚を閉じて手を止める事さえ出来ない。</p><p>奥歯を噛み締めながら彼女は札に部位を書き、伏せる。</p><p>攻撃側、Ol。指定部位頭。防御側、ウィキア。指定部位右脚。攻撃ハ成功、ウィキア ノ 頭ハ Ol ノ モノ トナル</p><p>半ば無意識に右脚を守ろうとしたウィキアの隙を突き、Olは彼女の頭を奪い去った。右脚が奪われれば、下半身は全てOlのものとなる。つまり、股間を彼に晒すのを防ぐことは出来なくなるばかりか最悪、この場で犯される可能性すらある。</p><p>その恐怖心を、Olは巧みに突いたのだ。</p><p>これで、こちらの方が部位が多くなったな</p><p>その恐怖心を煽るかのように、Olは笑みを浮かべていった。</p><p>そうね</p><p>しかし、ウィキアは逆に覚悟を決めていた。混乱に陥っていた自分の頭を叱咤し、悔いや迷いを投げ捨てる。追い詰められる事によって、彼女の思考は平静さを取り戻していた。</p><p>今、一番優先すべきことは何か？ それは、仲間の安全だ。自分の貞操や、命などどうなってもいい。しかし、アラン達だけは何としてでも救わなければいけない。</p><p>次は、私の攻撃よ</p><p>ウィキアは迷い無く、札を伏せる。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位左脚。防御側、Ol。指定部位腰。攻撃ハ成功、Ol ノ 左脚ハ ウィキア ノ モノ トナル</p><p>む？</p><p>Olは感心したように声を上げ、眉をあげた。今のウィキアが、何としてでも所有権を奪いたいのがOlの腰だ。</p><p>だからこそ、そこを外す。</p><p>ふむ</p><p>Olは初めて少し考え、札に部位を書き入れた。対して、ウィキアは全く考える事無く筆を走らせる。</p><p>今のウィキアが全力で守らなければならないのは、右腕だ。ここを奪われれば、ゲームの続行自体が不可能になる。たとえ右脚を奪われ、犯されたとしても守らなければならない。</p><p>Olの攻撃の失敗で、ウィキアは再び優勢を取り戻した。</p><p>残るOlの部位は、頭、胸、腰の三箇所。</p><p>一方ウィキアは右腕、右脚、腹の三箇所だ。</p><p>攻撃を防がれる可能性はお互いに1/3。ウィキアは、運を天に任せる事にした。Olから見えぬように指先で筆をくるくると回し、止まった場所で決める。</p><p>筆は、横向きで止まった。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位胸。防御側、Ol。指定部位頭。攻撃ハ成功、Ol ノ 胸ハ ウィキア ノ モノ トナル</p><p>む</p><p>胸に楔を打ち込まれ、流石にOlは呻く。これで彼の残り部位は2箇所。</p><p>次は何を守るか、ウィキアは考える。右腕を守らなければ、筆がもてなくなる。右脚を守らなければ、処女を奪われる。守るならこのどちらかしかない。</p><p>攻撃側、Ol。指定部位腹。防御側、ウィキア。指定部位腹。攻撃ハ失敗</p><p>だからこそ、ウィキアは腹を守った。</p><p>あなたは蛇みたいな男ね</p><p>薄く笑みを浮かべ、ウィキアは言ってやった。</p><p>狡猾で卑怯で姑息。薄汚れ、痩せた考えしか出来ない。だから、考えを読むのは容易い。次の私の手を教えてあげる。頭よ。頭と書くから、精々疑いなさい</p><p>言い放ち、ウィキアは素早く筆を走らせると札を伏せた。</p><p>それに対し、Olは初めて余裕を失い、長く悩む。やがてゆっくりと筆を取り、文字を書き込むと札を伏せた。</p><p>攻撃側、ウィキア。指定部位頭。防御側、Ol。指定部位腰。攻撃ハ成功、Ol ノ 頭ハ ウィキア ノ モノ トナル</p><p>Olの頭に、楔が突き刺さる。ピシピシと音を立て、ひびのようなものがOlの身体に広がっていく。</p><p>所詮、あなたはそんなものよ。他人を疑う事しか知らず、真実が何かもわからない。さあ、悪魔、私を開放して仲間の下に案内しなさい</p><p>ウィキアの言葉に、しかし悪魔は何の反応も見せない。立ち上がろうとするが、鎖は依然として彼女の身体に絡みつき、動くことは無かった。</p><p>どういう事？ ゲームは私の勝ちでしょう！ まさか約束を違えると言うの！？</p><p>ク、ク、ク</p><p>ウィキアの叫び声を、Olの笑い声がさえぎる。</p><p>若き魔術師よ。確かにお前の言うとおり、俺は疑う事しか知らぬ。しかし、年長者より老婆心ながら、お前に一つ忠告を与えてやろう。お前ももう少し他人というものを疑ったほうがいい</p><p>Olに突き刺さっていた楔は、ぴしりと音を立ててひびが入ったかと思うと、粉々に砕け散った。</p><p>どういうこと！？ まさか、悪魔が</p><p>そやつは忠実に働いている。イカサマは何もしていない。ただ、お前が少し勘違いしているだけだ</p><p>愉快そうに笑みを浮かべると、Olは楔の無くなった身体をコキコキと鳴らした。</p><p>このゲームの勝敗は、お互いの所有する肉体が残り1部位になった時点で決まる。順番については言及していない。別にどれからでもいい</p><p>順番？ 一体何の事を言っている？ 一体何が起こっている？</p><p>混乱するウィキアの思考は、唐突に正解を掴み取った。</p><p>まさか、所有する肉体って</p><p>Olはうなずいた。</p><p>お前の仲間は三人だろう？ 俺自身を含め、4人。良かったな、後3回勝てば仲間を救えるぞ</p><p>愉快そうに言うOlの言葉を聞きながら、ウィキアは表情を絶望の色に染めた。</p><p>第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-8</p><p>暗く冷たい地下の牢獄で、アランは芋虫の様に転がっていた。腕は後ろで鉄の輪によって縛られ、足も同様のもので束ねられている。当然、魔術を使う事もできなかった。</p><p>一昨日、一日だけ広い部屋に移動させられたが、それ以外はずっと彼は狭い牢獄の床の上に転がされていた。ベッドなどあるはずもなく、身体はずっと冷たい地面の上だ。食事は最低限のものが一日一度だけ運ばれ、具も何もない粗末なスープを、アランは犬の様に皿に直接口をつけて飲んだ。</p><p>両手足を縛られている上に、部屋には何もないために満足に用を足すことさえできない。自らの出した汚物にまみれ、この上なく惨めな気持ちでアランは辛うじて生を繋いでいた。</p><p>そのあまりの屈辱に、それでも命を断つ事無く生き長らえる事ができた理由は、ひとえに仲間の存在以外に他ならない。</p><p>最初の三日ほどは、仲間達が救出に来てくれる事を期待していた。真っ先に気絶させられたアランは、仲間達が全員捕まったことを知らない。動きを封じられたナジャはともかく、アールヴのShalや、あの頼りになるウィキアなら逃げ延びて救出作戦を練ってくれているのではないか、と思った。</p><p>それから三日間は、どうやらそれが期待できそうに無い事と、Olにアランをそれほど長く生かしておくつもりがない事を悟ってきた。食事が差し入れられるとはいえ、ロクに栄養もない塩だけのスープだ。身動きすら出来ない状況と冷たい床は容赦なくアランの体力を奪い、計り知れない無力感と汚物の据えた臭いがその強靭な精神力をことごとく削っていく。そう長くは持たないのだろう、とアランは直感した。</p><p>更に次の三日間で、アランはとうとうわずかな希望を抱いた。それまで彼に食事を運んでいたのは人形の様に美しい黒髪の女で、アランが何を言おうが眉一つ動かさず自分の任務を忠実にこなした。</p><p>しかし、七日目に食事を持ってきたのはその女ではなく、蝙蝠の翼を持つ女悪魔だった。その醜悪な翼にアランは顔をしかめたが、話しかけてみると彼女は意外にも気さくに受け答えした。</p><p>仲間は三人ともつかまっているという情報はアランを落胆させたが、それほどショックではなかった。三人の待遇が、アランよりはかなりマシなものであるという情報も同時に得られたからだ。</p><p>8日目、アランは別の心配を抱き始めた。それは、何故仲間達がアランより良い待遇を受けているか、という事だ。単純に考えれば、Olは三人を殺す気は無いという事だ。少なくとも、すぐには。</p><p>しかしそれは、アランにとっては最悪の展開を予想させる。</p><p>そして、その悪夢が現実となる日がやってきた。</p><p>アランはその日、湯で身を清めることが許され、足枷を外されて狭い牢獄を久々に出ることが出来た。そのまま、大き目の部屋へと案内される。アランがいた牢獄とは比べるべくも無い。床は綺麗に清掃され、壁は光を放って地上の如く明るい。大きなベッドや家具が設えられており、アランは部屋の隅にある椅子に座らされた。</p><p>カチャリと音を立て、手錠が椅子に繋がれる。嫌な予感を覚え、ここまでアランを連れてきた女悪魔に視線で訴えるも、彼女はアランなど見えていないかのようにさっさと部屋を出て行ってしまう。</p><p>誰もいなくなった部屋の中、何ともいえない嫌な予感がアランの背筋を伝う。飛び切り悪意の込められた罠がかかった宝箱を触っているときのような、何ともいえない嫌な予感だ。</p><p>しかし、アランには何も出来ない。手かせはがっしりと椅子に繋がれていて、どんなに引いてもはずれそうには無かった。</p><p>まんじりともせず待つアラン。程なくして、部屋の扉が開いた。</p><p>ナジャ！ Shal、ウィキア！</p><p>入ってきた三人の姿に、アランは歓喜の声をあげた。囚人用の粗末な服を着てはいるものの、三人ともあまり弱っている様子は無い。ナジャは長かった髪が短くなっているが、大きな傷は無いようだった。</p><p>どうしたんだ？ 皆。まさか、口をきけないようにされてるのか？それとも、耳が？</p><p>アランの問いに、ウィキアだけが首を横に振る。そして、ぽつりと呟いた。</p><p>アランごめん。ごめん</p><p>俯き、謝罪の言葉を繰り返すばかりで、ウィキアは目も合わさない。</p><p>ナジャは何を考えているのか、うつろな瞳で虚空を見つめるばかり。いつも通りニコニコしているShalもアランの言葉に答える事無く、ただ笑みをたたえるだけだ。</p><p>感動の再会は堪能できたか？</p><p>Ol！ 貴様、三人に何をした！？</p><p>ガチャガチャと手かせを鳴らし、アランは出来うる限り身体を前に乗り出した。</p><p>ふむ何をした、か</p><p>Olは考え込むように歩を進めると、並んで立つShalとナジャの間にたって二人を抱き寄せ、その胸を鷲掴みにした。</p><p>説明して見せるか？ この数日間で何があったか</p><p>アランの目の前で敵であったOlに胸を掴まれているというのに、二人は嬉しそうに頬を染める。その表情に、アランは激しい衝撃を受けた。</p><p>Shal、ナジャ、一体どうしたんだ！？一体、何がウィキア、お前は何かわかってるのか！？</p><p>会話すら出来ないShalとナジャに、ウィキアに視線を向ける。しかし、彼女は謝罪の言葉を繰り返すばかりで、こちらもこちらで会話にならない。</p><p>ふむ、そうだな。レオナ、説明してやれ</p><p>親密そうに本名を呼ぶと、Olはナジャの腰を抱いた。その言葉にようやく会話する術を取り戻したかのように、ナジャはアランに目を向けた。</p><p>すまんな、アラン。私はお前を騙していたんだ</p><p>そういってナジャはOlに視線を移すと、両腕をOlの首に回し、彼に接吻する。</p><p>私はOl様の忠実な部下。ずっとお前を騙していた</p><p>嘘だッ！！ そんなそんなはずが無い、だって、お前はッ！</p><p>がしゃがしゃと手枷を鳴らしながら叫ぶアランの言葉を遮り、Olはナジャに命じる。</p><p>この男はお前の言葉が信じられんようだ。信じられるよう、お前の忠誠の証を俺に見せてみろ</p><p>はい、Ol様</p><p>ナジャは嬉しそうにうなずくと、ベッドの上に乗って四つんばいになり、Olに尻を向けた。</p><p>どうぞ、私の忠誠の証をお受け取りください、Ol様</p><p>ナジャっ！ やめろ、やめてくれ！ 嘘だ、こんなの嘘だ、冗談いや、はかりごとなんだろう？ そうやってそいつを、誘って、首を刎ねる、そういう事なんだろう？ ああ、駄目だ、Shal、ウィキア、ナジャを止めてくれ！</p><p>悲痛なアランの叫びに、Shalはニコニコと笑みを浮かべ、ウィキアは辛そうに顔を背けた。そんな彼らの目の前で、Olはナジャの秘裂に硬く反り返ったものを突き入れた。</p><p>好意を寄せ、相手も自分を憎からず思っている。そんな、恋人にごく近い間にあったはずの相手が、今見知らぬ男に犯されている。しかしそれよりも、ナジャが快楽に表情を溶かし、嬉しそうに腰を振っているという事が、アランの心を散々に打ちのめした。</p><p>やめろやめてくれ</p><p>叫びに叫び、暴れに暴れたアランは、Olがナジャの奥に白濁の液をたっぷりと吐き出す頃には、ぐったりと疲れて椅子に座り込んでいた。</p><p>お情けをありがとうございます、Ol様</p><p>両手で秘裂を広げ、ナジャはわざわざそこから垂れ出るOlの子種をアランに見せ付けた。</p><p>これで理解できたか？ 私の身体は、毛の一本から爪の一欠けらに至るまでOl様のものなんだ。私は、Ol様を深く愛している。お前を騙して悪かったとは思っているが、主人の為だ。すまんな</p><p>サッパリとしたその口調は、アランの知る女戦士そのものだった。しかし、先ほどまで彼女が見せていた、媚びるような女の顔は見た事が無い。本当に彼女はナジャなのか？ アランは、助けを求めるように他の二人に視線を向けた。</p><p>ああ、勿論他の二人に関しても説明しよう。次はシャーリー、お前だ</p><p>OlがShalを呼ぶと、彼女は嬉しそうに小さな身体を弾ませ、ベッドの上に乗り込んだ。</p><p>はい。あたしは、アランさんの事を愛してました。強くて、勇敢で、誰よりも優しい。そんなアランさんが大好きでした</p><p>恥ずかしそうにそういうShalは、アランの記憶と全く変わらない笑顔を彼に向けた。暖かな日の光のような、優しい笑顔。</p><p>でも、あたしはそんなものよりもっと素敵なものをOl様に教えてもらったんです</p><p>それが、淫猥に溶けた。Shalはナジャの愛液とOlの精液にまみれた彼のペニスに舌を這わせ、口に含んだ。</p><p>それが、このおちんぽですああ、硬くて、大きくて、逞しいアランさんのなんかとは比べ物になりません。すっごく、素敵</p><p>目の前で繰り広げられる痴態に、アランの股間はいつの間にか硬く隆起していた。彼が着ているのも三人の娘達と同様の薄い囚人服なので、膨れ上がった股間の形ははっきりとわかる。それとOlのものを見比べながら、Shalはくすくすと笑った。</p><p>そして、ベッドにころりと転がると、秘裂を指で大きく割り開いてOlを誘う。</p><p>Ol様、あなた様のいやらしい奴隷めを、その太くて素敵なおちんぽで奥まで犯して、Ol様専用の子種袋にたっぷり白い精液を沢山注ぎ込んでくださいませ</p><p>アランにはもはや、目の前の光景が信じられなかった。あの清廉で純情なShalが、三人の中でももっとも控えめで清楚だった彼女が、大きく股を開いて淫語を口にし、浅ましく精液をねだっているなど。</p><p>あぁっ！ Ol様の太いの、入ってきてるぅっ！もっと、もっと奥までっ！ 奥まで犯してくださいぃっ！！</p><p>アランが愕然としている間に、Shalの小さな身体に、Olのペニスがずぶずぶと埋め込まれていく。凶暴なまでの大きさを持つそれは、しかしShalの秘所にあっさりと飲み込まれた。</p><p>アランは打ちひしがれながら、それを聞いていた。打ちのめされたアランの心を、Shalの嬌声が更にバラバラに引き裂いていく。もはや叫ぶ事も、暴れる力さえも無い。</p><p>嘘だこんなのは、嘘だ夢だ、夢に決まっている</p><p>必死にぶつぶつと呟き、目の前の情景を否定する。粉々に砕かれた心を、それでもどうにか保つにはそれしか無かった。</p><p>さて、最後はウィキアだ</p><p>Shalの中にもたっぷりと精を吐き出し、Olは最後の一人を呼び寄せた。</p><p>一つ朗報がある。顔を上げてみろ</p><p>Olは後ろからウィキアを抱きすくめ、その華奢な顎を手で掴んで自分の顔の方に向けさせた。ウィキアはされるがままに身を任せつつも、嫌そうに顔をしかめる。</p><p>この娘は、他の二人と違って未だ俺に身体を許してはおらん。また、真名も捧げていない</p><p>その言葉に、反射的にアランはウィキアを見上げた。その表情には確かに、他の二人と違って拒否を示すものが浮かんでいる。いつも沈着冷静で表情に乏しい彼女があそこまで嫌悪の表情を浮かべるのなら、心からかなりの嫌悪を感じている証拠だ。</p><p>唯一の光明を見出した気がして、アランの身体に活力が戻り、心に火がともった。恐らく彼女は魔術を封じられ、力で押し込められているのだろう。他の二人がどうしてああなったのかはわからないが、邪悪な魔術の結果には間違いない。</p><p>しかし、ウィキアには通じなかったのだ。自身も稀代の魔術師である、ウィキアにだけは。</p><p>アランは大急ぎで思考を巡らせた。策さえ思いつけば、頭のいいウィキアはすぐに合図で気づき、実行してくれるだろう。後は、この窮地を抜け出す策を思いつくだけだ。手枷を何とかして外し、ウィキアの魔術を封じている呪具を破壊し、Olを殺す。</p><p>たったそれだけの事を成せば、アラン達は元に戻れる。少なくとも、アランとウィキアは。汚されてしまった他の二人は、もう仕方ない。最悪、見捨ててもいい。だが、ウィキアだけは。まだ純潔を守っているウィキアだけは、何としてでも守らなければならない。アランはそう心に誓った。</p><p>俺が何とかする、任せてくれ。そう意思を込めて、アランはウィキアに視線を送った。数々の冒険を共にしてきた彼女は、それをすぐに察する。</p><p>ごめんなさい、アラン</p><p>そして、返した言葉は、やはり謝罪だった。</p><p>さあ、ウィキア。奴に教えてやれ。お前は、誰の物なのかを</p><p>Olはベッドに腰を下ろし、あぐらをかく。ウィキアはその前に立つと、服を胸まで捲り上げた。</p><p>ごめんなさい、アラン私は、もう、心以外、全部Olのものなの</p><p>その白い滑らかな腹には、Olの名が彫られていた。普段は見えないが、Olの魔力を当てると浮き上がる魔術の刻印。所有される物の証だった。</p><p>そんなウィキア嘘だろう？ 大丈夫だ、すぐに、すぐに俺が、何とかする作戦を考えるからいつだって、危機を切り抜けてきたじゃないか。ほら俺達の、絆があれば</p><p>アランの言葉に、Olはピクリと眉を上げて反応した。</p><p>所詮、絆などこの程度のものだ。確かに、お前たちは本当の意味で、絆を結んでいたのだろう。しかしそれもこうして簡単に崩れ去る物でしかない</p><p>嘲るように、Olは言った。</p><p>しかし、その瞳はどこまでも暗くそしてどこか、悲しげな光をたたえている。その場で正気を保っているウィキアだけが、それに気づいた。</p><p>さあ。こい、ウィキア</p><p>それについて深く考える間も無く命令され、ウィキアはゆっくりと腰を下ろしてその秘裂にOlのペニスをあてがう。</p><p>やめろやめろ、ウィキアァァッ！ やめろ、やめろ！ やめてくれ！殺す！ 絶対に殺す、殺してやる！ その汚らわしい物をちょっとでも彼女の中に入れてみろ、粗末なそれを一寸刻みに切り刻んでやる！やめろ、やめるんだ、ウィキアーーーーッ！！！</p><p>魂の奥から叫ぶかのように、腕が千切れんばかりに身を乗り出して慟哭するアラン。しかし、Olはウィキアの両肩に手を置くと、一気に引き寄せ、奥まで貫いた。</p><p>あああああああっ！！ 殺す、殺す、殺してやる！ 呪われろ、腐り果ててしまえ！あああああ！ 絶対に許さない！ お前らもだ！ Shal、ナジャ！この売女ども、そんな男に色目使いやがって、この、クソったれの、あばずれが！</p><p>アランに見せ付けるように、彼の前で貫かれたウィキアの秘裂からは鮮血が流れ出た。今まで守ってきた彼女の純潔が、まさに今、奪われた証だ。</p><p>アランは口汚く罵倒し、呪いの言葉を吐いた。優しく、正しく、勇敢だった彼の変わり果てたその姿を見て、ウィキアの心の最後の砦が、粉々に砕け散った。</p><p>肉体全ての権利を取り上げられ、排泄行為さえもOlの許可が無ければままならない。人間としての尊厳全てを失った彼女の最後の拠り所が、アランだったのだ。しかし、それも今、失望と幻滅と共に失ってしまった。</p><p>その様子を冷静に見極め、Olは彼女の耳元でささやく。</p><p>さあ、ウィキア。あの下品で野蛮な男に教えてやれ。真名と共に、お前の主が誰であるかを</p><p>私の、主はこの、ウィクトル・クィア・ウィクティマの主は、Ol様、あなたです！</p><p>それは、若く才能ある魔術師が、老いた邪悪な魔術師に魂を売り渡した瞬間だった。</p><p>強烈な快感がウィキアの身体を貫き、一瞬にして彼女は絶頂に至る。魂を直接捕まれる感触は心の底から凍えるほどに恐ろしく、身体の底から痺れるほどに甘美だった。</p><p>真っ白だった自分の魂が、黒く染まっていくのをウィキアは感じた。それは途方も無い快感だ。その快感を知ってしまっては、もう元に戻ることなど出来ない。</p><p>Shalがあれほどまでに乱れ、求める様をウィキアは内心蔑んでいたが、今なら誰よりも彼女の気持ちがわかる。この快感をOlに抱かれれば何度でも味わえるというなら、何度でも魂を売り渡そう。</p><p>殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！</p><p>まるでそれしか言えなくなったかのように、アランは狂ったようにいや、実際もう狂っているのかもしれない。とにかく、そう叫び続けた。</p><p>殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！ 殺す！絶対に</p><p>しかし、その言葉はいつまでも続くことは無かった。</p><p>ナジャが振るった剣によって、首と胴とが分かたれたからだ。その場の誰もが気づかない事だったが、それはアランが手に入れ、切り裂きの剣と名をつけたものだった。</p><p>四人が力を合わせ、アランの手からナジャの手へと宙を舞ってミノタウロスの首を刎ねた剣が今、アランの首を刎ねた。</p><p>憎悪と呪いをたっぷりとその身に抱え、首を刎ねられた死体はOlの魔術によってすぐさま魔物へと変化させられる。あらゆるものを呪い、あらゆるものを憎む、不死の狂戦士デュラハンの誕生だ。</p><p>折角高い金を払って食事をまかない、武具を用意したミノタウロスがあっさり殺されたが、こいつならその代わりを補って余りあるだろう。第二階層の守護室に配置しておけ。後、ドヴェルグどもに言って防具も一式用意させろ。ああ、盾はいらんぞ。左手には自分の首を持たせるからな</p><p>今しがた本人の首を刎ねた剣を持たせ、部屋の外のリルに声をかけ、デュラハンの処置を任せる。憎悪というのは魔の根源となるものだ。ただのリビングデッドとはわけが違う。</p><p>はーい。ご主人様はどうするの？</p><p>ウィキアは今が初めてで、三人揃うのも初めてだからな。もう少し楽しませて貰うとしよう</p><p>Olは背面座位の姿勢でウィキアを貫きながら、ナジャとShalを呼び寄せ左右にはべらせる。しばらくかかりっきりになっていた大仕事がようやく終わったのだ。今晩は仕事の成果を楽しみつつ、ゆっくり休むつもりだった。</p><p>これの処理して戻ってきたら、ついでに私も相手してくれる？</p><p>少し考え、リルはそう尋ねた。以前なら文句を言っていただろうが、最近のリルは何か思うところがあるのか、こうして甘えるようにねだってくるようになっていた。</p><p>まあいいだろう。ついでにスピナと見かけたらでいいから、エレンも連れて来い</p><p>人手が少ないからと、下女のような仕事をさせてしまった二人の名を告げる。本人達は特に気にした風も無く快く承諾してはいたが、何もフォローなしでは後が怖い相手でもある。</p><p>了解！ じゃ、急いでいってくるね！</p><p>リルはデュラハンを従え、文字通り飛んでいった。</p><p>果てしない憎悪を抱いた首なし騎士は、生前同様の剣の冴えと魔術を操って、これからより多くの冒険者達を血祭りにあげてくれる事だろう。</p><p>これからの事を考えながら、Olは一度目の精をウィキアの中に放った。</p><p>欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょうex</p><p>さて。まずは三人でこれに奉仕して貰おうか</p><p>ナジャ、Shal、ウィキア。落としたばかりの美しき女冒険者たち三人の前に、Olはいきりたった怒張を突き出した。</p><p>あはっ♥</p><empty-line/><p>羞恥、歓喜、嫌悪。三者三様の反応を見せつつも、しかし三人とも食い入るようにそれを見つめる。</p><p>舐めろ</p><p>口で奉仕させるのは、Shal以外はこれが初めてだ。Shalが真っ先に先端に口づけて、次にウィキアが全てを諦めた瞳で舌を伸ばし、最後にナジャがおずおずと顔を近づける。</p><p>ふむ</p><p>それぞれ性質の全く異なる三人の美女に奉仕させる光景は、男であれば誰でも奮い立つような、征服欲と加虐欲を満たすものだ。しかしそれはあくまで精神的なもので、純粋な快楽というと今一つと言わざるを得なかった。</p><p>Shal。手本を見せてみろ</p><p>はいっ！</p><p>元気よく返事をする白アールヴの少女に、残りの二人は驚きの表情で顔を引く。いつも大人しく控えめなこの少女が、こんなに自信満々に振る舞うのを初めて見たからだ。</p><p>まずお口でご奉仕する時は、あたしたちを気持ちよくしてくれるおちんぽ様にご挨拶しなければなりません</p><p>そして続く言葉に、その驚愕は更に色濃く刻まれた。</p><p>おちんぽ様、Shalが今からご奉仕させて頂きます。よろしくお願いいたします</p><p>Shalはそう言ってうやうやしくOlの怒張を掲げ持つように両手を添えると、先端にちゅっと音を立てて口づけた。それはまるで彼女が信じる神に祈りを捧げるときのような、神聖で厳かな雰囲気とともに行われ、ナジャとウィキアを更に困惑させる。</p><p>さ。お二人も、きちんとご挨拶して下さい</p><p>Shalはそのまま二度、三度とOlの亀頭に唇を落とし、そしてくるりと振り返ると、にっこりと笑顔を浮かべて朗らかにそう言った。</p><p>オOl様、よろしく</p><p>違います</p><p>折り目正しくOlの目を見つめて頭を下げようとするナジャに、Shalはピシャリと言う。</p><p>Ol様ご自身なんて、烏滸がましい。まずはOl様のおちんぽ様にご挨拶するんです。あたし達は、この太くて逞しいおちんぽ様に気持ちよくして頂くだけの雌犬なんですから。さ、ウィキアさんも</p><p>わかったお、おちんぽ様よろしくお願いいたします</p><p>よろしく、お願いします</p><p>ナジャは卑猥な単語を言わされて恥ずかしそうに、ウィキアは苦痛に耐えるようにしながらも、Shalに倣って肉槍の先端にキスを落とす。</p><p>それは別にOlがShalに仕込んだ作法というわけではない。彼女自身が自ら考え出し、Olを喜ばせるために行っていることだ。そう誘導したのは確かなこととは言え、妙な出来に仕上がったものだ、とOlは思う。</p><p>だが確かに、そうしてグロテスクな肉塊に口づけを落とされていく感触は悪くはなかった。</p><p>次に、舌で全体をお慰めします</p><p>言いながら、Shalはその愛らしい顔に似合わぬ舌を目一杯伸ばした下品な表情で、Olの男根を根本から先端へとゆっくりと舐っていく。</p><p>お種があるこのお大事な袋も、しっかりと綺麗にしてくださいね</p><p>肉槍にしなやかな指を絡ませ、ぷにぷにとした頬を擦り付けながら、Shalは睾丸の入った袋の皺を一本一本なぞるように舌を這わせる。</p><p>肉茎から裏筋、雁首につるりとした亀頭、鈴口に至るまでを丁寧に丁寧に舐めしゃぶると、Shalはほうと息をついて両手でペニスを掲げ持つ。</p><p>そして最後にお口全体でご奉仕します</p><p>言うやいなや、巨大な男根はShalの口の中に根本まですっぽりと咥え込まれた。</p><p>んっじゅぷっちゅぷ、じゅるるっ</p><p>子供の頭程もあろうかという長大なペニスが、その小さな口内に収まりきるはずがない。Shalは喉奥まで肉槍を咥え込みながら、じゅるじゅると音を立てて激しくそれを愛撫する。</p><p>くっ出すぞ！</p><p>彼女の巧みなディープスロートには流石のOlも堪えきれず、彼はShalの頭を両手で掴みながらその喉奥に精を放った。</p><p>んぶっん、ぐっ！</p><p>Shalは幾分苦しそうにしながらも、それを喉の奥で受け止める。断続的に吐き出される白濁の液を全てShalの口内に出し切ると、ずるりと粘液の橋をかけながら、男根がShalの口の中から引きずり出された。</p><p>いたらきます</p><p>Shalは溜まった白濁をOlに確認させるように大きく口を開いて見せると、噛み締めながらその味をじっくり舌で味わい、ごくりと飲み干す。</p><p>ごちそう様でした♥</p><p>そして幸せそうなうっとりした表情でそう告げると、唇を指でなぞった。</p><p>と、このように咥えさせて頂くのは三人だと出来ませんので、その前の段階舌でのご奉仕を、三人でしましょうね</p><p>あああ</p><p>ん</p><p>Shalの痴態に当てられて、ナジャとウィキアはごくりと唾を飲み込む。そして、一斉にOlのペニスへと舌を伸ばした。</p><p>むいいぞ</p><p>今度の奉仕は、先程とは段違いであった。熟練の冒険者として最も重要なのは、何より観察眼だ。Shalの変貌した様子に驚き惑いながらも、口奉仕のコツはナジャもウィキアもしっかりと学び取っていた。</p><p>Shalが亀頭をねっとりとしゃぶり、ナジャが肉茎を唇で食むようにして、ウィキアは下に潜り込み肉袋を舐める。Olの快楽が途切れぬように場所を徐々に入れ替わりながらも、三つの舌と唇とが一体の生き物のように男に奉仕していく。</p><p>時にナジャやウィキアが道を外れれば、Shalは目配せをするだけでそれを指摘し正しい位置に戻す。それは奇しくも、全体を見回しShalがフォローするという、彼女達が冒険者として戦うときと同じ構図であった。</p><p>いくぞっ！</p><p>はい、来て下さいっ！</p><p>絶妙なコンビネーションで襲い来る舌奉仕にはさしもの魔王も敵わず、苦悶の声を上げる。先端を口に含んでいたShalはさっと唇を外して後退ると、とどめを刺すかのようにその男根を手で扱き立てた。</p><p>く、うっ！</p><p>吐き出される精液が雨のように降り注ぎ、三人の顔を汚していく。</p><p>はぁ♥</p><p>それを浴びながら、Shalはぶるりと身体を震わせた。絶頂に至ったのだ。</p><p>ありがとうございました</p><p>髪や顔にべっとりと張り付いた精子は拭おうともせず、Shalは吐精しきったOlのペニスに口をつける。そして肉茎を扱き立てて尿道の中に残った最後の一滴まで吸い出し、次いで男根の全体を舐め清めた。</p><p>なるほど口での奉仕の技、よくよく感じ入った</p><p>己の顔についた精をぺろりと舐め取りながら、ナジャは素直に感嘆する。Shalの見せた工夫の数々は、今までただOlに抱かれていた自分では考えも及ばぬようなものであった。</p><p>だがOl様を愛する女として、精を受けるべきはやはり口よりも、ここだろう</p><p>ナジャは寝台に横たわり脚を開いて己の秘部を晒す。</p><p>Ol様。次はこちらでご奉仕させて下さい</p><p>確かに、ナジャさんの言う通りですね。Ol様ぁ、Shalのおまんこに、ご褒美欲しいですぅ</p><p>したいならすれば、いいじゃない</p><p>まるでカエルのように両足を開き、自ら花弁を押し広げて男をねだる、あさましく滑稽な姿が三つ横に並ぶ。それは酷く滑稽でありながらも、同時にどこまでも淫靡で美しい姿であった。</p><p>よかろう</p><p>Olはナジャに覆いかぶさるように組み敷くと、一気にその秘裂の中に怒張を押し入れる。口奉仕によって興奮し濡れそぼったそこは何の抵抗もなく男を受け入れると、嬉しそうにわななきながらきゅうきゅうと締め付けた。</p><p>あはぁんっ♥</p><p>普段の凛々しい様からは考えることも出来ない甘く媚びた雌の声色が、押し出されるように喉から漏れる。</p><p>Olさまぁ</p><p>ぎゅっとOlの背にナジャの腕が回され、むっちりとした肉付きのいい脚がその腰に絡みつく。張りのある大きな乳房がOlの胸に潰されて、ぐにゅりとその形を歪めた。</p><p>Olはそのままナジャをぐいと抱き寄せ、その唇を奪う。</p><p>んふ、ぁ♥</p><p>舌と舌とが絡み合い、ちゅぷちゅぷと音を立てながら唾液が混ざり合う。</p><p>きしゅしゅきぃ♥</p><p>つうと銀の糸を引いて唇が離れる頃にはナジャの表情は蕩けきって、もはや精悍な女剣士の面影はどこにもなくなっていた。</p><p>Ol、しゃまぁっ！すき、ですぅっ！しゅきぃっ！</p><p>一突きされる度に悦びの声を上げ、全身でOlの抽送を受け入れるナジャ。溢れ出た愛液が泡を立て、Olの男根を濡らしててらてらと光る。</p><p>いくぞ！</p><p>はいっください、Olさまの、おくにっ！あぁっ！</p><p>鍛え上げられた戦士の筋力を持って膣がぎゅっとペニスを締め付け、一滴も逃すまいというかのように絡みつく。背に回された腕が、腰に回された脚が、吸い付いてくる唇と舌が。ナジャの身体の全てがOlの射精を待ち望み、乞い願っていた。</p><p>それに導かれるままに、Olはナジャの身体の奥底、子宮の中へと吐精する。入り込んできた子種にナジャの胎内は悦びに震え、更に絞り出そうときゅうきゅうと蠢いた。全身で種付けを求める美女の肉体の快楽に抗えず、Olは一度射精を終えた後もなおも貪るように腰を打ち付け、二度、三度と精を放ち、ナジャの膣内を埋め尽くしていく。</p><p>ふぁはぁん♥</p><p>長い長い射精を終えると、ナジャはようやくぐったりと身体を弛緩させ、唇を離して甘く吐息を漏らした。腰を引き抜けば湯気が立ちそうなほどに熱く火照った愛液が、大量の精液とともにどろりと股間から溢れ出てくる。</p><p>Olさまぁつぎは、つぎはShalのおまんこぉ♥Shalのおまんこに、中出し種付けセックスしてくださいぃ♥</p><p>その光景を目にしたShalが我慢しきれずそう懇願し、Olもまた堪える意味もなく、ナジャから引き抜いた怒張をShalの秘所へと突き入れる。</p><p>はあぁぁんっ！これぇ、これですぅっ♥大好きぃっ♥Olさまのおちんぽ、気持ちいいですぅっ♥</p><p>狭く小さな穴は既にトロトロに濡れていて、するりと男の欲望を奥の奥まで受け入れる。しかし小柄な彼女の膣口は酷くキツく、猛りきったOlの男根はそれだけで精を吐き出した。</p><p>出てるぅ♥Olさまのせーえき、びゅーびゅーでてますぅ♥もっとぉ♥もっとたくさんくださいぃ♥Shalのおまんこの中、Olさまの精子でいっぱいにしてぇ♥</p><p>膣壁に叩きつけられる精液の奔流に何度も何度も気をやりながらも、Shalはただただ身体を開いて懇願する。Olはそれに応えるようにShalの両足を掴んで持ち上げると、全身で彼女に伸し掛かるようにしながら激しく突き入れ、その度に精を注ぎ込む。</p><p>あぁっ♥おちんぽぉっ♥おちんぽいいよぉっ♥おちんぽ♥おちんぽ♥おちんぽぉっ♥♥♥</p><p>身動きも出来ぬほどにがっちりと組み伏せられ、潮と愛液と精液を溢れかえらせながら、Shalはただただ卑猥な言葉を連呼しながらイキ狂った。</p><p>ああっ♥ああぁぁっ♥ひぐぅっ♥ぃぁぁあぁぁっ♥♥♥</p><p>そしてとうとう言葉も発せないほどに深く達し、小刻みに身体を震わせながら背を反らす彼女の奥の奥に、Olは思い切り白濁を吐き出す。今まで放った精を子宮の中に閉じ込めるかのように、ゼリーのような濃くドロドロとした精液で蓋をして、更にそれをそのまま子宮口に塗り込めるかのように二度、三度と擦り上げる。</p><p>ひっ♥ぐ♥ぅ♥♥♥</p><p>Shalはまるで糸の切れた操り人形のようにぐったりとしながら、されるがままにそれを受け入れた。</p><p>さて、待たせたな</p><p>Shalの中から引き抜かれた肉槍は、大量の愛液と精液にまみれててらてらと光りながら、しかし萎えるどころか凶悪なまでに硬くそそり立ちながら、残る一人──ウィキアへと向けられる。</p><p>ひっ</p><p>その威容に、ウィキアは思わず悲鳴を漏らした。</p><p>ナジャは、幻術に惑わされて心を落とされ、Olを愛しているのだと思い込んだ。</p><p>Shalは、快楽に狂わされて体を落とされ、ペニスに逆らうことができなくなった。</p><p>しかしウィキアはそのどちらでもない。</p><p>意識も記憶もはっきりしているし、肉体もまだ性交に慣れてはいない。</p><p>彼女が落とされたのは心でも体でもなく、魂だ。</p><p>故に恐れを抱き、拒みながらも、けしてOlに逆らうことが出来ない。</p><p>故に彼女は正確に状況を理解していた。</p><p>あれほど強力な快楽を覚えさせられて、落ちないわけがない。</p><p>あれほど濃厚な精を仕込まれて、孕まないわけがない。</p><p>今犯されればどうしようもなく、心も体も変質してしまう。</p><p>それはある意味で、今のウィキアが存在しなくなるということ。</p><p>消えてしまうのと同じことであった。</p><p>──だから。</p><p>おお願いOlお願い、だから</p><p>涙を流し、首を横に振りながら、ウィキアは懇願した。</p><p>早く私を、壊して滅茶苦茶に犯して！</p><p>両脚をはしたなく開き、秘所を両手で割り広げながら、自ら壊される事を望んだ。</p><p>己が消滅する恐怖を感じ続ける事に、耐えられなかったから。</p><p>案ずるな</p><p>そんな彼女に、Olはまるで恋人にかけるような甘く優しい声で語りかける。</p><p>言われずとも、すぐに全てが、どうでも良くなる</p><p>ひぐぅっ♥♥♥</p><p>言葉と同時に打ち込まれた肉の棒はまるで灼けた鉄杭のように熱く、ウィキアの身体の中から彼女の全身を焼き焦がした。痛い、などという次元の話ではない。それは魂そのものに押された焼印。苦痛さえをも快楽に転化し、彼女のこれまでとこれからを全てバラバラにして作り変えるような、超絶の衝撃であった。</p><p>あっ♥ひ、ぐぅっ♥</p><p>一突きされる度に全身が吹き飛ぶような衝撃が走り抜け、一瞬の後にそれは快楽の津波となって返ってくる。男根が膣内を一往復する度にウィキアは寄せては返す快感の大波に巻き込まれ、しかもその波は次第に高く大きく膨れ上がっていく。</p><p>いっ♥ぎぃぃっ♥ひぐ、ひぐぅぅっ♥♥♥</p><p>無意識にウィキアはOlの背にしがみつき、爪を立て、肩に噛み付く。それはあるいは、消えゆく彼女の自我の最後の抵抗だったかも知れないが、Olは気にすることもなく彼女の膣奥に己の槍を打ち込んだ。</p><p>いくぞ</p><p>らめぇぇっ♥中はっ♥中は、らめぇっ♥</p><p>膣の中でOlのペニスが膨れ上がり、射精の準備をしているのが手にとるようにわかる。無駄なことと知りつつも、ウィキアは必死に叫んだ。</p><p>駄目と言われても</p><p>Olはそんな彼女の耳元で、意地悪く言う。</p><p>しっかりと抱えているのはお前ではないか</p><p>言われて初めて、ウィキアは己がナジャと同じように、がっしりと両脚でOlの腰を固定している事に気がついた。それどころか更に奥へ奥へと誘うように腰を揺らして押し付けながら、Olの腰を引き寄せている。</p><p>そら──注ぐぞ</p><p>らめぇぇっ♥今っ♥出されたらっ孕んじゃうっ♥赤ちゃん、出来ちゃうぅぅっ♥</p><p>お前も魔術師だ。避妊の魔術くらい心得はあるだろう？</p><p>そんなのっ！</p><p>Olの言う通り、魔術で妊娠を避けるのはさほど難しいことではない。成功率百パーセントうまくいくというわけではないが、ウィキアほどの熟練の魔術師がかければ失敗する可能性は現実的な数値にはならない。</p><p>こんなっ♥おちんぽにっ♥敵うわけぇっ♥ないでしょぉっ♥</p><p>あのドロドロのOlの精液であれば、ウィキアの魔術でさえ貫通して孕ませてくる。そんな確信があった。そして何よりも──ウィキアの雌としての本能が、孕みたがってしまっている。</p><p>イくぞっ！孕めっ！</p><p>イぐっ♥イっちゃうぅぅぅっっ♥♥</p><p>ずん、と貫かれたその瞬間、ウィキアに出来たことは、高く叫びながらその快楽を受け入れることだけだった。彼女の意志とは無関係に、子宮がその口をぱっくりと開いてOlの流し込む精液を受け入れ、奥へと運び込むように蠢く。</p><p>避妊の術など使う余地もなく彼女は今度こそ、心も体も、堕ちきった。</p><p>＊＊＊</p><p>べ、別に、この程度で身も心も堕ちたと思ったら大間違いなんだからね</p><p>そんな事を言って白濁の液が伝い落ちる太ももを擦り合わせつつ、ウィキアはOlの両頬に手を当てて彼と濃厚な口づけを交わす。その軽口はむしろ、彼女が完全にOlの手に堕ちた証左であった。</p><p>Ol様、どうでしょうか？気持ちよくなって頂けていますか？</p><p>ナジャはOlの前にひざまずき、その豊かな胸で男根を挟み込んで擦り上げながら、なおはみだした先端を舌先でぺろぺろと刺激する。</p><p>OlさまぁOlさまのここも、すっごく美味しいですぅ</p><p>ShalはOlにぴっとりと抱きつきながら、彼の胸元をぺろぺろと舐めて奉仕していた。</p><p>だいぶこなれてきたようだな。次はどの穴に入れて欲しい？</p><p>ウィキアの胸とShalの尻を鷲掴みしながら、Olは問う。</p><p>どうぞそのまま、私の胸の中にお射精ください</p><p>その次は、Shalのおまんこにまた中出し種付け射精して欲しいですぅ</p><p>好きな穴に好きなだけ出せばいいじゃないべ、別に、したいならお尻とかに出したっていいのよ</p><p>口々に答える三人に、Olはふむと考える。</p><p>好きな穴に、か。それは悪くないな</p><p>そして、三人にある指示を下した。</p><p>これでよろしいでしょうか、Ol様</p><p>まったく本当に、変態なんだから</p><p>えへなんだかドキドキしますねっ</p><p>最も体格が良いナジャが、脚を畳んだうずくまるような姿勢でベッドの端で尻を向け。その上にウィキアが乗って、更にその背に一番小柄なShalが乗る。</p><p>Olの眼前には、まるで塔のように三人の娘の尻が積み重なって、あらわになった秘部が縦に並んでいた。</p><p>Olさまぁ♥早くShalのおまんこにハメハメしてくださいぃ♥</p><p>私もっ。Ol様、私にもどうかお情けを！</p><p>もう。好きに、して</p><p>Shalが甘い声をあげながら腰を振って誘い、それに触発されたナジャが懇願し、ウィキアも気のない風を装いながら心持ち腰を突き出す。</p><p>どれでは、まずはこれから楽しむとしようか</p><p>Olは三人の反応を一通り楽しんだ後、腰を纏めて抱えると、最初にその中心ウィキアの膣内へと挿入した。</p><p>ひぁんっ♥</p><p>まさか一番つれない発言をしていた自分から来るとは思ってなかったのか、不意を突かれたウィキアは一転、蕩けた甘い声を上げる。</p><p>あああぁっ！ウィキアさん、ずるいですぅっ！Olさまぁ、Shalに、Shalに挿れてくださいぃっ！</p><p>あ、あ、凄いウィキアに伝わる振動が伝わってきてっ！</p><p>あぁぁっ♥ひあぁぁっ♥♥すごいっ♥もうっ♥イってっ♥イってるからぁっ♥</p><p>Shalとナジャをよそに、高く鳴き声を上げるウィキア。その膣内が絶頂にわななくのを堪能し、引き抜いてすぐにナジャの膣へと突き入れる。</p><p>ああああっ♥Olさまぁっ♥これっ凄い、凄いっ♥はぁぁんっ♥</p><p>期待に蕩けきった膣口は溢れんばかりの愛液でするりと奥までOlの剛直を受け入れ、それでいて引きちぎらんばかりの強さで締め付けてくる。ぷりぷりとした尻肉に打ち付けるようにして抉り、ナジャの気をやらせた後、Olは引き抜いた怒張を再びウィキアの中に収めた。</p><p>あああああっ！？なんで！？なんでですかぁっ！？Shalは、Shalの番じゃないんですか！？</p><p>てっきり次は自分だと思いこんでいたShalは、ボロボロと涙を流しながら訴えた。</p><p>ごめんっ♥Shalにっ♥代わって、あげたい、けどぉっ♥これ、気持ちよすぎて、無理ぃっ♥♥</p><p>その一方で、再びOlを咥えこんだウィキアは強く強くOlの男根を締め付けて離さない。</p><p>Olさまぁぁぁ！ごめんなさいぃぃ！Shal、Shal、なおしまずがらぁぁ！わるい、とこ、全部なおしまずがらぁぁあ！ごめんなさい、お願いですぅぅ！Shalの、Shalのおまんこに、Olさまのおちんぽ、ハメてっ！</p><p>号泣しながら謝り懇願するShalの言葉の途中で、Olはウィキアの中から引き抜き、Shalの膣内に挿入する。</p><p>あああぁぁぁっ♥♥♥おちんぽっ♥Olさまのおちんぽきたぁっ♥ありがとうございますっ♥ハメて下さってありがとうございますっ♥Shalのダメダメおまんこにおちんぽ様挿れて下さってありがとうございますぅぅっ♥</p><p>今度は感涙に咽び泣きながら、Shalは感謝の言葉とともに絶頂する。</p><p>ちゃんと待てた褒美だ。イくぞ！</p><p>絶頂にわななく膣奥に深くまで突き込み、Olはそう宣言して欲望を解放した。</p><p>あああぁぁぁっっ♥♥来てるぅっ♥Olさまの子種来てるぅぅっ♥中出し♥種付け♥してもらっちゃってるよぉぉっ♥奥にせーえき♥びゅーびゅー出して貰えてりゅぅっ♥お孕みさせてもらえてるぅぅっ♥</p><p>長く舌を突き出し白目を剥くほどに感じながら、Shalは絶叫する。</p><p>お前たちもだ！</p><p>Olは射精を止めぬまま、Shalの中から引き抜き、すぐさまウィキア、ナジャの膣内を犯し、征服していく。それどころか一周では勢いは止まらず、更にShalに戻って順にその胎内に種をつけ。</p><p>イくっ、イっちゃいますぅっ♥Olさまのおちんぽでイっちゃうぅっ♥♥</p><p>全部、全部覚え込まされちゃったぁっ♥♥だめにされちゃったのぉっっ♥♥</p><p>しゅき、しゅきぃっ♥♥もっと私の身体使って、気持ちよくなってぇっ♥♥</p><p>同時に絶頂する三人の尻に、仕上げとばかりに精を放った。縦に並んだ三つの尻と秘部とが、どろどろとした愛水と白濁の混合液でべっとりと汚される。</p><p>そのさまを満足気に眺めながらも、Olは流石に一息ついてベッドに腰を下ろした。龍脈を通じた無限の魔力で尽きぬ精力と体力とを持ち合わせていても、落としたばかりの女を相手にすれば気疲れもする。ましてやそれが三人纏めてとなれば、精神的な疲労は避けられない。</p><p>三人それぞれ違う魅力を持った美女とのセックスに満足したという事もあって、性的には満腹というような状態だ。そう考えて、ふとOlは何かを忘れているような気がした。</p><p>ご主人様、おまたせー！</p><p>忘れていたそれを思い出させるかのような音を立てて、リルが扉を開く。そう言えば、スピナとエレンを呼んでこいと言ったのだった。</p><p>とは言えこちらは慣れた相手である。同じ三人でもそう苦労はすまい。と考えて、Olは己の思い違いに気づいた。なぜならその後ろには、エレンの四人の部下たちやユニス、マリー、ミオまでもが立ち並んでいたからである。</p><p>その数、総勢十人。</p><p>三倍以上の人数に、魔王は思わず天を仰いだ。</p><p>閑話たまには部下を労いましょう-1</p><p>どうしてこうなったんだ</p><p>部屋に溢れた娘達を見渡し、Olは呟いた。</p><p>あはは、なんか皆に見つかっちゃって。まあ、たまにはいいんじゃない？</p><p>特に悪びれた様子も無く、リルはそういった。</p><p>元々部屋で睦みあっていたナジャ、Shal、ウィキアの三人に、呼んでくるように命じたスピナ、エレン、リルまでは良い。エレンの部下がついてくるのも、常に集団行動を旨とする黒アールヴだから仕方ないのかもしれない。</p><p>しかし、ユニスにマリー、ミオまでもがやってきているのは一体どういうことなのか。というか、Olが肌を交わした娘が部屋の中に勢揃いしている。</p><p>そうだよ。仲間外れはなしだよ！ 最近あんまり相手にしてもらってないしさあ</p><p>ユニスが頬を膨らませた。お前は殆ど毎晩寝床に忍び込んでくるだろうが、とOlは思うが口にはしない程度の分別は持ち合わせていた。</p><p>あ、あの、私もいてもいいんでしょうか</p><p>唯一気後れしたように所在無さげにしているのはミオだ。Olの寵愛を受け、彼女の姿は大分垢抜けてきていた。化粧気がないのは相変わらずだが、その髪はしっとりと艶を帯び、肌は木目細かく、所作や見た目にも何処となく色気が漂ってきている。そんな事を言いながらも、自分からは部屋を出て行こうとしない辺り、彼女も彼女なりに乗り気なのだろう。</p><p>まあ、良かろう。全員纏めて可愛がってやる</p><p>複数人纏めた情事はOlの好むところでもある。リルに何か思惑もあるようだし、Olはそれに乗ってやることにした。</p><p>やった！ じゃあ、とりあえずはOlに会った順ね。私一番っ！</p><p>勝手にそういい、リルはOlの胸に抱きついた。</p><p>それならあたしがにーばんっ</p><p>ユニスが嬉しそうにOlの右腕に抱きつく。</p><p>では私は三番</p><p>スピナがOlの左腕につこうとするが、そこには既にマリーがしがみ付く様にしていた。</p><p>スピナの表情が凍り付き、僅かに唇の端が引きつる。</p><p>わたしが、さんばん。そふぃは、よんばん</p><p>のみならず、マリーは高らかに宣言した。Olは睨みあうスピナとマリーの背後に、鎌首をもたげる毒蛇と両手を振り上げ威嚇するハムスターを幻視する。どう考えてもハムスターが負ける、というか餌だ。</p><p>出会った順という事であればそうなる。諦めろ</p><p>Olがとりなすと、渋々といった感じでスピナはOlの背中に抱きついた。</p><p>どう？ 色んな美女に囲まれてたって、淫魔の端くれとしてこれだけは負けるつもりは無いんだけど</p><p>己の秘裂にOlの物を咥え込み、リルは妖しく笑った。彼女の中は別の生き物のように縦横無尽に動き、Olの物をぎゅっと絞り上げた。ありとあらゆる名器を兼ね備えたかのような、最高の肉壺だ。</p><p>ああ、単純な快楽という意味ではお前の物が随一だろうな</p><p>Olもそれは認めざるを得ない。そもそも身体の構造自体がまるで違うのだ。人の身で淫魔に適う訳も無い。</p><p>だが、俺は自身が善がるより、相手を善がらせるほうが好きでな。そういう意味でも、お前の体は気に入っているぞ</p><p>魔力を操り、ずんと突く。幾度もの情交を通じ、もはや射精すら必要とせず、Olはリルの身体を自由に造り変えることが出来た。</p><p>ああああああああああああぁぁっ！！</p><p>それだけでリルは舌を出しながら身体を反らし、気をやった。彼女が今感じている快感は、通常人間が感じるそれの数十倍だ。いかに淫魔といえども、魂に直接響くような快楽に耐えうるべくもない。</p><p>ふああぁぁっ！ Olぅっ！ だ、めぇっ！ おか、しくっ！ なっ、ちゃぁぁああ！あぁぁぁんっ！ あんっ！ あぁんっ！ やぁぁっ！ やんっ！ はぁぁっ！！</p><p>一度突くたびにリルは絶頂にいたり、高い声をあげて鳴いた。間断なく攻め寄せる激しい快楽の波に、失神もせず善がり声を上げるのは流石といったところだ。並の人間ならば、これほどの快楽を浴び続ければまず失神し、そうでなければ正気を永遠に失うだろう。</p><p>しかし、淫魔であるリルはその快楽を全て飲み干し、乾いたスポンジのように吸い上げていた。人知を超えた快楽に翻弄はされながらも、その膣内は器用にうねり、Olの一物を撫でさすり、締め上げていた。</p><p>く出すぞ、リル！</p><p>その動きにOlも堪え切れず、奥に欲望を吐き出す。</p><p>あああああああああああっ！！</p><p>魔力を大量に含むOlの精は、リルにとっては強烈な媚薬であり、同時に最上級の食事でもある。快楽そのものを流し込まれているようなもので、彼女は最大級のオーガズムにいたった。</p><p>次あたしーっ</p><p>ぐったりとして息をつくリルをひょいと持ち上げ、ユニスはぺいっと後ろに投げ捨てた。ひゃぁぁと情けない悲鳴を上げる淫魔をよそに、ユニスはOlに抱きついてキスをせがむ。</p><p>えへへOl、あたしで沢山気持ちよくなってね？</p><p>ユニスはOlの首に抱きついたまま、彼の剛直を飲み込んだ。</p><p>ん、ふはぁぁ気持ち良いOlとこうしてる時が一番幸せだな</p><p>ふ・ざ・け・る・な</p><p>引きつりまくった笑顔で、リルが幸せに緩んだユニスの頭をわしづかみにした。</p><p>人が折角余韻に浸ってたって言うのにそっちがそう来るなら、私にも考えがあるんだからね</p><p>ふわりとリルは身体を宙に浮かべると、ユニスとOlの間に割って入ってOlの顔をその豊かな乳房で包み込んだ。</p><p>あーっ！ ちょっと、リル、邪魔だよ！</p><p>知らない。ね、ご主人様、こんなユニスのちっちゃい胸より、私の大きなおっぱいの方が気持ちいいでしょ？</p><p>言い争う二人だが、その表情に険悪なものはない。仲が良い二人でじゃれあっているようなものらしいと見て、Olは適当に答えた。</p><p>大きさで優劣などない。それぞれに良いものだ。そのまま二人で俺を楽しませろ</p><p>言って、ずんと腰を跳ね上げユニスを突いてやる。それだけで、彼女の表情は快楽に溶けた。リルがくるりと身体を反転させ、Olの顔を胸で挟み込みながら、彼の胸に舌を這わせる。Olもリルの乳房の先端を吸いながら、ユニスの腰を両手で掴むと本格的に抽送をはじめた。</p><p>ああっいいいいよぉ、Ol、そこイイっ！もっと、もっと突いて、んっああ、いいよぅ気持ちいいよぉ！</p><p>熱に浮かされるようにユニスは言葉を繰り返す。</p><p>あぁーっ！ イイっ、イく、イくよぉっ！ イっちゃうOl、Olぅ！</p><p>切なげな声でOlの名を呼ぶユニスの声に、リルはひょいと場所を譲った。蝙蝠の翼に隠されていた愛する男の顔を見て、ユニスはその唇にむしゃぶりつく。</p><p>んんんんーっ！ んっ、ふぁん、むぅっ！ んっ、んんっ！</p><p>遠慮なく舌を絡め、唾液を交わし、唇を貪りながらユニスは身体をビクビクと震わせてイった。両腕をOlの首に回し、両脚は彼の腰をがっしりと固定し、全身で抱きつきながらその膣内は彼の精を求めてきゅぅっと窄まる。普段の愛情表現と同じように、全力で求めてくる彼女の望むとおり、Olはその中に白濁の液をたっぷりと放ってやった。</p><p>ふあぁOl、愛してる</p><p>私にもしてー</p><p>とろんとした表情でついばむようにユニスがOlの唇を奪い、交互にリルも彼に唇を寄せた。たっぷりと余韻を楽しみ、ユニスがOlの上から身体をどける。すると、すぐさまOlの股間にマリーが顔を埋めた。</p><p>まだ小さなその口にはOlの凶悪な大きさを持つそれは収まりきらず、短い舌で懸命に舐め上げるだけ。技術も他の娘に比べればお粗末なもので殆ど快感にはならなかったが、小さな身体で一生懸命Olに奉仕する姿は性欲ではない、何か別のものを満たす快楽があった。</p><p>そのような舌使いではお師匠様は満足しません。見てなさい</p><p>その横にスピナが割って入り、横からOlの物をぱくりと咥える。初めて彼女が口淫を行ったのはつい最近だったのに、既にその技量は並みの娼婦のそれを遥かに超えていた。口内深く、喉までペニスを飲み込みながら舌を絡めるその技は、リルを除けば女達で一番の物だ。</p><p>うー。そふぃ、わたしも！ わたしも！</p><p>横から肉棒を奪ったスピナに抗議の声をあげ、マリーは強引にスピナの顔を手で押しのけた。実力はともかく、この迷宮にすむ者で限りなくOlに近い性根を持つと目される彼女にそんな事が出来るのはマリーだけだ。ある意味最強と言える。</p><p>仕方ないですね。では、あなたは下の方を舐めなさい。私は上の方をお慰めします</p><p>闇夜の様に黒い髪を持つ少女と、太陽の様な金の髪を持つ少女が、まるで実の姉妹の様に仲良く顔を並べてOlの肉棒に奉仕する。</p><p>じゃあ、あたしはこっち</p><p>横から、ユニスが胸をOlの肩に押し付けるようにして彼の両頬に手を沿え、唇を奪う。</p><p>あ、取られたっ。仕方ないなあじゃあ私はこっち</p><p>リルは横になってふわりと浮くと、Olの胸元に唇を落とす。Olはユニスの唇を吸いながら左手を彼女の尻に、右手をリルの股間に沿わせた。</p><p>あぁんっ</p><p>思わぬ奇襲に、リルとユニスは仲良く声をあげる。その声にスピナはむ、と眉をひそめて、対抗するようにOlの一物を握り、深く咥え込む。口には出さないが、自分を忘れるな、という抗議だろう。</p><p>んむっ！？ んんん、ん、むぐっ</p><p>わかっている、と言わんばかりにOlは腰を突き出した。喉の奥を突かれて苦痛を感じながらも、スピナは嬉しそうに目を細める。例えそれが苦しみであれ、Olから与えられるものであれば嬉しいのだ。</p><p>出すぞ、飲め</p><p>んーっ！ んんんっ！！</p><p>喉の奥に迸る白濁の感触に、スピナは軽く気をやった。まるで小便の様にたっぷりと吐き出される濃厚な液をごくごくと嚥下するが、その余りの量に飲みきれず、口を外してごほごほと咳き込む。</p><p>すっすみま、せ</p><p>良い。マリー、舐めてやれ</p><p>己の不覚に涙を滲ませながら謝るスピナ。その口元から滴る汁を、マリーがペロペロと舐めとった。</p><p>申し訳ございません、お師匠様愚かな私めに罰をお与えくださって構いません</p><p>スピナは平伏し、哀れみを乞うかのような口調でそう言った。</p><p>良いと言っただろう。それより</p><p>愚かな私めに罰をお与えくださって構いません</p><p>同じ文句を繰り返すスピナに、Olは嘆息した。哀れな口調で述べてはいるが、要するにこれは命令だ。懇願と言った方が正確かもしれないが、Olは命令だと感じた。</p><p>弟子の身でこの俺に命令するとは、いい度胸だ内心そう呟くと、Olは早口で呪文を唱えながら、指先で印を描いた。</p><p>瞬く間に魔力の縄がスピナの身体を絡めとり、空中に吊るし上げた。魔力の縄はスピナの乳房を強調するかのように押し上げ、脚を大きく開かせて陰部をOlの目の前に露出させた。腕はしっかりと後ろでに縛られ、スピナは身動き一つ取れない。</p><p>ああっ</p><p>自らの重みで縄が身体に食い込み、鈍い痛みと無理やりに淫猥な格好を取らされる羞恥にスピナは思わず声をあげた。</p><p>罰を与えられて悦ぶとは、お前はとんだ変態だな</p><p>Olはスピナの胸を掴むと、ぐっと力を込めて捻りあげた。快楽を与える為の触り方ではなく、痛みしか与えない無造作な掴み方だ。</p><p>しかし、それもOlから与えられるものであれば、スピナにとっては快楽以外の何物でもない。侮蔑するような視線も、蔑んだ言葉も彼女の背筋をゾクゾクと奮わせた。</p><p>申しわけありません、お師匠様私は、お師匠様のお情けを切望する浅ましい豚でございます</p><p>ふん、とOlは鼻を鳴らす。そう思い通りにしてやる義理はない。</p><p>罰を与えよ、と、貴様はそう言ったな</p><p>はい！ どうか、どうかこの浅ましい私めに罰を</p><p>期待に、スピナの瞳が潤み、頬が紅く染まる。Olはニヤリと笑うと、彼女に言い放った。</p><p>では、お前はそこで、俺が他の女とまぐわう様を見ていろ</p><p>そんな！</p><p>悲鳴の様に声をあげるスピナを尻目に、Olはエレン達を手招いた。</p><p>閑話たまには部下を労いましょう-2</p><p>あのいいんですか？</p><p>エレンと共に呼び寄せられたミオは、ちらちらと後ろを伺いながらOlに問うた。</p><p>気にするな。アレが自分で言い出した事だ</p><p>気にするなと言われてもと、ミオは内心呟き、もう一度後ろに目をやった。その視線の先では、全身を魔力で出来た縄で縛られ、あられもない姿をさらしながらも射殺すような視線でこちらを睨んでいるスピナの姿があった。</p><p>と言いますか、あの、この中に私が入っていいのかも疑問なんですが</p><p>ミオは横目でエレン達を見ながら呟く。</p><p>何を言うか、ミオ殿とは同じ時同じ湯殿で共に純潔を失った身。それに普段より親しくしているではないか。何を臆する事がある？</p><p>エレンがそういうと、配下のアールヴ達も頷いて同意を示した。このミオという娘、何故か人外には異様に好かれる。牛や豚と言った家畜たちはもとより、地獄の猟犬ですら彼女には腹を見せ、Olの迷宮に棲み付いた魔獣達も本来は餌でしかないはずの彼女には良く懐いた。</p><p>人外と言う点では同じなのか、それとも単に部屋が近いが故の交流の多さか、黒アールヴ達との関係も良好で、何かと気が合い行動を共にすることも多いようだった。</p><p>エレンの言う通りだ。さあ、順番に相手をしてやるからそこに並べ</p><p>エレン以下黒アールヴ達とミオはベッドに肘をつき、背筋を反らせて尻を上げ、Olに突き出すような姿勢を取った。Olの目の前に、6つの瑞々しい尻肉が並ぶ。</p><p>Olの更に背後では蜘蛛に捕えられた蝶の様な姿勢で、地上のいかなる毒蜘蛛よりも禍々しい視線を送る娘がいたが、これならとりあえずはミオ達がそれを目の当たりにする事はない。</p><p>これから訪れる狂乱に媚肉をひくつかせ、愛液を滴らせるエレンのそこに、Olは一気に剛直を突き入れた。</p><p>あはぁっ！</p><p>己の身体を貫かれる快感にエレンが声をあげ、隣で尻を並べるミオがびくりと身体を震わせる。Olはすぐにエレンの中からペニスを抜き去ると、隣のミオに突き入れた。</p><p>ふあぁぁぁっ！</p><p>まるで楽器のようだな、と思いながら、Olは娘達に次々に突き入れた。奥を突かれる度に娘達は快楽に声を上げ、他の娘は懸命に尻を振ってOlの物をねだる。それぞれ異なる味わいを持つ6つの膣内を、Olは存分に堪能した。</p><p>行くぞ、まずはお前からだ！</p><p>Olは左端の娘の腰を掴むと、全身に魔力を漲らせた。そしてそのまま娘の中に突き入れ3,4度抽送を繰り返すと、大量の魔力と共に一気に奥に精を解き放つ。</p><p>ああああああっ！</p><p>悲鳴の様な喘ぎ声を上げ、娘は白目を剥きながら涎をたらし、気をやった。Olは勢いそのままに、アールヴの娘の中から一物を引き抜くと、右隣で尻を掲げる娘の中に突き入れ、再び精を放った。</p><p>ひゃぁぁぁぁ！ ひ、ひっひゃふぅぅぅぅぅ！</p><p>魔力漲るOlの精は一度目と遜色ない勢いで娘の中を穢し、蹂躙した。呂律の回らない舌で叫びながら、二人目の娘も絶頂に至る。</p><p>次だ！</p><p>Olは中間のミオとエレンを抜かし、右から二番目の娘に突き入れる。</p><p>いいいいいいっ！ いっ、ちゃぁぁあ、うぅぅぅぅっ！！</p><p>猫の様に背中を丸め、ベッドのシーツを握り締めながら気をやった娘の中から抜き、右端の娘。</p><p>駄目ぇ、駄目、駄目、駄目ぇぇぇぇぇっ！！ 気持ちよすぎるのぉぉォォっ！！</p><p>声を裏返らせて叫ぶ娘の中にたっぷりと精を吐き出し、Olは二人分戻ってエレンの腰を掴んだ。</p><p>ああ主殿、私の中にたっぷりあぁっ、だ、出して、く、れぇぇっ！！あぁぁぁぁぁぁっ、あーーっ！ ～～～～～～～～～～っ！</p><p>快楽に声にならない声をあげながら、エレンは吼える獣の様に身体をそらした。どくどくとその膣奥に絶え間なく精が注ぎ込まれ、その熱さにエレンは更なる絶頂へと導かれる。</p><p>最後だ。いくぞ、ミオ</p><p>名を呼ばれ、それだけで軽く絶頂に達したところにOlの太いものに身体を貫かれ、ミオはビクビクと身体を震わせた。全身が性器になったかのような感覚に包まれ、彼女は一心不乱に腰を振りたくった。</p><p>ふぁぁっ、あぁっ、あぁぁっ、でてる、でてうよぉ！Ol様の、たくさん、出してもらってるぅぅぅっ！</p><p>意識を失いかねない絶頂に身を震わせ、胎内にどくどくと精液を注ぎこまれながらも、ミオはひたすらに腰を振り、膣内を締め付けOlの物を楽しませた。自身の快楽の為ではなく、Olの快楽の為の行動だ。</p><p>ん良かったぞ、ミオ</p><p>その献身的な姿勢に、Olは彼女の頭をぽんと撫でる。それで更に彼女は達し、ついに意識を失ってベッドのシーツの海の中に没した。</p><p>股間から白濁の液を滴らせ、ベッドに突っ伏す六つの尻を満足げに眺めると、Olはゆっくりと後ろを振り返った。</p><p>お師匠様、酷いです</p><p>そこには身動きの取れない姿勢のままとうとうと涙を流し、同じくらいの量の液体を股間から滴らせているスピナの姿があった。</p><p>このような仕打ち、あんまりですこんな姿勢のまま放置して、一瞥もくれさえもせず、他の女達とまぐわうのをひたすらに見せ付けるなんて</p><p>だが、お前はその様を見て、自身のままならぬさまを味わって、興奮したのだろう？</p><p>Olはスピナの股間から滴る液を指で掬い上げた。そこから流れ出る液はぬめりを帯びながらもそれこそ涙の様に溢れ、地面に小さな水溜りを作っていた。</p><p>浅ましい、はしたない女だ。そんなに俺に犯して欲しいか</p><p>師の命とあらば、従うのが弟子の務めでありますれば</p><p>おかしな事を言う。俺はお前に命じてなどおらん。それに、女などほれ、多種多様な美姫がそろいに揃っておる。わざわざお前の手を煩わせるまでもない</p><p>未だに素直に求めようとしないスピナに、Olは意地悪くそう言った。</p><p>そういう時は、ちゃんとこうやっておねだりしないと駄目ですよ。Ol様、あたしを後ろから獣の様に犯して、胎の中にたっぷり子種を注ぎこんで孕ませて下さいませ</p><p>縛られているスピナの隣で尻を掲げ、Shalが蕩けた瞳でそう言った。</p><p>その次でいいから、私の事も抱いてくれ、Ol様</p><p>ナジャが率直な言葉で誘いをかける。</p><p>抱きたければ抱けば。どうせ私はあなたに逆らえないんだし</p><p>不服そうに言うものの、今までの痴態に中てられたのかウィキアの目は潤み、股間はぬれていた。</p><p>お前たちは素直だな。どれ</p><p>お師匠様、お願いします！ お情けを私に、お情けを下さいませ</p><p>Shalの元へといこうとするOlに、スピナは泣き声でそう述べた。まあ、罰はこの程度でいいだろう。</p><p>最初からそう言え</p><p>Olは縄を外さないまま、スピナの秘裂に突き入れた。</p><p>ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！</p><p>待望の感触に、空中で全身を震わせてスピナは気をやった。焦らされなくても、彼女の感度は随一だ。燻り続けた情欲はOlの肉棒を受け入れて一気に燃え上がり、彼女の肉体の限界を超えた。</p><p>しろしろと音を立て、愛液とは別の液体が股間から垂れて床に落ちる。</p><p>ああああああ</p><p>屈辱と恥辱に、若き魔術師は身を震わせた。しかしそれさえも彼女の劣情をあおり、快感となって身を貫く。</p><p>失禁するほど良かったか。相変わらず浅ましくはしたない身体だな</p><p>じゅぷじゅぷと水音を立てながらOlは抽送を繰り返し、スピナの乳房を握りこんだ。</p><p>ひあぁ、あぁっ、ひあぁぁっ、ひあっ</p><p>その動作一つ一つにスピナは気をやって震え、綱に吊るされ揺られながら、白痴の様にただ喘ぎ声を出す事しかできない。</p><p>中に出すぞ。しっかり受け止めろよ</p><p>あああ、あああああっ！ ああああ、ひぃあぁぁあぁぁぁぁああああっ！！</p><p>どくどくと胎内を満たしていく感触に、スピナは盛大に気をやった。舌を突き出し、白目を剥き、ぷしゅぷしゅと潮を吹きながらぷるぷると痙攣する。Olは魔術を解くと、完全に意識を失った彼女を横抱きに抱きかかえてベッドに横たえた。</p><p>さて、次は</p><p>Shalの方に目を向けると、リルが横から抱きついてくる。</p><p>さっきまで、って言うか昨日までずっとその子達は抱いてたんだからいいじゃない。それより、一回じゃ全然足らないよ？</p><p>あたしももっとして欲しいなねぇ、駄目？</p><p>逆側の腕に抱きつき、ユニスがOlを上目遣いで見上げる。</p><p>お前達はいいだろう、それでなくとも毎夜の如く主殿に寵愛いただいているのだ。我々など常に六人一組扱い。もう少し丁寧に抱いて頂く権利があると思うのだが</p><p>エレンがその豊かな乳房を見せ付けるかのように胸を張って主張し、その背の後ろでそ、そーだそーだーとミオが腕を振り上げた。</p><p>何を言ってるんですかっ！ Ol様のおちんぽ様は、次はあたしのおなかの中に入れてもらうんですからね！</p><p>Shalが声を張り上げ、</p><p>うむ。順番から言えばその次が私だな</p><p>ナジャが抜け目なくその横に位置取り、</p><p>べ、別に私はどうでもしたければすればいいじゃない、命令には逆らえないんだから</p><p>顔を赤く染めながら、ウィキアがちらちらとOlに視線を飛ばす。</p><p>だ、駄目ですお師匠様の、寵愛は私の</p><p>緊縛と激しい絶頂で体力を奪われながらも、スピナがよろよろとOlの足に手を伸ばす。</p><p>その手の先で、マリーがご機嫌でOlのペニスを両手で抱え、先端をちゅうちゅうと吸っていた。</p><p>ああーっ！？</p><p>娘達が一斉にマリーの存在に気付き、叫び声をあげる。</p><p>こ、この子なんて抜け目ないっ！</p><p>ちょっと離れなよ！ こらっ、って力強！？ 何でこの子こんなに強いの！？</p><p>はっはっは！ 人間の娘よ、この私の目を盗むとは天晴れ！</p><p>いや笑ってる場合じゃないんじゃないかなーエレンさん</p><p>Ol様の貴重な子種がぁぁぁね、ちょっとでいいから、ちょっとでいいから分けて？ お願い</p><p>Shal、流石にそれはどうかと思うぞ</p><p>っていうか何かその子凄い強力な呪いかかってない？一応種別としては祝福だけど呪いとしか思えない強さなんだけど</p><p>マリーあなたは何度、私の前に立ち塞がれば気が済むというのです！</p><p>口々に声を上げる娘達に、Olはため息をついて覚悟を決めた。</p><p>ええい、全員まとめて抱いてやるから、そう騒ぐな</p><p>部屋の中に、一斉に嬌声が響き渡った。</p><p>その、部屋の外。部屋であると同時に一切の魔の立ち入りを禁じる結界である、その外で、彼は四本の腕で膝を抱えていた。部屋の中からはやがて、多数の娘達の喘ぎ声が上がり始める。</p><p>俺、憎しみで人が殺せるとしたら、一個師団くらい全滅させられる自信あるわ</p><p>ローガンのその呟きは、娘達の嬌声によってかき消され、迷宮の地下に融け、消えた。</p><p>第10.5話 ダンジョン解説</p><p>第10話終了時点でのダンジョン。</p><p>階層数：4階層</p><p>瘴気：10</p><p>悪名：20</p><p>貯蓄魔力：30（単位：万/日）</p><p>消費魔力：10（単位：万/日）</p><p>会議室</p><p>侵攻等の作戦を会議するための部屋。それなりの大きさと、四角形の巨大な卓、椅子、黒板と白墨などが用意されている。</p><p>ダンジョンコアLV3</p><p>部屋の大きさ程度にまで巨大化させたダンジョンコア。1000万程度までの魔力を貯蓄する事が出来る。</p><p>ボスの間</p><p>侵入者の行く手を遮る為につくられた、階層と階層の間に位置する部屋。この部屋を守る魔物を倒し、鍵を手に入れなければ次の階層へと進む事は出来ない。</p><p>独房</p><p>特に有望な侵入者を捕らえた際に入れておくための独房。簡素なベッドと排泄のための壷、食事の差し入れ口がある。</p><p>寝室LV2</p><p>巨大なベッドを用意したOlのための部屋。一度に数人の女を相手に出来るくらいに大きい。</p><p>キッチンLV2</p><p>専門の職人に作らせた使いやすいキッチン。主にOlの下へと生贄として送られた娘達が腕を振るう。</p><p>ミノタウロス</p><p>戦力：7</p><p>牛の頭と巨大な人の体躯を持つ魔獣。人より少し劣る程度の知能と人をはるかに超える身体能力を持ち、武器を自在に操って戦う。膂力は凄まじく、大斧による一撃は驚異的な破壊力を誇る。</p><p>ナジャ</p><p>戦力：6最大貯蓄魔力：0.5</p><p>Shal</p><p>戦力：6最大貯蓄魔力：2</p><p>ウィキア</p><p>戦力：6最大貯蓄魔力：3.5</p><p>冒険者三人娘。一流と呼んでいい腕前ではあるものの、超一流であるエレンやそれを更に越えるユニスと比べると見劣りする。とは言え、彼女達の真価はその連携にあり、互いに協力する事によって格上相手に勝利する事も可能となる。</p><p>デュラハン</p><p>戦力：8</p><p>怨念と憎悪によって戦い続ける不死の騎士。剣技と魔術を縦横に操り、己の損害を気にもせず全力を出せるので、戦力は生前よりも一回り高くなっている。瘴気の溢れる迷宮内では一度倒してもしばらくすると復活するという厄介極まりない魔物でもある。</p><p>街を攻めたことにより悪名が広まり、耳聡いものや付近の冒険者がその存在を知ることとなった。訪れる冒険者達や、それを迎撃する魔物達の血が流れた事により瘴気は強まり、簡単な魔術で亡霊を呼び出し、使役できる状況になっている。侵入者が増えた事により防衛形態自体も見直され、ますます侵入は困難なものとなった。</p><p>第11話魔王を始めましょう-1</p><p>アラン遊撃隊、地下8階を探索中に消息を絶つ、か</p><p>報告書に眼を通し、キャスは執務机の上で頬杖をついてため息をついた。そして、その報告書を処理済の山にぽいと捨てる。処理済の山も、処理前の山も、まさしく山の様に彼女の目の前に積みあがっていた。</p><p>それらは全て、Olの魔窟に挑み、散っていった冒険者の報告書だ。勿論、全員が全滅した訳ではなく、恐れをなして途中で逃げ帰ったもの、仲間を失って這う這うの体で戻ってきたもの、罠に引っかかって強制的に迷宮の外に排出されたものなど、様々だ。</p><p>消息不明はその中で、二割程度を占めていた。これは、迷宮に恐れをなしてひっそりと逃げ出したか迷宮の中で全滅したか。そのどちらかだろう。逃げ出したものについては調査をしていないので割合はわからないが、後者も決して少なくないはずだ。</p><p>動く死体となった変わり果てた知り合いに遭遇したという話も聞いている。そして、アラン遊撃隊は恐らく全滅した方だろう、とキャスは殆ど確信に近いものを抱いていた。</p><p>魔王Ol本当に厄介ね</p><p>次の報告書を取り、手の中で弄びながらキャスは考えた。</p><p>邪悪なる魔術師Olが、辺境の町アカニに宣戦布告したのが、3ヶ月ほど前の事。</p><p>身の程も知らぬ愚か者が増長した結果だ、あんな田舎町など捨て置けばよい。訓練を積んだ騎士団の常駐するような街に戦いを挑み自滅するだろう。</p><p>当時の王国首脳部の見解は概ねそのようなものだった。</p><p>キャスは王軍を派遣しすぐにでも討伐すべきだと進言したが、受け入れられなかった。それどころか、稀代の軍師と持て囃されようと所詮は女、惰弱で臆病な事よと面と向かって嘲りさえした。</p><p>それから三ヶ月。Olの侵攻は目覚しいものだった。大臣自慢の騎士団は常軌を逸した威力の超長距離魔術によって槍を振るう間もなく木っ端微塵に吹き飛ばされた。</p><p>そもそも、辺境の田舎町といえども町を丸々一つ占拠して殆ど無傷と言っていい程度の損害しか出さなかったのだ。それは相手が変わろうと、殆ど変わらなかった。</p><p>Olは瞬く間に、七つの町を占拠した。その活動が特異なのは、街を完全に攻め滅ぼすのではなく、自分の領地として奪っていく事だった。</p><p>魔物にしろ、山賊にしろ、それらを従えた魔術師にしろ、そんな事はしない。一方的に略奪し、去っていくのみだ。勿論街に居座って街の人間を奴隷の様に扱う事もあるが、その場合は他の街へと侵攻する事など稀だ。</p><p>Olのやり方はそれとは全く違う。最低限の監視として魔物を配し、自分に税を納めさせ、領地に問題があればそれを解決さえする。商人は関税を免除され、破壊された街の復興も相まって占拠される前より活気を持つ街さえあると言う。</p><p>これはまるで、他国の侵略を受けたのと殆ど同じだ。事実、街の人間の中にはそう感じるものも多く、治める王が変わっただけさと嘯くものさえ少なくない。</p><p>魔物を従え、</p><p>魔術を操り、</p><p>魔窟にすむ。</p><p>魔の国の王。すなわち魔王。</p><p>誰がそう呼び始めたかは知らないが、いつしかOlはそう呼ばれるようになっていた。</p><p>街が四つ占領されるに至って、ようやく元老院が騒ぎ出した。元老院とは、最上位の貴族達で構成される機関で、実質このフィグリア王国を動かしている集団と言っていい。</p><p>飽くまで最終的な決定権や実権は王にあるが、実際に政策を考えたりするのは元老院で、王はそれに許可を与えるのみ。勿論、王が許可を下さずとも元老院だけで判断できる事も無数にあり、要するに天才と持て囃されようが一介の軍師であるキャスにとっては最も逆らってはならない相手だ。</p><p>軽んじ、鼻で笑っていたOlの侵攻に慌てふためく様はそれなりに痛快な光景ではあったが、その皺寄せが全てキャスに押し付けられるので他人事ではない。お陰で、キャスはこうして報告書の山に囲まれる事となった。</p><p>よせと止める間もなく元老院の独断で最初に送られた王軍の一個大隊は、殆ど成果を出せずに帰って来た。しかも、3割超の犠牲を伴って、だ。</p><p>Olの住む魔窟の場所はすぐに判明したが、そこは難攻不落の大迷宮だった。狭く暗い地下の迷宮で、騎士達はものの役にも立たない。</p><p>彼らが行っている訓練は広い戦場で陣を敷いたり、馬に乗って駆けて人間と戦う為のものであり、4人並んで槍を構えれば一杯になってしまう通路で、膝ほどの大きさの小人や炎を吹く羽虫、見上げるような巨人達と戦う為のものではない。</p><p>騎士を戦わせるなら、Olが街を攻めている時にしなければならない。しかし、転移の術をもって陣を敷く魔王軍は神出鬼没で、とても常備軍では対応できない。相手は付近に大軍がいないのを確認してから移動できるのだから当たり前だ。察知されない程度の寡兵ではとても対応できない。</p><p>ならば、と相手の転移を逆手に取り、魔王配下の村から貢物と共に兵士を送り込んだ事もある。返ってきたのは、送った兵士と同じ数だけの首だった。</p><p>生贄の娘として、暗殺者を送った事もある。その性技で男を自分の虜にし、ベッドの上で文字通りの意味で天国に送るように訓練された娘だ。こちらは死体は帰ってこなかった。</p><p>が、特に美しいものを選んで今まで三人ほど送り込んだが、Olが死んだという話はついぞ聞かない。篭絡されたか、悪魔に捧げられたか。どの道、碌な目にはあっていないだろう。</p><p>他にも食料に毒を混ぜて送ってみたり、何とか転移先を割り出そうと魔術を解析してみたり、大量の水を流し込んでみたりしたが、すべて徒労に終わった。それどころか最近では、王軍が村に近づくだけで村人達から猛反発を受ける始末だ。</p><p>そしてそう言った失敗への批判は全てキャスに降り注いだ。先の大戦では英雄だの名軍師だの耳障りのいい言葉ばかり送ったくせに、今ではごく潰しだの無駄に人材を死に向かわせる人非人だのと好き勝手言ってくれる。</p><p>結局一番上手くいっているのは、冒険者達を使った迷宮の調査だった。未開拓地を旅し、神代の遺跡を荒らし、時には魔物退治や用心棒の真似事も務める彼らは魔物相手の戦い方と言うものを良く心得ていた。</p><p>魔王Olを倒したものには望みのままの報酬を与える</p><p>そんな触れを出すと、冒険者達はこぞって魔窟へと潜っていった。やがて魔窟の中で魔術のかかった武具や金貨が手に入る事が判明すると、冒険者達の流入は一気に加速した。</p><p>勿論被害も相当に出てはいるが、元々定住し税を払っているわけでもない流れ者達だ。幾ら死のうと元老院は気にしないようだった。彼らの犠牲によって、少なくともOlの魔窟は8階、ニ階層以上の深さがあることがわかっていた。しかし、まだ最下層ではないらしい。</p><p>アラン遊撃隊は、並み居る冒険者の中でもキャスが特に期待を寄せているパーティだった。僅か4人の手勢ではあるが各々が一流の冒険者であり、それ以上に優れた連携で実力以上の敵をも倒すつわもの達だった。しかし、どうやら彼らでさえOlを討つには足らないらしい。</p><p>キャスはため息をつき、思考を転換させる。</p><p>狡猾で冷酷だが、無駄に殺戮を好むような隙もない。</p><p>徹底した合理主義者で、臆病だが大胆不敵。</p><p>恐ろしいほど慎重で計算高く、絶対に他人を信頼しない。</p><p>空間魔術、とりわけ召喚術に長じ、魔力付与、魔物支配の術に長けているが、攻撃魔術はそれほど得意ではない。が、人間としては在り得ないほどの魔力量を持ち、力技で長距離から魔術強化された門を粉々に吹き飛ばす程の魔術を使う</p><p>今までの結果や、Ol配下の村で聞いた情報からわかる魔王Olの像は、大体そんなようなものだ。</p><p>在り得ない程の魔力、か</p><p>アカニの門を破壊した魔術は、調査の結果爆裂(エクスプロージョン)系統の魔術であると判明している。これは魔力を空間に注ぎこみ、許容量をわざと越えさせる事で周囲に衝撃を破裂させるものだ。</p><p>威力が使用する魔力に比例し、魔力さえ用意すれば天井知らずに破壊力を増大させられるという特徴があるものの、対魔力効率はあまり良くない。並みの魔術師ではゴブリンの一団を半壊させるのが関の山。矢も届かぬほどの長距離にかけるとなれば、そもそも発動さえしないだろう。</p><p>普通攻城にはもっと適した魔術例えば、隕石落下(メテオスウォーム)だとか火砲(カノン)だとかが使われる。これらはずっと少ない魔力でOlがやったのとほぼ同等の威力を得られるが、その分制御が遥かに難しい。これを使えるなら間違いなく導師級、国にそう何人もいるレベルではない。</p><p>が、Olの魔力量はその導師級魔術師に更に数倍して余りある。勿論、魔力量が多ければ魔術が上手い、などと言うことにはならないが、それにしてもそれだけの魔力を持ち、問題なく制御しながら、攻撃魔術は並みの魔術師程度の腕と言うのは不自然だ。</p><p>あれだけの力を持つなら、それこそ伝承に残る魔道王の様に、あらゆる魔術を縦横無尽に使ってくれた方がまだ理解しやすい。</p><p>或いは、そこに付け入る隙があるのかも知れんな</p><p>キャスは机の上の報告書を纏めて床に払いのけると、手元のベルを鳴らして部下を呼んだ。</p><p>第11話魔王を始めましょう-2</p><p>おかしい</p><p>ダンジョンコアの中、たぷたぷと波打つ魔力の結晶を見てOlは呟いた。</p><p>どしたの？</p><p>たまたまOlに新しく来た魔物の報告に来ていたリルが、後ろから一緒にひょいと覗き込んだ。</p><p>コアの魔力が減ってきている</p><p>えっ、今月ちょっと魔力使いすぎちゃったかな？</p><p>ダンジョンコアの魔力が維持しているものは多岐にわたる。リルやローガンをはじめとする悪魔達の身体を維持するのはもとより、湯殿の湯を沸かしたり、居住区の灯り、炊事や洗濯といった家事全般にも魔力を利用した施設を使用している。</p><p>いやこれは消費が多いと言うより、吸い込む魔力量そのものが落ちているな</p><p>じゃあどこかが崩落しちゃったのかな？ 昨日見回ったときは大丈夫だったけど</p><p>比例とまではいかないが、魔力の流入量は迷宮の規模によって増減する。コボルトやドヴェルグを雇い入れてからは殆どなくなったが、大規模な崩落が起きれば魔力の流入量が大きく下がる事もある。</p><p>しかし、Olは首を横に振った。</p><p>いや、現在の量を見るに、数日前から徐々に減っているようだ。魔力の流れ方からして、どこかで崩落が起きているという様子もない。龍脈自体の流れが変わったのかも知れんな</p><p>Olは顔をしかめた。もしそうだとしたら少し厄介な事になる。</p><p>龍脈ってあれでしょ？ 大地の中を流れてる、川みたいな魔力の大きな流れ。そんなのが簡単に変わったりするの？</p><p>いや、普通は変わらん。だが、全く変わらないわけでもない</p><p>長い時の中で河が徐々に流れを変えるように、龍脈も徐々にその流れを変えていく。しかし、それは数百年単位の話で、数日や数ヶ月でどうこうなる話ではない。</p><p>どこかで地盤沈下でもあったのかも知れんな</p><p>思い当たる理由はそれくらいだった。龍脈は大地を流れているのだから、大地の構造自体が変われば流れも変わる。</p><p>まあ、流れが変わろうと変わった方向に迷宮を広げれば良いだけの話だ。だが、どういう方向に変わったのか調べなければならん。調査に行くぞ</p><p>ユニスとかスピナ呼ぶ？</p><p>リルに問われ、Olは少し考える。</p><p>いや、いい。空中から調査する事になるし、あまり多い人数で動いてフィグリアの連中に勘付かれても困る</p><p>っし</p><p>リルは小声で呟き、腰の辺りでぐっと拳を握った。</p><p>じゃあ、準備してくるね！</p><p>準備？ 特に必要なものはおい！</p><p>Olの言葉を無視し、リルはいそいそと自室に戻る。</p><p>参ったな</p><p>リルの消えた廊下をぼんやりと見つめ、Olはため息と共に呟いた。</p><p>久方振りに二人で出かけた空の上で、リルは不満に頬を膨らませながら空を飛んでいた。</p><p>その腕の中にはOlが収まり、空の上からじっと地面に視線を注いでいる。</p><p>リル、進路を変えろ。ここから2時の方角だ</p><p>Olの指示に、リルは無言で方向を変えた。外に出るまで上々だったリルの機嫌が急降下しているのは、準備と称して着替えてきた白いワンピースと、手に持った弁当を置いてくるように言ったからだった。</p><p>そんな目立つ格好で飛べば見つけてくださいと言うようなものだし、ピクニックに行くわけでもない。そう怒鳴りつけると、リルは柳眉を逆立てながらも普段の服装に戻り、弁当を投げ捨てた。</p><p>一体何なんだ、とOlは内心嘆息する。ここの所、リルが露骨に好意を表しているのはわかる。が、その理由となるとサッパリわからない。悪魔にとって人間など、家畜か精々ペット程度の存在に過ぎない。</p><p>多少情が沸く事はあろうが、本気で惚れる事などあろうハズもない。ましてやリルは性愛を操り男を手玉に取る淫魔。尚更ありそうもない話だ。かといって、Olを篭絡して操ろうと言う腹でもないらしい。そもそもOlにそんな手が通用しないのはわかりきってるはずだ。</p><p>最初は、大っぴらに好意を示すユニスに対抗しているだけかと思ったが、最近ではむしろ彼女やスピナと共謀してOlを誘惑してくる。全く訳がわからない。</p><p>さっきから指示通り飛んでるけど、龍脈が流れてるかどうかなんて見てわかるの？</p><p>いや、わからん</p><p>多少機嫌が直ってきたのか、間を繋ぐ様に尋ねるリルにOlはきっぱりと答えた。</p><p>今は以前調べた龍脈を逆に辿っているところだ。龍脈が数日でずれるほどの変化があれば、必ず目で見てわかる程の何かがあるはずだ</p><p>Olの言葉にリルも地上にじっと眼を凝らしたが、特に不自然な光景は広がっていない。草原、森、山、村そんなものを飛び越えながら、二人は会話を続ける。</p><p>龍脈の流れってどうやって調べるの？ 大地の中を流れてるんなら、魔術や魔力の瞳とかでも無理だよね。あたしにだってわかんないくらいなんだし</p><p>Olは頷く。</p><p>深く穴を掘って、土に含まれている魔力量を調べるんだ。大体、3チェーンほどの深さの土に通常の100倍魔力が含有されていれば、そこは龍脈の上と言っていい。1マイルごとにそうして掘って、龍脈点が2箇所あれば、そこを線で繋いだものが龍脈だと予想できる</p><p>3チェーンはおよそ60m。1マイルは約1.6kmだ。</p><p>それって結構大変じゃない？</p><p>結構どころの話じゃない。俺は龍脈の調査をしている間、ずっと狂人、もしくは変人扱いされていたくらいだ。今迷宮を広げている場所は三本の龍脈が交差している地点だが、ここを割り出すのに20年かかった。そこまでして場所を特定しても、ダンジョンコアがなければ何の意味もないからな</p><p>変人なのは間違ってないじゃない、という言葉をリルは辛うじて飲み込んだ。</p><p>代わりに彼女は鼻をひくりと鳴らし、大気に混じる魔力の匂いをかぎつけた。</p><p>ご主人様、何かかすかに魔力の匂いがする</p><p>何だと？ どこだ？</p><p>んんあっちの方かな</p><p>リルはパサリと翼をはためかせると、まばらに木の生える森へ向かって高度を下げた。大気に混じる魔力の匂いはどんどん強くなり、地表に近づくとOlもはっきりと気付いた。</p><p>何これ？</p><p>そこには、何本もの鉄柱が埋め込まれていた。上から覗き込むと、それは柱ではなく中空の筒であることがわかる。どうやら、その筒を通じて地面から魔力が漏れ出しているようだった。</p><p>これは！ しまったッ！</p><p>Olは咄嗟に、リルを突き飛ばす。同時に、彼の足元が真っ白に光った。</p><p>突き飛ばされたリルの目の前で、光の柱が立ち上ってOlの姿が包み込まれる。</p><p>Olッ！！</p><p>駄目だ、来るな！ リルシャーナ、逃げろ！</p><p>Olに向かって手を伸ばすリルに、彼は呪力を込めた命令を叫んだ。契約に突き動かされ、リルの身体が意思とは関係なくOlから全力で離れていく。</p><p>Olーーーーーーーーーーー！！</p><p>叫び声をあげるリルの目の前で、Olの姿は掻き消えた。</p><p>第11話魔王を始めましょう-3</p><p>ほう、思ったよりいい男じゃないか</p><p>Olが部屋に入るなり、女はそう言った。ゆったりとした肘掛付きの椅子に脚を組んで座っているその女は、年の頃で言うと22，3と言った所だろうか。</p><p>白銀の髪をキッチリ肩で揃え、皺一つない軍服に身を包むその姿はいかにも隙がない。眼鏡の奥からOlを観察する瞳には、豊かな知性の光が見て取れる。一目にして、今回の作戦はこの女の手によるものだとOlは確信した。</p><p>はじめまして、魔王Ol。私はフィグリア王国軍、軍師のキャスだ</p><p>尊大にキャスは名乗った。</p><p>軍師？</p><p>聞き覚えのない単語に、殆ど反射的にOlは問い返す。</p><p>ああ、この辺りではまだ一般的ではないだろうな。主に軍の戦略指揮補佐、作戦の立案等を専門に扱う職業の事だ</p><p>ふむ。ところで、客に対し椅子くらい出ないのか？</p><p>キャスの説明に対して興味もなさそうに、Olは後ろに手を縛られたままそう尋ねた。</p><p>自分の立場がわかってないようだな</p><p>わかっているから言っておるのだ</p><p>言外に相手を馬鹿にするような視線を含ませながら、Olは答えた。</p><p>フン、と鼻を鳴らし、キャスは兵に椅子を持ってくるよう命じた。</p><p>流石は魔王、と誉めておく。こちらの要求を理解しているなら話は早い</p><p>それは、計略で上を行った自分の事を間接的に誉めているのか？</p><p>出口はあちらで間違いないようだ、とOlは椅子が運ばれてきた扉を視線は動かさずに確認する。そして椅子に腰を下ろしながら、キャスを揶揄するように尋ねた。</p><p>まさか龍脈の位置を把握しているものが、俺以外にいるとは思わなかった。どんな魔法を使ったら、僅か数ヶ月でそんな事が出来るんだ？</p><p>そんな安い挑発で口を滑らせるような女と侮らないで欲しい。が、二度と同じ手は通じないだろうし、逃がす気もないから教えてやろう</p><p>キャスはニヤリと笑みを浮かべた。</p><p>簡単なことさ。龍脈の魔力を使っていることはわかったが、どこを龍脈が流れているかなんて全くわからなかった。だから、魔窟の周囲全体に同じ罠を無数に作ったのさ</p><p>してやられた。Olは内心顔をしかめる。表情は変えなかったはずだが、その空気は伝わったのかキャスは愉快げに笑った。</p><p>どうだ、悔しいか。綿密な計算をただの力技で破られた気分は如何？</p><p>力技とキャスは言うが、そもそもOlの魔力の源が龍脈である事を突き止める辺りから、凡人の発想ではない。</p><p>お前の弱点は、他人を信じない事だ。迷宮の骨子となる龍脈の魔力が乏しくなれば、必ず自分自身で調べに来ると思っていたよ</p><p>魔力を弾く鉄の管で無数に穴を掘って、魔力を地中から吸い上げる。理屈としては、比較にならないほど乱暴で無茶苦茶な手だが、Olの迷宮と同じものだ。</p><p>ここ数ヶ月、私はずっとお前の事を調べ上げていた。お陰で初対面だと言うのに気の知れた友人に会う気分だよ</p><p>キャスは椅子から立ち上がると、そっとOlに顔を寄せて彼の顎をなでた。</p><p>出来れば名実共に友人になりたい。お前はそうは思わないか？</p><p>キャスは話の核心に触れた。Olは鼻で笑う。</p><p>友人だと？ 部下か、奴隷の間違いじゃないのか</p><p>キャスはヒールを履いた足でOlの椅子をどかっと踏みつけた。</p><p>勿論、お前がそれを望むならそういう関係でも私は一向に構わん</p><p>要するに、キャスの言い分はこういう事だった。</p><p>迷宮全てと、それを作った技術を全て差し出せ</p><p>Olが未だに殺されないのは、それ以外に理由がない。それを察し、Olは椅子を要求したのだ。いう事を聞いて欲しければ多少の機嫌取り位しろと、こういう事である。</p><p>しかしそれも度を越せば、それほど躊躇うことなくキャスはOlの首を刎ねるだろう。首を刎ねられた程度で死にはしないが、そのまま全身バラバラにされたり、火葬されたりすると少々不味い事になる。</p><p>さて、どうしたものか、とOlは考えた。状況はかなり悪い。まず、Ol自身に打てる手が殆どない。両腕を縛っているのはかなり強力な魔封じの呪具だ。指輪なら指ごと噛み千切ればいいだけの話だが、腕輪となるとそういうわけにもいかない。</p><p>となれば舌先三寸で敵を騙すか丸め込むしかないが、目の前の女は恐らくOlより頭が切れる。成功する確率はかなり低いだろう。</p><p>悪いが俺は踏まれるより踏む方が好きな性質でな。お前が俺の靴を舐めるんなら考えないでもないぞ</p><p>まあ予想はしていたが、協力する気は無しか</p><p>Olの軽口に表情を変えることすらなく、キャスはOlの椅子から脚をどかすと、元いた椅子に座りなおしてぽつりと呟く。</p><p>ラディクス・フルーメン</p><p>そのたった一言で、Olの表情は激変した。</p><p>余裕を湛えていたそれが、矢の様に鋭い視線でキャスを射抜く。リルやユニス、スピナといった、彼を知る者たちがそれを見れば、驚いたかもしれない。</p><p>それは紛れもない、怒りの表情だった。</p><p>何故貴様がその名を知っている</p><p>苦労したぞ</p><p>キャスは机の上から報告書を取り上げ、薄く笑った。</p><p>琥珀色の髪に茶の瞳。まあ、大して特徴もないよくいる色だが、それはここ数十年の話だ。およそ70年前、我がフィグリア王国が隣国プラエティを滅ぼし植民地にするまでは、瞳の色はともかく琥珀色の髪の者など殆どいなかった。お前が街に送った手紙も見たぞ。Olの綴りのＯの文字にほんの僅かだが、違和感があった。まるで、そこだけ書きなれていないかのようにな。お前の名前はＡから始まるんだろう。プラエティ読みではOlはＡｕｒだ</p><p>否定も肯定もせず、Olはキャスをじっと睨んだ。</p><p>目撃証言は20代程の男とあったが、これほどの魔力を持つ大魔術師がそんなに若いわけがあるまい。魔術で若返っていると考え、私は調べる範囲を数十年以上前に伸ばした。そうしたら、いたんだ。アイン・ソフ・Olと名乗る魔術師がな。まあ、そちらでは主にアインと呼ばれていたようだが</p><p>大した名推理だな。だが、それがどうかしたのか</p><p>Olは既に平静を取り戻し、表情を戻していた。しかし、それが逆に付け入る隙であることをキャスに知らしめる。</p><p>アイン少年はそう、70年前のこの頃は、お前は間違いなく少年だった。彼は、プラエティ王国に住む魔女ラディクス・フルーメン通称ラズに拾われた。これが、資料にあるアイン少年の最も古い記録だ</p><p>Olは面白くもなさそうに、ふんと鼻を鳴らした。キャスは気にした様子もなく続ける。</p><p>彼女はお前と同じ琥珀色の髪をしていたらしいな。それで同情でもしたのか、とにかくラズはアインを自分の弟子にした。彼女の専門は魔術付与だった。と言っても、剣や槍に魔術を込めるようなありがちなものじゃない。城や投石器の様な、建築物や大型兵器に魔力を込める専門家だったらしい。国家魔術師でもない一介の魔術師であった彼女の名が残っているのもその為だな。彼女の作った砦や兵器は戦争に多大な功績を残し、小国ながら我がフィグリア王国に長い事抵抗を見せた</p><p>やめろ</p><p>Olの言葉を無視して、キャスは全部暗記している報告書をぺらぺらと読み上げる。</p><p>しかし、アイン少年を拾った辺りから、ラズは国への協力を減らし始め、ついには己の作った塔に篭って出てこなくなってしまう。プラエティ王国はこれを反乱と見て、兵を持って彼女を包囲し殲滅に当たった。その結果は</p><p>やめろといっている！</p><p>キャスはOlの怒声を振り切り、告げる。</p><p>自らの師を裏切り、その首を差し出す弟子によって、終結しひっ！</p><p>キャスのその宣告の最後は、恐怖によって震わされた。</p><p>軍師などと言う仕事をしていれば、敵からも味方からも恨まれる。今まで幾人もの人間達が彼女に怒りをぶつけ、憎しみのこもった視線を投げかけた。</p><p>しかし、Olの今の表情に比べればそれはいかばかりのものだっただろう。今Olの首を刎ねれば、首だけで宙を舞いキャスの喉笛を食い千切る。そう確信するだけの激しい怒りが彼の顔の形を変えかねない程歪めていた。</p><p>交渉が決裂した事は明らかだった。キャスが有効なカードだと思って賢しげに切ったそれは、Olの逆鱗そのものだった。</p><p>こ殺せ！ 八つ裂きにしろ！</p><p>キャスの命に、待機していた兵達が槍を構え、一斉にOlに突き刺す。四方八方から槍で刺され、常人なら間違いなく死ぬほどの大量の血を溢れさせながらもOlは苦悶の声一つ漏らさずにキャスを睨み続ける。</p><p>ば化け物め</p><p>キャスは剣を引き抜き、振りかぶった。</p><p>煮え滾る怒りの中、どこか冷静な頭の一部分で、Olは己の死を覚悟した。</p><p>相手を挑発し、怒らせて剣を抜かせれば彼の勝ちのはずだった。肩を脱臼させてでも腕を回し、両腕を切り飛ばせば魔術が使えるようになる。勿論、そうした所で印も組めぬ身体だ。王宮の奥であろうここから、単身逃れるのは不可能に近い。しかし、可能性はゼロではない。</p><p>それを、己の怒りでゼロにしたのだから救えない。体中に刺さった槍は、Olの骨にガッチリと食い込んで全く身体を動かす事が出来ない。脱臼しようが、骨を砕こうが、腕を動かす事は物理的に出来ない。</p><p>キャスの剣がOlに迫る。軍師とやらは、自身で剣を握った事などないのだろう。握りも下手だし剣速も遅い。これではOlの首をはねることなどできない。</p><p>だが、頚動脈は断ち切られ、大量の血が吹き出す。Olの身体から絶対的な血が足りなくなり、肉体は活動を停滞させる。死にはしない、元より命などこの身体には入っていないのだから。</p><p>だが、永遠の停滞は死と変わりない。彼の身体は千々に引き裂かれ、焼き尽くされて灰となる。Olは何も見る事も出来ず、感じる事もできぬ冷たいガラスの瓶の中で、永遠に闇の中を彷徨う事となった。</p><p>正確には、なる、はずだった。</p><p>Ol！</p><p>耳元で、聞き覚えのある声が響いた。</p><p>それは運命を覆す力。</p><p>計算も策謀も蹴り飛ばし、道理も常識も踏み越えて。</p><p>助けに来たよ！</p><p>顔を上げたOlの目の先で、燃える炎の様な髪を持つ英雄の少女がニカリと笑みを見せた。</p><p>第11話魔王を始めましょう-4</p><p>なば</p><p>何故だ、という言葉と、馬鹿な、と言う言葉がキャスの頭をぐるぐる回り、彼女は池の鯉の様にパクパクと口を開いた。</p><p>大丈夫？ だよね？ 首刎ねられても生きてたくらいだし</p><p>ユニスは剣を閃かせ、Olに突き刺さる槍を全て斬り払い、腕を縛っている呪具も彼の皮膚に傷一つつけず両断した。周りを囲んでいた兵士達は全員、一瞬にして一撃で倒されている。</p><p>ああ、問題ない。助かった。しかし、何故ここがわかったんだ？</p><p>魔術で自身の傷を癒しつつ、Olは尋ねた。</p><p>そもそもOl自身が、ここがどこなのかわからない。恐らく救出を防ぐ為に、誰がOlを浚ったかとか、どこへ転送したかわからないよう偽装くらいはしていたはずだ。</p><p>勘！ あ、違うかな、アレだよ。愛！</p><p>びしっ！ とユニスは人差し指と中指を立てて見せた。Olは笑うべきか呆れるべきか悩む。</p><p>どうだ、悔しいか</p><p>Olは半ば自棄になって言った。</p><p>綿密な計算を、何と無くで破られた気分はどうだ？</p><p>はははははははは！</p><p>キャスは気がふれたように笑い始めた。正直、Olも笑い出したい気分だ。</p><p>ふざけるな対処が無いとでも思ったのか！？</p><p>キャスの言葉と共に、突然壁が開き、隠し扉から四人の精兵たちが飛び出す。完全に不意を打ち、特別な呪力の篭った槍は、英雄の反射神経を持ってしてもかわす事も受ける事もできない。完璧なタイミングだった。</p><p>そっちこそ</p><p>が、その槍は、一本たりとてユニスに届く事はなかった。無防備な彼女の背中から、太い腕が四本突き出し、兵士達の槍を掴んでいる。</p><p>何の備えもなしに、一人で突っ込んできたって思ったの？あたしのOlを助けに来たのにさ</p><p>よぉ旦那。中々愉快な格好になってるじゃねぇか。少し溜飲が降りたぜ</p><p>兵士達の足元から凄まじい炎が吹き上がり、彼らは一瞬にしてこの世から影も形も失った。</p><p>ユニスの影から這い出しながら、ローガンはゴキゴキと身体を慣らす。</p><p>ふーッ！ ッたく、ババアの影の中は肩が凝るったらねぇや。特別手当でも出してもらわねぇと割にあわねぇな、こりゃ</p><p>だ！ だから、あたしはまだ17だって言ってるでしょ！？ ババアって言うな！</p><p>うるせえ、俺が認めるのは13歳以下(アンダーサーティーン)だけだ！それ以外は全員ババアなんだよォ！</p><p>英雄と悪魔の低レベルな争いに、Olは顔を手で覆い、はあっとため息をついた。</p><p>ついた、が。</p><p>それでも、その唇の端が緩むのを止める事は出来なかった。</p><p>Olっ</p><p>そのOlの顔を両手で挟み込み、ユニスは強引に彼の唇を奪った。</p><p>いきなり何だ？</p><p>何か変な顔してた気がしたから</p><p>ユニスの言葉に、Olはくく、と喉を鳴らす。あれほどあった怒りも、諦観も、いつの間にかどこかへ吹き飛んでいた。</p><p>ではそろそろお暇するとしようか</p><p>ユニスが無理やり突入してきたのだろう。矢庭に騒がしくなってきた部屋の外を見据え、Olは言った。</p><p>無理だ。ここは王都の最深部だぞ？王直属の近衛兵団が包囲している。精鋭中の精鋭だ。逃げられるわけがない</p><p>吐き捨てるようにキャスが言った。</p><p>だが、私を連れて行けば可能性はあるいや、絶対に逃げられる。兵の配置を知り尽くした私の知識と頭脳があれば逃げ切れる。だから私を連れて行ってくれ。お前のダンジョンで軍師として使ってくれればそれでいい。何なら私を抱いてもいいぞ</p><p>キャスの言葉に、Olは悩む素振りを見せた。</p><p>お前は、国に黙って俺をここに連れてきたな？己の地位を高める為だ。俺を殺すより、利用した方がより良いと。事と次第によっては、俺の力を持ってこの国を牛耳ろうと。だが、ユニスが来た今、近衛兵が俺を殺せてもお前は処分される。ならば、俺についた方が得策だと</p><p>そうだ。その通りだ。女だからと私を侮り、実権も与えぬこの国の老害共にはうんざりしているんだ！ だから、お前なら裏切ったりしない。お前は、女だからって私を軽んじたりはしないだろう？</p><p>ああ、そうだな</p><p>Olは頷いた。この女の頭脳は役に立つだろう。それにかなりの美女だ。この女に奉仕させ、整った顔を穢してやるのはさぞ愉快なことだろう。</p><p>弱火だな</p><p>Olの言葉の意味がわからず、キャスは首を傾げる。しかし、すぐにその意味を察した。</p><p>なっ、何だこれは！？ なああああっ！？</p><p>こんなもんか？</p><p>ああ、ちょうどいい</p><p>キャスは突然燃え上がった衣服を叩き、地面に転がった。しかし、燃え移った火は消えるどころか、徐々にその勢いを増すばかりだ。</p><p>助けてっ！ 助けてくれっ！！</p><p>キャスは服を脱ぎ捨て、Olに向かって縋り、助けを請う。しかし服を脱いでもローガンの放った魔界の炎は彼女に纏わりつき、その身体は結界によってOlに触れることは出来ない。</p><p>美しかった肌は見る間に炎で焼け爛れ、悪臭を放ちながら崩れていく。</p><p>助げダズ</p><p>やがてキャスは炎の中に沈み、黒い灰だけがその場に残った。</p><p>ハン。やっぱりババアは駄目だな、魂が濁りきってやがる</p><p>鈍く光る白い球を灰の中から取り出し、ローガンはつまらなさそうに吐き捨てた。</p><p>ま、でも野郎のよかマシか</p><p>先ほど燃やし尽くした兵士達の魂がひとりでにふわりと浮き、ローガンはそれを口の中に詰め込んでもぐもぐやった。</p><p>はぁ、こんなんじゃ腹も膨れやしねえ</p><p>言いながら、キャスの魂をぎゅっと握って魔界へと送り込んだ。</p><p>さて、奴はここから脱出するのは無理だと言っていたが、どうだ？ ユニス</p><p>無理って言葉は無視する為にあるんだよ</p><p>事も無げに言って、ユニスは扉を開く。瞬間、無数の矢が飛んで扉を蝶番ごと吹っ飛ばした。</p><p>わお。皆さんお揃いだね</p><p>緊張感なく言って、ユニスはノブだけになった扉をぽいと投げ捨てた。扉の向こうには、武装した近衛兵団が勢ぞろいしていた。</p><p>前面には楯を構えた兵が並び、その後ろには中腰で槍を構えた兵が槍衾を作り、更にその後ろには弓を構えた兵が立っている。この狭い廊下の中で矢を扉に命中させることからも、一人一人が相当の手だれであろうことが伺える。</p><p>しゃあねぇな、のりな</p><p>四本のうち一本の腕を振り、ローガンがユニスに背中を見せる。ユニスはぽんと馬に乗るようにその肩に腰を下ろした。そして、剣を構えるとキリリと眉を引き締める。</p><p>行くぜ</p><p>ローガンが、廊下を滑るように飛ぶ。彼は翼を持たない種類だが、悪魔にとって重力のくびきなどないも同然だ。真っ直ぐ矢の様に向かう彼の巨体に、こちらは本物の無数の矢がまるで動く壁の様に飛ぶ。</p><p>吹っ飛べーーーーー！</p><p>悪魔といえどただではすまないだろうその矢の壁は、ユニスが放った暴風によって空中で止まり、地面に散らばった。</p><p>おら行けっ！</p><p>驚愕に眼を見開きながらも、弓兵を庇うように上段・中段・下段と分かれて長槍を構える槍兵達に向けて、ローガンはユニスを投げはなった。</p><p>よいしょおっ！</p><p>掛け声一発、回転して逆さになりながらもユニスは空中で剣を一閃させた。</p><p>居並ぶ槍の穂先が一瞬にしてばらりと落ちる。目の前に着地したユニスを迎え撃とうと楯兵達が剣を抜いた瞬間、彼女は高く跳躍した。</p><p>その下をすり抜けるように、ローガンが突っ込んで腕を振るう。四本の太い腕は、全身を鉄鎧でくまなく包み、重い楯を構えた兵士数人を紙くずの様に吹き飛ばし、天井にたたきつけた。赤い悪魔はそのまま竜巻の様に腕を振るう。</p><p>武器を失った兵士達はなすすべもなくローガンの手によって肉塊へと変えられた。第二射を放つ暇すらなく、恐れをなして逃げ出す弓兵達も、吹き出す業火によってすぐさま灰となる。</p><p>ちょっとローガン、投げ方雑すぎなんだけど！目、回っちゃったよ！</p><p>うるせえ、お前こそもうちょい穏やかに矢防げねぇのかよ！2，3本刺さったじゃねぇか！</p><p>一瞬で精兵達を片付け、ユニスとローガンが喧々諤々と言い争いを再開する。その二人の様子を、Olは呆れ果てながらも頼もしく見つめた。</p><p>第11話魔王を始めましょう-5</p><p>馬鹿な</p><p>杖の様に剣を突き、彼は臓腑に溜まった血と共に言葉を吐いた。</p><p>周りに広がるのは仲間たちの死体。いずれも劣らぬ一騎当千の兵、選び抜かれた精鋭中の精鋭。フィグリア王国近衛兵団の者たちだった。</p><p>彼の視線の先に立つのは、紅蓮の髪の少女と灼熱の瞳の悪魔。血と炎に彩られ、紅く輝くたった二人に、近衛兵団400人は為す術も無く全滅させられた。</p><p>大丈夫か、ユニス</p><p>Olはユニスから魔力を補給しつつ、彼女に回復魔術をかける。襲い掛かってきた近衛兵団は全滅させたが、ユニス達も無傷とは行かなかった。</p><p>ユニスは剣を支えにぜえはあと息をしながら、こくりと頷いた。魔力は既に枯渇し、剣を振るうことしか出来ない。身体はそこらじゅう傷にまみれボロボロだ。ローガンも四本の腕のうち二本が中ほどから千切れ、角も片方折れていた。</p><p>初戦を一蹴され、通常の包囲陣では勝てないと悟った近衛兵団の対応は早かった。</p><p>広い部屋や十字路などで、あえて少人数で地の利を生かして襲い掛かり、波状攻撃をかける。休む間もなくOlを守りながら戦い続けるのは、二人の力を持ってしてもかなりの困難だった。</p><p>大丈夫、もう、外に出られるよ</p><p>ユニスは何とか息を整え、最後の扉を押し開く。</p><p>あはは</p><p>そして、目の前に映った光景に力なく笑い声を上げた。</p><p>これは、ちょっと、キツいね</p><p>Ol達が開けた扉は王宮の外れ、城壁の一角のものだった。そして、目の前には完全武装した王軍が布陣していた。その数、ざっと4000。一個旅団に相当する数だ。</p><p>ユニスとローガンは強い。まさしく一騎当千と呼ぶに相応しく、彼女らに勝てる人間などこの世界に10人もいないだろう。</p><p>しかし、それでも、数にはあらがえない。圧倒的な数と言うのはそれだけで力だ。布陣する王軍は近衛兵団に比べれば一段も二段も劣る錬度しか備えてはいないだろうが、疲れ果てたユニスとローガンを撃破するには十分すぎる力を持っていた。</p><p>10の槍を一息に斬り捨て、100の矢を飛ばす風を吹かせても、1000の魔術による砲撃は防げない。</p><p>転移して逃げようにも、城全体に入るだけでなく、出て行く側の転移も防ぐ結界が張られていてそれもままならない。</p><p>ユニス、魔力を借りるぞ</p><p>Olはユニスに口付け、彼女の中に貯蓄しておいた魔力を全て振り絞った。堕ちても英雄。彼女の魔力貯蔵量はリルの更に数倍。一流の魔術師を何十人も集めたのと同程度の量を誇っていた。</p><p>その魔力で練られた攻撃魔術が、王軍の真っ只中で炸裂する。</p><p>街の壁門を一撃で消し飛ばしたOlの魔術は、しかし王軍に毛ほどの傷をつける事も出来なかった。数十人分の魔力を使った攻撃は、所詮数十人分のもの。王軍は、1000名の魔術師兵、そのうち500名が防御魔術担当。一人ひとりの魔力は一流とはとても言えない量ではあるが、文字通り数の桁が違った。</p><p>Olの一撃を防ぎ、王軍は攻撃に転ずる。たった二人の敵に対し、接敵し乱戦に持ち込むような愚は冒さない。何百人もの魔術師が型に則った呪文を同時に詠唱し、集団で魔術を練り上げ構築する。</p><p>軍式魔術。統制し、訓練された軍のみが使いうるそれは、通常個人に使用されるような規模のものではない。敵軍はOlたちを、背後の城壁ごと跡形もなく消し去るつもりだとOlは悟った。</p><p>Olは、逃げてね</p><p>ユニスが剣を鞘に納め、ぐっと身を屈める。</p><p>しゃあねえな</p><p>はあ、とため息をつきながらローガンがその横に並んだ。</p><p>Olを逃がす為に、敵軍に突っ込むつもりだ。接敵すれば大魔術は使えない。さすがに味方を巻き込んでまで攻撃はしないだろう。</p><p>待て</p><p>Olは思わず、ユニスの肩をつかんだ。ユニスが振り向き、心底不思議そうな表情を浮かべる。Ol自身、何故彼女を止めたのか理解できなかった。</p><p>なんだ、ありゃあ</p><p>ローガンが呟き、空を見上げる。最初、Olはそれを雨だと思った。弧を描いて飛んでくる、光の雨。それは地面に振り落ちると共に、凄まじい爆音を轟かせた。</p><p>雨が降ってきたのはOl達の上にではない。王軍の上にだ。</p><p>降り注いだ光の雨に、王軍は大混乱に陥った。500名の魔術師といえど、軍全体を間断なく守れている訳ではない。穴はそこら中にある。雨は、まるで狙い済ましたかのようにその穴に向かって降り注いだ。兵士に降り注いだ光はその身体を貫き血飛沫を辺りに散らし、地面に落ちた光は石畳を砕いて周囲の兵達に石礫を飛ばした。</p><p>エレンか！</p><p>Olはようやく、まるでではなく、その雨が王軍の隙を狙い済ましている事に気付いた。</p><p>あっ、ミオもいるよ！ おーい！</p><p>ユニスが嬉しそうに空の彼方へと両手を振る。Olには点ほどにしか見えないが、光の雨は空を舞うニ頭の飛竜から降り注いでいた。つい最近、迷宮に迷い込んできた番いの飛竜(ワイヴァーン)だ。ミオが操り、その背からエレン達が魔力で作った矢を放っているのだろう。</p><p>5人揃ったその速射はまさに雨の如し。もはや、大魔術どころの騒ぎではない。王軍は完全に混乱に陥っていた。軍の一部からエレン達に向けて矢や魔術が飛ぶが、高高度を舞う飛竜には全く届かない。一騎当千。エレン達のその言葉は嘘ではなかった。僅かに5人で、戦況を覆したのだ。</p><p>助かった、みたいだね</p><p>ユニスがほっと息を吐き、ぺたんと腰を下ろす。王軍はエレン達の攻撃から身を守るのに必死で、Ol達を攻撃する余力は全く残っていなかった。</p><p>ああ</p><p>Olはぼんやりと自分の右手を見た。あの時、何故自分はユニスを止めようとしたのか？</p><p>エレン達に気付いたから、ではない。救援の登場でうやむやにはなったが、ユニスを止めた時、Olはそれに気付いていなかった。</p><p>戦況を考えれば、ユニスのとった策が最上だ。彼女とローガンが時間を稼いでいるうちに、何とか城を脱出する。とにかく結界から離れさえすれば、転移で逃げられる。そして改めて戦力を整え、攻め入ればいい。ユニスを失うのは手痛いが、自身を失うのには比べるまでも無い。</p><p>そんな最上の手を止めた原因はハッキリしている。くだらない、つまらない情だ。手駒に感情移入し、失いたくないと思う。そんな感情がまだ自分の中に残っている事に、Olは歯噛みした。そんな甘さは枷にこそなれ、役に立つことなど無い。捨て去らなければならない。Olは、邪悪なる魔術師なのだから。</p><p>Olはぐっと手を握りこんだ。</p><p>Olさ</p><p>そんな彼の様子に気付いているのかいないのか、ぽつりとユニスが呟くように言った。</p><p>リルのこと、怒らないであげてね</p><p>彼女に視線を向けると、ユニスは軍の方に目を向けたまま続けた。</p><p>迷宮に戻ってきたリル、凄く必死だった。あたしに</p><p>ううん。迷宮の皆に、Olを助けてって。ミオなんて、迷宮の外に出しちゃ駄目って</p><p>言われてたのにね</p><p>ミオは一応仲間として扱っているが、立場は飽くまで生贄の少女だ。迷宮内を歩ける範囲も限られているし、作戦会議にも出ることは無い。もっとも、本人は自分の部屋より家畜小屋にいる事の方が多いくらいだから、あまり気にしていないようだが。</p><p>ローガンだってそうだ。万一の為に備えて、Olはユニスかローガンのどちらかは迷宮に待機させるよう命じていた。ローガンに命令できるのはOlの他にはリルだけだから、リルが彼にOlの救出を依頼したのは間違いない。</p><p>そもそも、リルがOlを助けようとする事自体、契約には無い。強制の呪いは、特定の何かを禁じる事は容易いが、何かをさせる事は殆ど出来ない。やるとすれば、具体的で単一の行動でなければならない。命令に逆らうなという契約は出来ても、常に俺を守れは契約として成り立たない。</p><p>傍にいるだけで守ってるつもりだったという解釈も出来るからだ。</p><p>にも拘らず、リルは全力でOlを救おうとした。</p><p>何故だ。何故リルは俺を救おうとする？奴に得になることなど、無いはずだ</p><p>むしろ、Olが死ねばさっさと魔界に戻ることが出来る。その身にOlの魔力をたっぷり蓄えて。普通の悪魔なら間違いなく見捨てるはずだ。</p><p>そんなの、好きだからに決まってるでしょ</p><p>知らず漏れたOlの自問に、ユニスはあっさりと答えた。</p><p>そうだよ。あたしもOl好きだもん、わかるよ</p><p>悪魔が人を好きになるなんて事があるのか？</p><p>まあ、普通はねえな</p><p>ユニスにかわり、ローガンが答える。</p><p>マリーの事は？</p><p>マリーちゃんマジ天使！</p><p>ユニスの言葉に、ローガンは右目をバチンとウィンクし、ぐっと親指を突き出した。山羊の様な顔でやられてもひたすらに気持ち悪い。</p><p>ってのもな。正直お前らの感性で言えば、彫像だとか絵画が綺麗って誉めてるようなもんだぜ。しかも超美味い飴で出来た彫像だ。あんな人間滅多にいないから多少得にならんことでも請け負ってやるがこの前の下らんゲームみたいにな。だが、自分の身と引き換えにするかって言ったら、そりゃ絶対にNoだぜ。まあこっちの身体なんて幾らでも作れるから、これが殺されるくらいは全然かまわねえけどな</p><p>ローガンは真顔に戻り、そう答える。</p><p>彼の価値観は悪魔の中では一般的だ。むしろかなり人間よりですらある。その彼でさえ、悪魔が人間に恋することなど絶対にない、と言い切ったのだ。</p><p>っていうか本人に聞いたらいいんじゃないかな</p><p>押し黙るOlを、判断に悩んでいると取ったのかユニスはそう言った。率直な彼女らしい意見だ。彼女の視線を追って空を見上げると、王軍の相手が一息ついたのか飛竜が一頭こちらに降りてくるところだった。</p><p>ごめんなさい！</p><p>飛竜の背から降りるなり、ミオは涙目で頭を下げた。</p><p>ごめんなさい、ごめんなさい！</p><p>勝手に迷宮内を出た事についてなら良い。不問に処す</p><p>違うんです、と首を振る彼女の背から、エレンとリルも気まずそうな表情で姿を現す。</p><p>リルか。今回は俺が油断した。お前にも特に処罰は</p><p>言いかけるOlに、リルも首を横に振る。</p><p>その、それは嬉しいんだけど、そうじゃなくてねえっと、その、ごめん。私もまさか、あんなことになるなんて思わなかったんだけど</p><p>何かあったのか？ 要点をはっきり言え</p><p>うむ。スピナを止められなかった。まあ、私とリル殿に限って言えば止める気も無かったのだがな</p><p>リルに変わってエレンが簡潔に述べる。が、その意味を測りかねたOlに彼女は地平線を指差した。その指先を辿ってみると、王軍の背後、はるか彼方に緑色の何かがわだかまっていた。ほんの指先ほどの大きさだが、この距離からでも見えるという事は実際はとんでもなく巨大なはずだ。</p><p>なんだ、アレは</p><p>スピナが作ったスライム</p><p>申しわけなさそうに、リルが言った。</p><p>第11話魔王を始めましょう-6</p><p>そのスライムの能力は至極簡潔なものだ。一般的なスライムと比べて、たった二つの能力しか付与されていない。</p><p>・あらゆる魔力を食べ、大きくなる</p><p>・大きくなっても分裂しない</p><p>本来ならさほど問題にもならないその特徴は、キャスが仕掛けた罠のせいで手におえないほどの凶悪さを備えるに至っていた。</p><p>Olの迷宮に流れる魔力を奪う為に、龍脈にあけた穴。人工的な龍穴とでも呼ぼうか。そこから吹き出る魔力を吸い上げ、スライムは瞬く間に巨大化した。</p><p>あの門は何だ？</p><p>飛竜の背に乗り王軍とスライムを見下ろしながら、Olは尋ねた。スライムは縦に長く伸び、半分ほどが光り輝く門の様なものに埋まっている。</p><p>ああ、あれ、あたしが開けたの。罠のとこから、Olのところに行きたい！って思ってえいやってやったら何か開いた</p><p>ユニスの答えに、Olは頭を抱えた。道理で救出が異常に早かったわけだ。これだから英雄は始末が悪い。</p><p>本来逆探知など不可能なはずの転移の門を、Olを助けにいくと言う名目はあれ、あっさりと開けてのけるのだ。配下の村にあるOlの迷宮への転移陣も対策をしなければ、とOlは心のメモに書きとめた。</p><p>つまりアイツは、門の向こうの半身で魔力を無尽蔵に吸い込んで巨大化しつつ、王軍を飲み込みにかかっているわけか</p><p>うむ、そういう事になるな</p><p>愉快そうに笑みを浮かべながらエレンが頷く。</p><p>スライムに取り込まれても、直接死ぬことは無い。普通のスライムと違って魔力しか食べないからだ。が、急激に魔力を失うと人間は失神するようになっている。眼下を見れば、スライムに取り込まれ失神した人間達が何人かたゆたっていた。</p><p>先ほどまでは王軍が攻撃魔術を何発もスライムに叩き込んでいたが、かえってスライムを巨大化させるだけとわかりそれも取りやめ、ひたすら逃げに回っている。</p><p>剣も槍も効かない、魔術も効かない、炎で殺すには大きすぎる。</p><p>圧倒的な数はそれだけで脅威だ。軍の人数だけでなく、スライムの大きさという数においても、それは適用された。</p><p>笑い事じゃないぞ</p><p>こんな戦略が誰にも利用されないのは、そこまで大量の魔力を簡単には用意できないと言うのもあるが、それ以上にスライムが制御不能だからだ。</p><p>王軍に襲い掛かっているのも別にOl達の味方をしているわけではなく、そこに魔力を保有する人間と言う餌があるゆえの事。命令を聞くほどの知能などなく、魔術で直接操ろうにもその魔力を喰ってしまう。厄介なこと極まりない。</p><p>ご心配なく</p><p>唐突に背後から不吉な声が聞こえ、Olは思わず身体をびくりと震わせた。</p><p>振り返れば、もう一頭のワイバーンの背中に、エレン配下の黒アールヴと共に黒い髪の魔女が乗っていた。</p><p>あのスライムは水に溶けます。お師匠様でしたら、天候操作の魔術などさほどの労も無いかと思いますが</p><p>自分で始末もつけられぬ物を作るな</p><p>申しわけございません</p><p>それほど反省した様子も無く、スピナは慇懃に頭を下げた。たしなめながらも、Olは内心舌を巻く。</p><p>他の分野ではわからないが、魔法生物、特にスライムの創造にかけてスピナは間違いなく天才だ。それも、数百年に一度レベルの。</p><p>今でさえこれほどの技術。長じればどれだけのものになるのか。頼もしく思う反面、Olはそれに僅かな恐れを抱いた。今のうちに殺してしまった方がいいのではないだろうか、とさえ思う。</p><p>そういった問題において、より深刻なのはユニスだ。Olは横に座る紅髪の少女に目を向けた。</p><p>仲間の危機に都合よく現れ、救う。</p><p>自分の危機に都合よく仲間が現れ、救われる。</p><p>それは、英雄の持つ気質の一つだ。Olを助け、そして軍を前にした危機にミオとエレンが現れた。これらはユニスの力が作用したものと見て間違いない。</p><p>問題は、堕ちたる英雄はこれらの運命を覆す能力を、基本的には持たないという事だ。彼女に正義の英雄の星としての力が戻りつつある。Olの見立てではまだ完全に取り戻した訳ではないだろうが、いずれ元に戻るだろう事は予測できた。</p><p>その時、ユニスはそれでもOlの味方をするのだろうか？ 今、この高さから突き落とせば流石に英雄とて死ぬ。愛するものに殺される。それは十分に悲劇的だ。英雄の力を持っているからこそ、今突き落とせばユニスは死ぬ。</p><p>？</p><p>Olがじっと見つめていることに気付き、ユニスは振り向いてニッコリと笑う。</p><p>危ないぞ。もう少しこっちによれ</p><p>言って肩を抱き寄せるOlに、ユニスは嬉しそうに身を寄せた。</p><p>まだだ。まだ、利用価値はある。</p><p>Olは自分にそう言い聞かせた。</p><p>さて、諸君</p><p>脚を組んで腰を下ろすOlの前には、王国首脳部すなわち、元老院の面々が集められていた。</p><p>Olの左右にはローガンとリルが、その悪魔としての威圧感を隠しもせずに立っている。</p><p>王軍の兵は残らず消えた。まあ、まだ生きてはいるがその命が我が手の中にあるのは理解している事と思う。我に従い、我を王として頂くか。それとも、このまま地図からこの国を消し、醜いスライムとなって永遠に蠢くか。疾く決めよ、我はさほど気が長くない</p><p>Olは立て板に水とばかりに嘘を並べ立てた。スライムは人を食わないし、石壁の類も吸収できない。そもそも、この地方は降水量がさほど多い方ではないとは言え、国を丸ごと平らげる前に間違いなく雨が降る。70年かけてダンジョンを掘り当てた男が気が長くないとは、面白いジョークだ、とリルは内心で笑いを堪えた。</p><p>ふざけるな、この魔王め！</p><p>隠れていた兵が剣を抜き、Olの心臓を貫く。</p><p>Olは身じろぎもせずそれを受けると、ひょいと手を上げてローガンに命じた。瞬く間に兵の身体が燃え上がり、剣をずるりと抜くと血の跡さえ残らない。</p><p>返答は如何に？</p><p>まるで何もなかったかのように尋ねるOlに、大臣達は戦慄を隠すことも出来なかった。国中から王都に援軍は集まってきてはいたものの、巨大と言うのも馬鹿らしいほどの大きさのスライムが城門を閉ざし、兵は攻めあぐねていた。</p><p>ちょうど、自分達の城に篭城された形になっている。そんな状況で攻城級の魔術を使うことも出来ず、かといって城内に入ることも出来ず。そして何より、彼らの頂く王の姿は、今Olの尻の下にあった。呪いをかけられ、椅子にされているのだ。</p><p>その上、Olはその身が不死身である事をたっぷりと大臣達に見せ付けた。暗殺も出来ないのではどうしようもない。</p><p>本当に我々の地位は保障して頂けるのか</p><p>大臣の一人が問い、Olは頷く。</p><p>ああ。この王に代わり、我に仕えるというのならば貴様等の地位は保障しよう。仕える者が代わる、ただそれだけだ。貴様らは今まで通り、権力を手にし、存分に私腹を肥やせばよい。しっかりこの国を存続させるなら、むしろ今までの王よりも目を零そうではないか</p><p>Olの言葉に、数人があからさまに胸を撫で下ろした。</p><p>畏まりました。我ら一同、Ol様にお仕えします</p><p>大臣達が揃って膝を折り、頭を下げた。目の前にいるのはどいつもこいつも保身と利己だけを考えている腐った人間ばかりだ。そうでないものは皆、灰になっている。</p><p>しかし、そんな人間でも国を動かすのには必要だった。スピナの魔喰いスライムは雨が降れば消滅する。ユニスが開けた空間の門も、一日と持たず消え去るだろう。そうなればOlには当分、王軍を倒す術はなくなる。</p><p>予定よりはかなり早くなってしまったが、この好機にOlは一気に国の首をつかんだ。軍がどれだけ強大であろうと、動かすものがいなくてはどうしようもない。Olが王に即位することで内乱が多数勃発するだろうが、そう言った時の為にも大臣達は必要だった。</p><p>それから三日後。フィグリア国王、カルス・ルディアス・フォンシシリアス・フィグリア8世の処刑が行われ、次いでOlの即位声明が公布された。</p><p>当然、王が殺され魔に支配されたことを嘆き悲しむ国民も多かった。しかし、既にOlに占拠されている村や街の評判が良いこともあり、さほど大きな内乱は起きず、王軍と魔物の部隊によってすぐに鎮圧された。</p><p>Olは国名をフィグリアから変えることはなかったが、周辺国からは魔の国と呼ばれ、これ以後Olは正式に魔王を名乗ることとなる。</p><p>閑話王に連なるものを陵辱しましょう-1</p><p>この、けだものめッ！</p><p>部屋に入るなり、そんな声と共に王妃は短剣を手に突きかかった。</p><p>胸となく腹となく滅多刺しにし、ぜえはあと肩で息をしているところにOlは声をかける。</p><p>気は済んだか？</p><p>その姿には傷はおろか、血の跡すら残っていない。</p><p>この、化け物め</p><p>王妃は無駄を悟ったのか、からんと短剣を落としてうなだれた。彼女にとっては残念なことだが、今のはOlお得意の不死性を見せたわけではなく、魔術の初歩の初歩。魔術を齧りでもしていれば引っ掛からないような、簡単な幻術だった。</p><p>彼女の後ろには二人、姫が並んで同じようにOlに憎しみの視線をぶつけていた。元王妃オリヴィアは現在32歳。娘のパトリシアとプリシラはそれぞれ16と12だ。いずれも劣らぬ美女、美少女達だった。</p><p>三人ともそっくりな金髪碧眼で、まるで一人の女のそれぞれの年代を見ているかのようだった。まだあどけない顔のプリシラは、堅く閉じた蕾の様。手足は細く、胸の膨らみも乏しい。その代わりに、全てを魅了するような幼子独特の愛くるしさがあった。</p><p>それに対してパトリシアは、まさに今開いたばかりの可憐な花。身体は丸みを帯び、胸や腰のふくらみは控えめに、しかしはっきりと服を押し上げ、その魅力を声高に主張している。背後にプリシラを庇いながら、彼女は恐怖に顔を引きつらせながらも、その整った眉を吊り上げて気丈にOlを睨みつけていた。</p><p>プリシラが蕾、パトリシアが花とするならば、オリヴィアは熟れた大輪の花束だ。その豊満な体付きは服をしたからぐっと突き上げ、成熟した雌の色香をこれでもかと言うほど辺りにちりばめている。それでいて、その身体は子を二人も産んだと言うのにどこもたるむことなく、絶妙なプロポーションを備えていた。</p><p>まず、言っておかねばならぬことがある</p><p>三人の美女は、目の前に広がった光景に思わず息を呑んだ。</p><p>すまなかった。必要なことであったとは言え、お前達の夫、父親を殺した事、この通り謝罪する</p><p>魔王が、深々と頭を下げ謝ったのだ。</p><p>謝るくらいなら、お父様を返して！</p><p>それは出来ぬ。必要なことであったからだ</p><p>悲痛なパトリシアの叫びに、Olは毅然と答えた。</p><p>この国は腐っていた。いや、今なお腐り果てている。しかし、まだ死んではいない。国を生かすため、王を殺す必要があった</p><p>しかし、とOlは続ける。</p><p>王は王である以前に、お前達の夫であり、父親である。それ故に、謝罪に来た。殺す必要があったのは王であって、お前達の父親ではない</p><p>その言葉に、幼いプリシラがわっと泣き出した。</p><p>つまりカルスは王として不適任であったと？</p><p>適任だと思っていたのか？</p><p>逆に問い返され、オリヴィアは押し黙った。魔王が、この国を良くしようなどと考えていないことは明白だ。しかし、亡き夫が名君であったかと言えば、そうでもない事を彼女は誰よりも知っていた。</p><p>逆に問おう。カルスは良き夫であったのか？</p><p>勿論です</p><p>じっと威圧的な視線を送るOlをにらみ返し、オリヴィアは気丈に答えた。</p><p>Olは愉快げに声をあげると、無遠慮にオリヴィアの胸をつかんだ。</p><p>それを払い除けようとし、オリヴィアは自分が身体を動かす事も、声を出す事も出来なくなっている事にようやく気がついた。言うまでもなく、視線を介したOlの魔術だ。</p><p>しかし、そんなことは彼女の背を後ろから見る娘達には伝わらなかった。</p><p>お母様？</p><p>されるがままに胸を揉まれる母親に、パトリシアが不安げに声をあげた。</p><p>口では嘘をつくことが出来ても、身体はそうではないようだな</p><p>下品にならない程度に、しかし艶やかに胸元をさらすオリヴィアのドレスに指をかけ、Olは一気に引き下げた。</p><p>ぶるん、と音のしそうな勢いで、豊かに熟れた二つの果実が揺れ、まろびでる。リルのより大きいかも知れんな、とOlは感心した。オリヴィアの双丘はドンと張り出した見事な釣鐘型で、その年齢と大きさにも関わらず殆ど垂れていない。</p><p>Olは両手でそれを掴むと、ぐにぐにと思うままに揉みしだきながら言った。</p><p>これほどの見事な身体を持ちながら、カルスには殆ど相手されていなかったのだろう？最後に抱いてもらったのは何年前だ？</p><p>声を出せない状態のオリヴィアではあるが、Olの言葉に言葉を失った。確かに、カルスが彼女を床で愛したのはもう随分前、彼女がまだ20だった頃の話だ。女盛りを迎え、貞淑な彼女は娘達の前で他の男を咥え込む事も出来ず、熟れた身体をひたすらに持て余していた。</p><p>その間、本人は後宮で何人もの美女とお楽しみだ。こんなにも美しい妻を放っておいてそれで、よき夫であったといえるのか？</p><p>しかしそれは、仕方がないことであるとも言える。王であったカルスにとって最も大事なことは、世継ぎを作ることだ。二回連続で娘を産んだオリヴィアは女腹と断ぜられ、プリシラを産んでからは閨に呼ばれる事さえなくなった。</p><p>なるほど王とはそういったものかも知れぬ。王として相応しかったかどうかは、民草や後の世の歴史家にでも判断を任せればよい。だが、夫として、父としてはどうだ？ カルスはお前達を慮ってくれたか？愛し、省みてはくれたか？</p><p>図星を指され、パトリシアは俯く。世継ぎの男児を熱望し、そしてついには叶わなかった父は、娘達を省みることは殆どなかった。大国グランディエラや宗教国家ラファニスに囲まれた小国であるフィグリアにとって、世継ぎはそれほど大事な物であったのだ。</p><p>しかし、それと父としての愛は別物なのではないだろうか。王と父を分けて話すOlの前に、パトリシアは初めてそう思った。</p><p>どうだ、オリヴィア？久々に男に弄ばれ、求められる感覚は</p><p>Olの巧みな指使いに、オリヴィアの頬は上気し、身体の芯は男を求めて疼いていた。</p><p>はっきり言ってやろうか。お前達の王、カルスは、王としても、夫としても、父としても</p><p>嫌ぁぁぁっ！！</p><p>パトリシアが床の短剣を取り、Olの腕に振り下ろした。細腕で振った剣は骨を断つ事が出来ずOlの腕に食い込んで止まるが、今度は幻術などではなくしっかりとOlの身体に傷をつける。</p><p>Olは内心その気の強さに感心したが、そんな事を億尾にも出さず剣を掴んでパトリシアから奪った。すぐに彼の腕の傷が癒えると共に、視線が外れてオリヴィアの身体が自由になる。</p><p>しかし、自由を取り戻した彼女が出来たのは、Olの怒りに触れた(ように見える)パトリシアを抱きしめ、庇うことだけだった。</p><p>許して許してください</p><p>目で睨まれただけで動くことも喋ることも出来なくなるという体験は、オリヴィアの心にしっかりと恐怖を植えつけていた。彼女は震えながらも、しっかりとパトリシアを抱きしめ許しを乞うた。</p><p>いいだろう。娘達二人は態度によっては見逃してやっても良い。ただし、それ相応の誠意を見せてもらおうか</p><p>我ながら、陳腐な台詞だとため息をつきつつ、Olがそういうと親子はびくりと身体を震わせた。その言葉の意味を理解したのだ。三人の中でプリシラだけが意図をつかめず、涙を浮かべながらもきょとんとしていた。</p><p>わかりました、Ol様では、私の寝室へ</p><p>その必要はない</p><p>Olはオリヴィアの腕をぐいと掴み、部屋の奥のベッドへと彼女の身体を引っ張り、押し倒した。</p><p>お前達はそこで見ていろ。動くことも喋ることも禁ずる</p><p>Olは後ろの娘達を振り返り、言葉に呪力を込めてそう命じた。王宮の中大切に育てられ、魔術など使うどころかかけられることさえなかった二人の姫君は、自らの母に視線を投げたままその一言で石の様に動けなくなった。</p><p>いやいやぁ！</p><p>さて、それは本心か？</p><p>娘の前で犯されると言う恐怖に顔を引きつらせ、暴れるオリヴィアの身体を押さえ込んでOlは彼女のスカートを捲り上げた。</p><p>お前、これは</p><p>下着に隠された秘所に指を這わせ、Olは思わず素で呆れた声をあげた。先ほどの愛撫で多少なりと湿り気を帯びていればそれをあげつらって責めようと思っていた。しかし、そんなOlの予想を裏切り、そこは既にしとどに濡れそぼり、ぐっしょりと下着に染みを作っていたのだ。</p><p>幾らなんでもこれは濡れすぎだろうまあいい。これだけ濡れておれば愛撫もいらんな</p><p>いやいやをするように首を振るオリヴィアの身体を押さえつけながら、Olは下着を剥ぎ取ると自分の一物を取り出し、一気に突き入れた。</p><p>ああぁっ</p><p>オリヴィアは高く声をあげた。その声色に多分に快楽が混じっている事を感じ取り、Olは呆れを更に強くする。最初は恐怖と畏怖を与え、徐々に快楽を感じさせて恭順させる。Shalに使ったのと同じ方法だが、いきなり快楽を感じられるのは流石に想定外だった。</p><p>オリヴィア一人ならそれでも構わないが、他にも二人堕とさねばならないのだからこれは少し都合が悪い。抽送を繰り返しながら、Olは急いで思考をめぐらせた。</p><p>どうだ、久しぶりの男の味は。お前の身体は随分喜んでいるようだが？</p><p>いやぁ、だめぇ</p><p>弱弱しく拒否しながらも、その表情は既に快楽に融け、膣口はOlのペニスを逃すまいとするようにきゅうきゅうと締め上げていた。呆れた淫乱さだが、Olはそれを利用することにした。</p><p>俺の物になるのなら何度でもこれをくれてやる。お前は美しい。このような美しい女を抱かぬなど愚か者のすることだ</p><p>一瞬、弾みで毎日と言い掛けてOlは言い換えた。本当に毎日求めて来かねないと思ったからだ。</p><p>う、うぅ駄目、駄目ですそんな私は、夫を裏切る事など</p><p>身を悶えさせ、オリヴィアはそう答えた。ここまで感じながらまだそんな事を言う辺りは大した物だが、その夫の敵に愛人になれといわれ迷う辺りはもう大分参っている証拠だ。</p><p>異な事を言う。先に裏切ったのはカルスではないのか？</p><p>Olはぐりぐりとオリヴィアの中を蹂躙しながら言った。打てば響く鐘の様に、オリヴィアは高い声をあげ、ぐにぐにと膣内を蠢かせてピットリとOlの物に吸い付いた。或いはリルのそれに匹敵するほどの淫猥な身体に、Olは思わず達しそうになるのを堪えた。</p><p>下手をするとこれはある意味、今までで一番厄介な女かも知れん。Olは背筋を這う快楽をやり過ごしながら、気を入れなおした。</p><p>これほどの素晴らしい身体を持つお前に女の喜びを与えもせず、他の女にかまけていたカルスの方が先に、お前を裏切ったのではないのか？</p><p>で、でもそれは、王としての責務で</p><p>Olが用意した逃げ道にまんまと逃げ込むオリヴィアに、</p><p>俺ならば、何人女を産もうが全く気にせぬがな</p><p>Olはこの上なく優しい口調で丁寧に止めを刺した。</p><p>この身が死を知らぬものである事はその手で確認しただろう。世継ぎを作る必要などない。お前はその美しい身を我に捧げ、女であろうが男であろうが好きなだけ孕むがいい。お前の二人の娘達にも、俺が女の喜びを教えてやろう。そして子を孕ませ、この国の姫として王子としてカルスの血を遺してやろう。さすれば、お前は夫を裏切ることにはならぬ。むしろ王家の血を絶やさず次代に繋いだものとして称えられる事になるだろう</p><p>悪魔の言葉は、今まであらゆる意味で女として認められなかったオリヴィアの心の隙間にするりと入り込み、奮わせた。</p><p>Olは言の葉に飛び切りの毒を織り交ぜ、囁く。</p><p>俺は後宮の妾が産んだカルスの子を、王宮に置いておく気はない。血を継ぐのは、お前の子だけだ</p><p>それは素晴らしく甘美な毒だった。誰もが羨む美しさを備えて生まれ、14にして王の正妻として迎えられた。謙虚に上品に振舞いつつも、その奥には常に自分の女としての価値を意識していた。</p><p>それが、ただ二度、男児を産めなかったというだけで彼女は全てを否定され、後宮に押し込められ、輝かしい筈の20代は退屈な日々に塗りつぶされた。男を産めぬ女腹と嘲られ、夫から女と見られることもない灰色の生活。彼女の自尊心は、粉々に叩き折られた。</p><p>愛する娘を恨んだ事は一度もない。彼女の憎しみは、男しか認めぬ男たちに向けられていた。そんなに男が好きならば、男同士まぐわっていればいいのだ、と思ったことも一度や二度ではない。そんな否定され続けてきた彼女の人生を、Olは全て肯定してくれた。</p><p>はいOl様。どうぞ私に、Ol様のお子をたくさん孕ませてくださいませ</p><p>涙を流し、オリヴィアは差し出された毒を呷った。</p><p>閑話王に連なるものを陵辱しましょう-2</p><p>さあパティ、いらっしゃい。一緒にOl様のご寵愛を頂きましょう</p><p>いやいやと首を振るパトリシアの気持ちとは裏腹に、その脚は一歩ずつベッドへと近づいていく。明らかに正気を失った瞳で、いつもの様に優しい声をかける母親を彼女は恐怖した。</p><p>顔一杯に恐怖を浮かべて近付く彼女を見守りながら、Olは次の手を模索する。魔術や催眠術で母親同様にセックス漬けにするのは簡単だが、それはあまりにも芸がない。</p><p>さあ、あなたのここでOl様のあの逞しいペニスを受け止めて差し上げるのよ。最初は痛いかもしれないけれど、すぐにとっても気持ちよくなれるわ</p><p>オリヴィアはパトリシアを後ろから抱きしめるようにすると、その両脚をぐっと割り開いた。シンプルな可愛らしい下着がOlの目の前に露になり、パトリシアの顔が引きつる。</p><p>その様子を見て、Olは一つ思いついた。このオリヴィアの娘であれば、出来るかもしれない。</p><p>俺に抱かれるのは嫌か</p><p>あったり前でしょ！</p><p>声が出せるようになっている事に気付き、パトリシアは怒鳴る。</p><p>ならば、賭けをしようか</p><p>Olは魔術で蝋燭を取り寄せると、パチンと指を弾いた。ポ、と火の灯った燭台をサイドテーブルに置く。</p><p>この蝋燭は四半刻(30分ほど)で燃え尽きる。俺は指以外使わぬし、お前の秘部にも一切触れん。この条件で、蝋燭が燃え尽きるまでにお前が俺に、自分から犯してくれと頼めば俺の勝ち。耐え切れば、お前の勝ちだ</p><p>いいわ。乗ってあげる</p><p>パトリシアは毅然として答えた。この男に指だけとは言え嬲られるのは虫唾が走るほど嫌だが、賭けに乗らなければ無理やり犯されるだけだ。この男は随分自分の指に自信があるようだが、どんなに快楽を与えられようと自分からそんな事を言うなんて考えられない。</p><p>ただし、条件があるわ。私が勝ったら、妹のプリシラとお母様も解放なさい。それに、二人にかけた妖しげな魔法も解くの。いいわね</p><p>よかろう。オリヴィア、お前はそこに控えておけ</p><p>鷹揚に頷き、Olは告げた。オリヴィアは渋々といった様子で、ベッドから降りる。</p><p>予言してやろう。お前は自ら、俺の物をそこに咥え込むことになる</p><p>そんなのなるわけ随分、自信があるのね？ 何か秘訣でもあるの？</p><p>一方的に否定しかけ、パトリシアは会話を続けやすいように質問した。蝋燭に火は既についている。なるべく会話を引き伸ばせば、それだけOlがパトリシアを嬲る時間を減らせると気付いたのだ。</p><p>別に秘訣と言うほどの物でもない。こう見えて、俺は見た目より齢を重ねている。年の功と言う奴だ</p><p>エロ爺ってわけね</p><p>パトリシアがそういうと、爺扱いが嫌だったのか、Olは少し顔をしかめた。</p><p>実際は幾つなの？</p><p>さて、いちいち年齢を数えたりしてはいないからなだが、80は越えていた筈だ</p><p>はっ80！？</p><p>パトリシアは絶句した。爺と言ったのは嫌味で、精々30、40程度と思っていたのだ。若く見える、の限度を超えている。</p><p>なにそれ。不老不死ってわけ？</p><p>まあ、そうともいえるな。そうは言っても、無限に生きられると言う訳ではないが。時を戻しての若返りには限界がある。時間を重ねるほど、必要な魔力は指数的に増大するからな</p><p>何年くらい生きられるの？</p><p>パトリシアは僅かな希望を抱いて質問した。Olの治世が後十数年で終わるなら、この国の未来にも希望が持てる。</p><p>一流の魔術師で数十年。俺でも、もって後数百年といったところだろうな。1000年には届くまい</p><p>そして、返ってきた答えにガックリとして、パトリシアはパタパタと手で顔を扇いだ。傍で蝋燭が燃えているせいだろうか、さっきから妙に暑い。</p><p>さて、そろそろ始めるとするか</p><p>たっぷり話し込んでいるうちに、蝋燭の長さは半分ほどになっていた。これで勝ちは間違いない。パトリシアは勝利を確認した。後は、絶対に声を出さなければいいだけだ。敗北条件もそうだが、喘ぐ声も聞かせたくなどない。</p><p>Olの指がまるでナイフの様にパトリシアの服を切り裂く。それは彼女の肌には毛ほどの傷もつけず、あっという間にパトリシアを生まれたままの姿にした。</p><p>なっ</p><p>指しか使っていないぞ</p><p>Olは人差し指をピンと立て、パトリシアに見せた。そしてその指をそのまま、彼女の慎ましい膨らみの先端に押し当てる。</p><p>ひぁっ！！</p><p>服を容易く切り裂いた指先だ。傷付けられるのでは、と意識を集中したところに身体を貫いた思わぬ感覚に、パトリシアは高く声をあげた。</p><p>な、何？</p><p>未知の感覚に、パトリシアは脅え戸惑う。</p><p>もう随分興奮しているようだな。こんなに張り詰めているぞ</p><p>Olはゆっくりと彼女の乳首を摘んだ。</p><p>ふぁぁぁっ！！</p><p>それだけでパトリシアは身体を反らし、奮わせた。いつの間にか全身が熱く火照り、彼女は荒く息をする。</p><p>何を、したの</p><p>何も。お前の身体の感度がいいだけだろう。流石はオリヴィアの子だな</p><p>お母様を悪くひぁぁぁっ！！</p><p>柳眉を吊り上げ言い返そうとするも、パトリシアはOlの与える快楽に翻弄され怒りもままならない。</p><p>悪く言ってなどいない。誉めているのだ。処女でこれほど乱れられる者もそうはいまい。流石は王家に連なる血だ</p><p>ふぁっ、だ、だめぇ、両方し、ちゃぁぁあ</p><p>両手でパトリシアの胸を突き、くるくると愛撫するOlの指に彼女の理性は崩れ始めた。</p><p>どうだ？ 俺の物が欲しくなってきたのではないか？</p><p>誰、がふぁぁぁぁっ！</p><p>気丈に言い返そうとしながらも、パトリシアの視線は突き出されたOlの一物に釘付けになっていた。赤黒いそれはオリヴィアの愛液を纏っててらてらと光り、どくどくと脈打つさまはこの上なく淫靡だった。</p><p>グロテスクでありながらも、逞しく力強さを感じさせるその肉槍に、パトリシアは思わずごくりと唾を飲み込む。</p><p>既に彼女の股間はしとどに濡れそぼり、受け入れる体勢を整えている。しかし、彼女は鉄の精神力で言葉を抑えていた。</p><p>試しに言ってみたらどうだ？ 今なら言っても、お前の負けとはしないし、実際に犯したりもしない。練習だ。実際負けを認めたいときに、言えなかったら困るだろう？犯してくださいと言ってみろ</p><p>お！？</p><p>快楽に思考を乱され、ぼんやりとしていたパトリシアは命令されて反射的に言われた通りにしてしまった。</p><p>しかし、おから先が言えない事に気付き、驚愕する。</p><p>！ っ！</p><p>何度言おうとしても、言葉が出ない。パトリシアは躍起になって言おうとした。しかし、どれだけ試しても言葉が出てこない。</p><p>ふむ中々強情な娘だな</p><p>ちらりと蝋燭に目をやり、Olは呟いた。蝋燭はもはや殆ど残っていない。このまま行けば、パトリシアの勝ちだ。それに気付き、彼女は愕然とした。</p><p>勝ち？ このまま？ こんな、飢えた身体のまま？</p><p>全身は熱く火照り、今すぐ犯して欲しい、と訴えていた。余りの快楽に気が狂いそうだ。Olはすっと手を引き、彼女を愛撫するのをやめた。すると、飢えは更にひどい物になる。まるで全身が痒くて仕方ないかのように、股間がうずき、我慢が出来ない。</p><p>！</p><p>それなのに、犯してという言葉はパトリシアの口からはどうしても出なかった。犯して欲しい。滅茶苦茶に突いて欲しい。出せぬ声は、彼女の欲求を弥が上にも煽った。</p><p>時間か。賭けはどうやら、お前の勝ちのようだな</p><p>蝋燭の炎は消えた。しかし、そんなものもはやどうでも良かった。情欲の炎は燃え盛り、パトリシアはもうOlに犯されることしか考えられない。なのに、相変わらず声は出ない。彼女はついに、Olに抱きつくと、その剛直を己が身に収めた。</p><p>ああっ！</p><p>歓喜の声が、彼女の喉を通り過ぎる。痒いところにようやく手が届いたかのような、素晴らしい気分だった。彼女の純潔の証は股間から流れ出ていたが、痛みよりもはるかに快楽の方が強い。</p><p>賭けに勝ったのだから、お前は犯される必要などないのだぞ？</p><p>いいっ、もう、そんなのいいどうでもっ！</p><p>パトリシアはOlの首に手を回し、ひたすらに腰を振った。一度抽送を繰り返すたびに脳髄が痺れ、甘美な快楽が稲妻の様に身体を走る。彼女は生まれて初めて味わう快楽をただただ無心で貪った。</p><p>やはりオリヴィアの娘だな。媚薬も必要なかったかも知れん</p><p>蝋燭に視線を走らせ、Olが呟く。しかしそれもパトリシアの耳には届いていなかった。</p><p>ああっ、ああああっ、駄目、駄目ぇぇぇぇーーーーっ！</p><p>パトリシアが絶頂に達し、身体を奮わせるのにあわせてOlも彼女の中に精を放つ。本人がどうでもいいと言ったのだから、当然先ほどの約束は反故だ。</p><p>さて最後の一人はどうするか、とOlが視線を移すと、そこには母に秘所を弄られ、すっかり融けた表情のプリシラの姿があった。</p><p>Ol様、準備は万事整えて置きました</p><p>妖艶に笑うオリヴィアを見て、Olは更に呆れを強くした。とんだ淫乱母娘だ。</p><p>Ol様ぁ、もっと、もっと奥にお情けを私に赤子を孕ませてくださいっ！</p><p>Ol、様！ 私にも、精液頂戴っ！ お母様と、同じ歳でああぁっ、赤ちゃん、孕みたいのぉぉっ！</p><p>Olさまぁ、リシィにも、たくさん赤ちゃんの素、くださいお母様やお姉様と一緒に、赤ちゃん生ませてくださいぃっ！</p><p>三人のそっくりな母娘たちが、競い合うように白い尻を振り、Olの精を求める。</p><p>ああ。存分に俺の子を孕め。娘を産んだら、その娘もまた孕ませてやろう。そうして、カルスの血は永遠にこの地を満たすのだ</p><p>ああっ素敵</p><p>オリヴィアはほうっと息をつき、うっとりして呟いた。Olは褒美に、パトリシアの中から引き抜いてオリヴィアに突き入れてやる。</p><p>ああっ、Ol様ぁ、素敵ですぅ私に、女としての悦びをあんっ、もっとぉ、教えてくださいませっ</p><p>豊かな尻と乳房をふるふると震わせ、オリヴィアが喘ぎ、</p><p>あん、Ol様、抜いちゃ駄目ぇお父様の血を残すなら、私を孕ませてくれないとお母様では、血は残らないですよ？</p><p>拗ねたようにパトリシアが振り向き、Olに肢体を絡ませ、</p><p>Olさま、リシィもぉお姉様より4つも若いから、4人は多く赤ちゃん孕んで見せますぅ。だから、もっともっと中にくださいぃ</p><p>プリシラが小さな身体をもぐりこませ、オリヴィアを貫く肉棒から精の詰まった袋を舐め上げる。</p><p>案ぜずとも、全員しっかり孕ませてやる。それ、尻を並べろ</p><p>Olの言葉に嬌声を上げ、オリヴィアの横に並んで尻を突き出す二人の娘達。Olは三人の美姫に順に精を注ぎ込むと、揃って奉仕させ、寄せ合う三人の顔を白濁の液で穢した。</p><p>恍惚とした表情を浮かべる女達を見て、Olはひとまず息を吐く。十月十日後、彼女達は元気な赤子を生むことだろう。子を孕んだとなれば、彼女らを立ててOlを斃そうとする勢力も手出しは出来ない。</p><p>カルスとOl、両方の血を引く子供が出来てしまえば、Olの王としての地位も磐石な物になる。その頃には反乱の芽も粗方摘めるだろう。</p><p>人間達を統治するのも中々面倒な物だ。ダンジョン内の魔物の方がずっと扱いが楽だ。温かく光に溢れた王宮で、冷たく暗い地下を思っていると、彼の一物が暖かい物に包まれた。</p><p>我が君、もっと中に注いでいただけませんと、赤子も出来ませんわ</p><p>見ると、オリヴィアが再び彼の物をくわえ込んでいた。</p><p>いや、魔術師の予言をなんと心得る。赤子は確かに、お前の腹に</p><p>お母様ばっかりずるいわ。私ももっと、Ol様に抱かれたい</p><p>Olの言葉を遮り、パトリシアが抱きついてくる。</p><p>やぁ、リシィも、もっとしてもらうのー！</p><p>プリシラが不満げにOlの腕をぐいぐいと引っ張る。</p><p>王宮内ではダンジョンコアの魔力は使えない。ユニスもリルもダンジョンの中だ。魔力はOlの体内のもので全て。使い切るわけにも行かない。つまり、ここからは体力勝負だ。</p><p>こいつらは、人の姿をした淫魔なのかも知れん</p><p>王家に連なる女達は、魔王を初めて戦慄させた。</p><p>第12話魔窟の住人と触れ合いましょう-1</p><p>力むと魔力を使いすぎるのは、悪い癖ね、アイン</p><p>冷静に、落ち着いて。あなたならきっと出来るから</p><p>今までしてきた努力を思い出すの。努力は、きっとあなたを裏切らない</p><p>魔術師にとって一番大切なことはね、アイン。</p><p>信じることよ</p><p>今まで努力してきた自分を</p><p>自分を生かしてくれた全てを</p><p>あなたを取り巻く皆を</p><p>信じるの</p><p>そうしたら</p><p>あなたは</p><p>私を</p><p>殺し</p><p>信じて</p><p>たのに</p><p>うらぎりもの</p><p>おきてー！</p><p>がばっと上半身を起こし、Olは額に痛みを感じた。はあはあと肩で息をしながら横を見やると、リルが頭を抑えて蹲っている。</p><p>それはこっちの台詞よ！</p><p>目に涙を浮かべ、リルは怒鳴った。</p><p>もう、何かうなされてるから起こしてあげようと思っただけなのに</p><p>うなされていた？ 何か言っていたか</p><p>んその</p><p>汗を拭いながらOlが尋ねると、リルは言いよどんだ。</p><p>はっきりいえ</p><p>ラズ、って、言ってた</p><p>リルの答えに、Olはため息をついた。もう、何十年も前の話だ。そんなものを、彼は未だに引き摺っている。</p><p>師の、名前だ。俺が殺した</p><p>なんでもないことの様に言おうとする試みは、成功しなかった。</p><p>リルは何と返したら良いかわからず押し黙り、二人の間を気まずい沈黙が包み込んだ。</p><p>あー、これ何？</p><p>リルは露骨に話題を変え、Olの部屋にあった木彫りの人形を指差した。ゴーレムと言うには繊細で、大きさもOlと同じくらいしかない。おまけに服が着せられ、琥珀色のカツラまで被っている。</p><p>ああそれか。形代だ</p><p>カタシロ？</p><p>聞きなれない単語に目を瞬かせるリルに、見ていろと言ってOlは形代に手をかざす。すると、木の肌は見る間に赤みがかった人の肌の色になり、瑞々しい皮膚の感触を手に入れる。</p><p>大まかな凹凸しかなかった顔にも知性を示す瞳の輝きが生まれ、口や鼻が出来る。人形はあっという間にOlそっくりの人間になった。</p><p>何これ、全然見分けがつかない！</p><p>目の前で見ていたリルにも、どちらが本物のOlか見分けることは出来なかった。着ている服の違いで辛うじて判別できる程度だ。</p><p>この前の様に、俺が外に出るのは危険だとわかった。そこで、これを作った</p><p>原理は本物の肉体を動かしているのと大差ない。違いは、この形代はいざとなれば捨てて本来の肉体に戻れることだ</p><p>二人のOlが口々に喋る。</p><p>凄いね、これでOl二人分の仕事が出来るってこと？</p><p>純粋に感心するリルに、二人のOlは首を横に振る。</p><p>目の前でなら両方動かせるが、二人分思考したり、魔術を使ったり出来る訳でもない。あくまで偵察用だ。離れれば本来の身体は動かせなくなる</p><p>へーそうなんだ</p><p>リルは形代の方のOlを無遠慮にぺたぺたと触りながら少し残念そうに呟いた。</p><p>それより、わざわざ起こしに来たのは何か用があったのではないのか？</p><p>あ、そうだった</p><p>Olの言葉にリルは本来の目的を思い出し、彼に言った。</p><p>何か、妙なことになってるんだよねえ</p><p>Olの迷宮には、入り口が幾つもある。そのうち三分の一ほどは第二階層に直接下りる縦穴で、残りは第一階層に降りる入り口だ。</p><p>そのうち最も人里に近い入り口に、それは出来ていた。</p><p>何だ、これは</p><p>Olは思わず額に手をあて、呟いた。彼の目の前には木で出来た簡素な門。扉はなく、見張りもいないので誰でも通れる代わりに、大きな看板がついていた。そこには大きな文字でこう書かれている。</p><p>Olタウンへようこそ！</p><p>まあ、タウンって言うよりは村って規模だよね</p><p>そういう問題じゃない</p><p>ローブと帽子で角や翼を隠し、人間のふりをしたリルにOlは呻くように言った。</p><p>いつの間にこんな物出来たんだ</p><p>そう昔のことじゃないさ。つい最近だよ</p><p>Olの呟きに答えたのは、リルではなく若い男の声だった。</p><p>ようこそ、魔王の街Olタウンへ。歓迎するぜ、お二人さん。見たとこ、魔術師二人組みかい？ 珍しい取り合わせだな</p><p>茶色い髪の男は人好きのする笑みを浮かべて近寄ってきながらそう言った。身のこなしからして恐らく冒険者、それも盗賊と呼ばれる類だろう。革鎧を身につけ、短剣を腰にさしている。</p><p>お前は何だ？</p><p>見るからに胡散臭いその男を睨みながら、Olは問うた。</p><p>おっと、こいつは失礼。俺はキース、あんた達みたいなこの町にはじめてくる人たちにちょっとした案内をしてるんだ。何せ、魔王のお膝元。物騒な場所だろ？これでもここじゃ、俺はちょいとばかり顔が知れてるんだ。どうだい、安くしとくよ</p><p>Olとリルはお互いに顔を見合わせた。信用できそうにはないが、かといってOl達を騙して身包みを剥ごう、などと言うほど悪辣な人間でもない。Olはそう判断した。</p><p>いいだろう。よろしく頼む</p><p>Olは懐から銀貨を一枚取り出すと、ピンと指で弾いた。放物線を描いて飛ぶそれを、キースは器用に片手でキャッチして口笛を吹く。</p><p>銀貨たぁ、気前がいいね。名前を聞いてもいいかい？</p><p>俺はテオ。こっちはラズだ</p><p>Olは偽名を名乗った。その口調に淀みはなく、リルは一瞬彼が嘘をついたことにも気付かなかったほどだったが、Olは内心舌打ちしていた。自分の偽名くらいは用意があったが、リルの分までは考えておらず咄嗟に出たのがその名だったのだ。</p><p>オーケー、テオにラズ。じゃあ、案内するからついてきな</p><p>キースは人懐っこく言うと、門を潜り町の中に入っていく。</p><p>ねぇ、ラズって</p><p>お前の名だ。ボロを出すなよ</p><p>小声で尋ねるリルに、Olはそれ以上の追求を避けるようにはっきり言った。リルはそれを察し、口を閉ざす。</p><p>Olが殺したと言う師匠。咄嗟に名前が出るような相手。それはどんな人で、Olにとってどんな相手だったのか。</p><p>そんな事を思いながら、リルはキースの背中を追いかけた。</p><p>この街は普通の街とはちょっと違ってな、一般の民家って奴は一つもないんだ</p><p>大通りを歩きながら、キースはそう説明した。</p><p>定住してる人間はそんなにいない。まあ、ざっと2,30人ってトコか？殆どが商人で、冒険者相手に何らかの商売をしてる。この街は、魔王の魔窟に挑む冒険者の為の街なのさ</p><p>道を行きかう者たちは、皆武装した冒険者達だ。そんな中、一応ローブを着て魔術師然とはしているものの、明らかに旅装ではないOl達は少し浮いていた。</p><p>入り口近くのデカい建物が宿。金の無い奴には無料で馬小屋を貸し出してる、慈悲深いマーサ婆さんの店だ。その向かいはオックスの酒場。最高の飲んだくれどもが集まる愉快な店だ。あんたも仲間が欲しけりゃ覗いてみるといい。メシもここか、後はそこらへんに出てる屋台だな</p><p>馬小屋？</p><p>リルが反復すると、キースは肩をすくめた。</p><p>ああ、食料なんかの仕入れに商隊が馬車でくるんだが、週に一度。それ以外は、冒険者で馬なんか持ってる奴は滅多にいないからな。だからケチや貧乏人たちは空いてる馬小屋の藁の中で寝てるのさ</p><p>体力は殆ど回復しないが、とりあえずは雨露は凌げる、とキースは言う。</p><p>宿の隣にあんのは娼館。ちょっと値は張るが、この街唯一の娯楽だ。ま、あんたにゃ必要ないかも知れんがね</p><p>キースはリルの、ローブを下から押し上げる豊かな双丘を横目で見て下卑た笑みを浮かべた。</p><p>そっちの通りは武器屋と防具屋、それに鍛冶屋が並んでる。ちょっとした刃こぼれや、簡単な修理なら鍛冶屋でやってくれる。完全に壊れちまったんなら、武器屋や防具屋だな</p><p>オーダーメイドの武具なんかは作ってはくれないのか？</p><p>Olの問いに、キースはおやと眉を上げた。</p><p>今んトコ、そういうのはやってないな。修理だけでも手が追いついてないんだ。テオ、あんた魔術師みたいだが、剣も使うのかい？</p><p>いや、そういうわけではない</p><p>心なしか表情を明るくしたOlに、リルは笑いを堪えた。彼はこの街を自分の迷宮と比べているのだ。Olの迷宮で働くドヴェルグたちは、オーダーメイドで武具を作ってくれる。</p><p>ふうん？ まあいいや。反対側の通りは、魔術屋に教会だ。魔術が入り用な時は魔術屋に、怪我人、死人は教会に</p><p>蘇生魔術を使えるものがいるのか</p><p>Olは驚いて言った。死者の蘇生は不可能ではない。が、非常に高度な魔術だ。</p><p>あー、俺も魔術使えるわけじゃないから詳しくないんだけどよ、何でもここは魔力がすげー濃厚だから大きな魔術が使いやすいらしいぜ。それなりの僧侶が数人掛かりで儀式を行えば、心臓を一突きにされたくらいの死者なら蘇らせることもできるって話だ。もっとぐちゃぐちゃになってりゃ勿論無理だし、べらぼうに高い。その上、失敗しても金は返さないとくらぁ</p><p>なるほど、とOlは納得する。どうやら魔力が迷宮の外に多少漏れ出ているようだ。</p><p>魔術屋って何？</p><p>リルには魔術を売る、と言う概念がいまいち良くわからない。</p><p>ん、自分が魔術師だから使ったこと無いのか？剣に祝福の呪いをかけたり、簡単な魔術が篭った呪具を売ったりまあ、俺みたいに学のない冒険者がお世話になるところだ</p><p>キースは大通りの奥へと歩を進め、その先の大きな建物を指差した。</p><p>そんであれが、ノーム百貨店。この街の元締めさ</p><p>第12話魔窟の住人と触れ合いましょう-2</p><p>元締め？</p><p>百貨店？</p><p>Olとリルはそれぞれに反復した。キースはしたりといった顔で頷く。</p><p>元々、ここにはあの店だけがあったんだ。それが冒険者を相手にするうちに段々規模が大きくなって、別の店が出来て、やがて街になった。ま、俺もその様子を見てたわけじゃないから受け売りだがね</p><p>ノーム百貨店は、この街の中で最も小さな建物だった。二階建てで、入り口には激安回復薬ありマスノーム百貨店切り裂きの剣入荷！などと広告が乱れ飛んでいる。とても、元締めと言われるような人間が住んでいるようには見えなかった。</p><p>迷宮で倒した怪物共の牙だの爪だの毛皮だのは、あの百貨店に持っていくと金に換えてくれるんだ。何でも、魔法薬や武具なんかの材料になるんだとさ。その他にも、迷宮内で手に入るものは大体あそこで引き取ってくれる。しかも適正な価格で、即金だ。お陰で俺達は街に戻ったりせず、ここで暮らしていけるってわけさ</p><p>ふむ、と興味深げにOlは唸った。龍脈の魔力は迷宮中を流れ、満ち満ちている。自然、その中の空気を吸った生き物は外の生き物よりも濃い魔力を得る。そして、その濃い魔力を持つ生き物をより強い生き物が食べ、その死骸を虫やネズミが食べ、それをまた弱い生き物が食べと、魔力は蓄積していく。</p><p>そんな魔力が体中に満ちている魔物であれば、さぞ高品質な素材になるだろう。冒険者を引き入れるためにわざわざ財宝を用意したOlだったが、その必要が半ばなくなっていることに初めて気付き驚いた。</p><p>ちなみに買い取りは武器屋や防具屋じゃやってくれない。この街で迷宮内の物を売りたきゃここに売るしかない。日用品や雑貨なんかもここで買える</p><p>どうやら、この小さな店の主はこの街を経済的に取り仕切っているらしい。どうにも主体性の無い街ではあるが、それでも上手く回るのは冒険者の支援に特化しているからだろう。</p><p>では、その元締めとやらに一言挨拶してくるか</p><p>おう。じゃーな、俺はいつも酒場で飲んでるから、迷宮に潜るんなら声かけてくれよ。いい仲間を紹介するぜ</p><p>ひらひらと手を振って酒場に向かうキースを見送って、Ol達は百貨店の中に足を踏み入れた。</p><p>店内は思っていた以上に狭く、他に客はいない。</p><p>いらっしゃいませー！</p><p>所狭しと並べられた商品の奥、カウンターで笑顔を輝かせているのは赤毛を側頭部で一つに纏めた、背の低い少女だった。Shalと同じくらいの身長と幼い顔立ちに似合わぬ大きな胸をたゆんと揺らし、彼女はOlに愛想良く笑いかける。</p><p>元締めと聞いて、何と無く恰幅のいい豪商を思い浮かべていたOlは肩透かしを食らった。</p><p>店主はいるか？</p><p>傷薬に血止め、毒消しにロープ、ランタン油も切れたらどうぞ！剣、槍、鎧も扱います、何でも売ってるノーム百貨店へようこそ！あたしが店主のノーラ・ムルクディス。どうぞノームとお呼びください</p><p>ノームと名乗った少女は、嫌な顔一つせず流れるような口調で語った。</p><p>お前が、この街を作り上げたと言う元締めなのか？</p><p>あたしが作ったと言うと、語弊がありますね。あたしはここで商売をしていただけ。街を作ったのは、街のみんなの努力です</p><p>愛想良くノームは語る。</p><p>こんなところでよく店を出そうと思ったな</p><p>ここは魔王Ol様のお膝元ですからね。何の心配もしちゃいませんでしたよ</p><p>ノームは胸を張って自信満々に答えた。</p><p>冒険者さん達が魔王退治を夢見て迷宮に潜り、財宝や素材を持ち帰る。持ち帰った素材で、商品を作る。作った商品を、冒険者さんが財宝で買う。そしたらこっちは、商品を作る手間だけで財宝を手に入れられるって寸法です</p><p>なるほど。しかし、魔王が倒されたらどうする気だ？</p><p>その時は、大人しく店を畳んで他に行きますよ。でも、そんなことにはならないでしょう、魔王様？</p><p>意地悪く聞くOlに、にっこり笑ってノームは答えた。</p><p>な、何いってんの！？</p><p>おろかもの、そんな反応ではそうだと言っているようなものであろうが</p><p>わかりやすく慌てるリルに、Olは嘆息した。</p><p>まあ良い。別段、隠す気もない。それで、俺が何を言いたいかわかるか、商人よ？</p><p>Olが尋ねると、ノームは人好きのする笑みを浮かべてはいと答えた。</p><p>あたしがここで商売すれば、Ol様の邪魔になる。冒険者を助けてやるんですからね。それをOl様が黙って見逃す意味はない。だったら、黙って見逃す意味を作らなきゃあいけませんよね</p><p>じゃらりと音を立てて、ノームは金貨のつまった袋を取り出した。</p><p>売り上げの一割です。どうぞお納めください</p><p>お前の店が繁盛するほど、こちらの懐も暖まる、か。まあ当然の話だな</p><p>Olはそれを受け取り、それで？と促した。彼女の瞳に、ほんの一瞬動揺が走るのを彼は見逃さない。が、売り上げの一割で同意するほど彼は生易しくもなかった。</p><p>Ol様は美女がお好きとか</p><p>ノームはカウンターの上に身を乗せると、スカートの両端を摘んで持ち上げた。</p><p>どうぞ、この身を自由にしてくださって構いません</p><p>膝立ちになってそうすると、ちょうどOlの目の高さに彼女の下穿きが来る。ほうと感心したような声をあげ、Olはそこに指を這わせた。じゅくり、と湿った感触が指に伝わる。</p><p>準備がいいな</p><p>恐れ入ります</p><p>勿論、何もせずに濡れる訳などない。ノームはOl達が入ってきた時から、彼が魔王であることを看破し、この展開を用意して準備していたのだ。</p><p>Ol、この子処女だよ</p><p>中々気前がいいな</p><p>リルの指摘にOlが言うと、ノームは股間を弄られながらもニッコリと微笑んだ。</p><p>誠心誠意をモットーとしておりますので</p><p>魔王などと呼ばれるOlを前に、処女の身でこの対応。その度胸と頭の良さをOlは気に入った。</p><p>駄目だな</p><p>故に、Olはそう答えた。さすがにその反応は予期していなかったのか、ノームは驚いたように大きく目を見開く。</p><p>生憎とこの通り、女には困っていない。確かにお前は美人だが、その程度で対価になると思ってもらっては困る</p><p>Olはリルを抱き寄せ、見せ付けるようにその胸を掴んだ。リルの豊満な膨らみはローブの上からでもはっきりとその存在を主張し、いやらしく突きあがっている。ノームも見事な双丘を備えてはいたが、淫魔の淫らな肉体には敵うべくもなかった。</p><p>では、いかがいたしましょうか</p><p>ノームはじっとOlを見つめる。</p><p>真実の瞳だな</p><p>ノームは瞬き一つしない。Olは続けた。</p><p>お前の持つギフトだ。全ての虚偽を暴き、その持つ本質を明らかにする。なるほどその齢で商人として大成する訳だ</p><p>そんなに大したもんじゃございませんよ</p><p>ノームはため息一つつき、カウンターを降りた。</p><p>あたしのはただの鑑定眼。ある意味真実の瞳よりレアかもしれませんね。見たものの価値、値段がわかるってだけの、中途半端なギフトです。あなた様には金貨10枚の値段がついておりますよ。人は普通、無料なもんですけどね。その身体が形代だって言うなら値段が見える</p><p>まあそういう事にしておいてやろう。だが、剣の効果には気付いているのだろう？</p><p>ノームの背筋を、冷たい物が走った。いつの間にか彼女の頭をOlが掴んでいる。</p><p>返答には気をつけろ。お前以外にそれを知っている者はいるか？</p><p>Olの声が冷たく響いた。嘘を言っても気に入らない返答をしても、殺される。そうノームは直感した。</p><p>知っているのは、あたしだけ、です</p><p>何故だ？</p><p>Ol様に死なれては、あたしの商売上がったりですから</p><p>既に声を震わせることさえなく、ノームはそう答えた。</p><p>いいだろう</p><p>Olはノームの頭から手を離した。一気に緊張が抜け、今更彼女の全身からどっと汗が噴出した。</p><p>いい度胸だ、気に入った。無理やりにも我が物としたいところだが</p><p>残念ながらOl様、あたしは商人です。仮にこの魂を奪われようと、利にならないことは一切しません</p><p>ノームは真っ直ぐにOlを見返し、はっきりそう言った。</p><p>で、あろうな</p><p>利以外でいう事を聞かせるのは不可能だろう事を、Olは悟った。呪いで無理やり縛ったり、精神を壊せば操り人形には出来るかもしれないが、そんな事をすれば彼女の聡さと度胸は失われる。</p><p>ここでの商売を認めよう。それから、呪の篭った品を卸してやる。代金は要らん、そのまま売りに出せば良い</p><p>こちらの対価は如何に？</p><p>売り上げの5分を上納金とする。ただし、これは街全体での話だ。それと、お前の扱う商品を迷宮にも卸してもらおう。これは対価を支払う。それでどうだ</p><p>承りました。その条件で問題ありません</p><p>ノームは即答した。深く考えていないのではなく、一瞬で計算を済ませるだけの頭の回転を持っているのだろうと思わせる、落ち着いた対応だ。</p><p>それで</p><p>先ほど渡された金貨の袋を弄びながら、Olは尋ねた。</p><p>お前自身は金貨何枚だ？</p><p>第12話魔窟の住人と触れ合いましょう-3</p><p>ノーム百貨店は一階が店、二階がノームの居住スペースになっている。彼女は扉にCLOSEDの札をかけると、Olを二階へといざなった。</p><p>それでは、御奉仕させて頂きますね</p><p>ベッドの上で跪き、彼女は恭しくOlの物を取り出し、舌を這わせる。</p><p>結局、Olは金でノームを買うことにした。悪魔よりも強かな彼女に対しては、それが最も安定した契約方法であると判断したからだ。</p><p>彼女の値段は週金貨十枚。それなりの額だが、フィグリア王国や、直轄地からの税収を得ているOlにとってはたいした値段ではない。</p><p>それだけの金額でノームはOlに味方をし、主だった冒険者の動向を知らせたり、彼にとって不利になる情報を握りつぶしたりしてくれる。ついでに身体も好きにしていい、という事で、Olは彼女を試してみることにした。</p><p>ノームとしても、自信満々に出した商品が素気無く断られた事で傷ついたプライドをどうにか回復した形だ。</p><p>手馴れているな。処女だったのではないのか？</p><p>当店の商品は、全て一級品ですから</p><p>ノームはにこりと微笑んで、Olの物を胸で挟み込んだ。傍らから瓶を取り出し、とろりとした液体を塗りつける。</p><p>それは何だ？</p><p>ローションです。こうするとほら、いかがですか？</p><p>にゅるにゅるとぬめる胸の谷間で、ノームはOlの一物を擦り上げた。膣内とも、口内とも違う柔らかな刺激がOlのそれを更にいきり立たせる。</p><p>凄い、流石魔王様、御立派ですね</p><p>ほうっと頬を朱に染め、ノームは口で先端を咥えこむ。そのまま、胸をぎゅっと手で寄せてしごきながら、鈴口に舌を這わせ、吸い上げる。</p><p>く上手いな</p><p>腰に走る快感にOlは呻く。ノームは瞳を笑みの形に細め、じゅぽじゅぽと音を立てて口で奉仕する。同時に、そのたわわな胸でOlのペニスをぎゅうぎゅうと挟み、交互にしごく様に動かした。</p><p>く出すぞ、飲め！</p><p>ん、んんっ！ んぐ、んっ</p><p>ごくりごくりと喉を鳴らし、奥に次から次へと放たれる精をノームは飲み込んでいく。</p><p>んんんんぶぅっ</p><p>しかし、その余りの量についに飲みきれず、ごほごほと咳き込んで彼女は口の端から白濁の液を垂らした。口から離されてもなおも吹き出す精液が、彼女の顔や髪にかかり、白く穢していく。</p><p>も、申しわけございませんすごい量それに、こんなに濃いなんて</p><p>顔についた精液を掬い取って口に含み、ノームは恍惚とそう呟いた。しかし、それが演技であることをOlは見抜いている。彼の目的は、その余裕を砕いてやることだ。そして、ノームの方もそれを狙っている。</p><p>では入れるぞ。足を広げろ</p><p>はい</p><p>ノームは恥かしげに、しかし惜しげもなく脚を開いた。うっすらとした繁みの奥に隠されたそこは色素の沈着も無く、綺麗な桃色の奥を覗かせていた。</p><p>処女と言うのは本当のようだな。いいのか？</p><p>リルの見立てが間違う訳もないが、態度や技巧はとてもそうとは思えない。</p><p>ええ。あたしを一番高く買って下さる方に捧げるつもりでしたから</p><p>ノームは指でそこを広げ、Olに見せ付けた。</p><p>どうぞ、奪ってください</p><p>頷き、Olは彼女の膣口に先端を当てて馴染ませると、腰を抱いて一気に半分ほど突き入れた。</p><p>っ</p><p>さすがに痛みがあるのか、ノームは顔をしかめる。</p><p>大丈夫です、どうぞあたしの身体をお楽しみください</p><p>しかし気丈に笑顔を浮かべて見せると、脚をOlの腰に回して自ら彼を奥へと誘った。</p><p>小柄な彼女の身体はぎゅうぎゅうとOlの物を締め上げ、それを千切らんばかりに狭くきつい。しかしそれが逆に、抽送を始めると凄まじい快楽を彼に与えた。</p><p>いかがですか？</p><p>しかし、そのキツさは単に処女であったことと、身体の小ささに由来する物ではなかった。ノームは腹にぐっと力を入れて中の圧力を自在に操る。処女の身でありながら、努力によって鍛えられた性技がそこにはあった。</p><p>くっ、これは！</p><p>ぐにぐにと動き、Olに精を吐かせようと締め付けるその膣内に、Olは呻いた。リルとの性交に慣れていなければ、既にイカされてしまっていたことだろう。体内の欲求が、彼女の中に精を吐き出したいと大声で訴えかけるが、Olはそれを黙殺する。</p><p>ノームを屈服させるには、魔術も媚薬も使わずに彼女を絶頂に至らしめなければならない。魔術や媚薬の様な物を使えば、すぐにノームはそれに気付く。それでは、彼女を屈服させることが出来ない。逆にノームは、Olの身体を絶頂へと導くことで、優位を確保しようと全力を尽くしていた。</p><p>これはいうなれば、情交を通じた戦いである。</p><p>ああっ、Ol様ぁ</p><p>奥を突いてやると、ノームは気持ち良さそうに首を振り、善がる。しかしこれも擬態だ。技巧はともかく、彼女の身体はついさっきまで処女だった物だ。中の性感は殆ど発達しておらず、どれだけ突いてもさほどの快楽は感じていない。</p><p>ならば、とOlは淫核を責めに転じる。彼女の膣内を擦り上げながら、愛液をローション代わりに指先に塗りこんで、包皮の上からやんわりと指を這わせる。</p><p>んぅっ</p><p>これはそれなりの効果を上げた様で、ノームは初めて素の声を漏らした。</p><p>ああ、それいいです、もっと、して、下さい</p><p>とは言えそれを億尾にも出さず、更に艶かしくOlを誘う。Olは淫核を責めながら、もう一方の手で彼女の胸を揉みしだいた。</p><p>ああん、気持ちいいです、Ol様ああ、素敵ぃ</p><p>ノームは胸を突き出し悶えた。感じていることは間違いないが、まだまだ余裕がある。その間にも彼女の膣はOlの一物をずっぷりと咥え込み、きゅうきゅうと締め上げる。</p><p>快感を堪えながら、Olは思考をめぐらせた。処女でありながらこの技巧、慣れ方はおかしい。が、リルの見立てでもOlの見た限りでも、彼女が処女である事は疑いようが無い。膣内の発達度合いでも、それは見て取れる。</p><p>しかし、一人で練習していただけにしては慣れすぎているのも確かだった。これは男を知り尽くし、何度も相手にしたことがある女の態度だ。Olはそこまで考えて、正解へとたどり着いた。</p><p>突然、ノームが高い声を上げる。演技ではありえない、突発的な嬌声だ。そして、その尻の穴にはOlの指がずっぷりと埋まっていた。</p><p>あ、あそ、そこは</p><p>直腸の掃除もしっかり済ませているとは流石一流の商人、準備がいいな。それどころか、馴らしもせずに指が二本も入ったぞ</p><p>オ、Ol様、そこは駄目です、違います</p><p>ノームの声は明らかに上ずり、余裕をなくしていた。</p><p>何が違うんだ？ お前のここはこんなに喜んでいるぞ</p><p>ぐりっと指を捻りながら腰を突き入れてやると、それだけで彼女はガクガクと身体を震わせ、びゅうびゅうと潮を吹いた。随分馴らされたのだろう、尻穴はOlの指にぴったりと吸い付き、離すまいとするかのように咥えこむ。</p><p>処女のまま尻を開発されたか。どこの誰がやったか知らんが、随分趣味のいい話だな</p><p>あああ、お許しください</p><p>顔を真っ赤にし、ノームはいやいやをするように首を振った。自分の意思ではなく、誰か他人によってそう仕込まれたことは明白だった。恐らく、どこかの好きものの貴族にでも飼われ、逃げ出すか恩赦かで自由の身を手に入れ、商人として一人生きてきたのだろう。</p><p>Olは指を引き抜き、彼女の身体を抱えると四つん這いにさせた。</p><p>だが、手垢の付いた場所を攻めるのも興が削がれる。こっちの良さを俺が教え込んでやろう</p><p>ああっ、駄目っ、駄目ぇぇっ！</p><p>そのまま、後ろからOlは突き入れた。尻でするのなら、自然と体位はこの形になる。突き入れられる場所は違えど、その記憶を思い出したのかノームは快楽に震えた。</p><p>一度快楽に火がついた身体は、そう簡単には静まらない。むしろ、一度弄られた事で彼女の身体は快楽を欲し、淫らに悶えた。</p><p>ああああっ！ Ol、様ぁぁぁっ！！</p><p>逃げるように離れようとするノームの腰をぐっと両手で掴み、Olは奥に精を放つ。形代の身体の中の、魔力で作った擬似精液だ。子を孕むことはないが、その分凄まじい量を出す事が出来る。</p><p>こ、こんなっ！ 凄い、熱いのがっ！ どくどく、入ってっ！</p><p>まだまだだっ！</p><p>Olは精を放ちながら、ずんずんと腰を突き入れる。</p><p>あーっ！ あぁーーっ！！ すごっ、よぉっ！ でなが、ぁ、突かれっ！イっちゃ、ぁ！ おまこ、で、イっちゃううううううっ！！</p><p>ノームは再びびゅうっと潮を吹き、身体をそらして気をやった。彼女が絶頂に達した後もOlの精液は噴出をやめず、彼女の腹がぽっこりと膨れ上がるほどに胎内へと注ぎ込んだ。</p><p>あはぁぁ</p><p>Olが一物を引き抜くと、涎と涙にまみれ、呆けた顔でノームはベッドにどさりと横たわった。ごぽ、と音を立て、その股間からどろりとした白濁液が滴り、シーツを穢す。</p><p>次は、膣内だけでイけるようにしてやる。金を払い続ける限り、お前は俺の物だ。いいな？</p><p>はい</p><p>掠れた声で、辛うじてノームは答える。Olはそれを見て満足げに頷いた。</p><p>この攻防に、直接的な意味はさほど無い。勝とうが負けようが取引は成立するし、お互いに情欲に溺れて相手の言いなりになるような玉でもない。</p><p>しかしお互いに、意地をかけた勝負であったと、Olは認識していた。或いはそれはどこか似た境遇で暮らしてきた相手に対する対抗心の様な物だったのかもしれない。利を求め、慎重に、狡猾に立ち回るという点においてノームとOlは良く似ていた。</p><p>では、また来る。代金等の支払いはその時だ</p><p>畏まりました</p><p>身支度を整え、背負い袋を背負ったOlを、ノームは店の入り口で見送った。</p><p>Olー、準備できたよー</p><p>そこに、大通りを同じように支度を整えたリルが駆け寄ってくる。</p><p>最後の契約もしっかり守ってくださいね</p><p>最後の契約？</p><p>きょとんとするリルと共に、Olも首を傾げる。</p><p>次は膣内だけでイけるように仕込んでくださると約束したじゃないですか</p><p>にこやかに答えるノームに、リルのこめかみが引きつる。</p><p>Ol？ 次って何かしら？女には困ってないって大見得切ったのはどこの誰だったっけー？</p><p>ただの取引の一種だ</p><p>はあ。別にいいけどね。全くもう、このエロ爺</p><p>何百年も平気で生きる悪魔に爺と言われる筋合いはないな</p><p>残念でした、私は少なくともOlよりは下だからね</p><p>喧々諤々と言い合う二人を見て、ふとノームは違和感を感じた。彼女のギフト真実の瞳は既にOlの実年齢が83であることも、リルが悪魔であることも見抜いている。しかし、そこに何か一瞬、違和感を感じたのだ。</p><p>思わず目をゴシゴシと擦ると、Olに不審げに見られたのでノームはもう一つの気になっていたことを問う。</p><p>そういえば、その荷物ですが、どこかへ旅にいかれるんですか？</p><p>言われるままに用意した旅装をさして、ノームは尋ねた。</p><p>Olは頷き、杖を構えなおした。背負い袋を背に、杖を構えたその姿は冒険者の若い魔術師にしか見えない。</p><p>ちょっと、魔王を倒しに行ってくる</p><p>Olはニヤリと笑みを見せ、そう言った。</p><p>第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-1</p><p>腕のいいシーフを紹介してもらいたい</p><p>酒場で酒を飲んでいたキースに、Olはそう切り出した。</p><p>よし来た！ それなら俺だ、俺を連れてきな</p><p>嬉しそうにそう答え、キースは立ち上がろうとした。</p><p>いや、悪いが出来れば女がいい</p><p>Olがそう答えると、キースは椅子に腰を下ろしなおし、彼を不審げに見た。</p><p>女が？ そりゃまた、何でだ</p><p>キースは言外に、妙なことをするんじゃないだろうな、と剣呑な雰囲気を匂わせ低い声で問う。</p><p>実はな</p><p>Olは声を潜め、背後のリルを示した。</p><p>あの女は人間じゃない。俺の召喚した淫魔だ。こうして俺が傍で制御している分にはいいが、目を離したり俺が気絶したら周囲の男を襲うかも知れん。快楽と引き換えにカラカラのミイラになってもいいなら、ついてきてもいいが</p><p>リルは帽子を軽く持ち上げ、ちらりとキースに角を見せる。</p><p>い、いや、遠慮しとく</p><p>キースは顔を引きつらせ、そう答えた。</p><p>しかしそうなるとそうだな</p><p>冒険者に女の比率はそう高くない。全くいないわけではないが、比率は1:9と言ったところだろうか。</p><p>あー、アイツがいたか。おい、Faro！</p><p>酒場の中を見回していたキースの目が、一箇所で止まる。その先には、小さな少女が口一杯に黒パンを頬張っていた。</p><p>ふぁひー？</p><p>もぐもぐとパンを咀嚼しながら、少女は行儀悪く返事を返す。ちょっと来いと手招きするキースに、彼女はテーブルの上のチーズを2,3欠け手に取りながら近寄ってきた。</p><p>コイツはFaro。ちっこいなりだが、腕は保障するぜ</p><p>近くで見ると、その少女はかなり小さかった。小柄なユニスやShalと比べてもなお小さい。マリーと同じか、少し高い程度だろうか。</p><p>ふわふわした金に近い茶色の髪を短く切り、大きな口でチーズを齧るその様子は子供の様に見えるが、注意深くOlを観察する緑の瞳は子供にはない慎重さと知性を感じさせる物があった。</p><p>クドゥクか。珍しいな</p><p>Olが言うと、Faroは驚いたように目を開いて、チーズをごくんと咀嚼した。</p><p>知ってるんだ。こっちの連中はみんな、半分野郎(ハーフリング)なんて失礼な呼び方しやがるけどね</p><p>クドゥク、通称ハーフリングと呼ばれる彼らは、西方に住む小人族だ。草原の妖精などと言われる事もあるが、アールヴやドヴェルグと違ってあまりその出自はハッキリしていない。小柄なぶん力は弱いが、それを補って余りあるほど身軽で器用な手先を持ち、目や耳も良い。</p><p>保守的で平和を好む彼らは滅多に故郷の村を出ず、他の種族と付き合うというような事も少ない。殆ど知られず、人間の子供と間違われることも多い。そんな中で推薦されるくらいだから、腕は確かなのだろうとOlは踏んだ。</p><p>こっちのテオが腕の良い女シーフを探してるんだとよ</p><p>ふぅーん</p><p>Faroはじろじろと無遠慮にOlを眺め回した。</p><p>そだな、ご飯奢ってくれるんならいいよ。一応聞くけど、この三人で潜るってわけじゃないんでしょ？</p><p>ああ。他に三人ほど仲間がいる。戦力的には十分なはずだ</p><p>オッケー！</p><p>Faroはカウンター前の椅子に飛び乗ると、奥に向かって叫んだ。</p><p>マスター、料理テキトーに10人前持ってきて！</p><p>ふー、おなか一杯</p><p>ぽんぽん、と膨れた腹を叩きながら、上機嫌でFaroは言った。</p><p>えーとテオさんだっけ。あんたお金持ちだねー。まさか止められる事無くおなか一杯食べられるとは思わなかったよ</p><p>ちょこちょこと歩く彼女を連れて、Olは迷宮の入り口へと向かっていた。入り口はノームの店の更に奥、街の端に位置している。</p><p>迷宮の入り口の手前に、その三人は立っていた。大、中、小とバラバラの身長が並んだその人影は、全員フードを目深にかぶって顔を隠しており、怪しいことこの上ない。</p><p>警戒に歩みを止めるFaroに、Olは問題ない、仲間だと声をかけた。</p><p>待たせたな</p><p>Olが三人に声をかけると、一番背の高いものが答えた。その声色から、Faroは答えた者が女だと気付く。それどころか、誰であるかにすら思い当たった。</p><p>ねえ、この人って</p><p>話は迷宮に入ってからだ。ここでは人の目がある</p><p>う、うん</p><p>促すOlにこくりと頷き、六人の冒険者は迷宮への階段を下りていった。</p><p>酷い臭いだな</p><p>腐臭と死臭、血の臭い。それに瘴気がブレンドされた凄まじい悪臭に、Olは顔をしかめた。</p><p>臭いなんて気にしてたら、冒険者なんてやってられないよ。ねえ、そんなことより、あんた達ってさ</p><p>Olが目配せをすると、三人はフードを下ろす。その下に現れた顔は、Faroの予想したとおりの物だった。</p><p>やっぱり！ あんたたち、アラン遊撃隊の三人じゃないか！壊滅したって聞いてたけど、生きてたんだね！じゃあテオ、あんたがアラン？ いや、違うか、女と見紛うばかりの美少年って話だもんね。それに、残りの一人のあんたは？</p><p>Faroはリルを見つめ尋ねる。</p><p>コイツは俺の使役する使い魔だ。この三人は死んだことになっているからな。あまり騒ぎ立てられたくなかったから、ああしてフードを被ってもらった</p><p>はーじゃあ、リーダーのアランを助けに行くってわけ？テオは、その為に雇われた魔術師って所？</p><p>まあ、そんなところだ</p><p>Olの適当な説明に、なるほどね、とFaroは頷いた。</p><p>でもアラン遊撃隊って、ここにいたのは結構前だよね。このダンジョンは日々拡張されてて、今は数ヶ月前よりもっと危険になってる。第二階層までは案内できるから、注意してあたしについてきて</p><p>真剣な表情で言うFaroに、一同頷く。</p><p>火口から火をつけた松明を掲げ、一行は探索を開始した。ナジャ、リル、Faroの三人が前衛を務め、Ol、ウィキア、Shalが後衛からそれをサポートする形だ。</p><p>Faroが松明を掲げて蜘蛛の巣を焼き払い、ウィキアが腰にランタンを吊り下げる。Olは杖の先に魔術の光を灯し、明かりとした。不意の事態に備えて灯りを複数確保するのは、冒険の基本中の基本なのだと言う。</p><p>この松明はいざとなれば投げ捨ててもしばらくは消えないし、火に弱い敵に対しては武器にもなる。だから、このパーティじゃ前衛で片手の空くあたしが持つのが一番なんだ</p><p>Faroの講釈を聞きながら進んでいくと、ギイギイと耳障りな声を上げてゴブリンの一団に遭遇した。</p><p>即座にナジャが抜刀して切り込み、それをフォローするようFaroもゴブリンの背後に回って短刀を突き刺す。</p><p>あ、ちょっとまって</p><p>最後の一匹を殺そうとした所でリルが口に指をあて、ちゅっとキスを投げる。すると、ゴブリンの瞳がどんよりと濁り、ふらふらとリルの元へと歩いていく。</p><p>これに松明もたせましょ</p><p>おー、便利だね</p><p>Faroは感心し、ゴブリンに松明を手渡した。</p><p>第一階層に住む妖魔たちは、それほど強くない。巨大蜘蛛や巨大蝙蝠、野犬などを切り伏せながら、松明を持つ役はオーク、コボルト、オーガと強化されていった。</p><p>暇ですねー</p><p>にこにこしながら、Olの左手でShalが呟く。ナジャの剣の冴えもさることながら、予想以上にFaroが強い。素早さだけで言うなら、ナジャはおろかアランも越えているだろう。力はけして強くないが、彼女は敵の隙を誘い、集団をかき回す術を熟知していた。</p><p>まあ、それも第一階層の間だけ。私達は魔力を温存するべき</p><p>Olの右手で、ウィキアが冷静に言った。</p><p>っと、折角だしちょっと寄ってくか。ここが、先生の部屋だよ</p><p>途中、粗末な木製扉の前でFaroが足を止めた。扉には、恐らく冒険者がつけたものなのだろう。先生の部屋と書かれた鉄のプレートがかかっていた。</p><p>先生？</p><p>Olが思わずリルに視線を送ると、彼女はふるふると首を横に振る。彼女も知らない存在らしい。</p><p>そう。この迷宮に潜る冒険者なら、大体皆お世話になる相手さ。テオ、見たトコあんた、魔術は凄いけど戦闘経験あんまりないみたいだから、ちょっと先生に鍛えてもらうといいよ</p><p>そういい、Faroは扉を開けた。するとそこには、半透明の中年男が空中にふわふわと浮いていた。要するに、死んだ男が迷宮の瘴気をまとって亡霊化したものらしい。その未練が強ければ強いほど強力な亡霊になり、迷宮に瘴気がある限り何度でも蘇る。</p><p>それが、戦闘訓練に手ごろな強さで、かつ何らかの理由でこの場所に縛られているのだろう。それが先生と呼ばれ、訓練相手にされているのだ。</p><p>あっ</p><p>リルがその亡霊を見て、妙な声を上げた。</p><p>ゴアアアアアアア！</p><p>その途端、亡霊は雄叫びを上げてリルに襲い掛かる。その両眼は血の涙を流しているかのように紅く輝き、完全に正気を失っている。</p><p>うわっ、何！？ どうしたの、先生！？</p><p>Faroが驚きながらも、短刀を振るった。亡霊は生きている物とは異なる法則に従って存在している。物理的な攻撃は殆ど通用しないが、意思を込めた攻撃であれば散らす事が出来た。</p><p>テオ、亡霊には火も氷も効かない。魔術は基本的に役に立たない。けど、一つだけ有効なものがある</p><p>亡霊の攻撃を避けるリルを冷静に見つめながら、ウィキアが言う。</p><p>なるほど。こうか</p><p>Olは印を組み、魔術の一節を唱えた。魔力で出来た鎖が四方から伸び、亡霊を捕える。ただの鎖ではない。生きているものは触れることも出来ないが、この世ならざる物を繋ぎとめ、こちらの世界に実体化させる鎖だ。</p><p>鎖に囚われ動きが止まった瞬間、ナジャが亡霊を真っ二つに両断した。</p><p>ギアアアアアアアア！！！</p><p>亡霊は断末魔の叫びを上げながら、虚空に消えていった。</p><p>ふー、びっくりした。先生、普段はもっと紳士的に、まるで冒険者を鍛えるように戦ってくれるんだけど亡霊にも機嫌があるのかな</p><p>汗を拭い、Faroがそう言った。</p><p>どうした</p><p>何か言いたげな目で見ているリルに、Olは問い掛ける。</p><p>今の幽霊、ゲオルグだ</p><p>ゲオルグ？ 知り合いか？</p><p>小声で答えるリルの挙げた名前に覚えがなく、Olは首をかしげた。</p><p>知り合いって言うかほら、最初の村の村長だよ</p><p>ああ</p><p>そういえばあんな顔をしていた気もする、とOlは思い出した。リビングデッドからスケルトンに加工されてユニスに破壊されたはずだが、亡霊となって復活するとは中々見上げた根性だ。</p><p>そういえばここはリルがスケルトン作成作業に使っていた辺りになるのか、とOlは改めて辺りを見回した。あの頃はまだ階層も一つしかなく、リルと二人きりのダンジョンだった。思えば、この迷宮も大きくなった物だ。</p><p>そんな風に感慨深げに辺りを見ていると、同じような顔をしているリルと視線があった。クスリと微笑むリルに、思わずOlも僅かに頬を緩める。その腕を、ぐいとウィキアが引っ張った。</p><p>さあ、ぐずぐずしているとまた亡霊が復活します。さっさと先に行きましょう</p><p>逆の腕を、Shalが抱きしめるように取る。</p><p>そうですね、まだまだ先は長いんですから</p><p>さあFaro、奥へと案内してくれ。リラズ、ぼうっとしてないで前を向いてくれ</p><p>リルの腕を引き、ナジャが促す。</p><p>なんだか妙な一行だ、と思いつつも、Faroは頷き、探索を再開した。</p><p>第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-2</p><p>さて、いよいよここで第一階層はお終いだ。今から扉を開けるけど、絶対に中に入っちゃ駄目だからね。いい？</p><p>地下4階。大した弊害もなくスムーズに探索を続けていったOl一行は、しっかりとした作りの扉の前についていた。コボルト達によって日々勝手に拡張され、今では第一、第二階層の構造はOl自身全く把握できてはいないが、ここに配置されている魔物だけはわかる。Olは重々しく頷いた。</p><p>それを確認し、Faroは扉を開ける。扉の中は何の変哲もない、広い部屋だった。中には剣や鎧が転がっている。</p><p>魔物、いないように見えるでしょ？ところが、実はこれ、部屋一杯にスライムが満ちてるのさ</p><p>Faroが開いた扉に向かって短刀を振るうと、ぐじゅりと音を立ててスライムの一部が転がり落ちた。無色透明のそのスライムは、じわじわと地面を這いずって扉へと向かい、やがてもとのスライムと一体化する。</p><p>ゼラチナス・キューブ。透明な立方体のスライムだ。形があるからこうやって剣でも切れることは切れるんだけど、すぐ元に戻っちゃう。向こうに扉が見えるだろ？</p><p>Faroの指差す先、部屋の対面の壁には目の前にあるのと似たような扉があった。</p><p>あれが第二階層への扉だ。あれをあけるには、あそこまでこのキューブを焼き払うか、防御膜で中を泳いでいくかしないといけない</p><p>どちらにせよ、これだけの巨体だ。魔術で全て焼き払うことは不可能で、どうにかやり過ごすしかない。勿論、Olがそう設計し、スピナに命じて作らせたのだ。巨大な部屋の対面の扉が見えるほどの透明性には、Olも感心したものだった。</p><p>では俺が燃やそう</p><p>Olは印を組み、呪文を唱え始める。その後ろで、ウィキアがそっと彼の身体に触れた。形代には殆ど魔力を溜めておけない。だから、Olがこの身体で魔術を使う場合は、魔力をその身に宿した女達を傍に置く必要があった。</p><p>貯蔵量は、リル、ウィキア、Shal、ナジャの順といったところで、全員分を合わせれば一流の魔術師数人分の量は優にある。</p><p>Olが仕込んだ魔力と、彼女達が元々持ち合わせている魔力は、いうなれば脂肪と胃袋の中身の様なものだ。胃に詰め込める食料には限度があるが、すぐに栄養になる。脂肪は胃の中身をはるかに越えて溜め込めるが、自分の意思で使うことは出来ない。</p><p>焼け</p><p>Olが呪文を完成させると、炎が槍の様に伸びてキューブに穴を開けつつ、奥の扉へと届いた。</p><p>急いで！ すぐに元に戻るよ！</p><p>腰のホルダーからピックを取り出しながら、Faroは走った。小柄な身体に相応しいすばしっこさであっという間に扉に辿りつくと、その鍵穴にピックを突っ込んでかちゃかちゃと弄り回す。</p><p>そうする間にもキューブの穴は、徐々に埋まり始めていた。傷が治っている訳ではない。何か餌を食べない限り大きくなることはないが、全体的に小さくなりつつも正方形を維持しようとする習性があるのだ。</p><p>開いた！</p><p>カチン、と音がして扉が開く。一行はなだれ込むように扉の先へと向かった。全員が扉の向こうに出たことを確認し、Faroはばたんと扉を閉める。再びカチンと音がして、扉の鍵が自動で閉まった。</p><p>ふぅここからが、第二階層さ。帰りは、向こうの扉に鍵がかかってないから楽なんだけどね。あと、扉は絶対に閉めるんだよ。前、くさびで開けっ放しにした馬鹿がいて、大変なことになったんだ</p><p>大変なこと？</p><p>なるほど、部屋の中から開けるときだけ鍵がかかるようにすると犠牲者を増やせるか。そんな事を考えながらOlが問うと、Faroは頷いた。</p><p>キューブの一部が迷宮に飛び出して、ゴブリンを大量に食べて巨大化。冒険者総出で焼き払ったんだけど、本当、大変だったよ</p><p>いいながらFaroは蝋石の様なものを取り出して、地面に円を描き始めた。手早くその縁に模様を描き、バックパックからガラス瓶を取り出すと、その中の液体を一滴、円の中にたらす。すると、魔法円が光り輝き、周囲から何も寄せ付けない結界となる。</p><p>これ、キャンプって呼ばれてるものでね、この陣を覚えて、この蝋石で書いて、聖水を一滴垂らすと簡単な結界になるって言う優れものなんだ。魔術屋で、銀貨10枚で1セット売ってるよ。さ、ここでちょっと休憩しよう</p><p>そういって、キャンプの中にFaroは腰を下ろす。それに倣って座りながら、Olはしげしげとそれを見つめた。Faroには魔術の素養はないし、彼女自身魔力を使ってもいない。ダンジョンの中に溢れている魔力を利用して防御結界を張っているのだ。</p><p>冒険者達の発想に、Olは感心した。</p><p>この階層から、敵が一層強くなるから気をつけてね。ゴブリンだのオークだの、ケチな連中は出てこない。第二階層は外郭と内郭に分かれてて、内郭にはリザードマンやハッグみたいな、人型の連中。外郭にはワイヴァーンやハルピュイア、グリフォンみたいな魔獣が出てくる。どっちも強敵だから、気を抜かないで</p><p>Faroが外郭と呼んでいる領域は、空飛ぶ魔獣の為にOlが用意した放牧区のことだ。地上から第二階層に直通の大穴がいくつか開いていて、そこから空を飛べる魔獣たちが迷宮に入ってくる。身体の大きな彼らの為に、大きな部屋を幾つも用意していたはずだ。</p><p>ただ、そう悪いことばかりじゃない。この階層には、友好的な魔物も結構な数いるんだ</p><p>友好的だと？</p><p>予想だにしない言葉に、Olは思わず鸚鵡返しに問い返した。</p><p>うん。特にリザードマンとか、ケンタウロスは割りと話が通じるよ。あっても刺激しなきゃ、戦闘を免れることは多い。運がよければ、交渉次第で呪具や情報を聞くことも出来るよ。お酒や食料が特に喜ばれるね</p><p>Faroの説明に、Olは内心舌打ちした。言葉が通じる魔物は比較的Olに従順だが、その分冒険者に与する者も多いという事か。かといって、一人ひとり従属の呪いをかけるわけにも行かないし、これはある程度仕方がないことかもしれない。</p><p>と言っても、大多数は敵対してくるから油断はしないで。中には友好的なフリをして騙し討ちを仕掛ける魔物もいるからね。外郭の魔獣は強いから出来れば立ち入りたくないんだけど、下に下りるためには絶対に外郭も通らなきゃいけない構造だから大変だ</p><p>直接、転移で下層にいけないのか？</p><p>Olは答えを知りながら、あえて聞いてみた。Faroは首を横に振る。</p><p>駄目。3層以下は、そもそも対転移結界がはってあるから転移できない。第二層までは、転移できるんだけどお勧めはしないね</p><p>毎日、形が変わってるから</p><p>端的にFaroは答えた。</p><p>コボルトやダンジョンリーチでっかい芋虫みたいなのが、勝手にダンジョンの形を変えてるんだ。お陰で、転移で安全な場所に行こうとした連中が、魔物の巣の真っ只中に放り込まれたり、酷いと石の中に転移してそのまま埋まって死んじゃったり、何てこともある。転移するなら、帰り道だけだね</p><p>それは有名な話なのか？</p><p>Olが尋ねると、Faroは首を横に振った。</p><p>仲間内では出回ってるけどね。わざわざ他人に教えてあげるような親切な奴はいないよ。それなりの腕を持ったパーティが意気揚々と転移して、二度と帰ってこなかった、何てのもよくある話さ</p><p>これは嬉しい誤算だった。一度知られれば使えなくなるような類の罠でも、ある程度冒険者の数を減らすのには有効と言うことだ。</p><p>さて、そろそろ進むとしよっか</p><p>パンパンと尻を叩きながらFaroが立ち上がる。形代を動かしているOlには体力の消耗はないが、回復もない。胎内のOlの魔力を利用して回復できるリルや、歴戦の冒険者であるナジャ達もまだまだ問題なさそうだ。</p><p>Olは頷き、結界を消して先へと向かった。</p><p>ここからは外郭。空を飛ぶ相手が多いから、よろしくね</p><p>狭い通路を抜けると、一気に天井が開けた。上を見上げると、はるか上に青い空が見える。他の場所に比べれば空気は澄み、明るい日差しが降り注いでいた。縦穴の一つだ。</p><p>Faroは弓を構えながら、後ろの魔術師二人に声をかけた。空を自由に舞う敵に対しては、魔術は弓以上に有効だ。</p><p>ここでは私はあまり役に立たないかもなShal、防御はよろしく頼んだぞ</p><p>はいっ</p><p>剣を肩に乗せて呟くナジャに、Shalが元気よく頷く。グリフォンや飛龍であれば攻撃しに降りて来た時に反撃も出来るが、キマイラやマンティコアの様に火を吹いたり毒針を飛ばして空中から攻撃されては、剣しか使えない彼女は手も足も出ない。</p><p>早速、きた</p><p>ウィキアの静かな警告に一同が顔を上げると、ばさばさと翼の羽ばたきと共に三匹の魔獣がギャアギャアと鳴きながら空中を旋回していた。</p><p>あれはハルピュイアか</p><p>弓に矢をつがえ、Faroが呟く。ハルピュイアは、女の顔と鳥の翼を持つ魔獣の一種だ。それほど強くはないが頭がよく、脚で器用に石を掴んで投げ放ってきたりする。</p><p>戦闘に備えて身構えるFaroを、Olは腕を横に伸ばして制した。</p><p>待て。あれはどうも、友好的なようだ</p><p>またあ？</p><p>Olの言葉に、Faroは大げさに呆れ、肩の力を抜いてガックリした。</p><p>まおーさまだ</p><p>え、ほんと？ ほんと？</p><p>まおーさま、まおーさま、こんにちは</p><p>他の物にはぎゃあぎゃあと言う喚き声しか聞こえない言葉で、ハルピュイア達は口々にOlに挨拶する。</p><p>この者たちは仲間だ、降りて来い</p><p>はーい</p><p>Olがハルピュイア語で話しかけると、三匹のハルピュイア達はくるくると回りながらOlの目の前に降り立った。</p><p>まおーさま、まおーさま、どうしてここにいるの、まおーさま</p><p>まおーさま、おなかへった、ごはんある？ まおーさま</p><p>まおーさま、なんでニンゲンといっしょにいるの？</p><p>口々に騒ぐハルピュイア達はひどくかしましい。Olは背嚢から食料を取り出すと、ハルピュイアに分けてやった。食事をしている間だけは、彼女達は静かになる。</p><p>リザードマンにケンタウロス、ケイブジャイアントにマーメイド、ハッグとまで話してた時は驚いたけど何なの？ あんた、実は魔物使いか何か？</p><p>まあ、そんなようなものだ</p><p>第二階層にいる魔物達の大部分は、Olが直接契約を結んだ魔物たちだ。殆ど獣に近い魔獣の類を除いて、Olと敵対するものはいない。彼らは戦闘らしい戦闘もなく、第二階層の中ほどまで進んでいた。</p><p>さすがに外郭の魔獣とは戦闘になるだろうと気を引き締めたところに、鳩か何かの如くOlの手から食料を食べるハルピュイア達だ。Faroは完全に毒気を抜かれ、驚きを通り越して呆れていた。</p><p>まおーさま、まおーさま、おいしかった、ありがとー</p><p>まおーさま、まおーさま、おれい、おれい</p><p>まおーさま、まおーさま、きてー</p><p>ハルピュイア達が、Olの服を掴んでぐいぐいと引っ張る。</p><p>なにやら礼をくれるらしい。少しここで待っていてくれ</p><p>待っていろ、って</p><p>ここはこいつらの縄張りだ。他の魔物は入ってこない。休んでてくれ</p><p>あ、ちょ、ちょっと！</p><p>呆然とするFaro達を置いて、Olはハルピュイアの足に捕まり、空中を飛んでいく。</p><p>なあ、あれってさ</p><p>でしょうね</p><p>いいなぁ探索終わったら、あたしも</p><p>ヒソヒソとナジャが声をかわし、ウィキアがこめかみを引きつらせながら杖をぎゅっと強く握る。Shalは指を咥えながら、モジモジと太股をすり合わせた。</p><p>あー私ちょっとご主人様の様子見てくるね</p><p>そう言って翼を広げるリルの両腕、翼を、冒険者三人娘は絶妙な連携で拘束した。</p><p>待っていろと言われただろ</p><p>抜け駆けは駄目ですよー</p><p>あなたまで行ったら余計長引くでしょ</p><p>離して、行かせてー！</p><p>イかせて欲しいのはこっちですよ！</p><p>青空の下に、Shalの叫びが響き渡った。</p><p>第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-3</p><p>ハルピュイアの巣は縦穴の中ほど、壁面に出来たくぼみの中にあった。外から取ってきたのか、木の枝や葉が敷き詰められ、意外と踏み心地は悪くない。</p><p>まおーさま、おれい、おれい</p><p>きもちいーこと、しよー？</p><p>まおーさまの、こども、うむ</p><p>ハルピュイアは巣にOlを運び込むと、すぐさま彼に圧し掛かった。良くも悪くも彼女達は節制という事を知らない。</p><p>顔付きは無邪気な子供そのもので、大きな瞳にくるくると巻いた金髪、人間の目から見て十分愛らしいといって良い顔立ちをしている。口の中には鋭い牙が並んでいるが、ちょっと口を開くくらいなら可愛らしい八重歯に見えなくもない。</p><p>顔立ちに反して豊かな双丘と、その下のきゅっとくびれた腰、金の繁みに隠された秘裂に、白い太股の中ほどまでは人間のものだ。</p><p>腕の代わりに肩からは茶色の大きな翼が生え、太股の途中からは羽毛に覆われていて、膝から下は細かい鱗に覆われた細い鳥の脚になっている。</p><p>Olがハルピュイアの脇に手を伸ばし、持ち上げてやると驚くほど簡単に持ち上がった。脚が人間に比べれば短く、小柄だという事を考慮してもなお軽い。骨自体の重さが、地上を歩く生き物とはまるで違うのだ。</p><p>Olが抱え上げると、ハルピュイアの股間からは愛液が滴り落ちた。彼女達は何よりもその貪欲さで知られている。食欲にせよ性欲にせよ、我慢を知らず好きなだけ貪りつくす。</p><p>んーっ、んんーっ！！</p><p>抱き上げたハルピュイアに対面座位の形で突き入れ、残りの二匹の秘部にも指を入れてやると三匹のハルピュイアはパタパタと軽く羽ばたいてバランスを取りながら涎を垂らして善がった。</p><p>Olのペニスを咥え込んだハルピュイアが、Olの首筋に鼻先を近づけると、かぷりと軽く噛み付く。</p><p>マズイー</p><p>そして、うえぇ、と顔をしかめた。</p><p>今日の身体は形代だからな。今度、血くらい飲ませてやる</p><p>ほんとー？ ほんとー？</p><p>うでもかじっていい？</p><p>あたしはまおーさまのこどもほしいー</p><p>口々に騒ぐハルピュイア達はどうにも情緒にかけるが、Olも別に情事を楽しみにだけきたわけではない。</p><p>少しならかじって良い。その代わりちょっと思い出せ。最近、この辺りで何か変わったことはあったか？</p><p>Olの問いに、ハルピュイア達は揃ってうーんとと考え込んだ。</p><p>さいきん、ニンゲンすくないよ</p><p>おそとのもりにしろいのいたよ</p><p>あっちにピカピカひかるみずがあったよ</p><p>そして口々に情報を口にする。魔獣にしては知能が高いとは言え、その頭は人間の子供くらいのものだ。しかし、好奇心が強く、闇でも見通せる良い目と早く飛ぶ翼を持つ彼女達は、思った以上に様々な情報を集めていた。その解釈は、Olの頭でしてやればいいだけだ。</p><p>最近人間が少なくなった理由は、フィグリア王国をOlの手に収めたからだろう。冒険者に所属する国はないとは言え、一国の王を敵に回すことを恐れる者も少なくはない。</p><p>しかしそのうち、Olを倒して国を手中に収めんとする野心と実力を持った冒険者達がやってくるはずだ。長期的に見れば、勢力を広げるほうが迷宮に瘴気がたまる速度は早くなる。</p><p>森にいた白いの、とは白アールヴの事かもしれない。ハルピュイアは東西南北と言う概念を持っていないから細かい場所は聞けないが、探してみればエレン達の敵が見つかるかもしれない。ハルピュイアの行動範囲を思い浮かべながら、Olは心のメモに書きとめておく。</p><p>しかし、光る水とはなんだろうか。翼でハルピュイアが指したのは、ダンジョンの奥だった。Olが知らない何かがあるなら、調査しなければならない。</p><p>褒美だ。受け止めろ</p><p>あーっ！ あぁーっ！</p><p>Olがハルピュイアの中に精を放つと、彼女は翼をばさばさと動かしながらそれを享受した。ハルピュイアには恥じも外聞もない。口からだらしなく涎をたらしながら舌を突き出し、快楽を貪る。</p><p>快感に正体を失った彼女を持ち上げて引き抜くと、すぐさま残りの二匹がOlの股間に群がった。</p><p>歯は立てるなよ</p><p>あーぃ</p><p>はーぃ</p><p>Olの一物に付着した精液を懸命に舐め取りながら、ハルピュイア達は元気よく返事をする。魔力を多量に含むOlの精は、彼女達にとっては上下どちらの口で受けても甘露の様な物だ。</p><p>技巧も何もあったものではなく、ただ飴を舐めるように舌を這わせるだけなので大して気持ちいいわけではなかったが、愛くるしい顔を寄せ合いペニスを舐め回すその姿は精神的にOlを満足させた。</p><p>その豊かな乳房の感触を両手で楽しみつつ、そろそろ精液も舐め尽され、どちらに入れてやろうかとOlが思案していると、右手のハルピュイアがOlの一物にがぶりと噛みついた。</p><p>まずいー</p><p>そして、歯に伝わってくる木の感触に顔をしかめる。</p><p>歯を立てるなと言っただろうがッ！</p><p>別に痛みがあるわけではないが、視覚的に気持ちのいいものではない。思わず股間の一物を萎えさせながら、Olは怒鳴った。</p><p>三匹のハルピュイアに支えられ、Olは空中から地面に降り立った。</p><p>なっ、何やってたのあんた！？</p><p>Faroが顔を真っ赤にして叫ぶ。Olが何をしてきたのかは、三匹のハルピュイアの股間から流れ出る白い液体で丸わかりだ。ハルピュイアには服を着るという習慣はないから、隠しようもない。</p><p>やっぱり</p><p>ウィキアが眉をひそめてじっとOlを睨む。</p><p>情報を得てきた。この先に、なにやら光る水とやらがあるらしい</p><p>Olは彼女達の反応を気にした風もなく言った。</p><p>それと、土産だ</p><p>そう言ってぽんと大きな宝石をFaroに渡す。</p><p>えっ、何これ！？ 瑪瑙？ こんなに大きな？</p><p>ハルピュイアが巣に溜め込んでいた物だ。礼として貰った。待たせた詫びだ、受け取ってくれ</p><p>空を飛ぶ魔獣の大半がそうであるように、ハルピュイアも光り物に目がない。宝石から金貨、ただの石まで、キラキラする物であればなんでも巣に持ち寄っては溜め込む習性があった。</p><p>Olはその中から大振りの瑪瑙を選んで、代わりに銀貨を数枚くれてやった。ハルピュイア達は数が増えたと大喜びし、Olに瑪瑙を渡した。</p><p>これ、金貨10枚くらいにはなるんじゃないの？ホントに貰っていいの？</p><p>ああ。俺にとっては大した価値もない</p><p>あのスケコマシ</p><p>と言うかあのハーフリング、チョロすぎないか</p><p>いいなあ、あたしもお土産に精液欲しい</p><p>狙いはわかるけどムカつくなーあの爺</p><p>宝石を貰ってぽうっとなるFaroを陰から見て、こそこそと囁きあう女たち。</p><p>で、光る水とやらに心当たりはあるか？</p><p>Olが改めて問い直すと、Faroははっと我に返り、鞄に宝石をしまいながら答える。</p><p>あ、うん。多分、回復の泉じゃないかな</p><p>回復の泉は、ハルピュイア達の巣から数分の距離にあった。細い通路の突き当たりに小さな部屋が出来ており、その片隅に青く輝く水が湧き出している。</p><p>これが回復の泉か</p><p>Olは泉の水を手にとって確かめた。水自体はどうやら、地下水が土から染み出した物が溜まっているだけの様だ。しかし、その中に在り得ないほどの魔力を含んでいる。</p><p>飲めば身体が楽になるし、しばらく身体を浸しておけば傷も魔力もすぐに回復する不思議な泉だよ。まあ、しばらくすると枯れてなくなっちゃうんだけど、迷宮のあちこちにたまに沸いてるんだ</p><p>水をすくって飲みながら、Faroはそう言った。</p><p>ここ、魔力の吹き溜まりになってる</p><p>やはりそうか</p><p>魔力の瞳で魔力の流れを見ながら言うウィキアに、Olは頷いた。Olの迷宮は本来、龍脈の魔力を蜘蛛の巣の様に絡めとり、通路を通じて澱みなくダンジョンコアに運ぶように設計されている。</p><p>しかし、第一、第二階層はコボルトやダンジョンリーチが無秩序に拡張するせいで、魔力の流れに澱みが生まれているのだ。そこにたまたま地下水脈が流れていると、水に魔力が溶け込み、通常の何百倍もの魔力濃度を持った泉が生まれる。</p><p>これって放置してるとちょっとまずくない？</p><p>小声でリルがOlに尋ねる。特定の場所に沸いているわけではないらしいからまだマシだが、厄介な事にはかわりない。と言っても、コボルトやダンジョンリーチの動きを完全に抑制するのは無理だし、地下水をせき止めるのはもっと無理だ。</p><p>でも、テオはあんまり飲まないほうがいいかも</p><p>悩むOlに、Faroはそう声をかけた。</p><p>経験の低い魔術師に特に多いんだけど魔力の配分を測り損ねるんだよ。ここにくるまでに結構魔力使ったでしょ？ ここで全回復して進んで、魔力が半分になったところで帰り道につくと、帰りは魔力が足らなくなる。その頃にはもう泉の水は枯れてるしね</p><p>なるほどこの泉は良く見つかるのか？</p><p>Olの問いに、Faroは首を横に振った。</p><p>滅多にないよ。あったらラッキーって思うくらいで、宛てにするもんじゃない。後、結構危険だからあんまり長居も出来ないしね</p><p>危険ああ、なるほどな</p><p>Olは立ち上がり、泉から離れる。泉を利用するのは何も人間だけではない。むしろ、迷宮に定住する魔物達こそ積極的に使っているはずだ。</p><p>それならば、無理に対処する事もないだろう、とOlは判断した。</p><p>では、先に進むか</p><p>こくりと頷き、Faroは考える。彼女の知る限り、冒険者が踏破したのはこの辺りまでが限度だ。しかし、魔物の言葉を自在に操るテオの交渉術と、アラン遊撃隊の面々の実力、活力を補給する回復の泉に遭遇する幸運。</p><p>これだけの条件が決まっていれば、もしかしたら前人未到の領域にたどり着くことが出来るかもしれない。彼女も冒険者の端くれだ、未知の領域には恐れと共に憧れにも似た強い興味がある。</p><p>行く先が断崖である事に気付かぬまま、小さな盗賊は目の前の道に胸を膨らませた。</p><p>第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-4</p><p>いよいよ、ここを抜ければ第三階層ね</p><p>巨大な両開きの扉を前に、Faroは興奮を隠せないでいた。</p><p>この先に行ったものはいない。少なくとも、あたしの知る限りじゃ初めてだ</p><p>ウィキアははっとしてFaroの顔を見た。次いで、Olを見上げる。</p><p>既視感が彼女の身体を包む。手が震え、足がすくんだ。</p><p>準備はいい？</p><p>ああ、問題ない。行くぞ</p><p>Faroにそういい、Olはちらりとウィキアを見ると、声を出さずに口を動かした。</p><p>大丈夫だ</p><p>そうOlの口が動いたように見えて、ウィキアの震えが止まる。</p><p>果たして、扉の先にあったものは</p><p>ただの、何もない大きな部屋だった。</p><p>あれ？</p><p>罠を警戒して、短剣で部屋の中や地面を探りながらFaroは恐る恐る部屋の中に足を踏み入れる。</p><p>何もないようだな。運よく、守衛がいない時間帯に当たったのかも知れん</p><p>Olはその後ろから部屋を見渡し、臆面もなくそう言った。</p><p>怪しいけど、罠もなさそうだしそうなのかな</p><p>警戒を解かぬままFaroは床や壁を入念に調べるが、何もない。</p><p>少なくとも安全な部屋と言うわけではないだろう。先を急ぐぞ</p><p>納得のいかない面持ちのFaroを急かし、Olは奥の扉を開く。普段は魔術によって入念に封印された扉は、彼の持つ通行証を認識してあっさりと開いた。</p><p>そのありがとう。あそこを守ってたの、本当はアランだったんでしょ？</p><p>こっそりと、横に並ぶウィキアが礼を口にする。アランに気持ちが残っている訳ではない。が、かつての仲間の変わり果てた姿を目にし、戦わなければならないのはやはり気が重い。</p><p>ナジャやShalはデュラハンがアランだと気付きすらしないかもしれないが、そう言った彼女達の姿を見るのも苦痛だろう、とウィキアは予想していた。それを避ける事が出来、彼女はほっと胸を撫で下ろす。</p><p>別にお前を慮った訳ではない。礼を言われる筋合いはない</p><p>Olは愛想なくそう答えた。殆ど本心だ。</p><p>デュラハンは不死の存在だから、倒しても一日もあれば再び蘇る。とは言え、倒してしまえば一日の間守衛がいなくなるのは少し不安が残る。</p><p>更に、勝てるという保証もなかった。呪いによって作られた、首無し馬の引く馬車に乗ったデュラハンは強敵だ。広い室内を走り回りながら魔術を飛ばし、不用意に近付けばその馬車で跳ね飛ばす。Ol達の戦力では、勝てても犠牲が出る目算が高い。</p><p>ん。でもありがと</p><p>こちらもニコリともせず、しかしハッキリとウィキアはOlに礼を言った。</p><p>ここが、第三階層</p><p>長い長い階段を下り、目の前に広がる前人未到の光景を眺めて、Faroはごくりと唾を飲み込んだ。</p><p>その風景は、そこら中に屍が転がり、不潔で狭苦しく、陰鬱としていた第二階層までとは全く異なる様相を呈していた。</p><p>天井は高く、通路は非常に広い。壁はキッチリとした煉瓦で覆われ、ところどころ太い柱で補強されている。地面はまるで王都の大通りの様に石畳が敷き詰められていた。</p><p>悪臭は殆どなく、通路は清潔感に溢れ、壁は僅かに光を放ち松明がなくても少しなら見通しが利きそうだった。</p><p>気をつけてね。ここから先は、何が起こるかわからない</p><p>真剣な顔付きで言いながらも、Faroの声はほんの僅か、弾んでいた。</p><p>Ol達は警戒しつつも、迷宮を進んでいく。</p><p>気をつけて。そこ、踏むと罠が作動する。そっちも。その紐を脚に引っ掛けると、多分上から岩か何かが待って！ 紐を踏み越えないで。その先に落とし穴だ。中には槍衾か。危ない危ない。んここ、何か壁にちょっと違和感があるね。隠し扉だ</p><p>第三階層には魔物が一切出てこなかった。その代わり、迷宮は複雑さを増し、無数の罠が仕掛けられている。隠し扉、一方通行、回転床、天井や床からは槍が飛び出し、壁からは矢が放たれ、大岩が通路を転がる。</p><p>殺傷能力も巧妙さも、そして込められた悪意も第二階層までとは段違いの罠だ。しかし、Faroはそのことごとくを看破し、避け、解除して見せた。本格的に致命的なものはそれとなくOlが避けているとは言え、その腕と勘のよさにOlは目を見張った。</p><p>腕のいい盗賊とは聞いていたが、大したものだな</p><p>へへ。何かね、今あたしすごくワクワクしてんだ。こういう時のあたしは凄いよ。罠が一つ一つ、手招きしながらニコニコ笑ってるように見えるんだよね</p><p>片手でくるくると扉の鍵を外しながら、Faroはそう言った。カチリ、と音がし、その瞬間に彼女は手を引っ込め、鍵穴を覗いていた顔をひょいと横に傾ける。殆ど同時に、鍵穴から細い矢の様なものが飛び出して彼女の背後の壁に突き刺さった。</p><p>それにしてもこの罠を仕掛けた奴って、凄い陰険だね。よっぽど人心を知り尽くした、性格の悪い悪魔みたいな奴に違いないよ。心の隙を突いて、死角から蛇みたいに襲い掛かってくる</p><p>Faroは扉を開くと、中に入らずに短剣を部屋の中に突き入れた。途端、扉の枠からギロチンが下りて短剣を弾き火花を散らす。鍵をあけ、罠を避けて安心した冒険者を両断する仕組みだ。</p><p>こんな風に。人が安心したとき、これだけはないだろうってタイミングで攻めてくる。あたしも今みたいな絶好調の時じゃなきゃ危ないかもね</p><p>確かに、性格は凄い悪いだろうねえ</p><p>しみじみと、リルが同意を示した。</p><p>あはは、本物の悪魔に言われちゃ形無しだね。にしても、ここは何これ？</p><p>扉の向こうは、更に不思議な光景が広がっていた。天井は数段高く、ところどころに魔力の光が明るく灯り辺りを照らしている。地面には石畳の変わりに土が敷き詰められ、軟らかな短い草が生え揃っていた。</p><p>薄暗い為にあまり遠くまでは見通せないが、見る限り広大な部屋のようだ。通路はなく、太い柱が何本も立って天井を支えている。</p><p>ここがダンジョンの中であることを忘れてしまうほどのどかな雰囲気だが、張り詰めたFaroの感覚はその奥に潜む者達の気配を敏感に察知していた。</p><p>気をつけて。何かいる。それも、飛び切り獰猛な奴だ</p><p>自然と声を潜め、表情を引き締めながらFaroはゆっくりと奥へと向かっていく。</p><p>近いこっちに近付いてくる。来たッ！！</p><p>柱の影から、それは現れた。獰猛な地獄の猟犬か、醜悪な巨人か、はたまた竜か。それぞれの最善の動きを何パターンも頭に浮かべ、敵を見極めようと目を見開いたFaroの視界に現れたのは。</p><p>どこにでもいそうな、地味で純朴な娘だった。</p><p>え？</p><p>思わず、二人はお互いに見つめあい表情を呆けさせる。いや、娘の方の視線は、Faroから微妙にずれ、その後ろへと向けられていた。その先にいる男は額に手をあて、人知れずため息をつく。なんでこんな所にいるんだ、と。</p><p>あんた人間だよね？ 何でこんな所に？</p><p>我に返り、Faroは尋ねる。純朴な娘であるところのミオは、だらだらと冷や汗を流した。ごめんなさいごめんなさい、ただあの子達がおなか空いてると思ってつい、とOlを見ると、彼は今日はダンジョンに潜るから自室でおとなしくしていろと通達したはずだ、と言わんばかりの視線でそれに答えた。</p><p>あー、えー、とー</p><p>ミオが答えに窮していると、Olはため息をもう一つつき、親指を下に向けて首を横に切った。え、なんですかそれ帰ったら殺すって意味ですか、とミオは顔を青くする。Olは顔をしかめ、違う、と自分に指を向ける。そのまま言葉を出さず、やれと口を動かした。</p><p>ごっ、ごめんなさいっ！</p><p>その謝罪は誰に向けたものなのか。ペコリと深く頭を下げると、彼女は高らかに名を呼んだ。</p><p>ジョーン、ジェフリー、ジャスティン、ジョセーフ！</p><p>そしてそのまま、腕を振り下ろして指をFaroに突きつけ、命令を発した。</p><p>突撃(アタック)！</p><p>ミオに毒気を抜かれ、呆けていたFaroの襟首を掴んでOlが引っ張る。引かれた彼女の目の前で、乱杭歯がガチンと交差した。</p><p>逃げるぞ</p><p>え？ え？ え？</p><p>そのままOlは小さな彼女の身体を抱え、全力で走り始める。闇の中から現れた魔獣たちが吼え、彼らを八つ裂きにしようと迷宮を駆けた。</p><p>何アレ、どういう事！？</p><p>真っ黒な地獄の猟犬ヘルハウンド、獅子の頭に山羊の体、蛇の尻尾を持つキマイラ、鷲の素早さと獅子の獰猛さを併せ持つグリフォン、二つの首を持つ猟犬オルトロス。本来群れるはずのない、どころか殺しあっても不思議ではない全く別種の魔獣達がお互いに協力し合い、Ol達を追い立てる。それは悪夢の様な光景だった。</p><p>加速！</p><p>氷の壁！</p><p>Shalとウィキアが、矢継ぎ早に呪文を唱える。Ol達の速度がぐんと増し、地面から氷が立ち上って魔獣たちを押し留める。</p><p>そう長くは持たない。急いで</p><p>ウィキアの言葉を待つまでもなく、一行は全力で逃げ出した。</p><p>何とか振り切ったか</p><p>さすがに全力で追いかけられれば人間の脚力で逃げ切れる訳などないのだが、その辺りはミオも心得ているのだろう。魔獣たちの追撃はどうにか止んだ。</p><p>あの、もう、大丈夫だから</p><p>Olの腕の中で恥かしそうにFaroが声を上げる。</p><p>ああ怪我はないか</p><p>Olは彼女を抱え上げていたことを思い出し、地面に下ろす。疲れも苦痛もない形代の身体だと、ついついそう言ったことに無頓着になってしまう。</p><p>う、うん。テオが守ってくれたから</p><p>視線をそらし、Faroは頬を紅くしてそう言った。</p><p>エロ爺</p><p>スケコマシ</p><p>やっぱりああいう体型が好みなのか？</p><p>あたしも抱き上げて貫かれたまま迷宮を練り歩きたいです</p><p>まて、今のは不可抗力だ</p><p>口々に好き勝手言う愛人たちに、Olは弁明めいた言葉を口にする。</p><p>それよりアレを見ろ</p><p>Olは咳払いをし、誤魔化すように指を刺した。その先には巨大な両開きの扉がある。今までの無骨でシンプルな作りのものと違い、己が威容を誇るかのように細かい彫刻が為され、飾り立てられている。</p><p>あれはまさか、魔王の？</p><p>恐らくそうだろうな</p><p>呟くFaroに、Olは頷く。Faroは心を落ち着けるために大きく息を吸い、吐き出した。ぎゅっと目を瞑って高鳴る鼓動を抑え、覚悟を決める。</p><p>ここまできたら、行こう。そのつもりなんでしょ？</p><p>勿論だ</p><p>Olは頷いた。</p><p>ナジャとリルが門の扉を押すと、ゆっくりと中の部屋が露になる。その部屋の中は不自然に暗く、ランタンで照らしても見通すことが出来ない。警戒しながらゆっくりと足を踏み入れると、突然背後の扉がバタンとしまった。</p><p>ランタンも松明もあるはずなのに、周囲は完全な暗闇に覆われお互いの顔も確認することが出来ない。</p><p>まさか罠か、とFaroが身構えた瞬間、ぼっと虚空に灯がともった。扉を背にして左右に一つずつ。赤い炎は部屋を照らし、奥に向かって左右に二つずつ、順番に灯っていく。さながら、炎の道のようだ。</p><p>良くぞここまで来た</p><p>低い声が、部屋の中に響いた。炎の道の奥、よく見えないがそこに巨大な何者かの姿がある。その威圧感と、臭いさえ感じるほどの瘴気。Faroはあれが魔王であると確信した。</p><p>勇気ある、しかし愚かな者たちよ。汝らは何を望む。富か、それとも名声か？いずれ失われるものの為に、ただ一つしかない命を賭けるか</p><p>嘲るように、しかし真摯な問いを魔王は投げかける。</p><p>あたしはどっちも興味ないね。あたしの願いはただ一つ見たことのないものを、行った事のない場所を、この目に収めたいだけさ</p><p>魔王は玉座から立ち上がる。そして大きく腕を広げ、吼えた。</p><p>ならば見るがいい、我が姿を！ そしてその目に焼き付けながら、我が腕の中で息絶えぶげっ！！</p><p>しかしその台詞は最後まで続かなかった。ウィキアが全力で叩き込んだ氷の槍がその顔面に突き刺さったからだ。</p><p>浄炎！</p><p>ちょ、まっ！</p><p>Shalの放った白銀の炎が魔王を焼き、</p><p>氷の飛礫</p><p>おい、待てって！</p><p>ウィキアの魔術が魔王の足元を凍らせ、その動きを封じる。</p><p>爆裂</p><p>オウッ！！ てっめえぇぇ！</p><p>そしてOlの魔術が炸裂した。</p><p>そこに、ナジャが剣を大上段に構えて切り込み、タイミングを合わせてFaroが矢を放つ。どちらかを避けようとすればどちらかを喰らわざるをえない。その矢尻に塗った特製の毒は、魔王と言えども筋肉を弛緩させ、動きを封じられるはずだ。</p><p>ちょっと待てって言ってんだろがーーーーーーッ！！</p><p>魔王が吼え、ごうっと炎が舞い上がった。一瞬ひるんだ隙にナジャの身体は逞しい赤銅色の腕につかまれ、矢も別の腕によって受け止められる。舞い上がる炎に照らされ露になったのは、四本の腕を持つ巨大な悪魔の姿。</p><p>あれほどの攻撃を叩き込んだのにその姿には傷一つなく、足元の氷も炎によって瞬時に気化していた。</p><p>全部抵抗(レジスト)しおったか</p><p>Olは口を曲げてチッと舌打ちした。高位の悪魔の身体は濃密な魔力の固まりだ。魔術はその魔力に干渉され、影響を与えずらい。とは言え、まさか全て防がれるのは思った以上の結果だった。</p><p>おい旦那、ここまでするたぁ聞いてないんだが？</p><p>そりゃあ、言ってないからな。事前に打ち合わせたら勝負にならんだろう</p><p>こっちには攻撃するなって厳命しといて勝負も何もねぇだろうが！？</p><p>魔王代理ことローガンはナジャの身体をぺいっと投げ捨てて怒鳴った。</p><p>大体人の台詞も途中で切りやがって！そこの魔女っ娘！てめえ様式美ってものがわからねぇのか！</p><p>あなたが言うとただの変態の戯言にしか聞こえない</p><p>うるせぇ！ あー、見た目はアリだけど中身がなあギリギリセーフかいや、やっぱアウトううーん、セウトって感じだな</p><p>ローガンにじろじろと見られ、余りの展開についていけてなかったFaroはようやく我に返った。</p><p>ど、どういう事なの！？ 何であんたたち魔王とそんな仲よさげに</p><p>名乗るのが遅れたな</p><p>いつの間にかOlは部屋の奥の玉座に座り、足を組んでいた。その手には血の様に赤い液体の入ったワイングラスがある。</p><p>我が名はOl。魔王などと呼ばれている、この迷宮の主だ。Faro、ここまでの案内ご苦労だった</p><p>Olって意外と形から入るタイプだよね。</p><p>っていうかなんでわざわざ座ったんだ？</p><p>あのワイングラスずっと準備してたのかしら。</p><p>探索が終わったからそろそろ抱いてもらえるのかなあ。</p><p>仰々しく言うOlに、彼の愛人達は各自心の中で突っ込んだ。</p><p>第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-5</p><p>でもそんな。魔王は四本腕の赤銅の悪魔だって</p><empty-line/><p>それはOlが魔王に就いた後、ローガンを見た兵士たちから流れた噂だ。都合がよかったので、Olはそれをあえて拡大していた。</p><p>それに、アラン遊撃隊が魔王に味方するなんて</p><p>悪いな。我々は元々Ol様の忠実な部下だ</p><p>そう思ってるのはあなただけだけどね、とウィキアは思うが口には出さず、Olに寄り添うように玉座の周りに集まる。</p><p>まあ気付かなかったのも無理はないけどね。ずーっと私がほんのり魅了してたから</p><p>Faroの両肩に手を置き、リルが邪悪に微笑む。</p><p>このまま帰して、くれるわけないよね</p><p>一応聞いてみるFaroに、Olは頷いた。</p><p>そうだな。お前の仕事は実に役に立った。お陰でダンジョンを冒険者視点で改めて見直し、足らぬ点、十分な点が明らかとなった。これを俺は大いに評価している。また、お前の様な腕がよい盗賊は他の部下にはいないからな。我が配下に加わるならそれなりの待遇を持って迎えてやろう</p><p>もし断ったら？</p><p>そうだな亡霊、スライムの素材、魔獣の餌。好きな未来を選ばせてやる</p><p>はあ、とFaroはため息をついた。完全に囲まれ、扉は閉ざされている。Faro一人では逃げようがない。仮にこの部屋から逃げ出せたとしても外は魔獣の牧場で、それを抜けてもどっち道キューブの部屋は彼女に抜ける事は不可能だ。</p><p>わかった、降参。テオじゃない、Olの配下に加わるよ。でも一個だけお願いがあるんだけど</p><p>Olは内心首をかしげた。何かを企んでいるにしては、Faroは諦めきった表情をしている。しかし、その目は光を失っていない。むしろ何かの期待に満ちているように見えた。</p><p>何だ？ 言ってみろ</p><p>無茶な要求だったら突っぱねれば良いだけだ。そう思い促したFaroの答えは、予想外の物だった。</p><p>うわあ、すごい！</p><p>目の前に広がる光景に、Faroは歓声を上げた。</p><p>魔王の間の玉座をずらし、隠された扉の向こうの階段を下りるとそこは第四階層。</p><p>Olに協力する裏方たちの住む階層だ。</p><p>それは上階層とは全く趣を異にしていた。そもそも、仮に魔王の間まで辿り付き、ローガンを倒す者がいたとしても、そこで出てきた財宝と外への転移魔法陣で帰るよう誘導される。迷宮の主たる魔王を手にし、財宝を手に入れた冒険者は迷わず意気揚々と帰ることだろう。</p><p>不用意にも外への転移魔法陣を踏めば上空1マイル(約1600m)に転移され、優雅な空の旅の後にはよく熟れたトマトを地面に落としたかのような姿になる運命だ。空高く打ち上げられ、落下しながら正確に魔術を紡ぐことのできる魔術師は少ない。いたとしても、財宝と仲間達を同時に浮かせるのは至難の業で、恐らく財宝は諦めざるを得ない。</p><p>真下には財宝を好む飛竜とグリフォンの巣が待ち構えており、落とした財宝を回収すると共に彼らに餌をやる、という手筈だ。</p><p>いずれにせよ、第四階層は基本的に敵の侵入を考慮してはおらず、他の階層とは構造そのものが大きく違う。</p><p>道は大きく真っ直ぐに整備され、迷ったりすることはまずない。罠などあるはずもなく、それどころかそこかしこに魔力の灯りが溢れ、昼の様に明るい。それどころか、時間によって光量を調節し、擬似的な昼夜さえ存在していた。</p><p>死臭はおろか瘴気さえ結界で遮断されており、地上の町と変わらぬ清浄さだ。辺りには住人達の部屋が立ち並び、Ol配下の亜人達が行きかう。</p><p>よぉ、魔術師さん、今日も女をたくさんはべらしてんな！</p><p>ア、Ol サマ ダー！</p><p>王ヨ。アタラシイ ワナ デキタ。今度、見ロ</p><p>道を歩いていると、様々な種族がOlに話しかけてくる。ドヴェルグ、フェアリー、サイクロプス。ある程度以上の知能を持ち、迷宮に役立つ能力を持っている者たちはここに住む事を許されていた。</p><p>往来を建材を担いだコボルト達が忙しそうに行きかい、小人のグノーメと金槌を担いだ巨人が店先で丁々発止の取引を行い、角では小さなピクシーと精霊の乙女ニンフが談笑している。それはまさに、亜人たちの町そのものだった。</p><p>すごいね、地上にも地下にも街があるんだ、この迷宮は</p><p>クドゥクのお前なら、ここにもすぐに受け入れられるだろう</p><p>きょろきょろと街中を見て回るFaroに歩調を合わせながら、Olはそう言った。</p><p>あたしもこの街に住むの？</p><p>いや、お前は向こうだな</p><p>Ol達は大通りを進み、突き当たった先の扉を開けた。第四階層はドーナツ状の形をしていて、中心から放射線状に大通りが、同心円状に横道が走ると言う形をしている。そのドーナツの中心が、第五階層への階段のあるこの部屋だ。</p><p>第五階層への道が簡単に見つかるのは、万が一侵入者があった場合に、第四階層の住人達を守る為でもある。彼らも皆戦うことの出来る戦士ではあるが、それ以上にその鍛冶や魔術の腕を見込んで住まわせているものだ。</p><p>ここまで侵入できるほどの相手と戦わせて命を散らすのは惜しい。</p><p>おかえり、Olー</p><p>第五階層への部屋には、ユニスが待っていた。ここに来る侵入者があれば、ユニスとエレン達が総出で相手をすることになっている。それを抜かれれば、Olの迷宮はそれまでと言うことだ。</p><p>留守中、ご苦労だったな</p><p>Olはユニスを労い、護符をFaroに渡す。</p><p>この下、第五階層に移動するにはその護符がいる。なくすなよ</p><p>こくりと頷いて服の中に護符をしまいこむFaroを確認し、Olは第五階層への隠し扉を開く。長い階段を下り、護符で結界をすり抜けると、そこが元は居住区と呼ばれていたOlとその愛人の住む地域。第五階層だ。</p><p>今日はご苦労だったな。もう部屋に戻っていいぞ</p><p>そう声をかけると、リルたちはじっとOlを見つめた。Olは嘆息して付け足す。</p><p>褒美は今夜くれてやる。しっかり身体を休め、清めておけ</p><p>すると娘達は一斉に表情に喜色を浮かべ、寝室に湯殿に食堂に、と各々思い思いの場所へと向かった。</p><p>では、案内を続けるとしよう</p><p>OlはFaroに向き直ると、彼女と並び道を歩いた。</p><p>入り口近くには駆けつけやすいよう、ユニス達戦力組みの部屋が並んでいる。そこから南に下ると中央広場。広場の中央に備えられた噴水からは、地下水脈からいつでも新鮮な水が湧き出ており、ちょっとした飲み水や顔を洗ったりするのにはここが使われる。</p><p>中央広場からは東西南北に道が広がっており、東方面へと向かうと家畜小屋とアールヴ達の部屋、そして湯殿がある。拡張に拡張を重ねた家畜小屋は、結局普通の家畜だけを飼育するようになり、魔獣の類は全て第三階層へと送られた。</p><p>小屋では牛、馬、羊、鶏、山羊などが飼育されており、いつでも新鮮なミルクや卵を手に入れる事が出来る。ミオは配下のインプ達を後ろに連れて、午前中で家畜の世話をし、午後には魔獣たちと戯れる、といった風だ。最近では暇を持て余したアールヴ達が手伝うこともある。</p><p>中央広場から西に向かうと、調理場と食堂がある。スピナ以下、生贄の娘達の部屋もこっちだ。彼女達は毎日食事を作り、迷宮を清掃し、洗い物を片付け、時にOlに奉仕する。中々の重労働だが、僅かに給金も配布され、外には出られないが欲しい物は給金の範囲で買ってもらうこともできる。それほど不満は抱いていなかった。</p><p>南はOlとリルの部屋、そして召喚の間だ。召喚の間には幾重にも防御魔法陣が張り巡らされ、万が一英雄が無理やり突破してきたときでも時間稼ぎくらいは出来るようになっている。</p><p>ダンジョンコアは、中央広場の真下、噴水を通じて降りた先の部屋に安置されている。迷宮と繋がってはいるが水の流れによって簡単には入ることは出来ず、更に地下水脈の流れによってスムーズに魔力を運べるように計算された物だ。勿論、その位置を知るのはOl以外にはいない。</p><p>すっごいね</p><p>一通りダンジョンを見て回り、感嘆しきった様子でFaroはそう言った。鍾乳洞や溶岩洞を利用して、ドラゴンや魔術師がダンジョンを作ることはそれほど珍しいことではない。</p><p>しかし、一から掘り起こし、これほどの規模で、しかも中に街が丸ごと一つ入っている物は歴戦の冒険者であるFaroでも見た事がなかった。</p><p>うん。満足した。これだけの大迷宮を見れたのなら、悔いはないよ。一思いにやっちゃって</p><p>ああ。ではついてこい</p><p>Olは言い、北の通路へと歩き始める。Faroはその後ろを、死刑台に行くかのような面持ちでついていった。</p><p>第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-6</p><p>服を脱いで、ベッドに横になれ</p><p>軽く濡れた布で身体を清めた後、Olが命じるとFaroは神妙な表情で服を脱ぎ、ベッドに横たわって目を閉じた。</p><p>子供の様に身長の低いFaroだが、服を脱いで眺めるとその体付きは成熟した女性の物だった。どちらかと言うと人間の女を小型化させた、と言う方が近い。身体は丸みを帯び、腰はきゅっと締まって胸にはそれなりに膨らみもある。</p><p>Olは存分にそれを眺めた後、自身もローブを脱いで硬く閉じた彼女の股間へと指を這わせた。その途端、Faroは目を見開いて上半身を起こし、Olを見つめた。</p><p>ちょっ、待って待って待って！ 何でそんなところ触るの！？</p><p>何でといわれても濡らさねば痛いのはお前だろう</p><p>濡らっ</p><p>予想していなかった答えにFaroは言葉を失い、Olが何をしようとしているかをようやく理解した。</p><p>の、呪いをかけてあたしを言う事聞く人形みたいにするんじゃないの！？</p><p>反抗できないように呪いはかけるが、意思まで奪う気はないぞ。そんな事をすればお前の機転や技が失われるだろうが。何の為に服を脱がせたと思ってたんだ</p><p>肌に直接魔術文字でも彫りこむのかとって言うか、その、何でそんな事するの？</p><p>妙な事を聞く奴だな。したいからに決まっているだろう</p><p>胎内に呪いを注ぎ込む方が効率がいい、と言うのもあるが、主な理由はそれだ。</p><p>Olって、変態だったの？</p><p>Faroはいきり立つOlの一物を見つめてそういった。</p><p>何？</p><p>人間の男は皆、私みたいなのに興奮するのは変態だけだっていって相手しなかったよ</p><p>Faroの言葉に、Olは渋面を作る。</p><p>変態ではない。少し守備範囲が広いだけだ</p><p>ああ、そういえばハルピュイアともしてたもんね。触ってみてもいい？</p><p>Faroは返事を待たず、Olの物を握る。</p><p>なんか変な感触。ぐにっとしてるのに、硬いそれに熱いね</p><p>クドゥクの男とはそんなに違うのか？</p><p>クドゥクと会うのは初めてではないが、さすがに男のそれがどうなっているかまでは知らない。そんなに違うものなのかと、Olは訪ねた。</p><p>さあ？ 男の見るのなんて初めてだし</p><p>Faroは首を横に振ってあっさりと答える。</p><p>里を出たのは19の時だし、それから15年、他のクドゥクに会った事はないし、人間にもアールヴにも相手されなかったからね。抱かれるのも、口説かれるのも初めてだよ。うれしい？</p><p>別に、口説いてはいないが</p><p>34というと人間の感覚では中年に差し掛かる年齢だが、クドゥクの寿命は人間よりも少し長い。33で成人を迎え、50で中年と呼ばれるから、19といえば人間なら10歳そこそこ。34でも成人したてといったところだ。</p><p>ふぅん。ま、別にいいけど。舐めていい？</p><p>再び返事を待つことなく、FaroはOlのペニスをちろりと舐めあげる。二、三回そうして確かめると、口を大きく開けて先端をぱくりと咥え込んだ。</p><p>ふぇんなふぁふぃ</p><p>口に物を入れながら喋るな</p><p>変な味。しょっぱいような、苦いような</p><p>Faroは口から離し、そういった。</p><p>これ、気持ちよくすると精液出るんだよね？</p><p>ああ。行く行くは口でも出来るように仕込んでやる。だが今日は</p><p>Olの言葉の途中で、FaroはOlのものを再び口に咥えた。彼の表情を上目遣いで見ながら、舌を這わせ、握った手で撫で擦る。</p><p>ひょっひょふぉーふぇんふふぇふぃう</p><p>何を言ってるかわからん</p><p>咥えたまま喋るFaroの舌があたり、Olは僅かに身動ぎした。Faroはそれを見逃さず、瞳を笑みの形に細めた。</p><p>ふぉれふぁふぃもふぃひーんふぁ？</p><p>FaroはOlの反応を見ながら、ペニスを舐め上げ、擦り、握り、愛撫していく。けして豊かとはいえないOlの感情表現を、凄腕の盗賊は余すところなく観察した。</p><p>く</p><p>んふ。これ、気持ちいいんだ</p><p>裏筋を舐め上げながら、Faroは淫靡に笑った。その小さな手はOlの陰茎を擦り上げ、もう片方の手は精の詰まった袋をやわやわと愛撫している。とても処女とは思えない勘の良さだ。</p><p>これはどうかな</p><p>FaroはOlの雁首を舌先でなぞり、ついで鈴口をぱくりと頬張った。そのままじゅぽじゅぽと音を立てながら、唾液を絡ませ先端を強く吸う。Olの手がFaroの頭を抑え、押し付けるように腰が突き出された。</p><p>出すぞ飲み込め！</p><p>口内に吐き出された白濁の液を、Faroはごくりごくりと喉を鳴らしながら嚥下する。大量に溢れ出るそれを彼女はすべて胃の中に収め、更に求めるようにペニスの先端をちゅうちゅうと吸い上げ、尿道に残ったものまで飲み込んだ。</p><p>けふ。変な味だけど、なかなか悪くないね</p><p>口の端に付着した精液を舐め取りながら、Faroはにっこりと笑ってそういった。</p><p>クドゥク達は皆、その小柄な体躯からは想像も出来ないほどの健啖家として知られ、一日にたっぷりとした食事を五度も取る。反面、味にはそれほどこだわりがない様で、とにかく量を優先する。どうやらOlの精は、彼女のお気に召したらしい。</p><p>下の口にもたっぷり飲ませてやる</p><p>うん</p><p>OlがFaroの脚に手をかけると、彼女はあっさりと両脚を割り開いた。</p><p>処女ならもう少し抵抗とかないのか</p><p>別段、嫌がる女を弄って楽しむ趣味があるわけではないが、Olは少し呆れてそう言った。</p><p>んー。なくはないけどそれより、どんな感じなのかが気になる</p><p>Faroの瞳は、ダンジョンの案内を求めたときと同様に好奇心で爛々と光っていた。</p><p>ならば、どういうものか教えてやろう</p><p>Olはベッドの上にFaroを押し倒すと、さして濡れてもいないそこに強引に突き入れた。</p><p>っぎっ！！ ったぁぁい！！ 痛い、痛い痛い痛い！</p><p>Faroは途端に叫び声をあげた。小さな体にOlの凶暴なものが無理やり押し込まれ、隙間から破瓜を示す鮮血が滴る。臓腑を抉られる痛みに、Faroはシーツを掴み涙を流した。</p><p>痛い、Ol、痛い！ やめてぇ！！</p><p>これが知りたかったんだろう？ どうだ、純潔を失った痛みは</p><p>純潔どうこうより単純に痛いよ！ っぐううううごくなああああ！</p><p>僅かにOlが前後に動くだけで強烈な痛みがFaroの体を貫き、彼女は叫び声をあげる。とはいえFaroのそこは非常にキツく、抽送というほどの動きも出来てはいない。</p><p>まだ半分も入っていないぞ。ちゃんと奥まで受け入れろ</p><p>無理ぃっ！！ 裂ける、死ぬぅ！</p><p>叫ぶFaroの脇の下に腕を差し入れ、Olは彼女の体を持ち上げる。</p><p>大丈夫だ。死んだら地上の教会で蘇生してやる</p><p>そして、対面座位の形で手を離し、一気に彼女の腰を自分の腰の上に落とした。</p><p>～～～～～～～～っっ！！</p><p>あまりの痛みと衝撃に、Faroは声にならない悲鳴を上げる。Olはかまわず彼女の体をもう一度持ち上げると、落として奥まで貫くのを繰り返した。</p><p>叫び声をあげる力も失い、ぐったりとした所でOlは中に精を放ち、服従の呪いをかける。ついで、回復魔術をかけて傷を癒してやった。Faroはつながったまま、ぼんやりと目を開いた。どうやら失神していたらしい。</p><p>破瓜の痛みはどうだった？</p><p>さいっあく。ホント、死ぬかと思った</p><p>うんざりと、Faroはそう言った。</p><p>だが、今は痛くないだろう</p><p>んそういえば</p><p>Olの一物はいまだずっぷりとFaroの奥まで埋まっている。回復してもすぐに裂けてしまうであろうそこは、Olのペニスを痛みもなくぱっくりと咥え込んでいた。</p><p>奥まで広げたところで、これを入れたまま回復したからな。お前の膣は、完全に俺のペニスの形に作り変えられた。あれほどの痛み、お前は一生忘れる事はないだろう。魂に刻まれるほどの痛みと、肉体に刻まれた俺の所有物の証。そして、意思を縛る服従の呪い。今日からお前は、俺の物だ</p><p>一方的な所有宣言に、Faroの背筋がぞくりとする。</p><p>それ、やばいね</p><p>しかし、それも悪くないかもしれない。この主人は、Faroが一人では見ることの出来なかったもの、知ることの出来なかった世界を教えてくれるだろう。</p><p>もしかしたら、人がいや、この地上に住むものすべてが、初めて目にする光景だって見せてくれるかもしれない。</p><p>クドゥクの少女は断崖の果てに広がった光景に胸を躍らせ、笑みを浮かべた。</p><p>第13.5話 ダンジョン解説</p><p>第13話終了時点でのダンジョン。</p><p>階層数：5階層</p><p>瘴気：55</p><p>悪名：60</p><p>貯蓄魔力：40（単位：万/日）</p><p>消費魔力：13（単位：万/日）</p><p>ダンジョンコアLV4</p><p>1フロア大の大きさにまで成長したダンジョンコア。およそ5000万ほどの魔力を貯蓄できる。また、攻撃を受け破壊の危険性が起きると、自動的に内部の魔力を使用し縮小しながら再生する。</p><p>街</p><p>いつの間にか入り口に勝手に作られた街。店が並び立ち、サポートが充実する事によって冒険者が常駐。結果格段に瘴気が高まった。また、一定の資金源にもなる。</p><p>第2層直通口</p><p>第2階層へ直通の縦穴。飛竜など飛行性の魔物を呼び寄せる。冒険者の侵入は基本的に不可能なので、この穴によって防衛能力が低減する事は無い。</p><p>回復の泉</p><p>魔力の吹き溜まりに自然発生する泉。冒険者の助けになることもあるものの、傷ついた魔物達を癒したり、この泉で己の力を過信し潜りすぎた冒険者が命を落としたりする為、防衛能力はむしろ増大する。</p><p>不思議な迷宮</p><p>ダンジョンリーチやコボルトなどによって、潜るたびに形を変える迷宮。迂闊な転移を防ぎ、侵入者を惑わせる。</p><p>罠LV1</p><p>コボルトやゴブリンたちが作った原始的な罠。とは言え、暗く見通しが利きにくい迷宮内では回避するのは比較的困難で、経験の浅い侵入者や敵からの逃亡時などにはこの罠が致命傷になることもある。</p><p>罠LV2</p><p>ドヴェルグが開発し、Olが仕掛けた本格的な罠。どれも致命傷となりうる破壊力を備えている上に、発見は熟練の盗賊でも難しい。</p><p>魔王の間</p><p>第三階層最後にある広間。魔王のフリをしているローガンが相手をし、彼を倒すと帰還の為の転移魔法陣が発生する。しかしこの魔法陣は罠であり、迂闊に転移すると上空高く転送され、空の旅を味わう事ができる。</p><p>居住区</p><p>Olとその愛人、協力者などが住んでいる区画。結界によって瘴気は取り払われ、秩序と清潔さに溢れている。</p><p>飛竜</p><p>ワイヴァーンとも呼ばれる、二本足に一対の翼を持つ前足を持たない下級の竜。ブラスを吐かない代わりに尻尾に毒を持ち、下級とは言え竜の名に相応しい戦闘能力を持つ。知能はそれほど高くなく、賢い犬程度。</p><p>ノーム（商人）</p><p>戦力：5最大貯蓄魔力：1.5</p><p>ロリ巨乳の商人。武器も魔術も使えないが、呪具をつかう事によって最低限の戦闘能力は持つ。ただし敵を倒すたびに金銭的な損害がかなり発生する。親の代から奴隷の出自で、処女のまま尻を開発されるという目にあっていたが全てを鑑定するギフト真実の瞳で金を稼ぎ、自分自身を買い取る事によってその立場を脱却した。</p><p>キース</p><p>Olタウンで案内業をしている胡散臭い盗賊。ひたすらに胡散臭いものの、基本的には良心的で真面目に仕事をしている。冒険者の街にいるものの滅多にダンジョンには潜らず、かといって定職にも就いていない珍しい存在。腕のいいシーフを紹介してくれと言われて自分を勧めたのは冗談ではなく、超一流と言っていい程の能力を持っているが、男だという理由でOlには</p><p>却下されてしまった。</p><p>Faro</p><p>戦力：6最大貯蓄魔力：1</p><p>一流の腕を持つクドゥクの盗賊。純粋な戦闘能力は高くないものの、手先の器用さと観察力で罠への対処はキースをも上回る。観察力は高いものの、そこから何かを推論する能力はそうでもないのが玉に瑕。</p><p>先生</p><p>戦力：3？</p><p>かつてゲオルグと呼ばれていた亡霊。迷宮の一室に住み着き、そこに足を踏み入れると襲い掛かってくる。しかし、霊魂で出来た剣は切りつけられると多少体力を奪われるものの痛みもなくそう簡単に致命傷にもならない。剣の腕自体はいいので、冒険者達の格好の訓練相手になっており、先生と呼ばれるようになっている。</p><p>ダンジョンワーム</p><p>戦力：4</p><p>巨大なミミズの様な生き物。魔力を主食とし、魔力を多分に含むダンジョン内の土を貪り食っては排出し、ダンジョンの形を変えてしまう厄介な魔獣。更に、魔術師は彼らにとって御馳走に見えるらしく、突然壁や床、天井から飛び出して魔術師を喰い、また壁の中に消え去っていくという攻撃を行う。冒険者達の間ではそれに対抗するため、魔術師の左右を盗賊や僧侶で固めて守るという陣形が基本になっている。</p><p>ゼラチナス・キューブ</p><p>何でも飲み込む四角いスライム。殆ど無色透明であるため、部屋の中一杯に詰まっていると気付かずに彼の中に入り込んでしまうことさえある。犠牲者が出てそれほど経っていなければ溶かしにくい金属製の武具や骨などが中をたゆたっていることもあり、発見が若干容易になる。炎で溶かすしか対処方法は無いが、すぐに傷口が埋まってしまうので完全に倒すことはかなり困難。</p><p>リザードマン</p><p>直立したトカゲの様な、2mほどの大きさのヒューマノイド。その見た目に反して知能は人間並みに高く、また基本的には温厚で素朴な種族である。言葉が通じるなら交渉も可能。種族のほぼ全員が優秀な戦士であり、鎧や盾、剣で武装している。</p><p>ハッグ</p><p>老婆の様な姿をした妖魔。一見人間に似ており、言葉も通じるものの交渉によって切り抜けられる事は殆どない。人間の肉が特に好物であり、言葉巧みに人間を騙しのろいをかけて動けなくしたところで刻んで食べてしまうのを好む。反面、真正面からの戦闘能力はさほど高くなく、その老婆の様な姿にしては俊敏な動作を見せるものの、それなりの腕を持つ冒険者であれば恐れる相手ではない。</p><p>ケンタウロス</p><p>上半身は人、下半身は馬という種族。知能は人並みにあり話も通じるが、非常に粗暴で話はすぐにこじれ、交渉は困難。特にパーティ内に女性が含まれている時は迷わず戦闘を選ぶか、逃げた方が良い。彼らは粗暴さよりも知られる好色な男達の集まりであり、気を許せばかなりの高確率で強姦される事になる。また、一人ひとりが弓の名手であり、棍棒の使い手でもあるため敵としてもかなりの強敵といえる。</p><p>ハルピュイア</p><p>愛らしい少女の顔、身体と、鳥の翼、足を持つ魔獣。人の顔をしてはいるものの知能は低く、会話はあまり成り立たない。非常に貪欲で、食料の入った荷物を放置しているとすぐさま盗みに来る。戦闘能力はそれほど高くないのだが、まずあまり積極的に襲い掛かってはこず、攻撃の範囲外から投石などで攻撃して来るため撃破は困難。餌でも投げてそれに群がっているうちにさっさと逃げる方が良い。</p><p>ケイブジャイアント</p><p>洞窟にすむ巨人。身の丈3.5mほどの体格に、粗末なぼろ布と棍棒で武装している。見た目どおり知能はさほど高くないが、その巨体から繰り出される一撃とタフネスは圧巻。性格も粗暴極まりなく、よほど満腹な時以外は襲い掛かってくるので精神系統の魔術で対処するか、細い路地に逃げ込むと良い。</p><p>マーメイド</p><p>美しい女性の上半身と、魚の下半身を持つ精霊の一種。迷宮の中ではもっとも話の通じる部類であり、基本的にこちらから攻撃しない限りは襲われることは無い。が、その身体は全身高濃度の魔力の塊であり、非常に高価である為、襲い掛かる冒険者は後を絶たず、自分や仲間が襲われた経験を持つ個体が先制攻撃を仕掛けてくることもあるので注意。</p><p>ミオ（魔物使いLV20）</p><p>大量の魔獣の面倒を見るようになった結果、あらゆる魔獣を己の手足の様に操ることが可能になったミオ。稀に第三階層でエンカウントするレアキャラ的存在。本人に戦闘能力はないものの、個々の魔獣の戦力を＋1程度引き上げる。常に複数の魔獣を引き連れ自在に操るため集団での戦力は7～8相当。</p><p>冒険者の大量流入によって瘴気が一気に強化され、死んだ人間の亡霊が何もしなくても自然と悪霊へと変化し、死体が勝手に動き出すほどの濃さへと変化した。また、迷宮内での生態系もすっかり出来上がり、死体→ネズミや虫→ゴブリン→その他妖魔、巨人など→社会性を持つ亜人種のようにピラミッドが出来ている。この時点で防衛設備はほぼ完成し、Olの迷宮の防衛は磐石な物となった。突破には並みの英雄クラスでも複数人が必要な程。悪名はかなり広まり、ちょっと噂に敏感な人間ならその名を知っている程度。歌にする吟遊詩人もぽつぽつと現れ始めた。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-1</p><p>陛下。お耳に入れておきたい事がございます</p><p>痩せこけた男が跪き、そう申し立てた。齢は60を越えるだろうか。真っ白な髪に神経質そうな面持ち、片眼鏡をかけた彼は王の信頼厚い宰相、トスカン。</p><p>申してみよ</p><p>対するのは、豪奢な赤いガウンに身を包んだ白髪交じりの赤髪の男。身の丈6フィート半(約2メートル)にも及ぶ身長と筋骨隆々の体躯。豊かな髭は炎の様に伸び、あたかも獅子のたてがみの如く彼の胸元を彩っている。実年齢は50台半ばだが、40台前半にさえ見える精力的な迫力を持つ大男だ。</p><p>彼こそが、ウォルフディール・セヴラン・ル・エラ・グランディエラ一世。大国グランディエラの国王その人である。</p><p>先だって、フィグリア王国を手中に収めた魔王Olの話ですが</p><p>そのような小国、気にせずともよいと申したはずだ</p><p>ことり、とウォルフはチェスの駒を動かした。対局相手はいない。チェス・コンポジションいわゆる、詰めチェスだ。</p><p>いえそれが、その配下にユニス様らしき姿を見た、と報告がありまして</p><p>ほう？</p><p>ウォルフは手を止めることなく、チェスの駒を動かしていく。</p><p>あのじゃじゃ馬娘、勝手に飛び出していったかと思えばそんなところにおったか</p><p>いかがいたしましょう</p><p>ウォルフは手を止め、少し考えた。そして、白のポーンを黒のキングの斜め前に置く。</p><p>連れ戻せ</p><p>黒のキングに逃げ道はない。</p><p>抵抗するなら、殺しても構わん</p><p>仕方なくポーンを取るキングを、ウォルフは白のナイトで押しつぶし、粉々に砕いた。</p><p>このラファニス大陸には大小あわせて12の国があるといわれている</p><p>白墨で簡単な地図を描きながら、Olは説明する。その前には、リル、ユニス、スピナ、エレンといったいつもの面子が卓につき、説明を聞いていた。</p><p>違うのは最初から話を聞く気がないマリーが既に机に突っ伏しているのと、ミオが末席に加わって所在なさげに小さくなっている事だ。</p><p>フィグリア王国まあ、最近は魔の国とか魔王国とか呼ばれる方が多いが、この国はこの辺りに位置している</p><p>Olは大陸の中央、やや西よりあたりに小さく楕円を描いた。</p><p>南には大国グランディエラ。英雄王ウォルフ率いる騎兵団を擁する強大な国だ。軍事力で言うなら大陸随一だろうな。元々はそれほど大きい国ではなかったが、一代で周りの国を次々と飲み込み、あっという間に大きくなった</p><p>Olは大陸の下半分をなぞるように囲む。その大きさは、フィグリアの10倍近い。</p><p>北には宗教国家ラファニス。この大陸の盟主国と言っていい。1000年以上前から続く伝統ある国で、現在のトップは聖女メリア。永世中立を謳い自分達から戦を仕掛けることはないが、一旦仕掛けられれば容赦はない。そうして幾つもの国が返り討ちにあっている。グランディエラでさえ手を出せん</p><p>Olは大陸の上半分を囲む。すると、大陸の殆どが埋め尽くされた。</p><p>他にめぼしい国は、東の竜騎士団を持つラーヴァナとか、白アールヴ達の国アルフハイム辺りか。他の国はそれほど大きくないし、隣接もしていないから今は気にせんでいい</p><p>更に隙間にいくつか楕円を書き足し、Olは白墨を置いた。</p><p>まず、絶対に敵に回してはいけないのはラファニスだ。ここは、こちらから攻撃さえしなければ侵攻して来る事はないが、敵意有りと断ぜられれば一気に滅ぼされる。後には何も残らん</p><p>でも、軍事力はグランディエラの方が上なんでしょ？</p><p>ユニスの言葉に、Olは頷く。</p><p>軍事力はな。だが、ラファニスの聖女は自称ではない。文字通り神の御遣い、天使達のしもべだ。ラファニスを敵に回すという事は、天を敵に回すという事でもある</p><p>でも神は神代の戦争で死んだんでしょ？</p><p>ああ。だが、親玉が死んだだけで、あのクソ忌々しい天使どもは天にいる。俺達悪魔が絶滅してないのと同じだ</p><p>リルの問いに、ローガンが重々しく答えた。</p><p>そういえばローガンは、神魔戦争の経験者なんだっけ</p><p>ああ。つっても下っ端だったから、大したことはしてねぇぞ</p><p>ローガンほどの力を持った悪魔が下級と呼ばれる理由は、そこにある。数千年前、神代と呼ばれる時代。無数の悪魔を率いる伝説の魔道王が天に住む神と戦い、相打ちとなった神魔戦争。その戦争で、最低限戦力になるのがローガンのレベルだったのだ。</p><p>だが、天を敵に回すことがどれほどの事かはわかるだろう</p><p>まあ単純に、悪魔全部を敵に回すのとあんまかわんねーわな。向こうも上の連中は殆ど存在ごと消滅してるから神魔戦争の再来、って程にはならないだろうが、まあ今の戦力じゃ逆立ちしたって勝てる相手じゃねえ</p><p>あー、そりゃ無理だね</p><p>ユニスがあっさりと認める。彼女の戦力は規格外と言っていいレベルだが、それでもローガンレベルの敵が二体も出れば勝てるかどうかは怪しい。三体以上ならお手上げだ。</p><p>と言うわけで、目下の脅威はグランディエラだ。ここは幾つもの国を併合し、積極的に戦争を仕掛けている国でもある。こちらから打って出ずとも、向こうから仕掛けてくる可能性も高い</p><p>お父様戦争大好きだからね</p><p>ぽりぽりと後頭部をかき、ユニスは呟く。</p><p>あたしは、それが嫌で家を出たの。戦争の道具にされるなんて真っ平。悪くもない人を野心の為に殺して、ひどい扱いして、植民地にするなんて、あたしには耐えられない</p><p>きっぱりと、ユニスは言ってOlを見つめた。</p><p>でも、Olは違うでしょ？ Olは、他国を手に入れてもちゃんとその国の人たちの面倒を見る。ひどい扱いをしたり、奴隷にしたりしない。王としての責任を果たしてる</p><p>ああ。勿論だ</p><p>当然の様に頷くが、別にOlは人道的な意味からそうしているわけではない。ただ、人間を信じていないだけだ。</p><p>反乱の芽を摘みつつ国を広げるには、Olの様にしっかりと面倒を見てやるか、ウォルフの様に徹底的に敵国を滅ぼして自国民を増やすしかない。</p><p>Olは人間を信じていないから、反乱のリスク自体を下げる方を選んだ。統一した民族を増やすより、バラバラの民族を多く擁する方が反乱は少なくなる。</p><p>だから、Olの下でお父様を止められるなら、あたしはお父様とでも戦うよ</p><p>たとえ肉親をその手にかけることになってもか？</p><p>Olがそう尋ねると、ユニスは少し困った表情をした。</p><p>そのくらいの覚悟はある、って言いたいところだけどごめん、無理かもしれない</p><p>そうか。まあ、無理にとは</p><p>違うの</p><p>Olの言葉を遮り、ユニスは首を横に振り、言った。</p><p>単純に、あたしじゃお父様は倒せない。お父様はあたしよりずっと強いから</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-2</p><p>英雄王ウォルフディール。狼王、獅子王、赤髭王など様々な異名で知られるその偉大なる王を、この大陸で知らぬ者はいない。</p><p>姫をさらった巨人を剣一本で斬り殺し、ただの平民から王の座に駆け上がった若者は、その腕で瞬く間に国土を広げた。</p><p>並み居る悪鬼妖魔をなぎ倒し、敵国を平らげていく様は幾つもの叙事詩(サーガ)に纏められ、各国で吟遊詩人が謳い伝えている。その勇猛さは味方からはまさに英雄と称えられ、敵からは生ける死神と恐れられた。</p><p>しかし、Olはウォルフをそれほど恐れてはいなかった。彼の国は大きくなりすぎた。もし戦う事になったとしても、勝敗を決めるのは軍隊と戦略だ。個人の英雄の武力ではない。</p><p>また、長生きする英雄などと言うものは、古今東西に目を向けてもそれほどいない。その多くは、二十台半ばで命を落とし、30を数えるものは少ない。50を越えるウォルフは破格と言っていい長命だが、そう長くはないだろう。</p><p>本人もそれを自覚しているのか、最近では戦に出る事もめっきり減り、内政に腐心している。数年待てば勝手に死ぬだろう。ユニスを当てれば案外あっさりと勝つかもしれない。無論、そんな一か八かの賭けを打つ気はないが、子に殺される英雄と言うのは割りと良くある話だ。</p><p>問題はそれよりもむしろ、大陸最強と名高い騎兵団をどうするかだ。勿論、歩兵や魔術兵の錬度も、フィグリア王国の軍とは質も量も比較にならない。もっとも、Olはそもそも人間の兵を当てにはしていなかった。</p><p>それで勝てるのならばフィグリアはとっくに大国になっている。Olの強みは飽くまでダンジョンと、そこに蓄えた大量の魔力だ。地力で勝る敵を葬るなら、それを生かすしかない。</p><p>Olはじっくりと策を練り、ダンジョンの拡張を進めていく。</p><p>彼の元に宣戦布告が叩きつけられたのは、それから一週間の後の事だった。</p><p>状況を報告しろ</p><p>王宮の大会議室。</p><p>居並ぶ大臣達にOlは端的に命じた。</p><p>は。グランディエラから宣戦布告がありました。陛下が留守中に使者が参りましたので、私が代わりに応対しました。敵は南部のブランシュ平原での決戦を指定しております</p><p>軍務大臣がそう答える。</p><p>それで？</p><p>と、申されますと？</p><p>続きを促すOlに、大臣は怪訝な表情を返した。</p><p>敵の規模は。今どこに布陣しておるのか。こちらがすぐ動かせる兵はどれだけいるのか。その内訳は。勝てる勝算はどれほどあるのか。そう言ったことを聞いておる</p><p>そのた、ただいま調査中です。まずは陛下に御報告を、と思いまして、取るものも取りあえずこうして参集つかまつったわけでして</p><p>にらみを利かせるOlに、大臣はだらだらと汗を流した。調査中などと言うのもでたらめだ。この国の軍はキャスが殆ど動かしていた。大臣達は上から何とかしろと言うばかりの能無し揃いだという事はとっくに理解している。</p><p>参集だと？ 余を呼び寄せておいてよくもぬけぬけとそのような事を言えたものだな？</p><p>地の底から響くようなその声に、大臣達はびくりと身を震わせた。</p><p>良いか。余は貴様らの生き死にに興味などない。私腹を肥やすも、飢えて死ぬも自由だ。だが、我が道を遮るとなれば話は別だ。民も兵も皆、我が為にある。敵に容赦などせぬ。わかったらその調査とやらを疾く済ませよ</p><p>ははっ！</p><p>大臣達が弾かれたように席を立ち、礼をして部屋を出て行く。</p><p>腐敗したこの国はやがて衰退していくだろう。だがそれでいい。王とはなったが、Olはフィグリアに所属した訳ではないし、盛り立てる気もない。生かさず殺さず、Olの脅威にならぬ程度まで緩やかに滅び行くまで、ダンジョンの糧となればそれでいい。</p><p>あっはははははは、余だって！</p><p>笑いすぎだ</p><p>後には渋面のOlと、腹を抱えてげらげらと笑うリルが残った。</p><p>前にも言っただろう。こういうのは多少わかりやすい方が良いんだ</p><p>でも、一人称余ってふふ</p><p>いいからさっさと報告しろ</p><p>中々笑いが収まらず、口を手で隠しながらニヤニヤするリルにOlは促した。</p><p>はいはい。こんな感じだったよ</p><p>リルは纏めた報告書を手渡す。そこには敵の布陣や数、戦力となる魔物達の量などが詳細に書かれていた。</p><p>少ないな</p><p>Olはその数字を見て怪訝な表情を浮かべる。敵はその数5000。こちらが用意できるであろう兵数よりは多いが、圧倒的という程の量ではない。グランディエラなら、この10倍は用意できるはずだ。</p><p>舐められてるのかな？</p><p>そうかも知れんな</p><p>適当に答えたリルの言葉に、Olは頷く。</p><p>え、うそ、ホントに？</p><p>自分で言っておきながらリルは尋ねた。</p><p>正直、それくらいしか理由が思いつかん</p><p>えーと、ほら、数を少なく見せておいて油断させて、伏兵を出すとかさ</p><p>それはOlも考えなかったわけではないが、可能性の低いことだった。</p><p>奇策奇襲は弱者のものだ。成功すれば格上を倒せるが、失敗すれば大損害だ。強者であるグランディエラが使う意味は薄い。数に任せて力押ししたほうがよほど損害が少ないのだからな</p><p>んー、じゃあええと、行軍すれば兵士もお腹が減るから、お金がかかるよね？その金額を節約するためとか</p><p>必死に眉を寄せ、リルは知恵を絞ってそう言った。</p><p>確かに行軍には多大な金がかかる。が、犠牲者の数は人数に反比例する。一人の兵士を育て上げるのに、どれほどの金と時間がかかると思う？行軍など比較にならんはずだが</p><p>もう！ 淫魔にそんなの、わかるわけないでしょ！</p><p>ううー、と唸り、リルはついに癇癪を起こした。Olとしても別に彼女に期待していたわけではないのだが、この淫魔は妙なところで生真面目だ。</p><p>まあ良い。舐めてかかってくれるならそれに越した事はない。権謀術策を巡らそうと言うならそれごと叩き潰すまでだ</p><p>Olはローブを翻し、呪文を唱える。一瞬の後、二人の姿はダンジョンへと転移し、掻き消えた。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-3</p><p>兵と言うのは基本的に五種類に分けられる。</p><p>まず、もっとも数が多いのは歩兵。盾を構え、槍や剣などで武装する。敵の攻撃を押し留め、突破を防ぐ防御の要だ。装備が薄く機動力に優れる軽歩兵と、重装備で鉄壁の防御力を持つ重歩兵に分かれる。フィグリア側には軽歩兵が多く、グランディエラには重歩兵が多い。</p><p>次に多いのは弓兵。歩兵が防御の要なら、こちらは攻撃の要。長弓や弩（クロスボウ）などで、遠距離から相手を射殺す事が出来る。長弓は連射性能に優れるが使い手の育成が難しく、弩兵は使うのは楽だが、連射性能に劣り、弩も壊れやすく作りにくい為、数を揃えにくい。</p><p>次に多いのは騎兵。戦場の花形であり、戦争の勝敗は騎兵の操り方にかかっているといわれている。凄まじい機動力と突破力を誇り、歩兵をあっという間に蹴散らし、弓兵や魔術兵を皆殺しにする。反面、馬はとても貴重であり、それを操れる騎士となると更に貴重だ。</p><p>次は魔術兵。実は、戦争において魔術兵と言うのはそれほど重要視されていない。魔術による攻撃は弓に劣るからだ。射程は短く、連射も効かない。騎兵に接敵されれば為す術もなく殺される。</p><p>それでも魔術兵と言う兵種がなくならないのは、攻城級魔術を防げるのが魔術だけであるせいだ。つまり、相手方の魔術兵に対抗する為だけに、魔術兵はいる。</p><p>最後にその他直接戦闘に参加しない兵種がある。兵糧や武具などを運ぶ輜重兵、負傷者を回復する衛生兵、大型の兵器を組み立てる工兵などである。</p><p>歩兵で弓兵、魔術兵を守りつつ騎兵で敵を牽制、撹乱。相手方が浮ついたところを歩兵で押し込め、弓兵で殲滅と言うのが大体の戦争の流れだ。</p><p>宣戦布告から5日後。</p><p>ブランシュ平原で、Olとグランディエラの軍は対峙していた。</p><p>防衛側のOl軍は歩兵が横一列に並び、左右の端がやや相手側に突出した、いわゆる鶴翼の陣。後ろから弓兵や魔術兵が援護し、突撃してきた敵兵を包囲殲滅する防御に優れた陣形だ。</p><p>対してグランディエラは数百人単位で三角形に並んだ魚鱗の陣。鶴翼とは逆に戦力を一点に集中させ、一気に突破する狙いだ。</p><p>騎兵豊富で錬度に優れるグランディエラ側は、鶴翼の中央を一気に突破して大将を討ち、短期決戦を狙うつもりなのだろう。大将首が取られるか、およそ戦力の三割ほどが殺されれば軍と言うものはその機能を失い、瓦解する。</p><p>やはり、少ないな</p><p>魔術で敵軍の様子を伺いながら、Olは呟いた。敵の騎兵は約400。200ずつ、二つの魚鱗が出来ている。100しかいないこちらの騎兵に比べれば随分多いが、それでも想定していたよりずっと少ない。1000はいてもいいはずだ。</p><p>だが、こちらを軽んじている訳でもなさそうだな</p><p>こちらは肉眼で敵陣を睨みつつ、エレンは言った。</p><p>我らの射程から絶妙に外れている。魔術防壁も随分と厚い。あれでは我らの矢は通らんな</p><p>フィグリアの城での戦闘は解析されているという事か</p><p>恐らくは</p><p>こくりとエレンは頷く。飛竜から撃つエレン達の矢の雨はOlの切り札の一つだが、知ってさえいれば対策不能なほどの武器ではない。少なくとも、魔術兵隊を半分に減らさなければ効かないだろう。</p><p>転移による奇襲も無理だな。敵陣全体に転移妨害の魔法陣が組まれている。こちらに攻め込んでくれば背後は取れるが、騎兵はそのまま突破するだろうな</p><p>オーガやオークでは、馬の脚にはかなわない。背後をとっても攻撃するより先に逃げられる。</p><p>じゃあ、相手の騎兵を歩兵で止めないといけないんだね。あっちの騎兵は400、こっちの歩兵は1600。4倍か抑えきれるかな</p><p>無理だろうな。錬度が違いすぎる</p><p>いつになく緊張した面持ちでいうユニスに、Olはあっさりと答えた。</p><p>えっ</p><p>案ずるな。策はある</p><p>驚き目を見開くユニスに、Olはそう答えた。</p><p>そして、戦争が始まった。</p><p>グランディエラ軍の騎兵隊が、矢の様に平原を駆ける。全身を鎧で固めた騎士を背に乗せ、自身も鎧に身を固めながらその動きは裸馬と殆ど変わらない。</p><p>それはさながら、巨大な鉄の砲弾のようだった。降り注ぐ矢をものともせず、戦場を真っ直ぐに突っ切る。陣を迂回し、側撃を行う素振りさえ見せない。速度と重さに任せ、真っ直ぐ陣を突破する気だ。</p><p>それを迎え撃つフィグリア兵達は盾を構え、槍を掲げながら恐怖に歯の根を鳴らした。高速で走る鋼鉄の塊が、果たしてこんな細い槍で止まるのか？ こんな薄い盾で防げるのか？ 彼らは皆一様に、騎馬によって蹴散らされ踏みつけられ、粉々に砕かれる自分の姿を幻視した。</p><p>恐れるな！</p><p>その時、背後から魔王の朗々とした声が響く。</p><p>汝らが背を守るものを誰と思うておる。千の魔術を操り、万の魔物を従える魔王ぞ。鎧に身を包み、槍を持とうと所詮は人の子。地獄の悪魔とどちらが恐ろしいか</p><p>その声は不思議なことに、それほど声量があるわけでもないのに陣の端から端までしっかりと響き渡った。</p><p>さあ我が尖兵どもよ、胸を張れ、腹に力を入れろ！そしてあの愚か者どもを八つ裂きにしてやれ！</p><p>おおおぉぉおおおぉぉおおぉおおおぉぉぉ！！</p><p>兵達は一斉にときの声をあげる。</p><p>恐れで縮こまった兵達の心は真っ直ぐに伸び、殺意と狂気に満たされた。目がギラギラと輝き、槍を構えてグランディエラの騎士達を睨みつける。</p><p>おおおー！</p><p>何でお前までかかってるんだ</p><p>ぺちん、とOlはユニスの後頭部をはたく。</p><p>あ、あれ？</p><p>ユニスは辺りをきょろきょろと見回し、目をパチパチと瞬かせた。</p><p>兵士どもにかけたのは、狂戦士の術だ。恐怖を無くし戦意を高揚させるが、その分防御は疎かになる</p><p>とは言え、恐怖に竦むよりはよほどマシだ。そして、これからの展開への布石でもある。</p><p>よし、いまだ。やれ、スピナ！</p><p>Olは魔術で、ダンジョン内に待機しているスピナに合図を送る。轟音が響き、戦場の騎兵の半分が砂埃に包まれた。</p><p>今だ！ ものども、一気に敵を包囲せよ！</p><p>Olの号令が轟き、歩兵達が一斉に騎兵隊に襲い掛かる。しかし敵も然る者、砂埃に一瞬怯んだもののすぐに体勢を立て直し、馬を宥めてすぐさま歩兵に襲い掛かる。</p><p>しかし、そうできたのは騎兵達の半分だけだ。</p><p>一体何が起こったの？</p><p>実は、この辺りまではダンジョンの第一階層が伸びている。そこで、地下からコボルトどもを操り、巨大な落とし穴を掘ってみた</p><p>魚鱗の後ろ半分は、落とし穴からダンジョンの中に落とされたと言う訳だ。重い鎧を着けていた騎士の殆どは即死か重症、仮に動けたとしてもすぐさまダンジョンの魔物達の餌だ。騎兵など、狭く足場の悪い迷宮内では何の役にも立たない。</p><p>数を半減させた騎士達は、それでも歩兵を相手に突破を試みる。しかし、その背後から襲い掛かるものがあった。</p><p>そして、ダンジョンと繋がっているのだから、当然そこには伏兵を用意してある。さすがに馬ほど早くは駆けぬが、歩兵が数秒も時間を稼げば十分</p><p>死を恐れぬ歩兵達の突撃に足止めされた騎士の背後から、漆黒の猟犬が飛び掛る。雄牛ほどの大きさのある黒犬は、鉄の鎧を炎で焼き焦がし馬の喉笛に食いついて防具ごと引きちぎった。普段相対する事のない魔獣達の咆哮に敵の足は浮つくが、魔術で狂戦士と化しているこちらの歩兵は気に留めることさえなく騎兵に打ちかかる。</p><p>食い殺せる</p><p>前には歩兵。後ろには魔獣。完全に包囲され、騎兵達の命脈は断たれた。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-4</p><p>もはや誰の目にも、グランディエラ軍の騎兵達の命は風前の灯であった。</p><p>フィグリア軍の歩兵を前に、退路も落とし穴によって断たれている。もはや彼らが生き残る道は強引に歩兵を突破するしかないが、中央の歩兵達は特に厚く層を作っており弱兵と言えどもそう簡単には突破できない。</p><p>騎兵の救助か、グランディエラ軍の歩兵が前進してきてはいるが、とても間に合う距離ではない。しかし、Olはそれに妙な違和感を覚えた。</p><p>歩兵が到着したとしても、乱戦の中騎兵達を救出する事は不可能だ。敵軍の指揮官は恐らくウォルフ王ではないだろうが、それでも精強で知られるグランディエラ軍の指揮官がそんな手を打つとは思えない。</p><p>また、こちらの損害がいやに少ないのも気にかかる。いかに不意を討ち挟撃に成功したとはいえ、こちらに突破してくる騎兵の一人や二人は計算のうち。それを討つためのユニスだ。</p><p>だと言うのに、騎兵は戦線を右往左往するだけでろくに槍を振るう様子すらない。</p><p>スピナ！ 今すぐ、騎兵の死体を調べろ！</p><p>第一層に待機しているはずのスピナに、Olは魔術で言葉を送る。ややあって、彼女にしては珍しく慌てた声が返ってきた。</p><p>お師匠様！ 人形です！ これは、騎兵じゃない銀に塗られたただの人形です！</p><p>全軍、退却！</p><p>Olが叫ぶと同時に、歩兵達がばたばたと倒れだした。矢ではない。魔術でもない。他の何か飛び道具で、歩兵達が次々に倒されていく。</p><p>一体なんだ！？</p><p>主殿、投石器(スリング)だ。投石器で石を投げている</p><p>エレンが険しい表情でそう言った。投石器(スリング)とは皮で出来た原始的な武器で、石を包むポケットに紐をつけて振り回し、遠心力で飛ばすものだ。</p><p>投石器だと？ そんなもの、矢止めの魔術で何故防げぬ。この距離であれば</p><p>言いかけ、はっとOlは気付きエレンをぐいと抱き寄せると魔力を奪う。空間がゆらりと揺れ、Olを中心に波紋の様に波が広がっていく。その波の範囲の魔力を全て認識する、探査魔術の一種だ。</p><p>これは鉛か！</p><p>Olは歯噛みした。探査魔術では、魔力を帯びた不審なものは全くなかった。全くだ。この世の全てのものはどんなものであれ、魔力を多少なり帯びる。しかし、その唯一の例外が鉛だ。</p><p>神から見捨てられた鉄、と呼ばれるこの金属は、一切の魔力を受け付けず、また同時に一切の魔術を受け付けない。鉛で出来た弾は、防御魔術で防げないのだ。</p><p>これが矢であれば、矢尻を鉛で作ったところで矢の胴体や矢羽で止まる。しかし、鉛の塊は全く影響を受けずに通り、しかも石より重く強い。鉄で出来た鎧の上からでも十分に人間を昏倒させる威力を持っている。</p><p>撤退を始める歩兵達を、騎兵が追撃する。全ての騎兵が人形のダミーではない。1/10ほどの数は本物の騎兵で、人形を負う馬を指揮し操っていたのだ。</p><p>恐るべきは、乗らずして馬を操るほどの騎兵と軍馬の錬度。そして、それを平気で囮として捨石に使う度胸だ。Olの奇襲は相手にとって誤算ではあったが、想定外ではなかったのだ。囮としての役割は十分に果たしたのだから。</p><p>馬鹿げているこれほどの騎兵を犠牲にして勝利を得るだと？</p><p>だが、このままでは歩兵が全滅しかねない。錬度はともかく、数の上ではOlの軍は大損害だ。ただでさえ数に劣るというのに、これ以上被害を拡大する訳には行かない。</p><p>ミオ。やれ</p><p>Olはミオに魔術で言葉を伝える。すぐさま、空を影が覆った。天高く飛ぶのは、飛竜や巨大な怪鳥ルク、グリフォンといった飛行能力に優れる大型の魔獣たち。彼らはそれぞれ、大きな岩をその足に抱えていた。</p><p>矢や投石は魔術で容易に防げる。しかし、大質量を持つ岩はそう簡単にはいかない。次々に投げ落とされる岩に潰され、敵の前線は瞬く間に総崩れとなった。</p><p>今だ、騎兵隊、突撃！</p><p>そのタイミングで、Olは今まで温存した騎兵隊を出す。投げ落とした岩のいくつかは敵の陣地ではなく落とし穴を埋め、橋をかける形となっている。そこを駆けぬけ、騎兵隊は敵の歩兵隊へと突っ込んだ。</p><p>投石器は原始的な武器ながら、弓と比べても遜色ない威力と射程を誇る。しかし、欠点が二つあった。</p><p>一つは、扱いが難しいこと。弓より遥かに長く厳しい訓練を積まないと、投石器はマトモに扱えない。</p><p>もう一つは、連射が効かないこと。弩ほどではないが、そうすぐに放てるものではない。</p><p>つまり、投石器を持った歩兵達は剣に関して言えば他の兵より錬度が低く、高速で突進してくる騎兵に対処できる武器ではない。100の騎兵達は敵の歩兵隊を瞬く間に蹂躙し、更に弓兵、魔術兵達に襲い掛かる。</p><p>後衛の援護をなくした事で元々数の少ない敵騎兵も優位をなくし、歩兵隊に包囲され、魔獣に噛み殺された。</p><p>どうやら、大勢は決した。じきに敵軍は撤退を始めるはずだ。Olはほっと息をつき、陣にすえられた椅子に座った。しかし、圧勝とはいえない。空を飛ぶ魔獣による投岩攻撃は、Olが用意していた切り札の一つだ。</p><p>侵攻にも防衛にも攻城にも使え、こちらにリスクはほとんどなく相手に大打撃を与えることが出来る。しかし、出来れば今回の戦いで使いたくは無かった。一度その手が知られれば、対策はそれほど困難なものではないからだ。</p><p>それに、相手の対応も相変わらず解せない。覇を狙うとなれば当然、グランディエラとの戦いは避けられない。だから、Olはウォルフ王の事も当然調べ上げている。</p><p>勇猛果敢で知られるウォルフ王の戦い方は単純にして豪快。知略や伏兵などはほとんど使わず常に先頭に立ち、その武力で敵を薙ぎ倒すのが彼の戦い方だったはずだ。</p><p>それは王本人が戦争の矢面に立たなくなってからも変わりなく部下へと受け継がれたはず。戦力を出し惜しみ、策略で勝ちを狙いにいく戦い方は彼らしくなく、それ以上に不可解だ。</p><p>考えあぐねるOlの思考を、凄まじい爆発音が遮った。</p><p>なんだ！？</p><p>我に返って視線を音のした方に向けると、前線で巨大な爆発が巻き起こり、兵士が数人、宙を舞っていた。</p><p>な爆裂の魔術か！？ 魔術兵は何をやっている、対魔防御魔術で防げ！</p><p>や、やっております！ ですが、アレは魔術ではございません！</p><p>伝令兵が悲鳴を上げる。</p><p>魔術は必ず、魔力で起こすものだ。であれば、どのように強力なものでも同じだけの魔力で干渉してやれば打ち消すことが出来る。それが対魔防御と呼ばれるものだ。</p><p>だが、魔力に拠らない同程度の攻撃を防ぐことは出来ない。どんな名剣より切れ味鋭い魔術を防げても、なまくら刀の一撃を完全に無効化する事はできない。それが防御魔術と言うものだ。が</p><p>魔術じゃない、だと！？ 馬鹿を言うな、大型兵器もないのに、人間を吹き飛ばせるようなものが</p><p>あれは、剣戟だよ</p><p>ユニスの硬い声が、Olの怒声を遮る。</p><p>剣戟剣で、人間を、吹き飛ばしている！？</p><p>そんな事は、馬鹿力のオーガや巨人だろうと出来ることではない。ましてや、人間に出来るわけがない。</p><p>つまりは、人間ではない。その範疇から外れたものの偉業。</p><p>こんなに早く、出てくるなんて</p><p>ユニスは震える声で言った。</p><p>お兄様</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-5</p><p>鉛の英雄ザイトリード。</p><p>一騎当万、億夫不当と形容される彼は、英雄王ウォルフの息子であり、自身も比類なき英雄であるにも拘らず、あまりその存在を知られてはいない。</p><p>それは彼が、父の様に戦に好んで出ることはなく、主に辺境での怪物退治や内乱鎮圧の任に就いていた事と、その身に受けた鉛の呪いによる。</p><p>すなわち、あらゆる魔術を受け付けず、あらゆる魔術を使うことができない。魔術が効かないとなれば一見便利に見えるが、効かないのは攻撃魔術だけではない。</p><p>傷を負っても回復魔術はおろか秘薬すら効かず、戦場に出ても伝達魔術による状況報告さえ出来ない。どんな奇跡が込められた名剣も彼が握れば鉄の塊になり、神の祝福も彼には通じない。</p><p>そして、その呪いは彼自身が己にかけたものだ。魔術を惰弱なものと斬り捨て、否定する。その愚直なまでの無骨さゆえに、彼は父王よりも武勇に秀でるといわれながらも、広く名を知られることなく辺境で戦い続けていたのだ。</p><p>両軍共に兵を引き、Olの陣へ悠々と足を進める彼を、兵達は固唾を飲んで見守った。全兵力を注ぎ込めば、或いは勝てるかもしれない。しかし、被害は甚大なものになる。今回は勝ててもそれ以降が続かない。それよりは、精鋭中の精鋭で対処する事をOlは選んだ。</p><p>ザイトリードは身の丈7フィート(約210cm)を越える偉丈夫だ。大剣と呼ぶにもまだ大きい、身長と同じほどの刃渡りを持つ巨大な剣を軽々と肩に担ぎ、分厚い胸当てと篭手、具足を身に着けている。</p><p>腕は大木の様に太く、巌の様にいかつい顔はあまりユニスには似ていないが、赤い髪と緑の瞳は妹と全く同じ色合いをしている。</p><p>貴様が、魔王Olか</p><p>ザイトリードはOlを見下ろし、低い声でそう言った。抑揚のない、感情を感じさせない声だ。</p><p>如何にも。お前が鉛の英雄ザイトリードか。噂に違わぬ豪腕だな</p><p>Olが言うと、ザイトリードはにこりともせず頷いた。</p><p>そうだ。俺はザイトリード・レイヴァン・ル・エラ・グランディエラ。妹が世話になったようだな</p><p>あっさりと真名を名乗り、ザイトリードはユニスに視線を動かした。彼女は剣を構え、じっとザイトリードを見つめている。</p><p>Olは試しに真名を利用して呪いをかけてみたが、全く効果がない。どんな魔術も通じないと言うのは嘘ではないようだ。</p><p>帰るぞ、ユニス</p><p>端的に言うザイトリードに、ユニスは剣を向ける。</p><p>お兄様わたくしは、お父様のなさることに賛同できません。異民族とは言え人は人、それを</p><p>ユニス</p><p>いつになく丁寧な口調で主張するユニスの言葉を、ザイトリードは遮り、言った。</p><p>お前の主張には興味がない。俺が受けた命令はただ一つ。お前を連れ戻せだ。否と言うなら、力づくでも連れて行く</p><p>望む、ところだぁっ！！</p><p>ユニスの手が爆炎を放つ。ザイトリードは僅かに目を細めるだけで、それを避けようとすらしない。爆炎は彼の肌に触れると、火傷一つつけることが出来ずに一瞬にして掻き消えてしまった。</p><p>しかし、炎で視界を遮っているその一瞬で、ユニスはザイトリードの死角に移動している。常人ならば目で追う事も出来ない程の速度で、彼女はザイトリードの肩に向かって剣を振り下ろした。</p><p>ギィン、と金属音が鳴り響き、ユニスの剣が弾かれる。ザイトリードはそこを一歩も動かず、篭手で彼女の剣を弾いていた。</p><p>まだこんな児戯に頼っているのか。魔術は所詮魔の術。世界を騙し捻じ曲げる、小賢しいだけの技だと何度も言っただろう</p><p>ザイトリードはその巨大な剣を振り上げ、言った。</p><p>真の力という物を見せてやる</p><p>ザイトリードが剣を振り下ろす。純粋な破壊の奔流が渦巻き、空間を裂いた。ただの鉄の塊であるはずのそれが大地を割り、亀裂を遥か彼方まで生じさせた。</p><p>ユニスは辛うじてその一撃をかわしたが、もし受けていれば剣だろうが鎧だろうが構わず真っ二つに両断されていただろう。</p><p>しかし、その程度で怯むユニスでもない。風の様に機敏に動き、まるで宙を舞うようにあらゆる方向から無数の斬撃を繰り出した。それに対し、ザイトリードは無駄のない動きで確実にフェイントを見抜き、攻撃を打ち払う。</p><p>それは凄まじいレベルでの攻防だった。本気を出したユニスの動きは、Olはおろかエレンですら捉えることができない。</p><p>それに対するザイトリードの動きは遅いが、遅ければ攻撃を当てられるなどと言う次元の話は超越している。速度を持たなくても攻撃を弾ける重さを持っているが故の遅さ、必要最小限にして未来を読むかのような先読みを持ってして完成された遅さだ。</p><p>援護の為に弓に番えられたエレンの矢は、とても飛ばすことが出来なかった。一騎当千の黒アールヴの腕を持ってしてなお届かぬ高みに、英雄と英雄の戦いは存在していた。</p><p>防戦に徹していたザイトリードが、一転して攻撃に転じる。ユニスはそれを左腕でいなし、剣を突き出した。</p><p>ザイトリードの大剣がユニスの左腕を引き裂いて血を迸らせ、ユニスの剣がザイトリードの胸元を浅く裂いて血を滲ませる。</p><p>剣の腕は互角。片方が攻撃を受ければ、その隙を突いてもう片方の攻撃も当たる。しかし、得物と体格の差は、絶望的なものだった。</p><p>ユニスはOlの胸より少し高い程度の、小さな少女だ。片や、ザイトリードは天を衝くような大男。扱う得物も軽い片手剣と重い大剣では、リーチの差は歴然としていた。</p><p>はあっ、はあっ、はあっ！</p><p>全身から血を滴らせ、肩で息をするユニス。</p><p>諦めろ。お前は俺には勝てん</p><p>淡々とザイトリードは言った。彼もまた無数の傷がついてはいるが、ユニスに比べればどれも浅く、血もほとんど出ていない。</p><p>確かにそうかも知れんな。だが、二対一ならばどうだ？</p><p>ユニスの傷を、Olの魔術が瞬く間に癒す。フィグリア城で兵達を相手にしたときとはわけが違う。敵はただ一人、魔力も豊富に用意してある。</p><p>下らん。そんなことで、勝てるつもりか</p><p>ザイトリードは剣をふるった。避けられるはずもなくOlの身体が両断されて、彼の姿は木で出来た元の形代に戻った。</p><p>言っただろう、魔術など児戯だと。そんな物で、俺には</p><p>では、これではどうだ</p><p>ザイトリードの言葉を遮り、Olが再び姿を現す。答えもせず、ザイトリードは剣を振り上げた。その隙を突いてユニスが駆け、剣を突き出す。ザイトリードは身体を捻ってそれをかわすが、切っ先が彼の身体を抉り、血を吹き上げた。</p><p>俺を攻撃すればその隙をユニスが突き、ユニスを攻撃すればその傷を俺が治す</p><p>傷を抑え、ユニスから距離を取るザイトリードの背後から、Olが姿を現す。</p><p>確かに児戯かも知れん。が、お前はこれに勝てるか？</p><p>更に別の方向から、Olが姿を現した。幻影ではない。幻影であれば、ザイトリードはすぐさまそれを看破する。どのようなものであれ、彼には魔術は通じないからだ。</p><p>それらは全て形代だった。形代はOl自身であり、同時にOlではない。目に見える範囲であれば、同時に複数個動かす事も可能だった。</p><p>さあ、比べるとしようか。お前の力が尽きるのが先か、形代が尽きるのが先か</p><p>Olはニヤリと笑みを見せた。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-6</p><p>ザイトリードは嘆息し、大剣を地面に突き刺した。</p><p>英雄と英雄の戦いは、ユニスとOlの策略に軍配が上がった。</p><p>その場の誰もが、そう、思った。</p><p>ならば、本気を見せてやる</p><p>野獣の様な笑みを見せ、ザイトリードがそう言うまでは。</p><p>次の瞬間には、ユニスの身体は地面に叩きつけられていた。</p><p>衝撃で小さなクレーターが形作られ、土が辺りに飛び散る。</p><p>おおおおっ！！</p><p>ザイトリードは唸り声をあげてユニスの両脚を片手でつかむと、そのまま鞭でも振るうかのような動作で彼女を地面に何度もたたきつけた。そのたびに大地が割れ、土がえぐれ、血の混じった岩盤が飛び散った。</p><p>な</p><p>その間、Ol達は指先一つ動かすことが出来なかった。恐怖や驚きに支配されていたからではない。その動きが、あまりに速いものだったからだ。それは先ほどまでのユニスの動きをすら、圧倒的に越えていた。</p><p>英雄とは、この世界を捻じ伏せ、征服するものだ</p><p>頭から血をだらだらと流し、死んだように動かないユニスを腕にぶら下げて、ザイトリードはそう言った。</p><p>騙し掠め取るだけの魔術とは、格が違う。とは言え、俺の本気を引き出した事は誉めてやろう</p><p>大剣は、ザイトリードにとっては武器ではなく枷だった。重みを備えた武器であれば、その重み以上の力は出せない。硬さを備えた武器であれば、その硬さ以上の力は出せない。</p><p>その両の拳は、生半可な魔剣など遥かに凌駕する力を持つ、彼にとっての最強の武器だった。</p><p>褒美に、痛みなくあの世に送ってやる</p><p>Ol達に向かい、一歩踏み出すザイトリード。その脚を、ユニスが血塗れの腕で握り締めた。</p><p>だめ</p><p>まだ意識があるか流石は我が妹だな</p><p>ザイトリードは彼女の腕を振り解くと、もう一度地面にたたきつけた。</p><p>させ、ない</p><p>しかしそれでも、ユニスは彼の足に縋りつくようにして抱きしめる。ザイトリードの表情が、初めて苛立たしげに歪められた。</p><p>楽に死ぬ事もできないのは、英雄の性か</p><p>これ以上攻撃を続ければ、ユニスは死ぬ。しかし、死ぬまでいや、死んでも腕を離さないだろう。連れ帰るには殺しても良いといわれてはいるが、無論、殺さずに連れ帰れるならそれに越した事はない。ザイトリードは舌打ちし、Olを睨み付けた。</p><p>貴様の命、しばし預けておく。それまで、束の間の生を楽しんでおけ</p><p>ザイトリードはユニスと大剣を担ぎ上げると、来た時と同様に悠々と陣を後にした。</p><p>味方の兵の被害は約300。対して、敵兵の被害はおよそ1500。</p><p>数字だけを見れば圧勝と呼んで良い初陣は、しかし大きな被害を持って、終結した。</p><p>負けたか</p><p>どこか楽しげな音を含みながら、王はそう尋ねた。</p><p>伏兵はありましたが、落とし穴、そして高高度からの落石攻撃は予定にありませんでしたので。敗北と言って良いでしょう</p><p>その前に跪きながら、ザイトリードは報告した。</p><p>ウォルフらしくない、知略を用いた少数での戦いは言わば駒落ち戦のようなもの。全力で戦えば容易に相手を叩き潰してしまうウォルフが、あえて不得意とする知略という武器を手にする事で全力を出す事ができる。規模は違えど、この父子は同じ事をしていた。</p><p>しかしそれでも、ウォルフを敗北させるような相手は久しい。数年ぶりの出来事に彼は期待を寄せ、息子に尋ねた。</p><p>魔王に会ったといったな。どう思う</p><p>小物です。王が相手をする程の者ではありません</p><p>即答するザイトリードに、ウォルフはふむと唸る。</p><p>前情報のとおり、本人に戦闘能力はほとんどない様子。知略智謀であれば、あのキャスと言う女の方が上でしょう</p><p>魔物の軍はどうなのだ</p><p>フィグリアの弱兵どもよりはよほどの脅威ではあります。ですが、正面から当たれば我が軍の敵ではありません</p><p>ザイトリードがそう答えると、ウォルフは露骨に興味を失った。</p><p>ユニスは、現在治療と共に解呪を施しております</p><p>大して興味もなさそうにウォルフは相槌を打つ。</p><p>目を覚ましたなら、魔王を討たせよ</p><p>ウォルフの言葉に、ザイトリードは思わず顔を上げ、父であり、王である主君の顔を見上げた。</p><p>もしそれでまた魔王につくようであれば、その時は殺せ</p><p>王は表情一つ変えず、家畜の屠殺を命じる牧場主の様に淡々とそう言った。</p><p>しかし</p><p>お前も知っておろう。英雄がいかなるものであるか</p><p>表情の変化に乏しい無骨な顔を僅かに歪め、言い募ろうとするザイトリードをウォルフは重々しい口調で遮った。</p><p>他者の生き死になどと言う些事で心を歪めるな。お前は剣の腕では俺を凌ぐ。だが、その甘さは命取りとなるぞ</p><p>肝に銘じておきます</p><p>父王の言葉を苦々しい思いで受け止め、ザイトリードは王の部屋を後にした。</p><p>そのまま大股で王宮をずんずんと歩き、ユニスの部屋の扉を開ける。</p><p>お兄様</p><p>全身を包帯にまみれ、ユニスはベッドの上に半身を起こしていた。</p><p>すまなかった。身体はどうだ。大丈夫か。</p><p>頭に浮かんだ言葉をすべて飲み込み、ザイトリードは傍らの宰相に尋ねた。</p><p>解呪は上手く行ったか</p><p>は。万事滞りなく。妙な暗示も掛けられていたようでしたので、そちらもあわせて解除いたしました</p><p>宰相トスカンは慇懃に頭を下げた。</p><p>ユニス。お前に命が下った</p><p>感情を交えない声で、ザイトリードは妹に告げる。</p><p>魔王Olを討伐せよ</p><p>拝命いたしました</p><p>為せなかった場合は、俺がお前の首を刎ねる</p><p>以上だ</p><p>こくりと頷くユニスに、ザイトリードは踵を返し、部屋を立ち去る。</p><p>姫様ザイトリード殿下は</p><p>大丈夫だよ、トスカン</p><p>心配そうに声をかける宰相に、ユニスはにこりと微笑んだ。</p><p>あたしだって、ちゃんとわかってる。英雄がどういうものなのか。呪いや暗示を解いてくれたお陰で、頭もスッキリしたしね</p><p>ユニスは拳を握りしめる。呪いと暗示が解かれた今ならわかる。Olが彼女をどのように見ていたのか。</p><p>この傷は三日もあれば治るでしょう。決着を、つけてくるよ</p><p>御武運を</p><p>トスカンには、祈ることしか出来なかった。</p><p>今帰った</p><p>お帰りなさい</p><p>ザイトリードの外套と剣帯を受け取りながら、妻ヒルダはいつもの様ににっこりと微笑んだ。</p><p>お疲れのようね</p><p>ソファにどっかりと座りながら、ザイトリードは瞑目する。愛しい妹を死地に赴かせ、優しい声をかけてやることすら叶わない。悔いればキリはないが、しかしそれでも彼らは生き方をかえることが出来ない。それが、英雄と言うものだからだ。</p><p>ヒルダは何も言わず、何も聞かず、ただそっとザイトリードの頭を抱きしめた。剣の腕も魔術の才も何もない、平凡な娘。しかし、彼女の存在は何よりもザイトリードを癒してくれる。</p><p>心配することなど、何もないはずだ。ユニスがOlを殺し、凱旋する。ザイトリードには及ばぬとは言え、彼女もまた英雄の星の元に生まれた娘だ。小賢しい魔術師一人、倒せぬはずがない。</p><p>妻の身体をその腕の中にかき抱きながらも、しかし彼の不安は消える事はなかった。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-7</p><p>来てくれたんだね、Ol</p><p>ダンジョンの入り口から少し離れた、まばらに木の生えた林の中でユニスはOlを出迎えた。Olの隣には、リルとスピナだけがついてきている。しかし、木の中には恐らく伏兵が潜んでいるんだろう、ともユニスは直感した。黒アールヴ達が木の陰に隠れれば、それを見つけられるものなどこの世に存在しない。</p><p>わざわざ手紙を送って呼びつけておいて、それはないだろう</p><p>Olは懐から手紙を取り出し、手の中で燃やした。魔術の炎は一瞬にして手紙を焼き尽くす。その手紙は、村からの貢物に紛れ込んでいたものだった。</p><p>リルとスピナを連れて、この場所まで来いという内容の、簡素な手紙だ。</p><p>あたしが、Olと戦う気はないって言ったら、信じる？</p><p>ああ、信じる</p><p>ユニスの問いに、Olはこくりと頷いた。まさか肯定されるとは思わず、問うたユニスの方が驚いた。</p><p>ここで俺を殺しても意味がないからな。お前も知っているとおり、この身体は形代だ。リルやスピナも同様にな。戦わず、味方のふりをしてダンジョンに進入した後、戦わずして殺す。これが最上の手だな</p><p>ユニスは苦笑した。やはりOlは自分の予想の上を行く。直情的な彼女にはそんな作戦は思いつきもしなかった。</p><p>薄々ね。気付いてはいたんだはっきりとわかったのは、呪いや暗示を解いてもらった後のことだけど。Olが、色々あたしの事騙してたの、何と無く知ってた。竜の背の上で、あたしを突き落とそうとしてたのも</p><p>ユニスはOlに背を向け、そう言った。そうしながらも、彼女には攻撃する隙が一切ない。Olたち程度の動きであれば、気配だけで目を瞑っていても避けられる。だから当然、彼女はフィグリア城でのOlの不穏な気配にも、気付いていたのだ。</p><p>Olってさ。人間不信だけど、人間嫌いではないよね</p><p>くるりと振り返り、ユニスは唐突にそんな事を言い出した。</p><p>人間を信じてない人って、たくさんいる。あたしが今まで倒してきた邪悪な魔術師はそんな人ばっかりだったよ。裏切られて、誹られて、石を投げられて。世の中を憎み、人間を憎み、全てを憎んで滅ぼそうとする。捕らえた者は奴隷として扱い、奴隷が苦しんだり死んだりすることなんて全然気にも留めない。そういうのが、普通の邪悪なる魔術師でしょう。でも、Olは違った</p><p>随分過大評価してくれたものだな。そいつらは頭が悪いだけだ。奴隷であろうと、十全に働かせたいならある程度は優遇してやるのがもっとも効率が良い。ただそれだけだ</p><p>当たり前の様に答えるOlに、ユニスはこくりと頷く。</p><p>うん。それも、本心なんだろうね。でも、Olはやっぱり人間が嫌いじゃないんだよ。無駄に痛めつけたり、苦しませるのを喜んだりしない</p><p>英雄は魔王の瞳を、心の奥底を覗くかのように見つめた。</p><p>ねえ。何で君は、何も信用しないの？人も、魔物も、部下も、仲間も自分自身でさえも</p><p>何が、言いたい</p><p>呻くように答えるOlに、ユニスはくすりと笑った。彼の隣に立っていた時と、些かも変わらない笑顔で、</p><p>知りたいだけだよ。何で、Olがそうなったのかを。あたしの好きだった人の、過去を</p><p>真っ直ぐに、そう言った。</p><p>教えて、Ol。あなたが討つべき邪悪なのか、それとも仕えるべき王なのか。あたしにそして、あなたを本当に愛している人に、聞かせて欲しい</p><p>ユニス</p><p>リルが、思わず彼女の名を呼んだ。ただその話を聞かせるためだけに、彼女はリルとスピナを連れる様に指定したのだ。</p><p>俺が嘘をつくとは思わないのか？ お涙頂戴の、作り話をするとは？</p><p>そこら辺は、あたし自身が判断するよ。っていうか、そうするならOlはわざわざ先にそんなこと言わないでしょ</p><p>ユニスの答えに、Olは嘆息した。</p><p>いいだろう。エレン、下がっていろ</p><p>了解した</p><p>どこからともなく言葉が木に反射して、闇にとけ、消える。Olは念入りに、魔術を持って彼女の気配を調べ、傍に誰もいないことを確認して話し始めた。</p><p>これはただの、事実の話だ。世にありふれているつまらぬ真実、ごく当然の成り行き。可哀想な子供の話でも、心に負った傷の話でもない。石が坂を転がるような、水が高き場所から低きに流れるような、単純な原理の話だ</p><p>そう前置きをし、Olは話を始めた。</p><p>今から70年ほど前のこと。プラエティという、今はもう影も形も残らぬ小さな国での話だ。当時プラエティはこのフィグリアと激しい戦争をしていた。俺はその戦で家族を亡くし、乞食をしていた。それを拾ったのがラズ俺の、魔術の師だ。彼女は俺に全てを与えた。知識、教養、家事、魔術、家庭の温かさや、愛情。親としての愛、家族としての愛、男女としての愛その全てをだ。彼女は俺の母であり、姉であり、親友であり、恋人だった。おい、リル、何て顔をしている</p><p>口をぽかんと開けて絶句するリルを、Olは思わずたしなめる。</p><p>え、あ、ご、ごめん。まさか、Olの口から愛なんて言葉が飛び出すなんて</p><p>煩い。黙って聞け</p><p>らしくない自覚はあるのか、Olは咳払いをして続けた。</p><p>ラズは兵器の開発をしていた。彼女は比類なき付与魔術の使い手、天才だった。彼女の作った兵器は千の兵を討ち滅ぼし、小国であるプラエティを辛うじてフィグリアと拮抗させていた。しかし、彼女は俺を拾ってから変わった。戦争孤児を見てどう思ったのかは、俺にはわからん。正直、彼女を恨んだ事など一度もないし、兵器の開発を止めてくれなどと思ったこともない。だがラズは、兵器の開発を止め、国を敵に回した。プラエティを窮地に追い込むばかりか、フィグリアと内通しているのではないか。そう、疑われたからだ</p><p>Olはそこで、一度言葉を切った。ここまでは、キャスの報告書でも平静を保っていられた部分だ。あの激昂は、自分にさえ予測できないものだった。呼吸を整え、Olは言葉を続ける。</p><p>俺達の住んでいる塔はプラエティの兵士に包囲され、後は死を待つばかりだった。そして、ラズは俺に呪いをかけ、命令した。私の首を、兵士に渡して助命を嘆願しなさいと。俺は、その通りにした。この世でもっとも愛する人をこの手にかけ、兵士に媚び諂い、粗末な命を生き長らえさせた。自分の意思とは、無関係にな</p><p>思ったよりも遥かに、Olはすらすらとそう言う事が出来た。</p><p>これは単純な事実だ。愛情の素晴らしさを否定する気はない。信頼を無意味なものだと言う気もない。だが、それは力によって覆される。武力。知力。魔力。財力。権力。どのような愛も絆も、圧倒的な力の前には無力だ。どんなに相手を愛していようと、人は必ず、裏切る。その愛を越える力によってだ</p><p>Olは誰よりもラズを愛していた。その愛に、自信があった。己の全てを投げ打っても良い。例えどのような目に遭おうと、彼女だけは守り抜いてみせる。純粋で、世界を知らぬ少年はそう信じ抜いていた。</p><p>俺は世を拗ねている訳ではない。心的外傷(トラウマ)に引き摺られ他者との交流を恐れている訳でもない。そんなものは、20、30の頃にとうに克服しておる。ユニス。お前が俺の呪いによって俺を愛したように。それが兄によって踏み躙られたように。悪魔でさえ、神でさえ、時の中に滅び行くように。人は、この世に生きる全てのものは、暴力に抗う術はないのだ</p><p>それゆえに、Olは力を求めた。全てを解決できる、唯一のものを病的に求めた。そして実際に、力を持って信頼を引き裂き、友情を殺し、絆を断ち切り、愛を奪ってきた。</p><p>そう、だね</p><p>ユニスは、誰よりもそれを知っている。英雄として生まれた彼女はこれまで何人もの人を救い、そしてその何千倍もの死を取りこぼしてきた。</p><p>人ならざる力を手にし英雄と呼ばれようと、救えない人は無数にいる。人は必ず死に、死ねば思いさえ消え去る。</p><p>でも、それでもあたしは信じるよ。Olを。Olを愛するあたしを</p><p>揺るぎのない瞳で前を見て、はっきりと、ユニスはそう言った。</p><p>討つべき邪悪なのか、仕えるべき王なのか。そんな事は、話を聞く前から決まりきっていた。彼女が感じたOlからの愛と信頼が、嘘偽りでなかったとわかっただけで満足だ。例えそれが力に及ばぬ儚いものだったとしても、それは確かに存在していた。</p><p>呪いや暗示で植えつけられたようなものじゃない。あたしは、あたしの心で感じたOlを愛してる。だから、お願い。ちょっとでいいから、あたしの事も、信じててね</p><p>ユニスはOlに抱きつき、口付けた。反射的に抱きとめようとするOlの腕を、一瞬の迷いが止める。その一瞬でユニスは彼の腕の中からすり抜け、にっこり微笑んで、言った。</p><p>さよなら</p><p>冗談の様に血が吹き上がり、彼女の笑顔が反転する。</p><p>ごろりと転がるユニスの首。その向こうには、表情に一切の感情を宿さず血に濡れた剣を構えるザイトリードの姿があった。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-8</p><p>貴様！</p><p>激昂したいのはこちらの方だ。よくも妹をかどわかし俺に殺させてくれたな</p><p>崩れ落ちるユニスの死体を抱きかかえ、ザイトリードは怒気を孕んだ声をあげた。</p><p>全員嬲り殺しにしてやりたいところだが、本体は迷宮の中だそうだな。首を洗って待っていろ。今すぐに乗り込んで、肉の一片も遺さず磨り潰してやる</p><p>ザイトリードはそういい、剣を振るう。Ol達三人は一撃でバラバラの木片になって辺りに散らばった。</p><p>その必要はない。今すぐここで勝負をつけてやる</p><p>地面に琥珀色の光が瞬き、Olが迷宮から転移してくる。その腕には、一人の女が囚われていた。</p><p>あなた！</p><p>後ろ手に縄で縛られ、突き出されたのはザイトリードの妻、ヒルダだった。</p><p>この女の命が</p><p>下らぬ真似を</p><p>Olが言い終える前に、ザイトリードは剣を一閃する。剣がヒルダの胸に突き刺さり、彼女は信じられないものを見るような目でザイトリードを見つめた。</p><p>あなた</p><p>口から血を吐き、ヒルダは地面に倒れた。途端、彼女の姿はヒルダとは似ても似つかない、見知らぬ女のものになる。</p><p>俺には一切の魔術は聞かぬ。それとも、幻影と知りながらも俺が動揺するとでも思ったか</p><p>剣を振り血を払い、ザイトリードはOlに侮蔑の視線を送った。</p><p>ああ。お前に一切の魔術は効かぬ。その剣に迷いなく、油断もなく、実の妹をすら手にかける</p><p>何が言いたい、何がしたい。魔術師の貴様が、俺に勝てるとでも思っているのか</p><p>油断がなく迷いもない。それが油断だと、言っておるのだ</p><p>Olはヒルダの死体を蹴り転がし、彼女の魂を掴み上げた。</p><p>あなた</p><p>虚空に浮かぶ亡霊に、ザイトリードは目を見開いた。その姿は紛れもなく、ヒルダのものだったからだ。</p><p>魂は誤魔化せぬ。お前にはこれが嘘偽りでなく、本物のヒルダの魂であることがわかるはずだ</p><p>馬鹿な！？</p><p>ザイトリードは身体を震わせ、食い入るように亡霊を見つめた。魔術による幻影ではない。他人の空似と見間違えるはずもない。正真正銘、彼女の魂、彼女の姿だ。</p><p>愚かな英雄よ。魔術を児戯と断じ、軽んずる貴様は己の目を信用しすぎたのだ。肉など、骨など、幾らでも姿を変えられる</p><p>肉や骨に傷をつけ歪ませ、固定した状態で回復魔術をかける。すると、肉や骨はその固定に沿って形を変える。Olはクドゥクの少女、Faroの胎内にやったのと同じ事を、浚ってきたヒルダの全身に施した。</p><p>更に喉を焼き声を変えた上で、元のヒルダの声形を幻術で上に被せる。幻影こそが真実だったのだ。</p><p>貴様ァァァッ！！</p><p>いいのか。俺ならば生き返せるのだぞ？</p><p>剣を投げ捨て、Olに掴みかかろうとするザイトリードの先手を打ってOlはそう言った。その指がOlをバラバラに引き裂く寸前で、ザイトリードの腕が止まる。</p><p>胸を剣で一突き。見事な腕だ。この傷であれば、まだ蘇生は可能だ。幸い魂もこうして保存している。傷を治して、魂を戻せばこの女は生き返る。魔術を使えば、だ</p><p>Olは己の身体にヒルダの魂を埋め込んだ。こうすればザイトリードは彼に手出しできない。</p><p>正直なところ、貴様はバラバラにしても飽きたらんしかし、その腕は惜しい。呪いを受け入れ、俺の部下になるのならば、妻を蘇生してやる</p><p>何だと</p><p>ザイトリードの鉛の呪いは、自らかけたものだ。その強さは、彼の信条すなわち、魔術と言うものが取るに足らぬ、下らないものであると言う価値観に依存している。彼が魔術の保護を欲し、受け入れ、妻を蘇生したいと願えば自然その呪いは解ける。</p><p>ザイトリードは悩みぬいた。ヒルダの死は、ユニスのそれとはわけが違う。</p><p>妹と妻の差ではない、英雄とただびとの差。いずれ非業の死を迎える運命にあるものと、安らかにこの世を去る可能性を残したものの差だ。</p><p>貴様の言う通りにすれば、ヒルダを助けてくれるのか</p><p>ああ。傷一つ残さず、元通り蘇らせて見せよう</p><p>次の瞬間、彼の身体は左右に別れ、ただの木屑に成り果てた。</p><p>お断りだ</p><p>それは彼にとって苦渋の決断だった。最愛の妻を殺し、その罪を背負う。そうあってでも、英雄であることをやめるわけにはいかない。そうでなければ、殺してまで英雄である事をやめさせなかった妹にも申しわけが立たない。</p><p>誰もいなくなったそこで、ザイトリードは虚無感に襲われた。</p><p>この世の悪を滅ぼし、理不尽と戦い、人を守る。それが、英雄に与えられた使命だ。しかし、彼はその使命に諾々と従ってきたわけではない。</p><p>妻が、妹が。守るべき物があったからこそ、彼は今まで戦い、数え切れぬほどの血で手を染めてきたのだ。だが、守るものはもう何もない。彼自身が、二人とも殺してしまった。</p><p>あなた！</p><p>だから、彼はそれに抗うことができなかった。</p><p>ヒルダ！？</p><p>駆け寄り、抱きついてくる彼女の身体を、ザイトリードは抱きとめる。柔らかな肌の感触、誰よりも愛しいその顔、聞き慣れた声。紛れもない、妻の姿だった。</p><p>無事だったのか？</p><p>ええっ！</p><p>涙を浮かべる彼女を抱きしめ、ザイトリードはそっと妻に口付けた。多幸感が彼の胸を満たし、安堵が心を埋め尽くす。悪い夢だったのだ。妻を殺したのも、妹を殺したのも。そうして、彼は無意識に幻影を魔術を受け入れた。</p><p>幸福の中、英雄の心臓は動きを止めた。妻の姿をした淫魔に、その命を全て奪われて。</p><p>ふぅ</p><p>リルは姿を元に戻しながら、息を吐いた。英雄の生命力は流石と言っていい上質な味を備えていて、いつもなら軽口の一つでも叩きたいところだが、ユニスの首が転がっている横では流石にそんな気分にはなれない。</p><p>Olー、さっさとこの子蘇生してあげてよ</p><p>木陰から現れたOlの形代に、リルはユニスの体と頭を渡した。Olがその首の断面に手を触れると、血の跡も残らずに彼女の首は元通りつながる。しかし、Olは表情を変えぬまま、ぽつりと言った。</p><p>無理だ</p><p>え？</p><p>聞き返すリルに構わず、Olは歩を進め、ヒルダの死体に手をかざす。こちらも、胸に開いた傷は瞬く間に元に戻った。ついでに顔の時を遡らせ、元の顔に戻してやる。</p><p>無理って、どういうこと</p><p>淡々と死体を処置していくOlに、リルは尋ねた。</p><p>英雄を蘇生する事はできない。死体をよく見てみろ</p><p>嘘。魂がない！</p><p>言われた通りに死体に目をやって、リルは叫んだ。魂がなければ、蘇生は不可能だ。身体をどれだけ元に戻しても、それは空っぽのただの入れ物に過ぎない。</p><p>英雄の魂は、死ねばすぐさま天へと還る。そういう決まりになってる</p><p>それって</p><p>殆ど同じような現象に、リルは覚えがあった。</p><p>英雄と言っても何のことはない。悪魔と契約した魔術師と、大差はないんだ</p><p>言葉を失うリルにOlは頷き、吐き捨てた。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-9</p><p>ザイトリードが負けただと？</p><p>は</p><p>恭しく頭を下げる宰相トスカンに、ウォルフは自らの豊かな髭をしごき、考えた。</p><p>相手をするまでもない小物と、ただの魔術師であると、ザイトリードは言っていた。魔術を受け付けぬ稀代の英雄である彼が、生半可な方法で負けるわけはない。</p><p>期待できるやもしれんな</p><p>陛下</p><p>思わず笑みを浮かべるウォルフに、トスカンは咎める様な声をあげた。</p><p>ユニス様は姫様は、一体何のために！</p><p>トスカンよ。お前の怒りはもっともだ</p><p>命を賭して言い募るトスカンに、ウォルフは鷹揚に答えた。</p><p>だが、英雄として産まれたものには、英雄としての価値観がある。死ねるのならば、疾くこの世を去った方が幸せなのだ</p><p>私にはとてもそうは思えませぬ</p><p>ウォルフは頷く。</p><p>お前のその実直な所が、俺がお前を傍においている理由だ。しかし、いずれわかる日が来よう</p><p>陛下。ご報告がございます</p><p>なおも食い下がろうとするトスカンの言葉を、伝令兵の報告が遮った。</p><p>申せ</p><p>は。王都の北部、10マイルほどの平野に魔王軍3000が出現。先の戦とは異なり、妖魔が殆どのようです。現在一直線に王都を目指しており、恐らく一刻程度で王都にたどり着くかと</p><p>伝令兵は跪き、落ち着いた声で報告した。一体一体が人を凌ぐ妖魔と言えど、3000では勝負にならない。</p><p>王都の門を閉め、全軍を持って防衛に当たれ</p><p>篭城で、ございますか？</p><p>伝令兵は王の言葉に驚き、思わず問い返した。そのような対応をする相手ではない。急ぎ1万も兵を出し、平野で決戦を行えばいいだけの話だ。篭城となれば時間も設備も兵も使う。篭城と言うのは普通は、戦力で負けている側が相手の物資が尽きるか、援軍を待つときの手段だ。</p><p>そうだ。全軍、10万を持って全力で当たれ</p><p>はっ！</p><p>伝令兵は敬礼し、素早くその場を後にした。異例の命令に思わず聞き返してしまったが、本来一平卒である彼が王の命に疑問を差し挟む余地などない。</p><p>それよりも、出陣の準備を先に進めている騎士団に命を知らせ、防衛の準備をせねばならない。</p><p>さてこちらは全力を出してやる。3000の兵でどう出る、魔王Olよ</p><p>ウォルフはそう、呟いた。</p><p>篭城の構えだと？</p><p>Olは門を閉ざし、守りを固める敵軍を見て怪訝な声をあげた。</p><p>今度は舐めてはいないようね</p><p>その背にふわりと浮かび、リルが硬い声で言う。</p><p>だとしても、作戦は変わらぬ</p><p>今回用意した戦力は巨人やリザードマン、ケンタウロスと言った亜人を中心にした、Olの迷宮でも精鋭中の精鋭だ。錬度はグランディエラの正規兵に比しても遜色なく、種族自体の能力の高さでそれに勝る。</p><p>とはいえ、敵軍は10万。3000でどうにかなる数ではない。ましてや相手は篭城を選んだ。</p><p>頼りにしているぞ、ローガン</p><p>おお。任せとけ、一撃で決めてやるよ</p><p>ローガンが笑みを見せて請け負う。今回の戦力は、ローガンとリルのみ。エレン達もミオも、迷宮の守備に回っている。</p><p>その顔で笑われるとキモい</p><p>うるせえな、俺だって好きでこんな顔してんじゃねえよ！</p><p>リルとローガンのやり取りを背に、Olは命じた。</p><p>全軍、突撃！</p><p>そして、死の行軍が、始まる。</p><p>来たか</p><p>彼方に魔王軍を臨み、ウォルフは呟く。現役時代の剣を携え、鎧に身を包んだその姿はまさしく叙事詩(サーガ)に謳われる英雄そのもの。漲る覇気が溢れ力に満ちたその姿に、兵達の士気も最高潮に達していた。</p><p>巨大な門は硬く閉ざされ、攻城級魔術でもそうたやすく破ることはできない。堅牢な兵の上には投石機(カタパルト)や石弓(バリスタ)と言った兵器が並べられ、その隙間を長弓を持った兵士達が埋めている。</p><p>射程距離に収まれば、すぐさまこれらは雨の様に矢玉を降らせ、門に辿り付く暇さえなく殲滅するだろう。10万対3000とはそういう数字だ。</p><p>こちらから討って出ぬから、落とし穴のような罠に引っかかる事もない。先の戦で見せた落石攻撃も、飛行魔術の使い手と射程に優れる弩兵隊を取り揃え、見つければすぐさま撃ち落す用意がある。</p><p>現実的に考えれば、ウォルフの勝ちは揺るがぬはずだ。それでもなお、彼はその予想を裏切る者を待ち望んでいた。Olが現れる、もう何年も前からだ。</p><p>そろそろ射程だ。全兵、構え！</p><p>ギリギリと投石機と石弓が引き絞られる。これらの射程はおよそ400ヤード（約360メートル）、長弓の倍以上の距離を攻撃できる。</p><p>今だ、撃てッ！</p><p>一斉に、無数の矢と石玉が宙を舞う。それとほぼ同時に、Olの軍は掻き消えた。</p><p>幻影か！？ いや、転移か！</p><p>幻影を警戒するのは戦の初歩の初歩。ウォルフ配下の魔術兵が警戒していないわけがない。しかし、まさかこの距離になってからの転移があるとはさしものウォルフも思ってはいなかった。軍を転移などすれば、混乱は避けられぬ。また、ただ転移するだけでも相当の魔力を食うはずだ。ましてや、行軍しながら転移など正気の沙汰ではない。</p><p>陛下、敵はあそこに！</p><p>兵の報告に視線を移すと、魔王軍は元いた場所から100ヤードほど離れた場所に移動していた。ウォルフの軍が弓を構えていた方向からは側面、外壁から200ヤードの位置だ。ここまで近付かれると、兵器を使うのは少々苦しい。</p><p>弓兵、構えよ！</p><p>屈強な兵士達が、すぐさま長弓を構える。あれほどの大魔術を使った後だ。いかに魔王と言えども、弓を防ぐ魔力までは残っていまい。</p><p>そのウォルフの考えは、再度裏切られた。</p><p>陛下、敵の半分が更に転移しました！</p><p>なんだと！？</p><p>魔王軍の前半分、騎兵いや、半人半馬(ケンタウロス)の一団が更に転移し、外壁100ヤードまで近付いた。ただでさえ少ない軍を、更に半分に分けるとは。</p><p>後続の部隊を確実にしとめよ。馬どもは外壁で迎え撃つ！</p><p>弓兵達が、次々に魔王軍の後続部隊を狙い撃ち、矢を放ち始めた。屈強なトカゲ男(リザードマン)や巨人達はそれに全くひるむ事無く、じわじわと数を減じさせながらも外壁へと侵攻する。</p><p>接敵されました！</p><p>石を落とせ、焼けた油を食らわせてやれ！</p><p>王の命令に、兵士達は次々と石や焼けた油を城壁の上から投げ落とす。ケンタウロス達はそれに傷付きながらも、城壁への突進をやめない。</p><p>実は、城壁と言うのは門に比べれば魔術的防護は弱い。念入りに付与魔術をかけられた門に比べれば、城壁には何の魔力も篭っていないに等しい。</p><p>しかし、それでもレンガでできた城壁は堅牢だ。並大抵の攻撃では壊せないし、壊せたとしてもその穴は小さい。破壊すれば大軍団が通れる門とは違い、一人、二人が通れる穴をあけられたとしても戦術的意味は少ないのだ。</p><p>ただの無謀な特攻か？ ウォルフがいぶかしんでいると、突然城壁が爆発し、巨大な穴がぽっかりと開いた。魔王軍の魔物たちはその穴から一斉に王都へと侵入してくる。仲間がどれだけ殺されても意に介した様子もない、凄まじい特攻だ。</p><p>その先陣を切る姿を見て、ウォルフは敵の狙いを悟った。確かに、Olがウォルフに勝つとすればそれしかあるまい。だが、そうだとしたら期待外れもいいところだ。</p><p>陛下！ その、敵に</p><p>ザイトリードがいたのであろう</p><p>言いよどむ伝令兵の言葉を言い当ててやると、兵は驚いたようにウォルフの顔を見つめた。</p><p>大方、悪魔にでも死骸を操らせておるのだろう。城壁を砕いたのは奴だ</p><p>ウォルフは宝剣フラントを抜き放ち、怒声を上げた。</p><p>兵を引け。奴に知らしめてやる。本物の英雄がどのようなものであるか！</p><p>ウォルフは城壁を飛び降り、雄叫びを上げた。石壁までもがその声に震え上がり、ガタガタと鳴り響く。先攻してくる魔物どもにぶんと剣を振るうと、刃の届かぬ10ヤードも先まで魔物達は真っ二つに両断された。</p><p>そのままウォルフは風の様に駆ける。ウォルフはあっという間に己が息子の顔をした男の下へと辿り着いた。</p><p>そこな貴様。我が息子の身体を返してもらおうか</p><p>ザイトリードは、彼が一度も浮かべた事のない軽薄な笑みを返し、言った。</p><p>こんなに便利な体、そう簡単に返すわけにはいかねぇな。あ、幼女10人とだったら考えるぞ</p><p>下種が</p><p>吐き捨て、ウォルフは剣を構えた。生きていた頃の彼であれば、或いは本気で反旗を翻せばウォルフに勝ったかも知れない。しかし、死骸を操るだけの紛い物に負ける気はまるでしなかった。</p><p>ためしに戦ってみたい気もするけどな。残念ながら、今日の俺はただの配達業者だ</p><p>配達？</p><p>眉をひそめるウォルフの前に、琥珀色の髪の若い男が降り立った。</p><p>貴様が、魔王か</p><p>じろりとウォルフは彼を一瞥した。持っている魔力も、体つきも、まるで話にならない。ザイトリードが小物と断ずるのも無理はない、とウォルフは思った。</p><p>しかし、それと同時にその目を見て彼は確信する。</p><p>それは、目的の為に手段を選ばない者の目。狡猾さよりも、勇猛さよりもなお性質の悪い、純粋で強靭な意思の瞳だった。今までの人生で、ウォルフを追い詰めてきたのはこういった目の持ち主だった。</p><p>魔王よ。よもや、そこな悪魔が俺に勝てるとは思うてはおるまい。一体どんな手を用意した</p><p>ああ貴様であれば、勝てると信じているよ</p><p>Olの妙な物言いに、ウォルフは眉をひそめる。そんな彼に、Olは懐から金でできた冠を取り出した。</p><p>いくつもの宝石で飾られた、きらびやかな金の冠だ。</p><p>ウォルフよ。お前は英雄の中の英雄、王の中の王。何者にも勝る英雄王だ。そんなお前にこそ、この冠は相応しい</p><p>Olの掲げるそれを、ウォルフは受け取った。呪いの類どころか、魔力のかけらすら見られない。宝石は全て本物、土台は全て純金。単純な価値で言えばかなりのものであろうが、それにしてもこの場でウォルフに送る意味がわからない。</p><p>何だこれは？</p><p>毒だ</p><p>問うウォルフに、Olは端的に答えた。その言葉で、ウォルフは一つ心当たりに辿り着く。</p><p>貴様、これは、まさか！</p><p>これはこの国を滅ぼす毒。期待しているぞ、ウォルフ。お前の善戦を</p><p>ウォルフはOlを切り捨てるが、既に手遅れだ。受け取る受け取らないにかかわらず、ここまでこの冠を持ち込まれた時点で、ウォルフの負けは確定していた。</p><p>ザイトリードを操る悪魔の姿はいつの間にかない。目的を達し、Olの軍も次々に撤退を始めていた。</p><p>兵達が勝利に快哉を叫ぶが、これは勝利などではない。ウォルフは剣を握り締め、空を見上げた。</p><p>やってくるのだ。なくなった、大切な宝を求めて。</p><p>もっとも古く、もっとも力を持つ竜が。</p><p>第14話英雄を無残に殺しましょう-10</p><p>彼女の名前を知るものは、とうにいない。</p><p>神魔戦争と呼ばれる大戦が起こる更に昔、彼女はこの世に生を受けた。</p><p>数少ない仲間はその戦争で命を落とし、残った仲間も英雄との戦いで散っていった。残された中で、彼女はいつしか最も齢経たドラゴンと呼ばれるようになっていた。</p><p>全身をびっしりと覆ったトカゲのような姿に、後頭部から突き出た何本もの角。口にはずらりと牙が生えそろい、背中には蝙蝠のような翼が一対、生えている。</p><p>ドラゴンと言うと誰もが彼女のような姿を連想するが、実際はそうではない。狼のようなもの、獅子のようなもの、首を何本も生やしたもの、二対の翼を持つもの、翼を持たぬもの、様々だ。</p><p>そんな中、彼女だけは古来の伝承通りの姿。人の姿を取ることもなく、魔術を使う事もなく、ただその牙と鱗と炎とで、どのドラゴンよりも強く美しい。</p><p>それが彼女、今はただメトゥス(怖れ)とだけよばれる、最古にして最強の竜だった。</p><p>メトゥスはここ数百年、幸福で平和な暮らしを送っていた。彼女に戦いを挑もうなどという愚か者は英雄の中にすらおらず、たまに迷い込んでくる動物や魔物、人間を喰らいながら、数千年間溜め込んだ財宝の上でとぐろを巻いて眠る日々だ。</p><p>数千、数万に及ぶその財宝を、メトゥスは金貨の一枚に至るまで把握し、それを眺めては幸せに浸り、また夢の中に埋没する。たまに来る人間が持っている宝は、彼女にとっての何よりの喜びだった。</p><p>しかし、その喜びの為に人間を襲うような事はけしてない。彼女はただ一人、山の洞窟の中腹で、幸福な日々を過ごしながら終末の時を待っていればそれで満足だったのだ。</p><p>しかし、ある日彼女に転機が訪れた。冠が一つ、巣から無くなっていたのだ。彼女は血相を変え、巣の中を探し回った。しかし、冠は見つからず、代わりに三人の人間の臭いと一人のクドゥクの臭いをかぎつけた。</p><p>何者かが、彼女が眠っている間に宝を一つ盗み出したのだ。</p><p>彼女は怒り狂い、洞窟を飛び出した。外に出ると冠に付いた匂いははっきりと感じられ、その通りに彼女はまっすぐ空を飛んだ。数百年ぶりの外界を楽しむ余裕すらない。彼女の頭にあるのは宝を取り返す事と、それを盗んだ人間共を容赦なく滅ぼし、灰も残らぬほど燃やし尽くす事だけだった。</p><p>彼女は空を矢よりも早く駆け、あっという間に宝を持っているものを見つけ出した。それは盗んだ者の匂いとは別の匂いを持った人間だったが、彼女にとっては関係ない。自分の宝を持ち、人間であると言うだけで攻撃の対象となった。</p><p>一方、ウォルフは腹を決め、宝剣フラントを構えてメトゥスを迎え撃った。敵は神代から生きる竜の中の竜。勝っても負けても、これが人生最後の戦いになると彼は直感した。</p><p>者ども、退け！ 民を避難させよ！</p><p>し、しかし、陛下！</p><p>俺に恥をかかせる気か</p><p>王の言葉に、兵達は涙を流し、敬礼してその場を去った。英雄と竜の一騎討ちは、古来より最も栄誉のある戦いの一つだ。</p><p>しかし、それがわかっていながらも、兵達は槍をとらずに入られなかった。己が主君の最期を、はっきりと予感したからだ。</p><p>ウォルフはふと、笑みを浮かべている自分に気が付いた。</p><p>そうだ。これだ。これこそが、我が最期に相応しい戦だ。</p><p>我が名はウォルフ。ウォルフディール・セヴラン・ル・エラ・グランディエラ一世！さあ、古き竜よ。いざ、尋常に勝負だ！</p><p>ウォルフは高らかに名乗りを上げ、宝剣を振るう。彼がまだ若い頃、巨人の英雄を一撃の下に屠った剣。しかしその一撃は、メトゥスの鱗にたやすくはじかれ、傷一つつけられない。</p><p>メトゥスは口から毒炎を吐き出し、ウォルフを襲う。毒炎はすぐさまウォルフ以外の全てを腐らせ、石を割り、誰も近づけぬ魔域を作り出した。兵士が迂闊にそこに近付けば、腕はすぐさま腐り落ち、毒に肺をやられて息絶えた。</p><p>英雄たるウォルフとて無事ではない。皮膚は爛れ、全身から血が噴出す。しかし、希代の英雄王はそれしきで怯みはしなかった。二度、三度鋭い一撃をメトゥスに叩きつけ、その額から緑色の血飛沫を散らせる。</p><p>その血もまた、猛毒であった。血が流れた大地は穴を穿ち、ウォルフの身体を焼く。金属でできた鎧はおろか、神に祝福された宝剣さえ刃がなまり、欠け落ちる。</p><p>両者の激しい戦闘は、三日三晩続けられた。そのあまりの激しさに、避難を終えた後も兵士達はいかなる手助けもできなかった。</p><p>四日目の朝、ついに勝敗は決した。</p><p>メトゥスは唯一鱗で守られぬその柔らかな腹を、財宝で鎧のように覆い守っていた。しかし、Olが盗み出した冠が守っていた部分だけ、ほんの僅か腹が露出していたのだ。</p><p>ウォルフはそこに剣を突き入れ、心臓を貫いた。メトゥスは暴れまわり毒炎を吐き散らしたがウォルフはひるまず、肩や胸を鋭い爪で引き裂かれながらも更に力を込めて剣を奥へと突き刺す。</p><p>メトゥスの動きは徐々に緩慢になり、そしてついに、数千年動き続けた心臓はその動きを止めた。</p><p>依然として毒炎で近づけず、伺う事すらできぬその領域に、魔王が一人、姿を現す。</p><p>感謝、する</p><p>ウォルフは、力を振り絞ってそういった。</p><p>我が力全身全霊を持って相対できる、最高の敵をずっと、俺は、待っていた</p><p>そんな事の為に、娘と息子を殺したのか</p><p>Olの問いに、ウォルフは自嘲染みた笑みを浮かべた。</p><p>貴様も、知っておろうわれらは、英雄などと持て囃されては、いるが所詮、天の奴隷よ死してなお、それは変わらぬ</p><p>英雄に試練が課せられるのは、魂を磨く為だ。</p><p>長く生きれば生きるほど、偉大であればあるほど、英雄には辛く過酷な試練が課せられる。そしてそれは、死ぬ時に最も顕著になる。試練は必ず英雄の大切なものを巻き込み、悲劇を持って死に至らしめる。</p><p>若きユニスは、愛を抱いて死んでいった。</p><p>ザイトリードは、愛する妻を殺し、自らも幻の中に没した。</p><p>そして、老年のウォルフは、愛する子と国民を何千と巻き込んで、ようやく死ねるのだ。</p><p>ならばせめて安らかな死を、と？ それは貴様の自分勝手な思い込みだ</p><p>そうかも知れぬな</p><p>ウォルフは咳き込んだ。肺は奥まで毒でやられ、腐りきっている。この状態で生きているのが信じられないほどだ。</p><p>王よ魔を従えし王よ。俺もまた、王として頼むこの国を、どうか</p><p>ああ。悪いようにはせん。任せておけ</p><p>ウォルフはOlの言葉をすんなりと信じた。お互い、憎しみさえ抱く敵同士だ。しかしそこには、不思議な信頼のようなものがあった。</p><p>そして父として、頼む。娘を、どうか</p><p>そこまで言い、ウォルフは事切れた。</p><p>死ぬなら、最後まで言い切って死ね</p><p>Olの言葉は、誰にも届かず腐り果てて消えた。</p><p>認めるだと？</p><p>はい。それが前王の遺言にございます</p><p>恭しく頭を下げ、宰相トスカンはそう答えた。</p><p>もし自分を倒すものがあれば、それを王と認めよ、と</p><p>俺が倒したわけではない</p><p>ご尤もです。が、前王はウォルフ様は、そうは仰らないでしょう</p><p>トスカンは絶対の自信を持って言い切った。あの王であれば、そういうに決まっている。</p><p>知略如きに我が武が負けたであれば、それは敗北に他ならない、と</p><p>俺が憎いか</p><p>それはもう</p><p>トスカンは憎しみを隠しもせず、Olをにらみつけた。</p><p>我が主の仇、姫様の仇、殿下の仇。どれか一つでも殺すに値する憎しみが、三つも重なっておるのです。何度殺しても飽き足らぬほど、憎んでおります</p><p>国を盗られた事は仇に入らぬか</p><p>く、とOlは思わず笑いを漏らした。それほどまでに憎む相手に、前王の言葉によって忠義を誓う。一体どれほどの忠誠心が、この男にあると言うのか。</p><p>然様な物は、亡くなられた方々の命に比すればないも同然です</p><p>蘇らせる方法があると言ったら、どうする</p><p>お戯れを。死した英雄の魂は天に召し上げられ、蘇る事適わぬと申したのはあなた様ではございませんか</p><p>僅かに言いよどむトスカンに、Olは頷いた。</p><p>その通りだ。ならば、迎えに行けばいいだけの話だ</p><p>あっさりと答えるOlに、トスカンは目を瞬かせ、彼を見つめた。</p><p>迎えにと、申しますと？</p><p>決まっておろう</p><p>Olは空を指差し、当たり前のように言った。</p><p>次は、天を攻めるのだ</p><p>第15話阿鼻叫喚の地獄絵図を描きましょう-1</p><p>お師匠様！ どうか、どうかお考え直しください！</p><p>ならん。これはもはや決定事項だ</p><p>縋りつくように懇願するスピナを、Olはバッサリと切り捨てた。</p><p>しかし、ラファニスに手を出してはならぬと言ったのは他ならぬお師匠様ではありませんか！</p><p>くどい。それは現在の話だ。戦力が整えばいずれは戦いを挑む。それが多少早くなるだけの話だ</p><p>戦力が整い次第、宗教国家ラファニスを攻める。そう宣言したOlに、スピナは真っ先に反対を口にした。口には出さないが、エレンやリルも賛成は出来ない。勝てない相手だと言ったのはOl本人なのだし、それ以上に攻める理由がユニスを取り戻す為だからだ。</p><p>死は、絶対的なものだ。死んですぐであれば、高度ではあるが蘇生の術はある。強い恨みや情念を遺したものが、霊魂となってこの世に留まることもある。</p><p>しかしそれでも、完全に死んだものが蘇ることはない。死の国へと赴き、妻を、子を取り戻そうとした逸話は幾つもあるが、それに成功したという話はついぞ聞かない。どれもが失敗するか、取り戻したとしてもその代わり果てた姿に驚き、恐れ、逃げ出すか食い殺されるといった話ばかりだ。</p><p>死した英雄が神々の末席に加わり天にいるからと言って、天を攻めてそれを取り戻すと言うOlの考えはあまりにも突飛で無謀なものに思えた。</p><p>これ以上話す事はない。お前は部屋で待機していろ</p><p>スピナを振り切り、手を伸ばす彼女を捨て置いてOlは迷宮の中を進む。リルはその横にそっと近付き、ずんずんと歩く彼に並んで飛びながらおずおずと話しかけた。</p><p>ねえ、Olスピナじゃないけど、私も上手く行くとは思えないよ今のOlは、なんていうかOlらしくない</p><p>らしくないだと？</p><p>Olは歩みを止め、リルを睨み付けた。</p><p>そんなに苛立って、感情的になってるなんて、Olらしくない。何でも冷静に計画を立てて、無駄な事なんて一切しないのがOlのやり方じゃない</p><p>知った風な口を聞くな</p><p>Olはリルの首をつかんで引き寄せた。</p><p>俺は何も変わってはおらん。元々目指していたのは、全てあらゆる物をこの手に収める絶対的な力だ</p><p>ギラついた目がリルの瞳を覗き込む。これは、初めて会った時の目だ、とリルは思い出した。</p><p>冷静沈着、慎重で堅実。そんなものは、この男の上辺、ほんの一面でしかないことをリルは思い出した。もし龍脈が見つからなければ。掘り当てることが出来なければ。思ったほどの魔力が得られなければ。ダンジョンコアが作れなければ。</p><p>ほんの少し、何かが失敗していただけで全てをふいにする様な事を、人生全てを賭けて行ってきた男なのだ。</p><p>しかし、それでも。Olの今の態度はおかしいと、リルは感じた。</p><p>あの時、さ</p><p>その光景は、リルの目にも今もなおはっきりと焼きついている。Olに口付け、ザイトリードに首を刎ねられたユニス。あの瞬間。</p><p>抱きとめてれば、ユニスは無事だったかもしれないって、そう思ってる？</p><p>そんなものは、ただの結果論だ</p><p>もしあの時、Olがユニスを信じていたら、素直に仲間として受け入れていたら、彼女は死ななかったかもしれない。そんな葛藤が、彼を苦しめているのではないかリルのそんな考えは、半分当たり、半分はずれていた。</p><p>俺の考えは変わらん。それを言うなら、あの時点でザイトリードを圧倒できるだけの戦力がこっちにあればよかっただけの話だ</p><p>口に出すことで多少落ち着いてきたらしく、Olはリルの首から手を離す。</p><p>どうもお前達は俺を暗愚か何かかと思っているようだな。言っておくが、俺は別にユニス一人の生死に拘っている訳ではないし、勝算のない戦いをする気もない。まだまだ戦力が足りんのはわかっておる。今すぐラファニスを攻めるわけではない</p><p>Olは踵を返し、リルに命じた。</p><p>会議室にエレンを呼べ。白アールヴの件で話があると伝えろ</p><p>ん。わかった</p><p>リルは頷き、彼の背中をしばし見つめた。多少平静を失っても、その根底はやはりOlのままだ。しかし、平静を失うこと自体、今までの彼にはなかったことでもある。</p><p>そして何より、ユニスの遺体は傷まないように魔術で厳重に保護され、今も彼女の部屋に安置されている。目の前で失ったユニスを、Olは愛していたと言う師、ラズと重ねてみているのだろうか。</p><p>そう想うたびに、リルの胸はちくりと針が刺さるかのような、不可解な痛みに襲われた。</p><p>お前は感謝されているらしいぞ</p><p>感謝？</p><p>開口一番、Olの放った言葉にエレンは首をかしげた。</p><p>金糸の如き髪と絹の如き肌を持つ麗しの姫、白アールヴのセレス。木肌の如き茶の髪と木の葉の如き緑の目を持つ勇猛なる森の民、イーヴァン。愛し合う二人はしかし、種族の壁に阻まれ結ばれることあたわず。しかしそこに襲い来るは邪悪にして獰猛なる黒アールヴ、人と白アールヴは手を取り合いてこれを撃破。互いの溝もそれ以来埋まり、今は力を合わせ一つの村を作り共に生きていると言う</p><p>ほう</p><p>エレンは薄く笑んだ。氷で出来たナイフの様な、酷薄で迫力のある笑みだ。いっそ怒り狂うよりも何倍も恐ろしい。</p><p>体のいいだしにされて悔しいのは配下の四人も同じだろうが、彼女達はむしろエレンの笑みを恐れて身を竦ませた。</p><p>酷いです！ 目に物見せてあげましょう！</p><p>そんな彼女に臆することなく声を張り上げたのはミオだった。Olからしてみれば、先に手を出したのはエレン達なのだから自業自得と言う気もしないでもないが、すっかりエレン達に肩入れしているミオにとってはそうではないらしい。</p><p>ああ、ミオ。我が友よ。復讐に手を貸してくれると言うのか？</p><p>勿論ですよ。エレンさんの敵は私の敵です</p><p>きっぱりと言い放つミオ。いつの間にやらすっかり仲良くなったらしい。以前は見えたエレン達に対する気後れの様なものもすっかり消え、気安く対等に言葉を交わしている。</p><p>ですが、敵は精強。我が黒の氏族の全力をもってしても敵わなかった相手。如何にして戦いましょう？</p><p>エレンの配下の問いに、Olは頷く。</p><p>人間どもや妖魔の兵を出してもいいが、ミオが力を貸すなら話は早い。お前達が了承するなら労せず勝ちうる方法が一つある</p><p>その方法とは？</p><p>問うエレンに、Olはニヤリと笑みを見せ、言った。</p><p>焼き討ちだ</p><p>第15話阿鼻叫喚の地獄絵図を描きましょう-2</p><p>それはまさに地獄絵図と呼ぶに相応しい光景だった。</p><p>ははははは！ 燃えろ、燃えろッ！</p><p>普段の小気味良いサッパリとした気性は完全に鳴りを潜め、残忍さを隠す様子もなくエレンは次々と火矢を射掛ける。</p><p>今よ、皆。火を吹きかけなさい！</p><p>ミオが地獄の猟犬どもを操り、火炎の吐息で瞬く間に木々に炎を燃え移らせていく。</p><p>森の民と白アールヴ達はその攻勢に抗うことも出来ず、ただ逃げ惑うのみだった。炎の光と吹き上げる上昇気流で矢は狙いもつけられず、まともに飛びもしない。木々を操り動物の声を聞く白アールヴの魔術も、あらゆる植物が燃え、相手が地獄の魔獣では何の役にも立たなかった。</p><p>しかし主殿、いいのか？ 白アールヴは生け捕りにせよとの事だったが、この火の手では助からんぞ</p><p>一通り矢をかけ終えて満足したのか、エレンはふとOlに尋ねた。</p><p>問題ない。火は奴らの村を囲むようにつけているが、一箇所だけ逃げられるように空いている。そこから無事逃げるだろう</p><p>もっとも、その先こそが本当の地獄だが、とOlは付け加えた。</p><p>本当の地獄とは？</p><p>ローガンを配している</p><p>なるほど、悪魔が待ち構えているならそれは地獄だ、とエレンは納得した。</p><p>鉛の英雄ザイトリードの死体に取り付いたローガンはOlの配下の中でも飛びぬけた強さを持つ随一の戦士となった。</p><p>魔術を受け付けぬ鉛の呪いは解けているが、高位の悪魔であるローガンはそもそも生半可な魔術を受け付けない。それなのに、ザイトリードとは違って炎を操ったり空を飛んだりする魔術めいた能力は使う事が出来る。</p><p>また、生前のザイトリードが持っていた非常識な膂力はほとんどそのまま。堅牢な城壁を一撃で吹き飛ばす程の破壊力をただの拳が備えているのだから恐れ入る。</p><p>出口でそんなものに居座られていては、白アールヴ達の命運も尽きたことだろう。</p><p>エレンがそう考え、溜飲を下げたその時、彼女の頬を矢が掠めた。</p><p>やはり来たか。貴様らは来るのではないかと思っていたぞ。森の民、そして白き姫君よ！</p><p>エレンは流れ出る血をぺろりと舐め、こちらを睨みつける一組の男女を見て笑みを浮かべた。</p><p>そちらこそやはり生きていたのですね。黒き女帝、エレン！</p><p>そういい、エレンを睨みつけるのは噂に違わぬ美貌の持ち主、白アールヴのセレス。すらりとした長身に小さな顔、高貴さを感じさせるその出で立ちは炎の中、煤に塗れてもいささかの陰りも見て取れなかった。</p><p>二度に渡り我らが村を襲ったその咎。今度こそ、お前の死を持って償わせてくれる</p><p>その隣で弓を構えるのは、森の民イーヴァン。つばの広い羽根付き帽子を目深にかぶるその奥から、鷹の様に鋭い緑の眼差しがエレンを射抜いていた。</p><p>それはこちらの台詞だ。我が同胞(はらから)を殺した報い、今こそ味わうがいい！</p><p>とは言うものの、セレスもイーヴァンもエレンに匹敵するほどの腕を持つ一流の射手。一筋縄でいく相手ではない。</p><p>あ、話終わりました？</p><p>しかしそこに、場違いなのんびりとした明るい声が響いた。</p><p>じゃ、いきまーす</p><p>直後、鋼鉄の塊がエレンの目の前を通り過ぎていった。セレスとイーヴァンの身体が天高く跳ね上がり、まるで人形の様にぼとぼとと地面に落ちる。</p><p>な、なんだ、今のは？</p><p>ゴルゴンのジョーです。全身鋼鉄の皮膚で覆われてるから、矢じゃ殺せないんですよー。ジル、ジョエル、それ持ってきて</p><p>ミオの指示に、黒犬達がセレスとイーヴァンの服を噛んで背に乗せる。ピクリとも動かないし手足は妙な方向に曲がってはいるが、死んではいないようだ。</p><p>ミオ、貴殿が友でよかったと、今心からそう思ったぞ</p><p>二頭の巨大な黒犬と鋼鉄で出来た雄牛、ゴルゴンを従えてニコニコと笑う素朴な少女に、エレンはしみじみと言った。</p><p>？ はい、私もエレンさんと友達でよかったですよ？</p><p>そんな彼女に、ミオは不思議そうに首をかしげたのだった。</p><p>さて、これは壮観な事だな</p><p>牢に詰め込まれた者たちを見て、エレンは笑みを隠さずそう言った。森の民と白アールヴ達は、多少の死者はあったものの概ね生け捕りにされていた。特に、幼い少女は傷一つない。</p><p>たまにお前の事を凄いと思う時がある</p><p>だったらもうちょっと労ってくれよ、旦那</p><p>さすがに疲れた様子でローガンが答えた。あの火勢の中からもっとも逃げ遅れ、もっとも死に易そうな幼女を完全に守るのは並大抵の努力ではない。</p><p>で、主殿。この囚人どもをどうするのだ？</p><p>里を襲い、圧勝した事でエレン達の溜飲は随分と下がったようだった。Olが戦力を欲しているのも理解している為、壊れるまで嬲れとは言わない。どっち道、己の意に反して仲間の仇に使われるのならそれほど愉快な事もあるまい、とエレンは彼らを哂った。</p><p>一人二人であればじっくりと洗脳するなり調教するなり、幾らでも手はあるのだがこの人数となるとやはり、人質をとって言う事を聞かせるしかないだろうな</p><p>Olは捕虜達を種族問わず、男女に分けて別々の牢に入れた。そして、男達の牢で声を張り上げる。</p><p>森に住まうもの達よ。我が名はOl。魔王と呼ばれている者だ。汝らは我に負けた。なれば、我が命に従い、その弓を預けよ</p><p>ふざけるな！ 誰が貴様などに！</p><p>死んでもお断りだ</p><p>誇り高き森の民は、悪に屈しなどしない！</p><p>口々に言うアールヴと森の民。その反応を存分に待ってから、Olは言葉を続けた。</p><p>その意気やよし。だがお前達は、何か一つ忘れてはいまいか？そう。貴様らの女達だ</p><p>Olの言葉に、男達はぎくりと身を震わせた。</p><p>我に素直に従うと言うならば、その身柄は保証しよう。だが、もし歯向かうと言うなら</p><p>卑怯ものめ</p><p>苦々しく吐き捨て、男達はOlを睨みつける。</p><p>とはいえ、貴様らは高潔勇猛で知られる森の民。女と言えどそれは変わらぬ。犠牲を覚悟で歯向かう事も考えられる。そこで、貴様らのような正義の心を持つ者にとってもっとも効果的な方策をとらせてもらう</p><p>Olの言葉に、男達は表情に疑問符を浮かべる。</p><p>人間の男が歯向かえば、アールヴの女を罰する。アールヴの男が歯向かえば、人間の女を罰する。自分の同胞より、親しい隣人を罰せられる方が堪えるだろう？</p><p>なっ！</p><p>ふ、ふざけるなッ！</p><p>Olがニヤリと笑みを浮かべて言うと、男達は口々に騒いだ。</p><p>人間が歯向かったなら、人間を罰するのが筋だろうが！</p><p>アールヴの誰かが叫び、牢の中がしんと静まり返る。今までバラバラに混在していたアールヴと人間が、じわりと距離をとった。</p><p>ああ、まあ言うとおりだ。しかし、そうでない方が信頼につながれた貴様らには効果的だろう？ とは言え、女達はとばっちりだからな。救済策も用意してやろう</p><p>救済策？</p><p>僅かに、すがるような気配で問う男に、Olは鷹揚に頷いてやる。</p><p>アールヴが人間の反乱の準備を密告すれば、処罰するのはアールヴではなく人間の女にしてやろう。逆もまた同様だ。さすれば因果応報。正しき者に災いは降りかからぬと言うわけだ</p><p>男達はようやくOlの言わんとしている事を理解した。本人を処罰するより他人を処罰した方が効くなどとは、実際にはOlは微塵も思っていない。これは人間とアールヴ達を離反させ、お互いに監視させる為の条件なのだ。</p><p>一斉に蜂起すれば、こんな条件は意味がない。しかし、片方が裏切れば、もう片方の女達だけが処罰される。片方には知らせずに準備をすれば、もう片方が被害を被る。人間とアールヴの間に生まれた信頼を、Olは試しているのだ。</p><p>そして、一斉蜂起できるほどの真の信頼は、人間とアールヴの間には芽生えないとOlは踏んでいた。黒アールヴに襲われた時に団結できたのは、それしか生きる道がなかったからだ。火の手のない方に逃げるのと同様に、それしか方法がなければ当然その方法をとる。これは人間もアールヴも同じだ。</p><p>しかし、いくつも方法がある場合、それは成り立たない。</p><p>価値観が違う。寿命が違う。立場が違う。人間同士、アールヴ同士でさえ、意見を纏めるのには時間がかかるだろう。ましてや、これだけの人数の人間とアールヴが、一人残らず同じ意見に達する事は不可能だ。一人でも裏切れば、それで反乱計画は崩壊する。</p><p>これで、男達は当分奴隷として扱えるだろう。付かず離れずの距離で使ってやれば、お互いに監視しあってくれるはずだ。</p><p>Olは踵を返し、別の牢独房へと向かった。</p><p>大衆を処理したら、次は頭。</p><p>セレスとイーヴァンの番だ。</p><p>第15話阿鼻叫喚の地獄絵図を描きましょう-3</p><p>今すぐ私を解放しなさい</p><p>開口一番、白アールヴの姫セレスは居丈高にそう命じた。姫と言ってもそう呼ばれているだけで、彼らの集落は国と呼ぶにはあまりにも小規模だ。精々が村、ただの集まりと言った程度の人口に過ぎない。</p><p>しかし、美形揃いの白アールヴの中でも、セレスの容姿は更に飛びぬけており、正に姫と呼ぶにふさわしい容貌をしていた。同じ白アールヴでもShalはあどけない少女にしか見えぬ容姿をしているが、セレスはしっかりと成熟した女の魅力を備えている。</p><p>手足は細くすらりと長く、その身長はOlとさほど変わりない。気品と美しさを兼ね備えたその姿は計算しつくされた芸術品のようだ。赤く燃える森の中でもその美しさは損なわれていなかったが、湯を浴び磨かれた肌は玉の様に光り輝いていた。</p><p>粗末な囚人服を押し上げる二つのふくらみは並みの人間と比べても豊かなもので、スレンダーな白アールヴの中では破格の巨乳と言ってよい。</p><p>お前は今の自分の立場がわかっているのか？</p><p>勿論です。あなた達は卑劣にして邪悪、恥知らずの人でなしです。今すぐ己の所業を恥じ、私達を解放しなさい</p><p>セレスはどうやら本気で言っているようだった。</p><p>恥知らずか確かにそうかも知れぬ。しかし、人間などと言うものは一皮剥けば皆同じ。貴様の愛するあのイーヴァンという男もいや、アールヴでさえも、本質は変わらん</p><p>ふざけないで下さい！ イーヴァンはあなたとは違います！彼は強く、優しく、誰よりも勇敢で高潔です。あなたの様な姑息な人でなしが！</p><p>では、証明して見せよ</p><p>セレスが食いついたのを確認して、Olは彼女の言葉を遮った。</p><p>俺は愛などというものを信じてはおらん。それはただの肉欲に付随するまやかしだ。真の愛などというものがあると言うのなら、それを証立てて見せろ。さすれば、お前達の正義を認め、解放してやろうではないか</p><p>どうすればよいのです</p><p>Olの求めることをおおよそ理解したのか、セレスは恐れるように尋ねた。</p><p>一週間、お前を犯す。穢し、辱め、善がらせ、屈服させる。それでもなお変わらず愛を持ち続けたなら、それは真の愛と認め、貴様らを解放してやろう</p><p>もし、その提案を受けなければ？</p><p>もう二度とお互い会うことも出来ず、死を迎えるだけだ</p><p>Olの答えに、セレスは大きく息を吐き、そして覚悟を決めた。</p><p>いいでしょう。しかし、この身は既にイーヴァンの物。私の一存で決めるわけにはいきません。イーヴァンに一度会わせなさい。彼も承諾すれば、その勝負を引き受けましょう</p><p>よかろう</p><p>Olはエレンに命じ、イーヴァンをセレスの牢の前に連れてこさせた。イーヴァンは両手を縛られ、鎖に繋がれているせいでセレスに近付くことも出来なかったが、二人は再会を喜び、愛を囁きあう。</p><p>件の勝負の件を述べると、イーヴァンは愕然とし、怒り狂ったが、二人が生き延びる道が他にないと知ると渋々と受け入れた。</p><p>セレス。邪悪なるものにどれだけ穢されようと、君の輝きは少しも衰えたりはしない。変わらぬ愛を誓う</p><p>ええ、イーヴァン私はけして悪に屈したりはしません。あの根性のひね曲がった陰険な魔王に思い知らせてやります。この世界で何がもっとも強く、美しいものなのかを</p><p>セレス</p><p>イーヴァン</p><p>はい、そこまでだ</p><p>こんな状況でも二人の世界を作り始める恋人達に若干苛立ちを感じながら、Olはイーヴァンの鎖を引いてエレンに渡した。</p><p>では、一週間後を楽しみにしていろ</p><p>そして、元の独房に閉じ込めるよう指示すると、Ol自身はセレスの牢へと入る。</p><p>さて、では早速相手をしてもらおうか</p><p>言いながら、Olは懐から薬の入った瓶を取り出し、セレスに渡す。</p><p>これは何ですか？</p><p>媚薬だ。いちいち前戯などしてやるつもりはないからな</p><p>なそんなものを飲むと思っているのですか！？</p><p>媚薬と言っても、惚れ薬の様なものじゃない。単に身体を強制的に発情させるだけだ。お前の言う世界でもっとも強く美しいものは薬に負けるようなものなのか？</p><p>Olが揶揄するように言うと、セレスはぐっと言葉に詰まる。</p><p>それと、避妊薬も含まれている。孕みたくなければ飲んでおけ</p><p>それを先に言いなさい！</p><p>セレスは瓶の蓋を開け、中の液体を喉に流し込む。妙な苦味と、喉がかっと熱くなる感覚に彼女は顔をしかめた。</p><p>さて、媚薬が効いてくるまでお前にはこちらに奉仕してもらおうか</p><p>Olはベッドに腰を下ろすと、いきり立った一物を取り出す。</p><p>奉仕？</p><p>口と手でこれを愛撫しろといっているのだ</p><p>嫌悪の表情でOlのそれを見つめるセレスに、Olは彼女の手を引いて跪かせ、自らの物を握らせる。</p><p>歯を立てるなよ。立てたらその分、イーヴァンの身体に刃を立ててやる</p><p>嫌がるように頭に加えられていた力が、その言葉でふっと抜け一気に大人しくなる。</p><p>手はそのまま一定の速度で動かせ。舌は下から上へ、満遍なく這わせるのだ</p><p>セレスは頭を抑えられ、えずきながらも必死に手と舌でOlの物を愛撫した。</p><p>下手だな。まあ良い、勝手に楽しませてもらうぞ</p><p>Olは両手でセレスの頭をつかみ、秘部を犯すかのように腰を振って彼女の口の中に突き入れる。</p><p>んんっ、んぶぅっ、んぐっ！</p><p>口の中を奥まで蹂躙され、セレスはくぐもった悲鳴を上げるがOlはお構いなしに彼女の口内を陵辱する。</p><p>出すぞしっかりと飲めよ</p><p>そして、喉の奥に精を一気に解き放った。</p><p>んっんぐっ、が、はぁっ！！ げほっ、ご、ほっ！</p><p>大量の精液にセレスは咳き込み、口を離して床に吐き出す。何とも言えない苦味と青臭さが彼女の鼻を突き、セレスはこれ以上ないほどの嫌悪感に包まれた。</p><p>しっかり飲めといっただろうまあ良い。どうせ後で嫌でも飲む羽目になるのだからな。さて、媚薬も回ってきたようだ。そこに横になって股を開け</p><p>セレスはなおも咳き込みながらも、火照る体をベッドに横たえた。Olは随分自信があるようだが、セレスにも自身を抑制する自信があった。</p><p>入れるぞ</p><p>Olはセレスの両脚をぐいと割り広げ、秘部に一気に突き入れた。自信ありげに言うだけあって、その一物はイーヴァンのものより太く硬く、媚薬で火照った身体に強烈な快感を与える。</p><p>セレスは無駄に抗わず、その快楽を素直に受け入れた。アールヴ達はその美しさから、時に人間達に捕らえられ、奴隷にされることがある。特にセレスは幼いころから美しく、そんな時の心得をいくつも教わっていた。</p><p>快楽に無理に抵抗しようとすれば、体力を失うのみ。抗わずに受け入れ、逃げる隙を伺う方が良い。媚薬を使っているせいもあるだろうが、確かにOlとの性交は生理的な嫌悪感を除けば強い快楽を彼女に与えていた。</p><p>しかし、心まで満たされるのは、イーヴァンとの交わりだけだ。どんなに快楽を与えられようと、セレスはその幸福感を知っている。心まで堕ちる可能性はない。</p><p>んっ、あああぁんんっ、んん</p><p>甘い声を上げるセレスに気をよくしたのか、Olが抽送の速度を上げる。</p><p>いくぞ受け止めろ！</p><p>どくどくと音さえ聞こえるほどの勢いで、Olの精がセレスの胎の中に吐き出される。セレスは身体を震わせてそれを受け、ほっと息をついた。</p><p>後6日、これを耐えるだけで仲間達は救われる。</p><p>魔王といえど何のことはない、ベッドの上ではただの男だ。</p><p>そんな事を思っていたセレスの身体が、くるりとひっくり返された。</p><p>えっ？</p><p>次は後ろから行くぞ</p><p>答えを待たず、セレスの腰をがっしりとつかみ、Olの硬く反り返った一物が彼女の胎内に再び納められた。</p><p>ひあぁっな、何でまだ、するのですか</p><p>異な事を言う</p><p>困惑の声を上げるセレスに、Olは意地の悪い笑みを返す。</p><p>七日間、お前を犯すと言っただろう。まだ一刻も経っておらんぞ</p><p>そんな冗談、でしょう？</p><p>震える声で、セレスは問う。</p><p>冗談なものか。俺の精力は無尽蔵だ。きっちり一週間、84刻（168時間）、犯しぬいてやる</p><p>セレスの表情から、一瞬にして余裕の色が消えた。</p><p>第15話阿鼻叫喚の地獄絵図を描きましょう-4</p><p>あぁぁはぁぁぁぁ</p><p>高い波と、低い波。</p><p>よせてはかえす二つの波の間で、セレスの意識は小船の様に翻弄されていた。</p><p>極度の疲労で視線は定まらず、思考も千々に乱れ纏まらない。彼女に出来る事は、高い波が来れば甘く声をあげてそれを貪り、低い波がくれば尻を振ってねだる。ただその二つだけだった。</p><p>全身は精液に塗れどろどろになり、それを疎ましく思ったことすらもはや遠い忘却の彼方。股間からはどちらの穴からもだらしなくどろどろとした白い液体を垂れ流し、目はどんよりと光をなくし半開きにした口、胡乱な表情を浮かべたその姿はとてもアールヴの美姫とは思えないものだった。</p><p>あああぁぁぁあぁぁぁ</p><p>どぷどぷと胎内に吐き出される暖かい感触に彼女は一際高い波を感じ、本能の命ずるままに高く声をあげ快楽を貪った。それが何を意味するかももはや彼女は考えることが出来ず、ただただ次をねだる様に腰を振るばかりだ。</p><p>んぁぁやぁ</p><p>久方振りに彼女の股間からOlの一物が抜かれ、彼女はか細く声をあげた。入れたまま十度は中に出されたはずだが、当然彼女はそんな回数など覚えてはいない。ただ己の胎内を満たしていたものがなくなる喪失感に声をあげ、萎えた足に力を入れ尻を突き出す。</p><p>しかし、期待した快感の代わりに、彼女の眼前に怒張したペニスが突き出された。セレスは愛液と精液に塗れたそれを何の躊躇いもなく口に含み、吸い上げ、舐めさすった。</p><p>Olと性交をはじめてからと言うもの、彼女は食事と呼べるようなものを一切取っていない。唯一口にしているのが、Olの精液だ。大量の魔力を帯びたそれは、それだけ摂っていても十分生きていけるほどの栄養分を含んでおり、量もたっぷりと出る。</p><p>それを摂って腹を満たせと最初に言われたときには怒りよりも絶望に打ちひしがれたものだったが、飲まず食わずでは一週間生き延びることなど出来ない。不承不承口にしているうちに、味にはすぐに慣れた。むしろ今では美味しいとさえ感じる。</p><p>Olを感じさせれば感じさせるほど大量に濃密な精が出てくるので、セレスは熱心にその肉棒を舐めあげ、奉仕するようになっていた。その豊満な双丘に熱く猛る一物を挟み込むと、両手でむにむにと乳房を押し付けながらOlの情欲を煽るかのように舌を長く伸ばしその先端をちろちろと舐める。</p><p>かと思えば、頬を竿にこすりつけるようにしながらたっぷりと精のつまった袋を舐めあげながら白魚のように細く白い指で肉茎をしごき、その野苺の様な唇で味わうように食みながら肉棒を上へと辿っていく。</p><p>そして品なく舌を伸ばして口を大きく開くと、鈴口をぱくりとくわえ込んだ。同時に、カリの周りをなぞるように舌先で愛撫しながら、頬をすぼめ強く吸い上げる。</p><p>んっ、んぅっ</p><p>先端から吐き出される甘露を、セレスは目を細めてごくごくと喉を鳴らし、嚥下した。最初は咳き込み吐き出してしまったそれも、今では舌の上で味わい飲み下す方が自然だと感じるようになった。もはや考えずとも、身体が勝手に動きそうするのだ。</p><p>んふぅ</p><p>たっぷりと精を飲み込みセレスが満足げな声を漏らすと、ぐいと身体が引っ張られる。彼女はその力に抗わず、汗まみれのベッドにころりと転がって両脚を大きく開いた。</p><p>はぁんっ</p><p>前からずっぷりと突き入れられる怒張の感覚に、セレスは嬌声を上げた。そして緩慢な動きで手足をOlの背に回し、腰を振って彼の股間に恥丘をぐりぐりと押し当てる。</p><p>そろそろ約束の一週間が経つな</p><p>快楽を貪るセレスに、Olはぽつりと囁いた。</p><p>しかしセレスにはそれがどのような意味を持つのかがわからず、絡めた脚でぐいぐいとOlの腰を押して奥への挿入をねだった。セレスは浅い場所を擦られるよりも、奥まで突かれる方が好きだ。ずっぷりと深くまで貫かれると、満たされた気持ちになる。</p><p>いいのか？ イーヴァンが待っているぞ</p><p>イーヴァン。</p><p>その一言で、セレスは一瞬にして我に返った。思考にかかっていた霧が晴れ、ぼんやりとしていた四肢が途端に重さを取り戻し、凄まじい疲労が身体に圧し掛かる。</p><p>しかしそれでも、彼女は理性を取り戻していた。</p><p>イーヴァン私は、あなたに、屈してはいません！イーヴァンを、皆を解放してください！</p><p>その目には光が戻り、口元は引き締められ、表情にはその強い意志が宿る。全身精液に塗れ穢されてはいたが、内から漏れる輝きはそれを覆い隠すほどの強さを帯びていた。</p><p>驚いたな。まだそれほどまでの力を残していたか</p><p>Olは思わず目を見開いた。あれほど朦朧とし、貪欲に快楽を貪っていたセレスが愛しい男の名一つで我に返るとは、アールヴの愛とは流石と言うほかない。ただ一人を愛する事にその生涯のほとんどを費やすだけのことはある。</p><p>良いだろう。俺の負けだ。イーヴァンにあわせてやる</p><p>Olは部下に命じて湯を用意させると、セレスと自身の身を清め、ゆっくりと身体を休ませた。</p><p>目を覚まし、元気を取り戻したセレスはOlの案内で迷宮を歩き、イーヴァンの独房へと向かう。</p><p>あれ、ご主人様もしかして負けちゃったの？</p><p>途中、リルが目を丸くしてセレスをしげしげと見つめた。</p><p>ああ。さすがは白アールヴの姫君、一筋縄ではいかないな</p><p>七日間ずっとしてたんでしょ？ すっごいね</p><p>リルはほとほと感心した、といった様子で、Olに先導し、木の扉を開いた。</p><p>こっちは、三日で陥落したのに</p><p>その奥に広がっていた光景に、セレスは言葉を失った。</p><p>何匹ものサキュバスが舞い、その中央でイーヴァンが一心不乱に淫魔達を犯している。頬は痩せこけやつれきり、目は虚ろに鈍く光って淫魔を見つめている。腰の間に生える一物だけが力強くそそり立ち、淫魔の秘部を何度も出入りしながら白濁液を撒き散らしていた。</p><p>イーヴァン？</p><p>セレスが声をかけても、彼は聞こえていないかのように情事にふける。</p><p>イーヴァン、目を覚まして！</p><p>う、はく、ぁっ</p><p>セレスがイーヴァンの肩をゆすり名を呼ぶが、彼はそれに反応せずただただ淫魔との情交を続ける。</p><p>イーヴァン、私は勝ったのです！ もう、ここから解放されるのですよ！イーヴァン！！</p><p>悲痛なセレスの声にもイーヴァンは反応せず虚ろな瞳のまま、ただただ腰を振り続ける。</p><p>無駄だよ</p><p>クスクスと笑いながら、淫魔の一人が言った。</p><p>もうこの男は、魂を売り払ってしまってるの。セックスを続けられるなら、他にはもう何も要らないって、そう言ったんだよ</p><p>恋人はいいの？ って聞いたら、あんな女とは比べ物にならない、とも言ってたよねえ</p><p>そんな</p><p>セレスはその場にへたり込んだ。その目の前にOlの剛直が差し出される。彼女は反射的に、それを口に咥え込んだ。</p><p>んんっ！？</p><p>そうしてから、イーヴァンの目の前で他の男のペニスを咥えている事に気付き吐き出そうとするが、Olの手が後頭部を押さえそれをさせない。イーヴァンは恋人が目の前で他の男の一物を咥えていると言うのに、全く気にした様子もなくサキュバスを犯し続けた。</p><p>お前の心は確かに快楽に打ち勝った。しかし、身体は別だ</p><p>Olがセレスの胸をつかみ、股間を足で嬲る。それだけで彼女の股間はしとどに濡れ、蜜に溢れるのがわかった。</p><p>今更イーヴァンの物を入れられても感じないだろうな。たっぷりと時間をかけて、お前の身体は俺専用に造りかえられたのだ。まあ、イーヴァンは身も心も淫魔に打ち負けたようだが、所詮人間とはこのようなものだ。数百年を生き、たった一人の伴侶を愛すお前達アールヴにはわからぬ事だろうがな</p><p>イーヴァンが不実なのではない。そもそも人間を誑かす為に存在する淫魔に無抵抗に犯されて、落ちぬ人間などいないのだ。Olの性技もそれに匹敵するだけの自信はあったのだが、セレスはそれに耐え切った。凄まじいまでの精神の強さだ。</p><p>しかし彼女は、その強さを相手にも求めてしまった。それが、間違いの元だ。</p><p>信じていたものに裏切られ、極限まで磨り減っていたセリスの心は完全に砕け散った。</p><p>ねーご主人様、久しぶりに私も可愛がってよ</p><p>じゃれるようにリルがOlの腕に抱きつく。</p><p>イーヴァンの相手を私にさせないで新しく淫魔を呼んだのは、どういうことなのか聞かせて欲しいな～</p><p>にやにやと笑いながら言うリルに、Olはそっけなく答える。</p><p>お前は淫魔にしてはどうも色気が足りないからな。あの男を落とすのは無理だと思っただけだ</p><p>む、言ったな？ 色気がないかどうか、確認してもらおーじゃない！</p><p>えい、とリルが胸でOlの顔を挟み込む。</p><p>そういう即物的な対応が色気が足らんと言っているんだ。もっと間接的に誘惑できないのか？</p><p>淫魔と召喚主と言う間柄でありながら、まるで恋人同士の様に振舞う二人をセレスは羨ましげに見た。</p><p>俺ならば、わかってやれるぞ</p><p>その視線を見逃すことなく、Olは優しく囁く。</p><p>この身は既に人をやめた。アールヴには及ばぬが、数百年を生きる事も出来る。この俺ならばお前の気持ちをわかってやれる</p><p>差し出される手を、取る以外にセレスには道がなかった。それが、Olの敷いた道である事は頭では理解している。しかし、心のとる道が他にない。一人で虚勢を張り続けるには、彼女は他者のぬくもりを知りすぎていた。</p><p>そうして、森の民と白アールヴ達はその絆を完全に断ち切られ、共にOlの配下となったのだった。</p><p>おうる、さま</p><p>セレスとイーヴァンをそれぞれ部屋に戻し、久しぶりに自室に帰ろうとするOlの下に、マリーがひょこりと姿を現した。</p><p>どうした</p><p>そふぃがそふぃが</p><p>スピナがどうかしたのか？</p><p>スピナと同郷であるマリーは、未だに彼女を本名ソフィアの名で呼ぶ。</p><p>大きな瞳いっぱいに涙を浮かべ見上げる彼女に、Olは膝をついて視線を合わせた。マリーはその年齢にしては聞きわけがいいし、Olが多忙な事も理解している。今の様な特に忙しい時は、遠慮して滅多な事ではOlに話しかけたりはしない。</p><p>いないの</p><p>そして、それが今回は災いした。彼女がもっと早くにそれをOlに伝えていれば、或いはこの後の運命は変わったのかもしれない。</p><p>そふぃが、ずっと、どこにもいないの</p><p>しかし、それはあまりにも遅すぎた。</p><p>第15.5話 ダンジョン解説</p><p>第15話終了時点でのダンジョン。</p><p>瘴気：80</p><p>悪名：85</p><p>貯蓄魔力：45（単位：万/日）</p><p>消費魔力：30（単位：万/日）</p><p>牢獄</p><p>大勢の虜囚を閉じ込めて置く為の牢獄。独房に比べ、一致団結して逃げ出しやすくなっている為特別に強固にできている。</p><p>ローガンｉｎザイトリード</p><p>戦力：12消費魔力：2</p><p>下級悪魔ローガンが鉛の英雄ザイトリードの死体に取り憑いた姿。全ての魔術を無効化する鉛の呪いは消えているものの、その膂力は健在。英雄ザイトリード自体には一歩及ばぬものの、並みの英雄なら一蹴できる程の高い戦闘能力を誇り、維持に必要な魔力は減った。</p><p>メトゥス</p><p>戦力：17</p><p>正確には部下ではなく、利用しただけの形だが特別に記載。圧倒的な力を誇る最古にして最強の竜。単独の戦闘能力としては間違いなく世界最強。吐く息と血に凄まじく強力な毒が混じっている事以外には特筆すべき能力はないが純粋にその巨体、鱗の強度、力の強さ、爪の鋭さ、すべてが脅威。ウォルフは戦力換算で15程度の能力だが、命を賭して挑む事により何とか相打ちに持ち込んだ。</p><p>セレス（白アールヴ）</p><p>戦力：8最大貯蓄魔力：7</p><p>森の妖精アールヴのうち、森の恵みや安らぎなど明るい面を司る白アールヴの姫君。黒アールヴの長エレンに匹敵するほどの弓と魔術の腕を持ち、そのほっそりとした外見からは想像もつかないほどの強さを誇る。また、魔力貯蔵量は黒アールヴを上回る。</p><p>白アールヴと森の民</p><p>セレスの配下とその盟友の森の民達。いずれも劣らぬ弓の名手で、アールヴはそれに加え魔術も使うことが出来る。エレン配下の黒アールヴに比べれば一歩、エレンやセレスに比べると二歩ほど劣る実力だが、その分数によって圧倒する。</p><p>サキュバス</p><p>女性型の淫魔。基本的にはリルと同程度の能力を持つ。</p><p>レッサーデーモン</p><p>追加で呼ばれたレッサーデーモン達。ザイトリードに入っていないローガンと同じ程度の実力を持つが、その外見、能力は様々。ショタコン、スカトロジスト、ズーフィリアなど性癖も様々。</p><p>瘴気はいよいよ濃くなり、訓練を積んだ人間でなければ低階層では動く事もできず悪魔や悪霊は何の負担もなく出歩けるほどに。死体は迷宮内どころか迷宮入り口付近でもしかるべき処置をしなければアンデッドとして歩き回るレベル。悪名はとどろき、よほど田舎でない限りは魔王の名を聞いて震えぬものはいない。吟遊詩人はこぞってその逸話を歌い、特にウォルフ王の最期は長く人気の叙事詩の一つとなる。</p><p>第16話 愚かなる者を制裁しましょう-1</p><p>ずいぶん、寂しくなっちゃったね</p><p>行き交う雑踏を見つめながら、リルはぼんやりとそう呟いた。</p><p>スピナが姿をくらませて、何ヶ月経っただろうか。</p><p>彼女の行方はようとして知れず、その真意も不明なまま、Olも捜索を打ち切っていた。</p><p>彼女にかけた呪いは無理に解こうとすれば彼女自身の命が危ぶまれる類のもので、迷宮の秘密を他人に漏らすことはまずできない。かといって、彼女本人に迷宮を踏破するほどの実力もない。</p><p>その才能と今まで魔術を教えた労力は勿体無いところだが、彼女が特定の仕事に従事していたわけでもなく、いなくても迷宮は回る。</p><p>そう説明し、スピナの行方を捜すことを諦めたOlだが、リルには彼がスピナを巻き込まないよう配慮しているようにも見えた。</p><p>その数ヶ月のうちにOlの軍は近隣の小国を少しずつ飲み込み、白アールヴ達の国を落とした所でエレン達は地上へと旅立っていった。元々、白アールヴを倒すまでの協力関係だ。彼女達には若干劣るとはいえ、白アールヴ達の精兵が何十人と手に入ったから戦力的には問題ない。</p><p>しかし、Olは重用していた彼女達をあっさりと手放し、更に別れを惜しんでいたミオまで一緒についていけと見送った。ミオはどうするか悩んでいたようだったが、結局エレンについていった。こちらも彼女が家畜や魔獣たちの世話の仕方を仕込んだ娘やインプ達が何匹もいるので仕事には問題ないが、見知った顔がどんどん減っていく事にリルは寂しさとともに言い知れない焦燥感を覚えていた。</p><p>戦力は増えている。いくつも国を落とし、奴隷や魔物を増やし、洗脳した娘達も多い。しかしOlは、以前のように一人一人名前を覚え近くに置くという事はしなくなっていた。セレス以下のアールヴや森の民の女達はもはや大半がOlに忠誠を誓うようになっているが、リルはその娘達の名前を知らない。</p><p>ウィキアやナジャ、ShalにFaro達冒険者の娘達はそういった新しく増えた部下の管理をするのに手一杯で、あまり顔を見なくなった。ローガンも、新しく呼び出されたレッサーデーモン達の取り纏めとして迷宮の警護に当たっている。</p><p>変わらずにOlの傍にいるのはリルと、スピナがいなくなってから彼にべったりと張り付くようになったマリーだけ。勢力を広げ、部下を増やせば増やすほどOlは孤独になっていくかのようで、リルは彼をぎゅっと後ろから抱きしめた。</p><p>何を馬鹿な事を言っている。人は増え、仕事も増えた。この時の為にお前を召喚したのだ。もっとしっかりと働け</p><p>その腕をぐいと引き剥がし、老魔術師は背中越しにそう命じた。</p><p>はあい</p><p>忠実な使い魔は生返事をし、迷宮の管理をする為に部下に報告を命じる。男を陥落させるために新しく呼んだサキュバス達は、いまやリルの部下だ。</p><p>しかし、彼女達とリルは何かが決定的に違った。命じた事は絶対に違えないし、忠実に働く。しかし彼女達はOlを信頼してなどいないし、Olもまた彼女達をただの労働力としてしか見ていない。</p><p>本来、悪魔とはそういうものだ。異常なのはリルの方で、この感傷も、Olに抱く想いも、何もかもが悪魔らしくない。</p><p>勿論悪魔にだって個性はあり、それぞれに性格の偏りはある。リルは自分のこの特徴を今まで、その偏りの一種だと思っていた。</p><p>しかしやはり、他のサキュバス達と自分は何かが決定的に違うように思えてならない。魔界にいた頃は感じさえしなかった違和感を、リルは日に日に強く感じるようになっていた。</p><p>じゃあリムとラルは第三階層の魔獣達の様子見、シルケとスーリヤは第四階層、ロリカとナナイは第一、第二階層の見回りを</p><p>リルが部下に指示をしている時に、それは起こった。</p><p>突如迷宮内を照らしている明かりが赤く明滅し、巨大蟻の警告音のような金属質のけたたましい音が辺りに鳴り響く。この音を、リルはかつて一度だけ聞いたことがあった。</p><p>彼女は古い記憶を呼び起こす。そう、アレは確か初めてユニスに会ったときの事だ。今では、第四、第五階層への侵入者があった時の合図となっている。</p><p>シャイア！ 最近、有力な冒険者はいないって言ってたよね！？</p><p>第三階層を抜けたのもいないよ</p><p>淡々とサキュバスの一人が答える。その表情に焦った様子は微塵も見られなかった。彼女にとって大事なのは報酬である魔力がしっかりと支払われるかどうかで、Olが死ぬなり魔力が枯渇するなりしたらさっさと魔界に帰るだけでいい。そういう認識だ。</p><p>リルは目を閉じ、第三階層の見回りをしている部下に魔術で現場の様子を問い合わせる。返ってきた答えは異常なしだった。</p><p>Ol、侵入者！ だけど、なんか様子がおかしいの。第三階層を誰も突破してない！</p><p>リルは急いでOlに報告する。彼はちょうど中央広場で、水を通してダンジョンコアにアクセスし迷宮内を見通しているようだった。</p><p>そのようだな。これは冒険者の侵入ではない</p><p>難しい表情をしながら、Olは虚空を見つめた。</p><p>第四階層の外郭が突破されている。コボルトだな</p><p>外郭と言うのは迷宮の最端部、周囲を支える壁の事だ。迷宮の重みを支え、進入を防ぐ為に特に厚く堅牢な壁が作られている。そこを、外から坑道を掘ってコボルト達に突破された。</p><p>コボルト？ 巣がたまたまうちの迷宮に当たっちゃったとか？</p><p>リルの問いに、Olは首を横に振る。</p><p>コボルトは鉱山の妖精。坑道を掘るのは得意だが、地下深くに巣を作ったりはしない。これは明らかに、人為的な操作だ</p><p>Olは険しい表情でリルに視線を移し、言った。</p><p>別の魔王の侵攻だ</p><p>別のってどうするの！？ウィキア達を向かわせる？</p><p>いや、それはリスクが大きすぎる。こういうときの対策も想定はしてある、落ち着け</p><p>想定してんの！？</p><p>驚きに声を張り上げるリルに、Olは煩いといわんばかりに顔をしかめた。</p><p>自分がしている事を他人はしないと思うのは愚か者だ。当然、俺以外の誰かが同様のダンジョンを作った場合の想定もしておる</p><p>Olはリルを連れて召喚の間へと向かうと、短く呪文を唱える。魔法陣が光り輝き、目的のものを呼び覚ますと一斉に羽音がけたたましく鳴り響いた。</p><p>まずはこいつらで偵察を行う</p><p>Olが呼び出したのは、大量のジャイアントフライの群れだった。</p><p>ジャイアントフライは元々、ただの死骸に湧いた蝿が迷宮の濃密な魔力に触れるうちに巨大化したものだ。迷宮内に転がる死体をすぐに食べ土に還す役割と、ゴブリンやコボルトといった最底辺の妖魔達の餌になるのが迷宮の生態系での主な役割だ。</p><p>しかし、こういった場合にはその行動範囲の広さとコストの低さ、自由自在に闇を飛び回る機動能力から優れた斥候ともなる。Olは蝿の一匹に支配の魔術をかけると、敵が外郭に開けた穴へと向けて蝿達を送り込んだ。掘られたばかりの敵の坑道には転移避けの結界が張られていないので、構造が把握できている部分であれば簡単に転移できる。</p><p>蝿達はすぐさま、自分達の餌や苗床となる死骸を探して坑道を飛び始めた。そのうちの一匹をOlは魔術で操り、その視界を共有する。</p><p>リル、中央広場で敵の侵攻を把握しながら、ウィキア達に情報を中継して防衛に当たれ。他の外郭も破られないとは限らん</p><p>複眼で区切られた世界を幻視しながら、Olは傍にいるはずのリルに命じた。</p><p>肯定の言葉が返り、彼女の気配が遠ざかるのを確認してOlは蝿の感覚への没入度を深める。</p><p>巨蝿の見る世界は、人間のそれよりもはるかに広い。蝿自身が1フィート(約30cm)程度と小さいせいもあるが、それよりもその複眼が捉える範囲はほとんど360度に近い。周囲全体を見回せるその視界は慣れないと混乱してしまうが、一旦慣れれば縦横無尽に宙を飛ぶことが出来た。</p><p>襲い掛かってくるコボルト達を避けながら坑道を進んでいくと、Olは案の定見慣れた紋様を壁に発見した。</p><p>龍脈を流れる魔力を、中央のダンジョンコアに運び入れる為の魔術刻印だ。このダンジョンの主はやはり、ただの竜やたまたまOlの迷宮を掘り当てただけの魔術師ではない。</p><p>しかし、同時にOlは首を捻る。ダンジョンコアは、Olの研究の集大成。研究過程はとっくに処分し、もはや彼の頭の中にしかない。リルにはああは言ったが、Ol以外にコアを作り上げられるものなど想像がつかない。</p><p>かといって、単純に魔力を中心に集めるだけでは意味がない。人間も妖魔も、そんな濃密な魔力の只中にいてはすぐに魔力に当てられて死んでしまうから利用するどころではない。完全に魔力を遮断し、自由に取り出せるダンジョンコアがあるからこそのOlの迷宮だ。</p><p>とにかく中心を見つけねばなるまい、とOlは蝿達を分散させた。魔術刻印の流れから中央の方角はおおよそ見当はつくが、迷宮の道筋がそのとおりに走っているとは限らない。むしろ、Olの迷宮を模倣しているならそれに従えば必ず迷うように出来ているはずだ。</p><p>そんな迷宮に対して有効な方法はただ一つ。冒険者達が行っている手法つまりは、人海戦術だ。</p><p>Olの迷宮の魔力をたっぷり含んだ巨蝿達は、一種の結界として作用する。巨蝿が移動し見回った部分にはその結界が張られ、リルのいる中央広場の噴水に地図として映し出すことが出来る。リルはその地図を見ながら敵の侵攻を予測し、魔術でウィキア達と連絡を取りながら防衛に当たった。</p><p>幸運な事に、敵の手札はそれほど大したことがないようだった。送られてくるのはコボルトやゴブリン、精々がオーガといった、Olの迷宮で言えば第一階層にいる妖魔達がメインだ。</p><p>とは言え、相手がダンジョンから攻めてくる以上は油断は出来ない。どんなに戦力で圧倒できても、ダンジョンコアを破壊されればそれまでだ。敵はコボルトで坑道を掘る事が出来るから、どこから襲撃してくるか直前までわからない。</p><p>逆に言うと、Olが敵を倒すには相手のコアを破壊すればいい。何らかの呪具か、それとも魔術師自身か。何にせよ、全てのダンジョンには必ず核となる何かが存在する。それを突き止め破壊するのが、もっとも効率の良い攻略方法だ。</p><p>敵をかわしながら迷宮を進み、殺されれば別の蝿に乗り換えながら、Olはふと奇妙な予感を感じた。迷宮の中心部の方向に覚えがあったのだ。</p><p>Olはその記憶を頼りに進路を変える。それは、以前軍師のキャスがOlを罠に嵌めた方向だった。何者かが偶然に龍脈を掘り当てたのかと思っていたが、あの場所であれば確実に龍脈が通っている事が判明している。魔力を抜き出していた鉄管は撤去したが、その場所自体を再利用したのだろう。</p><p>そして、そこを知るものはさほど多くない。キャスや兵士達を殺した今、知っているのはOlの身内だけだ。半ば確信を深めて奥へとたどり着いたOlが目にしたのは、まるで心臓の様に脈打つ巨大なスライムだった。</p><p>目にすると同時にスライムの表面から触手の様に腕が伸び、Olの視界が途切れる。蝿との接続を強引に断ち切られたらしい。</p><p>スピナか</p><p>己の身体に戻ったOlは、苦々しく呟いた。</p><p>第16話 愚かなる者を制裁しましょう-2</p><p>スピナの仕業ぁ！？</p><p>恐らく間違いないだろう</p><p>もう、何やってんのあの子</p><p>リルは額を手で抑えてため息をついた。裏切り、というより無理やりOlを止めるつもりなのだろう、と彼女はすぐに思い当たる。いなくなる直前、彼女は熱心にOlにラファニスに戦争を仕掛ける事を止めていた。</p><p>Olの無茶を止めておいて、そのOlよりよっぽど無茶するよね、あの子は</p><p>らしいといえばこの上なくスピナらしいが、これは幾らなんでもやりすぎだ。</p><p>それでどうするの？</p><p>道は大体わかったからな。侵攻を始める。問題は、あのスライムをどうするかだが</p><p>あれは恐らく以前スピナが作った魔喰いスライムの改良型だろう。雨の届かない迷宮内で大量の水を用意するのは中々難しい。それ以前に、前と同様に水に弱いという確証もない。</p><p>何にも効かない無敵のスライムとか言う事はないの？</p><p>スピナならそんなものも作りかねない、と不安げに言うリルに、Olは首を横に振る。</p><p>そんなものは原理的に作り出せん。どれだけバランスをとっても、何かを喰うようにすればその歪みで必ず何かに弱くなる。その設定とて、自由自在に出来る訳ではない。ある程度の選択肢の中から選ぶしかないはずだ</p><p>うーん、と考え込み、リルはふと思いついて指を立てた。</p><p>っていうか、スピナに直接聞いた方が早いんじゃない？</p><p>お前はまた適当な事を</p><p>仮にも敵対して奇襲をかけて来た相手が素直に喋る訳がないだろうが、とOlは嘆息する。しかし、スライムを何とかするよりもスピナを何とかする方が楽そうなのは確かだ。</p><p>まあ良い。とりあえずはその路線でいくか</p><p>え、なら何で私今叱られたの？</p><p>釈然としない表情を浮かべるリルを捨て置き、Olは侵攻の為の準備を始めた。</p><p>ダンジョンからダンジョンへと侵攻するのは、冒険者達がダンジョンを攻略するのとは少々勝手が異なる。ダンジョンの主にとって、己の迷宮と言うのは自らの身体に等しい。その中で起こっている事は大体把握できるし、逆に何が起こるかは大体制御できる。</p><p>つまり、ダンジョン対ダンジョンの戦いとはすなわち、お互いの領土の奪い合い。身体の食い合いに等しい。それは国家間の戦争や、ダンジョン探索の様なお上品な戦いとはまるで異なる。</p><p>よし、陣を敷け！ 壁を打ち壊せ！</p><p>ヘルハウンド達がオークの群れを食い殺し、血と脳漿の飛び散った一室でOlはそこに結界を張る。コボルトとインプ達が次々に壁面にツルハシを叩きつけ、あっという間に壁を破壊する。</p><p>わざわざ迷宮を彷徨い、敵を倒して進む必要などない。壁や床を破壊し打ち抜き一直線に中心部へと向かえばいい。それが、ダンジョンマスター同士の戦いと言うものだ。</p><p>Olはオークたちの死骸を集め、その血を持って魔法陣を描く。Olの迷宮には結界がくまなく敷かれており、転移は出来ない。しかし、スピナの迷宮であれば話は別だ。一応こちらも簡単な結界は張られているものの、その強度はOlのそれに比べひどく脆い。魔法陣を描き、結界を張りなおせば容易に転送陣を作り上げることが出来た。</p><p>貴様らはここを防衛せよ</p><p>Olは転送陣で巨人数体と、白アールヴを数人呼び出して拠点へと配置した。巨人が敵に対して壁となり、その後ろからアールヴが矢を放って援護する。防衛力に優れた組み合わせだ。</p><p>こうして背後に防衛役を配置することで挟撃や背後からの不意打ちを防ぎ、更に自分のダンジョンへの侵入も牽制することが出来る。</p><p>次は東側の壁を掘れ！ 地下水脈に出るぞ！</p><p>コボルト達が壁を打ち崩すと、その先にあったのはごうごうと音を立てながら流れる地下水脈だ。空を飛ぶ巨蝿ならば上空を軽々と飛んでいくことも出来るが、Ol達はそうはいかない。ここは迂回していくしかないスピナはそう考えているはずだ。</p><p>橋を架けろ！ 急げ！</p><p>Olは召喚陣から巨大な橋を呼び出すと、巨人達に命じて川岸に固定させた。橋はドヴェルグ達に急ぎ作らせたもので、木製の簡素なものだが、頑丈さは折り紙つきだ。人間の数倍の背を持つ巨人達が乗っても、軋む音さえ立てなかった。</p><p>対岸の壁を崩せ！</p><p>橋をかけた先、対岸の壁をコボルトと巨人達が協力してツルハシを振るい、あっという間に打ち崩す。途端、断末魔の声が辺りに響いた。</p><p>何だと！？</p><p>通路を埋め尽くすような巨大な丸石が転がり出て、コボルト達を押しつぶし、巨人達をも飲み込んだ。スフィアの罠余りの破壊力ゆえに使いどころが難しい、凶悪な罠だ。</p><p>馬鹿な、こんな所に仕掛けるだといや、それが故か</p><p>スピナはOlの性格や行動パターンを知り尽くしている。ここは通常の手段では渡ることが出来ない。だからこそ、スピナはOlがここから侵入してくると読み、罠を仕掛けたのだ。</p><p>この分だと、他の進入路も読まれていると思っていいだろうな</p><p>Olは脳裏にスピナの迷宮の地図を思い描いた。Olが不意をつこうと考えていた道は、思い返せばどこもくさい。守衛を配置しづらい場所が多すぎるのだ。Olはそれを隙と考えていたが、むしろこれは罠だ。守衛を配さない代わりに、恐らくは凶悪なトラップが満載してあるのだろう。かといって、正面から突破するのも上策とは言えない。そちらは守衛の魔物達が大量にいる。</p><p>幾ら個々が弱い相手とは言え、地の利は向こうにある。例えば、高台から矢を射掛けられたりすればこちらは一方的に攻撃されるしかなくなる。そうなれば負けはせずとも被害は甚大だ。</p><p>ならば、見せてやろう。スピナ、お前がまだ見たことのない戦略と言うものを</p><p>そうして、Olはついにスピナの迷宮の最深部へとたどり着いた。巨大なスライムが部屋一杯に収まり、心臓の様にどくどくと鼓動している。</p><p>壁の紋様を打ち崩せ！</p><p>Olはコボルト達に指示し、スライムのいる部屋へと通じる通路の壁を破壊し始めた。魔力はこの紋様によって中心部へと運ばれている。部屋の周囲を一旦破壊すれば、スライムへの魔力供給はほとんど止まると言うわけだ。</p><p>そうなれば、これ以上迷宮の維持もできず、スライムが大きくなる事もない。</p><p>出て来い、スピナ！ 魔力供給は断った。お前の負けだ！</p><p>虚空に向かい、Olは叫ぶ。スピナがどこにいるにせよ、核たるこの部屋を監視していない訳がない。</p><p>流石です、お師匠様</p><p>ぐにゅり、とスライムの表面が歪み、腕が突き出す。次いで白い顔が露出し、粘液状の生物の中から、スピナはゆっくりとその身体を晒した。一糸纏わぬ姿を惜しげもなくさらしながら、彼女はゆっくりとOlに腰を折る。</p><p>まさか、これほどまでに早くここまで到達なさるとは</p><p>お前にはまだ見せていなかったな。こういった戦略を。まあ、戦略と呼べるようなものではないが</p><p>Olは後ろを振り返り、通路の奥を示した。</p><p>その奥にあるのは、最低限の柱だけを残し、掘られつくした巨大な広間と、ツルハシを持った巨人やコボルト、インプ達。</p><p>何の事はない。ただの、圧倒的物量による力技だ</p><p>所詮罠などと言うものは、通路や小部屋の様な閉鎖空間だからこそ有効なものなのだ。それらも全て破壊し、打ち崩してきたのだから確かに戦略と呼べるような手段ではない。が、全戦力を投下すればそれだけ防衛に割く力が減り、危険は高まる。そのぎりぎりのバランスを見積もるのもまた知略の一つといえる。</p><p>それより、これはどういうつもりだ</p><p>Olの問いに、スピナは澄んだ微笑で答える。</p><p>お師匠様をお迎えする準備を整えたのです。私と共に、この迷宮で過ごしましょう</p><p>要らぬ世話だ。さっさとそのスライムを片付けろ。帰るぞ</p><p>そういうわけには参りません</p><p>スピナの言葉に呼応するかのようにスライムがぐにぐにと動き、彼を囲むように通路を塞いだ。自我どころか知性さえ持たないスライムを、いかにして自在に操っているのか。</p><p>力づくでもというわけか？</p><p>しかし、Olはそれを見ながらも慌てることなく問うた。もはやこの娘がどれほどの才能を持ち合わせていようと驚くまい。</p><p>いいえ。ただ私は、お師匠様の身を案じているだけです</p><p>スピナはOlに近付き、そっと彼の頬に触れた。その手は驚くほど冷たく、温度の低い地下迷宮の中で尚ひやりとした感覚を彼に与えた。</p><p>本気で言っておるようだな</p><p>全く我が弟子ながら性質が悪い、とOlは嘆息する。スピナが敵意を持ってOlに対しているのなら、以前かけた呪いがその行動を妨げる。スピナは本心から、Olを案じ、守る為にこんな事をしでかしているのだ。</p><p>だが、お前の言う事を効いてやる訳にはいかん。スライムを下げろ、スピナ。さっさと</p><p>呪力を込め、Olは命ずる。しかし、その命令はスピナに何の影響も与えなかった。</p><p>な貴様！</p><p>魔力がスピナに通じなかったから、ではない。</p><p>その為に、彼女が何を代償に支払ったかを理解したからだ。</p><p>愚かなことを貴様、自分が何をしたのかわかっているのか！？</p><p>ええ、理解しております。それでも、私がお師匠様に並ぶにはあなた様の横に立つには、これしかなかった。ならば、私は己の行為を愚かとは思いません</p><p>スピナはゆっくりとOlを抱きしめる。Olの下半身は既にスライムに包まれていた。そして、そのスライムは、スピナの下半身と繋がっている。</p><p>否。</p><p>スピナの下半身そのものが、今やスライムへと変化していた。その端は長く伸び、ダンジョンの中心で鼓動する巨大なスライムに繋がっている。知性のないスライムを自在に動かせるのは、当たり前の事だったのだ。</p><p>彼女自身が、スライムになったのだから。</p><p>人である事を捨てたのは、お師匠様も同じでしょう？さあ、迷宮の奥で、永遠に私と愛し合いましょう</p><p>ずぶずぶとスピナの身体が、Olを飲み込んでいく。それはOlの身体を溶かしはしないが、魔力を奪い身動きを完全に封じていた。</p><p>ネリス・ビア・スピナ</p><p>Olの身体がほぼ取り込まれた、その時。Olは唯一露出した口で、そう彼女の名を呼んだ。</p><p>途端に、スピナの動きはぴたりと止まる。</p><p>俺を解放しろ</p><p>続く言葉に、Olの身体はスピナの身体から離れた。</p><p>スピナは愕然としながらも、Olから身体を離し、周囲のスライム達もどかす。どんなに力を込めても抗うことが出来ず、彼女はその動きを止める事が出来ない。</p><p>一つ、お前に教えていなかった事があったな</p><p>Olは息を整え、萎える手足に魔力を通しながら言った。</p><p>魔術師は、その名をつけた師に逆らう事は絶対に出来ない。魔力を無効化するだの、人でないものになるだの、そんな事は全く関係ない。名とは存在そのもの。魂にも等しいものだからだ</p><p>音もなく、スピナの頬を涙が一筋流れる。</p><p>泣くな。貴様の心配はわかるし、無碍にする気もない。さあ、さっさと帰るぞ</p><p>泣く？</p><p>スピナはそっと自分の頬に手をそえ、流れる涙を確かめた。</p><p>そして、口元を笑みの形に歪ませる。</p><p>これは、悲しみの涙ではありません。喜びの涙です。私は、ようやく</p><p>！？</p><p>Olの動きが止まる。まるで先ほどまでのスピナの様に、身体を全く動かす事ができない。</p><p>お師匠様と、同じになれたのですから</p><p>いや、事実それは先ほどまでのスピナと同じなのだ。</p><p>類感呪術か！</p><p>第16話 愚かなる者を制裁しましょう-3</p><p>呪術。</p><p>それは、まだ魔を使った不可思議な技が全て魔法と呼ばれていた時代の遺物だ。</p><p>呪術、妖術、魔道、法力などと様々な名で呼ばれていたそれらは、多くの魔術師達によって研鑽され、分類され、一つの学問として纏められ、魔術の名をつけられた。そしてそれ以前の魔法達は使い勝手の悪い、泥臭い術だと断ぜられ、忘れ去られてきた。</p><p>しかしそんな中でも、民間の中で根強く残っているものがある。それが、呪術だ。</p><p>魔術に比べ格段に効率が悪く、使用方法も限定的で使い勝手の悪い呪術ではあったが、魔術師ではなく民間の中に残ったのには理由がある。</p><p>それは、感覚的にわかりやすいという事である。</p><p>呪術とは一言で言うと、関連性を利用した魔術の総称だ。</p><p>似たものは似る。同じだったものは繋がりを持つ。</p><p>雨が欲しければそれを模して水をまいて雨を呼び寄せ、</p><p>人を殺したければその相手の爪や髪を人形に入れ、杭を打ち込む。</p><p>無論、魔術師でもない人々がそんな事をしても、望む効果が得られることはほとんどない。しかし人々はそれに力があると信じ、その信じる意識の集合体が力となって呪術師に力を貸す。</p><p>その中でも類感呪術と呼ばれるのは、似たものは似た性質を持つという関係を利用したものだ。</p><p>そして、今。</p><p>師による理不尽な強制というOlの根幹に根ざす体験を追体験し、スピナは彼との関係性を強くした。</p><p>師と弟子、弟子と師。二人の関係性が曖昧になり、それを利用してスピナは強引にOlに呪術を仕掛けたのだ。</p><p>効率は悪く、効果の薄い呪術ではあるが、スピナの蓄えた魔力は膨大だ。しかもダンジョンコアと言う外部に魔力を持つOlとは違い、スピナはその体内に魔力を全て蓄えている。その膨大な量の魔力による力押しに、Olは完全に動きを封じられた。</p><p>お師匠様ああ、お師匠様お慕いしております</p><p>スピナの姿がぐにゃりと歪み、彼女の姿が二つに分かれる。スライムと人との中間の生き物となった彼女は、人の姿と粘液状の姿を自在に渡ることが出来る。そればかりか、こうして身体を複数に分けることさえ可能だった。</p><p>Olの形代とは違い、それぞれ全てが本物のスピナで、独立した思考と統一された意思を持つ。スピナはOlの衣服を剥ぎ取ると、彼の肉棒を愛おしそうに舐めあげる。それと同時に増えた方のスピナがOlの肩に甘えるように抱きつき、彼の唇を吸う。</p><p>彼女の背後で蠢くスライムの表面からは次々とスピナ達が一糸纏わぬ姿で現れ、Olを拘束しながら彼の身体を愛撫していく。見る見るうちに、Olは全裸のスピナに周囲を囲まれた。</p><p>Olの口はぬめぬめとしたスピナの舌で満たされ、声を出す事も出来ない。Olは形代を捨て元の身体に戻ろうとしたが、それも叶わなかった。身体を捨てるにも、ほんの僅かながら魔力が必要になる。しかし、魔力を動かそうという動きを察知するや否や、スピナはそれを吸い上げてしまう。</p><p>形代を破壊されれば、魂は自然と元の身体に戻る。しかし、スピナはそうはしないだろう。ただ永遠の時をOlと過ごすだけだ。</p><p>永遠に愛し合いましょうお師匠様</p><p>スピナはOlを己の上に押し倒し、一物の上に腰を下ろした。</p><p>あぁ</p><p>胎内にOlの物を納め、スピナは声を上げる。その感触はスライムのそれではなく、人間の頃の彼女と全く代わりがない。違うのは、彼女の姿が幾つにも増えていることだけだ。</p><p>御奉仕致しますね、お師匠様</p><p>スピナは自らの胎内にOlを納めつつ、少し腰を浮かす。そこに別のスピナが顔を横から入り込ませ、スピナの中に入りきらない竿の部分に舌を這わせ始めた。更に別のスピナがその精の詰まった袋をじっくりと舐め上げ、左右からは二人のスピナがOlの腕をそれぞれその胸に挟みこんで、指先を肉棒にするように丁寧に舌を這わせ、口淫奉仕を行った。</p><p>Olの口もピッタリとスピナの唇に塞がれ、その舌は同様に口内で奉仕するかのようにスピナの舌が絡められていた。身体は更に別のスピナの手によって支えられ、その胸をぐいぐいと押し当てられている。</p><p>その天国の様な地獄に、Olは溜まらず精を解き放つ。本来であれば射精も完全にコントロールできるはずだが、スピナに魔力の流れを乱されてそれも叶わない。</p><p>あぁぁお師匠様ぁ</p><p>うっとりとした声で、スピナ達は一斉に恍惚のため息をあげた。思考能力そのものはそれぞれ独立して持っているが、感覚を共有し、意思を統一する事はできる。自分同士で争ったりはけしてしない、スピナという存在のために全員のスピナが存在しているのだ。</p><p>ずっと、ずっと私はお師匠様のお傍にいます</p><p>スピナはOlの上から退き、股間に顔を近づけると舌で清め始めた。三人のスピナが顔を寄せ合いペニスに奉仕し、腕を、足を、胸元を、体中の至る所を、スピナは舌を這わせ清める。</p><p>私の事だけを愛して、などとは申しません。ですがどうか、ずっとお傍にお傍に、いさせてください</p><p>スピナは再びそそり立ったOlの物を己の膣内に納め、彼の胸の中に身を委ねた。そのまま、彼女の輪郭がぼやけ、Olの身体をゆっくりと包み込んでいく。全身が融け、文字通りスピナと一体になるかのような快楽にOlの意識に霞がかかり始めた。</p><p>やめなさい、スピナ</p><p>その耳を、もっとも聞きなれた声が叩く。薄れいく意識の中、Olの目に映ったのは彼の忠実な使い魔リルの姿だった。</p><p>第16話 愚かなる者を制裁しましょう-4</p><p>広場から慌ててOlを助けに来たのだろう。リルは体中傷にまみれ、翼は半分折れ、肩で荒く息をしていた。</p><p>その姿を、スピナ達は冷たい表情で見つめた。</p><p>邪魔をしないで下さい、使い魔風情が。お師匠様は、これからずっと私と共にあります。あなたは必要ありません。消えてください</p><p>使い魔風情。冷たい目でそう呼ぶスピナに、リルは違和感を覚えた。彼女は他人との間に壁を作り、Ol以外の者と馴れ合おうとはしない。リルも会話はしても、名を呼んで貰った事は一度もない。</p><p>しかしそれでも、リルは彼女とのある種の信頼感を、感じていた。少なくとも使い魔風情などと蔑むような事を言われる間柄だとは思っていなかった。</p><p>そうはいくもんですか！ Olは私の！ ご主人様なんだからっ！</p><p>リルが腕を伸ばし、Olの腕をつかもうとする。しかし、その腕はスピナの身体に触れた瞬間溶けるように消失した。</p><p>っ！</p><p>リルは慌てて、肘まで消えた腕を引き戻す。</p><p>私のこの身体は、あらゆる魔力を溶かし、吸収します。悪魔のあなたではどうにもなりません。もう一度言います。消えてください</p><p>それが、スピナの精一杯の譲歩だった。</p><p>彼女とて、リルやユニスに友情を感じていない訳ではない。いや、むしろOl以外に信じる数少ない相手であり、ある種の尊敬に近い感情すら抱いていた。</p><p>そんな彼女を何よりも恐れさせたのが、ユニスの死だ。</p><p>戦闘能力を全く持たないスピナは、口には出さなかったがユニスの強さに強い憧れと絶対的な信頼を置いていた。</p><p>そんな彼女でさえ、あっさりと死ぬ。ならば、Olも例外ではなく、命を落としてしまうのではないか。その想像は彼女にとって気も狂わんばかりの恐怖であった。</p><p>絶対に、嫌。私だって、譲れないの</p><p>リルは左手で、消失した右腕をさっと撫でる。腕の断面が黄褐色に光り輝き、リルの腕がじわじわと復元していく。</p><p>ごめんねOl、1割までって約束だったけどOlの魔力、使わせてもらう！</p><p>リルの周囲を鎖の様に琥珀色の魔力が渦巻き、ゆっくりと彼女の傷が治り、折れた羽が元に戻っていく。彼女は大きく翼を広げると、速度をつけてスピナに向かって突進した。</p><p>無駄だと、言うのがわからないのですかっ！</p><p>無数に居並ぶスピナのうち二人がリルを止め、その両手足をつかむ。リルは一瞬にして胴体だけになり、地面に転がった。</p><p>あなたの身体は全身魔力の塊。なら、何をしても私には勝てません。それが</p><p>だったら、何よ。無理ならあなたはOlを諦めるってワケ！？</p><p>リルの叫びに、スピナはびくりと身体を震わせる。</p><p>何故、そこまで</p><p>知らないし、知ったこっちゃない！ いい事、あたしはね！</p><p>魔力で手足を復元し、リルは煮え立つ感情の中、どこか冷静な部分で思った。</p><p>ああ、これで二度目だ。全く師弟揃って腹立たしい。</p><p>怒ってんのよーっ！！</p><p>カチリ、と。何か、スイッチが入ったような感覚が、リルの頭の中に響いた。</p><p>リルは復元した右腕を再度スピナの中に突っ込み、Olへと手を伸ばす。当然、瞬時に腕はスピナの中に溶けるが、リルは無理やりそこに魔力を注入し溶かされながら腕を再生する。</p><p>そんな、無茶な！</p><p>瞬時にして魔力を吸い取るスピナに対し、リルは凄まじい速度でその腕を再生させる。ありえない速さだ。幾ら人間に比べて構造が単純な悪魔といえど、その身体の再構成にはそれなりに時間がかかる。少なくとも、瞬時に出来るような類のものではない。それを成し遂げる為には、高度で複雑な魔力の操作技術が必要だ。</p><p>例えば、Olの様に。</p><p>馬鹿な、サキュバスにそんな技術があるはずが！</p><p>リルの再生速度が、徐々に加速していく。スピナの中に腕を突っ込んでいるというのに、肘の辺りがしぶとく残っている。そして、その速度は徐々にスピナの吸収力を上回り始めた。溶解と再生のせめぎあいの中、リルはじりじりと腕を伸ばしていく。</p><p>もう、すこ、し！</p><p>最初に、翼が消えた。ついで、左足が消え、左腕、右足とリルの身体が崩壊していく。魔力が足りなくなって、再生の分を身体の別部分で補っているのだ。</p><p>リル！ 手を離してください！</p><p>やっと、名前で呼んでくれたね</p><p>残った顔でニっと笑い、リルは右腕でOlを掴んだ。そのままぐいっと彼の身体を引き出すと、右腕も崩壊し、顔だけが残る。</p><p>地面に落ちるリルの首。スピナは思わず人の身体に戻ってそれを抱きとめた。</p><p>その手首に、リルは思いっきり牙を突き立てる。</p><p>っ！？</p><p>一瞬にしてリルはスピナから魔力を奪い取り、全身を復活させた。</p><p>やっぱり、ちゃんと残してたんだ</p><p>新しく作った身体の調子を確かめるかのようにぐるぐる回しながら、リルは嬉しそうに笑みを見せる。</p><p>お腹にもらった、Olの魔力</p><p>偶然似た魔力を持つリルと違って、スピナはOlに精とともに仕込まれた魔力を取っておいても意味がない。むしろ、何も対処しなければそのまま自分の魔力として取り込んでしまう。</p><p>しかし、スピナなら絶対にそれを残している。リルはそう信じ、躊躇いなく限界まで自分の魔力を使うことができた。</p><p>さ、気はすんだでしょ？ 帰ろ</p><p>出来ません</p><p>スピナは両腕を上げ、自らの頬のあたりに構える。</p><p>だってご、ごんなごどじでおじじょうざまに、ぎらわえる</p><p>そして、まるで童女の様に泣き始めた。</p><p>その様子をリルは唖然として眺め、苦笑交じりに息を吐いた。とんでもない事をしでかしたと思えば、そんな理由で子供みたいに泣き喚く。全く、困った娘だ。</p><p>泣き止みなさい、あんたキャラ崩壊してるから。ほら私が何とかしてあげるから。ね？</p><p>子供をあやす様な口調で慰めながら、リルはスピナの頭を撫でる。</p><p>こくこくと頷き、しゃくりあげながらも何とか涙を止めるスピナの頭をぽんと軽く叩き、リルはOlに向かう。魔力を奪われ、彼は昏倒しているようだった。</p><p>そのリルの背を見ながら、スピナは妙な違和感を感じた。何とかするとはどういう意味だろうか？ いつもの彼女なら、一緒に謝ってあげるくらいは言ってくれるだろう。しかし、自信満々に何とかすると言うのは妙な違和感があった。</p><p>リルはすうっと息を吸い込み、大声で怒鳴る。</p><p>アイン・ソフ・Ol！ 起きなさい！</p><p>呪力の篭ったその言葉に、Olがびくりと身体を震わせ目を覚ます。</p><p>ラリル？</p><p>一体何が起こったのか把握できず目を瞬かせるOlに、リルはにっこり笑って手を上げた。</p><p>そして、スナップを効かせてその手を振り下ろし、Olの横面を思いっきりはたく。</p><p>パン、という小気味良い音に、スピナは思わず身を竦ませた。</p><p>第16話 愚かなる者を制裁しましょう-5</p><p>な？</p><p>強かに平手打ちされ、紅葉模様を頬に貼り付けてOlは目を瞬かせた。</p><p>自分に危害を加えられないはずのリルが自分を殴った事もそうだが、あの鉄面皮のスピナがひぐひぐとしゃくりあげ、目の前のリルがにっこり笑いながら今だかつてないほど激怒したのもわからない。</p><p>それに何より、今自分は真名で叩き起こされた。知っているかいないか、という話ではない。それが出来る人間は既にこの世にいないはずなのだ。</p><p>Olがしっかりしてないから、スピナが心配して暴走しちゃったじゃない！あなたは私達のご主人様なんだから、もっと余裕を持っていつもみたいに不敵に構えてなさい！</p><p>ある種、理不尽なその物言いにOlが言葉を失っていると、リルは噛んで含めるように彼に問うた。</p><p>取り戻すんでしょう？ ユニスを</p><p>Olが力強く頷くと、リルは腰に両手を当て、よろしい！と頷いた。その仕草は、Olにとってひどく懐かしいものだった。</p><p>お前はラズ、なのか？</p><p>Olは、リルの顔をまじまじと見つめながら尋ねた。彼女の表情はいつもと違うようにも、違わないようにも見える。</p><p>Ol、力むと魔力を使いすぎる癖、ぜんっぜん治ってないね</p><p>リルは悪戯っぽく笑い、Olに手を貸して彼を立ち上がらせる。</p><p>悪魔の召喚ってさ。釣りに似てるんだよね。魔界から見ると、呼ばれてる種族と、使われてる魔力が見えるわけ。悪魔達はそれを見て、この魔術師は期待できそうだ、いやこいつは駄目だ、なーんていいながら、釣られたり、無視したりするんだけど</p><p>一年以上前の事を思い出し、リルはくすくすと笑う。</p><p>Olってば、サキュバス呼ぶのに高位悪魔並みの魔力を注ぎ込んだりするから、皆逆に警戒しちゃって全然食いつかなかったんだよね。でも、私には、あなたの琥珀色の魔力がなんだかすごく、懐かしく思えたんだ</p><p>リルはOlの両頬にそっと手をそえ、彼の目を見つめた。</p><p>自分の魔力を全部吸われて、Olの魔力で身体を作って、思い出した。弟子を裏切り、悪魔に魂を捧げたラディクス・フルーメンは、魔界で悪魔にサキュバスになった</p><p>それは偶然と言えば偶然だったし、必然と言えば必然だったのかもしれない。ラズが自分に良く似た魔力を持つOlを拾い弟子にし、その魔力に良く似た性質のリルはOlに惹かれ使い魔となった。</p><p>でもね、それでも、私はラズじゃない。ラズの記憶は大半思い出したけど、私は私。あなたの使い魔の、リルシャーナだよ</p><p>Olは、短くそう答えた。ラズの死を引き摺っていた訳ではない。が、胸のどこかにつかえていた何かがゆっくりと氷解していくかのような、そんな気持ちを彼は感じた。</p><p>まあ、ラズは聡明で落ち着きのある大人びた女性だったからな。お前とは似ても似つかん</p><p>む、失礼なっ！ ああ見えて結構背伸びしてたんだからね、あの女！弟子の前で良い格好してたけど、内心は滅茶苦茶オロオロしてたよ！？</p><p>おいやめろ、俺の思い出を穢すな</p><p>リルと言い合うOlは、久方ぶりに晴れやかな表情を浮かべた。そして、所在なさげに彼を見つめるスピナに無言で向き直り、歩を進めた。</p><p>そして拳を握って固めると、彼女の脳天にめがけそれをごんと振り下ろす。</p><p>帰るぞ、リル、スピナ</p><p>両手で頭をおさえ目じりに涙を浮かべながら、スピナは嬉しそうに頷いた。</p><p>そふぃ！ ？</p><p>Olの迷宮へと戻り、スピナが姿を見せるとマリーは満面の笑みを浮かべ、彼女に駆け寄ろうとした。しかし、途中で足を止め、彼女は不審そうな表情でスピナを見上げる。</p><p>スピナがもはや人ならざる存在である事を、何と無く感じ取ったのかもしれない。</p><p>ほんとうに、そふぃ？</p><p>フォローしようとリルが前に出ると、マリーは怪訝そうな声で尋ねた。</p><p>まえより、おっぱいおっきくなってる</p><p>ピシリ。</p><p>音さえ立てそうな勢いで、スピナの表情が凍りついた。</p><p>い、一体何を言っているのですか。私は何もかわってなど</p><p>うそだー。まえよりぜったいおっきくなってる！</p><p>思わずOlはスピナの胸元に視線を走らせる。しかし、ローブに覆われた彼女の膨らみの大きさはいまいち判別できなかった。</p><p>な、なら、しばらく会わないうちに大きくなったのでしょう。何も不思議な事は</p><p>そんなわけないもん。いちねん、ずーっと、かわらなかったもん。いまさらかわるわけないもん</p><p>つまり、スライム化したのを利用してという事か</p><p>あー、まあスタイルくらい自由自在だよね</p><p>頑なに言い張るマリーに、Olとリルは納得してうなずきあった。それを聞いて、スピナの表情が氷を越え、修羅の様に変化する。</p><p>あっ、そふぃだっ</p><p>その表情を見て、マリーは嬉しそうに笑った。</p><p>あなたはっ！ 何度っ！ 私を辱めれば気が済むのです、マリィィィィッ！！</p><p>一瞬にして全身を粘液状に変化させ、触手を矢の様に伸ばすスピナ。マリーはきゃあきゃあと笑いながらそれを身軽にかわした。どうやら彼女にとって、スピナの異常は殊勝な態度と胸の大きさだけで、液状化するくらいは平常運転扱いらしい。</p><p>Ol</p><p>そんな様子を微笑ましく見ながら、リルはOlに声をかけた。</p><p>ラズはさ。最後まで、幸せだったよ</p><p>Olにとって、その言葉はそれほどの意味を持たなかった。もう、70年も前の話だ。ラズとの生活は随分と色褪せ、大切な、しかし遠い思い出と化している。</p><p>だから、Olは遠く先を見ていった。</p><p>してやる</p><p>ぽつりと呟いたOlの言葉を聞き損ね、リルは彼の顔を見て問い返した。</p><p>お前も、だ</p><p>うん！</p><p>花咲くような満面の笑みを浮かべ、リルは頷いた。</p><p>第16.1話 蛇に足を描きましょう</p><p>まあそれはそれとして、だ</p><p>Olは嬉しそうに笑うリルの頭をがしりと掴んだ。</p><p>お前が俺の頬を引っ叩けたのはどういうことだ？</p><p>え、えーと、それはほら、害を与える目的じゃないからノーカンっていうか</p><p>そんな論理が通じるか！ 貴様、契約の一部が無効化されているな！？</p><p>身体の組成自体を全て入れ替えた影響か、人間であった頃の記憶を呼び覚ました結果か。どうやら、リルを縛る契約は大分緩んでいるようだった。</p><p>まさかそのような回避方法があったとはな。契約事項を全部洗いなおすぞ。どのくらい緩んでいるのか確かめ、呪いをかけなおす</p><p>ちょ、ま、待ってよOl！ 私はOlを裏切ったりしないってば。他の悪魔とは違うの、信じてよ</p><p>ああ、信じているとも</p><p>Olの言葉に、リルはぱあっと表情を明るくする。</p><p>が、それとこれとは話が別だ。俺が信じていようが、そんなもの世界は簡単に裏切るからな。お前の信頼と同様に何の保証にもならん</p><p>しかしそれは、続く言葉にすぐにげんなりと崩れ去った。</p><p>おい、スピナ、お前もだ。人間じゃなくなった上に魔力を吸収するなんて存在に、呪いが元のまま残っておるとは思えん</p><p>こちらは嬉しげに、Olの下へと擦り寄る。</p><p>じゃあ検査を始める。まずは第一項、攻撃範囲の確認からだが</p><p>Olはばさりと巻物を広げた。端が地面に落ち、ころころと伸びながら転がっていく。</p><p>Ol、それ、何項まであるの</p><p>流石に唖然とするスピナの隣で、リルはげんなりと尋ねる。</p><p>大体、1000くらいだ。多いんだからさっさと片付けるぞ</p><p>せっ！？</p><p>リルの声なき悲鳴が、迷宮にこだました。</p><p>彼女達が解放されたのは、それから三日後の事だった。</p><p>第17話天に弓を引きましょう-1</p><p>宗教国家ラファニス。</p><p>その首都の更に中央に王宮の代わりに建っているのが、大陸中の教会を統括する僧侶達の大本山。メリザンド大神殿だ。</p><p>聖女メリアはその神殿の奥で毎日豊穣と平和の祈りを捧げ、表に出ることは滅多にない。代わりに、政治を担当しているのは評議会と呼ばれる集団で、実権としてのトップは存在せず、提案された政策は常に評議会の多数決によって評決が下される。</p><p>癒着や汚職、不正などがあればそれは聖女によって見つけ出され、更迭される。これらの人事を決定する権利を持っているのは聖女のみであり、その決定は神託によってもたらされる。</p><p>すなわち、間接的にではあるが神によって統治されている国。それが、宗教国家ラファニスである。</p><p>国中にその名を知られ慕われている聖女メリアではあったが、表舞台に上がることは滅多にない。年に数度の人事異動と豊穣の儀式、そして数十年に一度の聖女の代替わりの儀式以外にはけして姿を現さない。</p><p>これは他国の侵攻や訪問があった場合ですら同様で、いずれも聖女の代わりに評議会の人間が代理として受け持つ。</p><p>人事異動や代替わりはいつ起こるのかは不定であり、また神殿内で執り行われるので一般の目に触れることもない。</p><p>唯一日程が決まっており、一般市民たちも聖女の姿を目にする事ができるのが毎年初春に行われる豊穣の儀式だ。</p><p>聖女は神衣をまとい、神殿の前にある祭壇の上で豊穣の舞いを踊る。それはただの儀礼的なものではなく、神の力である理力を帯びたものだ。この儀式によってラファニスは実際に豊穣の祝福を受け、常に豊作に恵まれる。</p><p>人々はその加護を受け田畑を耕し、富を築いてそれを聖女に、ひいては国へと返す。これが、ラファニスが大陸でも有数の大国になった秘訣だ。</p><p>そして今年も、その日がやってきた。</p><p>豊穣の儀式は一日がかりの大事だ。神殿の周りは青銀の鎧に包まれた聖騎士たちがくまなく警護し、詰め掛ける市民や不心得者達から聖女を守る。</p><p>街は聖女を一目見ようとやってきた旅人達で賑わい、男はその美しさに見惚れ、女はかつて見た夢に想いを馳せる。次の聖女は神官の中から神託によって選ばれる。世界に教会は多くあり、僧侶は更に無数にいるが、その中でも神官になれるのはほんの一握り。</p><p>そして、その神官の中から聖女になれるのはたった一人だ。齢20を越えたものが聖女に選ばれた試しはない。聖女に選ばれるのは常に、若い少女の中でも才能に優れ、見目麗しいものだった。</p><p>そして、およそ30歳程で次の聖女を選び、その任期を終える。</p><p>メリア様、綺麗ね</p><p>例外なく美しい聖女達の中でも、今期のメリアは特に美しいと誉れ高い。齢は今年で24、花の妖精も女神すらも彼女の前では霞むと形容されるその容姿は、確かにアールヴのような妖精と比較してなお美しいものだった。</p><p>光をそのまま束ねたかのような純白の髪は足元に届くほど長く滑らかで、澄んだ瞳は紫水晶を削りだし、100年間に渡って磨き上げた宝珠のよう。唇は熟れた果実の様に瑞々しく、手足はすらりと細く長い。その胸元には豊かな双丘をいただいていたが、劣情を抱く事が罪悪であると感じさせるような神秘的な美しさを湛えていた。</p><p>屈強で敬虔な聖騎士たちが隙なくその周囲を守ってはいたが、彼女に手を出そうなどと言う不心得ものはここ数十年一人たりとていない。祭りの雰囲気に羽目を外して泥酔した旅行客すら、その美しさの前には息を飲み、背を伸ばして居住まいを正すほどだ。</p><p>故に、その日は多くのラファニス国民によって、忘れることの出来ない日となった。</p><p>突如として轟音が辺りに鳴り響き、聖女の乗っていた祭壇が砂埃に覆われる。</p><p>何だ！？ 一体何が起こった！？</p><p>くそっ、聖女様は無事か！？</p><p>誰か、風を起こせ！ この砂埃を消し飛ばすんだ！</p><p>聖騎士達が血相を変えて祭壇へと殺到し、魔術師達が必死に風を起こし砂埃を払おうとする。無数の悲鳴と怒号が辺りに響き渡り、恐怖に慄いて逃げようとするものと、何が起こっているのか把握しようとするもの、騒ぎを聞きつけ野次馬にやってくる旅行客で辺りは大混乱に陥った。</p><p>穴だ！</p><p>聖騎士の一人が叫ぶ。</p><p>巨大な穴が空いている！ 縄を持って来い、不用意に近付くと落ちるぞ！</p><p>砂埃が晴れた後に姿を現したのは、祭壇全体を包み込むような巨大な穴だった。穴の底には僅かに祭壇の頭が顔を出しており、そこから横穴が見える。聖女は、浚われたのだ。</p><p>追うぞ！</p><p>何人かの騎士が魔術で風をまといながら、穴に飛び降りる。まだそれほど時間は経っていない。相手は聖女を連れているのだ、全力で駆ければまだ追いつけるはず。</p><p>そんな騎士達の思いは、ほんの数ヤード横穴を進んだところで脆くも崩れ去った。</p><p>坑道の天井が崩され、穴が塞がれていたのだ。逃走する際に崩していったのだろう。通れるように穴を掘るには、崩すのにかかる時間の何十倍も必要だ。追いつきようがない。</p><p>暗い坑道の中で、騎士達は己の不甲斐なさに膝を屈した。</p><p>どうやら上手く行ったようだな</p><p>己の部屋の中でじっと瞑目していたOlはぱちりと目を開いた。</p><p>で、何をしておる貴様らは</p><p>遠隔地の形代からもとの身体に戻ってみれば、彼の右腕をリルが、左腕をスピナが胸に抱きかかえ、膝の上にはマリーが乗っていた。</p><p>んー、英気を養ってる？</p><p>それと領地の確保でしょうか</p><p>なんも、してない、です！</p><p>娘達は口々に答えた。</p><p>お前達にはお前達で仕事があるはずだが？</p><p>大丈夫、問題ないよ。ほら</p><p>ひょい、とリルとスピナは移し身を作ってみせる。どちらも形代ではなく、独立した思考と統一した意思を持つ、もう一人のリルとスピナだ。</p><p>半スライムとなったスピナは魔力さえあればほぼ無制限に増殖する事が出来、ラズの記憶と知識を思い出したリルは魔力で自分の身体を作り出すことが出来る。これによって仕事の効率は大幅に改善していた。</p><p>ちなみにマリーにはそのような芸当は勿論出来ないが、元々何かの役に立っていた訳でもないのでなんら問題ない。</p><p>それにしても、いつの間にラファニスまでの坑道なんて掘ってたの？</p><p>ラファニスの首都は遠い。馬車でも丸々一週間はかかる距離だ。いかに石と鉄の申し子であるコボルトやドヴェルグの鉱夫をそろえているとは言え、一朝一夕に掘れる距離ではない。</p><p>大体、コボルトが迷宮に巣を構え始めた頃からだな</p><p>滅茶苦茶前じゃん！ うちにエレンがきた頃だからええ、もう一年以上前！？</p><p>リルは指折り数え、驚きを通して呆れる。</p><p>そんな頃から、ラファニス攻める気満々だったんだ</p><p>だから言っただろう、いずれは攻めるつもりであったと</p><p>信じていなかったのか、とOlはリルを睨んだ。</p><p>時間もそうですが、精度の方が私には信じられません。コボルトならば、ピッタリと祭壇の真下まで穴を掘れるものなのですか？</p><p>途中で坑道の存在を知られる訳には行かないから、地上に穴を開けて確認する訳には行かない。地下や国外ならばともかく、ラファニス国内には聖女の結界がくまなく張り巡らされている。そんな事をすれば一発でバレる。</p><p>コボルトは確かに、坑道内でも絶対的な距離感と方向感覚を保てる。が、地上に何があるか伺う事までは出来ん。しかし、地上での距離がちゃんと把握できていれば、それにあわせて寸分違わず坑道を掘る事など朝飯前だ</p><p>Olは簡単に言ったが、リルとスピナにはそれはより困難なことの様に思えた。地上には山があり、森があり、河がある。そんなものがなくとも些細な起伏があり、とても直線距離を測ることなど出来そうもない。</p><p>そんな精度を持った地図なんてあるの？</p><p>あるぞ。龍脈を探るのに精密な地図が必要だったからな。地図技師に測量方法を習い、龍脈を探りながら地図を作った。足掛け25年がかりの大作だ</p><p>自作！？</p><p>恐らく俺以上に精密な地図を持つものはおらんだろうな</p><p>当然だ。並大抵の人間であれば、25年かけた事業など、ほぼそれに人生を捧げたに等しい。</p><p>今はフィグリアの周囲から各国の首都までしかないが、いずれは大陸全土の地図を作りたいものだ</p><p>一年前どころか25年以上も前から、Olはそんな事を考えていたのだ。</p><p>いつからこんな子にいや、昔からなのか</p><p>リルの脳裏には、ビッシリと書き込まれた予定帳を嬉しそうに拡げるOlの姿が浮かんだ。いつも仏頂面をしている今では表情に全く面影はないが、こういった部分はラズと暮らしていた頃から変わらないらしい。</p><p>届いたようだな</p><p>転移してくる魔力の揺らぎを感じ、Olは腰を上げる。いつの間にか眠っていたマリーがころんと転げてむぎゅうとくぐもった声を上げた。</p><p>では、聖女の顔を拝みにいくとするか</p><p>第17話天に弓を引きましょう-2</p><p>聖女メリアよ。遠いところ、足労頂いたな。お初にお目にかかる。我が名はOl。世に魔王と呼ばれているものだ</p><p>私をどうしようと言うのですか？</p><p>芝居がかった口調で慇懃に挨拶をするOlに対し、メリアは騒ぎもせず、おびえもせず、平坦な口調でそう尋ねた。</p><p>流石は聖女だな。肝が据わっておる</p><p>両手足を拘束されたまま、身じろぎもしないメリアの髪を指で梳き、Olは威圧するようにその顎を掴んだ。</p><p>要求は単純だ。法術の事を教えてもらおう</p><p>法術とは魔術と似てはいるものの、源流も体系も異にする技術の一つだ。</p><p>一般にも広く知られている魔術とは異なり、聖女のみがそれを語り継ぎ習得している。魔力とは異なり、理力と呼ばれる力を糧として扱うといわれている。</p><p>豊穣の儀式で使われている祈りや、国全体を包む結界はこの法術によるものだ。Olにも、それが魔術でない事は理解できたが、具体的にどのようなものなのか、どう使用するものなのかは推し量る事ができなかった。</p><p>出来ません</p><p>きっぱりと、メリアはそう答えた。とは言え、Olもその反応は予測済みだ。</p><p>正直に言おう。手荒な方法で招きはしたが、こちらはラファニスと敵対する気はない。法術について教えてもらえれば、無事に国へと送り返し、二度と手は出さぬと誓おう。無論、法術を悪用するような事もせぬ。失った大切なものを取り戻したい。ただ、それだけなのだ</p><p>切々と語るOlに、メリアは表情一つ変えず悩む素振りさえ見せずそう答えた。</p><p>であれば、仕方がない。ラファニスへと攻め込み、奪い尽くすしか手がなくなる。自国が負けるわけは無いと思っているのかもしれないが、こちらとてそれだけの準備はある。何より、勝とうが負けようが必ず少なからぬ犠牲は出る。それを未然に防ごうとは思わないのか？</p><p>それでも、法術を教えることは出来ません</p><p>取りつく島もなく、メリアは答える。</p><p>Olは睨むフリをしながら、メリアの様子を観察した。表情は全く変わらず、肌に汗もかいていない。視線も泳がずまっすぐ同じ場所を平静に見続け、声には震えもよどみもなく、指先をもぞもぞ動かすような事もない。</p><p>恐怖や動揺を押し隠しているならとんでもない演技力の持ち主だし、感じていないならその胆力は並大抵のものではない。何か奥の手を持っていたとしたって、人間というのはここまで平静を保てるものではない。</p><p>Olはしばし黙り込み、彼女を何が支えているのかを考えた。人は、他人であれ自分であれ、何らかの支えを持たなければまっすぐ立つことは出来ない。それが何であるかは人それぞれだが、どんな人間だろうと必ずそれはある。</p><p>愛国心だろうか。それとも、正義感？ 自分が聖女である事の自負、或いは神への信仰いくつか思いつくがどれもメリアにはそぐわない気がした。</p><p>そういったものにしては、メリアには揺らぎがない。なさ過ぎる。人知を越えたそれこそ、神のような鋼の精神を持っているとでもいうのだろうか？</p><p>馬鹿馬鹿しい。Olは首を振り、その考えを打ち消した。人をやめようが、英雄だろうが、永い時を生きようが、人は人である限りその心のあり方を変えることなど出来ない。</p><p>ならばその決断を、後悔してもらおう</p><p>Olはメリアの服を掴むと、びりびりと破り剥ぎ取った。陶磁のような白い肌に、桜色の頂点を持つ豊かな乳房、頭髪と同じ透き通った白色の淡い茂みと、その奥に隠された秘裂がOlの目に晒される。</p><p>それでもなお、メリアは顔色一つ変えず、眉一つ動かすことはなかった。ただじっと、Olの様子を平静な瞳で見るだけだ。</p><p>スピナ</p><p>ここに</p><p>闇の中からスピナが姿を現し、Olに小瓶を渡す。中身は以前彼女が作り上げた媚薬スライムだ。ただし、媚薬の効果は以前の倍にしてある。</p><p>Olが瓶を開けると、スライムはすぐさまメリアに纏わり付き、その身体に残った衣服を吸収して体積を増やしながら彼女の肌の上を這いずり回る。</p><p>程なくしてメリアの肌が上気し、彼女は小さく声をあげた。薬の類は効くらしい。当たり前と言えば当たり前なのだが、Olはその結果に僅かに安堵した。</p><p>メリアは得体が知れない。法術という未知の技術を使う以上、ある程度予想外の事態は覚悟していたが、それ以上の違和感をOlは感じていた。</p><p>十分に媚薬がメリアの身体に浸透した頃合を見計らい、Olはスライムを瓶に戻して彼女をベッドの上に押し倒した。</p><p>入れるぞ。覚悟はいいか？</p><p>どうぞ</p><p>メリアの脚を掴み、Olがいきり立つ一物を見せ付けても彼女の表情は変わらない。言いよどむ事すらなく答える聖女に、Olは遠慮なく突き入れた。</p><p>そこは媚薬の影響で濡れそぼってはいるものの固く閉じており、男を受け入れたことがないのは明らかだった。Olは構わず、奥へと突き進む。ずんと勢いを突けて奥まで到達し、引き抜くと破瓜の血が愛液に混じり流れ出る。</p><p>見よ。お前の純潔が失われた証左だ</p><p>そうですね</p><p>痛みに顔をしかめはするものの、彼女はあまり気にした様子もなくそう答えた。</p><p>その余裕がいつまで続くか見ものだな</p><p>Olはメリアの胸を両手で円を描くように揉み込みながら言った。</p><p>んっく</p><p>小さく声を漏らし、メリアは僅かに身動ぎする。媚薬がだいぶ効いてきたのか、その肌はうなじまで真っ赤に染まっている。</p><p>んっ、はぁっ、あぁん！</p><p>Olが指をクリトリスへと移動させると、メリアは一際高い声をあげた。</p><p>どうやらここは自分で弄った事があるようだな</p><p>んっう、ふぁ</p><p>媚薬の効果で敏感になったそこを擦りながら、Olは抽送を繰り返す。相手は全く経験のない処女だ。まずはとにかく一度快楽を覚えさせない事には話が進まない。</p><p>聖女ともあろう者が、男を奥まで咥え込んでよだれを垂らして声をあげるとは。はしたないとは思わないのか？</p><p>ああぁんっ、ふ、ぅ</p><p>Olが声をかけてもそれに応じる事無く、メリアは断続的に声をあげるばかりだ。発汗や愛液の分泌からして感じているのは確かなのだが、言葉への反応は全く感じられない。まるでOlの声が聞こえていないかのようだった。やりにくい事この上ない。</p><p>Olは言葉で揺さぶりをかけるのを諦め、肉体的な刺激に専念する事にした。ゆっくりと抽送を繰り返しながら、右手で淫核を攻め、左手で右胸を愛撫しながら口で左胸に吸い付く。</p><p>んっんんんん～～～～っ！！</p><p>ぎゅっと眉根を寄せ、ふるふると身体を震わせながらメリアは気をやった。Olは容赦せず、達したばかりの彼女の体をひたすらに攻める。</p><p>ああっ、あっ、んあぁっ！！ あああああぁっ！！</p><p>メリアの声が徐々に高く大きくなり、彼女は背筋を反らして痙攣した。</p><p>いくぞ、メリアッ！</p><p>Olは彼女の奥まで突き入れると、最奥に精を解き放つ。</p><p>～～～～～～～ッ！</p><p>もはや声もあげることが出来ずぎゅっとベッドのシーツを握り締める彼女の膣内を擦り上げ、Olはたっぷりと白濁の液を吐き出す。</p><p>絶頂の余韻にぐったりとするメリアの額に、Olはぴたりと指を当てた。ここからが本番だ。</p><p>メリアよ。ここから先は、絶頂に至ることを禁じる</p><p>今まで崩れなかったメリアの表情に、疑問符が浮かぶ。</p><p>どれほど快楽を得ようと、俺の許しがなければお前は気をやることは出来ぬ</p><p>呪力を帯びたその言葉は、暗示であると同時に呪いでもある。平時ならともかく、聖女といえど意識が朦朧とした状態でこれに抵抗する事は不可能だ。</p><p>無限の快楽を、とくと味わうがいい</p><p>Olはメリアの身体をひっくり返すと、ベッドに押し付けるようにして背後から突き入れた。</p><p>達した後の敏感になった状態で刺激を与えられ、メリアは悲鳴を上げるかのように嬌声を上げた。</p><p>どうした。この程度で声をあげていては、喉がつぶれるぞ</p><p>Olはメリアの白い尻を抱えてぐりぐりと円を描くように腰を動かす。同時に指を震わせるように動かし、淫核をはじく。</p><p>ああああああ、あああああっぁあぁぁっ！！</p><p>メリアは尻を高く掲げて声をあげ、更に求めるように腰を振った。Olはその動きに合わせ、ずんずんと奥へと突き入れる。</p><p>あっ！ あっ！ あっ！ ふぁぁぁっ！</p><p>一突きするたびにメリアは高く鳴き、きゅうっと膣を縮めてOlの一物を締め付けた。一度突かれる毎に彼女の快楽は一段、また一段と高まっていく。しかし、訪れるはずの絶頂はOlの呪いによって押し留められ、かゆいところに手が届かぬようなもどかしさに彼女は気も狂わんばかりに鳴いた。</p><p>あぁぁーっ！ あ、うぁぁぁっ！</p><p>もはや鉄面皮は崩れ、ただただ飢える欲求のままに腰を振りたくる。</p><p>ああぅっ、はぁぁもっとぉ</p><p>ついにメリアは我慢が出来なくなり、よだれをたらし、胡乱な表情で振り向くと逆にOlをベッドの上に押し倒した。</p><p>そして自らOlの一物をその胎内に納めると、彼の胸に手を当てて滅茶苦茶に腰を振り、ひたすら恥丘を彼の股間に押し当てる。Olはその光景を、彼女のたっぷりとした乳房を弄びながら意地悪く見守った。</p><p>ああぁぁぁぁぁ、ぁああああぁぁぁあ</p><p>メリアの声はもはや獣じみたうめき声のようになり、その秘部からは噴水のように止め処なく愛液が溢れかえった。Olが彼女の胸を一度揉むたびにメリアは切なげに眉をよせ、けして満たされぬ欲を求めて更に胸を押し付け、腰を振る。</p><p>イカせて欲しいか？</p><p>Olがそう尋ねると、メリアはぶんぶんと首を縦に振った。彼女の瞳は情欲の炎が激しく燃え上がり、まるで何日も食事を取っていない犬のように爛々と光り輝いた。</p><p>ならば、教えろ。貴様の知っている全てを</p><p>ああ、あぁぁぁわた、し、わたし、はぁぁ</p><p>もはや神聖さの欠片もなくなった発情し切った表情で、メリアは懸命に言葉をつむいだ。</p><p>聖女、じゃ、な</p><p>そして、唐突に、糸の切れた人形のようにOlの胸に突っ伏した。</p><p>な！？</p><p>Olは慌てて脈を取る。彼女の心臓は、完全に停止していた。まさか、何らかの病による発作か、とOlは蘇生を試みる。</p><p>そして、愕然とした。</p><p>そこにあったのは一切の穢れのない、透明と評していいほど清らかな魂だった。</p><p>人間の魂というのは、生きていくうちに必ず汚れ濁っていく。</p><p>聖女と言うのであれば常人よりも澄んだ魂をしていても不思議ではないが、限度というものがあった。</p><p>ほんの一点の曇りもないメリアの魂は、断じて美しいなどと呼べるものではなく</p><p>ほう、こりゃ出来の良い紛い物だな</p><p>ただの作り物にしか見えなかった。</p><p>やはり、そうなのか</p><p>いつの間にか横に立っていた赤い悪魔の言葉に、Olは呻くように呟く。</p><p>おうよ。このローガン様が人間の魂を見間違うわけねえだろ。例え作り物でも、それが生まれたばかりの幼女の魂となりゃあなおさらよ</p><p>放つ言葉は軽薄そのものだが、数千年を生きた悪魔の言葉に間違いはない。</p><p>魂の穢れとは即ち欲望だ。生まれたばかりの赤子でさえ、欲求は持っている。</p><p>それすらなく、何も望まず何も欲さぬとすれば、それはただの装置にすぎない。</p><p>メリアはまさしく、聖女という名の装置でしかなかったのだ。</p><p>人造人間(ホムンクルス)や魔法生物(ゴーレム)を作るのとはわけが違う。</p><p>それらは知能を持たせることはできても、魂は持たないのだ。魂そのものを作ることは魔術では不可能とされており、Olにもできない。</p><p>それはとりもなおさず、メリアの他に法術を使える者がいるということを表していた。</p><p>一筋縄ではいかぬ、という事か</p><p>最後の最後。Olによって与えられた肉欲を望み、ほんの僅かに曇ったメリアの魂を見つめて、Olは呟く。</p><p>敵は、メリアより上にいる。そして、その相手は恐らくOlととてもよく似ている。</p><p>すなわち、用心深く狡猾で、目的のためには手段を選ばない人間だ。</p><p>ラファニスで新しい聖女が発表されたのは、それから三日後の事だった。</p><p>第17話天に弓を引きましょう-3</p><p>影の聖女。裏聖女。真の聖女。ううん。どうにも悪役といった趣がぬぐえないな。どう思う？</p><p>白。白。白。壁も、床も、天井も。</p><p>家具から衣服、全てに至るまで白に塗り込められた白亜の城で、メリザンドは尋ねた。</p><p>大聖女でいいんじゃないですかね</p><p>問われた男は、これも髪から衣服に至るまで白一色。唯一つ、両の瞳だけが赤く色づいていた。</p><p>ふうむ。しかしだ、この成りで大聖女を名乗るというのもどうかな？</p><p>メリザンドはその落ち着いた口調とは裏腹に、5,6歳にしか見えぬ容姿をしていた。まっすぐ足首まで伸びた髪に愛くるしい顔立ち。メリアを幼くしたような美しい童女だったが、その瞳は理知的な輝きに満ち、表情はやけに大人びている。</p><p>まあ、ギャップがあるって言うのもそれはそれでいいんじゃないですか</p><p>男は心底どうでもいい、といった調子でそう答えた。</p><p>ギャップかうむ、では大聖女メリザンドと名乗るとしようか</p><p>楽しそうですね</p><p>そういう男に、メリザンドはピクリと眉を上げる。</p><p>馬鹿を言うな、我が国数百年ぶりの危機だぞ。楽しんでなどいられるか</p><p>楽しそうであると言うことは否定しないんだな、と男は思うが、口には出さない。</p><p>魔王Ol。よもやこんなにも早く攻め込んでくるとはな。それも地下からの奇襲とは恐れ入った</p><p>あの坑道辿ってぶっ殺して来たら早いんじゃないですか。なんなら俺いってきますよ</p><p>軽い口調で言う男に、メリザンドは首を横に振る。</p><p>奢るな、不死身。お前は不死だが、無敵ではない。舐めてかかると手痛い反撃を食らうぞ。相手はかのウォルフ王を下した相手だ</p><p>んじゃあ、何人か呼びます？</p><p>メリザンドはうなずき、パチンと指を鳴らした。</p><p>既に、呼んだ</p><p>その背後から、やはり白い衣服に白い髪の者達が6人、姿を現した。</p><p>なっ6人！？ 全力でいくんですか！？</p><p>不死身と呼ばれた男は目を見開き、大声を上げた。自分を入れて7人。それがメリザンドが使役できる英霊の最大数だ。</p><p>今言っただろう。魔王は侮れる相手ではない。聖女も一人やられたのだぞ。全力を持って叩き潰す</p><p>メリザンドはニヤリと笑みを浮かべて言った。長い付き合いで不死身はそれが、彼女が激怒している時の表情だと知っている。彼女は楽しんでいたのではない。楯突く者に、怒っていたのだ。</p><p>無明の騎士</p><p>スリットのない、全面を覆われた奇妙な兜をかぶった男が、一歩進み出て槍を掲げる。</p><p>跳ね駒</p><p>純白の鎧に全身を包んだ騎士が、メリザンドに跪く。</p><p>魔弾の射手</p><p>弓を持つ軽装の男が、うやうやしく礼をする。</p><p>鉛の英雄</p><p>武器を持たぬ大柄な男が、微動だにせず立つ。</p><p>炎髪の姫</p><p>小柄な少女が、無言で剣を掲げる。</p><p>竜殺し</p><p>豊かな髭を蓄えた男が、ゆっくりと腕を組む。</p><p>そして、不死身。以上、英霊七名。全員をもって、魔王を討伐する</p><p>新入りが三人、か。ま、よろしく頼むよ</p><p>不死身が気さくに笑いかける。しかし、英霊達は反応しない。英霊とはそういうものだ。自我を備えている不死身の方が例外といえる。</p><p>そんで、どうするんです？ 一気に7人で攻め込みますか？</p><p>一騎当千どころか、万の敵も相手取れる元英雄達だ。7人もいればその戦力は師団どころか一つの軍に匹敵する。しかし、メリザンドは首を横に振った。</p><p>まずは彼我の戦力を分析する。敵は魔王Olとその配下の魔物達、そしてその属国の兵士達だ</p><p>つかつかと英霊達の前を歩き回りながら、メリザンドはすらすらと述べ始めた。</p><p>兵力はフィグリアの兵がおよそ1万、グランディエラの兵がおよそ15万、ラーヴァナが5000、アルフハイムが3000他の有象無象をあわせて2万と言ったところか。とは言え、当然これらの兵を一度に全部動かせるわけではない。まあ攻勢に動かせるのは良くて半分だろうな。また、殆どは魔王に攻め入られ力で属国になった立場だ。錬度はともかくその士気はけして高くはない</p><p>確認するように視線を向けるメリザンドに、はあ、と不死身は生返事をする。彼は従軍経験はないし、戦争にかかわった事もない。正直あまりピンとこなかった。</p><p>それだけなら英霊を呼ぶまでもなく我が聖騎士団で幾らでも対処できる。が、問題は配下の魔物達だな。これはどのような種類が何匹いるか予測できん。また、聖女を浚った時のような坑道を通って進軍されるのも非常に困る。地下には結界を張れんからな</p><p>あーそりゃマズいですね</p><p>続く話は不死身にも理解できた。極端な話、この神殿内部に突然敵が万単位で攻め入ってくる可能性すらあるのだ。かなりの広さを持つ巨大な建物ではあるが、所詮は建物。乱戦になれば確実に聖女を守れると断言するのは少しばかり苦しい。</p><p>そしてもっとも厄介なのが魔王Olだ。慎重で狡猾、目的の為には手段を選ばぬ</p><p>どこかで聞いたことがあるフレーズですね</p><p>そうだな。私もそう思うよ。かの者は、私によく似ている</p><p>素直に肯定され、不死身は背筋を正した。</p><p>なるほど。そんじゃあ本気でやらないとヤバいですね</p><p>褒め言葉と受け取っておこう。厄介なのは奴が常に形代を使い、本体は表に姿を現さぬということだ。おそらく本体は迷宮奥深くに潜んでいるのであろうが、この迷宮というのがまた曲者でな。攻めるに難く、守るに易いの究極形のようなものだ</p><p>山に囲まれてるどころか、壁に囲まれてますもんねえ</p><p>今お前、自分ひとりでなら十分攻略できるな、と思っただろう</p><p>のんびり答える不死身に、メリザンドは鋭い視線を投げかける。</p><p>あ、バレました？ でも実際そうじゃないですか？</p><p>不死身はその二つ名の示すとおり、文字通りほぼ不死身だ。首を刎ねられようがぐちゃぐちゃにすりつぶされようがけして死ぬことはない。敵がどれだけいようが彼には関係ない。ゆっくりもぐって魔王を殺しにいけばいいだけだ、と彼は思った。</p><p>這い上がれぬほど深い落とし穴。何もかも溶かすスライム。土の中深くや溶岩地帯に転移する罠。身動きを完全に封じる強力な呪い。精神に影響する類の魔術。私が今ざっと考えただけでもお前を無力化できる方法はこのくらいはあるが？</p><p>すんません調子乗ってましたー！</p><p>不死身はあっさりと前言を翻し頭を下げた。彼は不死身ではあるが無敵ではない。しかし、それをしばしば忘れるのが欠点だと、メリザンドは日頃から口をすっぱくして言っているがそれはあまり実を結んではいなかった。</p><p>恐らくそのいくつかは迷宮内に実際に仕掛けられているだろう。英霊といえど易々と突破できるとは限らん。もし英霊を失えば、軍対軍で正面突破される可能性もある</p><p>それは</p><p>考えすぎじゃないですかね、といいかけ、不死身は言葉を飲み込む。これ以上主人に軽率な人間という印象を与えるのがはばかられた。勿論それはとうの昔に手遅れではあったが。</p><p>敵の全勢力が未知数である限りは、予断は許されん。常に最悪の事態を想定して行動する必要がある</p><p>不死身の言わんとするところを理解し、メリザンドはそういった。</p><p>しかし、迷宮を単身で攻略するのもダメ、かといって相手の進軍を待ってたら直接神殿に攻め込まれる可能性があるからダメ、となるとどうするんで？こっちから軍を出して攻め込みます？</p><p>それも悪くはないが、もう少しいい手がある</p><p>そういい、悪戯っぽい笑みを浮かべるメリザンドに、不死身は嫌な予感を覚えた。</p><p>第17話天に弓を引きましょう-4</p><p>全力で挑むなど、愚の骨頂だ</p><p>端的に、Olはそう述べた。</p><p>敵の力は未知数。だからこそ、こちらから先に手の内を晒す事などできん。こちらの利点はこのダンジョンの防衛能力と、その中にいる魔物達だ。初手から全力で攻めるのはその利点を全て潰すようなものだな</p><p>相手を軽んじている訳ではなく、むしろ最大限警戒しているがゆえに、全軍を出す事など出来ない。それが、Olの論じた戦略方針だった。</p><p>そうは言っても、戦力を出し惜しんで勝てる相手じゃないんじゃないの？</p><p>そもそも勝つ必要などない。攻めてきた時に負けなければそれでいい。相手の核を取ればよいだけだ</p><p>聖女メリアは何の情報も残さず死んでいった。しかし、その事実こそがOlにその裏にいる存在を感じさせた。裏にいるのは組織や集団ではない。狡猾で堅固な意思を持った一人だ。その何者かを倒せば、Olの勝ちとなる。</p><p>しかし、その核がどこにいるのかはわからないのではないでしょうか</p><p>スピナの問いに、Olは再び首を横に振る。</p><p>いや、十中八九核がいるのはメリザンド大神殿だ</p><p>そんなわかりやすい場所にいるでしょうか？</p><p>では聞くが、そのような事が可能だとしてダンジョンコアを、迷宮外のどこか辺鄙なところに置こうという気になるか？</p><p>Olの言葉に、リルとスピナはすんなり納得した。ダンジョンコアは文字通りOlの命そのものだ。魔力を蓄える為にダンジョンの中に無ければならないが、そうでなくとも他の場所に置いておく気にはなれない。</p><p>確かに別の場所に置けば、不意はつけるかも知れん。が、万が一ばれたときはどうする？ そんな場所では守りきれん。かといって、普段から十分な防備を置けばあっという間に発覚する。だったら、最大限守りやすい場所に置くのが当然だ。そもそも核の存在自体が秘匿されているのだしな</p><p>その辺りの事情はOlのダンジョンコアも同様だ。何通りもの方法を考えつくした上で決定した事なのだから、まず間違いはない。</p><p>だから問題は、敵の兵力ではなく戦力。英霊と天使をどの程度まで扱えるのか、という話だ</p><p>ラファニスが攻められたという話はもう数百年前の話だ。どの程度の戦力を保有しているかと言う資料ははほとんど残っていないし、現在も同じであると言う保証もない。しかしそれが事実だという事は、数十年に一度の聖女の代替わりの儀式で確認される。</p><p>英霊と天使が、新しい聖女を祝福にやってくるのだ。それはただの儀礼ではなく、周囲の国に対する牽制でもある。Olも実際に見に行った経験があるが、それが幻影などではなく、紛れもない本物であると確認できた。</p><p>天使や英霊私が食べる事は出来ないでしょうか？</p><p>ぐにゃりと身体を揺らめかせ、スピナが言う。</p><p>いや、無理だろうな。あれは魔力ではなく理力で出来ている</p><p>理力って結局何なのですか？</p><p>それさえわかれば、それを食べるスライムを作ってみせる、と言わんばかりの表情でスピナは尋ねた。</p><p>魔力は理を捻じ曲げ、世界を改変する力。理力はその正逆。理を促し、世界を形作る力当たり前の事を、当たり前にする力だといわれているな</p><p>当たり前の事を当たり前にですか</p><p>ぴんと来ない説明に鸚鵡返しに呟くスピナに、Olは頷く。</p><p>俺も法術を使えるわけではないから、漠然とした答えしか返せぬがな。例えば物が地面に落ちるように、子が成長し大人になり、やがて老い死ぬように。魔術はそういった理を捻じ曲げ、物を宙に浮かせ、老人を若返らせる</p><p>目の前にある実例に、スピナは納得する。しかし、そうであれば法術とは一体何をするものなのか？ 法術を使わずとも、当たり前の事は当たり前に起こる。それは術ではなく、ただの法則だ。</p><p>魔力の多くが地中に存在するように、理力の多くは空中空に存在する、とは言われてはいるが、実際のところは良くわからん</p><p>空ねぇじゃあ、太陽が動くのも法術のせいってこと？</p><p>流石にそんな大規模な法術は人の扱う範疇ではないだろう。が、太陽は昔から神の力の象徴として見られることも多い。理力が空に満ちると言われているのもそのせいかも知れんな</p><p>リルの言葉に、考え込むように吐き出されるOlの台詞が、スピナの思考の片隅に引っ掛かる。何かを思いつきそうで思いつかない、もどかしい感覚が彼女を包み込んだ。</p><p>いずれにせよ、天使は悪魔と似たようなものだからともかくとして、厄介なのはやはり英霊だ</p><p>英雄とは、英霊になる為に生まれた存在だ。悪魔が人間と契約を行い、魂を集めて戦力を増やすのと同様に、天使達は人間を英雄として祭り上げ、生きている内にその魂を磨かせて、死後その魂を英霊として天に召し上げる。</p><p>悪魔達は質より量を選び、天使達は量より質を選んだ。細かい差はあれど、どちらも人間を食い物にしていることには変わりない。</p><p>ユニスと同等以上の戦力かあ</p><p>リルは彼女が迷宮を攻めてきたときの鮮烈な印象を思い出し、身を震わせる。あれほどの強さを持った者達が何人もいるなど、想像したくもない。</p><p>一度に何人の英霊を使役できるかはわからんが5人以上いるなら、負けるだろうな</p><p>そうでない事をOlは祈った。</p><p>準備はいいか？</p><p>暗く狭い坑道の中、Olは問うた。</p><p>うん、オッケー</p><p>この身滅ぶまで、どこまでもお師匠様についてまいります</p><p>リルが軽く答え、スピナが重く答える。</p><p>両極端な二人の反応に苦笑しつつも、Olは居住まいを正し、声を張り上げる。</p><p>恐らくはこれが最後の戦いだ！ 皆のもの、心してかかれ！敵は喜びと平穏に満ち、幸福と愛情の歌をうたう鼻持ちならない天の遣いどもだ。奪い、穢し、踏み躙れ！ 奴らの家のドアにその臓物を飾り立て、首を晒して火をかけてやるのだ！</p><p>魔術で拡大された声が坑道内に鳴り響き、野蛮な亜人たちが一斉に声を張り上げる。ゴブリン、コボルト、ドヴェルグ、巨人達。腕力を頼りにし、穴掘りを得意とする全ての部下をOlはここに集めていた。</p><p>行くぞ加速だ！</p><p>リルとスピナの魔力を取り込み、Olは魔術を行使する。それは亜人達の筋力を増大させ、彼らの動きは文字通り加速した。</p><p>まるで人が歩くかのような速度で、坑道が掘られ、柱と梁が立てられ、伸びていく。粉砕され、掘られた土砂は無数のインプ達が瞬く間に運び消し去る。</p><p>大神殿の真下まで坑道を掘り進め、そこに転送陣を描くことが出来ればOlの勝利は殆ど確定的なものになる。本丸の真横に敵の湧く穴を作られて、落ちぬ城などない。</p><p>でも、さすがに地下は警戒してるんじゃない？</p><p>つい先だって聖女を浚ったばかりなのだ。地下から来る事さえわかっていれば、幾らでも感知のしようがある。間違いなく、敵は何らかの手段で地下を守っているはずだ。</p><p>だからこそ、Olはそこを突破すると決めた。</p><p>何より安全だからだ。</p><p>恐らく敵は前回の坑道から掘り進むか、その途中から横道を作って侵攻する事を考慮している事だろう。であれば、警戒するのは面。祭壇の真下の坑道から大神殿の間の面を警戒し、それ以上中に侵入されないよう考慮しているはずだ。</p><p>それ以上の範囲を警戒するのは現実的ではない。何せ、その面でさえ深さという問題があるのだ。あまりにも深い場所までは魔術であろうが法術であろうが影響が届かない。</p><p>しかし、Olが今掘っているのはその思考の範疇外。既に位置的には神殿の真下だった。そこから螺旋を描くようにゆっくりと上に進みつつ、Ol達は神殿を目指しているところだ。</p><p>その場所は、聖女を浚うよりも前に掘り、陣を描いていた場所だった。もとより聖女の拉致が上手く行かなかったときの保険に襲撃用の坑道も掘っていたのだ。</p><p>入り口を念入りに埋め、万が一にも存在を知られないよう深くに埋没させたのでここから直接攻め入る訳には行かないが、攻め入る布石の一つ、地中の砦とでも言うべき一室だ。</p><p>魔術師さんよ！ そろそろ抜けるぞ！</p><p>ドヴェルグの張り上げる声に、Olは眉をひそめた。</p><p>何だと？ おかしいぞ。地上までまだ100ヤードはあるはずだ</p><p>Olには地中での絶対的な距離感などないので目算でしかないが、流石に100ヤードもの距離を間違える事はない。</p><p>それはそうなんだがなぁ、この音は薄い壁を掘る音だ。天然の洞窟でもあるのかも知れんな</p><p>洞窟か</p><p>それは少々歓迎できない事態だ。地上までギッシリ土が詰まっているなら真っ直ぐ坑道を掘って進めるが、間に洞窟があるとなると迂回するか階段を作らなくてはならない。どちらもかなりの時間のロスになるし、迂回するとなれば敵の警戒網に引っ掛かる可能性も高くなる。</p><p>とにかく見てみぬ事にはどうにもならん。水音はしないな？</p><p>ああ、そりゃ平気だ。じゃあ、ぶち抜いちまうぜ</p><p>地中を掘る際にもっとも気をつけなければならないのが水地下水脈だ。特に今の様に上方に掘っている場合、掘削部隊が全滅しかねない。</p><p>しかし、掘った先に待ち受けていたのは地下水脈など比べ物にならないほど厄介なものだった。</p><p>天井を打ち崩し、降り注ぐまぶしい光にドヴェルグ達は顔をしかめる。そこはまだ地上ではないはずなのに、その空間は光に満ち満ちていたのだ。</p><p>そして、その光の正体を目の当たりにし、彼らは唖然とした。</p><p>掘り当てたのは、洞窟は洞窟でも、自然のものではなかった。鍾乳石や風化した石の断面などが存在しないことから、それが人工的に作られた空間である事が一目でわかる。</p><p>そして、そこには無数の天使達が待ち構えていたのだ。</p><p>そこから先は、大虐殺だった。その身に高貴な輝きをまとい、金の髪と白い鳥の翼を持つ美しい天使達は一斉に亜人達に殺到し、手に持つ剣で切りかかった。鉱夫達とてただの労働者ではない。一人一人が戦士でもある。</p><p>しかし、坑道を掘る為にろくに武装もしていなかった彼らが天使達に敵う訳もなく、また狭い坑道で数を生かす事もできず、一人ひとりなますぎりにされていった。</p><p>その様子を見やりながら、不死身はふうと嘆息する。その首ったまにはタオルがかけられ、手にはツルハシ、白い衣装は土にまみれ汚れていた。</p><p>まずは初戦快勝、ってトコかね。しっかしうちのボスにも参ったもんだ。どこの世界に、英霊に土木工事やらせる聖女がいるってんだ</p><p>英霊の力を持ってすればこの程度の洞窟、一昼夜もあれば十分だろう？</p><p>そう笑みを見せた上司を思い出し、不死身は苦笑を浮かべた。</p><p>第17話天に弓を引きましょう-5</p><p>やられたな</p><p>目を開けるなり、Olは舌打ちした。ごうごうと耳を打つ音に、視線の先で揺れる幌。そこは馬車の中だった。予定通りならそろそろ目的地に到着する頃合のはずだ。</p><p>お帰りなさいませ、お師匠様</p><p>Olの身体を抱きかかえていたスピナの声が、Olの耳元をくすぐる。彼女もまた、分身から地下の侵攻部隊が全滅している事を感じ取っていた。</p><p>こっちの状況はどうだ？</p><p>もうすぐつくよー</p><p>御者台からリルが声をあげる。あれほどまでにあっさりと負けるとは、流石にOlも予想外だった。真下からの侵攻が予期されていたのはまだともかくとして、それを迎え撃つ為に巨大な空洞を掘り、天使を満載して迎え撃つとは敵も中々に飛んだ頭をしている。</p><p>いや。馬がなくとも馬車と言うのか、と思ってな</p><p>御者台に座るリルの横から顔を出し、Olは呟くように言った。その視線の先には地面ではなく、遠くに見える広大な森があった。</p><p>この馬車は、空を飛んでいるのだ。</p><p>あーそうだね。そういや馬つけてないね、忘れてた</p><p>御者台に座るリルが握っているのは、手綱ではなく操縦桿だった。彼女作のこの空飛ぶ馬車は10人ほどの人間を運び宙を飛ぶ兵器の一種だ。運搬以外には特に特別な能力を有してはいないし速度も飛竜に比べればかなり遅い。</p><p>しかし、地形を無視して大量に人員を輸送できる事と、作るのが比較的容易で数を揃えられる事が何よりも優れている点だった。Ol達の乗っている馬車を先頭にして、その背後にはおよそ500台。5000の兵が乗っている。</p><p>これで関も砦も飛び越え、直接首都を狙う算段だ。地下の侵攻とは互いに陽動であり、互いに本命。どちらかが潰されれば、どちらかで奇襲をかける。その手筈だったのだが、地下側が予想外に早く潰された形だ。</p><p>とは言え、奇襲そのものが失敗に終わったわけではない。地下に防衛を回した分、地上は手薄になっているはずだし、時間稼ぎは成功した。</p><p>いくぞ一気に攻め込め！</p><p>眼下に見えてきた首都の門を見下ろし、Olは号令をかけた。</p><p>遅いぞ、たわけ</p><p>無茶いわんで下さいよ、こっちはひどい目にあったって言うのに</p><p>土にまみれ、ボロボロになった格好で不死身はぼやいた。</p><p>どうした？</p><p>問うメリザンドに、不死身はどうもこうもないですよとため息を吐く。</p><p>倒したと思った瞬間、敵が見事に大爆発。坑道ごと埋まって天使どもは大半圧死ですよ。俺も不死身じゃなきゃ死んでました</p><p>咄嗟の判断で天使を盾に僅かな空洞を確保できたのと、つるはしを持っていたのが不幸中の幸いだった。そうでなければ、そのまま全身土に埋まって身動きが取れなくなっていただろう。</p><p>やはり一筋縄ではいかぬ相手だな。見よ</p><p>メリザンドは神殿のバルコニーから空を指差す。そこに浮かぶのは500台の空飛ぶ馬車だ。</p><p>どうやら魔王Olの軍勢のようだな。よもや、あのようなものを持っていたとはな。呪具いや、魔兵器とでも呼ぼうか</p><p>いや名前はなんでもいーんですけど</p><p>相変わらず妙なところに拘るメリザンドに呆れた声でそういい、不死身は空を見上げた。</p><p>アレ、結構ヤバくないですか</p><p>そうだな。結構ヤバい</p><p>メリザンドは素直に頷く。</p><p>フィグリアからここまではかなりの距離がある。転移するにもそう量は呼べぬだろうから、正面からの攻撃はないと踏んでいたのだが</p><p>難しい表情でメリザンドは唸った。</p><p>あの天駆ける馬車であればかなりの量の兵を運ぶ事ができる。それ以上に、空を取るというのはかなりのアドバンテージだ。数以上に強敵と見なければならないだろう。</p><p>まあ、予想はしていなかったとは言え</p><p>メリザンドはくいと紐を引き、早鐘を鳴らした。その鐘の音に、がらがらと音を立て巨大な塔が幾つも立ち上がった。</p><p>準備しておかぬ理由にはなりはしないがな</p><p>兵達は塔の上にずらりと並び弓を構える。</p><p>相手はわざわざ大きな的を用意してくれた。ありがたく、射落とせ</p><p>あんな塔まで用意しているとはな</p><p>首都をぐるりと囲む壁に建てられた巨大な塔に目をやり、Olは呟く。それは上から矢を射掛けたり城壁を越えるのに使う櫓の様にも見えるが、そう言った目的のものよりも更に大きい。上空から攻撃する戦術を取るOlへの対処である事は明らかだった。</p><p>塔の最上部に備え付けられた石弓や投石器から、次々に矢弾が放たれる。Olは馬車の高度を上げてそれをかわすが、これ以上近付くことはできない。幾ら上空を取っているとは言え、弓矢はまだ届かない距離だ。</p><p>ラズはさ</p><p>遠くを見つめるような眼差しで、リルは言った。</p><p>Olに会うまで、兵器を作る事を何とも思っていなかった。ただただ研究が楽しくて、より効率よく、より効果的に人を殺す武器を作り出すことを求めていた</p><p>馬車に乗せられた袋から、リルは鈍く光る鉄の塊を取り出す。</p><p>それがどういう事なのか、何を意味するのかまではわかってなかった。知らなかった。でも、Olとあって、戦争がどういうものなのか自分が何を作っているのかを理解して兵器造りをやめたんだ</p><p>そしてそれを外に向けると、躊躇いなく引き金を引いた。</p><p>でも私は悪魔だからそんなの全然気にしませーん</p><p>色々台無しだな、お前は</p><p>リルの発砲に応じて、味方の軍勢が次々に射撃を始める。鉄で出来た筒の様なその兵器は、石火矢と名付けられた砲だ。</p><p>筒の内部で小さな爆発を起こす事で、こぶし大の弾丸を放つ構造になっている。構造上、巨大で取り回しが悪く移動しながら使うことはほぼ不可能。命中精度もさほど良くはないし、連射も効かない。しかし、それを補って余りある利点が幾つもあった。</p><p>一つ目は、威力。投石器で放つような弾を、矢の如き速さで発射する事ができる。その威力たるや凄まじく、金属鎧を着ている騎士であろうと有効射程以内であれば一撃で半身を吹き飛ばす。弾丸を鉛にすれば、防御魔術ですら全く効果がない。</p><p>二つ目は、扱いやすさ。弓矢や投石器の様に高い錬度は必要とせず、1,2時間ほどの簡単な訓練で誰にでも使用できる。</p><p>そして三つ目が、その射程の長さだ。個人で携行可能な兵器でありながら、その射程距離は投石機や石弓といった大型兵器と対等の射程距離を誇る。</p><p>今の様に上空から撃てば、そう言った兵器に対してさえ一方的に攻撃することが出来る。魔女と呼ばれたラズの知識を、悪魔であるリルが遺憾なく振るった結果がこれだ。</p><p>塔の上で兵器を操作する兵達は石火矢の弾で次々と倒れ、塔から落ちていく。次々に塔を撃破して快哉を上げる後続の兵士達とは裏腹に、リルは怪訝そうに眉を寄せた。</p><p>おかしいどういう事？</p><p>リルは石火矢を構え、引き金を引く。狙い違わずその弾丸は塔に直撃し、木片を飛び散らせた。</p><p>倒れない</p><p>しかし、塔は崩れることなくその場に立ち続ける。リルの計算では、こういった類の塔でも2,3発も打ち込んでやれば根元から破壊出来るはずだった。</p><p>普通のものより大きいから、その分強度にも優れているという訳では、なさそうだな</p><p>Olの言葉にリルはこくりと頷く。派手に飛んだ木片は、いうなれば盾の様なものだ。塔の自立自体には直接影響の無い様、わざと壊れやすく出来ている。</p><p>既に塔の大半は上部の兵器を破壊され、弓兵達も満身創痍。兵器としての役割は殆ど保っているとはいえない。そんなものに、なるべく壊されにくいような細工がしてある</p><p>いけない、全軍、反転</p><p>リルが言い切る前に、白く輝く影が塔の中から無数に飛び出した。</p><p>兵達が慌てて石火矢をそれに向けて放つが、塔の影から勢いをつけまっすぐに上空を目指すその姿には一発もあたることがなかった。</p><p>やられた！ 最初からこれが目的だったってわけ！？</p><p>塔の影から舞いあがったのは無数の天使達。その手には弓矢を携えていた。この近距離で出てこられては、回避も迎撃も出来ない。あの塔は攻撃の為ではなく、天使達の姿を隠し守る為に存在していたのだ。</p><p>まずい、どうしようOl！ 上をとられた！</p><p>狼狽し、リルは隣のOlに助けを求めた。</p><p>空を飛ぶ馬車の陣形は、同士討ちを防ぐ為に前列ほど上方に位置するようになっている。そうすれば、斜め下方を狙えば前の味方に誤って石火矢を当ててしまうことはないからだ。</p><p>しかし、相手が上方にいてはその布陣がかえって仇となった。敵を撃とうとすれば、味方に当たってしまうのだ。</p><p>仕方なく前列にいる者たちだけが石火矢を放つが、そうなると今度は数が足りない。低い命中精度を射撃数で補っていただけに、天使達はこちらをあざ笑うかのように弾丸を空中でひらひらと避けて見せた。</p><p>逆に天使達が放つ矢は馬車を的確に貫き、次々と射落としていく。Olは魔術による障壁を張り、辛うじてその射撃を止めるが味方軍の馬車までは守り切れない。それぞれの馬車には石火矢を扱う砲兵の他にも魔術兵が乗っているはずだが、天使達の放つ矢はその防護を軽々と突き破る程の威力を備えていた。</p><p>Ol、反転の指示を！</p><p>駄目だ。今ここで横腹を晒したりすれば、それこそ全滅する</p><p>馬車の欠点は、小回りが利かないことだ。全軍すぐさまその場で後退、という訳には行かない。大きく弧を描いて反転するしかないが、敵軍はそれを許してくれそうもない。</p><p>とは言え、このままではお師匠様</p><p>せめてOlだけでも守ろうと身構えるスピナ。その視線の先で、天使が一体墜落した。</p><p>石火矢の弾に偶然当たる間の抜けた天使でもいたのだろうか、と目を見張る彼女の前で、一体、また一体と天使達が落ちて行く。</p><p>これは、一体？</p><p>思わずリルとスピナは馬車の外に顔を出し、周りを確認する。</p><p>その視線の先に浮かぶのは、数十匹の飛竜と、放たれる無数の矢。</p><p>ようやく来たか</p><p>Olが、ニヤリと笑みを浮かべる。</p><p>黒の氏族、エレン。恩義によりて、助太刀に参った！</p><p>懐かしい声が、天空に響き渡った。</p><p>第17話天に弓を引きましょう-6</p><p>ようやくって、来るの知ってたの！？</p><p>当然だ。こんな寡兵で勝てる相手ではないのは元々わかっていたことなのだからな</p><p>外で、飛竜に乗ったミオとエレンが並んで手を振る。それに手を振り返しながら、リルはOlに詰め寄った。</p><p>先に言っておきなさいよ！！</p><p>敵を騙すにはまず味方から、と言うだろう？</p><p>エレンとミオの名は、思っている以上に広まっている。手足の様に飛竜を駆る乙女と、雨の様に矢を降らす黒アールヴの美女。魔王の竜騎兵部隊と言えば、ちょっとした叙事詩(サーガ)にもなるほどの知名度を持ち、Olの持つ軍の主力として認識されていた。</p><p>それが故に、Olは彼女達を迷宮から出したのだ。リルにすら知らせぬ密命を持たせて。</p><p>はーっはっはっは！ 我が弓をとくと見よ！私の兵力は五万三千だッ！！</p><p>ノリノリだね、エレンあの子、戦いになるとキャラ変わるよね？</p><p>というか、どう見ても五万三千もいないのですが</p><p>哄笑を上げながら矢を雨と降らせるエレンに、冷静にリルとスピナは突っ込んだ。彼女らが駆る飛竜達は目算で数十。いずれもOlの迷宮に棲みついたものではなく、ミオが自力で従えた野性の飛竜なのだろう。</p><p>恐らく、53人いるのだろうな。一騎当千で五万三千だ</p><p>Olがエレン達に与えた密命。それは、黒アールヴの残党の探索と、魔獣の戦力の確保だった。白アールヴ達がOlの支配下に収まった今、彼らに敵対するものはいない。大手を振って仲間を探すことが出来る。</p><p>また、ミオも放っておいても魔獣たちが集まってくるOlの迷宮で世話をしているより、外に出て魔獣を捕えに行くほうが戦力の増加を図ることができる。</p><p>戦力の隠匿と増強。その二つを見込んで、Olは彼女達を迷宮から手放した。時が来るまで待て、と、迷うミオを説得して。</p><p>そして今、その時が来たのだ。</p><p>翼を持ち宙を舞う天使達ではあったが、巨大で力強い飛竜の飛行速度にはとても敵うものではない。それは地上で言うならば、歩兵と騎兵の戦いだ。しかもこの騎兵は自在に無数の矢を放つときている。</p><p>天使達は見る間にその数を減じていった。</p><p>Ol、あれさ</p><p>ああ、わかっている</p><p>リルの言葉に、Olは頷く。数だけはいるが、あれは天使の中でも下級から中級程度。悪魔で言えばガーゴイルやヘルハウンドと同等程度の力しか持っていない。敵はまだ主力を繰り出してはいないという事だ。</p><p>準備しておけ。行くぞ</p><p>こりゃあマズいな</p><p>ハラハラと落ちては消えていく天使達を見やり、不死身は呟く。メリザンドとは千年以上に渡る長い付き合いだが、戦略においてここまで彼女が追い詰められる様を彼は初めて目の当たりにしていた。</p><p>マズい？ 何がまずいというんだ？</p><p>しかしメリザンドは、それに笑みを持って答えた。</p><p>無明よ、他に敵の援軍は？</p><p>ありません</p><p>視界を確保するスリットのない、卵の様な形の兜の中で無明の騎士はくぐもった声で答えた。盲目である彼の目は何も映す事はない。しかし、千里を見通し、ありとあらゆる隠された物を暴き出す事が出来た。</p><p>ならばこれで詰みだ。まずはあの小うるさい射手を黙らせろ、魔弾</p><p>仰せのままに</p><p>羽帽子を被った男が優雅に一礼し、弓に矢を番え、ひょうと矢を放つ。</p><p>次。竜殺し、鉛</p><p>屈強な肉体を持つ二人の大男が並び立つ。</p><p>竜殺しは遥か上空を飛ぶ飛竜達を見据え、剣を引き抜いた。そして横薙ぎに剣を振るう。</p><p>落ちろ</p><p>鉛が手をかざし、力を込めて呟いた。</p><p>よし。では最後だ。跳ね駒、炎髪。止めを刺して来い</p><p>頷き、全身を甲冑に包んだ騎士が小柄な少女を抱きかかえ、跳ぶ。彼らの姿は瞬時にして掻き消えた。</p><p>これで王手。概ね予定通りだな</p><p>御無事ですか、お師匠様</p><p>Olが目を見開くと、目の前にスピナの顔があった。その首から下は半透明の粘液と化し、Olを包み込んでいる。どうやら咄嗟に、落下の衝撃から守ってくれたらしい。</p><p>一体、何が起こった？</p><p>まず、雨あられとばかりに降らせていたエレン達の矢が撃ち落された。防がれたならまだわかる。しかし、同じ矢で撃ち落されたのだ。高速で空中を飛ぶ矢を射るのが、どれほどの神業を持ってすれば為せるのか、Olには想像もつかない。</p><p>ましてや数百もの矢を同時に射落とすなど、考えもしなかった事だ。未曾有の攻撃に混乱に陥るOl達を、更なる衝撃が襲った。突然、飛竜達が残らず真っ二つに両断されたのだ。</p><p>飛竜はいわゆるドラゴン、ましてや最後の竜メトゥスなどとは比べるべくもない。竜の眷族の中でも末端に位置する弱く知性にも乏しい存在だ。が、それでも世界で最強の種族、竜であることには変わりがない。</p><p>並みの魔獣などよりも遥かに強く、その鱗は生半可な剣士の剣など受け付けない。ましてや、それを両断するなどいかなる剣士にも魔術師にも不可能だ。それを姿さえ見せず、数十まとめて両断するなど。</p><p>そしてそれと同時に起こったのが、空飛ぶ馬車の異常だ。奇妙な風が駆け抜けたかと思えば、突然馬車はその動作を止め、ただの木で出来た箱へと成り下がった。当然馬車は落下をはじめ、兵達の棺桶となった。</p><p>主殿。先程のは、一体？</p><p>軽い擦り傷を作りながらも、エレンが姿を現す。その後ろには、ミオと配下達も一緒だ。全員軽い傷を負ってはいるものの、重傷以上のものはいないようだった。</p><p>エレン、無事だったか</p><p>ええ、下が森だったのが幸いしました</p><p>アールヴ達は森の精を起源とする種族だ。弓の腕を披露する事が多いが、その魔術の腕前も捨てたものではない。落下しながら木々の木の葉やツタを操り、網を作って衝撃を和らげるくらいの事は軽々としてのけた。</p><p>久しぶり、エレン、ミオ。再会を喜びたいところだけど、そんな状況じゃないみたい。兵の方はやっぱり全滅よ、ご主人様</p><p>いつになく切羽詰った表情で、リルがOlの下へと戻ってくる。落ちた馬車を見て回ってきたが、やはり彼ら以外に生存者はいないようだった。</p><p>先ほどの攻撃がなんなのかは全くわからん。が、わからんという事は、恐らくは英霊の仕業だろう</p><p>矢を撃ち落したもの、竜を落としたもの、馬車を落としたもの。それぞれ方法が全く違うからには、それぞれ別の英霊の仕業だと考えるのが自然だ。</p><p>英霊が5人以上いれば負ける。決戦の前にOlはそう言った。敗北が決定するまで、後2人だ。</p><p>いずれにせよ、馬車も兵も落ち、これ以上の援軍もない。ひとまず迷宮に戻り、体勢を立て直すぞ</p><p>Olは魔法陣を描くと、リルとスピナの魔力を使い転移を行う。</p><p>誰もいなくなったその場所に、二つの影が姿を現した。</p><p>そのうちの一つ、跳ね駒はその場に残る魔力の残り香を掴み取ると、再び炎髪を抱え、跳躍した。</p><p>それは今までで一番の奇襲だった。</p><p>けたたましく鳴り響く警報の音と、己が身を焼く凄まじい痛み。形代を操り、人間としての苦痛とは無縁の筈のOlの全身がひどく痛み、彼を苛んだ。ダンジョンコアが攻撃されている証拠だ。</p><p>一体、何事だ！？</p><p>Olが部屋を出ると、目の前は紅蓮の炎に包まれていた。</p><p>迷宮が、燃えている。燃えるはずのない石壁が、床が、天井が、何もかもが炎を吹き上げ、燃え上がっていた。</p><p>敵襲だと！？</p><p>スピナが地中から攻めて来た時でさえ、時間的余裕はまだあった。どんな方法を取ったとしても、迷宮に侵入されれば対応できるだけの時間を稼げる準備がしてあったのだ。</p><p>こんな事は、ありえない。しかしそれを言うならば、先の敗北もありえない、理解しがたいものだった。すなわち、この襲撃も、石を焼き鉄を燃やすこの炎も、英霊の仕業と見て間違いない。</p><p>燃え盛る炎の中、Olは二つの姿を見つけた。小柄な少女と、甲冑に身を固めた騎士。炎髪の姫と跳ね駒敗北を決定する、英霊の4人目、5人目だ。</p><p>そして、Olは見覚えのあるその姿に声をかけた。</p><p>久しぶりだな。ユニス</p><p>反応らしい反応も見せず、炎髪は剣を引き抜く。</p><p>随分様が変わったな</p><p>Olはそれに身構えもせず、言葉を続けた。</p><p>お前の最後の言葉は覚えているぞ。言われたとおり、信じてやる</p><p>すっ、とOlは手を差し出す。炎髪は何も見ていない、虚ろな瞳で全身から炎を吹き上げ、彼に突き進んだ。</p><p>炎を纏った剣がOlの胸を刺し貫き、その身体を焼き焦がした。その苦しみに、Olはこの炎が尋常のものでない事を悟る。炎髪がその身に秘めた情念の炎は全てを燃やす。石であろうと、鉄であろうと、魂であろうと、何もかもをだ。</p><p>このまま燃やされれば、形代だろうが関係ない。Olという存在そのものが焼き滅ぼされる。しかし、Olは微動だにしない。ユニスを信じ、彼女をじっと見つめた。</p><p>剣が空を滑り、輝きながらぶんと振るわれ、首を刎ねる。</p><p>首はごろごろと地面を転げ、炎に包まれて一瞬にして燃え尽きた。</p><p>途端に、迷宮を覆っていた炎は消える。</p><p>それを操っていた炎髪が死んだからだ。</p><p>よく、わかったね？</p><p>兜の中から、くぐもった声があがる。</p><p>わからいでか。誰の為にこんな事をしておると思っているのだ</p><p>Olは意識して渋面を作り、焼け焦げた傷を治癒しながらそう答えた。決定的な隙を作る為とは言え、己の存在自体が燃やされるのを許容するのはなかなかに肝が冷えた。</p><p>ただいま。とりあえず、さ。久々にOlのパスタ、食べたいな</p><p>兜を脱ぎ捨て、生前と変わらぬ笑みを浮かべて跳ね駒はそう言った。</p><p>第17話天に弓を引きましょう-7</p><p>ユニスぅ～～～～ッ！！</p><p>ちょ、リル、うわっ！？</p><p>勢いをつけ、飛び込むように抱きつくリルに押し倒され、ユニスは椅子から転がり落ちた。その直前、彼女の手にしていたフォークとパスタが山盛りになった皿、そしてそれを乗せたテーブルが部屋の隅へと一瞬で転移した。</p><p>お帰りなさい、ユニス</p><p>ん、ただいまスピナ。あれ、何かちょっと感じ変わった？</p><p>ぎゅうぎゅうとリルに抱きしめられながらも、ユニスはマイペースにスピナに言葉を返す。それに対し表情を硬くし、胸を押さえる彼女にユニスは疑問符を浮かべた。</p><p>色々聞きたい事はあるがまあとりあえず食え</p><p>両手にパスタを山盛りにした皿を乗せながら、Olはそれをテーブルに乗せる。</p><p>いや、流石にそんなには食べきれないよ！？</p><p>愚か者、これは俺とマリーの分だ</p><p>ユニスからリルを引っぺがし、テーブルの位置を元に戻しながら、Olは呆れた口調で言った。しかし、皿一杯に盛り付けられたそれは、いくら食べ盛りと言ってもマリーが食べるには明らかに量が多すぎだった。</p><p>あーっ、ゆぱすただぁっ！</p><p>マリーが部屋に入ってくるなり、そう叫ぶ。一瞬ユニスに視線を送ったものの、それはすぐにテーブルの上のパスタに取って変わられた。</p><p>マリーも相変わらずだねえ</p><p>一心不乱にパスタを口に詰め込む彼女の頭を撫でてやりながら、ユニスは苦笑した。</p><p>それにしても、ちょっと意外だったな。Olがあんなにストレートにあたしの事信じてくれてるとは思わなかったよ</p><p>ニコニコと料理を口に運びながらユニスは言った。</p><p>そうするのが一番可能性が高いと踏んだからそうしただけだ。勘違いするな</p><p>憮然として答えるOlに、リルがニヤニヤと笑みを浮かべる。</p><p>それで失敗してたら、保存しておいた死体に押し込んで再洗脳するプランBがしっかり用意してあった。ああ、あの死体はもう要らんから処分していいぞ</p><p>待ってあたしの身体燃やさないでー！？</p><p>躊躇なく頷くスピナを慌ててユニスが止めると、魔術師師弟は冗談に決まっているだろう勿論冗談ですと真顔で言った。この二人が冗談を言う所なんて聞いた事がない。再会を喜んでくれているのだと思おう、とユニスは無理やり納得した。</p><p>って言うか、あの身体残しておいたのそんな理由だったんだ</p><p>リルは呆れてため息をつく。</p><p>どんな理由だと思ってたんだ？</p><p>それはその、感傷とか</p><p>はっ</p><p>リルがそう答えると、Olは鼻で嘲笑う。</p><p>くっ、なんか腹立つー！</p><p>相変わらずのそのやり取りに、ユニスは微笑を浮かべた。</p><p>ゆにす、おなかすいたの？</p><p>ユニスが空にした皿と彼女の顔を見比べながら、マリーは問うた。</p><p>えっ？</p><p>ユニスのその頬には、いつの間にか涙が伝っていた。</p><p>あげる</p><p>どう勘違いしたのか、マリーは自分の皿をずいとユニスに突き出した。</p><p>ありがとう、でも、大丈夫だよ</p><p>ユニスはとめどなく溢れる涙を拭いもせず、自分があるべき場所に帰ってきたという実感と共に、にっこりと微笑んで答えた。</p><p>胸がもう、一杯だから</p><p>にしても、なんだってあんな兜被ってたの？</p><p>にぎやかな食事も一段落し、部屋の片隅に置かれているフルフェイスの兜を指差してリルは尋ねた。生前彼女は軽装を好み、兜もロクにかぶってはいなかったはずだ。</p><p>あたし演技とか苦手だから表情とかでバレないように被ってたんだよ。基本、英霊ってあんまり表情変えたりしないし</p><p>英霊はある程度自由に自分の装備を変えられるらしい。魔力で衣服を形作っているリルと原理的には同じようなものだ。</p><p>という事はやはり、英霊として呼ばれた時点で自由に動けたのだな。殺気が全くないから妙だとは思ったが</p><p>うんお兄様が、協力してくれたから</p><p>ユニスは少しばかり神妙な表情で、そう呟いた。</p><p>お兄様の能力は鉛。ありとあらゆる術を無効化し、その存在を否定する。法術も例外じゃなくてね。それで、あたしは聖女の法術に縛られず、自由に行動する事が出来るの</p><p>空飛ぶ馬車を落としたのはザイトリードか。しかし、そうなると奴も自我を残しているのか？</p><p>Olの問いに、ユニスは頷く。</p><p>あと、お父様もね。ただ二人とも、Olの事倒す気満々だから、味方はしてくれないと思うけど</p><p>ウォルフもいるのか</p><p>娘を頼む、などと言っておいてと、Olはうんざりした。出来るなら二度と会いたくない相手だ。</p><p>お嬢さんを下さい、って頭を下げに行く気分？</p><p>そんなもんですむなら幾らでも下げるがな</p><p>何せ長い歴史を紐解いても大陸随一と名高い英雄王だ。あの齢まで生き、子もまた英雄となるほどに轟く勇名。さらに英霊ともなれば老いなど関係なく、全盛期100%のウォルフの実力を持っていると考えていいだろう。</p><p>英霊は何人いるんだ？</p><p>あたし入れて7人。で、それぞれ一人一個ずつ特殊能力っていうか法術を使えるみたい</p><p>ユニスはとん、と跳躍し、Olの目の前に転移して見せた。</p><p>あたしはコレ。跳ね駒って呼ばれてた。結界があろうと、どんなに遠くだろうと、一瞬で移動する能力。魔力を辿って魔術での転移先を割り出す事も出来るみたい。自分と、せいぜいもう一人を運ぶのが精一杯なんだけどね</p><p>無茶苦茶だ、とOlは思った。結界も距離も無視するなど、魔術の原理を根本から覆すかのような力だ。</p><p>お兄様が鉛で、あらゆる術の無効化。お父様は竜殺しで、相手が竜なら無条件に殺せるんだって</p><p>本人が為しえた偉業に関連するのか</p><p>フィグリアにOlが捕まったときにユニスが為しえた転移門の創造。あれがユニスの一番の偉業と目された結果の能力なのだろう。そして、Olは大体法術がどのようなものなのかを察してきた。</p><p>理力は理を促し、世界を形作る力。つまり法術は、理を法則を作る術、か</p><p>物が地に落ちるように、ウォルフは竜に負けない。それが当たり前である、という法則そのものを作り出す。それが、法術。</p><p>魔術は理を捻じ曲げるが、魔術には魔術の法則がある。魔の理とでも呼ぼうか。魔術で出来る事と出来ない事はハッキリしており、幾つもの決まり事と常識がある。法術は、それを捻じ曲げ、捻じ伏せる。</p><p>他の4人の能力ははっきりとはわかんない。一人はさっき殺しちゃったから、後3人、かな。魔弾無明不死身って呼ばれてたよ</p><p>名と共に、ユニスは彼らの簡単な外見などを説明した。</p><p>魔弾と無明は恐らく、魔弾の射手レックスと、盲目のガイウスだろう。不死身はわからんな</p><p>Olは記憶をあさり、該当しそうな英雄の名を挙げた。一発百中の二つ名で知られ、矢を一度も外したことのない弓の名手レックス。生涯でただ一度だけ、策略によってその矢の狙いは逸らされ、彼の妻を射殺した。</p><p>盲目のガイウスは後天的に英雄となった特殊な例だ。聖者の血を浴び、盲目であった彼は視界を手に入れたという。その後は献身的に数多の怪物を殺し、世の為に戦ったが聖者の弟子に殺されたという。</p><p>ねえ、英霊って英雄が死んだらなるんだよね？</p><p>今更何を言ってるんだ</p><p>呆れたように言うOlに、リルはぱたぱたと手を振った。</p><p>いや不死身って、死なないならどうやって英霊になったんだろうって思って</p><p>む、とOlは一瞬口篭る。しかしそれは、リルの言葉がもっともだからだと考えた訳ではない。</p><p>不死身の英雄と言うのは存外少なくない。しかし、本当の意味で死なぬ英雄はいない</p><p>英雄の能力は基本的に神が授けるものだ。その神でさえ滅ぶと言うのに、英雄が滅ばないわけがない。</p><p>大抵は何らかの弱点があり、そこを突けば死ぬ。足首だったり、背中だったり、何らかの誓約を守る事だったりする</p><p>だが、それは飽くまで地上の法則。神が与えた力を地上で磨きぬき、天へと上った英霊達が使う法術は、それより一段上の能力だ。</p><p>英霊となった不死身の男は、果たして死ぬのか？</p><p>Olの胸中に、一抹の不安がよぎった。</p><p>閑話最後の戦いに備えましょう-1</p><p>準備と覚悟は良いか？</p><p>Olの問いに、リルが、ユニスが、スピナが神妙な表情で頷く。</p><p>これが恐らく最後になろう。存分に、楽しめ</p><p>Olの静かなその宣言と共に、娘達が一斉に彼に殺到した。</p><p>複数の部屋を繋ぎ作った、巨大な広間。そこに、Olの愛人達が一斉に集結していた。</p><p>リル達三人にマリーは言うに及ばず、エレンとその配下52人にミオが列を成し、ナジャ、Shal、ウィキア、Faro達冒険者の娘達の隣には、ちゃっかりと商人のノームが陣取っている。</p><p>その後方にはフィグリアの元王妃オリヴィアと、その美しい二人の娘パトリシアとプリシラがあられもない姿を晒し、その隣にはやや気後れした様子で順番を待つ、生贄として捧げられた村の娘達。</p><p>他方に目をやればきゃいきゃいと騒ぎながら食事を楽しむハルピュイア達にリル配下のサキュバスといった魔物達がおり、セレス以下白アールヴと森の民の女達の中でも選りすぐりの美女達がしんがりを勤める、と言った具合だ。</p><p>その総勢は100人を越えていた。</p><p>それを迎えるOlは久々に形代ではなく、自分自身の肉体だ。</p><p>じゃあまず私からね。Ol、おっぱい好きでしょー？</p><p>大きさであれば私も負ける気はいたしませんわ</p><p>その豊かな乳房をさらけ出し、左右から迫るのはリルとオリヴィア。数多い愛妾の中でも文字通り一、二を争う爆乳の持ち主たちだ。</p><p>大きければいいというわけではない、が</p><p>左右からたっぷりとした果実に挟まれながら、Olは両手でそれぞれその胸を鷲掴みにした。リルの胸は大きく突き出した円錐型で、その巨大な質量にもかかわらずまったく垂れることなく、重力に逆らいツンと上を向いている。先端はまるで生娘のような綺麗な桜色をしていて、Olを誘うかのように硬く尖っている。</p><p>一方、オリヴィアの胸は子を三人産んだとは思えない見事な釣鐘型で、単純な大きさを比べるのであればリルにすら勝る、まさに魔乳と呼ぶにふさわしい偉容を備えていた。乳首は流石に多少褐色を帯びているが、それがかえって彼女の淫猥な魅力を引き出しているかのようだった。先日Olの子を産んだばかりの彼女の胸を吸うと、甘く芳しい母乳が溢れ出た。</p><p>どちらも大きさだけでなく、張りも触り心地も柔らかさも一級品の甘い果実だ。</p><p>うむこれは素晴らしいな</p><p>あんっお褒め頂き、光栄ですわ、Ol様</p><p>えへへ。たっぷり味わってね</p><p>嬉しそうにぎゅうぎゅうと胸を押し付ける彼女達をよそに、抜け目なく彼の下半身に近寄る影が三つあった。</p><p>じゃ、こっちのお宝は頂いちゃうよ</p><p>金額分、しっかりご奉仕させて頂きますね、魔王様</p><p>わたしもー</p><p>身軽な動作でクドゥクのFaroがOlのズボンを脱がし、いきり立ったものにノームがそっと手を添える。その横から割り込むように、マリーが首を突っ込んだ。</p><p>Olの両脚の中に三人もの娘が顔を寄せられるのは、小柄な彼女達ならではだ。</p><p>お二方には敵いませんけれども</p><p>ノームは着ていた服をずらすと、きゅっと腕を寄せてその体格と顔立ちに似合わぬ豊かな谷間をOlに見せ付けた。薄い絹のようなローブは彼女の身体の線をはっきりと浮き上がらせつつも、肝心な部分をぎりぎりで隠す。</p><p>あは、おっきくなったよ</p><p>嬉しそうに笑い、FaroはOlの一物をぺろりと舐め上げた。その反応を見ながら舌を長く伸ばし、鈴口やカリ、裏筋といった彼の弱い部分を丁寧になぞっていく。</p><p>んー、んんーっ</p><p>マリーはまるで人懐っこい猫の様に、懸命にOlのものに舌を這わせる。技巧も何もない、愛撫と呼ぶのも憚られる様な稚拙な行為だ。その行動の意味もわかっているかどうかかなり怪しい。しかし、彼女はOlに喜んで欲しいという一心で、懸命に彼のものを舐め擦り、その光景は肉体的な快楽よりも彼を満足させた。</p><p>では私も</p><p>ノームもローブを脱ぎ捨てると、一糸纏わぬ身体をOlの脚の間に滑り込ませ、彼の一物に舌を這わせた。左右から柔らかく巨大な乳房に挟まれ、三人の美少女たちに股間を奉仕される快楽に、Olはたまらず精を放った。</p><p>幼くあどけないマリーの顔が、Olの白濁した液で汚される。Faroは顔中に付着した精液を美味しそうに舐め取り、ノームが未だ萎えず硬度を保ったままのOlの一物をぱくりと頬張ると、尿道の奥に残った精液までをちゅうちゅうと吸い取った。</p><p>最初にお腹にもらうのは、私だからね</p><p>リルはOlと娘達に言い聞かせるようにそういうと、ふわりと宙に浮き、Olの上に跨った。そして、まるで泉のようになみなみと愛液を湛えた秘裂で一息にOlのペニスを咥え込む。</p><p>では私はこちらから</p><p>オリヴィアは逆にOlの背中に回り、そのたっぷりとした双丘を彼の背に押し付ける。Faroとノームはリルに場所を譲ると、Olの両手に陣取って彼の手のひらを自らの乳房に押し付けた。</p><p>あぁんOl、もっと触ってぇ</p><p>ふふ、Ol様、たっぷり楽しんでくださいね</p><p>Olの手はすぐに彼女達の乳房を鷲掴みにし、Faroとノームはそれぞれ嬌声を上げる。マリーは相変わらずOlの股間に陣取り、彼の精の詰まった袋を舐め上げることに熱心だ。</p><p>んんっOlぅ</p><p>リルはすっと目を細め、うっとりとした表情で彼に口付けた。それと同時に彼の腰にその長い脚を絡ませ、股間を押し付けて膣でペニスをしごき上げる。</p><p>怖がらなくていいわ全部、私がしてあげるからね、アイン</p><p>囁かれる声にOlが思わず目を見開くと、リルが悪戯っぽい表情で笑った。</p><p>似てた？</p><p>いや、ぜんぜんだ</p><p>それは、ラズの言葉。Olが初めて女を知った日に、耳元で囁かれた台詞だ。</p><p>Olは気づいてないみたいだったけど、ラズもあの時処女だったんだよ。必死にお姉さんぶってたけどさ</p><p>70年越しの事実にOlは驚く。彼にとって師は、何もかも熟達した大人の女性であったからだ。</p><p>そうか、そうか。それは良く教えてくれたな。褒美をくれてやろう</p><p>Olはそういい、強制的にリルの中に射精した。その中に、たっぷりと魔力を込めて、だ。</p><p>え、ちょ、オ、あぁぁぁぁぁっ！！</p><p>久方ぶりに自分の身体が作り変えられる感覚に、リルは高く鳴き声を上げた。</p><p>そら、淫魔の大好きな精をたっぷりくれてやろう</p><p>魔力の供給がある限り、Olの精力は無尽蔵。しかも性的快感を得ずとも射精はコントロールできる。つまり、その気になれば永遠に出しっぱなしにすることすら可能だ。</p><p>まっ、て、ちょ、これ、しゃれに、なら、なあぁぁぁぁぁぁぁっ！！</p><p>どぷどぷと吐き出され続けるOlの精液は、リルにとっては強力な媚薬だ。それが、溢れ出るどころか無尽蔵に放出されて、リルはがくがくと身体を震わせた。</p><p>あぁぁぁぁ、あぁぁぁぁあぁぁぁぁっ！ あぁぁぁっぁぁぁあああぁぁぁぁ！！</p><p>あまりの量にリルの腹がまるで子を成したかのようにぽっこりと膨れてなお、Olは射精の勢いを留めない。リルは絶頂に次ぐ絶頂を味わい、ついには白目を剥いて失神する。その様子を見て、Olはようやく射精を止めた。</p><p>ずるりと白濁に塗れた一物を引き抜くと、リルの膣からはごぽりと音がして大量の精液があふれ出す。完全に気を失った彼女を他の娘達に任せ、Olは次の娘を探して視線をめぐらせた。</p><p>流石にこの惨状を見た後では、Faroもノームも微妙に視線をそらす。わけもわからずマリーだけがOlを見上げたが、流石の魔王もまだ彼女に手を出す気はない。そんな事をすれば物理的に裂ける。</p><p>Ol様、それでは次は私の中にお情けをくださいまし</p><p>たゆんと巨大な魔乳を揺らし、オリヴィアがOlに尻を向け、秘裂を割り開いた。</p><p>また子を孕める様たっぷりと、奥に射精してくださいませ</p><p>あの惨事を見た後でそんな台詞を吐けるとは。居並ぶ娘達の胸中は、元王妃への尊敬の念で埋め尽くされた。</p><p>閑話最後の戦いに備えましょう-2</p><p>ああっ、Ol様、Ol様ぁぁっ、そこ、いいですっ、もっと、もっと奥にくださいませぇぇぇっ！！</p><p>オリヴィアはそのたわわに実った果実を震わせながら、後ろから突き入れられる快感に嬌声を上げた。</p><p>Olは彼女を犯しながら、左手でFaroの胸を揉み、右手でノームの尻を撫でながら彼女の唇をむさぼる。二人の股間からはすでに白くどろりとしたものが垂れ落ちていた。三人の中に精を吐き出し、オリヴィアは二回目だ。</p><p>快楽にとろけながらも、オリヴィアの膣はOlの精をねだるかのようにきゅうきゅうとすぼまる。淫魔の血でも引いているのではないかと思うくらいの乱れようだ。</p><p>出すぞ、オリヴィア！</p><p>ああぁっ、Ol様の精液っ、奥に、奥に出してぇもっと、もっとたくさん孕ませてくださいぃぃぃっ！！</p><p>ぐっとその豊満な尻をOlの股間に押し付け、オリヴィアは背筋を反らして気をやった。その途端、膣口がぎゅっと収縮し、一滴も逃すまいとOlの精を飲み込む。</p><p>そしてそのまま、彼女のそこはまるで手の指のようにぐにぐにと蠢いてOlの一物をしごきあげると、中に残った精液も余さずその子宮へと送り込んだ。これだけの事を、無意識にやってのけているのだから恐ろしい。</p><p>次はエレン、セレス、来い</p><p>第一陣に一通り寵愛を与え、次にOlは黒と白のアールヴの長達を手招いた。</p><p>むこいつも一緒か</p><p>黒の氏族の長もですか</p><p>互いに憎しみを抱きあう、不倶戴天の間柄だ。共にOlの部下となって殺しあうような事はないが、二人は互いに避けあい顔をあわせない様にしていた。それが共に呼ばれ、二人は同じように表情を曇らせた。</p><p>お前達は共に我が部下となったのだ。二人ともいや、氏族丸ごと、同様に俺の女だ。遺恨は忘れ、最大限俺に尽くせ</p><p>そうは言うが主殿。確かに私は主殿を敬愛し、恩義も強く感じているが全てを捧げたと言う訳ではない。その命ばかりは承服しかねるぞ</p><p>エレンが固い口調でそういうと、セレスはそれを嘲笑った。</p><p>やはり黒の氏族はその程度の了見なのですね</p><p>何だと？</p><p>エレンの瞳に剣呑な光がともる。セレスはそれを無視してOlにしな垂れかかった。</p><p>Ol様、私はあなた様に身も心も捧げると決めました。私の長い長い生、それ全てをあなた様に捧げ、お仕えいたします。我が名、白のセレスティアの下に</p><p>セレスはそう宣言し、Olの一物に恭しくキスをした。元々献身的で相手に尽くす性質は白アールヴの本能のようなものだが、あれほどイーヴァンを慕っていた彼女が良くぞここまでになったものだ、とOlは自らの仕事の結果に満足する。</p><p>な！ 貴様、アールヴにとって真名が何であるかわかっているのか！？</p><p>ええ、勿論。ですが、エレン様はどうぞお構いなく。黒アールヴにそのような事、出来る訳がありませんものね？</p><p>たおやかに、セレスは勝ち誇った微笑を浮かべエレンを見下した。ぎり、とエレンは奥歯を噛み締め、セレスをにらんだ。</p><p>安い挑発だ。が、乗ってやる。良いか、勘違いするな。別に貴様と張り合ってするわけではない。弓取るものとして、主殿以上に誇りを持ってお仕えできる方はおらん。主殿の偉大さは、誰よりこの私が評価している。それを証立てる為であって、けして貴様に張り合うわけではないのだからな！</p><p>はいはい</p><p>ぞんざいに頷くセレスに舌打ちし、エレンはOlへと向き直って咳払いをする。</p><p>ごほん。まあ、その、そんなわけで、だ。黒のエレオノラ、この名を持って主殿に仕える事を誓う。不祥の身ではありますが、どうぞ宜しくの程、お願いいたします</p><p>居住まいを正し頭を下げるエレンに、Olはうむと鷹揚に頷いた。</p><p>では、忠誠の証としてまずはその胸で奉仕をしてもらおうか</p><p>Olは彼女たちの顔の前にいきり立つ一物を突き出した。エレンとセレスの顔が、同時にぽっと朱に染まる。</p><p>彼女達は豊満なその二つの果実を両手で捧げもつと、左右からOlのペニスをその谷間に挟みこんだ。</p><p>大きさでは私の勝ちだな</p><p>エレンがふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべる。褐色の彼女の肌は猫のようにしなやかで張りを持っている。そのすべすべした触り心地と、指で押せばぐっと押し返してくるほどの弾力を持ったボリュームたっぷりの乳房は膣内にも勝るとも劣らぬ心地よさだ。</p><p>大きければ良いと言う物ではありません。やはり柔らかさこそ女性らしさであるとは思いませんか？</p><p>セレスの白い肌はまるでシルクのように滑らかで、ほっそりとして柔らかい。表面はまるで手が吸い付くかのようにしっとりとしていて、白アールヴにしては破格の巨乳は揉みしだけばグニグニとどこまでも形を変える。それに包まれればまさに夢心地だ。</p><p>どちらが上などと言うことはない。別々の能力を持ったものが協力し合うことこそ肝要であるとなぜわからぬ</p><p>白と黒の乳房に挟まれながら、Olはそう言った。</p><p>どちらか片方ならばいずれそれに飽きる。しかし、二つ揃わばその可能性は無限だ。それがゆえに、俺はお前達に共に仕えよと命じたのだ</p><p>Olは適当に言葉を並べたが、二人はそれに何らかの感銘を受けたのか、お互いにじっと見詰め合った。</p><p>主殿がそう仰るならば仕方ないな</p><p>そうですね。全ては、Ol様の為に</p><p>二人の妖精の美姫はOlのものを胸ではさんだまま、舌を伸ばしその先端を舐めあげた。むにむにと左右二対、四つの乳房に圧迫されながら、二つの舌が蠢き彼のペニスを慈しむ様になぞっていった。</p><p>互いに憎しみあう二人は、誰よりも互いの呼吸を知り尽くしている。エレンが雁首を攻めればセレスは鈴口に舌をさし入れ、セレスが竿を舐め上げればエレンは亀頭を咥え込む。</p><p>絶妙な連携で、二人のアールヴはOlのペニスを奉仕していった。</p><p>Olの腰の震えを感じ、二人の舌が争うかのように彼の鈴口へと伸びる。精を求めて伸びる二つの舌はOlの肉槍の先でふれあい、絡み合った。</p><p>直後、噴出した白濁の液によって二人の顔や胸が汚されていく。褐色の肌が白く汚されていくさまも、白い肌が更に白く染め上げられるさまも、それぞれに美しく淫猥だ。</p><p>はぁぁぁ</p><p>エレンとセレスは期せずして、同じように声を上げた。</p><p>次は胎に注いでやる。横になれ</p><p>Olの指示にセレスは仰向けの形でベッドに横たわり、それを抱きしめるような形でエレンはその上に覆いかぶさった。ちょうど、Olから見ると縦に秘部が向かい合って並ぶ形だ。</p><p>ふぁぁぁぁっ！</p><p>エレンの尻を掴んで刺し貫く。奉仕している間に昂ぶったのか、その秘裂はたっぷりと蜜をたたえうるみ、抵抗なくOlの一物を迎え入れた。</p><p>はぁぁぁぁんっ</p><p>Olはすぐさま彼女の中から肉棒を抜くと、今度はセレスの中へと突き入れた。こちらもその蜜壷はしとどに濡れそぼっており、やわらかくOlの物を咥え込んだ。</p><p>あ、あ、あ、あ、あぁぁっ</p><p>はぁぁん、ん、ゃ、ぁぁんっ</p><p>色気のある艶かしい声と、可憐で愛らしい声。Olが突き入れるたびに、性質の異なる二つの嬌声がくるくると輪舞曲のように奏でられる。</p><p>あ主、殿ぉもう、もう限界だ</p><p>Ol様、どうか、どうか、お情けを</p><p>エレンとセレスは同時に切なげに声をあげた。入れられてもすぐ抜かれるので、快楽を感じつつも彼女達は物足りなさを感じ、我慢の限界だった。尻を振り、花弁を互いに擦り合わせるようにしてOlの物を誘う。</p><p>いいだろう。行くぞ！</p><p>Olはその二人の間に肉槍を差し込むと、二人の淫核を同時に刺激するように激しく突きかかった。</p><p>ぁ、ぁ、ぁ、あ、あ、あ、あああ、あああああああ！</p><p>あぁん、ぁん、っん、ん、んんん、はぁぁぁぁぁん！</p><p>その刺激に二人のアールヴ達は共に背筋を反らし、激しく絶頂へと至った。それと同時にOlは素早くエレンの中へと突き入れると、奥に思い切り精を放つ。</p><p>ふぁぁぁああああああっ！！</p><p>どぷどぷと数秒注ぎ込んでやったところで、セレスの中へと肉槍を埋め、残りの半分を解き放つ。</p><p>はぁぁぁぁぁぁぁぁっ！</p><p>エレンを追いかけるようにセレスは嬌声を上げ、それを受け止める。二人の中にたっぷりと精と魔力とを注ぎ込み、Olはふうと息をつく。</p><p>白と黒の美姫はぼんやりとした表情で、互いに抱き合ったままぐったりと荒く息を吐いた。その二つの秘所から流れ出る白濁の液が互いに交じり合うのを見て、Olは満足げに笑みを浮かべた。</p><p>閑話最後の戦いに備えましょう-3</p><p>次はそうだな。アレット、ベティ、クロエ、デルフィナ。お前達で奉仕して見せろ</p><p>Olが次の娘を呼ぶと、呼ばれた四人は驚いたように目を瞬かせた。</p><p>どうした。何を呆けている？</p><p>あ、あの、まさか、名前を覚えていただけているとは思わなかったので</p><p>アレットと呼ばれた娘が、言い難そうにそう答えた。</p><p>ふむ確かに、こうして名を呼ぶのは初めてだな。しかし、部下の名前くらい把握している</p><p>彼女達は最初からエレンと共に迷宮に来た黒アールヴの四人だ。名前を紹介されたのは最初にあった時の一度きりだが、Olはその名をしっかりと記憶していた。</p><p>では、ご奉仕させて頂きまーす！</p><p>いち早くOlに近づいて元気よく宣言したのはベティ。彼女は4人の中でもっとも豊かな乳房を備えていた。</p><p>彼女はOlの一物をその豊満な双丘で挟み込み、先端を口の中に咥え込んだ。</p><p>こらベティOl様、失礼いたします。エレン様には及ばぬとは思いますが、誠心誠意ご奉仕させて頂きます</p><p>堅苦しい口上でOlに跪くのが、四人の中のリーダー格であるアレット。彼女は横からベティの咥える一物をフォローするように舌を這わせる。</p><p>Ol様、これお好きですか？</p><p>小首をかしげて尋ねながら、Olの右胸をちろちろとなめるのはやや小柄なデルフィナ。彼女の技巧は弓でも性交でも4人の中で随一だ。</p><p>Ol様、お口を拝借いたしますね</p><p>柔らかな口調でそう言い、Olの首に手を回すのは最年長のクロエ。そのままOlに口付ける彼女の秘所を指で擦り上げてやると、彼女は嬉しそうに身を震わせる。</p><p>クロエがOlの舌を、デルフィナが胸を、アレットとベティがペニスを絶妙な連携で愛撫する。アレットが肉棒を下から上へと舐め上げたかと思えば、デルフィナがその乳房の先端でOlの胸板をくすぐり、ベティがちゅうとOl自身の先端を吸い上げると同時にクロエが彼の舌を唇で食むように吸う。</p><p>まるで4人が一つの生き物であるかのような連携に、Olの快楽は上へ下へと翻弄された。</p><p>さぁ、お前達も主に操を捧げるんだ</p><p>Olの性感が高まってきたのを敏感に察知し、アレットは部下へと命じた。エレン達が地上に戻って探してきた黒アールヴの生き残り、その数48人。</p><p>彼女達はその褐色の肌を惜しげもなく晒しながら、Olの周囲に集まった。</p><p>Ol様。我ら一同、エレン様と同じくあなた様に真名を捧げ、従う所存です</p><p>アレットは跪き、Olの目を見つめ言った。</p><p>私の名はアレクシア</p><p>私の名はブリジット</p><p>私の名はクロディーヌ</p><p>私の名はデルフィニーア</p><p>四人はピタリと声をそろえる。</p><p>この身全て、我が主Ol様にお捧げします</p><p>ああ。末永く、可愛がってやる</p><p>Olがそういうと、彼女達は一斉に表情をほころばせた。</p><p>ではOl様、どうぞ残りの者達にもお情けを頂けますでしょうか？</p><p>うむ</p><p>残り48人を迎え入れるように場所をあけるアレットに、Olは鷹揚にうなずいた。</p><p>半分くらいは処女ですから、どうぞお楽しみくださいね、ご主人様</p><p>そんな彼の耳元で、ベティはこっそりと囁いた。</p><p>配偶者との愛を至上と考える白アールヴに比べれば、黒アールヴの貞操観念はかなり奔放だ。ある程度気に入った相手となら恋人同士でなくても情を交わすこともあるし、生涯の内で複数人の妻や夫を持つ事も珍しくない。</p><p>そういう意味では、黒アールヴの処女はとても貴重だ。</p><p>エイレーネと申します、Ol様、どうぞ私の中をご賞味くださいませ</p><p>フェオドラです、可愛がってくださいね</p><p>ガラテアと言います。どうかお情けを</p><p>Olは左右にベティとクロエを侍らせ、次々と名乗り脚を広げ、或いは尻を振り、或いはOlの物に口付けて彼を誘う黒アールヴの娘達を犯していく。</p><p>アレットとデルフィナはその間に主に処女の娘達の準備を整え、初めてでもスムーズに情を交わせるようにOlの為に下拵えをする事に腐心した。</p><p>その入念な準備とOlの一物によって、処女の娘もそうでない娘も瞬く間に嬌声を上げ、腰を振りたくって気をやり、その胎内にOlの精を収めていく。</p><p>そうした娘たちはしばらくベッドの上でぐったりとして息を整えると、ベティとクロエのようにOlの周りに集まり、少しでも彼を喜ばせようとその舌や唇、乳房でその身体を愛撫していく。</p><p>やがてOlの体はまるで褐色の海にたゆたうかのように、娘達の身体に埋め尽くされた。胸に腹、腕、脚、頬とくまなく押し付けられる胸や唇の柔らかな感触を楽しみながら、Olは何十人もの娘を次々と犯し、破瓜の血を散らし、子宮に子種を仕込んでいく。</p><p>黒アールヴの娘達は嬌声を上げながら入れ替わり立ち代り彼の肉棒を受け入れ、或いはその身体を愛撫した。そうするうちに誰が既に抱かれ、誰が抱かれていないのか把握するものは本人以外にはいなくなる。</p><p>まだ抱かれていない娘はこぞってOlの前に並び、その列にこっそりと一度抱かれた娘達も並ぶ。</p><p>ベティッ！！</p><p>いつの間にかOlにその両脚を抱えられ、ずんずんと突き入れられ嬌声を上げるベティの姿を見てアレットが叫び声をあげた。</p><p>ではお清めします、Ol様</p><p>黒アールヴ達との大乱交を終え、Olは様々な体液によって汚れた身体をひとまず清めるために浴室へと向かった。その世話をするのは、Ol直轄の村から生け贄として贈られてきた娘達だ。</p><p>生け贄として贈られただけあってどの娘も若く見目麗しい娘ではあったが、種族として美形しか存在しないアールヴや男を誘うために存在する淫魔たちに比べると素朴で地味な娘ばかりだ。</p><p>本人達もその事をよく理解しており、その負い目はこの上ない献身という形で現れていた。</p><p>失礼します</p><p>石鹸を泡立て、体中につけた娘が前後からOlの身体に抱きつき、乳房をむにむにと押し当てて彼の身体を洗う。石鹸でぬめり、すべりの良くなった体でOlの全身を撫で、優しく擦り、洗うと共に愛撫していく。</p><p>二対の膨らみが身体の前後からぎゅうぎゅうと押し当てられ、柔らかな肌の感触と、滑らかな指先が身体中を這い清めていくその感触にOlの一物が天を向く。</p><p>ぁ</p><p>その硬く聳え立つ熱い感触を腹部に感じ、Olの前部を洗っていた娘はぽっと頬を染め、表情を綻ばせた。あれほどの美女達を相手にした後でも、自分達の体に欲情してくれる事に何よりも喜びを感じたからだ。</p><p>次は腕をお清めしますね</p><p>娘の一人が用意した簡素な椅子に腰掛け、Olはまた別の娘二人に腕を取られ、それを左右に広げた。</p><p>先ほどまでの娘達と同じように石鹸の泡をつけた娘が、横に伸ばしたOlの腕に跨るようにして脚の間に挟む。そして、彼の手首と肩の辺りをそれぞれ支えると、腰を前後に振り股間の茂みで腕をこすり付けるかのように洗い始めた。</p><p>Olはその腕にたっぷりとした尻と柔らかな太もも、そして大量の蜜を蓄えた秘所の感覚を楽しみながら、腰に合わせてぷるぷると震える乳房を眺めた。顔や身体に押し当てられるのも良いが、少し離れて揺れる様を眺めるのも勿論良い。</p><p>こちらも洗いますね</p><p>すると、先ほど身体を洗った二人の娘が、Olの脚、太ももの部分に跨った。Olに体重をかけぬ様気をつけながら、二人は腕と同じようにOlの太ももをその股間で洗い清めていく。</p><p>腕と違うのは腕に比べ距離が近い事、そして腰が脚一本分、Olより高いと近い事だ。自然、二人の双丘はOlの目の前でふるふると揺れた。</p><p>やぁんOl様ぁ。駄目です、洗えなくなっちゃいます</p><p>Olが舌を伸ばし、桜色に色付くその先端を舐めあげると、娘達は甘い声をあげてOlの行為を嗜めた。しかし、行動はそれとは真逆に、胸を張ってOlに差し出す。</p><p>左右を見れば激しく腰と胸を振り腕を洗う娘達。前を見れば脚を洗いながら胸を突き出す娘達。四肢を完全に拘束された形ではあったが、人間の男にはもう一本脚がある。勿論、それを見逃すような娘達ではなかった。</p><p>五人目、特に小柄な身体を持つ娘が、Olの両脚の間に頭を入れ、四つん這いになってその剛直を口に含んだ。全身を完全に包囲され、流石のOlもむうと唸る。</p><p>さして美しくもなく、魔力をその胎内に孕む量も少ない。それゆえ、己の快楽は度外視し、ただひたすらにOlの快楽と快適さを追及して奉仕する。それが、村の娘達の選んだOlへの尽くし方だった。</p><p>出すぞっ！</p><p>どくどくと放出された大量の精を、娘は頬を膨らませて口の中に受け止めた。そして飲み込みもせず、さりとて吐き出しもせず、口を開いてその中に溜まった白濁の液を示すと、味わうようにゆっくりと咀嚼し、喉の奥に少しずつ流し込んでいく。</p><p>そして全ての精を飲み下すと、再度Olの一物を口に含み、丁寧に舌で清めた。</p><p>その後Olの身体を湯で洗い流し、彼女達は一礼すると速やかにその場を立ち去ろうとした。彼が抱かなければならない女性たちはまだ何十人もいる。</p><p>待て、どこに行く気だ？</p><p>そんな彼女達の腕を掴み、Olはそう問いかけた。</p><p>肝心なのはこれからだろう？ お前達も勿論俺の女だ。一人残らず注ぎ込んでやる</p><p>その後、浴室内に長く嬌声が響き渡った。</p><p>閑話最後の戦いに備えましょう-4</p><p>身体の汚れを洗い落とし、ついでに十数人の娘達の胎内に精を注ぎ込んで、サッパリと浴室から戻ったOlを待ち受けていたのは四人の娘たちだった。</p><p>Ol様、お待ちしてました。どうか私の中にたっぷりと精液を注ぎこんで、また子を孕ませて下さいませ</p><p>淑女のようにスカートの裾をつまみ、挨拶するのはフィグリアの第一王女、パトリシアだ。優雅なその仕草とは裏腹に、つまんだスカートの丈は恐ろしく短く、太ももの中ほどまでしか覆っていない。</p><p>当然、摘み上げればその股間部分は丸見えになり、あまつさえ彼女は下着を着けていなかった。太ももまでを覆うストッキングとそれを支えるガーターベルトの間には真っ白な太ももと、とろとろと愛液を垂れ流す秘部があらわになっている。</p><p>つい先日Olの子を産んだばかりの彼女は一つ年を重ね17歳。控えめだった胸は妊娠、出産を経て大きく成長し、既に母オリヴィアを彷彿とさせる見事な果実となっていた。あどけなさを残す表情と、その大きな双丘は少女と女のちょうど境界上のギリギリの色香を纏っている。</p><p>Olさまぁ、リシィの赤ちゃん袋も空いちゃったから、またたくさんOlさまのおちんぽずぼずぼして中に白いのたくさんくださいぃ</p><p>その隣で同じくスカートをたくし上げ、つるりとした割れ目を見せ付けるのはパトリシアの妹にして第二王女、プリシラ。彼女のスカートはパトリシアとは違い足首ほどまである長いものだが、彼女は両手で前の部分をつかみ、胸元までたくし上げていた。</p><p>勿論、姉同様彼女も下着はつけていない。ほっそりとした白い脚から、産毛一つないつるりとしたシンプルな割れ目、そしてその上の滑らかな腹とへそが見えるまでに、彼女はスカートをたくし上げていた。</p><p>彼女も同様にOlの子を産んだばかりだが、その体付きにはほとんど変化がない。13歳となり多少は肉付きが良くなったものの、胸も尻も凹凸に乏しくなだらかだ。しかし、その秘所からは姉以上の量の愛液をだらだらと流し、頬を赤くしてOlに精をねだる様には背徳的な魅力があった。</p><p>Ol様、あなた様の浅ましくいやらしい雌奴隷の子種袋に、そのたくましくて素敵なおちんぽを突っ込んで、溢れる位精液をどぴゅどぴゅ放ってくださいませ</p><p>その隣で懇願するのは、白アールヴの僧侶Shalだ。彼女は既にすべての服を脱ぎ捨て、股を大きく割り開いてOlの前にその身体をさらけ出していた。</p><p>白アールヴである彼女はかなりの年齢のはずだが、見た目はプリシラと同い年くらいにしか見えない。恐らくOlが来るまで自分で慰めていたのだろう。彼女の目は潤み、頬は紅潮して発情しきっていた。</p><p>その秘所からはとめどなく蜜があふれ、今すぐにでもOlを受け入れられるほど潤っている。染み一つない滑らかな肌には何もつけておらず、隷属の証なのだろう、唯一身に着けている赤い革の首輪が淫猥な雰囲気をかもし出していた。</p><p>好きにしたら、いいじゃない。どうせ私もあなたの奴隷なんだから</p><p>最後の一人は、Shalの仲間にして魔術師のウィキアだ。彼女だけは視線をそらし、衣服をはだける様な事もしていない。詰まらなさそうな表情をしてはいるが、その紅潮した頬と潤んだ瞳を見れば彼女も発情している事は明らかだった。</p><p>そもそも、Olの調教と呪いによってその身体はすっかり快楽に溺れ、自然とOlを求めるようになっている。ウィキアはそれに耐えられるだけの強靭な精神力を持っているわけでもない。</p><p>つまりはこれはただのポーズで、内心は他の三人とそう大差はなかった。</p><p>良いだろう。ではそこに尻を並べろ</p><p>Olがそう命じると、三人は嬉しそうに、ウィキアは嫌々を装ってベッドの上に四つんばいになり、Olに尻を向けた。</p><p>ああOl様に、全部見られてる</p><p>恥ずかしげに身悶えし、パトリシアは甘く呟いた。彼女の短いスカートは、この体勢になると大事な部分を一切隠すことはできない。衣服を着ているというのに、彼女の秘所も不浄の穴もすべてOlの目に晒された。</p><p>あああぁぁっ！ 入ってくる、入ってくるぅOl様の硬いの、気持ちいいよぉ！</p><p>そのまま後ろから貫かれる感覚に、パトリシアは高く鳴き声を上げる。</p><p>Olさまぁ、リシィにも、リシィにもおちんぽ下さいぃ</p><p>その隣で幼いプリシラが尻を振ってOlを求めた。パトリシアの中で十数回抽送を楽しんだところで、Olはプリシラの中に突き入れる。</p><p>はぁぁぁぁんおっきいよぉOlさまので、おなかがいっぱいになっちゃってるぅ</p><p>プリシラの中は十分ほぐれているにもかかわらず狭くキツい。Olは彼女の薄い尻を掴み、まだ未成熟な果実を存分に味わう。</p><p>Ol様ぁ、どうかあたしにもいやらしいおまんこにその硬くて逞しいおちんぽズボズボ突き入れて下さいぃ</p><p>泣きそうな表情でShalは懇願した。プリシラの中からペニスを引き抜き、Shalの中に入れてやるとそこは熱くOlのものを迎え、二度と放さないとでも言うかのようにぎゅっと彼のものを締め付けた。</p><p>あぁぁぁあぁ、これぇ、これが欲しかったんですぅ！おちんぽ、Ol様のおちんぽぉ！ きもちいいよぉ！</p><p>Shalはまるで狂ったかのように声を上げ、腰を振りたくった。</p><p>Ol様ぁ、私もぉ</p><p>その熱情に当てられたのか、パトリシアが瞳を潤ませ尻を振った。Olは次々と三人を犯し、善がらせ、喘がせた。</p><p>私には、しないというの</p><p>その隣で一人、ぽつりとウィキアが呟く。Olに命じられ四つんばいになった屈辱的な格好のまま、彼女は指一つ触れられず放置されていた。</p><p>駄目ですよぉ、ウィキアさん。欲しいんならちゃんとおねだりしなきゃ</p><p>そんな彼女に、すっかり情欲に表情を溶かしたShalが近づいて彼女の腕を取った。</p><p>そうよ。そんな態度でOl様に抱いて頂こうなんて、虫がいいにも程があるわ</p><p>もう片方の腕をパトリシアが拘束する。</p><p>リシィ、脚を</p><p>はーいっ</p><p>姉の指示に阿吽の呼吸で、プリシラはOlに後ろから貫かれつつもウィキアの両脚を掴み、思いっきり引っ張った。四つん這い状態のウィキアの膝が落ち、体勢を崩したところでパトリシアとShalがくるりと回り、ウィキアをOlの方へと向ける。</p><p>そして再度脚と腕をがっしりと掴むと、強引に脚を割り開いてその中身をOlに見せつけた。彼女は裾の長いローブの中には何も履いておらず、じっとりと濡れそぼった秘所がOlに丸見えになる。</p><p>さぁ、ウィキアさん。ちゃんとOl様におねだりしてみてください</p><p>そ、そんなこと言われてもひあっ！</p><p>なおも渋るウィキアの乳房を、Shalはぐっと力を入れて揉みしだいた。</p><p>下着もつけずここをこんなにびしょびしょにして、まだ意地を張ってるの？ほら、素直になりなさい</p><p>や、ちょどこ触ってあぁんっ！</p><p>パトリシアがウィキアのスリットに指を這わせ、耳を食む。</p><p>えへへ言わないならこのままリシィが全部もらっちゃいますよぉ</p><p>その間、プリシラはひたすらにOlの寵愛を受け嬉しそうに笑った。</p><p>ください</p><p>ぽつりと、ウィキアが呟く。</p><p>声が小さいですよ～。ほら、もっと大きな声で</p><p>彼女の胸を強調するように揉みあげながら、Shalが囁いた。</p><p>犯して、ください！ Ol様の、ペニスで私の、あ、あそこ、をつら、ぬいてくださぃ</p><p>恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、視線を斜めに外しながら、ウィキアはローブをぐっとたくし上げ、その秘所から腹までを露にした。魔力によってその白い腹に描かれたOlの所有の印がはっきりと光り輝く。</p><p>まあ、今日の所はその程度で勘弁してやるとしよう</p><p>Shal達の様に恥ずかしげもなく淫らに求めるのもいいが、恥じらいを持って求めるのも悪くない。Olはそう思いながらも、そんな考えはおくびにも出さず彼女の両脚を掴むと、一気に貫いた。</p><p>ああぁあぁぁぁぁっ！</p><p>目の前で繰り広げられた痴態に彼女の体はとっくに発情しており、たっぷりと蜜を湛えた秘所はOlをすんなりと受け入れた。そのまま対面座位の体位でウィキアは下からずんずんと突き揺らされる。</p><p>ああっ、あぁぁっ、あっ、あああああぁぁっ！</p><p>瞳を潤ませ舌を突き出し、身体を揺らされる度にウィキアは声を上げた。</p><p>そんなに中に欲しいのか？</p><p>ぼそりと耳元で囁かれた言葉に、ウィキアは自分が両手両脚でOlにしがみ付き、恥骨を押し付けるかのように股間を密着させている自分に気がついた。今日のOlはいつものように形代ではなく、本来の肉体だ。当然その精を中に受ければ、妊娠する可能性もある。</p><p>駄目っ、中は、駄目ぇぇっ！</p><p>ならば手を離せばいいだろう。許可してやる、そうしたいならば離れるがいい</p><p>Olの言葉に、ウィキアは彼から離れようとした。しかし、どうしても手足が動かない。呪力で強制されているのではなく、自分の身体自体がそれを欲していると理解したとき、彼女の理性は決壊した。</p><p>くださいっ！中に中に、Ol様の精液沢山出してぇっ！全部、穢してくださいっ！！</p><p>良くぞ言った</p><p>Olは彼女の頭を撫で、唇を吸うとその尻を抱えて最奥に一気に突き入れた。ウィキアの釣り目がちの瞳が大きく見開かれ、口内を蹂躙されながらも彼女は背筋を反らし、びくびくと震えて気をやった。</p><p>その光景を、Shalたちは文字通りよだれを垂らして見つめる。</p><p>Olがウィキアの奥にたっぷりと精を注ぎ込み彼女の身体を解放すると、ウィキアは目を見開いたままぐったりとベッドの上に倒れた。辛うじて意識はあるようだったが、全身から力が抜け身動ぎ一つ出来ないようだ。</p><p>あのOl様</p><p>そんな彼女を尻目に、もじもじと太ももをすり合わせながらパトリシアが声をかけた。</p><p>もしよろしければ私にも、その接吻しながらのご寵愛を頂けませんでしょうか</p><p>恥じらいながら彼女は上目遣いにOlを見つめた。</p><p>リシィもOlさまに、優しく可愛がって欲しいです</p><p>長い袖で口元を隠し、その向こうから伺うようにプリシラがそれに続く。ウィキアとの情事を見た彼女達の中で、恥じらいながらおねだりのブームがやってきたらしい。</p><p>Ol様、あたしも口もお尻もおまんこも、全部の穴をOl様のおちんぽでずぼずぼ犯して欲しいですぅ</p><p>よだれを垂らしながら、Shalは述べる。彼女にはそのブームはやってこなかったようだった。</p><p>いいだろう。まとめて相手してやる</p><p>Olは三人を抱き寄せ、口を寄せ合いまとめてその舌を舐め取った。淫語の響き渡る饗宴はまだまだこれからだ。</p><p>閑話最後の戦いに備えましょう-5</p><p>やーっと順番回ってきたーっ</p><p>嬉しそうにユニスはOlに抱きついた。英霊となり紙の様に白かった彼女の髪と肌は、Olが保存しておいた肉体を取り戻して元の赤と褐色に戻っている。</p><p>その私も一緒で良いのですか？</p><p>その後ろで少し気後れしたように尋ねるのは、同じく赤い髪と褐色の肌を持つナジャ。南の大国グランディエラではもっとも多く見られる組み合わせだ。</p><p>とは言え、炎のように鮮やかなユニスの髪に比べ、ナジャのそれはやや褐色にくすみを帯びた赤銅に近い色で、肌の色もナジャの方が幾らか濃い。</p><p>うんっ。二人でOlに、グランディエラ女の良さをたーっぷり味わってもらおっ</p><p>幾ら国に所属せず気ままな旅を続ける冒険者といっても、ナジャにとってはユニスは生まれ故郷の姫君だ。生真面目な彼女はユニスに遠慮していたようだったが、気安く笑みを浮かべるユニスに神妙な面持ちで頷き、Olに近づいた。</p><p>じゃあ、最初はあたしがだから、ナジャはさ</p><p>え、いいのですか？</p><p>何を企んでいる？</p><p>なにやらひそひそと相談しあう二人に、Olは怪訝な表情を浮かべた。</p><p>別に企んでるわけじゃないけど。ほらほら、Olは横になってー</p><p>ぐいっとOlの体を押し、ユニスは彼をベッドに押し倒した。</p><p>では、失礼いたします</p><p>その彼の上にナジャが腰を下ろし、彼の剛直をその胎内に収める。いわゆる騎乗位の体勢だ。</p><p>Olはこっちお願いね</p><p>そして、ナジャと向き合うようにして、ユニスがOlの顔の上に腰を下ろした。顔面騎乗位という奴だ。流石にこれは不遜なのでは、とナジャはOlの反応を冷や冷やしながら見守った。</p><p>ふんまあたまには良かろう</p><p>しかし案に相違して、Olはそう答えると指でユニスの秘所を割り開き、そこに舌を這わせた。褐色の肌の中に、綺麗なピンク色の秘肉が淫猥に蠢く。</p><p>あぁっ！ んっ、あぁん、気持ちいいよ、Olぅ</p><p>ユニスはすぐに表情をとろけさせ、素直に喘ぎ声を上げた。</p><p>何をしておる。お前も腰を動かせ</p><p>は、はいっ！</p><p>下からずんと突き上げられ、慌ててナジャはその蜜壷でOlの肉棒をしごくように上下に腰を降り始めた。Olの太く固いそれを胎内から引き出す度に、カリ首が返しのようにナジャの膣内を擦り上げ、それを奥まで突き入れると目の前に火花が散るかのような快楽が彼女の全身を駆け回る。</p><p>一往復するたびに絶頂を迎え、飛びそうになる意識を何とか繋ぎとめながら、ナジャは抽送を繰り返した。</p><p>あぁ、Ol、そこいいよぉ！ 気持ちいい、Olのべろがあぁぁっ、やぁ、入ってくるあぁんっ！ だめぇ、そんなとこなめちゃぁぁぁっ！だめ、だめ、だめぇぇぇっ！</p><p>ユニスは膣口を舌で擦りあげられ、更に淫核をじっくりと舐めあげられてあっという間に気をやった。それでも更に貪欲にOlに尻を押し付け、舌での奉仕を享受する。</p><p>Olはそんな彼女達を愉快げに見ると、更に舌の動きを激しくし、同時に腰を下から突き上げる。</p><p>あっ、だ、めぇっ！ びん、かん、にぃっ！ な、てるか、らぁら、めい、ちゃぅ、よぉらめぇぇぇえ！</p><p>Ol様、Ol、様ぁ、おう、る、さまぁぁぁああ！</p><p>Olの激しい攻勢に二人は同時に達し、高く鳴いた。そのままぐったりと、お互いに抱き合うかのようにしてOlの上で荒く肩で息をする。</p><p>で何のよさを教えてくれるという話だったかな？</p><p>どさり、とベッドに身体を横たえてぐったりとする二人に、Olは意地悪く尋ねた。ユニスはううぅ、ずるいと唸るように言うばかりで、身体を上げることも出来ないようだった。</p><p>では私が代わりに、魔物の良さをお教えいたしますね</p><p>にっこりとミオが割り込み、指揮者のように指を振った。</p><p>まおーさま、まおーさま</p><p>ごほーしおしえてもらったよ、まおーさま</p><p>おなかへった、まおーさま</p><p>その背後でパタパタと翼をはためかせるのはハルピュイア達。</p><p>そしてどこから連れてきたのか、半人半蛇のラミアや半透明に透ける水霊(ウンディーネ)の乙女、蝶のような羽根を持つ小さな妖精に人狼の少女が列を成していた。</p><p>よくもまあ、集めたものだな</p><p>Ol様に喜んで欲しくて頑張っちゃいました</p><p>半ば呆れてOlが言うと、ミオは可愛らしくそう答えた。</p><p>さあ、ジェシー、ジェリー、ジェニー、教えた通りに。ジュアニッタ、決してOl様を傷つけないよう優しくね。ジュディス、溶かしちゃだめだからね。ジュリア、真心を込めて。ジャスティナ、牙立てちゃ駄目よ</p><p>ところどころ微妙に物騒な言葉を挟みつつ、ミオは魔物娘達に指示をしていく。</p><p>どうでもいいが、何でお前のネーミングは必ずJから始まるんだ</p><p>何を言っているのかわからない、という様子でミオは首をかしげた。</p><p>ラミアは上半身は美しい女の姿をしているが、その下半身は巨大な蛇になっている。ジュアニッタと呼ばれた彼女はゆっくりと優しくOlの身体に巻きつくと、その豊満な乳房を彼の背に押し当てた。</p><p>水霊とは清らかな水が神格化し、精霊としての人格を得たものだ。元が生き物でない事以外は亡霊に良く似ている。とりわけ水の精霊は美しい乙女の姿をとる事で知られており、ジュディスと呼ばれた彼女もその例に漏れず均整の取れた美しい身体に長い髪、大きな瞳の愛らしい顔立ちをしていた。彼女はくすくすと笑みを零しながらOlの周りをふわふわと浮かび、彼の身体中に接吻した。</p><p>人狼というと、満月の夜に狼に変身する狼男(ライカンスロープ)と、もともと人と狼の中間の姿をしている獣人の二つの意味を持つが、ジャスティナと呼ばれた彼女は後者のほうだった。手足の先に鋭い爪を持ち、頭の上には髪の毛からひょっこりと三角形の耳が生え、尻からはフサフサの尻尾が生えている他は多少毛深いだけで殆ど人間と変わらない。</p><p>彼女はそんな中でも特別愛らしく幼い顔立ちで、狼というより犬といった方が似合いそうな少女だった。彼女はラミアの尻尾の上に陣取ると、Olの首に抱きつきすんすんとその鼻面を擦りつけ、Olの顔をぺろぺろと舐めた。</p><p>ジュリアと呼ばれた妖精は、第四層に住んでいた住民の一人だ。Olの手のひら程の大きさだが、まるで人間をミニチュアにしたかのようにその胸や尻はしっかりと女を主張している。彼女は軽やかにOlの腰の上に舞い降りると、硬く怒張した彼の一物に抱きつき、全身でそれを喜ばせた。</p><p>最後に、ジェシー、ジェリー、ジェニーと名前をつけられたらしいハルピュイアの少女達がその顔を寄せ合い、Olの一物をぺろぺろと舐め奉仕する。ミオが仕込んだのだろう、その技量は以前とは比べ物にならないほど上がっていた。</p><p>ふむこれも、まあ悪くはないな</p><p>ラミアの長い舌で首筋をじっくりと舐められながら、人間相手とは全く違う快楽にOlは満足げに声を漏らした。</p><p>良かったです</p><p>Olのその声に、ほっとした様子でミオは表情を綻ばせた。そんな彼女をOlを手招きした。</p><p>何をしておる。お前自身は奉仕せぬのか？</p><p>勿論、させて頂きます！</p><p>ミオは嬉しそうにOlに駆け寄り、いそいそと服を脱ぎだす。</p><p>オーウールーっ！ あたしも、まだ入れて貰ってないよぉ！</p><p>そんなOlの目の前に、唐突にユニスが姿を現した。思わず目を横にやると、赤い髪のユニスはまだぐったりと死んだようにというより、実際ベッドに横たわったまま死んでいる。目の前に現れたのは白い髪、英霊のユニスだ。</p><p>能力の応用で自由自在に身体を出入りできるらしい。身体を出れば肉体的な疲労は軽減され、重さも殆どなくなる。</p><p>あたしも今は魔物みたいなもんだし、いいでしょ？</p><p>自分で言うか、それを</p><p>流石に英霊と魔物とではかなり差がある上に、それを聞いてこちらにいじましく視線を向ける瞳が二対あったが、Olはあえてそれを無視した。この上更にリルとスピナまで集まったら収拾がつかない。</p><p>まあいい、確かにお前も途中だったからな。お前たち、ちょっと場所を空けろ</p><p>Olはひょいとハルピュイア達を持ち上げ、肩に乗せた。ついでにフェアリーを頭の上に乗せてやり、ミオを手招きする。</p><p>えっと、失礼しますね</p><p>ミオはOlに背を向け、ゆっくりと腰を下ろす。Olの体はラミアが巻き付いて居る為、対面座位は出来ない。いわゆる背面座位の体勢でミオはOlの物を自らの秘所に迎え入れた。</p><p>んっふ、あぁんあっ！？</p><p>Olに体重がかかりすぎないよう配慮しながら遠慮がちに腰を動かすミオの身体を、Olは後ろから抱きしめた。そのままぐいと引き寄せしっかりと体重をかけさせると、その意外に豊かな双丘に手を回してぐにぐにと弄ぶ。</p><p>妙な遠慮はせんでいい。お前も楽しめ</p><p>はいぃっ！</p><p>ミオはそれだけで達してしまったらしく、Olの腕をぎゅっと抱きしめ、目を閉じて身を震わせた。</p><p>ミオって結構おっぱいおっきいよねー</p><p>そんな彼女の胸を、ユニスはうらやましそうにつんつんと突く。</p><p>ふぁっ、ユニっさ、ん、だ、めぇぇ！</p><p>悪戯っぽく笑い、ユニスはミオの胸に吸い付いた。</p><p>だめぇぇぇぇぇぇえっ！！</p><p>途端に、ミオは背筋を反らし、高く声をあげて絶頂に至った。きゅうっと締まるその膣内に、Olはたっぷりと精を吐き出す。その熱い感覚にミオはますます打ち震え、忘我へと至る。</p><p>はぁん、Olさまぁ</p><p>首を後ろに回し、どこか申し訳なさそうな表情で潤んだ瞳を向けるミオの唇をOlはむさぼった。そのまま胸を弄ってやると彼女はみたび、びくびくと身体を震わせ、軽く気をやる。彼女はひどくイきやすい体質をしているらしい。</p><p>Olぅ、あたしもぉ</p><p>切なげに顔を寄せるユニスの頭を抱え、Olは彼女にも口付けた。情熱的に舌を絡ませてくる彼女に応えてやりながら、ミオを腰の上からどかし、脇に抱きかかえる。ミオを主人と慕っているのか、水霊や人狼の少女が甲斐甲斐しくその動きを手伝った。</p><p>あたしは、こっち向きね</p><p>ぐっと腰を折り曲げ、ユニスはOlの首に腕を回すと対面の体勢でOlの上に腰をおろした。本来ならOlの腰に回される脚は高く掲げられ、Olの両肩に乗せるようにした。軽く、身体の柔らかいユニスだからこそ出来る体位だ。</p><p>んっああぁぁっ、なに、これ、すごぃ、よぉ</p><p>小柄なユニスの締め付けはかなりキツいが、脚をあまり開かずきゅっと閉じたそこは、普段に倍する強さでOlの物を締め付けた。</p><p>ユニス。この体勢だと、入っているところが丸見えだな</p><p>ああぁぁぁぁ言わないでぇぇぇ！</p><p>ユニスは顔を真っ赤にし、両手で覆った。ユニスの脚は大きく上がり、二人がそれを見下ろす形になっているこの体位では、Olの剛直が彼女の秘所を出入りする様が丸見えだった。Olがそれを指摘すると、彼女のそこはますます締め付けを強くする。</p><p>Olさま</p><p>とろんとした表情で顔を寄せるミオを左腕で抱き、Olはユニスに突き入れながら彼女の唇をむさぼった。Olの胸元に折り曲げた腕をそっと置き、彼女は控えめに、献身的にOlの舌に応える。</p><p>ああぁ、ずるいぃ</p><p>ユニスが上半身を起こし、唇を突き出すが流石に頭は届かない。それでも彼女は諦めず、ぐぐぐ、と身体を折りたたんで顔を近づけた。</p><p>ユニス、あまり無理は</p><p>Olが言いかけたその時、ぐにゃりと空間が歪み、Olとユニスの顔が一気に近づいた。</p><p>んっんんんっ！</p><p>ユニスはOlの肩に腕を回し、彼の唇に吸い付く。膣口が歓喜にすぼまり、Olの物をぎゅうっと締め付け、Olは思わず彼女の中に射精した。</p><p>っん、んんぅぅん</p><p>ユニスは嬉しそうに声を上げ、唾液と精液を全て搾り取るかのようにOlの唇と一物を貪った。</p><p>はぁ</p><p>満足げに息を漏らし、彼女が上半身を倒すと歪んでいた空間も元に戻る。</p><p>ユニス、今、お前何をした？</p><p>へ？</p><p>自分では気付いていなかったらしく、ユニスは小首をかしげた。</p><p>英霊が一人一つ持つ能力。その進化が、史上もっとも無駄に行われた瞬間であった。</p><p>閑話最後の戦いに備えましょう-6</p><p>あんっ、あぁぁ、あぁ、はぁぁぁっ！</p><p>Ol様ぁ、ああっ、いいっ、気持ちいいよぉっ！</p><p>もっとぉ、もっと奥にああぁぁっ！</p><p>広い部屋に女達の嬌声が響き渡る。壁に手をつき、尻を突き出した女たちがずらりと並び、Olに端から順に犯されていく。白アールヴと森の民達だ。</p><p>彼女達は壁からぶら下がる鎖に両手を拘束され、逃げる事も座り込むこともできない。とはいっても、それはOlが強制したものではなく彼女達自身が望んだことだった。</p><p>じっくりとしたOlの洗脳と調教によって、彼女達はすっかりOlに所有され、奴隷として扱われる事に喜びを感じるようになっていた。まるで屠殺を待つ家畜のように、彼女達は尻を振りOlを誘いながら、彼の肉棒に貫かれるのを待ち焦がれる。</p><p>まだ犯されていないものは秘所からとろとろと愛液を垂れ流し、既に犯されたものは代わりに精液の入り混じった体液をその太ももに伝わせる。そのちょうど境目で、Olは自分勝手な動きでひたすらに女を犯し、欲望をその胎内にぶちまける。</p><p>堕ちきった雌奴隷たちは主人のそんな寵愛にも高く鳴き声を上げ、善がり、気をやった。一通りその胎内に精を注ぎきると、Olは再び端の方の女から陵辱を始める。果てのない淫欲の饗宴は、彼女達を三周するまで続けられた。</p><p>こちらも準備できました、お師匠様</p><p>何度も気をやり、ぐったりとしている女達の手枷を解いてやっていると、スピナがOlにそう声をかけた。そちらにはスライム状になったスピナに身体を拘束されたサキュバス達がずらりと並んでいた。</p><p>どのサキュバスも大きく脚を開かされ秘部をOlに見せ付ける、所謂まんぐり返しの体勢で固定されていた。その秘裂からはだらだらと愛液を垂れ流し、顔は赤く染まり瞳は潤みきっている。情欲を自由にコントロールできるはずの淫魔達が、本気で発情していた。</p><p>何故拘束できているというか、何をした？</p><p>後の処理を村の娘達に任せ、Olはスピナに問う。</p><p>表面だけ人の肌に戻せば、魔力を吸収することはありません。こちらの準備はお師匠様の魔力を注ぎ込んで胎内から身体の構成を作り変えるスライムを作成してみました</p><p>言われて良く見れば、スピナがサキュバスの身体に接している部分は半透明の粘液ではなく、白い彼女の肌の色をしていた。</p><p>そして、サキュバス達の膣内からどろりとスライム達が姿を現す。どうも、Olがかつてリルに対して行った事を、新しいサキュバス達に自動的に行うスライムを作り出したらしい。</p><p>リルには使ってやるなよ</p><p>使おうとしたら魔力制御で無力化されました</p><p>悔しそうにスピナは答えた。ラズの記憶を思い出した今、リルの魔術的能力はスピナの遥か上だ。Olはスピナに呆れつつも、これも彼女の好意の示し方の一つなのだろう、と納得した。多少過激な部分はあるが、子供の悪戯のようなものだ。</p><p>やめていやぁ</p><p>Olが近づくと、淫魔達は恐怖に顔を引きつらせ、いやいやと首を振った。しかし、全身を拘束されているので逃げることも適わず、強引に動こうとすればその部分から融かされ消える。</p><p>何を怖がる事がある？ 貴様ら淫魔が生業とし、いつもしていることであろうに</p><p>Olは意地悪く笑みを浮かべると、淫魔の一人の膣口に剛直をあてがった。逆の例なら数あれど、淫魔を強姦する男などそうは居まい。</p><p>いやああ！ あぁぁぁあぁぁぁぁぁっ！！</p><p>ずぶずぶとOlの肉槍が、サキュバスを貫いた。初めて味わう本物の快楽に、淫魔は絶叫を上げた。今まで何人もの男を犯し、交わり、堕落させてきた。しかしその時感じていた快楽が子供だましのうわべだけのものであった事を、彼女は心から思い知った。</p><p>あぁぁぁぁ、だ、めぇぇぇっ！ あぁぁぁぁぁっ！！</p><p>圧倒的な快感に、内側から自分が作りかえられていく感覚。己が己でなくなるそれは、あまりにも甘美で抗いがたい毒であった。今まで自分が落としてきた男はこのような心持であったのかと、彼女は焼け付くような意識のどこか片隅で思った。</p><p>ああ、あぁぁ、ふぁぁぁぁ</p><p>よだれを垂らし、胡乱な表情で淫魔は胎内に出される魔力の塊を感じた。ずるりと拘束が解かれ、地面に崩れ落ちる彼女の目の前にOlの一物が突き出される。</p><p>はいご主人様</p><p>淫魔はうっとりとした表情で、それを喉の奥まで咥え込んだ。喉の奥を突かれる苦しささえ快楽へと転化し、子宮の奥がきゅうきゅうと疼く。今すぐにでも貫かれたいという思いを押し殺しながら、彼女はOlの物を懸命に舐めしゃぶった。</p><p>愛液と精液が入り混じった味が彼女の舌を潤し、甘露のように彼女はそれを舐め啜る。その堕ちきった彼女の姿を見て、他の淫魔達は顔に浮かべた恐怖を強くした。堕落させるはずの淫魔が逆に落とされるなど、冗談ではない。</p><p>お前達はどうにも非協力的だったからな。これを機会に、心を入れ替えてもらおう</p><p>非協力的ってそんなの、悪魔なら当たり前でひぐぅっ！</p><p>なに、気にすることはない。すぐにその考え方は変わるだろうからな</p><p>口答えをしようとしたサキュバスの膣内に突き入れ、Olはニヤリと笑みを見せた。</p><p>お疲れ様ー</p><p>流石に、疲れたな</p><p>幾ら無尽蔵の精力を持っているとは言え、精神的な疲れはある。サキュバス達を陵辱した後もOlは手を変え品を変え女達を犯し、その胎に精を注ぎ込み続けた。視界一杯にぐったりと横たわり、股間から白濁を溢れさせる愛妾達を見やり、Olは息をついた。</p><p>お師匠様、どうぞ</p><p>ああ、気が利くな</p><p>スピナから渡された杯を受け取り、オレンジ色の液体をOlは口に入れた。さわやかな酸味と程よい甘味がOlの喉を通り過ぎ、彼は思わずそれを一息に飲み下す。</p><p>ふむ美味いな。果物の絞り汁か何かか？</p><p>いいえ、媚薬です</p><p>あっさりというスピナに、Olは口の中のものを噴出した。</p><p>うわ、Ol、汚い</p><p>ユニスがそういいながら、零れ落ちた液体を拭く。効果はすぐに現れた。Olのものがいまだかつてない勢いで反り上がり、彼の腹にピッタリと張り付かんばかりに聳え立つ。</p><p>ちなみにこんなものも用意してみたよ。張り形の形代、名付けて張形代～！</p><p>ニコニコしながらリルはOlの物を精確に模した形代を二本取り出した。</p><p>ちなみにこれはOlの動きを完全にトレースする上に性感は張り形からOlに、精液はOlから張り形へと転送するという画期的な</p><p>説明せんでいい！ 貴様ら、グルか</p><p>Olはリルから張り形を奪い取る。体は熱く火照り、完全にコントロール出来るはずの性欲が全くコントロールできなくなっていた。</p><p>身体を魔力で制御しているのはOlも一緒。という事は、まあ外部から操作するのは無理にしても、制御を乱すことくらいは出来るよね</p><p>お師匠様、お許しを。ただ私達は、お師匠様に純粋に楽しんで頂きたいだけなのです</p><p>リルとスピナ。彼女達はそれぞれ異なる分野の魔術の天才だ。その二つの才能が合わさった結果が、この特性の媚薬だった。</p><p>ええい、もういい！ 早く脚を開け！</p><p>Olは余裕なく叫んだ。淫魔に魅入られた男のように、情欲を我慢できない。ましてや、憎からず思う美女三人が目の前に列を成しているなら尚更だ。</p><p>はぁいえへへ、どーぞはい、お師匠様</p><p>三者三様の声で答え、三人はベッドに横たわり、脚を開いてOlを誘った。まだ今回ちゃんと抱いてもらっていないスピナに配慮し、彼女が真ん中で右にユニス、左にリルという布陣だ。</p><p>Olは両手に張り形を構えると、三人に一気に突き入れた。</p><p>あぁぁぁぁぁっ！！</p><p>この上なく怒張したOlの物を受け入れ、三人は高く嬌声を上げた。発情し切った状態で、三人分の膣に突き入れる快楽を同時に味わい、Olは入れると同時に射精した。</p><p>普段であれば屈辱でしかないそれも、煮えきった今の意識の中では考えることは出来なかった。まるで若い頃の様に、彼はひたすら肉欲に飢え、女達を犯すことしか頭になくなっていた。</p><p>達しながらも彼の一物は些かも衰えず、三人の膣の中に白濁の液を盛大に吐き出しながらも激しく抽送を繰り返した。そうしながらも身体を前に倒し、スピナの口内を陵辱するかのように貪る。</p><p>するとユニスとリルは顔を寄せ、舌を伸ばしてOlの舌にそれを絡めた。四つの舌が絡まりあい、互いに唾液を交換し合う。そうしながらOlは両手を伸ばし、リルとユニスの乳房を鷲掴みにした。</p><p>手を離してもリルとユニスの股間にずっぷりと突き刺さった張り形はOlの動きに同調し、前後にずぶずぶと動く。形代だけあって、形だけでなくその硬さも弾力も正にOlの一物そのものだ。</p><p>唯一の違いは、Ol本体の体がないことだ。しかしそれは、どんな体勢でもそれを受け入れられるということでもある。リルは広げていた脚をきゅっと閉じると、思い切り膣に力を込めた。</p><p>通常のセックスでは得られない凄まじい締め付けが、Olの剛直を襲った。手で握り締めるような凄まじい圧力。しかもそれが、淫魔の技術を持って縦横無尽にOlの性器に襲い掛かるのだ。</p><p>とてもたまらず、Olは再度精を吐き出す。大量の精で満たされた三人の膣に、Olはじゅぼじゅぼと音を立てながら更に抽送を繰り返した。</p><p>その左手はリルの豊かな乳房を鷲掴みにし、右手はユニスのささやかな胸の頂点を指で摘み上げくりくりと弄り倒す。</p><p>あぁぁぁぁぁっ！ イく、イっちゃぅっ！！</p><p>イイよぉ、Olぅ、イイ、それ、イイっ、Ol、Olぅぅ！</p><p>お師匠様、ああぁぁ、おし、しょ、さまぁぁぁぁぁ！！</p><p>Olが唇を解放すると、三人はそろって高く声を上げた。それと同時に、Olの欲求も再び高まっていく。</p><p>イっちゃうぅぅぅぅぅぅっ！！</p><p>絶頂に達し、叫ぶように声を上げる娘達の膣内にOlは三度目の精を放った。</p><p>はぁはぁあぁぁ</p><p>ようやく多少落ち着いてきた頭で、Olはスピナの体の上に倒れこんだ。ゆっくりと背に回されるスピナの腕を感じながら、どうしてくれよう、とOlは考えた。怒りはないが、やられっぱなしで引っ込むのは彼の流儀ではない。</p><p>ちなみに</p><p>だが、その考えは途中で中断された。リルが更に三本の張り形を取り出したからだ。</p><p>まだ予備があったりして</p><p>そしてそれを三人の娘達はぺろりと舐め上げ、口に咥え込んだ。</p><p>その快楽は、今までの比ではない。膣内に突き入れながら舌で愛撫されるという、ありえないはずの快感は一瞬にして彼の思考を再び忘我の彼方に押しやるほどの威力を持っていた。</p><p>ま、待て、それは</p><p>お師匠様を完全に出し抜けたのは初めてですね</p><p>嬉しそうに、スピナは微笑んだ。目の前でOlの物を下半身にくわえ込み、口に張り形を頬張っているスピナとはまた別のスピナだ。</p><p>本物はユニスにあげてくださいませ。私達は、全力でご奉仕致します</p><p>目の前のスピナもするりと彼の身体の下から抜け、そういった。その言葉に不吉なものを感じ、視線を上げたOlの目に入ったものは</p><p>各々二本、ないし三本の張り形を手にした、無数のリルとスピナであった。</p><p>Olは、今までの戦いで一番の絶望を感じた。</p><p>それからは何度出したか、等というカウントは無意味なものとなった。膣内に、口に、尻に、胸の谷間に入れられた張り形達は律儀にその快感をOlへと伝え、彼の一物から止め処なく精を搾り取ったからだ。</p><p>精液は複製ではなく転送している為に一度に感じられる量は少なかったが、無尽蔵の精力を持つOlの前ではそれもさほどの障害とはならなかった。</p><p>そうするうち、いつの間にかリルとスピナの分身達は他の娘達に取って代わり、その胎内に張り形が収められる。Olは欲望の赴くままに娘達の間を渡り歩き、手当たり次第に抱き、犯した。</p><p>彼が誰かの膣内に突き入れるたびにそこらじゅうから嬌声が響き渡り、娘達は互いに悶え乱交を楽しむ。黒アールヴも、白アールヴも。冒険者も、王族も。森の民も、村の娘も、魔物の娘も、サキュバス達も。</p><p>文字通り一体となるかのようなその狂乱に、彼女達は身分も出自も種族も忘れ、ひたすらに快楽を貪りつくした。その胎内が、精と魔力で一杯になるまで。</p><p>これで、全ての準備は整った</p><p>その大乱交の、翌日。</p><p>Olは配下のものを集めてそう言った。</p><p>この戦は、我々の負けだ</p><p>英霊が5人以上いれば負ける。Olのその言葉は、嘘ではなかった。これはユニスが寝返る事も考慮に入れた上での数であって、それより2人も多いのではどうにもならない。勝つ事は不可能だと、Olは結論付けた。</p><p>ただしそれは、無傷ではという意味だ</p><p>Olから既に概要を聞いているリルは、こくりと頷く。ここから先の戦いは、保身を考えていては勝つ事は出来ない。それはOlにとっても苦渋の決断だったはずだ。</p><p>いくぞ未来を、勝ち取るために</p><p>しかし、Olは躊躇わず、その手段を選んだ。</p><p>Olの合図と共に、ダンジョンコアの周囲に刻まれた魔法陣が書き換えられる。それは迷宮全体の魔力を吸い込み、集めるための模様だ。</p><p>それを、逆にする。</p><p>ダンジョンコアに集められていた魔力の流れは逆転し、ダンジョンコアから迷宮全体へと魔力が流れ出す。それと同時に、ダンジョンの周囲の土がはじかれ、ダンジョン全体が龍脈の流れから切り離された。</p><p>さあ我が魔窟よ！天にすむ高慢な者どもに、目に物を見せてやれ！</p><p>迷宮が揺れ、奇妙な重圧がその場に居た全員を包み込んだ。</p><p>それはOlの奥の手の中の、奥の手。</p><p>迷宮が、立ち上がったのだ。</p><p>第17.5話 ダンジョン解説</p><p>閑話終了時点でのダンジョン。</p><p>瘴気：100</p><p>悪名：100</p><p>貯蓄魔力：0（単位：万/日）</p><p>消費魔力：1000（単位：万/日）</p><p>天衝く岩巨人</p><p>ダンジョンをその内部に備えた超巨大ゴーレム。ある程度の判断能力を備えた通常のゴーレムとは違い、ダンジョンコアから流れる魔力を擬似的な血の流れとし、Olが乗り移って動かす。Olの動く城。</p><p>ダンジョンコアLV5</p><p>一階層ほどの大きさにまで成長したダンジョンコア。</p><p>およそ1億ほどの魔力を貯蓄できる。</p><p>スピナ（半人半スライム）</p><p>戦力：6最大貯蓄魔力：1.5</p><p>自らの作ったスライムと融合する事により、ほぼ不死となったスピナ。直接的な攻撃能力はないが、魔力を吸収するため魔術はほぼ無効。粘体化している時は物理的な攻撃も通用しない。弱点は塩水で、少量であっても強制的に人間形態に戻り、その状態では魔力吸収も物理攻撃無効も失われる。魔術師としては未熟なため、一体辺りの魔力貯蔵量はさほど多くないが、分裂する</p><p>事により効率は低いがほぼ無尽蔵に魔力を蓄えられる。</p><p>リル（転生体）</p><p>戦力：6消費魔力：0.1最大貯蓄魔力：20</p><p>元となった魂、ラズの知識を思い出したリル。かなり高度な魔術を使うことが出来、魔力を用いた武器や兵器の開発に対して天才的な手腕を発揮する。また、魔力の操作もOlには劣るものの得意とするところであり、胎内の魔力も圧縮して大量に保持することが可能。ただし、スピナと違いどれだけ分身を作っても保持できる魔力の総量は変わらない。</p><p>ユニス（英霊）</p><p>戦力：10最大貯蓄魔力：0</p><p>死して英霊となった元英雄。戦闘能力は変わらないが、どんな場所にも問答無用で転位する能力を得た。理力を貯蔵するようになったため、魔力は貯めることができなくなった。</p><p>ミオ（魔物使いLV30)</p><p>迷宮の外での武者修行により、その使役能力に更なる磨きをかけたミオ。魔獣以外の魔物とも意思を疎通させ、ある程度操ることが可能に。魔獣であれば30体ほどまでなら手足の如く操れる。</p><p>ELF48</p><p>エレン配下の黒アールヴ達の生き残り。最初の4人に比べると一歩劣るものの、いずれも弓と魔術の名手。アレット、ベティ、クロエ、デルフィナの4人と合わせて52名、頭文字がA～Zまでの名前が2人ずついるという設定だが、今度こそ全員ちゃんと作中で言及されることはない。ないったらない。</p><p>瘴気、悪名は共に最大級に高まり、ダンジョン内は殆ど魔界と同一に。契約や魔法陣で保護しなくても、そのまま悪魔が闊歩できるレベルになっている。魔王のその名は田舎の子供でも知り、伝説として後世に語り継がれるレベル。一方、龍脈の流れからは断ち切られ、魔力の貯蓄は0に。天衝く岩巨人の維持に毎日凄まじい量の魔力が消費されていき、5日ほどしか持たない状態になっている。</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-1</p><p>ズン、という腹に響く轟音と共に、大地が揺れる。</p><p>その小さな地震は数刻前から一定周期で、徐々にその強さを増しながら続いていた。</p><p>マジかよ</p><p>報告は受けていたものの、改めて目にするそれに不死身は頭を抱えた。</p><p>文字通り天を衝くような大巨人が、こちらへと歩を進めているのだ。巨人はまだ遥か彼方にいるというのに、その姿をはっきりと確認する事が出来る。大きさは目算でおよそ1800ヤードつまり、1マイル(約1600m)にも達する。マイルなどと言う単位は普通、距離に使われるものであって物の大きさに使うものではない。</p><p>その正体は、巨大なあまりにも巨大な、ゴーレムのようなもの、という事であった。</p><p>その表面は厚い岩盤で覆われ、矢も槍もまるで通じない。それどころか、近付けばその歩みの衝撃で家が崩れ、立つ事さえままならない。訓練された軍馬達も恐れ戦きまるで役に立たなかった。</p><p>動きは酷く緩慢でゆっくりしたものに見えるが、大きさが大きさだ。実際にはその速度は早馬を軽く越え、フィグリアから馬車で一週間の距離を3日足らずで踏破したという。</p><p>その途中の街や関では、戦いどころか、一方的な虐殺というほどのものさえ起こらなかった。いかなる攻撃の手も全て無視され、門を踏み越え悠々と歩き去られたとのことだった。</p><p>相手は動く大地そのものだ。つまりは、敵と言うより天災と言った方がまだ近い。この世のどこに、地震と戦って勝てる勇者がいるだろうか？</p><p>よもやこのような奥の手を残していたとはな</p><p>ぎりり、と奥歯を食い縛り、メリザンドは巨人を睨んだ。無明の千里眼によって、跳ね駒が裏切った事、あの巨人の中にOlの魔窟が丸ごと入っていることは既にわかっている。</p><p>全く厄介な事をしてくれたものだ</p><p>メリザンドは鉛を睨みつけたが、彼は表情一つ変えずそれを受けた。英霊を召喚する際、メリザンドが知れるのはその能力の簡単な概要と、二つ名だけだ。</p><p>とはいっても勿論、鉛が魔術だけでなく法術も無効化できる事。跳ね駒が彼の妹であること。鉛の能力で自我を保っている事。それら全てにメリザンドは気付いていた。</p><p>しかしとるに足らぬ事と放置していた。むしろ自我を持っている方が、木偶よりよほど戦力としては頼りになる。英霊の使役すなわち天の力はそんなに甘いものではない。自我をもっていようが関係なく、本来ならば命令に逆らう事も裏切る事も出来ないはずなのだ。</p><p>それを覆せるものは唯一つ。誓い(ゲッシュ)だ。英雄の誓いとはこの世でもっとも神聖なものであり、こればかりは天の力を持っても覆すことは出来ない。しかし英霊が誓いを持つには、生前に誓い、死ぬまでこれを守らなければならない。</p><p>それはかなりの難行だ。矛盾するようではあるが、天の力を持ってしても曲げることの出来ない誓いを、しかし守りきれる英雄は殆ど居ない。多くの英雄達が、自ら立てた誓いを破った事により力を失い、死んでいく。</p><p>跳ね駒ユニスがOlの部下であったことは知っていた。しかし、彼女がOlに愛を誓い、それを死ぬまで手放さず守り続けた事を、メリザンドは知らなかったいや、想像すらしなかったのだ。</p><p>相手は邪悪なる魔王、奸智に長け何も信じず寄せ付けぬ孤独な魔術師だ。そのような者に、真実の愛を抱くような人間が、居るはずがない。居てはならないのだ。</p><p>考えても詮無い事だと思考を切り替え、メリザンドは遠くに迫る巨人に視線を移した。とにかく今は、あれを何とかせねばならない。</p><p>鉛、やはり駄目か</p><p>ああ。あれは魔術ではない</p><p>魔術で動かしているものであれば、どのように巨大なものでも鉛の能力で無効化できる。そう踏んでいたメリザンドの期待は、あっさりと覆された。無明が言うには、信じ難い事にあの巨人は生き物であるらしい。</p><p>血の代わりに魔力が通い、心臓の代わりに核がある。すなわち、あの巨人は魔王Olそのものなのだ。全ての術を無効化する鉛の能力も、生き物の命を奪うことは出来ない。それは魔術ではなく、当たり前の法則だからだ。</p><p>どうしますボス。あのデカブツを黙らせるのはちょいとばかり骨ですよ</p><p>総攻撃、しかないだろうな</p><p>苦々しくメリザンドは言った。敵は兵器であると同時に本拠地だ。天使や英霊の力を持ってしてもあの巨人を破壊するのは困難を極める。破壊しつくす前に、首都は更地にされるだろう。</p><p>となれば止めるにはOl本体を叩くしかないが、その本人が巨人の中にいるときている。つまり、攻めて来る巨人の中に侵入し、その心臓部を破壊する。これしか手がない。</p><p>召喚できる全天使を呼び出す。総力戦だ</p><p>おーおー、凄まじい数だねえ</p><p>雲霞の如く群れを成す天使達の姿を見やり、キースは呟いた。魔王の膝元、Olタウンの案内役を買った盗賊の男だ。</p><p>ダンジョンを丸ごと巨人に仕立て上げた今でもその街は健在であり、今はちょうど巨人の左肩に当たる部分に位置していた。巨人は大地を揺るがし、自身も相当揺れているはずなのだが、巨人の上にいる分には普段と変わらず行動することが出来た。</p><p>魔王がなにやら細工をしたらしくノームがその原理を詳しく説明してくれたが、とにかく動けるのならば問題ない、というのが殆どの冒険者の共通認識だ。</p><p>巨人の腕がぶんと振られ、天使達の群れを払う。遠目には緩慢に見えるその動作も、目の前では巨大な壁が高速で迫ってくるのに等しい。何体もの天使が押しつぶされ地面に落ちて行く。しかし、それだけでは全滅させる事は難しいだろう。</p><p>実際、何百体と言う天使達がその攻撃を掻い潜ってこちらに向かってくる様をキースは眺めていた。</p><p>そろそろ準備しましょう</p><p>おう</p><p>下から声をかけられ、キースは教会の鐘楼からひょいと身を翻した。</p><p>大通りには、何十人と言う冒険者達がひしめいていた。元々この町にいた数に比べれば随分と減ったが、一人ひとりがどいつもこいつも金の為に己の命を賭ける、最低で最高の荒くれ者たちだ。</p><p>皆さん</p><p>しんと静まり返った広場で壇上に立ち、ノームは大きな袋をもちあげた。無造作にそれを地面に置くと、口から覗き見えるのは黄金の輝きだ。</p><p>魔王様は仰いました。この戦いで生き残ったものには、金貨100枚を与えると</p><p>おおーー！</p><p>冒険者達が腕を振り上げ、声をあげた。金貨100枚。それは、数年は遊んで暮らせる大金だ。ノームはもう一つ、同じような大きさの袋を持ち上げ、地面に置いて、言った。</p><p>そして私が追加します。さらに、100枚ずつを</p><p>うおおおおおおお！！</p><p>場は、大いに沸きあがった。</p><p>ようし野郎ども、金は死人にゃ使えねえ、あのお上品な天使共をファックしてさっさと金を頂くとしようぜ！</p><p>おおおおおおおお！！</p><p>キースの声に、冒険者達はときの声を上げ、剣を掲げる。</p><p>我らが財布と、明日の安酒のために！</p><p>クソッタレなあのダンジョンのために！</p><p>愛すべき我らが魔王様のケツを蹴り上げる日のために！</p><p>バラバラに、冒険者達は叫んだ。</p><p>全ての天使達がOlタウンに向かったわけではない。むしろ大多数の天使達は他の入り口から、第一層や第二層へと侵入していた。</p><p>ふん。ゴミどもが、汚らわしい</p><p>醜い悲鳴を上げて逃げていくゴブリンやオーク達を背後から切り捨て、カマセルは吐き捨てた。彼は天使の中でも中位第二隊、力天使(デュナメイス)に属する天使で小隊長を務めていた。上位の天使たちは神魔大戦で殆ど滅んでしまった為、実質彼は上から二番目の実力を持つカテゴリに入っている。</p><p>さあ、さっさとこの不愉快な洞穴を抜け、邪悪なる魔王を打ち倒すぞ</p><p>はっ！</p><p>部下の能天使(エクスシアイ)達が返事をする。それに違和感を覚え、カマセルは後ろを振り向いた。</p><p>おい。減ってないか？</p><p>確か能天使は5人いたはずだ。それがいつの間にか4人に減っていた。</p><p>能天使達は互いに顔を見合わせた。カマセルはそれを見て舌打ちする。これだから、下位の者達は使えない。</p><p>はぐれたかまあ良い。汝ら、勝手な行動を取るでないぞ</p><p>釘を刺し、前に向き直る。どうせこの迷宮にすむのはケチで下賎な妖魔どもばかりだ。能天使といえどそうそうはやられたりしないだろう。</p><p>あの、カマセル様</p><p>なんだ。わざわざ手間を取らすな</p><p>それが、そのまた、減っているのです</p><p>不安げな表情で能天使の一人が言った。ほんの僅か目を放した隙に、能天使は残り3人になっていた。</p><p>勝手に動くなと言っておろうが！</p><p>カマセルは怒鳴りつけ、辺りを見回した。その視線の先で、ドアがパタンと閉まる。</p><p>あそこか。貴様らはここで待機せよ</p><p>カマセルは残る三人に待機を命じると、無造作にドアを開き声を張り上げた。</p><p>何をしている！ さっさと隊列に戻れ！</p><p>しかし、彼の声はむなしく闇に響き渡るだけだった。ドアの向こうは何もない小さな部屋。能天使の姿どころか、他の道への通路さえ見当たらない。</p><p>ふん</p><p>鼻を鳴らしてドアを閉めようとし、カマセルは気付く。誰もいないのなら、何故ドアは閉まったのか？</p><p>オオオォォォオオォォオォォオオオ！！</p><p>彼が疑問を脳裏に浮かべると同時、巨大な髑髏が壁から飛び出してきた。</p><p>なっこれは！？</p><p>アアアアアアア</p><p>くぐもった唸り声をあげながら、次々に骸骨達が床や壁、天井をすり抜けて現れ、カマセルに襲い掛かる。</p><p>亡霊か！ 舐めおって、このカマセルに貴様ら如きクズが</p><p>勇ましく言い放ち、剣を抜こうとする彼の腕には既に大量の亡霊がしがみついていた。腕が冷え、凍って固まったかのように動かなくなる。</p><p>待て、そんな、馬鹿なこの私が、亡霊ごときに、待て！</p><p>さらに大量の亡霊がカマセルに殺到し、その骨だけになったアギトを開く。</p><p>ぐしゃり、と何かが潰れる音と、ぐちゃぐちゃと天使の肉を食む咀嚼音だけが部屋の中に響いた。</p><p>天使といえど物量には勝てぬか</p><p>その様子を見つめ、亡霊は呟いた。</p><p>彼は、かつてゲオルグと呼ばれていた一人の男だった。Olに殺され、恨みを抱いて死んでいった彼は濃い瘴気を吸って亡霊となり、迷宮に囚われた。亡霊となった身体は、死んでも死に切れぬ。何度消されようが、解呪を唱えられようが、その度に迷宮は彼の魂を捕え、瘴気の肉体を与えて亡霊とした。</p><p>そんな彼を救ったのが、冒険者達だ。何度でも蘇り、生前は一流の剣の腕を持つ剣士だった彼を冒険者達は先生と呼び慕った。最初は揶揄を多分に含んだその名前は次第に尊敬の念を帯び、いつしか多くの冒険者達は本当に彼を師と仰ぐようになっていた。</p><p>多くの念は、それそのものが情念で出来ている亡霊に多大な影響を与える。尊敬の念はある種の信仰となり、やがて彼はある種の神と呼んでもいい存在にまで昇華していた。無論、神と言っても天に住む神とはあり方を完全に異にする、別種のものだが。</p><p>彼はダンジョンを愛し、ダンジョンを愛するものを愛した。かつて自らを殺した魔王の味方をするのは業腹ではある。しかし、それ以上に天使などと言う存在にこのダンジョンを荒らされるのは我慢がならなかった。</p><p>もはやここにいるのは妄執に囚われ恨みで凝り固まったゲオルグの霊ではない。冒険者達に愛され慕われる亡霊、先生なのだ。</p><p>さあ、行くぞ同士達よ！ あの天使共を皆殺しにしてしまえ！</p><p>亡霊の軍団を率い、先生は雄叫びをあげた。</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-2</p><p>カマセルの理力が消えた？</p><p>力天使アンドゲルは同輩の力が消えていくのを感じ、そう呟いた。魔王の迷宮は思った以上に危険なようだ。既に何人もの能天使たちが迷宮内で命を落とし、力天使さえ今散っていった。</p><p>とは言え、カマセルは少し傲慢で浅薄なところがあり、そこを突かれたのかも知れない。アンドゲルは慎重に縦穴を部下達と共に降下していった。</p><p>彼が見つけたその穴は、どうやら他の入り口よりも奥深くへと通じているようだった。時折空を飛ぶ魔獣たちが襲いかかってきたが、空中を自在に舞うことの出来る天使達にとっては大した敵ではない。容易く斬り捨てながら、彼らは地下第二層にたどり着く。</p><p>カマセルは愚かにも第一階層から降りていったが、アンドゲルはそこを丸々飛ばした。空を飛べぬ人間用の守衛も天使にとっては恐れるほどのものではない。このまま一気に最深部を目指し、魔王を討ち取ってやる。</p><p>そう意気込むアンドゲルの視界に、赤い光が見えた。</p><p>ジョー、ジョナサン、ジョアナ、ジョナス、ジャスティン、ジョセフ、ジョディ、ジョシュア、ジョアン、ジョタロ、ジョブ、ジューダス、ジュアニッタ、ジョスケ、ジュリアン、ジョセリン、ジュニアス、ジュリエット、ジョルノ、ジョーディ、ジョリーン、ジョエル、ジョニィ、ジョン、ジャイロ、ジョリオン、ジャスタス！</p><p>どこからか、若い娘の声が響いた。</p><p>全軍発射！</p><p>深い深い縦穴の底、横穴の中。そこにずらりと並び喉の奥に炎を湛えた、無数の魔獣。</p><p>それが、アンドゲルが下界で見た最後の光景だった。</p><p>どこにも明かりのない、果てしなく真っ暗な世界。それが、彼の知る全てだった。闇は均一ではなく、彼から離れるほどにその濃さを増す。いくらか進んだ先にある闇のわだかまりが、それ以上進めぬ世界の果てであると彼は認識していた。</p><p>世界は四角く正方形をしていて、動き回るのに問題はないがさほど広くは無い。そんな世界の中で、彼は闇の中でさえなお暗い漆黒の塊として存在していた。世界の中には、彼の手足として動かせる中位の闇が二つと、それにつながれた大きな闇。そして、自分。それだけだ。</p><p>時折、世界の外から侵入者が現れることもあった。侵入者は強さの差こそあれどれも光り輝き、彼にとって我慢のならない暖かさを撒き散らした。彼は手足となる闇を操り、その光をひき殺し、あるいは剣で斬り殺した。</p><p>侵入者の光によって、中型の闇は首のない馬、大型の闇はそれが引く馬車なのだと知れたがそれは彼にとって何の感慨ももたらさなかった。彼はただ、この小さな世界を守る為に戦うだけだ。彼はデュラハン。生前の名を、アランと言った。</p><p>そしてその日、彼の世界に今だかつてない量と質の光が入り込んできた。</p><p>不浄なるものよ、光の前に消え去るがいい！</p><p>そう声をあげ、天使達は襲い掛かってきたが、デュラハンがその言葉を理解する事はない。ただひたすらに、己の内なる衝動の命ずるままに戦うだけだ。</p><p>首のない馬がいななき、足を振り上げて走る。凄まじい速度で駆ける馬車は、一瞬にして能天使達を跳ね飛ばし、その車輪でずたずたに切り裂いた。</p><p>上だ、上を取れ！</p><p>デュラハンの部屋には馬車の高さの倍ほどの空間がある。天使達は羽ばたいて馬車の上を取り、槍や弓を構えた。</p><p>おぞましい亡者よ、塵に！？</p><p>弓を構えた力天使の目の前で、馬車の姿が掻き消えた。そして、その背後でギャリギャリと音が鳴り響く。振り返る彼の表情が、絶望と驚愕に歪む。</p><p>馬鹿な！</p><p>力天使は天井を走る馬車に弾き飛ばされ、虚空に消えた。デュラハンはその身、馬車から馬に至るまで全て実体のない怨霊だ。その走る道に上下の別などなく、壁だろうが天井だろうが自由に走り回ることが出来た。</p><p>コイツ！</p><p>馬車から距離を取り、弓を構える天使にデュラハンは手綱を放し、手をかざす。その掌からは稲妻が迸り、一瞬にして天使を黒焦げにした。</p><p>魔術まで使うぞ！</p><p>天使達は慌てふためき、逃げ惑った。近付けば馬車に引かれ、距離を取ればデュラハンの魔術。悪魔悪霊の類は得意とするはずの天使たちが、手も足も出なかった。</p><p>落ち着け！ よく見れば動きは単純だ、距離を取りつつ包囲しろ！</p><p>そこに、天使の一人が声を張り上げた。彼は主天使(ドミニオンズ)中位第一隊、今回の戦いに派遣されている中ではもっとも位の高い天使の一人だ。</p><p>主天使の言葉に力天使、能天使達の動きは精彩を取り戻し、つかず離れずを保ちながらデュラハンを取り囲んだ。怨念で動くデュラハンの動きは速いが単純だ。一番近い敵を目指して馬車を走らせ、遠くに狙うものがあれば魔術でこれを落とす。</p><p>その動きはパターン化していて、速度に惑わされずよく観察さえすれば十分に対応が可能なものだった。もっとも、主天使がそれに気付くまでに、実に4人の力天使とそれに数倍する能天使達が犠牲になったが。</p><p>これでも喰らえ！</p><p>主天使が理力で編まれた鎖を飛ばす。それはデュラハンの馬車を絡めとり、車輪に巻きついた。それによって動きの鈍る馬車に、他の天使たちも次々に鎖を飛ばす。何本もの鎖に拘束され、首なし馬とその馬車はついに動きを止めた。</p><p>今だ！ 者ども、かかれ！</p><p>動きを止めた馬車に、天使達が殺到する。何人かはデュラハンによって殺されるだろうが、それでもこの強敵を討ち取れればよい。そう判断した主天使による決死の突撃だ。</p><p>しかし、その決死の覚悟は報われることはなかった。ただの一撃として槍も剣もデュラハンには届かず、見えない壁に止められた。攻撃をした天使たちの胸には氷で出来た矢が突き刺さり、虚空に消える。同時に、澄んだ金属音と共に馬車を絡め取った鎖が断ち切られた。</p><p>いつの間にか三人の冒険者がデュラハンの馬車に乗り込み、彼を守ったのだ。</p><p>貴様ら我らが天使と知って邪魔をするか！？</p><p>その中に僧侶と思しき姿を認め、主天使は叫んだ。</p><p>あたしの信じるものは、Ol様のおちんぽだけです</p><p>その言葉に、白アールヴの僧侶Shalは、にっこりと笑ってそう答えた。いつもの事とは言え、仲間のウィキアとナジャもその返答に若干呆れる。</p><p>それに</p><p>しかし、彼女の笑みはゆっくりと消え、鋭い視線を主天使へと向ける。</p><p>お互いこんな風になってしまってもアランさんは今でも、大切な仲間ですから</p><p>その言葉に、ウィキアは目を見開いた。</p><p>Shal、あなたは</p><p>Shalはナジャのように記憶を改竄された訳でも、ウィキアの様にすべてを掌握されたわけでもない。ただ、価値観をかえられた、それだけだ。飽くまでもっとも大事なものはOlと、彼の与えてくれる快楽。</p><p>しかし、だからといって仲間達がどうでも良くなったわけではない。たとえ、その姿が変わり果てようと。</p><p>デュラハンは、生まれて初めて戸惑いと言う感情を味わった。彼の周りに現れた、三つの光。それはやはり暖かくまぶしい、彼が嫌悪するものだった。しかし、不思議とその暖かさは不愉快なものではなく何か、不可解な気持ちを、彼に与えた。</p><p>ならば、共に滅びるがいい！</p><p>主天使は叫び、僅かに生き残った天使達に号令をかける。確かにデュラハンは強敵だ。その上、新たに出てきた三人の娘もそれなりに使える。</p><p>しかし、それでもまだ数も質もこちらの方が優れている事を主天使は確信していた。先ほどのように不意を討つような攻撃でなければ勝てるはずだ。</p><p>主天使の指揮の元、天使達は一糸乱れぬ動きでデュラハン達に襲い掛かった。槍を持つ力天使達が中距離から相手の動きを牽制し、弓を持つ能天使達が次々と矢を射掛ける。</p><p>馬車の行動パターンは既に読みきった。先ほどの攻防から察するに、敵の核となるのはあの僧侶だ。彼女を殺し、防御を打ち崩せば後は順に殺していくだけで良い。そして、一人で天使達全員の攻撃を防ぎきるほどの力も、防げなくなる前にこちらを全滅させるほどの力も、彼女たちにはない。</p><p>主天使のその読みは概ね正しかった。</p><p>たった一点。馬車の行動パターンを読みきった、という点を除いて。</p><p>デュラハンは手綱を取り、縦横に馬車を操った。槍の穂先ギリギリを旋回し、その馬車の身体で矢を受け防ぐ。馬車では防ぎきれない流れ弾を、Shalが的確に魔術で防いだ。</p><p>お返しよ</p><p>矢を撃ち終えた天使達に、ウィキアは氷の矢を飛ばす。それを何とか中和、回避した能天使達の半身が、ずるりと斜めにずれ、落ちて消えた。</p><p>飛ばされた氷の矢の背後に、女剣士ナジャが潜んでいたのだ。彼女は空中で天使に蹴りを入れて跳躍すると、不意を突かれ動揺する天使数人の首を刎ねて地面へと落下した。</p><p>落ちる彼女の体を、絶妙のタイミングで馬車が駆け抜け拾う。その隙を突こうとした数人の天使達が、氷の壁に阻まれ槍を取られる。そして、その壁の表面を伝い、デュラハンの放った電撃が天使達を焼き焦がした。</p><p>このような事ありえぬ</p><p>実力でははるかに勝るはずの天使達が、成す術もなくやられていく。それ自体がありえない、信じがたい光景ではあったが、それ以上に不可解なのが、不死の狂戦士が生者と共に戦い、絶妙な連携を取っている事だった。</p><p>かくなる上はこの身滅びようと、滅してくれる！</p><p>主天使は錫を取り出し、叫んだ。この錫こそ主天使の力の本髄。神の威光を知らしめ権力を示す王威の錫だ。魔力に溢れ、瘴気の充満するこの迷宮の奥でこんなものを使えば、天使自身がただではすまない。しかしそれでも、主天使は道を切り開く為あえて自ら捨石となることを選んだ。</p><p>喰らえ！</p><p>錫の先に、膨大な熱量が発生する。中位第一隊、階級第四位の天使の渾身の一撃だ。その力は下級悪魔ローガンの操る炎にさえ倍する。</p><p>それを見て、Shalは顔色を変えた。あの攻撃は防ぎきれないどころではない。主天使が命を賭して放たれる一撃は彼女達を纏めて消滅させて余りあるほどの熱量を備えていた。</p><p>その時、デュラハンは三人を馬車から振り落とすと、手綱を手繰り馬を走らせた。強烈な閃光の束が彼を貫き、闇で出来た馬車を木っ端微塵に粉々にする。首なし馬が一瞬にして蒸発し、デュラハンの構えた剣ごと彼を真っ二つにした。</p><p>しかし、その背後に庇った娘達には、傷一つ与えない。胴から離れた首でそれを見届け、デュラハンは兜の中で口元を歪めた。闇の炎は彼の身体を焼き焦がし、純粋な意思だけを残して燃やし尽くした。残ったのは、圧倒的な絶望と憎しみ。</p><p>そして、祈りも希望も、肉欲も嫉妬も何もかも燃やし尽くしたその奥に、ほんの僅かしかし、確かに淡く輝く思いが一欠け、存在していた。</p><p>今度は、守れて、よかった。</p><p>ごめんな</p><p>死者である彼の言葉は、生者には届かない。</p><p>しかしそれでも彼はそういい残し、その後に漆黒の兜を残して消えた。</p><p>その胸に、ほのかな満足感を抱いて。</p><p>無念</p><p>主天使は力を使い果たし、どさりと地に落ち、消える。ひとまず敵を殲滅し、ウィキアは安堵の息をついた。</p><p>とりあえずは凌いだわね。しばらく待てばデュラハンは自然に蘇る。それまでは無理に防衛せず適度に守れ、との事よ</p><p>答えるナジャの声は、妙に震えていた。ウィキアが視線を向けると、彼女は不思議そうな表情でウィキアに問うた。</p><p>なあ、ウィキア何でなんだろうな。悲しくもなんともないのにさっきから、涙が止まらないんだ</p><p>そうね</p><p>ウィキアとShalは、そっと親友の身体を抱きしめ、祈った。</p><p>願わくば彼にほんの僅かでも、安らぎが訪れますように。</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-3</p><p>デュラハンが消え去り、押し寄せる天使達の軍勢に三人の娘も撤退し、Olの迷宮はついに第三階層まで攻略された。</p><p>重く硬い扉を叩き壊し、第三階層となだれ込む天使達の目の前に、小さな少女が姿を現す。クドゥクの盗賊、Faroだ。</p><p>貴様も魔王の手先か</p><p>ろくに武器も持たず、たった一人で迷宮に佇む少女に天使は剣をつきつけた。しかし彼女は答えず、まるでからかうようにくすくすと笑みを浮かべるのみ。</p><p>貴様、我らを馬鹿に</p><p>タン、と音を立てて、Faroに掴みかかろうとした天使が地面に倒れ付した。彼の身体はまるでチーズの様に無数の穴が空き、光となって消える。</p><p>敵だ！</p><p>一瞬にして天使達は殺気立ち、武器を構えた。クドゥクの少女が敵だという事はハッキリした。が、どうやって天使を殺したのかは全くわからない。</p><p>魔術で不可視の矢を放ったのなら、傷は前面に出来るはずだ。しかし、穴だらけにされた天使は左側面に穴が空いていた。しかし、そちらには壁しかない。攻撃など不可能なはずだ。</p><p>貴様、よくも！</p><p>槍を構えた能天使がFaroに向かって突進する。</p><p>馬鹿、迂闊に</p><p>他の天使たちが止める間もなく、突き出した能天使の腕がころりと落ちた。</p><p>なああぁぁぁぁぁっ！？</p><p>天使といえど下界に顕現していれば、その身には神経も通っているし、痛みもある。能天使は肘の先から失われた腕を胸にかかえる様にして叫び声を上げた。次の瞬間、彼の首はスパンと切り落とされ、地面を転がる。</p><p>罠だ</p><p>その様子を見ていた主天使はようやく、攻撃の正体に気付いた。</p><p>この通路一帯に無数の罠が張り巡らされている。アイツはそれを自由に起動できるんだ</p><p>よく目を凝らせば、通路のそこかしこにスイッチと思しきものが見えた。最初の天使が死んだ場所も、集中すればうっすらと魔力による力線が見て取れる。それをうっかり越えると、壁から無数の弾丸が射出される仕組みだ。</p><p>防備を固めろ！ 目を凝らせ！ 奴を一刻も早く殺すのだ！</p><p>巨大な盾を構えた天使が先行し、壁から射出される弾丸を防ぐ。二番目の天使が切り刻まれた、天井から高速で降ってくる刃は剣を掲げ押し止める。その横を潜り抜け、剣を振るおうとする天使に対してFaroはとん、と壁を叩いた。</p><p>途端、上下左右四方向から無数の矢が飛び、天使はハリネズミの様になって死んだ。左側の矢は盾で防げたが、その他の方向は無理だったのだ。</p><p>固まれ！ 互いに守りあいながら進むのだ！</p><p>軽快にダンジョンの通路を進むFaroの後を、天使達は一団となって進む。</p><p>Faroは僅かに出っ張った床のスイッチを踏むと、すぐに現れた目の前の落とし穴に身を投じた。逃げ切れぬと悟って自殺したか？ と目を見張る天使達の耳に、何か巨大な物が動くような不吉な音が聞こえてきた。</p><p>逃げろ！</p><p>果たして、前方から物凄いスピードで転がってきたのは通路一杯に広がる巨大な鉄球だった。鉄球はFaroの入った小さな穴の上をそのまま転がりぬけると、天使達を跳ね飛ばしながら押しつぶした。</p><p>逃げ出した天使達の何人かは、先ほど避けた刃や弾丸、矢の罠に再度引っかかって命を落とす。鉄球は十数人の天使の命を奪って、ようやくその動きを止めた。</p><p>ふざけおって！</p><p>動きの止まった鉄球を粉々に砕き、主天使が激怒した。</p><p>その首、叩き落してくれる！</p><p>怒りに任せ、主天使は全身を理力で包み込み、Faroに向かって突っ込む。多少の被弾は覚悟の上だ。全身に巡らせた防御の術と速度で、多少のダメージは何とかなる。あっという間にFaroに肉薄し、目を血走らせて剣を振り上げる主天使に対して、Faroはかかとでこんこんとスイッチを押した。</p><p>瞬間、地面の一部がバネで弾かれ斜めに持ち上がり、主天使の身体を後ろに跳ね飛ばす。跳ね飛ばされた先で壁が柱の様に飛び出し、主天使の身体を押しつぶす。柱に潰され固定された彼の頭に、その中にたっぷりと濃硫酸の入った壷がすっぽりと被せられた。</p><p>！！ ！！ ！！！！！</p><p>声にならない声をあげ、壷を外そうと引っ張りながら主天使はヨロヨロと通路を歩く。その足が、床から少し上の位置に張られた縄を引っ掛けて、高速回転する丸のこが彼の首を切り飛ばした。</p><p>余りの凄惨さに言葉を失う天使達を置いて、Faroはさらに迷宮の奥深くへと向かう。</p><p>そこまでだ</p><p>その行く手を、天使達が阻んだ。</p><p>後ろを振り向くFaroの視界に、追いついてくる天使達の姿。彼女は前後を完全に挟まれていた。回り道し、挟み撃ちされたのだ。</p><p>慌てて横道に逃げ込む彼女を追いかけながら、天使達はニヤリと笑った。そちらの道は行き止まりで、罠もないことを既に確認していたからだ。</p><p>その道の奥、袋小路の大部屋で少女は観念したように天使たちに向き直った。万一にも逃げられぬよう出口を固め、天使達は剣に槍、弓を構え少女ににじり寄る。</p><p>オン</p><p>そこで、Faroは初めて口を開き、そう言った。その言葉自体には大して意味はない。</p><p>ただの、召喚呪文の一節完成間近で止めていた呪文の、最後の一節だ。彼女自身は殆ど魔力を持っていないが、魔力も瘴気もこのダンジョンの中にならどこにでも豊富にある。呼ぶだけなら彼女でも丸暗記した呪文で十分に可能だった。</p><p>な！！</p><p>目の前にある光景に言葉を失ったのは天使達だけではない。呼び出された悪魔達も同様であった。召喚を受けてどんな魔術師が呼んでいるのかと顔を出してみれば、彼らの行動を制限する魔法陣の類は一切なく、代わりに目の前には不倶戴天の敵天使たちだ。</p><p>否も応もなく、激しい戦いが始まった。悪魔には契約もせず、命令もされていない事をする義理は全くない。彼らを縛る魔術師がいないのならこれ幸いと逃げ出して、適当に人間を騙し殺し魂を奪い取ってしまえばいい。</p><p>しかし、目の前にいるのが天使ならば話は別だ。彼らは悪魔を見逃すような事はしないし、悪魔にも彼らを見て戦わないなどと言う選択肢はない。何せ数千年以上に渡る天敵同士なのだ。</p><p>怒号と怨嗟の声が響き、炎が渦巻き、刃が舞い、稲妻が轟き、矢が飛び交った。数十分続いたそれが完全に鳴り止んだのを確認して、Faroは隠し扉の影からそっと顔を出す。するとちょうど、相討ちの形で互いに胸を貫かれた主天使と下級悪魔が消えて行く所だった。</p><p>悪魔と天使は互いに正逆。互角の力を持つものたちだ。この部屋は入った天使達と同数、同等の悪魔を呼び出す。殆どコストをかけず、天使を殲滅するための罠だ。</p><p>Faroは身軽な動作で小さな隠し部屋から抜け出すと、次の得物を求めて迷宮の通路へと消えていった。</p><p>その頃、地上もはや上空と形容する方が相応しい、迷宮入り口の街Olタウンでは、天使と冒険者達が入り乱れ、乱戦の様相を呈していた。</p><p>明確な階級制度を持ち統率を持って戦いに当たる天使達に対し、元々冒険者達は統率など欠片もないならず者の集まりだ。乱戦はむしろ得意とする所である。勿論冒険者達も少なくない犠牲を出してはいたが、数で圧倒的に上回る天使達を相手にかなりの善戦を見せていた。</p><p>そんな中、特に気炎を上げているのは現役の冒険者達ではなく、店の主達Olタウンを作り上げた商人達だった。</p><p>おおおおおおおッ！！</p><p>獣のような咆哮と共に大斧を振るうのはオックスの酒場の主ことダルト・オックス。彼が斧を振るうたびに天使達は両断され、輝く光の粒子となって消えていく。</p><p>その大柄な身体に隠れるようにして呪文をつぶやくのは宿を営む老婆、マーサ・モーリス。</p><p>ヒッヒッヒッヒッお死去日おめでとう！</p><p>彼女が禍々しく呪文を口にし、その枯れ枝のような指をさすと天使達は黒い霧に蝕まれ、まるで藁の塊のようにバラバラに崩れ去った。</p><p>唇に囁きを</p><p>その隣で聖句を紡ぎながら槌矛を振るうのは教会の僧侶、マディ・カント。</p><p>胸には歌を</p><p>神に仕える身でありながら、その攻撃には微塵の容赦も躊躇いもない。</p><p>心には祈りを</p><p>なぜなら彼が信じるものは、たった一つ。金だからだ。</p><p>そして彼のものに救いを与えたまえ！</p><p>聖句の成立と共に、天使の一団が一瞬にして灰と化し、消滅した。</p><p>お前さん、そんな攻撃魔術なんか使えたのか！ 大した威力だな</p><p>驚いて声を上げるオックスに、にっこり笑ってマディは答えた。</p><p>なぁに、ただの蘇生魔術ですよ</p><p>死んでもこいつには蘇生を任せないようにしよう。オックスは心の底から、そう誓った。</p><p>そこから少しはなれた場所で、ノームは杖を振るっていた。彼女の身の丈ほどの長さの杖を両手に二本持ち、彼女は縦横にそれを振るう。その先からは炎の弾が飛び出し、天使達に当たるや否や爆発を起こし、周りの天使達を巻き込んで燃やす。</p><p>それは彼女が扱う中でも最高級の呪具。魔術を扱えないものでも振るうだけで火炎弾を飛ばすことの出来る杖だった。一発金貨一枚に相当するそれを惜しげもなく振るい炎の華を咲かせながら、彼女はOlに送る請求書の金額を思い浮かべた。</p><p>雄たけびを上げ襲い掛かってくる天使に魔力の切れた杖を投げつけ、三本目、四本目を取り出して火炎弾を放つ。しかし、その炎の中を一際強く輝く天使が突き抜け、剣を振りかざした。</p><p>間に合わない。</p><p>一瞬死を覚悟して見開かれたノームの瞳に次の瞬間映ったのは、首が胴から離れ消えていく天使の姿だった。</p><p>腕は衰えていないようですね、無音のキース</p><p>光の粒子となって消えていく天使の背後にあった姿を認め、ノームはほっと安堵の息をついた。とりあえずは天使の一団は殲滅できたようだ。</p><p>その名で呼ぶのはやめてくれ</p><p>キースはばつの悪そうな表情でそういった。</p><p>後ろ暗い過去を持つものたちの中で、その名を聞いて震えぬものはいない。音もなく近づき、音もなく殺す。ついた二つ名が無音。以前の彼は、音に聞こえた暗殺者だった。人相も性格も何もかも違うが、ノームだけはそれに気付いている。</p><p>音に聞こえた無音、なんざ駄洒落にもならねえ。暗殺者が名を知られるなんざ未熟な証拠だ。それに、今の俺はただのキース。Olタウンの胡散臭い案内役さ</p><p>彼にもまた、知られたくない過去と、それを抜け出しただけの理由があったのだろう。ノームはそれを聞こうとはしない。彼女もまた、同じような事情を持っているからだ。</p><p>彼らだけでもない。この街の誰もが、そうだ。ならず者のろくでなし、最低最悪のごろつきが集まる街、Olタウン。そんな街を多分、彼らは愛しているのだ。</p><p>それより、とキースは彼方に視線を向けた。その視線を追うと、こちらを目指して翼をはためかせる新たな天使達の姿が見えた。そして、その背に乗る、天使達とは異なる白い影が。</p><p>ようやく本気になったみたいだな</p><p>キースは呟き、声を張り上げた。</p><p>野郎ども！ いよいよ敵さんの本隊の登場だ！予定通り、全力でいくぞ！</p><p>おお！！</p><p>威勢よく返す冒険者達に、キースは叫んだ。</p><p>全員</p><p>逃げろぉぉぉぉぉぉ！</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-4</p><p>暗い迷宮の中を、白一色の一団が歩いていく。</p><p>前衛に鉛と竜殺し、そして不死身。後衛には槍を持つ無明と弓を持つ魔弾が続く。英霊5人。無数の天使達を派遣して尚落とせぬ難攻不落の迷宮に、メリザンドはついに業を煮やし、切り札ともいえる彼らを繰り出した。</p><p>最短ルートで一気にいくぞ。無明、道案内頼んだぜ</p><p>不死身の言葉に、無明はこくりと頷いた。どれだけ迷宮が複雑に入り組んでいようと、罠が仕掛けられていようと、千里を見通す無明の前には無意味だ。彼は既にOlの迷宮の最奥、ダンジョンコアの存在まで完全に看破していた。</p><p>だが最短は、無理だ</p><p>続く無明の言葉に、不死身は首を傾げる。英霊が5人もいれば、避けるべき敵などいない。罠も魔物も踏み越えて進むつもりの不死身に、無明は無言で前方をさした。</p><p>ゴブリン？</p><p>英霊達に向かって突進してくる小鬼の群れに、鉛と竜殺しが無造作に剣を振るう。それだけで十数匹の小鬼たちは即座に絶命した。</p><p>これがどうしたってんだ？</p><p>この程度の相手、英霊達にとっては障害にもならない。不審そうに眉をひそめる不死身に、無明は短く答えた。</p><p>来る</p><p>彼がそう呟いた瞬間、無数のゴブリン達がどっと押し寄せた。</p><p>なんだこりゃ！？</p><p>思わず不死身は叫んだ。十匹や二十匹などという数じゃない。文字通り通路を埋め尽くすくらい大量の小鬼達が、折り重なるようにして怒涛の勢いで彼らに迫っていくのだ。</p><p>いや、待て、ちょっと待て！？</p><p>慌てて不死身は剣を振るうが、ゴブリンを殺しても天使や悪魔のようにその身体は消えるわけではない。その死体を踏み越え投げつけ蹴り飛ばし、ゴブリン達は血走った目で英霊達に津波のように迫りそして、通り過ぎた。</p><p>な？</p><p>あれは、不味いな</p><p>間抜けな表情で通り過ぎていく小鬼達を眺める不死身に、竜殺しが重々しい声で言った。</p><p>小鬼達の背後には、通路一杯を埋め尽くす、巨大な粘液状の生き物スライムだ。それが、逃げ遅れたゴブリンを飲み込みながら、かなりの速度で英霊達に迫ってきていた。</p><p>竜殺しが剣を振るい、魔弾が矢を放つ。スライムは真っ二つに切り裂かれ、無数の穴を穿たれるが、一瞬にしてその傷は修復された。</p><p>迷宮を壊すつもりでやれば消せるかも知れんが、どうする</p><p>重々しく、しかしどこかからかうような響きを含んだ言葉で竜殺しは尋ねた。</p><p>冗談じゃねぇ、そんな事したらこっちまで生き埋めだろうが！無明！ さっさと逃げ道を案内しろ！</p><p>これだから自我のない英霊は扱いにくいんだ。不死身はそう内心で愚痴りながら、無明の後ろをひた走る。彼らは基本的に命令された事以外をしない。報告も端的で的を射ない事が多く、多少反抗的でも鉛や竜殺しの方がまだマシだ。</p><p>そんな事を思いながら通路を走る彼らの前に、突如として天井が落ちてきた。咄嗟に身をかわし圧死は免れたが、英霊達はどうやら壁で分断されたようだった。</p><p>おい、無明！ 罠はちゃんと確認してたんじゃないのか！？</p><p>これは罠ではない。迷宮が</p><p>壁越しに聞こえた無明の声が、ずんという振動と共に完全に聞こえなくなる。</p><p>敵の胃袋の中ってわけか</p><p>不死身は舌打ちした。この迷宮自体が魔王Olなのだ。何の仕掛けがなくても、ある程度はその中身を操れるのだろう。</p><p>いいだろう。どっちにしろ一人の方がやりやすいってもんだ</p><p>不死身は呟き、一人迷宮の奥へと歩みを進めた。</p><p>分断された、か</p><p>目の前を遮る壁を睨み、竜殺しことウォルフは呟いた。</p><p>元より一人で戦うことをその旨とする英雄達だ。むしろ群れる事の方に違和感があったので特に異存はないが、道を見ることができる無明と離れた事だけは少し手痛い。指揮官がいなくなった以上、自我の無い英霊はまっすぐにOlの元へと向かうだろう。</p><p>先に辿り付かれ、殺されるのは少しばかり面白くない。</p><p>とは言え木偶人形に殺される玉でもなし、か</p><p>いずれにせよ、今の彼に出来る事は聖女の命に従い魔王の元を目指すことだけだ。襲い掛かってくる無数の魔物達を無造作に切り捨てながら、彼は悠々と迷宮の通路を突き進んだ。</p><p>最強にして最古の竜メトゥスを倒したウォルフは、いかなる竜よりも強い。これはもはやただの戦闘能力の差ではなく、この世の法則となった。竜殺したる彼は、いかなる竜も一撃で殺す事が出来、いかなる竜からも傷を受けることは無い。この法則は、距離にも数にも左右されず、竜の姿を見ることさえ出来ればどんな時にも適用される。</p><p>そして、地上最強の種である竜より強いということは、地上のいかなる存在よりも強いということでもある。流石に竜以外も問答無用で殺せると言うわけではないが、純粋な戦闘能力で彼はあらゆる敵を圧倒し、屠る事が出来た。</p><p>しかし、それにも唯一、例外と呼べる相手がいる。</p><p>目の前で土を纏い、形作られる姿を見上げ、ウォルフは愉快げに声を上げた。</p><p>お互い死してなお戦わされるか。さても難儀な事だな</p><p>ウォルフはメトゥスの死骸を見上げ、剣を抜きながら獰猛な笑みを浮かべた。</p><p>魔弾人であった頃の名をレックスという彼は、己が根底に根ざした命令に基づき、迷宮をひた走っていた。敵があればそれを射殺し、魔力の流れを逆に辿って最深部を目指す。</p><p>その動きは生前の英雄であった頃と比べてもなんら遜色なく、むしろ勝るほどのものではある。しかしその目に生気は宿らず、ただただ冷徹に彼は目的に向かってひた走る。</p><p>だから、迷宮の一室が突然木に覆われ、森のようになっていてもそれを全く気にかけようとはせず、彼は無造作にそこへ足を踏み入れた。生前の彼であれば、その森の美しさに目を奪われ、あるいは迷宮にそんな場所があることを不審に思っただろう。</p><p>途端、飛んでくるのは無数の矢。高い天井をぎっしりと覆うように飛来したそれを、魔弾は一瞬にして全て撃ち落した。同時に、敵の存在を感知して臨戦態勢へと入る。</p><p>ようやく会えたな、魔弾よ</p><p>どこからともなく声が響く。魔弾はその声の出所を慎重に探り、周囲を見回した。しかし、英霊といえども森に隠れたアールヴ達を見つけるのは容易な事ではない。</p><p>先日の雪辱今ここで、倍にして返させてもらうぞ</p><p>闇の中目を光らせ、エレンはそう宣言した。</p><p>よお、大将。アンタ自我あるんだっけ？</p><p>分断され、一人迷宮の道を進んでいた鉛ことザイトリードは、軽薄な調子でそう声をかけてくる男の姿に足を止めた。</p><p>その男の姿には、よく見覚えがある。ニヤニヤとした笑みは酷く似合っていなかったが、見間違えるはずもない。その男は、ザイトリード自身だった。</p><p>悪魔か</p><p>ザイトリードは剣を投げ捨て、両の拳を構える。</p><p>ご名答。なんだ、父ちゃんにでも聞いたか？</p><p>同じような動作で、ローガンは拳を構えた。赤と白。お互いに同じ顔をした、しかしけして相容れぬ二つが互いに向かい合う。</p><p>俺の身体、返してもらうぞ</p><p>幼女100人と交換だったら、検討してやってもいいぜ</p><p>へらへらと答えるローガンにザイトリードが吐き捨て、直後、二人は激突した。</p><p>無明は一人、迷宮の最短経路を突き進んでいた。時折迷宮の構造が変わるのが厄介ではあったが、どこでも無制限に変えられる訳でもないらしい。少なくとも、奥に行く道を全て塞いでしまう事は出来ないようだった。</p><p>他の英霊達は全員、何らかの敵と戦っている。敵はこちらを分断し、各個撃破するつもりのようだった。彼の行く手にもまた、敵が用意されている。敵はたった四人。四人とも女のようだ。</p><p>確かに多少は戦えるようではあるが、英雄とは比べるべくもない。一対四だろうがそれほど苦労せず勝てそうな相手だ。彼は槍を構え、敵の待ち構える部屋へと足を踏み入れた。</p><p>罠や援軍の存在も感じない。飛んでくる魔力の矢を槍で叩き落しながら、彼は一歩足を踏み出し、蹴りを放つ。その一撃で飛び掛ってきていた女剣士の剣が吹き飛び、彼女は地面を転がった。</p><p>流れるような動作で槍を振り回すと、後ろから忍び寄ってきていた盗賊を石付きで跳ね飛ばしながら、後衛で防御術を張ろうとしている僧侶へと槍を振り下ろす。</p><p>まずは防御役を潰し、次に盗賊、剣士を突き殺し、魔術師。無明の瞳は、闇の中から全てを見通す。それは単に遠隔視だけを可能にしているわけではない。それが例え光一つささぬ暗闇だろうと昼日中と同じように見通し、相手の筋肉の動きの一つ一つも精確に把握し動きを予測する。</p><p>だから、彼にはそれが見えなかった。</p><p>己の胸に突き刺さる剣の感触と、全身が焼け爛れる匂いに無明は一瞬混乱する。その攻撃は、彼が全く感知できない領域から放たれたからだ。</p><p>どんな暗闇であろうと見通す、という事は、言い換えれば彼は闇を見ることは出来ないという事でもある。</p><p>戦士三人、盗賊、僧侶、魔術師って、そりゃあオーソドックスなパーティだけどさ。6人中2人が亡霊って、どうなのさ</p><p>Faroは蠢く闇の塊デュラハンと先生を見ながら、そうボヤいた。</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-5</p><p>暗く深い迷宮に、剣戟の音が鳴り響く。</p><p>無明は槍を振り回すと、ナジャの剣を弾き、同時にウィキアの放った氷の矢を叩き落した。同時に飛来するFaroの矢を軽々とかわし、Shalの張った防御膜をものともせずにナジャの肩口を貫いた。</p><p>しかしそこに、先生の剣が無明の腕をすり抜け、デュラハンの剣が足を捕える。</p><p>勝てる。ウィキアは背後にナジャを治療するShalを庇いながら、そう確信した。</p><p>Olが言うには、無明は後天的に英雄になった珍しい例であり、それゆえに素の身体能力はそれほど高くないらしい。何度もの攻撃を受けてなおその動きは些かも衰えず、防御魔術も気休めにならぬほどに鋭い攻撃。</p><p>どこがそれほど高くないなのか、と文句を言いたいところではあったが、他の英霊ならばそもそも初撃でShalは死んでいる。それどころか斬撃を飛ばし、ウィキア達4人をまとめて斬り殺すくらいの事はやってのけると聞いて、ウィキアはその無茶苦茶さに呆れた。</p><p>本来ならば、一流とは言え冒険者ごときが相手にしていい存在ではない。文字通り化け物を越えた化け物だ。</p><p>しかし、無明は初めて出会う見えぬ相手に相当戸惑っているようだった。先生はその手に持つ剣までが全て霊体だ。それゆえに物理的な傷は与えられないが、その剣で斬りつける度に無明の身体を構成する理力を削り取り、その力を萎えさせて行くのが見て取れる。</p><p>そしてアランデュラハンの魔術自体は見ることが出来るようだが、流石に光の速さで走る雷撃は避けきれない。ましてや、攻撃の際にカウンター気味に放たれるとなれば尚更だ。</p><p>Faroとウィキアが牽制を行いながら、ナジャは防御に徹し壁となり、Shalがすぐさまそれを回復する。そしてその攻撃の隙を突き、先生とデュラハンがダメージを与える。6人の動きは完全に噛み合い、ゆっくりと無明を追い詰めていく。</p><p>数度目の攻撃を受け、それまでよどみなく動いていた無明は槍を横に構え、ピタリと動きを止めた。これまでとは異なる動きに、ナジャ達は警戒し、動きを止める。しかし先生はそれを隙と捉えたのか、剣を振りかぶって突き進んだ。</p><p>先生、駄目だ！</p><p>嫌な予感に突き動かされ、ナジャは叫んだ。根拠は全くなかったが、今の無明に近付くのは危険だと、彼女の本能が訴えていた。</p><p>そして、こういう時の彼女の勘はよく当たる。</p><p>先生は正確にその胸を槍に貫かれ、消え去った。ガランという音と共に、スリットのない兜が地面を転がる。</p><p>無明は露わになったその双眸で、しっかりとデュラハンの姿を捉えていた。</p><p>そのまま鋭く振るわれる槍を、デュラハンは辛うじて剣で逸らす。それはある程度ダメージを与え、無明の動きが鈍っていたからこそ可能な事だった。</p><p>デュラハンの姿を認識し、前衛を一人失った冒険者達は一気に劣勢へと追い込まれた。狭い部屋の中にも関わらず縦横無尽に閃き、常に先手を打つ槍の攻撃に反撃はおろか防御するので手一杯だ。</p><p>鋭く急所を狙い伸びる槍を防ぎながら、ナジャは死の覚悟を固めた。逃げようとすれば、即座にその動きを察知され、殺されるだろう。</p><p>三人とも、逃げろ。私とアランで何とか食い止める</p><p>槍を己が身に受けがっちりと掴めば、数秒は稼げるはずだ。</p><p>待って</p><p>一歩前に踏み出す彼女を、ウィキアが止めた。</p><p>ウィキア。これ以上は無理だ。無駄に</p><p>いいえ。勝つわ</p><p>確固とした声色で答えるウィキアに、ナジャは瞠目する。こちらの策が破れ、もはや打つ手はない。そういった状況に一番弱いのが彼女だということをナジャはよく知っていた。見下していたわけではない。そういう時こそ判断を下すのが、自分の仕事であると思っていたのだ。</p><p>ウィキアは息を整え、無明を睨み付けた。激しく鼓動する動悸を抑え、手に張り詰めた緊張をほぐす。これよりも、遥かに深い絶望を彼女は味わったことがある。絶対に敵わぬと悟り、それを骨の髄まで思い知らされたことがある。</p><p>それに比べれば、この相手のなんと容易い事か。</p><p>ウィキアは意識して、不敵に笑みを浮かべて見せた。</p><p>敵は自我を持たない英霊だ。こだわりもなく、迷わず最善手を打って来る。そんな相手が追い詰められるまで兜を脱がなかったのだ。しかも、その兜にはご丁寧に視界を確保するためのスリットすらないと来ている。単純な防御面以外に、何か理由があるはずだ。</p><p>ナジャ。Shal。命を私に預けてくれる？</p><p>ナジャは力強く、Shalは軽やかに、迷わず頷く。</p><p>Faroは</p><p>はいはい。まあ、付き合ってあげる</p><p>溜め息をつき、Faroは弓矢を構えた。ウィキアの視線の先で、デュラハンが剣を構える。彼には言葉は通じない。しかし、意図を汲んでくれているという確信がウィキアにはあった。</p><p>チャンスは一度。読みを外せば全員命はないし、タイミングを外してもアウトだ。</p><p>隙を作る。あわせて</p><p>閃光の様に突き出される槍を、デュラハンはあえて受け、それをつかむ。ウィキアは呪文を紡ぎ、その意を察してShalが聖句を紡ぐ。Faroは矢を放ち、同時に弓を捨てて短剣を引き抜き、駆ける。</p><p>無明は槍を手放し、腕を掲げ槍を再生成する。それと同時に振り下ろされる斬撃を、ナジャが剣を横に構え防ぐ。そこで唇の動きからウィキアの意図をようやく察した無明が、槍を彼女に向けた。</p><p>しかし問題ない。Shalかウィキア、どちらかが生き残ればこの手はなる。呪文を続けながらも己に向かって突き進む槍を凝視し、ウィキアは覚悟を固める。その一撃を、虚空に浮かんだ白い腕がつかんだ。腕は瞬く間に増え、無明の動きを一瞬止める。先生の指揮下の亡霊だ。</p><p>その一瞬で、魔術は完成した。Shalと同時に魔力を解放しながら、ウィキアは叫んだ。</p><p>今よ！！</p><p>世界が、閃光に包まれる。眩い光の中、Faroが無明の脚を引き裂き切り倒し、デュラハンが防御に引き戻される槍を掴み、ナジャが兜を脱いだその首めがけて、両腕で剣を思いっきり振り切った。</p><p>勝った</p><p>閃光が収まり、チカチカと明滅する視界の中、ウィキアはその場に崩れ落ちた。首を刎ねられた無明の身体が光の粒子となり、消え去る。</p><p>兜を脱いだ無明は、見えすぎるのだ。どこまでも見通せるから、閃光は何倍もの量となって彼に襲い掛かる。今度は賭けに勝った事に安堵し、極度の緊張が解けたウィキアは意識を手放した。</p><p>雷鳴がとどろき、剣戟の音が飛び交う無明達の戦いとは裏腹に、魔弾とエレン達の戦いは殆ど音もなく行われていた。</p><p>アールヴ達は足音一つ、木の葉の擦れる音さえ立てず森を移動できる。常にその枝の上を飛び交いながら放たれる矢は正確無比にして感知不可能。並みの相手であればすぐさま全身に矢が突き刺さり、死ぬ運命しか残されてはいない。</p><p>しかし、残念な事に相手は並みどころか、超一流を自負する彼女たちさえ凌駕して余りあるほどの腕の持ち主であった。</p><p>不安定な足場であるにも拘らず魔弾は気にした風もなく縦横無尽に駆けた。流石にアールヴ達の居場所は捉え切れてはいないようだったが、襲い来る無数の矢を軽々とかわし、あるいは迎撃する。アールヴ達の矢はその身には一本足りとて届いていなかった。</p><p>手を取り合い、協力して戦いに挑む黒アールヴと白アールヴ、総勢100名。たった一騎で10万の兵に当たるとはまさしく化け物だ、とエレンは歯噛みした。</p><p>戦いの中でわかったのは、二つ。魔弾は射た矢が百に分かれることと、それら全てが恐ろしく正確に突き刺さることだ。</p><p>百発百中の自負を持つエレンではあるが、流石に相手が一発百中となれば分が悪い。その結果、アールヴ達は森に隠れながら牽制を繰り返し、相手はそれをかわしながらもアールヴを見つけきれないという膠着状態に陥っていた。</p><p>エレン、気をつけてください。相手の動きがおかしいです</p><p>セレスがエレンに囁き、注意を促した。言われてみれば確かに、魔弾の動きはおかしい。矢を避けるだけにしては、動きすぎている。</p><p>しまった、奴の狙いはこの森だ！</p><p>いつの間にか木々につけられている傷を見つけ、エレンは叫んだ。この傷は、的だ。</p><p>気付いた時には、もう遅い。</p><p>魔弾はその弓に十の矢を番え、千の矢を放つ。木々は見る間に倒れ、吹き飛ばされ、アールヴ達の姿は魔弾の前に露わとなった。</p><p>即座に魔弾は二の矢を番えると、彼女達に向けてひょうと放った。その矢は狙い違わずアールヴ達の左胸に突き刺さり、一人残らず地面に倒れ伏した。</p><p>動くもの一つなくなったその場を、魔弾はゆっくりと歩み去る。</p><p>その行く手を、突然木が立ち上って遮った。瞠目し、慌てて跳び退ろうとする彼の背中をぐいと大木が押し、その手足を絡めとりながら木々は見る間に成長していく。見る間に、彼の姿は木々の牢獄に完全に捕らえられた。</p><p>さて、白アールヴの姫君は健在か？ 彼女は少々胸が小さいから心配だが</p><p>あなたと一寸も変わらぬでしょうっ！</p><p>言い争いながら、黒と白の美姫は立ち上がり、その胸から矢を引き抜いた。先端には僅かに血がついてはいるものの、心臓には達していない。その配下の者たちも続々と立ち上がり、胸に突き刺さった矢を投げ捨てる。服に空いたその傷口からは、光り輝く胸当てが覗き見えていた。</p><p>ドヴェルグどもの胸当て、なるほど薄く軽く硬い。あの小人達への評価も見直さねばならぬかも知れんな</p><p>白と黒。不倶戴天の敵とすら和解した彼女達は、ドヴェルグへの態度をも多少の軟化を見せた。エレンが手にする素晴らしい弓が、彼らの手によるものと知れれば尚更だ。</p><p>魔弾よ。貴殿の弓の腕、まさに天下一だ、認めてやろう。だが、貴様の弓は正確に過ぎる。外れた矢の事など気にも止めなかったのだろう？</p><p>アールヴ達の射た矢の半分以上は、生木をそのまま使ったものだった。森の中であれば、アールヴは全ての植物を操り、成長を促す事ができる。そして、正確な射撃ほど容易く防げるものもない。どこに撃ってくるかわかっているのだから。</p><p>出来れば貴殿とは、生あるうちに弓を競いたかったよ</p><p>そういい、エレンの射た矢は正確に魔弾の眉間を貫いた。</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-6</p><p>おおおおおおっ！！</p><p>うおおおぉぉっ！！</p><p>音の同じ、しかし異なる雄叫びが響き渡り、拳と拳が激突する。その衝撃は空を伝わり、周囲の壁や天井をみしりと歪ませ、球形のひびを走らせた。</p><p>赤と白。相対する同じ顔の男は、人知を遥かに超える速度で動き、その豪腕を振るう。その度に周囲には風が渦巻き、破壊を撒き散らした。</p><p>互いの膂力、速さ、身のこなしはほぼ互角。一撃加えれば人を即座に粉々にできるほどの威力を縦横に振るいながら、ローガンとザイトリードは互いに致命傷を避け、果て無き戦いを繰り広げていた。</p><p>その動きに、ザイトリードは内心舌を巻く。その力は間違いなく己の身体によるものだ。しかし、それをこれほどまでに使いこなすとは、中の悪魔もおよそ見くびれる相手ではない。</p><p>悪魔よ。貴様、名をなんと言う</p><p>悪いが幼女以外に名乗る名前はねぇっ！</p><p>ローガンは先手を打ち、全身のばねを使って突進すると前蹴りを放った。単純なその攻撃も、ザイトリードの筋力を使えば矢よりも早く槍より重い一撃となる。ザイトリードは半身になってそれを背にするようにかわすと、そのまま左腕をしならせ裏拳をローガンに放った。</p><p>ハンマーの如く空を切り裂くそれを、ローガンは上半身を前に倒してかわし、そのままの勢いで廻し蹴りを放った。それを喰らい、膝を落とすザイトリード。しかし、彼はそのまま足を伸ばすとローガンの足を払った。</p><p>鋼の棒のような蹴りに足を払われ、地面に倒れこむローガンにザイトリードは全体重をかけた肘打ちを追い込む。それを両手で受け止めるローガン。しかし、彼の無防備になった腹をザイトリードはもう片方の腕で渾身の力を込めて殴りつけた。</p><p>ぐっ！</p><p>呻き声をあげながらも、ローガンはお返しとばかりに彼の側頭部に膝蹴りを放つ。たまらずザイトリードは地面を転がり、距離をとった。</p><p>なかなか、やるじゃ、ねぇか</p><p>息を整えながら、ローガンはぼやく。認めたくはないが、ザイトリードもまた同感だった。</p><p>だが！</p><p>ローガンはあえて、先ほどと同じように踏み込み、蹴りを放った。幾ら早く鋭い攻撃といえど、同じ手であれば簡単に対応できる。ザイトリードは僅かに身体をそらし、最低限の動きでそれをかわすとカウンターをローガンに叩き込もうとした。</p><p>その瞬間、彼の全身がいきなり燃え上がる。全身を焼く地獄の業火に、ザイトリードは慌ててその能力を用い、火をかき消した。その鼻面に思いっきりローガンの一撃が決まり、ザイトリードは吹き飛び、壁に叩きつけられる。</p><p>やっぱりその鉛の力使うのに一瞬、溜めがいるみてぇだな</p><p>ニヤニヤと笑みを浮かべ、ローガンはそう言った。</p><p>生前はあらゆる魔術を受け付けなかったそうだが英霊になり、それはあらゆる術を打ち消す能力に取って代わった。一見他者にも使えるようになって能力が強くなったように見えるけどよ。そいつは間違いってもんだ。英雄はその人生で魂を磨き、英霊になる</p><p>ぽんぽんと炎を生み出し、それをお手玉の様に弄びながら、ローガンはザイトリードを見下ろした。</p><p>お前さん、磨き方がちょいと足りなかったみてぇだな。正直、生前の方が強かったと思うぜ</p><p>それは、人の魂を何百年と見続けてきたローガンだからこそわかる事だった。</p><p>目の前の英霊は、最後の最後で己を裏切り、道を違えた。その後悔が彼の魂を曇らせ、弱くしているのだ。</p><p>悪魔よ。お前の、言う通りだ</p><p>ザイトリードは自嘲気味に笑みそして、ローガンを見据えた。</p><p>感謝しよう。貴様と出会えたことを。そして</p><p>ザイトリードは身体を起こした。思えば、彼の人生は周りを否定して生きてきたものだった。魔術を否定し、敵を否定し、あらゆる物を破壊して生きてきた。偉大すぎる父王の威光を嫌い、しかし逆らう事もできず反発しながらも妹を殺し、妻を殺した。</p><p>その結果がこの様だ。悪魔の言葉は彼の耳に痛く響き、痛快に彼の心を殴り飛ばした。</p><p>俺の目を、覚まさせてくれた事を</p><p>もう、否定はしない。思うとおり、自ら信じた道を進む。自らに与えられたもの、持つもの全てを肯定して。</p><p>目の前でザイトリードの姿が掻き消え、彼はローガンの首を掴んだ。そのまま己とそっくり同じだけの大きさを持つ彼を、まるで薄絹でも振り回すかのような軽さで持ち上げ、壁に叩きつける。</p><p>がっ！</p><p>そのまま壁に擦り付けるようにロ－ガンの身体を引き摺り、壁に丸い一文字の溝を掘り抜いて投げ飛ばした。</p><p>ローガンは炎の塊を牽制に飛ばしながら空中でバランスを保ち、距離を取る為に空に浮かび上がる。しかし、ザイトリードはそのすぐ目の前に現れると彼の手首を取って天井に叩きつけ、その反動を利用して一気に地面へと振り下ろした。</p><p>分厚い石畳が砕け散り、床を突き破ってローガンは一階下まで吹き飛ばされた。ザイトリードの肉体の頑強さはその攻撃にさえ耐えたが、流石に全身の骨がバラバラに砕け散る感覚があった。</p><p>おい、さっきから迷宮を破壊しすぎだ</p><p>うるせえ、相手に言え！ なんなんだよ、ありゃあ！</p><p>Olから入る念話に、ローガンは怒鳴り返した。常軌を逸した速さと力。恐らく彼は、法則を無効化したのだろう、とローガンは考えた。空気抵抗や重力。そう言った法則さえ無視できるようになったのだ。余計な事を言わなければ良かったと後悔するが、それはもう遅い。</p><p>上階の天井から、一気に加速して止めを刺しに来るザイトリードの姿がローガンの瞳に映る。自分の戦いはここまでだ。後はOlが何とかするだろう。そう考えたローガンの頭に、再度念話が届いた。</p><p>ろーがん、かったらね</p><p>それは、彼が愛して止まない天使の囁き。</p><p>ちゅーしたげる</p><p>うおおおおお！</p><p>ローガンは思わずガッツポーズを取り、がたっと立ち上がる。勿論、彼が宿るザイトリードの肉体は動けないから、そこから抜け出したローガン本人の身体だ。</p><p>そして、それが偶然、ザイトリードの突進に噛み合った。速度をつけた必殺の一撃。それにカウンターの形で突如突き出た赤い腕に、ザイトリードは己の力を受けて吹き飛んだ。</p><p>あ、あれ？</p><p>勿論ローガンの腕も無事では済まずぐちゃぐちゃにひしゃげたが、半身を砕かれ転がるザイトリードに比べれば随分軽症だ。</p><p>とりあえずローガンは転がるザイトリードの英霊をその身体に押し込み、ぐるぐると縛りつけた。魂は半分砕かれ、肉体も全身骨はバラバラ。流石の英霊もこれならそう簡単には復活しないだろう。</p><p>まあいいか！ おっしゃーマリーのちゅーだ！</p><p>あまりにもあまりな結末は深く考えない事にして、炎の悪魔は能天気に快哉を叫んだ。</p><p>むぅん！</p><p>気合を入れて放った斬撃は、巨木の様に太い竜の前足をスッパリと切り落とした。しかし、その傷はほんの一呼吸ほどピタリとくっ付き、消え去る。</p><p>これは厄介な相手だ。</p><p>振るわれる爪の一撃を交わしながら、英雄王ウォルフは一人ごちた。</p><p>竜の遺骸などと言うものは、それそのものが凄まじい密度を持った魔力の塊に等しい。角、爪、鱗、瞳、血、臓腑に至るまで、体中全てが濃密な魔力を持ち、神秘で出来ている。</p><p>ましてやそれが最古の竜メトゥスであり、魔力と瘴気に溢れたこの迷宮であれば放っておいてもその身は瘴気を取り込みアンデッドと化す。</p><p>しかし、そうであってもウォルフの敵とは呼べぬはずだった。何せこちらは英霊として生まれ変わった身。死ぬ直前のウォルフは天命を背負い、死すべき定めの代償として己の領分をはるかに越える力を振るい、メトゥスを倒した。</p><p>今のウォルフはその時に匹敵する程の力を持っている。若く強い全盛の頃の肉体と、老成し円熟を極めた精神。そして最古の竜を殺すほどの覇気。勿論、英霊である彼は瘴気渦巻くこの迷宮内ではその力を十二分には発揮できないし、相手にとってそれは正逆。不利は承知の上だ。</p><p>それでも尚、彼にはただ瘴気を吸い蘇っただけのメトゥスになら容易く勝つ自負と、能力があった。しかし。</p><p>メトゥスは素早く爪を振りかざし、ウォルフを切り裂かんと振り下ろす。側面に回りながらそれをかわし、一撃を加えようとするウォルフに、爪を振るった勢いでメトゥスは彼に尻尾をたたきつけた。</p><p>剣を一閃、尻尾を切り落としてそれを防ぐウォルフ。しかし、メトゥスは尻尾をピタリと止め、尾を再生させた。尾の断面から無数の触手の様なものが伸び、互いに絡まりあってウォルフを捕らえ、押しつぶそうとする。</p><p>高く跳躍しその隙間から抜け出すウォルフの目の前に、ぐるりととぐろを巻くようにして身体を丸めたメトゥスの顔があった。大きく開かれたその口の中から、猛毒の吐息が吐き出される。その毒性の強さに、壁が溶け、石畳がぐつぐつと煮えるかのように泡立った。</p><p>ウォルフは身体の表面を毒に冒されながらも何とかそれをかわす。</p><p>死から蘇ったメトゥスは、明らかに生前よりもその凶悪さを増していたのだ。硬い鱗を備えた肉の代わりに骨を覆う土は柔らかく容易く切断できるが、すぐに再生してしまう。</p><p>その吐く息の毒性ははるかに強力になり、石を溶かし英霊さえも冒す。</p><p>そして何より厄介なのが、その戦い方だ。幾ら再生能力があろうと、強力な武器を持とうと、その核となっているのはメトゥスの骨だ。骨さえ全て砕いてしまえばメトゥスはただの土くれに戻る。</p><p>しかし、両脚や牙、尻尾を縦横に操り、己の再生能力さえ武器として振舞うその戦い方に、ウォルフほどの英霊を持ってしても攻めあぐねていた。</p><p>その動きに、ウォルフはただの亡者ではなく、何らかの生き物の魂を感じていた。人間ではない。人間であれば、その動きは理に適い読みやすいものになる。これはメトゥスによく似た、本能のまま動く獣の動きだ。</p><p>にも拘らず、彼はそこに確かな知性の輝きをも見出した。突き出された右の爪が途中で止まり、死角から左の爪が襲い掛かる。隙を見せたかと思えば、そこに尾の先端が待ち受ける。わざと剣を受け、ついた傷で次の斬撃を受け止めすり抜ける。</p><p>フェイントや絡め手、奇襲。高い知性を持ったものしか為しえぬはずの動きと、本能に根ざした野生の獣の動き。相反する二つの気配を目の前の巨竜は帯びているのだ。</p><p>認めよう貴様こそが、我が生涯最大の敵であると！</p><p>ウォルフは剣を掲げ、宣言した。そしてメトゥスに背を向けると、目の前の壁を両断する。</p><p>相反する二つの気配。それは、若い頃のウォルフがよく親しんだものとよく似ていた。即ち、よく訓練された軍馬と、それを駆る騎士のものだ。息のあった人馬は時にその力を三倍、四倍と増す。</p><p>そして、メトゥスの細かな動きの癖、傾向から、ウォルフは操り手の場所を読んだ。果たして、ウォルフの切り捨てた壁の向こうにはメトゥスを操っていたものが潜み隠れ、指示を送っていた。</p><p>そのまま剣を突き、一息に首を刎ねようとするウォルフの剣が、一瞬にぶり、止まる。</p><p>その隙は致命的だった。彼の下半身をメトゥスの爪が跳ね飛ばし、残る上半身を踏みつける。地面に押し付けられながら、もう一度ウォルフは操り手を見た。</p><p>小麦色の髪を、ポニーテールにした少女。普段は違う髪形なのか、妙に似合わぬその髪形以外は、似ても似つかない少女だった。あれほどの操り手の正体が素朴な少女であった事にも驚いたが、ウォルフは己が目を疑った。</p><p>何故、一瞬この少女がユニスに見えたのか。</p><p>その疑問に答えるように、少女は言葉を紡いだ。</p><p>一瞬英霊に通じるのはほんの一瞬だけ、ですけど、娘さんに見えるような幻影をOl様がかけていたんです</p><p>ミオはメトゥスに脚を上げるように指示すると、ウォルフの身体を抱き起こした。</p><p>もし、一瞬でも王様が躊躇するようでしたら助けよ。躊躇せぬようであればそのまま踏み潰せ。Ol様は、そう仰っていました</p><p>躊躇していなくても倒せると言うつもりか。く、と喉を鳴らし、英雄王は唇を歪めた。半身をなくしてはどの道これ以上戦えない。</p><p>聖女の命令はOlを殺せであって目の前の娘を殺せではないのだから、最終的な目標が達成不可能になった今、彼女に敵対する意味もない。それよりも彼は、娘自身に興味を持った。</p><p>名は何と言う</p><p>ウォルフは、娘に尋ねた。すると、娘は破顔し、嬉しそうに答える。</p><p>ジョセフィーヌと言います。普段はファイアドレイクなんですけど、今日はこの子の中に入ってもらっててあ、どっちも女の子なんですよ</p><p>娘の名を尋ねたつもりの英雄王に、竜の名を答える少女に、ウォルフは今度こそ大笑いした。</p><p>ジョセフィーヌ、か。よい名前だ。なあ、お前も恐怖(メトゥス)などと呼ばれるより、よほど良いであろう</p><p>暗い迷宮の中、明るい英雄王の笑い声が響き渡った。</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-7</p><p>とりゃあああああああ！</p><p>怪鳥の様な掛け声と共に、不死身は迷宮をひた走っていた。幾多の魔物や悪魔達が彼の行く手を阻んだが、彼は気にせず走り続けた。</p><p>無数の爪や牙、剣が不死身の身体を切り裂き、貫く。しかし、その傷は瞬く間に治癒し、まるで何事もなかったかのように不死身は一直線に最下層を目指す。</p><p>文字通り、不死であるが故の強引な突破方法だった。</p><p>彼の動きが止まったのは、第四階層に足を踏み入れたときだった。</p><p>第三階層から長い長い階段を下りたその先。小さな部屋で待ち受けていたのは、魔王Olだった。ここで初めて、不死身は剣を構えて見せた。彼の魔術だけは、油断がならない。</p><p>その身体が本体じゃない事くらいは知ってる。ダンジョンの核たる瓶の場所もな。通らせてもらうぜッ！</p><p>不死身は風の様な速さで、Olに迫った。その速度はユニスにも匹敵し、その鋭さはザイトリードにすら勝る。歴戦の英霊に相応しい力強さで、不死身は剣を振り上げた。</p><p>しかし、幾ら風の様に走ったとしても、彼は風ではない。その足は大地を踏みしめる必要があり、部屋丸ごとの床が抜ける中では走ることは出来なかった。</p><p>ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ</p><p>長く声を響かせて落ちて行く不死身を見送り、Olはインプ達に埋めておけと指示した。</p><p>長い長い落とし穴の先には無数の槍衾がそびえており、並の人間なら即死、不死身の身体でも全身を槍に貫かれて動けなくなるはずだが、念には念を入れておいて困る事はない。</p><p>他の四人の英霊も、それぞれ十分に足止めできていることを確認し、Olは迷宮の動作を止めた。このままラファニスの首都を踏み荒らし、大神殿を破壊し尽くす事は可能だ。しかし、そうすればメリザンドは逃げ、姿を晦ますだろう。</p><p>そうなると困るのはOlの方だ。彼女が生きている限り、英霊は何度でも呼び出せる。少なくとも死んですぐに再召喚とはいかないようだが、永遠に呼べぬわけではないだろう。龍脈からダンジョンコアが切り離された今、延長戦はOlには不利にしか働かない。</p><p>準備は良いか</p><p>Olの問いに、ユニス、スピナ、リルは頷いた。</p><p>乗り込むぞメリザンド大神殿に！</p><p>その神殿の、最奥部。</p><p>なぁやっぱ逃げません？ ボス</p><p>聖女の間で、不死身はメリザンドにそう尋ねた。</p><p>ならぬ</p><p>しかし、その提案に返ってきたのは何度聞いても同じ答え。強い否定の意志だった。</p><p>あのような術、そう長くは持たん。保って後一日程度であろう。であれば逃げる理由などない。むしろ、ここで討たねば更なる脅威となって襲いくるだろうよ</p><p>や、まぁ、それはわかるんですけどね</p><p>不死身は後頭部をかき、ため息をついた。</p><p>邪悪は全て滅ぼさねばならん。それに、逃げる意味など無い事を、お前は良く知っているであろう</p><empty-line/><p>強い口調で言うメリザンドに、不死身は無言で前髪を掻き毟った。</p><p>その時、二人は同時に侵入者の気配を関知して入り口の方を向く。</p><p>ま、ちょっと出迎えてきますわ</p><p>頷くメリザンドを背に、不死身は部屋を出て、客人を迎えるべく剣を抜いた。聖女の間の前の大広間。ちょうどそこに、Ol達が足を踏み入れているところだった。</p><p>貴様何故ここにいる</p><p>Olは不死身に問う。Olが彼を落とし穴に落としてから、殆ど時は経っていないはずだ。</p><p>さてねそれよりも、一回言ってみたい言葉があったんだ</p><p>不死身は剣を構え、にやっと笑みを見せた。</p><p>ここを通りたくば、俺をたおぉぉ！？</p><p>突如目の前に現れ、剣を振るうユニスの一撃を不死身は辛うじて受け止めた。</p><p>てめぇ、口上の最中に攻撃っぱ！？</p><p>殆ど同時にリルの放った炎の弾丸に、不死身の頭が半分吹き飛ぶ。</p><p>いい度胸してるじゃねえか、どいつもこいつも！</p><p>下半分しかない頭で、不死身は器用に怒鳴った。怒鳴り終える頃にはその頭は完全に復元している。恐ろしいまでの回復速度だ。</p><p>英霊ナメんじゃねぇぞ、オラァッ！</p><p>不死身の振るう剣を、ユニスは後ろに転移してかわす。しかし、それを読んでいたかのように不死身は一歩踏み出し、上段から剣を振り下ろした。Olの防御魔術がその剣を一瞬受け止め、両断される。</p><p>その隙にユニスは身をよじって剣をかわし、開いた不死身の側面にリルが火球を放った。不死身はそれを片手で受け止めると、逆にリルに向かって投げ返す。驚きに硬直するリルの前にスピナが躍り出て、それを手のひらで受け止めた。</p><p>ありがと、Ol、助かった</p><p>不死身から距離を取りつつ、ユニスは言った。</p><p>魔術を投げ返すとか、無茶苦茶ね</p><p>リルは改めて相手の強さに舌を巻いた。身のこなしも魔力の強さも、伊達に英霊ではない。</p><p>でもこっちだってねちょっと滅茶苦茶なのよっ！</p><p>リルは胎内のOlの魔力を使い、無数に分裂して見せた。</p><p>投げ返せるものなら投げ返してみなさいっ！</p><p>氷、炎、稲妻、風の刃。ありとあらゆる攻撃魔術が、不死身に降り注ぐ。不死身は前に走りながら、あえてそれを全て受けた。</p><p>こんなもんで、俺を止められると思ったら大間違いだッ！</p><p>粉々に粉砕され、燃やされながらも不死身は瞬く間に再生し、一刀の元に無数のリルを切り裂く。返す刀でOlを狙う刃を、スピナが両手を広げ庇うように立った。</p><p>構わず、背後のOlごと切り裂こうと剣を振るう不死身の前で、スピナの身体がぐにゃりと歪む。</p><p>そのまま彼女は粘液状に変化すると、不死身の剣を伝い彼の身体を完全に絡め取った。</p><p>なっ！</p><p>身体からスピナを外そうともがくが、スピナの身体は彼の額以外を完全に覆いつくし離れない。その唯一露出した額に手をあて、Olはずっと唱えていた呪文を解放した。</p><p>途端、不死身の手足からは力が抜け、がくりと崩れ落ちる。強力な睡眠の魔術が英霊にも有効である事は、既にユニス相手に実験済みだった。</p><p>思わぬ邪魔が入ったが、後は聖女だ。スピナ、念のため拘束は続けておけ</p><p>こくりと頷き、スピナは不死身を拘束したままもう一体分身を作り出した。</p><p>Olは三人を従え、奥への扉を開く。</p><p>とうとうここまで来たか。魔王Ol</p><p>メリザンドは、厳かにそう言った。その姿を目にした瞬間、スピナは目を見開き、リルは息を飲み、Olは言葉を失った。</p><p>その姿が幼い童女である事は、ユニスから伝え聞いていた。</p><p>何者だ、貴様は？</p><p>震える声で、Olは尋ねた。震える理由が、ユニスにだけはわからない。</p><p>大聖女、メリザンドと言いたい所だが、お前の問いたい事はそうではないのだろうな</p><p>メリザンドは自嘲気味に笑い、そう答えた。</p><p>聖女だと？ ふざけるなこれがこんな、おぞましい呪いを受けたものが、聖女だと？</p><p>それは、魔術師であれば誰もが見て取れるものであり、英霊であるユニスには見えぬもの。</p><p>彼女にかけられた、黒く渦巻く禍々しい呪いだった。</p><p>強力、などと言う次元の話ではない。この呪いに比べれば、Olが今までかけてきた呪いなど、どれもこれも児戯の様なものだ。</p><p>これほどの凄まじい呪いをかけることが出来る存在を、Olはたった一人しか知らない。いや、思い浮かべる事ができない。</p><p>魔道、王</p><p>Olが呟く言葉に、メリザンドは微笑んだ。それは数千年前天に挑み、神を滅ぼした無限の魔力を持つ悪魔たちの王。</p><p>魔道王が作り上げた、けして老いず、けして死なず、けして穢れぬ悪魔達への無限の贄それが、私だ</p><p>微笑むメリザンドは童女のようでありながら、同時に老婆の様に見えた。</p><p>数千年の時を、私はずっと一人で生きてきた。何度も殺され、死ねぬ苦しみを味わいながら、少しずつ知恵を、力を蓄え、悪魔を完全に滅ぼすその日を待っていたのだ。それを</p><p>メリザンドはOlを、この上なく禍々しい瞳で睨みつけた。</p><p>貴様ごときに！ 今更！ 邪魔される訳にはいかぬのだ！不死身！</p><p>はいよっと</p><p>飽くまで軽い調子で現れる不死身に、Ol達は目を見開いた。</p><p>これをやりすぎっとさ。どれが本当の自分なのか、わかんなくなるんだよな。だからあんまりやりたくないんだが</p><p>そういいながら、不死身は自分の腕を切り落とす。すぐさま腕は生え、切り落とされた腕からはそっくり同じ姿をしたもう一人の不死身が現れた。</p><p>二人が四人、四人が八人。切り落とした腕からも、零れ落ちた血からも、沸き立つように不死身が現れ、彼は瞬く間に無数に増えた。</p><p>俺は血の一滴、毛の一本からだろうが復活できる。そこで、問題です</p><p>不死身はピンと指を立て、軽薄に笑った。</p><p>Olの魔窟を走りながら、俺は何滴の血を零したでしょうか？</p><p>ダンジョンコアが攻撃される痛みが、Olの胸を襲った。</p><p>最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-8</p><p>すぐさまユニスは空間を跳躍し、メリザンドに一瞬にして迫った。そのまま電光石火の素早さで聖女の首を、いとも容易く刎ね飛ばす。</p><p>無駄だ。死ぬ事の出来ぬ体だと言っただろう。そこな不死身の様に、不気味に増殖することは出来ぬがな</p><p>首を拾い上げながら、メリザンドは言った。</p><p>不気味とはひでぇな、ったく</p><p>ぼやきながら、不死身はユニスを取り囲んでその両腕を掴み、身体を拘束する。</p><p>！ 跳べない！？</p><p>ユニスは転位して逃げようとするが、法術は全く力を現さず、万力のような力で締め上げる不死身の腕も振りほどくことは出来ない。</p><p>魔術は魔術をもって封印できる。であれば、法術を法術で縛ることもそう難しい事ではない</p><p>淡々と、メリザンドは言った。</p><p>ユニスッ！</p><p>ユニスを救おうと飛び掛るリルとスピナを、増殖した不死身が抑えた。いつしかOlたちの周囲を、無数の不死身が取り囲み、剣を突きつけている。</p><p>身体を押さえつける不死身から逃れようと身をよじるが、リルの魔術も、スピナの粘体化も上手く働かない。</p><p>悪いな。さっきの戦いで、お前さん達の力は解析させてもらった。俺もちょいとは法術が使えるんでね。魔力による動きなら、一回喰らえば大体防げる。爺さん、アンタの魔術もだ</p><p>不死身はOlを拘束し、そう言った。ダンジョンコアを、魔窟の中の不死身達が総出で攻撃している。かなりの硬度を持ってはいるが、後はこれを破壊すれば勝ちだ。</p><p>それを、聖女が止めた。</p><p>なんだい、ボス。敵の味方をしようってのか</p><p>声に嫌な予感を滲ませながら、不死身は尋ねた。</p><p>これだけの被害を与えられて、ただで済ましたのでは気が済まぬ</p><p>メリザンドはすうと目を細め、冷酷な瞳でユニスを指差し、言った。</p><p>この娘を、犯せ</p><p>おいおい、ボス。やめてくれよ、あんたらしくもない</p><p>不死身は努めて軽薄な笑みを浮かべ、へらへらとそう言った。</p><p>二度は言わん。命令だ</p><p>その言葉に、不死身達は悲しげに眉を落とした。</p><p>わかりました、ボス</p><p>渋々そう答え、不死身はユニスの服に手をかけた。</p><p>悪いな、お嬢ちゃん俺もこんなこたしたくないんだけどよ</p><p>そして、一気に引き剥がす。ユニスは声をあげず、奥歯を食い縛りながら炎が噴出さんばかりの瞳で不死身を睨んだ。</p><p>その様子を、面白くもなさそうにメリザンドは眺める。少女が抵抗も出来ず複数の男に犯されるなど、胸糞の悪くなる光景だ。しかし、それでもなお彼女の胸の中の憎しみはそれを命じさせた。</p><p>自分には、いなかった。</p><p>己を愛してくれる人も、己が愛する人も、己を助けてくれる人も、己を認めてくれる人も。誰一人、いなかったのだ。なのに何故、何故魔王の貴様にはそれがいる。メリザンドは、胸中でそう慟哭する。</p><p>穢し、壊してやらねば、気がすまなかった。</p><p>不死身よ</p><p>拘束したユニスを取り囲み、今まさに陵辱を始めようとする不死身にOlは低い声で言った。</p><p>やはり、貴様は、詰めが甘い</p><p>なに？</p><p>拘束され、何も出来ないはずのOlに不死身達は動きを止めて視線を向ける。</p><p>リル。スピナを支えてやってくれ</p><p>！ わかった</p><p>その短い言葉でリルはOlの意図を汲み取り、こくりと頷く。</p><p>ユニス。しくじるなよ</p><p>？ Ol？</p><p>ユニスはその意をはかりかね、彼の顔を見つめる。</p><p>スピナ。或いは、リルかも知れん。しかしやはり、最初に気付くのはお前であろう。頼んだぞ、我が弟子よ</p><p>お師匠様？</p><p>それは、まるで。</p><p>スピナがその考えを意味にする前に、轟音と共に巨大な岩の塊が天井を突き破って落ちてきた。岩の中央には大きく穴が空き、そこから覗いているのは大量の不死身達と、ダンジョンコアだった。</p><p>かつては一層丸ごと埋め尽くしていたダンジョンコアは、今や一室ほどの大きさにまで縮まっている。しかし、これだけあれば十分だとOlは踏んだ。</p><p>巨人の指が、その身に残った最後の魔力を振り絞り、ダンジョンコアを押しつぶす。</p><p>スピナ、ユニスを守れ！</p><p>Olが叫んだ瞬間、ダンジョンコアは粉々に砕け散り、中に入っていた大量の魔力があふれ出してあっという間に液体から気体へと変じた。</p><p>膨大な魔力の圧力は爆風となり、不死身達を吹き飛ばす。魔力と理力は共に正逆。大量の魔力は、理力で出来た英霊の身体を打ち消し、消滅させていく。その爆風の中、スピナは拘束を解かれ、粘体に変ずるとユニスをくるむようにして爆風から守った。</p><p>その場の全ての法術が消え、力を取り戻したユニスは服を作り直すと、スピナとリルの手を取り転移してメリザンドから距離を取った。</p><p>お師匠様がお師匠様が！</p><p>取り乱すスピナの頬を、リルが張り飛ばす。</p><p>落ち着きなさい、ネリス・ビア・スピナ！</p><p>ラズの孫弟子といえど、直接の師弟関係ではない。リルのその言葉は呪的な拘束力を持たなかったが、それでもスピナの心を落ち着かせた。</p><p>Olは、あなたに言ったのよ。頼むって</p><p>雑事や分担ではない。</p><p>本来なら自分がすべき仕事を、Olが初めて、他人に託したのだ。あの、誰も信じなかったOlが。</p><p>Olは生きてる。私がこうしてまだここにいるんだから間違いない</p><p>リルの言葉は半分ハッタリだ。Olが死んだとき魔界に帰るという契約は、彼女がラズの記憶に目覚めたときに破棄されている。</p><p>しかし、彼女はOlの生存を微塵も疑っていなかった。あの、殺しても死なない喰えない爺が、この程度で死ぬ訳が無い。</p><p>私達がすべき事は、核を探し出す事よ。核はメリザンドじゃなかった。Olと同じで、何か核となるものがどこかにあるはずなの</p><p>でも、この神殿の中は全部探したよ</p><p>ユニスはやや気弱に言った。万が一にもメリザンドを取り逃がしてはならないと、神殿の中はくまなく探索した。そのどこにも、核らしきものはなかったのだ。</p><p>そう、なのよね</p><p>リルは眉をしかめ、考え込んだ。魔術での探査も行い、神殿内だけでなく地下や上空も調べた。しかし、見つからない。</p><p>唸りながら考えるリルをよそに、スピナはOlの最後の言葉を思い返していた。彼は、最初に気付くのはスピナだろう、と言った。魔術師としての知識は、リルの方がはるかに上だ。実戦経験ではユニスに敵うべくも無い。</p><p>スピナの長所は、ただスライムであり、魔術や魔力を無効化できるという事だけだ。それでも、Olは彼女を連れてきた。単純な情などに流されるOlではない。つれてきたからには、つれてきたなりの意味があるはずだ。</p><p>やっぱり、生きてたか</p><p>ユニスが苦々しく呟く。彼女の視線の先には、不死身達が大挙して走ってきていた。消し切れなかった分がいたのか、それとも無からでも再生できるのか。いずれにせよ、捕まれば先ほどのやり直しだ。</p><p>スピナ、リル、あたしが足止めするから後、お願いね</p><p>待ってください</p><p>駆け出そうとするユニスを、スピナは止めた。</p><p>Olは、聖女を指して自分に似ていると言っていた。そして、スピナに対しても。ならば、スピナと聖女もまた、似ているのかもしれない、とスピナは思った。</p><p>その考えはそのまま、自分なら核をどこに隠すだろう、という思考へと移った。最大限守りやすい場所に置くのが当然、とOlはいい、しかし神殿にはなかった。</p><p>かといって、大事な自分の魂の様なものを、辺鄙な所に置いておく気にもならないだろう。メリザンド自身はここにいるのだから、自分の目の届くところに置いておきたいと思うはずだ。</p><p>目の、届くところ。</p><p>空に満ちる、理力。</p><p>あたりまえの、力。</p><p>あの時リルは、なんと言いましたか？</p><p>あの時？</p><p>お師匠様が、理力について説明したとき</p><p>言いかけ、スピナは思い出した。パズルのピースが一気に揃い、繋がっていくかの感覚を覚えて、彼女は空を指差して叫んだ。</p><p>あれです核とは、太陽です！</p><p>顔を見合わせたのは一瞬の事。ユニスは二人を抱きかかえると、瞬時に転移した。</p><p>ユニス、さすがに太陽そのものって事は無いはず！ もうちょっと手前よ！</p><p>わかった！</p><p>雲を抜け、上空を駆け、ユニスは見える範囲へ転移を繰り返しどんどん上昇していく。青かった空がどんどん白み、そして黒く染まった頃、それは見つかった。</p><p>星？</p><p>ユニスはそう呟いたつもりだったが、声は出なかった。音を伝える為の大気は、既に周りから失われていたのだ。</p><p>それは、巨大な、あまりにも巨大な球体だった。ガラスの様に透き通り、中にはやはり透明の液体がたっぷりと満たされ、こぽこぽと時折泡が立ち上っていた。</p><p>間違いない。これが、メリザンドの力の源、理力の核だ。太陽の影に隠れ、空を回り、その光を理力として蓄えていたのだ。</p><p>リルはスピナとユニス、そして自分の胎内に納まっている魔力を最大まで引き出し、練りこんだ。声が出せないから、呪文は使えない。ならば、魔力を直接ぶつけるしかない。</p><p>いけーーーーーーー！！！！</p><p>ぐっと突き出された右拳から、弾丸の様に魔力の塊が放たれる。リルは歯を食いしばりながら、魔力を放出し続けた。彼女の身体がどんどん縮み、幼くなっていく。身体を構成する魔力まで振り絞っているのだ。</p><p>変化が現れたのは、彼女の身体が手の平ほどの大きさにまで縮んだときだった。ぴしり、と僅かに入ったひびは瞬く間に広がり、核全体を覆いつくしていく。ユニスはリルとスピナの身体を掴んで、地上へと跳躍した。</p><p>次の瞬間、核は内部に溜めた理力の圧力に耐えかね、爆裂四散した。</p><p>いやはや、負けたね</p><p>太陽の影で破裂する核を感じながら、不死身は呟いた。過去に拘り、囚われたメリザンドと、未来の為に迷宮を捨て、己の命さえ捧げたOlの差か。それとも、味方を信じ、仲間を作ったOlと、孤独なメリザンドの差か。</p><p>いや、単に運の問題なのかもしれない、と不死身は思った。幸運の女神はいつだって身勝手で気まぐれだ。</p><p>不死身の身体は末端からゆっくりと消えていく。理力の供給がなくなれば、増えた身体は維持できないし再生も出来ない。後には本体が残るだけ</p><p>つまり、全ての不死身は消えるという事だ。</p><p>なあ、ボス。いや</p><p>不死身の姿は消え行きながら、最後に本来の姿を取り戻していく。</p><p>性別も、能力も、見た目も、性格もまるで正反対の。</p><p>私。最後まで、付き合えなくて、ごめんな</p><p>メリザンドは英雄ではないし、死んでもいない。その魂を元にして、理力で作った人工の英霊。それが不死身だった。</p><p>それとどうか、出来れば</p><p>その最後の言葉は、伝えられる事の無いまま、消えた。</p><p>呆然とへたり込む聖女の下へ、とん、とユニスは降り立った。彼女もまた理力の供給を断たれ、これ以上法術を使うことは出来ない。が、自分の肉体を持っているお陰で消えることはなかった。</p><p>星核を失った今。私はもはや、何も出来ぬただの子供だ</p><p>ぼんやりと、メリザンドは呟いた。</p><p>好きにするがいい首を刎ねようが、心臓を抉り出そうが死なぬこの身。さりとて痛みは感じる不便な身だ。さぞ、甚振り甲斐がある事だろうよ</p><p>メリザンドは自嘲の笑みを浮かべた。そのような扱いを受けたのは、何千年前のことだったか。</p><p>ならば貴様には、死んでもらおう</p><p>聖堂に響いたその声に、三人の娘は表情を輝かせ、聖女に背を向けて駆け、飛びついた。</p><p>ご主人様！Ol！お師匠様！</p><p>本体をフィグリアにおいていたからな。来るのが遅れた。だが、良くやったな</p><p>頭をそっと撫でられ、今まで見せた事のない笑顔を見せるスピナの隣で、リルは尋ねた。</p><p>Ol、今度はどんな手品を使ったワケ？</p><p>簡単な事だ。俺の命は、最も大事なものに封じてある</p><p>リルは首をかしげ、次の瞬間、胸をときめかせた。ダンジョンコアが一番大事なものじゃない、という事は、それ以外に最初からあるものと言えば、一ついや、一人しかいない。それに、この前の乱交の時、Olはリルの胎内にこれ以上ないほどの精を注ぎ込んだ。まさかあれが伏線だったとは！</p><p>ダンジョン自体だ</p><p>だと思ったよこのダンジョン馬鹿！</p><p>涙目でリルは怒鳴った。</p><p>っていうかそれ、わかっても全部破壊とか出来るわけ無いじゃない</p><p>呆れた様子でユニスはため息をついた。空の上の更にその上に核を浮かべるメリザンドも相当だが、Olはその更に上だ。</p><p>ですが、お師匠様。ダンジョンコアを破壊してしまってよかったのですか？</p><p>ニコニコと緩む頬を抑え、冷静さを取り繕おうと無駄な努力をしながらスピナは問う。</p><p>ああ、問題ない。その為に魔力はたっぷり女達の中に保存しておいたからな。ダンジョンの維持をしなければ100年は持つ。もう一度ダンジョンコアを作るのに、70年はかからんだろう</p><p>一度作ったものだし、今度はリルもいる。フィグリア王家の後ろ盾もある。10年もあれば同じ物を作れるというのがOlの試算だった。</p><p>さて、聖女メリザンド。力を失ったとは言え、お前はあまりに危険だ。このまま野放しにするわけにはいかん。よって、死んでもらう</p><p>死んでもらうだと？</p><p>メリザンドは嘲笑った。</p><p>どうやってこの身を殺すというのだ。魔道王の呪いは、いかなる魔力、理力を持ってしても消せぬ、解けぬ。解くには呪い自体が成立せぬよう、この世から悪魔全てを消さねばならぬ！ 貴様にそれが出来るというのか、魔王Ol！！</p><p>言葉は徐々に熱を帯び、最後は泣き叫ぶようにメリザンドは声を張り上げた。</p><p>出来るわけ無いだろう</p><p>それに対するOlの反応は淡白なものだった。</p><p>消せぬものならば、消さねば良い。入って来い</p><p>Olの声に入ってきたのは、マリーとローガンだった。</p><p>うえ、なんだコイツ</p><p>メリザンドを見るなり、ローガンは山羊の様な顔をしかめ気持ち悪そうに言った。</p><p>ローガンの好きな、清純で美しい幼女じゃないの？</p><p>不思議そうにユニスは問う。悪魔への贄の為に用意された少女なのだ。ローガンから見れば、これ以上なく魅惑的な相手に見えると思っていた。</p><p>馬鹿いうんじゃねえよ、幼女ソムリエことローガン様ナメんな。天然と養殖の違いがわかんねぇとでも思ったのか</p><p>心底嫌そうに言う悪魔の言葉に、メリザンドはがっくりと膝をついた。悪魔を憎み、恐れた数千年。その果てにあったのは、その悪魔にも相手にされぬ呪われた身だったのだ。</p><p>ははははは、ははははははは！</p><p>もはや、笑いしか出てこない。ぼたぼたと涙を流しながら、メリザンドはただひたすらに笑った。</p><p>メリザンドよ。ここな娘は、俺の元に生贄として送られてきた少女だ</p><p>そんな彼女に、Olはぽんとマリーの頭に手をのせて言った。</p><p>そして、俺が健やかに育つよう呪いをかけた娘でもある。同じように老魔術師に呪いをかけられた、同じように贄の少女。年の頃も背の高さもちょうどお前と同じ、髪も金と白で近い</p><p>お師匠様、それは！</p><p>それは呪術を元にした魔術。似たもの同士を関連付け、人を蛙にするように、王子を白鳥にするように、人を人に変える、呪い。</p><p>解けぬなら、上から更に呪いをかけてしまえばよいのだ。お前の身体はこれから、マリーと共に成長し、マリーと共に齢を取る。聖女メリザンドよ、お前には死んでもらう。失われた時を生き、人間の様に歳を取り、人間の様に老いて、死ね</p><p>メリザンドの瞳から涙が溢れ、慟哭が彼女の胸を突く。</p><p>これから、よろしくね、めりー</p><p>そんな彼女の手を取って、マリーはにっこりと微笑んだ。</p><p>エピローグ</p><p>身に着けているのはボロボロの灰色のローブで、それも狭い地下道の埃と土にまみれ、その惨めな様相をいっそうみすぼらしくしている。腰につけたランタンもかなりの年代物で、辛うじて男とその周囲を照らしている。</p><p>あー、ご主人様、こんな所にいた！</p><p>その背を見つけ、リルは両手を腰にあて声を上げた。</p><p>もう、何してんの！ こんなボロボロになって、もう！</p><p>リルが指を振ると、彼の格好はあっという間にみすぼらしいローブ姿から、それなりに整った服装へと変わった。</p><p>ここだけは、自分の手で掘り当てておきたくてな。リル。ここを覚えてはいないか？</p><p>壁の向こうに広がる部屋を指し、Olは尋ねた。</p><p>忘れるわけ、無いでしょ</p><p>リルは部屋に入ると、ゆっくりと空中で足を組んだ。</p><p>そうだな一生を、共に生きてくれ</p><p>真っ直ぐリルを見つめ、言うOlにリルは顔を真っ赤にした。</p><p>ちょ、Ol、そんな台詞じゃなかったでしょ！っていうか、何、もう、不意討ちやめてよ、えっと、もう、やだ、こんな場所で</p><p>返事は？</p><p>身体をくねらせ、しきりに髪を弄るリルにOlは手を差し出した。</p><p>はい。喜んで</p><p>リルは、そっとその手を取る。</p><p>何イチャイチャしてるんですか！</p><p>地獄の底から響くような声をあげ、地面からスピナが立ち上った。</p><p>あたしはとっくの昔に、永遠の愛を誓っちゃってるからねー</p><p>ぽん、とユニスが空中に現れ、Olの首に抱きつく。</p><p>そんな事より！ 準備が出来ましたから、上に来てください！</p><p>ぷりぷりと怒りながら、スピナはOlの手を引っ張る。この数年で、まるで能面のようだった彼女の表情は随分豊かになった。</p><p>彼女の言う上とは、迷宮の上数年前まではOlタウンと呼ばれていた街の事だ。</p><p>よーぉ我らが魔王様！ ようやくお出ましかい？ お姫様達がお待ちかねだぜ</p><p>その入り口に立ってニヤニヤと笑みを浮かべるのは、相変わらず胡散臭い盗賊のキース。彼がもたれる門の上には、でかでかとこう書かれていた。</p><p>ようこそ！Olシティへ！</p><p>実際、街は都市と呼んでも差し支えのないくらいの規模に膨れ上がっていた。三年前、予想を大幅に上回る5年と言う年月でダンジョンコアを完成させ、ダンジョンの運営を再開すると冒険者達はどこからともなく集まり、あっという間にまた街を作り出した。</p><p>今や財宝も置いてないしOlに賞金をかけるような王もいないのだが、魔力をたっぷりと蓄えた魔物達の死骸が十分に財宝となるらしい。お互いを金と餌とにしながら、魔物と冒険者達は今日も仲良く殺しあっている。</p><p>今度お店にも遊びに来てくださいね、魔王様</p><p>にこやかに手を振るノーム。彼女はOlシティの商人ギルド長に就任し、街の経済の一切を取り仕切っている。もはや富など必要ない地位に位置しているはずなのだが、彼女は相変わらず週あたり金貨10枚でOlに買われ、定期的に抱かれていた。</p><p>それが商人としての矜持なのか、捻くれた愛情表現なのかは、彼女のギフト真実の瞳をもってしてもわからない。</p><p>オーウルー様ー！</p><p>街の中心の城へと向かう途中、空からかけられた声に目を向けると、巨大な竜がゆっくりと舞い降り、窮屈そうに広場に着陸した。</p><p>ウォルフ、街を壊すなよ</p><p>誰に口を聞いておる。そのようなヘマをするものか</p><p>竜は呵呵大笑した。鉄で出来た肌を持つこの竜は、メトゥスの死骸に英霊ウォルフが宿ったものだ。その背から、ひょいと飛び降りる小さな影にOlは手を上げた。</p><p>久しいな、Faro。いつ帰ったのだ？</p><p>たった今だよ！ 今日は記念すべき日なんでしょ？</p><p>Faroは再び冒険者となり、世界中を文字通り飛び回っていた。旅の共に英霊王と言う、なんとも豪華な旅だ。ウォルフも王より気ままな旅生活の方が性に合っているらしく、随分と楽しそうだ。</p><p>その時、Olは殺気を感じて数歩後ろへ下がった。途端、地面がザイトリードの豪腕に砕かれ、そのこめかみが見事なユニスの跳び蹴りで吹き飛ばされる。</p><p>街を壊すなって何回も言ってるでしょ！</p><p>ぐっだが、俺はまだコイツをお前の伴侶と認めてはいないぞ！</p><p>ザイトリードはOlを指差し唸った。そんな彼に、ユニスは冷めた目で言った。</p><p>お兄様には関係ないでしょ。ウザいから口出ししないで</p><p>冷たい妹の言葉に、ザイトリードはガックリと両腕を突き、項垂れた。そんな彼をまあまあと彼の妻、ヒルダが慰める。幻影によってザイトリードに殺された後、Olは彼女を蘇生していた。</p><p>頭を下げ、許しを請う英霊に他の女と見間違うなんて酷い！と叫び平手打ちした彼女の啖呵は今でも語り草だ。殺されたこと自体は全く恨みに思っていないらしい。英雄の妻になるだけの事はある。</p><p>Ol様、ただいま戻りました</p><p>その背に大量の魔獣達を引きつれ、ミオはぺこりとOlに頭を下げた。</p><p>また増えたのか</p><p>ザイトリードは各地を荒らす怪物を退治しにいっているという事だったのだが、彼が魔物を倒したという話はここ数年全く聞かない。代わりに、Olの迷宮にすむ魔獣達は年々数を増すばかりだ。</p><p>はい！ この子がローレルであの子がラヴィニア、こっちがリンゼイで</p><p>いや、いい、わかった</p><p>ミオのネーミングはいつの間にかKを経て、最近ではLから始まる名前ばかりになっていた。まさか、と思いつつ尋ねると、思ったとおり彼女は今まで育てた全ての動物に、Aから順に思いつかなくなるまで名前をつけているらしい。</p><p>全ての名を覚えているのか、と尋ねた魔王に、素朴な娘は勿論ですと笑顔を見せた。</p><p>Zまで網羅する日もそう遠くは無かろうな。ミオの方がよほど魔王に相応しい</p><p>大地を揺るがす轟音で笑うウォルフに、ユニスは耳を塞いでお父様煩い！と怒鳴る。Olは内心で半ばウォルフに同意しつつも、彼らに別れを告げて城へと向かう。</p><p>主殿！ どうだ、見事な猪だろう！</p><p>その途中で、獲物を吊り下げ配下を連れたエレンとセレスに出会う。彼女達はOlシティに程近い森に集落を作り、今では完全に和解して暮らしている。今日は祝宴に使う料理の為に、森で摂れた獣達を持ってきてくれたらしい。</p><p>Ol様、それよりも私達のヘラジカの方がきっと美味しいと思います</p><p>にっこりと微笑むセレスに、エレンはむっと眉を吊り上げる。</p><p>目方であれば我々の用意した猪の方が上だ</p><p>頭数であれば私達の鹿の方が上です</p><p>二人は火花を散らし、にらみ合う。会う度いがみ合っているが、あれはあれで互いにじゃれあっているようなものらしい。まともに相手するのも馬鹿らしいので、Olは専門家に丸投げする事にした。</p><p>そんな事より、さっきミオが帰ってきていたぞ</p><p>おお、それは本当か！？ 久しいな、これは腕によりをかけねば！いいか者ども、血の一滴、肉のひとかけたりとて無駄にするなよ。獣の魔王の怒りが炸裂するぞ</p><p>それはもう、身に染みてわかってます、はい</p><p>神妙な表情で、エレンの配下の一人が頷いた。</p><p>ミオは食べる為に獣を殺す事を禁忌しない。が、それを無駄にすると笑顔のまま烈火の如く怒った。森の住人であるアールヴよりも命に厳しい、と密かにエレンやセレスの配下達にOlより恐れられていることを、ミオは知らない。</p><p>では、祝宴の用意は頼んだぞ</p><p>はっはいっ</p><p>折り目正しく返事するアールヴ達を後にし、Olは城へと入る。</p><p>Ol様、お待ちしておりました</p><p>城の広間に入ると、煌びやかな衣装に身を包みオリヴィアとその娘達が出迎えた。今年オリヴィアは40を迎えるはずだが、その外見は未だ20台で通る若々しさだ。むしろ若返っている感すらある。</p><p>長女のパトリシアも今年で24。咲いたばかりの花びらは見事に咲き誇り、気品高く美しい大輪の薔薇を思わせる美女に成長していた。</p><p>対する次女プリシラはちょうど20。蕾は花開き、薔薇の様に美しいパトリシアとは対照的に、百合の様な可憐で愛らしいおっとりとした美女になった。</p><p>その後ろで、彼女らの妹と娘をあやしているのはローガンだ。4つの腕を器用に使い、幼い子供から新生児まで、総勢12名の子供達の面倒を見ている。</p><p>よう旦那！ どんどん子供作ってくれよ！くぅー、素晴らしいなこの幼女ハーレムは！</p><p>手を出したりしたら、魔界に攻め込んで本体ごと滅ぼしてやるからな</p><p>あったりまえよ！ いつも心に紳士の掟、YESロリータ、NOタッチ！！</p><p>滅べばいいのに</p><p>ぐっと親指を掲げてみせるローガンに、スピナがぼそりと呟いた。</p><p>Ol様、準備は万事整っております</p><p>近隣住民の避難はOKですっ</p><p>魔力回路の接続もトリプルチェック完了済み。問題ありません</p><p>広間の玉座に座るOlに、ナジャ、Shal、ウィキアがそれぞれ報告した。彼女達は冒険者を引退し、それぞれ冒険者、僧侶、魔術師のギルド長としてその腕を存分に振るっている。</p><p>Olさま。いよいよだね</p><p>あれから8年か長かったようで、短かったな</p><p>Olの前に、真っ白なドレスを着た目の醒める様な美少女が二人、姿を現した。まるで双子の様にそっくりに育った彼女達は、唯一髪の色だけを異にしている。マリーとメリー。彼女達は今年で14になる。と言っても、メリーの方は実年齢はプラス数千ではあるが。</p><p>ああ。では、始めるぞ</p><p>Olは手を掲げ、声を張り上げた。</p><p>スターコア起動。迷宮よ、浮上せよ！</p><p>大広間のガラス張りになった天井の、はるか上空。そこに位置するのは、メリーが星核と呼んでいた理力の器だ。</p><p>以前のダンジョンの最大の欠点は、巨人として動かすと龍脈から切り離され、魔力が補充できない事だった。その欠点を理力で補ったのが、今回の迷宮。新たなOlの魔窟だ。</p><p>地下に存在する迷宮と、宙を舞う浮島に掘られた迷宮の最深部は理力によって互いに結ばれ、同一の存在となっている。ちょうどマリーとメリーの様に、擬似的な双子の関係だ。</p><p>地下で得られる魔力をダンジョンコアで回収しつつ、それを理力で空へと転送し核となるOlシティへと送る。理力と魔力、天使と悪魔。二つの異なる力を同時に砕かねばOlの迷宮は攻略できず、世界のどこであろうと宙を舞うOlシティから侵攻が可能。</p><p>これが、8年間の研究の間に練った構想の集大成だった。迷宮自体を空に飛ばすという発想はスピナの、それと地下の迷宮を二重化するという発想はメリーのものだ。</p><p>では、また魔王の治世の始まりだな</p><p>メリーはそういい、Olにしな垂れかかった。</p><p>メリー？ わたしが先だよ</p><p>む、す、すまない、マリー</p><p>にっこりと微笑んで元聖女を押しのけ、マリーはOlの腕に自分の腕を絡ませた。二人の精神的な力関係は、どうやらマリーの方が上らしかった。今日は迷宮を空に飛ばすと共に、彼女達二人の処女をOlに捧げる予定となっている。</p><p>魔王かまあ、8年前の戦いで、ノウハウは本をかけるくらい溜まったからな</p><p>迷宮が失われている間に、属国のいくつかは反旗を翻し、独立している。それを再び攻め滅ぼすのも悪くは無い。</p><p>魔王になる為の手引書でも書いてみますか？</p><p>くすりと微笑み、スピナが尋ねた。</p><p>まず70年研究して、穴を掘るところから始まる本って手引書じゃなくて物語でも大体の人が挫折すると思うよ</p><p>それを受け、ユニスも笑う。</p><p>そこはそれ、やっぱり私と会うあたりからでいいんじゃない？タイトルは、そうだな魔王の始め方とかでさ</p><p>先ほどの事を思い返し、幸せそうにリルはいった。</p><p>それも、悪くは無いかも知れんな。しかし、どうせ描くのならば、過去よりも未来が良かろう</p><p>Olは天を振り仰ぎ、そこに描かれた地図を見た。8年間でほぼ完成した、大陸の地図。しかしそれは、ユニス達が空の果てから見た世界全てと比べるとほんの小さな範囲でしかないという。</p><p>海の向こうにはまだ見ぬ大陸と、幾つもの国がある。</p><p>次は一つ、神でも目指してみるとしよう</p><p>Olは妻達を抱きしめ、ニヤリと笑ってそう言った。</p><p>おまけ 最終ダンジョン解説</p><p>エピローグ終了時点でのダンジョン。</p><p>階層数：5+5+1階層</p><p>瘴気：±100</p><p>悪名：120</p><p>貯蓄魔力：200（単位：万/日）</p><p>消費魔力：100（単位：万/日）</p><p>地のダンジョン</p><p>以前のOlのダンジョンを地下に埋設し、龍脈と繋ぎなおしたもの。全5階層。周囲から流入する妖魔や魔獣、悪魔達が守護しており、中は瘴気にまみれ、人間や天使、英霊など正に属するものはその力を減退させられる。深い階層ほど敵や罠はその凶悪度を増し、最下層から天のダンジョンの最下層へと転移する事が出来る。</p><p>天のダンジョン</p><p>地のダンジョンの写し身。構造自体は同じなのだが、罠や敵の配置、テレポーターの転位先などががらりとかわっており、地のダンジョンと同じと思って進むと酷い目にあう。主に天使が守護しており、中は神気にまみれ、悪魔や妖魔、魔獣など魔に属するものはその力を減退させられる。浅い階層ほど敵や罠はその凶悪度を増す。</p><p>魔王城</p><p>天のダンジョンの上にあるOlの城。居住スペースではあるものの、その大半は迷宮の様に複雑なつくりになっており、実質一階層分のダンジョンである。天地と魔王城を合わせて、Olの迷宮は全11階層といえる。全体が強固な結界に覆われ、外壁自体も分厚く出入り口もないため、空中から直接進入するのはまず不可能。居住スペースなので罠はないが、チートクラスの魔王の側近が大量に住んでいる為突破はかなり無理ゲー。</p><p>Olシティ</p><p>かつてのOlタウンが、地のダンジョンと共に発展した姿。大量の冒険者と、それを相手に商売をする商人達（その大半が元冒険者）からなる、どの国にも所属しない自治領。その性質上、犯罪者やその予備軍が大量に集まっているが、住民の大半がある程度の戦闘能力を持っている為に街中の治安はそれほど悪くない。世界でもっとも命の値段が安い街。</p><p>スターコア</p><p>メリザンドが星核と呼んでいた、魔力の代わりに理力を蓄えるダンジョンコア。理力は光と共に太陽から降り注いでおり、魔力に比べて貯蓄効率は悪い。それをダンジョンコアの魔力で補佐する事によりまかない、互いに互いを修復しあう為に、片方を攻撃するだけでは破壊することは出来ない。</p><p>ミオ（魔物使いLV99)</p><p>獣の魔王の異名で呼ばれることになった、世界最強の魔物使い。ありとあらゆる魔に属するものと意思を通わせ操作することができ、魔獣は同調する事で視線を合わすことすらなくその動きを操り、体内の機能を操作する事で本来以上の力を発揮させたり、傷を回復させる事もできる。彼女が操る魔獣は戦力がおよそ+3される。</p><p>ウォルフinメトゥス</p><p>恐怖の名で知られる世界最強の竜に、世界最強の英霊が乗り移ったチート中のチート。その身体は土くれのかわりにドヴェルグが作った鉄の肌で覆われており、いかなる武器も魔術も寄せ付けない。更にその身体をミオが補佐する事により、体内の毒素を圧縮して弾にして吐き出したり、翼を刃にして切り裂いたり出来てなんかもうこの人達だけでダンジョンの防衛設備なんかいらないんじゃないかな。</p><p>ザイトリード</p><p>戦力：14</p><p>あらゆる術を無効化し、更に自己に働く物理法則すら無視できるという最強クラスの英霊。のはずなのだが、彼を超えるチート的存在が身近にいるので目立たなくてかわいそう。</p><p>光と闇が両方そなわり最強に見える究極ダンジョン。天使側がいっても悪魔側がいってもマイナス補正を喰らう酷い仕様。攻略するには不倶戴天の敵同士が手を取り合うしかないが、そこまでしても大抵の侵入者は地力で負けるほどの戦力を誇る。天のダンジョンは天空を自在に移動可能なので、自ら攻め込む事も可能。空中からの大型兵器や天使の投下による攻撃に耐えられる国は今のところ存在しない。悪名は上限を突破し、一部では生ける神として崇拝、信仰する人間も出てきた。</p><p>閑話 永遠の乙女を愛しましょう</p><p>宙を舞う魔王の迷宮。その中央に位置する城の、更に最奥。</p><p>そこに、魔王の寝室はあった。</p><p>いくら王の寝室とは言えその広さは大広間といって良いほど巨大さを誇っており、間違いなく城の中でもっとも大きい部屋だった。その中央には10人が横になっても余りあるほどの巨大なベッドが設えられており、普段は王を慕う女達がその上で毎夜嬌声を上げていた。</p><p>しかし今は、そのベッドの端に腰掛ける魔王と、二人の幼い少女だけが、その広い部屋の中に存在していた。マリーとメリー。二人の少女が、その純潔を魔王に捧げる日がようやく来たのだ。</p><p>Olさま、まずはご奉仕するね</p><p>マリーはそういい、ベッドに腰掛けるOlの帯を解き、慣れた手つきで下穿きをずらすと、彼の剛直を取り出した。</p><p>んんむ、ちゅん、ちゅぅ</p><p>精の詰まった袋を優しく舐めあげ、竿を食むようにして上り、先端を舌を尖らせてなぞる。</p><p>随分、腕を上げたものだな</p><p>齢14にして熟練の娼婦のようなその舌使いに、Olは思わず呻き声を上げた。</p><p>リル直伝だもん。ほら、メリーもしっかりOlさまにご奉仕して</p><p>う、うむ</p><p>にっこりと笑顔を見せるマリーとは裏腹に、緊張した面持ちでメリーはOlのものに舌を這わせた。マリーが6歳の時から彼女も共にOlに奉仕しているが、彼女の技巧は一向に上手くならない。それは、魔道王の呪いのせいだ。</p><p>彼女の身体はけして老いず、死なず、穢れない。上書きした呪いによってその身体はマリーの身体と同期して成長していくが、魔道王の呪いが効力を失ったわけではないのだ。彼女の性技は一向に上達を見せず、恥ずかしさに慣れる事もない。</p><p>すまぬな、Olよ</p><p>申し訳なさそうにそういいながら、メリーは一生懸命Olの物に舌を這わせ、舐めしゃぶった。技術はなくとも、常に初々しく頬を染めながら懸命に奉仕するその姿は、数年前のマリーを思い起こさせる。</p><p>それはそれで乙なものだとOlは思っていたのだが、マリーは違う意見を持っているようだった。</p><p>メリーは、Olさまへのけーいが足りないとおもうんだよね</p><p>真面目な表情で、マリーはそう言った。</p><p>お前が言うか。Olは一瞬そう思った。小さい頃から彼女はOlに甘え放題で、敬意を抱かれているとは思ってもいなかった。</p><p>だからね</p><p>こそこそと耳打ちするマリーに、メリーは顔を真っ赤にして首をぶんぶんと横に振った。</p><p>む、無理だ、そんな事言えぬ。は、恥ずかしさで死んでしまう！</p><p>不死身だからだいじょーぶ！ はい、がんばって！</p><p>ぽんと背中を押すマリー。メリーは顔を耳まで真っ赤にして、Olを上目遣いで見た。</p><p>ご、ごしゅじんさまどうか、わたしのくちを犯してくださいませ</p><p>そういって、彼女は口を大きく開けて舌を突き出し、目をそっと閉じた。</p><p>口内を性器に見立て、犯せということらしい。</p><p>いいのか？ 容赦はせんぞ</p><p>確認するOlに、彼女は目を閉じたままこくりと頷いた。Olはいきり立つ剛直を彼女の口の中に入れると、メリーの頭を両手で抑えて奥まで突き入れた。これならメリー本人の技巧など関係なく、Olは彼女の口を存分に楽しむことが出来る。</p><p>んっ、ぐ、んむ、んんんっ</p><p>苦しげに眉を寄せながらOlの物を受け入れる彼女を嬉しそうに見て、マリーはOlに抱きつきその唇を奪った。</p><p>メリーの口内を蹂躙するOlの肉槍と、絡み合うマリーとOlの舌。二つの異なる水音が、ちゅぷちゅぷと部屋の中にしばし響き渡る。</p><p>ん出す、ぞ！</p><p>背筋をぞくぞくと駆け抜ける快感に、Olは口をマリーから離すと、メリーの喉奥に剛直を突き入れ、大量の精を放った。喉を突かれる感覚にえずき涙を浮かべながらも、メリーは健気に放たれるそれを嚥下した。</p><p>はぁはぁごしゅじん、さまきもち、よかったですか？</p><p>ああ。良かったぞ</p><p>頷くOlに、メリーはぱぁっと花開くように表情を綻ばせた。技術を磨くことも出来ず、身体付きもマリーからの借り物である彼女がOlを絶頂に導けたのは、これが初めてだったのだ。</p><p>ん、きれいになったよー</p><p>精液とメリーの唾液に塗れたOlの肉棒を、マリーは丁寧に舐め取り、清めた。</p><p>あ、すまぬ、マリー</p><p>本来ならば二人でするはずだった作業を思い出し、メリーはようやく我に返る。</p><p>大丈夫。じゃあいくよ、あれ</p><p>鏡に写したようにそっくりな二人の少女は、Olの前に並んで立つとスカートを捲り上げた。その中には下着はなく、まだほとんど茂みも生え揃わないシンプルな秘部が二つ、Olの目に露わになる。</p><p>どうぞ、わたしたちの処女をもらってください、ごしゅじんさま</p><p>二人は声を合わせ、恥ずかしげにそう言った。</p><p>誰の差し金だ、それは</p><p>Olは思わず跳ね上がる鼓動を押し隠しながら訪ねた。</p><p>えっと、Shalとプリシラとリルと</p><p>いやいい、わかった</p><p>大体予想通りの名前が挙がり、Olは制止した。情操教育に悪い女達が揃いすぎているせいで、処女なのにこの出来上がりっぷりだ。己の娘達の教育は気をつけなければ、とOlは心の中のメモに書きとめた。</p><p>では、服を脱いでベッドに横になれ</p><p>はーいわ、わかった</p><p>元気に返事をし、二人はいそいそと服を脱いでその生まれたままの姿を晒した。8年前は膨らみも括れもなかったその身体は、いまやすっかり女に目覚めていた。まだ膨らみは慎ましやかではあるものの、そこかしこが丸みを帯び、ふっくらとしている。それでいて腰はきゅっと括れ、思春期の少女特有のアンバランスな色気を醸し出していた。</p><p>マリーが仰向けにベッドに横たわると、メリーはその上に覆いかぶさるようにして横になった。いわゆる貝合わせのような体勢だ。</p><p>では、入れるぞ</p><p>うん</p><p>流石に緊張した面持ちで、マリーは頷いた。Olに奉仕しながら自分で弄っていたのか、既に十分に潤いを湛えたそこに、Olはなるべく痛みを与えないように配慮しながらゆっくりと突き入れた。</p><p>んあっ！</p><p>く、ぅ！</p><p>マリーとメリーは同時に、痛みに顔をしかめて声を上げた。マリーの身体はメリーにとっての肉体と同義だ。マリーに与えられた肉体の変化は、そのままメリーにも伝わる。</p><p>大丈夫か？</p><p>うん</p><p>マリーは鼻声で、頷いた。その目尻から一筋、涙が流れる。</p><p>痛いか？ 魔術で軽減するか、それとも一旦</p><p>少し焦りを見せるOlに、マリーは首を横に振る。</p><p>ちがうの。うれしくてやっと、Olさまに、抱いてもらえたから</p><p>マリーにとってOlは絶対的な保護者だった。ありとあらゆる脅威から守り、包んでくれる彼に女としての恋慕を抱いたのは、いつの頃からだっただろうか。わけもわからず彼が喜んでくれるというだけで行っていた性奉仕は、いつしか彼女の喜びとなっていた。</p><p>泣きながら笑う彼女の胸に、ぽたりと別の涙がこぼれた。メリーもまた、涙を流していた。しかしそれは、マリーの肉体に引きずられたのだけが原因ではない。</p><p>私も嬉しい。これが、破瓜の痛み女としての、喜びなのだな</p><p>彼女は呪いによって、穢す事は出来ない。これは比喩表現ではなく、単純に挿入すら出来ないのだ。数千年前は口内性交などという概念自体がなかった為に口は問題ないようだったが、彼女の膣には性器を入れることは出来ない。</p><p>永遠に女としての喜びなど知ることもなく生きていく、それが彼女に科せられた運命だった。それが今、擬似的にとは言え破られたのだ。</p><p>もっと教えてくれ、ご主人様私に、女の喜びを</p><p>ああ。たっぷりと教え込んでやる</p><p>Olはメリーの背に口付けを落としながら、マリーへ抽送を再開した。</p><p>あぁっ、ごしゅ、じんさまぁだいすき、ずっとだいす、きぃ</p><p>あぁぁ、ごしゅじんさま、もっともっと、あいして、あぁぁぁ！</p><p>二人の少女の声は折り重なり、響きあう。同じ顔を持つ少女達は、快楽に溶ける相手の顔をまるで鏡のように見つめあった。興奮に真っ赤に染まり、口の端からよだれを垂らして善がる己と同じ顔に、二人の興奮は更に高まっていく。</p><p>いくぞっ、マリー、メリー！</p><p>ふああぁぁぁぁぁぁぁっ！！</p><p>あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ！！</p><p>胎内に注ぎ込まれる熱い感覚に、二人は声を上げ、気をやった。</p><p>なにしてんの、こんなところで</p><p>なんでもねぇよ、ほっとけ</p><p>月夜を背に城の屋根に座り込むローガンに、リルは笑いかけた。</p><p>マリーの事、気になるの？</p><p>まぁ、な</p><p>存外あっさりと、ローガンは認めた。</p><p>そりゃ、あそこまで育っちまったら守備範囲外だ。けどまぁ、情は移るわな</p><p>虚空に浮かべた炎を四本の腕で器用にお手玉しながら、ローガンは呟いた。</p><p>あ、でも勘違いすんじゃねぇぞ！お前みたいな半端もんとは違うんだからな。飽くまでまぁ、可愛く育ててたヒヨコが鶏になっちまったみてぇなもんだ</p><p>あまり人間に入れ込みすぎるのは、悪魔にとってあまり名誉なことではない。</p><p>はぁ人間ってのはどうしてああ、生き急ぐんだろうな</p><p>そして、お互いに幸福なことでも、ない。</p><p>覚えとけよ、小娘。魔術を極め形代に身を移そうが、その生は悪魔に比べりゃ長くねえ。対して、悪魔なんてのは基本的に何千年だろうが生きる。生きちまう。旦那とも、いつかは別れる運命だ</p><p>数千年を生きるローガンの言葉には、重みがあった。</p><p>ま。その時はOlも悪魔にしちゃうだけだけどね</p><p>リルの言葉に、ローガンは舌打ちする。</p><p>お前みたいな例がそうそうあってたまるか。奇跡みたいなもんだ。それにしたって、お前はラズって人間とは違う。旦那の魂を元に悪魔を作ったって、そりゃあ旦那じゃねえ。別の何かだ</p><p>そっか。やだねー、悪魔って。まあ、ご主人様が死んだら、一緒に私も滅んでもいい、かもね</p><p>ま。そうは言っても、数百年は結構長いぜ？たった数十年しか生きてない小娘が今から落ち込むこたねぇよ</p><p>くしゃりとリルの頭を撫で、ローガンは立ち上がる。</p><p>それに長く生きてりゃ、そんだけいい事だってあらぁな。あー！ 今から楽しみだなぁマリーとメリーの娘！</p><p>そして、いきなり相好を崩して鼻の下を伸ばしに伸ばした。</p><p>さぞかし可愛いんだろうなぁしかも身体を同期させてるから、絶対に二人生まれるんだぜ、ひゃっほー！ロリハーレム万歳！ ローレム万歳！ ローレムン万歳！ ローガン万歳！</p><p>あはは、コイツマジ滅びればいいのに</p><p>しかし、マリーとメリーの子はOlの子でもある。彼は沢山、沢山子孫を残すだろう。悪魔であるリルは子供を残すことは出来ない。しかし、Olの子供達を見守って生きていくのも、悪くはないのかもしれない。</p><p>そう気付かせてくれたお礼に、しばらくの間は滅ぼすのを勘弁してあげよう。</p><p>リルはそっと、そう思った。</p><p>番外編1ある邪悪なる領主の一生</p><p>フィグリア王国ゴールドマン領の領主、ゼニスキー・ゴールドマン伯爵は醜悪な男であった。身体はでっぷりと肥え太り、たるんだ三重顎の上には冗談の様に巨大な顔が乗っていた。ブツブツとした大きな鼻の上には不釣合いなほど小さな目が乗り、殆ど頭髪のない頭をいつも帽子で隠している。</p><p>彼は前王フィグリア8世の時代からの領主であったが、かの魔王の部下といわれれば誰もがなるほどと頷き、実はトロールとオーガの合いの子であるなどと言う噂が流れるほどの風貌をしていた。</p><p>その性格は暴虐かつ残忍で、領民から何人もの娘を拉致するかのように召し上げては慰み者にし、民には重税を科して己は贅沢の限りを尽くしていた。</p><p>そんな彼がかわったのは、フィグリア王国が魔の国と名を変え、魔王に統治されるようになってからだ。</p><p>汚職は見逃す。が、上手い事やれ</p><p>それが、魔王の方針だった。</p><p>まず、ゼニスキーは税を今までの倍にした。既に重税に喘いでいた領民達は一斉に直訴しにきたが、ゼニスキーは彼らを手厚く持て成し、増税は魔王の意向である事、復興に必要である為一時的であることを説明した。</p><p>そして、それからも度々彼らを屋敷へと招くと、豪勢な料理を振る舞い、自らは質素な食事で晩餐を共にした。更に、冬が近づくと屋敷にあった美術品を売り払って金に替え、特に貧しい領民に配り冬を無事越えられるよう配慮する。</p><p>終いには、ゼニスキーは自身の邸宅を一般解放し、誰でも泊まれるようにした。そして自分はその隣に小さな屋敷を建て、住み始めたのだ。勿論一般的な家に比べれば十分大きい屋敷だが、今まで住んでいた豪邸や他の領主の邸宅に比べれば驚くほど小さく、質素なものだ。</p><p>そうした行動に、領民達は徐々にゼニスキーを慕う様になっていった。悪いのは魔王であり、領主ではない。いや、領主様がかわったのは魔王の統治になってからだ。悪かったのは前王なのでは？ そんな評判が立ち始めたのだ。</p><p>しかし、勿論ゼニスキーは改心してなどいなかった。Olの助言に従ってうまくやっただけだ。</p><p>新しく作った屋敷の地下には、以前の邸宅に数倍する大豪邸が作られていた。掘ったのはOl配下のインプどもなので、領民には全く知られていない。ゼニスキーはそこで悠々自適の暮らしをしていた。</p><p>増やした税のうち、半分は領民に施しと言う形で返し、半分は自分の懐に納める。勿論王が定めた増税などと言うのは嘘だ。そうとも知らず、愚かな領民達は自分達の懐から出て行った金を返されて喜んでいた。</p><p>増税で貧しくなり、身売りした者たちは優先的にゼニスキーが保護した。温かい言葉をかけ、手ずから料理を作って振舞ってやると、男も女も面白いように感激し、ゼニスキーに忠誠を誓った。</p><p>泣き喚く女を無理やり手篭めにするのも悪くないが、心の底からゼニスキーに心酔し、奉仕する女の姿は彼に至福の味わいを感じさせた。何せ、この体格、この面相だ。女から好意を寄せられたことなど、生まれてから一度もなかった。</p><p>そうするうちに反乱の芽は見る間に縮小し、ゼニスキーの仕事は一気に減った。大した災害もない領地で、彼の仕事はもっぱら内乱を治めることだったのだ。</p><p>空いた時間で、彼は手慰みに料理を勉強してみた。人の心を支えるものは誇りと食事。そのどちらか、または両方を与えてやれば衆愚は簡単に転がる。そう教えてくれたのも、魔王陛下だった。</p><p>元々凝り性で美食家だったゼニスキーは見る間に料理の腕を上達させ、いつしか自分の食事さえ自分で作るようになった。油と砂糖に任せた豪勢な食事は、バランスよく素材の味を生かした素朴だが味わい深い料理へとかわった。</p><p>そうするにつけ、徐々に彼自身にも変化が訪れた。人一人入っているのではないか、と噂されるほどでっぷりと超え太っていた体格が少しずつほっそりとし、顎からはたるみが消え、鼻や頬を覆っていたブツブツの出来物はすっきりとした肌に成り代わった。</p><p>勿論、それでも醜男であることには変わりなかったが、以前の様に忌み嫌われることはなくなった。奴隷から拾い上げ、育て上げた娘の一人が彼に愛を告白すると、ゼニスキーは身分の差も気にすることなく彼女を妻に召し上げ、女遊びをぱったりやめた。</p><p>そして領地から奴隷制度を廃すると、自ら孤児院を建設。自身もその孤児院の院長として、孤児たちに教育を施し、一人前の大人になるよう尽力した。</p><p>ゼニスキーは何も変わっていない。自分では、そう思っている。以前と変わらぬ、強欲な下衆のままだ。自分を院長と慕う子供たちの視線の、なんと心地良いことだろう。己の子を抱く妻の、なんと愛しいことだろう。</p><p>自分は下衆だ。この幸せは誰にも渡さぬ。例え相手が魔王であろうと、どんな汚い手を使ってでも己の幸せを守り抜いて見せよう。</p><p>そう意気込むゼニスキーに、魔王陛下は一言こういった。</p><p>それで良い。汝は汝が思うまま、邪悪であれ</p><p>ゼニスキーは、感涙にむせび泣いた。ああ、奴隷達はこんな気持ちだったのか、と心から理解し、そして魔王陛下に改めて忠誠を誓った。</p><p>かくして、ゼニスキー・ゴールドマン伯爵は邪悪なる領主を名乗り、その長い生涯を終えるまで領民に愛され続けた。</p><p>大勢の子と孫、そして領民達の涙に見送られながらも、彼は安らかな笑みを湛えたまま、旅立った。</p><p>その行く先が天国であるか地獄であるか。それは魔王でさえ知らない。</p><p>番外編2迷探偵マリーの華麗なる事件簿</p><p>わたし、探偵になる！</p><p>唐突にそんな事を言い出す、自分と同じ顔をした少女にメリザンド今はメリーと呼ばれているは、目を丸くした。</p><p>ええといきなりどうした、マリー？</p><p>Olが彼女に、成長し死ぬ事のできる身体を与えてから2年が経った。新しいダンジョンコアはまだ出来ていないため、スピナがその代わりの役を果たし、今は彼女が作ったダンジョンでの仮暮らし生活だ。</p><p>これみたいに！</p><p>そう言って彼女が突き出したのは、最近流行っていると言う娯楽本の写しだった。メリーも薦められて読んだ事があるが、行く先行く先で殺人事件が起こるという呪いを受けた魔術師が、子供の姿を模した形代に入って催眠呪文をかけ、冴えない中年を操って事件を解決するという荒唐無稽な物語だった。</p><p>メリーからしてみると推理もトリックも甚だしく破綻しているのだが、子供達の間では人気らしい。挿絵が大量に挟まれていて、この手の小説としては読みやすいのも人気の秘訣だとか。</p><p>ともあれ、マリーはメリーにとっては恩人の様なものだ。</p><p>死と成長とをメリーに与えてくれただけではない。天真爛漫な彼女の言動は、孤独と虚無感に包まれたメリーの心と人生を癒し、満たしてくれた。</p><p>彼女が傷つけば同じ場所が傷つき、彼女が病に苦しめばメリーもまた苦しむ。同様に、彼女の喜びはメリーの喜びだ。数千歳年下の双子の姉の望みをかなえてやろう。メリーは、そう誓った。</p><p>と言うわけで死んでくれ</p><p>おいふざけんな産廃ババア</p><p>居丈高に言うメリーに、ローガンは苛立たしげにそう言った。マリーと同じ外見をしてはいるが、メリーに対しては彼の態度は非常に悪い。曰く、見た目が美味そうでも、1000年経っても腐らないパスタを食いたいと思うか？という事らしい。</p><p>マリーがそれを望んでいるのだ</p><p>よし今日中に死ぬ。どういう死亡原因がいい？</p><p>しかし、マリーの名を持ち出すと彼はあっさりと態度を軟化させた。あの幼い少女の為に行動するという点のみにおいて、この不倶戴天の二人の意見は合致を見せる。</p><p>全身の皮膚をそぎ落とし、穴と言う穴に焼けた鉄の棒を差し込むというのはどうでしょう？</p><p>天井から滴り落ちるかのようにスピナが姿を現し、そう提案した。</p><p>なにそれこわい</p><p>本気でやりかねない相手に、ローガンは震えた。</p><p>Olの弟子か。盗み聞きは感心せんな</p><p>メリーはむっと表情を曇らせる。</p><p>そう言われましても、この迷宮は殆ど私の体内の様なものですから。それに、役者は多い方がいいのではないですか？</p><p>ふむ言われてみればそれもそうか</p><p>考えてみれば死体役だけでなく、犯人役もいる。</p><p>犯人の候補も何人かはいた方がいいだろう。</p><p>はいはい！ あたし助手の役ね！</p><p>ぽん、と姿を現し、ユニスが手を上げた。</p><p>面白そうね。私も暇だし付き合っちゃうよー</p><p>闇の中からじわりと染み出すように、リルが姿を現す。</p><p>駄目だ、助手は私の役だからな。容疑者が3人まあ、良いところであろう</p><p>適当に言い当てても1/3だ。探偵役がマリーなのだから、その程度でちょうど良いだろう。</p><p>じゃあ、やっぱり指の先から一寸ずつ鎚で潰していくとか</p><p>バラバラ死体もいいよね！ ほら、バラバラにした死体をバッグに入れて運んで、アリバイを作るって言うトリックが</p><p>いやそれ、俺本気で死ぬからね？</p><p>和気藹々とローガンの殺人手段を相談しあう娘達を眺めながら、メリーは筋書きを組み立てた。それは彼女が今まで立ててきたものに比べると凄まじく単純で稚拙なものだったが、数千年生きた中ではかりごとをこれほど楽しんだのは初めてのことだった。</p><p>ローガンー、メリーが呼んでるよー。ローガンーローガン？</p><p>マリーがメリーに頼まれ、ローガンを呼びに行ったときのこと。彼女は扉を叩くが、ローガンは返事をせず出てもこない。</p><p>ローガン、ローガンー！</p><p>どんどんと扉を叩くが反応がなく、ノブを回しても鍵がかけてあるのか扉は開かない。</p><p>どうしたのですか？ マリー</p><p>途方にくれるマリーに、そうスピナが声をかけた。</p><p>あっ、ソフィ！ ローガンが出てこないの</p><p>それはおかしいですね。扉を開けてみましょう</p><p>スピナは指先を粘体化させ、鍵穴に差し込むとかちゃりと鍵を外す。扉を開けると、ローガンはうつ伏せになって地面に倒れ伏していた。その胸にはぽっかりと穴が空き、指先は血で地面におっぱいと書いてあった。</p><p>そのダイイングメッセージを見てスピナは予定に無いことをするんじゃありませんこの駄悪魔が！と思ったが、マリーの目の前で消すわけにも行かず平静を保つ。</p><p>ローガン？ こんなところで寝てると風邪引くよ？</p><p>マリーはローガンの身体をゆさゆさと揺らす。</p><p>マリーローガンは死んでいます</p><p>マリーはスピナを見上げ、驚きに目を見開いた。その大きな瞳に、じわりと涙が浮かぶ。</p><p>ローガン！ ローガン！ しんじゃだめええぇぇぇっ！！やだ、やだよぉ、そんなのやだあぁぁぁぁぁ！！</p><p>そして、大声で泣き始めた。その反応に、流石のスピナもぎょっとする。</p><p>ど、どうしたの！？</p><p>慌ててユニスとリル、メリーも部屋に駆け込んでくる。</p><p>ろーがん、が、ろーがんがぁあぁ！</p><p>まさかこんなに本気で泣くとは思っても見なかったメリー達は、お互い焦った表情で顔を見合わせた。</p><p>（ど、どーすんのよこれ！）</p><p>（マリー、結構ローガンの事好きだったんですね）</p><p>（あっ、このロリコン何幸せそうな顔してんの！）</p><p>（とにかくマリーを泣き止ませねば！）</p><p>4人は視線だけでやり取りを交わすと、マリーを泣き止ませに入る。</p><p>マ、マリー、大丈夫！ 大丈夫だから！ ローガン悪魔だからこのくらいじゃ死なない！</p><p>ほんとう？</p><p>リルはうんうん、と頷く。同じ悪魔である彼女の保証に安心したのか、マリーはしゃくりあげながらも何とか泣き止んだ。</p><p>それよりもマリー、これは殺人いや、えーと、死んではいないからとにかく、事件だ。名探偵マリーの出番だぞ！</p><p>続くメリーの言葉に、マリーは表情を輝かせた。</p><p>じけん！？ たんていの出番！？</p><p>内心胸を撫で下ろしながらも、メリーは頷く。</p><p>この事件を解決できるのは、マリーしかおらん。さあ、謎を解いてくれ！</p><p>マリーはぐしぐしと服の袖で涙を拭うと、真剣な表情で頷く。</p><p>ローガン仇はきっと取るからね</p><p>いや死んでないって言ったでしょ。リルは喉まででかかった言葉を何とか飲み込む。</p><p>そして、マリーはすっと手を上げると、堂々と宣言した。</p><p>なぞはすべてとけた！</p><p>もう！？</p><p>早いよマリー！</p><p>犯人はそふぃだっ！</p><p>ビシッ、とマリーはスピナに向けて指をさした。</p><p>念の為、理由を尋ねてもいいですか？</p><p>腕を組み、引きつった笑みを浮かべてスピナは問う。マリーは自信満々に答えた。</p><p>いちばん、やりそうだから！</p><p>100%あてずっぽうじゃないですか！？</p><p>スピナは思わず叫んだ。</p><p>一体何の騒ぎだ</p><p>それを聞きつけたのか、眠そうな表情でやってきたのは魔王にして彼女達の主Olだった。ここ数日、彼は新しいダンジョンコアの設計が大詰めに入っているとかで、ろくに睡眠もとらずに研究に没頭している。</p><p>大詰めだけにその仕事を手伝う事もできず、かといって他に特にする事もなかったのが今回の話が盛り上がった原因でもある。要するに皆、暇を持て余していたのだ。</p><p>Olさま、ローガンがね、しんじゃったの</p><p>（あ、ヤバい、Olに話通してない）</p><p>そんな忙しい彼にままごとに付き合ってくれとも言えず、今回の話はリル達だけの間でしかしていない。Olは地面に横たわるローガンを見て、眉をひそめた。</p><p>あ、あのね、ご主人様、ちょっと話があるんだけど</p><p>状況を報告しろ。これはどういうことだ</p><p>Olは固い声色で尋ねた。その表情は眠そうではあるが、真剣そのものだ。</p><p>鍵が、かかってて！ 部屋にはいったら、ローガンしんでたの</p><p>一生懸命、マリーは説明した。一通りの説明を受け、Olはなるほどと頷く。</p><p>外部のものがこの迷宮に足を踏み入れれば、即座に警報が鳴る。つまり、内部の犯行というわけだ。加えて、この部屋が密室であったことから考えて</p><p>Olはその場に集まった者たちを指すように手を広げて腕を伸ばすと、重々しく言った。</p><p>犯人は、この中にいる</p><p>（それはノってるの！？ それとも本気で言ってるのー！？）</p><p>Olの真剣そのものの表情に、リル達は主の心中をはかりかねて戸惑った。</p><p>うんだから、わたしがこのなぞをとくの！</p><p>やはり真剣な表情で真っ直ぐOlを見つめるマリーに、彼はふむと唸る。</p><p>確かに、この中で容疑者から外れるのはお前だけだな。マリーにローガンは殺せまい。いいだろう犯人探しはお前に任せる</p><p>ま、待ってよOl！ あたし達の誰かがローガンを殺したって、本気で言ってるの？</p><p>ユニスの問いに、リルとスピナは胸中で彼女に拍手を送った。本気で言ってるのか、単に遊びだと察して乗ってくれてるのか。後者であれば、彼はこの言葉に何らかの合図を送ってくれるはずだ。</p><p>いつも言っているだろう</p><p>Olは生真面目この上ない調子で答えた。</p><p>人は、必ず裏切る</p><p>（本気だったぁぁぁぁぁぁぁ！！）</p><p>（そうだ、こいつこういう奴だった！）</p><p>リル達は頭を抱えた。</p><p>とにかく、犯人を見つけだそう。まずは現場を調べなければな、マリー</p><p>そんな彼女達の苦悩はさておき、メリーはマリーを優先した。</p><p>うん！</p><p>元気よく頷き、マリーは改めて現場を確認した。</p><p>ローガンの死因は胸の傷。剣で一突きにされていた。もちろん彼は死んでいないが、死んでしまえば悪魔は闇の塊になって消えてしまうから仕方がない。</p><p>ばったりとうつ伏せに倒れ、おっぱいとダイイングメッセージを残している。</p><p>それを目にし、マリーは叫んだ。</p><p>だから早いって！ もっとよく考えて！？</p><p>マリーは周囲を見回した。ユニスを見、スピナに視線を投げ、そしてリルを見つめる。そしてその豊かな双丘を指差して宣言した。</p><p>はんにんはおまえだ！</p><p>胸を指ささないで！</p><p>反射的に胸を両腕で隠し、リルは叫ぶ。犯人はOlに処断されかねない今、彼女達も必死だ。</p><p>待って、よく考えて！ ローガンは胸を刺されて即死してるんだよ！？ダイイングメッセージなんて書いてる暇ないじゃない！</p><p>リルの言葉にはっとして、マリーはローガンの死体を見た。</p><p>まって！</p><p>そしてリルに手の平を向け制止すると、しげしげとローガンを見て、言った。</p><p>ローガンはそくししてるダイイングメッセージなんてかけるわけがない！</p><p>うんそれ今私がいったよね？</p><p>リルはちょっと黙っていてくれ</p><p>メリーに言われ、釈然としない表情でリルは口をつぐむ。</p><p>呟き、マリーは顔を上げると、Olの足元にすがりつくようにしてぴょんぴょん飛び跳ねた。</p><p>Olさま、みみかしてっ</p><p>なんだ？</p><p>屈んで耳をマリーに向けるOlに、メリーは素早く法術をかけた。眠気を強化され、彼の意識は瞬く間に夢の世界へと向かい、その場に崩れ落ちた。</p><p>マリーはさっとその後ろに隠れると、出来る限り低い声色を作っていった。</p><p>なぞはすべてとけた</p><p>いや今、目の前で隠れむぐぅ</p><p>余計な事を言おうとするリルの口を、スピナが塞ぐ。</p><p>はんにんはおまえだ！</p><p>そう言って、マリーはユニスを指差した。</p><p>いや、マリーが指しちゃ駄目じゃん</p><p>ふーんあたしが犯人だって言う証拠でもあるの？</p><p>リルの呟きを無視して、ユニスは不敵に腕を組み、マリーを見下ろした。マリーはこくりと頷き、彼女の腰を指差す。</p><p>だって血のついた剣持ってるもん</p><p>あっちゃあ～バレたか～</p><p>彼女の腰には抜き身の、血のついた剣がぶら下げられていた。</p><p>さすがマリー、名探偵だね！</p><p>えへへ</p><p>誉める真犯人の言葉に、マリーは照れてモジモジとはにかんだ。それを一同は微笑ましく見つめる。しかし、その表情は一瞬後、恐怖に凍りついた。</p><p>ユニスまさかお前が裏切者だったとはな</p><p>迷宮の主が怒気をはらんだ眼差しで見つめていたからだ。</p><p>あ、あのね、Ol、これは</p><p>いかなる理由があろうと、裏切り者は処罰しなければならん</p><p>止めようとするリルをぐいと押しやり、Olはユニスに近付き彼女に覆いかぶさるように、抱きついた。</p><p>罰としてこのまま俺をベッドに運べ。眠くてかなわん</p><p>軽いどころの話ではない処分に、ユニスは目を見開いた。</p><p>ただの茶番よりは、多少は暇も紛れただろう？</p><p>Olはニヤリと笑ってみせる。</p><p>や、やられた！</p><p>私は最初から、そういう事だとわかっておりました！</p><p>悔しそうにリルは唸り、スピナはうそぶく。</p><p>もしかしてお仕事終わったの？</p><p>両腕にOlを抱きかかえながらユニスが問うと、Olは欠伸を噛み殺しながら答える。</p><p>設計はな。明日からは、実際の製作の開始だお前達にも手伝って、もらうからそのつもりで</p><p>言葉の途中で段々彼の言葉は不明瞭になり、ゆっくりと目を閉じる。</p><p>おつかれさま、Olさま</p><p>その琥珀色の髪を撫で、マリーは囁いた。</p><p>じゃあ、寝室までご主人様を運びましょうか</p><p>はーい！</p><p>リルの言葉に元気よく返事し、5人の娘達はOlの身体を支えてその場を出て行く。</p><p>Ol爆発しろ</p><p>その後に、起き上がるタイミングを逃し、倒れ伏したたままのローガンを残して。</p><p>番外編3マリタロウ</p><p>マリタロウ</p><p>むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんとおばあさんとおばあさんが住んでいました。</p><p>おばあさん多い！？</p><p>そもそも、リルはともかく私達までお婆さん扱いなのは</p><p>まあまあ、おじいさんはOlなんだからいいじゃない</p><p>おじいさんは山へダンジョン掘りに、おばあさんとおばあさんとおばあさんは川へせんたくに行きました。</p><p>おばあさん達が川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました。そして、瞬く間に流れさっていきました。</p><p>ごめん地下水脈の流れ舐めてた！ はやいはやい！</p><p>任せてください、はっ！</p><p>黒髪のおばあさんは即座に粘体化すると、桃を拾おうと手を伸ばしました。</p><p>あ、駄目です桃重い</p><p>スピナー！？</p><p>しかし、桃の重さと流れの速さに引きずられ、一緒に川を流れていきます。</p><p>任せて！ はっ！ あ、駄目だ、桃ほんと重い</p><p>ユニスー！？</p><p>赤い髪のおばあさんが瞬時に転移しますが、彼女もまた流されていきます。</p><p>一体お前達は何をやっておるのだ</p><p>結局おじいさんに助けられ、呆れ顔でいわれてしまいました。</p><p>とにもかくにも、おじいさんとおばあさんとおばあさんとおばあさんは桃を食べようと桃を切ってみることにしました。</p><p>黒髪のおばあさんは鉈を構え、斜めから袈裟ぎりに</p><p>って待てー！ 何で斜めに切るの！？ 縦か横にしておきなさいよ！</p><p>中の人を確実に両断しようと</p><p>両断するな！ ちゃんと縦に切りなさい、縦に</p><p>羽の生えたおばあさんに言われ、黒髪のおばあさんは渋々縦に切りました。</p><p>すると、なんと中から元気の良い女の赤ちゃんが飛び出してきました。</p><p>これはきっと、神さまがくださったにちがいない。</p><p>子どものいなかったおじいさんとおばあさんとおばあさんとおばあさんは、大喜びです。</p><p>桃から生まれたので、おじいさんとおばあさん達は女の子をマリタロウと名付けました。</p><p>いや待って。桃関係ない</p><p>そもそも女の子にタロウって</p><p>マリタロウはスクスク育って、やがて愛らしい女の子になりました。</p><p>そしてある日、マリタロウが言いました。</p><p>わたし、鬼ヶ島へ行って、わるい鬼を退治します</p><p>マリタロウはおばあさん達にきび団子を作ってもらうと、鬼ヶ島へ出かけました。</p><p>旅の途中で、イヌに出会いました。</p><p>マーリタロさん、マリタロさん</p><p>イヌは歌いながら、マリタロウに近付き、言いました。</p><p>お腰につけたその野太いおチンポでこの雌犬のオマンコズポズポ犯して奥にたくさん精液注ぎ込んで赤ちゃん孕ませてくださいぃぃぃ！</p><empty-line/><p>わたし、女の子だからおちんぽないよ？</p><p>そうですか、残念です</p><p>酷い出オチでした。</p><p>でも、Olさまならたくさんしてくれると思う</p><p>ついていきます、地の果てまでも！</p><p>こうして雌イヌがマリタロウのおともになりました。</p><p>そして、こんどはサルに出会いました。</p><p>マリタロウさん、マリタロウさん</p><p>サルは生真面目な調子でマリタロウに話しかけました。</p><p>お腰に付けたきび団子を１つ下さい。そうすれば、おともします</p><p>うん、いいよあっ</p><p>マリタロウは腰に何もつけていないことに気付きました。</p><p>作るだけ作ってもらって、受け取るのを忘れたのです。</p><p>ごめん</p><p>いえ</p><p>サルは少し困って考えると、言いました。</p><p>なくても大丈夫です</p><p>いいの？</p><p>はっ。Ol様から、マリタロウ様をお守りせよと言いつかっておりますので</p><p>サルはおじいさんの回し者でした。</p><p>こうしてサルもマリタロウのおともになりました。</p><p>ママリタロ、さん、ぜぇ、はぁマリ、タロウ、さんはぁ、はぁ</p><p>そしてこんどは、キジに出会いました。</p><p>キジは全力で走ってマリタロウに追いつくと、息も絶え絶えに声をかけました。キジは体力が無いのです。</p><p>だいじょうぶ？</p><p>だいはぁはぁじょ、はぁごめ、はぁやっぱはぁ、はぁ、無理</p><p>マリタロウは優しい子なので、彼女の体力に一定の理解を示しました。</p><p>マリタロウ。このきび団子を忘れているわ</p><p>キジは息を整えると、髪をかきあげてきび団子を渡しました。おばあさん達から預かっていたのです。</p><p>ありがとう！</p><p>べ、別にあなたの為じゃないから勘違いしないで。おじいさんに頼まれたから、仕方なくもってきただけなんだから</p><p>キジは酷いツンデレでした。</p><p>じゃあ皆で、きびだんご食べよう！</p><p>マリタロウが包みを開くと、そこには5つのきび団子が入っていました。</p><p>素朴で暖かい、羽の生えたおばあさんのきび団子。</p><p>不恰好だけど心の篭った、赤い髪のおばあさんのきび団子。</p><p>究極まで真球に近付く事を追求した、黒髪のおばあさんのきび団子。</p><p>そして丸く整った几帳面さが滲み出るのは、おじいさんの作ったきび団子です。</p><p>4人はそれを分け合い、美味しく食べました。最後に残った一つは、真っ黒で怪しげなきび団子でした。</p><p>それはけして食べてはいけないと言っていたわ</p><p>一体何を寄越したんだ、Ol様！？</p><p>ロクでもないものに決まっていました。</p><p>こうして、イヌ、サル、キジの仲間を手に入れたマリタロウは、ついに鬼ヶ島へやってきました。</p><p>よくここまで来たな、マリタロウ</p><p>鬼ヶ島では、四本の腕と山羊の頭を持つ赤い鬼が待ち構えていました。</p><p>その時点で大体オチが読めるので、鬼との戦いは省略します。</p><p>待て待て待て待て！ 省略すんなー！？</p><p>省略します。</p><p>ふざけんな！ 断固俺は戦うぞ！</p><p>仕方ありませんね。マリタロウさん、黒いきび団子を投げてください。</p><p>おい地の文、ナチュラルに登場人物と会話すんな</p><p>マリタロウがぽーいと投げると、きび団子は鬼の顔にべっとりと張り付きました。</p><p>なんだこりゃ</p><p>鬼がきび団子を拭い取ると、団子はうねうねと蠕動しながら鬼の身体を取り込んで瞬く間に巨大化しました。</p><p>スライムじゃねーか！</p><p>そうです、黒い団子は黒髪のおばあさん特製、魔喰いスライムだったのです。</p><p>だったのです、じゃねぇぇぇぇぇぇえ！！</p><p>魔力で出来た悪魔もとい、鬼はひとたまりもありません。</p><p>とうとう鬼は、</p><p>まいったぁ、まいったぁ。こうさんだ、助けてくれぇ</p><p>と、手をついてあやまりました。</p><p>しかしその頃には、マリタロウとイヌとサルとキジは、鬼から取り上げた宝物をくるまにつんで、おじいさんの手配した地下道を通って家に帰っていました。</p><p>放置プレイしかしそれもマリーの愛と思えば！マリーちゃんマジ天使！</p><p>断末魔の声をあげ、鬼はこの世から消え去りました。死にました。</p><p>おじいさんとおばあさんとおばあさんとおばあさんは、マリタロウの無事な姿を見て大喜びです。</p><p>黒いおだんごありがとね、そふぃ</p><p>べ別に、あなたの為に造ったわけではありません。勘違いしないで下さい</p><p>黒髪のおばあさんも酷いツンデレでした。</p><p>そしておじいさんとおばあさんとおばあさんとおばあさんとマリタロウとサルとイヌとキジは、宝物のおかげでしあわせにくらしましたとさ。</p><p>めでたし、めでたし</p><p>ミオが本を読み終わると、マリーはすやすやと寝息を立てていた。</p><p>っていうか地の文ミオだったの！？</p><p>リルの言葉に、にっこりと笑顔でミオは頷く。</p><p>キャラ変わってない？ 大丈夫なの？</p><p>大丈夫です</p><p>ミオは胸を張っていった。</p><p>これは番外編ですから！</p><p>酷いメタネタだ！</p><p>めでたしめでたし。</p><p>配役</p><p>おじいさん・・・Ol</p><p>おばあさん・・・リル</p><p>おばあさん・・・ユニス</p><p>おばあさん・・・スピナ</p><p>マリタロウ・・・マリー</p><p>雌イヌ・・・Shal</p><p>サル・・・ナジャ</p><p>キジ・・・ウィキア</p><p>鬼・・・ローガン</p><p>きび団子・・・魔喰いスライム</p><p>逃走経路・・・真メインヒロイン（ダンジョン）</p><p>地の文・・・ミオ</p><p>現実のツッコミ・・・リル</p><p>番外編4魔王の後日談</p><p>時系列はいずれもエピローグのちょっと後です</p><p>- 1 -</p><p>太陽の光を受けて輝くスターコア。</p><p>それを見つめながら、ゆっくりとメリザンドは聖句を紡いだ。それは聖なる霊を呼ぶ声。</p><p>紡いだ詩は糸となって天へと登り、彼女の失われたもう一つの半身を紡ぎ上げた。</p><p>これはまあ、随分と見違えたな、ボス</p><p>彼は記憶にあるのと全く同じ軽薄な笑みを浮かべ、そう言った。</p><p>美しくなっただろう？</p><p>ああ。綺麗になったな</p><p>不死身の記憶にある幼い彼女とは、まるで違う姿。しかしそれでも彼は相棒の姿を見誤ったりはしなかった。同じ魂から削り出された英霊。いわば、彼もまたメリザンドの双子の様なものだからだ。</p><p>ところでこれはどういう状況なんだい？アレからそんなに時間は経ってないはずだけど魔王は一体どうしたってんだ？</p><p>呼んだか？</p><p>影から姿を現す魔王の姿に、一瞬不死身は身を強張らせる。しかし、彼に向けるメリザンドの表情を見て、彼は全てを理解し警戒を解いた。</p><p>なるほど、ね。ボスが世話になったみたいだな</p><p>短く答え、魔王は頷いた。</p><p>まあ、追々説明してやる。時間はたっぷりとあるといっても以前に比べたら、随分減ったがな</p><p>嬉しそうに笑い、メリザンドは言った。</p><p>それよりザンドよ、一つ聞きたいことがあるのだが</p><p>なんですか、そのザンドってぇのは</p><p>メリザンドの言葉を遮り、不死身は尋ねた。</p><p>私は今、メリーと呼ばれている。ならばお前はザンドだろう。いつまでも不死身などと呼ぶのも味気ないしな</p><p>少女は見た目の歳相応の笑顔を浮かべ、似合わない尊大な口調でそう言った。</p><p>お前、最後に何か言いかけていって消えただろう。8年間、ずっと気になっていたのだ。なんと言おうとしたのだ？</p><p>問う彼女の頭をくしゃりと撫で、不死身いや、ザンドは笑みを返し、意地悪く言った。</p><p>教えてやんねぇ</p><p>な！ 貴様、何の為に呼んだと思ってるんだ！</p><p>ははははは！ マジでそんな事の為に英霊呼んだのか、馬っ鹿じゃねぇのかあんた！</p><p>両手をあげて掴みかかろうとするメリザンドの頭を抑えながら、ザンドはこみ上げてくる笑いを我慢せずに解放した。</p><p>教える必要などない。もう、その後に続く願いは成されているのだから。</p><p>- 2 -</p><p>その主の性格をそのまま部屋にしたかのような、塵一つ落ちていない執務室。耳が痛くなるほどしんと静まり返ったその部屋の中には、微かに羽ペンの走る音だけが響いていた。</p><p>まるで空中に固定されてでもいるかのように机の上を見つめ、ペンを走らせていた部屋の主であり、グランディエラ王国の宰相トスカンはふと顔を上げた。</p><p>にわかに部屋の外が騒がしくなり、どたどたと粗暴な足音が聞こえた。不心得者でも乱入したか。トスカンは傍らの杖を手に取り、構えた。しかし、ふとその足音に妙な既視感を感じた。遠い昔に、それと同じ音を聞いたことがある気がする。</p><p>彼がその記憶を思い出す前に、扉は豪快に蹴破られた。</p><p>トスカンいるか！</p><p>無礼者、と叫ぼうとしたままの体勢で、トスカンはあんぐりと口を開けた。</p><p>おお、いたいた</p><p>扉を蹴破り、ニヤニヤと笑みを浮かべるのは見間違えるはずも無い。髪も髭も真っ白になってはいるが、彼が仕え、その生涯で最も多く時間を共にした王英雄王ウォルフディールその人の姿だった。</p><p>へ陛下？</p><p>トスカン様！ 陛下の姿を真似た不届き者が、ここに！</p><p>そこに、槍を持った兵士達が駆けつけてきた。トスカンはその光景を見て、久方ぶりに感じる頭痛を覚え、兵士に向かって手を振った。</p><p>問題ない。彼は私への客人だ。少々、性格に難があるがな</p><p>し、しかし</p><p>良い。少なくとも、敵ではない。下がっていろ</p><p>トスカンの言葉に不承不承ながらも、兵士達はその場を離れた。</p><p>性格に難があるとは、いってくれるな、トスカン</p><p>あなたならば誰にも気付かれずに侵入する事もできるでしょうに、わざわざ私の仕事を増やしてくれたのですから、そのくらいは受け入れてください。お久しゅうございますな、陛下</p><p>跪くトスカンを、ウォルフは制止した。</p><p>良い。俺はもう王ではない。そのような重い代物、あの魔王にくれてやったわ。ここにいるのはただのウォルフディール。死に損ないの亡霊よ。お前も昔の様に話せ、トスカン</p><p>そうですかでは、お言葉に甘えて</p><p>トスカンは立ち上がると、息を整えた。</p><p>っの馬鹿野郎がぁぁぁっ！</p><p>そして全力で、杖でウォルフを殴りつけた。甘んじてそれを受ける英霊王の身体に、杖は中ほどから折れ弾けとんだ。</p><p>好き勝手やって、好き勝手に死んだと思ったら、今更帰ってくるだ！？どの面下げてやってきやがった！ 俺が俺が、どんな、思いで！</p><p>すまなかった</p><p>ウォルフは深々と、頭を下げた。それを見て、トスカンの眦についに涙が浮かんだ。</p><p>馬鹿、野郎こんな、こんな歳で、今更俺の夢が叶ったって</p><p>夢？</p><p>お前にいっぺん、頭を下げて謝らせるのが、夢だったんだよ</p><p>目を閉じれば今も鮮明に思い出せる。無謀で、愚かで、誰よりも勇敢だった英雄ウォルフ。その尻拭いをするのはいつも冷静で理知的な魔術師、トスカンの仕事だった。彼に対して悪びれもせず謝る事は数あれど、頭を下げられた覚えは一度も無い。</p><p>まだ王になる前のウォルフ。後に彼の妻となる王女ユードラ。そしてウォルフの乳兄弟であり、兄貴分のトスカン。三人で旅をしたあの時代は、彼の青春の思い出として強く胸に焼き付いていた。</p><p>ところで一体全体、どういう事なのか説明してくれ</p><p>うむ。本当はユニスとザイトの奴も連れてきたかったのだが</p><p>待て。姫様と殿下も生きてらっしゃるのか！？</p><p>生きているわけではない。亡霊の様なものだといっただろうが。とは言え、奴らは自分の身体もあるし、生きておるのとそう大差は</p><p>生きてるんだな！？</p><p>トスカンは英霊王の胸倉を掴んで凄んだ。</p><p>う、うむ。しかしお前これは流石に不敬じゃないか</p><p>知った事か！ どこだ、どこにいる！？ 魔王の元か？ ならば全力で</p><p>ええい、落ち着け！</p><p>目を血走らせるトスカンを怒鳴りつけ、ウォルフは彼の肩に手を置いた。</p><p>安心しろ、ユニスは無事だ。ただ、今は少し障りがあるのでな。移動を控えておるだけだ。ザイトもその守りについておる</p><p>障り？ お身体がどこかよろしくないのか？</p><p>心配そうに聞くトスカンに、ウォルフは渋面で首を横に振る。</p><p>経過は順調今ちょうど、4ヶ月だそうだ</p><p>トスカンは目を見開いた。</p><p>まさか</p><p>魔王の子だ。暴れるなよ、本人も望んでの事だ</p><p>先ほどから柄になく興奮するトスカンの血圧が若干心配になりつつも、ウォルフは自身も腹立たしい思いがあるのか、苦々しい口調でそう言った。</p><p>長生きは、するものだな</p><p>トスカンの、皺に覆われた頬を涙が伝った。ユードラが命を賭けて残していった彼女は、トスカンにとっても我が子同然に可愛いものだった。その運命がウォルフやザイト同様、英雄として無残に死ぬ定めにあると聞いた時には、天を呪ったものだ。</p><p>その救いの手が、魔王から差し出されたとは出来すぎにも程がある。</p><p>子が生まれたらまた挨拶に来る。その時は魔王も連れて、こっそりとな。奴にも頭を下げさせてやれ</p><p>馬鹿を言うな、生まれたばかりの子をこんな所まで運ばせられるか！俺が直接行くぞ、魔王陛下に挨拶せねば。ああ、祝いの祭典の手配もしなければ！今4ヶ月だと？ あと半年もないじゃないか！ ああ、忙しくなってきた！</p><p>祭典ってお前、あまり大事には</p><p>ユニス様のお子様だぞ！？ これ以外に大事にすべき事などあるか！医師や僧侶の手は足りているのか？ ユードラ様の時の様な失態は二度と繰り返さんぞ。おい英霊王、魔王陛下にお届けする書面をしたためるからちょっとそこで待ってろ</p><p>仮にも英霊王を使い走り扱いするその傲岸不遜な物言いにウォルフは笑い、かつての彼を思い出した。常識人のフリをして、一番歯に衣着せずズケズケと物を言う彼に昔は随分やきもきさせられたものだったのだ。</p><p>しんと静まり返ったその部屋の中、再びペンの走る音だけが鳴る。しかし、その音はどこか楽しげだった。</p><p>- 3 -</p><p>大丈夫か、ユニス？</p><p>お兄様、もう今日で14回目だよ、それ聞くの</p><p>クッションで溢れかえったベッドの上で、ユニスは呆れた声をあげた。</p><p>大体、まだお腹が目立ってきてもいないのにこんな寝てばっかりいたら余計に身体に悪いってば</p><p>ぬ、しかしだな</p><p>オリヴィアさんとか出産経験者たくさんいるし、魔術の使い手も法術の使い手もいるんだから、多分世界で一番安全なお産だと思うよ</p><p>身軽な動作でひょいとベッドから降り、ユニスはそう言った。不安が無いといえば嘘にはなるが、それよりも安心の方が大きい。転移は胎内の子にどういう影響があるかわからないという事なので控えているが、つわりも治まり身体も大分楽になってきた。</p><p>英霊でも、赤ちゃん産めるもんなんだね</p><p>お腹を優しく撫でながら、ユニスは呟く。Olが魔術でしっかり保護していたとは言え、数ヶ月魂の抜けていた身体だ。子を作れるかどうかは五分と五分、出来なくとも仕方ない。</p><p>そういいつつも8年、殆ど毎日情を交わしたが、月の物はあるものの子は全くできる気配はなかった。それが、まるでOlの新しいダンジョンの完成を祝うかのように子が出来たのだ。</p><p>何か必要なものがあればすぐに言え。世界の果てにあるものだろうとなんとしてでも取ってくるからな</p><p>はいはい。大丈夫だから</p><p>大きな身体で兄がオロオロとする様は可笑しいが、あまり寝室内にいられても邪魔くさい。ユニスは手を振り、彼を追い出そうとした。</p><p>そんな彼女に、ザイトリードは口を開け、何かを言おうとしそして今日も、いえなかった。</p><p>すまなかった</p><p>ただその一言が、喉から先を出ない。8年間、ずっとだ。なんと意志薄弱な事か、とザイトリードは自分をあざ笑った。</p><p>お前は今、幸せか</p><p>部屋を出ながら不意に口を付いて出たその言葉に、ユニスはきょとんとしてザイトリードを見つめた。何を言っているのかわからない。そんな表情に、ザイトリードはそんな事を問うた事を一瞬、後悔する。</p><p>あったり前でしょ！</p><p>しかし、一瞬は一瞬だった。それはすぐさま、妹の掛け値なしの笑顔によって吹き飛ばされる。ユニスは腹をさすりながら、太陽の様に笑った。</p><p>大好きな人の子を産めて。お兄様も、お父様もいて。皆がいて。これで幸せじゃないわけ、ないじゃない</p><p>まるでこの世の全ての幸せがここにあるとでも言わんばかりの表情で、彼女は朗らかにそういった。</p><p>そんな彼女を、彼は、一度殺したのだ。</p><p>でも、それもお兄様のお陰だよね。ありがとう</p><p>だから、ぺこりと頭を下げる彼女にザイトリードは心底驚いた。</p><p>礼を言われるような事はしていない。俺は、お前を</p><p>殺して、くれた</p><p>にっこり笑い、ユニスはいった。</p><p>あたしが自分の意思でOlを殺すならよし。そうでないなら、殺せ。お父様が、そう命じたんでしょう？</p><p>ザイトリードは断罪される思いで、それに頷いた。</p><p>あたしがOlを愛したまま彼につけば、いずれあたしはOlを己の意思でなく、殺さなければならなくなる。記憶をなくすか、操られるか、裏切りかいずれにせよお互い憎しみ合い、殺しあう事になる。それが、英雄の運命なんだって。お兄様はあたしを殺す事で、その運命を変えてくれた。あたしを愛を抱いたまま、天に向かわせてくれた</p><p>大切なものを抱くように胸に手を当て、ユニスは語る。</p><p>だから、今こうしていられるのは、お兄様のお陰なの。あたしを、殺すの辛かった？</p><p>それは8年間、彼女がついに聞けなかった事だった。蘇生したとはいえ、Olは彼の妻を殺させている。ユニスは彼らを裏切り、魔王についた。幼い頃からユニスが憧れ追い続けた背中は、頼もしいが何も語ってはくれなかった。</p><p>愛を疑ったことはない。兄は常に妹を気遣ってくれた。しかし、その裏に疎ましさが、憎しみがあるのではないか。そう思うと、尋ねる事は出来なかった。礼を言う事ができなかった。彼女もまた、確かめるのが恐ろしかったのだ。</p><p>当たり前だ！</p><p>ザイトリードは、ユニスを抱きしめた。巨躯を誇る彼の身体に対し、ユニスの身体はあまりにも小さく、儚いように思われた。</p><p>お前は、俺のたった一人の妹なのだから辛くなかった訳がないだろう。すまな、かった</p><p>ザイトリードは彼女と、彼女の腹の中の子を潰さぬ様細心の注意を払い、ユニスを抱きしめた。その頬を伝う涙を、見られぬように。</p><p>- 4 -</p><p>かつてはフィグリアと呼ばれた国の端、今は魔の国の中央にある小さな村の、更に外れ。ひと一人近寄らぬ何もない丘のふもとに、その小さな石は置かれていた。</p><p>よほど注意してみなければわからないほど無造作に置かれたそれは、しかし、確かに墓石であった。文字も何も書かれていないその石の前に、スピナは花を供えた。</p><p>その表情には、いかなる感情も浮かんでいない。怒りも、悲しみも、憎しみも、何も浮かんではこなかった。</p><p>ソフィ</p><p>そんな彼女の背中に、あどけない声がかけられる。かつてソフィアと呼ばれていた少女は振り返ると、金の髪を持つ幼い同郷の少女を目にした。</p><p>マリー</p><p>彼女がどうしてここに、と問う前に、マリーは墓石に視線を移し、尋ねた。</p><p>お母さん？</p><p>ええ</p><p>それは、スピナの母の墓だった。スピナを気味悪がった村人達に遠ざけられ、元から身体の弱かった母は満足な治療を受けることも出来ず、最後までスピナを憎み、恨みながら死んでいった。</p><p>何度も何度も、殺してしまおうかと思いました</p><p>しかし、それは結局成される事はなかった。実行に移す前に、彼女は勝手に死んだからだ。</p><p>ふーん</p><p>物騒な告白を、しかしマリーはあっさりと流した。</p><p>知っていますか？</p><p>スピナはそんな彼女の首に、指を回した。</p><p>あなたの事も、そう思ってたんですよ</p><p>うん、知ってるよ</p><p>しかし、マリーはそれにもあっさりと答える。</p><p>だってソフィ、いっつもわたしのこと嫌いっていってたし</p><p>半分スライムとなったスピナは、歳をとらない。そんな彼女に幼い少女は瞬く間に追いついてきた。そしていつか追い抜き、遠くへ行ってしまうのだろう。</p><p>スピナは指を外すと、話題を変える事にした。</p><p>ローガン。あなたがマリーを連れてきたのですか</p><p>スピナがそういうと、マリーの影がびくりと震えた。</p><p>仮にも魔術師の私から隠れられるわけがないでしょう</p><p>うるせぇ！</p><p>冷たく指摘すると、赤い悪魔はマリーの影から飛び出し、叫んだ。</p><p>このロリコン紳士ローガン様がだなぁ、13歳以上のババアの手助けをするなんて事が知れちゃあだなあ！</p><p>でも、ローガンわたしの事好きだもんね。ここまで運んでくれてありがと</p><p>その逞しい腕をぎゅっと握り、マリーはにっこりと微笑む。</p><p>いや、嬉しかねえ。嬉しかねぇぞ！</p><p>彼は何か、アイデンティティのようなものを賭けて戦っているようだった。</p><p>ちょうどいい。私も運んでください。お師匠様の手を煩わせるのは申し訳ありませんから</p><p>だからババアの手助けはしないっつっただろ！？ 話聞いてましたキミ！？</p><p>ローガン、お願い</p><p>～～～～～～！ 誰にも、言うんじゃねぇぞ！絶対だからな、これっきりだからな！？</p><p>両手を合わせておねだりするマリーに叫び、ローガンは彼女達を左右四本の腕で抱えた。</p><p>あ、そうだ</p><p>マリーはスピナの方を向き、にっこりと笑い、言った。</p><p>わたしは、ずーっとソフィの事、好きだったよ</p><p>そうですか。私はあなたが嫌いです。今でも</p><p>そっけなく答えるスピナに、しかしマリーは笑みを崩さない。</p><p>わたしだって、ソフイよりOlさまの方が好きだもん。Olさまいちばん、ソフィはにばん</p><p>その言葉に、スピナはムッと眉を上げて答える。</p><p>私だってあなたよりお師匠様をお慕いしております</p><p>その答えに、マリーはにんまりと笑った。</p><p>やった、じゃあわたしは二番だ</p><p>なっそういう意味では！</p><p>顔を赤らめ、スピナは否定する。マリーちゃんマジ小悪魔、とローガンは心の中で呟いた。</p><p>なあ、ちなみに俺は何番目なんだ</p><p>ローガンの問いに少し考え、二人は声を揃えて答えた。</p><p>迷宮に落ちてる石の次くらい</p><p>ひでえ！？</p><p>こんなに尽くしているのに、と心の中で泣きながら、ローガンは二人を抱えて空を駆ける。</p><p>残された墓前の花が、風に吹かれ小さく揺れた。</p><p>番外編5魔王の前日譚</p><p>-70 years</p><p>一筋の光も注さぬ、荒涼とした不毛の大地。人間が足を踏み入れればその足は竦み、重圧と瘴気に吐瀉物を撒き散らしながら息絶えるだろう。そんな魔界の片隅に、ゆらゆらと小さな灯火が舞い降りた。</p><p>その炎は小さく、琥珀色に輝いていた。それは人間の魂の輝きだ。炎は揺らめきながら周囲の魔力を纏う様に絡め取ると、ゆっくりとその輝きをなくし濁っていった。</p><p>そして徐々に膨張し、長く伸びる。楕円形の輝きはやがて頭と胴にわかれ、手足が伸び、まるで胎児が成長するかのように徐々に人の形を成していく。</p><p>やがて炎は闇の中で一際暗く闇色の光を放つと、蝙蝠の翼と山羊の角、見事なプロポーションを持つ女の姿へと変化した。</p><p>ここは私は？</p><p>女悪魔は戸惑うようにきょろきょろと辺りを見回す。</p><p>己が悪魔である事、淫魔である事は何と無くわかる。しかし、それ以外の記憶と言うものが完全に欠如していた。それも当然の事だ。彼女は今、生まれたばかりなのだから。</p><p>生まれたばかりのこの悪魔は、後にリルと呼ばれることになる。</p><p>-60 years</p><p>つまり、魔術をどれだけ使ってもこの世界から魔力が失われる事は無い。これを魔力量保存の法則と言う。つかわれた魔術はやがて魔力として発散し、雨などによって大地に吸収される。大地に宿った魔力は龍脈の流れに乗って世界中を流れ、それを吸って育った草木を鹿や鳥が食べる。その鹿や鳥を更に大型の獣が食べ、それらはやがて死によって大地に帰る。こうして、魔力は世界中を巡っているのだ</p><p>黒板に白墨で文字を書き連ねながら、彼は流れるように言った。最後の一節を言い終え、カッ、と音を立てて文字を書き終えた所で鐘が鳴る。いつも通りの、計算し尽くされた完璧な時間配分だ。</p><p>今日の講義はここまで。質問のある者は直接私の研究室まで来る事</p><p>彼は事務的にそう言い、ローブを翻して講堂を出た。</p><p>アイン先生！</p><p>その背を一人の女生徒が追いかけ、駆け寄った。</p><p>あの、講義で、わからなかった場所があるんですけど</p><p>頬を染め、緊張した面持ちでそう言う彼女を、アインは冷たい目で見つめた。</p><p>いいだろう。私の部屋にきなさい</p><p>んっ、あぁ、あ、あぁぁぁぁぁ！！</p><p>アインは、己の上で腰を振りたくり、気をやる女生徒の胎内にその欲望を存分に吐き出した。女生徒はぐったりと彼の胸に頬を寄せ、身体を預けながらうっとりと呟く。</p><p>まさかアイン先生とこうなれるなんて嬉しいです。とっても素敵でした</p><p>女生徒はそっとアインの頬に唇を寄せ、囁く。</p><p>愛してます、先生あなたの為ならこの命だって惜しくありません</p><p>その言葉に、アインはピクリと眉を上げた。</p><p>そうか。ならば</p><p>彼は枕元においたナイフを手に取ると、鞘から引き抜いて女生徒に渡した。</p><p>命が惜しくないというのなら、死んで見せろ</p><p>冗談、ですよね？</p><p>意を計りかね、女生徒は曖昧な笑みを浮かべて問う。アインは微笑んで頷いた。</p><p>もちろん冗談だ</p><p>ほっと胸を撫で下ろす女生徒に、アインは笑顔のまま言った。</p><p>本心はこちらだ。俺を殺してみろ</p><p>私を、からかっているのですか？</p><p>表情を曇らせ問う女生徒に、アインは首を横に振る。</p><p>いいや。今度は冗談ではない。本当に愛しているというなら俺を殺してみろ。それが出来ないのなら、死ね</p><p>失礼します！</p><p>女生徒はナイフを投げ捨て、ベッドの脇に落ちた自分の服を身に纏うと扉を乱暴に開け、涙を流しながら立ち去った。</p><p>何を、しているのだかな</p><p>ほんの少しでも期待したのか。それとも、別の答えを望んでいたのか。</p><p>後に魔王と呼ばれる若き魔術師は、ベッドに腰掛けため息をついた。</p><p>-50 years</p><p>やー！</p><p>まだ幼い、舌足らずな声。その掛け声と共に弾き飛ばされた木剣と己の手、そして己が息子を、フロスは交互に見つめた。</p><p>やった、やったぁ！</p><p>もちろん、幼い子供相手だ。手加減はしていた。しかし、傭兵として少しは名の知れた彼の剣を弾き飛ばす事など、大人の戦士にだってそうそうできることではない。ましてや、こんな幼い子供が。彼はまだ、5つになるかどうかと言ったところなのだ。</p><p>うちの子は天才だきっと誰よりも偉大な戦士になるぞ！巨人を倒し、竜を殺し、国を興すくらいに偉大な戦士だ！</p><p>声を上げる彼を、周りの傭兵達は親馬鹿だと笑った。</p><p>笑っていられるのも今の内だ。いいか、強くなれ。誰よりも強い男にな。いいか、ウォルフディール！</p><p>赤い髪の少年は、無邪気に笑って頷いた。</p><p>-35 years</p><p>ガーゴイル？</p><p>ええ、良い出来でしょう？</p><p>村長は胡散臭そうに行商人を見た。琥珀色の髪をした初老のその男が馬車で運んできたのは、見事な細工の悪魔像だ。</p><p>へぇ、こりゃ見事だ</p><p>村長の息子が目を見開いていった。その精巧な石像は、まるで生きているかのような迫力を持っていた。</p><p>これだけ精巧なら、ゴブリンどもや狼はもちろん、疫病だって寄り付きませんよ</p><p>にこやかに言う商人をよそに、村長の息子はすっかりその悪魔像に夢中になっていた。こんな恐ろしげな怪物と、剣を持って戦ってみたい。そんな考えにすっかり取り付かれていたからだ。</p><p>しかしなあ、この村はあまり裕福ではないし</p><p>いえ、そこは勉強させていただきますよ。と言うのもですね、コイツは出来はいいんですが、物が石ですから運ぶのが大変でね。うちの馬も、私と同じでもう随分くたびれてしまっているものですから、ここらで処分してしまいたいのですよ</p><p>ほう、なるほどねえ</p><p>交渉を続ける親と商人をよそに、村長の息子、ゲオルグは像をぺたぺたと触りながら、空想の翼をはためかせた。彼が冒険者を目指し村を出るのはそれから3ヶ月の後。そして、村に戻り村長に就任するのは、更に20年後の事になる。</p><p>-32 years</p><p>いくぞ、トスカンッ！</p><p>ああもう、お前はいっつもそんなんばっかりだよな、ウォルフディールゥ！</p><p>向こう見ずに突っ込む相方にため息をつきながら、トスカンは帽子を押さえ杖を構えた。</p><p>くらいなッ！</p><p>美女を掴む巨人の腕に向かって跳躍するウォルフの足元に、トスカンは氷の弾丸を撃ち込む。ウォルフはそれを足掛かりにして再度跳躍すると、一撃で巨人の腕を切り飛ばした。同時に、その衝撃に耐え切れず、剣が粉々に砕け散る。</p><p>あーっ！ また壊しやがった、ちったあ力加減考えやがれこの馬鹿力！</p><p>風を纏い、美女を助け起こしながらトスカンは叫んだ。</p><p>悪い悪うおっとぉ！</p><p>悪びれた様子もなく謝るウォルフを、巨人が殴り飛ばす。ウォルフはそれを真っ向から腕で受け止めた。</p><p>へへ、いいぜそういうのは、嫌いじゃねえッ！</p><p>ウォルフは己の数倍の大きさの巨人を殴り返す。そして、真正面からの殴り合いが始まった。</p><p>美女は目を丸くし、口をあんぐりとあけてその様子を見つめた。</p><p>あのっ、助けないのですか！？</p><p>あーなったら無理。馬鹿なんだ、アイツ</p><p>ウォルフは血塗れになりながらも、巨人の拳を受け、殴り返すのを繰り返す。それを数十分繰り返し、結局最後に立っていたのはウォルフのほうだった。</p><p>あなたは狂人なのですか！？</p><p>勝者となった英雄に、美女が最初に投げかけた言葉はそれだった。そして、血塗れの彼に駆け寄ると、ドレスが赤く染まるのを気にもかけずに彼の傷を治療する。</p><p>ちゃんと勝っただろ？</p><p>勝てばいいというものではありません！ 大体、英雄が王女を助ける時は、もっとスマートに颯爽とやるものではないのですか！</p><p>その辺はずっと言い聞かせてるんだけど、実を結んだ事は一回も無いんだよなあ</p><p>怒鳴る美女、ユードラにトスカンはボヤいた。一方的に怒声を上げる彼女と、気にした風もなく笑う英雄が結ばれるのは、それから2年後の事だった。</p><p>-16 years</p><p>ユーディ！</p><p>そんな大声を出さなくても、聞こえていますわ</p><p>ウォルフは妻の手を握り締め、彼女の真っ白に血の気の失せた顔を見つめた。</p><p>あの子はあの子は、無事なのですか？</p><p>ああ。ザイトにそっくりな、赤い髪と緑の目をした、元気な女の子だ</p><p>そうですか</p><p>ユードラはそっと微笑んだ。</p><p>お前の体調が戻ったら、また昔みたいに冒険しよう。俺と、お前と、トスカンとザイトだって、もう十分に戦える。新しく生まれたあの娘が成長したら、親子4人でだっていい。だから</p><p>それは、楽しそうね。きっと、すごく、幸せ。そうできたら</p><p>できるさ。そうだろう？</p><p>ウォルフは彼女の手を握り、目を見つめた。ユードラはそんな彼に微笑みかけると、最後の力を振り絞った。</p><p>名前をね、考えたの</p><p>名前？</p><p>ウォルフは、目の前で命の灯が消えていくのを感じながら、問うた。</p><p>ユニスフィニア。あの子の、名前よ。あなたのお陰で、私の人生は幸せだった。けれども、自由は無かった。お願い、どうか、あの子は自由、に</p><p>力の抜けていく手を握り締め、ウォルフは誓った。彼女の最後の願いを、必ず守る事を。</p><p>-6 years</p><p>自分で油を</p><p>正気じゃ</p><p>呪われた子</p><p>ひそひそと交わされる言葉を気にもせず、ソフィアは桶を運んだ。家の扉を開け、ベッドに横たわる母親に声をかける。</p><p>母さん。水を汲んできたわ</p><p>お前の、汲んだ水なんて飲めるか！</p><p>でも、飲まなければ死ぬわ</p><p>そういい、ソフィアは水を杯に汲むと母親に差し出した。その水を、母親はソフィアに叩きつけるようにしてかけた。</p><p>恐ろしい悪魔の子め。なんで、何でお前みたいな娘が私から</p><p>ベッドですすり泣く母親を、ソフィアは無感動に見つめた。</p><p>殺して、しまおうか。心の奥底から湧き上がるそんな考えを、彼女は押し殺した。</p><p>皆、彼女を悪魔の子だという。ソフィア自身も、そうなのだと思った。きっと彼女は悪魔の子なのだろう。ならばいっそ、地獄の悪魔が迎えに来ればいいのに。</p><p>そう思いながら、彼女は再度母親に水の入った杯を突き出した。</p><p>-2 years</p><p>お父様の、馬鹿ッ！</p><p>叫び、部屋を飛び出していく娘をウォルフはため息をついて見送った。</p><p>よろしいのですか</p><p>ああ。好きにさせよ</p><p>彼方から、壁を破壊する豪快な音が聞こえてきた。</p><p>壁は直しておけ</p><p>同じ調子で聞いてくる宰相トスカンに、ウォルフは渋面を作って答えた。</p><p>-1 years</p><p>そふぃ、そふぃ</p><p>近付かないでください、マリー</p><p>おだんご、どうぞ</p><p>並べられる泥団子を、ソフィアは冷たい目で見つめた。</p><p>これは泥です。食べられません</p><p>マリーは少し困ったような表情で彼女を見ると、急に表情を輝かせて泥団子に砂をまぶした。</p><p>砂をかけても泥は泥です。食べられません</p><p>えぇ</p><p>マリーは表情をくしゃりと歪ませた。彼女はそんな顔さえ愛らしく、可愛らしい。それが、ソフィアには憎らしかった。生まれた直後に両親をなくした彼女は、しかし誰からも愛され、村中から大切に育てられた。ただその、その愛らしさゆえに。</p><p>見た目がどうであろうと、泥は泥。白かろうが黒かろうが、泥です。食べられる団子では、ありません</p><p>憎らしかった。ねたましかった。誰からも愛され、美しい彼女が。いっそ焼けた油をかけてやろうかと思ったこともある。しかしそれでも、彼女は変わらないだろう。彼女は、泥ではないのだから。</p><p>近付かないでください</p><p>わたし、そふぃ、すきだもん</p><p>そうですか。私はあなたが嫌いです</p><p>言い放ち、ソフィアは踵を返し足早にそこを立ち去った。本気で歩けば歩幅の差で、ソフィアにはマリーはとても追いつけない。それでも、マリーは必死にその後ろを追いかけた。</p><p>ただ一人彼女の事を嫌い、いつだって真っ直ぐに本当の事だけを言うソフィアの事が、マリーは大好きだったのだ。</p><p>-1 minute</p><p>なんだあれ</p><p>空から注す強い光に、リルは笑い転げた。それは人間の魔術師が、悪魔を召喚している時に見られる光だ。要求しているのは、自分達女淫魔。しかし、その光はあまりにも強すぎた。少なくとも、淫魔などと言う位の悪魔を呼ぶような量ではない。明らかに怪しい光だった。</p><p>案の定仲間達は誰も食いつかず、光はずっと空に留まる。その光に、リルは不思議な感覚を覚えた。記憶には無い、しかし、どこか懐かしい思い。</p><p>たまには人間をからかうのもいいか</p><p>リルは手を伸ばし、空から降るその光を手に取った。身体が引き上げられる感覚と共に、彼女は人間の世界へと侵蝕する。</p><p>空間を越え、彼女は目の前の男に、そう言った。</p><p>そうして、物語は走り出した。</p><p>番外編6NGシーン集</p><p>★ゆにすけ1（第14話英雄を無残に殺しましょう-6 より）</p><p>息子が去った部屋の中、ウォルフはすっと立ち上がると、寝台へと向かった。</p><p>うおおおおおユニスぅぅぅぅぅう！！ この父を許してくれぇぇぇぇぇえええ！ああああああ俺のせいでえぇぇぇぇぇ！ 出すんじゃなかった！ 出すんじゃなかった！やっぱり外になんか出すんじゃなかったああああああ英雄制度滅びろ！ 魔王滅びろ！</p><p>そして横になると、ごろごろと寝台の上を転がりながら彼は叫んだ。しかし、その動きは唐突にぴたりと止まると、彼は風の様な速さで椅子へとすわり、気だるそうな表情で頬杖を突いた。</p><p>陛下。御報告がございます</p><p>数秒後扉がノックされ、トスカンの声が外から聞こえた。ウォルフは英雄の知覚を持って彼が近付くのを察知したのだ。</p><p>うむ。入れ</p><p>ウォルフは王に相応しい、威厳を持った態度でそう答えた。</p><p>★ゆにすけ2（第14話英雄を無残に殺しましょう-6 より）</p><p>彼は部屋を出ると、中庭へと向かい、その豪腕を振り上げた。一撃で地面に巨大な穴が穿たれる。彼のその腕は、ただの力の有り余った凶器ではない。鋭い剣や槍にも勝る英雄の武器だ。その力は集中すれば一点に集まり、深く細い洞窟の様な穴を地面に穿った。</p><p>彼はそこに口を近付け、周囲に音が漏れぬよう手を当てると、思いっきり叫んだ。</p><p>親父の馬鹿野郎ォォォォォ！ 嫌な任務ばっかり俺に押し付けやがってぇぇぇぇぇぇぇ！！また、またユニスに嫌われたじゃねぇかクソがあぁぁぁっぁぁぁぁ！魔王死ね！ 100回死ね！ 可愛い妹に何しやがったあの糞野郎がぁぁぁぁっ！！</p><p>ひとしきり叫んだところで、ザイトリードは人の近付く気配に居住まいを正し、穴をにらみつけた。</p><p>殿下いかがなされました？</p><p>うむ。庭に穴が空いている。庭師に埋めておけと伝えろ</p><p>ザイトリードはいつもの巌の如き表情で、通りがかった兵士にそう命じた。</p><p>★ゆにすけ3（第14話英雄を無残に殺しましょう-6 より）</p><p>それでは姫様、今はどうかごゆっくり、身体をお休め下さい</p><p>うん、ありがとうねトスカン</p><p>トスカンが部屋を出、その足音が遠のいた事を鋭敏な英雄の聴覚で確認し、ユニスはベッドをごろごろと転がりまわった。</p><p>あーーーーもう、お兄様もお父様もウザいいいいいいい！ もー、Olと二人にさせておいてくれればいいのに二人ともばかあああああ！ Ol殺すとか嫌にきまってんでしょもおおおお！できなきゃ殺すとかほんっと意味わかんないし！</p><p>姫様、よろしいですか？ お薬の時間です何か仰ってました？</p><p>ううん、なんでもないよ、ありがとう</p><p>薬を運んできた侍女を、ユニスは王族に相応しい優雅な動作で迎えた。</p><p>★ゆにすけ4（第14話英雄を無残に殺しましょう-6 より）</p><p>妹を殺さねばならぬかも知れん</p><p>まあ。ユニスちゃんを？</p><p>父の命だ、了承はしたが正直気が重い。兄に殺されるなど悲劇中の悲劇だ。間違いなく俺の剣はユニスを殺すだろう</p><p>内心を吐露するザイトリードに、少し困ったようにヒルダは答えた。</p><p>だ、大丈夫よあなた。あなたが思っているほどユニスちゃんあなたの事好きじゃないから、悲劇と言うほどでも無いわ！</p><p>フォローのつもりの言葉が、ザイトリードの胸にグサリと突き刺さる。</p><p>それに殺すって言ってもそもそも勝てるとは限らないし、ほら、あなたの鉛の呪いって自分でかけた割に使い勝手物凄い悪いって言うか、ぶっちゃけデメリットしかないわよね？だからきっと大丈夫！</p><p>ぐっ、と両腕を握って応援する妻に、ザイトリードはただただ涙を堪える事しか出来なかった。</p><p>★穢れを知らぬ聖女（最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-8より）</p><p>この娘に、ち、ち、ちちゅーを、しろっ</p><p>照れるなら言わなければいいのに、と不死身が思うくらい顔を真っ赤にして、メリザンドは言った。</p><p>はぁまあ、そんくらいなら</p><p>そう言って唇を近づける不死身の頬を、メリザンドは殴り飛ばした。</p><p>ききき貴様ぁっ！ く、口にちゅーなんて、それはあんまりにも酷すぎるだろう！？鬼畜か貴様は！？ おでこかほっぺにしておけぇぇ！</p><p>あ、駄目だこの子悪魔滅ぼせないわ。不死身は自分たちの敗北を悟った。</p><p>★魔法陣スピスピ（最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-8より）</p><p>あれです核とは、肩の後ろの２本のゴボウの真ん中のスネ毛の下のロココ調の右です！</p><p>いやどこよそれ</p><p>★嬉しかったんだね（第17話天に弓を引きましょう-7より）</p><p>なんだと</p><p>絶望的な表情で目を見開くOlの背後に、笑顔で大量の皿を運び込んでくる彼の形代達の姿が見えた。</p><p>★理由は一つ（第17話天に弓を引きましょう-7より）</p><p>格好いいから！</p><p>★プロローグ（NG)</p><p>それまで静寂を保っていた空間に、弓の弦を絞るような音がギリギリと音が鳴る。</p><p>そして、鉄を擦り合わせる様な声をあげた。</p><p>幼女ヨコセー</p><p>お前の出番は8話先だ、引っ込んでろ！</p><p>★プロローグ（テイク2)</p><p>（略）</p><p>そして、元気よく声をあげた。</p><p>サキュバスだと思った？ 残念、ユニスちゃんでした！</p><p>天に帰れ</p><p>★プロローグ（テイク3)</p><p>そして、いやに甲高い声をあげた。</p><p>ハハッ！ やぁ、僕ミッ○ー</p><p>すいませんお願いですお引き取りください！</p><p>★人気投票の結果（第5話愚かな侵入者を捕えましょうより）</p><p>スケルトン1体に一撃だ。しかも、相手は十人</p><p>あれ、聞き間違い？ スケルトン10体が一撃？</p><p>いや、冒険者10人がスケルトンに一撃だ</p><p>あの骨、何者なの</p><p>★早く何とかしないと（第9話街を蹂躙しましょう-1より）</p><p>いよいよ、街へと進行する</p><p>名前が違う！</p><p>字が違う！</p><p>街の方がなんか格好いい！</p><p>田舎くさくない！</p><p>口々に述べる部下たちに、Olはため息をついた。これでは今後の戦いは絶望的だ。</p><p>この愚かどもめいいか、良く聞け。街の方が、美味い物を売っているのだ</p><p>おおー！</p><p>部下は揃って歓声を上げた。魔王の食い倒れの旅が、今ここに始まるのだ。</p><p>★厨ニ（第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-1より）</p><p>今オーガを両断した剣を見つめ、嬉しそうに言うのは戦士のナジャ。</p><p>それじゃあまりに平凡じゃない？</p><p>ぼそりと突っ込みを入れるのは、魔術師のウィキア。</p><p>ウィキア約束された勝利の剣(エクスカリバー)でどう？</p><p>Shalですね</p><p>ウィキアそれとミノタウロスも、私の解釈だと牛じゃないのよね</p><p>ナジャは？</p><p>ウィキアあれは角じゃなくて槍なのよね</p><p>Shal二つ槍を頂きしものですね</p><p>ウィキアそれと私の解釈では冒険じゃなくて再配置って呼びたいの。それと</p><p>友人がどこか遠い世界に旅立ってしまった。ナジャは遠い目で、かつての仲間達を見つめた。</p><p>★巨星乙（最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-6より）</p><p>＊＊＊したげる</p><p>ローガンは思わず拳を突き上げ、立ち上がった。その拳はザイトリードを木っ端微塵に吹き飛ばし、迷宮の天井を貫き、空を衝き、太陽の影に隠れた星核を粉々に破壊した。</p><p>我が生涯に一片の悔いなし</p><p>ろーがん？ ろーがん？</p><p>しんでる</p><p>その日、一体の悪魔の死と共に、世界には平和が訪れた。</p><p>番外編7Memory of amber</p><p>それは偶然と言えば偶然だったし、必然と言えば必然だった。</p><p>あるいはそれを、人は運命と呼ぶのかもしれない。</p><p>彼女、ラディクス・フルーメンが彼を見つけたのは、ちょうど新しく開発する兵器の発想に行き詰っていた時のことだった。</p><p>気分転換にと出かけた街の市場。その道の片隅に、彼はうつろな表情で座り込んでいた。汚れに塗れた生気のない顔。ボロボロの布の切れ端のような衣服。ガリガリにやせ細った身体。どこにでもいる、ありふれた孤児の姿だった。</p><p>この小さな国プラエティは今、隣国フィグリアと戦争の真っ只中だ。しかも、負けの見えている戦。どうにか新兵器で持ちこたえてはいるものの、日に日に目減りしていく物資はどうしようもない。民草は貧困に飢え、人心は荒れ、治安は悪くなり、道には孤児があふれた。</p><p>そんな中、彼女が彼に目を留めたのはその髪の色だった。彼女と同じ、琥珀色。金や赤は珍しくもないが、その中間の褐色を帯びた色というのは少しばかり珍しい。しかし、それ以上に珍しいのは、彼の体の端々から漏れ出る魔力だった。</p><p>量そのものは大したことはない。年相応の、ごくごく微量なものだ。しかし、その色はあまりにもラディクスの魔力に似ていた。魔力の色はよく髪に出る。髪自体の色が濃い場合はその限りではないが、概ね髪の色と魔力の色は似通うことが多い。</p><p>しかし、その色は同じように見えても千差万別だ。声と同じで、まったく同じという事はまずない。そんな中で、彼の魔力は天才の名を冠するラズでさえ己のものと見紛う程そっくりだった。</p><p>こんにちは</p><p>だからといって、別にそれが何かの役に立つとか、そういうわけではない。それはただの気まぐれだったのだろう。行き詰った頭で、どうかしていたのかもしれない。とにかくラズは気付くと彼の前に立ち、声をかけていた。</p><p>君、うちの子になる？</p><p>ぼんやりと少年はラズを見上げる。そして、ややあってこくりと頷いた。</p><p>まずは服を脱いで、そこの籠に入れて</p><p>言われるままに服を脱ぎ、裸身を晒した少年をラズは湯殿に放り込んだ。</p><p>湯殿の使い方はわかる？</p><p>ラズの問いに、少年は首を横に振った。風呂と言えばこの国では蒸し風呂が一般的であり、湯を満たしたラズの家の湯殿は一部の金持ちだけが持つ珍しいものだった。少年は一度も入った事が無いに違いない。</p><p>まあいいか。じゃあ、使い方を教えるから一度で覚えなさい</p><p>見たところ少年は精々7つか8つと言ったところだ。ラズは気にしない事にして、自らも服を脱いで裸になると彼を湯殿へと誘った。</p><p>まず最初に、湯を手桶ですくって身体にかけ清める</p><p>ラズは浴槽から湯を掬い少年に頭からかけ、己も湯を浴びた。</p><p>次に、身体に油を塗って肌かき器(ストリジル)で汚れを落とす</p><p>ラズは浴室の片隅に置かれた瓶から油を取り出し、少年の身体に塗ってやる。すると、少年の股間にぶら下がった小さなものが、ムクムクと大きく反り返った。</p><p>こんな幼い少年でもそう言った欲求を持つのか、とラズは思わず息を飲むが、気付かないふりをして彼の肌をストリジルと呼ばれる金属製のへらで強くこすった。</p><p>すると、面白いほどにぼろぼろと垢が擦り落とされる。湯殿は無論のこと、水浴びもろくにした事がなかったに違いなかった。</p><p>自分でやってみなさい</p><p>ラズが命じると、少年は頷いてストリジルを受け取り、見よう見まねで身体を擦り始める。擦り傷がところどころ痛むようであったが、彼は顔を顰めながらも全身の垢を存分に擦り落とした。</p><p>垢が落とせたら、もう一度湯を浴びて、浴槽に入る</p><p>ラズは少年に浴槽に入るよう命じ、自身の垢を落とし始めた。少年はラズから視線を逸らし、なるべく視界に入れないよう配慮しているようだった。</p><p>面白い。ラズは胸中でそう呟き、わざとその裸身を彼に見せ付けるかのように無防備に身体を擦り始めた。すると、少年は彼女の方を見ないようにしながらも、時折偶然を装って、或いは何気ない風でちらちらと彼女に目を向けた。</p><p>気付かれていないとでも思っているのだろうか。幼い少年の未熟で浅はかな欲求は、ラズの目に可笑しく可愛らしく映った。</p><p>そういえば、まだ名乗ってもいなかったね</p><p>湯を浴び終え、とりあえずラズの寝巻きを少年に被せてからラズは尋ねた。男の、子供用の服など彼女は当然持っていなかったのだ。彼が着ていた服と言うか、ぼろきれは酷い臭いが染み付いていたので、すぐさま捨てた。</p><p>私はラディクス。ラズと呼んでくれればいい。君は？</p><p>テオドア</p><p>いい名前ね</p><p>初めて少年の声を聞き、ラズは驚いた。想像していたよりもその声は遥かに低かったからだ。既に、声変わりが始まっている。</p><p>テオ、あなた何歳？</p><p>わからない。13、か、4だと思う</p><p>その言葉にラズは衝撃を受けた。思っていたより倍ほど大きい。栄養状態の悪さが、思った以上に彼の成長を妨げていたのだ。</p><p>その名前は捨てなさい。今日からあなたは、私の弟子。そうね</p><p>ラズは少し考えて言った。</p><p>今日から、アインと名乗りなさい。アイン・ソフ・Ol。それがあなたの名前。見習い魔術師として私の言う事を良く聞いて、働くのよ。そうすれば、毎日美味しいご飯を食べさせてあげるし魔術も教えてあげる。わかった？</p><p>アインはこくりと頷き、答える。</p><p>わかりましたよ。言葉から教えてあげないといけないようね</p><p>ラズは嘆息した。</p><p>さっきのもですか</p><p>うん？</p><p>ぽつりと、慣れない敬語で尋ねるアインにラズは目を向ける。</p><p>さっきの熱い水も、毎日？</p><p>そりゃあもちろん。私は不衛生なのは嫌いなの</p><p>反射的にそう答えてから、もしかして一緒に入る事を指しているのだろうか。とラズはふとそう思った。</p><p>果たして、その予感は半分当たっていた。アインが自分から積極的にそれを要求する事はなかったものの、彼はそれとなくラズと一緒に入浴したがった。</p><p>まだほんの小さな子供だと思っていた彼が、多くとも6つしか離れていないと知ったラズは少し迷ったが、結局彼と一緒に入浴する事を選んだ。</p><p>例え襲われたとしてもロクな魔術も使えず、貧相な身体の彼に腕力で負けるとは思えなかったし、何より顔を真っ赤にして顔を背けながら、それでもそっとチラチラとラズに視線を向ける彼の仕草がおかしかったからだ。</p><p>今まで、魔女と呼ばれ恐れられてきた彼女を女として見るものはいなかった。彼女の作る兵器がこの国を支えているのは疑いようの無い事実だったが、それ以上にその無慈悲で強力な兵器と、それを作り出す彼女に誰もが潜在的な恐怖を抱いていたのだ。</p><p>そんな中純真に彼女を慕い、時折垣間見せるアインの未成熟な情欲はラズにとって心地良いものだった。己がただの兵器ではなく、女であると言う実感。それは彼女の心を満たした。</p><p>アインは学もなく、身体も貧相な少年ではあったが頭は良かった。彼はすぐに家事全般を覚え、ラズの身の回りの世話を全てこなすようになっていった。料理、掃除、洗濯、その他諸々の家事を全て彼に任せ、ラズは研究に没頭した。</p><p>ラズはやや潔癖症のきらいを持つものの、掃除自体は苦手と言う困った性格をしていた。滅多に掃除はしないのだが、汚れているのは我慢ならない。仕方がないので数ヶ月に一度、ピカピカになるまで徹底的に掃除をするといった有様だ。</p><p>それが、甲斐甲斐しく働くアインの手によって、彼女の住む塔は常に端から端まで丹念に磨き上げられ、綺麗に整頓されるようになった。これはいい拾い物をしたとラズは喜び、彼を可愛がり、知りうる知識の全てを彼に与えた。</p><p>するとアインはまるで古布が水を吸うかのように彼女の知識を吸収し、半年も経つと彼女の助手として働けるほどになった。覚えの良い教え子は可愛いものだ。ラズはますます彼を気に入り、片時も離さず己の傍に置くようになった。</p><p>出来たー！</p><p>お疲れ様です、師匠</p><p>それはアインがラズの弟子となって、2年ほど経った日のことだった。</p><p>ラズはぐっと背筋を伸ばし、安堵のため息をつく。ここ数ヶ月、ずっと取り掛かっていた兵器の設計がようやく終わったのだ。彼女の見立てでは、これによって更に効率は3割ほど上がるはずだった。</p><p>アイン、お風呂は</p><p>既に用意できてます</p><p>ん、さっすが！</p><p>ラズは準備のいい愛弟子を誉め、彼を連れて湯殿へと向かった。いつもの様に手早く衣服を脱ぎ、浴室へと入る。疲れた身体に浴びる湯は心地良かったが、垢を落とすのは少々億劫だった。かといって、省略するという選択肢はない。彼女はずぼらだが清潔好きなのだ。</p><p>あー、ダルい。そうだ、アイン。あなたが洗ってよ</p><p>すっかり彼と共に入浴する事になれたラズは、何の気なしに弟子にそう頼んだ。</p><p>お、俺がですか？</p><p>うん。痛くしないでね</p><p>自分で湯殿を持つような裕福な層は、大抵奴隷を扱っている。ラズは奴隷があまり好きでないため雇ってはいなかったが、自分の身体はむしろ奴隷に洗わせる方が一般的だった。アインは奴隷ではないが、師であるラズに絶対服従であることは変わりない。彼女の命令はそれほど不自然なものではなかった。</p><p>失礼します</p><p>アインは香油を手に取ると、ぎこちない手つきでラズの身体に塗りつけ始める。その手の平の硬さと大きさに、ラズは唐突に彼が年齢相応の体付きに成長している事に気づいた。</p><p>毎日顔を突き合わせていたので気付かなかったが、ラズと寝食を共にし栄養状態が改善されたアインの身体はそれまでの仇をとるかのように急速に成長し、伸びていた。ラズの胸元くらいにあった彼の頭は、いつの間にか彼女とさほど変わらぬ高さになっている。</p><p>アインの腕は随分と太くなり、魔術の知識もラズには及ばないもののそれなりに習熟した。今彼がラズを無理やり襲おうと思えば、ラズは抵抗できないだろう。その事実と、そして何より、それがそれほど嫌ではない、という事実にラズは驚愕した。</p><p>アインはひたすら事務的な態度で、ラズの身体の汚れを丹念に、しかし優しく落としていく。</p><p>そのくらいで、もういいわ</p><p>急に気恥ずかしくなり、ラズは彼の身体をぐいと押した。驚いたように声を上げる彼の視線を思わず追うと、そこには彼自身が硬く怒張し、へそに張り付かんばかりに反り返っていた。</p><p>ラズの胸が高鳴り、早鐘を打つかの様に鼓動した。</p><p>私の裸を見て、こんなにしたの？</p><p>申し訳ありません！</p><p>興奮と恥辱に、アインは顔を耳まで真っ赤にして頭を下げた。</p><p>いけない子ね。師に欲情するなんて</p><p>ラズは挑発するかのように、アインの腕を取り、自らの腕を絡めた。心のどこかで、彼が自分に襲い掛かり、獣の様に犯すのを期待している事を彼女ははっきりと自覚した。</p><p>師匠</p><p>困惑し、困り果てた表情でアインは彼女の顔を見つめた。</p><p>私を抱きたい？</p><p>しばしの逡巡の後、アインはこくりと頷いた。</p><p>いいでしょう。でもしっかり、身体を清めてからね。我慢できる？</p><p>は、はい！</p><p>かすれた奇妙な声で返事する彼に、ラズはくすりと微笑みかけた。</p><p>身体をガチガチに緊張させ、焦る彼を見ているとラズの心には少しだけ余裕が生まれる。彼女は手馴れた風を装い、まるで何事もなかったかのように湯を浴びて浴槽へと身体を沈めた。</p><p>その内心ではこれから起こるであろう出来事に胸を高鳴らせ、ラズはアインの裸身にちらりと視線をやった。よくよく見てみれば彼の身体はいつの間にか随分男らしく逞しくなり、その肉槍は隠しようもなく硬く突き立っている。</p><p>あんなものが己の中に入るのだ、と思うと、ラズは不安と期待が綯交ぜになった何ともいえない気持ちになった。彼女は未だ、男を知らない身だったのだ。</p><p>やがて身体を清め、暖め終わった二人は連れ立ってラズの寝室へと向かった。その際ラズはこっそりと香油の瓶を取り、夜着の中に隠した。</p><p>さぁ、アイン。いらっしゃい</p><p>ラズは秘部にその油を一掬い塗りつけると、ベッドに横たわり弟子を誘った。</p><p>師匠っ！</p><p>堪らずアインはラズに覆いかぶさり、その唇にむしゃぶりついた。</p><p>慌てないで</p><p>逸り立つアインの頬をそっと撫で囁くと、ラズは改めて彼に口づけ舌を差し入れた。ぎこちない動きでアインはそれに応える。</p><p>いいわきて</p><p>ごくりと喉を鳴らし、アインはその剛直をラズの秘部に押し当てた。</p><p>ここ</p><p>その先端の位置をそっと己の中心に導き、ラズは興奮と期待、そしてほんの少しの期待に身を震わせた。アインはぐっと力を入れ、彼女の奥まで一気に腰を突き入れた。</p><p>っ、う、アイン！ 女の身体は、もっと優しく、扱うものよ</p><p>油でたっぷりとぬるみを帯びたそこに、挿入自体はスムーズに行われた。破瓜の痛みが、じんわりとラズの胎内に広がる。それは純潔を失ったが故の痛みだったが、アインは己の技術の未熟さゆえに彼女に苦痛を与えたのだと勘違いした。</p><p>す、すみません</p><p>もっとゆっくりね</p><p>こくりと頷き、彼は意識してゆっくりと腰を動かした。一突きごとに痺れるような快感が股間から走り全身を貫く。欲望の赴くままにひたすら突き入れたくなる気持ちを、彼は師の為に必死で堪えた。</p><p>んいいわ、もう少し早くしても</p><p>ラズはアインの首に腕を回し、甘く息を吐いた。痛みは徐々に引き、かわりに甘い疼きが胎の奥から湧き上がってくる。アインは頷き、ゆっくりと抽送の速度をはやめていく。</p><p>師匠！ 俺、もうっ！</p><p>アインはぎゅっとラズを抱きかかえ、切なげに声をあげた。</p><p>アイン！ ええ、いいわ、出しなさいっ！受け止めて、あげる！</p><p>彼の身体を抱き返し、ラズは言った。アインの身体が震え数度力強く突き入れながら、胎内に熱いものが満ちていくのをラズは感じた。</p><p>それから、彼女達の生活は一変した。二人は夜毎に肌を重ね、寝室で、浴室で、研究室で、彼らの暮らす搭の中のありとあらゆる場所で愛を交わした。</p><p>ラズにとってアインは最愛の弟子であり、かけがえの無い恋人となり、アインにとってラズは唯一無二の存在となった。</p><p>ラズって呼んでって言ってるでしょう？</p><p>アインに組み伏せられ、その剛直を受け入れながらラズはそう言った。彼女は精神的には優位に立ちながらも、肉体的にはアインに屈服させられ、半ば強引に迫られる事を好んだ。以前教えた敬語もやめさせ、彼女は気安く話すよう彼に願い、アインはその通りにした。</p><p>ラズ、仕事はしなくっていいのか？</p><p>んんそうね、そろそろ取り掛からないと</p><p>アインから与えられる快楽に身を任せながら、彼女は最近遅れがちになっている設計に思考を移した。</p><p>今度の石火矢が完成すれば、効率が5割は上昇するから、しばらくは持つはず</p><p>効率というのは、何の効率なんだ？</p><p>それは弟子の、素朴な問いだった。射程距離、威力、開発費用。それらの概念は理解していたが、師が時折口にする効率という言葉に関しては尋ねた事がなかった。彼女が算出しているそれは非常に複雑な計算式から導出されており、高度な知識がなければ理解できないと思っていたからだ。</p><p>そりゃあ</p><p>説明しかけ、ラズは口ごもった。効率と言うのは、人を殺す効率の事だ。人員、魔力、費用。それらに対して、どれだけ相手を殺傷する事が出来るか。結局の所、彼女が追求していたのはそれだった。</p><p>簡単に、安全に、金をかけず、人を殺す。そう言った物をラズはめざし、作っていた。</p><p>師匠？</p><p>途中で言葉を切る師をアインは呼びかけた。</p><p>なんでもない。ちょっと説明しづらいからその話はまた後で。それより、今は私を愉しませて？</p><p>ああわかった</p><p>結局、彼女がその言葉について彼に説明する事はなかった。</p><p>研究一筋に生き、殆ど他人と触れ合わなかった彼女は、意味は理解していてもそれを実感してはいなかった。しかし他人と暮らし、男を知って彼女は気付いた。その数字の向こうで消えていった人間達の命に。</p><p>兵器の一部は敵に奪われ、使用されたこともある。彼女の兵器が敵味方共に被害を増やしているのは確実な事だった。もしかしたら、その中にアインの両親も含まれているのかもしれない。そう言ったことに、彼女は気付いてしまった。</p><p>その日を堺にラズは何かと理由をつけ、兵器の開発を断るようになった。元々の仕事も遅れがちであった事も含め、仕事の依頼主であるプラエティ王国首脳部は彼女に激しく抗議した。</p><p>しかしラズはそれでも、仕事を請けようとはしなかった。いや、出来なかったのだ。己の作った兵器がやがて人を殺し、その災禍がアインにも降り注ぐ可能性があると思うと、彼女の腕は震え、指は動かなくなり、泉の如く湧き出していた発想は止まった。</p><p>そして彼女にとって不幸な事に、王国はそれを反乱の意思だと考えた。アインの出身が国境に近かった事も災いしていた。敵国フィグリアに与するのではないかと疑われたのだ。</p><p>巻き込んでしまって、ごめんなさいね、アイン</p><p>謝られるような事は何一つ無い</p><p>さっぱりとした様子で、アインはそう言った。搭の外にはプラエティの兵士達がずらりと並んでいる。裏切られ、敵につかれるくらいなら、鳴かなくなった鳥は殺してしまえという腹なのだろう。その様子を見て、ラズはいよいよこの国に後が無いことを悟った。</p><p>あなたまで死ぬ事は無いわ。私は、今まで間接的にとは言え何人もの人を殺してきた。その報いを受けなければいけない。でも、あなたはそうじゃない</p><p>俺はラズの弟子だ。ラズが悪だというなら、俺は喜んで邪悪な魔術師を名乗るさ</p><p>アインはラズの手を引いて言った。</p><p>逃げよう、ラズ。逃げて、どこか遠い国で二人で暮らそう</p><p>そんな彼に、ラズは首を横に振った。</p><p>それは無理よ。完全に囲まれてる。逃げ切れない</p><p>兵士達は他ならぬラズが開発した弩で武装している。空を飛んでも逃げられない事は誰よりもラズが了解していた。転位の魔術は研究段階で、実用できるレベルではない。</p><p>二人とも逃げられない事を悟り、アインは大きく息を吐いた。</p><p>俺が、死ねば良い。ラズが内通を疑われたのは俺のせいだ</p><p>ごめんなさい、アイン</p><p>一筋、ラズの頬を涙が流れた。</p><p>この命はラズに救ってもらったもの。ラズの為に捨てられるなら、悔いは無い</p><p>サッパリとした表情で言うアインに、ラズは首を横に振った。</p><p>アイン・ソフ・Ol。師としてあなたに命じます。私の首を刎ね、それを持って兵に投降しなさい</p><p>呪力を帯びた言葉に、アインの身体は強制的に動き、剣を手に取った。</p><p>ラズ！？ どういうことだ！？ 何で、こんなやめてくれ！ 俺は、あんたを殺してまで生きていたくなんか無い！</p><p>ごめんなさい。ラズはもう一度、胸中でそう呟いた。アインが叫んだ言葉はそのまま、彼女の心そのままだったからだ。アインを殺してまで生きていたくない。そのエゴを、彼女はアインに押し付けた。</p><p>やめろやめろ！！</p><p>アインは自分の腕を何とか止めようと、全身に力を込めた。しかし、真名によって縛られたその身体は全く彼の言う事を聞かず、剣を鞘から引き抜く。</p><p>ラズはすっと居住まいを正すと、刎ねやすいように上を向き、その白い首を晒した。そして目を閉じ、祈る。いつの日か彼が幸福に生きていて良かったと、そう思う日がきますように。</p><p>その為であれば、この魂が、煉獄に落ちても構わない。</p><p>Olは腕を、まっすぐ横に振った。一瞬の後剣は正確に振るわれ、彼女の首は宙を跳ねた。ほんのひと時、最後に彼の姿を目に入れながら、いつの間にか背を抜かれていたんだな、と彼女は思った。</p><p>アインは言い付けられた通り、ラズの首を持ってプラエティ兵に投降した。彼の身は捕縛され尋問にかけられたが、彼がラズの知識を受け継ぎ同様の兵器を作れる事を知るや否や彼らはアインを監禁し、兵器を作らせた。</p><p>数ヵ月後、アインの作った兵器は同時にその機能を失い、暴発した。それによってプラエティ王国はフィグリア王国に敗北し、地図からその名を消すことになる。</p><p>リル、聞きたいことがあるんだがなんだ、この部屋は</p><p>Olは部屋の中を見て顔をしかめた。リルの部屋は兵器の設計図や蔵書が散乱し、足の踏み場も無いほど散らかり、部屋の主はベッドの上にごろごろと転がりながら本を読んでいるところだった。</p><p>少しは片付けろ。部屋が片付いていないのは仕事が出来ない証拠だといつも言っているだろうが</p><p>呆れていいながら、Olは床に散らばるそれらを拾い上げ、整頓し始める。</p><p>それってラズの受け売りでしょ？</p><p>己が身に残る記憶を引っ張り出し、リルはそう尋ねた。</p><p>そうだ。ラズの部屋はいつも綺麗に整っていただろう？</p><p>でもそれOlが片付けてただけじゃない</p><p>Olを拾った時はたまたま掃除の直後だったから片付いていたものの、普段はこの部屋と変わらなかった事をリルは知っている。</p><p>ラズもこんなもんだったよ</p><p>だから、俺の思い出を穢すなと言っているだろうが！</p><p>怒鳴るOlにリルはけらけらと笑った。</p><p>あなたのお陰で今、Olは幸せそうだよ。</p><p>そう、前世の自分に語りかけて。</p><p>番外編8ユニスの誕生日</p><p>本編9話あたりの話です。</p><p>ユニスの誕生日？</p><p>うん。来週なんだって</p><p>機嫌良さそうに言うリルに、Olは怪訝な表情を向けた。</p><p>それがどうかしたのか？</p><p>お誕生日会！ を！ 開きます！</p><p>何を言ってるんだと言わんばかりに言う彼女に、Olはコイツは何を言っているんだという目を向け</p><p>お前は何言ってるんだ</p><p>実際にそう言った。</p><p>だって年に一回しかないんだよ！？ 祝わなきゃ！</p><p>二回以上あってたまるか</p><p>Olは嘆息して答えた。</p><p>そもそも、お前自身の誕生日はわかっているのか？</p><p>え、いや、覚えてないけど</p><p>俺も自分の誕生日など覚えてない。スピナはまあ、この前魔術師として</p><p>生まれ変わったようなものだからその日だとしても、他に自分の誕生日を</p><p>覚えてるような奴がいるのか？</p><p>淡々と述べるOlに、リルはむうと唸る。</p><p>それにまあ、やめておけ。余計な事はしなくて良い</p><p>はぁい</p><p>明らかに不満げな表情で、リルはOlの部屋を後にした。</p><p>と言うわけで！ Olは抜きでやります！</p><p>ぱちぱち、とまばらな拍手。熱心に手を叩くのはマリー。それに付き合うように控えめに手を叩くミオ。スピナとエレンは状況が把握できていないのかリルをじっと見つめた。</p><p>と言うわけでと言われても、意味がわからないのですが</p><p>ユニスの！ お誕生日会！ を！ 開きます！</p><p>ぐっと力を入れて強調するリルに、エレンは要領を得ないといった表情で尋ねる。</p><p>誕生日とはなんだ？</p><p>なんだも何も、そのまま。誕生した日のことよ</p><p>エレンは首を捻る。</p><p>ユニスが誕生したのは十数年前のことじゃないのか？</p><p>そこから説明しないといけないの！？</p><p>リルは頭を抱えた。そもそも1年区切りの暦と言うのは、長い時を森の中で生きるアールヴ達にはピンと来ないらしい。</p><p>とにかく！ 各自、ユニスに送るプレゼントを準備して、当日はパーティを開くから、そのつもりでね！後、この話は当然ユニスには内緒だからね。あとOlにも</p><p>リルの言葉に、マリーが手を上げて元気良く返事をする。</p><p>あれ、皆で集まってどうしたの？</p><p>そこに突然、ひょいとユニスが顔を覗かせた。びくりと身体を震わせるリルをよそに、マリーがニコニコしながら言った。</p><p>あのね、秘密なんだけどユニスのた</p><p>その口をスピナが素早く手で塞ぐ。5歳児に秘密が守れるとは端から思っていなかったから、その対応も実に素早かった。</p><p>あたしの？</p><p>首を捻るユニスに、エレンは真剣な表情で言う。</p><p>主殿との夜伽の回数が、ユニスだけ多すぎるのではないか？ と話していたのだ。気付けばベッドに潜り込んでいるからな</p><p>う、そ、そんな事無いんじゃないかなあ～</p><p>言いつつもユニスは視線を逸らし、思い出したように手を打った。</p><p>あ、ごめん、急用を思い出した！</p><p>そう言ってそそくさとその場を逃げ出す。</p><p>エレングッジョブ！</p><p>リルは親指を立てた。</p><p>しかし、プレゼントか</p><p>解散し、エレンは困ったように呟き、ミオに尋ねた。</p><p>我々にはあまりそういう習慣が無いのだが、どのような物を送ればいいんだ？</p><p>そうですね自分が貰ったら嬉しいものを送ればいいんじゃないでしょうか</p><p>ミオは少し悩んだ後、そう答えた。彼女もあまり人に贈り物をやり取りしたことなど無いが、彼女自身そう言った方針で用意するつもりだったからだ。</p><p>自分が貰ったら嬉しいものか</p><p>しかしそれに、エレンは更に悩みを深めた。白アールヴに比べればマシであるとはいえ、精霊を出自とするアールヴ達には物理的な欲求と言うのは人間ほど強くない。欲しいものといわれてもいまいちピンとこなかった。</p><p>仕方なく、彼女は部下に相談してみる事にした。アレット、ベティ、クロエ、デルフィナ。彼女と共に戦を生き抜き、信を置くいずれも一騎当千の猛者たちだ。彼女達であれば必ず妙案を出してくれるとエレンは信じた。</p><p>うーん。やっぱりアレじゃないですか</p><p>口火を切ったのは4人の中でもっとも勇敢なベティだ。彼女は常に先陣を切る。それはこういった場においても同様だった。</p><p>Ol様の精液！</p><p>訂正しよう。もっとも迂闊でお調子者のベティだ。</p><p>武器などはいかがでしょうか</p><p>ベティの提案をさらりと流し、生真面目に提案したのはもっとも慎重で判断力に長けるリーダー格のアレット。</p><p>ユニス殿は卓越した武威を誇る英雄。英雄には優れた武器が相応しい</p><p>ふむ、武器か</p><p>エレンは己の形の良い顎をなで、考えた。</p><p>しかし我らには剣を作る技術など無い。木剣を贈るわけにもいかぬし</p><p>弓をお送りしては？</p><p>エレンは首を横に振った。</p><p>あの娘は、矢より早く駆ける。弓は不要だろう</p><p>アレットは絶句した。英雄という物が人知を超えた力を持つ事はわかっていたが、よもやそれほどとは思わなかったのだ。</p><p>食事はいかがでしょう</p><p>おっとりとそう提案したのは一番の年嵩、クロエだ。</p><p>ユニス様は健啖家でいらっしゃいます。アールヴ料理を振舞ってみては？</p><p>ふむ、それは悪くないかも知れんな。ではクロエ、頼めるか？</p><p>エレンがそういうと、彼女は表情を引きつらせた。</p><p>その、私は食事の用意は、下の者に任せていたものですので、お出しできるほどの物は</p><p>ふむ、そうか。では誰か</p><p>エレンが視線をめぐらせると、頼りになる部下たちは揃って視線をそらした。</p><p>ええい、デルフィナ！ 何か無いか！</p><p>エレンは沈黙を守る最後の一人、部下の中随一の弓の妙手デルフィナに助けを求めた。まるで眠っているかのようにおとなしくしていた彼女は、すっと目を開くと、ぽつりと呟いた。</p><p>我に秘策あり</p><p>おお、と一同にどよめきが上がった。</p><p>ゆーにーすー！</p><p>マリーはユニスに向かって全力で駆け、そのままばふと彼女の足に抱きついた。</p><p>お？ どうしたどうしたー</p><p>ユニスは人好きのする笑顔を浮かべるとマリーを抱き上げぐりぐりと頬を擦りつけた。</p><p>ゆにす、なにほしい？</p><p>直球ですか！ 通路の角で聞き耳を立てながら、スピナは胸中でそう叫んだ。</p><p>んー？ なになにー、なんかくれんの？</p><p>パーティを計画している事は言ってないけども！ スピナは今すぐ飛び出して、彼女を止めようかどうか悩んだ。</p><p>そうだなーマリーの笑顔がいいかな</p><p>ユニスは朗らかに笑い、そういった。マリーはきょとんとして尋ねる。</p><p>わたしの、えがお？</p><p>うん。それが一番！</p><p>神妙な表情でマリーは頷いた。</p><p>そしてユニスの腕から降りると、ととと、とスピナの足元まで駆け、悲壮な表情で彼女を見上げ言った。</p><p>そふぃわたし、がんばってわらう</p><p>ぐっと顔を突き出し、顔を引きつらせてそれでも彼女は笑顔を浮かべた。</p><p>だから、とって</p><p>いやいやいやいやそういう意味じゃないから！</p><p>あなたは私をなんだと思っているのですか！</p><p>慌てて二人はマリーを止める。</p><p>もう、どんだけ猟奇的な発想なの！っていうかよくそれノータイムで決意したねマリー！？</p><p>ユニスはしゃがみこむと、マリーをぎゅっと抱きしめ彼女の頭を撫でた。</p><p>私のせいではありませんよ？</p><p>あ、いや、別にそういうつもりで言ったんじゃないよ</p><p>気配では気付いていたものの、マリーによって隠れていたスピナが暴かれる形になって若干気まずい空気でユニスは首をふる。</p><p>えーっと、っていうか、何かあったの？</p><p>なんだかまたよくわからない遊びを考えたみたいです</p><p>スピナは適当にごまかした。とにかく今はこの微妙な雰囲気を脱したい。</p><p>それでは私は、お師匠様のお手伝いがありますのでこれで</p><p>マリーを拾い上げ、スピナは足早にその場を立ち去った。彼女はどうにもユニスが苦手だった。ユニスはいつも明るく朗らかで太陽の様に輝いている。心根まで真っ黒な自分とは大違いだ。</p><p>ただOlを通じて顔を合わせる機会が多いというだけで、そもそもさして親しくもない。なのに何故こうまで気を揉まねばならないのか。心の中で文句を呟きながらも、スピナは彼女に送るものの候補を思い浮かべた。</p><p>その日、ユニスがリルに呼ばれ会議室へと向かうと、部屋の中は闇に包まれていた。空気から伝わってくる気配でリル達がいるのはわかるが、何故明かりを落としているのか。ユニスが問いかけようとしたその瞬間、ぱっと明かりがついて彼女の目は光にくらんだ。</p><p>ハッピーバースデー！</p><p>視界を取り戻したユニスが見たものは、飾り付けられた会議室と料理の並んだ卓、そしてたんじょうびおめでとう ユニスと書かれた横断幕だった。</p><p>突然の奇襲に理解が追いつかず、ユニスはぱちぱちと目を瞬かせた。</p><p>今日、誕生日でしょ？</p><p>ぷれぜんと、ようい、したよ！</p><p>黙っていてすみませんでした</p><p>口々に言う娘達に、ユニスの頬を一筋、涙が伝った。</p><p>えっユ、ユニス！？ どうしたの！？</p><p>予期せぬ反応に、リル達は慌てた。ユニスは涙を流しながら顔を手の平で覆い、力なく首をふる。</p><p>ちがちがう、のごめん、あた、しだめ、なんだよ</p><p>嬉し涙にしては、その様子はあまりにも悲壮感に満ちている。言葉を失うリル達の前で、彼女の頭にぽんと手が置かれた。</p><p>全くだからやめておけといっただろうが</p><p>呆れた声をあげるのは迷宮の主。Olだ。</p><p>ユニス、顔を上げろ</p><p>しゃくりあげるユニスの髪をかきあげ、Olは彼女を上に向かせた。</p><p>大方お前はこう思っているのだろう。誕生日を祝ってもらう資格などない、と</p><p>ぼろぼろと涙を零しながら、ユニスはこくりと頷いた。</p><p>だって、あた、しのせいでお母様、は</p><p>言わんでいい</p><p>Olはそういい、くしゃりとユニスの髪を撫でた。その言葉に、リル達は己の失策を悟る。ユニスの誕生日はそのまま、彼女の母親の命日だったのだ。</p><p>だが、お前は一つ考え違いをしている</p><p>ユニスの頬を伝う涙を舐め取り、Olは言った。</p><p>誕生日などという物は、お前が生まれたその日に終わっている。今日という日は別にその日を祝うためにあるわけではない</p><p>聞くものの心を落ち着かせるような、深く低い、優しい声でOlは諭すように言った。</p><p>お前が今日まで生きた事。そして、お前を今日まで生かした全てのものに感謝をささげ、喜びを分かち合うための日だ</p><p>あたしを生かした、全てのもの</p><p>深く頷き、Olは背後を振り返る。そこには所在無さげに立つ仲間たちがいた。</p><p>お前の母は言うに及ばずそれを祝おうというもの達が、ここにこれだけいる</p><p>ユニスはリル達を見、そしてOlに視線を移した。</p><p>勿論、俺もそうだ</p><p>頬の涙の筋を拭い、ユニスはにっこりと笑う。ようやく戻った彼女の笑顔に、仲間達はほっと胸を撫で下ろした。</p><p>さて、食事が冷める前に食べる事としよう</p><p>そうそう！ ユニスの好きなものばっかり作ったんだよ！ 腕によりをかけて</p><p>かけたのは私とミオですが</p><p>ユニスの背を押して席へと誘導するリルに、スピナがぽつりと呟く。</p><p>ホントだ！ 黒パンにエール酒、豚の腸詰にパンプキンパイ、それにパスタも！</p><p>あれ、パスタ？</p><p>用意した覚えのない料理に、ミオは首をかしげた。</p><p>ユニスは王族の割りに、素朴なものばかり好みますね</p><p>泣いた顔はどこへやら、笑顔でニコニコと口の中に料理を詰め込むユニスにスピナは半ば呆れてそういった。</p><p>んぐっていうか、スピナの料理が好き、かな？ 料理上手だよね</p><p>何のてらいもなく自然にそういうユニスに、スピナは顔を背ける。その背を、何照れてんのとニヤニヤ笑いながらリルがつついた。</p><p>そうそう、プレゼントも用意したんだよ</p><p>そういってリルは机の下から包みを取り出した。他の娘達も隠し持っていた包みをそれぞれに取り出す。</p><p>わ、開けていい？</p><p>目の前に集められた包みを、ユニスは大喜びで広げた。まずは可愛らしい布の袋に入れられ、リボンで縛られた包み。</p><p>あ、それは私のです</p><p>恥ずかしそうに、ミオが言った。</p><p>気に入って頂けるといいんですが</p><p>中に入っていたのは、木製のブラシだった。</p><p>ユニスさん、髪の毛ふわふわだから朝大変そうかなって</p><p>ありがとう！ そうそう、すぐ髪の毛はねちゃうんだよね</p><p>ユニスはポニーテールにした赤い髪を撫でながら、ぎゅっとブラシを抱きしめた。</p><p>大切にするね</p><p>次に開けたのは、同じような布の袋。しかしこちらは幾分大きく、口がゆるく縛られている。</p><p>えーと、これは？</p><p>中からは、木の枝や石がごろごろと出てきた。</p><p>あ、それ、わたしの！</p><p>手を挙げ、マリーが嬉しそうに笑った。</p><p>まっすぐな、きのぼうとー、すべすべでまるいいし！</p><p>うわーほんとだ！ すごい真っ直ぐ！ すごい丸い！</p><p>えへへーでしょおー</p><p>ニコニコと笑うマリーにユニスもニコニコと頬を緩ませた。</p><p>次にユニスが手にとったのは木で出来た箱だった。美しい装飾が彫られた箱の中には枯れた草が敷き詰められ、中央には毒々しい色をしたキノコが置かれていた。見るからに毒を持っていると主張するような、禍々しいキノコだ。</p><p>ああ、それは私だ。森の中で最強と呼ばれる毒性を持つキノコでな、刃に塗れば瞬く間に肉を腐らせ、骨まで冒す。難敵に使うといい</p><p>ユニスは無言で蓋を閉じ、笑顔を作って答えた。</p><p>うん、大切にするね！</p><p>間に封印という言葉を省略する。</p><p>次は</p><p>茶色いガラス瓶を開けようとするユニスの手を、スピナが止めた。</p><p>それは私のです。ここで開けると惨事になるので、どうぞ部屋でお使いください</p><p>一応聞くけど、中身って</p><p>媚薬スライムです</p><p>スピナは精一杯の笑みを浮かべて答えた。慣れぬ筋肉を動かし引きつったそれは、邪悪な笑みにしか見えなかったが。</p><p>あっ、でも今度はちゃんと絶頂に達したら停止するように調整してありますのでご心配なく</p><p>そ、そうなんだ</p><p>以前このスライムに襲い掛かられたときの事を思い出し、ユニスは頬を染めた。あの時は死ぬかと思ったが、停止するなら試してもいや、やっぱりこれはさっきのキノコと一緒に封印しておこう。ユニスは考え直し、最後の箱に手を伸ばした。</p><p>中から出てきたのは、なにやら非常に見慣れた形の棒状のものだった。</p><p>最後は私の！ 完全にOlの最大時を再現した、1/1張り形、魔力で振動する機能つき</p><p>ねえ、スピナもリルもあたしをOlから遠ざけようとしてない？</p><p>とんでもない</p><p>二人は口を揃えて言った。</p><p>全く、もう</p><p>呆れたように呟き、ユニスは堪え切れず吹き出した。つられて、他の娘達も笑い出す。</p><p>ありがとうね、皆</p><p>目の端に涙を浮かべ礼を言う彼女に、Olは小さな箱を取り出し彼女に渡した。</p><p>ユニス。これは、俺からだ</p><p>えっ、Olもくれるの？ なんだろ</p><p>それは銀で出来た箱だった。美しい彫刻の為された蓋をそっと押し開くと、中にはしかし何も入っていなかった。</p><p>俺の贈り物は、その箱自体だ。空間を曲げ、見た目よりずっと多くのものが入るようになっているし、中に入れたものは劣化もしない。これから得ていくお前の宝物を、それに入れていくがいい</p><p>満面の笑みで頷き、ユニスはOlに抱きついた。</p><p>幸せな宴は終わり、その後に。</p><p>それにしてもさ</p><p>パーティの後片付けをしながら、リルはボヤいた。部屋に残っているのは彼女と、Olだけだ。</p><p>知ってたなら、教えてくれたらよかったのに。ユニスのお母さんが、誕生日に亡くなってた事</p><p>結局は上手くいったのだからいいだろう</p><p>そりゃそうだけど</p><p>そこで、リルははっとしてOlの顔を見た。ミオが作った覚えのないパスタ。他の贈り物を入れる為の贈り物。あんな呪具、一朝一夕に作れるものではないはずだ。</p><p>もしかして狙った？</p><p>Olはニヤリと笑み、さてなと誤魔化した。</p><p>最終幕空に未来を描きましょう</p><p>うー</p><p>落ち着け。お前が焦ってもどうしようもないだろうが</p><p>扉の前をうろうろと歩き回るリルに、呆れた声でOlは言った。</p><p>そうなんだけどさあ</p><p>そういうOlも、先ほど役に立たないから外に出ていろと追い出されたばかりだ。</p><p>その傍にはスピナ、マリー、ザイトリード、ウォルフといった面々が顔を並べてまんじりともせず夜を明かしていた。</p><p>扉の向こうではメリザンドとその助手の僧侶が数人、産婆が付きっ切りでユニスの出産に立ち会っていた。</p><p>時折聞こえる苦悶の声に、まるで我が身の事のように顔をしかめリルは心配げに扉の前を右往左往する。</p><p>その時突然、赤子の鳴き声が聞こえその場にいた者たちは一斉にがたりと立ち上がった。</p><p>産まれたか！</p><p>自らたしなめていたリルを押しのけ、いの一番にOlは分娩室へと入った。</p><p>元気な男の子ですよ</p><p>産婆が火のついたように泣き喚く赤子を抱き、にっこりと微笑んだ。</p><p>よく頑張ったな、ユニス</p><p>分娩台に横たわるユニスの髪をそっと撫で、Olは彼女に口付けた。</p><p>そして、険しい表情をするメリザンドと共に、新しく生まれた我が子へと向き直る。</p><p>メリー、これは</p><p>ああ。やはり危惧していた通りいや、それ以上だ</p><p>赤子の額には、互いに重なり合う三重の輪が刻印されていた。彼が英雄に生まれついたことを標す、天の刻印。しかも三重と言う事は、三倍の英雄の力を持つ証だ。ユニス、ウォルフ、ザイトリード。彼はその力を掛け合わせたほどの、大英雄に育つだろう。</p><p>Olは産婆から赤子を受け取り、用意していた魔法陣の上に彼を浮かべた。ユニスの出産は無事に終わった。しかし、本番はこれからだ。</p><p>英雄の運命として多くあるエピソードのひとつに親殺しがある。自らの親を、それと知らず、或いはうらみに思って殺してしまうという話だ。そして多くはそれを悔い、或いは誓いに触れて自らも死ぬ。子殺し、恋人殺しに並びよくある話だ。</p><p>Olとユニスの子は、その運命を背負わされて産まれたに違いなかった。Olに今まで女児しか生まれなかったのも、この時の為。聖女を下したOlを確実に葬り去るために、もっとも英雄に相応しい子を天が待っていたのだ。</p><p>いくぞ、Ol！ この新しい命に、そのような運命を背負わせてはならん！</p><p>しかし、Olとメリザンドはそれを元から予見していた。そのような運命を、英雄などという下らない力を、己が子に背負わせるつもりは毛頭ない。</p><p>理力で英雄としての力を無力化しつつ、魔力で英雄としての運命を捻じ曲げる。その為の準備を二人は十月十日ずっとしてきていた。</p><p>その様子を見守りながら、ウォルフは髭を撫で付けた。彼の鋭敏な感覚は、熱烈な歓迎の気配を察知していた。といっても、こちらにとっては嬉しくない歓迎だ。ご退場頂かねばならない、とウォルフは考えた。</p><p>この俺の出番も残しておいてくれるとは、全く天という物は気が利いておるな</p><p>頼めるか</p><p>我が孫の為だ。是非もない</p><p>ウォルフはOlに頷き、部屋を出た。</p><p>魔王の城の外、結界に阻まれたその先に、まるでもう一つの太陽の様に輝く存在があった。</p><p>それは4つの顔と4つの翼を持つ、天使の上位第二隊。智天使(ケルビム)の姿であった。聖女であるメリザンドでさえ使役することは適わず、その気になれば己の力だけで現界できるほどの神威。</p><p>間違いなく、現在の天界で最上位に位置するであろう存在。それはすなわち、天から地まで全てを含んだ中での最強の存在を意味していた。</p><p>良かろう、地上最大の英雄の相手に相応しい</p><p>巨竜の身体へと向かうウォルフの前を一つの小さな影が遮った。</p><p>お手伝いできる事はございますか？ ウォルフ様</p><p>手伝ってくれるか。お前の協力が得られるのならば、百人力だ。頼もう、獣の魔王よ</p><p>その名は好きではありません。私はただの牧場主の娘です</p><p>ミオはにこりと微笑んだ。</p><p>Ol様！ 城の中に天使が！</p><p>制御を乗っ取られたか！</p><p>分娩室に駆け込み、報告する黒アールヴにメリザンドは舌打ちした。天の迷宮を守る天使達は完全に彼女の制御下にあるが、唯一の例外がある。更に上位の天使が、人の手を借りずに現界したときだ。</p><p>世界が神秘に溢れていた神代ならばともかく、この時代にはそんな事はそうそうあることではない。天界の余力的に考えても、今回が最初で最後だろう。</p><p>今、エレン様率いるアールヴと冒険者の皆様で抑えています。しかし、敵の数は莫大！ 防ぎきれる量ではありません！</p><p>天の制御下に置かれた天使達は、周囲の理力を使って更なる増援を呼び寄せていた。空に浮かぶこの城は光に溢れ、それゆえに天使達は迷宮とは違いその力を十全に振るうことが出来る。</p><p>援軍にいくわ。あなた達はここの防衛をお願い</p><p>おう、任せとけ</p><p>妹の子には指一本触れさせん</p><p>頷く不死身と鉛、二人の英霊を頼もしく見て、リルとスピナは分身を作り部屋を出て行く。</p><p>そういえば</p><p>Olはふと、数が足りない事に気が付いた。今部屋の中にいるのはOlとメリザンド、不死身ことザンドとザイトリード、その妻ヒルダ。そして産婆や僧侶達だ。</p><p>マリーは、どこに行った？</p><p>ここはいきどまりだよ</p><p>軽やかにそう宣言する少女に、天使達は足を止めた。金の髪に青い瞳。絶世といっていいほどの美少女は、たった一人で通路に立っていた。</p><p>そこを退け。邪魔をするなら容赦は</p><p>槍を掲げ、宣言する天使の声は最後まで続かなかった。</p><p>その首が、刎ねられたからだ。</p><p>居並ぶ天使達は驚きに目を見開く。まだ幼い少女はその小さな身体をするりと天使達の列の間に滑り込ませると、両の手に持った二振りの剣を振るった。その一撃で、更に二つの首が飛ぶ。</p><p>二刀流か！ 挟み込め！ 同時に攻撃しろ！</p><p>二人の天使の槍を、マリーは剣で受け止めた。武器を封じられた彼女に、更に別の天使が突きかかる。</p><p>二刀じゃないよ</p><p>マリーは天使のように微笑み、囁いた。</p><p>彼女の剣を押し留める天使二人が、まるで見えない腕に振るわれるかのように宙を舞う剣に首を刎ねられ、消える。枷のなくなった残り二本の剣で、マリーは三人目の天使の槍をはじき、その左胸を突き刺した。</p><p>よんとーりゅーでした</p><p>馬鹿な、それはまさか</p><p>宙を自在に舞うその剣は、魔術で操られているものではない。</p><p>法術だ。腕を振るうように剣を動かす、という法をこの少女は作り出していた。その効果は単純だが驚異だ。法である以上、その剣を止めるすべはない。そしてこの神気に包まれた城の中では、殆ど使い放題に等しい。</p><p>それだけじゃないよ</p><p>マリーは更に二体の天使を屠りながら、呪文を紡いだ。彼女は無数の炎の矢を背負い、剣を天使達に向け、最後の一節を口にする。</p><p>穿て</p><p>炎の矢は彼女自身を避けて飛び、狙い違わず天使達の心臓を貫いた。それは回避も防御も不可能の、絶対必中の矢。当たるという結果を法によって定められた、魔術の炎の矢だった。</p><p>剣と、魔術と、法術を同時に使うだと！？</p><p>規格外の存在に、天使は叫んだ。理力と魔力はともに正逆。その身に両方帯びようとすれば打ち消しあい破壊しあう存在だ。そんな芸当が出来るわけはない。</p><p>しかし、世界で唯一、マリーにだけはそれが出来た。己の身に魔力を宿し、呪で繋がれた半身から理力をもらう。それはそのまま、この天と地のダンジョンで行われている事の縮図だ。</p><p>どいておれ</p><p>居並び戦慄する天使達を退け現れた、燃える輪を背負った天使にマリーは瞠目した。明らかに他の天使達とは格が違う。</p><p>我こそは天使九階位第三位。上位第三隊座天使(スローンズ)のヴィナエル。娘、貴様の名を聞こう</p><p>マリーちゃんです！</p><p>ヴィナエルは背の輪を掴み、ぐっと前に突き出した。炎を纏ったその輪は高速で回転し、凄まじい速度でマリーへと投げ放たれる。</p><p>さらばだ</p><p>その破壊力は、主天使がその命をかけて放った錫の熱線にすら数倍する。仮にそれをかわすか、持ちこたえたとしてもすぐさまその身を切り裂こうと、ヴィナエルは油断なく剣を構えた。</p><p>マリーは四本の剣を並べ、それを迎撃しようとした。しかし、彼女はそれが無駄に終わることもまた、わかっていた。ユニスに教えてもらった剣。Olに教えてもらった魔術。メリザンドに教えてもらった法術。</p><p>その稀有な複合性と優れた師によって彼女はその年にしてはありえないほどの強さを誇ってはいるものの、その身は英雄ではなく、まだ技も身体も未熟だ。このような圧倒的な威力を持つ攻撃に対しては成すすべがなかった。</p><p>そしてそれとは別の理由で、マリーの行為は無駄に終わるのだ。幼い頃から彼女が困ったときにはいつも助けてくれた4本の逞しい腕が、軽々とその輪を止めた。</p><p>ありがと、ローガン</p><p>成長し、態度が少し素っ気無くなってもローガンはローガンだった。マリーが兄の様に慕う彼はいつも、彼女を助けてくれる。</p><p>我が車輪を止めただと！？ 貴様、上級悪魔か！？</p><p>上位天使である座天使と比肩しうる悪魔は通常、この世界に姿を現すことなど出来ない。彼同様、非常に稀有な存在となっているからだ。人間界に呼ばれる中でもっとも位の高い下級悪魔でさえ、中位第一隊の主天使と同格。</p><p>この地上において、座天使が悪魔に遅れを取るはずなどないはずだった。</p><p>上級か。そんなわけないだろ</p><p>ローガンは天使の輪を投げ捨て、その炎によって焼け焦げた己が手の平を見つめながら言った。</p><p>俺はロリ魂を持ちながら、新しく生まれた子供が男だったという激しい怒りによって</p><p>進化した伝説の下級悪魔超下級悪魔ローガン様だ！！</p><p>いやそれ八つ当たりじゃん</p><p>進化してません。私達が手を貸しただけです</p><p>呆れた声で現れるのは、やはりマリーが姉同然に慕う三人のうち、二人。スピナと、リルだ。</p><p>ソフィ！ リル！</p><p>師姉と呼びなさい。あなたももう魔術師の端くれなのですから</p><p>その手に魔力の刃を浮かべながら、スピナは言った。共にOlに師事する彼女は、マリーにとって姉弟子に当たる。</p><p>さぁって、お返しをどうぞ</p><p>改良した石火矢を構え、リルがにっこり微笑む。</p><p>狙いは頼むぜ、マリー。全力でいくからな</p><p>炎を纏い、ローガンが獰猛な笑みを浮かべた。</p><p>法術を練り、マリーは法則を作り出す。彼らを信じる心が力となり、マリーは一つの結果を導き出した。</p><p>ぜったいに、かつ！</p><p>そして放たれる無数の攻撃は、その通りの結果を導き出した。</p><p>英雄王はその背に獣の魔王を乗せ、鋼の翼をはためかせた。</p><p>でかいな</p><p>その視線の先にあるのは智天使。人、獅子、牛、鷲の4つの頭を持ち、4つの翼を持つ天で二番目に偉大なる天使だ。神代の神魔戦争を生き抜いた、恐らく天界随一の勇者だろう。</p><p>身の丈80フィート(約24m）を超える最古の竜メトゥスの身体でさえ小さく見えるほどの巨体が、宙を舞いOlの迷宮に迫りつつあった。</p><p>獣の顔を持つが、アレは操れぬか？</p><p>流石に無理です</p><p>英雄王の言葉に、ミオは苦笑していった。見た目こそ獣の姿をしてはいるが、その実は天使だ。流石に意思を通わせる事さえ出来ない。</p><p>それより来ます</p><p>ミオはウォルフの頭の上に立つと、その角を握り締めた。彼女の目が金に輝き、同調が始まる。ミオの視界がウォルフのものと重なり、周り一面に広がった。竜の瞳は360度隙なく見渡すことが出来る。ウォルフ自身は知覚できぬその視界を、ミオは得ることが出来た。</p><p>左舷、上方40度から隠蔽された理力の矢が飛んできます。3秒後接触、3,2,1回避しました</p><p>その視界は広いだけでなく、魔力も理力も正確に見通した。肉眼では見えぬその情報をミオはウォルフへと渡し、ウォルフは巧みに竜の身体を動かしそれをかわす。</p><p>心技体、すべてが別の存在からなる巨竜は、しかし一体の生き物としか思えぬ完成された連携で動いた。</p><p>体内の毒素を圧縮充填に10秒。10,9,8右舷、下方80度より理力の矢接近。避けられませんっ</p><p>ぬうっ！</p><p>連続で放たれた不可視の矢を、ウォルフは右腕で防いだ。理力で出来た矢は鉄の槍でも傷一つ付かない鋼の皮膚を易々と引き裂き、腕を落とした。</p><p>毒素充填完了ブレス、撃てます</p><p>お返しだ！</p><p>ウォルフは口を大きく開くと、体内で圧縮された毒素の塊を撃ち出した。あらゆる生物を殺し、岩を割り、水を腐らせ、大地を砂漠へと変える強力な毒の塊は、一発の弾丸となって智天使に突き刺さった。</p><p>神代から通用する猛毒に、流石の智天使も苦悶の表情を浮かべ、もがき苦しむ。</p><p>よし、このまま</p><p>まってください、様子がおかしいです！</p><p>接近しようとするウォルフを、ミオは押し留めた。智天使はぐるりと顔を回転させると、獅子の顔を前面に出す。そして毒の影響を振り切ると、智天使は炎を吹きながら無数の矢を放った。</p><p>まだあのような力を残しているのか！</p><p>可視、不可視、矢は共に無数避けられません！</p><p>悲痛な声でミオは叫んだ。ウォルフは英雄としての冷静な判断をした。全力を振り絞り、一点突破すれば後一撃加えられる。しかし、ウォルフもミオも間違いなく死ぬだろう。</p><p>それによって彼の孫は守られる。そうすべきだと、彼は理解した。</p><p>ミオよ</p><p>そして彼は、覚悟を決めた。</p><p>お前だけはなんとしても守る。後は頼んだぞ</p><p>彼女を、そして魔王達を信じる。彼らなら何とかするはずだ。ウォルフは、そう決断を下し、彼女を守るべく翼を広げた。</p><p>おや、稀代の英雄王ともあろうものが随分弱気な事だ</p><p>そこに、小気味良い声がかけられた。聞き覚えのないしかし、どこかで聞いたことのある声。</p><p>いつの間にか、白い髪の男が彼の翼の上に立っていた。</p><p>私達に、お任せください</p><p>そしてもう片方の翼には、やはり白い髪の小柄な少女。</p><p>敵の核は、あの牛の頭その、眉間です</p><p>そして、奇妙な兜をかぶった騎士が、彼の背に乗っていた。</p><p>お前たちは！ 魔弾、炎髪、無明か！</p><p>無粋な名だ</p><p>魔弾は髪をかきあげ、そう呟いた。</p><p>我が名はレックス。一発千中レックス・ザ・ウェイカーだ！</p><p>ずらりと矢を並べ、魔弾は矢を放った。矢は千の光の礫へと姿を変え、智天使の放った矢のことごとくを打ち砕いた。</p><p>では、私もそれに習いましょうか。我が名はヨハネ・アーク。全てを燃やし尽くすものです</p><p>炎髪の髪が渦巻き、炎となって智天使の吐き出す炎を包み込んだ。白い炎と赤い炎がお互いに舐めあい、それそのものを燃やし尽くしていく。</p><p>私は名乗るほどのものではありませんがね。盲目のガイウス。さあお嬢さん、これを</p><p>無明はミオの手を取ると、彼女の頭の中に智天使の核の正確な座標を送り込んだ。</p><p>ありがとうございます！</p><p>では、後は任せたぞ、竜殺し</p><p>魔弾はそういい、その姿は消えていった。それに倣うように、残り二人の英霊も姿を消す。理力に以前ほどの貯蓄はなく、その大部分をユニスの子を封じる事に使っている今、肉体を持たない彼らが力を保てるのはほんの僅かの時間だった。</p><p>竜殺しではない</p><p>彼らの協力に感謝し、ウォルフは吼えた。</p><p>我こそは英雄王ウォルフディール！いざ、参る！</p><p>二人の意思と竜の身体は統一され、純粋な破壊の意思となる。鋼で出来た身体が形を変え、刃となったその姿はまるで一振りの剣のようであった。</p><p>否。まさしくそれは、剣だった。</p><p>かつてウォルフが王となった時に賜り、メトゥスの心臓を刺し貫いた宝剣。</p><p>フラント！！</p><p>一振りの巨大な剣になった彼らは智天使の、牛の頭の眉間を貫いた。そのまま頭蓋を貫き、反対側まで突き抜ける。</p><p>どうだ！？</p><p>竜の姿に戻り、荒く息を吐きながら振り返るウォルフの目の先で、智天使は何事もなかったかのように振り向き大きくその口を開けた。</p><p>それが、彼のこの世界での最後の動作だった。</p><p>光の粒子となって消えてゆく智天使を見届けながら、ミオはほっと息を吐き、ウォルフの頭の上にもたれかかった。彼女を落とさぬよう気を払いながら、ウォルフは城へと目を向ける。</p><p>こちらの仕事は終わった。後は、お前の番だ。</p><p>そう、胸中で呟いて。</p><p>天使が消えた。親父がやったようだな</p><p>不死身と共に分娩室を守りきり、ザイトリードは己の出番が来た事を知った。</p><p>彼は分娩室へと入ると、ぐったりとしている己が妹に声をかけた。</p><p>よく頑張ったな。俺は兄として、お前を誇りに思う。愛しているぞ</p><p>お兄様？</p><p>ぼんやりとした表情でユニスは彼を呼んだ。</p><p>しかしザイトリードは答える事無く、ユニスの息子の下へと足を運んだ。Olとメリザンド。魔王と聖女が力を合わせて英雄の呪いを防いでいるが、その表情には焦燥の色が濃い。</p><p>三重紋が示すのは、ただ英雄三人分の力が宿っているという話ではない。それら全てを掛け合わせた、未曾有の強さだ。恐らく今後数百年は英雄は生まれないだろう。それだけ、天は本気なのだ。</p><p>それを防げるのは、ザイトリードの力だけ。そして防ぎきれば恐らく彼は力を使いきり、命を落とすだろう。存在そのものが消え、二度と転生も出来ず彼というものはこの世界から消える。だが、それでも悔いはなかった。</p><p>過去妹を殺した贖罪ではない。彼女の、そして彼女の息子と認めたくないが、夫の未来を、守る為の戦い。それが、ザイトリードしか出来ぬというのだ。英雄としてこれほどの誉れがあろうか。</p><p>魔王よ。貴様には言いたい事が大量にあるが一つだけ、誓え。ユニスとその子を、必ず幸せにすると</p><p>言われるまでもない</p><p>真っ直ぐに目を見つめ、Olは答えた。何故この男の目の強さを、最初に見抜けなかったのか。ザイトリードは今更のように、そう思った。</p><p>ヒルダ。父に伝えてくれ。あなたの息子は最後まで勇敢であったと。そして再び、お前を残していく事を、許してくれ</p><p>ザイトリードの妻はにっこりと笑い、首を振っていった。</p><p>いやです</p><p>まさか拒否されるとは思わなかったザイトリードは言葉を失った。</p><p>私の夫は、英雄王も認める男。世界で最高の、英雄です。天如きに、負けはしません</p><p>そして、自信を持ってヒルダはそう答えた。</p><p>それに。あの子が産まれた日に、不幸を一つ残すおつもりですか？</p><p>お義姉様</p><p>ヒルダはユニスに微笑みかける。義理とは言え、自分の妹同然に見てきたのだ。ユニスの苦悩を、彼女はよく知っていた。</p><p>はっはっは！ 胆の据わった姉ちゃんだな！</p><p>ザンドかつて不死身と呼ばれた英霊は笑い、ザイトリードと肩を組んだ。</p><p>あら、姉ちゃんだなんて。おばさんでいいんですよ</p><p>それに控えめに微笑み、ヒルダは答える。</p><p>よし、やるぜ世界で最高の英雄さんよ！世界で最古の英霊が手伝ってやる。ぶっつけ本番だが行くぜ！</p><p>そう叫び、ザンドはザイトリードの身体に入り込んだ。二つの英霊の魂が、一つの身体の中で交じり合う。</p><p>メリー、力の供給は頼んだぜ。やりな、兄さん！</p><p>ザイトリードは赤子に手をかざすと、その両の手の平に力を注ぎこんだ。</p><p>おおおおおおおおおお！！</p><p>ザイトリードは全力で、赤子の英雄を打ち消した。全身に衝撃が走り、身体中がバラバラになりそうな痛みが駆ける。指先から焼けた鉄の棒を打ち込まれたようなその苦しみに、しかしザイトリードは苦悶の声一つあげず能力を使うことに集中した。</p><p>全身の皮膚が理力と理力のせめぎあいで崩れ、血が沸き立ち、肉が弾ける。それをザンドは次から次へと再生していった。自分の霊体ならば千に裂かれようと自然に修復されるが、他人の身体となると勝手が違う。</p><p>しかも、身体と同時にザイトリードの魂自体も傷付いていく。ザンドはそれを必死で繋ぎとめ、直し、修復した。</p><p>それはほんの数秒の出来事だったが、二人にとってはまるで永遠のような長い長い時間に思えた。そして、それを見守る者たちにとっても。</p><p>赤子の額から紋章が消え、魔法陣の上でバランスを失い、地に落ちる。それを、Olは優しく抱きとめた。</p><p>よぉ生きてるかい、兄さん</p><p>よろよろとザイトリードの身体から抜け出し、ザンドは尋ねた。</p><p>何とかな</p><p>ごほりと血を吐き出し、ザイトリードは答えた。身体の中はぐちゃぐちゃだが、少なくとも死んではない。そして幸いな事に、ここには回復の手だけは十分にあった。</p><p>お疲れ様でした、あなた</p><p>潤む瞳で、ヒルダはザイトリードを抱きしめ、口付けた。</p><p>さあ、ユニス。抱いてやれ</p><p>すやすやと寝息を立てる息子を、Olは妻に渡した。ユニスはそっと壊れ物を触るように彼を抱き、目を細めてその顔を見た。</p><p>あたしと、Olの赤ちゃん</p><p>そして、何よりも愛おしいものを見る瞳で微笑んだ。</p><p>髪の色はユニスの血だね。炎みたいに真っ赤</p><p>目元と鼻筋はお師匠様に似ています</p><p>それを横から覗き込み、リルとスピナも表情をほころばせた。</p><p>無事天に勝利した事を喜ぶ声がそこここであがり、空に竜の咆哮が響き渡る。</p><p>この子はどんな物語を紡ぐんだろうね</p><p>眠る我が子を見つめ、ユニスは呟いた。今なら、亡き母が命を賭してまで自分を生んだ理由がわかる。この子の未来のためなら何も惜しくはない。ユニスはそう思った。</p><p>敷かれた道は崩した。後は自分で為すべき事を為すだろう</p><p>Olは赤子を撫で、笑みを浮かべた。この騒ぎの中眠っているとは、案外英雄の力などなくてもこの子は大物になるかもしれない。他ならない、父親の様に。</p><p>そうだね。あたしと、Olの子供だもん</p><p>ユニスは太陽のように輝く笑顔を浮かべ、そう言った。</p><p>その胸に、空の様に広がる未来を描きながら。</p><p>魔王の始め方完</p><p>それでも彼女は微かに笑んで前編</p><p>ねえ、わたしの誕生日もお祝いしてよ</p><p>お前は何を言ってるんだ</p><p>いつもの事ながら唐突な使い魔の申し出に、邪悪なる魔王は呆れた口調でそう返した。</p><p>えー、だって、ユニスは毎年皆でお祝いしてるでしょ？ スピナだって、こっそり祝ってるじゃない。わたしだけ何にもないのは不公平だと思うの</p><p>別に、祝うという程の事はしていないが</p><p>気付いていたのか、と内心Olは呻く。</p><p>スピナの誕生日というのは、彼女がそれまでの名を捨て魔術師となった日の事。即ち、Olと初めてであった日の事でもある。</p><p>あまり賑やかしい場を好まない彼女はユニスの様に祝いの席を設ける事はなかったが、何とはなしに、師弟で酒を酌み交わし、そのまま睦事に移るのが倣いとなっていた。</p><p>別にわたしだって、国を挙げて大々的にお祝いしてなんて言ってるわけじゃないの。ご主人様からちょっと、誕生日おめでとう、とか、いつもありがとう、とか、愛してるよ、とか言ってもらえればって思っただけで</p><p>さらりと誕生日に関係のない要望を混ぜるな</p><p>Olが指摘すると、リルはふいと目を背ける。絹糸のように垂れる髪の隙間から、赤く染まったうなじが見えた。</p><p>照れるくらいなら言うんじゃない</p><p>なによぅ</p><p>まあ、そのくらいなら吝かではないがそもそもお前の誕生日っていつなんだ</p><p>改めて問われ、リルは答えに窮した。自分が生まれた日の事など全く覚えていない。そもそも暦という概念のない魔界においては、季節すら定かではなかった。</p><p>あーじゃあ、あれだ。ラズが死んだ日。それならある意味、わたしの誕生日じゃない？</p><p>お前という奴はいくら何でもそれは縁起が悪すぎるだろ</p><p>悪魔だもん、しょうがないじゃない</p><p>どっちにしろ、細かい日付までは覚えとらん。何十年前の話だと思ってるんだ。春頃だったというのを辛うじて覚えてるくらいだ</p><p>んー、じゃあ、あれだ。初めてOlにあった日は？</p><p>それなら覚えてるがだいたい、9か月後だな</p><p>えー</p><p>何の不満があるんだ</p><p>遠いよ！ 遠すぎるよ！ じゃあ、明後日とかにしよう</p><p>短すぎるわ。第一、お前と何の関係も無かろう</p><p>うー</p><p>頬を膨らませ、リルは唸る。</p><p>たかだか9か月くらい待っていろ。別にお前にとっては長いも短いもあるまい</p><p>そのOlの言葉が、リルの感情を逆なでした。</p><p>もういい</p><p>ふわりと宙に飛び上がると、彼女は部屋を出て行ってしまう。</p><p>残された時間は少ないのにリルは、Olの部屋を出て溜め息をついた。</p><p>彼女がOlの傍にいられるのは、さほど長くはない。</p><p>多く見積もっても、後たった数百年ほどだ。</p><p>どんなに魔術を駆使しても、肉体を若く保っても、人の魂というのには寿命がある。悪魔とて無限に生きられるわけでもないが、持つ時間は人より遥かに長い。リル自身はまだ百にも満たないが、少なくとも数千年は生きる事が出来るらしい。</p><p>そんな事を考えながら歩いていると、その生き証人とでもいうべき存在が目に映った。炎のような赤い体に、太くたくましい四本の腕。山羊の様にねじくれた角を持つそれは、数千年を生きたと豪語する悪魔、ローガンであった。</p><p>ローガ</p><p>その背に声をかけようとして、リルは躊躇った。表情は見えないが、ローガンの身体が今までになく緊張しているのが分かる。かつて、英霊と戦った時でさえ見なかった程の迫力を滾らせ、ローガンは魔力を漲らせていた。</p><p>行くぜ！</p><p>低く唸るような声色は真剣そのもの。</p><p>うおおおおおおお！</p><p>裂帛の気合いと共に、ローガンはその腕を伸ばし</p><p>そして、その先にいた幼い少女の肩に、ちょんと触れた。その瞬間、彼女に秘められた呪いがその凶悪な牙を剥く。</p><p>我が生涯に、一片の悔いなし！</p><p>強大な魔力の奔流に、ローガンの身体はあっという間に灰と化した。</p><p>何やってんの</p><p>ローガンが、レティシア触ろうとして死んじゃった</p><p>傍らで見ていたマリーに訊ねると、彼女は淡々と灰を集めながらそう答えた。レティシアというのは、今年五歳になったOlの八番目の娘だ。彼女は何が起こったのかわからず、きょとんとしている。</p><p>ローガン、どこいっちゃったの？</p><p>ちょっとおうちに帰っただけだよー</p><p>もう、戻ってこないの？</p><p>じわり、とレティシアの瞳に涙が浮かんだ。</p><p>そんなことないよ、すぐ戻ってくるって</p><p>でも</p><p>彼女の視線はマリーの手の中の灰に注がれていた。まだ幼いとはいえ、魔王の庇護のもと高いレベルの教育を受けているのだ。既に生き死にを理解するくらいの力はあった。灰になって生きていられるものなどいないし、実際ローガンは死んでしまっている。</p><p>ただ、そこから容易く蘇られるのが悪魔という存在だ。彼らの本体は魔界に存在していて、こちらの世界にやってくるのはその現身に過ぎない。召喚し直せばまた何度でも蘇る事が出来るからこそ、ローガンも簡単に己が身を滅ぼしたのだ。</p><p>とはいえ、ローガン程の悪魔を再召喚するのもなかなか手間がかかる。普通に呼ぼうとするなら、相当時間をかけて準備しなければならない。</p><p>もう、しょうがないなあ</p><p>リルはため息をついてレティシアの頭を撫でると、跪いて彼女に目線を合わせた。</p><p>レティ、安心して。わたしがすぐ連れて戻ってきてあげるから</p><p>ほんとう？</p><p>もー、リル、あんまり甘やかしちゃだめだよー</p><p>瞳を輝かせるレティシアと、灰になったローガン。その両方への意味を込めて、マリーはそう言った。</p><p>あんただって昔、ローガンが死んだと思って大泣きしたじゃないの</p><p>うっ</p><p>ニヤニヤと笑いながら指摘してやると、マリーはばつが悪そうに口を噤んだ。</p><p>ま、とりあえずあの馬鹿連れ戻してくるね</p><p>リルは地面に手早く魔法陣を描くと、そこに魔力を通して中に入り込む。魔界との道を繋ぐだけでなく、逆流防止の魔法陣だ。下手に道を開いて、悪魔が大挙してやってきても困る。</p><p>10分くらいしたら呼んでね。マリー、出来るよね？</p><p>うん、わかった</p><p>マリーも簡単な魔術はOlから習っている。悪魔の召喚は本来なら細心の注意を持って熟練の魔術師がやらなければ危険なものだが、その当の悪魔が全面的に協力するのなら見習いレベルの彼女でも問題はない。</p><p>じゃ、行ってくるね</p><p>リルはまるで水の中に潜るかのように、闇の中にとぷんと身体を沈ませた。</p><p>っふぅ</p><p>久方ぶりの実体に戻り、リルは身体をこきこきと動かす。</p><p>魔界は、人間が住む世界に比べて酷く殺風景な世界だ。というのも、この世界には悪魔以外の生き物というのが存在しない。物は常にそのままであり続け、変化しない。倦怠の中で悪魔達は日々を無為に過ごし、たまに人間に呼ばれては魔力や魂を得るのだ。</p><p>んーっと、こっちか</p><p>ローガンの力は強いので、すぐにわかる。翼をぱたぱたとはためかせて向かうと、大きな赤い悪魔はすぐに見つかった。</p><p>おう。わざわざ迎えにきたのか</p><p>あんたのせいでレティが泣き始めちゃったの</p><p>おっと、そりゃあ悪いことをしたなぁ！</p><p>嬉しそうね、あんた</p><p>満面の笑みで声を弾ませるローガンに、リルはげんなりとする。</p><p>そりゃあ、そうだろ。レティちゃんマジ天使！ いやあ、幼女は最高だよなあ</p><p>どうせすぐ大きくなっちゃうじゃない</p><p>わっかってねえーなぁー。それが、いいんじゃねえか</p><p>少しだけイラついた声色で言うと、ローガンはチチチと指を振ってリルのイラつきを大幅に増幅してみせた。</p><p>一瞬の煌めき。汚れを内包しながらもそれを知らぬ無垢な魂。実に、そそるねえ</p><p>汚れを知ったらもう用なしってわけね</p><p>そのイラつきのせいか、それともOlとの言い争いのせいか。リルにしては珍しく、気付けばそんな当てつけがましい事を口にしていた。</p><p>あぁ？ そりゃどういう意味だ？</p><p>別に。ただそう思っただけ</p><p>ふざけんなよ、俺はなぁ</p><p>怒気も露わに、ローガンは己が主張を叫ぶ。</p><p>ビッチ幼女それはそれで、有りだと思います！</p><p>死ねっ！</p><p>リルの右ストレートが真っ直ぐに放たれた。</p><p>まーあれだろ。マリーの事が言いたいんだろ？</p><p>まあそうね</p><p>それを手の平で受け止めながら、ローガンはおどけた口調を改めてそう尋ねる。現世では殆ど一貫してふざけた態度しかとらない彼だが、リルにだけは真面目に接する事が稀にではあるが、存在した。</p><p>お前みたいな半端ものと一緒にするなよ、この俺を誰だと思ってやがる。人間なんて所詮悪魔にとっちゃ食い物にすぎねえ。十三歳以上のババアに興味はねえよ</p><p>でも、なんだかんだでマリーの事は気にかけてあげてるじゃないの</p><p>あるいはそれもふざけた態度と同じように、擬態に過ぎないのか。そう思ってリルが尋ねると、ローガンは急激に口を濁した。</p><p>まあそれはその、アレだ。子供の頃はあんなに可愛かったんだから、子を産んだらその娘も美幼女の可能性が高いだろ？ だから、まあ、そのくらいはだな</p><p>なんだ。結局なんだかんだで気にかけてるんじゃないの</p><p>うるせえ！ 妙な邪推するんじゃねえよ！</p><p>クスクスと笑うリルに、ローガンは四本の腕を組んで怒鳴る。</p><p>いいか、これはお前の為にも言ってんだぞ</p><p>わたしの為？</p><p>ああ。まあ、お前とはいい加減付き合いも長いからな</p><p>長い寿命を持つ悪魔達ではあるが、その性質が混沌であるがゆえに、互いに長く付き合うなどという事は滅多にない。リル達の様に同じ魔術師に呼ばれて十年も顔を合わせ続けるなどという仲はごくごく稀なものなのだ。それが故に、彼らの間にはちょっとした仲間意識のようなものがあった。</p><p>そのくらいの感覚でいろって事だよ。わかんだろ</p><p>数千年という長い時間を、彼はどういう思いで過ごしてきたのだろうか。ふとそんな事を想うリルに、ローガンは極めて真面目な口調のまま、続ける。</p><p>つまりお前もあんな爺に入れ込むより、ショタコンになった方が</p><p>誰がなるかッ！</p><p>リルの形のいい脚が美しい曲線を描き、今度はローガンの顎に綺麗に入った。</p><p>その時、りんと音が鳴ってリルは上を見上げる。</p><p>ほら、マリーが呼んでる。馬鹿なこと言ってないでさっさと帰るよ</p><p>へいへいちょっとあの穴、俺が通るにゃ小さくないか？</p><p>ただでさえ魔力食ってるくせに、この上迷惑かけておいて図々しいわね。その邪魔そうな腕でもそぎ落として通りなさいよ</p><p>ぽっかりと中空に開いた穴に、リルは軽々と身を滑らせる。どうしたものかと迷いながらローガンはその淵に手をかけ</p><p>待て！ これはマリーのあけた穴じゃねえ！</p><p>そして、叫んだ。</p><p>ぽかんとした表情で声をあげるリルの身体に、紐状の魔力が絡みつく。</p><p>嘘っ、なにこれ</p><p>くそ！ リル！</p><p>ローガンが腕を伸ばすも、リルの身体は物凄い速度で引っ張られてその手は届かない。そして彼の目の前で、穴はぱちんと弾けるように消え去った。</p><p>リルが浚われただと？</p><p>ああ、ありゃあちょっとヤバいかもな</p><p>その後すぐにマリーの開けた召喚陣から現世へと戻ったローガンは、そうOlに報告した。</p><p>悪魔を一本釣りする魔術なんてのは、聞いたことがねえ。しかもありゃどうも、本体ごと行ったぜ</p><p>悪魔の召喚というのは、呼ぶこと自体に強制力はない。魔力を餌にして呼び寄せて、現世に来たところを魔法陣で捕獲。その後交渉し、魂や血、魔力と言った対価を支払って使役するというのが一般的な方法である。</p><p>位の低い悪魔たとえばインプやブラック・ドッグというような、大した知性も持たない種類であれば魔力で無理やり使役するという事も出来る。しかしそれはごく一部の例外で、リル程度の階級になると並の魔術師にはもうそんな事は不可能だ。サキュバスはそれほど高位の悪魔ではないが、悪魔と人間にはそれほどの力の差がある。</p><p>流石に操る事は出来ないにしても、強引に召喚するだけでもそれは並の魔術師の範疇を大きく超えた力である。更に魔界に住む本体ごととなれば、Olとしても楽観視できる事態ではない。</p><p>Olが低く低く、声を出す。普段偉そうにしている彼が狼狽え、怒るのはなかなかに面白い見ものではあった。</p><p>まさか貴様はそのままおめおめと戻ってきたわけじゃないだろうな？</p><p>が、それもその矛先が自分を向いていなければの話だ。</p><p>まさか、落ち着いてくれよ旦那</p><p>ローガンはじりじりと後退りしつつも、彼を押し留めるように腕を広げる。</p><p>ちゃんと手は打ってるさ。文字通りな</p><p>彼の上側の右腕は、手首から先がすっぱりと切り落とされていた。</p><p>随分素敵な呼び方してくれるじゃないの</p><p>気付けばリルは、どこか見知らぬ部屋の中心に転がっていた。</p><p>手荒な真似をしてすみません</p><p>彼女の目の前に立ち、慇懃に礼をするのは20前後の男だ。Olの例もあるからそれが実際の年齢と一致しているかどうかはわからないが、すらりと高い背に整った顔立ち、にこやかに浮かべられた笑みは思わず信用してしまうような魅力があった。</p><p>だがそれがまったく当てにならない事は、リルの現状から考えて明らかだ。地面には複雑な文様が描かれ、立ち上る光の壁がリルと男とを隔てている。それだけでなく、その魔法陣は彼女の力を奪い、使えなくしているようであった。</p><p>目の前に立つ男を睨み付けながら、彼女はよろよろと両の脚で立ち上がった。重力に抗う力すら封印され、今のリルは人間の娘とほとんど変わらない。</p><p>私の名前はマルクト。どうぞ、よろしくお見知り置きを</p><p>あなたの名前なんてどうでもいいわ</p><p>品のある声でそう名乗り、優雅に一礼する彼をリルはそう切り捨てた。</p><p>わたしに何の用なの？ さっさと帰してほしいんだけど</p><p>出来れば少し会話を楽しみたかったところですが、致し方ないですね</p><p>マルクトはその場に跪くと、まるで貴婦人に仕える騎士のような仕草で、リルを見上げる。</p><p>私のものになっていただきたい</p><p>予想外の言葉に、思わずリルは惚けたように声をあげた。</p><p>貴女を初めて見たのは、忘れもしない10年前の事です。邪悪な魔術師Olに連れられた貴女は可憐で美しく、私は一目でこの心を奪われました</p><p>マルクトがリルに向ける視線は、どこまでも真摯だ。</p><p>悪魔というのは嘘に敏感だ。よほど巧妙に嘘をつくか、自分自身さえも騙すほどの演技力でもなければすぐに暴いてしまう。しかしそんなリルの目から見ても、彼は本気で言っているようだった。</p><p>そして貴女を追いかけて、内面を知り私はそこにも、惹かれました。貴女は見た目だけでなく、その心の在り方も美しいのだと知った。貴女はただの悪魔ではない。私には、そう思えるのです</p><p>厄介なことに、マルクトの言う事は当たっている。心の美しさはともかくとして、前世、人であった頃の記憶を持つリルはあらゆる意味でただの悪魔ではない。</p><p>悪いけど、お断りよ。あなた全然私の好みじゃないし</p><p>リルがそうきっぱりというと、なぜかマルクトは嬉しそうに微笑んだ。</p><p>良かった。淫魔は恋などしないだとか、人間なんか相手できないなんて言われなくて</p><p>そんな事は、言えるわけがなかった。リルは言葉を返せず、ただ押し黙る。</p><p>それならまだ、私にもチャンスがあるという事ですね。では、また明日</p><p>そういって踵を返すと、マルクトは部屋を出ていった。</p><p>リルは光り輝く小さな結界の中、ため息をついて座り込む。</p><p>旦那も相当なもんだが、ありゃ輪をかけていかれてんな</p><p>そして、背後から突然聞こえた野太い声にびくりと身体を震わせた。</p><p>ローガン！？</p><p>リルの影の中からひょこりと姿を見せるのは、赤い身体に四本腕の悪魔ローガンだ。しかしその姿はあまりに小さく、リルの手の平に乗ってしまう程のサイズだった。</p><p>どうしたの、そんなに縮んじゃって</p><p>あの時咄嗟に、腕の先だけ切り離して分け身を作ったんだよ。おめおめとお前さんを連れてかれたら、旦那にどやされるだけじゃ済まねえ</p><p>あーOl、結構心配性だしね</p><p>頬、緩んでるぞ</p><p>努めて冷静に振る舞うリルに、ローガンはそう指摘した。彼女はうっと呻いた後、渋面を作って両頬を抑える。</p><p>まあともかくだ。あっちの俺が旦那に滅ぼされねえうちに、さっさとあの魔術師の要求を呑んでこの結界を解かせろよ</p><p>コンコンと光る壁を拳で叩きつつ、ローガンは言った。ただでさえミニサイズになっている上、リルと同様に結界の影響を受けた彼の能力は今や幼いレティシアと互角程度で、直接的な助けにはならない。</p><p>そうすりゃ、ここがどこだかわかる。わかれば後はこっちのもんだ。転移除けの結界が張ってあろうと、ユニスの嬢ちゃんがさっと来てスパッとあいつの首を刎ねて終わり。簡単なもんだろ</p><p>まあそうだけど</p><p>英霊たるユニスは強い。卑怯じみた自在の転移能力は言うに及ばず、その剣の腕も相まって、魔術師どころか悪魔でさえ彼女に勝てるものは殆どいない。あのマルクトという魔術師に多少腕に心得があったとしても、おそらく勝負は一瞬で終わる。</p><p>でも、一瞬でもあいつのものになるとか嫌だなー</p><p>おめえなあ、そんな我が儘言ってる場合じゃないだろ。まあ、気持ちはわからんでもないけどよ</p><p>混沌をその旨とする悪魔は、他人に束縛されることを嫌う。魔術師に使役されるのだって、対価あってのことだ。人間のものになれ等という命令は受け入れがたい。</p><p>まあ、そうなんだけどさ</p><p>勿論、リルの場合は別の事情もあったが。</p><p>日がゆっくりと赤く燃えながら、大地の果てへと沈んでいく。窓から降り注ぐ日の光の代わりに、魔力が天井を流れて灯りが瞬く。Olとスピナが黙々と紙束に目を通すのを邪魔しないように気をつけながら、ユニスはカーテンをそっと閉じた。</p><p>リルの場所はまだわからんのか</p><p>苛立ちを隠しもせずに、Olはローガンに鋭い声を投げつける。</p><p>落ち着けって。たぶん、結界か何かに囚われてんだろうよ。俺から連絡があったらすぐに知らせてやるから</p><p>まだ結界に囚われているだと？</p><p>大量の紙束をめくる手を止めて、Olはローガンに視線を向けた。</p><p>悪魔との契約に、そう何時間もかけるものではないだろう</p><p>そう言われりゃ、確かにそうだな</p><p>つまり、恐らくはリルが契約を拒んでいるという事だ</p><p>椅子を立って部屋の中を歩きながら、Olは言葉を紡ぐ。考えを纏める時の彼の癖だ。</p><p>考え得る理由は二つ一つは、俺に不利益な内容であるという事だ。リルを狙い打ってかどわかしたのであれば、狙いはこの迷宮、もしくは俺の命である可能性が最も高い</p><p>Olを殺してこい、とか言われて、リルが承知するわけないもんね</p><p>どこか誇らしげに言うユニスに、Olはあえて同意しないまま、二本目の指を立てた。</p><p>もう一つは、理不尽な内容例えば、完全にその存在を縛るようなものであった場合だ。そして俺はこちらの方が可能性が高いと睨んでおる</p><p>何故ですか？</p><p>多少特殊な部分はあろうとリルは結局のところ、あまり強い魔力も持たない淫魔に過ぎない。そんな彼女を支配する必要性がよくわからず、スピナは首を傾げて師に問う。</p><p>リルが相手に与したところで、大した害がないからだ</p><p>そして己が考えていたことをほぼそのまま言われて、更に疑問符を浮かべた。</p><p>正直に言って、リル一人が俺達の敵に回った所で何の問題もない。心情的には抵抗があるかも知れんが、さっさと契約して貰った方が結果としてこちらにとってはありがたい</p><p>あ、そっか、なるほど</p><p>言っておくがお前が同じ状況になったら、絶対に契約するなよ</p><p>納得が言ったように深く頷くユニスに、Olは釘をさす。リルと違ってユニスは、敵に回れば一人でこちらを全滅させかねない。</p><p>しかし、リルを完全に操るとしても、何をさせるつもりなのでしょうか？</p><p>幾らでもやりようはある。悪魔は契約には逆らえんからな。死ねと言えば死ぬしかない。人質にとるもよし、何食わぬ顔でこちらに戻して内部から手引きさせるもよしだ</p><p>俺ならそうする、と言わんばかりにOlが言うと、奇妙な沈黙が訪れた。</p><p>相変わらずエグい手ばっかり考え付くのね、なーんて</p><p>ユニスがリルの声真似をして、肩をすくめる。こんな時Olに呆れながらも突っ込む役は、リルのものだ。</p><p>絶対助けようね、Ol</p><p>無論だ</p><p>意気込むユニスに頷き、Olは再び手元の紙束をめくり始める。スピナもそれを手伝い、幾つも分身を増やして作業へと戻った。</p><p>ところでさっきから、何を調べてんだ？</p><p>指定した悪魔を強制的に呼び出すなどという事が、並の魔術師に出来るわけはなかろう。であれば、大なり小なり必ず名を知られているはずだ。そういったものを探しておる</p><p>無数の紙束を選別しながら、Olはローガンに答える。紙に書かれているのは複雑な暗号化を施された魔術文字で、Olとスピナでなければ読むことは出来ない。</p><p>そんな事できんのかよ</p><p>当然だ。情報は戦の基本だぞ。この大陸にすむ魔術師は、高名なものから無名な辺境の魔術師の弟子に至るまで網羅させておる</p><p>山のように高く積まれた紙束は、全て魔術師の情報だ。己の知識を秘匿しがちな魔術師をよくぞここまで調べ上げたものだ、とローガンは呆れつつも感心した。</p><p>その中でも、そんな芸当が出来そうな者はこの辺りだな。宵闇のノクティスに、長き腕ブラキウム。それに影渡りハスタか</p><p>いずれも、召喚術師として高名な魔術師だ。しかし、ハスタはどちらかというと自分自身の転移を得意とする魔術師で、ブラキウムは逆に物質を手元に取り寄せて戦うスタイルだ。ノクティスは悪魔をよく使うがムラっけのある性格で、ピンポイントで悪魔を浚うような魔術はどうも印象が違う。</p><p>お師匠様、こちらのものは？</p><p>スピナが一枚の紙を拾い上げて問うた。そこに記載されているのは、求めている情報に最も近い。優秀な悪魔召喚士であり、緻密な魔術を得手とする男。</p><p>これは古い情報だ。名前に赤いインクで線が引かれているだろう。こいつの事は知っている</p><p>だが、Olは首を横に振った。</p><p>マルクト。もう随分前に死んだ、召喚術師だ</p><p>おはようございます。ご気分はいかがですか？</p><p>おはようも何も、こんな窓もない部屋じゃ時間もわからないじゃない</p><p>それは申し訳ありません。ですが、この部屋に窓はつけられないもので</p><p>申し訳なさそうに謝るマルクトからそっぽを向きつつ、リルは考える。窓をつけられないという事は、やはりここは地下であるらしい。</p><p>それで、そこから出ていただける気分になりましたか？</p><p>出してくれるんなら、いくらでも出て行くけれど？</p><p>私の愛に応えていただけるのなら</p><p>恥ずかしげもなく愛などと口にする男に表情を歪めないよう気を付けながらも、リルは軽くしなを作った。</p><p>それなんだけどもう少し、条件何とかならないの？</p><p>と、申されますと？</p><p>いきなり自分のものになれって言われても、困るわ。だってわたしはあなたのこと何も知らないんだもの</p><p>淫魔らしい妖艶さで流し目を送り、甘くリルは囁く。</p><p>少しずつ知っていただければ結構ですよ</p><p>あなたはそう思うかもしれないけれど、人の時間はわたし達に比べて短いの。好きになった頃にはしわくちゃのお爺ちゃんなんて</p><p>自分で言いかけておいてリルは少しだけ逡巡し、</p><p>困るわ</p><p>控え目に、そう言った。</p><p>それに、こんな小さな円の中にいるのはとても退屈で、窮屈なの。ねえ、あなたの言うことは何でも聞くわ。だからここから出してちょうだい。どうせ縛られるなら、ベッドの上の方がいいの</p><p>私の言うことは何でも聞く本当ですか？</p><p>マルクトは少し悩むそぶりを見せながら、リルにそう尋ねる。</p><p>ええ。約束する。絶対にあなたの言うことは、聞くわ</p><p>意外と、チョロい。リルは内心ほくそ笑んだ。言うことを聞くなんて言う契約は悪魔の常套手段で、文字通り相手の言っていることに耳を傾けさえすれば良いだけの話だ。</p><p>わかりました。ではその契約で結界を、解きましょう</p><p>光の壁が取り払われるやいなや、リルは両手の爪を剣のように伸ばして襲いかかった。</p><p>左右三対の赤い爪がマルクトの首元を貫く寸前、しかしピタリと止まった。マルクトの口元が動き、小さく何かを呟いているからだ。契約によって、リルはそれを聞こうとしなければならない。</p><p>予想外の事態に、リルは一瞬己の影に目を走らせた。</p><p>こちらの小悪魔に期待しているのでしたら、それは無駄ですよ</p><p>いつの間にかローガンはマルクトの手の中にあった。彼は深く深く笑みを浮かべながら、それをぐしゃりと握りつぶす。弾け飛ぶ肉塊はさらりと闇の粒子となって消えた。</p><p>ローガン！</p><p>申し訳ありませんが、結界は二重に張らせてもらいました。貴女の力は元のままですがご要望の通り、窮屈ではなくなったでしょう？</p><p>マルクトはリルの爪を半ばからへし折ると、ぐっと彼女の腕を掴んだ。リルは反射的に振りほどこうとしたが、まるで万力の様に握りしめる彼の手はびくともしない。いくらリルの能力が落ちているとは言っても、その握力は魔術師をいや、人間の域を越えていた。</p><p>ついでにベッドも用意しました。ご希望の通りです</p><p>そのままマルクトはリルの身体をぐっと引き寄せると、いつの間にか用意されたベッドの上に彼女を押し倒す。</p><p>何なの、あなたは</p><p>言ったでしょう？ リル。あなたを愛している男ですよ</p><p>低く唸るリルに微笑み、マルクトは彼女の身体の上に覆い被さる。</p><p>食いちぎるわよ</p><p>嫌悪感を隠しもせず、端的にリルはそう言った。</p><p>淫魔を舐めないでちょうだい。魔力を封じられたって、下の口でも指を骨ごと千切るくらいの圧力は出せるんだからね</p><p>ガチガチと歯を鳴らしながら、リルはそう凄んで見せた。</p><p>いいでしょう</p><p>顔をひきつらせつつも、マルクトはリルから離れる。</p><p>ですが忘れないでください。もう助けは来ない。あなたは必ず、私のものにして見せます</p><p>そういい残し、彼は再び部屋を出ていった。扉に、ガチャンと鍵がかけられる音がする。</p><p>出て行くって事は、結界はこの部屋よりも広いって事よね</p><p>結界というのは、自由に出入りできるものではない。出入りしてしまえばその結界は境界を失って崩れ去ってしまう。と言うことは、今はリルと同様にマルクトもその結界の中にいるということだ。</p><p>ローガンが死んで助けが期待できなくなった以上、自力で何とかしなければならない。あの役立たず、と心の中で罵倒しながら、リルは行動を開始した。</p><p>それでも彼女は微かに笑んで後編</p><p>ヤベッ</p><p>何がだ？ 言ってみろ、今の俺は気分がいい。半殺しくらいですむかもしれんぞ</p><p>ふと呟くローガンに、Olはいっそ優しい声でそう言った。</p><p>やめてくれって、旦那が言うと冗談に聞こえねえ</p><p>当然だ、冗談でも何でもない</p><p>かき集めた情報から当たった魔術師はどれもこれも外れで、Olは明らかに余裕をなくしている。</p><p>分け身が死んだんだ。それも、どこにいるのかわかんねえまま</p><p>どこにいるかわからないのに、死んだことはわかるの？</p><p>ああ、これこの通りよ</p><p>ユニスの問いに、ローガンはひょっこりと生えた右腕を見せた。</p><p>俺の腕って存在を使って、もう一人の俺を作ってたからな。そっちが生きてるうちは、魔力を注ぎ込んでもこの腕は治らねえ。逆にそっちの方が存在しなくなれば自然とこっちに戻ってくるって寸法よ</p><p>意外に器用な事が出来るものなのだな</p><p>まあ、伊達に何千年も生きてねえってこった</p><p>待てよ。それなら、打てる手もあったんじゃないか。魔界を通れば、その繋がりを通じてリルの元へと辿り着ける</p><p>気弱な魔獣くらいなら射殺せそうな程に鋭い視線を投げかけるOlに、ローガンは慌てて弁明する。</p><p>無茶を言うなよ。そんな精細な探査を出来る悪魔なんているわけねえだろ。大体、どこの酔狂な悪魔がそんな事に協力してくれるってんだ。契約が有効なのはこっちにいる間だけだぞ</p><p>悪魔が現世でその実体を保つには魔力が必要だが、人と違って彼らは自力でそれを手に入れる事は殆ど出来ない。ゆえに悪魔は魔術師と契約し、対価として魔力を得る事によってその存在を保つ。</p><p>逆に言えば、存在することに力の必要ない魔界においては彼らを縛るものは何もないのだ。仮に現世でそのような命を受けたとしても、守る義理も義務もなく、そんな事に力を貸すような悪魔は滅多にいない。</p><p>しかしその言い方に、Olは別の意図を感じた。</p><p>酔狂な悪魔が存在すれば、可能とでも言いたげだな？</p><p>ローガン様を舐めんじゃねえよ。予備ぐらいは抜け目なし、だぜ</p><p>ローガンはそう言って、四本の腕を掲げて見せる。下側の左腕もまた、先端が失われていた。</p><p>だが俺は無理だぞ。俺がこっち側にいなきゃあ、繋がりが辿りようがねえ。つーかそもそもそんな技無理だからな</p><p>細い魔力の繋がりを探り、魔界側から門を開く。悪魔を狙って召喚するのにも勝るとも劣らぬほどの曲芸じみた操作が必要だ。悪魔は大量の魔力を持つがゆえに、そう言った小手先の技は苦手とする。</p><p>そんな事が出来るものは、Olが知る限りでもたった一人。</p><p>俺が行く</p><p>彼自身だけだった。</p><p>こんなもん、かな</p><p>木を組み合わせて作り上げた不細工なそれを見て、リルは複雑な表情を浮かべた。道具も材料もないから仕方ないとはいえ、酷い出来だった。ちなみに材料はマルクトが置いて行ったベッドだ。</p><p>折られた爪をナイフ代わりに使って加工したそれは、見た目としては台座のついた筒と言った風情のものであった。筒は斜め上に傾いて取り付けられており、前後に回転するようになっている。そして複雑な紋様が筒の先端から根元に向かって河のように掘られ、台座から地面へと広がっていた。</p><p>さーて、上手くいけばいいけど</p><p>リルはそれを、扉とは逆側の壁に向けて設置し、短く呪文を唱えた。今のリルは悪魔としての能力を全て封じ込まれていて、魔術を使う魔力もない。だが、魔力がなければ魔術を使えないというわけでもなかった。</p><p>自分の身体から取り出さなくても、魔力自体はすぐ足もとに大量にある。結界を形作る魔法陣から僅かに漏れる魔力を取り入れて、その力を用いて更に魔力を吸い上げる。</p><p>そうしてかき集めた魔力を一気に放つ砲ただの組み木ではその威力に耐えきれず壊れてしまう、一度きりの魔兵器だ。</p><p>雷鳴の如き凄まじい音と共に、魔力が放たれる。収束しきれなかった魔力はあちこちに飛び散り、埃を巻き起こしてリルはケホケホと咳き込んだ。</p><p>しかし、どうやら</p><p>成功、ね</p><p>ぽっかりと壁に開いた奥には、通路が姿を覗かせていた。</p><p>魔法陣というのは基本的に点対称でなければならない。勿論完全に対称というわけでもないが、扉の先に通路があるのなら、部屋を挟んだ逆側の壁の向こうにも同じように通路がなければそういった図形を描くことは不可能だ。そんなリルの読みは見事に当たった。</p><p>廊下に掲げられた魔法の松明を叩き壊しながら、リルは無暗に廊下を走る。思った通り、地下迷宮のようだ。Olのダンジョンほどの規模はないだろうが、抜けるのには相当苦労するだろう。</p><p>そして同時に、彼女はある一つの可能性に気付いた。道をゆっくりと戻り、今まで叩き壊した松明を拾い集め、組み合わせていく。彼女の予想が当たっていれば、時間だけはたっぷりとあるはずだ。</p><p>そうして材料と魔力を集めながら進んでいけば、やがて彼女の嗅覚はそこを嗅ぎ付けた。迷宮に住むものとして、そして迷宮を設計するものとしての勘が、そこが到達点であると告げている。</p><p>扉を蹴破るようにあけると、はたして、マルクトが両腕を広げてそこに立っていた。</p><p>迷宮にはどれだけ迷うように作り上げても、必ず通らなければ先に進めない道、というものが存在する。そうでなければ、それは迷宮ではなく単に出口の多い通路に過ぎないからだ。リルが逃げ出したことを察知すれば、マルクトは必ずそこで待つだろうという予感があった。</p><p>やあ、ずいぶん遅かったね、リル。もっとも女性の支度というのはとかく時間が</p><p>台詞の途中で、マルクトの顔面が爆発した。リルが即席で作った魔力砲が火を噴いたのだ。</p><p>更にどん、どん、どん、と立て続けに三連発。爆炎がまるで花のように咲いた。待ち受ける以上、その場を離れるわけにもいかない。その間に、リルはたっぷりと戦いの準備をさせてもらったというわけだ。</p><p>ふぅっ、これでちょっと溜飲は下がったかな</p><p>それはよかった</p><p>爆煙の中から現れたマルクトに、リルは目を見開いた。その身体は人の形を保っていたが、目はまるで紅玉のように輝き、口は引き攣れて頬まで裂けている。</p><p>おや申し訳ない。流石に形を保てなくなってきたようです</p><p>何なの、あんた！</p><p>見た目通りの人間だとは思ってはいなかった。だが、これはあまりにも人からかけ離れている。</p><p>それじゃ、まるで</p><p>そう。私は悪魔ですよ</p><p>リルの言葉を引き継ぐ様に、マルクトは口を開いて笑った。</p><p>それが、悪魔の様に恐ろしげなものであれば、リルは何とも思わなかったかもしれない。しかし、人としての貌を無くしてもなお人間じみた微笑みに、彼女はかえって恐怖心を感じた。</p><p>馬鹿な事を言わないで！ 悪魔が悪魔を召喚するなんてこと、あるわけ</p><p>言いかけて、リルは息を飲む。自分がローガンに対してやろうとしたことは、そういう事だ。方法が洗練されているかどうかの違いはあれど、自分はマルクトと全く同じ事をしようとしていた。</p><p>そう。私達は、御同類なのですよ</p><p>めきめきと音を立てつつ、マルクトの身体が異形へと変化していく。</p><p>といっても私の場合は、人のまま悪魔になった変わり種ですけれどもね</p><p>全体的な造形としては、ローガンよりよほど人に近い。ただ腕が六本に増え、こめかみと額から角が生えているだけで、体躯はそれほど元の姿とは違いない。</p><p>だが、その身体から感じられる覇気と魔力はローガンと比してもなお凄まじいものがあった。</p><p>嘘でしょ！？</p><p>これほど強力な悪魔は、魔界全土を探してもそうはいない。それが人のように現世に存在しているなんて、にわかに信じられることではなかった。</p><p>さあ、リルさん。参りましょう。この先に、教会があるのです</p><p>教会？</p><p>そう。我々の永遠の愛を誓い合う、神聖な場所ですよ</p><p>そういって、マルクトは部屋の奥の大扉を押し開いた。</p><p>その先に広がっていた光景に、リルは息を飲む。全体的な造りとしては確かに教会の聖堂に近い。細長く奥行きのある部屋の最奥に祭壇が設置されている。そして椅子の代わりに、無数の悪魔がまるでモズの早贄のようにその胸を貫かれ、飾られていた。リルと同様にその力を封じられ、死ぬことも生きることも出来ずにいるのだ。</p><p>どうです？ 貴女の為に用意した光景は</p><p>趣味が良すぎて反吐が出そう</p><p>悪魔同士に仲間意識というものは希薄だ。しかしそれでも、良い光景とはとても言えなかった。</p><p>何、貴女もすぐに気に入りますよ。さあ、これを</p><p>マルクトは祭壇の上に飾られた一際大きな悪魔の胸に指を突き立て、心臓を取り出す。悪魔は苦悶の声をあげながら、びくびくと身体を痙攣させた。悪魔はそのくらいでは死なない死ねない。</p><p>同時に、リルはマルクトの異常な魔力量の秘密を悟る。</p><p>我々の愛を誓う証です。さあ</p><p>こいつは悪魔を、喰っているのだ。</p><p>お食べなさい</p><p>マルクトはどくりどくりと鼓動する心臓を差し出しながら、後退りするリルへと腕を伸ばす。</p><p>その腕を、別の腕が掴んだ。</p><p>悪いがこの女は売約済みだ</p><p>マルクトの腕を掴んだ男は、もう片方の腕を振るい、すさまじい早さで紋様を虚空に描く。</p><p>お前は雌のオークでも抱いていろ</p><p>至近距離で放たれた雷撃が、マルクトを襲った。</p><p>すまん、待たせた</p><p>ずるりとリルの影から身体を引きだして、Olは苦しげに声を出した。</p><p>馬鹿、何で来たの！？</p><p>リルの勘が当たっていれば、それは何よりも避けるべきことだ。</p><p>それは勿論、私がお呼びしたからですよ</p><p>マルクトは無傷のまま、澄ました顔でリルの影に指をさした。</p><p>そこの小悪魔を使ってね</p><p>俺にも気付いてやがったか</p><p>小さなローガンが舌打ちする。</p><p>ようこそいらっしゃいました、魔王Ol陛下。あなたが来るとわかってました。他にここに来られる人材はいないでしょうから</p><p>マントをばさりと翻し、マルクトは恭しく礼をして見せる。</p><p>あなたに恨みはない。むしろ、感謝しておりますよ、陛下。あなたのおかげで、ただのインプであった私はこれほどの力を手に入れられた</p><p>少しずつ、少しずつ。気取られぬ程度にOlの配下の悪魔を食べて、マルクトはここまで強大になった。それほど大量の悪魔を使役できる魔術師など、大陸中を探してもOlの他にはいない。彼こそが、マルクトをここまでの怪物に育て上げたのだ。</p><p>ですから非常に心苦しいのですがしかしやはり、恋敵にはご退場願わなければならない</p><p>マルクトのマントがばさりと翼のようにはためき、指先が魔法陣を描く。</p><p>駄目！</p><p>リルの制止の声も間に合わず、マルクトの指先から放たれた光がOlの胸を貫いた。</p><p>なんだ？</p><p>痛みはない。苦しくもない。むしろ、力が溢れるような感覚に、Olは自分の両手を眺めた。そして一瞬の後に、何をされたのかに気付く。</p><p>魂を召喚したのか！</p><p>これであなたも、ただの人間と変わりません</p><p>Olは当然、魔術で作り上げた木人形、形代に宿った状態でここへと来ている。例え粉々に破壊されようと、魂が別の場所にあれば髪の毛一本切られた痛痒すらない。</p><p>だが、仮初めの身体であろうとそこに魂が入っていれば話は別だ。その状態で形代を破壊されれば、魂もまたそれにつられて砕け散る。</p><p>悪いが、ただの人間以上のものになったつもりなど一度としてなくてな</p><p>しかしOlはさして気にした風もなく、己の胸元に指を突き入れる。</p><p>べりべりと表面の皮を引きはがせば、木で出来たその身体には魔法陣が彫り込まれていた。探知を防ぐマルクトの術を無効化する為の、結界の中の結界。</p><p>古来より、怪物退治は英雄の仕事と相場が決まっておる</p><p>そこから光り輝く剣と共に、ユニスが飛び出してきた。</p><p>鋭く放たれる神速の一撃を、しかしマルクトは軽々と受け止める。彼の六本の腕には黒く輝く大剣と槍、そして片手剣と盾が掲げられていた。いずれも尋常のものではないと本能的に感じ、ユニスは身構える。</p><p>っていうか何なのここ、グロいよ！</p><p>周りの光景を見て、ユニスは悲鳴のような声をあげ、リルははっと気づいた。</p><p>しまった、ここじゃあ！</p><p>半死半生の悪魔が無数に散りばめられたこの場所は、魔界程ではないにしろ恐ろしく瘴気が濃い。それはOlの迷宮ですら比べ物にならない程だ。この場では悪魔であるマルクトは力を得、神性を帯びた英霊の力は減じられてしまう。</p><p>くっ、このっ！</p><p>そしてそれだけではなく、そもそもマルクトは強い。六本の腕を縦横に操る彼に、ユニスさえもが攻めあぐねていた。</p><p>スピナ！</p><p>ユニスの投げはなった小さな瓶から現れたのは、スピナだった。彼女は悪魔の天敵だ。魔喰いスライムである彼女は悪魔の身体を構成する魔力を喰ってどこまでも成長し、あらゆる魔術を無効化する。だが、それも。</p><p>知っておりますよ。あなたの弱点は</p><p>魔力そのものではなく、人であった頃の身体を元にした実体を持つマルクトには効果が薄い。その身の魔力を吸収されながらも、マルクトは手に瓶を取り出してスピナにふりかける。</p><p>彼女のスライム化が解除される条件塩水だ。それに気づいた時にはスピナの身体は即座に溶ける様にして、白い人の身体だけが残った。</p><p>危ない！</p><p>彼女に向けてぶんと振られる剣の一撃を、ユニスが受け止める。そこに、大剣と槍が突き刺さった。ユニスは目を大きく見開き、口から血が零れる。</p><p>ユニス！</p><p>貴女のお友達をあまり傷つけたくはない</p><p>優しい声色で、マルクトは甘く囁いた。ずるりと赤い糸を引きながら、ユニスの身体が崩れ落ちる。</p><p>貴女がこれを口にするなら、見逃しましょう。そうですね。私に愛を誓ってくれるなら、Ol陛下も生かしておいてもいい</p><p>マルクトの手の平からどろりと闇を滴らせながら、悪魔の心臓がどくどくと鼓動する。</p><p>Ol、私</p><p>よせ。下らんことは考えるな</p><p>悲壮な決意を瞳に宿すリルの頭を、Olはぽこんと拳で軽く殴りつけた。</p><p>悪魔を喰って強くなったつもりか。下らん</p><p>そしてマルクトを軽く睨み、溜め息と共に嘲笑する。</p><p>事実、手も足も出ていないではありませんか。陛下、彼女には貴方よりも私の方が相応しい。どうぞ、お引き取りください</p><p>Olの声を否定するかのように、剣が振られる。避けようもないその一撃は、しかし、空を斬った。</p><p>ユニス、スピナ、よくぞ時間を稼いだ</p><p>彼の身体は深く地面に沈み、マルクトの一撃を躱していた。否、地面が、床が、沈んでいるのだ。</p><p>お前はもう、俺の胃袋の中だ</p><p>Olが言った瞬間、無数の槍が地面から突き出てマルクトを突き刺した。</p><p>これはっ！</p><p>容易くそれを打ち払いながらも、彼は驚愕に目を見開く。</p><p>魔力も通らぬただの迷宮を手懐けるのは、さほど大した事でもなかったぞ</p><p>柱が、床が、壁が、天井が、部屋の全てがマルクトに牙を剥いた。</p><p>ぱっくりと口を開けた床のアギトが彼の脚をがぶりと噛んで、それを振り払う隙に壁から伸びた槍が全身を突き刺す。柱は大蛇の様にその身をくねらせて縛り付け、天井が轟音を立ててマルクトを押しつぶした。</p><p>小賢しい！</p><p>焼けた石炭の様に爛々と瞳を光らせながら、マルクトはそのすべてを大剣で叩き伏せる。</p><p>坊や、お次はこっちだぜ</p><p>ローガンがおどけた口調で宣言する。Olが迷宮を掌握したという事は、その形を持って作られていた結界も効力を無くしたという事だ。</p><p>磔にされていた悪魔達が、恨みを晴らすべく一斉にマルクトに襲い掛かった。</p><p>この、雑魚共がァ！</p><p>槍が悪魔達を薙ぎ払う。しかし彼らは腕をもがれ、脚を斬られ、首だけになりながらもマルクトに齧りついた。そして奪われた己の魔力を取り返していく。</p><p>グ、ガ、ガ！ 莫迦め、餌をわざわざ運んでくれるとはな！</p><p>マルクトの全身に牙が生え、彼は己に齧りつく悪魔達を逆に噛み殺そうと無数のアギトを広げる。しかしその動きは途中でピタリと止まった。</p><p>何だこれは！？</p><p>Olさまっ、結界張り直し終わったよ、ほめてほめてー！</p><p>マリー、あまりはしゃぐでない。それに結界の半分以上は私が張ったものだからな？</p><p>マリーとメリザンド、そっくりな姿の二人がきゃいきゃいとはしゃぎながらOlに駆け寄った。Olが迷宮を掌握した今なら、転移の魔法陣で幾らでも援軍を呼べる。</p><p>マリー、メリー、あんた達まで</p><p>きたのは勿論、わたし達だけじゃないよ</p><p>ゴキリ、ゴキリと、まるで牛の大腿骨を折る様な音が鳴った。</p><p>皆リルの事が大事だからね</p><p>それは、二人の巨漢が拳を鳴らす音だ。</p><p>まあそれもあるがそれ以上に、我が娘を</p><p>妹を、可愛がってくれた礼をしないとなあ？</p><p>あのー、お父様、お兄様、あたしは大丈夫だから、くれぐれも、くれぐれもやりすぎないようにね？</p><p>Olの魔術によってすっかり傷を治されたユニスが控えめに言うが、ウォルフとザイトリードの耳には届いたかどうか。</p><p>わかったか？ お前は随分強くなったつもりのようだが、個の力など下らぬものだ</p><p>冥土の土産に、Olは死すべき運命の悪魔へと言葉を投げかける。</p><p>数の暴力にかなうものなど、いない</p><p>そこはせめて絆の力とか言いなさいよ！</p><p>リルの突っ込みと共に、どうと大きく音が鳴り響き。</p><p>怒れる英霊二人の立っていた場所より奥は、さらさらの砂になるまで、磨り潰された。</p><p>全く、無茶するんだから</p><p>自分の迷宮に帰った瞬間、Olは倒れるように眠りについた。魔界の瘴気はあらゆるものを蝕む。形代に入っていようと、悪魔ならざるOlが渡るのは強酸性の海を泳ぐような行為に等しかった。</p><p>死んじゃったら、どうするのよ</p><p>その琥珀色の髪をさらりと撫でて、リルは呟く。よほど消耗したのだろう。彼にしては珍しく、本来の肉体に戻って精神と身体を休めていた。</p><p>悪魔、か</p><p>リルの手の中には、鈍く輝く赤い宝石が握られていた。マルクトの心臓だ。英霊二人の攻撃で原型を留めていた頑丈さだけでも驚嘆に値するのに、彼は最後の最後、密かにそれをリルに渡した。</p><p>もし、彼と共に永遠の時を望むなら、これを食べさせなさい</p><p>そんな言葉を残して。</p><p>彼は人の記憶と意思を持ったまま、悪魔となった。もしOlもそれが可能だとしたらそんな誘惑が、リルの心の内を過る。</p><p>彼女はじっと、Olの唇を見つめた。規則正しく寝息を立てるそこは酷く無防備で、リルがそこに心臓を放り込むのを邪魔するものはいない。</p><p>やめた</p><p>しばし逡巡しいや、本当は、悩むまでもない。</p><p>Olにそんなものを食べさせる気は、さらさらなかった。ただ、もしそうだったらどんなだろうと、想いを巡らせただけだ。</p><p>何だ、食わせないのか</p><p>不意にOlがそう言って、彼女の手からマルクトの心臓を奪い取った。</p><p>という間もあればこそ。彼はそれをパクリと口に放り込んでしまった。</p><p>ふむ。別段変わった様子もないが</p><p>もぐもぐと咀嚼しながら、Olは呟く。と、突然、彼は大きく目を見開いた。</p><p>ぐ、あ！</p><p>そして呻きながら、地面にうずくまる。ばりっと背中を突き破って腕が生え、メリメリとその額から角が伸びていく。</p><p>またお会いできましたね、リル</p><p>そして、瞳を爛々と輝かせながらそう笑んだ。</p><p>その笑みが、スパンと真っ二つに、割れる。</p><p>え</p><p>ユニスの振り下ろした剣が、彼を頭から股間まですぱりと両断していた。</p><p>なるほど、やはりそうなるか</p><p>ふあ、と欠伸をしながら、横たわっていたOlは上半身を起こす。そして、マルクトとなった己の形代をじろじろと眺めた。</p><p>まあ、そうそう上手い話があるわけもないだろう。お前は自分の事をマルクトだと思っていたのかも知れんが、それもどうなのだろうな少なくとも俺の知る奴は、そんな男ではなかったぞ</p><p>そん</p><p>何かを言うよりも早く、マルクトはユニスの剣によってバラバラに切り刻まれて、今度こそ世界から消滅した。</p><p>ご苦労だったな</p><p>うん。あたしも仕返ししたかったし</p><p>からりとそう言って剣を収め、ユニスはリルに視線を向ける。</p><p>貸し一ね</p><p>そしてそう言ってパチリと片目を閉じてみせると、転移して消えた。</p><p>あ、あの、Ol</p><p>二人きりで部屋に残され、何となく気まずい思いでリルは会話の糸口を探す。謝るべきか、それとも他に何か言うべきか</p><p>気にするな</p><p>それを彼女が決断するより早く、Olはそう言った。</p><p>どうせ俺の魂は、死ねば間違いなく魔に落ちる。お前の同類になるのも、まあ、悪くはない</p><p>でも、それはOlじゃないもの</p><p>それはもう何度も考えた事だ。リルがラズの記憶を引き継いではいても別の存在であるように、Olの魂が悪魔となっても、それはもはや別の存在だ。記憶だって引き継ぎはしない。</p><p>Olも頷き、それを肯定した。</p><p>お前もラズではない。だが、俺はどちらも愛したいや、今なお、愛している。同じ相手に三度巡り合い、三度惹かれるのも悪くはないとは思わないか？</p><p>それがリルへの慰めの言葉である事はわかった。</p><p>うんそうだね</p><p>しかし、リルはそれに頷く。</p><p>そんな事が起こる可能性は天文学的に低いし、ピンとはこない。</p><p>うん。悪くないかも</p><p>それでも彼女は微かに笑んで、遠い未来に思いを馳せた。</p><p>9.老いたる魔王と若き青銀の魔女</p><p>一巻終了後、Web版で言うと第11話魔王を始めましょう直後の話です。</p><p>えっと</p><p>白のビショップで黒のルークを倒し。</p><p>これ、勝負ついた？</p><p>ウィキアは半信半疑の面持ちで、そう尋ねた。</p><p>ああ。ここから四手でチェックメイト。お前の勝ちだな</p><p>Olにそう言われても、いまいちしっくり来ない。</p><p>確かにその読みはウィキアの方も同じなのだが、自分がOlにチェスで勝つという事に現実味は全くなかった。</p><p>手を抜いたりしたの？</p><p>何故そんな事をせねばならん。正真正銘、お前の勝ちだ</p><p>駒を片付けながら答えるOlはどこか不満そうで、ウィキアはようやく自分が勝利したことを実感し始めた。</p><p>勝てるとは思わなかった</p><p>ぽつりと漏らしたその言葉は、本心である。</p><p>別に不思議な事ではない。所詮机上の遊戯だ。一対一の勝負、手持ちの駒は互角で、その動きは全て互いに見える。奇種奇策の類は用いにくい。その条件でなら、お前の方が俺より上というだけの事だ</p><p>だからこそ相手を命じた、とOlは言う。</p><p>チェスの相手をしろと言われた時には今度は何を企んでいるものか、とウィキアは思ったが、二重の意味で肩透かしを食らった気分だった。</p><p>それでも信じられんと言うならそうだな。一つ、褒美でもくれてやろう</p><p>褒美って</p><p>どうせまた厭らしい事をするつもりだろう、とウィキアは身構えた。</p><p>既に彼女は心身ともにOlのものだ。請われれば否やはないし、別段、嫌というわけでもない。むしろ抱く時は普段よりも優しく扱ってもらえるから正直悪い気はしない。</p><p>だがそれを褒美と言われれば、嬉しくなどないと虚勢を張る程度の意地はまだ残っていた。</p><p>何でもいいぞ。流石に首を寄越せと言われれば困るが、そういった事でなければ例えば、呪を解いて地上に戻りたいと言うのなら、それでもいい</p><p>だから、Olの言葉はウィキアに強い衝撃を与えた。</p><p>本当に？</p><p>無論その場合は、この迷宮の記憶は消させてもらうがな</p><p>思ってもみない申し出に、ウィキアの頭は酷く混乱していた。</p><p>Olが本気で言っているのかさえ判別できずじっと彼の目を見ても、いつも通りの至極生真面目な表情で見つめ返されるだけだ。</p><p>別に、今すぐ決めずとも良い。存分に悩んでこい</p><p>そんなウィキアの心中を見透かしたかのように、Olはそう言った。</p><p>はあ</p><p>気づいた時には、ウィキアは自室のベッドに突っ伏していた。</p><p>頭の中を、Olから投げかけられた言葉がぐるぐると回っている。</p><p>考えるのは、その真意は何か、という事だった。</p><p>あれだけ策を巡らせて己のものにしたウィキアを、そう易易と手放すものなのだろうか。何かの罠や策略なのではないか。</p><p>そう思う一方で、ウィキアの思考の冷静な部分が、それはありえない、と告げる。</p><p>ウィキアは既に真名をOlに伝え、その身に刻印さえ刻まれた身だ。身体も、心も、魂さえOlのものと言っていい。自由意思だけは残されているが、それすら彼がその気になればすぐさま奪ってしまえるものでしかない。</p><p>ウィキアに何かをさせたいのなら、別に策など弄せずともそう命じるだけでいいのだ。</p><p>ならば、何故なのか。</p><p>本当に、額面通り解放してくれるつもりなのだろうか。</p><p>いや、そんなことがあるはずがない。そこで、思考はまた最初に戻る。堂々巡りだった。</p><p>どうしたんですか？</p><p>鈴の音のような心地良い声に顔を上げると、透き通った青い瞳がウィキアを映していた。愛らしい顔立ちを心配そうに歪めて見つめるのは、かつての仲間であり、今は同僚であるShalだ。</p><p>そういえば、自分が解放されるとして、彼女たちはどうなるんだろう。</p><p>ふとそう思い立ってから、今までそこに思考が向かわなかったことにウィキアは自分で驚いた。</p><p>初めて囚われた時には、仲間をどう逃すかばかりを考えていたはずなのに。</p><p>Shal。もしかしたら、解放して貰えるかもしれない</p><p>Shalはパチパチと大きな瞳を瞬かせる。</p><p>地上に戻りたいなら、そうしてもいいって</p><p>Olの口ぶりからすれば、Shalやナジャも一緒に解放してもらえるのではないか。</p><p>そんな軽い思いで口にした言葉に、Shalの目からボロボロと涙が溢れ始めた。</p><p>あっ、あたっあた、しっ、は、もうい、いら、ないっ！て、こと、ですかあっ！</p><p>涙は見る間に大粒になり、Shalはしゃくりあげながらそう叫ぶ。</p><p>えっ、いや、そういう訳じゃないと思う。飽くまで、出て行きたいならって事で</p><p>思いもよらない反応に、ウィキアは慌ててShalを宥めた。</p><p>でも、でもっ</p><p>だが、Shalの涙は止まらない。</p><p>出て行ってもいいってことはっ！Ol様にとって、居なくてもいいってことじゃないですかっ！</p><p>ハンマーで殴られたかのような衝撃に、ウィキアは思わず身体をよろめかせた。</p><p>自分がショックを受けている、その事自体にショックを受けているのだ。</p><p>ShalはOlに、必要とされたいの？</p><p>あたり、まえ、じゃないですかあ</p><p>服の袖で涙を拭いながら、Shalは答える。</p><p>大丈夫よ</p><p>その頭をぽんと撫でながら、ウィキアは言った。</p><p>そう言われたのは私だけだから。Shalの事は手放したりしないでしょう</p><p>そうで、しょうか</p><p>ひくひくとしゃくりあげながらも、Shalはどうにか落ち着きを取り戻す。</p><p>笑みを浮かべて頷きながらも、ウィキアの心中は複雑だった。</p><p>裏がなく、言葉通りに解放されるなら、それは自分はもう不要ということではないか。</p><p>そんな事は、認めたくない。</p><p>堂々巡りの思考が隠していた本音を、Shalに暴かれてしまった。</p><p>彼女のように取り乱すほどではないが、それはずいぶんと気の重くなる事実だった。</p><p>ウィキアさんはここを、出て行っちゃうんですか？</p><p>目尻に光るの涙を指で拭いつつ、Shalは問いかける。</p><p>肯定ではなく、思案しつつ言葉を返し。</p><p>Shal、考えるのを手伝ってくれる？</p><p>ウィキアの言葉に、Shalは首を傾げた。</p><p>決めたわ</p><p>数日後、ウィキアはOlの元を訪れてそう言った。</p><p>Olはさして興味もなさそうに問い返す。</p><p>そんな彼に、ウィキアは用意していたものを叩きつけた。</p><p>なんだ、これは？</p><p>テーブルの上に置かれたのは、チェス盤に似た木の板だ。</p><p>ただしマス目の数が多く、色も塗り分けられていない。</p><p>ただ木の板の上に、縦横九マスずつが区切られていた。</p><p>私が考えたチェスの一種よ</p><p>答えながら、ウィキアは袋から木で作った駒を取り出して並べていく。</p><p>こちらもチェスとは違い、色はない。しかし向きでどちらの駒なのか区別できるような形になっていた。</p><p>普通のチェスとの違いは、駒の種類が少し多いことと倒した駒を、自分の駒として扱える事</p><p>興味をもったのか、Olは身を乗り出して駒を手に取りしげしげと見つめた。</p><p>願いは、これで私と三回勝負してもらうこと</p><p>駒を並べ終え、ウィキアは言う。</p><p>一度勝つごとに一人、私達を解放してもらう。そういう勝負を</p><p>別にそんな勝負をせずとも、お前達三人纏めて解放しても構わんぞ</p><p>受けてくれるの、くれないの？</p><p>Olの言葉をあえて無視して、ウィキアは詰め寄った。</p><p>青銀の瞳が、矢のようにOlを射抜く。</p><p>Olはしばし思考を巡らせた後、ゆっくりと頷いた。</p><p>詳細なルールを教えろ。その勝負、受けて立ってやる</p><p>結論から言えば、勝負はウィキアの惨敗だった。</p><p>新しく作ったばかりでろくに研究もしていないルールには、定石も何もない。互いに手探りで勝機を探しつつ、取った駒はどこにでも置けるため縦横無尽に戦場を駆ける。</p><p>敵兵を捕らえ洗脳し、迷宮の魔術で転移しての奇襲をイメージしたそのルールにいち早く順応したのは、Olの方だった。</p><p>そうでなくとも、普通のチェスとは打てる手の数が段違いだ。手段が増えれば増えるほど、Olはその力を増していく。深く先を読むウィキアに対し、Olは広く視野を持っているのだとわかった。</p><p>これで私の三戦三敗ね</p><p>そうだな。そのようだが</p><p>あっさりとした様子で両手を上げるウィキアに対し、Olは腑に落ちない様子で頷いた。</p><p>なあに？</p><p>そんなOlに、ウィキアはニッコリと笑ってやった。</p><p>いや</p><p>何がウィキアの狙いなのかわからないのだろう。</p><p>かと言って、相手に直接聞くような愚かなことをする男でもない。</p><p>試すような真似をするからよ、とウィキアは内心で呟く。</p><p>いずれOlもこれがただの嫌がらせに過ぎないことに気づくだろうが、それまで精々苦しめばいい。</p><p>眉間に皺を寄せて思い悩むOlにべっと舌を出し、ウィキアは笑みを押し殺しながら部屋を出ていった。</p><p>8.アールヴの巫女と魔王の弟子</p><p>最近、Ol様があんまりオマ○コしてくれないんです</p><p>その物言いのせいではないだろうか。</p><p>ナジャは喉元まで出かけたその言葉を、何とか飲み込んだ。</p><p>あたし、Ol様に捨てられてしまうんでしょうか</p><p>単にお忙しいのだろう。小国とは言え、国を一つ従えたばかりだ</p><p>代わりにShalを慰めるように言ったそれは、嘘ではない。</p><p>実際、フィグリア王国を支配することに成功したOlはここ最近と言うもの、多忙を極めていた。そもそも迷宮に帰らない日も多い。</p><p>そう、なのでしょうか</p><p>美しいエメラルドグリーンの髪から突きだしている細長い耳が、しゅんと垂れる。こうしている様は何とも儚げで繊細な美少女なのだが。</p><p>我々は留守を任されているのだ。これほど重要な任を与える相手を捨てることはなさらないだろう</p><p>それはそうなんですけどぉ</p><p>そう言う事じゃなくて、と言いたげなShalの気持ちも分からないではない。ナジャもShalも、Olの部下であると同時に愛妾の一人でもあるのだ。</p><p>戦士としてだけではなく一人の女としても必要として欲しいという思いは、ナジャにもあった。</p><p>フィグリア王妃は、とても豊満な方だとお聞きしました</p><p>ぺたぺたと己の胸元を撫でさすりながら、Shal。</p><p>やっぱりOl様もおっぱい大きい方が良いんでしょうか</p><p>その視線はナジャの胸元をじっと刺し貫いていた。</p><p>そんな事はないんじゃ、ないか？</p><p>思わず己の豊満な胸を腕で押さえつけながら、ナジャは身をよじる。</p><p>剣を振るときには邪魔としか思えないその膨らみ。しかしOlにそこをなぶられたり、乳房を使っての奉仕をしているときなどは、誇らしさを感じるのも嘘ではなかった。</p><p>ほら、ユニス様も大きい方ではないだろう</p><p>疑わしげな視線を向けてくるShalに、ナジャは慌ててそう言い繕う。少年のような雰囲気を持つ彼女は、Shalほどでは無いにしろ身体の凹凸に乏しい。</p><p>そもそもリル様がいる時点で、体格を競っても仕方ないんじゃないか？</p><p>女淫魔であるリルの身体は、男を悦ばせるためだけにあるようなものだ。同性の目から見てさえそのプロポーションはため息が出るほどに完璧で、それでいて肉感的な艶めかしさに溢れている。人の身で張り合おうなどという方が無謀だった。</p><p>それに比べれば妖精特有の美貌を持っている分、ナジャよりもShalの方が恵まれている。</p><p>リルさん</p><p>不意にShalはつぶやくと、立ち上がって拳を握りしめた。</p><p>リルさんは確か今日、ダンジョンにいましたよね？</p><p>ああ、そのはずだが</p><p>戸惑いつつも、ナジャは頷く。</p><p>Ol様に愛される秘訣を聞きに行ってきます！</p><p>あ、おい！</p><p>ナジャが止める間もなく、Shalは部屋を飛び出していった。</p><p>石造りの廊下を駆けて、目指すはリルの部屋。</p><p>失礼します！</p><p>え？な、何？</p><p>Shalがノックもなしに扉を開くと、人ならざりし絶世の美女はちょうどベッドに寝転がって本を読んでいるところだった。辺りには紙屑や脱ぎ散らかした衣類が散乱していて、とても美女の部屋とは思えない。</p><p>明らかに、Olの目がないせいでだらけきり、油断しきった女の姿がそこにはあった。</p><p>失礼しました</p><p>Shalは無表情で、パタンと扉を閉める。</p><p>え、何！？なんなのよー！？</p><p>部屋の中から、困惑したリルの声が木霊した。</p><p>それでなぜ、私の元に？</p><p>二種類の薬剤をくるくると混ぜあわせながら、表情もなく平坦な声でスピナは尋ねた。</p><p>社交的なリルやユニスと違って、スピナは殆どShal達と会話したことがない。</p><p>こうして頼ってくるのは意外だった。</p><p>リルさんはあんまり頼りになりそうにないですし、ユニスさんはOl様の護衛で出てていませんし</p><p>つまりは消去法か、とスピナは納得する。</p><p>それに、一番愛されているのはスピナさんじゃないかと思って</p><p>薬剤を混ぜていたスピナの手が、ピタリと止まった。</p><p>何故そう思うのですか</p><p>能面のような表情を変えぬまま、スピナは問う。</p><p>だって、リルさんはOl様が呼び出した悪魔ですし、ユニスさんは英雄です。どちらも、この迷宮になくてはならない方です。ですが、そのスピナさんは、失礼ですが</p><p>戦力としては不要故に、お師匠様から愛されているのかも知れない、と</p><p>カラカラと音を立てながら、スピナは更に幾つか薬剤を足して混ぜるのを再開する。</p><p>液薬がどんどん鮮やかなピンク色に染まっていくが大丈夫なのだろうか、とShalは少し心配になった。</p><p>仮にそうだとして、お師匠様から愛される方法を私が教えるとでも？</p><p>それもそうか、とShalは納得した。</p><p>Shal自身は、Olを独占しようなどと思ったことはない。</p><p>他の妻や愛妾達もそうだろう。</p><p>だがスピナだけは別な気がした。彼女の愛は傍目から見てもかなり重い。</p><p>Olの愛を自分だけのものにしたいと考えても不思議ではなかった。</p><p>そうですよね。すみませんでした</p><p>当たり前です。そんなそんな恥ずかしいこと、他人に言えるわけがないでしょう</p><p>真っ赤に染まった薬を混ぜながら、眉一つ動かさずにスピナはそう言った。</p><p>驚きに目を見開くShalに、逆にスピナの方が驚く。</p><p>恥ずかしいってライバルに塩を送るのが嫌だからじゃなくてですか？</p><p>ライバル？</p><p>スピナは不思議そうに首を傾げた。</p><p>他の人にOl様を取られたくない、って</p><p>どういう意味ですか</p><p>初めて、スピナが声色に感情らしきものを滲ませる。</p><p>不本意でならない、と言いたげな声だった。</p><p>取られるも何も、お師匠様は誰のものでもありません。所有されているのは、私の方。この髪一本から血の一滴に至るまで、私は全てお師匠様のものです</p><p>きっぱりと言い放つスピナの言葉に、Shalは目から鱗が落ちる思いだった。</p><p>スピナさん、ありがとうございます！</p><p>ぎゅっと己の手を握るShalを、スピナは奇妙な生き物を見るような目で見やる。</p><p>あたし、寵愛を受けたいばかりに一番大事なことを忘れてましたOl様に喜んでもらうのが第一と言うことを</p><p>それは、良かったですね？</p><p>Shalの反応に困惑しつつ、スピナは適当に頷いて調子を合わせる。</p><p>ですからっ</p><p>きらきらと瞳を輝かせながら、Shalはそんなスピナを見つめた。</p><p>一緒に考えましょうっ。どんなお誘い方をしたら、Ol様に喜んでもらえるか</p><p>いえ、結構です</p><p>心底嬉しそうに言うShalを、スピナはすっぱりと切り捨てる。</p><p>やっぱり基本的には淫語を織り交ぜた方がいいと思うんですよね！</p><p>あ、駄目だ、こいつも人の話を聞かないタイプだ。</p><p>金色の髪の幼女を思い浮かべながら、スピナは本能的にそう悟った。</p><p>完全に引いているスピナを全く気にすることなく、Shalは話を続けていく。</p><p>あたし達はプロポーションで不利ですから、全裸で迫るよりはチラリズム的な要素で勝負した方がいいと思うんですが</p><p>どうでも良いです</p><p>なるほど、どちらかに拘らず、どちらも使っていくべきなんですね！</p><p>誰か助けて。</p><p>スピナは生まれて初めて、そう願った。</p><p>7.紅髪翠眼の剣士達</p><p>はあぁっ！</p><p>裂帛の気合いと共に、ナジャは剣を上段に構えながら一直線にローガンへと駆けた。</p><p>防御のことは一切考えていない捨て身の突進を、ローガンは腕を振って迎撃する。丸太のような太い腕がナジャの身体を吹き飛ばす寸前、バチリと音が鳴って見えない壁に弾かれた。Shalが張った魔法障壁だ。</p><p>振り下ろされるナジャの一撃を、ローガンは身体を開いて辛うじてかわす。そこに、ウィキアの放った氷弾が迫った。ナジャの攻撃をかわして体勢を崩したローガンに、それを避けるすべはない。</p><p>彼が、人間であったなら、の話だが。</p><p>おっとっと、あぶねえあぶねえ</p><p>体勢を崩しても無駄ってわけね</p><p>そのままふわりと宙を舞って氷弾をかわすローガンに、ウィキアは舌打ちした。床を蹴ることなく自由自在に空を駆ける悪魔に、体勢など関係ない。だが直前までそれを感じさせない動きに、まんまと騙された形だ。</p><p>ウィキア、剣を！</p><p>ええっ！</p><p>ローガンが離れて出来た間合いを詰めながら、ナジャは剣を掲げる。ウィキアの杖から迸った光が剣に絡みついて、ナジャはそのまま刃を振るった。</p><p>うおっ！</p><p>大振りの一撃をかわそうとするローガンの背が、何かに当って止まる。Shalが張った障壁だと気づく頃には、どうしようもないほどナジャの剣が迫っていた。</p><p>舌打ちしつつ、ローガンは腕を一本犠牲にして剣を止める。</p><p>くっ</p><p>掌から肘までを切り裂いた刃はそこでピタリと止まり、ビクともしなくなる。ナジャはすぐさま剣を捨てて距離を取ろうとするが、それでも一瞬遅かった。</p><p>逃さねえよ</p><p>ローガンの太い腕がナジャの頭を掴み、軽々と持ち上げる。同時に、彼女の全身は真っ赤な炎に包まれた。</p><p>ナジャ！</p><p>ウィキアの悲鳴が木霊する。</p><p>その声に答えるように、ナジャはぐっと両手でローガンの腕を掴むと、彼の顎を思い切り蹴りあげた。</p><p>ぐえっ！</p><p>仰け反るローガンの手から逃れて剣を引き抜き、ナジャは両手でそれを掲げて跳躍する。</p><p>風よ！</p><p>力を！</p><p>ウィキアの放った風がナジャの身体を空高く飛ばし、Shalの魔術がナジャの腕に力を与える。</p><p>おおおおっ！</p><p>そして一刀のもとに、ローガンの首を刎ね飛ばした。</p><p>何とか勝ったか</p><p>地に降り立ち、荒い呼吸を整えながらナジャは地面を転がるローガンの首に振り向く。</p><p>いやいやいや</p><p>ローガンの身体がよたよたと首に近づいたかと思うと、ひょいと拾いあげて肩の上に乗せた。</p><p>どう考えても炎で包んだ時点で死亡判定だろが</p><p>ゴキゴキと首を鳴らしつつ腕を振れば、剣で裂かれた手がぴたりとくっついて元に戻る。</p><p>あの程度、Shalの防御魔術がかかっていれば耐えられる</p><p>実際の戦闘なら、火で息も止める。防御魔術なんざ関係ねえよ</p><p>ナジャとローガンが言い合っていると、パチパチと拍手の音が響いた。</p><p>お疲れ様、いい勝負だったね</p><p>声に目を向けると、いつの間にかユニスが訓練室の入り口に立っていた。</p><p>ユニス様。帰ってらしたんですか</p><p>うん、ついさっきね。ちょっと身体動かそうかと思って</p><p>ユニスがこの訓練室に顔をだすのは非常に珍しい。</p><p>でもナジャ達が使ってるんなら、また後にするよ</p><p>いえ、お待ちください</p><p>その好機を逃すまいと、ナジャは呼び止めた。</p><p>私達とお手合わせ願えませんか？</p><p>えーとうん、いいよ</p><p>ユニスは一瞬悩んだ後、こくりと頷く。</p><p>ありがとうございます。ウィキア、Shal、構わないか？</p><p>ええ。英雄と戦える機会なんてそうそうないもの</p><p>勿論、構いませんよ！</p><p>左右の二人に問えば、当然のように快諾が返ってきた。</p><p>では、お願いします</p><p>ええーと</p><p>部屋の中央で剣を構えてみせると、ユニスは少し困惑したように頬をかく。</p><p>三人で？</p><p>私一人の方がよろしいでしょうか？</p><p>いや、その、ね</p><p>ナジャの問いにユニスは困り果てたように眉を寄せて、視線を逸らす。</p><p>ローガンも入れて四人でも、大丈夫、かな</p><p>控えめに、しかしはっきりとした声で言うユニスに、ナジャ達は色めき立った。</p><p>英雄たるユニスに一対一で敵うとは思わないが、それでも皆その腕に依って生きてきた猛者である。しかも互いの強さは今の模擬戦で確かめ合ったばかりだ。流石に四人がかりで問題無いと言われるのは屈辱だった。</p><p>そこまで言われちゃあ引き下がれねえな。いいだろう、手を貸してやろうじゃねえか</p><p>ローガンもその気持ちは同様だったのだろう。ゴキゴキと拳を鳴らしながら、フォーメーションを組むナジャ達の後ろに立つ。</p><p>行くぞ！</p><p>先手を打ったのは、ナジャ達だった。地を這うように間合いを詰めて切り上げるナジャの頭上を飛びながら、ローガンはユニスを挟み込むかのように四本の腕を大きく広げる。上下左右、全方向からの一斉攻撃だ。</p><p>避けようのないはずのその攻撃が身体に触れる寸前、ユニスの身体は掻き消えた。ナジャの斬撃とローガンの爪が、虚空を切り裂く。彼女達がユニスの身体を目で追って振り向くよりも早く、ユニスは二人の間をすり抜けてウィキアに肉薄していた。</p><p>転移の魔術でも、特殊能力でもない。純粋な身のこなしの早さだけで、ユニスはナジャ達を出し抜いたのだ。</p><p>だが、ウィキアはそれを完全に読んでいた。前衛が二人、後衛が二人。この中で最も厄介なのは攻撃魔術を操るウィキアだ。早々に自分を潰しに来る事を予測し、彼女はそれに備えていた。</p><p>雷撃(ライトニング)！</p><p>ウィキアの手の平で雷球が浮かび、バチバチと音を立てながら矢のようにユニスへと伸びる。ユニスの体術は異常だが、文字通り雷速で動く稲妻の矢を避けられる程ではない。</p><p>そして生き物である以上、雷撃を受ければその動きは止まる。どれだけ魔術に抵抗があろうが、頑丈だろうが、その身体を動かしているのは微弱な電気の信号だ。雷撃はそれを麻痺させる。</p><p>そんな考えは、雷撃を無造作に片手で弾くユニスの前に霧散した。まるでゴミでも丸めるかのように稲妻を受け止め投げ捨てる姿に、ウィキアの思考は一瞬停止した。</p><p>とはいえ、そこで思考を続けていても結果は同じことだっただろう。ユニスは鞘の付いたままの剣でウィキアの後頭部を軽く殴りつけ、一撃で意識を奪う。</p><p>気絶して倒れるウィキアの身体をそっと抱きとめ、地面に寝かせたところで、ユニスの身体に魔力の縄がぐるりと巻き付いた。</p><p>対人緊縛(ホールド・パーソン)！</p><p>Shalの指から伸びた光の縄は、ユニスの腕ごと身体をぐるりと縛り付けている。無論英雄を縛り付けられるのはほんの一瞬だろうが、ナジャとローガンにはその一瞬で十分だ。</p><p>身体を縛られたユニスは剣で防ぐことも出来ず、足までぐるぐる巻になっているので走ることさえ出来ない。ユニスは足先に力を込めると、縛られたままナジャの方にぴょんと飛んだ。</p><p>ダメージを軽減するため、ローガンの攻撃は避けたか。そう思いつつも、ナジャはぐっと両腕に力を込めて剣を振りぬいた。</p><p>な！</p><p>ユニスは身体を捩り、ナジャに近づきながらも紙一重で剣を躱す。</p><p>いや、紙一重どころの話ではない。</p><p>魔力の縄はしっかりとユニスの身体を縛り、その間には紙一枚入らなかっただろうから。</p><p>なるほど、これ便利だね</p><p>ナジャの剣でShalの束縛を切り解いたユニスは、片手を掲げる。その指先から魔力の縄が五本飛び出し、ナジャの全身をぐるぐると縛った。どれだけ力を込めても縄はびくともせず、ユニスの真似を出来る気も全くしない。</p><p>ローガンには手加減要らないよね</p><p>動きを封じられたナジャを尻目に、ユニスは鞘から剣を抜いてにっこりと微笑む。</p><p>いや、ちょ、待っ</p><p>後退るローガンに、ユニスは遠慮なく斬りかかった。</p><p>まさか、あそこまで差があるとはな</p><p>訓練室の床に寝転びながら、ナジャはポツリとぼやく。</p><p>ローガンはShalの援護を受けながら戦ったが、結局ユニスに一撃も浴びせる事ができずに負けた。善戦と言っていいだろう。十合以上は打ちあったのだから。</p><p>ほんの一呼吸程度で負けたナジャ達に比べれば、かなりマシだ。</p><p>そうね。あそこまで無茶苦茶だとは思わなかったわ</p><p>あれは勝てる気がしないですねー</p><p>ウィキアとShalもナジャに同意する。</p><p>しかしその口調はナジャとは少し異なっていた。</p><p>悔しくないのか？</p><p>あそこまで圧倒的だと、悔しいって気は逆に起きないですね敵じゃなくてよかったなって思います</p><p>武力で真正面から勝てる相手では無いって事がはっきりしたから、勝とうとするなら策を練るわ</p><p>ナジャも頭では、二人の言うことはもっともだと思った。</p><p>只人の身で英雄に勝とうという方が無茶なのかもしれない。</p><p>だが、物心付く前から剣を振ってきた身として、自分よりも何歳も若い小さな少女に手も足も出ないというのは、受け入れがたいことだった。</p><p>魔術を合わせた戦いで負けるのは仕方ない。</p><p>だがせめて、剣だけでも勝ちたい。</p><p>そんな想いを抱えながら、ナジャはShalとウィキアが自室に帰った後、一人こっそりと訓練室へと戻った。</p><p>大きく息を吸い、ゆっくりと吐いて呼吸を整える。剣を両手で構え、小指から順に力を込めて握っていく。力は入れすぎても、抜きすぎてもいけない。そのまま剣を振り上げ、一気に下ろす。</p><p>フッ、と鋭い風切音が鳴った。</p><p>一切無駄のない一撃を放てた時だけになる音だ。今のナジャでは、こうして気を落ち着け、正しい構えを取らなければ出せない音。無論、実戦の中で出せるのは百に一度、あるかないか。</p><p>だがこの音を常に出せるようになれば、ユニスにも勝てるかもしれない。その先に剣の頂があるのだと信じて、ナジャは無心で剣を振り続ける。</p><p>炎弾(フレイムバレット)</p><p>不意に聞こえた声と膨れ上がる魔力に、ナジャは反射的に振り向く。そのまま考える暇もなく剣を振り下ろすと、彼女に向かって飛んできた火炎球は真っ二つに切り裂かれてナジャの背後に着弾した。</p><p>おお、すごーい</p><p>目を大きく見開いてパチパチと拍手しているのは、ユニスだった。</p><p>彼女に攻撃された事に驚くべきか、自分の剣が魔術を切れた事に驚くべきか、ナジャは混乱して剣を構えたままの姿勢で呆然とユニスを見つめる。</p><p>ごめん。その音の剣なら、魔術切れるんじゃないかなって思って、つい</p><p>ユニスは悪戯っぽく笑って、自分の後頭部に手をやった。</p><p>びっくりしました</p><p>うん、だよね、ごめんね</p><p>流石に申し訳なさそうに、ユニスは頭を下げる。</p><p>ナジャさんってさ、うちの人だよね？</p><p>ええ。グランディエラの生まれです</p><p>赤い髪に緑の瞳、褐色の肌。ユニスとナジャに共通するその特徴は、典型的なグランディエラ人のものだ。つまりナジャにとってユニスは仕える主人の情婦であり、同時に故国の姫でもある。二重に敬意を抱くべき相手といえる。</p><p>お願い、あたしに剣を教えて！</p><p>はあ？</p><p>そんな相手に、思わず不遜極まりない声が出た。</p><p>あ、申し訳ありません、ですが御存知の通り、私にはユニス様に教えられるような事は何もございません</p><p>ううん、そんなことないよ。ナジャさんの方が剣は上手いでしょ</p><p>真剣な表情で、ユニスは首を振る。それは、事実だった。</p><p>使っている剣技自体は同じ流派だから、技は比べやすい。</p><p>百回戦えばユニスが百回勝つ。</p><p>だが、技術という点に限って言えば、ナジャはユニスの遥か高みにあった。</p><p>ですが私の剣など、ユニス様には不要でしょう</p><p>獅子は何故強いか。</p><p>そこに理由などない。獅子は獅子であるがゆえに強いのだ。</p><p>英雄もそれと同じだ。ナジャの何倍も早く動き、強い力を持つユニスに剣の技など必要ない。鉄の塊を思うままに振るえば、それが必殺の一撃だ。</p><p>あたしも、そう思ってたんだけどね</p><p>飾らず遜らず、ユニスはまっすぐに言葉を紡ぐ。</p><p>今回、駄目だったんだ。エレン達が来てくれなきゃ、Olを守りきれなかった。あたしはもっともっと強くならなきゃいけない</p><p>悔しそうに、少女は拳を握りしめた。</p><p>ああ、なんだ、と、ナジャは心中で呟く。</p><p>だから、お願い。あたしに剣を教えて、ナジャさん！</p><p>上を目指す気持ちは、英雄も只人も全く変わらないのだ。</p><p>分かりました。ですが一つ、条件があります</p><p>うん、なんでも言って</p><p>真摯な表情で頷く少女は、恐らくあっという間に技術でもナジャを抜いていってしまうだろう。だが、それはそれで悪くないとも思えた。自分が師から教わった技を、英雄が受け継ぐ。剣士としてこれ程の誉れは他にない。</p><p>ナジャさん、というのは座りが悪いので、ただナジャと呼んで下さい</p><p>わかった、よろしくね、ナジャ！</p><p>晴れやかな気持ちで、ナジャはユニスの差し出した手を握り返した。</p><p>6.夢魔とエルフと獣の王</p><p>では、今日はよろしくおねがいしますね、リルさん、ベティさん</p><p>はいはーい、お任せあれー</p><p>ペコリと頭を下げるミオに、エレンの部下の一人、ベティはぐっと拳を掲げて見せた。</p><p>ミオは真面目ねえ</p><p>リルがこうして彼女に付き合って迷宮の浅い層まで遠征するのは、そう珍しいことではない。月に一度か二度は行っていることだった。メンバーはミオとリル、ミオが世話をしているヘルハウンド二頭と、エレンか彼女の部下から一人、というのがいつものパターンだ。</p><p>いえ、私の為にご面倒をかけるんですから</p><p>わたしの仕事でもあるんだから気にしないでいい、って言ってるのに</p><p>そんなやりとりももはや恒例の事だった。</p><p>さ、それじゃあ行きましょー！</p><p>弓を掲げるベティに倣い、ミオとリルはおーと拳を掲げた。</p><p>Olの迷宮は、現在四つの階層にわかれている。そのうち下半分はOlが完全に支配しているが、上半分は野生のモンスター達が棲むに任せている。</p><p>彼女達が目指すのは、第二階層だ。Olの支配下にない魔物達が多数存在している上、冒険者達も入り込んでくる場所である。ミオ一人では危険という事で、リルとエレン達が護衛を務めているのだ。</p><p>リルはそれほど強いわけではないが、ヘルハウンドを含めて過半数が悪魔であれば野生の魔物はまず襲ってこない。悪魔は餌にならず、そのくせ危険な存在だ。自分の生存を何よりも優先する野生の生き物は、本能的に近寄ってこない。</p><p>そうでないのは冒険者だが、第二階層をうろつく程度の冒険者なら大抵ヘルハウンドが二頭もいれば何とかなる。たまに強敵がいないわけではないが、そんな相手でもエレンかその部下が一人いれば何の問題もなく撃退出来た。偶然出会ってしまった冒険者達は不運としか言いようがないが、逃げるなら追撃はしない事にしている。</p><p>げぇっ、獣の魔王(ビーストロード)だ！</p><p>逃げろ！</p><p>今日もばったりと出会ってしまった冒険者達が、ミオの顔を見るなり血相を変えて逃げ出していく。何組もの冒険者を返り討ちにするうちにすっかり顔が売れてしまったらしい。</p><p>付いたあだ名がビーストロード。不確定名は金髪の三つ編みである。</p><p>ちょっと、傷つきますよね</p><p>えー、いいじゃないですかー。格好いいですよ、ビーストロード。ボクもエレン様やミオさんみたいな二つ名で呼ばれたいなあ</p><p>額をダンジョンの壁に押し当てながら肩を落とすミオに対して、ベティは脳天気に笑った。</p><p>もうそろそろ目的地よ、気をつけてね</p><p>和やかなムードに、リルは釘を刺す。</p><p>彼女がついてきているのは魔物よけだけではなく、道案内のためでもある。</p><p>定期的に迷宮内を巡回する彼女は誰よりも迷宮の構造に熟知しているのだ。</p><p>どの辺りにどんな魔物がいるか、といった細かい情報であれば迷宮の主であるOlよりも細かく把握している。</p><p>いた、あれよ</p><p>そこは、地上から直接縦穴で繋がっている場所だった。縦穴は急ではあるが斜面になっていて、第二階層まで陽の光が差し込んでいる。この斜面から魔獣達は迷宮に入ってくるのだ。</p><p>そしてそこに生えそろっている草を喰んでいる魔獣が、今回の目的だった。</p><p>うわぁ思ったよりおっきいですね</p><p>ベティが思わず声を漏らす。</p><p>その魔獣は、動物に例えるなら牛に似ていた。</p><p>蹄の生えた四本の太い足、太い首に支えられた巨大な頭からは、鋭い角が二本生えている。だがその大きさは牡牛の更に数倍はあり、重さであるなら数十倍はあると思われた。何故なら、その皮膚は全て分厚い鋼鉄で出来ているからだ。</p><p>ゴルゴンって言うんだってさ、あれ。ミオ、いけそう？</p><p>頑張ってみます</p><p>ミオはきりりと眉を引き締め、頷く。</p><p>ゆっくりと近づいていく彼女の背丈は、ゴルゴンの膝よりも低い。</p><p>こんにちは。ちょっと話があるんだけど</p><p>ミオが声をかけると、ゴルゴンはのっそりとその首を回して彼女を見つめた。間近で見上げると、まるで山のような威圧感だ。</p><p>え、嘘、何で</p><p>驚きに目を見開き、呆然と立ち竦むミオの身体をベティが抱える。</p><p>彼女に向かって、ゴルゴンは轟音を立てながら突き進んだ。</p><p>話が通じないタイプみたいですね～</p><p>ギリギリで突進をかわしながら、ベティはミオを下ろして弓を構える。</p><p>待ってください！</p><p>ミオの制止よりも早く、神速で射られた矢がゴルゴンにむかって飛びそして、弾かれた。</p><p>うわっ、硬ぁ！</p><p>流石のベティも、これには驚く。</p><p>Olから与えられた強弓で放つ弓を弾く生き物がいるとは思わなかった。</p><p>どうする、逃げる？</p><p>パタパタと翼を羽ばたかせながら、リルが上空から声をかける。</p><p>いいえ説得してみます</p><p>ミオはベティの背から離れて前に一歩踏み出し、ヘルハウンド達も下げさせる。</p><p>そして、威嚇するように前足で地面を掻くゴルゴンにゆっくりと近づいた。</p><p>大丈夫</p><p>ゴルゴンの鼻から漏れる灰色の吐息がかかるほどの距離まで、ミオは歩を進める。</p><p>伸ばした手の指先から吐息と同じ灰色に染まり、ピシピシと音を立てて石化していった。</p><p>ミオさんっ</p><p>流石に助けようと駆け寄るベティの動きが、ミオの言葉でぴたりと止まる。</p><p>大声でも怒声でもない、ミオの静かなその声に、何故か抗えない。</p><p>怯えないで。私達は、あなたを傷つけたりなんかしない</p><p>半分以上石になった口をなんとか動かして、ミオはじっとゴルゴンの目を見つめた。</p><p>友達になりたいだけなの</p><p>ゴルゴンもまた、赤く光る瞳で彼女の目を見つめ返す。</p><p>いつの間にかその口から漏れる灰色の吐息は消え、ゴルゴンはゆっくりとミオに近づく。そして不意に、紫色の長い舌を伸ばしてミオの顔をべろりと舐めた。</p><p>ありがとう</p><p>石化した顔をべろべろと舐められ、ミオは笑い声を漏らす。</p><p>えーと、もう、大丈夫なんですか？</p><p>和やかでありながら異様なその光景に、恐る恐るベティが問うた。</p><p>あ、はい、大丈夫です。この子は怖がってただけみたいなので</p><p>怖がってた、って</p><p>黒アールヴの弓を正面から受けてもびくともせず、近寄るものを皆石に変え、岩をも砕く突進をする生き物が、一体何を怖がる必要があるのか。</p><p>リルは呆れつつも、ミオのそばに降り立った。</p><p>で、いつまで石になってんの</p><p>それなんですけどー</p><p>ミオは石化していない側の顔だけで器用に困った表情を浮かべる。</p><p>この子、石にするのは出来るんですけど、元に戻すのは出来ないみたいで</p><p>困りました、と呟くミオに、リルは大きくため息をついた。</p><p>ミオってなんていうか、大物だと思うわベティ、治してあげて</p><p>えっ、ボク、石化解除なんて使えないですよ。リルさんは</p><p>悪魔が回復魔術なんて使えるわけ無いでしょ</p><p>思わず無言で、リルとベティは見つめ合う。</p><p>えっ、私、もしかしてずっとこのままなんですか？どうしよう、皆の世話もあるのに</p><p>いや、自分の心配をしなさいよ</p><p>心底弱り果てたミオの言葉に、リルとベティは思わず笑いあった。</p><p>なお、ミオの石化を治療してもらった後、リル達は三人揃ってこってりとOlに絞られることになるが、それはまた別の話だ。</p><p>5.白と黒の妖精姫</p><p>主殿、主殿ぉっ！</p><p>あぁぁぁあっ、Ol様、もっと、もっとぉっ</p><p>二つの声色が、Olの寝室に響いていた。</p><p>すらりとした長身を四つん這いにし、後ろから突かれて褐色の乳房を揺らすエレン。</p><p>小柄な身体を更に縮こまらせて、ささやかな胸を隠すように腕を畳み、大きく脚を開いてOlを受け入れるShal。</p><p>Shalとエレン。肌の色も体格も正反対の二人が、その肢体を絡ませ合いながら、Olの寵愛を受けていた。</p><p>あ、あ、あ、だめ、イく、イっちゃう、イっちゃうぅ！</p><p>いい、いいのぉっ！あたしも、あたしもイっちゃうぅっ！</p><p>互いに向かい合って重なりあう二人のアールヴへと交互に突き入れて、その柔肉を比べるように堪能する。豊満で肉感的なエレンの身体は包み込まれるかのような快楽があり、小柄なShalの膣内はきゅっと強く締め付ける刺激があった。</p><p>イくぞ！</p><p>二人を何度目かの絶頂に至らせたところでOlもまた達し、二人の性器で挟み込むかのように肉槍を差し込んで、そのすべすべとした腹を汚す。</p><p>荒く息をしながら緩慢な動作でエレンはShalの横に寝転んでスペースを空け、Olはその間に身体を横たえた。</p><p>あぁOl様の精液ぃ</p><p>ほんの少し休んで呼吸を整え、Shalは熱に浮かされるように身体をもたげると、Olの股間にしゃぶりついた。</p><p>む、独り占めはいかんぞ</p><p>それに張り合うようにエレンも顔を寄せ、二人で左右から今だ硬く屹立するそれを丁寧に舐め清めていく。</p><p>お前達は、互いに思うところはないのか？</p><p>二人の髪をなんとなく撫でながら、ふとOlは尋ねた。</p><p>思うところ？</p><p>エレンは首を傾げ、その隙を突くかのようにShalが陰茎の先を口に含む。</p><p>まあ、はしたない奴だとは思っているな</p><p>怒りを抑えるような声で言いつつ、エルはShalを睨みつけた。</p><p>白アールヴと黒アールヴは不倶戴天の敵だと聞いていたが</p><p>ああ、そのことか</p><p>毎晩誰を寝所に呼ぶかは、リルに一任してある。</p><p>その方がOlが決めるよりも角が立たないからだ。</p><p>Olの愛妾達の体調や性格を鑑み、頻度や組み合わせに不満が出ないようにスケジュールを組む。今まで一度も失敗したことがなかっただけに、寝室にエレンとShalが揃って現れた時にはOlも少し驚いた。</p><p>とは言え実際行為に及んでみれば二人とも特に仲違いするような事もなく、正直拍子抜けした気分だ。</p><p>白だ黒だと言っても、実際は様々だ。主殿は、氏族というものをご存知か？</p><p>アールヴは血縁で繋がった集団で生活する。それを氏族と呼ぶのだったな</p><p>アールヴは人間よりも閉鎖的で、一つの村の人間は全員血の繋がりがあり、外部から入ってくることや出て行くことが少ない。Olの認識は、そういったものだった。</p><p>然り。我らは黒アールヴの中でももっとも旧く、もっとも由緒正しい黒の氏族だ。我々が敵対しているのは白の氏族だけ。無論、他の白アールヴと仲が良いわけでもないが、同じ主に仕えるもの同士で諍うほどではない</p><p>Shalは白の氏族ではないのか</p><p>Olの問いに、Shalも流石に喉奥まで咥えこんでいた肉棒を離して顔を上げる。</p><p>はい。あたしは新緑の氏族です</p><p>確かここ百年ほどの間にできた氏族だったか</p><p>Shalはこくりと頷いて、肩まで伸ばしたボブカットをかきあげた。</p><p>新緑の氏族の特徴は、この緑の髪と、耳の形です。エレンさんとは違いますよね？</p><p>先の尖った耳は、妖精族全体の特徴だ。</p><p>だが、同じ尖った耳でもエレンとShalでは形が違った。</p><p>まるでナイフの刃のように細長いShalの耳に比べ、エレンの耳は木の葉のように広く短い。</p><p>なるほど。血縁ごとに氏族ごとに特徴が似通ってくるわけか。考えてみれば道理だが、逆に言えば特徴で氏族を見分けられるわけだな</p><p>Olが納得して頷くと、Shalは表情を暗くした。</p><p>新緑の氏族は、殆ど貧乳なんです</p><p>殆ど膨らみのない胸元をぺたぺたと触りつつ、Shalは悲しそうにそう呟く。</p><p>だが、Shal殿はまだ年若いだろう。成長すれば自然と大きくなるのではないか？</p><p>黒の氏族の人は皆巨乳だからそんなことが言えるんですよ！</p><p>普段温厚なShalに憎しみの篭った視線を向けられ、エレンは思わずたじろいだ。</p><p>い、いや、そうでもないだろう</p><p>確かに、四人いるエレンの部下の中には大きいというほどではない者もいる。</p><p>そんなことありますよ！</p><p>だが殆ど断崖絶壁に近いShalと比べれば十分豊かだ。</p><p>落ち着け。別に大きければ良いというわけでもない</p><p>でも、大きかったら色んな事が出来るじゃないですか</p><p>流石に見咎めてOlがフォローするも、Shalは不満げに己の胸を撫でる。</p><p>大きかったら、挟むもよし、押し付けるもよし、揉みしだいてもらうもよし、吸ってもらうもよし、振り回して頬を叩くもよしですよ！</p><p>最後のは要らん</p><p>熱く訴えるShalに、Olは渋面を作った。</p><p>今まで調教して変えたShalの性格に呆れることはしばしばあったが、これはなんとなく元々のような気もする。</p><p>主殿。主殿が若返っている魔術の逆で、Shal殿を成長させることは出来ないのか？</p><p>エレンの提案に、Olは少し悩む。</p><p>可能か不可能かで言えば、可能だ。だがそれには膨大な魔力を必要とする。人間ならばまだしも、アールヴは長命だ。それほどの時間を操るとなると、迷宮の魔力が枯渇してしまうかも知れん</p><p>Olの言葉に、Shalの耳がしゅんと垂れ下がる。</p><p>それに成長しても胸は大きくならないかもしれない、という言葉を、Olは飲み込んだ。</p><p>だが単に姿を変えるだけであればそれほどの魔力は要らん。望むなら</p><p>お願いします！</p><p>皆まで言うよりも早くShalは飛びつくようにしてOlの手を握った。</p><p>わかったわかった。動くなよ</p><p>Olが呪を唱えながらShalを指さすと、彼女の身体は光に包まれた。</p><p>そのまま、光がぐっと伸びてShalの体格は変わっていく。</p><p>わぁっ</p><p>光が消えた後、そこにはShalの面影を残した美女が立っていた。</p><p>手足がスラリと伸び、エレンと同じくらいの身長。</p><p>肩で切りそろえていたボブカットは腰まで伸びるストレートヘアとなり、何よりその胸元はエレンに勝るとも劣らぬほどの質量を備えている。</p><p>すごいです！重いです！肩が凝りそう！</p><p>なあ、主殿</p><p>きゃっきゃとはしゃぐShalを尻目に、エレンはOlに囁いた。</p><p>あれの逆も出来るか？</p><p>逆？小さくするということか？</p><p>ああ、それと</p><p>エレンはOlの耳元で何事か尋ねる。</p><p>Olは頷いて呪文を唱えると、エレンに魔術をかけた。</p><p>おお</p><p>先ほどまでのShal程の背丈に、凹凸の少ない体付き。</p><p>幼い童女のような姿に、エレンは喜色を浮かべて声を上げた。</p><p>なるほど、確かに私にもこんな時代があったな。妙な気分だ</p><p>しかし身体をくねらせ、笑みを浮かべながらOlに擦り寄るその姿は子供とは思えない艶かしさに満ちていた。</p><p>さあ、主殿</p><p>エレンはOlの胸板に手を当てて、首を伸ばし口付ける。</p><p>Olは彼女の小さな身体を抱きかかえ、そのままベッドの上に押し倒した。</p><p>あれーっ！？</p><p>自分の身体に夢中になっていたShalは、そこでようやく二人の様子に気がついた。</p><p>待ってろ、今から大事なところだ</p><p>しかしOlは彼女を一顧だにせず、エレンを抱きしめるようにして彼女の中心に押し入る。</p><p>っく流石に、なかなか</p><p>エレンは苦痛に顔を歪ませながら、声を漏らした。</p><p>大丈夫か？痛み止めの魔術でもかけるか</p><p>何を仰るか。そんな事をしては、折角主殿に処女に戻してもらった意味がないではないか</p><p>エレンはOlに頼み、男を知らない頃にまで身体を若返らせてもらっていた。勿論時間を戻したわけではないし、Olは彼女の幼いころを知っているわけでもないから、それは仮初のものだ。</p><p>だが、硬く閉じてキツくOlの逸物を締め付けるその感触は間違いなく穢れを知らぬ乙女のそれだった。</p><p>遠慮せず、我が身を楽しんでくれ</p><p>頷きつつも、Olはエレンをいたわるようにゆっくりと抽送を開始する。</p><p>私が初めて交わったのは、百と何十年前だったか</p><p>小さな身体を揺すられながら、ぽつりとエレンはそんな話をしだした。</p><p>アールヴにとっても随分前の事だ。相手のことも好いてはいたが、今にして思えば子供のごっこ遊びのようなものだったな</p><p>そうか</p><p>そっけなく答えるOlに、エレンはくすりと笑みを漏らす。</p><p>本当に愛している男に初めてを捧げるというのは、こんなに満たされるものだとは思わなかった</p><p>そしてOlの背をギュッと抱きしめ、全身でしがみつくように脚を回した。</p><p>この身体に、主殿を刻みつけてくれ。例え仮初めのものでも</p><p>ああ。しっかりと受け止めろ</p><p>その最奥までに突き入れて、Olは精を放つ。</p><p>あぁっ！</p><p>己の胎内を埋め尽くす勢いで吐き出されるそれに、エレンは高く、鳴いた。</p><p>これで、少しは満足か</p><p>はい。我儘を言って申し訳ありませぬ</p><p>情交の余韻を漂わせつつ、しかし硬い口調でエレンは答える。</p><p>別に気にせんがな。過去がどうあれ、今のお前が俺に従うのならそれでいい</p><p>主様</p><p>感極まったようにエレンは瞳を閉じ、そのおとがいを上に向けた。</p><p>Olはその顔に唇を近づけ</p><p>思い切り、顔をおっぱいで叩かれた。</p><p>何をする</p><p>折角！折角、おっぱい大きくなったのにOl様が全然こっちを見てくれないから！</p><p>ぶるんぶるんと巨大な乳房を揺らしつつ、Shalは涙目で抗議した。</p><p>（そうか、あの胸は俺が作ったものだから、あの胸ならば俺を攻撃できるのか）</p><p>その様子を見ながら、Olはそんな事を冷静に考える。</p><p>あたしも！あたしもちゃんと責任とってくださいぃ～！</p><p>ShalはぎゅっとOlの頭を抱きしめ、胸の谷間に押し付けた。</p><p>しっとりとした肌は吸い付いてくるかのようで、柔らかく気持ちいい。が、それは同時に、完全に息を塞ぐという事でもあった。しっとり吸い付く肌は息の逃げ場をなくし、柔らかな胸肉はぴったりと口の形にフィットして呼吸を塞ぐ。</p><p>その上、Ol自身が作り上げたものには魔術による防護が効かない。</p><p>その胸は、正しく、魔王を殺しうる凶器であった。</p><p>その後、Olが窒息する寸前にエレンが気付いて助け出し、Shalの胸は魔王殺し(デモンスレイヤー)と呼ばれる事をなんとか免れたのだった。</p><p>4.幼女とお姉ちゃん</p><p>コンコンと響くノックの音に、リルはベッドの上から跳ね起きた。</p><p>彼女の部屋をノックする人間は少ない。ユニスは大抵ノックした直後に扉を開くかノック自体を忘れるし、スピナはそもそも部屋を訪ねて来ない。</p><p>ちゃんと扉をノックするのはOlくらいだ。</p><p>リルは姿見を見ながら手早く髪を撫で付け、跳ねた部分を真っ直ぐに伸ばす。</p><p>そして一度、二度咳払いして、扉を開けた。</p><p>はい、なあにって</p><p>そこにいたのは、彼女が思い描いていた琥珀色の髪の魔術師ではなく。</p><p>マリー、どうしたの？</p><p>金髪の幼い少女だった。</p><p>ローガン、いなくてひまなの。リル、あそんで</p><p>ああOlの護衛役だもんね</p><p>支配したばかりのフィグリア王国を平定するため、ここしばらく迷宮を離れている。敵対するものにとってはこれ以上ない好機であるため、ユニスとローガンの二人が護衛についていた。</p><p>スピナはいるでしょ？</p><p>ソフィはだめ。つかえない</p><p>使えないって</p><p>きゅっと唇をへの字に結ぶマリーに、リルは思わず笑いを漏らす。</p><p>わかったわかった、リルおねーちゃんが遊んであげるわ</p><p>ありがとう、リル！</p><p>リルおねーちゃんね</p><p>ボールあそびしよ、リル</p><p>聞きなさいよ</p><p>どこまでもマイペースなマリーを追って、リルは通路に出た。途端、布を縫って作ったボールがぽんと飛んできて、廊下を転がっていく。</p><p>とって、とって</p><p>はいはい。まったく、もうちょっと落ち着きなさいよね</p><p>ぼやきつつボールを追って拾い上げ、リルはマリーに向けて放り投げてやる。マリーはそれを両手を広げて鼻先で受け止めながら、きゃっきゃと笑った。</p><p>いくよー、えい！</p><p>マリー、ボール投げるの下手ねえ</p><p>しかしマリーの投げ返したボールはてんで外れた方向に飛んでいって、リルは文句を言いつつボールを拾いに行く。</p><p>投げたボールをマリーは取り落とし、拾ってもう一度投げる。</p><p>あはは、えい！</p><p>もう、だからちゃんと投げなさいって！</p><p>あらぬ方向に飛んでいったボールを拾ってリルは投げ返し。</p><p>また見当違いの方にボールは飛んで行く。</p><p>あ、これ無限に続くやつだ</p><p>十回ほど繰り返したところで、リルは自分が木の棒を取ってこさせられる犬と似たような状態になっていることに気づいた。</p><p>ねえ、マリー別の、遊び、しない？</p><p>宙に浮いているとはいえ、流石に何度も往復させられれば疲れる。リルはぜえはあと荒く呼吸しながら、そう提案した。</p><p>そうだ、良い物作ってあげる</p><p>リルはふと思いついて、壁を指で撫でる。</p><p>ここだったら十分厚みがあるはずだし、大丈夫よね</p><p>呟きながらなぞる指先は、淡く輝いて円を描く。</p><p>こんなもんかな、えいっ</p><p>リルが魔力を込めて掌を押し当てると、迷宮の壁がぐにゃりと歪み、まるで吐き出されるように土の塊が廊下に飛び出した。</p><p>Olだったらこのくらい、指を鳴らすだけで全部やっちゃうんだろうけどね</p><p>ぼやきつつ、リルは土の塊を整えながら、同時にその表面に魔法陣を彫り上げる。</p><p>なあに、それ？</p><p>マリーの遊び相手を作ってるの</p><p>土塊をこねるリルを、マリーは興味深そうにじっと見つめる。</p><p>一緒にやってみる？</p><p>尋ねると、一も二もなくマリーは頷いた。</p><p>よし、これで完成！</p><p>できたー！</p><p>マリーとリルは揃って両腕をあげて、完成を喜ぶ。</p><p>うん、なかなかの出来じゃない</p><p>改めて出来上がった像を眺めて、リルはうんうんと頷く。</p><p>魔術で補助しつつ作ったこともあって、土塊にしてはかなり精巧な像が出来上がっていた。</p><p>モチーフには多少の難点があるけど</p><p>太い四本の腕に、引き締まった身体、山羊のように湾曲した二本の角。</p><p>ローガンだー！</p><p>それはどこからどう見ても、ロリコンの赤き悪魔の姿だった。</p><p>リルは最初、大雑把に人型の像を作るだけのつもりだった。しかし、マリーが勝手に腕を増やし、角を付け、尻尾を生やしだしたので、開き直ってリルもローガンの土像作りを始めたのだ。</p><p>ちゃんと動くだろうかと密かに心配しつつ、リルは土人形に魔力を通す。途端、土人形の双眸が赤く光り輝き、跪く姿勢だった土人形がすっくと立ち上がった。</p><p>成功ね。ゴーレム、マリーを抱えてあげて</p><p>リルが命じると、土人形はマリーを四本の腕でそっと持ち上げ、己の頭の上に乗せる。</p><p>たかーい！</p><p>マリーはゴーレムの角を掴んで笑い声を上げる。</p><p>オォー</p><p>ゴーレムは声を上げながら、ゆっくりと廊下を歩いた。</p><p>あれ？声を上げる機能なんてつけたっけ</p><p>ゴーレムに発声機能をつけるには、ある程度口の中に空洞を作らなければならない。見た目はローガンそっくりだとはいえ、口はパクパクと開け閉め出来るくらいで内蔵まで作った覚えはないのだが。</p><p>っていうか、どこ行くのよ！？</p><p>そもそも歩けなどと命令してないことにようやく気付き、リルはゴーレムを慌てて追った。</p><p>止まりなさい、止まりなさいって！</p><p>ぎこちなかったゴーレムの動きはどんどん滑らかになり、どすどすと音を立てながら走って行く。</p><p>すごーい、はやーい</p><p>風に髪をなびかせながら、マリーは大喜びだ。だがそれを追いかけるリルはそれどころではなかった。</p><p>ジョォォォオオオオオ！</p><p>土で出来ている癖に、もはやその走る早さはリルの飛行速度を超えていた。巨体に相応しい長い手足を振りながら、迷宮の廊下をひた走っていく。</p><p>ヨウジョォォォォオオオオオ！</p><p>こんにちはー！</p><p>とっくの昔にリルを振りきった事に気づきもせず、もはや吠えながら走るゴーレムに乗ってマリーはすれ違う迷宮の住人達に手を振る。</p><p>丁度部屋を出てくるスピナに、マリーは思わず声をあげた。</p><p>ゴーレムはあっという間に彼女の横を過ぎ去り、通り過ぎて行く。</p><p>スピナはその上に乗るマリーを一瞥しただけで表情一つ変えず見過ごし、マリーが振り向くとこちらを見てさえいなかった。</p><p>ソフィ</p><p>マリーはその背を見ながら、ぐっと口元を引き結ぶ。</p><p>そうする間にもゴーレムはどんどん進んで、やがてざあざあと鳴り響く音にマリーは前に向き直った。</p><p>かわだ</p><p>ぽつりと、マリーは呟く。</p><p>洗濯や用水に使っている地下水脈が、音を立てて流れていた。ゴーレムは一切気にせず、ざぶざぶと川の中に入っていく。</p><p>わあ</p><p>魔術で出来ているとはいえ、所詮は土塊である。ゴーレムはどんどん崩れ落ちていく。</p><p>だめ。だめだよ、もどって</p><p>角をぐいぐいと引っ張りながらマリーが言っても、ゴーレムはいうことを聞くことなく川の中を進む。</p><p>だめ、だめだってば、こわれちゃう</p><p>ぼろりと腕が一本落ち、角が片方欠け、身体が水にさらわれて細くなっていく。片足が膝からぼきりと折れて、マリーの脚の先が川に浸かった。</p><p>だめだよ、せっかくつくったのに！</p><p>流石に慌てて、マリーは叫ぶ。</p><p>ローガン！いたずらしないで！</p><p>その途端、ゴーレムの動きはピタリと止まった。</p><p>いつから、気付いてたんだ？</p><p>ゴーレムの口から、先程までとは打って変わって流暢な声が漏れる。</p><p>めがひかったとき</p><p>俺が入った瞬間じゃねえか！？</p><p>同じ悪魔であるリルですら、目の前で憑依しても気づかない程自然に取り憑いたつもりだったのに、とローガンのプライドが、ほんの少しだけ傷ついた。</p><p>あしつめたいよ。もどって</p><p>おう。だけど、もうちょい待つと面白いもんが見れるぜ</p><p>おもしろいもん？</p><p>小首を傾げるマリーに、ローガンは笑みを押し隠す。</p><p>マリー！</p><p>水音の中、聞き慣れた声にマリーは振り向いた。</p><p>動かないで！いいですか、じっと、しているんですよ！</p><p>スピナがそのローブの裾をまくり上げ、川の中へと足を踏み入れている。</p><p>じっとしてなさいっ！</p><p>今まで聞いたことのない声量で叫び、スピナは呪文を唱えながら片手で複雑な印を組む。するとほんの一瞬、水の流れが緩やかになった。</p><p>ソフィ！</p><p>崩れ落ちていくゴーレムの上から、スピナはマリーを抱え上げる。そして急いで岸まで上がった。</p><p>おう、おつかれさん</p><p>なんとかマリーの身体を陸地に上げて、ずぶ濡れになった衣服を絞ることさえ出来ずに呼吸を整えるスピナに、ローガンはのんびりと声をかけながら炎の塊を幾つか出した。</p><p>え？</p><p>じゅっと音を立て、一瞬にしてスピナの服や髪が乾く。</p><p>彼女は呆然として、ローガンを見上げた。</p><p>マリーと水浴びして遊んでたんだが、驚かせちまったみたいだな</p><p>しゃあしゃあと言ってのけるローガンに、スピナの顔は一瞬にして真っ赤に染まった。</p><p>ソフィーーーーーーーーーー！</p><p>満面の笑みを浮かべながら、マリーはスピナに抱きつく。</p><p>スピナの目が大きく見開かれ、そして刃のように鋭くなってローガンへと向かう。</p><p>しかしその頃には、老獪な悪魔は一瞬の隙をついて既に消えてしまっていた。</p><p>ぶわりとスピナの髪が逆立ち、蛇のように波打つ。</p><p>わーい、ソフィだ、ソフィだ</p><p>しかしそんなスピナを見てマリーは怖がるどころか、喜んで彼女にぐりぐりと頭を押し付けた。</p><p>何でそんなに嬉しそうなんですか</p><p>小鳥くらいなら殺せそうな殺気を漂わせながら、スピナは怨嗟の声を上げる。</p><p>だって、やさしいよりそんなかんじのほうが、そふぃっぽいもん</p><p>しかし返ってきた答えに、スピナの毒気は抜けて髪がすっと落ち着いた。</p><p>もう少し、接し方を考えた方がいいのだろうか</p><p>ニコニコと嬉しそうに笑うマリーに、スピナは一人、頭を抱えた。</p><p>3.恋せし乙女と察しの悪き悪魔</p><p>んっふ、んんっ</p><p>部屋の中に、艶めいた声が微かに響く。</p><p>お師匠様ぁっ</p><p>スピナは愛しい相手を呼びながら、快楽に身を震わせた。</p><p>そ、こっ！</p><p>指先が彼女の敏感な部分をゆっくりと擦り上げ、スピナは堪えるように背を丸める。</p><p>お師匠様のが入ってくる</p><p>硬いものがぐっと秘裂を割り開いて中心を突き進む感覚に、吐息が漏れる。</p><p>ああっ、駄目です、そんな、あぁ</p><p>ぴちゃぴちゃと鳴り響く音にスピナは頬を紅潮させて、髪を振り乱した。</p><p>あっ、あっ、あっ、ああっ！</p><p>抽送の速度は徐々に上がっていき、それにともなってスピナの声色も高さを増していく。</p><p>おししょう、さま、ああっ、おししょうさまぁあぁ！</p><p>それとともに胸が揉みしだかれて、硬く張り詰めた蕾がコリコリと刺激される。</p><p>ああ、あああぁ、ふあぁぁぁあぁっ！</p><p>スピナの脚がピンと伸び、彼女はベッドのシーツをぎゅっと握りしめながら、身体をびくびくと震わせて絶頂に達した。</p><p>ついと銀の糸を引きながら膣内から指が引きぬかれ、スピナの呼吸音だけが部屋の中に響く。</p><p>数分、呼吸を整えた後、スピナは重い息を吐いた。</p><p>ベッドの端から布を引き寄せ、自らの体液で濡れた指と股座を拭う。</p><p>先ほどまでの興奮はすっかり消え失せ、代わりに罪悪感と自己嫌悪が襲ってきていた。</p><p>こんな端ない女だと知ったら、お師匠様はどう思うだろう</p><p>鬱々とそんな事を思いながら、スピナは身支度を整え、部屋の扉へと向かう。</p><p>扉には万が一にも声が外に漏れないよう、防音の結界が張ってあった。</p><p>扉に貼られた呪符を剥がし、扉を開く。</p><p>わっ</p><p>なっ</p><p>その瞬間、扉の向こうにいたリルと目があった。</p><p>な、なんでそんな所にいるんですかっ！</p><p>いや、結界が張られてたから気になって</p><p>目を白黒させながら、リルは答える。</p><p>考えてみれば当然の話だった。結界は空間に作用する魔力の塊そのものだ。</p><p>悪魔であるリルからしてみれば、その存在を全力で喧伝しているようなもの。</p><p>スピナは羞恥に顔を赤く染めた。</p><p>中で何を、していたか、見たのですか</p><p>いや、何の結界かもわからなかったし、見てはないけど</p><p>それをリルは、怒りによるものなのではないか、と捉えた。</p><p>あなた変なことしてたんじゃないでしょうね</p><p>変なこと！？</p><p>じろりと睨むリルに、スピナは跳び跳ねんばかりに驚く。</p><p>その反応にリルはますます疑いを強くした。</p><p>かつて彼女が放置した媚薬スライムにユニスが襲われたことは記憶に新しい。</p><p>Olを害するとは思わないが、何か妙な企み事をしている可能性は十分にある、とリルは考えた。</p><p>ちょっと部屋を見せてもらっていい？</p><p>ええ</p><p>頷きかけ、スピナは部屋の中に汚れを拭った布を放置したままだった事に気がついた。</p><p>普通なら多少濡れた布があるくらい、汗でも拭いたのだろうと特に気にも止めないだろうが、相手は淫魔である。そんなものでも、スピナが何をしていたか気づくかもしれない。</p><p>絶対にダメです！</p><p>スピナは勢い良く扉を閉めて、背後にかばった。</p><p>なんで隠すのよ</p><p>にじりよるリルに、スピナはふるふると首を振る。元々寡黙で口数の少ない彼女は、混乱と焦燥の極地で上手い言い訳など考えつくはずもない。</p><p>あ、わかった</p><p>不意に、リルが疑いの眼差しを向けるのをやめて、ニヤニヤと笑みを浮かべた。</p><p>スピナ</p><p>まさか。</p><p>さては</p><p>扉越しでも、</p><p>Olがいないからって</p><p>気づいたというのか。</p><p>部屋がぐちゃぐちゃなんでしょー</p><p>お師匠様には黙っててください！</p><p>ピンとリルが人差し指を立てるのと、スピナが頭を下げるのはほぼ同時だった。</p><p>いや、別にそんな事報告したりしないけどさ。そんな慌てるくらい、部屋汚いの？</p><p>そそうなんです。とても他人に見せられるような状態ではなくて</p><p>スピナは潔癖性と言っていいレベルの綺麗好きだ。ほんの少しでも部屋が汚れているような状況は許せないし、机の上のビーカーの位置がずれているだけでも気になるほど。リルの言葉を肯定するのは屈辱だったが、背に腹は代えられない。</p><p>ふーん</p><p>だが、その決断は、</p><p>そういえばわたしスピナの部屋って見たこと無いな。どんな感じなの？</p><p>完全に、逆効果だった。</p><p>ですから、他人に見せられるような状態ではないと</p><p>いいじゃない、見せてよ。大丈夫、わたしの部屋だって相当なものだし、引いたりしないって</p><p>いえ、ダメです</p><p>わたしとスピナの仲じゃないの</p><p>そんな押し問答を何度か繰り返して、スピナはとうとう観念した。</p><p>あまり頑なに拒否しすぎても、また妙なことを疑われる可能性がある。</p><p>わかりました、ですが、最低限だけ片付けさせて下さい</p><p>そんなに気にしないでいいのにまあいいわ</p><p>ヒラヒラと手を振るリルから視線を逸らさず、スピナは後ろ手に扉を開けて、そして素早く体を部屋の中に差し入れると急いで扉を閉めた。</p><p>さっさと、あの布を処分しなければいけない。</p><p>そこまで考えて、スピナははたと気づいた。処分と言っても、どうやって？</p><p>服の中に隠しただけでは、匂いを嗅ぎ当てそうだ。</p><p>かと言って燃やしてしまっては、煙や煤でバレバレだ。</p><p>部屋の何処か隅に隠そうにも、シンプルで無駄のない部屋にしているせいで隠せそうな場所がどこにもない。</p><p>衣装棚の中なら隠せるかもしれないが、流石に汚れたものを服の中に混ぜるのは抵抗が大きかった。</p><p>ねえ、まだー？</p><p>どんどん、と扉がノックされる。慌ててスピナはピンク色のスライムが詰まったガラス容器の蓋を開け、布を放り込んだ。</p><p>終わった？</p><p>ピャッ！？</p><p>それとほぼ同時に、リルが扉を開けてずかずかと入ってくる。</p><p>か、勝手に入らないで下さい！</p><p>なによー、全然綺麗じゃないの</p><p>きょろきょろと部屋を見回すリルからスライムを背中で隠しながらも、スピナはジュルジュルという独特の咀嚼音が消えるのを感じた。以前作った布のみを食べるスライムが、処分してくれたのだ。</p><p>リルとは違います。私はこの程度でも恥ずかしいんです</p><p>ほっと胸を撫で下ろしつつ、安心してスピナは言う。</p><p>ふぅん？</p><p>何となく部屋を見回して、リルは不意にあることに気付いた。丁寧に整頓され、実験器具の一つに至るまで整理された部屋の中で、ベッドのシーツだけが皺になって乱れている。</p><p>それを認識した途端、彼女の鼻が部屋の中にわずかに残った香りを嗅ぎつけた。どこか甘い、ツンとした匂い。リルにとってはある意味嗅ぎ慣れたその匂いに、彼女はスピナが今まで何をしていたのか完璧に把握した。</p><p>大体、リルは普段からだらしなさすぎるのです。仮にもお師匠様の使い魔であるなら、もっとしっかりとですね</p><p>うん、うん、わかった、わかったから</p><p>いいえ、いつもあなたはそうやって適当に返事をして</p><p>思わず笑ってしまいそうになるリルを捕まえて、スピナは説教を始める。完璧に痕跡を消せたと思い込んだ彼女はすっかり安心し、するとにわかにリルに腹が立ってきたのだ。</p><p>一方で、リルは必死にスピナが隠していた事がおかしくもあり、可愛らしくもあり、まともに顔を直視できない。</p><p>真面目に聞いてるんですか！</p><p>はいはい、聞いてる聞いてる</p><p>それから小一時間ほど、リルは笑いを堪えながら怒られ続けるのだった。</p><p>2.魔王と魔婚約者</p><p>いやしかし、魔王陛下の王妃様がこれほど愛らしい方だとは思いませんでした</p><p>あら、夫の前で妻を口説くなんて、悪いお方ですこと</p><p>と、とんでもない。事実を述べたまでの事でして</p><p>クスクスと笑う少女に、商人は慌てて言い繕う。</p><p>真っ白なドレスに身を包み、まだどこかあどけなさの残る顔立ちは妖精のように麗しい。だがその気品はとても王位を簒奪したものの妃とは思えなかった。</p><p>では、税に関しては先ほどの率で良いな</p><p>そこに絶妙な間を持って告げる魔王もまた、その称号に相応しいだけの威厳を備えている。どう見ても二十代前半の若者。商人の半分程度しか生きていないというのに、その落ち着きようといい、目の鋭さといい、遥か目上としか思えない威圧感だった。</p><p>は、はっ</p><p>今のやりとり一つとってもそうだ。本当ならば、もっとこちらに都合のいい値で交渉を終わらせたかった。御しやすそうな王妃から崩していこうと声をかけてみれば見事に切り返されてこのざまだ。</p><p>では、本日は大変良い勉強をさせて頂きました</p><p>本心からそう告げて、丁重に城を辞する。武力で王位を奪った野蛮人など、舌先三寸でどうにでもなるだろう。絞れるだけ絞りとってしまえば良い城を訪れた時に抱いていたそんな思いは、今や完全に霧散していた。</p><p>提示された税率も、こちらが納得できるギリギリの額だ。政治に関しては前王よりもよほど聡いのではないか。少なくともこの国を潰して甘い汁を吸うだけ吸ってやろう、というような意図は全く感じられなかった。</p><p>もしかしたらこの腐敗しきった国は、魔王によってまともになるのかもしれない。</p><p>いや、それは楽観しすぎだ。</p><p>一瞬頭を過ぎったそんな思いを商人は振り払う。商売において最も重要な事は常に最悪の自体を想定して動くことだ。そんな呑気な予想は何の役にも立たない。</p><p>だが、いくら振り払っても、その考えは商人の頭の片隅にこびりついたまま、離れないのだった。</p><p>ふぅなんとか上手くいったな</p><p>椅子に深々と身を預け、Olは息を吐いて力を抜く。一日の最後の最後に、厄介な仕事だった。</p><p>相手はこの国一番の豪商であり、組合(ギルド)の纏め役だ。こちらの一言一言に深く突っ込んできて、内心では納得しているはずなのにそれでは足らないとゴネる。かと思えば、こちらの許容できない範囲と見るや驚くほどの速度で引いていくのだ。最後はユニスと魔王の虚名に助けられた形だが、なかなか神経のすり減る仕事であった。</p><p>お疲れ様、Olっ</p><p>白いドレスをひらりとなびかせ、ユニスが労う。</p><p>ああ、お前もご苦労だった</p><p>しかし、とOlは彼女に目をやった。</p><p>ユニスがいつも着ている衣服といえば、防具を含んだ冒険者装束か、動きやすそうな長ズボン(ブレー)に上着(チュニック)、男向けのワンピース(ブリオー)のような色気のないものばかりで、スカート姿を見ること自体初めてだ。</p><p>馬子にも衣装というか。存外似合うものだな</p><p>だがその姿は、意外なほどにしっくりきていた。</p><p>お褒めに預かりまして、恭悦ですわ</p><p>恭しくスカートの端を摘んで頭を下げるその様は貴族の娘そのものである。</p><p>流石は姫君だな。今回は助かった</p><p>Olの方こそ、食事のマナー完璧だったじゃない</p><p>普段は見ることのないユニスの一面に感心して言うと、彼女は口調を戻してどこか拗ねるようにそう答えた。</p><p>何か失敗したか？事前に教わった通りに振る舞ったと思うが</p><p>流石のOlも、貴族の作法にまでは詳しくない。そこで付け焼き刃とはいえユニスに最低限の作法を習ったのだが。</p><p>皮肉なのかと捉えていえば、ユニスは首を横にふる。</p><p>あたしがあのマナー覚えるのにどれだけかかったと思ってるの。それを、あんな事前にちょっと習っただけで覚えちゃうなんて</p><p>そう言われてもな。別に俺も全部を覚えたわけではないぞ。怪しい時はお前の真似をしただけだ</p><p>そこまで含めて完璧だったって言ってるの！これだから地頭のいい人はーっ！どうせあたしはアホの子ですよっ！</p><p>ユニスは叫んで頬を膨らませると、ぽすんとOlの膝に乗った。</p><p>また妙なことを</p><p>こうして座ってくるからには本気でへそを曲げているわけではないだろうが、それでもある程度慰めの言葉をかけなければ更に機嫌を損ねるのは目に見えている。</p><p>さて、どう声をかけようかとOlが悩んでいると。</p><p>この国は、どうなるのかな</p><p>ぽつりと真剣な声色で、ユニスは問うた。</p><p>どういう意味だ？</p><p>膝に座って下をむくユニスの表情は、Olからは見えない。</p><p>Olは刃向かってきた人だけを殺して、従順になった人を残したでしょう？それで、この国は本当に保つのかって</p><p>ああ、そのことか。それなら心配はいらん。広大な国土は金の卵を生む鶏のようなものだ。絞めて卵を取り出すような愚は犯さん</p><p>くるりと振り向いて、ユニスはじっとOlを見つめる。</p><p>お前も俺のやり方は知っているだろう。今までそんな事をしてきたか？</p><p>それは知っているけどでも</p><p>ユニスは国の運営というものをよく知っている。</p><p>村や街なら一人才覚のある人間がいれば、やっていけるかもしれない。</p><p>しかし国となると、それではどうにもならない。何人もの有能な人材が必要だ。</p><p>残した連中は確かに皆無能、どいつもこいつも保身しか考えぬ腐った連中だ。だが、奴らが腐敗していられたのも真面目にこの国を支えていた者達がいたからこそ。国が沈めば己も沈む。今、奴らは必死だぞ</p><p>くくく、とOlは底意地の悪い笑みを漏らす。しかしユニスはまだ浮かない顔だった。確かにそれで心を入れ替える人間はいるかもしれないが、それでは十分とはとても思えない。</p><p>まともな連中を処刑したのが誰か覚えていないのか？</p><p>彼女の想いを察して、Olはそう尋ねた。</p><p>きょとん、としてユニスは数度瞬く。</p><p>誰ってローガン？</p><p>そう。魂の専門家だ</p><p>あっ、とユニスは声を上げた。</p><p>魂を全く損傷させることなく殺せば、肉体が灰となっていようが蘇生に失敗することはまずない。普通に殺したのでは肉体に釣られて魂も傷つくが、苦痛を感じる暇もなく一瞬で燃やし尽くしたなら</p><p>魂に傷を付けずに、保管してある？</p><p>いや</p><p>Olはニヤリと笑って、首を横に振った。</p><p>既に姿も形も変えて国の中枢に入り込んでおる。己の命も省みず国に尽くせるなどという希有な人材を、みすみす殺すわけがないだろう</p><p>文字通り魂を掌握した後なら、逆らいようもない。</p><p>そうして潜伏させた者達に仕事を徐々に引き継がせ、腐敗した中でもやる気を出した人間はそのまま使い、芽が出なかったものは改めて処分すればよい。</p><p>よかったあ</p><p>そう説明するとふにゃりと表情を崩し、ユニスはほっと胸を撫で下ろした。</p><p>幼くともやはり治世者として育てられたのだろう。</p><p>意外と心配性だな</p><p>だって、ここがOlの国になるんでしょう？</p><p>自分のことを棚においてOlが言うと、ユニスは不思議そうに答えた。</p><p>まあ、そうだが</p><p>じゃあ、あたしの国でもあるじゃない。あたしはOlのお嫁さんなんだから</p><p>当たり前のように、少女は朗らかな笑みを浮かべる。</p><p>一切の陰りのない輝くような笑顔に、Olは思わず視線を逸らした。</p><p>別に、まだ正式に結婚したわけでもないだろう。妻ということにしておけばお前を側においても警戒されることはない。ハッタリが効くから建前上、そうしただけだ</p><p>まだ。ってことは、そのうちしてくれるんでしょう？</p><p>顔を背けるOlを追いかけるように、ユニスは顔を覗き込む。</p><p>一度そういうことにしておいて、後で変えたら外交的にも問題があるしね</p><p>否定せず鼻を鳴らすOlに、ユニスはにんまりと頬を緩めた。</p><p>好きだよー、Olー</p><p>愛してるよー</p><p>わかったわかった</p><p>鬱陶しげに手を振るOlの前にユニスは回りこむ。</p><p>照れないでよーぅ</p><p>別に照れてなどおらん</p><p>こっち向いてってんんっ</p><p>ユニスの言葉が途中で止まり、くぐもった声が響いた。</p><p>ん、ふえ、ここで？</p><p>先ほどまでとは打って変わって、ユニスは恥ずかしげに目を伏せ、問う。</p><p>人払いの結界は張った。問題ない</p><p>Olが指を振ると、部屋の中を照らす燭台の火がふっと消えた。</p><p>窓から落ちる月の光が二人を照らす。</p><p>やがて伸びる影が二つ、重なった。</p><p>1.留守番小悪魔</p><p>あーもう、ぜんっぜんわかんなーい！</p><p>ベッドの上でごろりと寝返りを打ち、リルは読んでいた本を放り投げる。それは、Olが手ずから書いた魔術書であった。</p><p>はぁー</p><p>かなり丁寧に書かれていることはわかるが、難解な内容はなかなか頭に入ってこない。そもそも、人間の使う魔術は悪魔にとっては縁遠いものなのだ。</p><p>リルの魅了然り、ローガンの炎然り、悪魔には元々世界をねじ曲げる力があり、生まれたときから備わっている。むしろ魔術の方が、韻を踏んだ呪文や意味を持つ図形などでそれを模倣しているに過ぎない。</p><p>淫魔は位の低い悪魔の中では賢いと言っても、人間と比べればそう変わらない。Olの補佐のためにと努力してはいるが、それもそろそろ限界ではあった。</p><p>こうしてる間にOlとユニスがいちゃついてる気もするし～</p><p>留守を任されるのは良いが、損している気がした。</p><p>はぁ気分転換に見回りでもするかな</p><p>ベッドから起き上がり、リルは部屋を出る。Olの代わりに迷宮を治めるため、最近は見回りの頻度も減っている。ずっと部屋に籠もりっぱなしなのは性に合わなかった。</p><p>自室を出てすぐ、目の前にあるのがOlの寝室だ。戦力を増強する度に改装は深くなり、その度に部屋も引っ越していたが、この関係性はずっと変わっていない。</p><p>Olはーやっぱりいないか</p><p>ドアノブを捻れば、ガチャリと音を立ててすぐに止まる。ノックを何度かしても、返事はなかった。</p><p>リルはため息を一つつき、観念して見回りへと向かう。</p><p>あっ、リルだ、遊んで遊んでー</p><p>真っ先に出会ったのはマリーだった。彼女はリルの顔を見かけるなり、満面の笑みを浮かべて駆け寄り、抱きつく。</p><p>ごめんね、わたし今から仕事なの</p><p>ええー</p><p>不服そうに頬を膨らませるマリーを抱き上げ、肩に乗せる。</p><p>こうやって運んで上げるから、メイドたちに遊んでもらいなさい</p><p>元気に返事をし、マリーはぎゅっとリルの角を掴む。</p><p>リルはふわりと宙に身を躍らせると、南へと向かった。中央の広場を挟んで反対側に、侍女として連れてこられた娘達の住む区画がある。</p><p>あ、ちょうど良かった。えーっと、ルーアだっけ</p><p>そこに見知った顔を見つけて、リルは呼び止める。何人もいる侍女たち全員の名前は覚えていなかったが、一ヶ月ほど前に来た彼女とはよく話していた。</p><p>はい、リル様。いかがいたしました？</p><p>迷宮に連れてこられたばかりの頃は娘達は、リルの角や翼を生やした異形の姿を恐れる事が多い。しかしルーアというこの娘は最初から全く物怖じしなかったことを覚えている。</p><p>マリーと遊んであげてくれない？</p><p>畏まりました。スピナ様をお誘いしてもよろしいですか？</p><p>それどころか、侍女たちから恐れられているスピナさえ怖がらない唯一の侍女だ。</p><p>別に良いけどスピナのこと、怖くないの？</p><p>わたしでもたまに恐ろしく思うことあるんだけど、と思いながら問えば、ルーアは不思議そうに首を傾げた。</p><p>とても可愛らしい方だと思っていますが</p><p>その言葉を聞いて、リルは先日のスピナの部屋での事を思い出して吹き出す。</p><p>そうね、よくわかってるじゃない！</p><p>ぐっと親指を立てるリルに、ルーアは再び疑問符を浮かべた。</p><p>じゃあマリーのことよろしくね！</p><p>お任せください</p><p>リル、これ、あげる！</p><p>マリーが握り拳を突きだしたので、手の平を差し出す。すると、小さな石を手渡された。</p><p>ひかってきれいだから</p><p>ありがと、マリー</p><p>淡く発光するそれは魔力を大量に含んだ石、魔石だった。龍脈の真っ直中にあるこの迷宮の中ではそう珍しいものでもないが、魔力を糧にするリルにとってはおやつのようなものだ。</p><p>リルは二人と別れると、彼女達の部屋がある第四階層を離れて第三階層へと向かう。</p><p>おう、悪魔の姉ちゃん。久しぶりだな</p><p>最近忙しくってなかなか来れなくてねー</p><p>亜人達の街になっている第三階層に着くやいなや、リルはドヴェルグ達に声をかけられる。</p><p>今日は魔術師さんは一緒じゃないのか？</p><p>それがちょっと聞いてよ、Olったらわたしをほったらかしにして仕事ばっかりでさあ、まあ、遊んでるわけじゃないんだから仕方ないんだけど</p><p>そいつはいけねえなあ</p><p>リルお姉ちゃん、可哀想</p><p>ドヴェルグ相手にOlの愚痴を零していると、いつの間にやら小人だの巨人だの妖精だのが集まってきて、リルが可哀想だの、いや仕事なんだから仕方ないだのと好きなことを言い始める。</p><p>ま、帰ってきた時にはちゃーんと可愛がってくれるからいいんだけどねー</p><p>なんだよ、惚気かよ</p><p>そんな事で忠誠心を下げられても困るので、愚痴の最後は惚気けて終わるのがいつもの事だ。</p><p>まあ、旦那がいなくて寂しいんだろうけど、頑張りなよ</p><p>そういう事を何度も繰り返しているうちに、すっかりリルはOlの妻だという認識を持たれていた。リルとしてもそれは不快ではないので訂正していないせいもあるのだが。</p><p>久しぶりだからか、大盤振る舞いね</p><p>酒に木の実、採れたての果物や干し肉。何かとお裾分けされるのはいつもの事だが、今日は殊更に多い。</p><p>貰ってもわたし、食べられないんだけどなあ</p><p>そうぼやきつつも、背嚢に入れて背負うとずしりとした重さが伝わってきた。</p><p>持って帰ればユニスやOlが代わりに処分してくれる。その感想を伝えると、更に喜んで押し付けてくるという繰り返しだった。</p><p>でもまあ、関係が良好なのはいいことだよね</p><p>こうして亜人達と話して回るのは、反乱の芽がないか、亜人同士で不和がないか調べるためでもある。そういう意味では成果は上々といえる、とリルは前向きに捉えて、重い荷物を背負った。</p><p>さて、次は第二階層かぁ</p><p>リルは気合を入れ直し、表情をきりりと張り詰めさせる。第三階層まで冒険者が侵入してくることはまずないが、第二階層からはそうではない。ミオ達と向かう時と違って、リル一人では気をつけておかないと殺されてしまうこともあるのだ。</p><p>第二階層と第三階層の間には亡霊騎士(デュラハン)がいてリルといえども通れないので、専用の転移魔法陣を使って行き来する。登録されたものだけが行き来できる仕組みだ。</p><p>第二階層にいるのは、魔獣や高位の妖魔達そして、それを倒すことが出来る実力を持った冒険者達である。第一階層に比べて冒険者の数は格段に少ないが、危険度は比べ物にならなかった。</p><p>おっとこっちはまずいかな</p><p>とはいっても、瘴気にまみれロクに灯りもない迷宮の中では、冒険者達とリルとでは感知能力には雲泥の差がある。片や灯りをつけながら金属鎧をガチャガチャ鳴らして集団で歩き、片や暗闇の中を音もなく飛んでいるのだ。冒険者の方が先にリルに気付く可能性はほとんどなく、先に気づけば戦闘を避けるのはたやすい。</p><p>って、ヤバ！挟まれた！？</p><p>こんな事でも、なければ。</p><p>一本道の通路で、前後から二組の冒険者が近づいてきている。どちらもまだリルには気づいていないが、このまま進めば否が応でもかち合ってしまう。</p><p>ううー、仕方ない。取られませんように！</p><p>リルはなるべく見つからないように荷物のぎっしり入った背嚢を通路の隅に置くと、両手を広げて身体を反らす。するとその身が指先からボロボロと崩れたかと思えば、コウモリの群れになって羽ばたいた。</p><p>こうしてコウモリになるとただでさえ乏しい戦闘能力がほぼゼロになるが、それ故に冒険者達に発見されても戦闘になることはない。リルはそのまま天井にぶら下がって、冒険者達がやってくるのを待った。</p><p>おっと</p><p>しばらくすると、丁度リルの真下で冒険者達が遭遇しあう。二つのパーティは剣を抜いたまま、互いに警戒しているようだった。</p><p>こちらに、敵対する意図はない</p><p>やがて片方のパーティのリーダーらしき金髪の男が、そう言った。</p><p>こっちとしてもこんな深層で争いたくはないな</p><p>もう片方の黒髪の男がそう言って、ふっと緊張が緩む。</p><p>その瞬間、黒髪パーティの魔術師が火炎球を放った。反射的に金髪パーティの僧侶が障壁を張って防ぐが、金髪側の盗賊が耐え切れずに倒れる。</p><p>迷宮内で油断する方が悪いのさ！</p><p>途端に戦闘が始まった。剣戟の音が鳴り響き、炎や矢が飛び交う。</p><p>（やめて！やめて！瓶が割れちゃう！）</p><p>そんな争いの真っ只中で、リルは荷物の中の酒瓶が割れないか戦々恐々としていた。</p><p>自分では飲めないとはいえ、折角ドヴェルグ達が作ってくれた上物の酒だ。その他も全て、Olとリルが作ってきたこの迷宮の住人たちが作り、譲ってくれた品々。それはリルにとってかけがえの無い宝物だった。</p><p>金髪の剣士が黒髪の剣士を切り上げ、その身体が荷物に向かって吹っ飛ぶ。</p><p>ダメーッ！</p><p>リルは思わず実体化して、荷物を抱きかかえるようにして庇った。</p><p>二つのパーティの生き残り達は、攻撃の手を止めて突如現れた女悪魔に視線を向ける。</p><p>こいつがこいつが操ってたんだ！</p><p>不意を打ったものの、実力で押されリーダーを討たれた黒髪側のパーティが、リルを指さして言う。</p><p>そういうことか！</p><p>金髪の剣士はリルに剣を向け、斬りかかった。</p><p>嘘でしょっ！</p><p>荷物を抱えながら、リルは身を竦ませる。</p><p>だが、ぎゅっと目を閉じながら覚悟した身を切られる感覚は、いつまで経ってもやって来なかった。</p><p>やはり、リル殿か</p><p>代わりに聞こえてきたのは、覚えのある軽やかな声色。</p><p>こんなところで何をやっておられるのだ？</p><p>エレン率いる黒アールヴの一団が、弓を持ってリルを見下ろしていた。</p><p>なるほど。それは丁度良かった</p><p>リルから事情を聞いて、エレンは呵呵と笑う。</p><p>今我々も、迷宮の外で獲物を狩ってきたところなのだ</p><p>振り返り見れば、四人の手下達はそれぞれに鹿や猪といった獲物を担いでいる。腕の細さは自分と大差ないのに、どこからあんな力が出るのだろうか、とリルは訝しむ。</p><p>主殿が戻ってくる日のために、これで祝宴の準備でもしようではないか</p><p>それ、いいわね！</p><p>エレンの提案に、リルは表情を輝かせた。</p><p>意外と、Olは食通なのだ。仕事で疲れて帰ってきた夫を料理で持て成すのも妻の仕事。そんな風に考えたら、思わず笑みが溢れだした。</p><p>あのー、すみません、水を差すようで悪いんですけど</p><p>そんな中、エレンの手下の一人、ベティがこっそりと手を挙げる。</p><p>誰が料理するんですか？</p><p>エレンとリルの表情が、同時に固まった。</p><p>それはその、リル殿？</p><p>黒の氏族の長たるエレンは、自分で料理などしたことがない。</p><p>いや、無理無理無理、わたしは無理！</p><p>人間の食事も出来ないリルに、料理など出来るわけもなく。</p><p>ルーアに頼もうか</p><p>結局、料理が得意な侍女に頼る他、ないのだった。</p><p>0.魔王を取り巻く娘達</p><p>お帰りなさい、ご主人様ーっ！</p><p>転移の術で迷宮に戻ったOlが最初に目にしたものは、文字通り飛びついてくるリルの姿だった。彼女はぎゅっとOlに抱きつくと、そのまま胸に顔を埋めるようにしてしがみつく。</p><p>Olはその脳天に、容赦なく拳骨を打ち込んだ。</p><p>いったぁーい！なにすんの！？</p><p>それはこっちの台詞だ。転移するなり素性も確かめず結界を解く奴があるか。俺が敵を連れてきていたり、偽物だったりしたらどうする</p><p>Olを偽物と見間違えたりなんかしないもん</p><p>涙目で頭に両手を当てながら、はっきりと言い放つリルに、Olは言葉を失う。</p><p>あたしも帰ってきてるんだけど？</p><p>何とは無しに見つめ合う二人の邪魔をするように、ユニスはごほんと咳払いをした。</p><p>ユニスー！お帰りー！</p><p>ただいまー！リルー！</p><p>途端、抱き着いてくるリルをユニスはぎゅっと抱き返す。</p><p>何だこの茶番は</p><p>混ざる？</p><p>誰が混ざるかっ</p><p>片腕を離してスペースを空けるリルとユニスに、Olは吐き捨てるように叫んだ。</p><p>照れる事ないのにねーなどとぼやきあう二人を尻目に、スピナが慇懃に頭を下げる。</p><p>留守中、代わりはなかったか？</p><p>はい。何の問題もありませんでした</p><p>実直に報告するスピナに、Olは満足気に頷く。</p><p>見ろ、お前達と違ってスピナは真面目にやっておるだろうが</p><p>Olがユニス達の方に視線を向けるのと同時に、スピナは両腕を広げる。</p><p>ん？どうかしたか？</p><p>いえ！何でもないです！</p><p>素早く両腕を戻すスピナを、リルとユニスはニヤニヤしながら見つめた。</p><p>あら、帰ってきたの</p><p>Ol様！お帰りなさい！</p><p>お帰りなさいませ、Ol様</p><p>会議室へ赴いたOl達を出迎えたのは、冒険者三人娘の面々だった。</p><p>ああ。お前達は例の兵棋演習をしているのか</p><p>以前ウィキアが考えだした改良型のチェス盤を挟んでウィキアとナジャが向かい合い、それを横からShalが眺めている。</p><p>なるほど、駒落ち戦で、ナジャの方がやや優勢と言ったところだな</p><p>盤の上に乗った駒と横に避けられている駒をちらりと一瞥し、Olは粗方の状況を掴んだ。</p><p>流石はOl様。ご明察です</p><p>一瞥しただけでそこまでわかるのも気持ち悪いわね</p><p>素直に賞賛するナジャに対し、ウィキアが毒づく。</p><p>悪いが、少し部屋を借りるぞ</p><p>申し訳ありません、今すぐ片付けます</p><p>いや、構わん。すぐに済む</p><p>椅子に座る主人を見て立ち上がるナジャを、Olは手で制する。</p><p>では現状の報告を</p><p>そしてリルにそう促しかけたところで、その視線は下に向けられた。</p><p>何をしておる</p><p>怒りとも呆れともつかない何かを堪える声色で、Olは自分のズボンを下げようとしているShalに問うた。</p><p>はいっ、座っている間、Ol様のおちんぽをお慰めしようとしています！</p><p>つまみ出せ</p><p>ハキハキと答えるShalを、ナジャがズルズルと引きずっていった。</p><p>壁についた手の平が、微かにその震えを感じ取る。</p><p>確かにその存在のこと自体は、聞き及んでいた。</p><p>あ、Ol様、こんにちは！お帰りなさい、です</p><p>ドスドスという音とともに近づいてくるたびに、Olの首は上を向いていく。</p><p>どうなさいましたー？</p><p>いや</p><p>殆ど真上を向く形でゴルゴンに乗ったミオを見上げ、流石にOlは言葉を失った。</p><p>暴れだしたりは、しないんだろうな？</p><p>流石にこの魔獣に居住区の内部から暴れられては相当な被害が出そうだ。</p><p>はい。ジョーはとっても大人しい良い子ですから</p><p>ジョー</p><p>思わずOlが反芻すると、自分の名を呼ばれたのかと思ったゴルゴンがゴフっと鳴いて、灰色の煙が鼻から吹き出す。</p><p>わぷっ</p><p>ゴルゴンをしげしげと見つめていたユニスが慌てて後退るが、その前髪がパキパキと音を立てて石化した。</p><p>何をやっている</p><p>Olが呪文を唱えながらぐしゃぐしゃと撫でると、灰に染まったユニスの髪に色が戻る。</p><p>えへへ、ごめーん</p><p>油断しすぎだ、馬鹿者</p><p>Olが苦笑を浮かべていると、隣ですとんと軽い音がした。</p><p>そちらに視線を向けると、丁度ゴルゴンの口を両手で押さえ、その息で前髪だけを石化させようとしているミオとばっちり目があった。</p><p>え、えと</p><p>何か言いたげにもじもじしながら心持ち頭を下げて差し出すミオ。</p><p>Olは目を閉じ、嘆息したあと、無言で彼女の頭を撫でてやった。</p><p>え、へへ</p><p>恥ずかしげに、しかし嬉しそうにはにかむミオの隣で、リルが頭をすっと差し出す。</p><p>よし、行くぞ</p><p>うん。そろそろご飯の時間かな</p><p>既に侍女に手配は済んでおります</p><p>あ、私この子を畜舎に帰してきますので、先に行っててください</p><p>目を閉じたまま頭を垂れるリルを捨て置き、Ol達はすたすたと食堂へ向かう。</p><p>あれー？おかしいなあれー？</p><p>ふわふわと浮きながら角を見せつけるように頭を向けるリルを、食堂までOlは無視したまま歩き続けた。</p><p>そんな、頭くらい、撫でて、くれたって</p><p>わかったから、そんなことくらいで悪魔が本気で泣くな</p><p>食堂についたところでとうとう根負けし、ボロボロと涙を流すリルの頭を乱雑に撫でてやると、彼女はあっという間にピタリと涙を止めて笑顔を浮かべた。</p><p>やったー！</p><p>清々しいほどの嘘泣きだな</p><p>ガシガシと撫でる指に力を込めながら、Olは呻くように言った。</p><p>あれあれ？ご主人様？ちょっとそれ痛い痛い痛いイタタタ！</p><p>忠実な使い魔は労ってやらんとな</p><p>肉体強化の魔力を込めてぐりぐりとリルの頭を締め付けていると、軽やかな笑い声が響いた。</p><p>おっと失敬。相変わらずだな、主殿達は</p><p>口元を手で隠しつつも笑んだ瞳で、エレンはOl達を見やる。</p><p>留守中、面倒をかけただろう</p><p>そんなことはない。リル殿は立派に主殿の代役を務めていたぞ</p><p>お前がそういうのなら、許してやるか</p><p>エレンの言葉を立てるように、Olはリルから指を放してやった。</p><p>せっかくOlのためにご馳走たくさん用意したのに～</p><p>リルは今度は割りと本気の涙目で、こめかみを抑えながらぼやく。</p><p>ご馳走？お前が作ったのか？</p><p>えっと、そういうわけじゃないんだけど</p><p>思わず問うた言葉に、リルは更に肩を落とす。</p><p>我らとリル殿で、食材を集めてきたのだ</p><p>そうか。よく手配してくれたな</p><p>ん</p><p>エレンのフォローにOlが乗ると、リルは小さく頷く。</p><p>あたし、料理覚えようかな</p><p>落ち込んだ空気の中、出し抜けにユニスはそんな事を言い出した。</p><p>だってOl、あたしを奥さんにしてくれるって約束したでしょ？</p><p>ぎゅっとユニスはOlの腕を抱きしめる。</p><p>ちょっと、それどういうこと！？</p><p>途端、落ち込んでいたことも忘れて、リルはOlに伸し掛かるように身を乗り出す。</p><p>同時に、スピナが無言でがたりと立ち上がった。</p><p>よいしょ、よいしょ</p><p>そんな中マイペースに、マリーが飲み物を盆に乗せて運んでくる。</p><p>ふふ</p><p>そんなやりとりを見て、頬杖を突きつつエレンはニヤニヤと笑みを浮かべた。</p><p>ねー、Olー</p><p>ちょっと、離れなさいよ！これはわたしのなんだから</p><p>誰がお前のものだ</p><p>仮にも一国を統べる魔王と使い魔、英雄などという立場でありながら戯れ合う三人も。</p><p>そんな彼らを射殺しそうな瞳で見つめる魔女も。</p><p>のむ？</p><p>そんなオーラを放つスピナの隣で、呑気にマグカップを差し出してくる幼子も。</p><p>貰おうか</p><p>どれもこれも見てて全く、退屈しないな。</p><p>マリーからマグカップを受け取りながら、エレンは笑みをこぼした。</p><p>没プロローグ</p><p>2巻のプロローグ、没バージョンです。</p><p>没になった理由は</p><p>・説明部分が冗長すぎて退屈</p><p>・あまりちゃんとキャラの紹介ができていない</p><p>・キャスの魂がどうなったかとかどうでも良い</p><p>辺りです。</p><p>その地に、生命と呼べるものはなかった。</p><p>一滴の水も含まぬひび割れた大地には草一本生えず、ただただどこまでも続いている。荒野以外にあるものといえば、捻くれた奇妙な岩山か広大な砂漠くらいで、海はおろか河も湖もない。それどころか、空は常に分厚く重い曇天に包まれて、陽の光が差し込むことすらなかった。</p><p>どんな生物も棲めず、生まれることもない、文字通りの不毛の地。</p><p>それが、俗に地獄だとか魔界だとか言われる世界だった。</p><p>およそ変化というものとは無縁であると思われるその空に、ぴしりと音を立てて亀裂が入る。その亀裂から、一人の女がずるりと抜け出してきた。</p><p>真っ白な肌と、対照的に黒い髪。まるで芸術品のように美しい姿をしながらも、同時に男の劣情を誘う肉感的な肢体。そして、人ならざるものであることを示す蝙蝠のような羽と鞭のようにしなる長く細い尾、羊のような角を持っている。</p><p>彼女は名を、リルシャーナ。リルと呼ばれている淫魔(サキュバス)であった。</p><p>空に開いた穴から出て、リルはぐっと羽を伸ばしながら息をつく。久方ぶりの帰省であった。悪魔はしばしば人間の魔術師に召喚されて人間界へと赴くが、その期間は大抵、さほど長くない。今回のように一年以上に及ぶ事は極まれな事だ。</p><p>リルは空を飛んで、自分の家へと向かう。家と言っても、さほど位の高くない淫魔である彼女のそれは小さな掘っ立て小屋のようなものだ。</p><p>えいっ！</p><p>それに手を当てて魔力を注ぎ込むと、小屋は見る間に膨れ上がり、石造りの屋敷へと姿を変えた。乾いた土と石しかないこの世界で、人間界から持ち帰る魔力というものは唯一にして万能の資材だ。</p><p>主人であるOlからはリル程度の位の悪魔にしては破格の額をもらっている。小屋をちょっとした豪邸に変えてもなお有り余る程の量だったが、ひとりきりで住む家をこれ以上大きくする気にはなれなかった。</p><p>うーん</p><p>あまりにもOlの迷宮に似た作りになってしまった自室を見て、リルは唸るような声をあげる。概念の世界である魔界では魔力で物を作るのに緻密な計算など要らないが、その分、心の奥底にあるものが色濃く反映される。</p><p>どうやら、自分は迷宮での暮らしを思ったよりもずっと気に入っているらしい。リルはそれを改めて認識して、誰も見ていないのに少し気恥ずかしい気分になった。</p><p>さっさと用事を済ませて戻りますか</p><p>誰にともなくそう呟いて、リルは懐から手のひら大の石を取り出し、宙にかざす。鈍く灰色に輝くそれは、人間の魂だ。不毛の大地である魔界には生命はなく、なにものも生まれない。</p><p>ならば、悪魔はどうやって増えるのか。その答えが、これだった。</p><p>小屋にやったのと同じ要領で魔力をそそぎ込むと、魂はみる間にその輝きを失い、石炭のように黒く濁った。</p><p>ここまで安定すれば、もう他の悪魔に喰われてしまう心配もない。とくとくと微かに鼓動するそれを、リルは部屋の窓から地平に向かって思いっきり放り投げた。しばらくすれば、周囲の瘴気を吸って立派な悪魔に成長するだろう。</p><p>それを見届け、リルはさっさと翼を広げて宙に飛び出す。空にあいた隙間を目指して飛びながら、彼女は一度だけ、自分の住まいを振り返った。</p><p>普通に暮らしていては百年や二百年の稼ぎではとても作れないだろう大きく堅固な屋敷は、かつて彼女が心から望んでいたものだ。</p><p>だが今は、それは酷くくすんで見えた。</p><p>ただいま、っと</p><p>あ、おかえり！</p><p>リルが床に描かれた魔法陣から這い出すと、ユニスが出迎えてくれた。ユニスはリルの肩程までしか背丈のない、小柄な少女だ。南部の人間特有の浅黒い肌は彼女の活発さを表しているかのようで、コロコロと表情の変わる愛らしい顔立ちとすらりとした肢体には、淫魔であるリルとはまた別の健康的な魅力があった。</p><p>大丈夫だった？</p><p>魔界への穴を開けっ放しにしておくのは非常に危険だが、閉じてしまうとリルがこちらへ帰って来れなくなってしまう。そこで、リル以外の悪魔が勝手に出入りしないようにユニスに見張りを頼んでいたのだ。</p><p>うん。大して強いのは出てこなかったし、全部追い返しちゃった</p><p>リルの問いに、ユニスは剣を肩に担いで朗らかに言った。なりは小さくても、英雄として生まれたユニスの力量はこの迷宮でも随一だ。それ程大きな穴をあけてはいないとはいえ、無限に湧いて出てくる悪魔の相手をして全く疲れた様子すらない。</p><p>おう、悪かったな</p><p>野太い声と同時に、渦巻く炎が立ち上った。</p><p>炎はそのままぐるりと捩じれて、人の様な形をとる。といっても、そこに現れたのは人間とはかけ離れた姿の悪魔だ。毛皮に覆われた下半身と四本の腕を持つ上半身。そして山羊の様な角を持つ悪魔、ローガンであった。</p><p>まあ、あなたが通れる穴をそうホイホイと開けるわけにもいかないからね</p><p>リルが魔界へ赴いたのは、彼が手に入れた魂を捨ててくるためだった。</p><p>ローガンはリルよりも遥かに上位の悪魔だ。そんな大きな穴を長時間開けては、流石にユニスでも対処しきれない。</p><p>でもいいの？せっかくの魂なのに</p><p>位の高い悪魔は人間や位の低い悪魔など自分の餌だとしか思っていない傲慢な性格のものも多い。それ程上位の悪魔にしては、ローガンは比較的接しやすい性格をしていた。</p><p>俺は女の魂は、幼女のものしか口にしないと決めてるんだ</p><p>筋金入りのロリコンであることを除けば。</p><p>じゃあわたし、ご主人様に報告してくるね</p><p>うん、今なら自室にいると思う</p><p>ローガンが救いようのない変態であることはいつものことなので、リルはさらりと無視して、Olの部屋へと向かう。</p><p>ただいまー！</p><p>戻ったか</p><p>勢いよく扉をひらくと、琥珀色の髪の男が鋭い視線をリルへと向けた。彼がリルの主人であり、この迷宮を支配する魔王アイン・ソフ・Olであった。</p><p>見かけは二十代の若い男に見えるが、魔力で若返っているだけでその実態は八十歳を超える老魔術師だ。自ら魔王を名乗るだけあって邪悪で冷酷な男だが、リルにとっては少し口喧しいご主人様といったところであった。</p><p>今も、ノック位しろと怒られるものだと思っていたので肩透かしを食らったくらいだ。</p><p>どうしたの？</p><p>珍しく言いよどむOlに、リルは首を傾げた。</p><p>悪魔という存在は、約束を破れない。そういう風にできている。</p><p>しかしそれは人間界だとか物質界だとか呼ばれる、こちらの世界での話だ。一度魔界に戻れば、約束を律儀に守る必要はない。一度魔界へいって戻ってこい、などという約束に従う必要はないのだ。</p><p>にも関わらず、リルは戻ってきた。</p><p>もちろん、魔力の払いがいいからというのはあるのだろうが、やはりそれは奇妙なことのように思えた。</p><p>彼女のそういう悪魔らしからぬ振る舞いは今回に限ったことではない。ユニスは、リルはOlの事が好きだから等と言っていたが、淫魔が人に惚れるなどという事があるとはとても思えなかった。</p><p>Olが判断に悩んでいると、リルが開け放ったままの扉がコンコン、と律儀に二度ノックされた。</p><p>お師匠様。準備が出来ました</p><p>姿を現したのは、Olの弟子であるスピナだった。病的なまでに白い肌に真っ黒な髪と瞳。表情のない顔立ちはまるで人形のように美しい。</p><p>あ、スピナが代わりにやっててくれたの？ありがと</p><p>いえ</p><p>そういえば、とOlは気づく。</p><p>お前は最近あまり文句を言わなくなったな</p><p>ん？あー。言われてみれば、そうかもね</p><p>リルが使い魔になった直後は、何かと文句を言っていた気がする。</p><p>もう慣れちゃった</p><p>笑いながらいう使い魔に、変な奴だ、とOlは内心で呟いた。</p><p>没エロシーン</p><p>没シーン二つ目。</p><p>書き下ろしエロシーン閑話愛人たちに褒美を与えましょうに入れるつもりで書いたけど没にしたシーンです。理由は</p><p>・長すぎる</p><p>これのみ。ヒロインの数が多すぎました。19Pは心が折れる。没にした部分だけで13ページ分くらいあります。</p><p>では、お清めいたしますね、お師匠様</p><p>ノームとの情交の後、真っ先にそう言い張ってOlの脚の間に陣取ったのは、スピナだった。有無を言わさぬ迫力で他の女を寄せ付けず、水中にあるOlの逸物を握りしめると、彼女は迷わず湯の中に顔を潜らせた。長い黒髪がまるで花弁のように水面に広がり、湯とは違う生温かい感覚がOlの股間を根元まですっぽりと包み込む。</p><p>じゃあわたしはこっちー</p><p>リルがそう言ってOlの腕を取り、そのたわわにみのった果実の間に挟み込む。淫魔の豊かな双丘は腕をすっぽりと挟み込んでしまうほどの大きさで、谷間に塗られた石鹸の泡がぬるぬると滑ってOlの肌を楽しませた。</p><p>オーウルっ</p><p>楽しげな声とともに顔を横向かせられたと思うや否や、ユニスの顔が迫ってあっという間にOlの視界を埋め尽くす。二度、三度と高く音を立てながら唇が重ねられ、首に腕が回されて、口内に舌が入り込んできた。</p><p>あんっ、もう、えっち</p><p>ユニスの腰に腕を回して尻を触ると、彼女は唇を離して気恥ずかしげにそんな事を言った。殆ど毎日のように床を共にし、こんな状況で何を言っているのだとは思うが、Olは再び彼女の唇を奪って黙らせた。</p><p>ぷはっ！</p><p>と、その時、流石に呼吸が限界に来たのかスピナが顔をあげる。いつもなら病的なまでに白い肌が真っ赤に紅潮し、濡れた髪が頬に貼りついて何とも言えない色気を醸し出していた。</p><p>無理はするな。一旦</p><p>水中呼吸《ウォーター・ブリージング》</p><p>立ち上がろうとするOlを制するように青銀色の光が渦巻いて、スピナの顔を取り巻いた。</p><p>これは？</p><p>水の中でも息が出来るようにする魔術よ。このくらい、弟子なら教えておいてあげなさいよ</p><p>ウィキアは口をへの字に曲げて鼻を鳴らす。苦言を呈したというよりは、単に照れ隠しだろう。</p><p>ありがとうございます。では、お礼に</p><p>スピナはやおらウィキアの頬を両手で挟むと、いきなり口づけた。</p><p>－－－－－!?</p><p>ウィキアはジタバタと手足を暴れさせてもがくが、口を封じられた彼女は非常に脆弱だ。</p><p>な、何を、飲ませたのよっ!?</p><p>何やら口移しで飲まされたらしく、咳き込みながら尋ねるウィキアに</p><p>媚薬です</p><p>スピナは腕でごしごしと唇を拭いながら、しれっとそう答えた。</p><p>さあ、共にお師匠様にご奉仕しましょう</p><p>いや、私はガボッ!?</p><p>有無を言わさずスピナはウィキアの頭を水中に押し込んで、自身も湯の中に没する。</p><p>ではわたくしは、我が君の身体をお清めして差し上げますわね</p><p>あまりの出来事にしんと静まり返った中、オリヴィアは何事もなかったかのようにそういうと、石鹸で泡だらけになった身体でOlの胸元に抱き付いた。</p><p>ふむ、では私も助太刀しようか。後は戦士殿、ご助力願えるか？</p><p>了解した。Ol様の為であれば、身命をかけて奉仕させて頂こう</p><p>楽しげに笑みを浮かべながらエレンがオリヴィアに続き、周囲を見回してナジャを手招いた。その意図は明白だ。集まった女たちの中でも特に豊かな胸を持った三人が前から後ろからOlを挟み込み、その乳房を使って彼の身体を洗い清める。</p><p>なにそれ面白そう。じゃあ、わたしも、えいっ</p><p>そこに、リルまでが加わった。四人は念入りにOlの身体を洗ったあと、仕上げとばかりに石鹸を落として彼の頭を取り囲む。</p><p>淫魔(リル)の、人ならざる透き通るような白い肌。</p><p>元王妃(オリヴィア)の、たっぷりの財を使って磨き上げられた柔肌。</p><p>南部の人間(ナジャ)特有の、健康的に日に焼けた浅黒い肌。</p><p>そして黒アールヴ(エレン)の、深い褐色の肌。</p><p>美しいグラデーションのかかった四対八つの巨大な果実がOlを取り囲み、強請る様にその先端を尖らせた。</p><p>これがこれが、格差かっ!!</p><p>その隣で、Shalはがっくりと項垂れていた。</p><p>彼女の胸は限りなく平坦であった。</p><p>Olさまは、ちっちゃいおっぱい嫌いなんですかぁ？</p><p>その傍らで、プリシラも悲しげに眉を寄せる。</p><p>彼女の胸もまた、平坦であった。</p><p>えっ、嘘、そうなの？</p><p>ユニスは慌てて、己の身体を見下ろした。</p><p>だいじょうぶだよ！</p><p>そんな彼女たちに、マリーが仁王立ちで宣言する。</p><p>おうるさまは、おっきいのもちいさいのも、だいすき！</p><p>おおっ</p><p>Shalは思わず、歓声をあげた。自信満々に言い放つ幼い少女が、まるでかつて信じ仕えていた神のようにさえ見える。気付けば彼女は、マリーに向かって五体投地していた。</p><p>それを見て、床における何らかの作法なのかと、プリシラが見様見真似でそれに倣う。</p><p>ユニスはもちろん、意気揚々とそれに続いた。</p><p>結果として、仁王立ちする幼女に五体投地する貧乳三人という絵が出来上がってしまったが、幸か不幸かOlは周りを巨乳に囲まれて目にすることはなかった。</p><p>あたしはあるんだか無いんだか微妙なとこだしなあ</p><p>そういうノリは嫌いではなかったが、Faroは己の身体を撫でてうめく。身体そのものが小さいクドゥクである彼女は、胸囲という意味では大差なかったが、凹凸という意味ではしっかりとある。</p><p>あれっ、あんたは</p><p>先ほどはどうも</p><p>同類はいないかとあたりを見回していると、Ol達から少し離れたところに見知った顔を見つけた。小麦色の髪の彼女は、第三階層で出会った素朴な少女だった。Olの正体を知った今であれば、彼女ミオが、あんなに焦っていた理由もわかる。</p><p>意外と凄いね</p><p>Faroが見上げながらいうと、ミオは小首を傾げる。服の上からでは分からなかったが、ミオはその素朴な外見に似合わずなかなか立派なものを持っていた。</p><p>あんた達はOlのとこいかないの？</p><p>ミオの隣にはパトリシアが、やはり所在なさげに立っている。</p><p>あの中には少し入り難くて</p><p>まあ、わからなくはないけど</p><p>Faroが参加していないのはリルに言われた通り先ほどまでOlを独占していたからだが、ただ気後れしているだけというのは少し哀れに思えた。</p><p>おいで</p><p>Faroは二人の手を引いて、Olの元へと近づく。</p><p>そして彼を取り囲む巨乳たちの隙間から両腕を引っ張りだすと、それぞれミオとパトリシアに渡した。</p><p>Olは突如、引きずり出された手の平に感じられる感触に戸惑う。腕を引いたのは手の大きさからFaroだと分かった。だが押し付けられている乳房であろう感触は、彼女のものにしては些か大きい。見て確認しようにも、今彼の視界はリルとエレンの胸に押しつぶされていて敵わない。</p><p>まあこれも良い余興か。Olはそう考えて、押し付けられているそれを掴んだ。ゆっくりと揉みしだきながら、輪郭を確認するように掌を滑らせていく。</p><p>右手に感じられる感触より、左手の方がやや大きい。どちらも若く瑞々しい肌触りだったが、右の方がすべすべとした滑らかさがあった。</p><p>指先で引き寄せるようにして、胸元から腹、腰のくびれ、尻へと這わせる。くすぐったいのか何度か身体をよじるが、こちらの意図を理解したのか二人共声は微塵も漏らさなかった。</p><p>左はミオで、右がパトリシアか</p><p>正解！</p><p>リルの歓声とともに視界がひらけて、Olは二人を傍らに抱き寄せた。</p><p>なかなか面白い余興だったが、やはりどうせ触るのならば見えた方が良いな</p><p>肩から回した腕で、ミオとパトリシアの胸を鷲掴みにする。二人の柔らかな肉が指に弄ばれてぐにぐにと形を変える様を、Olは存分に楽しんだ。</p><p>ちょっと！</p><p>その時、ウィキアがようやく水面下から顔を上げて、Olの一物を握りしめる。なんだかんだいいながら、彼女はスピナとともにずっと水中で口淫を続けていた。顔が真っ赤なのは、呼吸だけで熱い湯の対処を忘れていたからだろう。</p><p>いい加減これ、頂戴よ</p><p>と思ったが、どうやら媚薬のせいでもあるらしい。彼女にしてはいつになく素直にOlを求めた。</p><p>スピナ、構わんか？</p><p>Olが尋ねると、スピナは短く答えて再び水中に没した。もしかしたら、意外と気に入っているのかもしれない。</p><p>んっ</p><p>抱きつくのももどかしげにウィキアがOlの腰に跨って、自ら剛直を受け入れる。スピナの舌が結合しているそこを這うのが感触で分かった。</p><p>温かい湯の中で一際熱いウィキアの膣内の感触を楽しみながら、ミオとパトリシアの胸を思うがままに弄ぶ。左右二人の舌を交互に吸いつつスピナの舌が根本から丹念に舐めるのを感じるのは、得も言われぬ快感があった。</p><p>はぁ、あぁ</p><p>しばらくすると、ウィキアがぐったりとしてOlの胸板に寄りかかった。水中で腰をふるのは存外体力を使うものだ。専業魔術師というのは体力がないものと相場が決まっているが、その中でも彼女は特にスタミナに乏しかった。</p><p>では、交代です</p><p>その身体をひょいと持ち上げると、スピナは後ろへ向かって放り投げる。ウィキアは抵抗する間もなく宙を舞い、盛大に水柱を上げた。</p><p>失礼。肉体強化の魔術はお師匠様から既に習っていましたので</p><p>さっきのを根に持っていたのか</p><p>顔色一つ変えず言い放つスピナに嘆息し、Olは額に手を当てた。</p><p>では、お師匠様ご寵愛を、頂けますでしょうか</p><p>スピナはそう言ってOlに背を向けると、浴槽の淵に手を当てて尻を突き出した。</p><p>さりげない仕草だが、Olだけがそれが彼女らしからぬものだと気付く。</p><p>そんな格好をして、はしたないとは思わないのか？</p><p>そういえば口移しで媚薬を飲ませたということは、彼女もそれを口に含んだということだ。</p><p>死ぬほど恥ずかしいです</p><p>まるで説得力がない！</p><p>尻を突き出したまま能面のごとき無表情で言うスピナに、Faroは思わずツッコミを入れた。</p><p>だがOl、そしてリルとユニスだけは、それが彼女の偽らざる本心であると気付く。</p><p>さてどうするかな</p><p>Olは立ち上がって反り立つ剛直を、彼女の中心に軽く押し当てる。</p><p>今日は後がつかえているわけでもあるし</p><p>わざとらしくそんな事を呟きながら、スリットを撫ぜるようにゆっくりと動かした。</p><p>Olの方からどうしろとはけして言わず、スピナの反応を待つ。</p><p>スピナはきゅっと口を引き結び、蛇が蛙を睨み殺すかのような視線を前に向けた。彼女の動向を見守っていたFaroとノームは、慌てて視線を逸らす。すると、スピナの瞳からぽろぽろと涙が零れ出した。</p><p>お願いです、お師匠様お慈悲を</p><p>泣きだしたのは、恥ずかしさのあまりだろう。好奇心の塊のような盗賊と豪胆な商人でさえ顔を背ける様な迫力を出しておきながら、Olにねだる姿はこれ以上なく儚げで弱弱しい。演技だというならまだ理解できるが、そんな事をするほどの器用さはスピナには無かった。</p><p>相変わらず良く分からんやつだ</p><p>Olは苦笑を漏らしながらも、彼女の腰を両手でつかむと一息に奥まで突き入れた。</p><p>あぁっ！</p><p>髪を振り乱しながらスピナは首を反らし、高く鳴く。入れられただけで、絶頂に達したのだ。</p><p>手伝ってやれ</p><p>Olの言葉に、小さな手がぴょんと挙がった。</p><p>いったい、何をひぁんっ！</p><p>マリーがまるで赤子のようにスピナの胸に吸い付いて、魔女は高く声を上げる。</p><p>ものども、かかれーっ</p><p>更にマリーの号令に従って、貧乳達が一斉に群がった。</p><p>ここぞとばかりにShalとプリシラはOlの左右に侍り、身を擦り付ける。そんな中ユニスはあえてマリーと挟みこむようにしてスピナの横についた。病的なまでに白いスピナの肌と、ユニスの健康的に焼けた浅黒い肌のコントラストが目に映える。</p><p>や、やめてくださいっ！</p><p>ユニスが首筋から頬に唇を伝わせていくと、スピナはふいと顔を背けた。</p><p>お師匠様以外の人と口づけはできません</p><p>私、人扱いすらされてなかったんだ</p><p>髪からぽたぽたと雫を滴らせながら、ウィキアは呟く。</p><p>じゃ、あたしのことは少なくとも人だとは思ってくれてるんだ</p><p>にやっと笑みを浮かべて、ユニスは指を忍ばせた。</p><p>ひあっ！</p><p>スピナは悲鳴のように鳴いて背筋を反らす。</p><p>Olの剛直が突き立ったその根本、ぷっくりと膨れあがった陰核をユニスが指でそっと撫で上げていた。</p><p>ほう。覚えてたか</p><p>そりゃあ、強烈だったしね</p><p>その動きは、ユニスが初めてこの迷宮に足を踏み入れた時に味わったものだった。リルにされたことを思い出しながら、ユニスはスピナを優しく愛撫する。敏感なそこは、強すぎる刺激はかえって辛い。飽くまで優しく、やわやわと撫でるくらいで調度良い。</p><p>締まったぞ。ユニスの指で感じているのか</p><p>そのようなことは決してふぁぅっ！</p><p>意地悪く言うOlに、ユニスは悪戯っぽい表情を浮かべた。</p><p>スピナ、可愛い</p><p>やめっ、あっ、ふあぁっ！</p><p>ユニスが指の動きを止めずに乳首をついばめば面白いくらい敏感にスピナは反応して、Olが彼女を嬲る気持ちが少しわかったような気がした。</p><p>浅く、深くと抽送を繰り返すOlの動きに合わせて、ユニスはスピナの身体を撫で、摘み、吸い、揉みしだく。彼女の薄い肉を挟んで、膣内を犯すOlの男根の感触を指先に感じていると、まるで自分までも一緒に犯されているかのような錯覚を感じた。</p><p>いやぁっ</p><p>普段の鉄面皮も崩れ落ち、スピナはとうとう両手で顔を覆い隠す。しかしそうすると、身体を支えていた腕が畳まれて、自然と尻を高く突き出すような形になってしまう。</p><p>いやらしいな</p><p>その尻を両手で掴むと、Olは彼女の奥に腰を叩きつけるようにして突き入れた。</p><p>あっ、ああっ！</p><p>何度も軽い絶頂を繰り返しながら、スピナの声色はどんどん余裕をなくしていく。下限の月のように反らされたほっそりとした白い背が、Olの視界に横たわる。それを見るうちにある衝動がOlの内に湧き上がって、彼は片手を高々と振り上げた。</p><p>そら。イけ</p><p>振り下ろされた手の平は、スピナの白い尻を叩いて高く音を立てる。</p><p>尻を叩かれてイッたな</p><p>あああああああああ</p><p>気をやりながら潮を断続的に吹くスピナにそう言ってやると、スピナは更に達して強くOlの肉槍を締めあげた。</p><p>ね、Ol</p><p>そんな彼女を見て、ユニスはこそりと耳打ちする。</p><p>そうなのか？</p><p>多分ね</p><p>ふむと唸り、Olはスピナに声をかけた。</p><p>尻を叩かれて気をやるとは、我が弟子ながら度し難い。そんなお前に罰を与える</p><p>スピナはビクリと震えて、恐怖に身を硬直させた。</p><p>こちらを向け</p><p>繋がったまま、ユニスに手を貸りて身体を回す。その感覚でもう一度絶頂に達して、スピナは己の身体の浅ましさに絶望した。</p><p>手をどけろ</p><p>どけられるわけがない。文字通り、見せる顔などなかった。だが、師の命令は絶対だ。スピナは両手をゆっくりとどかす。切れ長の瞳には、宝石のように涙の粒。常ならば氷のような表情は、真っ赤に染まって弱々しくOlを見つめていた。</p><p>では、刑を執行する</p><p>スピナはぎゅっと目を閉じたが、すぐに開いた。目を閉じて良いなどとは言われていない。一体いかなる罰を受けるのかと戦々恐々としていると、Olの顔が近づいてきた。</p><p>何が起こったのか、すぐにはわからなかった。Olの手はスピナの後頭部を支えるようにして、もう片方の手は彼女のあごに当てられている。そして、少し傾いた顔は密着していた。</p><p>接吻、されている。</p><p>それに気付いた瞬間、スピナは今までで一番高く絶頂に達した。彼女の膣口がOlの一物を千切れんばかりに締め付けて、それに応えるように奥に熱い体液が注ぎ込まれる。</p><p>一体それから、どれほどの時間が経っただろうか。ほんの一瞬とも永遠ともつかない時間の後、ぐっと胸を押されるような感覚に、スピナはようやく我に返った。</p><p>流石に、呼吸が続かん</p><p>苦しそうにOlは言った。気づけばスピナは彼の背に両手両足を回して全力でしがみつき、唇を重ね、全身を密着させていた。</p><p>お前は本当にわからんやつだ</p><p>苦笑しながらOlはスピナの目尻に唇を寄せて、その涙を舐めとったので、スピナは危うく卒倒するところだった。</p><p>あまいたくらみ</p><p>しんと静まり返った暗がりの中、ぎしりと木の軋む音が響いた。</p><p>するりと影が闇の中を滑り、そのたおやかな指をベッドの上で眠る男へと伸ばす。</p><p>おとがいを撫でるようにしてついと指先を走らせ、服の襟元へと忍び込ませる。</p><p>そのまま夜着を割り開き、胸元へと手のひらを当てた瞬間。</p><p>パッと光が瞬いて、同時に複数のものが動いた。</p><p>待って、わたし、わたしよ！</p><p>両手を上げながら悲鳴のように叫んだのは、リル彼女が組み敷くようにしている男、魔王Olの使い魔であった。</p><p>その首には文字通り飛んできた空間を渡る力を持つ英雄ユニスの剣が突きつけられ、どろりと天井から滴る半スライムのスピナによって手足が拘束され、床と壁から飛び出した槍が全身を突き刺す寸前でピタリと止まっていた。</p><p>偽物ではないようだな</p><p>なんだ、リルかぁ何してんの、こんな夜中に</p><p>Olが手をすっと上げると槍の罠が壁に引込み、それを合図としてユニスとスピナも剣を収め身を引いた。</p><p>大方、新たな刺激を求めてお師匠様の隙を突き、夜這いをかけるつもりだったのでしょう</p><p>冷静に図星を突いてくるスピナに、リルはうっと呻く。</p><p>昨日、そんな肌の露出の多い服を着ているくせに、色気が足りないとお師匠様に言われたのを気にしたのですね。愚かなことです</p><p>うるさいなあもう！いいでしょ！</p><p>更に辛辣に言葉を重ねられ、リルは両腕を振り上げる。</p><p>ご苦労だった。下がれ</p><p>Olがそういうと、ユニスとスピナはおとなしく姿を消した。どのみち、今日の夜伽はリルの予定だったからだ。まさか夜も更けようという頃に密かに襲ってくるとは思わなかったが。</p><p>警報のたぐいは全部解除したと思ったのになあ</p><p>まだまだ甘いな</p><p>眉根を寄せるリルを、Olは鼻で笑う。とは言え、無事だったのは睡眠時のOlの意識に連動したもの唯一つ。彼が目を覚ますまで接近を許したという意味では誇れることではない。Olは内心、警備の強化を誓った。</p><p>ところで、その服を見せに来たのか？</p><p>気まずげに目を伏せる淫魔は、Olの言葉に目を輝かせた。</p><p>気づいた！？</p><p>気付かんわけ無いだろう</p><p>言葉面だけ見れば愛する妻への労りに聞こえるその言葉も、実際には呆れが多分に含まれていた。</p><p>普段彼女は、殆ど下着同然としか思えない、申し訳程度にしか身体を隠さない服を着ている。だが今は、その上半身を見慣れない服が覆っているのだ。それに気付かない者がいるなら、その目は節穴と言う他ない。</p><p>魔界で最近流行ってる服なんだけどねー。可愛くない？</p><p>よくわからんが、お前が着方を間違っていることだけはわかる</p><p>おそらくは、夜着や室内着の類なのだろう。ゆったりとした長い袖の服は、しかし豊満なリルの双丘に押し上げられて胸の部分だけが裂けんばかりに張り詰めていた。そして上半身はほとんど余すところなくその服に覆われているのに、下半身はいつもの通りの下着姿だ。その服に関する知識のないOlでも、本来上下一揃いであろうことは予想できた。</p><p>セクシーじゃない？</p><p>どちらかと言うと、野暮ったい</p><p>Olの率直な意見に、しかしリルは不敵な笑みを浮かべる。</p><p>これでも？</p><p>そういいながら、彼女は襟首に突けられた金具をゆっくりと引っ張った。ジジジ、と独特の音を立てながら、服の襟元が開いていく。ボタンでもホックでもない、初めて見る留め具にOlは目を見張る。</p><p>しかし一瞬後には、その目は別のものに奪われていた。</p><p>大きく開いた襟から覗く、真っ白な谷間にだ。</p><p>どう？</p><p>ぺろりと舌を出し、リルはベッドに片手を突いて、殊更に胸を強調するように持ち上げながらOlの眼前に突きつけた。この小悪魔の思う壺とはわかっていても、Olはその魅惑から逃れることが出来ない。</p><p>己の利のために媚びているならともかく、夫を悦ばせようという一心での行為と知っていれば尚更だ。</p><p>まあ、悪くはない</p><p>Olは憮然とした風を装いながら、妻を抱き寄せ、その企みを存分に味わった。</p><p>序話新たな冒険を始めましょう</p><p>白い砂を踏みしめて、男は思わず感嘆の声を上げた。</p><p>砂浜の向こうには広大な平原が広がり、彼方には森が、そして美しい山脈が聳え立っている。</p><p>見たこともない草木や花々が生い茂り、聞いたこともない鳥の鳴き声が響き、風の匂いさえ違うもののように感じられる。</p><p>どちらかと言えば安定を好む彼をして胸を高鳴らせる、未知の塊がそこにあった。</p><p>オ～、ウ～、ル～</p><p>そんな彼に、未知とは真反対の聞き慣れた声がかけられる。恨めしげな声に視線を向ければ、見慣れた姿の使い魔がよろよろとした様子で船から降りてくるところだった。</p><p>どうした、船酔いでもしたか？</p><p>悪魔が船酔いなんかするわけないでしょっ！そうじゃなくて、わたしの作った魔動船に何したの！</p><p>淫魔はびしりと船を指す。魔力で動くその船は彼女が設計した力作であり、言い換えれば彼女自身の子にも等しい。</p><p>ああ。航海は長くて暇だったからな。住みやすいように作り変えてみた。船の機能自体には問題ないから気にするな</p><p>船室をダンジョンにされて気にしないわけないでしょ、このダンジョン馬鹿ーーーーーっ！</p><p>リルの叫び声が、新しい大陸に響き渡った。</p><p>新大陸？</p><p>ことの起こりは、一年ほど前のことだった。</p><p>そうだ。まあ便宜上の名前で、土地としてどちらが新しいかはわからんがな。ともかく、我々の住んでいるこの大陸から遥か東海を隔てたところに、巨大な陸地があるという事がわかった</p><p>ばさりと広げられた地図を覗き込む顔は五つ。</p><p>リル、ユニス、スピナ、メリザンド、そしてOl。</p><p>魔王の国を動かしている、国の核とも呼べる顔ぶれだ。</p><p>あっ、あたしが前、空の上から見たやつだ</p><p>王妃となったユニスは、生まれたばかりの子を抱いてあやしながら声をあげる。</p><p>結構遠いのね</p><p>指で新大陸までの距離を計りながら呟くのは、忠実なる使い魔のリル。</p><p>いよいよ別の大陸にも打って出る、という事ですね</p><p>魔王の第一の弟子、スピナは意気込んだ様子で表情を引き締める。</p><p>大陸全土を支配し、安定もしているのだ。わざわざ危険を冒す必要はあるのか？</p><p>元聖女であり片腕であるメリザンドは、Olの意図をわかっていてあえて尋ねた。</p><p>攻めこむというわけではない。むしろその逆だ</p><p>逆ですか？</p><p>目を瞬かせるスピナに、Olはうむと頷く。</p><p>我々は新大陸の情報を全く持っていない。ここに陸地があるということしか知らんのだ。いつかは必ず、彼の地に住まう者たちがこちらに侵攻してくるだろう。そうなる前に情報を集めておかなければならん</p><p>防衛のために偵察ってことだね</p><p>ユニスが嬉しそうに声を上げる。</p><p>となれば迷宮ごと、というわけには行かないか</p><p>無論だ。距離の問題もある</p><p>Olの作り上げた迷宮は大地の下に横たわる地の迷宮と、空をたゆたう天の迷宮とに分かれている。天の迷宮は自由に移動できる大拠点だ。他国に攻め入るならこれほど優れた兵器はない。</p><p>が、その巨大さと空をとぶことから、とかく目立つという欠点があった。新大陸で目撃されては秘密裏に情報を集めるのは不可能だろうし、こちらの大陸を完全に不在にするわけにもいかない。</p><p>少数の人員を、船で送り込む。リル、少人数でも操れる船は作れるか？</p><p>勿論。任せといて</p><p>リルの専門は魔兵器の制作だ。砲や火矢のみならず、乗り物もその範疇だった。</p><p>でも、誰が行くの？</p><p>ユニスは素朴な疑問を呈する。未知の新大陸へと渡り、情報を集めてくる。重要かつ困難な任務だ。出来そうな人材は極めて限られていた。最も向いていそうなのはユニスだったが、生憎と彼女は子育てに忙しい。愛情深い王妃は、己の息子の世話を侍女に任せきりにする気など毛頭なかった。</p><p>そうだな。高い判断力を有し、あまり目立つことのない容姿で、できるだけ汎用性の高い能力を持ち、ある程度戦闘も可能で、万一死んでも失う危険性のないものが望ましい</p><p>そんな人いたっけ？</p><p>リルは配下の顔を思い浮かべながら、指折り数える。</p><p>エレン、セレスたちアールヴは生存能力も戦闘能力も高いが、判断力に少し難がある。</p><p>その点ナジャ、Shal、ウィキアの元冒険者組はその経歴だけあって頼りになるが、死んでしまう可能性が無いとは言えない。</p><p>悪魔のローガンはもし死んでも魔界に帰るだけだが、その外見はあまりに目立つ。</p><p>獣使いのミオは非常に強いがその能力はあまりに獣に特化していて、人間相手の情報収集は難しそうだ。</p><p>Olの挙げた条件をすべて満たすものは、人材豊富な魔王軍といえどもなかなかいないように思える。</p><p>ああ、一人だけいる</p><p>Olは親指でぐっと己の胸を指し、言った。</p><p>俺だ</p><p>第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-1</p><p>この辺りでいいか</p><p>そう言ってOlが足を止めたのは平原の境、鬱蒼と茂る森の入り口だった。</p><p>ん、焚き木集めてくる？それとも、食べられそうな木の実か動物でも取ってこようか？</p><p>別にここで野営をするわけじゃない</p><p>張り切るリルに、Olは呆れて声をあげる。</p><p>ここに、ダンジョンを作るんだ</p><p>ええーまたダンジョン？一から？</p><p>露骨に嫌そうな顔をするな</p><p>端正な顔をしかめてみせる使い魔に、Olは懐から小瓶を取り出した。</p><p>今回はこれを使う</p><p>なにこれ。小型のダンジョンコア？</p><p>本拠地にあるダンジョンコアは、今やリルすらどれほどの大きさになっているかわからない。しかしOlが取り出したそれは、手の平にすっぽりと収まる程度の大きさだった。</p><p>基本的な機能は同じだ。魔力を貯蔵し、自由に取り出せる。だがこれにはそれに加えて、一つ能力を与えてある。ダンジョンシード、とでも呼ぶか</p><p>ダンジョン、シード？</p><p>オウム返しに繰り返すリルに頷き、Olはダンジョンシードを地面の上に落とした。途端、地面がぐねぐねと蠢き、ダンジョンシードは大地の中に潜り込んでいく。</p><p>わ、わ、なにこれ！</p><p>俺の使う迷宮魔術。それを用いて半自動的にダンジョンを作り出す、一種のゴーレムのようなものだ</p><p>ダンジョンシードは大きく穴を穿ち、どんどん地中深くへと洞窟を掘り進める。その壁面が輝いたかと思えば、掘り抜かれたままの土壁は箒で掃かれるようにしてレンガ壁に作り変えられた。</p><p>事前に仕込んだ魔力を使って迷宮を広げつつ、そこから魔力を収集して更にダンジョンを大きく広げていく。まあ龍脈に突き当りでもしない限りは収集量より消費量の方が多いだろうからじきに止まるだろうが、仮の住処としては十分だろう</p><p>凄い凄い、これがあるならもう自分でダンジョンの設計とかしなくていいのね！</p><p>いや、そうでもない</p><p>興奮を露わにする使い魔に、主は冷酷に首を振った。</p><p>自動的に作られるということは、そこには一定の法則性があるということだ。計算に依ってのみ成り立つダンジョンには、人間の悪意が足らん。侵入者を騙し、陥れ、その心を挫く悪意がな</p><p>はいはい、あなたの底意地が悪いのはよーーーーく知ってるから。そんなことより、さっさと入ってみましょうよ</p><p>いまいち理解を得られていない気がしたが、Olはリルの言葉に従って迷宮の中に足を踏み入れる。</p><p>ほら、結構素敵じゃないの</p><p>まるで新居にはしゃぐ新妻のような調子で、リルは地下回廊の中を軽やかに舞った。</p><p>まて様子がおかしい。ダンジョンシードが上を目指している</p><p>基本的に、地中の魔力というのは深いほど濃い。それ故、ダンジョンシードは放っておいても深く深くへと根を張っていく。ところが、Olが進む通路は途中から傾斜角度を変えて、上方へと続いていた。</p><p>えっ、何か</p><p>言った？と続くはずだったリルの言葉は、物理的に遮られた。</p><p>突如通路を埋め尽くした、植物の根によって。</p><p>ちょっと、なにこれ！ダンジョンシードの根っこ！？</p><p>いやこれは、本物の植物の根だな。だが無関係というわけでもない</p><p>ダンジョンシードは周囲のものを利用して、ダンジョンを作り出す。通常は地面即ち土そのものだが、場所によっては砂や岩、金属の鉱脈など、様々な物質が織り交ざることを想定して作られている。勿論そこに、木々も含まれていた。</p><p>この樹はどうやら、魔力を蓄える性質を持っているようだ。それで、ダンジョンシードは地下ではなく地上へ向かっていったのだな</p><p>冷静に言ってる場合かーっ！ああもう、Ol、ちょっと下がってて！</p><p>根の壁越しのリルの言葉に従って下がると、ややあって爆発音が鳴り響き、隙間から煙とリルが盛大に咳き込む声が聞こえてきた。</p><p>何この樹、めちゃくちゃ硬いじゃないの！石火矢を使っても傷一つつかないってどういうこと！？</p><p>迷宮の壁だからな。そう簡単に壊されるわけなかろう</p><p>威張るなー！</p><p>叫ぶリルを無視して、Olは壁面に触れる。木の根の壁は一瞬ぐにゃりと歪んでリルの煤だらけになった顔が見えたが、すぐに蠢いてピタリと閉じた。</p><p>駄目だな。森の魔力を吸って、ダンジョンシードが迷宮を維持し続けている</p><p>どういうこと？</p><p>端的に言えば、森にダンジョンを乗っ取られた状態だな</p><p>なんでそんな楽しそうなのよ</p><p>壁の向こうから、疲れを滲ませた声が聞こえてくる。</p><p>ぐったりと地面にへたり込むリルの姿が思い浮かぶようだ。</p><p>楽しそう、だと？</p><p>Olが思わず己の頬に触れれば、口元は笑みの形に歪んでいた。</p><p>今、笑ってるでしょ</p><p>それを見透かすかのように、リルの指摘が飛んで来る。</p><p>何故わかる？</p><p>見なくてもわかるわよ。わたしがよーく知ってる表情だもの、それ</p><p>疲れ果てていたはずのリルの声も、いつの間にやら笑みを含んだものになっていた。</p><p>そうよ。最近その顔してなかったから、すっかり忘れてたわ</p><p>広大な大陸を治め、国々を統治し、政務に勤しむ毎日。</p><p>それは間違いなく、かつてOlが渇望し、そして手に入れた平穏な日常だ。</p><p>いいんじゃない。何だかんだ言ってわたしもその顔嫌いじゃないからさっさとこの迷宮、なんとかして頂戴</p><p>では手始めに、親に逆らうこの迷宮を躾に行こうか</p><p>この不測の事態に、邪悪なる老魔術師はニヤリと笑ってそう言った。</p><p>第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-2</p><p>ふむやはり、駄目か</p><p>リルと別れて、Olは一人迷宮の中を歩いていた。</p><p>数カ所、扉を作って壁を超えられないか試してみたものの、材質が石だろうと土だろうと木の根だろうとすぐさま修復されてしまう。</p><p>思った以上に魔力を溜め込んでいるようだな</p><p>それは文字通り、この迷宮がまだ生きていることを示していた。</p><p>ダンジョンシードにあらかじめ溜めておいた魔力はそれほど多くはない。</p><p>普通の土地であればとっくに魔力を枯渇させているはずだが、どうやらいきなり当たりを引き当ててしまったらしかった。</p><p>このじゃじゃ馬め</p><p>壁と天井を突き破り、木の根が槍のように飛び出してくる。それはOlの身体を貫く寸前で、石の壁に阻まれて半ばからへし折れた。</p><p>妨害が来るという事は、こちらの道で正しいということだな</p><p>Ol自身が作った迷宮であれば、そのような道理は通用しない。だがこれはダンジョンシードが自動で作り上げた迷宮だ。基本的には最小の魔力で最大の防衛効果を発揮するように生成される。無駄な道にまでは罠は張られない。</p><p>複雑に入り組んだ迷宮の中を、Olは地図も描かず目印さえつけず歩いて行く。</p><p>冒険者でさえ、熟練の者であれば歩測と方向感覚だけで詳細な地図を書くことが出来るのだ。</p><p>ダンジョンマスターたるOlが迷宮で迷う道理など無く、彼はほぼ最短距離でダンジョンシードへと向かっていた。</p><p>森の入口で創りだした迷宮は、森全体を飲み込むように中心部の方へと向かって広がっている。恐らくは森の中心自体がダンジョンの中心にもなっているだろう、とOlは当たりをつける。</p><p>その足が、ピタリと止まった。</p><p>やはり、ついてきているな</p><p>口の中で小さくそう呟く。</p><p>彼は迷宮に入ってからすぐに、何者かの気配を背後に感じていた。</p><p>リルではない。彼女ならばコソコソしたりせずに、直接話しかけてくるだろう。</p><p>出来たばかりのこのダンジョンに、先に入ったものがいるとも考えづらい。</p><p>ということは、Olがダンジョンシードでダンジョンを作るより前から付けてきたものがいるということだ。</p><p>Olに気付かれずに後をつけるということは、それなりの手練と見ていいだろう。</p><p>だが、迷宮の中でOlからその存在を隠しおおせるのはほぼ不可能だ。</p><p>動かずじっとしているならまだしも、動いているならその足音や振動は必ず伝わる。</p><p>Olは曲がり角を曲がると、懐から小さな石の箱を取り出した。</p><p>その表面に指先を這わせると、石の箱は組木細工のようにパタパタと展開し、あっという間に大きく広がる。それはまるで翼のようにはためくと、一瞬にしてOlを移動させた。</p><p>通路を進む何者かの振動が、途端に早くなって通路を曲がる。</p><p>そして、そこでピタリと止まった。</p><p>Olが進んだはずの通路は、曲がってすぐ行き止まりになっていたからだ。</p><p>戸惑うように振動はその場で一度、二度足踏みする。</p><p>そして一歩元の通路へ戻ろうとした瞬間、Olは魔力を込めた指先をそれに這わせた。</p><p>展開して行き止まりの壁に擬態していた石の箱が、まるで蛇のあぎとのように追跡者を狙う。</p><p>敵もさるもの、剣閃が走って蛇の顎は防がれるが、そちらはダミーだ。</p><p>石畳と天井に擬態した部分から同時に壁がそそり立って、追跡者を閉じ込める。</p><p>無事相手を捕獲して、Olは深く息をついた。</p><p>本来なら更なる反撃に備えて石箱を縮小、壁を厚くするところなのだが、その必要はなさそうだと彼は思う。</p><p>聞きたいことは色々あるが</p><p>壁に挟み込まれるようにして身体を拘束され、閉じ込められているのはまだ女の子と呼んでいい年齢の少女だった。だがそれだけで油断するほど、Olは生易しい人間ではない。</p><p>ただ単純に。</p><p>お前は何をやってるんだ、マリー</p><p>壁の中から上半身だけを突き出すような間抜けな体勢で照れ笑いを浮かべる少女は、顔見知りの相手だった。</p><p>ではお前は、船の中にずっと隠れていたというのか</p><p>うんっ</p><p>拘束された状態のまま頷くマリーに、Olは頭痛を堪えるような仕草で額に手の平を当てた。</p><p>一体なんだってそんな事を</p><p>だって付いて行きたいって言っても、Olさま駄目っていうでしょ？</p><p>当然だ</p><p>だからだよぉ</p><p>マリーは不満気にぷっくりと頬を膨らませた。</p><p>わたし、もう子供じゃないもん</p><p>子供そのものの仕草で言い放つ彼女に、Olは思わずため息をつく。</p><p>全く説得力がなかった。</p><p>とは言え確かに、未だにあどけなさは多分に残っているものの、もはや彼女は出会ったばかりの頃の幼い子供ではない。むしろ純粋な戦闘能力という点で見れば今やOlやリルより強いと言ってもいい程だ。</p><p>わたしももっと、Olさまに信用してほしい</p><p>にも関わらず、Olが何故彼女を重用しないかといえば。</p><p>別に、お前のことを信じていないわけではない。ただ</p><p>たいせつに、だいじにおもってくれてるんでしょ？</p><p>マリーはその理由を、ズバリと言い当ててみせた。</p><p>端的に言ってしまえばそういうことである。</p><p>幼い頃から見知っている身となれば、過保護にもなる。</p><p>十分強いとは言っても、Olは常に万が一を考えてしまう性分なのだ。</p><p>とは言え彼女を連れて行かない理由はそれだけというわけでもない。</p><p>俺の言いつけをしっかり守り、勝手に視界から離れないと誓うか？</p><p>マリーはちゃんとOlさまの言いつけ守ります！</p><p>ピシリと手を上げて、マリーは宣言した。</p><p>むしろ問題なのはその自由闊達な気性の方だった。</p><p>とにかく、何をやらかすのか魔王をして全く予想がつかないのだ。</p><p>破った時は無理矢理にでも帰すからな</p><p>はーい！ちゃんと守ります！</p><p>返事だけは調子よく返すマリーに、Olは深くため息をついた。</p><p>置いてきても隙を突いてくるなら、手の届く範囲に置いておいた方がまだマシかも知れない。</p><p>ねーねーOlさまーOlさまー</p><p>そんな事を思っていると、マリーがしきりにOlの名を呼ぶ。</p><p>ところでこれはいつ解いてくれるの？</p><p>彼女は未だ、Olの作り出した壁に挟み込まれたままだった。</p><p>Olが石箱を操作すると、壁は彼女を挟み込んだままくるりと回る。</p><p>ちょうど腰のくびれの辺りを固定されて、壁面からマリーの尻だけが飛び出している形だ。</p><p>あ、あれあれー？</p><p>じゃじゃ馬娘に躾をしてからだ</p><p>Olは傲然と、そう言い放った。</p><p>第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-3</p><p>お、おうるさまぁこれ、なんか、恥ずかしいよぉ</p><p>Olの眼前で、白い尻だけがふるふると震える。</p><p>壁から尻だけが突き出ているさまはなんとも滑稽だったが、同時に奇妙な淫猥さがあった。</p><p>当たり前だろう。何の苦もなければ罰にはならん。ただ犯すだけではお前は喜ぶだろうが</p><p>そうだけどぉひぁんっ！</p><p>下穿きを脱がし、スカートを捲り上げて顕になった尻をOlは無遠慮に掴む。</p><p>中々肉付きが良くなってきたな</p><p>ふ、太ったわけじゃないよ！</p><p>誰もそんなこと言っておらんだろう</p><p>初めて彼女を抱いたのは一年ほど前の話だ。その一年の間に、彼女の身体は主の寵愛を存分に受けて随分成長した。</p><p>若い尻肉は張りと弾力に満ち満ちて、それでいて指に力を込めればどこまでも淫らに歪む柔らかさがある。まだまだ幼いと思っていたが、丸く膨らんだ臀部は既に成熟した女らしさを多分に持っていた。</p><p>立派に育ったものだ、と思ってな</p><p>ううう、はずかしいようOlさま、あんまりみないでぇ</p><p>マリーはもじもじと太腿を擦り合わせる。本人としては羞恥ゆえの反応なのだろうが、Olから見れば誘っているようにしか見えない。</p><p>んっあ、ぅん</p><p>ぴっちりと揃えて閉じた太腿を手のひらを差し入れてこじ開け、ゆっくりと撫で上げていけば甘い吐息が漏れ聞こえてくる。</p><p>ひぁあんっ！お、おうるさまぁ</p><p>尻肉を両手で割り広げるようにしてその中心に舌を伸ばすと、マリーは困惑と媚が入り混じったような声を上げた。</p><p>それに構わず蜜を滴らせるスリットを丁寧になぞり、舌先を差し入れ、ぷっくりと張り詰めた秘核を転がしていく。</p><p>いやぁ、こんな、状態じゃなくて、ふつうふつうに、あぁんっ</p><p>全ての悪意を寄せ付けない迷宮の中で、マリーは大切に育てられた。基本的にはOlに対して聞き分けの良い娘ではあるが、しかしやはり我儘なところが無いとはいえない。</p><p>おねがい、おうるさまぁわたし、ふつうにおうるさまとえっちしたいこんなの、へんたいみたいだよぉ</p><p>マリーはくねくねと腰をよじりながら、甘い声で懇願した。そうやって甘えればなんだかんだと、Olは彼女の言うことを聞いてくれると知っているのだ。</p><p>誰が変態だ、失礼な。普通にとはどういうことだ？</p><p>Olはゆっくりと彼女の秘部に指を出し入れしながら、意地悪く問う。マリーの媚肉は咥え込みながら、ひくひくと物欲しそうに蠢いた。</p><p>まえからぁっ、まえから、ぎゅってして、してほしいのぉっ！おくちでも、おっぱいでも何でも好きにしていいからぁっ！おうるさまの、おかおみながらえっちしたいのぉ！</p><p>マリーは余裕をなくした悲痛な声で請い願う。</p><p>そうか。わかった</p><p>Olが頷いて指を抜くと、ほっとしたマリーの身体から力が抜ける。</p><p>だが駄目だ</p><p>んぁぁぁぁぁぁぁんっ！</p><p>そこに、Olは思い切り剛直を突き入れた。</p><p>なっ、ああぁっ、なんでぇっ？</p><p>これは罰だといっただろう</p><p>壁から突き出た尻を両手で抱えるようにして、Olは手加減抜きで彼女の膣内を陵辱する。</p><p>相手のことを一切考えない、己の快楽の為だけの自分本位な動き方だ。</p><p>いやぁっ、おうるさまぁっ！</p><p>壁に動きを封じられ、顔も見えない相手に好き勝手に犯される。</p><p>それはまるで、種付けされる家畜のような扱いだった。</p><p>やぁこんなの、やなのにぃ</p><p>涙混じりの声とは裏腹に、彼女の腰はOlの抽送に合わせて淫らに動き、膣口はOlの肉槍をきつく咥えこみながら浅ましく涎を垂らす。</p><p>普通であれば屈辱しか感じない状況にも関わらず、一年間Olに丹念に可愛がられたマリーの身体は勝手に反応し、快楽を貪っていた。</p><p>ふぅっ、あっ！ああぁっあぁぁんっ！</p><p>ぐっと奥歯を噛みしめても、ずんと奥を突かれると脳髄が蕩けるような快楽が背中を走り、喉からは甘く媚びた声が出ている。それを意識してしまうと、もう駄目だった。</p><p>あぁっ、だめ、だめぇっ！そこ、あぁん、とんとん、してぇ！もっと、あぁっ、いいのぉっ、はぁぁ、ああぁぁっ！</p><p>馴染みきったOlの男根はただ出し入れを繰り返すだけでマリーの弱い部分を擦り上げ、嫌でも己の身体が彼専用のものであると思い知らされる。</p><p>あぁっ、イク、イっちゃう、おうるさま、わたし、イっ</p><p>まるで螺旋階段を昇るかのように彼女はどこまでも昂ぶっていき、それが頂点へと達しようとした、その一瞬前。</p><p>Olの動きは突然止まり、マリーは己の腹の中に感じ慣れた感覚を覚えた。どくどくと脈打ちながら、じわじわと何かが広がっていく感触。</p><p>膣内に精が放たれた感触だった。</p><p>え、おうるさま、わたし、まだイってないよ？</p><p>Olとの性交で、こんなことは初めてだった。</p><p>彼は必ず、先にマリーを絶頂に至らせてから自らも達する。</p><p>少なくとも同時に、多い時なら十回も二十回もイカされてからようやく射精して貰えることすらある。</p><p>おうるさまぁ</p><p>絶頂寸前まで高められた身体は燃えるように熱く、マリーはOlに腰を押し付けるように背を反らす。しかしOlはマリーの尻を掴んで彼女の身体を押し留めた。</p><p>そうまでされれば流石のマリーも、Olが単に嫌がらせや戯れでそうしているわけではないと気づく。</p><p>ごめんなさぁい！ちゃんと、ちゃんと言うこと聞くから、許してぇ！</p><p>さっき、お前、誓わなかっただろう</p><p>勝手に視界から離れないと誓うか。</p><p>Olがそう尋ねた時、マリーは言いつけを守ると宣言した。</p><p>一見何気ないやり取りのように見えるが、彼らはどちらも魔術師である。</p><p>そこにはただの口約束以上の意味があった。</p><p>誓うか？勝手なことはせず、俺を欺くような事もしないと</p><p>迷宮の中であればともかく、これから進むのは危険のある場所だ。</p><p>そこへ連れて行く以上、しっかりと手綱を握っている必要があった。</p><p>はいっ、ちかう、ちかいますぅ！誓うから、おうるさまぁ！</p><p>良かろう</p><p>Olの言葉とともに、マリーを縛り付けていた壁が積み木のようにばらりと崩れる。</p><p>そしてそのまま広がると、彼らを包み込むようにして小さな部屋を作り上げた。</p><p>え、なんで、周り？</p><p>当然だろう？</p><p>Olはマリーの望み通り、顔が見えるように膝の上に乗せるようにして彼女の身体を抱き寄せる。</p><p>声が漏れては困るからな</p><p>え、それってどう、あぁぁぁあっ！？</p><p>身体の中心を貫かれ、小さな部屋の中にマリーの悲鳴のような声が反響した。</p><p>そら、まず一回目だ</p><p>あぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ！</p><p>まだ火のついたままの奥を容赦なく抉られて、マリーは簡単に気をやった。</p><p>どんどんいくぞ</p><p>お、おうるさま、ちょっとまっふぁっ、あぁああああ！</p><p>余韻に浸るどころか絶頂のさなかに子宮口をこじ開けるかのように突き入れられる肉塊に、マリーは全身に力を込めてOlにギュッと縋り付く。</p><p>だめっ、それ、だめぇっ！</p><p>駄目も何も、お前が願ったことだろう？</p><p>マリーの小さな身体はそのままひょいと持ち上げられて、空中で揺するようにして犯される。その度に、彼女は身体を震わせてOlのモノを強く締め付けた。</p><p>だめぇっ！こわれ、ちゃ、うぅっ！</p><p>安心しろ</p><p>Olはマリーの耳元で、優しく囁く。</p><p>何度壊れても、しっかり可愛がってやる</p><p>言葉とともに注ぎ込まれる精液の感覚に、マリーは二度目の絶頂を迎えた。</p><p>第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-4</p><p>んちゅ、んんん、む</p><p>小さな口が赤黒くそそり勃つものをぱっくりと咥え込み、短い舌が淫猥な水音を立てながら脈打つ肉茎を甜め上げていく。</p><p>ふわふわとした金糸のような髪をかきあげて、跪きながら奉仕する様はまるで神に祈っているかのように神聖な雰囲気を纏っている。しかし、両手で硬く張り詰めた男根を擦りながら熱心に吸い付く表情はどんな娼婦よりも淫らだった。</p><p>く出すぞ！</p><p>Olの言葉にマリーは答えず、ただ手と口の動きの速度を上げる。素早くピストン運動を繰り返しながら、指や舌先はOlの弱いところを的確に擦り上げていた。</p><p>呻くような声とともに、マリーの口内に白濁の液が放出される。彼女はぷっくりと頬を膨らませてそれを受け止めながらも、手の動きは緩めず射精を促す。二度、三度と間断的に迸るそれを、彼女は全て口内に蓄えた。</p><p>射精を終えてからもマリーは更に竿をしごきたて、尿道に残った汁までも一滴残らず吸いだす。そして形の良いおとがいを上に向けて口を開き、そこに溜まった白濁の液を主に示す。それをごくりと嚥下すると、綺麗になった口内を改めて見せた。</p><p>お掃除終わりました、Olさま</p><p>最後に丁寧に竿を舐め清めて、仕上げとばかりに先端に口付ける。</p><p>うむ</p><p>どうしましたか？</p><p>眉根を寄せながら頷くOlに、マリーは首を傾げた。</p><p>いや、先程までわがまま放題だったくせに、急に随分従順になるな、お前は</p><p>もう、どうしろって言うんですかあ</p><p>ぷうとマリーは先ほどよりも大きく頬をふくらます。もっともな意見ではあったが、あまりの急激な態度の変化にはかえって裏が有るのではないかと疑ってしまう。</p><p>これでも、ちゃんと反省したんですよぅ</p><p>マリーはOlの一物を丁寧に服の中にしまい込み、パタパタと服から埃を払う。</p><p>Olさまがわたしのこと心配してそう言ってくれてることくらいは、わかってますから</p><p>そしてぎゅっと腕を抱くと、にこにこしながらそう言った。</p><p>まあ、わかっているなら良い</p><p>彼女が子供の頃から見知っているせいか、どうにもやりづらい。そう思いつつも、Olは周りを覆う小部屋の床に触れる。すると小部屋はパタパタと折りたたまれて、元の小さな石の箱に戻った。</p><p>そういえばこれ、何ですか？</p><p>遠征用に設えた武器だ</p><p>マリーはOlの手のひらに収まった石の箱をしげしげと眺める。見た目は、ただの石の塊にしか見えない。縦横高さの長さが同じ立方体で、黒に近い灰色をしている。大きさはOlの手のひらの上に乗ってしまう程度だが、厚みがあるため手の中に隠せそうにはなかった。</p><p>見た目は、全然武器に見えないですね</p><p>だろうな。これはまあ、言ってしまえば小型のダンジョンだ。便宜上、ダンジョン・キューブと呼んでおる</p><p>そのままだね</p><p>うるさい。名前などどうでもいいだろう</p><p>咳払いを一つして、Olはキューブの表面を指でなぞる。するとパタパタとキューブが展開して、通路の上に石の橋がかかった。</p><p>そこは落とし穴だ。この上を歩け</p><p>おー、べんり！</p><p>橋の上を渡り終えると、キューブは再び元の石の箱へと戻る。</p><p>地味だけどとってもお役立ちな、Olさまらしい武器ですね！</p><p>地味は余計だ</p><p>自覚があるのか、Olは渋面を作りながらもキューブを懐に仕舞い込んだ。</p><p>でもでも、色々使い方工夫できそう！わたしにも使えますか？</p><p>迷宮魔術を覚えればな</p><p>おぼえます！</p><p>マリーはぐっと、拳を握りしめる。</p><p>ならば少し、教えてやろう</p><p>作られたばかりのこの迷宮に魔物の類は存在せず、自動発生した程度の罠をOlが見逃すこともない。まだまだ道のりは長いと見て、暇つぶしにOlは講義を始めることにした。</p><p>まず、魔術の行使の仕方に三種類あることは知っているな？</p><p>はいっ。詠唱系と、紋章系と、形象系！</p><p>ピンと手を挙げていうマリーに、うむとOlは頷く。</p><p>迷宮魔術はその中で紋章系に分類される</p><p>Olは指先に魔力の光を宿し、空中に複雑な紋章を描いていく。</p><p>綺麗に描くの難しいし、描くのに時間もかかるから凄く面倒臭い奴ですよね。あれ？でもさっきOlさま、殆ど一瞬で発動させてましたよね？</p><p>そう。そこが、迷宮魔術の特徴だ</p><p>我が意を得たりとばかりに満足気に頷くと、Olは先ほど作った光の紋章を指し示す。</p><p>これに魔力を注ぐとどんな魔術が発動する？</p><p>ええっとあれ？三文字に増える？</p><p>Olが紋章を指で突くと、光は複雑さを増した三種類の紋章に増える。</p><p>ではこれを新たな紋章として発動させるとどうだ</p><p>え、ええっとここがこうで、こうなって、こうだからあ、また増えて八個になる！？</p><p>その通りだ。三重紋を暗算で読み解くとは、なかなかやるじゃないか</p><p>紋章は組み合わされば組み合わさるほど、その効果は加速度的に複雑化していく。三重紋を読み解くのは、単一の紋章を読み解くそれの八倍は難しい。</p><p>で、この八重紋を発動させるとどうなると思う？</p><p>そんなの、わかるわけううん。ええと、多分だけど、十五個に増える？</p><p>正解だ。よくわかったな</p><p>八重紋ともなればマリーに読みきれるわけがなく、それがただの当て推量であることは明らかだ。しかしそれでも直感だけで当ててくるのが、マリーの恐ろしいところだった。</p><p>で、それを発動させるとようやく目的の魔術の効果が発揮される。これが、迷宮魔術だ</p><p>まるで迷宮のように入り組み、圧縮された紋章系魔術。</p><p>それこそが、Olの作り上げた迷宮魔術という術式の真髄だった。</p><p>十五に増えた紋章を突けば、光は見る間に広がっていって、迷宮の通路を舐め上げていく。</p><p>その跡には、キラキラと輝く光の塊が所々に残っていた。</p><p>わぁ綺麗</p><p>触るなよ。それが罠のある場所だ</p><p>案の定うかうかと触りに行くマリーの首根っこを、Olは猫のように引っ掴む。</p><p>あの、ものすごく、沢山あるんですけど</p><p>侵入者は全ての罠に引っかかるわけではない。むしろ気付くこともなく素通りする事が殆どだ。故に、仕掛けてある罠全てを可視化すればこうなる</p><p>その数はマリーが思っていた以上で、どの方向に視線を向けても光が瞬いている。</p><p>今まで何気なく進んでいた道にもいくつもあって、彼女は自分がどれだけ運良く歩いてきたのかを思い知った。</p><p>床や壁にあるのはともかく、あの天井のとかは引っかかる人いるんですか？</p><p>床や壁だけに仕掛けてあるなら、天井を歩けば安全だろう。そう思う手合への罠だ。勿論、空中を飛んでも引っかかるようにしてあるから、気をつけろよ</p><p>マリーはぎゅっとOlの腕にしがみつきながら、ふとあることに気付く。</p><p>この罠っていうか、迷宮自体も、さっきみたいな紋章の展開で作られているんですよね？</p><p>勿論他の術式も組み合わせてはあるが、基本的にはそうだな</p><p>その場で多重展開する紋章を作り上げたOlの技は、もはや神業と言う他無い。</p><p>それでも、十五重紋くらいなら綿密に準備と計算をして用意すればマリーでも再現できそうな気はする。</p><p>しかしこれほどの迷宮を自動的に作り出す魔術というのがどのくらい複雑なのかということになると、彼女には想像もつかない世界の話だった。</p><p>最終的に、何重くらいの紋章になるんですか？</p><p>途中で別々の紋章に派生して別々の魔術になるから、見た目ほど複雑ではないぞ。合計するなら、この規模なら数億と言ったところだろう</p><p>おっ</p><p>さらりと言ってのけるOlに、マリーは言葉を失う。</p><p>Olさま、やっぱり変態</p><p>失礼なことを言うな</p><p>渋面を作りながらも、元の調子に戻ってきたマリーに、Olはどこか安堵を覚えた。</p><p>第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-5</p><p>それじゃあ、いきまーすっ</p><p>腰の剣を二本抜いて構えるマリーに、Olは頷く。</p><p>せいっ！</p><p>彼女が剣を同時に突き出すと、衝撃波が渦を巻いて迷宮の天井を貫き、ぽっかりと穴を穿つ。</p><p>よし。今だ、登れ！そう長くは保たんぞ</p><p>同時にOlがキューブを操り、円筒形の小さな塔と梯子を作り出して、修復されゆく天井を抑えながら地上への道を作り上げた。</p><p>あっ</p><p>どうした！？地上部分に何か問題でもあったのか？</p><p>梯子を登る途中、マリーは不意に動きを止めて、背後のOlを見下ろす。</p><p>さっきOlさまがマリーの中に出した精液、垂れて来ちゃった</p><p>いいからさっさと登れ、愚か者！</p><p>ぽっと頬を染めて恥ずかしげに呟くマリーに、Olは思わず怒鳴った。</p><p>こっちはあんまり、ダンジョンって感じはしないんですね～</p><p>いや、よく見ろ。ただの森に見えて、構造そのものは普通のダンジョンと変わらん。そうは見えないかもしれないが、これは壁だ</p><p>鬱蒼と生い茂る森の中。</p><p>きょろきょろと辺りを見回すマリーに、Olは複雑に絡み合った樹の枝を指差した。</p><p>でもただの木の枝なら打ち払っちゃえば通れそうな気がしますけどあっ</p><p>剣を振るってその枝を切り裂こうとすると、細く脆く見えた枝の中程までを切り裂いて剣は止まる。</p><p>さっさと抜け！</p><p>Olの怒声に慌ててマリーが剣を引き抜く。枝はあっという間にざわざわと伸びて、マリーのつけた小さな傷はすぐに消えてしまった。急いで引き抜いていなければ、剣は枝に絡め取られて抜けなくなってしまっていただろう。</p><p>魔力が通った枝だ。見た目通りの強度なわけがないだろうが。壁の破壊はもっとも恐れるべきことだから、当然対策もしてある</p><p>はぁいごめんなさい</p><p>しょんぼりと項垂れるマリーの頭を、Olはぽんと撫でる。</p><p>あれ？でも、天井っていうか地面は簡単に壊せましたよね？</p><p>既に修復されて消えた穴を見つめて、Olの手のひらを頭に乗せたままマリーは首を傾げた。</p><p>そうだな。あれは一種の隠し通路だ。どこでも壊れるわけではなく、ここだけが簡単に壊れるように出来ている。それを見極めるのもダンジョンマスターの資質だ</p><p>わたしもずっとダンジョンに暮らしてたのになあ</p><p>当たり前だ。お前と俺とでは年季が違う。大体、お前はそもそもダンジョンマスターではなかろう</p><p>そんなことよりもだ、とOlはマリーの背中を押す。</p><p>おそらくこのダンジョンはここからが本番だ。地下は作ったばかりで大した罠すらなかったが、森の中にはもともと自生していた魔物もいるはずだ。油断するなよ</p><p>はーいっ！</p><p>全く、返事だけは良いんだが。とOlは内心嘆息する。</p><p>マリーの能力自体は、非常に高い。</p><p>何か突出した才能があるわけではなかったのだが、とにかく何を教えても物覚えがいいのだ。それが面白くて、迷宮に住む者達は彼女に様々な事を教えた。</p><p>英雄が鍛えた剣技、魔王が手ほどきをした魔術、聖女が教えた法術に、淫魔が仕込んだ床の技。</p><p>他にも亞人や妖魔、精霊に悪霊、冒険者達まで、迷宮に住まうもの殆どから教えを受けていて、Olですら何がどこまで出来るのか正確に把握していないのだ。</p><p>少なくとも純粋な戦闘能力という意味ではもはやOlよりも上だろう。</p><p>だが、迷宮の中で大切に育てられたが故に、実戦経験というものが全く足りていなかった。</p><p>そら</p><p>中でも特に問題なのが、</p><p>言った傍からお前は一回死んだぞ、マリー</p><p>ダンジョンへの脅威感の無さだった。</p><p>えっ、わっ、なにこれ、魔物！？</p><p>マリーは木の幹にぎょろりと生えた目玉に驚き、次にその枝が槍のように伸びて腹に突き刺さっているのに驚く。</p><p>やはり海を超えると見たことも聞いたこともない魔物がいるものだな</p><p>感心したように呟くOlにも木の枝が二本、左右から素早く伸びる。だがそれは彼の身体に触れる直前に、半ばから断たれて地面に転がった。</p><p>マリーが両手に二本の剣を持ち、同時に切り捨てたのだ。</p><p>こっちはそんなに硬くないね</p><p>彼女を警戒するように、木の枝がざわりと蠢く。更に四本の枝が触手のようにしなり、同時にマリーを狙って突き出された。</p><p>マリーは二本の剣を楯のように構え、攻撃を受け止める。彼女の動きが止まった瞬間を狙って、地面から根が突き出した。</p><p>わあっ。そっちからも来るの！？</p><p>予期せぬ攻撃に、マリーは目を丸くする。</p><p>その瞳を貫く勢いで飛び出した根は、直前で動きをピタリと止めた。</p><p>あーびっくりした。ちゃんと目が弱点で良かったー</p><p>木の化物の目玉には、剣が二本突き刺っていた。マリーの扱う四刀の三本目、四本目だ。</p><p>絶命した化物の後を追うようにして、木の枝もバラバラと崩れ落ちる。</p><p>奇しくも相手の攻撃を受け止めて追加攻撃を行うという狙いはどちらも同じ。ほんの僅かな差で、マリーの方が早かった形だ。</p><p>ありがとです、Olさま</p><p>マリーの腹に巻き付いた石の帯がするりと解けてキューブに戻る。Olが初撃を防がなかったら、彼の言葉通りマリーは何もわからないまま死んでいただろう。</p><p>まさか木が動き出すだなんてOlさまは知っていたんですか？</p><p>いいや。俺も気づいたのは動き出す直前だ</p><p>未だにバクバクと鼓動する胸を抑えながら尋ねれば、老魔術師は首を横に振る。</p><p>ダンジョンではあらゆるものを警戒せねばならん。お前は異常に気付くのも遅すぎなら、気付いてからの対応も遅すぎる</p><p>ううー</p><p>いつに無く厳しいOlの意見に、マリーは眉根を寄せた。</p><p>わかりました。もっと、気をつけます</p><p>しかしすぐに立ち直り、彼女はきりりと表情を引き締める。</p><p>これからは、もう絶対に油断しないんだから！</p><p>そう言い放つ彼女の背後で、樹という樹がぎょろりと目を開けた。</p><p>第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-6</p><p>これは、まずいな</p><p>流石のOlも目を見開いて、キューブを取り出しながらマリーを抱き上げる。</p><p>ふぇっ、な、こんな所でですか？</p><p>馬鹿な勘違いしてないでしっかり捕まってろ！</p><p>キューブから伸びた石畳を踏みしめると、Olの身体は高速で道の上を滑るように移動していく。一瞬後、無数の枝槍がマリーの髪を数本引きちぎりながら地面に突き刺さった。</p><p>やあん、髪が！</p><p>命の心配をしろ。来るぞ！</p><p>道の上を滑っていくOl達を迎え撃つように、前方で木々が枝を広げる。</p><p>油断しないって言ったばっかりなのに、もぉー！</p><p>マリーは叫びながら腰に下げた二対四本の剣を引き抜いた。両腕で剣を二本操り、魔術でもう二本を操る異形の剣術。だがそれは驚くほどの破綻の無さで、的確に彼らを襲う木の枝を切り落とした。</p><p>剣を扱う流派はそれこそ星の数ほどあるが、二本の剣を用いて振るうものとなると数えるほど。ましてや四刀流などどこにも存在しない。人間には腕は二本しか無いのだから当然だ。</p><p>だが独自に磨いたにしては、マリーの剣技は余りにも洗練されていた。長きに渡って無駄を削ぎ落とし、有効な動きだけを磨き抜いた技だ。</p><p>実戦で見るのは初めてだったが、真っ向からの戦闘に限っていえば十分使い物になりそうだ、とOlは値踏みした。</p><p>よし、マリー。このまま突っ切るぞ</p><p>え！？でも！</p><p>マリーは困惑の表情を浮かべる。</p><p>Olが示したのは特に木々が密集する行き止まりの方向だった。</p><p>道の左右からの攻撃であればいくらでも凌ぐ自信があったが、三方を囲まれた状態となると少々厳しい。ましてや行き止まりで、背後に回りこまれたら流石に対処しきれない。</p><p>案ずるな。全ての剣を前に向け、全力で壁を切り開け</p><p>全力って、全力で？</p><p>Olが頷いてやると、マリーは目を閉じ、すっと開く。彼女のサファイアブルーの瞳が、右だけ赤く輝いた。</p><p>四本の剣が束ねられ、まるで一枚の刃のように連なって振り抜かれる。先ほど僅かな傷を与えることしか出来なかった木の壁は、まるで紙のように容易く切り開かれた。</p><p>Olはマリーを木々の攻撃からキューブで守りながら、彼女の開いた穴に飛び込む。転がりながら壁の向こうの空間に滑り込むと、Olの予想通り木々の攻撃は止まった。</p><p>よし、よくやった。流石に効果覿面だな</p><p>Olはマリーを抱き起こし、しげしげと彼女の開けた穴を眺めた。ぽっかりと空いたそれは、再生すら出来ずに開いたままになっている。</p><p>世界で唯一の、彼女の特異性聖女メリザンドと呪術的な双子であるが故に使える、法術を乗せたマリーの一撃によるものだからだ。</p><p>法術には、魔術を打ち消す作用がある。魔術による解呪(カウンター)と違って、魔力さえ使っていればどんなものでも問答無用だ。勿論それは迷宮の壁とて例外ではなく、法術を使えば彼女が言った通りそれはただの木の枝でしかない。</p><p>襲って来ないですね。行き止まりに侵入するときも攻撃は少なかったし</p><p>油断なく剣を構えながら、マリーは不思議そうに声を上げる。</p><p>あいつらの根は地面にしっかりと繋がっている。移動はできん。純粋に防衛用の罠のようなものだな。それに、壁になっている木と動き出す木は別物だ。壁に囲まれた部分はかえって安全というわけだ</p><p>当たり前のように解説するOlに、マリーは己の至らなさを痛感した。どれだけ油断しないよう意気込んでも、Olの視野はあまりにも広くて付いていくことさえ出来ない。これではただの、足手まといだ。</p><p>ではこのあとはお前の出番だ。期待しているぞ</p><p>だから、Olに肩を叩かれそう言われて、マリーは心底驚いた。</p><p>わ、わたし？</p><p>この先に、おそらくこの迷宮の核がある</p><p>Olは目の前の、わだかまった茨の壁を指差す。</p><p>これほどの魔力を保有する森だ。相当な力を持った主がいるのは想像に難くない。本来ならばじっくりと準備を整えるところだが、お前なら問題無いだろう</p><p>純粋な真っ向勝負ならば、マリーは既に相当な域にある。度胸も十分だ。ならば、他を自分が補えばこの規模の主になら十分な戦力だ。Olは、そう判断した。</p><p>頑張ります！</p><p>マリーは俄然張り切って、茨の壁を切り開く。それが正規の侵入ルートだったのだろう。法術を使わなくとも、壁は容易く破壊できた。</p><p>半球状に形作られた茨の部屋の中央に、それはいた。</p><p>その姿に、マリーは声を漏らしてぱちぱちと瞬きする。</p><p>四方八方から伸びた数本の蔓草が、中央にダンジョンシードを固定している。そしてその中で、小さな生き物が丸くなっていた。</p><p>これが主？</p><p>その、ようだな</p><p>Olも困惑を隠し切れない様子で頷いた。</p><p>そこにいたのは、どう見ても。</p><p>赤ちゃんじゃない</p><p>生まれたばかりの赤子であった。</p><p>第1話じゃじゃ馬娘を躾けましょう-7</p><p>これも罠ってことですか？</p><p>剣を構えるマリーとは裏腹に、Olは大胆に赤子へと近寄っていく。</p><p>手の平に収まる程度の大きさだったダンジョンシードは、赤子がすっぽり収まってなお余裕がある程度にまで膨れ上がっていた。</p><p>それはつまり、内部に高密度の魔力を閉じ込めている証拠だ。ダンジョンコアを元に設計したダンジョンシードは、内包する魔力に応じてその大きさを肥大化させる能力を持っている。</p><p>だが、その内部には液状になった魔力は見られない。つまりこの赤子自体が、高濃度の魔力だということだ。そしてその正体がなんであれ魔力である以上、ダンジョンシードの中からはOlの許可がなければ出てくることは出来ない。</p><p>他に敵らしき姿も見えず、Olはダンジョンシードに触れる。その途端、赤子がぱちりと目を開けてOlの姿を見た。</p><p>髪と同じ色の、緑色の瞳がじっとOlを見つめる。感情の読めない、野生の動物のような瞳だった。赤子は攻撃してくるでも、話しかけてくるわけでもなく、ただひたすらにOlを見る。</p><p>すると徐々にその表情は歪み始め、ひくひくと息を吸ったかと思えば、突然泣き始めた。</p><p>何だ？一体こいつは何なんだ？</p><p>ただ泣いているだけだ。その泣き声に何らかの魔力が含まれていたり、音波が攻撃になったりするわけでもない。Olが困惑していると、マリーが剣を鞘に収めてダンジョンシードを覗き込んだ。</p><p>Olさま、この子、外に出せますか？</p><p>恐らくは出せるだろうが</p><p>じゃあ、出してあげて下さい</p><p>有無を言わさぬ彼女の口調に、Olはダンジョンシードを掌握する。一瞬にして迷宮はOlの管理下に置かれ、彼は魔力を取り出す時の要領で赤子をダンジョンシードの中から引き出した。</p><p>途端、赤子は火がついたように更に泣き出した。その両目からは大粒の涙がぽろぽろと溢れだし、大きく口を開け、両手足をジタバタさせて泣きわめく。まるで、己の存在を精一杯世界に認めさせようとしているかのようだった。</p><p>大丈夫よ。大丈夫。いい子、いい子</p><p>マリーはOlの手から赤子を受け取ると、手慣れた様子で抱きながらゆらゆらとその身体を揺らす。</p><p>Olさま、多分この子、ただの赤ちゃんだよ。女の子だね。産着か何か着せてあげないと風邪引いちゃう</p><p>むとりあえず、これを使え</p><p>産着の手持ちなどあるわけもなく、Olは外套を脱いでマリーに手渡した。マリーは手早く赤子をそれで巻いて抱き直す。</p><p>いやに手馴れているな</p><p>アリスたちやアークのお世話、結構してたもの</p><p>マリーにとって、Olがフィグリア王家の女達に生ませた子やユニスとの間の子は可愛い妹分、弟分である。幼い頃から何かと面倒を見ていたから、赤子の扱いは慣れた物だ。</p><p>でも何でこんなところに赤ちゃんがいるんだろ</p><p>マリーの問いに答えるすべは、Olでさえも持っていなかった。</p><p>はい、持ってきたよー。産着と、おしめと、ベビーベッドと、その他諸々</p><p>すまんな</p><p>小さなベッドを担ぎ上げ、転移してきたユニスをOlは労った。</p><p>転移したら船の中じゃないしマリーはいるし赤ちゃんはいるしで、びっくりしたよー</p><p>それをびっくりした、程度で済ませるんだから、ユニスは度量が大きいわよね</p><p>けらけらと笑うユニスに、リルは憮然としながらぼやく。</p><p>ようやく迷宮から抜け出せたと思えば、Olと共にマリーが赤ん坊を抱いていたのだ。リルの驚愕ぶりは並大抵のものではなく、一から十までOlを問いつめなければ気がすまなかった。</p><p>ユニスがスピナを伴ってOlの下に飛んできたのは、ちょうどリルが不承不承ながらも納得した時のことだ。距離も結界も無視して転移する能力を持つ彼女は、一日一回、Olの元とダンジョンを往復して必要な物品などを届けている。</p><p>ローブに包まれた赤子を見た途端、ユニスは殆ど事情を聞くまでもなく、ダンジョンに取って返して赤ん坊に必要なものを取り揃えて帰ってきたのだった。</p><p>やはり、純粋な人間ではありませんね。かと言って精霊と言うには存在がしっかりしすぎています。人造生命に近い気はしますが</p><p>赤ん坊の顔を覗き込んで難しい表情をしているのはスピナだ。</p><p>こと人造生命に関する分野においては、彼女はもうOlを凌駕している。</p><p>だがそんな彼女でも、赤子がどういう存在なのか断定することは出来ないでいた。</p><p>何者かが俺より先に迷宮の中心部に入り込んで、魔力を使ってダンジョンシードの中に人造生命を作っていった、と？</p><p>そうなりますね</p><p>頷きつつも、スピナの表情はそんなことは有り得ないと言っている。</p><p>Olとしても同感だった。</p><p>しかし、ダンジョンシードを通じてダンジョンから魔力を集めているのは確かなようです。恐らく、ここを離れては生きてはいけないでしょう</p><p>厄介な事になったものだな</p><p>Olは頭痛を堪えるように額を押さえる。</p><p>と、周りの視線が自分に向いていることに気がついた。</p><p>安心しろ。どこの誰の子かは知らんが、邪魔だから殺せなどとは言わん</p><p>Olがそう言うと、女たちは一様にほっと笑顔を浮かべた。</p><p>自分の子でもないのに情の深い連中だ、とは思うが、その意に沿ってしまう辺り自分もだいぶ感化されている。</p><p>じゃあ、名前つけてあげなきゃね</p><p>マリーは赤子を抱き上げて、あやしながらその顔を見つめる。</p><p>新緑色の瞳はあっちこっちにどんどん興味を移して揺らぎ、見ていて飽きるということが全くない。</p><p>ならば、マリーがつけるといい</p><p>わたしがつけていいんですか？</p><p>きょとんとするマリーに、Olは頷く。</p><p>その子を最初に見つけたのは、お師匠様とマリーですから</p><p>随分マリーに懐いてるみたいだしね</p><p>Olはあんまりネーミングセンス良くないしねえ</p><p>煩い。余計なお世話だ</p><p>スピナたちも口々にそう答えるのを見て、マリーはもう一度赤ん坊を見つめた。</p><p>ねえ、ソフィ</p><p>だから、師姉と呼べと言っているでしょう</p><p>相も変わらず魔術師になる前の名で呼ぶマリーに、スピナはいつも通りに呆れ声をあげる。</p><p>じゃあ、姉さん</p><p>しかしまっすぐ視線を向けてそう呼ぶマリーに、スピナは瞠目した。</p><p>そんな風に呼ばれたのは、初めてだった。</p><p>その名前を、この子にあげてもいい？</p><p>私の名は、スピナ。Ol様の一番弟子、ネリス・ビア・スピナです。捨てた名をどうしようと、構いません</p><p>スピナが素気無く答えると、マリーはぱあっと笑顔の花を咲かせる。</p><p>あなたの名前は、ソフィアよ</p><p>マリーは赤子をソフィアを空に掲げるように抱き上げて。</p><p>わたしの知ってる中で一番強くて、気高くて、綺麗な人の名前なんだからね</p><p>かつて呪いに満ちた名を、祝福をもって贈った。</p><p>閑話愛妻たちの歓待を受けましょう-前</p><p>寝かしつけたよー</p><p>お疲れ様ー。あの子、寝付き良いんだね</p><p>急ごしらえの寝室にひっそりとやってきたマリーを、ユニスが労う。</p><p>あれ、Olさま待っててくれたんですか？</p><p>流石にお前の子守唄を聞きながらそういう気分にはなれん</p><p>服を着たままベッドの上にいる四人に首をかしげるマリーに、Olは渋面を作った。</p><p>防音対策できないんですか？</p><p>出来ないわけではないが、コストがかかりすぎる。それに何かあった場合、全く声が聞こえないでは問題があろう</p><p>寝付いたソフィアはスピナとリルの分身が見てくれてはいるが、何せ素性も何もわからない赤ん坊だ。Olにとっては当然の備えというつもりだが、それを赤子への心配と受け取ったマリーは破顔して彼に擦り寄るようにベッドの上に乗った。</p><p>じゃあ、あの子が起きちゃうから、声あんまり出さないようにしないとですね</p><p>シンプルな作りのベッドがぎしりと軋む。別にマリーまで相手にする必要はないのだがという言葉を、思わず飲み込んでしまうような色香があった。</p><p>そうだな。ともかくも新大陸に辿り着き、拠点を作り上げた記念だ。今日は四人纏めて相手をしてやる</p><p>夫の言葉に、妻たちは密やかに嬌声をあげた。</p><p>本来なら、相手をする必要があるのはOlに魔力を渡すスピナだけだ。</p><p>あとは強いて言えば、その魔力を貯蔵しておくリルだろうか。</p><p>無尽蔵に魔力を使える龍脈の中とは違い、遠く離れたこの地ではOlの使える魔力は極めて限られている。そんな状態でまさか情事のために魔力を注ぎ込むわけにもいかず、自然、精力は己の肉体頼みだ。</p><p>いくら魔王と言っても肉体的な能力には限界があり、魔術の補佐なしでは無限の精力を誇ると言う訳にはいかない。</p><p>えっと、Olさま、大丈夫なんですか？</p><p>ましてや彼は日中にマリーに数度放出しているのだ。</p><p>唯一それを知る彼女は心配そうに尋ねる。</p><p>四人相手となると確かに少し骨が折れるな</p><p>Olは両腕一杯に愛妻を抱き寄せながら、</p><p>せいぜい、三回ずつが限界かもしれん</p><p>耳元で囁くようにそう嘯いた。</p><p>夫を奮い立たせるのも、妻の仕事よね</p><p>リルが妖艶に笑みを浮かべ、己の豊かな膨らみを強調するように持ち上げながら、Olの股間をついと指先で撫で上げる。何気ない動作に見えて、そこは淫魔の技である。その一撫でで、Olのそこはあっという間に硬く反り立った。</p><p>そういえば、マリーとスピナがダンジョンに来たばっかりの時も、この四人でOlを起こしたっけ</p><p>よく覚えているな、お前は</p><p>ユニスに感心半分、呆れ半分で言いながら、その時の光景を再現するようにOlは寝台の上に横たわる。すると左右からユニスとスピナが、脚の間にマリーが潜り込み、リルがOlの上に覆いかぶさるようにして宙に浮いて、舌を寄せあいそそり立つOlの男根を舐めしゃぶり始めた。</p><p>しかしその威力は、以前とは全く異なるものだった。</p><p>何せ彼の弱い所を知り尽くした若妻たちの舌技だ。ユニスとスピナの舌がぎゅっと竿を挟み込んで扱き立てたかと思えば、絶妙なタイミングでリルが先端を口に咥え込み、同時にマリーは精の詰まった袋をやわやわと揉み撫でながら付け根からじっくりと舐め上げていく。</p><p>二人の頭がぶつかりそうになったところでリルは男根の先端を唇で撫でながら露出させる。そして四本の舌が雁首をなぞり、ちろちろと舌の腹で傘を弾くように素早く交互に舐められた。</p><p>ぐ、うっ</p><p>彼女たちの見事な連携に呻き声を上げつつも、Olは何とか射精の衝動を堪え切る。</p><p>ご主人様ったら無理に我慢しなくってもいいのに。じゃあ、こうしちゃうんだから</p><p>それだけで脳髄が蕩けてしまいそうなリルの忍び笑いと共に、柔らかな感触で剛直が包まれた。リルの背中で遮られ直接見ることは出来ないが、何をされているかははっきりと分かる。四対八つの乳房で、Olのものは文字通り四方八方から押し潰されるように挟まれているのだ。以前は試みることも出来なかった技だった。</p><p>リルの膨らみは大きさは言うに及ばず、その柔らかさといい張りといい、極上というべきものだ。ただただ男を悦ばせる為だけにあるその器官はOlのペニスにしっとりと張り付いて、触れるだけで達しそうなほど。</p><p>人外の肉体という点では、スピナも負けていない。何せその身体は半人半スライムである。乳房はどこまでもぐにぐにと形を変え、男の形に歪んでその身を捧げる。そのひやりとした肉は、熱く滾る肉棒の熱を更に煽るかのようだった。</p><p>だがその二人をして、純粋な柔らかさという点ではユニスに一歩譲る。授乳を終えたばかりの彼女の乳房は張り詰めていた乳を失ってほぐれ、その柔らかさと言ったら崩れない水そのもののようだ。</p><p>そんな柔らかな三対の乳房に囲まれて、発展途上のマリーの胸はまだ薄く青く固い。しかし柔肉に押さえつけられ、その硬く尖った先端やなだらかな胸元に敏感な裏筋を擦り付ける感触は筆舌に尽くしがたいものがあった。</p><p>そこに更に、女達の舌技が加わる。ふりふりと誘うように目の前で振られる尻尾に釣られるように、Olはリルの尻肉を鷲掴みにした。</p><p>あぁん</p><p>打てば響く鐘のように、リルは甘く媚びた声を上げる。</p><p>男を咎めながら、しかし同時にそれを許す女の声だ。</p><p>とうとう堪え切れず、Olのペニスから噴水のように白濁の液が吹き上がった。</p><p>あん、勿体無い</p><p>えへへ。たくさんでたね、Ol</p><p>今お清めいたします、お師匠様</p><p>あっ、ずるい、ソフィじゃない、姉さん、わたしもー</p><p>娘達は嬌声をあげながらそれを浴び、啜り、舐めとっていく。そんな情景に、Olの一物は萎えるどころかますます硬く反り返った。</p><p>閑話愛妻たちの歓待を受けましょう-後</p><p>じゃあまず、わたしからね</p><p>リルはOlの手をとって彼の上半身を引き起こすと、彼の腰に跨るようにしてふわりと浮いた。所謂対面座位の格好に近いが、そそり立つ剛直は彼女の入り口に軽く押し当てられるだけで、中に入れる気配はない。</p><p>何を</p><p>している、と問おうとして、未知の感覚がOlを襲った。</p><p>するりと彼の男根に巻き付いているのは、リルの尻尾だ。</p><p>まるで蛇のように伸びたそれは、しかし指のようにしなやかで、それでいて骨や筋とは全く異なる柔らかさを持っていた。</p><p>どう？気持ちいい？</p><p>リルはOlの両手を引いてそのたっぷりとした双丘に押し当て、上から己の手のひらを重ねる。そうしながら、尻尾はOlのモノを締め上げた。</p><p>む、ぅ</p><p>その快楽に、魔王は思わず呻き声を上げる。</p><p>柔らかな尾に包まれた肉塊は絶妙な力加減でずりずりと擦り上げられ、まるで乳房で出来た指で握られているかのようだ。先端には潤いを帯びた膣口がまるでキスをするかのように押し当てられて、そこから溢れる蜜を浴びた尾は更に快楽をいや増していく。</p><p>だというのに、その中を求めて腰を突き出せば、その分だけリルは腰を浮かせてふわりと逃げるのだ。腰を掴んで無理矢理にでも挿入してやりたいが、淫魔の柔らかな乳房に捉えられた両手は軽く上から押さえられているだけで、魔王の精神力を持ってしても吸い付いたように離れない。</p><p>沢山ビュービュー精子出していいからね。全部受け止めてあげるから</p><p>嬉しげに笑うリルの表情は精を絞りとる淫魔ではなく、愛しい男に微笑む少女のそれだ。だが、だからと言ってされるがままというのは魔王の矜持が許さなかった。</p><p>ぐっと手の平に力を込め、左右の先端を一つに纏めて口に含む。</p><p>あぁっ、両方っ！</p><p>リルの鳴き声は脳髄が蕩けそうなほど甘く、Olの限界はまた一段と近づく。だが彼は臆することなく、果敢に攻めた。</p><p>硬く屹立した乳首をコリコリと軽く食み、指先は柔肉を精微に捏ね回す。</p><p>互いに、互いの弱いところは知り尽くしていた。</p><p>んぅっあ、そこっ、だめぇっ！</p><p>余裕を無くしたリルの声色に、Olは彼女の中に一気に突き入れる。</p><p>虚を突かれ、リルは中心を貫かれる感覚に高く鳴いた。そのままベッドの上に押し倒されて、男の欲望を叩きつけられるように犯される。硬く太い肉槍が荒々しく彼女の秘部に突きこまれる度に呼吸が止まるほどの快感が背筋を走り、指が彼女の胸を歪ませる度に下腹が甘く疼いた。</p><p>知らずリルの形の良い脚がOlの腰に回されて、精をねだるように腰が押し付けられる。全身で抱きついてくる妻の頭に手を回すと、Olは彼女に唇を重ねた。</p><p>～～～～っ！</p><p>途端、リルの膣口がねじ切らんばかりに剛直を締め上げる。Olはその媚肉を無理矢理にこじ開けて、彼女の奥へと精を放った。どくり、どくりと肉塊が脈打つ度にリルは身体を震わせて、己の膣内を満たしていく熱い迸りを受け止める。</p><p>唇から銀の糸を伝わせながら、リルは恍惚の息を漏らした。</p><p>もう。してあげるつもりだったのに</p><p>最後にもう一度軽く口付けて、リルはOlの胸元をつんと指で突いた。</p><p>じゃあ次はあたしね</p><p>ユニスはそう言って、ベッドの上に四つん這いになってOlに尻を向ける。</p><p>来て、Ol</p><p>珍しいな</p><p>彼女の体勢に疑問を抱きつつも、Olはユニスの腰を撫でる。リルとの情事に興奮したのか、そこは前戯の必要もないほど濡れていた。</p><p>ユニスは基本的に正常位や対面座位といった互いの顔が見える体勢を好む。このように後ろからをねだるのは非常に珍しい。だがOlはこの体位でユニスを犯すのが嫌いではなかった。</p><p>彼女のよく鍛えられた太股のしなやかな筋肉は、触れてみれば男のそれとはまるで違って驚くほどに柔らかい。それでいて、脂肪にはないハリのある弾力に満ち満ちていて、いつまでも撫でさすっていたくなるような魅力を備えていた。</p><p>その脚を支える腰つきは、慎ましやかな胸元と違ってどっしりと大きい。それでいて、垂れるようなだらしなさとは全くの無縁の、若い瑞々しさにあふれた尻だった。</p><p>それをほしいままにしながら、Olは彼女を後ろから貫く。たっぷりと潤いを帯びたそこはするりと奥まで肉槍を咥え込み、ユニスはんっと小さく声を上げた。</p><p>んっぅ、ふ、ぅぅんっ</p><p>わざと乱暴に突けば小柄な彼女の身体は前に後ろに揺さぶられ、ポニーテールにしたふわふわの赤毛が目の前でポンポンと跳ねる。その度に、堪えきれず漏らしたユニスの嬌声がOlの耳朶に触れた。</p><p>む？</p><p>その時、Olは違和感を覚えて声を上げた。ユニスの膣の中で、何か別のものがOlの男根に触れている感触がある。だがそれはどこか見知った感覚で、不愉快な類のものではなかった。何か柔らかなものが先端の筋をなぞりあげ、膣口とは別の環状の圧力が雁首を弾くように締め付ける。</p><p>これは舌か！</p><p>ほうらよ。ひもひいい？</p><p>自由自在に転移する英霊としての権能その応用。</p><p>彼女は口内と膣内の空間を共有させて、上下の口で同時にOlのものを咥え込んでいた。</p><p>器用なことをするものだと思いつつも、もたらされるその快楽にOlは唸らざるを得ない。</p><p>膣口できゅっと根本を締め付けつつも、唇が亀頭を撫で上げて、舌で先端をなぞりながら全体をちゅうと吸い上げる。それはどんな名器でも生み出せない快感だ。</p><p>そして何よりOlを興奮させたのは、その情景。英雄が前後から男に犯され嬲られるさまだった。他の男に触れさせるつもりは毛頭ないが、どちらも自分であるならそれは征服欲を満たす要素でしか無い。</p><p>んぶっ、ん、んうっ</p><p>くぐもった嬌声を漏らしながらも、ユニスはわざとジュポジュポと音を立てながらOlのペニスを舐めしゃぶる。しとどに濡れた秘裂と口元、男を咥え込んだ二つの口から淫猥な音を鳴らす少女の姿に、Olの劣情は弥が上にも昂ぶっていく。</p><p>んんんっ</p><p>射精と同時、ユニスは頬を窄める程の強さで肉槍に吸い付いた。まるで子宮と取り合うかのように、Olの精を吸い上げ嚥下していく。間断的に吐き出される白濁を飲み干して、更に唇と膣口とで扱き立てながら肉茎の中に残った精液を最後の一滴まで絞り出す。</p><p>お師匠様、次は私たちに</p><p>ください！</p><p>息つく暇もなく誘ってきたのは、スピナとマリーだ。</p><p>互いに抱き合うように折り重なり、脚を広げて秘部を晒していた。</p><p>絡み合う黒と金の髪は、例えるならば月と太陽。それぞれの美しさを高め合うかのようだ。</p><p>ではいくぞ</p><p>まずは上側、マリーに覆いかぶさるようにしているスピナの方へとOlは己自身を押し当てた。出会って以来、十年以上に渡って殆ど毎夜のように可愛がってきた身体だ。Olの形に作り変えられたその穴は、殆ど力を込めなくともするりと彼を受け入れた。奥まで突き入れればピタリと嵌まるような感覚とともに収まる。</p><p>だが、それを引き抜こうとすれば一転して猛烈な反抗があらわれた。逃すまいとするかのような強烈な締め付け。</p><p>それを振り切って、すぐ下のマリーに突き入れる。まだ幼さを多分に残す彼女の中は、やはりまだ青くキツい。だがそれをこじ開けるように突き込んでしまえば、柔らかな膣壁の感触がOlをふわりと包み込んだ。</p><p>何もかもが対照的で、それでいてそれぞれに美しい姉妹を同時に味わう。男としてこれ以上に滾る状況もそうはないだろう。競い合うように鳴きあう二人の喘ぎを楽しみながら、Olは己のものが二本欲しいとさえ思った。</p><p>と、その思いに応えるかのように、スピナの腰が軟体化して形をなくす。そしてマリーの腰をすっぽりと覆うようにして半透明の下半身が重なった。</p><p>軟体と肉体の狭間にあるのか、スピナの尻を触れば柔らかくどこまでも形を歪めるが、スライム特有のべたついた感触はしない。乳房のように柔らかな尻肉を揉みしだきながら挿入すると、ユニスの時とはまた違った未知の快楽がOlを襲った。</p><p>スピナの膣壁がOlの竿をすっぽりと包み込み、先端だけをマリーの膣口が強く締め付ける。引き抜けば縋るようにスピナの媚肉が纏わり付いてきて、押し込めばどこまでも肉を歪ませながら受け入れていく。互いの性器の長さが倍になったかのようだった。</p><p>スピナの肉を押しのけながら、マリーの膣口をこじ開けて子宮口をトントンと叩く。腰を引けばつるりとマリーの膣口が先端を撫でながら、スピナの柔らかな蜜壺がどこまでもOlの怒張を包み込む。どれだけ大きく腰を動かしても、気持ちの良い肉に包まれ擦り上げられる。この上ない快楽だ、とOlは思った。</p><p>しかしその考えが間違いであったことを彼はすぐに悟る。</p><p>リルの尾がそそり勃った茎の根本にきゅっと巻き付き、先端にユニスの舌の感触を覚えたからだ。</p><p>英雄の少女は口を大きく開けて、はしたなくよだれを垂らしながら虚空で姿の見えない男根を舐めしゃぶっている。普段快活な少女が見せる淫靡な雌の姿に、Olの肉槍は更に硬度を増す。</p><p>淫魔の美女はその種族とはかけ離れた、恋い慕う乙女のような表情で夫を見つめていた。だがそうしながらも、その尾はまるで別の生き物のように、Olの動きに合わせて竿を扱き立てる。</p><p>Olは堪らず二人を抱き寄せて、乳房と尻とを鷲掴みにし、誘うように半開きにされたリルの唇にむしゃぶりついた。打てば響く鐘のように、舌が絡みついてくる。リルとユニスの指がついと胸元を撫でてくるのを感じながら、Olは熱く滾った肉棒をスピナとマリーの秘裂に何度も打ち込んだ。</p><p>そうしながら同時にユニスの口内を喉奥まで犯し、リルの口の中も舌先で蹂躙する。四人の妻を同時にいっぺんに犯すような興奮に、流石の魔王も我を忘れ猛り狂った。突き込みながら一度、二度放ってもその怒張は萎える気配も見せず、リルを、ユニスを組み敷いて再び犯す。</p><p>最後は四人の妻全員の口奉仕を受け、己のものだと主張するかのように四人の髪と顔とに白濁をぶちまけて、魔王はようやく眠りについた。</p><p>第2話海中ダンジョンを作りましょう-1</p><p>湯殿を作らねばならんな</p><p>そうね。急務ね</p><p>マリーちゃんも、それに賛成です！</p><p>本拠地に戻るユニスとスピナを見送って、朝日の中宣言するOlに、リルとマリーは一も二もなく賛成した。</p><p>情事を経て、汗やその他互いの体液で汚れきった身体は不愉快と言う他ない。</p><p>一応湯に浸した布で全身拭いたものの、まるごと肩まで湯に浸かるあの幸福には代えがたいものがあった。</p><p>早速、二代目の湯殿を作りましょう！まずは地下水脈を掘り起こして、後地熱のある場所に引き回せばいいんだよね！</p><p>そう簡単にはいかんのだ</p><p>俄然やる気を見せ始めるリルに、Olは首を横に振る。</p><p>前のダンジョンとは状況が違う。最も問題なのは、魔力を殆ど使えんということだ</p><p>すやすやと眠るソフィアの傍らに鎮座するダンジョンシード。</p><p>その中身は殆ど空っぽと言ってよかった。</p><p>幸運にもこの森には魔力を貯める性質があったようで、予想よりはかなり広大な面積をダンジョン化できている。だがその性質上、ダンジョンは地上の森と地下一階だけだ。地下水脈に繋げるには深さが足らんし、掘るには魔力が足らん</p><p>あー。龍脈の中じゃないとそんなに大変なのね</p><p>前のダンジョンでは迷宮の拡張はインプやコボルトに任せるだけで良かったが、こちらではそもそもそういった手下を維持するだけの魔力すらないのだ。</p><p>ユニスに連れて帰ってもらえればいいのにね</p><p>無い物ねだりをしても仕方がなかろう。現状で十分役に立っている</p><p>ユニスの転移は万能なように見えて、欠点が二つあった。</p><p>一つは、彼女が抱えられる程度のものしか一緒に転移できないことだ。</p><p>人ならば二、三人程度が限界で、あまり大きく重いものは運べない。</p><p>最低限生活する分の魔力はスピナに溜めてユニスに運んでもらっているが、スピナは魔力を溜め込めば溜め込むほど分身が増えてしまうため一気に運べない。</p><p>何度も転移を繰り返せばいいのだが、理力というものは魔力と違って貯めるのに非常に時間が掛かる。必要なだけの魔力を運ぼうとするとあっという間に蓄えが尽きてしまう恐れがあった。</p><p>もう一つは、長距離の転移には危険性を伴うということだ。</p><p>彼女の能力は結界や距離に左右されないが、逆に言うとあまりにもどこにでも飛べすぎる。うっかり地中や海底に飛んでしまえば、そのまま潰れて死んでしまう可能性もあった。</p><p>帰り道はダンジョンの中にユニスが飛んで来る専用の部屋を作っているからいいが、問題はこちらへ来るときである。どんな状況かわからない場所に飛ぶのはあまりにも危険過ぎる。</p><p>だが、絶対安全に飛べる場所が一つだけあった。それはOlの前だ。</p><p>そもそもユニスの能力は、敵に囚われたOlを助けに空間を無理矢理繋いでみせた経験によるものである。故に、Olの元にだけは彼がどこにいようと確実に飛ぶことが出来た。</p><p>それが同時に、Olが本拠地のダンジョンに帰れない理由でもある。Olが帰ってしまうと、また船で一から新大陸へ向かうはめになってしまうのだ。</p><p>じゃあ、どうするの？</p><p>簡単な話だ</p><p>リルの問いに、Olは懐から小瓶を取り出す。</p><p>質で勝てぬのなら数を作れば良い</p><p>まだあったの、それ</p><p>Olが取り出したのは、ダンジョンシードだった。</p><p>計画はこうだ。海辺にダンジョンを作り、水路をこちらの森の迷宮まで引き込む。いわば、ダンジョンを人工的な地下水脈として使うわけだ</p><p>ダンジョンの中に水が溢れちゃったりはしないんですか？</p><p>それは多分、大丈夫かな</p><p>マリーの素朴な質問に、リルが答える。</p><p>地下のダンジョンの床で考えても、海面より高い位置にあるからこっちに流れこむことはないわ。勿論、満ち干きや波を考慮する必要はあるけど</p><p>でもどうせ引くなら、湖か川の方がいいんじゃ？</p><p>ダンジョンの中には勿論海はない。だが、マリーは何度かOlに海へと連れて行って貰ったことがあり、海というものを見知っていた。</p><p>無限に続くのではないかと思えるほどに広い海原や打ち寄せる波で遊ぶのは楽しかったが、その後ひどい目にあったことを覚えている。</p><p>水はすごい塩辛くて飲めないし、お風呂みたいに浴びると髪がバサバサになるし</p><p>何言ってるの、それがいいんじゃないの</p><p>海で遊んだあとはしっかり真水で洗えとメリザンドに滾々と諭されたのを思い出してマリーが渋面を作っていると、リルがずいと身を乗り出した。</p><p>どうせ毒の混入とかをこの心配性が心配して浄化は必須だもの。そのための魔道具は今まで何回も作ったし、何なら前のダンジョンに予備もあるはずよ</p><p>それは既にユニスに持ってくるよう言ってある。今晩には届くはずだ</p><p>さっすがOl！</p><p>リルはOlに抱きつくと、音を立ててその頬にキスをした。</p><p>えっと、何でリルはそんなにテンション高いの？</p><p>何って、塩よ、塩。海水から真水を取り出せば、塩が取れるのよ！</p><p>それの何が良いのかわからなかったが、リルの勢いに押されてマリーはこくこくと頷いた。</p><p>それに、海とつなぐなら魚も取れるんじゃないかな？海魚よ、Ol！どれも前のダンジョンじゃ、外から貰ってくるだけのものだったのに、ダンジョンの中で取れるなんてとっても素敵じゃない？</p><p>確かにそうだな。ダンジョンの中だけで調達できるならばそれに越したことはない</p><p>全てが内部で完結し、完全な自給自足を成り立たせる。それがOlの理想とするダンジョンである。</p><p>この森にも探したら、食べられる木の実やキノコなんかもあるかもしれないわ。腕が鳴るわね</p><p>そこで初めて、マリーはリルが料理に情熱を燃やしているのだと気がついた。</p><p>料理するのそんなに楽しいの？</p><p>うん、楽しいわよ</p><p>自分は食べられないのに？という言葉を、マリーは何とか飲み込む。</p><p>Olが美味しそうに食べてくれるからね</p><p>しかし顔には出ていたようで、堂々とした惚気で返された。</p><p>ね、だから、落ち着いたらキッチン作りましょうよ。前のダンジョンだと、ちょっとわたしの部屋から遠すぎると思ってたのよね。使うのは侍女がメインだから仕方ないんだけど。こっちにはそこまで人連れてこないし、龍脈の中に無いならそこまで構造にも制約がないでしょう？</p><p>くるくると部屋を回りながら構想を立てる淫魔の姿は、まるで引っ越しをしてきた新妻のようだ。</p><p>リルって、なんかOlさまにすごーく似てきたよね</p><p>え、どこが？全然違うじゃないの</p><p>ぼやくように呟くマリーに、リルは輝かんばかりの笑顔でそう答えた。</p><p>第2話海中ダンジョンを作りましょう-2</p><p>まずはあの魔動船から資材を回収するぞ</p><p>波打ち際に停泊している船を指差すOlに、マリーは元気よく手を振り上げた。</p><p>必要な物資の殆どは毎日ユニスに運んできてもらっていたから、積み荷という程のものはない。とは言えいくらかの食料や水は万一に備えて余分に積んである。傷んでしまう前に回収しよう、ということで、Olはマリーを伴い海岸へとやってきていた。</p><p>ちなみにリルは森のダンジョンに残り、ソフィアの面倒を見つつキッチン周りの整備を進めている。</p><p>うわっ、なにこれ！べちゃべちゃだ</p><p>甲板に登ったマリーは、その惨状に目をむいた。</p><p>一面、海水で汚れていたのだ。</p><p>わたしたちがいない間に、高い波でも来たのかな</p><p>いやそういうわけではないようだ</p><p>船室の入り口を検分し、Olは硬い口調で答える。</p><p>その扉は、明らかに波ではなく何者かによって力づくで外されたものだった。</p><p>どうやらこの周辺には、何かが棲んでいるらしい。どのような生き物かまではわからぬが、少なくとも</p><p>Olは扉の横の壁に手を当てて魔力を込める。すると壁がひとりでに動き、部屋がせり出してきた。Olだけが使える、彼の部屋へのショートカットだ。</p><p>ろくな罠もないとはいえ、俺の迷宮を踏破する程度の知能は持ち合わせているらしい</p><p>Olの部屋は滅茶苦茶に荒らされ、食料や飲料を保存していた樽がバラバラになって散乱していた。Olによって改造された船内は小さいとはいえ迷宮そのもので、最深部である彼の部屋にはおいそれと辿り着けるものではない。</p><p>そういえばマリーちゃんも気付いたら船の中がダンジョンになってて、出るの凄く苦労しました</p><p>急いでOlさまに追いついたらひどい目に合うし、とマリーはぼやく。</p><p>敵かどうかはわからんが、注意せねばな</p><p>はい。一旦、リルのところに帰りますか？</p><p>いや、予定通り行う</p><p>Olのキューブが細い紐のように解け、海中に再び組み上がっていく。積み重なった石はまるで井戸のような中空の柱となって、海の一部を切り取った。</p><p>この底にダンジョンシードを埋め込めば、森の迷宮を繋ぐ水路が出来るはずだ</p><p>前回みたいに暴走したりしませんか？</p><p>二度同じ失敗はせん。何があろうと森まで道を作るよう調節してある</p><p>素直なマリーの質問に、Olは顔をしかめる。</p><p>はーい、じゃあこれ持っててください</p><p>そんな彼の反応を気にした風もなく、マリーは剣帯ごと四本の剣を外すとOlに預けた。</p><p>構わんが一体何をする気</p><p>言い終える前に、ぱさりと彼の顔をワンピースドレスが覆い隠す。仄かな怒りを堪えながらそれを剥ぎ取れば、マリーは片足を後ろに折って最後の下履きを引き抜いているところだった。</p><p>お前には恥じらいというものがないのか</p><p>健康的な白い肌が日の光をいっぱいに浴びて、キラキラと輝く。青い空の下に晒される裸体はどこか非現実的で、不思議な魅力があった。だがジロジロと見ることは何となく憚られて、Olはあえて視線を外す。</p><p>だってOlさまにはもう見られてないところも触られてないところもないじゃない。昨日だってお尻をあんなに</p><p>わかったわかった。いいからさっさと行ってこい</p><p>Olからダンジョンシードを受け取ると、マリーは元気よく返事をして柱の中に飛び込む。金の髪がふわりと広がり、白い肢体は魚のようにあっという間に水底の暗がりに消えていった。</p><p>ややあって、柱の中の水位が下がり始める。ダンジョンシードが作り出した空洞に海水が流入しているのだ。柱の内部から水がなくなったことを確認してOlが降りていくと、マリーは柱の底で壁に寄りかかりながら、ぐったりと座り込んでいた。</p><p>どうした、大丈夫か？</p><p>み、みずが、ぐるぐるまわって</p><p>ただ目を回しただけか</p><p>呆れ半分、安堵半分で言いつつ、Olは彼女に手を貸して立ち上がらせる。すると、全身から水を滴らせる彼女の肢体がいやでも目に映った。</p><p>水を吸って濃い色になった金の髪が、重たげに肌に張り付いて彼女の胸元を申し訳程度に覆い隠す。ぽたぽたと滴り落ちる雫は頭上から降り注ぐ光を浴びて、まるで彼女の肌を飾る宝石のように眩く輝いていた。</p><p>いやん。Olさまったら、えっち</p><p>それほど長い時間見つめていたつもりはなかったが、少女は男の視線に敏感に気付いて嬉しそうに笑いながら、胸元を隠すような仕草をした。その動きによってかえって髪の毛がずれ、腕の隙間から胸の先端が見えてしまっていたが、或いはそれも計算のうちなのかもしれない。</p><p>下らんことを言ってないでさっさと服を着ろ</p><p>ぺちんとOlが額を叩いて剣を押し付けると、マリーの肌についた水分が弾け飛ぶ。濡れた髪までが一瞬にしてふわふわになっていて、改めてこれはどういう魔術なんだろうと考えながら、マリーは丁寧に折りたたまれた服に袖を通した。</p><p>さて、では森のダンジョンに戻るぞ</p><p>はーい。これ、どうやって上がるんですか？</p><p>マリーは空を見上げながら問う。塔のように聳え立つキューブの天辺はかなりの高さになっていて、道具もなしにはとても登れそうにはない。しかしOlはロープのような道具を持ってきてはいなかったし、マリーは飛行の魔術をまだ修めてはいなかった。</p><p>登る必要はない。少し縮むから、中央に寄れ</p><p>Olの言葉にしたがってマリーが中央にたつと、彼は床に手をついてキューブを操作する。石の柱はパタパタと上から折りたたまれて、彼らを囲む小さな部屋となった。</p><p>途端、がくんと部屋自体が大きく揺れて、マリーは空中に放り出されそうになる。</p><p>すぐ安定する。掴まっていろ</p><p>彼女を抱きとめたOlの背に腕を回しぎゅっとしがみつくと、彼の言うとおり部屋の揺れはやがて止まった。だが完全になくなったわけではなく、立っているのに問題がない程度には細かな揺れが続いている。</p><p>今、わたしたち、どうなっているんですか？</p><p>見せてやろう</p><p>Olが部屋の壁に触れると、上下左右、全ての壁が透けてその向こうの様子が露わになった。</p><p>これって、水流！？</p><p>したりとばかりにOlは頷く。石柱で蓋をされていた新しいダンジョンに、海水が流れ込んでいる。その流れに部屋ごと乗って移動しているのだ。</p><p>凄まじい勢いで流れていく部屋の後方で、通路は無数に枝分かれしていく。最短ルートが作り上げられた後、侵入者を迷わせるための通路が出来上がっているのだ。</p><p>前を見れば、通路が右に曲がり左に折れては延びて行く。そこへと海水が白く波をたてながら流れ込み、キューブで作られた部屋はその波に乗って通路を走っていく。</p><p>角を曲がる度に部屋の中でマリーの身体は右に振られ左に揺られたが、最初のように吹き飛ばされるほどではなく、不思議な浮遊感を楽しめる程度の動きだった。</p><p>すごいすごい、Olさま、これ楽しい！</p><p>そうか。これが出来るのは最初の開通時だけだからな。存分に楽しんでおけ</p><p>はい！</p><p>そうやって笑う顔は、子供そのものなのだが。</p><p>Olはマリーの笑顔を眺めながら、しみじみと思った。</p><p>あー楽しかった！</p><p>終点。</p><p>キューブは森のダンジョンの中心、ダンジョンシードのある部屋の真下まで辿り着くと、停止してパタパタと展開し、螺旋階段になって上へと延びていく。</p><p>Ol、帰ってきた？ちょっとなんて言うのか。そう、異常事態よ</p><p>リルから念話が飛んできたのは、ちょうどその階段を登っている時だった。</p><p>どうした？</p><p>緊急ってわけじゃないんだけどううん、緊急なのかしら。とにかく、急いでダンジョンシードの部屋に来てくれる？</p><p>どのみちそちらへ向かっていた所だ。要領を得ない彼女の報告に訝しみながら、Olはとにかくダンジョンシードへと向かう。</p><p>あっ、どこいくの、ちょっと待ちなさい！</p><p>Olが部屋へと足を踏み入れると、リルの制止の声を振り切って何者かが飛び出してきた。咄嗟にOlは背後のマリーを庇うように動きながら、キューブを盾として展開する。</p><p>まま！</p><p>ごん。と、鈍い音が響き。</p><p>ソフィアはOlが盾として作り出したキューブの柱に激突したソフィアは、数秒後、火がついたように泣き始めた。</p><p>第2話海中ダンジョンを作りましょう-3</p><p>ここ、たい、ここ、たいのぉ</p><p>そうだね、痛かったねー、痛かったねー、よーしよーし</p><p>マリーはわんわんと泣き喚くソフィアを抱いて、頭を撫で続ける。ようやく泣くのが収まってきたと思えば、ソフィアはじっとOlを睨みながら自分の鼻を示して痛い痛いと訴えた。</p><p>Olさま</p><p>悪かった</p><p>マリーに促され、微妙に納得できない思いを抱えつつOlは赤子に頭を下げる。するとソフィアは先程までの泣き顔などなかったかのように満面の笑顔を浮かべた。</p><p>ぱぱ！えー、りっ</p><p>ただいま</p><p>困惑しつつもOlはソフィアを抱き上げる。</p><p>さっき、マリーの事ママって呼んだわよね</p><p>リルが尋ねれば、ソフィアはマリーを見つめて得意気にそう宣言する。</p><p>で、こっちが</p><p>ぱぱ！</p><p>指をさされて不満気に表情を歪めるOl。</p><p>じゃあ、わたしは？</p><p>リルはワクワクしながら自分を指さして、</p><p>りる！</p><p>なんでよ！？</p><p>ソフィアの言葉に叫んだ。</p><p>で、どういうことなんだ</p><p>わたしの方が聞きたいわよ</p><p>Olが尋ねれば、忠実なる使い魔はなんでわたしだけ呼び捨てとぼやきながら困ったように唇を尖らせる。</p><p>さっきまではただの赤ちゃんだったのに、急に立って喋り始めたの</p><p>ではやはり、単に成長速度が早いというわけではないのだな</p><p>朝Olが見たソフィアは、生まれたばかりで立つことも喋ることも出来ない赤子だった。だが今や彼女は自分の足で歩き、片言ながらも言葉を口にしている。</p><p>うん。急に、一歳くらいからニ、三歳まで成長したのよ</p><p>考えられる可能性としては、海のダンジョンの影響か</p><p>魔力が流入したから、ってこと？</p><p>海に植えたダンジョンシードは予備のコアとして働いているが、魔力の大部分はこちらへと流れている。とは言っても龍脈の中というわけではないから、さほど多いわけではないだろうが、ゼロというわけでもない</p><p>じゃあ、魔力が増えればソフィアはどんどん成長するってことですか？</p><p>わからん。そもそも魔力を注ぎ込めば成長する存在など、聞いたこともない</p><p>魔力を持てばそれだけ強大になる存在ならOlも知っている。精霊や悪魔の類だ。だが知能も魔力の量に合わせて発達するというのは見るのも聞くのも初めてだった。</p><p>お前は一体、何なんだ？</p><p>脇を抱えるようにして目を合わせても、ソフィアは遊んでもらえると思ったのか笑うばかりだ。この年頃の子供にはまだ、そういった抽象的な言葉を理解する能力はない。</p><p>もうちょっと成長させたらわかるのかな</p><p>とはいえ、あまり無目的にダンジョンを作るわけにもいかないが</p><p>まあまあ、とりあえずお昼にしましょうよ。こっちの部屋を食堂にしてみたの</p><p>悩むOlの背を押して、リルはことさらに明るく声をあげた。</p><p>そういえばこの子って、ご飯食べられるのかな？</p><p>ちらりとソフィアに目を向けて、リルは疑問を呈する。</p><p>少なくとも出会ってからは一切何も口にしていないが、空腹を訴えたりもしていない。</p><p>魔力が流れ込んでいるから、飢えて死ぬことはないだろうがまあ試してみるか</p><p>この年令なら、もう大人とさほど変わらないものでも食べられるはずだ。</p><p>リルの焼いたパンの香ばしい匂いが漂う食堂に移動し、マリーはソフィアを膝に乗せて席に座る。</p><p>その時のことだ。</p><p>いた！</p><p>突然、ソフィアが声を上げた。</p><p>どうしたの？どこか痛いの？</p><p>いた、いた！</p><p>マリーが顔を覗き込んでもソフィアは同じ言葉を繰り返し、Olの顔を見つめてその腕を叩く。</p><p>Olはあることに気付き、急いでダンジョンシードへと取って返した。</p><p>指先に込めた魔力がダンジョンシードからダンジョン全体へと伝わり、反響していく。</p><p>侵入者だ</p><p>思った通りの存在が、そこにあった。</p><p>え！？まだ何もしてないのに！</p><p>かつてユニスが侵入してきた時のことを思い出したのだろう。</p><p>リルの叫び声はもっともなことだった。</p><p>単に迷い込んだというわけではなさそうだな。水路をまっすぐこちらに突き進んでいる</p><p>この新大陸においてダンジョンの存在を知るものはごくごく限られている。</p><p>それって船を壊してた奴？</p><p>その可能性は高いだろうな</p><p>マリーの問いに、Olは頷いた。考えられる可能性はそれしかない。</p><p>ちょっと待って、船を壊した！？わたしの魔動船を！？</p><p>その話は後だ</p><p>騒ぐリルを無視してOlが手を振ると、ドーム状になっていた茨がわさわさと寄り集まって板になり、そこに幻影が浮かび上がる。何者かが、まるで空を飛ぶ鳥のような凄まじい速度で水路を泳いでいるのが見えた。</p><p>水中で視界が悪く、あまりに動きが早いせいで正体がわからないが、それは壁から射出される矢をいとも容易く弾き、天井から降りてくる槍をへし折り、虎の子の電撃罠さえ物ともせずに突き進んでくる。</p><p>しかも、ダンジョンの構造を完璧に把握しているとしか思えないほど最短で迷宮の出口を目指していた。</p><p>ここではまずい。下で迎え撃つぞ。リル、ソフィアを頼んだ</p><p>待って。わたしも行くわ</p><p>リルの身体がするりと二つに別れ、片方はソフィアを抱きかかえ、片方は石火矢を掲げ持つ。</p><p>これならいいでしょ？</p><p>上出来だ</p><p>Olがニヤリと笑い、杖状に伸ばしたキューブで地面をコンと叩く。すると地面が円状に輝き、次の瞬間消失した。</p><p>きゃうっ！</p><p>悲鳴をあげてマリーが地面に落ち、リルがふわりと降り立って、最後にOlがキューブで出来た階段から降りてくる。それと連動するように部屋は大きく広がり、海のダンジョンへの通路を中心とした大広間へと姿を変えた。</p><p>天井の穴は閉じ、出口と呼べるのはOlの背後の通路だけだ。</p><p>来るぞ</p><p>直通口から間欠泉のように水が吹き出し、地面に広がる。同時に飛び出してきたのは、魚のような下半身を持った女だった。</p><p>人魚(マーフォーク)？いや。何だ、こいつは？</p><p>見た目は人魚に似ているが、頭からはまるで鹿のような角が生えている。</p><p>Olの知る人魚は泳ぎの邪魔になる衣服の類は殆ど身につけないが、その女は薄衣のような奇妙な衣に身を包んでいた。</p><p>そして何より、纏う雰囲気や持っている魔力の量がただの人魚とは明らかに桁違いだ。</p><p>タガーダ、ユウェーロ！</p><p>女は声を張り上げて、何事か叫ぶ。</p><p>それは百の言語を操るOlでさえ聞いたことのないもので、その場でその意味を理解できたものは誰一人いなかった。</p><p>敵対的なものなのか、それとも友好的なものなのか、それすらわからない。</p><p>ただひとつ確かなのは、それがただの鳴き声や意味を持たない唸り声などではなく、明確に何らかの意図が込められた言葉であるということだった。</p><p>貴様は、何者だ。我がダンジョンになにゆえ立ち入った</p><p>油断なく構えるマリーとリルを背後に、Olは女に問う。</p><p>タガーダ、ユウェーロ</p><p>半人半魚の女は先ほどと同じ言葉を繰り返すが、それで理解できるものでもない。</p><p>失せよ。お前は俺の棲み家へ踏み入っている</p><p>Olのキューブがパキパキと音を立てながら形を変えて、まるで二本の鎌のように鋭く尖って刃を見せる。言葉が通じなくとも明確な敵意の表示だ。</p><p>フェレナニーヴォ！</p><p>すると女は鋭く声を上げた。その声に反応して、彼女の周りに飛び散った海水がまるで矢のようにOlに向かって飛ぶ。</p><p>自動的に展開したキューブが盾となって水の矢を弾き飛ばし、</p><p>魔王に楯突いたこと、後悔させてやる</p><p>Olは傲然とそう言い放った。</p><p>第2話海中ダンジョンを作りましょう-4</p><p>食らいなさいっ！</p><p>リルの構えた連弩が、文字通り矢継ぎ早に矢を吐き出す。魔力を動力源とするその弓は、一呼吸の間に十本もの矢を打ち出す。</p><p>しかし人魚の足元がざばりと波立ち、うねる波に乗って彼女はその矢を難なく躱してみせた。</p><p>えーいっ！</p><p>その隙を突くように、マリーが斬りかかる。リルの矢を避けて崩れた体勢では、それは避けることが出来ない。</p><p>はずだった。普通の相手であれば。</p><p>わわわ！</p><p>崩れた体勢のまま人魚の足元の波は急に方向を変えてマリーの剣をするりと躱すと、お返しとばかりに水弾が飛んできた。それをOlの伸ばしたキューブが楯になって防ぐ。</p><p>防御のことは考えなくていい。攻め続けろ</p><p>マリーは二刀を構え、人魚に向かって突進する。牽制に放たれる水弾はキューブが防ぎ、マリーは跳躍すると、楯になったキューブを足場にしてもう一度跳躍した。</p><p>くるくると独楽のように回転しながら放たれる斬撃を、人魚はかろうじて躱す。しかしその躱した先に、別の刃が待ち受けていた。マリーの腰に下がった鞘からいつの間にか引きぬかれ、宙を舞う三本目と四本目だ。</p><p>人魚はその刃を咄嗟に腕で防ぐ。防具らしい防具もつけているようには見えないのに、火花が散って剣は弾かれた。</p><p>リルっ！</p><p>任せて！</p><p>換装を終えた石火矢を構え、リルは引き金を引く。いくら波に乗って縦横無尽の動きをすると言っても、マリーの剣に囲まれて動きが止まった瞬間だ。いわば刃の結界に捉えられた人魚を、高密度の魔力弾が撃ち抜いた。</p><p>嘘でしょっ！？</p><p>しかし人魚はそれさえ凌ぐ。突如海のダンジョンから吹き出した水の壁に、リルの射撃はその威力の大部分を削がれて弾かれた。</p><p>リル、飛べ！</p><p>水の壁はその勢いのまま、四方八方に飛び散っていく。Olはリルに叫びつつ、キューブを伸ばしてマリーを抱きとめた。</p><p>ちょっと、これって</p><p>天井に張り付くように飛びながら、リルは下を見下ろして呻くように言う。</p><p>今の攻撃で床には薄く水が張り、足首程度の高さまで満たされている。</p><p>それはこちらの動ける範囲が狭くなり、相手の武器が増えるということを表していた。</p><p>しかも相手が攻撃すればする程、水の量は増えていくのだ。</p><p>ふうむ</p><p>Olは唸り、顎を一撫でする。彼の操るキューブと、敵の操る水は実に性質がよく似ている。どちらも自由自在に形を変えて、攻撃にも防御にも使える。</p><p>違いは、Olのキューブが手の平に収まってしまう程度の大きさであるのに対し、相手の水は無制限に引き出せるということだ。</p><p>マリー。何とかあいつの動きを止めろ。一瞬でいい</p><p>何とか、って、わぁっ！</p><p>マリーはOlの腕から放り出されて、水の張った床に着地する。途端、まるで鎌首をもたげる水蛇のように、無数の水縄が彼女に襲いかかった。</p><p>わっ、わっ、わっ</p><p>次々と迫り来る槍のような刺突を避け剣で払うが、水で出来た槍は剣で切っても意にも介さず伸びてくる。</p><p>こんなの、どうしろって！</p><p>四本の剣を全て動員してなお無数の槍を避けることで手一杯で、敵どころかこちらの動きが止まっている。しかしそうするうちに、マリーはあることに気がついた。</p><p>あれっあ、そうか！</p><p>彼女はぽんと両手の剣を宙に投げ放ち、空中に浮いていた二本を手に取る。</p><p>熱・湿！</p><p>その刃を合わせるとぶわりと風がたなびいて、水の槍の中に一瞬、道が出来た。</p><p>マリーはその道を一息に駆け、人魚の元へと肉薄する。相手の視線は、彼女が右手に持つ剣へと注がれていることにようやく気がついた。</p><p>熱性剣！</p><p>剣の刃が赤く輝き、水が蒸発してじゅうと音を立てる。その刃が人魚に届くより早く、マリーの体を吹き飛ばさんと彼女の足元から大量の水が吹き出した。</p><p>マリーの操る四本の剣はOlが手ずから付呪を施したもので、それぞれ異なる性質を持っている。万物は地、水、火、風の四大元素から成るというのが現在の魔術の主流の考え方だが、彼女の剣が司るのはそれではない。その四大元素自体を更に細かく分割した、熱・冷・湿・乾の四大性質である。</p><p>そのうち熱を司るカリダティオを放り投げて、マリーは両手で空中の剣を掴んだ。</p><p>冷性剣！</p><p>最初から人魚に刃を当てるつもりはなく、狙いはその足元の波だ。海水はあっという間に凍りつき、人魚の体を縫い止めた。水は操ることが出来ても、氷までは動かせない。冷性剣が切り捨てた槍だけが再生しないのを見て、マリーはそれに気づいていた。</p><p>よくやった。リル！</p><p>はいはい。こっちは戦闘に向かない淫魔だっていうのに</p><p>リルの構えた石火矢がガチャガチャと音を立てながら展開する。原理としては、Olのキューブと同じだ。Olのように自由自在とは行かないが、あらかじめ設計しておいた形に変形させるくらいはリルの能力でも出来る。</p><p>連射性を重視した連弩形態。</p><p>射程距離を重視した石火矢形態。</p><p>そして</p><p>威力を重視した、大砲形態だ。</p><p>いっけええええ！</p><p>轟音とともに、大砲が火を噴く。魔力で形作られた弾丸は氷の壁をいとも容易く打ち砕きながら、その背後の壁にまでぽっかりと穴を開けた。</p><p>うそっ！？</p><p>しかし、人魚は無傷で、立っていた。</p><p>寸前で避けられたか</p><p>どうやって氷から抜けだしたかは分からないが、彼女は砲弾を避けていた。</p><p>リル、マリー、来い！</p><p>Olはキューブで小さな部屋を作りながら、二人を抱き寄せる。</p><p>リルの開けた壁の穴から勢い良く水が吹き出し、小部屋を押し流した。</p><p>ごめん、Ol、わたし</p><p>震えるリルに、</p><p>よくやった</p><p>水中で生きるものに一番効く罠とは何かわかるか？</p><p>ええと</p><p>氷は一瞬動きを止めることさえ出来なかった。</p><p>電撃の罠は既に効かない事は確認済みだ。</p><p>炎には弱いのかもしれないが、水中では効果は薄いだろう。</p><p>み、水攻め？</p><p>そんなわけないだろう、愚か者</p><p>マリーが取り敢えず現状起こっている事をそのまま述べてみると、Olは呆れて悪態をついた。</p><p>そんなやり取りをしている間にも、人魚は水中を凄まじい速度で追いかけてくる。</p><p>覚えておけ。水生生物は</p><p>凄まじい振動とともに、小部屋が揺れた。小部屋が流れていた通路は奥に行くに従って徐々に細くなっていて、そこに嵌り込んで止まってしまった形だ。</p><p>無論、通常の通路の幅がそんな風に変わることなど無い。</p><p>Olがわざわざダンジョンを操作し、作り変えたのだ。</p><p>止まってしまった小部屋の目前まで、人魚が迫る。</p><p>その時ガコン、と音がして。</p><p>落とし穴に弱い</p><p>人魚は大量の水ごと、開いた穴へと落ちていった。</p><p>第2話海中ダンジョンを作りましょう-5</p><p>これ、本当に大丈夫なの？</p><p>恐らくはな</p><p>キューブで作った小部屋の中に囚われた人魚を、リルは疑わしげに見つめた。</p><p>互いに視線が通るように半透明化した小部屋の中には一部の隙もなく水が詰められ、その中央に人魚は揺蕩っている。</p><p>こいつが操れるのは恐らく水自体というよりは、波だ。水を圧縮したり、凝固させるというようなことは出来ん</p><p>もしそういった事ができていたならOlたちはもっと苦戦を強いられていただろうし、そもそも落とし穴で捕らえることも出来なかっただろう。</p><p>だからこうして完全に水で埋めた空間に密閉されると、手も足も出んのだ</p><p>その弱点は、Olのキューブも同じだ。キューブをまるごとぴったり箱に収められたら、それを打ち破るほどの力は出せない。</p><p>それにしても、何なんだろねこの子</p><p>恐らくは土着の種族なのだろうが</p><p>人魚は閉じ込められていることを気にした風もなく、小部屋の中でくるくると回っている。</p><p>とりあえず、ご飯にしよっか</p><p>くぅと鳴くマリーの腹の虫を聞いて、リルはそう切り出した。</p><p>そうだなだが、これから目を離すのは少し心配だ。悪いがこっちに持ってきてくれるか？</p><p>はいはーい</p><p>あ、手伝うよ</p><p>パタパタと食堂の方に駆けていくマリーとリルを見送りながら、Olは床に手をかざした。床石がぐにゃりと歪み、即席のテーブルと椅子が出来上がる。</p><p>あ、テーブル用意してくれたの？ありがとう</p><p>分身とマリーの手を借りてリルが運び込んできたのは、見慣れた料理だった。</p><p>こっちの食材も色々試してみたいけど、よく考えたらわたし味見できないから一人で新作に挑戦するのは無謀だったわ。ってわけで、今日はうちから持ち込んだいつもの物でごめんね</p><p>今度わたしおてつだいするね！</p><p>構わんが、未知の毒や病には気をつけろよ</p><p>そんなほのぼのとした会話をしつつ、三人は席につく。</p><p>いただきまー</p><p>スプーンを手にして口を開いたところで、マリーは強烈な視線を感じてふと横に目を向ける。</p><p>うわっ！？</p><p>人魚が、小部屋の壁にべったりと張り付いていた。</p><p>爛々と目を輝かせ、口を大きく開いてマリーの手元のスープを凝視している。</p><p>水中だから目には見えないが、よだれをだらだらと流しているであろうことは明白だった。</p><p>ほしいの？</p><p>スープを掲げてマリーが問うと、言葉もわからないだろうに人魚は首をブンブンと縦に振る。</p><p>まさか食料を奪うためだけに我々に喧嘩を売ったのか？</p><p>Olは荒らされていた船内の様子を思い出した。</p><p>食料は奪われていたが、Olの魔術書や魔道具は手付かずだった。</p><p>それらの価値を把握できなかったものだと思ったがそもそも単に、食料以外に興味がなかっただけか。</p><p>どうしよう、Olさま</p><p>マリーは困った様子で眉根を寄せる。このままでは非常に食べづらい。</p><p>食料をくれてやる代わりに、我々に危害を与えることを禁ずる。同意するか？</p><p>ジェスチャーを交えてOlがゆっくりと伝えると、人魚はぶんぶんと首を振った。</p><p>どうしたものか、とOlは逡巡した。</p><p>契約の呪いというのは、例え虚偽であっても相手が形だけ同意していれば成立する。</p><p>だがそれは相手が契約を理解していればの話だ。</p><p>相手がこちらの言っていることをある程度でも理解しているのなら頷いている時点で呪いはかかるが、食べ物欲しさに闇雲に頷いているだけだと呪いはかけられない。</p><p>あれっ、また女の子増えてる。どうしたの、この子？</p><p>悩んでいるOlのもとに、救世主がやってきた。</p><p>ユニスか。ちょうどいい</p><p>仮に人魚がこちらの意図を理解しておらず呪いがかからなかったとしても、彼女がいれば恐れるほどの相手ではない。</p><p>うん、いいよ</p><p>事情を説明すると、ユニスはあっさりと快諾した。</p><p>だってご飯は沢山で食べた方が美味しいでしょ</p><p>あまりに迷いのない承諾に逆に心配になって問うたリルに、ユニスは的外れな返答をした。</p><p>そうじゃなくてユニスは、あいつがどのくらい強いか見てないじゃない</p><p>ユニスの強さは十分知っているが、人魚も三人がかりで何とか倒したのだ。いくら英霊の彼女でもそうやすやすと引き受けて良いのか、とリルは思う。</p><p>マリーが避けられる程度の攻撃と、マリーの攻撃を避ける程度の防御でしょ？だったら、あたしなら誰かが攻撃される前に殺せるよ</p><p>しかしユニスはあっけらかんと言ってのけた。</p><p>彼女の口調の邪気の無さに、リルはかえって恐ろしくなる。</p><p>あなたが敵じゃなくて良かったいや、二、三回敵に回ったっけ</p><p>えー、敵だったのは最初会った時だけでしょ</p><p>しみじみと呟くリルに、ユニスはケラケラと笑った。</p><p>出ろ</p><p>Olの声とともにキューブの壁が展開し、ざばりと水が辺りに広がる。人魚がその波に乗ってぴょんと跳ねたかと思うと、その魚の尾が足に変わった。鱗はそのままきらめく衣になって、スカートのようにふわりと彼女の脚を包み込む。</p><p>幻術ではないな。氷から抜け出した種はこれか</p><p>人間に変身する術を持つ種族は珍しいがいないわけではない。</p><p>だが、身体の一部だけを変化させるものを見るのはOlも初めてだった。</p><p>俺は、Olだ</p><p>おうる</p><p>己を指していえば、女はオウム返しに呟く。</p><p>お前は？</p><p>たつき</p><p>やはり馬鹿ではない。言葉が通じずとも、こちらの意図を正確に読み取っている、とOlは感じた。</p><p>ではタツキよ。お前に糧をくれてやる。代わりにお前は我々を害するな。良いか？</p><p>料理の乗った皿をタツキに向けて問えば、彼女はこくりと頷く。</p><p>それで、契約は成った。</p><p>そら、食え</p><p>テーブルに皿をおいてやれば、タツキは喜び勇んで食べ始めた。</p><p>ビルスキィ！</p><p>言葉は分からないが、何と言っているのかはその輝く表情を見れば一目瞭然だ。</p><p>ニコニコと笑顔を浮かべながら、タツキはあっという間にリルの用意した料理を平らげてしまった。</p><p>どれ</p><p>食べ終わって満足気に息を吐くタツキの胸を、Olは無造作に鷲掴みにする。</p><p>結構あるな</p><p>悲鳴は、二度響き渡った。</p><p>一度目はタツキが腕を振り上げる前、そして二度目はその腕をOlの頬に振り下ろした後だ。</p><p>どうやら呪いは正常に働いているようだ</p><p>じんじんとする頬を押さえつつ、Olは頷く。</p><p>彼に危害を加えれば、タツキには激痛が走る。我々の範囲や何を持って危害とするかは不明だが、とりあえずこの程度制限できていれば問題はないはずだ、とOlは判断した。</p><p>そら、さっさと帰れ</p><p>腕を振るOlを憎々しげに睨みつけ、タツキは下半身を魚に戻すと水路に飛び込んだ。</p><p>帰しちゃって良かったの？</p><p>新しくOlの分の食事を用意しながら、リルは聞いた。</p><p>ああ。問題ない。これでもうここに来ることは無いだろう</p><p>こちらの強さは示し、呪いをかけて危害も加えられなくした。</p><p>その上で、嫌な思いをさせたのだ。まともな神経をしていれば近寄ろうとするはずがない。</p><p>犬とて痛ければ覚える。これでまた来るのであれば、よほどの大物かさもなくば、底抜けの馬鹿だ</p><p>そして奴はそのどちらでもあるまい、とOlは心のなかで呟いた。</p><p>なお、タツキは翌日も普通に食事を貰いに来た。</p><p>第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-1</p><p>言語を習得せねばならん</p><p>Olは端的にそう言った。</p><p>いい加減、わからんことが多すぎる。そうでなくともこちらの言語を学ばなければならない</p><p>魔術で何とかならないの？</p><p>Olは何気に言語学の大家だ。アールヴ語、ドヴェルグ語、ゴブリン語やハルピュイア語など様々な言葉を解するから使わないが、言語翻訳の魔術は存在する。</p><p>あれは、魔術を作った者がそもそも言語を理解していなければならないのだ。完全に未知の言語には使えん</p><p>へー、そういう仕組みだったんだ</p><p>感心しつつ、リルはふとあることを思いついた。</p><p>あの子に教えてもらえばいいんじゃないの？</p><p>アレは役に立たん</p><p>アレというのは、Olの隣で幸せそうにパンを頬張っている人魚のことである。</p><p>おい、タツキ</p><p>Olに名前を呼ばれると、タツキは耳の当たりにあるヒレをピコピコと動かした。</p><p>しかし一瞥を向けることもなく、彼女は一心不乱に食事を続ける。</p><p>スープの汁の一滴までも貪って一息つくと、彼女はちらりとOlを見た後、</p><p>ディーーーーヴィ</p><p>何事か一言残して水路に飛び込んだ。</p><p>何を言っているかはわからんが、とにかく悪態をついたことだけは雰囲気でわかるな</p><p>そうね</p><p>うんざりと呟くOlに、リルは深く頷いた。</p><p>まあそういうわけで、言語を学ぶために現地人を探して連れてくる</p><p>どうやって？</p><p>俺は魔王だぞ</p><p>Olはローブを翻す。</p><p>攫ってくるに決まっておろう</p><p>邪悪な魔術師はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。</p><p>ユツは一人、森の道を歩いていた。</p><p>小さな頃から遊び慣れた道だが、今日ばかりは酷く恐ろしく感じられる。</p><p>ともすれば止まってしまいそうな足を、一歩一歩、踏みしめるように歩く。</p><p>しかしその足は、不意に止まってしまった。</p><p>確かここの道は二つにわかれていたはずだ、と彼女は思う。</p><p>しかし木々の間に伸びている道は左にだけ続いていた。</p><p>奇妙な予感が彼女の胸を重くするが、それでも引き返すわけにはいかない。</p><p>彼女は仕方なく、左の道を辿っていった。</p><p>進んでいくうちに、彼女は違和感に気がつく。</p><p>いつもなら聞こえるはずの虫の音や鳥の鳴き声が、全く聞こえないのだ。</p><p>一旦意識してしまえば、しんと静まり返った森は酷く不気味だった。</p><p>今まで極度の緊張で気が付かなかったが、風にざわめく木の葉の音すらしない。</p><p>足は止まり、ゆっくりと後ずさり、そしてとうとう耐え切れなくなって、彼女は踵を返して駆け出す。</p><p>そんななんで！？</p><p>しかしそれはすぐに止まってしまった。</p><p>今まで歩いてきたはずの道が、なくなっていたからだ。</p><p>後ろを振り返れば、ユツを誘うように大きな赤い花が咲いている。彼女はそれを不気味に感じ、茂みをかき分けて道なき道を進んだ。</p><p>嘘！</p><p>そして、愕然とする。茂みを掻き分け抜けだしたその先には、大きな赤い花が咲き誇っていた。</p><p>同じ種類の花がたまたま咲いていたわけではない。</p><p>記憶力には自信があった。戻ったはずなのに、同じ場所に出たのだ。</p><p>座り込みそうになる己を叱咤し、覚悟を決めてユツは道を進む。</p><p>そうする内に、段々と辺りには霧が立ち込めてきた。</p><p>進めば進むほど霧は濃くなり、しばらくすると自分の足元さえ見えないほどになる。</p><p>とうとう立ち止まってしまうユツの耳に、声が聞こえてきた。</p><p>何と言っているかはわからない。しかし、自分を呼んでいるような気がする。</p><p>その声に誘われるように、彼女はゆっくりと歩いて行く。</p><p>どれほど歩いたかもわからなくなった頃、視界は唐突に開けた。</p><p>まるで部屋のように複雑に編み込まれた茨の屋根の中にいたのは、一人の男だった。</p><p>見たこともない、濃い金の髪。背は天を衝くように高く、肌は不自然な程に白い。</p><p>鼻も高ければ手も足も長く、金色の瞳が、ユツを見下ろしていた。</p><p>これはまた小さな娘が釣れたものだ、とOlは思った。</p><p>Olの部屋に迷い込んできたのは、ともすれば少年と見間違えてしまいそうな少女だった。</p><p>年の頃はマリーと同じか、少し下くらいか。</p><p>短く切った銀の髪に黒い瞳。顔立ちも平坦なら、体つきも殆ど凹凸はなく未発達だ。</p><p>本来ならば人の侵入を阻む迷宮だが、今回Olが仕掛けたのはその真逆。</p><p>迷宮の奥に侵入者を誘い込み、迷い込ませる罠の数々だ。</p><p>初めて作った仕掛けが早々に上手くいったのは重畳だが、それで捕らえたのがこんな年端もいかない少女とは。</p><p>まあ、選り好みをしても仕方あるまい</p><p>そう自分に言い聞かせ、Olは少女を捕らえようと腕を伸ばす。</p><p>少女ユツは、逃れるどころかOlの胸の中に飛び込んだ。</p><p>第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-2</p><p>懐に飛び込んできた少女に、Olは瞠目する。</p><p>どこを刺されたか？</p><p>いや、接触性の呪いか？</p><p>触手でも生えて捕縛されるか？</p><p>一瞬のうちに無数の疑問とその対処法が思い浮かぶが、少女はただ、Olの腕の中で震えているだけだった。</p><p>何が目的かは知らんがこちらはこちらの目的を果たさせてもらうだけだ</p><p>Olは彼女をひょいと抱き上げて、ベッドの上まで運ぶ。</p><p>お前には悪いが</p><p>Olが宣言している間に、ユツは服を脱ぎ去っていた。</p><p>まあ、そういうことだ</p><p>釈然としないものを感じつつ、Olは彼女を組み敷いた。</p><p>同時に魔術で走査するが、武器なし、毒なし、魔力なし。</p><p>暗殺でも色仕掛けでもない。そもそもこの異郷の地でそんなことをされる覚えもない。</p><p>全くもって不可解ではあったが、例えOlの想像を超える罠であっても隣の部屋にはリルもマリーもいる。問題はない。</p><p>Olはそう判断し、ユツの首に噛みつくように口付けを落とす。</p><p>そしてまたひとつ、わからんと内心で呟いた。</p><p>落ち着け</p><p>Olは通じないとわかりつつ、諭すようにゆっくりと言ってユツの頭を撫でる。</p><p>少女は、震えていた。</p><p>魔王さえも騙す稀代の役者でもない限り、彼女はまだ男を知らぬ生娘であり、男を誑し込むような訓練も受けていない。</p><p>しかし、初対面の言葉も通じぬ男にその身体を許そうとしている。</p><p>不可解だが、状況を整理するとそういうことだった。</p><p>お前がそれでは、こちらとしても困るのだ</p><p>Olの呟きに、ユツは不思議そうな視線を向けた。</p><p>頭を撫でている手の平を、ゆっくりと頬に滑らせる。そして彼女を落ち着かせるように、ぎゅっと抱きしめた。</p><p>その肩は軽く力を込めれば折れてしまいそうなほど薄く華奢で、Olの腕の中にすっぽりと収まってしまう。小柄な身体の温度は小動物のように高く、重ねた肌から伝わる胸の鼓動は張り裂けんほどで、なおさら彼女の小さな印象を強くしていた。</p><p>落ち着いたか？</p><p>その鼓動がようやく収まってきた所で尋ねると、言葉はわからなくとも意味は察したのか、少女はこくりと頷く。しかしその身体は次の瞬間、ビクリと跳ね上がった。</p><p>Olの指が、その脚の間を割り広げたからだ。</p><p>恐らくは誰にも触れられたことのないであろう少女の秘奥を、Olはゆっくりと撫で上げる。硬く閉じた蕾は指を入れる隙間さえなく、今だ僅かな潤いすら帯びてはいなかった。</p><p>大丈夫だ</p><p>するすると、Olのもう片方の手がユツの喉を撫で、胸元へと向かう。触れるか触れないか、産毛だけを撫ぜるような指先。男らしいゴツゴツとした指からは想像も出来ないほどの繊細な動きで、彼女の肌の上を滑っていった。</p><p>んっ</p><p>その指先が彼女の胸の頂きに辿り着いた時、ユツは初めて小さく声を漏らした。それは快感というよりは羞恥と緊張によるものだったが、声を出すのと出さないのには大きな差がある。</p><p>声を堪える必要はない</p><p>耳元に口付けながら囁くと、ユツはふるりと身体を震わせた。指先で触れた場所が、徐々に熱を帯びていく。</p><p>ふ、うっ</p><p>指と指の間をやんわりとなぞり、首筋に唇を這わせ、滑らかな腹を撫で、脇腹を伝い、太腿を擦り、膝に触れて、ふくらはぎから足の指先までをそっと辿る。</p><p>じっくりと時間をかけ全身くまなく指と唇で愛撫して、その唇を奪った時にはユツの体中から力は抜けていた。</p><p>んぅ</p><p>ふんわりとした気持ちのまま、ユツは唇を割って入ってきた舌を受け入れる。柔らかな濡れた肉は優しく気遣うように彼女の口内を犯し、甘く口づけを繰り返す。夢見るような心地でそれに応えていると、突然、熱い感覚が彼女を貫いた。</p><p>気付けば彼女のほっそりとした両脚は大きく割り開かれて、その中心にOlの赤黒い男根がずっぷりと突き刺さっていた。</p><p>蕩けるほどに全身を愛撫され、恥ずかしいほどに濡れそぼっているからか、破瓜の痛みは殆ど無かった。それ以上に、身体の奥から熱がこみ上げてくる。</p><p>まるで焼けた杭を打ち込まれるような感覚を、ユツは背を丸めて耐える。痛みも苦痛もなく、Olが彼女の奥を突く度に未知の熱さだけがユツを襲った。</p><p>ふ、あぅっ！</p><p>わけも分からず堪らえようとユツの腕は縋るものを探し、それはOlの広い背中を見つけてぎゅっと力を入れる。両手両足でしがみつく彼女の肢体は、しかしかえって男に対して開かれて。</p><p>あああああッ！</p><p>奥の奥までを貫かれる感覚に、彼女は鳴いた。</p><p>ひっ、あ、あっ！</p><p>男を知らず、自らを慰めたこともない純朴な少女には、その熱が何なのか理解できなかった。</p><p>ただただ未知の何かへの恐怖が勝り、男に縋りしがみつけば、その色を塗り替えるようにより強い熱が突き刺さる。それをわかっていてなお、しかし彼女は縋ることをやめられなかった。</p><p>腕に力を込めれば、口内は貪るような舌に蹂躙される。</p><p>脚に力を込めれば、胎の奥まで貫かれる。</p><p>怖いのに、恐ろしいのに、しかし彼女はそれをやめることが出来ない。</p><p>恐れ、離れ、縋り、求める。</p><p>揺られ揺られ繰り返すうちに、彼女の中から何かがこみ上げてきた。逃れるように男の背中に爪を立て、腰を浮かせたそこに熱い肉槍が突きこまれる。</p><p>知らずきゅうと締め付けて、少女はその熱を逃がすかのように喘いだ。</p><p>その逃げ道を塞ぐように。</p><p>男の唇が、彼女の口に重なる。</p><p>っ！</p><p>腹の底から込み上げるその熱は行き場をなくし、少女の小さな身体を蹂躙した。手が震え、脚がわななき、首が反り上がる。その奔流は恐れを綺麗に押し流し、彼女は熱に快楽の炎にその身を任せた。</p><p>んっぅぅっ、うぅーっ！</p><p>絶頂に達したばかりの少女の膣壁を、Olの剛直は容赦なく抉る。男を知らぬユツのそこは見る間に老獪な魔術師の手によって開発されて、水を吸う綿のように女の悦びを吸収していく。</p><p>もはや少女は怖れではなく、欲求によってOlの身体に取り縋っていた。腰に回した脚をきつく締め付けて、熱い怒張をねだり咥え込む。何も知らぬ無垢な少女は何度も何度も絶頂に導かれ、忘我の堺でただ快楽を貪る。</p><p>Olの言葉を、少女は理解しない。言葉が通じたとして、何も知らぬ無垢な彼女には伝わらなかっただろう。</p><p>しかし己の膣内で膨らむ男の剛直に、本能的に少女はそれを完全に理解する。</p><p>己を犯し、穢し、種を付けようとする雄の欲求。</p><p>それを、彼女は全身全霊で、受け止めた。</p><p>あっ、あっ、あっ、ああっ！</p><p>どくどくと流し込まれる白濁に己の中が満たされていく事を感じながら、ユツは意識を手放した。</p><p>上手くいったか？</p><p>うん。成功よ。しっかりくっついてる</p><p>ベッドの上に横たわるユツを見て、リルは深く頷いた。</p><p>二人の声に目が覚めたのか、ユツはぼんやりとした様子でまぶたを開ける。</p><p>俺の言葉がわかるか？</p><p>はい。わかります</p><p>問うOlに、ユツはこくりと頷いた。</p><p>その言葉は依然として理解できないものだったが、その意味は互いに明瞭に伝わってきていた。</p><p>俺の魂とお前の魂の一部分を繋げた。ゆえに、互いの考えていることはわかる</p><p>悪魔は魂の扱いの専門家だ。とりわけ、淫魔であるリルはもともと性交を通じて魂を奪うことを生業とする種族である。絶頂の忘我を利用して二人の魂に糸を張る程度は容易いことだった。</p><p>魂でつながれば、言葉の差など大きな問題ではない。</p><p>相手が言わんとする事そのものが、意味として伝わってくるからだ。</p><p>お前には悪いが、しばらく協力してもらうぞ</p><p>一方的なOlの要請に、意外にもユツは躊躇なく頷いた。</p><p>それが偽りでないことは魂を通して伝わってくる。</p><p>そういえば、最初からやけに協力的だった、とOlは思い出した。</p><p>魔術師でもない小娘一人、彼の手にかかれば籠絡するのはさほど難しいことでもないが、それにしても協力的にすぎる。</p><p>まだ何も説明していないが、構わんのか？</p><p>はい、勿論</p><p>ユツは笑顔で頷いて。</p><p>妻として当然の勤めです、勇者様</p><p>そんなことを言い放った。</p><p>まて。何だ、その、勇者だの妻だのというのは</p><p>ボクは、あなたに嫁ぐためにここにやって来ました。勇者様が思ったよりも優しい方で、良かったです</p><p>魂の糸を手繰ってみればユツの言葉に虚飾はなく、彼女は心の底からそう信じている。</p><p>順を追って説明しろ</p><p>大巫女さまが、先見(さきみ)で見たのです。ボクが、勇者様の妻となることを</p><p>先見。それは予言ではなく、予知を表す言葉だった。</p><p>Olが使う予言は、魔力を用いて自分の望む未来への道を敷くことだ。本来あり得た運命を捻じ曲げ、そのような未来を作り出す。故に、力のない魔術師のものや、あまりに荒唐無稽な予言は外れることもある。</p><p>しかし予知はそれとは全く別のものだった。知り得るはずのない未来を知る。それは魔術でも法術でも不可能なことだ。</p><p>その、勇者とか言うのは、何だ</p><p>言葉としての意味合いはそのままだ。勇気あるもの。英雄に近いかもしれないが、英雄のように天からの定めを受けたものという感覚はない。純粋に、傑物ということだろうが。</p><p>言葉の意味はわかっても、どういうつもりでいっているか、その思考までは読めない。</p><p>無論、魂同士をつなげる糸を太くすればそういったことも可能なのだが、その効果は双方向だ。つまり思考を読めるようにするなら、Olの思考も読まれてしまうということである。当然ながら、それは避けた。</p><p>はい。勇者とは</p><p>頷き、にこやかに説明するユツの言葉に、</p><p>魔王を討つものの事です</p><p>Olは思い切り、顔をしかめたのだった。</p><p>第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-3</p><p>あははははははは！</p><p>笑い事じゃない</p><p>腹を抱えて笑うリルに、Olは渋面を作る。</p><p>先見とやらの詳細を聞くためユツの村へと行く道すがら。</p><p>Olから説明を受けたリルは、憚ることなく笑っていた。</p><p>だって、Olが勇者様で、魔王を倒すって</p><p>リル笑いすぎでしょ</p><p>宙をフワフワ浮きながら笑いすぎて出た涙を拭う美女を、マリーは呆れ顔でたしなめる。</p><p>そんな二人を、ユツは不思議そうに見上げた。</p><p>そういえば、こいつを連れて行くのは問題ないのか？</p><p>Olはリルに視線を向けてユツに尋ねる。悪魔という存在が彼女たちにどのくらい認知されているのかは分からないが、少なくとも歓迎される存在ではないはずだ。</p><p>はい。先見にある通りですから</p><p>ユツの答えに、Olは内心舌を打つ。</p><p>接触すらしていないというのに情報が漏れるというのは、何とも気味の悪い話だった。</p><p>程なくして、Olたちは村にたどり着いた。森のほど近くにある、小さな村だ。</p><p>道はろくな舗装もなく、踏み固められただけで馬車の轍すら見て取れない。</p><p>木々を組み、藁のようなもので葺かれた家屋はあまり高い文明を持っていそうにはなかった。</p><p>大通りを歩くOlたちを、村人たちが物珍しげに眺めている。</p><p>その視線には好奇や不審はあっても、恐怖や嫌悪というほどのものはない。</p><p>随分平和的に暮らしてきた種族のようだ、とOlは思った。</p><p>彼らに共通するのはユツと同じ黄色がかった肌の色と低い背、そして鼻の低い平面的な顔だ。髪の色が銀なのはユツだけで、殆どの村人は黒髪黒目だった。</p><p>お前が特別小さいというわけではないのだな</p><p>勇者様たちが、大きすぎるんです</p><p>Olの背は高くも低くもなく、中肉中背と言って良い。ユツの背は小柄なユニスよりも更に小さく、Olより頭ひとつ分は低かった。</p><p>村人たちも人間の半分しかないクドゥクやドヴェルグに比べれば大きいが、男でも平均してOlより頭半分くらいは背が低いようだ。顔立ちも相まって、年齢よりも大分若く見える。ユツもマリーより歳上なのだと聞いて、Olは驚いた。</p><p>ここです</p><p>村の奥、一際大きな家へと案内されて、Olは踏み入ろうとする。</p><p>あっ、あっ、あの、靴は脱いで下さい</p><p>それをユツは慌てて押し留めた。</p><p>何故って家の中が汚れちゃいますし</p><p>武器を持って入るなというならわかるが、靴を脱げというのは不思議な文化だ。</p><p>Olはそう思いつつも、言われた通りに靴を脱いで家の中に上がる。</p><p>よく来たね。悪魔の王、Ol</p><p>出迎えたのは、顔中を皺に覆われた老婆だった。</p><p>腰が曲がっているせいか、背の低いユツの種族の中でも更に小さく見える。</p><p>そういう貴様は、何者だ。何故俺の名を知っている</p><p>Olは不快感を隠さずに問うた。</p><p>儂はテナという。ユツの祖母じゃ。お主の事は何度も先見の力で見た。何でも知っておるよ</p><p>睨みつける魔王の圧力を気にすることもなく、老婆はゆっくりとそう答える。</p><p>ほう。何でもと来たか</p><p>Olは柱にもたれ掛かりながら、老婆を見下ろす。</p><p>やめとくれ</p><p>途端、テナは表情も変えずに言った。</p><p>儂はこの通りの婆じゃ。わかってもそれは避けられんし、お主の蘇生の術とやらにも耐えられん。死んでしまうわい</p><p>実態が何であれ、厄介な能力だな</p><p>え？え？どういうこと？</p><p>舌打ちするOlに、マリーは状況を把握できずに二人の顔を見比べる。</p><p>Olが家を操って攻撃しようとしたけど、やるより先に見透かされたって事ね</p><p>リルの言葉に、Olは頷く。</p><p>大陸を支配した迷宮の王である彼にとって、何の呪的防御も施されていないこの小さな家を己の迷宮として掌握することなど、呼吸にも等しい。それはもはや呪文も動作も必要とせず、ただ入るだけで行える程の域にまで高められていた。</p><p>それを見抜ける魔術師など、世界に五人といないだろう。ましてやどんな事をしようとしているかまで察するなど、それこそ未来予知でも可能でなければ出来ることではない。</p><p>とは言えそれだけで、未来予知が出来ると決まったわけではないがな</p><p>そんなに先見を信じられぬかね</p><p>皺に紛れて殆ど見えない目を片方開けて、テナはOlの顔を見る。</p><p>信じられんというより、ありえん</p><p>無から有を生み出し、不可能を可能にするのが魔術と言われるが、魔術では絶対に出来ないとされている事象がいくつかある。そのうちの一つが、未来の出来事を知ることだ。</p><p>お前は俺の名を呼んだだろう。それこそが予知など存在しない証拠だ</p><p>予知によって俺の名を知ったというなら、お前は俺が名乗る場面を予知によって見たということだろう。だがお前は俺が名乗るより早く名を当てた</p><p>それはつまり、未来予知で見た光景と現状がズレている、という事だ。</p><p>儂がお主の名を当てるところまでが運命として決められており、予知する事がそもそも織り込み済みだったとしたならどうかね</p><p>予知によって名を知り、名を知ったことで予知した未来を実現する。</p><p>魔術的には全くもって有りえない話だったが、Olに延々と議論をするようなつもりはなかった。</p><p>証明するのは簡単なことだ</p><p>Olはテナの首を掴み、ぐいと引き寄せる。</p><p>俺がお前を殺すかどうか、その先見とやらで当ててみせろ。殺すといえば殺さん。殺さぬと言えば殺す。どうだ</p><p>老婆の首は酷く細く、Olの腕力でも力を込めれば簡単に折れてしまいそうだった。</p><p>殺さぬという予知を見て、殺すと言えばどうじゃ？</p><p>魔王に命を握られながらも、テナは泰然とした態度でそう尋ねる。</p><p>無駄だ</p><p>Olは低い声で宣言した。</p><p>俺に嘘は通じない</p><p>悪魔というのは、嘘偽りに極めて敏感だ。</p><p>Olを通じてテナの言葉は翻訳されている。</p><p>嘘をつけば、リルがそれに気づかないわけがない。</p><p>お主は儂を殺さぬよ</p><p>躊躇うことなく、Olは腕に力を込める。</p><p>殺せば後悔することになるからな</p><p>老婆は慌てることもなくそういった。</p><p>その首の骨をへし折る寸前、Olは動きをピタリと止める。</p><p>儂を殺せば、一年と待たず</p><p>老婆の指が、マリーを指し、</p><p>その娘は死ぬ</p><p>彼女はそう、宣言した。</p><p>第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-4</p><p>戯れ言を</p><p>Olは吐き捨てるように言ったが、その指先に力は篭もらなかった。</p><p>老婆の言葉を信じたわけではない。だが真実である可能性があるなら、殺してしまう訳にはいかない。そう判断するのがOlという男であった。</p><p>戯れ言かどうかは、お主が一番わかってるのではないかの？</p><p>老婆の言葉に対し、リルから否定の声はない。</p><p>少なくとも嘘はついていないということだ。</p><p>対価は何だ。お前は何を望む</p><p>Olは舌打ちしながら老婆の首から手を離す。</p><p>落ち着きな、お若いの。別にその娘を救う方法と引き換えに何かをしろなどと言うつもりはないわい</p><p>テナは己の喉を撫で擦りながらそう言った。</p><p>儂にとってもお主にとっても、奴は敵なのじゃからの</p><p>奴？</p><p>怪訝な表情で尋ねるOlに、テナはうむと頷く。</p><p>全てを平らげ全てを滅ぼす魔王。それが奴じゃ</p><p>名はないのか？</p><p>ある。あるが、口にすることは出来ぬ。名を呼べばそれだけで奴はそれを聞きつけて、その力を増す</p><p>名を呼ぶだけでだと？</p><p>それはOlにとって、あまりにも理解し難い概念だった。</p><p>そんな魔術など、聞いたこともない。</p><p>自分に同じことが出来るのであれば、侍女にでも毎日名前を呼ばせ続けるところだ。</p><p>まあ良い。そんな存在が実在するとして、俺はその奴とやらとわざわざ敵対する気など無い</p><p>Olが新大陸を訪れたのは、飽くまで侵略ではなく脅威の調査だ。全てを滅ぼすなどという馬鹿げた存在に付き合う義理など無い。</p><p>そうはならんじゃろうな</p><p>どういう意味だ</p><p>そのままの意味じゃよ。お主は必ず、奴と戦う運命にある。なぜなら、儂の先見がそう告げておるからじゃ</p><p>Olは老婆を睨みつけ、やがてゆっくりと腰を下ろした。その動作に連動して、床が盛り上がって椅子を形作り、Olの体を支える。</p><p>良かろう。詳しく説明してみろ</p><p>足を組んで肘掛けに頬杖をつき、Olはそう促した。</p><p>儂らが奴と呼び慣わすかの魔王は、年に一度生け贄を欲する。清く美しい娘をじゃ</p><p>テナの言葉に、Olは渋面を作った。かつて自分自身が同じことをしていたからだ。</p><p>生け贄を渡さねば魔王はこの一帯全てを滅ぼすじゃろう</p><p>愚かなことだ</p><p>それは率直な感想だった。そんなことをしていれば所領がどれほどあっても足りないし、女一人のために村を一つ滅ぼすなど非効率の極みだ。同じ生け贄を欲する魔王でも、奴とやらとOlのやり方は決定的に相容れない。</p><p>そしてこの村に若い娘はもはやユツしかおらぬ</p><p>まさかその為に、お前は孫娘を差し出したのか！？</p><p>Olは立ち上がってテナの胸ぐらを掴んだ。</p><p>ユツはもはや清らかな娘ではない。Olが穢したからだ。</p><p>娘を得られないくらいで滅びを与える暴虐な魔王が、それを許すことなど無いだろう。</p><p>つまり、Olの手によってこの村は危機に瀕しているのだ。</p><p>滅びを粛々と受け入れるよりはよほどマシであろう、悪魔の王よ</p><p>顔色一つかえず、テナは言った。</p><p>待ってください、勇者様！それはボクが望んだことでもあるんです！</p><p>思わず握りしめられるOlの拳を、ユツの両手が包む。</p><p>ボクはずっと、勇者様の話をお祖母様から聞いてました。そして奴の贄となるくらいなら、勇者様の妻になる方がいいと思ったんです</p><p>彼女はOlの腕を胸に抱くようにしながら、彼の瞳をじっと見据えた。</p><p>そしてそれは、間違いじゃなかった</p><p>勝手なことを言うな</p><p>ユツの手を振り払い、Olは椅子に座り直す。</p><p>それで、マリーが死ぬというのはどういうことだ</p><p>お主は奴と戦う運命にあると言ったじゃろう。その戦いで、その娘は死ぬ。それもまた運命として定められておるのじゃ</p><p>Olはその段になってようやく、自分が何故こうまで苛ついているのかに気がついた。</p><p>定められているだと？</p><p>未来が決められているということは、彼が今まで歩んできた道もまた定まっていたという事だ。自ら選び、勝ち取ってきたものが、ただ単に決められていたものだなどという言葉は、到底受け入れられるものではなかった。</p><p>一体誰がそれを定めたというのだ。天か？もしそうであるなら、俺はそんなもの疾うの昔に捻じ曲げたぞ</p><p>腹立たしげに言うOlに、しかしテナは首を振る。</p><p>運命を決めるのは常に人自身。儂であり、お主であり、その娘自身じゃよ、お若いの。そして、じゃからこそ、それは変えることが出来る。そうでなければわざわざお主にこうして助けなど乞わぬじゃろう</p><p>内心で、Olは舌打ちをした。</p><p>思考そのものを先回りされている。</p><p>それは彼女が敵でないにしてもいや、敵でないからこそ、まずい事態だ。</p><p>つまりお前の言う運命とは知っていてもなお避けられない筋道。そういうわけか</p><p>然り</p><p>Olが奴と遅かれ早かれ敵対するのは、理解できる。その性質を対立させる魔王同士が共存できるわけもなく、出会えば確かにそれは敵となるだろう。互いに勢力を広げていくつもりなら避けられない。</p><p>マリーを我らの本拠地に連れ帰ればどうなる？それでも奴とやらはこの娘を殺すのか</p><p>いいや。そうはならぬ</p><p>テナの言葉にOlは胸を撫で下ろすと同時に、それがただの脅しであったことに気付いてほぞを噛む。</p><p>儂の力では逃げ出すことは出来ても、奴を倒すことは出来ぬ。お主は単独でも奴を倒しうるかも知れぬが、災いを避けることは出来ぬ。それ故、互いに協力し奴を討ち果たそう。そういうことじゃ</p><p>なるほど</p><p>それはどちらの損にもならない申し出だった。</p><p>テナの先見の強力さはOl自身が十分味わっている。</p><p>何よりその能力は、無駄な争いを出来る限り避け、この大陸の内情を探りたいというOlの目的とこれ以上無いほど合致する。</p><p>お前の能力が本物ならば、俺がどう答えるかもわかっているのだろう？</p><p>何故じゃ</p><p>だからこそ、Olはこの話を受ける気はなかった。</p><p>そう問うということは、俺は理由を答えることはないと決まっているわけだ。お前の言う、運命とやらでな</p><p>それだけ言って、Olは立ち上がる。同時に床から生えた椅子はぐにゃりと歪み、もとの平らな床へと戻った。</p><p>勇者様！</p><p>離せ</p><p>縋るように伸ばされるユツの腕を、Olは振り払う。</p><p>勇者などと呼ぶな。俺はそのような都合の良い代物ではない</p><p>そう言い残し、Olはリルとマリーを伴ってその場を立ち去った。</p><p>ふぅ</p><p>その背を見届けて、テナは深く深く息をつく。</p><p>気を抜いた途端、堪えていた冷や汗が一気にぶわりと全身から吹き出した。</p><p>まったく、老骨には堪えるわ</p><p>何をされても何を言われても平然とした態度を取る。</p><p>それが、あの魔王と対等に渡り合うための最低条件だった。</p><p>断られてしまいましたが、良かったのですかお祖母様</p><p>ああ。とりあえずはこれが最善手じゃ。案ぜずとも</p><p>どのように話を持っていこうと、この時点でOlが手を組んでくれる未来はない。</p><p>既に楔は打たれておる</p><p>だがそれは、彼女の思い描く未来への道を断つものではなかった。</p><p>Olさま。どうして協力しなかったんですか？</p><p>帰る道すがら、マリーはOlに問うた。</p><p>理由は色々あるが簡単に言えば、信用ならないからだ</p><p>でも、嘘はついてなかったんですよね？</p><p>そうね。そこは間違いない。あのお婆ちゃんは一回も嘘をついてないわ</p><p>マリーの言葉を、リルが胸を張って請け負う。</p><p>なんかリルがそう言うと逆に心配になってきた</p><p>何でよ！？</p><p>そんな彼女に、マリーは疑わしげな視線を向ける。</p><p>だってリルって結構うっかりしてるし</p><p>あのねえ</p><p>リルがそう言うのなら、間違いはない</p><p>この小娘どうしてくれよう、と腰に手を当てるリルにOlが助け舟を出す。</p><p>そうなんですか？</p><p>意外そうに、マリーは目を丸くした。</p><p>Olは何かとリルに対して、詰めが甘いとか仕事が雑だとか言っているイメージがあったからだ。</p><p>こいつは俺の右腕だぞ</p><p>端的なOlの言葉に、マリーははっと息を呑む。</p><p>大陸を統べる魔王の片腕。よくよく考えてみれば、それはつまり大陸全土で二番目の地位にいるということに他ならない。ましてやOlは徹底した実力主義だ。妻だから、仲が良いからという理由で重用しているわけではない。</p><p>リルって凄い人だったの？</p><p>ま、少なくともわたし相手に嘘を突き通す人間なんてのが想像できないのは確かなことね</p><p>素直な尊敬の目を向ければかえって面映ゆい様子で、リルはそう答えた。</p><p>でも、っていうことは、あのお婆ちゃんはほんとに未来を見れるってこと？</p><p>信じがたいが、そういうことだろうな</p><p>忌々しげにOlは頷く。</p><p>読心術や予言を組み合わせて似たようなことを出来なくもないが、それならリルはそれを嘘と見抜く。半端な悪魔なら見逃してしまうだろう些細な言い換えや根拠のない思い込みも、今の彼女ならば鋭敏に察知するのだ。</p><p>だからこそ、Olは協力を断った。</p><p>もし予知などというものが本当に可能だとすれば、そんな相手と行動をともにするのは非常に危険が伴う。将来彼女を信用し、信頼することになったとしても重要な情報は渡せない。未来で渡すのと現在渡すのは、予知できるものにとって等価だからだ。</p><p>いずれにせよ、これきり無視するというわけではない</p><p>無視するには、テナのもたらした話はあまりに重要で無視できないものだった。</p><p>情報の面で完全に上をいかれている以上、その対策を練る時間が必要だ。</p><p>どことなくぼんやりとしていた様子のマリーは、はっとあることに気付いた。</p><p>あれ？じゃあわたし死んじゃうの？</p><p>お前は本拠地のダンジョンに戻れ。そうすれば死なないとテナとやらも言っていただろう</p><p>えっ、そうだっけ？</p><p>自分の生き死にに関係することだろうに、とOlはマリーの呑気ぶりに嘆息する。</p><p>少なくとも、こちらにいる我々を無視していきなり海を超えて攻めてくることはあるまい。攻めて来ても本拠地にはユニスもメリザンドもいる。お前に累が及ぶことはあるまい</p><p>渋々と、マリーは頷く。</p><p>リルはOlの右腕だ。英雄であるユニスは言うまでもなく、スピナだってOlの一番弟子。メリザンドもOlの迷宮に欠かせない相談役だ。</p><p>彼の傍にいる女性たちは誰もが優れた能力を持ち、迷宮の運営に貢献している。</p><p>そんな中で、マリーだけが、何者でもなかった。</p><p>優れたものの集団に紛れて同じ立場のような気になっていたが、そうではないのだ。それをようやく、彼女は自覚した。</p><p>Olはダンジョンの扉を開き、マリーを促す。</p><p>おかえりなさい、まま！</p><p>途端、ソフィアが駆け寄り彼女に抱きついてきた。</p><p>留守中ソフィアを見ていてくれたスピナが、ぐったりとした様子でOl達を出迎える。</p><p>いつも隙なく鉄面皮を保っている彼女の珍しい様子に、Olは思わず問う。</p><p>いえ、大したことではただ、マリーにママに会いたい、と少し暴れまして</p><p>彼女の乱れた髪を見れば、少しどころでなかったことは明白だ。</p><p>Olさま</p><p>足にしがみつくソフィアを抱き上げながら、マリーは後ろを振り向いた。</p><p>わたし、やっぱり帰れない。この子を置いていけないもの</p><p>幼子の目尻に溜まった涙を拭いてやる少女の表情には先ほどまでの幼さはなく、我が子を守る母親の決意に満ちている。Olはかつて、その表情を見たことがあった。産んだばかりの我が子を抱くユニスの浮かべていたそれと、同じ表情だ。</p><p>なるほどそういうことか</p><p>Olは渋面で呟く。</p><p>そうはならぬ</p><p>あの言葉は、ダンジョンに帰ればマリーは死なないという意味ではなかった。</p><p>マリー自身が、ダンジョンに戻ることを選択しないという意味だったのだ。</p><p>第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-5</p><p>うむ？</p><p>妙な寝苦しさにテナは目を覚ます。</p><p>なんじゃ？</p><p>いつの間にか彼女は、全く見覚えのない部屋で横たわっていた。</p><p>壁は見慣れた木材ではなく赤茶けたレンガで出来ていて、テナの眠る部屋から通路が一本、見通せぬほど先まで真っ直ぐに続いていた。</p><p>流石にそのまま寝直すことも出来ず、老婆は身を起こす。</p><p>おかしい</p><p>通路を恐る恐る歩きながら、彼女は口の中で呟いた。</p><p>未来が、見えないのだ。能力を封じられたのか、あるいは己の命運が尽きたのか。</p><p>しかし昼間に見た時には自分の未来は変わらず見えたし、こんな場所に放り込まれるような未来は見なかった。</p><p>ということは、他に考えられる可能性は</p><p>夢か？</p><p>まあ、そのようなものだ。お前にとってはな</p><p>呟けば、声が返ってきた。聞き覚えのある声だった。</p><p>Ol？</p><p>長い長い通路の行き止まりには、最初にテナが寝ていたのと似たような部屋があった。</p><p>そこに待ち受けていたのは声の主。魔王Olだ。</p><p>どういうことじゃ？</p><p>テナが問うと同時、唐突に未来が見えた。</p><p>大きな鏡を見せられ、そこに映る像に驚くテナの姿だ。</p><p>そしてその未来像自体に、テナは驚愕した。</p><p>慌てて己の手を見れば、そこにあったのはいつもの枯れ木のような腕ではない。</p><p>若々しい張りに満ちた、滑らかな手の平だった。</p><p>予知能力というのは便利なものだな。まあ、一応見ておけ</p><p>呆れ半分に言いつつOlは鏡を差し出す。そこには予知で見た通りのものが映っていた。</p><p>ピンと伸びた背にシワ一つない肌、腰まで伸びる艷やかな銀の髪に、黒曜石のような瞳。</p><p>ユツによく似た、美しい少女の姿だ。</p><p>お前の能力は、未来を見通すものだ。過去を見通すものではない</p><p>Olは言った。</p><p>あの通路は時を逆向ける道だ。進むことは即ち過去へと戻るということ。だから、進む先に何があるのか見えなかっただろう？</p><p>何が目的じゃ</p><p>まさに、それが知りたいのだ</p><p>Olはテナをぐいと抱き寄せる。</p><p>お前が何を企んでいるのかを、な</p><p>儂が望んでいることは既に話したはずだ。奴を</p><p>ああ、いい。話す必要はない</p><p>若きテナの言葉を遮り、Olは首を横に振った。</p><p>お前の体に直接聞くからな</p><p>こんなババアを抱く気か？</p><p>テナの言葉に、Olはくっと笑い声を漏らす。</p><p>何がおかしい</p><p>いや、お前は毎回同じことを言うな。安心しろ。実年齢で言えば、ちょうど互いにこのくらいの歳の差だ、小娘よ</p><p>言いつつ、Olはテナをベッドの上に押し倒した。</p><p>魔術師の細腕なのにその力はまるで万力のようで、テナは抗うことも出来ずに男に組み敷かれる。</p><p>さあ、得意の予知で当ててみせろ。俺は今からお前に何をする？</p><p>言われるまでもなく、テナは未来を見ていた。</p><p>Olがその剛直を彼女に突き入れ、荒々しく犯す姿を。</p><p>ふん、下らん。好きに犯すがいい</p><p>肉体が若返ったとはいえ、その精神はとうに枯れた老婆である。</p><p>今更陵辱を受けて泣き喚くような可愛らしさなどとっくに朽ち果てている。</p><p>なるほど、ではそれはやめておこう</p><p>そんな心境で吐き捨てれば、唐突に未来の姿が変化した。</p><p>さあ次だ。俺はお前に何をする</p><p>次に映ったのは無理やりペニスを口の中にいれられて、白濁を飲まされる未来だ。</p><p>口淫などという文化を持たないテナにとってそれは酷くおぞましく屈辱的な光景で、思わず彼女は盛大に顔をしかめる。</p><p>貴様なんという</p><p>見たな？では次だ</p><p>その瞬間、未来像は再び変化した。</p><p>テナが見た未来視の結果を受けて、Olは未来を変化させる。</p><p>Olはけして、伝えられた行為をしようとはしないからだ。</p><p>テナが言葉で伝えずとも彼女の表情の変化を巧みに読んで、Olはそれを察知する。</p><p>若い肉体は些細な感情の変化にも敏感に反応して、老婆の時のように無表情を貫くことは出来なかった。</p><p>未来の姿はまるで万華鏡のように、くるくると無限に流転していく。</p><p>その中でテナは何千回も何万回も犯され、穢され、辱められた。</p><p>はぁっ、はぁっ</p><p>予知の途中で予知が変わることなど初めてで、そのあまりの情報量にテナは目がくらむ思いだ。</p><p>息は荒く、汗がしとどに流れ、もはや何が現で何が夢なのかもわからない。</p><p>ああぁっ！</p><p>そこにOlの指が突き刺さり、彼女は高く声を上げた。</p><p>テナの中心を、無骨な指が深く抉っている。いや、それは未来の像だ。実際の指は、テナの薄い乳房を鷲掴みにしている。いや、いや、違う。尻に、うなじに、太股に、指先に、唇に。</p><p>そら、次はどうする</p><p>もはやどれが未来で、どれが現在であるかすらわからない。何千本もの指が、テナの身体を這いまわっていた。それらは全て的確に彼女の快楽を引き出し、昂ぶらせていく。</p><p>指だけではない。掌が、唇が、舌が、テナの全身をくまなく愛撫する。</p><p>それは彼女が長い人生で味わったことのある中で最高の快楽を容易く超えて、更に何千倍もしたかのような体験だった。</p><p>や、やめやめ、て</p><p>何千回も絶頂を味わわされて、テナは息も絶え絶えに懇願する。</p><p>何を言う。俺は何もしてはおらんぞ</p><p>Olの言葉とともに、幻視は全て消えた。彼の言う通り、Olはまだ何もしてはいない。全ては可能性の世界の中の、未来の体験だった。</p><p>まだ</p><p>その可能性は一瞬にして、一つに収束する。</p><p>ぐうぅっ！</p><p>それと同時に、Olの肉槍はテナの秘部を貫いていた。</p><p>両脚の間に感じるのは、破瓜の痛みだ。</p><p>孫娘がいる以上、彼女は確かに妊娠出産を経ているが、時を戻された肉体は処女のそれだった。</p><p>くあぁぁあんっ！</p><p>それ以上に強い快楽が、鈍い痛みを一瞬にして押し流す。</p><p>幻視の体験で昂ぶりきった肉体は、貪欲に男のものを咥え込んでその快楽を味わっていた。</p><p>次はどうして欲しい？</p><p>耳元でぼそりと囁かれる。テナはぐっと唇を引き結んだが、魔王の前には無駄だった。</p><p>なるほど、奥深く、ゆっくりと、だな</p><p>先ほどまでと、全く逆のことが起こった。</p><p>幻視で見た動きを、Olの実体がなぞって繰り返していく。</p><p>しかも予知で感じた些細な不満を拾い上げて修正し、よりテナが感じる部分を抉っていくのだ。</p><p>なんっなん、れこんな、あぁっ！</p><p>Olから逃れようと身を捩れば、突き出す格好になった尻を後ろから鷲掴みにされ突き入れられる。そんな未来に抗わずOlに尻を向けて、テナは気付いた。</p><p>あああぁぁぁぁっ！</p><p>もはや、自分がこの男に犯されることに悦んでいると。</p><p>無限に続くかのような陵辱は、やがて終わった。</p><p>テナの身体は汗と愛液と白濁とにまみれ、叫び続けた喉はひりひりと痛み、何度も絶頂に導かれた身体は鉛のように重い。</p><p>さて、目覚めの時間だ</p><p>答える気力すらなく、テナは気だるげに視線をOlに向けた。</p><p>お前はこの夜のことを全て忘れ、老婆に戻る。お前自身は初めてだと思うておるだろうが、こうしてお前を嬲ったのはもう何度になるか</p><p>言われた瞬間、彼女は全てを思い出した。</p><p>思い出したか？ここが、逆向きの終着点だ。空に投げた石が再び落ちるように、お前は元の老婆に戻る</p><p>Olの言葉とともに手がしわがれ、足が萎え、腰が曲がっていく。</p><p>そしてそれと連動するかのように、記憶がぽろぽろと欠けていき</p><p>テナは、意識を失った。</p><p>お祖母様、起きて下さい</p><p>むもう少し、寝かせてくれんか</p><p>孫娘の声に、テナは目を瞑る。</p><p>ここ数日、妙に身体がだるくて朝起きにくい。</p><p>どれだけ寝ても疲れが取れないばかりか、余計に疲れているような気さえした。</p><p>そろそろ迎えが近いのかもしれない。</p><p>その前に、あの悪魔の王に奴を討ってもらわなければ。</p><p>欲を言えば共倒れになってもらうのが一番だが、最悪でも奴を倒して貰わなければこの村ばかりか周辺一帯に何も残らない。</p><p>それだけは避けねばと思いつつ、四苦八苦して身体を起こす。</p><p>ぐっ</p><p>起き上がると、脚がずきりと傷んでテナは呻く。</p><p>軋むような節々の痛みとは別の、鋭い痛みだった。</p><p>不審に思って脚を撫ぜると、覚えのない傷がそこについている。</p><p>爪を立ててつけたような傷だ。</p><p>寝ている間に、寝ぼけて付けてしまったのだろうか。</p><p>そう思って撫ぜるうちに、ふとテナはあることを思いついた。</p><p>未来を、明日の朝を見る。すると今付いている傷は消え、別の傷がそこに残っていた。</p><p>明後日を、その次を、更に見るたびに傷はその場所を変えていく。</p><p>テナは急いでそれを紙に書き留めた。</p><p>これは</p><p>それはただの傷では無く。</p><p>Olヲコロセ</p><p>そう書かれた、文字だった。</p><p>第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-6</p><p>んむ？</p><p>寝苦しさを覚え、今日もテナは夜中に目を覚ます。</p><p>寝床を抜けて、未来が見えないことに不審を抱きつつもレンガ壁の通路を通り、Olの待ち受ける部屋へと辿り着く。</p><p>そして鏡を見せられて、己の若返りに気付く。</p><p>毎夜繰り返されてきたやり取りだ。</p><p>む！</p><p>だが、そこから先は違った。</p><p>ぼたぼたと垂れる血に、Olは顔をしかめる。</p><p>夜着を翻し、短刀を構えたテナは、Olの肘から手の平までを切り裂いてついた血を刃から振り払った。</p><p>なるほど。こういうわけじゃったか</p><p>テナが傷の形で未来の自分から送られた情報は、短く簡素な物だった。</p><p>しかし寝る前についていなかった傷が起きた後に付いていることから、その間に何かが起こっていることは明白だ。</p><p>彼女はそれを武器を準備しておけという忠告であると受け取り、夜着に短刀を隠して床についた。そして、その選択はどうやら正しかったようだ。</p><p>そんな小刀で俺に勝つつもりか？</p><p>ふん。儂を若返らせたのは失策じゃったな</p><p>テナは己の親指に短刀の先を押し当てる。</p><p>ぷつりと浮かぶ血の珠を瞼の上に赤く塗って、彼女は叫んだ。</p><p>来い！</p><p>銀の髪の毛がざわりと蠢き、側頭部からは獣のような毛に覆われた三角形の耳が生え、夜着の裾からはふさふさとした尾が伸びる。</p><p>ほう。ライカンスロープともまた違うか</p><p>感心したように、Olは呟いた。</p><p>彼の知る獣人(ライカンスロープ)とは違い、耳や尻尾が生えても元々の身体自体には変化がなく、瞳に宿る知性の光も失われてはいないようだった。</p><p>タツキといい、どうやらこの大陸には身体の一部だけを変化させるものが随分多いようだ。</p><p>テナの四本の尻尾の先端に炎が灯り、ふわりと浮いてOlに向かい飛来した。</p><p>矢よりも早い速度で宙を走るそれは、しかし全てキューブに防がれる。</p><p>ダンジョンの中で俺に勝てると思うなよ</p><p>それはどうじゃろうな</p><p>言葉とともに、Olの眼前からテナの姿が掻き消えた。</p><p>幻術か</p><p>だが消えたのはどうやら姿だけだ。</p><p>ほんの微かな足音と、ダンジョンの中の空気の動きからOlはテナがまだそこにいることを察知する。それを追って視線を向けると、キューブがぐるりと動いて彼の背後で火花を散らした。</p><p>チッ</p><p>テナは舌打ちする。空中を飛んで不意をついたつもりだったが、どうやらOlの防御は本人の意思とは無関係に攻撃を防ぐらしい。見えていようがいまいがお構い無しだ。</p><p>そっちだったか</p><p>Olが呪文を唱えると、幻術が解除されてテナの姿が露わになる。</p><p>同時に床石がいくつも隆起して、彼女を捕らえようと触手のように伸びた。</p><p>複雑な動きで動くそれを、テナはするりと容易くかわす。</p><p>次々と襲いかかる触手は紙一重で避けられて、互いに巻き付き合い、塊になった。</p><p>身体能力が強化されているだけでなく、彼女は予知が出来るのだ。</p><p>相手が動くよりも先に避ける事ができた。</p><p>ならばこれでどうだ</p><p>Olがその行動を実行に移すよりも早く、テナはそれを見る。</p><p>檻のように床が迫り上がって、テナを閉じ込めるつもりだ。</p><p>素早くすり抜けようにも範囲が広すぎて間に合わない。</p><p>ならば！</p><p>彼女の身体が細く長く伸び、まるで蛇のようになって檻の隙間をすり抜けた。</p><p>器用な芸当をする</p><p>もっと器用な真似も得意じゃぞ</p><p>言葉とともに再び炎が投げつけられた。自動で展開するキューブの防護。</p><p>だがテナの炎は今度はそれをすり抜けて、Olに着弾した。</p><p>くっ！</p><p>慌ててOlは魔術を起動し、己のローブに燃え移った炎をかき消す。魔術の込められた特性のローブは、その柔らかな感触とは裏腹に下手な鎧などよりよほど硬く火も寄せ付けないが、それでも何発も撃たれればOlの身体の方が持たないだろう熱量を持っていた。</p><p>なるほど、迷宮か</p><p>テナは少女の顔でにやりと笑う。Olの防御の仕組みを早くも見抜いたのだ。</p><p>キューブは攻撃に対して自動的に展開し防御しているように見えるが、実はそうではない。</p><p>攻撃を察知し、防ぐ。それは非常に高度な魔術が必要だった。</p><p>近づいてくるものに対し、何が攻撃で、何が攻撃でないかを判断しなければならないし、その速度にも対応できなければならない。そういった部分に気を使えば使うほど防御能力には関係ない部分で大量の魔力を消費するし、それを超える速度の攻撃には対応できない。</p><p>Olの防御はもっと単純なものだった。目に見えないだけで、常に彼の周囲には防御壁が展開しているのだ。それを悟らせないために、攻撃を防いだ部分だけが実体化してまるで壁が伸びたように錯覚させる。これがキューブの本当の姿。Olを常に囲む、小型の迷宮(ラビュリントス)だ。</p><p>全てを囲んでしまうと窒息してしまうし、外部に対して魔術を使うこともできなくなってしまう。かと言って攻撃の時だけ防御を解くなど言語道断だ。</p><p>それを解決するのが、見えない迷宮だった。例えどんなに曲がりくねっていようと、Olならばその道を通じて外部に魔術をかけられる。</p><p>だが、Ol以外のものが見えない迷宮を潜り抜けるなどというのはほぼ不可能だ。目に見えず、曲がりくねった道を正確に通すことなど、エレンのような弓の名手ですら出来ることではない。</p><p>そら、ゆくぞ！</p><p>テナには、それが出来た。</p><p>生み出す矢が形をもたない炎の塊であるということ。</p><p>そして何より、未来を予知して正解のルートを辿るまで無限に施行を繰り返せるという性質が、絶対の防御を打ち崩したのだ。</p><p>させるか！</p><p>Olは壁に手をついて、迷宮自体を操った。キューブの壁で防げないなら、ダンジョンの壁で防ぐまでだ。</p><p>しかしそれこそ、テナの狙いだった。</p><p>チャンスは一度。しかし失敗することは絶対に無い。</p><p>なぜなら、失敗するならそれも予知で見ることが出来るからだ。</p><p>そしてテナには、成功するビジョンだけが見えていた。</p><p>曲がれっ！</p><p>くい、と指を横に向けるテナの仕草に呼応して、炎はOlの繰り出した壁ではなく、その根本に突き刺さって爆発した。堅牢なダンジョンの壁に、ほんの僅か、小さな穴があく。しかしテナにとってはそれで十分だ。小さな鳥に変化して飛び、更に虫に変じて穴から外に出る。</p><p>Olの迷宮魔術は石を生み出すわけではない。動かすだけだ。</p><p>だから床を操作すれば床が、壁を操作すれば壁がその分薄くなる。</p><p>その隙を突けば、テナの炎で破壊することは十分可能だった。</p><p>ユツ！</p><p>お祖母様！</p><p>迷宮を抜け出した先に、テナは孫娘の姿を認めて彼女の名前を呼んだ。</p><p>同時にテナは未来を幻視する。Olの放った石の槍が、ユツの胸を貫くのを。</p><p>振り向きながら、彼女は尾をぶんと振る。</p><p>四振りの刀に変じた尾は細く長く伸ばされた石槍を切り落とす。</p><p>石槍は宙を舞って地面に落ちた。</p><p>ユツの頭から、ぴょこりと丸い獣の耳が飛び出す。</p><p>テナ同様、妖魅を降ろせる彼女と二人でなら勝つことも可能なはずだ。</p><p>戦闘に限って言えば、ユツはテナよりも強い。</p><p>力を貸すんじゃ！</p><p>ゆっくりと壁を開き、出てくるOlを睨みつけながらテナは叫ぶ。</p><p>その両脇に、ユツの腕がするりと滑り込んできた。</p><p>な何をする！？</p><p>ユツの両腕はテナの腕をがっしりと締め付けている。</p><p>いわゆる、羽交い絞めの状態だ。</p><p>儂じゃ、お前の祖母、テナじゃ！</p><p>はい。わかってます、お祖母様</p><p>若返っているからわからないのかと思って言えば、ユツはいつも通りの笑顔で答えた。</p><p>どういうことじゃ</p><p>言葉の後半は、力なく呟かれる。</p><p>問い詰めるまでもなく、テナは予知によって全てを悟ったからだ。</p><p>お祖母様がボクを守ったらこうしろと、Ol様に言われていたんです</p><p>その予知で見た通りの言葉を、ユツは語る。</p><p>騒ぎを聞きつけてか村人たちが姿を現したが、彼女たちに助けを求めるつもりにもならなかった。</p><p>助けにならない予知が見えたからではない。</p><p>若い娘などユツしかいなかったはずの村なのに、姿を見せた女たちは皆一様に、少女のような若々しさだったから。</p><p>村自体が既にOlの手に落ちていた事を、ようやく悟ったからだった。</p><p>閑話巫女祖母孫を調教しましょう-前</p><p>わぁっ、凄いです！</p><p>ドボドボと流れ落ちる水の音と、もうもうと立ち上る白い湯気。</p><p>見たこともないほど広く大きい風呂場に、ユツは両手を胸の前で組んで感激の声を上げた。</p><p>本国にある湯殿に比べれば、これでも随分小さいがな</p><p>十人は一度に入れそうなのにですか！？</p><p>海水に魔力が含まれていることは嬉しい誤算だった。</p><p>無論龍脈のそれに比べればごくごく微々たる量ではあるが、しかし絶えず打ち寄せる海の水はどれだけ汲めども尽きぬ魔力源である。少なくとも海水を濾過して真水を作り、日に一度湯を張るくらいの贅沢は許される程度の暮らしは保証されていた。</p><p>それはいいんじゃが</p><p>ユツによく似た、しかし苦々しい声が響く。</p><p>何故儂まで一緒に風呂に入らねばならんのじゃ。それも、こんな姿で</p><p>若く美しい少女の顔を、テナは思い切り不満げに歪めてみせた。</p><p>お前には腹を割って色々と話してもらわねばならんからな</p><p>散々話したじゃろう</p><p>湯に浸かりながら、テナは唸るように呟いた。</p><p>湯の温度は憎らしい程に彼女好みの熱めで、一体どれだけの情報を吐かされたのか彼女自身想像もつかないほどだった。</p><p>Olが警戒した割に、テナが秘めていたのは企みというほどのものでもなかった。</p><p>彼が遠からず奴と敵対することになっていたのは本当のこと。</p><p>しかしそれは、テナたちの村が滅ぼされた後のことだ。</p><p>テナはその時期を少し早め、自分たちを守ろうとしたに過ぎない。</p><p>いいや。まだあの妙な変身のことは聞いておらぬ</p><p>変身？ああ。巫術の事か</p><p>テナが銀の髪をかきあげると、その隙間から獣の耳、そして尻から同じ色の尾が四本にょきりと生えた。</p><p>口寄せ、召鬼などともいう。精霊を己の身に降ろし、その力を得る術じゃ</p><p>精霊を？</p><p>精霊の力を借りる術はOlの扱う魔術にもある。自力で炎を起こすよりも、精霊を魔力で操って炎を起こすほうが少ない魔力で大きな力を出すことが出来るからだ。</p><p>だが、精霊を瓶や宝石に封じておくようなことはあっても、自分の身体にとり込んだりはしない。</p><p>ええっと、精霊というよりは、妖魔の方が近いかもしれません。こちらの言葉では、妖魅というんですけど</p><p>Olと魂で結合しているユツが、そう訂正した。</p><p>儂が降ろすのは天狐と呼ばれる狐の精じゃ。千年を生き、四本の尾を持つ狐は人の扱える精霊の中では最上級と言われておる</p><p>ほう。千年か</p><p>どこか誇らしげに薄い胸を張るテナに、メリザンドよりは年下だな、とOlは内心呟く。</p><p>ついでに言えばローガンよりもだ。</p><p>ボクはお祖母様ほど高位の精霊は扱えないんですが、このくらいなら降ろすことが出来ます</p><p>ユツが自分の眉に何かを塗る仕草をすると、彼女の身体に変化が起きた。</p><p>頭から獣のような耳が生え、腰からは尻尾が伸びる。</p><p>三角形のテナの耳に対してユツのそれは丸く、すらりとした流線型のテナの尾と違ってユツの尾は太く丸く、一本だけだ。</p><p>しかしもうひとつだけ、大きな違いがあった。</p><p>それは平らなままのテナのそれとは対象的な、豊かな胸の膨らみだ。</p><p>そんなところまで変化するものなのか</p><p>はい。変身能力と肉体の強化だけでいえば、お祖母様の天狐よりも上です</p><p>ユツがえへんと胸を張れば、それに従って二つの果実がぷるんと揺れた。</p><p>実体を持っているのだな</p><p>頭に触れれば、そこに生えた耳は幻影ではなく、ふわふわとした感触がかえってくる。</p><p>はい。こちらもちゃんと中身があります</p><p>ユツはそう言いながら、Olの手を自分の胸元に押し当てた。</p><p>どういう原理だ？</p><p>揉みしだけばその感触は間違いなく人の肉の柔らかさだ。詰め物や紛い物にはけしてない弾力とずっしりとした重みがあった。大きな胸から小さな胸まで何百と触ってきたOlでさえ、真贋の判別がつかない。</p><p>狸は大食を司る面があるので、どうしても太ってしまうんだそうです</p><p>太るという割に、ユツの身体つきはほっそりとして小さく華奢なままだ。</p><p>強く握れば折れてしまいそうなその身体に不釣り合いに膨らんだ大きな胸元は、その清廉でいとけない顔立ちとの対比でかえって淫靡な雰囲気を醸し出していた。</p><p>天狐の能力は変化、幻術、狐火、そして未来予知じゃ</p><p>一方でテナの方は顔立ちこそユツに似ているものの、その顔つきにあどけなさはなく、老成した知性の光の灯った鋭い眼差しがあった。酸いも甘いも噛み分けたであろうその人生とは裏腹に肉体は細く未発達で、どこか浮世離れした美しさを備えている。</p><p>まさかあんな弱点があるとは、儂も知らなんだがの</p><p>予知によって行動を変化させた場合、その結果未来がどう変化するかは実際に変化させるまでは予知できない。</p><p>Olが度重なる実験によって突き止めた、テナ自身さえ知らない予知の欠点であった。</p><p>なるほど。一つの術で複数の能力を同時に得られるわけか</p><p>頷きつつ、何となくOlはテナの尾を撫でる。</p><p>実体ではないせいか、そこは湯に浸かっても萎れることなくふさふさとした感触を保っていた。</p><p>ひぅん</p><p>妙な声を出すな</p><p>お、お主が妙な所を撫でるからじゃろうが！</p><p>眉根を寄せるOlに、テナは四本の毛を逆立てながら叫んだ。</p><p>神経も通っているのか</p><p>Olが感心したように言うと、テナは口をつぐむ。</p><p>霊的に接続されている部分ですから、むしろ敏感なんです</p><p>しかしユツがあっさりとそうバラした。</p><p>ええい、余計なことを言いおって</p><p>お祖母様は予知できるのですから、ボクに言われるのはわかっていたことでしょう？</p><p>い、今は見ておらんのじゃ！</p><p>小首を傾げるユツに、テナは叫ぶ。</p><p>ほう。何故だ？</p><p>そ、それは</p><p>ニヤリと口の端を笑みに歪めるOlに、テナは後退りしながら口ごもった。</p><p>こうなるからか？</p><p>や、やめいと言っておるだろう！</p><p>Olは逃げるように身を捩るテナの腰に腕を回し、その尻尾を撫で擦る。</p><p>Ol様、ボクも撫でて下さいませんか？</p><p>ユツは飽くまで控えめな態度で、しかしその豊満な胸をOlの腕に押し付けながら彼を見上げた。</p><p>いいだろう。祖母孫纏めて相手してやる</p><p>言いつつ、Olは湯船の中立ち上がる。</p><p>なななんじゃ、それは！？</p><p>その屹立した彼の怒張を見て、テナは目を大きく見開き叫んだ。</p><p>何と言われても別に男の性器を見たことが無いわけでもあるまい</p><p>そんな凶悪なモノ、見たことあるわけがあるかッ！</p><p>孫までいる女が今更何を言っているのだ、と眉を顰めるOlに、テナは声を震わせる。</p><p>へそに張り付いてしまうのではないかと思うほど硬く反り立った赤黒い肉の茎は、腕くらいあるのではないかと錯覚してしまうほどに太く長い。表面には太い血管が走り、どくどくと脈打っているのがわかった。</p><p>先端にはまるで槍の穂先のようなぷっくりとした頭がついていて、湯を浴びて濡れたそれは艷やかな光を反射していた。</p><p>大きさも形もテナの知る男根とはまるで違うもので、彼女は思わずそれをマジマジと見つめてしまう。</p><p>するとユツは自然な様子でOlのペニスに手を伸ばすと、舌を伸ばしてその先端を甜め上げ始めた。</p><p>ユツ！な、何をしておるんじゃ！？</p><p>これからボク達を可愛がってくれる大事な場所を、お清めしてるんです</p><p>そう言って太い肉塊を口に含む孫娘の姿に、テナは驚愕する。</p><p>そ、そんなところを気でも狂っておるのか！？そこは、排泄する場所なんじゃぞ！？</p><p>でもこうすると、Ol様は凄く喜んでくれるんですよ。ほら、お祖母様も</p><p>ユツはテナの手をぐいと引く。</p><p>ヒッ</p><p>すぐ目の前に迫るグロテスクな肉の塊に、テナは身を震わせた。そんな彼女に構うことなく、孫娘はそれを下から甜め上げていく。</p><p>今まで一度も見たことのない、いやらしく浅ましい雌の表情だった。</p><p>とろんと瞳を蕩けさせ、幸福で仕方ないとでも言わんばかりにユツは男に奉仕する。</p><p>テナが普段知る、健気で素直な愛らしい孫の姿とはかけ離れた光景は、まるで現実感がなかった。</p><p>ユツ、お主、何故そんなに手馴れているんじゃ</p><p>Ol様のものになれと言ったのはお祖母様ではないですか。お祖母様の知らない間に、ボクも沢山、可愛がって頂いたんですよ</p><p>ユツは己の双丘を両手で持ち上げると、それでOlの男根を挟み込んでみせた。</p><p>魂の端で繋がった彼女は、声に出さずともOlの大まかな感情くらいは感じ取れる。</p><p>それに伴って教え込まれた奉仕の仕方を、ユツはまたたく間に習得してしまった。</p><p>幼く素朴な顔立ちの娘が男のものを乳房で擦り上げ舌を伸ばして先端をチロチロと舐め上げるさまは、娼婦が裸足で逃げ出しそうな淫猥さだ。</p><p>お前もやってみろ</p><p>左手でユツのたっぷりとした乳肉を、右手でテナの小さな尻を鷲掴みにしながら、Olがぐいと腰を突き出し、テナの鼻先にそれを近づける。</p><p>一瞬覚悟したすえた臭気のようなものは感じられず、テナは思わずくんと鼻を鳴らす。</p><p>失礼な奴め。臭うような状態で放置するものか。そうでなくとも今洗ったばかりだろうに</p><p>ボクはOl様の汗の匂い好きですけど</p><p>憮然とするOlの横で、ユツはぽっと頬を染めた。</p><p>そら、もたもたするな</p><p>尻を軽く叩かれて、テナはキャンと鳴きながらそそり立つものに恐る恐る口をつける。</p><p>嫌悪感は、思ったよりもなかった。</p><p>尿の味や匂いといったものは微塵もなく、ただぬるくなった湯の感覚だけが舌先に感じられる。</p><p>ではお祖母様は、先の方をお願いしますね</p><p>ユツはそう言って四つん這いになると、Olの脚の付け根から肉の袋を食むように愛撫を始めた。大きな胸が重力に従ってぶらんと吊り下がり、尻から生えた太い尾がゆらゆらと振られる様は、テナでさえどきりとしてしまうくらいに扇情的だ。</p><p>ユツはごくりと唾を飲み込み、Olの肉槍を両手で掴む。それは鉄で出来ているのではないかと思うほど硬く、火が灯っているのではないかと思うほど熱かった。脈打つそれの先端を、テナは意を決して口に咥える。</p><p>その裏の筋のところを甜めてみろ</p><p>そんな言葉とともに、Olはふわりとテナの耳を撫でた。</p><p>んんっ</p><p>ピクピクと狐耳を動かしながら、テナは言われた通りに舌の先で裏筋をなぞる。すると肉塊はピクリと震え、口の中に今まで感じられなかった味が滲んだ。</p><p>それが先走りの汁であるということくらいは、テナにもわかる。</p><p>そんなものを口の中に入れるのは初めてだったが意外にも、それはさほど悪いものではなかった。</p><p>ほんの僅かに感じる塩気のような味と、ヌルヌルとした感触。美味いなどとは流石に思わないが、不愉快なほどのものでもない。</p><p>それよりも、ピクピクと反応する男の方にテナは興味をもった。</p><p>己をやり込め尊大に命令するOlが、舐める度に脈打ち小さく跳ねる。</p><p>面白く思って握る掌に力を込めれば、小さく漏れる声にテナはますます興味を高めた。</p><p>気持ち、良いのか？</p><p>口を離して尋ねてみればOlは素直に肯首し、もっと舐めろと言いたげに腰を捩る。</p><p>可愛いところもあるではないか。</p><p>テナは内心そう呟いて、未来を覗き見た。</p><p>どのように舐めればもっとも良い反応が返ってくるのか、無数の可能性の中から拾い上げ実行すると、Olの反応は劇的だった。</p><p>お前、急に上手くくっ</p><p>呻きながら腰を引くOlを追うようにしてテナは彼の怒張を舐り、若く柔らかな掌で扱きあげる。</p><p>ユツ、胸を出せ</p><p>そして孫娘にそう指示すると、彼女の豊かな乳房と、己の貧相な胸元で肉槍を挟み込んだ。</p><p>こんな幼く薄い胸に興奮しておるのか？</p><p>テナはOlの表情を覗き見て、嘲るように言った。</p><p>平たいとはいえ女の胸だ。僅かについた肉は柔らかく滑らかで、ペニスの先に擦り付けられれば思わず腰を浮かせてしまうほどの気持ちよさ。</p><p>ほれ、これでどうじゃ。ユツ、お主もやってみい</p><p>更にテナは舌を伸ばして、先端をユツとともに舐めしゃぶる。</p><p>ぐ、うぅっ！</p><p>一際苦しげにOlが呻く。</p><p>テナが内心で快哉を叫んだ次の瞬間。</p><p>ぎゃー！？</p><p>白濁の液が彼女の顔めがけて勢い良く吹き出して、テナは悲鳴をあげた。</p><p>閑話巫女祖母孫を調教しましょう-後</p><p>ぎゃぁっ！なんじゃ！？なんじゃこれは！？</p><p>Olがもっとも気持ちよくなる道を探し予知を繰り返していたテナには、その更に先の未来が見えていなかった。断続的に吹き出す精が彼女の顔と髪を容赦なく穢し、白く染め上げていく。</p><p>何一体、何を</p><p>湯で洗い流そうとしても、ネバネバとしたそれは温度で固まって更に絡みつく。</p><p>そうするうちに、彼女の小さな身体はひょいと持ち上げられた。</p><p>我慢できん。挿れるぞ</p><p>縁石に座ったOlに後ろから抱えられた形のテナは、そのまままるで人形のようにその膝の上に乗せられる。</p><p>天を指すようにそそり立った一物の真上にだ。</p><p>いっ！</p><p>一気に奥まで貫かれ、全身を走る電流にテナは硬直した。</p><p>な、ん</p><p>パクパクと、何とかテナは口を動かそうとする。</p><p>身体の芯から指の先までを支配するかのようなそれは、痛みではなく。</p><p>痺れるような、快楽だった。</p><p>何で、こん、な</p><p>お前は覚えていないだろうがな</p><p>片腕でユツを抱き寄せながら、Olは言った。</p><p>俺がお前を抱くのはこれが初めてではないというのはもう言ったか？若返らせた肉体の、全く同じ時間に何度も仕込んだのだ。お前という存在自体に、俺という男の存在が刻み込まれている</p><p>そんなOlの言葉を聞いているような余裕は、テナにはない。</p><p>彼女の脳裏には、今までOlから与えられた快楽が雪崩のように流れ込んできていたからだ。</p><p>てくれ</p><p>とっくの昔に、お前の身体は俺の身体に合った造りになっているのだ。もはや処女に戻ろうと大した痛みもないだろう。もう他の男で満足することもん、む</p><p>Olの台詞を遮るように、ユツが彼の唇を口で塞ぐ。</p><p>て、くれ</p><p>テナは孫娘が男と口付ける姿を見つめながら、堪えきれず言った。</p><p>動いて、おくれ！儂を、突いて、犯しておくれ！</p><p>言葉に出してしまえば一層耐えきれず、腹の奥の疼きは更に男を求める。しかしどれだけ懇願しても、Olは動く気配がなかった。</p><p>Ol様。ボクのことを可愛がって貰えませんか？</p><p>それどころか、ユツがそんなことを囁く。</p><p>ボク、Ol様のお種を、おなかいっぱい注いで欲しいです</p><p>Olはほうと声を上げ、ユツの乳房を鷲掴みにする。</p><p>あん。勿論、そのおっぱいも好きにしてくださっていいんですよ</p><p>ユツはぱたぱたと尾を振りながら、甘い声でそう答えた。</p><p>あなた様っ！</p><p>とうとう、テナはOlの胸元にすがりついて声を上げる。</p><p>お願いじゃ。儂をっ！儂を抱いておくれ、あなた様！</p><p>その両眼からはポロポロと涙が流れ、恥も外聞もなく、テナはOlにそう乞うていた。</p><p>くい、と指でテナのおとがいが持ち上げられる。</p><p>彼女はすっと目を閉じて、接吻を受け入れた。</p><p>唇を割り、歯を押し開いて侵入してくる舌先に、狐の尾が四本ともピンと伸びて広がる。</p><p>あの、あなた様？</p><p>思う存分口の中を蹂躙し、銀の糸を伝わせながら唇を離せば、テナはおずおずと声をあげた。</p><p>何だ</p><p>儂の口は、先程まであなた様のものを咥えてたんじゃが口吸いなどして、良かったのかの？</p><p>余計な事は言わんでいい</p><p>無論Olとて全く気にしないわけではないが、自分で咥えさせたものを厭うなどと度量の狭いことを言うつもりもない。</p><p>重なって横になれ</p><p>Olがいうと、石畳の地面にころりと転がったテナの尻尾の一房がぶわりと広がって布団になる。ユツは彼女を抱くようにして、その上に重なってOlに尻を向けた。</p><p>便利だな、お前の変化の術とやらは</p><p>尻尾が転じた布団にはやはり、湯船の水が滲むような様子もない。</p><p>あなた様</p><p>Ol様</p><p>Olがしげしげと触れて観察していると、テナの残り三本の尾とユツの狸の尾が、Olをねだるように彼女たちの秘部を指していた。</p><p>本当に便利だな</p><p>感心半分、呆れ半分で呟きつつも、Olはまずユツの方に突き入れる。</p><p>ふあぁ</p><p>彼女のそこは柔らかく、軽く力を込めただけで容易にずぶずぶと飲み込み、Olを奥まで受け入れる。まるで互いの身体が液状になって蕩け、混ざりあうような暖かさだ。</p><p>きゅぁんっ！</p><p>一方で、テナの膣内は全く別の感触だった。硬くキツく、ぐいぐいと締め上げる。腰を動かす度にざわざわとした膣壁が無数に男根を擦り上げてきて、得も言われぬ快楽があった。</p><p>顔はそっくりな血の繋がった祖母孫だというのにこんなにも違うものなのかと、Olは繰り返し二人の間を行きつ戻りつしてその味の違いを楽しむ。</p><p>あなた様ぁ</p><p>そうしていると、不意にテナの尾がOlの腰に絡みつき、逃がすまいと締め付けた。</p><p>あぁん、お祖母様、ずるいですぅじゃあ、こうして</p><p>ユツの尾が細くしなやかに伸びてOlの根本をきゅっと掴む。</p><p>そしてポンと音を立てて白い煙に変じたかと思えば、煙が晴れた後、Olの腰には二本の男根が生えていた。</p><p>こんなことも出来るのか</p><p>えへへ。お祖母様の天狐には出来ません。変化に長じた妖狸だから出来る芸当ですよ</p><p>尻尾のなくなった白い尻をふりふりと振りながら、ユツは自慢げに言った。</p><p>こんな事が出来るからといって何の役に立つのか、とOlは思ったが、少なくとも今の状況にはこの上なく有用だ。</p><p>ふあぁぁんっ！</p><p>くうぅぅんっ！</p><p>一度テナの中から引き抜き二人の膣口に同時に挿入すると、ユツとテナは声を揃えて鳴いた。</p><p>くっ！これは、幻術か！</p><p>幻術は天狐の得意技ゆえ、な</p><p>片方はユツの作った偽物であるのに、挿入した感覚はしっかり二本分、Olに伝わってくる。それが幻術によって作られた擬似的な感覚である事を老魔術師はすぐさま見抜いたが、それは解除する必要のない幻だ。</p><p>これは凄まじい、な！</p><p>二倍で襲いかかってくる快楽の奔流に、流石のOlも苦しげな声を上げる。</p><p>あなた、さまぁ！</p><p>せつなげな声とともにテナの残り三本の尻尾が立ち上ったかと思えば、彼女の上半身の姿に転じてOlに抱きつき、口付けた。</p><p>流石にこれには堪えきれず、Olはそう宣言すると速度をあげて腰を二人の尻に打ち付ける。すると、二人は同時にきゅっと膣口を締め付けて、Olのものをキツく咥え込んだ。</p><p>二人のほっそりとした腰を纏めて両腕で抱え、Olは一際奥へと肉槍をねじ込み、その膣内に荒々しく欲望を迸らせる。</p><p>はぁぁぁ</p><p>ふあぁぁ</p><p>二人の女は男のものとなったその証拠を受け入れる快楽に、互いを抱きしめあいながら身を震わせる。</p><p>ふう</p><p>しばし余韻を楽しみ、呼吸を整えた後、Olは男根をテナの膣内から引き抜く。ユツの作った偽物はいつの間にか尻尾に戻っていたが、彼女の膣口からはしっかりと種を受け止めた跡が流れ出していた。どうした方法でか、Olの精を分けて流したらしい。</p><p>お祖母様</p><p>Olが身を起こすとユツが駆け寄り、テナを呼んだ。</p><p>彼女は今度は躊躇うことなく、ユツに倣う。</p><p>愛液と精液、そして僅かな血液で汚れた男根を甜め清める二人の少女の獣耳を撫でながら、Olは満足げに息を吐いた。</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-1</p><p>あれは、無理だ</p><p>なんだと？</p><p>苦々しげに絞り出されたウォルフの言葉に、Olは反射的に問い返す。</p><p>あれは俺には殺せん</p><p>竜ではないということか？</p><p>相手が竜であれば必ず殺すことが出来る。それが竜殺し英霊ウォルフの権能だ。その能力の適用範囲は広く、竜の姿をしていれば下等な眷属や精霊の一種といったものまで滅ぼすことが出来る。</p><p>いいや、あれは竜だ。それは間違いない</p><p>そして彼らが今相対しているのは、まさしくその竜であるはずだった。</p><p>他ならぬウォルフ自身が、そのことを請け負う。</p><p>では、何故</p><p>単純な話よ</p><p>英雄王の表情が歪み、その額に脂汗が滲む。</p><p>あれは、メトゥスよりも俺よりも、強い。ただそれだけの話だ</p><p>それは、怖れの表情だった。勇猛にして果敢、最古の竜さえ躊躇わずに相手取っては殺してみせ、地上最強と謳われた男が、怯えているのだ。</p><p>逃げろ。時間くらいは稼いでやる</p><p>言って彼は背中の剣を引きぬいた。白に染め上げられた装束の中、唯一銀に光るそれは彼が生前から愛用していた宝剣、フラントだ。</p><p>竜の体がそれに応じるようにして動く。無数の鱗に覆われた胴体は音もなく流れるように移動して、巨大な鎌首がもたげられた。</p><p>早く行け！長くは持たんぞ！</p><p>叫びながら、英雄王は剣を振り上げながら跳ぶ。</p><p>岩をも容易く両断する一撃が、竜の脳天に向けて振り下ろされ</p><p>そして次の瞬間には、宝剣は根本から折れて弾け飛んでいた。</p><p>お父様！</p><p>逃げろ、ユニス！</p><p>バグンと音を立てて、太い腕が地面に転がった。</p><p>数多の巨人を討ち滅ぼし、幾多の竜を切り捨ててきた、何よりも逞しい英雄王の腕。</p><p>残ったのはそれだけだった。</p><p>それ以外は、全て竜の口内に収まり、魂さえも磨り潰されて消える。</p><p>嘘、何で</p><p>ユニス、しっかりしろ！転移だ！</p><p>ウォルフが文字通り命を賭けて稼いだ時間を無駄にするわけにはいかない。</p><p>Olは呆然と虚空を見つめるユニスの肩を揺さぶった。</p><p>しかし彼女は、力なくふるふると首を横にふる。</p><p>転移、できな</p><p>その首が、ぶちぶちと音を立てて千切れた。</p><p>ぷしゅっと音を立てて血が吹き出し、Olの顔を赤く染めていく。</p><p>ぐるりと彼を取り囲むのは、闇の中炎のように爛々と光る赤い瞳。</p><p>シュウシュウと言う呼吸の音が、四方八方から聞こえてくる。</p><p>大きなアギトが恐ろしくゆっくりと開き</p><p>そして、Olの身体をバラバラに引き裂いた。</p><p>とまあ、そんなところじゃな</p><p>嘘でしょ</p><p>テナに、リルは愕然として呟いた。</p><p>どうしようOl、Olが死んじゃう！</p><p>落ち着け、愚か者</p><p>縋り付くように袖を掴んでくるリルの頭を、Olは軽く小突く。</p><p>とは言え流石の彼も今の予言には平静ではいられなかった。</p><p>英霊王ウォルフは、Olの陣営で間違いなく最強の一人だ。</p><p>そんな彼が為す術もなく殺されるような相手など、信じたくもない。</p><p>だがリルがこれ程までに動揺すること自体が、テナの言葉が嘘ではないことを物語っていた。</p><p>それに勝つ道筋はあるのか？</p><p>うむ。一年ほど後であれば、お主は犠牲を出しつつも奴を倒しうる</p><p>犠牲というのが、マリーのことか</p><p>苦々しい表情のOlに、テナはうむと頷く。</p><p>じゃがもはや猶予は一年もない。このまま戦えば結果は先ほど言うた通りというわけじゃ</p><p>お前のせいだろうが</p><p>Olは怒りに任せ、テナの頬をぐいぐいと引っ張った。</p><p>柔らかな頬はどこまでもよく伸びる。</p><p>猶予が少ないのは、テナがユツを生け贄にしなかったからだ。</p><p>そのせいでOlが奴と戦う時期が早まり、結果としてこのままでは戦力が足りずに負けることになる。Olとしては正直いい迷惑だ。</p><p>ではとりあえず贄を用意し、時間を稼ぐ。別に生け贄はユツでなければならんというわけでもあるまい</p><p>清らかな娘というだけであれば、Olならば何人でも用意できる。</p><p>それならば未来はほぼ元の形に戻るな</p><p>ひりひりと痛む頬をおさえつつ、居心地が悪そうな表情でテナは言った。結局マリーは犠牲になる上に、別の娘も一人生け贄として捧げられるのだ。己の孫娘のためとはいえ、良心が咎めないわけではなかった。</p><p>俺がお前に言付けるだろう。何と言う？</p><p>Olの言葉にテナは怪訝そうに首を傾げて、瞑目して集中する。未来のどこで言付けられるかもわからないと、それを探すのはなかなかに困難なことだった。</p><p>恐らく、奴とやらと戦う直前だ</p><p>それに気づいたOlが伝えれば、テナはすぐにその場面を見つけ出した。</p><p>ソフィアを育てろ。過去のお主にそう伝えろと、お主は言うな</p><p>テナはニヤリと不敵に笑い。</p><p>いや、全くわからん</p><p>そう答えた。</p><p>ふざけているのか？</p><p>待て待て待て！お主のせいなんじゃぞ！</p><p>ぐっと首を掴む魔王に、テナは慌てて叫ぶ。</p><p>お主が何も教えてくれんから！そう伝えればわかるはずじゃと</p><p>Olが手を離すと、地面に尻餅をついたテナがキャンと鳴いた。</p><p>まあいい。生け贄は取りやめだ</p><p>なんじゃと？これはどういうことじゃ？戦う時期が早まっておるのに、結果が一年後と同じになっておるぞ</p><p>テナは瞠目し、呟いた。こいつの能力は思った以上に便利で厄介だ、とOlは思う。</p><p>未来のOlが必要以上の情報を伝えようとしなかったのも、その厄介さ故だろう。</p><p>Olは元々、無為な犠牲を出すつもりなど更々無かった。</p><p>そう仮定した場合の予知によって、十分に時間をかけた時の答えだけを手に入れたのだ。</p><p>故に、その答えに至るまでの時間を短縮できた。</p><p>後はなんとか、マリーを犠牲にする未来を避ければ良い。</p><p>ところで儂はいつまでこの姿なのじゃ</p><p>思い悩むOlに、テナは不満気にそう聞いた。</p><p>村人たちは元の姿に戻ったが、テナだけは若返った姿のままなのだ。</p><p>予知が出来るんだから、わかるだろう？</p><p>儂が予知で見える範囲、全部この姿のままなんじゃが</p><p>憮然とした表情で、テナは言う。</p><p>元の年齢に戻してぽっくり逝かれても困るからな。当分はその姿のままでいてもらう。お前としても、老いた不便な身体より若く美しい肉体の方が良いだろうが</p><p>美な、何が良いものか！</p><p>真顔でさらりと言ってのけるOlに、テナは頬を真っ赤に染めて叫んだ。</p><p>何を今更嫌がることがある。昨晩はあんなに素直になっていたではないか</p><p>ち、違う！あれは、気の迷いじゃ！何かの間違いじゃ！</p><p>ぶんぶんと首を振り、テナは必死に否定する。</p><p>間違いだというなら見てみろ</p><p>だが、彼女の目にはとっくの昔に。</p><p>お前はこの後どうなる？</p><p>再び物凄く素直にされる自分の姿が映っていた。</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-2</p><p>ごはん(タガーダ)、ください(ユウェーロ)！</p><p>毎回そう言ってたのか、お前は</p><p>ダンジョンの中に当たり前のように響く声の内容に、Olは思わず額を抑えた。</p><p>彼の記憶が確かならば、最初にタツキがダンジョンに侵入してきた時の第一声も全く同じだったはずだ。</p><p>あれ？おうる、喋ってる</p><p>言葉を覚えたからな。お前が毎回俺のことを馬鹿と言い捨てていったのもわかってるぞ</p><p>ふーん、そうなんだ。ところで今日のご飯なに？</p><p>ブレないなお前は</p><p>タツキは魚の尾を脚に変えると、勝手知ったる我が家のように食堂に向かう。</p><p>既にそちらの方からはリルの焼くパンの香ばしい匂いが漂ってきていて、タツキはごくりと喉を鳴らした。</p><p>美味しそうに食べてくれるから作りがいはあるけどね</p><p>見たことも聞いたこともないものばっかり出るけど、美味しいよ！</p><p>Olがテナの攻略に勤しんでいる間にも、タツキは毎日のように迷宮を訪れては食事をせびっていたらしい。すっかり一人分多く作ることに慣れたリルが皿を並べながらいえば、タツキは瞳を輝かせた。</p><p>よくもまあそんなものを平気で食べるな、お前は</p><p>？だって美味しいよ？</p><p>毒を混ぜられているかもしれないという発想がないらしく、タツキはOlの言葉に首を傾げる。</p><p>海にはこんな魚いないもん</p><p>お前は海の中に住んでいるのか？</p><p>うん。そうらよ</p><p>猪肉のソテーをつまみ上げ、上を向いて口の中に放り込みながらタツキは答える。</p><p>お前は一体何なんだ</p><p>何って言われても。たつきはたつきだよ</p><p>種族の名前はないのか？</p><p>シュゾク</p><p>指についた脂を行儀悪く舐めながら、タツキはううんと頭をひねる。</p><p>そういえば陸の人間は、たつきのことを魔王って呼ぶよ</p><p>そして、まるで昨日の食事のメニューを思い出したかのような気軽さで、そんなことを言い出した。</p><p>魔王！？</p><p>いや待て</p><p>反射的に剣に手をかけるマリーを、Olは制止する。</p><p>魔王と呼ばれているのは、お前一人か？</p><p>んーん。なんか結構たくさんいるらしいよ</p><p>魔王という言葉は、現地語でのオーミという言葉を翻訳したものだ。</p><p>正確には全く同じ意味の言葉は、Olたちの言語にはない。</p><p>怪物や魔物の配下と治める領地を持つが、人の王とは異なる存在。</p><p>それに最も近いのがOlであったがゆえに魔王という訳語を当てただけだ。</p><p>Olたちの大陸においては魔王はOlただ一人だったが、こちらでもそうとは限らない。</p><p>何より、この幸せそうに鴨のモモ肉に舌鼓を打っている少女が全てを滅ぼす魔王とはとても思えなかった。全てを平らげるという意味ではあっているかもしれないが。</p><p>お前の知ってる魔王について教えろ</p><p>塩漬け魚のオムレツ(トルティーノ)を頬張り、ヒヨコ豆のスープを飲み干し、白パンに蜂蜜をかけた菓子を食べきったタイミングで、満足気に腹をさするタツキにOlは問うた。</p><p>んー東の海のダーオーンとか、北の海のナパートとか？すごーく遠いし、会ったこともないからよく知らないけど</p><p>近くには他にいないのか？</p><p>この辺の海はぜーんぶたつきのだよ</p><p>両腕を広げ、タツキは自信満々にそう言った。</p><p>陸は？</p><p>陸(オカ)の上のことなんて、たつきが知るわけないじゃん</p><p>結局役立たずじゃないの</p><p>当たり前のように答えるタツキに、期待していたわけでもないけれどと呟きつつもリルは肩を落とす。</p><p>では</p><p>Olはしばし考えた後に、質問を変えた。</p><p>河の周りならどうだ？</p><p>水を全く必要としない生き物はいない。魔王といえど生き物であるなら、Olがダンジョンに地下水脈を引き入れたように、何らかの形で水は引いているはずだ。</p><p>そして河というものはたいてい、海に繋がっているものだ。</p><p>それなら、知ってるよ</p><p>その推測はあたっていたのか、タツキはにやりと笑みを浮かべた。</p><p>強くって、大きくって、悪くって、なーんでも食べちゃうのを</p><p>気づいてはいたが、聞かれなければ答える気はなかった。そんな感じの笑みだ。</p><p>詳しく聞かせろ</p><p>テナの言っていた事と合致する情報に、Olはずいと身を乗り出す。</p><p>んーとぉ</p><p>タツキは人差し指をピンと立て、枝葉で出来た天井を指差した。</p><p>すると水が彼女の腕にまるで巻き付く蛇のように螺旋を描きながら渦巻いて、天井に大きな穴をあける。</p><p>ああっ屋根が！？</p><p>アレ</p><p>叫ぶリルを尻目に悪びれた様子もなく、タツキは遥か彼方に聳える山脈を指し示した。</p><p>あの山を拠点としている、という事か</p><p>キョテンというのは、ちょっと違うかなあ</p><p>首をひねるタツキに、Olは怪訝な表情を浮かべる。</p><p>あそこにいるってこと</p><p>まさかあの山自体、などとは言わんだろうな？</p><p>違うよ</p><p>首を振るタツキの説明は、どうにも要領を得ないものだった。</p><p>まあいい。それで十分だ</p><p>元々タツキから大した情報を得られるとは、Olも思っていなかった。</p><p>敵となりうる相手の大体の場所と、どのような存在であるか。それがうっすらとでもわかったなら期待していた以上の成果だ。</p><p>あ、それとー</p><p>両足を魚の尾に戻し、すっかり彼女専用通路となった海のダンジョンに飛び込む寸前、タツキは不意に振り返る。</p><p>それも、魔王だよ</p><p>タツキが尻尾の先で指し示したのは、ソフィアだった。</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-3</p><p>あれが魔王で、奴と戦う決め手か</p><p>Olはキャッキャと声を上げて遊ぶソフィアを眺めながら、頭を悩ませていた。</p><p>リルの身体によじ登りながら、その角をぐいぐいと引っ張っている幼子の姿からはどちらも全く想像できない。</p><p>しかしお前、淫魔のくせに子供の扱いが手慣れ過ぎじゃないか</p><p>そりゃあ、マリーにアリスにラシーにアナにいい加減、慣れもするわよ</p><p>ぶらんと首にソフィアをぶら下げながら、リルが指折り数えるのは迷宮育ちの子供たち。その大半は、フィグリア王家の女達に生ませたOlの子だ。</p><p>勿論子供の面倒を見るのはリルの仕事ではないのだが、夢魔でもある彼女の手にかかればどんなに泣き喚く子供でもすぐさま安らかに眠ってしまうので、何かと重宝されていた。</p><p>元々淫魔にしては異常に情け深い彼女のこと、そうするうちに寝かしつけ以外でもなんだかんだ面倒を見るようになってしまったのは、自然な成り行きといえた。</p><p>そんなお前から見て、ソフィアは使い物になると思うか？</p><p>うーん、そうね</p><p>戯れに聞いてみれば、意外にもリルは真剣な眼差しでソフィアを抱き上げ、じっと見つめる。</p><p>今一ヶ月くらいで、三歳半くらいの見た目でしょう？このペースなら五ヶ月で十七歳。十分Olの相手出来ると思うし、この顔立ちならきっと美人に育つわよ</p><p>お前は何の話をしてるんだ</p><p>かと思えばその至った結論に、Olはがっくりと肩を落とし、</p><p>まて。三歳半だと？</p><p>使い魔の言葉を聞き咎めて、顔を上げた。</p><p>赤ん坊の成長なんて個人差大きいから大体の目安だけど</p><p>お前、前はニ、三歳と言ってなかったか？</p><p>それは一ヶ月前、タツキがダンジョンを襲撃する直前のことだ。</p><p>そういえばそうだっけ。いつの間にか大きくなったのね</p><p>いつの間にかで済ませていい話か、愚か者！</p><p>Olとて、この一ヶ月一切ソフィアの面倒を見なかったというわけではない。しかしその成長には今の今まで全く気づいていなかった。勿論、覚束ない足取りで歩く程度だったのが駆けては跳ねるようになったり、言葉が以前より達者になったのは把握していたが、それは赤子の自然な成長と捉えていたのだ。</p><p>だがよくよく考えて見れば、一月で一年から半年分程も成長するというのは明らかにおかしい。単に元々成長速度が極めて早いだけというのならばともかく、短期間に異常成長する存在なのだ。緩やかだが急速なその成長にも、何か理由があるのではないか。Olはそう考えた。</p><p>そうは言っても魔力が増えたわけじゃないし、これが自然な成長なんじゃないの？</p><p>リルはソフィアがベッド代わりにしている大きなダンジョンシードの横に設置された、小さなダンジョンシードを示す。それは海のダンジョンを作り出した方のシードで、今は海水から吸い上げる魔力を溜め置くタンクになっていた。</p><p>と言っても貯蓄はほんの僅かだ。龍脈と水脈では取れる魔力の量は比べ物にならない。その僅かな収入から、日々の生活に必要な魔術を捻出しているのだ。Olが村人やテナを若返らせたり、大きな湯殿を作ったりした上でなお多少なりとも残っているのは、リルの涙ぐましい節約と配分の努力があっての事だった。</p><p>魔力の問題ではないとしたら、どうだ</p><p>どういうこと？</p><p>聞き返すリルの腕の中で、ソフィアはじたばたと暴れだす。</p><p>リルが苦笑しながら幼子を地面に下ろすと、彼女は壁に向かって一直線に駈け出した。</p><p>それと同時に扉のように壁が開き、ソフィアはその向こうにいた金髪の少女に飛びつく。</p><p>はい、ただいま。ソフィア見ててくれてありがとうね、リル</p><p>それを抱きとめながら、マリーはリルに軽く頭を下げた。</p><p>あんなにわたしに懐いてたのに、やっぱりマリーの方が良いのね、ソフィアは</p><p>ツンと可愛らしく唇を尖らせて、リルは不平を漏らすフリをする。</p><p>そうした次の瞬間には赤子を抱きかかえる少女を見て頬を緩ませているのだから、文字通り口先だけだ。</p><p>今こいつは、入ってくるより先にマリーの存在に気がついた</p><p>Olがぽんとソフィアの頭に手を乗せると、ソフィアは嬉しそうにその手をとって、もう片方の手をマリーに伸ばした。マリーがその手を握れば、ソフィアは両親の手を両手に握ってにっこりと微笑む。</p><p>ダンジョンの中にいればわかるみたいね。マリーが部屋を離れても、ダンジョンの中にいるなら騒がないし</p><p>俺よりも早く気づいた、と言っているのだぞ</p><p>ソフィアの愛らしさに相好を崩すリルに、Olは重ねてそう言った。そこまでいえば流石にリルも気づき、はっと目を見開く。</p><p>そういえば、タツキが来た時も真っ先に気づいたんだっけ</p><p>Olとて、ダンジョンの全容を完全に把握しているわけではない。その気になればダンジョンの隅に転がる石ころの数まで数えられるだろうが、それを常に認識することは人間の能力を超えるのだ。</p><p>ダンジョンの中を見渡すにはそれなりの集中が必要だし、他の作業をしながら出来るようなことでもない。それをソフィアは、リルによじ登って角に手を伸ばしながら、誰に教えられるでもなく自然とやってのけたのだ。</p><p>ソフィア</p><p>ふとOlはあることを思いたち、ソフィアに視線を向けて地面に手をつく。</p><p>これが、出来るか？</p><p>Olが手の平を持ち上げると、パチパチと魔力の光を溢れさせながらその手を追うかのように床が変形し、塔のように盛り上がる。</p><p>うん！そふぃ、できるよ！</p><p>ソフィアがマリーに抱かれたまま頷くと、Olの周りの床が突然隆起した。</p><p>慌てて飛び退こうとすれば、Olの背に石の壁がぶつかる。</p><p>壁は見る間にOlを覆い尽くすと、真下の床がせり上がって彼の身体は持ち上げられる。</p><p>左右からは木々が生い茂り、ざぶんと音を立てて海水が流れOlの足元の溝を通って行く。</p><p>これは</p><p>そして少し離れたところに出来上がった、小さな玩具のような塊を見てOlは全てを理解した。</p><p>未来において彼が伝えようとしたのは、このことだ。</p><p>精度はまだまだだが、よく出来ている</p><p>Olは高台のようになった中心部から降りると、膝をついて部屋の端に出来た小さな塊を眺める。</p><p>なあに、これ</p><p>リルもふわりと浮いてそれを見つめたが、地面から不格好な指先のようなものが幾つか疎らに生えているようにしか見えない。</p><p>わからぬか？これはここ一月のソフィアの成長の証だ</p><p>だがOlには、それが何を示しているかはっきりとわかった。作りは稚拙だが、位置関係や数は完全に合っている。</p><p>イナダといったか。テナたちの住む、あの村の似姿だ</p><p>あ！</p><p>Olにそこまで言われてようやく、リルは気付く。</p><p>ソフィアが作り上げたのは極めて稚拙な出来ではあったけれども、ダンジョン全体の模型だったのだ。</p><p>そしてソフィアは、あの村自体もダンジョンだと認識している。半年分の成長は、恐らくそのためだ</p><p>テナの裏をかくために、Olはこの一月、ゆっくりとイナダの村を己の手中に収めていた。床下に通路を作り、家同士を繋ぎ、外部から中を伺えぬよう木造の家を秘密裏にレンガの壁で覆った。テナが眠っている間に送り込まれたのも、そうして作った地下通路だ。</p><p>それは見方を変えれば、村をまるごとダンジョンとして取り込んだとも言える。</p><p>でも魔力は増えてないのに、ダンジョンが広がるだけで成長するなんてことあるの？</p><p>魔術的にはありえない話だった。魔術は大概の不可能を可能に変えることが出来るが、それには何にしろ元手魔力が必要不可欠だ。</p><p>ありえんな。ありえんがこちらの常識でありえんことなら、新大陸に来てから何度も遭遇した。今更だ</p><p>そもそもソフィアの存在自体、理解し難いものなのだ。</p><p>成長がダンジョンと同期し、俺よりもこのダンジョンを把握し、自由自在に操る。そんな存在がいるとするなら、それはただ一つ</p><p>Olはソフィアを抱き上げて、ぐるりと辺りを見回す。</p><p>お前はここだ。このダンジョン自身だ。俺が作り上げ、マリーが名付けた。だから父と、母と呼ぶんだろう</p><p>ソフィアは単に遊んでもらっているとしか思っていないらしく、きゃっきゃと笑い声をあげた。</p><p>未来のOlが伝えたソフィアを育てろとは、つまりダンジョンを育てろと言うことだ。彼女が意思を持つ迷宮そのものだとすれば、なるほどそれはOlにとって最高の武器と言える。</p><p>ならば育ててやろう。お前を、最高の魔王に！</p><p>我が子を天に掲げるようにして、Olはそう宣言した。</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-4</p><p>本当にこの道を行くのか？</p><p>硫黄の匂いが充満し、噴煙たなびく溶岩洞を目の前にして、テナは思い切り顔をしかめた。</p><p>この山を勧めたのはお前だろう</p><p>それは、そうなんじゃが</p><p>そこはタツキが奴がいると指し示したのとは別の、高い高い山に出来た洞窟だった。</p><p>テナ曰く、古来から強い力を持つ霊山であるらしい。</p><p>そうでなくとも、火山というのは龍脈の魔力が地表に噴き出している場所であるということが多い。魔力を入手するという観点から見ても、次のダンジョン作成地として最適な場所であるとOlは見当をつけた。</p><p>この中は極めて危険じゃぞ</p><p>では何故今まで火山をダンジョン化しなかったかといえば、それが理由だ。</p><p>地下水脈を掘り当てて溺れてしまうのはダンジョン作りの際もっとも気をつけなければならないことだが、溶岩洞でのそれは煮えたぎる岩だ。ダンジョンシードで自動的にダンジョンを作ることすら出来ない。</p><p>その上高熱と猛毒の火山ガスが充満しているのだから、ダンジョンを作っても人間の住める場所ではなかった。</p><p>だからこそ、万全を期したのだ</p><p>メンバーはユニス、マリー、ユツ、スピナ、Ol、テナ、そしてソフィアの七人だ。</p><p>リルにはダンジョンシードを守る役目を与えたため留守番である。</p><p>任せといて！</p><p>ぐっと力こぶを作ってみせるユニスを、テナは胡散臭げに見つめた。</p><p>身の丈でいえば自分と殆ど変わらない小さな赤毛の少女。</p><p>身長はそれよりは高いが、細く無口な黒髪の女。</p><p>そして死が約束された金髪の少女と、緑の髪の赤ん坊。</p><p>とてもではないが、過酷な火山の中を通り抜けるに相応しい一行とは思えなかった。</p><p>事実、このまま進めばこの中の何人かは死ぬ予知が見えている。</p><p>その事自体はOlには既に伝えてあるのだが。</p><p>お前の能力があれば危険は避けられるはずだ</p><p>問題は、危険を避けた後どのような運命になるのかは、実際に避けてみるまでわからないということだ。一つ、二つの危機であれば予知によって避けられても、手詰まりになる可能性があった。</p><p>覚悟を決めろ。行くぞ</p><p>Olの両手が琥珀色に輝き、光は地面を伝って壁や天井へと広がっていく。</p><p>光が舐め上げた部分は瞬く間に石造りの通路へと変貌した。</p><p>吹き散らせ、ソフィア</p><p>Olの指示にソフィアはピンと手を掲げる。</p><p>途端、出来上がったばかりの通路に暴風が吹き荒れて、有毒ガスが一掃された。</p><p>すごーい！今の、ソフィアがやったの？</p><p>そふぃ、やったよ！</p><p>何ですか、その顔は</p><p>パチパチと手を叩くユニスにソフィアはえへんと胸を張る。</p><p>何やら複雑そうな表情のスピナを、マリーはニヤニヤと笑みを浮かべて見つめた。</p><p>ダンジョンを構成するのは、何も通路や部屋だけではない。その内部にあるものも当然、ダンジョンの一部だ。空気を動かすのは、ソフィアにとっては息を吐くのに等しい</p><p>この溶岩道に至るまでの道は、Olが地下道を掘ってきている。つまり溶岩洞はソフィアのダンジョンと繋がっており、そこを舗装すれば自然とソフィアの一部であると認識されるようであった。</p><p>では進むぞ。危険があれば逐一伝えろ</p><p>仕方ないのう</p><p>テナは大きく息を吐き、ちょんと指先を短刀でついて瞼に朱を塗る。狐の耳と尻尾を出すことで、彼女の予知の速度と精度は飛躍的に高まった。老いた肉体では長時間天狐をおろしておく事が出来ないので、これに関してはOlに感謝しないでもない、とテナは内心呟く。</p><p>今から少し進んだところで、天井から溶岩が降り注いでくる。お主がそれを被って死ぬ</p><p>そうか。三歩先になったらまた教えろ</p><p>死の予言にOlは表情一つ変えることなく、スタスタと歩いて行く。</p><p>その歩みに従って、洞窟はじわじわとその姿をダンジョンに変えていった。</p><p>出るぞ！</p><p>テナの警告からきっちり三歩Olが歩いたところで、何の前触れもなく天井を突き破って赤熱したマグマが降り注いだ。</p><p>だがそれはただの一滴もOlにかかることなく、左右に別れて流れ落ちていく。Olのキューブ、見えない迷宮(ラビュリントス)が道となって防いだからだ。</p><p>ソフィア、口を開けろ</p><p>あーん</p><p>ソフィアが大きく口を開けると、同時に床がぱくりと開いてマグマをごくりごくりと飲み込んでいった。その間にOlは破れた天井を補修してマグマをせき止める。</p><p>ふむやはり、不自然だな</p><p>まるで何事もなかったかのように平穏を取り戻したダンジョンに、Olは顎を撫でる。</p><p>待て！急いで逃げるんじゃ！</p><p>その時、突然テナはそう騒ぎ始めた。</p><p>状況は正確に伝えろ。何が起こる？</p><p>溶岩じゃ！それも、大量の！儂ら全員焼け死んでしまう！</p><p>正確にと言っただろう。どちらからだ</p><p>逃げようとするテナの襟首を掴み、Olは冷静に問う。</p><p>奥の、通路全部じゃよ！</p><p>テナが叫んだ瞬間、濁流のようにマグマが押し寄せてきた。</p><p>水とはわけが違う。触れなくとも重度の火傷を負ってしまうような、煮溶けた岩なのだ。</p><p>水よりも遥かに重く、それでいて速度は水のそれと殆ど遜色ない。</p><p>薄い石壁で防げるようなものではなかった。</p><p>ソフィア、水だ</p><p>Olの指示にソフィアはさっと両腕を前に付き出した。すると床に穴が二つ空き、そこから凄まじい勢いで水が吹き出す。</p><p>海水、ですね</p><p>そこに交じる僅かな潮の匂いを感じ取って、スピナが顔をしかめた。半スライムの彼女には剣も魔術も通じはしないが、唯一の弱点が塩水だ。塩水を浴びると彼女はスライムとしての身体を保っていられず、魔術の吸収もできなくなってしまう。勿論、海水もその範疇に入った。</p><p>スライムではないが、よく冷えた海水はマグマに対しても効果絶大であった。</p><p>溶岩とぶつかってじゅうじゅうと音をたてる海水は瞬く間にその温度を奪い、凝固させていく。例えそれが破られても、漏れだしたマグマがそのまま壁の補修材になり変わるのだ。</p><p>それを続けるうちに、固まった溶岩と押し寄せるマグマの間に、固まるほど冷たくもなく、かと言って固まった溶岩を溶かすほど熱くもない層ができる。そうなってしまえば、水を止めても大丈夫だった。</p><p>タツキちゃんの来る海のダンジョンから、水を引っ張ってきたんですね</p><p>ああ。理屈としてはダンジョン内の空気を動かしたのと同じだ</p><p>感心したように声を上げるマリーに、Olはそう説明した。</p><p>あれ？地下迷宮なんだから石や土を動かせるのは当然として、風と水を操れるってことは</p><p>ふとユニスはあることに気付き、目の前にできた溶岩の壁を見やった。</p><p>そう。この火山を手中に収めれば四属性が揃う</p><p>Olが火山にやってきたもう一つの狙いはそれだ。</p><p>あれ、もしかしてソフィアって、わたしより役に立つ？</p><p>俺の娘(ダンジョン)なのだ、当然だろう</p><p>わたしがダンジョンに来た時よりも小さいのに、と愕然とするマリー。</p><p>落ち込む彼女の頭を、ソフィアはよしよしと撫でた。</p><p>そんなことよりもだ。テナ、直前まで今の溶岩は予知できていなかったな？</p><p>そういえばそうじゃな</p><p>問われて初めて、テナは気付いて頷く。</p><p>お主が最初に、天井を塞いだ影響かのう？</p><p>その程度であれほどの変化が起こるものか</p><p>首を捻るテナに、Olは呆れて息を吐く。</p><p>折角予知能力があっても、本人がこの様子では宝の持ち腐れだった。</p><p>お前の予知は確定した未来だけが見える。そして予知によって未来が変わった場合は、実際に変わるまでその未来を見ることが出来ない</p><p>じゃから、お主が天井を塞ぎ、死ななかったことで未来が変わった。そういうことじゃろう？</p><p>テナの言葉は一言一句間違っていない。</p><p>だが、もっとも重要な情報だけが抜け落ちていた。</p><p>そうだ。だがそれは、天井を塞いだことで溶岩の圧が変わったとか、流れる方向が変わったとか、そういった理由ではない</p><p>どういうことじゃ？</p><p>もっと単純な話だ</p><p>Olはそれを、そもそも溶岩洞に足を踏み入れる前から薄々察していた。</p><p>殺しそこねたから、追撃を放った。ただそれだけだ</p><p>なんじゃと？それじゃあ、まるで</p><p>予知無しで進めば死ぬ、とテナは言った。</p><p>幾ら危険な場所とはいえ、Olとソフィアという二人のダンジョンマスターを擁し、英雄ユニスが護衛を務めるパーティが、ただの探索行でそうそう簡単に死ぬわけがない。</p><p>この洞窟が、儂らを殺そうとしているようではないか</p><p>全く、その通りだ</p><p>ならばこれはただの探索行などではない。</p><p>正確には、この洞窟を統べる別のダンジョンマスターが、な</p><p>既に敵の胃袋の中にいるということだった。</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-5</p><p>そら、新手が来たぞ</p><p>ええ、またあー？</p><p>二本の剣を杖にしながら、マリーはぜえはあと肩で息をする。</p><p>もう、ユニスも手伝ってよお！</p><p>だーめ。これは訓練みたいなものなんだから</p><p>剣を構えて泣き言をいうマリーに、ユニスはぴしゃりとそう答えた。</p><p>眼前に迫るのは、人型の獣たちだ。その数、三体。</p><p>全体的な身体の造りは、人間によく似ている。だが全身を深い毛に覆われ、鋭い牙を生やし、長い鉤爪を振りかざすそれはどう見ても人ではなかった。ぎょろりとこちらを睨みつける一つ目の上に、鋭い角が何本か生えている。テナとユツはそれを鬼と呼んだ。</p><p>やぁっ！</p><p>飛びかかってくる鬼の爪を剣で逸らしながら、マリーは魔術の腕で鬼の腹に斬撃を叩き込む。</p><p>あーもう、硬ーいっ！</p><p>だがごわごわとした分厚い毛はその衝撃を容易く吸収し、傷一つつかない。</p><p>最初に戦った鬼はこれで両断できたのに、とマリーは歯噛みした。</p><p>疲労しているというだけでなく、奥に行くほど明らかに敵が強くなっている。</p><p>あの、ボクもお手伝いしていいでしょうか？</p><p>三匹の一つ目鬼に防戦一方になっているマリーを見かねてか、ユツがおずおずとそういい出した。</p><p>問いかけられたOlはそのままユニスに視線を送り、彼女はユツの身体を上から下まで眺める。</p><p>んー。まあいいかな</p><p>どんなものだ？</p><p>見たところ、マリー一割引って感じ</p><p>ユニスの答えに、Olはほうと驚きの声をあげた。</p><p>それなら思っていたよりもずっと強い。</p><p>いきます！</p><p>掛け声とともにユツの頭に耳が生え、胸が膨らみ、尻尾が伸びた。</p><p>えっ、嘘、何あれ！</p><p>これには流石のユニスも目を剥く。</p><p>ユツはそのまま尻尾を引っ張り抜いたかと思えば、白い煙とともにポンと音を立ててそれは巨大な木槌に変じた。</p><p>えっと、マリーさん、助太刀します！</p><p>ユツは己の身の丈ほどもある柄をぐるんと回し、マリーに襲いかからんとしていた鬼に向かって振り下ろした。その瞬間、木槌の頭は更に巨大化して鬼の巨体をぷちりと潰す。マリーは突然目の前を埋め尽くした壁のような木槌に、目を白黒させた。</p><p>よいしょっと</p><p>ユツが木槌を引っ張れば、その頭は再び元の大きさに戻って彼女の手の中に収まる。</p><p>マリー、次は避けられるから気をつけてね</p><p>ユツが再び木槌を繰り出す前に、ユニスがそう忠告した。</p><p>もう一体っ！</p><p>仲間を一人失って浮足立つ鬼たちに向かって、ユツは木槌を振りかぶる。</p><p>だがユニスの忠告通り、鬼はそれを容易くかわした。威力は大きいし速度も早いが、動きが単調すぎるのだ。</p><p>えっと、えっと</p><p>マリーはユツの攻撃を大きく飛び退ってかわした鬼の背後に回りこんではいたものの、どうしたものかとまごついていた。彼女の膂力では鬼の毛皮を貫けないからだ。</p><p>あ、そっか！</p><p>しかしふといいアイディアを思いつき、彼女は手に持つ剣を入れ替える。</p><p>冷・乾！</p><p>そして体勢を崩した鬼に振り下ろしながら、その力を開放した。その性質の重ね合わせが示すものは土の元素だ。と言っても、風や炎のように土くれが生まれるわけではない。剣には既に土に属するもの鋼が使われているからだ。ただその土としての性質を強化する。すなわち、硬さと重さを。</p><p>振り下ろされる速度はそのままに、重さだけを増やされた剣は容易く鬼の毛皮を切り裂き、骨ごと両断した。</p><p>わお</p><p>マリーは口をオーの字にあけて、己のしでかした結果に目を見張った。</p><p>その隙を突いて繰り出された鬼の鉤爪を、塔のように隆起した壁が防ぐ。</p><p>ソフィア、ありがとうっ！</p><p>礼を言いつつ、マリーは残る二本の剣を空中で打ち合わせた。</p><p>熱と湿との性質を合わせて生まれるのは土の真逆、すなわち風だ。</p><p>と言ってもそれは精々僅かに体勢を崩す程度の威力しか無い。</p><p>ついでにこれもお願い！</p><p>だがそこにソフィアの協力があれば話は別だった。</p><p>マリーの敷いた道をなぞるように、ソフィアはそこに突風を吹かせる。</p><p>鬼の巨体がぶわりと浮いて、空中に投げ出された。</p><p>ユッちゃん！</p><p>あ、はい！</p><p>マリーの声にユツははっとして、木槌を構える。そしてぐるりとその場で一回転し、加速しながら巨大化する木槌で落下してくる鬼を思い切り弾き飛ばす。哀れな鬼の巨体はそのまま壁に叩きつけられ、全身の骨を粉々に砕かれて絶命した。</p><p>マリーは剣を振って血を払い鞘に納めると、自信あり気に笑みを浮かべながら、ユニスの表情を伺う。</p><p>まあ及第点ってところかな</p><p>しかしその評価に、マリーは不平の声を上げた。</p><p>マリーは動きは良いんだけど、やっぱり判断が遅すぎるよね。ユツは逆に戦い方そのものが拙すぎる。能力は凄く便利そうだから、もっと戦い方を工夫すると良いよ</p><p>え、あ、はい</p><p>ユツは突如話を向けられて、慌てながらも頷く。</p><p>厳しい評価を下しつつも、ユニスは内心己の弟子の成長を喜んでいた。</p><p>マリーに足りていなかったのは実戦経験だ。今まで殆ど身内相手の訓練しかこなしてこなかったことを考えれば、この成果は上々と言っていい。それに何より素晴らしいのは、同年代で実力も同じくらい友人ができたことだ。</p><p>互いに互いの長所を吸収しあって、どんどん強くなっていくことだろう。</p><p>ソフィアは</p><p>ふとユニスはワクワクしながら目を輝かせている幼児に気づき、少し考えて、</p><p>満点！完璧！よく出来ました！</p><p>そふぃ、できたよ！</p><p>手放しで大げさに褒めながら頭を撫でた。ソフィアも得意満面の表情で胸を張る。</p><p>なんか納得行かない</p><p>我が子相手に嫉妬するマリーは、まだまだ未熟であった。</p><p>分かれ道か</p><p>二つに分かれた道を前に、Olは歩みを止めた。</p><p>ここまで細かな分岐はあったもののどれも人が通れるほどの大きさではなく、はっきりとした分かれ道はここが初めてだった。</p><p>どちらが正解の道だ？</p><p>駄目じゃ。どちらに進んでも道はない。行き止まりじゃ</p><p>Olの問にテナはしばし瞑目し、未来を読んでそう答えた。</p><p>ここに来るまでに、正解の道を見逃したのではないか？</p><p>それはありえん</p><p>テナの言葉に、Olは断言する。</p><p>隠し通路や分岐の類があれば、俺がそれに気づかないわけがない</p><p>だがそのお主が、どちらの通路も行き止まりだと言っておるんじゃぞ</p><p>もう一度、それぞれについて予知をしてみろ</p><p>Olは少し考えて、テナにそう命じた。</p><p>それぞれの数値は幾つだ？</p><p>三十二、十五、マイナス五と、三十、十五、プラス一一体何の話じゃ？</p><p>テナは予知の先でOlに告げられた数字をそのまま告げる。</p><p>座標だ。ほぼ同一座標で高度だけが違うとなれば、その間に最深部があると見て間違いなかろうな。俺が行って道を見つけられなかったということは恐らく、両方の道に進む必要があるということだ</p><p>そう言って、Olは一行をぐるりと見回した。</p><p>仕方あるまい。二手に分かれるぞ</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-6</p><p>Olさまと一緒がよかったなぁー</p><p>ぼやかない、ぼやかない</p><p>マリーと並んで歩きながらも、ユニスは明るい声で彼女を励ました。</p><p>まま、いいこいいこ</p><p>マリーに抱かれたソフィアが母の頭を撫でて、その背後をむっつりとした表情でテナが歩んでいる。左の道へとやってきたのは、この四人だった。</p><p>この火山のダンジョンを手中に収めるという目的がある以上、二手に分かれるなら二人のダンジョンマスターは別行動しなければならない。そしてソフィアはマリーと一緒にいたがるために、マリーとOlは同じ組になることはない、という理屈だった。</p><p>そちら側に予知能力を持つテナと英霊であるユニスを配したのは二人を守るためでもあったが、同時に連絡を取るためでもあった。</p><p>ユニスがテナを連れてOlの元へ飛んだことにしてその未来を見れば、実際はOlの元へと移動することなく彼の指示を仰ぐことが出来る。実際に飛んでしまうと、ユニスの能力では元の場所に戻れなくなってしまうのだ。</p><p>しかし、とテナはユニスを見た。</p><p>彼女が当初思っていたよりもずっと強いことは、この後の予知でわかる。</p><p>しかしその先の未来が、何故か全く見通せない。こんなことは初めてだった。</p><p>最近、ユニスあんまり優しくないしなー</p><p>そりゃ、あたしマリーの師匠なんだからね。もうちょっと敬いたまえよー</p><p>笑いつつ、ユニスはマリーの頭をぐりぐりと乱雑に撫でた。</p><p>わかってるけど、もう少し手心を加えてくれたっていいじゃない</p><p>十分優しくしてるつもりなんだけどなあ</p><p>どこかあどけなさを残したままの眉根を寄せながら、ユニスはすらりと剣を引き抜く。</p><p>死にそうになったらちゃんと助けてあげるしさ</p><p>彼女が無造作にそれを振ると、どこからともなく飛んできた矢が押し下げられて地面に突き刺さった。</p><p>見事</p><p>通路の奥から低い声が聞こえてきて、二度ほどパチパチと瞬きをしたあと、マリーは自分が今攻撃されたことに気がつく。</p><p>矢を剣で弾く事が出来る剣士など、百人に一人いるかどうか。切り落とせるものは万人に一人だろう。だが、矢を空中で押し下げて逸らすなど、初めてこの目にした</p><p>現れたのは弓を手に、腰に剣を差した男だった。</p><p>その腕はまるで丸太のように太く、胴回りも樽のように分厚い。</p><p>背丈はユニスとそう差はないが、目方で言えば倍はあるだろう。</p><p>この先に進むことまかりならぬ</p><p>男はそういいながら弓と矢筒を投げ捨てると、腰の剣を引き抜く。</p><p>マリー、下がってて。あたしが相手する</p><p>片刃の剣を構える男の姿を見て、ユニスは硬い声で言いながら剣を構えた。</p><p>我が名はホデリ。いざ、手合わせ願おう</p><p>ユニスだよ。よろしくね</p><p>ホデリは両手で持った片刃の刀を顔の横に構え、ユニスは両刃の剣を片手で持って背中に担ぐような姿勢を取る。互いの構えはゆるりと緩慢に完成し、やがて同時にピタリと静止する。</p><p>かと思った次の瞬間、雷光のような鋭さでユニスは踏み込んだ。</p><p>同時に剣は最短のコースを走ってホデリの額を打ち割るように振り下ろされる。</p><p>ホデリはその動きに合わせて、擦り上げるように刀をつきだした。</p><p>甲高く金属音が鳴り響き、火花を散らしながらホデリの刀身を滑ってユニスの剣は軌道をずらされる。そしてそのままその動きはユニスの首を狙う突きとなって放たれた。</p><p>ユニスは首を傾けてその突きを避けつつ、手首を柔軟に返して剣の柄頭でホデリの頬を打つ。ホデリはその一撃を受けながら、ユニスを蹴り飛ばした。</p><p>キミ、強いね！</p><p>地面に転がる勢いを利用して飛び起きながら、ユニスは喜びに溢れた声を上げた。</p><p>ホデリは英雄ではない。彼からは兄や父のような、英雄特有の力強さのようなものを一切感じなかった。腕力も、速度も、全然大したことはない。</p><p>だが、強い。</p><p>純粋に反応が早く、そして正確なのだ。それは生まれ持った才能でも天から与えられた能力でもなく、ただただ鍛錬によって磨きぬかれた技術であった。</p><p>剣の道だけであれば、ホデリはユニスの遙か先にいる。</p><p>つまり、ユニスはもっともっと強くなれるということなのだ。</p><p>だから、彼女は屈託なく笑った。</p><p>死合の最中にそのような顔で笑うか</p><p>そしてそんなユニスを見て、ホデリは内心汗をかいていた。</p><p>純粋な剣技であれば勝っているという自負はある。</p><p>だが、戦いに勝利できる気はまるでしなかった。</p><p>もう少し戦っていたいところなんだけど</p><p>その考えを裏付けるように、ユニスはぺこりと頭を下げる。</p><p>ちょっと卑怯な手を使わせてもらうよ</p><p>突きの構えを見せるユニスに、ホデリは疑問を覚えた。</p><p>彼女の持つ剣はホデリの刀よりも幾分短い。仮に先ほどの倍の速度で踏み込まれても対応する自信はあったし、それはユニス自身もわかっているはずだ。</p><p>だがホデリは一切の油断なく、彼女の動きを待つ。</p><p>彼らが剣だけでなく、面妖な術を放つのは主から聞いていた。</p><p>炎を出そうが水を出そうが切り抜けられる自信はあったし、事実彼には何の落ち度もなく。</p><p>次の瞬間、ホデリの全身は弾け飛んでいた。</p><p>なっあ？</p><p>ごめんね</p><p>気付けば眼前にユニスの姿はなく、後ろから謝罪の声が聞こえてくる。</p><p>何が起きたかは分からないが、何をされたのかはわかった。</p><p>反応すら出来ないほどの速度で背後に駆け抜けながら、数千回切りつけられたのだ。</p><p>傷は指先ひとつ動かせないほど全身くまなく無数につけられておりそして、それでいて死に至るような傷はどれ一つとしてない。ユニスほどの腕さえあれば首の脈一つ断ちきるだけでホデリを殺すのは容易なはずで、つまり彼は生かされたのだと知った。</p><p>なぜ殺さん</p><p>力を振り絞って、ホデリは問うた。</p><p>敵に情けをかけられて生き残るなど、武人としての恥だ。</p><p>んー。ちょっとズルしちゃったからさ</p><p>ユニスが行ったのは彼女の英霊としての権能、転移の応用だった。</p><p>己の放つ斬撃だけを無数に転移させ、浴びせかけたのだ。重さも形もない斬撃そのものであれば、何千と転移を繰り返しても消費する理力の量は大したものではない。</p><p>本来ならば速すぎて剣を振ってもろくに当てられないような速度で駆け抜けながら、その勢いの斬撃だけを飛ばして相手に当てる。それは剣技でも何でもない、法術と生まれ持った脚力による蹂躙であった。</p><p>巫山戯るな！</p><p>だがホデリにとってそんなことは関係なかった。</p><p>そもそも勝負というのは互いの全能をもって臨むものだ。ホデリが剣でのみ相手をしたのは、単に彼がそれしか能がなかったからに過ぎない。そんな理由で生かされたのであれば、それこそ侮辱でしか無い。</p><p>が。</p><p>今は急いでるから無理だけど、またキミと戦いたいから。だから悪いけど、生きててね</p><p>悪びれた様子もなく手を合わせるユニス。</p><p>くは、ははははは！</p><p>その自分勝手な物言いに、ホデリはかえって清々しい物を感じて笑った。</p><p>敗者にはそもそも自分の最期を選ぶような権利は無いか</p><p>ならば、勝者に従うまでだ。</p><p>一つ教えてやろう。お前たちの仲間を、ホスセリという俺の妹が襲っているはずだ</p><p>ホデリの言葉に、マリーは目を大きく見開いた。</p><p>ユニス！助けに行かないと！</p><p>ホデリがマリーでは絶対に敵わないほどの実力を持っているのは、戦いを端から見ているだけでわかった。ホスセリという刺客がもし同じくらいの強さを持っているなら、Olたちに勝ち目はない。</p><p>その人って、キミより強いの？</p><p>真正面から戦えば負けはない</p><p>ユニスの問に、ホデリはそう断言した。</p><p>だが実際に戦えば、負けるのは某であろう</p><p>ふうん。なら大丈夫でしょ</p><p>軽い口調でいうユニスに、ホデリは怪訝な表情を浮かべた。</p><p>襲う相手を選ぶ際に、大体の実力は測っている。</p><p>少なくともホスセリを相手にして間違いなく勝てると言えるほどの者はもう一方のグループにはいないはずだった。</p><p>本当に大丈夫なの？</p><p>大丈夫だよ。だってあっちにはスピナがいるでしょ</p><p>マリーが心配そうに尋ねれば、返ってきたのは意外な言葉だった。</p><p>姉さんが？え、姉さんって、強いの？</p><p>あれ？マリー、知らないの？</p><p>スピナがいれば大丈夫という言葉が全くピンと来ず、首を傾げるマリーにユニスは言った。</p><p>スピナはもうだいぶ前から、もうあたしより強いよ</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-7</p><p>Ol、ユツ、スピナの三人はマリーたちと別れ、マグマの中に続く右の道を進んでいた。</p><p>道の幅は十分あるから誤って落ちてしまうことは早々ないだろうが、立ち上る熱気にユツは汗を拭う。</p><p>分かれ道まではユニスとマリーが歩きながらお喋りしていた為、それに参加する事がなくとも和気藹々とした雰囲気があった。しかし今や、一行の会話はゼロである。それが、重苦しい雰囲気に拍車をかけているようで、ユツはやや気まずい思いで黙々と歩みを進める。</p><p>ユニスの強さは、ユツにも薄々と感じ取れていた。戦うところを直接目にせずとも、その立ち居振る舞いだけでわかるほどの強者ということだ。</p><p>ユツは歩きながら、横を歩くスピナにちらりと視線を向けた。</p><p>だが、こっちの女性はよくわからない。というよりも、完全に戦いの素人に見える。</p><p>魔術という武術とは関係のない戦い方があるというのは聞いていたが、Olにしたって戦うもの特有の覇気のようなものをいくらか帯びている。スピナには、それがまるで無かった。</p><p>Ol自身も戦いが得意なようには思えない。つまり、こちらのグループで戦えるのはユツだけなのだ。</p><p>自分がOlを守らねば、とユツは奮起した。</p><p>その瞬間。</p><p>トン、と軽い音を立てて、スピナの胸に小刀が突き刺さった。</p><p>無表情のまま、スピナは自分の胸に突き立つそれを見下ろす。手の平に収まってしまいそうな小さな刃物は、正確に彼女の心臓を貫いていた。</p><p>緩慢な動作でそれを引き抜こうとした瞬間、スピナの全身に無数の刃が突き刺さって彼女は地面に倒れる。</p><p>Ol様、後ろに！</p><p>ユツは叫びながら、尾を薙刀に変じさせて構えた。明確に攻撃されているにも関わらず、敵の姿はどこにも見えない。</p><p>敵の場所はわかるか？</p><p>いいえ</p><p>Olの言葉に、ユツは首を振る。</p><p>だが彼はユツに尋ねたわけではなかった。</p><p>敵はそちらではありません。もう後ろに移動しています</p><p>背中から聞こえてきた怜悧な声色に、ユツは振り返って目を剥いた。</p><p>全身に刃が突き刺さったまま、スピナが立ち上がっていたからだ。</p><p>まるで埃を落とすかのような仕草で、スピナは身体に刺さった刃物をはたき落とす。</p><p>ばらばらと小刀が落ちた後には、血の一滴、傷跡さえ残っていなかった。</p><p>あちらに</p><p>スピナは振り返り、後ろを指差そうとする。その首がごろりと落ちた。</p><p>まるで魔法のように現れたのは、短刀を構え、真っ赤な服に全身を包んだ女だった。</p><p>その派手な服はしかし、マグマの流れる溶岩洞の色にぴったり同化して、酷く輪郭を捉えにくい。</p><p>捕まえました</p><p>地面に転がったスピナの首が声を上げ、女ホスセリは驚愕に目を見開いた。</p><p>彼女の脚を、首を失ったスピナの腕が掴んでいる。</p><p>殺すなよ。情報を吐かせる</p><p>かしこまりました</p><p>魔王師弟がそんな会話をしている間にホスセリは短刀を閃かせ、スピナの腕を切り裂いて飛び退った。</p><p>私はあまり戦いが得意ではないのです。素直に投降してくれませんか？</p><p>残った片腕で自分の頭を拾いつつ、スピナはホスセリに呼びかける。</p><p>知ったことか、と内心毒づきながらも、ホスセリはどうしたものかと考えた。</p><p>心臓を突いても首を刎ねても死なない生き物なんて初めてだ。</p><p>だが、死なないだけの人間など怖くはない。</p><p>不死の武人であれば驚異的だが、目の前の女に武術の素養はまるで感じられなかった。</p><p>ホスセリは標的を変えて、ユツに対し小刀を投げる。</p><p>その指先から刀が離れる前に、右腕自体が彼女の身体から離れた。</p><p>な、あ？</p><p>状況を理解できず、ホスセリは目を見開く。</p><p>自分の腕が、二の腕の半ばから切断されてぼとりと地面に落ちていた。</p><p>断面から吹き出す血を左手で慌てて抑えるが、そんなことで血を止められるわけもない。</p><p>あら、勿体無い</p><p>まるで飲み物をこぼしてしまった子供を見たかのように言うスピナに、ホスセリは顔を上げた。</p><p>そこにあったのは、シュウシュウと煙を上げるマグマを掌に掬いとりながらも、眉一つ動かさない美女の姿だ。</p><p>傷口を塞ぎますね</p><p>そんなことをいいながら、スピナはその手のマグマをホスセリの傷口に塗りつける。</p><p>!!</p><p>途端、言葉に言い表せないほどの痛みがホスセリを襲った。</p><p>体中に火がついたようにすさまじい熱が全身をめぐり、腕には数億本の針を刺してハンマーで何度も叩きつけるような痛みが間断なく襲い掛かってくる。あまりの激痛に胃の奥から吐き気が込み上げ、悲鳴とともに喉から出そうになるのを、ホスセリは奥歯を噛み締め辛うじて堪えた。</p><p>どうですか？降参しますか？</p><p>ふざけるな！</p><p>心の中に無数の呪詛を吐きながら、ホスセリは何とかこの魔女から離れたいという一心で地面を蹴る。</p><p>その右脚が、根本からぽろりと落ちた。</p><p>あああああああああああああ！</p><p>駄目ですよ、逃げては</p><p>耐え切れず叫び声をあげるホスセリに抑揚のない声で言いながら、スピナは更にマグマを掬い取る。</p><p>やめやめて</p><p>首を振るホスセリの要求は受け入れられることはなかった。</p><p>脚の血管は太いから、しっかり塞がねば死んでしまいます</p><p>言いながらマグマを差し出すスピナの手の平は高熱に焼けただれ、炭化しつつあった。自身もダメージを受けているのだ。にも関わらず、平然としている。</p><p>狂っている、とホスセリは思った。</p><p>まるでパンにバターでも塗るように、スピナはホスセリの脚の断面にマグマを塗りたくる。</p><p>いっそ殺してくれ。そんな思いさえ、激痛の前に一瞬にして消え去った。</p><p>もはや叫び声は人ではなく獣の唸り声のようで、硬い地面にたてた爪が根本から剥がれるが、それさえ気にならないほどの苦しみが彼女の身体を灼く。</p><p>あまりの苦痛の前に、気を失うことさえ出来ない。常人であればとうの昔に正気を失っているだろう。だが弛まぬ鍛錬によって磨かれた彼女の精神は、狂うことすら許さなかった。</p><p>さあ、しゃんとしてください。降参、しますか？</p><p>スピナがホスセリの顔を覗き込む。</p><p>その身体を、ホスセリは渾身の力を込めて片腕片足で押した。</p><p>軽い魔女の身体はぽんと宙を舞って、煮えたぎるマグマの中に没する。</p><p>残り二人を、殺さなければ。</p><p>痛みを押し殺し、己に待ち受ける不具者としての運命を無視して、ホスセリは片方の足だけで立ち上がった。</p><p>凄まじい精神力だな</p><p>Olは思わず、感嘆の声をあげた。ここまで傷めつけられてなおも動ける人間など、Olの配下の中にもそうはいない。</p><p>だがまだ終わっていないぞ</p><p>そうはいない、ということは、逆に言えば何人かはいるということでもある。</p><p>そのうちの一人が、マグマの中から這い上がってきた。</p><p>申し訳ありません、お師匠様</p><p>全身を火に巻かれながらも、スピナは平静な声で言った。</p><p>彼女は別に痛覚がないわけでも、高熱が通用しないわけでもない。</p><p>魔術によらない熱は、半スライムのスピナを殺す数少ない方法だ。</p><p>ただ彼女は、この程度では死なないから気にしていないだけに過ぎない。</p><p>ご心配をお掛けしました</p><p>微塵も心配していなかった、という本音は言わずにおいた。</p><p>そんなことを言えば彼女は嘆き悲しみ、泣き叫ぶだろう。</p><p>マグマに突き落とされるよりも、夫に関心を持たれない方が遥かに辛い。</p><p>スピナはそういう女なのだ。</p><p>さて思ったより元気があるようなので、もう一本いっておきますね</p><p>スピナの指先に炎がともって、彼女は僅かに眉をあげた。</p><p>その動作を見てホスセリはようやく、己の手足を切り取った仕掛けに気付く。</p><p>スピナの指先から、糸が伸びていた。不意打ちや闇討ちを得手とするホスセリでさえ、よく目を凝らさねば気づかないほどの細い細い糸だ。それほど細いのに、肉を切り骨を断つほど鋭く強靭な糸。何で出来ているのか検討もつかなかった。</p><p>だが、それに気がついて何になるというのか。糸は既にホスセリの周囲を完全に取り囲んでいて、動く隙間など完全に無くなっていた。蜘蛛に捕らえられた獲物が、そのことにようやく気づいたようなものだ。</p><p>あ、あの、戦闘、苦手って言ってましたよね？</p><p>左腕をもがれたホスセリの絶叫を聞きながら、ユツは思わず尋ねた。</p><p>ええ。苦手です</p><p>傷口に丁寧にマグマを塗り込めながら、スピナは答える。</p><p>戦うというのはユニスがしているようなことだ。</p><p>互いの技術を尽くし、命をかけて武を競う。</p><p>そんな崇高な事は、スピナは一度もしたことがない。</p><p>一方的な殺戮は得意ですが</p><p>初めて薄く笑みを見せる魔女に、ユツは震え上がった。</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-8</p><p>これは、見事だねえ</p><p>ホデリを下し、歩きついた終着点。</p><p>溶岩が滝のように流れ落ちる雄大な光景に、ユニスは感心して声を上げた。</p><p>確かに、この先に道はなさそうだね</p><p>キョロキョロと辺りを見回しつつ、マリー。</p><p>怪しいのは滝の裏だが、そんな単純な隠し通路にOlが気づかないとは思えない。</p><p>ソフィ、わかる？</p><p>マリーが腕の中の娘に尋ねると、ソフィアは両手を伸ばして空中を撫でるような仕草をした。それに伴って露出した岩肌がレンガで覆われていく。洞窟がソフィアの手中に収まった証拠だ。</p><p>なんにも、ないとおもう</p><p>だが、ソフィアは困ったように首を振った。Olでも道を見つけられないのだから、予想通りといえば予想通りだ。</p><p>しばし待て</p><p>テナは瞑目し、未来を探った。</p><p>ユニスが彼女を抱きかかえ、転移する。</p><p>そこまでは明瞭に見えるのに、その後の未来は掠れたように判然としない。</p><p>彼女の運命がそこで途絶える、というわけでもなさそうだった。断片的に情報は入っては来るのだが、それはまるで椀に入った水に映る月影のようで、絶えず揺らぎ酷く見づらいものだった。</p><p>その滝を塞き止めてみろ、とのことじゃ</p><p>それでもなんとかOlの言葉を捉えて言えば、ソフィアは元気よく頷く。途端に辺りの壁が捩れ、滝の流れ出る口に殺到した。レンガがまるで粘度のように丸められ、滝の中に詰め込まれていく。</p><p>できたよ！</p><p>ま、良いじゃろう</p><p>不細工な出来だったが、少なくとも滝は止まっている。テナの先見で見ても十分な時間持つことはわかった。</p><p>何にも起きないね？</p><p>いや。もうすぐじゃ</p><p>滝を止めても変化のない様子に首を捻るマリーに、テナは首を振った。</p><p>途端、滝が流れ落ちていた先、溶岩の河がその量をみるみる減らしていく。</p><p>数分もしないうちに河は枯れ果て、その跡には一本の道が残った。</p><p>左右両方の滝を塞がねばこの道は現れんということらしい</p><p>なるほどね。それじゃあソフィアにも見つけられないわけだ。流石に溶岩の中を歩くなんて無理だもんね</p><p>感心したように頷くユニスの背を、テナはじっと見つめる。彼女の未来はいつも通り、明瞭に見えるようになっていた。どうやら彼女が転移の力を使おうとすると、その先を見ることが困難になるらしい。</p><p>どういうことなのか、問うべきだろうか。</p><p>あっ、Olさま！</p><p>テナが思い悩んでいると、マリーが明るい声をあげて走りだした。</p><p>通路の先に、Olの姿を認めたのだ。</p><p>首尾よく行ったようだな</p><p>しかし彼に抱きつこうとする寸前、マリーの足がピタリと止まった。</p><p>それ誰？</p><p>そして、Olの横に張り付くようにぴっとりと寄り添う赤い服の女を指差す。</p><p>ホスセリというらしい。襲ってきたが、返り討ちにした</p><p>ああ、ホデリの妹ちゃん</p><p>ユニスがぽんと手を叩く。</p><p>なんで一緒にいるんですか？</p><p>スピナにやられて、命を助けてやったらこうなった</p><p>ホスセリの身体は五体満足で、傷跡すら残っていなかった。</p><p>ともかくも死んでさえいなければ、肉体を治すことは容易い。</p><p>そういう意味では、スピナの止血の成果とも言える。</p><p>それに比べると心の治療は少しばかり難しいが、それもOlにとっては手慣れた作業だ。その過程でこれほど懐かれるのは若干の想定外だったが、別に害があるわけでもない。</p><p>強いて言えば、マリーが憮然とした表情でこちらを見ていることくらいだ。</p><p>姉さん、やり過ぎたんでしょ</p><p>私はただ、私に出来ることをやったまでです</p><p>多分それ、一般的にはやり過ぎを超えた奴だと思うよ</p><p>マリーがじろりと睨めば、スピナは澄まし顔でそう答え、ユニスが呆れ半分に笑う。</p><p>スピナさん怖いスピナさん怖いスピナさん怖いスピナさん怖い</p><p>一体何があったんじゃ？</p><p>虚ろな表情で延々呟き続ける孫娘の姿にテナは漠然とした恐怖を抱くが、過去を視ることの出来ない彼女には何が起こったのか知る由もない。</p><p>さて、ホスセリ。この先には何がある？</p><p>二つの通路の合流点。そこにある巨大な扉の前で、Olは尋ねた。</p><p>主がいる。ただ、詳しいことはお館様の命とはいえ言えない</p><p>言葉少なにホスセリは答える。</p><p>彼女はOlに服従したが、元々の主を裏切る気もないらしい。</p><p>良い。邪魔はするなよ</p><p>だがOlはそれを咎めはしなかった。</p><p>簡単に主を裏切るような者よりも、そんな人間の方が信用はできる。</p><p>扉をくぐり抜けると、そこは巨大な広間のようになっていた。</p><p>迫り上がった祭壇の上、豪奢な造りの椅子に女が座っている。</p><p>薄紅色の髪を長く伸ばし、同じ色の衣装に身を包んだ女だ。</p><p>よくぞここまで辿り着きました。妾の名はサクヤ。この試練の山を治める主です</p><p>女はOlたちを見下ろしながら、丁寧な口調でそういった。</p><p>勇者よ。お名前を伺ってもよろしいですか？</p><p>Olだ</p><p>また勇者か。Olは辟易としつつ、短く答える。</p><p>勇者Olよ。あなたは妾の課した試練に打ち勝ち、その力を示しました。その褒美として、何でも一つ願いを叶えましょう</p><p>願いだと？</p><p>まあ。知らずに来られたのですか？</p><p>怪訝な表情を浮かべるOlに、サクヤはぽかんと開いた口を扇で隠した。</p><p>この山は試練の山と言って、ここまで辿り着いた勇気ある者の願いを一つ叶えることになっているのです。使い切れぬほどの財宝も、不死の妙薬や珍しい品々も思いのままですよ</p><p>何でも、と言ったな</p><p>Olの言葉に、サクヤは頷く。</p><p>妾の力の及ぶ範囲ですが</p><p>勿論それで構わんお前自身を含めた、この山の全てを俺に寄越せ</p><p>その要求に、サクヤは目を大きく見開いた。</p><p>強欲は身を滅ぼしますわよ</p><p>自分から口にしたことも守れん奴に言われてもな</p><p>もしこれが悪魔との交渉であれば、何でもなどと言った時点で詰みだ。ありとあらゆる方法で付け込まれる言い方を避けなければならない。</p><p>お話になりませんわ。不心得者よ、立ち去りなさい。願いは特別に、その生命を奪わぬこととしてさし上げましょう</p><p>その傲慢な物言いに、Olは軽く苛立ちを覚えた。</p><p>断ると言ったら？</p><p>力尽くでも、お帰り願うまでです</p><p>サクヤが扇を振るえば、花が咲くかのように無数の紅い炎が現れた。</p><p>第4話新たな魔王を始めましょう-9</p><p>妾の炎がそのようなか弱い石造りの壁で防げると思わないでくださいましね</p><p>サクヤの言葉に、Olはキューブによる不可視の迷宮が既に見抜かれていることを悟る。その言に相違はなく、彼女の炎の温度はテナの狐火とは熱量の桁が違った。仮にキューブの壁が耐えたとしても、それはOlをこんがりと焼き上げるオーブンになるだけの話だろう。</p><p>それほどの炎が、一つならばまだしも無数に飛んできたのだ。</p><p>御館様！</p><p>下がっていろ</p><p>咄嗟に庇おうとするホスセリを、キューブの通路がぽんと弾いてユニスに押し付ける。</p><p>それと同時に、巨大な赤い蛇がOlを包み込んだ。</p><p>御館様！</p><p>大丈夫だよー</p><p>Olに駆け寄ろうとするホスセリを万力のような力で押さえつつ、ユニスは呑気な声で言う。</p><p>ほら見て。壁が全部レンガになってるでしょ</p><p>ユニスの指先を辿って壁を見れば、確かに岩を削りだして作られていたはずの広間の壁は、いつの間にか赤茶けたレンガ造りに変わっている。</p><p>ってことはここはもう</p><p>俺の胃袋の中だ</p><p>とぐろを巻く蛇の中から、Olの声が聞こえた。</p><p>その声に応えるように赤い大蛇は鎌首をもたげると、サクヤの放った炎をばくりと飲み込んでしまう。</p><p>言い忘れていたが</p><p>蛇の正体は、弧を描いて吹き出されたマグマの奔流だ。</p><p>うちの娘は、お前の九割方を既に自分のものにしている</p><p>Olが抱きかかえるソフィアの姿は、八歳ほどまで成長していた。</p><p>子供の魔王、ですって！？</p><p>ソフィアを見て、サクヤは驚愕する。</p><p>Olにはサクヤがそこまで驚く理由がわからないが、問い詰めるのは後に回すことにした。捉えた後ゆっくり尋ねれば良いからだ。</p><p>喰らえ</p><p>Olの命に従い、マグマの大蛇はそのあぎとを大きく開いてサクヤを襲う。</p><p>妾を見くびりすぎではありませんこと？</p><p>だがサクヤが扇を一閃すると、大蛇は口から上下に真っ二つに裂けて飛び散る。その飛沫を身に受けつつも、サクヤは火傷どころか汗一つかいていなかった。流石は火山の主だけあって、熱には殆ど完全に近い耐性があるのだろう。</p><p>ではこれならばどうだ？</p><p>だが間髪を入れず吹き出す海水の対策までは講じていなかったらしい。あっという間に冷え固まった溶岩の部屋に、サクヤはいとも容易く閉じ込められる。ダメ押しとばかりにOlは地面の岩を隆起させ、更にその部屋を固く封じ込めた。</p><p>ぱぱ！やったよ！</p><p>ああ、よくやったいや</p><p>だがすぐに、Olは表情を引き締める。</p><p>サクヤを封じ込めた部屋が赤く輝いたかと思えば、次の瞬間どろりと溶け出した。</p><p>言いましたでしょう？それは少し見くびりすぎと</p><p>中から現れたサクヤはじろりとOlを見下ろした。</p><p>貴方は勘違いしているようですがこの山が妾に力を与えているのではありません</p><p>どろりと溶けた岩を、サクヤはまるで衣のように纏う。</p><p>妾がこの山に力を与えているのです</p><p>次の瞬間、それは溶岩の矢となってOlたちに飛来した。</p><p>マリーが冷性剣を振るい、液状になった岩を凍りつかせる。同時にユニスの斬撃がそれを粉々に砕いて、スピナの糸が破片を蜘蛛の糸のように絡め取った。</p><p>ナイス、マリー！</p><p>なんか凄い凍った</p><p>ユニスのハイタッチに半ば無意識に応えながらも、マリーは己の成した結果に目を見張った。とにかくソフィアを守ろうと飛び出し無我夢中で振るった剣は、全ての溶岩を一瞬で岩に戻したのだ。</p><p>冷性剣は魔力をただ冷気だけに変換する剣だ</p><p>Olはサクヤから目を離さずそう言った。</p><p>冷やすだけなら水や氷に変換するよりも遥かに効率がいい</p><p>マリーに四属性の剣ではなく、四性質の剣を作ってやったのはその為だ。分かりづらく扱いにくいが、その分手札の数は倍に増える。</p><p>Olさま、この剣をあの人に刺したらどうなるかな</p><p>冷性剣をじっと見つめていたマリーは、ふとそういった。</p><p>やってみろ</p><p>少し考えた後、Olはマリーの背中をぽんと叩く。</p><p>サポートは任せて！</p><p>仕方ありませんね</p><p>ユニスが剣を構え、スピナがさらりと髪をかきあげる。</p><p>あの、ボクも手伝います！</p><p>このままじゃと失敗するぞ。方策を考えい</p><p>そこにユツが声を上げ、テナが眉根を寄せつつそう言った。</p><p>では、これならばどうだ</p><p>わかっておるとは思うが、未来を変えた場合どうなるかは実際にやってみるまでわからんぞ</p><p>構わん。そもそもお前の能力自体、それほど信用しているわけではないからな</p><p>まだ信じておらんのか！？疑い深いにも程があるじゃろ！？</p><p>あっさりとそう言ってのけるOlに、テナは思わず叫ぶ。</p><p>相談はまとまりまして？</p><p>ああ。待たせたな</p><p>各自に算段を伝え、サクヤの問いにOlは答えた。</p><p>構いませんのよ</p><p>サクヤは扇を広げ、天に掲げる。</p><p>妾もただ待っていたわけではありませんから</p><p>その動きに連動するように、Olたちの周囲全てを朱が覆い尽くした。</p><p>赤く焼けた岩と、華のような高熱の炎、そしてマグマの奔流。マリーの冷性剣でも冷やしきれない熱量と、凌ぎ切れない物量だ。</p><p>これを見ても、退く気はないようですわね</p><p>然様ならば</p><p>サクヤは哀れみを込めた瞳でOlを見つめ、扇を振るった。</p><p>お休みなさい</p><p>紅が渦を巻きながら、怒涛のようにOl達に向かって流れ込んだ。</p><p>Olが壁を聳え立たせ、ソフィアがそれに水の膜を張る。</p><p>稼げた時間はほんの一瞬だった。</p><p>瞬く間に水は蒸発し、岩の壁もろとも焼き落とされる。</p><p>だがその一瞬で、ユニスは炎の隙間を駆け抜けていた。</p><p>行って！</p><p>彼女が抱えていた二人の少女が、同時に左右に走り出す。</p><p>それはどちらもマリーの姿をしていた。</p><p>小賢しい事を！</p><p>別々の軌道を描いて己に迫るマリーに、サクヤはどちらを攻撃したものか一瞬逡巡する。</p><p>だが彼女はすぐに、片方が剣を持っていないことに気付いた。</p><p>ならば狙うのは剣を持っている方だ。</p><p>扇を一振りすると、炎が矢となって剣を構えたマリーを射抜く。</p><p>そして、ポンと音を立てて煙となって消えた。</p><p>かかったっ！</p><p>のは、そちらですわ</p><p>サクヤは残ったマリーに、扇を持っていない方の手を向けていた。</p><p>炎を司るのは彼女自身の権能だ。扇を使う意味はさほどない。</p><p>マリーに向けて放たれた炎が彼女の身体を包み込む。</p><p>残念、そっちも外れですっ</p><p>だがその身体が突然木の葉の塊になったと思えば、バラバラになって燃え消えた。</p><p>などこに？</p><p>辺りを見回すサクヤの視界の端で、炎が彼女の意思とは関係なく蠢いた。渦巻く炎から手が生え、脚が伸び、頭が付き出したかと思えば、それは見る間に人の姿を取りながらサクヤに肉薄する。</p><p>えぇーい！</p><p>裂帛の気合とともに放たれたマリーの一撃を、サクヤは辛うじて扇で受け止めた。特に補強もされていない、木と紙とで作られたその扇を、しかしマリーの剣は切り落とすことが出来ない。</p><p>一手、足りませんでしたね</p><p>薄く笑みを浮かべるサクヤの視界に、炎が溢れ出た。マリーを守るように壁が立ちはだかったが、そんなものが何の役にも立たないことは先刻承知だ。</p><p>炎がマリーに向かって殺到し、壁ごと彼女を焼き尽くす。</p><p>はずだった。</p><p>何故、溶けないのです！？</p><p>壁は炎を受け止め、溶け崩れることもなく立ちはだかっていた。</p><p>そんなことはありえない。サクヤの炎に耐えるものなど、何もないはずなのだ。</p><p>状況が全くわかんねえんだけどよ</p><p>サクヤが困惑していると、マリーの背中から低い声が響いた。</p><p>まるで金属を擦り合わせるような、不愉快な声だ。</p><p>後ろには生まれたての幼女。目の前には想像を絶するほどのミレニアムババア。どっちに味方すりゃいいかなんて言うまでもねえな！</p><p>ローガン！</p><p>壁の表面に描かれた魔法陣から現れた四本腕の悪魔に、マリーは歓声をあげた。</p><p>ミ、ミレニアムババア！？</p><p>サクヤの眉間に皺が寄る。それが彼女のことを指していることは明らかだった。</p><p>てめえ、千歳、二千歳どころの騒ぎじゃねえだろ？このローガン様より年上のババアなんざ、初めて会ったぜ</p><p>ローガンがぐっと四方に腕を突き出すと、マリーを囲む炎はゆっくりとその数を減じていく。</p><p>妾の炎が！？</p><p>ドえれえ温度の炎だが、残念だったな。魔界の炎ってのは何だって燃やしちまうんだぜ。あっつい分、炎なんて特によく燃える</p><p>とは言え、ローガンでもサクヤの炎を燃やすほどの力を出せるのはほんの僅かな間だけだ。</p><p>そら、さっさと決めちまえマリー</p><p>悪魔の視線を受けて、マリーは白く輝く冷性剣をサクヤに思い切り突き刺した。</p><p>この程度、で！</p><p>サクヤは全身からしゅうしゅうと白い蒸気を吹き出しながら、その身に炎を纏う。マリーの魔力では、彼女の力を相殺するには足りないのだ。</p><p>姉さん！</p><p>マリーが悲鳴のように呼ぶと、彼女の服の中からスピナがぬるりと姿を現し、人の形を取る。</p><p>いいですか。これは魔力譲渡の為であって、数に数えるものでは</p><p>わかってるから、わたしだって別に好きでやるわけじゃないんだよ。早く！</p><p>ジリジリとサクヤの身体から漏れる炎は、徐々に勢いを増してマリーたちを飲み込もうとしている。ローガンが押さえているが、それも段々と押し返されていた。</p><p>ですが、やはりお師匠様以外の</p><p>ああもう！</p><p>マリーの腰から二本の剣がすらりと抜けて、スピナの首を柄で押し下げる。そうして顔を引き寄せて、マリーはスピナの唇に自身の唇を重ねた。</p><p>思ったより、凄く柔らかい。</p><p>マリーはそんなことを思いつつ、スピナの口から流れ込んでくる魔力を冷性剣にそのまま流し込む。圧縮された大量の魔力が一気に冷気に変換されて、剣は刀身の根本までサクヤの身体に埋まりこんだ。</p><p>これしきで魔王を殺せると、思わないで下さいまし！</p><p>血を吐きながら、サクヤは扇を振るう。</p><p>しかしその先端からすべてを燃やし尽くす炎は出ることなく、代わりに小さな炎と冷気が生まれて互いに打ち消しあった。</p><p>そんなこれは</p><p>上手くいったようだな</p><p>愕然としながら己の両手を見つめるサクヤを、Olが見下ろした。</p><p>サクヤやソフィアが操っている力は魔術ではない。</p><p>だが、魔力と全く無関係なわけでもなかった。</p><p>魔力そのものを放出して操っているのなら、四性剣でその魔力を他の形に変換してやれば無効化出来る。特にサクヤにとって冷性剣は致命的だ。能力を使おうとすれば、半分が炎になり、半分が冷気になる。</p><p>片方が炎の形で出るのに対し、もう片方は純粋な冷気になってしまえば、炎には光というロスがある分、必ず冷気の方が僅かに勝つ。もはや彼女はほぼ無能力になったも同然だ。</p><p>剣を抜こうと掴んでも、根本まで突き刺さって凍り固まった剣は彼女の力では抜くことも出来ない。</p><p>さて</p><p>そんな彼女の顔を覗き込み、Olは問うた。</p><p>勇者の褒美とやらを貰おうか？今度は、契約書付きで</p><p>閑話蜘蛛の巣掃除を致しましょう-前</p><p>うむ</p><p>広々とした湯殿に身を沈め、Olは深々と頷いた。</p><p>その面積は以前の倍以上。本国のダンジョンにある湯殿にも負けないくらいの広さだ。湯も入るときにだけ沸かすなどというケチ臭いことをいうことなく、常に溢れ出てきている。それだけでなく火山熱で暖められたその湯には多量の魔力が含まれていて、浴びるだけでちょっとした傷くらいなら治ってしまう程の効果を持っていた。</p><p>んふ、んぅん、は、ぁ</p><p>新大陸のダンジョンの良い所は、迷いの森のおかげで地上部分もダンジョン化している所だ。例え空を飛んでこようと木々は侵入者を惑わし、簡単に中枢へと侵入することは出来ない。それ故、Olは地上にも露天風呂を作り上げ、星々を見上げながら湯に浸かっていた。</p><p>上半身を冷やすひんやりとした空気が、湯で火照った身体に心地よい。だが欲を言えば、もう少し湯温は高い方がOlの好みであった。</p><p>おい、少し湯の温度を上げろ</p><p>納得いきませんわ！</p><p>サクヤが叫び声を上げた。</p><p>何故妾が、風呂焚き女の真似事などしなければならないのですか！？</p><p>適任だからだ</p><p>もちろんOlやソフィアでもダンジョンの構造を変化させることによって湯温を変えることは出来る。だが、もともと火山の主であったサクヤに敵うものではなかった。</p><p>お前が一番風呂を上手く焚ける</p><p>全く嬉しくありませんわ！それにっ！</p><p>サクヤは顔を真っ赤に紅潮させながら、Olの腰に跨る女を指差した。</p><p>貴女は何を為さっているのですか、ホスセリっ！</p><p>御館様に、ご奉仕</p><p>対面座位の姿勢でOlの膝に乗り、彼の首に腕を回しつつ、ホスセリは腰を上下させてOlの一物を膣壁で擦り上げる。ちゃぷちゃぷと水音を立てながら、彼女は言葉通り一心に奉仕していた。</p><p>どちらかというと自分から攻める方が好きなOlではあるが、まったりと湯に浸かりつつ奉仕されるのも悪くない。手を伸ばせば阿吽の呼吸でホスセリは身を捩り、Olの手の平を己の胸へと導いた。</p><p>手の平にちょうど収まるサイズのそれをやわやわと弄びながら、もう片方の手で彼女の顎を持ち上げる。不思議そうにOlを見つめるホスセリの唇を奪えば、彼女は嬉しそうに目を細めてそれを受け入れた。</p><p>御館様接吻は</p><p>嫌か？</p><p>問えば、ホスセリは首を振りつつOlの胸板に頭を擦り付ける。</p><p>嫌じゃない。けど、照れる</p><p>表情からは読み取れないが、頬は赤く染まっていた。</p><p>出すぞ</p><p>うん。頂戴</p><p>Olの腰に回した両脚をぎゅっと締め付けて、ホスセリは迸りを膣奥で受け止める。放出する度に彼女の身体は小刻みに震え、達しているのがわかった。</p><p>綺麗に、する</p><p>余韻に浸る間もなくホスセリはそう言って身体をどかすと、躊躇いなく湯の中に潜ってOlのものを口で清め始めた。そこまでせずとも、とは思ったものの、Olはその心地よさに思わず止めるのをやめた。</p><p>ホスセリの巧みな舌技はリルに迫るものだった。思わずすぐにこみ上げてくる射精感を堪えながら、Olは視線を彷徨わせる。</p><p>すると、顔を手で覆いながら、指の隙間からこちらを凝視しているサクヤの姿が目に入った。彼女は湯の中のホスセリを見つめていて、Olの視線には気づいていない。</p><p>次はお前が相手するか？</p><p>えっ、なっな、そん、ばっ</p><p>声をかければ彼女は青ざめ、次に真っ赤に頬を染めた。</p><p>馬鹿な事を言わないでくださいましっ！何故妾が、そんな破廉恥なことを！</p><p>まさかお前、経験がないのか？</p><p>そ、そんなわけないでしょう！？</p><p>サクヤはぶんぶんと首を激しく振って否定するが、その動揺ぶりがかえってOlの言葉を肯定している。</p><p>姫様、一万四千歳。彼氏いない歴一万四千年の処女</p><p>一万三千九百二年ですッ！</p><p>湯の中から顔を上げたホスセリがいうと、サクヤは即座にそう怒鳴り返した。</p><p>流石にその年齢になれば百年足らずは誤佐なんじゃないかとOlは思ったが、それなりに長く生きてきた自覚のある己の年齢と同じくらいの時間を誤差と言うのも憚られる。</p><p>まあ良い。サクヤ、来い</p><p>ああ、そんな</p><p>Olがそう命じると、サクヤの足は勝手に彼へと歩を進めた。</p><p>半ば無理矢理結んだ契約により、もはや彼女はOlのものとなっていて、命令には逆らえないのだ。</p><p>おやめ下さい、嫌がる妾に無理矢理乱暴するおつもりなのでしょう？春画のように！</p><p>まあ、そうだが</p><p>喜色満面の笑みを浮かべるサクヤに、Olは気乗りしない様子で頷いた。</p><p>ごめん。姫様処女拗らせてて</p><p>お黙りなさい！</p><p>元部下を一喝し、サクヤは服を脱ぎ捨てる。</p><p>その裸身に、Olは思わず声を漏らした。</p><p>ほっそりとした華奢な体つきは爪の先までも優美に艶めいていて、白いふくらはぎから太股は肉でありながら侵し難い芸術品のようなラインを描いていた。</p><p>脚の付け根の茂みはごく淡く慎ましやかで、使われたことがないという秘処を健気に包もうとしている。</p><p>滑らかな腹から腰は細く括れながらも男好きのする肉感を僅かに残し、いかにも抱き心地が良さそうだ。</p><p>そして何より、圧倒的な存在感を放つのが胸元だった。全体的に慎ましく華奢な印象を与える彼女の体つきの中で、そこだけが慎むことなく大きく張り出していた。その双丘はリルにも匹敵するほどの大きさだ。それでいて、全体のバランスを崩すことなく調和をギリギリで保っている。</p><p>小さな顔に付いているのは小さな鼻に小さな唇、そして零れ落ちそうな大きな瞳。しかしユツと違って、それが感じさせるのは幼さではなく品の良さ。頭から足首まで伸びる艷やかな薄紅色の髪の毛は、まるで彼女という大きな花の花弁のようだ。</p><p>こちらの大陸の人間たち同様平面的な印象だったが、それがかえって彼女の神秘的な美しさを増幅しているかのようだった。</p><p>人とは時の流れ方が違うのだろうが、それでも一万年以上を生きているとは思えない美しさだ。</p><p>これが殿方のおちんぽですのね</p><p>だが当の彼女は、Olの男根を間近で見つめてそんなことを呟いていた。</p><p>あら、少し小さくなりましたわよ？</p><p>誰のせいだと思っている</p><p>あの、触ってみてもよろしいでしょうか！？</p><p>勝手にしろ</p><p>Olが吐き捨てると、サクヤは食い入るようにペニスを見つめながら、指先でそっと触れた。</p><p>凄く硬いのですね</p><p>ごくりと生唾を飲み込んで、サクヤは男の根本から先端へと指を滑らせていく。</p><p>ここはつるりとしていて、まるで、鉄のよう</p><p>亀頭をくるくると撫でて感触を確かめながら、サクヤは鼻息も荒く凝視した後、不意にOlを見上げた。</p><p>あっ、あの、甜めてみてもよろしいでしょうか！</p><p>歯は立てるなよ</p><p>心得ておりますわ！</p><p>うんざりとした口調のOlに、サクヤは意気揚々と男根を掴む。</p><p>こうでよろしいかしら？</p><p>そして恐る恐るといった仕草で、ぺろりとOlのものを甜めた。</p><p>どうれすか？気持ちいいですか？</p><p>サクヤは必死に舌を伸ばし、男根に奉仕を繰り返す。</p><p>だが子供が飴を舐めるような単調なその舐め方は、全く快楽に繋がるものではなかった。</p><p>姫様。まるで駄目</p><p>どうしたものかと眉を寄せるOlを見かねて、ホスセリが助け舟を出す。</p><p>駄目ですかどの辺りが？</p><p>全部</p><p>そんなに！？</p><p>見てて</p><p>ホスセリはサクヤと場所を替わってOlの脚の間に跪くと、彼の男根を恭しく手に取った</p><p>根本からゆっくりと舌先でなぞり、竿を唇で甘く食んで、指を輪にして扱き立てながら雁首をなぞって、裏筋に口付けを何度か落とし、亀頭をぱくりと頬張る。そして喉の奥まで飲み込むと、頬をすぼめて吸い上げながら顔を激しく前後させた。</p><p>くっ出すぞ！</p><p>サクヤに散々焦らされたこともあり、Olは耐えることも放棄してホスセリの口内に射精する。彼女は頬をぷっくりと膨らませてそれをすべて受け止め、口を大きく開けて舌の上に溜まった精液をOlに示すと、ごくりと飲み込んだ。</p><p>そして再度Olの一物を口に含んで、掌で扱き立てつつ尿道に残った最後の一滴までをちゅうと吸い尽くす。</p><p>最後にちゅっと音を立ててOlのペニスに口付けて、ホスセリはサクヤを振り向いた。</p><p>こう</p><p>いやいきなり上級者すぎるだろう</p><p>やってみます！</p><p>流石に喉奥まで飲み込むのは、淫魔でもなければかなりの訓練を必要とする。だが意気込むサクヤを見て、Olはとりあえずやらせてみることにした。</p><p>考えてみれば、彼女は明らかに人間ではないのだ。</p><p>その身体の構造も人と同じとは限らない。</p><p>案外上手く行く可能性も</p><p>うぇっ、ごふぇっ、ぐ、ごへぇっ！</p><p>なかった。</p><p>美女が出してはいけない声をあげながら、サクヤは思い切りえずいていた。</p><p>何をやってるんだ、お前は</p><p>閑話蜘蛛の巣掃除を致しましょう-後</p><p>姫様。折角無駄に巨乳なんだから、その乳を使おう</p><p>こ、こうですか？</p><p>サクヤはその豊かな膨らみを両手で持ち上げて、Olの剛直を挟み込む。</p><p>そう。私も手伝う</p><p>ホスセリも双丘を反対側から押し付けて、サクヤのそれに密着させた。</p><p>涎、垂らして</p><p>ホスセリはそう言うと、舌を伸ばして二人の谷間から顔を覗かせるOlの先端に唾液を垂らす。サクヤもそれに倣って、慌てて舌を出した。いかにも淑女然とした彼女が下品に舌を伸ばす姿は、中々そそるものがある。</p><p>動かして</p><p>二人の垂らした唾液を潤滑油にして、柔らかな肉がOlの剛直を擦り上げる。そうしながらホスセリは胸の中に収まりきらないOlの亀頭に舌を這わせ、サクヤもそれを真似た。</p><p>ふにふにと歪む媚肉の柔らかさと、硬く尖ったその先端のアクセント、そして鈴口や雁首を這い回る舌の感触に、流石のOlも小さく呻き声をあげる。空いた手でホスセリがゆっくりとOlの脚を撫で、精の詰まった袋をやわやわと揉みしだく。</p><p>堪らず放った白濁の液が二人の胸の間から間欠泉のように吹き出して、その白い顔と薄紅色の髪を汚していった。</p><p>ふあっ！</p><p>自分の顔についた精液を拭い、サクヤは指に糸を引くべたべたとした体液を目を丸くして見つめる。</p><p>ああこれが、憧れの顔射ですのね！一度でいいから、されてみたかったのです</p><p>処女相手に少し悪いことをしたかという罪悪感は、一瞬にして消え去った。</p><p>ついでだ。膣内射精も体験させてやる</p><p>Olがそう言ってサクヤを組み敷くと、彼女は流石に身体を固くした。</p><p>それは、その、ええっと</p><p>何だ？これだけ濡らしておきながら、準備が出来ていないなどと言うつもりはなかろうな</p><p>サクヤの太股は、温泉の湯とは明らかに違う液体で滴るほどに濡れていた。</p><p>さ、最初は、妾の部屋か月の見える海辺であっ、それか、あなたの部屋でも</p><p>この迷宮すべてが俺の部屋だ。これで良かろう</p><p>Olが腕を振ると、木々がざわめいて木の葉を動かし、切れ間から月明かりが覗いた。</p><p>あっ、それと、先に口付けをして頂けませんか</p><p>面倒な、と思いつつも、Olはサクヤの後頭部を抱き寄せてその唇を吸う。舌先で唇を割り、歯を押し開いて差し入れれば、サクヤは驚いたように目を見開きながらもそれを受け入れた。</p><p>おずおずと彼女の舌が伸ばされて、Olの舌に絡みつく。その動きから徐々に遠慮がなくなって、サクヤはOlの背を抱きながら顔を傾け、彼の口内深くに舌を伸ばし返す。男の手が無遠慮に胸に伸び、無造作に鷲掴みにされてサクヤはピンと背筋を逸らした。</p><p>満足か</p><p>軽く達して放心状態のサクヤに、Olは問う。彼女は頷きかけて、首を軽く振った。</p><p>あ、あの</p><p>まだ何かあるのか</p><p>妾を好きだと、まだ申して頂いておりません</p><p>何を言っているのだ、この女は。とOlは思う。</p><p>そもそも無理矢理乱暴されると言っていたのはサクヤ自身だったはずだ。</p><p>お前はもうすべて俺のものだ</p><p>面倒になって、Olは強い口調で断言する。</p><p>サクヤは目を見開いて。</p><p>なんて、男らしくて強引な愛の告白なんでしょう</p><p>うっとりとした表情で、己の頬を押さえた。</p><p>別に愛を囁いたつもりはないのだが、と思いつつも、余計に面倒になりそうなのでOlは口に出すことなく肉槍の先端をサクヤの入り口に押し当てる。</p><p>気合十分、といった様子でぐっと拳を握りしめるサクヤに、Olは一気に奥まで突き入れた。</p><p>途端、サクヤは顔を顰め。</p><p>たく、ありませんわね？</p><p>不思議そうに、首を傾げた。</p><p>それはそうだろう。処女とはいえここまで濡れている女に、余計な痛みを与えるほど下手ではない</p><p>お優しいんですのね</p><p>己の名誉の為に言えば、サクヤは何を勘違いしたのかぽっと頬を赤らめて微笑む。</p><p>Olはなんと答えるべきか悩んだ挙句、無言で彼女の奥を突いた。</p><p>んっ、あぁん</p><p>性格は色々と残念なものの、サクヤの身体は極上のものだった。抽送を繰り返す度にOlの肉槍を暖かな膣壁が柔らかく包み込み、無数のひだが撫で上げていく。これほどの名器が一万年以上のあいだ誰にも使われずに持ち腐れていたと思うと、勿体無いような幸運なような、奇妙な思いだった。</p><p>あの、気持ちいいですか？妾の、サクヤのそこは、あなたを気持ちよく出来ておりますか？</p><p>サクヤの身体を抱えるようにして突いていると、彼女は不安げな表情でそう問うた。</p><p>ああ。お前はどうだ？</p><p>普段Olはそういうことを女に問わないが、思わず問い返す。</p><p>あ、あの、ものすごく、気持ち、いいのですがっ</p><p>サクヤは申し訳なさそうに眉根を寄せて、Olに懇願した。</p><p>物足りないですもっと、滅茶苦茶に、してくださいましっ</p><p>良いだろう</p><p>処女に物足りないと言われたのは初めてだった。</p><p>自尊心を刺激されたOlはサクヤに湯殿の縁に手を突かせると、後ろから容赦なく貫いた。</p><p>くぅんっ！</p><p>まるで犬の鳴き声のように喘ぎながら、サクヤは背筋を逸らす。だがOlは手を緩めることなく、彼女の膣口を抉った。</p><p>あぁっ、いぃんっす、ごいぃっ、もっ、とぉっ！</p><p>パチャパチャと濡れた肉のぶつかり合う音が湯殿に鳴り響くほどに腰を打ち付け、爪の跡が付くほど強く乳房を鷲掴みにしても、サクヤの喉から発せられるのは喜びの声だけ。</p><p>あ、あ、あ、あ、あっ、くる、きちゃうッ！</p><p>その膣がきゅうとOlのものを強く締め付けて、サクヤは高く鳴く。</p><p>どこに出して欲しい？</p><p>中にっ！膣内に、出してくださいませっ！</p><p>Olが問えば、サクヤは躊躇わずにそう叫んだ。</p><p>あっでも無理やり口の中に注ぎ込まれるのもそれはそれで</p><p>さっさといけ！</p><p>Olはサクヤの呟きを無視した。</p><p>口内に出しても、どうせ盛大に咳き込んで吐き出すのが目に見えている。</p><p>あ、あ、あ、あああっ！</p><p>サクヤが絶頂への階段を上り、ふるふると身体を震わせる。</p><p>あぁ～～～っ！</p><p>そして喉を反らし、達するのに合わせてOlもその奥へと欲望を解き放つ。そうしながら更に二度、三度と突き込めば、サクヤはより深く達してOlを締め付けた。</p><p>やがて張り詰めた糸が切れるように、サクヤは脱力してくたりと浴槽にもたれかかる。緩慢な動作で振り向き両手を伸ばす彼女に近づけば、サクヤの両手はたちまち蜘蛛のようにOlの頭を捉えて引き寄せ、彼の唇を甘く奪った。</p><p>穏やかな、しかし深く長い口付けの後、サクヤはほうと息を吐いて余韻にひたる。</p><p>とても、素敵でしたわ</p><p>それは何よりだ</p><p>夢見るような表情で呟く彼女に、Olはそう答えた。</p><p>Olとしても悪くはなかったが、サクヤの相手は調子が狂うというかとにかく疲れる。</p><p>あの</p><p>これではどちらが奉仕したのかわからないと息をつくOlに、サクヤは声をかけた。</p><p>今度はこちらを試してみたいのですが</p><p>とろりと白濁の液が垂れ落ちる秘部の下。</p><p>不浄の穴を指で開きながら言うサクヤになんと答えるべきか、Olは頭を悩ませた。</p><p>第5話死の運命を覆しましょう-1</p><p>いやぁ、ソフィアは可愛いなぁ～。見た目はロリで実年齢はもっとロリって最高じゃね？ロリババアならぬロリロリだぜ。なんて素晴らしい響きなんだ！</p><p>やめてください、おぞけが走ります</p><p>数ヵ月ぶりだけど相変わらず鬱陶しいわね</p><p>日数単位でソフィアの年齢当ててくるんだから、徹底してるよねえ</p><p>やにさがってソフィアを見つめる赤い悪魔に、スピナ、リル、ユニスが辛辣な言葉を投げつける。特にスピナはかつての自分の名前を呼ばれているせいか、本気で嫌がっているようであった。</p><p>当のソフィアはといえば、初めて見るローガンの姿が恐ろしいのかマリーの背に隠れるようにしてピッタリと張り付いている。</p><p>Olの方に似たのか、そもそも子と言っても血の繋がりが無いから関係ないのか。</p><p>自由奔放で怖いもの知らずだったマリーに比べると、ソフィアは随分臆病で慎重な性格をしているようだった。</p><p>ローガン</p><p>マリーが低い声で名前を呼ぶと、ローガンはビシリと姿勢を正して敬礼する。</p><p>冗談めかした動作ではあるが、マリーには逆らえない上下関係のようなものが確かに存在していた。</p><p>わたしに何かあったら、ソフィをよろしくね</p><p>だが彼女の口から出てきたのは、叱責ではなかった。</p><p>つまんねえこと言うんじゃねえよ</p><p>ローガンは姿勢を崩しながら舌打ちする。</p><p>何もなくたって、この世のすべてのロリの世話はこのローガン様が喜んでさせてもらうぜ！</p><p>四つの腕全ての親指を立てながらおどけたように言うローガンに、マリーは笑顔で頷いた。</p><p>あ、でも手を出したらもぐからね</p><p>何を！？</p><p>笑顔のまま、何か棒状の物質を千切り取る仕草を見せるマリーに、ローガンは身を縮こませた。</p><p>あれだな</p><p>それは巨大な山々が連なる山脈の麓、大きな河の間に出来た中洲にあった。</p><p>白い石を積んで作られた、長方形の箱のようなもの。</p><p>うむ。間違いない</p><p>Olの言葉に、テナが首肯する。</p><p>あれこそが奴に贄を捧げる祭壇じゃ</p><p>ついに、贄を捧げる日がやってきたのだ。</p><p>そこへと赴いたのは、三人。</p><p>Ol、テナ、そして</p><p>ソフィア</p><p>ソフィアは怯えたような表情で頷くと、ゆっくりと歩を進め祭壇に手をかける。</p><p>ん、しょ</p><p>まだ小さな身体の彼女が何とかそこによじ登るのを、Olは眉根を寄せて見守った。</p><p>これでいいのかな、ぱぱ</p><p>祭壇の上にこてんと寝転がる彼女に、Olは苦々しく頷く。</p><p>若く清らかな乙女という条件に符合するのが彼女しかいなかったのだから、仕方ない。</p><p>とは言え我が子を生け贄にするというのはやはり心が傷んだ。</p><p>テナが鋭い声で警告を発する。</p><p>それに応えるかのように、やにわに暗雲が立ち込めたかと思えば、雨が降り注ぎ雷鳴が轟いた。</p><p>豪雨によってOl達を囲むように流れる河は瞬く間にその水位を増して、大きく波打つ。</p><p>そして、奴はその姿を現した。</p><p>奴ええ。存じております</p><p>サクヤはOlの問いに、緊張感を漂わせながら頷いた。</p><p>お前と同じ魔王だと聞いているが</p><p>同じそうですね。魔王、という意味ではそうかもしれません。しかし奴は妾たちとは全く別の存在です</p><p>彼女の表情にあったのは強い嫌悪。</p><p>そして、恐怖だ。</p><p>部下も領土も持たず、ただ全てを喰らい全てを滅ぼす暴虐の存在。それが奴</p><p>サクヤの言葉を思い返しながら、Olはそれを見上げた。</p><p>河の中から現れたのは、巨大な岩のような、鱗。</p><p>そしてその次に現れたのも、同じだけの大きさの鱗だった。</p><p>その次も、その次の次も、その次の次の次も。</p><p>うんざりするくらいに続いた鱗の後。</p><p>その鱗に数倍する大きさの赤い瞳が、Olを睨みつけた。</p><p>一つ、二つ。三つ。四つ分厚い雲に覆われ何も見えぬような闇の中、真っ赤な目だけが爛々と光る。</p><p>その数十六。八対の赤が、Olを遙か高みから見下ろす。</p><p>鬼灯のような赤い瞳、巌のような鱗、山のような大きさの蛇と聞いてはいたが</p><p>流石のOlも、声が震えるのを止められなかった。</p><p>同時に、なるほどウォルフを持ってしても勝てぬわけだ、と思う。</p><p>山のようなという言葉がまさか比喩ではなく、ただの事実だとは。</p><p>もたげた首の高さは一マイル（約一・六キロメートル）は優にある。</p><p>尾までの長さは想像もつかなかった。</p><p>かつて天をやり込めた時に使った、ダンジョンの大巨人すら子供に見える巨大さだ。</p><p>これが奴</p><p>サクヤはそれを、ヤマタノオロチと呼んだ。</p><p>八つの首と八つの尾を持つ、蛇の姿をした途方もなく巨大な竜だ。</p><p>名を呼べば、それはオロチに力を与えるという。</p><p>だからテナはこれをただ八つと呼んだ。</p><p>オロチの八つの頭のうち一つが、大きくそのアギトを開きゆっくりとソフィアに近づく。生け贄として捧げられた娘を喰らうつもりなのだろう。</p><p>ソフィア！</p><p>Olは娘の名を呼んだ。</p><p>ソフィアもまた、オロチと同じ魔王だ。</p><p>その名を呼べばOlの力は彼女へと流れ込む。</p><p>さて、復習の時間だ</p><p>Olは娘に尋ねる。</p><p>彼女はあの時傍にいたわけではないが、ダンジョン自身であるソフィアにとって、その身体がどこにあるのかはあまり関係のないことだ。</p><p>水生生物に効く罠は、何だ？</p><p>おとしあな！</p><p>ソフィアの声とともに。</p><p>見渡す限り一面の地面が、全て空いた。</p><p>第5話死の運命を覆しましょう-2</p><p>我ら魔王には、必ずそれぞれ支配しているものがあります</p><p>寝物語に、サクヤはそう語った。</p><p>妾であれば、火山そのもの。かの山に宿る火と熱がそれです</p><p>その割には温いな</p><p>加減しておりますもの</p><p>Olが重ねた肌を撫で、柔らかな肉を掴んで言えば、サクヤはくすりと笑んだ。</p><p>けれどもその性質からはけして逃れられません。一度火が付けばそう簡単には止まりませんから責任を取ってくださいましね？</p><p>サクヤはOlの掌に己の手を重ね、くすぐるように耳元で囁く。</p><p>魔王には必ず支配するものがある、と言ったな</p><p>サクヤは火山の火と熱。タツキは海の波。ソフィアはダンジョン自体だろう。</p><p>彼女たちの支配するものは、その領土と一致する。</p><p>であれば、奴が支配するものはなんだ？</p><p>だが奴は、領土も部下も持たない魔王であるという。</p><p>簡単なことですわ、旦那様</p><p>サクヤはOlの胸板に手をつくと、彼の上に馬乗りになった。</p><p>何をも持たないものであっても必ず持っている、たった一つのもの</p><p>一糸纏わぬ美しい裸身が、月明かりに照らされてOlの眼前に晒される。</p><p>己が身自体。かのものを形作るそれは</p><p>勿体付けずに早く言え</p><p>下から突き上げると、サクヤはあんと甘く鳴く。</p><p>もう性急なんですから</p><p>唇を尖らせぼやきつつも、彼女は言った。</p><p>かのものを形作るのは水。全てを押し流す、暴虐の河ですわ</p><p>まずは第一段階成功、といったところか</p><p>キューブで水流に乗って逃げながら、Olは同じ速度でこちらを追ってくる大蛇の首を睨みつける。小さな城ほどもあったその頭は、今はダンジョンの通路にすっぽりと収まる程度に縮んでいた。</p><p>オロチが河の化身であるならば、その性質から逃れることは出来ない。</p><p>落とし穴から繋がる八つの水路は見事にオロチの首を分断し、小さく細くすることに成功していた。</p><p>とは言え。</p><p>ぱぱ、痛い！痛いよぉ！</p><p>ソフィアが手を押さえ、涙を流しながら訴える。</p><p>その指先はボロボロに切り刻まれ、血で真っ赤に染まっていた。</p><p>奴はただの河ではない。</p><p>八つの山と谷とに跨って溢れかえり、迸り、全てを滅ぼし飲み込む濁流だ。</p><p>その勢いは堅牢なダンジョンの岩壁さえも削り取り、押し崩してしまう。</p><p>それはソフィアを傷つけることと同義であった。</p><p>すまん。堪えてくれ</p><p>魔王であり、ダンジョンそのものでもあるソフィアには痛みを止めるような魔術も効かない。傷を治してやっても、すぐさまオロチによって破壊されてしまう。</p><p>両の手の指のうち八本から血を流して泣き喚くソフィアを、Olはただ抱きしめてやることしか出来なかった。八分の一に分け、更に通路で制限してなお、オロチは簡単に勝てる相手ではない。</p><p>彼女の指の傷が第一関節にまで至った時、キューブは突然それまで乗っていた海流の中を脱して小さな部屋の中に辿り着いた。オロチはすぐさまOl達に追いついて、キューブごと一呑みにせんとその巨大な口を開く。</p><p>今だ！</p><p>その瞬間、小部屋の天井が開いたかと思えば大量の液体が降り注いだ。無色透明のその液体はしかし、水ではない。それを示すかのように、液体を浴びたオロチの青黒いその身体は、見る間に赤く染まっていった。</p><p>なんじゃ？毒か？</p><p>そうであるとも言えるし、そうでないとも言える</p><p>首を傾げるテナに、Olはそう答える。</p><p>オロチはOl達を襲うのをやめ、大きく口を開いたまま喉を鳴らした。それとともに、小部屋の中に満ちた液体はその嵩をどんどん減らしていく。オロチが飲んでいるのだ。</p><p>どうだ、旨いか？</p><p>Olは答えが返ってこないことを知りつつ、そう尋ねた。</p><p>我が魔窟に住むドヴェルグども特製の、火酒の味は</p><p>鍛冶の腕と偏屈さで知られる鉄小人たちは、同時に大食と無類の酒好きでも知られている。凝り性の彼らが作り出した究極のアルコールが、ドヴェルグの火酒だ。</p><p>儂も酒は飲むが凄まじい酒精の強さじゃな</p><p>当然だ。お前たちの酒とは作り方から違う</p><p>キューブを隔ててさえ香るアルコールの匂いに、テナは鼻を押さえる。</p><p>普通の酒は、穀物や果物を醗酵させることで水に酒精を足すことによって作られる。</p><p>水に酒精を足すという事は、水の分だけどうしても酒精は薄まる。</p><p>それを、あのちんちくりんの火と鉄の申し子たちと来たら、全く逆の方法で解決した。</p><p>即ち、酒から酒精だけを引いたのだ。</p><p>熱して気体となった純粋な酒を集め冷まして酒にして、それを更に熱する。それを何度も何度も繰り返して作られた火酒は、もはや笑ってしまうほどの強さだった。</p><p>そして、竜というのは酒に弱いものと決まっている。</p><p>それは新大陸においても同じことだった。</p><p>何せ竜であることそのものはウォルフが請け負ったのだ。間違っているわけがない。</p><p>火酒を飲み干したオロチはふらつきながらも、Olたちに狙いを定めて牙を剥く。</p><p>ソフィア、捕らえろ</p><p>だがその首を、溶けた岩が包み込んだ。</p><p>溶岩の奔流は水で防ぐことが出来る。であるならばその逆もまた同じことだ。</p><p>水をその本性とするオロチはどんな小さな穴でもすり抜け打ち崩すだろうが、溶けた岩の中を抜けることは出来ない。Olはオロチを完全に封じ込めることに成功した。</p><p>Ol！来るぞ！</p><p>だが、それで終わる相手でもなかった。</p><p>テナが鋭く警告を発すると、苦しげに大きく口を開くオロチの喉の奥から紫色の液体が噴射される。あらゆるものを溶かし腐らせる毒液だ。</p><p>ソフィア、草だ！</p><p>ソフィアが手を振り上げると無数の草が地面から生えてきて、瞬く間に生い茂る緑の壁となって毒液を防いだ。毒液に触れた壁や床はただれ溶けていっているというのに、その草だけは毒液を浴びてもピンピンしている。</p><p>なんじゃ、あの草は？</p><p>鳥の餌だ</p><p>餌じゃと？</p><p>Olの答えに、テナは思わず問い返す。</p><p>そんなものであの大毒蛇の毒が防げるとはとても思えなかった。</p><p>俺の大陸には、コカトリスという魔獣がいる。蛇の尾が生えた巨大な鶏のような獣で、その嘴で触れたものは何でも石にしてしまう。その鶏に突かれても唯一石にならず、それ故に餌となるのがあのヘンルーダという薬草だ</p><p>石になるどころの話じゃなかろう。岩を溶かしてるんじゃぞ、あの毒は</p><p>もっともなテナの言葉に、Olは頷く。</p><p>コカトリスというのはもともと雑種でな。親はバジリスクという小さな竜の一種だ</p><p>あまり強そうには見えんな</p><p>Olが呪文で作り出した幻影に、テナはそう素直な感想を漏らした。</p><p>掌に乗ってしまうほどの大きさしかないそれは、竜というよりただのトカゲのようにしか見えない。</p><p>だがその毒は凄まじい。その吐息に触れるだけであらゆる生き物は息絶え、鳥は落ち、水は腐り、岩は割れ、土は砂と化し、バジリスクが一匹いるだけでそこは不毛の砂漠になる。騎士が槍で突き殺してもその毒は槍を伝って騎士の乗る馬まで殺すという。まさに毒蛇の王だ</p><p>お主の大陸には滅茶苦茶な生き物がおるのじゃな</p><p>毒だけで言えばヤマタノオロチさえも軽々と超える存在が生息していることに、テナはおののく。</p><p>あの草はな。そんなバジリスクを飼うために作り出した特別製だ。コカトリスは無論のこと、バジリスクの毒にも耐えて餌となり檻ともなるようにできている</p><p>なるほどのか、飼うじゃと！？</p><p>さらりと告げられた言葉に、テナは叫んだ。</p><p>儂の耳がおかしくなったのか？</p><p>いや、安心しろ。俺も最初にその話を聞いた時、気が触れたかと思った</p><p>何のためにいや、確かにそれほどの魔獣を配下に持てば、強力な戦力に</p><p>可愛いからだそうだ</p><p>おかしいじゃろ！？</p><p>うちの牧童は少しばかり変わっていてな</p><p>少しばかりで済ませる範囲を大幅に逸脱しているだろう、とテナは思ったが、いつに無く遠い目をするOlに口をつぐむ。</p><p>ちなみにバジリスクは戦場に出せば敵も味方も被害が甚大すぎる上に、輸送する手段もないので戦力としては全く期待できなかった。</p><p>Olとテナが話すうちに、オロチは毒液を吐ききってしまったようだった。</p><p>Olは外套を広げ、そこに描かれた魔法陣を起動した。</p><p>その表面から細くしなやかな指が付き出して、ゆっくりと掌、肘、二の腕と続いていく。</p><p>一対の羊のような角に、すっと通った鼻筋。金の双眸を持つ黒髪の美女。</p><p>とどめだ、リル</p><p>まっかせて！</p><p>Olの美しくも忠実な使い魔が、その姿を現した。</p><p>オロチの硬い鱗は、ウォルフの剣でも貫けず弾き返してしまう。</p><p>酔わせて動きを止めても、倒すためにはこれを何とかせねばならなかった。</p><p>行くわよ！</p><p>リルの構える石火矢から脚のようなものが二本生え、地面に突き刺さって固定される。</p><p>それは、彼女が作り上げた武器を更に改造したものだった。</p><p>射程距離と命中精度を重視した石火矢形態に、威力を重視した大砲形態の弾を乗せる。</p><p>大きく大雑把な大砲の威力を小さく一点に集中した、純粋な破壊力だけに特化した魔兵器だ。</p><p>欠点は山のようにあった。</p><p>まず反動が大きすぎて、携行武器であるのに手に持って撃つことが出来ない。</p><p>固定し、地面に伏せて撃つ必要があった。</p><p>魔力の集中に時間がかかるせいで、連射どころか一発撃つにも時間がかかる。</p><p>襲いかかってくる相手に当てるというのはほぼ絶望的だ。</p><p>そもそもここまでの威力がなければ殺せない生き物なんてものが殆ど存在せず、大半の相手にとって威力が過剰だ。</p><p>轟音とともに、リルの石火矢が火を吹いた。</p><p>圧縮された魔力の塊は高速で回転しながら正確にオロチの眉間に突き刺さり、分厚く硬い鱗を突き破ると、そこで止まることなく大蛇の肉を抉りながら進んだ。ダンジョンの水路に沿ってまっすぐ伸びていたオロチの肉体を半マイルも引き裂いたところで、ようやく魔力の弾はその力を失って止まる。</p><p>それを追うように衝撃がオロチの身体を走り、生じた熱が飲み干した火酒に引火した。火酒の名は伊達ではなく、火をつければよく燃える。酒というより殆ど燃料のようなものなのだ。結果として、オロチは体内から爆発した。</p><p>凄まじい威力だな</p><p>轟音とともに降り注いでくるオロチの鱗や肉片をキューブで防ぎながら、Olは思わず呟く。</p><p>ちょっと、はわたしのこと、見直し、た？</p><p>いいや</p><p>これほどの一撃を放つのは、リルにとっても負担が大きい。</p><p>ぜえはあと肩で息をしつつも冗談めかして言う彼女に、Olは首を振った。</p><p>お前が有能な事は元々知っている</p><p>あら、そうお？</p><p>珍しいお褒めの言葉に、リルは思わず頬を緩ませる。</p><p>あとは単純に、これを七度繰り返せば良い</p><p>もう！頑張ればいいんでしょ！</p><p>石火矢を振り上げ、リルは怒鳴った。</p><p>第5話死の運命を覆しましょう-3</p><p>単純に繰り返せば良いとOlは言ったものの、そう話は簡単なことではなかった。</p><p>酒を飲ませ、溶岩で封じるところまでは他の通路の首も並行して行ってはいたが、オロチの進行はそれでは止まらなかった。他の首は毒液で冷え固まった溶岩を溶かし、強引に迷宮の中を進んでいたのだ。</p><p>ぃぃよいしょおっ！</p><p>掛け声とともに、ユニスの振るった剣がオロチの牙を断ち割る。</p><p>今だよ！</p><p>避けてねユニスっ！</p><p>オロチが一瞬怯んだその隙を突いて、射線上のユニスを無視しリルの石火矢が火を吹いた。</p><p>それはオロチの喉奥を穿つと、盛大に爆発させる。</p><p>ふーどんどん大変になるね</p><p>寸前、転移して難を逃れたユニスはリルの隣に座り込んでヘンルーダを噛み締めた。凄まじく苦く舌がピリピリとするが、全身を犯す毒を中和するためには必要なことだった。</p><p>気のせいかな。どんどん強くなってない？</p><p>気のせいではない</p><p>ユニスの傷を魔術で治しつつ、Olが答える。</p><p>奴は八つの尾と首を持つ蛇であり、河だ。つまり尾から首へと力が流れる。首を潰せば潰すほど、残りの首へと尾の分の力が流れ増えていく。勿論潰した首の分、全体の力は弱っているが</p><p>じゃあ次はもっと強いわけかあ。これで五本目だっけ？</p><p>ユニスはずきりと身体を走る痛みに顔をしかめた。三本目から、溶岩を上手く操れなくなったソフィアに代わって彼女がオロチの足止めを務めている。戦いが終わる度にOlが傷を癒やしてはいるものの、消耗は否めなかった。</p><p>七本目、ですわ</p><p>通路の奥から現れて、疲れ果てた声色で訂正したのはサクヤだ。</p><p>二本はこちらで仕留めました。旦那様、この者達の治療をお願いできませんか？</p><p>その背後には片腕を失ったホデリと、脚を引きずるホスセリの姿があった。</p><p>ああ。千切れた腕はあるか？</p><p>いえ喰われ申した</p><p>ホデリは首を横に振る。</p><p>そうか。まあ安心しろ、この程度なら時間はかかるが再生は出来る</p><p>見ればホスセリの足も、足首から下が毒で溶かされていて殆ど用をなしていない状態だった。</p><p>それでもOlほどの魔術師であれば治療も可能だったが、流石に戦えるまでになるには数日はかかる。</p><p>面目ない</p><p>ごめん、御館様</p><p>いいや。十分な働きだ</p><p>しゅんと項垂れるホスセリの頭を、Olは軽く撫でてやる。</p><p>すみません、旦那様。妾も次は足手まといとなってしまうかと。霊力が尽きてしまいました</p><p>仕方あるまい。よくやってくれた</p><p>申し訳なさそうに頭を下げるサクヤに、Olは内心ほぞを噛みつつ彼女の労をねぎらう。</p><p>火の化身である彼女にとって、水の化身であるオロチは天敵のようなものだ。むしろよく二本も討ったと言うべきだろう。だが単独でOlたち全員に匹敵するほどの力を持つ彼女が脱落したのは痛手であった。</p><p>Ol、ソフィアが！</p><p>リルの叫び声にOlが振り向くと、ソフィアは左腕を抱きかかえるようにしてぼろぼろと涙を流していた。</p><p>見せてみろ</p><p>Olは手早く袖を捲りあげる。そして、その白い肌についた傷に絶句した。</p><p>ソフィアの左小指から伸びた傷は彼女の肩を超え、心臓へと向かっている。それはつまり、オロチの首が中核たるダンジョンシードへと到達しつつあるということだ。</p><p>急ぎましょう</p><p>残り一本、頑張るよ！</p><p>立ち上がるリルとユニスに、Olは頷く。</p><p>お前たちはここに残れ。後は俺達で片をつける</p><p>サクヤたちにそう指示しながら、Olは床に転移陣を描いた。</p><p>Ol。未来は、まだ変わってはおらんぞ</p><p>ああ。わかっている</p><p>テナの言葉に、Olは頷く。</p><p>ダンジョンシードのある部屋で、Olはマリーとともにオロチと対峙し、そしてマリーは死ぬ。それがテナの見た未来の姿だ。それを回避できないか手を尽くしたが、どうしてもそれだけは変わらなかった。</p><p>後は、Olが仕込んだ仕掛けが未来を変えることに賭けるしかない。</p><p>飛ぶぞ！</p><p>Olはユニス、リル、ソフィアの三人を魔法陣に入れて、魔術を発動させた。</p><p>転移陣が光を放ち、Olたちの身体は瞬く間にダンジョンシードの元へと転移する。</p><p>途端彼の腕に飛び込んできたものに、Olは目を見開いた。</p><p>お師匠様申し訳、ありません</p><p>それはバラバラに千切れた、スピナの身体だった。</p><p>腹には大きな穴が空き、左腕と右足はまるごと無くなっている。</p><p>なんだ、あれは</p><p>スピナを跳ね飛ばしたのは、青黒い人型の生き物だった。</p><p>人型と言っても作りは全体的に大雑把で、目鼻や指のようなものはなく、まるで粘土を固めた人形のようだ。</p><p>その背中からは、やはり青黒い触手のようなものが伸びている。</p><p>Olさま、あいつ普通じゃないよ！攻撃が全然通じないの！</p><p>四本の剣を構えながら、マリーが叫んだ。</p><p>途端、青黒い生き物の触手が全て半ばから切れ落ちる。</p><p>だがそれはほんの一瞬のことで、すぐに元の通りに生え伸びた。</p><p>ホントだ。まるで水を切ったみたい</p><p>斬撃を飛ばしたユニスはそうぼやくと、相手に向かって大地を蹴る。</p><p>あれが最後の首ってこと？</p><p>だろうな。ということは八本伸びるあれは触手ではなく、尾か</p><p>リルの言葉に、Olは頷いた。</p><p>七本の首を落とされて小さくなったのか、それとも狭いダンジョンの中で戦いやすい姿をとったのかは分からないが、少なくとも今まで倒してきた首より遥かに厄介であることは明白だった。</p><p>多分私の石火矢なら吹き飛ばせるとは思うけどああ動かれちゃ当てるのは難しいわね</p><p>縦横無尽に尾を振るいながら、ユニスと戦うオロチの動きは巨大な蛇の姿をとっていた時とは比べ物にならないほど早かった。</p><p>ユニスは転移で勝手に避けるだろうから気にしないでいいだろうけど、動きを止めないと。ユニス、出来る？</p><p>ちょーっと難しいかなーっ！</p><p>オロチの尾を躱し、切り裂きながらユニスは声を張り上げた。</p><p>既に並の生き物なら十回は死ぬだけの攻撃を加えてはいるが、全く効いている気がしない。</p><p>ユニスの方も相手の攻撃に当たる気はしなかったが、戦いが続けばどちらが負けるかは明らかだ。</p><p>まるでスピナと戦ってる気分だよっ！</p><p>ユニスの言葉にはっとして、Olはスピナに目を向けた。</p><p>半スライムである彼女には重要な臓器というものがなく、これだけボロボロになろうと命に危険性はない。だがその傷が治らないのは奇妙なことだった。</p><p>スピナ。何故お前の傷は治らん？</p><p>わかりません</p><p>力なく首を振る彼女の傷口は半透明の粘液に変じていて、スライム化を解かれたわけではない。にも関わらず、傷が治らないのはおかしい。</p><p>その時、Olの脳裏にある情報が蘇ってきた。</p><p>それは既に回避したはずの未来であり、それ故に彼の頭から抜け落ちていたもの。</p><p>しまった、ユニス！</p><p>Olが目を向けた時、ユニスはある手段を試そうとしていた。</p><p>再生が追いつかないほどのダメージを、一瞬でオロチに与えるのだ。</p><p>小柄さ故に一撃の破壊力よりも身のこなしを信条とする彼女にそこまでの威力を出せる方法は限られている。ホデリを倒した、斬撃を転移させ無数に繰り出す技だ。</p><p>だがそれを放つには、助走と一瞬の時間が必要だった。</p><p>八本の尾が彼女を同時に攻撃した瞬間を狙って転移で避け、距離と時間の両方を稼ぐ。</p><p>何度目かにやってきたチャンスに、ユニスは尾をギリギリまで引き付けた。</p><p>そいつは、術を食う！</p><p>Olの警告は、しかし遅すぎた。</p><p>え</p><p>転移は発動せず、八本の尾はユニスの身体を貫く。</p><p>Olは思わず走っていた。</p><p>彼の脳裏をよぎったのは、十年前の光景。</p><p>一瞬の躊躇によって彼女を失った時のことだった。</p><p>駄目</p><p>ユニスは叫ぼうとしたが、代わりに彼女の喉から血の塊が溢れる。</p><p>Olに勝算がなかったわけではない。オロチの尾は強力だが、他の首の牙ほどではない。キューブの防護壁で十分防御可能だろうという予測はあったし、それが間に合う距離でもあった。</p><p>だが結果として、彼は判断を間違えた。</p><p>オロチの狙いは瀕死に陥ったユニスでも、それを助けに来たOlでもなく。</p><p>ダンジョンの中枢、ソフィアの心臓部たる、ダンジョンシードだったからだ。</p><p>させないっ！</p><p>そしてその前に立ちはだかるのはたった一人。</p><p>ソフィアの傍をけして離れず構えていた、マリーだった。</p><p>まるで花のように広がり進む八本の尾のうち半分を、四振りの剣が防ぐ。</p><p>ローガンっ！</p><p>任せとけ！</p><p>そして残りの半分を、彼女の影から現れいでた赤い悪魔の拳が受け止めた。</p><p>互いの力が拮抗したのは、ほんの一瞬のことだ。</p><p>オロチの泥人形のような造形の頭が中央からばくりと二つに裂けて牙と顎を形作ると、首が伸びてマリーを丸呑みにせんと大きく開く。</p><p>それを</p><p>鈴の鳴るような声が、響いた。</p><p>マリーでも、ローガンでも、リルでもスピナでもユニスでも、ソフィアでもOlでもない。</p><p>その場にいないものの声が。</p><p>待って、ました！</p><p>マリーの髪を縛っていた髪飾りがぶわりと広がると、ポンという軽い音とともに人の形に転じる。</p><p>髪飾りに変じていたユツはそのまま己の尾を引き抜くと、巨大な櫛に変化させる。</p><p>そして、一気にオロチに向けて振り下ろした。</p><p>半円状の櫛の歯はオロチを貫いて地面にまで突き刺さり、まるで牢獄の檻のように繋ぎ止める。</p><p>本来水の性質を持つオロチにそれは束縛にも攻撃にもならなかったが、マリーを攻撃する為にある程度実体化しているその瞬間だけは別だった。</p><p>液状化し、櫛の歯をすり抜けようとするのに要したのはほんの数拍。</p><p>だが、リルが石火矢で狙いを付けて撃ち抜くのには、十分な時間だった。</p><p>やったの？</p><p>尾を残して消し飛んだオロチのいた場所を見つめ、誰よりリルが信じられずに訝しげに問う。マリーとローガンが受け止めていた尾はどろりと溶けると、液体となって流れ落ちていった。</p><p>そのようだな</p><p>Olは魔術でダンジョンの中を探査し、オロチの反応が残っていないことを確認する。</p><p>待っていろ、今すぐ治療する</p><p>ギリギリでかわしたのだろう。幸いユニスの傷は致命傷を外れていて、命に関わることはなさそうだった。</p><p>Ol、あたしより先にソフィアを治してあげて</p><p>馬鹿を言うな。傷の程度がまるで違うだろうが</p><p>そうは言っても、体中に大きな穴が八つも空いている大怪我だ。左腕を負傷しているだけのソフィアとは優先順位は比べ物にならず、Olはユニスの身体に治癒を施す。</p><p>ぱぱ</p><p>そんな彼にゆっくりとソフィアは歩み寄り。</p><p>ソフィっ！</p><p>マリーは咄嗟に、彼女を突き飛ばした。</p><p>巨大な蛇の牙がその上半身をばくりと齧り、千切れた下半身と突き飛ばされたソフィアが地面に転がる。</p><p>ありゃ。外れちゃった</p><p>呑気な声に、その場にいた者たちは皆言葉を失ってその女を見た。</p><p>青い髪に、鹿のような角、魚のようなヒレ。</p><p>そして魚のような下半身は、今は大きな顎を備えた大蛇と化している。</p><p>まあいっか。ねえ、もっとごはんください、おうる！</p><p>タツキは邪気のない口調で、そう言った。</p><p>第5話死の運命を覆しましょう-4</p><p>おい嘘だろ</p><p>ローガンは、地面に転がる少女の半身を見つめて呆然と呟いた。</p><p>彼は数千年に渡って人間の魂を見続けてきた大悪魔だ。</p><p>ましてやマリーの魂を、見間違えようはずもない。</p><p>それは幻術でも、偽物でもなく、紛れもない本物だ。</p><p>マリーの魂は粉々に砕かれて、半分に齧り取られていた。</p><p>こうなってはもう蘇生の魔術も効かない。</p><p>き、サ、マァァァァァァァアアア！！</p><p>ローガンの身体から、爆発的に炎が吹き上がった。</p><p>その赤銅色の肉体がねじれ膨らんで、彼は巨大な炎の嵐そのものへと転じる。</p><p>吹き付ける熱波の中で炎の断片が鋭く光り、鉤爪を備えた巨大な腕となって四方からタツキを切り裂かんと襲いかかる。</p><p>サクヤの操るそれにも匹敵するかのような凄まじい熱量となってタツキを襲った。</p><p>うげえ。焦げ臭くってまっずい</p><p>だがタツキは尾の蛇でそれをばくばくと飲み下しながら、そんな不平を漏らすほどの余裕を見せる。</p><p>やっぱりそっちの方が美味しそうだな</p><p>タツキの尾が、ソフィアを向く。</p><p>途端、炎は収まりローガンは実体を取り戻すと、ソフィアを背中に庇った。</p><p>オロチの力を取り込んだのか</p><p>オロチが死に、どろりと溶けて流れた尾。</p><p>あれは消えたのではなく、タツキが飲み下したのだとOlは悟った。</p><p>ダンジョンの中に全くオロチの力が感じられないのはおかしいことだと、気づくべきだった。</p><p>河の水は海に流れ込むものでしょ？</p><p>当然のように、タツキはそう答える。</p><p>オロチはお前自身だったということか？</p><p>違うんじゃない？たつき、難しいことはわかんない</p><p>Olの問いに、タツキは首を傾げた。</p><p>わかるのは、これのおかげで毎年陸のおいしーものが食べられるってことと</p><p>ずるり、と音を立てて蛇の尾が鎌首をもたげる。</p><p>それが凄くおいしそーってこと</p><p>タツキはソフィアをじっと見つめながら、ぺろりと舌なめずりをした。</p><p>旦那。何か打つ手はねえのか</p><p>珍しく焦りを滲ませた声色で、ローガンはOlに囁く。</p><p>ない</p><p>だから、Olは正直にそう答えた。</p><p>タツキは全てを喰らってしまう。Olに出来ることはもう何もなかった。</p><p>不意に、タツキの動きが止まる。</p><p>何、こ、れ</p><p>そして己の腹を両手で押さえると、その場に蹲った。</p><p>痛い、痛い痛い痛い！何、なんなの！？</p><p>タツキは地面をのたうちまわり、もがき苦しむ。</p><p>魔王とは何か、わかるか？</p><p>それを眺めながら、Olはローガンにそう問うた。</p><p>あぁ？そりゃ、あんたのことじゃねえのか</p><p>突然妙なことを尋ねるOlを訝しみながらも、ローガンは答える。</p><p>いいや。俺はこちらの言葉では勇者ということになるらしい。魔王ではない</p><p>いいからさっさと言えよ</p><p>その落ち着き払った様子から、タツキが苦しんでいるのはOlの仕業であるとローガンは何となく察する。だがマリーが死んでしまっているのにこれほど落ち着いている彼に苛立って、ローガンは荒い口調で言った。</p><p>誤訳だ。俺はずっと言葉を間違えていた。こいつらの言う魔王というのは我々の言葉で言えば恐らく、神という言葉が一番近い</p><p>はぁ？神が何匹もいるってのか？</p><p>神。</p><p>それは悪魔の天敵にして、絶対の支配者。</p><p>かつて滅びた天上世界の主だ。</p><p>それと今、目の前でもがき苦しむタツキや、ローガンが背後に庇うソフィアは全く結びつかなかった。</p><p>そこが勘違いのもとだ。俺も神とは唯一無二のものと思っていた。だが、種族としての神は少なくともこの大陸には無数に存在するのだ</p><p>だったら何だってんだ？</p><p>あの。ボクが、教えたんです</p><p>苛立ちを隠さず、唸るように炎を吹き出すローガンに、ユツは堪えきれず声を上げた。</p><p>だから一体何の話だ！</p><p>ですから</p><p>うもう、だめ</p><p>タツキの下半身から生える蛇が大きく頬を膨らませたかと思えば、突然何か大きなものを吐き出す。</p><p>巫術、口寄せ、召鬼の術。妖魅えっと、その神というもののもうちょっと弱いの？を、自分の身に降ろして力を得る術をです</p><p>死ぬかと思ったー！</p><p>タツキから吐き出されたマリーは、全身についた消化液のようなものを拭いながら叫んだ。</p><p>マリー？なんで、生きてんだ！？</p><p>彼女の魂が粉々に砕かれていたのは、ローガンははっきりと確認した。だがいつの間にか地面に転がる彼女の下半身は霞のように消えていて、その魂も傷一つなく輝いている。ローガンが十年間ずっと見守ってきた、太陽のように金色に輝く美しい魂だ。</p><p>だが、あそこまで破壊された魂が修復することなどありえない。</p><p>いや</p><p>一つだけ、ローガンはそれがあり得た事例を知っていた。</p><p>あのロリババアか！</p><p>魔道王に造られた魔への供物。</p><p>けして死なず滅ぶことのない数千歳の幼き娘、マリーの年上の妹、メリザンドだ。</p><p>ご名答だ、この変態が</p><p>マリーが、マリーの顔と声でメリザンドの言葉を綴る。</p><p>その青い瞳が、右目だけ赤く輝いていた。</p><p>魔王、妖魅、神。</p><p>その共通点を見出してしたOlは、それを応用出来るだろうと考えた。</p><p>何せマリーはメリザンドと元々二心同体の間柄だし、メリザンドにも己の魂を材料に不死身という英霊を作り出した経験がある。そして何より、あらゆる物事に万遍なく適正を持つマリーの才能は、巫術という未知の技術に対しても効果を発揮した。</p><p>メリザンドの力をマリーに憑依させ、彼女の不死の力をマリーにも与えるのはそう難しいことではなかった。</p><p>死の運命を変えられぬなら、殺してしまえば良い</p><p>後はオロチの力と、魔道王の呪いの強さの勝負。</p><p>だが数千年の時を経て今なお微塵も綻びを見せない強力な呪いを相手にしては、全てを喰らうオロチといえど消化しきることは出来なかったようだ。</p><p>そしてそんなものを飲み込めば、タツキもただでは済まなかった。</p><p>苦しげに地面に手を突き、堪えきれず彼女は八匹の小さな蛇を吐き出した。</p><p>すかさずそれをユツが木槌で叩き潰すと、タツキの下半身は元の魚のような尾へと戻る。</p><p>これで、完全にオロチの力は消え去った。</p><p>初めて食あたりした気分はどうだ？</p><p>Olはぐったりと地面に横たわるタツキの下半身を踏みつけて問うた。</p><p>さいあく</p><p>全てを吐き出し痛みは落ち着いたようだが、力も吐ききってしまったのだろう。タツキはいつに無く弱々しい声で答えた。</p><p>美味しいもの食べたかっただけなのに</p><p>食ってみろ</p><p>Olが彼女の口元に指を差し出すと、、タツキは半ば反射的に噛みつく。</p><p>ぎゃっ！</p><p>途端鋭い痛みを感じて、彼女は悲鳴を上げた。</p><p>よし、呪いも効果を取り戻したな</p><p>かつてOlがタツキにかけた、攻撃を禁ずる呪いだ。</p><p>タツキの認識が曖昧だったせいもあって押し流されていたが、これで危害を与えることも出来ないだろう。</p><p>とはいえこのまま殺してしまった方が心配もないのだが、と考えながらOlは彼を見つめる瞳に視線を向けた。</p><p>リルの金色の双眸が、何かいいたげに彼を見つめている。</p><p>お前、そんなに食べるのが好きか？</p><p>嘆息し、Olが尋ねるとタツキは即座に頷く。</p><p>そうか</p><p>悪気はないのだろう。ただ単純に、食欲を何より優先しているだけなのだ。</p><p>であれば餌付けしても無駄だし、呪いをかけてもそれを超える力を手に入れる可能性がある。</p><p>ならば、取りうる方法は一つだけだ。</p><p>では、それ以外の喜びを教えてやろう</p><p>そう宣言するOlに、タツキは不思議そうな表情を浮かべた。</p><p>第5話死の運命を覆しましょう-5</p><p>ねー、おうる。美味しいもの、食べさせてくれるんだよね？</p><p>ああ。そうだ</p><p>じゃあ、何ではだかになるの？</p><p>Olの寝室でベッドに横たわり、言われた通りに着ていた衣を全て脱ぎ捨てた後。</p><p>一糸纏わぬ姿を恥ずかしげもなく晒しながら、タツキはこてんと首を傾げた。</p><p>何故だと思う？</p><p>Olの問いに、タツキはんーと眉根を寄せる。</p><p>もしかして、おうるを食べさせてくれる？</p><p>まあ、当たらずとも遠からずといったところか</p><p>ぱっと顔を輝かせるタツキとは対照的に、Olは微妙な表情を浮かべた。</p><p>まずはこれを咥えてみろ</p><p>おー。おいしそう！</p><p>屹立した男根を鼻先に突き付けて言えばそんな反応がかえってきて、Olはますます表情を曇らせる。美味しそうと言われたことは何度もあるが、食的な意味で言われたのは初めてだった。腸詰めか何かと勘違いしているのではないか。</p><p>歯は立てるなよ</p><p>うん。いただきます！</p><p>Olの忠告に頷いた後、タツキは躊躇いなくOlの剛直にかじりついた。</p><p>ぎゃんっ！</p><p>途端、その身に内包した呪いが彼女に牙を剥いて、タツキは悲鳴をあげる。</p><p>いたい</p><p>だから歯を立てるなと言っただろうが</p><p>事前にかけた呪いによって、タツキがOlに与えたダメージは全て彼女を襲うようになっている。そうしていなければ一体どうなっていただろうかと思うと、Olの背筋に寒気が走った。</p><p>うー。どうやったらいいの？</p><p>歯は立てずに、ただ口に含んで舌で甜めしゃぶれ</p><p>んーこうお？</p><p>言われた通り、今度は恐る恐るといった様子でタツキはペニスを口に咥えた。</p><p>子供が飴をしゃぶるような拙い動きは快楽を生み出すものではなかったが、何も知らぬ無垢な少女が懸命にグロテスクな器官を舐める様は肉とは別の愉しみがある。</p><p>んなんかだんだん、味がしてきた</p><p>そうするうちに漏れ出てきた先走りの汁をちゅうと吸い、タツキはぺろりと唇を甜めて肉塊をじっと見つめた。</p><p>ここかなー</p><p>タツキは舌を長く伸ばし、先端を探るようにちろちろと舐めていく。その舌先がOlの裏筋を捉えると、肉茎はぴくりと反応して僅かに震える。</p><p>あ、やっぱりここだ</p><p>タツキは嬉しそうに声を上げて、反応のあった部分を重点的に甜め始めた。そうしながら、鈴口から滴るつゆをちゅうちゅうと吸い上げられて、Olは思わず声を漏らす。</p><p>ああ。中々上手いぞ</p><p>Olがそう言うと、タツキは瞳を笑みに細めてより熱心にペニスを甜めしゃぶり始める。彼女が膝立ちになって根本の辺りを手で掴むと、今まで腕で隠れていた豊かな胸元が露わになり、Olを誘うようにぷるんと揺れた。</p><p>あっ！そこ、触っちゃ駄目！</p><p>思わずそこへと手を伸ばすと、タツキは口を離して声を上げる。</p><p>なんかそこ変な感じがするからやだ</p><p>以前も胸に触れて怒らせたことがあったが、特に何か根拠があるというわけでもないらしい。</p><p>諦めろ</p><p>Olはあっさりとそう切って捨て、構わず彼女の胸を両手で鷲掴みにした。</p><p>手の平に少し余るくらいの大きさの乳房は張りに満ちていて、指を埋めるとぐっと押し返してくる強さがある。中心の蕾は殆ど肌と同じ色で、まだ小さく柔らかかった。</p><p>むー</p><p>胸を揉みしだきながら腰を突き出せば、タツキは渋々とそれを口に含む。だが胸を触られているのが気になるのか、その動きは先程までより散漫だ。</p><p>ん、むぅ</p><p>Olが柔らかな肉を捏ね回していると、タツキがむず痒いのを我慢するかのような声を上げる。同時に、手の平に硬い感触があった。これが変な感じということなのだろう。タツキの乳首が僅かに屹立している。</p><p>？</p><p>何のことかもわからないのだろう。</p><p>Olの一方的な宣言に、タツキは目で疑問符を浮かべる。</p><p>しかし構わず、Olは彼女の喉奥に射精した。</p><p>無論拙い彼女の奉仕で達せられるわけもないが、Olがその気になれば己の身体を操作する程度は造作もないことだ。</p><p>んっぶっ！</p><p>溢れ出る白濁から逃れようと首を引くタツキの頭を押さえつけ、Olは断続的に口内に精を放つ。タツキは一瞬苦しそうに眉根を寄せたが、すぐにそれをごくりと飲み下した。</p><p>なんか出た</p><p>ごくごくと喉を鳴らして飲み干した後、自らの口内から引き抜かれた剛直をしげしげと見つめ、タツキは呟く。</p><p>精液だ</p><p>セーエキ</p><p>Olの言葉を反芻し、タツキは先端から滴る残り汁を指先で掬い取り、ぺろりと舐める。</p><p>結構美味しかった。おうる、もっかいだして</p><p>ああ。勿論構わん。ただし</p><p>笑顔を浮かべるタツキの両脚を掴み、Olは彼女をベッドの上にころりと転がす。</p><p>次はこちらにだ</p><p>タツキの両脚の間の中心は、普段は魚の尾になっているせいか毛もなくつるりとしていた。性格はともかく体つきは成熟した女のそれであるのに、そこだけまるで未成熟な子供のようだ。</p><p>自分で脚を押さえていろ</p><p>わけもわからず、タツキは言われるがままに自分の太股を抱える格好で脚を広げた。スリットの隙間から奥のピンク色の肉までが丸見えになるが、気にした様子もない。</p><p>Olはそこにペニスの先端を押し当てて宣言すると、タツキの腰を掴んで一気に奥まで突き込んだ。</p><p>いったぁぁぁぁあい！</p><p>ぶちりと肉を突き破るような感覚とともに、肉槍が根本までタツキの膣内に収まる。</p><p>タツキは堪らず悲鳴をあげたが、Olは容赦するつもりなどなかった。</p><p>いたいいたいいたい、おうる、いたいよ！</p><p>ぼろぼろと涙を流しながらタツキはOlを拒み腕で押すが、海水が周りにない状況でオロチの力も失った彼女はただの女と同じ程度の腕力しか持たない。</p><p>これは罰だ</p><p>Olはタツキの両腕を掴んでベッドシーツに押し付け、抽送を繰り返しながら言った。</p><p>ばつ？</p><p>お前は俺の仲間を食っただろう。だから痛いのだ</p><p>秘処からは赤い血がにじみ、Olは加減することなく奥を突いている。恐らくヤスリをかけられているかのような痛みだろう。痛みを伴わなければ、躾は出来ない。Olは犬猫を飼ったことはないが、人のそれには多少の心得があった。</p><p>お前が心から反省し、もう仲間を喰わぬと誓うのなら、これは痛みではなくどんな食事よりも美味い悦びとなるだろう</p><p>Olがそう言うと、タツキの瞳が戸惑いに揺れる。</p><p>ナカマって、何？</p><p>そして投げかけられた言葉に、Olは虚を突かれた。</p><p>お前にはいないのか？お前を助けたり、守ったり、手伝ったりするものは。海はお前の王国と言っていただろう。同じ姿をしたものは、同族はいないのか？</p><p>いないよ</p><p>タツキは首を横に振る。</p><p>海にいるのは、魚や、貝や、クラゲみんな、たつきのごはんだけだもん</p><p>その言葉には、例えば寂しさだとか、孤独感だとか、そう言った響きは全く含まれていなかった。当然だろう、とOlは思う。</p><p>虎が寂しさに泣くか。竜が孤独を憂うか。</p><p>人間が集まりたがるのは人であるが故の性質であって、全ての生き物に共通するものではない。</p><p>ねえ、ナカマって何？</p><p>ダンジョンの中に棲むものだ</p><p>タツキの抽象的な問いに、Olは即答した。</p><p>ダンジョンが何かはわかるな？</p><p>うん。この土の中の穴でしょ</p><p>ぐるりと辺りを見回すタツキに、Olは頷く。</p><p>この中で暮らしているものは、みな仲間で外から無理に入ろうとしてくるものが、敵だ</p><p>たつきは？</p><p>タツキはダンジョンの外に棲んでいる。しかし、その侵入は妨害されていなかった。海中の回廊には彼女専用の通路が引かれていて、波を自由に操れる彼女だけは簡単に入ってこられるようになっている。</p><p>お前はちょうどその中間だ。仲間ではないが、敵でもない。仲間になりたいか？</p><p>よく、わかんないけど</p><p>彼女は人の姿をしていても、人間ではない。</p><p>りるが、ごはんくれたでしょ</p><p>孤独を憂い、寂しさに身を切られる生き物ではない。</p><p>たつきがおいしいっていうと、りるはにこーってするの</p><p>だが、とOlは思う。</p><p>それは他者との交流を完全に否定することを意味するわけではない。</p><p>なんかそれみると、たつきも嬉しいから、りるは食べたくない</p><p>もし交流に価値を見出さないとするならば何故、彼女は言葉を喋るのか。</p><p>生け贄となった娘達から喰らい奪ったのか、海から陸を眺め耳をそばだてて学んだのかは、分からない。</p><p>いずれにせよ言葉というものは会話のためにあるものだ。</p><p>違う心の形をしていても、言葉が通じれば分かり合うことが出来る。</p><p>彼女が名を口にした淫魔とOlが、かつてそうしたように。</p><p>ならばお前はリルと仲間になれるということだ。他のものとそうなることも、難しいことではあるまい</p><p>ほんと？まだよくわかんないけど、たつき、おうるのナカマになれるの？</p><p>じっとOlを見つめるタツキの瞳は、よくよく見れば人とはまるで違う。</p><p>感情の読めない、理解し難い光を帯びていた。</p><p>だが、Olは頷く。</p><p>人と人同士であれば完全に理解し合えるなどというのが、そもそも幻なのだ。</p><p>疑い深い魔王は何も信じない。それ故に、人であろうがなかろうが全ては同じことだった。</p><p>もう痛みはないだろう？</p><p>あっ、ほんとだ</p><p>互いに繋がる部分を見れば、既に血も乾きタツキの傷も癒えていた。</p><p>会話の最中に密かに魔術で治療をしただけだが、タツキにそれはわからない。</p><p>Olは今度はゆっくりと、抽送を再開した。</p><p>浅く、深く、早く、遅く。</p><p>タツキの反応を見ながら、その快楽を少しずつ引き出していく。</p><p>なんかヘンだよ、おうる</p><p>ただひたすらにそれを受け入れながら、タツキは潤んだ瞳で熱のこもった息を吐いた。</p><p>問い返しつつ、Olは彼女の豊かな丘に手を伸ばす。今度は、拒否の言葉はなかった。</p><p>わかんない</p><p>代わりにその先端の蕾は、硬く膨れ上がってきている。</p><p>ひゃぅんっ！</p><p>それを軽く唇で食めば、タツキは可愛らしい声を上げた。</p><p>なに、これわかんない、よぅっ！</p><p>未知の感覚に怯え、タツキはOlにしがみつく。</p><p>Olはそんな彼女の頭を撫でて、安心させるように口付ける。</p><p>タツキは反射的に入り込んできた舌に噛み付きそうになったが、軽く歯を立てたところで伝わってきたぴりりとした痛みに慌てて止める。Olは更に舌を伸ばして、彼女の舌の根本から先端、その裏から歯茎をなぞる。</p><p>んぅっ！</p><p>顔を傾けて唇を何度も重ね合わせながら奥をつくと、タツキは一際高く鳴いた。</p><p>なに、これ、あっ、そこ、とんとんされると、あぁっ！なんか、へんな、こえでるぅっ！</p><p>根本まで突き入れた奥、腹側の部分がどうやら弱いらしい。</p><p>Olが腰を密着させる度にそこをペニスの先端で擦り上げられ、タツキは嬌声をあげながら叫んだ。</p><p>どうだ、美味いか？</p><p>ちが、あっ、おいしいのと、ぜんぜん、ちがうぅっ</p><p>問えば、タツキは首を横に振る。</p><p>じゃあやめるか？</p><p>だめぇ！やめ、ないでぇっ、もっとしてぇっ！</p><p>だが動きを止めて尋ねると、タツキは泣きそうな表情でそう懇願した。</p><p>うん、そこ、もっとごしごしして、あぁっ！おくが、いいのっ！</p><p>抽送を再開すると、タツキはぎゅっとOlの腰に脚を巻きつけ、恥丘を擦り付けるように腰を動かす。</p><p>おっぱいもぉっ、おうる、おっぱいもっと触ってぇっ！</p><p>そしてOlの両腕を掴むと、己の胸に押し付けた。</p><p>うんっ、それ、それ、いい、すごくいいっ！もっと、もっと強くぅっ！</p><p>乳房を揉みしだきながら先端に軽く爪を立ててやると、タツキの膣口から愛液が溢れて激しく振られる腰がぴちゃぴちゃと音を立てる。あんなにキツく締め付けていた彼女の膣口は大量の愛液によって嘘のように滑り、腰を打ち付ける度に彼女は善がった。</p><p>く、ち、おう、る、おくちっ！</p><p>余裕をなくした声色で、震えるタツキの手がOlの頭に伸びる。</p><p>それに応えて口付けてやると、彼女はOlの頭をぎゅっと抱きしめ、その口内に差し入れた舌をピンと伸ばしたまま身体を震わせた。</p><p>初めての絶頂を味わうタツキに合わせて、Olは彼女の奥を突き、子種をその子宮へと流し込む。奥の入り口をこじ開けられ、白濁を流し込まれて、タツキの膣口は痛いほどにOlを締め付けた。</p><p>いまのなに？</p><p>絶頂を超え、しばし放心してその余韻を味わった後、タツキはOlにそう尋ねた。</p><p>お前はイッたんだ</p><p>イッた</p><p>Olの言葉を反芻し、しばらくした後、タツキは得心したように笑みを浮かべる。</p><p>そっか。たつき、おうるにたべられちゃったんだね</p><p>何も知らぬ童女のような、それでいて男を知った女の顔に、Olは一瞬どきりとする。</p><p>気に入ったか？</p><p>うんでも、ちょっとつかれた</p><p>タツキはそう言って、繋がったまま目を閉じる。</p><p>そしてOlの腕の中で、安らかな寝息を立て始めた。</p><p>第一章終幕</p><p>もう四半刻ほども瞑想を続けるテナに、Olはとうとう耐え切れずそう問うた。</p><p>急かすでない。遠い未来を覗くのは、儂にとってもそう簡単な事ではないのじゃ</p><p>パチリと片目を開けて、テナはそう答える。</p><p>で、結果はどうなのだ</p><p>その娘の死の運命は、少なくとも当面は完全に取り除かれておる</p><p>よかったあー</p><p>テナの予言に、マリーはほっと胸を撫で下ろした。</p><p>メリザンドを憑依させれば死なないとは言っても、マリーの霊力ではそう長くは保たない。それに何より、死ぬのは文字通り死ぬほど痛いのだ。正直二度とやりたいとは思わなかった。</p><p>だがその朗報を前に、Olとテナは浮かない表情のままだった。</p><p>どうしたんですか？Olさま</p><p>俺が調べろといったのは、マリーの命運だけではなかろう</p><p>むしろそちらは瑣末事と言ってしまってもいい。</p><p>言いにくそうに、テナは口を開いた。</p><p>儂が見た限りでは、Ol。お主の破滅は免れ得ん。必ずしも死ぬわけではないが、死ぬ方がまだマシという未来もある</p><p>ええっ！？</p><p>やはりか</p><p>やたらと時間がかかったのは、彼女が出来る範囲で未来を変えた結果を色々と探ったからだろう。何事もなく平穏無事な時間が続いているのなら、見たままを告げればいいだけなのだから。</p><p>原因というより、狙われるのはソフィアか？</p><p>この大陸で魔王と呼ばれている存在が神と同種であるとわかった今、サクヤがソフィアを見て驚いた理由も聞かなくともわかる。</p><p>神というのは、生まれながらにして完成しているものなのだ。</p><p>変化することはあったとしても、自然と成長することはない。</p><p>山や河がそうであるように。</p><p>子供の神。成長する神。</p><p>それがどれだけ危険で恐ろしいものであるか言い換えれば、どれだけ魅力的な存在であるかは、タツキの態度を見てもわかる。</p><p>彼女は本能的に強い力を喰らおうと望んだだけだが、もっと大きな野心のために手中に収めようとするものもいるだろう。それを、望みを叶え野心を失ったOlが今手にしているというのは奇妙な皮肉だった。</p><p>ヤマタノオロチは山脈に跨る河じゃった。それが何を意味するのかわかるか？</p><p>国境だろう</p><p>テナは頷く。</p><p>国と国との境というのは、たいてい曖昧なものだ。大地に線が引かれているわけではない。だが河と山脈というのは、まさにその大地に引かれた線であった。</p><p>あれがおるから、外つ国の神々はこの国に手を出さなかった。ヤマタノオロチは理性も無く、領土もない災神じゃ。労して倒してもこの地に大して旨味があるわけでもない。が</p><p>壁が消え、実が成った。ということかだが外の神とやらは、何故ソフィアのことを知る？</p><p>お主の前におるのはなんじゃ</p><p>Olの問いに、テナは呆れた様子で己の狐耳を指差した。</p><p>儂の力でさえ、ここまでのことを知れるのじゃぞ。より知に優れた神が外には必ずおるじゃろう</p><p>厄介な事だ</p><p>深くため息をつきつつも、Olは意識を切り替える。</p><p>よく考えてみれば、言うほど悪い事態ではない。少なくとも、そんな連中の存在を知らないまま、本拠地を攻められる方が遥かに厄介だ。</p><p>まあ、俺が滅ぶと言ってもお前の予言はよく外れるからな</p><p>所詮、たった千年しか生きておらぬ天狐じゃからの</p><p>テナは僻みっぽい口調で答える。ローガンやメリザンドの年齢を伝えた結果だ。</p><p>不安げにOlを見上げるソフィアを、彼は抱き上げる。</p><p>何があってもお前は俺が守ってやる。俺の子なのだからな</p><p>わかっているのかいないのか、ソフィアは言葉少なにこくりと頷いた。</p><p>たつきも、守るよ！</p><p>ばしゃりと水中から飛び出して、タツキが叫んだ。</p><p>ナカマだもんね</p><p>海中に作ってやった彼女の部屋がよほど気に入ったのか、タツキは事あるごとにそう主張する。</p><p>致し方ありませんわね。この地を荒らされるわけには参りません。妾も助力いたしましょう</p><p>それに対抗するように、サクヤは薄紅色の髪をかきあげる。</p><p>夫を支えるのも、妻の勤めですしね</p><p>そしてぽっと頬を染めてそう呟いた。</p><p>正妻、わたし。新入り、引っ込んでろ</p><p>何故か片言で、リルがサクヤに文句をつける。</p><p>あの、ボクは愛人で大丈夫です</p><p>互いに豊かな乳房を押し付け張り合う二人を尻目に、こそりとユツがOlに耳打ちした。</p><p>お師匠様の正室は三人、側室は十人。愛人だと二百五十二人目ですね</p><p>冷静にユツの名前をリストの末尾に書き加えつつ、スピナは私は正室ですがとさり気なく主張する。</p><p>この分だともっと増えそうだねえ</p><p>ちゃっかりとOlの隣を専有しつつ、正妻の最後の一人、ユニスは呑気に言った。</p><p>ただの偵察のはずだったのだがな</p><p>言いつつ、Olはソフィアの髪を撫でた。</p><p>ぱぱ？</p><p>新大陸の事情はわかったから、後は本拠地に戻って戦力を整えよう。</p><p>そんな言葉は不思議そうに見あげてくる娘の目を見た途端、雲散霧消する。</p><p>そして同時に老いたる魔王は再び、世界に挑むことを決めた。</p><p>登場人物その2</p><p>第二期一幕に登場した人物（の一部）です。ネタバレ要素を含みますので未読の方はご注意ください。</p><p>このページのイラストは全て新堂アラタ先生、tocoda先生から頂いたものです。</p><p>迷宮の少女。16歳。幼い頃、生贄としてOlのもとに送られた子供が成長した姿。まだ若干の幼さを残してはいるものの、金に輝くウェーブした髪とサファイアのような青い瞳は宝石箱のように美しく、女性としての魅力を兼ね備えつつある。</p><p>成長しやや大人しくなりはしたもののその自由闊達さは健在で、猫のように気まぐれ。若干面倒臭がりな部分があり何かとサボりがちではあるが、迷宮の住民たちに鍛え上げられたその実力は確かなもので、剣術から魔術、法術、家事全般に育児まで大体何でも率なくこなす。</p><p>ソフィア</p><p>迷宮の幼女。0歳。森のダンジョンの中で見つかった謎の赤子。その正体はダンジョンを拡張するに伴って成長する、ダンジョンの化身である。中心となっている森を反映してか、木の葉のような緑の髪と瞳を持つ。</p><p>名付け親であるマリーを母と慕うが、彼女に似ず臆病で慎重な性格。人見知りをするきらいがある。ダンジョンは彼女自身であり、内部構造や中にあるものをある程度自由に操ることができる。逆に、ダンジョンが破壊されると傷を負ってしまう。</p><p>タツキ</p><p>龍姫。海の魔王。年齢不詳。比較的若い世代の神。青い髪と碧の瞳を持ち、鹿のような角、ヒレのような耳、魚のような下半身を持つ。その本性は魚ではなく龍であり、下半身は人間の足に変化させることもできる。</p><p>人とは異なる価値観を持ち、その性質は人間よりも獣に近い。己の欲求に素直であり、何よりも食欲を優先する。水の波を操る力を持ってはいるが、水を圧縮したり凍らせたりすることは出来ない。</p><p>ユツ</p><p>湯津。巫女の少女。18歳。白い髪に黒い瞳。小柄で彫の浅い顔立ちのため見た目上はもっと幼く見えるが、それは民族的な特徴であり、特別童顔というわけではない。ややたれ目気味。</p><p>大人しく素朴だが、意外と思い切りはよくやるときはやる性格。妖魅と呼ばれる存在を自分の身に降ろすことができ、100年生きた妖狸を使役することを得手としている。狸を降ろすと変幻自在の変化の術を使える他、身体能力が強化され、巨乳になる。</p><p>テナ</p><p>手名。大巫女の老婆。80歳。白髪に灰の瞳。Olの魔術によって若返った後は、若いころの銀の髪と、ユツに酷似した顔立ちを取り戻す。やや釣り目。</p><p>泰然としたふうを装ってはいるが経験に裏打ちされた虚勢であり、本質的には神経質な苦労性。1000年生きた妖狐を使役することができ、未来予知、狐火、変化、幻術など様々な術を使いこなす。巨乳にはならない。</p><p>我らひとしく特典ヒロイン-1</p><p>既刊の店舗特典SSに登場したゲストヒロインたちの、その後のお話。</p><p>時系列は本編第二期開始前、第一期エピローグ後しばらく後になります。</p><p>本日から侍女としてここで働かせて頂くことになりました、ベルと申します。どうぞよろしくお願いします</p><p>居並ぶ侍女たちを前にして、少女は折り目正しく自己紹介をしながら深々と頭を下げた。</p><p>年の頃は十四、五。栗色の髪を腰まで伸ばした、愛らしい少女だ。</p><p>多分にあどけなさを残すその顔には、緊張の色が濃く浮き出ていた。</p><p>新しい環境に不安を抱いているからでは、ない。</p><p>私が侍女長のルーアルです。よろしくお願いしますね、ベルさん</p><p>副侍女長、ラサラだ。なかなか見込みがある奴が入ってきたようだな</p><p>ヨハネと申します。困ったことがあれば何でも言ってくださいね</p><p>めりあ、です。よろしくです</p><p>目の前に並ぶ侍女たちが皆、どう考えてもただの侍女には見えなかったからだ。</p><p>まだ幼いとはいえ、ベルはこれまでそれなりの研鑽を積んできたつもりだった。</p><p>勿論本職の戦士や魔術師には敵わないにしても、一般人が相手であれば大人であっても遅れを取ることはないであろう自負があった。</p><p>だが、だからこそ彼女は彼我の実力差をはっきりと感じ取っていた。</p><p>何十人もいる侍女たちの大半に、ベルでは手も足も出ない。</p><p>と自己紹介しても一度には覚えられないでしょうから、順番についていって、仕事を覚えていってくださいね</p><p>にこやかにいう侍女長の言葉に、ベルはただ頷くことしかできなかった。</p><p>お洗濯は、この地下迷宮の中でもっとも大事なお仕事の一つです</p><p>どこか気品を感じさせるゆったりとした口調でそう言ったのは、ヨハネと名乗った侍女だった。</p><p>赤い髪に緑の瞳の、小柄な女性だ。美人というよりは愛らしく可愛らしい顔立ちをしているものの、その落ち着いた所作と優美な仕草が彼女を幼く感じさせない。</p><p>洗い物がたっぷりと入った洗濯籠を抱えているというのに、まるで姫君のような雰囲気があった。</p><p>だがその中身は、はっきり言って化け物である。</p><p>敵わないと感じた侍女たちの中でも、ヨハネの実力は更に抜きんでていた。</p><p>重い洗濯籠を片腕で軽々と抱え、それでいて体の軸は微塵も揺らがない。</p><p>多分、綱の上に片足で立つ素手のヨハネに十全の状態のベルが槍で突きかかっても負けるだろう、とベルは予感した。それも、一瞬で。</p><p>洗濯はここで行います</p><p>ヨハネに案内されて辿り着いたのは、広々としたテラスだった。</p><p>頭上には青い空が広がり、爽やかな風が頬を撫で、燦々と太陽の光が降り注いでいる。</p><p>あまりにもダンジョンという言葉からかけ離れた光景に目を剥くベルに、ヨハネはくすくすと笑った。</p><p>驚いたでしょう？私たちの住んでいる場所は、空の上にあるんですよ</p><p>そういえば、とベルは思い出した。</p><p>雲の上に浮かぶ巨大な城が現れたのは、最近の事だ。</p><p>あれこそは魔王様の城に違いないと噂されていたが、本当だったとは。</p><p>さあ、洗いましょうか。ここを引くと水が出てきますので</p><p>ヨハネが壁から突き出したレバーを引くと、その隣にある竜の首を模した彫像から水が溢れ出す。</p><p>それをタライに溜めて、洗濯物を洗うという仕組みらしい。</p><p>水を吹く竜なんて、ちょっと不思議な感じですね</p><p>ごしごしと服を洗いながら、ベルはふとそんなことを言った。</p><p>竜といえば火を吹くものだ。</p><p>そんなことはありませんよ。昔は水を吹くもの、稲妻を迸らせるもの、毒を吐くもの色んな竜がいたんです。今残っているのはもう、火を吹くものばかりというだけで</p><p>ベルは目を瞬かせる。魔物についても随分調べたつもりだったが、そんな話は初耳だった。</p><p>ええ、本当ですよ。何頭か倒したこともありますから</p><p>何者なんですかヨハネさんは</p><p>聞くまいと思っていたことを、ベルはついつい聞いてしまった。</p><p>ドラゴンスレイヤーの侍女なんて、流石に気にならないわけがない。</p><p>ずっと昔、ちょっと英雄を嗜んでまして</p><p>嗜むものなんですか、英雄って</p><p>コロコロと笑うヨハネに半ば呆れつつもベルは納得した。</p><p>英雄であれば彼女の異常なまでの隙のなさも説明がつく。</p><p>魔王陛下に元英雄の部下がいるという話は聞いていた。</p><p>まさか侍女となってごしごしと楽しそうに洗濯物を洗っているとは思わなかったが。</p><p>英雄から侍女になるなんて、大変じゃないですか？</p><p>ベルには想像もつかないが、英雄というからにはさぞ煌びやかな暮らしをしていたのだろう。</p><p>それがこんな地味な下働きをしているというのは辛いのではないか。</p><p>そう思って尋ねると、</p><p>竜を殺してもね。人は、褒めてはくれないのですよ</p><p>ヨハネはそんな言葉を返した。</p><p>喜んではくれても、よくやった、助かる、などとは言ってくれないの。だって相手は、竜より恐ろしい女なのですもの</p><p>遠くを見るような目つきで、ヨハネは語る。</p><p>それに比べたらね。お洗濯は素晴らしい仕事ですよ。皆私の洗った服を気持ちよさそうに着て、褒めてくれるんですもの</p><p>にこりと笑って、彼女は洗い終えた服を籠に積んだ。</p><p>本当はこれを一枚一枚干していかないといけないんだけど、今日は特別に、少しだけずるをしちゃいましょう</p><p>ずるですか？</p><p>小首をかしげるベルにヨハネはパチリと片目を閉じて見せると、後頭部で髪を束ねたリボンを外す。ふわりと広がる髪の毛は瞬く間に真っ赤な炎となって、洗濯物を包み込んだ。</p><p>洗濯物が！</p><p>燃えてしまう、と手を伸ばすベルを、ヨハネは落ち着いて押し留めた。</p><p>私の炎は燃やしたいものだけを滅ぼす情念の炎。これを使えば、ほら</p><p>あっという間に炎は消え去り、あとに残ったのはさっぱりと乾いた服だ。</p><p>余計な水分も汚れも燃え消えてさっぱり！普段はちゃんと干してますけどね</p><p>燃やしたいものだけ燃やす炎なんて、武器として使えばすさまじく強力だろうに、とベルは思う。</p><p>火を吹かない竜も、おかしいものじゃない確かに、その通りですね</p><p>だが不思議とヨハネには、その炎で竜を殺すよりも、洗濯物を乾かしている方が似合っているように思えた。</p><p>我らひとしく特典ヒロイン-2</p><p>掃除こそ、このダンジョンの中で最も重要な仕事だ。なぜだかわかるか、新入り！</p><p>モップをまるで槍のように掲げて高圧的に問うてきたのは、副侍女長のラサラだ。</p><p>金の髪を後頭部で丸めた長身の美女で、その鋭い目つきときびきびとした所作は侍女服よりも鎧兜に身を包む方が似合いそうだった。</p><p>えっとわかりません</p><p>うむ、正直でよろしい！</p><p>しばらく考えても思いつかないのでベルがそう答えると、ラサラはカラカラと笑った。</p><p>正解はな、この私が受け持ちだからだ！</p><p>えっ。そんなバカげた理由なんですか？</p><p>あまりにも予想外の返答に、ベルは思わずそう問うてしまった。</p><p>お前、いくら何でも正直すぎるだろ！？</p><p>す、すみません、つい</p><p>流石に聞き咎めるラサラに、ベルは小さくなって謝る。</p><p>まあいい。今のは半分冗談のようなものだ。本当の理由は、これだ</p><p>言ってラサラはモップを走らせる。</p><p>見事な突きだ、とベルは感嘆した。</p><p>出始めと引き戻しの動作がとにかく早い。それでいて、派手な音は一つもしない。</p><p>長年に渡った修練の末にだけ手に入る、本物の戦士の突きだった。</p><p>この境地に至ってしまえば得物が刃のついた槍だろうとモップだろうと大差はない。</p><p>人の形をしている以上、その命を間違いなく奪うだろう。</p><p>どうだ。わかったか</p><p>はい！ラサラさんの至った武の極み、感服いたしました！</p><p>あふれる感激を正直に表に出すと、ラサラははあ？と眉をひそめた。</p><p>何を言ってるんだお前は。ここの汚れが消えただろう、と言ってるんだ私は</p><p>示され、よくよく見てみれば、確かに彼女が磨いた場所は輝かんばかりに綺麗になっている。</p><p>ただの地下迷宮とダンジョンを分けるもの。それこそが、掃除だ。ダンジョンの中は地下ゆえ汚れやすいが、よく掃除され手入れされたそこは王の城をも上回る気品を手に入れるのだ</p><p>でも、いまこのダンジョンって空の上にあるって聞きましたけど</p><p>ベルの指摘にラサラの動きはぴたりと止まり。</p><p>ええい、うるさい！割と最近なんだよ空なんて飛びだしたのは！</p><p>あっさりと切れてそう叫んだ。</p><p>無駄口を叩いてないで働くぞ！ついてこい、新入り！</p><p>ラサラはそう宣言すると、ぶんとモップを振り回す。</p><p>それは何とも見事な演武であった。</p><p>突き、打ち、払い、薙ぎ、振り下ろしながらも、的確に汚れを磨き落としていく。</p><p>（凄いなんて）</p><p>ベルはその動きに、ある種の感動を抱いていた。</p><p>（なんて無駄な動き）</p><p>それを攻撃とみるのなら、一切の無駄がない動きである。</p><p>だがそれを掃除として見るのなら、ほとんどの動きが無駄であった。</p><p>長年の修練と研鑽をもってして作られた、洗練された無駄のない無駄な動きだ。</p><p>はぁっ、はぁっ、はぁっや、やるじゃないかまさか初日からこの私についてくるとはな</p><p>荒く息を吐きながら褒め称えるラサラに、ベルは気のない返事を返した。</p><p>ベルの方はごくごく真っ当に磨いていたのだから当然だ。</p><p>むしろあれだけ無駄に動いていてベルと同じくらいの速さで進んだラサラの方が凄いのかもしれないが、称賛する気にもなれず、ベルは何やらもやもやとした思いを抱える。</p><p>私はかつて、ラーヴァナという国の竜騎士団の副団長をしていた</p><p>突然、ラサラは聞いてもいないのにそんなことを話し出した。</p><p>聞いたことがあります</p><p>ラーヴァナの竜騎士団といえば、今でも有名だ。</p><p>飛竜を駆り空を駆ける大空の王者。</p><p>ただし、魔王軍の獣の魔王を除く。</p><p>飛竜どころか真竜を馬にし、獣に属するものであれば例外なく掌握する獣の魔王に一瞬で敗北した竜騎士団の話は魔王軍に関する叙事詩でもよく語られる話である。</p><p>騎士団を壊滅させられ、虜囚の屈辱を受け、このように侍女などという身に落とされた私が何を考えているか、わかるか？</p><p>ラサラの鋭い視線が、ベルを射抜く。</p><p>もしお前の目的も同じであれば、手を組んでもいい</p><p>そうですね。では、お力を貸してくださいますか？</p><p>ベルがそういうと、ラサラの瞳は更に鋭く引き絞られ。</p><p>私もお掃除は大好きですから</p><p>ん？掃除？</p><p>気付いた時には、モップの先端が鼻先に突き付けられていた。</p><p>全く動作が見えなかった。ベルの背中に、冷たいものが伝う。</p><p>後一瞬遅れていたら彼女の頭は木っ端みじんに砕け散っていただろう。</p><p>それはあれか？ダンジョンに住むものはゴミだから始末する的な意味か？</p><p>違いますよ。純粋な意味で、お掃除です。ラサラさんと同じで</p><p>ベルの言葉にラサラは呻いた。</p><p>本当に魔王様に恨みがあったら、あんなに楽しそうにお掃除なんかしませんよ</p><p>百歩譲って掃除そのものが好きだとか、疑いを持たれないように演技しているとかであったとしても、掃除に対して語った熱意は本物だった。</p><p>ただの地下迷宮とダンジョンとを分かつ作業。それはつまりそこに住む人間への配慮だ。</p><p>そんなことに熱意を持っている人間が、叛意を持っているわけがない。</p><p>まてそれではまるで、私が魔王様を大好きみたいではないか！</p><p>はい、ですから申しあげたとおりです</p><p>くすくすと笑いながら、ベルは答える。</p><p>私もラサラさんと同じで魔王様が大好きですからきっと、力をお貸しくださいね</p><p>我らひとしく特典ヒロイン-3</p><p>んっとね。おふろのよういはー、すっごくだいじなおしごとなの</p><p>あどけない口調でそう説明してくれたのは、メリアという名前の侍女だった。</p><p>まるで幼児のような舌足らずな口調とは裏腹に、その外見はとても侍女とは思えない程の美しさだった。</p><p>基本的に侍女たちは見目の麗しさを前提として集められているからその平均は非常に高いのだが、その中でもメリアの美しさは一頭地を抜いている。</p><p>足首まで伸びた純白の髪はまるで絹糸のように滑らかで、紫色の瞳は宝石のよう。すらりとした肢体には豊かな果実を抱いていて、体型までもが神が作り上げたかのように完璧。乏しい表情も相まって、まるで人形のような美しさだった。</p><p>なぜですか？</p><p>おうるさまが、おふろだいすきだから</p><p>だが、そんな美の化身から紡がれる言葉はどこまでもたどたどしい。</p><p>外見と中身とが、あまりにちぐはぐであった。</p><p>そして何よりも異常なのが、その魔力だ。</p><p>例え魔術師でなくとも人間というのは多かれ少なかれ体に魔力を宿しているものだが、メリアの肉体には微塵も魔力を感じられない。</p><p>ヨハネやラサラのように強いというわけではないむしろ子猫にも負けそうなくらいだったが、その得体のしれなさも群を抜いていた。</p><p>まずー、ふくがぬれちゃうから、ふくをぬぎまーす</p><p>そういうや否や、やおら服を脱ぎ捨てるメリアにベルはぎょっとして目を見開く。</p><p>でー、おゆをぬいて、おそうじしまーす</p><p>メリアが浴室内のレバーを引くと、巨大な浴槽になみなみと湛えられた湯が轟音を立てて渦を巻いた。</p><p>よいしょ</p><p>メリアは浴槽のへりに座り込むと、減っていく湯をじっと見つめる。</p><p>あの服を脱ぐのは、お湯がなくなってからでもよかったのでは？</p><p>おおー</p><p>思わずベルが尋ねると、メリアは感心したように声を上げた。</p><p>あっ、でもぬれちゃうし</p><p>そりゃあ浴槽のへりに座れば濡れるだろうが。</p><p>とりあえずベルは腕をまくり、靴を脱いで、スカートを短く腰に挟み込んだ。</p><p>流石にいきなり肌を晒すのは恥ずかしい。</p><p>幸いメリアもそれを咎めることはなかったので、湯が抜けた後ベルはその格好で掃除を始めることにした。</p><p>湯を抜いた浴槽の床は存外滑りやすく、ベルは危うく転びかけて何とか持ちこたえる。</p><p>これ、滑らない為に何かコツはあるので</p><p>先達に求めようと振り向くと、メリアは思い切り滑って身体を投げ打っているところだった。</p><p>痛くないんですか？</p><p>へーき！</p><p>鼻を真っ赤に染め上げながら、メリアはすっくと立ちあがる。</p><p>そして果敢にブラシで床をこすり始めるが、またすぐにつるりと滑って転がった。</p><p>なるほど、これは裸にならなければいけないわけだ、とベルは納得する。</p><p>しかしそれにしても、と床を磨きながら、ベルは横目でメリアを伺う。</p><p>同性でもため息が出てしまいそうなほど美しい裸身だ。</p><p>メリアが床を磨くたびに、その豊かな双丘がぶるんぶるんと惜しげもなく揺らされる。</p><p>まるで羞恥心というものをどこかに置き忘れてきてしまったかのように手で隠すようなそぶりも一切なく、その上何度も滑って転げまわるので、大事な部分までがばっちりと見えてしまっていた。</p><p>落ち着いて。滑りやすいので、しっかり足を踏みしめて、ゆっくりと歩いてください</p><p>その白い肌にいくつも痣が出来てしまうのが何とも耐えられず、ベルは思わずそう声をかける。</p><p>うー。こお？</p><p>こうです</p><p>ぱたぱたと走るからこけてしまうのだ。足の裏を地面につけたまま、擦るように動けばそうそうは転ばない。ベルがやってみせると、メリアはまるで鳥の雛のように後をついてきた。</p><p>ほんとだ。ありがとう、べる</p><p>侍女としては自分の方が先輩だというのにメリアはまったく気にした風もなく、にっこりと笑う。</p><p>おわったー</p><p>浴室の掃除を終えて、メリアは嬉しそうに身体を伸ばす。</p><p>あとはー、おゆをためたら、おしまい</p><p>メリアが始めに引いたレバーを元に戻すと、壁に彫られた獅子の意匠からどぼどぼと音を立て湯が溢れ出す。</p><p>やることは単純だが、浴槽が巨大なだけになかなかの重労働だった。</p><p>身体を見せてください。多少ですが、回復魔術の心得がありますので</p><p>摺り足を教えた後でも、メリアはやはり何度かは転んでいた。</p><p>服を着ずに石でできた浴槽に転んでいたのだ。痣どころか擦り傷の一つや二つ、出来ていてもおかしくはない。</p><p>あら？</p><p>ところが、メリアの体にはどこにも傷などできていなかった。</p><p>間違いなく痣が出来ているのを確認した膝や、赤く腫れていた鼻の頭まで何ともない。</p><p>あのね、めりあはせーじょのかけらなんだって</p><p>聖女の欠片？</p><p>メリアの拙い説明に、ベルははっと思い出す。</p><p>確か九年ほど前、魔王軍が宗教国家ラファニスに攻め込み、攫った聖女の名前がメリアだったはずだ。その後ラファニスは魔王軍の侵攻によって属国となったが、まさかこんなところで侍女をしていたとは。</p><p>いっかいしんで、めりざんどさまのちからでもういっかいつくってもらったから、だから、けがはすぐなおっちゃうの</p><p>メリアの説明はよくわからないものであったが、彼女のような子が侍女をやっている理由はなんとなく察した。</p><p>と、その時だ。</p><p>湯は出来たか</p><p>突然浴室の外から投げかけられた低い声に、ベルは飛び上がらんばかりに驚いた。</p><p>うん、できたよ、おうるさま！</p><p>ご苦労</p><p>忘れもしない、この声。メリアの言葉を聞くまでもなく、それがベルの目的であり、このダンジョンの主であるOlのものだとわかった。</p><p>Olはベルがいるのを気にした風もなく浴室に入ってきて、浴槽の隣に設えられた段差に腰掛ける。</p><p>おせなかながしまーす</p><p>すると自然な動作で、メリアは彼に湯をかけ、石鹸を泡立て始めた。</p><p>そしてその泡を自分の身体に塗りたくり、Olに抱き着いて彼の身を清め始める。</p><p>なるほど、これは最重要の仕事だ。</p><p>ベルは顔を真っ赤に紅潮させながら、先輩の仕事を観察することに努めた。</p><p>我らひとしく特典ヒロイン-4</p><p>では、お料理を教えますね</p><p>侍女長ルーアル直々の申し出に、ベルはやや緊張した面持ちで返事を返した。</p><p>銀の髪を腰まで伸ばした、たおやかな印象の女性だ。</p><p>その瞳はいつも微笑みに細く弧を描いていて、常に穏やかな口調で話す彼女が声を荒げたり、不機嫌そうにしているところをベルは見たことがない。</p><p>にもかかわらず、ベルはルーアルの事が侍女の中で一番怖かった。</p><p>お料理は、重要な仕事ではないんですか？</p><p>ふと、気になったことをベルは問う。</p><p>今までの方々は、皆さん自分のお仕事を一番大事だと仰っていたのですが</p><p>ベルの言葉に、ルーアルはくすくすと笑った。</p><p>そうですね。嘘ではありませんよ。どのお仕事もとても大事で皆さん、自分の仕事に誇りをもって働いているのです</p><p>優しげな口調でそう言いながらも、ルーアルの手はまるで別の生き物のように動いて調理の準備をしている。</p><p>勿論、お料理もとても大事です。特に魔王様は舌が肥えてらっしゃいますから</p><p>そんなことを言っている間に、あっという間に下拵えを終えてしまった。</p><p>ベルも料理には自信があったが、手際の良さではとても敵いそうもない。</p><p>だが、ベルが彼女を恐れる理由はもちろん、そんなところにはなかった。</p><p>す、すごい</p><p>ベルさんも十年も勤めていれば、このくらいできるようになりますよ</p><p>十年、ですか</p><p>十年。その言葉を、ベルは複雑な表情で呟く。</p><p>そうそう</p><p>その表情を視界の端でとらえながら、ルーアルは言った。</p><p>ごめんなさいね、ラサラさんが妙なことを言って</p><p>唐突な話題の転換に、ベルの心臓はどきりと跳ねた。</p><p>いえ、気にしていません。私も、自分自身怪しいと思いますし</p><p>そうですね。魔術が使えて戦闘技術も持ってる侍女が入ってくるなんて、暗殺者でもない限りそうあることじゃないし</p><p>ベルはこくりと頷いた。その辺りを見抜かれてしまっているのは先刻承知だ。</p><p>でも私は、誓ってOl様に害意は</p><p>勿論、わかってますよ</p><p>ルーアルは笑みを絶やすことなく頷く。</p><p>流石に人を殺したことのない暗殺者が送られてくるなんてないでしょうしね</p><p>何で、わかるんですか</p><p>ベルの戦闘技術は、純粋にたゆまぬ訓練によって磨かれたものだ。</p><p>魔物を相手にしたことはあっても、人を切ったことはない。</p><p>私が元暗殺者だから、でしょうか</p><p>さらりと言ってのけるルーアルに、ベルは驚くよりも先に得心した。</p><p>純粋な強さという点で言えば、ルーアルはヨハネどころかラサラにさえ及ばないだろう。</p><p>だが、圧倒的に怖い。</p><p>彼女は気づけば、いつの間にか間合いにいるのだ。</p><p>近寄られたことにも気づけないし、気付いた後もそのにこやかな笑顔を警戒できない。</p><p>だからこそ、誰よりも怖い存在だった。</p><p>Ol様を暗殺するために送り込まれたんですが、あっさり失敗してしまいましてね。それ以来、毒殺の為の料理の腕を見込まれてここで働いて、いつの間にやら侍女長ですよ</p><p>鍋をかき混ぜながらあはは、と笑うルーアルに、ベルはどう反応していいか悩んだ。</p><p>暗殺者を侍女長に任命するOlが凄いのか、そのまま納まるルーアルが凄いのか。</p><p>だからね。大丈夫ですよ、きっと。どんな事情があってここに来たのかわかりませんが、ベルさんもきっと誇りをもってここで働けるようになります</p><p>それで結局、お前はどういう理由で潜り込んできたんだ</p><p>行儀悪く紅茶をすすりながら、ラサラがそう切り出した。</p><p>Olさんへの目通りは済んだのでしょう？</p><p>焼き菓子を品よく口にしながらも、ヨハネの瞳は好奇心に輝いている。</p><p>べる、うれしそうだったもんね</p><p>もぐもぐと頬張りながら、メリアは頷く。</p><p>私も聞きたいですね</p><p>その頬についた食べカスを拭いてやりながら、ルーアルまでもがそう言いだしたので、</p><p>あの、笑わないでくださいね</p><p>ベルはとうとう観念して、語り始めた。</p><p>十年前、まだ魔王となる前のOlが近隣の村を支配下に収めた時、ほとんど一目惚れに近い形で惹かれたこと。</p><p>それから十年、魔王の侍女となるべく己を鍛え学び、様々な技術を身に着けてきたこと。</p><p>年頃になった時にはとっくに村からの生贄の取り立ては終わっており、マリーとスピナの村の十年後に娘を寄越せという約束を利用してやってきたこと。</p><p>全てを話し終わったときの反応は、様々だった。</p><p>初恋の為にそんな幼い頃から十年も素敵、ですわね</p><p>ヨハネはいたく感動した様子でほうと息をつき。</p><p>独学で？師となる方は、これといっていなかったのですか？</p><p>ルーアルはよくわからないところに食いつき。</p><p>おかし、おいしい</p><p>メリアはよくわからなかったらしくにこにこと菓子を食べ。</p><p>いや、普通に侍女として入ったらよかったんじゃないか。生贄として取り立てなくなっただけで、募集はしてるぞ？</p><p>ラサラが至極最もな突っ込みをした。</p><p>その生贄として来たのであれば、ご寵愛を頂けるのではないかと思いまして</p><p>ベルの言葉に一同はああ～と声をあげた。</p><p>実はその考えは間違っているのですけれど、結果としては最善手ですね</p><p>どういうことですか？</p><p>ヨハネの矛盾した言葉に、ベルは首を傾げる。</p><p>魔王陛下はああ見えて、女とみれば誰でも犯す性欲魔人ではないからな。相手を選んだ上で誰でも犯すタイプの性欲魔人だ</p><p>ええっと</p><p>不遜なラサラの言葉を咎めるべきか、内容を質すべきか、ベルは悩んだ。</p><p>生贄は魔術的な観点から処女が要求されるんですけど、だからこそ魔王様はなかなか処女には手を出さないんですよ。価値が損なわれてしまいますからね</p><p>なるほど、納得しました</p><p>だがそれには例外がある、という事だろう。</p><p>それが、暗殺者や内通者の疑いがある場合だ。</p><p>肌を重ねているときが彼らにとって最大のチャンスであることは疑うべくもない。</p><p>だからこそ、Olはそれを敢えて誘い、証拠を握って始末するのだ。</p><p>私は幸運だったのですね。下手をすれば暗殺者として始末されていてもおかしくはなかった</p><p>ベルがいうと、ルーアルたちは互いに顔を見合わせた。</p><p>元暗殺者で始末された人なんていましたっけ？</p><p>私が知る限りでは一人もいませんね</p><p>そんなにいるんですか、元暗殺者</p><p>思わず問えば、</p><p>三割くらいは元暗殺者じゃないか？</p><p>思った以上に多いですね！？</p><p>予想だにしない答えに、ベルは叫んだ。</p><p>つまり、それだけの人数がOl様に</p><p>あ、抱かれてる侍女の数はもっと多いですよ。私が把握してるだけでも六、七割くらいは</p><p>殆どじゃないですか！？処女にはなかなか手を出さないって話は何だったんですか？</p><p>言っただろう。相手を選んだ上で誰でも犯すタイプの性欲魔人だと</p><p>なぜか誇らしげに、ラサラはそう言った。</p><p>その、こちらからお願いすれば拒まれることは殆どありませんので</p><p>やや恥ずかしげに、ヨハネ。</p><p>孕んで玉の輿などという考えは捨てた方が良いですけれどね。その辺りの対策はしっかりされているので</p><p>そういう侍女も過去にはいたのだろう。さりげなくルーアルが釘を刺す。</p><p>おうるさまとのえっち、すごくきもちいいよ</p><p>屈託なくいうメリアの言葉に、その場の全員が押し黙った。</p><p>多分、あの途方もない快楽を思い出してしまったのだろう自分と同じように。</p><p>ベルはそう考える。</p><p>でもそんなに人数がいると、お相手して頂くのは難しそうですね</p><p>まあそれはな。そもそも我々は侍女であって、妻でも側室でもない</p><p>ガリガリと音を立てて、ラサラは焼き菓子を齧る。</p><p>奥方だけでも何十人もいらっしゃいますものね</p><p>少し寂し気に、ヨハネは呟く。</p><p>まあ、方法はありますけどね</p><p>メリアの肩を叩いて、ルーアルはにっこりと笑った。</p><p>我らひとしく特典ヒロイン-5</p><p>一体何事だ</p><p>いつものように出来立ての湯に入りに来たOlは、思わずそう口にした。</p><p>メリアとともにベルがいた時は気にも止めなかったが、流石に五人も侍女が並んでいれば何事かと思う。ましてや、浴室の中だというのに揃いの侍女服に身を包んでいれば尚更だ。</p><p>ベルさんの最後の研修をしようと思いまして。私たちにとって、一番大事なお仕事つまり</p><p>黒いワンピースにフリルの付いた白いエプロンを組み合わせて作られたその侍女服は、リルがデザインしたものだ。</p><p>王の迷宮の中で気品を損ねぬ程度に可愛らしくありながら、しかしけして仕事の邪魔にならないよう極めて機能的にできている。</p><p>無論、その機能は洗濯や掃除、料理といった家事にのみ適用されるものではない。</p><p>なにせリルは淫魔なのだ。</p><p>五人の侍女たちはブラウスのボタンを外すと、一斉に開いてみせた。</p><p>すると白く美しい五対十個の乳房がOlの眼前にまろびでる。</p><p>魔王さまへの、ご奉仕です</p><p>良かろう</p><p>それはなかなかに扇情的な光景だった。</p><p>ブラウスの縁に締め付けられ、はちきれんばかりのメリアの乳房。</p><p>ラサラの胸はその長身に相応しい大きさで張り出している。</p><p>その一方で、ヨハネはユニスそっくりな小柄ながら破格の大きさだ。</p><p>ルーアルの双丘は手にちょうど収まる程度の大きさで実に形がいい。</p><p>ツンと上を向くベルの膨らみかけの果実は、思わずむしゃぶりつきたくなる美しさだった。</p><p>どうぞ、お好きになさってください。私達のこの身はすべて、魔王様のものですから</p><p>大きいものから小さいものまで並べられてそんなことを言われては、Olならずとも堪えられるものではない。</p><p>あんっ</p><p>思わずその魅惑の果実に手を伸ばせば、甘い声がOlの脳髄に響いた。</p><p>右手でルーアルとラサラの、左手でメリアとヨハネの乳房を鷲掴みにしながら、ベルの薄い胸を唇でついばむ。大きさも柔らかさも肌の張りも、まるで違う。Olがその感触を大いに楽しんでいると、侍女たちの指先がそっと彼の怒張に触れた。</p><p>柔らかな働き者の手のひらが、代わる代わる男の肉塊を撫で擦る。まめに手入れを行っているのだろう。白魚のような、とは言えないまでも、水仕事をしている割に彼女たちの指は滑らかだった。</p><p>魔王様。お胸もいいですが、こちらもいかがでしょうか？</p><p>ルーアルが長いスカートをたくし上げ、隠されていた場所を晒す。</p><p>白いタイツに包まれたすらりとした脚は、むっちりとした太腿との境を否応なく際立たせていて、それを更にタイツを留めるガーターベルトが彩っていた。</p><p>そしてその中心、男が最も追い求める場所は、白く薄い一枚の布によって覆われている。</p><p>ああ。来い</p><p>Olはルーアルの腰を抱き寄せると、躊躇なくその柔らかな尻を鷲掴みにした。</p><p>スカートを捲り上げ、下着の布越しに柔らかな肉をほしいままにするというのは、普段とはまた違ったどこか背徳的な快楽がある。</p><p>私は尻より胸がいいな。思う存分揉みしだくがいいぞ、魔王様よ</p><p>尊大な口調で言いながらラサラはOlの腕の中に収まると、彼の手を己の乳房に導いた。</p><p>その物言いも、手のひらに当たるピンと尖った硬い感触の前には全く気にならない。</p><p>では私達は、こちらを</p><p>めりあ、ぺろぺろするね</p><p>ヨハネとメリアはOlの胸元にしなだれかかると、丁寧に舌を這わせ始める。</p><p>なんとも言い難い快楽とともに、彼女たちが身動ぎするたびに胸元に押し当てられた大きな果実がその形を歪ませて、Olを楽しませた。</p><p>では、失礼します</p><p>残る一人、ベルはOlの前にひざまずくと、硬く張りつめた肉槍をその小さな口の中に根本まですっぽりと咥え込む。</p><p>無理はするなよ</p><p>なにせベルはまだ若く、体も小さい。</p><p>思わず言えば、ベルは懸命にOlのものを舐めしゃぶりながらも目だけで笑んだ。</p><p>ちゅうと吸い上げながら喉奥を使って先端を締め上げ、そうしながらも手は絶妙な力加減で竿を扱きたて、袋をやわやわと愛撫する。</p><p>まるで熟練の娼婦のようなその技術を、張り型での練習だけで身につけたというのだから恐れ入る。</p><p>私のお口もどうぞ、ご賞味くださいな</p><p>そう言って首に腕が回されたかと思えば、ルーアルの顔が迫り、彼女の舌先が口内を割って入り込んできた。</p><p>ぽってりとした唇が逃げ場を封じるようにOlの唇をぴったり塞ぎ、柔らかな舌の肉が唾液を交換しながら絡みあう。</p><p>ルーアルらしい、丁寧で柔らかな口づけだった。</p><p>生まれた時から暗殺者となるべく育てられ、ありとあらゆる毒薬の扱いに長じた彼女は、同時に優れた料理人でもあった。</p><p>ただ言われるがままに人を殺すだけの装置であった彼女の人生を、Olは丸々買い受けた。対価は彼女を送り込んだ主人の命だ。もっとも今は、国ごと存在しないが</p><p>にこやかに微笑みながら何も感じず人を殺す空虚な女に、Olは人に尽くしもてなすことの喜びを教え込んだ。</p><p>今のルーアルは、作った料理を美味しそうに食べてもらう事を至上とする魔王の侍女長だ。</p><p>そんな彼女は今、主の首を優しく抱擁してその舌を愛することに一心になっている。</p><p>んぅっ</p><p>その中に、甘い鳴き声が一つ混じった。</p><p>もう魔王様、いたずらなんですから</p><p>Olの指が下着を分け入り、彼女の中へと侵入していたからだ。</p><p>ちゅぷちゅぷと鳴り響く水音が一つ増え、Olの顎と指先から露が滴り落ちる。</p><p>ん、ふ、ぅ</p><p>声色から余裕をなくしつつも、舌の動きに衰えがないのは侍女長の矜持か。</p><p>んんっ！</p><p>だがそれも流石に、絶頂に至りながらでは無理だった。</p><p>きゅっとOlの指を締め付けながら、ルーアルは気をやってOlの身体にしなだれかかり、もう一度口づけを求める。</p><p>次は私だ、魔王様</p><p>Olがそれに応えてやると、その後の一瞬の隙をついてルーアルから奪い取るように、ラサラがOlの顔を己に向けた。</p><p>しかし与えられたのは、その強引な態度とは裏腹のついばむような口づけだ。</p><p>何度も唇の先端だけを軽く合わせるだけのそれは、控えめというよりは誘いであった。</p><p>少数の手勢で大軍を釣りだすようなものだ。</p><p>その手にはかかるものかと、Olはぎゅっと彼女の乳房に力を込めながら爪を立てる。</p><p>んんっ！</p><p>だがラサラの鼻腔から漏れるのは、悲鳴ではなく嬌声。</p><p>痛みを堪えながらも悦ぶ声だった。</p><p>竜騎士団の副団長であった彼女の能力を、適切に表現することは難しい。</p><p>普段の傲慢で軽はずみな態度が韜晦であることは疑うべくもないが、さりとて切れ者かというと、肝心のところで抜けている。</p><p>あるいはそこまで含めて演技なのだろうかと疑ったこともあるが、そういうわけでもないらしい。</p><p>捕らえて侍女にしたばかりの頃は度々謀反を起こそうとしていたが、そのどれもが本気で成功させようと言う気がないものであった。賛同する潜在的な反抗者を炙り出し、反乱を防ぐための呪いにあった穴を埋めてくれたのでむしろ助かったくらいのものだ。</p><p>その度に与える責め苦を喜んでいる節があったので普段からそのように接するようにした所、途端に大人しくなった。</p><p>相変わらずお前は変態だな。栄えあるラーヴァナ竜騎士団の副団長が堕ちたものだ</p><p>あぁんっ！私は、Ol様のおちんぽなんかに屈したりしてないんだからぁんっ！あっ、もっと爪は力込めて、跡が残るくらい強くして下さい</p><p>一息に矛盾を内包した言葉を吐きながら、ラサラはぎゅっとOlにしがみつく。</p><p>ならば望み通りにしてやろう、とOlは指に力を込めながら、もう片方の胸に噛み付いてやった。</p><p>甘噛みなどという生易しいものではない。ぷっくりと膨らんだ乳首に思い切り歯を突き立て、指先で跡どころか血が滲むほどに乳房を掴む。</p><p>んっ、いっ！</p><p>流石にこれほどすれば痛みに声をあげるか、と思えば。</p><p>いいっ！</p><p>ラサラは身体を震わせて、絶頂に至った。</p><p>素敵でした、陛下</p><p>う、うむ</p><p>胸についた傷を見つめながらうっとりとした表情を浮かべるラサラには、流石のOlもただ頷く他ない。</p><p>おうるさま、めりあも</p><p>わたくしにもご寵愛頂けますか？</p><p>入れ替わるように縋り付いてきたのは、メリアとヨハネだ。</p><p>頷いて許すと、二人の少女は顔を寄せ合いOlの唇に口付けた。</p><p>思えば奇妙な取り合わせだ、とOlは思う。</p><p>どちらも若い女のように見えるが、その中身はまるで違った。</p><p>メリアはメリザンドによって作られた、人工の魂を持つ元聖女だ。</p><p>Olの質問から逃れるために死に、蘇生された彼女からは以前の知識や記憶というものが完全に失われ、まるで赤子のようになっていた。</p><p>最近ではようやく普通に会話が通じる程度には成長してきたが、既に成熟しきった肉体での成長というのには問題があったのだろう。過ごした年月以上にメリアは幼い。</p><p>その上不死のメリザンドを元にした肉体は老いを知らず、十年たった今も出会った時の十代の姿のままだった。</p><p>ヨハネはその真逆だ。</p><p>ひょんなことから下界で暮らすことになった彼女は、炎髪と呼ばれる英霊である。</p><p>彼女ほどの英霊を顕現させ続けるのには本来かなりの理力を消耗してしまうのだが、幸いヨハネはユニスの遠い祖先と血の繋がりがあった。</p><p>その為ユニスの血を元にして作った人工生命(ホムンクルス)に高い適性を持ち、それに宿ることで理力の消耗をほぼゼロにすることが出来る。</p><p>故に彼女は中身は数百年以上前の英雄だが、その肉体は生まれて一年にも満たないものだった。</p><p>つまりどちらも、中身と外見と肉体の実年齢が大きく乖離しているのだ。</p><p>だがこと睦事に限って言えば、それは悪いことではなかった。</p><p>前傾姿勢になった彼女たちの胸元から重力に従って垂れ下がる大きな果実を、Olは遠慮なく纏めて両手に鷲掴みにする。</p><p>おうるさま、めりあのおっぱい、もっともみもみして</p><p>メリアは気持ちよさげに目を細めながら、直截にそうねだった。</p><p>中身は幼くとも、その肉体は成熟した女のそれだ。</p><p>メリアはその幼さ故に、感じた欲求を素直に伝えてくる。</p><p>Ol様わたくしの胸、気持ちいいですか？</p><p>一方で、ヨハネは恥ずかしげにしながらなんとかそう尋ねるのがせいぜいだ。</p><p>人工生命の寿命はそう長くは持たない。いくら工夫を凝らしても一月が限度だ。</p><p>それゆえにか、数百年純潔を保ち続けた乙女は何度行為を重ねても慣れるという事がなかった。</p><p>どこまでも柔らかくもっちりとしたメリアの胸と、ヨハネの瑞々しく弾力に富んだ乳房。</p><p>それぞれ感触の異なる、しかしそれぞれ素晴らしい柔肉を揉みしだきながら、二人の唇を交互に味わう。</p><p>やがて二人はどちらからとも無く舌を伸ばし、Olはそれに応えて唾液を絡ませあった。</p><p>そうしながら硬く尖った胸の先端を指でゆっくり擦り上げ、二人の性感を高めていく。</p><p>メリアは貪欲な故に、ヨハネは身体がそう造られているが故に、常人よりも遥かに敏感だ。</p><p>そうされるだけでたちまち果てて、くたりとOlにしなだれかかった。</p><p>残る一人、ベルに声をかけると、彼女は戸惑うようにOlを見つめた。</p><p>どうした。来ぬのか</p><p>その、私は</p><p>逡巡とともに、ベルはOlの怒張に目を向ける。</p><p>直前までそれを咥えていた口で口づけることに抵抗があるのだろう。</p><p>下らんことを気にするな</p><p>Olは強引にベルの腕を引くと、彼女を抱き寄せてその唇を奪った。</p><p>驚きに身を固くする彼女の唇を割り開いて、口内を舌で陵辱していく。</p><p>ベルは初めは為されるがままに身を任せていたが、やがておずおずと自ら舌を伸ばして応え、顔を傾けて唇を密着させて、Olの首に腕を回して熱烈に口付けを交わした。</p><p>変わり者の多い魔王の侍女たちの中でも、ベルはとびきりの変わり種だ。</p><p>何せ、魔王の妻となる為だけにこの迷宮にやってきたのだから。</p><p>命を狙ってやってきた暗殺者は数知れないが、そんな目的でやってきたのはベルただ一人だ。</p><p>それも地位や権力が目当てではなく、Olに一目惚れしてとなれば後にも先にも他にはいないだろう。</p><p>今まで幾多の女を籠絡してきたOlだが、される側に回るのはこれが初めてだ。</p><p>と言っても。</p><p>んっ、ふ、うぅっ！</p><p>ベルはぎゅっとOlにしがみつきながら、ふるふると身体を震わせる。</p><p>口付けだけで、達してしまったのだ。</p><p>彼女はあまりにOlを愛するがゆえ、触れられただけ、名を呼ばれただけでも軽く気をやってしまうという。</p><p>元々の経験が違いすぎる上にこれでは、籠絡するどころの話ではなかった。</p><p>では、一通りイカせて頂いたところで、魔王様</p><p>ルーアルは言って下着を脱ぐと、浴槽の縁に手をつきOlに向かって腰を突き出す。</p><p>どうぞ、好きなものをお使い下さい</p><p>他の侍女たちもそれに倣って、長いスカートをまくり上げた。</p><p>タイツと黒いスカート、そしてガーターベルトに囲まれた白い尻のコントラストが目に眩しい。</p><p>ひくひくと蠢きながら物ほしげに涎を垂らすピンク色の秘肉が五つ並んだその様は、この上ないほど扇情的な光景だった。</p><p>誘われるがままに、Olはルーアルの腰を掴んで一気に突き入れる。</p><p>この中で一番の古株の彼女の膣内は、ぴっとりと包み込まれるような心地よさだ。</p><p>根本までを埋め込んでもやすやすと呑み込み、柔らかく受け入れる。</p><p>すっかりOlの形を覚え込んだルーアルのそこは、奥まで突けばちょうど肉槍の穂先が引っかかるようになって、先端をきゅうきゅうと締め付ける。</p><p>腰が蕩けて液体になってしまうような、そんな心地だった。</p><p>逃れがたい誘惑を振り切りながら腰を引き抜くと、Olは次にヨハネの尻を掴んだ。</p><p>高く声をあげる彼女のそこは、露がぽたぽたと滴り落ちるほどに濡れていた。</p><p>一月ごとに身体を作り直す彼女の膣口は、まだ慣れず狭くキツい。</p><p>だが大量の愛液が潤滑油となって、するりと奥まで飲み込んでしまう。</p><p>ぬるぬるとした蜜壺を何度も突き上げるのは、得も言われぬ快楽だった。</p><p>名残惜しさを感じつつもヨハネの中から引き抜き、次はラサラに突き入れる。</p><p>ああああっ！</p><p>長身で鍛えられた肉体を持つ彼女には、一切の容赦なく責めることが出来る。</p><p>ぎゅっと閉じた秘裂を肉の槍でこじ開けるように貫けば、それを逃すまいと圧力がかかる。</p><p>そこを力任せに抜いて、すぐさま突き入れれば元竜騎士は高く鳴いた。</p><p>パンパンと音を鳴らしながら、激しく腰を打ち付け強引に犯す。</p><p>それは同意の元だとわかっていても、男の征服欲を大いに満たした。</p><p>最後に強く一突きして彼女から離れ、Olはメリアの腰を引き寄せる。</p><p>ふぁんっ</p><p>彼女の膣口は挿入した途端、嬉しくてたまらないとでも言いたげに全力でOlを締め付けた。</p><p>心地よさげに尻を振るその様はまるで犬のようで、鳴き声は発情した猫のよう。</p><p>Olの動きに合わせて懸命に腰を動かしながら、メリアはただただ純粋に快楽をむさぼる。</p><p>浅く突けばもっととねだり、深く突けば高く甘く鳴く。</p><p>離すまいと追いかけてくる尻を軽く叩き、Olは最後の一人、ベルへと近づいた。</p><p>あ、あ、あぁっ！</p><p>彼女の膣内はとにかく小さくキツい。</p><p>その上、半分ほども挿入したところですぐにベルは達してOlのモノを強く締め付けた。</p><p>身体に傷をつけぬよう、なるべく刺激を与えぬようにゆっくりと腰を埋めていけば根元まで咥え込んだところでまた気をやり、それを半ばまで引き抜けば更に絶頂に達する。</p><p>その度に精を搾り取るかのように膣壁を蠢かせる彼女の身体は、まるでOl専用の肉壺のようだ。</p><p>全く違った味の女たちを、Olは代わる代わる犯し味わっていく。</p><p>その快楽にとうとう耐え切れず、Olはベルの中に欲望を吐き出した。</p><p>あぁぁぁあぁあぁぁぁぁっ！</p><p>己の奥底を白濁で満たされるその感覚に、ベルは身体を反らしながら叫び声を上げる。</p><p>あ、なかだしされてる。いいなー、べる</p><p>羨ましげに指を咥えるメリアに、Olは微塵も萎えた様子を見せぬ男根を突き入れた。</p><p>全員、溢れるまで注ぎ込んでやる</p><p>主のその宣言に、侍女たちは一斉に嬌声をあげた。</p><p>一通りの情事を終えた後。</p><p>で、これはどういう事だ</p><p>頭をメリアのたっぷりとした胸に預けながら、Olは問うた。</p><p>聞きましたよ。ベルさんは侍女ではなく、妻を志望されているそうではないですか</p><p>メリアと挟み込むように、ヨハネはOlに抱き着いて泡立てたその身体を擦り付ける。</p><p>今更一人二人側室を増やしたってどうという事はないだろう？</p><p>その胸の谷間でOlの左腕を洗いながら、ラサラ。</p><p>十年も想い続けたのですもの。ご考慮いただけませんでしょうか</p><p>言いつつ、ルーアルはOlの右手をそのむっちりとした太ももの間に挟み込む。</p><p>潤む瞳で、ベルはOlを見つめた。</p><p>ならん。考えるとしても十年後と定めただろうが。王自ら約定を翻すことが出来るか</p><p>それは、出身を偽ってOlの迷宮にやって来たことへの罰だった。</p><p>マリーが生贄の娘として来た時、彼女があまりに幼すぎたため、Olは十年生贄は納めないで良いと伝えた。ベルはOlに逢うためだけに、その村の者になりすまして来たのだ。</p><p>特典を付けるといってもですか？</p><p>特典？</p><p>ルーアルの言葉に、Olは怪訝な表情を浮かべる。</p><p>うむ、ついでに私たちを嫁にする権利をやろう</p><p>それはお前たちが得をするだけだろうが</p><p>胸を張るラサラに、呆れ声でOlは言った。</p><p>並の者であれば美しい女を五人娶れるとなれば嬉しいかもしれないが、既に彼には両手に余るほどの妻がいるのだ。</p><p>私たちの全てをと言ってもですか？</p><p>しかし、続くヨハネの言葉にOlは瞠目した。</p><p>経緯はどうあれ、彼女たちは侍女として雇い入れているだけだ。</p><p>Olの部下でも奴隷でもない。望まぬことをしろとは言えなかった。</p><p>ただの侍女ならそれでも良いが、今目の前にいるのは皆特殊な能力を持ったものばかり。</p><p>殊更に、英霊であるヨハネが全てを捧げるというのは実に魅力的な申し出だった。</p><p>いやだがそれでも、駄目だ</p><p>とは言え、側室だとしても妻となればOl一人で軽々に決められる事ではない。</p><p>妻同士での確執になっても困る。ましてやこのような状態で決めれば、それこそ色仕掛けに引っかかったのだと取られかねない。</p><p>えー、いいじゃない</p><p>あたしからもお願い、Ol</p><p>お願いします、お師匠様</p><p>だがそれに異を唱えたのは、配慮したはずの当人たちの聞き慣れた声だった。</p><p>お前たちなぜここに？</p><p>並んで懇願するのは正妻であるリル、ユニス、スピナの三人だ。</p><p>なぜここにいるのか、そしてなぜベルを助けるのか。</p><p>Olは幻影や変身の魔術を疑ったが、解呪の呪文は無駄に終わった。</p><p>ルーアに頼まれたのよ。まあ、わたしもこの子達なら大丈夫だと思うし</p><p>いっつも美味しい御飯作ってくれるもんね！</p><p>ルーアルは料理の師ですから、致し方ありません</p><p>しかしだな</p><p>なおも逡巡するOlに、ルーアルはにこりと微笑んで、言った。</p><p>足らないようでしたら、もう何人かお呼び致しますか？</p><p>その言葉に、Olは既に彼女の根回しが完全に済んでいることを悟る。</p><p>流石は侍女長、驚くべき手際の良さだ。</p><p>わかったわかった。好きにしろ</p><p>その辺りの不満が出ないよう調整するのはリルの仕事だ。</p><p>表向きの正妃はユニスという事になっている。</p><p>人嫌いのスピナまでもが推すというのなら、仕方ない。</p><p>で、お前たちのその格好は何なんだ？</p><p>大きく溜め息をつき、Olは先程から気になっていたことを問うた。</p><p>リルたち三人は、何故か侍女服に身を包んでいたのだ。</p><p>何ってそりゃあね？</p><p>ぷちりと胸元のボタンを外し、リル。</p><p>空いた服の隙間から、彼女の深い深い谷間が覗き見える。</p><p>あたしたちも、その特典？</p><p>恥ずかしそうにスカートをたくし上げ、ユニス。</p><p>むっちりとした健康的な太腿が露わになる。</p><p>どうぞご一緒に、可愛がってくださいませ</p><p>するりとスカートの中から下履きを脱いでみせ、スピナ。</p><p>見えないからこそ、その奥にあるものを思い浮かべずにはいられない。</p><p>もちろん、私たちも</p><p>ぎゅうとルーアルがOlの腕を抱きしめて。</p><p>ご寵愛くださいませ旦那様</p><p>耳元で甘く囁くベルのその言葉に、抗うすべなどあろうはずがなく。</p><p>彼女たちのもたらす特典を、Olは心行くまで味わった。</p><p>ルーアル：一巻 とらのあな様 特典SS</p><p>ラサラ：二巻 とらのあな様 特典SS</p><p>ヨハネ：四巻 文教堂様 特典SS</p><p>メリア：四巻 ゲーマーズ様 特典SS</p><p>ベル：四巻 とらのあな様 特典SS</p><p>リル：一巻 特別電子書籍三巻 アニメイト様 特典SS</p><p>ユニス：二巻 特別電子書籍 三巻 とらのあな様 特典SS</p><p>スピナ：三巻 特別電子書籍 三巻 文教堂様 特典SS</p><p>Ol：ぜんぶ。</p><p>第6話旧きものを斃しましょう-1</p><p>早急に戦力を整える必要がある</p><p>そこは火山の神、サクヤがもともと住んでいた試練の山の奥深く。</p><p>新たに岩肌を掘り抜いて作られた会議室に迷宮の主だった面々を集め、魔王Olはそう切り出した。</p><p>これが現在の状況だ</p><p>Olの言葉に応えるように、壁の表面がぐにゃりと歪んで図像を浮かばせる。</p><p>それは、地図だった。</p><p>大きく左側に突き出した細長い半島と、その根元を押さえるように布陣する二つの国。</p><p>そして、その間を区切るかのように横たわる巨大な山脈。</p><p>Ol達が倒したヤマタノオロチが棲んでいた連峰だ。</p><p>ここが我々が今いる国だ。ヤマトという</p><p>連なる山脈がまるで壁のように国の境を区切っていますでしょう？ですから、山門(ヤマト)と呼び称します</p><p>半島を示してOlが言えば、サクヤがそれを補足する。</p><p>オロチがいなくなったとて、この門を超えるのは容易ではない。が、不可能でもない</p><p>うむ。春が来れば、サハラの軍はこちらに攻め込んで来るじゃろう</p><p>Olの言葉に、予知の能力を持つ巫女であるテナが頷く。</p><p>ダンジョンの中で季節の移ろいを感じることは難しいが、外界では冬が訪れていた。</p><p>冬の山を越えるのは殆ど自殺行為に等しいが、春ともなればその限りではない。</p><p>雪解けとともにやってくる兵士たちの姿を、テナの予見ははっきりと捉えていた。</p><p>サハラって？</p><p>隣国二国の南側。灼熱の大地に覆われた国と聞き及んでおりますわ。砂の原が延々と広がる不毛の地。ゆえに、砂原(サハラ)の国です</p><p>リルの素朴な問いに、サクヤが答える。</p><p>ちなみに北側は逆に極寒の地。雪と氷に覆われた国。氷室(ヒムロ)の国と呼ばれています</p><p>それはまた、極端ねえ</p><p>南は灼熱、北は極寒。いずれにせよ住みやすそうとは言い難い。</p><p>ヤマトは、サハラやヒムロとは比べ物にならぬ小国だ。攻められれば簡単に滅ぼされてしまうだろう</p><p>山脈はヤマトを守る壁であるが、同時に閉じ込める檻でもある。</p><p>狭く小さな半島内だけでの繁栄を許されたヤマトと違って、サハラやヒムロは広大な土地を支配できているのだから、その国力には大きな差があった。</p><p>ましてや僅かなこのダンジョンの手勢だけでは話にもならぬ。故に、我々は戦力を整えなければならぬのだ。それも、僅か一季節の間に</p><p>それは、難しいのでは</p><p>サクヤは山を司る神であり、人の世には疎い。</p><p>だがそれでも、Olが無茶を言っているのはわかった。</p><p>ああ。故に、お前たちに尋ねたいことがある。空間を司る神に心当たりはないか？</p><p>空間を司る神ですか</p><p>考え込むかのように反芻するサクヤに、Olはうむと頷いた。</p><p>我々の本拠地は別の大陸にある、という話はしただろう。戦力の大半はそこにあるのだが</p><p>Olの治める国はほぼ大陸一つをまるごとに広がっている。大きさだけで言えばサハラ、ヒムロ両国を合わせたよりも更に巨大だ。</p><p>俺がこの大陸に来たときには船で一ヶ月かかった。多少短縮は出来るだろうが、それでも二週間。一度に百人程度が限界だろうな</p><p>往復で一月。三ヶ月で三百人を運んでもねえ。今から船を作ったって、作るだけで一季節過ぎちゃうし</p><p>大海を百人の兵を乗せて渡れるような船を、一季節で作れるという方が恐ろしいのですが</p><p>何気ない口調で呟くリルに、サクヤは改めて戦慄した。</p><p>根本的な国力、技術力が違いすぎるのだ。</p><p>船なら、たつきが運ぼうか？</p><p>お前が？どうやってだ？</p><p>ふと、これまで暇そうに話を聞いていたタツキがぴっと手を挙げた。</p><p>こう、ざばーん！って</p><p>海の神である彼女には、波を操る力がある。</p><p>タツキの掌の上で用意された茶が渦巻き、大きく波立って湯呑みを運び</p><p>それは勢い余って湯呑みを跳ね飛ばし、壁に叩き付けて粉々に粉砕した。</p><p>うん、転覆するわね</p><p>だめかぁ</p><p>断言するリルに、タツキはしゅんと項垂れる。</p><p>仲間になると宣言して以来、彼女は食事にしか興味がなかった以前とは打って変わって協力的になっていた。といってもその努力はたいてい見当違いの方向に向かっていて、いまいち空回りしているが。</p><p>いつもいらっしゃるあの赤い髪のユニスさん、でしたかしら？あの方の力ならば、簡単に人を運べるのでは？</p><p>ああ。そこが話の要点だ</p><p>サクヤの問いに、Olは頷く。</p><p>お前たちには馴染みのないことだろうが、我々は魔力と理力という異なる二つの力を使い、それぞれ魔術と法術という術を使う。どちらも遠く離れた場所に一瞬で転移することは出来るが、それぞれ別の制約がかかってくるのだ</p><p>制約と、申しますと</p><p>簡単に言えば、魔術には人数の制限はほぼないと言っていいが、大陸を隔てるほどの距離を飛ぶことは出来ぬ。法術では逆に、距離は全く関係ないが運べる量はせいぜい二、三人だ</p><p>魔術では魔法陣を使うことによって、内部のものを一気に転移させることが出来る。</p><p>手間はかかるものの、陣を大きくするだけで数は幾らでも送ることが出来るが、消費する魔力の量は距離が伸びるほどに加速度的に増加する。</p><p>それに対してユニスの法術は距離も結界も無視するが、移動させられるのは彼女が抱えられるだけのものが限度だった。</p><p>あちらを立てればこちらが立たず、というわけですのね</p><p>そこで、お前たちの使う術に期待しているのだ。霊力とやらは、魔力と理力が混ざり合ったものであるようだ。ならば双方の欠点を埋める方法があるやもしれん</p><p>と、申されましても</p><p>サクヤは困惑の表情を浮かべた。</p><p>道を司る道祖神の類であればいくらでもおりましょうが、あれはあくまで道を守護するもの。遠く離れた場所を繋げるなど聞いたこともございませんし。一日に千里を駆ける神もおりますけれど、万里を運ぶとなると</p><p>やはりそう都合よくはいかないか。Olがそう思っていると、ふとサクヤはあることに思い当たったように顔を上げる。</p><p>一柱おりましたわ。Olの望むことが出来るかどうかはわかりませんが</p><p>厄介な相手なのか？</p><p>何やら浮かない表情のサクヤに、Olは問う。</p><p>厄介そう、ですわね。関わりたくない、という意味ではまさにその通りかもしれません</p><p>なるほど。これはまた</p><p>サクヤの言葉に未来を読んで、テナもまた顔を顰める。</p><p>もしかしてあいつ？たつき、あいつきらーい</p><p>それどころかタツキまでがそんなことをいい出した。</p><p>一体どんな神なのだ</p><p>Olの問いに、サクヤは重々しく口を開く。</p><p>彼の者の名は、サイノカミこのヤマトで最も古い神の一柱です</p><p>第6話旧きものを斃しましょう-2</p><p>なるほどな</p><p>関わりたくない。なぜサクヤがそう評したのか。</p><p>行くと決め、どのような結果が起こるかを問えばなぜテナが言葉を濁したのか。</p><p>それと対面した瞬間、Olはすべてを理解した。</p><p>ある意味、リルの同類？</p><p>やめて。冗談でも</p><p>からかうようなマリーの言葉に、リルが心底うんざりしたような口調で答える。</p><p>おおきいですね</p><p>あんぐりと口を開け、ユツがそれを見上げていった。</p><p>動物に例えるならば、それは蛇であろう。</p><p>暗く深い洞窟をみっしりと埋めるように入り込んだ白い大蛇。だがその頭に目はなく、身体にも鱗はなかった。それどころか口もなければ牙もなく、あるのは縦に伸びる亀裂のみ。</p><p>動物以外で例えるならば、簡単だ。</p><p>要するにそれは、巨大な男根であった。</p><p>＜我を起こすは何者ぞ＞</p><p>喋ったぁぁぁ！？</p><p>ゆっくりとその頭をもたげ、低い声を響かせる男根にリルは叫んだ。</p><p>サイノカミよ。我が名は魔王Ol。貴様の力を借りにいや、違うな。奪いに来た</p><p>＜ほう＞</p><p>Olの傲岸不遜な物言いに、サイノカミは愉快そうな声をあげる。</p><p>＜そは我が順(まつろ)わぬものと知っての言の葉か＞</p><p>＜よかろう！＞</p><p>白い大蛇が洞窟から這い出して、高く高くそそり勃つ。</p><p>＜我(われ)が力と汝(なれ)が力。どちらがより硬く太いものか、比べてくれよう＞</p><p>いちいち言い方が卑猥なのよ！</p><p>ヤマタノオロチをも貫いたリルの石火矢が轟音とともに火を吹いて、サイノカミに向かって放たれる。</p><p>しかし柱のようにそびえる大蛇は、ぶるんと揺れてこともなげにそれをかわした。</p><p>マリーちゃん登って！</p><p>ユツが己の尻に生えた狸の尻尾を引き抜くと、それは朱塗りの階段に転じてカタカタと音を立てながら天へ伸びていく。</p><p>ありがと、ユッちゃん！</p><p>マリーはそれに乗ってサイノカミの頭上を越えると、跳躍しながら四振りの剣を引き抜いた。</p><p>ええーいっ！</p><p>＜ぬるい＞</p><p>だが重力加速度を加えたその一撃は、サイノカミの頭にいとも容易く弾かれる。</p><p>まさか刃すら立たないとは思わなかったマリーは、そのままなすすべもなく落下した。</p><p>しかしその体は地面に激突することなく、緩やかな弧を描いて減速しながらOlの腕の中に納まる。</p><p>えへへ、ありがと、Olさま</p><p>世話を焼かせるな</p><p>Olがキューブを展開し、不可視の迷宮でスロープを作り上げていたのだ。</p><p>＜おかえしだ＞</p><p>サイノカミの身体にびきびきと血管が浮き立ち、赤黒く怒張する。</p><p>そしてその身を大きく後ろにしならせると、思い切り叩き付けた。</p><p>まずい！</p><p>Olは咄嗟にキューブに仕込んだ転移陣を起動し、その一撃を避ける。</p><p>僅か十数歩ほどの距離しか跳べないものだが、危機を回避するには十分な距離だ。</p><p>つやめくサイノカミの頭がしたたかに地面を打ち付けた瞬間、大地が破裂した。</p><p>土と石とがそこら中に飛び散って、風とともに刃のように打ち付けてくる。</p><p>その余波くらいであればキューブによる壁が守ってくれたが、直撃を受けていたら即死だっただろう。</p><p>ふざけたなりしてとんでもない強さね</p><p>咄嗟に空中に逃げたリルは、地上に舞い降りながら石火矢を構えなおす。</p><p>マリーちゃんの剣でも刃が立たないなんて</p><p>傷一つないサイノカミの頭を見ながら、ユツは困ったように眉根を寄せる。</p><p>あの頭、すっごいブヨブヨしてた。硬いっていうよりは弾力が凄いの</p><p>マリーの言葉に、思わず女性陣の視線がOlに集まった。</p><p>その感触に関しては非常に覚えがあったからだ。</p><p>ええい、剣など弾けるか！</p><p>己の下半身に集中する不躾な視線に、Olは思わず怒鳴った。</p><p>だがそうなると、奴に有効な打撃を与えられるのはリルの石火矢しかあるまいな</p><p>何とかして動きを止めないと当てられないわ。あいつあんな図体で動きも素早いのよ</p><p>無数に弾丸をばら撒く連弩であれば当てられるだろうが、そちらでは今度は威力が足りない。</p><p>あの皮を貫くのはやはり、貫通力に優れた石火矢しかないだろう、とリルは考える。</p><p>でもあの動きを止めるって、どうやって？</p><p>マリーの素朴な問いに、Olもリルも押し黙る。</p><p>あれほどの巨体を止める手段を、二人とも持っていなかった。</p><p>そんな中、不意にユツが声をあげる。</p><p>ボク、動きを止められないか試してみます</p><p>何か策があるのか？</p><p>策、というほどのものでもないですけど</p><p>自信なさげに言いながら、しかしユツはこくりと頷く。</p><p>わかった。時間を稼いでやる、やってみろ</p><p>詳しく作戦会議をしているほどの暇はない。</p><p>Olはユツに任せることを決めて、一歩前に出た。</p><p>＜もう終わりか？＞</p><p>己自身が起こした衝撃によってもうもうと立ち込める砂煙の中から頭を覗かせ、サイノカミはそう問うた。</p><p>これからだ。攪乱するぞ、マリー</p><p>うんっ！</p><p>マリーは両手に剣をもって打ち鳴らす。途端、その刀身が炎を帯びた。</p><p>刃は通らなくても、これならどう！？</p><p>＜ぬうっ！＞</p><p>流石に高熱は嫌なのか、サイノカミが僅かに怯んだ様子を見せる。</p><p>ミラーハウス</p><p>Olの手にしたキューブがパタパタと展開すると、何条もの路となって放射状に広がっていく。</p><p>そのうちの一つがマリーの足元へと延びると、彼女の姿はまるで鏡写しのように他の路の先にも現れた。</p><p>＜小賢しいわ！＞</p><p>幾ら姿を増やして見せたところで、もともとどこに居たのかは見えているのだ。</p><p>幻影を出すと同時に本体を消していたとしても、瞬時にそう遠くに行けるわけもない。</p><p>サイノカミはそう考え、頭を横薙ぎに払ってマリー達の姿を纏めて叩く。</p><p>しかし手ごたえはまるでなく、不審に思ってサイノカミが動きを止めると、途端に炎を帯びた剣が何本も突き刺さった。</p><p>＜ぐぅっ！？＞</p><p>それらはどれも幻ではなく、実体のある痛みだ。</p><p>Olがキューブで作り出したミラーハウスは、その名に反して幻影ではなく転移を用いた迷宮魔術だ。幾本もの路の先に増えた姿は高速で転移を繰り返すことで映し出された像であり、映し出された者はそのすべてに存在し、同時にどこにも存在しない状態となる。</p><p>守勢に転じれば無事な路に逃げて攻撃を避け、攻勢に転じれば全ての路から同時に攻撃する。</p><p>ユニスの転移を使った戦法を、魔術で再現した代物だった。</p><p>＜おのれ、小癪な！＞</p><p>だがそれでも、サイノカミに苦痛を与えこそすれ、打ち倒すには程遠い。</p><p>襲い掛かる熱に業を煮やしたサイノカミは、再び全身を怒張させて叩き付けようと体を反らす。</p><p>今です！</p><p>途端、ユツの体が何倍にも膨れ上がり、その豊満な双丘でサイノカミの体をぎゅっと挟み込んだ。</p><p>＜ぬうっ！？これは！＞</p><p>己の巨体に見合う大きさの女体を目にするのも初めてであれば、乳房で挟み込むなどという技を見るのも初めてで、サイノカミの身体は思わず硬直した。</p><p>今です、リルさん！ボクごと撃ってください！</p><p>え、いいの？</p><p>いいんです。あれはただの幻術ですから</p><p>耳元から聞こえた声にリルが顔を向ければ、本物のユツはすぐそばに立っている。</p><p>よし。食らいなさい！</p><p>リルの放った弾丸が巨大なユツの体を貫くと、その身は木の葉の塊となって霧散した。</p><p>そしてそのまま、その奥にそそり勃つサイノカミに向かって突き進む。</p><p>＜このようなもので我の身を貫けると思うなッ！＞</p><p>だがしかし、サイノカミは一際大きく怒張すると、ぶんと頭を振って弾丸を弾き返す。</p><p>うそでしょ</p><p>空の彼方へ飛んでいく弾丸に、リルは呆然とした。</p><p>＜今のは、なかなか痛かったわ＞</p><p>鎌首をもたげるようにして、サイノカミは大きく凹んだ頭をOl達に向ける。</p><p>＜そら、お返しだ＞</p><p>その縦に裂けた亀裂から、白色の炎が噴き出した。</p><p>なにこれ！？</p><p>どう見ても尋常な炎ではない。それはまるで油でも撒いたかのように地面に落ちても消えることはなく、それどころかどろどろと流れるようにして周囲に広がっていく。</p><p>＜我の浄炎を消せると思うな。その炎に触れたが最後＞</p><p>焼き尽くすまで消えないってわけね</p><p>＜いいや。確実に子を孕む＞</p><p>ほんと最低ね！？</p><p>ある意味、焼け死ぬより酷い話であった。</p><p>＜ちなみに言うておくが＞</p><p>サイノカミの顔がOlの方を向き。</p><p>＜男とて逃れられると思うな＞</p><p>見境なさすぎでしょ！？</p><p>Olが妊娠したらどうなるのだろうか。</p><p>リルはちらりとそんなことを思わなくもなかったが、流石に試してみる気にまではならない。</p><p>仕方ない、ここは一端退くぞ</p><p>こちらの最大の攻撃が通じないのでは勝ちようがない。</p><p>待って</p><p>そう判断するOlを、マリーが止めた。</p><p>わたし、倒せるかもしれない</p><p>白い炎はゆっくりと、Ol達を囲みつつある。</p><p>逡巡している時間はなかった。</p><p>やってみろ</p><p>ありがと、Ol様。開け、天門！</p><p>マリーが空に手を掲げると、彼女の右目が赤く輝き指先に四角い紋様が現れた。</p><p>曲線を基本とする魔術円に対し、直線で構成されたそれは法術陣と呼ばれる図形だ。</p><p>来たりませ。猛きもの、折れたる剣の守護者、比類なき英霊よ</p><p>マリーの金色の髪が赤く染まり、膨れ上がる。</p><p>髪飾りがぷつりと千切れて、炎のような髪が広がる様はまるで獅子の鬣のよう。</p><p>マリーは三振りの剣を鞘に納め、一刀だけを掲げ持った。</p><p>＜何をする気かわからぬが、この身を切り裂けるものなどありはせぬ。例えそれがヒヒイロカネの剣であろうとな＞</p><p>明らかに雰囲気の変わったマリーに、しかしサイノカミは傲然と言い放つ。</p><p>己の硬さと持久力には、絶対の自信があった。</p><p>一切の力みも工夫もなく、マリーの剣は静かに振られ。</p><p>そして次の瞬間には、白い炎もサイノカミもすべて両断されていた。</p><p>＜ば、か、なぁぁぁぁぁ！＞</p><p>半ばから二つに分かたれて、サイノカミはどうと地面に倒れ伏す。</p><p>戻りませ、竜殺しウォルフディール</p><p>言って剣を鞘に収めた途端、マリーの目と髪は元に戻り、彼女はその場にくずおれる。</p><p>やっぱり、ウォルフおじさんを降ろすのは一瞬でもしんどいね</p><p>慌てて抱き留めるOlに、マリーはへにゃりと笑んで言った。</p><p>お前、どうして</p><p>ユニスのお父さんだし、急に頼んでも力を貸してくれるかなって思って</p><p>マリーの答えは、Olの問いが求めたものではなかった。</p><p>彼女が巫術を学んでいるのは知っているし、メリザンドを通じて不死身の力を宿したのだから、同じ方法でウォルフの力を使えても不思議ではない。</p><p>何故、あれが竜だと思った？</p><p>え、だって、蛇みたいだったし、火も噴いてたじゃないですか</p><p>改めて問えば、マリーは当たり前のように答える。</p><p>だが、Olはそこに思い至らなかった。</p><p>何千という魔を従え、何万という獣を知るOlでさえだ。</p><p>ただの偶然かそれとも。</p><p>自分を凝視するOlに、マリーは不思議そうに笑みを浮かべた。</p><p>第6話旧きものを斃しましょう-3</p><p>それにしても、殺しちゃってよかったの？</p><p>半ばから両断されたサイノカミの死骸を横目に、リルはOlに尋ねた。</p><p>オロチもそうであったし、蛇の類は頭を潰してもなお動くこともある。</p><p>警戒していたがサイノカミは全く動く気配を見せず、どうやら完全に死んだようだった。</p><p>ああ。空間を司るといっても、こいつ自身が転移の力を持っているわけではない。むしろそれを阻害しているもの。故に塞(サイ)の神だ</p><p>ふうん。じゃあ、Olが奪いにきたって言うのは</p><p>この洞窟のことだ</p><p>Olはサイノカミが塞いでいた洞窟を指さす。</p><p>どのような形で空間に類する力を持っているかはわからん。だが</p><p>その力を手に入れる方法だけはわかる。ってことね</p><p>うむと頷き、Olは洞窟の壁にキューブを連結させる。</p><p>剥き出しの石壁は見る間にレンガ造りへと変わり、光が灯って中を見渡せるようになった。</p><p>門だ</p><p>するとマリーが前方を指さして、声を上げる。</p><p>魔術光によって照らし出されたのは、洞窟に似つかわしくない巨大な両開きの扉だった。</p><p>ダンジョンを探索する際、扉というのは最も警戒すべきものの一つだ。</p><p>取っ手や扉自体、扉の向こう側の部屋、意表をついて扉の手前の床など幾らでも罠を仕掛けることが出来る。</p><p>破壊しろ、リル</p><p>とはいえダンジョンそのものを掌握するダンジョンマスターたるOlにとっては関係のない事だ。</p><p>扉の向こう側までを自分の領域に収めてしまい、そこに罠を設置できるような隙間がない事は把握しているし、門自体に罠があっても破壊してしまえば問題ない。</p><p>Olさまが開けた方がいいんじゃないかな</p><p>だがそれに、マリーが異を唱えた。</p><p>なんとなくだけど</p><p>なんとなくとはなんだ。理由を話せ</p><p>わかんない</p><p>問うても、マリーはふるふると首を横に振るばかり。</p><p>リルやユツの顔を見ても、二人とも不思議そうにしているばかりでマリーの意図を測りかねているようだった。</p><p>まあ良い。下がっていろ</p><p>破壊すれば無闇に音を出すことになるし、万一の時はこの扉を盾にして逃げることもできる。</p><p>壊さずに通るのも別段おかしな選択肢というわけではない。</p><p>Olが両腕を門にかざすとキューブがパタパタと展開してふくらみ、彼の背後に人型を成して立つ。それはOlの動きに沿って門に手をかけると、ぐっと押して開いた。</p><p>罠はないようだな</p><p>大きさゆえか多少の開きにくさは感じたものの、鍵も閂もない扉はあっさりと開く。</p><p>その向こうには罠もなければ番兵もおらず、それどころか部屋すらなくただただ通路が進んでいるのみだ。</p><p>いくぞ。番人は倒したとはいえ、何が出てくるかわからん。警戒は怠るな</p><p>わかりました</p><p>マリーが気合いを込めて頷き、生真面目な表情でユツが返事をする。</p><p>だが二人の思いとは裏腹に、探索は酷く退屈なものだった。</p><p>洞窟の中には敵や罠どころか分かれ道一つなく、ただただ真っすぐに通路が続くのみ。</p><p>緩やかな下り道を、Ol達は黙々と進んでいく。</p><p>ねえ、これって</p><p>リルが何かを言いかけたその時。</p><p>部屋だ</p><p>マリーが声を上げ、通路の先に部屋があるのが見えた。</p><p>何もないですね</p><p>部屋の中を覗き見て、ユツが呟く。</p><p>彼女の言う通り大きな部屋はがらんとしていて、ただ通路が二つ、左右に続いているだけだった。</p><p>妙な構造だな。罠もなく、守衛を集めるでもなく、ただ部屋だけがあるとは</p><p>これならただの三差路で良いのではないか、とOlは思わずにいられない。</p><p>ただの天然の洞窟でないことは明らかなのだ。</p><p>もしそうであれば、もっと細かく幾つも横穴が伸びているものだ。</p><p>天然のものでないならばそこに何らかの意図が込められているはずなのだが、それがどうにも読めない。</p><p>まあ良い。さてどちらに進むか</p><p>試練の山でも似たような場所があったが、あの時と違って今回の戦力は乏しい。</p><p>二手に分けるような愚策は避けるべきだ。</p><p>進む必要はないと思う</p><p>Olが悩んでいると、リルがそんなことを言い出した。</p><p>どういうことだ？</p><p>何かあるとしたら多分この部屋だから。進んでも、どっちも同じだよきっと</p><p>なぜそんなことがわかる</p><p>だって、ここが子宮だもの</p><p>リルに言われ、遅まきながらOlは悟る。</p><p>守っていたサイノカミが男性器の形をしていたのなら、この洞窟は女性器。</p><p>今まで通ってきた通路は膣で、この先は卵管。</p><p>とすれば最初の門は処女膜か。道理でOlに開かせたわけだ。</p><p>しかしなぜ、それがマリーに分かったのか、とOlは疑問に思った。</p><p>己の身にも宿しているものとはいえ、子宮とは要するに内臓だ。外から見えるものではない。</p><p>Olには多少の医学の心得があるし、リルはサキュバスなのだから知っていても不思議はない。</p><p>だが、マリーにはそのような知識はないはずだった。</p><p>そもそもここに来るまでリルですら気付かなかったことに、マリーは入り口で気付いていたという事になる。</p><p>その通りだ</p><p>パチパチ、と乾いた音とともに、Olは女の姿に気が付いた。</p><p>気が付いた、としかいう他なかった。</p><p>隠れる場所など何もない部屋の奥に、その女は立っていた。</p><p>だが突然現れたわけではない。ずっとその場にいるのに気づかなかったのだ。</p><p>貴様は何者だ</p><p>何者だ、とはつれぬことを言う</p><p>真っ白な女だった。だがそれはメリザンドや英霊たちの白さとは違う。</p><p>肉としての美しさを伴った白だ。</p><p>肩で切り揃えた艶やかな黒髪に切れ長の瞳。</p><p>キモノと呼ばれるヤマト装束に覆われた身体は露出どころか体型すら覆い隠しているというのに、それでもなお匂い立つような色香があった。</p><p>我を殺し、あまつさえ女にせしは汝であろうに</p><p>なんだと？</p><p>くく、と喉で笑う美女の言葉に符合する相手は、一人しか思い浮かばない。</p><p>だがそのあまりにも変わり果てた姿に、Olは自分自身の考えを疑う。</p><p>我は塞ノ神。この洞の守護にして主人よ</p><p>だがサイノカミはその考えを裏付けるようにそう言った。</p><p>殺しても死なぬ、というのか</p><p>いいや。確かに汝らは我の半身を殺した。だが生とは元来対なるものであり、かの姿は我の一つの側面でしかない</p><p>つまりマリーがおちんちん切っちゃったから、女の子になっちゃったってこと？</p><p>正しくはないがまあ、斯様な解釈でも良い</p><p>リルの言葉に若干呆れたような口調で、サイノカミは答える。</p><p>肝要なのは汝が欲する力を、我が揮えるという事よ</p><p>その白い肌、金の髪、高い鼻に青い瞳。およそこの地の者ではあるまい。察するに、己の国へと帰りたい、といったところであろう</p><p>まあそんなところだ。ただし、帰るだけでなく再びこの地に戻ってくる必要がある</p><p>Olの言葉に、サイノカミは深々と頷いて見せた。</p><p>我ならばそは能うだろう。汝の望む数だけな</p><p>対価はなんだ</p><p>Olは直截に聞いた。</p><p>半身とは言え殺された者が、わざわざ何の見返りもなく協力を申し出に現れるわけがないからだ。</p><p>対価？妙なことを言う。言うたであろう。我は祀られぬ神、順(まつろ)わぬものと。糧を得るために人の身の願いを叶えることなどありはせぬ</p><p>ならばやはり戦うつもりか、と身構えるOl達に</p><p>だが我が汝のモノとなるのなら、話は別だ</p><p>サイノカミは薄く笑んでそう答えた。</p><p>俺のものだと？どういう意味だ</p><p>そのままの意味よ。古来より、男が女を己がものとする方法など、一つしかあるまい？</p><p>そう囁くサイノカミの吐息は、どこまでも艶めかしい。</p><p>お前を女に数えていいのか？</p><p>しかしOlの脳裏に浮かぶのは、先ほど殺した雄々しくそそり立つ男根の姿だ。</p><p>笑止。我ほど女としてある女も他におるまいよ</p><p>確かに、目の前にいるサイノカミの姿に男性らしさは微塵も見受けられない。</p><p>なのに白蛇の姿と重ねてしまうのは、その持つ雰囲気が全く同一のものだからだろう。</p><p>生きとし生けるものは皆、男としての性質と女としての性質を持っておる。性別とは、ただそのどちらが表にあらわれているかに過ぎぬ</p><p>ほう。では俺にも、女の部分があるとでもいうのか？</p><p>うむ。全ての生き物は、父と母とから生まれる故にな</p><p>サイノカミの言葉に、Olはむっと唸る。確かに筋は通っている。</p><p>しかして我の雄は、汝らが殺した。残りし我は純粋な雌。この世で最も全き女というわけだ</p><p>Olが足を鳴らすと、彼の傍らの床が盛り上がり、石の寝台が出来上がる。</p><p>表面をさらりと撫でれば、それは忽ち天蓋付きの柔らかなベッドになった。</p><p>まって、Ol</p><p>寝台へと向かおうとするOlを、リルが引き止める。</p><p>多分、あれ</p><p>わかっている。お前の同類という事だろう</p><p>男が女を己のものとする方法は、確かに交わり屈服させることだろう。</p><p>だが女が男を手に入れる方法もまた、交わりによって己の身体に溺れさせることなのだ。</p><p>つまりはこれから始まるのは、鋭い剣を柔らかな肉に持ち替えた戦いに他ならない。</p><p>案ずるな。お前の相手で慣れている</p><p>でも！</p><p>リルとの交わりは、彼に危害を加えないよう契約で縛られた上でのものだ。</p><p>サキュバスが本気で害意を持ち、搾り殺そうとすればいかにOlとて耐えられるかどうか。</p><p>無論Olとてそれは承知しているが、しかし退くわけにはいかなかった。</p><p>何、構わぬ</p><p>Olはリルの制止を振り切り、既にベッドの上で待ち構えていたサイノカミの元へと赴く。</p><p>これからたっぷりと楽しませてくれるのだろう？</p><p>しなを作る様に寝台の上に横たわり、サイノカミは着物の帯をするりと解く。</p><p>胸元の合わせ目が崩れ、その隙間からちらりと覗く真っ白な肌に、Olをして息を呑んだ。</p><p>似たような存在でも、肌を露わにして色香を振りまくリルとは全く逆の発想。</p><p>隙なく全身を覆い、体の線さえ隠した着物からちらりと覗き見える女の肢体は、男の欲望を大いに刺激するものだった。</p><p>Olはサイノカミを組み敷くと、柔らかにたわんだ合わせ目からすっと掌を差し入れる。</p><p>むっ</p><p>その乳房の手触りに、Olは思わずうめいた。</p><p>この世のものとは思えぬほど柔らかく、手に吸い付くような肌。</p><p>大きさこそ掌にすっぽりと収まってしまう程度だが、それゆえにいつまでも手の中で弄んでいたくなるような、そんな柔らかさだった。</p><p>いきなり入れても構わぬのだぞ</p><p>そういうわけにいくか</p><p>耳元で囁くサイノカミに、Olはそう答える。</p><p>半分は相手の出方を探るためだが、しかしもう半分はOl自身の矜持だった。</p><p>んっ良いぞ。あぁ</p><p>襟を更に開いて胸元に口づけ、柔らかな肉を指先で弄びながら先端を撫でさすれば小さな蕾は硬く膨れていく。</p><p>ほう、と甘く吐息を漏らすサイノカミの肌は上気して薄く桃色に色づいて、着物の裾を割り開き脚の間に指を這わせれば、滴る蜜がくちゅりと音を立てた。</p><p>リルに一瞬目を向ければ、彼女はこくりと頷いて見せる。</p><p>淫魔の見立てでもサイノカミは間違いなく、感じている。演技や擬態ではない。</p><p>ああ汝の太く硬いもので、我を貫いてくれ</p><p>乱れた着物はあえて脱がさぬまま、Olはサイノカミの中心に己自身を押し当てる。</p><p>むっ？</p><p>だが、そこはたっぷりと潤いを帯びているというのに、何故かそれ以上侵入することが出来なかった。入り口が狭いのか、先端がわずかに差し掛かったのみで強い抵抗感がある。</p><p>汝の魔羅は我には大きいと見える。何、構わぬから一気に突き入れるがいい</p><p>妙な違和感を抱きつつも、Olはサイノカミの腰を掴んで力を込める。</p><p>抵抗があったのは入り口だけで、そこを超えてしまえばサイノカミのそこは一気にOlの肉槍を根元までするりと咥え込んだ。</p><p>同時に走る衝撃に、Olは目を見開く。</p><p>サイノカミの膣内は驚くほどに暖かく、そのひやりとした肌の温度と相まって火傷してしまうのではないかと思うほど。</p><p>膣壁はきゅうきゅうと強くOlのものに絡みつき、ざわざわと蠢くようなその表面の感触はまるで百人の女に舌で奉仕されているかのよう。</p><p>ただ挿入しただけだというのに、腰が砕けてしまうのではないかと思うほどの心地よさだった。</p><p>リルとのまぐわいで鍛えていなかったら、それだけで放出していただろう。</p><p>ほう。我に入れて精を吐かぬとは</p><p>心の底から感嘆した、といった表情で、サイノカミ。</p><p>貴様</p><p>彼女をねめつけ、Olは絞り出すように声を出す。</p><p>これは、どういうことだ</p><p>その視線の先、彼らの性器が結合している部分。</p><p>そこには、朱が滲んでいた。</p><p>どうもこうも見ての通り。我が生娘ではおかしいか？</p><p>サイノカミは当然のようにそう答えた。</p><p>とてもそうは見えんからな</p><p>その態度と言い、滲み出る色香と言い、とても処女の態度とは思えない。</p><p>Olはおろか、リルですらそれを見抜けてはいなかった。</p><p>然もあろう。我は境界の神であると同時に、性愛と豊穣の神でもある。いわば生まれついての淫婦だ。だが、淫婦にとて初めてというものはある</p><p>彼女の言葉を裏付けるかのように、サイノカミの膣内は痛みに怯む様子もなく、Olの肉塊を締め付ける。</p><p>サイノカミとしての我は長く在るが、雄としての我を殺しこの洞へと入って来たのは汝が初めてよ。故に雌としての我もまた、男を知るのはこれが初めてだ</p><p>サイノカミはOlの首に腕を回すと、耳元をくすぐる様に囁いた。</p><p>さあ。我を二つの意味で女にした愛しい汝よ。夜はまだ始まったばかり。しっかりと楽しませておくれ</p><p>第6話旧きものを斃しましょう-4</p><p>薄暗い洞窟の中、肉のぶつかり合う音と水音が響き渡り、雄と雌の交わりあう濃密な淫臭が立ち込めていた。</p><p>あぁ、そうだそこを、もっと抉ってくれ、あぁっ</p><p>もはや着物はかろうじて袖が腕に纏わりついているのみで、衣服としての用をなしていない。</p><p>ほっそりとした喉からツンと上を向いた胸元、滑らかな腹の下までを露わにして鳴くサイノカミの肌には珠のような汗がいくつも浮かび、紅潮した頬と快楽に蕩け潤む瞳がOlを見つめる。</p><p>出すぞッ！</p><p>ああ、来て、奥に、汝の精を注ぎ込んでくれっ！</p><p>Olの肉塊が彼女の中で膨れ上がれば、打てば響く鐘のように絶妙なタイミングで締め付けてくる。生まれながらの淫婦と称するだけあって、先ほどまで処女だったとは思えないほどの乱れ振りだった。</p><p>ぎゅうと締まる媚肉をこじ開けるようにして無理やり奥まで腰を押し込むと、下がってきた子宮が子種をねだる様に先端に口づける。全身で男を求めるかのようなその動きに、Olは溜まらず精を解き放った。</p><p>あっう、あぁんんっ、あ、良い、ぞ、ぉっ！</p><p>どくり、どくりと断続的にOlが白濁を吐き出す度に、サイノカミは気をやって身体を震わせる。その度に彼女の膣内は精液を絞り出すようにうねり締め付けて、その快楽によってOlは更に射精する。</p><p>まるで振り子のように快感を行きつ戻りつ交歓しながら、二人は長い長い絶頂の末に力を失い、重なりあって崩れ落ちた。</p><p>これで、満足したか？</p><p>ああ汝の逸物は素晴らしいな。これだけ出してなお、まだ我の中で脈打っておる</p><p>ぐったりとして横たわるサイノカミに問えば、彼女は嬉しそうに笑って膣口に力を込めながら、ゆるゆると腰を動かし始める。</p><p>まずい、とOlの頭の中に警鐘が鳴り響いていた。</p><p>演技でも擬態でもなく、サイノカミは間違いなく感じ、何度も気をやっている。</p><p>だがその精力と体力はまるで無尽蔵のようで、どれだけ絶頂に至らせ、精を注ぎ込んでも、更にもっととねだってくる。</p><p>そしてOlもまた、それに応えることをやめられなかった。</p><p>魔術的なあるいは、何らかの未知の術のようなものをかけられているわけではない。</p><p>純粋に、サイノカミの肉体が気持ちよすぎるのだ。</p><p>一突きする度に飢えにも似た欲求はいや増すばかりで、どれだけ交わっても飽きるということがない。その柔らかな身体を組み伏せ、犯し、征服するのはまるで麻薬のような快楽だった。</p><p>これが並の男だったなら、二、三度も射精に至れば精根尽き果て、倒れ伏してしまっていたことだろう。だが不幸なことに、ここまでの通路を己のダンジョンへと作り変えてきたOlには試練の山から伸びる魔力の道がある。</p><p>地中の魔力をたっぷりと内包した赤い溶岩はほとんど龍脈のようなもので、Olに無尽蔵の体力と精力を与える。だがそれが、今に限っては仇となっていた。互いに無限の体力を持つ者同士の交わりは、そのまま無限に続いてしまう可能性があるのだ。</p><p>ちょっと、もう十回はしたでしょ？いつまでやってるつもり！？</p><p>それを察し、流石にリルが割って入った。</p><p>サイノカミの助力を得られないのは問題だが、Olが完全に囚われるよりはマシだ。</p><p>何、永遠になどというつもりはない。我が満足するまでのことだ</p><p>あとどのくらいで満足するのよ</p><p>リルが腰に手を当て居丈高に尋ねると、サイノカミはうむと頷いて応える。</p><p>一年だ。普通は毎夜相手にしてもらうところだが、この男であればこのまま丸一年ずっと、目合(まぐわ)い続けていられそうだな</p><p>馬鹿じゃないの！？</p><p>その答えに、リルは怒鳴る。</p><p>わたしが干からびて死んじゃうじゃないの！</p><p>ふむでは、汝も混ざるか？</p><p>えっ、いいの？</p><p>いいわけあるか、愚か者！</p><p>声を弾ませ懐柔されかかるリルに、Olは思わず叫び返した。</p><p>胡乱なリルの言葉は計算でも何でもなく素での反応だろうが、それがかえってOlの精神を呪縛めいたサイノカミの魅力から多少なりとも逃す。</p><p>一年だなどと、そんな話は聞いておらぬ。付き合いきれるか</p><p>ほう。我の身体をもう味わいたくないと申すか？</p><p>すっと目を細め、悲しげに問いながらサイノカミは自然な動作でOlに改めて己のその裸身を晒す。途端、Olの心に彼女を押し倒し、めちゃくちゃに犯してしまいたいという欲求が強く湧き上がった。</p><p>俺にはやらねばならぬことがある。一年も悠長にしている暇はない</p><p>それを押し殺して答えると、サイノカミは驚いたように目を見開く。</p><p>我が情愛を跳ね除けるとは。なんという意力の強さよ</p><p>お生憎様でした。淫魔の類には慣れてるのよ</p><p>ぎゅっとOlの頭を抱きしめながら、リルは舌を出してみせる。</p><p>後頭部を包む柔らかな肉の感触に、Olは逆効果だと内心で叫んだ。</p><p>淫魔異国にはそのようなものもいるのか。だがしかし、言うたであろう。我はこの世で最も全き女。即ち我との交合を諦めるということは、全ての女との交わりを諦めるに等しい。情多き男ほど逃れられるものではない</p><p>エッチな男ほどやめられないって事か</p><p>Olさますごくえっちだもんね</p><p>確かに</p><p>リルの言葉にマリーが同意し、ユツまでもが深く頷く。</p><p>怒鳴ってやりたいところだったが、Olにもそれほどの余裕はなかった。</p><p>よくよく考えてみれば、これは極めて深刻な事態だった。</p><p>魅了の術や何らかの能力によってOlの心が囚われているのならば、それを解除もできるだろう。だがしかし、その根源がOl自身の心にあるとなると話は別だ。</p><p>リルを、マリーを、全ての情を交わした女たちを心の底から手放すつもりがなければ、サイノカミからは離れることが出来ないということなのだから。それはOlにとっては到底、許容できることではなかった。</p><p>それはリル達の助力によって無理やり引き離されるのでも同じだ。</p><p>妻たちを外部の力によって失うなどというのは、Olにとってそれこそ最も忌避すべき出来事だ。それはただ象徴的な出来事に終わらず、Olの魂を傷つけ、損なうであろうという予感があった。</p><p>ヤマタノオロチが魂さえ噛み千切ったように、この地の神というのは恐らくそういう力を持っているのだ。相手に敵意がないとしても、油断すべきではなかった。Olは今更の段になって、それを思い知った。</p><p>わかった。お前の気が済むまで相手してやる</p><p>唯一の救いと言えるものはただ一つ、サイノカミ自身が言うようにそれが永遠に続くものではないということだ。彼女が満足さえすれば、それで終わる。</p><p>ああ。好きなだけ我を犯すが良い。その獣欲を存分にぶつけておくれ</p><p>サイノカミは嬉しげに目を細める。害意や敵意は本当にないのだろう。</p><p>だからこそ、Olは彼女が障害となりうることを見抜けなかったのだ。</p><p>後ろから犯してやるから、尻をこちらに向けろ</p><p>ほう。まるで獣の交尾のようだがそれはそれで悪くない</p><p>サイノカミはするりと着物の袖から腕を抜くと、一糸まとわぬ姿となって小ぶりな尻をOlに向ける。Olはそれを両手で鷲掴みにすると、一気に突き入れた。</p><p>なっ？</p><p>その瞬間、サイノカミは大きく目を見開くと、戸惑いの声を漏らした。</p><p>ま、まてそこは、違うぞ？</p><p>Olが剛直を突き入れたのは性器ではなくその上の窄まり。</p><p>不浄の穴だったからだ。</p><p>何が違うものか</p><p>ひぐぅっ！</p><p>Olが抽送を繰り返すと、サイノカミは大きく声を上げる。それは先程までの善がり声とは、全く別種のものだった。</p><p>そら、こんなにひくひくと蠢いて喜んでいるではないか</p><p>一連の交わりで高ぶりきったサイノカミの身体は、精液と愛液に塗れたOlの肉槍を易々と飲み込み、否応なく快楽の階段を登らされていく。</p><p>だがそこからは、先程までどれだけ乱れても失われていなかった余裕のようなものは失われていた。</p><p>ちっ、違うぅっ！こんな、こんな場所で、我はっ！あぁっ！</p><p>サイノカミの顔と表情は戸惑いで満ち、混乱のまま彼女は喘がされ、鳴き声をあげさせられる。</p><p>安心しろ。お前は先程生まれたばかりといったな。ならば何かを食しているはずもなく、腸(はらわた)の中とて綺麗なものだ</p><p>そういうっ、問題では、う、あぁっ！</p><p>逃げ出そうとするサイノカミの両腕を引いて、Olは彼女の直腸を犯す。</p><p>全き女というだけあって、その腕力は神といえどただの女のそれだった。</p><p>男であるOlに敵うわけもなく、逃れる事もできずにされるがままに陵辱される。</p><p>ああああっ！だめ、だめえっ！</p><p>いい声で鳴くようになったじゃないか</p><p>尻穴の感触は、膣内とは全く違った。</p><p>Olの動きに合わせて如才なく締め付け搾り取ってくる前の穴と違い、後ろの穴はサイノカミ自身さえ感知できない動きで震え、窄まり、素直な反応を見せてくれる。</p><p>だめだ、こんなもの、交わりではひぅんっ！</p><p>首を振って嫌がるサイノカミの膣口に指を入れて犯してやれば、彼女のそこは喜びに震えながらよだれを垂らして咥え込む。</p><p>あああああああっ！</p><p>そうしながら尻穴を抉ってやれば、絶叫のように声を上げ、潮を吹き出しながら、サイノカミは絶頂に体を震わせた。</p><p>例え神であろうとも、その持つ力は無限ではない。</p><p>これはサクヤとの付き合いでわかっていたことだった。</p><p>彼女ほどの力を持つものであっても運動をすれば人間同様に疲れるし、食べたり眠ったりといった行為が必要だ。</p><p>ならばサイノカミの無尽蔵の体力はどこから来ているのか。</p><p>それは彼女の司るものに関係しているのではないかと、Olは推測した。</p><p>境界、性愛、豊穣。</p><p>サイノカミが司る三つのものは、一見結びつかないように見えてあるもので結ばれている。</p><p>それは妊娠と出産だ。</p><p>出産とは死と生の境であり、性愛の結果であり、そして豊穣そのものだ。</p><p>ならば性行為であっても、子を成すことの出来ない種類のものであれば回復は不可能なのではないか。</p><p>Olのその読みは当たっていたらしい。</p><p>尻を犯し続けているうちにサイノカミの声は段々と力なく、その動きは緩慢なものとなり。</p><p>もう、無理だ勘弁してくれ</p><p>更に三度ほど精を吐き出す頃には、サイノカミは寝台の上に突っ伏して、息も絶え絶えにそう降参を告げたのだった。</p><p>第6話旧きものを斃しましょう-5</p><p>変態変態だ</p><p>ぐしぐしと泣きべそをかきながら、サイノカミはしきりにそう呟く。</p><p>尻の穴に胸の間、口の中に髪、挙句の果てに脇だの膝だの汝らの文化はどうなっておるのだ</p><p>どうやら彼女の知識にあるのは、子作りのための真っ当な性交だけであったらしい。</p><p>性器以外の場所を使って精をかけられる度に大いに狼狽し、未知の感覚に困惑していた。</p><p>情けないわねえ。わたしなら、耳や鼻の孔だって大丈夫なのに</p><p>それは俺の方から願い下げだ</p><p>呆れた口調でリルが言うが、流石にそれはOlの許容できる範疇からも逸脱していた。</p><p>さて、ではお前の力を貸して貰おうか</p><p>無理だ</p><p>ふるふると首を振るサイノカミに、Olは顔を顰めた。</p><p>口約束とは言え、サイノカミははっきりと力を貸すと言った。</p><p>Olほどの魔術師を相手に結んだ約定は、神といえどおいそれと破れないはずだ。</p><p>貸したくとも力が足らぬ。言うたであろう。我は順(まつろ)わぬものであり、祀られぬ神なのだ。異国と道を繋ぐような大それた事は出来ぬ</p><p>話が違うだろう。お前は出来ると言い、それは嘘ではなかったはずだ</p><p>嘘であれば、リルはそれを見抜く。そういった部分に、人と神とで違いはない。</p><p>無論だ。祀られれば、その程度の力はある</p><p>祀るとはどういうことだ？</p><p>言葉の意味自体はわかる。敬い、信仰するということだ。</p><p>だがその具体的手段まではわからない。</p><p>言ったであろう。一年まぐわう事だ</p><p>しかしそれも、サイノカミの簡潔な説明に氷解した。</p><p>なるほど性愛の神への敬意を表するのに、それ以上の方法はないだろう。</p><p>だがそれは困った話だな</p><p>単なる性愛ならともかく、子を成すというニュアンスを多分に含んだ性愛だ。</p><p>Olのような男でなくば毎夜相手にすると言っていたが、逆に言えばどれだけ濃密に交わろうと一年という期間は短縮できないという事でもある。子供が出来るかどうかは、性交の密度とは関係ないからだ。</p><p>ということならば、複数の男を当てがっても無意味だろう。リルのような淫魔であれば相手が多ければ多いほど掠め取れる生気も増えるだろうが、女が同時に孕める子の数は相手の男が増えたとて変わるものではない。</p><p>つまり何をどうしても、一年の歳月が必要ということだった。</p><p>他の方法はないのか？</p><p>本来ならばそれでも望外の条件なのだろうが、一季節後には敵が攻めてくるというこの状況では役に立たない。</p><p>お前は境界と性愛、豊穣の神なのだろう。それは出産という軸で共通する一方、それぞれが別の側面でもある。性交以外に力を得る方法はないのか</p><p>なくは、ない</p><p>Olの問いに、サイノカミは難しい表情で答える。</p><p>いや正確には、あったと言うべきであろうな</p><p>そう呟くサイノカミの表情は、酷く沈鬱なものだった。</p><p>そもそも我がこれほどまでに力を失ったのは、長い間誰にも顧みられることがなかったからだ。それこそ、我自身名を忘れてしまうほどにな</p><p>サイノカミと言うのは、名ではないのか</p><p>Olが問うと、サイノカミは頷きを返す。</p><p>其は汝らで言うなれば、役職のようなものよ。我を指す号ではあるが、我自身の名ではない</p><p>サクヤにでも知らないか聞いてみる？</p><p>リルが言うと、サイノカミはほうと片眉を上げた。</p><p>汝らはコノハナサクヤ姫と知己であったか。だが、あの者も我の名など知ってはおるまい。まだ年若き故にな</p><p>一万二千歳で若いって、どういうスケールよ</p><p>そういうサイノカミ自身は、一体どれほど生きている神なのか。</p><p>ここまで行くと驚きよりも呆れの方が強かった。</p><p>な、なに？</p><p>突然Olから名を呼ばれ、話の流れに参加もできずただ聞いていたマリーは驚きに目を瞬かせる。</p><p>こいつに名をつけるなら、なんとする</p><p>更に投げかけられた言葉に、彼女は困惑した。</p><p>我に名をつける、だと？</p><p>その困惑は、マリー以外の面々も同様だ。</p><p>サイノカミは怪訝そうに眉を顰め、Olの言葉を反芻する。</p><p>この世の誰も知らず本人も覚えていないのなら、そのような名は無いのと同じであろう。名のないものを呼ぶ時どうするかなど、決まっておる。名付けるのだ</p><p>神の名とはそのような単純なものではない。存在の本質を示し、根幹となるものだ。犬猫ではあるまいし、疎略に決めて意味などあるものか</p><p>よほど受け入れがたい話なのだろう。</p><p>サイノカミは不機嫌そうな声で唸るように吐き捨てる。</p><p>わかっておる。俺とて考えもなしに言っているわけではない。それで、どうだ？</p><p>うーーーーん</p><p>再びマリーに視線を戻せば、彼女は頭を抱えて考え込んだ末に、ぽつりと名前を口にした。</p><p>ミーシャ</p><p>思いっきりフィグリア風の名前じゃないの！</p><p>こちらではあまり聞かない名前ですね</p><p>即座にリルがツッコミを入れ、ユツもまた困ったように笑いながら控えめに同意する。</p><p>それ、だ</p><p>だがサイノカミは大きく目を見開き、呆然としながら掠れる声でつぶやいた。</p><p>いや違う。それではない。我の名はそれではない。だが、今の我を言い表すにはむしろ元の名よりも相応しいなぜだ？</p><p>ぶつぶつと、うわ言のようにサイノカミは自問する。</p><p>女の子の名前だからじゃない？あのおちん蛇の姿だったら、似合わないでしょ、そんな名前</p><p>そうか！</p><p>素朴にマリーは指摘し、正しいと同時に間違っているその答えにサイノカミは正当へと思い至る。</p><p>半身を失った故に、名も半分に分かたれるは道理。ミーシャ御石神(ミシャグジ)！それが我の名だ！</p><p>サイノカミがそう叫んだ瞬間、彼女の身体からぶわりと何かが溢れ出た。</p><p>目には見えず、音もなく、熱もなければ匂いもないが、しかし風にも似た何らかの圧力が存在しているのをその場にいた全員が感じる。</p><p>サイノカミのつま先から髪の一本一本に至るまでが力に満ち満ちて、全身が光り輝いているようにさえ感じられた。</p><p>その姿に、Olは今更テナがヤマタノオロチの事をヤツと呼び続けた理由を悟る。</p><p>名というのは、神にここまでの力を与えるものなのか。</p><p>小さき娘よ、感謝する。我に名を与えてくれたことを</p><p>サイノカミはゆっくりとした動作でマリーの前に跪き、マリーはこくこくと頷く。</p><p>ミシャグジで、良いのか？</p><p>いいや。我の事はミーシャと、このなりでそれは流石に座りが悪いか。そうさな、ミシャと呼べ。それこそが我に相応しき名だ。元の名よりもな</p><p>Olの問いに、サイノカミミシャは、そう答える。</p><p>確かに純ヤマト風の出で立ちで名乗るならば、長音は抜いた方が多少なりともそれらしいだろう。</p><p>だがそれは同時に、マリーの答えた名が真実正解を射抜いていたわけではない、という事でもあった。</p><p>ねえマリーちゃん、何でわかったの？</p><p>何もわかってないよ適当になんとなく、言ってみただけなんだけど</p><p>ユツの問いに、マリーは困惑して首を横に振る。</p><p>彼女が見せたのは相手の真の名前を言い当てる能力などではない。</p><p>もしそんな力があるとすればそれは凄まじい脅威だ。魔術師にとって、真名を知ることは相手の心臓を握ることに等しい。マリー程度の未熟な術者でも恐るべき力となるだろう。</p><p>だが、そうではない。近い名前を言えても間違えているようでは何の意味もないからだ。</p><p>ならば一体、先ほどからマリーが見せている力の片鱗は何なのか。</p><p>白蛇が竜であることを見抜き、洞窟の入り口の扉の意味を察し、サイノカミの名を半ば当てる。</p><p>名付けの才能、か</p><p>考えられるのはそれだけであった。本質を見抜き、感覚として捉える。</p><p>ならばそれに名をつける事も容易いだろう。</p><p>その才能って役に立つの？</p><p>わからん</p><p>リルの問いに、Olは首を振る。</p><p>例えば未知の化け物に遭遇したとして、それに相応しい名を与えることは出来よう。だが、弱点だの能力だのを知れるわけではなかろう</p><p>サイノカミに対して有効だったのは、たまたま竜という名を持つ種族が既知のものであり、さらに偶然マリーがそれへの対抗手段を持っていたからだ。</p><p>全く役に立たないわけではないにせよ、そのような例は稀と思っていいだろう。</p><p>だが、果たして本当にそうだろうか。</p><p>ただの珍しい才能、とるに足らぬギフトの萌芽。それでは済まないものを感じながら、Olは不思議そうに首を捻るマリーの顔を見つめた。</p><p>第7話王の帰還を祝いましょう-1</p><p>Ol、準備が出来たよ！</p><p>ああ、ごくろう</p><p>空間を超越し、文字通り飛んできたユニスを抱き留めながら、Olは彼女を労う。</p><p>ようやくか。待ちくたびれたぞ</p><p>そういうな。お前の力は強力すぎるのだ</p><p>欠伸を噛み殺しながら言うミシャに、Olは憮然として答えた。</p><p>彼女の力はOlが想定していたよりも遥かに便利なもので</p><p>あまりに便利過ぎた。</p><p>境界の神であるミシャは、あらゆる境界を繋げることが出来るのだという。</p><p>扉と扉を、門と門を、そしてダンジョンとダンジョンを。</p><p>しかも繋ぐ自体には力を使うものの、維持するのには殆ど力を消耗しないらしい。</p><p>だから大きな門でも作って本拠地とこの地を繋げば、戦力を丸ごと持ってくることが出来る。</p><p>それは非常に危険なことだった。なぜなら、行き来は双方向だからだ。</p><p>こちらの戦力が簡単に持ち出せるという事は即ち、本拠地に簡単に攻め込めるという事でもある。</p><p>かといって、ダンジョンから遠く離れたところに繋いでは利便性にかける。</p><p>それを解決するために、Olは特別な部屋を作り上げていた。</p><p>ミーシャの洞窟以外とはどこともつながらない、大きな大きな部屋だ。</p><p>そこからOlのダンジョンへは、通常の転移を使って行き来する。</p><p>間には分厚い岩盤が横たわっているものの、距離自体は短いため通常の魔術の転移で事足りる。</p><p>これならば、座標が分からなければ侵入できない。</p><p>テナのような能力もあるから安心はできないが、ある程度の備えにはなるだろう。</p><p>最悪の場合はその部屋を土で埋めてしまえば、物理的に侵入を防ぐこともできる。</p><p>では、開くぞ</p><p>ミシャはすっくと立ちあがり、彼女の住む洞窟の奥に設えた巨大な門扉へと腕を伸ばした。</p><p>一体どのように力を揮うのか、と見守る一同の前で、彼女は軽く扉をとんと指先で突く。</p><p>すると両開きの扉はきいと音を立てて開き</p><p>何もない空間だったはずのその向こうには、まったく別の部屋が広がっていた。</p><p>Olはその光景に、目を見開く。</p><p>空間を繋ぐ門といえば、Olがかつてフィグリアの軍師に捕らえられた時にユニスが作り上げたような、光り輝く渦のようなものを想像していたのだ。</p><p>だがミシャが成したそれは、違和感など微塵もない。</p><p>ごくごく自然に、扉の向こうに本来ありえない光景が広がっていた。</p><p>Ol様っ！</p><p>真っ先に飛び込んできたのは、意外にもミオだった。</p><p>矢も楯もたまらず駆けだした、といった彼女の柔らかな身体を、Olは反射的に抱き留める。</p><p>待ちかねたぞ！</p><p>お会いしとうございましたわ！</p><p>それに重なるようにエレンとセレスが飛びついてきて、Olは押されつつも三人の身体を支えた。</p><p>えいっ。おかえりなさい、Ol様</p><p>その腕を取ってShalが己の胸に押し付けるようにして抱きかかえ、</p><p>ほら、いってきなさいよ</p><p>う、うんOl様、失礼いたします！</p><p>ウィキアに押されたナジャがもう片方の腕に縋りつく様にぎゅっと抱き着き、</p><p>もう、寂しかったよー！</p><p>抜群の跳躍力でFaroが頭にしがみついてきたところで、Olはとうとう耐え切れずに地面に転がった。</p><p>起き上がろうともがくが、女たちの体で身動きが取れない。</p><p>彼女たちの心情を思えば怒鳴りつけることもできなかった。</p><p>さあ、そろそろどけ</p><p>頃合いを見てパンパンとメリザンドが手を打ち鳴らすと、ようやく女たちはOlの上から身体をどかす。</p><p>ほら</p><p>ウィキアが手を差し出す手を取って、Olは身を起こした。</p><p>全く、総出で迎えることもあるまい</p><p>扉の向こうに居たのは、妻たちだけではない。侍女やアールヴ達、フィグリア王家の王妃と姫に娘たち。それにドヴェルグや半人半馬、ラミアや人狼といった面々までもがOlの帰還を出迎えていた。</p><p>頬が緩んでおりますよ、陛下</p><p>にこやかに告げるノームに、Olは思わず己の頬を押さえる。</p><p>おかえりなさいませ、お師匠様</p><p>遠征中にも何度か会ってたためか、幾分落ち着いた所作でスピナが深く腰を折る。</p><p>ただいまわたしーっ！</p><p>おかえりわたしーっ！</p><p>Olが連れていたリルと、迷宮に残っていたリルの分け身が空中でパンと手を合わせた。</p><p>と言っても彼女のそれは同一の意識が二つの身体を同時に操っているだけなので、要するにただの一人芝居だ。</p><p>帰って来たね、Ol</p><p>いつの間にかユニスが横に立ってニコニコと笑いながらそう言って。</p><p>Olは深く頷きながら、久々の我が家の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。</p><p>我が留守の間、大儀であった</p><p>久方ぶりの玉座に腰を下ろし、Olはそう労いの言葉をかけた。</p><p>無論のこと、己のいぬ間にダンジョンを乗っ取られぬよう対策は十重二十重に巡らせて出かけたのだが、結論から言えばその労力はすべてが全くの無駄であった。</p><p>無論、仕事の上でいくつかの失敗や破綻はあったし、そうした時に指示を仰ぎにユニスがOlの元を訪れたのは一度や二度ではない。</p><p>だが危惧し備えたような裏切りは、ただの一つも見つからなかった。</p><p>Olはそれを不可解に思う事もなくしかし当然と思う事もなく。</p><p>ただ安堵したように、深く息を漏らした。</p><p>元来のOlであれば、そもそも対策を施したとしてもこれだけの期間、ダンジョンを他人に任せて留守にするなどという事はなかっただろう。</p><p>残されたものもそれをわかっているからこそ、それに応えた。</p><p>お前たちの忠義、献身には報いねばならぬ</p><p>謁見の間は広いとはいえ、何千何万といる魔王の配下が丸ごと入れる程ではない。</p><p>全体への演説や褒章は後に回すとして、Olはまず近しい者たちを集めてそう述べた。</p><p>故に、褒美を取らす</p><p>近しいものとは、その殆どが彼の妻だ。</p><p>新大陸についてきていたリルとマリー、魔力の補給の為に毎日顔を合わせていたユニスとスピナはともかく、他の者たちは殆ど丸一年放っておいたことになる。</p><p>つまり褒美とは、実質的にその補償であった。</p><p>褒美とはいかなるものでしょうか、主殿</p><p>跪いた姿勢から顔を上げ、問うたのは黒アールヴの長エレンであった。</p><p>彼女もまた忠義厚き腹心と言っていい相手だが、同時に黒の氏族を率いる族長としての立場も持っている。部下たちの為にも、生半なものでは承知しない、とその目が言っていた。</p><p>Olはうむと頷いて、</p><p>お前が決めろ</p><p>短く、そう答えた。</p><p>は？</p><p>エレンは思わずぽかんと口を開き、Olの言葉の意味を考える。</p><p>望むものを与える、と言っておる</p><p>お言葉ですが、Ol様</p><p>そこに声を上げたのは白アールヴの長、セレスだ。</p><p>私たちが私が頂きたいのは、金品でも宝物でもありません</p><p>それも、わかっている</p><p>質素倹約を旨とする魔王の気風もあってそれほど華美な生活をしているわけではないが、それでも王族は王族である。彼女たちが今更金銭で贖えるようなものを欲しがるとは、Olも思っていなかった。</p><p>一日だ</p><p>指を立てて厳かに宣言するOlに、エレンとセレスは揃って首を傾げる。</p><p>各々一日を限度として、この俺を自由にする権利を与える。無論承諾できる範囲での話だが、よほど無茶な頼みでなければ出来得る限りの望みを叶えよう</p><p>しかし続く言葉に、一同がどよめいた。</p><p>それってつまりOl様を一日独り占めできるってことですか？</p><p>うむ。そのように捉えて差し支えない</p><p>Shalの問いにOlは頷くが、それはそう簡単な話ではない。</p><p>ただでさえ広大な土地を治める魔王は忙しく、朝から夜までほとんど働き詰めであることは皆が知っている。ましてや遠征から帰って来たばかり、メリザンドが代理である程度処理していたとはいえ彼の裁可を待つ書類はなお山のようにうず高く積まれていて、その恐ろしさは執務室に入ったリルが顔を蒼白にして出てくるほどなのだ。</p><p>その魔王の一日とは、彼自身と同じ大きさの黄金よりも価値を持つ時間。</p><p>しかし同時に、その場に居並ぶ者たちが皆、何より望んでいるものであった。</p><p>立場や序列の別なく、思いついたものから逐次応じるものとする。皆、存分に考えておけ</p><p>Olの言葉に妻たちは、はっと我に返ったように互いに顔を見合わせ、浮足立ち、銘々に思い悩みながらその場を立つ。</p><p>また随分と張り込んだものだな</p><p>一人残った宰相、メリザンドはOlをからかうようにそういう。</p><p>何を言っておる</p><p>そんな彼女に、Olは呆れたように答えた。</p><p>褒美を与える相手には無論、お前も入るのだぞ。他人事のような顔をしおって</p><p>メリザンドの表情から、みるみる余裕が抜け落ちて。</p><p>お前が何を頼んで来るか、楽しみにしておるからな</p><p>言い置き、執務室へと向かうOlの背中を、メリザンドは呆然と見つめた。</p><p>第7話王の帰還を祝いましょう-2</p><p>千載一遇のチャンスだ、とメリザンドは思った。</p><p>一日、なんでもいう事を聞く。</p><p>Olのそのあまりにも無防備な宣言は、メリザンドのかつての野望を蘇らせるのに十分な威力を持っていた。</p><p>今の暮らしに、不満があるわけではない。</p><p>もし失敗すれば、メリザンドは全てを失うだろう。</p><p>愚かな望みとわかってはいた。</p><p>いたがしかし、彼女はそれを捨てることが、ついに出来なかったのだ。</p><p>事はあの狡猾で用心深い魔王に気取られぬよう、慎重に進めなければならない。</p><p>かといって遅くなりすぎても駄目だ。</p><p>さりげなく、しかし的確に必要な情報をメリザンドは集め</p><p>そして、決行の日はやってきた。</p><p>新大陸の話を聞きたいだと？</p><p>うむ。無論、書面での報告には目を通しておる。だがやはり文章では漏れもあるだろうし、何より臨場感というものがないだろう？土産話だとでも思って、語ってはくれんか</p><p>それは、構わんが</p><p>メリザンドの願いに、Olは困惑したように怪訝な表情を浮かべる。</p><p>いいのか？わざわざそんなことに報奨を使って。無論丸一日となると難しかろうが、多少話す程度の時間は作ろうと思えば</p><p>いや、そこまで肩ひじを張らなくていい。こうして顔を合わせるのも久々なのだ、気軽に語ってくれ</p><p>やはり多少怪しまれはするか、とメリザンドは内心で呟く。</p><p>とはいえ、油断しようとするまいと、あらゆる対処を講じてくるのがOlという人間だという事はよくわかっている。</p><p>であるからこそ逆に、多少怪しまれる程度は何の障害にもならない。</p><p>お前がそういうのなら、まあいいが。しかし語るといっても何から話すべきか</p><p>報告書に、娘が出来たと書いてあっただろう。確かソフィアとかいう</p><p>あああれもまた、不可解な存在なのだがな</p><p>茶を口にして喉を湿らせ、Olは頷く。</p><p>理由はよくわからんが、俺を親と認識しているらしい</p><p>聞いたぞ。なんでも、パパと呼ばれているそうではないか</p><p>メリザンドが笑いを含んだ口調で言えば、Olは渋面を作った。</p><p>からかうな。そのような柄でないことは承知しておる</p><p>なに、からかってなどいるものか。存外似合うのではないか？パパ</p><p>からかうなと言うに</p><p>憮然とするOlに、メリザンドは忍び笑いを漏らす。</p><p>だがそれも、演技でしかない。本当の狙いを隠すための演技だ。</p><p>娘と言えば、フィグリア王家の姫君たちには何か保障でもするのか？</p><p>それはOlが乗っ取り、支配する国々の中核ともなっているフィグリア元王妃とその姫そして、彼女たちに産ませた娘たちの話だった。</p><p>彼女たちはダンジョンの運営に関わることもなく、それゆえ捨て置いても問題となる可能性は低い。だがソフィアと違って、紛れもなくOlの血を引く子供たちだ。</p><p>心情的にも道義的にも、捨て置くわけにはいかなかった。</p><p>うむ。流石に一人ひとりに、というわけにもいかぬが、幾らか時間はとる予定だ</p><p>なるほど。なかなか良い父親ぶりだな</p><p>更にからかうように言葉を投げかければ、何故かOlは怒るでもなく沈黙した。</p><p>いやそうとばかりも言えん</p><p>不審に思ってメリザンドが問うと、Olは難しい表情で首を振る。</p><p>俺には親がおらん。故に親子というものがどのように接するものなのか、よくわからんのだ。少なくとも、良き父親というわけではなかろう</p><p>そんなことはないだろう、とメリザンドは思う。</p><p>先日Olが帰還した時も、彼の娘たちは嬉しそうに出迎え、慕っていたように見えた。</p><p>では</p><p>だがメリザンドの口から漏れ出たのは、そういった慰めではなく。</p><p>練習してみるか？</p><p>そんな言葉だった。</p><p>どうしてこんなことになったのか。</p><p>メリザンドはひたすらに内心で自問自答していた。</p><p>彼女の体はOlの腕の中にすっぽりと収まり、膝の上にあった。</p><p>そしてOlの無骨な手のひらは、メリザンドの頭を不器用に撫でている。</p><p>どうしてこうなった。</p><p>何度も繰り返した問いを、メリザンドは更にもう一度内心で呟く。</p><p>おい</p><p>ぼそりと呟かれたOlの声が耳元で聞こえて、メリザンドはびくりと身体を震わせた。</p><p>これでどうなんだ</p><p>試しに私を娘だと思って、膝にでも乗せて撫でる練習をしてみてはどうか。</p><p>冗談めかして言ったその言葉に、しかしこの妙なところで生真面目な魔王は試してみる価値はあるかなどとのたまい、実行に移したのだ。</p><p>う、うむまあ、悪くないのではないか？</p><p>なんだそのいい加減な答えは。しっかりと評価しろ</p><p>そういわれても、とメリザンドは思う。</p><p>このすっぽりと腕に覆われ、がっしりとした身体に背中を預ける安心感と暖かさ。</p><p>どのように力を入れればいいのかわからず、ぎこちなく髪を撫ぜる掌の感触。</p><p>僅かに漂う独特の香りと、耳元から聞こえる微かな息遣い。</p><p>どれをとっても最高だ。</p><p>（などと、言えるわけがない！）</p><p>どこでどう間違えたのか。メリザンドの練ってきた計画はここに至り、完全に瓦解したとしか言いようがなかった。</p><p>Olをからかうていを装い、娘のように甘えるという計画は。</p><p>埒が明かんな。おいメリザンド</p><p>僅かな苛立ちを含んだ声と共に、Olの手が止まる。</p><p>メリザンドは残念なような、ほっとしたような気持ちになった。</p><p>いちいちお前の要領を得ん評価を聞いていても話が進まぬ。実際に、俺の娘のように演じて見せろ。俺もお前を娘と思って接する</p><p>な、なんだと！？</p><p>しかしそれも続くOlの言葉を聞くまでの事。</p><p>想定を遥かに上回る魔王の提案に、数千年を生きた元聖女は慌てふためいた。</p><p>親に向かってそんな口のきき方があるか。父と呼んでみろ、メリー</p><p>冗談で言っているのだろうか、とOlの顔を思わず見るが、彼の表情は真剣そのもの。</p><p>て</p><p>ごくりと喉を鳴らし、メリザンドは絞り出すように声をあげる。</p><p>ててさま</p><p>それは彼女が長い人生の中で、初めて発した単語だった。</p><p>メリザンドもまた、親を知らないからだ。</p><p>うむ。では父にしてほしい事はあるか？メリーよ</p><p>満足げに頷いて、Olは問う。</p><p>これは練習のための演技。これは練習のための演技。これは練習のための演技。</p><p>メリザンドは心の中で三度そう呟いて、意を決して言った。</p><p>高い高いを、して欲しい</p><p>怪訝そうなOlの言葉に、メリザンドは己の発言を後悔した。</p><p>考えてみれば、今の姿はマリーのものを借りたもの。</p><p>十を遥かに過ぎて、もはや子ではあっても子供とは言えない年齢だ。重さもそれなりにあろう。</p><p>それをまるで、幼児のような頼みをしてしまった。</p><p>お前は甘えたがりだな</p><p>悔やんでいれば優しげな声と共に、Olの手が両脇に差し入れられる。</p><p>かと思った瞬間、メリザンドの身体は軽々と持ち上げられていた。</p><p>そら、これで良いか</p><p>うっ、うん</p><p>Olはそのまま立ち上がって、高くメリザンドの身体を持ち上げる。</p><p>ててさま、重くない？</p><p>侮るでないわ。お前一人の体重ごとき、綿のようなものだ。そら</p><p>そのまま、身体を回してメリザンドを振り回すように揺らして見せた。</p><p>わ、わ、ててさま、あぶない！</p><p>俺が抱えているのだ。危ないことなどあるものかおおっと</p><p>Olの腕が外れ、メリザンドは宙を舞いながら息を呑む。</p><p>だがそれはほんの刹那の事だった。</p><p>メリザンドの身体は目に見えぬ何かに受け止められたかと思うと、するりと坂を滑ってOlの腕の中に納まる。サイノカミとの戦いの際マリーを受け止めたのと同様の、見えざる迷宮(ラビュリントス)で作り上げたスロープだった。</p><p>驚いたか？</p><p>もう、びっくりした。ててさまのいじわる！</p><p>悪戯っぽくいうOlに、メリザンドは腕を振り上げる。</p><p>と、その拳が妙に小さい事に気が付いた。</p><p>あれ？</p><p>よくよく見てみれば身体はどこもかしこも縮んでいて、ふわりと緩くウェーブしていた髪はまっすぐ伸びてメリザンドの肩にかかっていた。</p><p>マリーの身体を写し取ったものではない。メリザンド本来の姿だ。</p><p>親子の真似事をするのなら、その姿の方がやりやすかろう</p><p>メリザンドはこくりと頷いて、Olの胸板にこつんと額を当て、目を閉じた。</p><p>わかっていたのだな</p><p>そして口調を元に戻し、低い声で問う。</p><p>髪とOlの胸とで隠した顔は、羞恥に真っ赤に染まっていた。</p><p>どうした方法を使ったのかわからないが、メリザンドの姿をマリーと同期させる呪いはそれなりに強力なものだ。少なくともこの場で簡単に解けるようなものではない。</p><p>となれば、事前に用意していたに違いなかった。</p><p>さて、何のことやらな</p><p>Olは空惚けながら、艶やかなメリザンドの髪を撫でる。</p><p>もっと</p><p>顔を伏せたままぽつりと呟く小さな妻の要望に応え、Olは穏やかな時をしばし過ごした。</p><p>第7話王の帰還を祝いましょう-3</p><p>ところで、この格好は一体どうやったのだ？</p><p>ひとしきり頭を撫でられ半刻（一時間）ほど。</p><p>ようやく満足したのか、ふとメリザンドは己の身体を示してそう尋ねた。</p><p>Olのことだから成長の呪いが無に帰したなどというヘマはしていないだろうが、それでもかつてあれほど忌み嫌っていた不変の肉体。多少の不安はあった。</p><p>新大陸とこの地を結ぶのに、ミシャサイノカミという神の力を借りたという話は既にしたな</p><p>Olの言葉に頷きつつも、それと何の関係があるのか、とメリザンドは首を傾げる。</p><p>その神と交わったせいで、俺にも多少そいつの力が使えるらしい。といっても大したことは出来ぬが</p><p>交わって力を得る？異国の神というのはそのようなものなのか？</p><p>なまじ神という存在をよく知っているだけに、メリザンドは思わず驚き問うた。</p><p>そもそも神と交わるという概念自体驚きではあったが、よくよく考えてみればその対となる悪魔とはしょっちゅう交わっているのだから、さほど不思議はないのかもしれない。</p><p>いや、サイノカミが例外だ。奴は情交を司る神でもあるからな。それで、俺が巫女男の場合は神主というのだったか。そのようなものになっているという事らしい</p><p>ああ。マリーが習得した技術か。しかし空間を繋ぐ力で、どうやって私を元の姿に戻したんだ？</p><p>メリザンドの素朴な疑問に、Olはうむと頷いた。</p><p>サイノカミの力は単に物を遠くに移動させるというものではない。境界を司る力だ。お前とマリーの肉体は魔術によって同期している。いうなれば、境界をあえて無くしているという状態だ。そこをこの力で隔ててやれば</p><p>Olがメリザンドの頬に軽く触れると、一瞬にして彼女の身体は大きく膨れ上がってマリーそっくりの姿になり、更に再び本来のメリザンドに戻る。</p><p>この通りだ。呪いの影響を隔てただけで呪いそのものが消えたわけではないから、どちらの姿になるも自由自在というわけだ</p><p>呪いを、隔てる</p><p>己の小さな手をじっと見つめるメリザンド。</p><p>悪いがこの力で、魔道王のかけたお前の呪いを無効化してやることは出来ぬ</p><p>その意図に気づいて、Olは言いづらそうにそう言った。</p><p>その呪いはお前の身体の奥底にあまりに深く根付いている。境界自体が存在せねば、サイノカミの力は効果を成すことが</p><p>違う。逆だ</p><p>Olの言葉を遮って、メリザンドは声をあげる。</p><p>遮るのではない。その逆。繋げる方だ</p><p>震えるその声は徐々に熱を帯びて、</p><p>呪いそのものは消せないだろう。だがその一部を無効にすることはできるのではないか！？</p><p>最後には半ば叫ぶように、メリザンドはOlの肩を掴んだ。</p><p>一部そういう事か</p><p>メリザンドにかけられた魔道王の呪いは、ただ老いず死なないというだけではない。</p><p>穢れを防ぐため、男と交わることが出来ないという効果もまた、備えていた。</p><p>いかなる力をもってしても、その秘所には侵入することが出来ないのだ。</p><p>出来るやもしれん</p><p>Olの見立てでは、その呪いは入り口を膜の様に塞いでいるだけで、その内までを満たしているわけではない。であれば、サイノカミの力なら侵入できる。打ち消すことは出来なくとも、内と外とを繋いでしまうその力の前にはどれほど堅牢な扉も無力だからだ。</p><p>試してみるか？</p><p>Olが問えば、メリザンドはしばしの逡巡ののち、こくりと頷いた。</p><p>待ってくれ</p><p>ならば元の姿では差しさわりがあるだろう、とOlが彼女の頬に触れようとすると、メリザンドはそれを止めた。</p><p>そのできれば、この姿のままお願いできない、だろうか</p><p>本来の姿でか？</p><p>Olは思わず、メリザンドの姿をまじまじと見つめた。</p><p>幼い頃に成長を止められてしまったその肉体は、あまりにも小さい。とてもOlのものを受け入れられるようには見えなかった。</p><p>いや、すまん、忘れてくれ。このような姿では、勃つものも勃たぬな</p><p>見くびってくれるなよ</p><p>メリザンドに挑発するようなつもりはなかったが、Olはそれを聞き咎める。</p><p>どのような姿をしていようとも、お前はお前だ。そこは問題ではない</p><p>ならば</p><p>メリザンドは小さな手でぎゅっとOlの手を握り、彼の顔を見上げていった。</p><p>おねがい</p><p>わかった</p><p>Olは目を閉じ熟考したのちに、渋々と頷いた。</p><p>では、いくぞ</p><p>う、うん</p><p>互いに一糸纏わぬ姿となり、ベッドに横たわるメリザンドはその目を大きく見開きOlのものをじっと凝視していた。</p><p>散々見慣れたものであろうが</p><p>そうだけどその、わたしでちゃんと大きくしてくれたんだなって</p><p>一応言っておくが、相手がお前だからだぞ。あの変態(ロリコン)と一緒にしてくれるな</p><p>その視線に気づいて言えば誤解を招きかねない言葉がかえってきて、Olは渋面で釘をさす。</p><p>うんわかってる</p><p>こくこくと頷くメリザンドの身体は、本当に小さい。</p><p>呪いなどなくとも、とてもOlのものが入りそうにはなかった。</p><p>本当に、良いのだな</p><p>うん。して、ほしい</p><p>くどいと思いつつも再度確認すれば、メリザンドははっきりとそう答えた。</p><p>うむ呪いをごまかすのは、まずは成功しておるようだな</p><p>Olはゆっくりとメリザンドの秘所に指を埋めていき、境界を開く力が正常に機能していることを確かめる。本来であれば、爪の先さえ入れることはできないはずだ。</p><p>うんわかる。わたしの中に、Olの指が入ってきているのが</p><p>それだけで、メリザンドは感動に打ち震えた。</p><p>数千年もの間誰も入ることを許されなかったそこに、今ようやく侵入が果たされたのだ。</p><p>やはりキツいな</p><p>しかし裏腹に、Olの表情は険しい。</p><p>入れたのは小指であったが、それでさえメリザンドの中は先端が辛うじて入る程度で、それ以上先には進めそうもない。本来ならば時間をかけて慣らしていくところだが、メリザンドの不変の肉体に対してはそれすら不可能なのだ。</p><p>大丈夫。無理やり、入れてしまっていいから</p><p>ならば痛みだけでも魔術で消すか</p><p>そういって空中に紋様を描こうとするOlの指先を、メリザンドは握る。</p><p>お前、何を</p><p>最初だけ。どうせこの身体には、一切の痕跡が残らない。だったらせめて痛みという形ででも、記憶に刻み込んで欲しい</p><p>ぎゅっと指を握りしめる彼女に、Olは深くため息をついた。</p><p>わかった。お前の我儘など、そう滅多にあるものではないからな</p><p>くしゃりとメリザンドの髪を撫で、Olは彼女の中心に己のものをあてがう。</p><p>悪いが優しくしてはとても入らん。一息に行くから覚悟しろよ</p><p>メリザンドはこくりと頷いて。</p><p>きて</p><p>両手を伸ばし、そういった。</p><p>Olは小さな彼女の身体を抱きしめて、勢いをつけ一気に突き入れる。</p><p>狭く小さい肉の穴を無理やりこじ開け最奥まで辿り着いても、Olのペニスは半ばまでしか埋まらない。引きちぎれんばかりの強い締め付けは痛みを伴うほどだったが、メリザンドはその比ではないだろう。</p><p>う、あ</p><p>大丈夫か？</p><p>大丈夫なわけがないと知りつつ、ぼろぼろと涙を流すメリザンドの頬を撫でる。</p><p>ちがう</p><p>だがメリザンドは、ふるふると首を振ってOlにしがみついた。</p><p>うれしい、のやっと、ほんとうのいみで、おうるとひとつになれて</p><p>普段とは似ても似つかない、どこか舌足らずな幼い口調。</p><p>だがそれこそが本来のメリザンドの数千年を孤独に過ごし、強く狡猾であらねばなかった幼い娘の、素の声色なのだろうとOlは察した。</p><p>メリーは存外、泣き虫だな</p><p>目元の涙を指で拭ってやると、メリザンドはその指をぱくりと口に咥え、ちゅうと吸いつく。</p><p>かと思えば舌を伸ばして根元から舐め上げ、唾液を絡めて唇で愛撫する様は、その幼い容貌から発せられているとは思えないほどの色香があった。</p><p>痛みを、消すぞ</p><p>メリザンドの答えを待たず、Olは彼女のすべすべとした腹に指先で紋様を描く。</p><p>そしてふと、あることを思いついて更に紋様を一つ追加した。</p><p>っ！？これ、は？</p><p>途端、メリザンドの身体が跳ねる。</p><p>痛みを快楽に変換するようにした。これならばお前も少しは楽しめよう</p><p>まっ</p><p>待てぬ</p><p>言ってOlはメリザンドの腰を掴むと、その身体を持ち上げるように引き抜き、そしてもう一度突き入れた。</p><p>ぁぁっ！</p><p>途端に、悲鳴のような嬌声が上がる。</p><p>いや、事実それは悲鳴であったかもしれない。</p><p>だがそうだとしても、もはやOlは堪えることが出来なかった。</p><p>あぁっ、おうる、おうるぅっ！</p><p>艶を帯びた声でしきりに彼の名前を呼びながら、メリザンドはOlにしがみつく。</p><p>平らな胸も、短い手足も、括れの乏しい腰つきも、薄い尻も、彼女の身体は何もかもが未発達でなのに、Olを見つめるその瞳は、声色は、どこまでも女であった。</p><p>そのギャップに、Olの辛抱は限界を超えていた。</p><p>いいっ、いいの、もっとして、おくまでいれて、おかしてぇっ！</p><p>突き入れる度にメリザンドの下腹はOlの形にぽこりと膨れ、根元まで埋め込まれた男根は子宮の奥までこじ開け入り込んでいるのだろう。人形のように軽い身体を揺さぶられながら、身体を壊すほどのまぐわいを快楽として受け取りあえぐメリザンドの姿はこの上なく淫靡で、Olの雄はますます猛って彼女を激しく犯す。</p><p>狭くキツい膣は大量に分泌される愛液によってぬめりを帯びて、極上の締め付けを味わえる快楽の穴となって、一突きするごとに背筋を稲妻が駆け抜けるかのような快楽だ。</p><p>出す、ぞ！</p><p>うんっ！きて、きて、きてきてきて！！</p><p>Olの宣言に、メリザンドはぎゅっと体中で彼の下腹にしがみつくようにして。</p><p>おくにちょうだい、ててさまぁっ！</p><p>メリザンドの叫ぶような懇願と同時に、Olは彼女の中に欲望を解き放った。</p><p>大量の白濁がメリザンドの子宮の中に直接吐き出され、犯し、満たしていく。</p><p>それだけでは止まらず、Olは吐き出す精をメリザンドの胎内に押し込むかのように二度、三度と腰を埋めては、更に彼女の膣内に子種を注ぎ込んだ。</p><p>お前今のは</p><p>まるで無限に続くかのような長い長い射精の後、荒く息を吐きながらOlが問うと、メリザンドは耳まで真っ赤に染めながら両手で顔を隠していた。</p><p>ちがうちがうの、その、べつに、そういうことじゃなくてたんにまざったっていうか、その、ええと</p><p>顔を隠したまま、メリザンドは弁解なのか何なのかよくわからないことをもごもごと口にする。</p><p>父親に甘えたいという気持ちと、恋人に愛されたいという気持ち。</p><p>メリザンドの中でそれはとても近しいもので、どちらも望むべくもないと諦めていたものそして、Olが与えてくれたものだった。</p><p>まあそう呼びたいなら好きにしろ</p><p>Olもまたそれを察し、メリザンドの髪を優しく撫でてやれば、彼女は無言でこくりと頷く。</p><p>他のものへの示しがあるから普段からは困るがな</p><p>うむ。無論、その辺りは十分に留意しよう</p><p>咳ばらいを一つ、普段通りの口調でそう言って。</p><p>だからもっとして？ててさま</p><p>未だ繋がる秘部を締め付けながらの甘いおねだりは、Olの理性を再び失わせるには十分な破壊力を持っていた。</p><p>第7話王の帰還を祝いましょう-4</p><p>こちらへどうぞ、Ol様</p><p>セレスに手を引かれ、導かれたのは天のダンジョン外殻部の上にある森の奥だった。</p><p>白アールヴたちが住処としているそこは森の暗さ、恐ろしさといった負の側面とはまるで無縁の場所だ。</p><p>まばらに生えた木々の葉からは太陽の光が零れ、梢の隙間を爽やかな風が吹き抜けていく。</p><p>枝には鳥が歌い、小さな獣たちが行きかい、小川のせせらぎに小魚が鱗を煌めかせる。</p><p>何とものどかで平和的なその光景は、訪れる者を思わず安堵させるものであり</p><p>そして、鋭い棘を隠す薔薇の美しい花のようなものだった。</p><p>どれだけ見通しが良く明るくても、木々に隠れたアールヴの存在を見破ることなど人間にはまず不可能。ダンジョンがOlの領域であるなら、森の中は彼女たちの領域であるといえる。</p><p>今更セレスがOlを裏切り害するとも思えないが、それは油断する理由にはなりえなかった。</p><p>さて、ここまでついてきたのだ。そろそろお前の望みを教えろ</p><p>せっかちなお方。私は今日という日を、ずっとずっとお待ちしておりましたのに</p><p>そういわれては、Olとしても黙る他ない。</p><p>ご心配なく、もうすぐ着きますからほら、ここを抜ければ</p><p>柔らかなセレスの掌がOlの手を優しく引いて、森の中を進んでいく。森妖精の姫君が歩くと木々はその身をどかし、草花さえひれ伏して、藪の中を進んでもOlの身体には木の葉一つ触れることがなかった。</p><p>こちらです</p><p>唐突に視界が開け、そこに広がる光景にOlは思わず感嘆の息を漏らした。</p><p>森のただなかに広がる、一面の花畑。</p><p>色とりどりの花々がまるで競い合うかのように咲き誇り、それでいて全体の調和を乱すことなく大地を彩るその様は、花になどまるで興味のないOlでさえ感じ入るほどの美しさだ。</p><p>いかがですか？Ol様</p><p>自信ありげに問うセレスに、Olは改めてその光景を見回して。</p><p>お前は残酷な女だな</p><p>薄く笑みを浮かべ、意地の悪い口調でそう言った。</p><p>えっなぜですか？</p><p>思いもよらぬ反応に戸惑い、セレスは問い返す。</p><p>花というものは愛でられてこそ。美しいと褒めそやされてこそのものであろう</p><p>ええ</p><p>それはただ人からの一方的な評価ではない。</p><p>虫を惹きつけ子孫を残す為に、花というのは美しく咲いている。</p><p>確かにこの花畑は美しいだがそれも、より美しいものに紹介されては立つ瀬があるまい</p><p>まあ</p><p>花々よりも美しいと遠回しに褒められたのだとすぐに気づき、セレスは己の頬に手を添えた。</p><p>異国の地で、女の口説き方を学んでらしたのですか、Ol様？</p><p>見たままの事実を語ったまでの事だ</p><p>Olらしい、皮肉めいた不器用な誉め言葉だ。</p><p>生まれながらに美しくある白アールヴ。その中でもひときわ光り輝く存在であったセレスは、Olの言葉など及びもつかぬ程の流麗な言葉で常に褒め称えられてきた。</p><p>だが、これほどまでに胸を高鳴らせる言葉は、他になかった。</p><p>ではその言葉が世辞でないと、得心させていただけますか？</p><p>セレスがすっと腕を伸ばすと、Olはその手を取って抱き寄せ、腰に腕を回しながら彼女の形の良い顎を指で持ち上げる。</p><p>それに応じて上を向きそっと瞼を伏せると、Olは彼女の可憐な唇に口づけた。</p><p>初めはそっと、慈しむ様に優しく。顔を傾げ、角度を変えて二度三度。接吻は徐々に深く熱を帯び、五度目に重なった時、二人はどちらからともなく舌を伸ばして絡めあう。</p><p>柔らかな唇と舌の感触を楽しみながら、Olは僅かに身体を開いてセレスの胸元へと手を伸ばした。</p><p>そのたっぷりとした乳房に触れてもセレスは微かに吐息を漏らすだけで、嫌がりはしなかった。腰が折れんばかりに彼女を抱き寄せながら、Olは服の隙間から手を差し込んで、直接その柔肉を味わう。</p><p>その吸い付くような肌の感触はシルクよりも滑らかで、触っていると指先から蕩けそうなほどに柔らかい。夢中になって貪っていると、すらりとした嫋(たお)やかなセレスの指先が、Olの硬く張り詰めたものをそっと撫でた。</p><p>それに応えるように舌を深く差し込みながら、指先で硬く尖った蕾を摘み上げ、掌全体で捏ね上げるように柔らかな乳を揉みしだく。するとセレスはOlの肉槍を服の上から形を確かめるように手を滑らせて、その根元の袋を指先で擦り、再び先端へと掌で愛撫していく。</p><p>堪え切れぬ、とばかりに唇を離せば、セレスは濡れた瞳でOlの名を呼び、懇願した。どうやら堪えがきかなかったのは、彼女の方だったらしい。</p><p>Olがセレスの腰から腕を離すと、彼女は蝶のようにぱっと離れ、羽のようにドレスをはためかせた。</p><p>どうぞ、お情けを</p><p>白アールヴの美姫は花畑の中に四つん這いになって、スカートを捲り上げる。すらりとした脚から細く美しい太もも、芸術品のような白く丸い尻に、誘うようにひくひくと蠢く中心の花びらまでがOlの眼前に露わとなった。</p><p>ああ。いくぞ</p><p>否も応もなく、Olは己自身を取り出すと濡れた秘穴に突き入れる。</p><p>途端、セレスの嬌声が空に吸い込まれるようにしてあがった。</p><p>森の中に出来た花畑の上には、木々の葉に遮られることなく青い空が広がっている。</p><p>そこから差し込む太陽の光に照らされたセレスの姿は光り輝くかのようで、昏いところなど何一つなく、しかしどこまでも淫靡であった。</p><p>Ol様のぉっ、これぇっ！ずっと、ずっとお待ちしてたんですぅっ！</p><p>突かれるたびに愛液を滴らせ、セレスは嬉しそうに鳴く。</p><p>これ、とはなんだ？</p><p>獣のようにセレスの身体にのしかかり、その双丘を両手で鷲掴みにしながら、Olは意地の悪い声で尋ねた。</p><p>Ol様の、おおちんぽ、ですああっ！こうやって、奥を、ごりごりってずっと、あぁっ、それ、もっと、してぇっ！</p><p>どうされたいのか言ってみろ</p><p>彼女の長い耳を甘く噛んで、Olは命ずる。</p><p>Ol様の、ぉっ！硬くて、太くて、逞しい、あぁっ！お、おちんぽ！で、ぇっセレスの、はしたない、おまんこをぉっ！いっぱい、いっぱい、虐めてくださいませぇっ！</p><p>叫ぶように宣言しながら、セレスは絶頂に至る。きゅうと締め付けてくる彼女の膣内に、Olは精を吐き出しながらも更に突き入れた。</p><p>あああっ、だめぇっ！そんな、あぁっ！らめ、れすぅぅっ！</p><p>地面に押し付けるように組み敷かれ、収縮する膣口を無理やりこじ開けられ、奥に子種を注ぎ込まれて、セレスはろれつの回らない舌で叫んだ。犬のような屈辱的な体勢で、男に全てを征服される感覚。しかしそれはどこまでも甘美なものだった。</p><p>白アールヴの愛とは、愛するものに全てを捧げるものだからだ。</p><p>あぁOl様。とっても素敵でした</p><p>そしてセレスにとって、己の全てとは彼女の身体のみを意味しない。</p><p>次は、どうぞこの子たちでお楽しみください</p><p>彼女の言葉、別の白アールヴ達が四人、現れた。</p><p>長であるセレスにとっての全てとは、この森自体。そしてそこに住まうアールヴ達もその範疇だ。</p><p>無論部下に無理強いはしないが、彼女たちが望むのであればそれはセレスにとって嫉妬ではなく、よりOlに尽くせるという喜びであった。</p><p>初物をご用意いたしましたから</p><p>セレスの言葉に、白アールヴたちは恥ずかしそうにスカートをたくし上げる。</p><p>男を知らぬ秘所は、しかしOl達の交合を見て期待したのか、しとどに濡れそぼっていた。</p><p>悪いが、断る。今日という日はセレスに捧げると決めておるのでな</p><p>Olがぱちりと指を鳴らせば、黒い影が狼のような素早さで白アールヴたちに立ちはだかる。</p><p>護衛として連れてきた黒アールヴだ。アールヴの支配する森の中、アールヴでないものなど足手まといでしかない。それゆえの人選だった。</p><p>もっともこのような目的に使う事になるとは思わなかったが。</p><p>Ol様ありがとうございます。そのお気持ち、セレスはとても嬉しく思います</p><p>セレスはOlの腕を抱いてしなだれかかり。</p><p>ですが、私は貴方様にこそ喜んで欲しいのです。それに</p><p>彼女の合図に、黒アールヴ達はくるりとOlへと振り向く。</p><p>それは彼女たちもまた、同じ気持ちなのですよ</p><p>すまんな、主殿。今回ばかりは裏切らせてもらう</p><p>黒アールヴの長、エレンは朗らかにそう言った。</p><p>まったく、愚か者め</p><p>呆れたように言いながら、Olは片腕にセレスを、もう片腕にエレンを抱き寄せる。</p><p>真の名を知る彼女たちに無理やりいう事を聞かせることは容易かったが、それが望みだというのなら是非もない。叶えられる限りの望みを叶えてやるという約束だからだ。</p><p>一輪を愛でるのもいいですが、やはり花は色とりどりあってこそでしょう？</p><p>私は一応止めたのだがな？こいつは妙なところで強情で困る</p><p>止めたと言いつつ、族長自ら参加していては説得力がありませんよ</p><p>ええい、こんな状況で喧嘩をするな</p><p>二人の乳房をそれぞれ両手に抱えながら、Olは唇でセレスの口を塞ぎ、ついでエレンを黙らせた。</p><p>喧嘩などしておりませんわ、Ol様</p><p>だからもっとしてくれ、主殿</p><p>すると二人はとろりと瞳を愛欲に蕩けさせてOlを見つめる。</p><p>私たちも</p><p>どうぞご寵愛ください</p><p>黒白合わせて十人のアールヴたちがOlの周りを取り囲み、そのうちの一人、白アールヴがOlに向かって腰を突き出す。</p><p>つぷりと先端を潜り込ませれば、確かにそこには未踏の証があった。</p><p>良いのか？</p><p>Olの問いに白アールヴは頷き。</p><p>私たちの愛、どうぞお受け取り下さいませ</p><p>言ってセレスがOlに口づける。</p><p>その後ろ、木々の間に、隠形すら覚束なくなったアールヴ達の姿が見えた。</p><p>一体何人隠れ潜んでいることか、アールヴならぬOlには窺い知ることもできない。</p><p>今日は長い一日になりそうだ。</p><p>まずは一人目の純潔を破る感触を味わいながら、Olはそうひとりごちた。</p><p>第7話王の帰還を祝いましょう-5</p><p>では、Ol様の寝室にお邪魔してもよろしいですか？</p><p>構わんが意外だな</p><p>留守を守った報いとして、報奨を与える。</p><p>一人につき一日、Olが了承できる範囲で願いを何でも叶えよう。</p><p>そんな宣言に対しミオが返した答えに、Olは思わずそう答えていた。</p><p>牧場で一日働かされるか、それとも珍しい魔獣でもせがまれるか。</p><p>彼女の事だから、いずれにせよ家畜が絡むものだと思っていたのだ。</p><p>まあ良い。そういう事ならばたっぷりと可愛がってやろう</p><p>考えてみれば、ミオを純粋に一対一で相手したことは一度としてないことにOlは気が付いた。</p><p>初めての時すら黒アールヴたちが一緒だったし、その後も彼女一人で閨に来るという事はなく、Olの方から牧場へと足を運ぶことがあっても必ずミオは護衛の女や魔物の娘たちを誘って抱かれたがった。</p><p>だがそれは単に複数での交わりを好んでいるというよりも、彼女の素朴な気遣いがもたらした配慮であろうことは想像に難くない。</p><p>そんな彼女が初めてただ一人で愛されたいというのなら、Olとてそれに応えるのは吝かではない程度には、ミオの事を気に入っていた。</p><p>さて、ではどのようにされたい？今日は褒美だ。いかようにもお前の求めに応じて見せよう</p><p>己の寝室に連れ合って辿り着き、ローブの留め金を外しながらOlは問う。</p><p>高貴な姫君のような扱いを望むか？それとも愛する無二の妻のように接してやろうか。何なら、下僕のように振る舞えなどと命じても構わんのだぞ</p><p>流石にミオがそのようにいう事はあるまいが、と思いつつも、Olは半ば本気で言ってやる。</p><p>では、こちらにいらして、頭をここに</p><p>ミオはベッドの中ほどに座り込むと、ぽんぽんと己の膝を叩いた。</p><p>こうか？</p><p>怪訝そうな表情を浮かべつつ、Olは言われるがままにベッドに横たわり、ミオの膝に頭をのせる。そんな彼を、ミオはニコニコしながら見下ろした。</p><p>してこれからなんとする</p><p>うーんそうですね</p><p>考えていなかったのか、ミオは少しだけ困ったように視線を宙に彷徨わせる。</p><p>その視線が、ふとOlの顔の上で止まった。</p><p>あっ、じゃあ、Ol様の髪を梳いてもいいですか？</p><p>構わんが</p><p>ありがとうございますっ</p><p>弾んだ声で、ミオは服のポケットから櫛を取り出す。</p><p>そしてOlの髪にさすと、丁寧にくしけずり始めた。</p><p>その櫛はいつも持っておるのか？</p><p>よもやこの為だけに褒美を使ったわけではあるまいな、と思いつつ、Olは問う。</p><p>はいあっ、大丈夫ですよ！動物たち用のじゃなくって、ちゃんと、人のですから。っていうか、私のなんですけど</p><p>慌てたように言って、ミオはえへへと気恥ずかしそうに笑った。</p><p>あの子たちのお世話をしてると、すぐぼさぼさになっちゃうんで、前にエレンさんから貰ったんです。なんでも、えーと、なんだっけ何とかって木から、削りだしたんだとか</p><p>箱木か</p><p>ソウボク？</p><p>うむ。箱を作るのに適しておる故、そう呼ばれておる。極めて成長の遅い木でなその分、木目が綿密で硬く、細い櫛の歯とてそう簡単に欠けることはない。櫛の素材には最良と言われておるが、その成長の遅さと有用性から貴重である為、実際に櫛にされたものはさほど見ぬな</p><p>説明しつつ、俺は一体何を説明しておるのだ、とOlは内心で呟く。</p><p>そんなに貴重なものだったんですね。それじゃあ今度エレンさんに、またしっかりお礼を言っておかないと</p><p>だが頭の後ろにミオの太ももの暖かさと柔らかさを感じつつ髪を梳かれていると、寝室に入った時に抱いていた劣情は泡のように消え失せて、Olはただされるがままに彼女に身を任せた。</p><p>礼と言えばいつぞやのヘンルーダの用意は、ご苦労だったな</p><p>いえいえ。お礼を言われるほどのことではありませんよー</p><p>軽い口調でミオは言うが、毒を防ぐ効果を持つその薬草はそれ自体が一種の毒だ。</p><p>普通のヘンルーダであれば触った手がかぶれる程度で済むが、バジリスクの毒にさえ耐えるように改良したものは近寄るだけで体を害する。それを育て増やす作業が大変でないわけがなかった。</p><p>お前には何かと苦労をかける、な</p><p>思えばミオはスピナの次に来た生贄の娘。迷宮の中でも最古参に当たる人間だ。</p><p>Olのダンジョンにやって来た時からずっと家畜たちの世話を一手に引き受け、陰ひなたに支えてきたその功績は計り知れない。</p><p>良いんですよ。私は</p><p>ミオの柔らかな声を遠くに聞きながら、Olの瞼は重く閉じていく。</p><p>あらル様寝ました？</p><p>藁の匂いがほのかにして、唇に柔らかなものが押し当てられる感触。</p><p>それを最後に、Olの意識は眠りに落ちた。</p><p>ん、む</p><p>お目覚めですか？Ol様</p><p>Olが目を覚ますと、目の前には何か大きく丸いものが横たわっていた。</p><p>ぼんやりとした思考の中、Olはなんとなくそれに手を伸ばす。</p><p>触ってみるとそれは何とも心地よい柔らかな感触で、思わずもっと触っていたくなる。</p><p>あの、Ol様、無言で揉まれるとちょっと恥ずかしいんですが</p><p>ミオか</p><p>控えめに嗜める声に、ようやくOlの意識は覚醒した。</p><p>ミオに膝枕をされながら、眠ってしまっていたのだ。</p><p>Olが寝ぼけながら触っていたのは、彼女の乳房だった。</p><p>服を着ていると目立たないが、ミオの胸は存外に大きい。こうして膝枕をしてもらうと、胸で隠れて彼女の顔が見えない程度にはあった。</p><p>俺はどれだけ眠っていた？</p><p>ぐっすりとお休みになってましたよ</p><p>にこやかにいうミオの言葉にもしやと身体を起こし、壁に掛けられた時計を見れば、既に夜と言っていい時間帯だった。Olは半日近くも眠っていたのだ。</p><p>すまぬ俺としたことが。大丈夫か、足は痛くないか？お前への褒美を与えると言っておきながら、この体たらくとは</p><p>これほどの失敗を犯すのはOlとしては久々で、彼は慌ててミオに謝る。</p><p>いえ、私の望みはこれでしたから</p><p>だが、にこにこと笑みを浮かべるミオに、Olは怪訝そうに眉根を寄せた。</p><p>ただでさえ遠い異国の地からお帰りになったばかりなのに、休む間もなくご政務にも励まれて、私たちにも気を使って頂いて。幾ら魔力で体力を回復できるといっても、倒れてしまいますよ。だから私のお願いは、Ol様がせめて一日でもゆっくり休んでくれることです</p><p>ミオ、お前</p><p>あまりに健気なその言葉に、Olは思わず目を見開く。</p><p>Olの眠りは元々浅い。どのような状況だろうと異変があればすぐさま対応できるよう、そうした習慣が身体に叩き込まれているのだ。</p><p>だが、迷宮最強の女の膝枕だからだろうか。</p><p>起きる時間も忘れるほどに、Olはぐっすりと眠ってしまっていた。</p><p>おかげで身体の調子はすこぶる良い。</p><p>それに、Ol様の珍しい寝顔も見られましたし、役得でした</p><p>嬉しそうに手を合わせるミオに、Olは気まずげに己の頬に触れた。</p><p>妻や愛人たちと殆ど毎夜床を共にするOlではあったが、その寝顔を見たことがある女というのは存外少ない。女たちが意識を手放すまで抱き、誰よりも早く起きるのが常だからだ。</p><p>しかし、褒美は一日、日が昇ってから落ちるまでという約定だ。お前の分はこれで終わりだが、良いのだな</p><p>はい。構いません</p><p>Olの言葉に、ミオは迷いなく頷いた。</p><p>ではミオ。お前の主人として命ずる。お前の胸を触っていたら催した。夜伽の相手をせよ</p><p>その命にミオはぽっと頬を染め、</p><p>はい喜んで</p><p>恥ずかしげに、こくりと頷いた。</p><p>第7話王の帰還を祝いましょう-6</p><p>私のお胸が気になるのでしたら、Ol様。こういうのはいかがでしょうか？</p><p>ミオはそう言って着ていた服の胸元を留める紐を解くと、その豊かな果実を曝け出す。</p><p>純朴な顔立ちに比して意外なほどの質量を持つそれは、服の縁に圧迫されてその深い谷間を殊更に強調していた。</p><p>失礼します。よいしょ</p><p>ミオはややぎこちない手つきでベッドの端に座るOlの逸物を取り出すと、その谷間でぎゅっと挟み込んだ。</p><p>流石Ol様、おっきいですね</p><p>しかしそそりたつ赤黒い肉槍はミオの胸の中に納まりきらず、その先端が端から飛び出す。</p><p>あんまり上手じゃないと思いますけど、頑張りますね</p><p>ミオはそう言って、あむと先端を口の中に含みながら、両手で己の胸を揺らしOlの肉茎を擦り始めた。</p><p>彼女自身が言う通り、拙い技であった。</p><p>人外の技巧を持つリルや練習に余念のないスピナは言うに及ばず、さほど口での奉仕が得意とは言えないユニスや、まだ年若いマリーにすら技術的には劣るだろう。</p><p>それは、彼女がいつも他の女たちの影に隠れていたからだ。</p><p>口での奉仕は言い換えれば、Olのものを独り占めするようなものだ。</p><p>よくよく思い返してみれば、ミオにしてもらったことは殆どなかった。</p><p>ろうでひょうか</p><p>ああ。悪くない</p><p>にもかかわらず、それは世辞ではなく本心からの言葉だ。</p><p>ミオは目だけで笑むと、より一層熱心にOlのものを舐めしゃぶる。</p><p>その懸命さは、生半な技術よりもOlの男を満足させるものだった。</p><p>髪を撫でてやれば嬉しげに目元で微笑み、胸元に手を伸ばせば触りやすいよう体勢を整えて、Olの掌に己の手を重ねて押し当てる。</p><p>どんなことをしても受け入れてくれるのではないかという安心感があった。</p><p>ミオ、尻をこちらに向けてみろ</p><p>えっとこうですか？</p><p>Olがベッドの上に背を倒して言うと、ミオはいったん口を離し、彼の横に四つん這いになる。</p><p>いや、俺を跨いで良い</p><p>では、失礼してなんだかこれ、ちょっと恥ずかしひゃんっ</p><p>言われるがままにミオはOlを跨ぎ、高く声をあげた。突然その尻をOlが両手で鷲掴みにしたからだ。</p><p>ごめんなさい、おしり、大きいですよね私</p><p>だがそうしてもミオは怒るどころか、そういって恥ずかしげに謝った。</p><p>いや、これはこれで悪くない</p><p>Olは言いながらするするとミオの太ももに手を滑らせると、ゆっくりとスカートを捲りあげる。</p><p>そのつもりがなかったにしては、ずいぶんと気合が入っているな</p><p>その下に現れた白い布はミオの雰囲気には似つかわしくない、細かな刺繍の入った美しいものだった。その独特の光沢とすべすべとした手触りは間違いなく絹のものだ。幾ら魔王の側室の一人とはいえ、普段から履く類のものではないだろう。</p><p>私だって、好きな人のお部屋に行くときは、少しくらいめかし込みますよぅ</p><p>悪い。意地の悪い事を言ったな</p><p>拗ねたように唇を尖らせるミオに謝り、Olは下履きの端に指をかける。</p><p>折角用意したものを脱がすのは忍びないが</p><p>いえそうしてもらうために、履いてきたものなので</p><p>恥ずかしげに擦りあわされる太ももから柔らかな布をするりと抜けば、Olの眼前にミオの秘裂が露わになった。</p><p>えと、つづき、しますね</p><p>恥ずかしくなったのか、ミオは首を伸ばすとOlの腰に顔を埋めるようにして、そそりたつペニスに舌を這わせた。</p><p>Olもそれに倣うかのように、ミオの中心へと舌を伸ばす。</p><p>んっは、ぁっ</p><p>とろりと滴る蜜を舐めとり、既に硬く尖った秘核を撫でるようにしながら舌を差し入れれば、漏れ出るミオの甘い吐息がOlの肉槍を撫でる。そうしながら、Olはミオの健康的な太ももに手のひらを滑らせて、たっぷりとした尻肉の柔らかさを楽しむ。</p><p>Ol様、触り方がやらしいです</p><p>いやらしい事をしているのだ。当然だろう</p><p>そうですけどぉんっあ、ぁぁ</p><p>Olの指がミオの肉体を弄ぶたびに、彼女の身体は素直にそれに反応してぴくぴくと震えた。</p><p>集中、出来ません、しそれにっ！</p><p>それに？</p><p>こっちに、欲しくなっちゃうじゃないですかぁ</p><p>ミオは片手でOlの肉槍をごしごしと扱きたてながら、もう片方の手で己の花弁を開いて見せる。溢れ出す蜜がつうと彼女の太ももを伝って、Olの頬へと落ちた。</p><p>良かろう。望み通りくれてやる</p><p>えっと今日は、私が上になってみてもいいですか？</p><p>ミオにしては直截的な懇願にOlが彼女を組み敷こうとすると、ミオはそんな提案をした。</p><p>珍しいな。別に構わんが</p><p>どちらかと言えば自分から攻める方が好きなOlだが、相手が望むのなら拘るほどのものでもない。</p><p>ありがとうございます。折角休んで頂いているのに疲れさせてしまっては申し訳ないですから</p><p>そういいつつ、ミオはOlの腰に跨る様に体勢を変える。</p><p>いきます、ね</p><p>そしてOlの胸板に手をつきながら先端を己の中心にあてがうと、ゆっくりと体重をかけながら腰を下ろした。</p><p>んっ、ふ、ぁん</p><p>Olの反り返った逸物はまるで鉄のように硬く、膣内に収めるだけでまるで胎(はら)の肉を抉り取られるかのよう。しかしそれは痺れるほどの快楽で、きゅっと唇を閉じてもついついミオの口から甘い声が漏れ出てしまう。</p><p>入り、ました</p><p>暴力的な大きさの肉塊を何とか根元まで咥え込んで、ミオは安心したようににこりと笑った。</p><p>動きますね</p><p>おずおずと、ミオは慣れない動作で腰を動かし始める。はじめはゆっくりと、互いの形を確認するかのように腰を浮かせてはまた飲み込みを繰り返していたが、徐々に動きは大きく滑らかなものとなり、次第に声が漏れ出で始めた。</p><p>んっ、ふっんんっ、あ、ん、あぁんっ</p><p>己の上で腰を振るミオを寝転がって見上げながら、なるほどこれはこれで悪くない、とOlは心中で呟く。</p><p>己の気持ち良い場所を擦りあげるようにミオが腰を前後に揺するたびに、緩く編まれた三つ編みが仔馬の尾の様に跳ねる。そしてそれに連動するかのように豊かな乳房が眼前で揺れるさまは、なかなかに眼福な光景であった。</p><p>たゆんたゆんと震えるその果実を、Olは思わず両手で鷲掴みにする。</p><p>ミオは何も言うことなくただOlに恥ずかしげな笑みを投げかけると、僅かに胸を反らしながらも一心に腰を動かした。</p><p>きゅうと締め付ける膣口で肉槍を扱きたてるように腰を引いては、根元まで咥え込んで互いの恥骨を擦り合わせるかのようにぐりぐりと股を押し付け、また腰を引く。</p><p>真っ赤に紅潮したミオの頬を汗が伝い、顎からOlの胸元にぽたりと落ちた。</p><p>彼女の動きに合わせて、Olはその双丘に指を突き立てるようにして、存分に柔らかさを楽しみながらミオの懸命な表情を眺める。ふと視線が交わされるたびにミオははにかんだような笑みを見せ、身体は敏感に反応して震えた。目が合うたびに、軽く達しているのだ。</p><p>Olは上半身を起こすと、腰に跨るミオの背に腕を回しながら柔らかな乳房の硬く尖った先端を優しく食んだ。うっすらと汗ばんだ肌はほのかに塩の味がして、Olはミオの胸をちゅうと吸う。</p><p>そんなに吸っても、お乳は出ませんよ</p><p>くすりと笑い、ミオは冗談めかしてそんなことを言った。</p><p>出るようにしてやろうか？</p><p>Olがそう尋ねると、ミオはえっと声をあげる。</p><p>これだけの女を囲っておきながら、ユニスとフィグリア王家以外に子がいないのは偶然ではない。</p><p>Ol程の魔術師であれば、産ませるも産ませぬもそう難しい事ではないのだ。</p><p>俺の子を産みたいか？</p><p>ミオは答えず、ただ腰の動きを止める。だが本人の意思を無視するかのように、ミオの膣口はOlのペニスを強く強く締め付けた。</p><p>ここは欲していると見えるな</p><p>いけません、Ol様</p><p>ゆっくりとOlがミオを突き上げると、今まで何をしても嫌がるそぶりすら見せなかったミオが初めて否定の言葉を口にした。</p><p>王にとって、多すぎる世継ぎというものは騒乱の下になる。それは魔王とて同じことだ。</p><p>だから正妃であるユニスとの間に男児を作り、そもそもの盟約であったフィグリア王家との間とは世継ぎとはなりえない娘だけを産ませ続けている。</p><p>そこにミオが子を成せば、国家の問題となることくらいは政治には疎い彼女でも分かった。</p><p>嫌だと申すか？</p><p>Olはわざと意地悪くミオにそう尋ねるが、彼女は答えない。</p><p>んぅっだ、駄目、です</p><p>急かすように腰を突けば、ミオは首を振ってそう答えた。</p><p>嫌だというなら離れればよい。別にそうしても咎めはせんぞ</p><p>Olの腕は既にミオの背中から離れ、二人が触れ合っているのは繋がりあった性器のみ。</p><p>ミオがその気になれば、簡単にOlの上からどいてしまえる状況だった。</p><p>だがミオはOlから離れることなく、ただ無抵抗に突かれ続ける。</p><p>Ol様、お願いですからそのような、戯れは</p><p>戯れではない。お前なら孕ませても良いと思っている</p><p>Olがそういうと、ミオの膣口がきゅっと彼の男根を締め付けた。</p><p>私の力は多分、子には継がれませんよ？</p><p>獣の魔王の力が欲しいのではない</p><p>魂の奥底までも見通すようなOlの瞳が、ミオの瞳を覗き込む。</p><p>あの時と同じだ、とミオは思った。</p><p>俺はミオ。お前という女が欲しいのだ</p><p>ミオの魂が、Olの手に落ちたあの時と。</p><p>駄目、です</p><p>ミオは言うが、Olの硬く張り詰めた肉槍が彼女の中心を貫く。</p><p>そんなの、駄目、駄目です</p><p>ふるふると首を振るミオの柔らかな秘所を、男の暴力的な肉が犯し、汚す。</p><p>駄目、なのにぃ</p><p>しかしそれは全て、ミオ自身が行っていることだった。</p><p>微塵も動かぬOlに跨り、その肩に縋りついて、激しく腰を振るのをどうしてもやめられない。</p><p>その膣口はあさましくよだれを垂らして肉槍を濡らしながら、精をねだってOlのものを締め付ける。</p><p>膣の奥では子宮が下がり口づけの様に男根の先端にむしゃぶりついて、ミオは身体全身で種付けをねだっていた。</p><p>Olの短い宣言に、ミオは力を振り絞る。</p><p>それは驚異的な意思力だった。肉体も精神もOlと交わる快楽に溺れ切っているのに、それでも彼女はそれに抵抗したのだ。Olに迷惑をかける事だけは避けたいという思いが彼女の足を動かして、腰を浮かせる。</p><p>その瞬間、Olはミオに口づけた。途端に彼女の全身からは力が抜けて、蕩けるように体が崩れ落ち、奥の奥までOlの肉槍を受け入れる。</p><p>歓喜しながら震える子宮の入り口に先端を押し当てて、Olは容赦なくミオの胎内に子種を注ぎ込んだ。己の奥底に叩き付けられるかのような熱い脈動に、ミオは今まさに自分が子を孕ませられていると確信する。</p><p>愛する男に征服される喜びに胸があふれ、もはや何も考えられなくなってミオはただただOlの与えるものを受け入れた。膣内に注ぎ込まれる精液も、唇から交換される唾液も今の彼女にとっては至上の甘露で。</p><p>幸福感に包まれながら、ミオは意識を手放した。</p><p>気付けばミオはOlの膝に頭を乗せられ、髪を撫でられているところだった。</p><p>Ol、様</p><p>彼の名を呼んで、ミオは一糸纏わぬ姿のままの己の下腹部を撫でる。</p><p>もおー！だめって、だめっていいましたのにー！</p><p>そこに確かな存在の力を感じて、ミオは思わず叫んだ。</p><p>わかるのか？呪は用いておらんから、出来ているとも限らんが</p><p>ばっちり出来ちゃってます、孕んじゃってます！もう、Ol様のばかぁ</p><p>流石に怒って、ミオはOlの胸をぽかぽかと拳で叩いた。</p><p>といっても、子猫がじゃれる程度の力だ。</p><p>俺は嬉しいぞ</p><p>そんな彼女を抱きすくめ言えば、ミオはすぐにおとなしくなった。</p><p>はい私も、とても、とても、嬉しいです</p><p>Olの胸に頭を預け、ミオは幸せそうにつぶやく。</p><p>でも、この後のことを考えるとすごく頭が痛いんですー</p><p>子が生まれても、お前たちは政治には巻き込まぬ</p><p>頭を抱えるミオの肩を抱き、Olは言った。</p><p>能天気とも思えるその言葉にミオは無責任な、と思いかけたが。</p><p>どんな手を尽くしてもな</p><p>続く言葉に、相手が誰であったのかを思い出す。</p><p>やると言ったらOlは必ずそれをやり遂げるだろう。</p><p>故に安心して、元気な子を産め</p><p>はいっ</p><p>ぎゅっとOlの腕を抱きしめて、ミオは明るい笑顔で頷いた。</p><p>第8話初めての親子喧嘩をしましょう-1</p><p>おかえりなさいませ、旦那様</p><p>うむ今帰った</p><p>三週間を本拠地で過ごし、新大陸のダンジョンへと戻ったOlは、床に正座して深々と頭を下げるサクヤに少しばかり気まずい面持ちでそう答えた。</p><p>言い換えれば、三週間の間放っておいたという事でもある。</p><p>Olとて遊んでいたわけではないが、他の女と過ごしてきたところにこうまで丁寧に対応されればかえって気が引ける思いがした。</p><p>気にしないでお館様。姫、天然だから</p><p>うむ姫は多少、そういった機微に疎いところがあります故</p><p>フォローするホデリ、ホスセリ兄妹の言葉に、サクヤは不思議そうに首を傾げた。</p><p>あっ、Olさまだー。おかえりなさーい</p><p>今帰った。留守中ご苦労だったな</p><p>そこにOlの気配を察知したのか、マリーが姿を見せた。</p><p>彼女も何度か本拠地に帰ってはいたものの、基本的にはソフィアの世話とダンジョンの管理とで新大陸の方で過ごしていた。</p><p>どうしたの、 ソフィ。パパが帰ってきたよー？</p><p>マリーは振り向き、扉の後ろに視線をやった。どうやらそこにソフィアがいるらしい。</p><p>なに？恥ずかしいの？ほら、おいで</p><p>マリーが手を引いてOlの前に引き出すと、ソフィアは不機嫌そうな表情でOlを見つめた。</p><p>パパなんて</p><p>Olがかけようとした声を遮り、彼の四方を岩壁が囲む。</p><p>それと同時に、彼の足元に魔法陣が浮かんだ。まずい、と思ったときにはもう遅い。</p><p>岩壁を排除しそこから抜け出す一手のうちに、魔法陣はその力を発揮する。</p><p>だいきらい！</p><p>ソフィアの言葉とともに、Olは自分の身体が落下していくような感覚を覚えた。</p><p>その奇妙な浮遊感は、転移によるものだ。</p><p>気付けばOlは森の入り口に飛ばされていた。</p><p>ソフィアの奴め</p><p>油断していたとは言え、見事な手際にOlは怒ったものか感心したものか、少し悩む。</p><p>Ol、大丈夫？</p><p>マリーからの連絡を受けたのだろう。すぐさまユニスが跳んできた。</p><p>ああ。転移先が石の中やマグマの中だったら厄介だったが</p><p>流石にソフィアもそこまではしないでしょう</p><p>だといいがな</p><p>何故ソフィアがこのような暴挙に出たのか。</p><p>心当たりがないではないが、正確なところはわからない。</p><p>大嫌いとまで言われたのだ。何が起こるかわからん</p><p>んー。確かにちょっとご機嫌ななめみたいだね</p><p>生真面目な表情で真剣に言うOlに、ユニスは苦笑した。</p><p>Olは森のダンジョンを構成する木々に触れ、魔術による干渉を試みる。</p><p>しかし案の定、木々の壁は一瞬形を変えようと蠢くだけで、すぐに元に戻ってしまった。</p><p>完全に乗っ取られたな</p><p>Olにしては珍しいね</p><p>このような状況を予想していなかったわけではない。</p><p>だが手の打ちようがなかった。ソフィアはダンジョンそのものなのだ。</p><p>その干渉力はどうしたってOlより強い。</p><p>まあ躾ける良い機会だ。行くぞ。伴をせよ</p><p>はっ</p><p>Olの言葉に呼応しホデリとホスセリの兄妹が姿を現して、ユニスは目を丸くした。</p><p>どこから出てきたの？</p><p>俺が転送される瞬間、開いた岩の間から飛び込んできたのだ</p><p>殿を守れというのが、姫様の命でありますれば</p><p>跪き、硬い口調でホデリは答える。</p><p>彼らは別に隠れていたわけではない。ただ己を殺し、ないものとしてOlの傍に従っていただけだとユニスは気づいた。</p><p>ユニスでさえ、彼らが言葉を発するまでその存在に気づかないほどに。</p><p>さて、それでは</p><p>Olは深い森を見据え、言った。</p><p>我が娘のダンジョン。真っ向から攻略してくれよう</p><p>なんか嬉しいな</p><p>森の道を行きながら、不意にユニスはそんなことを言い出した。</p><p>Olが昔、ウィキアやFaro達と一緒にOlの迷宮を探索したことあったじゃない？</p><p>あったな、そんなことも</p><p>それはもう随分昔の話だ。迷宮の出来を冒険者の視点から評価するため、そして冒険者自体の練度を見るため、Olは旅の魔術師のふりをして迷宮に潜ったのだった。</p><p>あれ、あたしもついていきたかったんだけど</p><p>お前が来たら評価にならんだろうが</p><p>だから、嬉しい</p><p>朗らかに笑うこの小柄な少女にかかっては、あの頃のダンジョンでは侵入を防げたとは思えない。</p><p>今回は本気の探索だ。全力を出していくぞ</p><p>うんっ。本気ってことはー</p><p>ユニスは剣を抜き、閃かせる。</p><p>Olが気付いた時には剣は既に鞘に収まり、枝葉で作られた壁がばらばらと崩れ落ちていた。</p><p>こういう風に進んでもいいってことだよね？</p><p>まあ、そうだが</p><p>マリーと二人で探索した時と比べて、壁の耐久性が下がったわけではない。むしろソフィアが支配することによって上がっている。</p><p>恐ろしい事に、ユニスは理力を使っていなかった。</p><p>純粋に力と速さと技で迷宮の壁を切り裂いたのだ。</p><p>本気といえばお前は本当に腕を治さなくていいのか？</p><p>ユニスの作った近道を歩きながら、Olはホデリに問うた。</p><p>オロチに喰われた彼の左腕は二の腕の半ばから断たれたまま、袖だけが揺れている。</p><p>構いませぬ。腕を失ったのは某の未熟故</p><p>一度はOlも治療を施したのだが、ホデリはその腕をすぐに切り落としてしまった。</p><p>再生した腕を以前と同じように振るう事は出来ない。</p><p>そんな腕ならば、ない方がマシなどと言ってのけたのだ。</p><p>まあ、このダンジョンの防衛力はさほどでもない。問題はなかろう</p><p>そうなの？</p><p>ああ。まず、今回の目的は侵攻ではなく偵察だったからな。そもそも侵入者を想定しておらんのだ</p><p>以前のように周囲の村々を焼き滅ぼしたり、街を攻め落としたりしていればすぐに敵はやってくるだろう。だが今回、Olにそのようなつもりはなかった。故に防衛力は最小限のものでしかない。</p><p>その割には侵入してきた愚か者も多かったが、とOlは思う。</p><p>タツキとヤマタノオロチ実質どちらもタツキのようなものだった。</p><p>それに、これだ</p><p>木の壁を撫でて、Olは渋面を作る。</p><p>このようなスカスカの壁では、瘴気を溜めることもできん</p><p>空から抜けて行っちゃうもんね</p><p>何本もの木が連なって出来たその壁は人間の通過を阻むには十分だが、風は自由にその間を通り抜けていってしまう。</p><p>ゆえに妖魔や魔獣といったものを呼び寄せることもできず、大した戦力は集まらんというわけだ</p><p>それは、どうでしょうな</p><p>Olの言葉に異を唱えたのは、ホデリだった。</p><p>お館様はとても聡明で物知りだけどこちらには詳しくない。古来から、森には妖が棲むもの</p><p>ホスセリが兄の言葉を補足するように、ぽつりとそう呟く。</p><p>それはもしかして</p><p>Olの言葉と共に、</p><p>こいつらのことを言っておるのか？</p><p>無数の石つぶてが、彼らに降り注いだ。</p><p>石つぶてとはいっても、握りこぶし大のそれが頭に当たれば容易く人を殺しうる。</p><p>ある意味で矢よりも驚異的な存在である。</p><p>Olのキューブが自動的に防壁を展開し、全てを弾く。</p><p>ユニスは雨のように降り注ぐそれを、僅かな動きで軽くかわす。</p><p>チン、と音がしたかと思えばホデリに向かった石はすべて両断されて地面に転がり。</p><p>ホスセリは無数の石を掌で受け止めては、片端から投げ捨てる。</p><p>彼らにとっては何の障害ともならなかった。</p><p>然様。小鬼めにございまする</p><p>いつの間に抜き放ったか、ホデリは片刃の剣を向けて前方を睨んだ。</p><p>小鬼だと？</p><p>そこにいたのは、身長一フィート（三十センチ）程度の、醜い顔をした人型の生物だった。</p><p>ゴブリンではないか</p><p>でも色が違うよ</p><p>それはOl達のよく知る妖魔に似ていたが、緑色をしているゴブリンに対し、小鬼たちは赤い肌をしていた。着ている服もなんとなくヤマト風ではある。</p><p>彼奴らは一匹一匹は大して強くはござらんが、多数で群れ、知恵が回り、罠を張ることもありますのでご注意を</p><p>ゴブリンではないか！</p><p>大方何かの拍子で流れ着いたものが、独自に繁殖したのだろう。肌の違いは食べ物の差か、はたまた気候の違いかなどと思考を巡らせかけて、Olは考えるのをやめた。</p><p>まあ良い。この手合いであれば扱いは心得ておる</p><p>ずいと一歩踏み出して、Olは小鬼たちに歩を進めた。</p><p>途端、小鬼たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとしそして、自分たちの背後に壁があることに気づいた。</p><p>なぜ退路を塞がれているのかわからないままに彼らは慌てふためき、近づいてくるOlに怯え戸惑う。</p><p>だがOlの足が落ち葉の絨毯を踏みしめた時、その表情は邪悪な笑みに歪められた。</p><p>その下に、彼らの掘った落とし穴があったからだ。</p><p>落とし穴に落としてしまえば、体格差など意味を持たない。</p><p>後は上から石を投げつけ、死ぬまで槍で突くのだ。</p><p>小鬼たちよりはるかに大きな体躯を持つ人間たちが落とし穴にはまって苦しみ、よじ登ろうとしては槍で突かれてまた落ちていく様は何度見ても滑稽で愉快な光景だ。</p><p>しかし、そんな小鬼たちの目論見は失敗に終わった。</p><p>Olは落ち葉の上を、何事もないかのように歩んでいったからだ。</p><p>逃げぬのか？</p><p>呆然とする彼らの目の前で、Olは地の底から響くような低い声で尋ねた。</p><p>逃げるといっても背後は塞がれている。</p><p>小鬼どもは慌てふためき、Olの足元を横切って逃げ出そうとする。</p><p>その身体が、落ち葉の中に沈み込んだ。</p><p>落下した体の上にばさばさと無数の落ち葉が降り注ぎ、小鬼たちは混乱に暴れもがく。</p><p>なぜ自分たちだけが落とし穴に落ちているのか、彼らにはまったく理解できなかった。</p><p>小鬼たちは我先にと互いの身体を踏み台にして穴を這い上がろうとするが、互いに蹴落としあい、醜く罵りあい、小突きあいながらではそれもままならない。</p><p>それでも何とか要領よく最上段に上り詰めたものが落とし穴のふちに手をかけようとすると、その指先は何もない空中でつるりと滑った。まるで、そこに見えない壁があるかのように。</p><p>何度も何度もそれを繰り返し、ようやく上からは出られないと悟った小鬼たちは、ならば地中を逃げようと穴の底で横穴を掘ろうとしだす。</p><p>しかし脆いはずの土壁は、幾ら鉈を叩き付け、槍を突き込み、爪を突き立てても、傷一つつくことはなかった。</p><p>彼らには理解できるはずもない。</p><p>井戸のような形に変化したOlの見えざる迷宮(ラビュリントス)が落とし穴を丸ごと囲い、哀れな小鬼たちをすっぽりと覆いつくしてしまっていることなど。</p><p>小さく愚かな者どもよ</p><p>それを見下ろしながら、Olは語りかけた。</p><p>服従を誓え、などとは言わぬ。汝らの身には過ぎる故。我に従え、とも言わぬ。汝らの頭には過ぎる故</p><p>彼が開いた掌をかざすと、怒った小鬼たちが手に手に持った石や武器を投げる。</p><p>しかしそれは穴を塞ぐ不可視の天井に阻まれて跳ね返り、小鬼たちの頭に降り注いだ。</p><p>故にただ、我を畏れよ</p><p>Olが伸ばした指を曲げ、何かを掴むかのように手をゆっくりと閉じていく。</p><p>すると轟音と共に、小鬼たちのいる穴底の壁が動いた。</p><p>言葉が通じずとも、顔を覚えられずとも、名を知らずとも良い。その血の続く限り、汝らが末の末まで我を、畏れよ</p><p>小鬼たちは徐々に狭くなる穴底にゆっくりと潰されながら、しかし何もできずただただ恐怖に怯え震える。</p><p>そら。出口だ</p><p>Olの手元からカタカタと音を立て、キューブで出来た階段が小鬼たちのいる穴底まで伸びていく。</p><p>ぎゅうぎゅうに詰まった小鬼たちは、しかし一匹としてその階段を登ろうとはしなかった。</p><p>その先に、彼らにとって何よりも恐ろしい存在がいるからだ。</p><p>よし。行け</p><p>Olはその反応に満足すると、背を向けそう命じる。</p><p>すると小鬼たちは一目散に階段を登って逃げ出し、瞬く間にその姿を消したのだった。</p><p>第8話初めての親子喧嘩をしましょう-2</p><p>見事な調伏でしたな</p><p>何が見事なものか。たかがゴブリンごときに</p><p>ホデリの世辞に、Olは吐き捨てるように答える。</p><p>いやいや。小鬼風情と侮ったものではござらぬ。なるほど彼奴等は矮小にして怯懦。ですが狡猾で、何より残忍です。恩も恥も知らぬ奴らを侮り、何人の兵が煮え湯を飲まされたか</p><p>ホデリは小鬼たちが、背を向けたOlに攻撃するだろうと思っていた。</p><p>しかしそうはならなかったのだ。</p><p>ただ単に脅しただけではない。呪をかけたのだ</p><p>恐怖をその魂に刻みつける呪いは小鬼たち自身のみならず、その血を受け継ぐ子や孫たちにも伝わっていく。</p><p>ゴブリンの繁殖能力は非常に高い。</p><p>小鬼も同様であるとするなら、呪いは一年もする頃には全員に行き渡るだろう。</p><p>ゴブリン大事だもんね</p><p>まあ、俺のダンジョンにおいてはそうだな</p><p>弱く小さく、しかし数だけは多いゴブリンたちは、ダンジョンにおいて貴重な食料源だ。様々な魔獣や大型妖魔の餌となりながら、しかしどれだけ食べてもいなくなるということがまずない。</p><p>しかしそれもゴブリンより弱い生き物が殆どおらぬせいだ。案外この森程度であれば、奴らが王者のごとく振る舞っている可能性も</p><p>Olの言葉は、曲がり角を曲がったところでその先にあった光景に途切れた。</p><p>つややかに光る鉄のような黒い身体は、まるで竜の鱗のように分厚く。</p><p>毒々しいオレンジ色の足は数えきれない程にはえ。</p><p>長い長い触角がゆらゆらと蠢き。</p><p>バリボリとゴブリンを租借しながら、巨大な四つの目でOl達をじっと見つめている。</p><p>それは巨大なあまりにも巨大な、ムカデだった。</p><p>平たい身体をしているのに、頭だけでOlの背よりも高い。</p><p>ましてや全長はいかばかりのものか。</p><p>散れ！</p><p>Olが叫ぶと同時、大ムカデは凄まじい速度で突っ込んできた。</p><p>その大あごでの一撃をかわしながら、眉間の部分にユニスが一撃を叩きこむ。</p><p>うわっ、硬い！</p><p>だが黒々とした表皮はほんの僅かに凹んだのみで、ユニスの剣は硬質な音を立てて弾かれた。</p><p>目標を捉え損ねた大ムカデの大あごがバキバキと音を立てながら木々を噛み砕き、しゅうしゅうと煙を立てて腐れ落ちていく。ただ挟まれるにしても、毒を受けるにしても、ただ事で済みそうにはなかった。</p><p>厄介な相手だな。できれば殺したくはないが</p><p>ミオ連れてくる？</p><p>いや。あれは無理だろう</p><p>魔獣の類であれば瞬く間に手懐けてしまうミオの異能だが、彼女が虫の類を世話しているのは見たことがなかった。Olのダンジョンにもジャイアント・スパイダーやジャイアントフライといった虫型の魔獣は多数いる。恐らくは無理なのだろう。</p><p>それにユニスの転移は一日にせいぜい四、五回程度しか使えない。既に一度使っている今、手札を使い切ってしまう事は避けたかった。</p><p>我々にお任せ下さらぬか</p><p>何とかする</p><p>どうしたものかと悩んでいると、ホデリとホスセリが声を上げた。</p><p>出来るのか？</p><p>相手はユニスでさえ刃が立たないような相手だ。</p><p>無論負けることはないだろうが、生け捕りにするとなれば難しいだろう。</p><p>わかった。任せる</p><p>しかし自身有りげに頷くホスセリに、Olは対処を任せることにした。</p><p>そうする間に、大ムカデはギチギチと顎を鳴らしながらその身体を地面に潜り込ませる。</p><p>こいつ、地下を！</p><p>堅牢なはずのダンジョンの壁や床も、これほどの大きさの魔獣となればお構いなしだ。</p><p>とは言え流石にこの速度で地中を掘り進めるわけでもない。</p><p>おそらく真下を通る迷宮の中を進んでいるのだろう。</p><p>ならば、Olには出来ることがある。</p><p>ホデリよ。奴が出てくるならそこだ</p><p>地下の通路と地上の通路の交点。あれ程の巨体をぐるりと巡らせて出てこれそうな場所は限られていた。</p><p>承知仕る</p><p>Olがキューブで作り上げた目印に向かいながら、ホデリは片刃の剣を鞘に納めた。</p><p>数拍後。</p><p>何の予兆もなく突如として地下から大ムカデが顔を出し、ホデリに向かってそのあぎとを大きく開き</p><p>次の瞬間、大ムカデの前足が左右二本、切り落とされていた。</p><p>すごい</p><p>ユニスが目を大きく見開き、感嘆の声を漏らす。</p><p>大ムカデの硬さは外殻でも脚でもそう差はない。</p><p>襲い掛かってくる大ムカデの速度を利用しながら、関節部を切り落としたのだ。</p><p>言うは易しだが、地中から高速で足を動かしながら襲い掛かってくる大ムカデに対してそれを行うのは至難の業だ。少なくともユニスには出来ない。</p><p>Olにはホデリが切り付ける瞬間どころか、剣を抜いたところさえ捉えられなかった。</p><p>だが、足を二本切り落としても、大ムカデにはまだ九十八の足がある。</p><p>どうするつもりかと見守るOlは、ふとホスセリの姿が見えないことに気が付いた。</p><p>Olあそこ！</p><p>ユニスの指をたどってみれば、ホスセリは大ムカデの足にとりついていた。</p><p>そのまま何でもないような動作でするすると上ると、大ムカデの背を走っていく。</p><p>激しく身体を揺らしながら暴れまわる大ムカデの背の上を、だ。</p><p>そして彼女は頭の後ろ、第一節と第二節の間にしゃがみ込むと、腰の後ろにつけた剣を抜いた。</p><p>ホデリの使うものと同様に片刃だが、反りはなく幾分短い。</p><p>何か液体が塗られているのか、濡れた刀身がぬらりと輝いた。</p><p>体重をかけ、ホスセリは関節部分に剣を差し込む。</p><p>だがあの巨体にあの長さの剣では致命傷にはなるまい。</p><p>Olがそう思っていると大ムカデの動きは見る間に鈍っていき、やがて動かなくなった。</p><p>お館様。やった</p><p>ホスセリはOlに駆け寄ると、そう報告した。</p><p>表情にも声にも変化はないが、パタパタと自慢げに振られる犬の尾が見えるかのようだった。</p><p>何をした？</p><p>毒を盛った</p><p>Olの問いに短く、ホスセリは答える。</p><p>毒だと？あれほどの大きさの生き物に効く毒を持っているのか？</p><p>致死毒にせよ麻痺毒にせよ、効果を及ぼすにはその生き物の体重に見合った量が必要になる。あの大ムカデに効くような毒となると、竜すら殺せるのではないか。</p><p>Olがそう思って尋ねれば、ふるふるとホスセリは首を振った。</p><p>持ってないし、殺してもいない</p><p>現に大ムカデは毒の効果で動きを止めている。</p><p>ホスセリが盛ったのは、麻痺毒にござる</p><p>要領を得ないホスセリの説明を見かねて、その兄がそう説明を重ねた。</p><p>麻痺毒？だがそれならば余計におかしいではないか</p><p>基本的に、致死毒よりも麻痺毒の方が必要量は多くなる傾向にある。</p><p>身体の中枢、脳や心臓と言った重要部位を破壊すれば良い致死毒に対し、麻痺毒は全身に回る必要があるからだ。</p><p>すべてに効かせる必要はない。見て</p><p>不審がるOlに、ホスセリは大ムカデの身体を指さした。</p><p>ムカデはあれだけの足を持って、絡ませずに歩く</p><p>百足(ムカデ)というが、その足は実際には百よりは少ない。</p><p>しかしそれでも無数にあるその足をもつれさせることなく進めるというのは不思議なことだった。</p><p>でもそれは、ムカデの頭がいいわけじゃない。ただ単に、一つ前の足と同じ動きを順に伝えているだけ。だから</p><p>ホスセリは剣の切っ先で、切り落とされた一本目の足と二本目の足の間をトンと突く。</p><p>一本目を切り、ここにある経路だけを麻痺させてしまえば、もうムカデは動けない</p><p>なるほどな。大した知識だ</p><p>一対二本の足だけを己の意思で動かし、後の足は一つ前の足と同じ幅だけ動かす。</p><p>確かにその方法であれば、何本足があろうと絡まることはない。</p><p>忍びは毒に精通する。ムカデの毒もよく使うから</p><p>魔王すら知らない知識を容易く披露するホスセリに、Olは感心して頷く。</p><p>ホデリの剣も凄かったよねえ。スパーって</p><p>斬れる場所に刃を通しただけのこと。果実の皮を剥くのとそう違いはござらん</p><p>言葉少なにホデリは言うが、それが謙遜であることくらいはOlにもわかった。</p><p>Olはくるりと大ムカデに向き直る。</p><p>死んでしまったかのように見えるそれは、よく見れば触覚だけがひらひらと動き回っていた。</p><p>折角生け捕りにしてくれたのだ。これを使うとするか</p><p>第8話初めての親子喧嘩をしましょう-3</p><p>わあ、すごいすごーい！</p><p>一面に広がる空の青と木々の緑。そしてその上を滑るように走る感覚に、ユニスは歓声を上げた。</p><p>あ、あまり乗り出すと危ないのではござらぬか</p><p>顔を引きつらせ、足を震わせながらホデリ。</p><p>兄さん、情けない</p><p>そんな兄の姿に、ホスセリは溜め息をついた。</p><p>そう心配するな。振り落とすようなヘマはせん</p><p>言いながら、Olは魔力を寄り合わせて作った手綱を振るう。</p><p>彼がまるで馬のように操り、一行が乗っているもの。</p><p>それは先程倒した大ムカデだった。</p><p>虫には魅了の術の類は殆どきかないが、魔力を流し込んで強引に支配してしまうのはむしろ容易い。</p><p>百の足を自在に動かせと言われればいかなOlとて難しいが、前足二本だけを操れというならば造作もない事だった。そうすれば後は勝手にムカデの身体がその動きを後ろに伝え歩いてくれる。大ムカデの身体は滑らかに木々の上を這って、殆ど揺れさえ起こさずに森の上をするすると進んでいった。</p><p>前半身は高く掲げられ、Olたちの乗っている頭付近は森の遥か上、空の只中。</p><p>確かに落ちればただではすまないだろうが、平たいムカデの背の上は意外と良い乗り心地で、目には見えないがキューブで部屋状に周囲を囲っているから万が一にも落ちる心配はない。</p><p>何よりそうして進むと、地上を歩いていては見えなかった森のダンジョンの様子をよく見渡すことが出来た。</p><p>思いの外、棲んでいるものなのだな</p><p>そうして森を眺めていると、大ムカデの進行から逃げていく魔物たちの姿がよく見える。</p><p>小鬼のような人型をしているもの、狼や蛇のような獣の姿のもの、意思を持つように動く炎や土の塊にしか見えないものや、木の肌に浮かぶ目玉が開いては閉じてを繰り返して移動するものなど、Olにも一体どのような存在なのか窺い知ることすら出来ないようなものまでが何匹も見られた。</p><p>俺がマリーと探索した時は、樹人(トレント)の出来損ないみたいなものしか出てこなかったものだが</p><p>殿の威を察して逃げていたというのもありましょうが恐らく大部分は最近、棲みついたのでしょうな。神の住まう森となれば、あのような怪生たちには居心地がいいものです</p><p>そんなものか</p><p>腑に落ちない様子で、Olは相槌をうつ。</p><p>彼の感覚で言えば、神と魔とはけして相容れない存在だ。</p><p>それが共存しているというのは不思議な話だが、理力と魔力を矛盾させず内包する彼らの力はその辺りに理由があるのかもしれない、と思った。</p><p>しかし、やはりここにはいないようだな</p><p>Olが呟き見下ろすのは、かつて彼がソフィアを見つけた場所。</p><p>森のダンジョンの中心、ダンジョンシードが設置されている場所だった。</p><p>火山の方かな？</p><p>であろうな</p><p>神というのは基本的に自分の支配する領域から離れたがらないものらしい。</p><p>だがソフィアは森の神ではなく、ダンジョンの神だ。</p><p>ダンジョンの中であれば、どこにでも自由に移動できた。</p><p>Olを拒絶するなら最も奥。試練の山の最上階だろう。</p><p>でもなんでソフィアは、Olを飛ばしちゃったんだろうね</p><p>さてな。長く相手をしてやらなかったから拗ねたか、或いは母であるマリーを差し置き、他の女たちと睦まじくしていたことに腹を立てているのか</p><p>いずれにせよ、本人に会って問い質さないことにはわからないとOlは考えた。</p><p>大ムカデはあっという間に森のダンジョンを踏み越えて、火山のダンジョンの麓にまで辿り着く。</p><p>よし、ここまでで良い。ご苦労だったな</p><p>Olは大ムカデの頭をぽんと叩くと、森の中心近くまで戻る信号を送った。</p><p>ここから先はあの図体では移動が難しいし、ムカデは熱に弱い。</p><p>それにあの強さならば、森のダンジョンにとって良い守護になるだろう。</p><p>お館様は、すごいね</p><p>大ムカデを見送るOlの横顔に、ホスセリはぽつりとそう言った。</p><p>怖くないの？</p><p>問えば更に質問が返ってきて、Olは首を傾げる。</p><p>あのムカデのことか？お前たちが無力化し、術で制御したのだろうが。何を恐れる必要がある？</p><p>Olの答えに、ホデリとホスセリは互いに顔を見合わせた。</p><p>殿。そうではなく、斯様な異形を馬の代わりに乗りこなすことに抵抗はないのか、とホスセリは聞いておるのです</p><p>女子供ではあるまいし、虫如き怖がる必要がなかろうが</p><p>いまいち要領を得ないホデリの言葉に、Olは呆れる。</p><p>まさか震えていたのは落下の危険性にではなく、虫が怖いなどと言うつもりだろうか？</p><p>姿形に頓着されぬと申されるか</p><p>抱く女の見目ならともかく、魔物の姿形に何の意味がある？</p><p>ならば</p><p>兄さん。待って</p><p>ホスセリの制止を無視して、ざわざわとホデリの姿が変化していく。</p><p>猛禽を思わせるような細く鋭い瞳はまるで穴のように白目のない真っ黒な真円となり、唇が頬まで裂けたかと思えば鋭い牙が生え揃う。鼻が盛り上がり、顔全体が円錐のような形に突き出して、腕を細かい鱗がびっしりと埋め尽くした。</p><p>我らが人間ではないとしても、同じことを言いなさるか</p><p>お前、その姿は一体</p><p>しゃがれたような、耳障りな声色で尋ねるホデリに、Olは思わず呟く。</p><p>恐ろしかろう。醜かろう。これでも見目など関係ないと申されるか</p><p>いや、見た目はどうでもいいが。一体何の動物だ、これは？</p><p>牙はあるが狼でも獅子でもない。鱗はあるが、竜でも蛇でもない。</p><p>全く見覚えのない生物の顔立ちを、Olは眉根を寄せながら無遠慮に触った。</p><p>こ、これは鰐にござる</p><p>ワニ？馬鹿を言うな。ワニといえばあの、水辺に棲む竜の出来損ないみたいな大蜥蜴であろうが。このような姿はしておらんぞ</p><p>鱗は硬質な手触りの割に弾力性があり、撫でる方向によって手触りが全く違う。鼻先から首元に向かって撫でれば滑らかなのに、逆だとざらざらとした感触があった。</p><p>あ、ほんとだ、おもしろーい</p><p>そのことを口にすればユニスまでが面白がって触りだし、ホデリは困惑しながらもただされるがままに撫でられる。</p><p>わかったぞ。お前は、サメだ！</p><p>ああ、そう呼ぶ場合もあるのでしたか</p><p>ようやく正体に思い当たり、Olはうむと満足げに頷く。</p><p>確かに水生生物の獣人とは珍しい。この俺ですら初めて見た。なるほど斯様に珍奇な生き物であるなら見目を気にするも無理はないやも知れぬな</p><p>ち、珍奇？</p><p>一人納得するOlに、ホデリは頭を抱えた。</p><p>彼の想定していたものとOlの反応は、あまりに違っていた。</p><p>御館様、私は？</p><p>気づけばホデリを止めた妹まで、その本性を露わにしていた。</p><p>手足は深い毛に覆われ、髪の間からはピンと尖った三角形の耳が突き出し、尻からはふさふさとした尾が伸びている。</p><p>見るもおぞましい、野獣の姿。山犬の顔を持った娘など、誰が好こうか。</p><p>抱いた女がこのような見目と知ったら、流石に嫌悪するのではないか</p><p>お前は珍しくも何ともないな。狼の獣人などそれこそ我が迷宮には何百といるぞ</p><p>そんなホデリの予想は、さして興味もなさそうなOlの平坦な声にまたしても裏切られた。</p><p>と言うかなんだ。お前たちは兄妹と言っていたが、血の繋がりはないのか？別の種族だったとは</p><p>我々は元々こうだったのではございませぬ。神の呪いにて異形になり果てた身</p><p>そう、呪いだ。気まぐれな神の怒りに触れ、人ならざるものへと変えられた。</p><p>聞くもの全てが恐れ嫌う、穢らわしい話を、ホデリは苦々しく語る。</p><p>なんだ、では呪いを受けただけで人間なのではないか</p><p>Olはあっさりとした様子でそう言った。</p><p>人、と我々を、人と認めて下さるのか</p><p>震える声で、ホデリは問う。</p><p>当たり前だろう</p><p>神に仕える存在だから、Olはてっきり彼らのことを天使や悪魔のような存在だと思っていたのだ。</p><p>そう言った者たちは厳密には生物ですらない。</p><p>新しい命を育むことも、食事を取ることもないからだ。</p><p>それに比べれば多少獣が混じっていようが、妖精由来だろうが、Olにとっては人の範疇だった。</p><p>お館様、私、変じゃない？</p><p>お前はむしろついている方が自然なくらいだな</p><p>じっと見つめてくるホスセリに言うと、表情は変わらぬまま尾だけがぶんぶんと振られた。</p><p>実にわかりやすい。</p><p>じゃあまた抱いてくれる？</p><p>大丈夫だよー。Ol、手足が鳥になってる子とか、下半身が蛇の子とか、全身が水みたいになってる子でも顔が可愛ければ全然いけるから</p><p>Olが答える前に、ユニスがそう言ってね？と顔を覗き込む。</p><p>確かにハルピュイアもラミアもウンディーネも抱いたことはあるので、Olは何も言えなかった。</p><p>流石は、姫の認められたお方だ</p><p>深く感じ入ったように呟くホデリに、どういう意味だとOlは内心叫ぶ。</p><p>俺は魔王だぞ。魔を統べるものが、種族だの見た目だのでどうこういうものか。人と違うのであれば、その違いを持って役立てればそれでよい</p><p>御意に</p><p>弁明するようにそう言うとホデリは跪き、腰の剣を鞘ごと引き抜いてOlの前に掲げた。</p><p>ホスセリもその横に並んで、それに倣う。</p><p>それはOlの知らない仕草だったが、武に生きるものが武器を捧げることの意味くらいは検討がついた。</p><p>Olは彼らの剣を受け取ると、鞘から引き抜いてその刀身を見つめる。</p><p>緩く弧を描く刃には独特の文様が浮かび、一点の曇りもなく輝いている。</p><p>大ムカデを切り裂くほどの実用性を秘めていながら、それはまるで芸術品のような美しさだった。</p><p>良き剣だ</p><p>Olは言ってその剣で彼らの肩を軽く叩き、鞘に収めて返す。</p><p>能(よ)く仕えよ</p><p>兄妹は揃って剣を受け取り、深くその頭を垂れた。</p><p>第8話初めての親子喧嘩をしましょう-4</p><p>さて、探索としてはここからが本番だ。気を抜くなよ</p><p>ダンジョンに作り変えられた火山は、以前のような岩壁がむき出しになった溶岩洞とはまるで違う雰囲気になっていた。</p><p>でこぼことした地面には石畳が綺麗に敷かれ、溶岩の流れる河は丁寧に埋められて、規則正しく道の続く通路となっている。</p><p>前より歩きやすいように思えまするが</p><p>ホデリの言葉に、Olはキューブを掲げた。直方体の石の塊はパタパタと展開して長い杖となると、十一フィートほど先の床をこんと突く。途端天井が開いて、Olの鼻先から十フィート先までを滝のように流れる溶岩で埋め尽くした。</p><p>失言でござった</p><p>理解を得られたようで何よりだ</p><p>Olたちが赴いた際もこのような罠はあったが、それはサクヤがOlたちの動きを見ながら自身の力で都度溶岩を動かしていただけだ。</p><p>それに対していま発動したものは、純粋にOlが仕掛けた機械的な罠に過ぎない。</p><p>油断すればすぐに侵入者の命を奪うだろう。</p><p>これに加えてソフィアの妨害が加わる可能性がある。各自くれぐれも油断せぬように</p><p>Olの言葉を遮るように、みしりと不吉な音がなった。</p><p>走れ</p><p>地面を割って吹き出したのは、溶岩ではなく大量の海水だ。</p><p>こんな事ができるのは一人しかいない。であれば、この場に留まるのは下策だった。</p><p>Ol、失礼するねっ</p><p>とは言えこの中で一番足が遅いのは、魔術師であるOlだ。彼の身体をユニスがひょいと抱え上げ、横抱きにして走る。小柄な身体のどこにそんな力があるのか、それでもユニスは誰よりも早く駆けた。</p><p>殿！これしきの波、某が本性を表せば！</p><p>待て、ホデリ！</p><p>言うが早いか、ホデリの身体はみるみるうちに巨大な鮫へと変化する。そしてOlが止める間もなく、濁流の中にその身を投じた。</p><p>お乗り下さい、殿！</p><p>止まるな、ホスセリ！</p><p>押し寄せる海水の中でその身を踊らせながら叫ぶホデリに、ホスセリが一瞬足を止めかける。だがOlの叱咤に彼女はコクリと頷くと、ユニスの後を追って走った。</p><p>殿、ご安心めされよ！この姿は仮にも神を運びし神獣のもの、背に乗られれば息も</p><p>その時ガコンと音がして、ホデリの行く先、その床に穴が空いた。</p><p>ぬおおおおおおお！</p><p>ホデリは懸命に滝のように落ち行く水の流れに逆らい、登ろうと泳ぐ。しかしその尾を、同じく魚に似た尾を持つ娘がぐいと引いた。</p><p>タツキだ、とOlがその顔を認識した時には既に、ホデリの身体は大量の海水とともに穴の中に消え去っていた。</p><p>Ol、どっち！？</p><p>なおも押し寄せる海水から逃げながら、ユニスは前方の別れ道を指していった。</p><p>右だ！</p><p>Olの言葉に迷わずユニスは右の道へと向かう。</p><p>が、一歩踏み出したところでその足ががくりと沈み込んだ。</p><p>こちらにも落とし穴だ。</p><p>しまっっ！</p><p>いつものユニスであれば、その状態からでも開いていく落とし穴の蓋を蹴って跳躍し、回避できただろう。だが彼女は今、Olをその両手に抱えていた。流石にその状態では跳ぶことも出来ず、彼女はそのまま落下する。二人の後を追って、ホスセリは躊躇なく落とし穴へと飛び込んだ。</p><p>良い判断だ、と内心で呟きながら、Olはキューブを伸ばしてホスセリの身体を引き寄せる。</p><p>これで良い。これが、最短経路だ</p><p>両手にユニスとホスセリとを抱き寄せながら、Olは周囲を見えざる迷宮(ラビュリントス)で覆った。この落とし穴は殺傷を目的としたものではなく、侵入者の捕獲の為のものだ。</p><p>捕獲された獲物はどうなるかといえば当然迷宮の奥へと連れ去られるのであり、その為の通路もまた落とし穴の奥に用意されている。故に、この道を行くのがもっとも手っ取り早かった。</p><p>Olたちはそのまま、液体がなみなみと湛えられたプールの中へと飛び込む。それは侵入者を殺さないように落下の衝撃を和らげるための緩衝材であり、同時に捕らえるための仕掛けでもあった。</p><p>なんだ、これは！？</p><p>だがその中身は、Olの記憶にあるものと別物にすげ替えられていた。彼が用意したのは強力な粘着力を持つ一種の接着剤だ。故に、見えざる迷宮を展開して周囲を囲っておけば捕らわれることなく回避できるはずだった。</p><p>だがそこにあったのは、Olが想定していたよりも遥かに粘性の低い液体だった。Ol達を覆う見えざる迷宮は、その名の通り入り組んだ迷宮の形をした防御壁だ。粘度の高い接着剤であれば防げただろうが、殆ど水と変わりのないその液体は迷宮の中へと縦横に流れ込んで、Ol達を飲み込んだ。</p><p>なんだ、これは</p><p>とはいえ粘性が低い分、逃れることも簡単だ。</p><p>Olたちは先へと続く通路に這い上がると、身体に絡みつく粘液に顔を顰めた。</p><p>毒じゃない</p><p>ああ。毒などというものは、空気に触れさせておけばすぐに変質する。このような使い方は出来ぬから、それは安心していいが</p><p>己についた液体をぺろりと甜めて言うホスセリに、Olはそう解説しながら内心で首を傾げる。</p><p>毒性もなく、特に魔力を帯びているわけでもないその液体は、本当に少しべとつくくらいの液体でしかなかった。これでは動きを封じるどころか、ほんの僅かに戦闘力を削ぐことも出来ないだろう。何の意味もないように思えた。</p><p>ホデリは大丈夫かな</p><p>あれだけの海水と共に落ちたのだ。溺死の心配がないならかえって安全であろう</p><p>タツキに食われてなければいいが、と思いつつそれは口に出さずにOlは言った。</p><p>最近は仲間意識が芽生えているようだから大丈夫だとは思うが、次の瞬間に何をしているか最も想像がつかないのがタツキという女だ。</p><p>ソフィアに手を貸しているのか、単にふざけて遊んでいるかすらわからなかった。</p><p>うん。兄さんはしぶとい。心配しなくていい</p><p>あ、うん。命の心配はしてないんだけど</p><p>と、ユニスはやや言いにくそうに。</p><p>一人だけ罠に引っかかっちゃって落ち込んでないかなって</p><p>ああ、とホスセリは頷いた。確かに、改めてOlに仕えると誓った直後の事だ。気にしているかもしれない。</p><p>あたしもお兄様がいるからなんとなくわかるんだけど、男の人って強くても結構精神的に脆かったりするよね</p><p>確かにそういうところはある</p><p>兄を持つ妹たちの会話を聞きながら、唯一の男であるOlは居心地悪そうに渋面を作った。</p><p>そら。無駄口を叩いている場合ではないぞ。客だ</p><p>通路の奥から殺到してくる魔物たちを示せば、ユニスの表情はあっという間に妹から一流の戦士のそれへと変貌した。この一瞬の切り替えがユニスの頼もしいところであり、恐ろしいところでもある。なおホスセリの方は常に無表情で、こちらはこちらで底知れない。</p><p>襲い掛かってきたのは、人の顔に虎の身体、蛇の尾を持つ奇妙な魔獣だった。</p><p>それが何十匹と群れを作り、こちらへと向かってきている。</p><p>マンティコアという魔獣だ。尾に強力な毒があるから気をつけろ</p><p>あれは鵺。尾の蛇の毒は強いから気をつけて</p><p>それを見据え、Olとホスセリは同時に言って互いに顔を見合わせた。</p><p>まあどっちだろうと、斬っちゃえば同じだよね</p><p>ユニスは軽い口調でそう言って、雷光のように群れの中に切り込むと剣を一閃させる。その一撃は魔獣の太い首を、三頭まとめて切り落とした。</p><p>わぷっ！</p><p>かと思えば、その死体は木の葉の塊となってユニスに降り注ぐ。</p><p>これは、ユツの術か！</p><p>ああもう、鬱陶しいごめんOl、一匹そっち行った！</p><p>そしてその光景に、Olはようやく先程張られた罠の狙いを悟った。</p><p>粘性の低い接着剤は動きを封じるためのものではない。</p><p>木の葉を張り付かせるためのものだったのだ。</p><p>ユニスはその全身に木の葉を纏わり付かせながらも、剣を振るう。一度振るう度に魔獣が一匹木の葉に変わり、それが更に彼女の身体にへばりつく。へばりついた木の葉は動きを鈍らせ、視界を塞ぎ、不愉快な感触に平常心を奪う。</p><p>地味だが、効果的な罠だった。</p><p>全てが木の葉ではないはずだ！本体が一匹どこかにいる。そいつを倒せ！</p><p>そんなこと、言われても、わぷっどれがどれやらだよー！</p><p>ユニスは顔に木の葉を受けながら叫ぶ。ただの幻術であれば見破るのは容易いが、木の葉で出来ているせいか、それとも魔術ではないからか、ユツの幻術はとかく見破りづらい。Olでさえ、一瞬で看破するわけにはいかなかった。</p><p>今俺が、炙り出す</p><p>だが、対処法がないわけではない。Olは印を組み呪文を口にすると、手の平を重ね合わせるようにして胸の前に構える。その間にちろりと炎が生まれたかと思えば、それはあっという間に膨れ上がり、奔流となって魔獣たちを包み込んだ。</p><p>マンティコアにしろ鵺にしろ、それしきの炎で死ぬほどヤワではない。が、姿形は魔物に化けても、その本質は木の葉だ。火をつければ覿面に効いた。</p><p>ホスセリが天井からぶら下がり、残った最後の一匹の首筋に剣を差し込む。</p><p>それが本物で間違いなかったようで、魔獣はどうと地面に倒れ伏した。</p><p>ホスセリの姿が見えないと思えばいつの間にあんなところに、とOlは半ば呆れつつも感心する。</p><p>さっすがOl。攻撃魔術使うところなんて久々に見たけど、相変わらずの精度だね</p><p>Olの炎は通路全体を埋め尽くしていたが、ホスセリやユニスには火傷どころか火ぶくれ一つなかった。威力はさほどでもないが、その狙いの精密さだけで言えばOlは間違いなく当代屈指の魔術師だ。</p><p>流石にそれだけ燃やすのは無理だがな</p><p>ユニスの頬についた木の葉を一枚とってやって、Olは嘆息する。</p><p>一人最前線で戦っていただけあって、彼女は全身ほとんど木の葉まみれだった。</p><p>これほど張り付いていては、流石にちょっとやそっとでは取れそうもない。</p><p>うん。さっさと攻略して、お風呂でも一緒に入ろう</p><p>その時はお供する</p><p>終わったらな。気を緩めるなよ</p><p>さり気なく身を寄せてくるホスセリの頭をぽんと叩いて、Olは嘆息する。</p><p>油断していたわけではないが、致命的な効果を持たない罠に対しては警戒心も薄れる。</p><p>粘液を乾かしてから進まなかったのはOlの失態というよりも、ソフィアの手柄だろう。</p><p>己にはない罠の発想に、我が子の成長を喜びつつも悔しく思う気持ちがあるのも、また否定できなかった。</p><p>更に通路を進んでいると、にわかにユニスが嬉しそうな声を上げる。</p><p>彼女の視線の先にあったのは。</p><p>Ol、温泉だよ！</p><p>ホカホカと湯気をたちのぼらせる、湯溜まりの池だった。</p><p>第8話初めての親子喧嘩をしましょう-5</p><p>ねえOl、入ってもいいかな</p><p>良いわけなかろうが</p><p>うきうきとしたユニスの声とは対照的に、Olは低い声で答えた。</p><p>居住区ならまだしもダンジョンのこんな只中に、そうそう都合よく温泉があるわけがない。</p><p>あまりにもあからさまな罠だった。</p><p>適温。毒もない</p><p>だからといってこんな見え透いた罠に嵌まれるか</p><p>跪いて湯に手を差し込むホスセリに、Olは辟易としながら言い返す。</p><p>でもあたしこんなんだし</p><p>木の葉まみれの身体で両手を広げながら、ユニスは言った。</p><p>木の葉こそ被ってはいないが、Olも粘液自体はたっぷり浴びている。</p><p>乾いてきたそれは何やらチクチクと痒みを帯びてきて、不愉快なことこの上ない。</p><p>Olとて元々、ダンジョンを作れば真っ先に湯殿を設計するほどの入浴好きである。入りたくないわけがなかった。</p><p>Olは念のため周囲を丹念に調べ上げ、固定された罠がないことを確認する。</p><p>しかしそれはあまり意味のないことだった。</p><p>ソフィアはその気になれば、迷宮のどこにでも即座に罠を作り上げることができるからだ。</p><p>油断はするなよ</p><p>Olは溜め息をつき、キューブを椅子の形に変えて座り込んだ。</p><p>流石に自分も入ろうとまでは言えない。</p><p>喜び勇んで、ユニスは服を脱ぎ捨て湯に飛び込む。</p><p>ホスセリも丁寧に服を畳むと、それに続いた。</p><p>はー、気持ちいいー</p><p>御館様も入ったら？</p><p>うんうん。Olもおいでよー</p><p>流石にそこまで油断できるか</p><p>湯の中で手足を伸ばして息を吐く二人に、Olは渋面を作りながら答える。</p><p>二人の美女がその健康的な裸身を晒しながら手招きする光景は正直ひどく魅惑的だったが、流石に身内とは言え敵対しているダンジョンの中で寛ぐわけにもいかない。</p><p>こんなに良い湯なのにねえ</p><p>湯船の縁にもたれかかり伸びをするようにユニスが身体を逸らすと、水面下に隠れていた彼女の膨らみが露わになる。褐色の肌の先端を彩る蕾は子を産み母となった今も美しい薄桃色で、思わずむしゃぶりつきたくなるような瑞々しさだ。</p><p>正に。この湯を味わわないなんて、御館様は人生の八割を損している</p><p>リラックスしたのか先程まで隠していた山犬の耳と尾を晒しながら、ホスセリは猫のように四つん這いになって身体を伸ばす。背筋はしなやかな弓のように優美な曲線を描き、水面に浮かび上がった白い尻から伸びた尾は誘うようにゆっくりと振られる。</p><p>わざとやっているだろう、お前たち</p><p>露骨なアピールに溜め息をつきつつも、Olは彼女たちの媚態から視線を逸らしはしなかった。</p><p>にしても、気持ちよすぎて眠くなってくるね</p><p>おい、流石に油断しすぎだろう</p><p>ふああ、と欠伸を漏らすユニスにOlは釘を刺す。</p><p>私も眠く、なって</p><p>しかしホスセリまでもが船を漕ぎ出して、Olは何かがおかしいと気付いた。</p><p>何故、自分たちは風呂になど入っている？</p><p>Olが疑問に思った瞬間、ガコンと音がして湯船の底が開く。</p><p>そう同じ手を何度も喰らうか！</p><p>Olはそれを予測していた。見えざる迷宮(ラビュリントス)は既に温泉全体を器のように覆っていて、底が開いても湯の一滴も漏れ出ない。</p><p>が。無数の小さな転移陣が床に浮かぶのを見て、Olの顔色が変わった。</p><p>狙いはそちらか！</p><p>手の平ほどの大きさのそれは、人間大のものを転送する程の力は持っていない。</p><p>それが転移させているのは、ユニスとホスセリが脱いだ衣服だった。</p><p>キューブはすっかり寝こけてしまっているユニスたちを支えるのに使ってしまっていてこれ以上伸ばすことが出来ない。仕方なく、Olはともかく近くにあったものに手を伸ばした。</p><p>ごめん、まさか眠っちゃうなんて</p><p>良い。油断は俺にもあった</p><p>流石に申し訳なさそうな二人に、Olはしかめ面でそう答えた。</p><p>油断と言っても、普段の彼らがあそこまで気を抜くなどということはありえない。</p><p>あれはおそらく、法術によるものだ</p><p>あ、マリーか！</p><p>魔術や物理的な罠であればOlが、毒や薬であればホスセリが見破れるが、法術ばかりは見つけるのが困難だ。</p><p>法術というのは無から有を生み出す魔術と違って、元々の性質を強めることが得意だという。Olたちの心に刻み込まれた、風呂は安全で寛げる場所であるという意識を強めるような法術がかかっていたのだろう。</p><p>ユツがソフィアに協力しているのだから、マリーが協力していることもまた予想すべきだったのだ。それを事前に気付けなかったこと自体が油断と言える。</p><p>まあでも大丈夫だよ！剣はOlが拾ってくれたし。攻撃は避けるから</p><p>ユニスは腰の剣をぽんと叩いて言う。だがその身には鎧どころか服すら着ておらず、剣帯の他には腰と胸を隠す下着だけが覆っていた。褐色の肌と白い下着のコントラストは、全裸よりも情欲を誘う。</p><p>忍びは己の肉体を凶器とする訓練も積んでいる。何も着ていない方が強いくらい</p><p>だがそれはまだマシな方で、ホスセリに至っては何も身につけていない、生まれたままの姿だ。流石に見かねたOlがローブを貸そうかと提案したが、動くのに邪魔になると断られてしまった。</p><p>二人ともそんな格好をしながら全く恥ずかしがるような様子もなく、前衛の務めとばかりにOlの前を歩く。</p><p>下着に包まれたユニスの大きめの尻と、きゅっと引き締まったホスセリの尻が目の前で揺れる。</p><p>流石に前が突っ張って歩けない、などという愚を犯すほどに若くはないが、中々にその光景は目の毒だった。</p><p>あっ、また敵だ。行くよ！</p><p>服なんて要らないということを証明してみせる</p><p>次に襲い掛かってきたのは、かつてOlが試練の山に足を踏み入れたときに襲い掛かってきたのと同じ、一つ目の鬼であった。マリーとユツでは苦戦していた相手だが、ユニスとホスセリの前には敵ではない。</p><p>押し寄せるように迫りくる鬼どもを片端から斬り捨てていく。</p><p>宣言した通りユニスは相手に影をも踏ませず、ホスセリの蹴りや手刀は剣にも比類する鋭さで鬼の首を刎ねていく。</p><p>だがその度に乳房が揺れ、美しい脚が躍動する。ホスセリなど、大きく脚を上げて蹴りを放つものだから秘部までもが丸見えになっていたが、全く頓着した様子もなかった。</p><p>やっと片付いたー。大して強くなかったけど、数だけは多かったね</p><p>これは姫様が呪で作った式鬼。幾らでも生み出せる</p><p>優に百体は倒しただろうか。二人は呼吸一つ乱すことなく一つ目鬼たちを撃退したが、温泉で温まった身体で運動したからか、しっとりとした汗を滲ませていた。それがまた何とも言えず扇情的で、Olはしかめ面にますます力を込めた。</p><p>Ol、大丈夫？怪我でもした？</p><p>そんなOlを、ユニスが間近から見上げる。小柄だが均整の取れた体つきは鍛えられているにも関わらず女性的な丸みを失っておらず、薄い胸の膨らみもこうして下着姿で見ればしっかりと谷間を形作っていて、目の前から上目遣いで見られると凄まじい破壊力があった。</p><p>いや、何の問題もない。何もな</p><p>緩みそうになる口元をぐっと引き結んで言えば、ユニスは不思議そうに首を傾げ、ホスセリは勘付いて言う。</p><p>口だけで良ければ、抜いてあげようか</p><p>要らんわ、愚か者っ！</p><p>Olの怒鳴り声が、迷宮に響き渡った。</p><p>にしても、お風呂に入って運動して、ちょっとお腹空いちゃったねえ</p><p>ユニスがそんなことを言った矢先のことだった。</p><p>通路の先、小さな部屋にホカホカと湯気を立てる料理が用意されていたのは。</p><p>いや、食べないよ！？流石にね！？</p><p>疑わしげなOlの視線に、ユニスはぶんぶんと首を振る。</p><p>毒はないみたい</p><p>いや、食べないってば</p><p>念のため毒の有無を確認するホスセリに、ユニスは言いつつふと何故こんな罠があるのか考えた。</p><p>いくらなんでもこんなのに引っかかる馬鹿がいないことくらいは、ユニスにだってわかる。</p><p>だがソフィアの罠は先程から、見た目はともかく中身は見事なものだった。</p><p>何せOlさえ引っかかる程なのだ。</p><p>そこまで考え、ユニスは気づいた。気付いてしまった。</p><p>自分がこんな罠に引っかかる馬鹿だということに。</p><p>ごめんOl、あたしこれ食べる</p><p>正気か！？</p><p>こくりと頷きながら、ユニスは椅子に座って手を合わせると、食事前の祈りを捧げる。</p><p>口を付けてみれば案の定、料理は既に少し冷め始めていた。</p><p>一体何故</p><p>ユニスが魔術や法術で操られているわけではないことは、既に確認済みだ。</p><p>彼女は彼女自身の意思で、食事をとっている。</p><p>だってぇ</p><p>泣きそうな声で、ユニスは答えた。</p><p>これリルの作ったご飯なんだもん～</p><p>食事を取ることの出来ないリルが料理を習得するのにどれほど苦労してきたのか、その味見役を引き受けていたユニスが一番よく知っている。</p><p>親友が丹精込めて作った料理を食べずに冷めて台無しにしてしまうことなど、ユニスにはどうしてもできなかった。</p><p>しかもその味付けがまた、Olではなくユニス好みのものになっていて。</p><p>あの悪魔めぇ～、美味しいよう～</p><p>呪詛を吐きつつ、ユニスはもぐもぐと料理を噛みしめる。</p><p>ご馳走様でしたっ！</p><p>全ての料理を食べきって、パンと手を合わせたところで、彼女の身体は座っている椅子ごと落とし穴の下に落下した。</p><p>ユニスーーーーーーーー！</p><p>念のためキューブで床を覆い、転移にも対応できるように魔術の準備をしていたのに、それらは全く役を果たさなかった。見えざる迷宮さえ透過して落とし穴に落とすような真似が可能なのは一人だけ。ミシャまでもが協力していると見て間違いなかった。</p><p>となれば、ユニスが転移で復帰してくるのも期待できない。ミシャの境界を操る権能は、繋ぐだけでなく遮る側にもその効果を発揮するからだ。</p><p>認めねば、なるまい</p><p>ホデリが容易く脱落し、装備を剥ぎ取られ、ユニスまでもが罠にかかった。</p><p>油断がなかったとは言えないが、この結果はそれだけではない。</p><p>ソフィアの作り上げた罠が、純粋にOlの上を行っているのだ。</p><p>だがまだ、ダンジョンマスターとして負けてやるわけにはいかぬ</p><p>Olはもはや形振り構わず、この迷宮を攻略することを決めた。</p><p>第8話初めての親子喧嘩をしましょう-6</p><p>あれ？</p><p>どーしたのー、ソフィア</p><p>暇そうにテーブルに突っ伏しながら、リルは怪訝な声をあげるソフィアに尋ねる。</p><p>罠や魔物に苦戦するOlたちとは対照的に、こちらには極めてのんびりとした空気が流れていた。</p><p>パパがいなくなっちゃった</p><p>ソフィアが言うと同時、虚空にいくつもの映像が浮かんだ。</p><p>それこそがソフィアが見ている景色。ダンジョンの中の様子だった。</p><p>通路や部屋など様々な場所の景色が映っているが、そのどれにもOlの姿は見られない。</p><p>映像は次々に切り替わっていくが、ダンジョンのどこにもOlはいないようだった。</p><p>一旦ダンジョンの外に出て態勢を仕切り直しにということでしょうか？</p><p>あー、わたしわかっちゃった。多分こういうことでしょ</p><p>うむ。そういうことじゃ</p><p>首を傾げるサクヤに、付き合いの長いリルはOlのとった手段を予想してテナに視線を向ける。</p><p>Olの行動とリルの答えとを両方予見して、テナは頷いた。</p><p>あやつの行動は我にも読めぬからな。此度は一体何をするやら</p><p>ボクにも全然わからないです</p><p>おうるもごはんたべにかえったのかなー？</p><p>ミシャが楽しげに腕を組みながら言い、ユツは生真面目に考え込んで眉根を寄せ、タツキは本日三回目の昼食をもぐもぐと頬張りながら首を傾げる。</p><p>殿はこちらにお出でなさるのか？某は一体なんと言って詫びれば</p><p>大丈夫大丈夫、Olはあのくらいで怒ってないから</p><p>どっちかって言うとユニスの方が酷いよね</p><p>頭を抱えるホデリに気楽な調子でユニスがいい、マリーはそれを見て苦笑した。</p><p>だってリルのご飯だもん！食べなきゃ！</p><p>うんうん、嬉しいけど、あなた馬鹿でしょ</p><p>リルは呆れながらも、ぐっと拳を握って力説する親友の頭を撫でる。</p><p>リルのごはん、おいしいもんね</p><p>その後ろで、タツキがこくこくと頷いていた。</p><p>わかんないよー、ママ、いじわるしないで教えてよう</p><p>だーめ。わたしたちは中立。力は貸してあげるけど、どうするのかを考えるのはソフィアの役って言ったでしょ？</p><p>困ったように眉を寄せるソフィアに、マリーはそう言い聞かせる。</p><p>それにどっちにしろ、そろそろ到着するんじゃないかな</p><p>マリーがそう言った瞬間のことだった。</p><p>突然天井が爆発したかと思えば、瓦礫がソフィアの頭上に降り注ぐ。</p><p>その瞬間、反応したのは三人だった。</p><p>ユニスの斬撃が虚空を飛んで、巨大な岩を粉々に打ち砕く。</p><p>次いでサクヤが扇を振るうと、空間が爆ぜてまだ形を残す石の塊を崩す。</p><p>最後にタツキが食事をもぐもぐと食みながら尻尾をちょいと動かせば、海水が竜巻のように巻き起こり、落下する砂礫をさらって洗い流した。</p><p>ソフィアの身体には、砂粒一つかからない。</p><p>捕まえたぞ、この悪戯娘め</p><p>驚きに目を見開いて反射的に天井を見上げるソフィアを、Olは床に空いた穴から飛び出し、抱きすくめた。</p><p>反撃はせぬか</p><p>油断せず構えを解くことなく、Olは一同を見渡す。</p><p>しないよー。ここまで辿り着いた時点でOlの勝ちだし</p><p>リルの言葉にひとまず頷き、Olはソフィアを床に降ろした。</p><p>やはりユニス、サクヤ、タツキの戦闘能力は頭抜けている。ユニスはともかくサクヤとタツキに迎撃されては溜まらないので先にソフィアを狙って攻撃したが、どうやらそれは杞憂のようだった。</p><p>で。一体どういうつもりか、説明してもらおうか</p><p>パパ、どこから出てきたの？</p><p>Olの質問に、ソフィアは問いで返す。</p><p>無論、俺のダンジョンからだ</p><p>嘆息しつつ、Olは種明かしをした。</p><p>この火山のダンジョンは元々溶岩洞だけあって、ダンジョン化されている部分以外にも多くの空洞がある。それを魔術で探知して転移し、俺自身のダンジョンをお前の中に新たに作って掘り進んできたのだ</p><p>何せ溶岩洞の中を流れるマグマは魔力の塊。形を持った龍脈そのもののようなものだ。ダンジョンコアがなくとも魔術は使い放題で、もう一つ小さなダンジョンを作ることは造作もなかった。</p><p>いつかのスピナと同じ手ね</p><p>リルの言葉に、まさか弟子の真似をする羽目になるとは、とOlは頷く。</p><p>ソフィア。お前の弱点はダンジョンしか知らぬこと。その外に注意を向けなかったことだ。だが侵入者は常に</p><p>Olの説教は、ソフィアの表情の前に途切れた。</p><p>顔をくしゃりと歪め、今にも泣きそうな目で彼女はOlを見つめる。</p><p>パパは</p><p>そういえば、ソフィアはへそを曲げていたのだった。</p><p>そんなところに説教などするものではなかったか。</p><p>パパはわたしより、自分のダンジョンの方が良いんだ！</p><p>そんな考えは、ソフィアの叫びの前に消し飛んだ。</p><p>などういうことだ？</p><p>パパはソフィより、おっきくて、べんりで、つよくて、きょうあくな、あのこの方が好きなんだもん！ソフィなんていらないんでしょ！</p><p>捲し立てるように言うソフィアの価値観に、Olは目を剥く。</p><p>構ってやれていなくて拗ねている。他の女に嫉妬している。</p><p>Olの予想は二つとも当たっていたが、同時に二つとも見当外れだった。</p><p>まさか嫉妬の対象が他のダンジョンだとは、思いもよらなかったのだ。</p><p>馬鹿なことを、言うな</p><p>そういいながらも、Olは助けを求めるように視線を彷徨わせる。</p><p>だがリルもユニスもマリーも、気まずげに視線をそらした。</p><p>彼にとってダンジョンというものが何よりも大事だと知っているからだ。</p><p>それは別に、妻たちを軽んじているわけではない。むしろその逆とも言える。</p><p>Olにとってダンジョンとは身内を守る壁であり盾であり家だ。</p><p>失われれば仲間を守ることが出来ず、それゆえにその価値は仲間の総和にも等しい。</p><p>が、そんな理屈はソフィアに対しては通用しなかった。</p><p>なぜなら彼女自身がダンジョンであるからだ。</p><p>Olのダンジョンは、ソフィアを決して守れない。</p><p>パパはソフィより、自分のダンジョンの方が大事なんだもん</p><p>お前の方が大事だ、と嘘をつくのは簡単だった。</p><p>老獪な魔術師にかかれば幼い子供一人騙す事など容易い事だ。</p><p>そうかも、知れんな</p><p>だがOlにはどうしても、そうできなかった。</p><p>彼は片膝をつきソフィアと視線の高さを合わせると、涙を浮かべた瞳を見つめる。</p><p>だがそれは、お前のことを大事だと思っていないという事ではない。俺にとってはどちらも等しく娘。お前にとっては姉のようなものだ。どちらの方が好きだなどとは言えぬし、要る要らぬで語れる話でもない</p><p>お姉ちゃん？</p><p>幾らか落ち着いた様子のソフィアに、Olは頷く。</p><p>そうだ。それにあちらには一年も会っていなかったのだぞ。再会を喜んでやらねば、そっちの方が可哀想だろう。わかるな？</p><p>諭すように言えば、ソフィアはこくんと頷いた。</p><p>うむ。ソフィアは良い子だ</p><p>頭を撫でてやればようやく笑顔が見えて、Olはほっと胸をなでおろす。</p><p>パパ、ソフィアの中、よかった？楽しかった？</p><p>ああ。上出来と言ってよかろう</p><p>何せ真っ当に攻略することは諦め、奇手を使わざるを得なかったのだ。</p><p>ダンジョン探索者としてのOlは敗北したと言っていい。</p><p>やったあ！もっともーっと頑張って大きくなって、お姉ちゃんやママたちみたいにソフィの中で楽しんで貰うんだ！</p><p>姉はわかるがマリーはダンジョンではなかろう</p><p>でもいつもパパ、ママや他の女の人の中に入って楽しんでるでしょ？</p><p>ソフィアはダンジョンそのものだ。</p><p>無論、その中での行動は全て彼女に筒抜けになっているわけで。</p><p>今度から、俺の寝室の中は覗かぬようにしろ</p><p>え、なんで？</p><p>首を傾げるソフィアを説得するのには、へそを曲げた時よりも大変な労力を要したのだった。</p><p>閑話先達の知恵を借りましょう</p><p>杯に注いだ琥珀色の液体を、ぐっと喉に流し込む。</p><p>灼けるようなのど越しに思わず顔を顰めるが、Olは一息にそれを飲み干した。</p><p>珍しいこともあるものだ</p><p>野太い声が突然、背中から降り注ぐ。</p><p>一瞬前までそこには何の気配もなかったはずだが、彼ならOlに悟られずに近づくことなど訳はないのだろう。</p><p>貴様が酒を飲むなど。しかもそれに</p><p>身の丈六フィート半(約二メートル)、豊かな髭を蓄えた偉丈夫。</p><p>俺を誘うなどとはな</p><p>英雄王、ウォルフ。今は英霊となり白く染まったかつての王は、Olの横にどっかりと腰を下ろした。</p><p>まあな</p><p>Olは不愛想に答え、スピナの分体が二人の杯に無言で麦酒を注ぐ。</p><p>おお、すまんな。では何に乾杯する？</p><p>別に祝い事があるわけではない。そんなことをするような仲でもなかろう</p><p>つれぬなあ、義理の息子よ</p><p>笑って酒を飲み干すウォルフに渋面を作りながら、Olもそれに倣って麦酒を口にする。</p><p>酒はあまり好きな方ではないが、飲んででもいなければやっていられなかった。</p><p>英霊は、酒を飲めるのだな</p><p>おう。必要ではないが、飯も食えるぞ。飲み食いすれば多少なりと身体を賄う事は出来る</p><p>ウォルフほどの大英霊ともなれば、その召喚に必要な理力は莫大なものとなる。それを軽減するために、現界しているウォルフはよく飲みよく食べた。</p><p>いつぞやはマリーに手を貸してくれたな。礼を言う</p><p>ああ。あの程度、別になんでもない。若い娘の身体に宿るというのもなかなか愉快な体験よ</p><p>言って下卑た笑みを見せるウォルフの様子には、かつて王として相対した時の威圧感はまるでなかった。恐らくはこれが、ウォルフディールという男の素の姿なのだろう。似ていないと思っていたが、その雰囲気はどこかユニスに通ずるものがあった。</p><p>だがそんな話をしに来たわけではあるまい？</p><p>見透かすように言うウォルフに、Olは杯を飲み干す。</p><p>機械的な動きでスピナはその杯に麦酒を注いだ。</p><p>こいつは命令に従う知性のみを残し、自らの意思で行動したり記憶したりすることのない特別製だ。まあ、気の利いたゴーレムのようなものと思えば良い</p><p>スピナを指してOlが言うと、ウォルフの目が僅かに鋭く細められた。</p><p>つまりこの場に話を聞いているものは、Olとウォルフしかいないという事になる。</p><p>これは余程の話であろう、とウォルフは表情に出さぬまま覚悟だけを決めた。</p><p>には、どうすればいい？</p><p>Olの言葉を捉え損ね、ウォルフは聞き返す。</p><p>娘を幸福にしてやるには、どうすればいいのか、と聞いておる</p><p>一瞬の沈黙。</p><p>その後、まるで爆発するかのような笑い声が、小さな酒場の中に響いた。</p><p>笑うな。恥を忍んで聞いておるのだ</p><p>いや、すまぬ。だがどんな大事かと思えばそうか、魔王も人の親か</p><p>俺の娘はどうやら人ではなさそうだがな</p><p>吐き捨てるように、Olは言った。</p><p>関係あるまい。娘は娘、悩むは同じことであろう</p><p>未だ笑いの余韻を残しつつも、ウォルフは表情を真面目なものに取り繕う。</p><p>思えば俺もユニスにはずいぶん手を焼かされたものよ</p><p>それだ</p><p>酒を煽るウォルフに、Olは頷く。</p><p>ウォルフよ。お前は親としての先達だ。そしてユニスのような娘を立派に育て上げた父でもある。恥を忍んでお尋ねする。どうしたら、父親は娘を幸福にしてやれるのだ？</p><p>なるほど。娘を幸せにする方法か</p><p>ウォルフはゆっくりと腕を組み、しばし瞑目した。</p><p>その極意とは！</p><p>眉間に力を込めるウォルフに、Olはごくりと喉を鳴らす。</p><p>そんなもの、ありはせぬ！</p><p>ふざけているのか！？</p><p>そして出てきた回答に、思わず叫んだ。</p><p>ふざけてなどおらん。大体、親が子にしてやれることなどごく僅かよ。俺がしてやれたのは、アレの母が言い残したように、自由に育てさせてやっただけ。幸せにしてやるなどとは烏滸がましいにも程がある。赤子の頃ならいざ知らず、既に歩く力を持った子に親が出来る事など、せいぜいが進む道を邪魔せぬようどいてやる程度のものよ</p><p>だがウォルフは生真面目な表情で、Olを見下ろす。</p><p>だが俺は、全てはお前が敷いた道だったのではないかと思うときがある。ユニスを英雄として殺し、英霊として俺の下へとつかわせた。ユニスが幸福になるにはあの道しかなかったし、それを指示できる人間はお前しか</p><p>随分買いかぶってくれたものだ。ふん。晩年こそ賢王だ英雄王だと持て囃されたが、俺の根など所詮は喧嘩馬鹿よ。そんな先まで見通す事など出来るものか。偶然だ、偶然</p><p>英雄は長く生きるほど、その最期にも濃く影を落とす。ウォルフは若い頃に出会った何人もの英雄の末路から、それをよく知っていた。故に、ユニスを苦しめぬようザイトリードに命じて殺させた。</p><p>この男ならばあるいは天を相手に一矢報いるかもしれぬとは思いはしたが、まさかその後一家で英霊として呼び出されようなどとは、誰が想像するものか。</p><p>だが</p><p>もしそれが偶然でないというのならば、魔王Ol</p><p>なおも言い募るOlの瞳をしっかと捉え、ウォルフは言った。</p><p>それはお前がやったのだ。お前が、ユニスを幸福にしたのだ</p><p>考えてもいなかったのか、Olは目を大きく見開く。</p><p>俺は頼むと言い、お前は引き受けた。そして今アレは子を成し、幸せそうだ。ならば誰の功であるかなど、考えるまでもあるまいよ</p><p>そこまで言ってウォルフは酒を飲み干して、息をつく。</p><p>感謝せねばならぬのは、俺の方だ</p><p>そして、深く頭を下げた。</p><p>非公式の場とはいえ、稀代の戦士にして王の頭だ。軽いものではない。</p><p>Olは頷き、不器用にその謝意を受け取る。</p><p>気まずげに彼が酒に口をつけたところで、ウォルフは顔をあげると意地の悪い笑みを浮かべた。</p><p>故に娘が幸せになるかどうかは、親ではなく連れ合いに依るという事だな</p><p>途端、Olは口に含んだ酒を吹き出しそうになる。</p><p>つ、連れ合いだと！？</p><p>そうだ。お前の娘もいずれは知らぬ男をつれてくるのだろうな。認めれば娘はとられ、認めねば娘に嫌われる。何とも素敵な話ではないか</p><p>馬鹿を言うな、ソフィアはまだこんなに小さいのだぞ。そんな話は早すぎるわ</p><p>ふっ。愚かなり魔王。子の成長は早いぞ。特に娘ともなればあっという間よ。光陰矢の如しというが、女の成熟ときたら雷光よりも早い。ついさっきまで赤子と思っていた娘が、気付けば化粧の真似事など始めるのだぞ</p><p>ぐ、とOlは言葉に詰まる。確かにソフィアはつい最近まで赤ん坊だと思っていた。</p><p>ソフィアに限って言えばそもそも物理的に実際成長が人間よりも遥かに早いのだが、酔った頭ではそこまで思い至らない。</p><p>そんな馬鹿な話があってたまるものか！この死にぞこないめ、地獄に落ちてしまえ！</p><p>Olよ。恩人よ、俺から宝を奪っていった憎き男よ！ならば俺はその地獄とやらからお前の宝が同じように奪われていくのを、楽しみに見物させてもらうぞ。高笑いしながらな！</p><p>ははははは、と高笑いするウォルフの杯に、スピナはとくとくと機械的に酒を注ぐ。</p><p>酔った二人は気づいていない。目の前の女の姿をしたスライムに、飲み終えるという機能がついていないことを。</p><p>無限に注がれる酒を飲み干し続け。</p><p>翌日Olは、二日酔いに苦しむことになるのだった。</p><p>第9話氷の女王を持て成しましょう-1</p><p>服を脱げ</p><p>エレン、セレス、ミオの三人は、呼び出されるなりOlから発せられた言葉に、思わず顔を見合わせた。</p><p>彼の寝室に来いと言われたのは昼食を終えた後のこと、真昼間と言って良い時間帯。</p><p>確かにOlは好色な王ではあるが、性根は生真面目だ。</p><p>日中にわざわざ呼びつけて、というのは珍しいことだった。</p><p>とは言え否やがあるでもなく、三人は言われた通りに服を脱ぎ始める。</p><p>待て、下は良い。上だけ脱いでおけ</p><p>セレスがまずスカートの中の下履きをするりと抜くとOlはそんなことを言い出して、三人は再び顔を見合わせる。今日の主人は随分とマニアックな趣向をお試しになるらしい。</p><p>言っておくが、別に今からお前たちを抱くわけではない</p><p>そんな妻たちの視線に気付いたのか、Olはやや憮然としながら何やら軟膏のようなものを取り出した。</p><p>今からお前たちに、鍵を付与する</p><p>琥珀色をしたそれは指先につければとろりと伸びて、軟膏と言うよりは絵具に近い。</p><p>その呪をかける処置をするだけだ。妙な事は</p><p>言いかけて、Olは眼前の光景に目を奪われる。三人の妻が言われた通りにすっかりと準備を整えて、その胸をさらけ出していたからだ。</p><p>張りに満ち満ちてツンと尖ったエレンの乳房や、たっぷりとして蕩けるほどに柔らかそうなセレスの胸は言うに及ばず、普段の服装からは想像もつかないほど立派なミオの双丘も、その控えめな佇まいと相まってかえって強烈な存在感があった。</p><p>それらが三対六つ並んだ様子は、正に絶景という他ない。</p><p>考えるでない</p><p>思わずむしゃぶりつきたく気持ちを押し込めてOlは言った。</p><p>彼がその光景に見とれていたのは僅かに一瞬だったが、妻たちは敏感にそれを察して忍び笑いを漏らす。</p><p>これは全てOl様のもの。お好きなときにお好きなようにされて構いませんのに</p><p>やかましい</p><p>Olは絵具をたっぷりと掬い取ると、セレスの胸元に叩きつけるようにして塗りたくった。</p><p>途端、ぴりりと走る感覚に、セレスは声を漏らした。</p><p>魔力を通しながら塗るからな。少し痛むかも知れん。堪えられぬようなら言え</p><p>い、いいえ痛くはありません</p><p>ふるふると首を振り、セレスは答える。</p><p>事実彼女が感じているのは痛みではなく</p><p>んぅっ！</p><p>微かな快楽であった。</p><p>Olの指が肌を撫でていくたび、その経路を沿うようにして痺れるような甘い疼きが走る。それは彼の描く紋様が大きく複雑になっていくほど倍増されて、セレスは喉の奥から漏れ出る喘ぎを懸命に堪えた。</p><p>ふ、ぁんっ</p><p>だが喘ぎを我慢する姿が余計に艶めかしいことにまでは、考えが至らなかった。</p><p>セレスの水晶のような透けるほどに白い肌が赤く染まり、耐えるように目を伏せて震えるさまは同性のミオですら息を呑むほどだった。</p><p>次はエレンだ</p><p>くたりとしてベッドに横たわるセレスを背に、Olはエレンに向き直る。</p><p>うむ。私は白の姫君のような無様は晒さんからな。安心してくれ</p><p>エレンは自信満々そう言って、Olに胸を突き出した。</p><p>その言葉は半分正解で、半分間違いだった。</p><p>ああああっ！だめぇっ、これ、きもちよすぎるのぉっ！</p><p>彼女は全く堪えることなどなく十全にその快楽を甘受し、声高に喘ぎ、一度絶頂に至りさえした。</p><p>確かにセレスの様子とは全く違うが、どちらが無様かと言うと議論の余地があるだろう。</p><p>お、お願いします</p><p>恐る恐る、と言った様子で胸元を開くミオは、そう言った意味ではもっとも善戦した。</p><p>彼女は喘ぎ声を漏らすことも、快楽に我を忘れることもなかったからだ。</p><p>Ol様、Ol様、Ol様、Ol様</p><p>しかしOl自身にとっては、愛おしげにOlの名を呼び続ける彼女の様子が一番堪えるものだった。</p><p>これで良い。後は乾くのを待つのみだ。乾けばその紋様は見えなくなるから安心しろ</p><p>三人の身体に紋様を描き終えて、Olは深く息を吐く。</p><p>ふむ。では乾くのを待つ間少々暇だな</p><p>そうですね</p><p>何やら意味有りげな視線をよこすエレンに、セレスが深く頷いて同意する。</p><p>あの、Ol様。ここ、お辛くないですか？</p><p>かと思えばミオまでもが、Olの下腹部を撫でさすった。</p><p>妙な気を回さんで良い。下手に動くと紋様がよれて書き直しになる。悪いが抱いてやることはできん</p><p>例えば後背位のような直接胸元に触れないような体位でも、四つん這いになれば彼女たちの胸の大きさだとぎゅっと乳房が寄せられて絵具が滲んでしまう。肌の触れ合う正常位などもっての外だ。</p><p>下手に動かなければ良いのだろう？</p><p>片手だけであれば、動かしても構いませんよね</p><p>そう言って、エレンとセレスはOlの腰に手を伸ばした。</p><p>お口でなら、大丈夫ですよね</p><p>半勃ちになったOlの逸物をエレンとセレスのしなやかな指が擦り上げ、大きくなったその先端をミオがぱくりと口に咥える。</p><p>確かにそれなら紋様は大丈夫だろうが</p><p>咎めだてする気力は、すぐに萎えた。三人が完璧なコンビネーションで、Olのモノを攻め始めたからだ。</p><p>弓を巧みに操る繊細な指は、肉槍に持ち替えても健在なようだ。茶褐色と白色の指がまるで睦み合う蛇のようにOlの男根に纏わりつき、絶妙に弱いところを擦り上げる。そしてそれに合わせて、ミオはその先端を舐め、唇で食むようにしながらちゅうと吸う。</p><p>くっミオ、上達していないか？</p><p>れんひゅう、ひまひたはら</p><p>Olのものを咥えたまま、ミオは答える。つい先日同じように彼女が口で奉仕した時は、慣れない故にたどたどしいものだった。だが今は、Olでさえ思わず呻いてしまうほどの舌技で攻めてくる。</p><p>今までどちらかと言うと消極的だった彼女が何か心境の変化でもあったのか。短期間で凄まじい上達を遂げていた。</p><p>あん。Ol様ったら</p><p>良いぞ。主殿の好きに触ってくれ</p><p>堪らずOlがエレンとセレスの尻に手を伸ばすと、二人は妖艶な笑みを浮かべてそれを許した。胸の大きさはほとんど同じ程度の二人だが、尻の方は随分違う。むっちりとして揉みごたえのあるエレンの尻を鷲掴みにするようにしながら、セレスのほっそりとしたヒップを撫でるように味わう。</p><p>ぐっ出すぞ！</p><p>そうしているとミオが一際強く吸い上げて、Olは堪らずそう宣言した。</p><p>はい来てください</p><p>ミオが唇を離すと舌を大きく伸ばして先端をチロチロと舐め、エレンとセレスの指がスパートをかけるように速度を早めながら擦り上げる。</p><p>呻くようなOlの声とともにその先端から白濁が迸り、ミオはそれを大きく開いた口と舌とで受け止めた。だが大量に吹き出す精はそれだけで受け止めきれるものではなく、彼女の顔や小麦色の髪にも降り注ぎ、穢していく。</p><p>すまぬ。大丈夫か</p><p>顔いっぱいに精液を浴びたミオに声をかけると。</p><p>顔にも紋様を描かれちゃいましたね</p><p>ミオは照れくさそうにそう言って、笑った。</p><p>おお、これは凄い</p><p>エレンは思わずそう声をあげた。</p><p>まさに絶景と称するに相応しい光景ですね</p><p>セレスもまた、目を丸くする。</p><p>はー</p><p>ミオはもはや言葉もなく、ただただ感嘆の息を漏らした。</p><p>彼女たちの目の前に広がるのは、紅蓮の大瀑布。</p><p>視界いっぱいに流れ落ちる溶岩の滝であった。</p><p>お前たちの足元にあるのが、各所に繋がる陣だ</p><p>Olは床の魔法陣を指差して言う。</p><p>そこには赤、緑、そして黄に輝く魔法陣が描かれていた。</p><p>赤が火山の、緑が森のダンジョンの入り口へとつながっている。そして黄が魔王宮お前たちが今やってきたダンジョンから、ソフィアへと通ずる道だ</p><p>最近Olは、本拠地のダンジョンの事を魔王宮と呼ぶことに決めた。</p><p>魔王の迷宮であり、同時に魔の国の王宮という意味でもある。</p><p>そして今まで新大陸のダンジョンと呼んでいたものはソフィアとか、ソフィアのダンジョンと呼ぶようになっていた。</p><p>全てお前たちに描いたような、鍵を持つ人間でなければ通ることはできん。肌に傷を負う程度であれば問題ないが、解呪には気をつけろよ</p><p>鍵を持っていない者が通ろうとすればどうなるのだ？</p><p>運次第だ。いかに運が良かろうと居住区に飛ぶことはないが、運が悪ければ</p><p>エレンの問にOlは言いながら、溶岩の滝へと目を向ける。</p><p>あの中だな</p><p>なるほど、気をつけよう</p><p>石の中に転移するならまだマシだ。苦しむほどの間もないし、少なくとも死骸はそこに残る。</p><p>いつか掘り出される望みがないわけではない。</p><p>しかし全身を溶けた石に焼かれながら死ぬのは相当の苦しみを伴うことは容易く予想できたし、後には骨も残らないのだ。</p><p>さて、このままソフィアの中を案内しても良いが</p><p>Olはチラチラと緑の魔法陣に視線を送る三人に嘆息する。</p><p>森のダンジョンが気になるのだな</p><p>やはりアールヴと致しましては</p><p>見たことない動物が、たくさんいるんですよね？</p><p>最後の一人の言葉に、どうやら森のダンジョンに行くことを希望しているのはどちらかと言うとアールヴたちではなさそうだとOlは悟った。</p><p>まあよかろう。行ってこい</p><p>どうせそう言うだろうと思って、魔獣にもわざわざ鍵の呪を施し連れてこさせたのだ。</p><p>鋭い嗅覚と六つの瞳でけして敵を見逃さない三つ首の猛犬ケルベロスと、翼と毒を持ち魔術までも操る魔獣キマイラ。この二体に加え弓の名手であるエレンとセレスを森の中で倒しうる勇者など、ラファニス大陸全土を見回してもそうはいまい。</p><p>Ol様の迷宮には、あのような恐ろしい姿をした怪生がいるのですね</p><p>ミオたちを見送ると、サクヤが姿を見せてそう言った。</p><p>そう言えばこいつがいたか、とOlは内心思う。縦横無尽に強力な火炎を操る彼女とは、ミオたちは相性が悪い。勝てないかもしれない相手の一人だ。</p><p>まあ一番の化物はそれを連れた娘なのだがな</p><p>それでは、ホデリたちの本性を見ても小魚と子犬のようなものですわね</p><p>扇で口元を隠しながら、その化物に完勝できる可能性のある女はクスクスと上品に笑った。</p><p>本性か。神にかけられた呪いだとか言っておったが</p><p>まさかサクヤがかけたものではないだろう。とすれば、敵対する神が他にいるということだ。</p><p>いずこの神かは妾も存じません。ですがあの姿で放浪しているのを哀れに思い、名を与え人の姿を宿して以来、彼らは妾に従ってくれているのです</p><p>なるほどないや待て。話が合わん。奴らは代々お前に仕えていると言っておったぞ</p><p>あの呪いは子孫にも受け継がれるのです。ですから最初に拾ったのは、千年前だったか、二千年前だったか</p><p>記憶を掘り起こすかのように形の良い眉を寄せるサクヤ。</p><p>その凄まじい時間感覚に、Olは絶句した。</p><p>ねえ、パパ</p><p>Olがサクヤと過ごしていると、ふとソフィアが姿を現した。</p><p>あの女のひとたちは、パパのおともだち？</p><p>ミオたちのことか？まあそんなようなものだ</p><p>流石に全て妻だとは言いづらく、Olは言葉を濁す。</p><p>じゃああの白い服の人たちは？</p><p>白い服だと？何人もいるのか？</p><p>ソフィアの言葉に、Olは首を傾げる。</p><p>セレスは白い服を着ていたが、今日は部下を連れてきていない。</p><p>うん。たくさんいて</p><p>ソフィアで両手を掲げると、Olの目の前に映像が映る。</p><p>パパのおともだちと、けんかしてるの</p><p>ごろり、と何かが地面に転がった。</p><p>Olは己が見ている光景を信じられず、目を大きく見開く。</p><p>そこにいたのは、毛皮で出来た衣服に身を包んだ何人もの男たち。</p><p>そして、目を大きく見開いたまま地面に転がり、ぴくりとも動かないミオの姿だった。</p><p>第9話氷の女王を持て成しましょう-2</p><p>馬鹿な。奴らがこうも短時間でやられるだと！？</p><p>Olは叫びながら、右手で複雑な印を結ぶ。</p><p>彼女たちに付与した鍵には転移の魔法陣を通ることができるだけでなく、その位置や状態を知る機能もついていた。</p><p>そして返ってきたその反応に、Olは沈黙する。</p><p>場所は森のダンジョン。ソフィアが映し出している場所で間違いなく。</p><p>そしてその心臓は、完全に停止していた。</p><p>ミオだけではない。エレン、セレス。ついでに二体の魔獣もだ。</p><p>ソフィア。急ぎリルとユニス、スピナにこのことを知らせ呼んでこい。それとタツキに、テナの奴もだ</p><p>Olはぎりりと歯を鳴らしながらも、沸き立つ感情を抑えてソフィアに命ずる。</p><p>例えミオたちを容易く倒す実力があろうと、ソフィアのダンジョンを踏破するのはそう簡単なことではないはずだ。その間に戦力を整え、迎え撃たねばならない。</p><p>敵は春に攻めてくるというテナの予知を全面的に信じていたわけではない。</p><p>外れる可能性も無論考慮はしていた。</p><p>してはいたが、まさかこれほどの危機を見逃すとも思っていなかったのも事実であった。</p><p>テナならすぐそこの部屋にいたはずです。妾が呼んで参りますわ</p><p>ああ、頼む</p><p>サクヤが言って姿を消した、その瞬間であった。</p><p>緑の魔法陣が光り輝き、転移の兆候を示す。</p><p>ミオか？</p><p>振り向いたOlを、光り輝く壁が取り囲んだ。</p><p>馬鹿、な</p><p>そこにいたのは見も知らぬ、紫の髪の女だった。</p><p>分厚い毛皮の服に身を包んだ、どこか気品を感じさせる柔らかな物腰の女だ。</p><p>お邪魔しますね。無作法を許して頂けると嬉しいのですけれど</p><p>いや、正確にはOlはその姿を知っている。先程ソフィアが映し出した光景に見えた白い軍団の中に、たしかにこの女はいた。</p><p>女から視線はそらさぬまま、Olは周囲を囲む壁に指先を近づける。</p><p>ひやりとしたその感触に、すぐさまOlはその正体を悟った。</p><p>氷だ。</p><p>暖かな火山の迷宮の中だと言うのに、分厚い氷がOlを取り囲んでいた。</p><p>貴様は、何者だ？</p><p>Olは鍵に絶対の自信を抱いていた。</p><p>定着させれば目に見えず、見えたとしても精微を極めたその紋様はOlだからこそ描けるもの。</p><p>仮にその仕組みを推測できたとしても、複製などできるものではない。</p><p>魔法陣を通り抜けられるものは鍵を付与されたものだけで、例えミオたちを脅してともに魔法陣に乗ったとしても鍵を持たぬものは弾かれるだけだ。</p><p>故に、目の前にこの女が姿を現しているのはありえないことであった。</p><p>わたしはザナ。氷(ひ)の女王ザナと申します。よろしくお願いしますね。ええと、あなたは</p><p>だ</p><p>何でしょうか？</p><p>ザナと名乗った女は、Olの声を捉え損ねて一歩近づく。</p><p>Olが叫ぶと同時、ザナの下半身を見えざる迷宮(ラビュリントス)が拘束し、転移したユニスが彼女の首に向けて剣を振るった。</p><p>もう。名前くらい教えてくれたって良いではありませんか</p><p>嘘！</p><p>ユニスは目の前の光景に、目を大きく見開いた。</p><p>完璧な奇襲。完璧な一撃。予測などできるはずがなく、予測できたとしても防げるはずがない。</p><p>ユニスの剣は転移したそのときには既に、ザナの首筋に触れていたのだから。</p><p>だがその刃は、肉に食い込み血管を切り裂くまでの間に、冷たい氷によって封じ込められていた。</p><p>ごめんなさいね、本当はこんなことしたくはないのですけど</p><p>ザナはちらりと魔法陣に視線を向ける。そこには先程見た白い兵士たちが次々に転移してきて、担いでいたものをおろした。</p><p>すっごく説得力がないのはわかってるのですけれど、それでも言いますね。わたしに敵対する意思はありません。話だけでも聞いてくださいます？</p><p>ミオたちの身体に刃を突き付けながら、ザナは軽やかに問いかけた。</p><p>ああ、美味しい。素敵なお茶ですね、どうもありがとう</p><p>どういたしまして</p><p>テーブルに着き、優雅な動作で紅茶を口にしてにこやかに微笑むザナに、リルは棘のある口調で返した。</p><p>で、ええとわたしは名乗ったのですから、名前くらいは教えてくれてもいいと思うのですけど</p><p>白々しい。どのような方法をつかったかはわからぬが、転移陣を用いてやって来たお前が知らぬわけなかろう</p><p>そうですよね。普通はそう思いますよね。でも本当にわからないのです</p><p>ザナは困ったように眉根を寄せて首を振る。</p><p>太陽を知らないと言ってみろ</p><p>いいから、言ってみろ</p><p>わたしは太陽を、知りません</p><p>不思議そうにしながらも、ザナはそう言った。Olは視線は微動だにさせぬまま彼女の背後に立つリルを見ると、彼女は一度だけこくりと頷いた。嘘は見抜けているし、わざわざ言わせた嘘以外は嘘をついていないという合図だ。</p><p>魔王、Olだ</p><p>そうですか。よろしく、Olさん</p><p>Olが名乗ると、ザナはまるで旅先で出会った友人の様ににこりと笑った。</p><p>一瞬でOlたちを打ちのめしたくせに、その笑みには邪気や敵意と言ったものがまるでない。</p><p>簡単に言ってしまいますと。わたしはあなたと同盟を組みにきたのです</p><p>同盟だと？</p><p>ええ。氷室(ヒムロ)の女王として、砂原(サハラ)を滅ぼすための同盟を</p><p>そして昼食の話でもするような気軽さで、剣呑かつ重大なことを口にした。</p><p>わたしの能力を教えてしまいますと、最善手です。その時その時の最善手を打つことが出来るのです。だからここにやってこれたし、あなたとの交渉のテーブルにつくために力を示しました。そうでなければ話も聞いてくれなかったでしょう？</p><p>最善手、だと！？</p><p>そのめちゃくちゃな話に、Olは思わず目を剥いた。</p><p>未来を読むとかいうテナの能力でさえ大概であったが、ザナのいう事が真実であれば彼女のそれは比較にもならない。</p><p>だがそんな能力でも持っていない限り出来ない芸当をやってのけたのも確かなことだった。</p><p>だから勿論死んでませんよ、あの子達も。わたしの力で氷漬けにして仮死状態になってるだけだから安心して下さい</p><p>無論だ。そうでなければ手など組めるものか</p><p>渋面を作って頷きつつも、Olは内心胸を撫で下ろした。</p><p>魂が肉体の中に入っているのは確認したから、仮に死んでいても蘇生することは出来る。とは言えそれは必ず成功するという類のものではない。Olほどの術者が試みても十回に一度は失敗する。その心配がなくなったのは正直ありがたいことだった。</p><p>それだけの力を持ってるくせになぜ同盟など組みたがる？</p><p>勝てないから、です</p><p>端的に、ザナは答える。</p><p>この能力を持ってるからこそわかるのです。どれだけ最善手を打っても、わたしは砂原には勝てない</p><p>ザナの瞳が、鋭く光る。</p><p>だがそれも一瞬のことで、彼女は再びにこやかな瞳をOlに向けた。</p><p>その話に俺が応じると思うのか？</p><p>さあ？</p><p>Olが問うと、彼女は小首を傾げた。</p><p>わたしにわかるのは、こう頼むのが最善手ということだけです。あなたがいつ承諾してくれるかはわからないし、もしかしたら応じてくれないのかもしれない。でもどっちにしろ、わたしにとって良い方向に転がるのは間違いないのです</p><p>反則的なそれでいて、奇妙な能力だった。</p><p>そこまで出来るのなら、その結果もわかってしかるべきではなかろうか。</p><p>彼女の言うことを全て信じるのなら、最善手と言いつつもそれが何故最善であるか、本当に最善であるのか、ザナ自身にはわからないということなのだ。そんなものを信じ行動できるということが、Olには理解できなかった。</p><p>だから、しばらくお世話になりますね。承諾してくれるまで</p><p>ザナはぺろりと舌を出すと、輝く小さな石のようなものを吐き出す。</p><p>それはOlが紅茶に入れた毒を凍らせ、結晶化させたものだ。</p><p>あ、部屋はわたし一人のもので十分です。兵たちには帰らせますから。それと、使い魔さん</p><p>ザナはカップをリルに向け、にこやかな笑顔を浮かべて言った。</p><p>おかわり、頂けますか？できれば今度は毒抜きで</p><p>第9話氷の女王を持て成しましょう-3</p><p>こ、こんにちは</p><p>にこやかに手を振る女性に、ミオは思わず怪訝な表情をしながらも挨拶を返す。</p><p>今日はあの人はご在宅ですか？</p><p>主殿のお知り合いか？</p><p>武器は持っておらず、敵意も殺意も微塵も感じられない。</p><p>その人好きのする笑みと柔和な雰囲気に、エレンは敵ではないと判断した。</p><p>現地の人間で何人か協力者を得たという情報はOlから聞いていたからだ。</p><p>ええ、そんなところです。書状をお持ちしたのだけど、お渡しして頂けます？</p><p>女は懐から手紙を取り出すと、エレンに差し出す。</p><p>承った</p><p>エレンは生粋の武人だ。どのような時であろうと油断など微塵もない。</p><p>例えその場で切りかかられようと、彼女が矢を抜き弓を構えて射る方が早い。</p><p>その自信があった。</p><p>いけないっ！</p><p>セレスが咄嗟にエレンを突き飛ばす。</p><p>ザナの伸ばした指がセレスの肌に触れた瞬間、彼女の全身は凍り付いていた。</p><p>あら</p><p>ザナは大きく目を見開く。</p><p>擬態は完璧のはずで、なぜ察知されたのか彼女にもわからなかったからだ。</p><p>突き飛ばされ地面を転がりながら、怒るよりも驚くよりも早くエレンは矢を放っていた。</p><p>だがその矢は空中で止まり、虚空にひびが入る。</p><p>貴様！</p><p>更に二本の矢を放ちながらも、エレンは怒号をあげた。</p><p>しかしそれも、見えない氷の壁に阻まれザナに傷を負わせることはない。</p><p>四本目を射ようとしたとき、エレンの弓は弾け飛んだ。</p><p>冷気によって凍り付かされた弦が彼女の力に耐えきれず千切れたのだ。</p><p>エレンさん！</p><p>その隙を突かれて凍らされ、倒れ伏すエレンにミオは叫んだ。</p><p>彼女の意思に従って、二体の魔獣はその喉の奥から炎を吐き出す。</p><p>おっと、それはまずいですね</p><p>ザナは身を翻らせて後ろに下がる。</p><p>獣の魔王の力によって増幅された魔獣の炎は、鉄をも溶かす熱量を持っていた。</p><p>氷などどれほど冷たかろうが、一瞬で蒸気に変えてしまう。</p><p>でもせっかく首がたくさんあっても、身体が二つしかないというのは悪手です</p><p>ザナが手を振り上げると、その背後か弓矢を持ったら兵士たちが姿を現す。</p><p>その存在自体には、ミオもエレン達も既に気づいていた。</p><p>精兵と呼んでいい練度であることは確かだが、所詮はその程度だ。</p><p>万人いようがミオなら食い破れるという確信があった。</p><p>その矢が、凍り付き倒れ伏したエレンとセレスを狙ってさえいなければ。</p><p>放たれた矢を撃ち落とさせるしか、ミオには取れる手段がなかった。</p><p>その間にザナの姿が迫ってきて</p><p>そして、彼女は意識を失った。</p><p>それが私の覚えている全てです</p><p>ザナと出会った時のことを語り終え、ミオは一息ついて熱い茶を口にする。</p><p>やはり、私が足を引っ張ってしまったのだなすまん、ミオ</p><p>面目次第もありません</p><p>いえいえ。エレンやセレスのせいじゃないですよ。判断ミスは誰にもなかったと思います</p><p>ですよね、と視線を向けるミオに、Olは頷いた。</p><p>ああ。もしミスがあったとするならば、こちらの方だ</p><p>そうは言っても、見えぬものは見えぬのだから仕方あるまい</p><p>話を向けられたテナは憮然とした表情でそう答えた。</p><p>ダンジョンに訪れる事だけではない。今なお、奴が次に何をするのかようとして知れぬ。恐らくはその能力のせいであろうが</p><p>正確には、ザナの未来を見ること自体は出来た。だがその未来はあまりにもあやふやなもので、すぐに別のものへと移り変わってしまう。</p><p>このようなことは初めていや、一度だけあったか</p><p>いつの事だ？</p><p>あの赤い髪の少女。ユニスの未来を見た時のことじゃ</p><p>Olたちと共に試練の山に訪れた時、ユニスが転移しようとした途端、その未来は読みにくいものになった。程度に差はあるとはいえ、現象としては近しいように思える。</p><p>参考になったというより、テナの予知の穴が見つかっただけのように思えるな。まあ良い、もともとお前の能力にはさほど期待もしておらん</p><p>ぐっそ、そこまで言わんでも良いじゃろうが！</p><p>今回の事はお前ではなく、俺のミスだと言っておるのだ</p><p>そう言ってやると、テナは砂をかぶせられた炎のように大人しくなった。</p><p>当初抱いた懸念の通り、予知がどれだけ便利であろうと頼りすぎては身を滅ぼす。</p><p>致命的な事態になる前にそれが分かっただけでも幸いだ。</p><p>そしてそれは恐らく、ザナの能力も同じこと。</p><p>万能に思える力だろうと必ずどこかに穴はあるはずだ。</p><p>Olはそれを見つけるべく、ザナの元へと向かった。</p><p>あー、悔しい！ね、もう一回、もう一回だけ勝負して！</p><p>マリー、順番を守りなさい。次は私の番です</p><p>その次はボクですよ！</p><p>わたしは誰からでも構いませんよ</p><p>お前たちは何をやっておるのだ</p><p>卓を囲んでにぎやかに騒いでいる四人の娘に、Olは呆れた声をあげた。</p><p>マリー、ユツ、スピナの三人が遊んでいるのはいいとして、その対面に座っているのがザナだったからだ。</p><p>チェスを教えてもらっていたのです。なかなか面白いですね、これ</p><p>駒を並べなおしながら楽しそうにザナは答える。</p><p>敵地とまでは言わないまでも居心地のいい場所ではないだろうに、まるで友人の家に遊びに来ているかのようなくつろぎぶりだ。</p><p>最善手を打てるっていうから、すっごく強いのかと思ったらそうでもないんだよね</p><p>スピナと席をかわって対局を見守りながら、マリーは言う。</p><p>確かにその打ち方には目を見張るようなものはなかった。スピナもそれほど強いというわけではないが、そのスピナと同程度か少し強い程度のものだ。</p><p>チェスに偶然はない。無論たまたま思いついた手で勝つことはあり得るが、それは人の頭の中の都合であって盤面自体は何度でも再現できるものだ。</p><p>つまり突き詰めてしまえば、先手後手が決まった時点で勝利は決する。そうならないのは人の先読みに限界があるからでしかない。もし常に最善手が打てるとするなら、スピナ程度一つの駒も取られずに圧倒しててもいいはずだ。</p><p>そこまでの力はないのか、それともそもそも能力を使っていないのかあるいは、この状況そのものがOlが用意したものであると知ってあえて加減しているのか。</p><p>やがて接戦は辛くもザナの勝利に終わり、スピナは無表情のまま悔しそうに唇を引き結んだ。Olとマリーくらいにしかわからない表情の変化だ。</p><p>では次は、俺と勝負してみるか</p><p>スピナと席をかわってザナの対面につきながら、Olは言う。</p><p>俺に勝てたなら同盟の件、考えてやっても良い</p><p>負けたらどうなるのですか？</p><p>そうだな。お前の全てを貰おうか</p><p>さて、どうでるか、とOlはひとりごちた。</p><p>あまりに不平等な取引だ。普通に考えれば受け入れられるものではない。</p><p>ザナはしばし考えるように瞑目し、そして目を開いていった。</p><p>いいでしょう。その勝負、お引き受けします</p><p>よほど自信があるのか、それともそれだけ切実に同盟を望んでいるのか。</p><p>あるいはそれも最善手のうちなのかはわからないが、ザナは確かに頷いた。</p><p>Olの指先から炎が迸り、ザナの胸に焼き付ける。それは彼女の服に焦げ跡すら残すことなく、しかし魂の奥底に印を刻み付けた。誓約の呪いだ。例えどんな手を打とうと、己自身が誓った呪いからは逃れられない。</p><p>さて、では駒を選べ</p><p>Olは両手に白と黒のポーンをそれぞれ隠し持つと、ザナに拳を突き出した。</p><p>ではこちらで</p><p>ザナはOlの左手を選ぶ。そちらに握りこまれていたのは、黒のポーンであった。</p><p>一般的には、チェスは先手である白の方が有利であると言われている。</p><p>果たしてそれが最善という事なのか。</p><p>では、俺の先手だ。いくぞ</p><p>序盤、定石に従って布陣していくOlに対し、ザナの並べ方は完全に素人のそれであった。</p><p>それでも悪手というほどの悪手がないのは能力ゆえか。とはいえOlの目から見ても、最善手とは程遠いものであるのは明らかだった。</p><p>しかし中盤になるに従い、形勢は徐々に変わり始めた。予期せぬ位置に置かれた駒にOlは攻めあぐね、じわじわとではあるがザナが優勢に転じていく。</p><p>その様子を見て、Olは予測していた仮説がある程度正しい事をほぼ確信した。</p><p>最善手と言っても何を持って最善とするのか、という問題がある。</p><p>例えば今Olはザナのポーンを倒したが、ザナはそれによって三手後にナイトを打ち取ることが出来る。ポーンを失うというのは短期的には損だが、長い目で見ればそれより強いナイトを倒せるのだから得となる。つまり本当の意味で最善手を打つのならば、その場その場ではなく長期的な目で、総合的に最善となる手を打たねばならない。</p><p>普通に考えれば基準とするのは終局つまり勝利するまでの道筋をすべて読み切るという事だろうが、ザナの能力にそこまでの力はないとOlは読んだ。中盤から優勢になっているのがその証左だ。その傾向はスピナとの対戦でも見られていた。局が進めば打てる手の数は減り、その分読める手は多くなる。ザナの能力で打てる最善手も明確になるのだろう。</p><p>スピナが小さく声をあげる。Olのクイーンが、ザナによって取り除かれたからだ。</p><p>八方向に幾らでも進めるクイーンは、チェスの中で最強の駒だ。</p><p>これを取られるのは相当な劣勢に追い込まれたことを意味する。</p><p>かかったな</p><p>だがOlは、ニヤリと笑みを浮かべた。</p><p>スピナとの対局から、Olはザナが中盤に読める手の数を十手と見た。</p><p>ならば簡単な話だ。十手目に最高の戦果を収め、十一手目に破滅する道筋を用意してやればよい。</p><p>進んだ後にはもはや引き返すこともできず、一時の勝利に向かう他ない。気付いた時にはザナの敗北は決定している。残り三十手で、Olの勝ちだ。</p><p>あら</p><p>ようやくそれに気づいたのか、ザナの表情は徐々に曇り始める。</p><p>しかしもはや遅い。彼女が詰むまで、Olは手を間違えぬように打つだけだ。</p><p>と、不意にザナが奇妙な手を打って、Olは一瞬手を止めた。何の意味もない、ただ損をするだけの手だ。何の問題もないはず。</p><p>頭の中の棋譜を修正しながら、Olは生贄の様に差し出されたビショップを倒す。</p><p>自棄になったのかその後もザナは次々と奇妙な手を打ち続け、Olはその度に棋譜を修正し</p><p>そして、いつの間にか自分が劣勢に立たされていることに気が付いた。</p><p>三十手先にあったはずの勝利は近づくどころか遥か彼方に消え、気付けばその前に壁が立ちはだかっている。自分の打った手を思い返しても、そこにミスはなかったはずだ。だがザナは、ありえないはずの挽回をして見せた。その起点になっているのは間違いなく、先ほどの奇妙な一手だ。</p><p>ありえない一手。チェス巧者だからこそ感覚的に切り捨ててしまう、異常な手。だがここまでの道を辿ってみれば、それはまさに最善手。ザナが生き残る唯一の道だった。</p><p>Olが負けるまではあと三手。勝つ道はどこにも残されていなかった。</p><p>盤面の、上には。</p><p>ザナがまさにチェックメイトをかけようとクイーンを動かしたその瞬間、突然ダンジョンがぐらりと揺れた。それはほんの一瞬のことであったが、ザナは思わず駒を取り落とす。</p><p>ごめんなさい、置くのはここじゃなくて</p><p>クイーンを動かそうとするザナの腕を、Olは掴んだ。</p><p>お前の手番は、終わりだ</p><p>それはタッチアンドムーブと呼ばれるチェスのルールだ。自分の手番で最初に触れた駒は必ず動かさねばならず、手を放した駒を再度動かすことはできない。</p><p>無論動かした場所が駒の動ける場所であればの話だが、ザナのクイーンは動くことが可能な場所本来動かそうとしたマスの一つ手前に落ちていた。</p><p>そしてそれは、致命の一手だ。</p><p>チェックメイトだ</p><p>ザナのクイーンを倒し、Olはそう宣言した。</p><p>第9話氷の女王を持て成しましょう-4</p><p>Ol自身を含む配下の中で、もっともチェスが上手いのは誰か。</p><p>無論相性もあれば、その時々で勝敗は転がる程度の差でしかないが</p><p>最も勝率が良いのはOlでもメリザンドでもなく、ウィキアであった。</p><p>何故か遥か格下のユニスにどうしても勝てなかったりはするが、その読みの深さは随一だ。</p><p>彼女は無事勝負のついた映像を目にして、安堵の息をついた。</p><p>ソフィアもお疲れ様</p><p>ウィキアは地震を起こしたソフィアを労う。タイミングは完璧だったが、それでもザナが駒を取り落とすかどうかは半々といったところだった。</p><p>しかしこれでザナがOlの所有物になると思うと、ウィキアの胸には複雑な思いが去来した。</p><p>状況は違えど盤上の勝負を挑み、所有の印を刻まれるというのは自分がOlの配下になった経緯とそっくり同じだったからだ。</p><p>まさかその手伝いを自分がすることになろうとは、夢にも思わなかった。</p><p>とはいえOlがそうしろと命じたわけではない。</p><p>盤上の最善に気を取られれば、盤外にまでは考えが及ばぬかもしれん。</p><p>彼はただウィキアにそう伝えて、ソフィアと共に待機するよう言いつけただけだ。</p><p>だが、とウィキアは思う。</p><p>だが本当に自分は、ザナを出し抜いたのだろうか。</p><p>当時はそれこそ殺したいほどにOlを恨んだウィキアであったが、その思いはとうの昔に色あせ風化しきってしまっている。憎み続けるには、Olという男は身内に対して優しすぎた。</p><p>これで良かったなどとは言えないが、今不幸か幸福かと問われれば、ウィキアは迷いなく幸福であると答えるだろう。</p><p>ザナにしても、己が手中に収めたからと言ってないがしろにするような男ではない。むしろただ同盟を組むよりも手厚く守るのではないだろうか。</p><p>果たして、どちらが最善なのか</p><p>それはウィキアにも読み切ることなどできそうになかった。</p><p>もう一度、言ってみろ</p><p>Olは自分の耳を信じることが出来ずに、思わずそう問うた。</p><p>ですから。わたしはあなたの言っていることを何一つ理解していませんから、理解できるようにして下さい</p><p>つまり、こういう事か</p><p>Olは頭痛を堪えるように額に手を当てて、言った。</p><p>お前がここに来てからの言動は全て能力に従ってオウムのように声真似をしていただけで、お前は俺たちの言語どころかヤマト語すら知らず、自分がなんと発言しているかすら把握できてないというのか</p><p>その通りです</p><p>己の能力に随分自信があるとは思っていたが、そこまでいくともはや自信というより妄信だ。</p><p>自分自身すら何を言っているのかわからぬような状況で寛ぎながら茶を飲むその度胸に、Olは呆れを通り越して感心さえした。</p><p>しかしそうなれば、先ほどかけた呪いに関してもちゃんとかかっているのか怪しいものだ。</p><p>例え内心では約束を守るつもりなどなくとも、口にすれば誓約の呪いは成り立つ。</p><p>誓約を口にするという事自体は、本人の意思によるものだからだ。</p><p>が、例えば眠っている相手を魔術で操って言わせても意味はない。</p><p>そこに本人の意思がないからだ。</p><p>しかし間違いなく本人の意思で口にしながらも、その意味を微塵も分かっていない場合はどうなるのか。Olでさえそのような経験は初めてのことで、判断に困った。</p><p>となればリルが見抜いたはずの嘘も当てにはならず、そもそも最善手を打てるというその能力自体が虚偽である可能性すらあった。無論そこから嘘では話自体が成り立たないが、そう見せかけることのできるような全く別の能力なのかもしれない。</p><p>そんなことを考えて、Olは堂々巡りに陥っている自分に気が付いた。可能性だのかも知れないだのと確証もない事を考えるのは時間の無駄だ。そんなことを言い出せばそれこそこの世界そのものが蛇の見ている夢かも知れないのだ。</p><p>とにかくお前は意思の疎通を望んでいる。それに間違いはないのだな</p><p>はい。その通りです</p><p>頷いて言うその言葉さえ理解していないとしても、望む方向自体は正しいはずだ。</p><p>どの道行う予定だったことでもある。</p><p>わかった。ついていや、ここで待て</p><p>言い置き踵を返して歩き出せば、ザナはその後ろをついてくる。</p><p>入るな。外で待っていろ</p><p>扉を開けてそういえば、ザナは頷いてOlの部屋に入る。</p><p>雄たけびを上げ、尻を叩きながら踊れ</p><p>これでいいですか？</p><p>おずおずとベッドに腰掛けるザナに、Olは頭を抱えた。</p><p>どうやら彼女は本当に、こちらの言っていることを理解していないのだ。</p><p>言葉の内容をわかっていないなら、口先では何を言おうが同じことだ。</p><p>単純にこちらの意図だけに対応して行動する。</p><p>まるで間違った命令句(コマンドワード)を仕込んでしまったゴーレムを相手にしているような、奇妙な感覚だった。</p><p>まあ良いここまで来ておいて否やはなかろうな</p><p>Olは嘆息し、ローブを脱ぎ捨てるとザナの腕を取ってベッドの上に組み伏せる。</p><p>初めてなんです。優しくして下さい</p><p>ザナは驚きに目を見開き、嫌悪感を滲ませながらもそう言った。</p><p>表情と言葉が全く合っていない。これがこの女の素の表情か、とOlは何故か安堵する。</p><p>どうする。進むか、退くか</p><p>言葉が分からずとも、意味は通じるだろう。</p><p>腕の力を緩めて問うOlに、ザナは抵抗の意思をなくした。</p><p>Olとて、別の方法があるのならそうしただろう。</p><p>だが全くの未知の言語を操る相手と言葉を交わすには、以前にユツを相手にやったのと同じ方法を用いるほかない。</p><p>つまりは意思の疎通を望んでいる以上それが最善手なのだ。</p><p>Olは毛皮で出来た衣服を捲りあげ、ザナの両脚をぐいと押し開いてその間に分け入る。</p><p>意外なことに、初めてだというのは本当のことだった。</p><p>（いっったぁぁぁぁぁぁいっ！）</p><p>繋がった瞬間、ザナは心中でそう叫んだ。</p><p>（なにすんのよこの下手くそ！もっとちゃんと優しくしなさいよ！）</p><p>んっ、ああっいい</p><p>口汚く罵る声と、艶を帯びた喘ぎ声が同時に響く。</p><p>とても同一人物から同時に発せられてるとは思えない程の差だ。</p><p>（口汚くて悪かったわね！ってあれ、言ってることがじゃない。考えてることがわかる？）</p><p>ユツの時とは違い、相手がそれを受け入れているのならば魂を繋ぐのに絶頂に至らせる必要はない。まぐわうだけで良かった。そしてザナとはユツよりも深く太く魂を繋いでいる。ユツは大まかな感情が伝わってくる程度だったが、互いに考えていることがわかるほどに。</p><p>（便利なんだか不便なんだかわかんない術ね。まあいいわ、さっさとこの小汚いもの抜いてよ）</p><p>駄目だ。魂のつながりが定着するまでしばらくかかる</p><p>そう言って、Olはゆっくりと抽送を開始する。</p><p>（しれっと嘘ついてんじゃないわよ！）</p><p>魂の繋がりは双方向だ。</p><p>表面的な思考だけだが、考えていることは互いに伝わって隠すことはできない。</p><p>既に魂は十分に繋がり、今すぐやめても何の支障もないことはザナにしっかりと伝わっていた。</p><p>（っていうか嘘だってすぐバレるのもわかってるのになんでわざわざ嘘を）</p><p>ザナの心の声を、現実の声が遮る。</p><p>（な、なに、今の）</p><p>それは彼女の能力が指示したものではなく、自然と漏れ出たものだった。</p><p>知らんのか？</p><p>Olは戸惑いに満ちたザナに、意地悪く言った。</p><p>女が気持ちいいときに出す声だ</p><p>（冗談でしょ、あんたなんかに抱かれて気持ちいいわけ）</p><p>ふぁんっ！</p><p>腰をずんと押し進めれば、吐き捨てるような内心の声とは裏腹に高い雌の声があがる。</p><p>（なんで、なんでこんな）</p><p>安心しろ。今までの人生の中で最も善がらせてやる。お前の好きなものだろう？</p><p>ザナの衣服を脱がしながら、Olはそう問うた。</p><p>第9話氷の女王を持て成しましょう-5</p><p>ほう</p><p>分厚い毛皮の服を剥ぎ取り、その下から現れた裸身にOlは思わず声を上げた。</p><p>すらりとした手足はまるで人形のように華奢で、ともすれば折ってしまうのではないかと思うほど細い腰は繊細な花の茎を思わせる。</p><p>その肌は目に眩しいほどに白く、触れれば手に吸い付いてくるきめ細やかさ。</p><p>紫水晶を削り出して作ったかのような色合いの長い髪がベッドの上に広がるその様は、生きた芸術品のようであった。</p><p>（貧乳で悪かったわねっ！）</p><p>細いというOlの感想をどう受け取ったのか、ザナは心中で悪態をつく。</p><p>気にするな。それはそれで問題はない</p><p>大きければ大きいなりに、小さければ小さいなりに、或いはその中間だったとしても、それぞれ違った良さ楽しみ方というものがあるのが女の乳房という器官だ。</p><p>Olの手の平に少し物足りない程度の双丘をやわやわと揉みしだき、焦らすようにゆっくりその先端へと口付けを落としていく。</p><p>ん、はぅ</p><p>ザナの、まるで少女のようにほとんど色づいていない乳首は、しかし敏感に反応して硬く尖った。</p><p>（反応してない！）</p><p>慈しむようにそれを食むOlに、ザナは強硬にそう主張する。</p><p>あまり意地を張らぬ方が良いぞ</p><p>心からの忠告として、Olはそう伝えた。なにせ互いに考えていることが筒抜けなのだ。</p><p>男を知らぬ処女とは言えいやだからこそ、老獪な魔術師の手練手管に抗うすべなどありはしない。</p><p>（お生憎様、あたしにはマリナの加護があるの。あんたの粗末なチンコなんかに屈する）</p><p>ザナの思考を遮るようにその奥を擦り上げれば、驚くほどに容易く媚声がその口を突いて出る。</p><p>やっ、だめぇっ、そこ、あぁっ、ごりごりしちゃ、だめぇぇっ！</p><p>（感じてない、感じてない、何も感じてなんかいないんだから！）</p><p>身体はこれほど素直だと言うのにな、とOlは呆れ混じりに思った。</p><p>わざとやっているのかと思うほどにザナの肉体は敏感に反応するというのに、心は頑なにそのことを認めようとしないのだ。いっそそのような演技なのかと疑うほどだが、魂で深く繋がるこの術はただの読心術とはわけが違う。虚偽など通じるわけもない。</p><p>お前の身体は随分と具合がいいな。存外、俺との相性がいいのやも知れん</p><p>（そんなわけ、ない、でしょっ！）</p><p>その秘裂に肉塊をずぶずぶと埋め込めば、ザナの膣口は嬉しそうにOlの肉槍を締め付けてきて、蠢く膣壁が無数の舌先のように肉茎を撫で擦っていく。その心地よさは、Olをして下腹に力を込めねば思わず精を吐き出してしまいそうになるほどだった。</p><p>お前にもわかるだろう。そら</p><p>ああぁぁっ！</p><p>ぐっと腰を突き入れると、肉槍の先端がザナの弱いところをぐりっと抉る。痒くてたまらない場所を掻いて貰ったのにも似て、それを更に何十倍もしたような快楽だった。</p><p>（気持ちよくなんか、ない！）</p><p>強情な奴め</p><p>それでもなお心の中でそう言い返すザナに、Olは半分呆れつつも感心した。</p><p>口先でだけ否定するというのは簡単だが、心の中でまで否定するのはこれで意外と難しい。</p><p>言葉は意識的に制御できても、心で考えることまではやめられないからだ。若く女であろうとも、王と名乗るだけの意志力は持ち合わせているようだった。</p><p>しかしそれもどこまで持つことであろうな</p><p>その柔らかな乳肉を鷲掴みにしながら腰を打ち付ければ、蜜に溢れきった秘部はじゅぷじゅぷと音を立てて根本までをすんなり咥え込む。心はどれだけ気丈でも、彼女の身体は既に堕ちきっていた。</p><p>しかしそれも無理のないことだ。互いに魂で繋がりあったOlには、ザナの弱いところ、気持ち良いところが手に取るようにわかる。その上Olが快楽を感じれば感じるほどに、ザナもそれを共有して快楽に喘ぐのだ。</p><p>だが同時に、ザナの逃げ道もそこだった。</p><p>今感じているものはOlの快楽が伝わってきているだけで、自分自身は感じてなどいない。そう信じることで己の矜持を保っているのだとOlは気づく。</p><p>お前の身体はこれほど正直に悦んでいると言うのにな</p><p>ひぁんっ！</p><p>わななくように小刻みに締め付けてくる膣口をこじ開け赤黒い肉塊をねじ込めば、快楽が電流のように背筋を走ってザナは高く鳴く。</p><p>（好きでもない男に犯されて、気持ちよくなんか、なるわけないでしょ！）</p><p>その声色はこの上なく甘く蕩けているというのに、胸の内はまだ悪態をつくのだ。</p><p>ほう。好いた男がいるのか？</p><p>一瞬、ザナの心中に男の顔が浮かびかける。だがそれはロクに像を結ばぬうちに、掻き消えてしまった。どうやらよほど知られたくないらしい。</p><p>まあ良い。交わっているときに他の男の顔など見ても興が削がれるだけだ、から、な！</p><p>ん、あ、あ、あぁぁっ！</p><p>激しく打ち付けられる腰に、ザナの意識が一瞬飛ぶ。</p><p>（なに、いまの）</p><p>気をやったのだ。俺に犯され、絶頂したということだ</p><p>未知の感覚に戸惑うザナの顎を指先でつまみ上げ、Olは丁寧にそう教えてやった。</p><p>（うそうそよ！）</p><p>快楽は相手のものだと誤魔化せても、絶頂はそうはいかない。</p><p>男と女の形には違いがあり、明らかにザナの身体だけが反応しているからだ。</p><p>信じられぬと言うなら、そら。何度でも味わわせてやるぞ</p><p>ああぁっ！やめ、やめて、だ、め、えっ！</p><p>敏感になったザナの身体は一突きされるごとに軽くイって、美しいその肢体はまるで小魚のように跳ねる。</p><p>（うそ、うそ、こんなやだ、だめぇっ！）</p><p>ついにザナの心が現実を認め、彼女は逃げるように身を捩った。</p><p>獣のようにシーツの上を這って進もうとするザナの腰を掴むと、Olは覆いかぶさるようにしてのしかかる。そして薄い乳房に爪を立てながら、剣のように反り立った凶悪な肉棒を後ろから一気に突き込んだ。</p><p>ひあぁっ！</p><p>太いものがみっちりと胎(はら)を埋める圧力に息がつまり、暴力的なまでの快楽にザナの腕の力は萎れて彼女は上半身をベッドの上に突っ伏す。尻だけがOlの腕によって支えられ高く掲げられて、男はただただ獣欲のまま容赦なく女の濡れた膣口に突き入れた。</p><p>（こんな、こんな扱い、絶対に、許せない）</p><p>尻だけを上げた滑稽な姿で、身体を押さえつけられ身動きすることも許されず。</p><p>それは獣の交尾どころか、ただ欲望を吐き出すための肉袋のような扱いだった。</p><p>（許せない、のに）</p><p>ザナにとってそれは屈辱でしかない。</p><p>王として、女としての尊厳を踏みにじり、愚弄するかのような行い。</p><p>（なんで、こんなに気持ちいいのぉっ！！）</p><p>なのに、Olの肉塊が膣を抉る度に痺れるような甘い快楽が腹にずんと走って、引き抜かれれば堪えようもない疼きが胎内を満たす。もっと欲しい、と思ってしまう。</p><p>喘ぎに口を大きく開け、絶頂に至る度に伸ばされた舌から唾液がぽたぽたと垂れ落ちる。</p><p>犯されながらもよだれを垂らす様はまるきり、発情した雌犬のようであった。</p><p>まぐわいの良さは、まだこの程度ではないぞ</p><p>その耳元で、Olは囁く。</p><p>これ以上の快楽を、味わいたくはないか？</p><p>（これいじょうのかいらく）</p><p>ザナはその言葉にごくりと喉を鳴らす。何度も何度も絶頂へと至り、快楽に蕩けた頭にOlの低く落ち着いた声はよく響いた。</p><p>（だめそんなの）</p><p>ではお前自身の能力に問うてみるが良い。最善へと至るその力、害があるならば働きはせぬだろう</p><p>（わたしのちから）</p><p>朦朧とした意識で反射的に力を使えば、ザナの脳裏にはたちどころにどうすれば良いのかが浮かぶ。</p><p>は、あぁ、ああ、あ、あぁぁあ、あぁあぁぁぁぁっ！</p><p>それに従い背を逸らすように腰を突き出せば、Olの肉槍が胎の奥底を貫いて、ザナは目を大きく見開いた。</p><p>ゆるゆると彼女の動きが加速して、その体が前後に動き始める。</p><p>ひゃんっ！</p><p>Olがそれに合わせて突き込めば、ザナは悲鳴をあげるかのように鳴いた。</p><p>（いい、だめ、こんなの、おかしく、だめ、だめ、やだ、やだよぉっ）</p><p>心の中でそう叫びながらも、ザナの尻は淫靡に振られて男をねだる。</p><p>膣口が男根をきゅうと締め付けながら、その表面を舐めるように膣奥へと埋め込んでいく。</p><p>後ろに向かって伸ばされるザナの腕を掴むと、Olはまるで馬の手綱のようにそれを引きながら激しく腰を打ち付けた。</p><p>あぁっ、だめ、だめぇっ、やだ、そんなの、だめぇっ！</p><p>（だめなのに、だめなのに、きもち、いいっ、けものみたいに、おかされて、きもちよく、なっちゃってるっ！）</p><p>心と身体の両方で高く喘ぎながら、ザナは腰をOlに押し付けて奥まで咥え込む。</p><p>出すぞっ！</p><p>駄目ぇっ！やめて、それ、だけは、やめてぇっ！</p><p>（膣内に、出されちゃうなんて、ああぁっ、そんなの、だめなのに）</p><p>Olの宣言に、ザナの心は二つに分かたれた。</p><p>己の身を守ろうとする心と、快楽を欲する心とに。</p><p>中は、中は駄目ぇっ！駄目、なのにぃっ！</p><p>（欲しいって、思っちゃってる、だめ、ほしい、あついの、なかにっ！）</p><p>能力は今すぐOlの腕を振り払い、逃げるべきだと告げる。</p><p>しかしザナはそれに従うことなく、その場にとどまった。</p><p>膣の中で、Olの男根が精を放とうと一際膨れ上がる。</p><p>だめ、だめ、そんなの、きちゃったら！</p><p>（きて、きて、ぜんぶを、うめて！）</p><p>ザナの心の声に呼応するように、Olは彼女の膣内に精を放つ。</p><p>ああぁぁぁぁあぁあぁぁあああぁぁっぁぁぁぁぁあああああ！</p><p>（ああぁぁぁぁあぁあぁぁあああぁぁっぁぁぁぁぁあああああ！）</p><p>現実の声と心の声はぴったりと重なって鳴り響き、ザナは高く高く上り詰めた。</p><p>白濁の液はまるで堰を切ったように彼女の子宮に注ぎ込まれて、勢い良く迸るそれが膣壁を叩く度に彼女は身体を跳ねさせる。</p><p>Olの感じる女を我が物にした征服感と射精の快楽、ザナの感じる男のものにされた被虐的な喜びと絶頂の快感が交互にやってきて、彼女は抗うことも出来ずに快楽の渦に飲み込まれた。</p><p>（うう殺す絶対、用済みになったら殺してやるぅ）</p><p>ぐったりと横たわり物騒なことを考えるザナの秘所から、血の混じった白濁の液がごぽりと大量に溢れ出す。</p><p>流石に処女を相手にやり過ぎてしまったかもしれない、とOlは思った。</p><p>魂をこれほど太く繋いで行うセックスは、彼が思っていた以上に気持ちいいものだったのだ。</p><p>その上相手の考えていることまでわかるから、ついついやりすぎてしまう。</p><p>すまん</p><p>Olは頭を下げ、謝罪を口にした。仮にも王の頭は軽いものではない。</p><p>だがそれはなんの思惑もない、純粋なものであることをザナは感じ取った。</p><p>そして同時に何に対する謝罪かを知り、絶句する。</p><p>快楽の渦に飲み込まれたのはザナだけではなく、Olもまた同じことだった。</p><p>無論、先程まで男を知らなかった生娘と百戦錬磨の老魔術師とでは訳が違う。</p><p>ザナのように己を見失うようなことはなかったが、大量の精を吐き出した逸物は萎えるどころかますますいきり立ち、その威容を誇るかのように反り返っていた。</p><p>謝罪は今まで行ったことに対するものではない。</p><p>これからすることに対してのものだ。</p><p>お前は俺を殺すと言ったな。だが安心しろ</p><p>Olは言いつつ、ぐったりとして動けないザナの手を取り引き寄せる。</p><p>俺は殺しはせん死ぬほどイカせてやるだけだ</p><p>本気で考えていることが伝わってきて、ザナは声にならない悲鳴を上げた。</p><p>第10話砂の王に挑みましょう-1</p><p>ぱたり、ぱたりと静かな音を立て、札が並べられ、裏返されていく。</p><p>しなやかな指で札を操るのは褐色の肌の女。</p><p>その豊満な肢体を包む布は衣服と呼ぶにはあまりにも薄く小さく、肌の殆どの部分が露わになっている。</p><p>胸元に至っては首と肩とで支えられた布が垂れ下がっているのみで、少し強い風でも吹けばめくれ上がってしまうだろうし、そうでなくともその先端が薄っすらと透けて見えてしまうような有様だった。</p><p>首にはそんな衣装に不釣り合いな太い首輪が嵌められて、顔の下半分はヴェールによって隠され窺い知ることが出来ない。</p><p>陛下。氷の女が魔王と接触しました</p><p>女が札を見つめながら言うと、その背後から男の腕がぬっと伸びた。</p><p>その腕は女の胸元を隠す布の下に手のひらを滑り込ませると、一切の躊躇いなく豊かな果実を鷲掴みにする。</p><p>男の武骨な指が女の柔らかな肉をこね回し這い回る様は、薄布越しにもはっきりと現れた。</p><p>ザナの奴め。外なる大陸からの異人と手を組んだか、イェルダーヴよ</p><p>イェルダーヴと呼ばれた女はその豊かな胸を揉みしだかれながらも眉一つ動かすことなく、男の言葉を肯定する。</p><p>黒い髪に褐色の肌、赤い瞳を持つその男の足元には、イェルダーヴのつけているものと同じ首輪をした三人の女が犬のように這いつくばっていた。女たちは懸命に首を伸ばして玉座に座る男の股間に顔を寄せ合い、そそり立つ逸物に舌で奉仕する。</p><p>ふん。かえって好都合というものだ。彼の地に眠る神とともに食い荒らしてくれる</p><p>言って男は奉仕する女の一人の髪を掴むと、その口の中にペニスを突き入れる。そして力づくで女の首を揺らして喉奥に突き込むと、精を流し込んだ。</p><p>兵どもの用意をせよ。あの忌々しい雪が溶ければ打って出るぞ</p><p>投げ捨てるように口を離された女は苦痛の声も上げずに床に転がり、残りの二人も声もなく主の汚れた肉茎を舐め清める。</p><p>イェルダーヴは表情を変えぬまま、ただそう答えた。</p><p>まだ、何か、挟まってる気がする</p><p>なわけないでしょっ！</p><p>腰を押さえながらよろよろと歩くザナを心配して言えば、噛みつかんばかりの勢いで返事がかえってきた。</p><p>全然！元気じゃない！誰のせいだと思ってるの初めてだったのに、あの後、五回もするなんて</p><p>元気ではないか、と心中で呟けば、恨みがましい視線とともにザナは唸った。</p><p>しかしOlにとってはたったの五回だ。本心を言えばもっとしたかったのだが、その時点でザナが眠ってしまったのだから仕方がない。</p><p>寝たんじゃなくて気絶したのよ！殺す絶対いつか殺す</p><p>今なんとおっしゃいました？</p><p>Olさんとは末永くお付き合いさせて頂きたいと思ってます</p><p>突如天井から垂れ下がってきたスピナに、ザナはにこやかな微笑みでそう答えた。</p><p>Olも騙されかねないほどの、見事な変わり身だ。</p><p>？お師匠様、準備が出来ました</p><p>事実スピナさえ己の聞き間違いだったのかと不思議そうに首を捻る程。</p><p>素の性格の方が好ましく思えるがな、と心中でOlは呟いたが、ザナの返事はなかった。</p><p>サハラの持つ能力は大きく三つあります。その中でも一番厄介なのが、全知です</p><p>Olの翻訳魔術を通したザナの言葉に、会議室に集まった者たちはざわめいた。</p><p>未来予知に最善手、そして全知ときたか</p><p>もはやOlは驚きさえしなかった。どれも魔術的な常識から考えればありえないものばかりだが、実際目の前にありえているのだから否定しても仕方がない。</p><p>まあそうは言っても、どこまで鵜呑みにして良いものかはわからぬがな。お前もこんな能力でよくふっかけたものだ</p><p>魂を接続したことにより、Olはザナの能力を彼女自身と同じくらい正確に把握していた。</p><p>彼女が信仰する月の女神マリナの加護。それは最善手を知る力だ。</p><p>最善手を打つ能力というザナの説明は正しいようでいて、本質とは異なるものだった。</p><p>神の加護は何が最善であるかを知ることにしか働かない。</p><p>指定される手はザナにとって可能な範囲のものではあるが、実際にその行動に成功するかどうかはザナ次第なのだ。無論成功率も鑑みての最善手ではあるが、余裕がなければないほどその選択肢は狭まっていく。</p><p>そして何より問題なのは、何を持って最善と言っているのかはザナ自身にもわからないということだった。</p><p>とは言えそれだけなら、お前なら勝てるのではないか？</p><p>全知とやらもどうせ同様に何らかの制約はあるのだろう。だが仮に真の意味で全知であるとしても、ザナならば勝てるとOlは踏んだ。</p><p>最善手を打つ能力が強力だからではない。</p><p>ザナ自身が、強いからだ。</p><p>マリナの加護によって奇襲を知ったとしても、ユニスの一撃を完璧に防ぎきったのはまごうことなくザナの力に他ならない。印も呪文も使うことなく瞬時に氷を作り出す異常と言えるまでの速射性。</p><p>それはOlの魔術と同様に、神の加護などという胡散臭いものではないれっきとした技術であり、積み重ねられた研鑽のなせる技だ。</p><p>この若さでよくぞここまで磨いたものだ、とOlは素直に感心した。</p><p>（あんたの魔術とかいうヤツの方がよっぽど頭おかしいけどね。何よ、連鎖反応を何十にも積み重ねて瞬時に石塊に好きな機能と形状を持たせるって）</p><p>ザナの技術が一瞬で絵を描くことだとすれば、Olのそれは一瞬でパズルを作り出すようなものだ。どちらも常人の技ではないが、Olの迷宮魔術はただ単に難解極まりないと言うだけでなく、何故そんなことをするのかわからないというレベルのものだった。</p><p>どう考えたって、石以外のもの例えばザナのように氷とか、水とか、砂とか、そういった流動性のあるもので同じことをやった方が手っ取り早いに決まっているのだ。</p><p>（そんなものでダンジョンは作れんだろう）</p><p>その疑問に対するOlの回答は至極単純なものだった。戦闘のための技術ではなく、ダンジョン造りのための技術を戦闘に流用しているのだから当然といえば当然の話だ。</p><p>その点ザナの能力はまさに、戦闘のために鍛えられたものだった。</p><p>瞬時に作り上げられる氷は攻撃を防ぐ盾となり、相手を切り裂く刃にもなる。</p><p>マリナの啓示によって奇襲奇策も避けられる彼女は、単身乗り込めばいくらでも王を討ち取れるように思えた。それこそ、Olに対してしてみせたように。</p><p>それが出来ない理由が二つ目の力。砂の王ウセルマートの操る炎の術です</p><p>氷に対して炎では相性が悪いか</p><p>ミオの操る魔獣達の炎にも、ザナの氷は耐えられなかったという。</p><p>もっともミオが操っている状態でケルベロスが吹く炎はローガンやサクヤのそれすら上回りかねない規格外のものなのであまり参考にはならないかもしれないが、高熱が弱点であるのは間違いないのだろう。</p><p>相性も勿論ありますが単純に、術者としてウセルマートの方が強いのです</p><p>淡々とした口調とは裏腹に、魂の糸を伝ってくるのは滲み出すような悔しさだ。</p><p>王が王を打ち取る必要などあるまい。どれほど強かろうが個は個。数を持って対応すればいいだけだ</p><p>単に炎を操るだけというのなら、それこそサクヤやローガンでいくらでも対処できる。</p><p>仮にウォルフ並みの強さを持っていたとしても万の軍を持って当たれば勝てるのが戦というものだ。</p><p>それが出来ない理由が三つ目の力。サハラの不死兵団です</p><p>話には聞いたことがございますわ</p><p>ザナの言葉に、サクヤが声を上げた。</p><p>サハラの国には斬っても突いても死なず、痛みを感ずることも恐怖を覚えることもない屍の兵士たちがいると</p><p>それってただのリビングデッドじゃないの？</p><p>恐ろしげに語るサクヤに、リルは首を傾げる。</p><p>ただの、とはまさか旦那様の国では、斯様におぞましい存在が珍しいものではないと仰るのですか？</p><p>あーうん、まあ、珍しくはないかな</p><p>そのおぞましい存在とやらを、まだダンジョンが整っていない時代にはよく戦力として使ってましたとは言えずにリルは言葉を濁す。</p><p>でもリビングデッドならそんなに怖いと思えないなあ。あたしたちの知ってるのと違うのかな？傷がすぐ治っちゃうとか、すっごく早く動くとか</p><p>死体を魔力で動かしているだけのリビングデッドは、多少戦闘の心得がある者にとってはさして恐ろしい相手ではない。痛みや恐怖に怯まないから囲まれると多少厄介ではあるが、それでも雑魚と言ってしまっていい部類の魔物だ。</p><p>いえ。一体一体は仰る通り大した脅威ではありません。カラカラに乾いているからわたしの氷術が通りにくいのは難点ではありますが、皆さんなら簡単に倒せるはずです</p><p>では、数か</p><p>Olの問いに、ザナは頷く。</p><p>サハラの国で生まれ死んだもの。その全てが不死兵です。その正確な数までは存じませんが少なくとも優に一億を超えるでしょう</p><p>一、億？</p><p>その答えに、流石にOlたちは言葉を失った。</p><p>Olさま、一億って、どのくらいすごいの？</p><p>多いということだけはわかるのだが、多すぎてピンとこずにマリーは尋ねる。</p><p>軍事大国と呼ばれるユニスの故国、グランディエラですら国中から兵士をかき集めてせいぜい三十万。魔宮からこちらへ持ってこれる兵は、まあ多く見積もっても十万というところだろうな</p><p>じゅうまんってことは</p><p>マリーは指を折り折り数え、大きく目を見開いた。</p><p>百倍！？</p><p>一千倍だ、愚か者</p><p>Olは深々と息をつきながら、力なく言った。</p><p>第10話砂の王に挑みましょう-2</p><p>それが本当だとすれば、まずいな</p><p>ダンジョン攻略において最も効果的な戦術が、実は人海戦術だ。</p><p>罠も守衛の魔物も一度に対処できる人数は限られている。</p><p>とにかく頭数さえあれば練度も能力も大して関係なく踏破出来てしまう。</p><p>ダンジョンという空間が有限である以上、これは原理的に防ぎようがない。</p><p>そうは言っても十万や二十万程度飲み込む自信はあったが、一億となると流石に不可能であることは火を見るより明らかだった。</p><p>その上相手には全知の力があるという。どの程度のものかは分からないが、少なくとも最適な経路を割り出したり、罠の位置を見破る程度のことはできよう。つまり最悪、本拠地の魔宮まで乗り込んでくる可能性もあるということだ。</p><p>だがそれが本当だとすれば、お前はこんなところにいて良いのか？</p><p>問題ありません</p><p>雪山を隔てているヤマトと違い、ヒムロはサハラの隣国だ。攻めようとすればいくらでも攻められる。敵対する国の王がわずかとは言え手勢を率いてやってきたのだ。全知などなくともザナがここにいることも承知しているはず。</p><p>ヒムロは雪に覆われた国です。言い換えれば、水が溢れている。サハラの不死兵にとってそれは忌避すべきもの。それにそもそも、ヒムロを攻める理由がないのです</p><p>何故だ？お前はサハラを滅ぼそうとしているのだろう</p><p>ヒムロにはサハラを滅ぼす力はありません。そして、ヒムロを滅ぼして得られるものもない。ヒムロは、雪と氷に覆われた貧しく不毛の国ですから</p><p>語ると同時、ザナの心中にヒムロの国の情景が浮かんだ。</p><p>季節の別なく一年中氷に閉ざされたその国では、草花も家畜もほとんど育たない。</p><p>民はロクに食べるものもなく貧しい暮らしを強いられ、王族であるザナですら贅沢といえるような生活は全くしていなかった。</p><p>不毛というのならばサハラとやらも同様ではないのか。砂漠の国だと聞いたぞ</p><p>いいえ、それは逆です。サハラほど肥沃な土地はそうありません。砂漠が広がるのは、その肥沃さを一点に集めているがゆえのことなのです</p><p>ザナの胸の中にあるは羨望と嫉妬、憎しみと</p><p>つまり滅ぼそうと思えば滅ぼせるが、滅ぼしたところで害はあれども利はなく、脅威でもないため捨て置かれているということか</p><p>そういう、ことですね</p><p>民に苦しい生活をさせていることへの、深い悔恨だった。</p><p>そうとなれば、ヒムロの戦力は当てには出来ないということだ。</p><p>（悪かったわね）</p><p>Olの思考を読んで、ザナは不貞腐れたような、後ろめたいような感情で言う。</p><p>（気にするな。元々当てにはしておらん。とは言え）</p><p>どう対処したものか</p><p>この上なく厄介な相手であった。三つの能力のうち、どれか一つあるいは、二つまでならどうにかなったかもしれない。だが全知によって奇襲奇策は通じず、個の強さも数の力も桁外れとなると、打つ手が無いようにさえ思えた。</p><p>おうる、おうる！たつきが、みずでばしゃー！ってするよ！</p><p>思い悩むOlに、タツキがぶんぶんと手を上げて言った。</p><p>お前は水を操ることは出来ても、作り出すことはできんだろうが。水の一滴もない砂の海でどうする気だ</p><p>えー。水がないのに海なの？なにそれ、へんじゃない？</p><p>会議の席にこいつを連れてきたのは誰だ、とOlは額に手を当てる。</p><p>むー。おうるのやくにたちたいのになあ</p><p>ああ。お前の力は当てにしている。だからいざという時頼む</p><p>頬をふくらますタツキに、Olは本心から言った。</p><p>少なくとも、ダンジョンの防衛という点においては彼女ほど役に立つものもいない。侵入者が足を踏み入れた通路や部屋を水で埋めてしまえばタツキの独壇場だ。水中戦で陸の生き物が海の神に勝てるわけがない。</p><p>とは言えそれさえも凌駕するのが数の力だ。死者に呼吸は必要ないし、水で押し流されることへの対処だけなんとかすれば戦える。そうしたところでタツキの敵ではないだろうが、神とて何日も不眠不休で戦えるわけではない。</p><p>主殿。我々にお任せ頂けぬか</p><p>静かなしかし決意を秘めた声で言ったのは、エレンだった。</p><p>何か策でもあるのか？</p><p>ありません</p><p>すっぱりと、いっそ潔い口調でエレンは断言する。</p><p>しかし死に損ないの一億や二億に遅れを取る我らが氏族ではない</p><p>無茶を言うな</p><p>我らに汚名を濯ぐ機会を与えてほしいのです</p><p>Olが諌めようとすると、セレスまでもがそう言い出した。</p><p>汚名というのはザナを相手に不覚を取ったことだろう。</p><p>汚名などとは思っておらん。あれは俺の失態であって、お前たちに責はない</p><p>何故一言、お命じ下さらぬのですか。邪魔な者共を皆殺しにしてこい、と</p><p>硬い口調で言うエレンに、Olは瞑目する。</p><p>人間の兵、十万二十万ならばそう命じもしよう。だが相手は文字通りの死兵、一億もの軍勢だ。みすみす死なせに行くようなものだ</p><p>生きた人間ならば、ある程度相手に損害を与えれば士気を保てず瓦解する。</p><p>だが恐怖を知らず腹も減らない生ける屍は、最後の一兵までもが動かなくなるまで戦うだろう。まともに戦っていい相手ではない。</p><p>我ら、主殿の為ならばこの生命、惜しくなどありません！</p><p>はい、そこまでー</p><p>エレンががたりと席を立ち、叫ぶように言ったところでリルがパンパンと手を打ち鳴らした。</p><p>エレン、セレス。あなた達が一騎当千ううん、一騎当万の精兵であることはわたしもOlもよーく知ってるわ。でもね、だとしても百人で百万しか倒せないじゃないのよ。一億には二桁足りないわ。そもそも一億の矢をどこから用意するのよ</p><p>そ、それは魔力で作り出せば</p><p>ダンジョンコアを空にする気？</p><p>リルがそう言うと、エレンは流石にうっと呻いて押し黙る。</p><p>久方ぶりの強敵なのは間違いない。お前たちの力は必ずや必要となるだろう。その時が来れば存分に頼らせてもらう</p><p>なんとか納得したのか、エレンは跪き頭を垂れる。</p><p>助かった、とリルに目配せすれば、彼女はにっこり笑ってヒラヒラと手を振った。</p><p>（随分お優しいのね）</p><p>（悪いか）</p><p>解散した後ザナからかけられた心の声に、Olは唸るように答えた。</p><p>悪い自覚があったからだ。</p><p>（言っておくけどあの子の提案は、最善よ）</p><p>（だろうな）</p><p>一億の兵がいるからと言って、それを全て相手にする必要などない。</p><p>チェスと同じだ。駒を犠牲にすれば王手をかけられる。</p><p>エレンたちに砂の王までの血路を開かせ、ユニスなりローガンなりに砂の王を殺させる。</p><p>おそらくはそれが最善であろうことはOlもわかっていた。</p><p>Olのためなら命など惜しくない。</p><p>エレンがそういった時、Olは思ってしまったのだ。</p><p>嫌だ、と。</p><p>それは王として正しい判断ではない。</p><p>百を生かすために一の損害で済むのなら、それを選ばねばならない。</p><p>すべてを知る相手に一億の死兵。</p><p>それは明らかに、かつてメリザンドが率いたラファニスよりも強大な敵なのだから。</p><p>（別に、悪くないわ。わたしも何も言わなかったでしょう）</p><p>最善の力はあそこでエレンの肩を持ち、けしかけることだと告げていた。</p><p>（ただ、不思議だっただけ。あなたにはそれこそ何十人も奥さんがいて、その内の一人なんでしょう？それとも、あの黒くて胸の大きい子か、白くて胸の大きい子は、あなたの特別なお気に入りだったの？）</p><p>だがザナはあえてそうしなかった。</p><p>恐らくそれをすればOlとの関係は著しく悪化する。</p><p>砂の王を倒す一手だけを考えるならともかく、その後のことを考えるならば得策ではないと判断したからだ。</p><p>（特別も何もあるものか。気に入っておらぬものを閨になど呼ばん）</p><p>（あのねえ。それじゃ、あたしも気に入ってるってことになるじゃないのよ）</p><p>（その通りだがなんだ）</p><p>（えっ）</p><p>Olは目を見開くザナを改めて見つめた。</p><p>波打つ紫の髪はどこか幻想的で、髪より僅かに明るい色彩の瞳は紫水晶のよう。</p><p>儚さと力強さを同時に感じさせる不思議な雰囲気がある。</p><p>端正な顔立ちとそのほっそりとした佇まいは妖精にも似て、彼女自身が月の化身と言われても信じてしまいそうなほどに美しかった。</p><p>（ななんで、敵になるかも知れない女を口説いてるのよ）</p><p>（口説いてなどいない。ただの事実だ。でなければあれほど求めたりするものか）</p><p>Olの言葉に呼応して、ザナの脳裏に昨晩の様子が浮かび上がった。</p><p>（馬鹿！この節操なし！）</p><p>ザナはそう捨て置いて、足早に逃げ去っていく。</p><p>あんな見た目ならこの程度の世辞など聞き飽きているだろうに。</p><p>Olは嘆息し、その背中を見送った。</p><p>第10話砂の王に挑みましょう-3</p><p>ユニスは一人、ダンジョンの片隅に作られた訓練場で剣を振るっていた。</p><p>ふっ</p><p>鋭い呼吸音とともに、珠のような汗が舞い散る。</p><p>それは空中にあるうちに剣で縦に切り裂かれ二つに分かれ、更に横に切られて四つ、斜めに切られ八つに分かたれた。</p><p>相変わらず凄い動きだね</p><p>ユニスが剣を振る音しかしなかった空間に、パチパチと拍手の音が鳴り響いた。</p><p>感心しきり、と言った様子でいいながら現れたのはマリーだ。</p><p>訓練を止めることなく、ユニスは動きを続けたままマリーに問うた。</p><p>ローガン見なかった？ちょっとソフィアの世話をお願いしたくて</p><p>見てないかな。向こうにスピナがいたから、そっちに頼んだら？</p><p>うーん。そうするかなあ最近ローガン、すぐいなくなっちゃうんだよね</p><p>ところでマリー、剣の訓練はちゃんと続けてるの？</p><p>ユニスの問いに、マリーはぎくりと身体を震わせた。</p><p>まあまあ、かなありがとね、ユニスっ</p><p>そう言ってマリーはさっと身を翻し、迷宮の奥へと走っていく。</p><p>勿体無いなあ。せっかく才能はあるのに</p><p>剣にせよ魔術にせよ、あるいはその他のことにせよ、マリーは非常に飲み込みがいい。だがそれゆえにか、どうにも飽きっぽくひとつの事に集中できないきらいがあった。</p><p>そう思わない？ローガン</p><p>英雄に才能があるなんて言われてもな</p><p>虚空に向かって呼びかければ、影はじわりと形を取って赤い悪魔へと変じた。</p><p>マリーに言ったことは嘘ではない。ユニスはローガンの姿を見てはいない。</p><p>だが柱の影に入り込んだその存在そのものには訓練場に足を踏み入れたときから気づいていた。</p><p>それも、どうなんだろうね。英雄だから才能があるのか、才能があるから英雄になるのか</p><p>ユニスは地道な剣の訓練というものを殆どしたことがなかった。</p><p>思うとおりに振り回せばそれで敵無しで、戦いの勘はほとんど実戦で磨いてきたものだ。</p><p>自身も英雄である父ウォルフに言わせれば、英雄というのは大抵、皆そういったものであるらしい。</p><p>言いつつユニスは後ろに飛び退り、足に力を込める。</p><p>距離をとって走り抜けながら、その勢いを乗せた斬撃を転移させて相手を切り刻む。</p><p>四方八方から襲い掛かる無数の見えない斬撃は回避も防御も不可能。</p><p>名はないが、ユニスにとって必殺といっていい技だ。</p><p>そして、剣を振り終える前に、ユニスは息を飲んだ。</p><p>また負けたな</p><p>ローガンに答え、ユニスは剣を鞘に収めるとその場にへたり込んだ。</p><p>一瞬の隙を突いて、心臓を貫かれた。</p><p>鎧と筋肉と肋骨に守られた心臓を剣で狙うなど普通なら悪手でしかないが、彼なら息をするかのように易々とやってのける。</p><p>ユニスが相手していたのは、空想上のホデリだ。</p><p>とは言えその動きは本物と寸分違わない。</p><p>最初に勝てたのはユニスの能力の特異さ故、そしてホデリも本気ではなかったが故だ。</p><p>あれから何度か手合わせしたが、二回目以降の戦いでは簡単に対応されてしまった。</p><p>ユニスの剣は軽い。それを助走距離と速さで補う剣は、下がった瞬間歩を詰められ剣を置かれるだけで封じられる。ならばとどれほど早く動こうが、ホデリは最小限の動きでユニスの命を絶った。</p><p>あれ以来、実際にも空想上でもユニスはホデリに一度として勝てていなかった。</p><p>膂力も速度も全てユニスのほうが勝っているのに、剣の振るい方一つで覆されるのだ。</p><p>で、なんでローガンはマリー避けてるの？</p><p>言わねえよ。お前、笑うだろ</p><p>うん、多分</p><p>そういうとこ正直だよなおめえはよ！嘘でも笑わないとか言えよ！</p><p>深々とため息を付いて、ローガンは両手を腰に当て、上側の腕で己が目を覆う。</p><p>マリーが殺されて俺は本気で怒っちまったんだよ。もうとっくに十三歳なんて超えちまったババアと生まれたばっかの超ビューティ幼女を比較して、ババアを優先しちまったんだ。俺のアイデンティティがクライシスだぜ</p><p>あはははははは</p><p>あっこの野郎、本気で笑いやがったな！？</p><p>指をさして笑うユニスに、ローガンは牙を剥いた。</p><p>だってそうじゃない。好きなのに理由なんて必要ないでしょ</p><p>お前はなあこちとら六千年生きてる大悪魔なんだぜ。人間なんかに入れ込んだっていいこたねえ。色々あんだよ。わかれよ</p><p>関係ないよ</p><p>ローガンの言葉を、ユニスはばっさりと切り捨てる。</p><p>悪魔だって人間だって人間だか幽霊だかわかんないのだって、好きって気持ちは同じだよ。好きになるまでの経緯はそれぞれ違うだろうけど</p><p>だけどなあ</p><p>そりゃあローガンがマリーのことを女の子として好きで、子供作りたいなあーとか思ってるなら色々難しいけど、別にそういうわけじゃないんでしょ？</p><p>そりゃまあ、そうだけどよ</p><p>ローガンのマリーへの思いは、人間で言うのならば妹や娘に対するものが近い。</p><p>その難しい方を選んだ子だっているんだし</p><p>名を上げずとも、ユニスが誰のことを言っているかは明白だった。</p><p>あまり入れ込むと後がつらいぞ、と彼女に忠告したことさえあったのを、ローガンは思い出した。</p><p>ったく、ローガン様もヤキが回ったもんだぜ</p><p>辟易として、ローガンは天を仰ぐ。</p><p>しかし口調とは裏腹に、その表情はどこか吹っ切れたような晴れ晴れとしたものだった。</p><p>下らん説教の礼に、お前に良いことを教えてやる</p><p>お前がさっきからやってる訓練な。それ、全部無駄だ</p><p>無駄！？</p><p>流石にショックを受けて、ユニスは目を見開き口をあんぐりとあけた。</p><p>あのホデリとか言う男の真似をして剣の振るい方を学んでるんだろうがよ。そんなもん一朝一夕に身につくもんじゃねえし、何十年もかけてあの程度の只人に追いついてどうする</p><p>で、でも、ホデリはすごく強いよ？</p><p>ユニスの言葉に、ローガンは頷く。</p><p>恐らく人の形で為せる範囲において、ホデリの動きは極められていると言って良い。</p><p>もしこの世に全知全能と言える存在がいたとして、剣を振る人間を作り出したとしたら彼とそっくりの動きをするだろう。そのくらいの域にいる人間だ。</p><p>だが彼はどこまでも、人間でしかない。</p><p>竜が人の真似をしてどうする。同じ土俵で戦ったら技術が同じでもお前が負けるぞ</p><p>えっ、なんで？</p><p>ユニスは本気で聞いているようだった。</p><p>背が小せえ。体が軽い。腕が細い。技術も能力も同じだったら勝てる要素がねえだろうが</p><p>小柄なユニスの頭を手で押さえつけながら、ローガンは言う。</p><p>体が小さいということはその分リーチが短いということで、細く軽いということはその分一撃も軽くなるということだ。不意打ちを身上とする暗殺者ならばまだしも、真っ向から戦う剣士としてはそれは不利な要素でしかない。</p><p>えー、そうかな？</p><p>それを不思議に思うということは、ユニスは今まで一度もそれを苦にしたことがないということでもあった。</p><p>だからお前さんは棒きれの振り方なんぞより、自分の力の使い方を学べ。英霊の力ってのは、要するに英雄の生き方そのもの。象徴みたいなもんだ。振り回されずに使えりゃ、きっと力になる</p><p>うん。ありがとうね、ローガン！</p><p>正直ローガンの言っている意味の半分ほどは良くわからなかったが、それでも何か進むべき道筋を得た気がしてユニスは頷く。</p><p>おう</p><p>契約にもないのに人間を守ったり、戦い方を教えてやったり、あまつさえ礼を言われたりするなど、まったく持って悪魔らしい行動ではない。</p><p>だが不思議と、そう悪いものでもない。ローガンは、そう思った。</p><p>第10話砂の王に挑みましょう-4</p><p>かつてヤマタノオロチがその根城にしていた山脈の名を、ヤエガキという。</p><p>まるで並び立つ剣のようにそびえるその山脈は、西から吹く風の中から湿り気を全てこそげ取り、山頂に雪として降らせながら乾いた風をサハラへと送り込む。</p><p>その頂の一つに立ち雪を踏みしめながら、不思議なものだな、とOlは心中でつぶやいた。</p><p>サハラという国と、Olは一切の交流を持っていない。</p><p>その国に住む人間とあったこともなければ訪れたこともなく、伝聞でしかサハラの話を聞いたことが無い。それはサハラにとっても同じことのはずだ。</p><p>にも関わらず、眼前には山の麓を埋め尽くすかのように死者の兵が居並んで、Ol達の手勢に相対している。</p><p>宣戦布告もなく、時刻を伝えたわけでもなく、しかし互いに戦う準備を完了させて向かい合っているのだ。それはなんとも不思議なことのように思えた。</p><p>にしても、わかっちゃいたけど酷い数ね</p><p>うんざりとした口調で、リル。</p><p>まるで絨毯のように黒々と眼下に広がっているのは、その全てが不死兵に違いない。</p><p>山の上からでは遠すぎて細部までは見えないが、その尋常でない数だけははっきりとわかった。</p><p>対してOlたちは兵士も連れず、僅かな手勢のみだ。</p><p>冬山に慣れたザナの手を借り、春近くなってだいぶ溶け出してはきているものの、まだ雪の残る険しい山脈で軍を率いて登るなど不可能だ。</p><p>かといって悠長に春を待てば大軍に攻め寄せられ滅ぼされるのを待つばかり。それまでに手を打たなければならない。</p><p>どの道真正直に一億の不死兵に兵士を当てても損害が広がるばかりであろうから、Olは少数の精鋭だけを連れてやってきていた。</p><p>あの、あたし、何で連れて来られたんでしょうか？</p><p>そんな中、少し困ったように眉根を寄せて、ShalはOlに問いかけた。</p><p>十年前は肩口で揃えていたエメラルドグリーンの髪を腰まで伸ばして先端をリボンで纏め、Olを見つめるサファイアのような瞳は僅かに涼やかに。背も胸の膨らみもほんの少しだけ成長したその姿は、出会った頃の幼げな印象に取って代わるように儚げな美しさが加わっていた。</p><p>とはいえその能力までもが成長したかといえば、必ずしもそういうわけではない。</p><p>Ol配下の僧侶たちの取り纏めとして忙しい日々を暮らす彼女は、かつてのように自らが戦場に立って戦うということは殆どなくなった。</p><p>僧侶としてはともかく、冒険者としての腕や勘は確実に衰えているということだ。</p><p>まあ見ていろ。リル、やれ</p><p>リルが返事をすると同時、山脈の斜面にいくつもの穴が開いた。</p><p>ヤマトにせよヒムロにせよ、Olたちの文明と比べて非常に遅れている点があった。</p><p>それは、魔道具の存在だ。</p><p>何でも霊力というのは人や古い動物、木々などに宿るものらしい。</p><p>逆に言えば生き物でない存在には霊力は宿らないのだ。</p><p>ゆえに道具に込めて使うという発想にも乏しく、Olたちで言うところの付与魔術に関する分野が殆ど発達していない。</p><p>ゆえに。</p><p>山脈の斜面から突き出した何門もの大砲は、例えその存在を知ってはいても理解できるものではないはずだ。</p><p>轟音をたて、巨大な弾丸が一斉に射出される。</p><p>もし理解できないはずのそれまでをも知り対処できるなら脅威であるが、死者の軍団は対応することもなく弾丸に押しつぶされた。</p><p>とはいえ、せいぜい数百体。焼け石に水といっていい数だ。</p><p>あっ、わかりました。これですね</p><p>リルの放った弾丸を見て、ShalはOlの意図を察する。</p><p>弾丸の中には特大の魔石を仕込んであって、円を描くように大地に落ちていた。</p><p>それはShal本人にすら今の今まで伝えていなかった作戦だ。</p><p>Olの頭の中を読むか、テナのように未来を読むかでもしない限り対処できるものではない。</p><p>解呪(ディスペル・カース)！</p><p>Shalの詠唱とともに、リルが放った弾丸から光の柱が立ち昇る。</p><p>それは相互に結ばれ巨大な魔法円を描くと、白い光が戦場を埋め尽くした。</p><p>まるで空に吸い込まれるように光はやがて消え、巻き込まれた死者の群れは動きを止め倒れ伏す。</p><p>これで数万体は倒せたはずだ。</p><p>魔力の補給、お願いします</p><p>それそのものが魔力の塊である魔石を利用した術は本人の魔力をほとんど使わないが、流石にこれほどの規模ともなればその魔力の殆どを使い果たし、Shalはふらりとよろめく。</p><p>その肩を抱き唇を重ねれば、Shalは胸の前でぎゅっと拳を握りながら舌を差し入れてきた。ちゅぷちゅぷと音を立てながら唾液を絡め合い、唇を吸い、ぎゅっと抱きつく。必要な分の魔力を注ぎ終わっても口を離さず、存分に堪能したところで銀の糸を唇に伝わせながら離れた。</p><p>次は下のお口から白い魔力をお願いします</p><p>馬鹿なことを言ってないで次の用意をしろ</p><p>ちらりと法衣の前をたくし上げるShalの後頭部を軽くはたき、Olは彼女の身体を敵に向ける。</p><p>あれ、なんだろ</p><p>不意に、マリーがそう声をあげた。</p><p>その視線を辿ってみれば、黒々と広がる不死の兵団の奥に何かが光っているのが見える。</p><p>炎、か？</p><p>Olはその光を見定めようと目を細める。</p><p>それはまるで松明の炎が揺らめいているかのような、そんな光景に見えた。</p><p>ねえ、なんだかあれ</p><p>リルが硬い声色で、Olの肩を掴む。</p><p>大きくなってない？</p><p>彼女の言うとおり、炎は地平の彼方でじわりじわりとその大きさを増していた。</p><p>まさかそんな馬鹿な</p><p>Olたちはサハラの軍を山の上から見下ろしている。つまりその目に見える地平線は地上から見るよりも遥かに遠い。百マイル（およそ百六十キロメートル）程はあるはずだ。</p><p>どんな弓も兵器もそんな距離を飛ばすことなどできない。</p><p>ましてや何の媒体もなく炎の塊を飛ばすような術など、あるはずもない。</p><p>来るぞ！</p><p>つい先程までは、誰もがそう思っていた。</p><p>迫りくる火球はどんどんその大きさを増し、眼前へと迫る頃には視界を埋め尽くすかのような巨大さまで膨れ上がる。</p><p>パパ！</p><p>その寸前ソフィアが山頂に姿を現すと、一行を壁で覆って即席の部屋を作り上げ、その部屋ごと離れた場所へと転移した。</p><p>轟音とともに炎が弾け、山脈が揺れる。</p><p>リルは目を見開き、呆然と呟く。彼らが先程まで立っていた隣の峰は、まるで途方もなく大きな巨人が削り取ってしまったかのように、ごっそりと抉られていた。</p><p>砂の王ウセルマートの術ですまさかここまで強くなっているとは</p><p>その威力はザナにとっても予想外のものであったらしく、彼女は呻くようにそう言った。</p><p>ソフィア。大丈夫か？</p><p>うん、すぐ切り離したから。でも髪がちょっと焦げちゃった</p><p>チリチリと焦げた髪の先を気にしながら答えるソフィアの姿は、十歳程度にまで成長していた。その姿も、咄嗟に現れてOlたちを救えたのも、山脈をまるごとダンジョン化して己の身体としたためだ。</p><p>あんなものを連発出来るとは思いたくないが出来ると思って行動した方が良いだろうな。どのみち奴の全知に関する範囲ははおおよそ知れた。今日は一旦</p><p>引くぞ、と言いかけたその時だった。</p><p>巨大な魔獣が、ソフィアの襟首を噛んで連れ去ったのは。</p><p>ソフィアっ！</p><p>Olとマリーが同時に叫び、手を伸ばした。</p><p>触手のように何本も伸びたキューブの道は、しかしソフィアを攫った銀色の魔獣の足に追いつくことが出来ず、その長さの限界に達して空を掴む。</p><p>魔獣は雪の積もる山の上を苦もなく駆けると、切り立った崖の上から跳躍した。</p><p>ダンジョンの外ではソフィアはその権能を振るうことが出来ず、ただの十歳の子供にすぎない。</p><p>待ってっ！</p><p>その後を追い、マリーは躊躇うことなくその身を崖へと投じた。</p><p>第10話砂の王に挑みましょう-5</p><p>ローガーーーーーーーン！</p><p>両手両足を広げ、崖から落下しながらもマリーは叫ぶ。</p><p>壁面に伸びた彼女の影がぐにゃりと歪んだかと思えば、四本腕の悪魔の形を取ってマリーを抱きかかえた。</p><p>追って！</p><p>おう！</p><p>音もなく着地しサハラの軍勢に向かって走りゆく魔獣の背を、ローガンは低空を飛びながら追いかける。</p><p>だがマリー、さっきのでかい炎がきたらどうする。俺は大丈夫でも、お前は死ぬぜ</p><p>大丈夫。相手の目的はソフィアだよ。だからまっすぐ追いかけてれば、ソフィを巻き込むような術は使えない</p><p>なるほど、上出来だ。じゃあ捕まってな！</p><p>ローガンの背に移動しながら冷静に答える少女に、赤い悪魔は口笛を吹いた。</p><p>その行く手を、うごめく死者たちが遮る。</p><p>全身を古びた布でぐるぐる巻きにしたおぞましい屍たちはソフィアを咥えた魔獣の道を開けると、それを塞ぐようにしてローガンとマリーの眼前に立ちはだかった。</p><p>行くぜ、合わせろよマリー！</p><p>四本の腕と四振りの剣が宙を舞い、まるで竜巻のように死者たちを切り刻む。</p><p>ローガンの放った炎に触れた死者は瞬く間に燃え上がり、それをマリーの起こした魔術の風が運んで広げながら吹き飛ばす。</p><p>一体一体は大した強さも持たず、簡単に打ち倒すことが出来た。</p><p>ちっ、キリがねえな！</p><p>だが問題はその数だ。どれほど倒しても死者たちは後から後から湧いて出る。</p><p>ローガンはそれを掻き分けながら進むが勢いは瞬く間に衰えて、ついには足を止めて応戦せざるを得なくなってしまった。</p><p>ローガン、もっと高く飛べない？</p><p>狙い撃ちにされる可能性もあるがしゃあねえな！</p><p>このままでは早晩身動きが取れなくなってしまう。それよりはマシだとローガンが飛び上がったその瞬間、大きな影がその行く手を塞いでローガンを叩き落とした。</p><p>なんだ、こいつぁ？</p><p>十字にして受けた四本の腕のうち一本を切り落とされて、ローガンは思わず目を見開く。</p><p>それは槍を持ち、馬に乗った不死兵だった。</p><p>馬もまた死者であり、肉も筋もなく骨だけで動いている。</p><p>それに跨る不死兵はボロボロの布を身体に巻いた姿こそ他の雑兵と同じだが、その佇まいと存在感は明らかに別格だ。</p><p>面倒なことになってきやがったぜ！</p><p>騎馬の不死兵が現れても、他の雑兵たちは動きを止めることなく四方八方から襲い掛かってくる。騎馬の不死兵はそれを薙ぎ払う隙を突いては槍を繰り出し、反撃しようとしても雑兵を盾にしながら騎乗の機動力を活かしてさっと距離をとってしまうのだ。</p><p>強さだけでなく、動き自体も死者離れしている。</p><p>まずいな！</p><p>強さで言えば、騎馬の不死兵はローガンどころかマリーよりも弱いだろう。</p><p>だがそれは一対一で戦った場合の話だ。</p><p>無数の不死兵に囲まれた状況では思うように戦えず、空に飛び出そうとすれば長い槍で撃ち落とされる。じわじわと追い詰められていく状況に、ローガンが歯噛みした、その時。</p><p>まったく、手のかかる師妹ですね</p><p>涼やかな声が、マリーの胸元から聞こえた。</p><p>姉さん？</p><p>一体いつの間に潜んでいたのか、マリーの懐に忍び込んでいたのは手のひらに乗ってしまいそうな程に小さなスピナであった。</p><p>本体は元々の大きさより小さくなることは出来ないから、分け身であろうことはわかる。だがなぜかいつものスピナとは違う気がして、マリーは戸惑いの声を上げた。</p><p>私を投げなさい</p><p>言われるがままに、マリーはスピナの身体を手のひらに乗せて、騎馬の不死兵に向かって投げつける。不死兵は小さなスピナの姿にも油断することなく槍を振るい、一撃で両断した。</p><p>頭から二つに分かたれたスピナはそのまま粘体(スライム)へと変化する。いつもは深い青色をしているはずのその姿は、何故か禍々しい血のような赤であった。</p><p>そして飛び散ったスピナの破片を浴びた不死兵たちが、突然叫び声を上げ始める。腐った木のうろの中に響くような、空虚で苦しげな声だ。</p><p>い、一体何だってんだ？</p><p>わかんないけど、ロクでもないことしてるのだけはわかる</p><p>ローガンでさえやや怯えたような声を上げ、マリーは呻くように答える。</p><p>不死兵たちはシュウシュウと煙を立てながら徐々に小さくなっていき、やがて身体に巻いた布だけを残して消滅した。そしてその布がうごめいたかと思えば、下からずりずりと赤い塊が這いずりだして集まっていく。</p><p>赤い塊は互いに寄り集まって伸び、形を整え、その色を透けるような白と闇のような黒に染め上げて、服をまとったスピナの姿を取った。</p><p>あの、姉さん、それは？</p><p>改造しました</p><p>こともなげに、スピナは答える。</p><p>新大陸の人間たちは皆魔力を持っていない。</p><p>霊力なる力はあまりに勝手が違いすぎて、スピナにもそれを食らうスライムを作り出すことはまだできなかった。</p><p>なのでスピナは初心にかえり、シンプルに対処することにした。</p><p>この分け身は、肉食みスライムです</p><p>宣言するスピナの足を取り巻く蛇のような意匠が、ぶわりと広がって周りの不死兵たちを突き刺す。それは彼らの巻いた布を微塵も傷つけることなく、中身の死骸だけを溶かし喰らった。</p><p>Olの弟子となった時初めて作ったスライムに少し手を加えて真反対の性質を与えた、肉だけを食らうスライムだ。</p><p>不死兵たちを喰らえば喰らうほど蛇の尾のような触手は増えて、周りの不死兵たちを取り込んでいく。その戦い方に、マリーは見覚えがあった。</p><p>それって、ヤマタノオロチの</p><p>ええ。多少、参考にはしました</p><p>全身から触手を揺蕩わせ、スピナは答える。</p><p>ローガンとマリーは大量の敵に疲弊し消耗するばかりであったが、彼女は逆だ。敵が来れば来るほどそれを餌にして強く大きくなっていく。</p><p>さて、あなた達は</p><p>言いかけたその時、騎馬の不死兵の槍がスピナの頭を貫いた。</p><p>だが彼女は眉一つ動かすことなくその槍を掴み、触手を伸ばす。</p><p>不死兵は咄嗟に槍を手放し逃げようとしたが、それよりも早く無数の触手は馬ごと不死兵を貫いて、己が栄養へと変えた。</p><p>消化できない不死馬の骨だけがスピナの喉元にせり上がってきて、彼女はそれをぷっと吐き出す。</p><p>失礼。あなた達はあの子ソフィアを追いなさい</p><p>やや恥ずかしげに口元をおさえた後、槍が刺さったままスピナはマリーに命じた。</p><p>同時に四方八方から飛びかかってくる不死兵たちが、触手に貫かれて崩れ落ちる。それに伴いスピナの身体は更に膨れ上がり、もはや巨人の如き大きさとなった。</p><p>道は私が開きます</p><p>その腕をぶんと揮えば不死の兵たちは吹き飛び、襲いかかるものもシュウシュウと煙を立ち上げながらあっという間に消化吸収され、スピナはますます大きくなる。</p><p>無数の触手はどんどんその数を増やしていき、手当たり次第に死者たちを食らっていくその様はもはやおぞましい死兵の蠢く戦場ではなく、飢えた狼に襲われた哀れな羊たちの牧場のような有様であった。</p><p>マリーお前のねえちゃん、どんどん人間離れしていくな</p><p>震える声で囁くローガンにマリーは頷き。</p><p>ソフィって本当に、世界一こわいよね！</p><p>輝かんばかりの笑顔でそういった。</p><p>第10話砂の王に挑みましょう-6</p><p>俺の記憶が確かならよ</p><p>ローガンは、不意にぽつりと言った。</p><p>Olの旦那が新大陸に行くって時、スピナの奴がついていかなかったのは分け身が暴走する恐れがあるから、だったよな？</p><p>リルもスピナも分け身を作ることが出来るが、その性質、方法はまったく別のものだ。</p><p>リルが作るそれは、Olの形代に近い。どれも本物で、ある意味ではどれも偽物だ。</p><p>こちらの姿は魔力で作った現身であり、本体は魔界にいるのだから。</p><p>それに対してスピナの分け身は、彼女が作り出した一種の魔法生物に過ぎない。</p><p>スピナとほぼおなじ能力をもち、同じように考え、同じように行動できるが、魂は持っておらず実際どう行動するかはスピナ自身でさえも予測できない。</p><p>故に、常に暴走の恐れを孕んでいた。</p><p>無論スピナはスピナだからOlの害となることをしたりはしないはずなのだが、二人きりになったら、自分で自分が何をするかわからないと断腸の思いで断ったのだ。</p><p>翻って、現状である。</p><p>あれ、暴走してんじゃねえのか</p><p>うーん。普段通りといえば普段通りという気もしないでもない</p><p>もりもりと死者たちを引っ掴んでは喰らい大暴れする巨大スピナに、ローガンとマリーはいっそ呑気とすら言える口調でそんなことを言い合っていた。</p><p>彼女たちにも無論周りの不死兵たちは襲い掛かってきてはいるのだが、大多数がスピナへの対処に向かっているため簡単に倒してしまえる程度のものでしかない。</p><p>先程現れた騎馬の不死兵のような特別製と思しき個体も何体か見かけてはいたが、巨大スピナの前に為す術もなく取り込まれていくだけであった。</p><p>お、マリー。尻尾が見えたぜ</p><p>うっすらと透けるスピナの体を通して、ソフィアを咥えた魔獣の姿が彼方に見える。</p><p>わかってます</p><p>緩慢にも見える動きで、スピナは腕を長く伸ばす。だがそれはあまりの巨体故にそう見えるだけで、実際には凄まじい速度で彼女は魔獣の後ろ足を捉えた。</p><p>よしっ</p><p>ローガンが快哉を叫びかけた、その瞬間。</p><p>突如として、スピナの身体が爆ぜた。</p><p>姉さん！？</p><p>上半身がごっそりと抉られ消滅したかと思えば、残る下半身には炎が回り、みるみるうちに彼女の身体は焼け落ち溶けていく。</p><p>炎が、弱点だったんだ</p><p>スライムには必ず弱点がある。例えばスピナの本体であれば塩水に弱く、浴びれば軟体状態を保っていられず魔力も吸収できなくなってしまう。</p><p>肉食みの分け身にとってはそれが炎なのだろう、とマリーは推測した。</p><p>いや、違うぜマリー。敵が強力な炎の術者だってことはわかってたんだ。あの旦那の一番弟子が、そんな迂闊なことをするわけがねえ</p><p>だがローガンは焦りの滲んだ声色で言って首を振る。</p><p>あの炎、ただの火じゃねえ。もっとエグい何かだ</p><p>間違いなく、山脈を吹き飛ばしたのと同じものだ。</p><p>そしてそれが突如発生するということは。</p><p>神皇(ファラオ)の物を盗むなどとは、不届き者めが</p><p>それを放った術者がすぐ側にいるということを意味していた。</p><p>わきまえよ、下郎</p><p>男がそう発した途端、不死兵たちは一斉にその場に跪き、頭を垂れる。</p><p>褐色の肌を持つ、長身の美丈夫。精悍なその顔つきは男であるにも関わらずある種の色香を帯びていて、他者を惹きつける華のような雰囲気があった。その表情は自信に溢れ、眼差しには力が満ち満ちている。</p><p>だが、普通の男だ。</p><p>英雄王ウォルフのように竜をも捻り潰す力強さもなければ、大聖女メリザンドのような二面的な油断のならなさもなく、魔王Olのような底知れなさもない。</p><p>今まで見てきた王たちに比べれば、澄み渡る青空のように分かりやすい、ただの男だ。</p><p>なのにマリーは生まれて初めて、スピナ以外の存在に恐怖した。</p><p>目の前の男が、怖くてたまらないのだ。</p><p>あれを撃たせる前になんとかするしかねえなマリー。俺が奴を引きつけるから、お前はソフィアを聞いてんのか？</p><p>だがローガンはそれを感じていないらしかった。</p><p>いくぜ。しくじんなよ</p><p>ローガンはマリーを地面におろし、ウセルマートへと肉薄する。</p><p>だがウセルマートはローガンに視線を向けることすらなく、マリーに杖を向けた。</p><p>しまっ俺がしくじってんじゃねえか！</p><p>想定外だ、とローガンは思った。</p><p>ウセルマートの身体は防具一つ身につけておらず、その体つきからも強力な術者ではあっても武人ではないことが窺い知れる。つまりはローガンが腕を一振りすればすぐさま絶命してしまうであろう、脆弱な人間だ。</p><p>そんな人間が目の前に迫る強大な悪魔をまったく無視して他者を攻撃するとは思っても見なかった。</p><p>ましてや。</p><p>契約を結んでもおらず、そんなことをしても微塵の得にもならず、大好きな幼女ですらない女を助けるために考えるよりも先に身体が動くなどとは、想定外も良いところであった。</p><p>ウセルマートの放った火球を、一本切られて減った三本の腕で受け、腹に抱えるようにして止めるローガンにマリーは叫ぶ。</p><p>大丈夫だ！こんなちっこい火の玉くれえ、なんでもねえ。お前はソフィアを！</p><p>ううん</p><p>ソフィアの元へと踵を返すマリーの気配を感じながら、ローガンは内心で汗をかく。思った通り、それは尋常の炎ではなかった。</p><p>全てを燃やし溶かすはずのローガンの魔炎が、逆に砕かれあっという間に消えていく。それを、最大出力で炎を放ち続けることによってローガンはなんとか押しとどめる。しかしウセルマートの火球は衰えるどころか更に勢いを増してローガンを飲み込まんと膨れ上がった。</p><p>ほう。下賤のものにしてはやりおる</p><p>それを見て、ウセルマートは言い放ちローガンに杖を向ける。</p><p>褒美だ。受け取れ</p><p>そして、もう一発の火球を投げはなった。</p><p>マリーはようやく魔獣に追いつくと、四振りの剣を抜き放って対峙した。</p><p>ママ！</p><p>着ている服の襟首を咥えられぶらぶらと揺れているソフィアには怪我もなく元気そうで、マリーはほっと胸を撫で下ろす。とは言え馬のように巨大な狼に咥えられたままのその状態では、安心するにはまだ早い。</p><p>見た目はただの巨大な狼だ。ヘルハウンドのように炎を吹くわけでもなく、ケルベロスのように幾つも頭があるわけではない。</p><p>だがその佇まいに油断ならないものを感じて、マリーは慎重に歩みを止めた。</p><p>ソフィアを、離して</p><p>もしミオがいたなら、そう伝えるだけで勝負がついただろうか、とマリーは思う。</p><p>だが残念ながら今日彼女はエレンたちとともに迷宮の防衛にあたっていた。</p><p>こうして生きたまま攫ったからには殺しはしないだろうが、万が一ということも考えられる。まずはなんとか自分に気を引かないと。</p><p>マリーがそう考えていると、突然魔獣はソフィアを地面におろした。</p><p>戸惑い目を見開くマリーのもとにソフィアが駆けてきて、それを抱きとめる。その一瞬の間に、魔獣は忽然とその姿を消していた。</p><p>魔獣のその不可解な行動に、マリーは首を傾げる。</p><p>だが疑問に思っている場合ではないことをすぐに思い出すと、ソフィアを抱えてローガンの元へと急いだ。</p><p>幸い不死兵たちは砂の王が現れてからはずっと跪いたままで動く気配もないので、移動自体は簡単だ。砂漠の砂に足を取られながらも、マリーは走る。</p><p>そして。</p><p>まさか手加減したとは言え、余の炎を三発も受けて耐えるとはな。見事だ、褒めて使わす</p><p>マリ、ィ</p><p>彼女が目にしたのは、全身の至る所が抉れボロボロになったローガンの姿だった。</p><p>四本の腕は全て半ばからちぎれ、腹には大きな穴が空き、太い脚は皮一枚で繋がっているだけで胴体からぶらんと垂れ下がっている。</p><p>その表情は苦痛に満ち、身体のあちこちからは白い煙がシュウシュウと音を立てながら吹き出していた。</p><p>余の放つ炎は聖なる火、真の炎だ。悪魔のその身にはさぞ辛かろう。今、楽にしてやる</p><p>もはや動くこともままならないローガンに向けて、ウセルマートは杖を掲げる。</p><p>わかった、ぜ、お前の正体。マリー、旦那に伝えろ。奴は</p><p>言い終える前に。</p><p>ローガンの身体は炎に包まれ、燃え尽きた。</p><p>第10話砂の王に挑みましょう-7</p><p>ロー、ガン</p><p>マリーは先程までローガンのいた場所を掻き抱くように手を伸ばした。</p><p>燃やし尽くされた彼はの身体は灰のひとひらさえ残らず、消え失せる。</p><p>その光景はどうしようもなく、マリーに不安を抱かせた。</p><p>現世に存在する悪魔の身体は、魔力で作り上げた仮初めのものだ。</p><p>例え粉々に砕かれようと魔界の本体は無事なのだから、召喚しなおせばいいだけの話。</p><p>そうわかっているのに、何故かマリーの胸を言いようのない恐れが埋め尽くす。</p><p>フン。ウプウアウトめ、しくじったか</p><p>恐らくはそれが、ソフィアを攫った魔獣の名なのだろう。</p><p>マリーたちの姿を見てウセルマートはそう吐き捨てた。</p><p>そこな娘。それは余の物だ。こちらに渡せ</p><p>ソフィアは物なんかじゃない！渡すわけないでしょ！</p><p>当然のように命じるウセルマートに、マリーは剣を鞘に収めて高く手を掲げる。</p><p>開け、天門！</p><p>ローガンさえも焼き尽くす炎に、未熟なマリーの力では抗うすべなどない。</p><p>しかしそれを無効化しうる存在を、彼女は一人だけ知っていた。</p><p>あらゆる術を打ち消す、鉛の英雄か</p><p>呼び出そうとしたまさにその瞬間。</p><p>ウセルマートに言い当てられて、マリーはびくりと体を震わせた。</p><p>先に言っておいてやるが、無駄だ。余の火は消すことなど出来ぬ。無駄と知りつつ呼ぶのなら止めはせんがな</p><p>自信有りげにというより、ほとんど確信に近い口調で言うウセルマートにマリーの心に迷いが走る。確かにザイトさんちょっと頼りないところあるしな、などと失礼なことも脳裏をよぎってしまった。</p><p>その一瞬の隙を突くかのように、マリーの頭上に開いた法術陣から褐色の腕が伸びた。</p><p>それはマリーの腕を取ると、ぐいと引っ張って自分の身体を法術陣の中から無理やり引きずり出す。更にもう片方の腕には別の人間の腕を握りしめていて</p><p>ユニスOlさま！？</p><p>やっと呼んでくれたね、マリー</p><p>現れた二人に、マリーは驚きの声をあげた。</p><p>いや呼んでない、呼んでないよ</p><p>お前がザイトリードを呼び出すことは予想がついた。故にリルを通じてメリザンドに命じ、ザイトリードが呼ばれればユニスを代わりに遣わすよう手配したのだ</p><p>マリー以外に天門を開けるメリザンドという存在がおり、更にユニスとザイトリードが血縁関係であるがゆえに出来た荒業だ。ついでにユニスの空間を渡る権能を使ってOlまで連れて来られたのは望外のことではあった。</p><p>お前たちは先に帰っていろ</p><p>Olはキューブを操作して転移陣を作り上げ、マリーとソフィアをダンジョンへと帰還させる。ひとまずこれで、ソフィアの奪還は完全に防ぐことが出来た。</p><p>さて。これも予測済みという顔ではないな、全知よ</p><p>驚きに目を見開くウセルマートに、Olは意地の悪い声色で問う。</p><p>ザイトリードの能力まで知っていたのだ。メリザンドやユニスの力も知っていてもおかしくはない。だが、そこからこんな手を打ってくることまでは予測がつかなかったらしい。</p><p>ああ、認めよう、異境の魔王よ。余の全知は人の心の内と未来は見通すことは出来ぬ</p><p>ウセルマートは事も無げに、あっさりとそう答えた。</p><p>だが貴様の穴蔵を突き止め、燃やし尽くすにはそれで十分だ</p><p>Olもまた、ウセルマートの言う通りであると認める。</p><p>あの炎であれば外部からでも厚い岩盤を溶かし、ダンジョンを破壊することが出来るだろう。</p><p>でもそれはここで君が死ななければ、という話だよね</p><p>すらりと剣を抜き、ユニスが言った。</p><p>こうして相対できたのは千載一遇の好機だ。逃すつもりは毛頭ない。</p><p>出来るものならな。イェルダーヴ！</p><p>褐色の肌に紫の髪の女が影のように現れいでたかと思えば、更に巨大な不死兵が飛び出した。その身の丈は七フィート（約二百十センチ）近くはあろうか。大振りの剣の切っ先でユニスの喉を指し示すかのように、ピタリと構える様はOlにも只者でないと知れた。</p><p>ユニスの表情がきりりと引き締められ、その頬を一筋の汗が流れる。</p><p>その構えはホデリのそれにどこか似ていたが、その布に包まれているのが彼でないのは間違いなかった。体格が違うから、ではない。</p><p>ホデリよりも、強いからだ。</p><p>まるで時が止まったかのように、二人は睨み合った。</p><p>ユニスの能力を持ってすれば、一瞬で相手を殺せる。だがそれは、一度に一人までだ。</p><p>ウセルマートを殺せば、あの不死兵に殺される。</p><p>不死兵を操っているのであろうイェルダーヴという女を殺せば、ウセルマートの炎に殺される。</p><p>不死兵を狙うのは一番の下策で、十中八九はユニスの方が殺される。</p><p>だがそんな状況だからこそ、相手も攻撃してこない。</p><p>不死兵がウセルマートから離れれば、或いはウセルマートが炎を放てば、その隙に二人殺すことが出来るからだ。</p><p>Ol、あたし死んでも大丈夫かな？</p><p>なんとなく、ユニスはそう問うた。ここでユニスが死んでもウセルマートを殺せれば帳尻は合う。蘇生してもらうことも可能なのだから、案外悪い手ではない。</p><p>駄目に決まっているだろう、愚か者</p><p>だよねえ</p><p>当たり前のようにかえってくる言葉に、ユニスはへらりと笑みを浮かべた。</p><p>ウセルマートの炎は尋常ではない。ヤマタノオロチのように魂ごと破壊してくる可能性は十分考えられる。だがそんな理屈以前の問題で、Olはユニスに死んで欲しくないと思っている。それを感じて、ユニスは嬉しくなったのだ。</p><p>随分甘いな。魔王とやら</p><p>だからそう嗤うウセルマートに、ユニスは珍しくカチンときた。</p><p>つまらぬ感傷、拘りの為に好機を逃すとは。王とは全ての民の上に立つもの。犠牲を厭うていて国は治められぬ。王たるもの、この世で信じられるのは己だけだ</p><p>勝手なことを</p><p>良い。奴の言うことはもっともだ</p><p>怒るユニスを遮り、Olはそう言う。</p><p>確かに俺は随分甘くなった。捨てられぬもの、失えぬものが増え、その分弱点も増えた</p><p>かつての十年前のOlであったら、この局面で間違いなくユニスを使い捨てていただろう。</p><p>それ以前に独断で行動したマリーを見捨てただろうし、ソフィアを育てもしなかっただろうし、そもそも自分のダンジョンを留守にして異大陸などという場所にやって来たこと自体が、以前のOlであればありえないことだ。</p><p>だがユニスは、今のOlの方が好きだった。</p><p>その甘さはきっと、彼がやっと安心できたことの表われだと思ったから。</p><p>だがな青二才。良いことを一つ教えてやろう</p><p>それをOl自身が否定し、昔の彼に戻ってしまうのか。</p><p>ユニスがそう心配する中で。</p><p>Olはかつての口癖を、再び口にした。</p><p>この世で信じられるのは己だけだと？愚か者め</p><p>ユニスは全知の力を持たないが、その言葉の意味するところはよく知っていた。</p><p>他人など信用ならないという意味ではない。</p><p>人間など信頼できないという意味ではない。</p><p>自分こそが、この世でもっとも信頼できぬものだと言うのに</p><p>何だ、あれは</p><p>嘲笑うOlの言葉にウセルマートは答えず、ただそう問うた。</p><p>それはまるで、壁のようだった。</p><p>砂漠の上にそびえ立つ、碧の壁だ。</p><p>死者の群れが織りなす黒い地面と、雲一つない青い空。</p><p>その間を埋める、高い高い壁。</p><p>なるほど、そうきたか</p><p>それを見て、Olは思わず呟く。</p><p>どういうことだ</p><p>全知だろう。わからぬのか？</p><p>問うウセルマートに、Olはからかうように問い返す。</p><p>とは言えそれを指す言葉は、Ol達の言語にもなかった。</p><p>砂漠の民であるウセルマートたちの言葉にもないだろう。</p><p>だが幸いにして、ヤマト語には存在した。</p><p>あれは、ツというらしい</p><p>ツ？</p><p>そう言えば、ユツが説明してくれたことがあったな、とOlは思い出した。</p><p>彼女の名は短いが、二つの水をあらわす言葉から出来ている。</p><p>ユとは湯。風呂に使う温めた水のことだ。</p><p>そして、ツとは津。</p><p>巨大な波の事をそう呼ぶのだと。</p><p>地平の彼方まで続く膨大な水の塊はあっという間に不死兵たちを飲み込んで、Ol達の上に降り注いだ。Olはキューブを展開して小さな部屋を作り上げ、その柱を地中深くに埋め込んでユニスたちとともに波をやり過ごす。</p><p>そうしているとにわかに天井の上の水が渦巻き、そこにだけ空間が出来上がった。Olが天井部分に穴を開けてやると、その腕の中に青い髪の少女が飛び込んでくる。</p><p>おうる、ざぱーんしたよ！</p><p>ああ。よくやった</p><p>タツキの濡れた頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに身体を擦り付けて、Olの服を更にびしょびしょにした。</p><p>でもちょっとつかれた</p><p>だろうな。無茶をするだが助かった</p><p>比較的海に近い南側の砂漠であるとはいえ、ここから海まで一体何十マイル離れていることか。流石は海の神といったところだが、タツキにとっても簡単なことではなかったらしい。Olの胸板に頭を持たれかけさせると、そのまますうすうと寝息を立て始めた。</p><p>ほう。よくあれをやり過ごしたな</p><p>やがて波も引き、Olがキューブを元に戻して辺りを見回せば大量にいた不死兵たちはすっかり押し流されて、残っているのはウセルマートとイェルダーヴの二人だけだった。</p><p>き、貴様、よくも！</p><p>炎で水を打ち消したのか、それとも他に何か手段があったのか。</p><p>いずれにせよ無事というわけにはいかなかったらしく、全身はびっしょりと濡れ、飲み込んでしまった海水を吐き出しながらウセルマートは怨嗟の視線をOlに向けた。</p><p>どうだ、自分に裏切られた気分は</p><p>全知と言ってもこの広大な世界の森羅万象を余さず把握することなど、人間に出来るわけがない。広い砂漠にある砂粒一つ一つの形までを知るには、人の頭は小さすぎる。だから全知と言っても何を知りたいのかの指定は最低限必要なはずであった。</p><p>それは驚異的な能力だったが、同時に隙でもあった。</p><p>なんでも知れるがゆえに、思いもよらないものに対する備えというものがないのだ。</p><p>タツキはOlの役に立ちたいと言い、Olはいざという時は頼むと言った。</p><p>だから彼女が何かするだろうと予測はしていたが、まさかこんな手段に出るとは思っても見なかった。だがそれは、備えをしておかない理由にはならない。Olはキューブに水対策の術式をたっぷり仕込んでやって来ていた。</p><p>老婆心ながら教えておいてやる。策というのは、往々にして無茶をする阿呆に潰される</p><p>ちらりとユニスを一瞥し、Olは言った。</p><p>物事を理詰めで進める人間にとって何をしでかすかわからない相手というのは、それだけで脅威だ。かつてのユニスのように。</p><p>そら、出番だ</p><p>Olがついと指を滑らせれば、キューブがパタパタと展開して門を形作る。</p><p>その表面が渦巻き転移の陣が起動したかと思えば、一瞬にして砂漠は純白に染まった。</p><p>その砂の原はタツキが連れてきた波をすぐに飲み込んでしまったが、すっかり乾いてしまうにはまだまだ時間がかかる。</p><p>そして水分さえあれば、彼女の独壇場だ。</p><p>存分に討つが良い、氷の女王</p><p>ウセルマァトォォォォッ！</p><p>門からはじき出されるかのように、ザナが飛び出す。</p><p>その心の中はOlでさえ眉をしかめるような、漆黒の憎悪に満ち満ちていた。</p><p>幾本もの氷の矢がウセルマートに向かって飛び、彼はそれを盾状に展開した炎で溶かし落とす。</p><p>だが矢はザナの手元からだけではなく、全方位からウセルマートを取り囲むように放たれた。</p><p>む！</p><p>それをかわそうとして、ウセルマートは既に自分の足元が凍りつき、移動できない事に気付く。その一瞬の隙をつき、ザナは巨大な氷の槍を作り上げた。</p><p>全ての攻撃を防ぐには、全方位に炎の壁を張らざるを得ない。だがそんなことをすれば壁の厚み自体は薄くなる。厚くすればウセルマート自身が焼け死んでしまうからだ。</p><p>そしてこの槍ならば、薄い壁なら突破できる。</p><p>喰ら！</p><p>氷の槍を投げ放とうとしたザナの手は、しかし、ぴたりと止まった。</p><p>ウセルマートの背後に立つ、イェルダーヴの姿を見たからだ。</p><p>よかろう認めよう。此度は余の負けであると</p><p>その間に辺りの氷を焼き払い、ウセルマートは忌々しげに吐き捨てる。</p><p>Olの命にユニスが空間を渡り、刃をウセルマートの首へと走らせる。</p><p>だがその一撃を、巨大な銀の魔獣の牙が受け止めた。</p><p>まただ、とユニスは歯噛みする。こんなに巨大な魔獣だと言うのに、ソフィアを攫われたときも今も、どこから出てきたのか全くわからなかった。例え魔術で姿を消していたり、影の中に潜んだりしていても、これほど強力な存在であれば気づかないはずがないのにだ。</p><p>だが次はないものと思え！</p><p>ウセルマートの宣言とともに、巨大な石が砂を割って突き出す。それはウセルマートたちの身体を押し上げながら、高く高くそびえ立つ。</p><p>それが何であるか、Olはよく知っていた。</p><p>材質も、作り方も、見た目も、まったく違う。だが</p><p>いくつもの石を積み重ね作られた、巨大な建造物。</p><p>それは間違いなく、ダンジョンであった。</p><p>かの娘は次にまみえるその時まで、預けておこう</p><p>そう言ってウセルマートとイェルダーヴはダンジョンの中に姿を消す。</p><p>待て！</p><p>その後に続く銀の魔獣を、Olは呼び止め。</p><p>何故お前がそいつを守る。答えよホスセリ</p><p>静かな声で、そう問うた。</p><p>魔獣は振り返り、Olを見つめる。</p><p>なんで、分かったの</p><p>そしてひび割れたような醜い唸り声で、そう答えた。</p><p>この、完全に獣の姿になった状態はOlには見せていない。</p><p>髪も染めていたから、銀色の魔獣の姿から連想するのは難しいはずだ。</p><p>情を交わした女のこと、気づかぬわけがあるか</p><p>その言葉に、ホスセリはぐっと奥歯を噛み締める。</p><p>ああ。だからこそ</p><p>御館様は、見目など関係ないと言った</p><p>だからこそ、ホスセリはOlを裏切った。</p><p>裏切らなければならなかった。</p><p>これが私。この姿の獣を、御館様は抱ける？</p><p>その問いにOlは答えられず、ただ沈黙する。</p><p>そしてそれは何よりも明白な回答だった。</p><p>ホスセリは悲しげに目を伏せて、その身をダンジョンの中へと踊らせる。</p><p>損害はほとんどなく、相手方の不死兵は何千何万と打ち倒し、相手方の情報も手に入れながら、相手には敗北を認めさせ撤退させた。</p><p>それは紛れもなく、勝利と呼べるものだろう。</p><p>石造りのダンジョンは轟音を立てながら、再び砂の中へと埋まっていく。</p><p>だがOlは苦い思いで、それを見つめ続けた。</p><p>第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-1</p><p>魔法陣の基本は円と曲線だ。だが人は、完璧な円というものを描くことは出来ない。</p><p>ある魔術師の言うことには、この世には完璧な円などないのだという。</p><p>だがマリーは真なる円を目指しながら、何度も何度も丁寧に陣を描き直していた。</p><p>どれだけ描き直しても言いようのない不安が募り、上手く行かないのではないかという予感が離れない。</p><p>マリー。それ以上描き直しても無駄だ</p><p>Olは更に陣を修正しようとするマリーの手を止めた。</p><p>彼の目から見てさえ、魔法陣は完璧な出来だ。</p><p>そもそもローガンが無事であれば多少陣がいびつだろうが問題なく呼べるだろうし、無事でなければ出てこれないからやはり問題はない。Olには、マリーの行為はただ確認を先送りしているだけのように思えた。</p><p>出てきてローガン</p><p>召喚の呪を唱え、マリーは祈るような気持ちで陣を見つめる。</p><p>するとにわかに魔法陣の中に炎が溢れ、とぐろを巻く蛇のように膨れ上がった。</p><p>ぐるぐると螺旋を描きながら立ち昇る炎は柱のように伸びると、パンと弾けて悪魔の形を取る。</p><p>四本の腕、赤銅色の肌、山羊のような顔、蹄を持った足。</p><p>そのどれもが、マリーの知っているローガンそのもので。</p><p>あ？ババアが気安く名前を呼ぶんじゃねえ。誰だ、てめえは</p><p>彼は一度も聞いたことのない低い声色で、マリーにそういった。</p><p>分霊？なんだ、それは</p><p>まーお前ら人間には馴染みがねえかもな。俺くらいの大悪魔ともなりゃあ、一度に全ての力を地上に送ったりはしねえってことよ</p><p>魔法陣の中にどっかりと座り込んだまま、ローガンはOlの問いにそう答えた。</p><p>俺で言えば分霊の数は全部で四体。その全てが俺様で、同時に別々の個体だ</p><p>リルの分け身とは違うのか？</p><p>Olの問いに、リルはこくりと頷いた。</p><p>うんわたしのは、単にわたしという存在が、身体を増やしてるだけよ。遠隔操作できるよく出来た操り人形みたいなものだから</p><p>どちらかと言うと、私の分け身に近いのかもしれません</p><p>ああ、そういう理解で構わねえ。違うのは、本体と呼べる存在が四体いるってことだ</p><p>スピナの言葉にローガンはそう答え、Olは僅かに瞠目する。</p><p>スピナのことを知ってるのか？</p><p>言っただろ、全部俺は俺なんだよ。記憶や知識は共有してる。だからあんた達のことは知ってるし、契約だって元のままでいいぜ</p><p>ローガンは極めて強力な悪魔でありながら、その契約条件は信じられないほど緩い。</p><p>普通ならば何十という人間の魂を要求されても不思議はないというのに、ほとんど魔力の供給だけで働いていた。</p><p>ローガンは元々の分霊は、どうなったの？</p><p>さてな</p><p>マリーの問いに、ローガンは肩をすくめる。</p><p>記憶の同期は魔界に戻る度にだから、どうなったかはわかんねえよ。だがまあ、こうして別の分霊の俺が出てくる羽目になってるってこたあ、消えたんだろ。仮初の肉体しかない地上で、どうやって消したのかまではわかんねえけどな</p><p>そう</p><p>マリーは手にしていた剣をぎゅっと掻き抱く。</p><p>まあ気にすんな。どっちも同じ俺だ。能力には一切差がねえ。これからもよろしくお引き立ての程をってな</p><p>いいや。お前とは契約しない</p><p>にこやかな口調で言うローガンに、Olはきっぱりとそう答えた。</p><p>あぁ？なんだってんおい、本気かよ！？</p><p>光り輝き送還の準備を始める魔法陣に、ローガンは結界を拳で叩いて抗議する。</p><p>待て！ふざけんな、わざわざ呼んでおいて返すだと！？そんな馬鹿な事があるかよ！おい、Ol！俺を</p><p>アイツは！</p><p>ローガンの声を遮って、Olは怒鳴った。</p><p>俺のことを、旦那と呼ぶ。消え失せろ、名も知らぬ悪魔</p><p>とぷん、と水没するようにして。</p><p>赤い悪魔は、魔法陣の奥へと消えた。</p><p>あんなの、ローガンなんかじゃない</p><p>うん。あたしもそう思う</p><p>涙を浮かべて言うマリーを、ユニスがぎゅっと抱きしめる。</p><p>リルも、スピナも、Olも。その場にいるものは皆、同じことを思っていた。</p><p>口調も、性格も、能力も、あるいは記憶も全て同じ。</p><p>言っていることに嘘はないのだろう。</p><p>だがその記憶というのは、まるで本で学んだような薄っぺらいものだ。</p><p>本人は同一の存在だと言っていたが、言葉の端々からそれが感じられた。</p><p>それにしてもマリーのことをまったく覚えていなかったのは不思議ですが</p><p>同期は魔界に帰るごとと言っていたが、最後に帰ってからそれほど長い月日が経っているわけではない。サクヤとの戦いで呼び出す時に魔界を経由したから、せいぜいが数ヶ月前だ。</p><p>きっと、ローガンはそれを自分だけの記憶にしたくて、報告しなかったんだよ</p><p>何の根拠もないユニスの言葉。しかしなぜだかそれは真実であるような気がした。</p><p>だが、奴がいないとなると、戦いは更に厳しいものになるな</p><p>先の戦いにおいて、ウセルマートは明らかに油断していた。</p><p>だがあの巨大な石造りのダンジョンで防備を固める彼にもはや慢心はないだろう。</p><p>その上、あのダンジョンは膨大な砂の中にある。</p><p>つまりサクヤの山に攻め込んだときのように、ダンジョン同士を繋ぎ合わせて攻め込むことが出来ないということだ。砂では、壁も柱も天井も作ることが出来ない。</p><p>ダンジョンに引き篭もった相手を打ち倒すことがどれだけ困難なことであるかは、Ol自身が誰よりも知っていた。</p><p>討ち果たすための千載一遇の好機を、Olは逃したのだ。</p><p>それにホスセリも</p><p>ぽつりと呟くユニスの言葉に、Olは苦々しい思いで頷く。</p><p>ホデリもそうだが、ホスセリは正確にはOlの部下ではない。サクヤの部下だ。</p><p>であるがゆえに、呪いの類はほとんどかけていなかった。</p><p>それは明確なOlの失態だ。</p><p>ウセルマートにはああ言ったが、確かにOlは腑抜けてしまっている。</p><p>自覚はあった。</p><p>力を手に入れたがゆえの油断や慢心だと、そう思っていた。</p><p>だがこうしてローガンを失ってみて、初めてOlはそうではないことに気付く。</p><p>リル。ユニス。スピナ。マリー。心配そうに見つめてくる妻たちの表情を。</p><p>いや、彼女だけではない。</p><p>己の内(ダンジョン)に入れてしまった者たちを、Olはもう心から疑うことが出来ない。</p><p>例えそれが、たやすく失われるものだとわかっていても。</p><p>Olは彼女たちを、信頼してしまったのだ。</p><p>殿。よろしいでしょうか</p><p>ちょうどその時、扉の外から声をかけるものがあった。</p><p>ああ。入ってこい</p><p>失礼いたす</p><p>沈痛な面持ちで連れ立って入ってきたのは、ホデリだ。</p><p>妹が裏切りという罪を犯した故だろうか。常とは違いその腰に剣を帯びず白い装束を纏った出で立ちで、ホデリはOlの前に膝を突き、立てた踵の上に腰を下ろした。正座と呼ばれる、彼らが改まった時にする座り方だ。</p><p>此度の我が愚妹の所業。そしてそれを見抜けなかった某の咎。申し開きも御座いませぬ。なれどあれは奴の独断。我が主の預かり知らぬこと。何卒何卒、寛大な処置を賜りますよう、このホデリ、厚顔にもお願い仕る</p><p>ああ。俺もアレがサクヤの指示であるとは思っておらん。悪いようにはせぬ</p><p>手をつき、額を床に擦り付けながら懇願するホデリに、Olは鷹揚にそう答える。</p><p>ご厚情、まっこと感謝致します。しからば</p><p>ホデリは顔をあげると、懐から短刀を取り出した。</p><p>反射的にユニスが身構えるが、ホデリに敵意や殺意はまったく感じられない。</p><p>そもそも襲いかかるのなら正座したままというのは妙な事だ。</p><p>一体何をするかと見守っているとホデリはぐいと着物をはだけ、短刀を己の腹へと突き刺した。</p><p>何らかのまじないなのか、それとも別の意味があるのか。</p><p>戸惑い硬直するOlたちをよそに、ホデリはぐっと真横に短刀を引いて腹を切り裂き、更に臍の上辺りから縦に刃を進めて、十文字に切り裂く。</p><p>何を、している？</p><p>血と臓物がどぷりと溢れ、目を見開くホデリにOlは恐る恐る尋ねるが、返事はない。</p><p>し、死んでる</p><p>リルがつつくと、ホデリはバランスを崩し己の血の中にどしゃりと崩れ落ちた。</p><p>リル、ユニス、確かShalがまだこの迷宮にいたはずだ！探して呼んでこい！スピナ、マリー、手伝え！蘇生するぞ！</p><p>Olは大慌てで、そう叫んだ。</p><p>蘇生魔術というものは、必ず成功するものではない。三つの要素によって左右される。</p><p>一つ目は、術者の能力。当然のことながら蘇生魔術をかけるものの腕が良いほど成功確率は上がる。その点に関してはOl自身もかなりの腕を持っており、回復・防御を専門とするShalはトップクラスの技術であると言って良いだろう。</p><p>二つ目は、遺体の状態。肉体が欠損していればいるほど蘇生は難しいものとなるが、ホデリの場合は腹を裂いたのみでそこまで悪い状態というわけではなかった。重要な臓器の幾つかはズタズタになっていたが、Shalは骨しか残っていないようなものさえ蘇生した過去がある。</p><p>そして三つ目は、本人の生命力だ。多少年かさではあるものの、流石は一流の武人と言うべきか。ホデリの体力もまた、一流と呼んで良い域に達している。</p><p>だが、肝心の生きようとする意思そのものが、著しく欠如していた。</p><p>操られたわけでも、嫌々でもなく、納得して死んでいったということだ。</p><p>まったく、驚かせおって</p><p>それでもなんとか蘇生に成功したホデリに、Olは肩で息をしながら胸を撫で下ろした。</p><p>何故某は生きておるのですか</p><p>再び自害しないよう縛り上げられたホデリは、ぼんやりと天井を見ながらそういった。</p><p>逆に、なんでいきなり死んだのだお前は</p><p>それ以上の、詫びの方法を知らぬからです</p><p>迷いなく答えるホデリに、リルが率直な意見を零す。</p><p>そんなことが詫びになどなるか！</p><p>では如何様に死ねば</p><p>死ぬことから離れろ！お前たちヤマト人はみなそうなのか？</p><p>Olは深く深く息をつく。まったく理解不能だった。</p><p>大体、お前は俺に剣を捧げただろう。道具が勝手に壊れていいと思っているのか</p><p>お前に死なれても害こそあれ、何の得にもならん。悪いと思うのなら働きで返せ</p><p>深く頷くホデリに、Olはユニスに命じて縄を解かせる。</p><p>で、お前の妹は何故裏切った。お前は知っていたのか？</p><p>いえ不覚にも、まったく知り及んでおりませんでした。かくなる上は、某が必ずや討って</p><p>だから死ぬの殺すのと言った話はよせ。処遇は俺が決める</p><p>辟易としながらOlは告げた。</p><p>理由の方はまあ、ある程度察しはつくがな</p><p>ホスセリたちの祖先に呪いをかけた神は、サクヤも知らないという。</p><p>だが全知の力であればわかるだろう。あるいは、解き方さえも。</p><p>それを餌に話を持ちかけられたと見ていい。</p><p>そしてOlの勘違いでなければ、それをホスセリに決意させたのは他ならぬOl自身のせいだ。獣混じりの女であるならまだしも、獣そのものを抱けるかと言われれば、流石のOlも厳しいものがある。ホスセリもそれをわかっていたのだろう。</p><p>それ故にか、裏切られたと言うのにOlの心中には不思議なほどに彼女への怒りは湧いてこなかった。</p><p>裏切りと言えば、もう一人話を聞かねばならん相手がいたな</p><p>ウセルマートとの戦いを、Olは思い出す。</p><p>追い詰め、しかし逃す事になった原因の、その一つ。</p><p>ザナを連れてこい</p><p>第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-2</p><p>さて。釈明があるのならば聞かせてもらおうか</p><p>Olはザナを呼びつけると、深々と椅子に座り脚を組んでそう問うた。</p><p>何故お前はあの時、手を止めた？</p><p>力が及ばず勝てなかっただけなら、Olは責めはしない。</p><p>だがウセルマートを追い詰めたあの時、ザナは明らかに攻撃を自らの意志で止めた。</p><p>イェルダーヴはあの子は、わたしの実の妹なの</p><p>ザナは俯きながら、独白するように答える。</p><p>片や分厚い毛皮に覆われた、白い肌のスレンダーな体型の美女。</p><p>片や肌も露わな褐色の肌の、豊満な体付きの女。</p><p>あまりにもその雰囲気がかけ離れているから気付かなかったが、しかしよくよく思い返してみれば確かにその紫水晶のような髪の色はよく似ていた。</p><p>ウセルマートは妹をわたしの国の太陽を、奪った。あいつの全知の半分は、イェルダーヴの力なの。あの子の首に首輪がついていたのを覚えている？</p><p>リルよりも扇情的な服装にあの太く無骨な首輪は酷く不釣り合いで、短い間であったが印象に残っていた。</p><p>あれには呪いがかけてあるの。つけられたら最後、二度と外せず自我も失う。ウセルマートの命令を聞く人形になってしまうのよ</p><p>ザナは言って、ぎりと奥歯を噛み締める。</p><p>溢れんばかりの怒りと憎しみが、繋がる魂を伝ってOlの心へと流れ込んできた。</p><p>なるほどお前があれほどウセルマートを憎んでいたのはそれが理由か</p><p>ただの敵国の王に向ける憎悪にしては、あまりに深い憎悪だとは思った。</p><p>妹を攫われ、無理やり支配されているのならばその憎しみにも納得がいく。</p><p>ええ。ごめんなさいけれど、次は殺すわ</p><p>決意を秘めた瞳で、ザナは呟く。</p><p>その心中に渦巻くのは強い強い憎しみだ。</p><p>だがOlはそこに何か、違和感のようなものを抱いた。</p><p>言葉に出来ない、何かを見落としているような、そんな感覚。</p><p>Ol、大変じゃ！</p><p>それが何かを掴む前にテナが慌てて駆け込んできて、Olの思考は霧散した。</p><p>屍兵たちが、五日の後に山を超えてくる。それから十日でダンジョンが落ちるぞ</p><p>なんだと？雪解けまではまだ一月あるはずだろう？</p><p>雪解けの時期はテナの予知だけでなく、気象学や過去の統計でも裏を取った情報だ。</p><p>そう簡単に変わってしまうものでもない。</p><p>うむ、そうじゃ。じゃが、奴らは炎の術で無理やり雪を溶かしてやってくる</p><p>そこまでの力がある、か</p><p>確かにあの時、ウセルマートの炎は雪山の一部を消失させた。あの熱量ならば雪を溶かすことなど造作もないだろうが、ヤエガキ山脈は高く広い。横断できる範囲の積雪を全て溶かし尽くすとなれば十や二十の炎では足りまい。</p><p>巨大な炎の塊が、まるでもう一つの太陽のように輝いて山脈を照らし出しておる。その熱が雪を溶かしそして、このダンジョンの大半をも焼き滅ぼす</p><p>テナの腰で四本の尾がわさわさと蠢いて、虚空に炎が灯る。そしてまるで紙にインクが滲むかのようにぼやけたかと思えば、炎は色を帯びた映像となって宙に奔った。</p><p>描かれるのは、ぽっかりと大きな穴を穿たれ所々からまるで血のように溶岩を吹き出す試練の山。そしてそれとそっくりな形に肌を焼かれ、皮膚を爛れさせて泣きわめくソフィアの姿だ。</p><p>！</p><p>それだけでOlは目を見開き、言葉を失うほどの怒りを感じる。だがテナの映し出す映像はそれだけに留まらなかった。ホデリが、サクヤが、ユニスさえもが無数の屍兵に押され、疲弊の末に殺されていく。そしてOlもまた、ウセルマートの炎によって燃やし尽くされ、その生命を落とした。</p><p>動くもののなくなったダンジョンの中で、ウセルマートは泣きじゃくるソフィアの髪を掴み、まるで家畜か荷物でも扱うかのような乱雑さで屍兵たちに預ける。殺す気はないが、かといって丁重に扱うつもりもないらしい。</p><p>もう良い、止め</p><p>待て</p><p>あまりに不愉快な光景に止めさせようとするOlを、テナが制止した。</p><p>なんじゃと！？</p><p>炎で描かれたウセルマートが、こちらを振り向いたのだ。偶然ではなく、その視線は明らかにテナをそして、Olを捉えている。そして、その口が開いた。</p><p>見ているな？異境の魔王よ</p><p>狐火による投影では、声までは再現できない。代わりにテナがその言葉を口にする。</p><p>これが貴様の運命だ</p><p>そうか貴様、過去を見ているな？</p><p>そうだ。余は未来は見通せぬ。だが過去であれば知ることが出来る。故に貴様がこれから口にすることを、余は知っている。その辿る道もな</p><p>実に奇妙な光景だった。予知と全知。</p><p>二つの能力によって、過去と未来とで会話が成り立っている。</p><p>だが貴様らを滅ぼすのはあまりにも惜しい。そこで、取引をしよう</p><p>取引だと？</p><p>ああ。火の山の神。角と羽の生えた女。四振りの剣を使う金髪の娘。それを渡せば、他のものの命は奪わずにおいてやる</p><p>ウセルマートが指定したのは、サクヤ、リル、マリーのことだろう。</p><p>テナの予知が描き出す未来の世界では、彼女たちは屍兵に殺され、既に物言わぬ死体となっていた。リルもウセルマートの炎に焼かれ、ローガン同様本体ごと滅ぼされた可能性が高い。</p><p>何が目的だ？</p><p>だがその三人の共通点がわからずに、Olは問う。</p><p>目的？目的だと？</p><p>流石にテナも笑い声まで再現はしないが、映像だけでウセルマートがOlを嘲笑っているのはわかった。</p><p>女の使い道など、犯す以外に何がある</p><p>交渉は決裂だ。その首を叩き落としてやる。楽しみに待っていろ</p><p>Olの言葉とともに、狐火の幻影は掻き消える。</p><p>それはただの幻、未来に有り得るかもしれない可能性の一つでしかない。</p><p>だがなにせ相手は全知だ。</p><p>その会話自体は、恐らくは今現在のウセルマートにもまた伝わっていることだろう。</p><p>ねえOlわたしなら、あいつの取引っていうのに応じてもいいのよ</p><p>気が進まなさそうに、しかしリルはそう口にした。</p><p>あいつがわたしを抱く気なら、サキュバスの本領よ。そのまま魂引っこ抜いてやるわ</p><p>いやそう上手くはいくまい</p><p>Olは首を振った。ザナの言う服従の首輪。</p><p>それがどのようなものかは分からないが、恐らくは悪魔にも効果を発揮するだろう。</p><p>何よりOl自身に、目的の為であろうと自分の女を他の男に抱かせるつもりなど毛頭なかった。</p><p>とにかく、対策を練るぞ。リル、スピナ、会議の準備をしろ。ユニス、お前は軍をいつでも動かせるようにしておけ。テナ、予知で何か新しい情報が見えたら、真夜中でも良い、すぐに知らせろ</p><p>矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、Olは会議室へと向かう。</p><p>とは言え、準備できる時間はたったの五日だ。更に短くなっている可能性すらある。テナの予知には、それを知って変えた行動の結果を予知できないという致命的な欠点があるからだ。</p><p>それに対策を練っても、その内容は相手も感知する。</p><p>果たしてそんな状況で有用な手が打てるものだろうか。</p><p>Olさま、わたしは？</p><p>お前はソフィアの事を見ていろ</p><p>問うマリーに、Olは言った。この場に彼女の姿はないが、ソフィアはダンジョンの中のことであれば全て把握している。先程の映像も目にして、ショックを受けているはずだ。</p><p>マリーは、悔しげに頷いた。Olの指示は間違ってはいない。会議にマリーが出ても有用なことを言える気はしなかったし、ユニスの手伝いだって出来ない。</p><p>だが、ローガンを殺した相手に何も出来ないことが、たまらなく悔しかった。</p><p>あの</p><p>その場に残されたマリーに、ザナが話しかける。</p><p>一つ、あなたにしか出来ない有用な手があるのですがお聞きになりますか？</p><p>ニッコリと人好きのする笑みを浮かべて、氷の女王はそう持ちかけた。</p><p>第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-3</p><p>うわっホントに来た</p><p>ヤエガキ山脈を越えたその先、砂漠を臨む山の麓。</p><p>そこにあらわれた姿に、マリーはげんなりとした声を上げた。</p><p>ボロボロの布を巻かれた屍の兵士たちを引き連れた、褐色の肌に黒い髪の美丈夫。</p><p>砂の王ウセルマートだ。</p><p>余をここへと呼んだのは、貴様であろうが</p><p>そうだけど、自分の部屋で呟いただけだもん。乙女の部屋をずっと覗いてるの？このヘンタイ。着替えとかも覗いてるんじゃないでしょうね</p><p>なっふざけるな。王たる余が、そのような事をするものか</p><p>マリーの言葉に、ウセルマートは苛立った様子で答える。</p><p>Olさまはあなたの取引を絶対に受けないよ</p><p>だからわたしと取引して。そっちの要求の三分の一だけど、こっちの要求も一つで良いソフィアに、ダンジョンに酷いことしないって</p><p>そう取引を持ちかけに行けば、ウセルマートは応じる。</p><p>ただしOlには絶対に知らせてはいけない。</p><p>それが、ザナの助言であった。</p><p>馬鹿なことをしている、という自覚はあった。</p><p>だがソフィアが傷つくのを黙って見ていることなどできない。</p><p>ふむまあ良かろう。ならばこれを付けろ</p><p>えー、それつけると服従しちゃうんでしょ</p><p>太い首輪を差し出すウセルマートに、マリーは不満げな声をあげた。</p><p>じゃあ、あなたがちゃんと約束守るかわかんないじゃない。首輪つけた後、やっぱりそんな約束なしって言われたってその時のわたしにはどうしようもない</p><p>余が約束を違えると言いたいのか？</p><p>迷いなく、マリーは頷く。少なくともOlならそのくらいの事は平気でする。</p><p>疑いなくそんな首輪をつける方が馬鹿なのだ。</p><p>痴れ者め。余は王の中の王。愚民をわざわざ騙したりなどせぬ</p><p>そんなこと知らないもん。わたしにとっては知らないおじさんだよ</p><p>貴様！言うに事欠いて、余を、おじさんだと！？</p><p>あ、そこに怒るんだ。とマリーは思った。</p><p>ウセルマートの見た目は、せいぜい二十代半ばといったところだろうか。</p><p>この反応を見るにOlのように見た目と実年齢が一致していない、ということもなさそうだ。</p><p>とにかく、それはナシです。少なくともわたしが納得するまで</p><p>だが貴様はどうすれば納得する？</p><p>そんなの自分で考えてよ。全知の王様なんでしょ</p><p>マリーが生意気な口調で言うと、ウセルマートは苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちした。</p><p>口の減らぬ女だついてこい</p><p>くるりと彼が踵を返すと、砂を割って石のダンジョンが突き上がって来る。</p><p>それを眺めながら、マリーはほっと息を吐いた。</p><p>とりあえずここまでは、予定通りだ。</p><p>狭いね、このダンジョン</p><p>ウセルマートのダンジョンは、巨大な石を無数に積み上げて作られたものだ。地下を掘って作り上げたOlのダンジョンと違って、それは百パーセント人工的に作り上げたもの。途方もない労力をかけて作られたのは間違いなかったが、その分通路は人一人が何とか通れる程度の広さでしかなかった。</p><p>ダンジョンではない。ピラミッドだ</p><p>憮然としながらウセルマートは答える。</p><p>余の後ろを離れるなよ。知らぬ道に入り込めば、貴様もああなる</p><p>指し示すその先にあるのは、カサカサに乾燥した屍の兵だ。よく見れば横道の所々に屍兵が安置してある。おそらく招かれざる侵入者に対しては敵となり、襲いかかる仕組みなのだろう。この狭い道の中で襲われ、前後を囲まれるのはかなり厄介なことになりそうだ。</p><p>入り組んだ迷宮を、どれほど歩いただろうか。マリーは徐々に進む道が広くなり、そして緩やかに上っていっていることに気づいた。傾斜はごく僅かだからそう簡単には気付かないだろうが、ダンジョンで育ったマリーは別だ。</p><p>Olのダンジョンにもこういった仕掛けはあった。気づかない程度のごく僅かな傾斜や曲がり道によって、地図と実際の位置をずらすのだ。</p><p>お帰りなさいませ、神帝陛下</p><p>やがて広い部屋に出ると、槍を構え剣を腰に下げた褐色の肌の兵士たちが二人を出迎えた。その奥にはザナの妹だという褐色の美女、イェルダーヴも控えている。</p><p>生きてる人もいるんだね</p><p>当然であろうが</p><p>兵士たちはイェルダーヴと違って、首輪も付けていないし目にも意思の光がある。どうやらごく普通の兵士であるようだ。</p><p>見ろ</p><p>部屋の中央、一際高くなった天井をウセルマートが指差すと、轟音を立ててそこに穴が開き、青い空が見えた。先の戦いの時、ウセルマートたちがピラミッドの中へと逃げ込んだのはここからだったのだ、とマリーはすぐに察する。</p><p>太陽が二つある</p><p>そしてその青い空には、太陽が二つ光り輝いていた。</p><p>一つは我が神、アトムの力で作り出した核熱の炎だ</p><p>核熱？</p><p>聞き慣れない言葉に、マリーはオウム返しに問い返す。</p><p>この世界が出来るよりも前より燃え盛り続ける、始原の炎。全てを焼き滅ぼす真なる火よ</p><p>言いながら、ウセルマートは部屋の中央にある卓の上にさらさらと砂をまく。すると白い砂はひとりでに動き、卓の上に砂絵を作り出した。</p><p>二つの山と、間に立ちふさがる壁のような線。そしてその上に、放射状の線を纏った円形の紋様。極めて簡略的な絵だが、それが地図のようなものであることをマリーはすぐに察した。地図とは言っても見下ろした図ではなく、横から見た断面図のようなものだ。</p><p>二つの山が、Ol達が本拠地にしている試練の山とこのピラミッド。壁はヤエガキ山脈。とすれば上の紋様は、ウセルマートが作り上げた核熱とかいう大火球だろう。</p><p>流石にあれ程の炎ともなれば、余と言えども作るには数日はかかる。それを、こうだ</p><p>ウセルマートがざっと手のひらで円形の紋様を掃き散らせば、天に輝く炎も霧散した。</p><p>これでよかろうな</p><p>むむむ</p><p>作るのに数日かかるというのが本当かどうかわからないとか、数日かかろうがまた作り直したら約束を果たした事にはならない、などとゴネることも出来る。</p><p>が、流石のマリーもこの状況で言い出す気にはなれなかった。完全に敵の手中、真っ只中だ。下手なことを言えば即座に殺されても文句は言えない。ウセルマートとて、そこまでマリーに価値を見出しているわけでもないだろう。</p><p>わかった。いいよ</p><p>その前に</p><p>顎を引いて居住まいを正すマリーの首を、ウセルマートの手のひらが掴んだ。</p><p>その余計な物を叩き落としてやる</p><p>彼の手の平から炎が漏れ出し、マリーの喉を焼く。</p><p>そこは一瞬にして焼き切られて、金の髪とともに彼女の首はぽろりと落ちた。</p><p>かと思えば、首を失った身体と頭がそれぞれ別々に走り出す。</p><p>やっぱりバレてたっ！</p><p>マリーの首はみるみる膨れ上がると、白い髪の少女となって叫ぶ。同時に首を失った身体の方は、すぽんと襟首から首が飛び出し元の姿へと戻った。</p><p>変化の術で頭に化けたユツを、首の上に乗せていたのだ。</p><p>ザナはOlには伝えてはならないと言ったが、他の者に伝えることは禁じなかった。これがリルやスピナであれば間違いなくOlにも伝わってしまっただろうが、ユツだけは素直にマリーに協力してくれるだろうという予感があったし、事実その通りだった。</p><p>追え、逃がすな！</p><p>ウセルマートの指令に、兵士たちが慌ててマリーたちを追いかける。</p><p>ユツが懐から木の葉を取り出してバラまくと、それは無数のマリーとユツの姿となって走り出した。</p><p>小癪な真似を！</p><p>本物を見失って兵士たちが戸惑うその内に、マリーとユツは逸れぬように手に手を取って迷宮の中を逃げる。</p><p>マリーちゃん！どっち！？</p><p>ええと、こっち！</p><p>この時のために、マリーはしっかり入り口からの道を記憶していた。石造りの迷宮は酷く入り組んでいる上に、どこもかしこも同じ光景に見える。ユツも道順は覚えようと努力はしていたが、入って百歩も歩かぬ内に諦めていた。</p><p>だがマリーは別だ。彼女はただ連れられて歩いていたわけではない。その歩幅は常に一定で、歩数を数えることによって頭の中に正確な地図を描く。壁についたほんの僅かな傷や汚れを記憶して目印にする。ダンジョンで暮らすうちに、当たり前のように出来るようになった技術だった。</p><p>次はここを右あれえ！？</p><p>しかし立ちはだかる石の壁に、マリーは思わず叫び声をあげた。</p><p>おかしい、こっちであってるハズなのに！</p><p>道を戻って確認しても、記憶に間違いがあるようには思えない。</p><p>ここに壁などなかったはずなのだ。</p><p>マリーちゃん、あれ見て！</p><p>示すユツの指先を見ると、今まで来た道が音もなく石壁で埋まっていくのが見えた。</p><p>道が、変えられてる！</p><p>その可能性を失念していたことに、マリーは歯噛みした。ピラミッドそのものが砂の中に埋まったり出てきたりするのだ。その中も自在に動くことくらい、予想して然るべきだった。</p><p>天門も、転移魔法陣も、やっぱり駄目か</p><p>ユニスを呼ぶか、転移魔術を使えれば逃げられる。だが案の定、そちらは対策されているらしく効果を発揮しなかった。</p><p>この壁は、なかったんだよね？</p><p>ユツが壁に触れ、マリーに尋ねる。</p><p>うん。来たときにはこんなところに壁なんかなかった。それは間違いないよ</p><p>じゃあ、任せて！</p><p>ユツは言って、己の腰から伸びた狸の尾を引き抜いた。それはすぐさま巨大な鉄槌に変化して、彼女は思い切りそれを壁に叩きつける。</p><p>一撃目でヒビが入り、二撃目で小さな穴が空いて、思い切り振りかぶった三撃目で石の壁は粉々に吹き飛んだ。</p><p>さっすがユっちゃん！</p><p>その光景にマリーは快哉を叫び</p><p>崩れた壁の向こうにいたウセルマートの姿に、絶句した。</p><p>遊びはここまでだ</p><p>宣言するウセルマートに、マリーは腰の剣に手をかける。だがそれを引き抜く前に、彼女の腹に太い拳が叩き込まれた。</p><p>ぐっ！</p><p>マリーちゃん！</p><p>砂漠で出会った巨大な屍兵が、その気配すら感じさせずにマリーの背後をとっていた。</p><p>てっきりタツキの鉄砲水に流され失われたものと思っていたが、しぶとく生き残っていたらしい。死んでるから生き残ったとは言わないか、と妙に悠長な言葉がマリーの脳裏をよぎる。</p><p>そのまま、マリーの首に首輪が嵌められる。その瞬間彼女の瞳からは意志の光が消え去り、手足からも力が抜けてくたりと垂れ下がった。</p><p>よくも！</p><p>ユツは渾身の力を込めて鉄槌を振り下ろす。分厚い石の壁さえ破壊するそれを、屍兵は片手で軽々と受け止めた。そしてもう片方の手でユツの喉を掴み、まるで猫の子でも扱うかのように宙に吊り下げる。</p><p>さて。貴様は取引にはなかったが余の城に無断で入り込んだ咎、その身をもって償ってもらおうか</p><p>ウセルマートの好色な視線が爪先から首までを舐めるように這い回り、ユツはその気色悪さに身体を震わせた。</p><p>陛下。こちらの娘はいかがなさいますか</p><p>兵士が無表情で立つマリーを示し尋ねる。</p><p>ふん好きにしろ。殺さぬようにだけ気をつけろよ</p><p>ウセルマートはマリーを一瞥すると、興味なさげにそう言った。</p><p>マリーちゃんを離して</p><p>ユツが己の首を締め付ける屍兵の腕を掴みながら印を組むと、地面に転がった鉄槌が巨大な蛇となってウセルマートに襲いかかる。</p><p>黙れ。お前が今から口にして良いのは、嬌声と余への賛美だけだ</p><p>だが強烈な光が瞬いたかと思えば、大蛇はまるで光の中に溶けるように消え去った。</p><p>我が神、アトムの力の前ではそのような低級霊、物の数ではない</p><p>吐き捨てるように言い放ち、ウセルマートは屍兵にユツを寝室へと連れて行くように命じる。</p><p>余の偉大さがわかるまで、たっぷりと可愛がってやる</p><p>王としての落ち着いた態度を剥ぎ取り、ウセルマートはその獣欲を露わにした。</p><p>こりゃあ上物だ</p><p>表情をなくし、まるで人形のように佇むマリーを囲んで男たちは下卑た笑みを浮かべた。</p><p>まるで太陽の光を束ねたかのような金の髪に、オアシスの豊かな水を凝縮したかのような青い瞳。そして砂漠の女にはない白い肌は、まるで生ける芸術品のようであった。</p><p>しかし陛下も勿体無い。これ程の娘を歯牙にもかけぬとはな</p><p>お陰でこうしておこぼれに預かれるのだから、ありがたく頂くとしよう</p><p>屍兵や服従の首輪で意志を奪ったものだけでは、国を運営し軍を統括することは出来ない。</p><p>だがウセルマートは己以外を一切信じぬ王だ。ほんの僅かにでも謀反の疑いがあれば躊躇うことなくその心臓を抉り出して屍兵へと変えた。</p><p>とは言え恐怖だけでは人間というものは従わない。表面上は従ったとしてもいつか逆らうであろうことも彼は理解していた。</p><p>だから代わりにこうして、配下の男たちに好みでない女や飽きた女を度々下賜する。</p><p>そうなった女たちは兵士たちの共有物となり、壊れるまで性欲処理に使われるのが通例だった。</p><p>殺すなとのご命令だからな。優しくしてやれよ</p><p>死ななきゃ良いんだろう？</p><p>下卑た笑みを浮かべながら一番年かさの男がマリーを組み敷いて、下衣を外し剛直を取り出す。</p><p>押し倒された拍子にマリーの腰に下がった剣が寝台の縁に当たり、傾いて鞘走った。</p><p>おっと、危ないな。こんなものは先に外しておけ</p><p>剣を拾おうとした男の手が、ずるりと落ちる。</p><p>あ？</p><p>肘の少し先、前腕の半ばから断たれて床を転がる腕を、男たちは呆けた表情で見やる。斬られた本人を含め、誰ひとりとして状況を理解できていなかった。</p><p>マリーちゃんの肌に小汚え手で触れるんじゃねえよ、このビチグソ野郎が</p><p>汚い口調が、愛らしい声色で綴られる。</p><p>何</p><p>次の言葉を発する前に、年かさの男はマリーの振るった剣によって頭を両断されてこの世を去った。</p><p>貴様、何故動ける！？</p><p>遅えんだよ！</p><p>ようやく状況を飲み込んで男たちは剣の柄に手をかけるが、それが抜かれるより早くマリーの振るう二刀によって首を裂かれて絶命した。</p><p>正確には、マリーの身体を操るローガンに、だ。</p><p>この首輪はなるほどな。こん中に魂を封じ込んで意思を消すって寸法か</p><p>＜ローガン！＞</p><p>マリーの首に嵌った首輪に手を当てると、その中に封じ込まれたマリーの声がローガンの頭の中に鳴り響いた。</p><p>＜ローガン、やっぱり生きてたんだね！＞</p><p>おう。まあなんとか、ギリギリってトコだがな。どれ</p><p>ローガンは殺した男たちの胸に腕を突っ込むと、中から淡く輝く玉を取り出して躊躇なく咀嚼する。それは男たちの魂だ。</p><p>不っ味ぃが、まあないよかマシか</p><p>マリーの顔を思いっきりしかめて、ローガンは呟く。</p><p>魂というのはいうなれば高濃度の魔力の塊のようなものだ。例え魔術の素養が全くないものであろうが、人間の魂と言うだけである程度の魔力を持っている。空っぽになった魔力が、ほんの僅かではあるが満たされた。</p><p>あん時俺は腕を切られた。覚えてるか？</p><p>＜うん＞</p><p>それは騎馬を駆る屍兵にやられた時の話だ。切り落とされた腕はマリーが大切に持っていたが、いつの間にか消えてしまっていた。ローガン本人が消えたのだから、それとともに消えてしまったのだろうとマリーは思っていた。</p><p>そりゃ半分正解で、半分間違いだ。本体が消え、普通ならそのまま消滅しちまうトコだったが、運良く依代になるものがすぐ側にあった。それがこいつだ</p><p>ローガンは先程振るった剣を拾い上げる。四性剣のうちの一振り。熱を司る熱性剣。</p><p>炎の悪魔であるローガンと特に相性の良いそれに宿って、ローガンは何とかその存在を永らえていた。</p><p>とは言え腕一本分の力じゃあほとんど何もできねえ。剣にしがみつくのが精一杯で喋ることすらできなかった。出来ることと言えばせいぜい、魂を抜かれた奴の身体を乗っ取って操るくらいよ</p><p>＜フコーチューのサイワイってやつだね！＞</p><p>嬉しげなマリーに、ローガンは深く息を吐く。</p><p>お前、幾ら何でも無茶しすぎだ。後で旦那に思いっきり怒られるぞ</p><p>＜だってローガンが何となく傍にいる気がして。いざとなったら助けてくれるって思ったんだもん＞</p><p>ローガンが死んだという話を聞いた時、マリーにはそれが信じられなかった。</p><p>最初は自分でもただ現実を認めたくないだけかと思ったが、ウセルマートと相対してみると何故かはっきりとわかったのだ。ローガンが、すぐ傍にいると。</p><p>あのなあ</p><p>＜合ってたでしょ？＞</p><p>得意げなマリーの声に、ローガンは答える言葉を失う。</p><p>小さな頃から、ずっとそうだ。どんなに巧妙に隠れ、他の生き物に化け、姿を消しても、マリーは絶対にローガンを見失わない。そして絶対に助けてくれると、何の疑いもなく信じているのだ。</p><p>まあ、くっちゃべってる場合じゃねえ</p><p>＜そうだ、ユっちゃん！＞</p><p>ユツのことを思い出し、マリーは一転して酷く焦った。</p><p>自分のことはローガンが助けてくれたが、今頃彼女はひどい目に合っているはずだ。</p><p>ま。多分大丈夫だろ</p><p>だがローガンはどこか軽い口調でそういう。</p><p>＜なんで？＞</p><p>アイツとは相容れねえからさ</p><p>＜？＞</p><p>要領を得ないローガンの言葉に、マリーは首を傾げた。と言っても今の彼女は魂だけの存在なので、気持ちの上でだが。</p><p>ふざけるな！</p><p>来た道を戻っていくと、どこからともなく怒号が鳴り響いた。ウセルマートの声だ。</p><p>あっちだな</p><p>声は入り組んだ迷宮に反響してどこから聞こえているのかわからないが、ローガンは迷うことなく道を進んでいく。</p><p>＜どうしてわかるの？＞</p><p>勘だ</p><p>マリーの言葉に短く答え、ローガンは岩壁を破壊する。</p><p>するとその先に、必死に逃げ惑うユツの姿があった。</p><p>＜ユっちゃん！＞</p><p>彼女の着ていた服は無残にも裂かれ、ところどころ焦げ跡がついている。</p><p>＜ごめん、わたしのせいで＞</p><p>犯されちゃあいねえよ。そうだろ？</p><p>ローガンが聞くと、ユツは力なく首を縦に振った。</p><p>マリーの姿をしているから、油断しているのだろう。</p><p>引き裂かれた服の隙間からちらりと覗く彼女の胸を見てローガンはうむと頷く。</p><p>少しばかりとうがたってはいるが、体型そのものは素晴らしい。</p><p>ヤマト人に関してだけ言えば、多少判定年齢を上げても良いかもしれない、と思った。</p><p>よくも、よくもこの余に！</p><p>間違いねえ、あいつは</p><p>道の先から聞こえてくるウセルマートの怒り狂う声に。</p><p>偽の乳などを触らせおったな！</p><p>巨乳好き(ロリコンの敵)だ</p><p>ローガンはそう、断言した。</p><p>第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-4</p><p>あの、えっと、マリーちゃんだよね？</p><p>いつもと様子の違うマリーに、ユツは戸惑いながら尋ねる。</p><p>俺はローガンだ。この忌々しい首輪のせいで魂を封印されちまったマリーに変わって、この体を動かしてる</p><p>ローガンさん！？封印ってマリーちゃんは大丈夫なんですか！？</p><p>＜大丈夫だよー＞</p><p>俺以外には聞こえやしねえよ。まあ大丈夫かな？下手に首輪を壊したりすりゃあ、魂ごとぶっ壊れちまうがま、なんとかなんだろ</p><p>言いながらローガンは剣を抜き、振るう。</p><p>ユツのすぐ後ろにまで迫ってきていた兵士が、真っ二つに裂けて動かなくなった。</p><p>ここを無事に出られりゃあ、の話だがな</p><p>ローガンさん、剣も使えるんですか？</p><p>何言ってんだ。これをマリーに教えたのは俺だぜ</p><p>マリーの可愛らしい声、愛らしい顔で、ローガンは獰猛な笑みを浮かべた。</p><p>かかってきな！こちとら魔力に飢えてんだ！</p><p>生者と死者。入り混じって襲い掛かってくる男たちに、ローガンは吠える。</p><p>途端、四本の剣が踊った。</p><p>その光景に、ユツは目を思わず見張る。</p><p>マリーの肉体を使っているからだろう。筋力はマリーのものだ。</p><p>動きの速さ、力そのものは変わっていない。</p><p>だがその動きはまるで別物であった。</p><p>動作はどこまでも軽やかで、武の持つ猛々しさなど微塵もなく、それでいて一切の無駄がない。まるで美しい舞を踊る妖精を見ているかのようだ。その妖精がくるりと身体を閃かせる度に、死体が四つ増えていく。</p><p>おぉっし！腹が満ちて来たぜ！</p><p>敵を迎え撃ちながらも魂を喰らい、満ちてきた魔力でローガンは炎を放つ。</p><p>炎はそのまま冷性剣に吸い込まれると、強烈な冷気となって兵士たちを襲い、凍りつかせた。</p><p>＜そんな使い方もあるんだ！＞</p><p>単に魔力を通しただけでは、冷性剣は触れたものを凍らせる事しか出来ない。</p><p>だが火炎弾の形の魔力を冷気に変換することによって、極低温の塊を飛ばしたのだとマリーは悟った。</p><p>旦那から折角良い玩具を貰ったんだ。もうちょっと工夫して遊びな</p><p>凍りついた屍兵たちをバキバキと踏み割りながら、ローガンはにぃと笑う。</p><p>あの、逃げる方向はわかってるんですか？</p><p>まさかこの俺様が何の当てもなく逃げ回ってるとでも思ったか？</p><p>えっと</p><p>問いかけに対し自信たっぷりに返されて、ユツは戸惑う。</p><p>手当り次第に敵を撃退しているだけで、とても逃げ道を進んでいるようには思えなかったからだ。</p><p>＜うん、思ってる！＞</p><p>ははははは！その通りだぜマリー！よぉくわかってんじゃねえか、当てなんてねえよ！</p><p>ど、どうするんですか！？</p><p>マリーの声は聞こえなくてもローガンの返答からおおよそを察し、ユツは泣きそうな声を上げた。</p><p>良いんだよ。黙ってりゃあ向こうからそら、来たぜ</p><p>そこまでだ、下郎</p><p>ローガンが顎をしゃくるその先には、屍兵たちを連れたウセルマートの姿。</p><p>おうおうおう。餌にもならねえゴミをぞろぞろ引き連れてきやがって。そんなに俺様が怖えのか？</p><p>痴れ者が。余はなにものをも恐れはせぬ</p><p>そう言いつつも、ウセルマートはローガンを警戒しているように見えた。</p><p>先程不意を打ったとは言えマリーとユツをあっさりと下した巨大な屍兵も傍らにいるが、けしかけてくる気配はない。</p><p>おめえはどういうわけかマリーが必要らしい。だから殺しも犯しもせすわざわざこんなもんを嵌めた</p><p>ローガンはついと首輪を撫でる。</p><p>マリーを殺せないとわかっている以上、防御など考えずに攻撃すれば幾らでも勝つことが出来る。</p><p>おら。撃ってみろよ。ご自慢の何もかもを消し飛ばす炎をよお！</p><p>煽るローガンに対し、ウセルマートは躊躇せずに杖を振るって炎を飛ばした。</p><p>マジか！？</p><p>＜撃ってきたじゃない！＞</p><p>ローガンは慌ててユツを抱え、迷宮の角を曲がって炎をかわす。</p><p>うーん、煽りすぎたか？間違っちゃいねえとは思うんだけどなあ</p><p>＜わたしの身体もっと大事にしてよ！＞</p><p>いえ間違ってないと思います。見て下さい</p><p>小脇に抱えられたまま、ユツが冷静に壁を指差す。</p><p>あの炎がぶつかった壁が溶けていません。あの炎は石だろうがなんだろうが溶かしてしまうはずです</p><p>怒り狂うウセルマートからユツが逃げ出せたのも、それが理由だ。</p><p>冷静さを欠いたウセルマートは狙いを外し、ユツは溶けた壁から抜け出してきたのだ。</p><p>ありゃ普通の火か！ってことは</p><p>追い払って回り込み、さっきみたいに不意を打つつもりだと思います</p><p>なるほどな</p><p>ピタリと脚を止め、ローガンは踵を返して角を曲がり元の場所へと戻る。</p><p>よう、久しぶりだな！</p><p>流石にすぐさま戻ってくるとは思わず意表を突かれたのか、ウセルマートは目を見開いた。</p><p>そしてあばよ。生まれよ、風よ！</p><p>ローガンは湿性剣と熱性剣を打ち合わせ、風を作り出してウセルマートの身体を飛び越える。</p><p>変ぜよ、土よ！</p><p>ついでに残る乾性剣と冷性剣で石天井を変質させてその硬度を思い切り下げる。局所的に強度の下がった天井はその重みに耐えきれず崩壊し、ウセルマートたちを飲み込んだ。</p><p>あのくらいでくたばってくれる可愛げなんざねえだろう。さっさと逃げるぞ、マリー！</p><p>＜うん！ローガン、そこ右！その後三つ目の十字路を左！＞</p><p>ローガンがどこに向かうつもりなのか悟り、マリーは指示を飛ばす。</p><p>しかしアレだな。あいつ全知っつっても、何でもかんでも全部完璧にわかるわけじゃねえなやっぱ</p><p>相変わらずローガンに抱えられたまま、そろそろ降ろしてくれないだろうかと思いつつもユツは頷く。</p><p>ウセルマートはマリーがここに来ることを知り、ユツがマリーの首に化けていることは見抜いた。</p><p>だがユツの大きな胸が憑依によるものであることは見抜けなかったし、ローガンが剣に取り付いていることもわからなかった。</p><p>今もローガンが引き返して来ることに驚いていた。つまりは、その位置を即座に把握できるというわけではないらしい。</p><p>＜まあ流石にローガンが剣に取り付いてるなんて思っても見なかったんだろうね。わたしも想像もしなかったし＞</p><p>それは完全に運が良かっただけだからな。二度とやるなよ</p><p>思いもよらないことを知ることは出来ないという弱点があるのは先の戦いでわかってはいたが、そういう事柄は大抵こちらにとっても想定外の事なのだ。</p><p>ローガンの存在にしてもそうだし、ユツの胸だって別にウセルマートが巨乳好きと知って大きくしていたわけではない。先程の炎だって、ローガンは本気で焦って逃げ出したからこそウセルマートも油断したのだろう。</p><p>＜運の良さにだけは自信があるから、わたし＞</p><p>自慢するようなことじゃねえな</p><p>ローガンの呆れ声を聞きながら、ふとマリーは何か引っかかるものを感じた。</p><p>何か既視感のようなもの。</p><p>＜ああそっか、ユニスか＞</p><p>昔Olに教えてもらった、英雄の話だ。</p><p>英雄というものは危機に陥れば都合よく助かり、奇跡が起こって命を拾う。</p><p>悲劇的な破滅を迎えるまでは。</p><p>とは言え、マリーは英雄ではない。もしそうならもっと超人じみた力を持っているはずだ。</p><p>年齢に比べれば強いとは言え、それは師に恵まれただけの話で常人の域を超えるものではない。</p><p>英雄に師事したからと言って英雄になれるわけではないのだ。</p><p>まあお前さんは昔っから運ばっか良いからな！おら、ついたぜ！</p><p>扉を蹴破り、ローガンが訪れたのはウセルマートに連れてこられた大きな部屋だ。</p><p>げっ、あの女は</p><p>そこにはヴェールで鼻から下を隠した半裸の美女イェルダーヴが待ち受けていた。</p><p>待って下さい。マリーちゃんと同じ状態なら、ウセルマートから指示されない限り敵じゃないのでは？</p><p>もはや完全に荷物になりきっているユツが、ふと思いついた事を口にする。</p><p>んなわけあるか。敵に対する対応くらい指示されてるだろうよ。が、そいつは良い指摘だ</p><p>ローガンはマリーの中から上半身だけ抜け出すと、己の腕を切り落とした。</p><p>たっぷり兵士たちの魂を喰らい、その程度は苦でもないほどに回復している。</p><p>意志を持つかのように飛んでいく四本の腕に対し、イェルダーヴは機械的な反応で炎を出した。一本を空中で焼き落とし、二本目を盾状に展開した炎で防ぎ、三本目を手の平で掴んで燃やし、胸に突き立った四本目を、全身を炎で包み込んで打ち消す。</p><p>この俺を燃やすたあ、こいつの炎も普通じゃねえな</p><p>驚きの声を上げながら。</p><p>だが魂も入ってねえ木偶人形に負けるようなローガン様じゃねえぜ</p><p>時間差を付けてイェルダーヴの身体に入り込んだローガンは、崩れ落ちるマリーの身体を支えた。</p><p>さあて。とっととお暇するとするかね</p><p>イェルダーヴの身体を乗っ取ったローガンが火球を放つと、天井にぽっかりと穴が空く。</p><p>そしてそこからは、鮮やかな空が覗いていた。</p><p>やっぱダンジョンじゃねえ迷宮は駄目だな</p><p>これがOlの迷宮であれば、こうも簡単に天井に穴があくなどありえない。</p><p>＜駄目だねー＞</p><p>ですね</p><p>口々に言いつつローガンはマリーの身体とユツを抱え、ふとあらぬ方向に視線を向ける。</p><p>お前は来なくて良いのか？</p><p>問いかけはただ虚空に響き、何の反応も返っては来ない。</p><p>＜ローガン？どうしたの？＞</p><p>いや何でもねえ</p><p>マリーの問いかけにローガンは首を振る。</p><p>敵地の真っ只中からこうまで容易く抜け出せるのが、ただの幸運であるわけがない。</p><p>マリーもユツも気づいていないようだったが、どう考えても敵が少なすぎた。</p><p>ローガンにすらその存在を気取られず、敵を排除して回る何らかの存在。</p><p>本当にいるかどうかすら定かではないが、仮にいたとしても呼びかけて来ないのならば連れて行くほどの義理もない。ローガンはそう判断し、空へと飛び立つ。このピラミッドから離れれば転移が使えるはずだ。</p><p>その姿を見上げながら。</p><p>今更戻れるはず、ない</p><p>ひび割れたような唸り声が、影の中に響いた。</p><p>この、愚か者がぁ！</p><p>マリー達が帰ってきたという報告を受けるなり、Olは飛んでいってマリーの頭に思い切り拳骨を振り下ろした。</p><p>痛ぇっ！旦那、今マリーの身体を操ってんのは俺なんだから、マリーを戻してからにしてくれよ！</p><p>悪魔の痛覚というものは非常に鈍い。人間と違って傷に頓着する必要がないからだ。だが人間の身体を乗っ取っている時は相応に痛みを感じる。慣れていない分刺激が強く、涙を浮かべながらローガンは訴えた。</p><p>うるさい、貴様もだ！</p><p>ぎり、とOlは奥歯を噛み締め、顔を歪ませる。</p><p>Olがこれほどまでに怒りを露わにするのを、ローガンは初めて見た。</p><p>いや、俺は怒られるような事してないだろ？むしろマリーを助けてきたんだぜ。ほらマリー、お前は謝れよ！</p><p>痛みと気迫に恐れを抱き、ローガンは慌てて言い募る。</p><p>＜はんせいしてまーす＞</p><p>ばっ、おまっええと、心から反省してるって言ってるぜ！</p><p>反省の欠片もないマリーの口調にローガンはますます焦った。</p><p>この愚か者。愚か者が</p><p>そんな彼にOlは腕を振り上げて。</p><p>よく、戻った</p><p>マリーの頭をぽんと撫で、堪えきれずに笑みを見せた。</p><p>全く！腕の一本から復活しただと？くく、全く相も変わらず無茶苦茶な奴よ。くくく、ははははははは！</p><p>一度溢れだした笑みは止めることなど出来ず、Olは哄笑する。</p><p>お、おう</p><p>どう反応していいかわからず、ローガンは気まずげに頷いた。</p><p>二度と同じ真似をすることは許さん。だが、今回ばかりは褒めてやる</p><p>Olの表情からは焦燥が消え去って、不敵な笑みが戻る。</p><p>さあ、反撃の開始だ</p><p>第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-5</p><p>ちくしょー！幼女でさえあればー！この身体が幼女でさえあればー！</p><p>うるさい、ローガン</p><p>自分の身体を操って叫ぶローガンに、マリーはうんざりとした声で言った。</p><p>Olさまー、これどうしても外せないの？</p><p>今は無理だ、諦めろ</p><p>マリーの要求に対し、Olの返答はにべもない。</p><p>服従の首輪は解除不能と言うだけあって、Olにすら簡単には解呪できるものではなかった。</p><p>別段、自爆機能や遠隔爆破機能はついておらん。ならば当面そのままでも困らんだろう</p><p>困るよ！すっごく困るよー！</p><p>俺もなあ、昔のマリーちゃんならまだしも今の身体じゃなあ</p><p>故にマリーの身体は当面ローガンに任せることにして、Olは首輪に更に機能を追加した。声を発することが出来る機能だ。</p><p>リル。そちらの様子はどうだ？</p><p>駄目。反応なしー</p><p>やかましい二人を黙殺しつつ問うと、イェルダーヴの身体から這い出しながらリルは首を横に振った。そちらの首輪にも同様の機能を付けたが、イェルダーヴの反応は全くない。リルに取り付いて調べてもらったが、相当深く封印されているのかマリーのように魂越しに交信を試みることもできなかった。</p><p>こうして鹵獲された時の対処くらいはしていたか</p><p>ザナが言うには、ウセルマートの全知の半分はイェルダーヴの力によるものだという。その力をこちらが使えれば、とも思ったが、流石にそこまで甘くはないらしい。</p><p>気を落とさないで、大丈夫よ</p><p>浮かない表情のザナに、リルはことさら明るく言った。</p><p>所詮は人間の作ったものだもの。わたしとOlなら必ず解除できるわ</p><p>ええ大丈夫です、ありがとう</p><p>ザナはにこりと微笑む。</p><p>だがその胸のうちは変わらない。</p><p>不安と焦燥。</p><p>そして、激しい憎しみだった。</p><p>パパ、来たよ</p><p>黙々と作業を進めるOlの元にソフィアが訪れたのは、それから三日後のことだった。</p><p>映像を出せるか？</p><p>ソフィアが頷くとともに壁面が透け通り、そこに窓でもあるかのように外の光景が映し出される。まだ遠くてよく見えないが、無数の屍兵達がヤエガキ山脈を越え、こちらへと向かってきているのがわかった。</p><p>やはり、少ないな</p><p>その数は膨大。だが、地平を埋め尽くすと言うほどではない。テナが予知で見たものよりも、相当少なかった。</p><p>炎を作るのに数日かかるっていうのは本当だったみたいだね</p><p>雪を溶かしきれずに無理やり山を越えてきたせいだ。</p><p>改めて大火球を作り終わるまで待つよりも、一刻も早く攻める方を選んだということだろう。</p><p>それは悪手であるが、同時に最善の手でもあった。</p><p>さて、ソフィア。出来るな？</p><p>がんばる</p><p>ソフィアは震えながらも、しかしこくりと頷いた。</p><p>そう気負う事はない。タツキ、サクヤ、ミシャ。補佐を頼んだぞ</p><p>うん、たつきがんばるよー！</p><p>非才の身ながら、微力を尽くしましょう</p><p>子を守るは年長者の務めか。褒美に精をたっぷりと弾んでくれろよ</p><p>三柱の神々は若き神であるソフィアをそれなりに可愛く思ってくれているようだった。</p><p>彼女たちはOlの部下というわけではないし、直接の利害があるわけでもない。</p><p>ユツ、テナ、ホデリ。無理はするなよ</p><p>はい、わかりました！</p><p>言われんでも、危なくなったらさっさと逃げるからな儂は</p><p>はっ。この身命を賭しましても</p><p>賭すな</p><p>ホデリの反応に、Olは本当に大丈夫だろうかと心配になる。</p><p>だが今は彼らに託すしかなかった。</p><p>Olは小さな門をくぐり、作業へと戻る。</p><p>後はこれが間に合うかどうか。時間との勝負だ。</p><p>じゃあ、やりますっ</p><p>ソフィアがそう宣言し、両手を前に向けて眉間に力を込める。</p><p>んんんーっええーいっ！</p><p>彼女が気合の声を発すると同時に、試練の山の前方に突如として森が生えた。</p><p>後方に位置している森のダンジョンの一部を入れ替えたのだ。</p><p>ミシャお姉ちゃん、力を貸してくれる？</p><p>良い良い。そら、持ってゆけ</p><p>お姉ちゃん、などと呼ばれて気を良くしたミシャがソフィアの手を握り、その力を受け渡す。</p><p>木々が蠢き大きなアーチを作り上げたかと思うと、そこからずるりと巨大な生き物が引き出された。</p><p>鉄の如き黒光りする身体に、毒々しいオレンジ色の無数の脚。</p><p>それはいつかOlが捕らえた大ムカデだ。</p><p>突然日の当たる場所に引きずり出された大ムカデは怒りに任せて暴れまわる。</p><p>屍兵などその眼中にはないが、ただ移動するだけで何十という屍兵が跳ね飛ばされ、巨体に潰されていった。</p><p>さあ小鬼ども。我とあやつら、どちらが恐ろしい？</p><p>Olの姿に、森に潜む小鬼達が蜘蛛の子を散らすかのように慌てて逃げ出していく。</p><p>頑張ってくださいね</p><p>Olは手を振ってそう呟くと、くるりと宙返りして一転、鳥へと姿を変えた。</p><p>臆病な小鬼たちではあるが、こうしてユツがOlの姿で脅して回ると彼の姿から逃げるために屍兵たちへと向かっていった。一匹一匹は雑兵にも劣る弱さであるが、数だけであれば屍兵たちにも劣らない。</p><p>その上狡猾な彼らは、あまり判断能力を持たず愚直に進んでくる大半の屍兵と非常に相性が良かった。逃げるふりをしては落とし穴に誘い込み、そのまま土に埋める。妖樹の住処に誘導してその餌食にする。進路を読んで投石で敵を押しとどめ、暴れまわる大ムカデに敵を轢かせる。</p><p>無論その度に少なくない犠牲は出ていたが、どうせ彼らはすぐ増える。本人たちもそういう認識なのだろう。仲間の死を厭うことなく、屍兵たちを血祭りにあげることに躍起になっていた。</p><p>だが屍兵の全てが判断力の低い雑兵ばかりではない。例えば骨の不死馬に乗った騎兵だ。</p><p>生きていた頃名のある戦士だったのか、特別に呪力を込められたのか、或いはその両方か。</p><p>高い技量と判断能力の両方を併せ持つ屍騎兵が何体も、小鬼を蹴散らし大ムカデを避けて森のダンジョンを抜け、試練の山へと足を踏み入れる。</p><p>ここを通すわけにはいかん</p><p>その行く手を、テナが阻んだ。</p><p>頭からは耳を、腰からはふさふさとした四本の尾を生やし、衣の袖を翻せば狐火がいくつも浮かぶ。</p><p>屍騎兵たちは彼女を警戒して足を止め、後続の仲間を待って隊列を組んだ。</p><p>その数は五。騎馬、兵ともに最も体格の良い一騎を守るように四騎が壁になって守る構えだ。</p><p>狐火の威力はさほど高くない。四本の尾を変化させて武器にしても一騎落とせない完璧な布陣。</p><p>行くぞっ！</p><p>狐火を放ちながら襲いかかるテナに応じるように、屍騎兵は突進し</p><p>もろともに、地面から吹き出すマグマに飲み込まれた。</p><p>判断力を持つということはこちらの都合を考えるということ。つまり騙せるという事じゃな</p><p>テナが物陰から姿を現し、焼け焦げ動かなくなった屍兵たちを見やる。</p><p>ですが的確なあの対応。やはり、こちらの戦力自体は知られているようですね</p><p>マグマの中からもう一人のテナが出てきて、焦げ目一つない着物をパタパタと払った。</p><p>小柄なその姿は見る間に大きく膨らんで、サクヤへと戻る。</p><p>そうじゃな。指揮をとっている様子がないのは幸いじゃがサクヤ姫、避けよ！</p><p>テナの鋭い警告に、サクヤは素早く身を翻す。その衣の裾に短刀が突き刺さり、同時に襲い来る斬撃をサクヤはどうにか扇で防いだ。</p><p>炎で反撃する前に、小柄な屍兵は素早く退いて剣を構える。</p><p>その背後から、似たような姿の屍兵が更に数体。</p><p>あらまあ。ホスセリのような動きですわね</p><p>我々の苦手な手合いじゃな</p><p>サクヤもテナも炎を使う。高熱で飛び道具を防ぐのは難しい。</p><p>しかし体捌きでかわせる程の戦闘の素養は二人にはなかった。</p><p>ですので、交代です</p><p>サクヤに向かって屍兵が短刀を投擲した瞬間、彼女の姿は掻き消え背後の通路が音を立てて塞がれた。</p><p>相当な手練とお見受けする</p><p>そこへホデリが姿を現して、すらりと刀を抜き放った。</p><p>ただそれだけの動作で、屍兵たちは彼の凄まじいほどの強さを察する。</p><p>隻腕の男一人に対し五体の屍兵。すぐに彼らは扇状に広がって、ホデリを包囲した。</p><p>いざ尋常に</p><p>勝負、と言いかけたその時、彼らの頭上から大量の海水が降り注ぐ。</p><p>タツキ殿。彼らはいずれ劣らぬつわもの。勝負させてくださらぬか</p><p>えーやだ</p><p>首のエラから泡を吐き出しながら懇願するホデリに、タツキはあっさりとそう答えた。</p><p>屍兵は死者だ。呼吸が出来ないところで死ぬことはない。</p><p>だがその身軽な動きと投擲の技術は、水中では完全に死んだ。</p><p>詮方あるまい。これも主命だ、恨んでくれるなよ</p><p>ホデリの口が頬まで裂け、瞳が真円を描き、彼は剣を振るう。</p><p>水中であることなど全く感じさせぬ、滑らかな動き。</p><p>屍兵たちは避けることも出来ず、瞬時にして体中をバラバラにされた。</p><p>だが彼らはそうされてなお、戦意を失わない。</p><p>懐に仕込んだ毒瓶を握りつぶさんと、腕だけを動かして水中を這う。</p><p>たった一滴で池の魚を全て殺す猛毒。</p><p>いっただっきまーす</p><p>それごと、タツキは大きく口を開けて一息に飲み込んだ。</p><p>バキボキと音を立てながら咀嚼し、ごくんと嚥下して一言。</p><p>まずーい</p><p>それだけですか？</p><p>？ええとおかわり？</p><p>ホデリの言葉に、タツキはこてんと首を傾げる。</p><p>池を皆殺しにできる毒も、広大な海の前では無力に等しい。</p><p>ましてや国をも滅ぼす毒蛇を呑んだタツキにとって、この程度の毒など味の悪い調味料に過ぎなかった。</p><p>お疲れさま、みんな</p><p>どうにか第一波をやり過ごし、ソフィアは深く息をついた。</p><p>小鬼を除けばダンジョン側の犠牲はほぼなし。一方的と言っていい展開だった。</p><p>今のうちは。</p><p>テナ、これって何日続くんだっけ</p><p>十日と言ったところじゃな</p><p>問いに返ってきた言葉に、ソフィアはげんなりとする。</p><p>ここからは輪番を組んで対処しましょう</p><p>サクヤの言葉に、皆が頷いた。</p><p>疲れも恐れも知らない屍兵たちの進攻には朝も夜もない。</p><p>対応そのものはさして難しくはないものの、減るどころかどんどん増えていく敵にソフィアたちの疲労は溜まっていった。</p><p>まずい。予知よりも早いぞ！</p><p>そしてそれは、防衛を始めて七日目のことだった。</p><p>一気に屍兵たちの数が増えたのだ。</p><p>不覚。これは、妾のせいです</p><p>サクヤはチラチラと見える薄紅色の花を目にして、己の失敗を悟った。</p><p>彼女は火山の神であると同時に、春を告げる樹木の神でもある。</p><p>そのサクヤが力を使いすぎたあまりに季節の移り変わりが僅かに早まり、雪を溶かしてしまったのだ。</p><p>大地を埋め尽くし黒く染める屍兵たちの群れは、もはや押しとどめることなど出来ない。子鬼たちの掘った落とし穴など埋める間もなく踏み潰され、山のように伸し掛かられて大ムカデさえ動けなくなり、自分たちの身体を梯子代わりに山肌を登って試練の山の奥へと進む。</p><p>それは蟻の大群に大型の獣が成すすべなく食い殺される光景に似ていた。</p><p>ここはもう駄目です。お逃げなさい、ソフィア</p><p>いよいよ外郭が食い破られてどっと侵入してきた屍兵たちの存在を感じながら、サクヤはそう命じた。既に他の面々はダンジョンの外へと避難させた。だがソフィアだけが、頑なに逃げようとしない。</p><p>こうなればこの山を溶岩で満たし、灼き滅ぼしてやるより他はありません</p><p>それもほんの僅かな時間稼ぎにしかならないだろうが、とサクヤは心中で呟く。</p><p>パパがパパが、きっと</p><p>いいえ。それももはや叶わぬでしょう</p><p>勝つための準備をする。だから時を稼げ。</p><p>全知に気取られるのを避けるためだろう。Olからの指示はただそれだけだった。</p><p>Olが彼女たちを見捨てて逃げたなどとはサクヤも思わない。</p><p>だがこの状況を、一体どうやったら覆すことが出来るだろうか。</p><p>強力な兵器？それとも無数の援軍？</p><p>どちらがあっても、数の暴力の前には無力だ。</p><p>状況を今から覆す奇跡のような方法があるとはとても思えなかった。</p><p>Olは、間に合わなかったのだ。</p><p>やだ！</p><p>だがソフィアは首を振って、サクヤの手から逃れる。</p><p>聞き分けなさい。あなたの父君も、そんなことを望んではおりません</p><p>そんな事ないもん。だってパパは、サクヤお姉ちゃんの事も大好きだから！</p><p>死ぬわけではありません。神はそう簡単に滅びませんから</p><p>だがこの山を噴火させれば、サクヤは深い眠りにつく。ソフィアはそれを敏感に察していた。</p><p>目覚めるのは千年後か、万年後か。いずれにせよOlは生きてはいまい。</p><p>パパは絶対来るよ。だって、ソフィとわたしと、約束したんだもん！</p><p>ソフィアが叫んだその時、部屋の壁が打ち破られて屍兵たちが雪崩込んでくる。</p><p>扇を振るい投げ放った炎は予想の半分も熱量を持たず、サクヤは己の力が尽きかけていることを知る。これではもはや、山を噴火させることすら叶わない。</p><p>無理をするなと、言ったであろうが</p><p>だが次の瞬間降ってきたのは、屍兵たちの汚れた指に引き裂かれる感触ではなく、そんな呆れ声であった。</p><p>全く、そこまで俺を盲信するとは我が娘ながら一体誰に似たのやらだが、よくぞ言った</p><p>サクヤが恐る恐る目を開ければ、あれほどいた屍兵たちは皆真っ二つに両断され、地に倒れ伏していた。一体どんな刀を使えばこうまで見事に切れるのか、断面は恐ろしいほどに鋭利だ。</p><p>ソフィアがOlに駆け寄って、勢いそのままに飛びつく。それを受け止めたOlはぐらりと身体をよろめかせた。</p><p>旦那様お体が？</p><p>ああ。突貫工事だったからな。流石にちと疲れた</p><p>欠伸を噛み殺しながら、Olは答える。</p><p>だが、間に合ったぞ。よくやった</p><p>ですが一体、何を？</p><p>わしわしと無造作に頭を撫でられ頬を染めつつも、サクヤは思わず問うた。</p><p>最高の援軍だ</p><p>第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-6</p><p>それは、巨大な土の塔のようなものであった。</p><p>あれはなんだ。なんの意味がある</p><p>砂の王の問いに返事はない。答えるべき口を持たないからだ。</p><p>ただただそれはウセルマートの望みに応じて、遥か彼方の地の光景を彼の脳裏に浮かばせる。</p><p>土で出来た円柱形のその塔は、ただただ土を掻き集めて盛り立てているようにしか見えなかった。凄まじく巨大ではあるが、大きいだけだ。中には何の機構も備え付けられておらず、術がかけられているわけでもない。</p><p>仮にあれが兵器だったとしても、脅威とはなりえない。</p><p>なぜならそれは遥か遠く海の向こう異なる大陸にあるからだ。</p><p>魔王が門を繋いでそちらから戦力を持ってこれることは知っていたが、それには限度があることもまたわかっている。あれほどまでに巨大な代物を持ってくるのは不可能だ。</p><p>考えられることは、陽動か。ウセルマートはそう結論づけた。</p><p>意味有りげな事をして彼の気を引き、他への意識を引き離す。</p><p>それは有効な手段ではあった。</p><p>全知は強力な力だが、いくつか欠点がある。</p><p>その最たるものが、人間の頭には手に余る、ということだ。</p><p>やろうと思えばそれこそこの世の全て、砂粒の数までも数え上げることも出来るだろうが、人の頭では処理しきれない。世界のどこにでも目を向けることが出来るが、見ていない場所を見ることは出来ないのだ。</p><p>なるほど。これか！</p><p>Olの周辺を探って、ウセルマートはそれを発見した。</p><p>赤い髪の剣使い。恐らくは魔王の手の中で最強の駒。</p><p>それが、斬撃を転移させて飛ばし斬り裂く練習をしていた。</p><p>なるほど、この状況でウセルマートに勝つのであれば、彼本人を殺すのが最も手っ取り早い。</p><p>どこにでも転移できるあの娘の力を持ってすればそれも或いは可能だろう。</p><p>ならば奴はまだ気づいていないのだ。そんな策にはとうに対策を講じているということに。</p><p>ピラミッドはただの要塞ではない。それ自体が力を持つ巨大な結界の発生装置だ。</p><p>その中では彼の信ずるアトム神以外のありとあらゆる神が力を削がれ、権能を失う。</p><p>あの娘がこの中に飛び込んできたが最後、二度と転移は叶わない。</p><p>神の力がなければ強いと言っても小娘一人、始末するなど造作もない。</p><p>何なら奥の手を使っても良い。いずれにせよこれで、ウセルマートの勝利は揺るぎようがなくなった。</p><p>そう確信した瞬間。</p><p>砂の王は表情を歪ませた。</p><p>呆けたようにその光景を見つめ、目を見開く。</p><p>ありえない光景が、そこには広がっていた。</p><p>人の男の器と聞いて、お前は何を想像する、サクヤ</p><p>器ですか？</p><p>眠たげに問いかけるOlに、サクヤは首を傾げた。</p><p>難しいですね。他者を許し受け入れる心根でしょうか</p><p>なるほど。ミシャの能力があるだろう。あれが俺にもあるのだそうだ</p><p>よほど眠いのだろうか。ポンポンと話題が飛ぶOlの言葉に、しかしサクヤは生真面目に付き合う。</p><p>そうですね。神が人に力を与える時は普通、女性に巫女に降ります。ですが塞ノ神はその特殊な神でして。男性に力を与えるのだそうです</p><p>塞ノ神は元々男根の姿をした神だ。それが男に力を貸すのは、ある意味で自然なことなのかもしれない、とサクヤは思う。</p><p>うむ。で、ミシャが言うには、本来俺とあいつとで揮える力に差はないらしい。だが俺がほんの小さな力しか揮えぬのは、俺の器が小さいからだと言う</p><p>はあでは、霊力ですとか、魔力の話だったのでしょうか</p><p>Olは首を振って、言った。</p><p>ペニスの大きさだ</p><p>ぶっ、ぐ、く、くふ、ぐぅっ！</p><p>サクヤは思い切り吹き出して、顔を真っ赤にしながら笑いを堪えた。</p><p>下ネタに弱すぎるだろう、と呆れつつOlは話を続ける。</p><p>奴は塞ノ神。境界を塞ぐ神だ。であればその境界の大きさは、塞ぐものの大きさに比例する。つまりはペニスだ</p><p>ぶふぅっ！や、やめ、やめてくださいましっ</p><p>はしたないと知りつつも腹を抱えて笑うサクヤ。</p><p>だから作ってやったのだ。我が天のダンジョンが通れるだけの大きさを持つ、男根をな！</p><p>自棄になったように、Olは叫んだ。</p><p>それはかつてOlがメリザンドと戦った時に作り出した歩くダンジョンの、成れの果て。もはや二度と動かすこともないだろうと放置されたその体格に相応しい怒張を作り上げ、Olはそこに宿った。もはやその体を立たせるほどの魔力は用意できないが、局部を勃たせるだけであれば造作もない。</p><p>そして、その凄まじく馬鹿馬鹿しい方法で、異なる大陸からやって来た。</p><p>ウセルマートにとっての破滅が。</p><p>実にいい顔をしている。そうは思わないか？</p><p>メリーもね</p><p>この上なく楽しそうな顔をしながらウセルマートの姿を投影する年上の妹に、マリーは呆れ混じりに答えた。</p><p>しかしこれは便利だな。まさか英霊にこのような使い方があるとは、思いもしなかったぞ</p><p>メリザンドの身体に宿るのは、無明の名で呼ばれる英霊。全てを見通す千里眼の持ち主、盲目のガイウスだ。</p><p>ちょっと教えただけなのに妹があっという間に口寄せをマスターして、お姉ちゃん悲しいやら誇らしいやら</p><p>年季が違う、年季が。さあ待たせたな、諸君</p><p>英霊をその身に宿したメリザンドは、マリーどころか英霊自身よりも巧みにその力を引き出すことが出来た。メリザンドの見た光景が、窓のように無数に浮かんで居並ぶ射手たちの目の前に映し出される。</p><p>エレンを筆頭とする黒アールヴの弓使いたちだ。</p><p>矢弾は無限にあるぞ！好きなだけ射殺せ！</p><p>その矢になるのは、天のダンジョンの森に生える無数の木々。彼女たちが棲み慣れ親しんだそこは、そのものが強力な魔力を帯びた聖地のようなものだった。その枝を折って矢に加工するのには材料も魔力も必要ない。枝自体に既に大量に魔力が含まれているからだ。</p><p>天に浮かぶダンジョンから雨のように降り注ぐ矢は、しかし正確無比に屍兵たちを射抜いていく。メリザンドの操る千里眼とアールヴの魔技が合わさって初めて出来る絶技であった。</p><p>だが矢に対して屍兵たちはあまりに多く、また既に死んでいる彼らには急所というものがない。矢で貫いただけでは動きを止めないものも多かった。</p><p>風よ。雲よ。我らが友よ。その恵みをどうか分けておくれ</p><p>そこへ、セレス率いる白アールヴ達が一斉に魔術で雲を呼び寄せる。異大陸からも掻き集められた雲は本物の雨を降らせ、屍兵たちを濡らした。</p><p>無論水に弱いとは言え、屍兵は雨に濡れた程度で崩れるほど軟弱ではない。</p><p>しかしそれも、身体の内に生木の矢を抱えていなければの話だ。</p><p>肉に食い込み、雨を吸ったアールヴの魔木は瞬く間に成長し、周囲の屍兵をも取り込みながら大きくなって彼らを喰らい尽くす。</p><p>そこへダメ押しとばかりに、白銀の竜が舞った。英雄王ウォルフが宿ったメトゥスの身体だ。</p><p>その身が吹き出す毒の息は死者たちの身体さえもあっという間に溶かし腐らせる。</p><p>ソフィアの方はうむ、問題ないようだな</p><p>メリザンドが眼下からダンジョンの中へと意識を転じさせれば、目にも止まらぬ速さで三つ首の猛獣が駆けていた。その背に跨るのは勇ましい女騎士ではなく、純朴な娘。しかし誰より恐ろしい獣の魔王、ミオだ。</p><p>彼女の最大の欠点はザナが突いてみせたように、魔獣を操るミオ自身は無防備である事だ。</p><p>大群や巨大な敵相手であれば問題とならないが、単独の強者には遅れを取る可能性がある。</p><p>否。あった。</p><p>つい先日までは、の話だ。</p><p>ケルベロスの爪と牙を掻い潜り、死角から不意を突いて小柄な屍兵が斬りかかる。</p><p>ミオはそちらを見ることもなく、すっと左手を掲げた。</p><p>その袖口からするりと小さな蛇が飛び出して、剣を咥えて受け止める。</p><p>同時にその蛇の尾に生えたもう一つの頭が、屍兵の首に噛み付いた。</p><p>双頭蛇(アンフィスバエナ)と呼ばれるその蛇の毒は、瞬く間に屍兵を石へと変えて砕く。</p><p>天井に張り付き、落下して奇襲をかけた屍兵は、ミオの右腕に乗った小さな火蜥蜴(サラマンダー)の炎に焼かれて一瞬で燃え尽きた。</p><p>投げ放たれた短刀は、ミオの胸元に入った小さな獣が額の宝石を輝かせると見えない壁に弾かれ落ちる。結界を自在に作り出す魔獣、カーバンクルだ。</p><p>何十何百という犠牲の末に、屍兵たちはようやく魔獣の防護を掻い潜ってミオの頬に僅かな傷をつけることに成功した。だが彼女の頭の上に乗った白い小鳥がぺろりと舐めとったかと思えば傷は瞬く間に消え、小鳥の吐き出した息に触れた屍兵の同じ場所に何十倍も深くなった傷がつく。医療を司る神鳥カラドリウスは、人の傷や病を吸い取り他人に与える力を持っていた。</p><p>ミオ自身が攻撃に気づかずとも、全方位にあらゆる感覚を巡らせた魔獣が必ずそれを察知し防ぐ。防ぎきれなかったとしてもすぐに癒やす。小さな魔獣を何匹も身につけたミオは、もはや全身凶器であり、単独で軍隊に匹敵するような存在に成り果てていた。</p><p>あれ、反旗を翻したらどうもならんぞ</p><p>その時は諦めよう</p><p>頭を抱えるメリザンドに、マリーは潔く答えた。</p><p>第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-7</p><p>くははははははは！痴れ者め。むしろ好都合というものだ</p><p>ウセルマートは哄笑した。</p><p>それは負け惜しみなどではなく、心からの笑いだ。</p><p>核熱(アトム)の炎。防げるものなら防いでみるが良い！</p><p>山頂の雪を溶かしていた炎に、霊力を込める。</p><p>防げるわけがない。それこそはこの世で最も力を持つ神の威光。</p><p>全てを滅ぼす始原の炎なのだ。</p><p>Ol。あたしに出来ると思う？</p><p>悪戯っぽい笑みを浮かべ、ユニスはOlに問うた。</p><p>わかっていて聞いているな、とOlは思う。</p><p>彼はそう言った不確実な事を断言する性格ではない。</p><p>それをわかっていながら、ユニスはそう望んでいるのだ。</p><p>そうだな</p><p>それはつまり。</p><p>お前になら絶対に出来る。なにせこの俺が愛する正妃なのだからな</p><p>甘える妻に、Olは最大限の譲歩をした。</p><p>もう照れる</p><p>流石にそこまで言ってくれるとは予測していなかったユニスは、自分で言わせておいて頬を染めて俯く。かと思えばぱっと顔を上げて、Olの首に腕を回してキスをした。</p><p>でも勇気は満点になったよ！ありがと！</p><p>そして剣を抜いて、天のダンジョンの先端に立つと迫りくる始原の炎に向き直った。</p><p>なんでこんな状況でいちゃついてんだよ</p><p>その一部始終を横で見せつけられたローガンは、うんざりとした口調でぼやく。</p><p>ローガン。そう言えばさ、前アドバイスくれたじゃない？</p><p>竜が人の真似をしてどうなる。そう、ローガンはかつてユニスに言った。</p><p>あれ何の役にも立たなかった</p><p>そうかいそりゃどうも役立たずですみませんね！？</p><p>なぜなら、ユニスが目指すものは竜ではない。それを殺すものだからだ。</p><p>兄は英霊として、その力を拡大してみせた。英霊となっても成長の予知はあるということだ。</p><p>父は剣の一振りで、遠く離れた飛竜を皆殺しにして見せた。ユニスの知る、強さの頂点だ。</p><p>その二つをイメージしながら、ユニスは剣を振り下ろす。</p><p>だが飛ばすのは斬撃ではない。</p><p>刃を隔てた世界の、片側だ。</p><p>ごめん、Ol</p><p>ずるりと、空間が滑り落ちて。</p><p>やりすぎちゃった</p><p>えへ、と気まずげに笑って誤魔化すユニスの向こうで、炎と一緒に大地が真っ二つに割れた。</p><p>ユニスの剣が残した傷跡は、それは凄まじいものだった。</p><p>なにせウセルマートのピラミッドが中央から真っ二つに割れて柘榴のように開き、それだけに留まらず大地についた傷跡は地平の向こうまでも続いていた。</p><p>もっともユニスが切り裂いたのは砂漠の真っ只中で、切断面の幅は紙一枚よりも薄い。よほど運が悪くない限りは切り裂かれた人間はいないだろう。</p><p>つまり目の前で頭の天辺から股の間までを両断されている巨大な屍兵は、よほど運が悪かったといえる。</p><p>運が悪いっていうか、一応狙ったんだけどねウセルマートの方を</p><p>悪鬼のような形相でこちらを睨みつけるウセルマートを囲むのは、ユニス、Ol、ザナの三人だ。追い詰めたとは言え油断ならない砂の王を相手にするには、戦力はむしろ少数精鋭である方が良い。</p><p>何か言いたいことはあるか？</p><p>ないわ</p><p>Olの問いに、ザナは短く答えた。</p><p>もう勝ったつもりか！</p><p>ウセルマートは杖を掲げ、その先端に小さな火球を作り出した。</p><p>外すなよ。外した瞬間お前は死ぬ</p><p>剣を構えるユニスに対し、そうプレッシャーをかける。</p><p>空間を切り裂くあの技はまだ完全にものにした訳ではない事を、彼は見抜いていた。</p><p>切り裂くことに失敗すれば、そのままユニスは焼かれて死ぬ。</p><p>無駄な足掻きを。やれ、ユニス</p><p>だがユニスは何の気負いもなく、剣を振るった。</p><p>余は王の中の王。滅びはせぬ！</p><p>同時にウセルマートが炎を放つ。</p><p>ユニスの剣はそれを真っ二つに断ち割り</p><p>避けろ、ユニス！それは囮だ！</p><p>Olが気づき叫んだときには閃光が槍のように伸びて、この世のどんな矢よりも早くユニスへと迫っていた。それが彼女の胸を貫くその寸前、ユニスは突き飛ばされて地面を転がる。</p><p>そして代わりに閃光を受けたザナが、胸を押さえて蹲った。</p><p>このっ！</p><p>すぐさま起き上がって、ユニスはウセルマートへと斬撃を飛ばそうと剣を奔らせる。</p><p>だがそれは、砂の王を切り裂く寸前でピタリと止まった。</p><p>彼女の両腕が、凍りついたのだ。</p><p>外したかまあ良い</p><p>腕だけではない。脚も、身体も、みるみるうちに氷に包まれて動けなくなっていく。</p><p>氷の女王よ、魔王も捕らえよ。まだ殺すなよ</p><p>ウセルマートの命に、瞳から意思の光をなくしたザナは一瞬にしてOlを凍りつかせた。</p><p>なるほどそれがお前の狙いだったか</p><p>全身を氷に拘束されながら、Olは独白するように呟いた。</p><p>気づいてももう遅い。これこそ余がこの世の覇者であることの証。全てを制し操る、支配の杖の力だ</p><p>杖を掲げながら、ウセルマートは高笑いする。</p><p>服従の首輪はこれを模した副産物に過ぎぬ。一度に一人しか操れぬのが難点ではあるがな</p><p>おそらく今までは、その杖の力でイェルダーヴを囚えていたのだろう。故にギリギリまで使わなかったし、使えなかった。</p><p>形勢逆転だな異境の魔王。だがこれが余と貴様の格の差と</p><p>うるさい。会話の途中だ。お前は少し黙れ</p><p>この状況で言葉を遮り、あまつさえ高圧的に命令するOlに、ウセルマートは思わず言葉を失う。</p><p>土壇場で裏切るか、それともお前自身も死ぬか。その辺りだとは思っていたが、まさかそんな行動に出るとはな</p><p>貴様は何を言っている。気でも触れたのか？</p><p>意味不明な事を言うOlに、ウセルマートは怪訝な表情を浮かべ近づく。</p><p>お前こそ油断しすぎだ。死ぬぞ</p><p>あ？</p><p>ウセルマートは目を瞬かせ、己の胸から突き出た氷を見つめた。</p><p>それは赤く濡れ、先端からポタポタと血を垂らす。</p><p>ザナの手のひらから伸びた氷の槍が、背後から彼の胸を貫いていた。</p><p>馬鹿、な何、で</p><p>ぐっと氷の槍を両手で掴むが引き抜けず、引き抜いたとしても助かるわけもなく。</p><p>ウセルマートは何が起こったかも理解できぬまま、絶命した。</p><p>見事だ、ザナ。いや、月の女神マリナと言った方が良いか</p><p>お気づきになられていたのですか</p><p>素のザナとはまるで異なる口調で、彼女は答える。</p><p>それはザナが猫を被っている時の口調であると思っていた。</p><p>だが何の事はない。彼女が啓示を受けるときつまり、女神マリナに身体を貸した時の口調なのだ。</p><p>ああ。だが何故ウセルマートはお前に気づかなかった？</p><p>魂を封じられても、その能力までは封じられない。そして操れるものは一度に一つ。</p><p>そこまでわかっているなら、ザナを封印しても何の意味もないことは察しがつくだろう。</p><p>ましてやローガンがマリーに取り付いて大暴れした直後なのだ。Olがマリナの存在に思い至ったのもそれがゆえ。いくらウセルマートでもそれを見逃すほど愚かとは思い難い。</p><p>わたしは月の女神。日の出ている時に月を見ることができましょうか</p><p>なるほど、道理だ</p><p>ザナと魂を繋げたOlでさえ、直接的にはその存在に気づかなかった。</p><p>しかしその繋がり故に、マリナは度々内心を誤魔化すためにザナとして振る舞わなければならず、Olはそこに違和感を覚えて気付きの手がかりとなった。マリナがザナを真似るとき、ほんの僅かにだが口調が違うのだ。</p><p>破壊する気か</p><p>支配の杖を手に取るマリナに問いかけると、彼女はあっさりと首肯した。</p><p>魂をそこに囚えた状態でそれを破壊すれば、魂もまた破壊される。</p><p>それはつまり、ザナの死を意味していた。</p><p>それこそが、ザナが望んだことですから</p><p>ザナのウセルマートに対する憎しみは本当だった。</p><p>だがおそらく同時に、彼を愛してもいた。</p><p>そんな彼女の望みは、ウセルマートの物になりそして、彼を殺し自らも死ぬことだったのだろう。</p><p>下らないことだとOlは思う。そしてそう思うのはOlだけではない。</p><p>だがお前の望みではあるまい</p><p>Olが言うと、マリナはにっこりと笑った。いつもの、人好きのする笑みだ。</p><p>全くお前は食えぬ神だな</p><p>最善手とは一体誰にとっての最善であるのか、Olはずっと疑問に思っていた。</p><p>それがザナにとっての最善であるなら、本人に何が起こるかわからないのはあまりにも不自然だ。</p><p>だがザナ以外の者にとっての最善にしては、彼女はその能力に信を置きすぎている。</p><p>ここに至って、ようやくOlは得心がいった。</p><p>最善とはつまり、女神マリナが考えるザナにとっての最善だ。だがそれは、ザナの望みとは必ずしもイコールでは結ばれない。</p><p>結局俺はお前たちに利用されただけ、かまあ良い。使われてやる</p><p>言いつつOlは己の魂をぐいと引っ張る。</p><p>服従の首輪を解析して、その仕組みはおおよそ把握している。</p><p>原理的には大して高度なものではない。単に鍵が複雑なだけの金庫のようなものだ。</p><p>破壊せずに開けるのは骨が折れるが、それもしっかりと鍵がかかっていればの話。</p><p>魂が他の魂と紐付き繋がったままでは、扉などしっかりと閉められるわけがない。</p><p>ほんの僅かな隙間があれば、そこからこじ開けるなどOlにとっては造作もないことだった。</p><p>ザナの魂を彼が引っ張り出すのとほとんど同時、マリナが支配の杖を凍りつかせて砕く。</p><p>あれ程の力を持つ魔道具を壊してしまうのは少々惜しい気もしたが、仕方あるまいと諦める。意思さえ奪い去るのはOlの趣味でもない。</p><p>どうして</p><p>俺はお前のことを気に入っておる。他の男に渡したくないと思う程度にはな。それが例え、死後の世界であろうと</p><p>恨みがましい目で睨みつけてくるザナに、Olは涼しい顔でそう答えた。</p><p>わかったならさっさとこの氷を解け。寒くてかなわん</p><p>Olがそう命じると、ザナは渋々とOlたちの氷を消し溶かす。</p><p>はー、さむーい！</p><p>途端ぴょんと飛びついてくるユニスを、Olは当然のように受け止めた。</p><p>今更とは言え、目の前で他の女を口説いてもこうして許してくれるのだからできた妻だ。</p><p>あったかーい</p><p>ぎゅっとOlに抱きつきながら、ユニスはちらりと横目でザナを見る。</p><p>混ざるわけ無いでしょ！</p><p>片手を空けて問うユニスに、ザナは叫んだ。</p><p>第ニ章終幕</p><p>ザナがウセルマートに初めて出会ったのは幼いころ、まだ母が存命の頃だった。</p><p>その頃はヒムロとサハラの両国も敵対しておらず、王族同士で交流を持ち、折に触れて式典などに参加することもあった。</p><p>彼女が彼に出会ったのは、そのようなパーティでの一席でのことだ。</p><p>幼いながらもその見目は精悍で気高く、褐色の肌に包まれた肉体は活力と自信に満ち満ちていた。</p><p>しかし何よりザナが惹かれたのは、その瞳であった。</p><p>覇気に溢れ、滾る野心を隠そうともしない強い瞳。</p><p>闇の中振るわれる白刃のように。猛毒を持つ蛇のように。空を統べる鷹のように。</p><p>危険である程に美しく、恐れる程にザナは彼に魅了された。</p><p>彼がザナにさほどの関心を持たない事には、すぐに気づいた。</p><p>少しでも興味を持ってもらおうとザナは彼に尽くすよう努力を重ねた。</p><p>肌を磨いて髪を整え、氷術や巫術を覚え、女としても巫女としても己を磨き上げた。</p><p>そしてついに部屋に招いて欲しいとウセルマートから頼まれた時には、この上ないほど舞い上がったものだ。</p><p>だが人知れず宮廷に招かれたウセルマートがしたのは、ザナの妹、イェルダーヴを拐かすことだった。</p><p>太陽の巫女を失ったヒムロの国は以前にもまして深い雪の中に閉ざされ、民は飢え、その対応に奔走した女王である母は病を拗らせてこの世を去り、ザナは若くして女王となった。</p><p>何もかもを失って、彼女は深い深い憎しみに包まれた。</p><p>己を騙し、裏切ったウセルマートへの憎しみ。</p><p>彼に選ばれたイェルダーヴへの憎しみ。</p><p>そして何より騙されてなお彼への思慕を捨てられぬ、愚かな己への憎しみ。</p><p>だが幸か不幸か、彼女に残されたのはもう一つあった。</p><p>これほど愚かな王に従い、苦しい思いをしている哀れな民衆だ。</p><p>何の罪もなく、貧困に喘ぎながら、しかし自分を慕い敬ってくれる人々。</p><p>冷たい地に住みながらも暖かな心を持つ彼らに報いなければならない。</p><p>ザナは良き女ではなかったが、良き王でありたいと願った。</p><p>陽(ヒ)に逃げられた愚かな氷(ヒ)の女王を憐れんだ月の女神の手を借りて、妹を救い、ウセルマートを殺し、己を滅ぼす。例えどんな手を使ってでも。</p><p>様々な愛と憎しみとが入り混じり、いつしかそれがザナの唯一の望みとなっていた。</p><p>その望みは二つ叶えられ、一つ叶わず。</p><p>ザナは長い夢から目覚めた。</p><p>パチリと目を開け、ザナは上半身を起こす。</p><p>夢を、見ていた気がする。だがどんな夢だったのかは思い出せない。</p><p>泣いていたのだろうか。頬が濡れていた。</p><p>そして</p><p>やっちゃった</p><p>隣で眠るOlを目にし、彼女は頭を抱えた。</p><p>夢の内容は思い出せないが、皮肉にも昨夜の記憶であれば克明に思い出せた。</p><p>ザナは浴びるように自棄酒を飲み、Olに絡み、文句を言い、泣き叫び、二、三度吐いて、歩けなくなったところをこの部屋まで運ばれ</p><p>（ああああああああああ）</p><p>襲われたのならまだともかく、完全にザナの方から襲ったのだった。</p><p>（殺すしかない）</p><p>咄嗟にザナはそう判断した。寝ている今がチャンスだ。</p><p>元々殺すと宣言はしていたのだから、油断するほうが悪い。</p><p>万全を期すため、ザナは月の女神の啓示を受ける。</p><p>朝から随分熱烈だな</p><p>気付けばザナは、Olに口付けていた。</p><p>おおおおおお、起きてたの！？</p><p>頭の中でああも騒がれれば嫌でも目覚める</p><p>眠たげに顔をしかめながら答えるOlから、ザナは慌てて飛び退いた。</p><p>って言うかマリナ様何やってるの！？</p><p>女神がザナの身体を操っている間、意識はあるがマリナが何をするかまではわからないし、何故そうしたのかもわからない。人知を超えた認識能力を持つ彼女の意図を計りかねるのは珍しいことではないとは言え、今回は全く意味不明だった。</p><p>お前は自分のことが全くわかっておらんのだな</p><p>だがOlは落ち着き払った様子で、呆れたようにそう言った。</p><p>どういうことよ！</p><p>まあわからぬのなら、今はそれでも良い</p><p>月の女神とやらも過保護なことだと思いはするが、これでは目を離せぬのも分からないではない。</p><p>一体何の話を</p><p>やかましい。俺は疲れてるんだ</p><p>ウセルマートの件はとりあえず片付きはしたが、Olの仕事は山積している。</p><p>屍兵たちの侵攻によって破壊されたダンジョンの修復に、大陸から引っ張ってきた魔宮の処理。</p><p>マリーやイェルダーヴの封印も解いてやらねばならないし、ピラミッドから姿を消していたホスセリのことだって探してやらねばならない。</p><p>王を失った砂の国の統治の問題もある。暴君でも王は王だ。いなければ国は回らず、民を捨て置くわけにも行かない。</p><p>だがそれも、せめてもう一眠りしたあとのことだ。</p><p>七日間ほとんど不眠不休で作業を続け、流石のOlも疲れ切っていた。</p><p>とにかくもう少し寝かせろ。話はその後いくらでも聞いてやる</p><p>生欠伸を噛み殺しながら、Olはザナの裸身を抱き寄せる。</p><p>ちょっと！</p><p>人を叩き起こした責任を取れ</p><p>その柔らかな身体を抱きしめながら、Olは目を閉じた。</p><p>あたしみたいなガリガリなの抱いたって、面白くないでしょ</p><p>拗ねたような口調のザナにOlは答えず、ただ彼女の髪を撫でた。</p><p>確かに凹凸には乏しい身体だが、その肌の滑らかさ、髪の艶やかさはただ触れているだけでも気持ちいい。華奢で柔らかな肢体の抱き心地は筆舌に尽くしがたい物があった。</p><p>未だ繋がったままの魂は、Olのそんな心持ちを口に出すよりも何倍も雄弁にザナに伝える。</p><p>仕方ないわね</p><p>嘆息し、ザナが許しを与える頃にはOlは既に寝息を立てていた。</p><p>寝ているときまで眉間にしわを寄せ、まるで怒っているかのような表情で眠る彼の姿に、ザナは思わずクスリと笑う。</p><p>演技でなく笑うのなど、一体何年ぶりだろうか。</p><p>そうひとりごちながら、ザナはもう少しだけ、Olを殺さないでいよう。</p><p>何となく、そう思った。</p><p>登場人物その3</p><p>ホスセリ</p><p>忍びの者。24歳。サクヤに仕える兄妹の妹。短い橙色の髪に茶の瞳。火山の風景に溶け込む赤装束に身を包む。山犬の呪いを受けており、気を抜くと狼の耳と尻尾が生えだす。</p><p>無口で無表情だが感情そのものは豊かで、冷静に内心を吐露する癖がある。不意打ち、闇討ち、騙し討ちを身上とする忍びの者。毒薬に通じ、生き物の急所についても造詣が深い。敵の死角に隠れ潜んで、急所や毒による攻撃によって一撃で命を奪う戦法を得意とする。</p><p>サクヤ</p><p>火山の神。13902歳。桜色の髪を足首まで伸ばした、神々しい雰囲気の美女。見た目は二十代半ば。山の恵み、特に活気や生命力を司る神であり、火の神であると同時に春を告げる花、桜の象徴でもある。</p><p>おっとりとして気品に満ちた風を装っているものの、内面は耳年増のムッツリ。炎を自在に操る事ができ、その熱量は相当のもの。武術の心得があるわけではないが、比較的高位の神である為その能力は人間とは比べ物にならないほど高く、生まれ持った基礎能力だけで相当な実力を備えている。</p><p>ミシャ</p><p>塞ノ神の半身。年齢不詳。肩の辺りでキッチリと髪を揃えた和装美女の姿。見た目は二十そこそこといったところだが、サクヤを子供扱い出来る程度には生きている。</p><p>性交を司る神であり、常に泰然として隙あらば卑猥な単語を織り交ぜてくるが、反面子作りに繋がらない性行為に関しては非常に疎く、ペースを崩されると弱い。境界を自由に区切り、繋ぐという強力な能力を持っているものの、神としての力は殆ど失われてしまっており、肉体的な能力は見た目以下である。</p><p>ザナ</p><p>氷の女王。19歳。紫水晶を削り出したような美しい髪と透けるような白い肌を持つ、儚げな美少女。女性にしては長身で、スレンダーなモデル体型。</p><p>その妖精のような容貌とは裏腹に勝ち気で癇癪持ちな負けず嫌い。氷術を得手としており、その創出速度はOlでさえ舌を巻くほど。一呼吸の間に視界全てを凍らせられる程の能力を持つ。また、月の女神をその身に憑依させることにより、常に最善手を打つという規格外の異能を誇る。</p><p>第12話戦後処理を片付けましょう-1</p><p>魔王Olが作り上げ、その娘であると共にダンジョンの神でもある少女、ソフィアが管理する広大な地下迷宮の最深部。魔王本人の部屋よりも更に厳重に守られた場所に、そこはあった。</p><p>それは外部からの攻撃への備えであると同時に、内部からの脱出への備えでもある。品の良い調度品が飾られ、使い心地の良い家具が揃えられ、扉には鍵すらなく。</p><p>それでもそこは、ある種の牢獄であった。</p><p>入るぞ</p><p>Olはその部屋を訪れ、几帳面に三度ノックする。</p><p>あ、Ol、いらっしゃーい</p><p>はい、お入り下さい、陛下</p><p>扉を開けると、そこには女が一人。しかし二つの同じ声がOlを出迎えた。</p><p>何か不都合はないか？</p><p>いいえ。とてもよく、して頂いておりますから</p><p>褐色の肌に、紫の髪の少女。イェルダーヴは、口を動かさぬままにそう答える。</p><p>何とかなりそう？</p><p>彼女の口を動かしてそう尋ねるのは、イェルダーヴの身体を操るリルだ。</p><p>いや悪いが、もう少しかかりそうだ</p><p>砂の国の王ウセルマートの持っていた支配の杖。その中に封じ込められたイェルダーヴの魂は、ザナの魂と入れ替わりに元々の肉体に戻っていった。しかしその首に嵌められた服従の首輪によって再び封じられ、自由を奪われたままであった。</p><p>服従の首輪に封じられてからは何の指示も与えられていないせいかOlたちに襲いかかるようなことはなかったが、そのままでは行動どころか食事や排泄すらままならない。仕方なく、リルがその身体に宿って必要最低限の生活をこなしている状態だった。</p><p>じゃあ、わたしはちょっと休憩いってくるから、イェルダーヴのことお願いね</p><p>リルは突然そう言うと、イェルダーヴの身体からするりと抜け出す。途端、イェルダーヴの身体は支えを失い、ぐらりと揺れた。</p><p>おい！全く、奴はどうも仕事が雑でな。怪我はないか</p><p>はい、いえ、あの大丈夫です</p><p>慌ててその身体をOlが支える間に、リルは部屋を出ていってしまう。Olが服従の首輪に追加した発声機能のお陰で何とか意志の疎通だけは取れるが、それ以外は人形のようなものだ。厄介なことに今のイェルダーヴはウセルマートの命令がなければ、自分で立っていることさえできなかった。</p><p>お聞きして、よろしいでしょうか</p><p>Olがその身体をベッドの上に寝かせてやると、イェルダーヴはおずおずとした様子でそう切り出した。</p><p>何故陛下はわたしに、このように良くしてくださるのですか？</p><p>自分の意思で指一つ動かせぬ女に部屋を与え、部下に甲斐甲斐しく世話をさせ、暇な身分でもなかろうにこうして度々訪れては何か困っていることがないか尋ねる。</p><p>イェルダーヴの力を利用するのが目的だとしても、あまりに丁重な扱いだった。</p><p>何故だと？</p><p>Olにしてみれば思っても見ないことを問われ、返答に詰まる。言われてみれば、これほどに世話を焼く理由もなかった。</p><p>ザナの妹だから。美しい女だから。そう言った理由が無いわけではない。</p><p>そうだな。強いて言えば同情か</p><p>だが改めてよくよく考えてみれば、一番の理由はそれだった。</p><p>己の意思さえ奪われ、選択の余地もなく無理やり従わされるのは辛かろう</p><p>それはかつてOl自身が受けた、もっとも苦い過去の記憶。同じ目に、それも何年もあってきた彼女に対する憐憫の思いが強くあった。</p><p>やっぱり</p><p>Olの言葉に、イェルダーヴは小さくそう呟く。</p><p>陛下。不躾ながら、一つだけ、お願いをしても宜しいでしょうか</p><p>なんだ？必要なものがあるなら、一つと限らずともある程度は便宜してやるぞ</p><p>いいえ</p><p>振れぬ首の代わりにイェルダーヴは答え、そこで言葉を切る。</p><p>そして暫くの間沈黙したあと、逡巡を振り切るように声をあげた。</p><p>わたしを抱いては、頂けませんでしょうか</p><p>出し抜けの要望に、Olは眉をひそめる。</p><p>はい。わたしを助けて頂き、尽力して頂く御恩。今のこの身では、それくらいしか返す術がありません。このような粗末な身体で良ければ、どうか</p><p>粗末な身体、というのは随分な謙遜であった。金の装飾で飾られた褐色の肌はその黄金に負けぬほどの輝きを放っているかのように艶めいていて、まるで芸術品のように美しい。彼女の身体を申し訳程度に覆う布を押し上げる豊満な双丘ときゅっと括れた腰、そして熟れた桃のような尻は男であれば誰もが手を伸ばしたくなるに違いない。</p><p>Olはイェルダーヴのむっちりとした太腿に手を添えて、ゆっくりと撫ぜる。どこまでも柔らかく、しかしそれでいて指を押し返す張りの強さ。極上の触り心地だ。</p><p>陛下のお好きなようになさって頂いて構わないんですよ</p><p>それは実に魅力的な提案だな</p><p>動かぬ人形のような身体と言えど、彼女にそう言われて滾らぬ男はいないだろう。</p><p>本物の人形ならともかくとして、身体を動かせないだけで魂はそこにあるのだ。見聞きが出来ているということは、触れられる感触もあるということだ。</p><p>んっ</p><p>ついと滑らされるOlの指先。それはイェルダーヴの膝の辺りを軽く撫ぜただけであったが、イェルダーヴは敏感に声を漏らした。この極上の肉体をほしいままに弄び、征服し、鳴かせるのはどれほど心地よいことだろうか。</p><p>要らん</p><p>え</p><p>しかしきっぱりと拒否するOlに、イェルダーヴは小さく声を漏らした。</p><p>生憎と俺は女には困っておらんからな。わざわざ身動きも出来ぬ女を抱く必要はない</p><p>それに、とOlは鋭い視線をイェルダーヴへと向け、言った。</p><p>抱けばお前は力を失う。それが狙いであろう</p><p>ご存知でしたか</p><p>イェルダーヴの問いに、Olは頷く。</p><p>神の中には純潔を重んじるものも多いそうだな。男神ならば尚更だ。抱かれればお前は力を失い、価値を失くし、これ以上利用されることもなくなる</p><p>はい</p><p>力なく返事をするイェルダーヴに、Olは呆れたように深く息をついた。</p><p>案ぜずとも、俺はお前を利用するつもりなどないと言っても信用ならぬだろうがな。まあ悪いようにはせぬ。あたら純血を散らすこともあるまい</p><p>全知の力の一端を担う彼女であれば、Olがザナや他のものたちにおこなってきた悪辣な所業も知っているだろう。疑心暗鬼になるのは無理もない事だとは思うが、Olには本当に彼女を利用するようなつもりはなかった。</p><p>そんなことは、ありません！</p><p>だがOlのそんな言葉に初めて、イェルダーヴは声を大きく張り上げる。</p><p>陛下はわたしを、助けて下さいました。そればかりか、わたしをこの首輪から解放するために自ら尽力して下さってます。そんな恩人を疑うような恥知らずではありません</p><p>熱のこもったイェルダーヴの言葉にOlはかえって居心地の悪い思いを感じ、額に手を当てた。</p><p>こう言っては何だが、お前はもののついでだ。別にお前自身を助けようと思って助けたわけではないし、首輪の解除方法を調べているのもうちの部下が巻き込まれたからだ。俺が自ら作業にあたっているのも、俺以外にそれが出来るものがいないからに過ぎん</p><p>はい。それは勿論、わかってます</p><p>あのザナの妹にしては随分と義理堅い奴だ、とOlは思う。魂を直接響かせるその装置では、肉体を持っているときのように虚言を弄することは出来ない。思っていることがそのまま出力されるからだ。</p><p>つまりはザナのように猫を被っているわけではなく、真実彼女はOlに感謝しているということだ。</p><p>ですから、これは、運命だと思うのです</p><p>運命だと？</p><p>表情を歪め、Olはオウム返しに言葉を返す。</p><p>それは正直嫌いな言葉であった。天の定めた進むべき道など、反吐が出る。</p><p>はい。空に座す太陽の神すら見通せぬ、埒外の出来事。望むべくもなく、与えられるべくもない僥倖。わたしがいくら願い祈っても、天は助けてなどくれなかった</p><p>ですから、陛下。あなたが、あなたこそがわたしの運命。望むと望まざるとに関わらず、わたしの行く末を決めて下さった方なのです</p><p>声を震わせ語られるイェルダーヴの言葉は、Olが思ったそれとは真逆の意味が込められていた。</p><p>ですからわたしはこの身を神ではなく、あなたに捧げたいのです</p><p>魂は嘘をつけない。力を失いたいという思いはあったにせよ、恩を返すために身を尽くしたいというその思い自体には一切の虚飾なく、イェルダーヴの本心であったのだ。</p><p>わかった。そうまで言うなら、抱いてやる。だが肉体の自由を取り戻したあとでも遅くはあるまい。もうしばし待て</p><p>それはこのままでは、いけないのですか？</p><p>存外食い下がってくるイェルダーヴ。</p><p>物のように扱われ、人形を犯すように純潔を失いたいというのなら構わんが。お前はそういった性癖を持っているのか？</p><p>いいえ、そういうわけでは、ありませんが</p><p>ならばもうしばし待て</p><p>Olの言葉にイェルダーヴは押し黙るが、あまり納得がいっていないようでもあった。肉体の制御を失い表情や身体はピクリとも動かないのに、そんな雰囲気が漂うというのも奇妙な話だ、とOlは思う。</p><p>では、別にもう一つ、お願いしてもよろしいでしょうか？</p><p>しばしの沈黙の後、おずおずとイェルダーヴはそんな事を言い出した。</p><p>第12話戦後処理を片付けましょう-2</p><p>ついたぞ</p><p>ご面倒をおかけします</p><p>イェルダーヴの身体を横抱きにして、Olがやってきたのは浴場であった。</p><p>火山を丸々取り込んだソフィアのダンジョンの中には、大小様々な浴室がある。</p><p>彼らがやってきたのはその中でも比較的こぶりな一室だ。</p><p>身体を洗って欲しい。それが、イェルダーヴの告げた望みであった。</p><p>無論、わざわざ魔王にさせるようなことではない。侍女でもリルにでも頼めばいいことではある。つまりそれは、露骨な誘惑だ。何をそんなに焦っているのやら、とOlは内心嘆息した。</p><p>一体何を企んでいる？</p><p>言えません</p><p>尋ねれば、素直にそう返ってくる。魂から直接発せられる言葉は、嘘を言うことは出来なくとも黙っていることは出来るのだ。</p><p>まあ良い。俺を害するような理由ではないのだろうな</p><p>はい。それは勿論です</p><p>そうとだけ言質が取れればいい。彼女が文字通り手も足も出ないのは確かなことなのだ。Olに何かを能動的に仕掛けられるような状態であれば、こんなに苦労はしていない。</p><p>ならばいい。脱がすぞ</p><p>脱がすと言っても、イェルダーヴが身にまとうそれは殆ど服の用を成してはいなかった。リルが普段着ている服よりも身体を覆う面積が小さく、扇情的だ。そのくせ、面紗で顔の半分は覆われて見えないのがかえって蠱惑的であった。</p><p>それを取り払って現れた顔立ちは、存外に若い。いっそ幼いと言ってしまってもいいかもしれないくらいだ。ふわふわとウェーブした紫色の髪に、宝玉のように澄んだ紫の瞳。どこか儚げな美しさを持つ姉(ザナ)とは違って、柔らかな愛らしさがあった。</p><p>しかし下には、あどけない顔立ちに不釣り合いな二つの膨らみが強烈に己の存在を主張している。そこを覆う布は肩と首にかかった金枠からまるでカーテンのように垂れ下がっているだけで、めくり上げればすぐに褐色の双丘と、恥ずかしげにその頂点を彩る薄桃色の蕾が丸見えになってしまった。</p><p>いい趣味をしているな</p><p>王のウセルマートの趣味です</p><p>Olの皮肉に、イェルダーヴは消え入りそうな声で答える。自らの意思を全て封じられていたのだ、本人の趣味でないことは明白だった。</p><p>これはどうああ、ここか</p><p>服と呼んでいいのか判断に悩むそれの金具を、Olは一つ一つ外していく。そして最後に腰を覆う小さな布を取り去れば、イェルダーヴは一糸まとわぬ生まれたままの姿となった。</p><p>その美しさ、悩ましさと言ったら。小柄な体つきとあどけない顔立ちは否が応でも庇護欲をそそるような幼げな様でありながら、胸元の二つの果実ときゅっと括れた腰つき、そしてむっちりとした大きめの尻に滑らかな太腿は、これ以上ないほどに女としての色香を身にまとっている。濃い褐色の肌が、その魅力に更にエキゾチックな味わいを加えていた。</p><p>男ならば、誰もがむしゃぶりつかずにはいられないであろう、その肢体。もし興味を持たない男がいるならば、それは同性愛者か幼児性愛者くらいのものだ。</p><p>いかがで</p><p>自身もそれを知りながら、控えめな声色で尋ねるイェルダーヴ。その頭に、Olは桶で掬った湯を思い切りぶちまけた。</p><p>途端、ふわふわの彼女の髪の毛は顔に身体に張り付いて、見る影もなくなってしまう。</p><p>な、なにを</p><p>Olが指を振ると、石鹸や洗い布が浮遊してイェルダーヴの身体をあっという間に泡だらけにし、磨き上げていく。そして再び湯をざばりとかけられすっかり垢を落とされると、浴槽に叩き込まれた。</p><p>酷いです、こんな、こんな</p><p>洗ってほしいと言ったのはお前であろうが</p><p>確かにそうは言った。言ったが、このような扱いを求めてのことではない、とイェルダーヴは思う。なんというかもっと、色めいた雰囲気を求めての発案だったのだ。断じてこんな、犬猫を洗うような下手をすれば衣服を洗うかのような雑な扱いを望んでのことではない。そもそも、Ol自身は服を脱いでさえいなかった。</p><p>そんなにわたしには魅力がありませんか</p><p>別に、そういうわけではないが</p><p>むしろ、真逆だ。流石に欲望に負けて襲ってしまうと言うほど自制心が薄いわけではないが、その身体に触れれば男として欲情しないわけがない。自由を取り戻すまでは手を出さないと宣言した手前、生殺しの気持ちをわざわざ味わう気にはなれないだけだった。</p><p>無論、巨大な後宮を抱える魔王には、溜まった欲求を吐き出せる相手は何十人、何百人といる。しかしイェルダーヴに対して抱いた劣情を他の女にぶつけるなどいうのは、Olのプライドが許さない。</p><p>でしたら何故、触れても下さらないのですか</p><p>言っただろう。お前が望むのなら、自由になった後で幾らでも抱いてやると</p><p>そのような慰めを仰らないで下さい。わかっているのです。わたしが</p><p>震える声で、イェルダーヴは言った。</p><p>わたしのこの身が、穢らわしく、おぞましいものだと言うことは</p><p>何の話だ？</p><p>またぞろ、呪いだなんだと言い出すのだろうか、とOlは思った。ホデリやホスセリといい、この大陸の人間はとかく面倒くさい。</p><p>能力の為に犯されこそしませんでしたがこの身体に、ウセルマートが触れていない場所はありません。そのような女を、陛下のような方が好むわけもありません</p><p>だが、イェルダーヴの口から語られたそれは、面倒だと切って捨てるには重いものだった。</p><p>そんなことは言っておらぬ。その忌々しい首輪さえ外れてしまえばああ</p><p>唐突に、Olはそれに思い至った。</p><p>お前、それが外れぬと思っているのか</p><p>Olにとってすればそれは、多少面倒な錠前に過ぎない。下手に壊せば中身の魂ごと壊れてしまうから慎重になってはいるが、けして解除できないような代物ではない。</p><p>けれど、イェルダーヴにとっての首輪は、長年己を縛り付けてきた絶望の象徴だ。それを外せるなど、にわかに信じられないのだろう。</p><p>この服従の首輪は、永遠の隷属の証。魂ごと破壊する以外に外す方法はないのです</p><p>イェルダーヴの言うことは正しい。この首輪には、外して魂を解放するための機能が一切なかった。普通なら何らかの解除方法は用意しておくものだが、ないものはない。</p><p>だが、それは外せないという事を意味しない。やりようはいくらでもある。そう思うのは、Olが優れた魔術師だからだ。イェルダーヴにはその実感がない。Olがありもしない希望を言って聞かせているものと感じているのだろう。</p><p>仕方あるまい</p><p>そう信じ込んでいる彼女に、どれほど口で理屈を説いても無駄なことだ。態度で示す他ない。</p><p>ならば望みどおりにしてやる</p><p>陛下？</p><p>服を脱ぎ捨て、浴槽へと入ってくるOlにイェルダーヴは怪訝な声を上げた。</p><p>触れても構わんな？</p><p>それが、陛下のお望みであれば</p><p>念のため尋ねれば、すぐさまそう返ってくる。Olとウセルマート。やっていることにそう差はないだろうに、何故こうまで懐かれているのか、とOlは首をひねるばかりだ。</p><p>とは言え、本人がそういうのならば是非もない。</p><p>Olはイェルダーヴの背に腕を回すと、彼女を支えながらその形の良い顎を持ち上げて、まずはその艶やかな唇を奪った。</p><p>あっ！？</p><p>口を塞いでも、首輪から直接出力される心の音には無関係だ。漏れ出る驚きの声には、ただOlの行動が意外であったという以上の響きがあった。</p><p>何だ。何かあったのか</p><p>いいえ、その</p><p>言いづらそうにイェルダーヴは答える。</p><p>口づけをされるのは、初めてでしたので</p><p>全身触れられたと言っていなかったか？</p><p>そう答えつつも、Olはイェルダーヴを抱きしめ、その耳元から髪、首筋、鎖骨の辺りへと丹念に口づけを落としていく。</p><p>それは、その、そう、ですが</p><p>何となく想像はついた。Olがウセルマートと実際に対面したのはごく僅かな時間だったが、尊大な王であったことは疑うべくもない。わざわざこんな風に女を慈しむような事はしなかったのだろう。</p><p>洗うぞ</p><p>Olは石鹸を泡立てると、自らの手にそれを盛りつけ、イェルダーヴの身体を後ろから抱きすくめるようにして抱えた。その腕を伸ばしてやり、二の腕から肘、手のひらから指の間までを丁寧に丁寧に洗い上げていく。</p><p>両腕を泡まみれにしてやって、胸元へと手を伸ばすと、その先端はピンと硬く尖っていた。身体の制御を失っても心臓が動きを止めないように、彼女の肉体そのものはきちんと反応しているのだ。</p><p>あその</p><p>自身もそれをわかっているのか、恥ずかしげに声をあげるイェルダーヴに答えることなく、Olは柔らかな双丘を優しい手つきで撫でた。むっちりとした乳房は触れているだけで気持ちよく、途方も無いほどに柔らかで、思わず揉みしだいてしまいたくなる。だが彼は精神力を総動員してその誘惑に耐えた。柔肉を持ち上げ、その下側までも丁寧に洗い清めていく。</p><p>あの、陛下当たって、ます</p><p>だが、反応する己自身までは堪えることが出来なかった。この状況で反応せねばそれは不能だ。密着している関係上隠すことも出来ず、硬く反り立ったOlの愚息がイェルダーヴの尻に当たる。</p><p>だからどうした</p><p>そのままして下さっても</p><p>せんと言っただろうが</p><p>このままイェルダーヴの腰を掴んで突き入れ、その膣内に白濁をぶちまければどれほど気持ちいいだろうか。本人も良いと言っているのだから、もはやそうしないのはただOlの意地でしかなかった。</p><p>胸を洗い終えて、Olはイェルダーヴの腹から腰に掛けてを撫ぜる。余分な贅肉など欠片もついていないなだらかな腹は、殆ど胸や尻と変わらないほどの破壊力を備えていた。きゅっと括れた腰つきも、Olの獣欲を刺激し理性を削るには十分だ。</p><p>だが、そこから下。尻と太腿に至っては、さしもの魔王も己の選択を後悔し始める程の力を秘めていた。同じ生き物の肉とは思えぬ、何故形を保てているのかと疑問に思ってしまうほどの柔らかさ。</p><p>ことに内腿の触り心地ときたら、Olでさえ思わず手を止めその感触を堪能してしまう程であった。しかし魔王は強靭な精神力で持って一瞬で我に返り、作業的に彼女の身体を洗いきる。</p><p>後はここだな</p><p>Olは言ってイェルダーヴの身体を寝かせると、その脚を割り開いた。</p><p>陛下、そこは！</p><p>汚れの溜まりやすい場所だ。しっかりと清めねばな</p><p>花弁を割り開くと、褐色の肌とは裏腹に鮮やかなピンク色の肉が覗く。その奥に、彼女の純潔の証拠までが見て取れた。Olは躊躇わず、彼女のそこに口をつける。</p><p>いけません、そこは汚い、穢らわしい場所です</p><p>だから清めるのだろう</p><p>イェルダーヴは必死にOlを止めようとするが、文字通り手も足も出ない。Olは構わず、彼女の秘芯に舌を這わせた。</p><p>ああぁっ！駄目、です！そんな、陛下！</p><p>断続的に声を上げるイェルダーヴ。</p><p>あぁ、ああぁぁっ、ああぁぁぁっ！</p><p>その声が、不意に二重に重なって聞こえた。</p><p>喘ぎ声というのは元々、意識と無意識の間にある。それは声ではあるが、快楽が身体を震わせ鳴らす音でもあった。イェルダーヴの肉体が反応し、声を上げているのだ。</p><p>なるほど、その手があったか、とOlはあることを思いつく。</p><p>悪いが、少し本気を出すぞ</p><p>そう言って、魔力を込めた指先で彼女の下腹部に紋様を描いた。それは、性感を増幅する魔術だ。</p><p>ひあぁぁっ！</p><p>途端、イェルダーヴの腰が跳ねた。</p><p>魂を封じられても、イェルダーヴは周囲を見聞きし、触れられた感触を認識している。それはつまり、魂は完全に封じられたわけではなく、何らかの経路が肉体との間に繋がっているということだ。</p><p>あ、や、駄目、陛、下ぁっ！駄目、あぁっ、ふあぁぁっ！駄目です、もう、あぁぁぁっ！だめぇ、イッちゃ、あぁぁ！</p><p>イェルダーヴの魂と肉体の声がブレ始める。</p><p>外から首輪を破壊すれば、中の魂諸共に砕けてしまうだろう。</p><p>だが、中から破壊すれば？</p><p>勿論、常人の魂に物質を破壊できるほどの力は存在しない。魔術を使うためには詠唱や印つまりは口や舌、身振り手振りが必要であって、魂だけでは普通は使えない。</p><p>普通は、だ。</p><p>あぁあぁぁぁ、ああぁぁぁぁっ、あああぁぁぁぁぁっ！</p><p>イェルダーヴの声が上ずり始め、魂はもはや文句を言う余裕さえ失う。</p><p>いいぞ、イけっ！</p><p>イェルダーヴの魂に繋がる経路のうち、もっともOlの扱い慣れたものつまりは性感を通じて、彼は彼女の魂に魔術を使わせた。それは暗闇の中、垂らした釣り糸の先にくくりつけたペンで文字を書くようなものだ。</p><p>ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！</p><p>だがOlは世界で五指に入るであろう魔力制御の名手は、それを成し遂げた。</p><p>イェルダーヴの首輪が光を放ち、パキリと音を立てて中央から両断される。Olはすかさず、外に放たれようとする魂を彼女の胸の中に押し込めた。</p><p>陛、下？</p><p>イェルダーヴの瞳がぱちぱちと瞬き、Olの顔を見つめる。その頬には赤みがさし、人形のようであった顔立ちに命が吹き込まれ。</p><p>そして彼女は、己の胸を鷲掴みにするようにして押し当てられた男の手を見た。</p><p>いやあぁぁぁぁぁっ！！</p><p>待て、嫌とはなんだ、嫌とは</p><p>絹を裂くような悲鳴に、Olは渋面を作る。</p><p>ご、ごめんなさいぃ、で、でも、こんな、は、恥ずかしすぎてぇ</p><p>首輪の発話機能ではなく、舌を動かし喋るイェルダーヴの肉声は、今までの理知的な印象とは裏腹にどこか舌足らずで幼いものだった。</p><p>何を恥ずかしがる事がある。俺は今までお前の全身を洗ってやったしそもそも、動けるようになったら抱いてやる約束だろう</p><p>Olが言うと、イェルダーヴの褐色の肌が目に見えて分かるほど真っ赤に染まった。</p><p>そ、そんなは、恥ずかしすぎますぅ！</p><p>そして胸を掻き抱き、彼女はうずくまってしまう。</p><p>今まで自分の意志では動かぬ身体を、自分のものだとあまり実感できていなかったのだろう。それが動くようになった途端、人並みの羞恥が表出した。</p><p>理屈としては、わからなくもない。わからなくもないが</p><p>散々柔肌に触れて愛撫し、昂ぶりきったこの欲求をどうしろというのか。</p><p>泣き喚くイェルダーヴを見下ろしながら、Olはやはり放っておけば良かったと後悔したのであった。</p><p>第12話戦後処理を片付けましょう-3</p><p>あっ、んっ、あっ、いいっ、んっ、いい、よぉっ、Ol、さまぁっ</p><p>濡れた肉が打ち付け合う音とともに、リズミカルに嬌声が響く。</p><p>その声の主マリーは尻を高々と掲げ後ろから貫かれながら、ベッドのシーツを強く掴んだ。</p><p>もう、だめぇっ！イッちゃう、イッちゃうよぉっ！</p><p>きゅうとその膣口がOlの男根を締め付けて、マリーはふるふると身体を震わせる。</p><p>ああ、イく、ぞっ！</p><p>ふぁっ～～～～～～～っ！</p><p>ピタリと呼吸を合わせ、Olが彼女の膣奥に精を放つのと同時に、マリーは絶頂に達する。どくり、どくりと断続的に白濁の液を少女の中に注ぎ込むと、張り詰めていた彼女の身体から不意に力が抜けた。</p><p>ぐったりとするマリーの膣口で、尿道に残る精の一滴までも絞り出すかのように二度、三度腰を前後させて扱き立てたあと、Olは繋がったまま彼女の身体を回転させて、前から抱きすくめ顔を寄せる。するとマリーは嬉しそうに微笑んで、よく懐いた子犬のような仕草で唇を重ねた。</p><p>えへへなんか、Olさま、やさしいですね。久しぶりだから？</p><p>ぐりぐりと男の胸板に頭を擦り寄せるマリーの首には、既に無骨な首輪の姿はない。イェルダーヴと同様の方法で簡単に外すことが出来た。しかし首輪が外れてからもOlはマリーを求め、何度も抱いていた。</p><p>それはいつもよりも心なしか丁寧で優しげな寵愛で、マリーはすりすりと頬を寄せてOlに甘える。そんな彼女のふんわりとした髪を、Olは無言で撫で付けた。</p><p>イェルダーヴに拒否された欲求の捌け口にしたわけではないが、それでもどことなく後ろめたいものがあったが故にかえって丁重な扱いをしてしまったとは流石に言えない。</p><p>いずれにせよ、懸念はこれで一つ片付いた。</p><p>後の懸念は一ついや。</p><p>二つ、か。</p><p>Olはゴロゴロと喉を鳴らすマリーの頭を撫でてやりながら、そう心のうちで呟いた。</p><p>それは、夕食時のことだった。</p><p>卓を囲むのはOlにリル、ユニスにスピナ、マリーとソフィアと言ったいつもの面々。そこに今日はサクヤとミシャ、ザナまでが呼ばれていた。</p><p>呼んでもいないタツキがちゃっかり食事にありついているのはいつものことだ。</p><p>この地を、ソフィアに委譲しようと思う</p><p>出し抜けにいい出したOlの言葉に、ソフィアの手からぽろりとパンが転がった。</p><p>パンが地面に触れる前に掻っ攫うように受け止めながら、マリーは呆然とする我が子の代わりにそう問う。</p><p>そのままの意味だ。この大陸での俺の立場をソフィアに継がせる。当面の脅威は去ったようだからな</p><p>ソフィアの力を狙う大国サハラは潰し、ヒムロとは同盟関係にある。更に東に小国は幾らか存在するものの、サハラやヒムロを越えてまでヤマトへと侵攻してくるほどの力を持った国は存在しないという。ならば、もうOlがここに残る理由は殆どなかった。</p><p>元々、Olが新大陸にやってきたのはただの偵察にすぎない。それが色々面倒事に巻き込まれて、あれよという間にソフィアもダンジョンも随分大きくなってしまった。だがいい加減、Olが本国を留守にするのも限界が近づいてきている。</p><p>無理無理無理！無理だよぉ！</p><p>我に返ったソフィアがぶんぶんと首を振りながら、悲鳴のように叫んだ。</p><p>今の彼女の姿は十二歳程度だろうか。政を執るには幼すぎるが、それがどれほど困難なことであるか想像できる程度の分別はあった。</p><p>案ずるな。無論今のお前に無理なのはわかっておる</p><p>何せ一年足らずで今の姿にまで成長したのだ。成長に応じてある程度の知識や技術は備わっているようであったが、政治の勉強をする間などあったわけがない。</p><p>補佐はつけるし、手も必要であれば幾らでも貸そう。だが、この地の魔王はこれからお前だ。お前はこの俺の娘なのだ。出来るな？</p><p>Olの言葉にソフィアはハッとして、彼の瞳を見つめ返す。</p><p>うん。わかった、頑張ってみる</p><p>うむ。それでこそ我が娘だ</p><p>幼い顔を精一杯に引き締める愛娘に、魔王は満足気に頷いた。</p><p>だからあたしまで呼んだってことね。別にいーけどさ</p><p>平素被っている猫を脱ぎ捨てて、食卓に行儀悪く頬杖を突きながらザナ。部外者である彼女までがこの場に呼ばれた理由は、要するに国単位でソフィアの補佐をせよという話だ。といっても小国であるヒムロにとって、ソフィアと協力関係を結ぶことはそう悪い話ではない。</p><p>旦那様故国に、帰ってしまわれるのですか？</p><p>悲しげに眉根を寄せてそう問うのは火山の神、サクヤだ。</p><p>帰ると言っても、俺のダンジョンとソフィアのダンジョンはミシャの能力によって繋がっておる。今と大差はない。何なら、お前の部屋から直通の通路を作っても良い</p><p>まあそれは、素晴らしい案ですわね</p><p>Olの言葉に、サクヤは両頬を手のひらで押さえて顔を赤らめる。</p><p>その様子を見ながら、あ、それ知ってる。中ボスって奴だ、とリルは思った。</p><p>ユニスとローガンをまとめて相手に出来るほどの戦闘力を持つサクヤであれば、守衛としてはこの上ないだろう。</p><p>ふむ。なれば我は主のだんじょんとやらに住まうか</p><p>えっ、ずるいですわ！</p><p>ぼそりと呟く塞の神ミシャに、サクヤが敏感に反応した。</p><p>我は主に祀られる神ゆえ、共にあらねばならぬ</p><p>では妾も</p><p>汝はこの山を離れられぬだろうが</p><p>ピシャリと言い込められて、サクヤはぐぬぬと歯噛みする。</p><p>おうるのおうち、美味しいご飯ある？</p><p>無論だ。ここで取れる食材とは量も質も比べ物にならん</p><p>じゃあたつきもいく！</p><p>ビチビチと尻尾を振りながら、タツキは楽しげに言う。神は自らの領分を離れたがらないものだが、この海の女神はどこまでも自由奔放だ。</p><p>いずれにせよ、今すぐという話ではないし、こちらとの繋がりを断つわけでもない。徐々にソフィアに仕事と権限を渡しつつ、移譲が済めばミシャの門を使って交流する形になる</p><p>Olの言葉に、ソフィアはホッとして胸を撫で下ろした。いきなり全てを渡されるかと思ったが、よくよく考えてみれば慎重で過保護な父親がそんな事をするわけがない。</p><p>ちょっと住む部屋が変わるだけで、今までと変わらず見守ってくれるはず。</p><p>そう思ったからだ。</p><p>だから。</p><p>無理無理無理無理、絶対に、無理ぃっ！</p><p>大丈夫だ。お前なら出来る</p><p>サハラの民に新たな王として演説しろ。Olがそう言い出して、ソフィアは全力で抵抗した。</p><p>砂の王ウセルマートを討ち、その後のサハラは無政府状態となっていた。Olとしてはてっきり他の人間がすぐに跡を継ぐものと考えていたのだが、神帝とまで名乗っていただけあって王の権威は相当強いものだったらしい。</p><p>そのまま捨て置けば、国は乱れ人々は困窮し、難民がヒムロやヤマトへ押し寄せかねない。そんなわけで、Olはこれを簒奪することにした。せっかくだからソフィアを王として立てて、だ。</p><p>そら、さっさと覚悟を決めろ</p><p>無理、むぅーりぃー！</p><p>一流の仕立て屋に誂えさせた豪奢なドレスに身を包み、飾り立てられた姿でジタバタと暴れるソフィアを、Olは即席で作った高台の上に突き出した。</p><p>予め触れ回ったので、新たな王の姿を見に民衆は高台の前に集まってきている。その数は何百、何千、あるいは何万か。産まれて初めて見る数の人間に、迷宮生まれのソフィアは石のように固まった。</p><p>一応演説の内容は叩き込んでおいたが、この様子では満足に言葉も出せないか。最悪Olが魔術でソフィアの口を動かし肩代わりする方法もないではないが、それは最後の手段だ。例えしどろもどろであろうとも、この大人数の前で演説することができればそれは一つの経験になるだろうが</p><p>ねえ</p><p>思案するOlの前で、ソフィアはふと声を上げた。</p><p>皆、なんでそんな格好をしているの？</p><p>それはOlが渡した演説の内容とはかけ離れたもの。ただの、純粋な疑問の声だった。</p><p>ソフィアの目に映るのは、砂漠の民たち。ボロボロの布を纏い、虚ろな瞳で彼女を見つめる、見窄らしい人々の姿だ。</p><p>彼らが身に着けているのは衣服というのもおこがましい粗末な布切れで、男たちは腰に布を巻きつけただけのもの、女も胸から下を辛うじて覆っているだけで、それすら着れずに腰だけを隠し胸は露出しているものさえ散見される。肌もあらわな彼らの身体は皆、一様に酷く痩せ細っていた。</p><p>お腹がすいているの？</p><p>トン、とソフィアは高台から飛び降りて、手近な民の一人へと近づく。</p><p>それは、魔王の娘としてダンジョンに生まれ育ち、裕福なものしか見てこなかった彼女にとって衝撃的な光景であった。</p><p>ソフィアは食べるものにも着るものにも困ったことがなくそれどころか、そんな人間がいることさえ知らなかったのだ。</p><p>食べる？</p><p>彼女の手のひらの上に、パンが一つ現れた。彼女はダンジョンの中にあるものならなんでも自由に移動させることが出来る。台所から失敬してきたリルの焼き立てのパンは、ほかほかと湯気を立て香ばしい匂いを放っていた。</p><p>それを差し出された男は、ソフィアからひったくるようにパンを奪い、齧り付く。</p><p>もう、そんなに急がなくても</p><p>言いかける彼女の元に、民衆が一斉に殺到した。</p><p>えっ、ちょ、待っ</p><p>まるで幽鬼のように伸ばされる無数の手から、ソフィアは慌てて逃げ出す。だが、まだ幼い彼女の脚は慣れない服の重さもあって非常に遅く、あっという間に追いつかれてしまう。</p><p>やめなさーい！</p><p>折角Olに用意してもらった美しい衣装を容赦なく引っ張られ、ソフィアが叫ぶとともに地面が隆起した。突如現れた無数の壁は幾何学的な迷宮を作り出し、ソフィアと人々の間を隔てる。</p><p>乱暴にしないの！</p><p>その壁の上に立ち、ソフィアは声を張り上げた。その幼くあどけない容貌とは裏腹の、神業としか言いようがない奇跡の現出に人々は畏れ戸惑う。大地が何の前兆もなく水のようにその形を変え、巨大な迷宮を一瞬で作り上げたのだ。彼女がその気になれば人々をその壁で押しつぶしてしまえる事は明らかだった。</p><p>ご飯が欲しいんなら、ちゃんと並びなさい！</p><p>腰に手を当てソフィアが宣言すると、迷宮の壁がやや低くなって互いの顔が見えるようになる。それと同時に、人々は迷宮の構造をあらかた悟った。それは迷宮とはいっても、分岐のない一本道だ。</p><p>ぐるぐると周りながらやがてソフィアの元へと辿り着き、そこを過ぎればまた周囲をぐるぐると周りながら出口へと向かう一本道。人々はそこを歩き、王の元を訪れ、順番にパンの施しを受けていく。</p><p>今まで強大な権力によって支配されてきた彼らにとってそれは身に馴染んだ行為であり同時に、今までには受けることのできなかった手厚い慈悲であった。</p><p>その光景を見つめながら、Olは顎を撫でる。ソフィアが行おうとしているのは、自分とも、恐らくはウセルマートとも全く違った治世だ。</p><p>だが、悪くない。ふとなぞった己の口元が笑みの形を作っていることに、Olは気づいた。ソフィアは存外、良い王になるかもしれない。</p><p>そう思いながら、Olは念話を通じて己が使い魔にパン粥を大量に作るよう伝えた。数はざっと五千といったところか。パンそのものより粥にする分手間はかかるが、飢えた身体にはその方がいい。</p><p>リルの怒号混じりの悲鳴が聞こえてくると同時に、Olは念話を切った。</p><p>第12話戦後処理を片付けましょう-4</p><p>さっさと起きろ</p><p>ばしゃりと冷たい水を浴びせられ、横柄な口調をかけられて、不遜の極みに激高しつつウセルマートは意識を覚醒させた。</p><p>そこは白く輝く石で作られた彼のピラミッドとは似ても似つかない、薄暗く陰気なレンガ造りの部屋であった。そして目の前には、仏頂面を貼り付けた琥珀色の髪の男。</p><p>魔王、Ol。</p><p>貴様！</p><p>その顔を見た瞬間ぼんやりとしていた思考を覚醒させて、ウセルマートは叫んだ。</p><p>だがどうしたことか、放たれた声はいつもの彼の美声ではなく作り物めいた不愉快な響きを含んでいて、身体は指一本として動かない。拘束されているのではなく、まるで動かし方を忘れてしまったかのようだった。</p><p>服従の首輪、と言ったか。醜悪な魔導具ではあるが、確かに便利だな</p><p>Olの言葉に、ウセルマートは自分の首に首輪が付けられていることを悟った。自身で装着したことなどないが、確かに意識だけがあって身じろぎ一つ出来ないのは服従の首輪を嵌められた人間の特徴だ。</p><p>それと同時に、彼は己の最後を思い出す。</p><p>何故余は、生きている？</p><p>氷の女王ザナに胸を貫かれ、ウセルマートは死んだはずだった。王である彼に医学の心得などあるわけもないが、あの傷で助かるはずもないことくらいはわかる。</p><p>蘇生した。聞きたいことがあったのでな</p><p>は？</p><p>軽く言うOlに、ウセルマートは思わず間の抜けた声をあげた。蘇生。いま、蘇生と言ったのか、この男は。</p><p>き貴様、事もあろうに、この余を屍兵に仕立てたというのかッ！</p><p>腐敗を防ぐために臓腑を抜き、乾燥させた死骸に布を巻いて魂を閉じ込めた屍兵は、首輪付きの奴隷にすら劣る卑しい立場だ。屈辱という言葉では表せないほどの屈辱、激昂という言葉では足りぬほどの激昂が、ウセルマートを襲った。</p><p>屍兵？あの特殊なリビングデッドのことか？わざわざそんな手間を取るか。ただ傷を治し魂を戻して復活させただけだ</p><p>だが続くOlの説明に、ウセルマートは言葉を失う。</p><p>そのようなことができる、はずがない。余は余の心の臓は、完全に破壊されていたはずだ</p><p>心は、魂は、胸の内。心臓に宿るものであるはずだ。そこを貫かれて、生きていられるわけがない。心を失っても生きているとするなら自分とは、いま感じているものとは、何であるのか？</p><p>だから何だ？心臓なんてただの血液を循環させる喞筒(ポンプ)に過ぎん。そもそも蘇生なんぞ、魂が失われなければ灰からだって出来る</p><p>灰からだと！？馬鹿を言うな！そのような事、出来るものか！</p><p>皮も肉も骨すらも失われた状態からの蘇生それも、不死者としてではなく生者としての蘇りなど、神の御業ですら出来ぬ所業だ。</p><p>ならば今のお前は何だというのだ</p><p>ありえるはずのないそれはしかし、ウセルマートの存在自身が証明していた。屍兵となったものは生前の知識や経験は備えてはいるものの、こんな風に考えたり喋ったりする程の自我など備えていない。</p><p>それは仮に比類なき王たる精神の賜物だとしても、視界に映る肌の色艶は元々と全く変わっていない。死から蘇ったというのは、事実であるようだった。</p><p>貴様らの技術レベルに興味などない。お前に聞きたいのはただ一つだ</p><p>信じがたい出来事に呆然とするウセルマートに、Olは吐き捨てるように言った。</p><p>ホスセリは、どこだ</p><p>誰だ、それは</p><p>お前がウプウアウトなどと呼んでいた、狼の娘だ</p><p>ああ</p><p>狼神ウプウアウト。正確には、その呪いを受けた娘。ホスセリという名を聞いたこともあった気はしたが、そんなものはすっかり忘れていた。</p><p>知らぬ。余はDカップ以下の女に興味はない</p><p>きっぱりと言い捨てるウセルマートに、Olは思わず唖然とする。</p><p>魂から漏れ出た言葉である以上、それは虚飾なき真実の言葉であるからだ。</p><p>愚かな。それでも、一国の王か？</p><p>では聞こう。異境の魔王よ</p><p>ウセルマートの身体はピクリとも動かせず、魔術で作り出されたその声色に覇気が乗ることはない。だがしかし、そこに何か重圧のような物を感じて、Olは居住まいを正し</p><p>女の乳房以上に重要なものなど、この世にあるか</p><p>そして予想を遥かに上回るいや、下回る言葉に深く嘆息した。</p><p>下らんことを</p><p>わざわざ服従の首輪を複製し、蘇生しまでしてやったと言うのに、とんだ無駄足だった。これ以上は口を聞く価値もない。再び物言わぬ屍に戻してやろうとOlが指を鳴らそうとした、その瞬間。</p><p>あれほどの女を侍らせておきながら、あの胸を下らんと言うか。貴様、それでも男か？</p><p>ウセルマートの言葉に、ピタリとOlの動きが止まった。</p><p>勘違いするな。俺が下らんと言ったのは貴様の方だ</p><p>そうだろうとも。特に羽と角を持つ黒髪の女。あの大きさ、あの形、至高の乳房と言っていい</p><p>吐き捨てるOlに気を害した様子もなく、ウセルマートは熱のこもった口調で語る。</p><p>愚かな。女の良さは胸の大きさで決まるものではない。小さいからとて無価値と断ずるは浅慮にも程がある</p><p>では貴様は、豊かな乳房をみた時その大きさに心躍らぬというのか！</p><p>言い放つウセルマートに、Olは内心呻く。彼の言葉はあまりに偏っていたが、厄介なことにある種の真理を含んでもいた。</p><p>余を殺すか。それもまた良かろう。だがそれは余の言い分を認め、反論できぬという証左に他ならぬ。異境の魔王よ。敗北を認めるというのなら、この心の臓を貫くが良い！</p><p>高笑いとともに、ウセルマートはそう宣言する。</p><p>なるほど、とOlは心の中でつぶやいた。</p><p>戯言ではある。だが、看過できるものでもなかった。</p><p>王というのは面子を気にするものだ。下らない妄言と言えどそれが敗北を意味するのならば、おいそれと屈する訳にはいかない。</p><p>かといって、ウセルマートはOlが万の言葉を弄しようと納得し負けと認めることはないだろう。</p><p>そうか、では死ね</p><p>しかしOlは気にすること無く指を鳴らした。己と性癖の違う者と語ることの愚かしさなど、どこぞの幼児性愛(ロリコン)悪魔で嫌というほど味わっている。</p><p>何より彼は生まれつきの王ではなく、面子よりも実利を重んじる叩き上げの魔王であった。</p><p>待て待て待て待て！やめろ！余を誰と心得貴様、ただですむと思っているのか！</p><p>壁の表面から無数の槍が剣山のように生え並び、轟音を立てながらウセルマートを串刺しにせんとゆっくりと迫る。見苦しく喚く男の声を聞き流しながら、Olは彼に背を向けその場を後にしようとしふと、その足を止めた。それと同時に、壁の動きも止まる。</p><p>ふフハハハッ！それで良い、それで良いぞ！</p><p>そういえば貴様なぜマリーを。あの金の髪の娘を欲した？</p><p>あくまで居丈高に笑うウセルマートに、Olは問うた。この尊大な砂の王がかつて要求してきたのは、リル、サクヤ、そしてマリーの身柄だった。</p><p>迷宮の中でも屈指のバストサイズを持つ前者二名を指定した理由は明らかだ。しかしマリーにだけは違和感が残る。</p><p>仮にこれから成長する余地が残されているとしても、ウセルマートの全知が未来を見ることが出来ないというのは彼本人が言ったことだ。仮にそれが偽りだったとするなら、砂の王は今こんな姿を晒してはいないだろう。</p><p>アレが、余のモノだからだ</p><p>ウセルマートはポツリと、呟くようにそう答えた。</p><p>どういうことだ。なぜマリーがお前のものだということになる</p><p>Olの言葉に呼応するかのように壁が動き、尖った先端がウセルマートの額を貫いて血が流れる。だがそのまま棘が肉を割り頭蓋にめり込んでも、ウセルマートは答えようとはしない。</p><p>死ぬぞ</p><p>忠告にも返ってくる言葉はなく。</p><p>そのまま、肉と骨とが潰れる音だけが、ぐちゃりと鳴った。</p><p>Olは鼻を鳴らし、先程までウセルマートであった肉塊を見下ろす。</p><p>あれほど見苦しく生を乞い願った男が、いかなる理由で口を閉ざしたのか、それはわからない。</p><p>だが、彼自身が死んだ以上、気にする必要はないだろう。死者は何も成すことが出来ない。ウセルマートがその内心に何を秘めていたとしても、こうしてその生命が失われた以上、全ては無意味だ。</p><p>そのはずで、あるのに。</p><p>Olの胸中にへばりついた漠然とした不安は、まるで膠(にかわ)のように拭うことができなかった。</p><p>第13話愛されるダンジョンを作りましょう-1</p><p>あ、パパ！</p><p>薄茶の岩壁に囲まれた、簡素な一室。</p><p>そこに現れたOlの姿を認めるやいなや、ソフィアはその翠緑の瞳に喜色を浮かべ、彼に飛びついた。それは父のことを慕うがゆえの行動であったことに違いはない。</p><p>悪くはありませんな。少なくとも、姫様よりはよほど覚えがよろしい</p><p>だが半分は、笑みを浮かべつつ辛辣な所見を述べる老人から逃げ出す為のものであった。</p><p>姫様って誰？</p><p>ユニスのことだ</p><p>ソフィアの問いに、男の代わりにOlが答える。</p><p>真っ白な髪に片眼鏡、七十を数える年にもかかわらず、長身の痩躯を剣のように伸ばしたその男は、世に疎いソフィアの為につけた補佐役兼教育係だ。</p><p>その政治手腕はOlの知りうる中でも最高。Ol自身はおろか、数千年に渡って大国を運営してきたメリザンドにすら勝るかもしれない。</p><p>おっと、失敬。魔王妃殿下とお呼びすべきでしょうか</p><p>思ってもいない事を口にするな。構わん、好きに呼べ</p><p>なにせあの英雄王、ウォルフの片腕として長年国を支えてきたのだから。</p><p>男の名は、トスカン。元グランディエラ王国宰相だ。</p><p>数年前に職を辞して隠居生活を送っていたところを、ソフィアの教育係としてOlが引っ張ってきた。</p><p>あのね、パパ。今みんなにこの石のダンジョンを直してもらってるんだけどね。ユニスママが真っ二つにしちゃったやつ</p><p>ソフィアの手のひらの上に、巨大な岩を砂の民たちが運ぶ光景が浮かび上がる。その岩は、ウセルマートがピラミッドと呼んだ石造りの迷宮の材料だ。驚くべきことに、彼らは魔術も魔道具も使うことなく、コロと呼ばれる岩の下に敷いた丸太とロープなどを用いた人力だけでそれを運んでいた。</p><p>それは凄まじい技術と労力だが、同時に恐ろしく無駄にも見える。Olの魔術を用いれば、あの岩を一体で運ぶゴーレムを作り出すことはおろか、大岩自体に自力歩行させることすら可能だ。</p><p>非効率的であることは承知のうえです。ですが、そうでもしなければ、仕事がないのです</p><p>絶句するOlに、トスカンが補足する。</p><p>仕事がないだと？</p><p>うん。あのね。この国の畑は、沢山取れるけどあんまり広くないの。それで、えっと、前の王様が管理していたんだって</p><p>こちらがこの国の地図です</p><p>ソフィアのたどたどしい説明にOlが眉をひそめると、すかさずトスカンが如才なく地図を広げた。</p><p>んっとね。ここと、ここと、ここと、ここは砂漠で、何もないの。で、真ん中の川のそばのここが、畑</p><p>地図を指差しながら、ソフィアは懸命に説明する。要するに砂の国サハラはその大部分九割程が、不毛の砂漠であった。</p><p>そしてその中央を流れる大河に寄り添うようにして、残りの一割で暮らしている。</p><p>なるほどなこれは、一種の龍脈だ</p><p>その地形を鋭く見つめ、Olはそう看破した。</p><p>魔力というのは、水にも溶ける。北の地の魔力はこの川に溶け、流れてきているのだ。とはいえ普通であれば川に含まれた魔力は大地に染み込んでいってしまうものだが、この不毛の地は一種の絶縁体になっておるのだろう。砂に覆われ他に行き場のない魔力は川に沿って僅かな大地を潤し、豊かにする。この地形であれば何もせずとも勝手に作物は育ち、絶えることはなかろう。そして</p><p>つい、とOlは指を動かし、地図上で今彼らがいる位置ピラミッドの中枢を指差す。</p><p>その魔力は最終的にこのピラミッドへと辿り着く。ヤツのウセルマートの異常極まる魔力量は、これがタネか</p><p>多少の違いはあれど、やっていることはOlと同じだ。違いがあるとするなら、ウセルマートはダンジョンコアを使っていないということだろうか。代わりになっているのがこの複雑な構造になっている石造りのダンジョン、ピラミッドだ。</p><p>石で出来た迷宮はその所々に魔力を孕み、ゆっくりと循環させる。放っておけば大気に溶けて消えてしまう魔力を貯蔵しながら、同時に流入しすぎて破裂してしまう危険を避けている。</p><p>ダンジョンコアに比べれば原始的で泥臭い装置だ。だが作られたのは数百年、下手をすれば数千年前のことだろう。太古の昔にこんなものを作り出した技術力と発想力は、Olでさえ舌を巻くものだった。</p><p>そしてその溢れる富を、王が独占していたわけか</p><p>Olの言葉に、ソフィアはこくりと頷く。</p><p>だからね。川の周りに住んでない人砂の上で暮らしている人たちは、すごく貧乏で、お腹も空いてるの。ご飯をあげたいけどけど、何もせずに食べるのは、よくないでしょう？</p><p>Olの脳裏に、特に働きもせず人の何倍も飲み食いするタツキの姿が浮かんだ。もしかしたらソフィアも彼女を見てそう思ったのかもしれない。</p><p>だから仕事を与えた、ということか</p><p>ピラミッドユニスが真っ二つに切り裂いたその残骸を、ソフィアはまだ掌握できていない。十二歳前後から成長していないその姿を見ればそれは明らかだ。</p><p>彼女が言うには、現在ピラミッドはダンジョンとしては死んだ状態にあり、己のうちに取り込むことが出来ないのだという。</p><p>膨大な魔力の受け皿であり、要塞としての機能も併せ持ったピラミッドは極めて有用だ。その復旧を急ぐことは理にかなっている。加えて、働く先のない民に仕事を与え食料を施すというのは、この国におけるソフィアの立場を固めるのにも繋がる。</p><p>トスカンの入れ知恵があったにせよ、悪くない選択だ。Olは満足気に頷いた。</p><p>でね、パパ</p><p>するとソフィアは甘えるようにそっとOlの袖を掴み、彼を上目遣いに見上げる。</p><p>働かせるのは良いんだけど、みんなに配るには食料が足りないの。もともと絶対量が少ないっていうのもあるんだけどこの前タツキお姉ちゃんが起こした津波のせいで駄目になっちゃった畑も多くって</p><p>ああ、あれか、とOlは思い返す。</p><p>ウセルマートとの初戦、砂漠の上にまで海を引っ張ってきたタツキの貢献は大きなものであったが、同時にその代償も高くついた。消費した力を取り戻すために彼女が求めた食料の量ときたら、Olすらたじろぐ程のもの。本国との連絡が取れていなければ、備蓄が底をつくところであった。</p><p>だから、パパのところから食料を分けてくれないかな？</p><p>間髪入れず即答するOlに、ソフィアは目を丸くした。なんだかんだ言ってOlはソフィアに甘いし、ソフィア自身もそれを承知している。だからまさか、断られるとは思っていなかったのだ。</p><p>え、な、なんで？</p><p>俺が、王だからだ</p><p>戸惑う我が子に、Olは厳かな口調でそう告げた。</p><p>無論、俺の国には余裕があり、お前の国を助けてやることもまた可能だろう。だが俺には、部下を、民を養う責任がある。ソフィアが困っているからとて、下々を活かす糧をおいそれとくれてやるわけにはいかん</p><p>幼い我が子に視線をあわせ、Olは諭すように言う。</p><p>聡明なる幼き王は、父の言葉をあやまたず受け取った。</p><p>対価が必要ううん、違う。そっか。パパの国も、わたしの国も、両方得をしないといけないんだ</p><p>つぶやく彼女に、その後ろに控えたトスカンが笑みを浮かべながら二度、深く頷く。</p><p>逆に言うと、対価じゃないなら、それを支払うのは別に今じゃなくてもいい？</p><p>ハッと気づいたように顔を上げ、ソフィアはOlにそう尋ねた。</p><p>ああ。何をするにも人手と、その元になる食料は必要だろう。しっかりとこちらの利を示し、根拠となるものを提示できるのなら、現物は今すぐ用意出来ずとも良い</p><p>そもそも現状でソフィアに差し出せるものなどないのだ。国の統制は取れておらず、信頼できる部下もおらず、制度も出来ていない。そんな状態でOlの国と対等に取引など出来るわけがない。</p><p>だが、投資なら話は別だ。</p><p>将来的にでも利が得られるということがわかりさえすれば、Olはソフィアに手を貸すことができる。僅かな会話からその発想に至ったソフィアに、Olは内心驚く。</p><p>かの英雄王がソフィア陛下の半分で良いから政に聡ければ、私も随分楽が出来たでしょうな</p><p>熱心に考えを巡らせる幼き王の姿を見ながら、トスカンが遠い目をしながらポツリと呟いた。</p><p>第13話愛されるダンジョンを作りましょう-2</p><p>さあついたよ、サリハ</p><p>父親の優しげな声に、サリハはパチリと意識を覚醒させた。</p><p>ほんとう！？</p><p>叫ぶように声を上げながら、サリハは寝台から跳ね起きる。</p><p>わぁ！</p><p>そしてすぐさま船室を飛び出して、そこに広がる光景に歓声を上げた。</p><p>途端、吹き付ける風がサリハの長い濃紺色の髪をなびかせて、彼女は目を細める。</p><p>雄大なるアンニルの川のその先、強い陽の光を受けて金色に輝くのは、神殿であり、城であり、砦である。この国に住むものであれば誰もが知り、しかし足を踏み入れること叶わぬ聖域王の居城、ピラミッドであった。</p><p>しかし、そこに入ることができなかったのは、ほんの数週間前までの話だ。</p><p>まだ幼いサリハは詳しいことを知らないが、以前の王、神帝ウセルマートを打ち倒した新しい王は下々のものたちをよく顧み、こうしてピラミッドをも開放しているのだという。</p><p>お父様、はやくはやくっ</p><p>慌てて転ぶんじゃないよ</p><p>子鹿のような足取りで桟橋を渡るサリハを笑いながら、父親がゆったりとその後を追いつつ、奴隷たちに荷物を運ぶよう指示を飛ばす。</p><p>ねえねえ見て、お父様！すごい！</p><p>先行するサリハは、ピラミッドへと続く道を目にしてはしゃぎ声をあげた。</p><p>ピラミッドの荘厳さを損なわぬよう、しかし色とりどりに飾られた店の数々。</p><p>活気に満ち楽しげなそれは、まるで何かの祭りのようだ。</p><p>しかしどの神の祭日でもなく、またそれを示す紋章も掲げられていない以上は、これがこの場所の平素の姿なのだと知れた。</p><p>やれやれ。それじゃあもう、ピラミッドに行ってみるかい？</p><p>まずは宿に身を落ち着けてからと思ってたのだが、と父親が呆れ混じりの言葉を漏らす。こうなったサリハは抑えが効かないというのは、よくよく身にしみていた。</p><p>奴隷たちに宿に荷物を運んでおくよう指示して、彼は愛娘と共にピラミッドへと向かう。</p><p>これは素晴らしい</p><p>間近で目にするピラミッドのその威容は、幾多の神殿や芸術品を見慣れた彼をして思わずため息をもらさずにはいられないものだった。</p><p>途方もない技術と労力を用い積み上げられた巨大な石は、数えるのも馬鹿馬鹿しいほどに無数に聳え。そこには数多の神々が象られ、飾りあげている。それを見上げるだけで、いくら辣腕の豪商と讃えられようと、己が身が只人でしかないことを思い知らされるかのようであった。</p><p>ねえねえお父様！あれよ！</p><p>感動に打ち震える父の心など知ったことでなく、サリハは入り口を指差しながらぐいぐいと彼の袖を引いた。ピラミッドの正面入り口とは別に、横手にぽっかりと空いた小さな穴。</p><p>そこに立てられた看板には、石のダンジョン攻略体験はこちらと書かれていた。サリハが熱望し、わざわざここまでアンニルの川を下ってやってきた理由。新たな王が作り上げたという、一大娯楽施設(アトラクション)。</p><p>早く早く！</p><p>わかったわかった。そう引っ張らないでおくれ</p><p>亡き母に似たのか、気が強く好奇心旺盛なサリハは何日も前からこれを楽しみにしていた。父親としても、下手に冒険者などになられるよりも、こういったもので発散してくれるのならありがたい。</p><p>入場料、五百銀だって、お父様</p><p>奴隷を十人買える程度の金額だ。安くはないが、しかしピラミッドに入ることが出来ると考えれば破格の値段だろう。以前はそれこそ金を山と積めるような人間でなければ、ここまで目前に近づくことすらできなかったのだから。</p><p>お父様はいかないの？</p><p>ああ。私はあっちの方を見てくるよ。終わったなら、宿の場所はわかるね？</p><p>聡明に頷く娘に満足し、父親はピラミッドの正面入口の方へと向かった。そちらには過去の王の墳墓や、珍しい異国の品の数々なんかが展示してあるらしいが、サリハには興味のない代物だ。</p><p>ようこそ、勇敢なる探索者よ。まずは、武器をお選び下さい</p><p>意気揚々と代金を支払い中に入ると、いきなりずらりと様々な武器が並べられていて、流石のサリハも面食らう。剣、槍、曲刀に棍棒。名前も知らないものや、使い方すら見当がつかないものさえあった。</p><p>あの、えっとこれで、戦うの？私が？</p><p>大丈夫ですよ、本物ではありませんから</p><p>受付の女ににこやかに言われ、半信半疑で手にとって見れば、なるほど確かに軽い。サリハは本物の剣など持ったことはないが、木かなにかに塗料を塗って本物に見せかけているだけのものだという事はわかった。</p><p>サリハはそれらをじっくりと吟味して、やがて両刃の小剣を選び取った。彼女の身の丈ほどもある大剣や、斧のような恐ろしい刃のついた複雑な形の槍なんかも気にはなったが、狭いピラミッドの中で振るうには小剣の方が適していると判断したのだ。</p><p>剣を選びし勇敢なるものよ。ダンジョンの中に現れる怪物たちを打ち倒し、無数の罠をくぐり抜け、魔窟に囚われし我らが神を救い給え</p><p>厳かに告げる女性に、サリハは小剣を掲げ答える。僅かな緊張と恐怖、そしてそれを塗りつぶす期待と興奮が、彼女の小さな胸を満たしていた。</p><p>そして、冒険が始まった。サリハは武器と一緒に渡されたランプを片手に掲げながら、ピラミッドいや。ダンジョンの中を進んでいく。ゆらゆらと揺らめく炎が映し出す石の通路は、光によってかえって闇が深くなっているかのようで、何とも恐ろしい。</p><p>と、不意にその闇が揺らめいて渦巻いたかと思うと、それは醜悪な小鬼の姿を取って実体化した。</p><p>っ！</p><p>サリハは息を飲み、剣を構える。小鬼はサリハの半分ほどの背丈しかなかったが、それでもしわくちゃの顔に牙を剥き出し威嚇する姿は恐ろしい。</p><p>ややぁぁっ！</p><p>だが、先に打って出たのはサリハの方だった。剣を手に取るものから見れば笑ってしまうほどに遅く、弱く、拙い一撃。だがそれはしっかりと小鬼の脳天を切り裂いて、その身体を元の闇へと還す。</p><p>途端、辺りにファンファーレが鳴り響いた。</p><p>えっ、何？何？</p><p>＜あなたはレベルアップしました＞</p><p>その声も音も剣から聞こえてきているようで、サリハは手元を凝視する。</p><p>＜火球の魔術を覚えました＞</p><p>火球？</p><p>聞こえてくる言葉をつぶやくと、やにわに剣が光り輝き、その刀身から炎の弾が飛び出した。</p><p>わっわっ！</p><p>サリハは慌てて身を引くが、火球は彼女の前髪を焦がすこともなく、すうっと天井の中に消えていく。</p><p>あこれも、本物の火じゃないんだ</p><p>火球をもう何度か撃ってみて、サリハはそれに気がつく。刀身から吐き出される炎は燃える匂いもしなければ、熱さもない。誤って自分を燃やしてしまう心配はないようだった。</p><p>よし</p><p>彼女は笑みを浮かべ、先程までよりも大股で進み始めた。</p><p>石礫！氷壁！雷撃！</p><p>サリハの振るう剣から石の弾丸が飛び出して魔物たちを貫き、氷の壁が押しとどめて、轟く稲妻が壁ごと穿つ。</p><p>全身を焼かれながらも襲い掛かってくる牛頭の怪物を、サリハの小剣が真っ二つに切り裂いた。</p><p>＜あなたはレベルアップしました。幻影の魔術を覚えました＞</p><p>やったっ</p><p>そして鳴り響くファンファーレに、サリハはぐっと拳を握りしめる。</p><p>幻影っ</p><p>すぐさま新しい魔術を試してみれば、剣で示したその先に、サリハそっくりの姿が現れる。</p><p>囮になるってことかな乱戦で使えそう</p><p>魔術はレベルアップの時に名前を教えてもらえるだけで、使い方は使用者が見つけ出さなければいけない。石礫に敵を怯ませる効果があることも、雷撃が氷壁を貫通することも、戦いの中でサリハが見つけ出したことだった。</p><p>ダンジョンの奥へと進むに従って、敵もどんどん強大になってきている。怪物たちの爪がサリハを傷つけることはなかったが、代わりに体力と呼ばれる数値が減ってしまう。これがゼロになるとおしまいらしい。</p><p>サリハが更に進んでいくと、今までにない巨大な玄室が見えた。その奥には祭壇があり、彼女は本能的にここが最後の戦いであることを察する。</p><p>部屋の中を満たす闇はぐるぐると渦巻いて、部屋の大きさに見合った巨大な怪物の姿を象った。ワニのような長く凶暴な顔。無数の鱗と棘に覆われた身体。一対の巨大な翼。</p><p>それがドラゴンと呼ばれる怪物であることを、サリハは知らない。だがその強大さは、嫌というほど感じられた。</p><p>火球！火球！火球！！</p><p>矢継ぎ早に火球を飛ばしながら、サリハはドラゴンに向かって駆ける。最初に覚えたその魔術は、威力は低く弾速も短い代わりに射程が長く連射が効く。素早い怪物には避けられてしまうが、これだけの巨体ではかわしようもない。</p><p>火球は狙い違わずドラゴンの顔に直撃し、大きな炎の花を三つ咲かせた。</p><p>その隙に雷撃の射程範囲まで走ろうとしたその時、火煙の中からドラゴンはぬうと顔を突き出して、その大きな口をぱっくりと開いた。</p><p>次の瞬間、サリハの視界は真っ赤に染め上げられる。</p><p>＜四十のダメージ。残り体力、六十＞</p><p>嘘でしょ！？</p><p>何が起こったのかさえわからず、サリハは悲鳴をあげる。巨大な石人形の太い腕に殴られた時も、牛頭の怪物の斧が突き刺さった時も、受けるダメージはせいぜいが十だった。それがここに来て、実に四倍もの大ダメージだ。後二回、同じ攻撃を受ければおしまいになってしまう。</p><p>あっ、そうだ幻影！</p><p>先程覚えたばかりの魔術を部屋の片隅に向けて唱える。サリハの似姿がそこに作り出されると、ドラゴンは長い首を曲げてそちらをみやった。</p><p>今のうちに回復！</p><p>＜十の回復。残り体力、七十＞</p><p>自分の胸に刀身を当てるようにして唱えると、剣からそう声が聞こえた。回復は連続では使えないが、こまめに回復していくしかない。</p><p>そうする間に、ドラゴンの口から吐き出された炎によって幻影が消滅する。それを見てようやく、サリハは先程視界を埋め尽くした赤色が炎であったことを知った。</p><p>げ、幻影！</p><p>あれ程の炎、避けることも防ぐこともできそうにない。幻影で狙いを反らし、サリハは竜の懐まで潜り込む。</p><p>雷撃！</p><p>放たれた稲妻はドラゴンの鼻面に突き刺さって、巨竜はのけぞり呻く。初めて入るダメージらしいダメージだった。</p><p>よ、よし石礫！風刃！火球！爆発きゃっ！</p><p>矢継ぎ早に攻撃魔術を飛ばしていると、ドラゴンの長い尻尾がぶんと振られてサリハと幻影を諸共に薙ぎ払った。</p><p>＜三十のダメージ。残り体力、四十＞</p><p>紛い物のその攻撃はサリハ自身に痛みも衝撃も与えることはなかったが、代わりにごっそりと体力を奪い去っていく。同時に、ドラゴンが大きく口をあけてサリハの方に首を向けるのが見えた。</p><p>か、回復！</p><p>＜十の回復。残り体力、五十＞</p><p>＜四十のダメージ。残り体力、十＞</p><p>咄嗟に叫んだ直後、視界が赤に染め上げられる。回復とダメージを知らせる声はほとんど同時に鳴り響いた。</p><p>攻撃の手はほとんど使い尽くし、次の攻撃への回復も間に合わない。どうにもならないと悟ったサリハは、破れかぶれで剣を投げはなった。</p><p>回転する小剣は炎のブレスを吐き出すドラゴンの上顎に突き刺さり、頭蓋を貫通する。</p><p>＜クリティカルヒット＞</p><p>剣からそんな声が聞こえるとともに、ドラゴンは絶叫を上げる。</p><p>悶え苦しみながら首をくねらせ、よろけるように数歩脚を踏み鳴らしそして、地面に倒れ伏して、消え去った。</p><p>ややった！</p><p>サリハは転がった小剣を大事に拾い上げ、奥の祭壇へと向かう。</p><p>わー、すごい。クリアおめでとう！わたしのダンジョンを攻略したのは、あなたが最初だよ！</p><p>すると、祭壇の中からぴょんと緑色の髪の少女が飛び出して、サリハは驚きに目を見開いた。年齢は、サリハより少し上くらいだろうか。</p><p>あなたが神様？</p><p>その身体には今まで出会った魔物と違い、圧倒的な現実感がある。けれど、ただの子供という気もしなかった。</p><p>そうだよ。わたしはソフィア。このダンジョンを司る神にして、一応王様</p><p>少しばかり自信なさげに、ソフィアは自分の胸に手を当ててそう名乗る。</p><p>お、王様陛下！？失礼致しました！</p><p>はっと気づいて、サリハは慌てて跪いた。遊戯施設の方便、そういう設定なのだとばかり思っていたが、このピラミッドの神と言えばそもそもサハラの王を示すものだ。</p><p>いーよいーよ。あなた、名前は？</p><p>サリハと、申します</p><p>鷹揚に手を振るソフィアに、なおさら畏まってサリハは名乗る。</p><p>そう、サリハ。じゃああなたに、見事このピラミッドを攻略したご褒美をあげるね</p><p>は</p><p>ご褒美。その響きに顔を上げた途端、サリハの足元の床が抜けた。</p><p>悲鳴を上げる暇さえなく彼女は落下し、しかしその身体が地面に叩きつけられることはなく、徐々に緩やかになったスロープを滑っていって見知らぬ部屋に出る。</p><p>そこに、琥珀色の髪の魔王がいた。</p><p>第13話愛されるダンジョンを作りましょう-3</p><p>狭い石室に、ちゅぷちゅぷと淫靡な音が鳴り響く。</p><p>それはまだ幼い秘裂を男の無骨な指が愛撫する音であり、また少女が赤黒い男根を口いっぱいに頬張って奉仕する音でもあった。</p><p>サリハは寝台の上に横になり、Olの膝に頭を預けるようにして、彼の逸物を両手で握り拙い口淫奉仕に挑んでいる。同時に、Olの右手は男を知らぬどころか、ろくに触られたこともないサリハの秘部を念入りに解きほぐし、快楽の錠前を一つずつこじ開けていた。</p><p>んっふ、あぁんっ</p><p>若い肉体はまるでスポンジのように快楽を覚え吸収していき、甘く鳴いては強張った肉塊にしゃぶりつく。</p><p>ああ。上手いぞ</p><p>空いた左手でその濃紺の髪を撫でてやりながら、Olは思う。</p><p>一体何がどうしてこうなった、と。</p><p>観光業？</p><p>うん。それでね、パパに色々教えて欲しいの</p><p>ソフィアがその突飛な思いつきを告げたのは、Olが食料の提供を断ってから三日後のことだった。伝えられた言葉をオウム返しにして絶句するOlを気にもとめずに、ソフィアは羊皮紙をバサリと広げる。</p><p>来たくなるダンジョンって、どんなものなのか</p><p>そこに記されていたのは、ピラミッド自体を巨大な娯楽施設にする計画だ。</p><p>基本的にはね、罠を主体にしていこうかなって思ってるんだけど、やっぱり魔物なんかもちょっとはいた方がいいでしょ？ただ安全性の問題をどうしようかっていうのと、死体の処理なんかは</p><p>待て。待て待て待て。ちょっと待て。一から説明しろ</p><p>立て板に水とばかりに続けるソフィアを、Olは慌てて制止した。</p><p>ダンジョンの話をしている、そのはずだ。ことダンジョンに関する知識であれば、Olは他に並ぶものがないと自負している。</p><p>だがソフィアの話は、Olには全く理解できなかった。</p><p>ふぇ？</p><p>ご説明しましょう</p><p>目を丸くするソフィアの後ろで、トスカンが声をあげた。</p><p>サハラにおいて、貧富の差というのは極めて顕著です。中央を流れるアンニルの川付近に住むものたちは、我々に勝るとも劣らぬほどの豊かな暮らしをしております。その一方で、川から離れた不毛の地に住むものたちは、飲む水にすら事欠く始末</p><p>それで観光業を営み、その富を再配分するわけか</p><p>そこまで言われれば、Olとてソフィアの意図をおおよそは理解する。</p><p>富裕層を、ダンジョンに集めることによって</p><p>ダンジョンに入ってきた者を排除するどころか、積極的に呼び込み楽しませるという、その考え方を除けば。</p><p>うん。ママに聞いたら、パパがそういうのはすごく詳しいからって</p><p>確かに、魔物たちをあるいは、冒険者と言った連中を呼び寄せることに関して言えば、Olは熟練の技を持っていると言っていいだろう。</p><p>だがそれは、瘴気渦巻く闇の裡に邪悪な怪物たちを押し込め、愚かな侵入者たちの心を挫き滅ぼすための技だ。決して、ろくに苦労も知らず覚悟も持たない金持ちを歓待し楽しませ、金を落とさせるようなものではない。</p><p>殺しては、駄目なのだろうな</p><p>駄目なの？</p><p>駄目でしょうな</p><p>念のため確認すれば、ソフィアは背後を振り返って尋ね、トスカンはそれに頷く。</p><p>冷静に考えてみれば、問うまでもないことだ。冒険者であればいくら殺しても一攫千金を狙ってやってくるだろうが、もともと金を持ってる人間であればわざわざそんな危険を冒そうなどと考えるわけがない。</p><p>だが思わずそんな問いを漏らしてしまうほどに、ソフィアの掲げるそれはOlのダンジョン観とはかけ離れたダンジョンの運営方法であった。</p><p>とはいえ、ひとたび偏見を取り払って見てみれば、それほど悪い案ではない。</p><p>食料にせよ他の何かにせよ、物を作って売るのには元手がかかる。その点、観光であれば施設の整備くらいにしか金はかからないし、ピラミッドの修復さえ済んでしまえばその内部の運用はソフィアの思うがままだ。</p><p>それだけではない。ピラミッドはアンニルの川を辿って流れ込む魔力を受け止めるようにそびえている。それはつまり、川を下ればそれだけでピラミッドに辿り着くということになる。そして富裕層は必ず川の流域に住んでいるから、交通の便が極めて良いのだ。</p><p>そして王族とごく一部の配下だけしか足を踏み入れられなかったピラミッドを開放することは、ソフィアの王としての方向性を示すことにもなる。無論、軽んじ侮るものも出てこようが、それはOlの方で締めればいいだけの話だ。</p><p>そのような経緯で出来たのが、石のダンジョン攻略体験。</p><p>物理的な罠はどのようなものであれ事故を起こしかねないと最小限にし、魔物や魔術の幻影を発する魔導具を作り上げ、それを作り上げたリルの発案で魔改造された本格娯楽施設であった。</p><p>それは、良い。実際上手くいったし、成果は収入という形で順調にあがっている。</p><p>あ、あの、誰ですか？</p><p>＜パパ、その子はね、サリハっていって初めてわたしのダンジョンを攻略したすごい子なんだ！だからご褒美をあげてくれる？＞</p><p>自らの書斎に突如として放り出された怯えた少女にOlが困惑していると、部屋の中にソフィアの快活な声が響く。</p><p>ご褒美、だと？</p><p>＜うん。ママたちにいつもあげてるご褒美＞</p><p>無邪気に言ってのけるソフィアに、Olは絶句する。流石の魔王も、よもや娘から他の少女を抱くよう頼まれるとは思っても見なかった。まるで友達に菓子でも渡せと言うかのような気楽なソフィアの物言いに、Olはなんと答えたものか逡巡する。</p><p>とはいえ、顔を見られた以上はこのまま帰すわけにもいかないのも確かなことだ。</p><p>怖がらなくとも良い。ソフィアには会ったか？俺は、あれの父親だ</p><p>陛下の！？</p><p>ともかく落ち着いた声色で話しかけてやると、サリハの表情から僅かに怯えと警戒が消え去って、代わりに緊張と畏怖が乗った。</p><p>ああ。あいつのダンジョンを攻略したのだそうだな。お遊び程度の仮初のものとは言え、その小さな身体で大したものだ。褒めて使わす</p><p>言いつつ、Olはぽんとサリハの頭を撫でる。そうしながら、印も呪文も使わずに、彼女の頭に魔術をしかけた。</p><p>恐縮です</p><p>サリハの瞳がとろりと潤み、その表情から緊張の色が抜け落ちる。ほんの僅かに心を緩める、単純な魔術だ。しかし大した魔力も持たない幼い少女には、覿面に効いた。</p><p>何か褒美をくれてやろう。望みのものを言ってみるが良い</p><p>えっえっとその</p><p>突然望みを聞かれ、サリハは大いに戸惑う。突然出会った見知らぬ男ではあるが、サリハは彼が王の父親であるという事実を自然と受け入れていた。</p><p>疑う気持ちもないではなかったが、Olは位の高いものが纏う独特の空気を持っている。それは豪商の娘として、今まで出会った貴族から何度も感じ取って来たものだ。</p><p>それに加えてソフィアの人間離れした超然とした雰囲気とOlのかけた魔術の効果が、サリハの疑念を完全に拭い去る。結果として、彼女はひどく恐縮した。</p><p>いいえその、滅相もありません。私はただ、その、楽しく遊ばせて頂いただけですから</p><p>何、遠慮することはない。無論何もかもをとは言わんが、大抵のことは叶えてやろう</p><p>なにせ初めてのダンジョン踏破者だ。今まで少なくない客がソフィアのダンジョンに挑み、その中には子供だけでなく大人も数多くいたが、最後のドラゴンまでをも倒したのはサリハが初めてだった。無碍に扱えばソフィアは機嫌を損ねるだろう。</p><p>それにOlの存在をあまり吹聴されるのも好ましいことではない。口封じと褒美を兼ねて、言葉通り大抵のものは与えてやるつもりであった。</p><p>で、では先ほどソフィア様が仰っていた、褒美というのを頂けますか？</p><p>だがサリハは、Olにとっては予想外の、そして彼女本人にしてみれば当然の言葉を口にした。</p><p>豪商の娘に生まれ、何不自由なく暮らしてきた彼女には、何かが欲しいという欲求があまりなかった。欲するまでもなく日常は富に溢れていたし、欲すればそれこそ大抵のものは父が手に入れてくれる。</p><p>ならば目上の存在、王たるソフィアが勧めたものを選び取るのが無難というものだった。それに、物心付く前に母をなくしたサリハにとっては、男が妻に与える褒美というのにも興味があった。</p><p>ううむ。だがそれは他のものにせぬか？美しい宝石や異国の珍しい品々、滅多に手に入らぬ食べ物や魔力の篭った護符。そういったものもあるのだぞ</p><p>言いつつ、Olは先程サリハにかけた術をもう少し強めに放った。それは一種の催眠をもたらす魔術だ。判断力を奪い、他者の意見を素直に聞き入れるようにする。</p><p>いいえ。ソフィア様が仰っていたものを下さい</p><p>（何っ！？）</p><p>だがその魔術はサリハの額に跳ね返されるかのように弾かれ、Olは表情には出さずに内心で声を上げた。この手の魔術は効果を強めるほどに抵抗しやすくなるものであるとは言え、まさかこんな小娘がOlの魔術に抗うとは思っても見なかった。</p><p>＜決まりだね、パパ＞</p><p>何故か嬉しそうなソフィアの声が響く。まさか彼女が何らかの干渉をしたのか。だとするなら、それは恐るべき能力だ。</p><p>とはいえ、大抵のものは叶えてやると言った手前、真っ向から要求されてこれ以上拒否しても王の面子に関わる。</p><p>よかろう。それでは褒美をくれてやる</p><p>Olは観念してそう言いながら、部屋の壁に手を触れた。石造りの壁を舐めるように光が広がって、それだけで部屋を囲う壁天井はOlの支配下に置かれた。娘に情事を覗かれるのはOlとしても流石に憚られる。</p><p>まあせめて、後悔だけはせぬよう抱いてやる</p><p>第13話愛されるダンジョンを作りましょう-4</p><p>あの、Ol様、これから何をするのでしょうか？</p><p>Olの指示に従い、ベッドの上に横たわったサリハはそう尋ねた。</p><p>それはこれからの行為への不安というよりは、単純な疑問の言葉だ。</p><p>寝台の上で男女がすることなど、決まっておろう。お前にこれより、寵愛を授けてやる</p><p>チョウアイ</p><p>Olの言葉がわからなかったらしく、サリハはオウム返しに繰り返す。</p><p>今からお前を抱くということだ</p><p>えっと抱っこ、ですか？</p><p>直截的な物言いにも、不思議そうに首を傾げる。</p><p>本当にわかっておらぬのか。つまりは、こういうことだ</p><p>ならばとOlは彼女の小振りな胸を鷲掴みにする。</p><p>あはははっ！ご、ごめんなさい、Ol様、くすぐったいです</p><p>だがそれに対する反応は嫌悪や羞恥ではなく、明るく朗らかな笑い声であった。</p><p>どうやら彼女は、性的な行為に関する知識というものがまるでないらしい。</p><p>まあ良い。それならそれで、一から教え込んでやる。脱がすぞ</p><p>あ、あの、Ol様私、その、すごく、くすぐりに弱くって</p><p>Olがサリハのワンピース状になっている服に手をかけると、彼女は恐縮した様子でそんなことを言い出した。</p><p>案ずるな。別にお前をくすぐるわけではない。今からするのはもっと別の心地よいことだ</p><p>Olがそう告げると、サリハはあからさまにホッとした様子だった。彼女は力を抜いてベッドに身を委ねる。</p><p>Olはそんな彼女のスカートを、するするとめくり上げていった。サリハも抵抗することなく、軽く腰を浮かせてそれを助ける。サハラの民特有の褐色の肌。すらりとした脚から、腰を覆う白い下着までがあらわとなった。</p><p>若く幼いその肢体は、太腿にも尻にもまだほとんど肉がついておらず、色気には乏しい。しかしその代わりに、健康的な美しさがあった。</p><p>未発達でくすぐったがりだという彼女の脚や尻を撫で擦っても、笑うばかりだろう。Olはそう判断し、いきなり下着を脱がすことにした。三角形の布を繋ぎ止めている紐を解いてするりと引き抜けば、まだ毛も生え揃わぬ秘裂がOlの眼前に現れた。</p><p>あ、あの？Ol様？</p><p>Olがサリハの両脚をぐいと押し開き、その間に身体を割り込ませるに至って、ようやくサリハは不思議そうに声をあげた。</p><p>マッサージをするのでは、ないのですか？</p><p>どうやらOlがこれからする行為をマッサージと思っていたらしい。道理でリラックスして力を抜いているわけだ、とOlは思った。</p><p>いいや、マッサージの一種だ。だが少々特殊なやり方でな。奇異に思うかも知れんが、その分心地よさは保証しよう。安心して身を委ねよ</p><p>は、はい！</p><p>Olは面倒だったので、そういう方向で押し通すことにした。</p><p>ぐいとサリハの脚を立てさせて、ぴっちりと閉じたその秘裂を舌で舐める。</p><p>えっ！？</p><p>流石に舐めるとは思っていなかったのだろう。サリハは驚きに声をあげたが、事前に奇異なことをすると言っておいたせいかそれ以上の追求はなかった。</p><p>Olは丁寧に彼女のスリットをなぞり、舌先でゆっくりと押し開いていく。しばらくそうして唾液をまぶしながら舌で愛撫を繰り返し、当初の驚きも過ぎ去ってサリハの身体から力が抜けた辺りで、Olは彼女の穴に指先を押し当てた。</p><p>今まで男に触れられたどころか、自分で触ったことすらないであろうそこはキツく閉じていて、小指すらとても入りそうもない。だがその表面を指先で優しく撫でるようにしながら、Olはその上皮に包まれた秘核を、舌先で捉えた。</p><p>流石にそこは敏感なのか、サリハが小さく声を漏らす。嬌声とはとても言えぬ色のない音。しかしそれはくすぐりに対する笑いでも、けしてない。</p><p>刺激を与えすぎないよう、ゆっくりと、だが丹念に、Olはサリハの女の部分を愛撫していく。そうするうちにほんの僅かずつではあるが、彼女の膣口は緩み、徐々に指の侵入を許して、液体を分泌していく。</p><p>んふ、う</p><p>段々とサリハの口から漏れる声がその頻度を増し、熱を帯びていく。</p><p>素直な少女だ、とOlは思った。何不自由なく育てられ、その環境に驕ることもなければ嫉まれることもなく、まっすぐに成長してきたのだろう。</p><p>それは心根だけの話ではない。Olの与える感覚についても、彼女は素直に受け入れていた。</p><p>ん、あぁっふあぁんっ</p><p>いつの間にかOlの指は第二関節までがサリハの膣内に潜り込んでいて、彼女の声は艶を帯び、女のそれへと変じかけている。だがそこに、戸惑いや恐れと言ったものは微塵も見受けられなかった。</p><p>疑うことも怯えることもなく、ただただ素直にOlのもたらす快楽を享受して、それをもっとも気持ちよく発散できるように素直に声を上げている。</p><p>これは中々の逸材かもしれない。Olはそう思いつつ、彼女の内ももをするりと撫でた。</p><p>はぁんっ！</p><p>途端サリハの喉から漏れたのは、笑い声ではなくはっきりと感じた嬌声であった。くすぐったさを感じる部分は、同時に性感帯でもある。くすぐったがりということは、裏を返して言えば敏感であり、感じやすいということだ。一旦笑いが快楽に変われば、それは全身が性器になったに等しいことであった。</p><p>Olは秘部への愛撫を続けながら、ワンピースを更にめくり上げ、彼女の腹から胸元までを露出させる。なだらかに膨らんだ慎ましやかな乳房の先端は、既に硬く屹立していた。</p><p>ひぅんっ！</p><p>そこへ腕を伸ばして摘み上げてやれば、サリハはびくりと身体を震わせて高く鳴く。</p><p>オウ、ル、さまぁ</p><p>そのままくりくりと乳首を抓りあげると、サリハは潤んだ声でOlの名を呼んだ。</p><p>少しやりすぎただろうか？</p><p>おっぱい、気持ちいいですぅそこ、もっと、して、くだ、さいっ</p><p>Olのそんな考えとは裏腹に、サリハは直截にそうねだった。</p><p>胸が良いのか？</p><p>ううん、ぜんぶぜんぶ、いい、ですっその、股の、ところも</p><p>ふるふると首を振り、サリハはそう口にする。</p><p>ここのことをなんと呼ぶか、知っておらぬのか？</p><p>お、おまんこです</p><p>指でくにくにと刺激してやりつつ尋ねると、流石にそのくらいの知識はあるようだった。</p><p>ふむ。では</p><p>Olは一旦サリハから離れて服を脱ぎ、己の裸身をさらけだす。衣服の軛から開放されて、既に硬く反り勃った怒張がへそに張り付かんばかりに屹立した。</p><p>男のこれをなんと呼ぶかは知っているか</p><p>おおちん、ちん？</p><p>答えた言葉には、疑問符がついていた。もっと幼いころ、風呂で父の股間についていた自分にはないそれに疑問を持って何なのか尋ねたことがある。しかし目の前のそれは、その時見たものとはまるで違っていた。</p><p>父のそれは小さく柔らかそうで、ぷらぷらと牛の尻尾のように揺れていた。だがOlのものは長く太く、まるで剣のように真っ直ぐに上を向いている。赤黒いそれには複雑な紋様のように幾本も血管が浮かんでいて、先端はそれとは対照的に光を受けて輝くほどにつやつやとしていた。</p><p>触ってみるか？</p><p>は、はいっ</p><p>穴が空きそうなほどに凝視するサリハに声をかけると、彼女は一も二もなく頷く。</p><p>そして恐る恐る、というにはあまりに躊躇なくOlの逸物に触れた。</p><p>硬くて熱い</p><p>サリハは熱に浮かされたような口調で言いながら、形を確認するように屹立した肉の塊を手のひらで撫で回していく。</p><p>舐めてみろ</p><p>Olがそう命じてみると、サリハは戸惑うこともなくその先端に口をつけた。二度、三度舌でちろちろと舐めていたかと思うと、教えてもいないのに大きく口をあけてぱくりと咥え込む。</p><p>その小さな両手で肉茎をぎゅっと握りしめながら、ぷっくりと膨れた先端を味わうようにねぶっていく。Olは一つサリハに術をかけてやると、その口内に精を放った。</p><p>んぅっんぶ！？</p><p>突然口の中に吐き出された白濁の液に、サリハは驚き目を見開く。しかし彼女は手も口も離すことなく、それどころかこくこくと喉を鳴らしてそれをゆっくりと飲み下した。</p><p>今の、は</p><p>精液と呼ばれるもの。男の身体から作られる、命の元となるものだ</p><p>命の、元</p><p>呟きながら、余韻を確かめるようにサリハは自分の唇を指でなぞる。</p><p>とっても、美味しかったです！</p><p>無論、それはOlがかけた魔術による錯覚だ。幾らなんでも男を知らぬ処女が、生臭く粘ついた粘液を美味しく思うわけがない。</p><p>もっと味わってみるか</p><p>とはいえ変えたのは味の認識だけで、麻薬のような依存性や思考を鈍らせるような効果をもたせたわけでもない。にも関わらず、Olの言葉にサリハは喜々として頷いた。</p><p>Ol様ぁあぁっそれぇっそこぉっくりくり、しながらぁっああっ！ちゅー、して、くださいっんっんっ、んむっちゅぷ、ふ、んんんんっ！</p><p>甘く蕩けきった声色で、サリハは口づけをねだる。Olが顔を近づけてやると、彼女はすぐさま彼の首に腕を巻き付け、積極的に舌を絡ませてきた。その動きは拙く技術も何もあったものではないが、熱心にOlの舌を吸い、柔らかな唇を重ねてくるさまは中々悪くない。</p><p>その間も彼女の秘所にはOlの指が三本重ねて根本まで入り込んでいて、抜き差しする度に愛液がぐちゅぐちゅと吹き出す。指先を僅かに曲げて膣壁を擦り上げてやれば、サリハはピンと身体を硬直させて、Olの首にまわした腕に力を込めた。</p><p>イったのだ。</p><p>もう何度目になるかもわからぬ絶頂だった。</p><p>老練な魔術師によって丁寧に丁寧にほぐされた蜜壺は湯気が出そうなほど熱く蕩けきり、ほんの僅かな刺激でも気をやってしまうほどに出来上がっている。</p><p>そろそろ頃合いか、とOlは彼女の膣内から指を引き抜いた。</p><p>するとサリハは眉を寄せて、切なげに声を上げた。聞くまでもなく、やめないで欲しいとその表情が雄弁に語っている。</p><p>案ずるな。ここからが、本番だ</p><p>本番？</p><p>俺のこれを、お前の中に入れる</p><p>少し身体を引いてサリハの唾液に塗れた怒張を見せつけてやれば、彼女はごくりと唾を飲んだ。Olの男根は三本重ねた指よりも倍以上太い。指で膣内を散々に開発された今、その意味は知らずとも、入れればどうなるかサリハはよくわかっている。</p><p>行くぞ</p><p>太く長いその切っ先をサリハの入り口に押し当てて宣言し、Olは答えを待たず彼女の膣内に侵入していく。</p><p>あああああああああああっ！</p><p>時間をかけて丹念に準備されたそこは男の肉塊を容易く飲み込んで、一番奥まで一気に受け入れる。Olのペニスが半分ほど埋まったところで奥まで達し、それと同時にサリハは絶頂に達して叫んだ。</p><p>破瓜の痛みは洪水のような快楽に紛れて、ほとんど感じることはなかった。それよりも、苦しみになるギリギリ一歩手前、息もできないほどの快楽がサリハの体内で暴れまわっている。</p><p>彼女は無意識にOlの腰に脚を回し背中を抱いて、彼の胸板に額を押し付けるようにしながら全身でしがみついた。小さな彼女の身体はOlに上からのしかかられると、腕の中に全てすっぽりと収まってしまう。</p><p>Olはサリハの腰と背中に腕を差し込み抱き返すと、ひょいと身体を起こして彼女を抱き上げた。そうしてサリハを抱え上げたまま、彼女の身体を揺するようにして抽送を再開する。</p><p>あっ、あっ、あっ、あああぁっ！</p><p>まるで荷物のように抱えられながら、サリハに出来るのは押し寄せてくる快楽の大波に身を任せることだけだった。身体を持ち上げられ、そして落とされる度に太く硬い肉の剣が彼女の身体をまっすぐに串刺しにして、頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。</p><p>突かれる度に幼い少女は絶頂に達し、その余韻が抜ける間もなく再び奥を貫かれて、更なる高みに追いやられる。</p><p>ぎゅっと己のものを締め付けてくる膣口に、Olは小さく呻き声をあげた。小さく狭いサリハの膣口はそれでなくともOlのものを千切らんばかりに締め付けていたが、それ以上の圧迫感がOlの腰へと伝わってくる。</p><p>しかもそれは単なる偶然ではなかった。Olが奥を突く度に、サリハは膣口を締め付けているのだ。それどころか、抱きかかえられた状態にも関わらず、少しずつ腰をくねらせる動きまでが加わってきている。</p><p>これは、思っていた以上の逸材だ。Olは内心そう呟きながら、腰の動きに捻りを加えてサリハの中を抉った。自身の手首ほども太い男根に貫かれながら、しかしサリハはその快楽を貪り始める。</p><p>ああっんっ、いぃっ、いいよお！Ol、さまぁ！そこ、ゴリゴリ、してぇっ！</p><p>胸を触られくすぐったがって笑っていた少女の無邪気さは、もはや微塵もない。娼婦もかくやと言うほどの淫らさで、サリハは男を乞い願う。</p><p>一度突かれる度に絶頂しながら、その度に少女の身体は女として花開いていく。恐ろしいほどの成長速度だった。</p><p>出すぞ！</p><p>うん、ください、Olさまの、精液、おなかのなかに、たくさん、びゅーびゅーして、いっぱい、くださいっ！</p><p>性の知識もなければやり方を教えられたわけでもないのに、サリハは甘えた声でそうねだる。言葉だけでなく、彼女の身体の奥底で、降りてきた子宮口がOlの男根の先端にまるで口付けるように吸い付いてくる感覚があった。</p><p>たまらず、Olはサリハの膣内に精を解き放つ。</p><p>ああああああああああああぁぁぁっ！</p><p>凄まじい量の白濁の液が直接サリハの胎内に注ぎ込まれ、その感覚に彼女は今まで一番深く絶頂に達した。</p><p>白目を剥きながら舌を突き出し、身体を激しく痙攣させる彼女の結合部から、黄金色の液体がちょろちょろと漏れ出る。</p><p>Olはサリハの身体を大きく揺らして自身を扱きたて、彼女の中に最後の一滴まで注ぎ込む。そうして全てを絞り出したその時には、サリハはもう気を失っていた。</p><p>彼女の身体をベッドに横たえペニスを引き抜こうとすると、意識もないのにそれを拒否するように入り口が強く締まる。</p><p>処女で、これか</p><p>もう少しこの娘の胸が大きかったら、国を傾けていたかも知れん。</p><p>Olは苦笑しながら、そう思った。</p><p>第13話愛されるダンジョンを作りましょう-5</p><p>パチリとサリハが意識を覚醒させた時、そこは石造りの簡素な部屋ではなく、日干しレンガで作られ豪奢な飾り付けのなされた宿の一室であった。</p><p>おや、ようやく起きたかい、お姫様</p><p>傍らでオリーブの塩漬けを摘んでいた父親が、半身をもたげたサリハに気づいて声をかける。</p><p>あれ？私</p><p>ピラミッドの探検がよほど疲れたんだろうね。ぐっすり眠っていたよ</p><p>ピラミッドダンジョン。そっか</p><p>父親の言葉に、サリハの記憶が蘇る。そうだった。石のダンジョン攻略体験を終えた彼女は、そのまま父親より先に宿に戻って少し休むつもりでベッドに横たわり、そのまま眠ってしまったのだった。</p><p>で、冒険はどうだった？</p><p>うん、すっごく楽しかった！あのね、剣からね、火が出てね、こーんな大きな怪物たちが出てきたんだけど</p><p>寝ぼけ眼は一瞬にして覚醒して、彼女は熱心に体験したことを父親に語る。父はそれをうんうんと頷きながら、笑みを浮かべて聞いた。</p><p>それで最後は、ワニみたいな凄く大きい怪物この宿と同じくらいの大きさよ。そんな怪物と戦って、何とか勝って、捕まっていた王様を助けたの！そこまでいったのは、私が初めてなんだって！</p><p>それはすごい。流石私の子、サリハだ</p><p>パチパチと拍手をして褒め称えてくれる父親に得意げにしながらも、サリハは何やら物足りなさを感じていた。もっと何か、楽しく、素晴らしいことがあった気がする。けれどそれを思い出そうとすると記憶に霞がかかったかのように、思い出すことができなかった。</p><p>はっきりと覚えているのは、未知への興奮と、圧倒的な幸福感。すべてが満たされて、天にも昇るような心地。年に一度の夏祭り、母なるアンニルの川の氾濫を祝う豊穣の祭りで出されるごちそうを食べた時の喜びを、何百倍にもしたような。</p><p>ねえ、お父様</p><p>それを思い出すと、サリハの口からは自然と甘えたような声が出ていた。</p><p>私、またここに来たいな</p><p>それは今まで彼女が出したことのないような、どこか艶めかしさを含んだ声色だった。</p><p>熱い湯に体を埋め、Olは深く息を吐く。</p><p>愛液に精液と破瓜の血、唾液に涙におまけに尿。およそ人の分泌する全ての体液で汚れた身体を洗い流して、ようやく人心地のついた思いだった。</p><p>そこに突然、真っ白な身体が虚空に出現したかと思えば、激しく波飛沫を立てながら湯の中に飛び込んだ。</p><p>あまりにも一瞬のことでその姿は確認できなかったが、こんなことをするのも出来るのもたった一人しかいない。</p><p>Olはびしょ濡れになった顔を拭いながら、怒りを湛えた声で娘の名を呼んだ。</p><p>どうだった？楽しかった？</p><p>だがソフィアは意に介した様子もなく、きらきらとまばゆく輝く瞳でOlの顔を覗き込む。</p><p>それはまあうむ</p><p>楽しいか楽しくないかで言えば、楽しい時間ではあった。何も知らぬ純真無垢な小娘を己の色に染めていくのは、なるほど男であれば誰もが奮い立つような喜びであることは間違いない。</p><p>それが、染めれば染めるほどに生糸のように吸収していく才能あふれる少女であればなおさらだ。だが流石に娘にそう答えるというのは、どうにも憚られた。</p><p>良くなかったの？</p><p>煮え切らぬOlの言葉にソフィアはずいと詰め寄る。</p><p>いや、そういうわけではない。だが意図がわからん。一体何故あんなことをした？</p><p>んっと。理由は三つあるの</p><p>ソフィアは生真面目な表情で指を三本立てて、それを一本ずつ折りながら説明を始めた。</p><p>一つ目は、単純に嬉しかったから。初めてわたしのダンジョンを踏破してくれた子だったもん</p><p>ふむ。それはわからぬではない</p><p>ダンジョンというのは侵入を防ぐものでありながら、しかし同時にその踏破を望む気持ちがあることを、Olもまた理解できた。無論生命がかかっているような状況であればそんな悠長なことは言っていられないが、遊戯として作ったダンジョンならその心境も不思議なものではない。</p><p>二つ目は、パパにも喜んでほしかったから。サリハは可愛くてとっても勇敢だったから、嬉しいかなって思ったの</p><p>閨事は横においても、優れたダンジョン探索者と触れ合うのはダンジョンマスターとして愉快なことだ。遊びとは言え、Olも監修として関わった迷宮を攻略するのは生半可なことではない。</p><p>三つ目はパパのご褒美のところ、見てみたかったから</p><p>だってパパのお部屋は見ちゃ駄目って言ってたでしょ？</p><p>確かに今回サリハと事に及んだのはピラミッドの中に仮に作り上げた書斎であって、Olの部屋ではない。だが事前に覗かれぬよう、その壁や天井は全て掌握したはずだ。</p><p>どうやって見たんだ？</p><p>サリハの目を借りたの</p><p>そんなことまで出来るのか。素直に答えるソフィアに、Olは絶句した。</p><p>Olとて、他の生き物の視界を借りて遠くのものを見ることは出来る。猫や蝙蝠のような生き物を使い魔にして、自分の耳目にするのはよくある魔術だ。</p><p>だが、人間を使い魔にするなど聞いたこともないし、Olほどの魔術師であれば使い魔契約を結んだ生き物は見ればわかる。サリハは使い魔になどなっていなかった。ということは、ソフィアは使い魔でも何でもない生き物の視界を盗み見れるということだ。それは驚愕だった。</p><p>日に日に出来ることが増えているのはわかっていたが、想像しようもないことまでできていくのはどう対処すべきなのか。しかもおそらく、ソフィアはそれを異常なことだと認識していない。当たり前に出来るようになったことを、逐一報告しろと言うわけにもいかないだろう。</p><p>ねえパパ</p><p>ソフィアはOlに擦り寄るようにして近づいて、言った。</p><p>わたしも同じこと、して欲しい</p><p>なんとなく、そう来ることは予想していた。</p><p>駄目だ</p><p>どうして？</p><p>俺とお前は、親子だろう</p><p>そう答えつつも、Olは己の言葉に疑問を抱く。</p><p>親子と言っても血のつながりがあるわけではない。そもそも魔王であるOlに、そのような倫理観の持ち合わせがあるわけでもなかった。</p><p>であるならばなぜ。</p><p>何故、ソフィアを抱くことにいや、劣情を催すことにすら、これほどの忌避感を抱くのか。</p><p>なんで、親子だったら駄目なの</p><p>ソフィアは拗ねたような声を出しながら、ずいと詰め寄る。</p><p>わたし、もう、大きくなったよ</p><p>そしてOlの腕を取って、自らの胸に押し当てた。</p><p>その膨らみはもはや幼い子供のものではない。成熟したとは言えないものの、大きさで言うならサリハよりもよほど大きい。</p><p>しっかりと女を主張するそこはこの世のものとは思えぬほどに柔らかく、衰えを知らぬ肌のすべやかさは極上の絹にすら勝る。ずっと触り、弄んでいたくなるような感触。それでも。</p><p>そうは言っても、お前はまだ子供だ。愛と情との違いもわかるまい</p><p>Olは肉欲よりも強い衝動に、ソフィアから手を離した。</p><p>俺のことを男として好いているのか、と聞いておるのだ</p><p>そんなのわかんないよ</p><p>Olの問いに、ソフィアは眉根を寄せた。</p><p>概念としては、わかる。</p><p>例えばマリーがソフィアに注ぐ愛と、Olに対して抱く愛は、別種のものであるということくらいはソフィアにも理解できた。</p><p>けれどそれは、リルがOlに抱くものともまた別のように思えるのだ。リルだけじゃない。ユニスも、スピナも、ユツやテナにサクヤ、ザナ。同じ行為をしている間柄でも、Olに対して持っている感情は別に見える。</p><p>せめて他にそういった間柄の男女がいれば、比較もできただろうが。</p><p>だって男の人なんて、パパしかいないんだもん</p><p>ローガンとホデリは、ナチュラルにいないものとされた。</p><p>であるならば、お前にはまだ早いということだ。焦らずとも良い。いつか自然とわかる</p><p>大切な娘であるからこそ、後悔させたくない。</p><p>己が抱いているのはそういう気持ちなのだろうとOlは結論づけた。</p><p>わかった！</p><p>また癇癪を起こし、嫌いなどと喧嘩になるだろうか。</p><p>Olがそう思っていると、案に相違してソフィアは明るい声で答えた。</p><p>てっきりまた怒るか拗ねるかするものと思っていたOlは虚を突かれる。</p><p>お前が納得したのなら、それでもいいが</p><p>釈然としないOlに、ソフィアはこくりと頷いて、言った。</p><p>ちゃんとパパにご褒美貰えるように、もっともーっと大きくなるね！</p><p>そういうことでは、ない。</p><p>Olがそう答える前に、ソフィアの姿は再び掻き消えてしまったのだった。</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-1</p><p>はぁー綺麗</p><p>その光景に、リルが丸く目を見開いて思わず声をあげる。</p><p>だがそれは彼女に限ったことではなく、マリーにソフィア、ユニス、スピナ、そしてOlもまた同様であった。</p><p>青白く輝くその城は全体が水晶ででも出来ているかのように透き通っていた。まるで槍の穂先のように鋭く尖った幾つもの屋根が立ち並ぶ様はどこか幻想的で、その造形の美しさはOlさえも息を呑むほど。</p><p>別に見た目ほど大したものじゃないわよ。氷なんてうちには腐るほどあるんだから</p><p>そんな中でただ一人、氷の女王、ザナはつまらなさそうにそう呟いた。</p><p>あれは、氷で出来ているのか？</p><p>ええ。なにせ放っておいてもうちじゃ溶けたりしないし、湖に行けば幾らだって手に入るからね</p><p>Olの問いに、ザナはなんでもない事のように答える。</p><p>あれほど巨大な建造物が氷でできているなどと、信じがたい話だ。しかしどうやらそれは事実であるらしい。暦の上では夏であるのに、Olたちの歩く道にも雪は深く積もっていた。</p><p>リルがこんなに厚着してるところなんて初めて見たもんね</p><p>悪魔は暑さ寒さには強いから、別にいつもの格好でもいいんだけどね</p><p>やめて下さい。見ているこっちの方が寒いです</p><p>からかうようなユニスの言葉にリルがそう答えると、スピナが身体を震わせながら言った。青く晴れ渡った空からは雪も風もなく燦々と日光が降り注いでいるというのに、凍てつく寒さは体の芯を突き刺すかのよう。</p><p>隣にあると言うのに灼熱の太陽が大地を焼く砂の国とは正反対。それが、この氷の国、ヒムロであった。</p><p>室内なら多少はマシだから、安心して頂戴</p><p>ザナが言いながら、城をぐるりと囲む堀へと手をかざす。すると途端に堀を埋めていた水が凍りついて、氷の橋が出来上がった。</p><p>姫様！</p><p>橋を渡って城の中に入るとすぐさま、武装した兵士の一団が駆けつけてザナを出迎えた。</p><p>姫様、よくぞお戻りになられました</p><p>あなた達も、よくあたしの留守中城を守ってくれたわね</p><p>ザナはにこやかに臣下たちに声をかけていく。それは月の女神を降ろしている時の丁寧な口調とも、Olに相対している時の乱暴な物言いとも違う。それが彼女本来の姿なのだろう、とOlは感じた。</p><p>そしておかえりなさいませ。イヴ様</p><p>兵士団はOlにというよりその後ろに隠れるようにして身を縮めるイェルダーヴに向かって、恭しく礼をした。</p><p>イヴ？</p><p>その子の本当の名前よ。イェルダーヴというのは、あいつがつけた名前だから</p><p>Olの疑問の声に答えたのは本人ではなく、その姉のザナだ。</p><p>本当の、名前？</p><p>それどころかイェルダーヴ自身が、不思議そうにしていた。</p><p>覚えてないのも無理はないわ。あなたが連れ去られたのは、もう十年も前のことだから</p><p>そしてその十年の間、首輪によって自由意志を封じられ、人形のように扱われてきたのだ。己の名すら忘れてしまっても無理はなかった。</p><p>イヴ様を取り戻して頂いたこの度の御恩、万言を費やしても足りませぬ。誠に、ありがとうございます</p><p>そして彼らはOlに向き直ると、膝をついて頭を垂れた。ユニスが自然な動作で、Olの横に半歩あゆみでる。</p><p>ザナよ。お前の配下は面白い連中だな</p><p>くく、と喉の奥で笑いを漏らしながら、Olは言ってやった。</p><p>でしょう？主と一緒で育ちが悪いもんでね</p><p>何、俺も元はといえば貧民の出だ。吹けば飛ぶような小国といえど、卑下することはない</p><p>Olはわざと挑発するように嘲ったが、跪く男たちから放たれる強烈な殺意には何の変化もなかった。国を侮辱されても気にも留めない彼らが怒りを抱いているのは、ザナを穢され傷物にされたからだろう。</p><p>ユニスが警戒するほどの明確な殺意を隠しもせずに放っておきながら、しかしこれ以上ない礼節を持って恭順の姿勢を取る。面従腹背というのも馬鹿馬鹿しい程の、あからさまな態度であった。</p><p>さあ、こんなところで立ち話もなんだし、応接間へいきましょう。おもてなしするわ。暖かいお茶で、身体を温めましょう。毒はいくつ入れる？</p><p>入れるな。別に効きはしないが味を損なう</p><p>実によく似た主従だ、とOlはもう一度笑った。</p><p>本当に氷でできてるのね</p><p>なのに全然寒くないのは不思議だね</p><p>しげしげと壁を眺めながら感心したように吐息を漏らすリル。分厚い外套を脱ぎ捨てながら、ユニスは首を傾げた。</p><p>壁に触れればひやりとした感触はするが、それ以上の冷気を放つわけでもない。部屋の中には煌々と火が焚かれていて毛皮のコートを着ていては暑いくらいだと言うのに、溶けるような様子もない。</p><p>氷というより、不透明なガラスで出来ていると言われた方がまだ納得できそうだが、ガラスでは重みに耐えきれず粉々に砕けてしまうだろう。尋常な氷ではないことは確かであった。</p><p>まあベッドまで氷じゃなくて良かったよね</p><p>ぎしりと軋みをあげる寝台に寝転がり、ユニス。</p><p>あまり質は高くないようですが</p><p>その音に、スピナは神経質そうに眉をひそめた。</p><p>確かに、精一杯の贅を凝らしているのはわかるが、供された食事も部屋にある調度品も、Olのダンジョンのものに比べると一段どころか何段も劣るものであった。</p><p>雪と氷以外に何もない貧困の国、というザナの言葉は真実であるのだろう。</p><p>ソフィアのことが心配？</p><p>一人言葉もなくぼんやりとベッドの縁に座り込むマリーに、リルは声をかけた。</p><p>うんちょっとね</p><p>お師匠様が一緒なのですから、何も心配するような事は無いと思いますが</p><p>頷くマリーに、スピナがただ事実を告げるかのように言った。</p><p>Olとソフィアは国家間のあれこれを決めるということで、ザナと共に部屋に篭りっきりだ。</p><p>まあ心配になるのはわかるけどね。あたしたちはあたしたちで、やるべきことしないと</p><p>ユニスの言葉にコクリと頷き、マリーは準備を始めるのだった。</p><p>こんなところか</p><p>凄まじい速度で走らせていたペンを止め、Olは羊皮紙をピンと指で弾く。</p><p>そこには一刻半（約三時間）にも及ぶ会議の末に決まった取り決めが、びっしりと書かれていた。</p><p>そら、起きろ</p><p>ふぁっ！ね、寝てないよ！？</p><p>ぽんとソフィアの背中を叩くと、愛娘はびくりと身体を震わせて目をぱちぱちと瞬かせた。完全に意識を失っていたのは間違いないが、そのことをとやかく言うつもりもない。代わりにOlは手にしていた書面を彼女に渡した。</p><p>お前も一応確認しておけ。意味はわからずとも良い今のところはな</p><p>言われるがままに、ソフィアは紙面に視線を走らせる。細かな字を追っていると再びまぶたが重く垂れ下がってきたが、その度にOlがソフィアの背に回した手に力を込めて彼女の眠りを阻害した。</p><p>そら、お前もだ</p><p>その間にOlは全く同じ内容の写しをもう一部作り上げて、対面に座るザナに手渡す。</p><p>ねえ、今何も見ずに写してたけど、あんたまさかこれ全部暗記してるの？</p><p>俺が作った内容なのだ、当たり前だろう</p><p>あっさりと返すOlに、ザナは辟易とした。文面が同じというだけならともかく、改行位置や細かな筆跡まで、まるで左右反転しない鏡にでも映したかのようにソフィアが眺めているものとそっくり同じだったからだ。</p><p>まあいいけどね</p><p>ザナはちらりと羊皮紙を一瞥すると、さっさとサインを記してOlに手渡す。</p><p>もう確認できたのか？なかなかやるではないか</p><p>そんなわけないでしょ</p><p>ザナの手とOlの指先の間で渡された書類が、ピシリと凍りついた。</p><p>凍てつく氷はそのままOlの腕を一瞬にして伝っていき、その肩から胸元までを覆い尽くす。</p><p>どういうつもりだ</p><p>反射的にOlが放った魔術の光がそこで氷の侵食を食い止めたが、その時には既に彼の半身は凍りついていた。しかも、氷の侵食はなおもじわじわと進んでいく。</p><p>どういうつもりも、何も</p><p>ザナは笑った。今回国交を結ぶにあたって、彼女とOlとの魂の接続は既に切断されている。その内心を聞き取ることはもはやできなくなっていた。</p><p>何度も言ったでしょ、あたし。あんたを、殺してやるって</p><p>確かにそれは、ザナがまるで口癖のように言っていたことだった。だがOlがそれを警戒していたかと言えば、否である。</p><p>彼女は何度もそれを実行に移せる状態にいながらそうすることは一度もなかったし何より、口先や心の中でそう悪態をついたとしても、その心がOlに対する殺意にまみれる事はついぞなかったからだ。</p><p>Olであれば、本当に相手を殺すつもりなら殺すなどといちいち脅さない。告げるよりも先に実行に移すべきだからだ。</p><p>だが、とOlは完全に動かなくなった左腕を見やる。ここまでするからには、冗談というわけでもないのだろう。ソフィアは無事なのも、わざわざ書類が出来上がるのを待っていたのも、その条文を持ってソフィアのダンジョンを利用するためだ。Olさえいなければ、内容などどうにでもなる。</p><p>となれば、Olが取れる選択肢は一つしか無い。</p><p>Olが僅かに動く右腕で石の塊を投げ渡し、叫んだ。</p><p>行け！</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-2</p><p>えっ、えっ</p><p>Olの声に急き立てられるかのように、ソフィアは部屋を飛び出す。</p><p>捕らえて！</p><p>え、え、ええー！？</p><p>そこにザナの命令が飛んで、兵士たちが彼女に向かって殺到した。その胸にOlから投げ渡された石と読んでいる途中だった書類を抱きかかえ、ソフィアは四方八方から伸ばされる男たちの腕をなんとか掻い潜る。</p><p>ちょ待っ、てっ！</p><p>小さく小回りの効く身体を活かして何とか逃げ回るが、ダンジョンを離れたソフィアはただの少女でしかない。成長に伴って自分のダンジョンから離れて行動する能力は身につけたものの、神としての権能は自分の領域でしか使えなかった。</p><p>出来るならこの氷の城自体を自分のダンジョンとして掌握してしまいたいところなのだが、それも叶わない。建築物を己のものとするには、自分のダンジョンが隣接していなければならないのだ。</p><p>例えばソフィアのダンジョンから地中にトンネルを掘ってこの城の最下部と接続し、そこから占領してしまうようなことなら出来る。だがそんなトンネルの用意などなければ、最下部に辿り着くことさえできそうもなかった。</p><p>ソフィアは屈強な兵士たちに隙なく取り囲まれて、逃げ道を失う。</p><p>あっ、これ</p><p>飛びかかってくる男たちを前に、ソフィアは不意に気がついた。</p><p>彼女が呟くと同時に、兵士たちは突然吹き飛ばされ、地面を転がる。</p><p>な何が起こった！？</p><p>僅かに後方に位置していたために難を逃れた小隊長は、目の前の光景に目をむいた。地面を転がり呻き声をあげる部下たちを吹き飛ばしたのは、年端もいかないその少女であることは疑う余地もない。</p><p>だがしかし、その方法が全くわからなかった。少女は腕を振るうわけでも、何か呪文を唱えたりしたわけでもない。彼らの主、氷の女王ザナとて超高速の術の発動には極小ではあるが詠唱が伴っている。だがソフィアにはそのような兆候は全く見られなかった。</p><p>その上、どんな方法で攻撃されたかすらわからないのだ。風が巻き起こるわけでもなければ光が瞬くわけでもなく、ただ兵士たちは地面を転がっていた。</p><p>ならば、攻撃されるより早く気絶させるしかない。最短距離を最速で突き出した兵隊長の槍は、しかし目に見えない硬質な何かに遮られてソフィアの身体に届くことはない。</p><p>が、彼はその瞬間、兵士たちを打ち倒したその方法に気づく。</p><p>わかっ</p><p>叫ぼうとしたその瞬間、彼の意識は途絶えた。</p><p>ごめんなさい、あの、どいてくださーい！</p><p>兵士たちが物々しい様子で密集する廊下に、どこか場違いな少女の声が響いていた。</p><p>やめてぇー、どいてー！お願い、邪魔しないでぇー！</p><p>悲鳴のようなその言葉があがる度に兵士たちは吹き飛ばされ、地面を転がっていく。</p><p>業を煮やした兵士の一人が弓を構え、ソフィアの背後から狙い撃つ。</p><p>わあっ！？</p><p>ソフィアが悲鳴を上げたのは、その矢が彼女の遥か手前で跳ね返って、地面に転がった後のことだった。それはつまり、彼女の死角をついて認識外から攻撃しても防がれるということである。</p><p>巨人だ！</p><p>兵士の一人が叫んだ。</p><p>目に見えない巨人が、奴を守っていると思え！</p><p>ソフィアの一撃は、鍛え上げられた兵士が一撃で行動不能になってしまうほどに強く重い。風を操っているのでは、こうは行かないはずだ。無色透明の巨人などとは不条理にも程があるが、そうとわかれば手のうちようもあった。</p><p>兵士たちは僅かな目配せをして、前後左右、四方向から一斉にソフィアに襲いかかる。</p><p>そして、同時に皆吹き飛ばされた。</p><p>巨人は、二体以上いる！</p><p>その絶望的な情報は、すぐさま共有される。</p><p>下がってろ！</p><p>法衣に身を包んだ兵が前に出て、印を組みながら呪文を唱える。その手のひらからは猛烈な冷気が吹き出して、ソフィアの周囲を包み込んだ。</p><p>えっ、えっ、何！？</p><p>流れ落ちる水滴さえそのままの形で凍りつかせる冷気に包まれながらもソフィアは変わらず元気な声をあげたが、効果はあった。空気中に存在する僅かな水分が細かな氷の粒子となって、ソフィアを包み込むそれの姿を浮かび上がらせたのだ。</p><p>なんだ、これは</p><p>そしてその形容しがたい姿に、兵士たちは一様に言葉を失った。想像していたのは、盾か鎧で武装した武器を持たない巨人の姿。</p><p>だが実際に浮かび上がったのは、まるでイソギンチャクのように無数の触手を伸ばす、奇妙な怪物であった。それがソフィアをすっぽりと覆い尽くしている。これでは、どの方向からどのタイミングで攻撃しても無意味であるわけだった。</p><p>それは、Olが投げ渡した石の塊。この世で彼だけが扱える武器にして、携帯用の小型のダンジョン。ダンジョン・キューブと、その基本機能である見えざる迷宮(ラビュリントス)の姿であった。</p><p>なに、どうなってるの！？</p><p>ソフィアの叫び声とともに、触手がうねって周囲の兵士たちを弾き飛ばす。それは正確には触手ではなく、小さなダンジョンの通路だ。</p><p>己の領域たるダンジョンの外では、ソフィアは魔術も武術も使えぬ見た目通りのただの少女でしか無い。</p><p>だが、唯一の例外があった。</p><p>その所有者から許可を与えられ、貸し出されたダンジョンであれば、己のものとし意のままに操ることが出来る。ダンジョンの神であるソフィアにとっては、それこそ呼吸するかのように自然にだ。</p><p>その結果が、これであった。混乱のままに振るわれる通路はそれこそ巨人の腕のように大の男を跳ね飛ばし、剣も槍もその外壁を破壊することは出来ない。吹きかけられる冷気の術も、水気などほとんど含まぬ石造りの迷宮の前には無意味だ。</p><p>Olは極めて精微な魔術の組み合わせで、ダンジョン・キューブの形を何万通りにも変化させ、百を超える機能を持たせている。だがソフィアにかかればそれすら生ぬるい。</p><p>ソフィアはダンジョンであり、ダンジョンはすなわちソフィアである。それは彼女の意のままに形を変え、何の動作も必要なく生き物のように動く。見えざる迷宮(ラビュリントス)の通路を武器のようにふるって敵を叩きのめすことなど、Olにさえ不可能な芸当だった。</p><p>駄目だっ！引け！</p><p>打つ手なしとみたか、速やかに撤退していく兵士たちに、ソフィアはほっと胸を撫で下ろした。あの程度の武装でダンジョンの外壁が破られることはないとわかっていても、敵意を持った相手に囲まれるのはまだ幼い少女にとっては恐ろしいことだ。そしてそれを、攻撃することも。</p><p>多分、こっちだよね</p><p>一度歩いただけの記憶を頼りに、ソフィアは道を辿る。向かうはマリーたちのいる部屋だ。城の中は広い上に、マリーたちがどの部屋に案内されたのかをソフィアは知らない。別々に案内されて、直接打ち合わせの席に向かったからだ。</p><p>だが城は広いだけで、迷宮というわけではない。通路は人を迷わせるようには出来ていなかったし、部屋の配置だってごくごく素直だ。必然性と利便性に照らし合わせてみれば、マリーたちが案内された部屋の場所はおおよそ検討がついた。</p><p>ソフィアが飛び出してきた会議室は高い高い尖塔の先、言い換えるならこの城の最奥部。それに対して客を泊めるのは、入り口にほど近い客室であるはずだ。構造的にも利便的にも心理的にも、他の場所に泊める手はない。</p><p>つまり、この城の上から下までを踏破しなければならないのだ。その事実に今更ながら気づいて、ソフィアは小さく身体を震わせた。</p><p>兵士たちは引いていったが、当然あれで諦めるとは思えない。Olを完全に敵に回したのだ。なんとしてでも、ソフィアの行動を妨害してくるに違いない。それをたった一人で、切り抜けなければならないのだ。</p><p>どうしよう</p><p>しんと静まり返った氷の通路の中。</p><p>ソフィアの小さな声が、微かに響いた。</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-3</p><p>きゃー！きゃー！きゃぁぁぁぁ！</p><p>高く悲鳴をあげながら、ソフィアは廊下をひた走る。しかしその声をかき消すほどの轟音が、連続的に響いていた。</p><p>彼女の背後で白い煙を立てながら降り注いでいるのは、巨大な氷柱(つらら)だ。</p><p>破城槌の如き太さのそれが、まるで雨のように降り注いできていた。</p><p>見えざる迷宮(ラビュリントス)の防壁で防げるかどうか、試してみる気にもならない。万が一防ぎきれなければソフィアの胸はさぞ風通しが良くなってしまうだろうし、そうでなくとも大量の氷に押しつぶされて身動きが取れなくなってしまうのは目に見えている。</p><p>無論、氷柱の速度はソフィアの足で避けられるようなものではない。ダンジョンキューブで作り出した床の上に乗り、その床を支える柱を回る車輪のように組み替えることで、まるで戦車にでも乗っているかのようにソフィアは高速で移動していた。</p><p>その前方を遮るように、氷柱が降り注いで壁を作る。前と後ろとを囲まれて、ソフィアは息を飲みながら目を見開いた。咄嗟に周囲に視線を走らせる。長い廊下の前後は氷の柱に、左右は壁に囲まれて逃げ場がない。</p><p>そしてその頭上から、更なる氷柱が降り注いだ。</p><p>轟音とともに降り注いだ氷の塊は白く氷煙を上げながら砕け散り、通路を埋め尽くす。</p><p>その氷煙の中から、ソフィアは飛び出しながら胸を撫で下ろした。</p><p>ま、間に合った！</p><p>キューブの通路を細く長く伸ばして前方を塞ぐ氷柱の隙間を通し、その先に小さな部屋を作り上げて転移することでくぐり抜けたのだ。もう一瞬遅ければ、元の場所のキューブを手繰り寄せて回収するのが間に合わないところだった。</p><p>ホッとしたのも束の間、突然地面を走るキューブの床が制御を失ってガクンと傾く。</p><p>な、何！？</p><p>慌てて地面に視線を向けて、ソフィアは絶句した。美しく輝く床は、石でも木でもない。透き通った氷の塊で出来ていた。</p><p>傷一つなく平らな氷の床の上では、キューブと言えども滑ってしまってまともに動くことが出来ない。ダンジョンとは本来地中に存在するもの、言い換えれば地面という基盤があってこそのものなのだ。床から離れては扱うことが出来ない。</p><p>それまでの勢いをそのままに、曲がるべき角を過ぎ去ってソフィアの身体はキューブごと床を滑っていく。単に滑るようになっているだけではない、ほんの僅かだがそこには傾斜がつけられていて、ソフィアはどんどん加速していった。</p><p>そして、その先の光景に息を呑む。廊下は突然途切れ、その先に夜空が広がっていた。このままでは外に放り出されてしまう。それだけならまだいいが、ここは高い塔の上だ。まず無事ではすまないだろう。幾ら身体を見えざる迷宮(ラビュリントス)で包み込んでも、落下に対しては無力だ。透明な棺桶が出来上がるだけである。</p><p>何とか身体を止めようとソフィアは左右の壁へと通路を伸ばすが、それも無駄だった。壁も元々氷で出来ている。掴めるような凹凸もなく、つるりと滑って速度が緩みすらしない。</p><p>せめて先端を尖らせることが出来たら。ソフィアはそう思ったが、ダンジョンキューブは飽くまでダンジョンの縮図だ。その通路は四角四面の直方体として作ることしか出来ず、先端を尖らせることは出来ない。</p><p>せめて他に何か、尖ったものがダンジョンの中にあれば！</p><p>考える暇もなく、ソフィアは廊下の端から中空に投げ出される。咄嗟にキューブの通路を伸ばして廊下に張り付かせ、叫ぶ。</p><p>棘付き吊り天井！</p><p>それはほとんど反射に近い反応だった。侵入者を押しつぶし串刺しにする、無数の棘が生えた吊り天井。それを、床のない部屋の中に発生させてスパイクのように氷の床に突き刺したのだ。</p><p>通路を辿って何とか廊下の中に戻り、吊り天井の部屋を四つに増やして身体を固定する。こうして四点で身体を支えながら進んでいけば、氷の床の上も滑らずに進んでいけそうだった。</p><p>前を見据えたソフィアの視界が、ぐにゃりと歪む。不審に思って目をこすり、眇めてみてもそれは変わらなかった。</p><p>嘘でしょ</p><p>不意に、ソフィアはそれに気がついて声を漏らす。視界が歪んでいるのではない。</p><p>奥まで見通せるほどに澄み渡った巨大な氷の球体が、音もなくこちらに転がってきているのだ！</p><p>喚いても現実が嘘に変わってしまうわけもない。氷の珠は殆ど廊下一杯の大きさで、先程のように隙間を縫ってテレポーターでやり過ごすこともできそうにない。背後は断崖絶壁だ。吊り天井では床にしがみつくことは出来ても、壁や天井に貼り付けるほどの力はない。</p><p>ソフィアはダンジョンキューブを最大限まで広げて、廊下一面を塞ぐように壁を作り上げた。石材を高密度に圧縮して作られたキューブはその見た目よりも遥かに大きなダンジョンを展開することが出来るが、それでも限界はある。</p><p>廊下を塞ぐとなれば、煉瓦壁二枚分がせいぜいだった。そして、そんなもので押しとどめられるほど氷の玉は軽くもなければ遅くもない。</p><p>ソフィアの張った壁は氷塊にとって何の障害ともならず、一瞬たりとて留めることなく突き進み</p><p>そして、そのまま音もなく通り過ぎて、廊下の端から落ちていった。</p><p>ショートカットルート。何とか、足りた</p><p>ソフィアが張った壁は、氷塊を防ぐためのものではない。通すためのものだった。薄く張った二枚のレンガ壁の間にソフィアが収まり、一枚目の表面と二枚目の裏面を転移陣で繋ぐ。氷の球体はソフィアだけを素通りして、何の障害もなく進んでいったというわけだ。</p><p>遠く、落下した氷球が砕ける音を聞いて、ソフィアはぶるりと身体を震わせる。</p><p>た</p><p>それは寒さによるものではなくしかし、恐怖によるものでも、なく。</p><p>たのしい！</p><p>喜びに、よるものだった。</p><p>間断なく襲い掛かってくる罠の数々は容赦なく悪辣で、恐ろしいことこの上ない。</p><p>けれどその恐ろしさは、怒号をあげて襲い掛かってくる兵士たちのそれとはまるで別種のものだった。</p><p>通路を這い上がり、下り階段を降りていると突然階段が崩れだす。足元が滑らないから油断していたが、階段自体を支えていた土台が氷でできていて、それが溶け出したらしい。ソフィアは慌てて階段の踏み板同士をキューブで繋ぎ合わせ、即席の階段を作り出して落下を回避する。</p><p>尖塔を降りきって進もうとするソフィアの行く手を阻んだのは、氷の壁だ。先程転がってきた氷の玉よりも澄み渡ったその壁は全く目に見えず、ソフィアはしたたかに額をぶつけてしまった。</p><p>大広間を埋め尽くすそれは、透明な壁でできた迷宮だ。ソフィアは迷うことなくキューブを階段状に変化させると高く駆け上がり、広間の天井を破壊して屋根の上に出た。目に見えない迷宮の中で罠を仕掛けられればその回避は困難だし、そもそも即席で作られた氷の迷宮が出口まで通じているとも限らない。少なくとも、Olが迷宮を用意する側であれば絶対に出られないようにするはずだ。</p><p>屋根の上に積もった雪を掻き分けながら広間を通り抜け、明り取り用の窓から再び城の中に入り込む。するとソフィアを待ち受けていたのは、強烈な冷気だった。先程兵士たちから放たれた冷気に数倍する極低温が、彼女を襲う。</p><p>それでも普段ならば十重二十重に彼女を包み込むキューブの前には無意味だっただろうが、今の見えざる迷宮(ラビュリントス)は掻き分けた雪が大量に付着していた。</p><p>それは冷気によって待機中の水分をも巻き込んで硬く凍りつき、ダンジョンキューブの全体をすっぽりと覆い尽くしてしまう。</p><p>今のソフィアにはダンジョンを操ることだけだ。ダンジョンキューブを覆う氷を引き剥がす事も、熱して溶かすこともできなかった。</p><p>完全に動きを止められた彼女にトドメを刺しに来たのだろう。氷で出来た巨人が、のっそりと姿を現した。</p><p>アロースリット！</p><p>その太い腕がソフィアを覆うダンジョンキューブごと掴もうとしたその時、ダンジョンキューブに空いた小さな穴から無数の矢が飛び出して巨人に突き刺さる。</p><p>ええーい！</p><p>一瞬体勢を崩した巨人に向かって放たれたのは、今度は矢などという太さではなかった。破城槌の如き太さの槍のような、巨大な氷柱だ。</p><p>ソフィアにはダンジョンを操ることしか出来ない。</p><p>だが、Olから手渡されたダンジョンキューブを己のものとして扱っているように、何を己のダンジョンとするかには多少の幅がある。</p><p>ザナが支配するこの城自体を支配することは不可能だが、それがソフィアに対して放たれたものであるなら。</p><p>言い換えるなら、相(・)手(・)か(・)ら(・)手(・)渡(・)さ(・)れ(・)た(・)も(・)の(・)であれば己のダンジョンの資材に加える事も可能だった。</p><p>ダンジョンキューブを凍てつかせた氷を排除するのではなく、内に取り込むように外側にもう一重、壁を作り出せばそれもまたダンジョンの一部だ。そうなってしまえば槍のように加工して打ち出すことは難しいことではなかった。</p><p>巨大な氷柱は巨人を壁に貼り付けにして、ソフィアはその隙に先へと急いだ。何も倒してしまう必要などない。マリー達が待つ客室にさえ辿り着けばそれで勝ちだ。</p><p>Olが一番信用している片腕のリル。誰よりも強く頼りになるユニス。最も底知れないスピナ。そして、ソフィアがこの世で誰よりも大好きな母、マリー。</p><p>その四人と一緒なら、負ける気なんて全くしない。</p><p>ついにソフィアはマリーたちの待つ客室へと辿り着いて、達成感と喜びに満ちた声とともに扉を押し開いた。</p><p>残念だったわね</p><p>しかしソフィアを出迎えたのは、暖かなマリーの両腕ではなく、硬く冷たい声と。</p><p>これで、おしまいよ</p><p>凍りついた四人の母たちの姿だった。</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-4</p><p>どう、して</p><p>呆然と目を見開き、ソフィアは身体をよろめかせる。</p><p>何故、ザナがここにいるのか。そして、何故マリーたちが為す術もなく凍りつかされているのか。どちらも、彼女の理解の範疇外にあった。</p><p>この城はあたしの城なのよ。先回りするなんて容易いことだし客室ですっかり油断してたこの子達を凍りつかせるのだって</p><p>瞬きするほどの間に、ザナの手のひらから氷が迸ってソフィアの周りをぐるりと囲み、その両手足をがっちりと拘束する。それは音さえ置き去りにする、刹那の氷結だった。</p><p>どうして</p><p>ソフィアはもう一度、同じ言葉を口にする。</p><p>どうして、わたしを逃したの</p><p>だがそれは別の問いに対する疑問だった。こんなことが出来るのならば、わざわざこんな回りくどいことをしなくともソフィアを捕らえることなど簡単だったはずなのだ。</p><p>良い質問ね</p><p>ザナはにっこりと微笑んで言った。周りを安心させるような、人好きのする気さくな笑みだ。</p><p>あなたを、絶望させるためよ</p><p>だがその声色は、ぞっとするほどに低く昏い。</p><p>ここに来るまで、あなたはその小さな身体で随分頑張ったでしょう？これで助かる、Olを助けられる。そう思って、ここに辿り着いたんでしょう？</p><p>ザナはゆっくりとソフィアに歩み寄ると、彼女の柔らかな頬を優しげに撫でる。</p><p>でも、全ては無駄だった。あたしには、最善手を打つ能力がある。本気になったら、誰にも止めることなんて出来ないの</p><p>なんでこんなことするの</p><p>ソフィアはザナを見上げ、睨みつけた。</p><p>単純なことよ。Olを、この子達を返して欲しいでしょう？だったらあなた、あたしのものになりなさい</p><p>その言葉の意味は、ソフィアにもわかった。ソフィアを欲するというのは、つまりその国を欲するということだ。サハラとヤマト。ザナは二国を丸々その手中に収めようとしているのだ。</p><p>安心しなさい。悪いようにはしないわ。わざわざ金の卵を産むガチョウをしめるような愚かな真似はね。ただすこうしばかり、その豊かさをあたしたちの国にも分けてもらうだけ。そうしたら、あなたは元通り、パパやママと楽しく暮らせるの。ね？悩む必要なんてないでしょう？</p><p>諭すような穏やかな声で言うザナの言葉は、あるいは真実なのかもしれない。少なくとも、ソフィアには他に選択肢がない。ダンジョンキューブごと氷で固められてしまった現状では、逃げることも戦うことも出来ない。</p><p>いやだ！</p><p>けれどソフィアは、ザナの指に噛みつかんばかりの勢いではっきりとそう答えた。</p><p>仮にも国を預かる王としてその自覚が芽生え始めたばかりの少女は、断固としてその問いに頷くことはできなかった。</p><p>その瞬間、ザナの瞳がすっと細められる。</p><p>そう</p><p>そしてその指がソフィアの額に突きつけられて。</p><p>だったらここで永遠に凍りついて</p><p>おおおやめ、ください</p><p>その指先から氷が吹き出すその寸前。どこか舌足らずな蚊の鳴くような声が、しかしザナをはっきりと止めた。</p><p>何故、止めるの？</p><p>ザナは後ろを振り返り、気だるげにそう問う。そこに立っていたのは彼女の妹イェルダーヴだった。</p><p>オOl様、は、わ、わたしの恩人、ですその恩をあ、仇で返すような、ことは</p><p>イェルダーヴはザナの視線を受けただけでその褐色の顔を明らかに引きつらせ、しかし震えながらも言葉を綴る。</p><p>お姉様、もオ、Ol様には、た助けられ、た、はずです</p><p>恩ねえ</p><p>ザナは吐き捨てるように言い、半眼でイェルダーヴを見つめた。</p><p>ウセルマートの事なら、単に利害が一致したから協力しただけよ。恩も何もないわ。強いて言うなら、あんたのあの忌々しい首輪を取ってくれた事くらいかしらね。それにしたって、あたしの純潔を奪ったので相殺でしょ。貸し借りなしの対等。であれば、油断する方が悪い</p><p>言い訳するようにぽつりと呟き、ザナはソフィアに向き直る。</p><p>さあ、選びなさい、小魔王。僅かな不利益を取って家族を救うか、下らない意地を取って永遠に氷の中に沈むか</p><p>脅しではない。ソフィアは直感的に、それを悟った。ここで否と言うなら、ザナは本気でソフィアを凍らせるつもりだ。あまりの恐ろしさに、ソフィアの目尻に涙が浮かぶ。</p><p>氷の中に閉じ込められ、永遠の時間を過ごす。そんなのは絶対に嫌だ。誰とも喋ることも、触れ合うことも出来ず、ただただ無為に時間だけが流れていく。</p><p>そんな思いは、二度としたくない。</p><p>そう思ったからソフィアは、答えた。</p><p>ぜったい、やだ！</p><p>恐ろしいのは、それを覚悟しているからだ。逃げないと決めたからだ。逃げていいのなら、避けられるのなら、恐ろしく思う必要なんてどこにもない。ソフィアの答えは、初めから決まっていた。</p><p>そう</p><p>面白くもなさそうにザナは答え、彼女はソフィアの頭に手を翳す。そしてその手から冷気が迸り、ソフィアの全身が氷に埋め尽くされ</p><p>何のつもり？</p><p>その氷がどろりと溶けたのは、ソフィアの意識が闇に沈むよりも先、氷に覆われたほんの一瞬後のことだった。</p><p>お、お姉様が、そ、その、つもりなら</p><p>ソフィアさえもが気の毒になるほど震えながら、イェルダーヴはソフィアを背後に庇いながら手のひらに小さな炎の塊を浮かべる。</p><p>わわたしは、こちらにつきます！</p><p>別に、いいけど</p><p>ザナは呆れたように息を吐き、軽く空を払うように手を動かす。</p><p>そんな小さな炎であたしとどうやって戦うつもり？</p><p>その僅かな動作だけで、イェルダーヴが作り出していた炎は凍りつき、掻き消えてしまった。</p><p>た太陽神イガルク様、わたしにどうか力を！</p><p>イェルダーヴが叫び祈りを捧げると、彼女の周囲に無数の炎が生まれる。その凄まじい熱量はそれこそ太陽が目の前に生まれたかのようで、触れてさえいないのにソフィアを拘束する氷が溶けて緩む。</p><p>遅いわ</p><p>だが。手を動かしすらせず、ザナのその言葉がソフィアの耳に届くよりも先に、極寒の世界が炎を消し去り氷を再び凍てつかせる。</p><p>速度も、精度も、威力も、まるで話にならない。ねえ、イヴ。あたしはあんたが攫われてから、氷術を必死になって学んだの。毎日毎日、自分の放った冷気で手が擦り切れるくらいに何度もね。その間あんたは訓練どころか、自由意思さえ許されなかった。それはとても可哀想だと思うけれど</p><p>息をするような自然さで、ザナの冷気はイェルダーヴの全身を凍てつかせる。イェルダーヴは必死になって炎を放つが、そのことごとくが効果を発揮するよりも先に打ち消されてしまった。</p><p>ね。あんたはあたしに、どうやったって敵わないの。わかったら大人しくしていて</p><p>幼い子供を諭すように、ザナは言う。</p><p>わわた、わたしはお姉様に、敵いません</p><p>ぐったりと項垂れ、イェルダーヴはそれを認めた。</p><p>でも、この子は違います</p><p>炎が吹き出し、ソフィアを拘束していた氷が一瞬にして蒸発する。</p><p>ザナは手を振ってその炎をかき消したが、次から次へと吹き出してくる炎の勢いの方が強い。</p><p>お姉ちゃんのその術、すごーく早い。けど、凍らせ続けるのは無理なんでしょ</p><p>渦巻く炎を全身に纏うようにしながら、ソフィアは言った。</p><p>あんたまさか！</p><p>先程イェルダーヴが出した無数の炎は、ザナを攻撃するためのものでは無かった。姉には敵わない。そんなことはイェルダーヴ自身が誰よりも知っている。</p><p>こんな小さな子に頼るなんて、情けない限りですが</p><p>だから彼女はその力を、ソフィアに捧げたのだ。</p><p>ダンジョンの中に取り込んだ太陽神の炎は資材となって、ソフィアはそれを自在に操れる。空の彼方で延々と燃え続ける太陽の火は焚き付けも必要とせず、いくらでも分割して増やすことができた。</p><p>この子なら、お姉様にも勝てます！</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-5</p><p>苦悶の声をあげて後ろに飛び退りながら、ザナは矢継ぎ早に氷を繰り出す。刹那に生成される氷の槍は達人の突きにすら倍する速度で、ありとあらゆる方向からソフィアを狙い撃った。</p><p>ただただ疾く、多く。単純ではあるが、それゆえにかわすことも防ぐことも出来ない飽和攻撃。</p><p>しかしそれは、一切幼い魔王を傷つけることが出来なかった。</p><p>ソフィアの周囲をまるで血管のように取り囲む無数の赤い線は、見えざる迷宮(ラビュリントス)の通路に張り巡らされた太陽神の炎だ。幾重にも張られた必滅の炎が、どの方向から攻撃しようとザナの氷を瞬時に溶かし無力化してしまう。</p><p>不可視の石壁によって守られたその炎はイェルダーヴが放ったそれと違ってかき消すこともできず、ただただ暴力的な熱のみを外に向かって放つ。表面に現れた炎は消せても、迷宮の奥底に守られた火種までをも鎮火させることは不可能だった。</p><p>キューブの迷宮全体を間断なく冷やし続け、炎を保てないほどに温度を下げてしまえるのならあるいは打つ手があったかもしれない。しかしソフィアが見抜いた通り、ザナの氷術は神速の発動と構築を可能にする代償に、持続力に著しく欠けていた。</p><p>その点、ソフィアはその正反対だ。生み出す炎は迷宮の奥の種火を分割させて、長く複雑な不可視の迷宮の中を通さなければ外に放出することが出来ない。それはザナからすればあくびが出るほど遅いが、代わりに途切れるということがない。両者の能力の相性は、極めて悪いと言えた。</p><p>圧倒的な優位に立ちながらも、ソフィアは完全に攻めあぐねていた。その理由はごくごく単純なもの。</p><p>邪悪なる魔王の娘として育てられながら、素朴な感性を持ち合わせる幼い少女には、人を害し殺す覚悟をどうしても持てなかったのだ。</p><p>イェルダーヴから譲り受けた炎は全てを燃やし滅する必滅の炎。砂の王、ウセルマートが使っていたのと同種のそれは、人に触れれば魂すら残さずに焼き尽くしてしまう。手加減などできようはずもない。</p><p>故にソフィアが狙ったのは、ザナのスタミナ切れだった。あれ程の氷術を、無制限にそういつまでも放てるはずがない。それに対して、ソフィアにとってダンジョンを動かすことは呼吸に等しい。殺してしまわないように炎を出しながら、それを防ぐための氷術を誘発していればいつかは力尽きるはずだ。</p><p>そこまでよ</p><p>そんな少女の稚拙な目論見は、ザナにあっさりと看破された。</p><p>陳腐なセリフで申し訳ないけどね。こいつらの命が惜しかったら、その炎を手放しなさい</p><p>凍りついたマリーに氷の刃を突きつけて、ザナはそう言い放つ。言葉通りの、陳腐な人質。しかしソフィアに対する効果は絶大なものだった。</p><p>その手段を取られることを考えてもいなかったのか、少女はぴたりと手を止めて呆然とザナの顔と氷漬けになった母を交互に見やる。</p><p>さあ、選びなさい。こいつらを見捨ててあたしを殺すか、あたしに従って国を譲り渡すか</p><p>手のひらから生み出した氷の剣をリルの首筋にトントンと当てながら、ザナはソフィアに選択を迫る。</p><p>返ってきたのは、どこか状況にそぐわない、いささか間の抜けた声色だった。</p><p>状況をわかってないみたいね。いいわ、わからせてあげる</p><p>不愉快げに眉間にしわを寄せて、ザナは氷剣を振るった。大して力が込められているように見えないその一撃は、音も出ないほどの滑らかさでリルの首を断ち切る。氷漬けになった淫魔の首が、ごろりと地面に転がった。</p><p>あ</p><p>ソフィアは大きく目を見開き。</p><p>あはあははははは！</p><p>だしぬけに、笑い始めた。</p><p>な、何がおかしいの！？</p><p>予想だにしない反応を怪訝に思いつつも、ザナは剣をマリーに向ける。</p><p>次はこいつを殺すわよ！いいの！？</p><p>うん、いいよー</p><p>半ば叫ぶようなザナの言葉とは裏腹に、ソフィアはあっさりとそう答えると炎を放った。弾丸のように飛んだ四つの炎の塊は、マリーのみならずユニスやスピナにまで襲いかかる。その身を凍らせた氷だけを溶かすなどという、器用な事ができるような精密さは微塵もない。四人はまるごと炎に包まれた。</p><p>な、何してんの！？気でも触れたの！？</p><p>悲鳴を上げながら、ザナは慌てて冷気を放出して火を消しにかかる。それは先程まで見せていた余裕をかなぐり捨てた、あまりにも必死な姿だった。</p><p>わたしは正気だよ</p><p>そんなザナの様子を見て、ソフィアはにんまりと笑みを浮かべる。そしてその手のひらの上に炎を取り出すと、何とか消火を終えたザナに向かって、言った。</p><p>ちんぷなせりふで申し訳ないけど、ママたちの命が惜しかったら、降参して？ザナさん</p><p>ははあ！？あんた、何いってんの！？</p><p>一連の様子を見ていたイェルダーヴにとっては、わけがわからない光景だった。ついさっきまで、ザナは卑劣にも人質を取って幼子を脅していた。そのはずだ。</p><p>なのにほんの一瞬で、その立場が逆転している。幼子が卑劣にも自分の母親を人質に取って、ザナを脅しているのだ。全く意味がわからない。</p><p>だってザナさん、ママたちを殺されたら困るんでしょ？</p><p>にこやかに、ソフィアは尋ねる。</p><p>そ、そりゃ、人質をいきなり全員殺されたら困るわよ！けどあたしが殺せないとでも思ってるっていうんなら、もう一人</p><p>リルママは悪魔だから、首を刎ねたくらいじゃ滅びない。死んでも魔界に戻るだけで、また呼び出せばいいだけだもんね</p><p>氷の剣を振りかざして言うザナの言葉を遮って、ソフィアはそう言った。</p><p>スピナママはスライムだから、心臓を潰したって死なない。ユニスママは英霊だから、肉体を壊したって召喚できる</p><p>その刃の行く手を遮るかのように、幼き魔王は冷静に言葉を紡ぐ。</p><p>ママはマリーママは正真正銘人間だから普通に死んじゃうだろうけど、その切れ味の良さそうな鋭い氷で綺麗に首を刎ねるんなら、パパは簡単に蘇生できるしまず失敗しないかな</p><p>あたしの脅しがハッタリだと、そういいたいわけ？</p><p>唸るようなザナの言葉に、ソフィアは素直にこくりと頷いた。</p><p>後悔、するんじゃないわよ！</p><p>ザナの両手に、まるでウニのように無数の氷棘が生まれた。それでぐちゃぐちゃにすり潰されれば、確かに蘇生は難しいかもしれない。</p><p>だがそれをザナが振り下ろすよりも早く、マリーの身体は燃えていた。</p><p>ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！！</p><p>ザナの口から、その美貌に似合わぬ品のない悲鳴が飛び出す。</p><p>何してんの！？何してんの！？</p><p>燃やしただけだよ</p><p>ザナは慌てて冷気を放ち炎を消し止めたが、既にマリーの身体の半分ほどは燃え尽きてしまっていた。</p><p>あんたの使ってる火はただの炎じゃないのよ！？全てを滅ぼす原初の炎、核熱の火！そんなもので燃やせば魂ごと灰になって、蘇生も輪廻もかなわない！子供が冗談で使っていいものじゃないの！</p><p>半狂乱になりながら、ザナは叫ぶ。その目尻にはじんわりと涙が浮かびさえしていた。</p><p>うん、わかってるよ</p><p>取り乱す氷の女王とは対照的に、ソフィアは落ち着き払った態度で彼女へと歩み寄る。</p><p>ザナさん、そもそもわたしに勝つ気なんてないんでしょ</p><p>その周囲からは炎の防護も消えて、無防備に近づくソフィアはいつでも殺せる状態だ。しかしザナは氷を放とうとはせず、ただ恐れるように後退った。</p><p>まあ、その辺にしておけ</p><p>出し抜けに響いた声に、ソフィアは後ろを振り向いて喜色を浮かべる。</p><p>なあ、あんた、なんで！？</p><p>そこに立っていたOlの姿に、ザナは目を見開いて叫んだ。</p><p>あれ？パパとザナさん、グルじゃなかったの？</p><p>ザナに本気で戦う意志がなかった以上、Olが無事なのは不思議ではない。しかしそれに対して驚くのは不思議で、ソフィアは問うた。</p><p>ああ。そもそもマリーを燃やした時の反応を見ていればわかるだろう？</p><p>あ、そっか</p><p>ああの、どういう、ことなのでしょうか？</p><p>一人完全に事態の推移から取り残されて、イェルダーヴはおずおずと尋ねた。</p><p>何、簡単なことだ。今回の件は、全て狂言、茶番に過ぎん。全ては</p><p>Olはイェルダーヴを一瞥し、ついでうなだれるザナへと視線を向ける。</p><p>俺への反乱を企てて失敗し、失脚。王位を含めて全てをイェルダーヴに譲り渡す。そんなところだろう？</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-6</p><p>なん、で</p><p>絞り出すように、ザナは声を上げた。</p><p>なんであんたが、自由になってるの</p><p>そりゃ、こうなることを予測してたからよ</p><p>ひっ！？</p><p>突然床に転がるリルの首が喋りだして、ザナは悲鳴をあげながら尻もちをつく。</p><p>下らん悪戯はよせ</p><p>言葉の割にはさほど咎める色のない声でOlは言い、その首を拾い上げて背後へ放る。彼の影からしなやかな腕がにゅっと突き出したかと思えば、己の首を受け止めながらリルが姿を現した。</p><p>まさか偽物！？</p><p>せいかーい。結構良い出来だったでしょ？</p><p>氷漬けにされていたのは、リルが魔力で作り出した分身だ。サキュバスである彼女は見た目だけならどんな姿にも変身できる。ユニスやスピナ、マリーといった見慣れた面々であれば、その細かな癖までをも模倣することなど朝飯前だった。</p><p>一応ヒントは出しといたんだけどね。ソフィアは気づいたんでしょ？</p><p>気づいた時思わず笑っちゃったよ。リルのだけ、あからさますぎるんだもん</p><p>マリーのつけている腕輪の意匠がいつもと違う。</p><p>椅子に座るスピナの指に、いつもつけている指輪がない。</p><p>本を読んでいるユニスの利き手が本来と逆になっている。</p><p>一つ一つなら気分で変えることもあるかと思う程度のことだが、揃えばそれは明確なサインであった。極めつけは、リルの角がいつもと反対の方向に伸びていたことだ。最初に気づいたのはスピナの指輪で、マリー、ユニスと違和感を見つけ、リルの違いを見つけようとしたところで、ソフィアはそれに気づいた。</p><p>なぜ自分もザナもそんな大きな違いに気が付かなかったのか。そう思うと緊迫した場面であったにも関わらず笑いを堪えられなかった。</p><p>で、でも！あたしの氷は、ただの氷じゃない！月の女神の加護を受けた氷なのよ！？Olは間違いなく、何の手加減もなしに凍らせた！ただの炎じゃ絶対に溶けないはず！</p><p>つまりただの炎じゃなきゃいいんでしょ？</p><p>片目だけを赤く光らせて、真紅に染まった髪をかきあげマリーが言う。</p><p>戻りませ、炎髪の姫ヨハネ・アーク</p><p>魔界の炎さえも燃やし尽くす英霊の炎。軽々とザナの氷だけを消し溶かしてみせたその力を天門に還すと、マリーの瞳と髪の色が元に戻った。</p><p>そもそもなんで、こんなものを準備する時間なんて与えなかったはず！</p><p>ザナがOlに敵対の意志を見せてから、完全に凍りつかせるまではほんの数秒だった。リルと念話出来ることだって知っていたから、打ち合わせは結界を張った部屋で行い、それは機能していたはずだ。</p><p>何も知らず客室に残っていたリルたちが、ザナに対処できるはずがない。ましてやこれほどの精度の分け身を作るのは、いくらサキュバスだって一瞬というわけにはいかないはずだ。</p><p>事前にこうなるってわかってたの？</p><p>いいや。流石にここまで大胆な事をしでかすとは思わなかった</p><p>ソフィアの問いに、Olは首を横に振る。</p><p>じゃあなんで</p><p>予想はしていませんでした。しかしそれは、備えをしない理由にはなりません</p><p>困惑するソフィアに、スピナが言う。</p><p>お師匠様は私たちを置いて行かれた。ならば私たちはお師匠様に何かあった時の備えをするのは、当然のことです</p><p>当たり前のように言ってのける彼女に、ザナは絶句した。</p><p>じゃあ、何？</p><p>震える声で、ザナは尋ねる。</p><p>あんたたち、あたしがOlに何かするなんて思ってもいないのに、わざわざこんな偽物を作り上げて寒い外で待ってたってこと？</p><p>城の中にいれば、その存在にザナが気づかぬ訳がない。だとするなら、そういうことなのだ。</p><p>そうだよ。まあ、前にも似たような事は何回かあったしね</p><p>Ol自身の最大の欠点は、本人に戦闘能力が乏しいことだ。ダンジョンキューブを得てある程度は自分で戦えるようになったものの、ユニスのような強者に比べてしまえばどうしても何段かは劣る。</p><p>常に護衛につければいいが、今回のように友好を示す場ではつけたくともつけられないこともある。それに、いつでもOlの元へと転移する能力を持ったユニスならば、かえって離れている方が都合がいい場合も多い。</p><p>何もなくとも有事の備えをしておくのはもはや習慣と化していた。</p><p>お姉様なぜ、このようなことを？</p><p>イェルダーヴの問いに、しかしザナは答えない。</p><p>本気でOlに対し反旗を翻したのならば、まだわかる。利益にしろ動機にしろ、そうするだけの理由は揃っていた。</p><p>しかし、そうしなかったのは明らかだった。本気でOlたちを滅ぼすつもりであれば人質に対して必要以上に危害を加えることを恐れる意味はないし、そもそもザナは月の女神マリナの権能、最善手の力を使っていない。使っていれば、ソフィアを相手に遅れを取ることなどなかったはずだ。</p><p>さてなおそらくはソフィアに討たれるつもりだったのだろうが、お前の目論見通りにはいかなかったことは確かだ</p><p>正確には、最善手の力を使わなかったのではなく、使えなかったのだろう、とOlは思う。最善とはザナにとっての最善ではなく、女神マリナの思う最善だ。つまり、ザナがやろうとしていたことは、彼女の保護者が賛同しない内容であったということでもある。</p><p>それでも。あんたはあたしをただで済ませたりはしないでしょう？お優しい魔王さま。一応言っておくけど、本気じゃなかったからって放免するつもりなら、またあたしは同じようなことをやるわよ。それも、今度はもっと徹底的に</p><p>ザナはOlを見上げ、暗い声でそういった。安い挑発ではあるが、かと言って応じないわけにもいかない。そういう意味ではザナもまた、目的を達してはいるということか。</p><p>無論だ。狂言だろうとなんだろうと、俺は俺に楯突くものに容赦はせん。ひとまずお前には</p><p>まったく、とOlは内心でため息をつく。</p><p>奴隷にでも堕ちてもらおうか</p><p>面倒な奴だ、と思いながら、Olはそう告げた。</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-7</p><p>殺風景な部屋だ</p><p>Olは端的に、そう感想を述べた。氷の城の最奥、尖塔の頂上、女王の部屋。そこは女の部屋とは思えぬほど、簡素な一室であった。装飾も何もないシンプルなベッドが置いてある他には、殆ど調度品と呼べるものもない。</p><p>せいぜいが衣類をしまうための木箱だけで、それにしたって色気も素っ気もない、ただの木箱であった。実用性を重んじ過度な装飾を嫌うOlでさえ、自室はもう少し彩りというものがある。</p><p>まあ良い。とりあえず、脱げ</p><p>Olがそう命じると、ザナは無言で服を脱ぎ捨てた。眩いほどの白い肌が露わになり、一糸まとわぬ美しい肢体がOlの眼前に晒される。だが生ける芸術品のような調和の取れたその美しさを、首につけられた太い首輪が台無しにしている。</p><p>やはり趣味が悪い、とOlは心中で独りごちた。</p><p>Olがベッドに腰掛けて己自身を取り出すと、ザナは命ぜられるままに彼の前に跪き、肉塊を口の中に含んだ。柔らかく垂れ下がっていたそれは、ザナの口内でみるみるうちに硬く大きく膨れ上がっていく。</p><p>ザナの喉から、小さく音が漏れた。それは声というよりは、圧迫された喉が出したただの反射に近いものだったが</p><p>ん、んん、んんんんっ！っお、大きくしすぎでしょ、馬鹿じゃないの！？</p><p>なおも体積を増していく肉の塊にとうとう耐えきれず、ザナは口を離して叫んだ。</p><p>奴隷が口答えするな。さっさと続けろ</p><p>奴隷だっていうならなんで魂を封じないのよ！</p><p>ザナの首につけられているのは、ウセルマートの使っていた服従の首輪だ。だがそれからは既に、魂を封じ無条件に言うことをきかせる機能は削り取られていた。</p><p>下らん。俺は人形遊びになど興味はない。興味があるのは、意思を持った生身の女だけだ</p><p>答えながらOlはザナの頭を掴んで、その顔にいきり勃つ男根を押し付ける。</p><p>反抗する女を屈服させモノにしてこそ、意味があるのだ</p><p>随分高尚な趣味ですこと</p><p>吐き捨てるように言って、ザナは再び口を開いてOlのペニスを頬張った。</p><p>下手くそだな、お前</p><p>悪かったわね、こんなことするのは初めてなのよ！</p><p>そのあまりの要領の悪さに思わず呟くと、ザナは再び唇を離して怒鳴る。そう言えば何度か交わりはしたが、口でさせるのは初めてだったか、とOlは思い直した。</p><p>ならばやり方を教えてやる。まずは闇雲に咥えるのではなく、手でしっかりと握れ。唇だけでイカせようなどとは十年早い。手で扱きながら、舌と口は補助的に使うのだ</p><p>ザナは不満げな表情をしながらも、存外素直に従ってOlの逸物を両手で握りしめる。ひんやりとした柔らかな手のひらが熱い肉塊に添えられるのは、それだけで気持ちが良い。</p><p>舌を出し、根元の方から先端までを舐めあげてみろ。手の動きは止めるなよ</p><p>言われた通り、ザナはゆるゆるとOlの肉槍を手で扱き立てながら、舌を伸ばして根本から先端まで這わせていく。</p><p>うむ次は、雁首。その、段になっている辺りをぐるりと舐めろ</p><p>ザナの舌が肉塊のくびれをなぞり、その動きに従って彼女の紫水晶のような美しい髪がさらりと揺れる。Olは半ば無意識にそれを撫でながら、更に指示を飛ばした。</p><p>いいぞ次は先端を咥えながら、同じようにしてみろ。ああ悪くない</p><p>はむ、と亀頭を口に含んで、ザナの舌が口内でレロレロと雁首を刺激する。慣れていないだけで、物覚えは悪くないらしい。ザナはあっという間にコツを掴んで、にんまりと笑みを浮かべた。</p><p>ここが、いいんだ？</p><p>むっ</p><p>裏筋をちゅうと吸うザナに、Olは思わず声を漏らす。</p><p>音、立てるのもいいの？んっこう？</p><p>ザナはわざとじゅぽじゅぽと下品な音を立てながら、逸物を口から出し入れする。見るからに品よく整った彼女が、大きく口をあけてグロテスクな肉塊を舐めしゃぶるその様は、言いようのないギャップがあった。</p><p>口で、先を吸いながら手で、強く扱け</p><p>僅かに余裕を無くしたOlの言葉に、ザナは言われた通りに手に力を込める。</p><p>んっ、ん、んっ、ふ、ん、んんっ</p><p>小さく息を漏らしながら扱き立てるザナの手つきに、Olの腰からぞくぞくと射精感がこみ上げてくる。</p><p>Olはそれに逆らうことなく、両手でザナの頭を掴みながら宣言した。</p><p>んぶっ！</p><p>手を、止めるな！</p><p>口内に流し込まれる白濁の液に止まりかけたザナの手が、Olの命令によって再び動き出す。二度、三度と断続的に精を注ぎ込まれながら、ザナはそれを更に搾り取るように手で扱いた。</p><p>ぐっ、うくは、ぁ</p><p>Olが精液を吐き出しきって荒く息を吐いたあともザナは止まることなく彼の肉槍を扱き続け、尿道の中の子種を吸い出すようにちゅうちゅうと吸う。</p><p>それも最後の一滴まで吸い出したあと、彼女は肉棒に吸い付いたまま、終わった？とでも聞きたげにOlを上目遣いで見つめた。</p><p>ああ。もう離していいぞ</p><p>Olがそう告げると、ザナは唇で肉槍を撫ぜるように慎重に口を外しながら、口内に溜まった精液をごくりと飲み干す。</p><p>まっずい</p><p>そして盛大に顔をしかめながら、舌を出して悪態をついた。</p><p>なにこれ、凄くまずい。生臭くてしょっぱくて喉に絡むし。水、水</p><p>そして慌てたように水差しから水を取ると、口を濯いで吐き出したあと、新しい水をニ、三杯流し込んだ。</p><p>別に飲み込まずとも、吐き出しても良いんだが</p><p>は？そういうことは先に言いなさいよ！飲んじゃったじゃないの！</p><p>Olが言うと、ザナは眉を吊り上げて怒鳴った。</p><p>まあ俺としてはその方が嬉しいがな。そら、次はお前の番だ。ベッドに座って、脚を開け</p><p>何か言いたげなザナの表情を無視して、Olは顎をしゃくってベッドを示す。</p><p>これ、なんか間抜けっぽいんだけど</p><p>気にするな。誰が見ているわけでもない</p><p>文句を言いながらも言われた通り脚を開くザナの秘所に、Olは指を這わせた。</p><p>濡れてないな</p><p>何もしてないんだから、濡れるわきゃないでしょ</p><p>すぐに、俺のものをしゃぶっているだけで濡れるようになる</p><p>なるわけないで、しょっ。変態じゃない、そんなの</p><p>ゆっくりとほぐすように愛撫するOlの指先に身体を反応させながらも、ザナは吐き捨てる。</p><p>なるさ。お前はもう俺の奴隷なんだ。そうなるまでじっくり俺のモノを味わわせ、馴染ませてやる</p><p>変態</p><p>精一杯怒ったような声色は、しかし消え入りそうに小さい。</p><p>この程度で変態と呼ばれては、これからどうなることか見ものだな</p><p>Olは意地の悪い声で言うと、ザナの秘部へと口をつけた。</p><p>えっ、ちょっ待って！だ、駄目ぇっ、そんな、とこ、汚い、ってばぁ！</p><p>待たぬ</p><p>頭を押さえつける腕の力など、男にしてみればないも同然だ。ザナの抵抗を無視してOlは舌先を彼女の膣口の中に侵入させ、平でスリットを下から上へとなぞり、陰核を唇で軽く吸う。</p><p>駄、目だっ、てぇっ</p><p>その度にザナは身体を震わせ敏感に反応するが、拒否を示す腕の力はまるで抜ける様子がなかった。</p><p>何が駄目なのだ。お前も俺のものを舐めただろうに</p><p>だってあたしはもうあんたの、奴隷、なんでしょ</p><p>潤みを帯び始めた声色で、ザナは答える。</p><p>しろと言われたらなんでも、するわよ。でも、こんなのはされるのは、奴隷の立場なんかじゃ、ない</p><p>やはり、そこか。Olは内心で呟きながら、更にザナの意識を蕩かしにかかった。愛液が分泌されぬめりを帯びた膣内に、指がするりと入り込む。知り合って大して間もなく、肌を重ねたのもただの二度きり。</p><p>しかし、肉体よりも深く魂で繋がり合っていた女の身体を、Olはザナ本人よりもよく知り尽くしていた。</p><p>中に入れた指をくにりと曲げて膣壁を押さえれば、ザナの口から本人も聞いたことのないような高い声が漏れ出る。</p><p>そっこぉ！あぁっ！駄目ぇっ！</p><p>Olの指がもたらす快楽は、まるで痒くて痒くてたまらぬ場所を掻いてもらうかのよう。どれだけ抑えようとしても喘ぎ声が喉を突いて出る。ザナは大きく開いた両脚の間を責められて、顔を真っ赤に紅潮させながら両手で口を塞いだ。</p><p>責めて、甚振って欲しいのか？</p><p>ちゅぷちゅぷといやらしい音を立ててねばつく体液をこね回すようにザナの膣内を愛撫しながら、Olは低く囁く。</p><p>ぐっううっ！</p><p>己の手で口を押さえ呻くザナ。しかしそのほんの僅かな反応の違いを、魔王は違わず察し受け止める。</p><p>お前は咎められ、罰せられることを望んでいるのだろう</p><p>Olは彼女の秘所から唇を離すと、その腹に、臍に、胸元に口づけを落としながら、ゆっくりと彼女を腕の中に抱き寄せる。</p><p>話してみろ。この部屋には俺しかいないし、音が漏れるような作りでも無かろう</p><p>堪えきれぬ程の快楽を与える手つきから、優しく身体を昂ぶらせるだけのものへ。愛撫の質を変えながら、Olはそう命じた。</p><p>あんたを信用しろって、言うの？</p><p>疑うような、惑うようなザナの視線。</p><p>まさか</p><p>それを受けながら、Olは肩を竦めた。</p><p>俺は奴隷に命令しているだけだ。しろと言われれば何でもすると言っただろう？</p><p>悪びれる様子もなくそう言ってのける彼に、ザナの肩から力が抜けた。</p><p>あんたって、本当にろくでもない男ね</p><p>仮にも魔王だからな</p><p>悪態にもどこ吹く風で答える彼に、ザナはため息を一つつく。</p><p>あたしは本当なら、この国に要らない存在だったのよ</p><p>そして、ぽつりぽつりと語り始めた。</p><p>どこまでいっても白い雪に覆われた、小さく貧しい氷の国。この国に唯一恵みを齎すのが、太陽の力をその身に宿す姫巫女。その才能を持つがゆえに、あたしたちの一族は王として敬われていた</p><p>それは、Olの知るそれとはまた違った政治形態だった。政でも知でも力でもなく、個人の能を持って国を治める。小国だからこそ出来ることではあろうが、そんな国もあるのかとOlは感心した。</p><p>けどあたしには、その才能がまったくなかった。どれだけ学び努力しても、太陽神イガルクはあたしに対してその力を貸すことはなかった。あたしには王となる資格なんて、そもそもないの</p><p>それはよくあることなのか？</p><p>Olの問いに、ザナは首を横に振る。</p><p>いいえ調べたけれど、歴史上他にはいなかったわ。かといって、父が不義をなしたわけでもない。あたしのこの目と髪は、お母様に瓜二つだったから</p><p>神の力とやらは、女にしか宿らんのか？</p><p>ええ。巫女と言ったでしょう？巫女になれるのは女だけ。だからこの国の王は、代々女王よ</p><p>ザナの話を聞いて、Olはふむと己の顎を撫でる。しかし何かを言うことなく、続きを促した。</p><p>そしてあたしと違ってイヴには妹には、きちんと陽の巫女の才があった。この国の救いとなるその力をあたしは</p><p>唇を噛み締めて。</p><p>失わせて、しまった</p><p>ザナは血を吐くような思いで、そう吐露した。</p><p>あたしがあいつウセルマートをこの国に招いたせいで、ヒムロから太陽は失われた上に偽王が支配することになったのよ。その資格を持たない、偽物の王が。あたしは簒奪者なの</p><p>Olの手は、既に止まっていた。ザナは彼の腕に抱かれながら視線をシーツに落とし、消え入りそうな声で続ける。</p><p>だからあたしがイヴに王位を譲るのは、当然のことなの。あの子こそが、正当な女王なんだから</p><p>違うな</p><p>だがその言葉を、Olはスパリと切り捨てた。</p><p>それが本当であるなら、わざわざ芝居を打つ必要もない。単に王位を譲り渡せば良いだけだ。だがお前にはそうせず、わざわざあんな手段を取る理由があった</p><p>ザナが身を固くして、Olを振り向く。やめてと小さく声がその唇から漏れたが、構わずOlは続けた。</p><p>お前は、妹が妬ましいのだろう。己が欲する全てを持つ妹が。妬ましくて羨ましくてそう思う自分を許せぬから、滅ぼそうとした。愚かなことだ</p><p>あんたに、あたしの何がわかるっていうの！</p><p>ザナの瞳が怒りに燃え、Olを刺し貫く。しかし魔王は動じた様子もなく、答えた。</p><p>わかるさ。欲するものを手にできず、愛するものを裏切り、同時に裏切られ。自棄になって愚かなことをするのにもまあ、覚えはある</p><p>どこか苦々しげなOlの言葉に、ザナは突然、それを思い出した。それは二度目にOlと寝た時。起きてすぐに忘れてしまっていたが、彼女の奥底にしまい込まれていた記憶。</p><p>あの時はまだ、魂で繋がり合っていたからだろう。ウセルマートに裏切られ、その復讐に生きたザナの過去をOlが夢で見ていたように、ザナもまた、彼の半生を覗いていた。</p><p>最愛の師に裏切られると同時に裏切り、自暴自棄になり、そして力を求めてダンジョンを作り上げるまでの一生。それは彼にとってはもう半世紀以上も前の古い記憶だったが、その傷は風化することなくザナの胸に転写されていた。</p><p>無意識に、その記憶を封じてしまうほどに。</p><p>だが一つだけ、俺とお前には重大な差異がある</p><p>Olが指をパチンと鳴らすと、部屋の扉が開く。</p><p>お前にはまだ、取り返しがつく、ということだ</p><p>褐色の肌と、ザナによく似た顔立ちを持つ少女。</p><p>イェルダーヴの姿が、そこにあった。</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-8</p><p>イヴ！？なんで、あんたが！</p><p>Olが事前に確認していた通り、この部屋の防音性は完璧だ。例え扉に耳をピタリと当てても、中の声など聞こえないように出来ている。</p><p>太陽神イガルクのもたらす全知の権能を持ってすれば盗聴も出来るだろうが、ザナとてそれの対となる月の女神マリナの力を持っている。防ぐことこそ出来ずとも、覗き見られればそれを察知する事くらいは出来るはずだった。</p><p>Olが、とぼけた口調でしゃあしゃあと言ってのける。</p><p>その首輪には、魂を封じる機能を削除したかわりに、別の機能を持たせてある</p><p>慌ててザナはイェルダーヴの首元へと視線を向ける。そこにもまた、同じ首輪が嵌まっていた。</p><p>怒りよりも先に、絶望と恐怖がザナの心を支配する。</p><p>全て、知られてしまった。過去を見るのはウセルマートの使う太陽神アトムの権能。心のうちと過去とは、イェルダーヴは見ることが出来ない。</p><p>イェルダーヴがウセルマートに捕らえられたのが、ザナのせいであること。</p><p>そしてザナがイェルダーヴの事を妬み羨んでいること。</p><p>ひた隠しにしてきたその両方を、知られてしまったのだ。</p><p>おやめ下さい！</p><p>反射的に喉元へと伸ばされたザナの手を、イェルダーヴが飛びつくようにして押さえ付けた。</p><p>ななんで</p><p>ザナは驚きに、一瞬動きを止める。刹那のうちに放たれる彼女の術は、動きを見てから飛びついて間に合うようなものではない。イェルダーヴは今、ザナより先に動き出していた。</p><p>伝わって、くるのです</p><p>イェルダーヴは己の首輪にそっと触れ、慣れない舌を懸命に動かしながら言う。</p><p>お姉さまの、心の声が</p><p>まさかこれが？</p><p>遅まきながら、ザナは気づいた。首輪は単に彼女の声をイェルダーヴへ伝えるものではない。その頭のうちで考えたことまでをも伝えてしまっている。ちょうど、Olとその魂を繋げた時のように。</p><p>装着したものの魂を抜き取り閉じ込める。悪趣味な魔導具だが、その有用性は認めてやらんでもない。こうして一部のみを取り出せば、その考えを読み取ることも出来る</p><p>魂そのものを繋いでしまえば、互いの思考を隠すことは不可能だ。しかし一部だけを取り出しそれを読み取るならば、これは容易い。元々外部へ声として出すように設計した首輪の追加機能を、別の首輪の装着者やOl自身へ念話として伝えるようにすればいいだけだからだ。</p><p>魂を生きたまま取り出したり、それを肉体以外の場所に安定させるというのは存外難易度が高い。Olのような優れた術者が自分に対して行うのであればともかく、首輪をつけるだけで有無を言わさず成し遂げるというのは中々の技術だ。それだけは認めてやってもいい、とOlは思った。</p><p>片方だけというのも不公平な話だ。お前も妹の想いを聞いてやるがいい</p><p>言って、Olは魔力を乗せた指先でイェルダーヴの首輪をついとなでる。今まで制限されていた機能が開放されて、彼女の心の内がザナの頭の中に一気に流れ込んできた。</p><p>そこにはザナを責めたり恨んだりする気持ちは一切なく。ただ彼女を心配し、慮る気持ちだけが、幾万の言葉よりも雄弁にザナの心へと入り込んできた。</p><p>どうしてあんたは</p><p>ずっと、見ておりましたもの</p><p>ザナの頬を伝う雫を指先で拭いながら、イェルダーヴは目を伏せる。</p><p>わたしには、ただただ見ていることしか出来ませんでした。お姉様の爪が剥がれ、その血が凍りついて指を覆い尽くすまで氷術の訓練をするさまも。国中を駆け回り、民の生活を支え守るさまも。わたしを助けるために、その清き身さえ捧げるさまも</p><p>違う、と、ザナは首をゆるゆると振った。</p><p>違う違うのそんな、立派なものじゃない。あたしはただ、復讐のため。下らない、自分の自尊心を、守るためだけに</p><p>言葉に出さずともザナの心のうちはイェルダーヴへと伝わって、妹の心はまるで鏡のようにそれを映して氷の女王へと戻り伝わる。</p><p>いいえ、お姉様。おわかりに、なられるでしょう？</p><p>イェルダーヴはザナの手を握って、彼女の目を見つめ。</p><p>確かにあなたの心には、暗い翳りがあったのかも知れません。けれど民を、わたしを思う心もまた、嘘ではない。それは、確かにここに、あるのです</p><p>ザナの眼もまた、イェルダーヴの潤む瞳を捉えた。</p><p>お前は理想が高すぎるのだ</p><p>その頭をぽんと撫で、呆れ混じりのしかし、優しげな声色でOlは告げる。</p><p>常に間違わず、私心を持たず、最善で最良の王などいるものか。いたとすればそれは人間ではない。もっとおぞましいなにかだ</p><p>ででも、あたし、は</p><p>見せてやれ</p><p>逡巡するように視線を彷徨わせるザナを見て、Olはイェルダーヴに顎をしゃくる。</p><p>太陽神イガルクよ我に、彼方の果てを知らせ給え</p><p>小さく呟き、祈るイェルダーヴの脳裏に遥か彼方の光景がうつる。それは心の像を通して、ザナの視界に広がった。</p><p>今日も女王陛下の恵みに感謝を</p><p>あんた、そんな悪戯ばっかりしてたら、ザナ様みたいな立派なレディになれないよ！</p><p>我らが女王陛下に乾杯！</p><p>それは。小さな国のあちらこちらで人々の口に上る、ザナへの感謝や畏敬の念だった。</p><p>誰に強制されたわけでもなければ、誰に聞かせるものでもない。自然と言葉にするほどに、それはヒムロの国民に根付いてる。</p><p>小さな小さな、吹けば飛ぶような国。だからこそ、皆、知っております。お姉様がこの国を守るために、どれほどの犠牲を払ってきたのか。どれほどの力を尽くしてきたのか。どれほどの愛を、注いできたのか</p><p>そっとイェルダーヴはザナの身体を抱きしめて。</p><p>この国の王に相応しいのは、お姉様、あなたです。わたしだけではなく、皆が口を揃えて、そう言うでしょう</p><p>嗚咽が、部屋の中に静かに響いた。</p><p>四半刻近くも泣き続け、ザナがようやく落ち着いてきたところでOlはおもむろに声を上げた。</p><p>ザナよ。お前の主として命ずる。これからも王として、ヒムロを治めよ</p><p>ザナは小さく、しかしはっきりと頷く。Olは満足気に頷き返し立ち上がると、ふと周りを見回した。</p><p>それと次に来るときまでには、この部屋をもう少し何とかしておけ。こんな殺風景な部屋では、雰囲気も何もあったものではない</p><p>Olもそれほど雰囲気など気にする方ではないが、それにしたって程がある。ザナの部屋に比べれば監獄の方がまだ人間味があるだろう。</p><p>いい置き立ち去ろうとする彼の腕を、イェルダーヴがぐいと引っ張った。</p><p>何だ？</p><p>あのお、お約束、を</p><p>怪訝そうに振り返れば、先程まで姉を説得していた様子とは打って変わって、イェルダーヴはオドオドとした様子で蚊の鳴くような声を上げる。</p><p>約束？</p><p>わ、わたわたしを、抱いて頂ける、と</p><p>ああそれのことか</p><p>Olはちらりとザナを一瞥し、首を振る。</p><p>また今度にしろ。今は流石にそんな気になれん</p><p>踵を返そうとするOlの身体は、次の瞬間にはベッドの上へと押し倒されていた。</p><p>何をする</p><p>腕を引いてそうしたのは、イェルダーヴではない。ザナだ。正確には、ザナも、と言うべきだろうか。非力な女の力といえど、姉妹二人に同時に引かれればOlとて倒れもする。</p><p>人の体を散々弄ってその気にさせといて、そのまま放置するっていうのも酷いんじゃない？</p><p>放置、と言ってもだな。あれからどれだけ経ったと思っている</p><p>まともに話したところでこの用心深い女が本音を吐露などするはずもなく、かと言って酒に酔わせればまともな言葉も出てこない。故に快楽に酔わせたまでの話でしかない。そもそも肉体的な昂ぶりなど泣いている間にとうに過ぎ去っているはずだ。</p><p>何よ。こんな美人二人が相手してあげるって言ってるのに、まさか役に立たないなんてことは無いわよね、マスター？</p><p>なんだその呼称は。などと思っている間に、ザナはOlの上に伸し掛かる。イェルダーヴが入ってきたときにかけてやった外套がはだけて、彼女の真っ白な肌が露わになった。</p><p>それともわ、わたし達に、魅力、足らないですか？</p><p>それどころかイェルダーヴまでもが服を脱ぎ落とし、その豊満な褐色の肌を晒しながら不安げに問いかける。</p><p>待て。お前を抱けば太陽神とやらの力は失われるという話だっただろう。それがこの国に必要だとか言ってなかったか？</p><p>さっきイヴにこの国の姿を見せて貰って、わかったのよ</p><p>二人を押し留めながら問うOlに、ザナは答える。</p><p>国を治めるのに、そんなものはなくても、なんとでも、なります</p><p>それはまあ、そうだろうが</p><p>姉の言葉を引き継いで答えるイェルダーヴに、Olは頷いた。王の才覚というのならばともかく、先天的に備えた原理不明の力に頼って国を治めるというのは、Olとしても不合理なものに思えていたのは確かなことだ。</p><p>とはいえ使えるものは使えたほうがいいのではないか、とも思ったが。</p><p>それにね</p><p>ザナは生真面目な表情で眉根を寄せて、小さく首を傾げる。</p><p>正直無くせるなら無くした方が有り難いのよ。あれば頼ってしまうし、そうなればイヴがサハラの国で使われてた時と同じことだしそれに。やっぱり妬んじゃうからね、あたし</p><p>それは放った本人にすら意外なほどに、軽い口調だった。</p><p>今までひた隠しにしてきた己の醜さ、愚かさを知ってなお、態度を変えぬ魔王であったから。</p><p>さ、これで納得した？マスター</p><p>Olが反論の手を失ったところで、ザナは彼にしなだれかかる。反論などせずとも、形ばかりのものとはいえ今のザナは奴隷なのだからただそう命じてしまえばいいものなのに、Olはそうしない。</p><p>後悔は、するなよ</p><p>どこか呆れたように深く息を吐きながら、そう言うだけだ。</p><p>まあそんな魔王だからこそ、こうなったんだろう。</p><p>ザナはそう思いながら、彼にその身を委ねた。</p><p>第14話臆病者を焚き付けましょう-9</p><p>ぴちゃぴちゃと、微かな水音が部屋の中に響く。</p><p>まるで子猫がミルクを舐めるようなそれは、ザナとイェルダーヴ、二人の姉妹がOlの男根を挟み込むようにして舌で奉仕する音だった。</p><p>純白と褐色、似ても似つかぬ色の肌を持ちながら、その顔立ちそのものはまるで鑑写しのようにそっくりだ。</p><p>いかが、ですか？</p><p>ああ悪くない</p><p>不安げに問うイェルダーヴに、Olは二人の髪を撫でながら答える。正直に言ってしまえば、拙い口淫だ。二人で顔を寄せ合いながらの口淫奉仕は、どうしても舌と唇との動きがメインとなってしまい、難易度が高い。</p><p>自ら男に触れるのが初めてのイェルダーヴはもとより、先程コツを掴んだザナにしても二人での行為となると勝手が違って上手く出来てはいない。</p><p>だが、正反対でありながらそっくりな姿を持つ二人の美姫が姉妹揃って傅きグロテスクな器官に舌を這わせるその様は、技巧を補ってあまりある興奮をOlに与えていた。</p><p>正直に言ってよ。あんまり、良くないんでしょ</p><p>だがザナは目聡くOlの反応を感じ取って、拗ねたように唇を尖らせる。</p><p>そんな事はないが</p><p>うそ。さっきの方が気持ちよさそうだったもの</p><p>舌を伸ばして根本から舐めあげ、雁首を舌先でなぞり、裏筋をちゅうと吸う。Olから教わった技巧は、手で強く竿を扱き立てながらだからこそ意味のあるもので、舌先だけでどれだけ頑張ってもOlは先程のようには反応しない。</p><p>二人で奉仕するなら手指は邪魔になり、かと言ってイェルダーヴを排除するという選択肢も今のザナにはなく。</p><p>どうしたらいいか、さっきみたいに教えて？どんなことでもしてあげるから。ね、マスター</p><p>わたし、にも教えて下さい、えっとご主人、様</p><p>素直にそう頼めば、妹までもがそれに追随した。</p><p>何だその、ご主人様というのは</p><p>だ駄目、ですか？</p><p>思わず問えば、イェルダーヴは震えながら涙目でOlを見上げる。</p><p>好きにしろ</p><p>侮辱するようなものでないなら、呼び名などどうでもいい。Olがそう思って答えると、イェルダーヴはまるでかけがえのない宝物でも貰ったかのように、ぱあっと表情を輝かせた。いつも恐れ不安げな表情をしている彼女のそんな顔を見るのは初めてで、そんな顔も出来るのではないか、とOlは思う。</p><p>で？どうしたらいいの？マスター</p><p>すると焦れたように、ザナがぎゅっとOlのものを握りしめて再び問うた。</p><p>Olは少し考えて、視線を下に向ける。</p><p>胸を使ってみろ</p><p>あ゛ぁ゛！？</p><p>言った途端、ザナは柳眉を逆立て手に力を込めた。</p><p>待て。どうせなのだから、その辺りのコンプレックスも解消しておけ</p><p>女の力で握りしめたところでどうこうなるものでもないのだが、その手のひらにうっすらと冷気が漂ってきているとなれば話は別だ。己の分身が氷の棘に刺し貫かれる前に、Olは口早にそう言った。</p><p>そんなこと言ったって</p><p>ギリ、と噛み締めたザナの唇から血が滴る。太陽神の力などよりこっちの方をよほど妬んでいないか？と言う素直な感想を、Olは何とか飲み込んだ。</p><p>とはいえザナのその気持ちもわからないではない。よく似た顔立ちに同じ色の髪、同じ色の瞳。肌の色は単に育った環境の違いでしかないだろう。背丈と纏う雰囲気こそ異なるものの、双子とさえ間違いかねないはずの彼女たちを分かつ絶対的な差。</p><p>それが、胸の大きさだ。</p><p>両の手のひらに収まりきらぬほどにたわわに実った豊満なイェルダーヴのそれに対し、ザナの胸元はほんの僅かに膨らみがあるかどうか。悲しいほどに平坦であった。</p><p>そら、挟んでみろ</p><p>Olは有無を言わさぬ口調で、二人の背中をぐいと押す。反り立つ肉の塊が、白と黒の柔らかな肉に左右から押しつぶされた。</p><p>うぅ</p><p>その圧倒的な戦力差に、ザナは顔を思いっきりしかめる。ザナの胸にあたってぐにゃりと歪む膨大な質量は、彼女を落ち込ませるのに十分な破壊力を持っていた。</p><p>あのご主人様、どうしたら、いいでしょうか？</p><p>その深い谷間にOlの逸物を収めながら、イェルダーヴ。Olの太く長い肉槍はその乳房ですら覆い尽くすことは出来ず端がはみ出してはいるものの、それでも大部分を包み込んでいる。それに比べてザナの胸元ときたら、まるで壁のようにその切っ先を押し当てられているだけだ。</p><p>手で押さえて擦り上げてみろ</p><p>言われるがままに、イェルダーヴは己の乳房を両手で支えながら上下に揺らし始めた。柔らかな肉に挟まれしごかれる男根は、女のザナですら気持ちよさそうだと感じるものだった。ザナは挟むどころか、手で支えるほどの大きさもない己が乳房を呪った。</p><p>ザナ。もう少し、身体を上に上げてみろ</p><p>だから急にそう声をかけられて、彼女は目を瞬かせる。</p><p>こ、こう？</p><p>ああ。そうだ、そのくらいでちょうどいい</p><p>イェルダーヴと胸の高さを合わせるために屈めていた腰を浮かせると、Olは満足げに頷く。そしてぐんと突き上げられた肉槍の先端が、抉るようにザナの乳首を貫いた。</p><p>びりりと走る突然の快楽に、思わずザナは高く声をあげる。</p><p>うむ。やはりお前の胸は、具合がいいな</p><p>何、を、馬鹿なことんぅっ！</p><p>二度、三度と、Olのペニスの先端がザナの胸に擦り付けられる。</p><p>馬鹿なものか。わかるだろうが</p><p>ピンと硬く尖ったザナの乳首に、大きくエラの張った雁首の段差を擦り上げるように肉棒が押し付けられる。火傷しそうなほどに熱く火照ったその肉塊の先端からは先走りの汁が滴ってザナの胸元を汚し、ぬるぬるとした跡を残していく。それは明らかにザナに対して興奮しているのだと、伝わってくる熱をもって彼女は理解した。</p><p>舌だ、とザナは気づいた。</p><p>竿を包み扱き上げるイェルダーヴの乳房が口奉仕の際の手と同じ役割を果たしているとするなら、ザナのそれは舌と同じ役目を持っている。</p><p>薄いが柔らかな膨らみは舌の腹のようなもの。そこで男根を根本から撫で擦るようにして、その憤りを受け止める。胸の先端の蕾は舌先のように硬く尖っていて、雁首や裏筋、鈴口といった性感帯を刺激する。</p><p>なるほど、確かにこれは大きな胸では出来ない繊細な奉仕だ。</p><p>ザナはすぐにそう心得て、胸を反らして剛直に押し付ける。</p><p>く、うっ</p><p>イェルダーヴのたっぷりとした乳房とザナの胸とに挟まれて、Olは小さく快楽の声を漏らす。彼の奴隷となった女はその声を敏感に聞き取って、微かな笑みを浮かべた。</p><p>漏れ出た先走りの汁が肉茎を伝って二人の女の胸元を濡らし、にちゃにちゃと淫猥な音を立てながら柔らかな肉の間を、硬く猛る剛直が暴力的に犯していく。思わず腰を揺らして突き出せば、彼女らは抗議の声をあげるどころかその動きに合わせて胸を押し付け、その肉体を差し出した。</p><p>イくぞっ！</p><p>Olが宣言すると、ザナは咄嗟に首を伸ばし、彼の肉槍の先端をぱくりと口に咥え込む。快楽の奔流は白濁の迸りとなって、勢いよくザナの口内へと注ぎ込まれる。</p><p>ん、むやっぱり、まずい</p><p>だから別に飲まんで良いと言っただろう</p><p>それをごくりごくりと飲み下し、顔を顰めるザナにOlは呆れて眉根を寄せる。</p><p>飲んだ方が嬉しいとも言ったじゃない</p><p>ぽつりと呟くようなザナの小さな声を聞き損ね、Olは問い返した。</p><p>ご主人、様</p><p>だが彼女が答えるよりも早く、今までずっと黙っていたイェルダーヴが声を上げた。</p><p>ご主人様、わたしにもお情けを、頂けませんか？</p><p>そう急くな。物事には順番というものがある。まずは姉の方からだ</p><p>瞳を潤ませ懇願するイェルダーヴにそう告げると、Olはザナの身体をベッドの上へと組み敷いて、彼女の膣口に硬く反り立ったままのペニスを押し当てる。</p><p>えっとマスター？イヴの方からしてもいいのよ？</p><p>いや、まずはお前からでなくてはならん</p><p>姉としての矜持か、それとも経験を持つがゆえの余裕か。そう提案するザナにOlは首を横に振り、既に潤みを帯びた彼女の中へと侵入する。</p><p>んっふ、あぁっ</p><p>あっ！んあぁっ！</p><p>嬌声は、二つ同時に鳴り響いた。</p><p>どうだ。良いだろう？</p><p>は、いっ</p><p>イェルダーヴの肩を抱き寄せながら問えば、彼女は快楽に身体を震わせてコクコクと頷く。今なお首輪によって魂を繋がれた二人は、その感覚が共有されているのだ。ザナを犯せば、その快感はイェルダーヴにも伝わる。</p><p>ん、うぅっ！</p><p>あぁんっ！</p><p>押し殺した呻くようなザナの声と、高く響くイェルダーヴの声。姉妹の鳴き声が、部屋の中に反響する。</p><p>Olはザナの膣内に腰を埋めながら、イェルダーヴの唇を奪い、その乳房をそっと撫でる。</p><p>途端、ザナが悲鳴のような声をあげた。二人が共有しているのは触覚や視覚のような五感ではなく、その心に感じた事柄、快楽そのものだ。イェルダーヴから流れ込んでくる多幸感と快感には、堪えが効かなかった。</p><p>マスターっ！そこ、だめぇっ！ぐりぐりしちゃ、やぁんっ！</p><p>そして一旦決壊してしまえば、もう我慢など効かない。己の弱い部分を的確に抉ってくる硬い肉槍に喘ぐザナの声色は、自分でも驚くほどに甘く。</p><p>ごしゅじん、さまぁっ！あ、あ、あ、あ、あぁっ！</p><p>三度目にして既に開発されきった雌の快楽を処女の身で流し込まれたイェルダーヴは、あっさりと気をやってしまった。</p><p>ちょ、だ、だめぇっ、こんな、のぉっ、凄すぎるよぉっ！</p><p>そしてそのイェルダーヴの絶頂に、ザナもまた一気に高みまで引っ張り上げられる。きゅうと収縮し逸物を強く締め付けてくる彼女の膣内に、Olは容赦なく射精した。白濁の液をその子宮の奥へと注ぎ込みながら、上半身ではイェルダーヴの胸を鷲掴みにしながら深く舌を絡めあっている。</p><p>だがそれを怒るような余裕は、今のザナには存在しなかった。射精しながらもOlは腰を彼女に打ち付けるようにして更なる快楽を刻みつけてきていたし、イェルダーヴから伝わってくる満たされた愛慕の念は、あるいは自分が口付けられて感じるそれよりも強烈なものだったからだ。</p><p>ごしゅじん、さ、まぁ</p><p>そしてそれはイェルダーヴの方も同様だった。今まで想像もしたことのないような凄まじい快楽が彼女を襲い、その脚の間からとめどなく分泌された愛液が滴り落ちて、小さな池を作り出すほど。</p><p>ああ。交代だ</p><p>Olは一旦ザナの膣内から男根を引き抜くと、イェルダーヴを押し倒して彼女の中に突き入れる。濡れに濡れたそこは、愛撫どころか遠慮すら不要だった。純潔を示す膜を破った感触だけが僅かにあっただけで、するりと奥まで男を飲み込む。</p><p>直後、ザナが熱に浮かされたような表情でOlの首に腕を回し、唇に吸い付いてきた。唇をこじ開けるようにして舌が入り込んできて、それに応じれば顔の角度を変えながら、より深くより密接に交わろうと口づけを何度もかわす。</p><p>彼女の身体がその称号の通りに氷で出来ていたなら、溶けてしまうのではないかと思うほどの熱烈なキスだった。</p><p>ふあぁっ！</p><p>激しく唾液を交換しながら手を彼女の後ろに回し、秘所へと指を滑り込ませる。するとくぐもった声と高い声、二つの嬌声が響いた。</p><p>んっ、あっ、あっ、あっ、あぁっ、あああっ、ああああっ！</p><p>太い指でざらりとした膣壁を撫でてやれば、ザナは口づけも忘れて身体をビクビクと震わせ、Olにしがみつく。</p><p>ふあぁぁんっ！あ、ああっ、ああんっ！あ、あ、あ、あ、あ、あ！</p><p>それにもまして嬌声をあげるのは、イェルダーヴだ。己の中心を貫く男根が齎す快楽に加え、姉の魂が伝えてくる、膣壁を指でかかれる快楽。本来ならば並び立つはずのない二種類の快楽は、つい先程まで男を知らなかった娘を容易に果てへと連れ去っていった。</p><p>そこっ、だ、めぇっ！気持ち、良すぎる、よぉっ！</p><p>そしてそれは再びザナへと伝わり、否が応でもその興奮を絶頂へと至らしめる。</p><p>イくぞっ！</p><p>きゅっと収縮する膣の動きに合わせて、Olはそう宣言し。</p><p>だめ、だめ、だめ、だめっ、イっ！ちゃ、うっ！</p><p>ああ、あああ、ああああ、あああああああああああああっ！</p><p>三人は同時に絶頂に達して、Olはイェルダーヴの膣内深くに、白濁の液を注ぎ込んだ。</p><p>お姉様、ずるいです</p><p>Olの右腕に頭を預けながら、イェルダーヴはそういった。</p><p>ずるいって、何が？</p><p>その反対側で、Olの左腕を枕にしながらザナは問い返す。</p><p>わたしはご主人様の精を一度しか注いで頂いてませんが、お姉様は二回も注いで頂いてます。不公平だと思います</p><p>二度って、一度は口で飲んだだけじゃないの</p><p>二人の手はOlの股間へと伸び、ゆるゆると扱かれていた。愛撫と言うよりは、半ば無意識的なものなのだろう。Olも二人の胸を揉みしだいているので、その辺りは文句は言えないが。</p><p>ですから、わたしも口で受け止めたいと思います</p><p>出来るの？あれ結構難しいけど</p><p>人を挟んで喧嘩するんじゃない。Olはそう怒鳴りたいのを、ぐっと我慢した。</p><p>互いに遠慮しあって言葉もかわせない今までに比べれば、よほどマシだと思ったからだ。</p><p>第15話不滅の勇者を斃しましょう-1</p><p>ヤマトの国、ソフィアの迷宮、その中核となるサクヤの火山。</p><p>無事とは言い難いかも知れないがヒムロとの同盟を取り付けて戻ったOlを、火山の主、サクヤはふんわりと微笑んで出迎えた。</p><p>そちらの方は、故郷にお戻りになったのでは？</p><p>だがすぐに、その表情は凍りつく。Olの腕に縋り付くように、イェルダーヴが付き従っていたからだ。</p><p>うむそのはずだったのだがな</p><p>わたしはご主人様の奴隷ですから、ご主人様の元にいるのが当然です</p><p>自由な身体が馴染んできたのか、それとも姉と和解して自信を得たからか。きっぱりとした口調で、イェルダーヴはそう主張した。</p><p>ずっとこの調子なのよ、この子</p><p>うんざりと、リルが肩を竦めて見せる。</p><p>ご主人様呼びはわたしだけのものだったのに！</p><p>どこに対抗意識を燃やしているんだお前は</p><p>大体、リルがOlのことをそう呼ぶのは機嫌がいい時か皮肉っぽく言うだけで、普段は呼び捨てである。敬意も何もあったものではない。</p><p>しかし仮にも王妹殿下なのでしょう？国にいなくて良いのですか？</p><p>まあ良いと言えば良い。一応、こいつは人質代わりなのだそうだ</p><p>同盟を保証し、盤石にするための人質。政治に明るいわけでもなく、純潔を失ったことにより太陽神の加護もなくした。だがしかし、高貴な血筋ではある。人質としての役割は確かに誰よりも適任だ。</p><p>Olにもソフィアにもザナにも、互いを裏切る気もなければ理由もないという事を除けば、だが。</p><p>最初はザナ自身が人質になる、などといい出したのだが、流石にそれはOlにも彼女の部下たちにも止められた。</p><p>旦那様。お召し物をお預かりしますわ。お手を広げてくださいまし</p><p>子供ではないのだから、脱ぎ着くらいは自分でできるが</p><p>いえいえ、させてくださいまし</p><p>サクヤはOlの背後に回ると、彼の着込んだコートを如才なく脱がし、畳んでいく。</p><p>寒い雪国から、ソフィアの通路を使って一気に火山の中へとやってきたのだ。人の居住する区域は適温に保っているとは言え、毛皮のコートを着込んだままではあまりに暑い。</p><p>ご主人様、わたしも着替えて参りますね</p><p>ああ。部屋は前のものをそのまま使え</p><p>ありがとうございます</p><p>イェルダーヴの姿を見送って、サクヤはくいとOlの袖を引く。</p><p>旦那様。サクヤは土産話が聞きとうございます。何せ燃えたぎる火山住まいなものですから、雪と氷の国に足を踏み入れる機会があるはずもなく。興味がございますわ</p><p>まあ構わんが</p><p>ソフィアの活躍を見守った上でザナとイェルダーヴの相手までして、多少疲れた。軽食でも取りつつ土産話をするのも悪くはあるまい、とOlは安易に頷いた。</p><p>結論から言って、サクヤの言葉は大嘘であった。</p><p>土産話などそこそこに、火山の女神は暑くなってきましたねなどと臆面もなく言い放ってその厚い衣を脱ぎ捨てて、そのたっぷりとした胸元を見せつけるかのように襟元を仰ぐ。</p><p>真正直に見聞きしてきたものの話をしていたOlも、流石にそこまでされれば彼女の意図に気づく。そう言えばここ一月、二月は服従の首輪の解析作業をしていたり、ソフィアのサハラ運営に付き合ったり、ヒムロを訪問したりしていて、サクヤの相手をしてやれていなかった。</p><p>サクヤは強引な展開を殊更に好む。Olは突然立ち上がって有無を言わさずサクヤをベッドの上に組み敷くと、半ば無理矢理に抱いてやった。</p><p>コンコン、と律儀に扉がノックされたのは、ちょうど一戦を終えてサクヤがOlの物を舐め清めているときのことだった。</p><p>誰だ？</p><p>イェルダーヴ、です。旦那様にお伝えしたいことがありまして、参りました</p><p>Olとサクヤは顔を見合わせる。イェルダーヴの声から判断するに、色事のために訪れた、というわけでもなさそうだ。</p><p>サクヤは一旦喉の奥までOlの肉槍を飲み込むと、唇で撫でるようにしながら吸い上げて、最後に先端に口づけを一つ落とす。</p><p>続きは、今宵に</p><p>そしてそういい置くと脱ぎ捨てた衣を拾い上げ、彼女の姿は炎の塊となって掻き消えた。</p><p>入れ</p><p>その甘い残り香すらも掻き消えたことを確認し、Olは衣服を正してそう声をかける。</p><p>扉を開けたイェルダーヴの姿は帰郷した時のドレスではなく、ウセルマートに着せられたというあの扇情的な装いに戻っていた。</p><p>その服、気に入っているのか？</p><p>そういうわけでは、ありませんが</p><p>恥ずかしげに腕で身体を隠すイェルダーヴの姿は、かえっていやらしい。</p><p>名前もそうだ。お前の本当の名はイヴというのだろう。何故まだイェルダーヴと名乗る？</p><p>それについては、単に物心ついた頃からそう呼ばれていたので、本名の方は慣れないだけです</p><p>ザナの話によれば、イェルダーヴが拐われたのは彼女が六つのときだったという。マリーがOlのダンジョンにやってきたのと殆ど変わらない年齢だ。そんな頃からそう呼ばれていたのなら、無理もないかと納得する。</p><p>だが、その服は何故だ？</p><p>それ、は</p><p>イェルダーヴは恥ずかしげに、Olをちらりと見つめた。</p><p>お嫌い、ですか？</p><p>なるほど</p><p>そう言われ、Olは無遠慮にイェルダーヴの肢体へと視線を走らせた。羞恥に煽られイェルダーヴはぎゅっと身を固めるが、抱かれたその腕に歪められた大きな乳房はかえってその存在感を強調される。</p><p>ただ胸元に垂らされただけの布からは胸の下半分が丸見えで、その先端が硬く尖っていることまでがはっきりと形に現れてしまっている。下半身を覆う布は股の部分を僅かに隠すだけで、下着よりも面積が小さい。その上、紐が脚に食い込んで、そのむっちりとした肉感を殊更に強調していた。</p><p>面積としてはリルもそう大差はないのだが、彼女はその服装を恥じらうということがない為、あまりいやらしく見えない。淫魔として致命的な部分だ。だがイェルダーヴは明らかに恥辱を滲ませつつ、その衣装を着ている。</p><p>Olは思う。この服をデザインしたものは、よほどの馬鹿に違いない。違いないが、</p><p>いや。悪くない</p><p>完璧な仕事ではある。そう納得し、Olは頷いた。</p><p>で、そんな話をしに来たわけではあるまい</p><p>ほっと安堵の息を吐くイェルダーヴに問うと、彼女はどこかおっとりとした顔立ちを彼女なりに引き締めた。</p><p>はい。ご主人様は、ホスセリという名前の、狼の力を宿した方を探してらっしゃいますね？</p><p>居場所を知っているのか！？</p><p>突如立ち上がって勢い込むOlに、イェルダーヴは驚きつつもこくこくと頷いた。</p><p>はい。力を失う前に、視ておきましたので</p><p>となると、数日前の情報か</p><p>そんな事なら、純潔を奪う前に聞いておけば良かった。ちらりとそんな考えがOlの脳裏をよぎる。そして、彼は深く息を吸い、吐いた。</p><p>よく、教えてくれた。助かる</p><p>Olは彼女の力を利用しないと誓っていたし、そのつもりもなかった。それでも頼りたくなってしまうほどに、全知の力というのは強力だ。一度でも頼ってしまえば、それを手放すことなどできなくなってしまう。イェルダーヴがわざわざこうして事後に話しに来たのも、それを理解してるからだろう。</p><p>それで、奴はどこにいた？</p><p>ヤエガキと呼ばれる、サハラとヤマトの間の大山脈。あれを下り、こちらへと向かっているところでした</p><p>イェルダーヴの告げた場所に、Olは妙な表情で首を捻る。そんなに近くにいるとは思ってなかったのだ。</p><p>サハラからそこまで辿り着くには、あの大砂漠を超えた上で険しいヤエガキを登らなければならない。Olたちはソフィアの作り出した地下通路を辿ればいいだけだが、その助けもなしにたった一人で踏破するにはあまりに厳しい環境だ。</p><p>それに、時期も気になる。ウセルマートを討ち、ホスセリの行方が知れなくなってからもう数ヶ月が経っている。過酷な道のりと言えど、距離自体はそう何月もかかるようなものではない。</p><p>というより、そんなに時間をかければ先に食料が尽きる。砂漠も山脈も、間には店どころか食べることの出来る獣も木の実も殆ど無い不毛の地なのだから。</p><p>ならばホスセリは数ヶ月をどこか別の場所で過ごしたあと、今頃になってヤマトへ戻ってきたということになる。何故、と考えて、Olは一つの予想に行き当たった。</p><p>ホスセリがOlを裏切りウセルマートについたのは、恐らくその山犬の呪いを解いて人間に戻るためだ。イェルダーヴの全知の力によってその方法を知り、それを成し遂げて今帰ってきた。そう考えれば、辻褄は合う。</p><p>裏切ってまで手に入れた全知の力が今こうやってOlの元にいるというのは皮肉でしかないが。</p><p>そういえば今更だが、お前のその全知はイガルクとかいう太陽神によるものと言っていたな。砂の王はアトムだとか呼んでいたが、それは単に言語の違いなのか？</p><p>いいえイガルクとアトムはそれぞれ別の神。しかし、どちらも同じ太陽神です</p><p>矛盾するイェルダーヴの答えに、Olは首を傾げる。</p><p>何だそれは。山だの海だのならまだわかるが、太陽などというものは一つきりだろう。どうして幾つもいる？</p><p>わたしの奉ずる神イガルクは、中天に座す純白の太陽の神。ゆえにこの世の全てを見渡すことが出来ます。それに対しウセルマートが扱う神アトムは、赤き夕日の神。終わりを司るかの神は、過去を見通す力を持っています</p><p>なるほど二つ揃えてようやくの全知か</p><p>はい、とイェルダーヴは頷いた。</p><p>結局の所太陽が一つきりしかないのだから奇妙であることには変わりない気はするが、とりあえずOlは納得する。</p><p>過去と現在。加えて未来も見れるのならば真の全知だろうが、と思ったところで、Olはそれが出来るものがいることを思い出した。</p><p>あなた様！あなた様、帰ってきておられるか！？</p><p>噂をすれば、というわけでもないだろうが、扉が激しく叩かれる。</p><p>何事だ、テナ</p><p>扉を叩いていたのは天狐を操る巫女。未来を見、予知をなす女。Olが若返らせた老婆、テナであった。</p><p>先見があった。今すぐ逃げるんじゃ、あなた様！</p><p>テナはOlに縋り付くようにしてそう訴える。彼女がOlをあなた様などと呼ぶのは、二人きりの睦言の時のみ。せいぜいが、孫娘であるユツの前でだけだ。それをイェルダーヴがいる前で呼んでしまうというのは、よほど動転しているのだろう。</p><p>何事だ？今度は何を見た</p><p>といっても、彼女の予知は割と外れる。それを見た結果行動を起こせば未来は簡単に変化し、どのように変化するかまでは正確に見通すことが出来ないという欠点があるからだ。それを知っているOlは、落ち着き払って尋ねた。</p><p>死じゃ！あなた様が、死んでしまう！</p><p>何故これほどまでに怯えているのか。訝しむOlに、テナはほとんど叫ぶように言った。</p><p>どうあっても逃れられぬ、避けられぬ！業火に焼かれ、魂までも消えてしまう！ただ一つ、この地を捨て、逃げぬ限りは！</p><p>それほどまでの相手か。言ってみろ、俺は何に殺される？</p><p>予知で見た未来は変えられる。それは、他ならぬテナが誰よりも知っているはずだ。にもかかわらず断言するテナに、流石にOlも居住まいを正して問いかける。</p><p>あの、娘じゃ</p><p>テナは震える声で、言った。</p><p>ホスセリ。奴が、あなた様を殺す</p><p>第15話不滅の勇者を斃しましょう-2</p><p>ホスセリが、だと？</p><p>確かに、彼女はOlを裏切りはした。しかしそれは彼女の呪いを解くためのやむない判断であって、Ol自身に叛意を持っていたわけではない。むしろその逆だ。</p><p>Olに愛されたいがため、その醜い山犬の姿を消そうと考えたはずだ。ローガンからも、ホスセリがマリーを陰から守っていたらしき情報を聞いている。ウセルマートが死んだ今、彼女がOlを害する理由は一つもない。</p><p>だがしかし、イェルダーヴによればホスセリは今こちらに向かっているとも言う。それは奇妙な符合であった。</p><p>俺はいつ、どこで、どのように死ぬ？</p><p>不可解な点はまだ幾つかある。それは、そもそもホスセリがどうやってOlを殺すのか、という話だ。彼女は強い。強いが、それは飽くまで人としての強さだ。あの巨大な狼の姿にしたって、ミオの操る魔獣より強いかどうか。ユニスやスピナ、ホデリといった脅威をくぐり抜けてOlを殺せるとはとても思わなかった。</p><p>わからぬ、のじゃ</p><p>テナは力なく、ふるふると首を振る。</p><p>儂の予見は知っての通り、いくらでも変えられる。そして、変えた結果を知ることは出来ぬ</p><p>うむ、とOlは頷く。それは今まで散々見知ってきたことだ。</p><p>これは正確には、どう変わるかわからぬということなのじゃ。どう変わったか、なら、わかる</p><p>どういうことだ？その二つはどう違う？</p><p>例えば今、儂は半刻後に一つ数字を口にすると決めたとしよう。そしてそれを予見で見て、儂が言っていた数字を一つ増やして言う。初めに予見した時に儂が一といっておれば、半刻後に儂は二と言う</p><p>Olはハッとして目を見開く。テナが言わんとしていることがわかったのだ。</p><p>再び予見を使えば、二と言っている儂の姿が見えるじゃろう。その半刻後、儂は三という。予見を使って三と言っている儂を見れば、四じゃ。わかるな？</p><p>つまり、予見を使った時点で未来がずれ、その予見が役立たずになると言うことだな。変えた結果を知ることが出来ないとはそういうことか</p><p>Olの直截な言葉に、テナはぐっと呻いた。</p><p>や、役立たずとは限らんじゃろ。儂が何度予見を使おうと絶対に起こることはあるし、例えばあなた様の迷路を抜けるようなこととて出来る</p><p>今度はOlが呻く番だった。確かにそのような予知であるなら、迷宮の道を歩む全ての未来を見通すことが出来る。ダンジョンを通り抜ける可能性が僅かでもあれば、それを潜り抜けられるということだ。</p><p>わかったぞ。つまり、こういうことだな？</p><p>テナが何をいいたいのか理解し、Olは言った。</p><p>予見を行う度に、違う時、違う場所、違う方法で、俺は殺される</p><p>そういう、ことじゃ</p><p>項垂れ、テナは力なく頷いた。</p><p>じゃが唯一の例外がある。あなた様がこの地を離れ、元いた大陸に戻れば、その身が滅ぶことはない。こればかりは何があろうと絶対じゃ</p><p>なるほど、とOlは頷く。</p><p>じゃから手遅れにならぬうちに、早く</p><p>まあ、そう焦るな。死ぬと言っても今日明日というわけではないのだろう？</p><p>Olの問いに、テナはゆるゆると首を横に振った。</p><p>わからぬ。あなた様の言う通り、儂の予見はした時点で無効になる。その次の予見では、明日死ぬかも知れぬ。それを確認して大丈夫でも、その次の予見で今日死ぬかも知れぬ。どれほど見ようと、儂は結局何が起こるのか正確に知ることは出来ぬのじゃ</p><p>背を丸め床を見つめるテナ。Olはしばし黙考した後、唐突に扉を開け放って叫んだ。</p><p>なーに、パパ？</p><p>壁の一部がパカリと開き、そこからソフィアが顔を覗かせる。彼女は今日もピラミッドでアトラクションの商売をしているはずだったが、ダンジョンの中ならどこでも彼女の領域だ。遠く離れたここヤマトの地でもそれは変わりなかった。</p><p>ホスセリを覚えているな？ダンジョンの中にいないかどうか確認してくれ</p><p>うん、わかった！</p><p>Olを討つなら、どうしたってダンジョンの中に入る必要がある。であるならば、ソフィアなら絶対に見つけられるはずだ。</p><p>いた</p><p>目を閉じ集中していたソフィアが、パチリと目を開く。それと同時に壁面に丸く別の光景が映った。鬱蒼と生い茂った木々の立ち並ぶそこは、森のダンジョンの中だろう。</p><p>ホスセリか？</p><p>そこを歩いているのは、Olの知るホスセリとはずいぶん印象の違う姿であった。</p><p>オレンジだった髪は銀に染まり、身を包んでいた赤装束は見慣れぬ異国の武具にとって変わり、扱っていた短刀や投げナイフのかわりに長剣を振るっている。</p><p>忍びの者を自称し、その身軽さと身体の柔らかさを生かして隠れ潜み奇襲を好んでいた彼女が、真っ向から剣を振るって小鬼たちを殺していた。</p><p>無論小鬼如き、奇襲などかけずとも彼女の腕なら殺すのは簡単だろうが、それにしても様子がおかしい。そもそも、なぜ小鬼を殺しているのかわからない。</p><p>確かに妙だな。ソフィア、サクヤとホデリに繋いでくれ</p><p>はあい</p><p>ソフィアが腕を振り上げると、彼女が顔を出した窓の左右にスパンと二つ扉が開く。そしてOlの眼の前に現れたのは、床に座り背筋をピンと伸ばしてコメと呼ばれる穀物を頬張っているホデリと、着替えている途中だったのか脚に通した下着以外は一糸まとわぬ姿のサクヤで。</p><p>中身くらいはしっかり確認してから開けろ。</p><p>響き渡る火山の女神の悲鳴に耳を塞ぎながら、Olはそう思うのだった。</p><p>間違いなく、あれは我が愚妹、ホスセリです</p><p>サクヤが落ち着き着替えるのを待っている間、ホデリはソフィアの浮かべた光景を見つめてそう断言した。</p><p>装束には見覚えがありませぬがあの銀の髪。あれはそもそも、地の色です</p><p>ふむそう言えば、巨大な狼に変身した時も毛並みは銀だったな</p><p>ピラミッドで見た姿を思い出して言えば、ホデリは深く頷いた。</p><p>あれが毛を染めていたのは、赤装束と同じく火山の色に溶け込むため。そして、呪いの象徴たるあの銀色を厭うたが故でしょう</p><p>魔物を殺しているのは何故か分かるか？</p><p>ホスセリは小鬼だけでなく、出会う生き物全てを斬り殺しながら進んでいる。</p><p>わかりませぬ。ですが、あれは恐らく正気ではござりませぬな。そういう意味ではあれはホスセリではないのでしょう</p><p>弱すぎます</p><p>ホデリは短く、切って捨てる。</p><p>どこも至らぬ愚妹なれど、流石にあれほど愚鈍ではありませぬ。積んだ修練をどこぞに置き忘れてきたのでもなければ、あれの中身は別物なのでございましょう</p><p>悪しざまにいいつつも、そこには確かに妹に対する信頼があるように思えた。</p><p>あの衣装。見たことがございますわ</p><p>いつの間に着替えを済ませたのか。サクヤはその豪奢な着物の気配をまるで感じさせぬ軽やかさで、Olの背後から映像を覗き込みそういった。</p><p>サハラを超えて更に東。風の路(みち)を作り出す高原の国。風路(フウロ)と呼ばれていた今はもうなき国の民が着ていた服によく似ております</p><p>流石は年の功だな</p><p>女の齢を口にするものではございませんわ、旦那様</p><p>思わずOlが口にすると、サクヤはぷうと頬を膨らませて彼の脇腹をつねった。あのメリザンドよりも長生きだと言うのに、まだそんな事を気にするものなのだな、とOlは思う。</p><p>いずれにせよあの愚妹を捕らえて参ります</p><p>殺すの殺されるのという話はなしだぞ</p><p>片刃の剣を手に立ち上がるホデリに、Olは念を押した。</p><p>御意。ソフィア様、道を開いていただけますか？</p><p>はーい。ホスセリからちょっとだけ離れたところに開けるね</p><p>ソフィアがそう言った瞬間、ホデリの足元が口を開く。次の瞬間、ホデリは落下していた。現れた先は森のダンジョン、ホスセリの真上だ。</p><p>開いた道を通って逆に侵入されぬようにとの配慮だろうが、これはと、落下しながらホデリは思う。</p><p>これは、好都合だ。</p><p>空中で姿勢を制御しながら刀を抜き放ち、そのまま落下の勢いを乗せて全体重を持ってホスセリへと一撃を加える。それは片腕での一撃でありながら、見事にホスセリの左腕を肘から切り落とした。</p><p>殺すなと言っておるだろうが！</p><p>Olの怒鳴り声が、どこからともなく聞こえてくる。</p><p>ご安心めされよ、殿</p><p>ホデリは追撃を加え、反射的に振るわれるホスセリの右腕を切り落としながらそれに応えた。</p><p>腕を失くした程度で、人は死にませぬ</p><p>死ぬわ！</p><p>そういうホデリ自身が隻腕なのだ。説得力は十分にあるつもりだったのだが、Olの同意は得られないようであった。</p><p>しかし、これは</p><p>両腕を失っても構わず放たれる蹴り。ホデリはそれを軽くかわすと、刀を横薙ぎに振るって両脚を同時に切り捨てる。支えを失ったホスセリの身体が、苦悶の声もあげずにどうと地面に倒れ伏した。</p><p>いくらなんでも、弱すぎますな</p><p>ホデリの声にあるのは困惑だ。反応が悪すぎる。ホスセリがOlを確実に殺すという話だったが、この体たらくではとてもできそうにない。さては油断したところを爆発でもするか、あるいは呪い殺してくるか。そう考えてホデリは油断なく残心の構えをとっていたが、ホスセリはピクリとも動かない。</p><p>テナ。どうだ？</p><p>いいや未来はいまだ、変わっておらぬ</p><p>狐の耳を垂らしながら、テナはふるふると首を横に振った。</p><p>ひとまず、治療をするぞ。そのままでは本当に死ぬ。ソフィア、俺とホスセリを森の中心へと運べ</p><p>森の中心とは、かつてOlがソフィアを見つけた場所。拠点としての機能が残る一種の聖域だった。今はそこにはソフィアの手を借りなければ辿り着けず、人も魔物も寄り付かない安全地帯となっている。</p><p>Olはホスセリの身体を寝台へと運ぶと、念のために手足はそのまま、魔術で傷口だけを塞いだ。</p><p>これは凍らせておけ</p><p>ホスセリの手足を渡すと、ソフィアはそれを冷凍室にぽいと投げ込んだ。ザナの居城、氷の城も通路を繋げ己のダンジョンの一部にしてしまったので、氷は使い放題だ。</p><p>こうして冷凍保存さえしておけば、Olならば後でくっつけることも出来る。</p><p>よくわからんな</p><p>痛みのあまりか血を失いすぎたか、気絶したホスセリの状態をOlは魔術で確認していく。</p><p>と、申しますと？</p><p>全く異常がないように思えるのだ</p><p>隣で抜き身の刀をぶら下げたまま警戒するホデリに、Olは眉をしかめた。</p><p>そう。魔術で調べた結果、ホスセリからは何の異常も見つからなかった。例えそれがOlにとって未知の術であったとしても、精神や肉体を操作するようなものがかけられていれば気づく自信があった。</p><p>開かない扉を熟練の盗賊が調べたとして、見たことのない材料や方式でかけられていようと、扉に鍵がかかっていればそれとわかるようなものだ。何かが押さえ付けていて開かないのか、もともと開かない扉なのか、その区別くらいはつく。そのはずだった。</p><p>ともかくも、目を覚ますまで待つか。対話をすれば多少は何かはわかるだろう</p><p>例え言葉を話せる状況でなくとも、例の首輪がある。その心中を読み取ることは出来るはずだ。その結果何も情報が得られなかったとしても、それはそれで意味がある。</p><p>Olが軽く手を振ると、部屋を覆う蔓がホスセリの身体を幾重にも覆った。手足を失った状態で縛っておけば、流石に逃げ出すことも出来ないだろう。流石に念を入れすぎかも知れないが。</p><p>テナの予知に踊らされて酷なことをしているのかも知れない。Olは芋虫のような姿で縛られるホスセリの姿を見て、ほんの少し胸を痛めた。</p><p>その次の日の朝。もぬけの殻になっている寝台を、目にするまでは。</p><p>第15話不滅の勇者を斃しましょう-3</p><p>馬鹿な！</p><p>確かにホスセリを捕らえたはずの寝台を確認し、Olは声をあげた。</p><p>彼女を縛り付けた蔦は、完全にそのままだ。千切られたり、外されたりした形跡はない。ユニスのように自在に転移でも出来なければ、こんな風に逃げることは出来ないはずだ。</p><p>ソフィア！ダンジョンの中にホスセリはいるか？それと、昨日落とした手足はどうなっている？</p><p>どこにも、いないみたいでも手足は残ったままだよ</p><p>何だと？</p><p>では、手足を失くしたあの芋虫のような姿のままで、どこかへと逃げたのか。</p><p>一体どうやって、とか、何のために、という思考を、Olは一旦捨てた。問題はどこへだ。</p><p>流石にあの状態で遠くまでいけるとは思えない。というか、いけるのなら直接Olの元へと飛んでいるだろう。しかしダンジョンの中にいないとソフィアが断言するのなら、それは確実なことだ。</p><p>ならば。</p><p>マリー！ガイウスを呼べるか？</p><p>うん。ガイウスさんいい人だからたぶん大丈夫ー</p><p>Olはマリーを呼ぶと、そう命じた。</p><p>来たりませ。聖なる槍の持ち手、真実を見通すもの、無明ガイウス！</p><p>マリーの青い右目が赤く輝き、金色の髪が枯れ草色に染まる。それはかつて聖者を槍で突き、その血を目に浴びて英雄となった兵士の男。盲目であると同時に千里を見渡す英霊、無明のガイウス。</p><p>その力はイェルダーヴの全知には遠く及ばないが、しかしヤマトの国を丸ごと見通すことくらいは出来た。</p><p>いたよ、Olさま。森の入口に立ってる</p><p>思ったよりも近くに待て。立ってる、だと？</p><p>思わず聞き逃しそうになる違和感に、Olは気づき目を見開く。</p><p>手足が、ついているのか？</p><p>うん。しっかりついてる傷跡も残ってないよ</p><p>ガイウスの千里眼は、この距離であればその筋肉の躍動一つ、心臓の鼓動の数までをも見通すことが出来る。その力を操るマリーがいうなら、それは治療や再生などと言った生易しいものではない。Olが技術の粋を尽くして神経を接いだとしても、数日は使い物にならないであろう傷は残る。それすらないというのだ。</p><p>入ってきたよ！</p><p>悲鳴のようなソフィアの声。同時に、その光景が彼女の力によってOlの眼前に映し出される。</p><p>森の道を走るホスセリの姿は確かに万全なもので、肉体どころかその纏った衣服にすら傷はなかった。</p><p>どういうことだ？</p><p>本人に聞くが早いでしょう。何、昨日の予定と変わりませぬ</p><p>困惑するOlの横で、ホデリが刃を抜き放つ。</p><p>同じ手では読まれましょう。ソフィア様、別の方角に落としてくだされ</p><p>今度は真横に開かれる道を、ホデリは歩いて渡る。</p><p>ホデリ</p><p>その背中に、Olは声をかけた。</p><p>心得ております。殺しはしませぬ</p><p>いや。気をつけろ。嫌な予感がする</p><p>Olにしては、漠然とした具体性を欠いた忠告。</p><p>御意</p><p>ホデリは一瞬不思議そうに瞬きするが、すぐに表情を引き締め頷いた。</p><p>殺さないという宣言に対し、気をつけろとの言葉。</p><p>それをホデリはこう解釈した。</p><p>油断なく徹底的に破壊せよ、と。</p><p>言われてみれば四肢を削いだ程度で油断してしまったのはホデリの非だ。身体があり、歯があり、目がある。どういった理屈で蛙のように手足を生やしたかは知らないが、そうして治す手段があるというならかえって好都合だ。</p><p>森の影から現れたホスセリに、ホデリは刀を構えた。相も変わらぬ、愚鈍な動き。かつての妹の俊敏さの欠片もなく、隠れ潜んで不意をつくような老獪さも感じられない。</p><p>ホデリは一歩踏み出すと、迷わずその目を狙って突いた。突きすぎればそのまま脳を破壊し殺してしまうだろうが、半寸ばかり突き入れたところで引けばよいだけのこと。ホデリにとっては呼吸をするのと同じくらいに容易い作業だ。</p><p>かわすことも出来ず、ホスセリはあっさりと眼球を貫かれる。だがその時、何やら妙な感覚がした。</p><p>思ったよりも、浅い。突きを僅かに変化させて切っ先で両目を同時に切り落とすつもりだったが、片目しか抉れなかった。眼窩から血を流しながら、ホスセリは傷に構う様子もなく長剣をホデリに振りかぶる。</p><p>技巧も何もない、単純な振り下ろしをホデリは重心の移動だけで脚も動かさずにかわす。同時、ホスセリの腕を狙ったカウンターの切り上げで、違和感は決定的なものとなった。</p><p>何っ！？</p><p>狼狽の声を上げ、ホデリは飛び退る。人間の肉ではなく、とんでもなく硬い鋼を打ったような感触が、ホデリの手のひらに残っている。</p><p>いや、彼の刀は鋼の柱ですら両断できる。しかしホデリの一撃はホスセリの腕を覆う篭手を切り落としただけで、その肌には毛ほどの傷もつけてはいなかった。</p><p>どういう、ことだ！？</p><p>狼狽えつつも、二撃、三撃と閃光のようにホデリの刀が振るわれる。しかしそれは防具を切り裂き衣服を両断しながらも、ホスセリに傷をつけることは一切なかった。</p><p>唯一効いたのは、最初に狙った左目のみ。それとて今思えば、尋常な瞳に比べ異様に硬く、片方を切り裂くに留まった。</p><p>もう片目を狙った突きは、直前でホスセリの手のひらに阻まれた。防具に覆われてすらいない柔らかな手のひらが、しかしホデリの渾身の突きを受け止め掠り傷すらつかない。</p><p>殿御免！</p><p>ホデリはぐいと刀を押して、反射的にその切っ先を掴もうとするホスセリの呼吸を外して引いた。そしてその指先が虚空を掴んだ瞬間を狙って、もう一度神速の突きを放つ。</p><p>それは狙い違うことなくホスセリの唇の間をすり抜けて、喉の奥を突き貫く。肌の表面と違って、流石に口の中までは刃を弾くほどの硬さは持ち合わせていなかった。</p><p>ホスセリの項から銀の刃が突き出して、ごぼりと血が吹き出す。ホデリがずるりと刀を引き抜くと、ホスセリは倒れ、地面に転がった。即死だ。</p><p>申し訳ありませぬ、殿。某の未熟な腕では、殺さずに止めることが出来ませなんだ</p><p>いやそれは仕方あるまいが待て！</p><p>ソフィアの映し出した光景越しに、Olは目を見開いた。地面に倒れたホスセリの死骸が、すうと消えていってしまったからだ。血の跡や千切れ落ちた衣服の端切れなどは残っているが、死骸はどこにもない。</p><p>ど、どこにもいないよ！</p><p>というか、少なくともヤマトにはいないみたい</p><p>Olの言葉にソフィアがそう答え、ガイウスをその身に降ろしたままのマリーがぐるりと周囲を見回して言う。</p><p>ホスセリは、確かに絶命していたはずだ。</p><p>ホデリ程の使い手が、はっきりと殺したと言ったのだ。見誤るはずがない。</p><p>Olの目から見ても、ホスセリは間違いなく死んでいた。</p><p>消えたということは、あるいはリルの分身のような偽物なのかも知れない。その考えを、Olはすぐに振り払う。ホスセリの喉を突いて吹き出した血液は、紛れもなく本物だった。</p><p>それが分身であれば、血など出るはずもない。材料が何であれ、Olの形代のように元の材料に戻って破壊されてしまうはずだ。血と肉とを本物の人間と同様に備えているなら、今度は逆に消えてしまう道理がない。</p><p>ならば消滅ではなく、転移。</p><p>だが、かと言って、死んだ後に転移の術を使うことなど出来るわけがなかった。</p><p>ソフィア、マリー、他に不審な影はあるか！？</p><p>ううん、何もいない。誰か他の人が転移させたわけじゃないと、思う</p><p>やや自信なさげに、ソフィアが眉を寄せる。</p><p>無明の力でも怪しいものは見つからないよ。無明の力の範囲外から転移させたなら、わからないけど</p><p>そんなことが出来るはずあるまい。無明の能力が見渡せるのは、六百マイル（約千キロメートル）程。いかなる弓矢も届かぬ超長距離だ。そんな遠くから力を届かせるものなど、いるわけも</p><p>そこである可能性に気づき、Olの言葉は途切れた。</p><p>テナ。お前の予知は、どうなっている？</p><p>ある意味で全てが変わり、ある意味で全てが同じじゃ</p><p>Olの問いに、難しい表情でテナは答える。</p><p>ホスセリは日の出とともに三度いいや。何度でも蘇り、お主はいずれ殺される。何があろうとじゃ</p><p>一度ではなく、何度も予知を繰り返しているのだろう。彼女の表情は暗く、声色は絶望に満ちている。最初も二度目も、ホデリはホスセリを易易と下してみせた。あの調子であれば百回でも千回でも殺してみせるだろう。</p><p>だが、一回目に比べ二回目のホスセリは強くなっていた。少なくともホデリが生け捕りに出来なかった。もし死ぬ度に生き返り、その度に強くなっていくとするなら、テナの予知が揺るがぬのも道理であった。</p><p>業火に焼かれ、魂までも消えてしまうだったか</p><p>不意にそんな事を口にするOlに、ふとテナは顔を上げる。</p><p>お前が最初に言ったことだ。その時俺は、どうあっても逃げられないという言葉の方を気にしてしまったが。あれは、どういう意味だ？</p><p>ホスセリは、魔術の類を扱えない。ザナやイェルダーヴが使う神術とでも呼ぶべきものや、テナやその孫のユツが操る妖術も。何者かに操られているらしい今も、剣を振るうばかりで炎など出していない。ならば、その死因はどういうものなのか。</p><p>わからぬ。言われてみれば、そうじゃそれは、儂が最初に見た先見じゃった。けして消せぬ熱と炎に苦しみもがくあなた様の姿に動転してしもうたがそれ以降、あなた様は炎では死んでおらぬ。刺されたり、首を刎ねられたり、蹴りで粉砕されたり、拳で押しつぶされたりしておる</p><p>ずいぶんバラエティに富んだ殺され方だな</p><p>Olは顔をしかめ、軽口を叩いた。可能性の話であるとは言え、自分が殺される様を語られてあまりいい気分にはなれない。</p><p>おおよそは、わかった</p><p>何故なのか。どうやっているのか。どうしたらいいのか。それは全くわからない。</p><p>だが</p><p>ホスセリが何に操られているのか。そして俺は何故死ぬのかは</p><p>Olは天を見上げ、目を細める。ある意味では、マリーの考えが当たっていた。</p><p>無明の力さえ遠く及ばぬ範囲外からの干渉いや。見えては、いる。無明ではなく、Olの肉眼でさえ。</p><p>敵は不滅。何をしようと滅びず、死を恐れることもなく、何度でも蘇りそしてその度に強くなる。不滅の勇者といったところか</p><p>昇る太陽を睨んで、Olはつぶやいた。</p><p>第15話不滅の勇者を斃しましょう-4</p><p>わたしがどこにいるか、ですか？</p><p>ザナの顔、ザナの声、ザナの身体で。</p><p>しかし、口調を異にする彼女は、不思議そうに首を傾げた。</p><p>それは、おわかりになって聞いてらっしゃるのでしょう？</p><p>目を細め微笑む彼女のその妖艶さは、ザナにはないものだ。</p><p>ではやはりそうなのだな</p><p>火山の神サクヤは火の山の中に。ダンジョンの神であるソフィアはダンジョンの中に。あの自由極まりない海の女神タツキでさえ、平時は海の中にいて陸には食事のときにしか上がろうとはしない。</p><p>ならば、ザナの口を借りるだけで姿は見せぬ月の女神マリナが本来どこにいるのかは、考えるまでもない。</p><p>ええ。わたしがいるのは、月の上です</p><p>月の女神マリナはそう、答えた。</p><p>ということは、太陽神は太陽の上か流石にそれはどうにもならんな</p><p>太陽というものが見た目ほど近くにあるわけではないということを、Olは知っていた。かつてメリザンドが空の彼方に浮かべていたスターコアは数千マイルの高さにあったというが、それでさえ太陽までには程遠い。ユニスの転移の力を持ってしてさえ届かぬ距離だ。</p><p>では加護を打ち消す方法はあるか？</p><p>打ち消すですか</p><p>Olの問いに、マリナは少し困ったような表情をする。</p><p>例えばあなたが誰かに力を貸そうと決めたとして。どうやったらそれを諦めさせることが出来ますか？</p><p>逆に問い返されて、Olはむっと呻く。確かに、Olがそうと決めたのならばそれを覆すのは不可能だ。</p><p>イェルダーヴは純潔を失うことによって太陽神の加護を失ったが、それはただ単に好みの問題だろう。神が処女にしか力を貸せないというわけではない。そもそもホスセリは生娘ではないし、ザナもそうだ。</p><p>では、お前ならばどうする？</p><p>逃げますね</p><p>間髪を入れず返ってきた答えに、Olは溜め息をついた。彼女の権能は最善手。そしてこの場合の最善手ははっきりと分かってしまっている。少なくともOlはこの大陸を去ってしまえば無事なのだ。ただ、残されたソフィアたちがどうなるかわからない。</p><p>それ以外では？</p><p>わかりません。わたしの力は最善の糸を手繰り寄せる力。日の光を映してその影を象る力です。それによって何が起こるかを知ることは出来ませんし知ることが出来ないからこそそれは最善となる</p><p>なるほど、な</p><p>テナの能力の説明を聞いた後であれば、その理屈はするりと飲み込めた。結果がどうなるかを知ってしまえば、そもそもそこから未来が変わってしまうのだ。だから過程を知ることなく、ただ結果だけをもたらす。女神マリナの力は、つまりはそういうものなのだ。</p><p>まあ良い。参考にはなった。礼を言う</p><p>折角来たのにもう行くのですか？</p><p>椅子から立ち上がり、踵を返すOlをマリナは呼び止めた。</p><p>昇りゆく太陽神の加護を得て不滅だと言うのならば、復活は日の出と同時でしょう。でしたらもう少しゆっくりしていってはどうですか？</p><p>いや。悪いが、すべきことも考えるべきことも山積していてな。お前の相手はまた今度だそれと</p><p>にこりと微笑む彼女の頭を撫で、Olは言う。</p><p>マリナなら多分、来たのにではなく、いらっしゃったのにと言うぞ、ザナ</p><p>途端、ザナの白い肌が朱に染まった。</p><p>出てきたぞ、Ol</p><p>払暁を待ち、地平の果てから黄金色の光が差し込み始めた頃、メリザンドはそう告げた。六千年の時を生きた聖女である彼女は、マリーよりも遥かに巧みに英霊の力を扱える。自身に千里を見渡す力を借りるだけのマリーに対して、メリザンドはその光景を映し出して他者と共有することが出来た。</p><p>サクヤの火山を中心として広がる森のダンジョンの東側、ヤエガキ山脈の麓の辺りに積まれた石の祭壇の上で、ホスセリが身体を起こす。やはりその身にはホデリがつけたはずの傷は一つもなく、衣服や防具すら元に戻っていた。</p><p>さて奴は今、肌も体内も、瞳さえ刃を受け付けぬ身体となっているはずだが</p><p>某に、お任せくだされ</p><p>どう対処するべきか。悩むOlに、ホデリが真っ先に声を上げた。</p><p>出来るのか？</p><p>は。お任せ頂けるのであれば</p><p>Olの知る限りホデリは最高峰の剣士でありそして、それ以外の何者でもない。ただただ卓越した剣技を持つだけの、普通の男だ。それに対して相手は刃を受け付けない体になった相手。手の打ちようはないように思える。</p><p>一度止めればいいというわけではないぞ</p><p>御意に。恐らくはあと三度は、足止め出来るかと</p><p>跪くホデリに、Olは目を見開いた。ホスセリは恐らく、撃退され日が昇るごとに強くなる。そして一度撃退する時に使った手段は通じなくなるのだ。そんな彼女を三度も止められるとはにわかには信じられないが、かと言って嘘や冗談でこんな事を言う男でもない。</p><p>わかった。その三度で、必ず何とかする方法を見つけてやる</p><p>そう請け負うOlにホデリは深々と礼をして、ふと思い出したかのように言った。</p><p>一つだけ、殿にお願いしたき儀がございます</p><p>さてすまんが何度か相手をしてもらうぞ</p><p>その両手で片刃の剣を握り、ホデリは三度ホスセリと相対する。彼がOlに頼んだのは、かつてオロチとの戦いで失った左腕をもう一度再生して欲しい、というものだった。</p><p>元の腕が残っているならともかく、完全に失われてしまった四肢を元通りに復活させることはOlにも不可能だ。骨や肉、皮はともかくとして、神経までをも元通りに戻すのは魔術で出来る領域を超えてしまっている。</p><p>ゆえにホデリの左肩から生えたそれは、精微を極め剣の頂きに指をかけつつある右腕とは違い、ただの不格好な肉の塊である。一度Olに再生してもらった時も、こんなものであればない方がマシだと切り落としてしまった程なのだから。しかし今、ホデリはそれにすら頼ることを決めた。</p><p>目にも留まらぬ程の速度で、ホスセリの剣が突き出される。一度目、二度目とは段違いの疾さであった。明らかに、強くなっている。</p><p>身を開こうとするホデリの動きは間に合わず、彼の胸の辺りに剣が突き刺さる。鉄の塊が貫いたのは心臓その、一寸の更に半分ほど隣。肺腑に穴が空き派手に血が吹き出すが、しかし致命傷ではない。</p><p>ホスセリは反射的に剣を引こうとするが、遅い。ホデリは呼吸をしないままに、刀を走らせた。音もなくホスセリの両手両脚が断たれ、彼女は地に崩れ落ちる。ふ、と息を吐こうとすると、代わりにごぼりと血の塊がホデリの口から溢れ出た。</p><p>お前は真面目な顔をして無茶苦茶をするな</p><p>呆れと驚嘆を半々に浮かべながら、Olが姿を現す。</p><p>彼がホデリの傷口に手をかざすと、血は止まり傷口はあっという間にふさがった。</p><p>何。こうして治して頂けるのはわかっているのだから、死にさえしなければ安いものです</p><p>肺の中に溜まった血反吐を吐き出し、口を拭いながら軽く言ってのけるホデリ。スピナも己の負傷を顧みないところがあるが、彼女は単純に苦痛を苦痛と感じていないだけにすぎない。痛みも苦しみも人並みに感じた上でそれを厭わないホデリは、あるいはそれ以上に狂っているのかも知れない、とOlは思った。</p><p>そもそも、なんで切れるのだ。こいつは剣への耐性を得たのではないのか？</p><p>Olは反撃に気をつけつつも、失血死せぬようホスセリの両手足の傷口を治療する。うめき声もあげずピクリとも動かないが、ホスセリはまだ生きていた。恐らく死んでしまえば、また昨日のように消えてしまうのだろう。</p><p>ええ。その肌は恐らくいかなる刃も通らぬようになっているのでしょう</p><p>ホデリは頷き、刀を振って鞘に収める。癖を超えてもはや呼吸の如き血振るいの動作だが、その刃に血は一滴たりともついてはいなかった。</p><p>ですから、肌や肉ではなくその間隙を切りもうした</p><p>間隙？</p><p>訝しげに繰り返すOlに、ホデリは頷く。</p><p>人の肉体に限らず、ものには全て間隙があります。ものを成り立たせている最小の単位の、間が</p><p>ものを成り立たせている最小単位。それは魔術師たちの間で、原子などと呼ばれている想像上の存在だ。Olも恐らく実在するのだろうとは思っているが、その実在を確かめる方法は想像もつかない。</p><p>そこに刃を通せば、肌自体がどれだけ硬く頑丈になっていても関係ござらぬ</p><p>彼の言っていることが真実であれば、なるほど確かにそうだろう、とは思う。だがそれは</p><p>それはつまり、お前には切れぬものなどない、ということか？</p><p>いやいや、まさか。某はまだまだ道半ばもいいところ、未熟者であります故</p><p>照れくさそうに頭をかきながら、ホデリは視線を上に向ける。</p><p>まだ空は斬れませぬ</p><p>やはりヤマトの民はどこかおかしい。</p><p>Olはつくづく、そう思った。</p><p>第15話不滅の勇者を斃しましょう-5</p><p>やはり駄目か</p><p>うむ無理なようだ</p><p>Olの問いに赤く染まった髪を煩わしげにかきあげて、メリザンドは頷く。</p><p>やはりとは何だ</p><p>その口から、低い男の声が飛び出した。</p><p>お前の能力ではメリザンドの呪いも解けぬのだろう。ホスセリの呪いは下手をすればそれよりも強力なものだぞ</p><p>ぐっ</p><p>Olの言葉に、メリザンドに憑依した英霊、ザイトリードは呻いて口を噤んだ。</p><p>あらゆる魔術を無効にするザイトリードの鉛の能力。それでホスセリにかかった支配を解くことは出来ないかと試してみたが、案の定その試みは無駄に終わった。</p><p>ただどんな傷も治り変化しないメリザンドの不死の呪いよりも、日が昇る度に更なる力を持って復活するホスセリにかかった呪いの方が、効果としては強力に思える。故にOlは殆ど期待していなかった。</p><p>もっともメリザンドのものは数千年経ってなおその効力を些かも減じていないという時点で規格外なのだが。</p><p>だが魔王。言っておくが全くの無駄というわけではないぞ</p><p>手応えは、あった</p><p>虚空にかざした手をぐっと握りしめ、不敵な笑みを見せるザイトリード。しかしその外見は憑依したメリザンドひいてはマリーの姿の生き写しであるため、全く似合っていなかった。</p><p>メリザンドにかけられたような、押しても引いてもどうにもならぬ呪いではない。俺の力が及ばなかっただけで、原理的には消すことが出来る呪いだ</p><p>なるほど、つまり</p><p>Olは深々と頷いた。</p><p>これで解呪への耐性も得てしまったわけだな</p><p>うっ！？</p><p>そこまで思考が及んでいなかったのだろう。ザイトリードは呻き、愕然とした。</p><p>まあ良い。お前に解けぬのなら、どのみち誰にも解けぬ</p><p>Olがザイトリードに言ったのは、軽口のようなものだ。そもそも死に繋がらない干渉に対しても強化されるのかどうかはわからない。</p><p>しかし厄介な事だな</p><p>寝台に横たえられ、暴れることすらなく虚空を見つめるホスセリを見つめ、Olは嘆息する。解呪を含め、彼女自身に対するあらゆる試みは無駄に終わった。</p><p>対話は勿論不可能だったし、読心術の類も全く効果がない。Olはまるでリビングデッドを相手にしているような気持ちになったが、ホスセリの心臓は確かに動いていたし、その肉体は生きていた。</p><p>ザナとイェルダーヴに使った首輪も試してみようかと思ったが、テナがそれをつけた後の未来が見えないなどといい出したため断念した。一体何が起こるかわかったものではないが、ロクな事にならないであろうことは確かだ。</p><p>お師匠様。割り出しが終わりました</p><p>さてどうしたものかとOlが思案していると、羊皮紙の束を手にスピナが現れた。</p><p>幾つあった？</p><p>全部で九十八個。それも、大陸中にです</p><p>ふむ。数はおおよそ合うな。やはり一日に一つと言ったところか</p><p>Olが床石をせり上がらせて即席のテーブルを作ると、スピナはその上に羊皮紙を広げる。それは、地図であった。ヤマトから東方のヤエガキ山脈を隔て、氷の国ヒムロや砂の国サハラ、そしてその更に東に広がる高原までをも描いた広大な地図。</p><p>その到るところに、印がつけられている。その数、九十八。</p><p>それはホスセリが姿を消してから今に至るまでの日数でもあった。</p><p>その印は何だ？</p><p>二人の会話の意味がわからず問うメリザンドに、Olは答えた。</p><p>ホスセリが復活する場所だ。これを今から、全て破壊する</p><p>よいしょー！</p><p>轟音を立て、リルの掲げた石火矢が火を放つ。大砲形態から放たれる魔力の弾丸は、丘の上に突き立った剣を粉々に破壊した。</p><p>流石に剣までには、不滅の力は宿ってはいないようだな</p><p>ホスセリの死体は死ぬと同時に消え、そして森のダンジョンにほど近い祭壇の上で復活した。わざわざあんな場所で蘇ったというのはただの偶然ではなく、復活できる場所は決まっているということだろう、とOlは予測した。</p><p>そしてそれは、たった一つではないはずだ。</p><p>復活の場所を記録(セーブ)しておく場所だから、記録地点(セーブポイント)とでも呼ぼうか。</p><p>それは大陸の各地に、あらゆる手段で作られていた。</p><p>スピナ、次はどこ？</p><p>ここから東、およそ三十マイルです</p><p>リルの問いにスピナが手のひらの上で蠢く桃色のスライムを見つめ、答える。</p><p>セーブポイントの位置を割り出したのは、このスライムの能力だった。</p><p>はいはーい。じゃあソフィア、お願いね</p><p>リルが声を掛けると地面が隆起し、Olたちを取り囲んで小さな部屋を形作る。ついでその部屋が崩れた時には、外の光景は全く別の場所へと変わっていた。もはや大陸の大半を覆うように広がるソフィアのダンジョンを経由すれば、数十マイルに渡る移動も一瞬であった。</p><p>さて、今度はどれかしら</p><p>あれですね。あの古木です</p><p>スピナの指差す先には、一際古い木が雄々しく聳えていた。その幹には縄のようなものが巻かれており、緑色の鳥の羽根のようなものが飾られている。</p><p>大きいわね。ちょっと強めにいくから、耳閉じておいてね！</p><p>リルはそう宣言し、今日十数度目となる砲を放つ。閃光とともに轟音が響き渡り、大地を揺るがして、次の瞬間には古木はバラバラに弾けとんでいた。</p><p>ちょっと、休憩、していい？</p><p>石火矢を降ろし、荒く息を吐きながらリルはそう提案した。本来悪魔に呼吸は必要ないが、魔力を消費しすぎるとそうなる。大気に僅かに混じる魔力を呼吸によって取り入れようとする反応だ。</p><p>ああ。今魔力をくれてやる</p><p>ん、ありがとー</p><p>両腕を伸ばすリルを抱き寄せ口づけると、彼女はOlの身体から容赦なく魔力を吸った。ミシャと契約して境界を僅かながら操れるようになった今、Olはどこでもほぼ無尽蔵に魔力を取り出すことが出来る。</p><p>かつてはOlがリルの事を魔力タンク代わりに使っていたが、逆の立場になっているのは何とも奇妙なことだった。</p><p>んっちゅぷんむっふ、はぁ</p><p>魔力を吸い取った後もたっぷりと舌を絡ませ口づけを堪能して、満足げにリルはOlから離れて転がっている岩の上に腰掛ける。受け取ったOlの魔力が馴染むまでは休憩の時間だ。</p><p>そういえばスピナ、どうやってあなた何してんの？</p><p>言いかけた言葉を切って、リルが呆れた視線を向ける。Olが釣られてスピナを見ると、彼女は先程のリルを真似るように両腕を伸ばしていた。</p><p>来い</p><p>ハッとして腕を引っ込めるスピナに言うと、彼女は恥ずかしげに、しかし嬉しそうにOlの胸元に収まる。傍から見れば何時も通りの鉄面皮なのだろうが、長年付き合ってきたOlとリルにはそれが彼女なりの満面の笑みであると知れていた。</p><p>えーと、それで、どうやってこのセーブポイント？とかいうの見つけてんの？</p><p>たっぷり十数分Olとの接吻を楽しんで、ツヤツヤと肌を艶めかせるスピナに、リルは改めてそう尋ねた。</p><p>呪術と組み合わせたスライムを作り出しました</p><p>言って、スピナは先程みせた桃色のスライムを取り出す。</p><p>元々関連していたものは、その繋がりを断たれても関係するそれが、呪術の考え方です。私はそれを利用しました。ホスセリがセーブポイントに戻るというのなら、彼女が残していった手足も戻ろうとする。けれどその能力が肉片にはない。であるならば、それを与えてやればいい</p><p>つまり、それって</p><p>リルはスピナの手のひらにのったスライムを見つめた。</p><p>鮮やかな桃色のスライムは、見ようによっては可愛らしく見えなくもない。</p><p>はい。ホスセリの手足を煮溶かしたスライムです</p><p>綺麗なピンク色だと思ったら、肉の色なの！？</p><p>正確には血と脂の混じった色ですね</p><p>だが屍肉が原材料と聞いては、とてもそう思うことは出来なかった。</p><p>しかしよくもこの短期間で、そんな都合のいい代物を作り出せたものだな</p><p>方式自体は既にお師匠様のあっ</p><p>Olの問いに、スピナはいいかけて慌てて口をつぐむ。</p><p>俺の、何を使った？</p><p>すみません、その、御髪をいえ、そのどこにいらっしゃってもお側にいたいと</p><p>だがそこまで言ってしまえば全部口にしたも同然だ。Olが問い詰めると、しどろもどろになりつつもスピナは白状した。</p><p>まあ良い。でかした</p><p>ため息を付き、Olはスピナの頭を乱暴に撫でる。</p><p>あとでたっぷりと仕置をしてやる</p><p>第15話不滅の勇者を斃しましょう-6</p><p>風よりも早く、ホスセリが駆けた。</p><p>遥か彼方、地平の果てにあった小さな点は瞬く間に眼の前までやってきて、勢いをそのままに長剣を突き出す。</p><p>やはり思ったとおりですな</p><p>ホデリがそれを見つめながら言った。</p><p>もはやその攻防は、Olには目で追うことすら出来ない。</p><p>気づいたときにはホデリの胸には剣が突き刺さり、ホスセリの身体は地面に転がっていた。</p><p>ホデリは剣の刺さった胸から激しく血を流しつつも、腰を深く落とし右腕を突き出した姿勢をゆっくりと元に戻す。その間にホスセリの身体は徐々に薄れ、以前のように消えていった。</p><p>ホデリはその腰に挿した片刃の剣を抜いてさえいないし、ホスセリの身体にも傷らしきものは見られなかった。にもかかわらず、ホデリは何らかの方法でホスセリを絶命させたらしい。</p><p>奴は際限なく強くなるのでしょう。ですがそれは、単純なものでしかない</p><p>Olの治療を受けつつも、ホデリは言った。</p><p>刃を食らわば硬くなる。それさえ斬れば今度は早く。何の工夫も技もない。ただ防ぐだけであれば、十度でも百度でも防げそうです</p><p>明らかに致命傷いや、致命のほんの一歩手前の傷を受けつつも、ホデリは自信満々にそう言ってのける。</p><p>貴様、わざと攻撃を受けているな？</p><p>Olの問いに、彼はあっさりとうなずいて見せた。</p><p>二つ、気づいたことがあります。一つは技巧には変化がないということ。奴が強くなるのは速さと強さといった単純な強さのみ。そしてもう一つは、変化するのは必要な分だけ最低限、という事です</p><p>最低限？</p><p>然様。どのような理由かは存じませぬが、愚妹は某が見せた強さ、それをほんの僅かに上回る程度に強くなっておりまする</p><p>それで、わざわざそんな傷を負っているのか</p><p>Olの言葉に、ホデリはもう一度うなずいた。余裕を持って攻撃をかわせば、次はその動きではかわせない速度の一撃がやってくる。ゆえにホデリは、ギリギリで死なぬ程度に攻撃を受けて凌いでいたのだ。次の一戦のために。</p><p>まあそれもあと一回が限度でしょうが</p><p>防御はともかく、攻撃は致死か行動を不能にする一撃を加えなければならない。しかもその度に強くなっていくのだ。流石のホデリと言えども、そう何十種類もホスセリを殺す方法を持ってはいない。</p><p>ちなみにさっきのはどうやったのだ？</p><p>明らかにホデリは剣を抜いていなかった。剣ではなく拳だから問題ない、などという単純な話ではないだろう。今のホスセリは外部からの攻撃であれば何であれ無効化するようになっているはずだ。</p><p>あれは通しと呼ばれる技術で、本来は甲冑を着込んだ相手に無手で打撃を与えるものです。それで胸を打ち、心の臓を直接破壊し申した</p><p>よくもまあ魔術も神術も使わずそこまで鍛え込んだものだ</p><p>Olは呆れたものか感心したものか悩んだ。体術をその域にまで高めるのには、並々ならぬ努力が必要だったであろう。術に頼らず一心に磨いてきたからこその技量ではあるだろうが、しかし術を併用すればもっと容易く成し遂げられた気もする。</p><p>ただ一点。今この時に限って言えば、それは何よりも頼もしいことだった。</p><p>ホデリが約束した三度までホスセリを止めるという約束のうち、二度は既に果たされた。残り一度でOlはホスセリをどうにかしなければならない。</p><p>Ol達が辿り着いたのは、ホスセリの築いた九十八のセーブポイントを破壊し尽くしたその先。サハラの更に東、高原の果て。フウロと呼ばれる小さな国がかつてあった場所だ。</p><p>風路(フウロ)の名の通り、幾筋にも吹き通る風がOlたちの髪を撫で付けていく。しかしそこにはもはや住むものもなく、風化した家の残骸だけが無残に晒されていた。</p><p>テナの予知と、スピナのスライム。そのどちらもが、この先を指し示している。</p><p>流石の俺も、想像もしなかった</p><p>そしてそこにあったものに、Olは瞠目した。</p><p>よもやこの世に、壁のないダンジョン、などというものがあろうとはな</p><p>視線の先に広がるのは、複雑に張り巡らされた石造りの通路だ。</p><p>玄室どころか壁も天井もなく、通路から足を踏み外せば谷底へ落下する空中回廊。</p><p>しかし他ならぬOlが認める以上、それもまた、紛れもなくダンジョンであった。</p><p>ゆくぞ</p><p>号令をかけるOlに続くのは僅かに三名。ホデリ、ユニス、ソフィアだけだ。</p><p>ダンジョンって言ってもこれ、跳んで渡っちゃ駄目なのかな？</p><p>通路を眺めて、ユニスは素朴な疑問を呈する。通路は一人ずつしか渡れぬほど細く、通路と通路の間は跳び越えるには幾分距離がある。しかしユニスの脚力とバランス能力であれば、跳んで超えられないことはなさそうにも思える。</p><p>まあ、無理だろうな</p><p>しかしOlは首を振って小石を拾い上げると、それを放り投げた。すると突然谷間から猛烈な風が吹き荒れて、その小石を谷底へと弾き飛ばしてしまう。</p><p>その程度の対策はしていよう</p><p>なるほど、風が壁代わりなんだね。まさに風のダンジョン、かあ</p><p>ユニスは表情を引き締め、頷く。</p><p>しかし、道は見えているのです。正しい道を進むのは容易なのでは？</p><p>ダンジョンで最も怖いのは、罠でも敵でもなく、迷うことだ。その点、全貌をほぼ見渡すことの出来るこのダンジョンでは迷いようというものがない。ホデリは無造作に歩を進めていく。</p><p>いいや。そうであればこの俺がダンジョンなどと呼ぶものか</p><p>その襟首をOlが掴むと同時、ホデリの足が空を踏んだ。途端巻き起こる凄まじい風にその身体が引き込まれる寸前で、Olは彼の身体をぐいと引きずり倒す。</p><p>今のは</p><p>ただの幻影だ。お前は腕は立つが、こちらはさっぱりだな</p><p>通路が続いているように見えるが、それはただの虚像にすぎない。虚と実が入り乱れ、一歩誤ればすぐさま牙をむく。それがこのダンジョンであった。</p><p>そしてそれは取りも直さず、今もこのダンジョンが生きていることを示している。</p><p>どうやら当たりだな</p><p>Olは頭上を見上げてつぶやいた。</p><p>ダンジョンが生きているということは、そこに住まうものもまた健在だということである。巨大な鳥が何羽も舞い降りてきたかと思えば、その口から炎が吐き出された。</p><p>うわっ、こんな地形で空から火を吹いてくるとかずるい！</p><p>ユニスが叫びながら剣を引き抜き振るう。</p><p>これって矢とか放ったら風で飛ばされるんでしょ？逃げ場もないし、戦いようがないじゃない</p><p>巨鳥たちが羽ばたいているのは遥か上空。どんなに長い槍も届かぬ距離だ。</p><p>あたし以外は</p><p>チン、と音を立ててユニスが剣を鞘に収めると、鳥たちはその翼を引き裂かれて谷底に落ちていった。空間を跳躍するユニスの権能。それを斬撃に適用する自由自在の剣戟は、風にも距離にも関係なく敵を切り裂く。</p><p>でも、この調子じゃあ、だいぶ時間がかかりそうだね。力もつかな</p><p>ユニスは前方を見据え、呟く。確かに壁のないダンジョンはどこまでも見渡せるが、だからといってその全貌を知れるわけではなかった。</p><p>空中回廊は遥か彼方まで続いていて、その先はようとして知れない。複雑な通路を辿っていくならば、その長さは見た目の何倍にもなるだろう。ユニスの斬撃を飛ばす技は転移に比べて消耗は遥かに少ないが、それでも限界があった。</p><p>無論、バカ正直に進むつもりはない。ソフィア、セレスに交代だ</p><p>うん。セレスさん、出番だよー</p><p>ソフィアが部屋を作り出し、ユニスを囲む。それが消え去ると、まるで手品のようにユニスの代わりに白アールヴの姫、セレスが現れた。</p><p>どうすればいいかはわかっているな？</p><p>ええ。心得ておりますわ</p><p>セレスは頷き、弓に矢を番えた。その矢の末端、筈の部分には蔓が結わえ付けられ、セレスの足元へと長く伸びて束になっている。</p><p>彼女が矢を放つと、蔓を伸ばしながら飛んでいくそれを撃ち落とさんと猛烈な風が吹き荒れた。</p><p>だが矢は先程Olが投げた石のように叩き落とされることはなく、まるで風の中を舞い踊るかのようにくるくると飛んで、本来の飛距離を遥かに超える彼方の通路へと突き刺さった。</p><p>すごーい！なんで！？</p><p>ソフィアは目を丸くしてパチパチと手を鳴らす。</p><p>色も形もない、目に見えぬ風の動き。それをこの世で最も知るものはなにか、ご存知ですか？</p><p>そんなの、木の葉に決まってるよ</p><p>ソフィアの言葉に、セレスはにっこりと微笑む。</p><p>ご名答です。私たちアールヴとりわけ、白の氏族は木々の申し子。風を読むのは容易いことです</p><p>無論、ダンジョンの機構がそう簡単に侵入者に利する訳がない。どれほど完璧に読み切ったところで、矢の飛距離が伸びるような風向きに風が吹く訳がない。</p><p>だが、その流れをほんの僅かでも変えられるのなら、話は別だ。</p><p>白アールヴは優れた射手であると同時に、秀でた魔術師でもある。矢の受ける風を操ることなど造作もなかった。</p><p>次を</p><p>セレスが手を伸ばし、ソフィアが次の矢を渡す。森のダンジョンを掌握している彼女は、無限に等しい矢と蔓を用意することが出来た。それを何度も繰り返すと、幾重にも重なり合った蔓は太く頑丈な生ける橋となる。</p><p>これが石造りであれば、どれだけ堅牢に作ろうと吹き付ける風にすぐに砕かれてしまうだろう。だがしかし無数に隙間の空いた蔓の橋は、どれほど風が吹き付けようとそれを細かく砕いてすり抜けさせ、しなやかに揺れて破壊的な衝撃を逃れた。</p><p>さあ、進むぞ</p><p>Ol、セレス、ソフィア、ホデリの順に並んで橋を渡っていく。</p><p>その半ばまで来たところで、ギチギチと音が鳴り響いた。</p><p>見れば奇妙な怪物が谷底の上から這い出して、セレスの作った橋を齧り切ろうとしているところだった。それは大雑把に言えば、アリに似ている。しかし大きさは人間と同じくらいもあって、節くれだった手足は虫にしてはあまりに獣じみている。</p><p>すぐさまセレスが矢を放ったが、怪物の硬い甲殻に弾かれて傷一つつかない。</p><p>ソフィア、次はユツだ！</p><p>すかさず叫ぶOlに答え、セレスと入れ替わりにユツが姿を現した。ソフィアのダンジョンの中に控える彼女たちは、ソフィアの耳目を通じて状況を完全に把握している。</p><p>既に妖狸の霊をその身に宿していたユツは、尾を引き抜くとそれを振り下ろした。</p><p>妖狸の太い尻尾はたちまち巨大な柱に姿を変えると、吹きすさぶ風など物ともせずにその質量のまま倒れてアリに似た怪物を押しつぶす。</p><p>役目を終えた柱は途端に木の葉の塊に変じたかと思うと、強風に散っていった。</p><p>目まぐるしく人を入れ替えながら、Olたちは風のダンジョンをどんどん進んでいく。</p><p>無数の肉食羽虫をサクヤの炎が燃やし尽くし。</p><p>巨大な三つ目の鬼をリルの石火矢が貫き。</p><p>俊敏に襲いかかってくる六脚の魔獣をエレンの強弓が打ち倒し。</p><p>幾つもの首を持つ竜をスピナの粘糸が切り裂き。</p><p>ガス状の不定形の魔物をタツキの水が押し流す。</p><p>出てくる怪物はどれも初めて見る相手であり、また狭い足場でまともに相手にするなら苦戦は免れ得ぬ強敵であった。</p><p>しかしそこは、千の怪物と万の魔物を知るOlである。</p><p>己の知識にある魔獣や妖魔との相違点や類似点からひと目でその弱点と倒し方とを見抜き、ソフィアに指示を下す。</p><p>ソフィアも阿吽の呼吸でこれに答えてすぐさま人を入れ替え、敵を迎え撃った。</p><p>時にはOl達が渡る通路のすぐ横の谷底から突然現れ奇襲をかける怪物もいたが、そういったものは片端からホデリが切り伏せていく。仮に相性が悪く殺せないまでも、Olとソフィアが準備を済ませる時間を稼ぐくらいは容易いことだった。</p><p>一行の受けた傷は、無限の魔力と稀代の腕を持つOlがすぐさま魔術で治療する。</p><p>そうなればいくら広大とはいえ、所詮はたった一階層しかないダンジョンだ。</p><p>Olたちは僅か半日ほどで、最奥へと辿り着いた。</p><p>これ、だね</p><p>確信を秘めたソフィアの言葉を、Olも首肯する。</p><p>そこにあったのは、大きな祭壇であった。</p><p>空中に走る通路の果てにあるそれは、客観的にはただの石の塊であるにも関わらず、目にしただけでそれとわかる神々しさがあった。</p><p>一際高くなったその祭壇から周囲を見回せば、底さえ見通せぬ深い谷底があるばかり。その更に先を見渡せば、雄大に連なる山々には目線の高さで雲がかかっていた。ここは文字通り、空の上なのだ。</p><p>Olたちはそこに陣を敷き、野営を行う。結界を張って襲撃にも備えていたが、</p><p>神聖な祭壇だからか、それともここまで辿り着けば無意味と知ったか、怪物たちは一度も襲いかかっては来なかった。</p><p>日が昇るね</p><p>やがて白み始めた空に、ソフィアが呟く。</p><p>山々の隙間から現れでた太陽はちょうど祭壇を覆うように光を放ち、Olたちの視界を白く染め上げる。</p><p>そして次の瞬間には、そこにホスセリの姿があった。</p><p>これが最後の戦いというわけか</p><p>ゆるりと刀を構え、ホデリは己が妹と相対した。</p><p>参る</p><p>パン、と音がした。ホスセリが音を超えた速度で迫る音だ。それがOlの耳鼻を打ったそのときにはもう、ホデリの剣はホスセリの剣を叩き落としていた。</p><p>今まで紙一重で心臓を抉ってきたその攻撃を、もはや受けてやる必要はないということだろう。しかしいかにしてそんな事を成し遂げたのかは、Olには知る由もない。</p><p>剣を落としてなお振り抜かれる腕を、ホデリもまた片刃の剣を投げ捨てて両手を添わせる。くるん、とホスセリの身体が回って、地面に叩きつけられた。</p><p>だが刃をも通さず、内臓への打撃をも克服した彼女にダメージはない。構わず起き上がろうとするホスセリの動きが、しかし突如としてピタリと止まった。</p><p>殿。止め申した</p><p>暴れるホスセリを押さえつつ、ホデリ。</p><p>それはどうなっているんだ？</p><p>Olの目には、さほどの力も入れずに奇妙な形でホスセリを押さえているようにしか見えない。にもかかわらず、ホスセリは完全に動きを封じられていた。</p><p>関節を極めております。音より早く動けようと、骨と腱を無視して人は動けませぬ</p><p>なるほど、人間の体の構造を利用しているのか本当にお前は奇妙な技ばかり使うな</p><p>ホデリの簡潔な説明に、しかしOlは理解した。こうして押さえ込むために、ホデリは失っていた左腕の再生を願い出たのだろう。</p><p>して、いかがなさいましょう？</p><p>そのまま押さえておけ</p><p>Olはそう命じると、呪文を唱えながらホスセリの身体に手をかざす。すると、何とか逃れようともがいていた彼女は突然ピタリと動きを止めた。</p><p>単純な麻痺の術だ</p><p>効くだろうとは思っていた。何故ならホデリは今まで物理的なアプローチしかしてこなかったからだ。魔術への耐性は一切ないはずだった。</p><p>しかし、それは一時しのぎにしかならぬのでは？</p><p>そうだな。無論、これで終わりではない</p><p>当然のことながら、一晩経てばそれへの耐性も得てしまうだろう。</p><p>だからこそ、全力を注ぎ込むためにここまで温存してきた。</p><p>ここから先は、俺の仕事だ</p><p>第15話不滅の勇者を斃しましょう-7</p><p>さてこんなものか</p><p>ソフィアたちを一旦ダンジョンへと帰し、Olは一人残って丹念に準備を施していた。キューブを展開して祭壇の周囲に敷き詰め、その出来栄えを何度か確認して満足気に息を吐く。</p><p>さあ、いくぞ</p><p>そしてホスセリに向かって解呪の魔術を放った。といっても、ザイトリードにすら解けなかった太陽神の呪いが解けるわけがない。それはOlがかけた、麻痺の術を解くものだった。</p><p>途端、弾かれたようにホスセリがOlに向かって走り出し、剣を振るう。だがその刃がOlの胸を貫こうとしたその瞬間、ホスセリはあらぬ方向に移動して剣を振っていた。</p><p>ホデリの奴が技も工夫もないとは言っていたが、これは予想以上だな</p><p>何度も何度もOlに向かって突進しては、虚空を切り裂くホスセリの姿にOlは呟く。彼が事前に準備したのは、転移の罠の迷宮だ。</p><p>傍目にはなにもないように見えるが、その空間は複雑に絡まりあっており、見た目通りにOlの方に近づいたのでは永遠に辿り着くことが出来ない。音より早く動けようと、鉄をも砕く力があろうと同じことだ。</p><p>ホスセリはその日、ただただ愚直にOlに近付こうという試みを繰り返し続けた。</p><p>再び日が落ち、そして昇る。ここが最後の祭壇だからか、ホスセリは今までのように消えることなく、光に包まれた。この祭壇をも破壊してしまえば、あるいはホスセリは二度と蘇ることはなくなり、脅威は排除できるのかも知れない。だがOlには、そうするつもりはなかった。</p><p>面白い真似、するね</p><p>ホスセリが、ぽつりと呟く。ガラス玉のように何の感情も映していなかったその瞳には、僅かではあるが知性の光が宿っていた。</p><p>Olが作った次元の迷宮は、力づくでは決して脱出できないパズルのようなものだ。空間自体が捻じ曲げ接続されているのだから、魔術への耐性を上げたところで無意味。</p><p>それを突破する為の選択肢は三つ程度しかない。</p><p>ユニスのように自由自在に転移する力を身につけるか。</p><p>ザイトリードのように魔術自体を破壊する力を身につけるか。</p><p>あるいは、ほんの僅かな思考能力を手に入れるかだ。</p><p>強化は必要な分だけ、最低限であるとホデリは言っていた。であれば、太陽神がどれを選ぶかは自明である。</p><p>知っているかもしれんが名乗っておこう。俺はOl。貴様が使っているその肉体の主人だ</p><p>問答を、する気はないよ</p><p>言いつつも、ホスセリは迷いなく次元の迷宮の正解ルートを辿っていく。思考能力だけではなく、何らかの探知能力も備えたらしい。</p><p>だが、それは無意味なことだった。</p><p>眠れ</p><p>Olの魔術が眠りの雲を呼び出して、ホスセリの頭を包み込む。麻痺の魔術よりやや強めにかけたそれはすぐに効果を発揮して、ホスセリはあっさりと昏倒した。</p><p>Olは次元の迷宮を解除すると、眠るホスセリの身体を祭壇の上に横たえ、更に幾つか魔術を仕込んでいく。抵抗感からして、彼女は麻痺だけではなく魔術全体への耐性を得ているようだった。しかし威力を制御してやれば、もう二、三回は魔術をかけられるだろう。魔術の精微な威力調整は、Olの最も得意とするところだ。</p><p>さあ。俺が指を鳴らすと、お前は目が覚める。しかし、大きく動いたり、深く物を考えたりすることは出来ない。まどろみの中だ</p><p>パチン、とOlの指が鳴る。ホスセリの瞳がゆっくりと開かれる。しかしそこには先ほど見せた理知の輝きはなく、代わりにとろんとした夢うつつの眼差しがあった。</p><p>お前の名を、教えてみろ</p><p>クク、ル</p><p>辿々しく言葉を返すホスセリに、Olは満足げに頷く。</p><p>彼女にかけたのはごくごく低級な催眠の術。しかしそれは覿面に効果を表していた。</p><p>女のような名前だな</p><p>私は女</p><p>女神なのか？お前は太陽神なのだろう？</p><p>一側面だから、女</p><p>ホスセリはいや、その身に宿った女神ククルは辿々しく、答える。それは催眠にかかった人間特有の反応でもあり、同時にホスセリ自身の反応を思い起こさせた。</p><p>それは好都合だ</p><p>少なくとも、イェルダーヴが奉じていた太陽神イガルクは男神だと聞いていた。だから無意識にホスセリを操る神もそうなのだと思いこんでいたが、そうでもないらしい。奇妙な事だとは思いつつも、Olはあまり気にしない事にした。</p><p>覚えているか？お前はお前のこの肉体は、俺のものだと</p><p>祭壇に横たわったままのククルの胸を、Olは鷲掴みにする。</p><p>お前のその肉体は俺のものだ。言ってみろ</p><p>私の肉体はあなたの、もの</p><p>そう。お前は、俺のものだ</p><p>囁くように繰り返しながら、Olはとん、とんとククルの肌を撫ぜていく。</p><p>んっぅ</p><p>その唇から、微かに声が漏れる。</p><p>昨日彼女が麻痺している間に、Olはその身体をじっくりと開発していた。</p><p>知性があろうとなかろうと、肉体の反応が消えてなくなったわけではない。</p><p>お前が俺のものであるという証拠を、刻みつけてやろう</p><p>Olはククルの服を脱がしながら、その下腹部に指を添わせる。魔力の籠もった指先はまるで筆のようにククルの白い肌に跡を残し、複雑な紋様がその下腹部子宮のある位置の表面に描かれた。</p><p>これは性感を増幅する魔術紋淫紋だ。お前が俺に隷属すればするほどその効果を増し、快楽を引き上げていく</p><p>隷属</p><p>お前はただ心のままに、俺に身を委ねれば良い</p><p>ただの事実を復唱させて、その解釈を拡大することで認識を少しずつ歪め、強制はせずに己の望む方向へと誘導していく。それはOlの得意とする催眠、洗脳の常套手段であった。</p><p>いかに太陽神と言えど、その権能に果てなく無限ということはないだろう。故に、Olは己が最も得意とする手段で勝負に出た。</p><p>Olの技と術とに太陽神の能力が抗しきらねば、Olの勝ちだ。</p><p>さあいくぞ</p><p>彼は覚悟を決めて、祭壇の上に横たえたホスセリの上に自身を埋めた。</p><p>日が沈み、再び昇り、そしてまた沈む。</p><p>ホスセリが新たな耐性を得てOlの術を逃れる度にOlは術の威力をあげて、彼女を拘束し更に念入りに洗脳を刷り込んでいく。</p><p>催眠、洗脳自体はククルの自由を奪い拘束するものだ。当然それへの耐性は得て、彼女の意識は次第にはっきりしていく。だがしかしそれと反比例するかのように肉体はOlの与える快楽に蕩け、熟れていっていた。</p><p>昼夜を問わず繰り返される快楽と淫蕩に塗れた戦いは丸二日間続き、それは三日目のことであった。</p><p>あぁっ！く、ぅんっは、あぁぁっ！</p><p>祭壇で四つん這いになり、後ろから突き入れられて、ククルは気持ちよさげに鳴き声をあげた。下腹部に描かれた淫紋が強く輝いて、それが彼女にビリビリと響くような快楽を伝えていく。</p><p>快楽は、危害ではない。故に彼女はそれへの耐性を得るわけでもなく、素直にそれを楽しんでいた。</p><p>そこぉっいい、のぉっOl、そこ、もっと、ゴリゴリ、してぇっ！</p><p>随分素直になってきたな</p><p>犬のような姿勢で尻を振ってねだるククルに、根本までずっぷりと埋め込みながらOlはその乳房を弄ぶ。</p><p>ん、だって、こんなの、初めてだしあっそれ、おっぱい、もっと、してぇっ</p><p>明確に敵対する間柄でありながら、二人は睦み合い、気軽に言葉を交わし合う。</p><p>それにもう、今日で最後、でしょ？</p><p>そうだな</p><p>それはククルがOlの限界を知っているが故の余裕であった。</p><p>太陽の女神ククルの権能がOlの術を上回る範囲を見事に読み取って、それをほんの僅かに超える術で次の日を制する。精微を極めた魔術師の、ある種の到達点。Olであるからこそ出来た芸当だ。</p><p>彼は度々ホデリの技に半ば呆れ半ば感心していたが、剣と魔術の差があるだけで、Olの芸当も相当に人間離れしている。</p><p>だがその繰り返しにも、いよいよ限界が訪れていた。三日目の朝、Olがかけた術は全力でのものだったのだ。これ以上、ククルを押し止めることは出来ない。</p><p>ククルもそれをわかっているがゆえに、最後の逢瀬を存分に楽しんでいた。</p><p>お前は、何が目的なんだ？</p><p>んっふ、あ、ぁそうだねおっぱい、もっと、気持ちよくしてくれたら、教えてあげる</p><p>Olはククルを抱き上げると向きを変えて己の膝に乗せ、対面座位の格好でその胸の先端を口に含む。</p><p>ん、や、ぁ触っ、あっそれいいっ！すご、いっ！あぁっ！</p><p>焦らすようにじわじわと舌先が乳輪をなぞり、同時にOlの無骨な指が柔肉を優しく揉みしだく。堪えきれず懇願しようとしたその瞬間にピンと硬く尖った乳首が軽く甘噛されて、ククルは思わず高く鳴いた。</p><p>それで、目的は？</p><p>あっ、や、やめないでかつての栄光を、取り戻したい。それだけだよ</p><p>唇を離し、焦れる程度の強さでクリクリと乳首を摘み上げるOlに抗議しながら、ククルは答える。</p><p>栄光、か</p><p>Olは思わず振り向いて、風のダンジョンを一望した。</p><p>それは未だ機能した生きた迷宮ではあったが、しかし万全には程遠い。きちんと管理され、運用されていた頃であればOlとてここまで簡単に奥まで辿り着けはしなかっただろう。</p><p>そしてその周囲の滅びた街。そこもまた、かつては人々で賑わい栄えていたはずだ。</p><p>この子は、私の国の民その王族の、末裔。だから、力を借りたの</p><p>王族だと？</p><p>思わず問い返すOlに、ククルは頷く。</p><p>獣の神に呪いをかけられ流浪の身になって失われちゃったけどね。その獣の神ももう滅んで、どこにもいない</p><p>遠い昔を懐かしむように目を伏せ、ククルは独白するように言った。</p><p>この国を復興したいというのなら、手伝ってやる。それでは駄目なのか？</p><p>ごめんね。Olの事は嫌いじゃないけどそれは、無理</p><p>無理なのは復興なのか、それとも手を結ぶことなのか。</p><p>どちらかはわからないが、Olの差し出した手は、しかしはっきりと拒絶された。</p><p>ね。そんなことより楽しもう？最後、なんだし</p><p>Olは頷き、ククルの両乳首をねじりあげるようにしながらずんと腰を突き上げた。</p><p>ククルはぎゅっとOlにしがみついて、快楽を受け入れる。淫紋が一際激しく輝いて、彼女は声を震わせながら絶頂した。</p><p>うんっ！頂戴。中に膣内に、頂戴。私を、Olのものにして</p><p>隷属の言葉と意思に反応して、淫紋が更に輝きを増す。先程否定したばかりの懇願に、しかしOlは素直に従った。</p><p>ああ俺のものになれ！お前は、俺の女だ、ククル！</p><p>うんっ、うんっ、Olのものになる！</p><p>出すぞ孕めっ！俺の子を、孕めっ！</p><p>ああっ、ああああっ！来る、来てるっ！Olの、あかちゃんできちゃうぅっ！私の、この子の、おなかがっ！喜んで、迎え入れちゃってるっ！</p><p>どくり、どくりとOlは白濁の液を容赦なくククルの胎内へと注ぎ込んだ。すると紫の光を放っていた淫紋が、琥珀色に染まっていく。</p><p>それは、堕ちきった証。身も心もOlに隷属した証拠であった。</p><p>何の備えも仕込みもしていない精は我先にとククルの子宮を蹂躙し、犯し、穢していく。その奥で待っていた卵につぷりと子種が侵入するのを確信して、ククルはぶるりと身体を震わせた。</p><p>孕んじゃっ、たぁ</p><p>うっとりと顔を綻ばせ、琥珀色の紋様を輝かせて。ククルの開いた股の間から、たっぷりと仕込まれた精液がこぽりと溢れ出す。</p><p>そのまま順調に行けば、十月十日の後に彼女は元気な赤子を生むことだろう。</p><p>そんな日はけして来ない事を、Olもククルも理解していた。</p><p>それ故の戯れ。ごっこ遊びの一種のような戯言に過ぎない。</p><p>ククルの身も心も、確かに間違いなく堕ちた。</p><p>だが、太陽とは何度落ちようとも、必ず昇るものなのだ。</p><p>ククルの身体を純白の光が取り巻き、その身についた精液が燃やし清められていく。その光に抵抗するかのように、彼女の下腹部に描かれた紋様が輝いた。</p><p>全てが白で包まれる中、淫紋だけが黒く浮き出る。それは一際大きく輝くと、白を陵辱するかのようにククルの全身を黒く染めあげていく。</p><p>その、次の瞬間。</p><p>バチン、と大きく音を立てて淫紋がはじけ飛んだ。</p><p>それは最期の輝きでしかなかった。</p><p>Olが三日の時をかけ、幾重にも幾重にもかけた呪いはしかし、及ばなかった。</p><p>少し焦った</p><p>ぽつりと呟き、ククルは調子を確かめるように腕を回す。それだけで、彼方の山を覆っていた雲が吹き飛んだ。</p><p>その光景に、Olは目を見張った。膂力を増やすような行為はしていない。彼女の筋力はホデリが押さえつけるのを克服できる程度のはずで、雲を吹き飛ばせるような規格外の力など持っているはずがなかった。</p><p>ああ簡単な話だよ</p><p>Olの表情を見て、その考えを察したのだろう。ククルは答えた。</p><p>Olがこの身体に思考能力をつけてくれたから。もうこちら側から干渉して、好きな能力を成長させられる</p><p>彼女は伊達や酔狂だけで三日間、Olに付き合ったわけではなかった。その時間を用いて、ククルは己の能力を更に成長させていた。</p><p>空の雲をも割る膂力。音を遥かに超える速度。あらゆる呪いを受け付けぬ肉体。</p><p>地上最強の存在が生まれた存在であった。</p><p>なるほどそこまで強くなれば、もはや技巧など不要だろう。技も研鑽もなくとも、竜すら容易く縊り殺せる。</p><p>なかなか楽しかったよ、Ol</p><p>笑みさえ浮かべて、ククルは言った。それは純粋な本音であった。</p><p>そうだな悪くはなかった</p><p>Olもまた、それに答える。</p><p>だがまだお前は最強ではない</p><p>返ってきた答えに、ククルはキョトンとしてOlを見返した。</p><p>私より強い存在がいるってこと？</p><p>ああ、そうだ。一人だけ、俺の配下にお前を超えるものがいる</p><p>ふぅんまあいいよ。その強さも超えるまでだし。出してみて</p><p>では行くぞ</p><p>Olが手をついた途端、ククルの周囲を壁が取り囲む。</p><p>そしてOlごと、小さな部屋に閉じ込めた。</p><p>？あなたが私より強いってこと？</p><p>ククルは警戒する素振りすら見せない。それはそうだろう。彼女を害せるものなどいるわけがない。仮に害せたとしても、日が昇ればそれは全くの徒労に終わる。</p><p>あ。もしかして、太陽から隠せばいいと思ってる？</p><p>いいや。いくら大地の下に隠そうと、太陽が無くなるわけではないだろう</p><p>壁、床、天井。その表面に魔法陣が浮かび上がった。Olが大仰な仕草で印を組み、呪文を唱える。陣を、呪文を、手印を、動作を。その全てを使ったそれは、間違いなくOlの出来る範囲でもっとも強力な術の行使。</p><p>ククルの身体が琥珀色の光に包まれ、染み渡っていく。</p><p>その段になってようやく、彼女はOlの意図を察した。</p><p>それは、駄目っ！</p><p>音を超える速度で腕が伸ばされて、吹き荒れる風がOlの髪を揺らす。</p><p>だが、その腕が彼をバラバラにする寸前で、もう片方の腕がそれを止めていた。</p><p>わかったか？これが、お前より強い、俺の最強の配下だ</p><p>なる、ほど</p><p>ククルの顔が奇妙に歪んだ。笑みのような、怒りのようなそしてそのどちらでもないかのような、複雑な表情。</p><p>さあ。俺の女から出て行け、太陽神</p><p>Olがかけたのはククルを害する術ではない。</p><p>強化する術だ。</p><p>太陽神の権能によって高められた対術能力は、Olの強化を受けて更に倍化いや、累乗化する。世界最高峰の魔術師の洗脳をすら容易く跳ね除けるそれを更に高めた能力は、太陽神自身の支配能力をも超えた。</p><p>ただいま。お館様</p><p>ふらりと身体をよろめかせ、ホスセリはOlを見上げる。</p><p>ああよく帰ってきた、ホスセリ</p><p>その身体を、Olはそっと抱きとめた。</p><p>第16話愚かしい決断を選び取りましょう-1</p><p>旦那様。湯加減はいかがですか？</p><p>ああいい、湯だ</p><p>ホスセリを取り戻した、その二日後。</p><p>たっぷりと休息をとったOlは、七日間の疲れを癒やすために火山の中の温泉に身を埋めていた。</p><p>火山から溶け込んだ様々な成分が含まれるその湯は、Olのダンジョンの風呂に比べてさえ心地よさが段違いだ。</p><p>この湯には毎日入りに来ても良いかも知れんな</p><p>Olの言葉に、サクヤはくすりと笑みを浮かべる。</p><p>寂しくなりますわね</p><p>そして、そっとしなだれかかった。</p><p>ヤエガキのオロチを倒し、サハラを下し、ヒムロと同盟を結び、ホスセリを取り戻し。</p><p>Olがこの地で成すべきことは、全てを成し遂げた。</p><p>もはやOlがこの地に留まる理由はなく、彼は数日の間にも本拠地へ戻る事を宣言したのだ。</p><p>何。ミシャの能力で繋がっているのだ。今までとそう大差はない</p><p>そんな事はない、とサクヤは思う。</p><p>ソフィアがダンジョン自体であるように、Olが今まで寝起きしていた火の山はサクヤ自身だ。人が自分の体内を知れぬのと同じで、ソフィアのようにその内部を把握できるわけではない。けれど、Olの存在自体は常に感じていた。</p><p>それが無くなるのは、酷く寂しいことだ。</p><p>けれどもそれを口にすればOlを困らせてしまうであろうこともまた、わかっていた。</p><p>お背中、お流し致しますね</p><p>故にサクヤは、呟くようにそうとだけ言った。</p><p>Olも彼女の気持ちをわかっていながら、ただ頷く。</p><p>湯から上がり椅子に腰掛けるOlの背中を包み込むように、サクヤはぎゅっと抱きしめた。</p><p>あら</p><p>前に回した彼女の手に熱く硬いものが触れて、サクヤは唇を綻ばせた。</p><p>妾の粗末な身体で、こんなに興奮して頂けたのですか？</p><p>これのどこが粗末というのだ</p><p>Olは後ろを振り返ると、無造作にサクヤの乳房を掴む。手のひらにはとても収まらない、Olの囲う美姫たちの中でも屈指の巨乳だ。</p><p>あん</p><p>サクヤは嫌がる様子もなく微かに甘い声を上げ、男にそのたおやかな身を差し出す。その折れそうなほどにほっそりとした腰に腕を回して抱き寄せると、サクヤはOlに顔を向けて、そっとまぶたを閉じた。</p><p>二人の唇が重なり、軽く触れ合うそれは次第に深く強く、やがて水音を立てながら舌が絡まり合う。</p><p>お待ちくださいませ</p><p>たまらず組み敷こうとするOlの腕を、サクヤはそっと押し留めた。</p><p>旦那様。サクヤは、旦那様をお慕いしております</p><p>唐突にそんな事を言い出す彼女に、Olは怪訝な表情を浮かべる。</p><p>ですから旦那様に最も喜んで頂けるにはどうしたらいいか、そう考えました</p><p>サクヤの言葉に応ずるように浴場の扉が開き、見知った顔が姿を現した。</p><p>ユツ、テナ、タツキ、ホスセリにミシャ。イェルダーヴとザナまでもが、一糸纏わぬ姿で立ち並んでいた。いや、それだけではない。</p><p>リルにユニス、スピナにマリーといった、Olのダンジョンの中核を担う面々までもが揃っている。</p><p>旦那様のお好きなものは、美湯に美食、そして美女でございましょう？</p><p>唖然とするOlににっこりと微笑み、サクヤ。</p><p>最近忙しくって、こういう派手な乱交パーティーも出来てなかったしね</p><p>リルがふわりと浮いてOlに擦り寄り、色っぽく囁く。</p><p>ご主人様。せいいっぱい、ご奉仕させて頂きます</p><p>イェルダーヴがOlの手を取り、そっと己の胸に押し付けて。</p><p>ボクも頑張りますね、Ol様！</p><p>妖狸の耳をピコピコと動かしながら、ユツが逆側の腕を抱きしめた。</p><p>まずはご主人様のだーいすきな、おっぱい洗いからしてあげるね</p><p>ぐっとその双丘を強調するように持ち上げながら、リルがそんな事を言う。</p><p>別に、大好きという程のものでもないが</p><p>じゃあ嫌いなの？</p><p>リルに聞き返され、Olは押し黙る。勿論、けして嫌いではないからだ。</p><p>しかし一糸纏わぬ艶やかな姿で、視線を持って射殺さんばかりに睨みつけてくるザナが気になって仕方なかった。</p><p>ほーら。これからご奉仕しようとしてるのに他の子を見てるんじゃないの。わたしを見てよ</p><p>Olにだけ聞こえるような声で囁きながら、リルはOlの顔を己の谷間に埋めるように抱きしめる。</p><p>出会ってから十数年、そこに触れなかったことなど数えるほどなのではないかと思うほどに馴染んだ彼女の乳房は、しかし飽きるどころかこうして触れるだけで達してしまいそうなほどに気持ちいい。</p><p>男を魅了するためだけについている淫魔のそれは信じられないほど柔らかく、たっぷりとした質感を持ってOlの顔を包み込んだ。</p><p>かと思えば、伸ばした両腕と背中に別々の柔肉が押し付けられる。サクヤ、ユツ、イェルダーヴ。それぞれ違った形と大きさ、感触の乳房が石鹸の泡を纏って、Olの身体を洗い清めていた。</p><p>ぎゅっと手のひらに押し付けられ、Olの手の甲ごと揉みしだくように動かされているのは、イェルダーヴの張りのある乳房だ。コリコリと屹立した乳首がOlの指の間に擦り付けられ、それを摘む度に甘く声が漏れる。</p><p>その反対で、ユツはOlの腕を胸で挟んで生真面目に洗っていた。彼女の胸はふわふわとして柔らかく、それで擦られると何とも言えぬ心地よさ。まるで天上の雲を洗い布代わりにしているかのようだった。</p><p>そして背中を、サクヤが洗っている。豊満なバストは左右別々の動きをしながら背中に押し付けられて、それと同時にサクヤの手がOlの身体を撫で擦るように洗う。それは丁寧で心のこもった手付きだったが、そのしなやかな指がOlの胸元や脇腹を這う度に、痺れるような快感が走った。</p><p>ん。出そう？</p><p>すると交わってもいないのにリルがOlの状態を悟って、その尻尾がするりとOlの男根に巻き付く。そしてそのまま彼女は腰を下ろすと、何の抵抗もなく怒張を飲み込んだ。</p><p>いいよ、ご主人様。わたしの中にびゅーびゅー精子排泄しちゃって。他の女の子のおっぱいで興奮したご主人様の精液、わたしのおまんこで受け止めてあげる。あなたの使い魔の精液お便所、好きなだけ使って？</p><p>淫魔の技で締め付けられながらそんな事を言われては堪えようもない。言われた通りOlはリルの膣内に容赦なく精を放った。膣奥の子宮口がOlの先端に熱く口づけて、まるでそこに舌でもついているかのような綿密さで膣壁がペニスを撫でる。</p><p>そんな淫靡極まる動きを、リルはOlの顔を見つめながら、まるで初恋を抱いた少女のような表情でしてのけるのだからたまらない。</p><p>次は私がお清めさせて頂きます、お師匠様</p><p>リルの中での射精が終わるとざばりと湯で泡が流されて、入れ替わるようにスピナがOlの前に跪き、恭しい仕草でペニスを口に頬張る。</p><p>たつきもおうる、ぺろぺろするー！</p><p>そこに飛びつくようにタツキが続いて、彼女はOlの胸元に舌を這わせ始めた。</p><p>あなた様口を吸うても、良いじゃろうか</p><p>先程積極的に迫ってきた孫娘とは対照的に、おずおずと申し出てくるテナ。Olが顔を向けて頷くと、彼女は両手をOlの頬に当ててそっと唇を重ねた。</p><p>三人の女の舌が、Olの別々の場所をそれぞれ這い回る。</p><p>何より大事なものだとでも言わんばかりに丁寧に丁寧に肉竿を舐め清めるスピナ。</p><p>ちゅっちゅと音を立てながらそこら中に口づけ、しゃぶるように唇で甘く食むタツキ。</p><p>うっとりと頬を染めながらOlと舌を絡めあい、唾液を交換するテナ。</p><p>共通しているのは三人が三人共、まるで至高の料理でも口にしているかのようにOlを味わっていることだった。</p><p>そこに味わいを足してやろうと、Olは自由な両手を伸ばした。前傾姿勢になってぶら下がるタツキの乳房を揉みしだきながら、テナのふわりとした狐の尻尾が生えた尻を撫でさする。</p><p>ゃんだめぇおうる、そこ、触られると、たつきなんか、へにゃってなっちゃうんだよぉ</p><p>ん、ちゅああ、あなた様儂の貧相な身体で良ければ、いくらでもおさわり下され</p><p>正反対の言葉を返しつつも、しかしその意味するところは同じだ。Olが二人の柔肌を存分に楽しんでいると、対抗するかのようにスピナが剛直を咥えこんだ。</p><p>常人よりも太く長いOlのそれを根本まで飲み込んでも彼女はえずくことなく、喉の奥できゅっきゅと締め付ける。その献身的な動きに、Olはスピナの頭を両手で掴んで腰をぐっと押し付けた。</p><p>乱暴な動作だったが、しかしスピナは目を細め嬉しそうに受け入れる。その歯は柔らかな粘体に変化して、どれだけ激しくイラマチオを行ってもOlのペニスを傷つける心配はない。</p><p>んっ、んっ、んぶっ、んぅっ、ん、んんんっ！</p><p>自分勝手な動きで口内と喉とを犯され、白濁の液を流し込まれる。</p><p>普通なら苦痛と屈辱しか感じないような行為だが、スピナに限ってはそうではなかった。顔にしか触れていないにも関わらず、彼女は絶頂に達して身を震わせる。</p><p>はいとっても素敵でした</p><p>スピナの口内からペニスを引き抜き一応尋ねると、彼女はぽうっとした表情で頬をおさえそう答えた。</p><p>じゃあ次はあたしたちだねっ！</p><p>更に入れ替わり、ユニスがぎゅっとOlに抱きつく。</p><p>また今度、っていう約束まさか果たさずに帰るつもりだったんじゃないでしょうね？</p><p>ザナが少し拗ねたように、Olの胸を指先で突く。</p><p>さあ、我が主よ。存分にまぐわおうぞ！</p><p>塞の神、ミシャは性愛の神だけあってやる気満々と言った様子で詰め寄った。</p><p>じゃあお好きな相手をどうぞ、って感じでどうかな</p><p>言って、三人の美女は揃って四つん這いになって尻を向ける。</p><p>薄い褐色のユニスに抜けるような白い肌のザナ、淡黄白色のミシャと、色とりどりの花がOlの眼前に並んだ。</p><p>Olはまずユニスの腰を掴むと、遠慮なく彼女の中に突き入れた。</p><p>あぁっは、ぁOl、だぁ</p><p>何だそれは</p><p>安心しきったように呟くユニスに、Olは苦笑する。</p><p>なんかOlので、おなかの中、いっぱいになると凄く満たされるっていうか、安心、するん、だよね</p><p>ユニスの言葉に、Olは思わず押し黙る。似たような感覚は彼も持っていたからだ。特に子を生んでから、ユニスとの性交は快楽よりも先に充足感が来る。</p><p>けど今日は味見比べ、してくれる？</p><p>わざと扇情的に言うユニスに頷いて、Olは次にザナの腰を掴む。</p><p>いいよそのまま、挿れちゃって</p><p>いいのか？</p><p>秘所に触れれば確かに十分濡れてはいるが、ザナはまだ経験も少ない。それに気位の高い彼女がそんな扱いをされる事を望むとは思わず、Olは聞き返した。</p><p>んだってあたしはマスターの奴隷なんだもんでしょ？</p><p>どこか恥ずかしげに、しかしはっきりとザナはそう口にする。</p><p>たまらず、Olは彼女の中に侵入した。</p><p>まだ慣れきらない彼女の中は濡れているといってもキツく締め付けてきて、その初々しさを多分に残す膣肉の味わいは、馴染んだそれとはまた違った良さがある。</p><p>待ちかねたぞ</p><p>ザナの中を十分に楽しんだ後、Olはミシャの中へと突き入れる。彼女には、前戯どころか余計な愛撫すら不要だ。</p><p>ああこれだ。相変わらず汝の魔羅は素晴らしい</p><p>ミシャは喜びに震え、感嘆の息を吐く。</p><p>その膣内はザナとは真逆。キツさなどは微塵もなくするりと男根を飲み込みながら、絶妙な加減で締め付けてくる。一切の加減も遠慮もいらず、好きなだけ貪れる肉壷だ。</p><p>Olは三人の体を引き寄せ纏めて抱きしめると、ユニスに言われた通り欲望の赴くままに犯し楽しむ。ユニスのぴったりと収まる膣内も、ザナの初々しい性器も、ミシャの蕩けるような中も、それぞれ違って素晴らしい味わいだった。</p><p>うん、きてぇっ！</p><p>宣言するOlに、ユニスがきゅうと彼の男根を締め付ける。Olは己の剛直のかわりに、ザナとミシャの秘裂へと指を差し入れた。</p><p>あっ、あっ、あぁっ、んっ、ふあぁぁんっ！いいよぉ、Olぅっ！</p><p>く、ぅ、んっ、ふ、ぅっうっ、くぅんっ！</p><p>ゆ、指で、なんてっ、そんな、ああ、子作りで、ない、のにぃっ！</p><p>三者三様の鳴き声をあげながら、美女たちは身を寄せ合って絶頂に身を震わせる。Olは達する寸前にユニスの中から肉槍を引き抜くと、迸る白濁の液を彼女の尻から背中へと降り注がせた。</p><p>あぁOlの暖かい</p><p>くたりと脱力して突っ伏しながらも、ユニスは幸せそうにそう呟いた。</p><p>御館、様</p><p>最後の二人。</p><p>マリーに背を押されるようにして、ホスセリがおずおずと踏み出してくる。</p><p>何か言いたげな彼女の言葉を、Olはじっと待った。</p><p>謝罪や悔恨は既に何度も聞いていた。今ホスセリが言いたいのは、別のことなのだろう。</p><p>私呪い、解けた</p><p>獣の神とやらの力は、太陽神より弱かったのだろう。</p><p>ククルの呪いが解けたのだから、獣の神の呪いもまた解けた。</p><p>すまなかったな</p><p>自然と謝罪を口にするOlに、ホスセリは驚いたように少し目を見開いた。表情に乏しい彼女にとっては大きな変化だ。</p><p>俺はあの時、お前に答えてやれなかった</p><p>獣の姿を抱けるか。そう問われ、Olはイエスと答えられなかった。いや、今もなおそうだ。半人半獣程度ならばまだしも、完全に獣にしか見えない女を抱けるかと言われると、流石のOlとて厳しい。</p><p>だからそれは、俺の責だ</p><p>そんな、こと</p><p>ない、とは言い切れずに、ホスセリは視線を下に向けた。彼女が己の呪いを厭い、彼を裏切ってまで情報を求め、太陽神に乗っ取られる羽目にまでなったのは、ひとえにOlを慕うがゆえのことだ。</p><p>だがその一方で、勝手な判断で主人に迷惑をかけたのも事実である。ホスセリの価値観では、到底許されるようなことではない。</p><p>よかったね！Olさま怒ってないって</p><p>思い悩むホスセリに、マリーは明るく声をかけた。そう単純な話ではないことは、彼女とて理解はしている。だからこそ、マリーはあえて何も考えずにそう告げた。</p><p>ついでだ。お前の望むように抱いてやる。どうして欲しい？</p><p>それに便乗してOlが尋ねる。ホスセリは少し考えて、Olを見上げた。</p><p>御館様の子を、産みたい</p><p>Olが頷くと、ホスセリはころんと床に転がる。</p><p>私を孕ませて、御館様</p><p>そして曲げた脚を開きながら、己の秘所を指で押し広げてそうせがんだ。</p><p>ククルに操られていた間の記憶はあるのだろうか。ふとOlはそんな事を思ったが、口には出さずホスセリに覆い被さるようにしてその腰を抱く。</p><p>んっは、あ</p><p>久々に味わうホスセリの中は、不思議なことに数日前まで交わっていたククルのそれとはまた違った感触であった。</p><p>Olさま、わたしの事も可愛がってね</p><p>ズブズブとホスセリの中へと腰を埋め終わると、マリーがOlの首に腕を回して頬を擦り寄せる。Olは彼女の背中からぐるりと腕を回して胸を鷲掴みにすると、その唇をこじ開けるようにして舌を侵入させた。</p><p>御館様私、の、もっ</p><p>コツコツと奥を突かれて声を弾ませながら、ホスセリはOlの空いた方の手を己の乳房へと導く。</p><p>あっ、あっ、あっ、あっ、んっ、あぁんっ</p><p>んっ、んむ、んんっ、ぅんっ、ちゅ、ぅんっ</p><p>腰を埋めて膣壁を擦り上げる度にあがるホスセリの高い声と、舌を絡め口の中を侵されながら甘く漏れるマリーの濡れた声。己を慕う二人の娘の嬌声が、Olの耳を蕩かせる。</p><p>唇を離して宣言すると、答えるかわりにホスセリの膣口が子種をねだるようにぎゅっとOlを締め付けた。同時にすらりとした脚がOlの腰に回され固定されて、膣内射精を促す。</p><p>元々外に出す気もなく、Olは遠慮なくホスセリの中に注ぎ込んだ。既に十人の女と交わり三度も精を吐き出していながら、しかしOlの精力は尽きる気配もない。濃厚で粘ついたドロドロの精液が何度も吐き出されて、ホスセリの膣内に収まりきらずごぽりと溢れ出る。</p><p>すっごいドロドロこんなの出されちゃったら、絶対赤ちゃんできちゃうね？</p><p>マリーはそれを指先ですくい取って舐めあげ、くすくすと笑った。幼い頃から知る、まだまだ未熟だとばかり思っていた少女の妖艶な表情に、Olは思わず喉を鳴らした。</p><p>お前も、注いでほしいか？</p><p>うん。Olさまのドロドロのせーえき、たっぷりナカダシして、種付けして、孕ませて欲しい</p><p>Olの言葉に、無邪気さと艶めかしさをないまぜにしてマリーは答える。</p><p>でもね</p><p>ならばとマリーを抱こうとすると、彼女はOlの逸物を握りしめて押し留めた。</p><p>今日は先に、抱いてあげて欲しい子がいるの</p><p>誰か忘れていたか、とOlは思わず辺りを見回す。Olは出来る限り愛妾たちを蔑ろにしないよう気をつけているが、流石に十数人もいると忘れてしまう可能性もゼロではない。</p><p>あるいは、風のダンジョンを攻略するに当たって手を借りたセレスやエレン、メリザンドといった面々も、Olのダンジョンに戻っているはずではあったが姿を見せても不思議はない。</p><p>この子だよ</p><p>だが、マリーの指し示したのはその誰でもなく。</p><p>そこには見覚えのない、しかし美しい女が立っていた。</p><p>パパ、お願い</p><p>彼女はOlの知らぬ姿、知らぬ声で、しかし覚えのある呼び名でOlを呼ぶ。</p><p>わたしの事も抱いて、欲しい</p><p>まさかお前ソフィア、か？</p><p>愕然とするOlに。美しい女の姿をしたソフィアは、こくりと頷いた。</p><p>第16話愚かしい決断を選び取りましょう-2</p><p>パパ。わたし、大きくなったでしょう？</p><p>一糸纏わぬ裸身を広げてみせるソフィアに、Olは頷く。</p><p>ああそうだな</p><p>そこにいるのはもう赤子ではない。子供でもない。そして、少女と呼べる年齢すら脱しつつあった。</p><p>すらりと伸びた背丈はマリーよりも僅かに高く、Olより拳ひとつ分低い程度だろうか。顔立ちからは幼さがずいぶんと抜けて、かわりに艶やかな魅力がその微笑みを彩っている。</p><p>しなやかな肢体はほっそりとしていながら、胸元の二つの膨らみはリルにも迫るのではないかと言うほどの大きさを備えていた。脚の間には、髪の色と同じ緑色の茂みが薄く覆っていて、そこが男を受け入れる準備を終えていることを否が応でも感じさせる。</p><p>それは、すっかり成長しきった女だった。それも、普段から無数の美女に囲まれ傅かれて暮らしているOlでさえ息を呑んで見惚れてしまう程の美しさ。</p><p>そしてそれほどの美女が、懇願しているのだ。</p><p>抱いてくれ、と。</p><p>不意に、ソフィアは嬉しそうに声を上げて破顔した。その視線はOlの顔より幾らか下に向けられている。その視線を追うと、そこはOlの意思とは無関係に硬く怒張したものがあった。</p><p>初めてだから、下手だと思うけど、ごめんね</p><p>ソフィアはそう断ってOlの前に跪くと、その長い髪をかきあげながら躊躇なく男の物を口に含む。今までずっと覗き見て来たのだろう。その動きは拙いものだが、戸惑いはなかった。</p><p>ま、待て</p><p>それに比べ戸惑いと困惑に満ちたOlの声は弱々しく、ソフィアを止めることはかなわない。彼女は構わず、口をすぼめて強く肉棒を吸い上げながら、懸命に奉仕を始めた。</p><p>うっ！</p><p>その感触に、Olは思わず呻き声をあげる。快感故にではない。ソフィアの気持ちが伝わってきたからだ。</p><p>Olは今まで、何百何千という女を相手にしてきた。故に口淫奉仕一つとっても、その技巧に関わらず相手がどういうつもりでしているのかもすぐに感じ取れる。</p><p>好奇心から他の女を真似て、その持つ意味もわからずに舐める動き。</p><p>男を籠絡し支配するために、快楽を与えようと口を使う動き。</p><p>脅され、あるいは大切なものを守るためにやむなく屈辱を受け入れる動き。</p><p>純粋な肉欲から、己が楽しむために男の肉を咥え込む動き。</p><p>支配され、屈服させられることを喜びとして、己の主に奉仕する動き。</p><p>しかしソフィアの動きは、そのどれでもない。</p><p>ただただOlの快楽を促し、気持ちよくなって貰おうと一心に努力するような、そんな奉仕の仕方だった。</p><p>んこれ、気になる？</p><p>思わずじっと見つめていると、ソフィアは唇を離して己の胸を両手で持ち上げてみせた。確かに彼女が頭を上下させる度に揺れるたわわに実った果実は、嫌でも目に入ってくる。</p><p>んしょこう、かな</p><p>返答につまるOlを肯定とみなしたのか、ソフィアはその豊満な柔肉で挟み込んだ。</p><p>パパのおっきすぎるよ。まだ入り切らないえいっ</p><p>そしてそこからはみ出る先端に照れたような笑いを浮かべながら、代わりとばかりに口に含んだ。</p><p>く、ぅっ</p><p>今度こそ、Olは快楽に声を漏らす。とろとろと肉竿を伝うソフィアの唾液を潤滑油代わりに、柔らかな白い乳房が男根を擦り上げる。そうされながら先端をちゅうちゅうと吸われ舌を這わせられる快感は、えも言えぬものがあった。</p><p>ソ、フィ！</p><p>思わず彼女の名を呼びながら、Olはその小さな頭に触れる。ソフィアはそれに、彼の肉槍を擦る速度をあげて応えた。</p><p>く、あ、ぁっ！</p><p>たまらず、Olはソフィアの口内へと白濁を放っていた。一度ではとても出しきれず、Olは二度、三度と射精する。だがソフィアは口を離さず、それを受け止めながら更に促すようにペニスを胸で扱き立てた。</p><p>んっうぅ</p><p>大量の精液にぷっくりと頬を膨らませながらも、ソフィアはもごもごと口を動かし、それを嚥下していく。</p><p>はぁ、なんとか飲めた</p><p>やがてこくんと喉を鳴らして飲み干すソフィアの頭を、Olは撫でてやりつつ覚悟を決めた。娘とは言え、女にここまでさせたのだ。これ以上グダグダと悩むのは男として情けない。</p><p>他の男を知らぬと言うなら、知らなくとも良いよう幸福にしてやるまでだ。</p><p>望み通りにしてやる。横になれ</p><p>喜色満面の笑みを浮かべ、地面に横たわるソフィア。</p><p>Olは彼女の身体を組み敷いて、その入口に己のものを押し当てた。</p><p>ソフィアの瞳から、知らず涙が零れ落ちる。</p><p>ずっと、こうして欲しいと願い続けていたのだ。</p><p>良かったね、ソフィ</p><p>思わずマリーが呟き、目を細める。</p><p>幼少の頃からOlの娘のようにダンジョンで暮らし育った彼女は、ソフィアの気持ちを誰よりもよく理解できていた。</p><p>不意に、Olが声をあげる。</p><p>それは小さな声だったが、いつになく焦りを含んでいた。</p><p>どうしたの、パパ？</p><p>いや何故だ？</p><p>Olは困惑を滲ませて、己のものを見つめる。</p><p>今まさにソフィアの膣内に打ち込まんとした、その時。</p><p>突然、Olの逸物はその硬度を失い、萎え果てていた。</p><p>パパ？</p><p>信じられないものを見る表情で、ソフィアが目を見開く。</p><p>しかしそれは彼女のみならず、その場の全員が同様であった。</p><p>Olの性欲は限界というものを知らない。何百人を相手にしようとけして萎えることなく、毎夜美女を相手にしながらも飽きることなく抱き続ける。一度放って多少柔らかくなったとしても、美女をくみしけばたちまち剣のような硬度を取り戻すのだ。</p><p>それが萎えて役に立たなくなってしまったところなど、誰一人見たことがなかった。</p><p>流石のご主人様も、緊張することなんてあるのね</p><p>冗談めかしてリルが言いつつ、その柔らかな手のひらでOlの逸物を撫で擦る。性技を極め、長年連れ添った淫魔の手淫だ。それはほんの一撫でで元の硬さを取り戻す。</p><p>だが、結果は同じであった。それがソフィアの秘所に触れた途端、崩れるかのようにそこは硬さを失ってしまう。何度繰り返しても、リルが常に刺激しながら試しても、同じであった。</p><p>なん、で？</p><p>先ほどとは真逆の涙が、ソフィアの瞳からこぼれ落ちる。</p><p>Olとしても、全く原因がわからなかった。</p><p>不能になってしまったというわけではない。現にリルが触ればそれは瞬く間に力を取り戻す。ソフィアに魅力を感じないというわけでもない。口や胸でなら、いけたのだ。</p><p>ソフィアを穢したくないという忌避感、か？</p><p>見た目以上に焦っていたのだろう。考えられる唯一の原因を、Olは思わず呟く。</p><p>それを聞きつけて、ソフィアは顔色を変えた。</p><p>じゃあじゃあ</p><p>よろめきながら、ソフィアが立ち上がる。彼女が腕を振るうと、浴室の中からOlとソフィア以外の姿が消え去った。テレポーターでどこかへ飛ばしたのだろう。</p><p>ソフィア、お前何を</p><p>Olが尋ねるよりも早く、ソフィアの隣に巨大な肉塊が現れた。</p><p>至る場所に穴が空いて血を流し、砕けた骨と肉と脳漿が入り混じった、グロテスクな肉の塊。</p><p>わたしが穢れたら、パパは、わたしを抱いてくれる？</p><p>腐れ、朽ち果てる寸前だったそれが、みるみるうちに整い血色がよくなっていく。</p><p>その段になってようやく、Olはその肉塊が潰れたウセルマートの死骸であることに気がついた。</p><p>しかしOlのその考えは、厳密には間違っている。Olが気づいたその瞬間に、ウセルマートの胸板が大きく前後に動いて自発的な呼吸を始めたからだ。もはや、死骸ではない。</p><p>蘇生の術は極めて高度なものだ。それをこれほどの精度で成し遂げるとは、とOlは目を剥く。そして同時に、彼女の狙いを察知した。</p><p>待て！早まるな、ソフィア！</p><p>ん、む？</p><p>叫ぶOlの声に覚醒したのか、ウセルマートが目を見開く。</p><p>なんと美しい</p><p>そしてソフィアを見るなり、大きく目を見開いて熱に浮かされるような口調でそう言った。彼は起き上がって跪くと、ソフィアを見上げうっとりとした表情で呟く。</p><p>余の全てを差し上げる。そのかわりに、余のものになってはくれないか</p><p>ば！</p><p>馬鹿なことを言うな。</p><p>Olがそう叫ぶより早く、ソフィアの身体が光り輝いた。</p><p>それと同時に、凄まじい衝撃がOlを襲う。全身からごっそりと何かが奪われるような虚脱感に、彼は思わず膝をついた。</p><p>礼を、言おう</p><p>声が、降り注いだ。</p><p>大きいわけでも、強いわけでもない。</p><p>しかし降り注ぐと形容する他ない、その声。</p><p>それは、ソフィアがいた方角から発せられていた。</p><p>ははははははははは！ははははははははははは！</p><p>その声を聞いて、ウセルマートが哄笑を響かせる。</p><p>まさか！まさか、あなたがそうだったとは！だがしかしそれも納得というものよ！</p><p>彼はOlとは違い、ずいぶんと元気そうだった。</p><p>その美貌。その清らかさ。そして何より、その大いなる乳房！それでこそ、我が花嫁に相応しい。さあ、今こそ余と一つに</p><p>しかしその元気な声は、すぐに止まった。その身体が突然吹き飛んだかと思えば、壁に叩きつけられたからだ。首がありえぬ方向に曲がったその肉体は、どう見ても即死だった。</p><p>わたしが礼を言いたいのは魔王Ol。あなただ</p><p>光は、再び声を降らせた。</p><p>けれど、Olは気づく。</p><p>お前はソフィア、なのか？</p><p>それは愛しい我が子の声であった。</p><p>いいえ</p><p>だが光は、ソフィアの声でそれを否定する。</p><p>我は世界をあまねく照らす光</p><p>彼女の声に、別の声が重なる。聞き覚えのない男の声だ。</p><p>我は全てを滅ぼす原初の炎</p><p>そこにもうひとり、別の男の声が加わる。</p><p>我はけして滅びぬ不滅の風</p><p>そして更に女の声が加わった。それもまた、聞いたことのない声。</p><p>しかしOlはその声に、覚えがあった。</p><p>我こそは全知にして全能なる、まったき一つ</p><p>四つの声は混じり合い、男とも女ともつかない声になって、宣言した。</p><p>あなたが、神と呼ぶものである</p><p>第16話愚かしい決断を選び取りましょう-3</p><p>馬鹿、な神だと！？</p><p>激しい混乱の渦に巻き込まれながらも、Olは己の不調の理由を悟る。</p><p>これは、魔力欠乏症だ。</p><p>人間は魔力を使いすぎると身体が動かなくなり、昏倒する。</p><p>全身に感じる激しい虚脱感は、まさにその症状だった。</p><p>お前が神だとかつて魔道王と戦い破れた、天に住まう神だというのか！？</p><p>そう理解してくれて構わない</p><p>ソフィアから溢れ出る凄まじい理力が、Olの体内の魔力を打ち消している。</p><p>この大陸にすまう神々サクヤやタツキ、ミシャといった者たちが使う力は、魔力と理力が混じり合った、霊力と呼ばれるものだ。</p><p>ならば本当に、目の前にいるのは神そのものなのか。</p><p>ソフィアを、どこにやった。お前はどこからきたのだ</p><p>あなたはわかっているはずだ</p><p>Olの問いに光は答える。</p><p>私がまったき一つになった今、一側面でしかないあなたがソフィアと呼ぶ存在は</p><p>やめろ。Olはそう叫ぼうとしたが、その叫びに意味はなく、声をだすことすら叶わず。</p><p>消えた</p><p>Olの身体が、地に崩れ落ちた。</p><p>馬鹿な。そんなはずがない、と思う一方で、その言葉が真実であると確信している自分がいた。</p><p>私は、全ての魔を滅ぼす</p><p>光はそう宣言し、手をOlにかざす。</p><p>魔王Ol。私を復活させた礼に、あなたはせめて苦しまぬよう、滅ぼそう</p><p>その手の中に、純白の炎が生まれた。</p><p>それはウセルマートが放ったような、全てを滅ぼす暴力を秘めた破壊の塊ではない。</p><p>全てが溶け浄化されていくような、心地よい熱を持った炎だ。</p><p>させないよっ！</p><p>Olがその火に己が身を委ねかけたその時、ユニスの声が響いた。</p><p>純白の衣服と鎧に身を包んだ彼女は、サクヤにザナ、タツキを抱えるようにして空間を転移し、Olを庇うように立ちはだかる。</p><p>タツキが腕を振るうと温泉の湯が渦巻いて光を飲み込む。</p><p>凍りなさいっ！</p><p>それを即座に、ザナが凍てつかせた。</p><p>早く行きなさい、長くは</p><p>保たない。その言葉を待つことすらなく、巨大な氷の塊は一瞬で溶解する。</p><p>邪魔は、許さない</p><p>怒りも苛立ちも含まない、ただ事実を宣言する声。それと共に、無数の火炎球が光の周囲に生まれた。</p><p>お下がり下さい</p><p>サクヤが扇を振るい、光とほぼ同数の炎を作り出す。それは光の作り出した火炎球を飲み込んで、尽く相殺した。</p><p>ほう</p><p>微かに愉快そうに、光が声をあげる。</p><p>無礼であるぞ</p><p>サクヤは扇を開き、声を轟かせた。薄紅色の長い髪がざわざわとはためき、赤い瞳が燃えるように輝く。</p><p>妾は山戸(ヤマト)国が主、不尽の山の木花咲耶！無断で妾の邸宅に踏み入りしその咎、なんと心得るか！</p><p>赤く輝くマグマが壁を突き破って迸り、光に向かって降り注ぐ。それは湯と入り混じって猛烈な蒸気を発しながら、赤黒い岩となって光を包み込んだ。</p><p>旦那様</p><p>サクヤはOlを振り返り、穏やかな表情で跪くと、倒れ込んで動くことが出来ない彼にたおやかに微笑む。</p><p>旦那様にお会いして、ほんの僅かな一時なれどサクヤは、仕合わせでございました</p><p>待、て！</p><p>渾身の力を込め、鉛のように重い腕を持ち上げ掴もうとするその手をするりとかわし、サクヤはOlに口づける。</p><p>さあ、塞の神。頼みましたよ</p><p>ああ。任せておけ</p><p>音もなく壁に空いた穴からミシャが姿を現して、Olたちの身体を引く。</p><p>マグマが冷え固まった岩が、戸を開けるようにして押し開かれ。そこには先程に倍するほどの光が浮かび</p><p>サクヤ────────！！</p><p>花のように儚い笑みを浮かべながら、サクヤは光に包まれた。</p><p>ここ、は</p><p>Olが次に目を覚ますと、そこは暗い石造りの迷宮の中だった。</p><p>コボルトたちが一つ一つ積んでいった煉瓦壁と、ソフィアがその権能で一瞬にして作り上げた石壁では造りが全く違う。Olはすぐに、そこが自分のダンジョンであると気がついた。</p><p>大丈夫？</p><p>純白の、英霊としての姿で、ユニスが心配そうにOlの顔を覗き込む。</p><p>恐らく意識を失っていたのはほんの一瞬だったのだろう。</p><p>その後ろにザナとタツキ、ミシャの姿もあった。</p><p>気絶したのは、空っぽになった身体に急激に魔力が入り込んだ反動だったのだろう。</p><p>自身のダンジョンに戻ったOlの身体には、ダンジョンコアを通じて流れ込む魔力で満ち満ちている。</p><p>状況を教えろ。逃げ出せたものは、何人だ</p><p>ソフィアのダンジョンにいたわたしの身体と、ローガンは消滅。理力を浴びて消えただけだから、召喚しなおせばいいだけ。あとはスピナが気絶したけど、少し休めばじきに目を覚ますと思うわ。後はだいたい、皆無事でこっちのダンジョンに避難してる。逃げられなかったのはサクヤとソフィア、ね</p><p>Olの問いに、リルが如才なくそう答えた。</p><p>サクヤは、火山の神だ。海を司るタツキや空間を司るミシャと違って、他の場所に動くことが出来ない。どうしても、逃げることは出来なかった。</p><p>すまぬ、我が主よ。我としたことが、不覚であった</p><p>ミシャが暗い顔で、Olに頭を下げる。</p><p>姿形も、霊気も、何もかもが違った。だからといって汝らがソフィアと呼ぶあの娘に、今の今まで気づかなかった</p><p>正体</p><p>そう言われて、Olはようやく気づいた。</p><p>あの娘は</p><p>大地に隠れた太陽の神。そうなのだろう？</p><p>Olが問うと、ミシャは驚きに目を見開いた。</p><p>知っておったのか？</p><p>気づいてしかるべきだったのだ。大地の下に隠そうと、太陽が無くなるわけではないと、Ol自身も言ったではないか。</p><p>だが気づかなかった。なぜか。</p><p>Olにとって、ソフィアはもはや大事な娘でしかなかったからだ。</p><p>その正体が何なのか。</p><p>一体なぜ森の中に赤子の姿でいたのか。</p><p>なぜ神でありながら成長するのか。</p><p>ソフィアの姿が十歳くらいの時までは、そんな事を疑問に感じていたように思う。</p><p>しかし彼女の成長を喜び、どうすれば幸せにしてやれるのか苦悩し、女としてOlを見始めた彼女に戸惑ううちに、そんな事はどうでも良くなっていた。</p><p>血の繋がりなどなくとも、ソフィアはとっくに、Olの娘であったのだ。</p><p>だがしかし、まさかあのようなことになるとは</p><p>ホスセリに宿った、昇る太陽の神、純白のククル。</p><p>イェルダーヴが奉じていた、中天に座す太陽の神、金色のイガルク。</p><p>そしてウセルマートが操る、沈む太陽の神、赤きアトム。</p><p>太陽を幾つかに分けるのであれば、それで全てのように思える。しかし違ったのだ。</p><p>見えなくなっても、太陽はなくなるわけではない。</p><p>地に隠れし太陽の神、オオヒメ。数千年の昔に消えたものと思っていたのだがな</p><p>そうかそういうことか</p><p>ミシャの呟きに、Olは得心する。</p><p>その地に、Olは形を与えてしまった。ダンジョンという形を。</p><p>つまりそれは肉体だ。</p><p>そしてそこから見出された赤子に、マリーは名を与えた。ソフィアという名を。</p><p>つまりそれは魂だ。</p><p>肉と魂とを与えられて、ソフィアは成長していった。</p><p>それは成長であって成長ではない。</p><p>彼女は元の姿に徐々に戻っていっただけだったのだ。</p><p>そしてダンジョンという形を与えてしまったがゆえに、ソフィアはもう一つの力を手に入れた。他を取り込み、己の力とする能力。ダンジョンは全てを内包し、あらゆるものがダンジョンとなりうる。だからこその力だ。</p><p>そうして全ての太陽神の力を一つに集めた結果が、あの光。</p><p>神。天に座し、かつて魔道王と戦い滅ぼされた全知全能の存在だ。</p><p>Olは、神と呼ばれる存在が多数存在するソフィアの大陸を、奇妙だと思っていた。</p><p>神という言葉がただ唯一を指すのではなく、海や山といった自然物から、性愛のような概念、月や太陽にまで宿る大陸のことを、奇妙だと。</p><p>だが、違ったのだ。</p><p>例外は、Olたちが生まれ育ったこの大陸の方だった。</p><p>おそらくかつては、この地にも幾千、幾万もの神々が住んでいたのではないか。</p><p>しかしそれは全てが滅ぼされ、あるいは吸収され、唯一にして無二となった。</p><p>その中でもっとも強く大きい、太陽そのものの神はそれが太陽の化身であることすら認識されず、ただ天の神、光の化身であると呼ばれた。</p><p>そういうことなのではないか。</p><p>どうするの？Ol</p><p>リルが、心配そうに問いかける。</p><p>結局の所、テナの予知は今回ばかりは外れなかった。</p><p>ホスセリに宿ったククルを下してなおその運命からは逃れられず、Olは炎に包まれて死ぬか、ダンジョンに逃げ帰るしかなかった。</p><p>そしてダンジョンに逃げ帰れば災いを避けられると言っていた以上、この地にいれば安全なのだろう。太陽の神の力も、太陽そのものというわけではない。他の大陸にまでは、その力は及ばない。</p><p>光の神に挑んだとして、勝てるわけがない。</p><p>かつて魔道王がその全力を持って相対し、共に滅んだ相手だ。</p><p>Olは十数年前、その力のほんの一端を持ったメリザンドとすら、全力を振るって辛うじて勝利を収めたに過ぎない。</p><p>勝利の目はゼロと言っていい。だから挑むなどと言うのは、愚かしいことだ。</p><p>取り戻しに行くぞ。俺の娘を</p><p>その愚かしい選択を、Olははっきりと宣言した。</p><p>第17話反撃の準備を整えましょう-1</p><p>魔王Olの治めるダンジョンは、三つの宮を兼ねていると言われている。</p><p>一つ目は、侵入者を拒み惑わす罠と怪物たちの迷宮。</p><p>二つ目は、魔の眷属とその王が住まう絢爛たる王宮。</p><p>そして三つ目は、魔王の美しき妻たちが控える後宮だ。</p><p>旺盛な精力を持つ魔王はその後宮に何人、何十人と美姫を侍らせ、一度に相手をすることも少なくない。であるからその日、魔王の妻、妾、愛人たちが一所に集まり顔を突き合わせているのもそう珍しい光景ではなかった。</p><p>──その主たる、魔王Olの姿がないことを除けば。</p><p>主殿が倒れられたというのはまことか？一体何があった！？</p><p>中でも殊更に血相を変えて問いただすのは、黒アールヴたちの長、エレンであった。彼女率いる黒アールヴの弓兵隊は、通常の王宮で言えば親衛隊に当たる魔王の直属部隊である。</p><p>その手の届かぬところで主人が倒れたと聞いてはましてや、砂の国サハラや風の国フウロといった敵国を無事に下し、あとは凱旋するのみという段になってそのようなことになったとあっては、心穏やかにいることはできなかった。</p><p>安心して。倒れたと言ってもただの魔力失調よ。二、三日安静にしていれば良くなるって</p><p>魔力失調ですって？</p><p>病床に伏せるOlに代わり説明するのは、魔王の右腕にして使い魔、サキュバスのリルである。しかしその説明に、熟練の魔術師であるウィキアが目を光らせた。</p><p>冗談でしょ？未熟な魔術師見習いならともかく、あの魔力操作の化け物が、魔力失調になんてなるわけないじゃない</p><p>魔力失調って何だ？</p><p>鋭く視線を向ける彼女の横でこそりと尋ねたのは、同じく熟練の腕を持つ剣士、ナジャ。剣の腕は確かな彼女であるが、魔術に関してはからきしであった。</p><p>魔力を大量に失ったり、逆に急激に回復したりするとなる不調のことです。ウィキアさんの言う通り、自分の魔力量を把握できてない未熟な魔術師が分不相応な魔術を使おうとしたり、効き目の有りすぎる魔力ポーションをうっかり飲んじゃったりするとなるんですが</p><p>これに答えたのは白アールヴの僧侶、Shalだ。</p><p>Ol様がそんなミスをするわけはありませんし、あの方ほどの魔力容量で軽いめまいとか吐き気程度ならともかく、倒れるほどの量を回復できるポーションがこの世にあるとも思えませんね</p><p>その言葉を引き継ぐようにして、同じく白アールヴの長、セレスが眉根を寄せる。</p><p>あるじゃん</p><p>しかしそれに、クドゥクの盗賊、Faroが異を唱えた。</p><p>このダンジョンだよ。Olはダンジョンの中でなら無限の魔力を揮える。逆に言えば、魔力を失った状態でこのダンジョンに戻れば、限界まで回復するってことでしょ</p><p>普段のOlであればそれでも己に流入する魔力を制御できるであろうが、限界まで魔力と体力を失い、疲労困憊していた状態であればそういったこともありうるかも知れない。Faroの言葉に、一同は納得する。</p><p>あのうでも、なんでそれほど魔力を失う事になったんでしょうか？</p><p>そんな中おずおずと手を挙げ、自信なさげに意見を述べたのは牧場主のミオであった。</p><p>それは異大陸でも随分と女性をお増やしになられたようですから、大層お励みになったということではないでしょうか]</p><p>ニコニコと笑みを浮かべながらもグサリと刺すのは、魔王お抱えの商人、ノーム。いくらOlが人知を超えた絶倫であると言っても、人間の体には限界がある。何人も相手にする時は体力を魔力で補い回復させていることは周知の事実だ。</p><p>己のダンジョンの中でならば魔力自体も回復しながら無限に女を抱くことが出来るが、彼は遠い異大陸、別のダンジョンにいた。新しい愛人への寵愛に熱を入れるあまりに倒れるというのも、ありそうな話であった。</p><p>たとえ魔力がなくても、Ol様が十数人相手で倒れるとは思えないです</p><p>そもそも魔力が切れた時にこちらに戻れば失調を起こすのは自明のこと。Olがそれに気づかぬというのは不自然だな</p><p>控えめな態度ながらもはっきりと口にするミオを、元聖女のメリザンドがフォローする。</p><p>わかった、わかったわよ。ちゃんと説明する</p><p>じっと己を見つめる何対もの瞳に、リルは諸手を挙げて降参した。</p><p>といっても、わたしにも正直何が起こったのかまだよくわかってないの。わかってるのは</p><p>リルは己の目で見た出来事を思い返し、言葉を紡ぐ。</p><p>自らを、神メリザンド。あんたが仕えていた天の神。アレだって名乗る何かが、敵に回ったこと。そして、マリーとOlが我が子のように育ててたソフィアが消えたってことよ</p><p>馬鹿な神だと！？</p><p>飛び出した言葉に、いつも沈着冷静なメリザンドが驚愕し目を見開いた。</p><p>神は六千年前の神魔戦争で滅んだ。私が使っていたのはその名残、残党に過ぎん。他ならぬこの私がこの目で見たことだぞ。間違いない</p><p>説明されなくったってわかってるわよそんなのは。でも本人がそう名乗ったんだから仕方ないでしょ。それに</p><p>リルは目を伏せ、苦しげに口にする。</p><p>いくら奇襲だったとはいえ、わたし達が全員でかかっても為す術がなかった</p><p>未来を予知し変幻自在の幻術を操る巫女、テナとユツ。</p><p>常に最善の手を導き出す月の女神の加護を持つ、ザナ。</p><p>自在に空間を跳躍しあらゆるものを切り裂くユニスに、それに匹敵する力を持つスピナ。</p><p>そしてそんな彼女達を纏めて単独で相手できる程の力を持つ火山の神サクヤ。更には海の神タツキ、塞の神ミシャといった面々を、子供のように扱い軽々と倒してみせたのだ。</p><p>サクヤを置いて逃げ帰るしかなかったのよ</p><p>それはまさに、天の神と呼ぶに相応しい力であった。</p><p>天の力、理力は魔力と相反する。確かにそのような存在と直面したのであれば、Olの持つ膨大な魔力とて霧散するのは道理、だが</p><p>天の神をよく知る分、かえって信じられないのだろう。メリザンドは難しい表情で唸る。</p><p>その神とやらが何者なのかはどうでもいい。私が知りたいのは唯一つだ</p><p>エレンが、噛み付く寸前の狼のような眼光を持って、リルを見つめる。</p><p>主殿に楯突く相手によもややられたまま泣き寝入りするというわけではあるまいな？</p><p>相手を滅ぼせと命じてくれ。エレンの瞳はそう言っていた。</p><p>ええ。Olは、戦うつもりよ</p><p>それでこそ主殿だ！我が弓、今度こそ存分に揮おう！</p><p>黒アールヴは歓喜の声をあげ、腕を振り上げる。それに呼応して、他の面々もそれぞれに戦いの覚悟を決める。</p><p>だが、相手が本当に神だとするのなら勝ち目はあるのか？</p><p>そんな中ただ一人、眉根を静かに寄せるメリザンドに。</p><p>もちろん。あのOlが、何の勝算もなく挑んだりするわけないでしょ</p><p>リルは自信満々に、そう答えた。</p><p>第17話反撃の準備を整えましょう-2</p><p>その、数日後。</p><p>勝算など、あるわけないだろう</p><p>ようやく身体がまともに動くようになり、病床から起き上がった主人の言葉に、リルは大きく目を見開いた。</p><p>うそ、わたし、皆にもう言っちゃったわよ！？あのOlが、何の勝算もなく挑んだりするわけないでしょって！</p><p>考えてもみよ</p><p>慌てる使い魔に、魔王は諭すような口調で言う。</p><p>敵は天の神。全知にして全能。かの魔道王さえ勝つことが出来ず引き分けた相手。メリザンドが操った一端ではない、天そのものだどこに勝ちの目がある？</p><p>うう</p><p>非常識な存在が口にする至極常識的な言葉に、リルは呻いた。</p><p>けど</p><p>だが彼女は怯むことなく、言った。</p><p>Olが勝負を挑むなら、あるのよ。勝てる可能性が。少なくともゼロじゃない</p><p>真っ直ぐな視線がOlを貫く。その眼差しに、Olはふっと笑みを浮かべた。</p><p>からかったの！？</p><p>いいや。俺が言ったことは嘘ではない。が、お前の言うことも間違ってない</p><p>眉根を寄せるリルに、物覚えの悪い生徒に教える教師のようにOlは言う。</p><p>勝てると断ずる論拠はない。が、絶対に勝てぬと決まったわけでもない。ならば勝利を手繰り寄せるには一つ、必要なものがある</p><p>んーと情報？</p><p>いいや、とOlは首を振って、リルを見つめた。</p><p>勝てると信じることだ</p><p>それがなければ、あらゆる試みは無駄となる。</p><p>信じる、かあでもそれってOlが苦手なことなんじゃないの？</p><p>なにせ、人間はひいては世界は裏切る、を座右の銘とする男である。勝利を信じる、何ていうのは妙に似つかわしくない気がして、リルは首を傾げる。</p><p>ああ、そうだ</p><p>水を指すような彼女の言葉に、しかしOlは素直に頷き、</p><p>だからそれは、お前がやれ</p><p>そういった。</p><p>リルは驚いたように瞬きをした後、こくりと頷く。</p><p>地の底に住む魔王の、遥かな天への挑戦は、そのようにして始まった。</p><p>そして、それは。</p><p>無理ね</p><p>不可能じゃな</p><p>氷の女王ザナと、天狐を操る大巫女テナ。二人の異能者によって即座に否定された。</p><p>どれだけ最善手を手繰り寄せても、攻め出るという手段は取れないわ。ここでのんびり暮らすのがあたしにとっての最善よ</p><p>先見も同様じゃな。彼の地に行くこと自体は塞の神の力を借りれば可能じゃが飛んだ瞬間、未来はそこで掻き消える</p><p>最善と予知。似て非なる能力を持つ二人にそう言われ、流石にOlは呻く。</p><p>此度ばかりは相手が悪い。あらゆる事を知り、あらゆる事を成す。全知にして全能とはそういうことじゃ</p><p>重々しく告げるテナ。</p><p>ならば奴は、何故攻め込んでこない？</p><p>しかしOlがそう返すと、それに答えることはできなかった。</p><p>全知にして全能。飛んだ瞬間に消すほどに敵意を持つ。ならば、このダンジョンにまで来て滅ぼせばいいだけだろう。だがそうしない。何故だ？</p><p>天の神の考えることなど知ったことか、と答えたいのが正直なところではあったが、そう答えればOlの呆れ顔がかえってくる未来が見えてしまったので、テナは少し考える。</p><p>可能性は、三つじゃな。まず第一に、ただの気まぐれでそうしないという可能性。全知全能から見れば儂らなど深追いしてまで滅ぼすには値せず、ということじゃな。第二に、そうしない理由があるという可能性。例えばOlを生かしておいた方が奴の有利になるとかじゃろうか。第三は全知全能というのがハッタリで、実はこのダンジョンにやってくることはできん、というものじゃな</p><p>指折り数えるテナに、Olは深く頷く。</p><p>俺はそのうち、三番目。奴は物理的にこのダンジョンには攻め込めぬのだと考えている</p><p>あんたにしては随分楽観的なものの見方ね</p><p>半ば断言するOlを、ザナは懐疑的な視線で見つめた。</p><p>根拠はある。奴は己を全知全能と称したが、取り込んだ力の中には足りぬものがあるだろう</p><p>四柱の太陽神の力。</p><p>昇る太陽の神、純白のククルは不滅。けして滅びず、その力を無限に増す。</p><p>中天に座す太陽の神、金色のイガルクは千里眼。世界の全てを見渡す全知の片割れ。</p><p>沈む太陽の神、赤きアトムは過去視。あらゆる過去を見据える全知のもう半分。</p><p>地に隠れし太陽の神、黒きオオヒメは全能。あらゆるものを支配し動かす。</p><p>ククルとオオヒメは良かろう。不滅にして全能。まあわかりやすく最強だ。だが、残り二柱については何が欠けているかすぐに察しがつくだろう？</p><p>千里眼は、言い換えるならば現在視だ。現在と過去とが揃っているなら、残る一つは明白である。</p><p>その場の視線が、テナに向かった。</p><p>ま、待て待て待て。言っておくが儂の先見はそんな大層なものではないぞ</p><p>わかっておる。別にお前が隠れた五番目の太陽神だなどと言っているわけではない</p><p>テナの先見は強力ではあるものの、欠点は山ほどある。そもそも太陽神が関わる事象だとほとんど見えなくなってしまうのだから、同格であるわけがなかった。</p><p>──だがそれでも。</p><p>奴には出来ず、他のものには出来ることがある、と言っているのだ。それは即ち全能の欠如ではないか</p><p>なるほど。筋は通っておるな</p><p>半信半疑ながらも、テナは頷く。</p><p>こちらには海の神、タツキがいる。故に奴は海を渡ることは出来ぬ。境界の神、ミシャがいる。故に境界を超えて追ってくることは出来ぬ。そういうことではないか？</p><p>かつてこのラファニス大陸を支配していた天の神は、唯一絶対の存在であった。つまりは、この地にあった他の神の権能全てを手に入れていたのだろう。であれば少なくとも二柱、手元に神が残っているこの状況からしてみれば、かの神は全知全能とは呼べないだろう。</p><p>だからって勝てるわけじゃないでしょ。全知全能がほぼ全知全能だったからって、それがなんだって言うのよ</p><p>吐き捨てるように、ザナが口を挟んだ。</p><p>そりゃ、あたしだって何とかなるもんならしてあげたいわ。国の皆だって残してきちゃってるんだから。けど、どうにもなんないのよ</p><p>どうにかする手段があるのなら、彼女の力は月の女神マリナの権能は、その最善を引き当てる。しかし何度啓示を求めても、返ってくるのは同じ。──何もなさずその場に留まるべし、という答えだ。</p><p>つまりはザナにできることはなく、為す術はない。現状を打破する方法など、どこにもありはしないのだ。</p><p>お前は諦める。それでいいのだな</p><p>別に、諦めたわけじゃないわ。ただ無駄死にしたって仕方ないでしょ</p><p>どんなに絶対的な力を持とうと、神である以上、人からの信仰を必要とするはずだ。だからヒムロの人間が皆殺しにされるわけではないだろう、とは思う。けれどその暮らしが今まで以上に過酷なものになるであろうことは想像に難くない。</p><p>俺は無駄死にすると思うか</p><p>その調子なら、そうなるでしょうね</p><p>素っ気なく言い放つザナに、流石に腹を立ててリルが口を挟もうとする。しかしその前に、Olは腕を軽く挙げて己が使い魔を制した。</p><p>ならば止めてみるか？お前が哀願するのであれば、考えてみても良いが</p><p>なんであたしがそんな事しなきゃいけないのよ。好きにすればいいでしょ</p><p>挑発的なOlの物言いにムッとして、ザナは言い放つ。</p><p>Olは頷き、ニヤリと笑みを浮かべる。</p><p>お前からその言葉を聞きたかった</p><p>あ、これは碌でもない事考えてるときの笑いだ、とリルは内心呟いた。</p><p>第17話反撃の準備を整えましょう-3</p><p>それは、石造りの井戸に似ていた。</p><p>深く深く大地に穿った穴に、堅牢な石塁を覆うように組み上げていく。</p><p>井戸との違いは、その底に水源がないこと。</p><p>そして、周囲が水で満たされていることであった。</p><p>四方五マイル（約八キロメートル）の人工池、その中心に据えられた池を穿つ穴だ。</p><p>なんなの、あれ？</p><p>月明かりに照らされたそれを見下ろしながら、ザナは眉をしかめた。</p><p>時刻は夜半過ぎ。寝ているところを起こされ見せられたのは、そんなわけのわからない池の井戸だったのだから、その不機嫌そうな表情も無理のないことだ。</p><p>見よ</p><p>Olは腕を掲げ、空に魔力を飛ばす。琥珀色の光が虚空に線を引き、見る間に複雑な方円を描き出した。それは天空から降り注ぐ月の光を増幅して、池の上に丸い月を大きく映し出した。</p><p>こ、これが何だって言うの？</p><p>その美しい光景にザナは思わず見惚れるが、Olに限ってまさか月を愛でて女を口説こうというわけもないだろうと思い直す。</p><p>うむ。ゆくぞ</p><p>Olは説明もせずにザナの身体を抱きかかえると、宙をとんと飛んで井戸の中に入り込んだ。</p><p>ちょっ、何！？何なの！？</p><p>そのまま彼は井戸の底へと降り立つと、再び地上を目指して跳躍する。</p><p>いったい</p><p>文句をつけようとして、ザナは唖然とした。</p><p>己の口から声が全く出ないことに。そして、池が広がっていたはずの井戸の外が、荒涼とした真っ白な平原に変わり果てていることにだ。</p><p>なにこれ！どういうことなの！？</p><p>出ぬ声をそれでも必死に張り上げながら、ザナはOlの裾を引っ張る。</p><p>彼はそれでザナの事に気が付き、何事か答えようとして己の喉に触れた。</p><p>なるほど。</p><p>Olの唇がそう動いたかと思えば、その指先が虚空に呪を描き出す。</p><p>一体ここはなんなのよー！</p><p>途端に、ザナの喉の奥からいつもどおりに声が飛び出した。</p><p>見てわからぬか？</p><p>周囲をぐるりと見回すOlにならうようにして、ザナは周りに視線を巡らせる。</p><p>なにもない、殺風景な景色だった。夜であったはずなのに、周囲は眩しい光に溢れ、その白い大地は果てまでくまなく見通すことができる。だと言うのに、真っ黒な空はなんとも奇妙だ。</p><p>見渡す限りは全て白い石で覆われていて、池どころか草も木も生えていない。延々と続く不毛の荒野だ。</p><p>まさか魔界？</p><p>それは、リルから話に聞いていた悪魔たちの住処に酷く似ていた。</p><p>当たらずとも遠からずと言ったところか</p><p>生の息吹を微塵も感じぬその光景に眉根を寄せるザナに、Olは告げる。</p><p>ここは、月だ</p><p>思ってもみない答えに、ザナは間の抜けた声を返した。</p><p>池に浮かべた月影に穴を穿ち、ミシャの力を用いて影と実体の境を消した。そして今、実体側から出てきたというわけだ</p><p>月の上は見えず触れぬ水で満ちている、という。故に身体は軽く、息は絶え、凍えるほどに寒い。</p><p>呼吸と温度は魔術で対策を施していたが、言葉を発せなくなる事にまでは気が回っていなかった、とOlは言った。</p><p>でも何だってこんなところに</p><p>嫌な予感を覚えつつ、半ばつぶやくように言うザナに、Olは当然のように言い放った。</p><p>お前が信仰を奉ずる月の女神、マリナに会うためだ</p><p>ああんた、なんかロクでもないことする気でしょ！？</p><p>さてな。それはあちら次第だ</p><p>Olは視線を巡らせて、それを見つける。小さな光が尾を引いて、白い荒野の上を走っていった。</p><p>どうやら歓迎してくれるらしい。いくぞ</p><p>光の線を辿り歩くこと四半刻ほど。純白の荒野の只中に、それはあった。</p><p>どこまでも殺風景な景色に似つかわしくない、美しい城であった。</p><p>なんかあれ、あたしの城に似てない？</p><p>というよりも恐らく、お前の城がこれに似ているというべきだろうな</p><p>違いは、城をぐるりと囲む堀がないことだ。</p><p>ねえ、これ、勝手に入って大丈夫なの？</p><p>光で案内があるのだ。勝手ではなかろう</p><p>しきりに周囲を気にしおどおどと見回すザナを尻目に、Olはすたすたと門をくぐっていく。</p><p>ようこそいらっしゃいました</p><p>入ってすぐの大広間。そこで迎え入れた女神の姿に、ザナは息を呑んだ。</p><p>すらりとした長身に、床に垂れ落ちてなお伸びる眩い金糸のような髪。この世の美を結集したかのような、端整でありながらもどこか儚い顔(かんばせ)。輝くような、それでいて控えめな月光を纏った白いゆったりとした衣装に身を包み、静かな凛とした光輝を纏った女性。</p><p>それはまさに、ザナが理想と描き続けていた女神の姿であった。</p><p>ただ一点。</p><p>女性らしい膨らみを一切持たず、絶壁のような胸元を除いて。</p><p>女神マリナと見受ける。我が名はOl。魔王を名乗るものだ</p><p>ええ。こうしてお会いするのは初めてですね、魔王Ol。まさか、こんなところまでやってくるとは、思いもしませんでした</p><p>穏やかに答えながらも、マリナの手に月を象った杖が生まれる。瞬間、ザナはOlの敗北を悟った。</p><p>彼がどのような策略を練り、いかな戦力を有していたとしても、マリナには敵わない。目の前の女神の神威は、強大な火山の神であるサクヤや広大な海を統べるタツキとさえ比べ物にならない。それが、肌に感じる程の圧力でわかった。</p><p>マリナは杖を手にしただけで、別段攻撃的な姿勢を見せてすらいない。だというのに、押しつぶされそうな程の重圧がザナの膝を折る。彼女は半ば無意識に、祈るように跪いていた。</p><p>さてあなたの手は知れています。騙し、惑わし、犯し、籠絡するどのような策を用意してきたかは存じませんが</p><p>女神マリナがザナに貸し与えた権能は、当然のことながら彼女自身も使うことができる。すなわち、あらゆる状況に対し最善の手を見出す力。運命の糸を紡ぎ、勝利を導く力だ。</p><p>それはOlの練ってきた策略を見通すことは出来ない。だが、見通さぬままに潰し、無効化する能力だった。</p><p>それを扱うのがザナであれば、まだ勝ちの目もあっただろう。只人たるザナには出来ることの限界があり、また、ザナの考える最善とマリナの考える最善が食い違うという欠点もある。</p><p>だがマリナ自身がその権能を振るうのであれば、それらの弱点は全て消え失せる。偉大なる女神が扱う限り、その権能は無敵だ。</p><p>それとも女神ごとき、組み伏せ陵辱してしまえばいかようにもなる、とでも思いましたか？数多の女たちにしてきたように。もしそうであれば──</p><p>マリナの放つ圧が増した。それに押されるように、がくりとOlの膝が折れる。</p><p>それは、心得違いというものです</p><p>穏やかな口調。しかしそこに込められた敵意と憎悪は、ザナには計り知れないほどの深さを覗き見せた。</p><p>女神、マリナよ</p><p>圧に耐えるようにOlは両手を床につく。</p><p>そして顔を上げ、マリナを睨みつけてニヤリと笑う──ザナは、そう予想した。だが違った。Olは圧力に屈するかのように、その頭を垂れたのだ。</p><p>伏して、俺は助力を請う。どうか、力を貸してくれ</p><p>だがそれも違った。Olは神威の圧に耐え、己の意思を持って、その頭を下げていた。さしもの女神マリナもこれには目を見開く。</p><p>月という巨大な天体を司る女神の放つ圧力の中、膝を屈さず見上げるのはそう出来ることではない。だが──己の力で頭を下げるのはその比ではなかった。そのまま床に押しつぶされる力に耐えながら、下げねばならないからだ。</p><p>まさか何の策も謀もなく、ここまで来たのですか？</p><p>女神マリナはその瞳を瞬かせ、信じられないと言わんばかりの声色で問う。</p><p>魔王であるあなたが、ただわたしに頭を下げるためだけに？</p><p>そのOlの言葉が本当であるか嘘であるか、判断する力はマリナにはない。だが、その言葉が彼女を破滅に導くのであれば、今この場で杖から発せられた熱線がOlの身を魂ごと焼き滅ぼしているはずであった。</p><p>俺の娘が、捕らわれたのだ。これを助けるのに、我が身には力が足りぬ。ならばこの頭一つ、下げることに何を躊躇うことがあろうか</p><p>Olは膝を伸ばし、立ち上がる。神威に反して立ち上がれば、圧に骨が軋み肉が引き千切られるような痛みが走るはずであった。それは物理的な重さではない。いかなる怪力無双であっても等しく感ずる、魂を押しつぶす圧力だ。</p><p>故にOlを立たせているのもまた、肉体の力ではない。そこに込められた、精神の──意志の力だ。</p><p>重ねて頼む。この通りだ</p><p>そして、信じがたいことに。直立した姿勢のまま、Olは頭を下げてみせた。</p><p>頭を下げる人間に、女神マリナはどうしたものかと頭を悩ませる。</p><p>いくら愛し子、ザナを預けた庇護者といえども、それは他に適当な相手もおらず方法もなかったがゆえの止むに止まれぬ事情からだ。別に、Olを気に入っているわけでも見込んでいるわけでもない。</p><p>己を軽んじ利用しようとましてや、かの火山の女神のように征服し支配しようなどという腹積もりであれば、最大限の苦しみと屈辱を与えた上で殺すつもりであった。</p><p>だが、正面から真っ正直に助力を請うてきたならどうするべきか。</p><p>こういうときに、彼女の権能は使えない。なぜなら、何を最善とするかをまず決めなければならないからだ。つまりOlに力を貸すのか、それとも見捨てるのか。その心持一つで、何が最善であるかは変わってしまうからだ。</p><p>いいでしょう。ですが無条件に許可するというわけにも参りません</p><p>そのような場合、神々にはある一つの決まりがある。</p><p>今からわたしが言うものを持ってこられたら、力を貸しましょう</p><p>人間に試練を与えるという、決まりである。</p><p>第17話反撃の準備を整えましょう-4</p><p>まさかあんたが何の策もなく真正直にマリナ様に頼み事をするとは思わなかったわ</p><p>月からダンジョンへと戻り、ザナはようやく重圧から開放されてため息を付きながら言った。</p><p>何を言う。無策で行くわけがなかろう</p><p>どんな策があったっていうの？</p><p>ザナの見る限り、Olはただ真正直にマリナに頼み事をしたようにしか思えない。あるいは、愚直さこそ最善の策とでも言うつもりだろうか。</p><p>何のためにお前を連れて行ったと思っているのだ。月の上は人間が生きていける環境ではない。俺が魔術で保護していたから無事だったが、それが切れればお前は即座に焼け死ぬか溺れ死ぬかしただろう。故に、マリナは俺を殺せなかった</p><p>などと呑気なことを考えていたら、思っていたよりもかなりエグい手を使っていた。己が知らぬ間に人質にされていたと知って、ザナは絶句する。</p><p>奴の能力の欠点だな。最善は引けても、なぜそれが最善なのかを知ることは出来ない。俺を殺せないということは、殺さないことが最善であるのだと判断しただろう</p><p>あんたがそういう奴だっていうのはわかってたのに</p><p>まあ実際俺はマリナと敵対するつもりはないから、保険のようなものだ。気にするな</p><p>頭を抱えるザナに、Olはそんなことよりと話を切り替えた。</p><p>問題は奴に出された試練とやらだ。お前の能力で解決できるか？</p><p>できるわけ無いでしょ！</p><p>ザナの能力とは、要するにマリナの権能のことだ。マリナの出した試練をマリナの力で解決しては、マッチポンプもいいところである。非常識なOlの提案に、ザナは叫んだ。</p><p>そんな条件はつけられた覚えはないが仕方あるまい</p><p>っていうかあんた、マリナ様から要求されたのがなにか知ってるの？</p><p>知らん</p><p>月の女神が課した試練とは、五つの至宝を集めてこい、というものであった。</p><p>あんた、知りもしないで承諾したの？マリナ様が取ってこいって言ったのは、ヤマトの古い物語に出てくる宝物よ。あたしですら知ってるほど有名な話の</p><p>ほう。それほど有名ならば、大して労せずに手に入るのではないか？</p><p>Olの言葉に、ザナは深くため息をついて答える。</p><p>逆よ。手に入らなかったってことで有名なんだから。外つ国の聖者が持ち、自ら光り輝くという仏の御石の鉢。白銀の根と黄金の茎、真珠の実をつける蓬莱の玉の枝。火の中に入れてもけして燃えない火鼠の皮衣。龍の首の玉に、燕の産んだ子安貝。どれもどこにあるのかさえわからない代物よ</p><p>物語では、月に帰った姫君がこれらの至宝を求めたという。まさかマリナがその姫君の正体であったなどということはなかろうが、仮にも月の女神だ。何らかの関係はあるのかも知れない。</p><p>というかこれ、遠回りな拒否なんじゃないかしら</p><p>そんなことはない。拒否するなら、否と言えばいいだけのことだ</p><p>高貴な相手から求婚された物語の姫君の場合とは違って、立場はOlよりもマリナの方が上だ。確かにわざわざ達成不可能な条件を突きつけて諦めさせる必要はないように思えるが、だからといって手に入れることができるとはザナにはとても思えなかった。</p><p>なんでそんなに自信満々なのよ</p><p>にもかかわらずまるで思い悩んだ様子を見せないOlに問えば、彼は当然のように答えた。</p><p>ダンジョンには、すべてがあるからだ</p><p>とりあえず、思いつく限りのものを集めてみたよ</p><p>Olから命じられてから、一月ほど。ダンジョンに住まう者たちは、思い思いの品を手に集まってきていた。</p><p>とりあえず、火鼠という生き物は見つかりませんでしたので、代わりにこちらを</p><p>迷宮の食卓を支える大牧場の司。獣の魔王の二つ名で知られる侍女のミオがそう言って差し出したのは、体長一フィート（約三十センチ）ほどの小さなトカゲであった。と言ってもただのトカゲではない。その鱗が燃え盛る炎に包まれた、火蜥蜴(サラマンダー)だ。</p><p>代わりは構わんが、要求されているのは皮だぞ。なぜ丸ごと持ってきた</p><p>火蜥蜴の皮は殺して剥げば、炎は消える。だがもともと炎に包まれていたものだから火に投じても燃えてしまうことはないし、マリナの言う条件を満たしてはいるように思える。</p><p>だがミオが差し出したのは生きたままの火蜥蜴だ。石造りの迷宮に火災の心配は少ないが、それでも連れ回すようなものでもない。というか、なぜミオはそんな生き物を抱きかかえて火傷一つ負わないのか。</p><p>Ol様がお望みであれば、私もこの子も身を捧げることに躊躇いはありませんが。殺して皮を剥いでから、やはり不要だったなどと言われては可哀想じゃないですか</p><p>余計なものはちゃんと燃やさないよう躾けてありますからご心配なく、とミオは笑顔で言った。</p><p>まあ良い。次だ</p><p>はい。龍の首の玉ってこれでどうかな？</p><p>Olはユニスが差し出した宝玉をじっと見つめる。両手のひらにちょうど収まる程度の、真っ白な玉だ。見た目はつるりとしているが、触ってみると表面はややザラザラとしている。</p><p>これは真竜の骨を磨いたものか</p><p>ご名答！よくわかったね</p><p>その手触り、重さからそれが鉱物ではなく骨であることはすぐにわかった。だがそこに含まれた魔力量は物言わぬ骸が持つとはとても思えない量だ。</p><p>ただの骨がそれほどの魔力を持つ生き物など、竜それも、眷属や亜種ではなく、一対の翼と四本の手足を持つ真竜以外にはありえない。</p><p>メトゥスのものではないな</p><p>うん！やっつけてきた。そういえばあたし、竜を倒したことなかったなって思って、ちょっとディングラードにね</p><p>ディングラードだと？ということはこれは、デフィキトの骨か</p><p>Olの問いに、ユニスは頷く。Olたちが本拠地としているダンジョンの中心から遥か西、ディングラードに住まう火竜デフィキトといえば、最古の竜メトゥスと並ぶほどに有名な悪竜だ。</p><p>メトゥスよりは若い竜ではあるが、こちらから手を出さなければ大人しかったメトゥスと違って数十年に一度の頻度で気まぐれに人里を襲うため、遥かに恐れられていた。</p><p>一人で倒したのか</p><p>うん。英霊の力を使うのはちょっとズルかも知れないけど</p><p>どこか誇らしげに頷いたユニスの表情は、しかしすぐさま曇る。</p><p>でも首に玉はなかったから一応、球状に磨いてみたんだけど</p><p>Olの知る限り、真竜の骨格構造は種を問わずおおよそ同じだ。そして首に玉などないことは、メトゥスの死骸を検めて確認している。</p><p>とはいえ竜の身体は全身これ膨大な魔力の塊だ。何に使うにせよ有用だろう。次は</p><p>こちらをご覧ください</p><p>周囲に視線を巡らせるOlにきらびやかな黄金の枝を差し出したのは、迷宮で商人を営む女、ノームであった。その手に掲げ持つ枝には大粒の真珠の実が連なり、翠玉(エメラルド)の葉が茂っていた。</p><p>作らせたか</p><p>最高の腕を持つドヴェルグの職人にお願いしました。金貨二万五千枚になります</p><p>その来歴をOlがひと目で見抜けば、ノームは営業用の笑みを貼り付けたまま答えた。</p><p>物語では、作り物は見破られてしまったのではなかったか？</p><p>いや、正確には見破ってはおらぬな。その枝を作った職人たちが支払いを迫ったことで発覚したはずじゃ</p><p>ヤマトの大巫女、テナは流石にこの手の伝承には詳しい。Olの問いに、すらすらとそう答える。</p><p>今回は職人に対しては既に十分な報酬を支払っております。陛下からお代が頂けない場合は</p><p>ノームはするりとOlの傍らに身を寄せて、</p><p>身体でお支払い頂きますから、文句をつけることもございません</p><p>冗談めかしてそんなことを言った。</p><p>リル、金貨を手配しておけ</p><p>あらつれませんこと</p><p>唇を尖らせるノームごと有能な使い魔に押し付けて、Olは次の品を取る。</p><p>これは仏の御石の鉢か？</p><p>うん、そうだよ</p><p>白く深い皿を手にとって眺めるOlに頷いたのはマリーだった。</p><p>特に飾りもない簡素な陶器の皿は、しかしほのかに光を放っている。</p><p>それでいて、魔力を殆ど感じない。</p><p>いや、殆どではない。熟達の魔術師たるOlですら見つけられないということは、全く魔力を持っていないと言っていい。</p><p>それは魔力に溢れたOlの魔王宮に存在する物質として、極めて不自然なことだった。</p><p>どこかで見た気が</p><p>そ、それは私の碗ではないか！</p><p>矯めつ眇めつ皿を眺めていると、不意にメリザンドが叫んだ。言われてみれば、それはメリザンドが普段食事に使っている陶器の碗である。</p><p>なるほど。ホトケというのは聖者の一種だったな</p><p>聖者の使っていた石で出来た食器が仏の御石の鉢であるとするなら、元とはいえ聖女であるメリザンドが使っている陶器の碗は確かにそれに当たるだろう。</p><p>燐光を纏っているのはメリザンドから漏れ出した理力が染み込んでいるがゆえ。魔力と理力は互いに打ち消し合うものだから、魔力を全く持っていないのも当然だ。</p><p>待てえぇぇっ！それを何に使う気だ！？</p><p>ようやくまともなものが出てきたな、と碗を懐にしまおうとするOlを、メリザンドは必死に止める。漏れ出た理力が染み込むほどに使い込んだ食器である。それを他人に、ましてやOlに持っていかれるのは何というか非常に恥ずかしかった。</p><p>何を言っておる。女神マリナに捧げると説明したであろうに</p><p>やめろ！ええい、マリー、離せ！離せと言って</p><p>メリザンドは必死に抵抗を試みるが、元聖女とは言っても肉体的には何の素養もないただの少女である。あっさりとマリーに引きずられ、退去させられていく。</p><p>こちらにご用意しました。燕の産んだ子安貝です</p><p>まるで市場に売られていく家畜のような目でこちらを見つめるメリザンドを見送って、視線を巡らせるOlの前に一歩踏み出したのは、彼の一番弟子であるスピナだった。</p><p>見せてみよ</p><p>その時点で嫌な予感がしたが、無視するわけにもいかずOlは促す。</p><p>うなずき、どこか嬉しそうにスピナは手にした鳥籠から覆いを剥ぎ取る。</p><p>その中にいたのは、なんとも形容しがたい生き物であった。</p><p>なんだ、これは</p><p>燕の産んだ子安貝です</p><p>スピナは愚直に繰り返す。それは、おおよその形としては、確かに燕に似ているようにも見えた。全身を貝殻のような鱗で覆われ、脚部がカタツムリのようなヌメヌメとした偽脚になってさえいなければ。</p><p>魔法生物か</p><p>はい。燕と子安貝を配合した合成獣です</p><p>燕の産んだ子安貝が他の四つの宝物と違うところは、燕も子安貝タカラガイの一種も実在することだ。しかしその二種は全く別の生き物であるから、燕が貝を生むことなどありえない。</p><p>であれば、そのような生き物を作ってしまえば良いと、スピナは考えた。</p><p>これは、燕でありながら同時に子安貝です。成長するに従い子安貝としての性質は徐々に消えていき、燕の性質が強くなり、そして──</p><p>スピナは鳥籠を床に置くと、もう一つ、こぶりな木箱を取り出す。</p><p>その中には水が湛えられており。</p><p>貝の性質が強い、子を生みます</p><p>くちばしが生え始めた奇妙な貝が、その中に横たわっていた。</p><p>定着したのか</p><p>Olが呻くように言うと、スピナは首を傾げた。</p><p>二つ以上の生物を掛け合わせた合成獣は基本的に生殖能力を持たず、一代限りの存在だ。仮に生殖能力を持っていても、子の代は繁殖できなかったり、そもそもうまく育たなかったりする。が、ごく稀に、正常な生殖能力を持ち、種として一般化するものがいる。それが、定着と呼ばれる現象だ</p><p>最も有名な例が、山羊の体に獅子の頭、蛇の尾を持つ魔獣キマイラである。何百年も前に魔術師によって作られた合成獣だと言われているが、現在では種として定着し互いに繁殖して増えている。故に、キメラの中でもかの魔獣を特別にキマイラと呼ぶ。</p><p>しかしそんな存在は長い魔術の歴史を紐解いても数えるほどしか存在せず、それも偶然の産物であって、意図的に作り出す技術などOlですら聞いたことがなかった。</p><p>でしたら、定着しております。この子は四代目ですので</p><p>そんな師の思いを知ってか知らずか、スピナはさらりとそんな事を言ってのける。</p><p>もはや魔法生物作りの分野ではOlすら遠く及ばないだろう。いつの間にか遥か彼方へと至ってしまった弟子を、魔王は唖然として見つめることしか出来なかった。</p><p>第18話欠けたる月を満たしましょう-1</p><p>本当にこれ、持っていくの？</p><p>呆れさえ含まれたザナの言葉に、Olはうなずく。</p><p>火鼠の皮衣として用意した、生きたままの火蜥蜴。</p><p>真竜の骨を削り出して作った龍の首の玉。</p><p>蓬莱の玉の枝を模して作り上げた、黄金の枝。</p><p>仏の御石の鉢代わりのメリザンド愛用の碗。</p><p>そして、燕の産んだ子安貝たる、形容しがたい生き物。</p><p>それら珍妙な五つを腕に抱えたOlの姿は、一種異様なものがあった。</p><p>少なくともこれから神に捧げられる宝物にはとても見えない。</p><p>というか、その燃える蜥蜴を抱いても焦げ目一つつかないローブの方がよほど火鼠の皮衣に近いのではないか。</p><p>色々な文句を脳裏に駆け巡らせた挙げ句、ザナは突っ込みを放棄した。</p><p>Ol相手にこの程度で騒いでいては身が持たないと遅まきながら学んできたからだ。</p><p>まあ、いいわ。とにかく行ってみましょう</p><p>それに、とザナは思う。</p><p>悪辣で、疑心の塊で、まるで信用ならず、何かと気に食わない男ではある。</p><p>だが──ある意味で、信頼できる主人でもある。この男であれば、あるいはなんとかしてしまうのではないかと。そう、信じてしまうような。</p><p>話になりません</p><p>ええー！？</p><p>だから、Olが差し出した品を一瞥したマリナが即答したとき、ザナは思わず叫んでしまった。</p><p>いや驚くことですか？こんなものが宝物であると本気で思っていたのですか？というか何なんですかこの気持ち悪い生き物は</p><p>しかし呆れたように言うマリナの言葉は、至極もっともな物であった。</p><p>そもそもですねザナ。わたしはあなたが力を使っていないときも、常にというわけではありませんが見守っているのです。ですから、これが紛い物だという事もわかっております</p><p>言いながら、マリナは蓬莱の玉の枝を手に取る。</p><p>紛い物？異な事を言うものだ</p><p>そこで、黙っていたOlが口を開いた。</p><p>口を慎みなさい。わたしがザナの耳目を借りたということは、あなたがザナの安全を盾にしているということもわかっているということですよ</p><p>杖をOlに向け、威圧するマリナ。種がわかっていればザナを保護しつつOlを殺すことなど造作もない。</p><p>指定された通りのものを持ってきたではないか。古の物語に登場する蓬莱の玉の枝。職人たちに金と白銀、真珠で作らせた枝だ</p><p>なっそのような屁理屈を！では、他のものはどうなのです？これは明らかに鼠ではないではないですか</p><p>マリナは火蜥蜴を示して言い募る。</p><p>珍しい獣なのだろう。実際に見たものはおらず、書物の絵で外見を伝える際に誤って伝わったのであろう。描いたものには絵心がなかったと見える</p><p>対してOlはしれっとそう答えた。</p><p>で、ではこの竜の首の玉はいかがです。骨を加工しただけではありませんか。しかも玉というにはいささかいびつです</p><p>竜を倒せる英雄などそうはおらぬ。竜の死骸はかつての神魔戦争の折に死んだものが見つかるのが大半だ。数千年も風雨に晒されれば、竜の骨とて丸くもなる</p><p>仏の御石の鉢は？</p><p>紛れもなく聖者が使った碗だ。碗と鉢の違いにそこまで拘るのは、本質的とは言えぬだろう</p><p>では燕の産んだ子安貝はいかがです。このような生き物が宝などと呼べるわけがないでしょう</p><p>確かに不気味だ。しかしそれ以上に珍しい存在だ。他の場所ではこのような生き物は見られぬであろう</p><p>作ったからでしょう！？</p><p>とうとう耐えきれず、マリナは叫んだ。</p><p>あなたの！弟子が！作ったからでしょう！？</p><p>思わず傍で聞いていたザナが頷いてしまうような、見事なツッコミであった。</p><p>では聞くがな</p><p>しかしOlは微塵もたじろぐことなく、壇上に立つマリナを睨め上げる。</p><p>お前の言う本物とやらはどこにある？</p><p>鋭い口調に、マリナは返答に詰まる。</p><p>俺のダンジョンは世界の縮図だ。そこにはあらゆる物が存在し、あらゆる物が作り出せる。故に俺は、俺の配下が集めてきたこれらを本物であると確信している</p><p>Olは心の底からそう思いながら、口にしている。少なくとも、ザナにはそのように聞こえた。</p><p>それを否定するのであれば──お前が証明するのだ。本物を、俺に見せてみよ</p><p>なそれは</p><p>その一言で、Olとマリナの立場は逆転した。</p><p>お前の能力であれば、本物を示すことなど容易いことだろう？</p><p>お前の能力で解決できるか？</p><p>Olからそう問われたことを、ザナは思い出した。何の気なしに聞いた、試練を無意味にするような非常識な質問。だが、そうではなかった。</p><p>──実在するのであれば、な</p><p>マリナの能力では解決できないことを知りながら、Olはあえてそう尋ねた。解決できないということに気づいていないと思わせるために。</p><p>あれはこの時のためにマリナに聞かせた、布石だったのだ。</p><p>良いでしょう。あなたの用意したものを本物と認めましょう</p><p>最善の力を持ってしても解決できなかったのか、それともOlの力を認めたのか。</p><p>ザナ。彼を助けておあげなさい</p><p>深々とため息をつきながらも、マリナは渋々と言った様子でそう答える。</p><p>わかりまし</p><p>頷きかけるザナを、Olのよく通る声が遮った。</p><p>俺が欲しいのはマリナ、お前だ</p><p>わたしですか？</p><p>己を射抜く鋭い視線に、マリナは目を瞬かせた。</p><p>つまりザナを経由せず、あなたに直接加護を与えて欲しいという事ですか？残念ですが、月の女神たるわたしの力は男性には貸すことが出来ません。代わりにあなたの部下に与えるという事でよろしいでしょうか？</p><p>そうではない</p><p>神殿の奥、一際高くなった壇上からOlを見下ろしながら、マリナは僅かに不満げに首をかしげる。</p><p>では、どういうことなのでしょうか？はっきりと仰ってください</p><p>最初から言っているではないか</p><p>その壇上へと続く階段を登りながら、Olはマリナの瞳を覗き込むようにして言った。</p><p>俺が欲しているのは女神マリナ。お前自身、そのものだ</p><p>何馬鹿なこと言ってんのよっ！</p><p>Olの意図を違わず察し、ザナは蹴りを放つ。しかしOlはそれを振り向くことなくいなした。</p><p>つまりわたしを抱きたい、ということですか？</p><p>別に抱きたくて欲しいと言っているわけではないがまあ、平たくいえばそういうことだ</p><p>頷くOlに、マリナはすっと目を細める。</p><p>不遜とは思わないのですか？</p><p>思わぬ。神なら既に火山と海と境の神を妻にしておる。格の差はあれど種としては同じであろう。それに</p><p>Olは後ろを振り返って、持ってきた品々を視線で示した。</p><p>お前はあれを本物と認めた。あれはそもそも求婚の証だろう？</p><p>マリナは己の衣服の胸元に指をかけ、ぐいとはだけてみせる。</p><p>マリナ様！？っ！？</p><p>その光景にザナは悲鳴のような声を上げそして、固まった。</p><p>ただし</p><p>マリナは嘲るような笑みを浮かべながら、自分の胸を示す。</p><p>この体を見ても、その気になればですが</p><p>そこには女の体にあるべきものは何もなく。</p><p>代わりに乳房を削り取った醜い傷跡だけが、広がっていた。</p><p>第18話欠けたる月を満たしましょう-2</p><p>構わん。寝所はどこだ？この奥か？</p><p>えっ、ちょ、ちょっと、お待ちになってください！</p><p>躊躇なくマリナの手を取り神殿の奥へと歩き出そうとするOlを、女神は慌てて止めた。</p><p>何だ？この場でするのか？まあ、それも構わんが</p><p>ちらりとザナを一瞥し、Ol。</p><p>構うわよっ！あ、あんた、正気なの！？</p><p>ザナは顔を真赤にしながら叫んだ。</p><p>だって、マリナ様の、その胸</p><p>マリナがあらわにしたそこは、痛々しいまでの傷跡が残るのみで、乳房はおろかその先端の蕾すら残ってはいなかった。</p><p>胸の大小がどうした。お前だって人をとやかく言えるほど大きくないだろう</p><p>悪かったわね！？っていうか流石にマリナ様よりはあるわよ！</p><p>思わず叫んでから、ザナは自分の口を押さえる。</p><p>いや、あの、すみません、マリナ様</p><p>いいのですよ、ザナ</p><p>にっこりと微笑み、マリナは何もない胸元にそっと手を当てる。</p><p>この胸は、わたしが自分で切り落としたのですから</p><p>その言葉に、ザナは目を見開いた。</p><p>かつてわたしは兄である太陽神イガルクに、無理やり穢されました。故にそれ以上穢されぬよう、女であることを捨てたのです</p><p>笑みを浮かべたままのマリナの表情が、わずかに歪む。</p><p>このような悍ましい、兄に陵辱されて乳房を削ぎ落としたような女を、本当に抱きたいとお思いですか？</p><p>微笑みかける月の女神に。</p><p>ああ、思うぞ</p><p>間髪入れずにそう答えると、Olはマリナの華奢な身体をひょいと抱き上げ、奥の部屋へと進んだ。</p><p>ちょ、ちょっとお待ちください！</p><p>マリナの悲鳴じみた声に、彼はピタリと歩みを止める。</p><p>そのあの</p><p>しどろもどろになって答えを紡ごうとするマリナの反応を、Olは急かすでもなくじっと待つ。</p><p>自分で歩け、ますから</p><p>熟慮した末に出たマリナの言葉にOlは頷き、素直に彼女を床へと下ろす。</p><p>では、寝所に案内して貰えるか？</p><p>ははい</p><p>そして差し出された手を取ると、女神は逡巡しつつも促された通りに奥へと向かった。</p><p>ええー</p><p>一人取り残されたザナは、ただ呆然とそれを見送ることしか出来なかった。</p><p>あの本当に、するのですか？</p><p>ああ。嘘や冗談でそのようなことは言わん</p><p>先程までの余裕ある態度が見る影もなく、狼狽えた様子で問うマリナに、Olは至極真面目な表情で頷いた。</p><p>脱がしてもいいか？</p><p>着たままの方がまだ、良いのではありませんか？</p><p>問われ、マリナは既に着直していた胸元を隠すように手で押さえる。</p><p>何をいうか</p><p>Olは短く言い放つと、マリナの衣服にゆっくりと手をかけた。</p><p>脱がすぞ</p><p>有無を言わせぬ、しかし穏やかな口調で問う。</p><p>は、い</p><p>マリナは抵抗するでもなく、彼に身を任せた。するすると静かな絹擦れの音が響き、輝く衣がぱさりと床に落ちる。</p><p>美しい</p><p>目の前に現れた裸身を眺め、思わずOlはそう漏らした。</p><p>そのようなお世辞を</p><p>世辞なものか</p><p>恥ずかしげに視線を逸らすマリナに、Olは熱のこもった言葉をかえす。</p><p>マリナの金の髪は夜闇の月のように美しく輝き、ゆるくウェーブして足首までを覆いながらも一点の乱れもない。白磁の如き肌はどこまでも滑らかで、きゅっと括れたウェストからスラリと伸びる両脚は稀代の芸術家によって作り出されたかのよう。</p><p>全体的にほっそりとした印象でありながらも太ももや尻にはむっちりとした肉が付き、清楚でありながら同時に男を惑わす蠱惑的な魅力がある。月というもののもつ二面性そのものを体現したかのような裸身であった。</p><p>ではこの胸も、美しいとおっしゃいますか？</p><p>ただ一点。彼女自身の手で抉られた、乳房を除いて。</p><p>そうだな確かにそれをも美しいと言えば、嘘になろう</p><p>Olはゆっくりと彼女の乳房があるべき場所をなぞるように手を伸ばし、撫で擦る。</p><p>どちらかと言えばそうだな。凛々しいとでも言うべきか</p><p>凛々しいですか？</p><p>思っても見ない言葉に、マリナはキョトンとした。</p><p>兄に襲われながらも、乳房を切り落として見せてやったのだろう？痛快な話ではないか。イガルクの奴はどんな顔をしていた？</p><p>遥か昔、神話の時代を思い出すようにマリナは顔を傾ける。</p><p>わたしが切り取った乳房を投げつけてこれでも食べなさいと言いましたらあれが鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのでしょうか。そんな顔をしていました</p><p>ハ！</p><p>それを聞いて、Olは声を上げて笑った。</p><p>大人しそうな顔をして、やるではないか。ククク、その顔、是非俺も見てみたいものだ</p><p>イガルクに、思うところがあるのですか？</p><p>ザナの目を通して見た限り、Olとイガルクの間に関係はない。彼にとってはただ太陽神を構成する一柱に過ぎないはずだ。だがそれにしては、Olの言いざまは悪意に満ちていた。</p><p>声くらいしか知らぬ相手ではあるがな。だが間違いなく虫のすかん奴だという事はわかっている</p><p>なぜですか？</p><p>マリナはわずかに目を細め、Olを見据える。女を無理やり犯すような奴だからだなどと言い出すのではないか、と思ったからだ。</p><p>Ol自身が今まで幾度もそうしてきたことは知っている。そのことに不満を持っている女性はいないようではあったが、だからといって許せることではない。そもそも、今しようとしているのだって半ばそれに近い。</p><p>ましてやそれを棚に上げて他の男を批難するというのなら、それはマリナにとっては看過できぬ感性だった。</p><p>奴はザナに加護を与えなかったからだ</p><p>しかしまたしても、Olの答えはマリナの予想したものとは外れたところから返ってきた。</p><p>おそらくそれは、わたしのせいでしょう</p><p>家系的にヒムロの王族の女たちは皆、年頃になると豊満な乳房に成長する。だがザナに限ってその成長は芳しい物ではなく、今に至っても成長に乏しい。</p><p>それが、マリナの切り落とした乳房を連想させるのだろう。だからイガルクはザナに加護を与えず、妹のイェルダーヴにのみ与えたのだ。</p><p>太陽の神ともあろうものが、なんとも器の小さいことではないか。たかが胸が小さいくらいで、あいつはどれほど苦労する羽目になったことか</p><p>姉として生まれたことも、胸が成長しなかったことも、ザナに責任がある問題ではない。だがそのせいで彼女は自分が王に相応しくないと思い悩み、妹を奪われ、愛憎の狭間で苦しみ、好きでもない男(Ol)に身体を捧げてまで責務を全うして、その果てに死を選ぼうとまでしたのだ。</p><p>なんとも悲惨な人生ではないか。</p><p>奴は聡明で、気高く美しい女だ。その一生が、たかが乳の大小で台無しになるなど馬鹿げておる。奴は幸福になるべき人間だ</p><p>もしそれが演技であるとするのなら、Olは今すぐ魔王など廃業して役者になった方がいいだろう。マリナがそう思ってしまうほど、Olは本気で怒っているようだった。</p><p>そして、俺はお前にもそう思う。月の女神マリナよ。お前ほどの女が不幸を引きずり続けることなど、我慢ならん</p><p>不幸？</p><p>マリナは目を瞬かせる。自分を不幸だと思ったことなどなかったからだ。</p><p>月は常に美しくあるものだろう。それを、そのような下らぬ男のせいで愛でられぬなど、不幸でなくて何だというのだ</p><p>マリナの胸元に触れて、Olは眉をしかめてみせた。それは醜い傷口への嫌悪ではなく、彼女の境遇への憐憫でもなく。</p><p>純粋に、失われたものへの惜しみがにじみ出ていて。</p><p>それでは幸福とは何か、教えてくださいますか？</p><p>微かに笑みを浮かべるマリナに、Olは頷いた。</p><p>第18話欠けたる月を満たしましょう-3</p><p>マリナの長い金の髪が、寝台いっぱいに広がる。</p><p>どこか心細げに横たわるマリナの華奢な身体を、Olはそっと包み込むように覆いかぶさる。</p><p>小さく耳元でそう呟くと、Olは彼女の首に軽く口づけた。</p><p>思っていたよりも、ずっと抵抗は少なかった。それはあるいはザナの目を通して彼に抱かれる少女を見ていたからかも知れないし、月の女神を相手にして臆せず裸身を晒す男の言葉のせいかも知れない。</p><p>唇が、マリナの反応を確認するようにゆっくりと、二度、三度と落とされる。首筋からゆっくりと鎖骨の方へ下がっていき、醜い傷跡へと。</p><p>あのそこは結構ですから</p><p>なに、任せておけ</p><p>思わずマリナが言うと、Olはそう答えた。</p><p>無理やりされて以来、経験もないのだろう？であれば生娘のようなものだ。生きてきた時間は比べ物になるまいが、耳年増に閨房で負ける気はせん</p><p>み、みみどしま</p><p>さり、とOlの舌が胸元に傷跡に触れる。痛みがあるわけではないが、かといってそうされて気持ちいいわけでもない。彼のするに任せながら、奇妙な面持ちでマリナはただそれを見つめた。</p><p>あのしないのですか？</p><p>任せておけと言っただろう</p><p>その気になった、という程でもないが、わずかに期待する気持ちはある。だがマリナがそう促しても、Olはそう答えるばかりで一向にマリナを抱こうとはしない。</p><p>何もない胸など舐めても面白いことなどないだろうに。まるでそうすることで乳房の傷が治るとでもいうかのように、Olは熱心に傷跡に舌を這わせていく。</p><p>いやと、不意にマリナは気がついた。彼は実際、傷を癒やそうとしているのだ。</p><p>しかしそれは肉体についた傷ではない。その奥、胸の中に空いた傷だった。</p><p>もはや記憶さえおぼろげになるほどの遠い昔。イガルクとマリナは、仲の良い兄妹であった。少なくともマリナはそう思っていた。</p><p>だが互いに成長した二人は男女に別れて暮らすようになりそして、イガルクは夜中に寝所に忍び込み、マリナを犯した。</p><p>あの時の恐怖と苦痛だけは、未だマリナの中に根付いている。男がマリナを組み敷き、力づくで身体を押さえつけ、準備も出来ていない性器に無理やり侵入され。泣いても叫んでも解放されず、ただただ絶望の中で一刻も早く嵐が過ぎ去るのを待つしか出来なかった、あの恐ろしさは。</p><p>だが不思議と今のOlからは、そういった恐怖を感じなかった。</p><p>イガルクに比べ小柄で細身だからというのもあるのだろう。しかしまるで絹を扱うような柔らかな手付きでマリナに触れ、傅くように舌を這わせる態度には、マリナを思いやる気持ちが感じ取れるかのようだった。</p><p>少し硬さが取れたな</p><p>マリナの顔を見て、Olがふっと微かに笑みを浮かべる。そう言われ、マリナは初めて自分が緊張していたことに気がついた。</p><p>Olの指先が胸元から下に滑って脇腹の辺りを掠って、マリナはぴくりと身体を震わせる。それは快楽と言うには程遠く、くすぐったさを堪えるのに近いような感覚。</p><p>けれどけして、不快な感触ではなかった。</p><p>ゆっくりと形を確かめるように、Olの指先がマリナの肌をなぞっていく。鳥の羽毛を撫でるかのような、ごくごく柔らかな触れ方だ。</p><p>もっと強く触れても構わないのに。一瞬そんな事を考え、マリナは己の考えに驚愕した。それでは、まるで触れて欲しいかのようではないか。</p><p>そんな事を意識した瞬間に、するりとOlの手が下肢へと伸びる。そっと軽く触れられただけの指先に、じわりと熱を感じる。まるで触診でもしているかのような、性的なニュアンスを感じさせない触れ方。</p><p>んっぅ</p><p>にもかかわらず口からは微かな声が漏れ出て、マリナは思わず息を呑んだ。</p><p>Olは彼女を一瞥し、人差し指を己の口の前にピンと立てる。声を出すな、という意味だ。</p><p>なぜ、と思う間もなく横に滑るOlの視線を追えば、寝室の扉の向こうにザナの存在が感じられた。何の意味もなくそんな場所にいるわけがない。聞き耳を立てているのだ、と思い至った瞬間に、マリナの頬はかっと紅潮した。</p><p>んっ！</p><p>それを見計らったかのように、Olの指先がマリナの太ももを撫でる。慌てて奥歯を噛みしめるも、微かな声が飛び出てマリナは己の口を両手で塞いだ。</p><p>先程までの繊細な動きが嘘のように、Olは彼女の両脚に手をかけると強引に押し開く。男の眼前に秘部が晒される恥辱を感じながらも、マリナはそれに抵抗することができなかった。</p><p>っ！ぅ、っ！</p><p>Olが顔を埋め、舌先がマリナの入り口を突く。ねっとりとした柔らかな感触がなぞるだけで、マリナがビクビクと身体を震わせてしまった。</p><p>しかしそれが二度、三度とスリットをなぞり、ゆっくりと入り込んでくる。初めは入り口のごく近い部分を撫でるように。少しずつ少しずつ、坑道を掘り進むように侵入してくる。気遣われ、優しくされているのが、否が応にも感じられてしまった。</p><p>気持ちいいのか、と自問してみれば、それは正直なところよくわからない。だが、少なくとも恐れも嫌悪もないことは確かなことだった。</p><p>ヌルヌルと蠢く舌が縦横無尽に膣内をねぶり、唾液を塗り込めていくさまを、マリナはただ両手で己の口を塞ぎながら眺めるしかないというのに。</p><p>不意に、Olの口が彼女の股間から離れる。水気を帯びた生ぬるさが失われ、それにどこか喪失感を抱く。だがマリナがそのことについて思いを馳せるよりも早く、舌とは違う、何か硬いものが彼女の中に入ってきた。</p><p>男根ではない。それは、指だった。</p><p>Olの右手の人差し指が、ゆっくりとマリナの膣内に挿入されていく。</p><p>ああ</p><p>それがずぶずぶと埋め込まれていくさまを、マリナは目を見開いて見つめた。</p><p>──受け入れて、しまった。</p><p>小さく柔らかな舌とは違う。男のそれよりずっと細いとは言え、平時の女のそこは指を入れられるようにはなっていないことくらい、マリナとてわかっている。</p><p>それが、指の根本までほとんど抵抗もなくすんなりと埋まり込んでしまっている。意識はともかく、マリナの身体はOlの指を受け入れてしまっているのだ。それは衝撃的なことであった。</p><p>ゆっくりと、抽送が始まる。Olの指が中ほどまで引き抜かれ、そしてまた埋め込まれていく。その指が濡れているのは、彼の唾液だけが原因ではないのは明白だった。</p><p>指の動きは徐々にその速度を上げて、マリナの膣壁を擦り上げていく。それでもなんとか声を我慢していたマリナの耳に、くちゅりと水音が響いた。</p><p>ぁっ！</p><p>それが己自身が分泌した蜜の立てた音であることを悟って、マリナは思わず声を上げる。だがそれは一度で終わるばかりか、意識すればするほどに頻度が上がっていく。</p><p>ふっ、ぅっ</p><p>いつの間にか彼女の息は荒く乱れ、吐息とともに喘ぎ声が漏れ出ていくのを止められない。Olが指を出し入れするたびに、そこはくちゅくちゅと微かではあるが明らかな淫猥な音を奏でた。</p><p>マリナは悲鳴のような声を上げた。</p><p>指を差し入れたまま、Olの舌が彼女の陰核を捉えたからだ。</p><p>やっだめぇっ</p><p>思わず口を手で押さえることも忘れてOlの頭を押すが、腕にはまるで力が入らず、ただただ琥珀色の髪を押さえるばかり。それどころかそれはむしろ己の大事な部分を愛撫する頭を抱きかかえるのにも似た心境になった。</p><p>あっ、んんっ、やぁっ</p><p>口からは嫌だ駄目だと言葉は出るが、それはまるで空虚な言葉であった。マリナ自身、もし本当にここでやめられてしまえば愕然とするだろう。気持ちいい、などとは思っていない。──そのように自分を客観視できる状態は、とうに通り過ぎている。</p><p>そして、あれほどマリナを気遣う様子を見せていたというのに、Olはやめる気配どころか様子を伺うことさえせず、愛撫を続けていた。</p><p>ああっ！だめっ、やぁっ！いや、ああぁっ、そこぉっあ、だめ、くちゅくちゅ、音、たてない、でぇっ！</p><p>それどころか、マリナが嫌だと言ったことをこそ執拗に繰り返してくる。</p><p>あぁっ、そこの、奥、そこ、だめですっああんっ、そんな、はやくしちゃ、やぁんっ！あっ、やぁっ！</p><p>だからこそマリナは悶え、乱れた。</p><p>ああ、あ、あ、あ、あ、あ、だ、め、えぇっ！や、あ、何、か、くるっきちゃい、ま、すぅっ！</p><p>押し寄せる快楽の予感に、マリナはOlの身体を強くぐいと押す。それはある意味では、はじめての真の拒否だった。</p><p>その時だけOlが顔を上げ、言う。</p><p>呟くような低い声は、しっかりとマリナの耳に届き。</p><p>ああ、ああああ、あああああああっ！</p><p>マリナはOlの首に両脚を巻きつけるようにして、気をやった。</p><p>あっああああ、あ</p><p>己の身体に何が起こったかわからず、マリナは荒く呼吸を繰り返す。</p><p>マリナ</p><p>Olは彼女の股間から顔を離すと、己の裸身を晒すようにして、問う。</p><p>いいか？</p><p>は、い</p><p>己の顔を両手で隠すようにしながら、マリナはこくんと頷いた。</p><p>第18話欠けたる月を満たしましょう-4</p><p>マリナは、思わずOlの股間に釘付けになっていた。</p><p>隆々とそびえ立つそこは、彼のへそに付きそうなほどに反り返り、太い血管がどくどくと脈打っている。</p><p>彼女の視線に気づいたOlの問いに、マリナは思わずこくんと頷いた。</p><p>これは骨が入っているわけでは、ないのですよね</p><p>長い月日を生きてきた女神のあまりにも初心な言葉に、Olは思わず苦笑する。</p><p>硬いような柔らかいような不思議な感触</p><p>しなやかな指先で恐る恐ると言った風に握りしめ、マリナは怒張をじっと見つめた。</p><p>そのわたしの、を舐めながら、こんなにしてくれたのですか？</p><p>迷いなく答えるOlに、マリナの方が赤面する。</p><p>その舐めるのが、気持ちいいのですか？</p><p>男のそれが、快楽によって大きくなるという程度の知識はマリナにもある。</p><p>だが、マリナの秘部に舌を這わせる行為が快楽に繋がるとは思えなかった。</p><p>そういうわけではないな</p><p>案の定、Olは首を横にふる。</p><p>では、なぜ？</p><p>お前は気持ちよかったのだろう？</p><p>返ってきたのは意外な言葉だった。</p><p>それはまあ、そのよくなかったわけでは、ありませんけれども</p><p>あれだけはしたない声を上げ、息を乱してしまったのだ。否定すれば嘘になる。</p><p>俺自身に快楽がなくとも、お前が乱れ善がっていれば興奮もする</p><p>それは、マリナにとって衝撃的な言葉だった。</p><p>ではその、これはわたしのを、舐めていたときからずっと？</p><p>いや。それよりももっと前からだな。お前の胸元を愛撫していた時からだ</p><p>驚きに、マリナは思わずOlの怒張を凝視してしまう。</p><p>おつらくはないのですか？</p><p>こんなに硬くしているのであれば、男はすぐにでも女の穴に突き入れたいと思うのではないか。</p><p>辛いに決まっておろう。質問の時間は手短に済ませてもらえると助かる</p><p>そう思って問えば憮然とした返事が返ってきて、マリナは思わずくすりと笑い声を漏らした。</p><p>そうした後一拍置いて、彼女はすうと息をすい、意を決した表情で。</p><p>ザナも、こうしておりました、よね</p><p>Olの剛直の先端を、ぱくりと口に含んだ。</p><p>先程して頂いた、お礼、です</p><p>くっ</p><p>マリナの舌先が雁首をするりとなぞり、唇で締め付けながら亀頭を扱き立てる。辿々しさはあるものの、とても初めてとは思えぬその口技に、Olは思わず呻いた。</p><p>お前、それ、力をくっ！</p><p>女神マリナの権能、最善手を打つ導きの能力。口淫奉仕にその能力を使っているのは明らかであった。技巧自体はとても上手いとは言えないが、Olの感じるツボを的確に、最適なタイミングで突いてくるのだ。</p><p>竿を指先でゆるゆると扱きながら顔を傾げてその肉茎を食むように愛撫し、精の詰まった袋から先端までを捧げ持つようにして舐めあげる。マリナの金の髪がさらりと揺れて、舌を長く伸ばしながら男のモノに奉仕する顔があらわになる。</p><p>淫靡極まりないその動作は、その顔の角度までもが男に媚びるような色香に満ちていて、それを見下ろすOlの征服欲を満足させた。それでいて、彼女自身は計算などしていないのだ。ただ己の能力に従い行動しているだけで、それがどのような意味を持っているかなどわかっていないのだろう。</p><p>それがかえって、Olの獣欲を煽る。</p><p>その一方で、快楽に呻くOlの姿にマリナは目を細める。声を漏らすOlは苦しげではあるが、それが快楽の発露であることはわかっていた。先程のマリナと同じく、気をやらぬよう、乱れぬよう必死に堪えているのだ。</p><p>その姿を見て、なるほどと得心する。確かに男の肉棒に奉仕することそのものは、気持ちのいいものではない。むしろ喉の奥にまで咥え込むのは苦しいし、舌や顎も疲れてくる。</p><p>だが、魔王ともあろう男が己の口と舌とで感じている姿を見るのは、なかなかに悪いものではなかった。</p><p>出す、ぞっ！</p><p>不意に、Olがマリナの頭を押さえるようにして宣言する。マリナは能力に導かれるまま、口の動きを早めて強く吸い上げた。</p><p>ぐ、うっ！</p><p>肉塊がぶるぶると震えながら、膨れ上がる。そしてその次の瞬間、大量の精がマリナの口内に飛び込んできた。</p><p>どくり、どくりと断続的に吐き出される白濁の液を、マリナはすべて口で受け止め、飲み干していく。どろりと粘つく青臭い液体を飲み込むのは大変だったが、それも能力を使えば難しくはなかった。</p><p>そう。精液を飲み干すことの最善手を打てば。</p><p>美味いものではなかろう</p><p>マリナは口元を押さえながら、失敗した、と思った。</p><p>思えばこの荒涼とした月の上で、数えることも出来ないほどの月日を過ごしてきた。ヒムロの民に加護を与え、見守り続けていたから、すっかり忘れていたのだ。</p><p>味、というものを。</p><p>初めて口にする男の精液は酷い味であった。生臭くて、ネバネバしていてねっとりと喉に絡み、苦くエグい。</p><p>だが久方ぶりのそれを、彼女の身体は、美味として覚えてしまった。</p><p>もっと欲しい。肉体そのものがそう望み、Olの男根を見つめるだけでじゅんと子宮の奥が疼く。唾液が分泌されて、マリナはそれを握りしめたまま食い入るように見つめた。</p><p>様子のおかしいマリナに、Olは問う。</p><p>はい大丈夫、です</p><p>嘘だ。全く大丈夫ではない。こんな状態でこんなものを入れられてしまえば、一体どうなってしまうのか予想もつかない。</p><p>安心しろ</p><p>Olは、ぽんとマリナの頭に手を乗せてそういった。</p><p>悪いようにはせん</p><p>大丈夫だと答えたにも関わらず、なぜOlはそんな事を言うのか。</p><p>わからないままに、マリナはこくりと頷いた。</p><p>緊張した面持ちでマリナが頷くと、Olの切っ先がゆっくりと彼女の被裂を押し広げ、侵入してくる。思ったよりも、ずっと痛みは少なかった。</p><p>痛むか</p><p>いいえ大丈夫です</p><p>問われ、マリナは首を振る。かつてイガルクに無理矢理されたときはそのまま自分が二つに裂かれて死んでしまうのではないかと思うほどだったが、この程度であれば我慢できる痛みだった。</p><p>Olは無愛想に答えて言葉を切った。マリナは内心首を傾げる。Olが何をするでもなく、じっとマリナの顔を見つめていたからだ。</p><p>あの何か？</p><p>痛みは、収まってきたか？</p><p>ええと、大丈夫だと申し上げましたが</p><p>それはけして嘘ではない。確かに痛いことは痛いが、喚くほどの痛みではなかった。</p><p>そうか。では、動くぞ</p><p>Olは淡々とそう答え、ゆっくりと抽送を開始する。</p><p>肉と肉が擦れ合い、太い棒がマリナの奥をめりめりと押し開いていく。すると、途端にずきりと腹の奥が痛んだ。まるで肉と肉を剥がされるような激痛。</p><p>しかし大丈夫だと言った手前、すぐに前言を覆すのもきまりが悪い。マリナは声を漏らすのを何とか堪えた。</p><p>にもかかわらず、Olはぴたりと動きを止める。そして無言のまま、先ほどと同じようにマリナを見つめた。</p><p>──いや。違う。Olは、ずっとマリナの顔を見ていたのだ。</p><p>それに気づいた時、言いようのない思いがマリナを襲った。羞恥とも喜悦ともつかぬ、複雑な感情。それでいて、心の底から湧き上がるような、そんな想い。</p><p>もう大丈夫です</p><p>Olはそっけなく頷き、動きを再開する。ぐっと彼の太いモノが、先程よりもずっと奥まで押し入ってくる。しかし、今度こそは殆ど痛みはなかった。</p><p>ゆっくりとした抽送は次第に滑らかな動きになって、小刻みに前後しながらマリナの膣内を少しずつ進んでいく。それは坑道を掘るような動きであり、同時に扉をノックするようでもあった。</p><p>この奥に進んでもいいか。そう、問うようなノックだ。</p><p>マリナの喉から、自然と声が漏れ出る。痛みではなく、さりとて快楽という程のものでもない。繋がった場所を突かれた分、押し出されたような吐息の音。</p><p>しかしそれは、マリナにとってはノックの返答のように感じられた。自然とOlを受け入れ、許しているからこそ出る声のように思われたのだ。</p><p>ん、あっふ、ぁん</p><p>許しを与えればOlの肉塊は更にマリナの奥へと踏み入り、コツコツと具合を確かめながら壁を刺激する。その感覚にマリナは吐息を漏らし、更に己の内側を許す。その繰り返しを経るたびに、漏らす息には熱がこもり、色香を帯びていった。</p><p>はぁぁんあっそこ！</p><p>気づけば腹の奥がじんと痺れ、疼くような感覚が生まれていた。そこを、Olの肉槍が的確に抉り、思わずマリナは高く声を上げる。</p><p>ああっ駄目っ！駄目、です！</p><p>未知の感覚にOlの腕を掴み、マリナは哀願した。しかしOlは動きを止めるどころか、むしろ更にそこを突いてくる。</p><p>やぁっ！い、やぁ！</p><p>反射的に否定の声をあげてしまってから、マリナの頭の片隅を冷静な考えがよぎる。本気で嫌だというわけではない。むしろ、この状態で止められてしまう方がよほど辛い。</p><p>しかしOlは動きを止めることなく、低い声でそう囁いた。</p><p>あぁっ！や、あぁっ！そこっ、駄目ぇっ！</p><p>己の身体を押さえつける逞しい腕も、威圧するような低い声も、荒々しく奥を突く太い肉の槍も。全てが、マリナが今まで嫌悪してきた男のそれであるはずなのに。</p><p>彼女を裏切り犯したイガルクのそれと同種であるはずなのに。</p><p>何故か、マリナはそれに安心感を覚えてしまっていた。</p><p>──目だ。</p><p>マリナは、そう思う。ただ一つ、こちらをじっと見つめている瞳だけが、イガルクとは違う。彼は夜闇の中でマリナを襲い、誰であるかすらわからなかった。どんなに悲鳴を上げ、助けを呼び許しを請うてもただただ一方的に犯され、穢された。</p><p>しかしOlの瞳はマリナをじっと見つめ、反応を見ながら彼女を抱いている。そして口から出る言葉が内心と間逆であっても、それをしっかりと察してくれるのだ。</p><p>それに気づいた瞬間Olの顔が近づき、唇が重ね合わされる。唇を割って入り込んでくる舌先を、マリナは抗うことなく受け入れた。</p><p>ふ、あっ！</p><p>次の瞬間、突然ずんと胎に響く衝撃にマリナは思わず背筋を反らす。</p><p>そ、こぉっ</p><p>奥の奥、子宮の入り口に、Olが辿り着いたのがわかった。その太く硬い男根が根本までずっぷりと突き刺さっているというのにもはや痛みは微塵もなく、代わりに震えるような快感が腰から全身へと波打つように広がっていく。</p><p>あぁっ！いやぁっ、だめぇっ！</p><p>奥を突かれるたびに、否定の言葉がマリナの口から飛び出した。本気で嫌がっているわけではないし、Olに対してそんな態度を取りたいというわけでもない。しかし彼から快楽を与えられるたびに、自然と身体はそれから逃げるように動き、そう声を発してしまう。</p><p>だがそれは、Olがマリナの真意を悟ってくれているという確信があるからこそだった。どんなに嫌だと叫んでも、Olは行為をやめることはしない。その一方で、本心からやめてくれと頼めばやめてくれるだろうという確信もあった。</p><p>マリナ自身は気づいていなかったが、それは甘えとでも言うべき感情だった。兄である太陽神に裏切られ、ただ一人で月の上に住まい、ヒムロの民を見守ってきた母神たる彼女が、初めて誰かに甘え頼ったのだ。</p><p>だめっ、いや、やぁんっ！そこ、だめ、だめぇっ！やぁあっ！</p><p>それは酷く甘美な酒だった。マリナはOlの背中を抱いて、否定の言葉で懇願する。その度にOlの肉槍は力強く彼女の最奥を貫き、女としての悦びをその身体に打ち込んでいく。</p><p>信頼で結ばれた性交がこれほどの快楽を齎すということを、マリナは初めて思い知った。</p><p>あぁぁっ！だ、めぇっ！も、もうわたしっ！</p><p>媚肉がわななき、きゅうとOlの逸物を咥え込んで、マリナは身体をビクビクと震わせる。</p><p>行く、ぞ！</p><p>うんっ</p><p>腰の動きを加速させるOlに、マリナは初めて素直に頷き。</p><p>来てお兄ちゃんっ！</p><p>その言葉と共に、絶頂へと至った。</p><p>自身に対する驚愕と、初めて感じる深い快楽と、あらゆる感情がないまぜになったマリナの内を、Olの白濁の液が大量に流し込まれ、白く白く染め上げていく。</p><p>胎の中に打ち付けるように吹き出す精の奔流に何もかもを洗い流されるような感覚を覚えながら、マリナは意識を手放した。</p><p>ああああああああああちがうちがうんです</p><p>マリナが意識を手放していたのは、ほんの数瞬であった。流石は旧き女神と言うべきか。彼女は忘我の境からすぐに立ち戻ると、寝台の上で頭を抱えながらそんな風に言い訳を始めた。</p><p>あの、最後のは、別にあなたをイガルクと同一視したとかそういうのではなくむしろその真逆と言うかイデアとしてのお兄ちゃん像といいますかあああわたしは何を言っているのでしょうかだいたいわたしの方が比べるのも烏滸がましいほど遥かに年上だと言うのにでもでもつい口をついて出たと言うかいえあれは</p><p>延々と続くそれを遮って名を呼ばれ、マリナは反射的に居住まいを正す。</p><p>それは、どうしたことだ？</p><p>Olの指先が、マリナの胸元を示す。そこには、見事な双丘が復活していた。大きすぎず小さすぎず、彼女の美貌を最大限に輝かせるような、美しい形の乳房。欠けていた月が満ちたかのような、完璧な美がそこにはあった。</p><p>そもそも、最も旧く偉大な女神たる彼女は不死不滅に限りなく近い存在だ。熟練の魔術師とはいえただびとたるOlにとってさえ、欠損部位の再生程度はさほど難しい術でもない。治らぬというのならば、彼女自身の意志でそうしているに他ならなかった。</p><p>えっと、その</p><p>裏を返して言えば、それが治ったということは。</p><p>触ってみます？</p><p>甦った二つの果実を己の手のひらで持ち上げ、マリナは首を傾げてそう問うた。</p><p>第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-1</p><p>──寒い。</p><p>彼が初めに思い出したのは、凍てつくような寒さだった。</p><p>砂漠の空は、昼と夜とでその有様をがらりと変える。</p><p>昼間は焼け付くような暑さで何もかもを照り焦がしておきながら、偉大なる太陽神の恵みが失われれば即座に何もかもが凍りつく極寒の夜が訪れる。</p><p>だが今の寒さは、彼が感じたことのあるいかなる寒さとも別種の冷えであった。身体の芯の芯、魂の奥底から凍りついてしまったかのような</p><p>意識が、僅かに覚醒する。</p><p>ここはどこだ？なぜこんなに寒い？</p><p>余は余は、どうなった？</p><p>ようやくのお目覚めか</p><p>そう考えた瞬間、声がまるで頭蓋に直接放り込まれたかのように、ぐわんぐわんと鳴り響いた。</p><p>本当に貴様は鈍いやつだな、ウセルマート</p><p>オ、ウ、ルゥゥゥゥウウウウ！</p><p>忘れるはずもない、憎き相手の声。</p><p>その声で、彼は全てを思い出した。</p><p>己こそは太陽神の化身にして万物の支配者。砂の国、サハラの王、ウセルマート。</p><p>そしてそれに語りかけるのは、彼を殺した魔王、Olの声だと。</p><p>ゆぅぅるぅぅぅさぁぁぁあぬぅぅぅ！</p><p>怒声を放ちながら、ウセルマートはOlの姿を探す。</p><p>気づけば周囲は眩い光に埋め尽くされていて、何も見えない。</p><p>まるで太陽の中に放り込まれたかのようだ。</p><p>オォォォオオウゥゥゥゥルゥゥゥ！どぉぉぉこぉぉぉだぁぁぁぁ！</p><p>目元を腕で遮ろうとしても、瞼をどれだけきつく閉じようとしても、光はウセルマートを刺し貫くかのように輝く。</p><p>──いや。</p><p>腕も瞼も、今の彼には存在しなかった。</p><p>なぁぁぁんんんだぁぁぁ、こぉぉぉれぇぇえはぁぁぁあ！</p><p>それどころか発した言葉さえ幾重にも反響し、茨の棘のように突き刺さって彼を苛んだ。</p><p>眩しいか。どれ、火を消してやろう</p><p>Olの言葉と同時に、ほんの少しウセルマートの苦痛は和らぐ。周囲を埋め尽くす光の洪水は消え失せ、ただ赤く揺らめく炎の残照だけが燻っていた。</p><p>今のお前にとっては松明の明かりすら辛かろうな</p><p>そう言ってOlが炎を消した松明を投げ捨てると、ようやく周囲の様子が感じ取れるようになる。それは黒い紙の上に黒い墨で描いたような、漆黒の景色であった。</p><p>何をぉぉ余にぃぃ、何をしたぁぁぁぁ</p><p>己が発する声すらガンガンと響き渡り苦しみを味わうため、叫ぶことすらままならない。ウセルマートは闇の中のOlを睨みつけながらも、そう尋ねる。</p><p>別に俺が何をしたわけではない。強いて言えば、お前を起こしただけだ</p><p>Olの視線が下を向く。それにつられるようにして意識を向けたウセルマートが見たものは。</p><p>剥き出しの魂で感ずるものは、刺激が強すぎるだろう？</p><p>あらぬ方向へと首の折れた、無惨な己の死骸であった。</p><p>馬鹿な──馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁぁっ！</p><p>己の見たものを信じられず叫ぶウセルマートの首を、Olの右腕が掴む。その動作によって初めて、ウセルマートは己の実体をすなわち、霊魂となった己自身を、知覚した。</p><p>それだけわめく元気が有り余っているなら心配はいらんな。──選べ</p><p>Olはそのままウセルマートの霊を引きずり下ろすと、彼の死骸に突きつけて宣告した。</p><p>このまま腐り果て、無に帰すか。蘇生して俺に手を貸すか。どちらかを</p><p>蘇生、だと！？</p><p>そんな事が出来るはずがない。ウセルマートの常識は、そう叫んでいる。</p><p>しかしその一方で、己がその死の淵から既に二度、蘇っている事を記憶していた。</p><p>一度目は目の前にいるOlによって。</p><p>そして二度目は、あの誰よりも輝かしく美しい、太陽の女神によって。</p><p>一度目だけであれば。あるいは、二度の順番が逆であれば、何らかの誤魔化し、詐術の類だと唾棄したであろう。</p><p>だが、ウセルマートは知っている。</p><p>この芯の底から凍りつくような死の寒さを。そこから舞い戻る暖かさを。</p><p>手を貸す、とは何にだ</p><p>問うウセルマートに、Olは渋面を作りつつも答える。</p><p>我が娘をソフィアを、取り戻す</p><p>ソフィア。その名をウセルマートは記憶していなかったが、誰のことを指しているのかはわかった。隠れし太陽の女神。この世で最も尊き女。</p><p>いい、だろう</p><p>つまりはウセルマートの物、妻となるべき者だ。</p><p>この地上の全ての支配者、神帝たる余が手を貸してやる。感謝せよ、下郎</p><p>Olに手を貸し太陽神を下したあと。</p><p>──この魔王も滅ぼして、女神を手に入れれば良い。</p><p>（わたしが言うのも何なのですが）</p><p>Olの脳裏に、涼やかな声が響く。</p><p>（本当にこれで良かったのでしょうか、お兄様）</p><p>加護によって伝わる、女神マリナの預言だ。流石にお兄ちゃんは女神としての威厳が保てないと思ったのか、預言ではOlをお兄様と呼ぶことに決めたらしかった。</p><p>月の女神マリナの権能は、最善手を導きはするがその結果がどうなるかまでを見通すことは出来ない。そしてその力が導き出したのは、砂の王ウセルマートを蘇らせ、助力を仰ぐことであった。</p><p>ある意味、全ての元凶となった男だ。命を盾にしたところで、素直に従う玉でもないだろう。マリナの不安はわからないでもない。</p><p>だがあの男は愚かとはいえその力は侮れるものではない。戦力にならんということはないだろう</p><p>敵対した際に見せた、それこそ太陽が大地に降りたかのような強大な炎。その質こそ太陽神の力を借りたものだろうが、量は純粋にウセルマート自身の力量だ。Olもダンジョンの中であればあるいは、己の魔力を仕込んだ女を大量に用意すれば、同じことは出来るだろう。</p><p>しかしそれはOl自身の精微極まる魔力操作と、長年の研究の果てに辿り着いた魔力蓄積のすべのあってこそ。ましてや連発するなど、Olでさえ不可能。</p><p>ウセルマートはそれをやってのけたのだ。それはまさしく天稟と呼ぶに相応しい力であり、万物の支配者などという大それた名乗りもあながち大言壮語と言うわけではない。</p><p>まぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉぉうぅぅぅぅぅう！</p><p>出し抜けにドタドタと足音が響いたかと思えば、Olの私室のドアがノックもなしに乱暴に開かれる。</p><p>これはどういうことだ！？</p><p>そして目の醒めるような美女が飛び込んできたかと思えば、艶のある声で叫んだ。</p><p>Olは舐めるような視線を、無遠慮に美女に向ける。気の強そうなアーモンド型の瞳。短く切った黒い髪。艶めかしい褐色の肌は白い衣装に包まれていて、所々に施された金の装飾がその肌の美しさを一層輝かせている。</p><p>そして何より特徴的なのはスラリとした長身と、リルやサクヤに匹敵するほどの豊かな双丘であった。</p><p>存外似合うではないか、ウセルマート</p><p>ふざけるなぁぁっ！これはどういうことだと聞いている！</p><p>笑いを漏らすOlに、美女──ウセルマートは詰め寄る。</p><p>大きい乳房が好きだと言っておったではないか。だからその希望を叶えてやったまでのことだ</p><p>自分に巨乳がついていても何も嬉しくないわっ！</p><p>死体の傷を癒やし、動いてない心の臓を動かし、その骸に命を戻す術。Olにとっては造作もない魔術ではあるが、それは極めて高度な術だ。それに比べれば、肉体の在り様を変化させて性別を変えることなど、大した技ではない。</p><p>なにせOlの迷宮というのは後宮をも兼ねている。そんなところを、Olの寝首をかく気満々の好色な男にうろつかれるわけにも行かない。裏切り防止の人質も兼ねた、策であった。</p><p>嬉しくないと言うならなぜ自分で揉んだのだ？</p><p>なっみ、見ていたのか！？貴様、余の肌を盗み見るなどなんと不埒な！</p><p>うろたえるウセルマートに、Olは思わず呆れて答えた。</p><p>冗談のつもりだったが、お前、本当に揉んだのか</p><p>ええい！眼の前にこれほど豊かな、理想と言える乳があるのだ！揉まずして何が男か！</p><p>開き直ったかのように胸を張るウセルマート。Olはその乳房を無造作にむんずと掴んだ。</p><p>何をする！？</p><p>眼の前にあれば揉まなければ男ではないと、お前が今言ったのではないか</p><p>ウセルマートはすばやくOlから飛び退いて、涙目で己の胸を腕で庇う。</p><p>ふ、ふ、ふ、不埒な！この高貴な余の胸を揉むなど、万死に値する！</p><p>元は男だろうに、乳の一つや二つ気にするでない。大体、お前に施術したのはこの俺だぞ。肌を見るだの触れるだの、今更であろうが</p><p>別段見て楽しいというわけではなかったが、男のときからウセルマートは均整の取れた美丈夫ではあった。それを元に女の姿にしたのだから、美しくないはずがない。今のウセルマートの姿はOlをして、なかなかの力作であると自負するほどであった。</p><p>せ施術しただと！？余の身体にこの聖体に触れたというのか！？</p><p>それがどうしたというのだ</p><p>Olほどの術者ともなれば触れずとも施術はできるが、わざわざそんな事をして難易度を上げる意味もない。</p><p>まさか、裸身を見たなどと言うのではなかろうな！？</p><p>見ずにどうやって施術する</p><p>別にOlとて男の裸など見たくはないし、女に作り変えたあともまじまじと見るようなことはしていない。だが、ウセルマートはショックを受けたように両手をわななかせ、己の顔を覆った。</p><p>別段、見られて困るようなものはなかったと思うが</p><p>当然だ！万物の支配者たるこの余に、そのようなものがあるか！</p><p>では何だというのだ、とOlは困惑する。</p><p>誰にも見せたことのない我が聖体、生まれたままの姿を、よもや最初に見たものが男になるとは</p><p>誰にも見せたことがないだと？</p><p>Olは首を捻って尋ねた。</p><p>お前の国では、着衣のまままぐわうのが普通なのか？</p><p>痴れ者め！ そのようなことがあるわけがなかろう！</p><p>ではどういうことなのだ、と問いかけて、Olはふとある可能性に思い至る。</p><p>まさか、貴様</p><p>絶対権力者として一国を支配し、何人もの美女を後宮に侍らせておきながら。</p><p>童貞なのか？</p><p>童貞の何が悪い！？</p><p>Olの問いに、ウセルマートは渾身の力を込めて叫んだ。</p><p>（本当にこれで良かったのでしょうか）</p><p>脳裏に響くマリナの言葉に、Olは答えることが出来なかった。</p><p>第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-2</p><p>あはははははは！良い格好ねウセルマート！しかも童貞なんですって？折角だからOlに処女を奪って貰ったら！？</p><p>お、おのれぇー！貴様、言わせておけば！</p><p>ウセルマートを指差し爆笑するザナ。ウセルマートは激高し炎を出そうとしたが、それはザナに向けた途端に掻き消えた。彼いや、もはや彼女となったその身には、Ol特性の呪いがたっぷりと練り込んであるからだ。</p><p>あまり煽るな</p><p>実に楽しそうな氷の女王を、流石にOlは諌めた。</p><p>ザナの妹、イェルダーヴが怒り狂うウセルマートに怯え、Olの影に隠れるようにしていること。そして、十重二十重に構築した呪いの一部が、ウセルマートの放とうとした膨大な霊力によってピシリとヒビが入るのを見てしまったからだ。</p><p>力づくで鉄の檻を破るような、常識はずれな力だった。</p><p>お館様。準備が整いました</p><p>お茶とか用意したよー</p><p>そこへ、会談の用意を言付けていたホスセリとマリーが報告にやってくる。</p><p>うむ。ではお前たちも同席せよ</p><p>昇る太陽の神、純白のククルの巫女たるフウロの末裔、ホスセリ。</p><p>中天に座す神、金色のイガルクの巫女たるヒムロの姫、イェルダーヴ。</p><p>沈む太陽の神、赤きアトムの巫覡、砂の国サハラの王、ウセルマート。</p><p>地に隠れし神、黒きオオヒメの親にして地下迷宮の娘、マリー。</p><p>そして月の女神マリナの巫女ザナと、魔王Ol。</p><p>会議室に、太陽神に直接関わる者全員が集まっていた。</p><p>大体だな、この世で最も高貴なる余の胤(たね)をそうやすやすと下賤な女に渡せるわけもなく、ましてや何よりも尊い我が童貞をだな──</p><p>貴様の性経験の話はどうでもいい</p><p>ザナに煽られたのがよほど腹に据えかねたのか、椅子に座ってもなお言い訳じみたことを言い募るウセルマートに、Olはピシャリと言い放つ。</p><p>神に対して、基本的にはこの六人で挑む</p><p>嘘でしょ！？</p><p>そしてそう切り出したOlに、まずザナが異議を唱えた。</p><p>相手は四柱の太陽神の習合、全知全能の神なのよ！？それを、たった六人でって、正気なの？</p><p>だからこそだ</p><p>彼女がそう来ることはわかっていた。Olは落ち着き払って答える。</p><p>数を揃えたところで意味がない。対抗できる、ごく少数の精鋭。それこそが最善だ</p><p>──だとしても！</p><p>机を叩き、ザナは向かいに座ったウセルマートへ指を突きつける。</p><p>こいつは信用できない</p><p>ほう。不埒にもこの余を疑うか。王の中の王たる余が協力してやろうと言うのだ。それとも、この余が魔王との約定を違えるとでも？</p><p>ウセルマートは豊満な双丘を支えるように腕を組み、すらりとした脚も組んで椅子の背もたれに身体を預けた。元男とは思えぬほど妖艶な仕草に歯噛みしつつも、ザナは答える。</p><p>ええ、破るわ。あんたは他人との約束なんてなんとも思ってない</p><p>ははははははは！その通りだ。そも約束事、契約など対等な関係でするもの。万物の王たる余がなぜ貴様ら凡夫と結んだ約束を守ってやらねばならぬ？</p><p>ザナの指摘にウセルマートは隠しすらせず哄笑した。これには流石にマリーとホスセリも鼻白む。</p><p>それは構わんが、一生女の体のままでいいのか？</p><p>しかしOlの指摘にその笑い声はピタリと止んだ。</p><p>くっだがそのようなもの、全能の力を手に入れさえすれば</p><p>手に入れるまでは、否応なく協力する必要があるということだな</p><p>流石にウセルマートも一人でどうにかできると思っているわけではないのだろう。悔しげに表情を歪めつつも押し黙る。</p><p>まあ良い。だがむしろ、余の方こそ人選には不満がある。こやつらが何の役に立つというのだ？</p><p>ウセルマートはぐるりと一同を見回すと、尊大に言い放った。</p><p>太陽神の力を失い赤子同然の娘。未熟な半人前。犬ころ風情。一番マシなのが月の加護を得た氷の女王とはな。太陽に月が勝てるとでも思っておるのか？</p><p>あんた、誰のせいでイヴが！</p><p>太陽神と敵対しその加護を失った今、イェルダーヴは無力なただの女に過ぎない。それどころか服従の首輪によって自由を封じられ続けたために、できることは童女の頃と変わりないのだ。</p><p>誰のせい、だと？笑わせるな</p><p>激高するザナを、ウセルマートは嘲笑う。</p><p>お前がその軽い尻を振って、余を迎え入れたからではないか。余に拒まれれば今度は魔王に股を開いて助けを乞うなど、まこと呆れた淫売よ</p><p>ザナは怒鳴りも叫びもしなかった。代わりに彼女の手のひらから鋭い氷の槍がほとばしり、瞬き一つの半分の時間でウセルマートの心臓を貫く。</p><p>見よ</p><p>だが。その一撃は、ウセルマートの豊かな胸に届くより先に、放たれる熱波によって溶け消えてしまっていた。</p><p>余にすら歯が立たぬこの女が、一体何の役に立つ？</p><p>ギリ、と噛み締めたザナの唇から、血が滴る。ザナとウセルマートの術には絶対的な相性差、そしてそれ以上の出力差があった。どれだけ早く氷を繰り出しても、ウセルマートの纏う熱の鎧を彼女の氷は貫けない。ザナがウセルマートに攻撃を当てるためには、以前やったように完全に油断している隙を突くしかないのだ。</p><p>そして一度それを行った以上、もうそれが成功することはないだろう。ザナの目の前でウセルマートが油断することはない。</p><p>お前もだ、魔王。運もあったとはいえ余を下した智謀智略。余を蘇らせたその技術。見るべきところはないとは言わぬ。だが余の伴をするにはあまりに貧弱。お前の配下をよこせ。あの空を斬る赤毛の女や、獣を繰る女であれば多少の役にも立とう</p><p>ほう、とOlは内心声を上げる。ウセルマートは他人を歯牙にもかけないように見えて、存外Olの配下のことを見ていると思ったからだ。確かに、純粋な実力で言うなら連れて行くのはその二人だろう。</p><p>ユニスにミオか。無論奴らにも協力はしてもらう。だが、俺より部下の扱いが下手な奴に任せるわけにはいかんな</p><p>どんなことでも負けるのは気に食わないのか、ウセルマートは柳眉を釣り上げる。</p><p>俺ならば、この四人を従えお前を倒すこともできる</p><p>──ほう</p><p>しかしその表情は続くOlの言葉に、値踏みをするような笑みへと変わった。</p><p>大きく出たな。この半端ものどもで、余を倒すだと？</p><p>容易いことだ。何なら試してみるか？</p><p>──かかった。そう内心で笑いつつ、彼は答える。</p><p>良かろう。しかしよもや、この神帝たる余を試すなどという愚挙ただで済ますとは思ってはいまいな？</p><p>言ってみろ</p><p>余が勝ったときには、この女どもは余のものとする。もちろん、余の身体も男に戻せ</p><p>ば</p><p>馬鹿じゃないの、とザナは叫ぼうとする。そんな勝負を受けるメリットが全く無いからだ。</p><p>いいだろう</p><p>マスター！？</p><p>しかしあっさりと頷くOlに、彼女は驚愕した。彼が思っている以上に、ウセルマートの防御は鉄壁だ。たとえ四人がかりだろうと、勝てるとは思えなかった。</p><p>負けた時はどうするの？</p><p>それまで無言だったマリーが、不意に尋ねる。</p><p>は。余が負けることなどありえぬ</p><p>その問いをウセルマートは鼻で笑った。</p><p>いや普通に負けたじゃん</p><p>ぐっあれは例外だ。二度はない！</p><p>しかし鋭いマリーのツッコミに、狼狽えながらも言い放つ。</p><p>ないんだったらどんな条件だっていいよね</p><p>吐き捨てるようなウセルマートの言葉に、マリーはにんまりと笑う。</p><p>これが狙いだったのだろうか？と、ザナは思う。けれどそれはあまりに無意味に思えた。ウセルマートに言うことを聞かせるのであれば、そもそもその身体をもとに戻す約束を盾に取ればいいのだ。</p><p>ただの口約束なら、ウセルマートはそれを守る気などない。だが自分が勝ったとなれば平気でそれを守らせようとするだろう。相手と同様、そんな約束など守る理由がないと拒否する事もできるがそうなれば、ウセルマートは協力しなくなるだろう。</p><p>悔しいが、砂の王の実力は本物だ。太陽神と戦うのであれば必要だというマリナの判断はおそらく間違っていない。だが、この勝負にはあまりにも益がなく、失うものばかり多いように、ザナには思えて仕方がないのであった。</p><p>第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-3</p><p>四対八つの乳房が、Olをぐるりと取り囲むように並ぶ。</p><p>ザナ、イェルダーヴ、ホスセリ、マリーの四人は、上着をはだけ胸を露出するようOlに命じられ、言われるがままに乳房をさらけ出していた。</p><p>無論、別に淫らな欲望からそうさせたというわけではない。胸元に特殊な顔料で塗り込めるのは、術の媒介となる魔法陣。ウセルマートとの勝負に向けての下拵えだ。</p><p>その光景に人知れず、ザナは苦悶の声を漏らす。</p><p>たわわに実ったイェルダーヴの双丘はもとより、Olの手のひらにちょうど収まる程度のホスセリの乳房、そしてもっとも年若いマリーの青い果実ですら、ザナの薄い胸より明らかに大きかった。</p><p>遅いぞ魔王、早くせぬか！</p><p>それどころか部屋の外から怒鳴り声を上げる元男にすら負けているのだ。</p><p>どうした。緊張しておるのか</p><p>あ、ええそうね。どうしてあんな条件で受けたの？</p><p>気づけば己の顔を覗き込んでいるOlに、ザナは慌ててそう問う。</p><p>簡単な話だ。お前たちは負けん。それに</p><p>Olはザナの胸元に呪印を描きながら答えた。</p><p>奴の鼻っ柱をへし折ってやりたいだろう？</p><p>ええ！</p><p>ニヤリと笑うOlに、ザナも笑みを返す。</p><p>一度殺したせいか、妹を取り返したせいか、それとも目の前の男のせいか。かつての殺したいほどの憎しみも、焦がれるような思慕ももはやない。だが叩きのめしてやりたいとは思う。</p><p>（それと、胸のことはあまり気にするな。俺はお前の感度の良い乳も好きだぞ）</p><p>と、ザナの頭の中にOlの声が響いたかと思うと、彼は無造作にザナの胸を鷲掴みにした。</p><p>思わずザナは胸を庇うように腕で押さえるが、Olが手を離さないせいでかえって彼の手を自分の胸に押し付けるような形になる。</p><p>この呪印の効果だ。以前お前と結んだ魂の紐の簡易版と言ったところだな。互いの思考を速やかに伝える効果を持つ</p><p>どうも</p><p>伝わってきたのは思考の声だけではない。Olが心からザナの胸を褒め、僅かに欲情している事までが伝わってきて、彼女は羞恥に頬を染めながらもゆっくりと丁寧にOlの指を外した。</p><p>まだか、魔王！余を待たせるとは万死に値するぞ！</p><p>ええい、気の短い奴め</p><p>Olは舌打ちすると、四人にはだけた衣服を直すよう命じる。</p><p>そら。もう入っていいぞ</p><p>まったく余を待たせおって！さあすぐに──</p><p>Olが言った瞬間ウセルマートは弾かれるように部屋に踏み入り、好色な目で女達を見回す。だがすぐに、その表情は何かを訝しむようなものへと変わった。</p><p>いや何でもない。さあ、さっさと始めろ、魔王！</p><p>マリーの問いにウセルマートは首を振ってOlを急かす。</p><p>そう急かすな</p><p>Olがパチンと指を鳴らすと、会議室が広がって家具や装飾が取り払われ、戦うのに十分な広さを持った大広間となる。</p><p>これで良い。では始めるとするか</p><p>待ちかねたぞ。どこからでもかかってくるがいい！</p><p>対峙するマリー、ザナ、イェルダーヴ、ホスセリに対し、ウセルマートは堂々と腕を組みながら胸を張った。その全身は、既に猛烈な炎熱によって覆われている。それはあらゆる攻撃を防ぐ、炎の壁だ。</p><p>喰らいなさいっ！</p><p>バカの一つ覚えめ</p><p>ザナが氷を放つが、ウセルマートは髪の毛一本揺らすことなくそれを身に受ける。</p><p>壊れよ、水よ！</p><p>そこにマリーが冷性剣グラシエスと湿性剣ウミディタスを振るい、ザナの作り出した氷を切り裂く。途端に氷は崩壊し、大量の水となってウセルマートへと流れ込んだ。</p><p>ぬおおおお！？</p><p>水は蒸気となってもうもうと立ち上り、視界を塞ぐ。その隙に、イェルダーヴは小さな炎を生み出し放った。</p><p>小癪な！</p><p>しかしウセルマートの一喝とともに熱風が吹き荒れ、イェルダーヴの放った炎は蒸気ごと吹き飛ばされる。</p><p>これでも、喰ら──</p><p>ウセルマートの手のひらで炎の玉が急速に膨れ上がり、投げ放たんと振りかぶった瞬間。ホスセリの放った手裏剣が火炎球に突き刺さって大爆発を起こした。</p><p>ええい、鬱陶しい！余に敵わんというのがわからんのか！？</p><p>しかし爆炎の中から現れたウセルマートは髪の毛一本焦げていない。炎熱の鎧は炎そのものも焼き尽くし防ぐ。</p><p>よかろう、一匹ずつ踏み潰してくれる！</p><p>再びイェルダーヴの放った炎を片手で払い除け、ウセルマートはザナに向けて片手をかざす。そこから炎がうずまき、奔流となってザナを襲った。炎の渦に巻き込まれ、ザナは一瞬でかき消える。</p><p>む？</p><p>その光景にウセルマートは怪訝そうに眉を寄せた。流石に即死するほどの威力は込めていない。それが骨も残さず蒸発するとは</p><p>などと思った時、背後から氷が突き刺さった。無論それは炎鎧に阻まれウセルマートに傷を与えることはなかったが、明らかに今倒したはずのザナの仕業だ。</p><p>何！？</p><p>氷を払い除けて見れば、そこには何人ものザナの姿があった。</p><p>知らせよ、風よ</p><p>そしてマリーの軽やかな声とともに、更にザナの姿は増えていく。ウセルマートは先程の蒸気で視界を塞がれた時に、幻影に成り代わったのだと悟る。</p><p>だからどうしたというのだ！</p><p>ウセルマートは炎を放射して幻影を打ち払おうとするが、その度にザナの氷が邪魔をする。ダメージは全く通らないが、視界はどうしても遮られる。氷の放たれる瞬間にザナの位置を特定して反撃しようとしても、氷術の速度があまりに早すぎてどちらから放たれているかすらわからない。</p><p>ならば纏めて葬ってくれると爆炎の術を放とうとしても、火炎球を生み出すほんの僅かな隙にホスセリの放つ手裏剣が火炎球を破裂させてしまう。</p><p>生じよ、土よ</p><p>手裏剣とて無限にはあるまいと消耗を狙うウセルマートの目論見は、乾性剣アリディタスと冷性剣グラシエスを打ち鳴らして無から手裏剣を作り出すマリーの姿の前に崩れ去った。</p><p>いくら膨大な霊力を持つウセルマートと言えど、小さな鉄片を作り出すだけのマリーに対し、相手を全滅させられるだけの火炎球と常時展開する炎鎧で耐久勝負に持ち込むのは分が悪い。</p><p>そうしたとて、貴様らに勝つすべはない！余には傷一つ付けられぬのだからな！</p><p>どれだけウセルマートの攻撃を無効化しようと、相手には攻撃の手段がない。たとえ勝てなかったとしても、負けることだけは絶対にない。</p><p>空きました、お姉様！</p><p>ウセルマートはそう、思い込んでいた。間近に迫ったザナの、丸太のような氷塊を纏った拳が、彼の脇腹を抉って思い切り吹き飛ばすまでは。</p><p>ふー。すっきりした！</p><p>壁に激突し床に叩きつけられるウセルマートの姿をみて、ザナはこれ以上ないほどの笑顔を見せた。</p><p>いぇーい！</p><p>そこにマリーが駆け寄って両手を叩き合わせ、ホスセリとイェルダーヴも巻き込んで勝利を喜び合う。</p><p>何故だ余の炎熱の鎧は、無敵のはず</p><p>その光景を遠くにみながら、ウセルマートは殴られた脇腹を擦る。そして、炎鎧の一部に穴が空いていることに気づいた。</p><p>何度か打ち払ったイェルダーヴの小さな炎。出力は比べるもおこがましいが、しかし性質自体はウセルマートの使う神火と同じ種類の炎。それが何重にも積み重なって、炎鎧を打ち消し穴を空けていたのだ。</p><p>ウセルマート。お前の炎術は確かに大したものだ。威力だけはな。だがザナのような速度はないからホスセリならば撃ち落とせる。マリー程の応用力もないから封殺されれば手が出ん。そしてその威力も、持久力に優れたイェルダーヴの炎を重ね合わせれば打ち破ることができる</p><p>壁際に崩れ落ちるウセルマートを見下ろして、Olはそう言い放つ。</p><p>お前が弱いと切り捨てたものの強さがわかったか？</p><p>良かろう。彼奴らにも多少は骨があるとは認めてやろう。だがそれも所詮四人がかりでの事だ。余が最強であることには変わりない。先程言った探索行のあるじ、余が取るのであれば受けてやろう</p><p>今の戦いも指示は俺が出していたのだがな</p><p>ここまで完膚なきまでに負けておいてなお居丈高なウセルマートの物言いを、Olは呆れ半分、感心半分で聞き流す。</p><p>まあ良い。そこまで言うなら、次は俺と戦ってみろ。無論一対一でだ</p><p>Olの戦闘能力ははっきり言って下の下だ。そう認識していたウセルマートは、目を剥いた。</p><p>まさか貴様が、余よりも強いというつもりか</p><p>ああ。その通りだ</p><p>自信満々に頷くOl。</p><p>お前など、この指二本で十分だ</p><p>それどころか人差し指と親指を立ててみせる彼に、ウセルマートは激高した。</p><p>ふざけおって！加減はせぬぞ！</p><p>ウセルマートは全身に炎を纏い、無数の火炎球を作り上げる。纏う炎は先程までの防御のための鎧ではなく、攻撃のための衣だ。たとえ火炎球を全て撃ち落としたとしても、膨れ上がる炎の衣を広げて部屋を覆い尽くし焼き尽くす。先程はザナの氷術による邪魔のせいで出来なかった大技だ。</p><p>喰らえっ！</p><p>ウセルマートがそれを放たんとしたその瞬間、Olはパチンと指を鳴らした。途端、ウセルマートの立っていた床が消失し、彼は落とし穴にすっぽりと入り込む。即座にガチャンと蓋が閉まって、彼は石の中に閉じ込められた。</p><p>何だ！？何が起こった！？</p><p>身動きすら取れない狭い穴の中で、ウセルマートは混乱に陥る。そこへ、大量の水が流れ込んできた。</p><p>水攻めなどというものが、余に効くと思うてか！</p><p>水はウセルマートの纏う炎鎧に阻まれ、瞬時に蒸発する。しかしどれほど蒸発させても、水はどんどん流れ込んでくる。</p><p>ぬうおおあ、暑い！何だこれは！？</p><p>ウセルマート自身は炎鎧の熱の影響を受けず、炎の熱でさえも完全に遮断する。しかし、空気だけは別だ。空気まで遮断してしまってはすぐに窒息してしまう。そして狭い空間で大量に蒸発させた水分とともにあれば、ウセルマートの不快指数はあっという間に上限を突破した。</p><p>暑い！暑い！暑い！魔王、開けよ！何だこの暑さは！？</p><p>それは灼熱の砂漠に生まれ育った砂の王が経験したことのない、地獄のような暑さだった。肌をじっとりと濡らす水蒸気の不快さと、肺の焼けるような暑さ。それが同時に襲いかかってくるのだ。</p><p>開けよ！ぐおおおお！わかった！余の負けでいい！開けよ！</p><p>炎鎧で周囲の壁を焼き溶かして逃れようとしても、更に周囲の気温は上がって不快さが増していくのみ。</p><p>勝負はついたと言っているだろうが！聞こえているのか、魔王！？開けろ、開けてくれ！頼む！</p><p>何も見えず、水音以外何も聞こえず、ただただ気温と湿度が上がっていく恐怖。</p><p>お願いだ、開けてくれ余が余が、悪かったこの通りだ</p><p>謝ってもOlの反応はなく、膨大な水蒸気は圧力となってウセルマートを襲い始める。もしや、聞いてすらいないのではないか。そんな恐れが、ウセルマートの心を支配した。</p><p>そうして、一体何時間が経っただろうか。</p><p>謝る、ごめんなさい、開けてくださいお願いします</p><p>ウセルマートが啜り泣きながら懇願していると、突然蓋が開いた。</p><p>その、開放感。落とし穴の中に立ち込めた濃密な水蒸気がむわっと飛び出して、代わりに新鮮で冷たい空気が流れ込んでくる。空気というものをいや、何かをこれほど美味いと感じたことは、生まれて初めてであった。</p><p>だがウセルマートの身体は虚脱しきり、穴を這い登ることも出来ない。そこへ、手が差し伸べられた。</p><p>そら、掴まれ</p><p>文字通りにその手に取り縋ると、ウセルマートの身体はひょいと持ち上げられて、勢い余ってOlの懐へと転がり込む。</p><p>ああ助かった恩に着る</p><p>全身びっしょりと汗をかき疲れ果てた姿で、ウセルマートはそう呟いて気を失った。</p><p>第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-4</p><p>マリーちゃん、と呼びなさい</p><p>目を覚ましたウセルマートに開口一番、マリーはそう告げた。</p><p>貴様とか金髪の娘とか半人前とかそんな呼び方しかしないじゃない。ちゃんと名前を呼ぶ。はいっ、リピートアフターミー、マリーちゃん！</p><p>な、なぜ余がそのような事を</p><p>気づけばウセルマートは小さな部屋で寝台に寝かされ、シーツを被せられていた。おそらくは医務室なのであろう。目覚めたばかりでいきなりそんな事を命じられ、ウセルマートは狼狽えながらも答える。</p><p>負けたら何でも言うこと聞くって言ったでしょ？</p><p>余が約束を守らねばならぬ道理もないと言ったであろうが。余とマリーちゃんでは格が</p><p>口をついて出た言葉に、ウセルマートははっとして口をつぐむ。</p><p>マリーはにんまりとして言った。</p><p>口約束とは言え、魔術師と軽々しく約束するとそうなるんだよー。勉強になったでしょ、うーちゃん</p><p>う、うーちゃん！？</p><p>今まで経験したことのない馴れ馴れしい呼称に、目を白黒させるウセルマート。</p><p>ウセルマートって長いじゃん。だからうーちゃんでいいでしょ</p><p>マリーちゃん、余を誰だとくっ、何なのだ、この忌々しい呪いは！</p><p>貴様、などとマリーを呼ぼうとすると、自動的にその語がマリーちゃんに変換されてしまう。どのようにかけたかすら皆目見当もつかない意味不明な呪いに、ウセルマートは思わず毒づいた。</p><p>いいじゃん、友達なら名前でちゃんと呼び合うものだよ</p><p>と、友達だと！？</p><p>ソフィアを助けに行く仲間でしょ。ついでに友達にもなってあげる。うーちゃん友達いなさそうだし</p><p>不遜に不遜を重ねた物言いに、ウセルマートは絶句する。</p><p>あ当たり前だ！余は王の中の王、万物の支配者！そのような物は不要！</p><p>いや必要でしょ普通に。王様だって何だって、気を許せる友達は必要だよ。Olさまだってそうだもん</p><p>魔王に英雄王、大聖女に氷の女王。マリーが今まで見てきた国の支配者は、確かに皆孤高の存在であった。決断は一人でしなければならず、その責任を負わなければならない。</p><p>けれど同時に、誰一人孤独ではなかった。その傍らには気を許せる腹心が、仲間がいた。王であろうと何であろうと、孤独では生きられない。</p><p>そしてもし本当に孤独であろうとするのなら国を治め王であろうとする意味などないのだ。</p><p>魔王も？</p><p>お、気になる感じですかー？</p><p>べ、別に気にしてなどただ、魔王の友人とやらに興味があるだけだ</p><p>それが気になるってことなんじゃないかな、と思いつつもマリーは口に出さない。</p><p>リルやユニスも友達っぽいっちゃ友達っぽいけどねー、やっぱり奥さん枠だから友達枠で一番はなんだかんだ言ってローガンなんじゃないかなあ。意外と仲いいんだよねあの二人。それにユニスのお父さんとも前お酒飲んでたし、お兄さんともそれなりに付き合いあるみたいだしあとトスカンさんとか、下町のドヴェルグさん達とか。Olさまああ見えて結構コミュ力高いっていうか</p><p>そ、そんなにか？</p><p>指折り数えるマリーに、我が身と比べて慄くウセルマート。</p><p>王とは孤高なるもの！他者に縋るとは惰弱の極みよ。魔王ともあろうものがその体たらくとは、呆れるわ！</p><p>ふうん。本当にそう思うんなら、別にそれはそれでいいと思うけど</p><p>マリーの青い瞳が、ウセルマートの目を覗き込む。</p><p>それ、誰に言われたの？</p><p>まるで、その奥底までを見通すかのように。</p><p>だ誰にでもない。己で辿り着いた答えだ</p><p>答えるウセルマートの声には、しかしまるで覇気のないものだった。</p><p>起きたか、ウセルマート</p><p>二人の声を聞きつけたのか、医務室の扉が開き、Olが姿を現す。</p><p>魔王っ！</p><p>ウセルマートは反射的に上半身を起こそうとするも、あることに気づいてすぐにシーツを被り、再び横になった。</p><p>ああ、もう少し寝ていろ。肋骨が五本折れていたからな。治療はしたが蘇生もしたてだ、生命力が足らん。後で粥でも持ってきてやる</p><p>貴様が余を、治療したのか？</p><p>淡々と告げるOlに、ウセルマートはシーツで口元を隠すようにしながら問う。</p><p>いや、Shalという娘だ。それがどうかしたか？</p><p>何でもない</p><p>そうは言うが、ウセルマートはあからさまにホッとした様子だった。</p><p>治療の腕は俺よりいい僧侶だ。骨接ぎを仕損じる事は万に一つもないから安心しろ</p><p>別にそのようなことは案じておらぬわ。貴様の腕は認めていると言ったであろうが</p><p>吐き捨てるように言うウセルマートをじっと見つめ、出し抜けにマリーは口を挟む。</p><p>うーちゃん、Olさまのこともちゃんと名前で呼ぼうか。何がいいかなー？結構皆バリエーションあるんだよね。Olさまとか主殿とかOlさん、最近はお館様とかてて様とかあなた様とか</p><p>オ、Ol！Olと呼べばいいのだろう！</p><p>慌てて、ウセルマートは叫ぶ。このままではどんな恥ずかしい呼び方をさせられるかわかったものではない。このマリーという小娘、やると言ったらやる女だ。ウセルマートはそう認識した。</p><p>なんだ、そのうーちゃんというのは</p><p>ウセルマートって長いでしょ？だからうーちゃん</p><p>Olにまで呆れた様子でそう呼ばれた時、かつてない感情がウセルマートを支配した。</p><p>メス、だ</p><p>その感情をなんと呼んだらいいかわからぬまま、彼女はそれを口にする。</p><p>余の名は、ラーメスだ。ウセルマートとは即位名王としての名に過ぎぬ</p><p>ウセルマートいや、ラーメスは横たわって天井を見上げたまま、呟くように告げる。</p><p>余のことはラーメスと呼べ。特別に許す</p><p>じゃあ、ラーちゃんだね！</p><p>すぐさま、マリーが愛称をつけ直す。</p><p>ほとんど変わっておらんではないかっ！</p><p>ええー、全然ちがうよ、うとラだよ？</p><p>そこではないわ、この痴れ者がっ！</p><p>言い合うマリーとラーメスの姿をみて、Olはククと喉を鳴らす。</p><p>それだけやりあう元気があるなら心配は要らぬな。また来る。養生しておけよ、ラーメス</p><p>ううむ</p><p>Olが言うとラーメスは途端に大人しくなり、こくりと頷き部屋を出ていく彼を見送った。</p><p>おいマリーちゃん</p><p>Olが部屋を出ていってしばらくし、ラーメスはマリーに声をかける。</p><p>寒い。服を持て</p><p>治療の邪魔だったからか、ラーメスのシーツの下は一糸まとわぬ裸であった。</p><p>Olさまに裸見られるの恥ずかしいもんね</p><p>寒いからだ！</p><p>クスクスと笑うマリーに、ラーメスは怒鳴り返した。</p><p>順調みたいね</p><p>ダンジョンの通路を歩く、Olの影。そこからするりと這い出すようにして、美貌の使い魔は囁いた。</p><p>お前の目にもそう見えるか</p><p>Olの問いに、リルはこくりと頷く。</p><p>ならば重畳。まあ、油断はできんがな</p><p>マリナの力も使ってるんでしょ？</p><p>そういう時こそ落とし穴は口を開けて待っているものだ</p><p>相変わらずねえ</p><p>常に最善手を打つ女神の啓示。そんな能力を持っているなら多少なりとも油断するのが人の常であろうに、それをこそ最大限警戒する己の主人に、リルは苦笑した。</p><p>人は必ず裏切るこういうのも、それに入るのかしら？</p><p>無論だ。自分自身こそ、真っ先に己を裏切る</p><p>ラーメスに施した性転換は表面的なものだけではない。骨格や筋肉、内臓に至るまで全てを女性化してある。そしてその内臓には、脳の作りすら含まれる。</p><p>人智を超えた所業であるが、女神マリナの最善手と、精微を極めたOlの医療魔術を組み合わせれば不可能ではない。</p><p>段々と、ラーメスは考え方や性的指向すら女性化していっているのだ。</p><p>所詮精神など肉体の傀儡に過ぎぬ。奴にはそれを存分に思い知ってもらおう</p><p>久々に悪い顔してるわねー</p><p>でもそれでこそOlなのかも知れない。</p><p>調子の戻ってきた主人に、使い魔は笑みを見せた。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-1</p><p>大丈夫だよ、おうる</p><p>ちゃぷりと魚の尾に変じた下半身を海水につけ、タツキがそう請け負う。</p><p>準備を整えたOlたちはラファニス大陸の東の果て。海岸へと訪れていた。</p><p>この中にいる間は、たつきが守ってあげられる</p><p>うむ。頼りにしているぞ、海神タツキよ</p><p>そう言って頭を撫でるOlの手を、タツキは気持ちよさそうに受け入れる。</p><p>神の名を呼べば力を与えられると言うが、タツキにとってはこの手の方がよほど力になるのかも知れない。</p><p>ではつなぐぞ、我が主</p><p>ああ。頼む</p><p>境界を司る塞の神、ミシャが波打ち際に立って着物の袖を翻す。</p><p>足元は水際。先に進めば溺れるが定め</p><p>彼女は呪文のようなものを口にするが、相変わらず光も出なければ音もない。</p><p>そら。我を超えて、三歩進んでから振り返れ</p><p>言われた通りに、Olたちはミシャの横を通って三歩、海へと足を踏み入れた。</p><p>相変わらずの技だな</p><p>振り返るとそこはもう、異大陸の浜辺。かつてOlが船でリルとともに辿り着いた海岸であった。Olを持ってしても、一体どの時点で転移したのかわからない自然さだ。</p><p>波から外に出ないように気を付けて</p><p>タツキが沖合を泳ぎながら、警告を発する。</p><p>一歩でも出たら、見つかっちゃうよ</p><p>言われるまでもないことだった。大気自体に神気が満ち満ちて、わずかでも足を踏み入れれば即座に粉々に砕かれてしまうであろうことは、その場にいる全員が肌で感じていた。</p><p>山が</p><p>不意にホスセリが彼方を見据え、ぽつりと呟く。</p><p>山が、ない。不尽の山、姫様の山が！</p><p>ヤマトのどこからでも臨むことが出来た、サクヤの火山。美しい曲線を描いていたあの山が、ぽっかりとヤマトの景色から失われていた。</p><p>姫様！</p><p>待て、ホスセリ！</p><p>駆け出そうとするホスセリの腕を、Olは咄嗟に掴んで止める。</p><p>御館様、でも！</p><p>落ち着け。サクヤならば無事だ</p><p>断言する彼に、ホスセリは僅かに落ち着きを取り戻す。</p><p>本当？でも、どうして</p><p>アレがそう簡単にくたばる玉か。それに、見よ</p><p>Olは景色を指し示す。</p><p>火山がなくなっている以外、風景に何の変化もなかろうが</p><p>そう言われても、ホスセリとてヤマト全土の風景を記憶しているわけではない。しかしOlははっきりと記憶していた。何なら詳細な地図も作っていた。</p><p>あれほど巨大な山、崩すにしろ砕くにしろ、大量の土砂が出るだろう。跡形もなく消えるというのはおかしいとは思わんか？</p><p>それは確かに</p><p>なにせサクヤの火山はヤマト一の高さを誇る霊峰だ。ただ破壊したのであれば景色に見覚えがないと言ってもすぐわかるはずだ。</p><p>お引越ししたのかな？</p><p>どうやって山が引っ越すっていうのよ</p><p>首を傾げるマリーに、ザナが呆れる。</p><p>おそらくはそうだろうな</p><p>だがそれを肯定するOlに、驚きの声をあげた。</p><p>ダンジョンの場所の入れ替えはソフィアもやっていたことだ。全知全能であればその程度、造作もあるまい</p><p>なぜそんな事をしたんでしょう</p><p>ぽつりと呟くイェルダーヴ。いい視点だ、とOlは頷く。</p><p>サクヤの火山は龍脈の真上にあった。無尽蔵の力が流れ込む。それこそがあいつの強さの源だ。たとえ滅ぼしたとしてもやがて蘇る。かといってもはや火山自体はソフィアを取り込んだ神にとって身体の一部だ、破壊することはかなわぬ。故に僻地にでも飛ばしたのだろう</p><p>ということは</p><p>ホスセリは目を見開き、輝かせた。</p><p>ああ。先程も言ったとおり、サクヤは無事だということの証左でもある</p><p>良かった</p><p>ホスセリにとってサクヤとはただの主ではない。ずっと一族を見守ってきた、姉、あるいは母にも近しい存在だ。彼女はうっすら涙すら浮かべて、ほっと安堵の息を吐く。</p><p>けれどOlの言い方に、マリーは違和感を抱いた。確かに筋は通っている気はするが、どこかおかしい気がする。それがどこなのかはわからないが、Olらしくないと言うか、いつもと違うという漠然とした感覚があった。</p><p>それは何よりだけどここからどうするの？一歩でも上陸したら死ぬんでしょ？</p><p>波に濡れるブーツに顔を顰めつつ、ザナ。</p><p>ああ。まずは海中を行く。タツキ、先導を頼むぞ！</p><p>まかせて！</p><p>海面をぴょんと飛び跳ねて、人魚のような姿でタツキが水中をゆく。Olは全員に水中呼吸と水中歩行の術をかけると、海の中へと進んだ。</p><p>わー、すごい</p><p>普段目にすることのない海中の光景にマリーは思わず声をあげる。咲き誇る珊瑚に花のようなイソギンチャク、色とりどりの魚達とともに泳ぐタツキの姿は、まさしく海の姫君とでも言うべき美しさだった。</p><p>タツキがひょいと魚に手を伸ばし、おやつ代わりにムシャムシャと食べるまでは。あれは姫ではない、暴君だ、とマリーは認識を改める。</p><p>しばらく海中を進んでいくと、切り立った岩肌に人工的な真四角の入り口が見えた。</p><p>あれは</p><p>タツキ専用の通用口だ</p><p>それはかつてタツキが海からダンジョンへと通うのに使っていた、水中回廊だ。彼女がソフィアのダンジョンに常駐するようになってからは使われていなかったが、わざわざ潰す必要もなく残しておいたものだった。</p><p>まさか初めて外敵の侵入を許した通路から自分が侵入することになるとは、とOlは内心呟く。</p><p>ここから森のダンジョンの地下に出られる</p><p>森のダンジョンって、敵の真っ只中なんじゃないの？</p><p>回廊の終わり、頭上の水面を指し示すOlに、ザナは難色を示す。ここまではタツキの加護によって無事に来られたが、水中から一歩出た途端太陽神に補足される状況は変わらないままだ。</p><p>うむ。故にこうする</p><p>Olがザナの胸元をとんと指で突く。途端にザナの手のひらから氷がほとばしり、水上の部屋を覆い尽くす。それは複雑な紋様を描いた壁となった。</p><p>な、何したの！？</p><p>先だって結んだ呪印を通し、お前の術を使わせてもらった。お前の意に沿わぬ操作はできんから安心しろ</p><p>ただ意思の疎通をするだけであれば、肌に印をしるすなどという大掛かりな事をする必要はない。わざわざそんな事をするだけの意味があった。</p><p>これでダンジョンの内側に、ダンジョンがもう一つ出来上がったことになる。つまりは俺の領域だ。神とて簡単には手出しできぬ</p><p>Olは神ではないだろう</p><p>流石に聞き咎めたのか、これまで珍しく沈黙を守っていたラーメスが口を挟む。</p><p>忘れたか。俺は塞の神の加護を受けている神主なのだぞ。境界を操ることは我が権能。そして</p><p>ぐっと床がせりあがり、Olたちは水中から浮上する。</p><p>ダンジョンの中では、俺もまた全知全能だ</p><p>予想された太陽神の攻撃はなく、神気もまた部屋の中からは完全に取り払われていた。</p><p>うう～びしょびしょだよ～。水中歩けるのはいいけど、濡れるのはどうにかならなかったの？</p><p>無茶を言うな。膨大な海水を押しのけるのにどれほどの魔力を消費すると思う。第一、海水を退けてはそこは海ではない。太陽神からの攻撃を受けてしまうだろうが</p><p>スカートの裾を絞りながら不平を漏らすマリーに、心外そうに反論するOl。</p><p>でもさあ</p><p>マリーは周囲をぐるりと見回して、言った。</p><p>皆すっごくえっちな感じになってるじゃん</p><p>いずれも劣らぬ美女美少女たちは、皆一様にびっしょりと濡れそぼっていて、服がぴったりと肌に張り付きなんとも色っぽい様相を呈していた。</p><p>まさかこれが狙いだったんじゃないでしょうね</p><p>愚か者。見たいのであれば堂々と見るわ</p><p>恥ずかしげに胸を庇うザナに、Olはそう言い返した。</p><p>ラーちゃん、どうしたの？大丈夫？お腹痛くなっちゃった？</p><p>し、痴れ者がぁ！見るでない！</p><p>マリーが膝を抱いて蹲るラーメスに声をかけると、彼女は顔を真っ赤にして怒鳴る。ただでさえ薄くラインの出る衣装がぴったりと張り付いて、いっそ裸よりも艶めかしい。</p><p>見るなと言っておろうが！</p><p>放たれた火炎を手で受け止めて、Olは部屋の中心に据える。</p><p>ちょうど良い。氷で冷えるからな、これで暖を取りつつ着替えろ</p><p>言って、Olは背負っていた革袋から着替えを取り出した。</p><p>なんでこれ濡れてないの？</p><p>着替えを受け取りつつ、マリーは素朴な疑問を口にする。革の袋と言っても口は紐で縛るだけのもので、浸水を防げるようには見えない。</p><p>この袋は俺のダンジョンに繋がっている。必要な物資があれば用意させる</p><p>はぁい</p><p>袋の中を覗いてみれば、その向こうからリルが手を振りながらウィンクしていた。</p><p>便利ね、境界の神の力</p><p>ぼやくように言いつつも着替えを受け取り、服を脱ごうと上着に手をかけたところで、ザナはぴたりと動きを止める。</p><p>あっち向いててよ</p><p>言ったであろうが</p><p>恥ずかしげに言う彼女に、Olは傲然と宣言した。</p><p>見たければ堂々と見ると</p><p>このエロジジイ！</p><p>減るものでもあるまい。それに、今まで散々見ているであろうが</p><p>うるさい！それとこれとは別！むこう向けー！</p><p>呆れたように言うOlにザナは何度も蹴りを放つが、ことごとくかわされる。なんでこんなに機敏なのよこの爺は、と内心毒づいていると、不意にマリーが言った。</p><p>っていうか、ラーちゃんはいいの？</p><p>完全に忘れていた。ここしばらくやけに大人しい上に、濡れ姿を恥ずかしがる様があまりに女らしかったため、ザナですらラーメスが元男であることを失念していた。</p><p>良いわけあるか！</p><p>当のラーメスはあいも変わらずしゃがみ込みながら叫ぶ。</p><p>天幕を寄越せ、さもなくば衝立だ！</p><p>えっ、そっちなんだ。とザナとイェルダーヴは顔を見合わせた。</p><p>そんな暇はないようだ。さっさと着替えろ！</p><p>御館様、着替え完了した</p><p>そんなやり取りの間にさっさと着替えていたホスセリが二刀を構える。</p><p>その瞳が見据える通路の先から、敵が迫ってきていた。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-2</p><p>ふっ！</p><p>ホスセリの一呼吸で、小鬼が三体、真っ二つに切り落とされる。左右の短刀と刃物のように鋭利な回し蹴り。まるで踊るように滑らかな、見事な連携だった。</p><p>なに？森のダンジョンに棲んでた小鬼が迷い込んできたの？</p><p>そんなわけがあるまい。太陽神の遣わした尖兵だ。直接殺せぬと見て送ってきたのであろう</p><p>あるいはそれは、ダンジョンの防衛本能とでも言うべきものかも知れなかった。ダンジョンを訪れた異物に対してまず真っ先に反応するのは、Olの魔窟でもまずはこういった小物たちだ。</p><p>御館様、キリがない</p><p>次々と襲い来る小鬼を切り捨てながら、ホスセリは呟く。</p><p>進むぞ！さっさと着替えろ！</p><p>Olは未だもたもたと着替えをしているラーメスたちに叫んだ。</p><p>だ、だが余は</p><p>ああもう、これでいいでしょっ！</p><p>うじうじと恥ずかしそうにしているラーメスに業を煮やし、ザナは氷術で彼女の周りに壁を作る。</p><p>すまぬ。恩に着る</p><p>わざと屈折させて透明度を下げた白い氷の壁の向こうからそんな声が聞こえてきて。</p><p>あいつが、礼を言った？</p><p>ザナは思わず、己の耳を疑った。</p><p>着替え終わったな。道を作るぞ</p><p>言って、Olは呪印を通じて同時に干渉する。ラーメスの放出した炎の霊力をマリーの持つ冷性剣で変換。ザナへと流して氷の通路を作り出し、その権限をイェルダーヴに譲渡。彼女の霊力で維持する。</p><p>ラーメスの無尽蔵の出力。マリーの応用力。ザナの速射性。イェルダーヴの持続力。</p><p>その全てを、Olの精微極まる魔力操作で引き出し、混合した結果であった。この方法であれば、広大なダンジョンを端からOlのものに塗り替えていける。</p><p>そして道を進む際の露払いは、その大半をホスセリが担う。いくら手練れの忍びといっても、連戦が続けば細かな傷は免れない。小さな傷でも重なれば致命傷となる。しかし彼女に限ってはその心配は無用であった。</p><p>ククルにその身体を明け渡した後遺症か、傷の治りが異常に早いのだ。ちょっとしたかすり傷程度であれば、数歩歩いた程度の時間で治ってしまう。相手が小鬼程度の相手であれば、疲れすらなく幾らでも倒すことが出来た。</p><p>よし地上部に出るぞ！</p><p>あ、懐かしいね、ここ</p><p>マリーの剣がダンジョンの天井を切り開き、ザナの氷術が筒状の通路と螺旋階段を作り出す。それを登れば森のダンジョンの地上部分、木々の壁が生い茂る天然の迷宮だった。</p><p>かつてOlが初めてこの大陸を訪れた時、マリーとともにやってきて。</p><p>──そして、ソフィアと出会った場所だ。</p><p>とりあえず一息つけそうだな</p><p>階下への通路を氷で塞げば、間断なく続いていた小鬼たちの襲撃が途絶える。Olは簡易的な結界を張って、革袋からテーブルと人数分の椅子を取り出した。</p><p>ダンジョン探索には相応しくない内容で悪いが</p><p>そう言って出されたのは、リルが丹精込めて作り上げた出来たての料理だ。</p><p>そんな理由で文句言うのOlさまだけだよ</p><p>なおOlの言うダンジョン探索に相応しい食事の内容とは、硬く焼き締めたパンに干し肉、革袋のワインといったものである。</p><p>前々から思っていたのだが、いくら余が王の中の王と言っても、毎日毎日これほどの贅を凝らさなくてもよいのだぞ</p><p>仔牛のソテーを口に運びながら、ラーメスはぽつりと言った。それは肉とは思えぬ程に甘く、歯を立てずとも舌の上でほろりと解ける程に柔らかい。サハラ中の富を集めた首都でも、年に一度の大祭くらいでしか味わえぬ美味だ。</p><p>信じられないけどね、これ、普通の食事なのよ、こいつらの</p><p>すっかりその味に慣れてしまった舌で味わいながら、ザナ。無事故郷を救って戻れたとしても、ヒムロの国の粗食に自分は耐えられるだろうか、などと危惧を抱くほどであった。</p><p>流石に普通はいいすぎだよ。Olさまは王様だし、リルはとっても料理が上手だから</p><p>絶句するラーメスに、庶民の生活も知るマリーが補足する。</p><p>あの角と翼の生えた女かぜひとも余の料理番に加えたい腕だ</p><p>リルのことを話す時にあのおっぱいに言及しないなんて、ラーちゃん本当に女の子になっちゃったんだなあ、などと思いつつ、マリーは食事を平らげる。</p><p>さて、そろそろ我々が目指すところを話しておこうと思う。そのまま食べながらで良いから聞け</p><p>食事が一段落したところで、Olはそう口を開いた。</p><p>神からソフィアを救うこと、じゃないの？</p><p>うむ。その、具体的な手段についてだ</p><p>マリーの問いにOlが頷いた、その時。</p><p>突然、轟音とともに地面が揺れた。</p><p>何！？地震！？</p><p>いや、これは</p><p>ヤマトは地震の多い国ではあるが、その揺れ方は地震のそれとは明らかに異なっていた。テーブルの上の皿がガタガタと音を立て、ガラス製の器が落ちて割れる。</p><p>ああっ！余のジェラートが！</p><p>言っている場合か、来るぞ！</p><p>初めに見えたのは、巨大な触角。それに次いで真っ赤な頭が現れて、毒々しいオレンジ色の脚が幾本も木々の間からずるりと出てくる。</p><p>ヤタラズだ！</p><p>山をぐるりと八巻するのにやや足りぬ。そう呼ばれるほどの巨大なムカデが、Olたちを見下ろしていた。</p><p>問題ない。あれなら処理できる</p><p>とは言えかつてホスセリがさしたる苦もなく一度倒した相手だ。</p><p>彼女はとんと跳躍して身軽な動作で大ムカデの背に取り付くと、麻痺毒を塗った短刀を引き抜いた。それで一本目の脚と二本目の間の神経を麻痺させてしまえば、全て終わりだ。</p><p>一匹であれば。</p><p>突然、もう一匹の大ムカデが森の影から現れたかと思えば、ムカデの背に乗ったホスセリを跳ね飛ばす。不意を打ったその一撃をホスセリはかわしきれず、彼女は地面に叩き落された。</p><p>ホスセリ、無事か！？</p><p>ごめん、御館様。しくじった</p><p>ホスセリは上半身を起こしつつ、顔をしかめる。強力な毒を秘めた大顎の一撃はなんとかかわしたが、脚の先端を避けきれず太ももがざっくりと裂けていた。Olは手早く魔術で止血するが、完全治癒には程遠い。この身体でムカデの背に取り付くのは無理だろう。何より二匹いるのでは、先程のように跳ね飛ばされるだけだ。</p><p>あれ、奥さんかな</p><p>悠長なことを言っている場合か。仕方あるまい、援軍を呼ぶぞ</p><p>大ムカデを見上げて呟くマリーを叱責しつつ、Olは革袋の口を大きく開く。</p><p>ミオ！</p><p>Olがその名を呼べば、小麦色の髪を三編みにした素朴な娘が現れる。魔王軍最強の名をほしいままにする獣の魔王。牧場主のミオであった。</p><p>アレを手懐けられるか？</p><p>ご</p><p>大ムカデを指し示すOlに、ミオは蒼白になる。</p><p>ご、ご、ご、ごめんなさい、あれは無理ですううう！脚が脚が十本より多い虫だけはちょっと！</p><p>あるいは虫の類は操ることは出来ないのではないかとは思ったが、予想を上回るまさかの弱点であった。</p><p>逆に十本以下ならなんとかなるの？</p><p>アラクネさんとかならギリギリ</p><p>アラクネとは蜘蛛の下半身と人の上半身を持つ魔獣だ。蜘蛛で八本、人の腕が二本。確かにちょうど十本ではある。</p><p>くっ、しかしあのデカブツを二匹相手にするとなると</p><p>手懐けられない事は予想してはいたが、ミオ自身が戦力にもならないと言うのは想定外であった。他にあれを相手にできるとすれば、ユニスか、ウォルフか。しかしどちらも戦うには大量の理力を消費する、いわば切り札だ。</p><p>お任せあれ、主殿</p><p>逡巡するOlの手にした革袋から涼やかな声が響き、褐色の腕がぬっと突き出る。</p><p>友の窮地は我が窮地！助けに来たぞ、ミオ殿！</p><p>現れたのは黒アールヴの長、エレンであった。</p><p>しかしエレン。あれをどう倒す？</p><p>なにせあの大ムカデはユニスの剣すら弾く甲殻を持っている。いかに黒アールヴの剛弓と言えど分が悪い。矢足らず(ヤタラズ)の名は伊達ではないのだ。</p><p>テナとかいう娘に聞きました。何でもあれは人の唾液に弱いとか。主殿、失礼するぞ</p><p>言ってエレンはOlに突然口づけた。のみならず、舌を存分に絡めて濃厚なディープキスをかわし、ちゅぷちゅぷと唾液を交換する。</p><p>妖艶な吐息を漏らしながら銀の糸を伝わせると、彼女はその唾液を矢に吹きかけて弓を構えた。</p><p>大ムカデが突進してきた瞬間エレンは蔓草を木の枝に伸ばし、振り子のようにぐんと身体を揺らすと、そのまま高く飛び上がってそれをかわす。</p><p>そしてそのまま空中で身体を捻ると、立て続けに二発、矢を放った。</p><p>それは狙い違わず二匹の大ムカデの左目と右目とに突き刺さる。ムカデの巨躯からすれば、ほんの小さな傷。しかしそれは致命の傷であった。</p><p>矢の刺さった目の部分から大ムカデの身体は灰に染まり、動きが緩慢になっていく。そして数秒もすると、完全に石と化して停止した。</p><p>何をしたのだ？</p><p>大ムカデは唾液に弱いと言っただろう？</p><p>エレンは自信満々に答える。</p><p>ちょうどミオ殿から譲り受けたバジリスクの唾液を仕込んだ矢を持っていたのでな。使ってみた</p><p>バジリスクの唾液に弱くない生き物など、この世にいるかっ！</p><p>ミオだけが、流石エレンさん、すごいですと素直にパチパチ手を叩いていた。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-3</p><p>日が落ちてきたな。今日はここで野営をするぞ</p><p>二匹の大ムカデを撃退し、更に進むことしばし。木々が夕焼けに赤く染まり始めたところで、Olはそう言って足を止めた。</p><p>野営まさか、寝るってこと！？この敵地のど真ん中で！？</p><p>そのまさかだ</p><p>ザナが叫ぶ間にもOlは袋からテーブルと椅子を取り出し、夕食の準備を進めていく。</p><p>ダンジョン内での野営など、俺の魔窟を攻略する冒険者共なら皆当たり前にやってることだ。驚くほどのものでもあるまい</p><p>あんたの加護が切れれば即死するダンジョンなのよ！？</p><p>別に俺が寝たところで境界が途切れるわけでも加護が失われるわけでもない。むしろ休息は必須であろうが</p><p>それはまあ、そうだけど</p><p>慣れぬダンジョン行で、ザナ達はヘトヘトに疲れていた。一歩でも足を踏み出せばすぐに死んでしまうような場所で、何度も襲撃を受けながら進んでいれば当然のことだ。</p><p>元気そうなのはOlと</p><p>イヴ、あんた大丈夫？</p><p>わ、わたしは、何もしていませんから</p><p>イェルダーヴだけだった。</p><p>相手は太陽神だ。日が沈んでいる間は大したことは出来まい</p><p>なにせ隠れた太陽の女神であるソフィアでさえ、日が沈んでいる間はけして起きることはなかった。四柱の習合である太陽神であっても、それは同じことだろう。全知全能の神の、数少ない欠点と言えるかも知れない。</p><p>そうはいっても流石に抵抗がそれに、こんな床で眠れる？</p><p>Olが自分の陣地としているのは、ザナの氷術で作り出した氷の回廊だ。自然、床も硬く冷たい氷が張っていて、そんなところでまともに眠れるとは思えなかった。</p><p>Olが革の袋から、ずるりとベッドを取り出すまでは。</p><p>あ、うん。よく眠れそうね</p><p>余は天蓋付きのものを所望するぞ！</p><p>ラーメスに至っては良質な睡眠を満喫する気満々であった。そしてOlは本当に天蓋付きのベッドを出した。</p><p>あたしの知ってる野営と違う</p><p>安心しろ。見張りは立てる</p><p>それの何が安心なのかはわからなかったが、ザナの想像する野営に近くなることは確かであった。</p><p>では頼んだぞ</p><p>はいっ、承知しました、Ol様！</p><p>Olが例の革袋から、四人の黒アールヴを呼び出すまでは。</p><p>絶対にこれ野営なんてもんじゃないでしょ</p><p>夜の森の警護に黒アールヴに勝るものがいるものか。無論こやつらは昼間に睡眠を取らせてあるから、夜を徹した警護も苦でもない</p><p>何なら夜型でーす</p><p>Olの言葉に、エレンの部下の一人が明るくそう言ってのけた。</p><p>まあいいわぐっすり寝られるのはありがたいことだし。よろしくね</p><p>はっ。命に代えましても！配置に付け！</p><p>四人のうちリーダー格らしい真面目そうな一人がそう答え、Olたちを守るように三方に散る。</p><p>そして残った一人、四人の中でもっとも豊かな胸を持ったものが、天蓋の付いたOlのベッドへと潜り込んだ。</p><p>待ちなさいよ</p><p>我らの主君であるOl様には、特別な警護が必要だと思いましてぇ</p><p>いや絶対セックスするつもりでしょ！？</p><p>おっとりとした口調で説明する黒アールヴに、ザナは叫ぶ。</p><p>勘違いするな、ザナ</p><p>その間に割って入って、Olは言った。</p><p>別にクロエの胸が大きいから閨に呼んだわけではない。順番に四人とも抱く</p><p>そんな隣で寝られるか！</p><p>だが実際は、疲れとベッドの気持ちよさに、ザナは布団をかぶって十秒で眠りに落ちた。</p><p>深夜。四人の黒アールヴ達との性交を終え、眠りについていたOlはふとベッドの中に侵入してきたものに目を覚ました。</p><p>ザナには説明しなかったが、黒アールヴとは何も楽しみのためだけに交わったわけではない。一日で消費した魔力を性交によって補充したのだ。</p><p>他者から受け取った魔力は十分に休んで己のものへと変換しなければならない。それを知っているアールヴ達がみだりに自分を起こすはずはないのだが、とOlは警戒する。</p><p>ご主人様</p><p>だが寝所に忍んできたのは、黒アールヴではなかった。</p><p>イェルダーヴか。どうした</p><p>こんな時間にすみません。一つ、どうしてもお聞きしたくて</p><p>首輪から解放されてもなお、何かと自己主張の薄い娘である。珍しいこともあるものだ、とOlは内心呟く。</p><p>言ってみろ。この天蓋の中の声は外には漏れぬようになっている</p><p>なぜご主人様はわたしをお連れになったのですか</p><p>押し殺すような声色で、イェルダーヴはそう尋ねた。</p><p>わたしはここまで、何のお役にも立てていません。わたしは、何も出来ない人間です</p><p>やれやれまさか、そこまでとはな</p><p>ため息をつくOlに、イェルダーヴはびくりと身を竦ませる。そんなことすらわからないのかと、呆れられたと思ったのだ。</p><p>本当にわからぬのか。この氷のダンジョンは今、お前の力によって維持しておるのだぞ</p><p>だからそんな事を言われて、彼女はキョトンとした。</p><p>わたしの？</p><p>そうだ。ザナの氷は恐るべき速度で構築されるが、その分持続するものではない。数拍もあれば消え去ってしまう類のものだ。それを、お前の霊力を用いて維持しておる</p><p>霊力を維持する力というのは、出力や速度とはまた別次元の能力だ。</p><p>圧力というか重さのようなものを、感じはせぬか？</p><p>いえ特には</p><p>出力や速度はラーメスやザナとは比べ物にならない程低いイェルダーヴの霊力だが、こと維持力、持続力という点においては並外れたものがあった。といっても具体的にどれほどのものか、Olも知ってはいなかったが。</p><p>お前は今、森のダンジョンをほぼ覆い尽くす氷を維持して平然としているのだぞ</p><p>それもまた、人知を超えた能力であった。</p><p>でもわたしに出来るのであれば、誰にでも出来るのでは？</p><p>出来てたまるか。並の術者ならば、部屋を一つ半日も維持すれば魔力が底を尽きるわ</p><p>疲れが見えないということは、まだ維持する力よりも自然な回復力の方が勝っているということである。</p><p>言っておくが今回の一行で代替の効かぬ要は、お前だぞ</p><p>そう言うと、イェルダーヴは震え始めた。</p><p>そんなそんなはずは</p><p>ザナの氷術は、時間はかかるが俺の迷宮魔術でも出来る。ラーメスの無尽蔵の霊力も回復しながら進めば良いだけだ。ホスセリも、複数人で傷を癒やしつつ前衛を受け持てば良い。だがお前の力だけは、他のものには不可能だ</p><p>正確には魔術師を何十人と集めてそれぞれ維持させれば、可能といえば可能ではある。だがそれはあまりにも非現実的であった。</p><p>わたしにそんな力があるはず、ありません！</p><p>だがイェルダーヴはこれを否定した。</p><p>わたしは何もしてこなかった女です。何の力もありません</p><p>面白いことを言うやつだ</p><p>Olは愉快そうに笑みを漏らす。</p><p>つまり、お前は俺が間違っているというのだな？</p><p>そう言ってやると、イェルダーヴは目を大きく見開いた。</p><p>お前と俺と、真っ向から意見が食い違っている以上、少なくともどちらかは間違っているという事だ。そしてお前が自分には何の力もないと主張するということは、それ即ち俺が間違っているということだろう？</p><p>それはその</p><p>イェルダーヴは言いよどみ。</p><p>はい。ご主人様の思い違いだと思います</p><p>しかし、はっきりとそう答えた。</p><p>自分に自信がないのだな</p><p>あるはずもありません</p><p>だがその自信のなさは、主人と仰ぐ相手を否定するほどに強固なのだ。それは一種の信仰とさえ呼べるものであった。</p><p>これは俺の推測だが、お前はずっとあの首輪から抜け出ようとしたのではないか？</p><p>魂を封じる服従の首輪。指一つ自分の意志では動かせぬ状態で、イェルダーヴに出来ることはただ思うことだけだった。抜け出したい。なんとか自由になりたい。そう思い続けることしか、出来なかった。</p><p>無為な、努力でした</p><p>Olは首肯する。あれは内側からどうこうしたところで解ける類のものではない。</p><p>だが、無駄ではなかった。それがお前の持続力を育てたのだろう</p><p>途方も無い時間を、ただ出たいと願い祈ることに費やしたのだろう。祈りとは、即ち神術の行使だ。小さな首輪に閉じ込められた魂だけで使える、ごくごく僅かな術。それを眠っている時以外の全ての時間をいや。眠っているときでさえ、費やさねばこれほどにはなるまい。</p><p>天稟だけでそのような力が身につくものか。お前の持つ唯一の、しかし類稀なる力だ。誇って良い</p><p>本当にわたしに、そんな力が？</p><p>それはつまり、彼女は最後の最後まで諦めなかったということだ。そしてその努力は結局実を結ぶことなく、救いは全く別の場所から降って湧いた。彼女の自己不信はそれゆえのことだろう。</p><p>信じられぬか</p><p>すみません</p><p>正直なやつだ、とOlは笑う。</p><p>信じずとも良い。どちらにせよ俺にはお前が必要だ。明日以降も働いてもらうことには変わりない</p><p>自分を信じられないがゆえに、他の誰をも信じることが出来ない。</p><p>そんな心根には、彼も心当たりがあった。評価が主観的なものか客観的なものかの違いはあるにせよ、同じことなのだ。</p><p>冷えるな。来い</p><p>己に与えられた責任の重さに青ざめ震えるイェルダーヴに、Olはそう声をかける。せめて今夜くらいは、重責を忘れ眠れるように。</p><p>イェルダーヴはただOlの暖かな身体に、その身を委ねた。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-4</p><p>なんでイヴがOlのベッドに入ってるのよ！</p><p>Olはそんな叫び声とともに目を覚ます。天蓋に取り付けられたカーテンは開け放たれて、差し込む朝日とともにザナが氷よりも冷たい視線をOlに向けて降り注がせていた。</p><p>寒いと言うので温めたまでのこと</p><p>じゃあなんで二人とも全裸なのよ！</p><p>寝ぼけた頭で言えば鋭く返されて、Olはむっと唸る。</p><p>Olの腕を枕にしてすやすやと眠るイェルダーヴの姿はほとんど掛け布団に隠れているが、何も身に着けていないことははみだした脚や肩口、そして何よりベッドのそばに脱ぎ落とされた衣服で明らかであった。</p><p>色ボケもいい加減にしなさいよ！あんたがこんな所でまで盛るのは勝手だけどね、あたしの妹まで巻き込まないで！</p><p>待て。これは</p><p>Olの弁明に聞く耳持たず、ザナはカーテンを締める。</p><p>あご主人様、おはようございます</p><p>それと入れ違うようにして目を覚まし、寝ぼけながらもふにゃりと笑うイェルダーヴに、Olはどうしたものかと内心ため息をついた。</p><p>ザナ。精神を乱すな。うまく指示を送れん</p><p>うるさいわね。これでいいんでしょっ！</p><p>怒声とともに、目に見える範囲の通路が全て凍りつく。ただ凍らせればいいというわけではないのだが、と嘆息しながら、Olは仕方なく自前の魔力で氷に干渉し、壁に紋様を描き出した。</p><p>太陽神の干渉を防ぐには、そこがOlのダンジョンであるという明確な印が必要だ。それが壁に描かれた紋様であり、同時に氷が溶けぬようにイェルダーヴの霊力で維持させる為の媒介であった。</p><p>昨日は消耗を防ぐために、ザナの能力をOlが操作して氷を生成する時点で紋様をも作り上げていたのだが、イライラした様子のザナはそこまでの精度で操ることができなくなっていた。</p><p>本人の意志を無視して操ることは出来ないようにしておいた事が災いして、Olに対して不満を感じている程度でも操作に支障をきたした。</p><p>結果としてザナもOlも消耗が激しくなるので落ち着いて欲しいところだが、下手に弁明したり諭したりすれば余計に激高するのがザナという女だ。氷の女王などと呼ばれているくせに、その性根はむしろ烈火に近いのである。</p><p>あれは！</p><p>それでも進行速度そのものは一日目よりも早く、昼前にはOlたちは森のダンジョンの最奥へと差し掛かる。そしてそこで目にしたのは、白く輝く氷の通路。</p><p>やってくれたわね！</p><p>ギリリとザナが奥歯を噛みしめる。城の形こそしていないが、それがザナの居城を組み替えたダンジョンであることはすぐにわかった。</p><p>落ち着け。お前の臣下たちは無事だ</p><p>ええ。大丈夫よ。あたしは落ち着いてるわ。とてもね</p><p>本人の言う通り、先程まで波打っていたザナの精神はすっと平静を取り戻す。いや、平静どころか、まるで凍りついたかのような静かさだった。それはかえって良くない兆候であるとOlは悟っていたが、だからといってそれを指摘してどうなるものでもない。</p><p>さあ。行きましょう、Ol</p><p>それを示すかのように、ザナの精神はOlの操作を一切受け付けなくなっていた。</p><p>寒いな</p><p>一歩足を踏み入れた時点で、Olはその異常性に気がついた。かつて訪れたザナの居城は厚着をしていてはかえって暑いほどに暖かかったが、この氷の回廊は酷く冷える。</p><p>待て。服を用意する</p><p>！そんなことしてる暇はないでしょ</p><p>ザナはともかく、イェルダーヴやラーメスはかなりの薄着だ。とてもこの寒さには耐えられまいと防寒着を出そうとするOlにそう言い捨てて、ザナは壁に向かって腕を振る。一瞬にして回廊の壁に紋様が描かれて、彼女はさっさと進んでいった。</p><p>待て、ザナ！</p><p>指図しないで！ここはあたしの城、あたしのダンジョンよ！</p><p>氷であれば作り出すだけでなく、削ったり形を変えたりも出来るらしい。彼女が掘っても紋様は正常に働き、そこはOlの境界となって太陽神の力を阻む。</p><p>くそお前たちはここで待っていろ！</p><p>Olは着替えをマリーに手渡すと、単身でザナを追いかけた。彼女の氷術の速度はあまりにも早く、集団で追いかけたのではバラバラになってしまう恐れがある。</p><p>ザナ！待て！止まれ！その方法では太陽神の干渉を防げぬ！</p><p>叫びながら走るが、ザナの姿はあっという間に迷宮の奥に消え去って見えなくなってしまった。</p><p>くそ！</p><p>確かに壁に紋様を刻めば、そこはOlの領域となる。太陽神はその中のものに直接干渉することは出来ない。しかし、その紋様を刻んだ壁自体は別だ。</p><p>ザナが作り出しイェルダーヴが維持する氷ではなく、この場に移動させたザナの城の氷自体は、太陽神が支配している可能性が高い。</p><p>であればそれはいつでも消す事ができる、砂上の楼閣のようなものだ。</p><p>ザナを追いかけ奥へと進むうちに、Olは吐息が白く染まっていることに気づいた。走って体温が上がったからではない。周囲の気温自体が、下がっているのだ。</p><p>それどころか次第に辺りには白いものがちらつき始め、屋内だと言うのに風が吹いて氷雪が打ち付けてきた。</p><p>ザナ！いるのか！？</p><p>壁に描かれた紋様を追ってきているから、すれ違ったということはない。ザナは間違いなくこの先にいるはずだ。しかしいくら何でもこの吹雪で先に進んだとは思えず、Olは声を張り上げた。</p><p>しかし、返ってくるのは風の音ばかり。そもそもこの吹雪の中では聞こえたかどうかすら定かではない。</p><p>ふと思いつき、Olはザナの胸に描いた呪印に干渉して彼女の操作を試みる。この吹雪で頭を多少なりとも冷やしていればいいが、などと思いながら魔力を確かめると、予想以上に覿面に反応があった。</p><p>その繋がりを逆に辿って、Olは吹雪の中足を進める。そしていくらもしないうちに、立ち尽くす彼女の姿を見つけた。</p><p>正確には、無数の氷像に囲まれた彼女をだ。</p><p>Ol</p><p>Olの存在に気がついて、ザナは振り返る。その顔は虚ろで何の表情も浮かんでいなかったが、Olには泣いているように見えた。</p><p>あたし</p><p>話は後だ。壁を作れ</p><p>促しながら、Olはザナを操作し氷の壁を作り上げて自分たちを囲む。太陽神の干渉を防ぐ意味合いもあったが、それ以上に凍死するのを防ぐためだ。</p><p>ザナ。服を脱がすぞ</p><p>二人の衣服は雪にまみれてびっしょりと濡れている。このままでは凍え死ぬのは明白だ。Olは革袋から白い外套を取り出してザナをおおうと、彼女の衣服を脱がしにかかる。</p><p>Ol、あたし皆を、凍らせたわ</p><p>服を脱がされながらも心ここにあらずと言った様子で、ザナはぽつりとそういった。</p><p>ザナを囲んでいたあの氷像。それがヒムロの国民であることは、Olも予想していた。太陽神によって操られ、ザナを襲い、そして返り討ちにあったのだろう。</p><p>あたしは襲ってきた彼らが、皆だってわかってたわかっていながら、あたしは、彼らを凍らせたのよ！</p><p>Olはザナを操作して腕を上げさせ、袖をするりと抜いて濡れた服を革袋に押し込む。</p><p>何の躊躇いもなかった。あたしは彼らさえも、見捨てたの</p><p>Olの相槌が耳に入っているのかいないのか、ザナは両手で顔を覆う。</p><p>手をどけろ、邪魔だ</p><p>その手をぐいと押し下げると、Olは下着をザナから剥ぎ取った。</p><p>この下着、いくら何でもパッドが分厚すぎないか？</p><p>しかし無遠慮に投げかけられたその言葉に、氷の女王の我慢は限界を突破した。</p><p>あんたさっきから何なの！？人が悲しんでるんだからちょっとは慰めるとかしなさいよ！何勝手にブラ取ってんのよ！</p><p>お前がそんなタマか。悲劇のヒロインぶるのはやめろ。襲われたら反撃するに決まっておるだろうが</p><p>Olの指摘に、ザナはぐっと口を引き結ぶ。</p><p>むしろ、操られ主君を襲うあやつらの方が悪い。そう考える奴だ、お前は</p><p>そうよ。そう思うわよ。あたしは結局、何一つ大事に出来ない。何一つ愛せない。だって</p><p>ザナは痛みを堪えるような表情で、言った。</p><p>結局あたしの事を本当に愛している人なんて、誰もいないんだもの</p><p>民はお前を王と慕っていたのではないのか？</p><p>Olは問う。先だって、そう納得した筈だ。</p><p>国民にとって、あたしは結局死んだ母様の代わりに過ぎない。マリナ様にとってだって別に、あたしじゃなきゃいけなかったわけじゃない。ただ同情して、力をお貸ししてくれただけ。本当に彼女に必要だったのは、あんたみたいな奴だった</p><p>訥々と、ザナは語る。</p><p>あんただってあたしはもう必要ないんでしょ？あんた自身にマリナ様の加護が手に入ったんだもの。氷術だって、使った方が効率的だから使ってるけど必須のものじゃない。この一行にはあたしは、必要ない</p><p>なるほど、とOlは頷いて、答えた。</p><p>確かにその通りだな</p><p>否定しなさいよ！</p><p>途端に、ザナはOlの顔を見上げ肩を掴んで叫んだ。</p><p>面倒くさい女だなお前は</p><p>否定して欲しいならばわざわざそんな事を口にしなければいいだろうに、と思いつつも、Olは生真面目に答える。</p><p>だがお前の自己分析は正しい。正しいものを否定するわけにはいかん</p><p>ああ、そう</p><p>すっとザナの目が据わる。</p><p>だったらさっさと見捨てればいいじゃないの</p><p>それは断る</p><p>吐き捨てるような彼女の言葉に、Olはきっぱりと答えた。</p><p>なんでよ</p><p>お前のような佳い女を手放したくないからだ</p><p>Olが言うと、ザナはピクリと身体を震わせる。そして顔を背けると、憎々しげに言った。</p><p>今更そんなお世辞！</p><p>口元が緩んでいるぞ、とは指摘しないでおく。</p><p>世辞なものか。度胸も行動力もあり、有能で、頭もいい</p><p>ちょっとばかり情緒不安定なところは玉に瑕だが。</p><p>面倒だが佳い女だ、お前は。だから手元に置いておきたい</p><p>それはOlの偽らざる本音であった。</p><p>それはあたしのこと、好きって事なの</p><p>ああ。好きだ。知らなかったのか？</p><p>別段隠していたつもりもなかったのだが、とOlは答える。</p><p>どうしよう</p><p>困り果てた表情で、ザナはいった。</p><p>あたしもあんたのこと、好きかも</p><p>知らなかったのか？</p><p>Olは意地悪く言い返す。</p><p>妹に嫉妬して不機嫌になっていたくせに</p><p>あれは！そう、かも</p><p>思い返せば、ただそれだけのことだった。</p><p>お前は、お前自身が思っておるよりずっと強い人間だ。今更誰かに必要にされるだのされないだの、そんな下らぬことで悩んだりするものか</p><p>彼女が語ったことは、ある側面では真実なのであろう。けれどザナはそれを深刻に気に病むほど繊細な女ではない。</p><p>なぜなら、ザナははなからそんなものを期待してないからだ。彼女は己以外の何も信じてはいない。信じる必要性がない。彼女が他人を信じるのではなく、他人に己を信じさせる、生まれついての王者だからだ。</p><p>ある意味ではOlに似通い、ある意味では真逆。それがザナという女だと、Olは分析していた。</p><p>お前はただ単に、甘えるのが絶望的に下手なだけだ</p><p>あまりにも直截に言われ、ザナの顔が音を立てそうなほどの勢いで首元から赤く染まっていく。</p><p>じゃあ</p><p>とん、とザナはOlの胸板に額を預け。</p><p>甘え、させてよ</p><p>小さく、そう呟いた。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-5</p><p>そう言えば、この白い布って何？やけに温かいけど</p><p>日差しの中でまどろむ猫のようなしぐさでOlの胸に身体を預けながら、ふとザナは二人を包んだ外套をつまみ上げる。それに身を包んでいると外の寒さはまるで気にならず、互いの体温で温めあうとかえって暑いくらいであった。</p><p>マリナに献上した火蜥蜴がいただろう</p><p>他の女の名前出すの禁止</p><p>ザナは言って、Olの局部をきゅっと握りしめる。</p><p>お前な俺相手に無茶を言うな。だいたいお前の奉ずる神であろうが</p><p>別にハーレムやめろなんて言わないわよ。でも他の子と一緒にセックスしてるときならともかく、あたしと二人っきりの時はあたしだけ見てくれなきゃヤ</p><p>やわやわと精の詰まった袋を指先で弄びながら、ザナはOlの胸元に口づけた。</p><p>ともかく。あの火蜥蜴の脱皮した抜け殻をなめして布にしたものだ</p><p>ふうん。火蜥蜴の皮衣ってわけ</p><p>さして興味もなさそうに相槌を打ちながらザナは肉茎をついと撫で、その上に腰を下ろそうとする。</p><p>おい、ザナ</p><p>なあに？まだ出来るわよね？んっ</p><p>すっかり硬度を取り戻したそれを膣内に咥え込み、気持ちよさそうに声を漏らしたところで。</p><p>それは構わんが、迎えが来ているぞ</p><p>バキリと音を立てて、彼らを囲んだ氷の壁が割れる。</p><p>お楽しみのところ悪いんですけど、さっさと服着て出てきてもらえます？</p><p>なんとか助けに来てみれば悠長に睦み合う二人に、流石のマリーもちょっぴり怒っていた。</p><p>もー、結構大変だったんですよー。二人の代わりをわたしがするの</p><p>吹雪の中、マリーはラーメスの霊力を変換して氷の壁を張り、紋様を彫ってイェルダーヴに維持を任せる。Olとザナ、二人分の仕事を一人でこなし、なんとか進んできたのだという。</p><p>進む速度は比較にもならないとは言え、それをこなせるということにザナは驚愕した。</p><p>なんで出来るの？</p><p>え、だってOlさまがやってるところずっと見てたもん</p><p>当たり前のようにマリーは答えるが、見ていたからと言って真似できるような術でもない。そもそもマリーは自身の仕事を含めて三人分の作業を同時にこなさなければならないのだ。それは三本の腕で全く別々の作業を行うようなもので、つまり人間に出来ることとは思えなかった。</p><p>そういった小器用さだけは図抜けておるのだ、こいつは</p><p>えへへー。でも本職には全然かなわないんで、ザナさん、どうぞ</p><p>Olにぐりぐりと頭を撫でられれば即座に機嫌を直し、マリーはザナを促す。</p><p>じゃあ、マスター。いくわよ</p><p>ザナが腕を振るうと吹き荒れていた雪の一粒一粒がピタリと空中に制止し、かと思えば道を作るようにぶわりと端に退き、そのまま氷の壁の一部となった。</p><p>すっごーい！</p><p>ザナの速射性とOlの操作精度。それが合わさって初めてなしうる芸当に、マリーは素直に歓声を上げた。</p><p>さあ、遅れた分、どんどん取り戻していくわよ！</p><p>ザナはそう宣言し、宣言通りに凄まじい勢いで歩を進め始めた。といっても、不機嫌だったときの強引なものとはまるで違う。Olの操作を受け入れ、かといって全て任せるわけではなく呼吸を合わせて自身の意志で氷術を振るう。</p><p>それはただOlの負担を軽減するだけではなく、彼女の術の行使速度自体を倍加した。矢継ぎ早に繰り出される氷の術はもはやどこに術と術の切れ目があるのかわからぬほどに間断なく、吹雪を、敵を、罠を、立ちふさがるありとあらゆるものを凍りつかせ無効化していく。</p><p>まるで無人の野を行くが如き歩みであった。</p><p>ねえ、さっきから襲ってきてるのって国の人だよね？凍らせちゃっていいの？</p><p>いいのいいの。神の力の宿った霊氷よ。別に死ぬわけじゃないし、後で溶かせばいいでしょ。だいたい、全知全能の神ごときに操られて、自分の仕える女王に刃を向ける方が悪いのよ</p><p>なんかラーちゃんみたいなこと言い出したな、と思いつつ、マリーは賢明にも口を噤む。そしてそのラーメスは、と見れば、彼女は軽口を叩くでもなく黙々と歩いていた。</p><p>何だ、マリーちゃん。余の美しさに見惚れでもしたか</p><p>視線に気づき、ラーメス。</p><p>げんきー？</p><p>何なのだ、その質問はこの完璧なる余に不調な時など存在せぬ</p><p>そんな返答は、いつも通りという程付き合いが長いわけでもないが、実に彼女らしいものなのだが。マリーにはラーメスが何かを思い悩んでいるように思えた。</p><p>やはり、か</p><p>その原因の一端を知ることになったのは、翌日の夕方。</p><p>氷のダンジョンを抜けて、次に現れた石造りの迷宮を目にしたときであった。</p><p>あたしの城を抜けたと思ったら、今度はこいつの墓とはね。節操のないこと</p><p>巨大な石を積んで作られた迷宮をみやり、ザナはつまらなさそうに吐き捨てる。</p><p>墓？</p><p>どこか不穏な単語を、マリーは聞き咎めた。</p><p>そうよ。これは城でも住居でもない。サハラの王族が死後</p><p>ザナ</p><p>ザナの言葉を遮り、ラーメスは彼女を睨みつける。</p><p>何よ。この大陸に住んでる人間なら誰でも知ってることでしょ</p><p>言い返して、ザナは鼻を鳴らす。</p><p>いくぞ。ホスセリ、ザナ、イェルダーヴ、俺、ラーメス、マリーの順だ</p><p>睨み合う二人を引き剥がすように割って入り、Olはそう命じた。</p><p>石で出来たピラミッドの通路は狭く、横に並んで進むことは出来ない。Olたちは一列に並んで石の迷宮へと侵入した。</p><p>基本的な構造は変わっていないな。ここは地下の回廊の入口か。となれば、目指すべきは王の間だろうな</p><p>壁を成す白い石に触れながら、ラーメスは呟く。</p><p>王の間って？</p><p>マリーちゃんが余の手を逃れる時に、天井をぶち抜いていった部屋のことだ</p><p>ああ、あそこか、とマリーは得心する。といっても無我夢中で逃げ回っていた末に辿り着いただけなので、道案内できるわけではない。</p><p>良い。余が案内する。指示通りに進め。まずは三つ目の十字路を右だ</p><p>居城という関係上、比較的素直な構造をしていたザナの城とは違い、ラーメスのピラミッドは複雑な迷宮だ。いくつもの階段を挟んで立体的に入り組んだそれは、複雑さだけで言えばOlのダンジョンにすら勝るものだった。</p><p>その先、屍兵が出るぞ</p><p>壁が突然開き、包帯でぐるぐる巻にされた屍がくぐもったうめき声を上げつつ襲いかかってくる。ザナは咄嗟に氷術でそれを迎え撃つが、乾ききったピラミッドの中では彼女の術はほとんど効果を発揮しない。</p><p>ホスセリの放った手裏剣を喉元に受けつつも屍兵は奇妙に湾曲した刀を振りかぶると、ホスセリに向かって思い切り叩きつけた。</p><p>いくら身軽さを信条とする忍びの者と言えど、この狭い通路の中で接近されてかわすことは出来ない。仕方無しに刀で受けるが、人とは思えぬ凄まじい膂力で押し込まれ、がくりと膝をつく。</p><p>雑兵と言えど油断するな。屍兵は一体で十の兵士に匹敵する</p><p>冷静に指摘しつつも、ラーメスはくるりと後ろを振り返った。</p><p>そら、そちらからも来るぞ</p><p>えっ、ちょっ、わわっ</p><p>突然背後から壁を割って現れた屍兵の一撃を、マリーは二刀を引き抜いて防ぐ。</p><p>えっ、あれ？抜けないっ</p><p>しかし残る二刀を魔術で抜こうとして、ぴくりともしない剣に彼女は慌てた。</p><p>この中では余以外は術を使えぬ。太陽神が支配しているからではなく、そのように出来ている</p><p>ドンと音が鳴ったかと思えば、マリーに次撃を繰り出さんとする屍兵の胸にポッカリと巨大な穴が空いた。ラーメスの炎が、燃え盛る間すら与えずに吹き飛ばしたのだ。</p><p>そういう事は先にいいなさいよっ！</p><p>ザナが力を振り絞ってホスセリを援護しながら叫ぶ。実際には使えないと言うよりは大幅に出力を減じられるといったところのようだが、屍兵を止められない事には変わりなかった。</p><p>ならば術を使わぬものを呼び出すのみだ</p><p>言ってOlが担いだ革袋から、片刃の剣が突き出す。それはイェルダーヴの頭上を通り、ザナの耳の横を穿ち、ホスセリの腕の隙間を貫いて、屍兵の首を叩き落とした。</p><p>絶句する三人をよそに、何事もなかったかのように剣はするりと革袋の中へと戻る。</p><p>兄さん、相変わらず変態的な剣の冴え</p><p>動かなくなった屍兵を蹴り倒しながら、ホスセリは褒めているのか貶しているのかわからない評価を下した。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-6</p><p>しかし、こうして見るとなかなかに厄介なダンジョンだな</p><p>なんでちょっと楽しそうなのよ</p><p>笑みさえ浮かべながら言うOlに、ザナは呆れて突っ込む。</p><p>魔術の類がほとんど使えなくなってしまう上に、通路が狭いために一度に一人しか戦うことが出来ない。その上死を恐れず突っ込んでくる屍兵たちは、首を落とすか心臓を破壊するかしなければ動きを止めない。</p><p>急所を突いて最低限の労力で生き物を殺す術を得意とするホスセリとは、非常に相性が悪かった。魔術と法術に剣術を組み合わせて戦うマリーも同様だ。</p><p>四性剣の能力自体はそこに内包されているためか使うことが出来るが、肝心の四刀流を扱えないとなると彼女の戦闘力は半減以下であった。</p><p>魔術師であるOlとイェルダーヴに至ってはほとんど何も出来ることがない。ザナもほんの僅かに敵の動きを鈍らせるのが精一杯で、あとはOlのダンジョンの維持に注力していた。</p><p>頼みの綱はラーメスの炎術と、Olの呼び出すホデリの剣だ。いっそのこと本人をまるごと呼んだ方がいいのではないかとも思うが、彼の長い刀は狭いピラミッドの中で振るうには不向きで、剣撃だけを呼び出す方が効率がいいのだという。</p><p>だからといって毎回毎回頭の上とか横とかを、古びて硬化した包帯でぐるぐる巻きになった人の首を一発で刎ねるような刃が通っていくのは勘弁して欲しい、とザナは思う。</p><p>だが通路の支配権を確保する関係上、ホスセリ、ザナ、イェルダーヴ、Olというこの隊列は崩せないのだという。確かにほとんど効果を表さない氷術で氷の壁を張るのには、前から二番目というのはギリギリの距離ではあるのだが。</p><p>大丈夫。兄さんが間違って斬るのは、御館様が誰も抱かない日を過ごすよりありえないこと</p><p>ホスセリが言った直後、ひやりとした刃の温度を感じられるほどの距離、首の真横を刃が通り過ぎていく。もしかしてOlと二人でしっぽり過ごしたことを根に持ってるんじゃないでしょうね、とザナは思った。</p><p>髪の隙間を貫いておきながらどういう原理か毛の一本すら切断せずに刃が通っていくのだから、言っている事に嘘はないのだろうが、怖いものは怖い。</p><p>この先は、二手に分かれる必要がある</p><p>何時間、ピラミッドの中を歩いただろうか。巨大な門が中央を塞ぐ十字路でそう告げるラーメスに、Olは愉快そうに声を上げた。</p><p>どういう仕組みだ？</p><p>この門は、左右の通路の奥にある仕掛けを同時に動かさねばならん</p><p>あれ？わたしが逃げた時に、そんな仕掛けあったっけ</p><p>この通路自体には見覚えはあるものの、流石に何ヶ月も前の記憶だ。マリーは首を傾げて問う。</p><p>そもそも王たる余を阻むわけがなかろう。あの時は既に開いておった。お前が逃げ出したのはこの更に奥でのことだ。しかし今は侵入者として、仕掛けを起動せねばならんだろうな</p><p>なるほどでは</p><p>Olは一同をぐるりと見回して、人選を行う。</p><p>ザナ、イェルダーヴ、ホスセリ。お前達は左の道を行け。こっちの三人で右の仕掛けを動かす。タイミングは呪印を通じて指示する。新たに術を使うことは出来んが、既に仕掛けた術自体は効果を失わぬようだからな</p><p>わ、わかりました</p><p>素直に頷いたのはイェルダーヴだけであった。ザナとホスセリは口にこそしないが不満そうにOlに視線を向ける。</p><p>氷を操りダンジョンを形作れるのはザナ、お前とマリーだけだ。それを維持できるのは俺とイェルダーヴのみ。戦闘になった時前衛を担えるのはホスセリとマリーだけのみ。俺は道を知るラーメスと共にいなければならない。この条件で他の分け方はあるか？</p><p>はいはい、ないわよ、わかってる。いくわよ</p><p>ザナは嘆息しつつもそう言って、ホスセリの腕をとって左の通路へと足を踏み入れる。</p><p>御館様。──お気をつけて</p><p>ホスセリが振り返りOlにそう告げて、彼女達は通路の奥へと姿を消した。</p><p>さて、我らも行くか。といってもこの先には屍兵の配置はない。安心せよ</p><p>ラーメスはそう言うと、すたすたと右の通路を進んでいく。Olとマリーは一瞬視線を交わした後、その後を追った。</p><p>兵の配置がないというのならば、この仕掛けの意味は何だ？</p><p>道すがら、Olはそんな事をラーメスに問うた。</p><p>意味だと？</p><p>そうだ。侵入者の戦力を分断し、叩くというのならばわかる。実に効果的な罠だ。だが兵の配置がないならば意味があるまい</p><p>ラーメスは少し考え、答える。</p><p>そも侵入者はそのような仕組みのことを知らぬ。純粋に、侵入を許さぬための仕掛けであろう</p><p>正確な所を知らんのか</p><p>Olの問いに、ラーメスはああと頷いた。</p><p>ピラミッドを作ったのは余ではない。太古の祖先より受け継いだものだ。構造、仕掛けは全て知っているが、その意図までは関知するところではない</p><p>そうだとしても推測はできるだろう</p><p>推測だと？</p><p>ラーメスはOlを振りかえって、不愉快そうに顔を歪めた。</p><p>そうだ。あらゆるダンジョンにはそれを設計したものの意志が込められている。敵を害する悪意にせよ、味方を守る善意にせよな</p><p>フン。尊き祖先の考えを推し量るなど、不遜の極み。下賤な魔王が考えそうなことよ</p><p>それはダンジョンを作るにせよ進むにせよ重要なことだ、とOlは思う。しかしラーメスはその考えを吐き捨てた。</p><p>ラーちゃん的には、ご先祖様の方が偉い感じなんだ</p><p>余は万物の王。地上の支配者と言ったであろう</p><p>マリーの素朴な問いに、ラーメスは答える。</p><p>この世の果ては治めてはおらぬ</p><p>意外と謙虚なんだなあ、とマリーは思う。Olはこの世の果ても普通に手にしたいと思ってそうだ。いや、実際しようとしているのかも知れない。なにせ天の神を相手に戦っているのだから。</p><p>──そこに家族を害するものがあるなら、Olは容赦しない。</p><p>そら、ついたぞ。あの壁だ</p><p>しばらく進んだ後に、ラーメスは行き止まりの壁画を指差す。</p><p>四つのボタンがあるだろう。そのうち、太陽の紋章を押せ</p><p>彼女の言う通り、壁画の意匠に隠れて押し込めるボタンが四つ並んでいた。瞳、太陽、甲虫、そして月を図案化したものらしい。</p><p>ザナ達の方も太陽でいいのか？</p><p>うむ。同時に押すのだぞ</p><p>Olは呪印を通しザナを操って彼女の口でそれを伝え、太陽のボタンを押す。</p><p>──途端、背後の壁がせり出して、反射的にOlはマリーを突き飛ばした。</p><p>Olさま！</p><p>おっと。動くでないぞ、マリーちゃん。消し炭になりたくなければな</p><p>閉じ込められたOlを救わんと剣を引き抜くマリーに、ラーメスは炎の塊を浮かべて警告する。</p><p>ラーちゃんどうして？</p><p>どうして？どうしてだと？本気で言っておるのか？ここまで虚仮にされて、余が黙って従っているとでも思っていたのか！？</p><p>ラーメスは怒鳴り、獰猛な猛獣が牙を見せつけるときのように顔を歪めた。</p><p>さあ、魔王よ。助けて欲しくば誓え。余に全てを譲り渡し、服従するとな！</p><p>出来ぬ、と言ったらどうする</p><p>壁の向こうから、Olは答える。</p><p>知れたこと。この場で焼き尽くしてくれる</p><p>ラーメスは炎を掲げ、憎々しげに言った。</p><p>さてマリーちゃんよ。余にかけたような呪いをOlにかけろ。全てを譲るというその誓いを強制する呪いだ</p><p>え、でもここ魔術使えないし</p><p>しらばっくれるな。呪いとは術ではない。もっと根源的なものであろう。誓いさえあれば十分なはずだ</p><p>変なところで鋭いなあ、とマリーは内心舌打ちする。</p><p>わかった。俺が手にしたもの全て、お前に譲り渡すと誓う</p><p>神器もだ。よいな？</p><p>あの革袋から境界の神の加護を消されてはたまらないと、ラーメスは念を入れる。Olを支配し、あの空間を隔てて好きなものを取り出せる革袋さえあれば、ラーメスは文字通り万物の支配者になれる。そう思った。</p><p>うむ。ついでに、余のことはいと気高きラーメス様、とでも呼んでもらおうか</p><p>わかりました。いと気高きラーメス様</p><p>ついに頭を垂れるOlに、ラーメスは哄笑する。</p><p>呪いはしかとかけたか</p><p>かけたよ</p><p>ふてくされたような表情で、マリー。</p><p>良かろう。ただし余を謀れば即座に燃やしてやるからな</p><p>手の上の炎をちらつかせながら、ラーメスは壁を覆う氷を一部分だけ溶かすと、そこに隠されたスイッチを押した。轟音を立て、Olを閉じ込めていた壁が開いていく。</p><p>望みの神器だ。受け取れ、いと気高きラーメス様</p><p>壁が開いた途端にそう言って、Olは手の中のものを放り投げた。</p><p>な、何だ！？</p><p>反射的にそれを両手で受け取めるラーメス。投げ放たれたのは、小さな白い碗であった。</p><p>なんだ、これはっ！？</p><p>その背中をマリーが蹴りつけ、ほぼ同時にOlが壁のボタンを再度押して素早く離れる。</p><p>何をする、貴様ら！？</p><p>望みの通りにしてやったではないか、愚かでいと気高きラーメス様</p><p>閉まった壁の向こう通路から、Olは皮肉っぽい口調で言った。</p><p>神の子が食事に使っていた器。略して神器だ。俺の手にしていた全てをお前に譲り渡したぞ</p><p>革袋は足元に落としていた。誓った時、手に持っていたのはメリザンドの使い古した茶碗だけだ。</p><p>余に服従すると誓ったであろうが！</p><p>その部分は誓ってなどいないな</p><p>しゃあしゃあと答えてのけるOlに、ラーメスは愕然とした。</p><p>Olさまと素人が契約で争うのは無謀だよ、ラーちゃん</p><p>そんな彼女に、呆れ半分、同情半分でマリーは声をかけた。</p><p>悪魔は常に契約の穴を探し、隙を突き、曲解して人間を陥れる。</p><p>そして、そんな悪魔たちをも陥れるのが、魔王Olなのだ。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-7</p><p>さて。では行くか</p><p>な！？待て！</p><p>それ以上声をかける様子もなく立ち去ろうとするOlを、ラーメスは慌てて呼び止めた。</p><p>余をどうする気だ！</p><p>別に</p><p>Olはこともなげに答える。</p><p>どうするつもりもない</p><p>そこには悪意も皮肉っぽい響きも、何も込められていなかった。文字通り、Olはラーメスに何の興味も抱いていない事がありありと伝わってくる声色。</p><p>そのままであれば、ラーメスは閉じ込められたまま乾き死ぬ運命だと言うのにだ。</p><p>余がいなければこの一行は成り立たぬのではなかったのか！</p><p>そうだな。ここまでの協力、礼を言おう</p><p>見えぬと知りながらOlは頭を下げ、衣擦れの音でラーメスはそれを察する。しかしその音は彼女をさらなる絶望に落とす以外の役割を果たさなかった。</p><p>いと気高きラーメス様の膨大な霊力のおかげで、ここまで随分消耗を抑えられた。おかげで万全の状態で太陽神に挑むことが出来る</p><p>彼は本気でラーメスに感謝しているとわかったからだ。その上で、ラーメスを助けようという選択肢を微塵も考えていない。</p><p>待て！余が余が正しいボタンを押さねば、先へと進む扉は開かぬぞ！</p><p>そんな馬鹿げた機構があるものか。それは侵入者を閉じ込めるための罠であろうが。侵入者に頼らねば自室にも戻れぬ王がいるか</p><p>苦し紛れの嘘も、Olはあっさりと見抜く。</p><p>だ、だがどの道先へと進む仕掛けは</p><p>マリー、壁を開けたスイッチはどの辺りだ？ああ。ここか、ならばこちらが扉を開けるボタンだな</p><p>最後の頼みの綱である情報も簡単に見つけられ、Olたちの足音は遠ざかっていく。</p><p>待て待ってくれ！</p><p>ラーメスは声を張り上げながら、必死に考える。何か交渉できる材料を。</p><p>能力は不要と言われた。知識も、Olたちに役に立てるものはない。国も地位も富も、もはや彼女の手の中にはない。</p><p>砂の王としてではなく。万物の支配者としてではなく。</p><p>ただのラーメスとして、差し出せるものがあるか。</p><p>そう考えた時。彼女には、何もなかった。神の加護をも失った今、ピラミッドの堅牢な石さえ消し飛ばせる核熱の炎も出すことは出来ない。本当に、ここで乾いて死んでいくしかないのだ。</p><p>闇の中、彼女はがくりと膝をつく。そしてふと、手にしていた碗が目に映った。ほのかな光を放つそれが、暗闇の中で見える唯一のもの。そして同時に、今のラーメスに残された唯一のものでもあった。</p><p>縋るように、ラーメスはそれを見つめる。簡素な碗は状況を打破するのに何の役にも立ってくれなかったが、しかし闇に抗するように光り続ける。それは少なくとも、ラーメスを無明の闇から救ってはくれた。</p><p>もしこれが完全なる暗闇に閉じ込められていたら、ラーメスは正気ではいられなかっただろう。</p><p>助けて</p><p>その暖かな光に導かれるようにして、ラーメスの口から言葉が漏れる。</p><p>助けてくれ頼む余が、悪かったお願いだ</p><p>もはや壁の向こうにOlはいないだろう。そう知っていてなお、祈るように、ラーメスは助けを乞う。</p><p>助けてくれ何でもするから</p><p>その言葉に偽りはないか？</p><p>ぬわぁっ！？</p><p>呟きにすぐそばから答えが返ってきて、ラーメスは悲鳴を上げながら飛び上がった。</p><p>Olの声は壁の向こうどころか、真横から聞こえたのだ。</p><p>オ、Ol！？何故ここにいる！？</p><p>壁は一瞬たりとて開いていない。入ってきたならすぐに分かるはずだった。</p><p>本当にお前は愚かなやつだな</p><p>いっそのこと優しげな声で、Olは言った。</p><p>俺は境界の神の加護を得ているのだぞ。扉にせよ壁にせよ、遮るものが役に立つわけなかろうが</p><p>ラーメスは絶句する。では、最初の最初から、ラーメスはOlの手のひらの上だったのだ。</p><p>だ、だが何故だ？何故わざわざ戻ってきた？</p><p>だとするのなら、これはラーメスを葬るための策だったのだろう。Olにとってもはやラーメスに利用価値はなく、排除する絶好の機会だったはずだ。</p><p>俺には確かに戻る理由などない。だが、こいつがな</p><p>やっほー、ラーちゃん</p><p>Olの後ろから聞こえてきたのは、マリーの声だった。</p><p>マリーちゃん？何故</p><p>だがマリーにとっても理由などないのは同じはず。</p><p>だって、友達でしょ？</p><p>そんなラーメスの思考を、マリーはあっさりと打ち砕いた。</p><p>友達？</p><p>言葉の意味はわかる。しかし彼女が何を言っているのかはわからなかった。</p><p>わからぬ。余を助けて何の利がある？</p><p>今までのラーメスであれば、それを当然と受け取ったかも知れない。万物の支配者たる自分に民草が尽くすのは当然であると。しかし今はもう、気づいてしまった。ラーメスには何も残されていないのだ。</p><p>ないよ、そんなの</p><p>な！何かはあるのであろう！？</p><p>自身が同じことを考えていたというのに、あっさり答えるマリーに、ラーメスは慌てた。</p><p>ないよ。だって戦力としてはOlさまの言う通り必要ないし、美人だけど女のわたしにとってはどうでもいいし、性格は悪いし、ザナさんと険悪だし</p><p>いっそ殺せ！</p><p>マリーは指を折りながら並べ立て、ラーメスは思わず叫ぶ。</p><p>だけど、友達になったげるって言ったでしょ？</p><p>そんな彼女に笑いかけ、マリーは言った。</p><p>魔術師は約束を破らないんだよ</p><p>マリー、ちゃん</p><p>ほとんど何も見えない闇の中だが、その朗らかな笑みは、ラーメスにも伝わった。</p><p>で</p><p>そんなところに割って入る、意地の悪い声が一つ。</p><p>何でもする、というのは本当か？</p><p>Olさま～</p><p>せっかくわたし良い事言ったところなのに、とマリーはぼやく。</p><p>それはお前の事情だろう。俺がこいつを助けてやる理由も、お前の求めを聞いてやる理由もない</p><p>うう、それはそうなんですけど～</p><p>Olはなんだかんだマリーに甘いから、割と聞いてくれると思っていた。とは流石に思っても口には出せないマリーである。</p><p>で、どうなんだ？</p><p>だ、だが流石に、何でもというのはだな</p><p>先程そう呟いたときには、心からの本音であった。だがこうして改めて問われてしまうと、迷いが生まれる。</p><p>そうか、では達者でな、いと気高きラーメス様</p><p>待て待て待て！こんな場所で達者も糞もあるか！</p><p>あっさりと壁をすり抜け出ていこうとするOlを、ラーメスは必死に止めた。</p><p>だ、だが余は万物の支配者、王の中の王！おいそれとそのような条件を飲むわけには</p><p>それなんだがな</p><p>Olは真面目な声色で、言った。</p><p>お前には向いていない。やめた方が良いぞ</p><p>何だと！？</p><p>瞬間。立場も状況も忘れて、ラーメスは激高した。</p><p>この余が！王に向いていないと、そう申すのか！？</p><p>炎が立ち上り、Olを燃やさんとしてそして、瞬く間に立ち消える。</p><p>忘れたのか？お前には俺たちを攻撃できない呪いが練り込んである。本気で攻撃するつもりなら、すぐに消えてしまう呪いがな</p><p>つまり、さっきのが全然本気じゃなかったのは、わたしもわかってたんだよ</p><p>マリーを燃やすことなど、ラーメスには出来なかったのだ。物理的にも心情的にも。</p><p>余は余は</p><p>炎の消えた己の手のひらを見つめ、ラーメスは呆然として呟いた。</p><p>余を友などと呼んだ人間は初めてだったのだ</p><p>お前は生まれながらにして王。万物の支配者だと、そういったな</p><p>ラーメスは力なく頷く。</p><p>だが、サハラは広大とて全てを支配していたわけではない。何故お前はそれを自称していた？</p><p>それはそれ、は</p><p>紛れもなく真実であるからだ。そう答えようとして、ラーメスは言葉を詰まらせる。</p><p>それが真実であるという根拠は何だ？</p><p>ラーメスが言えなかったことを言い当てて、Olは問うた。</p><p>お前は誰に、それを吹き込まれた？</p><p>この世で最も高貴なるもの。</p><p>万物の支配者。</p><p>王の中の王。</p><p>そうあれ、と、育てられた。</p><p>父上と母上に</p><p>自分がそうでない可能性など、露ほども思いつかなかった。</p><p>王たるものが、己の意志以外で王であらんとして、なんとする！</p><p>Olの叱責に、ラーメスはびくりと身体を震わせる。</p><p>ああ、ああああああああああ</p><p>その脳裏に去来するのは、光一つ差さぬ闇。小さな子供ですら屈まねば入れぬような、狭く暗い石櫃の中。</p><p>お許しをお許しください父上</p><p>彼女はOlに縋り付いて、そう懇願した。</p><p>俺はお前の父ではない</p><p>ぽんとラーメスの頭を撫でて、Olは優しい声で囁く。</p><p>なあラーメス。お前はもう、王であろうとしなくて良いのだ。ありのままの、ただのラーメスで良い</p><p>だが王でない余にはなにもない。何者でもないということには、耐えられぬ</p><p>己の身体を掻き抱くラーメスの肩に、Olはそっと腕を回した。</p><p>ならば、俺のものになれば良い。マリーと同じ、この魔王の物に</p><p>マリーと同じ</p><p>ぽつりと呟くその呼び名。呪いに強制された敬称が抜けたのは、呪いの解除条件を満たしたから。彼女が心から、マリーのことを友達であると認めたからだ。</p><p>どうやったら、Olの物になれる？</p><p>簡単なことだ</p><p>迷子になった子供のように己を見上げるラーメスに、Olは答えてやる。</p><p>愛してやる。お前はただ、それを受け入れるだけでいい</p><p>それは。</p><p>心の奥底でずっとラーメスが願い続け、しかしどれほどの力を手にしても、けして手に入らなかったものだった。</p><p>歓喜の声をあげるラーメスの姿に。</p><p>女の子を落とす時のOlさまって相変わらずエゲつないなあ、とマリーは思った。</p><p>第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-8</p><p>んむ、ふんっあっ</p><p>ちゅぷり、と濡れた音を立てて、ラーメスの唇からOlの舌が離れる。</p><p>男と口づける事に対する不快感や抵抗感は、自分でも驚くほどにまったくなかった。それどころか胸はドキドキと高鳴り、顔が熱く火照って、酩酊にも似た高揚感がある。</p><p>あっんっ</p><p>Olの手がするりとラーメスの服の中に滑り込み、その豊かな乳房に触れる。</p><p>へ、変ではないか？</p><p>露出した双丘に、不安そうにラーメスは問うた。</p><p>変であろうはずがあるか。俺が作った美だぞ</p><p>ん、うそ、それも、そうか</p><p>あれほど好んでいた豊かな乳房が己につき、Olの手のひらに弄ばれるその感覚に、ラーメスは奇妙な快感を抱いた。いや、あるいは</p><p>もっ、と</p><p>あるいは自分は、女達の胸を蹂躙しながらも、揉まれる乳房の方にこそ感情移入していたのかも知れない。</p><p>もっと乱暴にして、欲しい</p><p>ラーメスはそんな事を思った。</p><p>あっ、あぁっ！</p><p>ぎゅっと潰れるほどの力で鷲掴みにされて、ラーメスは思わず高く声を上げる。しかしそれは、苦痛ではなく快楽の声だった。</p><p>すっかり女の子になっちゃったね、ラーちゃん</p><p>マリーが呆れ半分の声で言って、ラーメスの横に並ぶ。</p><p>一緒に可愛がってもらお？</p><p>別にお前まで抱くとは言っておらんがまあいい</p><p>Olはラーメスの乳房をぐにぐにと揉みしだきながら、もう片方の腕でマリーを抱き寄せると、彼女の唇を強引に奪う。</p><p>オ、Ol余もぉ</p><p>ピチャピチャと音を立てて絡み合う舌と舌に、ラーメスは堪えきれずにそう懇願した。</p><p>じゃあわたしも、どーぞ</p><p>代わりとばかりにマリーが上着をずり下げてぷるんと形の良い胸を露出すると、Olの手を取ってぐいと押し当てる。</p><p>んっんんっは、あぁん</p><p>右手でマリーの、左手でラーメスの柔らかな果実の感触を堪能しつつ、二人の美女の濡れた唇を交互に味わう。</p><p>そうするうちに興奮したのか、マリーの手がOlのいきりたったものをするりと撫でる。</p><p>お前はどうにも、辛抱というものが足らんな</p><p>Olは呆れたように言って立ち上がり服を脱ぎ捨てると、二人の眼前に反り立った肉槍を突き出した。</p><p>まずは奉仕してみろ</p><p>やや不満げに返事をするマリーの横で、ラーメスは目を大きく見開き、Olの剛直を凝視する。</p><p>ここれが、Olの？</p><p>女の性器であれば飽きるほど見てきたラーメスであったが、自分以外の男の性器など見る機会は一度もなかった。しかしそれは明らかに男の頃の己よりも太く長く、同じ性器とは思えぬほどの威容であった。</p><p>じゃあラーちゃん、せっかく立派なもの持ってるんだから、これで挟もっか</p><p>そういって、マリーはラーメスの双丘を両手で持ち上げてみせる。</p><p>む、胸でか！？</p><p>そうそう。ほら、こーやっておっぱいサンドっ</p><p>マリーはラーメスに抱きつくようにして胸を寄せ合い、Olの怒張をぎゅっと四つの乳房で挟み込む。</p><p>で、このはみだした部分を～べろでペロペロしちゃうの</p><p>そして収まりきらなかった亀頭を、舌を伸ばしてぺろりと舐めあげてみせた。</p><p>な、なるほど</p><p>ラーメスはごくりと唾を飲み込んで、恐る恐るそれに倣い、Olのペニスに舌を伸ばす。</p><p>んこう、か？</p><p>そうそう、上手上手</p><p>言いながら、マリーはOlの先端にちゅ、ちゅ、とキスを落とす。すぐさまラーメスはそれを真似て、二人の少女は左右からペニスに口づけた。</p><p>ふむなるほどな</p><p>ぴくんと反応する男根にラーメスは笑みを浮かべると、ぐっと首を伸ばして舌を突き出し、裏筋の辺りをついと舐めあげる。</p><p>ここが良いのであろう？それにこうだ</p><p>元男だけあって、男が気持ちよくなる勘所はよくわかっている。ペニスの弱い部分を舐めしゃぶりながらゆさゆさと両手で胸を揺らし、肉茎を擦り上げるラーメスにOlは思わず呻いた。</p><p>むっ、負けないよ</p><p>マリーも対抗心を燃やし、胸で扱き立てながら肉槍に吸い付く。</p><p>二人分の唾液がOlの肉棒をぬらぬらと伝い、可憐な唇がちゅぶちゅぶと下品な音を立ててグロテスクな器官に懸命に奉仕する。白と黒の柔らかな乳肉は互いに押し合い、一部の隙もなく茎を挟み込んで、そのすべすべした肌で男をこの上なく楽しませた。</p><p>Olは二人の頭を掴むようにしながら、その欲望を吐き出す。乳房の間から間欠泉のように吹き出す白濁の液を、マリーとラーメスは舌を突き出しながら顔で受け止めた。</p><p>お味はどう？</p><p>生臭くて、エグくて、苦くて、喉に絡みつく</p><p>ぺろりと自らの顔についた精液を舐め取りながら尋ねるマリーに、ラーメスは盛大に顔を顰めながらそう答えた。</p><p>だが不思議と、嫌ではない</p><p>だよねっ</p><p>男の精液など嫌悪感しか感じないはずなのに、とラーメスは心中で呟く。己の性が完全に変わってしまった事を、彼女はようやく自覚し始めた。</p><p>けど、これからが本番だよ</p><p>そう言って、マリーはラーメスの身体を後ろから抱きかかえるようにして持ち上げる。</p><p>Olさまにちゃんと、女の子にしてもらお？</p><p>し、しかし</p><p>この期に及んで、ラーメスは怖気づいた。だが逃げようにも身体はしっかりとマリーに押さえられていて、足すら地面につけることができない。</p><p>大丈夫だよ</p><p>彼女の耳元で、マリーは囁くように言った。</p><p>わたしが一緒に、こうしてぎゅってしててあげるから</p><p>ああ。頼む</p><p>その言葉にラーメスは覚悟を決め、Olに顔を向けて、彼を見上げた。</p><p>来て</p><p>まるで抱っこをせがむ赤子のように両腕を伸ばすラーメスに頷き、Olはマリーごと彼女を抱擁する。そして、何も受け入れたことのない無垢の秘裂に、己の先端を押し当てた。</p><p>一言そう告げて、男が、ずぶりとラーメスの膣内に侵入する。</p><p>破瓜の痛みに身を震わせるラーメスを、マリーの腕がぎゅっと強く抱きしめた。</p><p>少しだけ、辛抱しろ</p><p>Olは言って、ゆっくりと腰を奥深くまで埋めていく。</p><p>全部、入ったぞ</p><p>は、あぁはぁはぁ</p><p>まるで永劫にも思える、しかし実際には僅かな時の後、Olがそう言って動きを止めてようやくラーメスは息をついた。呼吸すら出来ぬほどの、恐ろしい苦痛。</p><p>よくやったな</p><p>しかし、Olに労われ頭を撫でられるだけで、そんな苦痛も打ち消されるほどの多幸感がラーメスに押し寄せてきた。</p><p>良かったね、ラーちゃん</p><p>良かった──の、だろうか？本当に？そんな疑問が、頭の片隅をふとよぎる。</p><p>だがそんな微かな疑問は、Olが抽送を始めた途端に弾けて消えた。</p><p>うっあぁぁっ！</p><p>ぐいと、身体の中を蹂躙される感覚。それは紛れもなく、苦痛以外の何者でもなく。</p><p>あぁっ！ひあぁっ！</p><p>なのに。なんで。</p><p>あぁぁぁっ！ひぐっ！あぁぁぁっ！</p><p>己の声は、こんなに甘く蕩けているのか。</p><p>あっ、あっ、あっ、あぁっ！</p><p>ずんと奥を突かれる度に、身体がバラバラになりそうな衝撃が全身を走っていく。マリーに身体を抱えられ、幼児が放尿するときのような格好で男に脚を開かされ、男の欲望のままに支配され蹂躙されて。</p><p>いぃっ！いぃ、よぉっ！</p><p>──ラーメスの身体は、悦んでいた。</p><p>ひぐぅっ！ひ、ぐぅぅっ！</p><p>男であったウセルマートは童貞でこそあったものの、女の味はよく知っていた。その口で、手で、胸で奉仕させたことは数え切れぬほど。</p><p>だが。今感じている快楽は、まったくの別物であった。</p><p>痛いのに、苦しいのに、それそのものが快感なのだ。</p><p>もっともっとぉっ！</p><p>もっと痛めつけて欲しい。もっと刻み込んで欲しい。</p><p>自分の奥を貫く男に自らしがみつき、ラーメスは懇願した。</p><p>そうねだらずともちゃんと、くれてやる！</p><p>Olはラーメスの両胸を鷲掴みにしながら、その唇を自らの口と舌とで塞ぎ、最奥にぐりぐりと突き入れる。</p><p>このまま、一番奥で、びゅびゅ～って射精してもらおうね</p><p>ラーメスを抱えながら、マリーは一切の悪意なく、無邪気にそう囁いた。</p><p>子宮の奥で好きな人の精液を受け止めて、赤ちゃんのお部屋に種付けしてもらって。女の子に生まれてよかったって、一番思う瞬間なんだよ</p><p>ラーメスの頭の中でチカチカと、警告の光が瞬く。それはあるいは、ウセルマートとしての、最後の抵抗だったのかも知れない。</p><p>けれど。</p><p>どくどくと流し込まれる大量の白濁に、それはすぐさま消え去った。</p><p>あぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁ！</p><p>彼女に残されたのは、己の内側が洗い流されていくような激しい快感と──</p><p>射精を終えたばかりの男根が眼前に突き出され、ラーメスはうっとりとしながらそれを舐め清める。</p><p>ちゅう、とその尿道に残った精液を吸い上げながら、彼女は己の股間を弄る。注がれたばかりの精液がくちゅりと音を立てて指先に絡みつき。</p><p>もっと注いで沢山、欲しい</p><p>男の精を受け止める。その為に己は生まれたのだという、確信だけだった。</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-1</p><p>こんな時、どんな顔したらいいのかしらね</p><p>数刻後。門の前で合流したザナは、Olにぴっとりと張り付くようにその腕を抱きしめて歩くラーメスに、全てを察して天を仰いだ。</p><p>こんな時とは？</p><p>自分の妹を攫っていった憎らしくも惹かれていた男が、性転換して今好きな男にべったり張り付いてメス顔晒してる時</p><p>ホスセリの問いに、ザナは虚無を表情に貼り付けて答える。</p><p>笑うしかないんじゃないかな</p><p>あはは、と明るく笑うマリーは、ザナの鋭い目つきに睨まれてOlの背にさっと隠れた。</p><p>余の今までの行為、頭を下げたとて許されることではなかろう。誹りは甘んじて受ける。──すまなかった</p><p>しかし頭を下げるラーメスに、ザナのその目は丸く見開かれた。</p><p>そんな彼女に、イェルダーヴが一歩歩み出る。</p><p>ラーメス、さん</p><p>イェルダーヴいや、イヴか。そなたには特に、申し訳ない事をした</p><p>今までのラーメスは人を、人としてみていなかった。そうしなければ己の価値がないと思っていたのだ。</p><p>今なら、あなたとお友達に、なれる気がします</p><p>かすかに微笑んで、イェルダーヴ。</p><p>それにイェルダーヴというサハラ風の名前は、そんなに、嫌いではありませんから</p><p>本来の名を無視し勝手な名前で呼ぶその行為は、人を支配し所有する為の示威行為だったのかも知れない。</p><p>ま、良かったんじゃないの</p><p>細く長く息を吐き、ザナはぽんとラーメスの頭を叩く。男だった頃は見上げていた彼女の頭は、今は見下ろす位置にあった。</p><p>よくない</p><p>しかし、それに異を唱えるものがいた。ホスセリである。</p><p>そう言えば、因縁を持つのはイェルダーヴとザナだけではない。ホスセリもまた、唆され利用された挙げ句、太陽神に身体を乗っ取られると散々な目にあっていたのだ。</p><p>いかな咎でも受けよう</p><p>神妙な表情で向き合うラーメスの横をすり抜けて、ホスセリはOlにしなだれかかる。</p><p>御館様。私だけまだ抱いて貰ってない。私も抱いて欲しい</p><p>それは構わんが。いいのか、あれは</p><p>固まるラーメスを指して問うOlに、ホスセリは首を傾げる。</p><p>？別に興味ない</p><p>ふふふふふ、ふふふふふふ</p><p>スパリと言い放つホスセリに、ラーメスは不気味な笑みを漏らす。</p><p>貴様ら人が下手に出ていればいい気になりおって！良いか、Olは余の物だ！魔王の正妻、妻の中の妻たるこの余を差し置いて精液を貰えると思うな！</p><p>はあ！？あんたお情けで一回抱いてもらったくらいで何嫁面してんの！？</p><p>ラーメスがOlの右腕を抱きしめれば、対抗するようにザナは左腕を抱きしめて怒鳴り返す。</p><p>ほら人はそう簡単に変わらない</p><p>呟くホスセリはいつも通りの無表情だが、その声色にはどこか呆れが滲んでいた。</p><p>そうでしょうか</p><p>けれどイェルダーヴは楽しそうに笑んで、怒鳴り合う元氷の女王と元砂の王を見やって、言った。</p><p>随分、変わったと思いますよ</p><p>マリーの振るう剣撃が豪快な音を立てて、ピラミッドの天井を吹き飛ばす。</p><p>ううむ余のピラミッドが三度に渡り破壊されるのを見るのは、流石に複雑な気分だな</p><p>いいからさっさと登りなさいよ、後がつかえてんだから！</p><p>ぼやきながらマリーが降ろした縄梯子を登るラーメスのむっちりとした尻を、ザナは平手でぺしぺしと叩いた。</p><p>ピラミッドを抜け出した先、遥か彼方に聳える山に、ホスセリは目を見開いた。</p><p>姫様の山だ！</p><p>見間違えようもない、均整の取れた美しい火山。ヤマト一の名峰と讃えられた不尽の山が、遠くに見えた。</p><p>今度は走り出してくれるなよ</p><p>そう警告しながらも、Olは縄梯子を登って山を見据える。そここそが、目的地。太陽神が待ち受けているであろう、最後のダンジョンだ。</p><p>それは、いいんだけどさ</p><p>ザナはその手前。火山まで続く空中回廊を指差す。</p><p>あそこ、どうやって渡るの？壁ないわよ</p><p>それはフウロの国にあった風のダンジョンだ。谷を吹き抜ける風が壁となり、通路のみが連なる空中の迷宮。</p><p>宙に氷の壁を作れば風で消し飛ばされてしまうだろうし、かといって通路の上に壁を立てるにはあまりに狭すぎる。今までのようにOlの領域を確保しながら進むのは不可能に思えた。</p><p>Olは風のダンジョンに手のひらをかざすと、端的に言った。</p><p>全部氷で埋めれば良い</p><p>いや流石の余も、それは難しいぞ</p><p>なにせ風のダンジョンは縦にも横にも大地の果てまで続いているのだ。いくらラーメスが天稟を持つと言っても、それを埋めるだけの霊力など人にあがなえる量ではない。</p><p>何。人に無理なら、人でないものの力を使えば良いのだ</p><p>言ってOlは、ザラザラとした質感の白い玉を取り出した。</p><p>なんだっけ、それ</p><p>どこか見覚えのあるその玉を、マリーは矯めつ眇めつ眺める。</p><p>それは、マリナ様に贈った！</p><p>そう。龍の首の玉。火竜デフィキトの骨だ</p><p>言った瞬間、Olの手にした白玉から凄まじい量の魔力が溢れ出す。</p><p>竜というのは全身これ魔力の塊だ。肉、骨、腱、鱗に脂、血の一滴までもが、並の魔術師であれば消し飛ぶほどの魔力に満ち満ちておる</p><p>骨の一片でそこまでの力があるのか！？</p><p>瞠目するラーメスに、Olはしかし首を振る。</p><p>流石に一片、この程度の大きさでダンジョンを覆い尽くすほどの魔力はない。だが</p><p>溢れ出す魔力をマリーの剣で霊力に変換し、Olはそれをラーメスに注ぎ込む。そして生み出される巨大な火炎球を、再度変換して氷を形作った。</p><p>塞の神の権能を持って、この骨と残りの死骸との境界を取り払った。神代より生き続ける竜、まるまる一頭分の魔力を全て使えば──！</p><p>それはまるで、最高位の魔術師が使う隕石落下(メテオスウォーム)の魔術のような光景だった。違うのは、呼び出されたのが天上に漂う星ではなく、巨大な雪塊だというところだ。</p><p>一つ一つが小さな家ほどもある雪の塊が、次々とダンジョンに降り注いでは砕け、谷の合間を埋めていく。</p><p>Olの手にした竜骨がその役目を果たし、ぱきりと乾いた音を立てて真っ二つに割れる頃には、彼らの目の前には広大な雪原が広がるばかりであった。</p><p>さて。進むとするか</p><p>呆然とするマリーたちを尻目に、Olは何事もなかったかのようにそういった。</p><p>なんか、可哀想な気がするなぁ</p><p>雪に埋もれた怪物たちをみやり、マリーはぽつりと呟く。風のダンジョンで待ち構えていたのは、羽を持ち空から襲いかかるつもりの魔物ばかりであった。</p><p>そんな連中があの吹き荒れる氷雪の中無事でいられるわけもなく、大半が崖の下に撃ち落とされて、わずかに残った残骸が雪の重みに耐えきれなかった屍を晒していた。</p><p>飛行能力を持った魔物は空を飛ぶために軽量なものが多い。あの量の雪を食らってはひとたまりもあるまい</p><p>あの量の雪を食らったら飛行能力とか関係なくひとたまりもないでしょ</p><p>薀蓄を語るOlに、ザナが呆れた様子で突っ込む。</p><p>いずれにせよこれで、火山以外の全てのダンジョンを我が領域としたわけだ</p><p>間近に迫る不尽の山を前に、Olは改めて語る。</p><p>これで太陽神は逃げるわけにはいかぬ。手筈は良いな？</p><p>んうん</p><p>マリーは頷きながらも、不安げな表情を見せた。</p><p>ヤタラズを倒した後。Olは太陽神を追い詰めるための作戦を一行に語った。その方法に文句があるわけではないのだが</p><p>どこか、違和感があった。Olの立てた作戦は、あまりに不確定な情報の上に立脚していて、それは彼らしくないとマリーは感じていた。</p><p>今のだってそうだ。本当に、これでダンジョンは全てだっただろうか？</p><p>やはり来たか。魔王Ol</p><p>出し抜けに、その声は響いた。</p><p>まさかこんな入口で出迎えてくれるとはな</p><p>男のものとも女のものともつかぬ、透明な声色。</p><p>しかしそれを発するのは、誰よりも美しく、そして何よりも愛おしい娘の姿をした女神。</p><p>ソフィアとサクヤを返してもらうぞ、太陽神よ</p><p>全てを支配するまったき神に、Olは宣戦布告した。</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-2</p><p>言ったはずだ。それは不可能であると</p><p>厳かに告げる太陽神を、Olは嘲笑う。</p><p>仮にも全知全能を標榜する神が不可能だと？</p><p>その挑発に、太陽神の形の良い眉はほんの僅か、しかし明らかに不愉快げに動く。</p><p>一番目だ</p><p>出し抜けに放たれた意味のわからない語句に、今度はOlが眉をひそめる番だった。</p><p>全知全能たる私が、あなたを滅ぼさなかった理由。それはテナが述べていた可能性の一番目。ただ単にあなたという存在に、滅ぼすまでの価値がなかったからに過ぎない</p><p>それは、Olが太陽神を倒すと決めた時、テナと交わした会話だった。</p><p>は。それで、俺達がお前のダンジョンの殆どを支配するまで待ってくれたと？随分お優しいことだ</p><p>内心の動揺を押し隠すようにOlは言う。</p><p>そこまでしてなお、あなた達は私の脅威とはなりえない。支配した、といっても──</p><p>太陽神の右の手のひらから砂嵐が、左の手のひらからは氷雪が溢れ出し、Olたちを襲った。</p><p>あなた達がなしたのは、私の足元に小さな氷を貼り付けただけの事。私の力は</p><p>砂嵐をザナの氷術が凍りつかせ、氷雪をラーメスの炎が焼き尽くす。</p><p>しかし。</p><p>この通り、微塵も減じてはいない</p><p>吹き荒れ続ける砂嵐にザナの氷は追いつかず、ラーメスの炎は力負けして、二人は共に吹き飛ばされて風のダンジョンを覆う雪の中に叩き込まれた。</p><p>ちっ！ユニス、スピナ！</p><p>Olが革袋を開けば風のように中から赤毛の英雄と稀代の魔女が飛び出す。それとほとんど同時にスピナの放った粘糸が太陽神を縛り付け、ユニスが斬撃を放った。</p><p>魔法生物生成の天才によって作られたその糸状のスライムは、蜘蛛糸の十数倍もの強度を持ちつつ、巨人ですら引き剥がせないほどの粘着力を持つ。一度縛り付けられれば古竜ですらおいそれと抜け出せないものだ。</p><p>そして空間を自由に転移する英雄が編み出した斬撃は、刃を境にした片側をほんの僅かに転移させ、空間そのものを斬り裂くという技だ。光と同じ速度で閃くこれを避けることは極めて困難で、どれほど硬い鎧も意味を持たない。</p><p>それを。</p><p>太陽神はこともなげに引きちぎり、片手で払い除けてみせた。</p><p>わっ。全知全能とか言うだけのことはあるね</p><p>お師匠様、ここはお任せを</p><p>呑気な声を出しつつもユニスはいつになく鋭い視線を向け、スピナは溜め込んだ魔力を用いて無数の分身を生み出しながらOlに向かって叫ぶ。</p><p>無理はするなよ！</p><p>Olはそう返しながら、雪の中からザナとラーメスを引きずり出した。</p><p>雪の女王が雪まみれなんて、洒落にもならないわ！</p><p>流石は太陽神、あれ程の力があるとはこの余が目をつけただけのことはあるわ</p><p>口に入った砂を吐き捨てながらザナがいい、ラーメスは愉快そうに笑う。</p><p>言っておる場合か。行くぞ！</p><p>Olの操作によって吹き荒れるザナの氷が太陽神を取り囲む部屋を作り出し、更に通路の先にOlのダンジョンを形成していく。</p><p>行かせは</p><p>それはこっちの台詞だよっ！</p><p>無論そんなものは時間稼ぎにすらなりはしないが、目くらましにはなる。瞬時に消しとかされる氷の壁に紛れて、ユニスの斬撃が飛んだ。</p><p>やっぱり、手で撃ち落とすよね</p><p>その尽くを打ち払う太陽神に対し、ユニスはにっこりと笑った。</p><p>手を使わないと防げないんだ。全知全能なのに</p><p>それは、獲物を捕らえる時の肉食獣のような笑みだ。</p><p>それは認めよう。だがこのようなもの、百来ようと千来ようと？</p><p>言葉の途中で太陽神は急に力を失い、がくりと片膝を突く。目を向ければそこには、小さなスライムが二匹、蠢いていた。真っ黒なスライムと、純白のスライムだ。</p><p>結局、霊力というものを吸い取るスライムは作ることが出来ませんでした</p><p>残念そうに、スピナは言う。</p><p>ですので魔力喰いと理力喰い。二種のスライムを放たせて頂きました</p><p>左右に大きく広げた彼女の両手がどろりと溶けるようにして崩れ、黒と白とに染まる。</p><p>じゃ、頑張ろうね、スピナ</p><p>力をお借りします。ユニス</p><p>二人は互いにそう言い合うと、太陽神に向かって駆け出した。</p><p>大丈夫かな、姉さんたち</p><p>心配ないとまでは言えぬが。我が妻で最強の二人だ</p><p>心配そうにぼやくマリーに、Olは走りながら前方を示す。</p><p>それよりも、己の心配をした方が良かろう</p><p>そちらからはOlたちを迎え撃つべく、次々に怪物たちが姿を現していた。</p><p>敵は任せたぞ</p><p>承知致しました</p><p>がんばりまーすっ！</p><p>それに対するは、ホデリ、ホスセリの兄妹に巫女の少女、ユツだ。</p><p>津波のように押し寄せる小鬼たちの額に正確にホスセリの放った手裏剣が突き立ち、その死骸を踏み越えて襲い来る巨大な蜘蛛の身体をホデリが一瞬にしてバラバラに切り捨てる。</p><p>むユツ殿！</p><p>その背後で大きく口を開け、紅蓮に染まる鵺の喉奥を見て、ホデリが叫んだ。</p><p>はあい。風よっ！</p><p>ユツが妖狸の尻尾を変化させた大団扇を振るうと、凄まじい風が巻き起こって鵺の吹いた炎は逆流し、鵺自身を焼き焦がす。</p><p>忝(かたじけ)ない。助かり申した</p><p>その一瞬、ホデリはその風に乗るようにして間合いを詰めると、猿頭の怪物の身体を一刀のもとに両断した。</p><p>やるじゃない！</p><p>ほとんど一瞬にして全滅した怪物たちにザナが快哉を叫ぶ。それと同時に巨大な広間を氷が覆い尽くし、新たな部屋を作り出した。</p><p>イヴ、大丈夫？</p><p>はいお姉様。まだいけます！</p><p>あちこちに煮えたぎるマグマが流れる火山の中、氷を維持するのは流石のイェルダーヴにもかなりの負担となっている。そうでなくとも、彼女は今まで辿ってきた全てのダンジョンの維持を担っているのだ。だがイェルダーヴは荒く息を吐きつつも気丈に答えた。</p><p>Ol、厄介な新手が来たぞ</p><p>舌打ちし、ラーメスが暗がりに向けて炎を飛ばす。神の力を帯びずとも、彼女の膨大な霊力によって甚大な破壊力を秘めた火炎球は、しかし長い尾の一振りで弾き散らされる。</p><p>何だ？大蛇か？</p><p>いえ、違います、あれは！</p><p>ずるりと伸びた細長い身体に呟くOlに、ユツが悲鳴じみた声で答える。</p><p>確かにそれは蛇によく似ていた。だがその頭はワニのように長くゴツゴツとしていて、頭には鹿のような角が二本、生えている。そして四本の指を持つ小さな手足は、しかし大地を踏みしめることなく、まるで空中を泳ぐかのように宙をたゆたっていた。</p><p>龍です！まさかあんなものまで支配しているなんて</p><p>その言葉は、正確にOlに伝わった。</p><p>竜。いわゆるドラゴンとは別種のしかし、同等の脅威を持つ存在。</p><p>殿、お下がりを。あれは、某が刺し違えてでも仕留めまする</p><p>ざわり、とホデリの肉体が隆起し、その瞳が漆黒の真円を描く。忌まわしい呪いによる獣の姿も、龍の生み出す風雨を防ぎ牙と爪とを弾く鎧になるならありがたい。異形に変ずるホデリを強敵と認めたか、龍の髭がパリパリと乾いた音を立てて雷気を帯びた。</p><p>兄さん！</p><p>ホスセリ。お前は殿を御守りせよ</p><p>ぽんと妹の頭を撫でて、鮫頭の男は笑みを浮かべる。</p><p>良い子を産むのだぞ</p><p>そしてそう告げると、死地へと赴いた。</p><p>龍とはただの獣ではない。神の一種とも言われる、最強の存在。そんな相手に只人の身でどこまで迫れるか。ホデリはぶるりと身体を震わせた。</p><p>武者震いは武士の誉れだ。たとえ勝てたとしても死は免れぬであろう、必死の戦。</p><p>その戦場に、彼は足を踏み入れ──</p><p>ごめん、ホデリさん</p><p>そのときにはもう、全ては終わっていた。</p><p>マリーは龍の死骸を背に、髪が赤く染まった頭を下げる。</p><p>竜っていうからイケるかなって</p><p>結論から言うと、イケた。マリーがその身に降ろした竜殺しウォルフディールの竜種必殺の権能はてきめんに効き、龍は何をもする前にその躯を地面に横たえることになった。</p><p>ぷしゅうう、と風船が萎むような音を立て、ホデリの身体が元の人へと戻る。</p><p>皆様ご無事で何よりでござる</p><p>その姿はどこか、年老いたようにも見えた。</p><p>あったぞ。あれだ</p><p>火山のダンジョンの奥。要と呼べる場所に辿り着いて、Olはそこに鎮座する巨大な岩を指し示した。そここそ火山のダンジョンの心臓部。サクヤの住んでいた部屋だ。</p><p>といっても、それを破壊すればサクヤの身に何かがあるというわけではない。ましてや太陽神を倒すのに役立つというわけではなかった。</p><p>いくぞ。結界を張る</p><p>だがわざわざそこまでやってきた理由は無論ある。</p><p>そうはさせない</p><p>故に。全知全能の神もまた、それを阻まんと手を打っていた。</p><p>岩の陰から現れたのは、薄紅色の美しい髪をたたえ、まるで花びらのように幾重にも広がる着物に身を包んだ見目麗しき女神。</p><p>姫、様！</p><p>行くなよ、ホスセリ</p><p>無論、それがサクヤ本人であろうはずもなく。</p><p>悪趣味な真似をしてくれる太陽神めが</p><p>Olは憎々しげな目で、サクヤの姿をしたそれを睨みつけた。</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-3</p><p>悪趣味</p><p>太陽神は、Olの言葉を反芻して言った。</p><p>別にこれはあなた達の戦意を削ぐために外見を変えているわけではない</p><p>その声色からは平坦で何の感情も読み取れなかったが、心外だと訴えているようにも思えた。</p><p>ただ、余った肉体を活用しているだけだ</p><p>落ち着け</p><p>凄まじい殺気を迸らせるホスセリとホデリを、Olは押さえる。</p><p>俺が結界を張るまでの間、奴を押さえられるか？</p><p>この命に代えましても</p><p>必ず</p><p>相も変わらず物騒なことを言うホデリを、Olは咎めなかった。</p><p>ユツ。ザナ。ラーメス。マリー。イェルダーヴ。お前達も援護しろ</p><p>死を覚悟して全員でかかったとしても、勝てるかどうかわからない相手だからだ。</p><p>まずザナの放った氷の槍が、四方八方からサクヤへと突き刺さる。それを追う様にしてラーメスの放った火球を、マリーの冷性剣が猛烈な吹雪へと変換して凍りつかせる。間髪入れずに、ユツが尾を変化させた巨大なハンマーを凍りついたサクヤに向けて振り下ろした。</p><p>無数にばら撒かれたホスセリの手裏剣がそこへ突き刺さって、破壊の嵐の中、躊躇うことなく踏み込んだホデリの刃が喉元に向かって振るわれ──</p><p>鉄の壁さえ斬り裂くその一撃を、サクヤは紙でできた扇の先端で、軽く防いだ。</p><p>目を見開くホデリの眼前で、桜の花びらが舞い散る。</p><p>否。それはひとひらずつが膨大な熱量を込めた炎の欠片だ。</p><p>ぬっ！</p><p>下がって！</p><p>堪らず飛び退るホデリを援護するために、ザナが放った氷術が炎花を狙って迸る。</p><p>だが消えたのは、指先ほどの大きさの花びらではなく、ザナの放った氷の塊の方だった。</p><p>斯様なもの、余が平らげてくれる！</p><p>ラーメスの全身を炎熱の鎧が覆い、彼女はそれを引き裂くようにして脱ぎ捨てると、まるで旗のように振るう。ラーメスが作り出せる中でもっとも温度の高い炎鎧を、不器用な彼女が攻撃に使うために編み出した技。</p><p>馬鹿な！？</p><p>だがそれは、サクヤの炎花に触れるやいなや弾けとんだ。身体から離した為に多少の減衰はあるにせよ、ラーメスの炎さえも通じぬほどの熱量を、花びらの一枚一枚が秘めているのだ。</p><p>ひらり、ひらりとサクヤが扇を振るう度に花びらは舞い散って、広間の中を満たしていく。その美しい花弁に炎も氷も、風も刃も防がれてしまう。</p><p>Ol、</p><p>ザナは打つ手が無いんだけど！？と叫ぼうとする。</p><p>セレスを呼んで！</p><p>だが実際に口から飛び出したのは、彼女自身が知らぬ名前であった。</p><p>お呼びに預かります</p><p>Olの手にした革袋から、金の髪を持つ美しい白アールヴが現れる。その美貌はザナさえ息を飲むほどだったが、けれどこの状況で彼女一人が加わったところでどうにかなるとは思えなかった。</p><p>ところで呼ばれたは良いのですが、どうしたらいいのでしょうか？</p><p>あれ何とかしてよ！</p><p>それどころか状況さえ理解していないのか、可愛らしく小首を傾げるセレスに、ザナはサクヤを指差して怒鳴った。</p><p>何とかすればよろしいのですね</p><p>キリと弓を引き絞るセレスに、ザナの胸中を絶望がよぎった。あの凄まじい炎の花弁を前に、矢など通用するわけがない。鉄でできていたってサクヤに辿り着く前に溶けて消えてしまうだろうに、セレスが構えているのは木製の矢で、鏃すらついていないのだ。</p><p>ひょう、と矢が放たれる。</p><p>それは無数に舞い散る炎花の隙間をするりと抜けて、サクヤの手元に突き刺さる。火山の女神が扇を取り落した瞬間、炎花は溶けるように立ち消えた。</p><p>何とか、いたしましたよ</p><p>魔法のようなその絶技に、ザナは己の目を疑った。視界を埋め尽くすかのように舞い散る無数の炎花の隙間。そう、それは、確かにある。サクヤの姿が見えていた以上、理屈の上では、あるのだ。</p><p>だがそれを射抜くなどとは誰も予想せず、セレス以外の全員が絶句した。</p><p>そしてそれは、全知全能の神でさえもまた、同様であった。意識の隙間はほんの一瞬。けれどその一瞬に、動いたものがいた。</p><p>ホデリとホスセリの兄妹だ。</p><p>彼らとて、セレスの技に目を奪われたのは同様であった。だが幼い頃から鍛え抜かれたその肉体がそして何より、母であり、姉であり、仕えるべき主君であるサクヤへの想いが、二人を考えるまでもなく突き動かしていた。</p><p>御免！</p><p>二刀と一刀。三振の刀が、交錯して。</p><p>見事、です</p><p>サクヤは微笑みながらそう囁いて、倒れ伏した。</p><p>ホデリとホスセリは残心も忘れ、サクヤに駆け寄る。あの声、あの表情。</p><p>疑うまでもない、彼らの主君のものだった。</p><p>その背後に立ち、Olがぽんと二人の肩を叩く。</p><p>この程度の傷であれば幾らでも蘇生できる。仮にも神だ、人より柔などということはなかろう。奴などこれより酷い状態から三度も蘇生してきたぞ</p><p>ラーメスを顎で示すOlに、ホスセリはほっと息を吐く。</p><p>殿。では</p><p>ああ。よくやった。結界は無事に張れた。一先ずは俺達の勝ちだ</p><p>Olは複雑な魔法陣が描かれた巨岩を指し示す。</p><p>いくら全知全能と言えど、神は神だ。その力は信仰によって支えられている。単純に、太陽を信仰するものが数多くいるからこその強さである。</p><p>Olの張った結界は、その信仰心の伝播を阻害するものであった。結界の作り方は氷の女神マリナに尋ねれば良いだけだ。太陽神の力を損ねるのに最適な術をと。</p><p>あとは弱った太陽神から、ソフィアとサクヤの力を引き抜くために交渉するなり制圧するなりすれば良い。皆、ご苦労──</p><p>Olのその言葉を、遮るように。</p><p>魔法陣を彫られた巨岩は、真っ二つに割れて崩れ砕け散った。</p><p>そう、その作戦は紛れもなく最善だった</p><p>男のものとも女のものともつかぬ、透明な声色が響き渡る。</p><p>問題があるとすれば</p><p>信仰を阻害されて力を失うまで、多少の時間がかかることだ</p><p>たったの、百年ばかりだが</p><p>全く同じ声が、別の口から発せられていた。</p><p>即ち、ソフィアの姿をした太陽神と──</p><p>虚ろな瞳でこちらを見下ろす、ユニスとスピナからだ。</p><p>さて</p><p>ユニスの放った斬撃がOlの手にした革袋を引き裂き、粉々に破壊する。</p><p>そろそろ幕引きにしようか、魔王Ol</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-4</p><p>全知全能という言葉に、いささか過大な表現があるという事は認めよう</p><p>狙いすました矢はあっさりと退けられて、炎も氷もまるで効いた様子はなく。</p><p>この二人は強敵だった。仕留めるのに随分時間がかかったし、境界の神に遮られていささか不自由な思いをしているのも確かなことだ</p><p>ホデリの刀は折られ、ホスセリの手裏剣も底をつき。</p><p>けれどあなたにこれ以上の策がないことくらいはわかる。魔王Ol</p><p>膝を屈するOlに、淡々と、太陽神は言い放った。</p><p>愚かなことだ。氷の女王の言っていた通り、自らの分をわきまえて籠もっていれば平穏に暮らせただろうに</p><p>随分と</p><p>Olは吐き捨てるように、言葉を返す。</p><p>饒舌になったものだな、太陽神よ</p><p>ああ。先程取り込んだ、ユニスのせいかも知れないな。まあ、おかげで</p><p>太陽神が指先をついと動かす。その動作とともに、セレスの首がストンと落ちて、彼女は死んだ。</p><p>こんな芸当もできるようになった</p><p>その光景をどこか遠くに見ながら、マリーは呆然としていた。</p><p>彼女は今まで一度として、Olのことを疑ったことがなかった。それは彼の言うことを嘘だと思ったことがない、というだけではない。彼が絶対的な庇護者であり、己を守ってくれると言うことを、疑ったことがなかったのだ。</p><p>だから今回も、ソフィアが太陽神などという得体のしれない存在になったとしても、さしたる心配をしていなかった。Olであれば何とかしてくれるのだろうという、絶対的な信頼があったからだ。</p><p>ここで初めて、彼女はそれを失いつつあった。</p><p>Olにも出来ないことがあることを、思い知らされたのだ。</p><p>マスター！逃げ</p><p>警告を発しようとしたザナが、マグマに巻き込まれて消える。</p><p>くっ、ここまでか！</p><p>ラーメスが迫りくる壁に潰され、血の花を咲かせる。</p><p>か、は！</p><p>太陽神がパチリと指を鳴らしただけで、ホデリとホスセリがばたりと倒れる。ザナの死によって氷の壁を作ることができなくなり、太陽神の領域に踏み込んだからだ。</p><p>──駄目だ、とマリーは膝をつく。</p><p>どうしようもない無力感。足元がガラガラと崩れていくような恐怖と絶望。</p><p>それは彼女が、生まれて初めて感じる感情だった。</p><p>なんだ？</p><p>次は自分か、それともOlの番か。そう思うマリーの耳に、訝しげな声が届く。</p><p>視線をあげる彼女の目に映ったのは。</p><p>視界全てを埋め尽くす、膨大な数の小さな炎だった。</p><p>てください</p><p>か細く、震え、緊張に裏返った声。</p><p>立って逃げて、ください！</p><p>けれどそれは絶望し何も出来ずにただ蹲るマリーに、はっきりとそう命じた。</p><p>イェルダーヴさん？</p><p>青ざめた表情で震え、涙を浮かべながら、それでもイェルダーヴはしっかりとマリーを見つめる。</p><p>逃げるってでも</p><p>マリーはOlに視線を向ける。追い詰められた彼の表情は、とてもなにかの策が残されているようには見えない。太陽神の言う通り、万策尽きたのだ。</p><p>わ、わたしは自信がありません。じ、自分のことが、信じられ、ません</p><p>なおも小さな炎の欠片を生み出しながら、イェルダーヴは独白のように言葉を綴る。</p><p>けれど。ご主人様のことだけは信じてる。信じたいと、思います</p><p>それはサクヤの生み出した炎花のように美しくも精巧でもなかったが、力強く燃え盛ってマリーたちを囲み守る。</p><p>姉さんと、ラーメスさんも同じです。誰も信じない孤高の人が。誰も信じられない孤独な人が。ご主人様のことだけは、信じてここまで、やってきた</p><p>イェルダーヴはぽんとマリーの胸を押す。同時に炎が、彼女を包み込んだ。</p><p>ラーメスさんにはとても及ばない、弱い弱い炎ですけど。だから、わたしにも、できることがありました</p><p>それは、本物の炎にすら劣る炎。柔らかな日差しのような、じんわりと暖かくなる炎だった。</p><p>小賢しい！</p><p>弱く小さい、しかし膨大な量の炎の壁を突破できずに業を煮やした太陽神が叫ぶ。同時にマグマの奔流が壁を突き破って迸りイェルダーヴは、マリーを突き飛ばして、それに巻き込まれた。</p><p>イェルダーヴさん！</p><p>跡には、骨一つ残らず。それを嘆き悲しむより先に、マリーは立ち上がり、踵を返してOlへと走った。</p><p>Olさま！逃げるよ！</p><p>逃げるといっても、どうするつもりだ</p><p>周囲は未だイェルダーヴの放った炎が覆い尽くし、部屋から出る唯一の通路は太陽神が立ちはだかっている。逃げ道などどこにもないように思えた。</p><p>こうだよ！</p><p>マリーは印を組んで、魔術を行使する。</p><p>お前！何──</p><p>Olが抗議の声をあげるより先に。</p><p>二人の姿は、その場から掻き消えた。</p><p>──という術を使うのだ！</p><p>うまくいったからいいじゃない</p><p>マリーが使ったのは、何のことはない。ただの転移の術である。だがそれは本来、極めて高度な計算が必要になる。ほんの僅かに座標を間違うだけで、石の中や空中に転移してしまう可能性があるからだ。</p><p>咄嗟に使ったいい加減な術で、少なくとも落ちても怪我をしない程度の高さの空気中に転移できたのは僥倖というほかなかった。</p><p>わたし、昔から運だけはいいし</p><p>誇ることか、愚か者</p><p>マリーを叱りながらも、Olの語気は弱い。</p><p>それに命を繋いだとて、どうにもならぬかも知れぬ</p><p>太陽神の言ったことは真実だ。もはや打つ手は何もない。</p><p>でも、わたし達はまだ生きてる</p><p>Olの手をとって、マリーはそれをぎゅっと胸に掻き抱く。</p><p>わたしの知ってるOlさまなら、絶対諦めたりしない</p><p>Olは目を見開いて、彼女の顔を見つめた。</p><p>あの、無邪気だった幼子が、いつの間にこんな表情をするようになったのか。</p><p>知った風な事を言ってくれる、愚か者が</p><p>そんな事を思い魔王は、微かな笑みを浮かべた。</p><p>良かろう。あがくぞ</p><p>言って彼は、周りを見回す。そこはちょうど火山の入り口の手前、風のダンジョンの中であった。谷間が雪で埋め尽くされているせいか、ザナが作った氷の壁もまだ消えてはいない。</p><p>転移陣を張っていたならまだしも、お前の大雑把な運任せの転移だ。このダンジョンの中にいる間は、俺達の居場所は補足される事はなかろう。それに、お前のその炎</p><p>Olはマリーの身体を包み込む、イェルダーヴの炎を指し示す。それはイェルダーヴが死んでしまった後もなお、消えることなく燃え盛っていた。</p><p>それは一種の境界として使える。つまりその炎を、俺のダンジョンと規定する。さすればお前の居場所は太陽神に気取られぬ</p><p>ふむふむ、それで！？</p><p>調子の出てきたOlに、マリーは身を乗り出して頷く。</p><p>それだけだ。それが何の役に立つことか</p><p>しかしそこで両手をあげるOlに、がくりと項垂れた。</p><p>ううー。援軍とか呼べないのかな。あの革袋、もう一個作る事は？</p><p>無理だ。ダンジョンと繋ぐには、ダンジョンまで一度戻らねばならん。ここから転移するのは不可能だ</p><p>ユニスの転移やミシャの空間を繋ぐ技と違って、転移の魔術はその移動距離によって消費する魔力が決まる。大陸間を転移するのは、ダンジョン中の魔力を使っても不可能だ。</p><p>いや。一つだけ方法があったか</p><p>ふと、Olはあることを思い出す。ほとんど使ったこともなかったので、すっかり忘れていた一種の魔術。使ったところで何一つ状況は好転しないであろう事はわかっていた。けれど、Olは呪文を口にする。</p><p>契約に基づき、アイン・ソフ・Olの名において命ずる</p><p>それは転移でも召喚でもなく、召還の魔術。</p><p>我が前にいでよ、リルシャーナ！</p><p>己の使い魔を手元に呼び戻す術であった。</p><p>ずるり、とOlの影が伸び、そこからしなやかな指が生える。</p><p>よいしょっとー！</p><p>かと思えば、豊かな胸をぶるんと揺らしながら、リルが威勢のいい掛け声とともに飛び出してきた。</p><p>はいはーい！Olの右腕にして第一の使い魔、リルちゃんのお出ましよ！</p><p>状況をわかっているのかいないのか、場違いな明るさを見せる彼女をOlとマリーは呆然と見やる。</p><p>なるほど、確かにひっどい顔してるわね</p><p>リルはOlの顔を見て何やら納得したようにうんうんと頷くと、ふわりと彼の頬を両手でおさえ、そのまま口づけた。</p><p>いきなり何を！</p><p>彼は、全てを思い出した。</p><p>太陽神は、おそらく対面した相手の心を読む</p><p>そりゃあ全知全能っていうくらいだから、そのくらいはするでしょうね</p><p>それはOlが旅立つ前。ラーメスを蘇生させた直後の頃の記憶だ。</p><p>問題はそれを防ぐ方法がないということだ。どのような策を練っていこうが、魔術による読心術と違って対抗手段がない</p><p>あっ、そっかううーん。読まれても構わない策を練るとか？</p><p>リルの言葉に、Olは首を横に振る。</p><p>格下が相手ならばそれも可能だろうがな。生憎とそんな都合のいい策はない。なにせ相手は全知であると同時に全能でもあるのだ</p><p>じゃあどうしたら</p><p>故に。奴に勝つための策を、お前に預ける</p><p>頭を抱えるリルの肩を、Olはぽんと叩いた。</p><p>わたしに？</p><p>ぱちぱちと瞬きして、リル。</p><p>そうだ。記憶を封印し、それを封印した記憶ごとお前に渡す。頃合いを見てお前を呼び、記憶を復活させて策を成す。そうすれば奴が心を読めようと問題ない</p><p>でもさ。記憶を失ったOlが、もしわたしを呼ばなかったら、どうするの？</p><p>Olは珍しく、無責任な言葉を吐いて肩をすくめた。</p><p>正直なところ、自信はない。お前はどう思う？どうしようもないほど追い詰められた後、俺はお前を呼ぶと思うか？</p><p>少し考え、リルは答える。</p><p>呼ぶわ。Olは必ず、わたしを呼ぶ。たとえわたしが何の役にもたたないってわかっていても打てる手がそれだけなら、あなたはわたしを呼ぶわ。絶対に</p><p>──そうして。</p><p>Olは全ての記憶を彼女に預け、代わりに偽の策を練り上げて太陽神に挑んだのだった。</p><p>どう？思い出した？</p><p>唇を離し、くすぐるような声色で、リルは問う。</p><p>やはり、お前に任せて正解だったな</p><p>Olはそれに対して、そう答えた。</p><p>え、記憶の引き渡し？</p><p>リルが口付けることによって、Olの呪いは解け、封印していた記憶が蘇る。けれど別にそれは誰でも良かったはずだ。</p><p>違う。最初に言っただろう</p><p>Olは首を横にふって、言った。</p><p>俺を信じる仕事は、お前に任せると</p><p>──ん。信じてるよ</p><p>リルは微笑み、そう返す。</p><p>そんな彼女にニヤリと笑みを浮かべ、Olは宣言した。</p><p>さあ。反撃を開始するぞ</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-5</p><p>これで、最後</p><p>くしゃり、と太陽神は手のひらに浮かんだ絵図を握りつぶす。それによって、Olが支配した領域は全て消え失せた。</p><p>ふむ？</p><p>太陽神の端正な表情が、怪訝そうに歪められる。Olの作った氷のダンジョンを全て消した今、この大陸に太陽神の目の届かぬ場所はないはずだ。にもかかわらず、Olの姿はどこにもなかったからだ。</p><p>海に隠れたか、それとも境界の神に頼って逃げ帰ったか</p><p>いずれにせよ、もはや抵抗の余地などどこにもないはず。太陽神はOlの行方を些事と切り捨て、意識をダンジョンの外へと向けた。</p><p>この大陸に未だ根強くはびこる、有象無象の神々ども。それを全て喰らいつくし</p><p>今度こそ、万物を支配するために。</p><p>わ。真っ暗ね</p><p>その領域に入るなり、リルは声を上げた。何気ない台詞のようだが、ただ事ではない。</p><p>なにせ夜に潜み闇を見通す悪魔の言葉なのだ。つまりそれは、尋常の闇ではなかった。</p><p>何用じゃ</p><p>その闇の中から響いたのは、酷くしわがれた声であった。</p><p>まるで数万年歳を取り続けた老婆のような、枯れ果て乾いた声色。</p><p>それがどこから聞こえるともなく、辺りに反響していた。</p><p>我が名は魔王Ol。汝に願いの義ありて参った</p><p>Olは、隣にいるはずのリルさえ見えぬ無明の闇の中、膝をついて声を張り上げる。</p><p>火山の神、イワナガヒメよ。汝が妹、サクヤヒメを助けるため、手を貸してはくれないか</p><p>──サクヤ、じゃと？</p><p>闇の中に響く声の纏う雰囲気が、変わった。</p><p>汝がいかにして妾を知り、サクヤとの関係を知ったかは問わぬ。興味もない。じゃが</p><p>感情を感じさせぬ枯れ果てたそれから──憎しみに満ちた、燃え盛るようなそれへと。</p><p>妾が奴のために何かするなどとは、考え違いも甚だしい！良いか。確かにサクヤは我が妹。だがこの身に奴への情愛など欠片もないわ！あるのはただ憎しみのみ！ましてや助けるじゃと？ハ、全くお笑い草も</p><p>娶る</p><p>だが、凄まじい勢いで並べ立てられた呪いの言葉は、Olの一言によって水をかけられた小火のように立ち消えた。</p><p>いま、なんてゆった？</p><p>代わりに返ってきたのはどこか舌足らずな、鈴を転がすような声。</p><p>お前を娶ると言ったのだ。この魔王Olがサクヤの夫でもある、この俺がだ</p><p>ははははははは！騙されぬ、騙されぬぞ！誰がこのイワナガを嫁に取るものか。サクヤとの関係を知っているのなら、妾についても知っておるのだろう。見目麗しく華やかなサクヤとは似ても似つかぬ醜い姿。いかなる男も妾の前では萎え衰える！</p><p>老婆の声に戻って哄笑するイワナガに、Olはローブの隠しから袋を取り出し答える。</p><p>結納品ならば用意した。これだ</p><p>それは！</p><p>彼が取り出したのは、マリナに献上した五品の一つ。ノームが蓬莱の玉の枝としてドヴェルグたちに作らせた、黄金で出来た枝であった。</p><p>黄金の枝に翠玉の葉、真珠の実鉱石で出来た木、じゃと！？ま、まるで妾に誂えたかのような</p><p>その通りだ。樹木を司るサクヤヒメはなるほど確かに美しい。だが、岩を司るイワナガヒメもそれにけして劣るものではないそれを証明する、世にも珍しい蓬莱の玉の枝だ</p><p>真摯な表情で、Olは息を吐くように偽りを口にする。</p><p>さあ。その姿を見せてくれ、イワナガ</p><p>じゃが見せたら、きっとげんめつする</p><p>老婆の声と、鈴のような声。それが入り混じった声色で、イワナガは答える。</p><p>するものか。俺を、信じよ</p><p>Olの言葉に、ゆっくりと闇は薄れていき、辺りの景色が目に映る。そこはサクヤの火山の遙か地下に作られた、小さな石室。</p><p>そして、イワナガヒメはOlのすぐ目の前に立っていた。</p><p>確かにその姿は、サクヤとは正反対だ。</p><p>ゆるくウェーブした長い薄紅のサクヤの髪に対し、肩口で揃えられた黒い髪は岩のように真っ直ぐで、目元を覆い隠している。豊かなサクヤの胸元に対して、イワナガの胸は何の起伏もなくまっ平らだ。そして何より</p><p>一万四千年近く生きているというサクヤの姉であるにも関わらず、その姿は五、六歳の幼女にしか見えなかった。</p><p>思った通りだ</p><p>Olは跪いて視線の高さを合わせると、イワナガの目元を覆い隠す髪を掬い上げながら微笑む。</p><p>サクヤに負けず劣らず美しいではないか</p><p>確かにイワナガに欲情するような男はそういないであろう。あまりにも幼すぎるからだ。しかしその造形そのものはけして醜くも不細工でもなく、むしろ美しかった。</p><p>子供らしい愛らしさとはまた違う十数年もすれば美人になるだろうと感じさせるような、そんな美しさだ。</p><p>だけどわ、わらわせいちょうは、しないの</p><p>サクヤが花のような繁栄を象徴する神であれば、イワナガは岩のような永続性を象徴する神である。故にその幼い容貌はけして変わることなく</p><p>生まれたときから、サクヤに求婚するものは引きも取らず、イワナガに求婚するものは全くいなかった。故にイワナガはサクヤを妬み嫉み、憧れながらもけして認められないのだった。</p><p>もっともサクヤはサクヤで、そのせいで理想を高く持ちすぎて結局Olと会うまで男と縁がなかったりしたのだが。</p><p>案ずるな。見ての通り</p><p>Olはリルを抱き寄せながら、言った。しかしその使い魔の姿は常とはまるで違う。メロンのようにたわわに実った双丘は引っ込み、むっちりとした芸術品のような太ももは細く短く、男を誘惑してやまない尻は小さくなっていて。</p><p>ちょうど、目の前のイワナガと同じ年頃に見えるまでに縮んでいた。</p><p>俺はロリコンだ</p><p>血を吐くような思いでそう宣言するOlの脳裏で、四本腕の悪魔が快哉を上げたような気がした。</p><p>くしゅんっ</p><p>一人火山のダンジョンの外を駆けながら、マリーはくしゃみをした。全身暖かなイェルダーヴの炎を纏ってはいるが、火山から雪原に移動してまた火山、という温度変化でやられたのかもしれないな、などと思う。</p><p>ええと、この辺りのはずなんだけど</p><p>Olから指示されたものを探しながら、マリーは山の麓をキョロキョロと見回すがそれらしいものはまるで見つからない。</p><p>げっ</p><p>それどころか、木陰から姿を表した小鬼とバッチリ目があってしまった。</p><p>見つけた</p><p>しかもその小鬼から、例の男とも女ともつかぬ太陽神の声が聞こえたものだから、マリーは思わず表情を引きつらせる。</p><p>結界か。小賢しい</p><p>その小鬼が自分を指差し呟くのを聞いて、マリーは反射的に自分が今即死させられそうになったことを悟った。イェルダーヴの炎がなかったら成すすべなく死んでいたに違いない。となれば。</p><p>ひゃぁっ！</p><p>マリーが横っ飛びに飛ぶと同時に、彼女が先程まで立っていた地面が真っ二つに裂けた。即死させられなければ、次はユニスのすべてを切り裂く斬撃だ。あまりの殺意の高さに戦慄しつつ、マリーは当て所なく逃げる。</p><p>逃さない</p><p>言葉とともに出てきたのは、ユニスの姿をした太陽神だった。英霊も神と本質的には同質の存在だ。つまりはユニスも取り込まれてしまったということなのだろう。</p><p>あれ？ってことは</p><p>マリーが思わず別の事に思考を飛ばした時。彼女は地面にあいていた穴に躓いて、そのまま穴の中に転がり落ちた。</p><p>チ。まあ良い。好都合だ</p><p>太陽神がパチリと指を鳴らすと、火山の側面からマグマが溢れ出し、マリーの落ちた穴へと流れ込んでいく。</p><p>太陽神が全知の力で確認した限り、その穴の先はなにもないただの地下道だ。</p><p>こうしてマグマを流し込んでやればもはや逃げ場もなく、先程の転移のような幸運もそう何度も続くまい。なにせ火山のダンジョンはその殆どを岩で占めている。確率で言うなら生き埋めになってしまう可能性の方が何倍も高いのだ。</p><p>そこまで考えて、太陽神はふと違和を感じた。</p><p>なにもない地下道？</p><p>なぜ、そんなものがこの火山の麓に存在しているのか。無論、山の中には自然にできた火山洞は無数にあるが、ここは火山の外だ。しかも地下道はよくよく見てみれば、レンガを積んで作られた明らかに人工的なものだ。</p><p>いやだからといって何になるというのか。逃げ場がないことには変わりがない。ついでに念のため、転移を防ぐ結界を張ってやれば、マグマによって焼け殺される運命は覆しようもない。</p><p>案の定マリーは行き止まりの部屋でマグマに追い詰められて</p><p>そして、その時、爆発が起きた。</p><p>マリーのいた部屋の天井が吹き飛び、それと同時にマリー自身も空高く飛んでいく。何が起こった──そう考えるのと同時に、太陽神の全知の権能がその理屈を感じ取る。</p><p>マグマによって圧縮された空気の圧力で比較的薄かった天井が吹き飛び、マリーごと吹き飛ばされたのだ。</p><p>そして少女はそのまま空中をくるくると回りながら、すとんと足から着地した。</p><p>太陽神の、目の前に。</p><p>けれどその姿はつい先程とは全く異なっていた。</p><p>アルティメットマリーちゃん</p><p>少女はいや。もはや少女とは呼べぬ姿の彼女は。</p><p>ぜんせいきのすがた、さんじょう！</p><p>五歳児の姿で、堂々とそう宣言した。</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-6</p><p>あはははははははは！</p><p>幼子の無邪気な笑い声がこだまする。それはまるで、大人と遊んでもらって楽しくて仕方ないと言わんばかりの笑い声だった。</p><p>だが、そんな彼女の傍らでは、盛大な破壊音が鳴り響く。壁が真っ二つに割れ、マグマが吹き出し、氷の槍が突き立ち、砂嵐が巻き起こる。</p><p>全知全能の神が振るう、ありとあらゆる破壊の渦に狙われながら。</p><p>しかし、マリーは傷一つついてなかった。</p><p>馬鹿な馬鹿な馬鹿な！何故だ、何故当たらん！？</p><p>太陽神は全知である。マリーがどのように動き、何をしようとしているかまで、完璧に把握している。にもかかわらず。</p><p>マリーが突然つんのめって転げ、たまたまその瞬間を狙った全てを斬り裂く次元の斬撃が彼女の頭上を切り裂いていく。</p><p>その足元を狙ったマグマの隆起が、くしゃみをして立ち止まったマリーの鼻先をかすめて虚しく通り過ぎる。</p><p>ならば全てを飲み込んでくれると放った砂嵐に乗って、マリーの軽い身体はふわりと浮いて飛んでいき、おもしろかった！もっかい！などとおかわりを要求される始末だった。</p><p>それらはどれもマリーが狙ってかわしたわけではない。</p><p>たまたま、運良く、偶然、当たらなかっただけに過ぎない。</p><p>だがそれが十度も二十度も続けば、何かがおかしいのはわかった。</p><p>わかったが何故そうなるのか、全知の能力を持ってしてもわからないのだ。</p><p>ならばこれでどうだ！</p><p>太陽神はマリーの進む先、通路全体を崩落させる。ダンジョンは太陽神にとって肉体そのものに近しい。小さな傷ならばともかく、大規模な崩落となると流石に痛みが走る。しかしその傷を負ってでも今のマリーを止めなければならないと、全知の力が警鐘を鳴らしていた。</p><p>あははははは！</p><p>マリーは楽しそうに笑いながら、臆することなく崩落する通路に突っ込んだ。</p><p>ははははははは！</p><p>その笑い声に重なって、別の笑い声が響く。</p><p>漲る全能感が、マリーを支配していた。小さな頃、Olのダンジョンのもとに来たばかりの頃いつも感じていた、その感覚。長じてからはそれがただの錯覚であり、自分はただ庇護されていたに過ぎないと気づいた。</p><p>けれど</p><p>いっくよー、ローガンっ！</p><p>おうよぉっ！</p><p>マリーの影から飛び出した四つ腕の悪魔が、崩落する天井をいともたやすく吹き飛ばし、空いた隙間を幼女は猫のようにするりとすり抜ける。</p><p>──今のマリーは、無敵だ。</p><p>いわれたとおり、いわにあなをあけた。あれでいいの？ええとおっと？</p><p>うむ。助かった、イワナガよ</p><p>Olが礼を言うと、イワナガは嬉しそうに彼にぴっとりと寄り添った。</p><p>ううん、つまが、おっとにつくすのはとうぜんのことだから。あと、チルって呼んでほしい</p><p>チル？</p><p>木花散姫(このはなちるひめ)。それがわらわのほんとうのなまえだから</p><p>咲く姫に散る姫。なるほど、正反対か、とOlは納得する。</p><p>ほかにしてほしいことはある？おっと</p><p>いや。この二つで十分だ</p><p>Olがチルに協力を頼んだのは二つ。</p><p>一つは、太陽神の目も届かぬこのチルの石室に匿ってもらうこと。</p><p>そしてもう一つは、彼女が保護する領域の一部に穴を空けてもらうことであった。</p><p>それで結局何したの？夫</p><p>対抗せんでいい</p><p>チルの反対側からすっと身体を擦り寄せてくるリルの頭をぽんと叩きながら、Olは説明する。</p><p>この大陸に来たばかりの頃、テナの奴を若返らせた仕掛けを覚えているか？</p><p>ああ何だっけ。甦りの坂だっけ</p><p>それはテナたちの村の地下に作った地下通路。進めば進むほど、通るものの時間を過去へと戻していく坂だ。</p><p>チルが守護して隠していた村の結界を一部だけ解き、マリーをそこへ誘導した。効果はご覧のとおりだ</p><p>岩壁に映るマリーの活躍を示して、Ol。</p><p>けど小さくなったら普通、むしろ弱くなるんじゃないの？</p><p>Olやテナのように老齢から若返ったのならまだわかる。だが訓練を積み、心身ともに成長したマリーが五歳児の姿に戻って強くなるというのは不思議な気がした。</p><p>あいつは昔っから運がやたらいいだろう</p><p>運の良さでどうこうなる話？あれ</p><p>おかしそうに笑みを漏らすOlにリルは首を傾げる。</p><p>ああ。魔術の本質というのは因と果の逆転だ。火口と火打ち石があるから火がつくのではなく、火を付けたからそこにあるものが燃えるように奴には、健やかに育つ呪いがかかっている。故に大人になるまではけして害されず傷つかぬ</p><p>でも、その呪いって全知全能を覆す程なの？</p><p>どんな呪い、魔術にも、明確な限界というものはある。いくら因果を逆転させるとは言え、それはOlの能力以上の力を発揮させる事はないはずだった。</p><p>無論、そんな力はない。むしろそれはただの触媒に過ぎぬ</p><p>Olにそんな力があるのなら、自分自身に無敵になる魔術でもかければいいだけの話だ。効果という意味では殆どない。そもそも、一度大人にまで成長したマリーからは既にその呪いは失われているはずだ。</p><p>真に奴を無敵足らしめているのは法術。そして、相性だ</p><p>相性？</p><p>法術によるものというのはわかる。つまりあれはマリーの法術なのだ。</p><p>無から有を生み出し不可能を可能にする魔術とは真逆に、法術というのは可能をより強化し偶然を必然へと至らしめる術だ。そしてその源は、かつて魔導王と戦い滅んだ天なる神。太陽神と同じ力を使っているのだから、対抗できるのはわかる。</p><p>法術とは信じれば信じるほど強くなるものだから、今のマリーは自分を、ローガンを、そしてOlをこれ以上ないほど信じ切っているのだろう。それは、理解できる。</p><p>けれど全知全能に相性なんてあるものだろうか、とリルは首を傾げた。</p><p>マリナの啓示とテナの予知。共通する欠点は何だと思う？</p><p>どうなるかわかんないことでしょ</p><p>それはOlが何度も口にしていたことであった。未来を読むはずのテナの先見ですら、その先見自体によって未来は変化し、けして確定した出来事を知ることは出来ない。</p><p>そうだ。知るという事は、未来を歪める</p><p>故にマリナの啓示はその結果を知らせることなく、最善手のみを提示する。</p><p>あ。待って。わたしわかっちゃったかも</p><p>不意に思いついて、リルは声を上げた。</p><p>太陽神が、全知だからでしょ</p><p>その通り。あいつの全能とは、文字通りの全能ではない</p><p>もしそうであるなら、どうしようもなかった。タツキが海を支配していようと構わず干渉し、塞の神が境界を区切ろうとOlを見もせずに殺す。そのような存在であるなら、勝ち目などない。</p><p>だが、そうではなかった。</p><p>だからこそ、太陽神は最初に遭遇した時に、Olとテナの会話を言い当ててみせた。本当に自分が全知であると思わせるために。実際にはそれは、Olの記憶を読んだだけの事だ。</p><p>全てを知り、それに対処するが故の全能だ。原因のない事には対応できない</p><p>そして。全てを運に任せた今のマリーの行動は、太陽神にはどうしようもない事だった。</p><p>無知全能。今のマリーは、それだ</p><p>いくら考えを読み、行動を推測し、原因を突き止めようと全ては無意味。絶対的な幸運のもとに、あらゆる妨害は失敗する。</p><p>──そして。そのマリーに指示を送るOlは、全ての盤面をチルの石室から見渡し把握しながらも、石ころ一つ動かすことは出来ない。</p><p>即ち、全知無能。</p><p>無知全能と全知無能。片方だけでは意味を持たぬそれも、二人合わせれば全知全能を超えることが出来る。</p><p>奴の敗因は、ただ一つでしかないことだ</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-7</p><p>おうマリーちゃん。そこを右だ</p><p>岩を反響しながら伝わってくる念話を、ローガンはマリーに伝える。一体どこからOlが自分たちの様子を知り、どうやって伝えているのか。それはローガンにもわからないことだったが、わかる必要もないことだ。</p><p>重要なことは、ただ一つ。</p><p>幼女サイコーッ！</p><p>心のうちから湧き上がるような、その衝動だった。</p><p>さいこー！</p><p>マリーはそれを無邪気に真似て拳を振り上げる。その動作で、彼女は反応しようもないタイミングで壁から飛び出した岩の槍をぴょんと飛び越えた。</p><p>これである。成長後のマリーだったら、若返っただけなのにそれでいいの？などとこまっしゃくれたことを口にしていただろう。だが今のマリーは違う。身も心も、若返っているからだ。</p><p>最近の自分は随分らしくない事が多かった、とローガンは思う。いくら幼い頃から面倒を見ていたとはいえ、自分の興味の対象外まで成長した少女の面倒を何くれとなく見たり、それで窮地に陥ったり、シリアス展開をしてみたり。</p><p>らしくない。実にらしくない。</p><p>イエス、ロリータッ！</p><p>ローガンは衝動にいざなわれるまま、拳を振り上げ。</p><p>ノータッチ！</p><p>四方八方から迫りくる岩、炎、氷、砂嵐を全て防いだ。</p><p>全知全能と言えど！ロリにお触りは厳禁だぜ、太陽神さんよぉっ！</p><p>全身に力が満ち満ちている。何故かなど、考えるまでもない。</p><p>最高のロリと共に駆けているからだ。</p><p>しかも新たなロリの気配もするしな一万年ものの極上のロリの気配と完璧なロリの匂いだ</p><p>べろり、と舌なめずりをするローガン。</p><p>ねえ、ろーがん</p><p>はいっ！何でしょう！？</p><p>そこで突然マリーに話しかけられ、反射的にローガンは居住まいを正す。</p><p>こーげき、こなくなったね</p><p>だがその無垢な唇から紡がれたのは、呆れでも叱責でもなく、ただの素朴な疑問だった。</p><p>ああっ、やっぱこの頃のマリーちゃんマジ天使じゃなくって、言われてみりゃあそうだな。諦めたか？</p><p>先程の飽和攻撃をローガンがノリだけで防いだからだろうか。間断なく仕掛けられていた太陽神の攻撃が、ぴたりと止んでいた。</p><p>全知全能に、諦めなどない</p><p>かと思えばすっと行く手に太陽神の姿が現れ、そう告げる。</p><p>こんにちはー</p><p>マリーはぺこりと頭を下げて挨拶した。その下げた頭のすぐ上の空間を、ユニスの斬撃が切り裂いていく。</p><p>無駄だってのがわっかんねえのかなあ。折角のユニスの無駄遣いだぜ全くよ</p><p>呆れながら、ローガンはユニスに向けて炎を二つ三つ放り投げる。</p><p>ユニス本来の剣技がまるで使えてねえじゃねえか。単に何でも斬る斬撃を放つだけだったら怖くも何ともないぜ、全知全能さんよ</p><p>あらゆるものを燃やすはずのローガンの炎はあっさりと切り伏せられ、消滅する。だがそれだけだ。ユニス本人であれば、それと同時にローガンをバラバラにするくらいはしてのける。</p><p>そらよ</p><p>だから牽制の炎を無数に放つだけで簡単に動きを止められる。しかもユニスを操っている間は本体は動かせないらしく、他の攻撃の手も止むからいっそ普通に攻撃されるよりも楽なくらいだ。</p><p>確かに私の能力ではあなた達を殺すことは出来ないようだ</p><p>そしてとうとう、太陽神はそれを認めた。</p><p>だが同時に、あなた達の能力で私を殺すことも出来ない。それとも試してみるか？その幸運とやらで、私を倒せるか</p><p>誘うように腕を伸ばす太陽神に、ローガンはチッと舌打ちする。マリーの幸運は、偶然を必然に引き上げるもの。万に一度を万に万度にするものだ。</p><p>ローガンとマリーでは、太陽神に万回挑んで一度も勝てない。法術とはゼロを一に出来るような性質のものではないのだ。</p><p>ま。知ったこっちゃねえな。行くぜ、マリーちゃん</p><p>ローガンはマリーの背を押し、先を急ぐ。どこを目指しているのか、何をしたらいいのか。そういった詳しいことはローガンも知らされてはいない。</p><p>Olの旦那が何とかしてくれんだろ</p><p>だがローガンは楽観的にそう考え、さほど気にしてはいなかった。</p><p>そして</p><p>太陽神が、笑みを浮かべる。</p><p>その結界も、永遠に持つものではない</p><p>マリーを覆う炎が揺らぐのを見て、ローガンは己の失策を悟った。太陽神の目的は攻撃ではない。会話による、時間稼ぎだ。</p><p>くそっ、待て、待ちやがれ！</p><p>ローガンは消える炎に叫びながら、マリーを抱き上げ通路を急ぐ。</p><p>遅い</p><p>その炎がふっと立ち消え──そして、太陽神の指がパチンと鳴らされた。</p><p>わー！</p><p>そしてその、一瞬後。</p><p>はやいはやーい！</p><p>そこにはローガンの角を掴んで楽しそうにはしゃぐマリーの姿があった。</p><p>太陽神とローガンは、図らずも同時に間抜けな声をあげる。</p><p>馬鹿な！これだけは幸運でどうにかなるわけが！</p><p>パチン、パチンと何度も太陽神は指を鳴らす。それは己の領域にあるものを支配するという神の権能そのもの。結界がなくなった今、一万回試せば一万回マリーは死ぬはずの攻撃だ。運良く避けるとか、無効化されるとか、そういった事がありうる種類のものではない。</p><p>だが現実に、マリーは一向に死ぬ様子もなく、楽しげにローガンに揺られるのみ。</p><p>どうなってんだ？</p><p>何故マリーが死なないのかは、ローガンにすらわからなかった。</p><p>そういえばあれどうなってんの？</p><p>あれとは何だ</p><p>Olの膝にごろんと頭を乗せて尋ねるリルに、Olはわかっていながら問い返す。</p><p>マリナに渡そうとして、結局いらないって言われたやつ。氷のダンジョンで火蜥蜴の皮使って、石のダンジョンでメリザンドの器。風のダンジョンで竜の骨使ってえーと。ほら、あれもまあ、アレしたでしょ</p><p>不思議そうな顔をするチルに、リルは慌てて言葉を濁す。</p><p>で、最後に一個なんか残ってるはずじゃない。なんだっけ、えーと</p><p>スピナの作った、燕だな</p><p>迂闊な奴め、とリルの頭をぐりぐり圧迫しながら、Olは答えた。</p><p>あ、そうそう。それだ。アレは流石に使いどころないんじゃないの？</p><p>燕と貝の特徴を併せ持った気色の悪い生き物の姿を思い出し、リルは顔をしかめる。</p><p>何を言う。今まさに役に立っているだろう</p><p>Olは岩肌に映るマリーの姿を示していった。</p><p>え？何に？</p><p>呪殺避けだ</p><p>回避も防御も不可能な、絶対必殺の攻撃。それを防ぐのは簡単だ。</p><p>対象を、ずらしてしまえばいい。</p><p>流石に太陽神本人には効かないだろうが、他の存在に死を押し付けるのはそう難しい魔術ではない。そしてマリーの服の裏地に無数に張り付く燕貝が死んでいる事に、太陽神が気づくことはない。</p><p>なにせ死んでいるのは指先ほどの小さな貝だ。それを見逃す事は十分に有り得る。十分に有り得るということは、今のマリーに対しては絶対に見逃すということになる。</p><p>太陽神の絶対の権能は、どのような存在であろうと必ず殺す。故にそれがちっぽけな魔法生物であろうと、人一人であろうと、手応えは一切かわらない</p><p>かわらないから、己が何を殺しているかにすら気づけない。その全知で知ろうとすれば簡単に知れるだろうに。</p><p>全能ゆえに、己の能力に絶対の自信を持っているがゆえに、見逃すのだ</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-8</p><p>何故だ。どうしてこうなった。自分は何をしているのか。</p><p>太陽神はマリーを追いながら、そう自問していた。</p><p>魔王Olなど取るに足らない存在だったはずだ。</p><p>ましてや子供の姿に戻ったマリーなど、脅威になるはずもない。</p><p>──いや。今なお、脅威ではないのだ。いくら殺すことが出来なかろうが、相手の攻撃も太陽神には通じない。ならば脅威などであるはずがない。別に殺さずとも、捨て置いても構わないはずの存在だ。</p><p>しかし同時に太陽神は心のどこかで、マリーを警戒していた。</p><p>取るに足らない子供一人と思いながらも、彼女が己に破滅をもたらす存在であるという直感が、どうしても拭い去れない。</p><p>否否否否！断じて否！私は全知全能の神、まったき太陽神！あのような小娘を恐れる道理などない！</p><p>己に言い聞かせるように叫び、太陽神はマリーを追いかけながらダンジョンの壁を操作する。幸運によって攻撃をかわすというならば。即死が効かないというならば。</p><p>逃れようのない死を持って、圧殺するのみだ。</p><p>マリーが逃げていった先は、大きな部屋が一つあるのみの行き詰まり。出口も封鎖して、その中を今度こそマグマで満たしてしまえばいい。ダンジョンの中は太陽神が支配する領域だ。先程のように壁や天井に穴を空けて逃げるということも出来ない。</p><p>ようやく捕らえたぞ</p><p>逃げ場のない部屋の中央で、戸惑うように周りをきょろきょろと見回すマリーに、太陽神は溜飲を下げた。</p><p>全くてこずらせてくれた。その健闘を、大いに評価する</p><p>太陽神はマリーの目の前に姿を表し、パチパチと手を叩きながらそう告げた。</p><p>四方からはマグマが迫り、どのような幸運があろうともはや逃げようもない。太陽神自身はマグマの熱など何でもない。苦労させられた礼に、そのもがき苦しむ様を存分に見物してやろうと思った。</p><p>一つ、聞きたいのだが</p><p>そんな時、出し抜けに男の声がした。</p><p>Ol！一体、どこから</p><p>振り返る太陽神の視界に、魔王の姿が映る。先程まで全知の力を使ってもどこにも見つけられず、死んだか逃げたかしていたと思っていた男の姿が。</p><p>太陽神というのは、風呂に入るのか？</p><p>その男は突然、奇妙な問いかけをした。</p><p>色々あがいたが、もう勝負はついた。そのくらい答えてくれてもよかろう</p><p>いいだろう</p><p>どうやって隠れていたかはわからないが、かえって好都合だ。こうして目の前に姿を現した以上、Olの命はもはや太陽神の手のひらの上。確かに彼の言う通り、今度こそ勝負はついたということだろう。</p><p>全知全能たる私に、そのような必要はない。そもそも只人のように汚れることなどないからだ</p><p>答える太陽神に、なるほどな、とOlは頷いた。</p><p>道理で気づかぬわけだ</p><p>あった！</p><p>Olが言うのと、マリーが声を上げるのは同時であった。</p><p>気づかぬ？何に</p><p>言いかけ、太陽神はOlの記憶を読んで全てを悟る。</p><p>ここは、風呂だ。お前が初めて現出した場所。そして──</p><p>やめろ！</p><p>太陽神は振り返り、マリーを止めんと腕を伸ばす。</p><p>俺が、ダンジョンキューブを落としていった場所だ</p><p>でておいでソフィア</p><p>拾ったダンジョンキューブを掲げ、マリーはその名を呼ぶ。</p><p>名は、神に力を与える。マリーがソフィアと名付けたのは、ダンジョンの神だ。全て太陽神に取り込まれても、その力の名残は全てのダンジョンに残っている。</p><p>だから太陽神は全てのダンジョンを一繋ぎにし、支配した。独立したダンジョンがあれば、それを奪い返されかねないからだ。</p><p>けれどその全知の目からすら、それは見逃されていた。</p><p>四方半フィート（約十五センチ）の、極小のダンジョン。そもそもそれをダンジョンと認識するものは、世界でもごく少数だからだ。</p><p>太陽神にそっくりなしかし、手のひらに乗るほどに小さな神の姿が、渦を巻いて現れる。それこそはかつてソフィアがダンジョンキューブの使用権をOlから貸し与えられた時の名残。僅かに残った、ソフィアという神の残照であった。</p><p>馬鹿な！何故！</p><p>太陽神は叫ぶ。有り得ないことが有り得べからざることが起きていた。</p><p>何故生きている！？</p><p>Olの背後から現れたのは、確かに殺したはずのザナ、ラーメス、ホスセリ、イェルダーヴ、スピナの姿。</p><p>全知の太陽神をも騙し通すとは、私の作った生き人形もなかなか悪い出来ではなかったようですね</p><p>宿ってるあたし達自身が気づかないくらいだもの。そりゃ気づかないでしょ</p><p>珍しく自慢気に言うスピナに、ザナは疲れさえ滲ませて言った。それぞれの髪を一房切り取り作られた肉の人形。いつの間にか彼女達はそれに乗り移らされていたらしい。</p><p>マグマに飲まれた時は流石に死んだと思ったし実際死んだのだが、気づけば石造りの部屋の中にいた時には、地獄というのは随分Olのダンジョンに似ていると思ったものだった。</p><p>慌てて逃げ出そうとする太陽神は、ダンジョンの中であれば自由に移動できるはずの己が身が全く動かないのに気づく。</p><p>言っただろう。もう勝負はついたと</p><p>マリーからダンジョンキューブを受け取りながら、Olは言う。</p><p>お前はもう─</p><p>──わたしのいぶくろのなかだよ！</p><p>Olの台詞を奪って、ソフィアがそう言い放った。</p><p>ダンジョンキューブの見えざる迷宮(ラビュリントス)が太陽神を覆い尽くし、己の領域としている。そこはもはや太陽神のダンジョンの中ではなく、ソフィアのダンジョンの中だ。そして神は己の領域の中でその最大限の力を発揮できる。</p><p>ソフィアを取り戻すことは不可能だと、そういったな</p><p>かえしてもらうよ！</p><p>太陽神の姿がぶれて、いくつもの影が飛び出す。</p><p>大丈夫か。ふたりとも</p><p>Olは両腕を広げ、ユニスとサクヤを抱きとめた。</p><p>必ず助けてくださると、信じておりました。旦那様</p><p>ちゃんとあたしも抱きとめてくれる辺り、Olっていい男だよね。好き</p><p>二人は己を受け止めた夫を、嬉しそうにぎゅっと抱き返す。</p><p>それは私のものだ！</p><p>太陽神が、力を取り戻して十歳程度の大きさにまで戻ったソフィアに手を伸ばす。力関係はまだ太陽神の方が強いのだろう。ソフィアの身体が引っ張られ、その輪郭がブレていく。</p><p>マリー、今だ！奴に名をつけろ！</p><p>えっえっ</p><p>突然Olに命じられ、マリーはきょろきょろと辺りを見回した。</p><p>えーと、じゃあラー！</p><p>彼女がそういった瞬間、太陽神の動きが止まり、その姿が光に包まれる。</p><p>今完全にラーメスの方見て言ったでしょ。そんな適当な名前でいいの？</p><p>わかんない！</p><p>呆れ半分のザナに、マリーは屈託なく笑った。</p><p>いいや、それで良いんだ。そうだろう？ラーメス</p><p>余の名、ラーメスとは、ラーの創造せしもの、という意味だ</p><p>Olの問いに、ラーメスはどこか苦しげな表情で答える。</p><p>そうする間にも光り輝く太陽神の姿は歪み、ソフィアとは全く別の姿へと変貌を遂げていく。美しい女神の姿から包帯を巻かれた骸の姿へと。</p><p>即ちラーとは余の親。亡き父上の事を指す</p><p>ラアアメスゥゥゥ！</p><p>性別を感じさせる超然とした声色はもはや面影もなく、地獄の底から響き渡るような声で太陽神ラーは、ラーメスの名を呼ぶ。</p><p>そのようなああああ、浅ましい、姿でえええ、恥を、晒すかああああ</p><p>浅ましいのはどちらだ</p><p>びくりと身を震わせるラーメスを庇うようにたち、Olは言い放った。</p><p>死してなお子に取り付き、神の力を掠め取り、自ら太陽神を名乗る偽神めが</p><p>違う！我こそは全きもの！万物の支配者！全知全能の──</p><p>必死に否定するラーに、Olは告げる。</p><p>お前はただの、死霊だ</p><p>それはただの言葉ではない。ソフィアの力の乗った宣言。</p><p>ラーの化けの皮を剥ぎ、その力の全てを奪う宣告だった。</p><p>助けよおおおお！ラーメスうううう！私を父を！</p><p>マリーの付けた名によってそのあり方を規定され、Olの宣告によって残った力も失っていくラーは、己の子に腕を伸ばして助けを乞う。</p><p>父上</p><p>そんな彼を、ラーメスは複雑な表情で見つめた。</p><p>私を助ければ、お前も！王の中の王に！万物の支配者となれるのだぞ！</p><p>もがき苦しみながら、ラーはそう訴えかける。</p><p>Ol。すまぬ</p><p>ラーメスは数歩進むと、その手に炎を浮かべながらOlたちに向き直った。白い炎は万物を滅ぼす神の炎。彼女が太陽神の力を取り戻した証だ。</p><p>ラーメス</p><p>声をかけようとするOlを制し、ザナが一歩前に進み出る。</p><p>あんたね</p><p>彼女は長く深くため息をついて、言った。</p><p>タメとかいらないから、とっととやっちゃいなさいっ！</p><p>その言葉と同時にくるりと振り向き、ラーメスが炎を叩き込む。</p><p>何故だ！何故だああああ！</p><p>怨嗟の声とともに燃えていく死霊に。</p><p>助けるわけあるか、クソ親父っ！</p><p>ラーメスは、そう言い放った。</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-9</p><p>終わった、のよね？</p><p>燃え尽き、影さえも残らず消えたラーの姿に、ザナは呟くように尋ねた。</p><p>ふむ。試してみるか</p><p>Olは言ってザナに向きなおると、問いを放つ。</p><p>マリナ。俺の質問に最善手で答えよ。ラーは消滅したか？</p><p>はい。完全にこの世から消滅しました</p><p>ザナの口を借りて、月の女神マリナが──正確には、その権能が答える。</p><p>ななにそれ！？</p><p>答え終わるなり、ザナ本人が声を上げた。</p><p>何だ？お前、記憶を返してもらっていないのか？リルの奴め、またいい加減な仕事をしおって</p><p>ぼやくOlの胸ぐらを掴み、ザナは問いただす。</p><p>ラーの奴に心を読まれるから記憶を消したのだ。今のように、マリナの権能で聞いたラーの情報を、全てな</p><p>元々、マリナの最善手の力は、ザナもマリナも知らないはずの異国の言葉を完全に齟齬なく話すことが出来る程の力を持つ。</p><p>その結果がどうなるかマリナすら知らないが故に、マリナが知らぬことでさえ説明することが出来るのだ。</p><p>俺がまず聞いたのはこうだ。俺が今敵対している、まったき一つの太陽神と称するものの正体は何だ？とな。すぐにウセルマートの父、セテプエンラーの亡霊が太陽神の力を奪ったものと答えが返ってきた</p><p>そんなの、アリなの！？</p><p>あまりにも身も蓋もない神の力の使い方に、ザナは思わず叫んでしまった。ではOlには最初からわかっていたのだ。何もかもが。</p><p>アリに決まってるだろう。最善手を打つ能力だぞ。最善の使い方をするに決まっておろうが</p><p>ラーとの戦い自体にそれを用いるつもりは、Olにはさらさらなかった。結果がどうなるか、自分が何をするのかすら予想できない能力など、信用できるわけがない。だがしかし、その能力で得た情報は間違いのないものだった。</p><p>ラーの手を逃れて隠れ潜んでいる神、チルの存在。マリーの法術の可能性。それぞれのダンジョンで必要となるもの。ありとあらゆる質問を三日三晩しつくして──そして、その記憶を全て捨て、Olは戦いに挑んだのだ。</p><p>アリかナシかで言うと、本当はナシなのですけれどね</p><p>ザナの口を借り、マリナが少し困ったように言う。この方法を成り立たせるには、何に対して最善であるかをOlが規定できなければならない。だがマリナの啓示は本来そのような軽々しい使い方をするものではない。</p><p>飽くまで、マリナの考える最善に導くためのものなのだ。</p><p>お兄様には、今回だけ特別です</p><p>太陽神イガルクも関わっている話ですから、とマリナ。流石に神が人に無制限に力を貸してしまっては、世界の秩序も乱れてしまう。</p><p>余からも礼を言おう、魔王Ol</p><p>出し抜けに、ラーメスがいつも以上に尊大な口調でそう言い放った。</p><p>貴様。アトムか</p><p>その正体を言い当てるOlに、ラーメスの身体を借りたアトムは鷹揚に頷く。</p><p>此度の件、余としても遺憾であった。よもや同じ太陽の神の親和性を利用し、無理矢理に力を奪われるとはな</p><p>戯言を言うな</p><p>厳かに告げるアトムに、Olは身体の芯から凍りつきそうな声でいった。</p><p>太陽神ともあろうものが、たかが死霊ごときに四柱も纏めて良いようにされるわけがなかろう</p><p>ホスセリに乗り移っていたククルはかつての栄光を取り戻したい、とそう言っていた。それはおそらく、フウロの国の復興でも再生でもない。ただ一柱の太陽神としての栄華の事だ。</p><p>そしてその望みは、おそらくソフィアを除く三柱に共通する思いだったのだろう。</p><p>わはははは！バレてしまってはしょうがない</p><p>Olに図星を突かれたアトムは、罪悪感を微塵も感じさせぬ屈託のない表情で笑った。</p><p>何、そう構えるな。こうして負けた以上、我らにこれ以上どうこうする力はない</p><p>反射的に警戒するOlに、どこか愉快そうにアトムは言う。</p><p>次の機会を待つさ。千年後か、二千年後かま、お前さんのような男がおらぬ時代をな</p><p>そう言い放ちラーメスの顔から、アトムの表情が消える。そして彼女は、すぐさま己の頭を抱えた。</p><p>ラーメス。お前、信仰を変えたほうが良いのではないか</p><p>検討する</p><p>唸るように、ラーメスはそう答えた。太陽神はけして悪神の類というわけではないのだ。ただ野心に溢れすぎ、人の都合を大して重要視していないだけで。</p><p>そして何より。</p><p>パパ</p><p>その野心に巻き込まれる形になった娘の声に、Olは振り返った。</p><p>ごめんなさい迷惑、かけちゃって、ごめんなさい</p><p>謝ることはない</p><p>ぼろぼろと涙をこぼす娘の頭を、Olは優しく撫でてやる。</p><p>でもわたしが、わがまま言ったからこんな、ことに</p><p>それの何が悪い</p><p>断固とした口調で、Olは言った。</p><p>子は親にわがままを言うものだろう？</p><p>その柔らかな緑の髪を指で梳いてやりながら、続ける。</p><p>ましてやお前は俺の娘であり妻でもあるのだからな</p><p>パパ！</p><p>ソフィアはぱっと表情を輝かせると、Olに一も二もなく飛びついた。</p><p>好き。すき！だいすき！</p><p>その豊かな双丘を押し付けるように、ぎゅうぎゅうと抱きしめるソフィア。しかしふと何かに気づいたように、彼女は視線を下に向けた。</p><p>でもわたし、ちゃんと奥さんのお務め、できるのかな</p><p>その脳裏に浮かぶのは、太陽神に取り込まれる直前のこと。ソフィアを抱こうとするOlのものが、どうしても萎えてしまう光景だった。</p><p>それについては既に原因も対策も考えてある湯を張ってくれるか？</p><p>うんというか、ダンジョン、全部戻すね</p><p>ソフィアが言った途端に轟音とともに大地が揺れ、しばらくして収まる。それとともに壁から湯が湧き出してきて、浴槽を満たし始めた。元々の火山があった場所から湧き出していた温泉に、水路が繋がったのだ。</p><p>リル、皆に連絡を</p><p>Olが掲げた革袋にするりとリルが入り込む。</p><p>あれ、それ壊されてなかった？</p><p>俺が予備を用意しておらぬわけ無いだろう</p><p>首を傾げるザナに、Olは当たり前のように答えた。そう言いつつも、彼自身記憶を取り戻すまではローブの隠しポケットに予備が入っていることに全く気づかなかったのだが。</p><p>あの、皆って？</p><p>ソフィアにはまだ紹介しておらぬものもいたな</p><p>一体何が始まるのかと戸惑うソフィアにOlがそう答えた時、浴室の扉が開いた。そこから現れたのは、何人もの美女たちだ。</p><p>紹介しよう。エレン、セレス、ミオ、ナジャ、Shal、ウィキア、Faro、オリヴィア、パトリシア、プリシラ、ノーム、メリザンドユツにテナ、タツキ、サクヤ、ホスセリ、ミシャとザナ、イェルダーヴは知っているな。それに、ラーメスあとは</p><p>わらわも、くわえて</p><p>現れた女性たちの名を呼ぶOlが岩壁に目を向けると、その中からするりと小さな姿が現れた。</p><p>お姉様！？</p><p>ミレニアムロリキターーーーーー！！</p><p>チルの姿に目を見開くサクヤの驚きをかき消すような勢いで、マリーの影からローガンが飛び出す。</p><p>一万年以上生きてるらしいけど、ロリなの？</p><p>わかってねえな</p><p>素朴な疑問を口にするリルに、ローガンはちっちっと指を振って答えた。</p><p>例えば犬猫が五歳と言ったらそりゃもう立派な大人だろ。その逆で、成長速度が極めて遅いだけで、成長しないわけじゃねえ。一万年経っても、立派なロリつまりミレニアムロリだ</p><p>何がつまりなのかはわからなかったが、それはチルにとっては聞き逃がせない情報だった。</p><p>まことか？わらわ、せいちょうできるのか？</p><p>おうよ。まああと十万年くらいしたら、俺のストライクゾーンから離れるんじゃねえか</p><p>恐らくは、本当だろうな</p><p>ローガンの言葉を、Olは保証した。事この手の話に限っては、ローガンの言うことは恐ろしく正確だ。そう言えばこいつ、全知全能の神すら気づかなかったチルの存在を感知してなかったか？と思い出す。</p><p>お待ち下さい！妾は！？妾は十万年後どうなるのです！？</p><p>知るか、ババアの成長になんか興味ねえよ！</p><p>妾の方が妹なのに！？</p><p>チルとは打って変わって雑極まりない対応に、サクヤは愕然とする。</p><p>連れて行け</p><p>パチン、とOlが指を鳴らすと、ローガンの四本の腕をエレンの四人の部下がそれぞれ担ぎ上げて引きずっていく。</p><p>あっ畜生Ol何しやがる！もっとロリと話させろ！アイルビーバーック！あっでも俺の下の右腕担いでる子は結構発育悪くていい感うおぉっ！矢を刺すな、矢を！あれっこれなんかヤバい毒が入って──</p><p>やかましい悪魔が物理的に沈黙して静かになったところで、Olは気を取り直してソフィアに向き直る。</p><p>ゴホン。これにリル、ユニス、スピナそしてお前の母、マリーの四人を加えて、皆、俺の妻お前の、仲間だ</p><p>思ってたより大分多いという言葉を飲み込んで、ソフィアは頷く。</p><p>あの時お前を抱いてやれなかった理由は単純だ。お前に魅力がないわけでも、俺の覚悟が出来ていなかったわけでもない。ただ俺の精力が足りなかっただけだ</p><p>精力が、足りない？</p><p>Olの発言に、妻たちがざわめいた。七日七晩不眠不休で女を犯し続け、百人を超える相手を一度に満足させてもなお衰えぬOlの精力に、足りないなどと言うことがあるとは思えなかったからだ。</p><p>ソフィア。お前は地に隠れる太陽の神であり、同時にダンジョンの神でもある。つまりその権能は常に内側に作用する</p><p>己のダンジョンの中であれば自在に操ることが出来るが、それも言ってしまえば内側の定義を拡張しているに過ぎない。</p><p>故にお前の体内は神気で満ちあらゆる術を無効化する</p><p>理屈としてはピラミッドの中で術を使えないのに近いのだろう。違いは、既に発動している術や呪いをも一時的に解除してしまうということだ。</p><p>つまり。お前に挿入しようとする時、俺の一物は九十三歳のそれになる</p><p>ソフィアは息を呑んだ。今のOlの姿は、魔術によって若返ったものだ。魔力での回復なしでもOlの精力は絶倫と呼んで良いものだが、それとて若い肉体があってのこと。本来の肉体は、今すぐ死んでもおかしくないほどの高齢なのだ。</p><p>じゃあじゃあ、わたしは、やっぱり</p><p>対策はあると言っただろう</p><p>目を潤ませるソフィアに、Olはきっぱりと言い放つ。</p><p>でも、どうやって？</p><p>仮にもソフィアは全能の神なのだ。意識せず働いている権能を打ち消すことなど出来ないのではないか。</p><p>そう心配するソフィアに、Olは言った。</p><p>百手前の爺であっても女を抱けるほどに、興奮すれば良い</p><p>第21話全知全能の神を斃しましょう-10</p><p>そ、そんな事して死なない！？</p><p>若返りが解けると言っても局部だけの話だ。心肺機能や脳に衰えがなければ問題ない</p><p>Olはそう言ってソフィアを全能の神を、押し倒した。</p><p>んっむ、ふちゅるるん、ふ、ぅんちゅぅんむふはぁ</p><p>そのまま唇を奪われ、たっぷりと舌で舐られ絡め取られて、Olの唇が離れる頃にはもはや抵抗の気力もなく、ソフィアはとろとろに蕩けた表情で満足気に息をつく。</p><p>なんかもうこれだけでも、満足かも</p><p>何を言う。これで終わりなわけがあるか</p><p>ぐったりとするソフィアにそう言い放つと、Olは彼女の服を脱がしにかかる。それと同時に、周囲を取り囲んだ他の妻たちも衣服を脱ぎ始めた。</p><p>わ、凄い</p><p>白磁のような白から黄色みを帯びたベージュ、褐色から黒まで、様々な色の肌がOlの周りをぐるりと取り囲む。共通するのは、どれも美しい裸身だということだ。</p><p>失礼します。Olさまのおちんぽ様に、ご挨拶させて頂きますぅ</p><p>艶めかしい妻達の姿にムクムクと頭をもたげたOlのペニスに、真っ先に近づいてきたのは白アールヴの僧侶、Shalであった。</p><p>では、私もご一緒させていただこう</p><p>こういうのも久しぶりね</p><p>そこに元冒険者仲間であった女剣士のナジャ、魔術師のウィキアが加わって、三人は顔を寄せ合い膨れ上がった亀頭にちゅ、ちゅと音を立てて口づける。</p><p>お背中、お流ししますね</p><p>そういってざばりと背に湯がかけられたと思えば、ミオがその純朴な顔つきに似合わぬ豊かな乳房を泡立てて、Olの背中に優しくこすりつけてくる。</p><p>我々も協力しよう</p><p>今回の活躍のご褒美はまた今度、ですね</p><p>それに倣ってエレンとセレスも胸をスポンジ代わりに泡立てて、三対六つの柔らかな肉がOlの広い背中を隅々まで洗っていく。</p><p>ではあたし達は前側を失礼しましょうか</p><p>はーい、っと。こういう時身体小さいのは便利だよね</p><p>ノームとFaroが、跪いて口淫奉仕するShalたちの隙間を縫うようにしてその小さな体を割り込ませ、Olの胸元へと舌を這わせる。</p><p>旦那様。お手を拝借いたしますね</p><p>サクヤがたおやかにOlの右手を取ると、それを豊満な己の胸の谷間に埋めていく。</p><p>姫様。私も手伝う</p><p>うううこ、このような孕めもせぬ破廉恥な真似は恥ずかしいのだが</p><p>そして挟みきれなかった前腕を、前後からホスセリとミシャが乳房で挟み込んだ。</p><p>これは負けておれん！いくぞイェルダーヴ。余とおっぱい合わせだ</p><p>お、おっぱえと、胸を、こうすればよろしいのでしょうか</p><p>その様子を見てラーメスは己の果実を突き出すように胸を張ると、イェルダーヴと押し付けあってOlの左腕を挟む。</p><p>そしていっそ優しい声で、ラーメスは氷の女王に語りかけた。</p><p>お前にはこの戦いはついてこれまい。そこで指を咥えてみておけ</p><p>やかましいわ！</p><p>ザナは叫んで、しかしその勢いとは裏腹にOlの手のひらを優しく両手で掴む。</p><p>別に胸なんてなくったってねOlを喜ばせる方法なんか幾らでもあるのよ</p><p>そしてその指を口に含み、一本一本丁寧に舐め清め始めた。</p><p>その通りです、異国の貴き方</p><p>ザナの言葉に答えたのは、元フィグリア王妃、オリヴィアである。リルやサクヤ、ラーメスにすら勝る巨乳の持ち主がそれを言うのはともすれば嫌味に聞こえただろうが、ザナはそう受け取らなかった。</p><p>オリヴィアが、二人の娘、パトリシアとプリシラと共にOlの左足に舌を這わせて献身的に奉仕し始めたからである。</p><p>たつきもおうるの足食べる！</p><p>ほ、本当に食べちゃ駄目ですよ？タツキさん</p><p>ではこちらは、このような趣向ではどうじゃろうか</p><p>タツキが嬉しそうにOlの右足の指を咥え込み、ユツとテナが脛の辺りに乗るようにして、そのすべすべした尻を押し付ける。狸とキツネのふさふさとした尻尾が撫でるように揺れて、Olの性感を刺激した。</p><p>じゃ、わたし達はOlの目を楽しませてあげるとしましょうか</p><p>リルがその豊かな双丘を両手で持ち上げ、淫靡に舌をちろちろと伸ばしながら自ら揉みしだき、ぐにぐにと柔らかな肉が形を変えるさまを見せつける。</p><p>どうぞ私のすべてを、御覧ください、お師匠様</p><p>スピナは大きく脚を開いた姿勢で、己の秘所を指先で割り広げ、そのピンク色の粘膜の奥までをもOlの前に晒してみせる。</p><p>うう、ちょっとこういうのは、流石に恥ずかしいね</p><p>ユニスはいつになく照れた様子で言いながらも、四つん這いになってOlに尻を向け、ふりふりと腰を振って誘惑した。</p><p>うふふそれじゃあ、そろそろこの逞しいおちんぽ、頂いちゃいますね</p><p>よだれを垂らしそうなほどに発情し、Shalは反り立つ男根を凝視しながら嬉しそうに言うと、それを己の膣内に収める。</p><p>あぁっOl様のおちんぽ、気持ちいいですぅっ！Shalのおまんこにずっぽり入って、イっちゃイっちゃいますぅっ！</p><p>早いわよ</p><p>ぎゅうっと締め付けるShalの膣口でOlのペニスを扱き立てるかのように、ウィキアがShalの身体を引き抜く。</p><p>次は私の番ね。んっ</p><p>そして愕然とした表情のShalをよそに、Olの腰に跨ると怒張を咥えこんだ。</p><p>いや、元々そういう話だっただろう。何を驚いてるんだ</p><p>ナジャがそう言って、数度抽送を繰り返したウィキアと代わってOlの剛直を迎え入れる。そうして、Olの身体を取り囲んでいた美女たちは入れ代わり立ち代わりOlと交わっていった。</p><p>それは自らが気持ちよくなるための性交ではなく、Olを高ぶらせるための愛撫。手や口、胸を用いてするのと同じような、膣口での奉仕であった。</p><p>頑張ってね、ご主人様</p><p>リルがそう言いながらきゅっと肉槍を締め上げて口づけ。</p><p>お師匠様どうか、ご武運を</p><p>スピナが祝福を授けるように接吻し。</p><p>Olならきっと大丈夫だよ。ね</p><p>ユニスがOlの首に腕を回して、濃厚に舌を絡める。</p><p>さ、仕上げだよ、Ol</p><p>そうしてリルが示す先には、若返ったままの姿のマリー、それに合わせて本来の姿に戻ったメリザンド、そして不安げな表情のチルの三人が一糸まとわぬ姿で横たわっていた。その実年齢は平均六千を超えるとはいえ、恐ろしく背徳的な光景だ。</p><p>いくぞ</p><p>うん、きてててさま</p><p>他の誰にも聞こえぬような小さな声で、メリザンドが甘えた声を上げる。その小さく狭い膣口に、Olの肉塊が突き入れられた。</p><p>メリザンドが、痛みに表情を歪める。魔導王のかけた不犯の呪いはミシャの境界をくぐり抜ける権能で無効化出来るが、その不死の呪いまではそうもいかない。行為を終える度にメリザンドの純潔の印は甦り、何度肌を重ねようと身体は慣れることなく痛みを帯びる。</p><p>大丈夫、だ</p><p>けれどその心、想いまでは呪いとても縛ることが出来ない。そうして互いの暖かさを知る度にメリザンドの心はOlに惹かれ、その思慕は身体から硬さを減らし、幸福で満たしていく。</p><p>今のわたしにはこの痛みさえも愛おしい</p><p>その言葉に誇張はなく、メリザンドは目尻に涙を浮かべながらもOlを受け入れていた。</p><p>チル。本当に良いのか？</p><p>メリザンドから引き抜いて、Olは岩の女神にもう一度、問う。それは二つの意味を持っていた。会ったばかりの男に操を捧げて良いのか。そして、このような形で初めてを迎えてもいいのか、というものである。</p><p>わらわでほんとうに、こうふんしてくれるのだな</p><p>小さな手が、Olの猛った肉に触れる。それは火傷しそうなほどに熱く、岩のように硬く張り詰め、目の前の女の中に入りたいと声高に主張しているかのようであった。</p><p>してほしい。わらわをおんなとしてみているのだと、じっかんさせてほしい。ほかのおんなたちとサクヤとおなじようにだけるのだと、おしえてほしい</p><p>つい、と切っ先をあてがうチルのそこは、リルの手によって如才なくこれ以上ないほどに柔らかくほぐされていた。とは言えあまりにも小さなその入口を、Olはぐっと腰に力を込めて押し入っていく。</p><p>く、ぅぅ！</p><p>苦悶の声とともに、チルはその小さな全身でOlにぎゅっとしがみつく。</p><p>もう少しの我慢だ</p><p>まるで岩で出来た扉を押し開くかのように、Olは彼女の膣奥までを貫いた。</p><p>はぁ、ぁ</p><p>チルの目元から、涙が溢れる。それは苦痛ではなく、悦びの涙だった。</p><p>いちまんねんいじょうわらわは、だれにもかえりみられることがなかったきらわれ、うとまれ、とおざけられてひとりこどくに、いわのへやにいた</p><p>チルはOlの頬に両手で触れると、微笑んで言った。</p><p>そんなわらわをおっとは、ほんとうにあいしてくれるのだな</p><p>即座に答え落とされる口づけを受け入れながら、チルは幸福に打ち震えた。</p><p>正直に言えば、自分は利用されただけだと思っていた。Olはただチルの力が必要だから娶るなどと口にしたのだと。</p><p>チルはそれでも良かった。他者から必要とされること、それだけで十分に嬉しかった。けれどもOlがくれたものは、彼女の予想を遥かに超えていたもので</p><p>しあわせでおかしくなりそうだ。いまは、これでじゅうぶんまんぞく。つぎのおうせを、たのしみにしてる</p><p>チルは心の底から、そう伝えた。</p><p>おうるさま</p><p>そして、自分をすっぽりと覆うように抱擁する男の顔をじっと見つめ、マリーは潤ませる。</p><p>わたし、わたしね。ほんとうはずっと、このころからOlさまに、ぎゅってしてほしかったの</p><p>自分が大人にまで成長した記憶は、彼女の心のなかにある。けれど今のマリーにとってそれはどこか遠いおとぎ話のように実感のないもので、十年分の積み重なった想いだけが、彼女の幼い心の中に息づいていた。</p><p>おうるさまをこまらせないように。かなしませないように、いわなかったの。でもいまは、いってもいいんだよね？</p><p>頷くOlに、マリーはぎゅっと抱きついた。</p><p>あのね、おうるさま。マリー、おうるさまのこと、だい、だい、だいすきだよ。すっごくすっごく、すきなの</p><p>幼い、けれどもそれ故にこれ以上ないほど真っ直ぐな好意の形を、マリーははっきりと口にする。</p><p>だからマリーのこと、およめさんにしてほしい</p><p>Olの声色は、口調とは裏腹にこれ以上ないほど優しく。</p><p>とっくにお前は、俺の妻だ</p><p>やったぁ</p><p>ふにゃん、と笑うマリーの表情に、Olは思わずドキリとする。一瞬、幼女趣味(ロリコン)も悪くないかもしれぬ、などと思いかけてしまった。</p><p>一瞬よぎりかけた悪魔の顔を振り払うように、Olは自身をマリーの蜜壺へと押し当てる。できるだけ痛みを与えぬようにと慎重に押し込もうとすると、意外にもマリーの小さなそこはあっさりとOlの太く硬いものを飲み込んだ。</p><p>一瞬の困惑のあと、法術がまだ効いているのかと理解する。全能の神の攻撃を尽くかわす程の奇跡があれば、この程度のことは何でもないだろう。</p><p>そうではない。法術などはおまけに過ぎない、とOlはすぐに考え直す。マリー自身が、心の底からOlと結ばれたいと思っている。だから、その身体がOlを受け入れているのだ。</p><p>Olはマリーの小さな体をぎゅっと抱きすくめ、抽送を始める。たっぷりと蜜をたたえたマリーの膣内はするりと奥まで男を飲み込んで、それでいて千切らんばかりのキツさで締め付けてくる。</p><p>んっあ、んっ</p><p>マリーの唇から、幼くも艶めかしい吐息が漏れる。その無垢な体と心で、ちゃんと感じているのだ。</p><p>Olは背を曲げ、マリーの可憐な唇を奪う。するとすぐさま、Olの差し入れた舌に小さな舌が応えた。拙い動きで、しかしそれでも一生懸命にちゅうちゅうと吸い付き、舌を絡め返してくる。</p><p>マリーの短い手足がぎゅっとOlにしがみついて、射精をねだるように腟内がきゅうきゅうと収縮する。Olの我慢が限界に至る寸前、マリーの身体はぷるぷると小さく震えた。気をやったのだ。</p><p>ふぁんっ</p><p>己の内から男根が引き抜かれる感覚に、マリーはもう一度絶頂に達して甘く鳴く。今すぐこの娘を穢し犯してやりたい、という衝動を必死に堪えて、Olは残る一人に視線を向けた。</p><p>パ、パぁ</p><p>眼前の幼女とは真逆に、成熟しきった肢体を持つ娘。ソフィアが、度重なる性交を目の当たりにし、発情しきった身体でもどかしそうにOlを呼んだ。</p><p>二十三人の妻の膣で扱き立てられ、三人の処女を立て続けに奪った男根ははちきれんばかりに屹立し、行き場を求める精液が袋の中でグツグツと煮立っているかのようだった。</p><p>きてぇ</p><p>両腕を伸ばし求めるソフィア。もはや言葉は不要であった。Olは一も二もなく彼女の身体に伸し掛かると、その極上の肢体を貪るように味わう。しっとりと手に吸い付くような肌。もっちりとした、この上ない程大きく柔らかな乳房。瑞々しく甘い、とれたての果実のような唇。</p><p>その全てを堪能しながら、Olは鉄のように硬く反り立った怒張を、一気にソフィアの膣内へとうずめた。</p><p>彼女の中へと入り込んだ先から、魔術が解ける感覚がわかる。しかしそれは微塵も硬度を失うことなく、ソフィアの純潔の証を突き破って、そのまま白濁の液を彼女の膣奥へと撒き散らした。</p><p>同時にソフィアも絶頂して、ぎゅうっとOlの身体にしがみつく。一滴たりとも取りこぼさぬと言わんばかりに彼女のすらりとした脚がOlの腰に巻き付いて、蠕動する膣内がOlの男根を締め付けながら扱きたて、さらなる射精を誘う。</p><p>二人とも微動だにせぬままたっぷり数十秒、絶頂の快感とその余韻とを味わって</p><p>は、ぁ</p><p>やがてソフィアの体中からこわばりが抜けて、彼女はくたりと脱力した。破瓜の痛みすら気にならぬほどの多幸感と快感が、彼女の意識をふわふわと漂わせる。</p><p>これで終わりではないぞ</p><p>だが、まどろみにも似たその感覚は、突き入れられる熱い肉の塊によってすぐに覚醒させられた。</p><p>えっな、なんで！？</p><p>たっぷりと精を放ったはずのOlの剛直は、むしろ更に熱く硬く膨れ上がっていた。</p><p>お前の中を、征服した</p><p>それは、Olが太陽神との戦いでやったことと全く同じことだ。吐き出し、塗り込めた精液でソフィアの膣内を己の領域と規定し、その境界を奪い取った。故にOlの男根は元の若々しさを取り戻してそして、散々昂ぶらされた獣欲は、一度の射精で萎えるようなものではなかった。</p><p>ひあぁうっ！</p><p>いきなり全く容赦のない本気の突きを入れられて、ソフィアは高く鳴く。しかしそれは苦痛ではなく、快楽の声。</p><p>なんでぇっ！あぁっ！</p><p>膣内の一番感じる部分を、ピンポイントで貫かれたからだった。</p><p>お前は俺のダンジョンだ</p><p>たっぷりとした胸を鷲掴みにして、その先端を指先で捏ね回しながらOl。</p><p>だからその身体のことは、隅々まで全て誰よりもよく知っているとも</p><p>はぁぁんっ！</p><p>きゅうと摘み上げれば、奔る快感にソフィアは悲鳴のような喘ぎ声を上げた。</p><p>あんっ、あぁんっ！だめぇ、そこ、あっ、やぁんっ！</p><p>Olの言葉に偽りはなく、触れられる場所、突かれる場所、全てがソフィアの急所を的確に抉って、彼女はただただ翻弄され快楽に身を捩りながら鳴き声をあげることしか出来なかった。</p><p>あっあっ、また出てる、また出てるよぉっ！</p><p>何度も何度も気をやって、何度も何度も膣内に射精されながら、二人は獣のように交わり続ける。</p><p>オウ、ルぅ</p><p>くいと肩を引かれる感触にOlが顔を上げると、目の前には切なげに眉を寄せるユニスの顔があった。</p><p>ごめんでも、もう、我慢できないよぉ</p><p>くちゅくちゅと秘所に自らの指を這わせながら、彼女はそう訴えた。</p><p>今回はソフィアと交わる協力をするためのものだと、了解してはいた。いたが、あまりにも濃厚なOlとソフィアの交わりに当てられて、もう限界であった。</p><p>そして、それは何もユニス一人に限った話ではなかった。</p><p>周りを取り囲んで一心に視線を向ける妻たちの顔を見て、Olはソフィアを見た。</p><p>ソフィアはこくりと頷いて、この上ないほど幸せそうな表情で、言った。</p><p>みんなで、たくさんえっちしよ</p><p>瞬間、Olの姿が数人に分かれた。</p><p>これは！？</p><p>わたし達は四人が一人になってたんだから逆も、出来るかなって</p><p>驚愕するOlに、ソフィアは答える。いくつもの形代を操っている時の操り人形を操っているような感覚とは違い、すべてのOlが意識を持ち、その感覚を共有していた。</p><p>そしてそれと同時にソフィアを含む二十七人の妻達もまた、その感覚を共有する。それはソフィアとOlの二つのダンジョンの、睦み合いであった。</p><p>ソフィアの奥を突きながら、サクヤを抱き寄せ胸を鷲掴みにし、ユニスの舌を貪りながら尻を掴んで弄ぶ。</p><p>リルの胸を両手で揉みしだきながら、ミオの献身的な口づけを受け入れ、馬乗りになったザナに種付けする。</p><p>スピナの喉奥に精を流し込みながら、メリザンドとマリーの膣内に指先を突き入れ膣壁を擦り上げる。</p><p>ナジャとエレンの褐色の胸を鷲掴みにしつつ、寄せ合ったもう片方の乳首を纏めて口に含んで吸い上げ、オリヴィアのたっぷりした乳房の間にペニスを挟んで犯す。</p><p>床に突っ伏すようにして尻を高く掲げ、秘所を指で開いて晒すユツ、イェルダーヴ、Shalの膣内へと交互に突き入れる。</p><p>左右から抱きつき口づけをねだるセレスとパトリシアに応えながら、ラーメスの頭を両手で抱え、その口を激しく犯す。</p><p>塔のように重なって尻を向けるウィキア、ホスセリ、ノームの六つの穴を、順番に指と口とペニスとで満たしていく。</p><p>プリシラ、Faro、テナが顔を揃えてOlのペニスに舌を這わせ、チルとミシャの膣内を指で擦り上げながら、タツキが両手で掬い上げるようにして掲げる乳房を唇で食んでいく。</p><p>舌、唇、胸、膣、尻、ありとあらゆる部分で感じる快楽が互いに何重にも重なって、Olは間断なく妻達の身体に吐精する。相手を変え、組み合わせを変え、行為を変えて、何度も何度も。</p><p>──太陽がのぼり、そしてもう一度沈むまで。その宴は、続いた。</p><p>拝啓。パパ、ママのみんな、おげんきですか？わたしは元気です。</p><p>相変わらずトスカンおじいちゃんは厳しいけれど、ダンジョンの運営もだいぶ軌道に乗って、やっと何とか一段落といった感じです。</p><p>ザナさんやラーメスさん、サクヤお姉ちゃん達とも仲良くやってます。ザナさんとラーメスさんは相変わらず喧嘩ばっかりしてますけど、あれはあれで仲がいいんだと思います。思うことにしました。</p><p>ところで最近タツキお姉ちゃんを見ないんですが、どこに行ったか心当たりはありませんか？タツキお姉ちゃんの事だから心配ないとは思うんですが、心配です。</p><p>そう言えばラーメスさんは、結局太陽神の棄教を決心したみたいです。代わりにこれからはわたしを信仰すると言われてちょっと困ってます。</p><p>これから寒くなる季節ですが、お体にはくれぐれもお気をつけて。また手紙を出しますね。</p><p>──親愛なる、ソフィアより。</p><p>Olは愛娘からの手紙をゆっくりと読み上げると、長く息を吐きながら椅子に身体を預けた。</p><p>あのあと。Olは新大陸に別れを告げ、己のダンジョンでの生活に戻った。ミシャとの契約は、一年しか持たない。自由自在に境界を操る術をなくし、Olは遠い地の娘と会う方法を失った。</p><p>なにせ船で行こうとすれば片道一ヶ月かかる距離である。多忙な王であるOlが娘と会うためだけにそうそう留守にする事もできず、ソフィアの方は己の領域であるダンジョンを離れられない。</p><p>航路自体は確立できたから交流はあるものの、こうして送られてくる手紙だけがよすがであった。新大陸での一年あまりの冒険と戦いが、まるで夢物語のように感じられてしまう。</p><p>もう一度深く息を吐き、Olは返事をしたためようと羽ペンにインクをつける。</p><p>ジリリリリリリ、と侵入者を示す警報が鳴り響いたのは、その時のことだった。</p><p>何事だ！</p><p>この警報の音は、Olが初めてダンジョンを作ったときから変わらぬもの。即ち、ダンジョンの最奥、Olの住む居住区まで侵入を許した時の音だった。</p><p>そこまで侵入するような相手は滅多にいない。ことに、こうしてダンジョンを天と地に分けてからは初めてのことであった。</p><p>侵入者はどのような奴で、何人だ！？</p><p>それが、何ていうか</p><p>Olに問われたリルは、何やら妙な表情で言葉を濁す。どういう事だ、と問い返す暇もなく、いきなりOlの部屋に大量の水が流れ込んできた。しかもただの水ではない。舌先に感じるピリピリとした塩気に、Olはそれが海水であると知る。</p><p>おうるー！</p><p>そして思考がその存在に至るより早く、飛びついてきたタツキにOlは押し倒された。</p><p>タタツキ！？</p><p>あいにきたよー！</p><p>ぎゅむぎゅむとOlの顔を己の胸に押し付けるように抱きついてくる海の女神に、流石のOlも目を白黒させた。</p><p>ここまで泳いで、来たのか！？</p><p>船の距離で一ヶ月。難攻不落の罠と魔物に満ちたダンジョン。それを海水とともに、渡ってきたというのか。</p><p>そうだよ！</p><p>よもやと思いつつも問うたその言葉に、ざばりと周囲の海水を纏うようにしながら、タツキはこくりと頷いた。</p><p>明らかに海からは遠く離れているが、海水さえ周りにあれば問題ないというのか。</p><p>言うのだろうな</p><p>相変わらずのむちゃくちゃぶりに、Olは声を上げて笑った。</p><p>リル。タツキの部屋を用意させろ。この調子でダンジョン中を塩だらけにされては敵わん</p><p>とりあえずお前はこの中にでも入っていろ</p><p>Olはそう言って、ダンジョンキューブを展開し即席の浴槽を作り上げる。</p><p>あ、なつかしい、これ！</p><p>タツキは海水ごとちゃぷんとその中に入り込んで、踊るようにくるくると泳ぎ回る。そういえば最初にタツキと出会った時も、こうしてダンジョンキューブの中に捕獲したのだった。</p><p>しかし自由な奴だ。他の神は己の領域を離れられぬと言うのに</p><p>いやと、Olは思う。それは自分も同じことだ。</p><p>だって、海はぜーんぶつながってるんだよ</p><p>腕を広げ無邪気に言うタツキに頷きかけて、Olは目を見開く。</p><p>そうか。はははは！そうか、その手があったか！</p><p>すぐさま彼は執務机に座って、計算を始めた。</p><p>こちら側とあちら側、どちらが早い？いや、言うまでもない、双方からだ。となれば綿密な計算が必要になる地図をしかし海の上でどうやって</p><p>ぶつぶつと呟きながら羊皮紙に複雑な計算を書き連ねるOlは、ふと己をじっと見るタツキに視線を向けた。</p><p>タツキ。お前は、海の神だよな</p><p>うん。そうだよ</p><p>であれば海の形を、正確に描けるか？</p><p>こんな感じ？</p><p>くるくるとタツキが空中に指を走らせると、海水が意思を持っているかのように鎌首をもたげ、宙に絵を描く。それは二つの大陸や島々を空白にした、克明な海図であった。</p><p>素晴らしい！</p><p>Olは思わず立ち上がって、濡れるのも構わずタツキをぎゅっと抱き寄せる。</p><p>やんっ、おうる、たつきの事たべちゃうの？</p><p>悪いがそれは後回しだ。これから忙しくなる。悪いがお前にも協力してもらうぞ</p><p>Olの言葉に、タツキは不満げに唇を突き出す。</p><p>無論ただでとは言わん。美味い飯を存分に食わせてやる</p><p>やるぅ！</p><p>だが続く言葉に、一も二もなく同意した。</p><p>ではゆくぞ、マリー</p><p>うん。Olさま</p><p>Olとマリーは二人で一振りのつるはしを握ると、それを壁に振り下ろした。その一撃で、鈍い音を立てて壁に小さな穴が空く。かと思えば次の瞬間、壁は溶けるように消えて、掘り抜かれた岩壁は石造りのレンガに包まれた。</p><p>パパ、ママぁっ！</p><p>そしてほとんど間を置かずに、ソフィアがOlとマリーの腕の中に飛び込んできた。</p><p>久しいな、ソフィアよ</p><p>元気だった？</p><p>Olとマリーは愛娘の柔らかな身体を抱き返す。</p><p>着工から、僅かに数ヶ月。</p><p>二つの大陸を結ぶ長大な海底トンネルが、開通した瞬間であった。そしてそれは同時に、二つのダンジョンが一続きとなった瞬間でもある。</p><p>驚異的な工期の短さはソフィアのダンジョンの神としての権能もさることながら、タツキのもたらした海底の詳細な地図とOlの計算、魔王軍の誇る工作部隊、事故や失敗を防ぐテナの予知にマリナの最善手の権能など、ありとあらゆる手段を尽くしての結果であった。</p><p>じゃあ、連れて行くね！</p><p>ソフィアがそういった次の瞬間には、Ol達はもう見覚えのある部屋へと移動していた。火山のダンジョンに作った、Olの寝室だ。</p><p>己の領域の中でなら全能の力を揮えるソフィアの権能を持ってすれば、ダンジョン内ならどこへでも一瞬で移動できる。つまり、船で一ヶ月かかる距離を、これからは一瞬で超えられるということだ。</p><p>三つ指をついて、サクヤがOlを出迎える。</p><p>ずっとお待ちしておりました</p><p>泣くでない</p><p>頬を濡らすサクヤを、Olは言葉少なに抱き寄せる。</p><p>いいえ。これは嬉し涙です</p><p>その胸に顔を埋めるようにしながら、サクヤはそう囁いた。</p><p>えっと、盛り上がってるところ水をさすようで悪いんだけどさ</p><p>抱き合う二人の横から、気まずそうにザナが声をかける。</p><p>同じことをうちにも何とか出来ないかって</p><p>そう言って、彼女が指差したのは居城である氷の城ではなく、真上。</p><p>──マリナ様が</p><p>遥か彼方、月の上であった。</p><p>Olは妻達を抱き寄せて。</p><p>次は月にも届くダンジョンを、作ってみせようではないか</p><p>笑いながら、そう宣言した。</p><p>んっふぁああっ</p><p>純白の城の中に、艶めかしい声が響く。</p><p>もうお兄様ったら</p><p>咎めるようでいて、どこまでも男を許す甘い声。</p><p>そんなに胸に吸い付いても、まだミルクは出ませんよ？</p><p>そして同時にどこまでも甘え、媚びる女の声であった。</p><p>ほう。まだということは、神というのは人の子を孕むものなのか？</p><p>その白い居城の主──月の女神マリナを膝に乗せ、寝台に座るのは琥珀色の髪を持つ中背の男。魔王Olであった。</p><p>対面座位の形でマリナを貫きながら、右手で彼女の左胸を弄びつつ、ピンと尖った右胸の先端を唇でついばみ、舌先で転がす。</p><p>ぁん稀にですけど、そういったこともあるみたいです。神といってもんっ生き物であることに、代わりはありませんからや、ぁん、そんな、甘噛みしちゃあっ</p><p>最近のマリナの口調は神としての威厳に溢れた厳かなものではなく、まるで本当の兄に甘えているかのような、砕けた気安いものへと変化していた。</p><p>なるほど。では、しっかりと種を仕込んでやろう</p><p>もうっそんなこと言って、容赦なく中出しするのはいつものことじゃないですかああんっ！</p><p>口を封じるように一際強く突かれ、マリナは高く声を上げる。</p><p>嫌だったか？</p><p>別に、嫌というわけではありませんけどもう</p><p>マリナは唇を尖らせ、Olの顔を恨めしげに見やる。</p><p>本当に孕んだら、こうして睦み合うこともできなくなっちゃうじゃないですか</p><p>その可愛らしい物言いに、Olは思わず笑みを漏らした。</p><p>あっ、わ、笑わないでください！これでも、お兄様との逢瀬を、わたしはそれはもう楽しみにしてるんですからね？</p><p>わかっているとも</p><p>Olはマリナの背に腕を回し、その全身を抱えるようにして抽送を始める。</p><p>あっそんな、深いっ！</p><p>だが、だからこそ、子でもいればお前の心も慰められるのではないかと思ってな</p><p>月の上にはなにもない。真っ白な砂漠だけが続く、不毛の大地だ。マリナはその上からザナたち氷の民を見守ることによってのみ己を慰めてきたが、そんな生活が寂しくないはずもない。</p><p>わたしとお兄様の、子</p><p>呟き、マリナはその光景を想像する。その幸せな未来図に、彼女の膣口はきゅうとOlを締め付けた。</p><p>お前の身体は乗り気のようだな</p><p>お兄様ぁっ！あっ、あぁっ！</p><p>身体の奥底から湧き上がってくる快楽と喜びを堪えるように、マリナは両手両足をOlの背に回してしがみつく。しびれそうなほどに子宮が疼き、自分がOlの子種をどうしようもないほど欲していることを、マリナは自覚してしまった。</p><p>はいっ！孕ませて、妊娠させてくださいっ！お兄様との子、産みたいですっ！</p><p>なら、産ませてやる。俺たちの子がこの白い大地に満ち、ここに楽園を作り上げるまで何度もだ！</p><p>～～～～～～っ！</p><p>ずん、と奥を貫く一撃とともにそう宣言され、マリナは盛大に気をやった。だと言うのに、Olはお構いなしにマリナの身体を揺らし、膣奥を蹂躙する。</p><p>あぁぁっ！お兄様ぁっ！だめぇっ！わた、し、イッ、て、あぁんっ！</p><p>パンパンと濡れた肉のぶつかり合う音を響かせ、マリナの白い尻を持ち上げながら、赤黒い暴力的な肉塊を何度も彼女の華奢な股の間に出し入れする。その度にじゅぷじゅぷと音を立てて吹き出す愛液は白くにごり、泡立っていた。</p><p>やぁっ、だめぇっ！あ、あ、あ、あぁっ！も、もうっ！ゆる、許し、あぁんっ！お兄、様ぁっ！こんなの、おかしく、なっちゃうぅっ！</p><p>間断なく絶頂させられ、悲鳴のようにマリナは懇願する。</p><p>どうして欲しいか言ってみろ</p><p>中に、膣内に出してくださいっ！お兄様のぉっ！子種ぇっ！精液、ください、あぁっ！犯して、中に出して、孕ませて！おなかっ！わたしの、おなか、おっきくしてっ！赤ちゃん、作ってくださいっ！</p><p>マリナの両脚がOlの腰をぎゅっと締め付け、秘部がぐりぐりと押し付けられる。言葉だけでなく全身を持ってOlに種付けをねだるマリナに、Olの限界も訪れた。</p><p>ではイくぞ！しっかり孕めよ！</p><p>はいっ！ちゃんと、妊娠しますっ！お兄様の、赤ちゃんっ！ちゃんと、孕むからぁっ！</p><p>腹の中でOlの男根が一際大きく膨れ上がるのを感じ、マリナはぶるりと身体を震わせる。一瞬の後、その先端から白濁の液が吹き出して、膣内を犯していくさますらはっきり見えるかのような質感。</p><p>それを感じながら、マリナは自分がほとんど無意識に膣口をキツく締め付け、Olのペニスを絞り上げるかのように腰を上下させていることに気がついた。</p><p>マリナ。それは</p><p>程なくしてOlもそれに気づく。その動きは、マリナの権能によって齎されたものであった。すなわち、最善手。目的に辿り着くために最も優れた手段を講じる力。</p><p>つまり今マリナは──神としての力を使ってまで、全身全霊で孕もうとしている。</p><p>膣口で浅ましくちゅうちゅうと精液を啜りながら、マリナは顔から火が出そうなほどに赤面した。</p><p>では、またな</p><p>はい。いってらっしゃいませ、お兄様</p><p>マリナの居城から少し離れた場所。月面に穿たれた巨大な井戸の前で、マリナとOlはそう言葉を交わした。</p><p>こうしてOlがマリナに会いにこれるのは一月に一度。満月の晩だけだ。それ以外では塞の神の力を持ってしても、大地から遠く離れたこの地に辿り着くことはできない。</p><p>ここで引き止め、夜を明かしてしまえばと、マリナはいつも思わずにはいられない。たった数刻Olの足を止めれば、少なくとも次の満月までは共にいることが出来る。</p><p>しかし、それは許されることではなかった。ただでさえ広大な国を治め、無数の寵姫を有する魔王であるOlが、忙しい合間を縫って丸一晩、マリナのために時間を割いてくれているのだ。それ以上を望めば、Ol自身はともかくとして、彼の愛妻たちが黙っていないだろう。</p><p>この度の結果は、その時にはわかるでしょうか</p><p>下腹を擦りながら、マリナは微笑む。そして言ってしまってから、まるで試すような真似をしてしまったな、と反省した。</p><p>何。できていなければ、できるまで試すだけの話だ</p><p>だが事も無げにそう答えるOlに、マリナは思わず彼の首に抱きついて口づける。</p><p>マリナ。あまり誘惑するな。名残惜しくなる</p><p>ごめんなさい</p><p>あながち社交辞令でもなさそうなOlの言葉に、マリナは渋々身体を引いて彼から離れた。</p><p>それではまた、一月後</p><p>ええ。また月の満ちるときに</p><p>小さく手を振るマリナに目配せをして、Olは井戸へと降りる。</p><p>──それが。</p><p>魔王Olがこの世界でかわした、最後の言葉となった。</p><p>第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-1</p><p>いない。いない。いないいいないいない！</p><p>タンスを開け開き、ベッドの下を覗き込み、ゴミ箱をひっくり返し。</p><p>一体どこに行っちゃったのよ！？</p><p>薄っすらと涙さえ浮かべつつ、半狂乱で彼女──魔王Olの第一の配下であり、最も信を置かれた右腕であり、最愛の妻の一人でもある淫魔リルは、叫んだ。</p><p>そんなところにいるはずがないでしょう</p><p>いつになく苛立ちを滲ませた口調で言いながら、各地に使わせた分体達の視界を探るのはOlの一番弟子にして半人半スライムの魔女、スピナ。</p><p>ねえ、ソフィア。本当にダンジョンの中にはいないんだよね？</p><p>うん三回も全体走査をかけたけど、どこにも見当たらないよ</p><p>不安げに眉を寄せて問うのはダンジョンで育った少女、マリー。そしてダンジョンを司る神、ソフィアがそれに答える。</p><p>月からは帰ってきてるんだよね？</p><p>ただ一人、いつもとそう変わりない落ち着いた態度で問うのは、英雄のユニス。</p><p>そのはず例の地上に繋がった井戸に降りたところまでは見送ったって。マリナ様もパニックに陥ってるから、隠しているとかは無いと思う</p><p>難しい表情をしながらも、マリナを信仰する氷の女王、ザナはそう答えた。</p><p>ねえ！マリナの最善手の力とかいうので、探せないの！？</p><p>マリナの能力は、強力であるがゆえにそう気軽に目的を設定できるものではない、とは聞いていた。だがマリナ自身が狼狽えるような状況であれば、話は別なのではないか。</p><p>やってるわよ！やってるけどないの！あいつに、繋がる糸が！</p><p>一縷の望みを託してリルが問えば、ザナは堪えきれずに怒鳴り声をあげた。マリナの能力は目的を達成するための最善の手を導き出すものであって、何でも出来る万能の能力ではない。</p><p>その目的を達成する方法が一切ない場合、何もできない。</p><p>嘘、でしょ</p><p>その意味を悟って、リルはぺたんと地面にへたり込んだ。</p><p>あたし──</p><p>ぽつりと、ユニスは決意を秘めた声色で、呟くように宣言する。</p><p>あたしの能力なら</p><p>やめなさい</p><p>だがそれを、スピナが止めた。</p><p>なんで？あたしの能力なら、Olがどこにいようとそこに行ける！</p><p>ユニスの英霊としての名は跳ね駒。その権能は自由自在の転移である。ことに、その能力の根本をなすOlがいる場所へは、ユニス自身が場所を把握していなくとも転移することが出来るという、規格外の性能を持つ。</p><p>それで安全に戻ってこられるのであれば、ザナの啓示にそう出ているでしょう</p><p>だがしかし、欠点もあった。転移する前に、転移先の状況を知ることが出来ないのだ。</p><p>お師匠様は、何らかの原因で未曾有の事態に巻き込まれています。おそらくこの世界にはいない。魔界か、もっと別の場所か。いずれにせよ、月の女神の力の及ばぬ地に。であるならば、ユニス。あなたの能力も通じない可能性が高い</p><p>英霊の能力とは、すなわち神の力の残照のようなものだ。神自体の格の差を差し引いても、神そのものであるマリナの力と、既に滅んだ神の力を更に英霊の数だけ分割したものとでどちらが強いかは明白だ。</p><p>だったら、なおさら！</p><p>アークを親なし子にするつもりですか？</p><p>スピナの一言に、ユニスはたちどころに勢いを失った。</p><p>アークユニスとOlの間の子、アルクレインはもうすぐ三歳になる。だいぶ言葉も達者になったが、もしユニスが帰ってこれなかった場合、その理由を説明しても理解できないだろう。</p><p>Olにとっては唯一の男児でもある。リルやスピナ、他のダンジョンの面々とて彼を無碍には扱わないだろうが、Olとユニスの庇護がなくなれば、つまらない諍いに巻き込まれないとも言えない。</p><p>それでも、と言いかけて、ユニスは握りしめたスピナの拳から血が垂れ落ちているのに気がつき、はっと息を呑んだ。</p><p>愛情の絶対量ならユニスとて負ける気はしないが、Olへの忠愛という点においてはスピナに勝るものはいないというのは、誰しも認めるところである。もし犠牲になるのが自分であるなら、スピナは一片の躊躇いもなくそれを実行するだろう。</p><p>だが、そのスピナが、ユニスを止めたのだ。それはもちろんユニスへの友情やアークへの愛もあるのだろうが、最も大きな理由はOlを想うがゆえ。Ol自身が、ユニスが危険を犯すことを決して許さないだろうという確信を、誰よりも強く持っているがゆえであった。</p><p>大きく息を吐き、全身から力を抜いてユニスは呟く。</p><p>大丈夫よ</p><p>その肩をぽんと叩き、リル。</p><p>Olは絶対生きてる。あいつがそう簡単に死ぬもんですか。それに、Olが死ねばわたしは自動的に魔界に送還される契約だしね</p><p>マリナの権能すら届かぬ先で、その契約がどれほど有効なものか。何の保証にもならないとは知りつつも殊更明るい声を出すリルに、ユニスは頷いた。</p><p>ぐ、う</p><p>ずるずると音を立てながら、壁面に預けたOlの身体が地面へとずり落ちていく。</p><p>身体が熱い。視界が霞む。息が苦しい。とても立っていられない。</p><p>（一体、何が起きた？）</p><p>マリナと別れ、地上の井戸に出るはずであった。そろそろ階段でも作ったほうがいいかもしれない、などと思いながら、しかし実際に辿り着いたのは、見た覚えもないダンジョンの中であった。その上、謎の不調が体中を覆っている。その症状に覚えがあるような気もしたが、激痛と悪寒によって思考もうまくまとまらない。</p><p>突然、壁が彼に迫り、ひんやりとした石造りの床が頬にぶつかった。一瞬の後、Olは壁が迫ってきたのではなく、自分が倒れ伏したのだと気づく。だが気づいてもどうにもならなかった。四肢に力は入らず、視界はますます霞んでいく。</p><p>目近に見える床石に、Olはふと、雑な仕事だ、などと呑気な事を思った。Olのダンジョンはもっと細かく、しっかりとした石組みをする。</p><p>その粗雑な床石を歩く、軽い足音が伝わった気がした。もはや目は見えず、耳とて聞こえない。Olが感じたのは床石のかすかな振動だ。</p><p>──</p><p>Olはそれでも顔を上げ、何事か口に出す。</p><p>しかし何と言ったのかは自分ですらわからぬまま、彼の意識は闇に沈んだ。</p><p>第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-2</p><p>ここは？</p><p>次に目を覚ましたとき、Olは覚えのないダンジョンの一室で寝かされていた。壁も床も天井も、ついでに言えばすえたような酷い匂いも、Olの管理するダンジョンとは全く違うもの。</p><p>横たわる彼の背には何かの皮のようなものが敷かれていて、石床の硬さと冷たさをほんの僅かでも和らげようという意思が感じられた。もっとも、その努力はほとんど無意味なものだったが。</p><p>シギケヴ、ィヴ、ク？</p><p>聞き慣れない言葉と声に目を向けると、部屋の入口扉代わりであろう、粗末な布をめくりあげ、黒い髪の少女が入ってきた。</p><p>真っ直ぐな黒髪を肩口まで伸ばした、若い少女だ。年の頃は十六、七といったところだろうか。黒曜石のような黒い瞳が、じっとOlを見つめている。だがOlの視線はその瞳の上方彼女の額に向かった。</p><p>そこからは小さな角が一本、生えていたからだ。</p><p>お前が、助けてくれたのか？</p><p>気絶する前に聞こえた足音。それはちょうど彼女くらいの体重のものだった気がする。おそらくこの粗末な敷き布団に寝かせてくれたのも彼女なのだろう。体調は万全ではないものの、倒れる前に比べれば随分マシにはなっていた。</p><p>サリデ、ィヴ、ノイク、サイクセ、ニム、サルアデビ、ム</p><p>少女は困ったような表情で、そう答える。聞いたこともない奇妙な言語。音節の区切りがOlの知るどの言語ともまるで違う。遠く海を隔てた土地のヤマト語ですら、もう少し理解可能だった。</p><p>Ol</p><p>Olは己の胸に手を当て、そう、名前を告げる。</p><p>オウル</p><p>戸惑う少女にもう一度言うと、彼女はその意を察したのか音を真似して呟いた。</p><p>手のひらを差し向けるようにして、問う。</p><p>フローロ</p><p>少女フローロは、わずかに逡巡した後そう答えた。ひとまず、これで互いの名前はわかったと思っていいだろう。</p><p>オグナサルプラマルサツセエイク！</p><p>その時、部屋の外から苛立った男の声が聞こえてきた。</p><p>セズ！</p><p>フローロは弾かれるように返事をし部屋を飛び出す。</p><p>Ol。エイテ、ィク、アロクナ、ウツセル</p><p>その寸前、ちらりとOlを一瞥して何事か言いおいた。おそらくはここにいろとかそんな意味だろう。</p><p>ヌノ、ルツスジャム</p><p>オグナサルプラムシラフィヴノイク！ジュツノジルラペルプ！</p><p>隣の部屋から聞こえてくる男の声は酷い剣幕で、それに対するフローロの声は控えめでありながらはっきりしていた。これは、仕えるものの声だ、とOlは思った。</p><p>フローロが怒鳴っている男の妻なのか、娘なのか、使用人なのかはわからない。しかしいずれにしてもフローロは服従を強いられる立場である事は確かなようだ。</p><p>Olは壁に張り付くようにして、隣の部屋を覗き込む。そして、娘という線は消えたな、と思った。</p><p>怒鳴っているのは、フローロとは似ても似つかない、太った中年男であった。髪の色も目の色もフローロとは違うし、何よりその額には角が生えていない。</p><p>ニギズサヴォペニヴ！オグナサルプラム！</p><p>男はフローロを何事か叱責し、腕を振り上げる。かと思えばその手に青く輝く鞭のようなものが出現し、男はそれをフローロに向かって振るった。</p><p>やめろ</p><p>それがフローロの身体を打つ寸前、Olは男の腕を掴み止める。</p><p>オルウイテ、ィクサツセオイク！？</p><p>男は驚いたように目を見開き、フローロを睨む。</p><p>その表情を見ながら、Olはさて、どうしたものかと思い悩んだ。</p><p>思わず割って入ってしまったが、状況はわからないことだらけだ。</p><p>フローロには鞭で打たれるに足る理由があったのかもしれないし、なかったのかもしれない。この男はフローロにとってどんな相手なのかもわからなければ、この男にどれほどの後ろ盾があるかも。</p><p>あまりそうは見えないが、もしこの男が大人物であった場合、下手に敵対すればOlの身を滅ぼすことになる可能性もある。</p><p>──ならば。</p><p>オヴァルクスイティク、ノカルブナイヴギレ！</p><p>何事か喚く男の言葉が、突然途切れる。彼の肥満した身体が、Olの手を離れ空中に浮かび上がったからだ。</p><p>サ、サラフィヴノイク！？オイテ、ィクサツセオイク！？</p><p>男は慌てた様子でジタバタと暴れるが、無論そんなことで地面に降りられるはずもない。</p><p>見えざる迷宮(ラビュリントス)。Olが作り上げた魔術武装であり、極小のダンジョンでもある魔導具、ダンジョンキューブ。その不可視の外装が、男を包み込んで持ち上げていた。</p><p>ダンジョンキューブは直接相手を攻撃するような、早く重い動きができるようにはなっていない。しかし大蛇のようにゆっくりと相手を取り巻き、締め付ける事くらいは出来た。そしてその力は、人間の膂力で外せるようなものではない。</p><p>オOl、サラフィヴノイク？</p><p>フローロが恐る恐る問いかけてくるが、Olはそれを無視し、男を睨みつけて言った。</p><p>オグナサルプラム</p><p>その言葉にどのような意味があるのかは知らない。だが、罵倒の意味を持っているはずであった。それは先程から男が何度もフローロに投げかけていた言葉だったからだ。</p><p>オグナサルプラミ、ム、サツセオイチクゥク！？</p><p>案の定、男は顔を真っ赤にして怒鳴る。彼にとってひどく侮辱的な意味だったのだろう。でなければ、人はそれを罵倒として使わない。</p><p>セズ</p><p>Olはゆっくりとした口調で答えた。これは恐らくはいだ。フローロが返事をした時に使っていた。そのままでは丁寧な受け答えである可能性が高いから、Olは殊更相手を馬鹿にしたような表情で、無礼に聞こえるように言う。</p><p>ヌンニグヴェッラム！ニヴソギツロミム！ジョヴァルクッサツセイヴェイ！</p><p>怒鳴り文句をつける男の前で、Olは手を掲げ、何かを握るように指先をすぼめるジェスチャーをしてみせた。それと連動させて、男を拘束するダンジョンキューブに圧力をかける。</p><p>ぎしり、と両手両足、そして首を締め付けられる感覚に、男は焦りを見せた。</p><p>エウルフリロフ！ネルプスラムネヴ！</p><p>男は何かを命ずるように怒鳴る。</p><p>ウツラフ！ノルヌイティクセク、フローロ！</p><p>だがOlが反応せず更に締め付けていくのを悟ると、フローロに向かって怒鳴った。頼るタイミングが随分遅い。ということは妻や娘ではあるまい、とOlは当たりをつける。信頼関係が──それが一方的なものであれ──あるのであれば、人はもっと早く頼る。</p><p>Ol！ウツラフ！</p><p>フローロがOlの腕に抱きつくようにして止めようとする。だが、ダンジョンキューブは別にOlの腕で動かしているわけではない。Olに止める気がない以上、無駄な行動であった。</p><p>ウツラフニグセク</p><p>男の語気が急激に弱まり、頼むような響きを帯びる。言葉が違ってもこの手の人間の言うことは同じなのだな、と思いながら、Olは眉を上げて問い返した。</p><p>ニグセク？</p><p>言葉の意味はわからない。だが、それはまだ懇願ではないことだけはわかる。まだ男は命令している。</p><p>サテピ、ミ、セクロヴノブ</p><p>男は一瞬屈辱に表情を歪めた後、力なくそう懇願した。Olは満足げに頷き、微かに笑みを漏らす。男の体が僅かに弛緩し、彼が安堵したのがわかった。</p><p>フローロ。怪我はないか？</p><p>そしてOlはフローロに向き直り、彼女に殊更優しくそう問いかけた。</p><p>ウム？ニギ、ネルプロフ、スヴォピ、ヴ、ク？</p><p>男が不思議そうな声を上げる。だがOlはそれを無視した。無視しながら、締め付けを更に強くする。</p><p>イドネタウ、ロヴノブ！ニギテメヅロヴノブ！サテプノドラピム！サテプノドラピム！</p><p>男が叫ぶのは怒りの文句か、それとも命乞いの懇願か。声から想像できるのは後者のような気がしたが、Olは徹底して無視したし、事実として興味もなかった。</p><p>Olニミ、プレフ、ロヴノブ？</p><p>フローロが控えめに、Olに何か告げる。まあ、男を助けてやれという内容だろう。</p><p>セズ！ニミプレフ！</p><p>喚く男にOlはもう一度視線を向けて。</p><p>うるさい</p><p>平坦な声で、ただそう告げた。何の感情も興味も交えない、怒気や苛立ちさえこもっていない、家畜に対して告げるような声色。</p><p>ア</p><p>Olが自分を救う気などないのだと察した男の顔が、青く染まっていく。そしてそのまま、彼はがくりと項垂れ、動かなくなった。気脈を本格的に封じ、気絶させたのだ。</p><p>ニグ、シギトロミ、ヴ、ク？</p><p>地面に下ろした男に恐る恐る近づき、フローロは問う。殺したのかといったところだろう。</p><p>いいや。殺してはおらん</p><p>男にどれだけの後ろ盾があるのか、敵対することの危険度がどれほどなのか、Olにはわからない。だから男を止めるなら方法は一つしかなかった。</p><p>恐怖で、徹底的に心を折ることだ。</p><p>Olは男の頭に触れ、先程までの記憶を封じた上で気付けをしてやる。激しく咳き込みながら男が起き上がる前に、Olは隣の部屋へと戻った。</p><p>オイクシラヴィヴノイク？オグナサル！</p><p>頭を振りながら、男はフローロに怒鳴りつけようとして固まる。</p><p>アルプ、ニグ、ネト</p><p>そして何かを恐れるように辺りをキョロキョロと見回し、フローロに何かを言い残して去っていった。</p><p>記憶は消しても、感情は消えはしない。むしろなぜ自分が恐怖を感じるのかわからない分、かえってそれは大きく不気味なものとなって襲いかかる。彼はもうフローロを怒鳴りつけ鞭打つことは出来ないはずだ。その行動が、Olが与えた恐怖と強く結びついているがゆえに。</p><p>Olサツセ、イ、ヴイク？</p><p>悪いが</p><p>大きく目を見開いて尋ねてくるフローロに、Olは肩をすくめて答えた。</p><p>お前が何と言ってるのかは、全くわからん</p><p>第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-3</p><p>と</p><p>Olは突然めまいを感じ、壁にもたれかかる。その症状に、Olは心当たりがあった。</p><p>魔力失調だ。自分のダンジョンから切り離された上に、体内の魔力までもがほとんど抜けてしまっている。わずかとはいえ魔術を使うことによって、体調が悪化したのだろう。</p><p>とはいえ、そもそもOlがそんな状態になるのは奇妙なことだった。補給無しで丸一晩マリナと睦み合っていたのだから多少の消耗は不思議ではないが、体調を崩すほどに失っているというのはおかしい。</p><p>イドネタ、ウロヴノブ</p><p>フローロはOlにそう言いおいて、部屋を出ていく。Olが不調が収まるのをじっと待っていると、ややあってフローロはコップに入った水とパンを持って戻ってきた。</p><p>イグナムロヴノブ</p><p>そして、それをOlにそっと手渡す。食べろ、ということだろう。Olの不調を空腹であると思ったのか、それとも気休めか。いずれにせよ、食事にはわずかながら魔力が含まれている。Olはありがたくそれを食べようとして、手を止めた。</p><p>乾燥しきって、まるで石のように固いパン。明らかに不衛生で、不純物が浮き据えた匂いの漂う水。Olの価値観からすると残飯より酷いその内容に、彼は思わず顔をしかめた。</p><p>一旦皿を床に置き、Olはなにかなかったかと懐を探る。幸い、非常食として携帯していたチーズと干し肉が入った袋が見つかった。</p><p>Olはそれを小さく削ってコップに注ぎ入れ、熱を呼び覚まして温める。熱だけを呼び出す魔術は制御が難しいが、炎を出す魔術に比べて消費が少なくてすむし、木製のコップも燃やさずにすむ。</p><p>そうして作り直したスープに千切ったパンを浸して食べると、ほんの多少ではあるがマシな味になった。出来れば人参と玉葱に胡椒も欲しいところだが、この状況では贅沢な要求だろう。</p><p>と、Olが半分ほどを食べたとき、不意にきゅるるるる、と奇妙な音がした。不審に思って聞こえてきた方を見ると、フローロは己の腹を押さえ顔を赤く染めていた。</p><p>──ああ</p><p>Olは己の考えが及んでいなかったことを恥じる。つまりこの少女は、自分の食べるべき分を分け与えてくれたのだ。</p><p>すまなかったな。残りはお前が食べろ</p><p>Olは皿とパンをぐいとフローロに押し付ける。フローロは戸惑ったように首を振っていたが、Olが座ったまま壁にもたれかかって聞く耳を持たぬと言わんばかりに腕を組むと、ゆっくりとOlを真似るようにパンをスープに付けて食べ始めた。</p><p>アツスグノブ</p><p>ぽつり、と呟く彼女の表情が、花のように綻ぶ。そしてそのまま夢中になって食べ始めるフローロを眺めながら、Olは思索にふけった。</p><p>一体なぜ自分はこんなところにいるのか。ここは一体どこなのか。なぜ自分の身体から魔力が失われているのか。</p><p>フローロに尋ねられれば手っ取り早いのだが、生憎と言葉が通じない。かつて異大陸でユツやザナにやったような手段で言葉を通わせることは不可能ではないが、それには相手と交わる必要がある。</p><p>流石に命の恩人を無理矢理犯すような真似は、魔王と恐れられるOlといえどはばかられた。</p><p>名を呼ばれOlが我に返ると、フローロは空になった皿を前に両手を合わせ、Olをじっと見つめていた。</p><p>ンジョルバパク、ンジャノブ、サヴァヒ、ヴ</p><p>気にするな。元はと言えばお前が救った命、お前がよこした食料だ</p><p>相変わらず何と言っているかはわからないが、適当に返事をするOl。</p><p>イドネタ、ウロヴノブ</p><p>彼女は先程聞いたのと同じ言葉を残して、再び部屋を出ていった。恐らく、ここで待てというような意味なのだろう。そうやって少しずつ言葉を覚えていくしか無いわけだ、とOlは嘆息した。</p><p>とりあえずオグナサルプラマが罵倒の言葉であることと、ロヴノブがお願いします(プリーズ)に当たる表現であることなど、ある程度の事はわかってきたが、この分ではまともに意思疎通できるようになるにはどれほどかかることか。</p><p>フローロは先程よりも長い時間が経った後、戻ってきた。その手には何やら青い石英の結晶のようなものが握られている。</p><p>何だ、これは？</p><p>イグナム、ロヴノブ</p><p>またロヴノブだ。フローロはそう言いながらOlに結晶を手渡し、口を開けて入れるようなジェスチャーをしてみせた。</p><p>まさかこれを食え、というのか？</p><p>Olが尋ねると、フローロは彼の口を指して同じ言葉を繰り返す。どうやらそのまさからしい。</p><p>とはいえ、Olを害するつもりがあるなら寝ている間にそうしているだろう。危害を与えるわけでなくても不利益に転ずる様々な可能性はあったが、考えても仕方がない。意を決して、Olはそれを口に入れた。</p><p>硬質な結晶は、しかし口に含むとまるで氷のようにさらりと溶ける。味はしなかった。</p><p>私の言葉が、わかりますか、Ol？</p><p>しかし次の瞬間彼の耳鼻を打った言葉に、Olはフローロの首を掴んだ。</p><p>貴様俺に何をした！</p><p>言葉、を覚えて、もらい、ました</p><p>首を絞められながら苦しげに、フローロはそう口にする。</p><p>耳に聞こえてくる言葉はンジョツロヴ、ァル、シンレリ、ムだ。なのにその意味がOlにははっきりと理解できた。</p><p>身(・)体(・)が(・)、(・)作(・)り(・)変(・)え(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。</p><p>一切の違和感はなかった。痛みもなく、衝撃もなく、体内の魔力も全く正常に流れ続けている。それが、かえって一層不気味であった。</p><p>答えろ。お前は</p><p>いいかけ、Olはふとあることに気づいた。</p><p>お前、この目は、どうした</p><p>フローロの左目。黒曜石のような黒い瞳の片方が、焦点を捉えていない。</p><p>Olの手から開放され、フローロは文句を言うでもなく、そっと顔を背けた。つい先程までは、こうではなかったはずだ。</p><p>Olはフローロの頭に触れ、魔力で彼女の瞳を走査する。あらゆる魔術の中でも、医療魔術は彼の最も得意とするところだ。</p><p>何だ、これは</p><p>そしてその彼をして、彼女の目は見たことのない状態であった。</p><p>フローロの左目は、完全に視力を失っている。にもかかわらず、眼球も神経にも一切の傷がついていない。まるで極めて精巧な模型を入れているかのようであった。</p><p>ありえんいや</p><p>Ol自身は実際に目にしたことはなかったが、このようなことになる方法は一つだけ知っていた。</p><p>悪魔との、取引だ。彼らは血や魔力、魂を好むが、場合によっては能力や肉体の一部を要求することがある。ちょうど、視力を対価にした人間は、この様になるらしいと聞いたことはあった。</p><p>お前売ったのか、視力を</p><p>一体何のためにか。それは、少し考えればわかることだった。水同然のスープをありがたがって飲むような娘が、人の言葉を覚えられるような石をどうやって手に入れてきたのか。</p><p>目は二つありますから</p><p>Olがそう悟ったことを、フローロもまた悟ったのだろう。彼女は観念したような笑みを浮かべると、そう答えた。</p><p>けれど、あなたに伝える方法は、これしかありませんでした。Ol、料理を作ることが出来るということを、他人に見せてはいけません</p><p>そもそもあんなものは、料理と呼べるほどの大仰なものではない。思ってもみない言葉に、Olは目を瞬かせる。</p><p>奪われてしまいます</p><p>お前のその目と同じようにか</p><p>Olが言うと、フローロは瞳を伏せた。</p><p>そんな事を伝えるために、お前は目を売ったのか？</p><p>仮に料理の技術を奪われたとして、Olはさほど困らない。そこまでの腕前は持っていないし、なくなったとしてもまた磨けばいいだけの話だ。</p><p>そんな事、ではありません</p><p>だがフローロはきっぱりとそういった。</p><p>Ol。あなたは私を助けてくれました。その恩に報いなければなりません。そのスキルがあれば、この底辺から抜け出すこともできるでしょう</p><p>底辺？</p><p>オウム返しに問うOlに、フローロは頷き、答える。</p><p>ここは壁界(ヘキカイ)の底辺、最下層。奪われたものの行き着く場所です</p><p>第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-4</p><p>壁界？</p><p>未知の言語を理解できているというのは、極めて不思議な事だった。魂を繋いで意思を疎通するやり方とは随分違う。</p><p>壁界という言葉はOlの知る言葉の中には同じニュアンスのない言葉だ。だが同時に、壁という言葉と世界という言葉に近い意味合いを感じる。その二つの言葉自体が、親しいものではないというのにだ。</p><p>そもそもここは何なのだ。どこの</p><p>ダンジョンだと言いかけ、Olは言いよどんだ。ダンジョン、という言葉に相当する語彙が植え付けられた言語知識の中に存在していない。</p><p>それどころか、地下や迷宮という言葉すら。</p><p>お前は外のことを知っているか？</p><p>代わりに、Olはそう問うた。</p><p>どこの外ですか？</p><p>突然変わった話題に、フローロは不思議そうにしながらも尋ねる。</p><p>最上層より更に上。このような、壁のない場所のことだ</p><p>コン、と拳で壁を叩き、Ol。</p><p>ここが地下であることは間違いのないことだ。音の反響具合、温度や湿度、空気の動きなどが全てそれを示している。Olがダンジョンの見立てを間違う可能性は、太陽が西から登ってくるよりも低い。</p><p>壁のない場所？</p><p>だがフローロはOlの言葉にひどくショックを受けたようだった。</p><p>そんな場所があるはずありません。壁がなかったら、人はどこに暮せばいいのですか。それに、壁がなければどこまでも行けてしまうではありませんか</p><p>これに、Olは頷く。</p><p>そうだ、その通りだ。外とは、どこまでも行ける場所のことを言うのだ</p><p>そんな場所があるなんて、信じられません</p><p>フローロは首を振って、そう答えた。だがそれは、Olとて同じ気持ちであった。</p><p>つまりはこういうことだ。今Olは巨大なダンジョンの中にいて、そこに暮らすフローロは、ダンジョンの外の存在を知らないし、想像もできない。</p><p>言葉には空だとか太陽、地上といった語彙もなく、壁と世界がイコールでくくられてしまう程に、ダンジョンはあって当たり前のものなのだ。</p><p>そんな世界が、ありうるだろうか？</p><p>いや、ない。Olは即座にそう判断した。ダンジョンは閉じて独立した空間として維持することが出来ない。</p><p>人は獣を食べる。獣は更に小さな獣を食べ、小動物は草を食む。その植物が育つには、水と陽の光が必要なのだ。中には光がなくとも育つ苔のようなものもあるが、そういった種は成長が遅く、更に獣の死骸のような栄養が溶け込んだ土か水を必要とする。</p><p>とにかく、外部からの補充最低でも陽の光がなければ、ダンジョンの中身というのは目減りしていく一方なのだ。故にOlのダンジョンでは入り口を複数設け、外部からの侵入を常に許している。</p><p>だが少なくとも、フローロがそれを知らずに暮らしていける程には、出口というのは遠いのだろう。それならOlの魔力が失われていることにも説明がつく。</p><p>大気中に漂う魔力が極めて希薄なのだ。Olの迷宮のように龍脈の只中にあるようなダンジョンは例外としても。普通は空気中にも多少の魔力が含まれている。だが極端に魔力が枯渇した空間に放り出された結果、Olの体内の魔力は周囲に放出され、消耗してしまったのだろう。</p><p>まあ信じられぬなら、信じずとも良い。どの道俺もそこにさしたる興味はない</p><p>誰も空を知らぬ世界で、空を目指す物語。</p><p>Olでなければ、そんなものが始まったのかもしれない。しかしここにいるのは掛け値なしのダンジョン馬鹿であった。</p><p>それに、仮に外に出たとしても、彼が抱える問題が解決するわけではない。</p><p>──元の世界に戻れぬという問題は。</p><p>Olがこのダンジョンに迷い込み、一体どれほどが経っただろうか。気絶している間の正確な時間はわからないが、体調の具合からしても二刻（約四時間）は経っていると考えるべきだろう。元の世界ではとうに月は沈み、日が昇っているはずだ。</p><p>それほどの間Olとの連絡が途絶え、どこに行ったのかもわからないとなれば、ユニスは間違いなく転移で迎えに来るはずだ。来ないということは、来ることが出来ないと考えるべきだろう。</p><p>最善は転移自体を試みていないという事で、試したが転移は出来なかったというのがその次に良い。最悪なのは、転移自体は出来たがここに辿り着くことは出来ず、ユニスが時空の狭間にでも閉じ込められるという事態だ。</p><p>考えたくもないことだが、無いとは言えない。ユニスの性格からすれば転移を試みようとするのは半々といったところだろう。リルは止め、スピナは促すだろうか。いずれにせよOlにできることは、彼女の無事を祈りつつ帰還の方法を探ることだ。</p><p>Olあなたは、その壁の外というところから来たのですか？</p><p>ああ。まあ、そんなところだ</p><p>正確には月の上からなのだが、空すら知らない相手に月のことを説明しても仕方がない。</p><p>それでスキルのことを知らないのですね</p><p>先程も言っていたな。スキルとは何だ？</p><p>言葉のニュアンスは、先程食べさせられた石の効果なのかなんとなくはわかる。意味としては技術だとか技能というような言葉に近いが、それだけではないようであった。</p><p>実際に見せた方が早いでしょう。ついてきて下さい</p><p>そう告げて、フローロは部屋を出た。Olが彼女の後を追ってしばらく通路を進むと、フローロはやがて広間のような場所で足を止める。</p><p>？ここが目的地か？</p><p>それは奇妙な場所であった。三十フィート（約九メートル）四方程の広さがあるというのに調度品の類は一つもなく、人が使っている形跡もない。もしOlがこのような部屋をダンジョンにわざわざ作るとするなら、守衛を置くか大掛かりな罠を仕掛けるかのどちらかだろう。</p><p>警戒するOlの視界に、信じられないことが起こった。突如、なにもない空間にポンと音を立てて小さな獣が現れたのだ。</p><p>小さいといってもOlの膝の高さほどはある、ネズミともうさぎともつかない奇妙な獣であった。それは額に鋭い一本の角を持ち、一直線にフローロに向かって突進する。</p><p>フローロが服の裾から手のひら程度の鉄片を取り出すと、それは次の瞬間には７フィート（約二メートル）程の鉄棍に変化する。彼女はそれを両手で構えると、獣を思い切り打ち付けた。</p><p>ギャンと声を上げて獣は壁に叩きつけられ、絶命する。そして、青い石とパン、毛皮を残して消えた。</p><p>これがスキルです</p><p>毛皮でパンを包み袋状に結びながら、青い石をフローロは差し出す。</p><p>角兎の落とすスキルは突進ですね。あまり使い勝手の良いスキルではありませんが</p><p>待て。今、何が起きた？</p><p>驚愕に最大限まで目を見開きながら、Olは問うた。</p><p>先程の獣はどこから出てきた。そしてどこへ行った。その毛皮とパンは一体何だ！？</p><p>どこから、と言われましてもただポップして、殺したので素材をドロップしただけですが</p><p>戸惑うように答えるフローロに、Olは頭を抱えた。スキルなどというものよりも遥かに不可解なことが目の前で起こっていたが、フローロはそれに疑問や違和感を抱いていない。</p><p>つまり獣は、何もない所から現れて殺すと、その素材を落として、消える。それが、当たり前だというのだな？お前が特別になにかをしたわけではなく</p><p>はいモンスターですから。Olのいた場所では違うのですか？</p><p>モンスター？</p><p>Olの知る言葉で言えば、魔物に近い言葉。猛獣ではなく魔物だ。つまりそれが尋常ならざる生き物であるという認識はあるようで、Olは少しだけホッとした。</p><p>虚空から現れ、死んでも死体を残さず、素材とスキルを落として消える生き物。それが、モンスターです</p><p>それはOlにとって信じがたい話であった。だが、それが本当であるならば彼女の言う外のない世界にも説明がつく。虚空から資源が生まれるのならば、ダンジョンが閉じた世界であろうと何の問題もない。</p><p>ないわけが、ない。そもそもなぜパンを落とすのだ。パンとは小麦を挽いて粉にし、酵母などを加えて発酵させ、焼く事で出来上がるものだ。断じて、生き物を殺した時に発生するような代物ではない。</p><p>Olが目眩と頭痛をこらえている間にも度々不定期にフローロが角兎と呼んだ獣が現れ、彼女はそれを淡々と殺して素材を拾う。青い結晶や素材は必ず同じように落とすわけではなく、落としたり落とさなかったりするようだった。どちらかと言えば、落とさない場合の方が多い。</p><p>Olのように、素材から何かを作るスキルというのは極めて貴重なものです。モンスターからは手に入れることができませんから</p><p>ならばどうやって手に入れるのだ？</p><p>反射的に投げかけたOlの問いに、フローロは当たり前のように答えた。</p><p>人から、奪うのです</p><p>第2話奪われたものを取り戻しましょう-1</p><p>Ol。やっぱりやめましょう。危険すぎます</p><p>ええい、お前の判断など知ったことか。いいからその手を離せ</p><p>縋り付くようにして服の袖を引っ張るフローロを、Olは引きずるようにしてダンジョンの廊下を歩く。そうするうちに気づいたのは、少なくともこの辺りには扉というものが存在しないということだった。</p><p>フローロが言う通り、何かを作るという技術を持っている者は極めて少ないのだろう。木材を手に入れることはできても、それで扉を作ることが出来るものがいないのだ。</p><p>扉の代わりにボロ布のようなものがかけてあることもあるが、大半の出入り口はむき出しだ。であるが故に、部屋と通路、内と外というものが極めて曖昧であった。</p><p>Olのダンジョンであれば、誰か個人の部屋の内側と、そうではない共有の通路というのは扉によって厳密に隔てられている。しかしそれがないこのダンジョンでは、通る道を誰かが所有しているのか、誰も所有していないのかが非常に分かりづらい。</p><p>フローロにその辺りを尋ねると、最下層においてはそもそも何かを所有するという概念自体が希薄であるらしい。そこにある場所や道具は誰もが勝手に使うし、それを咎めるようなものもいない。</p><p>そんな場所において、はっきりと所有していると見なされるものが二つある。</p><p>一つは、スキル。</p><p>そしてもう一つは</p><p>奴隷は、まともに相手などして貰えません。大事なものを奪われるだけです</p><p>──奴隷。すなわち、人であった。</p><p>俺は奴隷ではない</p><p>いいえ。この最下層に降りてきた時点で、あなたは奴隷なのです、Ol。誰にも所有されていない奴隷は、何をされても文句は言えません</p><p>フローロは悲しげに目を伏せ、申し訳無さそうにOlに告げる。</p><p>あなたが元いた場所で高い地位にあったことは、着ているものを見ればわかります。けれどもうあなたは、奴隷なのです</p><p>それは彼を心配しているだけと言うには、あまりに親身な口調であった。まるで我が事のような。</p><p>おそらくは、そうなのだろう。</p><p>奴隷にしてはフローロの顔立ちは整いすぎているし、所作や口調も洗練されている。彼女自身がかつては高貴な立場にあり、そして何らかの理由でその身を奴隷に落とした。</p><p>Olに世話を焼いてくれるのも、似たような境遇と見た彼への同情故か。</p><p>例えそうだったとしてもだ</p><p>Olは奇妙な苛立ちを感じながら、フローロに言い放った。</p><p>俺は心根まで奴隷になるつもりはない。従って生きるか、従わずして死ぬかは己で決める</p><p>フローロはその言葉に驚いたように手を離すと、彼の顔をじっと見つめた。</p><p>感動的な言葉ですわね</p><p>突然、物陰からシュルシュルと聞こえてきた音に、Olとフローロは同時に目を向ける。</p><p>いかがなさいまして、フローロ？何か買い忘れですの？</p><p>それは大きな蛇が地面を這いずる音だった。</p><p>そちらの方は初めて見る顔のようですけれど</p><p>しかし現れたのは、女の姿。濃い紫の髪を長く伸ばし、豊満な胸元を惜しげもなく晒した美しい女性であった。ただし、それは上半身に限った話のこと。腰から下は鱗に覆われた蛇そのもの。</p><p>Olの知る亜人種ラミアによく似た姿の女であった。</p><p>お前がこいつの目を買い取ったという商人か？</p><p>ええ。ナギアと申します。どうぞお見知りおきを</p><p>ナギアと名乗った半人半蛇の女は、優雅に一礼して見せた。</p><p>Olだ。悪いがそいつを買い戻したい</p><p>あらあら。まあまあまあ。ではもしかして、あなたが言語スキルをお使いになった方ですか？</p><p>芝居がかった口調でナギア。</p><p>そうだ。何か不都合でもあるか？</p><p>いえいえ、不都合などございませんわ。けれどもわたくし、返品は受け付けておりませんの。改めて、別の物と交換という話であれば喜んで応じさせて頂きますわ</p><p>では、私の言語スキルと交換してください！</p><p>にこやかに答えるナギアに、フローロが割って入る。</p><p>申し訳ありませんが、フローロ。それでは足りませんわ</p><p>全く申し訳ないとは思ってなさそうな表情のナギアに、フローロは絶句した。さもあろう、とOlは思う。</p><p>何故ですか！？さっきはそれで交換してもらったではありませんか！</p><p>フローロ。それが商いというものなのです。同じ価値のものを交換しても得にはなりません。あなたの瞳と交換ともなればその十倍は価値あるものを頂けませんと</p><p>やはり、フローロは相当買い叩かれたらしい。奴隷をまともに相手してくれる者などいない。奇しくも彼女が先程言った通りの事が、フローロの身に起こっていた。</p><p>どいていろ、フローロ。そいつの言うことはもっともだ</p><p>とはいえ、商取引において利益を出そうとする姿勢そのものは商人として当然のことである。</p><p>わたくし、物分りの良い殿方は好きでしてよ。では、Ol。あなたは何を対価として差し出して頂けるのでしょうか</p><p>ナギアがすっと目を細め、Olを見つめる。</p><p>その瞬間パチリと音がして、ナギアは痛みを堪えるように目を閉じた。</p><p>っ！？今のは！？</p><p>何やら悪さをしようとしたようだな？</p><p>顔を押さえるナギアに、Olはニヤリと笑みを見せる。彼女は何らかの術をOlにかけようとした。しかし、Olが張った魔術防護がそれを防いだのだ。</p><p>素晴らしいですわ！わたくしのスキルを防ぐスキルなんて、聞いたこともありません！</p><p>ナギアは興奮した様子でそうまくしたてる。</p><p>いかがでしょう。そのスキルを頂けるのならば、フローロの瞳をお返しいたしますが</p><p>いけません、Ol！ナギアの言うことに耳を貸さないでください！</p><p>ぐいぐいと袖を引っ張るフローロを無視して、Olは少し考える素振りを見せた。</p><p>構わんが俺のこれはスキルとやらではない。術だ。それでもいいか？</p><p>術ですか？よくわかりませんが承知いたしましたわ</p><p>不思議そうに首を傾げつつも、ナギアは頷いた。生まれ持った視力を奪えるのだ。別に特別な能力でなくても、手に入れることができるのだろう。</p><p>では交換だ。念を押すが、この術だけを奪い、フローロの目を返すという事でよいのだな</p><p>ええ、もちろん。商いで嘘はつきませんわ</p><p>にっこりと微笑むナギアに、嘘だな、とOlは直感した。</p><p>駄目です、Ol！</p><p>では受け取れ</p><p>止めようとするフローロをぐいと押しのけ、Olは告げる。</p><p>では、失礼致しますね</p><p>ナギアがするりとOlの胸に向かって手を伸ばすと、その指先が彼の身体の中にずぶずぶと埋まっていく。痛みはないが、頭の中を探られているような奇妙な不快感があった。</p><p>これは凄いですわね</p><p>ややあって、ナギアはその中から小さな宝石を取り出した。フローロがOlに食べさせたものより小さいが力強く光り輝いていて、尖ったところの全く無いつるりとした真球の形をしていた。</p><p>これほど見事に磨き込まれたスキル、初めて見ましたわ</p><p>その輝きをうっとりと眺め、ほう、と溜息をつくナギア。</p><p>なるほど抜き取られるとこうなるのか</p><p>一方でOlは、奇妙な感覚を味わっていた。</p><p>己の中から、魔術防護に関する知識や記憶がすっぽりと抜け落ちている。確かに知っていたはずの事が、どうしても出てこない。それでいて、そこに無くしたものが存在していた事自体は認識しできている。</p><p>忘れたこと自体も思い出せない記憶操作の術とは全く違う、不思議な状況だった。</p><p>名前：ナギア</p><p>種族：尾族</p><p>性別：女</p><p>年齢：16歳</p><p>主人：サルナーク</p><p>所持スキル：締め付け剣技LV2突進言語隠形LV1スキル結晶化鑑定</p><p>Olがその感覚を検証していると、不意に彼の視界にそんな文字が現れた。</p><p>妙な術だな。これが鑑定とかいうスキルか。しかしお前、思ったよりも若いのだな</p><p>驚愕するナギアに、目の前の文字を眺めつつOl。てっきり二十代の半ばくらいはいっていると思っていた。そう思わせるだけの色香と豊満さである。もっともOlの知る暦と同じ早さで歳を取るとは限らないか、と思い直す。</p><p>何をしたんですの！？このスキルはしっかり奪ったはずですのに！</p><p>スキルではなく術だと言っておるだろうが。そして、俺が持っている術はそれだけではない</p><p>ナギアが手に入れた魔術防護は、直接的に干渉してくる術に対する手段としてはもっとも基本的、かつ低級のものだ。意識せずとも常時展開していられるが、その代わりに防ぐことのできる術には限りがあり、どのような術をかけられたかもわからない。</p><p>Olは意識すればそれより高度な対抗魔術をいくつも使うことができる。例えば高度な術をも無効化するものや、相手に無効化したことを気づかせずに術の性質を解析するもの、そして今使った術の内容を相手にそのまま跳ね返すものなどだ。</p><p>ぜひともそのスキルもお売り頂きたいところですわねあら？</p><p>言いつつ、ナギアはOlから受け取った結晶を口に含む。そして、怪訝そうに眉を寄せた。</p><p>何、なんですの、これは？</p><p>言っただろう。それはスキルではなく、術だと</p><p>スキルという言葉が技術と異なるのは、それは独立しているということだ。前提となる他のスキルというものが存在せず、単独で扱える。</p><p>だが、Olが培ってきた術はそうではない。あらゆる術が別の術と相互に関連し、積み重なり、体系だって成り立っている。だからこそ、術一つだけを取り出しても何の役にも立たないし、逆に一つだけを抜かれても他の知識からそれを補完できる。</p><p>Olは既に抜き取られた魔術防護を己の中で再発明していたし、逆にナギアにはそれを扱うことが出来ない。前提となる魔力の収束も、それを全身に巡らす方法も、無詠唱で魔術を扱うやり方も、何もかもわからないからだ。</p><p>言うなれば、一つたりとて聞いた覚えのない材料、調理法の載ったレシピだけを渡された状態に近い。一方でOlは、作り方を忘れても何を作りたいかは覚えているのだから、一からレシピを考案することが出来る。</p><p>つまりこれは最初から、彼にとっては一切の損のない取引であった。</p><p>さて、約束通りフローロの瞳を渡して貰おうか</p><p>承服、しかねますわ</p><p>手を差し出すOlに、ナギアは不満げに顔をそらす。</p><p>このようなもの、不良品じゃありませんの！取引に応じるわけには参りませんわね</p><p>俺は、最初からスキルではなく術だと言っただろう。それとも約定を違えるというのか？</p><p>Olの言葉に、ナギアはクスリと笑って答える。</p><p>あら。そんな約束、しましたかしら？</p><p>すらり、と彼女の腰から剣が引き抜かれる。やはり最初からまともに取引する気などなかったのだ、とフローロは歯噛みした。もっと強くOlを引き止めていれば、と悔やんでももう遅い。</p><p>だがOlは悔しそうな素振りなど一切見せずに、静かにそう答え。</p><p>では、魔術師相手に約定を違えた報いを受けよ</p><p>呟くように、そう告げた。</p><p>あっあああああ！？</p><p>途端にナギアは剣を取り落し、地面に転がる。</p><p>痛い！痛い痛い痛い痛い！何をッ！しました、の！？</p><p>異な事を言う。したのはお前の方であろう？</p><p>悶え苦しむナギアを見下ろし、Ol。</p><p>その表情を見て、フローロは戦慄した。</p><p>人をいたぶり、苦しめ、傷つけることを楽しむ者は多い。彼らはそうするとき決まって笑みを浮かべる。陰惨で下劣な、汚らわしい笑みを。</p><p>だがOlは、全くの無表情だった。彼はナギアの苦しみを全く楽しんではおらず、それどころか興味すら持っていない。</p><p>魂を締め付ける痛みだ。肉の痛みと違って慣れることも狂うことも出来ぬ</p><p>ただ必要だからしただけ。</p><p>それは加害を楽しむ事よりも、よほど恐ろしいことに思えた。</p><p>許してっください、ませっ！お願いっ！お願い、しますっ！</p><p>耐えきれない苦痛に涙を流しながら、ナギアはそう懇願する。</p><p>痛みから解放されたいなら簡単なことだ。お前が約束を守ればいい</p><p>持ってないん、ですぅっ！フローロの瞳は主人にサルナークに、渡してしまい、ましたのっ！</p><p>ではやはり、ナギアは最初から約束を守るつもりなどなかったのだ、とフローロは思う。しかしOlはそれをわかった上で彼女と約束した。そちらの方が衝撃的で、ナギアを責める気にはなれなかった。</p><p>そうか。ならば仕方がないな</p><p>Ol！もう、許してあげてくれませんか？</p><p>見るに見かねて、フローロはOlにそう頼んだ。</p><p>許すも許さぬもない。約束とは契約であり、契約とは呪い。魔術師との契約を破るというのはこういうものなのだ。俺が今、こいつを苦しめる何かをしているわけではない</p><p>つまりOl自身でさえも、ナギアの苦痛を止めることは出来ない。言外にそう告げる彼の言葉に、ナギアの顔がみるみるうちに青ざめていった。</p><p>それはそれは、あまりにも哀れではありませんか。これほど苦しむ程の咎を、彼女はなしたというのですか？</p><p>俺を心配し止めていたくせに、おかしなことを言うやつだ。しかしまあ、呪いを解く方法はないではない</p><p>一筋の光明に、ナギアはOlの足に縋り付いた。</p><p>お願いっ！しま、す！何でも、しますからぁ！この痛み、を？</p><p>そしてそう懇願して──</p><p>唐突に、己の身体から痛みが引いていることを悟る。</p><p>ああら？</p><p>言ったな</p><p>Olはニヤリと笑って、ナギアを見下ろし、告げた。</p><p>何(・)で(・)も(・)す(・)る(・)と。今度はその約束、違えるなよ</p><p>ナギアは自分が口走った言葉がどれほど致命的であるかを悟るのに、それから更に数秒の時間を要したのだった。</p><p>第2話奪われたものを取り戻しましょう-2</p><p>サルナークは鋼の盾と呼び称される、この最下層の支配者です</p><p>己の主について知りうることを話せ。</p><p>そう命じられたナギアは、そう切り出した。</p><p>鋼の盾だと？</p><p>わたくしが見た限りでは、物理攻撃無効というスキルのことですわ。ありとあらゆる攻撃は彼には一切通じませんの</p><p>彼女は鑑定がOlに弾かれたことに驚いていた。つまり通常は鑑定を阻害するようなスキルなど存在しないし、そもそも相手を鑑定したことにも気づかれない。</p><p>故に当然のこととして、ナギアはサルナークの能力を鑑定していた。その上で、彼にはけして敵わないことを悟り、奴隷としての立場に甘んじていたのだ。</p><p>ふむそれで？</p><p>それで？ええとそれに、凄腕の剣の使い手でもありますわ。彼の剣技のレベルは５ですの</p><p>確かナギアは２だったか、とOlは思い出す。恐らく数字が大きいほど強いということなのだろうとは思うが、基準はよくわからなかった。</p><p>例えば純粋な剣の技術を比べたとき、ユニス、ナジャ、ホデリの三人の中でもっとも下手なのはユニスである、と聞いたことがある。だが、実際に戦えば勝つのはユニスだ。技術以前に、素の身体能力に大きな差があるからである。</p><p>つまり強さというのは、単一の数字だけで比べられるようなものではない、というのがOlの感覚であった。だがナギアにとってはそうではないらしい。</p><p>うむ。それで？</p><p>さっきからそれでってなんですの！？Ol様は何が知りたいんですの？</p><p>何って</p><p>Olはちらりと視線を下に向け、己の腰にしがみつくようにしながらずりずりと引きずられているフローロを見やった。</p><p>こいつがこんなに俺を引き止める理由だ</p><p>それはOl様を心配しているのでしょう。サルナークは冷酷で容赦のない男ですわ。無事で済むとは思えません</p><p>まあそれは、ナギアのような女を使役している時点で何となくわかる。</p><p>Ol、駄目です！サルナークの鋼の盾にはどんな攻撃も通じません。勝てるわけがないのです！</p><p>それについてはわたくしも同感ですわ。Ol様が底しれぬ力の持ち主だということは理解しましたけれど、サルナークの前では全てが無意味なのですから</p><p>口を揃えて言う二人に、Olはううむと唸った。</p><p>他に特筆するような能力はないのか？</p><p>物理攻撃無効。鋼の盾。</p><p>詳しい効果は検証してみてみなければわからないのだろうが、Olがその言葉から感じた印象は酷く不完全というものであった。</p><p>物理攻撃とわざわざ明言するということは、非物理的な攻撃は効くのだろう。</p><p>鋼は確かに硬く強靭な金属であるが、絶対に破壊できないわけではない。</p><p>そもそも盾という防具そのものが、攻撃に対して能動的に扱わなければいけないという性質を持っている。</p><p>それは、Olの思う無敵からはかけ離れていた。</p><p>少なくとも不死身だとか不滅だとか全知全能だとか、Olが今まで相手にしてきた存在と比べると随分隙が多いように思える。</p><p>無敵の盾と剣技。それだけで十分以上に恐ろしいと思いますけれど</p><p>困惑したように、ナギア。彼女には事前に、虚偽や隠し事をしないように命じてある。ということは本当にそれ以上の能力はないのだろう。</p><p>まあ、それならそれでいい</p><p>それが本当であるにせよないにせよ、Olにとって油断をする理由にはなりえない。</p><p>商談に移るとするか</p><p>ただ決めた事を、粛々と実行するだけだ。</p><p>商談だと？</p><p>革張りの椅子に深く座り、胡散臭げに視線を向けるサルナークは美しい男であった。</p><p>艶のある黒い髪とすらりと通った鼻筋は女と見まごうばかりだったが、しっかりと筋肉のついた上背のある体躯と鋭い瞳からは、むしろ精悍さを強く印象付けられる。</p><p>彼の周囲にはフローロのように角の生えたもの、翼を持つもの、深い毛に覆われたものなど、人ならざる種族の奴隷が数多く侍っていたが、サルナーク自身は角も翼も鱗も尾も生えていない、純粋な人間のようであった。</p><p>ああ。鋼の盾サルナークに相応しい代物を持ってきた</p><p>彼の住む一際大きな部屋に単身乗り込んだOlは、そう言って懐から手のひらほどの大きさの石の塊を取り出した。</p><p>なんだ、それは？</p><p>青白く光る線が走った、濃い灰色の立方体。何の役に立つのかもわからぬそれに、サルナークは露骨に興味を失いながら問う。</p><p>そうだな石壁の鎧、とでも呼ぼうか</p><p>それはダンジョンキューブであった。ダンジョンという語彙を持たない言葉で、Olは名称を捻り出す。</p><p>石壁だと！？</p><p>名を告げた途端、サルナークは椅子から立ち上がり、身を乗り出した。</p><p>ああ。俺を攻撃してみろ</p><p>その急激な反応に多少戸惑いつつも、Olはダンジョンキューブを手のひらに乗せてそう告げる。次の瞬間、Olの喉元に石壁が現れて火花が散った。</p><p>上、下、左、右、斜め、正面。立て続けに火花が散り、Olの目では見ることすら出来ない斬撃を、ダンジョンキューブの見えざる迷宮(ラビュリントス)が防いでいく。</p><p>これでも防ぐか！</p><p>興奮した様子でサルナーク。そう言いながらも、彼の剣速はますます上がっていった。防ぐ瞬間、Olの持つキューブからは石壁が伸びる。どれほどの速度であれば防御が間に合わなくなるのか試しているのだろう。</p><p>だがそれは無駄な試みであった。石壁は防いだ瞬間に実体化しているように見(・)せ(・)て(・)い(・)る(・)だけで、実際は防ぐ前からそこに存在しているからだ。</p><p>だがそれにしても、早い。無数の斬撃は石壁の実体化が消える前に放たれ、Olはほとんど全身を石壁で覆われているような状態になっていた。</p><p>このオレの斬撃を凌ぎ切るとは！これはどうやら本物のようだな！</p><p>サルナークは興奮した様子で言いながら、チン、と音を立てて、剣を鞘に収める。</p><p>この鎧が防げるのは斬撃だけではない。炎や毒といった、物理的でない脅威からも身を守る事ができる</p><p>ふむ？そうか</p><p>だが続くOlの説明には、サルナークはさしたる反応を見せなかった。彼の能力が本当に物理攻撃のみを無効化するというのなら、十分価値のある情報だろうと思ったが、とOlは内心首をひねる。</p><p>これと、お前がナギアから受け取ったというフローロの瞳を交換してもらいたい</p><p>ああ、構わん──と、言いたいところだが、その前に一つ聞きたいことがある</p><p>サルナークは鋭い視線をOlに向け、問うた。</p><p>それはオレにも使えるものなのか？</p><p>Olは思わず目を見開きそうになるのを堪える。</p><p>使える。まあ、多少の訓練は必要かもしれないが</p><p>ここで嘘をつくわけにはいかない。ナギアのように呪いをかけるのであれば、取引そのものは公正である必要があるからだ。</p><p>多少の訓練──か。貴様の見立てだと、オレはそれに何年くらいかかる？</p><p>サルナークは更に深く切り込んでくる。</p><p>個人の素質にもよる。お前の能力は知らないから、正確なことは言えないが</p><p>世界でも屈指の魔力操作能力を持ち、その生涯の大半を迷宮作りに捧げてきたOl。ダンジョンキューブはそんな彼だからこそ操れる魔道具だ。つまりそれを十全に使うためには彼と同じ領域まで鍛え上げる必要があり</p><p>七十年はかかるだろうな</p><p>彼が今までの人生で費やしてきた以上の時間はかかるであろうことは確かだった。</p><p>ハ！七十年だと！これはまたとんでもない物を売りつけようとしたものだな？</p><p>サルナークはOlの言葉に怒るどころか、愉快そうに笑ってみせた。</p><p>質問が致命的すぎる、とOlは思う。全くの未知の道具を見せられ、それを自ら操るものであると看破し、具体的な期限までをも確認してくる。それは、Olの想定の範囲を大きく超えていた。</p><p>そもそもダンジョンキューブを見て、自分で操作するものであると見抜けるはずがないのだ。Olがサルナークの斬撃を防いだ部分は自動的なもので、操作など一切していないのだから。</p><p>だがそれに気づいた理由はどうあれ、こうまでされては流石に取引は成り立たないだろう。別の手を考えなければならない。</p><p>いいだろう。商談成立だ、瞳を持ってこい</p><p>だからそう言ってのけるサルナークに、Olは驚愕した。</p><p>奴隷の一人が運んできた箱から、サルナークは石を取り出す。</p><p>それはフローロの瞳にそっくりな、漆黒の石であった。球体だったOlの魔術防護とも、石英の原石のようだった言語スキルとも違う。美しくカットされた、宝石のような石だ。</p><p>そら。これが瞳だ</p><p>サルナークはOlからダンジョンキューブを受け取って、瞳を無造作に投げ渡す。それを受け止めたOlの右腕が、ずるりと落ちた。</p><p>何のつもりだ</p><p>肘から先が切り落とされ、地面に転がる右腕に、Olは低い声で問う。</p><p>商談は無事終わったろ？</p><p>血に赤く濡れる剣を閃かせ、笑みを見せながらサルナークは答えた。</p><p>こっからは、強奪の時間さ</p><p>第2話奪われたものを取り戻しましょう-3</p><p>約束は違えてないだろ？なあ？オレはちゃんと約束通り、貴様に瞳を渡した</p><p>転がるOlの右腕を蹴り飛ばし、サルナークは地面に落ちたフローロの瞳を拾い上げる。</p><p>ただ不幸なことに、その後貴様は強盗に遭う。ただそれだけの話だ。ナギア！</p><p>サルナークが声を張り上げると、部屋の外で待機していたナギアが戸惑いながら入ってきた。</p><p>サルナーク様これは、一体</p><p>貴様がこの男と通じているのはわかっている。おっと、余計な事を命じるなよ</p><p>腕を押さえるOlに剣を突きつけ、サルナークはナギアに顎をしゃくった。</p><p>こいつから、この石壁の鎧とかいうのを操るスキルをいや、面倒だ。こいつの持っているスキルを全部奪え。悪くない商談だろう？貴様の全てと、生命を交換だ</p><p>そうか。目か</p><p>Olが呟くように言った瞬間、彼の左脚が切り裂かれた。</p><p>余計な事を言うなって言っただろう？だがまあ、教えてやる。その通りだ。オレはこいつで、貴様とナギアのやり取りを全て見聞きしていたのさ</p><p>フローロの瞳をチラつかせながら、サルナークは笑う。</p><p>愚かな魔族め。その本当の価値もわからないままに、貴様はオレにこれを差し出したな</p><p>サルナークが嘲笑っているのはOlではなく、ナギアだ。彼女の鑑定では、スキルの名前はわかってもその効果まではわからなかった。ただの瞳でないことはわかっても、具体的にどれほどの効果があるかまではわからなかったのだろう。</p><p>これこそは支配者の瞳。全ての魔族を支配し従える、魔王の瞳だ！</p><p>魔王、だと？</p><p>Olは驚愕に目を見開く。その右足に、剣の切っ先が突き刺さった。</p><p>ぐぅっ！</p><p>おっと、あんまりやり過ぎるとそろそろ死ぬか？殺して奪ってもいいんだが、聞きたいことは色々あるからな舌は残しておいてやる。ナギア。さっさと奪え</p><p>剣を引き抜き、つまらなさそうにサルナーク。</p><p>待ちなさい！</p><p>そこへ、突然フローロが現れて割って入った。</p><p>おっと魔王陛下御自らお出ましか。ご機嫌麗しゅう、元、魔王陛下</p><p>サルナークは元に殊更アクセントをつけて、慇懃無礼に礼をしてみせる。</p><p>へ陛下！？</p><p>ナギアはそれを知らなかったのか、驚きに目を見開いた。</p><p>Ol。私の配下になると誓いなさい！そうすれば助かります！</p><p>おっと、そうはさせるか！貴様ら、そいつを黙らせろ！</p><p>サルナークの命令に、彼に従う奴隷たちは皆戸惑いの表情を見せる。</p><p>やれ！</p><p>だが重ねてサルナークが命じると、奴隷たちは一斉にフローロに向かって襲いかかった。</p><p>Ol！お願いです！私の配下になる、と！</p><p>奴隷たちによって取り押さえられ、床に押し付けられながらもフローロは叫ぶ。</p><p>黙れ！</p><p>サルナークは彼女に向かって剣を振り上げ──</p><p>断る</p><p>Olの言葉に、ピタリとその動きを止めた。</p><p>何だと？</p><p>断る、と言った。俺とナギアの会話を全て聞いていたというのなら、お前も知っていよう。俺は誰にも従わぬ。生きる道は己で決める</p><p>サルナークのみならず、奴隷たちも、ナギアも、フローロもぽかんとしてOlを見つめた。</p><p>配下になると言ったとして、Olに何が起こるのかはフローロ以外にはわからない。しかし彼女がOlを助けようとしたのは明白であった。その救いの手を、Olは自ら跳ね除けたのだ。</p><p>──ハ</p><p>最初に我に返ったのは、サルナークだった。</p><p>ハハハハハ！いい啖呵だ。貴様の方がよほど王に向いているんじゃないか？</p><p>髪をかきあげ可笑しそうに笑い。</p><p>ではその選択通りナギア。そいつのスキルを全て奪え</p><p>己の奴隷に、そう命じた。</p><p>ナギアは言われるがままにOlの胸元に手を差し入れそして、引き出す。</p><p>そこに現れた巨大な光の結晶に、サルナークは目を見開き、感嘆の声を漏らした。これほどの量、これほどの輝きを持つスキルは、彼も初めて目にするものだった。</p><p>今日は最良の日だ。魔王の瞳と、魔王本人、そして未知のスキルが手に入った。これでオレは壁族に返り咲くことが出来る！こんな最下層とはおさらばいや、これさえあれば、最上層民王族になることだって夢じゃない！</p><p>哄笑を上げながらOlのスキルへと手をのばすサルナーク。しかしその手は、虚空を掴んだ。</p><p>スキルの結晶を高く持ち上げ剣を構えるナギアに、サルナークは鋭い視線を向ける。</p><p>ち、違うんです、サルナーク様！これは身体が、勝手にっ！</p><p>ナギアの剣が横薙ぎに振るわれ、サルナークの首を打つ。彼は避けもせずにそれを受けた。</p><p>Ol。これはお前か</p><p>Olはナギアに言葉を発してはいないし、事前に命令していた様子もない。ということは、彼は言葉を発さずともナギアを操ることが出来るのだ。</p><p>だが無駄だ。オレの鋼の盾は崩せん</p><p>何度も振るわれる白刃を気にした様子もなく、サルナークはナギアに間合いを詰めていく。一体どういう原理なのか、肌どころか着ている衣服すら傷ついていないようだった。</p><p>ぐい、とサルナークがナギアの上で無造作に掴んだその時。ナギアは大蛇のようなその下半身を、サルナークにぐるりと巻きつけた。</p><p>たとえ一切の傷がつかないとしても、拘束されることはどうか。</p><p>無駄だと言っているだろう</p><p>だがサルナークは事も無げにナギアの下半身を押し広げ、こじ開けた。ただ攻撃が効かないだけではない。物理現象に干渉する効果をも持っているらしい。</p><p>停止、か</p><p>ぼそりと呟くOlに、サルナークは眉を上げた。</p><p>触れたものを停止させるそれはつまり、力を失わせるということだ</p><p>だから剣で切りつけても傷がつかないし、大蛇の尾で締め上げても簡単にこじ開けることが出来る。ということは恐らく炎や毒も同様だ。それらは小さな目で見れば、結局の所物理的な現象に過ぎない。</p><p>彼の鋼の盾はその名に反して、ほとんどあらゆる攻撃を無力化する。だからこそ、Olのダンジョンキューブが炎を防げると聞いても、さしたる興味を示さなかったのだ。</p><p>オレのスキルの正体に勘付いたやつは貴様が初めてだ。まあ</p><p>サルナークはナギアの剣を弾き飛ばし、蹴り倒す。</p><p>気づいたところで無意味だがな</p><p>そして、その手から転がったOlのスキルに向かって手を伸ばした。</p><p>フローロの目の前に転がった、そのスキルへと。</p><p>離しなさい、無礼者っ！</p><p>フローロの怒声に、奴隷たちの力が緩む。その隙をついてフローロは拘束から腕を引き抜き、スキル結晶を掴む。そして、一息にそれを飲み込んだ。</p><p>な貴様！</p><p>反射的にサルナークは剣を振るう。だがそれは、堅牢な石の壁に阻まれた。</p><p>その光景にOlは愉快げに声を漏らす。</p><p>これ、は</p><p>そして彼以外のものは、やってのけたフローロを含め絶句した。サルナークの剣を防いだ石壁は、ダンジョンキューブのものではない。</p><p>このダンジョン自体の床から、飛び出したものだったからだ。</p><p>え、えいっ！</p><p>呆然とする奴隷たちを、その壁が更にせり出し弾き飛ばす。</p><p>馬鹿な新しい壁を作り出すスキルだと！？</p><p>狼狽えるサルナークをよそにフローロは立ち上がると、ゆっくりと埃を叩きながらOlに視線を向けた。</p><p>俺の術、しばし貸してやる。好きに使ってみろ</p><p>ありがとうございます。では、お借りします、Ol</p><p>フローロはぺこりと頭を下げ、改めてサルナークに向き直ると、彼をきっと睨みつけて言った。</p><p>私の瞳返してもらいます、サルナーク！</p><p>第2話奪われたものを取り戻しましょう-4</p><p>それで優勢にでもなったつもりか？</p><p>動揺を押し殺しながら、サルナークは剣を構える。</p><p>忘れたかも知れないが、全く同じスキルを持ったOlはあのざまだ。貴様がそれを手に入れたところで、オレに勝てるとでも？</p><p>不意をついたとはいえ、サルナークはOlを一方的に倒してみせたのだ。フローロが同じスキルを手にしたとしても、付け焼き刃の彼女はOlより弱いことこそあれど、強くなるはずがない。</p><p>サルナークの考えは道理であり、正しいものだ。</p><p>──ただしそれは、フローロの受け取ったものがスキルであればの話だった。</p><p>ぐっ！？</p><p>フローロに斬りかかろうとしたサルナークは、突然地面からそびえ立った柱に額をぶつけ、苦悶の声とともに数歩たたらを踏む。</p><p>馬鹿なオレの身体に傷をつけただと！？</p><p>そして、自分が痛みを感じていることに驚愕した。</p><p>貴様、何をした！？</p><p>フローロは答えず、サルナークをじっと睨みつける。</p><p>答えろッ！</p><p>サルナークは叫び、斬撃を見舞う。だが今度は壁から生えた横向きの柱がその一撃を防ぎ、同時にサルナークの腕をしたたかに打ち付けた。</p><p>ぐ、うっ！</p><p>やはり、鋼の盾の力が無効化されている。スキルを失ったわけではない。そんな隙はなかったはずだし、己の内側に意識を向ければそれは確かに存在している事がわかった。</p><p>だが事実として、フローロの攻撃は彼にダメージを与えているのだ。</p><p>これがOlの未知のスキルの力なのか。あるいはフローロの持つ魔王としての能力かも知れない。</p><p>舐めるなァッ！</p><p>槍のように襲いくる柱をかわし、サルナークは距離を取ろうとするフローロへと突き進む。柱はどこから出てくるかわからないのが厄介だが、かわせないほどの速度ではない。</p><p>ぐっこれしきっ！</p><p>そして柱から受けるダメージも、そこまで高いものではなかった。慣れぬ痛みに初めの頃こそ動きを止めてしまっていたが、覚悟さえしていていれば致命的なものではない。</p><p>喰らえッ！</p><p>そしてついにサルナークはフローロの眼前まで辿り着くと、その首を刎ねるべく刃を振るった。盾を作るように柱が伸びるが、サルナークの剣速には間に合わない。それは違わずフローロの首筋を捉え──</p><p>そして、空を切った。</p><p>何ッ！？</p><p>先程から微動だにしないフローロが、その一撃をかわしたわけではない。しかしサルナークの手元が狂って外したというわけでもない。ならば何故、剣はフローロの頭の上を通り過ぎているのか。</p><p>床か！</p><p>一瞬の後、サルナークはそれに気づいた。彼の踏みしめる床そのものが、せり上がってきている。柱を生み出すだけでなく、広範囲の床面さえも生み出せるとは。</p><p>小癪なッ！</p><p>反射的に飛び降りようとするサルナークを邪魔するように、せり上がる床面から更に柱が立ち上る。その間にもどんどん天井は、サルナークを押しつぶさんと迫っていた。</p><p>焦るサルナークは一箇所、邪魔をする柱が少ない場所を見出し、そこに飛び込もうとして</p><p>突然、その動きを止めた。</p><p>ずん、と低い音が響き渡り、せり上がる床が止まる。それは天井と床の間にサルナークが完全に挟まれ、押しつぶされたことを意味していた。その結果にフローロは目を見開く。</p><p>ハ</p><p>逃げ道を用意しておいたにも関わらずサルナークが圧死したからではない。</p><p>ハ、ハ、ハ、ハ、ハ！そういう、ことか！</p><p>彼が無事であるということを、フローロはわかっていたからだ。</p><p>つまらないトリックだ。まさかオレの鋼の盾に、そんな弱点があったとはな！</p><p>柱が鋼の盾を持つ彼に痛みを与えたのは、Olの未知のスキルの効果でも、魔王の能力でもなんでもない。</p><p>鋼の盾は自分自身の力からは、身を守れない。そんな、能力の制約のためだ。自分で自分を攻撃するなど、サルナークは今まで試したことは一度もなかった。</p><p>だが考えてみれば当然のことだ。あらゆる力を無効化しては、歩くことすらできなくなってしまう。自分の脚で床を蹴り、自分の体を押す力はきちんと受ける必要があるのだ。</p><p>そう考えてみれば、サルナークが痛みを感じたのは単純で馬鹿馬鹿しい理由。ただ飛び出した柱に、自分からぶつかっただけだ。</p><p>それにさえ気づけば、潰されそうになっても慌てる必要などどこにもなかった。彼を潰すことなど出来ない。結局彼の身体に天井が触れた時点で、その動きは止めざるを得ないのだ。</p><p>さて悪あがきもここまでだ</p><p>結局フローロにサルナークを害する手段がないということさえわかれば、慌てる必要もない。ゆっくりと追い詰め、殺せばいいだけの話だ。</p><p>まさか、降りてこないとは思いませんでした</p><p>ぽつり、と呟くようにフローロ。</p><p>ハ！あんなこれ見よがしな隙に引っかかるわけがないだろう</p><p>天井が迫りくる中、一箇所だけ空いていた場所。おそらくはそこに刃のようなものでも仕込んであったのだろう。サルナークが自ら飛び降り突っ込めば、その刃は彼を傷つけうる。</p><p>だがわざと隙を見せ行動を誘発するなどというのは戦の常道だ。今まで数々の戦いを生き抜いてきたサルナークは、直感的にそれを見抜いた。</p><p>はい。まあ。確かにあれは罠ではあるんですが</p><p>困惑したようなフローロの声。同時に、サルナークは妙だなと思った。</p><p>床(・)と(・)天(・)井(・)が(・)、(・)元(・)に(・)戻(・)ら(・)な(・)い(・)の(・)だ(・)。</p><p>自分から捕まってくれるとは思わなくって</p><p>なに？</p><p>あらゆるスキルには効果時間がある。</p><p>大半は剣術や鑑定のように一瞬か数秒で消えてしまうものだが、ものによっては数分、数時間持つものもあると聞く。だがいずれにせよ、それの効果はやがて失われるものだ。そしてたいてい、その時間は効力の強さや規模に反比例する。</p><p>ましてや母なる壁に似たものを作り出すようなスキルが、そう長く持つはずもない。数秒もすれば元に戻るのだろうと構えていたサルナークだが、床も柱も全く消える気配がなかった。</p><p>サルナーク。私が使った魔術は信じがたいことですが、柱や床板を生み出すスキルではありません。母なる壁を変形させ、動かすスキルです</p><p>フローロの言葉をサルナークが理解するのに、優に数秒を必要とした。</p><p>母なる壁はこの地に住まう者にとって、疑問を差し挟む余地などない、絶対的なものだ。いかなる方法を使っても破壊はおろか傷をつけることすら出来ない。ましてやそれを操るスキルなど、考えたこともなかった。</p><p>おかしいとは思わなかったのですか？床板を生み出しても、あなたを持ち上げることは出来ません</p><p>サルナークの鋼の盾は外部からのあらゆる力を無効化する。ならば当然持ち上げることなど出来るはずがない。だが実際に、サルナークはこうして天井近くまで持ち上げられている。</p><p>逆です。あなたが立っている場所以外の部屋全体を、全て低くしたのです</p><p>ば馬鹿な！そんな事、出来るはずがない！</p><p>それは二重、三重の意味を持った叫びであった。</p><p>何人もの奴隷を従え、他者のものを奪い、蹂躙してきたサルナークはお世辞にも善人とは言えないであろう。しかしそんな彼であっても、母なる壁を傷つける事は躊躇われる。実際に試みたところで傷一つつけられないとしてもだ。</p><p>その感覚は善悪を超越したもの。彼らにとって母なる壁は世界そのものであり、生まれたときから死ぬときまで一切変わらずに存在する絶対的なものだ。</p><p>それを操作できる者がいるなどと考えたくなかったし、出来るとしても実際にやるなど信じられなかったし、実際にやるとしてもこれほどの規模、これほどの量の壁を操作するなど、気がしれなかった。</p><p>──だが。彼女が言うことがもし、真実であるというのなら。</p><p>これは全て母なる壁だと言うのか！？</p><p>サルナークをぐるりと囲んでいる無数の柱と、彼の身長ギリギリの天井。フローロの言葉は、それが時間が経っても消えないばかりか、破壊すら出来ないことを現していた。</p><p>え？それ、言わなきゃいけないんですか？わ、わかりました</p><p>フローロはどこか戸惑った様子で一人呟き、サルナークを見据える。</p><p>その通りです。あなたは、最初から</p><p>ごごん、と音を立てて柱の隙間が別の柱で埋まり。</p><p>私の胃袋の中、です</p><p>フローロのその言葉を最後に、全ての音が遮断された。完全に密閉されたということだ。</p><p>母なる壁はそのものが光を放っているために何も見えなくなるということはないが、それ故に脱出する方法が全く無いということがありありと分かってしまう。</p><p>毛の逆立つような嫌悪感、抵抗感を押し殺して、サルナークは剣を振るう。だがそれは壁に一筋の傷をつけることも出来ず、逆に刃が欠けた。</p><p>おい待て。馬鹿なそんな事があるか？</p><p>出ることが、出来ない。その事実はじわじわとサルナークの心に染み込み始めた。それを悟ったかのように、壁が更に彼に向かって迫ってくる。</p><p>待てやめろ！よせ！</p><p>その先に待つ運命を正確に悟り、サルナークは青ざめた。</p><p>彼の鋼の盾は無敵だ。どんな攻撃も通じない。だからどんなに天井や壁が迫ってこようと、彼が押しつぶされる心配はない。</p><p>だが同時に、その迫る壁を押し止める方法もない。</p><p>壁を押さえれば、その部分の動きは確かに止まる。だが壁はまるで柔らかい粘土のように形を変えて、サルナークが押さえていない部分だけが迫ってくる。</p><p>待て待て待て待て！嘘だろう！？まさか、そんな、ことが！</p><p>迫る壁はけしてサルナークを潰すことはない。</p><p>ただ彼の存在する場所以外を、全て埋め尽くすだけだ。</p><p>身体をどう動かそうとその形にぴったり合わせて埋まっていく壁は、まるで精巧なサルナークの形をした型を取るかのよう。とうとう彼は指一本動かせないほどに周囲を埋め尽くされてしまった。</p><p>鋼の盾は今この場においては、何の役にも立たなかった。あらゆる攻撃が効かなくても、腹は減る。いや、その前に乾き死ぬかあるいは、息が詰まって死ぬ方が早いかも知れない。</p><p>出せ！ここから出せ！</p><p>いくら叫んでも声は狭い空洞の中で反響するばかりで、それどころか口の中に侵入してきそうな壁を防ぐためにサルナークはぐっと口を引き結んだ。</p><p>壁の中にいる。</p><p>ただそれだけで。己が破滅してしまったのだということを、サルナークはようやく悟った。</p><p>第2話奪われたものを取り戻しましょう-5</p><p>フローロは壁に閉じ込められたサルナークが完全に動かなくなったのを確認して、深く息を吐いた。Olの術には壁を操るだけでなく、その中を覗き見るものまである。</p><p>その知識はあまりに膨大で広範なものだったが、フローロは迷うことなくその力を振るうことが出来た。なぜかといえば</p><p>（とりあえずこれで決着という所か）</p><p>フローロの頭の中に、声ではなく直接意味が響く。それは言語を介さない思考そのもの。彼女の内側に取り付いた、Olの思考であった。</p><p>（本当に、何者なのですか、あなたは）</p><p>（それはこちらの台詞なのだがな）</p><p>結晶化したスキルというものは、それを扱うこと自体は自然と出来るものだ。しかし複数の異なるスキルを組み合わせて自在に操るとなれば、それには訓練と慣れが必要だ。</p><p>フローロがOlのスキルを</p><p>（魔術だ）</p><p>魔術を操ってサルナークを追い詰めることが出来たのは、この声の支援があってのことであった。</p><p>ああの陛下</p><p>残されたサルナークの奴隷たちのうち、一人がおずおずとフローロに問いかけた。</p><p>あたしたちは、これからどうしたら？</p><p>その問いに、フローロは返答に詰まる。今の彼女は魔王ではない。最下層の奴隷に過ぎないのだ。奴隷たちを導けるような立場にはなかった。</p><p>（お前はそれでいいのか？）</p><p>迷う彼女の心の中を見透かして、Olは問いかける。その意思は厳しく問い質すようでもありながら、不思議と楽しげに尋ねているようにも思えた。</p><p>（私、は）</p><p>いい訳がない。もちろん、それでいいはずなど、あるわけがなかった。ましてやフローロを見つめる魔族たちの前で──</p><p>奴隷にまで身をやつした臣民たちの前で、それでいいなどと言えるはずがない。</p><p>フローロに注目する奴隷たちの表情は様々だ。だがそこには明るいものは何一つなかった。不安、困惑、怒り、憤り。彼女たちの境遇と、自分の立場を考えれば当然のことだ。</p><p>皆さん。今まで、苦労をかけました</p><p>だがその表情はかつて幸福に彩られ、笑みに満ち溢れていたはずだ。</p><p>私は先代魔王、ストーノの娘。フローロ・サナオ・エウニーセ・オーレリアです</p><p>そう思うと自然と、フローロの唇は言葉を紡いでいた。</p><p>サルナークはこの柱に封印しました。程なくして死ぬでしょう。そうなれば、あなた達は奴隷の身分から解放されます</p><p>奴隷たちがざわめく。それは歓迎ではなく、不信のざわめきだ。</p><p>私もまた、奴隷です。この身には何も残されてはいない。私一人では何も出来ません</p><p>その気持ちは、フローロには痛いほどわかった。彼女自身がそうだったからだ。</p><p>なるべく何にも期待しないように。何にも心を動かさないように。そうして生きてきました</p><p>彼女と同じ場所に落とされ、それでもなお我を通そうとする男の姿を見て、フローロは思ったのだ。</p><p>でも、それはもう、嫌です。魔族と言うだけで虐げられる暮らしは。奴隷となってあらゆる自由を奪われ、惨めに扱われる暮らしは。何にも期待せず、生きたまま死体となってただ人生を送る一生は、もう嫌です</p><p>彼らはフローロのことを信じてはくれないだろう。</p><p>私を信じてとは言えません</p><p>失敗し、奪われ、破滅したかつての王のことなど。</p><p>でも、もう一度だけあなた達自身の力を、信じてほしい</p><p>──自分のことすら、信じられないのだから。</p><p>わたくし達の力</p><p>ぽつりと呟いたのは、ナギアだ。</p><p>魔族は魔族と呼ばれている私達には、力があったはずです</p><p>それに答えるように、フローロは声を張り上げた。</p><p>ナギアさん達尾族は、人よりもよく見える瞳と強靭な下半身があります。羽族には空を舞う翼と軽やかな身体が。牙族にはあらゆるものを切り裂く鋭い爪と牙が。それは奴隷として使役されるためのものではないはずです！</p><p>奴隷たちの表情が、僅かに変わる。フローロに集まっていた視線は、互いを見やった。</p><p>私は信じたい。自分のことをもう一度信じて──自分の道は、自分で選びたい</p><p>それはあるいは、破滅への道なのかも知れない。少なくとも彼らは一度、その道を選んで失敗している。</p><p>すぐに決めろとは言いません。一日、ゆっくりと考えて決めて下さい</p><p>呆然とする奴隷たちを置いて、フローロは踵を返し、その場を立ち去った。</p><p>良かったのか？</p><p>部屋を出ると、いつの間に外に出たのかOlがそこに待ち構えていた。</p><p>今のお前がそう命じれば、奴らはお前に従ったと思うが</p><p>奴隷となったものは、己で物事を決めるという事に不慣れだ。だからこそ、彼らはフローロに今後のことを尋ねた。しかし彼女のやったことは、それを突っぱねるようなものであった。</p><p>ええ。今の私には彼らを導く資格も、力もありませんから</p><p>そう答えるフローロの表情は、しかしさっぱりとしている。</p><p>（力ならここにあるだろう）</p><p>フローロの頭の中に潜んだOlの意思がそう尋ねる。確かにOlのこのスキルが</p><p>魔術があれば、魔族を解放することも出来るかも知れない。サルナークが最上層を夢見たのも無謀とは言えないだろう。</p><p>いいえ。これはお返しします。ナギア</p><p>ひ、ひゃいっ！？</p><p>突然名前を呼ばれ、ナギアは思わず角の陰から返事をしてしまった。彼女の蛇のような下半身は、自分で立てようと思わなければ全く音を立てずに床を移動することが出来る。足音一つなくついてくる尾族の尾行に気づくことが出来るものは少ない。</p><p>私に入れたス魔術を、Olに戻して下さい</p><p>よよろしいのですか？</p><p>訝しげに問うナギアに、フローロは頷く。確かに彼女の目から見れば、これほどの術をOlに返すというのは勿体ないことのように思えるのだろう。だがうっかり頭の中でスキルと呼ぶ度に訂正され続けるのは正直フローロとしても面倒だった。</p><p>（面倒とは何だ、面倒とは）</p><p>（それに、その気になればあなたは私を乗っ取ってしまえるのでしょう？）</p><p>不満げな意思に尋ねると、ニヤリと笑うような雰囲気が伝わってきた。もしあのときスキルの</p><p>魔術の結晶を、フローロではなくサルナークが奪っていたら、そのまま彼の身体を乗っ取ってしまっていたのだろう。</p><p>形代を操作する魔術。自身の肉体を操りながら他者の肉体をも操作する程その術に長けたOlの目から見てみれば、わざわざ彼の術を自分の内に入れることなど自殺行為に等しい。</p><p>ナギアの手によってフローロの中からOlのスキルが引き抜かれ、元の持ち主へと戻される。</p><p>あ、あれっ！？Ol様、腕と足は！？</p><p>その際に、サルナークに斬り落とされたはずの手足が元に戻っているのに気づいて、ナギアは驚きに目を見開いた。</p><p>随分綺麗に切ってくれたからな。元に戻す程度、造作もない</p><p>そう嘯くOlの手足には、傷跡どころか血の跡一つ残っていない。フローロは今更その程度では驚く気にもなれなかった。</p><p>さて。それでお前はどうするのだ？</p><p>魔族を奴隷の身分から解放します</p><p>きっぱりと答えるフローロにOlは一つ頷く。</p><p>なるほど、大した心意気だ。だがお前一人にそれが出来るか？</p><p>いいえ</p><p>フローロは首を振り、じっとOlを見つめた。</p><p>彼の言いたいことはわかっている。</p><p>現状を変えたいと願うのであれば、Olの力を借りるしかない。</p><p>彼はその力を持っている。文字通り、この世界を変革する力。どこから来たのかもわからない、非常識な能力だ。サルナークが最上層を夢見たのも無謀とは言えないだろう。</p><p>だがと、フローロは考える。</p><p>Olと関わった時間はまだほんの僅かだが、それでもわかっていることがある。</p><p>彼はけして、善人ではないということだ。</p><p>少なくともフローロが彼を助けたことに恩義を感じてはいるようだし、それを仇で返すつもりもないようではある。しかし決して無条件に信頼できるような相手ではなく、ほんの少しでも隙を見せれば食い殺されるような恐ろしさを感じた。</p><p>対価もなく協力してくれと言ったところで無駄だろう。</p><p>私には、あなたの力が必要です。ですが、どれほどの対価を用意すればあなたの力を借りるに足るのか、私には想像すらつきません</p><p>Olは僅かに眉をひそめる。それはどういう感情なのかわからなかったが、無視してフローロは続けた。</p><p>ですから私のこの身全てを捧げます。それであなたの力を私に貸しなさい</p><p>そのような取引をせずとも、俺はお前の全てを手に入れることができるぞ</p><p>フローロは頷いた。</p><p>わかっています。ですが、あなたはそうしません</p><p>やるつもりなら、先程そうしていたはずだ。そう返しても、Olはいつでも出来るからあえてしなかっただけだと答えるだろうし、事実その通りだろう。</p><p>あなたは、誇り高い方だからです</p><p>だがその返しは想定していなかったのか、Olは僅かに目を見開いた。</p><p>あなたは強く、そして誇り高い。仰るとおり、私を手に入れようと思うならそう出来るでしょう。だからこそ、私を騙したり誤魔化したりする必要などない。私が差し出せるものを全て差し出し、それでも足りないと言うのならば、話はそれまでです。あなたのしたいようにすればいいでしょう</p><p>選択肢などそもそもないのだ。フローロにはもう何も残されてはいない。全てを奪いつくされ、魔王などという称号も名ばかりだ。</p><p>だから、彼女が使えるものはたった一つ。誠意だけであった。</p><p>お前な仮にも王を目指すというのなら、もう少し駆け引きというものを学ばぬか</p><p>しかしそんなフローロに対してOlが浮かべたのは、酷く呆れた表情だった。</p><p>まずはそこから教えてやらねばならぬようだな。全く骨が折れる事だ</p><p>そ、そんなに言わなくても良いでしょう。それで、どうなのですか！協力してくれるのですか、してくれないのですか！？</p><p>フローロが問うと、Olはますます呆れを強くする。</p><p>愚か者が</p><p>溜息とともに罵倒するOl。</p><p>あ、あの</p><p>ナギアがそこにおずおずと割って入った。</p><p>教えてやるってことは協力してくれるってことなのではありませんの？</p><p>フローロの瞳が、みるみるうちに大きく見開かれ。</p><p>察しの悪い奴だ。これでは先が思いやられる</p><p>ありがとうございます、Ol！</p><p>頭痛を堪えるように額に手を当てるOlに、フローロは頭を深々と下げた。</p><p>まずはこの最下層を抜け出したいと思います。どうか、よろしくお願いします</p><p>違うな</p><p>低く呟くようなOlの言葉に、フローロは首を傾げる。</p><p>ダンジョンの最下層とは卑しいものの住む場所ではない</p><p>ダンジョンの最上層と言ったところで、その上には地上があり、空があり、月が、太陽が、星々がある。</p><p>ダンジョンの支配者。もっとも偉大なるものが住む場所だ</p><p>だが、最下層はそうではない。それは人の至る場所の最終到達点。最も深き深奥の地。</p><p>故に我々が最上層を目指すのではなく──</p><p>これは、二人の魔王が天を目指す物語ではない。</p><p>他の者共に、ここを目指させるのだ</p><p>最深部を、取り戻す物語である。</p><p>第3話魔王の才覚を確かめましょう-1</p><p>ふむ意外と悪くはないな</p><p>品のいい調度品の並んだ部屋を見渡し、Ol。そこはサルナークが使っていたという部屋であった。流石は最下層の支配者を名乗るだけあって、皮が一枚敷かれただけのフローロの部屋とは段違いであった。</p><p>あの、Ol？</p><p>本人は壁の中だ。別に俺が使っても構わんだろう？</p><p>それは、誰も文句を言わないとは思いますけど</p><p>フローロは戸惑った様子で入り口を見つめながら、問うた。</p><p>どうして入り口を閉めるんですか？</p><p>Olのダンジョンキューブが壁を作り、唯一の入り口を塞いでしまっていたからだ。</p><p>何。余計な邪魔が入ってもつまらんのでな</p><p>そう言ってOlは羽織ったローブを脱ぎ捨てると、フローロを射すくめるように視線を向けた。</p><p>全てを差し出すといったお前の覚悟のほど。疑っているわけではないが、どれほどのものかを確かめさせてもらう</p><p>はい！</p><p>フローロはきりと表情を引き締め、頷く。</p><p>今からお前を、抱く</p><p>しかしOlがそう言うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。</p><p>それで覚悟のほどがわかるんですか？</p><p>まあ、ある程度はな。お前が慣れておらんのはわかっている</p><p>奴隷と言っても、フローロの主人は彼女を性奴としては扱っていないようだった。経験があったとしてもせいぜい一度か二度のことだろう、とOlは踏む。</p><p>よくわかりませんがどうぞ</p><p>フローロは腑に落ちない表情をしたまま、そう言って立ったまま両腕を広げた。</p><p>何のつもりだ？</p><p>あ、すみません。覚悟を問うなら、自分から行動すべきでしたね</p><p>フローロはそう言うと、Olに近づき、彼を真正面からぎゅっと抱きしめる。</p><p>どうでしょうか。覚悟のほどは伝わりますか</p><p>そして抱きついたまま、真剣な表情でOlを見上げた。</p><p>そうでは、ない</p><p>Olは彼女の身体をひょいと持ち上げると、半ば放り投げるようにしてベッドの上に横たえさせる。</p><p>これからお前を犯すと言っているのだ</p><p>そしてその瞳の奥底を覗き込むようにして、言った。</p><p>おか、す？</p><p>一方で、フローロはキョトンとした表情でオウム返しに問い返す。</p><p>すみません、犯すとは、どのような事を指しているのでしょうか</p><p>経験が少ないどころの話ではない。</p><p>全く何も知らないのだ。</p><p>Olはそれを悟って、頭を抱えた。</p><p>今から</p><p>そうは言っても、知らないからと言って今更引っ込みはつかない。それにいずれにせよ、これはやっておかなければならないことでもあった。</p><p>お前の誇りを、汚すような行為をする。それを受け入れろということだ</p><p>Olがそう言うと、流石にフローロは難しい表情を浮かべた。</p><p>それは言葉通りに捉えていいのでしょうか</p><p>実はどうしても譲れないような誇りを持っているかどうかのテストというような事はありませんか？</p><p>だがそのピントは、どこまでもズレていた。</p><p>そもそも犯すと言われて何をされるかすらわからんのに、譲れるかどうかもあるか</p><p>あ、そうですね</p><p>いまいち理解していない様子で、フローロは頷く。</p><p>まあ良い。そのような引掛けはない。ただお前は、今から俺がもたらす苦痛に耐えればよいだけだ</p><p>我慢比べですね</p><p>真剣な面持ちのフローロに、別にOlの方は何かを我慢するわけではないのだが、などと言う気も失せた。</p><p>え？わ、うぷっ</p><p>Olは返事を聞かずに、強引に彼女の着ている服を剥ぎ取る。</p><p>そして、その光景に思わず息を呑んだ。</p><p>垢染みた粗末な服からは想像もできないほどに美しく、シミ一つない滑らかな肌。腰は触れば折れてしまいそうに細くくびれていながら、むっちりとした尻と太股は男の劣情を煽ってやまない肉感に満ちている。</p><p>そしてその胸は、一体どこに隠していたのかと問い質したくなる程に豊満だった。リルに勝るとも劣らない大きさの双丘は溜め息が出そうなほどに美しい形をしていて、仰向けに寝ているというのに崩れずにツンと形を保っている。</p><p>先端はほとんど肌の色と変わらぬ淡い桃色をしていて、Olをして摘んでしまうのが勿体なく感じる程の汚れのない美しさであった。</p><p>どうしましたか、Ol？</p><p>思わずその肢体を舐めるように眺めるOlに、フローロは身体を隠す様子もなく問うた。</p><p>Olは先程剥ぎ取った粗末な服に目を向けた。服と言ってもろくな縫製もしていない、薄っぺらなボロ布である。とてもこの大きさを隠す余地などなさそうに見えるのだが、と思いつつ、Olはそこに手を伸ばす。</p><p>幻覚や作り物ではない。ぐにぐにと揉みしだくOlの指に従ってその形を変える柔らかさと、手のひら全体をぐっと押し返してくる弾力。Olのよく知る乳房の感触そのものだった。それもただの乳房ではない。極上のさわり心地と大きさを持ったバストだった。</p><p>？Ol？</p><p>無心で胸を揉みしだくOlを、フローロは不思議そうに眺める。本当に全く知識がないらしく、羞恥も不快感も感じていないようだった。</p><p>ふむ脚を開け</p><p>？はい</p><p>そう命じれば、彼女は躊躇いなく秘所をOlの前にさらけ出した。Olは己の指先を唾液で濡らし、秘裂を軽くなぞる。</p><p>んっ</p><p>すると、フローロは流石に小さく声を漏らす。と言っても快楽というよりは、普段触れられない場所に触れられたくすぐったさに近いものだろう。とはいえ、それは快楽に極めて近い感覚だ。</p><p>性感というのは舌の味覚や指先の器用さ、あるいは筋力と同じだ。繰り返し繰り返し練習を積むことで発達していく。何も知らないまっさらなフローロの身体を女にするには、本来であれば何日もかけて開発していく事が必要だ。</p><p>無垢な身体をじっくりと自分好みの色に染めていくのも一興ではあったが、覚悟を量るためという名目もある。それに何よりOl自身に、そこまでの猶予が残されてはいなかった。</p><p>んっ！</p><p>故にOlは、魔術を使った。闇の中を見通すように、巨人の如き力を備えるように、性感も当然魔術によって倍増させることが出来る。</p><p>Ol、今のはあっ！</p><p>ついと魔力を帯びたOlの指先がフローロの膣口を撫で、彼女は敏感に反応して声を上げる。</p><p>何、ですか？っ、ああっ！</p><p>戸惑いながらも問う彼女に答えず、Olはフローロの乳首を摘み上げた。指先でこね回してやると、そこはすぐに硬くそそり立つ。小さく可憐な蕾が健気に張り詰める様子は主人にそっくりだ。</p><p>オウ、ルふぁあっ！</p><p>耐えろと言ったはずだぞ</p><p>Olがそう告げると、フローロはハッと目を見開いて、口を引き結んだ。</p><p>声はいくら出しても良いからな</p><p>言いつつ、Olの指先がつぷりとフローロの膣内に侵入する。</p><p>あっ、んっ！</p><p>フローロは言われた通り、素直に声を上げた。とろりとした透明な液体が彼女の中から分泌され、Olの指を汚す。十分に感じている証拠だ。</p><p>んっ、ふ、あっんんっ、ふあぁっ！</p><p>ゆっくりと指を差し込み、中の壁を撫でながら引き抜き、もう一度侵入する。Olが指を動かす度にフローロは身体を震わせて、高く嬌声を上げた。</p><p>んっ、あふぅっんんっ</p><p>その声は次第に色を帯び、フローロは肩で荒く息を吐きながら、潤んだ瞳でOlを見つめた。その行為の意味はわかっておらずとも、この行為に先があることを本能的に察しているのだ。そして、無意識に彼女はそれをOlにねだっている。</p><p>ぬぷりと、Olの指が一際深くフローロの膣を穿つ。その指先が、柔らかなひだに触れた。膣口をぐるりと覆うように包むそれは、彼女の純潔の証だ。</p><p>んっあ、んっは、ぁっんっ</p><p>その柔らかな膜を傷つけぬよう、優しくOlの指が撫でる。そんな刺激も今のフローロにとっては十分すぎるほど強いもので、彼女は内ももをピクピクと震わせながら喘ぎ声を上げた。</p><p>んっ、あっんんっ！は、んんんっ！</p><p>処女膜をなぞりながら、ぎゅうと乳房を鷲掴みにし、その先端を親指と人差指で押しつぶす。フローロはたまらず高く鳴きながら内ももに力を込め、背筋を反らした。</p><p>絶頂に達したのだ。</p><p>あっ、んんっ、あぁんっ、ぅんっ、あっ、や、ぁっ！</p><p>だが彼女が達しても、なおもOlの指はフローロの膣内を蹂躙することをやめなかった。文字通りの処女地を嬲る指先を、フローロの膣口が無意識に締め付ける。</p><p>ああああっ！？んっ、くぅっ！ああああ、あああああっ！？</p><p>フローロは指先が白くなるほどキツくシーツを握りしめながら、何度も何度も絶頂に達し叫ぶように声を上げた。</p><p>溢れ出る愛液はOlの手首までを濡らし、ベッドの上に小さな泉を作っている。</p><p>自分が今何をされているのか、どうなってしまっているのかすらわからぬまま、穢れを未だ知らぬ少女は丁寧に丁寧に快楽を教え込まれ、身体をほぐされていく。</p><p>ふぅっふぅっは、ぁあ</p><p>大きく股を広げたまま肩で荒く息を吐き、汗と涙と唾液にまみれた少女の顔の前に、Olは下履きから取り出した己自身を突き出した。</p><p>あ♡</p><p>フローロがそれを目にするのは初めてのことだった。だがその機能を知らずとも、それをどのように使うのかははっきりと分かった。</p><p>彼女の身体は、既に分からされてしまっていた。</p><p>意識せずとも股の奥が疼き、それを欲して愛液が分泌される。</p><p>ください♡</p><p>フローロは気付けば、そう口にしてしまっていた。</p><p>両脚を大きく広げ、自分の指先で花弁を押し開きながら、その奥を指差して。</p><p>ここに♡Olのそれ、入れて下さい♡</p><p>快楽に蕩けきった表情で、甘くそうねだった。</p><p>第3話魔王の才覚を確かめましょう-2</p><p>そう声をかけ、Olは返事を待たずにフローロの膣内へと侵入を果たす。</p><p>しとどに濡れたそこは、あっさりと太い剛直を飲み込んだ。</p><p>純潔の膜を破る際に僅かにフローロは顔をしかめたものの、その反応はごく僅かなものだった。手間暇かけてこれ以上ないほど柔らかくほぐしたところに、女の体を熟知したOlが細心の注意を持って挿入したのだ。わざわざ痛みを止めるような魔術を使わずとも十分といえる。</p><p>ふあぁぁっ♡</p><p>その証拠にゆっくりと奥へ押し込めば、それに押し出されるようにしてフローロの口から甘い声が漏れた。</p><p>んっ♡は、んんっ♡あっ♡</p><p>性交の意味すら知らないというのにいや、あるいは知らないがゆえか。素直に快楽を貪るフローロの声はひどく艶かしかった。</p><p>Olぅ♡ここ、さっきみたいに、触って下さい♡</p><p>それどころかOlの腕を取って己の胸に導きつつ、ぎこちないながらも自ら腰を動かしすらしていた。</p><p>あっ♡いぃんっ♡それぇっ♡もっと、あぁんっ♡</p><p>遠慮なくそのたわわに実った乳房を揉みしだいてやれば、フローロは悶えるように喘ぐ。その表情はすっかり快楽に蕩け、控えめながらもしっかりとした芯を持つ元魔王の面影は殆ど見られなくなっていた。</p><p>それぇっ♡Ol、そこっ♡ごしごしされるの、好きですっ♡もっと、して、下さいっ♡</p><p>ぎゅうと膣口で強くOlのものを締め付けながら、フローロはもどかしげに腰を揺らしそうねだる。</p><p>ここをどう呼ぶのかも知らぬのか？</p><p>あんっ♡知って、ますけどぉ♡口に出すのは、恥ずかしい言葉、ですよぉ♡</p><p>一応恥ずかしいという概念自体はあるらしい。</p><p>構わん。して欲しいのであれば、どこをどうされたいのかはっきりと言ってみろ</p><p>おまんこの、奥ぅっ♡Olのおちんちんで、ごしごしして下さいっ♡</p><p>しかしOlがそう命じると、フローロは躊躇いもなくそう口にした。</p><p>恥ずかしいのではなかったのか？</p><p>だってぇ♡して欲しいんです♡Ol、ちゃんと言いました♡わたしちゃんと言いましたからぁっ♡わたしのおまんこ♡ちゃんとごしごししてください♡</p><p>呆れ半分でOlはフローロの腰を掴み、ぐっと突き入れる。</p><p>あぁんっ♡やぁ、Olぅ♡おっぱいもぉっ♡ちゃんとおっぱいもいじってくれなきゃやですぅ♡</p><p>注文の多いやつだ</p><p>Olはぼやくように答えつつも、腰に力を込めながら両手でフローロの胸を掴んだ。両手に余ってなおあふれる大きさの胸肉は強く握れば崩れてしまうのではないかと思うほどの柔らかさで、それでいて手のひらにしっとりと吸い付くような触り心地だ。</p><p>Olの剛直を咥え込んでいる秘所も下半身全体がびっしょりと濡れてしまうほどに愛液を漏らしておきながら、Olの物をちぎらんばかりに締め付けて、ぬるぬるとした肉の感触が先端をくすぐるよう。</p><p>とてもついさっきまで処女だったとは思えぬような、極上の肉体だった。それこそ、Olとて気を入れねば勢い余って達してしまいそうなほどの。</p><p>待ておかしい</p><p>どうしましたか、Ol？</p><p>動きを鈍らせるOlに不思議そうに首を傾げつつ、フローロは自ら腰を揺すってOlの男根をしゃぶるように抽送する。</p><p>先程までぎこちなかったはずのその動きはいつの間にか随分こなれ、フローロはピストン運動を繰り返しながらも腰をくねらせ更に奥へとOlの肉槍を咥えこんでいた。</p><p>お前！どうして、そんなくっ！</p><p>やぁん♡駄目ですよ、Olぅ♡もっと、気持ちよくして下さい♡</p><p>引こうとするOlの腰をぎゅっと脚で挟み込み、フローロは彼の腕を取ってむにゅっと自らの胸に強く押し付け、更に上から指を重ねて揉みしだかせた。</p><p>もっとぉ♡Olのおちんちんで、わたしのおまんこ♡いじめてください♡</p><p>懇願する少女の額に角は生えているが、しかし彼女はサキュバスではない。それどころか悪魔でもない。悪魔であればその身体は魔力だけで構成されているはずだが、フローロの肉体はれっきとした肉でできている。尾や翼、鱗や毛皮を持った者たちと同じように、角が生えているだけの生き物なのだろう。</p><p>だがその淫らさと身体の抱き心地の良さ、そして性技の物覚えの良さは淫魔さながらであった。</p><p>いいだろう。そこまで言うなら全力で相手してやる</p><p>とはいえ、Olは本物のサキュバスを妻としほとんど毎晩抱いてきたのだ。臆する理由もなく、Olは繋がったままフローロの身体をくるりと回転させてうつ伏せにさせると、彼女に覆いかぶさるようにして組み敷いた。</p><p>えっ？オウふぁぁぁぁぁあんっ♡</p><p>急に体位を変えられ戸惑うように振り向きかけるフローロだったが、ずんと奥まで突き込んでやるとすぐに声を蕩けさせた。</p><p>あっ♡はぁんっ♡いいっ♡きもちいいですっ♡Olぅっ♡</p><p>もはや魔術による増幅も切ってしまっているというのに、Olの太く長い肉槍をずっぷりと咥えこんで痛がるどころか悦びに喘ぐフローロ。もはや天賦の才という他ないだろう。こんな娘が今まで男のことを一切知らずに生きてきたのは奇跡的なことであった。</p><p>あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡はぁんっ♡</p><p>Olが腰を打ち付ける度に、濡れた肉のぶつかり合う音とフローロの嬌声が部屋の中に響く。更に快楽を求めるべく彼女は尻を高々と上げ、その動きに合わせてぶるんぶるんと揺れるたわわな双丘をOlは鷲掴みにした。</p><p>柔らかな乳肉を指の形にぐにゃりと歪ませながら、指先で容赦なく乳首を摘み上げる。</p><p>はぁぁんっ♡それぇっ♡それ、いいですぅっ♡</p><p>快感にきゅうと締め付けてくる膣口を無理矢理こじ開け、両乳房をほしいままに弄びながら、ぐりぐりと抉るように腰を押し付ける。</p><p>ああっ♡それっ♡そこっ♡だめっ、あっ、あっ、あーっ♡</p><p>普通の処女であれば痛いだけであろう子宮口への刺激もフローロはしっかりと感じ抜いて、背筋を反らして絶頂に達した。</p><p>あぁっ♡だめっ♡まだっ♡わたし♡あっ♡あぁっ♡♡♡</p><p>だがOlは休むことを許さず、更に何度も何度も彼女の最奥を強く突く。その度にフローロの視界は白く瞬き、途方も無い快感に彼女は舌を突き出しながら身体を震わせた。</p><p>絶頂でキツく締め付けてくるフローロにたまらず、Olはそう宣言する。そして思い切り抱きしめながら、彼女の中に精を放った。</p><p>あぁぁぁっ♡ああああぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡</p><p>膣奥で白濁の奔流を受け止めて、フローロは高く鳴きながら一際大きく絶頂に身を震わせた。大量の子種が、その意味すら知らぬ無垢な少女の胎内を犯していく。</p><p>んぅっ♡は、ぁ♡</p><p>最後まで出し切った一物を引き抜くと、フローロは気持ちよさそうに身体を弛緩させながら、ベッドの上に突っ伏した。</p><p>Ol♡とってもきもちよかったです♡また今度、今のをして欲しいです♡</p><p>自分が何をされたのかも理解せぬままとびきりの笑顔で言う彼女の秘裂から、ほんの僅かに血の混じった精液がどろりと零れ落ちる。</p><p>ああ。何度でもしてやるとも</p><p>Olは答え、何とは無しに顔を近づけフローロに口づけた。</p><p>途端、フローロは劇的な反応を見せた。すなわち、口を両手でおさえ、瞳を最大限まで見開いて、Olの顔を見つめたのだ。</p><p>キ</p><p>き？</p><p>その反応に首を傾げるOlに。</p><p>キスなんかしたら赤ちゃんできちゃうじゃないですかっ！？</p><p>フローロは顔を真っ赤に染めてそう叫んだ。</p><p>ああまあそうだな</p><p>子供が出来るような事をしたのは確かであったので、Olは曖昧に頷く。</p><p>オOlは、私と赤ちゃんを作りたいのですか？あっ</p><p>正確に言えば子作りそのものではなく、その為の行為なのだが、とどう説明したものか思案している内に、フローロはなにかに気づいたように声を上げた。</p><p>そ、そういうことなのですね覚悟というのは。確かに私は全てを差し出すと言ったのですから、当然それも考慮しておくべきでした</p><p>何だ？何を言っている？</p><p>その呟きに何やら不穏なものを感じたOlは問い質すが、答える前にフローロはベッドの上で全裸のまま姿勢を正すと、改まった様子で深々と頭を下げた。</p><p>不束者ですが、よろしくお願いいたします</p><p>違う！そうではない！</p><p>案の定、身を固める覚悟を決めたらしいフローロにOlは叫んだ。</p><p>結婚するつもりでないのなら、何故子を作るような事をしたのか。</p><p>性交の意味さえ知らずキスで赤子が出来ると思っている無垢な少女に、老獪な魔王はその後数時間にも渡って説明する羽目になったのであった。</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-1</p><p>虚空に、小さな半透明の箱が一つ浮かぶ。</p><p>Olが軽く指で触れるとそこから線が伸び、似たような箱に繋がれる。その箱からは更に複数の線が伸び、その先に箱が繋がれ、線と箱とは瞬く間に増え広がって、まるで蜘蛛の巣のように縦横に張り巡らされていく。</p><p>ふむ思ったよりもだいぶ大きいな</p><p>みるみるうちに作られていくそれは、このダンジョンの地図であった。</p><p>元とはいえ魔王のフローロでさえ地上を知らないほどのダンジョン。一体どれほどの大きさなのかと魔術による走査を試みたOlの眼前に広がったのは、展開中であるにも関わらず既にOlのダンジョンに勝るとも劣らぬ程の規模を見せ始めていた。</p><p>む結界か。小癪な</p><p>その表示が、途中で壁にぶつかったように止まる。それは本物の壁ではなく、魔術的な壁であった。Olが今いる場所から七階ほど上の地点で、魔術走査が食い止められている。</p><p>ち無理か</p><p>Olはそれを力づくで突破しようと試みたが、途中でふらりと目眩を感じて魔術の行使を中断した。</p><p>やはり魔力が足らんな</p><p>忌々しげに呟いて、彼は傍らですやすやと眠るフローロに目を向ける。</p><p>この迷宮は訪れただけで魔力が抜け、失調を起こすほどに魔力に乏しい。そんな中で、Olが気絶している間に目をさますことが出来るほどに回復したのは、フローロのおかげだ。</p><p>どういうわけか、彼女はその身に膨大な魔力を蓄えているのだ。歩くダンジョンコアのようなものというと流石に言いすぎだが、並の魔術師など及びもつかないほどの魔力を秘めているのは確かなこと。下手をすればラーメスにさえ匹敵するかも知れない程の量だ。恐らく彼女が魔王だという話と無関係ではないのだろう。</p><p>だからこそ、彼女はOlよりも上手くOlの魔術を扱うことが出来た。殆ど魔力が切れかけているOlと違い、彼女の魔力量であれば相当大規模な魔術であろうと自由自在に行使できる。</p><p>そんなフローロが自然と放出する魔力を吸収したがゆえに、Olは身体を動かし魔術を行使できるまでに回復した。二重の意味で彼女は生命の恩人だと言える。</p><p>Olがフローロを抱いたのも単にその覚悟を試したり、美しい身体を堪能したかったというだけの話ではない。魔力を奪うのであれば交わるのが一番効率がいいからだ。</p><p>しかし、フローロの持つ魔力は濃い紫をしていて、Olの琥珀色の魔力とは随分と性質が異なる。奪ったところですぐに使えるわけではなく、自分の体の中でゆっくりと消化する必要があった。</p><p>いずれにせよ、ダンジョンコアも龍脈も存在しないこのダンジョンの中ではそう派手な魔術を使うことは出来ない。魔術を使わずとも魔力は消費されていってしまうので、定期的にフローロと交わる必要があるだろう。もっとも、昨日の様子を見るに彼女にとっては望むところだろうが。</p><p>起きろ、フローロ</p><p>んぅふあぁおはようございます、Ol</p><p>目を擦りながら挨拶するフローロは、昨日の乱れっぷりが嘘のようにあどけない。</p><p>まずは顔を洗え。今後のことを相談するぞ</p><p>不可解なやつだと思いながらも、Olは水の入った桶を突き出すのだった。</p><p>王を目指すにあたって、まずやるべきことが二つある</p><p>二つですか？</p><p>不思議そうに首をかしげるフローロに、Olは頷き答える。</p><p>一つはお前の立場だ。よもや王となるべき者が奴隷の立場でいるわけにもいくまい</p><p>あっそう、ですね</p><p>言われて思い出したのか、フローロ。</p><p>解放されるにはどうすれば良いのだ？主人を殺せば良いか？</p><p>確かに主人が死ねば自動的にその奴隷は解放されます。或いは主人が奴隷の解放を宣言するかただし、奴隷は自分の主人を害することは出来ません</p><p>では話は早いな。俺がお前の主人を殺せばいい</p><p>Olがいうと、フローロは表情を曇らせた。</p><p>殺さずに何とかする方法はないでしょうか</p><p>何だ。奴に義理でもあるのか？</p><p>Olの問いに、フローロはふるふると首を横に振る。</p><p>いいえ。むしろ散々罵倒され虐げられた恨みがあります</p><p>ならば何を躊躇する。まさか今更、人を殺すのが嫌などとは言わぬだろうな</p><p>そうではありません。恨みを持つからこそ、殺したくないのです</p><p>フローロの答えに、Olはニヤリと笑みを浮かべた。</p><p>きっと私は、その死に喜びを感じてしまう。それが怖いのです</p><p>それで良い</p><p>ぽん、と頭に置かれるOlの手を、フローロはきょとんと見上げる。そんなくだらない理由で、と言われるかと思っていたのだ。</p><p>恨みや憎しみは瞳を曇らせる。そんなものは目的を達成するのには不要だ。必要であれば殺し、必要でないなら生かしておけば良い。俺の見た限り、お前の主人は小物だ。わざわざ殺す必要などあるまい</p><p>憎しみに囚われるのは不毛だ。</p><p>恨みなど忘れて生きろ。</p><p>フローロは今まで幾度となくそう言われてきた。</p><p>だがOlのいうそれは、全く別の意味を持っているように思えた。</p><p>Olはこのような境遇になったことを恨まないのですか？</p><p>恨むが？</p><p>試しに尋ねてみれば、何を馬鹿なことをと言わんばかりに答えられた。</p><p>どうして俺がこのような場所に飛ばされたのかはわからんが、もし何者かが悪意を持って行ったのであれば必ず然るべき報いを受けさせてやる。そんなのは当然の事だ</p><p>淡々と、Olは述べる。</p><p>だがそれは、恨みを晴らすために行うのではない</p><p>その声色は恨みつらみを込めたものではなく、炎が赤いという事実を説明するかのようなもので。</p><p>俺は俺に楯突くものを許さぬ。敵を全て後悔させてやらねばならぬ。だがそれは、俺の気持ちなどという矮小なものの為ではない。俺の敵となるのがどれほど割に合わないかをわからせてやる為だ</p><p>フローロは、彼が自分の主人を痛めつけている時のことを思い出した。一切の色を持たない、無関心なあの瞳。Olはきっと、人を殺すときも全く同じ目でやってのけるのだろう、と思った。</p><p>あの時はそれを恐ろしいと思った。</p><p>だが今は、なぜかそれをひどく頼もしく思えるのだった。</p><p>ところで、もう一つのすることとはなんですか？</p><p>忘れたのか？</p><p>意外そうに目を見開いて、Olは言った。</p><p>サルナークの奴隷達の処遇だ</p><p>完全に忘れていたフローロは、声を上げた。</p><p>Ol様、フローロ様</p><p>Ol達がサルナークを閉じ込めた部屋に向かうと、ナギア他奴隷達が数人集まっているところだった。</p><p>いえですが、わたくし達は未だ奴隷から解放されていないようなのです</p><p>見上げたしぶとさだな。どれ</p><p>壁の中はみっちりと埋め尽くされていて、サルナークは指一本動かせないレベルにまで固められてしまっているはずだった。普通ならば一刻も持たず窒息死するはずだが、とOlは魔術で中を伺う。</p><p>壁の中で、サルナークはぐったりとしていた。ピクリとも動く様子がなく、とても生きているようには見えない。少しつついて様子でも見るか、とOlが壁を動かそうとした瞬間、サルナークは突然かっと目を見開いた。</p><p>ほんの僅かな魔術の気配を感じ取ったのか。サルナークの反応にOlは驚くが、だからといって彼に何が出来るわけでもない。</p><p>にる</p><p>だが、掠れた声で発せられた彼の言葉に、Olは笑みを浮かべて頷いた。</p><p>パチン、とOlが指を鳴らすや否や、サルナークを閉じ込めていた巨大な石の柱はバラバラに解けるようにして消え去り、汗にまみれ消耗したサルナークがどさりと地面に転がった。</p><p>ぐぅ！</p><p>サルナークは萎えきった肉体をなんとか動かし、剣を掴んで立ち上がる。</p><p>オウル！</p><p>そしてOlの眼前まで幽鬼のようにふらつきながら歩みを進めたところで、ガクリと膝をついた。</p><p>Olは震える腕で突き出された剣を手に取り、それでサルナークの肩を叩いた。</p><p>俺に仕えるという契約、確かに承った</p><p>Olがそう言った途端、サルナークは意識を失い地面に倒れ伏す。</p><p>ふむ命に別状はないな。寝かせておいてやれ</p><p>Olがそう命じると、自然と奴隷たちの数人がサルナークを運んで連れて行く。</p><p>Ol、今のはどういう事ですか？</p><p>奴は俺に仕える代わりに生命を助けろといい、俺は承知した。それだけのことだ</p><p>サルナークの言葉は命乞いと言うにはあまりにも尊大であったが、Olはかえってそれを気に入った。命を盾に取られてなお挫けぬ誇り。一晩指一本動かせぬ牢獄に閉じ込められ、なお微塵も生存を諦めないその胆力。それはスキルなどというものでは得られぬ素質だ。ここで殺すには惜しい男だとOlは思った。</p><p>つまりサルナークをOlの奴隷にしたということですか？</p><p>そのような制度は知ったことか。ただ配下にしただけだ</p><p>フローロの問いに、吐き捨てるようにOl。</p><p>それより、紙とペンはないか？</p><p>ございますが何にお使いになられるのですか？</p><p>カバンから紙とペンを取り出すナギアに、Olはニヤリと笑い、答えた。</p><p>契約書だ</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-2</p><p>うん。ばっちり良く見えます！ありがとうございます、Ol！</p><p>元に戻しただけのことだ。感謝される謂われはない</p><p>輝きを取り戻した目をパチパチと瞬かせ喜ぶフローロに、Olはそっけなく言葉を返す。</p><p>こ、これを全部読めというのか？</p><p>別に読まなくとも俺は構わんがな</p><p>その一方で、目の前に置かれた分厚い紙の束を凝視し脂汗を垂らすサルナークにOlは涼しい顔で答えた。</p><p>フン。オレは貴様に仕えると誓ったのだ。このような取り決めなどしなくとも、好きに命じればよいだろうが</p><p>サルナークは腕を組み、契約書から顔を背けると吐き捨てるように言う。</p><p>ええとサルナークが魔術によって女性に変化したときの取り決め</p><p>今日中に全部読む</p><p>だがフローロがそのうちの一枚を取り上げて内容を呟くと、サルナークはすぐさまそれをひったくるようにして奪い、そう言った。</p><p>うむ。それがいいだろう。ところで出来れば早急に行って欲しい頼みが一つあるのだが</p><p>何だ。女体化以外なら聞いてやる</p><p>盛大に顔をしかめ、しかし真剣な眼差しを契約書に走らせながら、サルナーク。</p><p>フローロを奴隷の身分から解放したい。お前なら出来るな？</p><p>だがOlがそう問うと、彼は一転して野獣のように獰猛な笑みを浮かべて答えた。</p><p>サルナーク様、この度はお呼び立て頂き、誠に</p><p>つまらん挨拶はいい。そんなことよりだ</p><p>フローロの主人コートーというその男をサルナークはギロリと睨みつける。</p><p>単刀直入に言おう。お前が飼っているあの魔族の女。あれを寄越せ</p><p>そ、そう申されましても</p><p>サルナークの命令に、コートーは慌てて答える。</p><p>どうかご容赦をあれはワタシにとって唯一の奴隷です。己の奴隷を所有する権利だけは、サルナーク様といえど侵害できぬはずです</p><p>この最下層に法らしい法はない。だがしかし、奴隷とスキルだけはたとえ相手が奴隷であったとしても一方的に奪ってはならないと決まっていた。サルナークはむしろその法を守らせる側の人間だ。</p><p>無論、ただでとは言わん。相応の対価は用意する</p><p>サルナークの合図にナギアが両腕に抱えた袋を数個、どさりと床に下ろす。その口からはたっぷりとした食料や雑貨、宝石などが覗いていた。最下層の奴隷一人を譲り受けるには十分すぎる量だ。</p><p>同意致しかねますな</p><p>だがいやらしい笑みを浮かべて首を振るコートーに、サルナークは眉をひそめた。</p><p>申し上げました通りあれはワタシの唯一の奴隷。対価を頂いたところでおいそれとお譲りするわけには参りません</p><p>何だと！？</p><p>歯を剥き出し柳眉を釣り上げるサルナーク。コートーはひっと声を上げて身体を竦ませたが、言葉を取り消しはしなかった。</p><p>おかしい、とサルナークは思う。コートーはフローロが魔王の娘であることなど知らないはずだ。そもそも最下層の人間たちは、魔王の顔さえ知らない。サルナークですら、彼らが支配者の名を関するスキルを持っているということくらいしか知らなかった。</p><p>だがコートーのこの態度は、フローロが価値ある存在であるということを明らかに知っているものだ。</p><p>別に奴隷を解放する方法は一つだけじゃないんだぜ</p><p>サルナークの手が、腰の剣の柄に添えられる。</p><p>サ、サルナーク様こそワタシはもう、あなた様の支配下にはないんですよ</p><p>そうしてなお下卑た笑みを崩さないコートーに、サルナークは目を剥いた。最下層にいる者たちはその大半が、サルナークの下に存在する。すなわち彼の奴隷であるか、そのまた奴隷であるかといった調子だ。</p><p>ワタシは今、ユウェロイ様の奴隷です。おいそれと害すればサルナーク様とて、無事ではすみませんよ</p><p>ユウェロイだと！？馬鹿な、何故お前如きが！？</p><p>どうやら想定外のことが起こったらしい。隣室で見守っていたOlが立ち上がろうとすると、サルナークは腕を上げてそれを制した。黙って見ていろということらしい。</p><p>ユウェロイとは誰だ？</p><p>中層に住む有力な壁族の一人です。普通、上の方の階層の者は、最下層の人間になんて関わらないものですが</p><p>代わりに傍らのフローロに尋ねると、彼女もまたどこか困惑した様子でそう答えた。</p><p>そういうことなのでね。アレは引き取らせて頂きますよ。そこにいるのはわかってる。さっさと来ねえか！</p><p>コートーが怒鳴ると、フローロはびくりと身体を震わせた。主人だからといってその命令に何らかの強制力があるわけではない。しかし今まで何度も鞭打たれてきた記憶が、彼女を自然と従わせる。</p><p>だが彼女はその途中で、ピタリと足を止めた。</p><p>Olの瞳が、彼女を射抜くように見据えていたからだ。</p><p>彼は腕を組んだまま壁にもたれかかり、何を言うでもなくフローロを見つめている。だがその言わんとする所ははっきりと彼女に伝わってきていた。</p><p>フローロはキリリと表情を引き締め、ピンと背筋を伸ばし部屋を出る。その背を、Olは笑みを浮かべて見送った。</p><p>お呼びですか</p><p>待たせるんじゃねえ！この！汚れた血が</p><p>コートーの怒声は、フローロの姿を認めてあっという間にその勢いを失った。Olが仕込んだ恐怖の記憶がいまだ有効であったというのもある。</p><p>しかし理由の大半は、彼を見るフローロの姿が彼の知るものとまるで違ったからだ。</p><p>コートーの知るフローロは常に下を向き、陰気で覇気がなく、いつも何かに怯え背を丸めている少女だった。</p><p>それが今は毅然としてコートーを見つめ、それでいて気負った部分がまるでない。同一人物とはとても思えない、凛とした佇まいであった。</p><p>コートー</p><p>それまでコートー様と呼んでいた相手を、フローロは自然に呼び捨てる。</p><p>私はあなたにもう仕えることは出来ません。お引取り下さい</p><p>その堂々とした立ち居振る舞いに、コートーは自分が呼び捨てられたことにすら気づかなかった。</p><p>何を馬鹿なことを！誰がお前を拾い上げ、今まで面倒見てやったと思っている！</p><p>はい。それには感謝しています</p><p>全てを失い、最下層に追いやられたフローロが、辛く貧しい生活とはいえ今まで生きてこれたのはコートーが主となっていたからだ。少なくとも彼はフローロを手慰みに殺すようなことはなかったし、振るう鞭は痛みを与えるだけで取り返しのつかないような傷もつけられてはいない。</p><p>冷酷な主人についてしまったばかりに命を失っていった魔族はフローロが知るだけでも何人もいる。コートーの事を恨んでいるというのも、感謝しているというのも、偽らざる本音であった。</p><p>ですが私はこれ以上奴隷という立場に甘んじているわけにはいかなくなりました。──魔王として命じます。私を解放しなさい</p><p>毅然と言い放つフローロの言葉はともすれば居丈高に感じるものであったが、傍で聞いているサルナークの耳には不思議とそうは感じられなかった。むしろ、滅茶苦茶なことを言っているにも関わらず正当な要求にすら聞こえる。</p><p>王？お前がお前が王だって？この汚れた血が！</p><p>だがコートーは唸るように言って、フローロを睨め上げた。</p><p>何を勘違いしてやがる！魔族が壁界を支配していたのは、もうずっと前のことだ！お前はただの奴隷で、最底辺の存在だ！何が魔王だ、この汚れた血が！</p><p>その指先から奴隷を打つための鞭を取り出そうとして、コートーは手を止める。</p><p>フローロの背後から、サルナークが射すくめていたからだ。</p><p>その鞭を振るうなら好きにしろ</p><p>サルナークはいっそ平静な声色で、そう告げた。</p><p>ただしその瞬間に、お前の首は飛ぶ</p><p>ワワタシは、ユウェロイ様の</p><p>上等だ</p><p>サルナークは刃を抜き放ち、獰猛な笑みを見せて答える。</p><p>こっちはそもそも最上層を獲るつもりなんだ。中層の壁族如きにビクビクしてられるかよ</p><p>それは、サルナークが本気でフローロにつくと決めたという証拠でもあった。</p><p>さあ、とっとと決めな。このお嬢を解放するか、首だけになるか</p><p>ひっわ、わかった、わかりました！フローロをワタシの奴隷から、解放する！</p><p>サルナークが刃を閃かせ、コートーの頬に一筋の傷をつける。それだけで彼は音を上げて、悲鳴のような声色でそう叫んだ。</p><p>それと同時に、フローロの首についていた輪状の印が、まるでガラスのように割れて消え去る。</p><p>たただで済むと思うなよ！</p><p>コートーはそう言い捨てると、一目散に部屋を飛び出していった。</p><p>ありがとうございます、サルナーク</p><p>ハ！別に礼を言われる筋合いはねえ。いいか、この際はっきり言っておく</p><p>サルナークは剣を鞘に収めながら、ギロリとフローロを睨みつける。</p><p>オレは魔族が嫌いだ。魔族の下で働くなんざ反吐が出る。お前を王と認めるつもりなんざこれっぽっちもねえ</p><p>その瞳にあるのは明確な嫌悪。</p><p>だが、お前とOlの野郎に付くのは美味そうだ。オレはどんな手段を使おうと必ず壁族に返り咲く。その為には何だって利用してやる。だから今は、お前に手を貸してやる。それだけだ</p><p>はい！私も、そのつもりです</p><p>触れれば切れてしまうような鋭い視線を向けるサルナークは、そうしてもニコニコと笑顔を浮かべるばかりのフローロに毒気を抜かれ脱力した。</p><p>ほう。何だって利用するか</p><p>その時、出し抜けにOlの声がした。それは彼がことの成り行きを見守っていたはずの隣室からではなく、コートーが逃げていった通路の方から。</p><p>ならばこいつをそのまま逃がすのは、少々甘すぎるのではないか？</p><p>そこには。</p><p>気絶したコートーをまるで野うさぎでも捉えるかのように首を掴んで持ち上げ、邪悪な笑みを浮かべる魔術師の姿があったのだった。</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-3</p><p>Ol、何してるんでしょう</p><p>聞くな。知るか。知りたくもねえ</p><p>隣の部屋から断続的に聞こえてくる男の悲鳴に耳を塞ぎつつ、サルナークはうんざりとした口調で答えた。</p><p>こいつには少し聞きたいことがあるといってOlがコートーの首を掴んだまま隣室に籠もり、一時間。最初は盛大に上がっていたコートーの悲鳴は次第に弱々しい悲痛なものになり、そして啜り泣きすら混じり始めた。</p><p>やっぱり、私──</p><p>悪いことは言わねえ。やめとけ</p><p>彼が何故フローロに協力してくれるのかはわからないが、Olが何をするにせよ、それはフローロの目的を叶えるためのもののはずだ。であるならば、それをきちんと己の目で見る必要がある。</p><p>フローロのそういった主張は、邪魔だの一言で切り捨てられた。</p><p>ですが</p><p>つーかあいつはそもそも何なんだ？どこであんなの拾ってきた？</p><p>サルナークは今まで自分のことを、それなりに悪党だと思っていた。無論、上には上がいることくらいはわかっていたが、Olの悪辣さは上とか下とか、そういうレベルの話ではないように思えた。</p><p>あいつは何ていうかそう。手慣れてるんだ</p><p>自分で口にして、彼は思った以上にそれがしっくり来ることに気がついた。サルナークとて悪逆を成すとき、それが悪であることを意識して行う。今更そこに躊躇いなどしないが、それが悪いことであることは認識している。</p><p>しかしOlにはそういった気負いが全く見られないのだ。非道な行いを、呼吸をするかのように行ってみせる。それはナギアを罠に嵌めた時も、サルナークを追い詰めた時もそうであった。</p><p>わかりません。ですが、一つだけはっきりしていることはあります</p><p>だがフローロは微塵も疑う事なく、きっぱりと答える。</p><p>彼は信頼できる人です</p><p>人は必ず裏切る</p><p>その台詞にかぶせるように、呪詛のような言葉が降り注いだ。</p><p>信頼するのは構わんが、お前はもう少し警戒心というものを持て</p><p>Olは痙攣するコートーをぞんざいに放り投げ、フローロとサルナークの間の席に座るとテーブルの上に置かれた水をぐいと飲み干す。</p><p>人は必ず裏切るかいい言葉じゃないか。誰の言葉だ？</p><p>とんでもなく苦いものを食べたような表情をするサルナークを無視して、Olは続けた。</p><p>あのコートーという男も大したことは知らないようだったが、一つわかったことがある。あいつ自身はユウェロイの奴隷だと言っていたが、正確にはあいつはユウェロイから三階層ほど下で、直接の主人はラディコという名だ。知っているか？</p><p>いえ初めて聞く名前ですね</p><p>フローロは首を横に振る。様子を見るにサルナークも同様であるらしい。</p><p>わたくしが知っておりますわ、Ol様</p><p>親しげな声色と共に音もなく現れたのは、蛇の下半身を持つ美女。ナギアであった。</p><p>蛇め</p><p>その姿を見て、サルナークは露骨に舌打ちする。</p><p>Ol、この蛇に限って言えばまさしくお前の格言の通りだ。こいつは必ず裏切る</p><p>あらサルナーク様。酷いですわ。今まで誠心誠意お仕えしてきましたのに支配者の瞳だってお渡ししたではありませんか</p><p>目元を押さえ、泣き真似をするナギア。しかしその瞳からは一滴たりとて雫は流れていない。</p><p>お前は使い方がわからず俺に寄越しただけだろうが。あれは奴隷を持たないものには全く無意味な代物だからな</p><p>フローロの左目。支配者の瞳の力は、その名の通り己が支配するものの視界を盗み見る能力だ。実際には視界だけでなく、聴覚や触覚、更には嗅覚や味覚など、自分の奴隷が感じたこと全てを己のものにすることが出来る。</p><p>だが奴隷を持たないナギアやフローロにとっては無用の長物であった。</p><p>それで、その情報の対価は何だ？</p><p>いやですわ、Ol様</p><p>ナギアはその長い蛇の身体を絡めるようにするりとOlにすり寄ると、彼の胸板にぎゅっと己の豊満な胸元を押し付けながら囁いた。</p><p>何でもするという約束を結んだのですから、わたくしはあなた様の忠実なしもべ。対価など必要ないに決まっているではありませんか</p><p>なるほど性悪だ、とOlは内心で呟く。たちの悪いことに、彼女の今の言葉は殆ど嘘ではなかった。かと言って、心からの本音というわけでもないだろう。</p><p>確かに彼女は何でもするといった。だが契約というものは得てして、何をするかよりも何をしないかの方が重要なものだ。今のままではOlに嘘をつくのも裏切るのもそれこそ何(・)で(・)も(・)す(・)る(・)事が出来る。</p><p>かといって、サルナークに対して行ったように大量の契約で縛るという事もできない。今のナギアにOlと契約を結ぶ理由がないからだ。命を盾に取るような状況だったとはいえ、契約はサルナーク自身が望んだこと。自分から望んで結んだ約束でなければ、契約の呪いは途端にその効力を失う。</p><p>まあ良い。聞いてやる</p><p>ラディコは下層に住む牙族で、鉄の腕のスキルを持つ事で知られております。勇猛果敢にして豪放磊落。巨大な鉄槌を軽々と振り回し、翼獅子さえ一撃のもとに屠るとか</p><p>つらつらと歌うように語るナギア。Olが知りたかったのは戦闘能力よりもむしろ人となりや何を重んじるかだったが、内心で当てにならんなと呟くだけに留めた。</p><p>魔族か</p><p>ナギアの説明に対し、吐き捨てるようにサルナーク。</p><p>そもそも魔族とは何だ？</p><p>そういえばしっかりとした説明を受けていないことを思い出し、Olは問うた。</p><p>魔族というのは私やナギアの様に、魔の特徴を持つ者のことです。持っている部位によって、尾族や牙族、翼族などと呼ばれます</p><p>己の額から生えた角に触れながら、フローロは説明する。</p><p>ふむするとフローロは角族と言った所か？</p><p>いや。ややこしいが、角だけを持ったものはただ魔族と呼ばれる。魔族って言葉は広義には魔族全体を指し、狭義には角だけを持った種族を表すというかOl、貴様そんなことも知らずにお嬢の味方をしているのか？</p><p>呆れたように問うサルナークに、うむとOlは頷く。</p><p>ってことはまさか、魔王についても知らないのか</p><p>ああ。だが大体の察しはつくぞ。能力に優れる魔族が統治していたが、人間たちが反乱を起こし王を殺す。娘は秘密裏に逃され、奴隷の姿に身をやつして再起を伺っていたというところだろう</p><p>おおよそ、その通りです</p><p>Olの推測を、フローロは首肯する。ありふれたと言うほどに実際にはよくある話ではないが、叙事詩(サーガ)にならばありがちな話だ。一つ気になるところはあったが、Olはそれを無視して話を進めた。</p><p>このタイミングで行動を起こすということは、そのユウェロイというものはフローロの事情を知っており、更に監視していたということになるだろうな</p><p>正体のわからぬ不審な男が近づいたからか。あるいは、その男を伴って最下層の主を下したからか。直接的な理由はわからないが、一つだけはっきりしていることがある。</p><p>となれば必然、このまま黙って見ているということはなかろう</p><p>ユウェロイは、フローロの道を阻むつもりだということだ。</p><p>ハ。どうでもいいさ。邪魔をするならぶった切るまでだ</p><p>サルナークは椅子に背を預け、長い足を組んだ。Olの渡した契約書には、鋼の盾を奪わないと書かれていた。故に彼のスキルは未だ健在である。鉄槌だろうが長槍だろうが負ける気はしない。</p><p>うむ。サルナーク、お前にはやってもらいたいことがある</p><p>いいぜ、大将。どいつでも真っ二つにしてやる</p><p>カチリと剣の鯉口を鳴らすサルナーク。</p><p>いや、剣は使わん。代わりにこれを使え</p><p>そんな彼に、Olは用意しておいたものを渡した。</p><p>なんだ、こりゃ</p><p>それは棒状ではあったが剣ではなく。</p><p>長い柄を持ってはいたが槍でもなく。</p><p>大きな頭を持っているが斧でもない。</p><p>見てわからんか？</p><p>いやわかるから、言ってるんだが</p><p>サルナークは袋状になった先端を見つめ、うんざりした口調で言う。</p><p>俺に虫でも捕らせようってのか</p><p>それはいわゆる、たも網だった。</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-4</p><p>このダンジョンには足りないものが一つある</p><p>一つですか？</p><p>反射的に返したフローロの問いに、しかしOlは押し黙った。</p><p>いや一つどころじゃないな。二つ、三つ、四つうむ。むしろ足りているものを数えた方が早い</p><p>そんなに駄目なんですか！？</p><p>指折り数えだし、それすら途中で放棄するOlにフローロは思わず叫んだ。ダンジョンというのが壁界全体を指す言葉であることは教えてもらっている。つまりは世界全体への駄目出しである。</p><p>駄目というと語弊がある。ダンジョンに何を望むかは人それぞれだ。飽くまで俺の理想とするダンジョンに足りぬものがあるというだけのこと</p><p>はあ</p><p>独白のように語るOlに、ピンと来なかったらしくフローロは小首を傾げる。</p><p>あ、もしかしてそれが、サルナークに捕まえさせてるのと関係するんですか？</p><p>うむ。アレもそのうちの一つではある少し魔力を貰うぞ</p><p>Olは出し抜けにフローロを抱き寄せると、彼女に口づけ魔力を奪った。何せ大気中にも食事中にも殆ど魔力が存在しないのだ。魔術を使わなくとも体の中の魔力は目減りする一方であった。</p><p>その一方で、Olが奪ったフローロの魔力はしっかり回復している。何らかのスキルを持っているのか、それとも別の仕組みがあるのか、未だにOlにさえわかっていなかった。</p><p>わかっているのは、こうして定期的に魔力を補充する必要があるということだけだ。</p><p>んOl♡</p><p>唇に伝う銀の糸を、フローロの舌がぺろりと舐め取る。先程までの控えめで生真面目な様子とは打って変わって、とろりと蕩けた艶めかしい表情でフローロはOlを見つめた。</p><p>するんですか？</p><p>問いの形を取りながら、明らかに期待した様子でフローロはOlの手を取り、己の胸に押し当てる。その柔らかく悩ましい感触に、Olがその気になりかけたときのことだった。</p><p>何盛ってんだ、貴様らは</p><p>膨らんだ布の袋とたも網を抱え、ぐったりとしたサルナークが地獄のような声色で割って入ってきたのは。</p><p>ご苦労。早かったな</p><p>うるせえ乳揉みながら労うんじゃねえ！</p><p>眉一つ動かさずに答えるOlに、サルナークは怒鳴りながら網を地面に叩きつけた。</p><p>そら。これでどうだ</p><p>うむ。申し分ない量だ</p><p>サルナークから袋を受け取り、その中身にOlはニヤリと笑みを浮かべる。</p><p>フローロ。悪いが伽はまた後だ。これをナギアに渡してきてくれ</p><p>フローロは再び人が変わったかのように快活に答えると、布袋を抱えて部屋を出ていく。</p><p>アンタまさか魔族を抱く気か？女が欲しいなら融通してやってもいいんだぜ</p><p>部屋に残されたサルナークは、不意にOlにそんな事を尋ねた。</p><p>ふむ魔族嫌いだから言っているというわけではなさそうだな。人間と魔族が性交渉するのは一般的ではないのか？</p><p>聞き返しながら、性交そのものは普通に存在する事にOlは少し安堵した。フローロの思い込みではなく、この世界の生き物が接吻によって繁殖する可能性もゼロではないと考えていたからだ。</p><p>あったり前だろ。あのお嬢はまあ、だいぶ人間に近い見た目だからそこまで抵抗はないかも知れんがそれでも人間じゃねえんだぞ？ましてや蛇だの猫だの鳥だの相手に欲情できるかよ</p><p>ふむそんなものか</p><p>嫌悪感を滲ませ眉をしかめるサルナーク。彼からすれば、獣を相手にするのと似たようなものなのだろう。あれほど麗しい見目を持つフローロが、奴隷の立場でありながら穢れを知らぬ身であったこともそれが理由なのかも知れない。</p><p>そんなものかってなぁじゃあお前、あのナギアに突っ込めるってのかよ？化け物の癖に色目使ってきやがって気色悪ぃと思ったろ？</p><p>いや、別に抱けるが</p><p>ラミアは人と蛇の身体の境目、人間ならば股間の部分に膣口があったが、尾族はどうなのだろうか。などと考えつつも、Olはあっさりとそう答えた。</p><p>じょ、冗談だろ！？</p><p>確かに性格には少々難があるがな。見目は十分良かろう</p><p>Olにとっては見た目よりもむしろ性格の方が難点であった。何でもするという契約を結んだのだから、その気になれば伽を命じることも出来る。Olがそうしないのは、隙あらば寝首をかこうとする魂胆が丸見えの性根が大きかった。</p><p>腰から上だけならな！？だけどあの下半身を見ただろ！</p><p>何を言っている？</p><p>呆れすら滲ませた声色で、Olは言った。</p><p>下半身も美しいだろう、あれは</p><p>人からは分かりづらいが、蛇の身体とて美醜はある。あらゆる魔に通じ、魔王と呼ばれるOlにとってはもはや人の肉体を見分けるのと変わりない。</p><p>太すぎず、されども細すぎもせず、すらりと伸びた尾にキラキラと輝く鱗。上半身同様、美女いや、美蛇と呼んで差し支えのない身体であった。</p><p>貴様、本気いや、正気か？</p><p>まるきり狂人を見る表情で、サルナークはOlを凝視する。</p><p>どうやら人間が魔族を性的な対象に見るというのは随分おかしなことらしいが、それならそれで好都合だ、とOlは思う。別に処女に拘るわけでもないが、他の男の手がついてないならそれに越したことはない。</p><p>さてな。正気ではないかも知れぬが、それがどうかしたか？</p><p>参った。降参だ。アンタにゃ勝てねえよ、大将</p><p>真顔で返すOlに、サルナークは両手を上げて肩をすくめる。</p><p>そしてその背後、通路の物陰で、ナギアは危うく布袋を取り落しそうになっていた。</p><p>（ほ、ほ、ほ本気ですの────！？）</p><p>その白い肌が、頬どころか耳の先まで真っ赤に染まっていく。</p><p>（え！？じょ、冗談ですわよね！？わたくしのこの下半身が、美しいだなんて）</p><p>実のところ、美醜の感覚は人間も魔族もそう差はない。見慣れており、何より自分自身の身体であるということで蛇の尾に対する嫌悪感こそないものの、人から疎まれ嫌われる事は仕方のないものと思う程度には、ナギアも己の身体を疎んじていた。</p><p>腰から上の美しさに関しては自信があるものの、この蛇の下半身のせいで誘惑が上手くいった試しもない。</p><p>（そんなわたくしをOl様は、抱きたいだなんて──！）</p><p>抱きたいとは言っていないが、ナギアの中では既にそういう事になっていた。</p><p>（し、しかもわたくしの魅力にメロメロで正気ではないなんて──！）</p><p>そういう意味ではまったくなかったが、ナギアの中では既にそういう事になっていた。</p><p>どうしたんですか、ナギア？</p><p>頬を押さえ硬直するナギアに、フローロは不思議そうに尋ねる。</p><p>その声に、ナギアはハッと我に返った。</p><p>一瞬のぼせ上がってしまったが、そんな都合のいい事が起こるはずがない。誰が好きこのんで蛇女を抱きたいと思うものか。</p><p>そもそも人間とは自分と異なるものを嫌うものだ。魔族と性交したいと思うわけがない。</p><p>フローロ様。Ol様とそのこ、子作りをしたというのは、冗談ですわよね？</p><p>？いえ？たくさんしましたよ</p><p>曇りなき瞳で答えるフローロ。</p><p>（完全にわたくしも狙われてる────っ！）</p><p>その言葉に、再びナギアの表情は真っ赤に染まるのだった。</p><p>その耳元で、突然低い声。</p><p>そこで何をしている</p><p>オ、オオオオ、Ol様っ！？</p><p>まるでナギアを追い詰めるように壁に手を付き、Olの瞳がじっと彼女を見つめていた。</p><p>（そ、そんな熱い視線でわたくしを！）</p><p>（こそこそと何を画策しているやら）</p><p>それは実際には殆ど睨みつけるに近いものであったが、ナギアにとっては熱意を持った視線に思えていた。</p><p>準備はできたのか？</p><p>ナギアから布袋を受け取り、その首尾を確かめOlは満足げに頷く。</p><p>あ、あのOl様</p><p>なんだ</p><p>そんな彼を見上げ、ナギアは問うた。</p><p>先程、サルナーク様との会話が聞こえてしまったのですがわたくしをお抱きになりたいとか？</p><p>（わたくし何を言ってますの──！？）</p><p>蛇の体に嫌悪を持ちつつも、それでも豊かな双丘に目を向ける男の視線というのは滑稽でおかしいものだ。ナギアはどうせ自分など誰も相手になどしないということをわかった上で、色香を振りまく癖がすっかり身についてしまっていた。</p><p>だが思い返してみれば、Olの視線は殆どナギアの胸元には向かっていなかった。</p><p>今はまだそのつもりはない</p><p>フローロと違って、ナギアは魔力を殆ど持っていない。故に彼女を抱くとなればそれは快楽のためだけだ。彼女に魅力を感じているというのは嘘ではないが、流石のOlも元の世界に何人もの妻を残してきたこの状況で享楽に耽る気にはなれなかった。それが毒杯であるならなおさらだ。</p><p>（た）</p><p>しかしそれはナギアにとっては、</p><p>（大切にされてる──！）</p><p>その様に映った。今はまだ、ということはその気がないというわけではない。けれどすぐには手を出さない。それはナギアの事を慮り、配慮してくれているとしか思えなかった。</p><p>ではその日を楽しみにお待ちしておりますわね</p><p>ぎゅっと胸を押し付けるようにOlを上目遣いで見つめながら、にこやかに微笑むナギア。</p><p>（自ら身体を差し出そうとするか）</p><p>Olほどの魔術師であれば、相手が処女であるかどうかは身体に触れればわかる。服越しとはいえ、たっぷりと開かれた胸元を押し付けられればナギアが未経験であることは明らかであった。</p><p>（やはり何か企んでいると見てよかろうな）</p><p>そんな相手が積極的に身体を許そうというのだ。Olでなくとも何かあると考えざるを得ない。自分のダンジョンでもなく、魔力も乏しいこの現状で誘いに乗るのは愚策だろう。</p><p>（早くその日が来ないかしら♡）</p><p>（そう簡単にこの俺を出し抜けると思うなよ）</p><p>そうして、二人は決定的にすれ違ったまま、表面上は和やかに笑みを交わし合うのであった。</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-5</p><p>んちゅ、ふん、は。ぁちゅ、ふぁ</p><p>Olの脚の間に跪きながら、フローロはうっとりと反り立つ剛直に舌を這わせる。</p><p>んっ♡ふふ、ぴくんってなりました。気持ちいいですか、Ol？</p><p>Olが声を抑えるようにそう答えると、フローロは嬉しそうに笑んで、肉茎に頬を擦り寄せるような仕草で根本から先端を舐め上げた。</p><p>正直に言えば、悪くないどころの話ではなかった。つい先日まで処女であった、今日初めて口淫を覚えたばかりの少女に、Olは相当追い詰められている。</p><p>辿々しかったのは始めてすぐのほんの僅かな間だけで、Olが二、三アドバイスしただけで彼女はまたたく間に奉仕の技術を上達させた。今ナギアが彼女の胸に腕を突っ込めば、フェラチオLV3辺りが取れるのではないか。思わずそんな馬鹿なことを考えてしまう程であった。</p><p>んふ♡Ol、触って下さい♡</p><p>Olがちらりと視線を向けたのを目ざとく察したのか、フローロは彼の手をぐいと引っ張ると己の胸に押し当てる。</p><p>ずっしりとした重量感と、それに不釣り合いなほどの柔らかさがOlの手のひらを襲った。これほど柔らかいものが、なぜこの重さで形を保っていられるのか不思議なほどだ。</p><p>手のひらの中でほんの僅かに力を込めるだけでふにふにと形を変える柔肉の、その先端だけが硬く張り詰めて存在を訴えるかのようにぐりぐりと押し付けられる。</p><p>あっ♡あぁんっ♡</p><p>ついと指先で摘めば、打てば響く鐘のようにフローロは嬌声を上げた。</p><p>もぉ♡お返しですっ♡</p><p>そう言って、フローロは教えてもいないというのにOlの男根をぱっくりと口の中に咥え込んだ。</p><p>うっく！</p><p>そのあまりの快楽に、Olは思わず呻き声を上げる。太く大きい怒張を口の中にすっぽりと収めながらも、輪にした指先で根本を扱きたてる。そうして先端に追いやるようにした快楽を、舌で転がし、唇で締め付け、ちゅぷちゅぷと音を立てながら吸い上げる。</p><p>んっ♡んっ♡んっ♡んぷっ、ちゅぷっ♡</p><p>それは百戦錬磨の魔王をして、魂が抜けそうなほどの快楽だった。腰にビリビリと痺れるような快楽がわだかまり、放出されるのを必死に堪える。</p><p>じゅぷっ♡ちゅっ、ちゅぅっ♡ちゅっじゅぷっじゅるるっ♡</p><p>しかしフローロはそれを察したかのように手と唇の動きを早め、強く先端を吸い上げた。</p><p>ぐ、う！出す、ぞ！</p><p>堪えきれず、Olはぎゅっとフローロの右胸と彼女の頭を鷲掴みにする。</p><p>んっんっんっんっ♡んーっ♡</p><p>だが彼女は嫌がるどころか目だけで微笑んで、口淫奉仕にラストスパートをかけた。</p><p>その喉奥めがけ、Olは快楽を解き放つ。それと同時に、ほとんど無意識にOlは彼女の頭を押さえて離れるのを防いだ。初体験を済ませたばかりの少女相手に、普段ならば絶対にしない動作だ。</p><p>しかしフローロは逃げる素振りも見せず、ぷっくりと頬を膨らませて口内に放たれた夥しい量の精液を受け止めた。</p><p>ん♡あは♡</p><p>それをそのままこくんと飲み下し、口の端から漏れ出た白濁も指で拭って丁寧に舐め取ると、更に精を求めるかのように肉槍の先端に口をつけてちゅうちゅうと残滓を吸い取る。</p><p>おいしいです♡</p><p>そしてそのまま、再びOlの男根を舐めしゃぶり始めた。</p><p>しゃがんだフローロの股の間は、愛液がとろりと滴り落ちて床に小さな湖を作る程に濡れている。口での奉仕だけでこれ以上ないほど発情しているのだ。にも関わらず、彼女は挿入をねだることもなく、心底嬉しそうにOlの肉槍をねぶっている。</p><p>まるで男の性器が何よりも好きだと言わんばかり。淫魔もかくやという淫らさであった。</p><p>フローロ</p><p>Olの方が耐えきれず、挿れてやるから尻を向けろと言いかけた、その時の事。部屋の片隅に設えられた木の板がカラコロと音を立てた。</p><p>Ol、これは</p><p>ああ侵入者だな</p><p>間の悪いことだ、と歯噛みするが仕方がない。</p><p>いました。下層に入ってきています！</p><p>未だに怒張しているOlのそこから手を離し、左目だけを見開いてフローロが言った。あいも変わらぬ凄まじい切り替えの早さだ。Olとて、気を静めて反り立ったそれをしまい込むのにはもう数秒の時を要した。</p><p>通路を進んであっ、かかりました、Olの作った罠に引っかかりました！</p><p>このダンジョンに足りないもの。いくらでも挙げられるが、Olが最初に足りないと感じたのは、罠の存在であった。</p><p>罠のないダンジョンなど、ただの地下街でしかない。地下迷宮(ダンジョン)の名が示す通り、迷わせ侵入を拒むことこそがダンジョンの本質だ。だがサルナークですら、己の住処に対する防衛機構を用意していなかった。物を作るスキルが希少だという事情もあるのだろう。</p><p>敵は何人いる？どんな連中で、どの罠にかかった</p><p>本来であれば魔術を用いて監視するところだが、今の乏しい魔力は出来る限り節約したい。故に、Olはフローロの支配者の瞳を利用していた。</p><p>サルナークに従っていた奴隷達の大半は、結局フローロに従う事に決めたらしい。何よりサルナーク自身がOlに従っているというのも大きいのだろう。実際は異なるが、フローロ→Ol→サルナークという支配構造である。</p><p>相手の狙いが何なのかはわからないが、いちいち無関係な最下層の住民と関わるとも考えづらい。そのためOlは、奴隷達をフローロの目として最下層の様々な場所に配置していた。</p><p>それが、その一人です。一人で、落とし穴に落ちました</p><p>一人だと？</p><p>相手はどのような手段を用いてかはわからないが、フローロの動向を掴んでいる。ならば、サルナークがその配下になったことも知っているだろう。</p><p>コートーの主人は鉄の腕の異名を持つラディコという男であるという。鋼の盾を持ちあらゆる攻撃を無効化するサルナークとは相性が悪いはずだ。ならば部下を用い集団で襲ってくるだろうという事を想定しての罠であった。</p><p>罠というのは侵入を完全に阻むものでも、一撃必殺を狙うものでもない。侵入者の勢いと戦力を削ぐためのものだ。</p><p>罠があれば人はそれを警戒する。疑心暗鬼は足を鈍らせ、精神を摩耗させる。小さな傷も積み重なれば大きな物となり、体力を奪っていく。</p><p>だが敵がたった一人であるならばあまり意味がない。直接打倒した方が手っ取り早いしコストもかからないからだ。</p><p>まあ、罠にかかったならいい。捕らえに行くぞ</p><p>落とし穴と言っても致死性のものではない。行動力を奪うためのものだ。一人であれば這い上がることも不可能だろう。</p><p>いえ穴の中から飛び出てきました</p><p>何せここは最下層だ。下の層に突き出る心配がないから、壁や床を操ることの出来るOlにとっては、深くする分にはいくらでも深い穴を掘ることが出来る。かなり深くした上に、すり鉢状の逆に下に行くほど広くなる穴を掘ったから壁面を伝って登ることも不可能なはず。</p><p>す、すごい勢いで走ってきまあっまた罠にかかった。吊るされてます</p><p>吊るされたということは引っかかったのはくくり罠(ワイヤートラップ)だろう。見づらく迷彩された紐に脚を引っ掛けると、輪にした紐が脚を締め付けそのまま中空に吊り下げるという罠だ。</p><p>森の中に張るならともかく、紐を隠すもののないダンジョン内では比較的発見が容易で避けやすい罠なのだが</p><p>あっ、紐を引きちぎって降りてすぐ落ちました！？</p><p>それを跨いで避けると、直後の落とし穴に落ちるように設置してあった。いわゆる二段構えの罠なのだが、ご丁寧にその両方に引っかかるとは、よほど注意力のない相手らしい。</p><p>あっでもまた出てきました！だいぶ頭に来てるみたいです！すごい速度で走ってあっ、捕捉範囲から抜けちゃいました</p><p>まあそうなるだろうな、とOlは額を押さえる。一つ目の落とし穴と深さにそう差はないのだから、抜け出すだろう。普通ならば冷静さを失った相手というのは罠にはめるのに最適なのだが、ラディコはそれを強引に突破するパワーを持っているらしい。</p><p>詳しい事情を探るため、罠の大半を非殺傷性にしておいたのが仇になった。部屋の外からドカバキと破砕音が聞こえてくる。ラディコはだいぶ近づいてきたようだ。</p><p>あっ、サルナークが戦闘に入りました。えっ嘘！？鋼の盾に物理攻撃は効かないはずじゃあ</p><p>フローロが驚きに目を見開くが、Olは驚かなかった。敵が一人であるという時点で半ば予想していたことだ。サルナークの能力を知った上で突撃してきたなら、それをどうにかする手段を持っているのは当たり前のことだ。</p><p>フローロ、来い</p><p>Olはフローロの肩をぐいと抱き寄せる。その次の瞬間、Olが設置しておいた扉が弾け飛んで、先程までフローロがいた空間を切り裂き、壁に当たって粉々に砕けた。</p><p>折角木材をかき集め苦労して作ったものをと内心で呟きつつ、Olは侵入者を見据える。それは、Olが想像していた姿とは随分違った。</p><p>勇猛果敢にして豪放磊落。巨大な鉄槌を軽々と振り回す下層に住む牙族。</p><p>なるほど。男とも巨漢とも言っていないな。とOlは納得した。</p><p>巨大な鉄槌を手にし、身体のあちこちに矢が刺さったり焼け焦げていたり粘液がこびりついたりといった罠の痕跡を残した牙族の戦士は、しかし少女と言っていい外見であったからだ。</p><p>手にした鉄槌とは不釣り合いに小柄な少女だった。ふわふわとした毛並みの大きな尻尾と、オレンジがかった髪の上にぴょこんと突き出た耳。満身創痍かつその鉄槌からサルナークの血が滴ってさえいなければ、愛らしいという言葉がぴったり似合ったであろう少女であった。</p><p>妙な仕掛けを作ったのは、キミ！？</p><p>ラディコは鉄槌をびしりとフローロに突きつけ、怒鳴る。</p><p>えいえ</p><p>戸惑うフローロを離して、Olは己を指差した。</p><p>よーし！そこを動かないでよお！</p><p>言うやいなや、ラディコは鉄槌を振り上げOlに向かって突進した。フローロが補足してからここに辿り着くまでの時間でおおよそ把握はしていたが、ラディコの足はそこまで早くない。ユニスに比べればあくびが出てしまう程度の速度だ。</p><p>だが破壊力で言うなら雲泥の差だろう。あの鉄槌がかすっただけでもOlはぐちゃぐちゃにすり潰されてしまうに違いない。</p><p>行け</p><p>故にOlは言われた通りその場を動くことなく、布袋の口を開いてそう命じた。途端、袋の中から無数の蜂が飛び出してくる。サルナークに集めさせた蠍蜂と呼ばれるモンスターだ。</p><p>それは角兎のスキル突進を使って、矢よりも早い速度でラディコの全身に突き刺さった。</p><p>痛あ！？なにこれ、なにこれえ！？</p><p>すっ転んだラディコの手から飛び出した鉄槌を、Olは軽く首を曲げてかわす。それは背後の壁に激突すると、粉々になった扉の横に転がった。</p><p>身体動かなよお</p><p>ラディコは地面に突っ伏したまま、弱々しい声を上げる。</p><p>蠍蜂のスキル麻痺針だ。こんなにすぐ使う羽目になるとは思わなかったがな</p><p>警戒音を立てながら宙を舞う蠍蜂たちに、Olは魔術で命じて袋に詰め直す。</p><p>角兎の突進を、フローロは使い勝手の良くないスキルであると評していた。敵に向かって高速で突き進むだけなのだから、さもあろう。しかし角兎は同時にパンも落とすため、スキルの結晶は相当余っているのではないか、とOlは考えた。</p><p>ナギアに聞けばまさにその通りで、その大量に余ったスキルを上手く使えそうなモンスター蠍蜂に覚えさせたのである。捕獲してきたのはサルナークだ。鋼の盾を持つ彼であれば、麻痺針を食らう心配もなく好きなだけ捉えることができる。</p><p>そうして突進を覚えた蠍蜂を魔術で操れば、再利用可能な上に回避が難しく命中した相手を麻痺させる飛び道具の完成だ。知能の低い昆虫型のモンスターを操ることなど、Olにとっては赤子の手を捻るよりも容易い。</p><p>モンスターにスキルを覚えさせるなんて、考えもしませんでした</p><p>モンスターから取ったスキルをモンスターに覚えさせる事の何がそう珍しいのかわからん</p><p>サルナークやナギアと全く同じ反応をするフローロに、Olは首をひねった。人間は高い学習能力を持っているのだから、わざわざスキルなどというものを使わずとも訓練すればいいだけの話だ。</p><p>だが知能の低いモンスターに複雑な動作を仕込めるのであれば、これは大きな強みである。もしここにスピナがいれば、どれほど手のつけられないスライムを作ったことか。</p><p>そんなことを考えつつも、Olは麻痺して動けないラディコの小さな体をひょいと担ぎ上げる。</p><p>何をする気なのよう</p><p>ラディコの問いに、Olはふむと考えた。思った以上に彼女の身体能力は高かった。縛り付けたところで動きを拘束するのは難しいだろう。麻痺毒もどれほど持つものかわからない。</p><p>さらに言えば、ラディコが敗北したことも早々に知られるだろう。増援が来るよりも早く、彼女に口を割らせるもっとも効率的な手段は何か。Olはいくつか候補を思い浮かべるが、その中で最も有用なのは、といえば</p><p>気持ちのいいことをするんですか？</p><p>何故か目を輝かせて尋ねるフローロ。</p><p>まあ、そうなるか</p><p>そうなるのだった。</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-6</p><p>魔力というのは実に様々な性質を持っている。中でも最も単純な利用法がこれだ</p><p>ピンと伸ばしたOlの人差し指の先端に、琥珀色の光が灯る。</p><p>魔力というのは空気のように形のないものだが、圧縮すると形と硬さを持つ。そうした上で形状を整えてやればこの通り。量を増やしてやれば剣にも盾にもなる</p><p>その指先で布をついと撫でると、切れ落ちた布がぱさりと床に落ちた。</p><p>これが、魔術</p><p>いや、正確には違う。これはただの魔力操作であって魔術ではない</p><p>どう違うのですか？</p><p>新しい弟子の素朴な疑問に、師は少し考えた。それは理屈というよりは慣習的、感覚的な分類であったからだ。</p><p>ナギアのスキルに剣術というものがあっただろう。剣を使わねば剣術ではなく、剣をただの棒のように振るってもそれは剣術ではない。そこに術理を効かせ、刃筋を立て敵の急所を狙ってこその剣術だ。それに近い</p><p>ええとなんとなく、わかる気がします</p><p>剣術スキルを持たないフローロにはあまりピンとこない説明だったが、しかしOlの言いたいことはなんとなく察して頷く。</p><p>例えばこのままでは集中を解けば魔力もまた形を失う。それでは実戦では使いにくい。そこで呪文によってそれを補い、集中を解いても形が保てるようにしてやればそれは魔術だ</p><p>つまり、自分の意志から離れるということですね</p><p>聡明な弟子の視点に、Olは満足げに頷く。</p><p>その通りだ。故に魔術は常に暴走の危険を持つ。ゆめゆめ油断するなよ</p><p>わかりました！</p><p>折角膨大な魔力を持っているのだ。フローロにもその扱い方を覚えておいてもらうに越したことはない。だが、スキル結晶の力を利用するつもりのないOlは、フローロを弟子として魔術を一から教え込んでいた。</p><p>さて。では時間もないことだし、早速施術へと移る</p><p>Olはそう告げると、部屋の中に存在する三番目の存在へと目を向けた。</p><p>両手両足を壁に固定され、服を切り裂かれて全裸になったラディコである。</p><p>サルナークが言うには、このダンジョンの壁は誰にも破壊できないのだという。確かに強力な術が籠もっているのは感じるが、Olにとってはただの壁だ。誰にも破壊できないというのであれば、それは最高の拘束具であった。</p><p>そういえば、これも魔術なんですよね？</p><p>そうだ。だが見た目よりもかなり高度な事をしている。お前にはまだまだ無理だ</p><p>見た目よりも何も、絶対なる母なる壁を動かすことより高度な事があるとは思えないのですが</p><p>ぼやくフローロを無視して、Olは彼女の手を取った。</p><p>今回お前にやってもらうのは、簡単な身体操作だ。簡単と言っても奥は深いが、方向を持たず動いてない物を対象に単純な強弱だけであれば、お前にも出来るだろう</p><p>身体強化は簡単だが、難しい。例えば腕の力を何も考えずに上げてしまえば、強化された筋肉は己の骨をすぐさまへし折るだろう。方向を間違えれば敵を殴るつもりが己を傷つける。戦いながら強化するなら動く身体に合わせて魔術も動かさなければならない。</p><p>だが固定された相手の感覚を強化するだけであれば、初心者でもそう難しくはなかった。</p><p>こうだ</p><p>Olは握ったフローロの手を通して、彼女の魔力を操りラディコに感覚強化の術をかける。</p><p>あっ。これ、この前Olが私に使っていたものですね</p><p>ほう。よくわかったな</p><p>自分に使われた魔術を使う感覚から特定するというのは、たとえるなら石に彫られた鏡文字を指で触っただけで文章を言い当てるようなものだ。単純なものとはいえ、フローロの記憶力と勘の良さにOlは感心した。</p><p>んん</p><p>目を閉じ気を失ったまま、ラディコは小さく声を上げる。</p><p>強さとしてはこの程度でだいたいそうだな。平時の二、三十倍と言ったところか。感度は魔力量に対し比例するのではなく、二次関数的に上がっていくから気をつけろよ</p><p>真剣な面持ちで頷くフローロに術を任せ、Olは改めてラディコに向き直る。</p><p>目を覚ませ</p><p>Olがそう告げると、ラディコはぼんやりと目を開いた。その焦点はあっておらず、呆けた表情で彼女は顔を上げる。</p><p>ここはどこお？</p><p>心配することはない。ここは安全な場所だ</p><p>夢を見ているような顔つきで呟くラディコに、Olは優しげな声で囁いた。実際、今の彼女は夢を見ているようなものだ。</p><p>単純な刺激の繰り返しと魔術の併用によって、ラディコの思考は今深い催眠状態にあった。起きてはいるが、意識がない状態。</p><p>そういえば初めてユニスと出会ったときも、この様な手を使ったのだったか。Olは不意に随分昔のことを思い出し、軽く首を振って意識を目の前に集中させた。</p><p>お前と少し話がしたいのだ</p><p>ボクとお話しい？</p><p>間延びした口調で問うラディコに、Olはそうだと頷く。</p><p>でもお知らない人と、話しちゃいけないって、フォリオ様が</p><p>俺の名はOl。アイン・ソフ・Olだ。お前は？</p><p>ボクはラディコ。鉄じゃなかった、銀の腕のラディコ</p><p>銀？とOlは内心首をかしげるが、ひとまずおいて続けた。</p><p>これで知らない間柄ではないな</p><p>んじゃあ、大丈夫だね</p><p>するとラディコはあっさりと納得する。催眠状態にあるとはいえ、やはり物事をあまり深く考える方ではないらしい。</p><p>誰に言われてここに来たんだ？</p><p>それは言っちゃいけないって</p><p>その返答に、Olは眉をわずかに寄せた。捕らえられた時の対策が既にしてある。しかも命令系統をわざわざ隠すということは、中層のユウェロイやその下の人間とも別の者から命令されている可能性がある。</p><p>言ってはいけないと言ったのは誰だ？</p><p>しかし特定の情報だけを隠すのなら、言い含めるのでは不完全だ。何も話すなと命じられていない限り、それを隠せと命じたのは誰かと無限に聞き続けていけば必ず綻びが生じる。</p><p>フォリオ様</p><p>フォリオ様というのはお前の主人か？</p><p>ラディコはこくんと頷いた。</p><p>なるほど。俺はお前をここに送ってくれたものに礼をしたい。フォリオに贈り物をすればいいか？</p><p>Olはやや持って回った言い方で尋ねた。それを肯定すれば、ラディコをここに送った者がフォリオであることは明白になる。しかし催眠状態ではその様な論理的な思考はできないものだ。</p><p>彼女が禁じられているのは彼女をここに送ったものの名を口に出すことだから、この様な問い方をすれば回避することが出来るのだ。</p><p>ううん、違うフォリオ様じゃないから</p><p>案の定、ラディコは首を横に振った。</p><p>ではユウェロイか？</p><p>ううん</p><p>やはり、別の命令系統がある。この用意周到さを鑑みるに、コートーの時点で偽情報を与えられたと考えるべきだろう。流石に全くの無関係ではないだろうが、ユウェロイまで辿っても何の事情も知らない可能性すらある。</p><p>ラディコ。今から俺はお前のことを気持ちよくしてやる</p><p>Olはフローロに目配せすると、ラディコにそう囁いた。</p><p>気持ちいいというのは、お前にとって良いことだ。そうだろう？</p><p>気持ちいいのは良いこと</p><p>当たり前で、単純な論理。</p><p>だからその良いことをしてくれる相手を、お前は少しずつ好きになる</p><p>良いことを好きになる</p><p>催眠状態のラディコの頭に染み込ませるように、Olは繰り返し暗示を仕込んでいく。</p><p>そうだ。このように</p><p>Olがラディコの胸元を撫でると、彼女はぴくりと反応した。その小柄な身体に相応しい、なだらかな膨らみ。幼さを多分に感じさせる体つきだが、成熟自体はしているのだろう。フローロの魔術の補佐があることを差し引いても、感度はそう悪くない。</p><p>好きな相手に触れられるのは嬉しいことだ。お前が俺のことを好きになればなるほど、気持ちよくなっていく</p><p>んんっふぁ</p><p>ツンと尖った先端をそっと指の腹で押しつぶすように撫でる。込み入った事情を聞き出すには、催眠を一度解く必要がある。しかし催眠が解ければ正直に答えるはずもない。故に、今のうちにしっかりと仕込んでおく必要があった。</p><p>胸よりもこちらの方が好みか？</p><p>あっんっ！そこはあ！</p><p>ついとOlが指先でラディコの秘部に触れると、一際大きな反応があった。粘膜に傷をつけぬように細心の注意を払いながら、Olは指をつぷりと侵入させていく。既にしっとりと濡れそぼった秘所は、さしたる抵抗もなくOlの指を咥えこんだ。</p><p>あっんんっ！く、ぅんっ！</p><p>あどけなさを残すラディコの唇から甘い声が漏れ出る。経験はないようだったが、自分で弄ったことくらいはあるのだろう。胸よりも段違いに良い反応だった。</p><p>俺の指を感じるだろう？集中しろ。太い指がお前の膣内に第二関節まで入って膣壁を、ゆっくりとなぞる。指の腹で軽く押しながらこうして少し曲げると、強い快感が走る。ここには女の快楽を呼び起こす釦(ボタン)があるからだ</p><p>あっ、んっ！ふ、あぁっ！</p><p>ラディコの秘所、そのごく浅い場所をOlの指が撫でるたびに、そこからは愛液が溢れ出してOlの手を汚す。</p><p>気持ちいいだろう？口に出してみろ。そうすると、もっと気持ちよくなる</p><p>きもちいい、よお！気持ちいいよお！</p><p>ラディコが叫ぶやいなや、Olの指を膣口がきゅうと締めつける。</p><p>気持ちよくなればなるほど、お前は俺を好きになる。俺を好きになればなるほど、お前は気持ちよくなる。そうして、お前はどんどん高みに登っていく</p><p>あぁっきもちーよお！もっともっとお！</p><p>Olの暗示を素直に聞いて、ラディコはどんどんと上り詰めていく。腰をガクガクと震わせ愛液を洪水のように滴らせながら、ラディコは更なる愛撫をねだる。</p><p>そうだ。今は何もかも忘れて気持ちよくなれ。快楽で頭が真っ白になったその時、お前は一度全てを忘れる。しかし本当に忘れるわけではない。問われればすぐに思い出せる</p><p>最後の暗示を塗り込めて、Olは指の速度を僅かに上げた。</p><p>さあ、快楽はどんどん強くなる。意識がふわりと宙に飛んで一気に解き放たれるイメージだ</p><p>あぁっ！ふああぁっ！飛んじゃうっ！飛んじゃうよおっ！</p><p>膝をガクガクと揺らし、舌を突き出して、ラディコはぎゅっと全身に力を込める。</p><p>イけっ！イくと言うんだ！そうすれば、お前は一番気持ちよくなれる！</p><p>イくっ！イくっ！イっちゃうよおっ！あああぁっ！あああああっ！</p><p>一際強く、ラディコの膣口がOlの指を締め付けて。</p><p>イっくぅぅぅっ！</p><p>その瞬間、ごきり、と不吉な音が鳴り響いた。</p><p>な</p><p>右手に走る激痛に、Olは瞠目する。</p><p>彼の指は、完全に潰されていた。</p><p>──鉄の腕ラディコの膣圧によって。</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-7</p><p>だ大丈夫ですか、Ol！？</p><p>大事ない心配するな</p><p>脂汗を流し、苦悶の表情を滲ませながらもOlはそう答える。</p><p>潰されたのは指先であるのだから、命に関わるような怪我であるはずがない。しかしそれは、サルナークに右腕を切り落とされた時よりもよほどたちの悪い傷であった。</p><p>そもそもが圧挫傷潰された傷というのは、裂傷や刺傷に比べて治すのが難しい。組織が広範囲に渡って損壊しているからだ。</p><p>だがそれ以上に、もし入れているのが指ではなく、己自身ペニスであったら。そう思うと、流石のOlといえど汗が止まらなかった。それは男としての本能的な恐怖である。</p><p>（これのどこが鉄の腕だ！）</p><p>サルナークの鋼の盾もフローロの支配者の瞳も、名前とは全く乖離した性能を持つ詐欺じみたスキルであった。鉄の腕も腕だけではなく脚や指先の力が増している事くらいまでは想像していたが、膣を締め付ける力さえもが増幅されているなどと、一体誰が考えようか。その調子で全身の力が強化されているなら、日常生活を送ることすら難しいではないか。</p><p>等とOlが心の内で文句をつけていると、ラディコが太ももを擦り合わせながら甘えた声で彼の名を呼んだ。</p><p>もっと、気持ちよくしてえ切ないのお</p><p>い、いや。しばし待て</p><p>骨が粉々にすり潰された指先を治療しつつ、Ol。</p><p>気持ちよくしてくれないのお？</p><p>するとラディコは一段低い声色で、じっとりと彼を睨んだ。</p><p>気持ちよくすればするほど好きになる。それは裏を返して言えば、気持ちよくしてくれないのならば嫌っていくという事になりはしないか。Olはその可能性に思い至り、すぐに左手で彼女の胸を撫で擦った。</p><p>無論、してやるとも</p><p>やあんおっぱいじゃなくて、さっきみたいにぃおまんこ、触ってえ</p><p>身体をくねらせ、ラディコが不満げにねだる。女から求められて恐怖を感じたのは、Olにとって生まれてはじめての出来事であった。</p><p>Olは高速で思考を巡らせる。防御魔術を施して愛撫すればいや、ラディコの鉄の腕はサルナークの鋼の盾すら貫通する力を持っているのだ。純粋な防御力ではOlの魔術は敵わない。</p><p>では自分の痛覚を切り、肉体が潰れるのは覚悟して愛撫するか。いや、痛覚を切ってしまえば指先の繊細な感覚は失われる。ラディコを満足させることはできないだろう。</p><p>どうする。どうする</p><p>フローロ</p><p>その時、天啓が降りたかのように閃いて、Olは己の新しい弟子に声をかけた。</p><p>俺のものを咥えろ</p><p>いいんですかっ！？</p><p>唐突な要求に、しかし弟子は理由を問うことすらなく瞳を輝かせた。</p><p>ああ。ラディコ、今からお前を気持ちよくしてやる。さっきよりも、もっとだ</p><p>言いながら、Olは彼女の秘部に触れる。しかしそれは膣内ではなく表面。膣口の上に位置する陰核にであった。</p><p>いやあ中がいいのおんぅっ！</p><p>文句を言いかけたラディコだったが、Olの指先から伝わってくる快楽にびくりと体を震わせる。それと時を同じくして、フローロがOlの一物をぱくりと咥えていた。</p><p>伝達の魔術。Olが感じる快楽を、ラディコの身体にも伝えているのだ。その上で、Olもラディコの身体を愛撫している。いわば二人がかりによる愛撫であったが、単純に二人で行うのとはわけが違った。</p><p>なぜなら、Olの肉体は未発達なラディコの身体よりも遥かに開発されているからだ。ラディコの感度を倍増するよりも、Olの感じる快楽を伝えた方が手っ取り早く強い快感を与えることができる。</p><p>しかしそれには一つ弊害もあった。</p><p>──Ol自身も、本気で感じなければならないということである。</p><p>んっじゅぷっちゅ、ちゅるるちゅぷ、ちゅっ</p><p>はあんっあぁっくぅんきもち、いいよお</p><p>くっうぐ、ぅっふ、うぅぐぅっ</p><p>狭い部屋に、三人の男女の吐息が木霊し混じり合う。フローロに口で奉仕させながらラディコの身体を愛撫するのには、奇妙な倒錯感があった。</p><p>くっうっ！</p><p>その状況に興奮にしきった肉体は全身が性感帯のようで、性器を舐るフローロの髪の毛がOlの脚を掠めるだけで気をやりそうなほどの快楽が駆け抜けていく。その上、彼女の柔らかな舌と唇が、これ以上ないほど反り立った肉槍を丁寧に丁寧になぞっていくのだ。</p><p>ぷりんとした肉厚の唇が、ちゅうと亀頭の根本、大きく張ったエラの部分に口づけるかのように押し当てられる。そしてその唇を割って濡れた舌が控えめに姿を見せると、カリ首の段になった部分を愛おしげにぐるりと舐め清めていく。</p><p>それが終わると一旦口を離し、あーんと声に出すかのような仕草で口を開け、ぱくりと亀頭全体を咥え込む。同時に舌の平の部分で裏筋の部分を舐め上げながら、奥までつぷりと飲み込んで、竿をしゃぶるようにして引く。</p><p>それを二度、三度と繰り返したあと、肉槍を片手で立てて、もう片方の手でやわやわと袋に触れながら、おとがいを上に向けるようにして根本から先端までを、下品に伸ばした舌全体を使って舐めあげていった。</p><p>フローロ胸も、使え</p><p>胸おっぱいですか？ええとこう、ですか？</p><p>堪らずOlがそう命じると、フローロは少し考えたあと、その豊かな乳房でOlの剛直を挟み込む。</p><p>これでいいんですね。んっ♡</p><p>途端にぴくりと跳ねて硬度を増す男根に彼女は満足げに淫蕩な笑みを漏らし、当たり前のように胸の肉で竿を扱き立てながら先端をぱくりと咥えてみせた。</p><p>そんな淫靡極まりない光景を視界の端に捉えながらも、Olはラディコの肉体を嬲っていた。</p><p>膣内に指を入れることこそできないが、陰核を攻めつつもその下のスリットの入り口を撫でるようにして往復させれば、滴り落ちた愛液がたぱたぱと音を立てて地面に滴り落ちる。</p><p>んっ、きゅぅんっ♡あぁっ♡きもちーよお♡</p><p>手のひらにすっぽりと収まってしまう柔らかな乳房を揉みしだくと、小さな蕾が触ってくれと言わんばかりに屹立し、それを舌で転がしながら唇で甘く食めば、その度にラディコは素直に喘ぎ声を漏らす。</p><p>その瑞々しい肌を味わえば、それそのものが快楽となってラディコに伝わり、彼女は更に善がって身体を震わせた。</p><p>んちゅぅっ♡ちゅっ♡ちゅぅっ♡じゅぷっ♡</p><p>くぅんっ♡あっ♡ひやぁんっ♡はあぁんっ♡</p><p>豊満な肉体を使って奉仕する女と、あどけない肉体を思う様蹂躙させる女。奉仕されながら別の女に奉仕するそれは、Olでさえ今まで経験したことのないものであった。</p><p>痺れるような快感に煮えたぎる快楽が、目の前の少女を蹂躙したいと唸りを上げる。貪るように吸い付くような肌を味わっても、そこにぱっくりと開きよだれを垂らす美味そうな雌穴に突き入れるわけにはいかない。</p><p>だが、幾重にも折り重なった快感によってすっかりほぐされたその穴から垣間見えるピンク色の肉はこの上なく淫靡にヒクヒクと蠢いて、まるでOlを誘っているかのようであった。</p><p>きもち、いいよぉ♡ねぇ、中あ♡中にい♡入れてほしいのお♡</p><p>ふるふると腰を振ってねだるラディコの言うことを聞くわけにはいかないし、かといって単純に達するわけにもいかない。Olは最大限快楽を感じながら、しかしそれに流されることなく冷静にラディコの身体を愛撫し気持ちよくしないといけないのだ。</p><p>ねぇ♡Olぅ♡それも♡気持ちっ♡いいけどぉ♡もっと、気持ちよく♡なりたいよお♡</p><p>両手両足を拘束されながら、出来る限りにラディコは尻を振ってOlに誘惑する。</p><p>ああ、してやるともっ</p><p>とろとろに熟れた蜜壺に挿入すれば、どれほど気持ちいいことだろうか。そんな思いを抱きつつも、Olはラディコの両乳首をきゅっと摘み、びっしょりと濡れた秘所を舌でなぞる。</p><p>ひぁんっ♡もっとぉ♡もっと奥♡ナカに、挿れて欲しいよお♡</p><p>舌先で触れた空間は、特別閉じているというわけではない。つまりは実際に凄まじい力で膣を締め付けているわけではなく、膣で何かを締め付けるとそこにかかる圧力が倍加するのだろう。</p><p>それに気づいたOlは、一つの方法に思い至った。力を倍加するならば、同じことをしてやることが出来る。</p><p>Olは己の快楽をラディコの身体に移したまま、自分自身の感度を最大限まで引き上げた。</p><p>ぐ、おっ！</p><p>ひあぁあっ♡</p><p>神経が焼ききれてしまうのではないか、と思うほどの快楽がOlを襲う。あまりの気持ちよさに、逆に達することができないということもあることを彼は初めて知った。矢を放たれる寸前の弓が弦をキリキリと引き絞るように、その瞬間に向けて間延びした時間の中Olの中の快感が急速に膨れ上がっていく。</p><p>フローロの濡れた舌の感触、唇が男根を締め付けるほのかな圧力、肉茎をぴっちりと包む胸の柔らかさ、すべすべとした肌の触り心地。その一つ一つが恐ろしいほどの克明さでOlの脳に伝わって、津波のように押し寄せる。</p><p>そして溢れかえったそれは、痺れるような強烈な快楽となって体中を駆け抜け、爆発するかのように白濁の迸りとなってフローロの口内に注ぎ込まれた。</p><p>んっ♡んくっ♡</p><p>それを喉の奥で受け止めながら、フローロは教えられたばかりの術を行使する。Olの魔術によって倍加させられた快感はそのままラディコの身体に伝えられ、それがそのままフローロの魔術によって更に増幅された。</p><p>ひあっ♡♡♡～～～～♡♡♡♡♡</p><p>プシッ、と音を立ててラディコの脚の間から潮が吹き出し、床を穿つ。母なる壁で出来たものでなければ深い穴が作られていただろう。Olの手を掠めていれば指の一本も飛んだかも知れないが、気にすることはなかった。</p><p>Olはフローロの頭を押さえてその喉奥に出せども出せども尽きぬ白濁の液を送り込むことに精一杯で、ラディコは体中を駆け巡る快楽に声を出すことも出来ずただただ連続で絶頂し続けていたからだ。</p><p>ただ一人、フローロだけが嬉しそうに目を細め、Olの精液を喉を鳴らして飲み下していた。</p><p>第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-8</p><p>目覚めよ</p><p>パチン、とOlが指を鳴らした瞬間、ラディコの瞳に光が戻る。切り落とした衣服は修復したが、念の為に手足は拘束したままだ。</p><p>あれっ？ボク</p><p>パチパチと目を瞬かせ、ラディコは周囲を見回す。そして、Olの顔を目にした瞬間、ポンと音を立てそうな程に顔を真赤に染め上げた。</p><p>わ。わ。わ。何！？どうなってるのお！？</p><p>そして己の頬を押さえようとして初めて拘束された両手足に気づき、ラディコは慌てふためく。</p><p>慌てるな。害を加えるつもりはない</p><p>ぐっと顔を近づけ、Olは言った。</p><p>もっとも、そちらがこちらに危害を加えなければ、の話だが</p><p>くっ、加えない加えない！絶対加えないよお！だ、だからこれ解いて、顔を近づけないでえ！</p><p>思った以上にあっさりとそう言ってのけるラディコにOlは拍子抜けした。フローロの動向を把握されている以上、Olの契約を用いた呪いについても既に知られていると考えるべきだ。</p><p>しかしそれにしてはあまりにもあっさりとラディコは危害を加えないなどという約束を結んだ。まさかとは思うが、呪いを無効化するようなスキルが存在するのか。</p><p>あっ。しまった、約束しちゃ駄目なんだった</p><p>などと思っていると、ラディコはあっさりと口を滑らせた。</p><p>い、今の約束しなかったことにしちゃ駄目かなあ？</p><p>別に構わんが、その場合お前の身体はそのままだぞ</p><p>あっ、そっかあ！えっ、どうしよ、困るな困るな、どーしよ</p><p>慌てふためき眉根を寄せて困るラディコに、Olは額を押さえた。もしこれが演技であるならその演技力は人智の及ぶ範囲ではない。</p><p>まいっか。どうせOlくんの事叩いたりしたくないし約束するよお！</p><p>オ、Olくん！？</p><p>あれ？ボク、なんでOlくんの名前知ってるんだろ</p><p>催眠状態の時の記憶は無意識下に押し込められ、思い出すことは出来ない。しかし名前のような表層的な知識はまろびでる事がある。Olが驚いたのはラディコがOlの名前を覚えているということではなく、あまりにもフランクなその呼び方であった。</p><p>気にするな。では、解放するぞ</p><p>ん？うん、お願い</p><p>パチリとOlが指を鳴らすと、ラディコの両手足を拘束していた壁が溶けるように消えてなくなる。</p><p>次の瞬間、ラディコは弾かれたようにOlに向かって突撃していた。</p><p>Olくぅん♡これでやっとぎゅうってできるよお♡</p><p>待て！止まれ！俺を潰す気か！？</p><p>Olを囲む見えざる迷宮(ラビュリントス)が具現化するのも構わず、ラディコはぎゅうぎゅうとOlを抱きしめようとする。サルナークの剣にも傷一つ付かなかった見えざる迷宮がミシミシと悲鳴を上げ、Olは慌てて叫んだ。</p><p>あっ、ご、ごめんね。ボク、ちょっとだけ力強いんだった</p><p>ラディコはそんな弁解をしながら慌てて離れた。ラディコ自身に、危害を加えるという意識がないのだ。故にその致死の抱擁は、先程交わした約束には反していなかった。よもやこれを狙って遣わしたわけではないだろうな、とOlは勘ぐる。</p><p>さて、ラディコよ。お前に聞きたいことがある。答えてくれると嬉しい</p><p>うん、何でも聞いて！</p><p>そのやけに好意的な反応に、Olは戸惑った。確かに気持ちよくすればするほど好きになると暗示をかけたが、そもそもの前提として敵同士なのだ。それはもっと無意識下で働く作用であるはずだった。</p><p>何か理由があるのか──あるいは、それほどまでにラディコが単純な性格をしているのか。可能性としては半々といったところか、とOlは内心独りごちる。</p><p>ラディコ。お前は何のためにここへとやってきたのだ？</p><p>核心を突くOlの言葉に、ラディコは表情を真剣に引き締める。</p><p>あのね</p><p>そして、決意を持った眼差しで答えた。</p><p>ボクの事Olくんなら、ラディ、って呼んでもいいよ</p><p>何を決意しているのだお前は。</p><p>喉元まで出かけた怒声を、Olはかろうじて飲み込む。</p><p>わかった。ラディ、教えてくれるか？</p><p>うん。ボクが受けた命令はそっちの子を殺せ、っていうのだよ</p><p>改めて問い直せば、ラディコはあっさりとフローロを指差して答えた。</p><p>なぜだ？</p><p>わかんない。フルクト様に言われただけだからあっ</p><p>ぽろりと名を漏らし、ラディコは慌てて己の口を押さえる。</p><p>フルクト！？</p><p>その名を聞いて、フローロは驚愕に目を見開いていた。</p><p>知っているのか</p><p>フルクトはかつて私の世話をしてくれていた侍女です。まさか、彼女がどうして？</p><p>フローロの動揺ぶりを見るに、相当信頼していた相手であるらしい。</p><p>きっと何かの間違いだと</p><p>首を振りながら言いかけて、フローロはOlの顔を見上げた。フローロには、フルクトがそのような指令をしたなどとはとても思えなかった。だが──</p><p>人は、必ず裏切る。</p><p>そう言っていた彼は、フローロがそう訴えたとしてもそれを信じることはないだろう。そう思ったのだ。</p><p>まあ、その可能性はあるな</p><p>しかし案に相違して、Olはあっさりとそう言ってのけた。</p><p>え？私の言うことを、信じてくれるんですか？</p><p>信じるも信じぬもあるか</p><p>目を瞬かせるフローロに、Olは呆れた様子で言った。</p><p>そもそも情報が少なすぎる。こんな状況で判断できるものか。偽情報の可能性も十分ある</p><p>オ、Olくん、ボク、嘘言ってないよ！</p><p>Olの腕に縋りかけ、それをぐっと我慢しながら、ラディコ。</p><p>それはわかっている。だが、お前自身が騙されている場合もあるだろう</p><p>しかしOlの言葉に彼女はあっさりと納得した。つまりは、彼女自身もフルクトの事をさほど信用していないということだ。</p><p>そもそもこの状況でフローロを殺す理由がわからん。殺したいならば今まで幾らでもその機会はあったはずだろう</p><p>それは確かにその通りだ、とフローロも納得する。Olと出会う前、フローロがただの奴隷であった頃なら何の苦もなく殺すことが出来たはずだ。</p><p>そう、ですよね！フルクトが私のことを殺そうとするはずなんて</p><p>まあ否定する材料もないがな。単に目障りになったから殺そうと思い立ったのかもしれん</p><p>ぱっと表情を輝かせるフローロに、Olはにべもなく言った。</p><p>もー！どっちなんですか！？</p><p>知るか。わからぬからこそ、どちらにも否。あらゆる可能性に備えるのだ</p><p>もしかしてからかわれているんだろうか、とフローロは思ったが、Olの表情は真剣そのものだ。</p><p>あらゆる、可能性</p><p>言っただろう。──人は、必ず裏切る</p><p>今まで幾度となく言ってきたその言葉を、Olはもう一度口にした。</p><p>その中でもっとも警戒しなければならぬのは、自分自身だ。こうあって欲しい。こうあるべきだ。そんな思いは瞳をすぐに曇らせる</p><p>その本当の意味に、フローロは瞠目する。</p><p>フルクトが自分を裏切ったなどとはとても信じられない。</p><p>そう思う反面で、もし本当に裏切っていたら。そう考えてしまう自分もいる。</p><p>あらゆる事に備えよ。その上で、あらゆる事を疑い続けろ</p><p>だがOlは、そのどちらも許すと言っているのだ。そのどちらも必要なことで、しかもそれだけでは足りない。</p><p>それこそが無事に生き抜く為にもっとも有効な選択だ</p><p>はい、Ol！</p><p>師の薫陶に、弟子は元気よく頷く。その瞳には、もはや迷いは残っていない。</p><p>いや。最大限迷おうという覚悟が残っていた。どれほど複雑な迷路であろうと、その全ての道を辿ることを、迷うとは呼ばないのだ。</p><p>Olくん、かっこいいっ♡</p><p>ええい、だから抱きつくなっ！</p><p>決意を胸に秘めるフローロをよそに、感極まったラディコの抱擁を、Olは死ぬ気でかわすのだった。</p><p>第5話騙し合いに勝利しましょう-1</p><p>大事ないか、サルナーク</p><p>ああおかげさんでな</p><p>頭に包帯を巻き、寝転がりながらサルナークは唸るように答える。</p><p>ラディコに催眠術を掛ける前、殴り倒された彼に応急処置をしてはいたが、なにせ打撃痕というのは質が悪い。魔力が乏しい現状では全快させる事も出来ず、残りは自然回復に任せていた。</p><p>しかしお前には物理的な攻撃は効かないのではなかったのか？</p><p>ああ、それなんだがあいつは多分銀の腕かそれ以上だ</p><p>苦々しい口調で、サルナークは答える。そういえばラディコもそんな事を言っていたとOlは思い出した。</p><p>銀の腕？</p><p>鉄の腕の上位互換二段階上のスキルだ。オレの鋼の盾は銀以上の名を持つスキルを無効化することは出来ない</p><p>サルナークの答えに、Olは呆気にとられた。鉄の上が鋼なのはまだわかるがなぜその上が銀になるんだだとか、それでよく生きていたものだだとか、色々と尋ねたい事が脳をよぎったが、</p><p>お前、その程度のスキルで調子に乗ってたのか</p><p>うるせえよ畜生！そもそも盾系のスキルを無効化出来るスキルなんてほとんどねえんだよ！しかも銀ランクとなると上層にだってそうそういるもんか！</p><p>真っ先に浮かんだ疑問を呈すると、サルナークは顔を真赤にして怒鳴った。</p><p>ああ、わかってる、油断してたのは事実だ。鉄の腕なら効かねえって慢心してた。まさか、銀の腕なんてスキルを持ってるとはな</p><p>お前の盾を、その銀ランクとやらにすることは出来ぬのか？</p><p>Olの問いに、サルナークは力なく首を横にふる。</p><p>無理だ。スキルのランクやレベルってのは結晶化した時点で決まっていて、変えることは出来ねえ。ランクが違うスキルは全く別のスキルだ。だから鉄の腕の異名で知られてる奴がそれ以上のスキルを持っているなんざ、思いもしなかった</p><p>銀の腕のスキルを得ても、鉄の腕のスキルと効果が足し合わされるわけではないんです。つまり銀の腕を手に入れれば鉄の腕は丸々無駄になります。ですから、普通は同じ系統のスキルを同じ人物が持つことはありません</p><p>サルナークの言葉をフローロが補足する。</p><p>そもそも単純に虚偽である可能性は考えなかったのか？</p><p>Olの指摘に、サルナークとフローロは揃って表情を強張らせた。</p><p>ナギア。あいつか！</p><p>でも、ナギアが嘘をついたのならOlにはそれはわかるのでは？</p><p>ギリリと歯噛みするサルナークとは対照的に、フローロは冷静にそう尋ねる。</p><p>ああ。だがナギアもそれをわかっておる。潜り抜ける方法を見つけたのかも知れんし、そもそも奴自身が騙されている可能性もある。いずれにせよもともと一つ、疑問に思っていた事がある</p><p>Olはサルナークとフローロの顔を見回すように視線を巡らせると、一段低い声で言った。</p><p>敵が俺達の動向を、どうやって把握しているかだ</p><p>サルナークとフローロは、ともに表情を引き締める。</p><p>もしフローロの支配者の瞳のようなスキルを用いて我々の様子を盗み見ていると言うなら、それは魔術でわかる。そして、そのようなスキルが使われている様子はない</p><p>実際にフローロが支配者の瞳を使い奴隷達の感覚を共有したところ、Olは感覚を共有されている奴隷達を検知することが出来た。</p><p>無論のこと、奴隷達だけでなく、壁や床、天井、なにもない空間に対しても同様の検査を施している。</p><p>では、どうやって？</p><p>スキルなど使う必要もない、世界を問わぬシンプルな方法がある</p><p>いつの間にそんな事を、と思いつつも首を傾げるフローロ。</p><p>内通者がいる</p><p>そんな彼女に、Olは重々しく告げた。</p><p>監視の目は、フローロが俺と会う前からついていたものだろう。コートーは俺の存在をそもそも知らぬ。サルナークがフローロの事を知ったのはつい先日のことだ。それ以外に、お前の事を知っていたものはいるか？</p><p>ナギア</p><p>フローロはぽつりと呟いた。商人である彼女とはOlと出会う前から、モンスターを狩って手に入れた素材やスキルを度々やり取りしていた。</p><p>サルナークの奴隷達は解放されたあと、その殆どが支配者の瞳の影響下に置くためにフローロに仕えることになった。しかし僅かではあるが、解放されて奴隷であることをやめたものもいる。</p><p>ナギアもその一人であった。本人は既に自分はOlの物であるからと言っていた。フローロもそれに疑問を抱くことはなかったが、それが己の行動を把握されないための言い訳だとしたら。</p><p>そこにいるのは誰だ！</p><p>不意に、サルナークがOlの背後に向かって叫ぶ。フローロがすぐに部屋の外を確認したが、そこには誰もいなかった。</p><p>辺りを見回すフローロをよそに、ひょいとOlが何かを地面から拾い上げる。</p><p>Ol、それは？</p><p>それは、紫色に輝く小さな鱗であった。</p><p>そう。ラディコまでが敗北しましたか</p><p>はい。あのOlという人間予想以上に危険な男であるようです</p><p>部屋の中には、二人の女。片方は白銀の髪を長く伸ばし、後頭部に向かって角を生やした従者の姿の魔族。もう片方は短く金の髪を刈り、壁族然とした男装に身を包んだ人間。</p><p>しかし奇妙なことに、跪き報告しているのは壁族の人間であり、それを立って聞いているのは従者の姿の魔族であった。</p><p>銀の腕は渡したのですよね？</p><p>は。私がしかと。──かくなる上は、私が出るほかないかと</p><p>お待ちなさい、ユウェロイ。あなたはそう軽々と動いていい立場ではないでしょう</p><p>しかしブラン様！</p><p>ユウェロイの口を、ブランは優しく塞いだ。</p><p>私が参ります</p><p>で、ですが</p><p>真っ赤に染まったユウェロイの口調には、先程までの硬質さは失われている。</p><p>あなたをこそ、万が一にも失うわけにはいかないのです。それに</p><p>つい、とユウェロイの顎を撫で、ブランは目を細める。</p><p>私に万が一があると思いますか？</p><p>首を振るユウェロイに、ブランはくすりと笑った。</p><p>いい子ね</p><p>ユウェロイの頭をふわりと撫でて、ブランはスカートを翻し部屋の奥へと向かう。</p><p>閨にいらっしゃい。今日は可愛がってあげましょう</p><p>そして背中越しに、そう声を投げかけた。</p><p>ブ、ブラン様！そのようなことは</p><p>あら。お嫌かしら？</p><p>慌てるユウェロイに、ブラン。</p><p>嫌ではありません</p><p>赤い顔を更に赤く染め、ブランはユウェロイの後を追う。</p><p>ああ、そういえば</p><p>ユウェロイをベッドに引き入れながら、思い出したようにブランは口にした。</p><p>あの尾族ナギアと言いましたか。彼女はどうしました？</p><p>間者であるのがバレたようです。用済みになりましたので</p><p>ユウェロイは口調を事務的なものに戻し、答える。</p><p>処分しました</p><p>第5話騙し合いに勝利しましょう-2</p><p>自ら討って出る。そう宣言するブランに、招き手のフォリオは間の抜けた声を上げて、コリコリとこめかみの辺りをかいた。</p><p>まあ、ユウェロイサマがそう仰るんなら、アタシとしちゃ否はありませんけども</p><p>フォリオはユウェロイの奴隷であり、ラディコの主人である。癖の強いふわふわとした緑色の髪に、ふわふわとした羽根を持つ翼族の女だ。</p><p>どうやって勝つおつもりで？</p><p>フォリオはブランとはほとんど直接の面識がなかった。知っているのは、魔族にも関わらず己の主人に命令できる立場にいるという事と、めっぽう強いらしいという事──</p><p>どうやって、とは？</p><p>あと、考えなしという事か。と、首を傾げるブランに、フォリオは心の中の人物評に追記した。</p><p>いえね、ブランサマが大変お強いのはアタシも知ってるんですけど、うちのラディコもアレはアレで結構腕の立つコなんですよ。それが簡単にやられちまったんで、ちょっと次は入念にかからないといけないんじゃないかなと思いまして</p><p>Ol。正体不明のあの男の欠点は、直接的な戦闘能力の乏しさであるとフォリオは評していた。真っ向勝負であればサルナークにすら勝てないのなら、下手に策を弄するよりもラディコをぶつけた方が手っ取り早い。そう判断し、フォリオは己の奴隷に命じた。単純な強さと速さは、あらゆる策を破壊しうる。</p><p>だがそれは、拙速に過ぎた。Olは思ってもみない方法でラディコを無力化し、その上奇妙なスキルで籠絡して情報を引き出したという。フォリオに関する情報も全て知られていると考えるべきだった。</p><p>ふむなるほど。少々考えすぎという気もしますが、貴女はユウェロイがもっとも信頼する比類なき知恵者であると聞いております。貴女がそう仰るのであれば、一考の価値はあるのでしょうね</p><p>ち、知恵者！？イヤイヤイヤイヤ、何いってんですか、アタシは単なる中間管理職ですよ！</p><p>上司が聞く耳を持っていてくれていたことにフォリオはひとまず安堵するが、その分のしかかってきた責任にブンブンと激しく手を振った。というかユウェロイがもっとも信頼するとは、一体何の冗談なのか。</p><p>と、ともかく！あのOlという男は、何ていうかこう、色々ヤバいです。今わかってるだけでも、母なる壁を動かすスキル、鑑定を防ぐスキル、人の心を操るスキル、見えない壁を張って攻撃を防ぐスキル、モンスターを自在に使役するスキルなどを持ってます</p><p>指折り数えながらフォリオは思う。</p><p>これ、無理なんじゃない？素直に逃げた方がいいんじゃない？と。</p><p>見えない壁を張るですか？そんな報告は受けていませんが</p><p>ああ、はい。んーと報告にあったのは壁を生み出して防御するスキルですよね。でもそう考えるとなんというかいまいち実際に起こってる現象と合わなくて</p><p>しかしそうするわけにもいかない。いつもの通りだ。フォリオは深々とため息を吐きながら、頭を巡らせた。</p><p>ユウェロイサマ、壁が張られるより早く攻撃すればいいって思ってませんでした？</p><p>いえ</p><p>軽く首を傾げ、ユウェロイは簡潔に答える。</p><p>壁ごと破壊してしまえばいいと思っていました</p><p>のっ</p><p>の？</p><p>脳筋。喉元まででかかった言葉を、フォリオはかろうじて飲み込んだ。</p><p>あの、壁は、母なる壁と同じとは言わないまでも、かなり近い性質を持ってそうなんですよね。しかもそれが、常時展開されている。多分インパクトの瞬間に壁が浮き出るのはそれを隠すためのブラフでしょう</p><p>つまりは見た目を誤魔化すようなスキルも持っている、と。フォリオは心のノートに追記して、更に逃げたくなった。</p><p>あら。ということは、壊しやすいという事ですね</p><p>なるほど。そういう考え方もありますね</p><p>脳筋ではあるが、馬鹿ではない。ようやく明るい要素を一つ見つけて、フォリオはほっと息を吐いた。</p><p>とにかく出来る限りの対策を考えてみます。ところで、ブランサマ</p><p>パサリと背中の羽根を広げ、フォリオは問う。</p><p>あのお噂ってホントなんですかね</p><p>と申されますと？</p><p>本来であれば他人の持つスキルを詮索することは極めて失礼な事だ。だがそれは、どうしても聞いておく必要がある質問だった。</p><p>ブランサマが、スキルを成長させるスキルをお持ちという噂です</p><p>──たとえ、この場で処分される可能性があるとしても。</p><p>それでね、フォリオ様はね、すっごく頭が良くてね</p><p>その下りはもう十回は聞いた</p><p>とめどなく流れ行く益体もないラディコの話を、Olはひたすらに聞いていた。フォリオが講じたあらゆる妨害を取り除き、ラディコの口を割って出てきたのは、極めて主観的かつ曖昧で、それでいて膨大な量の情報であった。</p><p>この数時間でOlはフォリオの好きな食べ物から好む服装、口癖に細かな癖まで正確に把握できるようになっていたが、彼女が持つスキルや能力に関してはさっぱりであった。</p><p>唯一出てくるのが、フォリオ様はすごく頭がいいである。ラディコにとっては主人というより保護者に近い存在であるらしい。それ故、フォリオがどれほどの能力を持っているのか、具体的なところが全く見えてこない。</p><p>それでね、ボクがハンマーを失くしちゃって困ってるときは、フォリオ様に聞いたらすぐに見つけてくれるの！</p><p>ラディコが語るのはたとえばこういった情報である。なんであんな巨大なものを失くすことが出来るんだ、とOlは思う。もしここまでを見越してラディコをよこしたのであれば、確かにフォリオは有能なのだろう。</p><p>全く何の役にも立たない情報をわざわざ秘匿することで、Olに数時間とはいえ無駄な時間を使わせたのだから。</p><p>ブランとユウェロイの情報に至っては、名前以上のものはほとんど出てこなかった。せいぜいがすごく綺麗な人かっこいい人くらいのものだろうか。無いよりはマシとすら言えない程度の情報量だ。</p><p>できればブランを直接強襲したいところだったが、仕方あるまい。ナギアの監視が解かれたこの機を逃すわけにはいかぬ。まずはフォリオを攻めるぞ</p><p>それなんですけど、Ol</p><p>これ以上ラディコからは情報を引き出せないと諦め、方針を打ち出すOl。そこに、フローロが口を挟んだ。</p><p>本当にナギアが、私達の情報を流したんでしょうか？</p><p>それ以外にあるか？</p><p>サルナークが苛立たしげに吐き捨てる。実際ナギアは姿をくらまし、フローロの張った監視網を抜けて下層に逃げていく姿も見られている。情報を流していたのでなければ逃げる必要など無いはずだ。</p><p>相手の対応から消去法で考えても、ナギア以外にいそうもないというのも理解している。しかし理解してなお、フローロの心には何か違和感が残っていた。</p><p>フローロ。俺は教えたはずだぞ</p><p>こうあって欲しいだとかこうあるべきだという思いは、瞳を曇らせる。Olの言葉を思い出し、フローロは頷く。</p><p>だがそれでもいや。むしろその言葉を思い出せば思い出すほど、フローロの胸には形容しがたい感情が広がっていった。なにか、重大なことを見落としているような気がしてならない。</p><p>ラディコ。俺はフォリオに挨拶したい。お前と引き合わせてくれた礼をせねばな。案内してくれるか？</p><p>うん！いいよお</p><p>だがそれが何であるのか考えている暇はなかった。ただでさえ手にしている情報量に差がある以上、こちらから攻め込まなければどんどん不利になっていくばかりだというOlの言う理屈もわかる。</p><p>フローロは胸のうちに不安を抱えながらも、頭上を見上げた。</p><p>その分厚い天井のその向こう。</p><p>壁界下層。奴隷ではない者たちが住む場所を。</p><p>第5話騙し合いに勝利しましょう-3</p><p>最下層とフローロたちが呼ぶ空間に、階段はない。平べったく横に広がる文字通りの最下層であり、最下階。それが彼らの住む世界の全てだった。</p><p>裏を返せば、上へと続く階段はもはや最下層ではない。</p><p>止まれ</p><p>最下層の人間が足を踏み入れる事は許されない、下層の領域であった。</p><p>これより先はお前達の足を踏み入れていい場所では</p><p>あれ？ボクも駄目？</p><p>槍を構え居丈高に命じる衛兵に対し、Olの背中からひょこりと顔を出して、ラディコ。</p><p>ラ、ラディコ様！そのこいつらは</p><p>うん。フォリオ様に頼まれて、連れて行くんだよお</p><p>失礼いたしましたっ！</p><p>ニコニコしながらラディコが答えると、衛兵たちはすぐさま槍を引いて道を開けた。</p><p>下層の人間の間にも階級があるのか</p><p>そりゃそうだ</p><p>直立不動でOlたちを見送る衛兵をみやりながら、サルナーク。</p><p>あいつらは下層の中でも下の下。中層の有力壁族に連なるラディコとは本来直接会話するのも咎められるような連中だ</p><p>職務上の誰何であること、それ以上にラディコ自身がそういった事を気にしない性格である為に見過ごされているが、相手によっては先程のやり取りも無礼として首を打たれても文句は言えない。その程度の立場の人間だ。</p><p>そして、そんな者たちですら、最下層の支配者であるサルナークよりも上である。最下層に住むものはそのことごとくが奴隷であり、この壁界に住む者たちの中の最底辺であるのだ。</p><p>まさかこんな方法で最下層を出ることになるとはな</p><p>忌々しげに呟きながら、サルナークは階段を踏みしめる。</p><p>こっちだよお、Olくん！</p><p>その内心に渦巻く思いに全く気づくことなく、ラディコは軽やかに下層の廊下を駆けていく。</p><p>どうしましたか、Ol？</p><p>その後を追いながらぽつりと呟くOlに、フローロは首を傾げた。</p><p>床石の年齢が、まるで違う</p><p>床石の年齢？</p><p>そして返ってきた全く意味のわからない言葉に、彼女はOlの視線を追って床を見つめた。</p><p>同じに見えますが</p><p>いや、違う。百年か二百年か。その程度はこの床の方が古い</p><p>そう言われてもフローロには最下層で見飽きるほどに見てきた床と何が違うのか全くわからない。だがOlは確信を持っているようであった。</p><p>つまりは、最下層の方が後に作られたということだ</p><p>そもそも床や天井は母なる壁と同じ素材でできている。つまりはけして朽ちず壊れず傷つかない。経年による劣化もないはずであって、Olの言う通り百年の差があったとしても見た目に違いが出る道理はないはずだ。</p><p>そうなんですね</p><p>だがフローロは特に興味がなかったため、Olの言うことを否定も肯定もせずに相槌を打った。</p><p>この世のあらゆるものは固有の魔力波動を持っており、極微量ではあるが周囲にそれを放っている。しかしこれは魔力の流れから切り離されると徐々に減じていく。生命であれば死んだとき、岩であれば大地から切り出されたときだ。と言っても魔力そのものを消費しているわけではないので波動の減少はごくごく僅かなもの。およそ五千と五百年で半減するという極めて微かなものだ。だが最下層の床石はどこもほぼ一定の魔力波動であったにも関わらずこの階層の波動は明らかに目減りしている。それだけならもともとの石の性質が異なるだけかも知れないが──</p><p>なるほどですねー</p><p>こういう時のOlの言葉は極力聞き流すべきであるということを、フローロは段々と理解してきていた。</p><p>あれえ？</p><p>不意に、前を歩くラディコの足が止まった。一体どうしたのかと見やれば、通路は積み重なったベッドだの机だのの残骸で塞がれてしまっていた。</p><p>誰がこんなふうにしたんだろお。どけるねえ</p><p>待て、ラディ</p><p>自慢の鉄腕をぶんぶんと回すラディコを、Olは慌てて止める。</p><p>お前の力で吹き飛ばしては大きな音が鳴って迷惑だろう。かといって一つ一つどかしていたのでは時間がかかる。別の道はないのか？</p><p>うん、じゃあ、こっち</p><p>素直に腕を引っ込めるラディコに、フローロはほっと胸を撫で下ろした。折角ここまで敵に察知されずに侵入できているのだ。これほどの瓦礫を一気に破壊したら台無しになってしまうところだった。</p><p>あれ？でもOlなら壁の方を動かして通れたのでは？</p><p>いちいちそんな事に貴重な魔力を使っていられるか。言っただろう、あれは見た目よりだいぶ高度な操作を必要とするのだ</p><p>Olの答えに、フローロはそういうものかと納得する。とはいえ正直彼の言う魔力の量というのは、フローロにとっていまいちピンとこない概念ではあった。</p><p>それがなければ魔術を使えないというのだが、魔術を覚えたてのフローロは魔力がなくなるという感覚がない。それどころか、自分にどの程度の魔力があるのか、どれだけ使えばなくなるのかすらわからないのだ。</p><p>あっ！</p><p>再び、突然前を行くラディコが足を止める。しかし先ほどとは打って変わって、明るい声色であった。</p><p>フォリオ様！</p><p>その行く先に、緑の髪の翼族の姿があったからだ。</p><p>きゅっ。どうしたのお、Olくん？</p><p>反射的に駆け寄ろうとするラディコの首根っこを、Olが押さえる。</p><p>悪いんだけどさ</p><p>パサリと翼を軽く開き、フォリオが言う。</p><p>その子、返してもらえないかな</p><p>奇妙なことだ、とOlは思った。このダンジョンの天井はそこまで高くない。せいぜいが十フィート（約三メートル）程だ。あのように翼を持った種族が活動するにはいささか狭すぎる。空を飛んでも手が届いてしまう高さでは、空を飛ぶ優位性が殆どない。</p><p>それはできんと言ったら？</p><p>Olはラディコをぎゅっと後ろから抱きしめるようにして、問う。</p><p>まあそん時は、仕方ないよね</p><p>フォリオの手のひらに炎が浮かび上がった。</p><p>アタシとしちゃ、上から言われた仕事をこなすだけだよ</p><p>それは瞬く間に巨大な火炎となって、Olに向かって投げ放たれる。Olが抱えたラディコもろとも、燃やし尽くすつもりだ。</p><p>チッ！</p><p>Olは空いた右腕でダンジョンキューブを取り出すと、見えざる迷宮(ラビュリントス)を操作し盾のように壁を作り上げる。壁に接触した炎は轟音を立てて爆発し、辺りに火花を撒き散らした。</p><p>正確に理解してきている。</p><p>Olはダンジョンキューブならば炎や毒も防げるとサルナークに豪語したが、それは半分、本当ではない。確かに防ぐことはできるものの、高温の炎というのはダンジョンキューブの弱点の一つであった。</p><p>火炎そのものは防げても、それが放つ熱までは防げないからだ。どんなに堅牢な壁で周囲を囲んだところで、膨大な熱の前ではそれはOlを焼き上げるカマドでしかない。</p><p>ラディコに使った蠍蜂も、これほど広く高熱を放つ炎の前では無意味だ。放った途端、全て焼き殺されるだろう。</p><p>随分と遠い位置で防いだね</p><p>次の炎を手のひらに浮かべつつ、フォリオは笑う。</p><p>やっぱりその壁、手動操作もできるんだ</p><p>フォリオ様！やめてよお！</p><p>ラディコが短い両腕を精一杯に広げ、Olをかばう。その姿を、フォリオは無関心な冷たい目で見やった。</p><p>すっかり誑し込まれちゃってまあ。悪いけどね、そんな部下はアタシにはいらないんだ</p><p>そして両手に作り上げた炎を、矢継ぎ早に投げ放つ。</p><p>ぬ、うっ！</p><p>その熱量は最大限遠く離した壁を隔ててさえ伝わってきて、それが更に加速していく。</p><p>ラディコ</p><p>Olはわずかに身を屈め、ラディコの側頭部についた犬のような耳にぽそりと呟く。</p><p>思わず彼女はOlを振り返り、見上げる。</p><p>その背中を、Olは思い切り蹴り飛ばした。</p><p>それと同時に見えざる迷宮(ラビュリントス)で作り上げた壁を開き、ラディコが通り抜けたところで再び閉じる。必然、ラディコは無防備な姿で無数の炎に晒された。</p><p>そして次の瞬間。</p><p>言った通りだったろう？</p><p>ラディコに当たる寸前で、全ての炎はかき消えていた。</p><p>Olくんがフォリオ様を信じろって言った通り、ちゃんと消してくれたね、フォリオ様！</p><p>すなわち、ラディコを巻き込んで攻撃しようとしていたのは全てブラフ。人質が効かないとOlに主張するための攻撃だ。</p><p>にゃろう</p><p>フォリオはぎりりと奥歯を噛み締める。実際には、炎を消すのはいくらか間に合わなかった。より正確に言うのであれば、炎はラディコに当たる前、フォリオが消すよりも更に前に、見えない壁にあたって破裂したものがあった。</p><p>見えざる迷宮(ラビュリントス)で作った盾の更にその先に、ラディコを包む小部屋のような見えない壁があったのだ。つまりはOlにも、ラディコを犠牲にするつもりなど更々なかったということだ。</p><p>やってくれるじゃないか</p><p>ここでラディコを盾にし、見殺しにするような相手であれば、ずっとやりやすかった。フォリオは再び心の中でOlの人物評を書き換える。</p><p>思ったよりも数段厄介な相手だ、と。</p><p>第5話騙し合いに勝利しましょう-4</p><p>この戦いの鍵となるのはラディコだ。</p><p>それはフォリオとOlの共通認識だろう、とフォリオは考えた。</p><p>Olがラディコの心に干渉したスキルの詳細は不明だが、少なくとも完全にラディコが敵に回るような性質のものではないようだ。現在もラディコはフォリオに対する忠誠心をしっかりと持ち続けている。</p><p>故にOlが積極的にフォリオを攻撃しようとすれば邪魔するだろうし、ラディコを盾にするような真似を行えばフォリオ側につく可能性もある。</p><p>ラディコの銀の腕は厄介なスキルだ。あらゆる防御を貫いて一撃で決める可能性すらある。傍らに従えているからこそ、それは致命の爆弾になりうる。</p><p>ラディコ。下がっていろ</p><p>だからこそ、Olはラディコを戦線から遠ざける。それはフォリオの読み通りの行動であった。</p><p>安心しろ。お前の主人を殺すつもりはない</p><p>まるで父親のような笑みを浮かべ、ラディコの頭を撫でるOl。</p><p>無力化し、少し説得すればお前と同じ様に仲良くなれる</p><p>満面の笑みを浮かべて後ろに下がるラディコ。一体何をされることやら、とフォリオは内心苦笑いを浮かべた。</p><p>Olがラディコに使ったスキルの詳細は知らされていない。少なくとも戦闘中に使えるようなものではないとのことだが、それ以上は教えてもらえなかったのだ。</p><p>Ol、壁を開けろ！</p><p>そう叫びながら、サルナークが飛び出してきた。彼の鋼の盾であれば、フォリオの大炎も防げると判断してのことだろう。それは正しい。</p><p>サルナークが抜けるなら、壁に穴が開く。フォリオはその隙を狙って炎を放ったが、当たり前のようにサルナークの背後に展開されていたもう一枚の壁に阻まれた。思った以上に複雑な形に展開できるようだ。見えない壁を出せるというだけでも厄介だと言うのに、なんて卑怯なスキルなんだとフォリオは歯噛みする。</p><p>それに比べて──と、フォリオはサルナークに視線を移し、彼に炎を数発放った。</p><p>しゃらくせえっ！</p><p>鋼の盾は強力なスキルだ。下位互換の鉄の盾に比べて炎の熱さえも防ぐ。</p><p>道具袋</p><p>ぬおっ！？</p><p>だが全く厄介ではない。サルナークはフォリオが展開したスキルによって、突如発生した穴の中に落ちた。</p><p>壁や床に穴をあけるスキルは存在しない。少なくともOlが持っているというそのスキルの他には、フォリオは聞いたことも見たこともなかった。</p><p>けれど、空間に穴をあけるスキルならありふれている。道具袋もその一つだ。人が一人すっぽり入ってしまう程度の空間を任意の場所に作り出す。本来であれば荷物を運ぶためのスキルだが、中身はバリケードに使って今はサルナークに入ってもらった。</p><p>生き物を入れると閉じられないという欠点はあるものの、鋼の盾を一時的に無力化するには十分だ。</p><p>盾に属するスキルは強い。だがしかしだからこそ、それへの対処も様々に研究されている。傷つけられずとも封殺する方法は幾らでもあった。そんなものを無敵と過信し上層を目指していたというのだから、可愛らしいものだ。</p><p>と考えていたところで、フォリオの視界は激しく揺れた。</p><p>棍によって殴り飛ばされ地面を転がるフォリオの姿を見て、Olは小さく呟いた。</p><p>ぐ、うなん、で</p><p>上手く脳震盪を起こすことに成功したのだろう。フォリオは立つのも覚束ない様子でフローロを見上げる。彼女を殴り飛ばしたのは、フローロだ。長身のサルナークの姿と、彼にはなった炎がいい目隠しになってくれた。</p><p>フォリオの放つ炎は凄まじい温度を持っていた。壁で防いでも十発も喰らえば蒸し焼きになってしまうし、直接喰らえば二、三発で人体など炭と化す。その余波だけでも重篤な火傷は免れないだろう。</p><p>つまり、たかがその程度の温度だ。</p><p>火山の女神サクヤが操るマグマや、太陽の神の力を借りたラーメスの神火とは比べ物にならないほど弱い。並より少し上の魔術師が用いる程度の温度に過ぎない。故に、Olの使う通常の耐火魔術で十分に凌ぐことが出来た。</p><p>追撃を加えようとフローロが棍を振り上げた瞬間、フォリオは水の塊を放った。ダメージで朦朧としているせいか、とても殺傷能力はありそうにない速度の気の抜けた水の塊。それは避けるまでもなく、あらぬ方向に飛んでいった。</p><p>違う、フローロ！後ろだ！</p><p>Olの警告にハッと気づき、フローロは後ろを振り返る。</p><p>サルナーク！</p><p>水の塊はサルナークが落ちた道具袋の中を埋めていた。ごぼり、と泡が水面に立ち上る。</p><p>鋼の盾は本人にかかる力の殆どを無効化する。水の浮力さえもだ。つまり穴の中で水で埋められると、浮き上がることが出来ずにそのまま窒息死する他ない。</p><p>捕まって下さい！</p><p>よせ、フローロ！</p><p>Olの制止を無視して、フローロは棍を道具袋の中に差し入れる。だが、それに捕まったサルナークを引き上げようとして、愕然とした。</p><p>──鋼の盾は本人にかかる力の殆どを無効化する。だから、引き上げることさえ出来ないのだ。サルナークが自分の力だけでよじ登らなければならない。水中で浮力の助けも得られず、しかし濡れた服の重みだけはしっかりとかかる。</p><p>爪をかける場所さえないツルツルとした棍を、フローロの支えだけでよじ登るのは困難な事であった。そしてそんな隙を、フォリオが見逃すはずもない。</p><p>避けろ、フローロっ！</p><p>フォリオの放った炎がフローロに直撃し、炸裂する。熱そのものは魔術で防ぐことが出来ても、爆発の衝撃までは無理だった。</p><p>さて</p><p>痛む頬を押さえつつ、フォリオはゆっくりと立ち上がる。</p><p>次はどう来る？</p><p>Olが言うやいなや、フォリオの足元の床が、彼女を囲むように迫り上がった。戦闘が始まってからOlが殆ど動かなかったのは、この部屋を掌握する時間をかせぐためだ。</p><p>フォリオが待ち受けていた部屋が広かったために少々時間がかかったが、既にこの部屋の床も壁も天井も、全てOlのものだった。</p><p>そう来ると</p><p>フォリオの両手に、小さな炎が宿る。</p><p>思ってたよ</p><p>そしてその背中の翼を大きく広げると、次の瞬間、彼女は天井近くまで移動していた。</p><p>むっ！</p><p>この狭いダンジョンの中で翼など何の役に立つのか。そのOlの疑問は、見事に解消された。フォリオはその両手から小さく爆炎を放つ。その爆風をいっぱいに受け、加速するための翼だ。</p><p>迫りくる壁を蹴り、天井をかすめ、床ギリギリまで降下して、そこから急上昇。羽ばたく鳥のように滑らかな飛行ではない。稲妻のように空間を縦横無尽に切り裂く、鋭い加速であった。</p><p>Olの迷宮魔術はダンジョンの壁を操る性質上、どうしたって空中に留まるものを捉えるのは難しい。それが凄まじい早さで動くのならばなおさらだ。</p><p>Olは手を床から離すと、真っ直ぐに走り始めた。その先にあるのは、サルナークが入っている道具袋だ。Olは道具袋の中の壁も操ることが出来るのだろうか</p><p>フォリオは一瞬そう考えかけて、すぐに思い直した。どちらにせよOlには自在に操れる見えない壁があるのだ。あれを階段にする事くらいはわけのない事だろう。サルナークを解放されては厄介なことになる。</p><p>もともとそれを狙っていたのだろう。Olが進む道とフォリオがいる場所は、床から突き出した壁に隔てられていた。だがそれは地上から二メートルほどの高さの話だ。</p><p>フォリオは高く舞い上がると、壁を超えてOlの前に立ちはだかった。</p><p>危ない危ない。そうはいかないよ！</p><p>フォリオの両手に巨大な炎が生まれ、Olに向かって放たれる。見えざる迷宮(ラビュリントス)の壁がそれを阻むが、漏れ伝わる熱気にOlは足を止めた。</p><p>フォリオは構わず炎を畳み掛ける。炎を完全に防ぐスキルがあるのなら、見えない壁で防御する必要などない。であれば、炎は依然として有効なのだ。</p><p>お前のその炎</p><p>鳴り響く爆発音の中、Olの声がいやにはっきりと響く。あるいはこれもなにかのスキルなのか。そんな訳のわからないスキルがありうるのか？と、警戒すべきかどうかフォリオは悩む。</p><p>攻撃のための強力な炎と、移動のための低威力の炎。同時に出すことは出来ないな？</p><p>そうではなかった。もっと警戒すべきことが他にあった。フォリオは即座に大炎の発動をやめ、小炎を使って飛び退こうとする。だが既に、背後は壁によって塞がれていた。</p><p>悪いが俺は、見えない壁の操作と床の操作を同時にすることが出来る</p><p>はいはい、わざわざ床に手をついて見せてたのはブラフってことね</p><p>床から手を離した今であれば床や壁の操作は出来ない。そう思って攻めを急いだフォリオの負けだ。</p><p>今お前がいる部屋はかなり小さい。下手に炎を使うなよ。自滅するぞ</p><p>おお、ほんとだ。小さい</p><p>勝敗は決した。フォリオは肩の力を抜いて、目に見えない壁をぺたぺたと無遠慮に触った。広さはせいぜい二メートル四方といったところだろうか。確かにこの中で大炎を使おうものならフォリオ自身がこんがりと焼けてしまうだろう。</p><p>だが、これだけあれば十分だ。</p><p>余計な抵抗をしないで貰えるとありがたいのだが</p><p>はいはい、しませんよー</p><p>降参するように、フォリオは両手をあげる。</p><p>アタシは</p><p>彼女がそう言った途端、その懐から凄まじい速度で何かが飛び出した。それはバチバチと雷光を身にまといながら、Olの張った目に見えない壁を殴りつける。聞いているだけで恐ろしいほどの破砕音が鳴り響き、砕けた石の塊が空中から無数に現れた。</p><p>フォリオの懐に隠し持っていた道具袋から飛び出し、それを殴りつけたブランは、パチパチと瞬きする。</p><p>一撃で壊れないなんて、意外と丈夫ですね</p><p>そして当然のように二撃目を加え、Olのダンジョン・キューブを今度こそ粉々に破壊した。</p><p>第5話騙し合いに勝利しましょう-5</p><p>随分物々しいな</p><p>じゃらりと音を響かせる鎖を見つめ、Olはそう呟く。</p><p>何をやらかすのか全然わかんないからね、アンタ</p><p>鎖によって壁にくくりつけられたOlを見つめ、フォリオは言った。</p><p>そう警戒せずとも、出来ることなどない。お前との戦いで魔力は殆ど使い切ってしまったからな</p><p>ごろりと硬い床に転がって、Ol。情けないことだ、と彼は内心で呟いた。自らのダンジョンの中でなくとも、本来の彼であればあの程度の魔術行使で魔力を切らしたりはしない。</p><p>しかしこの極端に魔力の乏しいダンジョンの中においては、常に爪に火を灯すような気持ちで魔術を使わなければならなかった。</p><p>フローロは無事なのか？</p><p>さあ。ブランサマが連れてっちゃったんで、アタシは知らないよ</p><p>魔力を失いダンジョンキューブも破壊され、その上フローロがいなくなれば、Olはもはや生きていくこともままならない。手に入る食料の中には殆ど魔力が含まれていないのだから、幾ら食べても意味がない。フローロに魔力を分けてもらえなければ、飢えて死んでいくのみだ。</p><p>Olがそうして横になっていると、ラディコが姿を現した。</p><p>お前は無事だったか</p><p>あったりまえでしょ、アタシの部下なんだから</p><p>Olによって洗脳処理を受けたのだから、何らかの処分が下される可能性もあると考えていた。</p><p>フォリオ様、Olくん、どうなっちゃうのかな</p><p>まあ、スキルを抜き出すだけ抜き出して、処刑じゃないかな</p><p>処刑</p><p>へにょん、とラディコの耳が下を向く。よくもまあ懐いたものだ、とOlは他人事のように思った。</p><p>やめにならない？</p><p>それを決めるのはアタシじゃないからなぁ</p><p>フォリオもラディコには甘いらしく、彼女は困ったように癖っ毛をかいた。</p><p>アンタ、何が目的なの？</p><p>目的。目的か</p><p>フォリオに問われ、Olは遠くを見やる。フローロの手伝いをしてはいるが、それはOl自身の目的ではない。</p><p>元いた場所に帰ること、だな</p><p>まだ数日しか経っていないというのに、何よりも懐かしい我が家。愛しい妻と子、仲間たちのいる己の場所。その光景を思い出しながら、Olは言った。</p><p>アンタ、別の世界から来たんだっけ</p><p>フォリオの瞳に同情の色が浮かぶ。遠い異郷で自分とは関係のない種族間の争いに巻き込まれ、故郷を懐かしく思う気持ちはフォリオにも理解できた。</p><p>まあ、出来れば殺されないように進言してあげてもいいけど</p><p>アタシの言うことがどこまで聞いてもらえるかわからないけどさ。とフォリオ。</p><p>だがOlはその申し出に、首を横に振った。</p><p>そ。まあ、言っといてなんだけど大した役に立てるとは思えないしね</p><p>肩を竦めてみせるフォリオに、Olは再度首を振る。</p><p>少々気が咎めるのでな</p><p>何が？</p><p>首を傾げるフォリオの背後で、ナギアが短剣を振りかぶった。</p><p>ご無事ですか、Ol様？</p><p>ああ。まあ、なんとかな</p><p>するりと床を這う蛇の尾は、微かな音も立てず振動もさせない。すぐ背後に迫っている事を、フォリオは全く気づかなかった。</p><p>フォリオ様！？</p><p>案ずるな。麻痺しているだけだ</p><p>床に転がるフォリオにあわてて駆け寄るラディコに、Ol。</p><p>蠍蜂から抜き取ったスキル麻痺針をナギアには持たせてある。勿論、このような事態を想定してのことだ。</p><p>ななんで</p><p>かろうじて動く舌先を動かして、フォリオは絞り出すように声を上げた。ナギアは死んだはずだ。どちらに付くか信用ならない尾族の女。もはや利用価値もなく、知らなくてもいいことを知りすぎたために処分したとユウェロイからは聞いていた。</p><p>ふふふ。それは勿論敬愛する我が主人、Ol様のおかげですわ</p><p>Olにぴっとりと肌を寄せ、ナギアは妖艶に微笑んでみせた。</p><p>まさかOl様がわたくしを信用して下さるとは思いもしませんでしたけれど</p><p>裏切りの蛇。売女。二枚舌の嘘つき。ナギアはそう言われ続けてきたし、自分でもそう思っていた。実際、Ol達の情報をサルナークに流し、その情報を更にユウェロイにも流していた。</p><p>信じていたとも</p><p>故にOlは、彼女を信じた。</p><p>お前は必ずユウェロイ達をも裏切ってくれるとな</p><p>そうする者が、この世のどこにもいなかったからだ。</p><p>Olは、そもそも何も信じてはいない。故にその疑念は疑いではなくただの確信であった。ナギアがOlを裏切るというのなら、それを前提に入れて行動すればいい。</p><p>具体的に何をしたかと言えば、Olはその魔力の大部分を割いて密かにナギアを監視した。そして彼女の行動原理を、望んでいるものと望んでいないものとを見出したのだ。</p><p>ナギアはユウェロイやサルナークのみならず、ありとあらゆる勢力と内通し、同時に全てを裏切っていた。利によって動いていたわけではない。己の利益を望むなら、そこには一定の誠実さが必要になる。Olのダンジョンの商人、ノームがそうであったように。</p><p>ならば何故ナギアは全てを裏切り続けるのか。</p><p>それは、全てがどうでもいいからだ。真実も正義も誠意も愛も、何もかもがどうでもいい。重んじる理由がなく、守る必要がなかった。誰もが彼女を信じなかったから、彼女も何をも信じなかった。</p><p>だからOlは、彼女の唯一になった。誰もが──ナギア自身さえもが信じない彼女の事をまず信じ、己の魔術の一部を預けた。姿を偽装し、隠す幻術の一種。それを使えば死を偽装することも出来るし、音を立てずどこにでも忍び込む究極の暗殺者にもなれる。</p><p>つまり、Olをいつでも殺すことが出来るということだ。</p><p>ナギアはその信頼を違わず受け取った。そして、また騙したのだ。Ol以外の全員を。</p><p>ラディコ。この鎖を解いてくれるか</p><p>うんでも、フォリオ様に酷いこと、しないよね？</p><p>勿論だとも</p><p>Olがにこやかに頷くと、ラディコはえいと鎖を引っ張る。すると太い鎖はまるで紙で出来ているかのように簡単に千切れた。</p><p>お前にしたのと同じ様に、少しばかり仲良くなるだけだ</p><p>手首を回しながらそう告げるOlに、フォリオは声にならない悲鳴を上げた。</p><p>第6話獣娘たちを躾けましょう-1</p><p>と、その前に少しばかり魔力が足らん。ナギア、悪いが</p><p>ええ。幾らでもお吸いになって下さい、Ol様</p><p>胸の前で手を組み、目をつぶって顔をあげるナギア。Olはその顎に手を当てて、遠慮なく唇を吸った。微かに震える唇の中から、透明なひんやりとした魔力が伝わってくる。質はさほど高くないが、その分自分の魔力に変換するのはあまり苦労なさそうだ。</p><p>なにそれ！ボクも、ボクもやってえ！</p><p>するとラディコがぴょんぴょんと飛び跳ねてそう主張しだした。ラディコに対しては情報を引き出すため、最低限の接触にしたのだがと、Olはちらりとフォリオを一瞥する。</p><p>するとフォリオは射殺しそうな表情でこちらを睨んでいた。毒を食らわば皿までか、と覚悟を決めて、Olはラディコを抱き寄せた。</p><p>小さな唇に己の口を当てると、思った以上に濃厚な魔力が口内に溢れ出した。たっぷりと具材を煮溶かした芳醇なスープのような魔力だ。見たところラディコは肉体派だから魔力にはさほど期待できないだろうと思っていたOlは、思った以上に濃厚なその味に驚いた。</p><p>んちゅぷ</p><p>思わずもっと求めるように舌先を差し入れると、ラディコは一瞬驚いたように身体をびくりと震わせたが、すぐに従順に幼い舌を伸ばし返した。短い舌がぎこちない動きでOlの口内に入ってきて、右往左往するようにパタパタと動く。</p><p>んっふ、ぅ</p><p>Olがそれを落ち着かせるように軽く唇で食みながら、愛撫するように舌先で撫で擦る。するとラディコは鼻から小さく吐息を漏らしながら、それを一生懸命真似るように舌を動かした。</p><p>ふぁあ</p><p>唇を離すと、彼女はぼんやりとした表情で舌をなおも伸ばしながら息をつく。</p><p>これ、すごいね、Olくん</p><p>ズルいですわ！</p><p>ぽおっとした口調で呟くように言うラディコに、ナギアが不満の声を上げた。</p><p>Ol様、わたくしも断固同じ物を要求いたします！</p><p>Olはぐいとナギアの腕をとって強引に引き寄せると、その頭を抱えるようにして口づける。</p><p>あっ♡そんな、乱暴な♡</p><p>口では文句を言いながらも、ナギアはそれを素直に受け入れた。にゅるりと侵入してくるOlの舌を、ナギアはおっかなびっくりといった感じで迎え入れる。そろり、そろりと舌を伸ばすと、Olの舌先が半ば強制的にナギアの舌を絡め取った。</p><p>尾人の舌は蛇と同じ様に、先が割れた長いものだ。自分で要求しておきながら嫌がられたらどうしよう、などと思っていたナギアであったが、Olは全く頓着することなく、むしろ積極的に舌を絡めてきた。</p><p>んっ！ぅんっ♡</p><p>ナギアはそっとOlの背中に腕を回す。だがどうしても抱きしめることが出来ず、その指先は虚空をさまよった。するとOlの手のひらが優しい手付きでナギアの髪を撫で、そのまま背中まで降りてぽんと彼女の背を叩く。</p><p>その衝撃に押されるようにして、ナギアはぎゅっとOlに抱きついた。</p><p>んっ♡は、ん♡ん♡ちゅぅ♡</p><p>むナギウ、ムナギア！</p><p>ぐいぐいと身体を押し付け、その蛇の下半身ごと伸し掛かるように迫ってくるナギアに、Olは流石に叫んで静止した。</p><p>あす、すみません！その、すごく気持ちよくて</p><p>夢中になってOlの舌を吸っていたナギアはようやく我に返り、慌ててOlから飛び退いた。</p><p>俺は逃げたりせん。そうがっつくな</p><p>苦笑するOlに、ナギアは耳まで真っ赤に染めた。</p><p>とりあえず最低限の魔力は腹に収めた。後はフォリオを籠絡せねば、と視線を向けようとするOlの服の裾を、ナギアがくいと引く。</p><p>彼女は何やら物言いたげな表情で、Olをじっと見つめた。</p><p>わたくしが</p><p>内心首を捻りながらOlがナギアの瞳を見つめ返すと、彼女は少しうつむき、ぽつりと呟く。</p><p>わたくしの方が先に</p><p>そこまで言われてOlはようやく気づいた。</p><p>だが、お前は</p><p>わたくしの事は、お嫌いですか？</p><p>逡巡するOlにナギアは涙を浮かべ、そう訴える。Olは髪をかいて、言いづらそうに答えた。</p><p>お前は、生娘だろう</p><p>ならば然るべき場所、然るべき時に相手をしてやるべきではないか。Olとしてはそう思っていた。</p><p>しょ、処女なわけないじゃないですか！？今までこの身体で落としてきた殿方は数しれずですわよ！？</p><p>そんな女が口づけ一つで顔を真赤に染めるものか</p><p>ぎゅっと豊満な胸元を持ち上げるように腕を組み主張するナギアに、Olは呆れ声で答える。</p><p>だがまあそんな顔をしてねだるなら望みを叶えてやる。後悔はするなよ</p><p>言って、Olはナギアの身体を抱き寄せると、その蛇の下半身を覆う腰布をくいと外した。</p><p>初めて男の目に晒されるその部分に、ナギアはふるりと身体を震わせる。</p><p>ここでいいのか？</p><p>んっは、い♡</p><p>へその少し下、人の身体と蛇の身体の境目にある窄まりに、Olの指がするりと伸びる。陰唇こそないものの、指をつぷりと侵入させてみればそこの作りは人のそれとさほど違いはないようであった。</p><p>興奮に分泌された愛液も、指をキツく締め付ける膣壁の感触も意外なことに、入り口に張った純潔の証さえも、だ。</p><p>本当に、構わぬのだな</p><p>はいOl様こそ、わたくしのような蛇をお抱きになって、後悔なさいませんこと？</p><p>愚かなことを</p><p>この期に及んで強がるナギアに、Olはゆっくりと挿入した。</p><p>お前のように美しい女を抱けて、後悔などあるものか</p><p>あぁっ♡</p><p>彼の言葉を裏付ける、熱く硬い滾りがナギアの中を押し開いていく。今までどんな男も入ろうとはしなかった、文字通りの処女地。メリメリと膜を突き破られる感触さえも愛おしくて、ナギアはぎゅっと尾に力を込めてそれを受け入れた。</p><p>あまり強くは締めつけるなよ</p><p>Olの声に、ナギアははっと我に返る。いつの間にか蛇の尾がOlの身体にぐるぐると巻き付いていた。</p><p>も、申し訳ございま！</p><p>構わん</p><p>慌てて締め付けを解こうとするナギアの尾を、Olは掴んで押し留めた。</p><p>その様に情熱的に精を求められるのは嫌いではない</p><p>せっ！</p><p>ナギアとしては全くそんなつもりはなかったのだが、そう言われてしまえばそうとしか思えない体勢であった。ナギアの尾はこれ以上ないほどぴっちりとOlの身体に絡みつき、人間の女と違って僅かに腰を引くことすら許さないほど膣口を密着させている。</p><p>その状態で膣内はきゅうきゅうと蠕動するようにOlの逸物を扱き立てているのだ。まるで男の精を絞り出す為だけに存在する装置のようであった。</p><p>わ、わたくし、こんなはしたない！</p><p>いいさ。代わりに俺はこちらを堪能させてもらおう</p><p>Olはそう言って尾に包まれていない上半身を動かし、殆ど谷間を隠していない紐のようなナギアの上衣をずらしてその先端を露出させる。</p><p>ぁんっ♡そこには、興味ないのかと思っておりました</p><p>異なことを。この果実に惹かれぬ男などそうはおるまい</p><p>下半身を蛇の身体に包まれ、怒張をしとどに濡れた膣内にぬっぷりと格納された状態で、この豊満な一対の乳房を自由にできるというのはOlにとっても新鮮な感覚であった。</p><p>たとえるなら、捕食されながら捕食するような感覚。被虐と加虐を同時に味わうような、不思議だが心地よい快楽だ。</p><p>だってぇ♡Ol様、ぁん♡全然っ♡わたくしの、お胸はぁん♡視線を、向けないでは♡ありませんの♡</p><p>目の前にたゆんと揺れる乳房があれば、好いた女でなくとも下半身が醜い蛇であろうとも、つい目で追ってしまうのが男の性というものだ。</p><p>それに囚われないOlの視線は好ましいものであると同時に──自分でも度し難いことであるとは思っているが──Olへの好意を自覚してからは、ナギアは己の胸に魅力を感じてはくれないのかと不満を覚えてもいた。</p><p>だから今はこうして存分に目をやっているだろう</p><p>その極上の果実を揉みしだきながら、Olは先端の蕾を啄む。己の柔らかな双丘に顔を埋める男を見下ろして、満たされたナギアの膣口がきゅうきゅうとOlの剛直を締め付けた。</p><p>はっうぅんっ♡</p><p>もしこの身が余すことなく蛇であり、好いた相手を丸呑みにしてしまったらこのような気持ちになるのだろうか。そんな事を思うナギアの脳天から、ビリビリと快楽が走る。</p><p>それはOlが顔を埋める胸元で増幅され、腹へと降りて子宮をわななかせ、そこから膣口までを響き渡るように何度も往復してから、尾の先へと通っていく。</p><p>達したか</p><p>はぁっ♡はぁっ♡今のが絶頂、ですの？</p><p>肩で荒く息を吐き、恍惚に瞳を潤ませながら、これ以上なくだらしのない表情でナギアは呟く。</p><p>軽いものだろうが、な</p><p>はぁあんっ♡</p><p>きゅうとOlが乳首を摘み上げると、同じ衝撃がもう一度ナギアの身体中を駆け抜けていった。</p><p>それぇっ♡だめっ♡や、あん♡</p><p>絶頂する度にナギアの膣内全体がうごめいて、Olの男根をしゃぶり尽くすように締め付ける。それと同時に下半身がすりすりと細かく動いて、Olの下半身に擦りついてきた。</p><p>極めの細かい小さな鱗はすべすべとしていて触れるだけでも心地よく、微かに肌に引っかかる感触は無数の指先で撫でられているよう。危惧していたような強い締め付けは微塵もなく、全身を愛撫されるような気持ちよさであった。</p><p>はいっ♡お情けを♡Ol様の、お情けを下さいましっ♡</p><p>ぎゅうとOlの後頭部を抱きしめ、たわわに実った乳房を彼の顔に押し付けるナギア。その下半身は寸分の隙もなくOlの身体に巻き付き、根本まで飲み込んだ肉槍を膣壁がきゅうきゅうと吸い付いてくる。</p><p>全身で男を受け入れるその熱愛ぶりに、Olは堪らず彼女の中に白濁を吐き出した。</p><p>はあぁ♡ぁん♡</p><p>男の欲望を子宮で受け止めて、ナギアは一際大きな絶頂に全身を震わせる。ずっとこうしていたい、と彼女は思った。人がつま先立ちするように、尾の先を使って動けばOlと抱き合ったまま移動することだって出来る。永遠に繋がったまま暮らしていきたい</p><p>ナギア。離してくれるか？</p><p>ナギア</p><p>そんな願いは、Olの困ったような声色に打ち砕かれた。もし怒りとともに高圧的に命じられるのであれば、無理矢理にでも干からびるまでこうして抱きしめ続けるというのに。</p><p>ずるいお方</p><p>悪いがそう時間もないのでな。一段落すれば、お前の気が済むまで抱いてやる</p><p>するりと尾を解くと、Olはそう言ってナギアに口づけた。</p><p>約束、ですわよ？</p><p>ああ。約束がどういう意味を持つかはお前が一番良く知っておろう</p><p>最後にちろりと舌先を交わして、ナギアはOlから身体を離す。</p><p>Olくうん！</p><p>途端、ラディコの小柄な身体がぼすんと突っ込んできた。</p><p>ボクもおボクも同じことしてほしいよお</p><p>内股にふわふわとした尻尾を挟み込むようにして、太ももを擦りつけながらラディコはOlの腰にしがみつく。</p><p>なんとなく、そうなる気はしていた。とは言え悪いことばかりではない。フォリオの方を見れば、その表情は明らかにOlとナギアの痴態に当てられ発情している。</p><p>わかった。では</p><p>Olは未だ麻痺が解けず地面に転がるフォリオのすぐ目の前を指差して、言った。</p><p>服を脱いで、そこに横になれ</p><p>第6話獣娘たちを躾けましょう-2</p><p>こうお？</p><p>床に転がるフォリオの隣に並ぶようにして、ラディコは床に四つん這いの格好で尻を突き出す。</p><p>ラディやめて</p><p>フォリオはラディコにそう呼びかける、その声は随分弱々しいものだった。ナギアの使った麻痺針の影響ばかりではないだろう、とOlは踏む。</p><p>大丈夫だよお、フォリオ様</p><p>ラディコはにっこりと微笑んで、明るい声でそれに答える。</p><p>とーっても気持ちいいんだよお</p><p>それはフォリオの目にはどう映っただろうか。</p><p>ラディ。悪いがお前の銀の腕をナギアに預けることは出来るか？また潰されては敵わん</p><p>いいけどオフにも出来るよお？</p><p>そう思いつつもOlが頼むと、ラディコは不思議そうに目を瞬かせた。</p><p>そうなのか？なにかの拍子にうっかりオンにしてしまうということはないか？</p><p>うん、大丈夫だよお</p><p>自信満々に頷くラディコに、Olはかえって若干の不安を抱いた。</p><p>Ol様。切り替え式のスキルは、例えば絶頂の際にうっかり発動してしまうような類のものではございませんわ。というか、既にラディコ様はスキルをオフにしているのでは？</p><p>そこにナギアが助け舟を出す。</p><p>うん。つけてたらちゅーってしただけでも、Olくんの頭蓋を破壊しちゃうもんねえ</p><p>あっさりと恐ろしいことを口にするラディコ。とは言え考えてみれば、そのような怪力を常に発動していては日常生活もままならないだろう、とはOlも思ったことではあった。何より疑っていてはこれより先に進むことも出来ない。</p><p>よし。では、入れるぞ</p><p>うん。きてえ♡</p><p>パタパタと尻尾を振って、ラディコはつんと尻を高く持ち上げる。その入り口はすっかりトロトロに蕩けていて、男を誘っていた。</p><p>ふさふさとした大きな尾は垂らすと腰全体を隠してしまうほどで、ピンと持ち上げられているそれをOlは何の気無しに軽く撫でる。</p><p>ひあんっ♡</p><p>すると、ラディコは身体を震わせて艶めかしい声を上げた。</p><p>Olっ♡くぅんっ♡そこおっ♡やあぅ♡</p><p>Olの手の中で、尻尾がパタパタと控えめに揺れる。</p><p>触られるのは嫌か？</p><p>いやじゃないけどお♡おなかのおく、きゅんきゅんして♡はやく、ほしいよお♡</p><p>ぐいと突き出された臀部の間から、透明な蜜がポタポタと落ちて床に跡を残す。ろくに愛撫もしてないというのに、未経験とは思えない濡れようであった。</p><p>Olは尻尾を撫でてやりながら、ゆっくりとその中に侵入する。</p><p>んんっ♡</p><p>ナギアよりはだいぶ人に近い外見から予想していたことではあったが、やはり牙族であるラディコにも処女膜は存在した。とは言え、普段から激しい運動をするためか純潔を示すそのひだは殆ど破れてしまっている。態度や身体に触れた感覚から生娘である事には間違いないが、Olの剛直を受け入れても痛みは殆どなさそうだった。</p><p>きゅぅんっ♡んっ♡はぅんっ♡</p><p>ゆっくりと埋め込まれていく肉槍に、ラディコは嬌声を上げながらパタパタと尾を振る。反応がわかりやすいのは結構なことだが、流石に目の前でブンブンと振られるのは少し邪魔だ。体勢を誤っただろうか、と思いつつもOlはその尾を軽く押さえる。</p><p>んああぁぁっ♡</p><p>途端、ぶわりと尻尾の毛並みが逆立ち、ピンと伸びる。同時にラディコの膣口がOlのペニスをぎゅうっと強く締め付けて、彼女は全身をこわばらせた。気をやったのだ。</p><p>ここを触られるのは、そんなに良いのか？</p><p>ひにゃぁあっ♡</p><p>Olがもう一度尾を優しく撫でると、ラディコは再びビクビクと身体を震わせる。</p><p>そっそこお♡ずんずんっ♡されながらぁ♡しっぽ、さわられるの、お♡きもち、よすぎるよお♡</p><p>どうやら尻尾が随分と感じるらしい。</p><p>ふむこうか？</p><p>ひぐぅぅんっ♡</p><p>ゆっくりと尾を撫でてやりながら奥を突いてやると、ぷしゅっと音を立てて吹き出した潮が床を濡らした。それでなくとも溢れ出す愛液が、まるで失禁のように彼女のほっそりとした脚を伝い漏れている。</p><p>ひあぁっ♡きゃうぅんっ♡だめぇっ♡Olくうんっ♡それっ♡きもちっ♡よすぎ、てえ♡だ、めえっ♡</p><p>やめたほうが良いのか？</p><p>ピンと立った尻尾を撫でるたびにきゅうと膣口が閉まってOlのものを締め付け、それをこじ開けるように奥を突けば甘い声がまろびでる。その反応はまるで上等な楽器のようで、Olの嗜虐心を殊更に煽った。</p><p>だめえっ、だめえ♡やめない、でえ♡はううっ♡ひあんっ♡</p><p>そら、これはどうだ？</p><p>きゅうぅんっ♡</p><p>Olがぐいとラディコの尾を引っ張ると、彼女はほとんど犬のような鳴き声を上げた。それは悲鳴ではなく、発情しきった雌犬の鳴き声だ。</p><p>ひうんっ♡あっ♡はぁっ♡くぅんっ♡あああぁっ♡</p><p>もはや人の言葉を発することすらかなわず、上半身を床に突っ伏すようにしながら、しかしそれでも尻だけは高々とOlに捧げてラディコは嬌声をあげ続ける。</p><p>その尻尾を引っ張って腰を引き寄せ奥を貫くたびに愛液が吹き出し、濡れた肉同士が打ち付け合う音がパチュパチュと淫靡に響き渡る。</p><p>くっラディ、イくぞ！</p><p>ひきゅうっ♡きゅうんっ♡くうん♡きゅうぅーんっ♡</p><p>本物の犬のように舌を突き出しながら何度も何度も絶頂に達するラディコに、Olは堪らずそう宣言する。だが、彼女の耳にはもはやOlの声など全く聞こえていないようだった。</p><p>──声。</p><p>と、不意にOlの脳裏にある考えが浮かぶ。人とは違う部分に性感帯が集中していると言うなら、と。</p><p>彼は特に深い考えもなく、ラディコの耳を掴んだ。</p><p>きゅっ──♡♡♡♡♡♡</p><p>その瞬間。ラディコは呼吸することさえ忘れて背筋を反らし、絶頂した。ぎゅうと、彼女の膣壁がOlの男根を締め付ける。スキルは切っているはずなのにそれは手のひらで思い切り握りしめるほどの強さで、Olは腰を引くことすらできず彼女の中に射精した。</p><p>圧倒的に男が優位な後背位であるにも関わらず、膣内射精以外は許さぬと言わんばかりの締め付け。その小さな雌穴に白濁の全てを注ぎ込んで、ようやくラディコは全身の力を弛緩させ、床にぐったりと倒れ込んだ。</p><p>Olの肉槍がずるりと抜け落ち、栓を失った秘裂からどろりと白い液体が漏れ出る。</p><p>すごかった、よお</p><p>尾と耳すらも力なく、ぐったりと横たわりながら、ラディコはそう呟いた。</p><p>二人の処女を抱き終えて、Olは残る一人へと視線を向ける。</p><p>ふぅっ♡ふぅっ♡</p><p>フォリオは自由の利かない身体で床に転がりながら、顔を真赤にして荒く息をしていた。</p><p>二度の初体験の気分はどうだった？</p><p>Olは魔術でナギアとラディコの感覚を、フォリオに送り込んでいた。麻痺した身体では自分で快楽を処理することもできず、ただただ送られてくる快感に身を焼く他なかったはずだ。</p><p>こ</p><p>こ？</p><p>なにか言いたげに声を漏らすフォリオに、Olはその先を促す。</p><p>こーさんっ！降参しますっ！参りましたってばあ！もう、無理だからあ！</p><p>フォリオは自棄になったように、そう叫んだ。思っていたよりもずっと早い陥落に、Olは一瞬何かの罠かと疑う。</p><p>だが麻痺を解くような手段を持っているならとっくに試しているだろうし、降参した程度でOlが油断するような人間ではないのもフォリオであれば先刻承知だろう。</p><p>となれば、詰んだ状況からなら早めに白旗を上げた方が賢明であるかも知れない。フォリオとて、無為に純潔を散らしたくはないだろう。</p><p>正直この美しい翼族の女も抱いてみたいと思わなかったと言えば嘘になるが、かといって必要もないのに行為を強要するのはOlの主義に反する。見上げた機の見極め方だ。</p><p>Olは感心半分、落胆半分でそう考え。</p><p>だからアタシにも、はやく、して下さいよぉ</p><p>そんなOlの予想を、フォリオは涙目で打ち砕いたのだった。</p><p>第6話獣娘たちを躾けましょう-3</p><p>いいのか！？いいのかって何ですか！？ここまでしといて、まさかアタシは抱けないってんですか！？</p><p>思わず問えば、フォリオはひどい剣幕でOlに噛み付いた。まだ身体は動かないようだが、口の方は随分と回復してきたらしい。</p><p>いやそういうわけではないが</p><p>こんなにドロドロのグチョグチョにしておいておあずけなんて、酷すぎですよ！</p><p>フォリオの口調はどう考えても本心からのものだった。Olは念の為に二、三呪いの契約を取り付けて、彼女の身体をひょいと抱き上げた。</p><p>背中に生えた翼以外は人とさほど変わりないように見えるが、それは見た目だけの話なのだろう。中背程度の背丈を持っているというのに、フォリオの身体はラディコより軽かった。</p><p>あの、この麻痺って</p><p>悪いが解毒する魔力を節約したいのでな</p><p>蠍蜂のスキル麻痺針は、Olにとっては未知の毒だ。そもそも毒ですらないのかも知れない。複数の回復魔術を重ねがけすれば効果を消すことはできるものの、それはひどく効率が悪いものであった。どのみち時間が経てば自然と消えるのだ。</p><p>んあっ！</p><p>フォリオの身体を膝に乗せるようにして、彼女のスカートを捲りあげ秘所へと指を伸ばす。本人の言う通りそこは既にびっしょりと濡れそぼっていて、下着は殆どその役目をなさなくなっていた。</p><p>早く挿れてくださいよお</p><p>そう焦るな。物事には順序というものがある</p><p>Olはスカートの中でフォリオの下着をずらし、ゆっくりと指を差し入れていく。いくら濡れていると言ってもろくにほぐしもしていない膣口だ。ラディコと違って既に膜が破れているということもなさそうだし、しっかりと慣らさねば痛いだけだ。</p><p>うううっはやくはやくぅ！</p><p>だが、身体が麻痺して動かせないせいもあるのだろう。フォリオはもどかしげに何度もOlを急かす。</p><p>待てと言うに</p><p>やぁんっ♡お腹の奥が切ないんですよぉ！</p><p>つぷりと指を挿れ、軽くひっかくように膣壁を擦り上げると、フォリオの羽がパタパタとはためいた。麻痺が徐々に解け始めているらしい。</p><p>急に入れても痛いだけだぞ</p><p>実際フォリオの中は酷く狭く、Olの人差し指だけでもかなりキツい。とてもOlの太いものを受け入れられそうにはなかった。</p><p>で、もぉ！</p><p>不満げにバサバサと動かされる翼を、Olは空いた片腕を用い、フォリオを抱きしめるような形で押し止める。</p><p>ひあっ♡</p><p>その瞬間、フォリオの膣口がこれまで以上にOlの指を締め付けた。</p><p>もしや</p><p>だ、だめえ♡それっ♡だめになるっ♡なでなで、しない、でえっ♡ひあああぁんっ♡</p><p>フォリオの背中に腕を回したまま、翼を撫でる。その度にフォリオはガクガクと身体を震わせ、膣壁を収縮させた。どうやらラディコの尻尾と同様に、そこに性感帯が集中しているらしい。</p><p>だめえっ♡やっ♡だめって♡いってぅ、のにぃぃぃっ♡</p><p>Olはここぞとばかりに羽を撫でつつ、膣内を指先でほぐしていく。フォリオはびくんびくんと身体を震わせ、何度も声を出すことも出来ずに絶頂に達しては、また喘ぎ声をあげながら絶頂まで高められるのを繰り返す。</p><p>ふむこのくらいか</p><p>あひゅぅ♡しゅごしゅぎましゅ♡</p><p>Olが納得してそう呟く頃には、フォリオは身も心もぐにゃぐにゃに蕩けてしまっていた。</p><p>フォリオの身体をもう一度持ち上げて、Olは彼女の痴態に興奮しギンギンに反り立った肉槍の先端を、その秘部へと押し当てる。</p><p>本番はここからだぞ</p><p>ひぎいぃっ♡</p><p>そして、一気に根本まで押し込んだ。</p><p>あひいぃっ♡ふぐっ♡ひああぁんっ♡ひっ♡ひぐぅぅんっ♡</p><p>殆ど悲鳴のような嬌声をあげるフォリオ。だが、苦痛よりも快楽を強く感じているのはその蕩けた表情を見れば明白であった。</p><p>麻痺した彼女が唯一自由に動かせるのが顔から上だ。</p><p>ひっ♡いぃんっ♡あっ♡ふっ♡あぁっ♡</p><p>残りの部分は指一本動かすことが出来ず、その軽い身体はまるで玩具のように持ち上げられ、肉槍の上に落とすようにして膣奥を穿たれる。</p><p>ただ快楽を貪るためだけの肉塊のようなその扱いに。</p><p>ひぐぅっ♡は、ひあぁんっ♡んっ♡いぃっ♡いいよぉっ♡</p><p>──しかし、フォリオは悦んでしまっていた。</p><p>もっとぉ♡もっと♡あっ♡ずんずんってぇ♡アタシっ♡こんな♡扱いされてぇっ♡気持ちよくっ♡なっちゃってるっ♡</p><p>Olがその太ももを抱えるようにして持ち上げ腰の上に下ろすたびに、ぱちゅん、ぱちゅんと愛液でしとどに濡れた秘裂が音を立てる。フォリオはそれを拒否することも隠すこともできず、ただただ男の好きなように犯されるしかないというのに、彼女が感じていることを示すその音はどんどん大きくなっていった。</p><p>こうされるのが良いのか？</p><p>意地の悪い声で問いながら、Olはフォリオの胸を掴む。彼の手のひらからほんの僅かに溢れる程度の乳房は美しい半球状をしていて、揉みしだくと柔らかな弾力がしっかりと指を押し返してくる。</p><p>その先端の乳首は慎ましやかな大きさで、しかし今は興奮にツンと尖ってその存在を最大限主張しているかのようであった。</p><p>ああぁっ♡だめぇっ♡おっぱいだめぇ♡さきっぽ♡そんな、吸っちゃだめえ♡</p><p>リクエストの通りにOlはフォリオの乳首を唇でついばみ、ぐりぐりと腰を押し付けながら彼女の背中に腕を伸ばし、翼を撫で擦る。</p><p>や、あっ♡はねっ♡なでなでしちゃ♡だめえっ♡感じ、すぎちゃうんだってばあっ♡あぁんっ♡そんなっ♡されたらっ♡堕ちちゃうっ♡堕ちちゃうよぉっ♡</p><p>平静なときのどこか飄々とした彼女の振る舞いとはかけ離れた、媚びる雌そのものの甘い声色。フォリオのその声は、Olの興奮をいや増していく。</p><p>あぁっ♡アタシの、中でぇっ♡おっきく、ふくれてるっ♡精液、出そうとしてるっ♡孕ませようとしてる♡</p><p>そしてその変化を、フォリオは敏感に感じ取った。</p><p>ああだが俺がそうしようとしても、お前は止められないな？</p><p>だめぇっ♡中でっ♡膣内で、射精しちゃ、だめえ♡赤ちゃん、できちゃうぅ♡</p><p>まるで駄目とは思えない甘い声でそう繰り返すフォリオの腰をぐっと掴み、Olは低い声で告げる。</p><p>して欲しくないのであればそう言ってみろ。俺に、やめろ、と</p><p>だめえ♡駄目なのっ♡中に、中には絶対出しちゃ駄目だからね♡さっきまで処女だったのに♡こんな♡イカされまくった状態で♡中出しされたら、覚えちゃう♡身体が、あなたの精液覚えて♡堕とされちゃうからぁっ♡</p><p>彼女の必死の回答を、Olは完全に理解する。</p><p>いくら駄目だと言っても無駄だ。お前の身体は指一本動かぬのだからな</p><p>ああっ♡だめなのにい♡精液の味っ♡覚え込まされちゃう♡麻痺して動かない身体に♡無理やり♡♡♡中出しされて♡♡♡教えられちゃうっ♡♡♡♡♡</p><p>やめろ、と────彼女はただの一言も、言わなかった。</p><p>イくぞっ！堕ちろっ！</p><p>イくっ♡イくっ♡イくっ♡堕ちるっ♡堕ちちゃうっ♡あっ──────あああぁあぁぁぁっ♡♡♡♡♡</p><p>どくどくと流し込まれる大量の白濁の感覚に。</p><p>フォリオは、ぎゅっと両手両足でOlにしがみつくようにしながら、深い絶頂に達したのだった。</p><p>三人の処女をまとめて奪った上に、麻痺させて動けない女を無理やり犯して中出しまでするなんて、ほーんと悪いチンポですね、この子は</p><p>突き出された男根を軽く指で弾いて、フォリオは舌を伸ばしぺろりと舐め上げた。</p><p>とっても素敵な体験でしたわOl様、約束の方、くれぐれもお忘れなきようお願いしますわね</p><p>その隣でナギアが長い舌をチロチロと伸ばし。</p><p>ボクも！ボクもまたしたい！Olくんとの交尾、すごーく好きだなあ</p><p>その向かい側で、ラディコが対称的に短い舌を一生懸命滑らせる。</p><p>フォリオとの事後、ナギアがお掃除致しますわと言ってOlの竿に口淫奉仕を始め。それを見てラディコがボクもやる！と加わり。そして今フォリオが加わっての、この状況であった。</p><p>それは構わんが</p><p>純潔を失ったばかりの乙女三人の舌奉仕はお世辞にも上手いとは言い難いものであったが、三者三様の異なる魅力を持った少女たちが顔を並べてグロテスクな器官に舌を這わせる光景に興奮しないわけもなく。</p><p>フォリオに思う様注ぎ込んで萎えかけていた性器は、再び雄々しく反り立って少女たちの愛撫を一身に受け入れていた。</p><p>なぜお前たちはそうも協力的なのだ？</p><p>フォリオには別に何か暗示をかけたわけでも魔術で魅了したわけでもなく、多少の小細工は弄したとは言えやったことはただの強姦に等しい。</p><p>ラディコとて、単純な性格ゆえに催眠術がよく効いたのだと思ってはいたが、それにしたって懐き過ぎであるという気はする。</p><p>それを言い出せばナギアもそうだ。無論人となりは十分に理解した上での対応で、そう誘導した自覚はあるが、ただ信頼させただけにしては随分と愛情深い交わりに思えた。</p><p>んーまあ、そもそもアタシも好きでユウェロイサマ？に仕えてたわけでもないんですよね</p><p>それは、わかるが</p><p>この世界の奴隷制度は、大した拘束力もないくせに制度そのものが逆らえない空気を形作っている。奴隷たちが主人に従うのは、言ってしまえば逃げても今よりマシな主人に当たるとは限らないからという話でしかない。</p><p>魔族は何らかの手段を用いて奴隷から開放されても、結局他の人間の奴隷になるしか道はない。その諦念が主人に従わせているに過ぎず、忠誠心など生まれようもない。</p><p>そこへ行くとOlサンOlサマ？は、人質にとったラディコも丁重に扱ってるみたいだったし、アタシたちみたいな魔族でも抱いてくれるしあと、セックスめちゃくちゃ気持ちよかったし</p><p>指折り数えるフォリオの言葉は、後半になるにつれてか細い声へと変化する。</p><p>まあ、ともかく！ユウェロイよりはまだマシかなって思ったの！です！そんだけ</p><p>照れ隠しのようにそう言って、フォリオはぱくりとOlの亀頭を咥えこんだ。</p><p>魔族を抱く人間は、そんなに少ないのか？</p><p>ええ。人間から見れば奇異な姿でしょうしね。それに魔族は皆誰かしらの奴隷です。他人の所有物である奴隷を他者が損ねるのは罪ですから、奴隷同士で交わることも基本的にはありません</p><p>舌先でチロチロと肉茎を舐めながら、器用にナギアが答える。</p><p>それでお前たちはそれほどの美しさで、揃って処女だったのか</p><p>得心した、とばかりにOlが呟くと、三人は揃って押し黙った。</p><p>Olくんってへんたいなの？</p><p>首を傾げるOlに、ラディコが率直な問いを投げつける。</p><p>何がだ</p><p>だって</p><p>ねえ</p><p>眉をしかめるOlに、女達三人は頷きあう。</p><p>比較的人間に近い純魔族や牙族ならまだしも</p><p>尾族や翼族も美しいと真顔で仰るなんて</p><p>それに、ボクみたいなつるぺたしてるのによくじょーするのも、へんたいなんでしょ？</p><p>口々に放たれる意見にOlは一瞬瞑目する。</p><p>変態じゃない</p><p>しかし彼はすぐに最適な返答を思いつき、答えた。</p><p>俺の元いた世界では普通の事だったんだ</p><p>第7話己の力を示しましょう-1</p><p>オレにやらせてくれないか、大将</p><p>サルナークはOlの顔を見るなり、開口一番そう言った。</p><p>ブランは、本当にフローロにしか興味がなかったらしい。Olは一応フォリオに命じて鎖で縛らせてはいたが、サルナークの処遇については何の指示もなかったという。</p><p>フォリオは仕方なく、サルナークも鎖で縛って道具袋の中に放り込んでおいたらしい。後々で何故殺したと言われても困るし（ユウェロイは平気でそのくらいは言う、とのこと）、無駄に殺すのも寝覚めが悪いからだ。</p><p>策はあるのか</p><p>ない</p><p>問えば、サルナークは清々しいほどにきっぱりと言い放つ。</p><p>フォリオ。ブランのスキルは、サルナークで打倒できるものなのか？</p><p>多分、無理でしょうね</p><p>フォリオは腕を組み、首を傾げて言った。</p><p>あのヒト、脳筋ではありますけどバカではないですからねえサルナークサンについて何も言わなかったってことは、多分全く脅威を感じてないってコトだと思うんですよ</p><p>彼女の言葉に、サルナークはぎりと歯噛みする。だがおそらくそれは事実だろうというのも、また飲み込んだ。</p><p>頼む、大将</p><p>サルナークは、今まで一度も下げたことのなかった頭を、Olに下げた。</p><p>三度も負けて、ようやくわかった。オレのスキルはそこまで強いわけじゃねえ</p><p>いや、そんなこともないんですけどね、とフォリオは内心で呟く。</p><p>だがオレの頭じゃあ、どうやったら勝てるのか</p><p>そこまで言いかけて、サルナークはいや、違うなと首を振り、言い直す。</p><p>オレがどうやって負けるのか、想像がつかねえ</p><p>ブランが見せたのは、ダンジョン・キューブさえ二撃で破壊するほどの威力を持つ攻撃だ。だがそれは、ラディコの持つ銀腕とは別のスキルであるという。</p><p>純粋に破壊力が高いだけのスキルであれば、鋼の盾には通用しない。負ける理由は存在しないそう考えて、サルナークはようやく気づいたのだ。</p><p>今まで敗北してきた戦い、三度ともそうやって負けてきたことに。</p><p>オレはオレは未だにこの鋼の盾を無敵だと思ってる。だが実際はこのザマだ。あんたが次の戦いも勝てないって思うんならきっとそうなんだろう。だから頼む。教えてくれ。オレはどうしたらいい？</p><p>Olは顎に手をやり、少し考えるように目を伏せる。</p><p>無敵とは言わんが、お前のスキルが強力なものであることは間違いない。問題は、運用だ</p><p>それは先程フォリオが思い浮かべたのと同じ内容だった。</p><p>運用？</p><p>ああ。お前はそのスキルを、単に攻撃を防ぐものだと思っているだろう</p><p>違うのか？</p><p>サルナークの問いに、Olは頷く。あらゆる攻撃を防ぐスキル。そんな認識でいるから、彼は道具袋の中で溺れる羽目になるのだ。</p><p>本質としては自身にかかるエネルギー全てを無効化する能力だ。ならばそれは防御のためだけでなく、攻撃にも転用できよう</p><p>よくわからんが、だがそれでこそ頼むかいがあるってもんだ。何でも言ってくれ。どんなことでもやる</p><p>神妙な表情で言うサルナークにOlは一つ頷き、傍らに立つフォリオに視線を向けた。</p><p>そういうことであれば、俺より適任のものがいる</p><p>え、あたしですか？</p><p>フォリオはキョトンとして自分を指差した。</p><p>俺はこの世界に来てまだ日が浅い。スキルとやらがどのようなものなのか、どれだけのことができるかを正確には知っておらぬ。だが、お前はそうではないだろう？</p><p>道具袋を落とし穴代わりにし、鋼の盾に対し水責めを行い、爆風を受けて加速する。どれもが正当な使い方ではなく、スキルというものを熟知していなければ出てこない発想だった。</p><p>たとえば、鋼の盾を無力化する方法をもういくつか思いつくはずだ</p><p>はあ、まあ</p><p>Olの問いに曖昧に頷くフォリオ。</p><p>オオレに魔族の教えを請えというのか！？</p><p>先程、お前はどんなことでもやると言っただろう</p><p>掴みかからん勢いで叫ぶサルナークに、Olは素気なく答える。</p><p>あの、Olサン、アタシは別に</p><p>萎縮したように翼を小さくたたむフォリオに、Olは首を横に振った。</p><p>サルナーク。お前が負け続けているのは、その無駄なプライドのせいもある。本当に上に行きたいのであれば、まずそれを捨てろ</p><p>サルナークは呻くように歯を食いしばり、憎悪の籠もった瞳でフォリオを見据える。</p><p>たの、む</p><p>お願いします(ロヴノブ)だ。サルナーク</p><p>ギリリと歯ぎしりの音が鳴り、サルナークの口の端から血が滴り落ちる。</p><p>お願いします(ロヴノブ)</p><p>そして、サルナークは頭を下げた。</p><p>ちょ、ちょっと、Olサマほんとにこいつにアタシが教えなきゃいけないんですか！？めちゃくちゃイヤなんですけど！？</p><p>悪いが相手してやってくれ。俺も同席はする。安心しろ</p><p>小声で囁くフォリオの頭を、Olは安心させるようにぽんぽんと軽く叩く。</p><p>それならまあいいですケド</p><p>唇を尖らせ視線を反らしながら、落ち着かないように翼をパタパタと動かすフォリオ。</p><p>これで勝てなかったら覚えてろよ</p><p>ひいっ！</p><p>頭を下げたまま地獄の底から響くような声で呟くサルナークに、フォリオは悲鳴を上げてOlに抱きつくのだった。</p><p>やめてくださいっ！ブラン、こんな事！</p><p>怖がる必要などないのですよ、陛下。大丈夫、気持ちよくして差し上げますから、私に身体を委ねて下さい</p><p>中層、ブランの寝室。そこでフローロは強引に、ベッドの上に寝かせられていた。ブランの手にはさほど力が籠もっているようにも思えないのに、暴れようとするフローロの身体をしっかりと押さえ、その動きを封じる。</p><p>やっこんな格好、恥ずかしい！</p><p>とてもお似合いですよ、陛下</p><p>恥辱に顔を歪めるフローロにブランはにこやかに笑って、金属でできた棒をするりと彼女の中に差し入れた。</p><p>抵抗すると、痛い思いをいたしますよ</p><p>たおやかな、しかし有無を言わせぬ口調で告げるブランに、フローロは身を固くする。</p><p>いい子ですね</p><p>そんな彼女の髪を撫でながら、ブランはそこに差し入れた棒をゆっくりと引き抜いた。</p><p>っ！んっ！</p><p>身を震わせながら、必死に声を押し殺そうとするフローロ。そんな彼女をブランは愛おしげに見つめつつ、何度も何度も金属の棒で彼女の中を蹂躙する。</p><p>ん、ふっ！あっ！</p><p>小さく狭い彼女の穴の中。そこから全てを出し切って、ブランはにこやかに言った。</p><p>はい、こちらは終わりです。反対側も掃除して差し上げますから、こちらを向いて下さい</p><p>だから耳掻きくらい自分でできますっ！</p><p>フローロはブランの膝からがばりと起き上がって、そう叫んだ。</p><p>あらまあ、陛下ったら。小さい頃はあんなにしてしてとおねだりしてきたではありませんか</p><p>昔の話でしょっもう！ブランはいっつも私の話を聞いてくれませんね！？</p><p>強引に身体をひっくり返され、ブランの柔らかな膝の上に頭を固定されて、フローロは叫んだ。</p><p>聞いておりますとも。全てはこのねえやにお任せ下さい。それとも昔のように、姫様と呼んだ方がよろしいですか？</p><p>やっぱり全然聞いてない</p><p>ブランの物腰はいつもにこやかで穏やかで、しかし自分の意見をけして曲げない。仕方なく身を委ねるフローロの耳の穴を、ブランは金属製の耳掻きで丁寧に掃除していく。</p><p>こうして彼女の世話をするのも十年ぶり先王陛下が人間たちの反乱によって倒れ、フローロを最下層へと逃した時以来であった。</p><p>今までずっとお待たせしてすみませんでした。これからはこのねえやがずっとここでお世話して差し上げますからね</p><p>その言葉に、フローロは先程までとは別の意味で身体を硬直させる。</p><p>外は危険です。あの時は姫様を逃がす事で精一杯でしたが、今ならばここでお守りしてあげられます</p><p>ブランの言葉に反応するように、入口の扉が音を立てて閉まる。フローロがそちらに目を向けると、分厚い鋼鉄の扉に、更に無数の鍵がかかっていく。</p><p>ずうっと、ここで暮らしましょうね、姫様</p><p>フローロの頬を撫で、ブランはこれ以上ないほど優しげな声で、そう囁いた。</p><p>第7話己の力を示しましょう-2</p><p>フローロサンを助けに行くには、まず中層に入らなきゃいけないんですよ</p><p>ガリガリと紙に地図を描きつつ、フォリオは説明する。</p><p>で、アタシやラディは基本的にユウェロイサマに呼ばれた時以外、中層には入ることを許可されてません。中層への通路はこことこことここの三箇所で、ユウェロイサマの部屋に一番近いのがここですね</p><p>そこに三つ階段の絵を描き、そのうちの一つに丸をつける。</p><p>絵、ヘッタクソだな</p><p>それは今別にいいでしょ！？</p><p>その場の誰もが思ったことをぼそりと呟くサルナークに、フォリオは怒鳴った。</p><p>上手に絵を描くスキルさえあれば</p><p>そこまで落ち込むことはなかろう。こんなものはわかればそれで良い</p><p>頭を抱えて俯くフォリオに、流石にOlは慰めの言葉をかける。</p><p>そんな事より、それでは中層に行くには守衛を倒さねばならんということか？</p><p>Olの魔術走査で調べた結果でも、上層に向かう方法はその階段しかなかった。</p><p>いえ、強行突破はオススメしません。中層に住んでるのはユウェロイサマ達だけじゃないですからね。そんな事したら壁族全体を敵に回す羽目になっちゃいますよ</p><p>それに中層ともなると守衛のヒト達も結構強いですし、とフォリオは付け足す。</p><p>では、魔術で姿を隠していくか？</p><p>それも、悪くはないんですけど確実性がちょっと低いんですよね</p><p>守衛たちがどんなスキルを持っているかわからない。ナギアの鑑定はある程度低級なスキルしか把握することが出来ないらしく、相手の手の内を全て見分けるというわけには行かないらしい。</p><p>運良く守衛のヒト達がOlサマのマジュツ？ってのを見抜くスキルを持ってなきゃいいですけど、スキルにも姿を隠せるようなものはあるんで、高確率で看破される気がするんですよね</p><p>Olの魔術とスキルでの隠形はそもそも原理が違う。守衛のスキルで見抜かれるかどうかは半々といったところだったが、賭けるには少し分が悪い可能性だ。</p><p>なので、向こうから来てもらおうと思います</p><p>ユウェロイは苛立っていた。</p><p>大股でずんずんと廊下を歩く彼女の姿を、中層の住人たちが遠巻きに見つめている。そんな事さえ腹立たしく、ユウェロイは殊更に足音を響かせ進む。</p><p>ブランはフローロにずっとつきっきりで、部屋から出てさえ来なくなった。</p><p>無論、その確保にユウェロイは一切貢献していないのだから褒美を期待するのもおかしいのだが、それにしたって労いの一言もあっても良いのではないか。そこまでの段取りを整えたのも、安全を確保しているのもユウェロイなのだから。</p><p>くそっ</p><p>誰の目も見えなくなったところで彼女は毒づき、母なる壁を殴りつける。誰にも見せることなど出来ない、みっともない姿だという自覚はあった。</p><p>要するに、自分は嫉妬しているのだ。ブランの寵愛を受けるフローロに。それは彼女の基準では酷く醜いことであったし、名誉ある壁族の抱くような感情ではない。</p><p>だが、心の内はどうしようもなかった。</p><p>そこに追い打ちをかけるようにやってきたのがフォリオからの連絡だ。例の別世界から来たという男Olについて、緊急に知らせたいことがあるという。要件ならスキルによる通信で伝えろと言っても実際に目にしてほしいの一点張りだ。</p><p>おかげで、ユウェロイはわざわざ下層に足を運ばなければならなかった。</p><p>フォリオ！私を呼びつけるとは、お前も偉くなったものだな！</p><p>皮肉を口にしつつ、ユウェロイは下層特有の粗末な扉を押し開ける。</p><p>途端、飛来した炎の塊が彼女を飲み込んで大爆発を起こした。</p><p>──なるほど</p><p>爆炎にまかれながら、ユウェロイは全てを理解し笑みを浮かべる。</p><p>それは紛れもなく歓喜の笑みであった。</p><p>お前も敵に回ったか、フォリオ！</p><p>鬱憤を晴らす相手と名目が出来た。フォリオを叩きのめし、そして彼女を操るOlとやらを倒して報告すれば、ブラン様も認めてくれるに違いない。</p><p>そんな絵図を描きながら、熱をものともせずにユウェロイは炎から飛び出す。その全身は、鈍く銀に光る甲冑で覆われていた。</p><p>喰らいやがれッ！</p><p>爆炎の外で待ち受けていたのは、剣を振りかぶったサルナークであった。</p><p>ふん</p><p>軽く構えたユウェロイの右腕が、硬質な音を立てて刃を弾く。同時に、ユウェロイは左腕をサルナークの腹に叩き込んだ。</p><p>む？ああ、そうか。お前が鋼の盾か</p><p>肉を穿つ感覚でも、かと言って弾かれるような感覚でもない。奇妙な手応えとともに止まる腕に、ユウェロイは以前受けた報告を思い出す。</p><p>ちぃっ！なんだ！？貴様も盾持ちか！？</p><p>おそらくは剣技スキル持ちなのだろう。下がって間合いを取りながらも鋭い斬撃が飛んでくる。</p><p>そんな希少(レア)なスキルなど持っているものか</p><p>それをユウェロイは鉄の篭手でいなす。わざわざ装甲の厚い部分で受けているのだ。盾スキルのような問答無用の防御能力など持っているわけもない。</p><p>だがまあ</p><p>喉元を狙って突き出された剣。右腕で突き出されたそれに沿うようにして、ユウェロイは彼の腕に己の左腕を当てた。</p><p>お前如きにそんな大層なスキルなど必要ないがな</p><p>なっ！？</p><p>サルナークは己の腕に現れた甲冑に驚愕の声を上げた。</p><p>全身装甲。ユウェロイが使っているのは、単に己の身体に鉄の甲冑を纏うだけの単純なスキルである。それはどんな攻撃も防げるような都合のいいものではないし、物を生み出すスキルの例に漏れず集中を解けば数秒で消えてしまう。</p><p>だが本物の甲冑に比べ利点もあった。その一つが、他人の身体にも生み出せるというものである。そしてそれは、適正な部位である必要などない。</p><p>サルナークの右肘につけてやったのは、左腕の前腕鎧(ヴァンブレイス)だ。左右逆向きの鎧をつけられ、彼の腕はもう曲げることは出来ない。つまりは剣を振るう腕としては死んだようなものだ。</p><p>くそっ！</p><p>慌ててそれを外しにかかる彼の左手をぽんと叩く。途端、その手にかぶさる形で手甲(ガントレット)が嵌った。身体に埋め込んだり、逆に鎧の一部を貫通するような付け方をすることは出来ないが、大きさにはある程度自由が利く。</p><p>ちょ待</p><p>待つわけがないだろう</p><p>もたつくサルナークの全身を甲冑で拘束し、ユウェロイは周りを見回した。少なくとも炎を飛ばしてきたフォリオはそう遠くない場所にいるはずだ。</p><p>だがしかし、フォリオの姿はどこにも見つからなかった。ユウェロイが踏み込んだ部屋は狭く、大して隠れられそうな場所もない。潜めそうなのは寝台の下やクローゼットの奥くらいだが、そんな場所から炎を放てば自分もただでは済まないはずだ。</p><p>眉をひそめるユウェロイの耳に、ジリジリという奇妙な音が聞こえた。</p><p>見れば、サルナークを覆う甲冑が赤熱していた。</p><p>距離を取りながら、ユウェロイは瞬時に悟る。炎を放ってきたのはフォリオではない。サルナークだったのだ。</p><p>次の瞬間、サルナークを覆う甲冑が弾け飛んで、四方八方に飛来した。</p><p>きっ消えろっ！</p><p>反射的にユウェロイはそれを消した。高速で飛来する鉄の塊はとても避けられる数ではなかったし、喰らえば甲冑の上からでもダメージは免れ得ない。それ自体は間違った判断ではないはずだ。だが──</p><p>ふうったく、オレって奴はすぐこれだ。だがまあ何とかこれで</p><p>白いモヤのようなものを身に纏いながら、サルナークはユウェロイを見据え、言った。</p><p>仕切り直しといかせてもらうぜ</p><p>第7話己の力を示しましょう-3</p><p>水蒸気か</p><p>うえっ、もうバレてんのかよ</p><p>呟くユウェロイに、サルナークは盛大に顔をしかめた。彼の周囲に漂う白いモヤ。それは、大量の水を炎で蒸発させた水蒸気。その残りの湯気であった。</p><p>甲冑の中で、水塊の水を大炎で蒸発させ、甲冑を吹き飛ばしたわけか</p><p>水は、熱して蒸気となるとその体積を急激に膨らませる。甲冑はその圧力に耐えきれず、弾けとんだということだろう。常人がそんな真似をすれば全身に重篤な火傷を負い、自らの身体も水蒸気の圧力で潰されてしまうところだが、サルナークは鋼の盾のスキルを持っている。そんな自爆に等しい行為であっても問題なく行えるというわけであった。</p><p>思っていたよりも賢いじゃないか、鋼の盾。大炎はフォリオから奪ったのか？</p><p>ハ。誰が言うかよ</p><p>サルナークは鼻で笑うと、両の手のひらを合わせて大量の湯気を作り始めた。これは少しばかりまずいな、とユウェロイは思う。</p><p>スキルで作り出す炎というのは、実は見た目ほど強いものではない。スキルで作ったものは基本的に放っておけばすぐに消えてしまう。炎はその最たるもので、スキルで作り出した炎はたいてい一秒も経たずに消えてしまう。</p><p>鉄の甲冑で防げるのはそれがゆえだ。連発でもされれば別だが、一発、二発程度の熱量であれば表面を少し熱するくらいで終わる。見た目が派手な割に、殺傷能力はそこまで高くない。</p><p>だが、高温の湯気はマズい。水は一般的に炎よりもよほど長持ちするし、甲冑の隙間から入り込んで熱を伝えてくる。そして何より近づいて拘束することが出来ないというのが厄介だ。</p><p>本来であれば最下層の人間などに出したくはなかったが、とユウェロイは内心で呟きながら、サルナークに向かって駆け出す。</p><p>反射的に入り口を塞ごうとするサルナークに向け、ユウェロイは左手を腰だめに構えた。その手は目に見えない棒でも持つかのように半端に握られている。そしてそれをぐいと突き出す動きに連動して、彼女の手の中に巨大な槍が現れた。</p><p>槍と言っても小さな穂先を持つ長槍(スピア)ではなく、大きな円錐形の先端を持つ突撃槍(ランス)だ。三メートル程の長さを持つそれは蒸気を切り裂いて、サルナークの喉元に突き刺さった。</p><p>む。凌いだか、勘のいい奴め</p><p>だがそこでピタリと止まる槍に、ユウェロイはつまらなさそうに言い捨てる。盾持ちに物理攻撃が効かないことなど先刻承知の上だ。しかし、攻撃が全くの無駄というわけではない。</p><p>鋭い穂先はサルナークが少しでも動けば、彼自身の力によって喉元に突き刺さる。だからこそユウェロイは彼に向かって駆け出すことで行動を誘発しようとしたのだが、サルナークは寸前で動きを止めた。</p><p>ではこれはどうだ</p><p>空いた右腕で、更に槍を生み出しみぞおちに突きつける。サルナークはたじろぐように数歩後ろへ下がった。</p><p>そら、進めば刺さるぞ！</p><p>ユウェロイは両手を離して、更に二本の槍を生み出す。手放された槍は地面に落ちず空中に留まったまま、サルナークの行動を防ぐ壁となる。</p><p>ちぃっ！</p><p>サルナークは苦し紛れに炎を放った。ユウェロイは更に槍を構えてそれを受ける。炎がユウェロイの甲冑に通用しないとわかっている以上、それはただの目くらましに過ぎない。</p><p>その隙に逃げるか、それとも距離を詰めてくるか。恐らく逃げるだろう、とユウェロイは読んだ。逃げてOlやフォリオの居場所まで誘導し、総力で叩く。それが現状で最も有効な戦略だ。近づいてくるなら刺し殺すまでのこと。</p><p>ユウェロイの槍はその大きさをある程度自由に変化させることができる。三メートルの槍を見て接近戦ならば与し易いと思ったのなら、その侮りの代償は血で払う事になる。</p><p>迎え撃つユウェロイの槍の先が、がしりと掴まれた。爆炎を割って、槍の先を握ったサルナークがぬうと姿を現す。</p><p>刃がついていないとは言え、それは軽く触れるだけでも肉を裂き骨を貫くスキル製の武器だ。当然そんな物を握り込めばただではすまず、サルナークの手から溢れた血液が槍を伝って流れ落ちる。</p><p>舐めるなっ！</p><p>ユウェロイはすぐさま槍から手を離し、両手から短い槍を生成する。それも一つや二つではない。一度に十の槍が彼女の目の前に浮かび、矢の様にサルナークに向かって放たれた。ユウェロイが生み出した槍の正体は、実際には己で振るう必要さえない投槍のスキルだ。</p><p>だがそれは、まるで見えない壁でもあるかのようにサルナークに当たるよりも前にピタリと止まった。</p><p>まさか、別の防御スキルを持っていたのか。困惑しつつも距離を取る為後ろに跳ぼうとし、ユウェロイの身体はがくんとつんのめった。まるで甲冑をなにかに固定されているかのように、動くことが出来ない。</p><p>捕まえたァ！</p><p>その隙に、動きを止めた投槍の雨を潜り抜けてきたサルナークがユウェロイの腕をがしりと掴んだ。振りほどこうにも、鋼の盾のスキルを持つサルナークはあらゆる力を無効化する。つまりは、一度掴まれたら絶対に逃げ出すことが出来ない。</p><p>血だ、とユウェロイは気づいた。彼の肉体は外部からのあらゆる力を受け付けない。しかしその肉体とはどこまでを指すのか？</p><p>厳密に言えば、その力は生まれ持った肉体の多少外部まで守っている。服にさえ傷がつかないのはその為だ。おそらくはスキル使用者の認識が影響しているのだろう、というのが通説だ。</p><p>サルナークはどうにかして、その認識を己の血にまで広げたのだ。血液が付着した物体は、そこから動かせなくなる。血液を引き剥がす程度の力でさえ、鋼の盾は阻むからだ。サルナークは槍でわざと自分を傷つけ、血液をユウェロイの槍や甲冑に向けて飛ばしたのだろう。</p><p>血液も、元はといえば己の肉体だ。流れ出たとしてもそこにスキルの力を適用するのは不可能ではないように思える。だがその発想に至った事自体が、驚くべきことだった。少なくともユウェロイは今までそんな方法を考えもしなかった。</p><p>く！</p><p>甲冑を解除して離れなければ。そう判断したユウェロイが甲冑を消す寸前、爆炎が迸った。</p><p>させねェよ！</p><p>ユウェロイの腕を握っているのとは逆の手から、立て続けに炎が放たれる。逃れる為に甲冑を解除すれば、すぐに炎にまかれてしまう。かといって、これほどの至近距離で炎を打たれ続ければ流石に甲冑も保たない。</p><p>ならば。</p><p>これでどうだっ！</p><p>ユウェロイは前後左右、サルナークの全身を包み込むようにして無数の槍を作り出す。</p><p>ほんの僅かでも身体を動かせば槍が突き刺さる！この状況で、攻撃を続けられるか！？</p><p>炎を放つのに動作は必要ない。だが、だからといって人は全く身じろぎもせずにいられるものではない。ましてや全身に刃を突きつけられた状態であればなおさらだ。</p><p>残念だったな</p><p>にい、とサルナークの笑みが歪むのを、ユウェロイは確かに目にした。</p><p>指一本動かせない状況ってのはもうとっくに経験済みなんだよ！</p><p>ジッ、と水の焼ける音。しまったと思ったときにはもう遅かった。</p><p>サルナークを中心として水蒸気が弾け、彼を囲んだ槍が四方八方に弾け飛ぶ。それは蒸気の圧力と共にユウェロイを強かに打ち付け、吹き飛ばした。</p><p>ふうっくそギリッギリ何とかなったって感じだな</p><p>ユウェロイを包む甲冑が消え去るのを確認し、ズキズキと痛む手のひらに傷に顔をしかめながらサルナークは壁にもたれかかる。甲冑が消えたということは気絶したということだ。</p><p>だが、やってやったぜ大将</p><p>ユウェロイは自分よりも格上だったという自覚がある。Olが授けてくれた血を使うという策とフォリオから借りたスキルを使ったとは言え、勝つことが出来た。</p><p>Olの見立てでは勝てるかどうかは五分。勝てずとも足止めが出来ればいい。そう言って任された役割を、最上の形で果たしたことになる。</p><p>オレがここまでやってやったんだから、そっちもしくじるんじゃねえぞ</p><p>サルナークはそう呟き、天井を見上げた。</p><p>フローロが歓声を上げる。目の前に立つ男に、ブランは目を見開いた。</p><p>どうやって、ここへ？</p><p>ブランは静かに、Olに問うた。一体いつ、どうやってか。この男は突然、密閉されている筈の部屋の中に現れていた。</p><p>俺の能力は知っているんだろう？</p><p>そうか、とブランは息を呑む。Olは母なる壁を操作できる。その能力は、壁だけではなく天井や床の形すら自由自在だ。ブランはそれを、部屋の形を変えるだけのものとイメージしていた。だがもし、穴をあけることもできるとするなら</p><p>守衛など、何の役にも立たない。下の階層から穴を開け、はしごでも何でもかけていや、あるいは壁を階段に変化させて、密室にでも侵入することができる。</p><p>愕然とするブランに、Olは告げた。</p><p>フローロを返してもらおう</p><p>第7話己の力を示しましょう-4</p><p>名前：ブラン＝シュ</p><p>種族：鱗族</p><p>年齢：23歳</p><p>主人：フローロ</p><p>所持スキル：拳技LV8雷身反転従者LV10</p><p>視界に映る情報に、Olはなるほどと頷いた。ナギアから借り受けてきたこの鑑定というスキル。予想以上に役に立たないものだ。</p><p>所持しているスキルは表示されているが、それがどのようなものなのか、何の意味を持っているのかまでは全くわからない。</p><p>拳技LV8はおそらく徒手空拳を用いた技の事だろう。武器を用いず戦う技を、サルナークの剣技以上の強さで持っているということだ。しかし、それでは剣技より強いかと言われるとわからない。</p><p>そもそも人の身のままでは弱いからこそわざわざ武器を使うのだ。武器を持たなくとも同じだけ強いのであれば、この世に剣が生まれる必要性がない。</p><p>雷身はおそらく一瞬だけ垣間見た、ブランがまとっていた稲妻だろう。その拳の破壊力を増す効果を持ったスキルであるはずだ。でなければ、流石にダンジョンキューブを素手で破壊するなどという芸当が出来るはずがない。</p><p>そして残りの二つ。反転と従者LV10に至ってはどんなスキルなのか全くわからない。つまりは今までOlが目にした以上の情報は殆ど得られていないという事だった。</p><p>Ol、気をつけて下さい！</p><p>ブランの後ろから、フローロが警告の言葉を発する。</p><p>ブランは、</p><p>その言葉が終わるより早く、迸る稲妻を伴った神速の踏み込みがOlを襲った。</p><p>シャン、と金属の擦れる音が鳴り、ブランの足元に火花が飛び散る。</p><p>あら。武技は使わないタイプだとお聞きしていましたが</p><p>己の鼻先、紙一枚程度の距離に突きつけられた剣を見つめて、ブランは言った。Olがその分厚いローブの内側に隠し、抜き放った剣だ。</p><p>あの速さから止まれるのか、とOlは内心舌を巻く。魔術師相手に真っ先に距離を詰めるのは定石中の定石だ。それはこの世界でも変わらない。だからこそ、サルナークの剣技スキルを借り受けてまで、不意を打って剣を抜いた。雷光の速さで動けるならば、小回りは効かないだろうと予測しての事だ。</p><p>だがブランは、地面の敷物に焦げ跡を残しつつも止まってみせた。高レベルの拳技が為せる技か、それとも雷光スキルが稲妻の如き速さで自由自在の足取りをなしうるものなのか。後者であれば厄介どころの話ではない。</p><p>まあな</p><p>答えつつ、Olはローブの裾から袋の口を取り出す。途端、無数の蠍蜂が突進のスキルでブランに向かって飛来した。</p><p>パン、と音が一度だけ鳴る。いや、鳴ったようにOlには聞こえた。だが、実際には一度ではないはずだ。そうでなくては、二十六匹の蠍蜂が全て殴り潰されている説明がつかない。拳が音より早く動いたがゆえに、一度しか聞こえなかったと判断すべきだろう。</p><p>その蜂の群れに隠れるようにして、Olは短刀を投げはなっていた。ブランはそれをも拳で殴り壊そうとして、ピタリと腕を止める。そして素早くそこに身をひねり、それをかわした。</p><p>手のひらにすっぽりと収まってしまう程度の小さな短刀が、ブランの背後のテーブルに突き刺さり、それを粉々に破砕する。</p><p>鉄の腕ですか</p><p>勘のいい奴め</p><p>Olはブランを剣で牽制しながら舌打ちする。今のが当たっていれば勝負は決まっていたはずだが、その一方で高い可能性で避けられるだろうとも考えていた。</p><p>ブランの本当の強さ。それは、スキルを用いた戦闘に極めて慣れているということだ。相手が不審な動きをすればそれを高い精度で見抜き、どのようなスキルを使っているかをほとんど無意識的に推察する。サルナークにもっとも足りなかった物を、高いレベルで持ち合わせているということだ。</p><p>故に、Olは早い段階で鉄の腕を見せた。防御的なスキルを持ち合わせないブランにとって鉄の腕は脅威的なスキルであるはずだ。一撃でも喰らえばそれだけで戦闘不能な傷を負う可能性が高い。ブランはそれを警戒し、積極的な攻撃ができなくなる。</p><p>──そう読んでいたOlに、ブランは躊躇わずに踏み込んだ。慌ててそれに合わせ剣を振るうが、ブランは体勢を低く屈めてそれをかわしつつ、Olの胸元に拳を叩き込む。</p><p>ドン、と衝撃音が二つ。Olの身体はボールのように跳ね跳んで、背後の壁に激突した。</p><p>油断も隙もありませんね</p><p>痛みに顔をしかめつつ、ブランはロングスカートの裾をはたく。そこから伸びた長い尾が、Olの放った小石を受け止めへし折れていた。</p><p>それはラディコが生やしているような、毛の生えた獣のような尾ではない。蛇のような否。それを示すもっとふさわしい生き物の名を、Olは知っていた。</p><p>竜、か</p><p>あら、ご存知ではなかったのですか</p><p>ブランは髪をかきあげ、側頭部に生えた長い角を指でなぞる。</p><p>そうです、Ol！鱗族は魔族の中でももっとも強靭な力を持つ一族竜の因子を持った魔族です！気をつけて下さい！</p><p>言うのが遅すぎるわ</p><p>ごほ、と血を吐き出しながら、Olは立ち上がる。</p><p>手応えが妙でしたね。何か防御スキルでも？</p><p>悪いがこれは自前の魔術だ</p><p>正確に言えばそれは魔術ではなく魔道具。この世界に着たときから着ている、ローブのおかげだ。見た目はただの布にしか見えないが、外部からの攻撃に対しては鋼の鎧よりも高い防御性能を誇る。これを着ていなければ今の一撃で即死だっただろう。Olはそれを織り上げた、第一の使い魔に感謝を捧げた。</p><p>同時に、やはりスキルなどというものは信用できんな、とOlは内心で呟く。先程の一撃、恐らくユニスであれば剣の腕前が今のOlと同等だったとしても避けていたはずだ。</p><p>剣技スキルで得られるのは剣の振るい方のみ。相手がどのような攻撃を仕掛けてくるかの読みや反射神経、身体能力までは得られない。</p><p>だがそれでも、尾は潰した。先程の急制動は恐らく尾を使ったものだ。その証拠に、敷物に残った焦げ跡は一本のみだった。つまりは両の足だけでは、あの速度で動きつつ急停止は出来ない。</p><p>そは映したる陰影、虹梁の檻、穿ち、彷徨い、主たる王、一つ巡りて時を切る。二つふたかた石を踏み、三つみまごうばかりなり</p><p>唐突に呪文を唱えだすOlに、ブランは動きを止めた。スキルに呪文を使うようなものはない。だからこそ、ブランにOlの行動は予測できない。だが、歴戦の戦士であろうブランのスキル予測はもはや無意識の域にまで高まっている。予測できないからと言って、簡単に打ち切れるものではない。結果として、ブランは三呼吸分の時間をOlに許した。</p><p>ブランの腕に雷光が集まる。それを集めるのに更に一呼吸。その刹那、Olは叫んだ。</p><p>ラディコ、今だ！</p><p>その視線を追い、ブランは後ろを振り返る。ラディコがもともと持っていた鉄の腕と、ブランが与えた銀の腕。Olが持っているのがどちらであろうと、即死性のスキルがもう一つ存在している。</p><p>Olが壁を操り入り口を作って入ってきたのなら、壁、床、天井、全ての方向からの奇襲がありうる。ブランは常にそれを警戒して戦っていた。だから、その時も完璧に反応した。</p><p>Olの視線の先だけでなく、研ぎ澄ました感覚が全方位からの攻撃に備える。勿論、Ol自身の攻撃に対してもだ。</p><p>だが、ブランは根本的な部分を読み違えていた。ダンジョンの壁を操作する魔術というのはその見た目に対して非常に高度なものである。</p><p>地中には様々な圧力がかかっている。天井を支えるために必要な壁の厚みというものがある。石には剛性があり、変化させても崩壊しない速度がある。そう言った諸々を完全に解析、計算しつつ縦横無尽に壁を操作する迷宮魔術は、Olだからこそ生み出せた彼の研究の真髄そのもの。つまりは──</p><p>Olにはもう、そのような魔力など残されてはいなかった。</p><p>ありとあらゆる攻撃を想定していたブランの横を、Olがよろよろと通り過ぎていく。そしてフローロを抱きかかえ、軽く手をふった。</p><p>ではな</p><p>神速の突き。それがOlの胸を貫く寸前に、彼の姿はかき消えた。</p><p>転移魔術によって。</p><p>第7話己の力を示しましょう-5</p><p>転移した先は、四方二メートル程度の小さな小さな部屋だった。</p><p>大丈夫ですか、Ol！？</p><p>縋り付くようにしてフローロが尋ねてくるが、正直に言って全く大丈夫ではない。魔力は殆ど空になりかけていて眩暈がするし、強化魔術をかけて無理に動かした身体は全身が引きつりそうに傷んでいる。ブランに打たれた胸は骨の一、二本は折れていそうだ。</p><p>だが、Olはそれをおくびにも出さずに頷いた。少なくとも身体は動くのだから支障はない。</p><p>お前こそ、無事で何よりだ</p><p>最悪既に殺されている可能性すら考えていたが、フローロは思ったよりもずっと元気そうであった。むしろ髪を整えられ、服を立派なものに変えられて、ブランに連れて行かれる前よりもよほど健康に見える。</p><p>ありがとうございます、オウ──んっ</p><p>礼を述べるフローロの唇を、多少強引に奪う。</p><p>えへへOl</p><p>それだけで、あっという間にフローロのスイッチが入った。</p><p>全力でやれ</p><p>全力でですか？</p><p>フローロの身体を抱き寄せ睦言のように囁くOlに、フローロは戸惑うように問い返す。</p><p>ああ。できる限りだ</p><p>わかりました。んっあっあぁっ！</p><p>頷いた途端に胸を鷲掴みにされ、フローロはそれだけで絶頂に達して高く鳴く。</p><p>OlOlの、お口でしたいです</p><p>駄目だ。今は我慢しろ</p><p>ひぅっ！</p><p>舌を突き出し懇願するフローロの股間に指を這わせれば、それだけで彼女はたやすく絶頂に達した。</p><p>我慢、なん、てぇ</p><p>気をやるのは我慢する必要はないぞ</p><p>はぁぁんっ</p><p>フローロをぐいと壁に押し付けるようにして腰を掴み、下着を少しずらしていきなりずぶりと挿入する。</p><p>Ol、いつもとっ、違いますっ</p><p>するとフローロはどこか怯えたようにそう言った。</p><p>違う？</p><p>いつもより、なんだかっ乱暴で強引で</p><p>それはそうだろう、と思う。理由があってこうしているのだ。多少性急になっている自覚はあったが致し方ないことだった。</p><p>それがなんだか</p><p>だが本当に理由はそれだけだろうか、とOlは考え直した。言われてみれば、いつもより興奮している気がする。それは恐らく、戦闘の直後だからだろう。直接命を削り合い、傷を負い、確かにOlの雄は興奮していた。</p><p>まるで煮えたぎった油のような、破壊的な衝動にも似た性的欲求。</p><p>怖いか</p><p>いいえ。そんなOlも、なんだか素敵だなって♡</p><p>そこに、フローロが火を投げ入れた。</p><p>ひあぁぁあんっ♡</p><p>ずん、と叩きつけるような抽送に、フローロは高く嬌声を上げる。</p><p>あぁっ♡オウ、ルぅっ♡だめ、ですう♡</p><p>服の裾から入り込んでくる男の腕にフローロは身を捩る。しかしOlにとっては、それはかえって侵入を促しているようにしか思えなかった。</p><p>ひあぁんっ♡</p><p>両の手で後ろからたわわな果実を鷲掴みにすると、もにゅりと歪む柔らかな手触りの中、ピンと固く尖った感触が手のひらに当たる。それを押しつぶすように揉み上げながらパンパンとリズミカルに腰を打ち付ければ、たちまちフローロの身体は力を失ってその場に崩れ落ちそうになった。</p><p>はあんっ♡こんな、格好、恥ずかしあぁっ♡</p><p>ふにゃふにゃになったフローロの太ももの下に腕を通し、抱えあげるようにしながら下から突き上げる。それはまるで幼子の排泄を手伝うかのような姿勢だったが、その秘裂にずっぷりと突き刺さった男根と、それを伝うたっぷりとした愛液は体勢とは裏腹にこの上なく淫靡な光景だった。</p><p>あんっ♡や、ぁんっ♡は、あぁぁんっ♡</p><p>一突きごとに絶頂を繰り返すフローロの身体にはもはや一片たりとも力は入らず、ただなされるがままに持ち上げられ、犯される。太ももと乳房に這わされた男の指が柔らかな肉に沈み込んで、生々しく歪ませた。</p><p>オウ、ルぅ♡ちゅー♡したい、ですぅ♡Olと、ちゅぅ♡あかちゃん♡つくりたいからぁ♡</p><p>まるで玩具のように穴を使われながらも、フローロはそうしきりにねだる。受精の仕組みはそうではないと教えたはずだが、快楽で頭から抜け落ちているらしい。</p><p>Olはフローロと繋がったまま、彼女の身体をぐるりと反転させる。</p><p>あっ、んっ、むっ♡ちゅっ♡んんっ♡オウ、ルぅ♡きもち♡いぃっ♡ふぁっ、んっ♡んっ、んんっ♡</p><p>顔を近づけるとフローロは吸い付くように唇を重ね、濃密に舌を絡ませる。Olはそれに答えながらフローロの太ももを抱えあげ、コツコツと彼女の子宮口をノックするように突き上げた。</p><p>だ、めぇっ、オウ、ルッ♡わた、も、だめぇっ♡へんに、なっちゃ、ますぅっ♡ひああぁんっ♡</p><p>ああ。なれ</p><p>フローロの背を壁に押し付けるようにしながら、そのたっぷりとした乳房を両手でつかみ、突き上げる。</p><p>あぁっ♡すごいっ♡Olぅっ♡素敵ですっ♡それ、すきぃっ♡</p><p>荒々しく突き入れながら、指の跡が残るほどの力で乳房を掴む。反り返った雄にずっぷりと貫かれた秘裂からボタボタと愛液が滴って、床を汚す。ピンと固く張り詰めた乳首をコリっと歯で甘く噛む。</p><p>んあぁぁっ♡</p><p>痛みに近いだろうそんな刺激にさえ、フローロは気をやって背を大きく反らした。まるでOlに胸を差し出すようなその体勢に、彼は容赦なく乳房を攻め立てる。</p><p>あぁっ♡おっぱいっ♡きもち、いいっ♡で、すぅっ♡</p><p>先端を指で強く摘み捻り上げるようにしてやると、フローロは悦びの声をあげながらきゅうっと膣口を締め付けた。</p><p>出すぞ！</p><p>はいっ♡きてくださいっ♡</p><p>普段大人しく、生真面目で清楚な娘が見せる淫らな痴態。豊満な胸を力任せに引っ張られ、なお悦ぶその様にOlもまた限界に達し、ぐりっと腰を押し付ける。</p><p>ひぅっ♡あ、あ、あ、きてるっ♡Olの、熱いせーえきっ♡おなかのなか、たくさんはいってきてますぅぅっ♡</p><p>どくどくと迸り、強い勢いで子宮を叩く白濁の奔流に、フローロは足をピンと伸ばして深く絶頂する。Olはそんな彼女に容赦せず、精液を流し込みながらも更に腰を叩きつけるようにして責め立てる。</p><p>はっ♡ぅうっ♡ずっとっ♡イって♡るのにぃぃっ♡そんなっ♡あぁっ♡オウっ、ルぅっ♡</p><p>それ以上の動きを止めるかのようにフローロはOlに両手両足で抱きつきながら、もう一度唇をOlのそこに重ね合わせる。だがそれは、かえって己の奥底にOlの男根を迎え入れたに過ぎなかった。</p><p>～～～～～～～～～っ♡♡♡♡♡</p><p>唇を塞がれ、肌を密着させ、奥の奥に精液を吐き出されて、脳が焼ききれんばかりの快楽がフローロを襲う。チカチカと視界が明滅し、身体中がガクガクと痙攣する。腟内が、視界が、意識が、白く白く塗りつぶされていく。</p><p>そしてその全てが純白に染まったかと思えば、彼女はぷつりと意識を失った。</p><p>あれOl</p><p>気がついたか</p><p>目を覚ますと、フローロはOlの背中に背負われていた。</p><p>私</p><p>あれだけ気をやっておいて、よくこれほどはやく目覚めるものだ。お前が気絶してからまだ数分と経っておらんぞ</p><p>言いつつもOlはしゃがみ込んで何やら作業をしているらしく、彼の手元からはカチャカチャと金属が擦れ合う音が聞こえてきていた。</p><p>何をしているんですか？</p><p>魔力が尽きてしまったものでな。本職ではないが、手慰みに覚えた事があるのだ</p><p>Olが手にしているのは二本の金属棒だ。同じものをつい最近、フローロも目にしたことがある。それは、耳掻きだった。</p><p>耳掻きで何を？</p><p>他に手頃な道具がなかったのでな。だが存外使い勝手は悪くない。この程度であればうむ。開いたぞ</p><p>カチリと音がして、Olの目の前の壁が動く。否、それは扉であった。Olが耳掻きを差し込んでいたのは、その扉の錠前だ。対となる鍵を使わなければ開かないはずのもの。それを一体どうやったのか、Olは耳掻きで開けてみせたのだった。</p><p>あの、Ol。私、自分で歩けますから</p><p>開く扉を前に、フローロはOlの背から降りた。フラつく様子もなく自分の足でしっかりと立つフローロに、Olは感心する。</p><p>本当にお前はなんというか、タフだな。確かに全力で術をかけていたであろうに</p><p>え？あ、はい。そうですね。すごく気持ちよかったです♡</p><p>気絶する前の事を思い出したのか、フローロのスイッチが入りかける。Olはぎゅっと胸元を押さえる彼女の頭をぽんと軽く叩き、正気に戻した。</p><p>お前の魔力の出力量からすれば、常時の百倍から二百倍と言ったところか。そんな感度で犯され続ければ</p><p>Olは扉を完全に開き、その先を指し示す。</p><p>ああなるのが自然であろうにな</p><p>そこには、イき果てて床に横たわるブランの姿があった。</p><p>第7話己の力を示しましょう-6</p><p>ブランがどうして？</p><p>スキルというのは常時影響するものと、オンオフを切り替えられるものがあるそうだな</p><p>ひょいと、Olはブランの身体を抱き起こす。それを可能にする鉄の腕もそういったスキルの一つだ。</p><p>スキルのオンオフとは、うっかり切り替えられるようなものではないとナギアが言っていた。実際に使ってみれば確かにその通り。オンにするにもオフにするにもある程度の集中が必要だ</p><p>そしてブランをベッドに寝かせると、Olは彼女の手足に枷をつけて拘束した。Olが縛られていたものと同様のものだ。</p><p>はいでも、それがどうしましたか？</p><p>内通者はナギアではない。お前だ、フローロ</p><p>くるりと振り向くOlの言葉に、フローロは目を見開く。</p><p>そそうだったんですか！？</p><p>そして、驚愕とともにそう叫んだ。</p><p>ああ。と言っても勿論、お前が自覚的に情報を流していたわけではない。その支配者の瞳の効果だ</p><p>でも、Olが調べた中には瞳の効果を受けてるものはいないってそれに、あれ？私自身が、私の視界を見てたってことですか？ん？</p><p>混乱してきたらしく、フローロは頭を抱えるようにして首をひねる。</p><p>瞳の効果を受けていたのはブランの方だ。こいつの主人はお前に設定されている</p><p>それは鑑定で目にした中で、唯一と言っていい有益な情報であった。</p><p>そしてその効力を逆転させるスキルも持っている。恐らくは反転という名のスキルがそれだろう。故に、お前には支配者の瞳の効力はかかっていないが、ブランはお前の視界を盗み見ることが出来たというわけだ</p><p>それもまた鑑定で目にした情報ではあったが、その存在そのものはもともと予測していたものだ。ナギアから得た情報にしては、あまりにも対処が的確だったからだ。他に情報源がいるとするなら、フローロでしかありえない。</p><p>じゃあ、ブランが倒れてるのって</p><p>お前が感じた快感を、こいつも感じたからだ</p><p>支配者の瞳はその名前とは裏腹に、視界以外のあらゆる感覚をも共有するスキルだ。フローロを連れて転移したOlの行き先を探るため、ブランは当然そのスキルを用いてフローロの認識を共有した。</p><p>その瞬間を突いて、Olはフローロに感度を上昇させる魔術を使わせ、絶頂させたのだ。かなり強引に責めたのもスキルをオフにするような猶予は与えない為。何故かやけにタフなフローロは普通に喘いでいたが、普通の女であれば最初の絶頂で気絶していてもおかしくない。それほどの責めであった。</p><p>さて、とは言えこのまま寝こけていられても困るからな。起きよ</p><p>Olがブランの頭に手を当て告げると、パチリと弾けるような音が鳴る。次の瞬間ブランは跳ね起きて、拳を構えようとし枷に足を取られてすっ転んだ。</p><p>勝負はついた。大人しく認めろ</p><p>いいえ！いいえ、認めませんあのような手段で！</p><p>キッと鋭い視線でOlを睨みつけるブラン。だが勢いよく転んだものだから枷が絡まり、芋虫のように地面に這いつくばった姿勢のままでは威厳も何もあったものではなかった。</p><p>何の話ですか？</p><p>一人彼らの会話についていけず、フローロは首を傾げる。</p><p>何のことはない</p><p>Olは嘆息し、ブランをみやった。</p><p>そもそもこいつはお前を殺すつもりなど更々なかったのだ。俺はただ試されただけ。お前を王にする能力を本当に持っているかどうかをな</p><p>別にそこまでは求めておりません</p><p>その説明に、不服そうにブラン。</p><p>私が試したのは、ただこの中層での私の立場を盤石にするまでの間、フローロ様をお守りするに相応しい存在であるかどうかだけです</p><p>過程はどうあれ俺はこうしてお前を下して立っている。それで十分その証明になるのではないか？</p><p>なるわけがないでしょう！？</p><p>ブランがこれほど声を荒らげる場面を、フローロは初めて目にした。</p><p>姫様にあのような不埒な真似をした相手を、どうして認められるとお思いですか！</p><p>至極もっともな意見であった。</p><p>待って下さい、ブラン。それについてOlを責める必要はありません</p><p>いいえ！失礼ながら姫様はご自身が失ったものを理解しておられないのです</p><p>苛立たしげに竜の尾を振り、ブランは言う。</p><p>支配者の瞳さえ抜け落ちていなければ、そのようなことはさせなかったのに！</p><p>悔しげに歯を食いしばるブラン。そう言えば初めてフローロを抱いたときには支配者の瞳はサルナークに奪われた状態だったか、とOlは思い出す。</p><p>フローロが最下層などというどう考えても治安の悪い場所に送られていたのも、いざとなればそれを用いて守ることができると思ってのことだったのだろう。まさか彼女がそれを自ら手放すなどということがあるとは思いもせずに。</p><p>いいえ、ブラン</p><p>しかしフローロは毅然とした態度でブランに告げる。</p><p>私はちゃんと理解しています。そしてその上で言っているのです</p><p>ブランは不思議そうな表情で、フローロを見上げた。</p><p>Olは私の夫です。ですから、私に対して何をしても不遜には当たりません</p><p>そのあまりの衝撃にブランは目を見開き、絶句する。</p><p>待て夫とは何だ！？</p><p>そしてその衝撃は、Olも味わっていた。全く覚えのない話だったからだ。</p><p>異世界からきたOlが知らないのも無理はありません</p><p>慈しむような笑みを見せ、フローロは答える。</p><p>共に子を育み、互いに支え合う男女を、この世界では夫婦と呼ぶのです</p><p>知っておるわ！！</p><p>思わずそう怒鳴りたくなる衝動を、Olはかろうじて押さえた。最初にフローロを抱いた時。キスで赤子ができると思っていた彼女に、生殖とは何か、どうすれば子ができるのかを教えて。</p><p>結局、そもそものOlはフローロとの子を欲しがっているという勘違いを正し忘れていたことを、たった今思い出したからだ。</p><p>子作りそのものの正しい方法を教えても、その行為そのものはしていたのだからその勘違いが正されるはずもない。実際にはOlほどの魔術師ともなれば誤って命中させてしまうことなどまずないのだが、そんなことまでフローロが知る由もなかった。</p><p>そうだったの、ですか？</p><p>呆然と尋ねるブランに、フローロはOlの腕を抱いて見せる。</p><p>私は私の全てをOlに差し出し、Olはそれを受け取って、私を支え魔王へと導く事を誓い、そして私の子を望みました。私達の関係が夫婦でなくして、何だというのでしょうか？</p><p>確かにそうだが！と、Olは内心で呻く。だがその大半は、ただ必要性によって迫られたものだ。</p><p>その男が、フローロ様を愛していると？</p><p>ブランも経験したのでしょう？愛していなければ、あのような情熱的なキスができるでしょうか</p><p>そんな馬鹿な理屈で説得されないでくれ。半ば祈るような思いでOlはブランに念を送る。</p><p>それは確かに</p><p>だがブランはぽっと頬を染め、視線を反らした。その記憶があるということは、どうやら思ったよりもだいぶ快楽に耐えていたらしい。</p><p>──ですが、フローロ様。フローロ様はどうなのですか？</p><p>私ですか？</p><p>ブランの問いに、フローロはまるで思ってもみない問いをされたかのようにきょとんとした。</p><p>はい。フローロ様が意に沿わぬ相手を夫にするというなら、このブラン、けしてそれは看過できません。たとえ大願を果たすためであったとしても</p><p>ブラン</p><p>真剣な眼差しを向けるブランに、フローロは感じ入ったように見つめる。</p><p>そしてくすりと笑い、答えた。</p><p>勿論、私もOlのことを愛しています</p><p>ぎゅっとOlの腕を抱きしめ、屈託のない笑顔でそう言い切る。</p><p>私が何者であるかを知る前からどことも知らぬ地で、Olは己の身を顧みることなく私を助けてくれました。彼のことを私は誰よりも信じ、愛しています</p><p>そのあまりにもひたむきな告白に、Olは腹を決めた。</p><p>まあ、そういうことだ。ブラン、お前はいかにする</p><p>ぐっと抱かれた腕ごとフローロを抱き寄せて、Olはブランにそう尋ねる。</p><p>枷を解いて頂けますでしょうか</p><p>静かにそう頼むブランの枷を解いてやると、彼女は二人の前に改めて跪き、頭を垂れる。</p><p>正直まだ、私はあなたを認めるわけには参りません</p><p>ブラン！</p><p>この期に及んでそう言うブランに食ってかかろうとするフローロを、Olは押し止める。</p><p>あなたが真に姫様を任せるに足る方かどうかお傍で見定めさせて頂きます。それでよろしいでしょうか</p><p>ああ、そうしてくれ</p><p>それが最大限の譲歩であったのだろう。ブランに、Olは鷹揚に頷いた。</p><p>ブラン様！？</p><p>Ol、フローロの後ろを歩くブランの姿に、ユウェロイは目を見開いた。それが指し示すところは唯一つだ。</p><p>そして縛られたユウェロイを見て、Olは感心したような声を漏らす。</p><p>勝てたか</p><p>短い、しかし誇らしげな声でサルナークは答えた。Olとしては彼がユウェロイに勝つ可能性は高くて三割程度であると考えていた。勝てずとも、Olがブランを相手取っている間の時間稼ぎさえ出来ればいい。守りに徹したなら、サルナークの能力は時間稼ぎにはもってこいのものだからだ。</p><p>だが無論、勝って困ることは一つもない。Olは己の中でサルナークの評価を少しだけ上昇させた。</p><p>Ol様、ご無事ですか！？</p><p>ローブが焼け焦げ擦り切れた姿を目にして、ナギアが慌ててOlに駆け寄る。</p><p>大事ない。魔力を補充してしばらく休めば治る</p><p>そのローブには自己修復機能が仕込んであるし、Ol自身の肉体も同様だ。</p><p>ってことは、しっぽり補充しなきゃですね、Olサマ</p><p>交尾！？また交尾するのお！？</p><p>フォリオとラディコがOlの両腕を取って、嬉しげにそんな事を言う。</p><p>フォリオ！この裏切り者が！</p><p>いやあ、やっぱり勝てませんでしたよ。ごめんなさいね、ユウェロイサマ</p><p>烈火の如く怒り狂うユウェロイに対し、フォリオは軽い口調でそう答えた。</p><p>貴様ぁ！良くも私にそんな口を！</p><p>ブラン、説得しておいてくれ</p><p>怒鳴り散らすユウェロイを、ブランはずるずると引きずっていく。</p><p>あースッとした</p><p>その様子を見て、ケラケラと笑いながらフォリオ。主人に対する不満がよほど溜まっていたらしい。</p><p>ナギア。鑑定と鉄の腕、剣技を返す。取り出してくれるか</p><p>鉄の腕はそのままでいいんじゃないですか？ラディは銀の腕持ってますし</p><p>Olの胸の中からスキルの結晶を取り出すナギアの横から、フォリオがそう尋ねた。</p><p>いや、不要だ。やはり俺にはこのスキルとやらは馴染まん。それに</p><p>抜き出された結晶を、Olはじっと見つめる。スキルごとに結晶は色も形も違う。スキルに詳しいものなら、結晶を見るだけでどんなスキルなのか予測することもできるのだという。</p><p>下位のスキルを持っていることが全くの無駄とは限らん</p><p>首を傾げるフォリオに、確証はないがなとOlは答える。</p><p>まあOlサマがそう仰るならはい、ラディ</p><p>わーい</p><p>フォリオが差し出した鉄の腕を、ラディコが飛びつくようにパクリと咥えた。</p><p>スキルを育てるスキルなんてのが本当にあったらよかったんですけどね</p><p>フォリオは深くため息をついた。結局、ブランがそれを持っているという噂は根も葉もないものであった。銀の腕にしてもラディコの鉄の腕を強化したわけではなく、ただ別口で持っていただけだ。</p><p>もし見つけたら教えて下さいね、Olサマ</p><p>覚えておこう</p><p>何故、と問うことをOlはあえてせずに頷いた。そんなスキルがあれば確かに便利だろう。だが恐らくフォリオがそれを欲しているのはそのような単純な理由ではない。それを察したからだ。</p><p>ではブラン様が部屋を用意してくださったそうですので、お支度をしてまいりますわね。フォリオ様、ラディコ様、サルナーク様、お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか？</p><p>あぁ？なんでオレがンな事を</p><p>まあまあ。男手があったほうが助かるしさ</p><p>ボクも頑張ってお手伝いするよお！</p><p>何か気を利かせたのか、ナギア達はそう言って部屋を出ていく。残されたフローロはOlの隣にぽすんと座って、えへへと笑った。</p><p>怪我の調子はどうですか、Ol？</p><p>魔力そのものは十分に補充してある。後はこれを消化すれば簡単に治る程度の傷だ</p><p>そう答えながらも、思い出させるなとOlは顔をしかめた。何しろ魔力が足りないものだから、痛みを止めるような術すら使うのが惜しい。これほど節約して暮らすのは一体何十年ぶりだろうか、とOlは考えた。</p><p>助けに来てくれて、嬉しかったです</p><p>お前だって俺がサルナークに捕まった時、助けに来ただろう</p><p>あれは、Olは自力で抜け出せる状態だったじゃないですか</p><p>こてん、と首をOlの肩にもたれさせ、フローロは問う。</p><p>ねえ、Ol。一つ、聞いてもいいでしょうか</p><p>Olは答えなかったが、それをフローロは肯定と取った。</p><p>なんでOlは、私を助けてくれるんですか？</p><p>夫たるもの、妻を助けるのは当然だろう？</p><p>そんなのは私が勝手に言ってるだけじゃないですか</p><p>自覚が合ったのか、とOlは驚いた。</p><p>それにOlが私を助けてくれると決めたのは、私が自分を差し出すよりも前。あの時、そんな条件を出すより先に、Olは私に手を貸してくれることを決めていましたよね？</p><p>どうやらフローロの見方を変えねばならないようだ、とOlは独りごちる。彼女は思っていた以上に聡いようだ。</p><p>お前、それがわかっていながら全てを差し出したのか</p><p>そうするだけの価値があると思ったからです</p><p>一歩間違えば愚かと呼ばれるほどの、度胸と決断力。存外こいつは良い王になるかもしれぬ、とOlは思う。</p><p>聞かせて下さい。何故、Olは私を助けてくれたんですか？</p><p>構わんが何故今更そんな事を聞く？</p><p>それは純粋な疑問であった。Olに隠された目的があるとして、それがフローロにとって邪魔になることであれば今聞いたところで教えるはずもなく、そうでないならば初めに聞けばいいだけのことだ。</p><p>特に理由はないですね</p><p>とぼけているのか、それとも素で言っているのか。判断のつかない表情で、フローロ。</p><p>ただ、好きな人のことは知りたいじゃないですか。私、Olのことを何も知らないなって思って</p><p>だが続く言葉に、Olは渋面を作った。</p><p>こ、告白したのにその顔はなんですか！</p><p>狙ってやっているのなら恐ろしいし、狙っていないならばそれはそれで厄介だ。</p><p>お前が目指しているのが、魔王だからだ</p><p>Olの言葉に、フローロは首を傾げる。</p><p>一目惚れだったとか、健気な私のことが可哀想になったとか、元の世界の恋人に似てたからとかじゃなくてですか？</p><p>そんなわけがあるか</p><p>ではなぜ？</p><p>一体どこからそんな発想が出てくるのだ、と思いつつも、Olは続ける。</p><p>俺も元の世界では、魔王と呼ばれていた。だからだ</p><p>そんな理由で？</p><p>フローロは目を瞬かせた。同じ魔王繋がり。確かにフローロが最初にOlを助けたのも、自分と似たような境遇だと思ったからだ。しかしフローロと違って、Olがそんな甘い理由で手を貸すとはとても思えなかった。</p><p>いえ、待って下さい</p><p>だが、フローロはにわかに気づく。</p><p>Olも、魔(・)王(・)と呼ばれていたんですか？</p><p>ああ、その通りだ</p><p>頷く彼に、フローロは目を見開いた。</p><p>魔族を一切差別せず、フローロでもナギアでも抱く彼。魔を統べる王に相応しい存在であるだろう。人間でありながら、魔族の自分よりもよほど向いているのではないか。フローロはそう思った。</p><p>なんで？</p><p>正しく問いを発するフローロに、Olは首を横に振る。</p><p>ただの偶然かも知れぬ。だがあまりに不自然だ。故に、元の世界に戻るのならば、そこに鍵があると、俺は思う。それがお前に手を貸す理由だ</p><p>魔王。</p><p>全く異なる言語体系を持つ世界からやってきたOlの言葉の中で。</p><p>その称号を指す語だけが、この世界の言葉と全く同じ響きを有していた。</p><p>第三期二章に続く</p><p>第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-1</p><p>闇があった。</p><p>四角く切り取られた闇だ。</p><p>一筋の光さえも差し込まない地下の部屋。空気さえもがねっとりと粘りつくような、濃密な闇。明かりもなく何も見えないというのに、その闇を割って赤毛の少女が部屋に入ってくるのがわかった。</p><p>少女が浮かべているのは、部屋の闇に勝るとも劣らない暗い表情だった。普段の快活さは見る影もなく、いつも朗らかな笑みに彩られていた表情は疲労と倦怠に沈んでいる。</p><p>帰ったの、ユニス</p><p>少女に向かって、闇の中から声が投げかけられた。酷く耳に馴染んだその声の主の名を、しかし思い出すことが出来ない。</p><p>うんやっぱり駄目だった</p><p>ユニスはどんな時も明るく健やかな英雄の少女は、ヘドロのように濁った声で答え、その手に持った物を力なく取り落とす。それは、無数の黒い糸のようなものがへばりついた、球状の物質だった。</p><p>ところどころが赤黒く染まったそれは、地面をごろごろと転がっていく。</p><p>闇の中の声が、誰に投げかけるというわけでもなく響く。</p><p>どうして、こんな事になったのかしらね</p><p>悲嘆に満ち満ちた声だった。この声の持ち主もまた、本来ならばこんな声色を出すような人物ではない。そう思うのに、その根拠を思い出すことができない。</p><p>ユニスが取り落とした球体が、やがて緩やかにその動きを止める。</p><p>ばらりと黒い糸状のものが広がり、その奥にあったものがあらわとなる。</p><p>大きく深緑の目を見開いた、褐色の肌を持つ女の頭。</p><p>──それは黒の女帝、エレンの首だった。</p><p>Olは跳ね起き、周囲を見回した。見慣れない部屋に、見慣れない寝台。</p><p>一瞬混乱した後、肌に触れる柔らかく暖かい感触に思い出す。一糸まとわぬ姿でOlにくっつきながらすやすやと寝息を立てているのは、フローロ。ここは長年住み慣れたOlの魔窟ではなく、どことも知れぬ異世界のダンジョンの中だった。</p><p>昨夜はフローロと肌を重ねた後、互いに裸のまま眠りについた事を思い出した。</p><p>Olはどくどくと跳ねる胸をおさえ、呼吸を整える。</p><p>異常に現実感のある夢だった。ユニスと話していたのは間違いなくリルだ。こうして目を覚ましてしまえばなぜ右腕たる彼女の名前を思い出せなかったのか不思議でならないが、夢とはそういうものだろう。</p><p>そしてユニスが持っていた首変わり果てた姿になってはいたが、あれは黒アールヴたちの長、エレンだ。</p><p>エレン。Olのいないダンジョンで、彼女が反旗を翻すというのはなくもないだろう。彼女の忠誠は飽くまでOl自身に向けられたものであって、彼がいなくなればあるいはそういうこともあるかも知れない。</p><p>だがそれは、少なくとも何年何十年と経ってからの話だ。アールヴ達は気が長い。Olがこの世界に来てからの数日で反乱を起こすほど他の者達との仲が険悪だったとは思えないし、思いたくはなかった。</p><p>それに何より、ミオがいる。あの心優しい獣使いの少女は争いを好まないし、エレンたちとの仲も良好だ。ミオが止めればエレンは聞くだろうし、仮に聞く耳を持たなかったとしても力づくで止められる戦力がミオにはある。なにせ獣の魔王だ。</p><p>あるいは、この世界と元の世界とでは時間の流れが違うのかも知れない。そういう異界の話は聞かないでもない。だが時間の流れすら異なるほどに隔絶した世界であるなら、元の世界の情報がこのような形でOlに伝わってくるというのも考えにくいことだ。</p><p>結局のところ、ただの夢という可能性が一番高いだろう、とOlは結論づけた。</p><p>Ol？</p><p>一人思案していると、傍らのフローロが寝ぼけ眼をこすりながらOlを見上げる。</p><p>なんだか凄く、悲しそうな顔をしていました</p><p>フローロはそう言って、そっとOlの頬に手を触れる。</p><p>気のせいだろう</p><p>気遣わしげなその手のひらが妙に疎ましく感じられて、Olはその手を素気なく跳ね除ける。</p><p>むーじゃ、こっちしますね</p><p>フローロは軽く頬を膨らませると、上半身を折りたたむようにしてOlの股座に顔を近づけ、まだ柔らかいままのそれをちゅぷりと口に咥えた。</p><p>余計なことを</p><p>性器を包む暖かく柔らかい感触に、Olは呻くように声を上げる。フローロの舌先がまるで別の生き物のようにうねうねと動き、Olの弱い部分を撫であげながら、絶妙な力で吸い上げていく。</p><p>ほんの少し前までは処女だったというのに、淫魔もかくやとばかりの舌技は腰が蕩けんばかりの気持ちよさだった。</p><p>んふ</p><p>あっという間に硬く反り返る男根にフローロは目だけで笑い、ちゅぽんと音を立てて口から外す。</p><p>大きくなりましたね</p><p>すっかり怒張しきった一物をやわやわとしごき立てながら、フローロは愛おしげに頬を擦り寄せる。そんな彼女からOlは視線を外すが、止めようとはしなかった。こんな中途半端な状態で止められても困る。しかし、快楽で不安を押し殺そうとするのだけは避けた。</p><p>どんな状況であれ現実から目を反らすのは悪手だ。あんな夢を見るほど自分は不安を感じているのだとしたら、なおさらそれを認め正視した上で、最善の手を打たねばならない。そう考えるのが、Olという男だった。</p><p>わたしが動きますからね</p><p>そう言ってフローロはOlを組み敷き、そそり立つ肉槍の上に腰を下ろす。前戯もしていないというのにフローロのそこは容易くOlのものを飲み込み、一番奥までずっぷりと受け入れる。</p><p>あっはぁっ</p><p>途端に、彼女の表情が快楽に蕩けた。</p><p>どうですか、Ol？わたしのは、ぁん中気持ち、いいですかっ？</p><p>元々名器と呼んで差し支えなかったフローロの膣内は、回数をこなすたびに柔らかくこなれ、その魔性めいた具合の良さを更に増加させつつあった。Olの男根に誂えたかのようにぴったりと張り付いて蠢くその中は、油断すればすぐにでも果ててしまいそうだ。</p><p>ぁん駄目ですよっ。今日はわたしが、動きますからあっ</p><p>快楽を堪えようとOlが腰に力を込めると、それを制するようにフローロが腰をくねらせた。その動きにつられてたぷたぷと動く乳房を、Olは手で掴む。</p><p>ゃ、あん駄目って言ってるじゃないですかぁ</p><p>動いてはいないだろう</p><p>こんな魅力的な果実を目の前で揺らされて、手を出さないのは無理というものだ。</p><p>あんっ、もぅOlは甘えん坊さんですね</p><p>フローロはOlの腕をぐっと引いて上半身を引き寄せると、彼の頭をぎゅっと抱きしめる。文句を言いたかったが、顔が豊かな乳肉に圧迫されて声を出せなかった。</p><p>んっはぁ、んっ気持ち、いいですっもっと、おっぱい吸って下さいっ</p><p>代わりにピンと硬く張り詰めた先端を舌先で愛撫すれば、フローロは甘い声をあげながら腰を揺らし始めた。</p><p>あ、ん、は、あぁっ！気持ちいいっあっOlぅっ！</p><p>フローロの膣口が精をねだるようにきゅうきゅうとキツく締め付けながら、高ぶった男根を甘く擦り上げる。</p><p>あっOlのっ大きくなってる出したいん、ですねっ？</p><p>魅力的な雌の肉体を貪らんと雄が硬く張り詰めたのを悟って、フローロは嬉しそうに笑みをこぼした。</p><p>出して下さいっ！わたしの、中にっ！たくさんっ！</p><p>フローロの腟内が震え、男の精を絞り出さんとするかのようにうねる。</p><p>イくっいっしょ、いっしょにぃあぁっいぃっくぅぅっ！</p><p>Olの頭をぎゅっと掻き抱き、豊かな双丘にぎゅっと押し付けながら、フローロは快楽を貪るように両腕に力を込めた。</p><p>ああぁぁぁぁぁっ！</p><p>とうとう快楽が決壊し、絶頂を味わうフローロの膣内に、Olの精が吐き出される。腹の中に子種を注ぎ込まれる感覚に、フローロは更に深く気をやった。</p><p>んっふ、あぁは、あぁえへへ。たくさん出ましたね</p><p>繋がりあったまましばらく呼吸を整えたあと、フローロは腰を上げる。途端、秘所からはたっぷりと注がれた白濁がどろりと零れ落ち、彼女はまるで童女のように屈託なく笑った。</p><p>相変わらず、行為の最中とそれ以外との落差が激しいやつだ、とOlは内心嘆息する。</p><p>よかった。ちょっとは顔色良くなりましたね</p><p>そんなOlの顔を見つめて、フローロは呟いた。別に快楽で気分を紛らわしたわけではない。しかし不思議と、こうしてフローロと肌を重ねていると落ち着くのは事実だった。</p><p>じゃあ</p><p>一瞬前まで子を心配する母のような顔をしていたフローロの瞳が、途端に妖しい光を帯びる。</p><p>次はどんな体勢でしましょうか？</p><p>Olの一物に手を伸ばしながら、甘く囁くようにそう問いかけ。</p><p>何回する気だ！</p><p>先程から情事の終わりを部屋の外で待っていたユウェロイが怒鳴り込んできたのだった。</p><p>第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-2</p><p>何のようですか、ブラン</p><p>ユウェロイに呼び出され、フローロは多少不機嫌そうにブランに問うた。</p><p>まるで玉座だな、とOlは思う。</p><p>座面に柔らかそうな赤い布があしらわれた品のいい椅子に座るのは、こめかみの当たりから大きな角を一対生やした女だった。</p><p>その長いスカートの中には太い尻尾が、そしてOlは目にしたことはないが、背にはコウモリのような翼があるのだという。</p><p>侍女の着るような衣服に身を包み、フローロに対しては慇懃に接する。しかし彼女ブランこそが、この場を支配する主であることは明らかだった。</p><p>呼んだのは姫様ではなくOlです</p><p>わたしとOlは夫婦なのですから、一蓮托生です</p><p>Olの腕をぎゅっと抱きしめるフローロに、ブランは深くため息をつく。</p><p>今後の話をします</p><p>しかしそれ以上追求することもなく、そう話を切り出した。</p><p>王座の奪還を狙うのであれば、まず最上層に辿り着かなければ話になりません。しかし、上層以上に正攻法で近づくのは不可能です</p><p>結界か</p><p>以前Olがこのダンジョンの全貌を魔術で明らかにしようとしたとき、ある一定以上の階層は覗き見ることができなかった。おそらく透視だけではなく、出入り自体を拒む強力な結界が張ってあるのだろう。</p><p>ご存知のようですね。あの結界を通るには王の許可が必要です</p><p>ブランはどこか不満そうに拳を握り、小さく呟く。</p><p>私が全力で殴っても破壊はできませんでした</p><p>そもそも結界というのは物理的になにか壁が存在するわけではない。故に物理的な手段で破壊することもまたできないのだが</p><p>傷はついたのでもう少し威力を上げればどうにかなりそうではあったのですが</p><p>ブランにはそんな常識も通じないらしかった。この脳筋め、とOlは毒づく。元の言語にはなかった語彙だが、言語スキルで得た言葉の中でここまで端的にブランを表現できる言葉も無いだろう。</p><p>どちらにせよ、結界を破壊できたとしても王に届くまでには上層、最上層を抜けなければなりません。そこに住まう壁族全員を敵に回し王を討つのはあまり現実的ではありません</p><p>当たり前だと言うべきか、流石にそこを力づくで通す気はなかったかと感心するべきか、Olは少し悩んだ。</p><p>まずは壁族として力を蓄えユウェロイの地位を上げる必要があります。まずは上層に可能であれば、最上層に</p><p>地位を上げるにはどうしたらいい？</p><p>壁族というのは、Olの世界の貴族に近い概念らしい。貴族にも格爵位というものはあったが、それはそう簡単に上げ下げできるものではなかった。基本的には戦争で武勲を立てるか、領土を奪うかしなければならないものだが、この狭いダンジョン内で戦争などあるものなのだろうか、とOlは考える。</p><p>いくつか方法はありますが、最も手っ取り早いのはより上位の壁族に貢献し、その力を示すことです。より多くの、そしてより価値のある品やスキルを上納し、今いる壁族よりも有用だと思わせるそうすれば、より高い階層に取り立てられるでしょう</p><p>ブランは簡単に言うが、それがそう簡単な話であるはずがなかった。</p><p>この世界でなにか品を手に入れるには、基本的にモンスターを倒すしかない。しかしモンスターの強さも落とすものの質も、上層ほど高くなっていくのだ。中層で上層に住む壁族よりも高い貢献度を示すのは、相当骨の折れる話だろう。</p><p>Ol、あなたにはまず下層に現れた翼獅子の特異個体を退治してもらいます</p><p>特異個体？</p><p>極稀に現れるモンスターです。詳しくはユウェロイから説明を聞いて下さい</p><p>聞き慣れない単語にオウム返しに問うが、ブランにはそれ以上の説明をする気はないようだった。</p><p>では行きましょうか</p><p>姫様。お待ち下さい</p><p>当然のようにOlの腕を取って歩き出すフローロを、ブランが呼び止める。</p><p>この仕事はOl一人で解決しなければなりません</p><p>なぜですか！？</p><p>姫様には別の仕事がございます。それにこれは試練でもあるのです</p><p>案の定食って掛かるフローロに、ブランは冷静にそう告げる。</p><p>確かにその男に、姫様の供をする事は認めました。しかし、どれだけ役に立つのかはこれから見定めなければなりません。ましてや姫様の夫となろうと言うのならば、それだけの価値があると証だてる必要があります</p><p>むー別に、ブランに認めてもらう必要なんてありませんが</p><p>不満そうに唇を尖らせ、フローロ。</p><p>良いだろう。フローロ、お前は待っていろ</p><p>うーわかりました</p><p>Olがそういうと、フローロは不承不承ながらうなずいた。</p><p>一応これをお返ししておきます</p><p>ブランがダンジョンキューブの残骸を渡す。堅牢だった石の塊は大きく砕け、全体にヒビが入ってしまっている。</p><p>よくもまあ、派手に壊してくれたものだ</p><p>使えますか？</p><p>無理だな</p><p>これほど破損してしまっていては、自重に耐えることすらできない。展開すればバラバラに砕け散ってしまうだろう。修理するには大量の魔力と石材が必要となる。ダンジョンコアと龍脈の魔力がない以上、修復は不可能だ。</p><p>別の武器を手に入れる必要がある。Olはそう思案を巡らせるのだった。</p><p>いいか。私に話しかけるな。無駄口を叩くな。お前に許されているのは任務を遂行することだけだ。ブラン様の命令でなければ今すぐにでも突き殺しているところだ</p><p>開口一番、ユウェロイは鋭い目つきでOlを見据えながらそう言った。</p><p>お前とブランの関係は何なんだ？なぜ人間の壁族が魔族に従っている？</p><p>構わずOlがそう尋ねると、頬を槍がかすめる。</p><p>無駄口を叩くなと言っただろう</p><p>スキルで作り出した槍をしまいながら、ユウェロイは吐き捨てる。</p><p>だが特別に教えてやる。ブラン様は私にとっての恩人なのだ</p><p>しかし案の定、彼女はブランの話なら幾らでもしたいようだった。</p><p>私達の関係はそもそも人間の反乱の前、まだこの壁界を魔族が支配していた頃に遡る全ての魔族が奴隷である今と違って、人間も大半はただの民だった</p><p>先程までの不機嫌そうな態度とは裏腹に、ペラペラと語り始める。</p><p>だが私は運悪く親を失い、幼くして孤児となった。他に身寄りもなくもはや奴隷となる他なかった私を、ブラン様は下女として取り立て救ってくださったのだ</p><p>反乱後、魔族が奴隷となって後はその逆をしているというわけか</p><p>その通りだ。ブラン様の偉大さがわかったのなら、お前も忠実に従うが良い</p><p>まるで我がことのように誇らしげに語るユウェロイ。確かにそれは納得できる話ではあったが、この入れ込みようはただそれだけの理由でもないだろう、とOlは踏む。</p><p>酷い有様だな</p><p>ユウェロイと共に下層へと赴きしばらく進むと、Ol達は大量の死体が散らばっているのを見つけた。血溜まりの中、バラバラになった手足や胴体、首が八人分転がっている。</p><p>怖気づいたか？</p><p>その光景に眉をひそめるOlに、面白くもなさそうにユウェロイ。</p><p>これしきで怯まれては困る。お前は今からコレを作り出したものと戦うんだぞ</p><p>死体はこのままでいいのか？</p><p>嘲るような、失望したような声でいい、先に進もうとするユウェロイにOlはそう声を上げる。</p><p>このままとはどういう意味だ？</p><p>死体を燃やしたりしないのか</p><p>Olのダンジョンでは、居住区で出た死体は火葬にしていた。魔物たちが徘徊する上層ならそのままにしておけばスライムなり何なりが分解してしまうが、居住区ではそうもいかない。かと言って土葬にしてはいずれその部分を掘り進めないといけなくなったときに墓を暴かなければならなくなるからだ。</p><p>そのような必要はない。そうしておけば死したものはやがて母なる壁へと還るのだ</p><p>母なる壁。どうもそれがこの世界の宗教観であるらしい。文字通りの壁のことだけでなく、床や天井つまりはこのダンジョンを形作るもの全てに対し使う言葉だ。</p><p>普通に考えれば死体を放置していても腐るだけで石の床に吸収されることはないはずだが、何かしらの仕掛けがあるのだろう。</p><p>この先だな</p><p>被害者がいるということは、目的の特異個体とやらはそばにいるはずだ。Olが周囲を魔術で確認すると、すぐにそれらしきものが見つかった。</p><p>なに？ わかるのか？</p><p>驚いたように目を見開くユウェロイに首肯しながら、Olは隠形の術をかける。そして進んでいくと、翼獅子はすぐに見つかった。</p><p>体長およそ十フィートこの世界の単位に直せば三メートル程度の獣だった。首の周りに長い毛が生えており、縞模様の入った身体を支える太い六本の足に、頭からは捻じくれた角。名前の通り背にはコウモリのような翼が生えていた。言うほど獅子には似ていないが、そこは翻訳の都合もあるのだろう。</p><p>いた！ 何をボサっとしている！</p><p>動くな</p><p>その姿を見るやいなや全身を甲冑で覆い戦闘態勢に入るユウェロイを、Olは手で制する。</p><p>奴からは今、俺達の姿は見えていないし、声も聞こえていない</p><p>何？お前のスキルか？</p><p>そのようなものだと思え。だが大きく動けばこの隠形は解ける</p><p>ふうむ妙なスキルもあったものだな。だが動かねば戦えんだろう</p><p>どのみち同じことではないのか、とユウェロイは腕を組む。</p><p>戦わない。今回は情報収集に来ただけだ</p><p>何を馬鹿なことを敵を目の前にしていながら、尻尾を巻いて逃げるというのか！？</p><p>叫ぶな。大きく動けば術が解けると言っただろう</p><p>Olにしてみれば、能力も強さもわからない敵を相手に無策で挑むことの方がありえないことだった。ましてやあの翼獅子はどう見てもかなりの強敵だ。</p><p>貴様がそうしている間に、また民が死ぬのだぞ</p><p>民の事を案じていたのか？</p><p>だが、ユウェロイの口から意外な言葉が飛び出した。</p><p>他に何の理由がある？</p><p>正直、逃亡など誇りが許さないとかもっと馬鹿馬鹿しい理由であると思っていた。どうやらこの女のことを少々見くびっていたらしい、とOlは内心ユウェロイの評価を上げる。</p><p>だが無鉄砲に戦うわけにはいかんだろう。まずは相手の能力の見極めをだな</p><p>お前にやる気が無いのなら私が戦う！</p><p>しかし話もろくに聞かずに突撃する彼女に、上がった評価はすぐさま下降するのであった。</p><p>第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-3</p><p>おおおっ！</p><p>ユウェロイは雄叫びを上げながら突進し、その手にはスキルによって大振りな突撃槍が生まれる。この時点でOlがかけた隠形の術は解け、彼女の存在に気づいた翼獅子は呼応するように大きく翼を広げた。</p><p>はあっ！</p><p>投げ放たれた槍は、しかし翼獅子の厚い毛皮に阻まれかすり傷さえつけることなく弾かれる。そしてお返しとばかりに、その口から猛烈な炎が吹き出してきた。</p><p>だがユウェロイは避けるどころか、むしろ加速して炎の中に突っ込む。</p><p>この程度か！</p><p>そして翼獅子の身体に触れると、その手足に甲冑を生成して拘束してみせた。</p><p>この程度か、じゃない。お前、俺が耐火の術を使わねば今焼け死んでいたぞ</p><p>フン。私の鎧があの程度の炎に負けるものか</p><p>なんとかギリギリ術を間に合わせたOlに、ユウェロイは平然とそう答える。鎧そのものは負けずとも中身は蒸し焼きだろうが、と思うが、この世界の無茶苦茶なスキルとやらならあるいは熱も防ぐのかも知れない。</p><p>と、その時。ユウェロイの背後でミシリと不吉な音が鳴った。</p><p>翼獅子が自身を拘束する甲冑をへし折りながら、その太い前足を振るう。Olは咄嗟に間に割って入り、ダンジョンキューブを展開する。元々壊れかけていたキューブはそれで完全に砕けてしまったが、かろうじて一撃を防ぐ役にはたった。</p><p>まさかこの私に背中を見せろというのか！？</p><p>ユウェロイの腕を強引に引き、逃げ出すOl。流石に分が悪いと感じたのか、ユウェロイは舌打ちを一つして後に続いた。</p><p>翼獅子に絡みつかせるように展開されたダンジョンキューブがバキバキと破壊される音が背後から響く。少なくともブランの馬鹿力に匹敵する膂力を持っているということだ。これで仮に魔力があったとしても修復は完全に不可能になったな、とOlは内心でひとりごちた。</p><p>おい、行き止まりだぞ！</p><p>Olが逃げた先は、突き当りになっていた。背後からは翼獅子がすぐそこまで迫っていて、その口を大きく開ける。喉の奥からチカリと光が瞬いて、炎が吐き出されるその寸前、Olは壁を操作して翼獅子との間を遮断した。</p><p>ごう、と炎が吹き荒れ、壁に吹きかけられる音がする。しかし音はともかく、やはりダンジョンの壁は翼獅子でも破壊することはできないらしい。しばらく壁を引っかく音がしていたが、それもいずれ止んだ。</p><p>それで、これからどうするのだ</p><p>一つ、悪い報告がある</p><p>苛立った口調のユウェロイに、Olは平静な口調で告げる。</p><p>魔力が尽きた</p><p>何だ、それは</p><p>俺のスキルの源のようなものだ。それがなくては俺はスキルを使うことはできない</p><p>どういう理屈なのかわからないが、この世界の人間が使うスキルとかいう力には、元手が必要ないらしい。そんな訳はないと思うのだが、どんなに連発しても何かを消耗している様子はない。</p><p>ハッ。元々期待などしていなかったが、想像以上の無能だな。ブラン様には、やはりお前は何の役にも立たなかったと報告するとしよう</p><p>どうやってだ？</p><p>未だ状況を理解していないユウェロイに、Olは問う。</p><p>どうやってとは、何の話だ</p><p>魔力がないということは、この壁をどけることもできない、ということだぞ</p><p>Olは己が動かした母なる壁を拳で軽く叩く。</p><p>何？ その魔力とやらは、いつになったら回復するんだ</p><p>しない</p><p>魔力は、体力のように自然と回復するものではない</p><p>勿論、Olが元いた世界であれば話は別だ。あの世界には魔力が満ちていて、呼吸しているだけでも自然とゆっくり回復していく。だがこの世界は違う。魔力はほとんどどこにも存在しておらず、Olの生命活動によって減りこそすれ、自然と増えることはない。</p><p>それはまさか、ここから出ることもかなわんということか！？</p><p>お前がこの壁を破壊できないのならば、そうだ</p><p>母なる壁だぞ！？ できるわけがないだろう！ 鉄腕でも無理だ！</p><p>Olが張った壁はごく薄い。だがそれでも、物理的な破壊は翼獅子にすら不可能だった。試すまでもなく、ユウェロイの槍でも無理なのだろう。</p><p>なぜ穴を開けておかなかった！？この無能め！</p><p>無茶を言うな。見ただろう。あいつは炎を吹くのだぞ。穴など開けたらそこから炎を吹き込まれて蒸し焼きだ。それともお前が真っ向から戦って殺されていた方がマシだったか？</p><p>Olの問いにユウェロイはぐっと呻く。彼女とて、あの場に留まっていれば自分が負けていただろうことくらいは理解はしていた。</p><p>何かその魔力というのを回復する方法はないのか！？</p><p>まあ、ないわけではないな</p><p>ユウェロイはOlに詰め寄り、その胸ぐらをつかむ。</p><p>隠し立てするな。さっさと吐け</p><p>酷く気が進まない方法なのだが</p><p>言え</p><p>釣り上げるようにしてOlの身体を持ち上げ、ユウェロイは槍を突きつけて凄んだ。</p><p>お前とまぐわえばいい</p><p>あまりに想定外の返答に、ユウェロイは理解が追いつかず呆けたような声を上げる。</p><p>魔力というのは誰でも多少は持っているものだ。無論、お前の身体の中にも存在している。俺の見立てではお前の持っている魔力の半分ほども使えば、この壁に脱出できる程度の穴を開けられるはずだ</p><p>だがOlが詳しく説明するうちに、ユウェロイはようやく自分が何を言われているかを呑み込むことができた。</p><p>貴様、ふざけているのか！？ そんな事、できるわけがないだろう！</p><p>だから言っただろう。酷く気が進まない方法だと</p><p>吊り下げられ槍を喉元に突きつけられながらも、Olは腹立たしいほど冷静にそう告げる。</p><p>他に方法はないのか！</p><p>あっさりと断言するOlを放り出すように手を離し、ユウェロイは奥歯を噛み締め周囲を確認する。</p><p>我々が帰らなければ、ブラン様が救出をよこしてくれるはずだ</p><p>誰かが助けに来たとして、この壁をどうにかできるものはいるのか？</p><p>いるわけがなかった。母なる壁は本来、どんな力を持っても不変であり不滅であるからこその母なる壁なのだ。それを自在に操作するスキルなど、目の前のふざけた男以外に見たことも聞いたこともない。</p><p>だが、お前はもっと自在に母なる壁を操っていたはずだ。なぜ一回壁を動かしただけで魔力が切れる？</p><p>補給を邪魔されたからだ。俺はフローロと交わることで魔力を手に入れている。だが今日に限ってそれを中断されたのでな</p><p>淡々と告げるOlに、ユウェロイは朝のことを思い出す。Olとフローロの情事を中断したのは他でもない、ユウェロイ自身だ。</p><p>ではフローロ殿下がここに救援に来たならば</p><p>仮にそうなったとしてもどうしようもない。壁を隔てて魔力を受け渡しするような都合のいい方法はないからな。そもそもそんな事ができるのならば、お前の魔力を離れた場所から受け渡しすればいいだけの話だ</p><p>ユウェロイはよろめくように数歩たたらを踏んだ。自分が追い詰められている事が、じわじわと理解できてきた。</p><p>つまりこういうことか？</p><p>彼女は呻くように、尋ねる。</p><p>お前とセックスしないと私達はこの部屋を出られず死ぬ</p><p>そういうことだ</p><p>思い違いであってくれ。そんなユウェロイの願いをよそに、Olははっきりと首肯した。</p><p>第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-4</p><p>何だ妙に息苦しい</p><p>沈鬱な空気を、久方ぶりにユウェロイの声が震わせる。</p><p>固定空気だな</p><p>コテなんだと？</p><p>この密閉された小部屋を出るには、Olと交わる他ない。それを理解してからも彼女は決意することができず、Olもまた促したりする事もなく、無駄に時間が過ぎ去っていた。</p><p>空気とは通常目に見えず宙に漂っているものだが、中には木材や人の身の中に固定されているものもある。これが固定空気だ。火を燃やしたり、息を吐くとこの固定空気が放出され、通常の大気と混ざる。問題は、固定空気は生物にとって毒だということだ。広い場所であれば多少混ざっても問題にはならんが、これほど狭い部屋で密閉されていては溜まっていく一方だ</p><p>この固定空気は、実はOlのダンジョンにおいても問題となった物質だ。Olのダンジョンには外への出入り口が開いているとはいえ、最奥部まで風が吹き抜けていくわけでもない。そこに大量の生き物が住んでいれば、どうしても固定空気は溜まっていくのだ。</p><p>だからこそ、その果てに何が起こるかもOlは正確に知っていた。</p><p>喜べ。餓死するより、渇いて死ぬより先に、息が詰まって死ねるぞ</p><p>Olがそう告げると、ユウェロイの顔がさっと青ざめた。</p><p>貴様が、死ねば</p><p>少しは長生きできるだろうな。一日で死ぬ所が二日生きられるというわけだ。そうしたいならそうしろ</p><p>皮肉っぽく言うOlに、ユウェロイは突きつけた槍を力なく取り落とす。</p><p>なんとかしろ！</p><p>そう言われてもな。出来ないものは出来ん</p><p>それを何とかするのが貴様の仕事だろうが！</p><p>知ったことか。そもそも出来ることがあるのにせずにいるのはどちらだ？</p><p>唸る獣のようにがなり立てるユウェロイに対し、Olは淡々と返すのみ。</p><p>貴様、まさか最初からこれを狙って</p><p>そんなわけなかろうが。だいたい、止める俺を振り切って戦いを挑み、勝手に死にかけたのはお前の方だろう</p><p>全てはお前の策略だ、とばかりにユウェロイは噛みつくが、Olの放った正論にうっと呻いた。</p><p>さて、こうしている間にも民は死んでいくのだろうな。御大層な事を言ったときには少しは感心したものだったが、所詮は口だけであったか</p><p>ダメ押しとばかりにそう嘲るOl。安い挑発であるとはわかっていても、ユウェロイに避けるような余裕はあらゆる意味で残されていなかった。</p><p>わかった貴様の好きにしろ</p><p>とうとう覚悟を決め、ユウェロイは床に身を投げ出す。</p><p>背に腹は代えられん。貴様のその薄汚い、下衆な、魔力回復法とやらを行っていいと言っている！感謝しろ</p><p>察しの悪いやつだと言わんばかりの表情で、ユウェロイは吐き捨てる。</p><p>お前はまだわかっておらんようだな</p><p>だがそんな彼女を見て、Olは深々とため息をついた。</p><p>何をだ</p><p>言っただろう。酷く気が進まない方法だと</p><p>そんな事はわかっている！</p><p>いいや、お前は全くわかっておらん</p><p>首をゆっくりと横に振り。</p><p>俺は、お前など抱きたくないと言っているのだ</p><p>Olは、決定的な言葉を口にした。</p><p>予想もしていなかった言葉に、ユウェロイは目を大きく見開く。</p><p>貴様、な何という侮辱を！</p><p>だが一瞬後には言われた言葉を理解して、烈火の如く怒り始めた。</p><p>侮辱だと？ 侮辱しているのはお前だろう。俺はお前の部下でもなければ手下でもない。それどころか命を助けてやったのだ。なぜお前の側にだけ選ぶ権利があるなどと思う</p><p>ぐ</p><p>しかし返ってきたOlの言葉に、二の句が継げず押し黙る。</p><p>だ、だが私の協力がなくば、お前とて死ぬのだぞ！</p><p>実はもう一つだけ方法がある。しかしその方法は可能な限り取りたくない</p><p>その言葉を聞いた瞬間ユウェロイは跳ね起き、Olを壁に押し付けて槍を突きつけた。他に方法があるとなれば話は全く変わる。覚悟を決めて身体を差し出そうとまでしたのに、今更他の方法を隠していたなどとなれば、もはやOlの言う事など何一つ信用できない。</p><p>言え。その手段を取るかどうか判断するのは貴様ではない！</p><p>お前を殺すことだ</p><p>だが、提示されたのはよりありえない選択肢であった。</p><p>魔力というのは肉体とりわけ、身体の中の臓腑に宿るものだ。故に、最も臓器に近い生殖器を繋ぐことで魔力の道を作るわけだがそこにあるものを俺の身体の内に入れるなら、もっと単純で手っ取り早い方法があろう</p><p>つまり、ユウェロイを殺してその内臓を喰らえばいい。</p><p>貴様に私が殺せるか！</p><p>別に俺が殺す必要はない。待っていれば自然と息が詰まって死ぬだろう</p><p>Olから距離を取り、全身を甲冑で覆うユウェロイ。しかしOlは壁にもたれかかったまま、悠々と腕を組んでそう告げる。</p><p>その時は貴様も死ぬだろうが！</p><p>魔術師を舐めるな。魔力が尽きたと言っても、完全に使い果たしたわけではない。息を保つ術を使う程度の余裕はある</p><p>なにせ母なる壁を動かす魔術は非常にコストがかかる。明らかに何らかの魔術が付与された壁を、そこにかかった魔術ごと操作するためだ。例えるならなみなみと水のはいったコップを動かすのに等しい。しかし下手にこぼしてしまえばダンジョン全体が崩壊しかねないから、そうする他ない。</p><p>それに比べれば、体内に新鮮な空気を作り出す術など消費はほぼゼロに等しかった。</p><p>それを私にも使え！</p><p>そうして二人仲良く死んで何になるというのだ。そもそもこの術は他人には使えん</p><p>自分自身の肺腑の中に新鮮な空気を作り出すからこそ、消費が少ないのだ。流石に他人の体内に干渉するのはOlとて難しいし、かと言ってこの小部屋の空気全てを作り変えるなら流石に壁を動かす方が安くつく。</p><p>貴様に食われるくらいなら、先に貴様を殺す！</p><p>落ち着け。その方法は取りたくないと言っただろうが。そうするつもりなら、お前に教えるわけがないだろう。ただ黙って死ぬのを待てばいい。お前が言えというから言ったまでだ</p><p>両手に槍を作り出し戦闘態勢に入りかけるユウェロイを、Olは落ち着いた仕草で宥める。</p><p>固定空気にしたってそうだ。放っておけばじきにお前は意識を喪失し、そのまま二度と目覚めることなく息絶える。それをわざわざ説明してやったのは、お前を死なせたくはないからだ</p><p>死なせたくない？</p><p>ユウェロイはOlの言い回しに引っかかりを覚え、問い返した。</p><p>殺す気はないとか、死なせるつもりはないとかなら、わかる。王座を奪還しフローロを魔王に据えるというOlの目的のためには、ユウェロイの壁族としての立場は今後絶対に必要になるからだ。</p><p>だが死なせたくないという言い方は、そういう利害関係とは別のニュアンスを孕んでいた。</p><p>ああ。俺は、お前のことを殺すには惜しい奴だと思っている</p><p>無論、壁族という立場は抜きにした話だ、とOlは付け加える。</p><p>お前は類まれなる武勇を誇る真の戦士であり、同時に民を思いやることが出来る良き壁族だ。みすみす殺してしまうには惜しい</p><p>そのような見え透いた世辞でこの私が喜ぶなどと思うなよ</p><p>絞り出すような声で、ユウェロイは憎まれ口を叩く。だがその口ぶりには、隠しきれない喜色があった。</p><p>ユウェロイについての愚痴は、彼女の部下であるフォリオから散々聞いていた。他者に正当な評価をくださないものは、たいてい自身も他者から正当な評価を受けることはないものだ。</p><p>この状況で世辞を口にしてどうなる。単純にお前への評価を口にしたまでだ</p><p>確かにそれはそうだ、とユウェロイは思う。抱かれることを拒んでいた時であればまだわかるが、今ユウェロイはそれを承諾した後なのだ。</p><p>ならば、さっさと私を抱けばいいだろうが</p><p>死なせたくないなどと言うくせに、一体何を躊躇っているのか。</p><p>それとこれとは話が別だ</p><p>こうしている間にもユウェロイの呼吸は徐々に苦しくなり、視界が歪み、意識が朦朧とし始めている。だがOlは大仰に首を振り、言った。</p><p>お前には女としての魅力を全く感じないからな</p><p>そしてその言葉は、ユウェロイに多大な衝撃を与えたのだった。</p><p>第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-5</p><p>ユウェロイはOlに投げつけられた言葉の衝撃に、怒り狂うことさえできずにただただ言葉を失った。</p><p>ユウェロイ。お前、部下から侮られていると感じることはないか？</p><p>な、何故そんな事を聞く</p><p>続く唐突な質問に、ユウェロイは思わず問い返した。しかしそれは、肯定しているも同然の返答だ。</p><p>俺がお前を抱きたくないのと同じ理由だからだ。折角麗しい見目と高潔な誇りを持っているのに、それでは男も部下もよりつくまい</p><p>理由とは何だ。聞いてやる、言ってみろ</p><p>居丈高に問うユウェロイにOlは嘆息し、言った。</p><p>まさにその物言いのような態度だ。上から威圧的に言いつけるばかりでは人はついては来ぬ</p><p>私を侮辱しているのか！？</p><p>いや。勿体ないと思っている</p><p>肩をすくめあっさりと言うOlに、激昂しかけたユウェロイは毒気を抜かれる。</p><p>お前が類稀なる勇士であり、善良な領主であることは世辞でも何でもない。率直な感想だ</p><p>それは実際、Olの心からの感想だった。もっとも、単純な褒め言葉というわけでもないが。善良な領主が有能な領主であるとは限らないからだ。</p><p>なのにお前自身は全くそう思っておらんだろう。不幸なことだ</p><p>ユウェロイは思わず息を呑んだ。それは、誰にも明かしたことがないいや、今の今までユウェロイ自身でさえ、明確には認識していない事実だったからだ。</p><p>お前は強く善良だ。そんな者が誠意を持って頼み事をすれば、まともなものなら誰も断らぬ。にも関わらず、わざわざ高圧的に命じて反発を招く</p><p>ずいと一歩踏み込むOlに、ユウェロイは後退る。長身なユウェロイよりも若干背が低いはずの男が、やけに大きく感じられた。</p><p>お前が、お前自身を信じられておらんからだ</p><p>肩書に頼り、一方的に命令する。あるいは威圧し、武力で言うことを聞かせる。</p><p>それはここに至るまで、ユウェロイがOlに対しても行ってきたことだ。</p><p>しかしそれは相手が言うことを聞くのが当然だと思っているからではなく、むしろその真逆。肩書を持たない自分自身に相手が従うと思っていないからこその行動だった。</p><p>女としての魅力を感じないと言われ、お前はなんと思った？</p><p>Olの指先がユウェロイの胸元を指し示す。</p><p>怒りはあっただろう。だがそれ以上に納得してしまったのではないか？</p><p>それはまるで心臓を鷲掴みにされたかのような感覚だった。</p><p>ユウェロイの身体から、力が抜ける。そして壁に背を預けたまま、ずるずると床に座り込んだ。Olの言う通りだ。ユウェロイは、それを心の何処かで真っ当な評価であると思ってしまっていた。</p><p>全く、愚かなことだ</p><p>正しくその通りだ、とユウェロイは思う。虚勢は全て見破られ、生命は相手の手に握られている。どのような事を要求されても、もはや断ることはできない。</p><p>お前は強く、正しく、そして美しい。真っ当に頼まれれば俺とてどんな願いも拒めぬだろうに</p><p>だが、続いたのはユウェロイが思ったのは真逆の言葉だった。</p><p>こ、断っただろうが！</p><p>真っ当にと言っただろう。それに、お前が言ったのは好きにしていいだ。頼み事をしたわけではない</p><p>それはそうかとユウェロイは納得するが、それはつまり改めて頼めという要請でもある。そう簡単に口にできたら苦労はしない、とユウェロイは内心毒づいた。</p><p>自信を持て、ユウェロイ。お前は十分美しい。それに、別に媚びへつらえと言っているわけではないのだ。ただ単純に対等な立場から、頼めばいい</p><p>それを見透かしたように、Olはそう口にする。流石にそこまでお膳立てされてなお意地を張る程の余裕は、精神的にも肉体的にも残されていなかった。呼吸も既に随分と苦しい。</p><p>わかった私を抱いて、くれ</p><p>心得た</p><p>全身を包んでいた甲冑を消し、消え入るような声色で呟くように言うユウェロイの手を、Olは恭しく取って引き寄せる。</p><p>そして、腰を抱いて頬に手を添えながら、その唇に口づけた。</p><p>それはこちらの台詞だ</p><p>途端、Olはユウェロイに殴り飛ばされてたたらを踏んだ。</p><p>まぐわいに接吻など必要ないだろう！</p><p>それはそうだが息苦しさは抜けたか？</p><p>そう言われて初めて、ユウェロイは呼吸が多少楽になっていることに気がついた。</p><p>息を保つ術は自分にしかかけられぬと言っただろう。口移しに俺の肺腑で生まれた新鮮な空気を送っただけだ。不要だったか？</p><p>不要なはずがない。目に見えない毒素が溜まっていき、いつ死ぬとも限らない環境に身を置きたいはずがなかった。</p><p>どうやらお前には荒療治が必要なようだな</p><p>ヒリヒリと痛む頬を擦りながら、Olはユウェロイを軽く睨む。</p><p>今から、俺はお前が頼んだことしかしない。良いか。命ずるのではなく、対等の立場で頼んだことだけだ</p><p>な何だと！？</p><p>別にそのまま死にたいのであれば、好きにしていいが</p><p>素気なく言い放ち腕を組むOlに、彼が本気であることをユウェロイは悟る。</p><p>ぐっわかった。私を、抱いてくれ</p><p>とは言え先程も言った言葉だ。二度目ともなればそこまでの抵抗もなく、ユウェロイはそれを口にする。</p><p>構わんが、具体的にどうして欲しいのだ？</p><p>だがそんな事を言い出すOlに、危うくもう一度拳を振るうところだった。</p><p>具体的にだと！？ どういうことだ！？</p><p>そうだな。まずは前戯をした方がよかろう。そのままでは痛みを伴う</p><p>それはつまり、前戯をしてくれと頼まなければならない、ということだった。そんな屈辱的なことができるか、とユウェロイは内心吐き捨てる。</p><p>いらん。さっさと終わらせろ終わらせて、くれ</p><p>ふむ、そうか？</p><p>命令ではなく頼むと心の中でつぶやきながらユウェロイがいうと、そんな葛藤などどこ吹く風でOlは頷く。</p><p>そして、既に硬く膨れ上がったものを取り出してみせた。</p><p>なな、何だそれは！？</p><p>どうした。男の性器を見るのは初めてか？</p><p>それはそうだがいや、違う、そういう問題じゃない！</p><p>それは、ユウェロイの知識にあるものよりも明らかに巨大だった。</p><p>そんなものが入るわけないだろう！</p><p>だから、前戯を行わなければ痛いと言っているだろう</p><p>そういう問題じゃない、とユウェロイは首を振る。股間からもう一本腕が生えているのではないかと思うほどの太さと長さ。あんな物を入れれば身体が裂けてしまうとしか思えなかった。</p><p>ならば、頼めばいいだろう</p><p>完全に腰の引けたユウェロイに対し、Olは何でもないことのように言う。</p><p>頼む？ 何をだ？</p><p>痛くしないようにとだ。言っただろう。お前が望むのであればそれを叶えてやると</p><p>そんなこと不可能だろう、とユウェロイは思う。だが、どのみちあれを入れなければ死ぬしかないのだ。槍で腹を裂かれるようなものと我慢するしかない。武人として、その程度の怪我には耐えたことがある。</p><p>事が終われば我が槍でそれ以上の苦痛を与えてやる、と誓いつつ、ユウェロイは頷く。</p><p>わかったなるべく、痛くしないでくれ</p><p>心得た。では、ここに横になれ</p><p>Olは羽織っていたローブを脱ぐと、それを床の上に広げた。ローブには物理的な衝撃を防ぐ魔術がかかっているため、下に敷けばちょうどよいクッションにもなるのだ。</p><p>ローブの上に身を横たえたユウェロイの服を脱がし、彼女の肌に触れる。途端にユウェロイは身体を震わせたが、これは純粋な嫌悪感によるものだろう。</p><p>声を我慢する必要はないぞ。どうせ外には伝わらん</p><p>だがあえてOlはそう伝えた。</p><p>ふん、無用な心配だ。汚らわしい男に触れられて快楽を感じるわけがない</p><p>言葉とは裏腹に、声を出すまいと言う意識を発生させるためだ。</p><p>Olはゆっくりと、焦らすように彼女の秘裂を指でなぞる。膣内に指を入れることなく、表面を撫でるように。声を出すまいと堪えるほどに、ユウェロイはその愛撫を無視できず、むしろ強く意識してしまう。Olの愛撫に抵抗するように、ユウェロイの身体が小刻みに震えるのが指先から伝わってきた。</p><p>無駄なことはするな、さっさとあぁっ！</p><p>耐えきれなくなったユウェロイが言うのと同時に指をつぷりと侵入させる。じっと口を噤んでいる間ならばともかく、喋っている瞬間に刺激されては人は声を堪えることができない。</p><p>済ませろっ</p><p>案ずるな。ちゃんとよくしてやる</p><p>そして一度嬌声を上げてしまえば、もはや止められない。Olの指がユウェロイの膣内で蠢くたびに彼女は小さく声を漏らした。男のゴツゴツした指先が、その作りとはまるで裏腹の繊細さでユウェロイの中を撫でる。</p><p>弱い部分を的確に、無意識に欲してしまう絶妙な強さで刺激してくる様は、まるで心でも読めるかのようだった。</p><p>感じることなどないとっ、言っているだろうっ！</p><p>その割には随分良い音を立てているようだな</p><p>頑なに否定するユウェロイにも聞こえるように、Olはわざと音を立てて彼女を責め立てる。</p><p>肌に触れればわかる。ユウェロイは間違いなく男を知らぬ生娘だ。だがそれにしては膣内は随分と開発されていた。処女であれば媚薬も魔術も無しにここまで感じることなどない。そして何より、他者に身体を委ねることに慣れきっている。</p><p>は、ぁっ私は、感じてなどっあぁっ！</p><p>ぐちゅぐちゅと音を立てる秘所からは大量の愛液が漏れ出し、ヒクヒクと震える膣壁を撫でる度にきゅうきゅうと締め付けた。頬は上気して何度も喘ぎ声を漏らし、肌は汗ばんで額に髪がしっとりと張り付いている。それでもユウェロイは快楽を感じていると認めない。</p><p>あっ、ダメッ、やめっあぁっ、くぅっ！ あぁっ！ はぁぁっっ！</p><p>そしてとうとう、ユウェロイは絶頂に達した。</p><p>ま、待てっ！ あっ、んんっ！ やめろ！</p><p>だがそれでも愛撫の手を止めようとしないOlを、ユウェロイは大きく息をしながら制止する。</p><p>やめろ？</p><p>ややめてくれ、頼む</p><p>命令口調を見咎められ、ユウェロイが慌てて言い直すとようやく手が止まった。激しく喘ぎ呼吸を繰り返したせいか、先程までよりも呼吸が苦しく、軽いめまいさえ覚える。</p><p>息息が、できない空気をくれ、頼む</p><p>先程のように口づけて欲しい、ということか？</p><p>とぼけるように問い返すOlに、ユウェロイは一も二もなく頷く。</p><p>口づけていい口づけてくれ</p><p>頷いても、許可を与えても動こうとしないOlに、頼む形で告げるとようやく肺の中に新鮮な空気が入り込んできた。こちらが死にかけていようと、本当に頼まなければ何もしないつもりなのだ、とユウェロイは悟る。</p><p>それで、次は？</p><p>前戯とやらは、もういいだろうしてくれ抱いて</p><p>これ以上されてはおかしくなりそうだった。それなら、あの太い槍で貫かれた方がまだマシだ。激しい痛みに襲われれば、快楽を感じる余裕もなくなる。ユウェロイはそう考えた。</p><p>だが、初めて男に押し入られる感覚は、想像していたものとは全く違った。</p><p>ひっあぁっ！</p><p>太く硬いものが、己の中に入ってくる感覚。巨大なものが腹を圧迫し押しつぶされるかのよう。</p><p>ふぐっうっ、は、あっ！</p><p>声というよりも息そのものが押し出され、口から漏れる。</p><p>それは、思っていたような痛みは一切伴うものではなかった。例えようもない圧迫感が腰から下を支配しているが、Olが請け負った通りそこに苦痛は感じられない。ただ息さえ詰まるような圧があるだけだった。</p><p>奥まで突き入れたOlが腰を引き、肉の槍がユウェロイの中から引き抜かれていく。すると次に感じたのは、喪失感だった。先程までみっちりと己の中を満たしていたものがなくなり、そこにポッカリと空洞の残る空虚さ。</p><p>呼吸が楽になるかと思えば全くそんなことはなく、押し出された空気は戻ってくることなくただただ失われたかのようだった。</p><p>あがぁっひ、ぎぃっ！</p><p>かと思えば再び剛直が奥まで突きこまれて、先程とは全く違う感覚をもたらした。無理やり押し広げられ圧迫されるのではなく、あるべきものがあるべき場所へと帰ってきたかのような感覚。</p><p>そして同時に、全身が痺れ貫かれるかのような快感だった。</p><p>口づけ口づけ、してっ</p><p>圧迫と快楽によって追いやられた呼気を求めて、半ばうわ言のようにユウェロイは懇願を口にする。絶え絶えに掠れた声で発した求めはしかし即座に叶えられて、Olの柔らかな唇の感触とともに新鮮な空気が肺へと満たされる。</p><p>んぅぅっ！</p><p>途端にずん、と奥を抉られて、手に入れたばかりの空気はすぐさま吐かされる。それと同時に、Olの唇もユウェロイの元から離れていった。</p><p>もっと口づけしてっ</p><p>すぐさまユウェロイは首を伸ばしながらそう請う。</p><p>空気というものがこれほど美味しいのだと、彼女は初めて知った。胸いっぱいに吸い込む新鮮な空気を貪るユウェロイの膣内に、みっちりと肉の塊が埋め込まれていく。</p><p>胸と腹とを同時に埋めるその充足感に、ユウェロイは身体を震わせた。指を入れるのとは全く違う、暴力的なまでの快感がユウェロイの全身の隅々まで満たしていく。</p><p>キスしてぇっ唇、離さないで！</p><p>男根が引かれるたびに律儀に離れていく唇に、ユウェロイはもどかしくなってOlの首に腕を回しながらそう懇願した。すると重ね合わされた唇から、呼気だけでなく舌までもが割り入ってくる。</p><p>ユウェロイは一瞬驚きに身を震わせるが、それでも肺腑を満たす空気の魅力には抗えずそれを受け入れる。</p><p>んっ、ふ、んんっ、は、ぁんっ！</p><p>程なくして、それも悪いものではないとわかった。呼気と性器とに加え、柔らかな舌が己の舌を優しく捕らえ、口内を満たしていく。それはまた別種のそして、心地よい快楽であったからだ。</p><p>んむぅっ、んんっ、ふ、ぅっ！ んぅっ、んっ、ふ、ぅぅんっ！</p><p>上から下まで全てをみっちりと埋められて満たされる多幸感の中、腹の奥に何度も何度も快楽が叩き込まれていく。もはやユウェロイはほとんど考えることもできず、夢中になってその快感に身を委ねることしかできなかった。</p><p>両手両足でOlにしがみつき、自ら腰をくねらせて男を受け入れ、少しでも唇が離れればキスを懇願していることにすら気づいていない。そうして快楽を貪り、何度目かの絶頂に達するという、その瞬間。</p><p>Olは、唐突に動きを止めた。</p><p>どうして。ユウェロイは声に出さず、信じられないものを見るような瞳でOlを見つめる。</p><p>して欲しい時はどうするのだった？</p><p>して奥を、満たしてぇ！</p><p>酸欠と快楽で思考能力を失ったユウェロイは躊躇うことなく口に出す。</p><p>あ、はぁぁあぁっ！</p><p>望み通り、ずんと奥を貫かれる感覚に、弓なりに背を反らしてユウェロイは達する。</p><p>出して、出してぇっ！</p><p>そしてOlの宣言にそれまでしてきた通り、何も考える事なくそう懇願した。膣内でOlの物がさらに大きく膨れ上がり、精を吐き出すのをユウェロイは感じる。</p><p>しかしその白濁の液が自分の最奥を満たしていく感覚に、彼女もまた更に深く絶頂するのだった。</p><p>第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-6</p><p>目が覚めると、ユウェロイはOlと繋がったまま、彼の胸に顔をうずめるようにして横になっていた。</p><p>起きたか。ちょうどお前から得た魔力が馴染んだところだ</p><p>ああそうか</p><p>頭に残る多幸感の残照と倦怠感にぼんやりとしながらも、ユウェロイはのろのろと身体を起こす。</p><p>Olの一物は既に小さくなってはいたが、それでも己の膣内から引き抜くと喪失感のような物が胸によぎった。</p><p>が、その直後、股間から垂れ落ちる大量の白濁を見てユウェロイは我に返る。</p><p>貴様、よくも好き勝手してくれたな！</p><p>出せと言ったのはお前だろう</p><p>そ！</p><p>確かに言った記憶があった。思い返せばあの時の自分はどうかしていたと言う他ないが、あの途方もない幸福感と満たされる充足感までをも思い出してしまい、ユウェロイの怒りは急激に萎びていく。</p><p>安心しろ。魔力の譲渡で孕むことはまずない</p><p>ちっ。まあいいだろう</p><p>舌打ちしつつ、ユウェロイは乱雑に脱ぎ捨てられた衣服を纏う。</p><p>それで、その魔力の譲渡とやらはうまく行ったんだろうな</p><p>無論だ。既に空気穴をいくつかあけてあるから、頭もすっきりしているだろう。お前が服を着終われば出入り口も開ける</p><p>壁を指差すOlの指先を見れば、確かに小さな穴がいくつも空いていた。</p><p>ということは、この壁の向こうに翼獅子はいないのか？</p><p>ああ。場所も確認している。奴は最初に出会った広間に戻っているようだ</p><p>Olが開けた小さな穴からは、向こう側を覗き見ることすらできない。しかし最初に出会う前も、Olは翼獅子の場所を言い当ててみせた。敵の場所を感知するスキルでも持っているのだろう、とユウェロイは納得する。</p><p>このまま向かっていっても二の舞だ。戦うのであれば策を練る必要がある</p><p>Olの言葉に、ユウェロイは素直に頷いた。無策で突っ込んでまた同じ目にあいでもしたら</p><p>そう、そうなったら最悪だ、とユウェロイは自分に言い聞かせるように独りごちる。</p><p>貴様の母なる壁を動かす術は、穴を開けた後も使えるか？</p><p>ああ。思ったよりもお前の持っている魔力が豊富だったからな</p><p>魔力などという、どこにあるのか何であるのかすらわからない物が多いと言われても嬉しくも何ともない、とユウェロイは思う。</p><p>この私を抱いたのだから、褒めるならばもっと別の部分を褒めるべきではないか？ そんな思考を彼女はすぐさま振り払った。どうやらまだ空気が十分足りていないらしい。</p><p>ならばそれで拘束できるか？</p><p>難しいな。奴は動きが速すぎる。四方を囲もうにも逃げられるだろうし、袋小路に追い込めば俺たちまで一緒に閉じ込められかねん</p><p>Olが操作する壁の動きはそれなりに速いが、瞬く間にというわけにはいかない。せいぜい、人が走るのと同じくらいの速さだ。翼獅子のスピードならやすやすと抜け出してしまうだろう。</p><p>広間の出入り口を全部塞いでしまうという手はあるが</p><p>いや、それは駄目だ。あの広間を塞いでしまうと孤立してしまう領民が出る。それに、別の出入り口に移動するにはどうしたって翼獅子の前を通らなければならない</p><p>Olの隠形を使えば気づかれずに通り抜けられるかもしれないが、広間にある出入り口は三つだ。一つ塞いだ時点で翼獅子に気づかれるだろうし、警戒して逃げられれば厄介なことになる。</p><p>私が止める</p><p>考えた末、ユウェロイが出した結論は。</p><p>最初の戦いで、一瞬とは言え動きを止められたのはお前も見ただろう。何重も甲冑を生み出せば、お前が壁で捕らえる程度の時間は稼げるはずだ</p><p>だから、と彼女は続ける。</p><p>頼めるか</p><p>そのように頼まれては否とは言えんな。わかった、任せておけ</p><p>笑みを浮かべて請け負うOlにユウェロイもほんの僅か唇を笑みの形に歪め、二人は更に作戦の詳細を詰め始めるのだった。</p><p>好都合だな。寝ているぞ</p><p>二人が隠形をかけて身を隠し広間へ戻った時、翼獅子は部屋の中央で丸くなり寝息を立てているところだった。</p><p>モンスターも眠るのか？</p><p>当然だろう</p><p>何を言っているんだ、と言わんばかりの表情でユウェロイ。</p><p>壁が動けば途中で気取られる可能性がある。作戦通り、まず私が甲冑で奴を拘束する。お前は同時に壁を動かし、閉じ込めてくれ</p><p>小声でそう言葉を交わし、隠形が破れないようゆっくりと翼獅子に近づいていく。</p><p>甲冑を出せば流石に気づかれてしまうだろうが、その時真正面にいてはすぐさま牙や爪、炎が飛んでくる。できれば背後から拘束したいところだが、Olが壁を立てるのも後ろ側からでなければ閉じ込めようとしていることが即座に気づかれてしまう。ほんの一瞬の差だろうが、その一瞬が命取りになるかもしれない。</p><p>故にユウェロイは翼獅子の側面から近づくことにした。六本の脚を抱くようにして丸くなって眠る翼獅子の背中側に陣取り、手を伸ばす。作り出すのはその脚を固定する篭手と具足だ。まずは三組六つの篭手を翼獅子の脚にはめ、その上から具足をはめる。</p><p>人間と翼獅子とでは関節の形がまるで違うから、向きや大きさはさほど気にしなくてもいい。とにかく生み出しさえすれば動きを止められるはずだった。</p><p>ユウェロイ、待て！</p><p>Olが警告の声をあげるよりほんの一瞬早く、翼獅子の呼吸音が変化した。それを寝息から唸り声へと変えながら、翼獅子はユウェロイの手をかわして身を翻す。そして天井近くまで舞い上がると、大きく開けた口からチカリと光が瞬いた。</p><p>寝たフリをしていたのだ。</p><p>それはモンスターとは思えない知能の高さだった。同じ階層のモンスターよりも大幅に高い能力を持つ特異個体とはいえ、Olの隠形を見破り、寝たフリをして騙して誘い込む。</p><p>更にはユウェロイの甲冑を作り出して拘束する能力すら把握している。そんな知能を持ったモンスターなど、今まで見たことも聞いたこともなかった。</p><p>死んだ、とユウェロイは思う。</p><p>彼女の神経は篭手を六つ作り出すことに集中しきっていて、全身の甲冑を作り出す動作に切り替えるのにほんの半瞬遅れた。しかしその半瞬で、炎はユウェロイを飲み込んで殺すだろう。忍び寄るのに邪魔になるからと防御を解いていたのが災いした。</p><p>彼女が完全に死を覚悟したその瞬間、しかし吐き出される紅蓮の奔流を遮るものがあった。</p><p>Ol！？ 何をしている！</p><p>耐熱のローブと耐火の術を使ってこれか！</p><p>ユウェロイに覆いかぶさったOlは、苦悶の表情を浮かべながら彼女を守っていた。</p><p>何をしている！？</p><p>なに、良い女の頼みを聞いているだけのことだ</p><p>ニヤリと笑みを浮かべ、Olは虚勢を張る。</p><p>いいか、三つ数えたら、目の前に鎧をつけろ</p><p>目の前と言われても、そこにいるのはOlだ。炎を防ぐためにも甲冑を被せてやりたいところだが、着慣れてもいないものに着せてもロクに動けなくなるだけだ。炎は防げても爪や牙の餌食になるだろう。</p><p>俺を信じろ</p><p>だが、ユウェロイはOlの言葉に余計なことを考えるのをやめた。</p><p>３</p><p>Olの着ているローブの裾に、火が灯る。付与された耐熱魔術の限界を超えたのだ。</p><p>２</p><p>だがOlは慌てもせずに数を数える。ローブの炎が燃え上がり、彼の体を包む。</p><p>１</p><p>ユウェロイの視界が、独特の浮遊感とともに切り替わった。Olの姿が掻き消え、代わりに目の前に見えるのは翼獅子の背中だ。そしてそのときには既に、ユウェロイは全身甲冑のスキルを発動させている。</p><p>落ちろぉぉっ！</p><p>羽ばたく翼の根本を、ユウェロイは甲冑で覆った。その重みと拘束とで、翼獅子はバランスを崩し地面に落下する。</p><p>そしてすかさず、Olが迷宮の床石を紐のように引っ張り上げて、翼獅子の六本脚と口元に縛り付けた。母なる壁でできた口輪をつけられてしまえば、牙を剥くことも炎を吐くことすらままならない。</p><p>やれやれ、なんとかなったか</p><p>Olがなおも燃え盛るローブを脱ぎ捨てて、服に纏わりつくような炎をはたき落とすと、彼に燃え移っていた炎は掻き消えた。だが当然、無傷というわけにはいかない。そこかしこに火傷ができてしまっていた。</p><p>ああ。石さえ燃やす炎に焼かれた時に比べれば大したことはない</p><p>妙な冗談を飛ばしながら、Olは拘束された翼獅子を見やる。</p><p>で、拘束したはいいがどうする？ 槍は通じんのだろう</p><p>捨て置けばいい。人を殺せなければモンスターはいずれ消える。その場合ドロップ品を回収できんのは業腹だがいや、フォリオの部下に腕持ちがいたか。奴ならば倒せるかも知れんが</p><p>とはいえ、恐らく回収に来る前に消えてしまうだろう、とユウェロイは言う。</p><p>無力化されてしまったモンスターは特にすぐ消えてしまうものらしい。</p><p>何にせよ今回はよくやった。Ol、お前のことを少しは認めてやる</p><p>笑みを見せ、素直にユウェロイはOlを労う。</p><p>ならば一つ、俺はお前に謝らねばならんことがある</p><p>そう切り出したOlに、自分を抱いたことを謝罪するつもりなのだろう、とユウェロイは思った。</p><p>成り行き上仕方なかったこととはいえ、確かにそれは謝罪して然るべきことだ。ならば寛容に許してやろう、とユウェロイは考える。昨日までのユウェロイであれば、ダンジョンの上下がひっくり返ってもそんな事を思いはしなかっただろう。このような変化が自身に訪れるとは、少し信じられない思いであった。</p><p>先程、お前を転移させただろう</p><p>ああ。まさかあのようなスキルがあるとはな</p><p>だが、Olは突然全く別の方向に話を飛ばした。とはいえ、先程の連携は即興にしては悪くないものだった。ユウェロイも快く話に乗ってやる。</p><p>あれは壁を動かすより遥かに少ない魔力で出来る</p><p>まあそうだろうな。母なる壁を動かすのに比べれば</p><p>そもそも絶対不変なる母なる壁を動かすなど、この目で目にしていなければ信じられないことだ。それに比べれば、瞬時にして移動するスキルくらいは他にもいくつか存在はしている。</p><p>うむ俺もうっかりしていた。酸素が足りず頭が回っていなかったのかもしれん</p><p>いつまで経っても本題に入らないOlにユウェロイが次第にイライラし始めたとき、彼はあっさりと言った。</p><p>アレを使えば魔力補給の必要はなかった</p><p>どうでしたか？</p><p>奴は最低の男です！今すぐ首を刎ねたほうがいい！</p><p>ブランが無事に特異個体の討伐から帰還したユウェロイに問うと、彼女は酷く憤慨した様子でそう言い捨てた。</p><p>あらまあ</p><p>ブランの前でユウェロイがここまで感情を露わにすることはなかなか珍しい。</p><p>ですが</p><p>あの男は一体何をしてのけたのだろうか、と首をひねるブランに、ユウェロイはポツリと口にする。</p><p>最低限の力はあるそれだけは、認めます</p><p>総合すると、役には立ったがユウェロイの気に入らなかった、という辺りだろうか。まあ、詳しいことは寝物語にでもゆっくり聞けばいいだけのことだ。</p><p>何にせよ、ご褒美をあげましょう。閨にいらっしゃい</p><p>そう思ってブランがいつものようにユウェロイを誘うと、彼女はいつものように喜びに表情を輝かせしかし、何かを思い出したかのように動きを止めた。</p><p>申し訳ありません、ブラン様。特異個体は思ったよりも強敵で少々疲弊しておりまして</p><p>そうでしたか。ならば無理はいけませんね</p><p>確かに思っていたより時間がかかったし、ユウェロイも随分くたびれた様子だった。</p><p>言われてみれば服の裾が焼け焦げているし、火とはなにか妙な匂いもしますね。よほど大変な相手だったのでしょう。しっかり休んでください</p><p>ブランがそう言うと、ユウェロイは顔を真赤に染めた。</p><p>し、失礼しますっ！</p><p>そしていささか乱暴に扉を閉めて立ち去る様子に、Olはよほどユウェロイを怒らせたらしい、と考えるのだった。</p><p>第9話部下の望みを叶えましょう-1</p><p>Olは一人、己の頬を撫でながら歩いていた。</p><p>篭手をはめたユウェロイに思いっきり殴られた傷は、身体に負った火傷と一緒に治し終わっているが、骨にまで響く痛みは後々まで尾を引くものだ。とはいえ、その痛みは払いすぎた駄賃のようなものだった。</p><p>ユウェロイを籠絡したのは彼女に協力させ、信頼させるのに必要なことだったが、あまり信頼されすぎても困る。なぜなら、その後ろにいるブランをどうにかする力を今のOlは持っていないからだ。</p><p>フローロを使った奇襲でなんとか認めさせはしたものの、打倒したとはとても言えない。ブランにとってOlは顎で使う存在でしかない。</p><p>厄介なのは、ブランが極めて武力を偏重する性格なのと、彼女が英雄並みの実力を備えているということだ。Ol自身が単独で倒す必要は恐らくないとは思うが、真っ向から戦って打倒しない限りそれも、一度限りしか通用しない搦め手ではなく、十度戦って十度勝てる手段を用意しなければならない。そうでなければ、ブランがOlを認めることはないだろう。</p><p>まずその第一歩として、Olは一人翼獅子の元を訪れていた。</p><p>未だ消えずにいた翼獅子は、Olを見るなり唯一自由な翼をバタバタと暴れさせ、六本の脚を突っ張り、恨みがましい瞳で見つめながら喉だけで唸った。紐状に伸ばした床石で封じられた口の隙間から、炎が立ち上る。こんな状態になってもまだ、戦うことを諦めていないのだ。ユウェロイが言うように消えてしまっていないのも、それが故だろう。</p><p>そう怒るな。俺はお前と、契約に来たのだ</p><p>Olがそう告げると、喉の唸り声は収まらないものの、翼獅子の様子はやや怪訝そうに様子を見るものへと変化した。やはり言葉はある程度通じている。</p><p>お前の望みを叶えてやる</p><p>そういった途端、翼獅子は大きく唸って身体を暴れさせた。俺の望みはお前をバラバラにすることだとでも言いたそうな態度だ。</p><p>お前の望みは殺戮と破壊。そして何より強者との戦いだろう？</p><p>だが、続く言葉にその動きがピタリと止まった。</p><p>翼獅子に殺された八人の犠牲者は、見るも無惨にバラバラにされていた。</p><p>言い換えれば、それほどバラバラにされているのに、しっかりと人数がわかった。手も足も首も胴体も、どの部位もバラバラになってこそいるものの、一つも欠けてはいなかったからだ。</p><p>つまり、翼獅子は人を食わない。ただ殺すためだけに殺したということだ。</p><p>そしてOlとユウェロイが小部屋に籠もったあと、他の人間を殺さずに広間で待ち受けていた。二人を多少は骨のある敵と認め、力のない領民を殺すよりも優先したのだ。</p><p>俺と共に来るのなら、その望みを叶えてやろう。俺はこれからこのダンジョンに棲まう者全てを敵に回す。お前の持って生まれたその力、存分に振るい試すがいい</p><p>手を差し出すOlを翼獅子はしばらく思案するように見つめ──そして、やがて恭順を示すように頭を下げた。</p><p>お前の名はそうだな。アレオスとでも名付けようか</p><p>Olが翼獅子──アレオスの額に触れると、その巨体はまるで紙にでも変化したかのようにパタパタと折りたたまれていく。そして、一着のローブへと変化した。</p><p>ふむ。ちょうどよい</p><p>Olはすっかり焼け焦げてしまった元のローブを脱ぎ捨て、アレオスが変化したローブを羽織る。</p><p>そしてぐるりと後ろを振り向き、言った。</p><p>隠れてないで出てこい</p><p>ありゃりゃ、お見通しでしたか。さすがはOlサマ</p><p>柱の陰から姿を現したのは、緑の髪をした有翼の少女。ユウェロイの部下であり、今はOlに従っている翼族、フォリオであった。</p><p>白々しい。俺が気づいていたことも悟っていただろうが</p><p>エヘヘ。でも、ってことは聞いちゃってもいいんですね。それどういうことなんですか？ドロップ品じゃなくて翼獅子そのものが変化しましたよね</p><p>Olの反応如何では見なかったふりをするつもりだったのだろう。誤魔化し笑いをしつつも、フォリオは目ざとくそう尋ねてくる。</p><p>モンスターとやらは元々そういうものなのだ</p><p>Olとしては別に隠す情報でもないので、素直にそう答えた。</p><p>お前たちがドロップ品と呼ぶものは、モンスターのもともとの姿だ。それに術をかけて、怪物の姿に変化させているという方がむしろ正しい</p><p>何故モンスターが死ぬと道具や食べ物になるのか。それはこの世界において一番の疑問であった。だからこそ、Olはそれを最優先で調べたわけだが</p><p>モンスターとしての姿が破壊されると、元の本性を取り戻す。道具にスキルを与えて形を怪物に変えたものそれがモンスターの正体だ</p><p>わかってしまえば何のことはない、よくある変性術の一種であった。同じことならOlもできる。生き物を物質に変化させるのは難しいが、物質を生き物のように動かすのはさほど難しいことではないのだ。</p><p>で？ そんな話をしに来たわけではあるまい</p><p>フォリオがOlのことを何かと探ろうとしているのはわかっているが、だからといって用もないのに付け回すほど暇でもない。</p><p>Olが促すとフォリオは心得ているとばかりに頷いて、答えた。</p><p>Olサマがご所望のアレ、集まりましたよ</p><p>ふむ。確かに揃っているな</p><p>がんばったよ、Olくん！</p><p>翼獅子のアレオスと戦った下層から中層にあるOlに割り当てられた部屋へと移動する。そこで待っていたのは大量のがらくたと、それを運び込んだユウェロイの部下犬のような耳と尻尾と性格を持つ牙族の少女、鉄の腕のラディコだった。</p><p>元は横になればそれで埋まってしまうほどに小さかった部屋だが、Olが無断で周囲の廊下を取り込み壁を押し広げたので、今ではユウェロイやブランの私室よりも大きくなっている。</p><p>こんなに集めてどうするんですか？</p><p>その部屋の中に所狭しと積まれたベッドや本棚と言った家具、そして大量の鉄の鎧を見てフォリオは首を傾げた。家具はまだしも、鎧を着る人間の当てがまったくないからだ。</p><p>こうするのだ</p><p>Olが家具に触れると、木板がバラバラになって崩れ去る。かと思えばひとりでに組み合わさって、巨大な蓋のない箱が出来上がった。</p><p>更に鎧の山に触れると、鉄でできたそれはまるで熱された飴のようにぐにゃりと曲がり、互いに溶け合って巨大な一つの塊になる。Olはそれを引き伸ばし、複雑な形を作り上げて木箱に接続していく。</p><p>わーすごーい！</p><p>ええと、色々お聞きしたいことがあるんですケド</p><p>そして出来上がったものを見てラディコは素直に歓声を上げ、フォリオは頭を抱えた。</p><p>ドロップ品を溶かしてくっつけて加工するなんて事をさらっとしないで貰えますか？ びっくりしちゃうので</p><p>何を言ってる？ 俺が壁を動かすのは散々見ているだろう。変性魔術としてはあれよりだいぶ簡単だし、お前たちの価値観としてもそうだろう？</p><p>なにせ信仰の対象にまでなっている程、彼らは壁を絶対視している。確かに壁を動かすのは難しいが、実際以上に驚かれているという自覚はOlにもあった。</p><p>いやーどうでしょアタシ的にはどっこいどっこいって感じですね</p><p>ふむ。そうか</p><p>木をノコギリで切って組み合わせたり、鉄の鎧を炉に放り込んで鋳溶かし型に流し込めば全く同じことができる。Olがしたのはその手順を少々省略しただけのことだ。にも関わらずそこまで驚かれるとは、この世界の常識は相変わらずよくわからん、とOlは内心呟いた。</p><p>それで、これは何を作ったんですか？</p><p>うむ。このダンジョンには足りないものが幾つもあるが、これはその中でも最重要と呼べるものだ。すなわち──</p><p>本来ならばもっと早くに作りたかったのだが、素材が足りなかったのと手が回らなかったのでここまで遅くなってしまった。</p><p>湯殿だ</p><p>魔王Olがこよなく愛する、浴室を作るためのものだった。この世界には湯殿がより正確には浴室という概念が存在しない。入浴するときは大きなたらいに湯や水を張って身体を洗うのだが、それではせいぜい腰までしか浸かれないし、湯もすぐに冷めてしまう。</p><p>Olの望む、肩までゆったりと長時間浸かる湯殿には程遠いものだった。故に、こうして作ったのだ。ゆったりと入れる巨大な浴槽と、湯を温め続けるためのボイラーを。</p><p>最重要、ですか？</p><p>Olからその機能を説明され、フォリオは引きつった笑みを浮かべてみせた。ユウェロイが上司として面倒な奴であったことは間違いないが、こいつはこいつでもう少し本心を隠すという事を覚えればいいものを、とOlは思う。</p><p>まあ、理解できないのであれば身体に叩き込むまでだ。</p><p>せいぜい思い知るがいい。湯というものの持つ力をな</p><p>第9話部下の望みを叶えましょう-2</p><p>これは確かに最重要っていうのも過言ではないかもですね</p><p>浴槽にどっぷりと浸かり、背中の羽を文字通り伸ばしながら、フォリオは弛緩しきった様子でそう呟く。Olとしてはできれば湯に浸かる時は身体に巻いた布を外して欲しかったが、フォリオは籠絡のために一度抱いただけで妻でも愛人でもない。流石にそこまで要求するのは憚られた。</p><p>そうであろう</p><p>Olくん、まだ出ちゃだめえ？</p><p>心得顔で頷くOlの膝の上で、しかしラディコは不満げに声を漏らした。浴槽は十分大きく作ったから二人や三人一度に入ったところで膝の上に乗る必要などないのだが、生憎と深さの方がラディコにとってはやや深すぎた。Olが肩まで無理なく肩まで浸かれる大きさにしたのだから無理もない。</p><p>常に中腰でいなければ口元まで湯に浸かってしまうので仕方なくOlが膝に乗せたのだが、恩湯に加えて人肌の体温まで伝わって熱くなったからか、それとも単に元々堪え性がないからなのか、すぐに湯から出たがるのだ。</p><p>もう少し堪えよと言いたいところだが、仕方あるまい</p><p>もっと湯を楽しんで欲しいところではあったが、だからといって本来身も心も安らぐための入浴で気疲れしてしまっては本末転倒だ。湯冷めしてしまわない程度に身体を温めさせてから、Olはラディコを抱きかかえるようにして浴槽から上がった。</p><p>あ！ えっと、じゃあお背中洗いますね！</p><p>ふむ、そうか？ では頼もう</p><p>するとフォリオが慌てたように湯船から出てきて、道具袋から石鹸と洗い布を取り出す。体に巻き付けている布と同様、湯を溜めている間に自身の部屋から持ってきたものだ。</p><p>じゃあアタシが背中をやるから、ラディは前をお願いね</p><p>ぐったりしていたラディコは途端に元気になって腕を振り上げると、布で石鹸を泡立ててOlの胸板をゴシゴシと洗い始めた。</p><p>石鹸があるのだな</p><p>はい。泡雫球なんかがドロップします。流石に中層で取れる石鹸は質がいいですねえ</p><p>そんな事を答えながら、フォリオはOlの背中を洗い布でこする。その布は彼女が身体に巻き付けているものとは違って、目が粗く硬質な素材でできているようだった。</p><p>身体を拭くのには向いていないが、その分石鹸を泡立てたり、身体をこするのには向いている。久々の湯殿にゆっくりと浸かり、ゴシゴシと前後から垢を落とされる感覚は実に心地よいものであった。</p><p>さて、一体何を要求されるやら、とOlは思う。</p><p>一番風呂を譲ろうとしたOlに対し、身体に布を巻いてまで一緒に入ろうと主張したのはフォリオだ。ラディコは単純に喜んでいたしその反応に裏はないだろうが、フォリオの方はそうではないだろう。</p><p>一応、現在のフォリオはOlの部下というか、奴隷ということになっている。元々はユウェロイの物だったが、結果として彼女を裏切る形になり、それを庇うために交渉したからだ。</p><p>最初はユウェロイも難色を示しはしたが、立場としてはOlはユウェロイの下についている状態である。間接的にフォリオもユウェロイの配下であることに変わりはないと言えば一応納得した。</p><p>無論、フローロを通したブランの口添えや、Olの魔術によるある程度の提供例えば、彼女の部屋を多少広くするとかもあってのことだが。</p><p>だが、だからといってフォリオがOlに忠誠を誓ったというわけではない。ただ少しでもマシな境遇を選んだだけだ。</p><p>そんな彼女がこのようにOlに尽くすのならば、なにか魂胆があってのことというのは考えるまでもない。問題は、彼女が何を望んでいるのかということだ。</p><p>まだ出会って間もなく付き合いも浅い間柄だが、フォリオが聡い娘であることはわかっている。当然、何か魂胆があってこのような事をしていることにOlが感づいている事自体も重々承知の上だろう。</p><p>Olサマ、意外とと言うと失礼ですが、身体つきがしっかりしてらっしゃるんですね</p><p>魔術で強化できるとしても、最低限の筋力はあった方がいい。まあ、日頃から剣を振っているような連中には敵わんが</p><p>だがフォリオはなかなか本題に入ろうとしない。やたらと丁寧にOlの身体を磨き、筋肉を褒めそやしたりする。どうやら思ったよりも厄介な話らしい、とOlは警戒心を強めた。</p><p>思い当たるものがあるとするなら、彼女が以前口にしていたスキルを育てるスキルとやらに関わる話だろう。スキルを育てる事自体が目的なのか、それとも育てたスキルで成したいことがあるのか。</p><p>いずれにせよ、おいそれと頼むことが出来ない内容であることは間違いないのだろう。</p><p>こんなもんでしょうか。あと、は</p><p>Olの泡を洗い流し、フォリオはギクシャクした動作で前へと回る。</p><p>ここを、綺麗にしないとデスね</p><p>そしてOlの前にラディコと並ぶように跪くと、顔を真っ赤に染め上げながらOlの股間へと視線を向けた。</p><p>おちんちん！触ってもいい！？</p><p>構わんが無理をする必要はないぞ</p><p>嬉しそうに目を輝かせるラディコはともかくとして、明らかに無理をしているフォリオにOlはそう告げた。彼女がどんな事を望んでいるにせよ、形だけでも部下になった以上それがOlの目的と決定的に対立するようなものでない限り叶えてやるつもりはある。</p><p>そして対立するのなら、彼女がどれだけ奉仕しようと手を貸してやるわけにはいかないのだ。つまりフォリオの努力は不要なものであり、場合によっては完全に無為な行為にすらなりうる。</p><p>いえっ！ やらせてください！</p><p>それを言外に伝えたつもりだったのだが、フォリオは強硬な態度を崩さず、恐る恐るといった様子でOlの性器へと手を伸ばした。泡をいっぱいに乗せたラディコとフォリオの手のひらが、Olの一物を撫でさする。</p><p>ラディ、絶対に鉄の腕だけは使うなよ</p><p>つかわないよお</p><p>からかうようなOlの言葉に、ラディコは頬をふくらませる。</p><p>ラディコの代名詞たるスキルを使われれば、流石にOlの股間は無事では済まない。とはいえOl自身使ってみてわかったことだが、あの手のスキルは使うにはある一定の精神集中と時間を要するし、使おうとすれば身体が輝くためにこっそり使うようなことも出来ない。つまりOlも本気で言っているわけではなく、ただの軽口だ。</p><p>えっと、痛くないですか？</p><p>ああ。お前はもっと力を入れてもいいぞ</p><p>しかしその軽口を聞いても、フォリオの緊張は解けることがなかった。湯でのぼせたわけでもあるまいに、耳まで顔を赤く染めてぎこちない手つきで男根を撫でている。</p><p>ひゃぁっ！</p><p>あ、おっきくなったー！</p><p>そのぎこちなさがかえって新鮮なこともあってか、Olの一物はみるみるうちに膨れ上がり反り返った。あっという間に体積を増した肉の槍に、フォリオは目を見開いて小さく悲鳴を上げる。</p><p>無理はせんでいいと言っているだろうが</p><p>だ、大丈夫です。あの、これ舐めて綺麗にしても？</p><p>どう見ても大丈夫な様子には見えないが、隣で尻尾をパタパタと盛んに振りながら期待の眼差しを送ってくるラディコがいる手前、やめろとも言いづらい。</p><p>好きにしろ</p><p>本人がしたいと言うのなら、これ以上気を使うのも馬鹿馬鹿しい。別に何かを約束したり言質を取られたわけでもない。Olはそう考えて、おざなりにそう答えた。</p><p>湯冷めしてもつまらん。こちらでやれ</p><p>Olは自身の泡を洗い流すと、浴槽の縁に座ってそう促す。ついでに魔術でその形状を少しいじって、二人の体格にちょうどいい高さの底をもう一つ作ってやった。フォリオとラディコは湯の中に腰まで浸かる形で顔を寄せ合い、そそり勃つ怒張へと舌を伸ばす。</p><p>んっふ、ちゅっは、ぁんっんむっ</p><p>ちゅ、ちゅっちゅぷっれる</p><p>二人が一瞬だけ視線を交わすとそれだけで意思疎通は済んだようで、フォリオは先端を口の中にぱっくりと咥え、ラディコが付け根から袋にかけてついばむように口づけ舐める。</p><p>決して巧みとは言えないが、湯殿にあって布を巻き裸身すら見せない女たちの口奉仕というのは、それはそれでまた別格の良さがあった。</p><p>とはいえ隠されれば見たくなるのも男の性だ。</p><p>外すぞ</p><p>二人の胸元にくいと指先を潜り込ませ、そう宣言する。</p><p>だ、ダメです！</p><p>それは許可を得るためではなくただ声をかけた程度の意識だったのだが、フォリオはぎゅっと胸元を押さえて拒否反応を示した。</p><p>ここまでやっておいて何故、とOlは一瞬思うが、考えてみればOlの方から望みを口にするのはこれが初めてだ。交渉しどころだと考えたのだろう、と納得する。</p><p>わかったわかった。お前の望みを聞くだけは聞いてやる。それで良いな？</p><p>元々こんな事をせずとも話は聞くつもりだったのだから、欲望に流されたわけでもない。むしろさっさと話を切り出さないフォリオに焦れてすらいたから、渡りに船とばかりにOlは告げる。</p><p>気づいてないとでも思っていたのか？ 俺に頼みたいことがあるのだろうが。聞いてみるまで確約はできんが、聞いてやるから肌を晒せと言っておる</p><p>おお見通しでしたか</p><p>バツが悪そうに眉を寄せるフォリオに、何を白々しい、とOlは内心嘆息する。それとも、本当にOlが気づいてないと思っていたのか。</p><p>ではこの指を引いても良いな？</p><p>ボクはいいよ！</p><p>はい</p><p>Olの問いにラディコが元気よく答え、躊躇いがちにフォリオも頷く。肌と布の間に入れた指をぐいっと引っ張れば、それはあっさりと外れて二人の裸身が露わになった。</p><p>うう、粗末な身体でスイマセン</p><p>フォリオの背中から生えた翼が彼女を覆うように畳まれる。しかしそれでは意味がないとわかってはいるのだろう。中途半端に畳んだ翼の隙間からは、彼女の控えめな乳房も薄っすらと茂みの生えた秘所もバッチリ見えていた。</p><p>謙遜するな。お前たちの身体は十分美しい</p><p>魔王として君臨し、数多の女を当然の権利として抱いてきたOlにとっては、そんな風に恥ずかしがる様子はかえって新鮮だった。それに何より、手のひらにすっぽり収まりそうなフォリオの乳房も、殆ど凹凸のないラディコの子どものような裸身も、十分魔王の対照範囲内だ。</p><p>えっと、じゃあ、アタシの望みを聞いてもらえるということでしょうか</p><p>ああ、言ってみろ</p><p>眼の前に晒された魅力的な肉体に思わず抱いてからだと答えたくなるが、約束は約束だ。Olは鷹揚に答えて促すが、フォリオは躊躇うように押し黙った。</p><p>その、アタシが何を望んでいるのかもうお察しなんですよね？</p><p>大体のところはな。だが、具体的な内容は言わねばわからん</p><p>そう告げると、フォリオはなぜか驚き慌てふためく。</p><p>ぐ、具体的！？ 具体的に言わなきゃダメですか？</p><p>当たり前だろうが</p><p>流石のOlも、フォリオの望みが具体的にどのようなものかまでは推測することしか出来ない。だがやはり何故か戸惑い言いにくそうにする彼女に、Olはある可能性を思いついた。</p><p>フローロのことが気になるか？</p><p>フォリオがそれほど躊躇う理由があるとするならその辺りだろう。Olはフローロの協力者として、彼女を魔王へと押し上げるために行動している。フォリオの望みがそれを邪魔するものになりうるのなら、Olに言いにくい事もあるだろう。</p><p>お見通し、ですかそれは、そりゃあ気になりますよ。だってフローロサンはOlサマの</p><p>気にするなとまでは言わんが、お前が思い悩む必要はない。その辺りの調節は俺の仕事だ</p><p>とは言え彼女自身に積極的にフローロを害そうというつもりがないのは、見ていればわかる。ならば衝突を避ける方法もあるだろう。</p><p>わかり、ました</p><p>Olの言葉に腹を決めたのか、フォリオの表情から迷いが消えた。</p><p>ぐ具体的に、ですよね</p><p>ああ。お前の口からしっかりと、何を望んでいるのかを聞きたい</p><p>そういう、コトなんですね</p><p>そういう事とはどういう事だ？ とOlが問うより先に、フォリオは大きく息を吸って覚悟を決める。</p><p>そしておずおずとした動作で翼を広げて己の裸身を晒すと、Olに見せつけるように秘所を指で大きく割り広げ、言った。</p><p>アタシのはしたないおまんこをOlサマの太くて逞しいおちんぽで腰が抜けるまでズボズボ犯して、思いっきり奥に種付け膣内射精して欲しいです！</p><p>予想していたのとは全く異なる懇願に、Olは思わず問い返すのだった。</p><p>第9話部下の望みを叶えましょう-3</p><p>あんっ！そこぉっ！Olサマのぉっ！あぁっ！硬いの、当たってぇっ！あぁっ！そこ、そこぉっ！おまんこの奥っ！ ずんずんされるの、だめぇぇっ！</p><p>浴室の中、肉と肉がぶつかり合う音と、水の揺れる音をかき消すように、フォリオの嬌声が響く。</p><p>くぅぅんっ！Olくんのゆびぃっきもちーよお！</p><p>そしてそれに負けじとばかりに、隣でラディコも喘ぎ声を上げていた。</p><p>浴槽のへりに手をかけ、高々と突き出された二つの尻。翼の下に隠れるような小ぶりな尻には男根が、尻尾の生えたむっちりとした尻には指が突き刺さっている。身長で言えばフォリオの方が頭半分ほど大きいのだが、筋力量の差もあるのか臀部だけならラディコの方が大きいのが趣深い。</p><p>Olを締め付ける膣口の力も、ふんわり柔らかく包み込むようなフォリオの中に対し、ラディコの膣は指を食いちぎるつもりなのかと思うほどにキツい。だがどちらもOlの与える快楽にどろどろに蕩け、滴る愛液が湯船にぽとぽとと落ちて波紋を作るほどであることは共通していた。</p><p>ああぁそこぉっ！Olサマのぉっああぁっカリがぁナカ、ひっかいてあぁっ！ だめ、それ、だめ、だめ、だめになるぅぅっ！</p><p>Olがフォリオの中に突き入れるたび、彼女は膣内の様子を丁寧に実況する。誰かに仕込まれでもしたのかと思うような乱れようだが、彼女の身体に他の男の形跡を感じないのも確かなことだ。</p><p>以前抱いた時は間違いなくフォリオは処女だったし、それ以後誰かに抱かれたような様子もない。となれば単純に、この淫乱さは生まれついてのものなのだろう。あるいは他人の性事情を見聞きして妄想を逞しくしていた耳年増か。</p><p>ではお前は俺の身体を洗いながら、ずっとこうされたいと思っていたのか？</p><p>はいぃっ！Olサマの身体思ったよりずっと逞しくて、すごくエッチでっ！こうして犯して欲しいってずっと思ってましたぁっ！</p><p>エ、エッチだと？</p><p>それがいやらしい、蠱惑的であるという意味の言葉であることは言語スキルにより理解できたが、納得はしがたい言葉に思わずOlは反駁する。彼は自分の肉体が、女にとって情欲を催しうるものであると感じたことがなかった。</p><p>エッチですよぉっ！自覚なかったんですか！？スラッとしてる割に脱ぐとしっかり筋肉ついてるしっ！要所要所が骨ばっててがっしりしててっ！ このおちんぽなんて、大きくて太くて逞しくて、もう凶器ですよぉっ！</p><p>確かに性器の大きさには多少自信はないでもなかったが、同時に大きさが快楽に直結するわけではないこともまた心得ている。重要なのは大きさよりもむしろ技術や観察力であると思っていただけに、フォリオの言葉は少々衝撃的なものだった。</p><p>今もっ奥ぅっ！ズンズン、突かれてっ！さっきから、アタシ、何回あぁっ！イってると、思ってるんですかぁっ！あぁぁぁっ！</p><p>自分の言葉に興奮したのか、フォリオが再び絶頂に達する。Olのカウントに間違いがなければこれで七度目だ。それに釣られるようにして隣でラディコも気をやる。こちらは十一回目になる。</p><p>二人ともいやに感じやすい。無論Olは処女であろうが善がらせ感じさせるだけの技量を持っているだけの自信はあるが、それ以前に妙に身体が出来上がっているのだ。特に小柄で幼いラディコなどは性感も未熟でも不思議はないのに、フォリオ以上に貪欲に快楽を貪っている。</p><p>もぉ、限界なんですぅっ！何度も、イカされて、わからされてぇっ！おなかの奥、切なくて、満たされ、なくてぇっ！Olサマの、子種っ！精液、欲しいんですっ！ください、注いで、満たしてぇっ！</p><p>フォリオの膣口がきゅうきゅうと締まり、言葉よりも更に雄弁に精をねだる。もしそれが演技によるものだとしたら、フォリオは稀代の大女優だろう。しとどに溢れ太ももから滝のように垂れ落ちる愛液や、快感にわなわなと震える膣のひだ、快楽のあまりに裏返った声色までをも演じているということになるのだから。</p><p>ではその望み、叶えてやるっ！</p><p>Olがぐっと腰に力を込め、射精に向けて更に膨らむ男根を敏感に感じ取ってフォリオは軽く達する。</p><p>ああっ、あああああっ！流れて、くるうっ！Olサマの、子種ぇっ！あああ、ああああっ！流し込まれて、ああっ！Olサマの、モノに、されてるううう！</p><p>そして注ぎ込まれる白濁の奔流に、高く高く張り詰めた声色は反転したように低く、呻くように状況を口にしながら、フォリオは何度も何度も絶頂に身を震わせた。</p><p>Olくぅん！</p><p>その隣で、ラディコが切なげに尻尾を振りながらこちらを振り返る。</p><p>待ってろ</p><p>Olはトドメとばかりにフォリオの奥を一度突いてから引き抜くと、すぐさまラディコの膣内に挿入した。まだ幼く小柄なラディコの膣口はひどく狭く圧力もキツいが、Olが指でたっぷりとほぐしたっぷりと愛液が分泌されたそこは簡単にOlの剛直を受け入れる。</p><p>くぅぅんんっ！</p><p>そして挿入とほとんど同時に、ラディコは背筋を反らして絶頂した。両手両脚と尻尾とがピンと伸ばされ、Olのものを激しく締め付けながらフルフルと身体を震わせる。</p><p>Olはその膣奥をえぐるようにして突き入れ、残った精液を思いっきり注ぎ込んだ。</p><p>きゅぅぅぅっ！！きゃうううううんっ！</p><p>犬が鳴くような甲高い声とともにラディコの絶頂がひときわ高く濃密なものとなる。あまりの快楽に崩れ落ちそうになる尻を掴んで支えると、Olは思うがままに幼穴を蹂躙しながら最後の一滴まで念入りに注ぎ込む。</p><p>満足いくまで射精を楽しんだ後ずるりと男根を引き抜けば、秘所からとろとろと白濁を溢れかえらせる尻が目の前に二つ並んだ。</p><p>その光景に、妙だという思いがOlの思考を一瞬かすめる。あまりにも都合が良すぎるのだ。この二人だけではない。フローロもナギアも魔族の女たちは非常に性に貪欲で、それでいてOl以外に抱かれたことはないのだ。</p><p>そしてOlもまた、それに違和感を抱いていなかった。いや、それに気づいた今もなお、理屈の上ではそれが奇妙なことであることはわかるが、感情的には至極当然のことであると受け止めている。</p><p>魔族の女を好き好んで抱くような男はいない、とサルナークは言っていた。魔族には男もいるが、彼らにとっても魔族の女というのはあまり魅力的な相手には見えないものらしい。だからこそ男に飢え、性に対して積極的な性質を持っているのかもしれない。</p><p>ユウェロイは人間だが、ブランによってずいぶん開発されていたしOlとしてもかなり本腰を入れたからそう違和感はない。そう考えれば一応、筋は通る気はする。</p><p>念のためOlは魔術で自身の思考を確認するが、外部から操作されているような形跡は確認できなかった。未知のスキルによる干渉である可能性も、ないわけではない。Olの魔術ですらすり抜ける、隠密性の高い洗脳や催眠に類するスキル。</p><p>だがもしそんなめちゃくちゃなものがあるとしたら、論理的に違和感に辿り着けるのでは片手落ちだ。姿を完璧に消しているのに足跡がはっきり残っている盗人のようなものだ。だが、このわけのわからない世界であれば、そのようなわけのわからないスキルもまた存在するのかもしれない</p><p>堂々巡りに迷い込み始めたOlの思考を、下半身に走る快楽が遮った。視線を下に向ければ、いつの間にか忘我の境から復活したフォリオとラディコが顔を寄せ合い、Olの一物を舐め清めている。</p><p>──と言えば殊勝に感じるが、その物欲しそうな蕩けきった表情を見るに更なる快楽を欲して肉棒をしゃぶっているだけと言った方が正確であるように思えた。</p><p>それを見た途端、Olは深く考えるのが馬鹿馬鹿しくなった。何らかの策略に巻き込まれているにせよいないにせよ、少なくともそれはこの二人が企んでいるようなものではない。</p><p>Olの一物に愛おしげに舌を這わせる様子はとても演技には見えなかったし、万が一それが演技だったとしてもただ警戒心を抱かせるだけの演技に意味などない。怪しかろうが怪しくなかろうが、そこに可能性がある限りOlはそもそも警戒を解くことなどないのだから。</p><p>そんなにこれが好きなら、ピカピカになるまで磨いて貰おうか</p><p>え？あ、はいっ</p><p>Olの声に我に返ったように、フォリオは浴槽から上がって石鹸と洗い布を取りに行こうとする。</p><p>違う。男の武器を磨くのに、そんな無粋なものを使うつもりか？</p><p>え、でも</p><p>フォリオは困惑したように二度、目を瞬かせた。手で洗えということであれば、やはり石鹸は必要だろうから呼び止める必要はない。舌と口で清めろということであれば、ラディコでしていたのだからそれを止める必要はない。そこまで彼女が思い至るのはほんの一呼吸のこと。すぐに彼女は、Olの意図に気づいた。</p><p>やはり聡い娘だ、とOlは思う。</p><p>ではOlサマの剣をこちらの鞘に入れて磨かせて頂きますね</p><p>だが己の花弁を両手で割り開き、表情を蕩かせて宣言する姿からはその知性は微塵も伺えない。そのギャップは、むしろOlを熱く滾らせた。</p><p>Olくん、ボクはー？</p><p>その一方でラディコは会話のいまいち理解できなかったらしく、しきりに首を傾げつつ物欲しげにパタパタと尻尾を振る。</p><p>お前はそうだな。石鹸の泡を自分の身体に塗れ</p><p>Olはフォリオを抱き寄せつつ、床石を操作して簡単な椅子を作り出す。そして文字通り羽根のような軽さの彼女を持ち上げると、そそり立った己の上におろした。</p><p>ああぁぁぁあっ！Olサマのぉっ！一気に、奥までぇっ！</p><p>軽いとは言っても肉も骨もある人の身体だ。対面座位の形で結合したフォリオの身体が、自身の重さでずぶずぶと剛直を咥え込んでいく。</p><p>そら、磨いてくれるのだろう？</p><p>は、はいぃっ！ふぁっ！これっあぁんっ！よすぎ、ますよぉっ！</p><p>フォリオはOlの首に腕を回し、上下に腰を振って言われた通り肉剣を膣穴で磨き始めた。</p><p>Olくん、これでいーい？</p><p>全身に泡を立て、まるで羊のようにもこもこになったラディコが不思議そうに尋ねる。</p><p>ああ。ではお前はそれで、俺の身体を洗え</p><p>ん－？こう？</p><p>ラディコは手を伸ばし、泡のついた手のひらでOlの肌を撫でる。小さく柔らかい掌の感触はそれはそれで気持ちよかったが、もっと柔らかく気持ちいいものがあることをOlは知っていた。</p><p>ラディコの小さな身体を抱き寄せ、泡だらけの肌をこすり合わせる。石鹸でぬるぬると滑る柔らかな女の肌は、どんな道具も敵わない最高の洗い布だ。</p><p>あははっ、くすぐったいよぉ！</p><p>肌が擦れる感触にまだ性感よりもくすぐったさが先に来るらしく、ラディコは明るい笑い声を上げる。</p><p>少し我慢しろ</p><p>Olはそう言ってラディコの背後に手を伸ばし、柔らかな尻を鷲掴みにしながらぐっと肌を寄せる。ラディコの尻はほとんど膨らみのない胸に比べてむっちりとした肉がついていて、実に良い触り心地だった。</p><p>こうしたらいいのお？</p><p>Olに抱きついたまま身体を上下させ、ラディコは泡にまみれた身体をぬるぬると擦り付ける。</p><p>んんっなんか、おしりさわるの、変な感じい</p><p>ヤじゃないけどお</p><p>何か感じるものはあれど、まだ快感にまでは繋がらないのだろう。微妙そうな表情のラディコの尻をOlは遠慮なく撫でまわす。そして彼女の反応を見ながら、徐々にその手が撫でる範囲を上へと移動させていった。</p><p>なんかはぁOlくぅんヘンな感じだよお</p><p>だんだんとラディコの頬が紅潮し、吐息に艶めいたものが混じっていく。その平らな胸の先端がピンと尖り主張を始めたところで、Olは彼女の尾の付け根を撫で上げた。</p><p>ふぁんっ！そ、そこは、だめだよお</p><p>まだ興奮しきっていないからか拒否を示すラディコだが、その反応は弱々しい。どちらかと言えばそれはしてほしいと言っているに等しい反応だった。</p><p>ラディ、舌を出せ</p><p>こお？んっ</p><p>言われるがままに口を開き舌を伸ばすラディコに口づけ、舌を絡める。更に尾の根元を撫でても嫌がる様子はなく、それどころかOlの身体に回した腕にぎゅっと力が込められた。</p><p>あぁっラディだけズルい</p><p>すると蕩けた表情でOlの剛直を膣穴で擦りあげる事に没頭していたフォリオが、恨めしそうな声でそんなことを言う。</p><p>フォル。来い</p><p>んっちゅっんんっ</p><p>なんとなく即席で思いついた愛称で呼んでやれば、フォリオは嬉しそうに目を細め唇に吸いついてきた。</p><p>フォリオ様こそ、おちんちん入れてもらってるのにずるいぃ</p><p>頬を膨らませるラディコとフォリオに交互に口づけてやりながら、Olは二人の柔らかな肢体による洗体を存分に楽しむ。泡でぬるぬると滑る柔肉と、固く張り詰めた先端がコリコリと胸板を刺激するコントラスト。</p><p>それを味わいながら戯れに尻から尾の先を撫でる度にラディコが甘い声を上げ、背筋から翼をもてあそべばフォリオがきゅうとOlの剛直を締め付ける。</p><p>はぁっ、はぁっOlサマぁっ！こんなの、えっち、スギますぅっ！アタシ、Olサマの身体、綺麗にしなきゃ、いけないのにぃ</p><p>そう口にするフォリオだが、自分で動いているためか攻められている時よりは幾分余裕があるようだった。</p><p>では、俺の身体を磨いてくれた礼にお前の中も綺麗にしてやろう</p><p>えっ？あぁぁぁぁあぁっ！</p><p>だがその余裕は、Olが下から突き上げると即座に吹き飛んだ。反射的に羽ばたこうとする彼女の翼を掴み、逃げられないようにして奥まで剛直をえぐりこむ。</p><p>あああああっ！Ol、サマぁぁっ！奥っ！奥にぃっ！ください、熱いの、Olサマの。せいえきぃっ！Olサマのシルシ、刻んでぇっ！</p><p>そして彼女が望む通り、たっぷりと最奥に白濁の液を注ぎ込んでやった。</p><p>あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！</p><p>Olの背中に爪を立て、精を一滴も逃すまいとするかのように両脚をぎゅっと巻き付けながら、フォリオは盛大に達する。ピンといっぱいに広げられた両翼が絶頂の余韻にふるふると震え、やがて力尽きたようにばさりと垂れ落ちた。</p><p>ぐったりとOlに体重を預けながらも首だけ伸ばして口づけを求めてくるフォリオに応え、ゆっくりと男根を引き抜く。ねっとりとした愛液と精液が入り混じったものが糸を引いて膣口との間に橋を作り、ついで白濁がどろりと溢れ出す。</p><p>フォリオの身体をそっと下ろし横を向けば、ラディコはころんと転がるように尻もちをつくと、両脚を開き両手で秘裂を押し広げてOlに期待のまなざしを送る。ご丁寧に、くるんと丸まった尻尾までがそこに入れろと言わんばかりに入り口を指し示している。</p><p>無論、Olはその望みに満足いくまでたっぷりと応えてやるのだった。</p><p>第9話部下の望みを叶えましょう-4</p><p>男の人が、そのアレを、出せる量というか回数というか、そういうのって限られてるって聞いたんですケド</p><p>汗と愛液と精液とその他諸々。様々な体液で汚れた身体を改めて洗い流し、やや温度を下げた湯船に浸かっていると、フォリオは今更そんなことを言った。抱かれている間は散々子種だの精液だの口にしていたくせに、正気に返ればそんな事すら躊躇う様子が少し可笑しかった。</p><p>そうだな。女は何度でも絶頂できるが、男はそうはいかん。確認したわけではないが、おそらくこの世界の男も同じだろう</p><p>いや同じじゃないですよね！？</p><p>やや窮屈そうに、フォリオは突っ込みを入れる。</p><p>それとも何ですか、無限に出せるスキルじゃない、魔術？ってのがあるんですか？</p><p>なくはないが、使ってはいない</p><p>無限に射精するには、無限の魔力が必要だ。龍脈からいくらでも魔力を引き出せるOlの魔窟の中ならともかく、フローロから補給しなければ日々の生存にも事欠く今の状況でそう無駄に使うわけにもいかない。フォリオとラディコの二人を相手にしたのは、自前の精力によるものだった。</p><p>お前たちを散々イカせたから錯覚しているだけだ。俺自身が達した数はそう大したものではない</p><p>六回は十分大した数だと思いますよ！？</p><p>あんな状況で数えていたのか、とOlは少し感心する。最初に二人に半分ずつ注いで一回。その後二回ずつ膣内に射精し、最後に口で奉仕させ全身に浴びせて六回だ。</p><p>それに今だってまだ、全然お元気デスし</p><p>湯の中でそそりたつ男根を見やり、フォリオは自分の胸を鷲掴みにするOlの手のひらに自分の手を重ねる。Olは湯に浸かりながら左右に侍らせたフォリオとラディコの肩に腕を回すようにして、その乳房を愛撫していた。</p><p>というかアタシたちのおっ胸なんて揉んで楽しいですか？フローロサンやナギアサンみたいな立派な身体じゃ</p><p>楽しい</p><p>ならいいんですケド</p><p>言葉を遮って即答するOlに、フォリオは気恥ずかしそうに視線を背ける。実際、湯の中でも見えるくらいに雄々しく股間を膨らませているのだから、その短い言葉は十分な説得力を持っていた。</p><p>待て。フローロの事が気になるというのは、そのことか？</p><p>二人を抱く前の会話を思い出し、Olは問うた。彼はてっきりフローロに敵対する話かと思っていたのだが、単に性交を望むだけであるならあの会話はおかしい。</p><p>それもありますけど、フローロサンはOlサマの奥さんなんですよね？</p><p>気まずげにそう問われ、Olは久方ぶりに一般的な感覚を思い出す。そういえば一夫一妻制において妻帯者が他の女を抱くのは、不貞であり悪徳であり罪なのだ。フローロ自身もまるで気にした様子がないから忘れていたが。</p><p>気にするな。どのみちフローロだけでは足りん</p><p>それは、アタシたちにすらあれだけ出せるならそうでしょうね奪い合いにならなくて何よりですケド</p><p>フォリオがOlの一物をギュッと握って複雑そうな表情で言う。精の話ではなく魔力の話をしているのだが、まあフォリオが納得したならいいかとOlは話を流した。</p><p>ところで結局スキルを育てるスキルの件はなんなんだ</p><p>気になっていたことを改めて問えば、思ってもみないことを聞かれたとでも言いたげにフォリオは目を瞬かせた。</p><p>俺はてっきり、お前はそれを求めて風呂に入ったのだと思ったのだ</p><p>そんなそんな。抱いてもらった上にそこまで望むなんて、図々しい真似はさすがにできませんよ</p><p>恐縮するフォリオに、やはり価値観が根本的に異なっていることを感じた。あるいは魔族というのは、人間とは貞操観念が真逆なのかもしれない。</p><p>とにかく、話だけでもしてみろ</p><p>わかりました。では、後でご案内しますところで</p><p>フォリオはちらりと自分の手の中にあるものへ目を向けた。彼女が何気なく上下させていた手のひらの中で、脈打つ肉塊はすっかり硬くそそりたっている。</p><p>七回目します？</p><p>するう！</p><p>途端、余韻と疲れから先ほどまでぐったりしていたはずのラディコが元気よく答える。</p><p>一回だけだぞ</p><p>Olは嘆息し、そう答えるのだった。</p><p>そして結局、三回した。</p><p>口と膣とに追加で一回ずつ吐精されたフォリオに案内されOlが向かったのは下層の通路。フォリオが使っていた部屋の奥にある回廊の行き止まりであった。</p><p>ここになにがあるでしょう！</p><p>聞き及んで知っているのだろう、やはり口と膣とに一回ずつ精を注ぎ込まれたラディコがなぜか自慢げにそう尋ねる。物置代わりに使われていたらしく、雑然としたものが積み上げられているが、Olの目には一目瞭然だった。</p><p>隠し扉か</p><p>なんでわかるのお！？</p><p>あっさりと言い当てるOlに、ラディコは目を丸くした。</p><p>そもそもなにもない突き当りでここだと言われれば考える余地は殆どない。だがそれ以前に、積まれている荷物には巧妙に偽装されてはいたが、奥の壁を隠す意図があった。そういった意図を読むのはダンジョンマスターとしての基礎能力だ。</p><p>フォリオが壁のスイッチを押すと、音もなく壁が開いて小さな部屋が現れた。</p><p>これを溶かすことは出来ないでしょうか</p><p>人が数人入れば埋まってしまいそうな大きさの部屋にあったのは、巨大な氷のようなものだった。岩のように角張った高さ三メートルほどの結晶で、透明ではあるが中を見通せるほどではない。そして薄っすらと、その奥に人の姿が見えた。</p><p>これは生きているのか？</p><p>わかりません</p><p>Olの問いに、フォリオは首を振った。氷の表面に触れるとひんやりと冷たく、硬くもなく、かと言って柔らかくもない、不思議な感触がある。</p><p>一体誰なのか、なぜこうなっているのか、いつからこうしているのか。何もわかりません。ただ一つわかることは──</p><p>切実な声色で、独白するようにフォリオは言う。</p><p>アタシが、どうしてもこのヒトを助けたいってことです</p><p>フォリオは首を横に振った。その理由もまた、定かではないということだろう。</p><p>アタシはこの場所を、母から聞きました。母もまた、その母アタシの祖母に聞いたんだそうです。その祖母もそのまた母にアタシたちの一族に、ずっと伝わっているんです</p><p>相当の年月が経過しているということか</p><p>一族の悲願。そう考えれば、フォリオの態度にも納得はいく。切実に解決法を探してはいるが、だからと言って自分の代で解決する問題であるとも思ってはいないのだ。</p><p>少なくとも百年以上は経っているって話です</p><p>そういえば、一年とは何だ？</p><p>ふと、Olは疑問を持った。彼の住んでいた世界で、一年が何かを疑問に思う余地はない。春が来て、夏が過ぎ、秋を経て、冬に至る。そしてまた春がくれば、それが一年だ。正確な日にちを割り出すには星を読む必要があるが、星読みの心得どころか字すら読めない農夫であろうとも、暦くらいは知っている。</p><p>だがこの石造りの世界で四季など望むべくもない。壁自体が明るくなったり暗くなったりするので朝と昼との区別、一日の始まりと終わりはあるが、夜になっても星を見ることなど出来ない。だが、人を鑑定すると年齢という項目があるのだ。つまり一年という概念もあるということに他ならない。</p><p>んっとね、ぎゅーってなって、ぽんってなって、ばーってなって、ふわーってなったら、いちねんだよ！</p><p>全く要領を得ないラディコの説明を聞いて、Olは助けを求めるようにフォリオに視線を向けた。</p><p>ええと季節というのがありまして。季節によって出てくるモンスターが変わるんですが、四種類のローテーションなんです。同じ季節に戻ると一年ですね。暦のスキルがあればもっと正確にわかるんですが</p><p>やはりスキルか、とOlは内心独白する。この世界は全てがスキルとアイテムで成り立っていて、それはモンスターを通じてもたらされる。だがまさか、季節までもがそうだとは。</p><p>まあ良い。それよりも、この氷だが</p><p>この世界が奇妙なのは今更の話だ。Olは目前の問題に目を移す。</p><p>はい。見ててください</p><p>フォリオの手のひらから巨大な炎が迸り、氷に当たった。石でできたダンジョンキューブさえ投下するほどの熱量を持つ炎だ。もしそれが本当に氷で出来ていたならば、一瞬で蒸発してしまうだろう。</p><p>この通り大炎のスキルでも、ラディの鉄腕でも全く傷つかないんですよね</p><p>だが爆炎が消え去った後、氷柱は変わらない佇まいで残っていた。</p><p>スキルで作り出したものや影響を消す解呪というスキルも持ってるんですが</p><p>フォリオの手のひらから淡い光があふれ、氷柱を照らす。そちらには一応効果が認められた。氷はほんの僅かにその表面が溶け、確かに減じていく。しかしそれもほんのわずかで、フォリオが光を照らすのをやめるとすぐに元の形状に戻ってしまう。</p><p>こんな感じで、全部溶かすのは難しそうなんです。だから、もっと強い解呪を使えればなんとかなるんじゃないかとただ、解呪の上位スキルなんて聞いたことないんですよね</p><p>伝説に聞くスキルを育てるスキルであれば解呪を強化することもできるのではないか。フォリオはそう考えたらしい。</p><p>俺自身がその上位の解呪を使えるとは思わなかったのか？</p><p>っ！使えるんですか！？</p><p>勢い込んでOlに詰め寄るフォリオ。</p><p>残念ながらそんな都合のいいものはない</p><p>ですよね</p><p>肩透かしをするような返答に、肩ごとバサリと両翼が下を向いた。</p><p>これはそもそも氷ではない。それどころか、物質ですらないな</p><p>そうなんですか！？</p><p>Olは再びそれに触れる。ひんやりとしていて冷たいが、Olの体温で溶ける様子はない。氷であるなら多少なりとも溶け、手のひらに水滴がつくはずだ。</p><p>これはおそらく高度な封印術の一種だ。中の熱すらも封印されているため冷たく感じられるが、実際に温度が低いわけではない</p><p>どういうことー？</p><p>Olの説明に理解が及ばなかったのか、ラディコは首をかしげる。</p><p>人の肌が暖かく感じられるのは、それそのものが熱を放っているからだ。人間の体温などそう差はないが、抱き合えば互いに暖かく感じるだろう？</p><p>そそうですね</p><p>フォリオの頬に手を当て、Ol。先ほどまでの情事を思い出したのか、フォリオは少し赤面しつつもうなずく。</p><p>その逆で、触れれば熱は封印の中に入り出てこない。つまり熱を奪われているため、実際の温度と無関係に冷たく感じられるのだ</p><p>氷じゃなかったらどうなるの？</p><p>話を理解してるのかしていないのか、ラディコが鋭い質問を投げかける。確かに重要なのはこれが何であるかではなくどうやったら消すことができるかだ。</p><p>解呪はスキルによって作ったものや影響を消すと言ったな。だがおそらく、スキルそのものを消すことはできまい</p><p>そりゃそうですよ</p><p>例えば、解呪であらゆる攻撃を防ぐ鋼の盾を消すことはできない。だがユウェロイの全身装甲で作り出した甲冑や投槍で作り出した槍ならば消すことができる。</p><p>他にも他人の能力を阻害する呪いに属するスキルの効果を消すこともできるが、Olが彼女を下したときに使った麻痺針のような毒は属するスキルは不可能だ。どのみち自分自身が麻痺してしまっていては、解毒スキルを持っていたとしても使えないから意味はなかったが。</p><p>これはおそらくスキルそのものに近い。その解呪を強力にしても、消すことはできまい</p><p>打つ手なしということですか</p><p>スキルを消せるスキルなんて、それこそ御伽噺だ。子供なら誰もが考える空想上の存在にすぎない。</p><p>いや。単に力づくでは無理だというだけの話だ</p><p>そんな都合のいいものはないとOlが言ったのも、同じ意味だった。この世全ての扉を開けるマスターキーなどというものはない。だが、それは扉を開けられない事を意味しない。</p><p>絶対に解けない封印などというものは、どんな封印をも解く魔術と同様に実在しないし、そもそもそんなものを作る必要がない。</p><p>解けない封印を作るくらいなら、その能力を持って中身を滅ぼしてしまった方が確実かつ手っ取り早いからだ。極論を言えば、すべての封印はいつか解かれるためにあるともいえる。</p><p>とは言え精巧だな。百年以上経て綻び一つない。これを解くのは少々骨だな</p><p>封印術は苦手という程ではないが、得意というわけでもない。少なくとも同じものを作り出す自信はOlにはなかった。</p><p>え？解けるんですか？</p><p>だが、フォリオは信じられないとでも言いたげに目を見開く。</p><p>今すぐには流石に無理だ。これにばかりかまけるというわけにもいかん。一年や二年は覚悟しておけ</p><p>少し期待させすぎてしまったか、と少々ばつの悪い思いでOlは言い訳めいた言葉を口にする。</p><p>実際には年単位の時間が必要とまでは思わなかったが、この先どの程度時間が取れるかもわからないし、この手の解呪は技術や知識よりも発想や思い付きを問われる。ハマってしまえば実際そのくらいかかる可能性もないではなかった。</p><p>いやいやいやいや、アタシの一族代々の宿願ですよ！？一年や二年？本当ですか？</p><p>今まで百年以上、糸口すら見つからなかったのだ。にわかにはOlの言葉が信じられず、フォリオは念入りに尋ねる。だがOlは、それを自身の能力への不信と受け取った。</p><p>良かろう。そこまで疑うならば、明日までにある程度の目処くらいはつけてやる</p><p>明日！？</p><p>驚くフォリオをよそに、Olは封印の前に座り込んで本格的に解析の準備に入る。彼の周囲にいくつもの魔法陣が浮かび、フォリオには理解できない情報がその表面に現れた。</p><p>ほんと、奴隷風情になんでそこまでしてくれるんですかね</p><p>髪をかきながらぽつりと漏らしたフォリオのつぶやきは、もはやOlには聞こえていないようだった。</p><p>第9話部下の望みを叶えましょう-5</p><p>とりあえずはこんなものか</p><p>一通りの情報を収集し終え、Olは封印から意識を離す。気づけば周囲の壁は薄っすらと明かりを放っていた。太陽のないこの迷宮の一日は日暮れと早朝の区別がつきにくいが、体感的には後者だろう。</p><p>解析を始めたのは昼過ぎの事だったから、ちょうど半日近く経ったことになる。</p><p>フォリオとラディコの姿は既になく、傍らにスープとパンが置いてあった。おそらくフォリオが置いていったのだろう。一体いつ差し入れたものだったのか、すっかり冷めきったスープを飲みながら、Olは解析した情報に思いを巡らせる。</p><p>術は非常に複雑なものながら、構造自体は思っていたよりもずっとシンプルな結界だった。おそらくこの封印は、時の流れと空間の距離を極度に捻じ曲げたものだ。さほど大きいようには見えないが、実際には極めて広大な空間が圧縮されている。フォリオが放った炎が表面で消えたように見えるのも、実際には中心まで到達できなかったがゆえのことだ。</p><p>シンプルであるがゆえに対処が難しい。Olの力であれば結界の境を超えて中に入ることは出来るが、出てきたときには下手をすれば数百年が過ぎ去っている、などという羽目になりかねない。</p><p>長年綻び無く保っているのも納得だ。結界そのものがその効果を受けているから、主観的には張られてからそう長い年月は経っていないという事なのだ。</p><p>いずれは自然に解けるだろうが、それが何年後の話になるかはわからない。そして外部から解くにしても、干渉自体が恐ろしく鈍化されてしまうために酷く手間がかかることにわかった。鍵穴自体は単純だが、鍵を突っ込んで回すのに時間がかかるのだ。</p><p>ともあれ、ひとまずの目処がついたのは確かなことだ。余裕を持って三月もかければ封印は解けるだろう。問題は、解いた後のことだ。</p><p>Olでさえこれほど手こずる封印。施した者も、そして施され封印されている者も、相当の力を持っていると見て間違いない。そんな者の封印を軽々に解いてしまっていいものか。中に入っているのが、友好的な存在とは限らないのだ。</p><p>Olはじっと封印の中に閉じ込められている人影を見つめる。半透明の封印に入ったその人影は、ぼんやりとした輪郭くらいしか見えず、恐らくは女だろうという程度しかわからない。</p><p>だがその影を見ていると、何故か無性に嫌な予感がした。胸がざわつくというか、厄介なことになるだろうという、漠然とした勘のようなものが脳裏をよぎるのだ。</p><p>もっとも、Olはそういった勘をあまり当てにはしない。ユニスたちのような戦いに生きるものたちであれば直感に従って上手くいくこともあるが、Olの強みは論理的な解析と分析である。事実というものは直感に反することも多い。</p><p>ともかくこれで最低限の仕事は果たしたはずだ、とOlは凝り固まった身体を伸ばす。もう一度ゆっくり湯に浸かりたい気分だが、それ以前に睡眠が足りていない。まずはひと眠りするかと、Olは下層にあてがわれた自室へと戻る。</p><p>む。どうした？</p><p>そこにはナギアとフローロが待ち受けていた。</p><p>どうしたではありませんわ！</p><p>ナギアは蛇のような下半身を波打たせるとしゅるりと詰め寄り、ひどい剣幕で言い募る。</p><p>好きなだけ抱いて頂けるという約定、お破りになられますの？</p><p>ナギアさん、ずっと待ってたんですよ</p><p>初めて彼女を抱いたとき、確かにそんな約束をした。だがそれ以来、翼獅子退治に湯殿作り、結界の分析と忙しくて相手をしてやれなかったのは確かだ。</p><p>わかったわかった。お前たちの腰が抜けるまで相手してやる</p><p>徹夜明けのだるい身体に鞭を打ち、Olは二人を抱き寄せた。</p><p>んっあっ、は、くっぅぅんっ</p><p>ふふ。可愛らしいですね</p><p>布を張り巡らされた薄暗い部屋を満たすのは、甘い匂いと甘い声。</p><p>二人の女が一糸まとわぬ姿で睦み合っていた。</p><p>もっともっとっくださいっ！</p><p>今日のユウェは欲しがりさんですね</p><p>ユウェロイが大きく開いた両脚の間、秘部にブランの指がずっぷりと埋まる。</p><p>あぁっもっともっとぉ！</p><p>ええ。もっと良くして差し上げますからね</p><p>くちゅくちゅと音を立て、ブランの白魚のような指がユウェロイの膣内を出入りする。</p><p>奥奥にぃっ</p><p>ふふふこう、ですか？</p><p>あぁっ</p><p>ユウェロイは見てしまった。ブランの指が、その根本までユウェロイの中に差し込まれている。</p><p>──そしてそれでも、触れて欲しい部分に届いていない。</p><p>（そんなそんなはずがない）</p><p>否定すればするほど、思い出してしまう。</p><p>（敬愛するブラン様との逢瀬こうして頂けるご褒美。これが最高のもの、至上のものであるはずだ）</p><p>言い聞かせるまでもなく、それが当然のことだと思っていたことに、しかしユウェロイは気づかない。</p><p>（あんな男に嬲られることが良いものであるはずがない！）</p><p>だが彼女の脳裏に去来するのは、Olの長く太いゴツゴツとした指先。そして、それにもまして硬く大きい、あのグロテスクな器官であった。</p><p>（ブラン様より、あんな男のほうが気持ちいいなんて、ありえない！）</p><p>あらあら。そんなに腰を浮かせてはしたないですよ</p><p>快楽を求めて無意識に腰を突き出すユウェロイに、ブランはクスクスと笑いながら攻める。</p><p>っあっあぁっ</p><p>びくんと身体を震わせて、ユウェロイは達した。</p><p>良かったですか？</p><p>は、はい</p><p>あまりにも浅い絶頂。しかもそこでブランはやめてしまう。Olならば達しても更に攻めてきたはずだ。</p><p>ブラン様ありがとう、ございました</p><p>そんな思いを振り払い、ユウェロイは頭を下げる。前回断ったせいか、ブランの攻めはいつになくねちっこく、長いものだった。だがその長さに反して、ユウェロイは全く満足できていない。むしろ中途半端に刺激されたせいで、余計に飢えるような感覚があった。</p><p>（そんなはずがない）</p><p>心の結びつきこそ最重要であるはずだ。ましてやあんな醜悪な、男などによくされるわけがない。</p><p>だが気づけば、ユウェロイの足は下層のOlの部屋へと向かっていた。</p><p>あっ、あぁぁっ！んっ、ふぁぁあっ！</p><p>部屋の中からは、女の嬌声が漏れ出ている。フローロの声だ。魔力を供給するとかいう名目のもと、あの二人は暇さえあればまぐわっている。先日の朝もそうだ。ユウェロイはいつものように、扉の隙間から中を覗き見た。</p><p>ああぁっ！Olぅっ！いいっ、そこぉっ！奥ぅっ！気持ちいいですぅっ！</p><p>Ol様あぁっわたくしのお胸んっはぁっそんな、しちゃ、いけませんわっ！</p><p>そこには信じられない光景が広がっていた。</p><p>Olは寝台の上で四つん這いになったフローロの腰を抱えるようにして後ろから突きながら、もう片方の腕でナギアを抱き寄せ、舌を絡めあっている。二人の女を同時に抱くなど、ユウェロイの常識からは考えられないことだ。</p><p>そもそも自分以外の相手と関係を持つという時点で許容し難いというのに、目の前で睦み合うなど論外だ。だと言うのに、ナギアもフローロも随分と幸せそうだった。</p><p>魔族というのはそういうものなのか、と思いかけて、ユウェロイは首を振る。皆が皆そうであるはずがない。彼女が敬愛するブランもまた、魔族だ。</p><p>ではやはり──特殊なのはOlの方なのか。ユウェロイはそう思わずにいられなかった。まるで本物の槍のように太いOlの一物が、ズドンとフローロの中に打ち込まれる。まるで獣のように四足で立ち、みだらに尻を掲げながら、フローロは気持ちよさそうに嬌声を上げた。</p><p>激しくフローロの尻に腰を打ち付けながらも、Olの手はナギアの胸を鷲掴みにしている。子供の頭ほどもあろうかという大きさのその胸を、Olの手のひらはやすやすと覆い、無骨な指が胸の肉の形をぐにゅりと歪めて沈み込んでいる。</p><p>ブランの、どこまでもしなやかで美しい芸術品のような指とはかけ離れた、ゴツゴツとした指だ。体つきだってまるで違う。中途半端に筋肉のついた身体は、醜いとさえ言ってしまっていいだろう。ユウェロイが嫌悪する男の身体だ。</p><p>──だが。</p><p>あぁっ！Olっ！そこぉっ！そこ、気持ちいいっ！奥っ！あぁっ！奥、ズンズンしてっあぁぁっ！</p><p>Ol様っんっはあぁっわたくしの胸あぁっそんなに、いじらないで下さいませあぁんどうにか、なってしまいそうですわっ！</p><p>気持ちよさそうだ。ユウェロイはどうしてもそう思わずにはいられなかった。</p><p>あんな風に、太い指で身体を弄ばれて。</p><p>あんな風に、長いモノで奥を突かれて。</p><p>ユウェロイの腹の奥が、きゅうと切なくなる。気づけば彼女は服の中に手を突っ込み、秘裂を自分で弄っていた。だが、足りない。自分の指では、本当に気持ちいい部分に届かない。</p><p>っあ、んっは、あぁっ</p><p>くちゅくちゅと音を漏らすのも構わず、ユウェロイは己を慰める。どうせ部屋の中からは、盛大な喘ぎ声と濡れた肉のぶつかる音が聞こえているのだ。ユウェロイが秘部を擦る微かな音など誰も気には止めないだろう。</p><p>あっあっんっ、あっあっ、ああっ！</p><p>赤黒い肉の槍がフローロの中を貫くたび、彼女の高い声が甘くあがる。それと同時に、ユウェロイの腹の奥はどうしようもなくじんと疼いた。フローロの膣内から引き抜かれた肉塊の根本が垣間見えるたびに、それが己の中を蹂躙したときの感覚を否が応でも思い出してしまう。</p><p>なのに、その欲求が満たされることはない。奥のそこに、彼女の指が届くことはない。</p><p>そう、だ</p><p>不意に天啓を得たかのように、ユウェロイはあることを思いついた。全身装甲のスキルで作り出す鎧は、その形や大きさをある程度自由に設定することが出来る。それを利用して、己の手に薄い篭手を作り出す。</p><p>ちょうど──Olの手と似た大きさになるような、篭手を。</p><p>んっは、あっあぁっ！</p><p>つぷりと差し入れると、ひんやりとした鉄の冷たさが初めに感じられた。</p><p>んんっく、んっ！</p><p>鉄の籠手が中を傷めないよう、慎重に奥へと進めていく。</p><p>あっ！</p><p>そして、ついに今までは届かなかった最奥へと辿り着き──</p><p>ああぁ</p><p>ユウェロイが感じたのは、絶望であった。</p><p>なんで</p><p>男でいいのならば、鉄の篭手だっていいはずだ。だが実際にそこへ届かせてみれば、まるで味気のない快楽だけがそこに存在していた。</p><p>ならば</p><p>形や大きさを制御できるという点においては、投げ槍のスキルもまた同様だ。切っ先を丸め、大きさを最大限短くし、形を変え出来上がったものは、もはや完全に槍とは呼べぬものであった。いや、肉槍というくらいだから、それもまた槍と呼ぶべきかもしれない。ユウェロイは迷いなく、それを己の中に突き入れる。</p><p>あっくっ、あぁっ</p><p>冷たい塊が、己の中を満たしていく感覚。その冷たさは不愉快ではあったが、感覚そのものはこれこそ己が求めていたものだとユウェロイは確信する。</p><p>あっ、あぁっ、Ol、Olぅっ！わたし、もうっあぁっ！中にっ！中に、下さいぃっ！いっしょに、いっしょにぃっ！</p><p>ああ、出すぞっ！</p><p>Olの、低い、どこか切羽詰まった声。男のその声に、反射的にユウェロイの身体に衝撃が走る。</p><p>あああああああぁぁぁぁぁっ！</p><p>フローロの声が高く上がり、Olの肉槍が一際深く彼女の膣内にねじ込まれた。聞こえるはずもない射精の音が、聞こえてくるかのような絶頂。全身を突っ張り身体を震わせる雌の体に、雄が容赦なく種を流し込む。</p><p>あぁぁっ！ああっ！あっ、あぁぁぁあっ！</p><p>二度、三度、四度。絶頂のただ中にあるフローロを更に追い込むようなピストンを見つめながら、それに合わせてユウェロイも絶頂に身を震わせた。</p><p>は、あぁぁはぁぁ</p><p>ぬぷり、と音を立ててOlの一物が腰から引き抜かれ、大量に注がれた白濁の液がフローロの膣口から溢れ出る。</p><p>気持ちよかったです</p><p>この上なく幸せそうな表情で、フローロはそう呟いた。</p><p>気持ちよかった。それは、ユウェロイもまた同じであった。Olの物を模したそれで奥を貫く感覚は、かつてないほどの快楽を彼女に与えた。</p><p>だと言うのに、なぜ自分は今これほど惨めな気持ちになっているのだろう。</p><p>膣内に残されているのは冷たい鉄の塊で、穢らわしくおぞましいはずの白濁の液が、なぜこれほど羨ましく感じられるのだろう。</p><p>同じ快楽を味わいながら、フローロはあんなに幸せそうなのに、なぜ自分はこんなに虚しいのだ。</p><p>次はわたくしの番ですわ</p><p>ナギアが嬉しそうに、反り立ったままの肉の塊に顔を寄せ、舌を這わせる。</p><p>あれは排泄の器官でもあるはずだ。そうでなくとも、他の女の愛液と精液とにまみれて汚れきっている。そんな物を舐めしゃぶるなど、正気とは思えない。だが、ナギアの表情もまた、幸せそうに見えた。</p><p>己の膣内から引き抜いた鉄槍をぼんやりと見つめ、ユウェロイはそれをぺろりと舐める。</p><p>鈍くまずい、鉄の味がした。</p><p>第10話ダンジョンを探索しましょう-1</p><p>ここから先が探索区だ</p><p>先頭を進むサルナークが通路に置かれた石像を剣で指し示し、不愛想にそう告げる。</p><p>Olはサルナークとフォリオ、ラディコの三人を伴い、モンスターの狩猟に探索区と呼ばれる区域を訪れていた。特異個体のような例外がない限りは、モンスターを倒してアイテムやスキルを集めることがOlに課せられた日常的な仕事だ。</p><p>これは何だ？</p><p>Olはその石像に目を留め、尋ねる。</p><p>見れば分かるだろ。探索区と居住区の境には、この像が置いてあるんだ</p><p>それはそれでどういうことなのか聞きたくはあったが、聞いても納得のいく答えは返ってこないであろう事はわかっている。代わりに、Olは別のことを尋ねた。</p><p>これは何をかたどった像なのだ、と聞いている</p><p>それはOlの腰くらいの大きさの、翼と角を持ち二本の足で立つ生きものの像だった。造形としては非常に大雑把で、かろうじて頭と体と手足の判別がつく程度でしかない。人に類するものなのか、モンスターなのかすらわからなかった。</p><p>あん？どういう意味だ？</p><p>これは立つ者と呼ばれています</p><p>怪訝そうに眉をひそめるサルナークをフォローするように、フォリオが声を上げる。</p><p>母なる壁と同様、壁界に最初から存在していると言われています。この像に似たモンスターは見つかっていませんね</p><p>彼女の説明に、Olはサルナークの反応の意味を悟った。そういえばこの世界には、物を作るという発想が極めて希薄なのだ。だからこのような像も、誰かが作ったものであるという発想がない。故に何かをかたどるという言葉の意味も分からないのだ。</p><p>立つ者境界に立っているという意味か？</p><p>確かにその石像は、二本の足で立ってはいる。しかし像などというものは基本的に立っているものなのではないか、とOlは訝しんだ。</p><p>名前に大した意味なんかないだろう。別にモンスター共がこれを超えられないってわけでもない</p><p>退屈そうにサルナークが吐き捨てる。</p><p>確かに結界の類はないようだ。では探索区と居住区とは違いとはなんだ？</p><p>出てくるモンスターの質と出方が違うんだ</p><p>モンスター自体は、居住区にも出現する。かつて最下層でフローロが倒し日々の糧としていた角兎などはその典型だ。</p><p>居住区に出てくるモンスターははっきり言って雑魚だ。それに出てくる場所も決まってる。だがこの像を超えた場所に出てくるモンスターは一段凶暴だし、どこから出てくるかも予測できない</p><p>似たような像は更にこの奥にもあります。そして、像を一つ超える度に出てくるモンスターの脅威度は上がります。奥に行けば行くほど敵は強くなる、ということですね</p><p>サルナークの説明にフォリオが補足する。すると、サルナークは軽く舌打ちした。魔族嫌いは相変わらずらしい。</p><p>つよいモンスターをたおすと、つよいスキルがもらえるんだよ！</p><p>端的なラディコの言葉に頷きつつも、奇妙なことだとOlは思う。奥に行けば行くほど敵が強くなり、その分実入りがよくなるというのはOlのダンジョンでも同じだった。と言ってもそれは、侵入者である冒険者側から見た時の話だ。</p><p>Olたちダンジョンに住む者から見れば、自分たちの住居に近い場所ほど強力な魔物が守っているという事になる。魔物とて、戦えば傷を負うし疲弊もする。どれほど強大な魔物であろうと数の暴力の前にはやがて屈してしまう。だから多数の弱い魔物を敵の近くに配し、少数の強い魔物で中枢を守る事は理にかなっている。</p><p>だがこの世界の者たちは皆ダンジョンに暮らす民でありながら、同時にそのダンジョンを探索する者でもあるのだ。彼らはダンジョンの中心に近い場所に住んでいるから、そこから離れるほどに敵は強くなるという事になる。</p><p>だが、それは何故なのか？法則性があるからにはそこには理由があるはずだ、とOlは考えていた。</p><p>前衛と後衛がちょうど二人ずつだ。オレとそっちのチビが前を行く。大将と羽女は後ろを歩け</p><p>チビじゃないよお！</p><p>両手を振り上げ抗議するラディコを、サルナークは完全に黙殺した。そうやって腕を上げてもサルナークの上背には敵わないのだから、評価自体は事実ではあった。</p><p>この通路の広さだと、前衛が二人では横を抜かれるのではないか？</p><p>Olが知る限りこの世界の通路の幅はどこも同じで、およそ十六フィート半この世界の単位で表現するならば五メートルだ。二人でカバーするには少々広い。</p><p>まあな。だがアンタに前を張らせるわけにもいかんだろ。フローロのお嬢がいれば良かったんだがな</p><p>本人も行く気だったようなのだがな。ブランに却下された</p><p>過保護なこって</p><p>呆れたようにサルナークは肩をすくめる。</p><p>過保護、か</p><p>だがその言葉が、どこか引っかかった。具体的に何が、というわけではない。しかしブランの態度には、妙に違和感を覚えるのだ。</p><p>ま、羽女はともかく大将のことはオレが守ってやるさ。まだアンタに死なれるわけにはいかないからな</p><p>いいや、その必要はない</p><p>首を横に振り、Olはサルナークの隣に並ぶ。そして宣言した。</p><p>俺が前衛になる</p><p>あん？あのよくわからん箱みたいな武器はぶっ壊されたんだろ？ナギアのヤツから剣技スキルでも奪ってきたのか？</p><p>Olの武器であったダンジョン・キューブはブランの攻撃によって破損し、翼獅子との戦いで完全に破壊された。核となる石材から粉々にされてしまったから、もはや修復すら不可能だ。</p><p>いいやもっと、情けないものだ</p><p>情けない？</p><p>Olの言葉に、フォリオが首を傾げる。</p><p>よくわからんがまあお手並み拝見といこうか</p><p>サルナークの瞳がギラリと剣呑に輝き、回廊の奥を見やる。ガシャガシャと音を鳴らしながら現れたのは、全身を白い殻に覆われたモンスターだった。遠目には鎧を着こんだ騎士のようにも見えるが、その腕は四本ありそれぞれに剣を手にしている。</p><p>ふと、Olの脳裏を四本腕の悪魔とその庇護対象であり、弟子でもあった少女がよぎる。</p><p>白殻兵が三匹か。一人一匹だな</p><p>いや。それには及ばん</p><p>接敵に備え剣を構えるサルナークを無視して、Olが一歩前に出る。かと思えば、彼は凄まじい速度で白殻兵に肉薄した。</p><p>サルナークが瞠目する。</p><p>なんだそりゃあ！？</p><p>Olの腰辺りから獣のような脚が突き出して、彼はまるで半人半馬のような姿で駆けていた。かと思えばその右腕が巨大な獅子の顔となり、白殻兵を一口で噛み砕く。</p><p>大将、一人で突出しすぎだ！</p><p>敵は後二体いる。サルナークが慌ててOlを追いかけるが、それよりも早く二対四本の腕が二組、計八本の白刃がOlに迫っていた。</p><p>だがそれを、Olの背中からバサリと広がった蝙蝠のような翼が阻む。薄く柔らかそうな皮膜はしかし、白殻兵の振るう剣に傷一つつけられることはなかった。</p><p>お返しとばかりにOlの左腕から鋭い爪が三本生えて、白殻兵を四つに切り捨てる。そして慌てたように最後の一匹に向け、Olは右腕の獅子頭を向けた。</p><p>放て、アレオス</p><p>その名を呼ぶと同時に凄まじい熱量の炎がほとばしり、一瞬にして最後の一匹が消し炭と化す。</p><p>ふむ。悪くはないな</p><p>信じられないドロップ品を、モンスターに戻したんですか！？しかも一部だけ！？</p><p>二匹目を倒してから三匹目に移るところで少々もたついたが、もともと戦闘の専門家でもないOlの戦果としては上々だ。その結果に満足していると、フォリオが興奮した様子で翼をはためかせ文字通り飛んできた。</p><p>お前が思っているほど大した技術ではないぞ。もともと変形する機構があるのだから、それを少々弄っただけだ</p><p>それも、翼獅子アレオスにOlの意思を理解するだけの知能があり、こちらに従うことに同意しているからこそ出来る芸当だ。他のモンスターで同様のことを試しはしたが、一部だけアイテムとして、一部だけモンスターとして存在し機能するなどという技を使えるのはアレオスだけだった。</p><p>いやいやいやいやOlサマの感覚、絶対おかしいですよ</p><p>そればかりはオレも同意する</p><p>頭を抱えるフォリオに、サルナークが呆れていいやら感心していいやら計りかねたような表情で頷く。</p><p>ねえねえOlくん、どうしてそれがなさけないの？</p><p>ラディコだけが特に気にした様子もなく、素朴な疑問を呈した。</p><p>この戦い方は部下の猿真似だからだ</p><p>Olが知る中で最も強い存在──魔王軍最強の獣の魔王、ミオのほんわかとした顔を思い出し、Olは呟くように答える。</p><p>ラディ、お前にも新しい武器を用意した</p><p>なあにこれー？</p><p>Olが懐から取り出した物に、ラディコは首を傾げる。</p><p>なんだそりゃ？</p><p>不思議な形をしていますね</p><p>のみならず、サルナークとフォリオも首を傾げる。それはこの世界には存在しないし得ない道具だからだ。</p><p>大まかな形としては取っ手がついた球形の器である。ちょうどラディコの頭くらいの大きさで、上には大きく穴が空いており、取っ手の逆方向、側面には長く管が伸びている。そして管の先端は大きく広がり、無数の穴が空いていた。</p><p>これの名は、如雨露という</p><p>ジョウロ？</p><p>要するにそれは水やりの道具であった。空がなければ太陽もなく、植物すらないこの世界にジョウロがあるわけがない。その割に木製品はあるのだが、これは木のような姿をしたモンスターがドロップするものであるらしい。</p><p>フォリオ、水塊で水を入れろ</p><p>水デスか？</p><p>怪訝そうにしながらも、フォリオは言われた通りラディコの持つジョウロに水を入れてやる。</p><p>鉄の腕は全身の筋力を強化するスキルだと思われている。が、違う。実際に強化しているのは、力そのものだ</p><p>鋼の盾が攻撃を防ぐスキルではなく、力を無効化しているのと同じだな</p><p>対となるスキルを二つ名にするほど使い込んでいるだけあって、サルナークはOlの説明をすんなりと受け入れる。</p><p>どう違うのお？</p><p>だがやはり鉄の腕を二つ名としているはずの当のラディコが、首を傾げた。</p><p>膂力を強化しているのであれば、つまるところ攻撃の威力は重さと速さで決まる。どれだけ力が強かろうと速さには限界があるから、重い武器を振るう必要がある</p><p>それは単純な物理計算だ。どれだけ剛力無双の大男だろうと、ゆっくり突き出した拳が何かを傷つけることはない。</p><p>だが力そのものを強化しているのであれば、重いものを使う必要などない。鉄の腕は重さと無関係に、威力だけを上げるからだ</p><p>それは使用者の肉体を守るための原理でもあった。容易に骨を砕ける程の力を筋肉が発揮すれば、その力は己の肉体にも向かう。つまり自身の骨も砕けるのだ。</p><p>だからOlが魔術で肉体を強化するときは、発揮する力だけでなく同じだけ頑丈さを上げるのにも魔力を使う。だが鉄の腕にはそのような自身を守る機能はついていなかった。</p><p>ええと、つまり攻撃力10の武器を使っても50の武器を使っても、鉄の腕を使ったら100になるってことですか？</p><p>フォリオが少し考え、尋ねる。攻撃の威力を数字で表すという発想に奇妙なものを感じつつも、Olは首を振る。</p><p>いや、そのたとえならば10の武器を使えば110に、50の武器なら150になろう</p><p>じゃあ50の武器を使った方がいいじゃねえか</p><p>すかさず、サルナークが至極真っ当な事をいう。</p><p>攻撃速度が同じであればな</p><p>だがOlの答えに、すぐさま口をつぐんだ。</p><p>50の大鎚を一度振るう間に、10のナイフであれば三度振るえる。そのままならば50と30だが、鉄の腕があれば150と330だ</p><p>Olの袖口で、翼獅子アレオスがグルルと唸る。まるでそれに応えるように、巨大な猿のようなモンスターが通路の先に姿を現した。こちらを認めるや否や襲い掛かってくる大猿たちに指先を向け、Olは命じる。</p><p>ラディコ。振れ</p><p>理屈はわからずとも、本能的に自分の力の使い方は理解しているのだろう。ラディコはジョウロをぐっと構えると、大猿に向けてそれを振った。口の先から無数の水滴が飛び出し、そしてそれは爪よりも細かな無数の矢となって大猿たちを貫く。</p><p>これは、0を一振りで100回飛ばす道具だ</p><p>一粒一粒の水滴は、せいぜい細いナイフを突き立てる程度のもの。しかしそれを無数に浴びて、三頭の大猿はあっという間に絶命した。</p><p>うわっ、エグ</p><p>Olくんありがとう！これ、すっごく気に入っちゃったあ！</p><p>大猿は中層でも浅い区域に出るとはいえ、その中ではかなりの強敵だ。大炎の直撃でも絶命しない厄介な敵があっさりと即死するのを見て眉をひそめるフォリオとは裏腹に、ラディコはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。</p><p>扱いにはくれぐれもくれぐれも！気をつけろ！</p><p>残った微量の水滴が跳ねるのを避けながら、Olはラディコに釘を刺した。アレオスのローブであればその程度の威力は十分防げるが、味方から不意を打たれるのはぞっとしない。</p><p>だがこの威力は大したもんだな。もう二、三段奥に行ってもいいんじゃないか？</p><p>サルナークの言葉にまたこのヒトは油断してとフォリオは少し思いはするものの、彼女自身も戦力としては問題ないと判断したため、口をつぐむ。</p><p>いや。しばらくはこの辺りで稼ぐ</p><p>だがOlは首を振り、その提案を却下した。</p><p>新しい戦法を試しているから慎重になるのはわかりますケド、そこまで心配しなくても大丈夫だと思いますよ？元々、アタシとラディコの二人でもこの一つ奥の区画で狩ってますし</p><p>流石にこの区画は浅すぎるのではないか、とフォリオも口添えをする。ラディコの鉄槌は道具袋に入れておけばいいし、もしこの戦い方が通用しなければ元に戻せばいいだけだ。</p><p>Olくん、ボクももっと強いモンスターと戦ってみたい！</p><p>気持ちはわかるが、もう少し待て</p><p>ラディコまでが進行を提案するも、Olは頑なに方針を変えず。四人はその後も浅い区画で戦闘を繰り返す。といってもほぼ出合い頭にラディコが殲滅するだけの繰り返しだ。</p><p>たまに背後からモンスターが出たときはOlが対応し、水を補給するだけのフォリオと何もすることのないサルナークは暇そうにしていた。</p><p>そういや大将。探索をする上で、最も厄介な敵がなにか知ってるか？</p><p>結局大した収穫もないまま居住区に向かう道を指示するOlに、ふとサルナークはそんな事を問いかけた。</p><p>アンタがその服にしちまった特異個体や、毒を持ったモンスター、空を飛ぶやつ、仲間を呼ぶやつ、色々いるが中でも一番厄介な相手と言えば</p><p>他の探索者であろう</p><p>即答するOlに、サルナークは舌打ちする。</p><p>何だよ、羽女にでも聞いてたか？</p><p>言ってませんよ</p><p>それはOlのダンジョンにおいても、同じことだった。Olはダンジョンを運営する側だったから実際に目にしたことはないが、冒険者同士の争い自体は冒険者ギルドを運営していたナジャやノームから度々頭痛の種として聞いていたものだ。</p><p>探索をしている者は、その区画にいるモンスターを倒して進む。それはつまり、どのモンスターよりも強いということだ</p><p>強さは単純に推し量れるものではないが、様々な種類のモンスターを倒せるということは、対応力が高いということでもある。</p><p>ま、そういうこった。モンスターと違って探索者は何をしてくるかわからん。それに一番厄介なのは、出会った時点では敵か味方かすらわからんということだな</p><p>出会った時点では友好的なふりをして、油断したところで襲いかかってくるような者もいます。気をつけてくださいね</p><p>懐かしい。Olは思わずそう感じる。</p><p>そう言えばOlの魔窟を探索していた冒険者たちの間では、冒険者同士で出会った時の方針を決める習慣があった。</p><p>ひとまず攻撃されない限りは友好的に接するのが善。相手次第で対応を変えるのが中立。</p><p>敵か味方かなど、簡単に判別する方法があるぞ</p><p>嘘を見破るスキルを持ってるんですか？</p><p>そして──</p><p>簡単なことだ。こちらから先に襲えば、全部敵であろうが</p><p>Olは、邪悪なる魔術師なのであった。</p><p>第10話ダンジョンを探索しましょう-2</p><p>探索区に入ったばかりの通路を三人の男女が歩いていた。</p><p>金の髪を側頭部で二つ結びにした少女と、黒い髪をポニーテールにした少女。まだあどけない二人の顔立ちは、いかにも勝ち気そうな金髪と気弱そうな黒髪という違いはあるものの、基本的な造形自体はよく似ていた。</p><p>そしてその後ろを歩く、大柄な牙族の男。がっしりとした体躯に濃い焦げ茶の狼のような耳と尾。厳しい顔つきに一文字に引き結んだ口の端からは鋭い牙が覗いている。大斧を背に担いだ、いかにも屈強そうな戦士だ。</p><p>テール！ 早くしなさいよ、すっとろいわね！</p><p>ルヴェお嬢様、あまり先にいかれると危険です</p><p>先頭を行く金髪の少女が後ろを振り返り、牙族の男に文句をつける。テールと呼ばれた男は自分の腰程度までしか背丈のない少女に、丁寧な口調でそう答えた。</p><p>あの、お姉様、ごめんなさい。わたしが脚遅いから</p><p>あんたはいいのよ可愛いクゥシェ。どうせこのウスノロに合わせてあげてるんでしょ？本当に優しいんだから</p><p>黒髪の少女が眉をハの字に下げて謝ると、ルヴェと呼ばれた少女はテールに対するものとは打って変わった態度でそう答える。</p><p>お嬢様！</p><p>その時、ルヴェの背後からモンスターが現れ、テールは慌てて彼女へと駆け寄る。</p><p>なーに慌ててんのよ</p><p>だが彼がルヴェのもとへ辿り着く前に、氷の壁がモンスターたちの動きを止める。</p><p>あんたなんかよりよっぽど優秀なあたしの可愛い妹、クゥシェがちゃーんと守ってくれてるんだから。それに</p><p>そしてルヴェはゆっくりと振り返ると、氷の壁に埋まって身動きの取れないモンスターたちに指を向ける。次の瞬間、その指先から凄まじい雷撃が放たれて、氷の壁の表面を伝いモンスターたちを消し炭に変えた。</p><p>こーんな浅い区画の雑魚雑魚モンスターにあたしが負けるわけ無いでしょ？</p><p>ふっ、とルヴェが指先から立ち上る煙を吹き消すと同時に、氷の壁が消え去りモンスターたちがドロップ品に変わる。</p><p>し、しかし他の探索者と出会うという可能性も</p><p>探索者ったって、どうせユウェロイとかハルトヴァンのとこの奴隷でしょ。あーんなよわよわ壁族の手下なんか楽勝よ</p><p>己を諌めるテールの言葉に、自信満々のルヴェはまったく聞く耳を持たず通路を進んでいく。</p><p>お姉様、ハルトヴァンさんとは同盟を結んでいます。倒してはまずいのでは</p><p>大丈夫よ可愛いクゥシェ。全部あたしに任せておけば間違いなんてないんだから</p><p>妹のクゥシェの言葉も無視して、ルヴェは通路をずんずんと進んでいく。</p><p>というわけだ。今からこいつらを襲うぞ</p><p>スィエル姉妹じゃないですか！</p><p>魔術で映した遠視を指していうOlに、フォリオが真っ先に突っ込む。</p><p>有名なのか？</p><p>オレでも知ってるぞ。レイユのトコの孫娘だろ</p><p>Olの問いに、サルナークは呆れ声をあげた。</p><p>ユウェロイサマ、ハルトヴァンサマ、レイユサマというのが中層で特に有力な壁族の名前です。ですがあのお二人は自身が幼くして凄腕の探索者として有名なんです。あの牙族のヒトは護衛ですね</p><p>確かに先程の戦闘は見事なものだったな</p><p>フォリオの説明に、Olは頷く。氷の壁で敵を止め、雷撃で一網打尽にする。万一敵が漏れれば後ろに控えた牙族の男が対応するのだろう。攻守にバランスのいい優れた戦法だった。</p><p>ついでに言うとあのテールって男はランクまでは知らんが、盾と腕両方持ってるって話だ</p><p>こっちも両方あるよ！</p><p>任せて、と言わんばかりにぐっと拳を握って見せるラディコ。</p><p>二人で持ってるのと一人で両方持ってるのじゃわけが違うだろうが。だったら貴様の鉄の腕よこせよ</p><p>えー、やだよお</p><p>銀の腕の方を渡せと言わない辺り、微妙に人がいいですよねこのヒトとフォリオは思いつつも口には出さない。</p><p>チッ。まあいい。そういうわけでだな大将。あいつらを狙うのは</p><p>サルナークにOlは重々しく頷く。</p><p>ラディ、スキルを銀の腕に切り替えておけ。そしてまず鉄鎚を黒髪の娘に向かって投げろ。防御役をまず潰す</p><p>話聞いてたか！？チビ、貴様もわかるな！あいつらを狙うのはナシだ！そんくらいわかれ！</p><p>何事もなかったかのように戦術を説明しだすOlに、サルナークは叫んだ。</p><p>わかったらだめなの？わからないとだめなの？</p><p>ちょっとサルナークサン、ラディにあんまりややこしいこと言わないでくれマス？</p><p>過保護か！ちょっと貴様らは黙ってろ！</p><p>眉を寄せて考え込むラディコを抱えて文句を言ってくるフォリオに、サルナークは吐き捨てる。</p><p>サルナーク。お前の言いたいことはわかっている</p><p>いいや、わかってねえだろ。あいつらが強いってだけの話じゃねえんだ。奴らに手を出せばレイユの配下全部が敵に回る。壁族同士の戦いになればどちらも消耗は避けられない。そうなりゃ弱ったところをハルトヴァンが総取りだ。そうやって中層は三人の壁族が争うことなくバランスを保ってる。だからユウェロイはアンタを守っちゃくれねえぞ。レイユにアンタを差し出して終わりだ</p><p>懇切丁寧なサルナークの説明に、なるほど、とOlは深く頷く。</p><p>──つまりお前は怖いのだな？</p><p>あ゛ぁ！？</p><p>ぶっ殺してやらぁぁぁっ！</p><p>どんなに理を説き、状況を説明し、メリットとデメリットが釣り合わないことを教えても怯懦なるは恥ではないなどと優しい口調で言われ、サルナークは半ば自暴自棄になってルヴェたちに襲い掛かった。</p><p>無論、安い挑発に乗ったわけではない。Olが最初からすべて理解した上で決め、翻す気がないという事がわかったからだ。</p><p>腹立たしいのは、Olの言葉はある一面では正しいという事だ。無謀な自殺行為を避けることを臆病とは言わないが、少なくともOl自身はそれを無謀だとは思っていない。</p><p>そしてそれは、フォリオとラディコもまた同様だった。わかったと即答したラディコは単に何も考えてないだけだろうが、フォリオは考えた上でOlの事を信じたのだろう。特に反対することもなく、彼の指示に従っている。</p><p>結果としてサルナークだけが強硬に反対した事になる。挙句の果てに気が乗らないなら帰ってもいいとまで言われ、サルナークは流石にキレた。</p><p>ナニアレ？</p><p>剣を届かせる遥か手前でサルナークの身体が氷の壁に包まれ、雷撃が放たれる。だが鋼の盾を持つ彼にそれは一切のダメージを与えなかった。流石に氷に包まれれば動けなくはなるが、風を切って投げ放たれた巨大な鉄鎚がその氷を粉々に砕き、更にそれを作り出したクゥシェへと一直線に突き進む。</p><p>だがそれが少女に当たる寸前、牙族の男テールが拳で叩き落す。</p><p>おい、あいつ銀の腕を防いだぞ</p><p>銀の盾以上の持ち主ってことですね</p><p>両方ともランクが銀であれば、威力は見た目通りの効果となる。つまり高速で飛んでくる鉄鎚を拳で叩き落せる膂力と頑丈さの持ち主という話になるが、金の盾の持ち主であることに比べればその方がいくらかはマシだ。</p><p>何よあんたたち！いきなり何を──</p><p>お姉様、危ないっ！</p><p>文句を言うルヴェの目前に氷の壁が張り、フォリオの放った大炎がぶつかって蒸気を噴き上げながら対消滅する。</p><p>いいぞ羽女、そのまま続けろ！</p><p>スキルというものは一度使用すると、次に使用するまでの時間俗にいうクールダウンというものが発生する。連発はできないのだ。そしてその時間は強力なスキルであるほど長くなる傾向にある。</p><p>氷の壁は強力なスキルであるがゆえに、大炎に比べ必要となる時間が長い。つまりはフォリオが大炎を投げている限り封殺できるということだ。</p><p>調子に乗るんじゃないわよッ！</p><p>導雷！</p><p>ルヴェの指先から稲妻が迸り、フォリオを狙う。しかしOlの魔術によって、それはサルナークへと誘導された。</p><p>は？何そのスキル</p><p>お嬢様、お下がりください！</p><p>目を丸くするルヴェの前に出たテールが大斧を振り上げ、前衛のサルナークに向かって振り下ろす。サルナークはその一撃を、剣で受け流すように捌く。だが凄まじい衝撃が彼の腕を襲い、危うく剣を取り落としそうになりながらサルナークは後方に飛んだ。</p><p>くそっ、腕も鋼以上か！？</p><p>ふん。テールは腕も盾も金よ！あんた達に勝ち目はないってこと！</p><p>焦るサルナークに、ルヴェが勝ち誇る。</p><p>ハ！だったら楽だったんだがなあ！</p><p>スキルで上回ってれば負けないのであれば、サルナークは今まで散々辛酸を舐めさせられるような事などなかった。今の彼には、スキルの差などやりようでいくらでも覆せることが骨身にしみてわかっていた。</p><p>お姉様、黒髪の人間は鋼の盾剣技LV5、牙族が銀の腕翼族は大炎に道具袋持ちです。そしてあの金髪の人間は</p><p>鑑定スキルを持っているのだろう。クゥシェが主要なスキルを報告しながら、Olに視線を向ける。</p><p>そして、動きを停止させた。</p><p>Olはその干渉に対する防護を敢えて切り、クゥシェに全てを見せた。</p><p>全てを、だ。</p><p>つまり彼女の視界はこのようなものになる。</p><p>医療魔術LV10＞小癒・縫合・皮膚整形・精力回復＞中癒・骨接合・負傷再生・疲労回復＞大癒・欠損再生・機能再生＞快癒・灰化復元＞解毒・獣毒消去・蛇毒消去・蛙毒消去・魚毒消去・虫毒消去・草毒消去・茸毒消去・竜毒軽減＞悪化・小傷・中傷・大傷・麻痺・無痛・盲目・沈黙・嗅覚喪失＞五感強化・視力強化・聴力強化・嗅覚強化・感度強化＞蘇生・回生・復活・死者蘇生＞精神・平静・興奮・恐怖・混乱・魅了・睡眠・忘却・痒み・吐気・狂戦士攻撃魔術LV7＞熱術・小炎・大炎・猛炎・炎壁・炎球・小氷・大氷・氷壁・氷球・凍風・灯火・閃光・暗闇＞力術・小風・大風・操雷・雷撃・降雷・飛礫・巨岩・爆発・爆裂・魔力矢・魔力槍・魔力刃・魔力鎚・魔力鞭・魔力盾・魔力鎧変性魔術LV10＞形状変化・巨大化・縮小化・加工＞性質変化・硬質化・軟質化・封炎・封凍・封雷・易燃・易凍・導雷・加重・減重・色彩変更＞元素変換・金属化・砂化・液化・固体化・石化・石化解除幻影魔術LV10＞幻覚・幻視・幻聴・幻嗅・幻味・幻触・念話・伝達＞幻影・幻像・幻音・幻臭・幻物・透明化＞複合幻影・幻獣召喚・投影・広域幻想・隠形・変装・変身召喚魔術LV10＞召喚・物質召還・小型生物召喚・中型生物召喚・大型生物召喚・精霊召喚・悪魔召喚＞召還・所有物召還・使い魔召還・リル召還・送還＞転移・方向転換・交換・瞬間移動・長距離転移・大規模転移＞結界・封魔結界・認識結界・防護結界・増幅結界・減衰結界・時留結界・拡大結界・支配領域付与魔術LV10＞物質付与・保護・施錠・開錠・物質操作・軽量化・攻撃強化・防護強化＞生物強化・筋力強化・耐久力強化・持久力強化・敏捷性強化・反射神経強化・巧緻性強化・五感強化・再生力強化・耐炎・耐凍・耐電＞魔道具制作・発動体化・恒常付与・魔術封入・魔術定着＞対魔術・魔術防護・魔術反射・魔術抵抗・対抗魔術・魔術減衰・魔術増幅・解呪死霊魔術LV10＞対霊・霊視・探霊・探骸・霊会話・霊魂捕縛・操霊・魂魄操作・除霊・封霊＞死霊操作・死体作成・骸骨作成・不死化呪術LV10＞呪言・禁止・指令・契約・予言＞類感呪術・呪殺・雨乞・形代＞感染呪術・悪化・憑依・呪詛・同期迷宮魔術LV11</p><p>そして鑑定スキルには、知られていない挙動があった。それは使用者が表示された情報を全て認識するまで行動できなくなるというものだ。読んで内容を理解するまではいかなくともいい。ただ文面を目に入れればクリアできる条件であり、普通の相手であれば意識する事もない刹那の間にそれは終わる。</p><p>だがOlの持つ膨大な量のスキルは視界に収まりきらず、意識を端に向けてページをめくる必要があった。その確認にはどんなに急いでも数秒かかる事を、Olはナギアとの実験で確認している。</p><p>お嬢様！？</p><p>いっくよー！</p><p>背後でクゥシェの異常に気付いたテールに向かって、ラディコがジョウロを振りかぶる。最初の鉄鎚は見せ札だ。腕を所有していることを理解させ、行動を縛る。</p><p>くっ俺の後ろに！</p><p>テールは腕を大きく広げ、背後に二人を庇う。ただの水滴とは思えない破壊的な音が床や壁を跳ねて、テールは己の判断が正しかったことを悟った。</p><p>そして、間違っていたことも。</p><p>これは酷いハメですね</p><p>空になったラディコのジョウロに、若干引きながらもフォリオが水塊で水を補充する。水塊はただ水の塊を出すだけの、攻撃でもなんでもない日常生活用のスキルである。</p><p>故に、クールダウンはほぼ無きに等しい。ラディコ自身が水塊を使うのならばまだしも、フォリオが完全な連携で水を足すから隙もない。結果として、彼女は致死の雨を無限に振りまく存在となっていた。</p><p>背後に二人を庇っている以上、テールは動くことができない。そして斜線を完全に遮られ、ルヴェとクゥシェも射撃系のスキルを使えない。クゥシェが氷の壁を張るも、もちろん銀の腕を持つラディコの動きを止めることはできず、もろともに破壊された。</p><p>だがこれは完全な膠着状態だ、とテールは思う。敵もまた、この破壊の雨の中に入ることはできない。鋼の盾では銀の腕の攻撃を防ぐことはできないからだ。</p><p>早く何とかしなさいよ、テール！</p><p>ルヴェから檄を飛ばされ、テールは一か八かの賭けに出ることにした。右手で握りしめた大斧を、手首の力だけで投げ放つのだ。テールの膂力と金の腕の力があれば、それでも十分相手を殺傷する事はできる。だがもし外せば打つ手はなしだ。</p><p>狙うは相手の攻撃の要、銀の腕の牙族の少女。幼い同族を手にかけるのは少々気が引けたが、守るべき主の命と引き換えにできるものではなかった。</p><p>テールが拳に力を入れた瞬間、鋼の盾の男──サルナークが動く。テールは馬鹿な、と目を見張った。クゥシェは確かに鋼の盾と銀の腕だと言っていた。だがサルナークは水滴を意に介した様子もなく進んでくる。</p><p>テールには推測できなかった。ラディコが、銀の腕を持っているのならば何の意味もないはずの鉄の腕を持っていること。そして、同様に考えたクゥシェが、報告を怠ったことを。</p><p>テールは知らなかった。銀の腕と鉄の腕を持っている場合、そのどちらを使うかは自由に切り替えられることを。</p><p>お嬢様。動かないでください</p><p>だが問題はないはずだ。大斧の届く範囲に来たら切り伏せればいい。サルナークの持つ剣技はLV5。その程度であればいかようにもなる。</p><p>ついたぜ、大将</p><p>うむ、ご苦労</p><p>だがその懐からぬっとOlが現れ、テールに向けて手のひらを向けた。道具袋か、と内心舌打ちしつつも、テールは大斧を振りかぶる。その瞬間、降り注いでいた水滴が途切れ、ほんの一瞬だけ彼は意識をラディコへと向けた。</p><p>視線をOlに戻したとき、彼の手からは灰色のガスのようなものが噴き出していた。動きはさほど早くはないが、避ければ背後のクゥシェとルヴェに当たる。</p><p>それがどのようなものであろうと金の盾で防ぐ。それが不可能なものでも金の腕で打ち破り、大斧の一振りで二人まとめて殺す。そう決意して息を止め、テールはガスを浴び──</p><p>そして、それが彼の最後の思考となった。</p><p>テール！？</p><p>全身が灰色の石に変化し、ピクリとも動かなくなった従者にルヴェが悲鳴のような声を上げる。</p><p>やはり金の盾でも変性術は問題なく通るな</p><p>鉄の鎧を湯殿に変えたのと同じ系統の術。何の力も与えずただ性質を変えるだけの変性術ならば、盾でも無効化できない。</p><p>アレ一瞬で終わるから最初は何やられたか全くわかんねえんだよな</p><p>あ、経験済みなんデスね</p><p>同情するように呟くサルナークに、それもそうかとフォリオは納得する。Olがぶっつけ本番で試すわけがなく、検証するならサルナークしかいない。</p><p>テールを無力化したOlは、残る二人に視線を向ける。</p><p>ひっクゥ！</p><p>氷の壁がOlを巻き込むように出現し、即座に雷撃が放たれた。盾を持っていない以上、避けることも防ぐこともできないはずの必殺のコンボ。</p><p>これで終いだ</p><p>だが意に介した様子もなくOlは進み</p><p>クゥシェの脳裏に先ほど目にした耐凍耐雷の文字が思い出された次の瞬間、彼女の視界は真っ暗に閉ざされたのだった。</p><p>第10話ダンジョンを探索しましょう-3</p><p>ルヴェが目を覚ました時、そこは簡素な部屋の中だった。彼女の寝所とは比べるべくもない、小さな部屋。部屋の中央にぽつんと寝台が一つ置いてあるだけで、他には家具らしい家具もない。縦横十メートルつまりは四ブロック分の小さな部屋だ。</p><p>そしてその端に、ルヴェたち三人は首から下だけが石化した状態で並べられており、目の前には先ほど戦った金髪の男と見知らぬ魔族の女──Olとフローロが立ち、ルヴェを値踏みするかのように見下ろしていた。</p><p>あんた、よくも！あたしをこんな目に合わせてタダで済むと思ってるの！？</p><p>叫ぶと同時に雷撃を放とうとするが、やはりスキルを発動することはできなかった。放射系のスキルはどれも指先から出る。身体が石化されてしまっているこの状況では発動できないようだった。</p><p>テール！あんた、何とかしなさいよ！</p><p>申し訳、ございません</p><p>従者のテールは項垂れ謝罪するだけで役に立たない。ルヴェは舌打ちすると、Olに視線を向けた。</p><p>今なら特別に許してあげるわ。さっさとあたしたちを戻しなさい</p><p>よくもまあこの状況でそんなセリフを吐けるものだ</p><p>嘲るような、呆れるような、それでいてどこか感心するような、複雑な笑みをOlが漏らす。</p><p>わかってないようだから教えてあげるわ。あたしはルヴェ・スィエル。スィエル家の長女よ。あんたがどんなに愚昧でも、これで意味が分かったでしょ？</p><p>居丈高に告げるルヴェに対し、Olは頷いてパチリと指を鳴らす。すると信じがたいことに、床がぐにゃりと変化して椅子の形をとった。Olはそこに悠々と座り、足を組む。</p><p>見ての通り、俺は母なる壁を操れる。そしてこの部屋には出入り口がない。つまりお前がどれほど泣こうと喚こうと、お前の敬愛するお婆様はお前を助けに来るどころか、見つける事すらできないという事だ</p><p>ルヴェは絶句する。確かに言われてみれば、この部屋には出入り口が全くない。首を動かすにも限界があるから真後ろは確認できなかったが、クゥシェとテールも首を動かし背後を確認しているから、本当にどこにもないのだろう。</p><p>そういえば、聞き覚えがあるわ。母なる壁を動かせる奴がいるってとんだ与太話だと思ってたけど。じゃああんた、ユウェロイのところの奴ね！</p><p>それがわかったところで何だというんだ？</p><p>余裕綽々で答えるOlに、ルヴェは歯噛みする。</p><p>望みはなんでしょうか？</p><p>それまで沈黙を守っていたクゥシェが、唐突にそんなことを問う。</p><p>わたしたちを殺すことも、石のままにしておくこともできたはずです。それでもこうして会話ができる状態にしたという事は、要求があるはずですよね？</p><p>クゥシェの言葉に、Olはほうと呟き愉快げに笑みを浮かべる。</p><p>話が早い。俺の要求はお前たちの領地だ。何、全部とは言わん。半分ほど明け渡してくれればいい</p><p>そんなことできるわけないでしょ！？</p><p>壁族にとって領地は最も重要なものだ。それによって狩れるモンスターの数が決まり、つまりは得られるアイテムやスキルの数が決まる。より上層の壁族になるには上納する量を増やし力を示さねばならない。</p><p>半分も領地を取られたら、間違いなく上層に行く可能性がついえる。いや、それどころか下層送りになる可能性すらあった。</p><p>世継ぎたる孫娘二人と、それにつけた最強の護衛の命と引き換えにでも、か？</p><p>意地悪く尋ねるOlに、ルヴェはうめく。彼女の祖母は情に流されるような可愛げのある女ではないが、確かに失うものが多すぎるのも事実だ。そもそもユウェロイ一派との戦いになるにしろ、ルヴェたち三人が欠けるのは非常に痛い。</p><p>いや、それどころか早く帰らなければ、主力が抜けたこの状況を好機とみてハルトヴァンが攻めてくる可能性すらある。最悪なのはユウェロイとハルトヴァンが共謀して襲い掛かってくることだ。</p><p>ユウェロイさんは、このことを知らないんですね？</p><p>冷静なクゥシェの質問に、ルヴェはハッとした。共謀してつぶせるのならば、そうしてしまった方が手っ取り早い。そうしない理由はただ一つ</p><p>その通りだ。領地を欲しているのはユウェロイではなく俺自身正確に言えばフローロ。この娘なのだからな</p><p>Olは背後の魔族を見やり、そう告げる。その魔族が何者であるかは気になったが、付け入る隙はそこにしかない、とルヴェは考える。</p><p>ではなぜそうしないのです？</p><p>いきなりお前の孫娘の身柄を預かっているなどと言っても、お前たちの祖母も信用はしないだろう。そこで、手土産を用意することにした</p><p>手土産って何よ</p><p>嫌な予感がしつつ、ルヴェは問い返す。</p><p>お前たち誰か一人の首だ</p><p>な──</p><p>何を馬鹿な冗談を、という言葉は出てこなかった。Olの瞳には愉悦も嗜虐も、あるいは嫌悪や決意といった色さえなく、ただただ決まった事柄を告げているというだけの、事務的な光しか宿っていなかったからだ。</p><p>そこで、誰を送るかという話になってな。本来ならばそこの従者が筋というところなのだろうが</p><p>テールを見据え、Ol。</p><p>戦った感覚で言うと、この男の方がお前たち二人よりも価値があるように思えてな。一人で戦っていたなら俺たちは負けていたかも知れん</p><p>なんですって！</p><p>ルヴェは柳眉を逆立てるが、その反面それが事実であるという事も理解はしていた。護衛なのだから、護衛対象より弱くて務まるわけがない。だがそれはそれとして、足手纏い呼ばわりされれば腹が立つ。</p><p>それで、お前たちに決めてもらおうと思ったわけだ。誰を犠牲にするか、それぞれ言ってみろ</p><p>一瞬、三人の視線が交差した。この三人にとって、それで必要十分だ。</p><p>もちろん、テールよ。可愛い可愛いクゥシェを傷つけることは許さない。もしあの子に手を出したら、あたしも舌を噛んで死んでやるから</p><p>ルヴェが真っ先にそう答える。</p><p>ならば、クゥシェ様を。お世継ぎであり次代党首であるルヴェお嬢様を失うわけにはいかん。そうなれば俺は自刃するだろう</p><p>次にテールがそう答え。</p><p>自分の領民を守るのが壁族の務めです。テールだけは助けてあげてください。それが許されないのであれば、わたしはこの命を持ってあなたの企みを防ぎます</p><p>最後にクゥシェがそう答えた。つまり三人とも、別々の相手を指定したことになる。しかも指定しなかった方を殺せば、自分も死ぬという脅し付きだ。</p><p>ルヴェが妹であるクゥシェを。</p><p>テールが主君であるルヴェを。</p><p>クゥシェが従者たるテールを。</p><p>それぞれ守ろうとしている図だ。</p><p>誰か一人でも殺せば、連鎖的に全員死ぬと言っているわけだなるほど、面白い</p><p>もしこれが、全員が誰か一人でも殺せば自分も死ぬと言っているのであれば、簡単だ。それぞれ引き離し、情報を制限した上で離反させればいい。</p><p>だがこの三人は、誰か一人が死ぬこと自体はそれぞれ許容しているのだ。そちらが言った通り選んだのだと言われれば説得もしづらい。</p><p>どうせ満場一致でテールをあるいはクゥシェを犠牲にするという結果になると思ってたんだろう、とルヴェは内心でOlをせせら笑う。とにかく、時間を稼ぐ必要があった。</p><p>たとえ母なる壁の中にあったとしても、この状況を何とかする方法はあるはずだ。そしてあの悪辣な祖母なら必ずそれに辿り着く。その信頼が、三人にはあった。</p><p>馬鹿馬鹿しい駆け引きはこれで懲りたでしょ。さっさと道理に従ってあたしたちを解放しなさいよ</p><p>道理？</p><p>ルヴェは更に時間を稼ぐために、Olを挑発する。</p><p>あんたみたいな雑魚は、あたしたちみたいな強者に従うのが本来の道理ってものでしょうが</p><p>それを言うのならば、戦闘で負けたそちらが従うのがそれこそ道理ではないのか？</p><p>食いついた！</p><p>ルヴェは内心拳を握りしめつつ、素知らぬ表情で続ける。</p><p>ふん。あんな卑怯な戦い方、勝ち負けのうちに入るわけないじゃない。それにあんただって、テール一人だったら負けてたって言ってたでしょ</p><p>交わしたのはほんの僅かな会話だが、ルヴェは既にOlの性格をおおよそ見抜いていた。プライドが高く、相手を屈服させることにこだわるタイプ。なら乗ってこいと心の中で祈るようにつぶやく。</p><p>ならばお前はどうしたら負けを認めるというのだ？</p><p>そうね。対等な条件でもう一度勝負して、それでも負けたら認めてもいいわ</p><p>来た。笑みを浮かべそうになる表情筋を制御しつつ、あくまで優雅にルヴェはそう告げる。無論、本当に対等な勝負などするつもりはない。</p><p>何を持って対等とする？スキルなしで殴り合いでもするか？</p><p>そんな野蛮なことするわけないでしょ。あたしが提案するのはもっと洗練された、正々堂々とした一対一のぶつかり合い。つまり</p><p>持ち込むのはルヴェが絶対的な自信を持つ勝負方法。それでいて、相手が引き受けざるを得ない内容。すなわち</p><p>セックスよ！</p><p>第11話繰り返し念入りにわからせましょう-1</p><p>五回目。</p><p>おお姉様、何を？</p><p>ルヴェの突然の発言に戸惑いを隠せず、クゥシェが問いかける。</p><p>大丈夫よ、クゥ。全部このあたしに任せておきなさい</p><p>だがそれを不安と見なしたのか、ルヴェは自信満々にそう答えた。</p><p>（今更なんですけどOl、これっていったい何をしたんですか？）</p><p>フローロから念話が飛んでくる。いつの間にやらそんな魔術も習得したか、と感心しつつ、Olはそれに答える。</p><p>（何、弱めに狂戦士の術をかけたまでのことだ）</p><p>それは本来であれば、恐怖を消し去り思考力を減らし、死ぬまで戦う戦士を作り出す術だ。ルヴェにかけたのはそれを調節し、論理的な思考力はギリギリ残しつつも恐怖心や羞恥心といった感情的な判断能力を奪い去ったものだった。</p><p>その結果、ルヴェは戦闘以外で最も得意なことつまり、性行為での勝負という発想に至ったのだろう。</p><p>（へー魔術ってそんなこともできるんですね）</p><p>ピントのズレた反応をするフローロをさておき、Olはルヴェに答える。</p><p>では、先に相手を絶頂させた方が勝ち、ということで構わぬか？</p><p>もちろんよ。あんたのよわよわチンポなんてすぐにイカせちゃうんだから</p><p>よほど自信があるのだろう。ルヴェはOlを鼻で笑いつつ首肯する。</p><p>ルヴェお嬢様、そのような！</p><p>あんたは黙ってなさい！ほら、さっさとコレ戻しなさいよ。それとも石相手に腰を振るのが好きなの？</p><p>異議を唱えようとするテールを一喝し、ルヴェはOlを挑発した。Olとしてもこれ以上口を挟まれても困るのでクゥシェとテールに沈黙をかけつつ、ルヴェに石化解除をかけてやる。</p><p>ルヴェが自由を取り戻すと、途端に雷撃が飛んできた。</p><p>それは効かんということくらい、わかっておらんのか？</p><p>フン。わかってるわよ。これはただの挨拶</p><p>Olとフローロは当然、事前に耐雷耐凍の術をかけてはいる。が</p><p>（Ol、痛いです。普通に効いてます）</p><p>（流石に威力全てを消すまではできん。耐えろ。全く効かないという顔をしていろ）</p><p>雷撃ほど強力なスキルの効果をゼロにするには、今のOlが持つ魔力は少なすぎた。アレオスのローブを着込んだOlはともかく、フローロにはそれなりのダメージがあった。</p><p>ほら、さっさとあんたのざこざこチンポ出しなさいよ。ま、そんな貧弱な体格じゃどうせ大したことないでしょうけど</p><p>ベッドの端に座り、シーツをパンパンと叩いてルヴェはOlを急かす。だがOlがローブを脱ぎ捨て隆々と屹立した一物を取り出すと、その声は尻すぼみに小さくなっていった。</p><p>なっなにこれ！？</p><p>男の性器だ。見たことがないのか？</p><p>小柄なルヴェの頭と同じくらいの長さに勃起した剛直を突き付けるように見せながら、Olは生真面目な口調で問う。</p><p>なんでこんな大きいのよ！</p><p>ルヴェが知る男性器とは、つまりはテールのものだ。だがOlのそれは、明らかにテールのものよりも倍以上は大きかった。長さだけではなく、太さも、先端の亀頭の膨らみも、全くの別物だ。</p><p>男は興奮すると大きくなることくらい知らぬのか？</p><p>ふ、ふーん。じゃああたしで興奮してるんだ。まだ服も脱いでないのに</p><p>虚勢を張りつつも、ルヴェの視線は男根から離すことができなかった。これを入れるのは流石に無理ではないか。まだ効果の続く狂戦士の術によって恐怖心はなかったが、それでもそんな疑念は生まれるほどの威容がOlの性器にはあった。</p><p>は！？なんでそんな事しなきゃいけないの！？</p><p>ずい、と鼻先に突き付けられる肉の槍に、ルヴェは顔をしかめる。</p><p>ハンデをくれてやっているのだ。別にしたくないならばしなくてもよい。だが勝敗の条件を忘れたのか？</p><p>勝利条件は相手をイカせることだ。確かに舐めるのならば万が一にも自分がイく危険性はない。それにこの巨大なモノを自分の中に入れるのも抵抗はあったため、ルヴェは嫌悪感よりも実利を取った。</p><p>ふん。こんなよわよわチンポ、さっさとイカせてやるんだから</p><p>威勢のいい言葉とは裏腹に、ルヴェは恐る恐ると言った感じでOlの男根に舌を伸ばす。どんなに気持ち悪い味がするのかと思っていたが、舌をつければそれは意外にも無味無臭であった。</p><p>なんだ、これなら楽勝じゃない。とルヴェは内心呟きつつ、Olの一物に舌を這わせる。そうすると、改めてその男根の大きさが認識できた。彼女の小さな舌ではとても追いつかない程の巨大さだ。</p><p>下手だな</p><p>仕方ないじゃない、こんなことしたことないんだから！</p><p>こんなこと上手くても何の自慢にもならないとは思いつつ、下手だと言われれば腹が立つ。</p><p>フローロ、手本を見せてやれ</p><p>はあい！</p><p>視線を向けるとフローロは嬉しそうに手を上げ、Olの前にしゃがみこんだ。</p><p>ふふ、Olのここ、今日もとっても元気ですね</p><p>フローロはそそり立つ肉塊に頬擦りする様に竿を両手で捧げ持ち、恭しくその先端に口づける。そして服をめくりあげると、乳房を露出して男根を挟み込んだ。</p><p>今から気持ちよくしてあげますからね</p><p>肉槍を磨くようにぎゅっ、ぎゅっと双丘を上下させながら、舌を伸ばし愛おしげに竿を舐める。肉茎を下から上に丁寧に舐め上げ、雁首の溝をぐるりとなぞり、裏筋をついと辿って亀頭をはぷりと口に咥える。</p><p>そして上目遣いでOlの様子を見つつ、乳房と舌と唇とで男根を攻め立てていった。</p><p>既にOlの弱い部分をかなり学びつつあるその技に、Olの性感はあっという間に高められていく。特に堪える必要性もないためOlが腰に力を込めると、フローロは咥え込んでいた先端を外し、舌を突き出しながら大きく口を開けた。</p><p>びゅくびゅくと脈動する怒張の先端から、噴水のように勢いよく白濁が溢れ出る。それはフローロの端正な顔を汚しながら、大半が彼女の口の中へと入っていった。</p><p>んっんくっんっふぅえへへ、お疲れさまでした。ちゅっ</p><p>フローロは口内に飛び込んだ精液をこくんと嚥下すると、もう一度ペニスの先端に口をつけ、指先で丁寧にしごき立てながら中に残った精子を一滴残らず吸い上げる。そして最後にもう一度、Olの男根をねぎらうかのように音を立てて口づけた。</p><p>どこでそのような技を学んできたのだ</p><p>えへへ、ひみつです</p><p>精で真っ白に染まったフローロの顔を、魔術をかけて清めてやる。</p><p>どうだ、参考になったか？</p><p>そんなことできるわけないでしょっ！？</p><p>ルヴェに向き直って問えば、どうやらフローロの努力は実を結んでいないようであった。胸の大きさで言えばルヴェも負けていないのだから、やろうと思えばできるはずだがそういうことではないらしい。</p><p>っていうかあんた、イッたんだからあたしの勝ちでしょ！</p><p>達した方が負け、ではなく、相手を絶頂させた方の勝ちと言ったはずだ。いつからフローロはお前の仲間になった？</p><p>どさくさにまぎれ手柄を横取りしようとするルヴェに指摘してやれば、彼女はチッと舌打ちした。</p><p>もういい！こっちで勝負つけてやるんだから</p><p>ルヴェはぐっとOlの身体を押し、ベッドの上に押し倒す。そして馬乗りになると、手早く服を脱ぎ捨てた。</p><p>まだ未熟で小柄な身体付きには不釣り合いな、大きな乳房がぶるんと揺れる。二つ結びにした金の髪にやや浅黒い肌が映え、いかにも勝気そうな赤い瞳がOlを見据えた。</p><p>射精した直後であれば、男のものは小さく柔らかくなるはずだ。つまり今の状態なら、ルヴェの小さな身体でも問題なく入れられるはず。</p><p>ってなんで小さくなってないのよ！</p><p>だがOlのモノは、小さくなるどころかますます膨れ上がっているようにすら見えた。</p><p>一度達した程度で萎えるものか。そら、さっさとしろ。それとも怖気づいたか？</p><p>そんなわけないでしょ！見てなさいよ！</p><p>ルヴェは太い肉茎を握りしめ、己の中心に押し当てる。そしてそのまま、一気に腰を下ろした。</p><p>ッ！！</p><p>その衝撃に彼女は思わず硬直する。</p><p>痛みに──ではない。</p><p>雷撃のように己の身体を貫く、快楽にだ。</p><p>腕と見まごう程の太さを持つ肉槍に身体の中心をずっぷりと貫かれ、今まで届くこともなかった最奥をズンと押し広げられている。</p><p>それには半ば覚悟していた痛みは一切なく、ただ痺れるような快感だけが腰からびりびりと伝わってきていた。</p><p>はぁ</p><p>思わず達しかける身体を、ルヴェは無理やり制する。</p><p>あんたのが大きすぎて苦しいだけよ。ホント、図体ばっかりデカいくせに役に立たないでくのぼうなんだから</p><p>ルヴェは虚勢を口にする。少しでも身じろぎするだけで胎の奥を削り取られるような衝撃が走り、それが途方もなく気持ちいいのだ。</p><p>だが、ルヴェにはそれでも確実に勝てる方法があった。</p><p>もう終わりよ。ほらっ！</p><p>うっ！？</p><p>パチリと電気が爆ぜる音がして、Olはうめく。</p><p>ふふ。これならやっぱり通るんだ</p><p>それは、体内に電気を流して操るスキル、操雷であった。威力は弱く雷撃のようにダメージを与えることはできず、それどころか離れた相手に流すことすらできない。自分の身体を動かしたり、触れている相手を麻痺させるのが主な用途の低級スキルだ。</p><p>しかしルヴェはその扱いに熟達し、別の使い方を見出していた。</p><p>ほらっ。気持ちいいでしょ？</p><p>パチッ、パチッ、と電気が爆ぜる度にOlが声を上げる。それは苦痛ではなく快楽。性感帯を直接電気で刺激される感覚によるものだった。</p><p>これ以上ないほどに密着し、粘膜同士で触れ合っている状態であれば耐雷による防護も無意味な話だ。それは身体の表面を覆うように防護する術であり、体内に直接電気を流し込まれては役に立たなかった。</p><p>さーて、この雑魚雑魚チンポ。すーぐイカせてあげるんだから</p><p>そして操雷のスキルは攻撃だけでなく防御にも使える。ルヴェが途方もない快感を得ながらいまだに気をやらずにいられるのは、このスキルで自分自身の身体をも制御しているからだ。</p><p>さ～ん</p><p>己の性感は最低限に抑え、Olの感覚は何倍にも増すよう刺激しながら、ルヴェは彼自身を締め付け、激しく腰を振る。</p><p>に～い</p><p>徐々に電気刺激を強めつつ、期待させるように数字を数える。</p><p>い～ち</p><p>更にダメ押しとばかりにぎゅっと膣口でペニスを思いっきり締め付けて。</p><p>ぜろっ！イッちゃえ～！</p><p>最後に全力で電気を流し、Olの性感帯を全力で刺激した。</p><p>盛大に噴き出すはずの精液は全く感じられず、先ほどまでうめいていたOlの表情も平静そのものに戻っていた。</p><p>ぜろっ、ぜろっ、ぜろぉっ！</p><p>腰を前後にヘコヘコと動かしながら、電気を流す。しかしOlの反応は全く変わらず、冷ややかな瞳でルヴェを見つめるだけだ。</p><p>なんでイカないの！？おじさん不感症！？</p><p>おじさん呼ばわりに新鮮なものを感じつつも、流石にOlは否定する。</p><p>単にお前に魅力が足らないだけだ</p><p>とはいえ実際にはそうでもない。ルヴェはまだ幼いながら美しい娘だったし、その齢に見合わぬ大きな乳房も魅力的だ。そして、あの繰雷。今回初めて彼女が見せたあの電流で性感を刺激されたときには、Olも流石に声を上げてしまった。</p><p>だがそれは、彼が毎夜のように抱いてきた性の権化たる淫魔、サキュバスのリルの手練手管には遠く及ばないものであった。文字通り人間離れした、セックスするためだけに作られた極上の肉体で、Olの弱い部分を知り尽くし、その上で愛情をたっぷりと込めて精をねだる愛妻との交合に比べれば、ルヴェのそれは児戯にも等しい。</p><p>そして彼女の取った手段もまた、同じことであった。</p><p>さて。では今度はこちらから行くぞ</p><p>ひぐっ！？</p><p>ずん、とOlが下から突き上げると同時、ルヴェの身体に電流が走る。</p><p>彼女がやったことはOlにもできる。それも、より精微かつ緻密にだ。</p><p>ちょっ、まっ！てぇっ！</p><p>Olの攻勢を阻止するようにルヴェの体内に再び電気が流れる。しかしOlが操る電流はそれをすり抜け、それどころかルヴェが操ったそれをも操作して彼女の性感を刺激した。</p><p>ああぁぁぁぁぁっ！！！</p><p>たった二突き半の往復で、ルヴェは背筋を反らし絶頂する。</p><p>イったな</p><p>は！？イッてないけど！？</p><p>本人の意思とは関係なく震え締め付けてくる膣口にOlが言うと、ルヴェは慌てて姿勢を戻しそう言い張った。</p><p>そうか。では続けるとするか</p><p>えっ、ちょ、まっああああっ！</p><p>Olはそれを意にも介さず、淡々と抽送を続ける。</p><p>イッたか？</p><p>イ、イッてなあぁぁああああっ！</p><p>その豊かな乳房を下からすくい上げるように鷲掴みにし、指先と腰から同時に電流を流す。乱暴で大雑把なルヴェのそれとはまったく違う、強弱を織り交ぜピンポイントで性感帯を狙う電流に、彼女は身体を激しく震わせた。</p><p>あっ、ああぁぁっ、ひあぁぁっ！らめ、むり、やめっひぐぅぅっ！うそ、こんなの、しらなっひあああぁっ！</p><p>先ほどまでは自身の電気で抑えていた快感までを掘り出され、ルヴェは今まで至ったことのない深い絶頂を味わう。電流でわななく膣壁を太い肉の槍が無理やり押し開き、その穂先が奥の弱い部分を的確に穿つ。そんな所に自分の弱点があることを、ルヴェ自身さえ今の今まで知らなかった。</p><p>ひぐぅっ！！イった！イったからぁっ！</p><p>これ以上攻められたらどうなってしまうのか。狂戦士の影響下にあってなお感じる空恐ろしさに、とうとうルヴェは降参する。</p><p>嘘を言うな、先程までと反応が変わらぬのにこれが絶頂であるわけなどないだろう</p><p>うそじゃ、あぁぁっ！！だめぇっ！！やめっ！ひあぁっ！！</p><p>もはや電流を流す必要すらなく、ルヴェの意識は快楽の波に押し流され、まともに言葉を発する事すらままならない。まるで馬の手綱でも握るがごとく巨大な乳房を掴まれて、とっくに抜けて逃げる事さえままならない腰を激しく突き上げられる。</p><p>ひぐっ！ひぐぅっ！ひへ、ぅぅぅっ！</p><p>剛直が奥を抉る度にまるで焼き印でも当てられるかのような強烈な快感がルヴェの全身を貫いて焼き焦がす。子宮を丸ごと塗り替え、征服されてしまうような圧倒的な快楽。彼女は涙を流しながら訴えるが、舌はろくに回らずOlは手を緩めない。</p><p>ひっぎぃぃぃぃっ！！</p><p>Olの腰の上で両手両足をピンと張り、この股間から黄金の液体が噴き出して、ルヴェは獣のように叫びながら絶頂する。</p><p>そして力を失い、がくりと崩れ落ちそうになるその身体を、Olは抱きかかえた。</p><p>ふむ失神したか</p><p>あまりの快楽に目をむき意識を失ったルヴェの身体を寝台に横たえて、Olは失禁した彼女の尿を魔術で清める。</p><p>気を失うまでイキ狂ったのなら、こちらの勝ちという事で文句はなかろうな</p><p>貴様、よくもルヴェお嬢様を辱めてくれたな！</p><p>パチリとOlが指を鳴らして沈黙を解くと、途端にテールが怒鳴り声をあげた。どうやら大いに文句があるらしい。</p><p>本人が言い出したことだろう</p><p>ふざけるな！貴様が何か</p><p>テール。少し静かにしてくれますか？</p><p>怒り心頭のテールを、クゥシェの静かな声が黙らせた。</p><p>勝負はまだ、ついていません</p><p>気絶しただけで達してない、とでも言うつもりか？だがどちらにせよ、これ以上の勝負は不可能だろう</p><p>白目をむき、完全に気を失っているルヴェを指すOlに、クゥシェは首を横に振って、答えた。</p><p>わたしが続きをします</p><p>第11話繰り返し念入りにわからせましょう-2</p><p>七回目。</p><p>最初に見た時の大人しく自信なさげな様子とは、人が変わったようだ。Olはそんな事を思いつつもクゥシェに問う。</p><p>自分が言っている意味がわかっているのか？ お前は生娘だろう</p><p>Olは女の立ち居振る舞いや身体つき、肌の状態などからおおよその経験を推し量ることができる。相手が限られてはいるもののそれなりの経験を持っていたルヴェとは違い、クゥシェは恐らく今日という日まで、男と手を繋いだこともなかっただろう。</p><p>スィエル家のものとして、引くことは許されません</p><p>だがクゥシェは毅然とした態度でそう言い切った。</p><p>なりませんお嬢様！お嬢様がそのような事、レイユ様がお許しになるはずが</p><p>お婆様ならむしろここで保身に走ることの方こそお許しにならないと思いますが</p><p>クゥシェの言葉に、テールはうっとうめく。姉妹の祖母、レイユはどうやらずいぶん苛烈な性格であるらしい。</p><p>妙なことだな</p><p>なおも言いつのろうとするテールに、Olは口をはさんだ。</p><p>お前はクゥシェの命を犠牲にしようとしていただろう。にもかかわらず、なぜ貞操ごときでそこまでわめく？</p><p>無論、三者がそれぞれ別の相手を示したのは狂言に過ぎないことは、Olも把握している。だが誰を犠牲にすると言ったのか、そのこと自体には意味があると感じていた。</p><p>ルヴェはテールを。テールはクゥシェを。クゥシェはルヴェを犠牲にすると言った。</p><p>普通であればそれは重要視していない相手を選んだと見るべきだろうが、果たしてそうだろうか。</p><p>それは俺が、あなたをお慕いしているからです。お嬢様</p><p>テールはクゥシェを呼ぶとき、ただお嬢様とだけ呼ぶ。ルヴェには名をつけてルヴェお嬢様と呼ぶのにだ。それはクゥシェを軽んじているようにも見えるが、彼にとってお嬢様が本来ただ一人であるともとれる。</p><p>スィエル家にとって大事なのはルヴェお嬢様です。ですが俺個人として大事なのは、クゥシェ様。あなたなのです。ですから、どうか！</p><p>追い詰められてようやく出てきた、おそらく今までずっと胸に秘めていたのであろう、切実なテールの告白。</p><p>だがその告白は、なんの感動も与えなかった。</p><p>Olにもそして、クゥシェ自身にも。</p><p>申し訳ありません、テール。あなたのその想いには応えることはできません。立場としてもそして、わたし自身の心情としても</p><p>すまなそうに、気の毒なものを見る目つきで、クゥシェは答える。恐縮したその態度が、かえって偽りのない答えであることを示していた。</p><p>時間を稼ぐための狂言とわかっていても、クゥシェが自分を選んでくれた時テールは嬉しかったに違いない。そこに、自分への想いが込められているのではないかと期待してしまったのだ。</p><p>でですが</p><p>お前はそろそろ黙っていろ</p><p>これ以上聞くべき言葉もない。Olはテールに沈黙をかけなおし、クゥシェの石化を解いた。</p><p>彼女は姉とは違って即座に攻撃してくるようなことはなく、するりと衣服を脱ぎ捨てる。浅黒いルヴェとは違い、雪のように白い肌。小柄なルヴェよりも更に小さく華奢な体躯には、しかし姉と比べても遜色ない二つの膨らみが実っていた。</p><p>大きなリボンでくくった長い黒髪を一度、さらりとかきあげると、クゥシェはOlの前に跪く。</p><p>そしてしばらく己の頭ほどもあるその剛直を見つめた後、困ったように顔を上げ。</p><p>あの、おじさま</p><p>その青い瞳でOlを見つめながら、問うた。</p><p>どうしたらいいかおしえてくださいますか？</p><p>これは勝負だろうが。お前は敵に教えを乞うのか？</p><p>その申し出に呆れたようにOlがそういうと、クゥシェは困ったように眉を寄せる。</p><p>ですが、性交とはお互いに気持ちよくなるための行為ですよね？どうしたら気持ちよくなるのか、相手に問うのはいけないことなのでしょうか？</p><p>ふむ一理あるな</p><p>Olはクゥシェの言葉に唸った。少なくとも一方的に快感だけを押し付け、一人善がりに気持ちよくなっていたルヴェよりもよほど本質を突いている。</p><p>いいだろう、教えてやる。ただしこちらに都合のいい情報を吹き込む可能性はわかっておろうな</p><p>そんなことをわざわざ仰るなんて、意外とお優しいんですね、おじさま</p><p>くすりと笑うクゥシェに、Olは食えない娘だと内心独り言ちる。</p><p>お前の言う通り、性交とは互いに気持ちよくなるための行為。本来ならば、愛し合う者同士が愛情を確かめるため子を成すために行うものだ</p><p>我ながら青臭いことを言っている、とOlは思うが、クゥシェは先ほどのように茶化すこともなく、真剣なまなざしでそれに耳を傾ける。</p><p>故に、簡単なことだ。愛せ。一時的なものでも良い。生娘であるお前に技巧など期待できぬ。それよりも心構えの方がよほど重要だ</p><p>クゥシェは目を閉じ、胸に手を当ててしばし黙り込む。まるでOlの言葉が己に浸透するのを待つかのように。</p><p>わかりました。では始めますね、おじさま</p><p>そしてそう宣言すると、まず彼女はOlの一物を小さな両手で捧げ持つようにして、先端に恭しく口づけた。その刺激に膨らんでいく肉茎を支えながら、ちゅ、ちゅ、と音を立てて何度もキスを落としていく。</p><p>これはとOlは目を見張る。</p><p>クゥシェにとってOlは自分たちを拘束した憎い男。姉をいいように嬲った仇敵なのである。たとえそうでなくとも先程であったばかりの見知らぬ相手だ。</p><p>だがとてもそうとは思えないような、愛情のこもった口淫奉仕だった。</p><p>動きは辿々しく、技巧は拙い。上手い下手で言うのであればルヴェよりも更に下だ。だが勝負の話であれば、姉よりもよほど強敵と言えた。</p><p>ここがいいのですか？</p><p>淡い青の瞳がOlを上目遣いに見つめ、反応をつぶさに観察する。ちゅ、と裏筋に口づけ、震えたそれを丁寧に舌で舐め上げる。</p><p>快楽を感じなくするスキル</p><p>その合間に、クゥシェはぽつりと呟いた。</p><p>なんてものはあったとしても使いません、よね？</p><p>無論だ</p><p>正々堂々とした戦い。そういう名目で始めた勝負だ。真っ向から確認されれば、そう答えざるを得ない。そして答えてしまえば、Olはその言葉に縛られる。自分自身さえ縛るからこそ、契約は意味を持つのだ。己自身で言ったことを反故にすれば、あらゆる呪いは効果を失う。</p><p>先ほどの方は、たしか、こう</p><p>クゥシェはダメ押しとばかりに胸を持ち上げ、Olのモノを挟み込む。柔らかな白い肉が赤黒い肉塊を挟んでぐにゃりと歪む様は、あたかも神聖で無垢なものが邪悪で粗暴なものに蹂躙されるかのよう。</p><p>その征服感と背徳感に加え、崩れてしまわないのが不思議な程に柔らかい乳房に一物を挟まれる快楽は、暴力的といってもいいほどのものだった。</p><p>だがそれは、Olにとってはむしろ好都合だった。胸と舌での奉仕というのは、簡単そうに見えてなかなか難しい。事実クゥシェはちゃんと胸で挟むのにすら苦戦していた。Olの一物はかなりのサイズだから挟むことそれ自体は難しくはないが、そこから奉仕しようと胸を動かすとすぐに外れてしまう。</p><p>ましてや先ほどのフローロのように乳房を左右交互にずり上げながら先端を口でしゃぶるなどというのは、かなり高等な技術なのである。動作に手間取れば意識はうまくやることに集中してしまう。しかしクゥシェの恐ろしさとは、技巧ではなくその献身的な所作にあったのだ。</p><p>とはいえ、クゥシェもすぐにそれに気づいたらしい。</p><p>少し悩む様子を見せた後、彼女は後ろを振り向きフローロに視線を向ける。</p><p>あの、そちらの方フローロさまと仰いましたでしょうか。一緒にお願いできませんか？</p><p>そして、とんでもないことを言い出した。</p><p>いいですよー</p><p>待て、流石にいいわけがあるか。お前も承諾するんじゃない！</p><p>あっさりと頷き近寄ってくるフローロをOlは怒鳴りつける。</p><p>でも、おじさまはそちらの方が気持ちよくなれますよね？</p><p>そうですよ！一人より二人、おっぱいが二つより四つの方が、Olも嬉しいでしょう？</p><p>真摯な眼差しでクゥシェが言い、フローロは悪戯っぽい笑みを浮かべながらそれに追従する。</p><p>確かにそのような条項は定めてはいなかったか</p><p>まさかフローロが敵に回るなどとは流石のOlも想定はしていなかった。事前に禁じておらずフローロ自身が同意している以上、止めることはできない。</p><p>チッ好きにしろ</p><p>はーい！じゃあOl、やりにくいので横になってください！</p><p>なんでそんなに楽しそうなんだ、と思いつつもOlはフローロの指示に従いベッドに横たわる。</p><p>じゃあOlのおちんちんを、二人のおっぱいで挟んじゃいましょう</p><p>こうですか？</p><p>左右からベッドを挟むようにして、フローロとクゥシェがぎゅっと乳房を突き合わせ、反り立つOlの肉槍を包み込んだ。</p><p>ふふふ、Olのおっきすぎて、二人で挟んでも先っぽが出てきちゃいます。可愛いですね</p><p>そういってフローロは谷間から突き出した亀頭に舌を這わせる。クゥシェもそれに倣い、反対側から舐め始めた。</p><p>その快楽に、Olは思わずうめき声をあげる。美しい少女が二人、豊かな白い乳房で赤黒い男根を挟み込み、愛おしげに左右から舐めしゃぶる様は流石に破壊力が高い。</p><p>その上、Olの弱い部分を知り尽くしたフローロが的確に弱点を突いてきて、それをつぶさに観察したクゥシェが真似をして攻めてくるのだ。</p><p>ほとんどフローロの手柄という気もしなくはないが、このままでは達してしまいかねない。魔術を使うまでもなく魔力を操作するだけで堪えることはできたが、鑑定で魔力操作がリストに出てくる以上、それもスキルの範疇だろう。</p><p>Olにとって魔力の操作とはもはや呼吸に等しい動作であり、使わないでいるのには逆に集中が必要とされる。その状態でフローロの攻勢を堪え続ける自信はなかった。</p><p>こちらも好きにさせてもらうぞ</p><p>フローロとクゥシェはベッドに横たわるOlのモノを挟むため、前傾姿勢になり腰を突き出す形になっている。その尻に、Olは両手を伸ばした。</p><p>あっ、やぁんっ。ズルですよ、Ol</p><p>んっあっ、そんな、所を</p><p>ズルはどちらだ、と思いつつもOlは二人の秘所を指で刺激する。まだ男を知らないクゥシェの膣内に指を深く入れるわけにはいかないが、入り口だけでも彼にとっては十分だ。</p><p>んっ、ふぁっOlぅそんな、したらおまんこ切なくなっちゃいますよぉ</p><p>おじさまぁそれあぁっすごいですぅ</p><p>左右で全く異なる動きと強弱をつけながら、Olは二人の膣口を愛撫する。フローロの膣内に中指と人差し指をずっぷりと埋め込み彼女の弱い部分をくりくりと指の腹でこすりながら、クゥシェの入り口の表面を薬指で撫でるようになぞりつつ、陰核を皮の上から人差し指と中指でやわやわと摘まむ。</p><p>その精微極まる愛撫に二人の奉仕は崩れ散漫なものになるが、しかしそれはOlにとって朗報ではなかった。</p><p>Olぅんっ、ちゅうっこれぇ挿れて欲しいです</p><p>はぁっこれがわたしの、中に</p><p>腰をくねらせ甘い声をあげつつ、熱のこもった目でOlのペニスを見つめながら舐めしゃぶってくる仕草は、落ちた精度を補って余りあるものだったからだ。</p><p>ね、Ol、ちゅっ、挿れて？Olのこの、熱くて逞しいおちんちん、わたしのおまんこに挿れてください</p><p>はしたなく尻を振り、味わうように唇でペニスを甘く食みながら、フローロは完全にスイッチが入った様子で懇願する。お前が求めてどうする、という意思を込め、Olは彼女の膣壁をぐりぐりと押してやった。</p><p>んっ、あっ、やぁっOl、だめ、あぁっ！んっふああぁぁぁっ！</p><p>弱いところを知り尽くしているのはお互い様だ。フローロはあっという間にイキ果てて、腰砕けになり寝台に突っ伏す。</p><p>おじさま</p><p>上気した頬と潤んだ瞳で、クゥシェがOlを見つめる。フローロが果てた今、一人で口淫奉仕をするのは分が悪いという判断もあるだろう。だがそれ以上に、彼女の雌としての本能がそれを求めていた。</p><p>こちらにおじさまのモノをくださいませんか？</p><p>自ら両脚の間の秘裂を割り開き、彼女はそう懇願するのだった。</p><p>第11話繰り返し念入りにわからせましょう-3</p><p>八回目。</p><p>本当に良いのだな？</p><p>はいお願いします</p><p>この世界にも処女というものに重きを置く文化がないというわけではないらしいが、Olの世界に比べればそれは軽いものなのかも知れない。</p><p>Olがそんな仮説を立てていると、それを否定するかのようにミシリと音が響いた。</p><p>音のした方向に視線を向ければ、テールがこちらを憤怒の形相で睨みつけている。石化したその身体には、小さなひびが入っていた。頭から下は全て石化しているのだから、首だけでひびが入るほどに力を込めたという事になる。恐ろしい筋力だった。</p><p>だがいくら金の腕のスキルを持っていようと、それ以上の事は不可能だ。身体の表面を石で覆われているだけであれば、力を込めて破ることができるかもしれない。しかし実際には変性術によって筋肉までもが石と化しているのだ。</p><p>動いているのは生存のために必要な最低限の臓器のみ。どれだけ力があろうと心臓で皮膚を突き破ることができる生き物などいようわけがないし、そんなことをすれば待ち受けているのは確実な死だけだ。</p><p>Olはテールを無視し、クゥシェに向き直る。</p><p>姉のように上に乗るか？</p><p>いえおじさまの、なさりたいようにして欲しいです</p><p>しおらしい言葉だったが、勝負の事を考えるのであればそれが最善手だった。Olが攻められるより攻める方が好きという事も見抜いている。</p><p>ではそうだな。四つん這いになって見せろ</p><p>Olがそう告げると、クゥシェは従順にそれに従い、ベッドの上に獣のような姿勢を取ってOlに尻を向ける。クゥシェは全体的に細身で華奢な印象だったが、胸元と尻にはむっちりと肉がついているという、実に男好きのする身体つきをしていた。</p><p>先ほどしっかりと愛撫しただけあって、既にクゥシェの中はすっかり柔らかくほぐれ、とろとろに濡れて準備が整っていた。</p><p>文字通りの処女地を切り開くようにOlの肉槍が突き進む。純潔の証を突き破られる感覚にクゥシェが声を漏らすと同時に、Olも声を上げた。</p><p>処女特有の硬くキツい締め付け。だがそれだけでなく、Olの一物をぎゅっと包み込む柔らかさと、蠢くような肉のざわめきが同時に存在していた。</p><p>それはOlが今まで味わった中でも一、二を争う名器と言えた。その中にはサキュバスであるリルさえ含まれるのだ。無論、腰使いや膣の締め付けの緩急といった技術においては比べ物にならないが、その分単純な資質においては淫魔さえ上回りかねないほどの気持ちよさ。</p><p>Olといえども油断すれば達してしまいかねない程の快楽があった。</p><p>おじさま</p><p>思わず動きを止めその感触を確かめるOlを、クゥシェが振り返る。</p><p>わたしは大丈夫ですから好きに、動いて下さい</p><p>そしてそれを気遣いと取ったのか、そう告げた。</p><p>余計な気は使わんでよい。性交とは互いに気持ちよくなるためのものだと言ったのはお前だろう</p><p>そうでしたね</p><p>クゥシェはくすりと笑う。女になったばかりの少女のその笑みは、ひどく妖艶なものに見えた。</p><p>では、わたしを気持ちよくしておじさまも、たっぷり気持ちよくなってくださいね</p><p>ぐ、と腰に力を籠め。</p><p>言われずともそうするとも</p><p>クゥシェの尻を掴んで突き入れれば、甘い声が飛び出した。</p><p>あぁっどうして？最初は痛く苦しいだけのものと、お姉様に聞いていましたのに</p><p>太いものが侵入してくる圧迫感こそあれ痛みはほとんどなく、腹の奥が痺れるような快感にクゥシェは戸惑う。</p><p>我々の身体の相性がよほどよかったのだろうな</p><p>相性そのようなものもあるのですか？</p><p>単にOlの技巧が優れているからではないのか、とクゥシェは思う。事実、姉のルヴェは先ほどあれほど善がらされ、フローロも指だけで達してしまった。</p><p>そうだ。性交とは子を成すためのものと言っただろう。人には男と女には相性がある。より良き子を成すために男は己にとってより美しい女に、女は己にとってより強き男に惹かれる性を持っているのだ</p><p>Olはそう言って、クゥシェの豊かな双丘を後ろから鷲掴みにする。</p><p>あぁっつまりおじさまにとって、わたしはんぅっお姉様より、そこの方より、魅力的な女であるという、ことですか？</p><p>お前の中に入っているモノで、わかるだろう？</p><p>言いながら、一際強く突き入れられる怒張の逞しさに、クゥシェの膣がわなないた。</p><p>あぁっ感じますおじさまの、太くて、熱くて、逞しい男性器が</p><p>もっとみだらな言い方をしてみろ</p><p>耳元で囁かれる低い男の声に、クゥシェはぶるりと身体を震わせる。</p><p>おちんぽおじさまのおちんぽ、あぁっわたしの、おおまんこをっずんずん、突いてぇっ！わたし、処女なのに、はじめてなのに！気持ちよく、なっちゃってますっ！</p><p>Olの剛直はまるで何度も肌を重ねてきたかのようにぴったりとクゥシェの膣内に馴染み、彼女の気持ちいいところをあらかじめ知っているかのように的確に貫いてくる。これが相性が良いと言うことなのか、とクゥシェは身体を震わせた。</p><p>よくできた。偉いぞ。いい子だ</p><p>奥を突かれ乳房を鷲掴みにされながら、まるで幼児のように頭を撫でられるというギャップにクゥシェの頭が一瞬混乱する。</p><p>しかし受け入れてしまえばそれはどちらも酷く気持ちのいいものだった。</p><p>おじさま、もっとぉ</p><p>もっと何だ？</p><p>腰を打ち付けられながらねだれば、Olはそう意地悪く問いかける。</p><p>どっちもおまんこの奥ごしごしするのも、頭なでなでするのも、どっちももっとして欲しいです！</p><p>ごり、と奥を抉られて、クゥシェは悲鳴じみた嬌声をあげる。実際、Olのもたらす快楽はもはや拷問に近いものだった。こんな目にあってはルヴェも一溜りもないだろう、とクゥシェは頭のどこか冷静な部分で微かに思う。</p><p>おじさまの、おちんぽがわたしのおまんこの奥っ！ 押す度にわたしの、身体がっ！あぁっ！おじさまのを、欲しがってるって！わからされちゃって、ますっ！</p><p>心から、クゥシェはそう乞い願う。</p><p>何が欲しいんだ？</p><p>おじさまの子種っ！おじさまの赤ちゃんが、欲しいですっ！</p><p>ぎゅっとクゥシェの膣口がOlのモノを締め付けて、上の口でも下の口でも精液をねだった。</p><p>下さいっ！おじさまの、強い男の人の赤ちゃんの液、注ぎ込んで、孕ませて下さいっ！</p><p>もはや勝負の事はクゥシェの頭にはない。心の底から、ただただ雌として雄の情けを欲しがる感情だけがそこにあった。</p><p>いいだろう。行くぞっ！</p><p>あぁっ！おじさま、おじさまぁっ！来てくださいっ！</p><p>注ぎ込む寸前にクゥシェが絶頂するよう調整すれば良いだけだ。彼女の体はもうとっくに決壊寸前で、流し込まれるその瞬間を心待ちに何とか堪えているに過ぎない。</p><p>望み通りイけっ！</p><p>ああああああぁぁぁぁっ！！</p><p>Olの腰が一際力強く奥に突き込まれ、射精に備えて大きく膨れ上がる。そしてそれに連動するようにクゥシェは高く高く声を張り上げ、絶頂に──</p><p>ごめんなさい、おじさま</p><p>至ることは、なかった。</p><p>感じているのも、精をねだる気持ちも、勝負の事をすっかり忘れていたのも嘘ではない。</p><p>自動化のスキルは、自分の設定した条件を満たした瞬間に特定のスキルを自動発動する事が出来る。そして彼女は自分が絶頂する直前に全身に小凍のスキルをかけるよう設定して、心からOlとの交合を楽しんだ。それが彼を射精させる為の最善手だと考えたからだ。</p><p>射精を堪えるようなスキルは使わないよう約束している。口約束だが、恐らく彼は守ってくれるだろう。クゥシェが子供を産んでもいいと心から思うほどに強く気高い男性なのだから。</p><p>そして、白濁の液が勢いよく迸り、溢れ出るのをクゥシェは目にする。</p><p>なぜ！？</p><p>それは、Olのものでは無かった。</p><p>なぜあなたがイってるのですか、テール！？</p><p>テールの腰だけが石化を解かれ、勃起した一物が服を突き破って露出し、だらだらと白濁の液を先端から垂らしていた。</p><p>申し訳申し訳ありません、お嬢様</p><p>脱力し切り、涙を流しながらテールは謝罪の言葉を繰り返す。</p><p>悪いが女に裏切られるのは慣れているのでな。そう簡単には騙されてやれん</p><p>あぁっ！？</p><p>Olに貫かれ、クゥシェの全身に快楽が走る。凍らせ無理やり止めた感覚が、急激に戻ってきていた。いや、それどころか２倍３倍になって跳ね返ってくる。</p><p>おじさまっ！そんな、わたしっ！</p><p>あっという間に高められる性感に、自動化が発動して快楽が凍て付き止められる。しかしそれは即座にOlによって解凍され、数倍する快楽が与えられる。</p><p>停止と解除を往復する度快楽だけが膨れ上がっていく事実に、クゥシェの肌が粟だった。</p><p>そんな中、Olの手のひらがクゥシェの顎を持ち上げ、目の前のテールを示す。</p><p>あれが弱い男の成れの果て、選ばれなかったものの末路だ</p><p>テールはOlに犯されるクゥシェの痴態を見ながら、動くことも出来ず、ただ男根を反り立てて射精を繰り返していた。体格はOlよりも頭二つ近くは大きいが、性器の大きさは半分にも満たない。</p><p>そしてお前は俺に選ばれた。姉よりも優れた雌として</p><p>それは、クゥシェが密かに最も欲していた言葉だった。いつでも強く、自信にあふれ、美しいルヴェ。誰もがスィエルの後継者であるルヴェを尊び、優先し、影の薄い妹のことなど顧みもしなかった。</p><p>テールが自分の事を好いていることも、その上でルヴェと肉体関係を持っていることも知っていた。テールは自分を愛しているにもかかわらず、ルヴェの勘気を恐れてそれを言い出すことも表に出すこともなかった。クゥシェは戦う前から敗北していたのだ。</p><p>なのに、今。</p><p>優れた雌であることを証明するために、どうしたらいいか、わかるな？</p><p>はいっ、はい、おじさま！</p><p>その強く気高く美しい姉を、無様に敗北させた強い雄が、自分を選ぼうとしてくれている。姉を選んだ男を情けなく射精させて、雄としての格の違いをこうもはっきりと示した上で、自分を選んでくれている！</p><p>ならばその選択に、全力で答える道しか残っていなかった。</p><p>わたしは、クゥは、おじさまのおちんぽで思いっきり達して、イキ狂って、絶頂おまんこにおじさまの精子を受け入れますっ！そしておじさまの可愛い赤ちゃんをお姉様より先にしっかり孕んで、雌として優れていることを証明して見せますっ！</p><p>それでいい。では、自動化のスキルを解除できるな？</p><p>スキルの事まで完全にバレていたのだ。もはや何の迷いの余地もなく、クゥシェは抵抗の意思を手放した。</p><p>はいっ今イキますぅぅぅっ！！</p><p>一度達するのに必要な快楽の、何十倍、何百倍もの刺激がクゥシェの身体を貫く。彼女はもはや声をあげる事すらできず、潮と尿とを激しく噴き出しながら、背中を丸めて絶頂した。</p><p>では、行くぞ</p><p>忘我の中でクゥシェはその短い言葉が何を意味するか、すぐに理解した。</p><p>くださいっ！おじさまのせーえきっ！子種を、奥に、奥にくださいぃっ！強い精子でクゥを孕ませて、赤ちゃん生ませてくださいぃっ！！！あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！！</p><p>懇願通りに流し込まれる白濁の波に、クゥシェは途方もない喜びと快楽を感じながらも、一滴も逃すまいと膣を締め付け腰を押し付ける。</p><p>これでおじさまの、あかちゃん</p><p>そして注がれた精液をこぼさないようにするかのように、高々と尻だけは掲げたまま、ベッドに突っ伏すように失神した。</p><p>流石に八回目ともなると凄いイキっぷりでしたねー</p><p>Olのペニスから滴る愛液と精液を舐めとるように舌で掃除しつつ、フローロが感心したように呟く。</p><p>八回目だと？どういうことだ？</p><p>あ、ごめんなさい、今回は意識あったんですね</p><p>その言葉を聞きとがめたテールが問い、フローロがしまったという顔をした。</p><p>何、すぐに忘れるのだから気にすることはない</p><p>テールにか、フローロにか、Olはそう言いながら服を着こんでテールの元へと向かう。</p><p>貴様、何をする気だ！？</p><p>何、ただ同じことを繰り返すだけだ</p><p>そしてそう答えると、彼の頭に手のひらを向けて呪文を唱えた。</p><p>忘却</p><p>途端、テールの瞳から正気が失われ、ぼんやりと虚空を見つめる。その間に、Olは手早く三人を石化させると、元の位置へと戻した。ついでに変性魔術で破れた服も直してやる。</p><p>まだやるんですか？</p><p>そうだな、できれば十回くらいは繰り返しておきたい</p><p>流石にややうんざりした様子で、フローロはそうですかと返す。ブランによって自室に閉じ込められているよりはマシだと思えていたのは四回目くらいまでのことだった。同じような事を繰り返し何度も陵辱される姉妹を見ながら、自分だけ抱いてもらえないのは思ったよりもつらい。</p><p>ルヴェもクゥシェも必死に時間を稼ごうとしていた。約束がOlにとって致命的なものだと知らなかったから、口約束が守られるとは思ってもいなかったのだろう。奇しくも、その目論見自体は成功していたのだ。</p><p>外ではレイユさんだいぶ探してるんでは？</p><p>それはなかろう</p><p>きっかけは、フォリオが見せてくれた結界だった。解除する目途を立てたのだから、当然再現する事だってある程度はできる。</p><p>この部屋の外はまだ一時間も経ってはおらぬのだから</p><p>第11話繰り返し念入りにわからせましょう-4</p><p>十二回目。</p><p>おじさまおじさまんっちゅっ気持ちいいですおじさまぁ</p><p>ルヴェが意識を取り戻したとき、まず目に入ってきたのはOlと睦みあうクゥシェの姿だった。ベッドの上に腰を下ろしたOlと向かい合い、脚と腕とを巻き付けて、まるで恋人のように口づけを交わしながら下の口にずっぷりとその剛直を咥え込んでいる。</p><p>それを目にした時ルヴェが感じたのは、可愛い妹を犯されている怒り──ではなく。幸せそうに抱かれている妹に対する嫉妬であった。</p><p>ちょっとあんた、うちの可愛い妹に何してんのよ！</p><p>それを怒りで覆い隠し、ルヴェはOlに食って掛かる。</p><p>あらお目覚めになったんですね。おはようございます、お姉様</p><p>だが当のクゥシェは落ち着いた様子でいつもの控えめな物腰にほんの少しだけ自信を覗かせながら、ルヴェに挨拶する。</p><p>今、確実に赤ちゃんができるよう、おじさまに念入りに種付けして頂いているところなんですあんっ♡またぁ♡中出しありがとうございます、おじさま♡</p><p>はぁ！？な何言ってんの！？</p><p>Olの一物がどくりと脈動し、収縮を繰り返す。クゥシェの言葉がなくとも、彼女の中に射精しているのだとわかった。</p><p>ルヴェは一度もしてもらっていない、膣内射精を。</p><p>ちょっとテール、あんたは何してるの！？</p><p>ルヴェは自分たちを守るべき従者の姿を探す。勿論彼の姿はすぐに見つかった。部屋の片隅で、頭と右腕そして股間以外を石化されたまま、己のモノを一心不乱にしごくテールの姿が。</p><p>あんた何してるの！？</p><p>床には何度も吐精した跡が残っていて、もはや勃起する力も残っていないふにゃふにゃの男根をそれでもしごきながら、テールはOlとクゥシェの情交を血走った目で見つめていた。</p><p>ああお嬢様があんなに乱れられて中に出されて、それを受け入れている俺以外の男の精液を、中出しされて喜んでいる！</p><p>ぶつぶつと呟きながら萎えたペニスをしごく牙族に恐ろしいものを感じ、ルヴェは後ずさる。</p><p>あんた、一体何やったのよどうして、こんなことになってんのよ！クゥシェを離しなさいよ！</p><p>原因は一つしか考えられない。ルヴェはなおもクゥシェを抱き続けるOlに食って掛かった。</p><p>お姉様。お姉様はおじさままで奪うおつもりですか？駄目です。おじさまだけは差し上げられません</p><p>だがそれに答えたのはOlではなく、クゥシェだった。ぎゅっとOlに抱き着き、そう宣言する。</p><p>あんっ♡ごめんなさい、おじさま♡もちろん、所有物はわたしの方です♡強い雄に雌が所有されるのは当然のことですから♡でも、お姉様よりわたしの方を可愛がって欲しいんです♡</p><p>ずんと下から抗議するように突かれ、媚び切った声色で懇願する妹を、ルヴェは信じられないものを見る目で見つめた。クゥシェより、あたしの方がと喉から声が出かけて、彼女は愕然とする。</p><p>欲しいんでしょう？</p><p>それを見透かすように、クゥシェが言った。</p><p>お姉様はいつもそう。わたしのものは何でも欲しがった。おじさまのこの逞しいおちんぽも、もう一度入れてほしいんでしょう？</p><p>その言葉を聞いた途端、ルヴェの腹の奥がどくんとうずく。思い出した。何度も何度も何度も何度も、どれだけイッても容赦なく奥に突き入れられ、イカされ続けるあの快楽を。</p><p>お前たちは皆、勝負に負けた</p><p>その瞬間を見計らったように、Olが低い声でそう告げる。</p><p>姉は負けを認めず何度もイカされ無様に気を失い、妹は策を弄したが及ばず屈し俺のものになることを選んだ。そして従者は愛する者の痴態を目にし吐精した。つまりは全員、俺の手によって達したという事だ</p><p>あ、あたしは！</p><p>なおも意地を張ろうとするルヴェに、Olはすっと手のひらを向けて制する。</p><p>勝負に負けたのだから領地を渡せ、などとは言わん。お前たちに要求するのは至極簡単な話だ</p><p>一体何を要求されるのか、ルヴェは戦々恐々としてOlの言葉を待つ。領地以上のものとなれば一体何だろうか。命か、スキルか、それとも──</p><p>正直に話せ。ただそれだけでいい</p><p>想像を逞しくしていたルヴェは、だからOlの要求に肩透かしを食らった。</p><p>わたしは、おじさまの女にして頂けて、たくさん種付けして頂いて、幸せです</p><p>真っ先に、クゥシェがそう言ってぎゅっとOlに回した四肢に力を込める。</p><p>俺は俺はけして手の届かないお嬢様が、他の男に汚されることに途轍もない快楽を、感じている！</p><p>そしてテールまでもが、そんなことを言い始めた。</p><p>あたしあたしは</p><p>あぁっ♡</p><p>逡巡するルヴェの前で、クゥシェが腰を大きく振って甘い喘ぎ声をあげる。彼女の秘所に出入りする太い肉塊を目にして、ルヴェはとうとう堪らなくなった。</p><p>あたしも、またセックスしたい！その太いちんぽに抱き潰されて、イヤって程イカされて、許してって懇願しても許されずに犯されたい！</p><p>その光景を見ているだけで膣奥が疼き、本能がOlのモノを欲しがっているのがわかった。</p><p>クゥだけズルい！！</p><p>それを独占している妹に嫉妬して、羨んでいることを、ルヴェはようやく認めた。</p><p>お姉様こそ、ズルいです。お婆様の期待も、家を継ぐ名誉も、テールの事も、何もかも独り占めして、わたしのものを全て奪ってわたしを選んでくださったおじさままで奪うおつもりですか！？</p><p>普段大きな声など出したことのないクゥシェの怒鳴り声に、ルヴェは怯んでたたらを踏む。</p><p>あたしあたし、そんなもの、嬉しいと思ったことなんてない。テールだって無理やり相手させてただけで、心はずっとクゥの事見てるって知ってた。あたしこそ！あたしこそ、家の事なんて気にせず自由に振舞えるクゥの事が羨ましかった！</p><p>えっ</p><p>今度はクゥシェがショックを受ける番だった。敬愛し、尊敬し──そして羨み妬んでいた姉が、自分を羨ましく思っているなんて考えもしていなかったのだ。</p><p>今だってそう！あんたは家の事なんか何も考えもしないで、そうやって簡単に白旗を振って好きなことができる！あたしはあたしは、失敗する事なんて、負ける事なんて許されてないのに！</p><p>お姉様</p><p>ルヴェはいつも自信満々で、怖いものなどないのだと思っていた。何をするにも全部自分で決めて、クゥシェの意見など聞き入れてもくれない。だがそれは、責任感の強さと表裏一体だったのではないかとクゥシェは思い至った。</p><p>ようやく、互いに互いを理解できたようだな</p><p>見つめあう姉妹の頭をぽんと撫で、Olが声をかける。</p><p>お前たちは表向きは互いに尊重しあうふりをしながら、内心では互いに羨み嫉妬しあっていた。だが、だからと言ってその外面が全て偽りだったわけでもない</p><p>こくり、と姉妹は頷く。家族として愛しているからこそ、大事だからこそ。尊敬しているから、憧れているからこそ。自分が欲しいものを持っているのに、それを蔑ろにする相手の事が許せなかった。</p><p>もういがみ合う必要も、羨みあう必要もない。二人ともに溢れる程に、与えてやる。望むだけな</p><p>ぎゅっと抱き寄せられて、ルヴェは頬を染める。肩に回されたOlの腕には、これまで感じたことのない包容力と安心感があった。</p><p>クゥシェ。構わんな？</p><p>はい、もちろんです、おじさま。お姉様と一緒に可愛がってください</p><p>姉妹がぎゅっとOlに抱き着き、交互に口づけを交わす。</p><p>先に孕むのは、わたしですけどね</p><p>だがルヴェがOlとキスしている間に、クゥシェはOlにだけ聞こえるように耳元でこそりとそう囁いた。</p><p>あああ二人ともなんて、そんなああっ！</p><p>愛した相手と、関係を持った相手。その二人を寝取られる感覚に、テールは動くこともできず一人絶頂するのだった。</p><p>お疲れさまでした、Ol</p><p>ああ。お前にも苦労をかけたな</p><p>興奮と熱狂の末、意識を失った三人にもう一度石化をかけ直すOlに、フローロは本当ですよと答える。</p><p>この後ちゃんとわたしの事も可愛がってくれないと拗ねますからね？</p><p>わかっておる</p><p>そんな事を言いつつもフローロが差し出した飲み物に、Olは術をかけた後飲み干した。</p><p>いつもそれ、何の術をかけてるんですか？</p><p>毒探知だ</p><p>当たり前のように答えるOlに、フローロは流石に呆れた。このタイミングでフローロがOlに毒を盛る理由がなさすぎるが、そういう事ではないのだろう。</p><p>そんな性格だから十回以上も同じこと繰り返すんですよね</p><p>正確には十二回だな</p><p>ルヴェを挑発し、勝負を受け、篭絡して、記憶を消す。このルーチンをOlは十二度繰り返し、その度に暗示を刷り込んでいた。</p><p>ルヴェには、優れた性技によって快楽を得ることこそが最上の価値である事。</p><p>クゥシェには雌にとって価値ある雄に選ばれることこそ最高の幸福である事。</p><p>テールには、愛する者を寝取られ幸福を失うことこそが至上の快楽である事。</p><p>それぞれの価値観がそれぞれの価値観を補強し、円環を成して強め合う暗示だ。</p><p>記憶がなくとも暗示は残り、心身の変化も消えてなくなるわけではない。いやむしろ、記憶がないからこそ対処することも出来ず、心の傷は深まり快楽を覚えた肉体はそれに溺れていく。そして暗示がそれを更に深め、確実なものにしていった。</p><p>ルヴェにかけた暗示はすぐに効果を発揮したが、クゥシェはやや手ごわく、そしてテールの暗示を完全に定着させるには十二回も彼の前でクゥシェの処女を奪う必要があった。</p><p>己の身体にひびを入れる程のストレスに彼の頑強な精神はよく堪えたが、それでも最後はそれを快楽として受け入れる道を選び取ったのだ。</p><p>繰り返した回数はともかくとして、今回の方法ってこの子たちの人となりというか、性格がわかってないと取れませんよね？いつ調べたんですか？</p><p>目を付けた段階で言えば、中層に来る少し前だな</p><p>Olの手のひらに、ぽんと音を立てて使い魔が現れる。それは風船蝙蝠と呼ばれる最下層に現れるモンスターだった。ろくなドロップを落とさない上にふわふわと空に浮いて捉えどころがなく、倒すのが地味に大変だから忌み嫌われてるモンスターだ。</p><p>こいつは音もなく空を飛び小さい身体で闇にまぎれどこにでも入り込み、見つかったとしても大したモンスターじゃないから誰も気にせん。最高の斥候だな</p><p>この風船蝙蝠に密かにリルと名付けているのはOlだけの秘密だ。</p><p>中層に来る少し前ってわたしがブランに捕まる前ってことでは？</p><p>うむ。ラディコが攻め込んできた前後だな</p><p>当たり前のように告げるOlに、フローロは呆れたものか感心したものか大いに悩む。</p><p>ところで、今回頑張って手伝ったので、一つOlにお願いを聞いて貰いたいことがあるんですが</p><p>わかっておると言っただろう</p><p>どうせ自分の相手もちゃんとしろと言う話だろうと嘆息するOlに、フローロは首を横に振る。</p><p>ブランを、助けてあげて欲しいんです</p><p>第12話冒険者ギルドを作りましょう-1</p><p>おじさん、いらっしゃい！</p><p>お待ちしておりました、おじさま</p><p>ルヴェとクゥシェに迎えられ、Olはスィエル領を訪れていた。</p><p>Ol殿</p><p>その背後に控えたテールが、厳めしい顔つきでOlに告げる。</p><p>後で機会と場所を設けますので、どうか此度もお嬢様がたを思いきり犯して頂けますでしょうか</p><p>忠告かと思えば、酷い懇願だった。</p><p>男に情事を見られる趣味はない。わざわざお前には見せてはやらんぞ</p><p>無論ですとも！後で縛られ身動きを取れなくされつつ、Ol殿のものがどれほど良かったかを聞くのが最高に幸福なのです</p><p>少々方向性を間違えたかもしれない。Olはそう思ったが、今の魔力量でこの男を殺すことなく丸く収めるにはあの方法しかなかった、と自分に言い聞かせる。戦力としては非常に頼れる男ではあるのだ。</p><p>アンタがOlかい</p><p>三人に案内されて向かった最奥の部屋。大きなテーブルの向こう側に、鋭い眼をした老婆が待ち受けていた。</p><p>真っ白な太い三つ編みを長く垂らし、細く長い古木のような印象を与える老人。彼女こそ、中層でもっとも力を持つ三人の壁族のうちの一人、レイユ・スィエルであった。</p><p>うちのはねっ返りどもが随分と世話になったようだね</p><p>カン、と甲高い音を立てて長煙管を鳴らし、レイユは灰を落とす。</p><p>それで？一体何の用件だい</p><p>Olが対面の椅子に座ると、それに呼応するかのように背後の通路から武装した兵士たちが押し寄せて、たちまち彼をぐるりと包囲した。</p><p>孫娘を誑かされたくらいで腹を立てるほど狭量じゃないけどね、アタシに対しても同じ事が出来ると思われちゃあ困るんだよ</p><p>Olは落ち着き払った態度で兵士たちを見渡す。テール程の手練では無いにせよ、優れたスキルを持った者が揃っていた。たとえルヴェたちが加勢してくれたとしてもこの質と量には抗えないだろう。</p><p>今日は商談に来た</p><p>だがOlは気にした様子もなく、懐から皮袋を取り出すとテーブルの上に置く。レイユは一瞬道具袋を警戒するが、きっちりと口が革紐で縛られているため少なくとも生き物が入っている可能性はないと知れた。生き物を入れた道具袋の口は閉じることが出来なくなるからだ。</p><p>なんだい、こりゃ？</p><p>革紐を解き袋をひっくり返して出てきたのは、レイユをして目にしたことがないものだった。</p><p>がらくた、ですね？</p><p>クゥシェが鑑定を発動させてそれを見る。がらくたとは、その名の通りなんの効果も持たないアイテムより正確に言えば、アイテムでは無いもののことだ。破壊されてしまったアイテムや使用回数を使い切ったマジックアイテム、あるいは食べ終わった食料の器なども、鑑定するとがらくたと表示される。</p><p>クゥ、鑑定に頼りすぎるんじゃないっていつも言ってんだろ</p><p>だがそれはただのがらくたではないとレイユは見抜いた。あまりにも精巧な作りであり、何よりそれには明確に種類があったからだ。</p><p>これ何個あるの？おじさん</p><p>今回はそれを全部で十万個分持ってきた</p><p>そのうち最も小さいものをつまみあげるルヴェに、Olはそう答える。</p><p>えー、どう見たって十万個もないじゃない。せいぜい数百個ってとこでしょ？</p><p>ルヴェの言葉に、レイユの脳裏に稲妻が走った。相変わらずこの孫娘は、鋭いくせに抜けている。頭でっかちで考えすぎる癖のある妹と足して分ければいいのに、とレイユは常日頃から思っていた。</p><p>コレを、一体どうするってんだい</p><p>うむ。その袋の中身はひとまずくれてやるとして、今後お前にはそれとドロップ品を交換する権利をやる</p><p>慎重に問うレイユに、Olはとんでもないことを言い出した。</p><p>何いってるの、おじさん？こんな何の役にも立ちそうにないがらくたとスキルを交換なんてするわけないじゃん</p><p>そう、確かにそれは何の役にも立たないだろう。武器にもならなければ家具にもならない。食べられもしない。だが。</p><p>これはアンタんとこのフォリオって翼族だね</p><p>そのうちの一つを摘まみ上げ、レイユは呟く。問いかけのようだが、返答は求めていない。とっくに調べはついている事だ。</p><p>で、こっちはブラン。そしてこれがアンタが担ぎ上げようとしている前魔王の娘、フローロ</p><p>よく調べ上げているな</p><p>Olの世辞に、レイユは盛大に舌打ちして見せる。こんなものをレイユの元に持ち込む以上、Olの方がレイユの事をしっかり調べてきていることは明白だったからだ。</p><p>つまりこれは、ブランがフォリオ１００枚分。フローロは更にその１００枚分ってトコかい</p><p>察しがいいな、その通りだ。単位はまあフローロにちなんでフルとでも呼ぼうか</p><p>テーブルの上のそれをじゃらりともてあそび、Olは告げる。あらゆるものがモンスターから産出されるこの世界に、それまで存在していなかった新しい概念を。</p><p>これの名前を、貨幣という。俺の世界で最も強い力を持つ道具だ</p><p>理解できずに互いの顔を見合わせる姉妹をよそに、レイユはその価値を完全に理解していた。いや、正確には価値という概念そのものであることを。</p><p>つまりこれはあらゆるスキルやアイテムの価値を数字にするための道具だね？</p><p>流石だな。その通りだ</p><p>今まで、あらゆるアイテムやスキルは物々交換で取引されていた。自分の欲しいスキルやアイテムを、欲しがっている者と交換する。だが、自分が欲している物と、相手が欲している物が運良く合致することなどそうそうあるわけではない。</p><p>そこに目を付けたのが、レイユだった。不要なものはがらくた以外どんなものでも引き取る。そしてあらゆる品物の目録を作り、落とすモンスターの強さや希少性、有用さなどから釣り合うスキルやアイテムを提示する。</p><p>そうすることによってレイユは己の領地以外からもドロップ品を集め、中継し、かすめ取ることによって少ない戦力でもその勢力を維持してきていた。</p><p>だがこの小さな金属片が、そのレイユの仕事を全て奪ってしまう。レイユが今まで豊富な経験と勘で行ってきた取引が、誰にでも簡単にできるようになってしまう。</p><p>もう一度言おう。貨幣とドロップ品を交換する権利を、レイユ、お前にだけやる</p><p>今ならその利益を、独占することができる。これはそういう話だった。</p><p>つまりドロップ品を貨幣と交換するのは、アンタがやるって話なんだね</p><p>まあそうなるな</p><p>つまりこうだ。不要なドロップ品を手に入れた壁民は、まずOlの所にそれを持っていき、貨幣に交換してもらう。そして次に、その貨幣をレイユの所に持っていき、好きなドロップ品と交換することができる。</p><p>そしてレイユは必要なドロップ品を、Olから貨幣と交換で手に入れることができるのだ。レイユだけが、Olからドロップ品を譲り受けることができる。</p><p>しかもOlに払う値段より、壁民と交換する時の値段を高くすれば、レイユはその差分を丸々得することができるのだ。</p><p>いくつか決めることがあるね。まず、スキルの値は固定で、変えないこと。次に、在庫があるとき売り渋らないこと。そして、アタシが売るときの値段はこっちが勝手に決めさせてもらう事だ。どうだい？</p><p>ああ。それで構わん</p><p>なんだって？</p><p>あっさり承諾するOlに、かえってレイユは驚いた。条件を詰めていくことを前提に、まずはふっかけたのだ。あまりにもレイユに都合がよすぎる条件を、まさかそのまま飲むなどとは思ってもみなかった。</p><p>ああ、後は仕入れたスキルをこっちに提示する前に勝手に使うのも禁止させてもらうよ</p><p>もちろんだ</p><p>更に気づいた穴を埋めれば、それもOlは気にした様子もなく頷く。</p><p>取引の場はうちの者に見張らせるからね。誤魔化そうったってそうは</p><p>そもそも場所を分けるのは不便だろう。同じ場所で堂々と取引を行えばいい</p><p>Olの提案に、レイユは混乱した。あまりにOlに利益がないように思える。</p><p>悩むレイユを見て笑みを浮かべ、Olは懐からごとりと鉄の鎧を取り出した。</p><p>俺はこれを、いくらでも作れる</p><p>Olが鎧を撫でると、それは一瞬にしてざらりと貨幣の山へと姿を変えた。</p><p>なんだって！？</p><p>Olが貨幣をいくらでも作れるのであれば話は変わる。実質的に無限の富を所有しているようなものだ。レイユは得をするが、それ以上にOlが得をすることになる。</p><p>アタシがその話を飲まなければどうするつもりだい？</p><p>それは、レイユという大壁族が後ろ盾になるからこそ意味のある話だ。Olなどというどこの誰ともわからぬ人間が貨幣とやらを広めようとしても、乗る人間はいないだろう。レイユが協力しなければ彼の計画は簡単に頓挫する。</p><p>ハルトヴァンに持っていくまでの話だ</p><p>正気かい？アイツにその話が理解できるとでも？</p><p>中層でもっとも有力とされている三人の壁族。ユウェロイとレイユ、そして残る一人のハルトヴァンは極めて単純な男だ。脳味噌までもが筋肉で出来ていそうなあの男に、貨幣などという複雑な概念が理解できるとは思えなかった。</p><p>無論お前と組むよりは損はするだろうな。さりとてユウェロイに話を持っていくわけにもいかん</p><p>Olが自らの主であるユウェロイに頼まない理由は明白だ。彼は、ユウェロイを追い落とそうとしているのだ。そのパートナーを探し、レイユを選んだ。そういう事だろう。</p><p>商売というのは、本来互いが得をするべきものだ。俺も、お前も、そして貨幣を利用する壁民たちも得をする。故に裏切る必要はないし、破綻することはない。できれば俺はそれを、ハルトヴァンではなくユウェロイとでもなく、お前と築きたいと言っておるのだ</p><p>揺らぐことなく立ち上る煙に、レイユはカン、と煙管の灰を落とす。</p><p>全く、その手口で娘っ子どもも口説き落としたってのかい？やれやれ、こんな婆を口説いてどうしようってんだ</p><p>それは随分魅力的な口説き文句だった。もう五十程若かったら落ちていたかもしれない、などとは思うほどに。</p><p>アンタみたいなのが孫娘に近づくと知ってりゃ、もうちょっと警戒してたってのに</p><p>舌打ちして毒づくレイユに、手遅れですとルヴェとクゥシェがOlの腕にそれぞれ抱き着く。</p><p>で、ドロップ品を集める具体的な方策は考えてんだろうね</p><p>貨幣を広めるのならば始めが肝心だ。広がりだせば勝手に動くだろうが、まず壁民たちにそれを周知し使ってもらわねばならない。それは言うほど簡単なことではないはずだ、とレイユは読む。</p><p>うむ。それを広めるために、お前の領地に作ってもらいたいものがある</p><p>何を作るってんだい</p><p>また妙なことを言い出すんだろうね、と内心呟くレイユの心情を知ってか知らずか、Olは答えた。</p><p>冒険者ギルドだ</p><p>第12話冒険者ギルドを作りましょう-2</p><p>ネリスさん！見てください！</p><p>得意満面の顔でシェロが持ち込んだのは、毛皮の服だった。中層の強敵として知られ、中堅パーティでも出会えば逃げることを推奨される大猿のドロップ品だ。</p><p>シェロ様、大猿に勝ったんですの？素晴らしいですわ！これで名実ともに上級冒険者ですわね！</p><p>ネリスと呼ばれた女はカウンターに置かれたそれを確認すると、大仰に喜んでパチパチと手を叩いた。シェロは照れくさそうに、しかし誇らしげに鼻をこする。</p><p>では査定をいたしますので、他のドロップ品も出して頂けますか？</p><p>あ、いえ、今回はこれだけであと査定もいらないです！これネリスさんに差し上げます！</p><p>シェロの申し出に、ネリスは口元に手を当てまあと目を見開く。そして申し訳なさそうに微笑みながら謝罪した。</p><p>お気持ちは嬉しいのですが、規定で受付は冒険者の方からの贈り物は受け取ってはいけないことになっておりますの</p><p>そんなじゃあ、冒険者から受付じゃなく、俺個人からネリスさんに贈るという事では？</p><p>なおも食い下がるシェロに、ネリスは首を横に振る。</p><p>わたくしがオーナーに怒られてしまいますの。どうか聞き分けてくださいまし</p><p>あああのちょっと顔の怖いオーナーさんか</p><p>オーナーの顔を思い出し、シェロは少し怯む。確かに彼に怒られるのは恐ろしそうだ、と考えるシェロの手を取ると、ネリスは両手でぎゅっと握りしめた。</p><p>シェロ様のお気持ちは、しっかり受け取っておりますわ。それは、規定では禁じられておりませんもの</p><p>ネ、ネリスさん！</p><p>カウンターの上にぐっと身を乗り出し、ネリスに顔を近づけるシェロ。</p><p>その動きを、ゴホンと立てられた咳払いが遮った。</p><p>あら、オーナー</p><p>すまんが少々用事があってな。ネリスを借りて構わんな？</p><p>怖い顔と呼ばれたばかりの鋭い眼光がシェロを捉える。巨大な猿と戦い勝利した彼でさえ、思わず腰が引けてしまうほどの雰囲気がオーナーと呼ばれた男にはあった。</p><p>あ、も、もちろんじゃあネリスさん、また来ますね！</p><p>はい。お待ちしておりますわ</p><p>ニッコリと笑うネリスに手を振って、シェロは逃げるようにギルドを出ていった。</p><p>では、休憩に入りますわ</p><p>そう言って手を振りオーナーと共に奥の部屋へと向かうネリスを、他の受付嬢たちは羨ましげに見送った。</p><p>ギルドの運営は順調なようだな</p><p>ええ。それと言うのもOl様が下さった変化のおかげですわ</p><p>ネリスは、スカートに深く入ったスリットからすらりとした脚を覗かせてみせる。</p><p>彼女は豊かな胸元と気品のある物腰、そしてそのスリットから覗く美しい脚で、ギルドでも特に人気の受付嬢であった。その上品な立ち居振る舞いや口調から、上層壁族の令嬢なのではという噂すらある。</p><p>随分とモテているようで何よりだ、ナギア</p><p>そしてその正体は、蛇の下半身を持つ美女、尾族のナギアだ。彼女はそれなりに派手に動いていた為、名も売れている。念の為に偽名を使い人族に化けて、冒険者ギルドの受付嬢をしていた。</p><p>壁族令嬢どころか最下層の魔族奴隷だと知ったらどんな顔をするかしら、とナギアは内心ほくそ笑む。</p><p>あらOl様、焼きもちですの？</p><p>幾多の愛人を抱え込むOlが嫉妬などするはずもないが、ナギアはそう言って彼をからかった。</p><p>悪いか？</p><p>だが、するはずも無いそれをしていると告げる彼に、ナギアは内心驚愕する。</p><p>では確認してみますか？わたくしが他の男のものを咥えこんでいるかどうか</p><p>そうさせてもらおうか</p><p>スカートをたくしあげ、下着が見えるかどうかギリギリの線まで脚を露出して見せれば、Olは素直にそれに乗ってきた。</p><p>え、えっと、それではどのような体位でなさいますか？</p><p>変化は解かないのか？</p><p>やや動揺しつつもナギアが問うと、Olは不思議そうにそう尋ねた。これからまぐわおうと言うのに、美しい人の脚より醜い蛇の下半身がいいと言うのだ。</p><p>もう！あなた様のような方がいて、浮気なんてする訳ないじゃありませんの！</p><p>ナギアは堪らなくなり、Olに抱きついて口付けた。変化を解いて、蛇の下半身でぐるぐる巻きにして一生自分だけのものにしてしまいたい気分だった。</p><p>ですが今日は、この姿で愛していただけませんか？</p><p>構わん。元が美しいものは変化してもその美しさは変わらぬからな</p><p>蛇の身体では取れる体位が著しく制限される。色んな形で抱かれたいナギアの提案に、Olはまたしれっとそんなことを言う。</p><p>もう！もう！本当にそういうところですわよ！</p><p>ナギアは枕をOlの胸板に叩きつけると、休憩室に設えられたベッドの上に四つん這いになった。</p><p>今日は後ろからお願いいたします</p><p>なるほど、これは蛇の身体では出来ぬ事だな</p><p>Olは敢えてナギアの服を脱がさず、スカートの中に手を入れ下着をずらして中に指を差し入れる。</p><p>もう準備などとっくに出来てますから、Ol様のお情けを早くくださいまし</p><p>何度も嬉しい言葉を投げかけられ、ナギアのそこはすっかりびしょ濡れになっていた。前戯さえもどかしく、ナギアは尻を振って懇願する。</p><p>侵入してくるOlの硬いものに、ナギアは高く声を上げる。</p><p>一度、こうして思いっきりあんっ！お尻に腰を打ち付けられて、犯して欲しかったんですのああっ！</p><p>先程の男はお前とこうする事を夢見て貢ごうとしているのだろうな</p><p>あんっ！可哀想ですけど、その夢は叶いませんわ。わたくしが身体を許すのはOl様だけ、わたくしの中を使っていいのは、あなた様だけなのですから！</p><p>その言葉を証明するかのように、ナギアの膣口がOlの一物をギュッと締め付ける。</p><p>では俺の物という証を刻んでやろう</p><p>はいっ、下さいませ！わたくしはOl様だけの物だと、子宮にマーキングしてくださいませ！</p><p>一際強く突き込まれ、大量に腟内に流し込まれる感覚に、ナギアは思い切り絶頂するのであった。</p><p>Ol様は本当に酷い方ですわ。こんなに気持ちいいことを教え込んで離れられなくしておいて、ご自分は他に何人も囲ってらっしゃるのですもの</p><p>情事の後、ベッドの上で蛇の下半身をOlに巻き付けながら、ナギアは彼の胸元を指先でつつく。</p><p>ふむ。ではお前が一人で俺の欲求を満たしてくれるか？</p><p>死んでしまいますわ</p><p>だがOlの言葉に、すぐさま白旗を上げた。今も数え切れないほどイカされ何度も奥に注がれて、腰が抜け変化を維持することすら出来なくなっているのだ。これを毎日どころか朝昼晩と繰り返されては、比喩ではなく本当に死ぬ。</p><p>それで、ギルドの方は有望そうな者はいたか？</p><p>そうですわねやはり一番目立つのはスィエル姉妹ですわね。有力壁族だけあって、他の冒険者たちとは桁違いですわ。それ以外では先ほどのシェロ様やブルゴ様、カヴァ様辺りは中層第二区画程度の力は持ってらっしゃいますわね</p><p>仕事の話になってしまったことを少し残念に思いつつ、ナギアはスラスラと答える。彼女はギルドに登録している冒険者たちの顔や能力、人となりを全て把握し、ドロップ品の価格もほとんど暗記している。その有能さも人気の理由の一つであった。</p><p>だが、その情報にOlの期待していたものは含まれていなかったらしい。彼は難しい表情でそう呟くだけだった。</p><p>引き続き有望そうな者が見つかれば報告してくれ</p><p>かしこまりましたわ。最近また冒険者の方が増えて手が足りなくなっていますから、受付の数を増やして頂けますとありがたいです</p><p>わかった。手配しておこう</p><p>それにしても、とナギアは感嘆の息をつく。</p><p>あっという間に大きくなりましたわね。まさかこんなにうまくいくとは思っていませんでしたわ。ギルドもあの、貨幣というアイテムも</p><p>そうか？</p><p>Olとしてはこの世界に通貨がないことの方が驚きだった。何せフォリオですら、コインを見せられてそれが何なのか分からなかったのだ。ドロップ品として出てこないものは自分で作ろうという感覚そのものがないらしい。</p><p>だって、そうでしょう？ただのがらくたをスキルやアイテムと交換しろと言って、する者がいるとは思いませんわ</p><p>最初に、Olは貨幣を大量に配った。冒険者として登録したものに貨幣を一定数渡し、それをドロップ品と交換するという話を広めたのだ。</p><p>そこまでであればナギアも理解できる。要するに登録しただけでタダで物をもらえるという話なのだから。別に冒険者には上納の義務がついてくるわけでもない。</p><p>俺がいた世界には悪貨は良貨を駆逐するという言葉があってな</p><p>悪人が善人を虐げ蔓延るという意味ですの？</p><p>ナギアの問いに、Olは首を振る。</p><p>いや、言葉通りの意味だ。この場合、悪貨とは何の使い道もないがらくたである貨幣。良貨とは使い道を持ちそれ自体が価値を持つスキルやアイテムの事になる</p><p>Olは手のひらにコインと服を召喚し、ナギアの前に差し出す。</p><p>１００フルの値を付けている服と、１００フルのコイン。お前はどちらが欲しい？</p><p>それは勿論、服に決まっておりますわ</p><p>ちょうど全裸であったことだし、何よりOlから服を貰えるというのが嬉しい。</p><p>そうだ。同じ価値なら人は有用なものを手元に置きたがる。コインで支払えるのならコインを使いたがるのだ。そして市場からは、物々交換という形態は消え去る</p><p>物々交換は不便である上に、互いに良貨を使う必要がある。Olには貨幣が絶対に使われるという確信があった。</p><p>なるほどですが、Ol様の目的は、別に貨幣を流行らせて無限の財力を手に入れる事ではありませんわよね？</p><p>なぜそう思う？</p><p>Olがわずかに目を見開き見つめると、ナギアは予想外の事を問われたかのように慌てた。</p><p>えっ、だってOl様はそう、スキルにもアイテムにもさほど興味がなさそうですもの</p><p>なるほど、とOlは理解する。別にナギアは論理的にその解答に辿り着いたわけではないのだ。だが、人が欲するものを嗅ぎ分ける嗅覚を持っている。それは商人として実に有用な素質だった。</p><p>まあ壁族として成り上がる為の財力は必要だがな。俺が真に探しているのは人ブランを打倒できる人材だ</p><p>ブラン様を？ですがOl様は一度ブラン様を下しているわけですし、そう難しいことではないのでは？</p><p>ブランは非常に強いが、搦め手には弱い。無論生半可な搦め手であればそれごと破壊する力を持ってはいるが、Olであればいくらでも裏をかけるのではないか、とナギアは首を傾げる。</p><p>策を使わず、真正面からだ</p><p>無理なのでは？</p><p>そしてその首が、反対側に傾いた。</p><p>ブランの強さはシンプルな種族としての身体能力と、磨きぬいたスキルの強さだ。単純であるが故に真正面から勝つのは極めて難しい。</p><p>恐らく、金の腕と金の盾を持つテールでも勝てないだろう。</p><p>中層で力を持つ三人の壁族のうち、レイユはその経済力ゆえ。ハルトヴァンはカリスマと部下の練度ゆえに広い領土を維持している。</p><p>そしてユウェロイの力の根源は、ブラン個人の武力によるものだ。無論ユウェロイ自身の統率力や家柄といった条件はあるものの、ハルトヴァンが、そしてレイユがユウェロイ領を攻め落とすことができないのはブラン一人の戦闘力が原因だった。</p><p>彼女に完全に負けを認めさせるには、正面からそれを打破しなければならない。ユニスがいれば何とかなっただろうに、と思わずOlはため息をついてしまう。ないものねだりをしても仕方がないが、逆に言えばユニス並みの強さを持った個人が必要なのだ。</p><p>一人である必要はないが、特定の条件や初見殺しといった要素なしでブランに勝てる個人が。</p><p>まあそんな人材にそう簡単に会えるはずもない。今は焦らず、冒険者を集めて戦力を整えるしかないか、とOlは諦める。</p><p>オーナー様。よろしいですか？指導をお願いしたいという冒険者が来ているのですが</p><p>彼が待ち望んでいた原石に出会ったのは、そんなときの事だった。</p><p>第12話冒険者ギルドを作りましょう-3</p><p>シィルです、よろしくお願いします！</p><p>ユグですえっと、お願い、します</p><p>ナギアとの情事のあとを始末して服を着こんだ後、部屋に迎え入れた二人を見て、これはまたチグハグなコンビが来たものだ、とOlは内心思った。</p><p>何せOlの目の前に現れたのは、手のひらに乗りそうな大きさの翅族と、見上げんばかりの大きさの蹄族だったからだ。</p><p>翅族というのは、鳥のような翼を持つ翼族とはまた別の種族で、昆虫のような薄く小さな羽を持つ魔族だ。身体も小さく、ちょうどOlの知る小妖精に近い外見を持っている。</p><p>シィルと名乗った翅族は、丸くまとめた桃色の髪が特徴的な少女だった。身長は３０センチ程だろうか。小さいのは背丈だけではなく、体型も同様だった。短い手足に起伏に乏しい身体付きは、幼い子供のように見える。</p><p>他の翅族はなりは小さくともしっかり女性の体格をしていたので、それはシィルの個人的な発育具合によるものだろう。しかしその愛くるしい外見に相違して、彼女の瞳には幼い子供にはない理知的な輝きがあった。</p><p>一方蹄族は名前の通り、蹄の生えた足が特徴的な種族だ。ユグと名乗った少女のふんわりとした淡い茶色の髪からは、牛のような黒い角と大きな獣のような耳が突き出していた。スカートの裾から生えた脚は膝から先が蹄の生えた獣のような脚になっていて、先端にだけ毛の生えた尻尾が緊張しているようにせわしなく揺れている。</p><p>だが何より特徴的なのはその大きさだった。蹄族は大柄な者が多いが、三メートル近いその身の丈は流石に規格外だ。そしてその身長もさることながら、特に目を引くのがその巨大な胸だ。彼女の大きく張り出した乳房は、Olをして今まで見たことがないサイズだった。</p><p>体格自体が大きいのだからバストサイズも大きくなるのは自然なことだが、それを考慮に入れてもなお大きい。サキュバスのリルや豊穣を司る火山の神サクヤでさえ、身長を同じだけに引き延ばしても敵わないであろう爆乳の持ち主だ。</p><p>その二人に、Olは見覚えがあった。最下層でサルナークに仕えていた奴隷だ。フローロに解放された奴隷たちは、そのほとんどが今は冒険者として登録していた。</p><p>では、わたくしは受付に戻りますわね。どうぞごゆっくり</p><p>ナギアがその蛇の下半身を撫でると、すらりとした白い脚に変化する。そしてOlの頬に見せつけるようにキスをして、部屋を出て行った。</p><p>オーナーさん、本当に魔族とでもえっちなことをしてくれるんですね！？</p><p>シ、シィルちゃん、失礼だよ</p><p>シィルがその体躯に似合わぬ大きな声で問い質すと、ユグもまたその巨躯に似合わぬ消え入りそうなか細い声でたしなめる。</p><p>女の魅力に種族など関係ないからな</p><p>じゃあ、えっちなことをしたら強くしてくれるっていうのも本当なんですか！？</p><p>まあ、本当だな</p><p>シィルの言い方には多少語弊はあったものの、ありていに言えばそのような話だったので、Olは頷く。</p><p>じゃあ、ユグちゃんともえっちしてくれますか！？</p><p>ああ。だが、お前はしないのか？</p><p>いちいち声がデカいな、と思いつつも、Olはシィルに尋ねた。</p><p>え？あたし？あたしは流石に無理なのでは？こんな身体ですし</p><p>己の身体を改めて確認するように、シィルは両腕を広げて見せる。確かにとてもOlの一物を受け入れられそうなサイズではないし、身体つきそのものも子供のように凹凸に乏しかった。だが顔立ちそのものは十分に愛らしいし、実年齢で言えば別に幼いというわけでもない。</p><p>そんなことはない。何の問題もないな</p><p>つまりは十分、Olの射程圏内であった。</p><p>え、ほ、ほんとですか！？やったー！</p><p>シ、シィルちゃんは、可愛いけど、わ、わたしもですか？</p><p>小さな身体で諸手をあげて喜ぶシィルに、大きな身体を自信なさげに縮こませるユグ。本当に対照的な二人だ、と思いながらも、Olはベッドの端に腰掛ける。</p><p>そもそも、お前たちは指導が必要な底辺冒険者なのか？</p><p>そうです！</p><p>Olが冒険者という制度を作り出し、ほとんどの者はそれまでよりも豊かな生活を送れるようになった。わざわざ物々交換が成り立つ相手を探す必要がなくなり、需要の少ないアイテムやスキルを死蔵する必要がなくなったからだ。</p><p>しかし中にはごく一部だが、以前よりも苦しい生活を強いられている者がいた。それが底辺冒険者と呼ばれる者たちだ。</p><p>底辺冒険者とは、最下層のモンスターすらろくに倒すことができないものだ。雫球や角兎といったごくごく弱いモンスターくらいしか倒すことができず、固いパンと濁った水で最低限の飢えをしのいでいる者たち。</p><p>かつてはそれでも稀に落ちる毛皮やスキルなどを集めて生活に必要な雑貨や衣服、あるいは少しでもマシな食料などと交換してもらえていたのだが、貨幣が流通しだして以来、最下層で取れるような品物には値が付かなくなった。</p><p>皆が裕福になり、わざわざそのようなものと交換する必要性がなくなったからだ。つまりは１フル小貨未満の品物しか手に入れられない冒険者。それが、底辺冒険者だ。</p><p>底辺冒険者にはいくつかの共通点があった。</p><p>ろくな武器もスキルも持っていないこと。</p><p>最下層出身の奴隷魔族であること。</p><p>そして──女であることだ。</p><p>スキルを持たない最下層の魔族でも、男であれば鞭獣や蠍蜂くらいは倒せる。最低限の武器は冒険者に登録した時点で渡す金で買えるし、ある程度の戦い方も教えているからだ。</p><p>だが女魔族にはそれすら不可能なものが一定数いた。故に、Olはこうして指導を設けているのだった。</p><p>シィルはまあ、わかる。スキルもなくその体格では戦うのは難しかろう。だがユグはそれだけ身体が大きいのであれば男にも負けないのではないか？</p><p>わたしは、大きすぎるんです</p><p>何せテールよりも更に大きいのだ。疑問を口にした後、Olはすぐに己の間違いに気が付いた。</p><p>そうか。武器を振りかぶることがいや、違うな。走る事さえできぬのか</p><p>そうなんです！</p><p>シィルが元気よく返事をし、ユグがこくりと控えめに頷く。ユグの身長はおよそ３メートル。そしてこの最下層の天井の高さも、３メートルだ。気を付けなければ歩くだけで頭をぶつけてしまう。ましてや飛んだり跳ねたりすることなど完全に不可能だった。</p><p>しゃがんだままなら何とかなりますけど</p><p>体格に恵まれていようと、流石に中腰でまともに戦えるわけなどない。Olは納得し、頷く。</p><p>よかろう。ではお前たちに、戦うための力と方法をくれてやる。だがそれには身体を差し出さねばならん。良いか？</p><p>Olの問いに二人は顔を見合わせると、揃って服を脱ぎ落した。</p><p>こんな貧相な身体でよければ喜んで！</p><p>わたしの、身体気持ち悪くないですか？</p><p>かたやほとんど凹凸のないつるんとした小さな身体。</p><p>かたや凄まじい迫力の乳房と尻を備えた巨大な身体。</p><p>うむ。どちらの裸身も美しい</p><p>そのようなギャップのある女を同時に愛でる事は、Olの好むところであった。無論のこと、似たような娘ばかりを集めて可愛がるのも大好きなのだが。</p><p>Olも二人に倣うように衣服を脱ぎ捨て、既に隆々と反り立つ己自身を見せつける。</p><p>わ、凄い！オーナーさんのちんちん、あたしと同じくらいおっきいです！</p><p>シィルが目を丸くしてそれを見つめ、背比べをするかのように近づいてくる。</p><p>ならばちょうどいい。シィル、お前は全身を使って奉仕してみろ。ユグ、お前はそこに座れ</p><p>ベッドを指さしてユグにそう指示し、言われた通りに座る彼女の身体にOlは背中を預けた。巨大な谷間の中にOlの頭がずぶずぶと埋まっていき、顔をすっぽりと乳房に挟まれる形になる。</p><p>大きいだけでなく、柔らかいよい乳だ</p><p>あぅは、恥ずかしぃです</p><p>両手で巨大な柔肉を持ち上げ、その感触を確かめるOlに、ユグは真っ赤にした顔を両手で覆い隠した。</p><p>全身を使って奉仕ってどうしたらいいんですか！？</p><p>とりあえずまずは抱き着いて、身体を擦り付けてみろ。そして先端を舌で舐めるんだ</p><p>手を挙げて尋ねるシィルにそう命じると、彼女は素直に言われた通り、Olの一物に抱き着いて、先端をぺろぺろと舐め始める。</p><p>なんかすごく暖かいというか、熱いです！ドクドク脈打ってるんっちゅっ先っぽは、意外と無味無臭です！もっとしょっぱかったり苦かったりするかと思いました！</p><p>いちいち報告せんでいい</p><p>抱いている女に状況を報告させるのは嫌いではないが、シィルのそれはいささか色気に欠ける。だが、柔らかな肌を擦り付けられる感覚は絶品だった。</p><p>んっ、なんだかちょっとしょっぱいお汁が出てきました！飲んだ方がいいですか？</p><p>ああそうしろ</p><p>ユグの柔らかな肉に包まれながらシィルの柔らかな肢体で一物を擦られる感触は、思っていたよりも遥かに気持ちのいいものだった。ルヴェとやった勝負ではないが、このまま生娘二人に一方的にイカされるというのも少々癪だ。Olは二人の秘所へと手を伸ばした。</p><p>ひゃっ！？</p><p>はわっ！？</p><p>シィルの膣内に小指の先を、ユグの膣内に人差し指をつぷりと挿入する。意外なことに、ユグの中は体格から想像するほど広くはなかった。それでも普通の人間よりは大きいが、彼女も明らかにまだ男を受け入れたことのない処女だ。指一本でも十分にキツく狭かった。</p><p>一方でシィルの方は体格通りの大きさで、小指の先でもかなりキツい。体格を考えればむしろ指先だけでも入っているのは相当柔軟だと言えるだろう。無論、Olの一物など入るわけもない。</p><p>とりあえず、一旦イカせるぞ</p><p>えっ、ちょっあぁっ！オーナーさんの指ぃっ！気持ちいいですっ！！</p><p>あっ、んっ、だめぇっヘンな声、出ちゃうはずかしぃっ！</p><p>魔王の熟練の指技に二人の乙女はいともたやすく達し、嬌声を響かせる。</p><p>そら、身体が止まっているぞ</p><p>こんなぁっ！こと、されながらっ！できな、です、よう！</p><p>そういいつつも、シィルは必死にOlの怒張をかきいだき、身体を擦り付ける。</p><p>わ、わたし、もっ！これ、いいですか？</p><p>そしてそれに応えるかのように、ユグは自ら乳房を捧げ持ってOlの身体をぎゅっと乳肉で圧迫した。</p><p>ああいいぞシィル、いくぞ！</p><p>え？いく？いくってどこに──</p><p>キョトンとするシィルの眼前から、白濁の液が迸って降り注ぐ。</p><p>わぷっ！？なんですかこれー！？</p><p>どろどろの精液がシィルの全身にべっとりと張り付き、白く染め上げていく。だがそうなっても彼女はOlの男根に抱き着くことをやめず、むしろ射精を促すかのようにぎゅっと抱きしめた。</p><p>あっ、これ、もしかして、子種ですか！？んうっなんか、すごいにおい</p><p>自分に付着した精液を舐めとって、シィルは複雑な表情を浮かべる。</p><p>なんでしょう酷い匂いなのに、いやじゃないっていうか、ちょっとドキドキするような、どこか懐かしいようなそんな、変な感じです</p><p>けして美味しいわけでもないのに、なぜか妙に後を引くその味に、シィルは二度、三度とそれを舐めとる。その仕草に、Olは興をそそられた。</p><p>シィルの身体をひょいと掴むと、まるで人形遊びでもするかのようにもう片方の手で彼女の脚を押し広げ、露出した秘所にペニスを押し当てる。長さはシィルの身長とほぼ同じ。太さもシィルの身体とほぼ同じ。</p><p>そんな凶器を彼女の入り口に押し当てて、Olは短く宣言した。</p><p>第12話冒険者ギルドを作りましょう-4</p><p>えっ、いや、流石に無理ですよ！裂けて死んじゃいます！オーナーさんの、あたしと同じくらい大きいんですからあ！</p><p>自分の腰よりも太い肉槍を入り口に押し当てられて、流石にシィルは泡を食った。</p><p>案ずるな。お前にそのような苦痛を味わわせることはない</p><p>だがOlにそう言われ、彼女はきゅっと口を引き結び、覚悟を決める。</p><p>わわかりました！オーナーさんがそう言うならどうぞ！一思いに！ズブっとやっちゃってください！</p><p>まだOlに対してそこまでの信用もないだろうに、それは感嘆すべき度胸であった。それはそうともう少し静かに受け入れることはできぬものかと思いつつも、Olは彼女の中に挿入する。</p><p>痛ったぁっ！えっ、痛い、けど？死ぬほどって感じでは、ないですね？</p><p>痛みに顔を歪ませた後、シィルは不思議そうに目を瞬かせた。腹の奥にじんじんと痛みは感じていたが、蠍蜂に刺された時ほどではない。普通の人間ならば麻痺毒が怖いくらいで大した傷にはならない蠍蜂の針も、シィルにとっては長剣のようなものだ。</p><p>ましてやOlの針はシィル自身より太いのだから、それこそ全身引き裂けそうな痛みを感じてもよさそうなものなのだが、と彼女は首を傾げた。</p><p>オーナーさんのちんちん、思ってたよりちっちゃかった？</p><p>人聞きの悪いことを言うな。お前の中を大きくしただけだ</p><p>失礼な事をぽろりと漏らすシィルに、流石に聞き捨てならずOlは説明する。</p><p>道具袋というスキルは知っているか？あれと原理は同じだ。お前の膣内の空間を人間と同じ程度まで広げ、俺のモノでも受け入れられるようにした。痛みを感じるのは単純に破瓜の痛みだ</p><p>はえー道具袋ってすごく便利なスキルだって噂には聞いてましたけど、おまんこにも使えるんですね！</p><p>原理が同じというだけだ</p><p>道具袋は革袋の中の空間にしか効果を及ぼさないはずだ。が、確かに人間も広義の意味では革袋であると言えなくもない。今度試してみることを心のメモに書き留めつつ、Olは抽送を開始する。</p><p>んっあっ、んんっ！はぅん痛い、けどぉっなんか気持ち、いいのっあぁっ！</p><p>シィルの身体全体を掴むようにして彼女の身体を上下させる。これだけ体格差があると、Olが腰を動かすよりもそちらの方が楽だし動きも調整しやすい。そして何より、シィルの裸体をモノのように扱っている背徳感があった。</p><p>あん、んっ、はぁんんっ、オーナーさ、んんっ！あっ、それ、そこ、気持ちいいですっ</p><p>そしてそうやって犯していると、比較的シィルの煩さが緩和されることにも気が付いた。快楽に耐えるよう指を口元にあてながら、伏し目がちに喘ぐ様子は普通の少女と変わらない。そうなればかえって可愛らしくも感じられた。</p><p>オーナーさん</p><p>そうしていると、切なげな声が上から降ってくる。視線を向ければ、ユグがじっとOlを見つめていた。</p><p>おっぱいぎゅって、して欲しい、です</p><p>そして消え入りそうなか細い声で、しかしはっきりとそう懇願する。</p><p>ふむそうだな。ユグ、寝台に横たわれ</p><p>Olはユグの谷間から抜け出すと、彼女にそう指示をした。何人もの女を同時に抱けるように巨大化をかけてある寝台は、ユグが横たわってもなお余裕がある。</p><p>シィル。お前はここで四つん這いになっていろ</p><p>Olがそう指示したのは、ユグの胸の上。ちょうどデコルテの辺りだった。</p><p>こう、ですかぁ？オーナーさん、もう入れてくれないんですか？</p><p>Olのモノが引き抜かれ、期待するようにぽっかりと空いた膣口を示して、シィルはユグの胸元に腕と膝をつきながら媚びた声をあげる。</p><p>安心しろ。今挿れてやるっ！</p><p>Olはユグの乳房を掴むと、その谷間ごと貫通させるようにシィルの膣口にペニスの先端をねじ込んだ。</p><p>おっぱいに、オーナーさんの熱いのがそれにすっごく硬い</p><p>ユグの超乳に挟んでも見劣りしないサイズの男根がゴリゴリと抉るように媚肉をかきわける感覚に、ユグは熱い吐息を漏らす。</p><p>あぁんっ！そこぉっ、だめです、おっぱいのさきっぽ、あんっ！そんな、つねっちゃやぁんっ！</p><p>ユグの乳首はその乳房の大きさとは裏腹に実に慎ましやかで、乳輪も小さく色も薄い。しかしOlがきゅっと指先でつまむと敏感に反応して、存在を主張するかのように硬く張り詰めた。</p><p>ユグちゃんの、おっぱいに、挟まれながら、あぁっ！あたしの、おまんこも、犯すだなんてぇっ！ふぁんっ！オーナーさんの、ちんちん、えっち、すぎ、ます、よおっ！はぁぁんっ！</p><p>奥を突かれるリズムに合わせて吐息を漏らしながら、シィルが抗議するかのように言い募る。</p><p>指導の、対価、ってぇっちょっと、裸、見られたりおっぱい、さわられ、た、りぃっ！する、だけ、か、とおぉっ！おも、て、たの、にぃっ！</p><p>それは悪かったな</p><p>指導に身体を要求するのは別に対価というわけではないのだが、と思いつつも全く悪いとは思っていない口調でOlは謝る。</p><p>逆、っですぅっ！こんな、気持ちよく、して、もらえっ、ああっ！だめ、だめ、きもちい、でっおっきいの、きちゃう、きちゃいますぅっ！</p><p>自分自身の言葉に興奮したのか、シィルの身体が小刻みに震え、Olのモノをキツく締め付ける。</p><p>い、いくってっ！だ、だめぇっ！あんな、濃くて凄いの沢山出されたら、赤ちゃんできちゃいますっ！だめ、だめ、なの、にぃっ！</p><p>駄目だと言いつつ、シィルはむしろ尻を突き出し腰を押し付けてくる。</p><p>シィルちゃん、すっごくえっちなかおしてるわたしも</p><p>そしてその痴態を目にして、ユグもまた興奮していた。</p><p>受け止めろ！</p><p>あっああああああぁぁぁぁぁっ！！熱いですっ！</p><p>熱を持っているはずなどない精液が、ともすれば火傷してしまうのではないかと思うほど熱く感じられ、腹の中でどう動いているかわかってしまう。先程全身に浴びたどろどろの液体が腟内に注ぎ込まれ、奔流となって子宮に流れ込んでいく様まで、手に取るように感じられるような錯覚があった。</p><p>ペニスから容赦なく射精された精液が己の中を蹂躙し、征服していく。その感覚に、シィルは身体をわななかせながら絶頂した。</p><p>魔術によって拡張している空間は膣だけだ。大量に注がれた白濁の液はシィルの子宮に収まりきらず、逆流してOlの一物を押しやる。それに逆らうことなくOlがペニスを引き抜くと、噴出した精液がユグの胸に向かって吐き出された。</p><p>あっ、あぁっわたしの、おっぱいに</p><p>シィルの煽りを受けて軽く達していたユグが、ぼんやりとした表情でそれを指先で掬い取り、口に運ぶ。</p><p>んっは、ぁオーナーさぁん</p><p>そのまま自分の指を舐めながら、切なげにOlを呼んだ。くちゅりという濡れた音に後ろを振り向けば、ユグの指が自身を慰めるように蠢いていた。</p><p>欲しいか？</p><p>はいっオーナーさんのおちんぽわたしにも、挿れて欲しいです！</p><p>二度の射精を経て萎える気配もない男根を突き付けて見せれば、ユグは彼女にしては大きな声でそう答え、堪えきれぬようにその先端に吸い付いた。</p><p>んちゅっはああシィルちゃんとオーナーさんのお汁が混じったんっ、ちゅうっすっごくえっちな味がしますぁむ</p><p>何せ何もかもが人間の娘の倍近い大きさだ。普通ならば喉まで咥え込まねば口内には収まらないOlの巨根を、ユグは容易く根元まで口に含んでしまう。Olはなんとなく、衝動に駆られて彼女の角を掴み、腰を押し付けた。</p><p>んっ、んうっ、んんっ！ん、ふ、んぶっ</p><p>三日月型の上を向いた角はちょうど握りやすく、それを掴んで腰を打ち付けると無理やり口を犯しているような気分になる。だがユグはその行為が嫌ではないらしく、目を細めて嬉しそうに受け入れた。</p><p>くっ出すぞっ！</p><p>口内で竿を舐めしゃぶる舌の暖かさと、締め付けるようにすぼめられた唇の気持ちよさにOlはあっという間に高められ、ユグの口内に精を放つ。びゅくびゅくと放出される大量の液体を、ユグはこくりこくりと喉を鳴らして嚥下していった。</p><p>はぁオーナーさぁん次はこっちに注いでください</p><p>ちゅうと尿道の中に残った精液まで吸い取って、その味と匂いにすっかりスイッチが入ってしまったらしい。ユグはぺろりと唇を舐めると、股を開いてそう懇願した。</p><p>ああ。では、挿れるぞ</p><p>はいあ、んっ！</p><p>ずぶずぶと、ユグの膣がOlの肉槍を飲み込んでいく。シィルもそうだったが、やはり種族や体格に関わらず処女膜は存在しているようで、純潔の証を破る感覚が先端に伝わってきた。</p><p>痛むか？</p><p>ちょこっとだけでも、大丈夫です。それより、もっと奥にくださいおなかの奥が、切ないんです</p><p>とはいえいかにも頑丈そうなその外見通り痛みには強いらしく、ほとんど破瓜の痛みを意に介さずユグはそうねだる。</p><p>奥ここか？</p><p>あんっ！そこ、そこですぅ！</p><p>Olの腰が、ユグの腰とぴったり密着する。Olの巨大なモノを根元まで咥え込める相手は久々だった。元いた世界でも、それができる女は片手程もいない。</p><p>性の権化であり完全に膣内の形をOl専用に変えてしまっているサキュバスのリルと、半人半スライムであり身体の一部を粘体化させて受け入れるスピナ。あとは神としての頑強さで無理やり奥に押し込み犯されるのを好んでいたサクヤくらいのものだ。</p><p>あんっ、あっ、んっ、いいっ、そこぉっ！あっ、奥ぅ、ください、奥、奥に、ああっ！いいっ！</p><p>ユグの膣内は大きすぎもせず狭すぎもせず、まるで誂えたようにOlのサイズとピッタリのようだった。一番奥を突いてやるとそこがちょうど弱いらしく、腰を打ち付ける度に一際高く嬌声があがる。シィルとは真逆で普段は巨体に似合わないか細い声しかあげないくせに、喘ぎ声は体格相応に大きい。</p><p>すご、すごいっ、これが、えっち、なんですねっ！わたし、こんな、からだで、あぁっ！男の人と、することなんて、一生ないってあぁんっ！思って、たのにぃっ！きもちいいよぉっ！奥、奥もっと突いて、はぁんっ！オーナーさぁんっ！気持ちいいですぅっ！</p><p>快楽のあまりユグは脚をOlの腰に巻き付けながら、彼をギュッと抱きしめる。とはいえ倍近い体格差だ。背中を丸めたユグが抱きしめると、ちょうどOlの頭が彼女の乳房に埋まる形になった。</p><p>あぁっ！おっぱいっ！やぁんっ、そんな、先っぽ吸っちゃ、やぁっ！あんっ！奥、突きながら、おっぱい、揉まれて、吸われてぇっ！気持ち、よすぎますぅっ！</p><p>手のひらに収まるどころか、背に腕を回すことすらままならない巨大な乳房を鷲掴みにして、Olはピンと尖ったその先端を口に含む。甘噛みどころか半ば本気で噛んでも、ユグは大した痛みを感じてはいないようだった。それどころか、快楽にきゅっと膣口が締め付けてくる。</p><p>はいっ、くださいっ！オーナーさんの熱いの、いっぱい奥に出して、注いでくださいっ！ああっ！わたしも、イく、イく、イくぅっ！</p><p>全身でOlの精をねだりながら、膣壁をわななかせ、ユグが達する。腰に回された脚にぎゅっと力がこもり、凄まじい力で腰を密着させて離すまいとした。無論離すようなつもりもなく、Olはそのままユグの膣内に思いきり射精する。</p><p>ふあぁあぁっ！はいって、きてるぅっ！すごい、すごいよぉ！オーナーさんの、精液、注いでもらっちゃってる！</p><p>己の中に放出されるその感覚に、ユグは更に深く絶頂した。Olの精液がまるで媚薬のように体に染み込み、みだらになっていく気がする。だがそれを恥ずかしいと思う余裕すらないほどの快楽にユグは浸っていた。</p><p>はぁすごかった、ですぅ</p><p>Olが肉槍を引き抜いてもシィルのように逆流することもなく、ユグは放出された精液を全て呑み込んだ己の腹をさする。</p><p>舐めて清められるか？</p><p>ユグ自身の愛液と精液と破瓜の血とで汚れたペニスを差し出しても、彼女は躊躇いなくぱくりとそれを咥えた。</p><p>ユグちゃんだけずるいです。私の分もください</p><p>あっごめんね、シィルちゃん。じゃあ二人できれいにしようね</p><p>ようやく絶頂の余韻から復活したシィルがユグの胸元から羽音を立てて飛び立ち、小さな舌と大きな舌がOlの一物を前後から挟み込む。</p><p>んっ、ちゅっ流石にここまでえっちなことをする覚悟はしてませんでしたけどとっても、素敵でしたちゅっ一生の思い出ができた感じです</p><p>うんれろすごく気持ちよかったわたしも、オーナーさんに抱いて頂けたこと、ずっと忘れません</p><p>そして互いにペニスを舐めしゃぶりながら、そんなことを言った。</p><p>何を言っておる？今のはただお前たちの処女を奪っただけだ。指導は今から始める</p><p>え？だからえっちな事はここまでで、戦い方とかを教えてくれるんですよね？</p><p>Olは首を傾げ、そういえば指導の要領についてまだ説明していなかったことを思い出す。</p><p>いや。指導というのは性交を通じて行う。つまりここからが本番だ</p><p>えっ？いいんですか！？</p><p>二人は期待に、嬌声をあげる。</p><p>それぞれ十回以上は抱くからな。覚悟しておけよ</p><p>だがそれが悲鳴に変わるまで、そう長い時間はかからなかった。</p><p>第13話指導の成果を試しましょう-1</p><p>用意して欲しいものがある</p><p>会うなりそう切り出してきたOlに、スィエル家の当主、レイユは思いっきり嫌そうな表情を浮かべた。</p><p>言っとくけど、カネじゃ売らないからね。アタシはアンタがあれを無限に作れるってことを知ってんだから</p><p>真っ先に釘を刺してくる老婆に、Olはふむと顎を撫でた。</p><p>だがそれは同じことじゃないのか？カネさえあればモノも手に入る。モノはカネに換算できる。わざわざ非効率的な交換手段を使う必要があるのか？</p><p>同じじゃないさ。いくらカネがあろうが、手に入らないものは手に入らない。だからこそアンタはわざわざあの冒険者とかいう連中じゃなく、アタシに話を持ってきてんだろ</p><p>Olの詭弁を軽くかわしつつ、レイユは長煙管の先に詰めた葉に火をつける。</p><p>カネをどんなに増やしても、この壁界にあるモノには限界があるんだ。土台、無限の財力なんてものは実在しないってことさ</p><p>そして虚空に煙を噴き出した。彼女が既に市場原理まで理解していることに、Olは少し驚く。</p><p>そこまで理解しているなら話は早い。お前の言う通り、カネというもの結局世の中にある価値の総量を超えることはできない。つまり、増やせば増やすほど価値は下がっていくのだ。だから貨幣の量は厳密にコントロールしなければならない</p><p>何が言いたいのさ</p><p>こういうものを作られては困る、ということだ</p><p>Olは貨幣を取り出し、机の上にバラまいた。それは先日Olがレイユの元に持ち込み、流通させているものとそっくり同じもの。</p><p>だがどれも、赤黒く変色してしまっていた。</p><p>なんだい、こりゃあ</p><p>錆だ</p><p>サビ？</p><p>Olの言葉を、レイユはオウム返しに問う。本当に妙な世界だ、とOlは思う。この世界の人間は、錆すら知らないのだ。</p><p>いや、実に腕のいい細工師を雇ったのだな。感心したぞ。まさかここまで似せられるとは</p><p>Olは自身の作ったコインと、錆びついたコインを見比べる。錆さえなければ、ほとんど見分けがつかないほどにそっくりだ。</p><p>俺がこの前見せたから、材料が鉄の鎧であることはわかっていたな。それを手で彫り再現したわけだ。いや、実によくできている──だが、贋金を作るものが現れることくらいは予想していたのでな。無論、その対策とてしている</p><p>だが、錆びてしまえばその違いは誰の目にも一目瞭然であった。</p><p>俺が作ったもの以外は錆びるのだ</p><p>鉄の鎧は鉄の鎧に限らずすべてのドロップ品は表面を保護されており、そのまま放置していても劣化はしない。だが、がらくたは別だ。鉄の鎧を破壊して作ったコインは、つまりはがらくただ。そのまま置いておけば錆びてしまう。塩水にでもつけてから放置すれば一日で十分だ。</p><p>そう、つまり俺はお前にこれを渡した時点で偽造の可能性は考えていた。当然だ。錆以外に見分ける方法もある。今ちょうど、ギルド以外から受け取った金は贋金の可能性があり、贋金を使用したものは処罰するという触れを出しているところだ</p><p>その周到ぶりに、レイユは絶句した。その触れが事前に出されていればレイユはそれを察知出来ていたし、そこからOlへの対応を計算することもできただろう。だが、こうして面と向かって話している状態では、その情報を手に入れる事はできない。</p><p>そして何より、裏切る必要はないなどと言っておきながら、レイユが裏切ることを分かったうえでOlは彼女と手を組んだのだ。</p><p>アタシがコレを作ったって証拠でもあるのかい？</p><p>我ながら往生際が悪いと思いつつも、レイユはそう尋ねる。一応、ハッタリという可能性もあったから、それは確認しておかなければならない。</p><p>無論あるが、それは別にどうでもいい</p><p>あン？</p><p>だが、Olの返答は全く予想していなかったものだった。</p><p>俺は別に、贋金を作ったのがお前だと糾弾しに来たわけではない。取引をしに来たのだ</p><p>だから、贋金を作ったことを見逃す代わりに必要なものを用意しろって話じゃないのかい</p><p>Olが証拠を掴んでいるというのは、どうやら本当らしい。レイユの言葉に、しかしOlは首を横に振った。</p><p>言っただろう。商売は互いの得にならねば意味がないと。それではお前の得がないではないか</p><p>Olの言葉に、レイユは唖然とした。裏切られてなおそんなことを言うのはよほどのお人よしに思えるが、ただのお人よしが裏切りを予期した罠など仕掛けておくわけがない。絶対に裏があるはずだ、とレイユは思う。</p><p>そう警戒するな、レイユ。俺にお前を陥れるようなつもりはない。それはわかっているだろう？その煙で</p><p>長煙管を指さすOlに、レイユは絶句する。嘘を暴く空言の葉は、上層でしか手に入らない代物だ。中層以下の人間がその存在を知っているはずがない。</p><p>いや、知っていたとしても、それは本来水に浮かべてその揺れで嘘を感知するものだ。刻んで乾燥させ、煙管に詰めて煙にしても効果があることを知っているのはレイユだけのはずだった。</p><p>今回提供するのは、この貨幣の製造方法だ</p><p>レイユが混乱しているところに、Olは更にとんでもないことを言い出した。</p><p>つまり俺がやっていた役目を、お前もすることができるようになる。中層以下の経済を完全に掌握することができるという事だ</p><p>待て待て待て。ちょいと待っておくれ。いくら何でも話がうますぎる</p><p>流石に理解が追い付かず制止するレイユに、Olは首を横に振る。</p><p>いや、そんなことはない。先ほどお前も言った通り、無限の財力などというものはない。それに正直、経済をコントロールするなんてのは面倒なんだ。俺はそんなものに興味はないし、それに</p><p>Olはレイユの顔をじっと見つめ、言った。</p><p>俺よりお前の方が上手くやってのけるだろう。仕事というものは最も向いている者が行うべきだ</p><p>レイユはガリガリと髪をかきながら、深くため息をつく。そしてカン、と音を立てて煙管の灰を落とすと、それを傍らに置いた。</p><p>アタシに貨幣の製造方法を渡したら、アンタは用済みになるいや、なんなら邪魔になる。そうは考えないのかい？</p><p>本気で言っているのか？もしそうだとするなら少々失望するが</p><p>いいや</p><p>Olにまだまだ利用価値があることなど、確かめるまでもない。殺してしまうより、奪ってしまうより、騙して裏切るよりも、真摯に協力することの方が利益が大きい。どうやらそれを認めるしかないと、レイユはわからされてしまった。</p><p>やれやれ。アタシもヤキが回ったかね。アンタみたいな若造にやり込められるなんざ</p><p>レイユは長い間いろんな人間を見て、その思考を読み、裏をかき、食い物にしてここまでのし上がった。その手練手管にはそれなりの自負もあったのだが、Olが何をするかは全く読めなかった。</p><p>そうでもない。見たところ、七十かそこらだろう？</p><p>なんだい急に。失礼な奴だね、まだ六十八だよ</p><p>口さがないルヴェ辺りが聞けば誤差じゃんなどと言いそうではあったが、幸い冒険者として活動している孫娘は今日も元気に探索中だ。</p><p>ならば俺から見ればお前も小娘だ。俺の実年齢は九十をとうに超えているからな</p><p>はあ？なんだいその冗談は</p><p>レイユは思わず煙管に視線を向けるが、灰を落として火も消えた火皿からは煙の一筋も出ていない。</p><p>ふん、まあいいさ。それで、結局用意してほしいものってのはなんなんだい</p><p>鉄の腕と鉄の盾だ</p><p>Olが告げると、レイユは露骨に呆れた顔をした。</p><p>アンタ、こんだけアタシをやり込めといてそんなつまんないモノ要求すんじゃないよ！そりゃあ冒険者からは出ないだろうけどさ、出たら自分で使うだろうしね。だけどこう、もうちょっとわけのわかんないもの頼まれるもんだと思ってたよ</p><p>ほう。わけのわからないものを頼んでもいいのか？</p><p>Olの言葉に、レイユはうっと言葉を詰まらせる。</p><p>言うだけ言ってみなよ</p><p>そうだな。異世界に転移できるスキル、異世界から知るものを召喚するスキル、時間を巻き戻すスキル、スキルを無効化するスキル、スキルを同意なく奪うスキルああ、時間を停止させるスキルなんかもあればありがたい</p><p>聞くんじゃなかったよ</p><p>どう考えても存在しそうもないスキルのオンパレードに、レイユは頭を抱えた。そもそも異世界とは何なのか。</p><p>待てよ。アンタが望むものかわかんないけど、その中の一個だけなら用意できるかも知れない</p><p>しかしふと、あるスキルの存在を思い出し彼女は顔を上げた。</p><p>で、貨幣の製造方法ってのはどうやるんだい。そういうスキルでもあるのかい？</p><p>いや、もっと簡単な手順を用意した</p><p>Olは懐から四角い金属の塊を取り出す。上下の二枚の板が蝶番で接続されており、開くと下の板には中央に丸いくぼみがあった。</p><p>なんだいこりゃ</p><p>金型だ。これで鉄の鎧を挟んで、鉄でも銀でもなんでもいい。腕のスキルを持つ者に閉じさせれば、硬貨の出来上がりだ</p><p>つまりそれは正確には、鎧を硬貨の形に切り取る道具であった。表面を削らなければ、鎧の保護は消えない。端の断面が錆びないようにだけ、使用者の魔力を用いて保護魔術をかけるように出来ていた。腕を使えるような能力の持ち主であれば、一日一万枚作っても問題ない。</p><p>ところで先ほどの贋金を作った細工師を紹介してくれないか？特に要件があるわけではないのだが、あれほどの腕前には興味がある</p><p>アタシだよ</p><p>レイユが部下に命じてOlの要望の品を用意させている間、ふと尋ねてみると彼女はつまらなさそうにそう答えた。</p><p>そうそう、行き掛けの駄賃だ</p><p>無事に商品を手に入れ、互いに互いの品を確認した後、Olは去り際にレイユに声をかけた。</p><p>ハルトヴァンを潰してきてやる</p><p>第13話指導の成果を試しましょう-2</p><p>野郎ども！</p><p>50メートル四方はあろう巨大な部屋に、男のだみ声が響く。</p><p>真の強さとはなんだ！？</p><p>筋肉です！</p><p>そしてそれに続き、部屋をぐるりと取り巻くように囲んだ男たちが声を張り上げた。</p><p>真の男の証明とはなんだ！？</p><p>部屋の中心で叫ぶのはその言葉を裏付けるかのように、確かに筋骨隆々の男ではあった。</p><p>二メートルを超える身の丈に丸太のように太い腕、三つ編みにした太い髭。しかしそれ以上に、でっぷりと太った丸い腹をしていた。</p><p>一番強い男とは誰だ！？</p><p>ハルトヴァン様です！</p><p>熱の入った大合唱に、肥満した男ハルトヴァンは、両腕を振り上げて答えた。</p><p>レイユが言っていた通り、脳味噌まで筋肉で出来ていそうな男というわけでもなさそうだ、とOlは思う。</p><p>領民の数が最も多いユウェロイ、交易によって最も豊かな品物を持つレイユ。それに数が少なく領地も狭いハルトヴァンが伍してるのは、単純に一人一人が精強だからだ。そしてその精強さを支えているのが、ハルトヴァンのカリスマだった。</p><p>彼は少なくとも、大衆の乗せ方というものをよく知っている。</p><p>さあて挑戦者よ！知っているかも知れんがここのルールを説明させてもらうぞ！</p><p>低いくせによく通る声で、ハルトヴァンがOlに指を突き付ける。</p><p>スキルはなし、使うのは己が肉体のみ！それでこのワシに勝てば、今日からお前さんがハルトヴァン領の領主だ！逆に負ければ領民になってもらう！わかりやすかろう？</p><p>それはつまり、ハルトヴァンが無敗のチャンピオンであることを示していた。ブランでさえ、彼とのスキルなしでの戦いは避けているという事でもある。</p><p>その前に、偉大なるハルトヴァン殿に敬意を表して贈り物をしていいか？</p><p>ふっはっは！構わんぞ。今回の挑戦者は随分殊勝であるな！</p><p>Olの提案にハルトヴァンは鷹揚に頷く。ではとOlが指を鳴らすと、彼の立つ床が沈んでいった。</p><p>ぬおおっ！？</p><p>流石に驚きに目を見開くハルトヴァン。沈降は十メートルほどで止まり、巨大な部屋はすり鉢状の闘技場へと姿を変えた。</p><p>真の戦士が戦う場として、この方が相応しかろう</p><p>ぬっはっは！確かにこれは素晴らしい形だのう。我が民も戦いを見物しやすかろう</p><p>動くはずのない母なる壁が大幅に動いたことにさしたる動揺も見せず、ハルトヴァンはすぐに態度を戻す。</p><p>だが母なる壁を愚弄するかのような行い、見過ごせぬ！このハルトヴァンが成敗してくれよう！さあ、スキルを預からせてもらうぞ</p><p>悪いが戦うのは俺ではない</p><p>Olは懐から口の開いた革袋を取り出す。そして、その中からユグを引き出した。</p><p>この娘だ</p><p>Olがそう宣言した途端、熱狂的に声を上げていた周囲の男たちが、水を打ったように静まり返る。その様子にユグは怯え、身体を縮こまらせた。</p><p>ワシを愚弄する気か！？</p><p>それまでのにこやかで鷹揚な仮面を投げ捨て、ハルトヴァンが怒鳴る。</p><p>まさか体躯が大きいだけで、女がこのワシに勝てるとでも思っているのか！？</p><p>強さとは筋肉なのだろう？女でもこれだけ体格が違えば筋肉量では引けを取らんはずだ</p><p>Olがそう答えると、ハルトヴァンの表情は更に憤怒に歪んだ。</p><p>それとも女とは怖くて戦えないなんだ、ユグ</p><p>更に煽ろうとするOlの服を指先で引っ張り、ユグはかがんで彼の耳元で囁いた。</p><p>あ、あの、オーナーさん、まさかとは思うんですけど、今日言ってた実地訓練って</p><p>そう。ハルトヴァンが今日のお前の訓練相手だ</p><p>Ol以外には聞こえぬよう最大限になされた配慮を、Olは思いっきり無駄にしてはっきりとそう答える。</p><p>ぬっははははは！</p><p>それを聞いて、ハルトヴァンは呵々大笑した。</p><p>こんなに侮辱されたのは初めてだわい！女とて容赦はせんぞ！</p><p>そしてユグを睨み上げて両拳を打ち鳴らした。その迫力にユグはひぃっと悲鳴を上げてOlの影に隠れようとする。しかし三メートルが隠れられるわけもなく、その腰の引けた様子に周囲から罵声が投げかけられる。</p><p>鑑定係！</p><p>は。その女、ユグという蹄族は確かにスキルを全く所持しておりません</p><p>ハルトヴァンの部下がユグのスキルを確認し、彼に報告する。</p><p>鑑定は持っているか？お前もワシを確認してかまわん</p><p>いや、結構だ。スキルを持っているのなら使っても構わんぞ</p><p>Olの言葉に、ハルトヴァンの額に太い血管が浮かんだ。先ほどまでは多分にポーズも含まれていたが、どうやらとうとう本気で怒ったらしい。</p><p>この嬢ちゃんを倒した後、お前さんも叩き潰してやるからな。首を洗って待ってろ</p><p>お、オーナーさぁん！</p><p>ハルトヴァンの部下に拘束されるOlを、ユグは半泣きで振り返る。</p><p>大丈夫だ。俺が指導した通りにやってみろ。上手くいったらまたじっくりと復習だ</p><p>し、指導</p><p>その苦しくも官能に満ちた行為を思い出し、ユグは赤面しつつもハルトヴァンに向き直った。</p><p>じゃあ悪いが行くぞ嬢ちゃん！</p><p>ハルトヴァンがぐんと踏み込み、まっすぐに拳を突き出す。素人目に見てもわかるほど無駄を削ぎ落された美しい突きが、ユグの鳩尾に突き刺さった。</p><p>いたっ！</p><p>痛みに顔をしかめるユグ。しかしその反応に、ハルトヴァンの顔色が変わった。彼は今の一撃でユグを沈めるつもりだったのだ。</p><p>むんっ！</p><p>ぐるりと身体を回転させ、その回転力をそのままにハルトヴァンは踵を叩きつける。ユグの巨体でそれをかわせるはずもなく、かといって捌くほどの技量もなく、彼女の太ももに回し蹴りが直撃する。</p><p>うぅっ</p><p>だが彼女の受けたダメージは、多少うめき声をあげる程度であった。それもどちらかというと過剰に反応しており、実際にはその声程の手ごたえもない。まるで鉄の盾のスキル持ちを蹴っているような気分だった。</p><p>ハルトヴァンは鑑定係を見るが、彼は首を横に振る。ユグが何のスキルも持っていないのは確かなことのようだった。鉄の盾を持っているのなら、呻くほどのダメージすら入らないはずだ。</p><p>（まさかワシと同じことをしとるのか！？）</p><p>考えうる可能性はただ一つ。ハルトヴァンが気と呼んでいる力を、彼女も使っているという事だった。</p><p>そしてそれは正しい。だが同時に、間違ってもいた。</p><p>Olは底辺冒険者と呼ばれる者たちが女だけであることに疑問を抱いていた。</p><p>確かに女性には戦いに向いていない要素がいくつかある。</p><p>例えばリーチの差。</p><p>同じ種族であれば、人型の生き物は大抵女よりも男の方が一割程度大きい。</p><p>それに月の物の問題もある。</p><p>個人差もあるが、動けなくなるほどに重い生理を持つ女性も存在する。</p><p>そして、筋力。</p><p>女性よりも男性の方が筋力に優れているのは、この世界でも同じだ。</p><p>だがそれらの差は、魔力を使えば何ら問題とはならないのだ。</p><p>たとえ魔術師でなくとも魔力というのは生き物の中には多かれ少なかれ必ず存在しており、強い力を発揮したり痛みや不調を抑えたりといったことができる。そして魔力量は男性より女性の方が大きい傾向がある為、最終的な筋力差はほとんど生じない。</p><p>だからこそ、Olの世界では女戦士というのは別に珍しい存在ではなかった。</p><p>しかしこの世界では、そのような魔力の運用が全くされていない。運用を完全にスキルに任せているからだろう。故に、スキルを持たない女性は男性に劣るものとして見なされていた。</p><p>ハルトヴァンはこの魔力運用を行っていた。本人はそれを気と呼んでいたが、独自の呼吸法を用いて魔力を巡らせ、身体を強化している。それに加え生まれついて優れた体格もあり、スキルなしの勝負であれば敵なしであった。</p><p>だがそれは、あくまで独自の発想によって培われてきたものだ。それに対しユグのそれは、極めて体系的かつ理論的に、Olによって教え込まれたものであった。</p><p>性交を通じてOlが相手の魔力を操作し、体内に魔力が流れる感覚を覚え込ませつつ、同時に魔力の経路を開いていく。Olの世界で何百年、何千年と魔術師たちによって培われ洗練された要訣を、更にOlの百年近くに渡る人生で昇華させた方法論だ。</p><p>ユグがそれを体験したのは時留結界の中で数か月。現実世界においては僅か二日程度でしかなかったが、その練度は既にハルトヴァンのそれとは比べ物にならない程に高まっていた。</p><p>体格で勝り、魔力の扱いでも勝っている。だがそれでもユグがハルトヴァンに勝てない理由が、二つ存在していた。</p><p>度胸と、技術だ。</p><p>第13話指導の成果を試しましょう-3</p><p>どうした！守ってばかりか！？</p><p>ひっ！</p><p>ハルトヴァンの怒声に、ユグは身を縮こまらせる。彼の拳は硬く痛く、どうしてもそうしてしまう。たまに反撃をしようとするも、それは簡単に避けられ、あるいは反らされてしまう。</p><p>とても勝てる気などしなかった。彼女は少し前まで、最下層の角兎にすら苦戦する底辺冒険者だったのだ。それがいきなり中層の壁族、それも武闘派で有名なハルトヴァン相手にスキルもなしに戦えと言われて、どうにかできる気がしなかった。</p><p>がんばれ、ユグちゃん！</p><p>すると、胸元からそんな声が聞こえてくる。胸の谷間にもぐりこんだシィルの声だった。</p><p>と言ってもあたしはおっぱいの中で何も見えないけど！</p><p>だが別に彼女が協力してくれるというわけではない。単に一人では心細いと駄々をこねたら、スキルを持たず何もしないならという条件でOlに許されただけだ。胸を通してシィルの声は伝わってくるが、ユグから何か伝えるわけにもいかなかった。</p><p>ぴぃぃ、無理だよぉぉっ！</p><p>か細い声で泣きながら、ユグは苦し紛れの蹴りを放つ。</p><p>うおおおっ！！</p><p>ハルトヴァンはそれを容易くかわし、もう片足に全力でタックルした。流石に不安定な状態でハルトヴァンの体重の突進を支えきれず、ユグはその場に尻もちをつく。これを好機と見たハルトヴァンは、その胸元に向けて突きを見舞った。</p><p>だめぇっ！</p><p>だが初めてその攻撃がユグに受け止められる。胸元にしまわれたシィルも同様に魔力の運用は教えられているが、体格が体格だ。ユグ程の頑丈さは存在しない。ハルトヴァンの攻撃を受ければ致命傷になりかねず、ユグは必死でハルトヴァンの連撃を防御した。</p><p>やめ、てぇっ！</p><p>そしてその腕をがしりと掴むと、力に任せて放り投げる。ハルトヴァンの巨体が宙を舞い、高くなった天井を掠めて観客席に落下した。</p><p>ああれ？</p><p>その時初めて、ユグは頭上を見上げる。それは、彼女が初めて目にする遠い天井だった。いつも走ろうとすればすぐに角が引っかかり、頭をぶつけていた天井が、そこにはない。</p><p>ひろ、い</p><p>頭では理解していた。だが、そこが自分にとっても広い場所だという事を広い場所にいるという事がどういう事であるのかを、ユグはその時やっと実感した。</p><p>くそっ、油断した大した馬鹿力だ、お嬢ちゃん</p><p>その一方でハルトヴァンはきっちりと受け身を取り、全身に巡らせた気で落下のダメージを軽減している。と言っても無傷とは言えないが、まだまだ十分戦える状態だった。</p><p>だがもう今の手は通用</p><p>えっと、確かこう？</p><p>ハルトヴァンの言葉を遮るように、ユグはぐるりと身体を回して蹴りを放つ。それは、最初にハルトヴァンが見せた回し蹴りだった。</p><p>うおおっ！？</p><p>しかしユグの体格で放てばそれは大斧の一撃のようなものだ。とても捌く余裕などなく、ハルトヴァンは必死にそれをかわす。</p><p>動ける！</p><p>ぱぁ、とユグの表情が明るく輝いた。縮こまっていた背筋が伸び、視界が開ける。思いっきり身体を動かしても、どこにも当たらない。</p><p>すごい！</p><p>ぐっと拳を引き、まっすぐに放つ。少しだけそれを下に下げれば、ハルトヴァンの巨体であれば十分顔面を狙う事ができる。</p><p>見えないけど、なんかすごい！がんばれユグちゃん！</p><p>シィルの声援を胸に受け、ユグは矢継ぎ早に攻撃を繰り出した。それは全て、ハルトヴァンが見せてくれた技だ。</p><p>無論、精度で言えばお粗末なものだ。ハルトヴァンが愚直に繰り返してきた鍛錬は、目にしただけですぐに追いつけるようなものではない。ないが──しかし、ユグの体格と魔力をもってすれば、それは十分に通用する凶器となった。</p><p>ぐぅっ！</p><p>横から迫る柱のようなローキックを、ハルトヴァンは腕と脚でブロックして防ぐ。みしりと骨に響くような衝撃が走って、何とかそれでも倒れるのを堪えつつ一歩踏み込み裂帛の気合とともに鳩尾目掛け一撃を放つ。</p><p>だがそれは、今ハルトヴァンがやって見せたのと同じような形で、大楯のように構えられた腕によって防がれた。ユグが攻勢に回ることで、ハルトヴァンが見せる防御の技までが盗まれている。</p><p>拳技のスキルを使えば無用な努力と笑われながら、繰り返し繰り返し身体に染み込ませてきた技の数々。だからこそ、ハルトヴァンはそんな簡単に真似ができるものではないという事も知っている。</p><p>だがユグは、Olによって魔力の運用を隅から隅まで教え込まれている。それはつまり、肉体の構造についても感覚で理解できるようになるまで叩き込まれたという事だ。魔力の経路と肉体は密接に関係している。魔力を動かせば、肉体が動く。どうすればハルトヴァンのしている動きができるのか、ユグは理解できる。</p><p>それ以上に、彼女はハルトヴァンの動きをよく見ていた。彼女は生来の怖がりだからだ。その巨体で、ほとんどの攻撃に大した痛みを感じないにも関わらず、攻撃を怖がってしまう。それはつまり、攻撃を誰よりもよく見ているという事だった。</p><p>その性質が掛け合わされて、ユグは急速にハルトヴァンの拳を学習していっている。</p><p>そしてそれが──ハルトヴァンにとって不思議なことに、全く不愉快ではなかった。</p><p>むしろ彼が感じたのは、喜びだ。己の拳にこれほどの可能性があることに。自分の技術を学び、これほど強くなる存在がいることに。</p><p>参った！</p><p>それを認めた時、ハルトヴァンは自然と膝を屈し、そう宣言していた。</p><p>ワシの負けだ。お嬢ちゃんいや、ユグ殿。あなたこそ、真の強者だ！</p><p>ハルトヴァンの言葉に、戦いを見守っていた者たちがざわめく。不正じゃないのか、と誰かが言い、そうに違いない、女がハルトヴァン様に勝つわけがない、という声が上がり始めた。</p><p>ワシに恥をかかせるな！今の戦いは正々堂々とした、男のいや、男も女もない。まことの、よき勝負であった！それにワシは敗北したのだ</p><p>だがそれを、ハルトヴァンはきっぱりと否定する。流石に彼にそう言われ、面と向かって否定できる者はいないらしく、領民たちは押し黙った。</p><p>約束通り我が領地はお譲りしよう。者ども、祝福しろ！我らが領の新しき領主、ユグ殿だ！</p><p>え、ええええっ！？領主ってどういうことですか！？</p><p>ハルトヴァンが拳を振り上げるとそれはそれで感銘を受けたのか、領民たちが同様に拳を振り上げて雄たけびを上げる。ただの戦闘訓練としか聞いていなかったユグは戸惑い目を白黒させた。</p><p>ああ、それは面倒だから断る</p><p>だがOlはあっさりとその権利を投げ捨てた。</p><p>一日に二度も同じことを言いたくはないが仕事とは、最も適しているものが行うべきだ。この娘に領主が向いていると思うか？</p><p>Olが視線を向けると、ユグはぶんぶんと激しく首を横に振った。</p><p>ハルトヴァン領はハルトヴァン。お前が治めてこそだ。ここにいる者たちは、お前が最強だから、負けないからついてきているわけじゃない。お前が真の男だからついてきているんだ。そうだろう！？</p><p>Olが声を張り上げると、観衆はその通りだ！ハルトヴァン様！とそれに応じた。実際はハルトヴァンが負けないからその勝ち馬に乗っているという打算的な者もいただろうが、こう言われれば否定はできない。</p><p>うおおお皆、ありがとう！次は負けぬよう、我が拳を一層鍛えることを誓おう！</p><p>ハルトヴァンが拳を振り上げると、歓声が闘技場を埋め尽くす。</p><p>ところで、そんな化け物を育ててどうする気だ？</p><p>それに手を振って応えながら、ハルトヴァンはOlに問うた。領地が目的でないなら、ユグを成長させることにあったことは明白だ。実地訓練というのは冗談でもなんでもなかったのだと、ハルトヴァンは見抜いていた。</p><p>ブランにぶつける</p><p>本物の化け物ではないか</p><p>スキルなしであれば、ハルトヴァンも負ける気はしない。だがありでならば、どのようなスキルを使ったとしてもブランに勝てる気はしなかった。身体能力、魔力、そして技巧、全てでハルトヴァンはブランに勝てないからだ。</p><p>だがまあユグ殿ならば勝てるかもしれんな</p><p>腕を組み、重々しく頷くハルトヴァン。身体能力と魔力で勝てないという点では、ユグも同じだ。あとはブランを上回るスキルさえ身に着けられれば勝機はあるかもしれない</p><p>そう考える彼に、Olは端的にそう答えた。</p><p>第14話孤独な少女を救いましょう-1</p><p>んっちゅっんむ</p><p>あんっオーナーさまぁもっとぉ</p><p>次はあたしの番ですよ！</p><p>シィルさんはもうたくさん指導してもらってるじゃないですか</p><p>冒険者ギルドの奥、指導室と呼ばれる部屋の巨大な寝台の上で、何人もの女体とOlが睦みあっていた。すべて元は底辺冒険者だった女魔族たちで、かわるがわる精をねだっては、Olの唇や胸板、指先やペニスを舐めしゃぶり、少しでも多く寵愛を貰おうと身体を擦り付ける。</p><p>何をしているっ！</p><p>そこに突然、扉が開け放たれ、乱入してくるものの姿があった。受付嬢たちの制止を振り切り全身甲冑と長大な槍を構えて突進してきた、ユウェロイの姿である。</p><p>Ol、貴様！壁民としての義務も果たさず、女を集めてみだらなことを！</p><p>義務は果たしているだろう。しっかり求められた分の上納はしているはずだ</p><p>今まさに突きかからんとするばかりのユウェロイを前に、反り立った男根を隠そうともせずOlは答える。</p><p>黙れ！冒険者だか何だか知らんが、私兵を集めてドロップ品を不当に貯め込んでいること、気づいていないとでも思ったか！？ノルマよりも集めたのならば、その分多く差し出すべきだろうが！</p><p>無茶苦茶なことを言う、とOlは思う。稼げば稼いだ分だけ搾り取る税などあってたまるものかと言いかけ、意外とそれが合理的な制度なのではないかと思い至った。とはいえすべての民の収入を把握するなどあまり現実的ではないし、試すにしても元の世界に戻ってからの話だ。</p><p>ふむ。ではどの程度の収入があればどの程度の上納が必要か具体的に記載したものを書面で用意してくれ。検討しよう</p><p>なんで私がそんなことをしなければならんのだ。お前がやれ</p><p>多少の理を認めて譲歩すれば、ユウェロイは即座にその仕事をOlに丸投げした。</p><p>わかった。では上納は今の量で問題ないとする。以上だ</p><p>ななふざけてるのか！</p><p>こっちの台詞だ、とOlは思う。確かにこんな上司に仕えていたら、フォリオも離反したくなるだろう、と同情した。</p><p>では何か？お前の利益を最大化し俺の利益を最小化する条件を俺が考え、上奏奉ればいいのか？</p><p>その通りだ。わかっているじゃないか</p><p>皮肉を口にすれば、あろうことかユウェロイはそれを理解することもなく頷いた。</p><p>わかったわかった。用意しておくからさっさと失せろ</p><p>どうせロクに裏を取ることもしないだろう。適当にそれらしい文書をでっちあげる事にして、Olはユウェロイを追い払う。</p><p>おい、その破廉恥な行為をまだ続けるつもりか？さっさと壁民としての義務を勤めに行かないか</p><p>だがユウェロイはその場を立ち去ることもなく、Olを非難した。</p><p>それこそ余計な世話だ。別に無駄に女遊びをしているわけではないのだ。俺自身が狩りに行くよりも、ここでこうして指導をする方が効率がいい</p><p>そうですよ！この指導のおかげでユグちゃんはすっごく強くなって、ハルトヴァンさんに勝ったんですから！</p><p>ユグの腰を抱き寄せるOlに、シィルが加勢する。</p><p>下層の奴隷がハルトヴァンに？確かに奴が負けたという噂はあったがしかし奴はまだ領主を続けているだろう</p><p>奴の統治方法を考えれば、領主はハルトヴァンのままにしておいて上納させた方が得だろうが。上をすげかえたら領民はほとんど逃げていくぞ</p><p>Olの言葉に、ユウェロイはふむと唸り考え込んだ。だが正確には、それは考え込むふりでしかない事をOlは見抜いている。</p><p>良いだろう。そこまで効果があるのなら、その指導とやら、私にもさせてやる</p><p>ユウェロイの本来の目的はそちらだ。そもそも、ここにやってきたこと自体が。</p><p>今私たちが指導してもらってるんですけど</p><p>冒険者たちは口々に不満を漏らすが、ユウェロイはだからどうした？とどこ吹く風だった。壁民どころか奴隷階級である彼女たちより、壁族である自分が優先されるべきだと何の疑問もなく考えているのだ。</p><p>仕方あるまい。この埋め合わせはまた今度、たっぷりとしてやるからな</p><p>Olとしても、獲物がかかったところで罠を外すわけにもいかない。一人一人丁寧に口づけ、埋め合わせを約束して納得させる。冒険者の娘たちは、しぶしぶといった様子で服を着こむと、恨みがましげにユウェロイを睨みつつ指導室を出て行った。</p><p>さあ、さっさと始めろ</p><p>構わんが、その前に承知してもらう必要がある</p><p>ベッドの上に大の字に横たわり居丈高に命じるユウェロイに、Olは釘をさす。</p><p>指導は性交を通して行う。お前にとって奇異に思えることも要求するかもしれないが、それらはすべて必要なことだ。いちいち異を唱えたり抵抗したりせず俺の言う事に従え</p><p>わかったからさっさと始めろ</p><p>承諾したな？</p><p>たとえどれほどそれがおざなりに、口先だけで結ばれたものであっても、魔術師にとって約束とは絶対的なものだ。</p><p>では、これを舐めろ</p><p>は！？ふ、ふざけるな、なぜ私がそんなことをぐぅっ！？</p><p>怒張を突き出し要求するOlにユウェロイは抗議し、その直後、全身を走る痛みにうめき声をあげた。</p><p>なんだ、これは！？</p><p>呪いだ。約定を違えれば痛みが襲う。俺もまた、お前に不要なことをなせば同じ痛みを味わうから安心しろ</p><p>ユウェロイがうめくくらいで済んだのは、心の底から拒否したわけではないからだ。彼女が度々フローロやナギアが口で奉仕するところを覗いていることを、Olは知っている。</p><p>ふ、ふざけるな！さっさとそんなもの解除しぐあぁっ！！</p><p>今度は本気で拒否したのか、先ほどよりも強い痛みがユウェロイを襲った。</p><p>無理だ。一度結んだ契約はそう簡単には解けぬ。指導を完遂するまではな</p><p>そういいつつ、Olは寝台の縁に腰掛ける。</p><p>ここにうずくまり、横から口で奉仕してみろ</p><p>くそっ指導とやらが終わったら、覚えていろよ</p><p>ユウェロイは歯噛みしつつも、言われた通り膝を揃えてベッドの上に座ると、上半身をそのまま倒してOlの男根に顔を寄せる。ちょうど四つん這いになってOlの横側から腰に顔をうずめる様な形だ。</p><p>これでいいのか</p><p>うむ。これならば手が届く</p><p>そういってOlは腕を伸ばすと、ユウェロイの尻に手のひらを当てた。</p><p>おいっ</p><p>やめろ、と言いかけてユウェロイは口をつぐむ。何度も味わいたい痛みではなかった。</p><p>そら。舌で舐めてみろ</p><p>くっこう、か？</p><p>ユウェロイは片腕で己の上半身を支えながらもう片手でOlの怒張を握りしめると、その先端に恭しく口づけた。フローロの口淫を盗み見た知識しかない彼女は、それを正しい方法だと思っているのだろう。</p><p>意外な仕草に、Olはするりとユウェロイの膣口に指先を滑り込ませる。そこは既に期待で濡れそぼっていて、Olの指を簡単に受け入れた。</p><p>途端に股の間から走る快感に、ユウェロイは思わず高い声を漏らす。それと同時に、ほんの少し入り口を触られただけなのにどうして自分の指で触った時とこんなにも違うのか、と愕然とした。</p><p>罰だけでなく、褒美もやらねばな</p><p>ほ、褒美？</p><p>俺の言葉に従わねば罰が下る。であれば、従えたのなら褒美があるべきだろう？</p><p>Olはもう片方の手でユウェロイの頭を軽く撫で、口奉仕を促す。ユウェロイは一瞬躊躇った後、舌を伸ばして剛直を舐め上げた。</p><p>その動きに連動させるように、Olの指先がユウェロイの膣壁をくすぐるように撫でる。</p><p>腰から走る痺れるような快感。だがそれにユウェロイが動きを止めると、Olの動きも止まる。ユウェロイが舌で舐めると、Olの指が中を擦る。</p><p>そうするうちに次第にユウェロイもその快楽に慣れてきて、もっと強い刺激が欲しくなってきた。入り口だけでなく、もっと奥に指を入れて欲しい。そう思いユウェロイは懸命にOlの一物を舐めるが、指はちっとも奥まで入ってこようとはしない。</p><p>んむっふあぁっ！</p><p>堪らなくなり、勢いに任せてユウェロイが亀頭を口に咥え込むと、Olの指が急にずぶりと奥まで侵入してきた。その衝撃に思わず口を離してしまうと、指もするすると外に出て行ってしまう。</p><p>連動しているのだ、とユウェロイは悟った。もう一度男根を口に含めばやはり指も奥に割り入ってきて、ビリビリと快楽が走る。</p><p>それからはもう、ユウェロイは必死に男根を舐めしゃぶった。ただ動きを連動させているだけではない。おそらく、快楽自体も連動させているのだ、とユウェロイは気づく。ユウェロイがOlを気持ちよくすれば、その分Olの指もユウェロイの気持ちいいところをなぞった。</p><p>丹念に雁首のくぼみを舌でなぞり、舌だけでなく手のひらで竿をしごき立て、Olの股座に顔を突っ込んで根元の袋から先端までを舐め上げる。</p><p>脳裏に描くのは幾度となく覗き見てきたフローロの奉仕だ。残念ながらユウェロイの胸のサイズでは挟み込むことはできないが、フローロの愛情のこもった口淫奉仕を真似してOlのモノを舐める。するとOlもそれに応えてユウェロイの性感を刺激する。</p><p>気持ちいいんだ、とユウェロイは思う。Olの事を気持ちよくすればするほど、自分も気持ちよくしてもらえる。それはとても嬉しいことだ。だがだんだんと、ユウェロイはOlを気持ちよくすることそのものに喜びを感じ始めてきた。</p><p>亀頭を口の中に含んだまま、舌でその先端を舐めてみる。それはフローロの真似ではなく、ユウェロイ自身が考えやってみた事だった。覗き見ているだけでは、口の中でどうしているかまではわからないからだ。</p><p>するとOlの手が、ユウェロイの頭を撫でた。</p><p>褒めてもらえている、とユウェロイは感じる。普通ならば屈辱を感じるはずのその動作に、ユウェロイは何故か幸福を感じてしまった。おそらく、さほど気持ちよくはなかったのだ。だが、その挑戦そのものは評価した。そういう意図をユウェロイは感じ取る。</p><p>そしてそれはつまり、先ほどの行為が挑戦だったのだとOlは知っている、ということであった。自分の努力をちゃんと認識してもらえている。それはとても嬉しいことなのだと、ユウェロイは初めて知った。</p><p>ユウェロイは思いつく限りのことを試してみた。口内のペニスを強く吸ってみたり、舌先で先端の穴を刺激してみたり、あるいは軽く歯を立ててみたり。それのすべてに、Olは詳細に応えた。良い試みであれば頭を撫でつつもユウェロイの気持ちいいところを擦りあげ、そうでなくても試み自体は褒めてくれる。</p><p>頭を撫でつつ膣口の浅いところをトントン、と叩かれた時には、それはやってはいけないことなのだと学んだ。だがそんなときでも、Olはけしてユウェロイに痛い思いや苦しい思いはさせなかった。痛みを与えたのは、ユウェロイが約束を破った時。つまりは指示に従わず拒否した時だけだ。</p><p>失敗は、違反ではない。そんな当たり前のことを、しかしユウェロイは今まで気づいていなかった。部下が与えた任務に失敗したとき、彼女は必ず厳しい処罰を加えてきた。そうすることが正しいのだと──教え、られて。</p><p>行くぞ。飲め</p><p>それに気づいたとき、Olからそう指示が投げかけられた。口内のペニスが膨れ上がり、脈動して、熱い液体がその先端から噴き出した。</p><p>それは生臭く酷い味で、思わずえずきそうになるのをぐっと堪え、ユウェロイは言われた通りにそれを飲み込もうと努力する。しかし大量に流し込まれる白濁の液に、堪らずむせて吐き出してしまった。</p><p>よく頑張ったな</p><p>口と鼻から精液を垂らし、叱責に怯えるユウェロイを、しかしOlは優しく頭を撫でながら布で顔をぬぐい、ねぎらう。</p><p>そのOlの動作に。</p><p>ユウェロイは、己が今までいかに間違っていたかを悟った。</p><p>第14話孤独な少女を救いましょう-2</p><p>Ol様</p><p>長い情事を終え、ユウェロイはOlにぴっとりと寄り添い横たわりながら、彼の名を呼ぶ。様をつけて呼ぶことに、もはや何の抵抗もなかった。</p><p>これ以上はないと思うような快楽を何度も何度も更新され、自分ですら聞いたことのない声で喘がされ、数えることすらできない程に絶頂させられ、そして何度も膣内に熱い精液を注いでもらった。</p><p>その情交のすべては、ユウェロイへの労りに満ちていた。以前魔力の為に交わった時ともそして、ブランとの交わりともまったく違う。愛情の交歓がそこにあった。今までのブランとの睦み合いは、ただユウェロイの身体をもてあそばれ一方的に快楽を与えられていただけに過ぎないのだと知ってしまった。</p><p>あなたはどこかで領主をされていたのですか？</p><p>いいや。王だ</p><p>自分などとは格が違う。そう思って問えばとんでもない答えが返ってきた。今の世の中で王と言えば、かつての魔王を破り人間の治世を取り戻した勇者王その人だ。僭称することはけして許されていない。</p><p>だが、彼が別の世界から来たという話を思い出す。少し前までのユウェロイであれば世迷言と切り捨てていただろうが、今ならばすんなりと信じることができた。</p><p>領主であることは辛いか</p><p>ユウェロイの肩を抱き寄せつつ、Olはぽつりとそんな事を問う。突然に核心を突かれてユウェロイは身体を震わせた。</p><p>それは誰にもブランにすら、打ち明けたことのない本音であった。ユウェロイは領主になどなりたくはなかった。だが血筋と、ブランという大きすぎる力がそうならないことを許してはくれなかった。</p><p>強い壁族であることを示すために虚勢を張り、傲慢に振舞い、逆らうものがあれば容赦なく処罰した。少しでも甘い顔を見せれば民というものは付け上がり、こちらを侮るものなのだと教えられた。</p><p>だが本当に必要なのはそうではなかった。ただ快楽を欲して受けた指導だったが、それはまさしく指導であったのだ。戦士としてではなく、領主としての。</p><p>私は、今からでも良き領主になれるでしょうか</p><p>一人では難しかろうな。失った信頼を取り戻すというのは、言うほど簡単なことではない</p><p>それはそうだろう、とユウェロイも思う。今更手のひらを返したところで、部下たちはまた壁族の気まぐれが始まったと思うだけのはずだ。ユウェロイの後ろにはどうしたってブランがいる。中層最強の彼女がいる以上、ユウェロイには逆らえない。その図式は変わらないのだ。だが、ブランがいなくなればユウェロイ領は瓦解するだろう。</p><p>だが、お前には俺がいる。俺ならば、領主として本当に必要な事を教えてやれる</p><p>本当ですか？</p><p>ユウェロイは喜びに目を見開いて、Olを見つめた。自分のやり方が間違っていたことは自覚したが、だからと言って具体的にどうしたらいいのかというと窮してしまう。それを教えて貰えるのならば願ってもないことだった。</p><p>ああ。夜ごとでもな</p><p>毎日ですと、公務に差し障ってしまいます</p><p>喉が枯れそうなほどに叫んだ事を思い出し、ユウェロイは控えめにそう口にする。今後も可愛がってもらえるのは嬉しいが、とても身体が持ちそうもない。</p><p>今も腰砕けになり起き上がることも億劫だというのに、Olにはまだまだ余裕がありそうだった。彼が何人もの相手と関係を持っているのも頷けるというものだ。</p><p>だが、そうするには一つ必要なことがある</p><p>からかうような口ぶりから一転し、改まった口調で告げるOlにユウェロイは息をのむ。その先に続く言葉を予測できたからだ。</p><p>ブランを討つ</p><p>そしてその予測は当たった。</p><p>安心しろ。討つと言っても殺してしまうわけではない</p><p>ブランがユウェロイに対して吹き込んだ教えは、確かに間違っていた。しかし彼女を慕い尊敬する気持ち自体がなくなってしまったわけではない。親を亡くしたユウェロイを守ってくれたのは紛れもなくブランなのだから。</p><p>それにおそらく奴自身もそれを望んでいるだろうからな</p><p>Olの不思議な物言いに、ユウェロイは内心首を傾げる。確かにブランは屈するくらいなら死ぬ、というようなタイプではない。だがそれは殆どの者がそうなのではなかろうか。</p><p>いや、少し前の自分ならばそのくらいのことは言ったかもしれない、とユウェロイは自嘲する。実際には命を絶つ度胸などないくせに、壁族の矜持に縋って生きていたかつての自分は。</p><p>私に何かできることはありますか？</p><p>この日のために──この言葉の為に、Olはユウェロイに快楽の種を植え付けた後、わざわざ殴られてまで彼女がOlを認めつつあることをブランから隠したのだ。</p><p>お前にしかできないことがある</p><p>ブラン様！もう我慢なりません。あのOlという男を即刻処刑してください！</p><p>その日、自室で鍛錬に励んでいたブランは、ノックもせずに勢い込んで入ってきたユウェロイに目を丸くした。彼女がブランの前でこれほどまでに怒りをあらわにするのは非常に珍しいことだったからだ。</p><p>一体どうしたのですか？</p><p>どうもこうもありません！あの男ときたら昼間から何人もの女を侍らせ色事にふけり、ロクに探索もしない始末！あのような男が我が領にいることが我慢できません！</p><p>烈火のごとき怒りを見せるユウェロイに、少し潔癖に育てすぎたかしらとブランは思う。彼女も一応Olの動向は監視してはいるが、処刑するほどのものではないと認識していた。むしろ</p><p>ですが彼は結果として十分な上納を集めていますし、ハルトヴァンを押さえ、レイユとも同盟を結んでいるでしょう。確かに少々独断が過ぎますが、処刑というのはあまりにもそれに、姫様がお許しにならないでしょう</p><p>ブランが庇護する少女。何よりも大切な存在。彼女を思うと、ブランの心中はいつもかき乱される。フローロを悲しませることなどあっては、ならない事だ。</p><p>それがブラン様を討つ為の準備であるとしても、ですか？</p><p>ええ。構いません</p><p>その可能性は考えていた。むしろあの男であればそれを当然画策している事だろう。だが何の問題もない。</p><p>私は負けませんから</p><p>刃向かって来たら正面から潰してしまえばいいだけの話だ。仮に前回のような手段を取ってきたとしてもフローロの手前殺してしまう事ができないのは向こうも同じことだ。</p><p>Olが快楽を用いて部下を篭絡しているのは知っている。だが、その手はブランには絶対に効かない。それは自信でも確信でもなく、ただの事実であった。</p><p>ではいっそのこと、こちらから仕掛けてしまうのはどうでしょう</p><p>すると、ユウェロイはそんなことを言い出した。</p><p>私の調べによると、Olは約束を破ることができないようなのです。奴に条件を付けて戦い、ブラン様が勝てば絶対に逆らう事がないよう約束させればどうでしょうか</p><p>しかし、そんな話に乗ってくるでしょうか？</p><p>そもそも戦いを受ける理由がOlにあまりにも乏しい、とブランは思う。</p><p>奴は女好きですから、適当な魔族から見目のいいものを選んでその身体を対価とでもすればいくらでも乗ってくるでしょう。ブラン様が真っ向から負ける事はないでしょうから、何なら私の身を賭けても構いません</p><p>流石にユウェロイの台詞は短慮に過ぎる。が、一理はあった。</p><p>ならば、私の身を賭けても構いませんね</p><p>なっ！？そ、それは駄目です！</p><p>ブランに勝てば彼の得意な快楽による洗脳に持ち込める。そうチラつかせれば乗ってくる可能性は大いにあった。</p><p>なぜですか？私が真っ向勝負で負けるとでも？</p><p>それはそうでは、ありませんが</p><p>Ol。最下層からフローロを掬い上げた、正体不明の異邦人。あるいは彼ならばと抱きそうになる期待を、ブランはすぐに打ち消す。</p><p>そんなことをしても無駄とは知りつつも。</p><p>第14話孤独な少女を救いましょう-3</p><p>この日を待ちわびたぞ、ブラン</p><p>そうですか</p><p>準備万端、とでも言いたげな表情のOlに、ブランは何の感情も込めずにそう答える。ユウェロイから例の条件を伝えれば、彼はあっけないほどに素直にそれに飛びついた。</p><p>条件を確認しよう。俺とお前とで勝負をし、お前が勝てば俺は謀反を企てたりせず、無条件にお前に従う。俺が勝てば、お前の身体を貰う。それでいいか？</p><p>ブランは首を横に振る。それは約束というにはあまりにも穴だらけだったからだ。</p><p>まず、勝負というのは戦闘。どちらかが敗北を認めるか死亡した時点で決着をつけます。私が勝てばそうですね。あなたには私が許可した事以外の一切の行動を禁じます。最低限の生命維持に必要な事は無条件で許可してあげてもいいですが。あなたが勝った場合には、一晩のセックスに応じましょう。しかしそれ以上の事は許可しません</p><p>お前は魔術師の知り合いでもいるのか？</p><p>意外そうに眉を上げ、Olは問う。</p><p>魔術師というのが何かはわかりませんが、あなたのように契約のスキルを持っているものは上級壁族には珍しくありませんので</p><p>特に王族に仕えていたブランにとって、言葉尻一つを捉えて陥れようとする壁族などというものは日常茶飯事であった。当然、その辺りの訓練はしっかりと積んでいる。</p><p>よかろう。ただしその条件、別に戦うのが俺だとも、一対一だとも規定しておらんな</p><p>構いませんよ。何人連れてこようと同じことです</p><p>流石に何十人もつれてこられるのは時間がかかるし面倒だからやめて欲しいですが、とブランは付け加える。もともとOlが自分自身で戦うなどとは思っていなかった。</p><p>では、この二人に戦ってもらう</p><p>現れたのは蹄族と翅族の少女ユグとシィルの二人であった。</p><p>一応言っておくが、この二人は鉄の盾と鉄の腕を持っている</p><p>わざわざ丁寧にありがとうございます</p><p>ブランにとってそれはどうでもいい情報だった。本当だろうが嘘だろうが関係ない。立ち居振る舞いを見ればどんなスキルを持っているかなどおおよそわかるし、それは戦闘の中で判断すべきことだからだ。</p><p>では、参りますか</p><p>その前にここは少し狭い。広げさせてもらうぞ</p><p>Olがパチリと指を鳴らすと、部屋がぐっと広がった。特に三メートルの天井が倍程度まで高くなる。おそらくはあの極めて大柄な蹄族を自由に戦わせる為なのだろうが</p><p>今度は、多少本気で感謝の念がこもった礼であった。</p><p>私もこの壁界は、少々狭いと思っていたのです</p><p>長い銀髪に隠れた翼がバサリと広がり、大きく羽ばたく。次の瞬間、バチバチと雷電を纏いながらブランの身体は宙を舞い、天井を蹴った反動でそこから直滑降していた。</p><p>落下の速度を追加した雷速の蹴りを、ユグが重ねた両腕で防御する。ブランの飛び蹴りを真正面から受け止めて、ユグは数歩たたらを踏んだ。</p><p>ブランは驚きに目を見開いた。今の一撃を受け、ユグがなお立っていることに。</p><p>盾を持っているとするならこちらの方だろうが、それは関係ない。盾スキルは有用だが、決して無敵のスキルではないのだ。対処方法はいくつもあるが、最も単純なのはこれ──無効化しきれない威力の攻撃をぶつけることだ。</p><p>一定以上の強さの攻撃を受けると、盾はその攻撃を無効化できなくなる。軽減するのではなく、持ってないのと変わらなくなってしまうのだ。それはちょうど同クラスの腕を用いて攻撃したときに似ている。腕などなくとも盾くらい当たり前に貫通できなければ、上層ではとてもやっていけない。</p><p>だがそれでも、今の一撃を受けてユグが堪えるどころか倒れすらしなかったのは少々予想外だった。おそらく盾以外にも防御系のスキルを二、三持っていると見た方がいいだろう。</p><p>そしてより厄介なのは翅族のシィルの方だ。今の一撃の間に、彼女はその小さな身を隠しブランの視界の外へと隠していた。鉄の腕を持っているとしたら恐らくそちらだ。あのスキルはそれがいかにも似合いそうな巨漢が使うより、むしろ小さく軽いものに使う方が効果が高い。</p><p>久々に使いますか、とブランは心中で呟く。彼女の持つスキル、従者LV10。技術系のスキルは極めると、奥義と呼べる技を使えるようになる。従者のそれは、主人と定めた人物の意思を察し、予測し、未来予知と呼んでもいい精度で対処することだ。</p><p>本来の主人たるフローロがそばにいる状態で他の人物を主人に設定することは流石に出来ないが、今の状況であれば問題ない。盾を持ちブランの攻撃を防ぐユグと、腕を持ち姿を隠したシィル、どちらの動向を伺うべきか。</p><p>──無論、考えるまでもない。主人に設定するのはOlだ。</p><p>この場で何をするか最もわからない人物であり、同時に戦況を最も客観的に把握している人間だ。彼の様子を伺えば、次に二人が何をしてくるのかも手に取るようにわかる。Olの視線が向かうのは、ユグの方。つまり仕掛けてくるのも隠れているシィルではなく、彼女だ。</p><p>えぇいっ！</p><p>大きく腕を広げ、掴みかかってくるユグ。盾持ちに掴まれれば逃れることは難しいから、それは確かに悪くない選択だ。だが、動きがあまりにも遅すぎた。ブランは引くことなく、逆に一歩踏み込みユグの懐に一撃を見舞う。</p><p>ぐうっ！</p><p>うめき声をあげ、しかしユグはその一撃にも耐える。呆れたタフさだった。それどころか痛みを堪えつつブランの腕を掴もうとしてくる。だがブランは雷速で拳を引いてそれをかわし、軽く跳躍して身体を回転させた。</p><p>ふわりと侍女服のスカートが広がり、その下から太い竜の尾が閃いてユグを鞭のように打ち据える。鋼のような鱗に覆われたしなやかな尾の一撃は、蹴りよりも鋭く鉄鎚よりも重い。</p><p>ううっ！</p><p>だがそれでさえも、ユグは倒れなかった。大抵の敵は一撃で倒してきたブランの必殺の攻撃を三度。防御スキルを使っているとか、頑丈だとかで済まされる問題ではない。明らかに異常だった。</p><p>Olの意識は、まだユグに留まっている。これだけ攻撃の隙を晒して、シィルが一切攻撃してこないというのもおかしかった。</p><p>もしや、と集中して気配を探る。すると微かに、その気配が感じられた。ユグの服の中、その冗談みたいに大きい乳房の間に。</p><p>治癒術、ですか</p><p>ブランの攻撃を三度耐えて平気で立っている者がいるとは考えにくいが、一撃ごとに回復しているのならば話は別だ。治癒術は高等なスキルで消費も大きいが、翅族は身体が小さい分スキル容量は大きい傾向がある。鉄の腕を使っているというのがブラフであれば、中癒辺りなら使えても不思議はない。</p><p>だが種が割れてしまえばあとは簡単だ。スキルを使えなくなるまで攻撃を続けるか、回復が追い付かないほどのダメージを与えるかすればいい。ブランは後者を選んだ。</p><p>バサリと翼を広げ後ろに跳躍し、雷身のスキルで身体に雷を纏う。周囲の空気がパチパチと雷気を帯びて爆ぜ、ブランの角が光り輝く。雷身は全身に帯びた雷気によって、一撃の威力と速度とを爆発的に増幅させるスキルだ。</p><p>自分自身さえその速度にはついていけず動きが直線的になってしまう欠点はあるが、ユグ程度の技量であれば問題ない。仮に防がれようとガードごと貫ける自信があった。</p><p>はぁぁぁっ！</p><p>火花の線を床に引きながら、ブランの身体が加速する。それを予測して両腕を構えるユグ。ブランが尾を地面に突き立てると、彼女の身体はぐるんと弧を描いてユグの側面に回り込んだ。強靭な尾を持つ鱗族だからこそできる、雷光を御する技。</p><p>文字通り必殺の一撃が、ユグの脇腹に突き刺さる。三メートルの巨体が折れ曲がり、くずおれて</p><p>そして、持ちこたえた。</p><p>捕まえ、ました！</p><p>驚愕に目を見開くブランの拳を、ユグが掴む。ブランの倍はあろうかという巨大な手のひらに前腕をがっちり握られ、振りほどけない。そこで、ブランは己の勘違いにようやく気が付いた。</p><p>ユグが異常に頑丈なのではない。自分が、弱くなっているのだ。</p><p>いくら驚いたとしても、普段のブランであれば盾持ちに掴まれるような失態を犯すはずがない。即座に蹴りを放つが、その威力は腕を掴まれていることを差し引いても明らかに威力を欠いていた。</p><p>ふ、封雷！</p><p>かくなる上は雷身を用いて直接電撃を浴びせ、いったん離れるしかない。そう考え迸る稲妻を、ユグの何らかのスキルが防いだ。爆ぜていた周囲の空気が一瞬にして沈静化し、ブランの身体に漲っていた力が消え去る。</p><p>スキルの名からして、雷を封じるスキルだろう。それも恐らく触れている相手にしか効果がない。恐ろしく用途の限定された、しかしブランに対してはこれ以上なく刺さるスキル。</p><p>反転！</p><p>自身にかかるスキルであれば、ブランはその効果を反転することができる。ついでに自分にかけられた弱体化も反転させて、ブランは再度雷身を身にまとう。</p><p>がっ！？</p><p>そして、体内を貫く雷撃に、ブランは悲鳴を上げた。混乱する思考の中でOlの動向を確認し、理解する。封雷で封じられたのは、雷自体ではなく大気がそれを伝える力だ。</p><p>それを反転させればブランの肉体を含んだ大気は極めて電気を通しやすい状態となり、最も近くにいる存在ブラン自身を貫く。</p><p>だが無論、そうなればその雷撃はユグにも流れる。肌を焼く稲妻に彼女の力が緩んだ瞬間を見計らってブランは離脱し、体勢を整えた。弱体化を反転させたことで力は完全に戻っている。それどころか、弱体化をかけた側が弱くなっているはずだ。</p><p>それがユグであるにしろシィルであるにしろ、それに気づいて解除される前に倒す。相手が弱体化した状態であれば雷身を使わずとも十分可能なはずだ。突きを見舞うブランの前に、ユグの谷間からシィルが飛び出す。</p><p>鉄の腕の攻撃力。いや、それだけではない、とブランは判断する。何か隠し玉がある。だがどんなスキルがあろうと、それがブランの身体能力に優越するはずはない。彼女にはその自負があった。</p><p>小さな小さな拳を捌き、翅族を無視して蹄族から倒す。そうすれば後は消化試合だ。そう考えるブランの拳を、シィルは予想を遥かに超える疾さと鋭さで貫いた。</p><p>次の瞬間、ブランの身体は宙に浮いて吹き飛んでいた。地面を転がる身体を何とか翼と尻尾で押しとどめ、信じられない面持ちで前を見上げる。手のひらに乗ってしまう程度の大きさの翅族が、こちらに向けて拳を突き出していた。</p><p>そんな芸当、どんなスキルを持ったとしても出来るはずがない。まるで、ブラン自身の突きでも食らったかのような</p><p>ある思い付きに、ブランはOlを見、その思考を伺った。彼の視線と意思は、シィルとブラン、その両方に同じだけ注がれている。そこでブランはようやく、自分が何をされたか理解した。さっきまで受けていたのは弱体化ではない。</p><p>自分と相手の能力を同じにするスキルだ。</p><p>シィルはそれをずっと自分に使っていた。それは万全の効果を発揮してはいなかったが、しかしそれでも強靭な鱗族の能力を、小さく弱い翅族のそれに近づけていた。</p><p>そして今、ブランはそれを反転させた。つまり──今目の前にいるのは、鱗族の力を備えた翅族だ。</p><p>反転を解いたところで無駄だ。そうなれば今度はブランが弱くなるだけで、状況はむしろ悪くなる。雷身を封じられ、身体能力の差を埋められて、いかなるスキルも打破するはずの反転すら役に立たない。</p><p>彼女に残されたのは、後は拳の技だけだった。反転を解くかどうかを一瞬悩み、解かずに彼女は挑みかかる。同じ身体能力であれば、技の分ブランの方が強い。</p><p>雲霞の如く放たれる拳撃を、しかしシィルはことごとくかわす。虫のような翅で宙を自在に舞い、拳よりもわずかに大きい程度の体躯を捉えるのは至難の業であった。</p><p>そしてその背後から、ユグが大きく脚を振り上げる。後ろに引く、飛んで避ける。どちらもシィルに追撃されて手ひどいダメージを受ける。覚悟を決めて腕でガードするブランの身体を、ユグの蹴りが吹き飛ばして壁に叩きつけた。</p><p>まだまだぁ！</p><p>あらゆるスキルを封殺され、身体能力すら奪われ、拳技も通用せず、それでもブランの心は折れない。負けを認めなければ、屈することさえなければ、必ずその先がある。</p><p>ならば簡単だ。屈しなければいいだけだ。</p><p>おぼつかない足取りで、しかし闘志は微塵も衰えず、ブランは眼前の二人を見つめる。弱者と侮り、弱者であるがゆえにここまでブランを追い詰めた二人を。</p><p>だから、気が付かなかった。</p><p>足元から触手のように伸び、己を拘束する母なる壁に。</p><p>第14話孤独な少女を救いましょう-4</p><p>俺が介入してはならんというルールもなかったものでな</p><p>あなたはどこまで！</p><p>負傷し疲弊したユグとシィルを退場させた後、しれっと言い放つOlに流石にブランはキレた。</p><p>そうは言うが、お前はその可能性もしっかり考慮していただろうが</p><p>そうですが！</p><p>どれだけ心が折れなかろうと、全身を母なる壁で拘束されてしまえばどうしようもない。だが、ブランがユグとシィルの二人を認め、Olから注意を切った瞬間を見計らうあたりがどこまでも悪辣だ。どっちにしろあのまま戦っていてもブランの負けだっただろう事がわかるだけに、余計に腹が立った。</p><p>大体なんなんですか。あの相手の能力を自分と同じにするとかいうめちゃくちゃなスキルは</p><p>感染呪術だ</p><p>Olから飛び出した全く聞き覚えのない言葉に、ブランは首を傾げる。</p><p>シィルの奴は魔力量は豊富なくせに魔術の才能がからっきしでな。唯一モノになったのが、同期の呪い相手を自分と同じ立場に引きずり込む術だ</p><p>体格に恵まれ、拳闘の素質にも優れていたユグと違って、シィルの弱さはスキルや魔術でどうこうなるものではなかった。だが、それでも他者に負けまいとする心の強さ。それは呪いにとって最重要の資質であった。</p><p>わかりました。負けを認めます。さっさと好きになさってください</p><p>だらりと身体から力を抜いてため息をつくブラン。どうせ彼のやるのは無駄なことだ。彼がどれだけ快楽を与えようと、ブランがそれに屈することはない。ただ一晩やり過ごせばいいだけの話だ。</p><p>ではそうさせてもらおう</p><p>ぐにゃり、とブランを拘束する母なる壁が変形し、彼女の身体を動かす。天井から吊り下げられた状態のまま、Olに向かって高く尻を掲げるような体勢にされた。</p><p>ふむ。良い尻だな</p><p>あなたこそ良いご趣味ですね</p><p>ぺろりと侍女服のスカートをめくりあげるOlに、ブランは皮肉を飛ばす。尻尾で叩きのめしてやりたかったが、残念ながらそちらもしっかり拘束されていた。</p><p>そのままするりと下着を下ろされ、尻をじろじろと見られる恥辱にブランは身体を震わせる。</p><p>じゅっ、と焼きごてを当てるかのような音とともにOlの手がブランの腹に押し当てられ、身体を走る衝撃にブランは嬌声を上げた。</p><p>などうして？</p><p>今彼女が味わったのは、紛れもなく快感と呼ぶべき物。しかしブランが快楽を感じる事はないはずだった。なぜなら──</p><p>苦痛を快楽に変える術を、今お前にかけた</p><p>Olが施したその全く逆。快楽を苦痛に変えるよう、反転を設定していたからだ。</p><p>人は苦痛には耐えられる。だが、快楽に耐えることはできない</p><p>ま、待っ──</p><p>Olの男根が、ブランの入り口に押し当てられる。己の身に訪れる予感に、ブランの肌が粟立った。</p><p>お前の精神力であれば、確かに耐えただろうな。苦痛であれば</p><p>ずぶりと己を貫く剛直の感覚に、ブランはたまらず高く声をあげた。濡れてもいない処女穴を無理やり突き破られる破瓜の痛み。初めて知る男のものが、己の弱い部分をぐっと穿つ痺れるような快楽。そのどちらもが快感に変換されて、ブランの身体を焼いた。</p><p>フローロを通して快感を送り込んだ時も、お前は快楽ではなく痛みによって気絶していたのだな。なるほど、気を失ってしまえば落としようがない</p><p>うぐっ！ひぐぅっ！</p><p>容赦なく突き込まれるOlの肉槍に身体は否応なく反応し、滴る愛液が立てるじゅぷじゅぷという淫猥な音が鳴り響く。繰り返されている、とブランは理解した。</p><p>Olのもたらす痛みは彼の術によって快感に変じ、それは反転のスキルによって苦痛に反転される。そしてその苦痛はブランが認識するよりも早く、Olの術によって再び快楽へと変換されるのだ。</p><p>問題は、表層的にブランが感じるのが快楽の方であるという事だった。繰り返し変換される苦痛と快楽は消えることなく蓄積されていって、波のようにブランを襲う。そしてOlが一度彼女の奥を突く度、その波はどんどん高くなっていくのだ。</p><p>ひうっ！</p><p>どうすればいいと回るブランの思考を邪魔するかのようにパァンッ！と景気のいい音が鳴り響き、衝撃的な快楽が──そうとしか表現できないものが、彼女の尻から全身に伝わった。</p><p>Olが平手で、ブランの尻を叩いたのだ。音と痛みを最大限に残しつつ、しかし肉体そのものにはダメージを与えない、革の鞭のような一撃だった。</p><p>あまり女の身体を痛めつけるような事はしたくないのだがな</p><p>ひあぁぁっ！！</p><p>そう言いつつも振り下ろされる手のひらに、ブランは高く鳴く。絶頂などとうに通り過ぎ、今まで感じたことのない深い快楽の中で、更にひときわ強く深く焼けるような快楽が叩きつけられる。</p><p>あまりの快楽にブランの股間からは液体が漏れ出し、結合しているOlの股を濡らす。その恥辱にブランは身を震わせて、愕然とした。</p><p>──精神的な苦痛すら、快楽に変換されている。</p><p>ひぐぅぅっ！ひあぁぁっ！あ゛ぁっ！お゛ぁあっ！</p><p>パンパンと音を立てながら何度も奥に突き込まれる男根の快楽に。尻を激しく打たれる痺れるような衝撃に。胸を鷲掴みにされ、乳首を千切れんばかりに摘まみ上げられ、ブランはあられもなく嬌声を上げる。</p><p>涙を流しながら失禁し、太く喘ぎ声をあげるその姿には普段の涼やかな優美さは微塵もなかった。彼女を慕うユウェロイやフローロが見れば、あるいは幻滅さえするかもしれないような、雌の姿。</p><p>今までの人生をひっくり返されるような凄まじい快楽に、ブランは納得する。この快楽を得るためであれば自分のすべてをなげうっても惜しくはない。フローロにフォリオやラディコ、そしてあるいはユウェロイもこれを味わわされれば、Olに隷属してしまうのも無理はない。</p><p>そう思うほどの快楽を──</p><p>しかし、ブランは、耐えた。</p><p>耐えることが出来てしまった。</p><p>これほどの快楽を覚えこまされて、命令に背けばもう二度と与えないと言われれば堪えがたい苦しみを味わうだろう。</p><p>だがブランは、それに耐えることが出来る。そのつらさを堪えることが出来る。</p><p>ブランの真の強さとは、身体能力でもスキルでもなく、その類稀なる精神力にあった。</p><p>どれだけ感じさせられ、喘がされ、絶頂させられようと、ブランがそれに屈することはない。</p><p>先ほどお前にかけた術だが</p><p>部屋の中に響き渡るブランの嬌声を切り裂くように、Olの低い声がぼそりと響く。</p><p>アレの効果自体、お前の反転の影響を受け反転している。つまり、本来は快楽を苦痛に変える術だ。だからこそ、お前は今快楽だけを感じている</p><p>快楽に蕩けたブランにも理解できるように、Olはゆっくりとそう説明した。</p><p>反転も術も、どちらも苦痛だけを感じるようにしている。だからそれが反転して、今ブランは快楽だけを感じている。そういう理屈だった。</p><p>この状態で、お前の反転のスキルを手放したらどうなると思う？</p><p>ぞわり、とブランの身体が総毛だった。</p><p>反転のスキルがなくなれば、術だけが残る。本来の術快楽を苦痛に変える術だけが。そしてこの、膨大な快楽が一瞬にしてすべて苦痛に変換される。</p><p>これほどの快楽を感じるほどの苦痛は、いかばかりのものか。人は苦痛には耐えられる。ブランは快楽にすら耐えられる。</p><p>だが、快楽から苦痛に相転移する、その落差には？快楽に伴う多幸感が、気を失うことを許してくれない。地獄を超えた想像を絶する苦痛が、ブランを襲う。ブランはその激しさを、思わず想像してしまった。</p><p>だから、反転を渡せ</p><p>反射的にブランは思う。渡したくない。今渡してしまえば、きっと自分は壊れてしまう。故に彼女は叫んだ。</p><p>とって、下さい！</p><p>Olの腕がブランの背中からずぶりと体内に入り込み、反転のスキルを抜き取る。白と黒が互いにせめぎあいまじりあうような、奇妙で禍々しい結晶だった。</p><p>あぁっ！ぐぅぅっ！</p><p>途端襲い掛かってくる、魂を焼くような苦痛。だがそれはほんの一瞬の、更に刹那の事であった。暖かく柔らかな波動のようなものが背中に当てられたOlの手のひらから伝わってきて、苦痛が嘘のように拭い去られていく。</p><p>ほんの一瞬で、ブランの身体はびっしょりと汗にまみれていた。あれがほんの数秒続けば、自分の精神は粉々に砕け散っていただろうと確信するほどの苦痛。</p><p>拘束がするりと外れ、ブランの身体が解放される。ぐったりとして地面に崩れ落ちそうになる彼女の身体を、Olが抱き留めた。</p><p>はぁっはぁっはぁっ</p><p>目を大きく見開き、荒く肩で呼吸しながらブランはOlを見つめる。</p><p>いつから？</p><p>最初に気づいたのは、フローロだ</p><p>端的なブランの言葉に、Olはその意図を違わず受け取って答えた。</p><p>今まで、よく堪え、耐えてきたな</p><p>ボロボロと、ブランの瞳から涙が零れ落ちる。Olが彼女を抱きしめると、ブランはOlの背中に腕を回して声を上げて、まるで幼い少女のようにむせび泣き始めた。</p><p>ブランを助けてほしい。理由はわからないが、彼女はずっと苦しんでいる。</p><p>ルヴェとクゥシェを堕とした時にフローロからそう頼まれて以来、Olはブランの様子を密かに監視し続けてきた。</p><p>ブランが反転のスキルに支配されている事を確信したのは、彼女がユウェロイを可愛がっている時の事だ。あれほどユウェロイに慕われ、そして自身もユウェロイを可愛く思っている。それは間違いのないことだ。だが実際にやっているのは、加害としか言いようのない所作であった。</p><p>だがそれ以前からも細かい違和感はあった。やっていることがちぐはぐなのだ。</p><p>そもそもフローロを最下層の奴隷のまま放置していた意味が分からない。</p><p>最初は単にOlの実力を試しているだけかとも思ったが、それにしては本気でフローロを殺そうとしているように思える瞬間もあった。</p><p>そしてフローロが中層で暮らすようになってからは、何かと理由をつけて彼女をずっと自室に閉じ込め続けた。Olに会わせないためかと思えば、フローロがOlの部屋を訪れるのは一切止めようとしない。</p><p>誰かから守ろうとしているのは明白だった。しかしその誰かとは、Olでもなければモンスターでも、敵対する領主たちでもない。</p><p>他でもない、ブラン自身だったのだ。</p><p>要するにお前は愛する者を殺したくて堪らなくなっていたのだな？</p><p>Olの胸板に泣き顔をうずめながら、ブランは頷く。</p><p>そしてそれを、精神力でこらえていた</p><p>ブランはもう一度、こくりと頷く。</p><p>凄まじい精神力、そして忠義だ</p><p>おそらくは、通常の人間であれば迷わず愛する者を手にかけてしまうのだろう。だがブランはその忠誠心と思考力によって、その衝動に抗った。人を愛しく思えば思うほど、大事にすればするほどそれを虐げ破壊したくなる。己の心に背き続けるのがいかほどに苦しく辛いことか、かつて似たような経験を味わったOlにはよくわかった。</p><p>そして反転を手放したいという気持ちも反転させられていたわけだな</p><p>なぜそれがお分かりになったのですか？単に手放すことを禁じられているだけの可能性もあったはずです</p><p>スキルを抜き取るには、本人の同意がなければならない。ブランがそれを手放すには、ほんの一瞬でも心からこの呪われたスキルを手放したくないと思う必要があった。</p><p>そうだな。だが動作であればともかく、思考を禁じるというのは非常に困難だ。動作を禁じる場合も、禁を犯せば耐えがたい苦痛を味わわせるという手段を取るのが精々だろう。──そしてお前なら、その苦痛を耐えて見せたはずだ</p><p>はい。実際その苦痛も感じておりましたから</p><p>あっさりと首肯するブランに、Olは苦笑する。この娘とでは契約での縛りも意味をなさないという事だ。</p><p>一つ問おう。お前にそれを付けたのは誰だ？</p><p>それは──</p><p>ブランが返答に逡巡したその時。</p><p>部屋に駆け込んできたのは、ユウェロイとフローロであった。</p><p>Olから報告を聞きました。もう、大丈夫なのですか？</p><p>はい姫様。本当に申し訳ございませんでした。ユウェ。あなたにも、苦労をかけました</p><p>抱き合い、慰め合う娘たちを横目に見つつ、Olは今聞いた情報をどう扱えばよいものか思い悩む。</p><p>ブランは確かにこう言った。</p><p>自分に反転を付けたのは、魔王──フローロの父であると。</p><p>第15話封じられた箱を開きましょう-1</p><p>オーウルっ！今日からわたしもOlと一緒に探索できますよー！</p><p>いや、俺は探索はせんぞ</p><p>嬉しそうに飛びついてくるフローロに、Olはそっけなく言い返す。</p><p>何でですか！？</p><p>必要がないからだ</p><p>Ol自身が探索に出てドロップ品を稼いでくるよりも、冒険者たちの管理をしてその上前をはねた方が遥かに効率がいい。とはいえ、冒険者たちを管理するというのは言うほど簡単な話でもなかった。</p><p>元居た世界の冒険者というのは所詮まともな職に就けないごろつきの成れの果て。野盗よりは多少マシという部類の人間に過ぎなかったが、こちらの世界ではダンジョン探索こそが万人の就く職業だ。それゆえ、人間性で言えばおかしな人間の比率は比較的少ない。</p><p>にもかかわらず、問題は頻出した。あのパーティが獲物を横取りしただの、ドロップ品だけ盗んでいっただの、魔族だけのパーティのくせに生意気だだの、Olからしてみれば下らないとしか思えない話の仲裁をいちいちしつつ、利益を最大化するためにひよっこ達の面倒を見てやらねばならない。</p><p>基本的なスキルの使い方から戦術の運用、モンスターの特徴や対応方法、最適な狩場の紹介に普段の訓練方法などなど。そうして分かったのは、思った以上にこの世界の人間たちがふんわりとした認識で行動しているという事だった。</p><p>そもそも、訓練をするという意識がほとんどない。能力というのはどんなスキルを持っているかで決まり、それは自分の上となる人間から与えられたり、モンスターから偶然ドロップしたりといった方法で得られるものだからだ。</p><p>そんな連中を何とかまとめ上げて教育し、訓練を施し、いっぱしの探索者にしてやる。冒険者という仰々しい名前だってその一環だ。ただの探索、言ってしまえばそれは狩猟でしかない。</p><p>それを敢えて冒険と呼ぶことで、未知への挑戦言い換えれば成長を促し、生活するのに最低限必要な狩りで満足していた者たちの生産性を向上させた。</p><p>ナギアが存外そういった分野については優秀だった為なんとかなっているが、こんなものを一人で回していた元の世界の部下、商人のノームの手腕にOlは改めて感心した。</p><p>行きましょうよー</p><p>そんなに行きたければ一人で行けばよかろう。お前に合ったパーティメンバーも斡旋してやるぞ</p><p>わたしはOlと行きたいんです！</p><p>書類にペンを走らせ続けるOlに横からぎゅうぎゅうと抱きつき駄々をこねるフローロ。毎夜のようにその身体は可愛がっているとはいえ、ここの所ロクに相手してやれていないのも確かなことだ。今日は差し迫った問題も発生していないようだし、そろそろ構ってやるか。</p><p>オーナー！大変です！</p><p>急報が届いたのは、Olがそんなことを考えた直後のことであった。</p><p>これは凄まじいな</p><p>目の前に広がる光景に、Olは思わずそんな言葉を漏らす。通路をまるで海がおしよせてきたかのように埋めつくしているのは、毒々しい緑色の軟体生物。</p><p>泡雫球と呼ばれるモンスターの群れであった。</p><p>一体一体は不定形のネバネバしたスライムのようなモンスターで、その名の通りぶくぶくと表面から泡を立て、それが宙に浮いて漂っている。</p><p>その泡の中には毒素が含まれており、下手に割ると中毒症状を起こすらしかった。</p><p>対するOlは総力を連れての対応だ。フォリオにラディコ、サルナーク。ルヴェとクゥシェのスィエル姉妹にその従者のテール。冒険者としてみるみる頭角を表しているシィルとユグ。ユウェロイやハルトヴァン、レイユたちもそれぞれ部下を率いて事の鎮静に当たっている。それ程の事態であった。</p><p>気をつけてくださいね。この泡雫球の毒には解毒が効きにくいそうです</p><p>翼族の参謀、フォリオがそう忠告をする。</p><p>一体一体は大したことはない。サルナーク。フォリオ、ラディコと共に数を減らせ。ルヴェ、クゥシェ、テールの三人は居住区に向かう泡雫球を食い止めろ。シィルとユグは壁民の避難だ</p><p>Olは矢継ぎ早に指示を飛ばす。</p><p>Ol、わたしは！？</p><p>そして目を輝かせるフローロと、その横に静かに侍るブランにため息をついた。</p><p>お前は俺とナギアと共にギルド本部で待機だ</p><p>でも今は一人でも人手が必要ですよね？</p><p>フローロは真っ直ぐにOlを見据える。その瞳からは先程までの、状況を楽しむような輝きは消え失せ、真剣な施政者としての意思だけが残っていた。</p><p>それにブラン程の戦力を遊ばせておくのも勿体ないはずです</p><p>私はフローロ様のお傍を離れる訳には参りませんので</p><p>フローロの言葉をブランがやんわりとサポートして、Olは嘆息し白旗を上げた。</p><p>分かった。俺たちは遊撃部隊だ。行く手を排除しつつ探すぞ</p><p>何をですか？</p><p>どの道それを行う部隊は必要ではあった。本来ならばサルナークの部隊に任せようと思ってはいたが、効率を考えるならOlがやるのが最も効率的であることは分かってはいた。</p><p>本体だ</p><p>モンスターというのは要するに、魔力の塊で作られた自動機械のようなものだ、とOlは理解していた。無論アレオスのようにある程度の感情のようなものはあるが、純粋な生命ではない。</p><p>故になんの理由もなく大量発生するなどということは考えづらく、原因があるとすればそれは特異個体と呼ばれるイレギュラー本来のモンスターとは隔絶した能力と強さを持った特殊な個体の仕業であるだろう、とOlは予測していた。</p><p>問題はそれがどこにいるかだ。</p><p>これでは探すのも儘ならん。とにかくまずは数を減らすぞ</p><p>任せてください！</p><p>通路を埋め尽くす泡雫球に辟易するOlに、フローロは張り切って棍を構える。</p><p>掛け声と共に振るわれた棍はフローロの背丈を遥かに超える長さに伸びると、先端が太く広がり泡雫球の群れを一度に叩き潰す。</p><p>そしてそのままさらに伸び、まるで意志を持っているかのようにぶんと先端を横に振って、泡雫球たちを薙ぎ払った。</p><p>どうですか、Ol！わたしが改良した真・自在棍です！</p><p>それは元々、ただ長さを変えられるだけの道具であったはずだ。それが太さや形状、動作まで加えられるようになっている。</p><p>と言ってもOlが使ってたダンジョン・キューブの下位互換みたいなものなんですけどね</p><p>照れたようにフローロは言うが、とんでもない話だった。Olは彼女に物質を変化させるための変性術も、それを道具に定着させるための付与術も教えていない。</p><p>ましてや既に道具に定着している機能を改造することなど、そう簡単に出来ることなどではなかった。</p><p>でも泡雫球相手ならわたしの方がブランより役に立つんじゃないですか？</p><p>フローロはふふん、と胸を張る。確かに拳足を用いて戦うブランにとって、泡雫球は相性の悪い敵だった。迂闊に近づけば毒を食らってしまう。一匹二匹ならどうということは無いだろうが、通路を埋めつくさんばかりに群れているこの状況では安易に近づくのは危険だ。</p><p>さらりと髪をなびかせて、ブランは頷く。反転が取れ、彼女の物腰は明らかに変わった。以前にはあった強者としての傲慢さが消えてなくなり、代わりに仕えるものとしての落ち着いた振る舞いが表出していた。これこそが、本来のブランなのだろう。</p><p>私に出来ますのは精々</p><p>バチリ、とブランの身体が雷光をまとい、その拳に集まる。スカートの裾から竜の尾がたらされ、床にしっかりと接地して体幹を支える。</p><p>そして、彼女はその拳を力いっぱい泡雫球の群れに向かって突き出した。</p><p>雷気を帯びた風の奔流が通路を駆け抜けて、壁や床、天井に張り付いた泡雫球たちを引き剥がし吹き飛ばしていく。</p><p>この程度のものですね</p><p>ポポポポポン、と音を立てて一斉にドロップ品に変わっていく泡雫球の群れを前に、にこやかに言うブランにフローロは呆然とする。</p><p>反転しても案外本質は変わらないものなのかもしれない。真っさらになった通路に、Olはそう思うのであった。</p><p>第15話封じられた箱を開きましょう-2</p><p>リル。この先を偵察してこい</p><p>ポン、と音を立ててOlの手のひらの上に真ん丸な身体をした風船蝙蝠が呼び出され、Olの命にキィキィと返事をして飛んでいく。</p><p>あの風船蝙蝠、リルって名前をつけてるんですか？</p><p>悪いか？</p><p>その名をフローロに聞きとめられ、Olは少々バツの悪い思いで答えた。</p><p>いえ前、寝ている時に聞いた名前でしたので</p><p>元いた世界の部下の名だ。あいつによく似ていたからつけた</p><p>夢で見た時に呟いてしまったのか、と渋面を作りつつも、Olは本人がいれば大いに異議を唱えたであろうことを口にする。</p><p>そうなんですね</p><p>フローロは何か言いたげだったが、そんな下らない感傷の話をしている場合でもない。</p><p>いたか</p><p>リルの視界を受け取って、Olは泡雫球の本体らしき存在を見つけた。</p><p>アレオス、蹴散らせ！</p><p>Olの右袖が翼獅子の頭へと変貌すると、アレオスは咆哮し喉の奥から炎を吐き出して泡雫球の群れを薙ぎ払う。討ち漏らしをフローロが自在棍で潰し、長い直線の群れをブランの突きが一掃する。</p><p>幾度かそれを繰り返し、Olたちはとうとうリルの示した場所へと辿り着いた。</p><p>大きいですね</p><p>それはまるで壁のように通路をみっちりと埋めた、巨大な泡雫球だった。群れではなく、単独の個体であることが周囲を浮かぶ巨大な泡が示している。小柄なラディコくらいなら閉じ込めてしまえそうな大きさの泡だった。</p><p>まずは一撃、試してみますね</p><p>ブランがバサリと翼を広げ、全身に雷光を纏う。ここまで雑魚を散らしてきたものとは比べ物にならないほどの光がブランの身体を包み込み、それが拳に収束して、柱のように撃ち出された。</p><p>それが消え去った後、全くの無傷で佇む泡雫球にブランはのんきな声をあげる。</p><p>あの泡が攻撃の威力を散らしてしまうんですね</p><p>そのようだな</p><p>ブランが攻撃する寸前、泡が寄り集まり、光線を互いに反射させて散らしていく様をブランとOlは目にしていた。</p><p>だったらっ！</p><p>フローロの自在棍が宙を漂う泡を薙ぎ払い、貫く。しかし泡はその攻撃にぽよんと跳ねて少し移動するだけで、まるで割れる気配がなかった。</p><p>思ったより頑丈ですね</p><p>ではこれならばどうだ</p><p>アレオスの炎が泡を包み込む。ブランの雷光にすら耐えた泡がそう簡単に炎で消えるわけもなかったが、中の空気は別だ。泡である以上、それは中に空気をはらんでいる。それは炎によって熱され膨らみ、薄く引き伸ばされた泡は内圧に耐えきれずに破裂した。</p><p>だがその爆発は思った以上に大規模なものだった。辺りに毒が混じった液体が飛び散り、じゅうじゅうと音を立てる。そして、フローロを庇ったブランはそれを背中に思いきり浴びてしまった。</p><p>大丈夫ですこの、程度</p><p>同じ特異個体だからかアレオスのローブは毒液を防いだが、ブランの肌はそういう訳にもいかなかったらしい。</p><p>チッ！ フローロ、来るぞ！</p><p>泡雫球の表面がぐにゃりと歪み、無数の触手が槍のように放たれる。ブランが傷の痛みを堪えながらそれを捌き、Olはアレオスの脚を使ってそれをかわす。</p><p>フローロ、お前たちは引け！</p><p>Olはどうするつもりですか！？</p><p>俺はアレを封じる</p><p>何も倒す必要はないのだ。動きは遅いようだし、壁で閉じ込めてしまえばいい。だがそれには一つ問題があった。</p><p>泡雫球は通路を完全に埋めてしまっているので、その向こう側がどうなっているか確認することが出来ない。壁に穴を開けて通り道を作ってもいいが、向こう側が行き止まりだった場合は最悪だ。故にまず、多少なりとも泡雫球の身体に穴を開けて向こう側を確認する必要があった。</p><p>フローロ、ブランとそこに入れ。冒険者ギルドへの転移陣だ。今すぐ戻ればそいつなら死ぬことはなかろう</p><p>床に魔法陣を描きつつ、Olは泡雫球をアレオスの炎で牽制する。</p><p>存外聞き分けのいい声とともに転移陣が作動する音が鳴り、さてどうしたものかとOlは思案した。</p><p>封じるってどうやるんですか？</p><p>まずあいつの体に穴を開けて待て。なぜお前が残っている！？</p><p>横から不意に掛けられた声に答えかけ、Olはフローロの姿に驚く。</p><p>それはもう、妻ですから</p><p>振り向けば転移陣とブランの姿は消えている。どうやら陣にブランだけ放り込んできたらしい。</p><p>Olのそのすごい火なら、多分穴を空けられますよね？</p><p>邪魔なあの泡がなければな</p><p>そうやり取りする間にも泡雫球は泡を吐き出し、先程爆発して減った分を補充している。</p><p>ならこうしたらどうでしょう？</p><p>フローロはそう言って自在棍を構えると、それを巨大に広げ、泡を弾きながら泡雫球の本体まで続くトンネルを作り上げた。</p><p>そこまで大きく出来るのか！</p><p>いえ結構キツいので出来れば急いでお願いします！</p><p>Olはトンネルをくぐって泡雫球の目前まで向かい、その身体に炎を浴びせかける。苦し紛れに突き出される触手をかわし、アレオスの爪が泡雫球の体を切り裂くと、その向こう側が透けて見えた。</p><p>泡雫球の背後は行き止まりだ。つまりは後ろを閉じる必要は無い。</p><p>よし！フローロ、このトンネルを引っ込めろ！壁を閉じる邪魔だ！</p><p>一瞬、このまま炎で溶かし尽くしてしまった方が早いのではないかと考えるが、泡に誘爆されても面倒だ。それに何をしてくるか分からない相手は、さっさと封印してしまった方が得策だと考えた。</p><p>閉じろ！</p><p>Olは地面に手を付き、全力で母なる壁を操る。それが完全に閉じる寸前、泡雫球が蠢く。</p><p>最後の攻撃か、と備えるOl。</p><p>次の瞬間、Olは術の制御も攻撃のことも忘れ、目の前の光景に見入っていた。</p><p>スピ、ナ？</p><p>泡雫球の取った、見知った姿に。</p><p>Olっ！</p><p>フローロが自在棍でOlを突き飛ばし、寸前まで彼のいた場所を泡雫球の触手が貫く。そしてそれはそのまま伸びて、回避しようと身を捩るフローロの肩口を貫いた。</p><p>くっ！フローロ！</p><p>Olは慌てて壁を閉じ、泡雫球を閉じ込める。そして急ぎフローロに駆け寄ると、彼女の身体を抱きかかえた。</p><p>大丈夫です、ほんのかすり傷なので</p><p>いやまずいな。毒だ</p><p>フローロの顔色はどんどん悪くなっていく。Olは手早く解毒の呪文を唱えたが、どれも効果がない。</p><p>この世界の解毒スキルではないから、という訳でもない。解毒スキルの解析は済ませているが、あれは要するに対象者の毒耐性を増加させて毒の影響を減らすものだった。それに類する術をかけても、焼け石に水だった。</p><p>Olわたし、</p><p>喋るな。毒の回りが早くなる</p><p>一つだけ、毒を取り除く方法はある。だが、時間が足りない。</p><p>時間。天啓のように、Olはある方法を思いつく。フローロを助ける唯一の方法。迷っている時間はなかった。Olは手早く座標を計算すると、フローロを抱きかかえ転移する。</p><p>そこは、フォリオの隠し部屋だった。氷柱のような姿の結界が鎮座している。Olはその結界の中に、フローロを放り込んだ。</p><p>入れるのは簡単だ。単に結界の中の座標に転移させればいい。</p><p>そして、Olは自在棍を手に取ると、それをちょうど結界の内と外の境目を横断するように入れた。</p><p>外から自在棍を操作する。Olの魔力操作の精度であれば、その先端を髪の毛よりも細い刃に整形することも可能であった。</p><p>その刃で僅かにフローロの肩口を切り開き、そこに残った毒を取り除く。解毒ができないのであれば、物理的に取り除くまでであった。</p><p>それは砂漠にばらまいた色つきの砂を一粒一粒拾い集めるような、途方もない作業だった。</p><p>時の止まった氷柱結界と自分を更に時滞結界で包み、集中して毒を取り除いていく。何度も何度もフローロの身体に捜査をかけ、毒の場所を割り出し、体を切り開いて毒を取り除き、傷口を治癒して閉じる。</p><p>気が遠くなるほどの時間をかけて、Olはとうとう毒が魔術に反応しなくなるまで取り除く。</p><p>あとは、フローロを結界から出して容態を確認するしかない。もし魔術でも見つけられないほど身体の奥底に毒が残っていれば、フローロは死ぬ。</p><p>外から入れるのは簡単だ。しかし取り出すには、結界を破壊する必要がある。その方法自体は、既に手に入れていた。</p><p>道具袋改</p><p>皮袋にレイユから買い付けたスキルをかけて、結界に被せる。それは通常の道具袋の効果に加え、中の物が劣化しなくなるという効果を備えたスキルであった。暖かい料理を暖かいままにしておくくらいの意味しかないが、それは確かに時を止めるスキルだ。</p><p>そして結界というものは概して、全く同じ効果を持つ結界を重ねると効果が上書きされる。</p><p>つまりは、氷柱の結界は道具袋に上書きされ消えるということだ。</p><p>フローロ！</p><p>直ぐに道具袋からフローロを取りだしてその脈を確認する。だが、彼女の脈拍はどんどんと弱くなっていった。</p><p>毒が、残っていたのだ。</p><p>道具袋改の時間停止効果は生き物には影響を及ぼさない。フローロを入れても中で死ぬだけだ。Olは思いつく限りの回復魔術をかけながら、何か打つ手がないか必死に頭を回転させた。</p><p>それでは駄目ですよ</p><p>その時、鈴が鳴るような声がOlの耳朶を打った。氷柱の結界の中にはそういえばもう一人、閉じ込められている者がいたのだと思い出す。</p><p>その閉じ込められていたもう一人美しいエメラルドグリーンの髪を持った女は、敵意の欠片も感じさせぬ優しい手つきでフローロの傷口を撫でる。</p><p>その手のひらから淡い光が溢れ出し、その強さと精密さにOlは驚愕した。医療魔術を極めたものと思っていた自分の、遥か先を行く術式。</p><p>傷口と毒と体力を同時に癒す、驚くべき魔術そう、それは明らかにスキルではなく魔術であった。フローロの顔に赤みが差し、急速に呼吸が整っていく。</p><p>お前は</p><p>Olはその奇跡をもたらした女に見覚えがあった。いや、正確にはその声に聞き覚えがあった。</p><p>Shal？</p><p>かつてOlが洗脳し、支配した白アールヴの冒険者。</p><p>はい。お久しぶりです、Ol様</p><p>ShalはOlの記憶と全く同じ笑顔で、そう挨拶した。</p><p>Olが本体を封じたことによって大量の泡雫球はその増殖を抑えられ、サルナークやルヴェたちの活躍もあっておおよそ殲滅することに成功した。ブランもフローロに比べれば随分軽傷だったらしく、半ば無理やり転移させたことをOlはほんのりと咎められた。</p><p>しかしそんなことを気にする必要もないほど、事後処理は大変なものだった。</p><p>大量に発生した泡雫球によって多数の犠牲者が発生し、数少ない治療スキルの持ち主はその対応に忙殺されたからだ。</p><p>幸いにも本体以外の泡雫球の毒は治療が難しいものの致死性は低く、泡雫球自体はさほど強いモンスターでもなかったこともあって犠牲者はそれほど多いわけではなかった──どころか、正確には犠牲者はゼロだった。</p><p>Shalが蘇生したからだ。</p><p>Olとて蘇生の術は使えるが、それはあくまでOlの魔窟が集める膨大な魔力を使ってのものだ。今のわずかな魔力ではとても望める事ではない。</p><p>だがShalはそれをあっさりとやってのけた。あまりにも効率よく、洗練された魔術。それはOlの知る蘇生魔術とは根本的に異なるものだった。</p><p>それで結局、あの人はなんなんですか？</p><p>俺の元の世界の部下の、はずなんだがな</p><p>フォリオの問いに、Olは歯切れ悪く答える。最初は悲願である氷柱結界の解除に、彼女は喜んだ。彼女も持つ道具袋のスキルを強化すれば結界を解除できたのだから、スキルを育てるスキルを探していた彼女の見立てもあながち見当外れと言わけではなかったわけだ。</p><p>だがその中から出てきたShalに実際会ってみると、彼女の中で何かが違ったらしく、しきりに首を傾げていた。蘇生の奇跡に聖女のような扱いをされているShalを見ると、Olもそこは同じ気持ちだ。</p><p>あら。私の噂話ですか？</p><p>うわっ！</p><p>気配も感じさせずに姿を現すShalに、フォリオは飛び上がらんばかりに驚き翼をばたつかせる。</p><p>この物腰もそうだった。Shalは、Olが知る姿から随分と成長している。寿命の長いアールヴである彼女がここまで変化するには、相当の年月が必要なはずだった。</p><p>あ、あはは、すみません。アタシちょっとユウェロイサマに呼ばれてるの思い出しましたんで</p><p>そういってフォリオはそそくさとその場を逃げ出し、入れ替わりのようにShalはニコニコと微笑みながらOlの対面に座る。</p><p>それで。どうしてお前がこの世界で、結界に囚われていたのだ？</p><p>それは勿論、Ol様。あなたにお会いする為です</p><p>訝しげに眉をひそめるOlに、Shalは一から説明しますねと前置きした。</p><p>私がこの世界に来たのは──ザナ様。引いては、月の女神マリナ様のお導きです</p><p>氷の女王ザナ。月の女神マリナの加護を受ける彼女は、最善手を選ぶという特殊能力を持っていた。まだこの世界に来て数週間のはずなのだが、随分遠い過去の事のように思える。いや、時留結界の中で数か月過ごしたから、主観では実際それなりに遠い過去だが。</p><p>この世界でOl様にお会いするには、長い時を待つしかないそれが、マリナ様のお告げでした。ですから私は時止めの結界の中でお待ちし続けていたのです。あなたに見つけられ、結界が解かれるその時を</p><p>つまり、ShalはOlがこの世界に来るよりも遥か過去に飛ばされてきたという事らしい。元の世界とこの世界とで、時間が同期しているわけではないのだ。それは言い換えれば、こちらで帰還を焦っても仕方ないという話でもあった。</p><p>先ほどの娘フォリオがお前の解放を待ち望んでいたのは何故だ？一族代々の悲願だったらしいが</p><p>Olの問いに、Shalは首を傾げる。</p><p>おそらく、彼女の祖先に慕って貰っていたからだとは思いますが私がOl様に解放して頂くのを待つという話が、長い間に歪んでしまったのかもしれませんね</p><p>マリナの加護の欠点は、本人にもなぜその手段を取るのかわからないというものであった。最善手であることは間違いないが、それを選んだ結果何が起こるのか、どうしてそれを選ぶのかは誰にもわからない。故に、今の状況はShalにとってもOlに会えた事以外は望んだ結果ではないのだろう。</p><p>お前は本当に俺の知るShalか？</p><p>泡雫球が最後に取った姿。あれはおそらく、スライムに似たその姿からスピナを連想したOlの記憶を読み取ったものだろう、と彼は結論付けていた。残念ながら封じた部屋にもう一度いった頃には消えてしまっていたが。</p><p>仮にあのスライムもどきがスピナが作ったものであるなら、それがOlを攻撃することはけしてない。Olは弟子に対し、その確信を持っていた。なぜなら一度裏切った時に、魂の根幹にがっつりと攻撃禁止の令を彫り込んでやったからだ。</p><p>それと同様に、目の前の女がOlの記憶を読み取り成りすましている何かである可能性がないわけでもない。</p><p>そうですね。Ol様の知る頃の私とは随分違ってしまったかも知れません。私もこの世界でそれなりに苦労をしましたからあの頃みたいにOl様のおちんぽで、Shalのおまんこズボズボして欲しいですぅぅっとか言えばわかってもらえますか？</p><p>そういって、Shalは耳まで真っ赤に染まった顔を両手で隠した。</p><p>ごめんなさいもう流石にちょっと、素面だと恥ずかしいです</p><p>その反応に、Olはかえって警戒を解いた。記憶を読んでなりすますなら、Olの記憶そのままの姿になった方がよほど確実だ。このように記憶から数十年経った姿など取る必要がない。</p><p>元の世界に戻る方法はわかるか？</p><p>すみません</p><p>Shalは首を横に振る。彼女の目的がOlに会うことだけであれば、それは仕方のないことだった。その目的は既に果たされ、その先に続く糸を手繰ることはできない。</p><p>他の者はどうした？</p><p>その時、Olの脳裏にはかつて見た夢が浮かんだ。ユニスが、エレンの首を転がす夢だ。</p><p>長い時が必要だからお前が選ばれたというのであれば、エレンやセレスなどでも良かったのではないか？</p><p>そうですね。でも、あの方々には氏族を率いる役割がありますから。それとも、Ol様は私ではお嫌でしたか？</p><p>そういう意味ではない</p><p>くすりとからかうように微笑むShalに、Olは咳払いをして答える。</p><p>Shal様、少々よろしいですか？容体を見てもらいたい患者が来てまして</p><p>あ、はあい。ではOl様、またゆっくりお話しさせてくださいね</p><p>ナギアに呼ばれ、Shalは席を立つ。夜の方もまた可愛がってくださいね？と、Olの耳元でこそりと囁き、彼女はパタパタと出て行った。</p><p>彼女がShalだというのは、おそらく本当の事だ。マリナに導かれこの世界を訪れ、どれだけの間かわからないが長い時をこちらで過ごしたというのも嘘ではないだろう。話も筋が通っていて破綻はない。</p><p>だが一つだけ、彼女は明確に嘘をついた。</p><p>────Shalはおそらく、元の世界に戻る方法を知っている。</p></section></body></FictionBook>